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あなたたちが今日も依頼を探していると、1人の男性から護衛依頼を引き受けることになった。 なんでも、他国から来た初見の王と会議をする際の護衛を頼みたいらしい。 王を迎えるために港町に来たあなた達、そこで出会った王は美しい剣を腰に差し、凛とした雰囲気を漂わせつつ…嘔吐している女性だった。 渡海したのは初めてだったらしく、船酔いしたようだ。 そして、いよいよ会議が始まるというとき、クーデターが! 「再戦を望むのでしたらどうぞ。勝者として、何度でも挑戦は受けましょう。」 名前 コメント すべてのコメントを見る
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ゴーラ演義 スヴェルスガルド将軍渡海の巻 (9) 彼の驚きが、観える。 放たれた矢に施された術は、物の観想に強く働きかける。 矢には、他と相容れない、矢そのものという、認識を与えてある。それは観相するものにはっきりとわかる。もしうかつに触れれば、異物として相克を引き起こす。傷つけ、あるいは、弓射の術に敗れれば、討ち倒されることもある。 空で、クルル=カリルたちが散る。鑓の機神は動かない。矢はひたすらに飛ぶ。 届きはしないと、彼が観切ったからなのかどうか、わからない。矢はやがて鏃を傾け、弧を描く。眼下の海へと向かって舞い降りてゆく。そう定めたからだ。矢に与えた、矢そのもののありようによって、矢そのものが自らをそのように導く。 そうして、矢に与えた矢そのものというありようは、ゴーラの軍勢のただ中の双剣の機神へと向かって。 落ち行く己そのものを矢は観相し、さらにその行き足を速めてゆく。双剣の機神アズル・フォルトゥナ。かつてメルクラント一門の機神として名を馳せた。メルクラント一門は、帝國中央の一門であったけれど、それほど大きな領地を持っていたわけではなかった。機神を保ち、またそれを模った機装甲を持ち、さらにそれらを操る兵らを養って、皇帝傘下の軍勢にはせ参じることで、権勢を保った一門だった。 乗り手は、一門宗主のみとは限らぬ。それが、メルクラント一門が他の家門と大きく違うところであった。常の家門であれば、機神の乗り手は、すなわち家門の長の一門宗主であり、家門の力、そのすべてを握るべきものであった。 メルクラントは武門の一門であった。皇帝軍に参与して、その力見せねばならぬ家門であった。かつて不具となった宗主が、何としてでも皇帝軍に参与せねばならなくなったことがあった。トライアヌス帝の南方討伐の頃という。また、幼い宗主を戴いた頃にも、宗主に代わる乗り手が皇帝軍に参与したという。それはやがて、機神アズル・フォルトゥナに受け入れられずとも、宗家に生まれたものが宗主となるようになり、宗主の認めたものが、乗り手になるようなことも起きるようになった。武門の一門で、より強き乗り手を手下とするものが、宗家を専横した時もあったという。しかしそのころには、メルクラント一門それ自体が、傭兵のごとき体ともなっていたという。一時は立ち番、つまり帝都へ入る門前の警護役を任ぜられたこともあった、と。ゆえに要あらば機装甲をして帝都に踏み込む許しも得ていたことがあったという。 帝國内戦にあって、メルクラント一門は割れた。一門特有の、宗主と乗り手が別れていたことによる。おりしも皇帝軍は、東方軍制へと変えられてゆく頃、参与の軍勢もまた、そのありようを如何にするかに問われた。メルクラント一門は、皇帝軍参与あっての一門なのだ。皇帝軍が急激に東方軍制へ切り替わってゆくとき、これと通じえないようでは軍勢参与といっても外様でしかない。 そしてそのころ、メルクラント一門の軍勢は、質の上で類を見ない情勢にあった。重魔道機を六機とそれに見合った魔力を持つ乗り手を十人以上、これを揃えていた。加えて並の機装甲をも持ち、メルクラント一門の軍勢は、これまでになく、またその後にもないほどとなっていた。六機の重魔動機、これ列と成して魔力放てば、機装甲ながら放列と同じであった。また列のまま、魔力放って押し進めば、川とて沼とて阻むものとはならなかった。そのようなことは、たとえばグスタファスも試していた頃、グスタファスのそれは、のちに北方の華と謳われた古人らの部隊の基ともなった。東方軍はそれより幾歩も前に進んでいた。シリヤスクス宗家の機神アウラルム・ドラクデアを叶う限り模った黒の龍神とそれが選ぶ乗り手を揃えていた。 しかしそれは、帝國その国体が、音を立てて軋んでいるその刻でもあった。メルクラント宗家は、急激に東方軍制化する皇帝軍から一門が排されつつあると感じていた。一方で機神アズル・フォルトゥナの乗り手と、メルクラント勢は、より東方軍のごとくでなければならぬと考えていた。 東方軍勢のように変わりゆくメルクラント勢は、その考えもまた、東方勢に近づいていた。軍勢として働くゆえに力あるのではない。働くに足るものが兵らの中にあるがゆえに、兵らは兵らをして戦うものと自らなるのである、と。 帝國内戦が始まった時、メルクラント宗家は皇帝に背いた。メルクラント勢は宗家に背いた。内戦のあらゆることがそうであったように、宗家と軍勢の争いもまた、血で血を洗う激しいものとなった。軍勢は領地をもたずやがて立ち枯れるしかないはずだった。宗家は機神を持たずとも、軍勢の三分はまだ手中に収めており、さらに兵を募って帝都へ、押し入ろうともした。 軍勢は、かつて帝都立ち番を任じられてもいた。いかなるものでも帝都に踏み込ませるわけにはゆかぬ。それが皇帝陛下に背くことを選んだ宗家であるならば、決して踏み込ませてはならない。 内戦が遠く過ぎ去った日から振り返れば、それは小さな幕間劇に過ぎない。しかしそこにあった者らにとっては、決して引けぬ戦いであった。そしてそれがゆえに、メルクラントの軍勢は皇帝陛下の信を受け、皇帝軍の中にあるべき座を得たのだけれど。任と矜持は守りえたけれど、領地へ戻ることもできなくなったメルクラントの軍勢は、機神とともに長い内戦を戦い続けるしかなかった。 機神アズル・フォルトゥナの新しい乗り手を、内戦の中で見出したのは、いかにもメルクラントの軍勢であったからかもしれない。戦場で見出したその子を、旧の乗り手はことのほか可愛がり、得られなかった己の子同然、いやそれ以上に育てたという。 しあわせだったと彼女は言った。いまのあたしは、だからここにあるの、とも。 いくさは嫌いとも言った。 今の乗り手、今、このとき、双剣の機神アズル・フォルトゥナに乗る、シャルロッテのことだ。そうルキアニスは聞いていた。そのシャルロッテのために、帝都立ち番の旧の名誉を汚すようなことすらしたのだ、とも。 その旧の乗り手は、出奔するとわかってなお、シャルロッテに機神を与えたという。その時何が起きていたのか、ルキアニスは知らない。その時には、シャルロッテはもう、機神とともにオフィーリア妃のもとにあった。それがメルクラント一門をして、皇帝陛下にお詫びもならない不祥事として、一門を自ら解くこととなったことを、シャルロッテは知っているのだろうか。ルキアニスは知らない。もう知ることも、聞くこともないだろう。 ただ、今に放った矢に、気づいてくれさえすればいい。 そのように、矢には術を成した。 矢は自ら風を切って進む。ゴーラの機装甲に囲まれ、さほど遠くはないスヴェルスガルド将軍を見据えるその姿へ向かって。アズル・フォルトゥナは振り返る。頭上へ向けて。飛ぶ矢に気付いて。その魔導の双眸が、光を放つ。 機神の目ならば、気づくはずだ。空の彼が気づいたように。矢には術が成されている。それは機神とは、決して相容れぬ。矢は機神には勝てぬ。けれど機神も術との相克に力を使い、傷も受ける。 けれど、それは術の真意ではない。 霊の、物の相で与えられたものは、矢なりのものとなる。 それは、思いに似たもの。ルキアニスによって発したもの。 双剣の機神は両手の剣を振るった。守りの形に交差する。そこに、矢が吸い込まれる。 その刹那、光がほとばしる。激しく強く、魔力となってあふれ出す。そのまま、アズル・フォルトゥナを押しやる。踏ん張る脚が、波を押し立てて、そのまま退く。 そして、矢は波に落ちた。込めた魔力のすべてを使い切れば、矢はただの矢に過ぎない。それでも伝わったはずだ。 シャルロッテには、もう帝國に居るところなどない。それは、シャルロッテが自ら選んだことだ。それでも、帝國になにがしかのありようを保ってほしいということが、わからない。ルキアニスにはわからない。 誰が好き好んで、人死にが続けなんて思うの。 それそのものは、誰も望んでいないけれど、そうしなければならないことがあるから、やってるだけじゃない。 誰が好き好んで、断末魔を観るの。 もう、かえってほしい。シャルロッテがすべてを捨てて求めた人のところへ戻ってしまえばいい。 いいや、そんなことでは済まない。なんで今になってやってきたの。 だから、きらい。 そう、込めた。魔力によって。必ずシャルロッテに届くように。そういえば、シャルロッテは剣を止めるから。そういう子なのは、知っているから。
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ゴーラ演義 スヴェルスガルド将軍渡海の巻 (5) 『小隊長、後方に機影群』 アスランが報じる。 『おそらく友軍、緑の五らしい。随伴騎兵もある』 「小隊長了解」 それも判っていた。第8剽騎兵旅団の前衛連隊、さらにその先遣中隊だ。彼らの任務は、ルキアニスたちとは違う。彼らは海浜よりやや内陸側で待機していた。彼らの任務は攻撃でも、上陸阻止でもない。また21旅団の任務とも違う。彼らの任務は、この海浜から、北方軍本隊のあるところまでの地積を用いた防御だ。 その前衛連隊は、すこし内陸の丘を占めている。おそらく前衛大隊。今でも騎兵砲を備えているだろうけれど、かつての13連隊のような多くの白系列機、つまり魔道機を持っていない。ほぼ緑の五より成る。五系列機は、かつての三系列機のような増甲も持たない。すなわち、より剽騎兵機としての位置づけを強めている。このような時の突入は考えていない。 剽騎兵の任は、前衛偵察、先導だ。騎兵は脚は早いが、馬を失えば何より弱い。今ここで攻撃を行っても、一日とて内陸進出を抑えられない、そう思える。ただ、ここからバルタス王都までの道のりならば、一日に留まらない停滞を与えうるだろう。その停滞を使うのが、北方軍本隊であるけれど。 21旅団の任務は違う。攻撃だ。101大隊のクルル=カリルが行う。 敵は、ゴーラの船団は浜へと至ろうとしていた。まずは櫂船が満ち潮に乗って押し進んでくる。緑濃い林のすぐ近くまでやってきた櫂船らの船べりから、つぎつぎと士卒の姿が波へと飛び降りてゆく。さらに次々と荷の包みが投げ下ろされてゆく。ある者らは波間のその荷を引きずって岸辺へと向かい、ある者らは船を沖へ向かって押し返そうと舳先に集まる。櫂船に残った数少ない者らは、櫂席へとつき、片側数本ずつであっても、漕ぎはじめる。やがて船は再び動き始め、打ち寄せる波を、それまで船尾であったもので押し割ながら、浜を離れ行く。何隻もの櫂船がそうして浜へと着き、また浜から押し返されてゆく。一つの櫂船はそれほど大きくは無い。戦列歩兵一個小隊ほどが乗っているようだった。長柄の武器を持つもの、盾を担う者、銃を持つもの、波間に転ぶもの、いずれもいずれも、岸へ向かって押し進んでゆく。 また、岸辺へ乗り上げたまま留まる船もある。徒歩の兵の乗るものより大きい。多くは二本の帆柱を持つ。それらの役目もすぐに判った。帆柱の横桁を繰り巡らせて、船に積んでいた馬を吊り上げ、波間に立って待つ男たちのところへ、一頭ずつ釣り降ろしてゆくのだ。ゴーラの軍勢は騎馬が多いと聞いていた。そのための船は、かなりの数に上るようだ。ただ、馬たちは感じやすく、調子を崩しやすく、あっけないほど容易く死んでしまう。降ろされた馬たちは、波間を轡引かれて、浜へと、その間近の林へと連れて行かれる。 浜も、林も、あっというまにゴーラ兵に占められてゆく。波間に浮き沈みする彼らの行李を引きずり、あるいは背負って波打ち際から浜辺へと運び、また浜辺から林へと背負ってゆくのだ。やってきたばかりの馬にさっそく鞍を乗せ、すぐさま内陸へと駆けだしてゆく一団もある。斥候だ。ゴーラ兵の動きは早い。実戦にも慣れている。そしてまだ前衛に過ぎない。 軍勢はこのあとにまだまだ続いてくる。沖合には帆を降ろした船団が満ちている。海原と船とが半分ずつに見えるくらいに。その中には、櫂を多く持たず帆を以って進む船がまだまだ多く在る。幅広で、底も深く、帆によってこそ進む船だ。そこには、機装甲が乗せられているはずだ。 海はいまだゴーラのもの。けれどその船の集う海原のはるか上、空に高く、鑓持つ空飛ぶ機神が浮かんでいる。どれほどの間、飛んでいられるのだろう。ルキアニスは知らない。気になっただけだ。別に心配しているわけではない。ルキアニスにはかかわりのないことだ。 やがてゴーラの船団は、櫂の船から帆掛け船へと変わってゆく。上げ潮が落ち着き始める頃合いだった。底の深い船は、あまり浜に近づけない。上げ潮に乗って奥まで行ってしまうと危うい、と聞いたことがある。帆を張って岸へ向かって進み来た帆掛け船らは、頃合い良く錨を投げ降ろし行き足を止める。船べりから波間に飛び降りた男たちは、投げ降ろされた棒材を抱え、波間で船の支えに打ち込んでいる。そうして、船が傾かぬようにしながら、船は帆を降ろし、外していた。機装甲を吊り上げるためだ。 帆桁を巡らせ、船底より機装甲を吊り上げる。すでに騎士の乗っている機装甲は、両の腕を引き寄せたまま、船べりを越えて、波へと釣り降ろされる。海に降りて、膝まで浸かった機装甲は、釣り縄を解かれてから身を起こし、船を支える。同じことが行われるたびに、船は軽くなるからだ。少なければ二機、多ければ四機、中には六機の機装甲を積んでいた船もあるようだ。それらを波間に降ろした船は、最後に錨を引き上げる。機装甲らは船を沖合へと押し返す。誰もが手馴れており、どの船だからと言って、特に早いも遅いも見られない。 入れ違いに新たな帆掛け船が入りくる。ゴーラの船団は、まだ三分ほどしか兵を揚げていない。残り七分はまだ沖合で岸行き待っている。その残りの船さえ、浜を前に並びきれず、前後に二段は作っているようだ。 「・・・・・・」 これだけの敵、クルル=カリルでどうにかできるのだろうか。破天荒なまでに強大な魔力と、それに支えられた強力な魔術については、ルキアニスも知ってはいた。いまの世に残された、魔術に使わんがための機神。かつて古代魔導帝國にて機神が振るった魔術の粋とは異なるかもしれない。古代魔導帝國よりはるかに劣るとしても、しかし縦横に振るわれるなら、いまの軍勢を打ち破り得る。そしていまの世に残された古代魔導帝國に乗る、かつての乗り手よりはるかに劣る騎士らを打ち破り得る。 「・・・・・・」 ルキアニスは振り返る。術を感じた。高くから。 たしかに術だった。あまりに鋭く研ぎ澄まされたゆえに、霊の感応にすら、ほんの刹那にしか感じなかった。感じなかったけれど、確かに見取られていた。深く触れて、けれど、自ら拭い去るように消える。そのように行われた術だ。 観相したことすら、相手に気取られぬようにしている。鋭く深く行い、観相それ自体はほんの刹那にのみで終えてしまう。 ルキアニスは機体を振り返らせる。そして空を見上げる。 そんな観相を出来るものなど、クルル=カリルの他に無い。黒の二の感受能をもってしても、空のどこから観相してきたのか、すぐにはわからない。受けた観相を、たどるように観相して、ようやく、見えた。 青空の中を高く、四つの姿が飛ぶ。 遥かに高く、遠く、小さく。空に在るものは、地に見るよりもずっと遠くから見えるのだと、思わぬ感慨も抱く。そして、空に在るときのクルル=カリルは、地に在るときとは、まったく違う風にも見える。それが、放つ空飛ぶための魔力故なのか、あるいは魔力を操るために広げた翼甲ゆえなのか、良くわからない。 滑るように青空を飛ぶクルル=カリルは、見る見るうち大きさを増してくる。しゅるしゅると風切る音のみを伴ってくる。四柱のクルル=カリルのうちの二つは、そのまままっすぐに、ルキアニスたちの頭上を飛びぬけた。さらに海へと向かってゆく。すでに宙にある、鑓持つ機神の周りを巡るように、宙に大きく弧を描く。海と、そこに浮かぶ軍船らを見降ろし、確かめるかのように。 残りの二柱は、海へは向かわなかった。自ら行脚を削いで、空高くのまま、そこに留まり。海の上を巡り飛ぶ二柱を待っている。 『地上班へ。こちら経空攻撃隊。上空到着』 『いつの間に・・・・・・』 アスランの驚く声が届いてくる。アスランたちは、まだ気付いてさえいない。クルル=カリルがすでにこの空に至ったこと。すでに陸のみならず、海原をも広く見降ろし、見通していること。海原の高くをぐるりと廻った二柱のクルル=カリルは、再び陸の側へと戻ってくる。そして宙に留まって待つ二柱と再び合う。 「こちら地上班、902大隊第三小隊アモニス騎士長。攻撃隊を視認している」 ルキアニスは上空の機神へと応じる。宙のどこに在るか自在で、もののありようを看取る力も高く、広く、深い。あんなものとは戦えない。あれと、戦う事など、できるのだろうか。 『攻撃隊は、これより行動を開始する』 いいや、ルキアニスはそんなことなど考えなくても良い。 考えるいとまも無かった。四柱のクルル=カリルのうち二つが、勢いを増し、抜きんでるように青空を進み始める。高みから、海へとむけて舞い下り行く。海岸の林の上を飛びぬけ、波打ち際を飛び越え、舞い下りながら、大きく切り込むように弧を描いてゆく。 それは光った。 環のように弾ける魔力の真ん中から、光弾が放たれる。船が撃ち砕かれる。
