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(あーぁ、暇ねぇ) そんな事を思いながら、水銀燈は銜え煙草で街をかっ歩していた。条例違反だとか関係ない。 (どっかにいいボーカルでも落ちてないかしらぁ…。バンドも解散しちゃったしぃ…まさかオディールのVISAが切れるなんて予想GUYよぉ…) 呟きながら、数か月前の事に思いを巡らす。 当時水銀燈が所属していたバンド、STORM BRINGERはいいバンドだった。 私をネオクラシカルに目覚めさせてくれたし、地元ではそこそこ人気もあった。 が、中心人物であったボーカルのオディール・フォッセーは留学生だったため、卒業と同時にVISAが切れ帰国。 オディールを中心に集まったメンバーも空中分解の様な形になった。 (また一からメンバー集めなんて…めんどくさぁい。STORM BRINGERがレベル高かったから今更変なバンド組めないわよねぇ…) などと考えながら特にアテもなく散歩している。 いや、あてならある。 タバコのストックを切らしてしまったので買いに行こうとして、急にハバネロが食べたくなって今日は隣り街のスーパーが特売日だからついでに飲み物も買いに行く途中なのだ。 だから暇ではないのだが、ここ数か月の生活をみてみると、やはり暇を持て余している。 道半ばの歩道橋の上、金髪の少女がアコースティックギター片手に路上ライブに励んでいた。 (…あの娘、なかなかいいセンスしてるじゃなぁい…) ゆっくりと歩道橋を上る。 聞こえてきた曲はエリック・クラプトンのCHANGE THE WORLD。 水銀燈がその金髪の少女の前に着く頃には一曲歌い終え、次の曲を歌っていた。 「It s beautiful lady~♪」 そして、魅せられた。 金髪の少女の、人形の様な風貌と、 それ以上に魅力的な声に。 「♪and she asks me,do I look all right?♪ ♪and I say "Yes,you look WONDERFULL TONIGHT"♪」 しばらく、呆然と少女の唄に耳を傾けていた。 その声は、力強く、繊細で、どこか儚い。 今はまだ荒削りだが、磨けばどんな宝石よりも輝く。 目の前にいるのは、そんな歌声の持ち主。 水銀燈は思った。 いや、願いに近かったかもしれない。 ―この金髪の少女と、バンドを組んでみたい― やがて少女は歌い終わり、水銀燈を含めたギャラリーに一礼してから片付けはじめた。 「あなた、私とバンド組んでみなぁい?」 金髪の少女は声をかけられ、水銀燈を振り向いた。 「…私と?」 私とバンドを組むんなら、生半可なセンスと技術では許されないわよ。 そんな心の声が、水銀燈には聞こえた気がした。 望むところよぉ。 「あなた以外誰がいるのよぉ。私は水銀燈。元STORM BRINGERのギタリストよ」 水銀燈が言ったバンドの名を、少女は聞き覚えがあった。 となりの街に、時代遅れなハードロックを演るバンドがあって、結構人気があると。 「そう。あなたがあの時代遅れなハードロックバンドのギタリストだったの。 いいわ。私は真紅。一度音を合わせてみましょう」 そして伝説は、静かに幕をあけた。 * 翌週、真紅と水銀燈の二人はスタジオに来ていた。真紅はアコースティックギターを、水銀燈はエレキギターを手に。 「それじゃあ、はじめましょう」 歩道橋の上で出会ってから、二人は互いの携帯のアドレスと番号を交換し、合わせる曲も決めていた。 真紅の希望で「layla-unplaged-」 水銀燈からは「Catch the Rainbow」 ハードロックを時代遅れと言っておきながら、真紅もなかなか、時代を追うような趣味ではないらしい。 「準備オッケェよぉ。」 真紅のアコギを構え、数個コードを鳴らし、チューニングに狂いがない事を確認した水銀燈が言った。 「じゃ、まずはlaylaからやりましょうか」 アコギ特有の、サスティンのない暖かな音色が響き渡り、真紅の歌声がそれに重なる 「what do you do~♪」 驚いた。真紅の歌ったメロディーラインは、本家のそれとは大きく違っていた。 透き通る歌声は、原曲のもつ雰囲気を崩さず、なお存在を主張する。 自然と、水銀燈のギタープレイにも熱がこもる。 「なかなかいい感じじゃなぁい。すぐに次の曲、イケる?」 laylaを演り終え、水銀燈が真紅に言う。 「Catch the Rainbowね。いけるわよ」 水銀燈が再びアコギからメロディーを紡ぐ。 「We beleave~♪ we catch the rainbow~♪」 憂いを帯びた真紅の歌声。 冴え渡る水銀燈のギタープレイ。 この曲は、二人に確信をもたらした。 ―私たちは、きっと虹をつかめる―。 