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▼神たま表! 神格 属性 推奨の領域 聖印 ドワッハ、ドワーフの鍛冶の神 秩序にして善 戦、知識 鋼の槌とピストル エクスブレイド、ウォーフォージドと戦の神 秩序にして中立 戦 青銅の仮面 ライシャ、知識と救済の女神 中立にして善 知識、光 一冊の祈祷書 サンツォーレ、農業と生命の神 中立にして善 生命、自然 ハートの形をした鋤 ブレヴィジャス、正義と宣誓の神 秩序にして善 戦、光 剣と盾を組み合わせた紋章
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謙虚な使い魔~アンドバリの呪縛~ オスマン氏は王宮から届けられた一冊の本を見つめながら、髭をひねった。 触っただけで破れてしまいそうな古びた革の装丁がなされた表紙を慎重にめくると、色あせた羊皮紙のページが茶色くくすんでいる。 「これがトリステイン王家に伝わる、『始祖の祈祷書』か…」 六千年前、始祖ブリミルが神に祈りを捧げた際に読み上げた呪文が記されていると、伝承には残っているが、オスマン氏が三百ページぐらいのその本のどこをめくっても、何も書かれていない真っ白なページばかりだった。 「まがい物にしても、文字の一つも書かれていないとは奇妙なことじゃの」 ハルケギニア各地に一冊しかないはずの『始祖の祈祷書』が多数存在する。 金持ちの貴族、寺院の司祭、各国の王室、いずれもが自分の『始祖の祈祷書』こそが本物だと主張している。 オスマン氏も各地で偽物の『始祖の祈祷書』幾つかを見たことがあった。 どれもがルーン文字をびっしりと書き記されて、祈祷書の体裁を整えていたが、トリステイン王室から送られたものは真贋の主張を放棄したかの如く、文字の一つも書き記されていないものであった。 オスマン氏は胡散臭げに本をじっと見つめていると、ノックの音がした。 空白なページが続く祈祷書をぱたんと閉じると、オスマン氏は来室を促した。 「鍵はかかっておらぬ。入ってきなさい」 扉が開くと、桃色がかった髪に、大粒の鳶色の瞳の少女が入ってきた。 ルイズであった。 「わたくしをお呼びと聞いたものですから…」 ルイズは言った。 オスマン氏は両手を大きく広げて立ち上がり、この小さな来訪者を歓迎した。 そして改めてアンリエッタから承った任務を終えたルイズの労を労った。 「おお、ミス・ヴァリエール。もうあれから数週間は経つが、いつも通りの学院生活のリズムは取り戻せたかの?何があったかアンリエッタ王女から報告は受けておるよ。思い返すだけで、つらい事も沢山あったようじゃの。だがしかし、おぬし達の活躍で同盟が無事締結され、トリステインの危機はさったのじゃ」 優しい声でオスマン氏は言った。 「そして、来月にはゲルマニアで、無事王女と、ゲルマニア皇帝との結婚式が執り行われることが決定した、おぬし達のおかげじゃ。胸を張りなさい」 それを聞いて、ルイズは少し悲しくなった。親友のアンリエッタは、政治上の理由で好きでもない皇帝と結婚するのだ。 しかもアンリエッタが愛を誓った相手が本当は生きている事を知っているのに、ルイズはその事を黙っていなければならないと思いだすと、胸が締め付けられるような気がした。 オスマン氏は、しばらくじっと黙ってルイズを見つめていたが、思い出したように手に持った『始祖の祈祷書』をルイズに差し出した。 「これは?」 「始祖の祈祷書じゃ。トリステイン王室の伝統で、王族の結婚式の際には貴族より選ばれし巫女を用意せねばならんのじゃ。選ばれた巫女は、この始祖の祈祷書を手に、式の詔を詠みあげる習わしになっておる。そして姫は、その巫女に、ミス・ヴァリエール、そなたを指名したのじゃ」 「姫さまが?」 「その通りじゃ。そして巫女は式の前より、この祈祷書を肌身離さず持ち歩き、詠み上げる詔を考えねばならぬ」 「えええ!?わたしが考えるんですか!」 「そうじゃ。残念ながらその祈祷書自体は参考になる部分がまったく無いがの」 そう言われてルイズは始祖の祈祷書のページを何枚かめくってみると、一字も書かれていない事に気がついた。 「これでどうやって詔を考えればいいのです?」 「ふむ、過去に詠みあげられた詔をまとめ上げたものを後ほど用意するのでの、それを参考にするといいじゃろう。草案が完成すれば、宮廷の連中が推敲するじゃろうが……色々面倒だろうが、伝統とはそういうものじゃ。だがな、姫はミス・ヴァリエール、そなたを式の巫女にと指名したのじゃ。これは大変に名誉なことじゃぞ」 アンリエッタはルイズを信頼して、自分を式の巫女役に選んでくれたのだ。 でも自分はアンリエッタの事を騙している。 そんな自分にアンリエッタの信頼を受ける資格があるのだろうか? ルイズは静かに思い悩んだ。 この式、そして同盟の締結を守るためにルイズは自分の親友を騙したのだ。 今更自分だけ関与しない、と言って逃げるのはそれこそ卑怯者の何者でもない。 自分には最後まで見届ける義務がある、そう決心したルイズはきっと顔をあげた。 「わかりました。謹んで拝命いたします」 オスマン氏は目を細めて、ルイズを見つめた。 「快く引き受けてくれるか。よかったよかった。姫も喜ぶじゃろうて」 そのとき、またノックの音がした。 ルイズの他に来客を期待していなかったオスマン氏は首を傾げた。 以前は秘書がこのような来客の管理をしていたが、ミス・ロングビルがいなくなってから何かと不便で、早く新しい秘書を雇わなければ、とオスマン氏は思いながらドアの向こうの客人に来室を促した。 「用事は済んだのでの、入ってよいぞ」 ドアが開くと、白い甲冑を着た銀髪の長身の男が入ってきた。 ブロントであった。 「ブロント!あんた、今回はマジックアイテムを使わないで歩いて帰るとか……」 ルイズは数週間ぶりにふらっと帰ってきた自分の使い魔に軽い小言でも言おうかと思った時に、ふとブロントの陰にローブを被った子供がいる事に気がついた。 ローブに隠れていて、良く顔は見えなかったが、歳は五、六ぐらいに見えた。 周りに怯えているのか、それともブロントに懐いているのか、そのローブの子はべったりとブロントにくっついて、ブロントの後ろから部屋のルイズとオスマン氏をちらちらと覗いている。 「何よその子は」 ルイズの問いに対して、ブロントは涼しげ顔をして答えた。 「拾っただけなんだが」 「何それ、まあいいわ。今回の依頼はどんなものだったかは後ほど部屋で聞かせて。わたしは先に戻ってちょっと調べ物しているわ」 ルイズが部屋でてドアを閉めるのを見届けると、ブロントはそのままオスマン氏のところへと向かった。 「主人を迎えに来た、というわけではなさそうじゃの。このわしに何か用かの?」 オスマン氏は髭をひねりながら、ブロントをじっと見つめた後、背後に隠れるローブの子に目をやった。 「はじめましてかの、ミスタ・ブロントのお知り合いかね?」 ローブの子はオスマン氏が持つ杖見つめると、ローブの子はすぐにブロントの後ろに隠れた。 「俺は前に何か困った事があったら頼って良いと聞いたんだが……」 「ふむ、確かにそう言ったの。察するに、その子の事に関する頼みごとかの?」 ブロントは後ろに隠れたローブの子の肩を掴んで、自分の前にぐいっと持ち上げて置いた。 「こいつはエルザって言うんだが俺をお手本にする事になったので学校に行く事となった」 オスマン氏は顔をしかめて髭をさすりながらローブの子を見つめた。 「ふーむ。ちと要領得ないが、つまりその子をこの学院に住まわして欲しいということかね?」 その時、エルザと紹介された子は被っていたフードをばっと外した。 金髪が映えるとても可愛らしい女の子であった。 エルザは目に涙浮かべながらブロントに向かって訴えた。 「ちょっと、おにいちゃん!ここはどこもかしこもメイジだらけじゃない。こんな所じゃ落ち着いて暮らせないよ!」 「何か、メイジを酷く嫌っているようじゃが、何かあったのかの?無理に学院に住まわせずとも、親御さんの元へ……」 ブロントはエルザの頭に手を置くと、オスマン氏に語った。 ブロントが引き取ったこの子は両親がメイジに殺されて、身寄りがなかった事。 ある村で暮らしていたが、物事を教えてもらう前に親を早くに亡くしたエルザは村にいられなくなる事をしてしまった事。 間違った道を辿りそうになっていたところ、ブロントと出会い、人と共に暮らすための正しい見本をナイトとして見せてあげるとエルザに約束した事。 オスマン氏は髭を摩りながら、始終真剣な目でブロントの言葉を聞いた。 「魔法が使えるからと言っても皆が皆、立派とは限らないのは耳が痛い事じゃの……ふむ、恩人の頼みとあらば、その子の一人や二人、学院に住まわせる事には何も異存はないぞ。魔法学院故、メイジがたくさんいるのはその子にとってはつらいじゃろうが、メイジとは酷い輩ばかりでないと、いつか理解してもらえるようになるといいの」 エルザはブロントの手をぐいぐいと下に引っ張って、ブロントの頭を下げさせると、何かを耳打ちした。 ブロントは頷くと、オスマン氏に伝えた。 「こいつは食べられるものが限られているので別に用意して貰うのが必要不可欠」 「ほう、どんなものじゃ?」 「俺達が来る道中で試したもので獣の血はいける。鳥もいけなくもないが、やはり鳥の血よりもやはり獣人の血だな。人間の血じゃなくても食っていけると今回のでそれがよくわかったよ」 オスマン氏は髭を弄る手をぴたりと止めて。目を丸くした。 「……ちょっとまってくれんかの。