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ゴーラ演義 スヴェルスガルド将軍渡海の巻 (10) 『・・・・・・』 それが響いて、響きの中の己に気付く。 『・・・・・・』 同じ響き、違う響き、別のひと。ふたり。 『・・・・・・』 それは呼んでいる。そう。呼び声。なに。だれ。 『小隊長!』 ルキアニスは、はっとして顔を上げる。機は膝をつき、倒れかけて、弓手が伸びたまま地を突いて、支えになったから倒れぬままに過ぎなかった。息も忘れていて、大きく気を吐く。力の源、それはゆっくりと、沈んでゆく。どこかへ。 『小隊長!』 その呼び声はコルネリアだ。そう。コルネリア。もう一人、声も立てないけれど、ルキアニスを見て、しかし文字通りに手も出しかねている、アスランが見ていることも判る。 「・・・・・・」 声がかすれてうまく出ない。機の胎内の己があることを思いだす。のど元に触れる。こんなことくらいでは、光の中から使徒が踏み出してきたりしないことは、わかっている。「大丈夫。意識を回復した」 『大丈夫ですか』 こういうときのコルネリアの冷静さは本当に助かる。 「魔力消耗大。行動に支障なし。搭乗者も同じく」 『ほんとうに、大丈夫なんですか』 そんなはずはない。ルキアニスは身を起こす。倒れる、までは行っていなかった。機装甲に乗るようになってから随分経つ。倒れれば胎内の者が死にかねないのが機装甲というものだ。片膝をつき、前のめりに弓手を地についた姿から顔を上げる。 魔導の双眸が見る海原は、落ち着きを取り戻しているようだった。この情景を見て、落ち着きと称するものはいないだろうけれど。打ち寄せる波に乗って、打ち砕かれた船材や荷であったものが浜辺へと折り重なってゆく。浜辺は踏み荒らされ、多くの機装甲が倒れたままになっている。風除けの林のあちこちからは白く煙が立ち上っている。空には、機神らの姿はもう見えない。攻撃を終了して退いたのだろう。あれほど激しく戦ったとしても、飛ぶことができる限り、退くクルル=カリルに追いすがれるものなどない。 そして何より、スヴェルスガルド将軍の軍勢は、もはやこの浜からゴーラ湾を退くことはできない。退くならば、この浜に揚げたものをことごとく捨てるしかない。それは軍勢を捨てることそのものだ。ヴェルキン旅団長が指揮したのは、その二者択一まで追い詰めること。そして、そうなったとき、スヴェルスガルド将軍は、ゴーラの将として、かのゴルム帝の将として、ただ退くことなどできないだろう、そう目算したのはサウル・カダフ将軍だ。その目算通りに行くのだろうか。ルキアニスにはわからない。 オスミナの機神が割り込むかどうかすら、わからなかった。それらの姿はもう浜の近くにはない。退きゆく変わった形の船があるだけだ。二つの船が上板で繋がれたような形だ。それぞれの船に一本ずつの帆柱があり、それぞれに縦長の帆が張られている。何隻かの普通の船が、すぐ近くを共に走る。オスミナにとって、あの船に乗るものを失うわけにはゆかないからだ。オスミナは、この浜に、国を賭けたものを捨てなかった。 「クルル=カリル本隊は」 『離脱の、通知だけは送ってきました。そのあとあっという間で』 つぶやくように言うのは、アスランだ。いちおう、アスランは小隊先任騎士だ。だから小隊長が指揮をとれないときは、彼が小隊の指揮を代行する。代行するといっても何をすることもないのだが。空にはもはやクルル=カリルの姿も、あの鑓の機神の姿もない。気まぐれのように災厄をゴーラにぶちまけ、それだけを残して、去っていった。 ヴェルキン旅団長が、小隊をここに送ったのは、本当にもしものことが起きた時のためだけだった。そして、それはほんの少しだけ起きた。ヴェルキン旅団長の考えていたこととは全く違っていただけだ。 「小隊長了解。小隊は離脱する」 機体自体の負担は小さかった。夜のうちに整備を行い、万端の備えをしていたのだから。魔力は、かなり減っている。もう戦うことはできないだろう。けれど、機体を残してゆくわけにはゆかない。もっとも、ここでなければ、そして回収できれば、かまわないということでもある。 ルキアニスは身を起こし、振り返る。待機の二機の黒の二が見える。その魔導の双眸がルキアニスを見返している。これまで何が起きているのかがわからないままだ。あとで、ゆっくり説いて聞かせないといけない。 そしてコルネリアとアスランの二機のはるか背後に、騎兵旅団の前衛陣地がある。簡便な陣地で、敵戦列を真正面から受け止める力はない。ただ敵の斥候や前衛なら打ち破ることができる。 「小隊は後退。まず騎兵前衛陣地と合流する。軽点検後、騎兵の陣地沿いに後退。彼らの段列で魔力補充を行う。自力後退が叶わない情勢ならば、騎兵に機体移送させる」 了解、とようやく安堵したような響きが伝わってくる。ルキアニスは続ける。 「アスラン前衛。コルネリアは後衛。アスラン、経路選定に留意。敵騎兵の接敵路を作らないように。コルネリアは後衛。経路閉塞を実施」 『了解』 二つ重なった応答の一つは、これからやらねばならないことを思ってか重い、一つはどちらか言えば気楽な響きで届く。 ルキアニスは、もうどうなのかわからなくなっている。ただ一つのことはわかっている。騎兵の前衛連隊の前衛大隊には、かならずあの人が来ているはずだ。ルキアニスが見たのとは、また違う形で、ここに何が起きたのかを見ているだろう。 そうでなければならなかった。なぜかはわからないけれど、ルキアニスにはそう思える。シルフィ須・シリヤスクス・シルディール。美しい彼女は冷ややかなおもてを僅かも崩すことなく、その背に崇拝を受けながら、何事もうかがわせずに望見していただろう。 それは、いつの日か、副帝陛下にも届く。何が届き、何が届かないかなど、ルキアニスの思いのはるか外のことだ。 「小隊行動開始。前衛機は前へ」 『了解』 大盾を取り直し、大斧を手に、アスランの機は立ち上がる。丘からはるか背後、これより帝國となるべきところ、しかし今はまだバルタス王国と呼ばれるところを見やる。彼の機は逡巡したように身じろぎずる。肩甲ごしにちらりとルキアニスをうかがう。いかにもアスランらしいと思う。コルネリアなら、さっさと自ら選んだ林を拾うようにして進んだだろう。 「前へ」 ルキアニスは命じる。しぶしぶといった風に、アスランの機は進み始める。でも、ほんとうはルキアニスもアスランも変わらない。これから戻るところなのに、この先を見やっているのに、ただ一歩を進むのが怖くてたまらない。 今もそうだ。 けれど、そう、進むしかないのだ。戻る道のように見えて、それはいつも、新たな道。どこへ続いているのか、知っているはずなのに、何が起きるのか、わからないままだ。そして知っているはずのところにたどり着いたときには、初めに思った時とは、違うところに感じている。 空を見上げる。何もかも失うのが怖くて、何一つ失うのも同じように怖かった。自らそうした後に、変わらず、この空はある。 どこまでも続いていて、一つのように見えて、それでもひと時として同じことはなく、一つ所として同じものを見せたことはない。 ふたたび、小隊は進み始める。 ____
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第二章 「渡海」 東京都千代田区永田町 首相官邸 国家安全保障会議 2012年 12月10日 10時27分 「現在、東シナ海において、中国側に特異な動きは見られません。尖閣諸島周辺には海監所属の公船が二隻確認されていますが、接続水域の外側を遊弋中です」 情報本部情報官の一佐が、各部隊から上がった情報をスクリーンに映し出した。 「今のところ、中国は、東シナ海で新たな行動に出る兆候はない。うちの現場部隊からも、いつもの挑発以外に動きはないと報告が上がっている」 国交相が言った。海上保安庁の巡視船隊は、今このときも尖閣諸島近海に張り付いていた。 「尖閣は現状維持だ。優先は別にあるからな」 首相が、はっきりとした意志を込めて言い放った。安全保障政策に長けていることを売りに政権を奪取し、維持してきた首相だが、就任以来の激務により頬はこけ、疲労の色は隠せない。 しかし、その瞳には断固たる決意が宿っていた。いや、以前にも増して、その光は強く輝いているのではないか。内閣情報分析官の祝(はふり)重孝は、報告の準備を進めながら思った。 自分の得意分野で戦っている人間は、キツくても気力は充実しているからな。 「一昨日、青森県むつ市付近に発生した大規模特定雲は本日8時に消滅しました。しかし、大湊湾上に陽炎のような現象が観測されています。現在、海上保安庁が海域を封鎖しています」 「陽炎?何だいそりゃ?」 「報告によれば、幅100メートル、高さ50メートルに渡って、空気の揺らぎのような現象が発生しているようです。厚みは数メートルといったところで、一部発光を伴います。例えるならオーロラが海面付近に現れているような景色だそうです」 祝が手元の資料を読み上げた。現場では気象庁職員を始めとする専門家チームが、様々な機材を持ち込み、調査を開始している。 「一方、特定雲の発生と併せて出現した『南瞑同盟会議使節団』を名乗る集団ですが、現在むつ市警察署で外務省と警察庁による聴取が続いています。お手持ちの資料をご覧ください。」 「どこの、与太者かね。また、詐欺師の類では無いのかね?」 党の重鎮を自認する総務大臣が、不機嫌な声で訊ねた。 無理もない。 異世界からの使者、神の使い、原理を解明したと売り込んでくる研究者、役に立たない防災用品を売りつける業者などは、東京湾を埋め立てられる程、巷に溢れていた。 テレビも、ここぞとばかりに煽り立てている。総務相の不機嫌さはその辺りにもあるようだった。 「結論から申し上げますと、彼らが『本物』である可能性は高いと考えます。まず第一にその形質上の差異。さらに、証言内容に矛盾点が無く、また通常知り得ない情報を保有していたこと」 祝の発言に、参加者の視線が資料に落ちる。写真には尖った耳を持つ少年が写っていた。その下には、壊れたスマートフォンの写真。調査の結果、持ち主は綾部市で行方不明となった女子高校生であった。 「そして、彼が示した『魔法』が、現時点で科学的な説明がつかないことです」 「魔法、か」 すっかり薄くなった髪を丁寧に撫でつけた警察庁次長が忌々しげに言い捨てた。警察は昨年来、その魔法により多くの殉職者を出しているのだ。 「彼らの使う言語は、昨年の事案で逮捕した者とほぼ同一です。ですが、意志疎通が出来ている。これは『通詞の指輪』の力であると彼らは言っています。また、こちらの映像をご覧ください」 プロジェクターに、動画が映し出された。会議室の中央に薄緑色の長衣を纏った少年が立っている。彼は、カメラに向けてキラキラとした瞳を向け、何事かを話していた。カメラが気になるらしい。 彼は促されると、右掌を腰の横で上に向け、目を閉じた。小さな声で何かを唱える。 掌の上に、青白く光る火の玉が出現した。 参加者が唸った。誰かが叫ぶ。 「プラズマだ!」 「彼はこの火を使役しているそうです。実際、これがプラズマだとして、このような芸当が可能な技術は、我が国に存在しません」 映像の中では、火の玉が少年の示すとおりに部屋の中をゆらゆらと飛び回っていた。 「では、彼らを『異世界人』だと仮定して、我が国がどう扱うべきかという話になるのだが……彼らのもたらした情報と要求は──」 首相の言葉に促され、祝は聴取により知り得た情報を報告した。マルノーヴ大陸の過半を制する『帝國』と、その侵略を受ける『南瞑同盟会議』について。『帝國』領内に連行された捕虜の噂。異界への扉を開く『古代魔法王国』の遺跡について。 「ちょっと待て。では『南瞑同盟会議使節団』と名乗る連中は、『帝國』とやらと同じ手段で地球に来たというのか?」 国家公安委員長が神経質そうな声色を響かせた。彼のこめかみには血管が浮いていた。 「彼らの話では。また、特定雲の発生状況等も、過去の事例と相関が取れます。同様の遺跡は帝國領内に多数存在するという話です」 「では、奴らが去年の騒乱の一味でない証拠はどこにある? あの携帯電話も奴らが拉致した国民の所有物かもしれん。何も信用出来んぞ。即刻拘束すべきだ」 そう考えるよな。俺があなたの立場なら、同じ主張をするよ。祝は内心で同意した。何名かが国家公安委員長の発言に頷いていた。 「現状、情報源は彼らのみです。また、彼らは『南瞑同盟会議』への軍事的な支援を要請しています。見返りは、拉致された国民の救出への協力です。彼らは自前の情報網を活用し、拉致被害者の消息を追跡できるとしています」 「情報が足りねぇなあ。情報源があの連中だけってのが気にいらねぇよ」 財務相が言った。仕立ての良い三つ揃えをスマートに着こなし、腕を胸の前で組んでいた。 「現在、外務省の担当者が『通詞の指輪』を借用できないか交渉中です。捕虜の尋問や辞書の作成に絶大な効果を期待できます」 祝の言葉は、最も有効な手段を避けていた。それは、内閣情報分析官の職責を超えた所にあるからであった。 首相は机の上で組んだ手をじっと見つめていたが、何かを決意した様子で顔を上げた。参加者を見渡す。 「少なくとも、彼らが異世界人であることに間違いは無いだろう。私は拉致被害者を取り戻す為に、行動を起こしたい」 首相は、まず国交相と警察庁次長を見た。 「下北半島を封鎖しよう。警察はむつ市に繋がる道路を封鎖、市民には避難勧告を出す。陸奥湾への外国船舶の進入も禁止する」 「では、青森港を不開港とし、海保で平舘海峡を封鎖します」 「よろしく頼む。下北半島及び陸奥湾内は特定雲の発生に伴い、立入制限区域とする」 首相は次に外務相に視線を向けた。 「『南瞑同盟会議』及び『帝國』が主権国家であるかどうかは、不明だ。だが、交渉に備え、必要な人員を手配してほしい。また、本件は公開しないが、米国政府には筋を通す必要がある。準備を頼む」 「分かりました」 次に、総務相に向き直る。 「党内と野党への根回しが必要になるでしょう。信頼できる人に渡りをつけていただけますか」 総務相は、恰幅の良い身体を震わせ、頷いた。首相は最後に全員を見渡した。 「彼らを信用はしない。だが、門前払いもしない。まずは、情報だ。各省庁は、調査団の派遣に備え所要の準備を為すこと。海保と自衛隊は部隊の選抜を開始してくれ」 首相はさらなる情報の収集と、その先にある異世界へのコミットを決断した。祝は、その意志決定の早さに舌を巻いた。過去の政府に比べて、果断と言って良かった。 考えてみたら、この政府は南スーダン撤退作戦、北近畿騒乱に隠岐占拠事件等、安全保障に関して言えば、戦後最も経験値を積んだ政府なんだよな。 祝は早速官僚に指示を出し始めた大臣たちを眺めながら呟いた。 「さて、忙しくなりそうだ」 国家安全保障会議の決定を受け、日本政府は下北半島を近川~冷水峠付近──丁度まさかりの柄の部分で封鎖した。 また、青森港を不開港とし、外国船舶の陸奥湾への進入を禁止した。住民には避難勧告が出され、むつ市は警察と自衛隊が防備を固めた。 対外的には、北近畿騒乱と同様の事象に備えた措置とされた。報道機関の立ち入りも制限されたが、世論はこれを当然の処置と受け取った。 首相の命の下、政府の各機関は全力で動き出した。目的を与えられた官僚組織は、その巨大な力を投入し、猛烈な勢いで準備を整え始めた。 祝は正しかった。 彼はそれから暫くの間、家に帰ることは無かった。 青森県むつ市 大湊湾 2012年 12月16日 8時22分 「前進微速」 船長が命じた。鉄船の底からハーピーの甲高い叫びのような音が微かに聞こえてくる。鉄船はその体を震わせると、ゆっくりと進み始めた。 海は穏やかだが、周囲は〈雪〉で真っ白に染まっていた。彼の故郷では有り得ない景色。それは天から降るという。確かに、これだけ寒ければ天から降るのは雨水ではなく、氷になってしまうのだろう。今も〈雪〉は降り続いていた。 リューリは、危うく彼の仲間たちを凍えさせてしまうところだったこの異界の景色を、それでいて、好ましく思っていた。 彼の故郷は、暑く騒々しい森と海。ここは、故郷とは対照的に静謐だった。鉄船が進む水音さえも、真っ白な空が吸い取ってゆく。 自分たちとは異なる世界。自分はまだ何も知らない。それがリューリには嬉しかった。リユセの森、西の一統に連なる妖精族は、好奇の心を貴ぶ。伝統と調和を至上とする東の一統とは、真反対の思想である。 彼が樹冠長によって使節団の長に選ばれた理由の一つは、間違いなくその心映えにあった。 もっとも、適任たる一族のおとなたちが、すでに役目を与えられ各地に散っていたという事情もまた、現実であった。 「おお、櫓櫂も帆もなく鉄船が進むか。たいしたものだ。未だに信じられん」 感じ入ったとばかりに副団長のアイディン・カサードが言った。自身が熟練の海将である彼は、鉄船がひとりでに動く姿に心を奪われている様だった。