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ゆいみお!第六話(終) ゆいみお!第6話(最終回)です 「いよいよだね、澪ちゃん!」 「あ、あぁ…そうだな、唯!」 「澪ちゃん、そっちは壁だよ」 「…あぁっ!どおりで…唯が白くて平べったいなって思ってたんだよ」 「もー、澪ちゃん緊張しすぎ!」 いよいよ迎えた演芸大会本番 「ゆいみお」の二人は控室で出番を待っている 唯の誘いからできたこのユニット 一週間前唯の家で行った集中合宿以降は、休憩時間と部活後のわずかな時間しか練習できなかった しかし、演奏する曲「わたしの恋はホッチキス」は元々練習してきた曲であり、それぞれの課題は明確であった 唯はミスなく演奏すること。澪はしっかりと歌いきること そして二人共通の課題は、それぞれのソロパートを演奏しきること これらの課題克服を目指し、練習を重ねた 日曜日はぎこちなさがあった二人だったが、月曜からは今まで通りの関係で練習ができた 澪はあきらめて、唯は開き直っている様子が窺えた 「唯は相変わらず緊張してないみたいだな」 「えへへー、だってこの衣装きれるんだもん」 「別に私は制服でもよかったのに…」 「駄目だよ!せっかくの晴れ舞台なんだから」 二人が本番に向けて選んだ衣装は、昨年の学際で着たミニ浴衣だった しかし、唯はアクシデントでこの衣装を着て舞台に上がれなかった だからもう一度着たいという唯の強い希望から、この衣装に決まった 学際の時は季節からファーがつけられたが、今回はそれは取り払われ浴衣のみで演奏をする 「なんか、あっという間だったねー」 「んっ、何がだ?」 「私たちがペアを組んで本番が来るまでだよ」 「あぁ…元々準備期間が短かったからな」 「…んもうっ、そういう意味じゃないよ!」 「えっ?!…そうなの?」 「…」ガタッ 無言で立ち上がる唯 「ど…どうしたんだ…唯」 唯の行動に驚く澪 「おトイレ!」バタンッ そう言って控室から出る唯 「…澪ちゃんのバカ」 控室の外で唯が呟く 「…あぁ、分かってる…私にとっては、夢のような時間だったよ」 一人残された澪が呟く 1週間前、自分の唯への気持ちに気付いた澪 しかし気付いたきっかけが、唯に好きな人がいることを知ったときという皮肉なものとなった それからの1週間は、唯への思いは封印し、本番へ向けての練習に集中した だが二人での練習を終え一人になったとき、唯への思いは爆発する そのぶつけどころのない思いに悩み、枕をぬらす夜が続いた澪 そして悩み続けた結果、澪は一つの答えを出す 「(これが終わったら…唯に…)」 また、唯も… 「(これが終わったら…澪ちゃんに…)」 二人がそれぞれの決意を持って本番を迎える 刻一刻と迫る出番の時、ステージの袖で出番を待つ二人 元々緊張しぃの澪は、ほとんど声を発することがなかった しかし、いつもは本番前までいつも通りな唯も言葉数が減っていた 「…唯、大丈夫か?」 いつもと様子の違う唯を心配して、澪が声をかける 「…えっ?!大丈夫だよ」 「…」 そう言う唯の笑顔は、いつもとは違うかなりぎこちないものだった そして、声がわずかだが震えているのを澪は聞き逃さなかった 「唯、緊張してるのか?」 「えぇっ?!…ま、まっさかー…澪ちゃんじゃないんだからー」 平静を装ってる唯だったが、明らかにいつもと違う そう確信した澪は… 「唯っ!…」 「ひゃっ!…もーっ、どうしたの澪ちゃーん」 唯の手を握り、手の温度を確かめた 「…唯、すっごく手冷たいよ」 「えっ…わ、私は…心があったかいから、手は冷たいんだよー…前そう言ったでしょ」 確かに、唯は去年の冬にそう言った しかし今日は夏の日差しが照り返し、真夏日になろうかというくらいの暑さだった 唯の手は、その暑さを感じさせないくらい冷たかった…まるで今日が真冬であると感じるほどに 「(…一緒に演奏するのが、私しかいないから唯…緊張してるのかな)」 澪は、唯の緊張の原因は自分にあると思った 軽音部でステージに立つ際は、ムードメーカーの律、安心感を与える紬、癒しを与える梓と、唯の緊張をほぐす人物がいた しかし澪はステージに立つまで緊張しっぱなしで、周りを見る余裕なんてなかった 「ほ、ほら澪ちゃん…次、私たちだよ」 ゆいみおの前の演技者がステージに上がる このままステージに上がれば、唯は確実に失敗する そう澪は確信した。なんとかして唯の緊張をほぐさないと…1年の学際の時、唯が自分にしてくれたように 「…唯、大丈夫だから」 「えっ…」 「私がいるから、安心して」 「澪ちゃん…」 真剣な眼差しを唯に向け、澪が続ける 「これまで私が一番近くで、唯の演奏、声を聞いてきた。その私が保証する、唯は大丈夫。だから、安心して演奏して」 「…」 「唯の隣には、いつも私がいるから」 この言葉を聞いて、唯の手に体温が戻ってくるのを感じる 「今までもこれからも、それは変わらない…」 そう言いきると、一旦唯から視線を外す澪 唯の手はあっという間に熱くなっていた 「…うん、そうだよね…そうだよ!」 「唯…」 唯がいつものトーンで話し出す 「ずっと、放課後ティータイムで…私も一番近くで澪ちゃんの演奏と声…聞いてきたよ」 「うん…」 「だから、澪ちゃんも大丈夫!安心して歌ってね!」 いつもの笑顔を澪に向ける 「うん、分かった」 自分の精一杯の笑顔を唯に向ける澪 『次は、エントリーNo.15「ゆいみお」です』 出番を告げるアナウンスが響く 「いよいよ出番だよ澪ちゃん!」 「あぁ行こう、唯!」 ステージへと上がる二人 二人の間の手は、繋がったままで | | | ・ ・ ・ 「終わっちゃったねー」 「うん…」 本番を終え二人は今、公園のベンチに腰掛けている 「優勝…できなかったね…」 「うん…」 結果としては、二人は優勝できなかった しかい、オリジナル曲を歌い、二人の息の合った演奏・歌唱が評価され3位という大健闘を見せた 「3位でも、賞品でるんだね」 「そうだな」 「これ使って、二人でお出かけしようね!」 「あぁ」 3位の賞品として貰ったのは、映画のペアチケット そしていつか遊びに行く約束をする二人 「…」 「…」 二人の間に流れる無言の時 演奏終了後から、二人の会話、言葉数が減っていた それはまるで、何かを言うタイミングを窺っているかのように見える しばらくたって…その時は、来る… 「「あ、あのっ!」」 「あっ!…ゆ、唯…何だ?…」 「そういう澪ちゃんこそ…何?」 言いだしたタイミングがかぶり照れる二人 「あ…えーっと…唯から先に言ってくれないか?」 「うーん…澪ちゃん、先に言って?」 「い、いや!唯が先に言ってくれ!」 「ううん!澪ちゃんから先に言って!」 どちらが先に言うかで譲り合う二人 そんなやりとりが続いて… 「うぅ…分かった…私が先に言うよ…」 「うん!」 根負けして澪が先に言うことになった 「じゃ、じゃあ…言うぞ」 「う、うん…」 ベンチのとなり通し、澪は自分の真正面を見ながら言葉を放ち 唯は自分の足元を見ながら、澪の言葉を待つ 「私は…唯と一緒に練習できたこの1週間…すっごく楽しかった」 「…えっ」 澪の言葉に驚き、顔を上げる唯 「なんか2年になってから、唯と一緒にいることが減って…だからこの1週間は、1年の頃みたいで… すごく楽しかったんんだ。あぁ、前はこんなだったなって…」 「…」 澪の言葉を、しっかりと聞く唯 「唯といることの楽しさ以外にも…気付いたことがあるんだ…でもそれは、今となっては遅いことかもしれないけど」 ついに澪が決心する 「先週の合宿の夜、唯好きな人いるか聞いたろ」 「う、うん…」 「あのときさ、私はいないって言った後…唯はいるって言ったろ」 「うん…」 「それ聞いた時、すっごく胸が痛んだんだ…その痛みがどこからくるのか…その理由が、分かったんだ」 「…」 澪の言葉に集中し、返事ができない唯 そして澪は深く息を吸い… 「私は、唯が好きだということに…唯、好きだ。友だちとしてではなく、一人の女性として…愛している」 澪が唯に告白する。澪は唯の手を握り、視線を唯にまっすぐに向ける 「っ……」 澪の告白を受け、言葉を失う唯 「ただ、私の気持ちを…聞いてほしかった…迷惑かもしれないけど、もう抑えられなかったんだ」 澪はずっと視線を唯から外さない しかし唯は、上げていた顔を再び下げる 「…ひっ…ふぇっ…うっ…うえぇぇーん」 「えっ?!ゆ、唯ぃ?!」 突然泣き出した唯に驚く澪 「うえぇぇーん…えぇーん」 「あっ…の…その…迷惑とかだったら…断っても構わなんだ…その…ただ、私の気持ちを…聞いてほしかっただけなんだ」 動揺する澪 「ふぇっ…ぢ、ぢがうのー…ぐすっ…」 「えっ?!違うって何が?」 「べづに…ぶぇ、めいわぐなんがじゃ…ないがらぁー」 泣きながら自分の気持ちを伝える唯 「えっ…迷惑じゃないって…」 「ぐすっ…わ、わたしも…澪ちゃんのこと…好きだから、大好きだから…嬉しかったのー!」 泣きやみ、澪の告白に応える唯 「…えっ、今何て?…」 「だからー、私も澪ちゃんと一緒で大好きなの!澪ちゃんのこと愛してるの!」 感極まり大声で再び告白する唯 「…と、いうことは…」 「りょ、両想い…ってこと、だよね」 「「や、やったー!!」」 お互いの思いを確認し合い喜ぶ二人 「えっと…唯は、いつからその…私のこと、好きなんだ?…」 「うーんっとね…1年の頃は、綺麗でかわいいなぁーって思ってるだけだったんだけ…」 「う、うん…」 「ちゃんと澪ちゃんのこと好きだって思ったのは…2年になってからかな」 「えぇっ?!そんな前から?」 結構前から唯が自分のことを好きだったことに驚く澪 「うん…澪ちゃんのこと好きだって気付いたら…澪ちゃんとお話したり、練習するの…恥ずかしくなって…」 「…で、律や梓とコミュニケーションとるようになったのか?」 「あずにゃんは可愛いし、りっちゃんといると楽しいから…全部ってわけじゃないけど…少しは、あるかな」 「はぁーっ…そうだったのか」 唯とのコミュニケーションが減った理由を知り、安心したようなそうでないような気持ちの澪 「でもよかったよぉー、澪ちゃんから先に好きだって言ってもらえて」 「んっ…だったら、さっき唯も告白しようと思ってたのか?」 「えへへーそうだよ!」 笑顔でVサインをする唯 「そうだったのか…なら私のこの1週間は、取り越し苦労だったのか…」 「そんなことないよ!私は1年以上悩んだんだから!」 「あぁそうだった…ごめんな唯、待たせて」 「うぅん、いいんだよ!両想いになれたんだし!」 「そうだな」 お互い笑顔で向き合う 「えへへ…これからよろしくね、澪ちゃん!」 「あぁ…こちらこそ、唯!」 二人を夏の真っ赤な夕日が照らし出す まっすぐに延びた二人の影が、これから続く二人の関係が長く続いていくのを示しているかのように見えた 以上です なかなか続きを投下できず、お待たせしたことをお詫びいたします 約1年ぶりとなる長編の続きものだったのですが、終わらせることができました これもスレの皆様のおかげです、ありがとうございました これでゆいみお!は一旦終了します でも、この後の二人について色々と妄想済みですのでまたssが出来次第ひっそりとあげていきたいと思います 最後にこのssを読んでいただいた全ての唯澪ファンの皆様、ありがとうございました 初出:1- 621 The sequel:唯澪!! INDEX:ゆいみお! BACK:ゆいみお!第五話 戻る(SS) TOP
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482 :ラ・フェ・アンサングランテ 【第六話】 ◆AJg91T1vXs :2010/11/25(木) 08 22 40 ID Pk9vug3C 窓を叩くパラパラという音に、ジャンはベッドの中でゆっくりと目を開けた。 この季節、ジャンのいる国では雨が多くなる。 農家にとっては恵みの雨なのだろうが、街で暮らす人間にはたまらない。 日の出ている時間も徐々に短くなるため、本格的に寒さが身にしみる季節となってくるのだ。 足先の冷たさに、ジャンは目覚めるなり体を起こし、同時に足を毛布の中に引っ込めた。 寒い。 昨日までの晴れていた天気が嘘のようだ。 身体の芯から氷で冷やされているような感覚に、思わず胸の前を両腕で抱えて震え上がった。 「やれやれ……。 どうやら、本格的に冬がやってきたみたいだな。 この寒さで、伯爵の病気が悪化しなければいいけど……」 テオドール伯の病のことを考えると、ジャンは少々気が重くなった。 彼の病気は、薬を飲めば治るようなものではない。 体質を変え、痛みを和らげ、病気の進行を食い止めることはできても、根本から治療する術などありはしない。 昨日、伯爵に処方した薬だけでは、もう間に合わなくなるだろう。 こと、この地方の冬の寒さは厳しく、老齢の伯爵にはこたえるはずだ。 リウマチを患っている者にとって、冷えは大敵である。 ベッドから抜け出して服を着替えると、ジャンは鞄の中身を確認してから部屋を出た。 一応、必要な薬の材料は一通り揃えてある。 当分はこれで持つだろうが、雨が続くようでは買出しにも支障が出る。 やはり、伯爵の力を借りて、どこぞの行商人と直接契約でも結ばねば駄目なのかもしれない。 安定した診察と治療を続けるには、それも仕方がない。 そんなことを考えながら、ジャンは服の襟を正して部屋を出た。 リディは既に起きて朝食の準備をしているようで、三階の廊下はしんと静まり返っていた。 二階へ続く階段を下り、そのまま食堂へと向かう。 部屋の扉を開けると、何やら香ばしい匂いが鼻をくすぐった。 「あっ、おはよう、ジャン。 今日は寒いね」 「ああ。 どうやら、完全に冬がやってきたみたいだね。 僕も寒いのは苦手じゃないけど……昨日と比べても、今朝はちょっと寒過ぎる気がするよ」 「大丈夫、ジャン? もしかして、風邪とかひいてない?」 「平気だよ。 こう見えても、父さんと一緒に旅していた頃は、野宿するようなこともあったしね。 屋根のある部屋と上等なベッドで眠れるだけでも、僕には十分さ」 483 :ラ・フェ・アンサングランテ 【第六話】 ◆AJg91T1vXs :2010/11/25(木) 08 23 40 ID Pk9vug3C 強がりではなく、それは本心だった。 リディは心配そうにしていたが、ジャンは自分自身、そこまで身体が弱いとは思っていない。 小さい頃は読書好きでモヤシのような子どもだったが、父と十年も放浪の旅を続ければ、自然と暑さや寒さに対する抵抗力もついていた。 「そうそう。 今日は寒いから、朝から体が温まるものを作っておいたんだよ。 よかったら、出かける前に食べて行かない?」 ジャンを気遣うような表情はそのままに、リディが尋ねた。 先ほどの香ばしい匂いは、やはり朝食の仕込みをしていた際のものだったようだ。 「そうだね。 折角だから、いただこうかな。 でも……今日は雨だし、クロードさんが来るのは昼過ぎだから、それまでは宿にいることになると思うけど……」 「なぁんだ。 まあ、ジャンが喜んでくれるなら、別に私は構わないけどね」 口では少し残念そうに言っているものの、口調そのものは明るかった。 軽快な足音と共に、リディは階下の厨房へと続く階段を下って行く。 宿場の構造上、調理場だけは下の酒場と共有するような形になっていた。 程なくして、リディがスープの入った鍋を持ってきた。 鍋の蓋の隙間からこぼれ出る湯気に混ざって、チーズの焦げたような匂いが漂ってくる。 蓋を開け、レードルでスープを皿に取り分けると、リディはそれをジャンの前に置いた。 「リディ……。 このスープ……」 「うん。 私のお母さんが得意だったチーズスープだよ。 ジャンも、昔、私の家に遊びに来たとき、食べたことがあったよね」 「ああ、覚えているよ。 僕の母さんは、料理はあまり得意じゃなかったからね。 あの時は、本当にリディの家が羨ましく思えた」 「そこまで言われると、ちょっと恥ずかしいかな。 それに、私の料理の腕だって、まだお母さんには及ばないと思うしね」 自分の分のスープをよそいながら、リディは多少の謙遜も込めてそう言った。 この街にいる間だけでも、ジャンには自分の作った美味しい料理を食べてもらいたい。 その一心から、ここ最近の調理の仕込みは一段と力を入れてきた。 メニューはどれも家庭料理の域を出ないものだったが、かけている手間と時間が違う。 それこそ、自分の母の腕には及ばなくとも、ジャンに満足してもらえるだけのものを出しているという自信はあった。 484 :ラ・フェ・アンサングランテ 【第六話】 ◆AJg91T1vXs :2010/11/25(木) 08 24 22 ID Pk9vug3C テーブルに備え付けられたバスケットからパンを一切れ取り、ジャンはそれをスープの皿の横に置いた。 目の前に席にリディも座り、二人で少し早目の朝食を始める。 他の宿泊客は未だ目覚めていないのか、食堂にはジャンの他に誰かが来るような気配はなかった。 「ねえ、ジャン。 私の作ったスープ……どうかな?」 「うん、美味しいよ。 昔、リディの家で食べさせてもらったのと、全然変わらない」 「本当? 無理して、お世辞とか言ってない?」 「いや……。 お世辞なんかじゃなくて、普通に美味しいよ。 君がこんなに料理が上手だなんて、今まで知らなかった」 「そ、そうかな……。 別に、普通だと思うけど……」 ジャンは率直に思ったことを述べたつもりだったが、リディは嬉しそうだった。 少し、はにかんだ表情になりながらも、ジャンに誉められたことは満更でもなさそうである。 それから二人は、互いに他愛もない話をしながら簡単に食事を済ませた。 パンとスープだけの朝食だったが、冷え込んだ朝に暖かいスープが食べられたことだけで、ジャンは十分に満足だった。 食器の片付けをしながら、リディがふと窓辺に顔を向ける。 外では未だ大粒の雨が窓ガラスを叩いており、窓に張り付いた雨粒は、そのまま雫となって下に流れ落ちて行く。 「雨、止まないね……」 呟くように、リディが言った。 その顔がどことなく影を帯びているように見えるのは、果たして薄暗い空のせいだけだろうか。 「ジャン。 あなたは、雨って好き?」 食器をまとめたリディがジャンに問う。 何気ない、本当に他愛もない問いかけだったが、なぜかリディの表情には元気がなかった。 「そうだなぁ……。 