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突然だけどクイズだ。人を殺す『もの』、あるいは殺せる『もの』、これってなーんだ? ……はい、タイムアップ。解答時間が短すぎる、だなんて苦情は受け付けないよ。 君たちにとってはこんなありふれた問題、問いかけることすら、はばかれるぐらいのものだろうからね。 正解は『凶器』さ。 銃殺、刺殺、撲殺、絞殺、エトセトラ、エトセトラ……。やり方は色々あるさ。ただ方法は変わっても結局行きつく先は一つ。 『凶器(エモノ)は何だ?』なんて刑事がドラマの中でも言うじゃない。 ……なに? 引っかけ問題? 挙げ足取り? おいおい、まさか君たちにそうやって言われるとは思わなかったよ。四六時中頭ん中は殺すことばかり考えてる癖にさァ。 ま、でも一つ俺から言わせてもらうと……モノが人を殺すわけなんてないさ。人を殺すのはいつだって人、人の意志が人を殺すんだよ。 もう少し詳しく見てこうか。 ブタを食う時、牛を食らう時、鳥を食べる時、魚を食する時……常日頃から、あまりに人は殺すことに『慣れすぎている』。 だからいざこうやって『ハイ、どうぞ殺しあって下さい』なんて言われると俺たちは困ってしまう。 その時、最後に俺たちを突き動かすのはなんなのさ? 何が最後の最後で、俺たちの背中をポンッと後押しし、俺らは殺しに手を染めるのかな? 今回の話はまさにそれ。 殺し、その深遠なる淵に俺らをつき落とすのは『狂気』だ。今回はその『狂気』についてまつわるお話を紹介しよう……――― ◆ 深夜、街。まるで幽霊のように、どこからともなく姿を表した一つの影。 それは女性と言うにはあまりに幼く、少女と呼ぶにはあまりに刺々しい空気を纏っていた。 アイリン・ラポーナは闇に紛れ、音もなくあたりを伺う。暗闇に溶け込んでしまいそうな真黒な髪が風に煽られ、ふわりと揺れた。 足音は聞こえない。固く頑丈な石畳を歩く彼女の足取りは悠然としていながら、一切の気配を絶っていた。 突然、彼女は石像のようにその場に立ち止まる。何秒か動くことなく、鋭い視線をあたりに放ち、自分以外の気配を探っていくアイリン。 微かに、しかし次第にはっきりと話声が聞こえてきた。男だ、それも二人組。 緊張感が感じられない男の声とそれを叱咤激励する初老の男の声は、まさにアイリンが姿を現したその場所から聞こえてきた。 「アイリンは立派に活躍してるってのに俺は役に立つどころか足を引っ張るばかり……死にたくなってきた…………」 「ほら、まただぞ、マックイィーン君! 今ので五回目だ!」 アイリンは眉をひそめると後ろを振り返った。これでは自分が先立って歩く意味がほとんどない。 自分たちの置かれている状況をよくわかってないのか、わかっていてあえてそういう態度をとっているのか。 どちらにしろ、あまり気のいいことでない。そうアイリンは思った。長く美しい髪の毛を指先に巻きつけ、それでも彼女は辺りを警戒しながら同行者を待った。 ほとんど隣の男を抱きかかえるように歩いているのがジョージ・ジョースターⅠ世。そして頭を抱え、ぶつぶつ呟き続ける男がサンダ―・マックイイーン。 彼らがアイリンの同行者、この殺し合いという奇妙な舞台で彼女と行動を共にしている男たちだ。 今のところ周りに人の気配はない、そうジョージに伝えると、彼はありがとう、と言葉を返した。能面のように無表情だったアイリンが初めて表情を崩し、柔らかな微笑を浮かべる。 それを見たジョージはにっこり笑う。そして今度は隣に並んだ卑屈な男に向き合うと、口うるさく説教を始めた。 やかましいと言いたくなるような熱いお説教が道路に響く。熱っぽく愛情に溢れるその声を聞いていると、とてもでないが『静かにしてください』とは言えなかった。 可笑しいような、困ったような、何とも言えない状況に、どうしたものかしらとアイリンは考える。 しかし可笑しさが勝った。自分一人だけ神経を張っているのが少し馬鹿らしくなった彼女は、素行を崩すと、二人に並びだって歩き始めた。 なんて甘ッたれなのだろうとアイリンは思う。マックイイーンもそうだが、ジョージもそうだ。 いい年した男が父親にあやされているかのような光景は、ある意味ではほほえましくもあるが、馬鹿らしくもある。 だがアイリンの目には口酸っぱく励まし続けるジョージが輝いて見えた。あの手この手で沈んだ男を盛り上げようと、熱弁を振るうジョージは素敵だった。 それはアイリンが優しさや甘さから無縁の世界で生き続けた代償なのかもしれない。 暗殺、殺し。これ以上なくドライで厳しい世界の住人である彼女は、ジョージのような人物を知らない。 だからこそ、彼は太陽のように眩しく、暖かい。希望に溢れ、何が起きようとも 『ドン!』 と構えている彼は、とても頼もしい男だった。 アイリンは少し前のことを思い出す。ジョージが自己紹介にと、自分の生い立ちについて話した時のことだ。 すぐにわかったのはジョージ、マックイイーン、アイリンがそれぞれ別の世界に住んでいるという矛盾。 年代が違う、住んでいる場所が違う。奇妙では済まされない、とんでもない事実だった。自分たちがいかに大きな事件に巻き込まれているかわかった時、アイリンの腕にはうっすらと鳥肌が立っていた。 だがジョージは平然としていた。なってしまったことは仕方ない、事実なのだから受け入れるしかない。 そう言って落ち着きはらう彼の態度を見て、やがてアイリンとマックイイーンも平静さを取り戻した。そして、ジョージと同じようにそれも仕方ないな、と考えるようになった。 この舞台には未知なる能力が数多く潜んでいるだろう。マックイイーンの不可思議な能力もそうだが、アイリン自身、暗殺という変わった特技を持っている。 自分がジョージを守らなければいけない。戦えるのは自分しかいない。 不思議と、恐怖や重荷は感じなかった。頭を下げるジョージの姿がアイリンの脳裏をよぎる。 自分のこの能力が役に立つと言ってくれた。それは不思議な気持ちだった。だけどそれは心地よく、アイリンは必ずジョージを守ろうと固く決意した。 「アイリン君、マックイイーン君、少し止まってくれないか。現在位置を確認したいんだ」 しばらく歩いた後、ジョージが二人を呼びとめる。三人は鍾乳洞から地上に出た今、誰かと会うことを目的に杜王町を目指している。 三人が先ほどまでいた鍾乳洞は、怪しげな研究所に繋がっていた。研究所内を調べまわった三人は、人がいたであろう痕跡は見つけたものの、他の参加者たちに会うことはできなかったのだ。 ジョージが薄明かりの元、デイパックより地図を取り出した。三人で顔を突き合わせるように地図を覗きこみ、自分たちのいる場所を探す。 ああだこうだと、少しばかりの問答の末、だいたいの位置をつきとめた。現在位置はC-6、杜王町に着くにはもう少し時間がかかりそうだ。 それを知ったマックイイーン、ほとんど反射的にぼやく。それを聞いたジョージ、躊躇することなく指導にはいる。 まるで漫才だ。二人が真剣なだけに、余計に滑稽だった。アイリンは笑いをかみ殺し、二人よりほんの少しだけ先を歩いていく。 杜王町に続いているであろう道路は広く、どこまでも続いているかのようだ。 後ろから聞こえる騒々しい漫才に耳を傾けながら、アイリンの心は穏やかだった。一時の平穏を彼女は噛みしめるように、楽しんでいた。 ―――カツン、カツン…… アイリンの目つきが変わる。片手をあげ、二人の注意をひきつけると、音をたてないように合図を送る。アイリン自身も闇に融けていくかのように、気配を消していく。 数メートル先の十字路、左の角を曲がった先から音は近づいてくる。 カラン、コロン……ガリ、ギリ……。無神経に立てられる足音に紛れて刃物を研ぐような音が聞こえた。 ガリガリ……ブツブツ……。無警戒に近づいてくる何者かは様々な音を連れ、ゆっくりとこちらに向かってくる。 電燈が照らし出し、大きく伸びた影が見えた。ヒョコヒョコと人影が左右に揺れ、まるで地面の上でダンスを踊っているかのようだ。 張りつめた緊張感、息詰まる一瞬。だが来訪者は意外なほど、呆気なく姿を現した。 十字路にヌッと姿を現したのは小柄な人影。とても大きく、ぎょろりと剥き出しの目、顔中カサブタだらけの奇妙な風貌が暗がりの街並みにマッチしていた。 逆光の中、アイリンは目を細めて少年の顔を見る。そう、少年と言っていいほどに、彼は幼かった。 後ろに隠れていたジョージがホッと息を吐くのがわかった。身を縮めていたマックイイーンも緊張が緩んだのか、大きく空を仰ぐ。 「アイリン君?」 「おじさま……下がっていてください…………」 しかし、アイリンは少年に声をかけようとしたジョージの前に立ちふさがった。 不審そうに問いかける彼のほうを一瞥もせずに、アイリンはジョージを庇うように両手を広げる。 震えが止まらない。まるで吹雪の中に裸で放り出されたかのように、アイリンの身体が細かく揺れる。 ジョージもマックイイーンも知らぬことであった。彼らの目にはマヌケそうな少年がただ突っ立てるように見えたのだろう。 だがアイリンは確かに感じた。緊張でカラカラになった喉、カサカサに乾いた唇。迫りくる怖気はアイリンが今まで体験したものの中でも飛びぬけている。 十字路に姿を現し、動くことのなかった少年がゆっくりとこちらを向く。半眼に閉じられた少年の目が、はっきりとアイリン達を捕えた。 闇の世界に生きるアイリンにはわかったのだ。ジョージもマックイイーンもわからない、『こちら側』の世界の住人だけがもつ、ほの暗さ。そして少年が持つほの暗さはどこまでも深く、誰よりも濃いものであった。 少年の持つナイフがギラリと煌めく。薄明かりに照らし出された四人の影が、陽炎のようにゆらりと揺れた。 ◆ 「止まりなさいッ」 「…………」 「……アイリン君?」 アイリンの鋭い警告、意外にもビットリオは素直に従い、その場に立ち止まる。 魂が抜けたような虚ろな表情は何を考えているのか。ぼんやりと立ちすくむビットリオをアイリンは睨みつける。 険しい目つきのアイリン、突然の登場にも関わらず言葉を発さない無表情のビットリオ。ジョージはそんな二人を見比べる。不穏な空気を感じつつも、何も知らない彼には二人の無言の会話がわからない。 口を開こうとしたジョージを押し黙らせ、二人を少年からどんどん遠ざけて行くアイリン。 そんな彼女の鬼気迫る様子に、ジョージもマックイイーンも思わず圧倒されてしまう。口を開こうにも、そうすることもできず、ゆっくりと下がっていく三人たち。 少年はそれを眺めていた。ゆっくりと遠ざかっていく三人をぼんやりと見つめていた。 そして彼はなんでもないように……、常日頃からそうしているように、手軽な感じで…………ナイフを自らの脚に突き立てた! 「「「えッ?!」」」 何度も、何度も! 振り上げては自分の脚へと叩き下ろされる切っ先! 真っ赤な血しぶきが舞う。頸動脈を傷けられたのか、吹き上がる大量の血液が噴水のようなアーチを描く。 ぐりぐりと骨まで削るような痛みが電流となり、頭のてっぺんから足元まで痛みが貫いて行く。 脚の力が抜けていく。剥き出しの筋肉、チラリと見えた白い骨。過激な自傷行為は加速していく。 足腰は立たず、絶えぬ激痛に脳が耐えきれなくなる。何が起きているのか考えられなくなるほどに、痛みが、傷が増えていく。 真っ赤に染まった脚はもはや形が変わっていた。歪なアートに白い骨のキャンバス、真っ赤な絵の具のトッピング。 倒れ込んだのは……刃物を振りかざし、狂気に魅せられたビットリオではなかった。 突然自分の身におきた謎の出来事。一瞬の合間に脚が無惨な形に。倒れ込んでしまったのは、離れて立っていたはずのアイリンだった! 「アイリン君ッ!!」 屈むジョージの心配そうな顔、恐怖に震えるマックイイーンの身体。そんな三人目掛けてビットリオが猛烈に走り出したのがアイリンには見えた。 刀を振り下ろしたのと同じぐらい唐突で、そして素早く接近する敵。狙われたのは動けないアイリン! 庇うようにジョージが飛び出した! アイリンを傷つけさせまいと、ビットリオを突き飛ばし、二人は道路上でもみくちゃの掴みあい。 石畳の上で転がりあう二つの影、加勢に入ろうとアイリンは立ち上がりかけるが、脚の出血と痛みがそれを許さない。 