自前の短衣の上から、『ニホン』の人々に借りた赤い防寒衣を羽織っている。 水鳥の毛を、薄皮に包んだ防寒衣は、もこもことしていて不格好だったが、その暖かさは格別のものらしかった。しかも、とても軽い。 リューリ自身は風の精霊に力を借りているので寒さを感じることは無かったが、カサードはその暖かさを大変気に入った様だった。 「おやおや。カサード殿はすっかりご機嫌ですな。来たばかりの頃が嘘のようだ」 笑いを含んだマスート・ロンゴ・ロンゴの言葉が、傍らから聞こえた。彼も〈ダウン・ジャケット〉を着込んでいた。 「うるさい。あれは仕方なかろう。その様に聞こえたのだからな!」 カサードが顔を赤らめ口髭をふるわせた。彼は、当初この国に大きく失望したのだった。〈ニホン〉の者と軍についての話をした彼は、リューリにこう言った。『リルッカ! 駄目だ、この国では帝國には対抗できぬ。軍すら持っておらぬと言うぞ!』 「早とちりも甚だしいですぞ」 「それはだな! 儂が『この国の軍や水軍はいかほどか?』と聞いたら、『我ら、持つ、無い、軍勢。我ら、持つ。自ら、見回る、群』と返ってきたのだ。自警団しかないと思って当然ではないか!」 「……もう少し良い指輪を用意すべきでしたな」 リューリたちが異世界人との交渉に用いている『通詞の指輪』は、元々は交易商人の道具である。異国の地で取引を行う商人たちが、魔導師に造らせた魔導具であった。 当然、安い代物ではない。また、術師の実力や、支払う代金によってその力には大きな個体差が存在していた。リューリの指輪は、樹冠長が持たせてくれた逸品だが、見たところカサードのそれは粗悪品一歩手前の安物である様だった。 事実、余りの落胆振りに慌てたリューリが、改めて訊ねたところ、「我が国は侵略の為の武力を持ちません。代わりに国を護る為の〈自衛隊〉があります」との答えが返ってきたのだった。 「そう言うなら、商館からまともな指輪を貸す位のことはしてもよかろうに……」 カサードがぼやいた。 「まあまあ、カサード殿。少なくともこの国は軍を持ち、我らを門前払いにしなかった。何よりも!」 上気した顔をテカテカと輝かせロンゴが言った。 「この国は豊かだ。呆れるほどに。この防寒衣。この鉄船。食事に用いられた香辛料の量。あの建物を暖める為にどれほどの金がかかることか。この極寒の地で毎日湯に浸かることすら庶民の日常だと、誰が信じられようか!」 ロンゴは商人としてこの国を見ていた。それ故に三人の中で最も早く、〈ニホン〉の異常さに気付いていた。何気ない調度品や人々の暮らしぶりから、彼はそれを可能とするために必要な国力を予測し、戦慄に近い感情を抱いていたのだった。 「商売気を出すのは、鮫どもを追い払った後にするがいいぞ」 「無論、役目を忘れてはおりませぬ。こうして〈ニホン〉の船隊を招くことが出来たのです。帝國の暴虐ぶりをつぶさに見てもらわねば──」 その言葉を聞きながら、リューリはこれからのことを考えていた。 こちらの手札は、帝國の捕虜となったであろう〈ニホン〉の民、その持ち物といくらかの情報。加えて帝國の情報。それを用いて〈ニホン〉を引き込む。 どうやらそれは、上手く行っている様だった。自分たちが信用されていないのは分かる。彼らから見れば、我等は帝國と同じ『門』を用いて現れた異世界人だ。簡単に信用する程度なら、逆に帝國と戦うことなど能うまい。 恐れていたのは門前払いだったが、あの〈ケイタイ〉なる品を見せた途端、彼らは食い付いた。『拉致被害者の重要な手掛かりだ! さらなる調査をすべきです』危うく、帝國の手の者と誤解されそうになった程だ。 彼らは人族国家としては不思議なほど、同族を大切にしているらしい。 「おお、間もなく『門』をくぐるぞ。しかし、この鉄船は確かにたいしたものだが、今少し速く走れぬものか。この辺り、我らの戦船が勝っておるな」 「いやいや、人が走る程の船足ですぞ。これだけ出れば充分でありましょう」 〈ニホン〉は、南暝同盟会議の申し出に対し、更なる情報が必要であると回答した。そして僅か数日の間に船団を組むと、アラム・マルノーヴへリューリたちと共に向かうことを決めた。リューリたちの乗る鉄船の周囲には、さらに数隻の鉄船がいる。 それにしても── 私は〈ニホン〉について何も知らなかった。それは、水軍のカサード殿も、総主計のロンゴ殿も同じ。下手をすれば帝國よりも非道い相手であるかも知れぬのに。 だが、樹冠長は我らを送り出した。 リューリはリユセ樹冠長の齢二百を超えるとされる、柔和なかんばせを思い出した。彼女は『正直に乞うてまいるがよい。彼の地には優しき鬼達が住まう。嘘偽りなく乞えば、無碍には扱われぬであろ』と、笑っていた。 あの確信はどこから来たものだろう? 事実、彼らは求めに応じてくれた。私は彼らの問いに、半分も答えられなかったのに。 そのとき、船長の声が狭い操舵室に響いた。緊張を隠せない硬い声だった。 「間もなく『門』に突入する。総員衝撃に備え」 目を外に向けると、すぐ目の前に光のカーテンが見えた。 賑やかな連中だ。 海上自衛隊第2ミサイル艇隊所属、ミサイル艇『はやぶさ』艇長は、ブリッジの中であれこれとしゃべっている客人を眺め、思った。 狭苦しいブリッジ内では、白い第三種夏服の上から分厚い防寒外衣を着込んだ隊員たちが、配置に付いていた。艇長自身も、全く同じちぐはぐなスタイルでいる。正直、底冷えがしてたまらなかった。 目的地が、真夏のシンガポール並だっていうんだから仕方がないだろう。 隊司令はこう言い放った。『南暝同盟会議』の議長国、交易都市ブンガ・マス・リマは、『使節団』によれば常夏の地らしい。俄には信じがたい話だが、隊司令だけでなく地方総監までが大真面目に言うならば、従わざるを得ない。 調査団派遣が決定し、部隊編成を命じられた防衛省は、選定に頭を悩ませた。行く先は海。それは分かったが、まともな情報が存在しない。 「海図もGPSも無い。天測も出来ない。そんな海域に護衛艦は出せない」 護衛艦隊の幕僚が目をむいた。 「聞けば、多島海だそうじゃないか? 座礁の危険が大き過ぎる」 「だが、出来ませんとは口が裂けてもいえないぞ。海自が無くなっちまう」 統幕と海幕の幕僚が顔を見合わせ頭を抱える。会議出席者は口を揃えて言った。 そもそも、人が生きていける世界なのか? その答えを得るべく、『使節団』出現以来『門』の周辺は厳重な警備態勢が敷かれ、光の早さで飛んできた各機関により、調査が進められている。 まず、陸自の小型無人偵察機FFRSが投入された。鼻息も荒く新型の投入に踏み切った陸自幹部は、機体が『門』を通過した途端遠隔操縦がダウンし、肩と顎を派手に落とすことになった。 様々な機関が持ち寄った機材の全てが、一つの答えを出していた。 『あのベールの向こう側は、一切の観測を拒んでいる』 次に有線ならばと、小型ボートにレスキューロボットが乗せられた。ボートは『門』へと進み、姿が消えた。しかし、ロボットからはデータが送られ続けていた。放射線量、大気組成サンプルその他多くの情報が得られた。 小躍りした経産省の担当者と数多の学者、専門家たちは、映像データを期待した。異世界をその目で見たい。 彼らの熱い視線を受けたモニターの映像は、しかし、蒸気で曇り何も見えなかった。 経産省の担当者は、人生で最大の罵声を浴びる羽目になった。 だが、様々な失敗を繰り返しながらも、調査は進んだ。原発対応型のロボットが投入され、クリアな画像と更に多くのデータが得られた。 研究チームは、次にモルモットを始め、様々な動物を『門』に送り込んだ。彼(又は彼女)たちは、震えながらベールの向こうに消え、そして還ってきた。 帰還した哀れな動物たちは、農水省消費・安全局動物検疫所、厚労省健康局検疫所、国立感染症研究所特別チーム、理研筑波研究所、陸自第102特殊武器防護隊等、地獄から湧き出た悪魔の様な外見の集団により、全身をくまなく調べられることになった。 併せて、過去の事案での逮捕者から得たデータ、更に青森県警鑑識課が収集した『使節団』のデータも参照された。 丸3日間の議論を経て、専門家たちの出した結論は、『異世界において、人類は生存可能である』というものであった。 調査結果を受けて、海自内の調整は進められた。 「海洋観測艦を派遣したらどうだ?海洋の調査はしなきゃなるまい」 「ならば、掃海艇も必要だろう。EODも役に立つ」 「莫迦な。向こうには何が待っているか分からんのだぞ。護衛も無しに危険すぎる!」 「だが、護衛艦を出しても、浅い海で身動きが取れなければ、逆効果だ」 「だったら、丸裸で出せと言うのか!?」 統幕と護衛艦隊の担当者がにらみ合う中、自衛艦隊の幕僚が顔を上げ言った。 「有るじゃないか、浅い海で戦える、小回りの利く戦闘艦が」 「──そうか!」 こうして、『日本国マルノーヴ調査団』は編成された。艇長が指揮する『はやぶさ』は、この第一次隊に含まれている。 編成は以下の通りとされた。 旗艦 掃海母艦『ぶんご』 第1、第2ミサイル艇隊 『わかたか』『くまたか』『はやぶさ』『うみたか』 第1掃海隊 『いずしま』『あいしま』『みやじま』 海洋観測艦『すま』 海保巡視船『てしお』『おいらせ』 測量船『海洋』『明洋』 設標船『ほくと』 「群司令より各艇宛て。『0830〈門〉ヘ進入セヨ』以上です」 通信員が報告する。艇長は、左右に並ぶ僚艦を見やった。四隻のミサイル艇は、尖兵となり異世界へ乗り込むのだ。 44ノットの高速を誇る機動力と、全長50.1メートルの船体に76ミリ単装速射砲、90式 SSM発射筒、12.7ミリ重機関銃を搭載した重武装で、まず『門』の安全を確保する。 自らに課せられた使命の重さに、密かに身震いすると、艇長は艇内に命令を発した。 「間もなく『門』に突入する。総員衝撃に備え」 穏やかな大湊湾の水面を、四隻のミサイル艇が起こすウォータージェットの飛沫がかき乱した。猛禽の名を与えられた四隻は、滑らかに前進していく。 見上げると、光のカーテンの様な、また陽炎の様な、『門』の姿が間近に見えた。刻々と変わるその色彩は、名状し難い。 「『門』進入一分前!」 乗員は全て艇内に入り、身を硬くしていた。咳払い一つ聞こえない。石川島播磨重工製LM500-G07ガスタービンエンジンの駆動音と、航海科員の秒読みだけが、ブリッジの空気を震わせていた。 「進入五秒前!4、3、2、1、進入!」 その瞬間、周囲が灰色に染まった様に思えた。同時に全ての者が、自分が何かの膜を潜り抜けた様な感覚を覚えた。だが、それは刹那のことであった。 艇長の目の前で光が爆発した。 正確には、彼の視界に入った余りに極彩色な光景が、彼の知覚を強烈に刺激したのだった。 「異状の有無を確認しろ! 僚艦は無事か?」 彼は命じながら、周囲を見渡した。あっという間に曇った窓ガラスの向こうに、知らない海が見えた。 日本近海では見られない、翡翠色の海。冗談のように青い空には、雲一つ見当たらない。周囲に点在する島々の木々は、全力で溢れんばかりの生命を主張していた。何もかもが原色の景色。 ここは、日本では無い。 艇長は、それを実感すると眩暈を覚えた。彼は「ショックのせいか?」と思ったが、すぐに急激な温度差によるものだと気付いた。 「対水上レーダー異状なし」 「機関異状なし」 「武器システムにエラー発生。気温差による結露の可能性があります」 艇長が落ち着きを取り戻しつつあった頃には、部下からの報告が次々と上がり始めていた。 「『わかたか』『くまたか』『うみたか』健在。全艦健在です!」 「周囲に船舶多数。全て木造船。あんな船型は見たことがありません」 見張りの報告した船は、最も近いもので約4000ヤードの距離にあった。艇長は、その姿にもう一度眩暈を覚えた。何てこった帆走ガレーがうじゃうじゃいやがるぞ。 「戦闘態勢を維持しろ。警戒を厳と為せ。目標は敵対行動をとっているか?」 艇長が命令を下していると、いつの間にか隣に来ていた長い耳の少年が、優しげな声で言った。すぐ後ろで警務官が困った顔をしていた。 「船長殿。あれは、我が『南暝同盟会議』水軍の船です。カサード殿の艦隊にて、敵ではありません」 「間違いありませんか?」 「間違いありません。あの色の帆と船体は彼の軍船です」 ガレー船のマストでは、真っ赤に染められた横帆が風を受けて膨らんでいる。船体も朱色に塗られ鮮やかだ。船足は緩やかで、こちらへ急に近付く様子は見られなかった。 「宜しいでしょう──通信、『わかたか』に報告『周囲ノ船舶ハ〈南暝同盟会議〉所属ナリ』だ。各員態勢を維持したまま、交代で防寒衣を脱げ。空調を冷房に切り替えだ……こりゃ暑くてたまらんぞ」 急に汗が吹き出始めたことに気付いた彼が、少しおどけた口調で指示を出したそのとき、レーダー員の鋭い声がブリッジに響き渡った。 「対空目標探知。方位020、距離5マイル。機数4、敵味方不明」 赤く塗粧されたガレーが、その細長い船体を穏やかな海に預け、揺られている。 船首楼で腕を組む『バンガコルマ』号艦長は、その鼻に風に混ざる様々な匂いを感じていた。 島々から香る果実の甘く熟した匂い。魚影の濃い海からの潮の匂い。使い込んだ索具から漂うタールの匂い。左右三十六対の櫂を漕ぐ筋骨たくましい漢たちの汗の臭い。船上はとにかく様々な匂いがした。 全ての匂いが、喧しく感じられるほど強く自己主張していた。照りつける太陽の光すら匂う気がする。ここは、そんな海であった。 艦長は、海がいつも通りであることに安心した。無精ひげに覆われた赤銅色の顎を右手でひと撫でする。 彼の耳に、船首楼で見張りについていた船員の報告が聞こえた。 「お頭ァ! 『門』の様子が変ですぜ!」 「莫迦野郎ッ! 俺のことは『艦長』と呼べと何度言ったらわかるんだ手前ェ等は!」 「す、すいやせん。つい、癖で……」 艦長の怒鳴り声に、見張りは首を竦めた。漕ぎ手や弓手達が下品だが陽気な笑い声を上げた。彼らはほんの数ヶ月前まで、通行税の徴収と私掠──海賊を生業にして来た漢達である。使い慣れた言葉は簡単に直るものではない。 「『艦長』どの。俺達にお行儀良い言葉でしゃべれったって、そりゃ無理だッ! こいつらの顔を見てくだせぇよ」 漕手台に並ぶのは、皆ひと癖もふた癖も有りそうな面構えだ。ヤニで黄ばんだ歯を剥き出しにして笑っている。 漕ぎ手達の足に枷と鎖は無い。 他国のガレー艦隊で見られる、奴隷を漕ぎ手に用いるやり方は、コストの面では有利である。しかし、消耗品である彼等に高い練度は期待できず、逆に常に兵の一部を割いて反乱に備えなければならない。また、劣悪な衛生環境から自然に航続距離は短いものとなった。 これに対し、カサードの艦隊は全て自由人で編成されていた。 専門職となった漕ぎ手は、熟練度と体力を高める事で彼の軍船に自在な機動性を与えた。また、彼等は切り込み要員としての役割を担ったため、常に敵より兵員数で優位に立つことが出来た。 唯一の欠点である高いコストについては、海上交易がもたらす莫大な富がこれを解決した。彼らは艦隊の維持に充分な金穀を得ることが出来たのだった。 カサードの艦隊は、浅く穏やかな多島海において、無敵を誇る存在となった。『帝國』の侵攻を受けて組織された『南暝同盟会議』が、彼と彼の艦隊を水軍主力として抱えた事は、当然の判断であろう。 事実、開戦以来彼の艦隊は、逃げ遅れた商船や私掠船(その多くが帝國西方諸侯領内の商人達である)を容易く血祭りに上げ、同盟会議に数少ない勝利をもたらしている。 「まぁ、そうか」 艦長は、船員達とそう変わらない顔をしかめ、同意した。『門』に目をやる。確かに発光がいつもより激しい。彼は太陽を見上げた。使節団の先触れが予告した時刻に近いようだ。 彼は配下に警戒を強めるよう指示を出すと、二浬先の『門』を睨みつけた。彼の『バンガコルマ』号を始め、計八隻の軍船が周囲に展開している。 「左舷前方二浬。『門』より船影ひとつ! いや、四つ!」 見張りがよく通る声で報告した。艦長が素早く視線を『門』に向ける。明滅を繰り返す陽炎の向こうから、奇妙な船が姿を現した。 なんじゃい、ありゃ? 艦長は思った。現れた船は彼の艦より大きかった。船体は全て灰色に塗られている。船型は見たこともない。用途の分からない突起があちこちに付いていた。 何より奇妙な事に、たった一本の帆柱は斜めに傾ぎ、帆は無かった。白地に赤い太陽の意匠を施した旗が揚がっている。船を進める櫂も無い。であるのに、その船は前に進んでいた。 「艦長、けったいな船が四バイ、見たとこ帆も櫓櫂も無い。兵も見えん。叩きやすか?」 掌帆長が言った。気味が悪くて仕方がないという態度だ。 灰色船は、静かに進むと行き足を止めた。船尾の海面が泡立っていたが、船が止まると消えた。 「突っ込みやしょう! ここは俺達の海だ。怪しい奴らは鱶の餌にしてやるべきですぜ」 弓手指揮官が、戦意に溢れた顔で進言した。囲むか。艦長は、正体不明の船に対し包囲を命じようと口を開きかけた。 だがその時、彼の目が二浬先の灰色船上に、よく知った顔を見つけた。 「待て。ありゃ提督じゃねえか? 見張り、見えるか? 左から二番目だ」 「へぇ……艦長、確かにカサード提督です!」 「やっぱりか。だが変な格好をしてるな」 彼のよく知る上司は奇妙な赤い短衣を着込んでいた。この暑いのによくやる。だが、灰色船の上でこちらに手を振るのは、紛れもなく南暝同盟会議水軍アイディン・カサード提督であった。 どうやら、異界の軍船を連れて帰ってきた様だ。あんな『門』に飛び込むだけでも恐ろしいのに。