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序章1 ◆XYZ.ReoI/2 序章2 ◆XYZ.ReoI/2 序章3 ◆XYZ.ReoI/2 序章4 ◆XYZ.ReoI/2 序章5 ◆XYZ.ReoI/2 決意1 ◆iGPNkGtkB2 決意2 ◆iGPNkGtkB2
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彼は「ご子息へ」と記した短い手紙を書き残して、寝室で自ら腹を切った。手紙には淡々と 彼の葛藤が刻まれていた。 ずっと先からカインの母を愛していたこと。母が父と結ばれてからも、その想いは断ち切れず、 むしろいっそう募るばかりであったこと。そして父がその母をむざむざ死なせてしまったこと。 どれだけ鍛錬を積んでも父を超えることができなかったこと。殺したいほど父を憎んでいたこと。 しかし、心の底では彼への尊敬の念を拭いきれなかったこと。孤独であった自分が、母の面影を 強く残していたカインをどれだけ大切に思っていたかということ。 そして、父が死んだ日のこと。 その日、竜騎士団はバロン南方の山脈に魔物の討伐に出ていた。飛竜達は産卵期を迎えて気が 立っていたため、騎士達だけでの遠征であったが、空を駆ける彼らに山道など物の数でもない。 魔物をたやすく退けながら、彼らは着々と任務を進め、やがて夜を迎えて山中に陣を張った。 最前線に構えた天幕の中で、団長と副長は戦況を話し合っていた。 「兵の状況は?」 「今のところ負傷者はおりません。魔物どもは窪地の周辺に逃げ込んだようです」 「順調だな。この分なら、明日には引き上げられそうだ」 「嬉しそうですね、団長」 「いや、そうでもないさ。家ではおそらく、カインの奴が槍を構えて待っていることだろう。 稽古をせがむつもりでな。まったくあいつと来たら、魔物の相手の方が何十倍も楽だよ」 団長は苦笑しながら肩をすくめてみせる。副長も微笑を返したが、彼の幸福に満ちた愚痴に、 その心中は煮えくり返っていた。 (────なぜ貴方にはカインがいる) (────あのひとを見殺しにしたというのに) (────いつか貴方はカインをも傷つけてしまうんじゃないか)
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ティナが会議の場として利用されている広場に戻ると、 その片隅ではマッシュが黙々と倒立腕立て伏せを行っていた。 マッシュはティナの足音に気づくと、 倒立したまま動きを止めずに言った。 「ティナもやるか?」 マッシュの唐突な誘いに、ティナは慌てて首を振る。 「身体の鍛錬が精神の鍛錬に繋がる、ってのが俺の信条でね」 それだけ言うと、マッシュはまた腕立ての作業に戻る。 切れた息の狭間で数を数えながら、黙々と鍛錬を続けるその姿に、 ティナは声をかけるタイミングを完全に逃がしてしまった。 190センチの巨体が一定のリズムで上下するのをただ眺めていると、 マッシュは体格に似つかわしくない身軽な動きで、 くるりと起き上がった。 マッシュは全身を流れ落ちる汗をタオルで拭いながら、 ティナの目をじっと見つめる。 「俺にはどうするべきかなんてよくわからないけどさ、 昔から兄貴の言う事に間違いはなかった。俺の時の事を思い返してみても、 いつでも俺の事を思ってくれてたしな。 だから、ティナも信頼していいと思うぜ?」 マッシュの言葉に、今自分が考えていた事を見抜かれたようで、 ティナは驚いて目を瞬かせた。