「エレキ持って来たのに、結局使わなかったわねぇ~」 スタジオからの帰り、二人は喫茶店でティータイムと洒落こんでいた。 「そうね。まぁいいじゃない。それより今は、他のメンバーをどうするかの方が問題だわ」 真紅の言う通り。バンドを編成するには、最低でもあと二人、ベーシストとドラマーが必要だ。 「そうねぇ。知り合いに何人か当たってみるわぁ。それでもダメならメン募かしらねぇ」 「私も何人か当たってみるわ。じゃぁ、今日はこれで解散ね。いいベーシストかドラマーがいたら連絡頂戴」 そう言い真紅は席を立ち、水銀燈もそれに続く。 帰り道、別々の道を歩きながら、二人は同じ事を考えていた。 最高に楽しめそうだ、と。 * 「ねぇねぇ聞いた?水銀燈のバンド。まぁバンドって言っても、メンバーはまだ水銀燈とボーカルだけなんだけどぉ。まだベーシストとドラマーが決まらないらしいわよ」 最近、蒼星石はよくこの噂を耳にする。 元STORM BRINGERの実力派ギタリスト・水銀燈が、無名のボーカリストと一緒にメンバーを探している、と。 STORM BRINGERは、蒼星石がバイトするスタジオの常連だったし、ライヴにも何度か足を運んだことがある。 メロコア、パンク勢がシーンを占領する中、ブルースを基盤としながらも、ネオクラシカルなどの様式美を取り入れたハードロックバンド。 良く言えば時代に惑わされない音楽性。 悪く言えば時代遅れなスタイル。 だがその時代遅れな音楽も、蒼星石は決して嫌いではなかった。 ボーカルであるオディール・フォッセーの帰国にともなって空中分解したと聞いたが、そのハードロックバンドのリードギタリストだった水銀燈が、新たなメンバーを探していると言うのだ。 それも、なかなか難航しているらしい。 地元で有名なベーシストやドラマーとセッションしたという話をいくつか聞いたが、どれも決定打には至らなかったようだ。 「ねぇちょっと君」 蒼星石は、スタジオでのバイト中にも関わらず、客の女の子に話しかけた。 「水銀燈のとこのバンド、まだベーシストとドラマーがいないんだって?」 話しかけられた女の子はワンテンポ遅れて、 「え…?あ、はい。たしかまだ募集してたハズですよ」 と答えた。 「そう。ありがと」 笑顔でお礼を言うと、蒼星石はカウンターに戻り、女の子達は帰っていった。 (運が良ければ、水銀燈はまたこのスタジオに来る…。いや、待つ必要はないか) 蒼星石は店のパソコンを少しいじった。 するとあら不思議。 スタジオ会員の名前と連絡先が一人の漏れなく表示される。 その中にはもちろん、水銀燈の名前もある。 (こーゆーのが個人情報流出って言うんだろうなー…) 思いながら、店の電話をプッシュする。 コールするのは、もちろん未来のリードギタリスト。 『もしもぉし』 「あ、もしもし~いつもお世話になってます、スタジオらぷらすです~。水銀燈さんの携帯電話でよろしいですか?」 『そうよぉ。で、何か用事ぃ?』 「えぇ…いやなに。大した事じゃないんですよ。ただ、腕の立つベーシストとドラマーが必要なんじゃないかなー…と思いまして、ね」 数分後、セッションの約束を取り付けた蒼星石は静かに電話を置いた。 日時は来週。 来週までに四曲。 久しぶりだね、こんなに胸が高鳴るのは。 * その日の夜、双子の姉であり、ドラマーでもある翠星石に水銀燈とのセッションの事を話す。 「マジですか!?こいつは久々に腕がなるですぅ。で、何を合わせるです?」 「うん。向こうの希望でlaylaとCatch the Rainbow、こっちからはsunshine of your loveと正しい街を言っておいたよ」 運命があるとすれば、多分今回のような事を言うのだろう。 蒼星石と翠星石のいたバンド、STONE FREEが解散し、出来過ぎなぐらいバッチリなタイミングでの水銀燈のメンバー集め。 蒼星石は、何かを確信せざるにはいられなかった。 ~次回予告~ 真紅「次回『コスモスター』、君は宇宙を体験するッ!」 翠「絶対見るですぅ!」 長編SS保管庫へ/(2)へ続く
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生徒C「れ? あ、ねー、水銀燈先生ー」 水銀燈「なぁにぃ? 急いでるんだけど」 生徒C「ぅぁ、すいません。ばらりん探してんですけど、どこか知ってます?」 水銀燈「………ばらりん?」 生徒C「ばらりん。薔薇水晶先生」 水銀燈「わかるわよぉ、それくらい。なぁに? その呼び方」 生徒C「いや、ちゃん付けとりん付け、どっちがいい? って聞いたら、いつもの あの口調で『………りん』って言うから、ばらりん」 水銀燈「薔薇水晶先生らしいわねぇ。悪いけど、どこ行ったかは知らないわぁ」 生徒C「そっすか。すいませんでした。課題出しに来たんですけど、置いとけばいいですかね?」 水銀燈「良いんじゃなぁい? あ、ちゃんとメモ残しておきなさいよぉ?」 生徒C「はーい」