艦長は、見てくれはどうあれ、カサードに対する尊崇の念を新たにした。 「あれに見えるは、カサード提督だ。出迎えるぞ。鼓手用意! 櫂備えッ!」 艦長の号令で、艦の両舷から突き出たオールに漕ぎ手が取り付き、水面ギリギリに突き出された。鼓手が構える。 「両舷前進三分の一。『門』に向かえ!」 鼓手がゆっくりとしたリズムで船尾楼の太鼓を叩く。漕ぎ手は、三人一組で太鼓に合わせて漕ぎ始めた。見事に呼吸の合った三十六対のオールが、水を掻き始めた。 しかし、あれで戦えるのか? 力強く進む艦上で、彼はどこか力の抜けた気分に包まれていた。異界の船は図体こそ大きいが、それだけだ。帆も櫂も無い。あれでは戦うために最も必要な素早さを得られない。 また、船上に大型弩弓などの武器は見えず、兵を矢から守る置盾も無さそうだ。大きいだけの鈍重な船が四隻有ったところでどうにもならん。 掌帆長や掌漕手長も同じ意見の様であった。口々に不満を述べている。 彼は、話に聞こえる帝國軍の猛威を思い、暗澹たる気分になった。このままじゃあ、負けちまう。一体提督はどうする気だ? その時── 「右舷後方、龍が見える! 騎数三!」 鋭い警告が響いた。艦長の背筋に冷たい感覚がよぎる。まさか。ここは、同盟会議の内懐だぞ。だが、次に聞こえた禍々しい鳴き声が、彼に現実を突きつけた。 鳥の鳴き声を、数倍野太くかつ攻撃的にした様な響きが、空に響く。艦長は、右舷後方を見た。 「……有翼蛇!」 青空に現れた羽根の生えた蛇の様な生物。ワイアームと呼ばれるそれは、狂える神々の座を越え南暝同盟会議に攻め寄せた、帝國南方征討領軍の姿であった。 眼下に広がる翡翠色の海上は、まるで木の葉を散らした様だ。間抜けな南蛮どもの軍船はようやくこちらに気付いたようだった。 大層な名を名乗っていても、所詮蛮族か。 帝國南方征討領軍飛行騎兵団に所属する操獣士は、手綱を引き翼龍の行き足を緩めた。照りつける太陽を背に、海面を見下ろす。 海上に遊弋していた軍船は、大慌てで船足を早め、戦の支度を整えようとしていた。遅い。操獣士は、革製の龍騎兵帽の下で嘲りの表情を浮かべた。 彼は、厚手の革製外衣と騎兵ズボン、手袋で身体を覆っている。常夏の地であれ、空を往く者は薄着ではいられない。風が体温を容赦なく奪うからだ。 南方征討領軍は、三月前に『双頭の龍』を戮殺した後、その要塞を拠点に南部沿岸地域に侵攻を開始していた。 初戦で悲惨な殲滅戦を見せつけられた周辺の村落、そしていくつかの都市は早々と帝國に降った。帝國軍はそれらから糧秣と兵を徴収し、更なる侵略に用いた。 反撃は、微々たる物であった。 南暝同盟会議の足並みは乱れ、諸都市が自己を守るので手一杯という有様であった。北辺の守りの要を失ったことは、彼等にそれ程の衝撃を与えていた。 南暝同盟会議諸国は、統一軍の編成すらままならない体たらくであった。わずかの間に三つの都市国家が陥落し、無数の村落が消え去った。 勿論、全てがされるがままであった訳では無い。冒険商人達はその情報網を用いて、帝國軍の兵力がさほど多くないことを突き止めていた。また、有力都市は速やかに自警軍を編成し、跳梁する帝國軍先遣隊の捕捉殲滅を試みた。 だが、効果は上がらなかった。 帝國軍は、部隊を魔獣や翼龍で編成していた。これらの軍は機動力に優れ、兵力に勝る都市国家自警軍を翻弄し続けた。帝國軍は決戦を避け、兵站を脅かし、時には空き家となった都市を襲った。 南暝同盟会議諸国は、盗賊の様に戦う帝國軍に、ずるずると消耗を強いられ続けていた。 南方征討領軍飛行騎兵団は、最近では蛮族の本拠地付近まで足を伸ばしている。少数の翼龍で、散発的に各地を襲っているのだ。操獣士が翼龍と共に海上に現れたのは、そうした現状を表していた。 「今日はあれを喰うとしよう」 操獣士の背中側で低い声がした。風に紛れて聞き取り辛いが、若い男の声である。眼下の軍船を沈めようと言っている。 「分かった。派手に頼むぞ」 操獣士は、その声に応え翼龍を風下へ水平飛行に入れた。浴びる風が弱い方が後ろの男は集中出来るのだ。 「心得た」 そう言った後席の男は、操獣士と同様の服装に身を固めた身体を僅かに反らし、目を閉じた。精神を高める化粧を施した顔が、僅かに痙攣する。 男は『魔獣遣い』と呼ばれる者であった。特殊な魔術の一種を用い、魔獣を操る。主に帝國内の東部山岳地帯に住む民族に多い。 幼龍と共に育ち、成人後は龍騎兵として軍役に就く操獣士とは、また異なる異能を持つ民であった。操獣士は思った。 上は大したことを思いつくものだ。我等を組み合わせる事で、その力何倍にもなる。 帝國軍は、翼龍を用いる龍騎兵に、『魔獣遣い』を同乗させていた。龍騎兵により機動力を与えられた『魔獣遣い』は、その魔術を敵の奥深くに用いる事が出来た。 太陽を反射し、ギラギラと照り返す海面の近くを、三本の黒く細長い影が猛烈な速度で飛んでいるのが見えた。 操獣士が目を凝らすと、それらの姿が明らかになった。翼を持つ蛇──有翼蛇またはワイアームと呼ばれる魔獣だ。三匹が、鏃のような隊形を組んで、蛮族のガレーに向かっている。 人を乗せていない。その速さは生半可な兵どもでは目で追うことすら出来まい。そう思えるほど鋭い飛び方であった。 『魔獣遣い』に使役された三匹は、ガレーまで僅かの距離に近付くと、荒々しい叫びと共に、その口から火球を放った。 火球は狙い違わずガレーに吸い込まれて行った。 右隣の僚艦が激しい炎を吹き上げた。忌々しい鳴き声と共に火球を吐いたくそったれの蛇どもは、既に矢の射程外に飛び去っている。 火球を受けた僚艦は、主檣に喰らった一発によって、良く油の染みた索具と帆が燃え上がり、まるで巨大な松明の様な有り様だった。 悲鳴と共に、火達磨になった人間が海に落ち、水柱を上げた。彼等は暫くもがいていたが、すぐに動かなくなる。僚艦は行き足を止めていた。艦長が居たはずの船首楼にも火球が命中している。 くそ、あれじゃ助からん。 艦隊は大混乱に陥っていた。完全な奇襲である。だが艦長は、流石に手練れであった。速やかに指示を出す。 「前進全速。弓手射撃用意! 奴を近付けるなッ!」 鼓手が激しく太鼓を叩き始め、漕ぎ手が筋肉を膨らませ、力の限り櫂を漕いだ。止まっていてはやられる。艦長は、瞬時に判断した。 周囲の艦の内、三隻は彼と同じ行動をとった。だが、残りの三隻は速度より反撃を選んだ。弓手を船縁に集め、弾幕を張ろうとしている。海賊衆らしい勇敢さであると言えた。 ──だが。 「左手正横、龍が突っ込んでくる!」 見張りの悲鳴。艦長は、即座に指示を出した。 「取舵一杯! 左櫂上げ! 右全力で漕げ!」 左舷側の漕ぎ手が櫂を海面から上げる。右は全力で漕ぎ出した。『バンガコルマ』号は急速に左に回頭する。敵に横腹を曝すまいという動きであった。 左に位置していた僚艦が、矢を放った。だが、ワイアームは矢を軽々とかわすと、停止していたそのガレーに次々と火球を放った。 轟音。火柱。魂を消し飛ばす様な凄まじい悲鳴が上がる。櫂がバラバラと水面に落下した。弓手の放つ矢は全く当たらない。 「駄目だ! 敵が速すぎる」 弓手指揮官の悔しげな叫びが聞こえる。ワイアームは、一撃を加えるとあっという間に飛び去ってしまう。 二隻目を屠った蛇どもは、再度襲ってきた。各艦は全力で回避しつつ、矢を放つ。しかし、効果は無い。辛うじて三撃目は回避したものの、火球をくらうのは時間の問題であった。 畜生、全滅しちまいかねん。どうしたらいい? この船では、奴等には勝てない。 眼前で繰り広げられた惨劇に対し、『はやぶさ』艇長の対応は素早かった。 呆然とする周囲をよそに、彼は情報を集め、脅威評価を下していた。 対空目標。サイズと速度はヘリ程度。我に友好的では無い可能性が高い。火力は本艇に脅威足り得る。 彼は命令を下した。 「対空戦闘用意」 隣では、商人然とした異世界の男が、腰を抜かしそうになっている。指輪を通した彼の言葉は「まさか、こんな所まで……」「一体どうしたら」という呟きであった。〈魔法〉とやらは、男の茫然自失な様子まで正確に伝えていた。 男の狼狽ぶりは、信じられない事態に遭遇した常人の反応としては、概ね平均的なものであった。 だが、命令を受けた自衛官達は、弾かれたかの様に行動を開始していた。警報が鳴らされ、LM500-G07ガスタービンエンジンが全速力に備え唸りを上げる。レーダー員が探知目標に番号を付与する。数十秒後、艇は戦闘態勢を整えた。 訓練でできないことは、実戦では絶対にできない。訓練は実戦の如く。実戦は訓練の如くだ。 部下の動きを見ながら、艇長は昔仕えた艦長の言葉を思い出した。今のところ、自分が鍛えた『はやぶさ』は満足すべき練度を発揮している。 「ガレー船、さらに一隻被弾! 炎上中!」 行き足を止めていたものから叩かれている様だった。足を折られたミズスマシの様な、無残な有り様を晒している。無事な船は五隻まで減少し、必死に回避運動を続けていた。打ち上げられる矢の勢いは、乗員の動揺を表すかのように貧弱で、何の効果も無い。 「目標機数3。更に後方に1機、旋回中」 レーダー員の報告を聞きながら、鮮やかな青空に目を凝らす。双眼鏡では視界が狭まり追いきれないためだ。艇長の目には、目標は航空機でもヘリでも無い様に見えた。それは、奇怪な生物に見えた。 「……蛇? 火を吐く蛇がいるのか?」 「あれは、有翼蛇です。マルノーヴ各地に生息する魔獣。しかし、ああまで見事に使役されたところを、わたくしは見たことがありません」 リューリが、真っ青な顔色ながら気丈にも、艇長に説明した。 「使役? 操られていると?」 艇長が訊ねた。リューリが、天井を見上げながら答えた。 「有翼蛇は、人に馴れません。ですが、『魔獣遣い』は術によって使役すると聞きます。帝國軍はあの様な魔獣を軍に用いているのです」 重い口調で語った彼は、艇長の目を見つめ、切り出した。 船長殿。願わくばわたくしとカサード殿にボートをお貸しくださいませんか?」 傍らには、憤怒と焦燥に髪を逆立てたアイディン・カサードが拳を握りしめ立っていた。眦はつり上がり、苦戦する配下達を見つめている。 「……あなた方は本艇の大切な客人だ。お貸ししたとして、どうされるお積もりか?」 艇長の言葉に、カサードは態度で答えた。炎上するガレー船を指差し、反対の手で目の前の壁を力一杯殴打した。金属を叩く硬い音がブリッジに響く。乗員達が驚いた表情を見せた。艇長とレーダー員だけは顔色を変えなかった。 リューリが、カサードの代わりに言った。 「海将カサードは、部下と共に在ることを望んでいます。しかし、異国の方である貴船に参戦の名分はありません。ボートをお貸し頂ければ、我等は配下の軍船に漕ぎ寄せ、指揮を執る所存です」 「リルッカさんは、使節団の団長でしょう? あなたまで行く必要が?」 艇長はリューリを気遣った。指揮官が戻ったとして、ガレー船が自在に空を駆ける有翼蛇に勝てるとは思えなかった。 リューリはにこりと笑った。 「わたくしは南暝同盟会議に連なる者。敵たる帝國軍により味方が窮地に在りし時にただ黙って見ている様では、わたくしの幹も根も腐ってしまいます。拙い精霊魔法でも何かの役に立ちましょう」 大した口上だった。だが艇長は、リューリの足が震えているのを見逃さなかった。カサードが今にも海に飛び込んでしまいそうな様子であることにも、共感を覚えた。彼は部下を案じている。 艇長は、その身の内で血が沸く音を、はっきりと聴いた。 「お二方の御覚悟、了解しました。暫し待たれたい──通信!」 そう言って艇長は、通信員の手から無線の送話器をひったくった。だが、同時にスピーカーから声が聞こえた。 『群司令より、各艇長。意見はあるか?』 艇長は機先を制された形になった。群司令の問い掛けに、無線からは各艇長の返答が次々と聞こえてきた。 『「わかたか」艇長、戦闘行為を制止すべきと考える』 血の気の多さで知られる『わかたか』艇長が、戦闘への介入を進言した。きっと狭いブリッジの中を熊の様にウロウロしているだろう。 『こちら「くまたか」。現状は、武器使用要件を満たさない。戦闘停止を呼びかけつつ、部隊の保全に努めるべきと考えます』 『くまたか』艇長の冷静な声が聞こえた。治安出動下令前に行う情報収集として派遣された彼らは、武器使用に制限があった。改正自衛隊法第92条の5は、対象を「自己又は自己の管理の下に入った者」に広げたものの、危害要件を『正当防衛』『緊急避難』に限っている。 『「うみたか」艇長。被攻撃船の乗員は、「日本人」の可能性がある。救援を進言する』 奇妙な事だが、『門』を越えたこの世界は、法律上日本国内らしい土地として扱われていた。政府は『南暝同盟会議』を主権国家であると確認するまでの間、あくまで国内における活動として自衛隊を運用するつもりであった。 そのため、眼前で戦うガレー船の乗員は、『未発見の』日本人の可能性がある。『うみたか』艇長はそう言っていた。 「こちら『はやぶさ』艇長。ガレー船乗員は、『南暝同盟会議』所属との情報を得た。本艇これより近接し、難船者救助を実施したい」 無線のやり取りに唖然とするリューリ達を尻目に、『はやぶさ』艇長は進言した。内心、無茶かなと思っている。救助のために近付けばまず攻撃を受ける。それは、様々な問題をクリアするが、更に多くの問題を生み出すだろう。 日本国として、それを許容出来るのか? その判断を現場がしても良いのか? 無線は約十秒、沈黙した。 『群司令了解。「はやぶさ」は、ガレー船に近接し、難船者の救助に当たれ。「うみたか」は「はやぶさ」を援護せよ。「くまたか」「わかたか」は「門」を確保せよ』 群司令の声はやけに明るかった。ミサイル艇を指揮する指揮官達は、その兵器特性からか即断即決を重視する傾向があると思われている。群司令もその例に当てはまるようだ。 『「はやぶさ」了解』 艇長は、自分の声も明るくなっている事に気付き、内心で苦笑いした。だが、手には既にじっとりと汗をかいている。今からは、命のやりとりになる。そう思うと、膝が笑いそうだった。 「船長殿! 早く我らを降ろしてください!」 じれた様子でリューリが言った。艇長は、彼に答えた。 「リルッカさん、カサードさん。ボートはお貸しできません。本艇これより貴船団の救助に向かいます」 「無茶です! 危険すぎます! 船では火球を回避できません。いくら鉄船と言えども……」 「──我、強要! 降りる!」 この船では不可能だと言い募る異世界の住人に対し、艇長は胸を張った。 「リルッカさん、本艇の名前を覚えていますか?」 「……『はやぶさ』です」 「そう、『隼』です。今から、我ら四艇が猛禽の名を名乗るその理由を、御覧にいれましょう」 艇長は爽やかに笑いながら、リューリの細い身体をレカロ社製シートに押し込んだ。手早くベルトを締める。そうしてから正面を向く。彼は大きく息を吸い、命令を発した。 「本艇は只今から救助活動のため、ガレー船に近接する! 第二戦速!」 タービンが一段甲高い音で、ブリッジの空気を震わせる。艇尾が激しく泡立ち、『はやぶさ』は満載240トンの船体を力強く前進させ始めた。 太陽が中天に昇る頃、南暝同盟会議水軍初の対空戦闘は、早くも破局を迎えようとしていた。 快速を誇った旗艦『バンガコルマ』号だが、既に至近に二発の火球を食らい、漕ぎ手に被害が出ていた。 いくら漕ぎ手に屈強な漢達(その中には人族以外の者を含んでいる)を揃えているとはいえ、四半刻余りも全力で漕ぎ続けていては、疲労の色が隠せない。 「頭ァ、もういけませんや。次は避けられそうにありやせん」 掌漕手長がふさふさした耳を情けなく垂れ下げ、泣き言を漏らした。彼は配下の二割を失っている。 「莫迦野郎、簡単に諦めるな。帝國の蜥蜴どもに笑われるぞ!」 「ですが……」 艦長は船首楼に仁王立ちになり、汗にまみれた赤黒い顔を左右に巡らせた。彼の視界の中で、艦隊の陣形はとうに崩され、各艦がてんでバラバラに海上をのたうっていた。 八隻のガレーの内三隻が炎上し、『バンガコルマ』号を含め三隻が損害を受けている。海上には、砕かれた櫂や焼け焦げた船材、そして黒い塊──先程まで人間だったものが無数に漂っている。艦長は唇を噛んだ。無様な有り様だった。 有翼蛇は鏃の様な編隊を組み、一旦空高く昇り始めていた。矢は気を逸らす事すら出来ていない。 畜生、太陽を背にしやがった。艦長は目を細めたが、蛇は直に見えなくなった。 彼らの戦備えは、空を駆ける敵に対して全くの無力を晒している。敵船への斬り込みに無類の威力を発揮した曲刀も銛も、炮烙や弩ですら役に立たない。 まるで、鮫に蹴散らされる小魚の群れの様であった。有翼蛇があとどれだけ火球を吐くことが出来るのか分からないが、少なくとも先に力尽きるのは此方である。 艦長は決して諦めてはいなかったが、切ることの出来る手札は尽きようとしていた。 その時、船尾楼から声が上がった。 「灰色船、動き出した──何だぁ!?」 「頭ァ! 見てくだせぇ。信じられねぇ……」 配下の狼狽した報告を受けて、艦長は戦闘開始後初めて灰色船の存在を思い出した。それまでは、無力な存在だと半ば無視していたのだ。 あの得体の知れない船にはカサード提督が乗船している。我等が此処で敗れたとしても、提督だけは無事逃がさねば。しかし、見張り共は何を見てそんなに慌てているんだ。彼は灰色船を見た。 次の瞬間、彼は自分の見たものに対し、配下と全く同じ態度を示す事になった。 「……何をどうやったら、あんな速さで走れるんだ?」 