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7-255-265アベチヨ 相性占い・アベチヨ 篠岡side---- 教室で友達と雑誌を見ていたら、水谷くんが「何読んでんの?」と寄ってきた。 「占い特集だよ」と友達が答えると、水谷くんは渋い顔をした。 「人間を4つに分類しようなんて乱暴だよなー。俺、血液型占いは信じねーよ」 「あ、私も!」 思わず同意する。血液型を答えると、引かれるのもイヤ。 とはいえ、水谷くんは 「花井はどうみてもAだよな。阿部はBかぁ?」 と、自分がB型なのに墓穴を掘るようなことを言っている。 そこに調度、阿部くんが通りかかった。 「俺はO型だけど?」 「阿部のどこが、お・お・ら・か・なO型ぁー?ねえ、篠岡ホント?」 「俺がOだって言ってるのになんで篠岡に聞くんだよ!」 私はみんなのプロフィールは頭に入ってるので、全部答えられる。 A型から順に言っていくと、 「ああ、どーりで」 阿部くんが1人で納得していた。 「三橋、ABか。合わねーわけだ」 「え?」 「AB型は天敵だ、俺」 私は、自分がどんな顔をしたのか、覚えていない。 その日のおにぎりを配り終わり片付けようとしたその時、阿部くんに呼び止められた。 その後ろには花井くん、水谷くんたち。 「メールじゃダメだからな」 「ちゃんと謝っとけよ」 「うっせー」 答えた阿部くんに泉くんが一言、 「阿部、最悪」 とトドメを刺して通り過ぎて行った。 花井くんたちは「じゃ、先に行ってる」と言い残して立ち去る。 このやりとりで、阿部くんが何を言うのか予想がつく。 謝られても、困るよ……。 申し訳なさそうに阿部くんが言った。 「ワリぃ、その。花井が7組はバラバラだと覚えてて……」 「うん」 A型が花井くん。B型が水谷くん。O型は阿部くん。私は――AB型。 「あんな言い方されたら、なんとも思ってねーヤツから言われたってムカつくよな」 「別にいいよ。そんなの、気にしないで……」 と言いかけてハッとした。 今、なんて言いました?なんとも思ってない?私が? そこは、断固訂正を要求したいよ! なんとも思ってないどころか、阿部くんを前にすると舞い上がってしまうし、 部活を引退したら即、縁が切れそうなほど野球しか共通点なくて 今から心配なくらいだし。 目が泳いでいる私に、阿部くんが首をかしげている。 「篠岡、具合悪いのか?」 「う、ううん!ううん!」 強く首を振りすぎてくらくらした。これじゃ私、怪しくて頭の悪い子だ。 それでも奇跡的に、ずっと気になってたことを思い出した。 「あ、阿部くんは、なんでAB型ダメなの?わ、別れた彼女とか?」 阿部くんは一瞬固まって、怪訝そうに答えた。 「シニアの時組んでた俺様投手がそーだったから、だけど?」 「あ、そ、そうなの」 女の子じゃなくてホッとした。とりあえずその投手、一生恨む。 「タイプは逆なのに、三橋の考えてること理解出来ねーから、やっぱ 相性ワリ……あ、別に篠岡がどーとかじゃなくて」 阿部くんが大真面目な顔で訂正した。 謝ってるんだか喧嘩売ってんだか判らない、そんな大雑把な阿部くんも、私は好きで。 だけど、話す時はいつも部活のことで、2人きりでプライベートな話をする 機会なんてそうはない。というより、記憶にない。 ……もしかして、阿部くんにアピールする絶好のチャンス? 「あ、あの……血液型の相性は悪いけど、阿部くんは射手座で、私は牡羊座で、 同じ火の星座だから星占いはバッチリなんだよっ」 コンビニに並んだ占い特集の雑誌が目について、最初に星座の相性を確認して、 凄く嬉しかったから思わず買ったのだ。 「……そりゃ良かった」 一拍置いて、やっと阿部くんが笑ってくれた。 「……阿部くん、嬉しい?」 「部活とクラスが同じで、相性が最悪だったらストレス溜まる」 「そ、そうだねー」 恋愛体質じゃないのは判ってたけど、これほどまでニブい人だとは思わなかった。 どうして私が調べたのかっていう想像力、働かせよーよ! この人、味覚障害ならぬ、恋愛障害なのかも。 「篠岡、顔色悪いぞ」 「だ、大丈夫……」 本当に相性が悪い気がしてきた。 変な間が出来てしまい、阿部くんは居心地が悪そうに目を逸らした。 「じゃ、引き止めて悪かったな。お疲れ」 「……お先に失礼しますー」 そのまま、阿部くんは背を向けてしまう。 阿部くんの後姿に、思わず私は俯いた。 会話が続けられない自分の頭の悪さに、ため息が漏れそうになったその時。 阿部くんが立ち止まった。目線が私を捕らえる。 「相性、確かめてみっか?」 「確かめるって……?」 この場で出来て、想像することといったら、1つしかないんだけど。 阿部くんって硬派なイメージだったけど、こんなこと言う人なんだ……。 震える両手をぎゅっと握り締め、いつでもどうぞ、と身構える。 きっと顔が真っ赤だと思いつつ目を閉じて固まっていると、 「なにやってんだ?」 不思議そうな阿部くんの声。私は目を開けた。 眉間にシワを寄せて、阿部くんが私を覗き込んでいる。 「……え?」 キ、キスしてくれるのを、待ってるんですけど? 「手ぇ出せ、手」 そう言って阿部くんは私の右手を掴み、ぐっと握った。 「め、瞑想……」 志賀先生の指導でみんなでやるアレだ。1度も隣になったことがないので、 初めての阿部くんの手の感触……なのだけど、そのざらりとした手に触れられていると 考えるだけで、電流が走るように頭の中が痺れた。 自分の勘違いと、触れられている恥ずかしさに、顔が熱くなる。 「……ダメか。全然暖かくなんねーや。マネジだからって、手ぇ抜いてんじゃねーよな」 「ちゃんとやってます!」 これだけ緊張してて、手が暖かくなる訳がない。 阿部くんの手の熱を奪う申し訳なさで胸が痛みつつも、1秒でも長くこうしていたかった。 「そろそろ、戻らねーと」 そう言いながらも、阿部くんは私の手の甲を撫でた。手はそのまま滑り降り、指先に触れる。 「相性とか俺は判らねーけど」 指先をきゅっと握られた。 「野球部のなかった高校に来て、こうして野球やってんだから、篠岡も含めて野球部の連中は 強い縁がある。ま、そうでも思わねーと、三橋と組む自信が揺らぐってのもあるけど」 阿部くんが少し遠い目をして、微笑んだ。きっと、三橋くんのことを考えているに 違いない。 やっぱり、野球に打ち込む阿部くんは素敵で、ますます好きになってしまった。 阿部side---- 適当に言葉を交わして今度こそ分かれた後、俺はそっと振り返った。 顔を赤くしたまま、篠岡はぼーっとその場に突っ立っていた。 篠岡は思ってることが、すぐ表情に出る。 俺がわざと気づかないフリをしているのに、いちいちうろたえて面白かった。 マネジが部員の誰かに興味を持ってもおかしくないが、投手とか4番とか主将とかいう 目立つ部員に行かず、捕手の俺なのは野球おたくのこだわりだろうか? うっかり俺が、「AB型は天敵だ」と言った時の篠岡は引きつっていた。 さすがに篠岡の血液型を知っていたら言わなかったが、結果オーライってことで。 自分の性格や思考は血液型や星座よりも、ポジションの影響が大きいと思う。 相手をじっくり観察して、把握してから攻略したい。 焦って行動したり、特別扱いしない方が、篠岡のようなタイプは落ちるだろうと 俺は読んでいた。 