天気に関して好きとか嫌いとか、あまり考えたことはなかったよ。 少なくとも、農家の人にとっては、この時期の雨は大切みたいだけどね」 「ふうん。 私は雨、あまり好きじゃないな。 雨の日の思い出って、嫌なことしかないから……」 485 :ラ・フェ・アンサングランテ 【第六話】 ◆AJg91T1vXs :2010/11/25(木) 08 24 49 ID Pk9vug3C 「嫌なこと?」 「うん……。 私のお母さんが亡くなった日も、こんな雨の日だったの。 今日みたいに、冷たい雨の降る日に……お母さん、風邪をこじらせて、そのまま死んじゃったんだ……」 いつしかリディの声は、聞きとることが難しいほどに、か細いものになっていた。 その声に、いつものはつらつとした様子はない。 重たい空気が部屋を包む中、ジャンもリディに何を言ってよいのか躊躇われた。 もし、自分がこの街に残り、今のように医者をやっていたらどうだったか。 病に伏せるリディの母親を救い、彼女に今のような思いをさせずに済んだのではないか。 馬鹿らしい考えだということは、自分でもわかっていた。 別に、自分が街に残っていたからといって、リディの母親の病気を確実に治せたというわけでもない。 しかし、その一方で、別れの言葉さえも告げずに街を去ってしまった自分自身、どこかでリディのことを裏切っていたのではないのかという罪悪感もある。 リディ自身がそんなことを言うとは思えなかったが、今のような顔をされると、やはり後ろめたいものを感じてしまう。 何とも言えぬ気まずい空気が食堂に流れた。 互いに次の言葉を出せなくなり、外から響いてくる雨音だけが、妙に大きな音に感じられた。 「あの……ごめんね、ジャン。 急に、こんな話しちゃって……」 沈黙を破ったのは、リディの方からだった。 この場の空気を気まずくした原因が自分の言葉にあると気付き、さすがに申し訳なさそうに俯いている。 「いや、別に君が気にする必要はないよ。 リディだって、色々と苦労はしたんだろ。 それに……嫌な思い出ってものは、忘れたくてもなかなか忘れられないものだからね」 「ありがとう、ジャン。 でも、私はもう平気だよ。 家族はみんな死んじゃったけど、代わりにジャンが帰って来てくれたんだものね。 だから、今はちょっとだけ、寂しいのも我慢できるかな」 そう言って、リディは無理に笑顔を作るような素振りを見せたが、彼女の言葉にジャンは答えなかった。 いったい、リディは何のつもりで、こんなことを言うのだろう。 思わずジャンは、そんなことを考えながら彼女を見た。 伯爵の病気が快方に向かえば、自分は街を去ってしまうのだ。 それをわかって言っているのだろうか。 やはり、この街に帰って来たのは間違いだったのかもしれない。 今後もリディがこの街で宿場を続けて行くことを考えると、自分はこれ以上、リディに深く関わることは避けるべきなのかもしれない。 486 :ラ・フェ・アンサングランテ 【第六話】 ◆AJg91T1vXs :2010/11/25(木) 08 25 48 ID Pk9vug3C 階下の厨房に食器を片づけに戻るリディに、ジャンはクロードが迎えに来たら呼ぶように言って食堂を去った。 これから他の宿泊客が朝食のために食堂を訪れることを考えると、この気まずい空気は早めに払拭しておきたい。 それに、下手にリディに同情しすぎて、彼女に妙な依存心を抱かせてしまうのもよくないと思った。 人のいなくなった食堂に、再び静寂が訪れる。 先ほどまでの話声は既になく、あるのは規則的に窓ガラスを叩く、雨の音だけだった。 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ クロードがジャンのいる宿場を訪れたのは、昼を少し過ぎた辺りのことだった。 最近になって気づいたのだが、彼はいつも寸分狂わぬ時間で宿場にやってくる。 一、二分の誤差はあるものの、迎えの時間が大幅にずれたことなどまったくない。 時間にルーズな者の多い、ジャンの国の人間とはえらい違いだ。 これも一重に、異国から流れてきた者の感覚の違いというやつだろうか。 その日は午前中にすることもなかったので、ジャンは独り部屋の中で、適当に本を読んで暇を潰していた。 とはいえ、仕事のことを完全に忘れたわけではなく、読んでいたのは、例の東洋医学の本である。 本格的に冬が訪れた今、伯爵に処方する次の薬を考えていたのだ。 リディに呼ばれ、ジャンは本を片付けて一階へと降りた。 クロードに案内されるままに馬車に乗り、そのまま伯爵の屋敷に向かう。 もう、この街に来て、かれこれ一週間近くは同じ生活を続けているだろうか。 街を濡らす雨の音に混ざり、馬車を引く馬の蹄の音が聞こえてきた。 時折、水溜りを踏んでいるのか、パシャパシャと何かが跳ねるような音がする。 それ以外は何も聞こえず、雨の街中は不気味なほど静かだった。 もう昼を過ぎているというのに、馬車を包むこの静寂はなんなのだろうか。 単に雨が降っているというだけでは、あまりに説明がつきそうにない。 空気が冷たく感じる原因は、ジャンにもわかっていた。 何のことはない、隣にいるクロードが、あまりに無口で無表情なためだ。 いつもジャンの送迎に現れるものの、その顔は同じ人間として、あまりにも変化に乏しかった。 つい、目の前の男には感情というものがあるのかと、本気で疑いたくなってしまう。 馬車を使えば伯爵の屋敷までは決して遠くはなかったが、ジャンにはそれまでの道中が長く重苦しいものに感じられた。 今朝のリディといい、今日はどうにも気分が滅入る。 リディは雨が嫌いだと言っていたが、このままでは自分も雨嫌いになってしまいそうだ。 ところが、そんなことを考えていたジャンの気持ちを他所に、その日の静寂を破ったのはクロードの方だった。 487 :ラ・フェ・アンサングランテ 【第六話】 ◆AJg91T1vXs :2010/11/25(木) 08 26 29 ID Pk9vug3C 「ところで、ジャン様……?」 突然名前を呼ばれ、ジャンはしばし驚いた表情でクロードを見つめる。 彼の方から話を振ってくることなど、これまではまったくなかったのだから。 「昨日、ルネお嬢様に会われたようですね」 クロードの口から出た言葉に、ジャンは思わず顔を強張らせた。 ルネ・カルミア・ツェペリン。 テオドール伯の娘である、赤い瞳をした少女。 昨日、ジャンが厨房で薬を煎じている際に現れ、そこで束の間の談笑をした。 まさか、昨日のことで、自分は何か咎められるようなことをしてしまったのか。 特に無礼を働いたつもりはなかったが、それでもやはり不安になる。 無表情な分、何を考えているのか分からないクロードの存在が、更にその不安をかき立てる。 だが、そんなジャンの心配を他所に、クロードは「屋敷に着いたら話があります」と告げただけだった。 それ以上は何も語らず、いつもの無口な執事長に戻る。 その瞳は、既にジャンの方へと向けられてはいない。 クロードは、いったい何を考えて、ジャンにルネとのことを問うたのだろう。 横目に彼の顔を見てみるものの、そこには答えなど書かれてはいない。 今日は朝から、自分の周りを気まずい空気だけが漂っているような気がする。 なんだか自分の目の前まで黒い雲で覆われそうな気分だったが、狭い馬車の中では逃げ場もない。 いつしか馬の足音は、石造りの道を歩くそれから土を踏むそれに変わっていた。 雨は未だ止む気配を見せなかったが、伯爵の屋敷のある丘までは、目と鼻の先まで近づいていた。 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ジャンが伯爵邸に着いたとき、外はまだ雨が降り止んでいなかった。 屋敷の廊下を歩いている分には雨音も幾分か和らいだように思われたが、ふと窓辺に目を向けると、そこには雨垂れが止まることを知らない滝のように流れ落ちているのが見て取れる。 これでは、むしろ朝方よりも雨が強くなっているのではないか。 そんなことを考えながら、ジャンはクロードに連れられたまま屋敷の廊下を歩いた。 いつもであれば、このまま伯爵の部屋に赴いて往診をし、その後、病状に合わせて薬を煎じる。 もう、かれこれ一週間近く、こんな生活を続けている。 ところが、その日にジャンが連れてこられたのは、果たしてテオドール伯のいる部屋ではなかった。 488 :ラ・フェ・アンサングランテ 【第六話】 ◆AJg91T1vXs :2010/11/25(木) 08 27 19 ID Pk9vug3C 「どうぞ、こちらへ……」 人目を憚るようにして、クロードがジャンを部屋の中に招き入れる。 決して大き過ぎる部屋ではなかったが、それでもジャンは、案内された部屋が十分に広いものであると感じていた。 品の良い内装品に彩られた部屋の様子が、より一層、その場の空気を高貴なものにしていたからかもしれない。 ガチャリ、という扉の閉まる音だけがして、部屋にはジャンとクロードの二人きりとなった。 相変わらず、クロードは必要以上のことを語ろうとしない。 彼が何を考えているのかが分からないだけに、先ほどから妙な不安にまとわりつかれているような気がしてたまらない。 「あの……この部屋は……?」 たまらず、ジャンがクロードに尋ねた。 これ以上の沈黙を続けることは、心の方が先に悲鳴を上げてしまいそうで怖かった。 「ここは、私の部屋ですよ、ジャン様。 この部屋であれば、人目を憚ることなくお話ができるというものです」 「人目を憚るって……。 何か、僕だけに話さなくちゃいけないことでもあるのかい?」 「ええ。 昨日、ジャン様がお会いになったルネお嬢様ですが……彼女のことについて、少々お話があります」 やはり、そう来たか。 自分の予想が悪い方向に当たってしまったことを感じ、ジャンは思わず指に力を込めて手を握った。 執事長であるクロードが、自分の部屋に客人を直々に呼び出して話をする。 彼の立場から考えれば、これは余程のことだ。 昨日、ルネとは互いに談笑をしただけだったが、やはりどこかで無礼を働いてしまったのか。 この先、自分はどんな断罪を受けることになるのだろう。 そう思って身構えるジャンだったが、クロードの口から出たのは意外な言葉だった。 「では、ジャン様。 単刀直入に申し上げます」 「な、なんだい……?」 「ジャン様には、お嬢様の……ルネ様の話し相手になっていただきたいのです」 「えっ……!?」 あまりのことに、ジャンはしばらく時が止まったような感じがした。 自分の耳を疑ってみたくなったが、クロードは至って真剣な眼差しでこちらを見つめている。 もっとも、目の前の人形のような執事長が、冗談を言うとは間違っても思えないのだが。 489 :ラ・フェ・アンサングランテ 【第六話】 ◆AJg91T1vXs :2010/11/25(木) 08 41 28 ID Pk9vug3C 「あの……話し相手って……」 クロードの言っていることが上手く呑み込めず、ジャンは言葉を切りながら聞き返した。 「ですから、ジャン様にはお嬢様の話し相手になっていただきたいと……そう、申し上げているのです」 「でも、話し相手って言ってもなぁ……。 見ての通り、僕はしがない旅の医者だ。 テオドール伯の診察のために、この御屋敷に通わせてもらっているだけで……貴族のお嬢様が楽しめるような話なんて、そう知っているような者じゃないよ」 「これは、ご謙遜を。 昨晩、お嬢様はジャン様のことを、いたく気に入られたご様子でした。 見ず知らずの他人に、お嬢様があそこまで心を開くようなことは、滅多にないことなのです。 故に、ジャン様にはお嬢様の、お話し相手になっていただきたいと思った次第なのですが……」 「それはまた、随分と過大評価されたものだね、僕も……。 でも、さっきも言ったけど、僕はあくまで伯爵の病気を治すために訪れた旅の医者さ。 クロードさんが、僕のことをどう思っているかは知らないけれど……あなたの言うお嬢様の話し相手には、やっぱり吊り合わないんじゃないのかい?」 自分のことを誉められて悪い気はしなかったが、それでもジャンは、あえて自分を卑下するようにして言った。 所詮、自分は気まぐれで帰省した旅の医者。 定住の地など求めてはいないし、何よりも自分を追い出したこの街に、そこまで長くいるつもりもない。 他人と深い繋がりを持つこと。 それは、旅の医師である自分には不要な関係だ。 今朝のリディを見ても分かるように、下手な優しさは相手の依存心をかき立てる。 その結果、不幸な別れしか残らないのだとしたら、最初から深い繋がりなど持たない方がよいのだ。 「なるほど。 ジャン様のお考えは、わかりました……」 クロードが、小さな溜息と共にそう言った。 いつもは感情の片鱗さえ見せないだけに、こういった仕草さえも珍しく感じられる。 「では、質問を変えましょうか」 何も言わず、あくまで自分を下に見ることで距離を保とうとするジャンに、それでもクロードは諦めずに尋ねる。 「ジャン様は、お嬢様のお姿を見て……どう思われましたか?」 「ど、どうって……」 「御覧の通り、お嬢様は普通の人間とは、その容姿を大きく異にしておられます。 故に、他の者から好奇の目で見られ、拒絶されることも多かったのです。 心無い者からは、魔女とまで呼ばれたこともありました」 490 :ラ・フェ・アンサングランテ 【第六話】 ◆AJg91T1vXs :2010/11/25(木) 08 42 00 ID Pk9vug3C 「魔女、か……。 まったく、馬鹿馬鹿しい発想だね。 彼女だって、望んであの姿に生まれたわけじゃないだろうに……」 「ええ、その通りです。 ですが、お嬢様はその体質故に、光に臨むことは決して叶わないのです。 日中の太陽の光は肌を焼き、酷いときは全身に飛火や瘡蓋ができます。 他の者たちが容易につかむことのできる光でさえ、お嬢様には身を焦がす毒でしかないのです」 いつしかクロードの口調は、ややもすると熱を帯びたものに変わっていた。 普段、感情の欠片さえ見せない男だったというのに、そのどこにこれだけの想いを隠していたのかが不思議だった。 クロードの言わんとしていることは、ジャンにも分かる。 ルネが、他者とは異なる容姿で生まれついたが故に、好奇と偏見の目に晒され続けてきたという現実。 物心ついた時から奇異の眼差しを向けられてきたとあっては、その心を貝のように閉ざしてしまうこともまた、至極当然のことだったのだろう。 しかし、だからこそ、そんなルネが自分から心を開こうとした相手を逃したくない。 ルネのことを理解してくれる人間に、彼女の側にいてもらいたい。 その気持ちは、ジャンにもわからないでもない。 「僕は……」 慎重に言葉を選びながら、ジャンは大きく息を吸い込んでクロードに言った。 自分は医者だ。 例えどのような姿で生まれ、どのような瞳や髪の色を持とうとも、それらに偏見を抱くようなことがあってはならない。 それに、自分のせいではないというのに、他者から拒絶され、意味嫌われる辛さは痛いほど知っている。 「僕は……彼女のことを、容姿で判断したりはしないよ。 それが医者としての、人に対する接し方だし……彼女だって、自ら望んで人とは違う姿に生まれてきたわけじゃないんだろうからね」 「なるほど。 それが、あなたの答えというわけですね」 「ああ、そうだよ。 まあ……しいて言えば、僕は彼女のことを、とても美しい人だと思った。 こんなことを言えるような立場じゃないってことは、自分でもわかっているけど……彼女がとても純粋な人だってことは、僕にもわかる」 その場を取り繕うための方便ではなく、これはジャンの本心だった。 全身の色が抜けてしまったかのようなルネの身体は、たしかに知らない者が見たら驚くだろう。 だが、ジャンにはそんなルネのことが、とても純粋で美しいものに思われた。 自分と同じ異端者でありながら、穢れを知らず、一点の曇りもない眼差しを持っている。 491 :ラ・フェ・アンサングランテ 【第六話】 ◆AJg91T1vXs :2010/11/25(木) 08 42 50 ID Pk9vug3C 下らない、身勝手な幻想だということは、ジャンも十分にわかっていた。 ただ、同じ異端者という立場が奇妙な同族意識を生み、そこに共感することで、自分自身を慰めようとしているのだということも知っていた。 自分がルネに抱いている感情は、結局のところ自分勝手な妄想に過ぎない。 そう思っていたジャンだったが、彼の言葉を聞いたクロードは、どこか安心した様子でジャンに答えた。 「美しい……ですか。 そのようなことを言われたのは、あなたが初めてですよ、ジャン様。 お嬢様を御自分の養女として迎えたテオドール伯でさえ、彼女にそこまでの言葉をかけることはありませんでしたからね」 「養女!? それじゃあ、ルネ……いや、お嬢様は……」 「ええ。 ジャン様のお考えの通り、御主人様の本当の娘ではございません。 四年前、まだ我々が隣国にいた際、御主人様がご自身の養女にされたのです」 「そうだったのか……」 テオドール伯とルネは、血の繋がりのある親子ではない。 クロードの口から語られた言葉は衝撃的だったが、彼の言葉によって、ジャンの中で疑問に思っていたことが一つ解決した。 伯爵とルネは、父親と娘というには、あまりにも年齢が離れ過ぎている。 母親に当たる人物が屋敷の中にいないこともあり、どうにも奇妙な感じを抱いていたが、養女という関係であればなっとくがゆく。 「四年前……お嬢様は、家族の者と峡谷を馬車で移動している際に、不幸にも落石による事故に遭われました。 その現場に偶然居合わせた私と御主人様が、お嬢様を助け出したのです」 「落石事故、か……。 だったら、彼女の本当のご両親は……」 「ええ。 既に、この世を去られています。 お嬢様も酷い怪我をされていましたが、奇跡的に命を取り留めました。 以後、御主人様は彼女を養女にされ、亡くなられたご両親の代わりに育てておられるのです」 話を続けているうちに、クロードの口調はいつものそれに戻りつつあった。 昔の話をすることで、少しは気も静まったのだろうか。 「御主人様は、ジャン様と同じように、人の容姿に関して偏見を抱くようなことはされません。 だからこそ、身寄りのないお嬢様を、何の躊躇いもなくお引き取りになられたのです。 例え、その髪の色や肌の色、瞳の色が、他の者たちと異なるものであったとしても……」 ジャンに背を向け、窓辺に流れ落ちる雨垂れを見据えながら、どこか遠くを見るような表情でクロードは話し続ける。 人を見た目で判断しないというテオドール伯の考えには、ジャンも共感する部分はあった。 492 :ラ・フェ・アンサングランテ 【第六話】 ◆AJg91T1vXs :2010/11/25(木) 08 43 33 ID Pk9vug3C だが、それにしても、クロードが自分を個室に招き入れた理由はなんだろうか。 先ほどから、不思議に思っていたのはそこである。 ルネと伯爵の関係については謎が解けたが、それとは別の疑問がジャンの頭の中に浮かんできた。 ルネについての話をするのであれば、別に移動中の馬車の中でもよかったではないか。 確かに聞き手を選ぶような話かもしれないが、別に人目を憚る必要があるとは思えない。 「あの……クロードさん。 話はわかりましたけど……それなら、どうして僕を、わざわざこんな個室に呼んだんですか? 話をするだけなら、別に馬車の中でもよかった気がしますけど」 「そうですね。 確かに、御主人様とお嬢様の関係をお話するだけであれば、それで済んだでしょう」 クロードが、どこか意味ありげな口調でジャンに告げた。 まだ、こちらには伝えたいことがある。 そう言わんばかりの表情で、無言の圧力をかけてくる。 「ですが、お嬢様のお話し相手になっていただくのであれば、ジャン様にも知っておいていただきたいことがあるのです。 そして、それは……なぜ、私がジャン様に、このようなお願いをしたのかという理由でもあります」 「知っておいて欲しいこと? なんだい、それは……?」 「口でお伝えするよりも、お見せした方が早いでしょう。 医師であらせられるジャン様であれば、私も抵抗なく秘密をお話できます故に……」 そう言うと、クロードはジャンの方に向き直り、徐に自分の服についたボタンに手をかけた。 何事かと思うジャンではあったが、クロードはそんな彼に構うことなく、己の着ている服のボタンを外してゆく。 脱ぎ去った黒い燕尾服を椅子にかけると、今度はその下に着ていた服のボタンにも手をかけた。