ナイフを取りあげようと腕にかじりつくジョージ。唸り声をあげ、ビットリオが力で老人を振り切る。次の瞬間、地面に投げ伏せられたジョージの胸に、刃物の一閃が走った! 「グ、うッ…………!」 「おじさまッ!」 何を切ったか、わかっているのかわかってないのか。あるいは一切興味がないのかもしれない。 ビットリオは倒れ伏したジョージを、無感動で、無表情な目で見降ろしていた。 両手の指、その隙間から絶え間なく流れ続ける真っ赤な濁流。ジョージの手が、胸が、あっとういまに朱色に染まっていく! 倒れ伏した老人の胴体に、ビットリオが慈悲もなく蹴りを叩きこんだ! 呻く老人、アイリンの悲鳴。ビットリオは淡々と、まるで作業でもこなすように、ジョージの体を痛み付ける。蹴りあげ、殴りつけ、切りつける。 その一発が、一動作が行われるたびにアイリンは自分自身が傷つけられているかのような錯覚に陥る。 まるで自分が殴られているかのような痛みが襲いかかってくる。まるで自分の胃が蹴りあげられているかのように吐き気がこみ上げてくる。 横たわっているのはジョージのはず、傷つけられているのはジョージのはず。だがその痛みはアイリンの痛みだ。傷つけられているのはアイリンだ。 やめて! やめなさい! そう思っている。なんとかしてやりたいと思う。だが身体は言うことを聞いてくれない。 脚の出血が激しいせいか、一気に血を失ったせいか。次第にアイリンは頭に激しい痛みを感じ始めた。まるでレンガであまたを殴られているかのような、鈍い断続的な痛み。 ジョージを守れるのは自分しかいない。アイリン、マックイイーン、そしてジョージ。 さっき誓ったばかりでないか。鍾乳洞で、ジョージがプライドを投げ捨ててまで頼みこんでくれたのは、この自分だったではないか。 無力だなんて嫌だ。助けたい、ジョージを。痛みなんかに……負けてたまるかッ! しかしそんな熱情も霞むほどの痛み。いまや痛みは錯覚ではなく、確かな事実としてアイリンの身に襲いかかる。 額が割れるようだ。いや、実際に割れているのではないか。じゃなかったらこの垂れ流れる血液は何だ。鼻筋、瞼に覆いかぶさるこの真っ赤な液体は何だ? ぐちゃぐちゃになってしまった脚、留まることのない額からの出血と痛み。アイリンの意識が次第に薄れていく。疑惑と憂いも、痛みが吹き飛ばしていく。安息と安らぎが彼女を遠ざけていく。 少し、また少し、霞み、消えていく世界……。痛みが走る、だがそれも薄らいでいく。沈んでいく……アイリンの意識が闇の中へと沈んでいく……。 「……ハッ!?」 「なんだァー、こりゃーーーッ!?」 跳びかけた意識を何とかつなぎとめ、アイリンは痛みに抗い身体を起こそうとする。ビットリオの間の抜けた声が彼女の意識を鮮明にした。 彼女は数時間前のことを思い出す。ジョージと出会ったあの鍾乳洞での出来事を思い出す! 彼女は知っているッ ジョージとマックイイーン、彼ら二人の会話が彼女の記憶を揺り起こすッ! なんとか起き上がった彼女の目にうつったのは謎のプロペラ群。身体にまとわりつくように浮遊するプロペラ群が、アイリンだけでなく、ジョージにも、そしてビットリオにも現れていた! ―――ガス、ガス、ガスッ…………! 「アイリンが倒れこんでる……ジョージさんが傷つけられてる……。 なのに俺は何もできない。怖くなって脚が竦んで、ただ突っ立てるだけだ…………」 そう、これはマックイイーンの不思議な能力ッ アイリンにダメージを与えていたのはビットリオでもなく、ジョージでもないッ 純粋なる邪悪、敵意なき悪意ッ サンダ―・マックイイーンの『ハイウェイ・トゥ・ヘル』ッ! 鈍い打撃音が路上にこだまする。リズムよく金槌で釘を打つかのように、一定の間隔を刻んでマックイイーは自らの頭部を民家の壁に叩きつけていた。 民家の漆喰が剥がれおちるほどの勢いで、繰り返しマックイイーンは頭を打ちつける。ブツブツ、誰に向けられたのかもわからぬ言葉をつぶやき、虚ろな瞳で壁を見続ける。 そしてマックイイーンがダメージを受けるたびに、アイリンの頭部にも鈍い痛みが走る。まるで実際に壁に頭を打ち付けているかのような、鈍痛が一発一発襲いかかるッ 「ジョージさんの言った通りだ。俺は死にたい、死にたいとか言いながら、全然そんなことは思ってねェんだ。自分の命が惜しいんだ。 だってよォー……ほんとに死にたいなら、死ぬ気で誰かを守ってやるって思えるはずだろ? ジョージさんみたいに、アイリンを庇って死ぬのは俺だったはずだろ?」 ―――ガス、ガス、ガスッ…………! ガス、ガス、ガスッ…………! 額が割れ、顔中が真っ赤に染まっても彼は作業をやめようとはしなかった。 彼の頭部が激しく血を噴けば噴くほど、地べたに横たわるアイリンの頭部も同様に染まっていく。彼はそれを意に介さない。 いや、自分一人ではない、という道連れの悪意がこそが彼の原動力! 三人を巻き込みながら、彼はそれでも一切気を払うことなく狂ったように頭を打ちつけ続けていた。 民家の壁がキャンバスかのように紅で染まり上がっても、マックイイーンはやめようとしなかった。 「だってのに結局このざまだ。情けねェなァ~~、俺はよォ~~~……。 ああ、死にてェ……こんな俺なんて生きてても価値ねェよな? 意味ないよな? 死ぬ気でなんかやろうだなんて結局俺に出来るわけがなかったんだよ。俺はジョージさんみたいにカッコよくなれねェんだ……。 ああ、何勘違いしてたんだろな、俺はよォ~~。死にたくなってきた…………。 こんな俺がいてもジョージさんにも迷惑かけるだけだ。アイリンの足を引っ張って邪魔するだけだ。だったらいっそのこと……」 アイリンにはどうにでもできなかった。朦朧とした意識を何とかつなぎとめ、目の前の光景を呆然と見つめるだけでも彼女は精一杯。 故にマックイイーンの次の行動に彼女は叫ぶしかできなかった。デイパックへとゆっくり手を伸ばしていくマックイイーン、彼が中から取り出したのは一丁の拳銃。 支給品、ワルサーP99。 「ばッ……!」 「死んだほうがマシだろうなァ…………」 アイリンは血の気が引くのを感じた。自分の顔から、わずかに残っていた赤みすら消えたのが、確かに、彼女にはわかった。 マックイイーンはやるだろう……彼は本気だ。彼には『何にもない』。空っぽの虚無感、底知れない理解不能の情熱が彼を突き動かしているッ アイリンにミスがあるとしたら、マックイイーンを軽んじていた事。ジョージのお人好し具合に押し切られる形で、彼への警戒心を緩めていた事。 「死んでやるゥゥゥウウ―――ッ! 独りぼっちで逝くのは寂しいからよォオオ、皆も一緒に逝ってくれよォオオ―――ッ!」 マックイイーンがトリガーに指をかける。銃口はこめかみに向かって一直線、あとほんのすこし指を動かすだけで、彼は脳髄をまきちらしあの世に『逝ける』だろう。 それは即ち、死。それも奇妙な自傷願望を持つ男一人が勝手に死ぬだけでなく、アイリンも、ジョージも、周りの三人を巻きこんで起きる自殺と言う名の殺人行為。 マックイイーンの絶叫が響いた。アイリンは何もできない。すぐそこまで迫った死を前に、彼女は何も考えられず、だが、目をつぶりその時が来るのを待った。 ――銃声は響かなかった。 かわりに響いたのはスカッと、気持ち良くなるぐらいの鮮やかな張り手音。 鳩が豆鉄砲を食らったような顔をするマックイイーン。けたたましい音を立て、地面で拳銃が跳ねまわる。反射的に、彼ははたかれた自分自身の頬をなでていた。 息も絶え絶え、肩で出呼吸をしながら、残された生命力を燃やすように、ジョージは生きていた。血だらけになりながら、気力だけで立ち上がったジョージがマックイイーンの前にいた。 やつあたりのように、転がる拳銃を蹴飛ばしたジョージ。彼を支えているのは情熱、そして……怒りだ。 温厚で、紳士的。そんなジョージ・ジョースターⅠ世が怒っていた。怒りに体全身を揺らし、その声は怒りのあまり、わなわなと震えていた。 「君は、心底、馬鹿ものだ、マックイイーン君ッッッ!」 呆然のアイリン、唖然とするマックイイーン。少し離れた場所でけだるそうに立ち上がったビットリオが、不思議なものを見た様に首を傾げていた。 「どうして皆殺したがるッ?! どうして皆死にたがるッ!? そんなに世界が憎いのか、そんなに世の中が怖いのかッ 誰もかれもがそうやって命を投げ捨てるッ 簡単に、見切りをつけて、諦めて死のうとするッ 何故だッ そうやって君たちが生きている世界は、誰かが望んでも生きられなった世界なんだぞッ! 誰かが生きたい生きたい、そう望んでやまなかった一日なんだぞッ! 命を投げ捨てるな、若造たちがッ 君たちが生きている今は、私が、私の妻が、どうあがいても手に入れることができなかった一瞬なのだぞッ…… ふざけるな、侮辱するな……くそ、くそ、クソォ…………ッ!」 マックイイーンの肩を揺さぶり、唾を吐きかけない勢いでジョージは叫んだ。 面と面を合わせて、至近距離で、一切眼を逸らすことなく、彼は叫んだ。 魂の咆哮だった。叫び終わったジョージが、マックイイーンの足元で、唸るように地面を拳で叩く。 アイリンは何が起きたかわからない。マックイイーンもおろおろとその場でジョージの背に手を置き、途方に暮れている。どうやら自殺願望は吹っ飛んでしまったようだ。 悔しかったのだろう、ジョージは。アイリンは思う。 鍾乳洞でジョージはマックイイーンに頭を下げ、心をこめて頼み込んだのだ。そして道中も、なんとか彼の歪んだ精神を前向きにしてやろうと、懸命に励まし続けてきた。 それがこのざまだ。だが決して、ジョージはマックイイーンが憎いのではない。マックイイーンを怨んでいるわけでもない。 (おじさま……貴方は、貴方と言う人はお人好しすぎますッ) ジョージ・ジョースターⅠ世はその事に気付けなかった自分を戒めているッ! そんなマックイイーンのことを理解できなかったことを悔やんでいるのだッ! 自分はマックイイーン君をおだて、誤魔化し、先送りにしてきただけだったのではないか。どこか楽観視して、惰性で問題を後回しにしていただけはないか。 マックイイーン君の事を考えて自分は本当に彼と向き合っていたのか? 本当に彼のためを思っていた、そう自分は胸を張って誇りを抱いて宣誓できるだろうか? 百パーセント、全力全開で努力をした、そう言えるだろうか? 悔しがっているのは伝えきれなかった自分の力量。マックイイーンの自殺願望を覆すほどに、忘れさせるほどに導けなかった自分の度量のなさ。 もっと話しておけばよかった。もっと必死に伝えるべきだった。 呆れを通り越し、アイリンはもはや嘆息するほかなかった。自分たちが少年に襲われていることすら忘れ、こんな状況ですら彼は心底悔んでいるのだ。 狂気! アイリンの底に沸き上がった感情はまさにそれ! ジョージ・ジョースターは誰よりも、普通で、無力なものにみえる。 しかし、実態は違うッ! この場にいる誰よりも……アイリンよりも、マックイイーンよりも、底知れない少年よりも! ジョージのお人好し具合は群を抜き、天を貫き、狂気というのに相応しいッ! もし彼が持っているという能力があるとするならば、正気の沙汰ではないその能力ッ まさに『狂気』というほかないだろうッ! 「君もだ、少年……」 しばらく経った後、悔し涙を拭ったジョージが問いかける。 ナイフを持った殺人鬼は地べたにしゃがみ込む三人を前に困惑しているのか、何も考えてないのか、ついさっきまで襲いかかってきたこと忘れたかの様に、その場に突っ立っていた。ただ黙ってジョージの姿をじーっと見つめていた。 マックイイーンの手を借り、ジョージが立ち上がる。しゃがれ声で彼は少年へと問いかける。 「殺すだの、死ぬだの……もう沢山なんだ。見ての通り、私は弱い。誰よりも……なによりも。無力すぎるぐらいだ。 目の前の彼の苦しみすら理解できてやれない、アイリン君が怪我を負ったのも私のせい。 大人としての責務を果たすどころか、足を引っ張るばかりだ。私は何もできない、ただの無力な田舎者の紳士だ。 しかし、君は違う。ナイフ一本で我々に立ち向かったのはものすごい勇気が必要だったろう。殺し合いに巻き込まれ、ものすごい葛藤の末に、君は武器をとったのだろう。 その勇気を私に分けてくれはしないか。そもそも私たち三人は殺し合いなんぞに乗っていやしない。 あらぬ誤解から生まれた戦いなんだ、これは。