さっきのキスのチャンスは迷った。もちろん、そのつもりで確かめてみるか聞いたが、 誤魔化されると思っていたのに、篠岡は素直に目を閉じた。 俺は見えてないのを良いことに、小さくガッツポーズして、ここは焦らすことにした。 勿体なかったが、機会は今後もあるだろうから後悔しなかった。 意外にも、その機会は早く訪れた。 その日は日曜で部活も休みだったので球場に足を運んだ。 試合自体は期待はずれで、次の打者で最後と考え始めたところで隣のブロックの階段を 上がってくる篠岡が目に入った。 「篠岡ー、帰んのか?」 声をかけると、篠岡がびっくりして立ち止まった。 「阿部くん!」 俺を見つけると、篠岡は嬉しそうにパタパタと人の少ない席を通り抜けてきた。 もし篠岡にアイちゃんのような尻尾があったら光速で振ってるだろう。 「偶然だねー。来てたなんて思わなかった」 「本当はコレに勝った後のカードが見たかったけど、モモカンが観戦を 予定に組んでるか判んなかったから」 「せっかく来たのに、エース温存で残念だね」 普通の女なら、笑う時はニコリとかいう表現だが、篠岡の場合へらっと笑う。 喋る時も大口を開ける。 その口を塞いで、大人しくさせたい願望が疼いた。 篠岡の私服は学校でも見ているが、今日はアクセサリーや踵のある靴が目を引いた。 駅から遠く昇り降りの多い野球場の観戦には、そぐわない気がする。 「帰るトコだったんだろ」 「阿部くんは見て行くの?」 「……一応、9回までは」 ついさっきまで帰る気だったがそう答えた。 もし篠岡に予定があるなら球場を出るだろうし、なければ残るだろう。 案の定、「じゃあ、私も最後まで見ようかな」と言って、篠岡は俺の隣に座った。 「約束とか、あんじゃねーの?」 「ないよ。買い物しようかなって思った程度」 「買い物か……。そーいや、コールドスプレー切れそうだったな。大会始まると 買いに行く時間もねぇし」 コレ終ったら買って帰るかと考えていると、 「あの、あの」 篠岡が両手を握り締めてキョドっていた。 「は?」 「部活の買い物なら、一緒に……」 ああ、その手があったか。 俺は野球くらいしか物欲がないから、部活の備品とは考えずに口にしたのだ。 「自分で買っとくからいーよ」 そう返事すると、篠岡は監督のバイト代を使うからには、同じ品物なら1円でも 安く買いたいから知ってる店で、と言う。耳まで赤くして、本当に判りやすい。 「じゃ、俺も行く」 「い、良いの?」 良いも何も、そのつもりで言ったんだろと苦笑する。 「どーせ暇だし」 じゃあ、せっかくだからいっぱい買っちゃおうと篠岡が嬉しそうに笑った。 締まりのない口元に目が行く。今日中にどうにか出来るか? 試合が終わると、篠岡に言われるままディスカウント店に着いて行き、消耗品を買った。 モノによってはネットの方が安いとか、数を買うならこっちだとか、 マネジとしての篠岡の有能さを再確認する。 荷物はさほど重くはないが、通学時の自転車で運ぶには面倒な嵩になった。 突然、篠岡が口を開いた。 「阿部くん、お腹空いてない?」 「空いてる」 「駅からちょっと歩くけど、良い?」 篠岡が、行きたい店があるらしい。 「渋谷のお店の支店で、すっごく内装も食器もカトラリーも可愛いの」 カトラリーって食えんのか? 個人的には可愛いモノには興味ないし、近い方が嬉しい。 水谷とか花井なら上手く合わせることが出来るんだろうが、俺は理解したいとも思わない。 そういう店は女同士で行けば良いのにと思ったが、篠岡の言うとおりにした。 メルヘンチックな内装と小物、口にするのも恥ずかしいメニュー、圧倒的に女の多い店内。 俺は自他共に認める、場違いな客だった。 スープやサラダが一品ずつ出てきて「全部並べて食わせろ」という言葉が喉まで出かかる。 「阿部くん、迷惑だった?」 渋い顔をする俺に、篠岡は心配そうに尋ねた。 「部活の買い物に迷惑もなにもねーだろ。ま、俺にはこの店の良さは判らねーけど」 「そうなんだけど……。あの、こういうお店知ってると、デートの時に女の子が喜ぶと思うよ?」 探りを入れてきたな、と思った。受け流しておく。 「面倒くさい名前の注文しなきゃなんねーから、いーよ」 「……阿部くん、彼女いるの?」 何気なく聞いたつもりらしいが、篠岡の顔がこわばっているので思わず吹きそうになった。 「は?いたら、1人で野球場に居ねーよ」 「あはは、そうだねぇ。お互い、1人身は辛いねー」 「花井はよく、篠岡に彼氏がいるか聞かれるって言ってたけど?」 「えぇ?」 「告白する前に、マネジを取って良いか主将の花井か学校役員のシガポに確認してくるって」 シガポは「若いんだから当たって砕けるのも良いと思うよ!」と無責任にそそのかし、 花井は「篠岡の自由だから応援も反対もしねーけど」と返事する。 「けど」の後の飲み込んだ言葉は当然、「告白しても無駄だと思う」だ。 篠岡が誰かと付き合っているという噂は聞かないし、相変わらず野球おたくだ。 「私は……」 篠岡が言いかけた時、料理が運ばれてきて、店員が長ったらしい料理の名前を言った。 そんなものはとっくに忘れているし、自分の注文したモノと料理が結びつかない。 篠岡が俺を差して皿が置かれ、もう一方の料理は篠岡の方に置かれた。 「そーいや、9組の連中は『うまそう』やってるらしいぞ」 「阿部くん、ここではやらないでね」 「さっきから食ってるし、こんなとこでメシに集中出来るかっての」 テーブルの小さい花瓶に刺さった花とか、おもちゃみたいなスパイスの瓶とか、 ヒラヒラのクロスとかを顎で示す。具合が悪くなりそうだ。 俺は、細長いパンや香草や、複雑なソースのありがたみは判らない。 ナイフとフォークより箸、質より量、野菜より肉を! とにかく、さっさと食ってこんな居心地の悪い場所は出ようと決めていた。 が、途中で考えが変わることになった。篠岡の野球の話が面白かったからだ。 ある高校の監督同士が元チームメイトだからチーム作りが似ているとか、 元女子校でもないのに何故あの高校の横断幕はピンクなのかとか、 お約束の応援が意味不明だとか、篠岡はいろんなことをハイテンションで喋る。 殆どがプレーに関係ない雑学だったが、その下らなさが新鮮だった。 野球に関してはうるさいつもりの俺は、時々口を挟むだけで聞いていた。 料理の皿が下げられ、紅茶を飲んでいる時だった。 個別のポットに胸糞悪いカバーがかけられ、俺は篠岡が「このお店は絶対 コーヒーじゃなくて紅茶!」と言い切った意味が判り後悔していた。 篠岡は一通り喋り倒した後、 「他の子と話をすると途中で話題変えられちゃうのに、阿部くんは……」 そこまで言って、ため息をついた。ぐったりして、肩で息をしている。 「どうした?」 「喋りすぎて、あごが痛い……」 馬鹿がいる。愛おしくて抱きしめたくなる程の野球馬鹿が。 もう、この頃には俺も麻痺してどうでも良くなっていて、この珍しい生き物に 雄鶏のカバーを取り去った自分のポットを差し向けた。 「まあ、飲んで落ち着け」 「阿部くん、紅茶ダメだった?」 「どっちかっつーと、なんか食いてーかも」 「じゃあケーキ食べない?阿部くんはこの後の予定……」 「買ったもの、学校に運んどきたい」 この勿体ぶった空間の割には、値段が手ごろなのでケーキを食うのは良しとする。 まあ出費は痛いが、それ以上にこの時間は心地良かったし。 