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会社法・条文へ戻る 第六編 外国会社 (外国会社の日本における代表者) 第八百十七条 外国会社は、日本において取引を継続してしようとするときは、日本における代表者を定めなければならない。この場合において、その日本における代表者のうち一人以上は、日本に住所を有する者でなければならない。 2 外国会社の日本における代表者は、当該外国会社の日本における業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。 3 前項の権限に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。 4 外国会社は、その日本における代表者がその職務を行うについて第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。 (登記前の継続取引の禁止等) 第八百十八条 外国会社は、外国会社の登記をするまでは、日本において取引を継続してすることができない。 2 前項の規定に違反して取引をした者は、相手方に対し、外国会社と連帯して、当該取引によって生じた債務を弁済する責任を負う。 (貸借対照表に相当するものの公告) 第八百十九条 外国会社の登記をした外国会社(日本における同種の会社又は最も類似する会社が株式会社であるものに限る。)は、法務省令で定めるところにより、第四百三十八条第二項の承認と同種の手続又はこれに類似する手続の終結後遅滞なく、貸借対照表に相当するものを日本において公告しなければならない。 2 前項の規定にかかわらず、その公告方法が第九百三十九条第一項第一号又は第二号に掲げる方法である外国会社は、前項に規定する貸借対照表に相当するものの要旨を公告することで足りる。 3 前項の外国会社は、法務省令で定めるところにより、第一項の手続の終結後遅滞なく、同項に規定する貸借対照表に相当するものの内容である情報を、当該手続の終結の日後五年を経過する日までの間、継続して電磁的方法により日本において不特定多数の者が提供を受けることができる状態に置く措置をとることができる。この場合においては、前二項の規定は、適用しない。 4 証券取引法第二十四条第一項の規定により有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならない外国会社については、前三項の規定は、適用しない。 (日本に住所を有する日本における代表者の退任) 第八百二十条 外国会社の登記をした外国会社は、日本における代表者(日本に住所を有するものに限る。)の全員が退任しようとするときは、当該外国会社の債権者に対し異議があれば一定の期間内にこれを述べることができる旨を官報に公告し、かつ、知れている債権者には、各別にこれを催告しなければならない。ただし、当該期間は、一箇月を下ることができない。 2 債権者が前項の期間内に異議を述べたときは、同項の外国会社は、当該債権者に対し、弁済し、若しくは相当の担保を提供し、又は当該債権者に弁済を受けさせることを目的として信託会社等に相当の財産を信託しなければならない。ただし、同項の退任をしても当該債権者を害するおそれがないときは、この限りでない。 3 第一項の退任は、前二項の手続が終了した後にその登記をすることによって、その効力を生ずる。 (擬似外国会社) 第八百二十一条 日本に本店を置き、又は日本において事業を行うことを主たる目的とする外国会社は、日本において取引を継続してすることができない。 2 前項の規定に違反して取引をした者は、相手方に対し、外国会社と連帯して、当該取引によって生じた債務を弁済する責任を負う。 (日本にある外国会社の財産についての清算) 第八百二十二条 裁判所は、次に掲げる場合には、利害関係人の申立てにより又は職権で、日本にある外国会社の財産の全部について清算の開始を命ずることができる。 一 外国会社が第八百二十七条第一項の規定による命令を受けた場合 二 外国会社が日本において取引を継続してすることをやめた場合 2 前項の場合には、裁判所は、清算人を選任する。 3 第四百七十六条、第二編第九章第一節第二款、第四百九十二条、同節第四款及び第五百八条の規定並びに同章第二節(第五百十条、第五百十一条及び第五百十四条を除く。)の規定は、その性質上許されないものを除き、第一項の規定による日本にある外国会社の財産についての清算について準用する。 4 第八百二十条の規定は、外国会社が第一項の清算の開始を命じられた場合において、当該外国会社の日本における代表者(日本に住所を有するものに限る。)の全員が退任しようとするときは、適用しない。 (他の法律の適用関係) 第八百二十三条 外国会社は、他の法律の適用については、日本における同種の会社又は最も類似する会社とみなす。ただし、他の法律に別段の定めがあるときは、この限りでない。 第七編 雑則 第一章 会社の解散命令等 第一節 会社の解散命令 (会社の解散命令) 第八百二十四条 裁判所は、次に掲げる場合において、公益を確保するため会社の存立を許すことができないと認めるときは、法務大臣又は株主、社員、債権者その他の利害関係人の申立てにより、会社の解散を命ずることができる。 一 会社の設立が不法な目的に基づいてされたとき。 二 会社が正当な理由がないのにその成立の日から一年以内にその事業を開始せず、又は引き続き一年以上その事業を休止したとき。 三 業務執行取締役、執行役又は業務を執行する社員が、法令若しくは定款で定める会社の権限を逸脱し若しくは濫用する行為又は刑罰法令に触れる行為をした場合において、法務大臣から書面による警告を受けたにもかかわらず、なお継続的に又は反覆して当該行為をしたとき。 2 株主、社員、債権者その他の利害関係人が前項の申立てをしたときは、裁判所は、会社の申立てにより、同項の申立てをした者に対し、相当の担保を立てるべきことを命ずることができる。 3 会社は、前項の規定による申立てをするには、第一項の申立てが悪意によるものであることを疎明しなければならない。 4 民事訴訟法(平成八年法律第百九号)第七十五条第五項及び第七項並びに第七十六条から第八十条までの規定は、第二項の規定により第一項の申立てについて立てるべき担保について準用する。 (会社の財産に関する保全処分) 第八百二十五条 裁判所は、前条第一項の申立てがあった場合には、法務大臣若しくは株主、社員、債権者その他の利害関係人の申立てにより又は職権で、同項の申立てにつき決定があるまでの間、会社の財産に関し、管理人による管理を命ずる処分(次項において「管理命令」という。)その他の必要な保全処分を命ずることができる。 2 裁判所は、管理命令をする場合には、当該管理命令において、管理人を選任しなければならない。 3 裁判所は、法務大臣若しくは株主、社員、債権者その他の利害関係人の申立てにより又は職権で、前項の管理人を解任することができる。 4 裁判所は、第二項の管理人を選任した場合には、会社が当該管理人に対して支払う報酬の額を定めることができる。 5 第二項の管理人は、裁判所が監督する。 6 裁判所は、第二項の管理人に対し、会社の財産の状況の報告をし、かつ、その管理の計算をすることを命ずることができる。 7 民法第六百四十四条、第六百四十六条、第六百四十七条及び第六百五十条の規定は、第二項の管理人について準用する。この場合において、同法第六百四十六条、第六百四十七条及び第六百五十条中「委任者」とあるのは、「会社」と読み替えるものとする。 (官庁等の法務大臣に対する通知義務) 第八百二十六条 裁判所その他の官庁、検察官又は吏員は、その職務上第八百二十四条第一項の申立て又は同項第三号の警告をすべき事由があることを知ったときは、法務大臣にその旨を通知しなければならない。 第二節 外国会社の取引継続禁止又は営業所閉鎖の命令 第八百二十七条 裁判所は、次に掲げる場合には、法務大臣又は株主、社員、債権者その他の利害関係人の申立てにより、外国会社が日本において取引を継続してすることの禁止又はその日本に設けられた営業所の閉鎖を命ずることができる。 一 外国会社の事業が不法な目的に基づいて行われたとき。 二 外国会社が正当な理由がないのに外国会社の登記の日から一年以内にその事業を開始せず、又は引き続き一年以上その事業を休止したとき。 三 外国会社が正当な理由がないのに支払を停止したとき。 四 外国会社の日本における代表者その他その業務を執行する者が、法令で定める外国会社の権限を逸脱し若しくは濫用する行為又は刑罰法令に触れる行為をした場合において、法務大臣から書面による警告を受けたにもかかわらず、なお継続的に又は反覆して当該行為をしたとき。 2 第八百二十四条第二項から第四項まで及び前二条の規定は、前項の場合について準用する。この場合において、第八百二十四条第二項中「前項」とあり、同条第三項及び第四項中「第一項」とあり、並びに第八百二十五条第一項中「前条第一項」とあるのは「第八百二十七条第一項」と、前条中「第八百二十四条第一項」とあるのは「次条第一項」と、「同項第三号」とあるのは「同項第四号」と読み替えるものとする。 第二章 訴訟 第一節 会社の組織に関する訴え (会社の組織に関する行為の無効の訴え) 第八百二十八条 次の各号に掲げる行為の無効は、当該各号に定める期間に、訴えをもってのみ主張することができる。 一 会社の設立 会社の成立の日から二年以内 二 株式会社の成立後における株式の発行 株式の発行の効力が生じた日から六箇月以内(公開会社でない株式会社にあっては、株式の発行の効力が生じた日から一年以内) 三 自己株式の処分 自己株式の処分の効力が生じた日から六箇月以内(公開会社でない株式会社にあっては、自己株式の処分の効力が生じた日から一年以内) 四 新株予約権(当該新株予約権が新株予約権付社債に付されたものである場合にあっては、当該新株予約権付社債についての社債を含む。以下この章において同じ。)の発行 新株予約権の発行の効力が生じた日から六箇月以内(公開会社でない株式会社にあっては、新株予約権の発行の効力が生じた日から一年以内) 五 株式会社における資本金の額の減少 資本金の額の減少の効力が生じた日から六箇月以内 六 会社の組織変更 組織変更の効力が生じた日から六箇月以内 七 会社の吸収合併 吸収合併の効力が生じた日から六箇月以内 八 会社の新設合併 新設合併の効力が生じた日から六箇月以内 九 会社の吸収分割 吸収分割の効力が生じた日から六箇月以内 十 会社の新設分割 新設分割の効力が生じた日から六箇月以内 十一 株式会社の株式交換 株式交換の効力が生じた日から六箇月以内 十二 株式会社の株式移転 株式移転の効力が生じた日から六箇月以内 2 次の各号に掲げる行為の無効の訴えは、当該各号に定める者に限り、提起することができる。 一 前項第一号に掲げる行為 設立する株式会社の株主等(株主、取締役又は清算人(監査役設置会社にあっては株主、取締役、監査役又は清算人、委員会設置会社にあっては株主、取締役、執行役又は清算人)をいう。以下この節において同じ。)又は設立する持分会社の社員等(社員又は清算人をいう。以下この項において同じ。) 二 前項第二号に掲げる行為 当該株式会社の株主等 三 前項第三号に掲げる行為 当該株式会社の株主等 四 前項第四号に掲げる行為 当該株式会社の株主等又は新株予約権者 五 前項第五号に掲げる行為 当該株式会社の株主等、破産管財人又は資本金の額の減少について承認をしなかった債権者 六 前項第六号に掲げる行為 当該行為の効力が生じた日において組織変更をする会社の株主等若しくは社員等であった者又は組織変更後の会社の株主等、社員等、破産管財人若しくは組織変更について承認をしなかった債権者 七 前項第七号に掲げる行為 当該行為の効力が生じた日において吸収合併をする会社の株主等若しくは社員等であった者又は吸収合併後存続する会社の株主等、社員等、破産管財人若しくは吸収合併について承認をしなかった債権者 八 前項第八号に掲げる行為 当該行為の効力が生じた日において新設合併をする会社の株主等若しくは社員等であった者又は新設合併により設立する会社の株主等、社員等、破産管財人若しくは新設合併について承認をしなかった債権者 九 前項第九号に掲げる行為 当該行為の効力が生じた日において吸収分割契約をした会社の株主等若しくは社員等であった者又は吸収分割契約をした会社の株主等、社員等、破産管財人若しくは吸収分割について承認をしなかった債権者 十 前項第十号に掲げる行為 当該行為の効力が生じた日において新設分割をする会社の株主等若しくは社員等であった者又は新設分割をする会社若しくは新設分割により設立する会社の株主等、社員等、破産管財人若しくは新設分割について承認をしなかった債権者 十一 前項第十一号に掲げる行為 当該行為の効力が生じた日において株式交換契約をした会社の株主等若しくは社員等であった者又は株式交換契約をした会社の株主等、社員等、破産管財人若しくは株式交換について承認をしなかった債権者 十二 前項第十二号に掲げる行為 当該行為の効力が生じた日において株式移転をする株式会社の株主等であった者又は株式移転により設立する株式会社の株主等 (新株発行等の不存在の確認の訴え) 第八百二十九条 次に掲げる行為については、当該行為が存在しないことの確認を、訴えをもって請求することができる。 一 株式会社の成立後における株式の発行 二 自己株式の処分 三 新株予約権の発行 (株主総会等の決議の不存在又は無効の確認の訴え) 第八百三十条 株主総会若しくは種類株主総会又は創立総会若しくは種類創立総会(以下この節及び第九百三十七条第一項第一号トにおいて「株主総会等」という。)の決議については、決議が存在しないことの確認を、訴えをもって請求することができる。 2 株主総会等の決議については、決議の内容が法令に違反することを理由として、決議が無効であることの確認を、訴えをもって請求することができる。 (株主総会等の決議の取消しの訴え) 第八百三十一条 次の各号に掲げる場合には、株主等(当該各号の株主総会等が創立総会又は種類創立総会である場合にあっては、株主等、設立時株主、設立時取締役又は設立時監査役)は、株主総会等の決議の日から三箇月以内に、訴えをもって当該決議の取消しを請求することができる。当該決議の取消しにより取締役、監査役又は清算人(当該決議が株主総会又は種類株主総会の決議である場合にあっては第三百四十六条第一項(第四百七十九条第四項において準用する場合を含む。)の規定により取締役、監査役又は清算人としての権利義務を有する者を含み、当該決議が創立総会又は種類創立総会の決議である場合にあっては設立時取締役又は設立時監査役を含む。)となる者も、同様とする。 一 株主総会等の招集の手続又は決議の方法が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正なとき。 二 株主総会等の決議の内容が定款に違反するとき。 三 株主総会等の決議について特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによって、著しく不当な決議がされたとき。 2 前項の訴えの提起があった場合において、株主総会等の招集の手続又は決議の方法が法令又は定款に違反するときであっても、裁判所は、その違反する事実が重大でなく、かつ、決議に影響を及ぼさないものであると認めるときは、同項の規定による請求を棄却することができる。 (持分会社の設立の取消しの訴え) 第八百三十二条 次の各号に掲げる場合には、当該各号に定める者は、持分会社の成立の日から二年以内に、訴えをもって持分会社の設立の取消しを請求することができる。 