その血をどうするんじゃ」 ブロントはさらに付け加えた。 「それと日が差さない部屋も用意して欲しいんだが……」 オスマン氏は時が止まったように固まった。 「ほら、やっぱりだめだよおにいちゃん。わたしは自分で何とかやっていくから。人の血を吸わないでも生きていけるとわかったし、別にここじゃなくても……」 エルザはローブを深く被ると、そのまま部屋をでようとした。 そこをオスマン氏は引き留めた。 「ああ、ちょっと待ちたまえ。なるほど、そういう事か、ミスタ・ブロントの困った頼み事とは。確かにその子はちょっとだけ特別みたいじゃの」 オスマン氏は杖を軽く振ると、窓のカーテンが閉まり、弱く差し込む夕日を遮った。 ブロントとエルザが見つめる中、オスマン氏は杖を置くと、机から水タバコを取り出し、一服吸った。 「わしはどうやら、亜人と縁がある人生らしいのう」 オスマン氏は煙をほくほくと吐きながら真剣な面持ちで何か考え込むと、何か良い案が思いついたのか、ぽんと自分の手を叩いて言った。 「よし、血に関しては鳥獣のものでよければ、秘薬や魔法の触媒に使うと言えば簡単に用意できるじゃろ。そして部屋に関してこの学院に実はそれにぴったりの所があるんじゃが。そこは生徒にはもちろんの事、一般の教師達にも知られていない少し特別な場所での。そこで、ものは相談なんじゃが、エルザといったかな、本は読む方かね?」 エルザは突然振られた質問に戸惑いつつも、答えた。 「うん、わたしはあまり外に出る方じゃないし、一人でいる事が多かったから、一通りの本は読んでいるよ」 「そうかそうか。おぬしが人を傷つけないと誓えるのなら、この学院に住むと言うのは何も問題は無いんじゃが、何も目的も無く住むのもどうかと思ってな」 オスマン氏は声をひそめた。 「実はこの魔法学院の地下奥深くに書物庫があってな、トリステイン王国建国以来から全ての記録や書物が収められているカビ臭いところでの、今回はそこから過去の詔を書きまとめたものを探して来なければいけないところなのじゃが、何せ年を取ると長い階段を昇り降りて、薄暗い地下で書物を探すのは一苦労での。だれかそこを管理する者を一人置きたいと思っておったところなのじゃが、地下深くに一人寂しく居ても良いと言ってくれる殊勝な者はいなくての」 エルザはきょとんとした顔でオスマン氏を見つめる。 「……で、お前さんはそこの司書になる気はあるのかの?いやならやめてもいいんじゃぞ。別に他の仕事がないわけじゃなかろうて」 「そんな大事な書物を、わたしなんかにまかせちゃっていいの?」 「確かに地下書物庫には王国にとって都合の悪い記録とかもあるの。だがおぬしならそれらを漏らしては困る勢力とは何も関係が無いから、下手な貴族に頼むよりよっぽど信頼がおけるわい。ずっとそこに籠ってろとは言わん、たまに上に来て皆に顔だしたりするといい」 エルザはまだ少し疑り深く、オスマン氏に聞く。 「わたしが吸血鬼だというのはもうわかっているよね?それをおにいちゃんが頼んだからってだけで信用しちゃっていいの?怖くないの?」 オスマン氏は水タバコをふかしながら言った。 「その実態があまり知られてない吸血鬼が怖くない、と言ったら嘘になるが、このままここを去られてもおぬしと言う存在が消えてしまうわけじゃないのでの。わしの目が届かぬ所で問題になってしまうよりも、御し易いこの学院内に留まって貰った方が、問題が起きても対処しやすいと判断したまでじゃ。なに、似たような者がすでにこの学院におるし、そやつはうまくやっておる。貴族の馬鹿息子をブン殴ったりした程度の問題しか起こしとらん」 オスマン氏は何か含めたような顔をしてブロントの事を見つめた。 ブロントはわざとらしく顔をそむけ、エルザに聞いた。 「……という事らしいのだが引き受ける事になったのか?」 「メイジだらけと言うのはちょっと気になるけど、本読むのも嫌いじゃないし、怪しまれず血が手に入ると言うのなら、結構住みやすいかも。それに何かあったらおにいちゃんもいるでしょ?うん、地下書物庫の司書になってもいいかも」 オスマン氏は目を細めて、優しく微笑んだ。 「決まりじゃな。ミスタ・ブロント、主人に報告を済ませた後、ミス・エルザを学院内を案内してまわると良いじゃろう、生徒達の目が少なくなる夜になったらまたここに連れてきなさい、その時に書物庫に案内してあげよう」 その日の夜、エルザの案内を終えたブロントはヴェストリ広場のはしっこに大鍋を置いて、何か用意していた。 学院に戻る途中、襲ってきた魔物やらトカゲや獣から採取した様々な血を、マルトー親父から貰ってきた鍋に入れてかき混ぜていた。 山蛭をつぶして集めた唾液が入っているため、異なる血を混ぜ合わせても凝固せず、滑らかな深紅の血汁が鼻歌を歌うブロントの手によって大鍋でくるくると渦を巻いていた。 水のクリスタルの力で合成すれば簡単に済む話なのだが、あまり多く持ち合わせていないブロントはクリスタルの使用を控えて従来の方法を試していた。なんとなくかき混ぜてはいるけど、人が飲むものではないので、味の見ようもなく半分ぐらいは適当にやっていた。 鍋の近くの壁に立てかけたデルフリンガーがブロントに話かける。 「なあ相棒。なんでそこまでしてあの吸血っ子に肩入れしてんだ?人と亜人が相成れようなんて無理な話だぜ」 ブロントはデルフリンガーをじっと見つめた。 「相棒、その冷たい視線はやめてくれ、昔あった嫌な事思いだしそうだ」 「お前幼い時には親がいない奴の気持ち考えたことありますか?」 デルフリンガーはカチカチと鍔を鳴らした。 「親言われても、俺は剣だし。俺を作った奴なんか良く覚えてねえよ。てか相棒は親を早く亡くしたのか?」 ブロントは黙って鍋をかき回した。 「そこの所は覚えていない。昔の記憶を忘れてしまうのは稀に良くあるらしい」 「そういや相棒は、昔の記憶すっ飛んでるんだっけな。そこんとこは俺と似ているのかもな」 デルフリンガーは笑うようにカタカタと鳴る。 「それほどでもない」 「それほどもあるって、何せ俺の相棒だからな。それより、誰か来たみてえだぜ」 「おいィ?誰だ?」 月明かりに照らされて人影は突然声をかけられてびくっとした。 「わたしです、シエスタです」 食堂で働くメイドのシエスタだった。 「ブロントさん、旅から戻ってここにいると聞いたものですから」 「何か用かな?」 「あの、その!とても珍しい食材が手に入ったので、長旅でお疲れかもしれないブロントさんに御馳走しようと思って作ってきた飲み物をもってきました。二人分あるのでご一緒にいかがですか?」 シエスタは二つある液体がはいった革の水筒の一つをブロントに手渡した。 「バンパイアジュースと言ってわたしの故郷の村に伝わるちょっと変わった元気がでる飲み物なんです。トマトとリンゴを絞った汁にクックベリー潰したものいれて、そこにある秘密の材料を入れた……」 「カメの血か?」 驚かそうと思っていたシエスタが逆に驚かされた。 「あれ?知っていたんですか?あー、もしかしてブロントさんが今作っているのって……」 「吸血鬼の飲み物」 シエスタは少しつまらなそうな顔をした。 「いつも何か新しいレシピを厨房に持ち込んで皆を驚かせてくれるから、わたしもブロントさんも知らないような物、と思ってもってきたけど。やっぱり料理のレシピに関してはブロントさんにかなわないなあ」 「それほどでもない」 「いえ、ブロントさんはやっぱり凄いですよ。魔法なんて無くても強いし、マルトーさんも感心するような料理を沢山知っているし。皆に好かれる人気者だし。ブロントさんを見ているとなんかこう憧れちゃいます!貴族じゃなくても貴族よりもすごい事をこなせてしまうなんて、人は見た目や生まれだけで判断できないんだな、って感心しました」 ブロントが困った顔をして、頭をかいてると、背後から子供の声がした。 「あー!おにいちゃんここにいた!わたしの方は用事終わったよ」 学院に隠された書物庫の場所をオスマン氏に教えてもらったエルザは暇になったのでブロントを探しにここまでやってきたのだ。 「わあ!いい匂い!これおにいちゃんが作ったの?」 夜なのでフードを外して、月明かりの中その綺麗な金髪をキラキラと光らせている。 エルザはブロントがかき混ぜる鍋の中を覗いて、人指し指を中に漬けるとそれをペロッと舐めて見せた。 シエスタはブロントとエルザの顔を見比べて聞いた。 「おにいちゃん、ってもしかしてブロントさんの妹さん?」 「ああ、違う違う。わたしが勝手にそう呼んでいるだけ」 「そうなんだ、わたしこの学院で働かせてもらっているシエスタ、よろしくね」 「うん、よろしく。わたしエルザ。やっとメイジじゃない人に会えて良かった」 ブロントはカバンから空の小瓶を取り出すとそこに鍋から血汁を掬って入れて、エルザに渡した。 「あっ、ありがと、おにいちゃん」 エルザは受け取った血汁をこくこくと飲むと、口に紅を付けたように濡らした。 「ちょっとダマができてるけど、喉越しさわやかで香りがとってもいいね!ところでおにいちゃん達は何を飲んでいるの?」 シエスタはにこっと笑った。 「わたしが作った、ブロントさんと同じバンパイアジュースよ」 まさか純粋に血を混ぜ合わせただけのものを、ブロントが作っていると思ってもいないシエスタは勘違いしたままだった。 「そう?シーちゃんが作ったそれもちょっと飲んでみてもいい?」 「シーちゃん?」 「うん、ここの学院はおねえちゃんやおにいちゃんがいっぱいいるから皆それで呼んでいるとわけわからなくなるかな、と思って。