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ブラック・エンジェルズ◆/VN9B5JKtM 男が一人、森を駆ける。 突き出した枝を掻き分け、駆ける。 張り出した根を踏み越え、駆ける。 なだらかに続く上り坂を、駆ける。 闇色のコートが風に翻る。 天を衝くように逆立った黒髪が揺れる。 わずかに残った金髪が月光を反射し、キラリと光る。 駆ける。 駆ける。 ヴァッシュ・ザ・スタンピードが森を駆ける。 山頂付近に差し掛かったところでヴァッシュはその先に学校があった事を思い出し、そちらへと向かった。 森を抜け、広々とした学校のグラウンドに飛び出す。 そびえ立つ灰色の校舎を見上げながら、ヴァッシュは水銀燈が去り際に見せた表情を思い出す。 恐怖のあまり涙を流し、何かに対する強い怯えを含んだその表情。 恐らく彼女は無我夢中で逃げ出したのだろう。どこへ向かうかなどと考える余裕は無かったはずだ。 古城から南へ逃げた彼女はこの近くを通っただろう。この学校が目に留まった可能性は高い。 ならば、水銀燈はこの学校のどこかに隠れているのではないか。 どこか人目につかない部屋の隅で一人、縮こまって震えているのではないか。 その光景を思い浮かべると居ても立っても居られなくなり、ヴァッシュは愛用のリボルバーを片手に校舎の中に飛び込んで行く。 その瞬間、ヴァッシュの嗅覚が僅かに漂う血の臭いを捉えた。 臭いの元を辿れば一つの教室が目に付いた。ドアが内側から破壊され、廊下にまで破片が散らばっている。中で何かがあった事は間違いない。 ヴァッシュは部屋の中に駆け込み、そこで首と胴体が泣き別れになった二つの死体と対面した。 その内、一人の顔には見覚えがある。名前は知らないが、通信機を預けて連絡を取り合う約束をした男だ。 もう一人の少年は初めて見るが、状況から察するに彼の仲間だろうか。 いくらなんでも二人が殺し合った結果こうなったとは考え辛い。となると彼らを殺害し、その首を落とした第三者が居るのだろう。 「くそっ! どうして……どうして、こんな殺し合いなんかに乗っちまうんだよ……!」 ここで仲間と共に斃れているという事は、自分がショックに打ち拉がれている間も彼は約束通り連絡を取ろうとしてくれたのだろう。 人を殺してしまった、その事はヴァッシュにとって何よりも重い。だが、それでも。せめて、せめてあの時、通信機だけでも持っていたら。 彼らがこんな無惨な姿になる事はなかったのではないか。少なくとも彼らを守るチャンスはあったのではないか。 そう思うと今更ながら猛烈な後悔に襲われ、ヴァッシュは既に血も乾き切った床に拳を叩きつける。 「っ……! ……そうだ、水銀燈を探さないと……! お願いだ! 水銀燈、居るなら出て来てくれ!」 もたもたしていると水銀燈まで殺されてしまうかも知れない。そう思うと焦燥ばかりが募る。 ヴァッシュは自分の安全を度外視して声を張り上げながら学校中を駆け回るが、一向に返事は無い。 一通り見て回るが、殺し合いの開始直後に見つけた死体が無くなっていた以外は気になる点は無かった。 水銀燈が学校に居るかも知れないという当ては外れたのか。 だがそうだとしても、まだそれほど遠くには行っていないはずだ。 それなら声を届ける手段はある。 ヴァッシュは学校の屋上に駆け上がるとデイパックから拡声器を取り出し、スイッチを入れて大声で叫ぶ。 『水銀燈! 僕の声が聞こえるか!?』 ◇ ◇ ◇ 少女が一人、森を駆ける。 突き出した枝を掻い潜り、駆ける。 張り出した根を飛び越え、駆ける。 なだらかに続く下り坂を、駆ける。 漆黒のドレスが風にはためく。 その背の黒翼から抜け落ちた羽根が宙を舞う。 流れるような銀髪が月光を浴び、幻想的にきらめく。 駆ける。 駆ける。 水銀燈が森を駆ける。 山頂付近の木々が開けているのを見た水銀燈はその先に学校があった事を思い出したが、そのまま学校を素通りした。 森を抜け、広々とした学校のグラウンドを駆け抜ける。 そびえ立つ灰色の校舎を尻目に、水銀燈は学校から続く山道を駆け下りていく。 水銀燈は明確な目的地も無しに走り去った。その通りだ。 彼女は逃げる途中で学校を発見した。それも正しい。 ならば学校のどこかに隠れているのではないか。それこそが誤り。 水銀燈にとって、学校はゼロに左腕を奪われ、恐怖を刻み込まれた忌まわしき場所だ。 当然、そんな所に隠れるはずも無い。 恐怖から逃れるため、水銀燈はひたすら南へと疾走する。 その行く手が、見えざる壁に阻まれる。 『ピーーーーーーーー!!!』 突如、けたたましいアラーム音が辺りに鳴り響いた。 ビクリと身を竦めた拍子にバランスを崩し、坂を駆け下りる勢いのままに転びそうになる。 