一 社員が民法その他の法律の規定により設立に係る意思表示を取り消すことができるとき 当該社員 二 社員がその債権者を害することを知って持分会社を設立したとき 当該債権者 (会社の解散の訴え) 第八百三十三条 次に掲げる場合において、やむを得ない事由があるときは、総株主(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の十分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を有する株主又は発行済株式(自己株式を除く。)の十分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の数の株式を有する株主は、訴えをもって株式会社の解散を請求することができる。 一 株式会社が業務の執行において著しく困難な状況に至り、当該株式会社に回復することができない損害が生じ、又は生ずるおそれがあるとき。 二 株式会社の財産の管理又は処分が著しく失当で、当該株式会社の存立を危うくするとき。 2 やむを得ない事由がある場合には、持分会社の社員は、訴えをもって持分会社の解散を請求することができる。 (被告) 第八百三十四条 次の各号に掲げる訴え(以下この節において「会社の組織に関する訴え」と総称する。)については、当該各号に定める者を被告とする。 一 会社の設立の無効の訴え 設立する会社 二 株式会社の成立後における株式の発行の無効の訴え(第八百四十条第一項において「新株発行の無効の訴え」という。) 株式の発行をした株式会社 三 自己株式の処分の無効の訴え 自己株式の処分をした株式会社 四 新株予約権の発行の無効の訴え 新株予約権の発行をした株式会社 五 株式会社における資本金の額の減少の無効の訴え 当該株式会社 六 会社の組織変更の無効の訴え 組織変更後の会社 七 会社の吸収合併の無効の訴え 吸収合併後存続する会社 八 会社の新設合併の無効の訴え 新設合併により設立する会社 九 会社の吸収分割の無効の訴え 吸収分割契約をした会社 十 会社の新設分割の無効の訴え 新設分割をする会社及び新設分割により設立する会社 十一 株式会社の株式交換の無効の訴え 株式交換契約をした会社 十二 株式会社の株式移転の無効の訴え 株式移転をする株式会社及び株式移転により設立する株式会社 十三 株式会社の成立後における株式の発行が存在しないことの確認の訴え 株式の発行をした株式会社 十四 自己株式の処分が存在しないことの確認の訴え 自己株式の処分をした株式会社 十五 新株予約権の発行が存在しないことの確認の訴え 新株予約権の発行をした株式会社 十六 株主総会等の決議が存在しないこと又は株主総会等の決議の内容が法令に違反することを理由として当該決議が無効であることの確認の訴え 当該株式会社 十七 株主総会等の決議の取消しの訴え 当該株式会社 十八 第八百三十二条第一号の規定による持分会社の設立の取消しの訴え 当該持分会社 十九 第八百三十二条第二号の規定による持分会社の設立の取消しの訴え 当該持分会社及び同号の社員 二十 株式会社の解散の訴え 当該株式会社 二十一 持分会社の解散の訴え 当該持分会社 (訴えの管轄及び移送) 第八百三十五条 会社の組織に関する訴えは、被告となる会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に専属する。 2 前条第九号から第十二号までの規定により二以上の地方裁判所が管轄権を有するときは、当該各号に掲げる訴えは、先に訴えの提起があった地方裁判所が管轄する。 3 前項の場合には、裁判所は、当該訴えに係る訴訟がその管轄に属する場合においても、著しい損害又は遅滞を避けるため必要があると認めるときは、申立てにより又は職権で、訴訟を他の管轄裁判所に移送することができる。 (担保提供命令) 第八百三十六条 会社の組織に関する訴えであって、株主又は設立時株主が提起することができるものについては、裁判所は、被告の申立てにより、当該会社の組織に関する訴えを提起した株主又は設立時株主に対し、相当の担保を立てるべきことを命ずることができる。ただし、当該株主が取締役、監査役、執行役若しくは清算人であるとき、又は当該設立時株主が設立時取締役若しくは設立時監査役であるときは、この限りでない。 2 前項の規定は、会社の組織に関する訴えであって、債権者が提起することができるものについて準用する。 3 被告は、第一項(前項において準用する場合を含む。)の申立てをするには、原告の訴えの提起が悪意によるものであることを疎明しなければならない。 (弁論等の必要的併合) 第八百三十七条 同一の請求を目的とする会社の組織に関する訴えに係る訴訟が数個同時に係属するときは、その弁論及び裁判は、併合してしなければならない。 (認容判決の効力が及ぶ者の範囲) 第八百三十八条 会社の組織に関する訴えに係る請求を認容する確定判決は、第三者に対してもその効力を有する。 (無効又は取消しの判決の効力) 第八百三十九条 会社の組織に関する訴え(第八百三十四条第一号から第十二号まで、第十八号及び第十九号に掲げる訴えに限る。)に係る請求を認容する判決が確定したときは、当該判決において無効とされ、又は取り消された行為(当該行為によって会社が設立された場合にあっては当該設立を含み、当該行為に際して株式又は新株予約権が交付された場合にあっては当該株式又は新株予約権を含む。)は、将来に向かってその効力を失う。 (新株発行の無効判決の効力) 第八百四十条 新株発行の無効の訴えに係る請求を認容する判決が確定したときは、当該株式会社は、当該判決の確定時における当該株式に係る株主に対し、払込みを受けた金額又は給付を受けた財産の給付の時における価額に相当する金銭を支払わなければならない。この場合において、当該株式会社が株券発行会社であるときは、当該株式会社は、当該株主に対し、当該金銭の支払をするのと引換えに、当該株式に係る旧株券(前条の規定により効力を失った株式に係る株券をいう。以下この節において同じ。)を返還することを請求することができる。 2 前項の金銭の金額が同項の判決が確定した時における会社財産の状況に照らして著しく不相当であるときは、裁判所は、同項前段の株式会社又は株主の申立てにより、当該金額の増減を命ずることができる。 3 前項の申立ては、同項の判決が確定した日から六箇月以内にしなければならない。 4 第一項前段に規定する場合には、同項前段の株式を目的とする質権は、同項の金銭について存在する。 5 第一項前段に規定する場合には、前項の質権の登録株式質権者は、第一項前段の株式会社から同項の金銭を受領し、他の債権者に先立って自己の債権の弁済に充てることができる。 6 前項の債権の弁済期が到来していないときは、同項の登録株式質権者は、第一項前段の株式会社に同項の金銭に相当する金額を供託させることができる。この場合において、質権は、その供託金について存在する。 (自己株式の処分の無効判決の効力) 第八百四十一条 自己株式の処分の無効の訴えに係る請求を認容する判決が確定したときは、当該株式会社は、当該判決の確定時における当該自己株式に係る株主に対し、払込みを受けた金額又は給付を受けた財産の給付の時における価額に相当する金銭を支払わなければならない。この場合において、当該株式会社が株券発行会社であるときは、当該株式会社は、当該株主に対し、当該金銭の支払をするのと引換えに、当該自己株式に係る旧株券を返還することを請求することができる。 2 前条第二項から第六項までの規定は、前項の場合について準用する。この場合において、同条第四項中「株式」とあるのは、「自己株式」と読み替えるものとする。 (新株予約権発行の無効判決の効力) 第八百四十二条 新株予約権の発行の無効の訴えに係る請求を認容する判決が確定したときは、当該株式会社は、当該判決の確定時における当該新株予約権に係る新株予約権者に対し、払込みを受けた金額又は給付を受けた財産の給付の時における価額に相当する金銭を支払わなければならない。この場合において、当該新株予約権に係る新株予約権証券(当該新株予約権が新株予約権付社債に付されたものである場合にあっては、当該新株予約権付社債に係る新株予約権付社債券。以下この項において同じ。)を発行しているときは、当該株式会社は、当該新株予約権者に対し、当該金銭の支払をするのと引換えに、第八百三十九条の規定により効力を失った新株予約権に係る新株予約権証券を返還することを請求することができる。 2 第八百四十条第二項から第六項までの規定は、前項の場合について準用する。この場合において、同条第二項中「株主」とあるのは「新株予約権者」と、同条第四項中「株式」とあるのは「新株予約権」と、同条第五項及び第六項中「登録株式質権者」とあるのは「登録新株予約権質権者」と読み替えるものとする。 (合併又は会社分割の無効判決の効力) 第八百四十三条 次の各号に掲げる行為の無効の訴えに係る請求を認容する判決が確定したときは、当該行為をした会社は、当該行為の効力が生じた日後に当該各号に定める会社が負担した債務について、連帯して弁済する責任を負う。 一 会社の吸収合併 吸収合併後存続する会社 二 会社の新設合併 新設合併により設立する会社 三 会社の吸収分割 吸収分割をする会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を当該会社から承継する会社 四 会社の新設分割 新設分割により設立する会社 2 前項に規定する場合には、同項各号に掲げる行為の効力が生じた日後に当該各号に定める会社が取得した財産は、当該行為をした会社の共有に属する。ただし、同項第四号に掲げる行為を一の会社がした場合には、同号に定める会社が取得した財産は、当該行為をした一の会社に属する。 3 第一項及び前項本文に規定する場合には、各会社の第一項の債務の負担部分及び前項本文の財産の共有持分は、各会社の協議によって定める。 4 各会社の第一項の債務の負担部分又は第二項本文の財産の共有持分について、前項の協議が調わないときは、裁判所は、各会社の申立てにより、第一項各号に掲げる行為の効力が生じた時における各会社の財産の額その他一切の事情を考慮して、これを定める。 (株式交換又は株式移転の無効判決の効力) 第八百四十四条 株式会社の株式交換又は株式移転の無効の訴えに係る請求を認容する判決が確定した場合において、株式交換又は株式移転をする株式会社(以下この条において「旧完全子会社」という。)の発行済株式の全部を取得する株式会社(以下この条において「旧完全親会社」という。)が当該株式交換又は株式移転に際して当該旧完全親会社の株式(以下この条において「旧完全親会社株式」という。)を交付したときは、当該旧完全親会社は、当該判決の確定時における当該旧完全親会社株式に係る株主に対し、当該株式交換又は株式移転の際に当該旧完全親会社株式の交付を受けた者が有していた旧完全子会社の株式(以下この条において「旧完全子会社株式」という。)を交付しなければならない。この場合において、旧完全親会社が株券発行会社であるときは、当該旧完全親会社は、当該株主に対し、当該旧完全子会社株式を交付するのと引換えに、当該旧完全親会社株式に係る旧株券を返還することを請求することができる。 2 前項前段に規定する場合には、旧完全親会社株式を目的とする質権は、旧完全子会社株式について存在する。 3 前項の質権の質権者が登録株式質権者であるときは、旧完全親会社は、第一項の判決の確定後遅滞なく、旧完全子会社に対し、当該登録株式質権者についての第百四十八条各号に掲げる事項を通知しなければならない。 4 前項の規定による通知を受けた旧完全子会社は、その株主名簿に同項の登録株式質権者の質権の目的である株式に係る株主名簿記載事項を記載し、又は記録した場合には、直ちに、当該株主名簿に当該登録株式質権者についての第百四十八条各号に掲げる事項を記載し、又は記録しなければならない。 5 第三項に規定する場合において、同項の旧完全子会社が株券発行会社であるときは、旧完全親会社は、登録株式質権者に対し、第二項の旧完全子会社株式に係る株券を引き渡さなければならない。ただし、第一項前段の株主が旧完全子会社株式の交付を受けるために旧完全親会社株式に係る旧株券を提出しなければならない場合において、旧株券の提出があるまでの間は、この限りでない。 (持分会社の設立の無効又は取消しの判決の効力) 第八百四十五条 持分会社の設立の無効又は取消しの訴えに係る請求を認容する判決が確定した場合において、その無効又は取消しの原因が一部の社員のみにあるときは、他の社員の全員の同意によって、当該持分会社を継続することができる。この場合においては、当該原因がある社員は、退社したものとみなす。 (原告が敗訴した場合の損害賠償責任) 第八百四十六条 会社の組織に関する訴えを提起した原告が敗訴した場合において、原告に悪意又は重大な過失があったときは、原告は、被告に対し、連帯して損害を賠償する責任を負う。 第二節 株式会社における責任追及等の訴え (責任追及等の訴え) 第八百四十七条 六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き株式を有する株主(第百八十九条第二項の定款の定めによりその権利を行使することができない単元未満株主を除く。)は、株式会社に対し、書面その他の法務省令で定める方法により、発起人、設立時取締役、設立時監査役、役員等(第四百二十三条第一項に規定する役員等をいう。以下この条において同じ。)若しくは清算人の責任を追及する訴え、第百二十条第三項の利益の返還を求める訴え又は第二百十二条第一項若しくは第二百八十五条第一項の規定による支払を求める訴え(以下この節において「責任追及等の訴え」という。)の提起を請求することができる。ただし、責任追及等の訴えが当該株主若しくは第三者の不正な利益を図り又は当該株式会社に損害を加えることを目的とする場合は、この限りでない。 2 公開会社でない株式会社における前項の規定の適用については、同項中「六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き株式を有する株主」とあるのは、「株主」とする。 3 株式会社が第一項の規定による請求の日から六十日以内に責任追及等の訴えを提起しないときは、当該請求をした株主は、株式会社のために、責任追及等の訴えを提起することができる。 4 株式会社は、第一項の規定による請求の日から六十日以内に責任追及等の訴えを提起しない場合において、当該請求をした株主又は同項の発起人、設立時取締役、設立時監査役、役員等若しくは清算人から請求を受けたときは、当該請求をした者に対し、遅滞なく、責任追及等の訴えを提起しない理由を書面その他の法務省令で定める方法により通知しなければならない。 5 第一項及び第三項の規定にかかわらず、同項の期間の経過により株式会社に回復することができない損害が生ずるおそれがある場合には、第一項の株主は、株式会社のために、直ちに責任追及等の訴えを提起することができる。ただし、同項ただし書に規定する場合は、この限りでない。 6 第三項又は前項の責任追及等の訴えは、訴訟の目的の価額の算定については、財産権上の請求でない請求に係る訴えとみなす。 7 株主が責任追及等の訴えを提起したときは、裁判所は、被告の申立てにより、当該株主に対し、相当の担保を立てるべきことを命ずることができる。 8 被告が前項の申立てをするには、責任追及等の訴えの提起が悪意によるものであることを疎明しなければならない。 (訴えの管轄) 第八百四十八条 責任追及等の訴えは、株式会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に専属する。 (訴訟参加) 第八百四十九条 株主又は株式会社は、共同訴訟人として、又は当事者の一方を補助するため、責任追及等の訴えに係る訴訟に参加することができる。ただし、不当に訴訟手続を遅延させることとなるとき、又は裁判所に対し過大な事務負担を及ぼすこととなるときは、この限りでない。 2 株式会社が、取締役(監査委員を除く。)、執行役及び清算人並びにこれらの者であった者を補助するため、責任追及等の訴えに係る訴訟に参加するには、次の各号に掲げる株式会社の区分に応じ、当該各号に定める者の同意を得なければならない。 一 監査役設置会社 監査役(監査役が二人以上ある場合にあっては、各監査役) 二 委員会設置会社 各監査委員 3 株主は、責任追及等の訴えを提起したときは、遅滞なく、株式会社に対し、訴訟告知をしなければならない。 4 株式会社は、責任追及等の訴えを提起したとき、又は前項の訴訟告知を受けたときは、遅滞なく、その旨を公告し、又は株主に通知しなければならない。 5 公開会社でない株式会社における前項の規定の適用については、同項中「公告し、又は株主に通知し」とあるのは、「株主に通知し」とする。 (和解) 第八百五十条 民事訴訟法第二百六十七条の規定は、株式会社が責任追及等の訴えに係る訴訟における和解の当事者でない場合には、当該訴訟における訴訟の目的については、適用しない。ただし、当該株式会社の承認がある場合は、この限りでない。 2 前項に規定する場合において、裁判所は、株式会社に対し、和解の内容を通知し、かつ、当該和解に異議があるときは二週間以内に異議を述べるべき旨を催告しなければならない。 3 株式会社が前項の期間内に書面により異議を述べなかったときは、同項の規定による通知の内容で株主が和解をすることを承認したものとみなす。 4 第五十五条、第百二十条第五項、第四百二十四条(第四百八十六条第四項において準用する場合を含む。)、第四百六十二条第三項(同項ただし書に規定する分配可能額を超えない部分について負う義務に係る部分に限る。)、第四百六十四条第二項及び第四百六十五条第二項の規定は、責任追及等の訴えに係る訴訟における和解をする場合には、適用しない。 (株主でなくなった者の訴訟追行) 第八百五十一条 責任追及等の訴えを提起した株主又は第八百四十九条第一項の規定により共同訴訟人として当該責任追及等の訴えに係る訴訟に参加した株主が当該訴訟の係属中に株主でなくなった場合であっても、次に掲げるときは、その者が、訴訟を追行することができる。 