シエスタだからシーちゃん」 「うふふ、そういう風に呼ばれたのは初めてかな。でも嫌いじゃないかな。わたしが口を付けたので良ければエルザちゃんどうぞ」 シエスタは自分が持っていた水筒をエルザに手渡した。 エルザは一口シエスタが作ったバンパイアジュースを飲んでみた。 「ふーん、これが人も吸血鬼も飲めるバンパイアジュースか。ちょっと酸っぱくて、血の味が薄く感じる。でも、嫌いな味じゃないかも。これなら吸血鬼でもなんとか飲めるかも」 「まるでエルザちゃんは吸血鬼みたいだね」 エルザははっとした顔になって水筒をシエスタに返した。 ブロントは何も言わず、黙々と用意した空の入れ物に次々と血汁を詰めていた。 「ねえ、シーちゃん。もしわたしが本当に吸血鬼だったらどうする?」 シエスタは不思議そうな顔をしてエルザを見つめた。 「うーん。昔のわたしだったら怖がって逃げているかなあ?でもブロントさんに会ってからはそこの所の考えが変わってきたかも。貴族や平民とだけでは人はくくれないわ。平民でも貴族でも良い人と悪い人いるし。だから吸血鬼ってだけでは何とも言えないかも。わたしはエルザちゃんの事は何も知らないから、エルザちゃんの人となりが分からないと悪い吸血鬼なのか、それともブロントさんみたいに凄い事を見せてくれる素敵な吸血鬼なのかはわからないわ。でも今話してみたところ、エルザちゃんは良い子だと思ってるよ」 エルザは一瞬思慮深げな面持ちをした後、すぐに明るさを顔に取り戻した。 「わたしはそんなに良い子じゃないよ。でも、なんかシーちゃんとだったら仲良くなれる気がするな、わたし」 シエスタは嬉しそうに笑顔になる。 「そうだ!」 シエスタは胸の前で、手を合わせて叫んだ。 「じゃあ、エルザちゃんが良い子かどうか判断するためにも、わたし達お友達になりましょう!」 シエスタがエルザの小さい手を両手で取ると、握りしめた。 エルザは突然、そして初めての事に戸惑いを隠せなかった。 「改めてよろしくね!エッちゃん!」 自分からは周りの人間にあだ名をつける事は昔からあったが、自分自身あだ名をつけて貰ったエルザはなんか照れくさかった。 だけど心のどこかにジワジワと心地良い気持ちが顔をだした。 その様子を微笑ましく眺めながら、ブロントが黙々と二ダース目の血汁を空瓶に詰めた夜だった。 外伝・タバサと仮面 「吸血鬼護身術」 / 各話一覧 / 第20話 「夢追い旅」
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(1586~1641)肥後細川藩の初代藩主。細川忠興?とガラシアの間の子。関ヶ原の戦いに徳川家康の軍として出陣、後、秀忠?の養女千代姫を妻とする。島原の乱にも出陣した。父とは非常に不仲であったという。 ガラシア祈祷書 実は生まれてすぐに受洗した隠れキリシタンであり、それが原因で父と不仲だった。ひっそりと隠れていた切支丹を利用して乱を起こした森宗意軒らを激しく憎む一方で、天童・天草四郎を救うため、阿修羅衆に密命を下す。
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前ページゼロ・HiME アンリエッタとゲルマニア皇帝の婚姻が発表された翌日、ルイズはオールド・オスマンから呼び出しを受け、学園長室に向かった。 「おお、ミス・ヴァリエール。旅の疲れは癒せたかな? 此度の件、姫殿下から伺ってた時には、どうなることかと思うたが、無事に帰ってきてくれてなによりじゃ。まあ、ワルド卿のことは残念なことじゃったが……なんにせよ、おぬし達のおかげで無事に同盟は締結され、トリスティンの危機は去ったのじゃ。来月には無事ゲルマニアで姫様の婚儀も行われることじゃろうて」 ルイズが現れるとオスマンは立ち上がって迎え入れ、その労をねぎらった。 「私は姫様の友人……いえ、貴族として当然のことをしただけです」 そう答えて頭を下げるルイズをオスマンはしばらく黙って見ていたが、思い出したように懐から一冊の本を取り出し、ルイズに手渡した。 「……これは?」 「トスリテイン王家に代々受け継がれてきた始祖の祈祷書じゃよ」 「そうですか……って、そんな重要な国宝がどうしてここに? しかも何故、私にお渡しになるんですか?」 ルイズは驚きで手渡された『始祖の祈祷書』を思わず取り落としそうなりながらも、怪訝な表情でオスマンの顔を見つめた。 「実はトリステイン王室では古来より、王族の結婚式の際に貴族より選ばれし巫女が『始祖の祈祷書』を手に、式の詔を詠み上げる習わしがあっての。その巫女に姫様は、ミス・ヴァリエール、そなたを指名したのじゃよ」 「姫様が?」 「その通りじゃ。巫女は式の前より、この『始祖の祈祷書』を肌身離さず持ち歩き、詠み上げる詔を考えねばならぬ。無論、草案は宮中の連中が推敲してくれるじゃろうが」 「私が式の詔を……」 急な事態に絶句するルイズに向かって、オスマンは更に話を進める。 「ここだけの話だが、そなたの選出には諸侯の一部から反対の声があっての。しかし、姫はそれらの意見を一蹴してそなたを巫女に指名したのじゃ。これほど名誉なことはあるまいて」 アンリエッタは周囲の意向を曲げてまで、幼い頃、共に過ごした自分を巫女に選んでくれたのだ。その好意を無碍にすることなどできようはずもない。 「わかりました、謹んで拝命いたします」 ルイズはきっと顔を上げてオスマンに答えると、受け取った『始祖の祈祷書』を大事そうに胸に抱える。そのルイズの様子にオスマンは目を細めて微笑んだ。 「そうか、引き受けてくれるか。姫もさぞかし喜ぶじゃろう」 その日の夕刻、静留は風呂に入っていた。風呂といっても学院の寄宿舎にある貴族用の大浴場ではなく、裏手にある使用人が使う掘っ立て小屋のような蒸し風呂である。 「……こういうんも悪くないんやけど、やっぱ湯船が恋しいどすなあ」 サウナの中、タオル一枚だけの格好でシエスタと並んで座った静留が額の汗をぬぐいながら呟く。 「うふふ、静留お姉さまったら……でも、その気持ちは分かります。出来るならお湯に浸かりたいですよね」 「あれ、シエスタさんは湯船のあるお風呂に入ったことあるん? ルイズ様から平民は蒸し風呂が普通や聞いたけど?」 「私の故郷――タルブ村っていうワインが特産の村なんですが、温泉を利用した公衆浴場があるんですよ。だから、蒸し風呂はあまり慣れませんね」 そうチロリと舌を出して答えるシエスタの様子に、静留はくすりと微笑むと、その手をつかんだ。たちまちシエスタの頬が真っ赤に染まる。 「ほな、そろそろでましょうか。さすがにもう限界やわ」 「は、はい、お姉さま」 二人は蒸し風呂の外にある水浴び場へと移動すると、据えつけられた石のベンチに腰かけ、水桶に入った濡れタオルを取り出して火照った肌にびっしょりと浮かんだ汗を拭き始めた。 「ふう、そよ風が心地ええわ」 そう言って微笑む静留の姿をシエスタはうっとりと見つめる。 (夕日に輝く艶やかな栗色の髪、ハリのある綺麗なバスト、すらりと細いウエスト、きゅっと引き締まったヒップ……やっぱりシズルお姉様は素敵です) 「あの、シエスタさん……そんなに見つめられると照れるんやけど」 「えっと、熱さで少しのぼせたちゃったかもしれませんね。あ、そうだ、お背中お拭きしますね」 急に静留から声をかけられたシエスタは慌てて言い繕うと、その背中を拭き始めた。数分後、一通り拭き終わったのを 見計らったような静留の「はな、お返し」という言葉に促され、シエスタは静留に背を向ける。 「シエスタさんの肌はきめが細かくてええなあ」 「そんな、静留お姉様こそ私より白くて綺麗じゃありませんか」 「あらあら、それはお世辞でも嬉しいおすな――ん?」 シエスタの背中を拭いていた静留は、その首筋に何かを見つけて手を止めた。それは1サント大の紅い焔のような形の痣――紛れもないHiMEの印だった。 「シエスタさん、この首筋のとこにある痣やけど……なんかの怪我とかの跡どすか?」 静留は内心の動揺を隠し、平静を装ってシエスタに問いかける。 「ああ、この痣ですか? これは生まれつきです。家族では私と祖母だけにしかないんですけどね」 「そうどすか……それにしてもシエスタさんはお婆はんが大好きなんやねえ」 「はい。村の人たちからは『女傑』なんて呼ばれてましたけど、優しくて聡明だった祖母は私の誇りなんです」 どこか誇らしげなシエスタの答えを聞きながら、静留は思考を巡らせる。 (一体、どういうことやろ? たまたまHiMEあるいはHiMEの因子を持つ人間がこの世界に迷い込んだいうことなんやろか。確かにシエスタさんの目や髪、肌の色は日本人と変わらんけど……) 「あ、あの……」 「はい、なんどすか?」 静留は一旦思考をやめて遠慮がちに声をかけてきたシエスタの方へと顔を向けた。 「実は来週か再来週にまとまった休暇をいただけることになったんですけど……えっと、その、よろしければシズルお姉様を村にご招待したいなあと……」 「ええよ」 「はい、みんな歓迎してくれると思います……って、いいんですか!?」 てっきり断られると思っていたシエスタは静留の答えに驚きの声を上げた。 「別にそんな驚かんでも。せっかくのシエスタさんのお招きや、断るなんてできますかいな。なにより温泉入るチャンスを逃すなんて勿体無い」 「そうですか。でも、お姉様が傍を離れて遠出するのはミス・ヴァリエールがお許しにならないのでは?」 「それならルイズ様も一緒に行くいうことにすればええ。