我々は本来手を取り合える仲なんだ……」 一歩、一歩。さきほどまで凶器を振り上げていた少年に馬鹿正直に手を差し伸べ、近づいて行く。 純粋無垢、天真爛漫、馬鹿正直。ジョージの目に輝く希望や望みというものはあまりに眩しすぎる、美しすぎる。 人殺しの舞台で人を疑わずにはいられない自分がおかしいのだろうか、そうアイリンに思わせるほどであった。 少年も同じように感じたのだろか、きまりが悪いようにナイフを持った手で鼻頭を軽くかく。 少しもごもごと口を動かした後、ポツリポツリと言葉をこぼす。決して大きな声ではなかったが、静まり返った道路で、その声はよく響いた。 「なんッてかよォー、おっさん、相当ぶっトンデやがんぜェ……。 マゾヒストってか? にしても流石の俺もどんビクぐらいだ。いくら俺でも他人に蹴られ殴られしたらプッツンくるっつーのにさ。 勇気だの、無力だのよォ……お花畑かァ、あんたの中身は? 頭、ヤクでもやってるんじゃねェのかって思いたくなるぐらいだ、アンタのおつむの中はさァ。 にしてもおかしーつの? とんでもねーつーの? ヤクやっててもここまでトんだやつはいねーよな。 ましてこれがシラフ? さぞかしオッサンはよォ、生きてるっつー感覚に溢れかえってんじゃねーの。 ただなァ……ただァ…………」 言葉の最中、なんどか痰を吐くような苦しそうに咳をする。心配そうにジョージが少年の目を覗きこむ。それをわかっていて少年は敢えて、空中をぼうっと見つめる。 ジョージに対する答えは喉に絡み付き、言葉として出てこないかのようだ。何度か、うなり声のような意味の成さない言葉を発し、つまりだなァ、とか、そうだなァ、と少年は繰り返した。 なかなか言うべきことが見つからないようで、彼はうろうろと歩きまわり、苛立ち気にナイフを何度か素振りする。 心配そうな顔でマックイイーンがジョージをちらちら見るのがアイリンの視界に映った。 そしてそんなマックイイーンを落ち着かせるように、優しく微笑むジョージがいた。太陽のように眩しく、春の日差しのようにその笑顔は暖かかった。 ジョージは待つ。どこまでも真っすぐな目で、自分の信念を貫き、少年へと手を差し伸べる。 友好の一歩は自らの一歩。あとはそんなジョージの狂気に少年が魅せられるかどうかだ。 「ただ一言、俺から言わせてもらうとよォ……」 不意に、少年が言葉を口にした。食堂で級友にソースをとって、というかのような気軽な口調だった。 思わぬところから言葉が舞い降りてきたかのように、ポンと少年は言葉を吐きだした。視線はジョージに向いておらず、バツが悪いかのように自らの足元へと向けられていた。 並び立つ三つの影、訪れた静寂。アイリンはゴクリと唾を飲み込んだ。 誰も動かず、少年の次の言葉を、今か今かと待ち望んでいる。マックイイーンの能力によって割れた額が疼きだした。 たらァ……と一筋の血が流れ、アイリンは目に入りそうになったそれを拭おうと下を向いた。 ―――次の瞬間 胃が縮むような肉を切り裂く音と、何か重さを持ったものが地面で弾む音をアイリンは聞いた。 そして幼い少年の声。その声にはカラカラに乾ききった達観が込められていた。 「なァに言ってんだ、お前」 カランカラン、とジョージの首から外れた首輪が地面に落ち派手な音を立てた。 糸を無造作にちぎられたマリオネットかのように、ジョージの身体が地べたに崩れ落ちる。 「えっ?」 マックイイーンの間抜けな声。そしてその呟きが彼の最後の言葉になった。 黒豹のように飛び跳ねた少年が、マックイイーンの懐に、たったの一歩で潜り込む。 ジョージの首を跳ね飛ばしたナイフが、返しの一刺しでマックイイーンの首を貫いていた。 ぴちょん、という音が静まり返った町に響き渡った。 それはジョージの首からドクドクと流れ続ける血が跳ねた音なのか、マックイイーンの首筋から噴き上がる見事な血のシャワーの音なのか、その時のアイリンにはわからなかった。 最後にアイリンが聞いたのは誰かの悲鳴。喉が、肺が焼けるように熱い。甲高い女性の声が鼓膜を振るわしていた。 二人の血を全身で浴び、額から垂れ落ちる血と涙で視界が真っ赤に染まった。もう何も見えない……、もうなにもみたくない。 ゆっくりと小柄な少年のような影が近づいてきて、右手に持った何かを振りかぶる。 そして――― 【ジョージ・ジョースターⅠ世 死亡】 【サンダ―・マックイイーン 死亡】 【アイリン・ラポーナ 死亡】 【残り 101人】 ◆ と、このへんでやめておくか。これ以上話してもつまらないし、なにより、『いささか不適切』なんでね……。 『殺す』ことが得意のアイリン・ラポーナ。『自殺』することの達人、サンダ―・マックイィーン。逆に考えるが勝ち、『説得』のプロフェッショナル、ジョージ・ジョースターⅠ世。 そんな奇妙な三人組が行きついた先は仲良くそろってあの世行き。皮肉だねェ、なんとも。 今回の話しで言えばあまりに相性が悪すぎた。 ビットリオを『殺す』ことはとっても難しいし、『道連れ』しようたってなかなかうまくいかない。ましてや『説得』だなんて……元々会話の通じない相手なんだから、それは無理ってもんだよ。 それぞれの狂気が暴走した結果がこのざまだよッ……って感じかな? ただ、補足と言っちゃなんだけど、一つだけ紹介しておきたいことがあるんだ。俺の好きな言葉にね、こんな一節がある。 作者はたしか……フリードリヒ・ニーチェだったかな? 『怪物と戦う者は自らも怪物とならないように気を付けねばならない。 汝が深淵を覗き込むとき、深淵もまた汝を覗き込んでいるのだ』 今回の話で言えば一体誰が怪物だったんだろうね? 狂気に魅入られ、怪物になれ果てたのはジョージ? マックイイーン? ビットリオ? それとも……知らず知らずのうちにアイリン・ラポーナこそが狂気に魅入られ、怪物となっていたのかな? 一つわかっているのは……ここではマトモな神経してるやつこそ、どんどん死んでいくことになるだろう。 皆も狂人、全員狂人。タガが外れてるやつこそが強靭だったりするもんだ。イカれてるのさ、この状況で。 この話はまた今度の機会に話そうか。狂気、そしてそれが生み出す『怪物』。 これについてはまたの機会に…………――― 【C-6 中央/1日目 黎明】 【ビットリオ・カタルディ】 [スタンド] 『ドリー・ダガー』 [時間軸] 追手の存在に気付いた直後(恥知らず 第二章『塔を立てよう』の終わりから) [状態] 体力消耗(中)、貧血気味、肩にダメージ(小)、片脚にダメージ(中)、額から出血(小) [装備] ドリー・ダガー、ワルサーP99(20/20)、予備弾薬40発 [道具] 基本支給品×6(自分、ポルナレフ、アヴドゥル、アイリン、マックイイーン、ジョージ)、不明支給品×四人分(未確認) [思考・状況] 基本行動方針:とにかく殺し合いゲームを楽しむ。 1.荷物を整理したい。いらないものは捨てる。 2.少し休みたい。さすがに傷つきすぎた。 [参考] ビットリオは殺し合いについて深く考えていません。マッシモ・ヴォルペが参戦している可能性も考えていません。 マックイイーンの支給品はワルサーP99と予備弾薬でした。 不明支給品の内訳はビットリオ自身、ポルナレフ、ジョージ、アイリンの四人のものです。 脚へのダメージは歩ける、走れるものの治療なしで長時間の酷使はできない、ような状態です。脚を含め傷の状態の詳細は次回以降の書き手さんにお任せします。 C-6中央にジョージの頭部、首なしのジョージの死体、マックイイーンとアイリンの死体が放置されています。 【支給品紹介】 【ワルサーP99 と その予備弾薬@現実】 サンダ―・マックイイーンに支給された。 全長180mm、重量750g、装弾数20発、9mm口径の軍用・警察用自動拳銃。 漫画版『バトル・ロワイアル』では沼井充に支給され、沼井の死亡後は桐山和雄が、桐山死亡後は中川典子が使用した。 投下順で読む 前へ 戻る 次へ 時系列順で読む 前へ 戻る 次へ キャラを追って読む 前話 登場キャラクター 次話 035 取柄 ジョージ・ジョースター1世 GAME OVER 035 取柄 サンダー・マックイイーン GAME OVER 019 学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD 前編 ビットリオ・カタルディ 095 Panic! At The Disco! (前編) 035 取柄 アイリン・ラポーナ GAME OVER
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狂気ブースト 概要 低国力ユニットを大量に出し、頃合いを見て狂気の科学者ですべて廃棄して国力を発生させ、早いターンに大型ユニットを出すコンボデッキ。ジオン十字勲章を一緒に配備しておき、大量ドローからのユニット配備を狙うコンボを内蔵していることが多い。 開始して数ターンは、相手から見ると緑ウィニーにしか見えない動きなのも特徴。実際、構成はウィニーに近く、構成次第ではサイド交換で変形できる。 歴史的にはドップ、ガトルの登場した宇宙の記憶《3rd》くらいから存在するが、狂気の科学者のプレイをカウンターされる、カットインで女スパイ潜入!などを撃たれるなど、弱点も多いため、知られてはいるが使用する人は少ない。 このデッキで出す大型ユニットだが、敵の展開を確実に止めることのできるアプサラスIII《3rd》、狂気の科学者を使った際にジャンクヤードが溜まるのでノイエ・ジールなどが使いやすいだろう。
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登録タグ グロ パワーワード ホラー 危険度2 小説 黙読注意 残虐系ネット小説のサイトで、狂気太郎は管理人のHN。 その独特のニヒリズムに基づいた人間の持つ狂気や現実の無慈悲な残酷さ、人在らざる者たちの超人的な戦いなどを描く作品が多い。 + 主な作品一覧 お父さん(いじめ ミクミク) ずれ(「一日が二百時間というのは皆さんも知っていることだろう」のフレーズで有名) 殺人鬼探偵シリーズ 分類:グロ、ホラー 危険度:2 コメント ↑(いじめ ミクミクが) -- (名無しさん) 2020-11-15 16 17 21 そうだよな、釘バットじゃあケツに入らないもんな。いやホウキでも入らないやめてくれ。 -- (名無しさん) 2020-11-29 09 59 45 ハンドルネームが僕のハンドルネームより100倍インパクトが高いな。 -- (ゲーム太郎) 2021-03-10 22 20 17 狂気さんの作品狂おしいほど好き。青少年~は定期的に読みたくなる面白さ。 -- (ミルメーカー) 2021-04-05 18 31 37 モラルは名作 -- (名無しさん) 2021-04-19 19 58 36 数ある太郎シリーズ(駕籠真太郎、チンカス溜め太郎)の中でも一番なんか好き -- (ナイル) 2021-05-02 22 35 49 ゲゲゲの鬼太郎みたいな名前だな -- (グロキン) 2021-06-06 12 38 09 正直めちゃくちゃ面白い チェンソーマンとかドロヘドロが好きな人はハマると思う -- (とねりこ) 2021-06-24 12 10 37 スプラッターに走りすぎてて微妙なのもままあるがけっこう面白いのもある 「地獄王」と書籍化もした「ずれ」とかオススメ -- (名無しさん) 2022-12-12 00 56 03 おう、実験地区13の原作小説の紙媒体本と漫画版の新刊、あくしろよ。 -- (谷岡俊三) 2023-10-28 15 01 45 名前 コメント すべてのコメントを見る
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シラクサを愛しすぎる故に狂気がにじみ出てしまっている者たちの事。 囲いとは別次元の存在である。 監視勢 録音勢 イラスト勢 スケジュール勢 などが確認されている。 基本的にはリスナーのことを指すが、シラクサ自身も狂気勢であることは間違いない。 関連項目 みんなってだれ オリジナルキャラ +... +... +... +... +... +...