一 その者が当該株式会社の株式交換又は株式移転により当該株式会社の完全親会社(特定の株式会社の発行済株式の全部を有する株式会社その他これと同等のものとして法務省令で定める株式会社をいう。以下この条において同じ。)の株式を取得したとき。 二 その者が当該株式会社が合併により消滅する会社となる合併により、合併により設立する株式会社又は合併後存続する株式会社若しくはその完全親会社の株式を取得したとき。 2 前項の規定は、同項第一号(この項又は次項において準用する場合を含む。)に掲げる場合において、前項の株主が同項の訴訟の係属中に当該株式会社の完全親会社の株式の株主でなくなったときについて準用する。この場合において、同項(この項又は次項において準用する場合を含む。)中「当該株式会社」とあるのは、「当該完全親会社」と読み替えるものとする。 3 第一項の規定は、同項第二号(前項又はこの項において準用する場合を含む。)に掲げる場合において、第一項の株主が同項の訴訟の係属中に合併により設立する株式会社又は合併後存続する株式会社の株式の株主でなくなったときについて準用する。この場合において、同項(前項又はこの項において準用する場合を含む。)中「当該株式会社」とあるのは、「合併により設立する株式会社又は合併後存続する株式会社若しくはその完全親会社」と読み替えるものとする。 (費用等の請求) 第八百五十二条 責任追及等の訴えを提起した株主が勝訴(一部勝訴を含む。)した場合において、当該責任追及等の訴えに係る訴訟に関し、必要な費用(訴訟費用を除く。)を支出したとき又は弁護士若しくは弁護士法人に報酬を支払うべきときは、当該株式会社に対し、その費用の額の範囲内又はその報酬額の範囲内で相当と認められる額の支払を請求することができる。 2 責任追及等の訴えを提起した株主が敗訴した場合であっても、悪意があったときを除き、当該株主は、当該株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する義務を負わない。 3 前二項の規定は、第八百四十九条第一項の規定により同項の訴訟に参加した株主について準用する。 (再審の訴え) 第八百五十三条 責任追及等の訴えが提起された場合において、原告及び被告が共謀して責任追及等の訴えに係る訴訟の目的である株式会社の権利を害する目的をもって判決をさせたときは、株式会社又は株主は、確定した終局判決に対し、再審の訴えをもって、不服を申し立てることができる。 2 前条の規定は、前項の再審の訴えについて準用する。 第三節 株式会社の役員の解任の訴え (株式会社の役員の解任の訴え) 第八百五十四条 役員(第三百二十九条第一項に規定する役員をいう。以下この節において同じ。)の職務の執行に関し不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があったにもかかわらず、当該役員を解任する旨の議案が株主総会において否決されたとき又は当該役員を解任する旨の株主総会の決議が第三百二十三条の規定によりその効力を生じないときは、次に掲げる株主は、当該株主総会の日から三十日以内に、訴えをもって当該役員の解任を請求することができる。 一 総株主(次に掲げる株主を除く。)の議決権の百分の三(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する株主(次に掲げる株主を除く。) イ 当該役員を解任する旨の議案について議決権を行使することができない株主 ロ 当該請求に係る役員である株主 二 発行済株式(次に掲げる株主の有する株式を除く。)の百分の三(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の数の株式を六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する株主(次に掲げる株主を除く。) イ 当該株式会社である株主 ロ 当該請求に係る役員である株主 2 公開会社でない株式会社における前項各号の規定の適用については、これらの規定中「六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する」とあるのは、「有する」とする。 3 第百八条第一項第九号に掲げる事項(取締役に関するものに限る。)についての定めがある種類の株式を発行している場合における第一項の規定の適用については、同項中「株主総会」とあるのは、「株主総会(第三百四十七条第一項の規定により読み替えて適用する第三百三十九条第一項の種類株主総会を含む。)」とする。 4 第百八条第一項第九号に掲げる事項(監査役に関するものに限る。)についての定めがある種類の株式を発行している場合における第一項の規定の適用については、同項中「株主総会」とあるのは、「株主総会(第三百四十七条第二項の規定により読み替えて適用する第三百三十九条第一項の種類株主総会を含む。)」とする。 (被告) 第八百五十五条 前条第一項の訴え(次条及び第九百三十七条第一項第一号ヌにおいて「株式会社の役員の解任の訴え」という。)については、当該株式会社及び前条第一項の役員を被告とする。 (訴えの管轄) 第八百五十六条 株式会社の役員の解任の訴えは、当該株式会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に専属する。 第四節 特別清算に関する訴え (役員等の責任の免除の取消しの訴えの管轄) 第八百五十七条 第五百四十四条第二項の訴えは、特別清算裁判所(第八百八十条第一項に規定する特別清算裁判所をいう。次条第三項において同じ。)の管轄に専属する。 (役員等責任査定決定に対する異議の訴え) 第八百五十八条 役員等責任査定決定(第五百四十五条第一項に規定する役員等責任査定決定をいう。以下この条において同じ。)に不服がある者は、第八百九十九条第四項の規定による送達を受けた日から一箇月の不変期間内に、異議の訴えを提起することができる。 2 前項の訴えは、これを提起する者が、対象役員等(第五百四十二条第一項に規定する対象役員等をいう。以下この項において同じ。)であるときは清算株式会社を、清算株式会社であるときは対象役員等を、それぞれ被告としなければならない。 3 第一項の訴えは、特別清算裁判所の管轄に専属する。 4 第一項の訴えについての判決においては、訴えを不適法として却下する場合を除き、役員等責任査定決定を認可し、変更し、又は取り消す。 5 役員等責任査定決定を認可し、又は変更した判決は、強制執行に関しては、給付を命ずる判決と同一の効力を有する。 6 役員等責任査定決定を認可し、又は変更した判決については、受訴裁判所は、民事訴訟法第二百五十九条第一項の定めるところにより、仮執行の宣言をすることができる。 第五節 持分会社の社員の除名の訴え等 (持分会社の社員の除名の訴え) 第八百五十九条 持分会社の社員(以下この条及び第八百六十一条第一号において「対象社員」という。)について次に掲げる事由があるときは、当該持分会社は、対象社員以外の社員の過半数の決議に基づき、訴えをもって対象社員の除名を請求することができる。 一 出資の義務を履行しないこと。 二 第五百九十四条第一項(第五百九十八条第二項において準用する場合を含む。)の規定に違反したこと。 三 業務を執行するに当たって不正の行為をし、又は業務を執行する権利がないのに業務の執行に関与したこと。 四 持分会社を代表するに当たって不正の行為をし、又は代表権がないのに持分会社を代表して行為をしたこと。 五 前各号に掲げるもののほか、重要な義務を尽くさないこと。 (持分会社の業務を執行する社員の業務執行権又は代表権の消滅の訴え) 第八百六十条 持分会社の業務を執行する社員(以下この条及び次条第二号において「対象業務執行社員」という。)について次に掲げる事由があるときは、当該持分会社は、対象業務執行社員以外の社員の過半数の決議に基づき、訴えをもって対象業務執行社員の業務を執行する権利又は代表権の消滅を請求することができる。 一 前条各号に掲げる事由があるとき。 二 持分会社の業務を執行し、又は持分会社を代表することに著しく不適任なとき。 (被告) 第八百六十一条 次の各号に掲げる訴えについては、当該各号に定める者を被告とする。 一 第八百五十九条の訴え(次条及び第九百三十七条第一項第一号ルにおいて「持分会社の社員の除名の訴え」という。) 対象社員 二 前条の訴え(次条及び第九百三十七条第一項第一号ヲにおいて「持分会社の業務を執行する社員の業務執行権又は代表権の消滅の訴え」という。) 対象業務執行社員 (訴えの管轄) 第八百六十二条 持分会社の社員の除名の訴え及び持分会社の業務を執行する社員の業務執行権又は代表権の消滅の訴えは、当該持分会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に専属する。 第六節 清算持分会社の財産処分の取消しの訴え (清算持分会社の財産処分の取消しの訴え) 第八百六十三条 清算持分会社(合名会社及び合資会社に限る。以下この項において同じ。)が次の各号に掲げる行為をしたときは、当該各号に定める者は、訴えをもって当該行為の取消しを請求することができる。ただし、当該行為がその者を害しないものであるときは、この限りでない。 一 第六百七十条の規定に違反して行った清算持分会社の財産の処分 清算持分会社の債権者 二 第六百七十一条第一項の規定に違反して行った清算持分会社の財産の処分 清算持分会社の社員の持分を差し押さえた債権者 2 民法第四百二十四条第一項ただし書、第四百二十五条及び第四百二十六条の規定は、前項の場合について準用する。この場合において、同法第四百二十四条第一項ただし書中「その行為によって」とあるのは、「会社法(平成十七年法律第八十六号)第八百六十三条第一項各号に掲げる行為によって」と読み替えるものとする。 (被告) 第八百六十四条 前条第一項の訴えについては、同項各号に掲げる行為の相手方又は転得者を被告とする。 第七節 社債発行会社の弁済等の取消しの訴え (社債発行会社の弁済等の取消しの訴え) 第八百六十五条 社債を発行した会社が社債権者に対してした弁済、社債権者との間でした和解その他の社債権者に対してし、又は社債権者との間でした行為が著しく不公正であるときは、社債管理者は、訴えをもって当該行為の取消しを請求することができる。 2 前項の訴えは、社債管理者が同項の行為の取消しの原因となる事実を知った時から六箇月を経過したときは、提起することができない。同項の行為の時から一年を経過したときも、同様とする。 3 第一項に規定する場合において、社債権者集会の決議があるときは、代表社債権者又は決議執行者(第七百三十七条第二項に規定する決議執行者をいう。)も、訴えをもって第一項の行為の取消しを請求することができる。ただし、同項の行為の時から一年を経過したときは、この限りでない。 4 民法第四百二十四条第一項ただし書及び第四百二十五条の規定は、第一項及び前項本文の場合について準用する。この場合において、同法第四百二十四条第一項ただし書中「その行為によって」とあるのは「会社法第八百六十五条第一項に規定する行為によって」と、「債権者を害すべき事実」とあるのは「その行為が著しく不公正であること」と、同法第四百二十五条中「債権者」とあるのは「社債権者」と読み替えるものとする。 (被告) 第八百六十六条 前条第一項又は第三項の訴えについては、同条第一項の行為の相手方又は転得者を被告とする。 (訴えの管轄) 第八百六十七条 第八百六十五条第一項又は第三項の訴えは、社債を発行した会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に専属する。 第三章 非訟 第一節 総則 (非訟事件の管轄) 第八百六十八条 この法律の規定による非訟事件(次項から第五項までに規定する事件を除く。)は、会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属する。 2 親会社社員(会社である親会社の株主又は社員に限る。)によるこの法律の規定により株式会社が作成し、又は備え置いた書面又は電磁的記録についての次に掲げる閲覧等(閲覧、謄本若しくは抄本の交付、事項の提供又は事項を記載した書面の交付をいう。第八百七十条第一号において同じ。)の許可の申立てに係る事件は、当該株式会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属する。 一 当該書面の閲覧又はその謄本若しくは抄本の交付 二 当該電磁的記録に記録された事項を表示したものの閲覧又は電磁的方法による当該事項の提供若しくは当該事項を記載した書面の交付 3 第七百五条第四項、第七百六条第四項、第七百七条、第七百十一条第三項、第七百十三条、第七百十四条第一項及び第三項、第七百十八条第三項、第七百三十二条、第七百四十条第一項並びに第七百四十一条第一項の規定による裁判の申立てに係る事件は、社債を発行した会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属する。 4 第八百二十二条第一項の規定による外国会社の清算に係る事件並びに第八百二十七条第一項の規定による裁判及び同条第二項において準用する第八百二十五条第一項の規定による保全処分に係る事件は、当該外国会社の日本における営業所の所在地(日本に営業所を設けていない場合にあっては、日本における代表者の住所地)を管轄する地方裁判所の管轄に属する。 5 第八百四十三条第四項の申立てに係る事件は、同条第一項各号に掲げる行為の無効の訴えの第一審の受訴裁判所の管轄に属する。 (疎明) 第八百六十九条 この法律の規定による許可の申立てをする場合には、その原因となる事実を疎明しなければならない。 (陳述の聴取) 第八百七十条 裁判所は、この法律の規定(第二編第九章第二節を除く。)による非訟事件についての裁判のうち、次の各号に掲げる裁判をする場合には、当該各号に定める者(第四号及び第六号にあっては、申立人を除く。)の陳述を聴かなければならない。 一 この法律の規定により株式会社が作成し、又は備え置いた書面又は電磁的記録についての閲覧等の許可の申立てについての裁判 当該株式会社 二 第三百四十六条第二項、第三百五十一条第二項若しくは第四百一条第三項(第四百三条第三項及び第四百二十条第三項において準用する場合を含む。)の規定により選任された一時取締役、会計参与、監査役、代表取締役、委員、執行役若しくは代表執行役の職務を行うべき者、清算人、第四百七十九条第四項において準用する第三百四十六条第二項若しくは第四百八十三条第六項において準用する第三百五十一条第二項の規定により選任された一時清算人若しくは代表清算人の職務を行うべき者、検査役又は第八百二十五条第二項(第八百二十七条第二項において準用する場合を含む。)の管理人の報酬の額の決定 当該会社及び報酬を受ける者 三 清算人又は社債管理者の解任についての裁判 当該清算人又は社債管理者 四 第百十七条第二項、第百十九条第二項、第百七十二条第一項、第百九十三条第二項(第百九十四条第四項において準用する場合を含む。)、第四百七十条第二項、第七百七十八条第二項、第七百八十六条第二項、第七百九十八条第二項、第八百七条第二項又は第八百九条第二項の規定による株式又は新株予約権(当該新株予約権が新株予約権付社債に付されたものである場合において、当該新株予約権付社債についての社債の買取りの請求があったときは、当該社債を含む。)の価格の決定 価格の決定の申立てをすることができる者 五 第三十三条第七項の規定による裁判 設立時取締役、第二十八条第一号の金銭以外の財産を出資する者及び同条第二号の譲渡人 六 第百四十四条第二項(同条第七項において準用する場合を含む。)又は第百七十七条第二項の規定による株式の売買価格の決定 売買価格の決定の申立てをすることができる者(第百四十条第四項に規定する指定買取人がある場合にあっては、当該指定買取人を含む。) 七 第二百七条第七項又は第二百八十四条第七項の規定による裁判 当該株式会社及び第百九十九条第一項第三号又は第二百三十六条第一項第三号の規定により金銭以外の財産を出資する者 八 第四百五十五条第二項第二号又は第五百五条第三項第二号の規定による裁判 当該株主 九 第四百五十六条又は第五百六条の規定による裁判 当該株主 十 第七百三十二条の規定による裁判 利害関係人 十一 第七百四十条第一項の規定による申立てを認容する裁判 社債を発行した会社 十二 第七百四十一条第一項の許可の申立てについての裁判 社債を発行した会社 十三 第八百二十四条第一項の規定による裁判 当該会社 十四 第八百二十七条第一項の規定による裁判 当該外国会社 十五 第八百四十三条第四項の申立てについての裁判 同項に規定する行為をした会社 (理由の付記) 第八百七十一条 この法律の規定による非訟事件についての裁判には、理由を付さなければならない。ただし、次に掲げる裁判については、この限りでない。 一 前条第二号に掲げる裁判 二 第八百七十四条各号に掲げる裁判 (即時抗告) 第八百七十二条 次の各号に掲げる裁判に対しては、当該各号に定める者は、即時抗告をすることができる。 一 第六百九条第三項又は第八百二十五条第一項(第八百二十七条第二項において準用する場合を含む。)の規定による保全処分についての裁判 利害関係人 二 第八百四十条第二項(第八百四十一条第二項において準用する場合を含む。)の規定による申立てについての裁判 申立人、株主及び株式会社 三 第八百四十二条第二項において準用する第八百四十条第二項の規定による申立てについての裁判 申立人、新株予約権者及び株式会社 四 第八百七十条各号に掲げる裁判 申立人及び当該各号に定める者(同条第二号、第五号及び第七号に掲げる裁判にあっては、当該各号に定める者) (原裁判の執行停止) 第八百七