が、その前の手続きを考えると憂鬱だ。苦々しく思いながらメニューに目をやると、 篠岡がそれを取り上げた。 「注文は、阿部くんの分も私がやるから大丈夫」 「え」 「だから、また一緒に来てくれる?」 篠岡がへらっと笑った。 部室に荷物を運び込び、一息ついた。 当然ながら、休日の部室には俺と篠岡以外は誰もいない。 「せっかくだから、掃除して行こうかな」 部屋を見回して、篠岡が言った。 俺は無言で篠岡に近寄り、ロッカーに押し付けた。 そのまま、服の上から胸を擦り、唇を奪い、急かすようにスカートの下に手を潜らせる。 肩のあたりを、無駄な抵抗をする篠岡の手にバタバタと叩かれたが、嫌がって いないのは判っていた。 下着の上からそっと割れ目を撫でると、ぴくんと篠岡が反応した。 呼吸が深くなるのを隠すように、慌てて俺の手首を掴む。 「あ、阿部くんっ」 「なに今更」 「……い、引退まで、待って」 「なんで?」 「マネジだから、やっぱりダメ……」 さんざん俺を好きだとアピールしておいて、随分勝手だ。 もし篠岡が俺と付き合って、崩れるチームならその程度の関係だと思う。 そんなメンタルの弱い連中のチームが甲子園なんて、とてもじゃないが無理だ。 「その約束、出来ねーよ」 「え?」 「『負けたら篠岡と付き合える』と思ったら、楽な方に逃げる」 正確には「篠岡とやれる」だけど、さすがに自重した。 そんなつもりはなくても炎天下の連日連戦で疲労が溜まり、ある程度の結果が残せていれば、 キツイ場面で配球の組み立てを放棄したくなるかもしれない。 篠岡はみるみるうろたえて、泣きそうになってしまった。 その顎に手をかけて、キスをした。ロッカーに押さえつけるようにして逃がさない。 わざと音を立てて唇を吸う。いつも口角の上がった口が、とまどって引き締められている。 熱っぽい呼吸と、そのギリギリの表情がたまらなかった。 「相性、確かめさせて」 俺は耳元で囁いた。 えっ、と篠岡が口ごもった。恥ずかしそうに顔を赤らめる。 「だ、だめ……」 「触るだけ」 俺の言葉に大きな瞳が見開かれて、恐る恐る俺を見上げた。 篠岡は押しに弱い。 まして、俺の言葉には逆らわないだろうという計算があった。 わざとすがるように目を覗き込むと、篠岡は小さく頷いた。 長い躊躇はあったが、脱がしてしまえば覚悟が出来たのか、後は簡単だった。 俺は篠岡のキャミソールをたくし上げ、胸の谷間に顔を埋める。 額にネックレス当たった。たった半日のためにマニキュアまでして、 1人で野球場に来るのが女という生き物なんだろうか? 「本当に今日、予定なかったのか?」 「……ないけど、阿部くんに会えないかなってちょっと期待してた」 えへへ、と篠岡は笑う。その唇を見ると、思わず塞ぎたくなってその通りにした。 ブラの中に手を差し入れ、片方の突起をぴちゅ、と口に含むと篠岡が小さく悲鳴を上げた。 「触るだけって…」 「篠岡……美味しい」 俺はその小ぶりな胸を包み込んで、軽く歯を立てる。 変な名前の料理より篠岡の方が美味い。デザートなら、甘くて良い匂いがする篠岡の方が良い。 滑らかな太ももに手を伸ばし、ショーツに手をかけると、篠岡が息を呑んだ。 「あ、阿部く……えっ?」 あぁ、と声が上がり、篠岡の身体が跳ねた。布越しではなく、中に指を潜らせたから。 異物の侵入に、篠岡がパニックを起こした。 「や、阿部く、やだ、……ぁあっ」 逃げないように篠岡の華奢な身体を自分の身体でぐっと床に押さえつける。 蜜がぬめるそこを、優しくかき回した。 「篠岡、自分でやんねーの?」 「んぁ……は、ぁ」 「ここ触るの、俺が初めて?」 ぐにゅりと熱くうねる篠岡の奥深くに、挿れたい欲望が膨れ上がる。 少し乱暴に動かすと、俺の指に反応して、はあ、と熱っぽい息を吐いた。 くっと篠岡の震える指が、俺のシャツをつかんだ。 「……ここか?」 篠岡は、俺の下で顔を背けて「い・や」とかすかな声で抵抗する。 言葉とは反対に、色っぽくて嬉しそうなため息にゾクゾクした。 潤んだ瞳が俺を見る。ここまできたら、篠岡が拒否する訳がない。 自分のベルトに手を掛けると、篠岡の身体に緊張が走った。 いちいち返事を強制する方が、恥をかかせる。 篠岡が目を閉じて唇を噛むのを肯定の意味だと確信して、俺はほくそ笑んだ。 「ご、めんな、さい」 ここで、またも囁くような声。 「……嫌か?」 篠岡はううん、と首を振った。 「私、我慢出来なくて……悪いマネジでごめんね」 一瞬怯んでしまった。 ずっと「高校野球のお兄さん」に憧れていた、理解し難い少女趣味な店が好きな篠岡。 篠岡を打算でたぶらかす自分が、凄く間違った人間に思えた。 そんな俺の葛藤をよそに、辛そうに篠岡が笑う。 篠岡は悪くないのに。今止めれば引き返せるか。恋愛に駆け引きは普通だろ。 捕手の職業病とでもいうべきか、余計なことが頭の中に思い浮かんだ。 が、手は着々とベルトとボタンを外し、「行っとけ!」と叫ぶ本能に従ってしまう。 何より、篠岡の予想を上回る感度の良さに、俺は興奮していた。 今日一緒に過ごして、篠岡と趣味は合わなくともプラトニックでも良い戦友になれると思った。 でもだからこそ、見てるだけで満足したくない。 不安そうな篠岡に、笑いかけた。どれだけ効果があるのかは判らない。 俺が触るだけで、篠岡の身体に電気が走る。元々、感じやすい体質なのかもしれない。 足を押し広げてクリトリスを吸い出して、舌を転がす。 少しずつ篠岡の身体が熱を帯び、俺はさらに奥深く舌を侵入させた。 ガクガクと痙攣しながら、あえぐ可愛い声。 蜜が溢れる。 とうとう我慢出来なくなって、ジッパーを下ろすと、秘裂にペニスを押し当てた。 確認すると一気に奥まで突く。 うくぅ……ぃった……あぁ……キツ……。 助けを求めるかのような、篠岡の弱く鋭い喘ぎも、途中から耳に入らなくなった。 呼吸を合わせたり、痛がる篠岡を気遣ったりする余裕もなく、俺は篠岡の上で荒い息を吐き続ける。 放出した瞬間、恍惚に包まれて、頭の中が真っ白になった。 押し寄せる泥沼のような疲労感に全身がぐったりして、そのまま篠岡に覆いかぶさって、 ただ自分と篠岡の鼓動を体中で感じていた。 小さくて柔らかい篠岡の体温と脈を感じて、気持ち良くて幸せな気持ちになる。 ようやく息がおさまると、俺は上体を浮かせて膝をついた。 ペニスを引き抜いて、一息つく。 「ごめん」 他に言葉が見つからない。 ぐったりとした篠岡のわき腹を撫で、耳朶にキスをした。 余韻に浸っていたらしい篠岡が、ゆっくりと俺の首に腕を回す。 「見てるだけで、良かったのに。……夢みたい」 篠岡の澄んだ目から涙がこぼれ落ちた。心の底から、可愛いと思った。 「緊張してよく判らなかったけど、今は幸せな気持ち」 篠岡も、同じことを感じていたんだ、と判って嬉しさがこみ上げて来た。照れくささもあり、 「俺は……けっこー疲れたな」 すぐ回復するとはいえ、これ程だるさが付きまとうとは思わなかった。 「……そんな感想……」 篠岡はしばらく絶句していたが、ふふっと笑った。いつもの、口を開ける笑い方とどこか違う。 「なに?」 首を振るばかりで言わないのでせっつくと、「友達から聞いた」と言い訳をしてから、 「男の人が、1回する時のエネルギー量って、100メートル全力疾走と同じくらいだって。 阿部くん、走りこみ足りないのかな?」 