何、きっと説得してみせますさかいに安心してや」 「は、はあ……」 (せっかくの二人っきりで距離を縮める作戦が……まあ、コブつきとはいえ、お姉様と一緒に里帰りが出来るだけでもよしとしましょう) シエスタは目論見が外れたものの、そう思い直すことにした。しかし、後にこの選択を悔やむことになるとは知らないシエスタであった。 「ルイズ様、ただいま戻りました……何してはるんどすか?」 入浴後、湯冷ましにのんびりと学院内を散歩した静留がルイズの部屋に戻ると、ルイズは椅子に腰掛け、机に置かれた古ぼけた大きな本をみつめて何かを考えごとをしていた。 「ああ、これ? 姫様の結婚式用の詔よ。私、それを読み上げる巫女に選ばれたの」 「へえ、そらまた大事なお役目もろうてしまいましたなあ」 静留はそう言いながら背中から抱きつくようにしてルイズの手元を覗き込む。するとルイズは顔を真っ赤にしたかと思うと、静留の抱擁を解くように勢いよく立ち上がった。 「……そ、そういえばもう夕食の時間ね。わ、私、食堂いってくるわ」 ルイズはそう早口でしゃべると、まるで逃げ出すようにして部屋から飛び出していった。残された静留はしばらくそのままあっけにとられていたが、やがて目を閉じてため息をついてくすりと微笑む。 「……おやおや、ちょっとルイズ様には刺激が強すぎたやろか。まあ、ああいう初心なとこが可愛いんやけど」 「そうか? 帰ってきてからずっとあの調子だぜ、もう少し娘っ子は素直になった方がいいと思うがねえ」 壁にたけかけられたデルフからやや呆れた口調で発せられた言葉に、静留はどこか苦笑するような表情を浮かべて答える。 「素直にどすか……それはそれで困るんやけど」 「なんでい、姐さんにしては歯切れ悪いじゃねえか。俺は難しいことはよくわからねえが、人間なんて他人からの好意を貰えてる間が華ってもんさ」 「そうかもしれませんな……ほな、うちも厨房で食事いただいてきますわ」 そういい残すと静留は部屋から出て行った。そして一人残されたデルフは静留の足音が遠ざかるのを確認するとぼそりと呟いた。 「……やれやれ、姐さんがあの調子じゃ娘っ子も苦労するぜ」 そして一夜明けて翌日の昼休み。学院の東側のアウストリ広場のベンチに腰かけ、ルイズは一生懸命に何かを編んでいた。 いつもなら昼食後には静留にキュルケ、タバサを加えた四人でお茶を飲みながらのんびりとくつろいで過ごすのだが、夕べの一件を引きずって静留と一緒にいるのが気まずくなっていたルイズは、それを断ってここで編み物をすることにしたのだった。 編み棒をせっせと動かしながら時折、手を休めてかたわらにある『始祖の祈祷書』を開き、結婚式の詔を考える。 だが、しばらく白紙のページを眺めた後、ルイズは手にした祈祷書をぱたんと閉じて物憂げにため息をつく。 「はぁ……何やってるんだろ、私……」 そう呟いて手にした編み掛けた30サントほどの長さのマフラーを見つめる。それは下手の横好き程度の腕前のせいか、捻くれた毛糸のオブジェにしか見えず、ルイズは再びため息をついた。 「おやおや、お茶もしないでどこへいったかと思えば……ルイズ、こんなとこで何してるのかしら?」 キュルケはそう言ってどこか面白がるような表情を浮かべるとルイズの隣に座った。 「朝食の時に話したでしょ、姫様の結婚式の巫女に選ばれたって。だから結婚式の詔を編み物しながら考えてるのよ。邪魔しないでくれるかしら」 「邪魔って……あなた、八つ当たりもほどほどにしなさいよね。どうせシズルとなんかあったんでしょうけど」 ルイズはキュルケの言葉にキッと顔を上げて言い返そうとするものの、図星だったので押し黙ってしまう。 「……その顔は図星ね。何があったか知らないけど、悩みがあるなら相談に乗ってあげるわよ」 キュルケはわざとらしい笑顔を浮かべてルイズに肩に手を回す。 「……肩に手なんか置いて何企んでるの」 「企むだなんて滅相もない。私たちの祖国は同盟国になったんですもの、これからは仲良くしましょうよ」 「どういう理屈よ、それ」 ルイズはジト目でキュルケを睨むが、そこではたと思いつく。キュルケは自他共に認める学院きっての恋愛の達人だ。ルイズからはいいかげんに見える彼女だが、相談事、特に恋愛に関しては皆の信用が厚い。 (癪だけどここは恋愛の達人のアドバイスとやらを聞いてみようじゃないの) そう決断するとルイズはキュルケに夕べの一件を話して聞かせた。 「……ねえ、今の話し聞かなかったことにして帰っていいかしら」 「なによ、いまさら悩み聞くって言った自分の言葉を反故にする気?」 「あのね、抱きつかれて逃げ出すとか相談以前の問題よ……初心すぎるにもほどがあるでしょ」 「別に今まで抱きつかれたぐらいで逃げたことなんかないわよ。でも、夕べはシズルに抱きつかれた瞬間、胸の奥と頭がかぁっと熱くなって気がついたら逃げ出しちゃってたの……私、どこか病気なのかしら」 不安そうに尋ねてくるルイズの様子に、キュルケは目をぱちくりさせた後、呆れたような表情を浮かべて口を開く。 「安心なさいな、ルイズ。それは病気じゃなくて、あなたがシズルを本気で好きになったって証拠よ」 「へっ……」 「それ以外に何が原因があるっていうのよ。今までは自覚がなかったから平気でいられたんでしょうけど。まあ、正直に恥ずかしいから急に抱きついたりしないようにお願いして、徐々に慣れるしかないわねえ」 「慣れるよう善処してみるわ」 「なら、頑張りなさいな。ぐずぐずしてたらタバサやあのシエスタとかいうメイドに先越されちゃうわよ」 キュルケはそう言い残すと学院のほうへと帰っていった。その後姿を見送った後、ルイズはぼそりと呟いた。 「……そういえば、どうやってシズルに話を切り出せばいいのかしら」 前ページゼロ・HiME
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勉強会を終え、ルイズの部屋へと戻る途中に考える。 さて、どうやればルイズにタルブの村へいける許可をもらうことができるだろうか? 素直に行ってもいいというはずは無いだろう。 しかし、何故かはわからないが最近のルイズは私にとって好ましい方向へ変化してきている。 だとしたら案外簡単に行く許可をくれるのではないだろうか? いや、こういう楽観視をしてはいけない。何事もあらゆる可能性を考えるべきだ。 とはいえ、まず初めは素直に聞いてみてルイズがどういった反応をするか見てみるか。 楽にいくかいかないかはそれを見れば大体わかることだ。 そう考えているうちに部屋の前にたどり着いた。部屋のドアを開け中に入るとルイズがベッドに寝転んでいた。 こちらに目をくれず、古ぼけた本をじっと見入っている。 反応からして私に気づいていないのだろう。最近いつもこうだ。何をそんなに熱心になることがあるのだろうか? しかし、気づくまで声をかける必要は無いだろう。そう判断し椅子に座る。 そしてポケットから本を取り出し今日の復習を開始した。 「ヨシカゲ。あんたって、最近気がつかないうちに部屋に入ってるわよね」 部屋に戻って3時間、私に気づいたルイズの第一声がそれだった。 「お前がその本に集中しているからだろう」 「そうかしら?」 間違いない。 それに気がつかない奴や自覚が無い奴をバカというんだ。 「たしかに最近これに意識を傾けすぎてたかもしれないわね」 自覚があるなら聞き返してくるな。 「でも、どうしても気になるのよ。これが」 「ふーん」 私には何も書かれていない古ぼけた本にしか見えないけどな。 しかしそれほどまでに気になるのは何故なのだろうか?ルイズにはどのように本が映っているんだ? 「ルイズ、好奇心で聞くんだが、お前にはどんな風にその本が見えているんだ?私には正直何も書かれていない真っ白な本にしか見えないんだが」 「わたしにも真っ白な本にしか見えないわ」 「は?」 じゃあそんな本の何が気になるって言うんだ? そもそもそんな何も書かれていない本みながらぶつぶつ呟いたりじっと見入ったりしていたっていうのか? バカじゃねえの? 「……言っとくけど、ちゃんと理由があってこれ見てんのよ?へんなこと考えないでよ」 「理由?」 何も書かれていない本をみてぶつぶつ呟いたり見入ったりする理由ってなんだ? しかしなんでへんなこと考えてるってばれたんだろうか? 「これは『始祖の祈祷書』っていって、王室に伝わる、伝説の書物なの」 「なんでまたそんな貴重な品物をお前が持っているんだ?」 そう、そんな伝説の書物を、普通学院の一生徒であるルイズが持っているはずが無いじゃないか。 「あのね。トリステイン王室の伝統で、王族の結婚式の際には貴族より選ばれし巫女を用意しないといけないのよ。 選ばれた巫女は、この『始祖の祈祷書』を手に、式の詔を詠みあげる習わしになってるの」 もしかすると、 「まさか、その巫女にお前が選ばれたのか?」 「そのまさかよ。姫さまがわたしを巫女に指名したのよ。巫女は式の前から、この『始祖の祈祷書』を肌身離さず持ち歩いて、詠みあげる詔を考えなくちゃいけないのよ」 なるほどね。 「だから最近それを持ち歩いてぶつぶつ言ってたわけか」 そりゃあ一生懸命にもなるもんだ。王女が指名したんだからな。 しかもトリステインの貴族の代表ともいえなくも無い。並大抵のプレッシャーじゃないだろうな。 「まあ、気になる理由にも納得がいったよ。普通はそういったのって、その『始祖の祈祷書』とやらに書いてあるようなもんだしな」 「そのことなんだけど、気になる理由が詔を考えることだけじゃないのよ」 「……どういうことだ?」 「たまに、ほんとにたまになんだけど、一瞬だけ文字みたいなものが見えるの」 「文字?」 