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川の水の中、記四季が作った囲いに覆われて彩女は沐浴をしていた。 普段は彼女を覆っている朱の甲冑は今は外され、川辺に置かれている。 「―――――ふぅ」 彩女が顔を上げると、その銀の髪から水が滴り白い肌を伝っていく。 その姿はさながら ――――――― 「化生か物の怪の類・・・自分でそう思ったこと、無いかな?」 ホワイトファング・ハウリングソウル 第六話 * 『秘メゴト』 「ありませんよ。それに、それを言うなら貴方なんて人魚じゃないですか」 彩女は少し苦笑しながら川を自由に泳ぐアメティスタにそう返す。 「それもそうだ。でもほら、このヒレはオプションだから」 アメティスタはそういって水面から自らのヒレを示す。 水中用に特化している彼女の体は、流されるような愚をおかさないように作られている。 彩女は少しそれが羨ましい。普通の神姫は水に沈むからだ。 「・・・そのヒレで、わざわざ湖から川を遡ってきたんですか」 記四季の山の川と湖は繋がっている。 山から流れた水が、下流の湖へと流れていくのだ。そのため流れを逆にたどれば自ずと記四季の山に辿り着く。 問題はその湖に繋がっている川が無数にあることと、結構な距離があることなのだが。 「ヒマだったしね~」 当の本人は気にしていない。 「っていうかさ。彩女は記四季の傍にいなくていいの?」 「いいんです。あの人は今執筆作業で忙しいのですよ」 七瀬記四季、ああ見えて彼は作家である。 彼は集中しているときは彩女を追い出す。どうも一人じゃないと書き上げられないタイプの作家なようだ。 「・・・・ふぅん」 アメティスタは彩女の言葉に少し顔を曇らせる。 しかしその表情の変化に彩女は気づかなかった。 「そういえば、この間バトルをした話はしましたよね。アメティスタはしないのですか?」 「ん? ボクは弱いからねぇ・・・負けることは無いけど、勝つことも無いんだなこれが」 そういってアメティスタは囲いの傍に泳いでくる。その勢いのまま跳んで囲いの中に入ってしまった。 「でもたまにはいいかな。今度チームバトルで一緒にやろうよ」 「そうですね。・・・・って、なんで私の頬に手を添えるのですか?」 気づくとアメティスタは彩女の頬に手を添え、顔をがっちりと固定していた。 そして彼女の紫色をした瞳は、なぜかとても妖しく光っている。 「彩女ってさぁ・・・ボクの前では無防備だよねぇ? 鎧も脱いだし・・・刀もほら、あんな遠くにある・・・それに、今は下着もつけてないじゃない・・・」 アメティスタの言うとおり、彩女の鎧は川辺においてあるし下着は丁寧に畳んでその傍においてある。刀も同じく、鎧に立てかけられていた。 「・・・・あ、アメティスタ? ――――――――っ!?」 彩女の呼びかけを無視し、アメティスタは彩女の唇を奪う。そのまま舌をいれ、彩女の口の中を蹂躙する。 「―――ん ――――――っ ――――は ―――――ぁ ―――」 彩女は逃げられない。アメティスタの左手は腰に回されていたし、彼女の足でもあるヒレは器用にも彩女の体を拘束していたからだ。 やがて満足したのか、アメティスタは彩女の唇から自分の唇を離す。 唾液が、糸を引く。 「ん ―――――――っ。ふふ・・・可愛いんだ。顔、真っ赤じゃん」 「あ、アメティスタ・・・? な、何を・・・」 「んふ・・・ここまで来たら、やることは一つしかない・・・・よねぇ?」 そういいながらアメティスタは彩女を押し倒す。 水しぶきが上がり、二人の体は浅瀬に倒れた。 「ちょ・・・・アメティスタ・・・・んんぅ!?」 彩女の体が大きく跳ねる。 アメティスタの手が、下腹部に添えられていた。 「おへそ、弱いんだぁ・・・可愛い・・・ん」 アメティスタはそのまま彩女のへその周りを指で撫でる。 そのたびに彩女の体は小さく跳ね、意識は段々朦朧としていく。 「は ――――あ、アメティ ――――――――あ」 アメティスタは彩女の反応に満足したのか、今度は彩女の胸に指を這わせる。 彼女の指によって、彩女の小ぶりな胸は大きく形を変える。 「やぁ ―――そこ ―――だめぇ・・・・・!」 アメティスタの指使いは決して鋭くは無い。むしろまどろみの中で永遠にも続きそうなほどゆったりとしたものだった。しかし、時たま動きを鋭くするせいでまどろみから一気に現実へと戻される。まるで ―――蛇の生殺しのような、快楽。 「ふふ・・・それじゃそろそろ・・・こっちに行こうかな?」 そういってアメティスタが指を這わせたのは・・・・・彩女の秘唇だった。 「――――――――――――ぁ」 「んふ・・・濡れてるねぇ? これは水かなぁ・・・それともぉ・・・・?」 わざと、ゆっくりと、指でさする。 そのたびに彩女は小さく痙攣し、瞳はうるむ。 「ね・・・どうしたい? もう止めちゃう・・・?」 「――――や、やめます・・・・はうっ!?」 彩女がそういった瞬間、一際強く指でつねられる。 「だぁめ・・・・このまま帰ったら発情したまんまだよぉ・・・? ね、最後までいこう・・・ね?」 「だ、だから ――――――ひゃうっ!」 今度はアメティスタの指が、第一関節まで入った。 そのままゆっくりと・・・・もどかしいほどゆっくりと、抜き差しを開始する。 その快楽はまるで毒のように、ゆっくりと彩女の体を蝕む。 「や ――――やめ ――――」 「・・・きついね。彩女の中は。もう一本、はいるかな・・・?」 そういってアメティスタは中指を入り口に添える。 しかしその瞬間 「止めろって ―――――」 彩女は右足を出来る限り大きく曲げ 「――――言ってるだろう!!」 アメティスタを、思いっきり蹴飛ばした。 「ふぎゅ!?」 彩女に蹴飛ばされたアメティスタは盛大に跳びながら弧を描き、川の中にぽちゃりと落ちた。 蹴っ飛ばした拍子に拘束が解け、彩女は急いで岸に向かいタオルを体に巻きつける。 「馬鹿じゃないの!? 止めろっていったら止めなさいよこの馬鹿!!」 彩女は顔を真っ赤にしながら川に向かって怒鳴りつける。 と、川の中からアメティスタがひょっこりと顔を出した。 「いや、だって彩女も楽しんでたじゃん?」 「私は感じやすいの!! 範囲狭いとは言え全身がセンサーみたいなもんだし! 小さな風の変化だって感じ取れるくらい繊細なんだから!!」 彩女が感じやすい理由がこれである。 彼女は神姫に搭載されている五感全てが、デフォルトの状態で他の神姫よりも強化されているのだ。 そのため彼女が感じる世界は、他の神姫よりもはるかに鮮明である。 「もうアメティスタなんて知らない! この・・・・馬鹿!!」 彩女はそういうと鎧と刀、服を持つとさっさと竹林へとはいってしまった。 そのまま帰ってくる気配は無い。 「・・・・あーあ。また振られちゃったか」 残されたアメティスタは水の中で一人ごちる。 「いっつも触るのまでは許してくれるんだけどな。・・・・あそこまで感じてるんなら、本番いっても良いじゃんよ」 アメティスタは川の岩に肘をつきながら口を尖らす。口内にはまだ彩女の余韻が残っていた。 ふと、アメティスタは指に違和感を感じ、動かしてみる。 「・・・・・ふぅん・・・ふふ・・・まぁ次ぎ頑張ればいいかな」 指を折り曲げると、にちゃ、と粘質な音がした。 アメティスタは指についた粘液を、入念に舌で舐め取る。 そのまま口の中でしばらく転がし・・・嚥下した。 「・・・・ま、今日は帰りますか。また明日になれば無防備な彩女に会えるし。・・・あの子ったら、本当に警戒心ないもんなぁ・・・まぁお触りくらいならいいってくらい、気を許してくれてるのかな?」 そういって、舌で口についた残りを舐め取り、妖艶に微笑んだ。 前・・・次
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「どうして解ったの?」 もはや演技の必要はないと言うことか。フーケの口調は変わっていた。 「勘。しいて言うなら・・・匂いだな。オレと同じ、悪者の匂いがプンプンするぜ。 具体的な理由なら・・・有能な眼鏡秘書には気をつけろってな。」 「そんな抽象的な理由だったの?正直に言うんじゃあなかったわ。」 杖を握るフーケをメローネが止める。 「あ~、教えといてやるとお前はオレの射程内に入っている。怪しい動きをしたらその喉えぐってやるからな。」 「ふふっ。動いたりなんかしないわよ・・・。」 メローネがフーケを確保しようとした瞬間! 「おまえらァ!すぐにこの小屋から出るんだァァァァァ!!」 ボスが殴り込んできてフーケを外へぶん投げ、メローネを思いっきり殴り飛ばした! 「・・・っ!なにしやが・・・」 メローネが見たのは、跡形もなくスクラップにされている小屋だった。 新ゼロの変態第六話 テニヌの皇帝 「な・・・ナンテコッタイ・・・。」 そこには巨大な腕があった。 「あのジ・アースの腕かよ・・・。あんのクソメガネ!!」 そう言うとメローネはルイズ達の方へ走り出した。 「メローネ!!フーケが近くにいたの!?ミス・ロングビルは!?」 「こいつを頼む!」 『破壊の杖』をルイズに渡し馬車に戻るメローネ。戻ってきたとき、その手にはパソコンはなく・・・ 我らがデルフリンガーが握られていた。 「あいぼぉぉぉぉぉぉお!!やっとオレを使う気になったんだね!!」 「あぁ。『ベイビィ・フェイス(ブースト版)』は対人間ならほぼ勝てるんだが、ああゆうでかいのは苦手だ。 それにパソコンが壊れたら死活問題だ。雪風はもし折れちまったら大変だし、無限刃はなんか嫌な予感がする。 その点お前は破壊力だけはあるし、もし折れても大したことにはならんしな。」 「ひでぇ!!でも許す。お前は相棒だかんな。」 「そんなことよりミス・ロングビルはどこ行ったのよ!!」 「あそこ。」 タバサが指さした先には、巨大ゴーレムの肩に乗っているフーケの姿が! 「うそ・・・。ミス・ロングビルがフーケだったの!?」 「遅い!!シルフィード!!コイツらを乗せて空から援護しろ!!」 「きゅいきゅい!(了解、おにいさま!)」 シルフィードが三人を乗せたのを確認すると、メローネはフーケに突っ込んでいった。 「アッハッハ!潰してあげるわ!!」 メローネにゴーレムの鋼鉄ストレートが迫る!想像以上の速さだが今のメローネに避けれない速さではない。 ガンダールヴの力はメローネの身体機能を増加させ、変態力も増加させ、精神力すら強化する。 つまりスタンドまでもを強化する!もっとも今はスタンドを出せないが。 「調子に乗るなよクソメガネ!デルフ!歯ァ食い縛れェェェェ!!」 「相棒?何する気「どぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」 メローネは巨大ゴーレムの足を、デルフリンガーで斬りつけた。 いや、寧ろバットのように叩き付けた。 砕けるゴーレムの足首! 「ふん。土製じゃあ強度も知れたものだな。え、クソメガネ?」 「あいぼぉぉぉぉ!!殺す気か!!今のは折れるかと思ったよ!!」 「うっせーな。砕けたのは向こうだったんだからいいじゃあ・・・」 メローネは目の前で再生する巨大な足首を見て真っ青になった。 「ふふふ。ちょっとびっくりしたけど材料の土はそこら中にあるのよ。」 上空からの攻撃を防御しながらフーケが得意そうに言う。 「よっていくら破損しようとも修復可能! でも、このままだと攻撃もままならないしいつか押し切られてしまうかも・・・。 そんな不安をなくすべく私は考えたのよ!絶対無敵の戦闘用ゴーレムを!!」 フーケがそう叫ぶとゴーレムの形が変わり始めた! ~少々お待ちください~ 「・・・ねぇルイズ。今の間に攻撃しちゃあダメなの?」 「マナー違反よ。貴族たるもの変形中には手出し無用よ。」 「常識。」 ――十分後―― ようやく変形を終えたゴーレムを見てルイズが一言。 「・・・何あの変なゴーレム。」 実に変であった。一回り小さくなり、頭が無くなっている。 そのかわり腹部に顔面がある。足も比較的短く、手の方が長いくらいである。 しかしそのボディは土色ではなく・・・金属特有の光沢を持っていた。 「まさか・・・鋼鉄製!?」 「へ?どういう事?」 キュルケはすっかりアホの子である。そんなキュルケにフーケは勝ち誇ったように言う。 「うふふふふ。教えてあげるわ!いくら魔法といえども人型で巨大な鉄のゴーレムを造ることは スクウェアクラスでも不可能に近いわ!なぜなら(以下略)!! つまりこれは私、いやメイジがが造り出せる中で最大最強のゴーレムって訳よ!!」 「・・・ぷしゅ~」「ボンッ!!」 頭から煙を出すルイズとキュルケ。 「あのゴーレムの破壊はほぼ不可能と言うこと。」 そう言いながら高等魔法『ウィンディ・アイシクル』をフーケに放つタバサ。 「そう!倒す方法は私を倒すことだけ!でもそれも不可能なのよ!!」 華麗なバク転で氷柱を避けるフーケ。しかし飛び出した先は空中であった。 「終わった。」 そう呟いたタバサの目に、信じられない光景が映った! ガシャン!ウィーン スタッ!ウィーン ガシャン! わかりやすく言うとゴーレムの腹部の口が開き、舌のようなものが出てきてフーケはその上に着地。 そのまま舌が中へ戻って口が閉じたのである。 『うふふふ。こうすれば私も無敵!つまり最強!これからあなた達を粉砕!玉砕!大喝采!!してあげるから覚悟なさい!!』 どういう原理か知らないがゴーレムが喋っているように見える。 「・・・やれやれ。ディ・モールト(とても)ついてないな。」 それを見ながら、メローネは呟いた。 「どーすんだよ相棒!さすがに俺アレは無理だよ!?聞いてる?」 「うっせーな。すでに殺し方はできている。」 かつてのリーダーの決め台詞を言いながら、再びメローネは突っ込んでいった。 「ふふふふふふ。無駄無駄無駄無駄ァ!!!」 先ほどを上回るスピードでラッシュを放つフーケinゴーレム。 (こいつがグレードアップしたのはスピードと装甲だけだ。攻撃力は先ほどとあまり変わらない。 つまりこっちの防御はあまり心配しなくて言い訳だ。そして・・・) ゴーレムの懐にはいるとメローネは飛び上がった。 「殺し方はぁ!できている!」 メローネは思いっきり顔の下唇部分にデルフリンガーを振り下ろした!・・・が変化なし! 「ちっ・・・!パワーが足りんか・・・」 跳んで距離をとるメローネ。追撃する鋼鉄左ストレート。 そして・・・落ちる左腕。 『何事ッ!』 「やはり間接は土・・・いや、粘土。」 「オッホッホッホ!!フーケ、ボディを鋼鉄にしたのが仇だったわねェ!! 間接を防御する鋼鉄をこの『微熱』のキュルケが溶かし!タバサとルイズが柔らかい間接を破壊する! まさに完璧な作戦ね!」 「あの巨乳、なかなか脳味噌あんじゃあねぇか・・・。」 セクハラである。 『腐れジャリガール共がァァァ!調子に乗るんじゃあないよ!!』 ゴーレムが土を掴み、空に向かって放り投げた。その土は鉄に練金され、シルフィードに弾幕となって襲いかかる! シルフィードがそれを気合い避けしている間に腕を拾い、すぐさま練金し直し修復する。 「バーカ!上に投げたって事は貴方に向かって落ちてくるって事よ!」 キュルケの叫びむなしく鉄球は全て土塊に練金された。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 「キュルケざまぁwww」 『そしてェ!あんたもだこの変態!』 バカの一つ覚えのストレートである。間合いを完全見切っていたメローネは反撃に移るため パンチの当たらないぎりぎりの距離を保っていた。 それがまずかった。 すさまじい轟音と共に地表がめくれ、衝撃波によりメローネは吹き飛ばされた。 インパクトの瞬間間接に至るまで全身を全て鋼鉄化。威力は普通のパンチの比ではないわ。 剛体術・・・でしたっけ?学院長の部屋にあった本で見たわ。』 (クソッタレ・・・。あの爺にバキ売るんじゃあなかったぜ・・・。) 「おい、デルフ。どこだ?・・・埋まっちまったのか?ったく。ホント災難だ。」 吹っ飛ばされた先は幸いにも馬車の近くであったためメローネは馬車からラケットを取り出した。 「デルフでの空中強攻撃でも無理なら・・・後はお前に頼るしか無い。」 足を痛めたか。メローネは左足を引きずりながらフーケの元へ向かった。 そして、信じられないものを目にする。 「ルイズ!?何でここにいる!!?」 そこには『破壊の杖』を持ったルイズがいた。 「これならアイツを倒せるかも知れないじゃない!」 ルイズは杖を必死に振っている。しかしなにもおこらなかった。 「バカ!それだけじゃあ何も起こらん!せめてボールがないと!というか逃げろ!」 「嫌よ!アイツを倒せば・・・もう誰も私を『ゼロ』だなんて呼ばない! それに・・・ここで逃げたら・・・私は『貴族』じゃあ無くなる!」 ルイズはゴーレムの方を向き、毅然と言いはなった。 「解ったのよ・・・。魔法が使える者を『貴族』と言うんじゃあない!敵に後ろを見せない者を『貴族』と言うのよ!」 「バカかてめぇは!!何いってんだこのタコ!人間死んじまったらそこで終わりだ! 貴族も平民もねぇ!!只のカルシウムの塊になんだよ!!解ってんのかこの・・・」 ここまで言ってメローネは気付いた。ルイズが今にも泣きそうであることを。 誰よりもプライドが高いルイズ。傲りにしか見えないが自分のことを誇りに思っているルイズ。 それだけに・・・誰よりも『ゼロ』の自分を嫌っているルイズ。 そして・・・巨大な敵に立ち向かう恐怖と必死に戦っているルイズ。 (おいおいどーした?こんなんで何で止まってんだ?カンケーねーだろーがこいつの誇りなんてよぉ。 なのになんで次の言葉が出ねぇんだ?オレのキャラじゃねーよこんなの。) (このガキの勝ちだ。諦めろメローネ。) 「うっせぇなぁ・・・。」 そう言うとメローネはルイズにボールを手渡した。 「好きにしろ。ただ、一つ言っておくが・・・。お前の身が危険だと思ったら命を捨ててでもお前を助けるからな。 後悔したくなかったら何とかしろ。」 (なぁぁぁに変なこと言ってんだオレはァ!!キャラじゃねーよこんなの!!) 『おしゃべりタイムはお終い?そんじゃあ食らいなさい!サンダー・ブースト・ナッコォ!!』 只の、しかし強力なストレートが飛んでくる。そしてルイズは・・・! 皆さん、ラケットのガットと持ち手の間に隙間があるのは知ってますよね? そこに!ボールを入れたのだ! 「さぁ、何でもいいから出てきなさい!