あれだけ部活で走ってんのに、そんな訳あるか。だいたい篠岡が俺をからかうなんて100万年早い。 篠岡が余計な提案をして、これ以上モモカンに走るメニューを増やされるのも困るな、と思った。 「じゃあ、走りこみの代わりに、協力して?」 俺は篠岡の首筋に唇を這わせる。 「……相性、1回だけじゃ判んねーし」 「ふぇ?」 「何回出来っかな?……現役高校球児ナメんなよ」 さっきから舐めてるのは阿部くんなのに、と訳の判らない理由で篠岡は拒絶しようとする。 「もう、今日は嫌。それに、他の人と瞑想やる時と、阿部くんと手を繋ぐ時は 全然違うから、相性は良いと思うんだけど……」 「へえ」 触れただけで、篠岡を気持ち良くさせられるのは、俺だけなんだ。 誇らしさに思わずニヤリと笑みが漏れてしまい、慌てて言い返す。 「どーだか。篠岡はAB型だから」 「そんなぁ」 篠岡の反応は期待通りで、つい意地悪したくなる。篠岡で遊ぶのは面白い。 篠岡side---- 阿部くんが立ち上がる気配があった。 しばらくして、ロッカーからタオルを出して「使って」と手渡してくれた。 そうして、部室にある椅子に背を向けて座る。見ないでくれるのは、すごく嬉しい。 いつもはガサツだけど、そういうところが素敵、としみじみしながら身支度を整えていると、 「あー腹減った。帰るか!」 「……え?」 コンビニ寄ろーぜとか言い出す阿部くんに、耳を疑ってしまう。 私はもっと、時間が許す限り今日は一緒にいたい。今日は記念日なんだよ? 私のミーハーな野球の話を、呆れたりちゃかしたりせずに聞いてくれた阿部くん。 話が合いそうとは思ってたけど、阿部くんを独占している自分が信じられなくて、 きっと今日のことはずっと、1人になった時に思い出して悲鳴を上げると思う。 でも時々、阿部くんは私の内面を見透かしているように感じてしまう。 私の困る顔を見て、楽しんでるとしか思えないんだけど……。 「良いキャッチャーは性格が悪いって、本当だね」 精一杯の皮肉のつもりだったのに、阿部くんは平然と、 「逆。捕手やってるうちに『イイ性格』になんだよ」 阿部くん。捕手なら投手をその気にさせるのもお仕事ですよ! 「疲れた」とか「腹減った」とかじゃなくて、女の子を喜ばせる言葉をくれても、 バチは当たらないと思うんだけど? 少し悔しくなった私は、あることを思い出した。 「もし占いの相性が同じなら、別のポジションだと違うのかな」 「同じ相性?」 そう。射手座のO型は、西浦高校野球部に、もう1人いる。 「泉くん。星座と血液型、阿部くんと同じだよ」 1番だから足速いしね、などと付け加える。足の速さは関係ない気がするけど。 いつもは余裕の表情の阿部くんが、珍しく青ざめて引いていた。 「他の男の話する神経、信じらんねぇ!……俺、AB型と理解し合えない運命かよ」 「違うよ。マネジだからだよ」 マネジだから、みんなのこと知ってるの。星座も血液型も関係ない。 衣服の乱れを直しサンダルのつま先をトントン鳴らす私に、阿部くんが近づいてきて 抱きしめられた。 「こーしてて良い?」 「阿部くんは嘘つくもん」 マネジの私は、阿部くんだけ贔屓出来ない。2人の時くらい……って判ってるのに、恥ずかしいから 腰からスカートに下りて来た阿部くんの手を捕まえる。 「なんか、篠岡は判んねー……」 そう呟いた阿部くんの手は冷たくて、今までと違って余裕がないような気がした。 終わりです。
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7-595-607 タジチヨ(続々相性占い)ドーパミン氏 台風の夜(タジチヨ) ――side阿部―― 最近、田島が「捕手会談」と称して俺を呼び出しては泣きついてくる。 知るか。一生お預けくらってろ、と思う。 最初田島は、 「しのーかにキスしたらぶっ飛ばされた」 と、しょげていた。それも翌日の朝練までで、むしろ充電時間だったのかもしれない。 すぐに持ち直して、篠岡にちょっかい出していた。……まあそれはいつものことか。 それにしても、ここまでバカだとは思わなかった。 俺と篠岡は短期間ながらも付き合っていた。篠岡は、すぐ別の男に乗り換えられる女じゃねーと 忠告しといたのに、速攻で篠岡に言い寄りやがって。 初めて付き合う女だったから、篠岡には思い入れがかなりある。篠岡は田島を選んだのに、 遊びの誘いすら断るのは、まだ自分に気があるからだという期待もあった。 が、「3年間は三橋を最優先」と決めている俺には篠岡に甘えさせる余裕はなく、もし寄りを 戻すにしても同じ過ちを繰り返すのが目に見えていた。 篠岡は、俺の時はぶっ飛ばすどころか、最初からほぼ言いなりだった。 ここまで来ると、篠岡はわざとやってんだろう。田島が不憫過ぎて笑える。 「しのーか~~」 ジャングルジムの上で、田島がだらだらしている。まったくうっとおしい。 一応田島に、「俺に篠岡のこと話すのがどんだけ残酷か判ってんのか?」と聞いたことがある。 田島の返事は、 「だって阿部、本命はしのーかじゃねーだろ?」 対抗も大穴もあるか。どーも聞いてると、俺が以前告白した(ことになってる)女を、ずっと 引きずっていると勘違いしているらしい。いる訳ねーのに。 もっとも、告った相手が三橋だなんて口が裂けても言わねーけど。 「田島の方が、手ェ早いと思ってた」 優越感よりも、純粋な疑問だった。狙った場所に打ち返す器用さがあり、打席に立てば 鬼みたいに集中する田島が、篠岡にここまで苦戦しているのは意外だった。 あんまり考えたくねーけど、俺より上手く篠岡を喜ばせるんじゃねーかと思ったり。 なんせ、篠岡と同じAB型の三橋と、バッテリーを組む俺よりも会話が成立するし懐かれてるし。 もし田島の後だったら、篠岡と付き合うのは……かなり勇気が要ると思う。 「……イロイロ、あんだよ。俺は阿部とは違うからさ」 田島は1人、情けない顔をして唸っていた。 あいかわらず、田島は俺が野球しか認めてないよーに感じてるみたいだ。 泉の話では、篠岡が他の女と一緒でも、田島は篠岡しか見てないらしい。 あれだけ目が良い、下ネタ野郎の田島が。かなり本気なんだと思う。 「オナニーのしすぎとか、過激なAVに慣れると、いざって時にダメらしーぞ」 「うぉ、ソレマジか?あ、でも俺の場合はさぁ――」 「テメーのオカズなんか知るか!」 いつ来るか判らないその日のために控えとけ、とアドバイスしたのは意地悪ではない。 でも、俺に報告に来るその日は、出来るだけ遠い日が良いと思った。 ――side田島―― 台風が来る。シャレにならないんで、部活は途中から中止になった。 早目に自転車で帰るか、止まる前に電車で帰るかをみんなが相談してる。 家族が車で迎えに来るとか、ついでに送って貰うヤツは自然に9組の教室に集まった。 予報では台風は夜には通過することになっていて、「それまで学校で遊んでよーぜ」と言ったら、 阿部に「オメーはどーせ近所だからだろ」と怒られた。 じーちゃんの畑も気になるけど、それよりも明日はしのーかと遊びに行く約束をしていたから、 もし今日の代わりにミーティングを止めて練習になったらと思うと心配だった。 まあ、しのーかが俺の誘いにやっと、「うん」って言ってくれただけでもラッキーか? いっぱい一緒にいたいけど、しのーかを拘束出来ないから、あまり遠くまで行けねーし。 