船は海上を滑るように進む。鉄の船体は小刻みな揺れをリューリに伝えていた。それは彼の知らない揺れだった。 彼の知る船というものは、風が強く吹けば煽られ、弱ければ行き脚を失い、潮とうねりの前に力無く押し戻される様な、真にか弱い存在だった。船長たる者は常に風と波を見極め、逆らわず利用する事に心を砕いた。 それを巧みに為す者が、練達の船乗りとされた。 でも、異界の船は違う。 彼等は海をねじ伏せ、自らの力で迅く走る。風もうねりも切り裂いて真っ直ぐに進む。 リューリはすっぽりと身体を包むような心地の、不思議な椅子に身体を預けながら、その速さに心を奪われていた。 左右の景色が飛ぶように流れ、ガレーがあっという間に大きくなった。 「船長殿! はやい! はやいです! 何なのですかこの船は!」 本当に船なのだろうか? リューリは興奮して叫んだ。 「海上自衛隊ミサイル艇『はやぶさ』、我が国で一番の韋駄天です。お気に召した様ですな」 リューリの興奮を露わにした態度に、艇長も満更では無い様子だ。 「真艦首のガレー船まで2000ヤード」 「取舵。140度宜候」 「とぉーりかぁーじ」 艇長の指示で、『はやぶさ』は左へと舵をとった。艇体が僅かに右に傾く。 「戻せ、舵中央」 左に針路を向けた『はやぶさ』は、ガレー船を右舷に見つつ、前を横切ろうとしていた。 「もどーせー、舵中央。宜候140度」 「目標、180度5000ヤード。ガレー船に突っ込んでくる」 南から太陽を背に、有翼蛇が再突入を図っている。レーダー員が、刻々と報告する。艇長は、やや固い声色で命令した。 「ガレー船と蛇の間に割り込む。こっちに引き付けるぞ!」 『はやぶさ』は、翡翠色の海原に弓の様にしなる白い曲線を描きつつ、21ノット(時速約39km/h)の速力でガレー船の南側に出た。 キレの良い挙動でそのまま横腹を有翼蛇の飛来方向に向ける。76ミリ速射砲は正面に向けたままだ。 日本近海に合わせ塗粧された灰色の船体は、強烈な陽光を受けギラギラと光を放っている。それは、翡翠色の海に良く栄えた。空からはその姿がはっきりと視認できた。 一旦高度を稼ぎ、南へ離隔した有翼蛇の編隊は、『魔獣遣い』の思念波に導かれた。 『魔獣遣い』は、高速で走る新たな船を警戒すべき対象と認識した。先程まで行われていた低高度からの襲撃の代わりに、更に難度が高く、強力な攻撃法を選択する。 蛇は、急角度で右に捻り込むと、太陽を背に急降下を開始した。十分な位置エネルギーを速度に変換しつつ、蛇は『はやぶさ』に向けて約65度 の角度で突撃した。 風を斬って有翼蛇が降下する。知性の感じられない両の目は、『はやぶさ』を捉えている。その情景は『魔獣遣い』の脳裏に映像となって伝えられた。 有翼蛇による急降下火球突撃。操獣士を乗せない事で、桁違いの機動性と速度を獲得したこの攻撃を破る事が出来るものは、アラム・マルノーヴ広しといえど存在するはずがない。 それは、全くの真実であった。 『魔獣遣い』の思念に混じる勝利への確信を感じたか、有翼蛇が甲高い鳴き声を上げた。禍々しい音色が辺りに響く。 降下する有翼蛇の姿を目撃した『バンガコルマ』号の乗員達は、炎上する哀れな異界の灰色船を幻視し、悲痛な呻き声を漏らした。 敬愛するカサード提督は、あの船と共にやられちまうに違いない。 誰もがそう思った。 『はやぶさ』のブリッジでは、艇長が慎重にタイミングを測っていた。レーダー員が距離を刻々と読み上げる。 「目標まで1000」 敵の注意を惹き付ける事には成功したようだ。有翼蛇が目標を『はやぶさ』に定めた事は、レーダーの輝点の動きから見て取れた。畜生、先に撃てりゃあ苦労は無いんだが──艇長は、射撃号令の代わりに言った。 「記録始め」 「了解」 ブリッジの中は戦闘配置の乗員であふれていた。88式鉄帽に救命胴衣を装着した航海科員が、固唾をのんで天井を見上げる。 「飛行生物3、左80度500。真っ直ぐ突っ込んでくる」 「目標まで300」 「了解。……カサードさんはどうした?」 「左見張りと一緒です!」 舷窓の向こうに、見張りの横で仁王立ちし、空を睨む威丈夫の姿が見えた。艇長は一瞬だけ迷った。退避を。いや、間に合わん。艇長は左舷見張りに指示を出した。 「目標が降下を始めたら叫べ!」 「目標直上! 急降下ァ!」 「蛇! 来るぞ!」 艇長の言葉尻に見張りの叫び声がかふさった。カサードの発した警告が同時に響く。 「取舵一杯! 最大戦速! 見張り退避急げ」 「総員衝撃に備えェ!」 三匹の有翼蛇が流星の様な勢いで降下する。海面から見上げたその姿は、殆ど垂直に落ちてくる様に見えた。甲高い鳴き声が、まるでサイレンの様だ。 対する『はやぶさ』の三基のウォータージェットノズルが駆動する。左舷側に猛烈な勢いで吐き出された水流が、艇首を蹴飛ばすような勢いで左に向けた。 椅子に縛り付けられたリューリの身体が、右に振り回される。乗員達は手慣れたもので、立っている者は皆何かに捕まり、その任を全うしていた。 『はやぶさ』は、海面を白く濁らせながら、左急速回頭を行う。 有翼蛇の眼を通して敵船を捉えていた『魔獣遣い』の視界から、かき消える様に敵船が消えた。 いや、有り得ない速度で舳先を振っている。敵船は此方の顎から逃れようとしていた。 「……海魔め」 「どうした?」 操獣士の問い掛けを無視した『魔獣遣い』は、思念波を放った。今ならまだ── 思念波を受けて、有翼蛇は喉を震わせると、その顎から火球を放った。高温の火球が尾を引いて敵船に向かう。粘性の高い分泌物を燃料とした焔は、命中すれば船材も人も等しく焼き尽くすだろう。 火球を放ち終えた三匹の有翼蛇は、疲労した体躯を無理矢理引き起こし、急降下の勢いを殺す。二匹がそれに成功した。海面を這うように離脱する。だが、残りの一匹は哀れな悲鳴を残し、大きな水柱を立てた。 引き起こしに失敗した一匹は、海面に激突したのだった。蛇はそのまま、もがく事すらせず、海中に消えた。 一方、轟音と水蒸気が『はやぶさ』左舷を包み込んだ。 「ああ、やられちまった……」 「糞ったれェ! 」 「駄目だ、次は俺達だ。皆殺しだぁ!」 濛々と立ち昇る水蒸気の雲を見て、南暝同盟会議の船乗り達は、口々に嘆き罵った。 だが次の瞬間、煙るような水蒸気の中から、『はやぶさ』が姿を現した。泡立つ海面を真一文字に切り裂いて、凄まじい速度で飛び出す。 最大戦速──44ノット。 アラム・マルノーヴの船乗り達にとって、それは有り得ない光景であった。 「左舷至近に着弾!」 「船体に異状無し! 各システム全力発揮可能」 「左見張りは、生きとるか?」 「だ、大丈夫でーす」 左舷の舷窓には、微かに炎が舐めた名残が、黒い煤となって付いているだけだった。どうやら敵の攻撃は破片を撒き散らす類の物では無いらしい。 艇長は、『はやぶさ』が戦闘能力を維持している事を確認した。激しいピッチングが連続して身体を揺さぶる。 当然だ。蛇風情にやられてたまるか。 艇長は、重要な事項を確認する事にした。 「記録は撮れたな?」 「動画、ボイスレコーダーその他完璧です」 「よし。本艇は、国籍不明の武装勢力から無警告攻撃を受けた。武器等防護の為、隊法第95条に基づく武器使用を行う──通信、群司令に報告!」 「目標を敵機に指定。280度、1000ヤード。左旋回!」 離脱した二匹は、態勢の立て直しの為体躯を左に捻った。思念波が再度の突入を命じる。哀しげな鳴き声があがった。信じられない程の速度で走る灰色船に向け、二匹の有翼蛇は襲撃機動をとった。 「右対空戦闘」 攻撃をかわし南へ走る『はやぶさ』は舵を右にとりつつ、西から迫る有翼蛇に右舷を向ける。主砲の76ミリ速射砲が、角張ったステルスシールドの砲塔を回転させた。 FCS-2-31射撃管制レーダーが、有翼蛇の編隊を捕捉する。主砲の砲身が連動し生物の様に動き、狙いを定める。 艇長は、艇長席のリューリを見た。 「リルッカさん。本艇はあの蛇を撃墜します」 「……良いのですか? 貴国は──」 余りの速度に目を白黒させていたリューリは、艇長の瞳をじっと見つめた。彫りの浅い男の瞳には、断固たる意志が存在していた。 「あの蛇はどうやら我が国にとっても侵略者である様ですからな」 リューリの視線を受け止めた艇長は、すぐに右舷から迫り来る有翼蛇に向き直った。 「距離800」 「主砲打ち方始めェ!」 艇長の号令と同時に、前甲板の76ミリ速射砲が乾いた発砲音を響かせた。閃光。続いて砲煙。激しい金属音と共に砲身下から薬莢が転がり落ちる。 発砲は二回。それで全てが決した。 低空を這うように突撃する有翼蛇の眼前に、黒い華が咲いた様に見えた。 『はやぶさ』から発射された調整破片榴弾は、近接する有翼蛇の直前で信管を完璧に作動させた。黒煙と共に破片が哀れな蛇を包み込む。 まともに飛び込んだ一匹は、全身をズタズタに切り裂かれ、悲鳴をあげる間もなく海面に叩きつけられた。 二匹目は、更に劇的だった。目の前で仲間を叩き落とされた事に反応を見せる間もなく、76ミリ砲弾がほぼ直撃したのだ。強烈なカウンターを喰らったかの様に、有翼蛇は空中で消し飛んだ。顔面のパーツや薄い羽が、粉々になって落下する。 「グゥ、莫迦な!?」 思念波の逆流に、こめかみを押さえた『魔獣遣い』が狼狽した声をあげた。無敵であったはずの魔獣が、瞬きする間に墜とされた光景に、彼は言葉を失った。 攻撃魔法か? いや、あの様な威力の術を、俺は知らない。あの船は危険だ。 「おい、やられちまったぞ! どうする?」 操獣士の声に、彼は我に返った。与えられた任務は、敵の攪乱と物見である。支配下の魔獣を失った今、己に出来ることはあの船の情報を持ち帰る事。 冷静さを取り返した『魔獣遣い』は、操獣士に告げた。 「帰投する。あの船、将軍にお伝えせねばならん」 「心得た。彼奴はとんでもないな。有翼蛇が一撃とは」 彼等は、為すべき事を見誤らなかった。操獣士は愛龍の手綱を引くと、小さな旋回径を描きつつ、離脱を開始した。 南暝同盟会議の軍船に、あの様な型は無いはず。いや、我が帝國にも存在せぬ。南方征討領軍に、大きな障害となるやも知れぬ。あれを沈めるには──。 だが、彼の思考はそこで絶たれた。視界の片隅で、灰色船の更に遠方約四浬先にあるもう一隻に、微かな光を見た。 一息の後。 『魔獣遣い』の身体は、衝撃と共に空中に放り出されていた。赤く染まる視界の中で、引き裂かれた翼龍と操獣士が、混じり合って墜ちていくのが見えた。 彼は、自分も同じだと気付いたが、すぐに意識は闇に飲まれた。 「『うみたか』、敵一機撃墜。全目標撃墜」 「打ち方止め。第一戦速。ガレー船の救援に向かう」 艇長は、ようやく肩の力を抜いた。初の実戦に、無意識に緊張していたらしい。首を回す。椅子で惚けた表情を見せるリューリの姿が目に入った。 「敵は全て落としました。もう、大丈夫でしょう。これより、貴艦隊の救援に向かいます」 「……はい。──いや、いやいや! 艇長殿! この船は一体? 何というか、わたくしは御伽噺を見ているかの様な心地です」 リューリの言葉に艇長は思わず噴き出した。おとぎ話の様なのは、そっちの方だろう。 「ご助力に感謝いたします。カサード提督も感──」 「おおッ勇者達よ! 儂からの礼を受け取ってくれ! 何たる凄まじき魔導よ! 古の王国にすらこの様な軍船は存在すまい! 見事だッ! 感服仕った!」 とてつもない騒がしさで、カサードがブリッジに飛び込んできた。彼は、煤まみれの大柄な身体で、手当たり次第に乗員と抱擁し、褒め称え、笑った。彼は、艇長を見つけると、言った。 「お陰で、部下が生き残れた。感謝致す。先に手を出す訳にはいかなかったのであろう? 自らを危険に曝してまで──アイディン・カサードとその一党は、この恩決して忘れぬぞ」 「肝は冷えました。ですが、あれが『帝國軍』であるなら、遅かれ早かれ交戦は免れなかったでしょう」 「正直な男だな」 艇長はふと思い出し、言った。 「ところで、カサード提督。この艇の本当の速さ、お分かりいただけたでしょうか?」 「ぐ……聞いていたのか。あれは撤回しよう。我が戦船が一番だと思っておったが、どうやら『ハヤブサ』の名に偽りは無いようだ。完敗だ」 そう言って、カサードはまた笑った。 「ガレー船まで、500。単横陣を組んでいます」 「ウィングに出ましょう」 艇長は、リューリとカサード、そして腰を抜かしていたロンゴ・ロンゴを連れて、ブリッジを出た。 『バンガコルマ』号はお祭り騒ぎであった。つい先程まであらゆる手管を用いても倒せなかった帝國の有翼蛇が、いとも簡単に落とされたのだ。これで喜ばない者はいない。 疲れ果て、汚れきった漢達だったが、各々が力の限り歓声をあげ、拳を突き上げていた。 「艦長! 提督の灰色船近付きやす!」 見張りの報告に、全員が振り返った。平和な景色を取り戻した海原が、先程の戦闘など無かったかの様な態度を見せる。その中を、灰色に船体を塗粧した軍船が素晴らしい速度で近付いていた。 もう、誰も侮る者はいなかった。鋭い湾曲剣を思わせるその船は、恐らく近隣で最強の存在である事を、全員が理解していた。 「艦長どの。ありゃ、何者なんでしょう」 「知らん。検討もつかん。海神の御使いだと言われても驚かん」 艦長は、投げやりに答えた。ふさふさの耳を立てる元気を取り戻した掌漕手長は、感心した様に言った。 「少なくとも、連中が糞強くて、その糞強い連中が、糞ったれの帝國と喧嘩する気があるってのは、いい気分ですな」 そこで艦長は、灰色船にカサード提督の姿を認めた。虚脱した気分を腹に力を込めて追い出し、声を張り上げた。 「野郎共、提督が見てらっしゃるぞ! だらしねぇ様晒してんじゃねぇ! あの船に敬意を表するぞ! 合図出せ」 「漕手台に付けェ!」 満身創痍の漢達と五隻のガレーが、威儀を正す。灰色船上に立つカサード提督の顔がはっきり見える距離になった頃、艦長は五隻に命令を下した。 「異世界の勇士に──櫂立てェ!」 その様子は『はやぶさ』からもよく見えた。朱色に塗られたガレー船の両舷で、左右に突き出されていた櫂が、一斉に起こされた。 少なからぬ櫂が、折れ、焼け焦げていた。だが、傷付きながらも、全ての櫂を天に向けたガレー船団の姿は、紛れもない敬意を示していた。 国どころか世界が違っても、船乗りの流儀は同じか。 艇長は信号員長を呼ぶと、手空き総員を整列させた。潮風が、マストの艦旗をはためかせる。 「気ヲ付ケェ!!」 答礼喇叭が異界の海に高らかな音色を響かせた。 交易都市『ブンガ・マス・リマ』 アラム・マルノーヴ南部沿岸地方の経済・文化の中心地であり、中継地でもある。現在は『南瞑同盟会議』の本拠地として、会議本体が置かれていた。 マルノーヴ大陸の南岸に突き出たメンカル半島は、無数の島々が浮かぶ広大な多島海に面している。この半島の先から海に流れ込むマワーレド川の河口に、最初の集落が作られた。 すぐに誰かが、この集落の立地が周辺の市邑を繋ぐのに大変都合が良いことに気付いた。 目端の効く商人達は迷わなかった。大陸からの交易品はマワーレド川を用いて運ばれ、島々に送り出された。逆に、島々で産出する様々な品は、『ブンガ・マス・リマ』を一大集積地に、大陸各地へもたらされて行った。 街に交易品と情報が流れ込み、人が集まった。人が集まれば、物と金が動き情報が集まる。この地は、マルノーヴ大陸沿岸を東西に進む交易船が補給し、情報を得るのに絶好の場所となって行った。数百年繰り返すうちに、街は、河口域では収まらなくなった。 無数の中洲上に市域は広がって行った。商取引をもって栄えた街は、自然と商人が権力を握る様になって行った。歴史上数度に渡り、周辺に勃興した王朝の支配を受けたが、最終的にこの地を握ったのは常に商人であった。 そして現在、土砂の堆積を避ける為、河口から離れた地に大型交易船用の岸壁と港湾が整備され、広域都市・商業同盟『タジェル・ハラファ』の盟主となった『ブンガ・マス・リマ』は、人口凡そ二十万を抱える巨大都市に成長していた。 その商都はいま、大騒ぎの真っ最中である。 「帝國の飛龍十騎を瞬く間に叩き落とした異界の水軍が入港するらしい」 「はぁー? あんた与太話もいい加減にせんね」 「いや、まことらしいぞ。その船は隼の如き速さで海を走り、光の飛礫が十哩離れた敵を落とすとか」 「あほらし。そないな事、古代王国の魔導軍でも無理やわ」 通りのあちこちで、商談の途中で、洗い場で、市民達の口に噂がのぼった。訛りのキツい者が多いのは、既知世界の彼方此方から集っているからである。 彼等の肌の色・目の色が千差万別なのは当たり前で、耳が長かったり、ふさふさしていたり、犬歯が鋭かったり、尻尾が有ったりしていた。 だが、誰も気にしない。「目が三つだろうが、鱗が有ろうが『商い』が出来る相手なら細かい事はどうでも良いだろう?」 彼等は徹頭徹尾そんな感じであった。 「魔人でもなけりゃ、そんな芸当出来っこないぞ」 「魔人?」 「そう言えば、知り合いの漁師がすげぇ速さで走る船と島ほどあるどでかい船を見たって!」 「そいつは豪気だな。見てみてぇもんだ」 「儂の聞いた話じゃと、異界の船乗りは一つ目の大男で、目から怪光線を放つんじゃと」 「眩しくないんかのう?」 「聞いたか!? 昼にカサード提督の水軍と例の異界船が、ラーイド港に入るらしいぜ!」 「あたし見たい!」 「行くか、面白そうだし」 「行くべぇ行くべぇ」 交易都市の住民というものは、好奇心に溢れた人々である。 