体がほしけりゃくれてやるわ!! その代わり・・・!アイツをぶっ倒しなさい!!」 メローネは問答無用でルイズを突き飛ばし、そこにストレートが着弾した。 「うそでしょ・・・」 キュルケが呟く。タバサは無言であるが顔が蒼白である。 『うそでしょ・・・』 フーケも同じセリフを言う。しかも顔面蒼白である。 「おねえさま!あれを!」 うっかりシルフィードが喋る。だが二人ともそんなことを気にしている場合では無かった。 そこにはメローネを抱きかかえたルイズが立っていた。 「おい、貴様。彼奴の弱点は?」 釘宮ヴォイスでものすごい喋り方をするルイズ。 「口だよ。本当は俺様の相手なんだが・・・面倒だからお前にやるぜ。」 「貴様・・・跡部か?何で異世界で貴様と会わねばならんのだ。」 「うっせぇよ。さっさとやれって。」 『ありえない!あり得ないわ!』 貴族のモヤシ娘が20メイルほどの距離を一瞬で移動したというのか! ちなみに10メイルはテニスコートの横幅の長さにほぼ等しい。 これだけでもあり得ないのに、さらにあり得ないことに彼女は遭遇する! 「侵掠すること火の如く」 その娘っ子が杖で撃った直径5サントほどのボールがゴーレムの凸あたりに当たり 事もあろうに仰向けにひっくり返ってしまったのだ!屈辱のアオテンである。 『な・・・なんて衝撃ッ!でも私の超ウルトラデリシャスゴーレムには効かないわ!』 その台詞も聞こえていないのか跳ね返ってきたボールを執拗にゴーレムへぶつける。 ガンッ!ガンッ!ガンッ!バキッ! 『きかねえといっとんのが聞こえんのかこの田子作がァァァ!!!』 無理矢理立ち上がらせるフーケ。しかしすぐに足をとられ片膝をついた。 ガンッ!ガンッ!ガンッ!バキッ! 『いい加減にしろこのガキ・・・』 ガゴォン!! 再び立ち上がったフーケは仰天した。自分を護っていたゴーレムの口が開いたのだから。 (まっ・・・まさか!上唇と下唇の部分にボールを当て続けて、顎関節を破壊したのかッ! まずいっ!!早く修復を・・・!) 時すでに遅し。ボールはすでにルイズの元にあった。 口を閉じるまでに約一秒。それだけの時間があれば『彼』には十分すぎた。 「疾きこと風の如く」 コンマ2秒ほどで、ボールはフーケの杖をへし折りフーケ自身も吹っ飛ばした。 「ひっ・・・!!お・・・お許しを・・・!」 10メイルほどのゴーレムを簡単にひっくり返すのである。人間などミンチになってしまうだろう。 その頼みすら聞こえていないと言った様子でルイズはフーケに近づき 思いっ切りその横っ面をぶん殴った。三回転ぐらいしながら吹っ飛ぶフーケ。 「貴様がなぜ盗人を始めたのか、そんなことは知らん。恥を知れ!貴様の精神がたるんどるからこのような結果になったのだ! その罪、しかる裁きを受けて償え!」 その言葉にフーケは縮あがる。あれだけ多くの貴族をコケにしたのだ。ほぼ間違いなく死刑。よくて島流しである。 「・・・まぁ、罪を償えと言うのならさっきの『制裁』の分だけは刑は軽くしてもらわないとな・・・ 結構重たい刑だからな『制裁』は。」 皆さんはツンデレというものをご存じだろうか? ツンデレとは、ハリケーンミキサーの如くツンとデレの距離が大きいほど威力を増すのだ。突き放す距離が大きいほど破壊力も大きい。 このとき、最強のツンデレに最強のスパルタンが入っていたのである。その威力は計り知れない。 「あぁ・・・ありがとうございます!うぅっ・・・何と言っていいのやら・・・」 フーケが何年かぶりの涙を流した瞬間である。こうしてこの怪盗。あえなく御用となった。 「・・・いくのか?」 「当たり前だ。俺は手塚と決着をつけねばならん。それに、ここは俺達のいるべき場所じゃあない。」 「そうかい。じゃあいこうか。」 「跡部・・・貴様・・・」 「勘違いすんなよ。手塚を先に倒すのは、この俺様だ。」 「ふん。たわけが・・・。」 「・・・だめね。記憶が完全にトんじゃってる。」 「なによ、やっぱりあんたのおかげじゃあないのね。良かったわ、『ゼロ』に手柄丸々とられなくて。」 「なんですって!!もう一度いってみなさい!あんたなんて只の空気じゃない。」 言い争いをする二人を捨て置き、フーケを馬車に積み込んだタバサがメローネに話しかける。 「・・・どうしたの?」 「別になんでもない。さぁ、戻ろうか。」 なぜか敬礼のポーズをとっていたメローネは馬車へ戻った。 (なんか忘れてるような・・・) 「だーれかー!助けてくれー!相棒ーー!!」
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第九章 罰則 (侵害の罪) 第五十六条 実用新案権又は専用実施権を侵害した者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。 (詐欺の行為の罪) 第五十七条 詐欺の行為により実用新案登録又は審決を受けた者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。 (虚偽表示の罪) 第五十八条 第五十二条の規定に違反した者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。 (偽証等の罪) 第五十九条 この法律の規定により宣誓した証人、鑑定人又は通訳人が特許庁又はその嘱託を受けた裁判所に対し虚偽の陳述、鑑定又は通訳をしたときは、三月以上十年以下の懲役に処する。 2 前項の罪を犯した者が事件の判定の謄本が送達され、又は審決が確定する前に自白したときは、その刑を減軽し、又は免除することができる。 (秘密を漏らした罪) 第六十条 特許庁の職員又はその職にあつた者がその職務に関して知得した実用新案登録出願中の考案に関する秘密を漏らし、又は盗用したときは、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。 (秘密保持命令違反の罪) 第六十条の二 第三十条において準用する特許法第百五条の四第一項の規定による命令に違反した者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。 2 前項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。 3 第一項の罪は、日本国外において同項の罪を犯した者にも適用する。 (両罰規定) 第六十一条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人に対して当該各号で定める罰金刑を、その人に対して各本条の罰金刑を科する。 一 第五十六条又は前条第一項 三億円以下の罰金刑 二 第五十七条又は第五十八条 三千万円以下の罰金刑 2 前項の場合において、当該行為者に対してした前条第二項の告訴は、その法人又は人に対しても効力を生じ、その法人又は人に対してした告訴は、当該行為者に対しても効力を生ずるものとする。 3 第一項の規定により第五十六条又は前条第一項の違反行為につき法人又は人に罰金刑を科する場合における時効の期間は、これらの規定の罪についての時効の期間による。 (過料) 第六十二条 第二十六条において準用する特許法第七十一条第三項において、第四十一条において、又は第四十五条第一項において準用する同法第百七十四条第二項において、それぞれ準用する同法第百五十一条において準用する民事訴訟法第二百七条第一項の規定により宣誓した者が特許庁又はその嘱託を受けた裁判所に対し虚偽の陳述をしたときは、十万円以下の過料に処する。 第六十三条 この法律の規定により特許庁又はその嘱託を受けた裁判所から呼出しを受けた者が、正当な理由がないのに出頭せず、又は宣誓、陳述、証言、鑑定若しくは通訳を拒んだときは、十万円以下の過料に処する。 第六十四条 証拠調又は証拠保全に関し、この法律の規定により特許庁又はその嘱託を受けた裁判所から書類その他の物件の提出又は提示を命じられた者が正当な理由がないのにその命令に従わなかつたときは、十万円以下の過料に処する。
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――基地内 廊下 クルピンスキー「うん、どうやら俺も空戦にだいぶ慣れてきたみたいだね」 俺「そりゃな。お前等と出撃してりゃ、嫌でも腕も上がるさ」 管野「ハッ、小型しか倒してないのに何言ってんだか」 ニパ「でも、ストライカーは壊してないけどね」 ニパとの哨戒任務の一件以来、俺も数度の実戦経験を積んでいた。 本日の成果は小型を6機。エースとはとても呼べない数字ではあるが、新人にしては上出来な数字である。 そして何よりもストライカーユニットの全損――それどころか被弾すらゼロだ――は、あの一件以来一度もない。 ロスマンの入念な観察による一撃離脱、サーシャのネウロイには奇襲と超至近距離での射撃が有効という教えを、忠実に守った故の成果だ。 現在はラルへの報告を済ませ、談話室へと向かっているところだった。 管野「いちいちそんなの気にしてたら戦えないだろ」 俺「それはそうだけど、熊さんの心労も考えてやったらどうだ。泣きそうな顔してたぜ?」 管野「……ぐッ」 俺も最近気づいたことだが、どうやら管野はサーシャを引き合いに出すとどうにも弱い。 なので、何かにつけてサーシャを引き合いに出して、管野の追及や叱責を逃れているのだった。 談話室に入れば、中では既に定子とジョゼがソファに腰かけてお茶をしている。 管野は何も言わず定子の隣に、対面側にはクルピンスキーがジョゼとニパの間に挟まれるように座った。 俺は俺でソファに腰かけることなく壁に寄りかかって、何かを思案するように天井を見上げる。 気になっていたのは、あの不定形のネウロイである。あれから暫く時間が経ったが、同型のネウロイは出現していない。 そこが気になる。 ネウロイが人間の心理というものを理解し始めているのなら、アレ以外のネウロイも何がしか変化が見られると思っていた。 だが、今日のネウロイも与えられた命令を忠実に実行しているような、機械的な反応しかしてこなかった。 アレが特殊なネウロイであったのは間違いないが、何故その成果を反映させないのかが理解できない。 少なくとも、ウィッチの銃弾に対する耐性は凄まじいものがあった筈だ。 あの液状装甲は、攻撃系の固有魔法を有しないウィッチには効果的である。それを他のネウロイに使用しない理由が見つからない。 俺「はあ。人間でも相手にしていた方がやっぱり気が楽だな……」 定子「あの、俺さんもお茶にしませんか?」 俺「ああ、うん。ありがとう」 一向に答えの出ない疑問は一先ず後回しにし、取り敢えず休息を取っておく。 一人掛けのソファに腰掛け、出された緑茶を啜る。ほどよい渋みと独特の香りが口内と鼻の奥に広がった。 やはり、紅茶よりも緑茶の方が自分に合っている。この渋みは紅茶には…… 管野「……おい」 俺「ん? またオレ?」 管野「そうだよ。あの話の続き、聞かせろ」 俺「お前も物好きだね。暗兵の話なんざ、聞いてて面白いか?」 クルピンスキー「まあまあ、減るもんじゃないし、いいじゃない」 にこにこと笑う伯爵の姿に、肩を竦めて答える。 他の面々を見ても、少なからず興味のあるような顔をしていた。 俺としては耳のタコができるほど聞いた歴史である。わざわざ説明するのが面白い訳もない。 だが、隠し立てする理由もなければ、時間がないわけでもない。寧ろ、いい時間潰しにはなるだろう。 俺「じゃあ、あの話の続きになるけど、キョウコウについて語ろうか」 キョウコウとは共工と書く。シユウ同様、彼等もまた中国神話に登場する神から名付けられた一族である。 蚩尤が戦神ならば、共工は水神もしくは悪神と言えるだろう。 人面蛇身の神であり、度々洪水による被害を引き起こし、そして敗北する神とされている。 定子「悪神、ですか……? そんな名前を自ら名乗るものでしょうか?」 俺「奴等はシユウとカハクが名付けた一族なんだ。シユウは戦神の名にあやかり、キョウコウは悪神の名を名付けられ、カハクは神の名を名乗ったらしい」 クルピンスキー「悪神の名を名付けられる、か。どうにも穏やかじゃないね」 俺「それも仕方ないさ。キョウコウは暗兵の中でもきっての嫌われ者だったからな」 キョウコウは、彼等の作り上げた宗教を信仰していた。 長い放浪の旅路の果て、辿り着いたヨーロッパの地で細々と信仰されていた宗教を下敷きにしたものである。 名もない全知全能の神を祀り上げ、その日の暮らしを感謝する。そんな日常を送っていた一族だという。 俺「それだけなら問題はなかったんだ。実際、何を信奉しようが異邦人だ。ヨーロッパの人間も何らかの宗教に傾倒していた訳ではないからね」 ニパ「だったら、何で嫌われ者だなんて……」 俺「問題があったのは、宗教の内容だ。奴らの宗教ではネウロイが神の使い、天使としていたんだよ」 管野「はあ!? 何でわざわざ自分の住んでる場所を奪った奴等を……」 俺「シユウは故郷を奪われたことを運命と受け入れたが、キョウコウの連中はネウロイの力に魅入られたのさ」 太古とはいえ一国を滅するほど、地形を変形させるほど強大な力を有した存在を、彼等は恐れるよりも先に憧れ、魅入られた。 その憧憬の精神が結び付き、形となったのが彼等の信仰した名もなき宗教であった。 ジョゼ「まるで、共生派ですね……」 俺「は。あんなポっと出の寄せ集め集団と一緒にしたら可哀想だ。あれはあれで、強固な信念をもって信仰していたらしいからな」 管野「でも、それだけで嫌われるもんなのか?」 俺「だから、その宗教が問題なんだ。奴等、好き好んでウィッチを殺したんだよ。戦場で、日常で。暗殺で、完殺でね」 彼等の宗教の最終目標は自らがネウロイとなり、神に仕えることだった。 その為に、ネウロイを打倒し得るウィッチは恰好の標的であり、最上の贄であった。 そうすれば、少しでもネウロイに近づけると、馬鹿げた考えを持っていたのかもしれない。 シユウはこの世界に広がる過剰ともいえるウィッチ信仰を考慮し、ウィッチの暗殺は極力控えていた。 それは報酬の内容に対して、背負うリスクと買う恨みのバランスが取れていないという合理的な判断からだ。 しかし、キョウコウはそのリスクや恨みを度外視して、積極的にウィッチ暗殺の依頼を受けていた。 甚だしい時には、暗殺以外にも自らの意志でウィッチを殺すことさえあったらしい。 管野「成程な。そりゃ、嫌われる訳だ」 俺「それ以外にも、奴等の専門とも言える分野が災いしていた、かな?」 定子「専門? 暗兵に、専門分野なんてあるんですか?」 俺「ああ。基本、暗兵は戦時に万能とも言える忌み物であったけど、それぞれの売りがあったんだ」 クルピンスキー「へえ。ちなみにシユウの売りは?」 俺「五体の武器化によって如何なる状況においても暗殺が可能なことと、戦争の裏方としての能力の高さってところかね」 ニパ「じゃあ、キョウコウは……?」 俺「用水路と河川の破壊による意図的な渇水と洪水、宗教的結束を背景にした集団戦の巧みさかな?」 元々、キョウコウは中国においては用水路や洪水防止の河川工事に携わっていた兵士が多かった。 その技能を元にして、用水路を破壊し、飲料水や農業に使用する水の入手を困難にしたり、暴風雨の夜に河川の一部を破壊し、洪水を発生させていた。 用水路の破壊と洪水は、農作物に甚大な被害を与え、ある領地では食糧難を引き起こしたほど凄まじいものがあったようである。 戦争に置いては一介の騎士団では太刀打ちできないほどの結束と強さを見せ、暗殺者としてよりも戦士としての側面が際立った一族でもある。 何よりキョウコウが重宝されたのは、疫病が発生した村の殲滅だった。 彼等が村を殲滅したとしても、国が恨みを買うことはなく、速やかに疫病の拡大を防ぐことができたのだ。 俺「そんな真似をしていれば、当然恨みを必要以上に買う羽目になる。暗兵に対する悪感情の発端は、殆どがキョウコウのせいだ」 管野「でも、ネウロイになるなんて……」 俺「本当にそんなことが可能であると信じてたとは思えないがね。暗兵がそんな夢物語みたいなものを信じる訳があるかよ」 ジョゼ「だったら、なんでそんな宗教を……?」 俺「奴等が欲しかったのは結束力だったんだろ。 愛情だの友情みたいな曖昧なものよりも、宗教的な繋がりの方が圧倒的に深く、硬い結束が生まれるからな。もっとも、それが仇になった訳だが……」 クルピンスキー「仇になった……?」 俺「うん。キョウコウは既に滅んでいる。その滅びの原因こそが、宗教的な繋がりだった」 中世ヨーロッパで鏖殺令が発せられた際、キョウコウの一族は滅んだという。 俺「前にも言ったがシユウは信念がないからさっさと逃げたが、奴等は依怙地に反抗しやがったのさ」 宗教的結束の強さが、反抗を誘発したのである。或いは他所からの介入もあったのかもしれない。 そして、キョウコウの一族は戦闘員、非戦闘員問わず、皆殺しにされた。 男も、女も、老人も、赤子も、怪我人も、病人も、一切の区別なく殺され、死体を晒された。 如何に凶悪な暗兵集団と言えども、国の保有する戦力に叶う筈もない。戦力比が違いすぎた。 どのような一騎当千の猛者であろうとも、人間である以上、戦いが続けば疲労が蓄積し、いずれは殺されるものだ。 定子「じゃあ、その時にキョウコウは全滅したんですか?」 俺「いや、もしかしたら生き残った剛の者も居たかもな。でも、一族の再興なんざ無理だったろうさ。ひっそりとどこかで死んだんだろうよ」 少なくとも、現時点でシユウはキョウコウを確認してはいない。 彼等の諜報員すら超える情報収集能力を考えれば、当時のヨーロッパで滅んだと見て間違いないだろう。 俺「暗兵でありながら現実的かつ合理的な行動が出来なかった、当然の末路だな」 ニパ「何もそこまで、言うことはないじゃないか」 俺「仕方ない。奴等はロマンチストが過ぎたのさ。それに、自分達の信念に殉じて死んだんだぜ、満足だったんじゃないのか?」 既に亡くなった者達に興味はない。 例えどれだけ悲惨だろうが、どれだけ虚しかろうが、終わった事柄に思考を向けることすら馬鹿らしいと鼻で笑う。 そもそも絶望的な戦力を前にして退かない方が悪い、とでも考えているのだろう。 だが、彼は気付いているのだろうか。 宗教のために死のうが、信頼ある依頼人のために死のうが、結局のところ何も違いがないことに。 