「そう。ほんとに一瞬だけなんだけど。でも何度か見たのよ。初めは見間違いかと思ったんだけど、何回も見るとさすがに無視できなくて。どうしても気になっちゃうのよ」 何も書かれていない本に映る文字か。 一回だけならそりゃ見間違いだと思うよな。でも何回もそれを見ればもほやそれは見間違いじゃないだろう。 「その本に何かの魔法がかかってるんじゃないのか?条件を満たせば見れるみたいな感じの」 「わたしもそう思ってるんだけど、どんな条件なのか全く検討もつかないのよね。しかも詔も考えないといけないから、それだけを考えているわけにもいかないし」 ルイズは寝転がっていた体を起こしベッドへ腰掛ける。 「もう頭の中がパンパンだわ」 そういいながらポケットから何かを取り出す。それは『水のルビー』だった。 ルイズは取り出した『水のルビー』を指に嵌めその指に掌を被せ握り締める。そして目を瞑る。 その格好は神に祈りを捧げるかのようだ。もしくは懺悔かもしれない。 しかし、疑問がある。 「どうして『水のルビー』を持ってるんだ?」 そうルイズに問いかける。 アルビオンへの旅で『水のルビー」を売り払う余裕なんて無かったから持っていても不思議ではない。 しかしそうならそうでルイズなら指輪を王女に返すと思っていたんだが。 ルイズは目を開けこちらを見る。 「これは姫さまからもらったの。せめてものお礼だからって」 「お礼ねえ」 あれで指輪一つとは安いものだ。 しかも私にいたっては報酬一つないしな。金でもくれればいいのに。 ルイズはまた目を瞑りさっきと同じようにしている。 「で、そのお礼を握り締めて何がしたいの?」 「……こうしていると姫さまのことが頭に思い浮かべやすいのよ。姫さまのことが頭に思い浮かぶたびに、精一杯素敵な詔を考えないとって思えるのよ。 こうでもしないと余計な考えに頭を侵略されそうになるわ」 「大変だな」 なんだかルイズはルイズで大変なんだな。 もしこの場でタルブの村のこと切り出したらどんな反応を返すだろうか? いや、むしろこの状況は使えるかもしれないな。 よし、言おう。 「ルイズ。一緒に出かけないか?」 「……は?」 ルイズはこちらを見ながら間抜けみたいに口をあんぐりとあけていた。
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前ページ次ページゼロのペルソナ 死神 意味……別離・再生 「風吹く夜に」 「水の誓いを」 それが恋人たちの合言葉だった。 「きみが好きだ」 「わたくしだって、お慕いしております」 「きみと太陽のもと……、誰の目もはばからずに、この湖畔を歩いてみたいものだ」 「ならば、誓ってくださいまし」 「迷信だよ。ただの言い伝えさ」 「迷信でも、わたくしは信じます。信じて、それがかなうのなら、いつまでも信じますわ。いつまでも……」 それは全て、双月を映しこむ美しき湖でのことだった。 ルイズはラグドリアン湖から戻ってきてトリステイン魔法学院の自分の寝室にいた。 そして手持ち無沙汰となっていたルイズはトリステイン王家から送られて来た『始祖の祈祷書』を読むことに決めた。 もともと『始祖の祈祷書』はゲルマニア皇帝とトリステイン王女であるアンリエッタ姫との婚約の儀で 詔を読み上げられる任を頂いたルイズに、その文を作るために送られて来たのであった。 しかし、その『始祖の祈祷書』を読む前にルイズは忌まわしい事件に巻き込まれてしまいそれどころではなくなってしまった。 思い出すだけでどこであろうと奇声を発したくなるような羞恥の記憶。 ルイズが水の精霊のもとから帰ってきてすぐに『始祖の祈祷書』を読もうと決断したのはルイズの勤勉さの表れではなく、 なにかしらの仕事に集中して嫌なことを忘れようという意志の表れだった。 そして『始祖の祈祷書』はルイズの願いは十全にかなえてくれることとなる。 ベッドの上で行儀悪くうつぶせになりながら『始祖の祈祷書』を開いた。 祈祷書の中には白紙のページが続くばかりということは聞いていたが、 今のルイズはただ時間を潰すことの出来る言い訳があればなんでもよいという気分だった。 しかしページの中には古代ルーン文字が躍っていた。それを見た瞬間、ルイズはわけもわからぬほど、それに引き込まれてしまった。 序文。 これより我が知りし真理をこの書に記す。この世のすべての物質は、小さな粒より為る。 四の系統はその小さな粒に干渉し、影響を与え、かつ変化せしめる呪文なり。その四つの系統は、『火』『水』『風』『土』と為す。 ルイズの知的好奇心が爆発的に膨れ上がる。読み始めた不純な動機はルイズの心の中から消え去っている。 神は我にさらなる力を与えられた。四の系統が影響を与えし小さな粒は、さらに小さな粒より為る。 神がわれに与えしその系統は、四のいづれにも属せず。我が系統はさらなる小さき粒に干渉し、影響を与え、かつ変化せしめる呪文なり。 四にあらざれば零。零すなわちこれ『虚無』。我は神が与えし零を『虚無』と名づけん。 ルイズにはもうページをめくろうとする意志に抗うことはできない。たとえ目の前で戦争が起きようともルイズは構わず読み続けるだろう。 これを読みし者は、我の行いを受け継ぐもの、あるいはそれに抗するものなり。『虚無』を扱うものは心せよ。 『虚無』は強力なり。我はこの書の読み手を選ぶ。たとえ資格なきものが指輪を嵌めても、この書は開かれぬ。 選ばれしものが指輪を嵌めても、この書は開かれぬ。選ばれし読み手は『四の系統』の指輪を嵌めよ。されば、この書は開かれん。 ブリミル・ル・ルミル・ユル・ヴィリ・ヴェー・ヴァルトリ ルイズはさらに急かされるようにページをめくるが、後のページには白紙が続くばかりであった。 本を閉じ、ルイズは半ば呆然としながらも先ほど読んだ内容のことで考え込んだ。 読んでいるうちに、いつの間にか横になっていた身を起こしていた。 何も書かれていないという『始祖の祈祷書』には文字があった。 いや、この書物は読むものを選ぶという。もしかして自分だけにしか見ることができないのか。 ルイズは指に嵌めた水のルビーを見た。それはアルビオンへ行く前にアンリエッタから譲られたものだ。 トリステイン、アルビオン、ガリアそしてロマリアに始祖の時代から伝わるという指輪。これが『四の系統』の指輪なのであろうか。 今まで自分が魔法を使えなかったのは自分の系統が虚無だったからであろうか。だが、読めたといっても序文だけである。 ということはやっぱり自分はただの落ちこぼれで、自分が虚無であるなどというのはただの妄想なのであろうか。 その後、ルイズは真剣な表情で考えこんでいるかと思えば、うんうん唸ったりと頭の中で思考の堂々巡りを繰り返した。 完二はいつも以上に厨房などで学園で働く平民たちと食堂で時間を潰し、部屋に戻ってきた。。 時間が経つに連れ恥ずかしさも実感できるようになってきたので、最悪の場合、ルイズから八つ当たりでもされるのではないかと思っていたからだ。 だが却ってルイズのボーッとした様子に心配することになってしまった。 次の日もルイズは、始祖の祈祷書と虚無について考えこんでいるばかりであった。 今日一日ルイズがおかしいと思ったキュルケは夕食後、半ば強引にテラスに誘い、 半ば強引に付いて来たクマと食後のデザートを楽しみながらルイズに質問を投げかけていた。 ところがルイズときたら、「はあ」だの「そう」だのまるで気のない返事ばかりだった。 惚れ薬が効いている間のことをからかってみても似たような反応であった。これにはキュルケは驚愕した。 ルイズはわりといや、かなり粘着質な性質なのだ。そのルイズが惚れ薬で痴態を晒していたことをすぐに忘れるはずがない。 いつものルイズならこれだけで一年はからかうネタに困らないだろう。 「ねえ、ルイズ、あなた今日一日、その古びた本を読んでるだけじゃない?」 「そう」 それまでと同じように気のない返事をしたルイズは突然、はっと思いついたような顔をした。 「キュルケ!この本読んでみて!」 ルイズはその手に持っていた本をキュルケに渡した。 もう一人の自分の親友と同じように無感情になっていたルイズの突然の感情のほとばしりにキュルケはたじろいだ。 「え、なによ……ってこれ、なにも書かれてないじゃない」 このピンク髪の友人は一日何も書かれていない本を読んでいたのであろうか 。もしかしてモンモランシーの惚れ薬の悪影響を受けているのでは? とキュルケが頭の具合を心配する少女はさらに自分の指に嵌めていた指輪を抜き取りキュルケに突き出した。 「これつけて読んでみて」 「それに何の意味が……」 「いいから!」 気おされたかのようにキュルケはおとなしく言うとおりにして指輪を嵌めてもう一度白紙だった本を見てみる。当然、今も白紙だ。 「読めないわよ……」 「古代ルーン語が読めないから?何も書かれていないから?」 キュルケは片眉をつり上げた。 「古代ルーン語……?なんでそれが出てくるのよ?」 「つまりなにも書いてないように見えるのね?」 「見えるも何も書いてないじゃない」 「そう……そうなのね……」 ルイズはそう言うとなにか得たものがあるというな顔になり、本と指輪を返してくれとキュルケに言った。 本と指輪を返しながら、キュルケは一日何も書かれていない本を読んだ挙句、 指輪を付けてそれを読めと言いう奇態な言動をする友人のことを本気で心配した。 そしてあとでモンモランシーを問い詰めることも心に決めた。 ところでルイズのぶんのデザートまで無心に食べていたクマだが、着ぐるみは着ていない。 