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短期の一時的狂気 1:気紀あるいは金切声の礎作 1:パニック状熊で迷げ出す 3 肉俸的なヒステリー、あるいは感情の噴出(大笑い、大泣きなど) 4:早口でぶつぶっ言う意味不明の会話あるい、は名弁症(一貫した会話の奔液) 5 擇索者をその場に釘づけにしてしまうかもしれないょうな極度の恐悴症 6 殺人癖あるいは自殺癖 7:幻覚あるい、は妄想 8:反響動作あるいは反響言語 (揉索者は周りの者の動作あるいは発言を反復する) 9 奇抄なもの、異様なものを食べたがる(泥、粘着物、人肉など) 10:昏迷(胎児のような辛勢をとる、物車を忘れる)あるいは緊張症(我慢す ることはできるが意思も興味もない:強制的に単純な行動をとらせることは できるが、自発的に行動することはできない) 長期の一時的狂気 1:健忘症(親しい者のことを最初に忘れる:言語や肉俸的な技能は働くが、 知的な技能は勧かない)あるいは昏迷/繁張症 2 激しい恐怀症 (迷げ出すことはできるが、恐怖の対象はどこへ行っても見える) 3:幻覚 4 奇妙な性的嗜好(露出症、週剰性欲、香形愛好症など) 5:フェティッンュ (探索者はある物、ある種類の物、人物に対し異常なまでに執着する) 6 制御不能のチック、農え、あるいは会話や文章で人と交液することがで きなくなる 7:心因性視覚障害、心因性難聴、単款あるいは複数の四肢の機能障害 8 短時間の心因反応(支離減裂、妄想、常軌を逸した振る舞い、、幻覚など) 9 一時的偏執症 10 強迫観念に取りつかれた行動(手を洗い続ける、祈る、特定のりズムで 歩く、割れ目をまたがない、銃を絶え間なくチェックし続けるなど)
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正気と狂気 Sanity and Madness 狂気とは並外れた肉体的、精神的、あるいは霊的な苦痛と試練によって苦しめられた者に降りかかる苦難である。また、精神が耐えることができないような、錯乱させるほどの恐怖、狂気、異質な存在の源泉の特に強力な物にさらされることも狂気の原因となる。狂気は[精神作用]効果である。 狂気に陥る ゲーム上、ある者がその精神的能力値(【知力】、【判断力】、【魅力】)に恐ろしい衝撃を受けたときこそ、狂気に陥る機会である。クリーチャーがこれらの能力値の1つが0にまで減少した際が狂気に陥る可能性がある(注:【判断力】能力値が0になれば全ての意志セーヴに-5のペナルティを被るため、【判断力】ダメージは特に狂気を起こしやすい)。このページの表に従ってダイスを振るか、犠牲者の能力値を0にまで減らした原因に適当な狂気を選択すること。君は犠牲者のセーヴィング・スローを密かに行う――犠牲者はその結果や、彼に降りかかった狂気の種類を知るべきではない。これらの効果は自然にプレイで明らかにされるべきである。一部の狂気(恐怖症のような)は発症したり効果をあらわすのに数日あるいは数ヶ月かかるが、他のもの(偏執病のような)は即座に明らかになる。 選択ルールとして、極端に異常な状況下では、クリーチャーは精神的能力値にダメージを受けなくても狂気に陥る危険がありうる。長い間閉じこめられたキャラクターは、広場恐怖症や閉所恐怖症になることに対するセーヴを行わなければならないかもしれない。味方に繰り返し裏切られた者は偏執病になることに対するセーヴをしなければならないかもしれない。強力なデーモンに憑依された哀れな魂は、悪魔祓いの際にサイコシスにならないかセーヴを行わなければならないかもしれない。このような狂気の発生はGMの決定による。 また、狂気は魔法によっても引き起こされうる。インサニティ呪文は、犠牲者に永続的なコンフュージョンを発生させる代わりに、5術者レベル毎に1つのランダムに決定された狂気を与えることもできる。ビストウ・カースも敵に1種類の狂気を引き起こすことができるが、この場合狂気は呪いでもある。 複数の種類の狂気に苦しめられることもありうる。すでに苦しめられている種類の狂気がまた引き起こされた場合は、狂気の現在のDCは+5上昇する。 狂気からの回復 全ての狂気はその狂気の強度を表すDCを有する。狂気のDCは最初にそれにさらされた時に狂気に陥るのに抵抗するための意志セーヴだけではなく、回復するために行うDCも示す。狂気から自然に回復するのは長い過程を必要とする。1週間に1回、狂気の現在のDCに対する意志セーヴを行う。このセーヴに成功すれば、狂気のDCは君の【魅力】修正値に等しい数(最低1)だけ減少する。DCが0まで減少するまで狂気の完全な効果を受け続けるが、0になると治癒され、狂気は完全に消えてしまう。 レッサー・レストレーションは狂気に対して何の効果もないが、レストレーションは目標に効果を及ぼしている狂気の1つの現在のDCを術者レベルに等しい数減少させる。グレーター・レストレーション、ヒール、リミテッド・ウィッシュ、ミラクル、ウィッシュは目標の全ての狂気を即座に治癒する。 狂気の種類 クリーチャーが狂気に陥った場合、狂気の種類を決定するために以下の表をロールすること。あるいは、原因にふさわしい狂気を割り当てること。 d% 狂気 01~11 記憶喪失症 12~48 依存症/恐怖症 49~68 多重人格障害 69~78 偏執病 79~84 サイコシス 85~00 統合失調症 狂気の例 記憶喪失症 種別 狂気; セーヴ 意志 DC20 潜伏期間 即時 効果 意志セーヴと全ての技能判定に-4のペナルティ; 記憶喪失(下記参照) 解説 記憶喪失症にかかったキャラクターは物事を思い出すことができない。その名前、技能、過去の全ては等しく謎である。新しい記憶を積み上げることはできるが、記憶喪失症になる前にあったいかなる記憶も抑圧されている。 さらに悪いことに、すべてのクラス能力、特技、技能ランクが記憶喪失症が続く限り失われる。保持されるのは基本攻撃ボーナス、基本セーヴィング・スロー、戦技ボーナス、戦技防御値、総経験点、ヒット・ダイス(ヒット・ポイント)であるが、その他の全ては記憶喪失症が治癒するまで失われる。記憶喪失症にかかっている間にクラス・レベルを得た場合は、そのクラス・レベルで得た全ての能力を通常通り使用できる。得たクラス・レベルがすでに有しているクラスのものであった場合は、システム上はそのクラスのより高いレベルであるが、そのクラスの1レベル・キャラクターとしての能力を得る。記憶喪失症が後に治癒した場合、記憶喪失症にかかっている間に得たレベルも含め、このクラスの完全な能力を取り戻す。 依存症/恐怖症 種別 狂気; セーヴ 意志 DC14 潜伏期間 1日 効果 依存症あるいは恐怖症の源泉が明らかにある限り、目標は不調状態(依存症の場合)あるいは怯え状態となる(恐怖症の場合)。恍惚状態または恐れ状態になる可能性がある(下記参照)。 解説 依存症は特定の事物または状況(通常は不適切なもの)に対する非理性的な執着であり、恐怖症は事物または状況(通常は普通に見られるもの)に対する非理性的な恐怖である。それに加えて、依存症または恐怖症のキャラクターがその執着の対象と向かい合った場合(標準アクションが必要)、狂気に対抗する意志セーヴを行わなければならず、失敗すれば1d6ラウンドの間その事物によって恍惚状態(依存症の場合)または恐れ状態(恐怖症の場合)になる。 多重人格障害 種別 狂気; セーヴ 意志 DC19 潜伏期間 2d6日 効果 意志セーヴと【判断力】を基にする技能判定に-6ペナルティ;多重人格(下記参照)。 解説 これは同じ心と体の中に1つ以上のはっきりと異なった人格が生まれるという複雑な精神障害である。犠牲者に増える人格の数は、狂気のDCを10で割った数(端数切捨て、最低1人格追加)に等しい。何らかの理由(セーヴDCの上昇など)で狂気が悪化した場合、追加人格の数も同様に増加する。同様に被害者が回復し狂気のDCが減少するにつれ、追加人格の数も減少する。GMはこれら追加人格の詳細を決めるべきである。毎朝、また罹患しているキャラクターが気絶状態になった場合、狂気のDCに対して意志セーヴを行わなければならない。失敗した場合、別人格が引き継ぐことになる。キャラクターの記憶と技能は変わらないが、それぞれの人格はお互いのことを知らず、他の人格が存在することを、多くの場合激しく否定する。 偏執病 種別 狂気; セーヴ 意志 DC17 潜伏期間 2d6日 効果 意志セーヴと【魅力】を基とする技能判定に-4のペナルティ;援護アクションの利益を受けたり援護アクションを行うことができない;自分の狂気のDCに対する意志セーヴに成功しない限り、他のクリーチャーの助け(治療を含む)を自発的に受けることができない。 解説 偏執病のキャラクターは世界とそこに住む全ての者が自分を苦しめようとしていると確信している。典型的な偏執病のキャラクターは議論好きか内向的である。 サイコシス 種別 狂気; セーヴ 意志 DC20 潜伏期間 3d6日 効果 キャラクターは混沌にして悪になる;狂気を隠すための〈はったり〉判定に+10の技量ボーナスを得る。 解説 この複合的な狂気により、犠牲者は世界に対する憎悪で満たされている。狂気のDCに対する意志セーヴに成功することで精神異常を1日の間抑えることができるが、失敗した場合は友と敵に等しく死と破壊をもたらそうとする陰謀と計画を企むことを抑えることができない。ほとんどの場合、精神異常の衝撃はロールプレイによってあらわされるが、すべてのプレイヤーが仲間を破滅させようとする狂人のロールプレイをすることを楽しめるわけではない。そのような場合、精神異常の支配下にある時にはGMがそのキャラクターのコントロールをするべきである。 統合失調症 種別 狂気; セーヴ 意志 DC16 潜伏期間 1d6日 効果 全ての【判断力】と【魅力】を基とする技能判定に-4のペナルティ;出目10と出目20を行うことができない;混乱状態になる可能性(下記参照)。 解説 統合失調症のキャラクターは現実を把握する力を失い、現実であることとそうでないことの区別がもはやつけられなくなる。このような恒常的な妄想により、統合失調症の患者は突飛で混沌で他者には予測できない者となる。統合失調症のキャラクターがストレスを感じる状況(戦闘のような)におかれた場合は、自らの狂気のDCに対して意志セーヴを行わなければならない。失敗した場合はキャラクターは1d6ラウンドの間混乱状態になる。
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「恋が狂気でないとしたら、そもそもそれは恋ではない」――ペドロ・カルデロン・デ・ラ・バルカ ◆ ◆ ◆ 晴れた日の昼下がり、オズウェルは草萌える広場の真ん中に寝転がって、空を見上げていた。 「オズ君」 呼ばれて上体を起こすと、向こうからのんびりと歩き寄ってくるマティルダの姿が見えた。白い光を全身に浴びて、微笑んでいる。 「なにしてるの」 「陽の光を浴びてるんです。ほら、今日は、とてもいい天気ですから」 「あたしも一緒に浴びていいかな」 「ええ、もちろん」 言われて、マティルダはオズウェルのすぐ隣に寝転がった。 こんな涙が出るくらいに平穏な日々が、ずっと続けばいいと心から願った。けれど、その願いが叶わないことを、彼は知っていた。だからこそ、このひとときを、大切にしようと思った。 「草の匂いがする」 「そりゃあ、草の上に寝転がっていますからね」 「違うよ。オズ君から」 微笑んで目を閉じたマティルダに向かって、オズウェルはわずかに首をかしげた。 「僕から?」 「うん」 それに、太陽と風の匂いもする。 「なんですかそれ」 思わず笑ってしまった。草はともかく、太陽や風に匂いなんてものはそもそもないのだ。 「わかんない。けど、すごくいい匂い」 オズ君の匂い、好きだよ。 会話は、そこで途切れた。僕もあなたの匂いが好きですとは、どうしても言えなかった。花を思わせる涼しげで甘いいつもの匂いも、稽古を終えたばかりの汗くさい匂いも、マティルダのものならばなんだって好きだった。 「マチさん」 自分でもそうと自覚しないうちに言葉が洩れていた。 「なに?」 「――いえ。なんでもありません」 いま、自分はなにを言おうとしたのだろうかとオズウェルは思った。 本当は、分かっていた。伝えたい気持ちがあった。言いたい言葉があった。けれど、それはすべて、意味のないことたちだ。想いの伝わらない言葉ほど、虚しいことはない。 泣きたい気分を初夏の陽気のせいにして、オズウェルは目を閉じた。 ◆ ◆ ◆ 彼女との出会いは、記憶を手繰れば、すぐに思い出すことができた。少女と過ごしたのは、とても、とても短い時間だった。 記憶は霞むものだ。 