ヨロヨロとたたらを踏んで何とか体勢を立て直す。その直後、水銀燈の首元から耳障りな電子音声が聞こえて来た。 『警告。現在あなたは禁止区域に侵入しています。 30秒以内に当該区域より退去しない場合は首輪が爆破されます。 繰り返します。現在あなたは禁止区域に……』 水銀燈の現在地はC-2の北端。つい先程、19 00を以て禁止エリアとなった場所だ。 混乱のあまり頭が働かない水銀燈にも、このままでは首輪が爆破され、ジャンクですらない残骸になってしまう、それだけは理解できた。 振り返れば闇が形を成して襲いかかって来るのではないか、そんな馬鹿馬鹿しい考えを振り払い、震える体を無理矢理に動かす。 たっぷり10秒もの時間をかけて振り返り、何も異常が無い事を確認する。 元来た道を10歩ほど戻ったところで首輪からの警告が鳴り止み、そこでようやく水銀燈は胸を撫で下ろす。 不幸中の幸いと言うべきか。首輪の爆破という直接的な危機を回避した事で、水銀燈はひとまずパニック状態から脱却する事ができた。 ある程度の冷静さを取り戻した水銀燈は、現在の状況について思考を巡らせる。 先の騒動で古城の連中には裏切り者としてマークされただろう。少なくとも今は彼らを仲間にするのは諦めるしかなさそうだ。 かと言って、他に手を組めそうな参加者の当ては無い。それどころか真紅達に自分の悪評を広められている可能性すらある。 更に今の自分は左腕を始め全身に多大なダメージを負い、手元に強力な武器がある訳でもない。使えそうな物は風神ぐらいだ。 仲間も、参加者の情報も、自身の戦闘力も、全てが不足している。今ゼロのようなバケモノに襲われれば一溜まりも無い。 「最悪……。あの子の命懸けの復讐は大成功ってところね。全く、忌々しいったらないわ……!」 水銀燈が自身の置かれた状況を確認し、これからどうしようかと途方に暮れたところで、 『水銀燈! 僕の声が聞こえるか!?』 「なっ……!?」 拡声器で増幅されたヴァッシュの声が、大気を震わせる。 驚愕に目を見開いて山頂を見上げた水銀燈の耳に、続くヴァッシュの言葉が飛び込んでくる。 『聞こえるなら学校まで来てくれ! 僕はそこで君を待ってる!』 「っ……! 何を考えてるのよ、あの馬鹿は!」 口では悪態をつきながらも、水銀燈の足は山頂の学校に向かっていた。 確かにヴァッシュの行動は馬鹿げているが、その声からは悪意や敵意といった感情は微塵も感じられない。 ただそれだけの事なのに、最悪だった状況が一気に好転したような、そんな錯覚を覚える。 僅かに安堵のようなものを抱き、水銀燈は学校への道を駆け戻る。 ◇ ◇ ◇ 水銀燈への呼びかけを始めてからどれだけの時間が経過しただろうか。 未だ拡声器を手に叫び続けるヴァッシュの視界の端で何かが動いた。 眼下を見やれば、何か白っぽいものが坂道を上って来るのがおぼろげに確認できた。 目を凝らせば、だんだんその姿がはっきりと見えてくる。 それは黒いドレスを身に纏い、銀髪をなびかせて走る一人の少女。 『水銀燈!!』 喜びに弾んだヴァッシュの声が周囲に響き渡る。 ヴァッシュは拡声器をデイパックに放り込むと階段を二段飛ばしで駆け下り、昇降口で水銀燈を出迎える。 校庭を迂回してくる水銀燈は顔をしかめているようにも見えるが、そんな細かい事は気にもならない。 駆け寄る水銀燈に向かってヴァッシュが両手を広げ、水銀燈はその胸の中に飛び込む…………はずもなく。 「何ボーっとしてるのよ! 早く隠れるわよ!」 ヴァッシュの横を駆け抜け様に外套の袖を掴むと、森の方へと引きずって行く。 水銀燈に引っ張られ、森の中に身を隠す。校舎やグラウンド全体が見渡せて、それでいて向こうからは木の陰になって見えにくい絶好の位置取りだ。 息を潜めて学校の様子を窺いながら、佐山から受け取ったメモを確認して名簿と地図にチェックを入れる。 5分が過ぎても姿を見せる者は無く、10分が経過しても誰かが近づいて来る気配は無い。 そこでやっと肩の力を抜いた水銀燈が、棘のある口調でヴァッシュに突っかかる。 「貴方、本当に馬鹿じゃなぁい? 周りに誰も居なかったから良かったものの、下手すれば殺し合いに乗った連中に囲まれてたかも知れないのよ? そもそも私が来なかったらどうするつもりだったのよ? あんな大声で叫んで、私に無視されたら危険人物を呼び寄せるだけじゃないの」 お前はそんな事も分からない馬鹿なのか、と言外に滲ませて捲し立てる。 だがヴァッシュは水銀燈の詰問にも全く堪えた様子は無く、にこやかな笑みを浮かべて答える。 「それならそれで構わないよ。僕の方に注意が向けば、君も少しは逃げやすくなるだろう?」 さも当然のように返されたその答えを聞いて、水銀燈は唖然とする。 