召還されて最初のころは着ぐるみを脱ぐのを嫌がったものだが、最近は脱ぐのに抵抗がなくなったようだ。 未知の場所なのでクマにとって最も完全に近い姿を保っていたかったのかもしれない。 つまり今はこの世界になじんだということだ。 そこへ完二がやって来た。 「おい、キュルケ、クマ。タバサと花村センパイが帰ってきたぜ」 「あら、本当?じゃあ、迎えに行きましょうか」 「あ、ちょっと、モグモグ、待って欲しいクマ」 クマはクリームを飛ばしながら立ち上がったキュルケに言った。 完二はその二人とは別にもう一人同じテーブルに座っている少女に躊躇いがちに言った。 「な、なあルイズ、お前も行っとくか?」 ルイズの返答はなかった。それだけみれば昨日の夜と同じだったが、なにか黙考しているようであった。 「ごっくんペロリ。それじゃ迎えに行くクマよー」 顔をクリームでペイントしたクマが言った。キュルケがしょうがないとばかりにナプキンで顔を拭いた。 考え込んでいるルイズも無理矢理連れて一行は塔を出た。 4人が行った時、タバサと陽介はちょうど馬車から降りようとしていた。 「タバサ、数日ぶりね!」 そう言いながらキュルケは馬車から降りたタバサをその豊満な胸に押し付けるように抱きしめた。タバサはなされるがままだった。 完二とクマも数日ぶりに会う仲間を出迎える。 「センパイ、お疲れっス。つかどこ行ってたんスか?前もこんなことあったよな」 「どーこ行ってたクマ?さーさー、吐きんしゃい」 「んー、いや悪いな秘密なんだわ」 「ムムム、何か怪しい香りが……。でも陽介が秘密って言うならしょーがないクマね」 「ま、センパイがそーいうなら」 陽介の言葉に納得できたわけではないが、一年以上の深い付き合いだけあって完二とクマは踏み込むのをやめた。 タバサを抱きしめていたキュルケは、視界を去ろうとする馬車を見た。 タバサたちが乗ってきたものだが、それには交錯する二つの杖の紋章、ガリア王家の証が記されていた。 この子がガリア王家の馬車で?この子とガリア王家にどういう関係が? だが、キュルケの思考は、小さな友人とは別の方向へと進んだ。 それは昨日ラグドリアン湖で感じた違和感、そして馬車と王家。それらがキュルケの頭の中で化学反応を起こした。 「なあ、クマちょっと話が……」 「ああああ!!」 キュルケの突然の大声に、話を遮られた陽介はもちろん周りの人間は全員驚いた。 その腕の中にいたタバサも彼女にしては珍しくビクリと小さく肩を震わせた。 「ちょっと、なんなの!?」 今まで帰ってきた二人との会話に参加せず、思考の海を漂っていたルイズも怒ったようにキュルケに言った。 タバサを解放してキュルケは真剣な表情を浮かべてルイズを視界の中央に納めた。 「昨日、わたしなにかひっかかりを感じてたのよ。水の精霊からアンドバリの指輪の話を聞いてから……いえ、正確に言うならそれ以前かしら……」 「ちょっと何を勝手に納得しようとしてるのよ!わたしにもわかるように説明しなさい」 さきほどのテラスでの会話で自分も同じようなことをしておきながらルイズは悪びれている様子はない。 キュルケはルイズの要求の身勝手さを気にはしなかった。もとより意趣返しのつもりもない。 「ならはっきり言うわ。昨日、ウェールズ皇太子の姿を見たわ」 その場に居た一同は言葉を失った。もっともタバサはいつもの寡黙なのかもしれないが。 「どこで?」 やはり一人驚愕とまではいたらなかったのかタバサはキュルケの簡潔な説明の詳細を簡潔に求めた。 「ここからラグドリアン湖へ向かう途中で馬車とすれ違ったの。 やけにいい男が乗ってると思ったんだけどその人がウェールズ皇太子だったのよ」 「な、なんでもっと早くに気付かないのよ!?」 「しょうがないじゃない。男の顔なんていちいち覚えていないわ。 というか死んだものと思ってたのよ、ニューカッスル城にいた人間は全員殺されたって聞いてたし」 「ま、まあよかったじゃん?皇太子さん死んでなくてさ」 陽介がキュルケに噛み付くルイズをなだめる。 クマと完二も陽介と同意見である。 「よかったクマー!王子さま生きてて。クマも頑張ったかいがあるってもんです!」 「ああ、まったくだぜ」 しかしキュルケの顔はウェールズの生存を喜んでいるようではなかったので、完二は尋ねる。 「なに渋い顔してんだ?ちったあ喜ばーねのか?」 「生きてるなら喜ぶわよ。もし生きてるならね……」 キュルケの言葉にルイズだけがはっとした顔になった。 「もしかして、あんたアンドバリの指輪で甦らせられたって言うつもりなの?」 その言葉でようやく完二とクマもキュルケの言わんとしていることを理解した。しかし陽介とタバサは話がつかめない。 「ちょ、待ってくれ。いったいなんの話をしてんだ?」 「ラグドリアン湖で水の精霊から死んだ人間を操るアンドバリの指輪が盗まれたのよ」 これでわかるでしょ。というようにキュルケは端的に情報を告げた。タバサは瞬時に理解し、陽介も少し遅れて理解する。 「つまり皇太子はアンドバリの指輪で操られている?」 タバサが要点をキュルケに問いかける。 「確信はないわ。ただ、もしあの皇太子が誰かに……いえ、操っているならレコン・キスタでしょうね。そうなら狙いは……」 「姫さま……!」 キュルケの出す結論をルイズは言った。キュルケはこくりと頷き、ルイズの推論と同意見であることを示した。 ウェールズ皇太子をわざわざ生き返らせてトリステインに送り込んできている。 彼はアンリエッタの恋人である以上、最もシンプルで効率的なのはアンリエッタを誘拐することだ。 公の場に死体であるはずのウェールズを出すことはできない。種がバレてしまう危険も大きい。 しかし密会し、トリステインの重要人物をかどわかすなら?その重要人物が王女ならば? 恋人であったウェールズにならばそれが出来る。 「行くわよ、手遅れになる前に!」 太陽が地平へと消えようとする時刻、ルイズを先頭に6人は馬を駆り王都トリスタニアに向かった。 アンリエッタは王宮にある寝室にいた。本来ならもう就寝してもいい時間だがここ最近は寝つきが悪くなってきている。 理由は彼女自身分かっている。彼女の恋人であるウェールズ皇太子が戦死したことだ。 恋人は死に、そして自分は政略結婚のためにゲルマニア皇帝に嫁がなければいけない。 アンリエッタは自分が、あの下賎な国に嫁がなければいけないことを考えると情けない気持ちになる。 自分はかつてウェールズが言ったように政略結婚をしなければならないのだ。 ただ、それでも彼の一言があれば救われる気がした。 14歳の夏の短い間、一度でいいから聞きたかった言葉。 「どうしてあなたはあのときおっしゃってくれなかったの?」 目が自然と水気を持ってくる。アンリエッタが目元を拭っていると、扉がノックされた。 「誰ですか、こんな夜中に?」 「ぼくだ」 その声を耳にした瞬間アンリエッタの顔から表情が消えた。 「いやだわ、こんなはっきりと幻聴が聞こえるなんて……」 「ぼくだよアンリエッタ。この扉を開けておくれ」 アンリエッタの鼓動は早鐘のようになる。そして扉へと駆け寄る。 「ウェールズさま?嘘。あなたは反乱軍の手にかかったはずじゃ……」 「それは間違いだ。こうしてぼくは、生きている」 「嘘よ。嘘。どうして」 「ぼくは落ち延びたんだ。死んだのは……、ぼくの影武者さ」 アンリエッタはまるで現実ではないかのように感じられた。 手足の感覚が感じられなくなり、空間に存在していることが強く感じられる。 扉の向こうからウェールズの言葉が聞こえた。 「風吹く夜に」 ラグドリアン湖で、何度も聞いた合言葉。 アンリエッタは合言葉を返す余裕などなく、ドアを急いで開け放つ。 湖畔で見た笑顔がそこにあった。 「おお、ウェールズさま……よくぞご無事で……」 その先は言葉にする事が出来ず、ウェールズの胸でむせび泣いた。 「泣き虫は相変わらずだね、アンリエッタ」 「だって、てっきりあなたは死んだものと……」 「敗戦のあと、巡洋艦に乗って落ち延びたんだ。ところでアンリエッタ、水のルビーはまだルイズが持っているのかい?」 突然の質問にアンリエッタはきょとんとした顔になる。もっともその顔は涙で崩れきっていたが。 「水のルビーですか?あれはルイズに譲渡したものですが……。なぜ指輪の話を?」 「いいや、なんでもない」 強引にウェールズは話を打ち切った。 アンリエッタは疑問を持てないでなかった。今のアンリエッタには瑣末なことであった。なにせウェールズが生きていたのだから。 「アンリエッタ、ぼくはアルビオンに帰るつもりだ。いや帰らなければいけない」 アンリエッタははっとした。 「ばかなことを!せっかく拾ったお命を、むざむざ捨てに行くようなものですわ!」 「それでも、ぼくは戻らなくてはいけない。だから今日、ぼくはきみを迎えに来たんだ」 「わたしを?」 「アルビオンを解放するためにはきみの力が必要なんだ。一緒に来てくれるね」 「わたしは……」 突然のことにアンリエッタは混乱する。 愛する人が自分を求めているのだ。何をためらう必要がある。 しかしそれは感情で、理性は王家として果たすべき義務を語りかけている。 「愛している。アンリエッタ。だからぼくといっしょに来てくれ」 ウェールズの言葉は理性を吹き飛ばした。 ウェールズとアンリエッタは唇を重ねる。 アンリエッタは幸福感に包まれながら、眠りの世界へと落ちていった。 前ページ次ページゼロのペルソナ