結局、老若男女人獣精妖がこぞって「帝國の飛龍百騎を一瞬で全滅させた巨人の操る軍船」を見物すべく、商都の表玄関であるラーイド港区に押し寄せる事となった。 たちまちのうちに石造りの岸壁は見物客で溢れ、それを当て込んだ物売りとスリと邏卒が入り乱れた。 あちこちで普段から仲の悪い商会の丁稚や、交易船の漕ぎ手の間で喧嘩が起きる。巻き添えを喰らったドワーフの放浪鍛冶が海に突き落とされた。怒り狂った同輩が、騒ぎに飛び込む。 その周囲では、すぐさまどちらが勝つかの賭が始まり、人混みに酔った森妖精が青い顔でひっくり返った。すかさず、彼女を介抱しようと、両手に余る数の男達が群がるが、彼等はたぎる下心と共に仲間の拳と魔法で纏めて吹き飛ばされた。笑い声が辺りに満ちていた。 気がつけば、祭の様な景色である。 その日のラーイド港区二番邏卒詰所邏卒長の日誌には、こう記されている。 『人々が集まり騒ぐこと甚だしく、非番を含め総員が此に当たる。この日、乱闘に及ぶ者百七十四名。落水者二十七名。摺りに遭う者、迷い子の数、数えきれず。 異界の舟は噂よりよほど小さく、さほどの異形に非ず。ただ一つ、突然舟が上げた咆哮に肝を潰すもの多数。運荷船二艘が転覆。明日、水軍に抗議の予定』 『されど、民衆の笑い集う様、久方振りの事なり。水軍の勝利をもたらしたこの舟を、人々は好意をもって迎えた事を此処に記す』 『2012年12月16日 不明飛行物体との戦闘終結後、目的地「ブンガ・マス・リマ」へ向かう。当初旗艦「ぶんご」を伴う予定であったが、現地住民の船舶多数が港内外に遊弋しているとの情報あり。 航行の安全を考慮し、本艇に政府代表を移乗後、第2ミサイル艇隊でラーイド港に入港する事とされた』 『ラーイド港にて、無数の人々の出迎えを受ける。港内の水面は、手漕ぎや帆走の小型船で埋まっていた。港の規模はかなりの物であった。機械の類は一切見えない。 近い風景といえば、東南アジアだろうか? だが、東南アジアにはエルフもドワーフも存在しない』 『岸壁にエルフと騎士と魔法使いらしい集団を見つけた。盗賊と神官とドワーフの戦士は探しても見つからなかった。何だか期待外れな表情をしている現地人が多かったので、艇長に汽笛を鳴らし歓迎に応える事を進言した』 『現実感の無い景色に、浮かれてしまった事を反省する。だが、信じられないがこれは自分に本当に起きた出来事らしい。何てこった』 『はやぶさ』航海長の日誌より。 「日本国政府を代表し、盛大な歓迎に感謝致します」 かつては商業同盟『タジェル・ハラファ』大商議堂として、現在は『南瞑同盟会議』の本拠として、その威容を衆目に示し続ける白亜の商館の中、その一室に人々は集っていた。 細密な紋様を丁寧に織り込んだ極彩色の絨毯の上には、巨大な円卓が鎮座している。その席の片側には、『南瞑同盟会議』に連なる諸勢力の重鎮が座り、もう一方には異界から来た使者が、腰を下ろしていた。 高価な調度品の置かれた部屋の天井は高く、採光窓からは柔らかな明かりが室内に注いでいる。部屋の空気は精霊の助けにより絶えず循環し、爽やかな温度に保たれていた。この事からも、この建物の主達が莫大な富を手中にしていることを窺わせた。 同盟会議重鎮の、一様に威厳と財力を競うかの様な、装飾品と衣装の鮮やかさに比べ、異界の使者は驚くほど地味な服に身を包んでいた。 僅かに装飾と言えるのは、首から下げた飾り布と、襟元に着けられた四角い青色のブローチのみである。些か肉の付きすぎた身体を分厚いクッションに預けたある都市の代表などは、あからさまに侮った表情を見せている。 だが、目端の利く者は使者の履く靴を一瞥し、僅かに眉尻を上げた。素知らぬ顔で、気を引き締める。そもそも、勇猛さで鳴らすカサード提督が手放しで褒める相手である。さらに、ロンゴ総主計からは彼の国の驚くべき報告が上げられている。 目の前の貧相にも思える男が、見かけ通りである筈もない。 「御礼を申し上げるべきは此方でしょう。我が水軍の危機、貴軍無しでは切り抜けられませんでした。百万の味方を得た思いです」 同盟会議側が、礼を述べた。〈ニホン〉の使者は頭を下げたが、表情一つ変えない。 「我々は攻撃を受けた為、必要最小限の自衛措置をとったに過ぎません。全てはこれからの交渉次第です」 「慎み深い事ですな」 〈ニホン〉執政府代表と名乗る男は、慎重に言葉を選びながら、次のような要求を示した。 『帝國』に関する情報の提供 『門』に関する情報の提供 周辺海域及び地形調査の許可 市内に出先機関の設置。郊外の土地の借り上げ 〈通詞の指輪〉購入を始め、『南瞑同盟会議』との商取引の許可 これに対し、『南瞑同盟会議』側は、 対『帝國』戦への参戦 魔導兵器の供与若しくは売却を求めた。〈ニホン〉側の要求に対しては、 出先機関の設置や土地の借り上げについては応じ、商取引についても指定する商会を通すことを条件に許可した。 周辺海域の調査については、水軍が彼等に大変な好意を示している事が大きく影響した。〈ニホン〉側は、ほぼ自由に調査活動を行うことを認めさせる事に成功した。 逆に『門』に関する情報の提供は、「リユセ樹冠国の秘儀に当たる」として、『同盟』は〈ニホン〉に参戦の確約を求めた。『帝國』の情報についても、小出しにする態度を示している。 〈ニホン〉側も、「参戦の判断は、『帝國』が我が国民を害したかどうかを慎重に確認しなければ不可能である」とし、魔導兵器については「兵器売却を禁ずる国法有り」として突っぱねた。 結局のところ、情報提供と参戦については次回以降の交渉に持ち越されることとなった。両者は一定の成果を得た事を確認した。 交渉において〈ニホン〉代表は『南瞑同盟会議』の諸国家代表に対して、頑なに「住民代表の皆さん」と呼び掛けた。些か不遜な響きである。〈ニホン〉側の慎重な姿勢の中に見えた、僅かな違和感である。 これに不快感を表する者は多く、一時会議は紛糾した。 それとなく訂正を求めるロンゴ・ロンゴに対し、〈ニホン〉代表は不思議な笑いを浮かべ、申し訳無さそうに言った。 「私は、まだ皆さんが求める表現を用いる事を許されておりません。どうか、ご容赦頂きたい。大変難しい問題なのです」 「理解出来かねますな」 「ところで、この周辺において無人の島の扱いはどの様になされているのでしょうか?」 何を言い出すのか、という表情でカサードが答えた。 「無人の島などそれこそ豆魚の数程在ろうよ。有益な島には人が住むが、それ以外は誰も知らぬ。漁師が風待ちに寄ることも有ろうが、魔獣のいる島も多くてな」 「では、無主の島々は数多存在すると?」 「応よ」 「それを聞き、安堵しました。遠からず良いお話が出来るかと、その様に期待しております」 〈ニホン〉執政府代表はそう言って、今度は本当の笑顔を見せた。 「いくぞ、1、2、3!」 「そりゃ!」 あちこちに錆が浮き、いささか古びた風情を見せる甲板上で乗員達が機械を操作する。ぎらつく陽光を受けながら、ブイが海面に投下された。 ブイは海面に落ちると、派手な音と水柱を立てた。すぐに灯標が点灯する。 海上保安庁の設標船『ほくと』は、急ピッチで航路の啓開を進めていた。付近では『明洋』が海底地形や海流、水深その他諸々の観測データを集め、精査し、海図の作成に取りかかっている。 二隻に寄り添う様に巡視船『てしお』が遊弋していた。 別の海域では『海洋』が、『おいらせ』を護衛に、ロランC局及び中波開設の適地を求めている筈であった。 GPSも海図も無い、浅瀬を示すブイも無い。天測も出来ない。そんな海で戦う事など不可能である。自殺行為だ。 至極真っ当な現場の意見を受け、日本国は先ずこの世界の有り様を調べ始めていた。 「左20度、ヘリコプター1機」 見張りの報告に船長が空を見上げる。汗が目尻に流れ、染みた。滲んだ視界の中で日の丸を付けた海自のヘリが、ローター音を響かせ飛び去っていった。 「どこもかしこも、フル稼働だなぁ」 あの機の他にも、聞くところによれば無人機が多数投入されているらしい。 陸地に関しては海自の掃海母艦を基地に、国土地理院の測量チームや陸上自衛隊中央地理隊が測量を始めている。沿岸部では掃海艇が走り回り、EOD(水中処分隊)が揚陸適地を探し回っていた。 異世界の理がどの様な物なのか、全く分かってはいない。それを解明するのは、本来学術研究者達である。 だが、ここは民間人が立ち入るには危険過ぎた。 日本にとっても異世界にとっても。 「ま、でかい仕事では有る、か」 船長は、まだ手付かずの大海原を眺め、一人呟いた。 騎兵斥候が街道沿いを南下する軍勢を発見してから、七日が過ぎていた。 触接を続ける斥候からの報告を受け、南瞑同盟会議の諸都市自警軍及び、傭兵団は集結を完了。兵権の一時委任の手続きを持って連合軍を編成し、根拠地を進発した。 その数、自警軍歩兵六千、騎兵千余に傭兵団二千を加えた計九千の大軍であった。 これに対し、帝國南方征討領軍は歩兵約三千、妖魔兵団二千の計五千余という兵力である。神出鬼没の戦い振りで同盟会議側を翻弄し続けた帝國軍は、ここに来て遂に捕捉されたのだった。 ほぼ二倍の兵力を揃えた同盟会議は、これを決戦により戦況を挽回する好機と見た。罠を怪しむ声は、兵站を脅かされ、ゆっくりと、だが確実に衰退する諸都市の、決戦を望む声にかき消された。 帝國軍の跳梁による商取引の停滞と、これに対抗する為に集結した兵備の維持費に諸都市は悲鳴を上げ始めていたのだった。 一応の手当として、斥候に多くの兵が割かれた。伏兵を十分警戒しつつ、連合軍は軍を北上させた。 両軍は『ブンガ・マス・リマ』より北方約100キロの平原で互いを捕捉、対峙した。 丘に定められた本陣からは、戦場が一望出来る。 両軍が南北に対峙する平原は、西をマワーレド川がゆるやかに流れ、東にはいくつかの森林が点在している。川と森に挟まれた平地部分に、両軍は陣を敷いていた。 南に布陣する南瞑同盟会議連合軍は、自警軍五千を五つの隊に編成し、横陣を組んだ。その右翼には騎兵を配置し、予備隊として傭兵団を後方に置いた。 兵力に勝る側ならではの、手堅い備えである。当然、右翼に点在する森林は斥候により確認し「軍が統制を維持しつつ踏破するのは不可能」という報告を受けている。 隊列を組まない兵がどれほど伏せていたとしても、予備隊で容易く粉砕出来る。この世界の野戦において、陣形とはそれ程の意味を持っている。 一方、帝國軍も同様に横陣を構えていた。予備隊は妖魔兵団と見積もられた。騎兵は見えなかった。 両軍を一望し、南瞑同盟会議連合軍指揮官は、勝利を確信した。 戦場はほぼ平坦。兵力差は二倍。日没までは半日あり、天気は晴れ。敵に騎兵は無く互いに横陣を組んで対峙している。 平押しに攻めても、右翼から騎兵を旋回させても、勝てる。彼は己の信ずる神に感謝の祈りを捧げた。勝利は自分の人生に、栄光をもたらすだろう。富と名声という形で。 戦闘は、両軍前衛部隊の弓射を皮切りに、開始された。互いに矢を射掛け合う。射撃戦は当然の如く連合軍が優位に立った。 帝國軍の弓射は弱く、専門兵では無い事を示している。直ぐに、帝國軍の戦列が乱れ始めた。 鐘が鳴らされる。 射撃に耐えかねた帝國軍が、前進を開始したのだった。どこか投げやりな喚声が周囲に木霊する。地響きと共に、数千の兵が押し寄せるのを、連合軍は眼前に捉えた。 「何だ、あ奴ら?」 「まさか、カルブ自治市の旗か?」 「ソーバーン族の戦士もいるぞ!」 各戦列を指揮する中下級指揮官達は、すぐにそれに気付いた。 調整のとれていない様子で前進する敵勢が、少し前まで取引相手として、近隣の住民として、付き合ってきた者達である事に。 降り注ぐ矢に討ち減らされながら前進する帝國軍の軍装は、貧弱な上に不揃いであった。普段着に革や綿入れ程度の鎧を着込み、木製の盾を構える者が居ると思えば、カラフルな民族衣装のみの者もいる。 武器は手入れの悪い短槍や片手剣なら良い方で、農具を手にした者も少なくない。 帝國軍は、兵士では無い男達で作り上げられていたのだった。 「降伏した諸都市や市邑の民か。哀れな……」 一個隊を指揮する将が、顔をしかめた。だが、その口調とは裏腹に右手を掲げる。武将としての彼の思考は、勝利を確信し冷酷とも言える命令を下していた。 「横隊前へ! 蹴散らせ!」 進軍の角笛が鳴らされると、帝國軍とは対照的に、戦列を維持した連合軍が前進を開始した。各隊は兵制も装備も異なる。しかし、訓練を受けた兵士達であった。 両者は激突した。 連合軍の穂先を揃えた槍が突き込まれ、鍬や鎌を振り上げた男達が、バタバタと倒れた。悲鳴があがる。血飛沫が、隣りで戦う兵の顔に飛び散る。 がむしゃらに振り下ろされる帝國軍の攻撃は、盾の壁に容易く跳ね返された。 「押せやぁ!」 騎士や兵長の胴間声が響く。勢いを増した連合軍兵の人波が、降兵からなる帝國軍歩兵に襲いかかった。 「市民兵諸君! 逃げよ! 敵は帝國ぞ!」 連合軍指揮官の中には、寝返りを促す者もいた。 だが── 「何故、崩れぬ?」 帝國軍は、持ち堪えた。甚大な被害を出しながらも崩れない。泣きながら棍棒を振り回す若者がいる。喚きながら連合軍兵士に飛びかかる農民がいる。 明らかに異常な戦意であった。 一人の百人長が、気付いた。 「敵勢の後方に在るのは──まさか!?」 カルブ自治市兵の後方には、中継都市ケルドの旗印。ソーバーン族の後には、ドフダー族が見える。何れも水源争いや、通行税問題等で仲の悪い勢力である。 「督戦させているのか!」 前衛で血みどろになる部隊の後方には、必ず彼等と対立する勢力の軍勢がいた。しかも、督戦隊の役を担うのは普段劣勢に立っていた勢力ばかりである。 斧で横凪に襲いかかる敵をかわし、たたらを踏んだ首筋に、剣を振り下ろす。百人長は、元は樵であろう敵兵が叫んだ言葉に、愕然とした。「ここで勝たにゃ、家族が!」樵はそう言って死んだ。 対立する二つの勢力の扱いに差を付け、人質をとって戦わせる。人でなし共め。しかし所詮は浅知恵よ。いずれ、崩れるのは間違い無い。 この時点において、百人長は勝利を疑っていなかった。 帝國軍の戦意は異常な程高く、素人兵の集団に過ぎない彼等は、次々に倒れながらも連合軍の攻撃を良く受け止めた。 右翼側で新たな喚声が上がったその時、連合軍指揮官は思わず地面を蹴っていた。 帝國軍後方に控えていた妖魔兵団が右翼側に旋回し、連合軍側面を突いたのだった。味方の戦列が敵に拘束された事による隙を、帝國軍は見逃さなかった。 突撃衝力の高いオークや俊敏なコボルトが、連合軍右翼を食い破り始めている。放置すれば、半包囲を受けてしまう。 指揮官は即座に決断した。 「傭兵団を出せ。妖魔共の側背を突け!」 命令を伝える伝令が、傭兵団に分け入る。すぐさま数十から数百名規模の傭兵達が、報酬を得るべく各々突撃に移っていった。 地鳴りが大地を震わせる。迎え撃つ妖魔兵団と傭兵団が接触した瞬間、遠目にも鮮やかな血飛沫と、断ち切られた手足や頸が宙を舞った。 戦は再度膠着した。だが、兵数で劣る敵に打開策は無い。このまま行けば、勝てるだろう。連合軍指揮官は、冷静さを取り戻し、その時を待った。 四半刻の後、崩れたのはゴブリン共の集団であった。連合軍右翼に押しまくられた妖魔兵は、一隊が逃げ腰になると支えきれなくなった。 ここで、決する。 指揮官は切り札を投入した。 虎の子の騎兵約八百騎が、一丸となって右翼に出来た間隙に突入を開始する。各都市からかき集められた彼等は、一撃で全てを破砕し得る打撃力である。 泥を跳ね上げ土煙を引いて、騎兵が駆ける。南瞑同盟会議の騎兵は、機動力重視のいわゆる軽騎兵であったが、その威力は主に心理面で発揮された。 「よし、乗り入れるぞ! 馬蹄の錆びにしてくれる!」 目を血走らせた八百の騎馬が突撃する様に、意志の薄弱な妖魔兵はあっという間に戦列を乱した。 悲鳴を上げて逃げ惑うコボルトに、騎兵が槍を突き、馬蹄にかける。騎兵部隊に接触した部分から、帝國軍は溶ける様に崩れ始めた。 「勝ったな」 「御味方の勝利です。しかし、後味は悪いですな」 「うむ。傷ついたは我等の同朋ばかりよ。帝國め──」 連合軍指揮官と軍監が勝利を確信したその時、味方騎兵の側面に新たな敵が現れた。それは、森に隠れていた敵の様であった。指揮官は鼻で笑った。 伏兵か。だが散兵が少々あったとて、何ほどのものか。 間もなく、騎兵と敵の伏兵が接触した。 それは、突然の出来事だった。 妖魔兵を蹴散らせつつ進撃する騎兵隊長の耳に、魂を凍らせる様な雄叫びが聞こえた。獰猛な捕食者のみが為し得る咆哮。 少なからぬ騎馬が棒立ちになり、幾人かの騎兵が振り落とされた。騎兵隊長も、苦労して愛馬を落ち着かせる羽目になった。 「何事だ!?」 その問いに、部下が答えた。 「右の森林より伏兵! 散兵百余!」 右翼で、悲鳴と剣戟の音。そして、絶えぬ咆哮。何かがいる。 放置すれば、危うい。即断した騎兵隊長は配下に命じた。 「我に続け! 伏兵を蹴散らし、再度敵の後方に回り込む!」 だが、それは果たせなかった。 悲鳴が大きくなる。気がつけば彼のすぐそばまで、戦闘が近付いていた。何者だ? 騎兵隊長は、短槍を脇に構え馬首を巡らせた。 配下の悲鳴と共に、配下の乗る頑強な軍用馬の首が消し飛んだ。乗り手が巨大な影に飛びかかられ、地面に落ちる。 「信じられん……」 呆然と呟く騎兵隊長の前には、巨大なヘルハウンドの姿があった。鋭い牙に騎兵だった物の一部を貼り付かせ、うなり声を上げている。 ヘルハウンドの群れは、次々と騎兵を屠る。