つまりは無視されたとしても自らが囮となって水銀燈の生存率を上げる事が出来ればそれで良かった、そう言っているのだ。 水銀燈はヴァッシュに対する認識を改める。ただの馬鹿だと思っていたが、どうやら想像を絶する大馬鹿だったらしい。 「はぁ……もう良いわよ……。それで、あんな馬鹿な真似までして私に何の用かしらぁ? あの子の仇討ちに来たって訳じゃなさそうだけど」 「ああ。理由を、聞きに来たんだ。どうして君がマヒルを撃ったのか、その理由を……」 水銀燈が尋ねると同時、ヴァッシュはそれまで浮かべていた笑顔を一変させ、真剣な表情で口を開く。 沈痛な面持ちで一言一言搾り出すように紡がれたその言葉を、水銀燈は鼻で笑う。 「ハッ、理由ですって? 馬鹿馬鹿しい。人殺しの言う事なんて誰が信じるって言うのぉ? 『殺してくれって頼まれたから』。もし私がそう答えたら、貴方はそれを信じてくれるのかしら?」 「信じるよ」 「な……っ!?」 小馬鹿にするような口調で返す水銀燈に、ヴァッシュが即答する。 流石にその返事は想定外だったのか、水銀燈が言葉に詰まる。 「君はタカナシを助けてくれた。マヒルを止める手助けをしてくれた。今だって僕の事なんか無視してもよかったのに、危険を承知で来てくれた。 そんな君がマヒルを殺そうとしたなんて、どうしても思えないんだ。僕は君を信じる。だから、話してくれないか? 何があったのかを」 真っ直ぐに見つめるヴァッシュの目には嘘や誤魔化しの色は無い。 その視線に耐え切れなくなった水銀燈が目を逸らす。 「……いいわ。そこまで言うなら話してあげる。 あの子が外で話がしたいって言うから、中庭まで出て行ったのよ。そこで、銃を渡された。『それで私を撃って欲しい』そう言われてね。 もちろん私は断ったわよ。ただでさえ貴方達には警戒されてたのに、そんな事をすれば完全に敵対する事になるもの。 でもね…………消えてなかったのよ」 その時の事を思い出したのか、水銀燈の顔色はわずかに青褪め、唇は小刻みに震えている。 「消えてなかったって……。まさか、あの右腕が……?」 「そうよ。急にマトモじゃなくなったみたいに叫び出して……。またあの変な腕が生えてきて、私に襲いかかってきたのよ。 考えてみれば当然よね。元々あの腕は、私が切り落とした右腕の上から生えてきたんだもの。だったら二本目が生えてきたって何もおかしくはないわ。 ……分かったかしら? 撃たなければ私が殺されていたのよ。こんな事ならさっさと殺しておけば良かったんだわ」 水銀燈は恐怖を振り払うように首を振ると、忌々しげに吐き捨てる。 「……それは違うよ、水銀燈」 「はぁ? 何が違うのよ? 結局は死ぬのが数分遅くなっただけじゃない。貴方達が必死になって助けようとしてたのも、全部無駄だったのよ」 怪訝そうに見上げる水銀燈の言葉を、ヴァッシュは首を振って否定する。 「違う。そうじゃないんだ……。そりゃあ僕だって本当は助けたかったさ。みんな笑って元の生活に戻れれば、それが一番良かったんだ。 でも……助ける事は出来なかったけど、それでも彼女は正気に戻ったんだ。自分の意思で泣き、自分の意思で笑う事が出来たんだ。 なら、僕達のした事は……マヒルを助けようとした事は、決して無駄なんかじゃない……!」 「正気に戻った、って言ってもたった数分じゃない。そんなもののために命を賭けるなんて、馬鹿馬鹿しいとは思わないの?」 「ああ。たった数分かも知れないけど、それでもあのまま死ぬよりはずっと良かった。命を賭ける理由なんて、それで十分だ」 「っ……! 貴方おかしいんじゃないの!? 付き合ってられないわ! 言っておくけど、私は自分が殺されそうになったら容赦しないわよ。それが悪いとは思わないし、改めるつもりもないわ」 どこか寂しそうな笑顔を浮かべ、ヴァッシュは水銀燈を見つめる。 「水銀燈……。君が生きたいと思うのは当然だ。その意志を否定する権利なんて、僕には無い。でも、これだけは覚えておいて欲しい。 マヒルにも、もう一度会いたい人が居たはずなんだ。まだやりたい事があったはずなんだ。……もっと、生きていたかったはずなんだ」 ヴァッシュのその言葉に、水銀燈は伊波の顔を思い出す。 両の眼で水銀燈を睨みつけ、涙を流しながら、辛うじて残った理性で自分を殺せと叫ぶその痛々しい表情を。 「……チッ……そんな事、言われなくても分かってるわよ」 「うん……それなら良いんだ……。それじゃあ戻ろうか」 ヴァッシュが手を差し出す。 水銀燈も手を伸ばし、 「嫌よ」 「え?」 ヴァッシュの手を乱暴に払う。 出した手をはたかれたヴァッシュはそのままの姿勢でポカンとしている。 「え? じゃないわよ。今更戻れる訳ないでしょう? 私が裏切り者扱いされるのは目に見えてるもの」 「うっ……。だ、大丈夫、僕が説得するよ! 話せばサヤマ達もきっと……」 水銀燈はゆっくりと頭を振る。 