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■ 第一章 魔法の国・ガンダールヴ ├ 契約! クールでタフな使い魔! その① ├ 契約! クールでタフな使い魔! その② ├ 学院! メイジとメイド その① ├ 学院! メイジとメイド その② ├ 学院! メイジとメイド その③ ├ 決闘! 青銅vs白金 ├ 条件! 勝利者の権限を錬金せよ その① ├ 条件! 勝利者の権限を錬金せよ その② ├ 条件! 勝利者の権限を錬金せよ その③ ├ 条件! 勝利者の権限を錬金せよ その④ ├ 条件! 勝利者の権限を錬金せよ その⑤ ├ 誘惑! 微熱があるなら濡れタオルで頭を冷やせ ├ 事件! 王女と盗賊……そして青銅 その① ├ 事件! 王女と盗賊……そして青銅 その② ├ 事件! 王女と盗賊……そして青銅 その③ ├ 捜索! 土くれのフーケを追え! その① ├ 捜索! 土くれのフーケを追え! その② ├ 咆哮! 貴族の誇りと黄金の精神 その① ├ 咆哮! 貴族の誇りと黄金の精神 その② ├ 咆哮! 貴族の誇りと黄金の精神 その③ ├ 伝説! 神の左手ガンダールヴ └ 双月! こんなにもあたたかい色をしていたなんて ■ 第二章 風のアルビオン ├ 依頼! 風のアルビオンを目指せ! その① ├ 依頼! 風のアルビオンを目指せ! その② ├ 依頼! 風のアルビオンを目指せ! その③ ├ 依頼! 風のアルビオンを目指せ! その④ ├ 依頼! 風のアルビオンを目指せ! その⑤ ├ 誕生! 空前絶後の女王騎士! ├ 宣言! 追撃の仮面メイジへ ├ 空賊! 使い魔と婚約者の狭間で ├ 結婚! ワルドの真意 ├ 閃光! 四系統最強の『風』 ├ 発現! スタープラチナ・ザ・ワールド!! └ 脱出! アルビオンは風と共に…… ■ 第三章 始祖の祈祷書 ├ 報告! そして微妙に変化した日常へ ├ 発明! コルベールエンジンとタバ茶三号 ├ 発芽! 花開く明日のために ├ 巫女! 空白なる始祖の祈祷書 ├ 故郷! 魂の眠る場所 その① ├ 故郷! 魂の眠る場所 その② ├ 故郷! 魂の眠る場所 その③ ├ 衝撃! その名は『ヨシェナヴェ』 ├ 哀別! 多分これでさよなら ├ 開戦! 破られた不可侵条約 ├ 遺産! 破壊の杖と竜の羽衣 ├ 烈火! 気高く咲け薔薇の戦士よ その① ├ 烈火! 気高く咲け薔薇の戦士よ その② ├ 虚無! 伝説の復活 その① └ 虚無! 伝説の復活 その② 帰還! 魂の還る場所 スターダストファミリアー外伝 喫煙! 煙草王誕生! 念写! じょせふ・じょーすたーきさまみているな! 完成! タバサ特製はしばみ茶ナンバーズ+新商品のご案内 純愛! 大和撫子のお持ち帰りぃ! 統一! はしばみ草愛好会世界制覇への道! 外伝! 真・スターダストは砕けない?(真だが疑問系)
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島原の乱当時の細川家の足軽。原城二の丸で鉄砲に当たり倒れていた若者(天草四郎?)の首を取ったという。 ガラシア祈祷書 阿修羅衆の頭。顔に全く表情がなく、会って一刻もすれば顔の印象を忘れてしまうような男。天草四郎の命を救うという細川忠利からの秘命を受けて活動する。 神変麝香猫 島原の乱で天草四郎を討った豪勇の士で、丸橋忠弥とは同郷同門の旧友。島原の乱での功績から三百石加増され、勇んで出てきた江戸で美しい湯女・お林(実は麝香猫のお林)を見初めて入れあげるが、七夕能の前日にお林に討たれ、無惨に主家の前に首を晒された。
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ドアを開きルイズが部屋に入る。私もそれに続き部屋に入り机の上にデルフと荷物を置き、既に定位置に成りつつある椅子に深々と腰掛ける。それにしても疲れたな。 帽子をとる手間すら面倒臭い。まあ、あのお祭り騒ぎの人混みの中を歩き回ったのだ。当然の結果といえよう。ルイズも見る限り、疲れてベッドの上に寝転んでいる。 まあ、ここまで疲れたのにはそれなりにワケがあるのだが、 「ほんとに疲れたわ。ちょっと歩きすぎたわね」 「……お前が迷うからだろ」 「うっ…………」 そう、道に迷ったのだ。ルイズが、知っているはずの街で、迷ったのである。私はルイズの後ろを追っていたので当然迷った。巻き込まれたと言ってもいい。 しかし、普通知ってる街で迷うか?迷う奴は幼子かボケた老人だけだ。 「し、仕方ないじゃない!その、街なんて細かに場所を覚えるほど行ってないし、人混みが多くて場所が判断しづらかったし、お祭り騒ぎで街の印象も変わってたし……」 「お前が余所見ばかりしていたからだろ?それに、迷ったことを一時間も誤魔化すか?」 「そそ、それは…」 「迷ったなら場所を人に聞けばいいのに、それを頑なに拒んでさらに二時間迷ったな」 「そそそ、それは……、そう!人に聞くなんて逃げたのと同じよ!貴族は困難に正面から立ち向かうものよ!」 「…………」 「…………」 私が黙るとルイズも黙り口を開かなくなる。そして空気に耐えられなくなったのか私から視線を逸らし、傍らに置いてあった祈祷書を開き眺め始めた。やれやれだ。 それにしても、なんともセンスの無い言い訳だったな。センスがあっても所詮言い訳だが。……言い訳にセンスを求めること事態が間違いだな。 「ねえ、ヨシカゲ」 不意にルイズが私に話しかけてくる。口調からして、今思いついた、みたいな感じだ。 「どうした?」 「あんたのボロ剣貸してくれない?」 「……なんだと?」 今こいつは何って言った? 「だから、机に乗せてるそのボロ剣をちょっと貸してほしいのよ」 何を言っているんだこの馬鹿は?デルフがボロ剣だと?どうやらルイズの目は相当な節穴のようだ。ルイズがボロに見えるとは。あの光り輝く刀身を見たこと無いのか!? ……考えてみると見せたことが無いな。見せようとも思わないし。私だけが知っていればいいことだ。だが、デルフをボロと言われるのはあまり気分がいいものではない。 「どうして『デルフリンガー』を貸してほしいんだ?」 「そのボロ剣、アルビオンが攻めてきたときに、わたしに祈祷書のページをめくれって言ったじゃない?それに『イクスプロージョン』のことも知ってたわ。 つまり、それは虚無のことを知ってるってことでしょ?だから、虚無について知ってることを話してもらおうと思って」 こいつ、私がわざわざ『デルフリンガー』と強調して言ったのに、普通にボロ剣って言いやがって…… しかし、ルイズに言われて思い出したが、あのときデルフは何故か祈祷書のことや『イクスプロージョン』のことを知っていた。それは一体どうしてだ? デルフ、『デルフリンガー』。曰く、『ガンダールヴ』の左腕。曰く、一応『伝説』。推測、『ガンダールヴ』が左腕の武器。これが自分が知っているデルフの重要情報だ。 ん?ここまで思い出して、ふと気がつく。『ガンダールヴ』は伝説の『使い魔』だ。始祖ブリミルの使い魔であらゆる武器を使いこなしたらしい。 それで、始祖『ブリミル』は『始祖の祈祷書』に『虚無』のことについて記した張本人だ。そしてブリミル自身『虚無』が使えた。 ここまで思い出すと、あとはすぐにわかる。『デルフリンガー』と『ガンダールヴ』と『ブリミル』、こいつらは同じ時代に存在してた。 『ブリミル』と『ガンダールヴ』は主従関係だったのだから当然一緒にいたはず。 そして『デルフリンガー』は『ガンダールヴ』の武器なのだから『ガンダールヴ』と共にあり、『ブリミル』の近くにいたはずだ。 『ブリミル』は『ガンダールヴ』の前で虚無を使ったことがあるはずで、『デルフリンガー』はそれを直接見ていた。 だからデルフは『虚無』のことを知っているし、祈祷書のことを知っている…… きっとこれは限りなく真実に近いはずの考えだ。そう考えないとデルフが『虚無』や『始祖の祈祷書』について知っているはずがないんだからな。 もし、ルイズにデルフを貸せばルイズはデルフに虚無について確実に聞くだろう。実際に虚無について知っていることを話してもらう、とか言ってるしな。 だが、それは色々まずいんじゃないか?知識は力だ。つまり、ルイズに『虚無』の知識が増えればさらに力が強くなるということだ。 ルイズが強くなれば強くなるほど、いざというときルイズを殺せる可能性が低くなる。それはなんとしてでも避けたい。 「どうしたの?いきなり黙っちゃって」 「いや、なんでもない」 とりあえず、ルイズにデルフを渡さない方法、あるいは渡しても意味が無い方法は無いのだろうか?デルフに直接ルイズに『虚無』のことを話すなといえば早いだろう。 そうすれば渡しても問題ない。きっとデルフは喋らないだろうからな。しかし、ルイズが見ている手前、そんなことを言うわけにはいかない。 ペンダントのときのように爆破するか?論外だ。私がデルフを爆破するなんて、こんな状況じゃありえない。 今この瞬間に、誰かがこの部屋に入ってきてくれればその間に何とかできる自信はあるのだが、このタイミングで都合よく誰かが来るなんてことは期待できない。 クソッ!なにか、なにかいい案は!? 「ヨシカゲ?」 そうだ! 「別に貸しても構わないが喋るかどうか定かじゃないぞ」 「え?どういうこと?」 そう言ってデルフを手に取る。 「どうしてだかアルビオンが攻めてきたあの時以来、殆んど喋らなくなってしまったんだ。最近じゃあ抜いても一言喋るかどうかだ」 これは一種の賭けだ。こうしてデルフに聞こえるように、デルフは最近喋らないということを強調して私が喋らないことを望んでいることを暗に伝えるのだ。 