台風の後は川がにごるからそっちはパスだな、でも、そういう方がしのーか面白がるかな、とか 既に明日のことで頭がぐるぐるしていた。 「田島は残んのか?すぐ近くだろ。なんなら乗せてって、途中で下ろすけど?」 家の人を待っていた花井が声をかけてきた。 「わざとだよ。台風ってワクワクしねぇ?みんな集まってんのに帰るなんてヤだよ!」 「テスト近いし、三橋と田島は勉強したらどーよ?」 阿部が余計なことを言い出した。勉強なんか今からやったって、テストまで覚えてないって! そこに水谷が、 「西広は俺らと一緒だから、もうすぐ迎え来るよー」 「そーかぁ!残念だなっ!」 「でも、田島がやる気あるなら俺、残ろうか?遅くには止むんだよね?」 「え?イヤイヤイヤっ」 勉強する気になってる西広と、拒否したい必死な俺の顔を三橋が見比べてキョロキョロしていた。 「三橋は、帰るだろ?」 「ウ、ヒ?」 三橋と一緒の方が効率いーよ、とムリヤリ理由を作って西広には諦めさせた。ゴメン三橋。 だらだらと無駄話をしてるうちに女の話になって、「恋愛は男はフォルダ保存、女は上書き保存」 と泉が言い出した。テレビで芸人が言ってたらしい。 しのーかはそうじゃないんだよなぁ。がっちりプロテクトして消去不可だもん、と阿部をチラ見する。 調度ケータイが鳴って、阿部が立ち上がった。弟のついでに拾って貰うらしい。 しばらくすると、他の残ってた連中にもそれぞれ迎えに来て帰っていった。 窓の外は大きな音を立てて、雨と風でかき回されている。 練習出来ないのはイヤだけど、台風は好きだ! 傘なんか差さない。思いっきり濡れて帰って、服はそのまま洗濯機に直行。台風バンザイ! 廊下に出たところで、見るはずの無いモノを見た。しのーかだった。 モモカンに送って貰うとかで、最初に帰ったと思ってたのに。 「しのーかー!なんでいんのー?」 嬉しくなって、叫んでいた。 ラッキー。また、しのーかの顔が見れた! だけど、しのーかは飛び上がりそうになって、恐る恐る俺を振り返った。 「田島くん。あ、明日のミーティング用にデータ集計やってたの……」 「ふーん?帰んのか?今、雨凄いぞ。俺は濡れて帰る気だからいーけど」 「う、うん……」 「ウチ来るにしても、濡れちゃうだろーし。な、一緒に、通過すんの待たねぇ? 明日ドコ行くか相談したかったし」 しのーかがびくりとした。迷惑だったみたいだ。 泣いたらしのーかがもっと困るから、俺は頑張って笑う。 「あ……。しのーかがイヤなら、もー誘わねーから」 しのーかを1人で残すのは心配だったけど、俺と一緒にいるよりはマシだと思う。 あと何時間かすれば、雨は小降りになるし。 「じゃー、俺帰る」って言って、踏み出そうとした俺の腕を、しのーかが掴んだ。 「田島くん、帰らないで」 しのーかが震えていた。 女の子だから、台風の中に1人で暗い校舎にいるのは恐いんだ、と思った。 「いーよ。ゴメンな。阿部じゃなくて」 「そんなことないよ。それに阿部くんは帰ったし」 なにげなく、しのーかが答えた。 途中で阿部の姿が消えたの、家族が来たからじゃなくて、そーいうことだったんだ。 がっくりした俺を見て、なぜかしのーかが慌てた。 「わ、私が7組にいて、阿部くんは忘れ物取りに寄って。ちょっと話しただけ」 「別に俺、気にしねーよ」 しのーかの隣が辛くて、廊下の窓に寄って外の雨を確認した。 まだ強い。ホントに止むのかな。 今、外に出たらムシャクシャした気持ちも吹き飛ばされてスッキリしそうだった。 「電話、しようと思ってたの」 「阿部に?俺、どっか消えてよーか?」 「田島くんにだよ」 思わずしのーかに振り向いた。しのーかは緊張気味に続けた。 「もうお家に帰ったと思ってて。一応、下駄箱を確認しに行く所だったの」 「俺に話って、なに?」 しのーかは黙ってしまった。雨音が強くなる。 しばらくして、雨音にかき消えそうなしのーかの声がした。 「阿部くん、に、『一緒に台風が通り過ぎるのを待とうか』って、言われて……」 なんだ。もうしのーかとは何でもないって言ってたけど、阿部もフォルダ保存かぁ。 聞きたくなかった。けど、しのーかが話したいと思ってるから、我慢して俺は頷く。 「『家族の迎えを断れば、夜まで一緒にいられるけど』って。でも、私が一緒にいたいのは 田島くんだったから」 「えぇ?」 俺?阿部じゃなくて? 「教室で作業してて、田島くんはきっと台風でも私が『会いたい』って言ったら、来てくれるん だろうなって思いついて、1人で笑ってたの。田島くんだと、私はお母さんか保母さんみたいに 我慢するんだと思ってたけど、甘えてるのは私の方だって……やっと、気づいて」 「そりゃぁ行くよ?近いからそう思ったんだろーけど、遠くてもしのーかが言うなら俺行く!」 「田島くんが風邪引いたら困るでしょ。『今、声が聞きたいって思うのは田島くんなんだよ』って 言ったら、阿部くん判ってくれた」 しのーかは、阿部にちゃんと言ったんだ。あれだけ好きで、もしかしたら忘れられないかも しれないって言ってたのに。 しのーかは顔を赤らめながら続ける。 「阿部くん、『アイツなんでとっとと襲わねーんだろ』って田島くんのこと不思議がってたよ。 『そーいう場合はチンコ蹴って逃げろって、田島くんに教えて貰った』って答えたら、阿部くん、 『既にオメー、田島に感化されてんな』って呆れてた」 「はあぁー?」 たしかに言ったけど、なにも阿部に言わなくたって! それじゃ俺、いつも下ネタ言ってるバカみたいじゃん。 あ。言ってるから、自分が蹴られそうで、我慢してたんだっけ。 俺はしのーかが好きだから、甘えてくれるなら嬉しいけど。甘えられてたのかな。 判ったよーな判らないよーな顔の俺を見て、しのーかがクスリと笑った。 「こんなんでいーなら、いつでも甘えていーからなっ」 「うん。でも、田島くん、私で良いの?」 暴れたくなってきた。俺が悪いの?何百回言ったか、覚えてないくらい好きだって言ったのに。 「怒るぞ。俺、ずっとしのーかを待つって言ってたのに」 「だって、イヤじゃないの?私、今まで……」 しのーかが言いかけて止めた、その表情で意味が判った。 「……あ、そーか。俺、阿部と比べられるんだ!」 「く、比べるなんてそんなっ」 しのーかは真っ赤になって否定する。手をバタバタさせて、 「考えないようにするから」 「うん!俺も負けないよーにがんばっからな!」 ニカッと笑って言うと、「がんばるって……」としのーかが苦笑いした。 「ちゃんと気持ちの整理ついたの。待たせてゴメンね。……好きにして、良いから」 恥ずかしそうに、囁くような声。俺は嬉しすぎて泣きそうだった。 えーと、どうしよう。教室でもいーけど、出来れば……。 「場所、変えよーぜ」 「え?い、今から?」 「好きにしていーんだろ?」 ――side篠岡―― 田島くんに連れて行かれたのは、先生が帰って無人の保健室だった。なんで? 鍵が掛かってて入れないと思ってたら、ドアから少し離れた上の小窓に田島くんが飛びついて、 スライドさせて開けてしまった。 「ラッキー、締め忘れ」 「……薬品あるのに、物騒だね……」 器用に田島くんが乗り越えて、向こう側に消える。運動神経の良さに改めて感心してしまう。 さっきの田島くんの目。キラキラでおもちゃを目の前にした子供みたいだった。 早くても、明日かと思ってたのに。