それでもオズウェルは、そのときのことを、克明に思い出すことができる。 恋の始まりは、あまりにも突然だったけれど、穏やかでもあった。 ◆ ◆ ◆ 幼い子供だった頃。 少年は、孤児院の寝床に臥せていた。他の子どもたちが庭で遊んでいるのを、窓越しに眺めることしか出来ない。それは、いつものことだった。彼は、体が弱かったのだ。 別に、憐れむようなことはしない。憐れんだところで、体が強くなるわけではないことを、少年は知っていた。少年は、ただ、ありのままをありのままに受け取っていただけなのだ。 「――」 けれどその日は、いつもと、少し違っていた。遊んでいる子どもたちの中に、見知らぬ少女がいたのだ。金髪の女の子だった。孤児院の人数は少ないから、皆の顔を覚えるのは簡単だった。けれど、少年は、少女の顔に見覚えがなかった。となると、少女は外から来た人間ということになる。 誰だろう、どこから来たんだろう、と。物思いにふけったのも一時的なもので、少年は、自分でも気付かないうちに、少女に見惚れていた。少女の、元気に走り回る姿に、憧憬していたのかもしれない。 じっと彼女を見ていると、ふと、少女と目が合った。少年は思わず顔を伏せた。目だけを動かすと、少女がこちらに駆け寄って来るのが見えた。 「こんにちは」 窓を開けて、少女が話しかけてきた。そのとき少年は、自分の目を疑った。少女の瞳が、あまりにも美しかったから、ではない。確かに、美しいと言われれば美しい、澄んだ碧色をしていたが、そうではない。傷。衣服から覗く体のあちこちに、生々しい傷痕があったのだ。 「きみは」 なぜ、こんなにも多くの傷を負っているのか。なぜ、少女は傷痕を隠そうとしないのか。なぜ、笑っていられるのか。少年は、分からなかった。分からなかったが、だからこそ、少女は、普通の人間には及びもつかないような世界で生きているのだろうと、少年は理解した。 「マティルダ。みんなはマチって呼んでる」 マチ、と少年は言った。ぼくのなまえは。 「オズウェル。オズでいいよ」 オズ、と少女は言った。 それが、オズウェルとマティルダの出会いだった。 ◆ ◆ ◆ 「オズくんは、どうして寝てるの」 「体が弱いから」 「弱いの」 「うん。病気になりやすいんだ」 「ふうん」 「マチは、病気になったことある?」 「ないよ」 「そっか。いいな」 少女はきっと、少年には無いものを持っている。そしてそれは、少年が求めてやまないものだった。少年は、少女を羨ましいと思った。 「どうしたら」 きみみたいになれるかな。 「簡単だよ」 強くなればいいんだよ。 「強くなれば、病気にも負けないよ」 簡単そうに少女は言った。 「強く、なる」 「うん」 言葉にすれば簡単だった。けれど、それがとても、とても難しいことを、少年は知っている。なんとなれば、少年は弱かった。ぼくには。 「むずかしいな」 「そうかもね。でも、きっと」 「なに」 「オズくんは、強くなるよ」 「どうして」 「そんな気がする」 「なにそれ」 少年は笑った。 「そんな気がするの。だから」 大丈夫だよ。 「そうだと、いいな」 少年は、少女の言葉を、信じてみようと思った。 だから、強くなって、元気になったら。 元気いっぱいに笑って、マティルダは言ったのだ。 「一緒に遊ぼうね」 と。そのとき、オズウェルの心の中に、何かが生まれた。 そのときの少年は、それが何なのか分からなかった。恐らくそれは魂のように、けして目で見ることは出来ず、耳で聞くことはできず、匂いも色もない何かだった。現世のものとして掴むことのできないものだった。しかし、それは、そういう性質のものだった。だからこそ、かけがえのないものだった。 それは、恋だった。 少女を呼ぶ声が聞こえた。見れば、遠くに男が立っている。 「もう行かなきゃ」 オズウェルは、彼女ともっと話していたかった。けれど、それを口に出すことはしなかった。分かっているのだ。人と人が出逢えば、そこには必ず、別れがあるということを。 「元気でね」 「うん。オズくんも」 そう言ってマティルダは男のもとへ駆け寄った。男は彼女の手を取り、共に歩き出した。少女は一度だけ後ろを振り返り、手を振った。オズウェルも、手を振った。彼女の姿が見えなくなるまで、いつまでも。 マチ、とオズウェルは呟いた。思えば、春は近かったのだ。 ◆ ◆ ◆ それから、数年後。 十三歳になったオズウェルは、必要悪の教会の魔術師になっていた。あの孤児院で魔術を知った彼は、魔術について研鑽を積み、姉と妹と共に魔術師になったのだ。 「ねぇオズ兄。今日の夕飯はなんだろうね」 「僕はスター・ゲイジ・パイが食べたいな」 「えぇ、アレ見るからにゲテモノじゃないか。アタシはランカシャー・ホットポットが食べたいね」 こんな風に姉と妹と他愛のない話をするのは、いつものことだった。 そのとき、二人の少女とすれ違った。 「でね、そのおじさん、とても強かったんだ」 「そうなの」 「でも、おじさん、本気じゃなかったんだ。もし本気で戦ってたら、あたしはきっと負けてた」 「へえ。じゃあ、もっと強くならないとね」 「うん」 「あー、あたしもアイツを見返せるくらい、強くなりたいな」 オズウェルは、思わず立ち止まった。後ろを振り向く。 色とりどりの服を重ね着した少女の隣で、義手をつけた金髪の少女が歩いている。 不思議な気配を感じる。声が聞こえたのだ。楽しげな、嬉しげな。 「大丈夫だよ」 霊感が走った。 怪訝な顔をしている姉と妹を置き去りにして、オズウェルは少女に駆け寄った。 間違いない。忘れるはずがない。あの子だ。あの日、あのとき、あの場所で出逢った。 運命のひと。 「マチさん」 オズウェルは言った。確信していた。 「きみは」 「オズです。オズウェル」 ほら、昔、孤児院で会った、体の弱かった子供です。 「あ、もしかして、あのときの?」 「思い出してくれましたか」 最初はきょとんとしていた彼女の顔が、少しずつ笑顔に変わって行くのを見て、オズウェルも嬉しくなった。それはきっと、彼女が自分を憶えていてくれていたから、ってことだけじゃない。もっと何か、ふかいふかい、自分ではどうしようもないどこかで、彼の気持ちは高まっている。 「体はもう平気なの?」 「はい。すっかり良くなりました」 「良かった。じゃあ、手合せお願いしてもいい?」 「え」 手合せ。それは、戦うということだと理解するのに、少し時間がかかった。 「え、ええ、もちろん」 「ありがと。じゃあ、また明日ね」 それだけ言い残して、マティルダは走り去った。 茫然としているオズウェルに、もう一人の少女が話しかけてきた。 「きみ、新人?」 「オズウェル=ホーストンと言います。あなたは」 「弥生=アップヒルよ。あなた、マチちゃんのことが好きなのね」 オズウェルの表情が固まる。 「なんで分かったんですか」 「見れば分かるもの。でも、難しいと思うわよ」 喉のあたりが、りり、と収縮したのを、まるで他人の体のことのように遠く感じた。 「どういうことですか」 「あの子はね」 戦いにしか興味ないの。 「え」 残念だけどぉおお。 語尾が伸びて聞こえたのは、幻聴だったのだろうか。 オズウェルは、立ち尽くすことしかできない。 ◆ ◆ ◆ 弥生の言葉が本当なのかどうか、確かめなければならない。 次の日、オズウェルは約束通り、マティルダと戦った。そして、答えを得た。 マティルダは、戦士だった。けれど、ただの戦士ではなかった。戦いを至上の喜びとする者。戦いに生き、戦いに死ぬ者。それが宿命である者。狂戦士と、そう呼ぶに相応しい。 届かない。 狂っていると思った。恐ろしいと思った。けれど、それは、自分が普通の人間だからだ、戦士でないからだ、強くないからだ、と思った。そのせいだと言いたい、思いたい、信じたいのだ。 彼女に届くためなら、何だってした。いくらでも鍛えた。剣を捨てた。狂戦士の術式に手を出した。強くなれば、あるいは、狂気に染まれば、もしかしたら。けれど、何をやっても、どうしても届かない。 マティルダは、普通の人間とは遠いところにいる。それは、孤児院で初めて会ったときに、何となく気が付いていた。そして、今なら分かる。感じる。とてつもなく、遠いのだ。どのくらい走れば近付けるのかも分からないほど、離れている。早晩、彼女を見失ってしまうような。無窮の距離が二人の間に、と言うよりも、人間と戦士の間に生まれてしまっている。 強くなるということは、そういうことと折り合いをつけていくことなのだと、知ったふりをしていた。自分が病気を乗り越えられたように、と。他の人とは少しだけ違う、あるいはちょっと早熟な、わかったような人間のつもりでいた。それなのに、この始末だ。実際のところは、想い人が戦いにしか興味がないと聞いて、立ち尽くすような、弱い人間のままだった。 オズウェルは、少女を想って、泣いた。静かに泣き続けた。こんなにも悲しいことなど、もう二度とないと思った。泣いても泣いても、涙は枯れることがなかった。泣きつかれて眠って、目が覚めても泣いた。ずっと、この虚ろなものを抱えて生きなければならないのかと思うと、穴に堕ちていくような感覚さえ覚えた。少年の魂にきざまれた疵は、ひどく深かったのだ。 だが、しばらく経てば、オズウェルは笑顔を浮かべることができるようになった。なんとなれば、人は何度でも立ち上がることができるのだ。疵は疵として残るが、それとは別に、人は生きていく。それは、大人子供関係なく、人間といういきものの真実なのだ。 ◆ ◆ ◆ それでも、少年は、少女への想いを捨てきれなかった。 なんとなれば、オズウェルは。 「あなたのことが、好きなんです」 こんなにも、愛おしいのに。こんなにも、辛いのに。 声は、届かない。 ◆ ◆ ◆ 「オズ君?」 目を開けると、マティルダが立ってこちらを不思議そうに見下ろしている。 どうやら、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。寝惚け眼をこすりながら、上体を起こした。そこで、気付いた。 「どうして、泣いてるの」 涙が、流れていた。 「なんでもありませんよ」 「そう」 オズウェルは、手で涙を拭った。 「マチさん」 「なに」 「良ければ、今から戦いませんか」 「珍しいね」 オズ君から誘うなんて。 「そんな気分なんです」 「いいよ。あたしも、戦いたいと思ってたの」 「では、先に行ってて下さい。僕は、準備がありますので」 「うん」 そう言って、彼女は駆けて行った。 去り際の、マティルダの笑顔を心に刻んだ。 彼女の笑顔があれば、どこまでも頑張れるような気がした。大袈裟かもしれない。けれど、人を好きになるということは、そういうことなのだ。恋とは、そういうものなのだ。たとえ、それが叶わない恋だと知っていても、好きな人のためなら、人は、どこまでも強くなっていく。大人になっていく。 「ああ」 見上げる。頭上には相変わらず、刷毛ではいたような蒼い空が広がっていた。 (了) 参考:一途な恋は狂気の様に
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多くの正気度を喪失した場合、狂気に陥る。 狂気から回復するには一定時間経過するか、<精神分析>で即時回復できる。 <精神分析>で狂気から回復した場合、SAN値を1D3回復できる [短期の一時的狂気] (一時的狂気・不定の狂気はこちらを採用する。) 1D10の結果 狂気の内容 1 気絶あるいは金切り声の発作 2 パニック状態で逃げ出す 3 肉体的なヒステリーあるいは感情の噴出(大笑い、大泣きなど) 4 早口でぶつぶつ言う意味不明の会話あるいは多弁症(一貫した会話の奔流) 5 探索者をその場に釘づけにしてしまうかもしれないような極度の恐怖症 6 殺人癖あるいは自殺癖 7 幻覚あるいは妄想 8 反響動作あるいは反響言語(探索者は周りの者の動作あるいは発言を反復する) 9 奇妙なもの、異様なものを食べたがる(泥、粘着物、人肉など) 10 昏迷(胎児のような姿勢をとる、物事を忘れる)あるいは緊張症(我慢することはできるが意思も興味もない。強制的に単純な行動をとらせることはできるが、自発的に行動することはない) [長期の一時的狂気] (永久的狂気の場合こちらを採用する。) 1D10の結果 狂気の内容 1 健忘症(親しい者のことを最初に忘れる。言語や肉体的な技能は働くが、知的な技能は働かない)あるいは昏迷/緊張症(短期の一時的狂気の表を参照)) 2 激しい恐怖症(逃げ出すことはできるが、恐怖の対象はどこへ行っても見える) 3 幻覚 4 奇妙な性的嗜好(露出症、過剰性欲、奇形愛好症など) 5 フェティッシュ(探索者はある物、ある種類の物、人物に対し異常なまでに執着する) 6 制御不能のチック、震え、あるいは会話や文章で人と交流することができなくなる 7 心因性視覚障害、心因性難聴、単数あるいは複数の四肢の機能障害 8 短期的の心因反応(支離滅裂、妄想、常軌を逸した振る舞い、幻覚など) 9 一時的偏執症 10 強迫観念に取り付かれた行動(手を洗い続ける、祈る、特定のリズムで歩く、割れ目をまたがない、銃を絶え間なくチェックし続けるなど) [正気度の喪失の例] 正気度の喪失 神経に障る恐ろしい状況 0 / 1D2 めった切りにされた動物の死骸を見て驚く 0 / 1D3 人間の死体を見て驚く 0 / 1D3 人体の一部分を発見して驚く 0 / 1D4 川に血が流れているのを見る 1 / 1D4 + 1 めった切りにされた人間の死体を見て驚く 0 / 1D6 目を覚ましてみたら、棺桶の中に閉じ込められている 0 / 1D6 友人の非業の死を目撃 0 / 1D6 + 1 食屍鬼を見る 1/ 1D6 + 1 死んだはずの者に出会う 0 / 1D10 ひどい拷問を受ける 2 / 2D10 +1 死体が墓場から立ち上がるのを見る 2 / 2D10 +1 切り取られた巨大な頭が空から落ちてくるのを見る 1D10 / 1D100 大いなるクトゥルフを見る ◁【SAN値チェック】 ▷【戦闘】 戻る・ぱっしゅ卓……KP「ひびマキ」の場合