ラル「……む、やはり此処にいたか」 ジョゼ「少佐、どうかなさったんですか?」 ラル「ああ、これを俺に渡そうと思ってな」 談話室へと入ってきたラルが、手にしていた封筒を見せる。封筒の中身は、言うまでもなく金。つまり、俺に対する報酬だ。 正式な軍人でない以上、軍からの報酬はない。故にこの報酬は彼女達に支払われる給与の一部から支払われている。無論、全員同意の上である。 始めは管野が難色を示したが、元より金に拘る人間ではない。思ったよりも事は簡単に片付いた。 ラル「喜べ、俺。私よりも高給取りになってしまったぞ」 俺「そうなのか。……じゃあ、確かに半月分受け取った」 クルピンスキー「中身は確認しなくていいのかい?」 俺「うん。重さでキッチリ分かる」 ニパ「なにそれこわい」 管野「このド守銭奴!」 掌に封筒を乗せて、重さで金額を測るという暗兵の地味に凄まじい特技を見せた俺に全員が苦笑いか呆れの表情を浮かべた。 ラル「しかし、オラーシャの通貨でよかったのか? もし必要であれば、換金くらいさせるが」 俺「それくらいはこっちでやるよ。国籍がないからって両替ができない訳じゃない。妙な勘繰りをされても面倒だろ」 定子「そう言えば、そのお金、どうするんですか? まさか直接自分でシユウの村に届けに行くわけではないですよね」 定子の疑問も尤もだ。 出稼ぎ要員として暗兵を送り出すのであれば、当然、稼いだ金を村へと送る必要がある。 しかし、送り先はどこの国にも所属していない、何処にあるとも知れない村にどうやって送るというのか。 俺「シユウには暗兵の中に分類があってね。その中で『脚』と呼ばれる連中が居るんだ」 ジョゼ「あし、ですか?」 俺「そ。暗兵はいつ死ぬか分からないし、一つの場所に金を隠しておくのは危険だからな。いわゆる集金係みたいなもんだ」 シユウの暗兵には、それぞれ得意な、或いは特化した技能によって、『魔』『獣』『武具』『脚』の四つ分類にされる。 『獣』は情報収集や後方攪乱などの裏方としての技能に特化しており、『武具』は暗殺や純粋な戦闘力に特化しているといった所だ。 そして、その分類よって、獣や武器から取った名を与えられる。 『脚』とは殊更特殊な分類だ。その得意とする分野は移動と情報伝達である。 直接的な戦闘力は常人よりも少し上といった所であるが、その真価は逃走能力と生存性の高さにこそあった。 その能力は如何な状況下であったとしても、例え追手がネウロイであったとしても確実に逃げおおせるほどだ。 クルピンスキー「成程、その『脚』とやらが、一定期間で金を受け取りに来るってわけ」 俺「そういうこと。胸の刺青があれば、大まかな位置を特定できる。ホント、便利なもんだよ、魔法って奴は」 特定の結界を打ち消すのみならず、味方同士の位置特定の機能まで有しているのか、俺は肩を竦めて笑う。 昔は科学技術が発達していなかった分だけ、魔法技術が発達していたということなのだろう。 ニパ「でも、そのお金、全部渡しちゃうわけじゃないんだろ?」 俺「うん。別段ノルマがあるわけじゃないし、こっちの状況と村の状況を鑑みて決定するってところか」 ニパ「じゃあ、残りはどうするの?」 ニパの疑問、いや、皆の疑問と言ってもいいだろう。 訓練以外の時間は、人の手伝いばかりしている印象しかないのだ。 俺という人間が、何か特別な趣味に時間や金をかけているところを見たことがない。 そんな人間がどう金銭を使うのか興味を持つな、という方が無理な話である。 俺「そうだなぁ。新しい武器、医療品、自然の中じゃどうしても手に入らない道具や情報を買ったりが殆どだな」 クルピンスキー「趣味に使ったりとかは?」 俺「あー、別にないな。まあ、生きるてりゃ娯楽には事欠かないだろ。わざわざ金を使うこともない」 クルピンスキー「それじゃあ息が詰まっってしまうよ。こう、たまにはパーっと使ってみたら?」 俺「と言われてもなぁ。使い道が思い浮かばないってのが本音だ。それに、その、……」 そこまで口にして言い淀む。 何か照れ臭そうに頬を掻くが、中々次の言葉が出てこないのか、視線が右へ左へと泳いでいた。 そもそも、言いたいことはハッキリ言う方である。そんな彼が何かを言い淀むなど珍しい。 何事かと彼以外の全員が顔を見合わせるが、答えはでなかった。 やがて、意を決したように俺が口を開いた。 「……俺は今の生活を、気に入ってる。まるでシユウの集落で暮らしていた頃みたいだ」 生きることに娯楽は必要ない。生きているだけで娯楽には事欠かない。 そう言い切った彼が、そう信じている彼が、今この瞬間こそが自分にとって最高の娯楽であり、最高の幸せだと言った。 彼女達は、過酷な人生を歩んできた俺が素直にそう言ったことを純粋に喜んだ。 へへ、と年相応の笑みを浮かべた後、じゃあと逃げるように部屋を出た。 ラルやクルピンスキーの向ける優しげな笑みに耐えられず、今にも抱きついてきそうな下原の視線に怖気づいたのだろう。 背後から管野の呼び止める声が聞こえてきたが、この後にはサーシャからストライカーの整備について教えて貰うことになっている。 戦時において万能と呼ばれるほどの利便性を発揮する暗兵として、そして自分の武器くらい自分で手入れしたいという思いもあったからだ。 後の講釈はまたの機会にということで、と自分だけ納得して、基地内のハンガーへと向かう。 その足取りは軽い――ように見えたが、何か後ろ足を引かれるように軽快さはなかった。 キョウコウの話をしていて、一つだけ思い出したことがある。 それは共工と呼ばれた神が、“時代を超えて黄泉帰り、その度に打倒される”という伝説があること。 語られる伝説通り、かの一族もまた同様に忽然と現れ、悪意を振りまくのではないか、と漠然とした不安があった。 俺「…………くだらないか」 本当に下らない。死んだ人間が蘇ることなど在りえない。それは人の法を超えた領域であり、この世では起こりえない現象である。 そんな不安を持つ方が馬鹿らしいのだ。 可能性があるとするのならば、鏖殺令の生き残りが現代まで何らかの意図を以て、爪を研ぎ続けているというものくらいだろう。 そして、この基地のウィッチを狙うと言うのならば……、戦うまでである。 戦いの中に同情も憐憫も必要ない。彼らが宗教に命をかけたように、俺もまた依頼人のために命をかけるだけ。今の仕事と何も変わりはないだろう。 尤も、その可能性も極めて低いのだ。考える方がどうかしているだろう。 しかし、俺はまだ気付いていない。 黒鷲のように形振り構わず近づいてくる悪意の影に潜んで近づいてくる、もう一つの悪意の存在を。 戻る
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俺とたっちゃんは次の日も次の日も、千晴ちゃんのために病院に赴き顔出しをしてあげた。 顔出し?別に卑猥な意味じゃないよ? まあそう捉える人がいないことを祈るけど。 ――日曜日、俺は暇そうにしていた由姫ちゃんを連れて来ることにした。 由姫ちゃんはたっちゃんの事をどうも俺のライバルだと思っているようでそっちの方にばっかり意識して最初はあまり千晴ちゃんとは話さなかった。 けれど千晴ちゃんは自分より年下の女の子で同じ野球好きな子がいて嬉しいのか少し元気な表情を見せるようになっていった。 その様子に惹かれたのか由姫ちゃんも最終的には千晴ちゃんとも楽しく会話するようになる。 「千晴お姉ちゃんは浦田投手が師匠なの~?」 「ん~今はね、でも私が本当に目指す投手はもっともっと凄い人なんだよ」 「ん~……じゃあ私もはこみんを越すためにもっともっと強くならなくちゃね!そのためにはまず千晴お姉ちゃんを越すよ~」 「お~そう来るのね~、私も負けないよ~」 何だかんだでライバルとして認める二人を見て、俺もたっちゃんも自分の事の様に嬉しそうにその様子を眺めていた。 今の由姫にとってはいい刺激になるだろう、お互いにこれで精神的にも強くなれるといいなあ。 そうしてこの日の面会時間が終了する。 俺は少し名残惜しむような由姫ちゃんを諭しながら帰る事にした。 「バイバイ~千晴お姉ちゃん」 「うん、退院したらまた会おうね~」 由姫ちゃんが千晴ちゃんの姿が見えなくなるまで手を振る様子を見て、 俺はずっとその方向を眺めている由姫ちゃんに呟くように話す。 「また――今度会わせてやるからさ」 「うん!」 そう笑みを浮かべながら返す由姫ちゃん、 由姫ちゃんにとって、この日が大切な一日となってくれれば嬉しいな。 そう思いながら、俺達は北風総合病院を後にした―― その次の日はバイトが終わってから直にまた俺たちが見舞いに行く事になった。 この日はたっちゃんが自分の所属する奈良シルバーシアーズの監督、タレントの荻原銀二(おぎはら ぎんじ)(通称銀ちゃん)さんを連れてきていた。 偶然仕事も休みでたっちゃんにお願いされやってきたらしく病室内でサングラスとマスクを取ったときの千晴ちゃんの顔はとても驚いているようであった。 「聞いてるよ~、うちのたっちゃんの弟子なんだって?よろしくね~」 「い、いえ……コチラこそよろしくお願いしますぅ……」 「そんな畏まらなくてもいいよ~? とりあえず早く退院できるといいね、 僕もそこに居るはこみんと同じで君の投球見てみたいからね」 「そそそ、そんなぁ~、 ありがとうございます!頑張って早く治しますね!」 「無理しちゃダメだからね~」 そんな何気ない口調にもとてつもないオーラを感じられるなあ、 流石天才コメディアンだ、存在するだけで飲まれてしまいそうだ…… 「ところではこみんもシルバーシアーズに入らない?」 「お、俺のいる前で堂々とはこみん勧誘とは銀二さんもなかなかやりますね」 シルバーシアーズのエースであるたっちゃんが笑いながら銀ちゃんに話す。 過去何度か銀ちゃんにスカウトされたことがあるが、今の俺はクラブチームで野球をするような気力はない。 居候させてもらってる芦原家の事や由姫ちゃんの事もある。 左のエースとしてたっちゃんとポジション争いをして見たい気持ちもあるが 今はまだ、その時期では無い。 それにたっちゃんとは出来る事ならもっと上で戦いたい。 今はまだ未練を残しているけど、いつかはたっちゃんとは―― 「あら?もうこんな時間じゃない~」 銀ちゃんが時計をみて指差しながらそう言うと、銀ちゃんは少し残念そうな顔をしながら千晴ちゃんに対し頭を下げる。 「ごめんね~、もう面会時間が終わっちゃうね~ おじさんこの子らとばっか喋ってて邪魔しちゃったよ」 「あ、いえいえ~お会いできただけでも嬉しいです」 あ~、結構俺たちだけで話を進めてたなぁ、 まあ銀ちゃんのおかげで千晴ちゃんも元気になってくれたみたいだし――いいとするか。 あれ?――でもなんで俺こんなに千晴ちゃんの事を気にしてるんだ? そういえば初めてあったような気がしないんだよな、千晴ちゃん。 そんな事を思いながらも、俺らは銀ちゃんと共に病院を後にする。 昨日は由姫ちゃんが手を振って帰ったが、今日は俺が代わりに手を振ってあげた。 結局、俺らは千晴ちゃんが退院する日まで毎日見舞いに行く、 これじゃあ暇人といわれても仕方ないね、テヘッ☆ 千晴ちゃんの同級生の子にも会い、千晴ちゃんの家族にも会う事もあった。 その皆全員が千晴ちゃんと優しく接しているのを、俺はやや部屋の隅でじっと眺める事もあった。 そして退院当日、一人足で歩く千晴ちゃんは普通の女子中学生の姿と代わらなかった。 ただ、その中学生とは思えない静かな物腰からは何かたっちゃんとは別のオーラが感じ取れた―― 「お見舞い、来てくれてありがとうございました」 彼女の一礼を見て、俺は少したっちゃんが何故この少女を凄いといったのかが分かった気がした。 間違いない、この子――たっちゃんと似てる雰囲気が出ている。 そう思った頃には千晴ちゃんは既に俺の横を通り過ぎてタクシー乗り場へと向かう。 俺は最後に、何かを聞こうとした気がするが――結局千晴ちゃんを呼び止める勇気はなかった。 今度会う約束をしたのは三日後の土曜日、 恐らく、それまでに実戦の感や体調をとりもどすのだろう。 浦田が惚れるその力。今度こそ彼女の実力がどれ程なのかを見極めてみせる―― 第五話 千晴ちゃん<戻 次>第七話 戒くんと銀ちゃん球団
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ハウリングソウル * 第六話 『再開・天薙』 医務室を出た私はまずノワールをウェストポーチから引っ張り出した。 普段なら抵抗するノワールも今はされるがままになっている。よっぽどあの空間がいやだったのだろう。 そのまま手のひらを胸ポケットに近づけるといそいそと中に入っていった。今は上半身だけ出してこれからどこに行くのか、とこちらを見上げている。 「とりあえず必要なものを買おう。お前達の弾丸とシャンプーと・・・・・」 「マイスター」 と、私の言葉をノワールが遮った。 彼女にしては珍しい。 「ノワール・・・・戦いたい。ブレード・・・・使いたい」 そう呟いた。 本来悪魔型MMSは格闘戦を主体に設計されている。大きな背面ユニットも脚部のパーツも、本来なら格闘に生かされるはずの代物である。事実、ハウが来る前のノワールはブレードとナイフを主体とした戦闘スタイルだった。 相手が自分のスピードを上回ると判断すると、彼女は躊躇なく脚部パーツを背面ユニットを切り離しアングルブレードだけで戦いを挑んでいた。 だがしかし彼女は基本武装としてガトリングを選んだ。 それは・・・・・ハウに対する気遣いでもあった。 『刃物恐怖症』 ハウは刃物が怖くて仕方が無いのだ。家に来た時は特にその症状が顕著に現れた。 ――――私が料理をしていると常にノワールの後ろに隠れていた。私がダンボールの箱を開けるときも。 一番最初に気づいたのはノワールで。それ以来彼女は刃物の使用を自らに禁じた。 「・・・・いいよ。それじゃぁ筐体のある方へいこう」 私は胸ポケットに入れたノワールに肯くと、筐体の集まっているバトルルームに歩き出した。 自動ドアをくぐるといきなり歓声が耳に付いた。 何事かと前方を見るとバトルの真っ最中だった。 どうも天使型と侍型の闘いらしい。 「・・・・・ふぅん・・・・あの紅緒、凄いじゃないか」 「マイスター・・・・“アカオ”じゃなくて“ベニオ”・・・・」 ノワールの呟きを無視して、筐体上部に設置された巨大なモニターを眺める。 そこには“自然”をイメージした戦闘空間、『オープンフィールド』が展開されている。そのフィールドを、一つの紅い影が疾走していた。軽装状態の紅緒である。 そしてそのはるか上空には、普通の天使型よりも大きな翼を持つアーンヴァルが紅緒を見下ろしていた。 その様はまるで下界を見下ろす天使の様でもある。 「薫さん、そのまま避け続けて。敵の弾切れを狙って!」 「承知!」 彼女のマスターであろう。まだ幼さの残る少年が薫と呼ばれた紅緒に指示を出す。 上空からアルヴォ・PDWを撃ち続けている天使型の弾丸を薫はことごとく避けていた。みると本当に数ミリの所で避けている。あの運動性はもしかしたらハウに匹敵するかもしれないな。 「・・・・アンジー。先方は君に無駄玉を撃たせるつもりのようだぞ。君ならどうする?」 「戦法を・・・・・変更します。このまま撃ち続けても当たらないなら、いっそ接近戦に持ち込んだほうが・・・」 「正解だアンジー。なら見せてやれ、俺とお前の戦いを!」 対する天使型のマスターは、その、何と言うかやり手のサラリーマンと言うか生徒会長というか、とにかくそんな感じの男だった。 ・・・・・・ご丁寧にメガネまでかけている辺り、彼は自分のキャラクター性をよく理解している。 「マイスター・・・・バトル、したい」 胸ポケットから不満そうにノワールが言う。 「そうはいってもだね、今会場は天使対侍という異種格闘戦に夢中で相手なんていないぞ」 私がそういうとノワールは不満そうに、もそもそと胸ポケットに引っ込んでしまった。 いじけてしまった様だ。 ・・・・・・・・・本当にこいつは悪魔型のストラーフなのだろうか? とりあえず私はバトルルームに設置された観戦用の椅子に座る。 ここは・・・・・禁煙じゃないな。 ノワールは胸ポケットでいじけてるし。煙草を吸うなら今のうちか。 箱を取り出し一本取り出す。口に咥え火を点けてから煙を吸い込む。 ・・・・・・・うん、良い感じ。 と、私の隣に誰かが座った。 横目で見たが男性のようだ。彼も煙草を吸いに来たのだろう。どうも挙動不審だと思ったらライターを探しているようだ。 「・・・・・・ほれ」 「あ?」 見かねた私が火の付いたオイルライターを差し出すと彼は軽く会釈して火を点けた。 そのまま満足そうに煙を吸い込む。 「あんがとよ。助かったぜ・・・・・・・・あ? ・・・・・あんた、確か今朝の本屋の・・・?」 「え? ・・・・あ、今朝の客だ」 隣に座って煙草を咥えている男は今朝、本屋に来た客だった。今日最初で最後の客である。 「奇遇ですね。バトルでもしに来たんですか?」 「今日は野暮用さ。・・・・別に敬語を使わなくてもいいよ。あんまり好きじゃないんだ」 「それじゃお言葉に甘えてっと・・・・俺もどうも敬語は苦手でなぁ」 私が言うと彼は随分と砕けた口調になった。こっちが彼の本来の口調なのだろう。 男は天薙龍悪(てんち たつお)と名乗った。変な名前だ。 「神姫はどうしたんだ? 今朝は四体もつれてたじゃないか」 「家で留守番。散歩してくるって行って抜け出してきた。家じゃ吸えなくてなぁ・・・・アンジェラスがうるさいんだ」 そういって彼は苦笑した。 アンジェラス・・・・確かノーマルの天使型か。 「君もか。私もノワールがうるさくてな」 「ノワールって言うとあの悪魔型か。チーグルでレジ打ちやってた」 私は無言で肯いた。 まぁノワールは今も胸ポケットに入っているが多分寝ているだろう。あいつはよく不貞寝をするからだ。 「お互い大変だな~。愛煙家は肩身が狭いぜ」 「全くだ」 それだけ言うとお互いに話すことがなくなってしまい。暫くはゆらゆらと紫煙が上っていた。 何となく居心地が悪い。 私はとりあえず神姫関係で何か、話題はないかと最近のニュースを思い出そうとして・・・・一つ、ある話を思い出した。 「なぁ天薙」 「・・・ん? 何だ?」 天薙は呆けたような顔でこちらを振り返った。 もしかしたら苗字で呼ばれるのに慣れてないのかもしれない。 「『切り裂き』と言う、違法神姫について何か知らないか?」 NEXT