何をされるんだろう?とちょっと不安になったけど、 初めてじゃないし。多分、大丈夫……と思う。 ロックを外す音がして、ドアが開いた。 中に足を踏み入れると、あのギョロリとした田島くんの目が、私を捕らえていた。 田島くんは鍵をかけると、私の手を引いてベッドに連れて行った。 外はうす暗くて、電気をつける訳にもいかないから、目が慣れるまで手探りになった。 「私が寒そうだったから、保健室に?」 思わず聞いていた。あれだけ待たせた上に気を使わせてしまって、申し訳なくなる。 「うんにゃ、俺のシュミ!」 「シュミ?」 ベッドの上に座らせられて、興奮気味の田島くんが私の胸のリボンをほどき始めた。 自分でやる、と言うのを無視して、ブラウスのボタンも外される。 そのまま押し倒されそうになったので、慌てて靴を脱がせて貰ってベッドに横になった。 田島くんは馬乗りになると、手早く自分で服を脱ぎ始めた。ちょっと鼻息が荒い。 私のブラを取り上げてしまうと、田島くんの目が輝いた。ペロリと舌が上唇をなぞる。 ロコツな下心は苦手だけど、田島くんは自然すぎて、私もつられて笑顔になる。 「田島くん、初めて?」 「うん!キス以上に進もうとすると『怖い』って女の子に泣かれてちゃってさぁ。 俺がスケベだって知ってても、オスな俺はイヤだって」 もし、阿部くんと付き合ってなかったら、私もそうだったかも。明るくて面白い田島くんと、 これからすることを考えると変な気分。今までもあまり想像出来なかったし。 田島くんは両手ですくったり指で胸をプニっと押したり、揉んでみたりに熱中して、 まるで実験をするように私の反応を見ていた。くすぐったくて一緒に笑った。 突起をカプっと咥えられ、ため息が出てしまう。私は田島くんの頭を撫でて、両手を背中に回した。 「時間、あるからゆっくりでいいよ」 「うん。すっげー柔らけー。ふにふにして気持ちいー」 そう言うと、田島くんが胸を持ち上げるように揉みしだきながら、唇を重ねてきた。 舌が入ってきて、優しく弄る。久しぶりだった。夢中で田島くんにしがみついていた。 ふいに唇を離されたので目を開けると、糸を引くのが見えた。 おでこ同士をごつんとつけて、田島くんは真っ直ぐ私を見た。 「しのーか、好きだ!」 判ってる。何度も言ってくれた。「待ってて」と言ったのに。落ち込んでいる暇もないくらい頻繁に。 「私ね、怖かったの……」 「ゴメン。俺、しつこいから」 違うよ、と答えたかったのに、さらに押し付けるような激しいキスをされて、遮られてしまった。 田島くんが上に乗り、赤ちゃんみたいにチュウチュウと音を立てて胸を吸っている。 突然それを止めると、 「なぁ、縛っていい?」 「えっ?」 どこを?どうしてそんなことするの? 私の顔を見て、田島くんがちょっと口を尖らせた。 「しのーか、好きにして良いって言った」 「良いけど……。ちょっと、イヤかも……」 って、聞いてない。田島くんはさっきほどいた私のリボンを手にして、パシンと鳴らした。 手早く私の両手首を結んでしまう。田島くんはとても楽しそうだった。 そうして、手を頭の上にして、ベッドの手すりに縛り付ける。 「た、じま、くん?これ、なに?」 「イチバン最初に見たのが、こーいうのでさ」 「な、なにが?」 ああ、エッチなDVDとか?田島くん、それの真似するつもりなの? 少女漫画でこんなのあったかも。美人主人公じゃない私は、カッコイイ先輩が悪者から助け出して くれることはないし、ホラー映画なら最初に殺されてる。あ、田島くんが正義の味方だった。 なぜかその田島くんによって、暗い部屋で自由が利かず、外は嵐で不安で涙が出そうになっている。 「すげードキドキして、大人になったらぜってーやるんだって決めてた!」 まだ子供だから無茶しないでって言いたいのに、怖くて声が出なかった。 「ソレが、未だにイミ判んねーんだけど花瓶と花をさ……。ココにねーから、まあいーかぁ」 お花、無くて良かった!でも、お花でなにされるとこだったんだろう……??? 田島くんがニカッと笑う。首筋に舌が這い、耳元で言われた。 「心配すんなって。痛いことしねーから」 「ん……」 や。息が止まった。ゾクゾクして、身体の中心が熱くなってきゅうっと力が入る。 胸の先端をれろっと舐め上げられた。 「ゃぅっ!」 ゾワリと快感が走り、声を上げてしまった。ニシシ、と田島くんが笑う。 さっきと同じことをされてるのに、田島くんの舌の動きに反応して、 ガクガクと身体が震えだした。動きたくても、縛られて身動きが取れない。 こんなの、イヤ! 「ほどいて……」 涙声になっていた。自分が自分でないみたいで、怖かった。 気持ち良くて混乱してることを、田島くんに知られたくない。でも……。 「こんなに硬くなってんのに。嫌い……?」 胸の突起を押しつぶすように刺激される。 「あッ、んぁ…」 ヒクヒクと反応して、変な声が漏れてしまう。 ほらねー、と田島くんが嬉しそうに言って、私のスカートを捲り上げた。 田島くんが何を見ているのかは判った。阿部くんに付けられた痣はもう消えている。 その、あった箇所を田島くんが撫でた。身体に緊張が走る。 ゆっくりスカートを下ろされて、震える手で下着も取り払われた。 思わず目を閉じた。触られる、と覚悟していたのに、田島くんは動かなかった。 目を開けると、じっと、光る目で私を見ている田島くんがいた。 「よく見えねぇ。電気、つけちゃダメ?」 きゃー、なに悔しそうに言ってんのーっ! 全力で首を振る。こんな姿の自分をさらけ出すなんてイヤ。絶対イヤ。 むー、と田島くんは子供みたいに拗ねた。 「しのーかがいっぱい見たいのにー」 もう、判って。無言で訴える。 田島くんは「ま、今度でいっかぁ」と、どうにか諦めてくれた。 痣のあった場所をもう1度撫で回すと、おずおずと足を広げていく。 田島くんは1つ息を吐き出して、指で割れ目をなぞり、差し入れてきた。 「や、やだっ」 そんな風に広げないで。見ないで。差しこまないで! 「へー」とか「こんななんだー」とか、田島くんのリアクションが恥ずかしい。 最初は身をよじって抵抗して嫌がってたのに、身体はいいなりになってしまう。 私の反応を確かめているのが判った。いやらしい音をたてて、ヌルヌルとお腹側の 感じる場所をかき乱され、熱に浮かされたように体中が熱くなる。 「んッ、はぁ、ヤ、ヤメ……」 もう、限界だった。 ふいに腕が自由になった。 心配そうに、だけど高揚した田島くんが顔を覗きこんでいる。 「ゴメン」 「なん、で?」 こんなことするの?私のこと、好きじゃなかったの?ヒドイよ田島くん……。 涙で田島くんが歪んで見えた。鼻の頭がツンとなる。 「しのーか、今まで振り向いてくれなかったから、ちょっとイジメたかった」 ほどいたリボンを手に、田島くんが指で涙を拭ってくれた。 「怖かったの……」 「ゴメン、もうしねーから」 私は首を振った。 「違うの。気持ち良すぎて、怖かった……」 前に田島くんにされたキスは、身体の中からトロリとして、頭がおかしくなりそうだった。 自分が変になるのが怖くて、好きだって言ってくれる田島くんから逃げ続けた。 謝るのは、田島くんに甘えてた私の方。 「俺、嫌われてなかったの?」 素直に頷いた。今度は田島くんが泣きそうになる。 野球の時はあんなに強気な田島くんが、ちょっと弱気になってたのが意外な気がした。 