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祈り塔の最上階には数えきれないほどの人が集まっていた。 おそらくは街中の、ひょっとしたらミシディア外からもしれない多くの人物がここに集っていた。 その中にいる誰しもが賑わいもせずに黙り込み、じっくりと祈りをささげている。 魔導士の街の中でも群を抜いた高さである塔からは街全体を見渡せるだけでなく、街の先にある入り江やその先に広がる無限とも 思える海原ものぞくことができる。 バロンへの帰国際にセシルが無事に流れついたのもあの辺りだろうか? 少し苦い思い出と共にじっくりと観察をしているとふとある事に気づく。丁度セシルが漂着したその入り江は二つの部分が突出している。 それはまるで大きく開かれた口のようである。 「竜の口より生まれしもの――」 ふとあの伝説の事がよぎった。セシルは思わずその言葉を口走ってしまった。勿論、回りの人の祈りの集中を見ださぬような小声でだ。 「良く分かっているようだな」 長老がセシルと同じく小声で呟く。そして歩きだし祈りを続ける者達の先頭へと出る。 「皆の者! 祈るのじゃ! 伝説が真の光となる時は、今において他に無い!」 鼓舞するかのような声を上げ長老は再び祈りを始める。 「私達も……」 小さく、だがはっきりとした意志で述べたのはリディアだ。じっくりと瞳を閉じて静かに祈りを始める。 ローザもそれに続く。エッジも普段からは想像できないような様子で大人しく祈っていた。 当然ながらセシルも祈る。その心の中には今祈りの塔にいる誰もが抱える気持ちとは別の者が芽生え始めていた。 (この懐かしい気持ちは――) 言葉にして表現出来たのはそれが最低限であった。 何故なのだろう? セシルは時々今の状況と似たような気持ちにつつまれる時があった。 試練の山の頂上であの声を聞いてパラディンになったあの日もそうであった。 「竜の口より生れしもの……」 自然とあふれる言葉は今のセシル達の希望ちなっている伝説―― 何度も詠唱した事もないのに何故か一文字も間違えることなく口から出てくる。 「天高く舞い上がり……」 祈りの塔の眼下、海原がうねりを上げる。 月へ8
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「久しぶりだな。セシル」 山肌が多数を占めるこの島に飛空挺を止めるのはえらく難儀な事であった。 なんとか平坦な地形を見つけ出し、着艦すると此方に向かってやってくる声が一つ。 その声は着艦の苦労と疲労を打ち消すには充分すぎるものであった。 「カイン」 言葉通り、しばらくであったカインの声はセシルもよく見知ったものであった。 「僕も、久し振りだね」 会話を続けさせつつも、セシルはカインの姿をまじまじと観察した。 友を信用していない訳ではない。だがゴルベーザに操られていた頃のカインの印象は未だセシルの頭には残っていた。 もしかするとカインが正常に戻ったのは幻であったのではないか? ふいにそんな疑問がよぎったのだ。 「何所まで知っている?」 だが、セシルの疑惑の視線を別段気にする様子も無く、カインは言葉を続ける。 「え……?」 冷静な面持ちを維持したままのカインに自分の考えが杞憂であった事を悟る。 「まだ何も知らないようだな」 曖昧な返事のまま沈黙しているとカインから再び口を開いた。 「クリスタルが四つがゴルベーザの手に渡った。それは分かっているな?」 「ああ」 どうやら自分は無駄な事を考えていたようだ。先ほどまでの考えを頭の隅に追いやる。 「これで全てのクリスタルが奴の手に渡ったことになる」 ゴルベーザの目的が何であるかはまだ分からない。だが、奴は血眼になってクリスタルを探してそれを手中に収めようとしていた。 それだけに関していえば奴の目的は成就されてしまった。状況的に見てセシル達は負けているのだ。 「いや、クリスタルは四つしか揃っていない」 会話の流れ上、あまり意味なく呟いた言葉であったが即座に否定されて驚く。 「どういう事?」 「簡単な話だ。クリスタルは四つで全てではない」 続く言葉を待った。 「世の中何事に関しても表と裏、二つの側面が用意されている。そう何事にもだ……それはクリスタルとしても 例外ではない……」 「表と裏……」 セシルも反芻する。 自分にも暗黒騎士という一面があった。そして今の自分であるパラディンという一面がある。 このように人は誰しも今の自分以外の影と呼べる存在を従えている。 その影は自らで否定しようにもする事が出来ないもの。光があれば影もある。それは何事も逆らえぬ摂理とでも言うのだろうか。 「思ったより受け入れがいいようだ……安心したぞ」 静かに思考するセシルを見ての感想であろう。 「ああ。共感できる所が多々あるからね」 「ふ……まあ今はそれだけ分かっていればいい。ここから先は場所を移してから話す事にしよう。俺達だけで話す事は出来ん」 そう言って踵を返す。 「ローザも連れて来い……」 少しどよめきながらカインは言った。 「分かった」