仕方がなかったとは言え水銀燈が伊波を殺したのは事実だし、その前にはヴァッシュやゾロ、新庄も殺そうとしている。 話せば分かる、などと考えるのは楽観的過ぎるだろう。 「無理ね。貴方、馬鹿みたいにお人好しだもの。そこに付け込んで上手く丸め込んだと思われるのがオチよ。 みんながみんな貴方のような人間じゃないのよ。いくら理由があったって、普通の人間は仲間を殺した相手と仲良くなんて出来ないわよ。 ここから脱出するって目的が同じならいつかは協力する事になるんでしょうけど、今すぐって訳にはいかないわね」 「じゃ、じゃあ君はこれからどうするつもりなんだよ?」 「そうね……。中央にでも行って姉妹達のローザミスティカを探すわ。ついでに仲間もね」 ローザミスティカ。 水銀燈の頭に最初に思い浮かんだのは、やはりそれだった。もはやアリスにはなれないというのに、まだ未練は捨て切れないらしい。 口の端を歪めて自嘲する水銀燈の横でヴァッシュが首を傾げる。 「ローザミスティカ?」 「ええ。私達ローゼンメイデンシリーズの姉妹達にお父様が一つずつ与えて下さった魂のかけら。私達の命そのものと言っても過言ではないわ。 既に翠星石と蒼星石の二人が脱落している。なら、この会場のどこかに彼女達のローザミスティカがあるはずよ。それを見つけるわ」 真紅より先に、と胸中でのみ付け加える。 欠落した自分はアリスになる資格を失ってしまったが、それでも……いや、だからこそ真紅がアリスに近づくのは許せない。 「そっか……。よし、じゃあ僕も一緒に行くよ」 「………………はぁっ!?」 一拍の間をおいて、水銀燈が素っ頓狂な声を上げる。 ここで一旦ヴァッシュと別れるつもりだった水銀燈にしてみれば、この返答はあまりにも予想外だった。 反射的にヴァッシュに食ってかかる。 「ちょっと待ちなさい! どうしてそうなるのよ!?」 「だって、姉妹の形見を探しに行くんだろう? なら僕も手伝うよ。もし死体の横で野晒しにされてたりしたら可哀想じゃないか。 もしかしたらその子達を殺した人がそのローザミスティカってのを持ってるかも知れないし、だったら君の手に取り戻さないと。 だいたい殺し合いに乗った参加者がうろついてるかも知れないってのに、君一人で行かせられる訳ないじゃないか」 どうもヴァッシュは、水銀燈達の事をわざわざ形見の品を探しに行くほど仲の良い姉妹だったのだと勘違いしているらしい。 水銀燈としてはアリスゲームの事を説明する気も起きないので訂正したりはしないが、実際は元の世界でも翠星石達とは敵対していた間柄だ。 真紅ならともかく、水銀燈の手に渡って彼女達が喜ぶとも思えない。まあ流石に彼女達を殺した参加者が持っているよりはマシだろうが。 「……まだ古城に仲間が居るんでしょう? そっちは放っておくの?」 「もちろんサヤマ達の事も気になるけど、それよりも君を一人で行動させる方がよっぽど心配だよ」 「そう。ならお馬鹿さんな貴方にいい事を教えてあげる。もうすぐゼロが古城に来るわよ。詳しい時間は聞かないでね。私にも分からないもの。 一時間後か二時間後か、あるいは五分後か。ひょっとしたら今こうしている間にも貴方の仲間が襲われてるかも知れないわねぇ。 言っておくけど、アイツはバケモノよ。貴方と同じくらい……いえ、人を殺すのに躊躇したりしない分それ以上かも知れないわ。 早く戻った方が良いんじゃないのぉ? 今ゼロに襲われればあんな怪我人だらけの集団、あっと言う間に全滅するわよ」 水銀燈の言葉を聞いたヴァッシュが顔つきを険しくする。 「ゼロ……彼が殺し合いに乗っているって言うのか?」 「そうよぉ。この左腕もゼロの仕業だし、アイツは私が知るだけでも既にサカキと土御門の二人を殺しているわ。 あの教室……一つだけ窓が開いているのが見えるかしらぁ? あの中に二人の死体が転がってるはずよ。疑うなら見て来るといいわ」 水銀燈は肘の辺りからバッサリと切り落とされた左腕をプラプラと揺らすと、校舎の一室を指差す。 ヴァッシュは水銀燈の腕を一瞥すると校舎の方へ視線を向け、頷きを返す。 彼女が指し示す先はヴァッシュが二つの首無し死体を発見した部屋だ。 「ああ……。首を切り落とされて殺されてたよ……。名前までは分からなかったけど、多分その二人だと思う」 「フン、やっぱりね」 「やっぱり?」 「大広間の床下に仕掛けがしてあるのよ。『○』型のくぼみが三つ、そこに『戦いの証』を嵌め込めば武器か何かが手に入るらしいわ。 分かるでしょう? 戦って、勝利した証。きっと首輪の事を言ってるのよぉ。 ゼロも首輪を集めてるみたいだし、それに気付いてるんでしょうね。今頃は三つ目の首輪を手に入れていてもおかしくないわよぉ?」 三つ目の首輪を手に入れる。つまりは、誰かを殺して首を切り落とす。 その光景を想像したのか、ヴァッシュが悔しそうに歯を食い縛る。 