よく見れば、魔獣達の間に帝國兵の姿が見えた。ヘルハウンドは、兵の指図を受け、騎兵を襲っている。 別の隊では巨大な獅子が荒れ狂っていた。騎兵隊の背後にはいつの間にか剣牙虎の群れが回り込んでいる。側背を突かれた騎兵隊は、細切れに切り刻まれつつあった。 諦めず離脱し再編成を図った騎兵隊長であったが、指揮官の存在に目ざとく気付いた敵兵が使役する剣牙虎により、愛馬諸共肉片と化した。 「騎兵が!」 眼下で、優位であった味方が敗走を始めていた。騎兵が敗れると、背後に敵を抱えた傭兵団もまた、敗走した。 敵横陣の突破にてこずっていた味方の歩兵部隊は、包囲されマワーレド川に追い詰められた。落水し、溺れる者が続出している。 「莫迦な……」 「指揮官殿、どうされますか!?」 「こんな事が……莫迦な!」 連合軍指揮官は完全に我を失っていた。それは、上空に現れた有翼蛇の編隊が放った火球によって、彼の身体が松明の様に燃え上がるまで、続いた。 南瞑同盟会議野戦軍は敗北した。 周囲に帝國軍に対抗可能な兵力は存在しない。再編成までの間、帝國軍を阻むものは無い。 帝國南方征討領軍が、交易都市ブンガ・マス・リマに迫るのは時間の問題であった。 青森県むつ市 大湊湾 2012年 12月25日 01時21分 政府の避難勧告に従い、住民が避難したむつ市の街並みは、闇の中に沈んでいた。人気の絶えた街では、信号機の灯りが黄色く点滅している。 一方で、海上自衛隊大湊地方総監部や大湊漁港の敷地では、深夜にも拘わらず多くの人々が動き回っていた。 彼等は『門』の警戒に当たる警察官、自衛官を始め、凡そありとあらゆる省庁・機関から派遣された官僚、学者、技術者達であった。 敷地にはエアーテントと天幕、応急のプレハブが立ち並び、昼夜を問わず車両が出入りする。電源車が唸りを上げる横で、クレーン車が資材を輸送艦に搭載している。小銃を構えた警備が辺りを睨む中、書類を抱えた研究員が右往左往し、ケーブルに躓く。 基地内は、活気と混乱に満ちていた。長距離偵察用無人機から大豆粉栄養食品に至るまで、山積みの物資で埋まっている。 敗戦から70年。戦火の絶えて久しいこの国に出現した、紛れもない前線基地の姿であった。 冬の陰鬱な曇り空は月明かりを完全に遮り、大湊湾に闇をもたらしている。煌々と灯りの点る陸上施設に対し、湾内は空と海の境すら見通せない。強い北風に煽られた白波が、辛うじてそこが海である事を証明していた。 そんな中、この夜で最も過酷な任務に就いている者は海上にあった。彼等は湾内に突如出現した『門』から祖国を護るべく、そして、『門』に近付こうとする全てを阻むべく、警戒監視を行っていた。 彼等──海上保安官と海上自衛官の乗る巡視艇や警戒艇は、快速と機動性を重視し小型である為、酷く揺れている。 陸自の沿岸監視隊が運用するレーダーは、波の影響で余計なエコーを拾ってしまっていた。操作員があらゆる手を尽くすが、完全には解消出来ない。 それを補う為に、彼等は身を切る冷気と船酔いに耐えながら、闇夜に目を凝らし続けていた。 投光器の光が海面を舐める。 常に形を変える白波の中に、異物があった。それは、僅か数秒間海面にあったが、投光器の光に捉えられる前に、海中に没した。 「視界内、巡視艇が二隻だ。『門』も確認した」 「ソーナーからの情報と一致しています」 「上の連中は、真面目に仕事をしているようだな」 「気の毒な事です」 潜望鏡のアイピースから顔を離した艦長は、非常灯の赤い光の下で、静かに笑ってみせた。 「両舷前進最微速。針路000度」 「宜候」 艦は水面下を、静かに進んでいた。 「この辺りの水深を考えると、浮上航行で行きたいところです」副長が言った。 「そうもいかん。海保はもちろん、大湊警備隊にも見つかるわけにはいかんからな。連中、レーダーに加えて暗視装置も使っているはずだ」 艦長が、キャップを被り直しながら言った。狭い発令所は、大きく左右に揺れている。海面ぎりぎりの現深度では、潜水艦も波の影響を大きく受ける。船酔いという訳では無いが、艦長は見かけほど楽な気分では無かった。 油断すれば、海面に飛び出すか、海底に腹を擦るか、はたまた警戒艇に衝突するか。艦長には細心の操艦が求められていた。 「どうせこの波では、暗視装置など五分と覗けやしませんよ。隠密行動は潜水艦の宿命とはいえ……」 「まあ、そう言うな副長。何しろ封緘命令だ。何をさせられるのか俺も知らん。まぁ、積荷とお客さんを見れば、ある程度予想はつくがな。とにかく、こっそりと向こうに渡らなきゃならん」 「やれやれです。……『門』通過10分前、針路上クリア」 副長は溜め息をつき、気持ちを切り替えた。艦長は、額に滲む汗を拭うと明るい声で言った。 「剣と魔法の異世界で極秘の任務。どうにもワクワクするじゃないか。なあ副長、折角だから楽しもう」 「私は艦長ほど気楽に生きられません。貴方が羨ましいですよ」 「この境地が分かるようになれば、一国一城の主まであと一息だぞ」 十分後、艦は『門』を潜り異界へと消えた。『門』が微かな光を揺らめかせたが、それに気付いた者はいなかった。
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ゴーラ演義 スヴェルスガルド将軍渡海の巻 (8) 「ばかっ!」 その『声』は、驚くほど鮮明に、すぐ目の前で叫ばれたように聞こえる。 『シャルロッテ!何してるんだ!』 それは丘のルキアニスの小隊だけでなく、頭上に浮かぶ何柱ものクルル=カリルだけでなく、波を蹴って宙に舞う、双剣の姿にも、聞こえていたらしい。肩にまとう赤の旗をなびかせて、その姿は、宙で、びくりと動いた。 それでも双剣を振るう。舞い降りながら、間近の敵へ、スヴェルスガルド将軍の機へ向かって。将軍の機も、応じて長柄を振り上げる。 きん!と双剣のひと振りと、長柄とが討ちあう。その刹那こそ、もう一振りが、将軍の機の首を斬り飛ばす、はずだった。 しかしそれは、浅く兜の額を削ったのみだ。 仕留めそこなった、双剣の機は、将軍の頭上でとんぼをきって、その背後に舞い降りる。ざあ、と波が大きく広がる。飛沫と泡が白くまき散らされる。 『こいつが将でしょ!』 先とは違う声が響く。双剣の姿が身を起こす。 『倒せば、この軍勢は立ち行かない。それで終わる、でしょ!』 そして波を蹴って駆けた。まっすぐに将軍へと突っ込む。しかし、その左右からゴーラの機が飛び出してくる。双剣がきらめいて弧を描く。そのまま斬り飛ばされることも、ゴーラの乗り手もわかっていたはずだ。その背後から、将軍の機が得物振りかざし飛び出してくることも。 剣と長柄が激しく打ち合う。剣と剣とが激しく打ち合う。右から、左から、正中を狙った突きが。脚を斬らんと波を切り裂き、蹴り上げたつま先がそのまま敵を蹴りつけようとする。将軍の機がその頭を反らし、背を反らして退く。退きながらも長柄を振るう。 『違う!』 そう『言った』クルル=カリルは、浜のすぐ後ろの林の上に、立つように浮かんでいる。それを見逃すゴーラ兵らではない。直ぐに周囲から、剣が、盾が投じられる。濃い緑の葉が飛び散る。クルル=カリルは身をひるがえす。木々を、松のとがった葉の上を、踏みさえせずに、しかし剣の舞を踊るように。身を傾け、そのまま林の中に踊り込む。身を傾けたまま、振るう剣が、ゴーラの機の頭を斬り飛ばす。 『早く退け!邪魔をするな!』 『邪魔って何さ!』 打ち合い、スヴェルスガルド将軍の機は、波を後ろ足で押し割る。僅かに開いた間合いに、双剣の機が踏み込もうとしたとき、横合いから再びゴーラの機が割り込む。右から、左から。盾を掲げての体当たりに、さしもの双剣の機神も、身を揺るがせる。盾を蹴りつけ、退く。退きながら、飛沫を蹴立てて、回し蹴りを放つ。一機は波間に突っ込んで倒れる。しかしもう一機は、踏み込んでくる。これを豪勇と言わずに何というべきか。己のその背後で、スヴェルスガルド将軍が、長柄を構えなおす、その刹那を得るために。双剣の機は、その剣を振るう。低く、ゴーラの機の膝を斬り飛ばす。大きく倒れるその機の背後から、スヴェルスガルド将軍が、長柄の突きを放つ。 双剣の機は、そのひと振りで切っ先をはじきながら、けれども身を揺るがせる。見逃さず、将軍は二の手の剣で突きを放つ。ここぞとばかりに、将軍の機は討ちかかる。 『退けって言ってるだろ!シャルロッテ!』 再びの声がクルル=カリルから響く。双剣の機が応じる。 『そんなのおかしい!』 応じながら、将軍の機の長柄を、受け止める。交差させた双剣と長柄とが押し合う。 力ならば、双剣の機が勝っている。じりじりと押し返す。そう、あの双剣の機は機神なのだから。現世で作られた機装甲とはそもそも違うものなのだ。古代魔導帝國で作られ、神龍と戦い、その帝國が崩れ去ったあとにも、滅びることはなく、永い永い刻を受け継がれてきたものだ。あの機もそうだ。あの機を巡って、幾度も争いがあったという。帝國内戦でも、それが起きたという。あの機神が、帝國を出て、オスミナに渡ったのは、その争いの最後のものなのだろうか。ルキアニスにはわかるはずもない。ただそれは、シャルロッテが選んだのだ。そうしなければ、生きてゆけないから、と。彼女が、そう、言った。 行った。 なにかがルキアニスのむねをうつ。 『こいつを倒せば、いくさは終わる!そうでしょう!』 シャルロッテの声が響く。 『なぜ、倒さないのっ!』 『帝國の国策だ。オスミナがかかわるべきことではない』 新たな声が、天より降ってくる。 『下がれ。フェルナー伯。下がらなければ、力づくでもそれを行う』 青空に浮かぶその姿、クルル=カリルとは違う。背に鳥を思わせる飾りを負い、長い馬上鑓と盾とを持つ姿。鑓の機神と皆は呼ぶ。機神らしい、長たらしい名など、ルキアニスは知らない。そんなもの、聞いてない。その鑓の機神が、長鑓の穂先を、下へと向ける。 『下がれ、フェルナー伯』 それはもう一度言う。すでに双剣の機神を囲んで、ゴーラの機がひしめいている。剣と盾を持つもの、長柄を持つもの。それらを指図するもの。将軍から、双剣の機神がわずかに離れた刹那、どっと押し寄せる。双剣の機神は身をひるがえして振り返る。肩よりかけた赤い旗印もひらめく。剣光が弧を描いて、ゴーラの機が崩折れる。突き出される剣を籠手ごと切り落とし、推してかかる盾には、双剣をもって自ら体当たりで押し退ける。敵に斬り込み、剣を振るって次々と屠る。飛沫を上げて、ゴーラの機が倒れてゆく。その向こうから、長柄が叩きつける。双剣のひと振りに、がっきと受け止められる刃は、帝國の大斧などとは違う。鑓とも違う。ゴーラの他ではあまり見ない、幅広の重い刃だ。それを大きく振るって、再び叩きつけてくる。双剣の機神は、剣を振るい、あるいは交差させて受け止める。押しかける敵を倒すほどに、それはあたりの波間に倒れ、その動きを阻むのだ。 そして背後へも、長柄の機が回り込む。刃を振るって叩きつける。がっき、と音を響かせ、双剣の機神はそれを受け止める。動きが止まった。先の一機が再び横薙ぎに長柄を振るってくる。剣のひと振りで横合いからのその刃を、双剣の機神は受け止める。しかし三の手の機が、波蹴って長柄を振るう。いや、それは一機のみではない。さらに二機が、乗じて長柄を振るってくる。受け止めるべき剣は、もう双剣の機神にはない。 朝日に輝く幅広の刃が、三方から叩きつける。 『!』 鉄討つ激しい音が響く。 五機もが振るった長柄の刃が、一つ所に絞るように噛み合っていた。しかし、そこにはすでに双剣の機神の姿はない。あるのは影のみ。 そう、双剣の機神は跳んでいた。ゴーラの機どもが見上げる頭上に。そして機神は、刃噛み合わせ、外れることもない、長柄の上にふわりと舞い降りる。 その魔導の双眸が光る。ふたたびスヴェルスガルド将軍の機を見る。 身をたわめる。長柄を蹴って、再び跳んだ、かに見えた。 そうはならなかった。 不意に、長柄持つ機の一つが、頭より打ち砕かれたからだ。鉄片まき散らしてそのまま崩折れ、噛み合っていた長柄の刃もばらばらにひきはがされる。双剣の機神も飛沫を上げて波間に膝を着く。 そのまま顔を上げる。頭上、高く、朝の空へ。 そこにはクルル=カリルたちと、鑓の機神が浮かんでいる。その鑓先が、双剣の機神を指しているように見える。それは、魔力を放った。それがどんなものかルキアニスも知っていた。かつてマグヌス将軍が放って見せた、無限の刃の術に似ている。違うのは、ただ一発を、鑓の穂先であるかのように放ったことだ。二度目の術は、ゴーラの機をはずした。躱されたのですらない。当てなかったのだ。代わりに、双剣の機神の前に、高々と水柱が立ち上がる。クルル=カリルだけではない、あの鑓の機神と乗り手ですら、そうすることができるのだ。 双剣の機神は、それでも身構える。何をしようとしているのか、ルキアニスには手に取るようにわかる。間合いをはかっている。スヴェルスガルド将軍の元へ、ひと跳びで飛び込めるように。だが、まっすぐ飛ぶことはできない。 けれど、それに対した意味はない。スヴェルスガルド将軍に切っ先が届くことは無い。 だとしても、シャルロッテはあきらめないだろう。決して。 だから、ルキアニスは、矢筒より、矢を引き抜いた。弓も携えている。 『小隊長?』 むつかしい術を成す。だから、そんな言葉など聞いていられない。矢そのものに的を目指させる。それだけではない。矢をもって、力放たせなければならない。矢をして観さしめ、矢をして自ら飛ばさしめ、矢をして力を放たさせしめる。 そのために立ち上がる。朝風を感じる。地を踏み、矢を番え、引き起こす。満ちて放てば、必ず、中ると、教えられてきた。ルキアニスもそう、信じている。 その鏃を、高くへ向ける。青空の中、横薙ぎの朝日の中に浮かぶ、機神たちの一柱へ向けて。
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ゴーラ演義 スヴェルスガルド将軍渡海の巻 (7) クルル=カリルが相互いに魔術の語らいを行っているのは、ルキアニスたちも知っていた。黒の二改にも、それが叶うようにはなっている。そうでなければ、クルル=カリルと通じえない。しかしのその術話の通話能は、クルル=カリルと黒の二改とでは比べ物にならないとも聞いていた。クルル=カリルは見たままのものを、その絵姿のようなものを、互いに相通づることすらできるのだ、とも。それは、乗り手の心模様さえ相通じる、とも。 それは、ルキアニスたちが遠く望み観ているだけでも、クルル=カリルの動きに現れていたのだけれど。 浜に降り立った三柱のクルル=カリルは、胎内のその乗り手が誰であるのか、その仕草だけで見て取れる。左側の一柱はモリフォリウスのものだ。鞘のままの刀を手に立つ。敵中に小隊三柱のみ。臆することなく、しかし気負いを捨てるにはまだいたらず、そのこうべは囲みをはからんとめぐり動く敵の姿を追い、その砲射翼はその頭以上に、ぴくり、ぴくりと開き、ゆっくりと閉じかけながら再び開く。あの翼があるゆえに飛ぶわけではないが、あの翼あるがゆえに他には無い力を放つ。あのように乗り手に応じて鋭敏に動くけれど、使いこなすに至る乗り手はまだほとんどいない、ともいう。 ゆえにモリフォリウスの機は刀を携えており、それは抜刀に備えるまだ一歩前のかたちで、ただ左手に下げられているだけだ。構えの形は、未だ成していない。敵はまだ望む形に至っていないからだ。 敵は、ゴーラ軍は、船を壊してでも機装甲を降ろし、浜へと押し立てようとしていた背後から押し寄せる並に、脚を、腰を、洗わせながらも踏み出してゆき、飛沫を蹴って砂浜へと押しあがってゆく。長柄のもの、ゴーラの直剣と盾を持つもの、入り混じったままだ。しかし烏合の衆ではない。獲物は違えども、そして歩きながらでも、近くある機と集まる。そうして臨機再編を自ら行いながら、浜を占め、その背後を通って林へ踏み込み、さらにその背後を通ってラグナルの地を踏む。そうして大きな囲みを敷こうとしている。機神とはいえ三柱のクルル=カリルは、あの大軍勢を前にしては、本来、あまりにも少ないものであるから。海にも、クルル=カリルと相対するように、機装甲が集まってもいる。帥、ゴーラではそう呼ぶ軍勢だ。 船を壊し、最初に姿を現した将機、たぶんスヴェルスガルド将軍の機だ。その姿を観てとることもできる。足元を、腰を、押し寄せる波に洗わせ、当たる船の破片など、物ともしない。右手には長柄の得物を立て、左手には抜き身の直剣を下げている。朝風がその兜の房印を激しくはためかせる。不動のその姿から、乗り手の心模様は読み取れない。しかし不動それが故に、内に秘めた憤怒の重さは観てとれる。 そしてその将軍の機のもとへと次々と機装甲が参じて来る。旗印を持つもの。長柄を持つもの、剣と盾を持つもの。盾を持つ者らがまず将軍の左右に集まり、そして盾を構えて将軍の前に着く。つづいて長柄の得物持つ機らが、戦列を成してゆく。ゴーラ軍、その練度は高い。戦列成せと命じられれば、両隣が見知ったものでなくとも戦列を成し、戦えるのだろう。それは剣盾の兵らも同じであるらしい。もちろん帝國軍で言えば小隊長中隊長格の機もよくわかる。彼らは剣を振るって戦列を整えている。 クルル=カリルはまだ動かない。三柱のうち右側、剣と盾を持つのはアルファルデスのもの。その姿は本物の落ち着きとともにある。アルファルデスは待っている。観えている。敵の練度は高く、いたずらに斬り込んでくることなどない、ということが。