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地面に降りたポロムと、セシルは改めて向かい合った。膝を突き、目の高さを合わせる。 「わたしたち、お役に立てませんか?」 「いいや。 君たちの実力は何度も見せてもらったし……敵の実態が、まるでわかってないからね。 本当のところを言うと、戦力はあればあるほどいいんだ。 でも」 一呼吸おいて、セシルは、彼の考えうる最悪の想像を、包み隠さず打ち明けた。 「僕らが戦う相手が、魔物だけとは限らない。 もしかしたら、兵士でもない女性や老人を、傷つけてしまうかもしれない。 ……もちろん、僕らが全滅する可能性もある」 無論、そんな事態はなんとしても避けたい。それでも、起きた場合を考えることが今は必要だ。 ひとつの言葉が放たれるたび、ポロムは小さくうなずいた。 すべてを語りつくした後、言われたことを噛み締めるようにじっとうつむいて、それからぎゅっと拳を握った。 悩み迷うというより、それは、己の内なる誰かの声に、耳を澄ませているようだった。 だとすれば、彼女を導く声の主は誰だろう。ミシディアの長老だろうか。それともポロム自身だろうか。 あるいは──いつもいつも彼女を振り回し、引きずって、否応無しに行き先を定めてしまう、双子の弟なのだろうか。 「パロムのことは、あいつに決めさせます。 わたしも、おともさせてください」 「……ありがとう」 幼いなりの決意を秘めた姿に、リディアの面影が重なった。波間に消えた、小さな笑顔。 「大丈夫です。長老がおっしゃっていました。 セシルさんがパラディンになれたのは、何か大きな使命を果たすためだろうって。 だから、きっと全部うまくいきます」 気楽にさえ響く言葉は、自らに言い聞かせるためか、セシルの不安を透かし見たか。 力強く頷く彼女は、既にいつものしっかり者の顔をしていた。
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「ええいっ! 皆、落ち着かんかい!!」 脱出するという結論に達したものの、いきなりの襲撃という状況に、この大人数が遭遇したのだ。誰もが冷静になる事など 到底無理な話であった。 ましてや今、この集合場所に待機しているのは飛空艇を動かす為に搭乗員や運送部隊、シドの連れてきた技師達もいるのだ。 普段戦場などの前線に赴かない者達が突然と敵の攻撃の真っただ中に放り込まれたのだ。さぞかし恐ろしい事であろう。 先程までの穏やかな雰囲気とは一転し混乱と悲鳴が交わる場所と化していた。 「お前も落ち着くのじゃ!!!」 シドが近くで震える若者を捕まえて、怒鳴り声を鳴らす。 「ですが……」 その若者は先ほどリディアを泣かせて謝っていた若者であった。良く見ると二つ角のついたドワーフの兜をしているが 目深に見えるその顔はセシルと同じ地上人のものであった。 「それでも儂の弟子を名乗る者か!!」 「すいません……」 どうやらシドが連れてきた技師のようであった。 「船の操縦はお前に任せる出来るか?」 「え?」 叱られて小さくなっていた若者が今度はきょとんとした表情になる。 無理もないだろういきなり飛空挺を任されたのだから。 「どういう意味ですか?」 それはセシルも気になった。何故シド自身が動かさないのか。 「皆っ! 落ち着け!! 落ち着くのだ!!」 考える間もな、いきなり大きな声でガードロボットの方向へと走りだした。 