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◇===================================== カード名 . ..: 狂気の交錯 悦楽 [鉄火]≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡ レアリティ...: C≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡ カードスキル : 相手のWillを2点狂気に変更する/最大Life-1/自主領域魂魄が博打技能を持つ[鉄火]なら更に狂気(1)して1枚引く≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡ ステータス. . : 対価 2 SP:1 [狂気(3)]≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡ フレーバー .: 命を賭せ。そうでなきゃ面白くない=====================================◇狂気の交錯/悦楽/R/Cost 2/SP 1/相手のWillを2点狂気に変更する/最大Life-1/自主領域魂魄が博打技能を持つ[鉄火]なら更に狂気(1)して1枚引く/[鉄火]/[狂気(3)][]C
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クトゥルフ神話の脅威に勇敢に立ち向かっている探索者は、その精神を危険にさらしていることになる。 しかし、たとえ狂気に陥った探索者でも、一筋の光を見いだすことはできるのだ。 この章の中にある情報やコンセプトの多くは、1995年に出版した"Taint of Madness"(未訳)に最初に紹介されたものである。 同書にはこの章に関係あるような上号が詳細に紹介されており、その中には広範囲な歴史的拝啓、法律面での検討、 精神病院に関する議論、施設に収容する場合の問題点、歴史上の精神病院などについての記述が含まれている。 "クトゥルフ神話TRPG"のプレイヤーキャラクターは普通、正気の人間としてスタートする。 しかしプレイが進んでいくにつれ、この世のものではない異常な恐怖の知識や存在と出会い、その恐ろしい意味を知るようになる。 そのような経験は、正常な世界の中で待っていた信念を揺さぶり、打ち砕いてしまう。 このゲームにおける正気度のルールは、H.Pラヴクラフトの作品に登場する主人公たちの振る舞いをモデルにしている。 彼らは一度ならず気絶や狂気に陥る。能力値のSANは、探索者の精神的なトラウマに対する適応性とキャラクターは、 衝撃的な経験を合理化したり、恐ろしい記憶を抑制するのが容易だ。 SAN値が低いキャラクターは精神力が弱く、感情的な混乱に影響されやすい。 それほど以上とは言えないものでも、恐ろしいものを見たり経験したりすれば感情障害の原因になる。 それはクトゥルフ神話のゲームの中心となるものである。 気力が萎えそうになる恐ろしいプレイの状況の中で、キーパーはプレイヤーキャラクターたちの精神弾力性と情緒の安定性を試す。 そのやり方は彼らに 正気度 ロールをさせるということだ。D100で現在の正気度ポイント以下を出せば、 ロールに成功したということである。 正気度 ロールに失敗したキャラクターは正気度ポイントを失う。 成功したキャラクターはポイントを失わないか、あるいはほんのわずかなポイントを失うだけで済む。 どのくらい失うかは、86ページのコラムに示す例を見てほしい。あまりにも短い間にあまりにも多くの正気度ポイントを失った場合は、 狂気を誘発して、一時的狂気か不定の狂気に陥る。 この2つの狂気については、この章のあとで説明する。 キャラクターが狂気に陥ってもゲームの中で活動を続けていくためには、その狂気がロールプレイ可能なものでなければならない。 時間が重要である場合にはキーパーは"一時的狂気の表"でロールしてもいいが、 その狂気を引き起こした状況に適した一時的狂気を選ばなければならないのはもちろんのことである。 そしてプレイヤーおよび探索者と協力して、その狂気に特徴を与えなければならない。 狂気のキャラクターは2,3ラウンド後に正気に戻るかもしれないし、回復に何か月もかかるかもしれない。 正気度ポイントがゼロにまで落ちた場合には、そのキャラクターには長期入院が必要になり、 おそらくプレイにもどってくることはないかもしれない。 キャラクターは正気度ポイントを取り戻すことができるし、POW値が上昇すれば最大正気度ポイントが上昇するということもある。 クトゥルフ神話 技能が上昇した場合には、それと同じ数値だけ最大正気度ポイントは減少する。 ◆クトゥルフ神話が引き起こす狂気 戦争、虐待、そのほかの強烈な経験をすると、情緒に傷を残す。 ラヴクラフトは恐怖、未知のもの、そして人道の無視といったことに関して抱いた考えを強調するため、 われわれに新しい恐怖の形を示した。彼が言うには、時空についてわれわれが不変の法則だと思っているものは、 実は局所的にしか通用しないものであり、部分的にしか真実ではないのである。 われわれの理解の及ばないところに、より大きな現実に支配されている無限の世界があるのだ。 そこには小さなものであれ巨大なものであれ異界の勢力や種族が存在している。 明らかに敵意を持っているものもあり、われわれの世界に侵入してきているものもある。 真の宇宙は不合理な出来事、不浄な怒り、終わることのないあがき、冷酷な無秩序の宇宙であると、 クトゥルフ神話の作家たちは言う。そのようなすき間を通してわれわれは、すべてのものの中心にある、 暗く血塗られた真実を垣間見ることができる。そういう圧倒的な宇宙ヴィジョンは、ゲームの中ではめったに現れるものではなく、 現れるのはクライマックスのときである。 正気度ポイントが失われるのは、次のようないくつかの特定の場合である。 1)知識は危険なものである。 クトゥルフ神話 技能は、真の宇宙についての知識を表している。 そういう知識による自己変容の危険性は、どんな精神療法や休息を持っても取り除くことができない。 クトゥルフ神話 技能が上昇すればするほど、最大正気度ポイントが下がり、現在の正気度ポイントを制限する。 その結果 正気度 ロールに失敗することが多くなり、現在の正気度が下がることになる。 2)クトゥルフ神話の魔術は真の宇宙での物理学である。 クトゥルフ神話の呪文をかけるとき、キャラクターは想像を絶するものを可視化させ、 その精神はこの世ならぬ思考過程をたどらなければならない。 それは精神を傷つける。呪文をかけた者はそのような心的外傷を進んで引き受けたのだろうが、 やはりショックであることに変わりはない。 3)クトゥルフ神話の秘儀書は クトゥルフ神話 技能を上昇させ、クトゥルフ神話の呪文を教えてくれる。 クトゥルフ神話の秘儀書を読んで理解すると、今まで真実だと思っていたことすべてが、影のようなものになってしまう。 もっと大きく、もっと恐ろしい現実の圧倒的なパワーに魂をわしづかみにされてしまうのだ。 その経験から逃げ出そうと試みるにしろ、もっと知りたいと渇望するにしろ、今まで信じていたものに重きを置かなくなり、自信を失ってしまう。 そしてクトゥルフ神話の真実に心を奪われていくのである。 4)ほとんどすべてのクトゥルフ神話のクリーチャーと超自然の存在は、遭遇した探索者の正気度ポイントを喪失させる。 異界の生き物というものは本質的に不快感や反発心を抱かせるものである。 ぬるぬるして悪臭を放つ異界の生き物をラヴクラフトは卑猥とか冒涜的という言葉で表現している。 こういう本能的な反応はどんな人間にも必ずあるものだ。正気度ポイントを失ったからといって、それでこの反感が消えるものではない。 5)クトゥルフ神話以外のショックによっても正気度ポイントを失うことがある。 例えば予期せぬ死や暴力的な死を目撃したり、人間の手足切断の場面に直面したり、 裏切り、社会的地位の喪失、失恋などを経験したりした場合である。 そのほかにもキーパーは探索者が挑戦する材料をいろいろ工夫できるだろう。 われわれの世界によくある超自然現象をひっくるめて入れてしまうことができる。 例えば悪依、ゾンビ、吸血鬼、狼男、呪いなどである。 ◆SANの使用 SAN、および正気度ポイントを記録するのに探索者は探索シートの3つの欄を使う。 1)能力値としてのSAN。これはそのキャラクターの[POW×5]である、この数字が変わることはほとんどない。 2)最大正気度ポイント。これは99から現在の クトゥルフ神話 ポイントを引いた値である。 最大正気度ポイントは、能力値SANよりも高くなることもあり、SANと同じ値になることもあり、 SANよりも低くなることもある。 3)現在の正気度ポイント。これは常に現状を把握しておくことが重要な値である。 これは常に現状を把握しておくことが重要である。これに関しては次に詳しく説明する。 現在正気度ポイントの値はひんぱんに変わる。 探索者が精神の平衡を失うような状況に遭遇したとき、 キーパーは 正気度 ロールをさせるだろう。 プレイヤーは自分のキャラクター1人1人のためにD100を 正気度の喪失の例 正気度の喪失* 神経に触る恐ろしい状況 0/1D2めった切りにされた動物の死骸を見て驚く 0/1D3人間の死体を見て驚く 0/1D3人体の一部を発見して驚く 0/1D4川に血が流れているのを見る 0/1D4+1めった切りにされた人間の死体を見て驚く 0/1D6目を覚ましてみたら、棺桶の中に閉じ込められている 0/1D6友人の非業の死を目撃 0/1D6食屍鬼を見る 0/1D6+1死んだはずの者に出会う 0/1D10ひどい拷問を受ける 0/1D10死体が墓場から立ち上がるのを見る 2/2D10+1切り取られた巨大な頭が空から落ちてくるのを見る 1D10/1D100大いなるクトゥルフを見る ※ロールが成功した場合の喪失/ロールが失敗した場合の喪失値 (~P88) 狂気とクトゥルフ神話 探索者がクトゥルフ神話による侵害的外傷を引き寄せるたびに、 クトゥルフ神話の知識を学んだことになり、そのことは、 クトゥルフ神話 技能に反映される。 まず、クトゥルフ神話に関連した狂気に最初に陥ったとき、 クトゥルフ神話 技能に5ポイントが加算される。 次の経験からは、クトゥルフ神話によって狂気が陥るたびに クトゥルフ神話 技能に1ポイントずつ加算されていく。 ただしクトゥルフ神話技能以外のことが原因で狂気に陥った場合には、 クトゥルフ神話 値は上昇しない。 例:ハーベイ・ウォルターズはクラウニンシールド荘で何かの写本を見つけた。 写本を読んで理解した後の彼の クトゥルフ神話 技能は3%だが、正気度ポイントは何も失わない。 その後屋敷の外に出たハーベイは、頭の上を夜鬼が飛んでいるのを目撃した。 ありえないようなものを目の当たりにしてハーベイはひるみ、狂気に陥ってしまった。 彼はこれまで クトゥルフ神話 に関連した狂気に陥った経験がなかったので、彼のプレイヤーはハーベイの クトゥルフ神話 の技能に5%加算しなければならない。 ハーベイの クトゥルフ神話 は8%となった。 これでハーベイの最大正気度ポイントは「91」に落ちた。すなわち[99-8( クトゥルフ神話 値)]である。 ロールする。 ロールの結果が探索者の現在正気度ポイント以下であれば、 ロールに成功したということである。 ルールブックやシナリオには、正気度喪失として2つの数字あるいはロールがスラッシュ(/の印)によって分けられて示されている。 