「俺、判んねーけど、がんばっからな!」 十分がんばってるから、これ以上張り切らないで欲しいな、と少しだけ私は思った。 田島くんの手がお腹に触れた。 おへその下をキスされる。 足の間に田島くんが顔をうずめて、舌を使って優しく舐め取られる。 信じられないような声が出てしまい、思わず自分で口を塞いだ。 「しのーか、感じてる?」 「しのーか、好きだ」 いっぱい、話しかけてくれる。何度でも言ってくれる。言ってくれなかったあの人とは違って……。 比べちゃダメ――。 笑ってる田島くんも好きだけど、真面目な顔はカッコイイ。言わないけど、野球の時の真剣な男の子は、 凄みが増して独特の色気がある。今の田島くんは、別の意味で色っぽかった。 舌、長いのかな。凄い。こんなトコまで……。 田島くんだけでいっぱいになる。 「もーダメ!挿れさせて……」 そう言うと、田島くんはゴソゴソとやり出した。私は朦朧とした意識の中、保健室の天井を見ていた。 ゴムの、判るかな。手伝って上げたいけど、私も判らないや……。 私は未熟で、教えてあげられることなんてたいしてない。そう思ってた矢先、私の疼くソコに、 田島くんの熱いモノが押し付けられた。腰を浮かせて、正しい場所にそれを導く。 ぐちゅっぐちゅっと音を響かせて、田島くんが激しく腰を揺らした。 「んはぁ、すっげ……ッ、しのーか!しのーか!はッ、やべ、よすぎ……!」 田島くんの高ぶった声と動きに合わせて、ギシギシとベッドが揺れる。 私の身体が反応してガクガク痙攣する。 涙が出てきた。 なんでもっと早く私、こうしなかったんだろう……。 私は薄れゆく意識の中で後悔していた。 気が付くと、田島くんがぎゅっと私を抱きしめていた。頭を撫でてくれる。 「俺、良かった?」 「うん……」 「しのーか、すげぇエロい声出すんだな」 精いっぱい、我慢したつもりだったのに。多分、顔が赤くなったと思う。部屋が暗くて良かった。 「でもさ……。うーん」 そう言って、私を抱き抱えたまま、ぐるんと転がる。私が田島くんの上に圧し掛かる体勢になった。 「今度は、しのーかがやって」 「……え?」 「上になってもう1回戦。ダブルヘッダー。ニシシ」 きゃー、なんてこと言うのーっ! 「も、もう帰らなきゃ……」 「時間、たっぷりあるだろ。俺はダブルでもトリプルでもクアドラブルでも……」 アイススケートのジャンプじゃないんだから、そんなに出来ないよ! 「た、田島くんっ、アスリートは身体が資本だよ。休もうね」 「ダイジョーブ!俺、持久力には自信あっから!」 田島くんの瞳が輝いている。あああ。そうでした。田島くんの運動神経は学校で1番……。 眩暈がした。 「え、えーと……私は自信ないから……」 逃げよう、と決めた。もちろん体力には自信があるけど、壊されそうな気がする。 それを察したのか、田島くんはすかざす私を捕まえた。 「しのーか、ソフトやってたんだろ?な、身体やーらかい?」 「あ?」 「あーもう、やっぱ電気つけてい?見てーよ俺!」 「やめてやめて!」 田島くんは私の言うことも聞かずに、ベッドから跳ね起きた。 しばらくして、部屋の電気がついて明るくなった。軽い足取りで田島くんが引き返してくる。 この間に、私は逃げれば良かったのに。私は田島くんの裸は見慣れてる(?)けど、田島くんは 私を見るのは初めてで。明るさに目を慣らすほんのわずかな隙に、田島くんが飛びついてきた。 「や、やらしいことしたら怒るよ」 「はぁ?この状況で、なに言ってんだよ」 言いながら、私の身体を遠慮なしに見ている。 私は目のやり場に困って、そんな田島くんの表情を見ていた。意外に、真面目な顔。 「しのーかの身体、キレーだな」 「そんなことないよ。変な日焼けしてるし」 「そりゃ、俺の方が凄いって。もっと、見ていい?」 お世辞でも褒められるのは嬉しくて、私はうん、と頷いていた。 田島くんは私を抱きかかえると、胸を隠していた腕をどかして、なぜか右足を持ち上げた。 「た、田島くん?」 なんだか、観察する目じゃない。何かを企んでる目だ。 田島くんは私の足を自分の肩に乗せると……いきなりあてがった。 自分の体勢も信じられないけど、硬くなったものが擦り付けられる感触に悲鳴も掠れてしまう。 「たしかコレ、すっげー奥まで挿れられる体位!」 ちょ、ちょっと待って!なにしてんのっ! やっていい?と、無邪気に聞いてくる田島くん。ギブギブ、と真っ青になって首を振る私。 絶対無理。回数をこなすより、ゆっくり愛されるのが好きなのに。こんなのイヤ。 一生懸命、田島くんに「怒るよ」と訴える。無理です。許して。お願い。なのに――。 「くはー、我慢できねぇーっ!」 田島くんは叫んで、パンパンに熱くなったものを私に押し当てると、身体をぶつけてきた。 奥深く、ズブズブと呑み込まされ、私には初めての領域に踏み込まれてしまいパニックになる。 「ゃ、あ!なにすん、あッ、んぁ!」 「…かぁ!しのーか!ハァ……クソッ」 グリグリと私の奥を刺激して、激しく突き動かす。今まで感じた事のない快感が身体中に浸透してゆく。 その激しさに翻弄され、私の頭の中は真っ白になった。 私はぼーっとして、ベッドに横になっていた。身体はドクドクと痛みで脈打っていた。 田島くんに背を向けて拒絶する。 見せる顔がなかった。あんなに嫌がってたのに、私……。 田島くんが覆いかぶさるように耳元で話しかけてきた。 「しのーか、イッた?」 「知らない」 さすがにちょっと頭に来たので、田島くんから顔を逸らして別のことを考える。 時間大丈夫かな。もう帰ろう。小雨になってる筈だから。そう思ったけど、だるくて身体が動かない。 「しのーか、ギュウギュウ締め付けて、俺のこと離してくれなかったじゃんー」 その時のことを思い出してしまって、顔が熱くなった。恥ずかしくて消えてしまいたくなる。 「しのーか、俺のこと嫌い?」 心配そうに、田島くんが聞いた。 「――大好き……」 「ホントか?」 うん。今まで言ってくれた「好き」を全部足しても足りないくらい、田島くんが好き。 でも、同じくらい憎たらしくて、枕に顔を押し付けて顔を隠した。 今日はおしまい。少し休んだら、服を着てベッドを整えて、帰らなきゃ。 改めて決意した私は、裸の肩にキスをされて身震いした。 「んん……」 こういうの、好き。終った後に優しくされると、すごく満たされた気持ちになる。 耳たぶを甘噛みされて、背中や腰の周りを唇が這い、頬ずりされる。 余分な力が抜け、くったりと身体がほどけていく。 「しのーか、なんか言ってよ」 わざと逆らうように枕に顔をうずめると、田島くんが「むー」と拗ねた。 ベッドから田島くんが下りる気配があり、すぐ戻ってきた。擦るような音がして、太股が ティッシュで拭われる。おしりを高く持ち上げられ、膝をつくことになり、足を開かされていた。 田島くんはそこをきれいにすると、この恥ずかしい体勢のまま、指と湿らせた熱い舌を挿し入れた。 「……じま、くん、もう無理……」 一体、なにを田島くんはムキになってるんだろう、と少し不安になった。 田島くんは私の弱いところを完全に把握していて、執拗に固く絞った舌で愛撫する。 変な気持ちになってしまい。これ以上続くなら言おうと口を開きかけたその時。 「……阿部の方が良かった?」 予想外の田島くんの言葉に、耳を疑った。今、なんて?