シドの予想外の行動に段々と混乱が静まり返っていく。 「早く飛空挺へと逃げるのだ。ここは……」 その先は聞かなくてもわかった。 「ほれ急がんかい!!」 混乱する周囲を飛空挺へと誘導する当のシド本人もその先の言葉を出すことを拒んでいた。 口に出すのが怖いからだろうか? 最も彼の性分上、人並みの恐怖を感じる事などないように思える。 ならばこう言った方が正しいだろう。 言葉にしてしまえば決死の覚悟が揺らいでしまう―― シドの性格は熟知していた。長い付き合いだから当然だ。一度火がつけば止まらない、誰にも止めることは出来ない。 直接目にしてはいないが自分を追ってバロンを出たローザを助けた時もこうであったのだろう。 「シド……なんでなの? 何故あなたまでが? また私達を助けるために……」 「急ぐか……」 ローザもカインもセシルと同じだ。彼を知っているから止めることが出来ない。だからそれぞれが想いを口にするが、決して シドに向けはしない。 「やめて――!! おじちゃん」 唯一リディアが出来上がりつつある流れを逆流しようとする。しかしそんな少女の響きもシドの意思を揺るがす事は出来なかった。 「よしっ! おじちゃんだ。それでいいぞ! お穣……リディア――」 こんな状況であってもシドは満面の笑顔を絶やす事はなく彼女の名前を呼んだ。 「あの老いぼれにはがつんと一喝してやりたいし、ヤンも一人では寂しいからな、これで心残りといえば……お前達の未来の姿―― 可愛らしい――を拝むことが――ぐらいだ――」 「皆さんっ発進します!!」 シドの言葉の最後の方は良く聞こえなかった。入れ替わりに、ドワーフの兜を被ったシドの弟子の初々しい指令の言葉が聞こえた。 天かける船が空へと発つ。シドの残されたバブイルの発着場は段々と遠ざかりついには視界で確認することも出来なくなった。
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ピー。 「おう、バレットだ! 俺はやったぞ!新しい油田だ!ゆ・で・んー!すげえデカイやつだ! でなあ、帰る目処がついたんで、マリンに会いに行くからな!伝えとけよ!じゃあな!!」 バレットの声はいつ聞いてもうるさい。 が、いつでも力強い声だった。 あいつが荒廃したミッドガルから旅出ったのは、あの戦いが終わってからしばらくのことだったか。 その時も、どこまでも強い声だったな。 バイクに乗りながら携帯から聞こえる声を聞いている時、クラウドはそんなことを呟いた。 もちろん、携帯は簡易留守録モードのままなので、その声にクラウドは応えない。 謎の二人組に襲われてすでに数時間ほどたっていた。時計は見ていないが、おそらく正午ごろだろう。 クラウドはヒーリンに来ていた。 車道の左右には木々が生い茂り、淡い川が静かに流れている。 確かに、ゆっくり暮らすにはこんなところもいいだろうなと、思った。 その時、また電話がかかってきた。ティファからだ。 「レノからまた電話です。とにかく急いでくれだって。 なんだか様子が変だったけど…気をつけてね」 通話が切れる頃には、クラウドは森の中心に一つだけ建てられている建物の前に停車していた。 壁に他でもない神羅カンパニーのロゴがペイントされている。わかりやすい目印だ。 神羅カンパニー。2年前まで世界のほぼ全てを掌握し、 同時に星の生命を削り、世界が荒廃する原因を作った超巨大企業。 現在はその事業を復興支援に絞り、それによって神羅を頼りにしている人間は未だに多いらしい。 ミッドガルを囲むようにして建設されている復興都市エッジは神羅の援助による部分が大半を占めているし、 そのエッジには神羅が建立した記念碑まであるほどだ。 しかし、その神羅が何故今になってこちらと接触しようとするのか解せない。 しかもクラウド達とは2年前には敵対していた関係だったというのに。 だが、なんにせよ、あの謎の襲撃者について、神羅の人間であるレノから聞き出せそうな情報は山ほどありそうだ。 クラウドは頭の中でそう呟き、後腰の皮製の鞘から剣を抜きながら、ドアを開けた。