例えば[1/1D4+1]というような具合である。最初の数字はロールが成功した場合に失う正気度ポイントの値で、 2番目の数はロールが失敗した場合に失う正気度ポイントである。 したがって、 正気度 ロールに成功すれば正気度ポイントを失わないか、あるいは失っても最小限度のポイントを失うだけで済む。 ロールに失敗した場合には、探索者は必ず正気度ポイントを何ポイントかは、呪文や魔導書や遭遇する存在によっても違ってくる。 一度に失う正気度ポイントが多量だった場合には、後述するように探索者は狂気に陥る。 探索者の現在正気度ポイントがゼロに落ちた場合には、その探索者は永久的狂気に陥ってしまい、普通はもうプレイすることが不可能になる。 ◆恐ろしさに慣れる クトゥルフ神話の同じ本に恒常的に接したり、何度も同じクリーチャーに絶え間なくさらされていた場合、 ある時点からはもうそれ以上の影響を受けなくなる。 例えば、探索者があるクトゥルフ魔導書を読んで理解し、そのために正気度ポイントが喪失し、必要な クトゥルフ神話 ポイントが上がったとしたら、 その後は何度もその本を参考にしたとしても、それ以上のペナルティは受けなくてもいい。 同様に、ある特定のモンスターを何度も見たために失った正気度ポイントの合計が、その種類のモンスターを見て失う可能性のある正気度ポイントの最大値まで達したら、 ある程度の期間を過ぎるまではもうそれ以上のポイントを失うことはない。 "ある程度の期間"とはゲーム内での1日か、1週間か、それとも1つの冒険が続いている間なのか、それはキーパーが決める。 例えば、ある程度の期間内に探索者が深きもの(正気度喪失:0/1D6)を100匹も見たとしても、 正気度ポイントを6ポイント以上は失うべきではない。とは言うものの、異界の恐ろしい生き物に完全に慣れてしまうということはない。 呪文はそれぞれ区別されているし、ほとんどの呪文は邪悪な意図を持ってかけられる。 どの呪文も、通常の世界では不可能な効果を表す。恐ろしい効果を再現させ、異界的な発想をしなければならないということは、 必ず正気度ポイントの喪失をもたらすことである。たとえ同じ呪文を日に20回かけたとしても決して平気にはなれず、 正気度ポイントの喪失はまぬがれない。呪文をかけることは暗黒のパワーとの取引であり、代価は支払わなければならないのだ。 "クトゥルフ神話が引き起こす狂気"の5番目に述べた、通常の生活の中での心的外傷も、ある程度の期間内なら慣れてしまうことができる。 しかしその「適切な間隔」というのもそのうちに過ぎてしまい、われわれは同じような出来事からまた新たに恐怖を経験するのである。 ◆現在正気度ポイントの上昇 キーパーによっては、安易な成長はラヴクラフトの暗黒のヴィジョンにそぐわないものだと感じて、 それを許さない者もいるかもしれない。しかし、楽しげにそれを促進するキーパーもいる。 その方がプレイヤーも楽しめるし、彼らの探索者はどんな多くの正気度ポイントを持っていようと、狂気に陥るときには陥るのだからと言う(現在正気度ポイントは最大正気度ポイントよりも上になることはないが、初期のSAN値よりも上まで上昇することはありえる)。 下記に現在正気度ポイントを上昇させる方法を示す。 キーパーから報酬をもらう:冒険が成功裏に終わったとき、普通キーパーは探索者に報酬として現在の正気度ポイントをあげるためのロールを許可する。 キーパーからの報酬のロールは、すべての参加者に同じに与えられるが、プレイヤーが自分の探索者のために個別にロールするのである。 報酬は探索者の一行が冒した危険の度合いにだいたい比例するものであるべきである。 しかしながら、探索者たちが卑劣だったり、野蛮だったり、残忍だった場合には、報酬は与えられない。 また、キーパーは特別に優れたロールプレイングに対して報酬を与えるべきであり、 全員が関係するわけではない場合には、こっそりと与えるのがいいかもしれない。 POWを上げる:探索者のPOW値をあげる手順については"魔術"の章で説明する。めったに起こることではないが、 もしPOWが上昇することがあれば、能力値SANも上昇する。SANは[POW×5]だからである。 上昇の際には、最大正気度ポイントに照らし合わせて見ることを忘れてはならない。 技能を90%に上げる: 探索者がある1つの技能に90% 以上の能力を獲得した場合、その技能をマスターしたということである。 その探索者は現在の正気度ポイントに2D6ポイントを加算することができる。技能をマスターするために必要だった厳しい規律と自負心を表しているのである。 クトゥルフ神話 の技能だけは、誰もマスターすることはできない。 超自然の存在を打ち負かす:自然界の動物や人間の中に恐ろしいものはいるが、ゾッとするというほどでもないのが普通だ。 クマと取っ組み合いをして勝ったとしても、新しく正気度ポイントを得ることはない。 しかし、深きものを捕らえたというなら話は別である。探索者が生霊やビヤーキーのような異様な異界の生き物を打ち負かしたり、 追い払ったり、あるいは殺すなどすれば、探索者の自信は強まるだろう。 ゲームではそれを正気度ポイントの上昇という形で表すのである。モンスターを"打ち負かす"とはどういうことを言うのか、 それはどうしてもあいまいなものになる。そのモンスターの目的は何だったのか? 探索者の意図的に打ち負かす方向に努力してきたのか? モンスターを打ち負かしたことに対する報酬はそのモンスターが多数いた場合には、 その種のモンスターと遭遇した場合に失う可能性のある正気度ポイントの最大値を報酬として与える。 例えば、シャンタク鳥1体に遭遇して失う正気度は1D6ポイントなので、シャンタク鳥の群れを打ち負かしたことによる報酬は6ポイントということになる。 精神療法を受ける:治療を行なう者は 精神分析 の技能を持っていなければならない。 集中的に精神分析を行なえば、患者の正気度ポイントを取り戻すことができる。 取り戻すことのできる現在の正気度ポイントは、 現代の精神障害 ここで概略が示されている各項目についての詳細は、 "参考"セクションの"精神障害"の項を参照されたい。 ケイオシアム"Taint of Madness"(未訳)にも狂気とその治療法について、 歴史的な立場から書かれた情報が数多く載っている。 ここに示されている概略は要約された不完全なものにすぎない。 特に子供の精神障害について触れていない。 この概略の中で使われている精神科関連の用語の多くは最近出来た言葉で、 昔の言葉のような色合いや味わいに欠けている。 1930年代以前には、精神障害のことは個人別に注意深く記述され、 記録としては単に「不安症」とか「精神病」とされているだけで、 それぞれの障害を区別しなかった。 1)統合失調およびその他の精神病性障害138ページ 統合失調症 短期精神病障害 感応性妄想障害 2)気分障害140ページ うつ症 そう症 双極性障害(そううつ症) 3)薬物関連の障害140ページ 4)不安障害141ページ 全般性不安障害 広場恐怖症 強迫性障害 外傷後ストレス障害 単一の恐怖症およびマニア 5)身体表現性障害142ページ 身体化障害 転換性障害 心気症 身体醜形障害 6)解離性障害142ページ 解離性健忘 解離性遁走 解離性同一性障害 7)性心理障害 8)摂食障害 9)睡眠障害 10)衝動抑制障害143ページ 間欠性爆発性障害 窃盗癖 放火癖 病的賭博 11)人格障害143ページ 12)そのほかの精神障害143ページ (90ページ) 一時的狂気 ◆短期の一時的狂気 ([1D10+4]戦闘ラウンド) 1D10 結果 1気絶あるいは金切り声の発作。 2パニック状態で逃げ出す。 3肉体的になヒステリーあるいは感情の噴出(大笑い、大泣きなど)。 4早口でぶつぶついう、意味不明の会話あるいは多弁症(一貫した会話の奔流) 5探索者をその場に釘づけにしてしまうかもしれないような程度の恐怖症。 6殺人癖あるいは自殺癖。 7幻覚あるいは妄想。 8反響動作あるいは反響言語(探索者は周りの者の動作あるいは発言を反復する) 9奇妙なもの、異様なものを食べたがる(泥、粘着物、人肉など)。 10昏迷(胎児のような姿勢をとる、物事を忘れる) あるいは緊張症(我慢することはできるが意志も興味もない:強制的に単純な行動をとらせることはできるが、自発的に行動することはできない)。 ◆長期の一時的狂気 ([1D10×10]時間) 1D10 結果 1健忘症(親しい者のことを最初に忘れる:言語や肉体的な技能は働くが、知的な技能は働かない) あるいは昏迷/緊張症(短期の表を参照)。 2激しい恐怖症(逃げ出すことはできるが、恐怖の対象はどこへ行っても見える)。 3幻覚。 4奇妙な性的嗜好(露出性、過剰性欲、奇形愛好など)。 5フェティッシュ(探索者はある物、ある種類の) 6制御不能のチック、震え、あるいは会話や文章で人と交流することができなくなる。 7心因性視覚障害、心因性難聴、単数あるいは複数の四肢の機能障害。 8短時間の心因反応(支離滅裂、妄想、常軌を逸した振る舞い、幻覚など)。 9一時的偏執症。 10強迫観念に取りつかれた行動(手を洗い続ける、祈る、特定のリズムで歩く、割れ目をまたがない、銃を絶え間なくチェックしつづけるなど)。 [POW×5]の値、あるいは最大正気度ポイントの上限(99%- クトゥルフ神話 )のうち、どちらか低い方の値までである。 一か月に1度、精神分析をほどこす者は 精神分析 のロールを行なう。治療がどれくらい進んだかを見るためである。 ロールが成功した場合には、患者は1D3ポイントの正気度ポイントを獲得する。 ロールが失敗した場合には、何も獲得しない。ロール結果が「96~00」だった場合には、 患者は1D6ポイントの正気度ポイントを失い、その精神分析者から治療を受けることはそれで終わりになる。 治療に何らかの問題が起きたのであり、その精神分析者との関係は壊れてしまったのである。 ゲームでは、 精神分析 は狂気からの回復スピードを速めはしないが、 探索者の正気度ポイントを大きくすることで探索者を強くすることはできる。 活躍する日のため蓄えを大きくするのである。狂気からの「回復」は、正気度ポイントによるのではないのだ。 ゲームの世界での精神分析は実際の世界のものとは違っている。 実際の世界では、精神分析は統合失調症や精神病性障害、双極性障害(そううつ病)や重いうつ症などの症状に対して効果があるものではない。 ゲームでは、 精神分析 は精神に対する 応急手当 であると言える。 実際の世界では 精神分析 のような会話療法は時間がかかり、確実さに乏しい治療法である。 いずれにしろ、永久的狂気には会話療法である 精神分析 は向かない。 患者の精神は混乱し切っているので、論理的に話をすることなどできないのである。 精神科治療法の投与:1890年代と1920年代にも投薬による治療は行われ、 それなりに結果を得られた場合もあった。しかし、投薬が本当に広く行なわれ、心的外傷に対してかなりの効果をあげるようになったのは、現代になってからである。 患者が精神科治療薬の投薬を受けるだけの経済的余裕があり、その薬を飲むことができる状態であれば、 その患者のプレイヤーはその精神的苦痛からくる症状をロールプレイする必要はない。 薬が手に入らない場合は、プレイヤーは薬が切れたことを表すロールプレイを始めなければならない。 精神科治療薬の投薬を受けても、そのあと正気度喪失が起こらないということにはならない。 いくつかの違った症状に対する薬が必要だろう。薬が重複すれば、キーパーが選ぶ強い副作用が出るかもしれないからだ。 薬物療法を成功裏に受けている1か月につき、1D3ポイントが現在の正気度ポイントに加算される。 キーパーは1890年代と1920年代には"精神科治療薬"と前項の"精神療法"を一緒に行なわせないようにしなければならない。 薬は強い副作用を伴うし、依存症になってしまうものもあるからだ。 キャラクターは薬の摂取をやめたがるかもしれないし、投薬による明らかな副作用から解放されたいと望むかもしれない。 また、自分は治ったと主張したり、あるいは最初からそんな病気な(誤字?´ω`)存在しなかったのだと主張するかもしれない。 しかし実際には、再び狂気に陥ろうとしているにほかならない。 狂気 ゲーム探索者が発狂するのは、クトゥルフ神話に関連した衝撃的な経験をし、それを理解したためである。 狂気の状態がどのくらいの期間続くかということは、正気度ポイントの喪失の値あるいは喪失の割合によって違う。 狂気の状態には一時的狂気、不定の狂気、永久的狂気の3種類がある。 ◆一時的狂気 探索者が1回の 正気度 ロールで5ポイント以上の正気度ポイントを失った場合には、かなりのショックを受けたはずなので、 キーパーはその探索者の正気度をテストしてみなければならない。 