デルフを信頼しているからこそのこの賭け。そしてこれはある意味、私とデルフの絆がどれだけのものか確かめるチャンスでもある。 デルフが私を少しでも理解していれば、しっかりと意図を汲んで喋らないはずで、喋るということは私を少しも理解していないということだ。 ルイズにデルフを渡しながら、心の中で願う。デルフが何も喋りませんようにと。しっかりと私の意図を理解しているようにと。私を理解しているようにと。 そして、ルイズがデルフを喋れる程度に引き抜いた。その刀身にはしっかり錆が浮かんでいる。 「ボロ剣、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」 「…………」 「ちょっと、なんか言いなさいよ」 「…………」 「ねえ、由緒正しい貴族のわたしが、あんたみたいなボロ剣に尋ねてるのよ。なんか言いなさいよ!」 「…………」 この光景を見て、私は安堵した。デルフにはちゃんと私の意図が伝わっていたのだ。そして嬉しかった。 デルフは私のことをどれほどかはわからないが理解してくれているとわかったから。やはりデルフ以上の相棒はいないな。 というより、ボロ剣呼ばわりするルイズに、私の相棒と喋る価値は無い。しかし、喋らないデルフってのはどうしてこう違和感があるのだろうか? 剣は喋らなくて普通なんだがな。 「いい加減喋りなさいよ!喋らないと『虚無』で溶かすわ!誓ってあんたを溶かすわよ!」 ……なんだとー!?デルフを溶かす!?冗談じゃない! 「おい、ルイズ。それは、私の剣だ。勝手に溶かされては困る!それに最近は喋らないとあらかじめ言っておいただろ!」 「喋らないだけで喋れないわけじゃないんでしょ!それってこっちを無視してるってことじゃない!」 「だからと溶かすのか?お前、溶かしたら別の剣買ってくれるのか?もうお小遣いは無いんだろ?それに女王様から言われただろ。みだりに虚無を使うなって」 「う~~~~~!」 まったく、気に入らないから壊すってガキかよ。 とにかく、こういったことが二度とないように、適当にそれっぽいことを言って、ルイズをうまく丸め込まなければならない。 「お前は何になりたいって言ってた?立派な貴族だろ?お前が夢見る立派な貴族はみんな冷静さを欠いているのか?そんなわけ無いだろ」 「…………」 「冷静じゃないと短絡的な行動をしてしまう。短絡的な行動は後悔に繋がる。それぐらい考えればすぐにわかることだろ?」 このセリフ、過去の自分にも言ってやりたいな。そうすればきっとこの世界なんかに来なくて済んだだろう。 「今回のことは、また喋るようになるまで待てばいいだけの話だ。溶かしたら二度と聞く機会が無くなるぞ。それこそ短絡的な行動だと思わないか?」 「……わかったわよ。わたしだって後悔はしたくないわ」 どうやら無事ルイズを丸め込むことに成功したようだ。見る限り、見事に気持ちがクールダウンしている。それを確認してルイズからデルフを取り上げ、再び机の上に置く。 やれやれ、本当に危なかった。せっかくデルフとの絆も確認できたのに、まさか突然のさよならになりそうになるとは。 「あ、そういえばもう夕食の時間じゃない?」 突然普段の調子に戻ったルイズの言葉に窓の外を見てみる。すっかり日が暮れ暗くなっていた。耳には他の生徒が移動するような音も聞こえる。 「そういえばそうだな」 「行きましょ」 「ああ」 丁度いい。食事を終えたらシエスタのところに行って今日のことを謝っておこう。本当は帰ったらすぐに謝る予定だったんだが、予想外に体力を消耗していたからな。 ルイズが立ち上がり部屋から出る。私はそれを見ながら立ち上がり、机の上のデルフを喋れる程度に抜いた。 「これでよかったのか相棒?」 デルフは抜いた瞬間、いつものように喋りだす。そうだよな。これでこそデルフだ。これがデルフにとっての普通だ。 「ああ、上出来だ」 いつもより少し上機嫌なためか、簡単にデルフを労うことができた。自分でも少し驚きだ。 「しっかしよ~。どうしてあんなことしなくちゃいけねえんだ?普通に喋ってもよかねえか?」 「ダメだ。あれは虚無なんていうありえねー力を使う奴だぞ。完璧に化け物だ。 ただでさえ力を持っているのに、知識が増してこれ以上強くなったら殺さないといけないとき殺せないかもしれない」 「…………」 「いいか。これから先、非常時以外ルイズの前で喋るなよ。絶対だからな。それじゃあ私は食事に行ってくる」 デルフを鞘に収め部屋を出る。少し急いだほうがいいかもしれない。ルイズに遅れたことを怪しまれたら少し厄介だからな。 遅れた理由を聞かれたときの言い訳もあらかじめ考えておくか。そう考えながら私は食堂へと向かっていった。 「いやぁ、こんどの『ガンダールヴ』はどうなってんだ?ちっとやばいような……」
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アニメ終了時あまりに原作と設定が変わってしまった為に、 万が一アニメ第二期が作られるとしてもストーリや原作設定、 辻褄合わせが無理なんじゃ無いか…との声を受けて書いた物。 388 名前:ものかき ◆XTitdn3QI6 [sage] 投稿日:2006/09/30(土) 17 01 18 ID enMiiCsj こんなんどーよ? 『ゼロの使い魔』 第2期 序章 新生アルビオンの先遣隊を初戦で見事打ち破ったトリステイン前線軍。 幸先の良い成果を上げて皆は湧き上がるが、脅威が去った訳では無かった。 アルビオンは謎の魔法(虚無)の脅威に一時撤退…戦況は膠着状態に入った。 この期にトリステインは隣国ゲルマニアとの同盟を結び、その戦力をより 強固なものにしていた。 議会では…和平交渉を勧める穏健派と、攻め込むべきと勧める推進派が 真っ向から対立していた。 一方、事実上の指導者を失った新生アルビオンでは新たな指導者争いが… 我こそ指導者にふさわしいと喧々囂々と議論を交わす者達の背後から、 物静かに目深にフードを被った人物が現れた…。 事実上の休戦状態に入ったトリステイン国内は活気を取り戻しつつあった。 予断を許さない状況下ではあるが、アルビオンの先遣隊を一瞬で消し去った 素晴らしい力がトリステインを守護している…と、口々に噂していた。 ルイズと才人は「虚無」の魔法の事については最後まで話さなかったが、 アンリエッタの計らいで…王宮で秘密裏に開発された新兵器。という事で、 一応の収集がついてホッと胸をなでおろした。 コルベールの話によると、次の日食は少なくとも才人の寿命中には訪れない との話で…才人は酷く落胆したが、ルイズ達と数日を過ごす内に… まぁ仕方ないか…と思うようになった。 才人を気遣ってくれる周囲の気持ちが痛いほど伝わったせいでもあるが、 なによりもルイズを守るという使い魔としての役目がある。 こっちの世界にはこっちの世界でやるべき事、出来る事がまだある。 それをやろう!と…。 アンリエッタは心を痛めていた… 先の戦いは、相手から仕掛けられ…仕方なく応戦した戦いだった。 しかしこの先は違う・・・。 指輪を見つめ…愛しそうになでながら…二つの月を見据えた。 429 名前:ものかき ◆XTitdn3QI6 [sage] 投稿日:2006/09/30(土) 21 13 58 ID enMiiCsj 『ゼロの使い魔』第2期 暗躍 トリステインでは指揮を高める意味でも、前国王亡き後…ずっと空位であった 王位の復活を望む声が民衆を中心に広がっていた。 先の最前線での戦果も後押しして、それは王国上層部の意見も同様であった。 アンリエッタを女王とすることにより国をより強固なものにしようというのだ。 即位の礼には巫女が儀礼的に始祖の祈祷書を用いて詔を唱えるのが慣わしで、 その巫女の大役には、アンリエッタの希望によりルイズが選ばれた。 渡された始祖の祈祷書は、何も書かれていない形式的なものであったが… 新生アルビオンは戦況を読みあぐんでいた。不用意に攻めればまたあの謎の 未知の力でやられるだけ…。少なくとも兵を船隊を立て直す時間稼ぎが欲しい。 戦々恐々とする幹部を尻目に、目深にフードを被った謎の人物は事も無げに、 「案ずる事は何も無い」と…静かに左手を挙げ、後ろに控えていた男を指した。 それは紛れも無く…アルビオン王国の皇太子、ウェールズ・テューダーだった。 タバサとキュルケは水の精霊に指輪を返すべく馬車に揺られていた。 ルイズは即位の礼での詔の文句を考えるのに頭を痛めていたし、 才人は「ご主人様の側を離れるなんて許さない」と一喝され付いて来なかった。 途中ですれ違う馬車の中にキュルケは見覚えの有るような顔を見つけたが… それが誰であったか思い出せなかった。 以前に来た時より、すっかり水の引いた湖畔で…静かに精霊に呼びかけ、 水際に指輪を浸すと…精霊は現れた…そして 「似て非なるもの、模した異なるもの」と言ったまま…また消えてしまった。 タバサとキュルケは顔を見合わせるしかなかった。 頭を痛めるルイズが白紙の祈祷書に詔を書き連ねていると… 不思議なことが起こった。なんと文字が浮かび上がったのである。 それを見たデルフリンガーが…口を開いた。 「どうやら、本物を引き当てちまったらしいな」 433 名前:ものかき ◆XTitdn3QI6 [sage] 投稿日:2006/09/30(土) 21 24 48 ID enMiiCsj 430 まぁこれで大体の辻褄あわせは終わったから …もうお終いにする。