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(しかし、おかしい) ゴルベーザとの会話の中からセシルには新たな疑問が生じた。正確には以前からもやもやとしていた気持ちが、疑問と言う名の 形に変わっただけなのだが。 (何故、僕に牙を打ち込まない?) (どうして僕だけには……何もしない) 仲間の苦しむ所をじっくりと見届けさせたいのか? 確かにゴルベーザはそう言っていた。 考えれば自分にとってローザが大切な人だと気づいた瞬間にローザをさらった。 しかし、それならば新たな疑問が生じる。 (それならば今度は何故僕にだけそのような仕打ちをする?) 自分が不幸だとか、一方的に相手に嫌われるような人間だとか自虐するつもりは一切ない。 だが今までのゴルベーザのやり方を見ると手段を選ばず、目標のためになら何でも犠牲にする冷酷無比なものであった ダムシアンではクリスタルを奪還した後、国自体を一斉砲撃した。ファブールも抵抗するものに対して容赦なしであり つまるところ敵に対して特別な感情を抱かないやり方なのだ。 だとしたらセシルに対する行いに対してだけは違和感を感じざるを得ない。まるでセシルにだけは何か特別な恨みが あるかのような素振りではないか? ゴルベーザの目的は先の通り、クリスタルを手に入れて月すらも手中に入れるというものだ。そこにセシルに何が関係 するのか? すぐには思いつかなかった。 違和感といえばもう一つの考えがセシルの中でまとまりつつあった。 これは一番目の疑問と似ている。ゾットでゴルベーザは自分に止めをさせる時があったのにしなかった。 更によくよく考えれば、今までの自分に止めをさせる時はあったのではないかと思う。第一、これほどまでに後手に回った セシルが今まで危機に陥らなかったのも偶然ではないかのような気がした。 (ゴルベーザが僕を避けている) 馬鹿げている。自分でもそう思った。だが実際に今自分だけが黒い牙を喰らっていないのだ。 (まさかそんな事は――) あるわけがない。頭ですぐに否定する。 それよりも今はこの状況を打破する事を考えなければ! しかし、一つの考えが纏まらぬうちに別の事を考えても 良い考えが浮かぶ訳がない。 そんな最中であっただろうか。辺りを覆い尽くす黒き波動が薄れたのは―― 罪の在処12
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「それでもやっぱり、心配でね。なかなか寝付けなかったりするの。もし眠れたとしてもね こうやってすぐに目が覚めちゃったりして……」 そこまで言って、彼女はあっと声を潜めた。 「なんだか、愚痴みたいになっちゃたわ……ごめんなさいね」 「いや、むしろ安心したよ。相変わらずみたいでさ。此処に通してももらったばかりの時は 正直、お父さんがいなくなって消沈してんじゃないかと思って……」 「はは、私がそんな性格じゃないってのはあなたも良く知ってるでしょ」 そうなのだ。 彼女――レッシィ・ポレンディーナはシドとその妻から生まれた子供であった。 女性ながらも父親ゆずりの性格は昔ながらのものであり、年下であるセシルも過去、学校時代周囲から 浮き出したセシル自身をとても親身になって接してくれた数少ない人物であった。 彼がここまで気を許している相手はカインとローザに続くであろうか。 そして、シドの妻、つまりは彼女の母親が早くに亡くなってからは、一人でこの家を守ってきた。 「そういえばセシル。あなたはなんでこんなに朝早くに起きてきたの?」 「何か奇妙な夢をみてね……」 その問いにセシルは素直に答えた。自分でも驚くらいにだ。 比較的親しい関係であったシャーロットですら無下に扱ったのだ。 それなのにこの体たらく、そもそもこの家に訪れたのも、彼女を無意識の内に信頼していたのかもしれない。 「どんな夢だったの?」 「ん……えーと……」 問いに返答しようとして気づいた。 自分がその夢の内容をさっぱり忘れてしまっている事に。