そこでプレイヤーに アイデア ロールが失敗した場合には、探索者は記憶を抑制して、目撃したり経験したことをはっきり覚えていないということになる。 自己の精神を守るための防衛本能が働いたのである。 あいにく アイデア ロールが成功した場合には、探索者は目撃したり経験したことの意味を完全に理解したということになり、一時的狂気に陥る。 一時的狂気の効果は即時に現れる。一時的に狂気に陥っている期間については、左のページの"一時的狂気表"を参照のこと。 狂気が起こった場合、キーパーとプレイヤーは一緒に適切な正気の形を選ばなければならない。 あるいは同意の上で"一時的狂気表"のどちらかを使い、無作為に決定する。一時的狂気の症状の多くは、一目瞭然で説明の必要はないだろう。 キーパーは探索者の最近の精神的緊張の度合いから、狂気の期間を適切と思われる期間にしてもよい。 一時的狂気が終わったのち、その経験の名残として軽い恐怖症がのこるかもしれない。 しかしそのような名残の多くは、軽い外傷後ストレス障害にすぎないだろう。 141ページの"不安障害"の項を参照のこと。 ◆不定の狂気 探索者が1時間内に現在の正気度ポイントの5分の1(端数切り上げ)以上を失った場合、 その探索者は無期限の狂気である"不定の狂気"に陥る。不定の狂気に陥ったキャラクターはしばらくの間プレイから外れていなければならないだろう。 不定の狂気が続く期間は平均して1D6か月である。 キャラクターが不定の狂気に陥ったら、"一時的狂気表"をロールし、詳しい症状を決める。 どちらの表を使うかはキーパーの判断に任される。 ロールの結果が状況にふさわしくない場合、キーパーはセッションの終わりまで、あるい次のセッションの開始まで判断を保留してもよい。 差し当たっては、キャラクターは強い予感のようなものにとりつかれる。 不定の狂気を引き起こす精神障害は、突然起こるものではない。 狂気のキャラクターのプレイヤーは、ある特定の狂気が選ばれる理由を説明できるに違いない。 不定の狂気には、連続的な症状を呈するものもある(例えば、健忘症、うつ症、強迫観念など)。 またある特定の時点でしか現れない一時的な症状もある(多重人格性障害もしくは解離性同一障害、転換性障害、間欠性爆発性人格など)。 どちらの場合も、面白いロールプレイをするいい機会を提供してくれるだろう。 例えば、生命の危険を伴うような出来事を経験したあとでは、創造や夢やフラッシュバックや連想によって、 その心的外傷をしつこく繰り返して追体験するようになる。 そして大きな不安の症候が際立ってくる。解離症候も現れる。その中には次のようなものが含まれる。 (1)無感覚、孤立、感情の反応の欠如;(2)認識力の減少、放心;(3)世界が舞台のように見える、あるいは世界が2次元のように感じられる; (4)自分が現実の人間ではないように感じる;(5)健忘症 狂人の洞察力:選択ルール キーパーの選択ルールとして、狂気に落ちたばかりの者は、 狂気の原因となった状況や存在に対する洞察力(見抜く力)を持つことにしてもいい。 プレイヤーがD100をロールし、キャラクターの[INT×5]より大きい値を出せば、 狂人の洞察力を発揮したことになる。どんなことを洞察したかは、キーパーがただちに提示しなければならない。 ◆永久的狂気 正気度ポイントがゼロに達した探索者は、永久的な狂気に陥る。 "永久的"とは、1年の場合もあり、一生涯の場合もある。現実のある統計では、精神療養所に入っている期間は平均して4年と数か月である。 ゲームでは、永久的狂気の期間は完全にキーパーにまかされている。 不定の狂気と永久的狂気の違いは、治療にあたった精神病医の予後診断とその予後診断を裁判官が確認したものだけで、 あとはその予後診断を裁判官が確認したものだけで、あとは何の違いもない。 現実の世界では、狂気はすべて不定の狂気である。なぜなら現実世界では"クトゥルフ神話にTRPG"のキーパーほど正確に未来を予測できる者などいないからである。 ラヴクラフトの作品には、主人公が狂気から一生涯回復することはないと暗示されているストーリーが1つならずある。 キーパーは狂気の終点をどういうものにすればゲームが満足いくものになるかをよく考える必要がある。 時には地元の療養所からひっそりと退院して出てくる患者がいるかもしれない。 痩せて、不自然なほど青白く、魂を打ち砕くような経験のせいで以前とは変わり果てて見分けがつかなくなっているような人物が、 恥ずかしそうな様子で行えばアーカムの下町の方へ歩いていくかもしれない。 そして周囲に鋭い目を向け、周りの闇の深さを推し量ろうとするかもしれない。 しかし、プレイヤーはそういう特別の扱いを当然の権利として期待するべきではない。 狂気をプレイする "クトゥルフ神話TRPG"のルールにおいて、狂気はクトゥルフ神話を妥協の余地のないものにしている。 クトゥルフ神話を前にしたとき、それを自由意志で選び取る正気の人物はほとんどいない。 クトゥルフ神話は本質的に忌まわしく嫌悪すべきものだからである。 正気度ポイントと クトゥルフ神話 ポイントとの関係は、クトゥルフ神話のパワーを強調している。 クトゥルフ神話に近づいたり関係したりすれば、クトゥルフ神話に精神を崩壊させられ、人生を台なしにされてしまうということである。 正気度のルールは、われわれがいかに壊れやすくいかにはかないものであるかを示してくれている。 われわれが強いと思っていたものが妄想であり虚偽だということになり、 時には狂気こそ真実のために必要な状態なのだということになる。 狂気とバランスをとるために、ゲームをプレイするときには、ユーモアと笑いが絶対に必要なものになる。 よい雰囲気がゲームの暗い部分においても協調と結束をもたらすのである。 ◆境界線での対処のしかた 探索者にたった1ポイントでも正気度ポイントが残っていれば、プレイヤーはしっかり探索者をコントロールできる。 ほとんどの狂気の探索者を、プレイヤーがどんな美学をもって表現するかということは、ロールプレイの神髄である。 探索者が弱まっていくならば、弱まってきたという微候を明らかに表現しなければならない。 したがって、狂気に近い探索者をプレイすることは、プレイヤーのコントロールが弱まるのではなく、 むしろ積極的なロールプレイが必要になるのである。 そのような探索者は自分の精神状態について語るべきである。 そうでなければほかの者たちは状況がわからないし、当然払うべき心遣いと同情をもって接することもできない。 「私の探索者の正気度ポイントは低いぞ」などと言ってしまうのは、そこから何も生まれない。 探索者の不安や恐怖を生き生きと描写し、それがゲームにどんな影響を与えるかを語れるプレイヤーは、称賛に値するだろう。 探索者の正気度ポイントが10以下になったら、明らかに深刻な状況になったことが自分でもわかるはずれある。 実際の生活でそういう状況になったら、たいていの人間は活動をやめてサナトリウムにでも入ろうとするだろう。 探索者も同じであるべきだ。 ◆狂気の質 探索者の狂気はクトゥルフ神話の力の特性を示している。 すなわち探索者の振る舞いは制限されたものになるが、それでもロールプレイが表情豊かで面白いものになるということである。 不定の狂気に陥ってる探索者も、必ずしもサナトリウムに閉じこもっているばかりと限らない。キーパーとの間でもっと面白いものにしてもいいという話合いがつけば、そうすればいい。 深刻なことをするのでもいいし、ちょっとしたエキセントリックでひねくれたことでもいいし、バカげたことでもいい、 要はゲームの趣旨を損なわなければいい。 ほんのちょっとした例を挙げよう。仮に探索者が四六時中帽子を2つかぶると言い張ったとする。 そうしなければ自分の頭が無防備になってしまうと言うのだ。 ご婦人に向かって帽子を上げてあいさつをしたちょうどそのときに空が落ちてきたらどうするのかと言う。 2つの帽子は目に見えるものなので、キーパーのキャラクターはそれを見て何か言ったり批判したりする。 彼を弁護するため、探索者全員が帽子を2つかぶるようになる。どのレストランへ行っても、そんなみっともない格好の彼らを入れてはくれない。 2つ帽子の狂気の男はゲームから離れることはない。 ゲームは彼を受け入れるほどに幅を広げたのだ。 プレイヤーは自分の探索者が持つ狂気のさまざまな要素を、あまりにもたくさん演じようとするかもしれない。 しかし、それがゲームの邪魔になるようであれば、プレイヤーに対して公平を欠くことになるだろう。 このゲームでは、現実的な狂気の種類を多数示しているので、まずその情報に参考にしてスタートしてみるのがいいだろう。 ただし、情報がゲームの方向をコントロールするようでは困る。 特定の障害の再現に時間を費やすべきではない。 プレイヤーが探索者の狂気を演じるのに任せよう。時間がたてば狂気も変わるものだ。 狂気の治療 一時的狂気はすぐに終わるので、大掛かりな治療計画のようなものはまったく必要ない。 一方、永久的狂気の治療ということはほとんど意味がない。 一時的狂気の場合はすぐに治るので、気をつけなければならないのは、同じようなショックをさらに受けないようにすることだけだ。 永久的狂気とは、どんなに優れた施設に入って治療しても治らない狂気のことをいうからだ。 永久的狂気の境界線や期間はすべてキーパーが決めることであるため、治療という概念からはずれる。 不定の狂気の場合だけ、介入や治療が問題になるのである。 1D6か月ののち、さらなる心的外傷の危険もなくキーパーも承諾しているのであれば、 できる程度に精神のバランスを取り戻す。ここまで来るまでに受けてきたケアの種類は3つに分けられる。 その中から選択するためには、キーパーとプレイヤーはキャラクターの資産、友人や親戚、 そしてそのキャラクターが過去に分別のある暮らし方をしていたかどうかを考慮しなければならない。 ◆自宅療養 考える限りの最良のケアは、家庭あるいはそれは似た暖かい雰囲気の場所で、思いやりのあるていねいな看護を受け、 ほかに患者がいるわけではないので邪魔もされないという環境にいることである。 精神分析 か精神科治療薬の投薬が受けられた場合は、そのどちらかを受けている1か月ごとにD100ロールを行なう。 結果が「01~95」なら成功で、 精神分析 か精神科治療薬(どちらか受けた方、ただし両方ではない)によって1D3の正気度ポイントが加算される。 結果が「96~00」の場合は、精神分析者がヘマをやったか、キャラクターは1D6の正気度ポイントを失い、 その次の月まで病状に何の好転も見られない。 ◆施設のケア その次にいいケアは精神病の診療所で入院加療してもらうことである。過程で療養するよりも療養所の方がいいという考えもある。 療養所は比較的費用もかからず、ときには州からの補助で無料で治療を受けられるかもしれないからだ。 しかし、このゲームの時代である1890年代も1920年代も現代も、これらの施設の質は一様ではなく、 中にはかえって害になるかもしれないような施設もある。実験的・先進的な治療を施すクリエイティブな施設もあれば、 ひどいやり方で患者を監禁するだけの施設もある。 最近のアメリカでは、ほとんどの施設が満員か、犯罪的な狂気の患者しか受け入れないようになっている。 どの時代においても、他人が心のこもった効果的な手当てをしてくれるというのはまれなことなのである。 行動観察、徒手療法、精神科治療薬の投薬、水療法がよく行われる。 今日の電気療法も同じである。精神分析はやっていない。中には精神病向けの有効な療法どころか、患者を傷つけるようなことをする施設もある。 患者はただ怒りを覚え損害を受けるだけで、退院したあとはもう通院はしたがらないだろう。 D100をロールしよう。結果が「01~95」なら成功で、精神病投薬がうまくいったことで正気度ポイントに1D3ポイントを加算する。 結果が「96~00」の場合は、薬を飲むことを拒否したということで、キャラクターは1D6ポイントの正気度を失い、その次の月まで病状に何の好転も見られない。 ◆放浪者とホームレス 探索者は放浪する路上生活になる。生き残るために必死の生活である。 放浪していた者はその間正気度ポイントを獲得することではないが、ホームレスのグループに入ることができ、 その中で1人でも友人が出来れば別である。友人を作るためには、D100をロールして[現在正気度ポイント+POW]以下の値を出す。 友人が出来た場合、毎月1ポイントずつ正気度ポイントが加わる。 1か月に1回、生き残りのためのD100をロールしなければならない。 結果が「01~95」であればそのキャラクターは生き残る。 結果が「96~00」だった場合は、病気や悪い条件や殺人事件の犠牲者となって死んでしまう。