此方が相応の軍勢ならば、彼方の陣立てが整う前に当たられぬように、前衛を小出しに当ててくる。しかし今の此方は機神とはいえたったの三柱。小出しなどむしろ害になる、と考える。 これまでの機神しか、知らぬものならば。 アルファルデスは待っている。その心の内は、砲射翼にも表れている。開くときではないと知っていてもなお、閉じきってはいない。胎内の者の呼気にあわせてわずかにゆっくりと動いている。 その心を隠しもしないのが、無名のクルル=カリルだった。三柱の中央、まっすぐ波の向こうのスヴェルスガルド将軍らを見ている。ただ無造作に、両の足を肩幅ほどに開いて、砂浜を踏んで立つ姿は、常の無名の姿そのままだ。待ちきれない、という風にも見える。無名は、目に見えて大きな得物など持たない。常と変わらぬ、それは短刀に過ぎない。しかし無名の手にあれば、それはどんな長柄の間合いの向こうからでも届く。無名その人が短刀の刃ごと飛び込んでくるだけだ。無名がクルル=カリルの砲射能にどれほど頼るのかはルキアニスも知らない。それでも無名の砲射翼は、半ばほどまで開いて、今にも術射の形をとりそうだ。 しかしその砲射翼もゆっくりと、閉じゆこうとしている。見ていてもわかる。無名は、やる気なのだ。敵が陣立てを整えた後で構わないとわかっていても、だ。 アルファルデスの機がわずかに動く。無名の機を見る。無名が何かを「言った」のがわかった。クルル=カリルの間でだけ通じる、魔術の言葉でだ。 そして、飛んだ。 無名のクルル=カリルだけが、地を蹴って、地を蹴った以上の力で宙へと舞い上がる。だが飛翔してどこかへ飛んで行く気など、まるでないのはすぐにわかる。身をひるがえし、浜沿いの右手へと跳ぶ。そこにはゴーラの機たちがある。長柄の機の厚みある戦列だ。抑えの要。浜沿いに駆けて逃さないための配置だ。戦列の機が一斉に長柄を構える。ゴーラの戦列は帝國のものとは違う。長鑓ではなく、ずっと短いが、その刃は斬撃にも打撃にも向いた大きなものだ。 その目前に、無名の機は舞い降りる。 一拍の間合いも置かなかった。跳んだ。ふたたび、長柄の刃の上を飛び越える。誰もが、それを見上げ見送ってしまう。誰も、飛ぶことを見ていても、あのように動くとは思っていない。 くるくると身をひるがえしながら、無名の機は戦列の背後へ舞い降りる。宙で身をひるがえしたその動きのままで、短刀が朝日をはじいてきらめく。それだけですでに数機が倒れていた。舞い上がる砂塵に構わず、無名は突っ込む。右から、左から、下段から舞うように体ごと振るう短刀の軌跡が行き過ぎたあとに、機装甲が倒れる。僚機が倒れて開いた間合いに、長柄を振るって叩きつけにかかるのは、さすがはゴーラの兵。だが、それは空を斬る。無名は軽く跳んで、ひらりとその軌跡を、上へと躱す。そのまま蹴った。身をひるがえす動きのまま、その首を刈り取るように。無名の機は舞う。蹴りに振るった脚は、一度に留まらない。蹴り飛ばす敵も一機に限らない。そのつま先が、その踵が、振るわれるたびに、機装甲が倒れる。 横合いから、長柄が飛んだ。投じられたそれをも、無名は蹴り飛ばす。地に舞い降りることもしない。無名が次に蹴ったのは宙の気そのもの。無名は宙を飛びぬける。ひと時もとどまらず、抑えることなどできない。それは無名そのものだ。そして相対したものは、必ず倒す。長柄を投げつけた者も、逃れえない。 地面を蹴ることもない。飛んでいるのか、跳ねているのか、見る者にはわからない。あれならば、いつまででも戦える。ここまで飛び来て、戻るときも飛ぶだろう。魔力がある限りは。飛びつづけられるならば。クルル=カリルの乗り手が案ずるべきは、ただ魔力のみ。 アルファルデスとモリフォリウスの機も跳んでいた。二手に分かれるなどと考えてもいなかっただろう。無名が右手に跳んだから、アルファルデスは左手へ飛んだだけだ。ただ無名と違うのは、モリフォリウスを引き連れている。今はもう抜刀して、その刃を振るう。 ゴーラの長柄を見切って、半身からの突きを放つ。兜を貫かれ吹っ飛ぶ敵をモリフォリウスは見もしない。そのまま身をひるがえし、次の敵を討つ。だがモリフォリウスより、アルファルデスの動きが早い。留まって戦いなどしない。その姿を追うように、モリフォリウスも宙を滑るように追う。さらにゴーラの機が追いすがる。突き出される長柄を、モリフォリウスは弾いて斬り飛ばす。己とアルファルデスの背後を守るように。 アルファルデスは進むばかりだ。立ちふさがるものをすべて斬るようなこともしない。炎を放つ。機に向かって、だけではない。敵の機装甲と、その背後に引き上げられたばかりの荷や兵に向けて、炎の波を浴びせつける。そして盾と剣とで押し抜ける。浜より、まだ岸に上がっていない敵らに向けて、アルファルデスはふたたび炎を放つ。波より上のものを薙ぎ払って、沖まで炎の舌が伸びる。あらゆるものが焼かれ、火と煙とを噴き上げる。 その向こうから、白煙がほとばしる。生きている船の砲だ。煙を貫いて、砲弾が飛び来る。アルファルデスは、わずかに、そして滑るように動いただけだ。そして砲弾は、砂浜にはねて砂塵を巻き上げる。背後の林にもはねた砲弾が飛び込む。それを追うように、アルファルデスの機も跳ぶ。さらに追いかけて、再び砲撃が放たれる。いまだ岸にある機装甲も、すでに林にあるものも、構わずに打ち砕いてゆく。 刃を振るって、モリフォリウスの機も飛び込む。応じて二機、三機とゴーラの機もかかってくる。盾持つ一機には、不意に身を沈めて、低く滑るように詰め寄る。立ての影、下段からの伸びるような突きで仕留める。倒れる姿のすぐ背後から、二機目が斬りかかる。僅かに遅れたモリフォリウスの剣と打ち合う。一合、二合と打ち合う姿で、すぐにはっきりとわかる。速さも力も段違いだ。応じきることもできない敵を、まっすぐの突きで仕留める。三機目は背後から。モリフォリウスにとっては遅すぎる。真正面からの斬り合いは、モリフォリウスが早い。真っ向から、敵の首元に刃が食い込む。さらに切り伏せる。囲みの機影がさらに増える。臆することなく、モリフォリウスは下段に構える。 敵の姿を見渡し、ふと、その動きが止まる。 それは、今のような時に似合わぬ逡巡だった。己のまなこで見たものが、信じられぬという風だ。クルル=カリルの魔道の双眸に瞼があったら、ぱちぱちと瞬いたことだろう。 それから、クルル=カリルはふわりと舞い上がる。敵の中であまりにも不用意に。林の梢を突っ切って、その上にふわりと浮かび上がる。 クルル=カリルは海の方を見ている。 スヴェルスガルド将軍の近くにあった軍勢は、すでに波打ち際から岸へと上がろうとしていた。しかし将軍の機はいまだ動かない。周囲にはまだ機が集まろうとしているからだ。 モリフォリウスが見ているのはさらにその背後、打ち壊され、漂う船、先にクラウディアらに焼かれた船、一足先に退いたがゆえに無傷の櫂船、さらにその背後。 波蹴立てて、進み来る姿があった。波の下を行く、何かに乗っている。それはわかる。それは櫂船の間を抜けて、まっすぐに岸へと向かってくる。 その姿は、人の五倍ほどもある鉄のつわもの。肩より赤い布がひらめく。旗印をまとっている。赤地に金の獅子と、それが構える剣のひと振り、それが踏みつける剣のひと振りは銀でかたどられている。それはゴーラの一国の旗印。けれどその姿はゴーラの一国として馳せ参じるわけではない。その機がまとう旗印は、オスミナのもの。 その機は、波を蹴立てる何かを踏みつけ、乗ったまま、両の腰より剣を引き抜いた。 優美に弧を描く二振りの剣。それを携えた機は、波を蹴って、大きく跳んだ。 スヴェルスガルド将軍の機へと向かって。
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ゴーラ演義 スヴェルスガルド将軍渡海の巻 (6) (2) クルル=カリルが光を放つ。 砲射翼を開き、青い魔力の光が広がり、それを貫き吹き払うように、魔力の光弾が打ち出される。気が震える。飛び去ったあとの海原に筋引いて波が広がる。 それは揺れ並ぶ帆柱の間をすり抜けて、まだ降ろされていない帆をはためかせ、索を震わせ、躍らせて飛びぬける。浮かぶ船らのなかの、たった一隻だけに、狙いすましたように吸い込まれる。光の環が広がり、木っ端が飛び散り、引きはがされた帆が舞い上がる。燃え上がる。炎が吹き上がる。まるで貝のように二つに割れて、帆柱はいともたやすく外れて落ちて、波しぶきを上げる。積まれていた荷が転げ落ちる。動かない機装甲も波の中に転げ落ちる。 『・・・・・・』 コルネリアとアスランの、息をのむ気配が伝わってくる。けれどルキアニスは、むしろ慎重に見えた。アル・カディアで、フェイトやエウセピアが見せた、何もかも根こそぎ吹き飛ばすそんな魔術攻撃ではない。クラウディアらしい、次の手を考えあわせた、初手の斬り込みだ。ただ一隻や二隻を斬って捨てるわけでもない。セルトリア機は、明らかに選んで、狙い澄まし、それのみを撃ち砕いていた。 セルトリア機は、多くは撃たなかった。次に光弾を放ったのも、狙うような数拍の間合いを置いて、だ。そのたびに、違わず船へと突き刺さり、打ち砕く。セルトリア機は行き足を速める。帆柱の列の向こうで、飛び去った後に飛沫を残して、青空へと舞い上がる。セルトリア機が撃ったのは、ほんの五、六度に過ぎなかった。追従していた援護機は、一度も撃たないままで長機を追ってゆく。二柱のクルル=カリルは舞い上がりながら、そらに弧を描いて、もとの岬の上空へと舞い戻ってゆく。 そこには、舞い降りて攻撃に参加しなかった二柱のクルル=カリルが待つようにしてある。撃ち砕かれたのは、わずか五隻か、多くて七隻か、それくらいであるはずだった。けれど、いきなり横合いから切り込まれて、次々と撃ち砕かれたゴーラには、何が起きているのかわかるはずもない。てんでに舵を切り、あるいはあわてて帆をおろす。だから、あちらこちらで、その船べりを打ちつけ合い、帆柱を打ち付けあい、あるいは横倒しに倒れてゆく。 宙のクルル=カリルのうち二柱が、ふたたび舞い下りはじめる。再び先導しながら弧を描くのはセルトリア機、続くのはローザか、ロザリアのどちらか。見ただけではわからない。二柱のクルル=カリルは先とは違う向きから切り込む。先を行くクラウディアの機は、再び帆柱の高さまで滑るように降りてゆく。砲射翼が開く。魔力の光を放つ。 たぶん、教練の通りの動きだ。自らが確かめるだけでなく、ともに飛ぶ機へも、確かめさせている、そんな動きだ。追従してやや高く飛ぶ二柱目のクルル=カリルは、やはり撃たなかった。それでも十分だった。二柱は再び宙へと駆け上ってゆく。 巧妙な攻め手だ。敵の船団の動きを、もっとも制する斬り込みだった。宙からならば、どこへ斬り込もうと自在なのだ。打ち砕かれたゴーラ船はそれほど多くはない。しかし盛んに煙が上がり、炎がちらついている。そのはざまには、すでに沈んだ船と、まだ沈んでいない船と、撒き散らされた木屑や荷が浮いている。焼かれ、燃えるそれらの船の噴き出す煙は、船団の真ん中を断ち切るようにたちこめている。 浜にはすでにゴーラの徒歩が陣取っている。彼らを乗せていた櫂船はすでに沖合に退き、代わって浜に押し寄せていたのが帆掛け船だ。帆掛け船は櫂船ほど自在には動けない。進むか留まるかしかない。留まれば、幾度でも、空からの攻撃を受ける。けれど浜との間で船が焼かれ、燃えてもいる。帆掛け船が帆を上げたまま、そこを押し通らねばならない。帆に火が移れば、帆掛け船はもうゴーラに帰れなくなる。 今度は三柱のクルル=カリルが舞い降りる。先に二柱が飛び、一柱が背後を守るように飛ぶ。ローザとロザリアを先に行かせて、クラウディアが援護をしている。海原から白煙がはじける。ようやく何が起きたか悟ったゴーラ軍が、船の砲を放ったのだ。だが、当たるはずもない。放たれた砲もそれ一門だけだった。お返しとばかりに、火球が放たれ、違うことなくその船で弾ける。 三柱のクルル=カリルは弾ける炎を沖合側に躱して、回り込む。これまでよりも沖合側から、魔力を放つ。ローザもロザリアも火の魔道の使い手だ。燃やしにかかったら、手が付けられない。二柱のクルル=カリルは、楽し気にくるくると舞いながら、炎を放つ。これまで撃たなかったのは、この時のために魔力を保つためだったのかと、思わせた。 それは、船団を沖合へ逃さないための攻撃だった。岸辺を離れた櫂船も、まだ岸辺に至っていない帆掛け船も、ローザとロザリアは、構わず燃やした。ゴーラも、撃ち返しているらしい。ぽつぽつと、砲煙らしい白い煙が見える。しかしそれが、クルル=カリルにいかほどの傷を与え得ただろうか。三柱は何事も無かったかのように陸へ向かって身を捻り、さらに高くへ舞い上がって行った。高く宙に待つ最後の一柱へと向かって。その傍こそ、宙にあって安堵できるというように。 そこには、一度も舞い下りなかったクルル=カリルが浮かんでいる。それは、砲撃杖を携えて、まるで見守るかのように宙にあった。バジリア101大隊長のものだ。その元へ、三柱のクルル=カリルが集ってゆく。 攻撃が始まって四半刻ほどしか過ぎていない。101大隊のクルル=カリルがすべてそろうにまですら至っていない。残り三柱が未だ姿を見せぬのは、すべてのクルル=カリルを同時に起動、発進させるのが難しかったから―主に機神工部が足りないゆえに―とルキアニスは聞いていた。 天より睥睨する、帝國によって作られた機神。その姿ある限り、敵には、もはや選ぶべき道などない。 彼らの動きは、岬の丘のルキアニスにも見えていたし、もちろん空に留まるクルル=カリルからも見降ろされている。帆柱の見張り台から旗が振られている様子も、煙の尾を引いて扉してゆく噴進信号弾も。 それそのものにはもはや何の意も無いだろう。見よ、と呼びかけるものでしかない。そしてその船の甲板を内側から破って、現れる姿がある。 機装甲だった。兜の頂きに鑓先のようなとがった飾りをつけ、その先から房毛の印をなびかせている。ゴーラの機体らしい、分厚く弧を描く肩甲が見える。胸甲、つづいて左右の手にある得物もだ。幅広の刃持つ長柄と、直剣は、たった今、船殻を断ち切って振り上げられている。それが将の機であろうことは、遠目にも判った。船倉を突き破り姿を見せ、波を押し割る。濡れながら身を起こし、その姿は長柄をもって岸を示す。進め、と。 すぐに、他の船でも同じことが起きていた。すでに足を止めていた船では、甲板を、あるいは船腹を打ち破り、鉄の兵が姿を見せる。背後では、まだ浅瀬に至っていない船は、帆をひらめかせながら、なんとか押し寄せようとしている。スヴェルスガルド将軍の軍勢は、大陸北岸を死地と決めたというように。戻ることなどもはや選ばぬというように。 『地上班。攻撃第二派が到着する』 呼びかけがある。宙のクルル=カリルの一柱、バジリア101大隊長からだ。 『地上戦を実施する』 宙にすでにあるクルル=カリルの背後、青い空の中に、きらりきらりと光るつぶが見える。まだ遠いすがたは、しかし見る間に膨らみ、その本来の姿を明らかにしてくる。朝日の中に飛ぶ、クルル=カリルだ。もちろん、ルキアニスは知っていた。二つ目の小隊の役割も。その小隊は、無名を小隊長としていることも。 横薙ぎの朝日を照り返しながら、三柱のクルル=カリルは、砲射翼を広げ、行き足を止める。七柱、帝國に、このうつしよにあるすべてのクルル=カリルがこの岬の空に並び立っている。 七柱の力すべてを奮えば、眼下の船をすべて焼き払うことなど造作もないことだろう。しかし、ヴェルキン旅団長は、それを選ばなかった。 彼は、あの時、言った。 私は、ゴーラ軍、それを駆逐し去ることを目的としていない、と。 『我々は、ゴーラ帝国の影響力を、大陸の北岸から駆逐することを、目的としている』 そして続けた。我々に託されたことは、帝國の持たざるゴーラの力を、ゴーラより奪い去ることだ、と。そのゴーラの力こそが、北方とゴーラとのいくさを、今に至るまで長引かせた、と。 「それは、二つの力よりなっている。ゴーラ軍と、これを大陸北岸へと運ぶ彼らの軍船だ。どちらか一方のみを叩くだけでは、ゴーラから力を奪い去ることはできない」 そう、彼は言った。 『その二つの力を奪う』 空より、クルル=カリルのうちの三柱が舞い降りてくる。横並びに三柱で並んで、砲射翼を広げて。無名の機は、彼女が常に携えている短刀によく似た物を持っているだけだ。剣を携えているのはモリフォリウスの機、直剣と盾を持つのはアルファルデスの機。三機は並んだまま、ふわりと、砂浜へと降り立つ。 そして直剣と盾の機が、剣を振るう。ただ、そうしたかったから、そうしたのだとでも言うような、何気ないまでの軽い仕草で。けれど噴き出して広がった魔力は大きく、強かった。砂浜に輪を描いて炎が現れ、吹き払って大きく広がる。砂浜の背後の木々の間や、そこに留まるゴーラの兵たちへも吹き付ける。魔力の炎はすぐに消えた。けれど木々やその狭間にあるものは燃え、煙を上げる。 三柱のクルル=カリルは身構えもしなかった。火の粉と炎の揺らめき、流れる煙の中に立つ。そこに、そうして在るのが、当たり前のことだというように。 睨み合いに見えたのは、ほんのわずかな間に過ぎなかった。 ゴーラの軍勢が動き出す。波間から、岸へと向かって。 白刃をきらめかせ、ようやく見出した、それをもって戦える敵へと向かって。
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