今まで、私を見ててなんでそう感じたの? 「しのーか、俺じゃ気持ち良くなんねーんだ……」 「え?」 「俺、悔しい」 反論しようと顔を上げた。私がやったことがないだけで、こういうやり方もあるんだ、と 気づいた頃には手遅れだった。 「ゴメン……最後だから」 田島くんが分け入ってくる。熱い息を吐きながら、田島くんは私を後ろから何度も突き上げた。 私は、枕に顔を押し付けて声を押し殺し、その新たな快感に耐えた。 私が、田島くんの抱える不満に気づいたのは、全てが終ってからだった。 田島くんは落ち込んでいた。私は怒る気にもなれず、田島くんと向き合う。 「電車の時間もあるから、私、もう帰らないと」 「送ってく……」 本当は、このまま眠ってしまいたいくらい疲れ果てていた。 末っ子の田島くんと、長女の私は相性が良いらしい。でも、歯車が食い違ってたみたい。 私がもっと、素直に甘えられる可愛い性格だったら良かったのに。 なぜ、阿部くんの名前が出たのかを、聞く勇気があれば良かったのに。 気持ち良さや、好きだって気持ちを上手く伝えられない自分がもどかしかった。 くりかえされた質問に、どう答えれば正解だったんだろう、と考えてある可能性に思い当たった。 もしかして、田島くんの見るAVみたいに、私に声を出して欲しくて何度も……? 機会がないからまだ見たことはないけど、友達が「彼氏に『AV女優みたいに喘がれると冷める』って 言われる」と自虐していた。控えめの方が、男の子が喜ぶんだと思ってた。 「あ、あの、私、恥ずかしくて、声出せなくて……」 「へ?」 「気持ち良いから……。ちゃんと『イク』とか?言った方が田島くん嬉しいなら、がんばるけど」 出来れば、はしたないことはしたくない。でも、田島くんが喜んでくれるなら、私が変わらないと。 チラリと田島くんの顔を見上げると、顔をクシャクシャにして田島くんが笑っていた。 まさに、そのことを気にしてたんだ、と判った。 「しのーか、可愛いすぎー!」 私は引き寄せられ、ぎゅうう、と力いっぱい抱きしめられた。苦しくて息が出来ない。 押し倒されて、足の間に割り入れられて、もう1度足を開くことになった。 「た、田島くん、明日!もう、今日は終わり!壊れちゃうからっ」 泣きが入る私の顔を見下ろして、田島くんはニシシ、と笑った。 「わーってるって!」 私の太股の内側に顔を寄せると、ちぅーっと強く吸う。 「上書き!」 こんなことしなくても、もう大丈夫なのに、と呆れつつも嬉しかった。 雨は止んでいた。今なら自転車に乗れる。……辛そうだけど。 手を伸ばす私より先に、田島くんが服を取り上げて後ろ手に隠してしまった。 「な、このまま保健室、泊まっちゃおか」 「は?帰りますって!」 「じゃ、ウチに泊まんなよ!そしたらずーっと一緒にいられるし」 「田島くん……蹴っていい?」 「ひぃっ」 田島くんが真っ青になって飛び退いた。 脱がされたものを身に付けたあと、私はリボンを手にした。 これからは、洋服も気をつけなくちゃと思った。 ――side阿部―― 教室に向かう廊下で篠岡と一緒になった。 昨日のことを謝るのも、無視も気まずいから、自然に午後のミーティングの話を振った。 篠岡から、昨日教室でまとめてたノートを手渡された時、その異常に気づいた。 「篠岡、手首どーした」 赤くなっている。しかも両手。擦りむいている箇所まであった。 「あ、こ、これはその……」 篠岡は一瞬で耳まで赤くなり、腕を隠してしまった。昨日の返事と、この異様な慌てっぷり。 「……田島か?」 篠岡は縦と横、どっちに首を振って良いか迷って怪しいヤツなっていた。 図星かよ。なんとも残念だが、断ち切るしかない。 固まってる篠岡には、答えなくてもいーよ、と言った。言わなくても判るし。 「アイツ、小道具好きだって自分で言ってたけど」 「な、な、なん……」 「聞かれてもねーのに、他人の性癖教えるヤツがいるか。彼女出来たらいっぱい試すとか 言ってたから、初めての彼女はすげー苦労しそーだなとか、みんなで話してたけど」 田島の妄想語りは度々あった。まさかすべてが本気だとは思ってないが。 篠岡は今度は青くなった。思い当たる節があるらしい。気のせいか、珍しく疲れて見える。 見える場所に痣作らせてんじゃねーよ、とムカついたが、さすがに可哀想になってきた。 「ひと通りやりゃ、満足すんじゃね?小道具ったってなんか塗って舐めるとか突っ込むとかだろ。 コスプレはどーせ脱がすからキョーミねーって……」 言いながら、我ながらなんの慰めにもなってねーな、と思った。 そりゃ、好きなオナニー控えてたんだから、彼女が出来たらその反動は相当なモンだろう。 篠岡が力なく呟いた。 「ひと通りって……7、8個くらいかな」 「んなの本人に聞けよ。あー、ちょっと違うけど48手って聞いたことねーか」 「知ってるよ。相撲でしょ」 「いや、あるんだって。……悪かったな芸がなくて」 俺はそーいう勉強は野球に回して、良く言えばノーマル。悪く言えば……単調、か? 身体の相性は良かったからこそ冒険はあまりせず、少しでも篠岡が不快感を持ったことは避けた。 だいたい、こんな内容の会話自体、篠岡とするのは俺に抵抗があって、今になって 「下ネタ大丈夫な人なんだ」と自分が余計な気を使っていたことに気づいた。 俺とは違い研究熱心であろう田島は、今後もフロンティアスピリッツで嬉々として篠岡を 開拓しそうな気がする。 俺の言葉に篠岡が絶句して、どんどん暗くなっていくのが謎だった。 ココは喜ぶトコなんじゃねーのか? パタパタと軽い足音がして、噂をすれば、の田島が走って来るのが見えた。 キラキラ目を輝かせて、一直線に篠岡に向かってくる。 「しーのぉかぁーっ!」 人目もはばからず、篠岡に抱きつく田島。当然、避けた俺は視界に入っちゃいない。 「今日、ミーティング終ったら俺ん家な。昨日の続き!出かけんの、今度でいーから」 「た、田島くん、ちょっと!」 「な、約束。ニシシ」 周りの視線を気にして、必死で引き剥がそうとする篠岡に、性欲に支配され舞い上がる田島。 ストレート過ぎて見てるこっちが恥ずかしい。いや、この迷いの無さは清々しくて尊敬に値する。 持て余した篠岡が「蹴るよ」と物騒なことを言い、田島が慌てて手を離した。 すかさず篠岡は鞄に手を伸ばして、 「あ、田島くん、グミ!おいしいよ、食べる?」 「うぉ、くれくれ!」 田島はあっさりとお菓子に意識を奪われていた。単純すぎる。 そこに、食意地の張ったウチのエースが通りかかって、篠岡の取り出した袋に釘付けになる。 母親でも保母さんでもなく、餌付けに成功した調教師の篠岡がそこにいた。 篠岡は田島を、本気では嫌がってなかった。なら、俺が心配するのは余計なお世話になるんだろう。 それにしても、才能があって努力も惜しまない田島には、見習うべき部分が多い。篠岡にも。 篠岡の顔色が冴えない不安はあるが、田島だって珍しがるのは最初だけだろーし。 せめて、篠岡を壊さない程度に励んでくれりゃいーけど。 不思議に、喪失感は殆どなかった。本当の痛みは時間を置いてジワジワ襲って来るのかもしれないが。 それよりも、俺にとって最優先すべき問題はこっちだ、と言い聞かせることにする。 俺もたまには食いモンで釣ってみっか? ほくほくと変な顔でグミを頬張っている、3年間尽くすと決めた標的を見ながら、俺は思った。 終わりです。