「どうして……。だって、彼は僕に立ち直るきっかけをくれたじゃないか……! 積極的に他人を殺すような人間には見えなかった……なのに!」 「……守るべき者」 「え?」 死体のある教室を睨みつけるヴァッシュの横で、水銀燈が虚空を見つめながらぽつりと呟く。 「ゼロが自分で言ってたのよ。私とゼロは守るべき者のために刃を振るうところが似ている、とか何とか。 アイツが暴れ出したのも放送の直後だったし、誰か知り合いの名前でも呼ばれたんでしょ……って、どうしたのよ? 変な顔しちゃって」 水銀燈が顔を上げると、嬉しいのか悲しいのかどちらとも判断がつかない微妙な表情で自分を見つめるヴァッシュと目が合った。 「いや、君にも守るべき者が居るんだなぁって思うと、ね。……うん、決めた。やっぱり僕は君と一緒に行く事にするよ」 「なっ……!? ちょっと、人の話を聞いてたの!? 貴方の仲間が危ないって言ってるのよ!?」 「分かってる。だから今から古城まで行ってサヤマ達に報告して来るよ。合流場所とかも決めなきゃいけないしね。 悪いけど、少しだけここで待っててくれないかな? それが済んだらすぐ戻って来るからさ」 ヴァッシュを品定めするように眺めながら、水銀燈は考える。 確かにヴァッシュは戦力として見れば文句なしだ。共に行動すれば大抵の敵には対抗できるだろう。 だが反面、ヴァッシュには病的なまでに人の死を嫌うという欠点――あくまで水銀燈から見ればだが――がある。 先のような集団ならともかく、この男と二人だけでは肝心な時、つまり殺すべき時に足を引っ張られるのではないかという一抹の不安が残る。 「どうしてそこまでして私に構うのよ? 貴方にとって、私は仲間の仇でしょ? なら放っておけば良いじゃないの」 「確かに君はマヒルを殺した。それでも……ここで君を見捨てたら、僕は絶対に後悔する。もう嫌なんだ。これ以上、誰かが死ぬのは……」 水銀燈は呆れたように一つ溜息を吐くと、真っ直ぐにヴァッシュを睨み上げる。 ヴァッシュはその突き刺すような視線を正面から受け止め、水銀燈を見つめ返す。 「誰かに襲われたら殺すつもりで迎え撃つわよ?」 「その時は僕が場を収めるよ。もちろん誰も死なせずにね」 「敵が強くて勝てないと思ったら貴方を囮にして逃げるわよ?」 「その時は僕が引き受けるよ。逃げる時間ぐらいは稼いでみせるさ」 「人数が減って優勝が見えてきたら本当に裏切るかもしれないわよ?」 「その時は僕が君を止めるよ。君が誰かを殺してしまう前にね」 水銀燈は、自分が生き残るためには手段を選ぶつもりは無いと告げる。 ヴァッシュはそれを否定するでもなく、ただ己の信念を口にする。 視線が真っ向からぶつかり合い、両者の間に重苦しい沈黙が続く。 「はぁ……いいわ。その頑固さに免じて30分だけ待っててあげる。それまでに戻って来なければ置いて行くわよ」 「! ありがとう! 絶対に戻って来るよ!」 睨み合いの末、先に折れたのは水銀燈。 ヴァッシュは満足気な答えを返すと、古城に向かって一目散に駆け去って行く。 後ろを気にする素振りも無い。水銀燈が自分を待たずに先に行ってしまう、などとは疑ってもいないのだろう。 その背中を見送りながら水銀燈はデイパックに右手を入れ、食料を漁る。 出てきたのは、何故かいちご大福。それを一つ手に取り、頬張る。 「……甘過ぎるのよ」 素直にヴァッシュを待っている自分にわずかな苛立ちを覚える。 このまま置いて行っても良いはずなのに、どうもそうする気にはなれない。 待つのは性に合わないが、それでも30分だけなら待っても良いと。そう思う自分がいる。 「生き残るためにはあの男と一緒の方が確実だもの。……それだけよ」 ヴァッシュと共に行動すれば自身の生存率が上がるから。本当に理由はそれだけなのか。 本心など誰にも分からぬまま、天使(ドール)は一人、天使(プラント)を待つ。 【B-2 学校近くの森/1日目 夜中】 【チーム名:天使同盟】 【ヴァッシュ・ザ・スタンピード@トライガン・マキシマム】 [状態]黒髪化、左肩に刺突による傷(再生中)、脇腹の痛み、全身に打撲 [装備]ヴァッシュ・ザ・スタンピードの銃 6/6 @トライガン・マキシマム [道具]支給品一式、拡声器@現実、予備弾丸28発分、佐山のメモ(三回目の放送内容について) [思考・状況] 基本:殺し合いを止める、今度こそ絶対に。 0:急ぎ古城へ戻り、佐山達に事の次第を伝える。 1:その後は水銀燈に付いて行く。 2:ウルフウッド、リヴィオとの合流。 3:ウルフウッドがいるかもしれない……? 4:出来れば水銀燈を佐山達のところへ連れ戻したい。 【備考】 ※原作13巻終了後から参加 ※サカキ、ロベルタの名前はまだ知りません。 ※詩音を『園崎魅音』として認識しています。詩音は死んだと思っています。 ※口径などから、学校の死体を殺すのに使われたのはロベルタの持っていた銃ではないかと考えています。 ※義手の隠し銃には弾が込められていません。弾丸を補給すれば使用可能です。 ※伊波、新庄と情報交換をしました。佐山、ブレンヒルト、小鳥遊、高槻、メカポッポ、片目の男(カズマ)の情報を得ました。 ※水銀燈の左腕が欠損していることに気づきました。 【水銀燈@ローゼンメイデン】 [状態]:全身に切り傷、左腕欠損(包帯を巻かれている)、右の翼使用不能、全身にダメージ(中)、食事中 [装備]:強力うちわ「風神」@ドラえもん [道具]:基本支給品一式(1食分、水1/10消費) [思考・状況] 基本方針:元の世界へと戻る、手段は選ばない。 0:とりあえずヴァッシュを待つ。30分待っても来なければ置いて行く。 1:川沿いに山を下り、市街地で姉妹達のローザミスティカを探す。 2:ゼロに対抗するための戦力を集める。 3:ほとぼりが冷めるまで佐山達には会いたくない。 【備考】 ※ナナリーの存在は知りません ※会場がループしていると確認。半ば確信しています ※古城内の大広間に『○』型のくぼみがあります。このくぼみに何が当てはまるかは不明です。 ※魅音(詩音)、ロベルタの情報をサカキから、鼻の長い男の(ウソップ)の情報を土御門から聞きました。 ※気絶していましたがヴァッシュの声は無意識に届いています。 【いちご大福@ローゼンメイデン】 雛苺の大好物。 ふわふわで白くて甘くてにゅーっとして黒くて赤いの。 駄々をこねる雛苺のために、引きこもりのジュンが珍しく(ここ重要)外出して不死屋で買ってきたもの。 基本的にはいちご大福@現実と変わらないと思われる。 時系列順で読む Back 悪魔-The Devil- Next 彼と、追悼なる話(彼と対となるは、無し)(前編) 投下順で読む Back 悪魔-The Devil- Next 彼と、追悼なる話(彼と対となるは、無し)(前編) Back Next 罪と罰(後編) ヴァッシュ・ザ・スタンピード [[]] 罪と罰(後編) 水銀燈 [[]]
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百合CPの短編 分類はリバ含む。今まで多かったのだけ書いておくけどCP増えたら新たにページを作るといいとおもうよ。 百合じゃなそうなもの(友情物)とかもひとまずここに置いときます ・・・勝手にまとめてる人は分類に自信がないのでおかしいと思ったら言ってね? 蒼星石×翠星石 2 3 4 5 6 7 8 水銀燈×薔薇水晶 2 3 4 水銀燈×真紅 2 3 水銀燈×雛苺 水銀燈×蒼星石 2 3 薔薇水晶×真紅 真紅×翠星石 真紅×雛苺 水銀燈×雪華綺晶 水銀燈×薔薇雪 めぐ×水銀燈 2 3 薔薇水晶×雪華綺晶 のり×巴 巴×雛苺 みっちゃん×金糸雀 雛苺×金糸雀 雛苺×雪華綺晶 色々 2 上に行くほど新しく掲載・更新された作品です。 「百合女帝のり」 めぐとすいぎんとう 翠×雛の『マターリ歳時記』 図書館シリーズ 薔薇、雪華、メグの愛して銀様! 《かくて少女は痛みを乗り越える》 《かくて少女は痛みと共に進み行く》 めぐが色々な曲を聴いてるようです めぐ銀 『有栖川荘にいらっしゃい』
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部室の裏手側、学校を取り巻く金網に大きな穴が開いている。 建物が陰になり誰にも見つからずにジュンと水銀燈はその穴から 身をかがめるように抜け出す。 「僕、バイクに乗ったことないんだけど乗れるかな?」 「おバカさんねぇ、誰がジュンに運転しろって言ったの? ジュンは 私の後ろよぉ」 そう言うと水銀燈はバイクに跨り、キーを差し込むとセルスイッチを入れる。 途端に鉄の塊が目覚め大排気量の太い音でアイドリングを始める。 恐る恐るタンデムシートに乗るジュンの重さを感じると水銀燈は一言 「私の体に手を回したら殺すわよぉ~。 手はシートの前とカウルを 掴んでバランス取ってねぇ」 そう言うとクラッチをゆっくり繋ぎ走り出す。 初夏の街は眩しい太陽の光線とアスファルトから立ち昇る陽炎にも 似た淀みの中で交通の流れを優雅に泳ぐように走る黒いバイク。 うわぁー、ちょっ、これスピード出し過ぎぃぃ・・・。 ギアを1速上げ、手首をクンッと少し捻ると、顔を怖がらせたジュンを あざ笑うかのように加速していく。 濃い緑色の街路樹が瞬く間に目前から後ろへと流れていく。 スピードに慣れ出すと、ヘルメットのすき間から入ってくる初夏の風は 生暖かいが、どこか清々しく感じる。 そんな余裕が芽生える頃、バイクはスピードを落とし喫茶店の前で止る。 「どぉ? 気持ちよかったでしょー」 「う、うん、ジェットコースターに乗ってるようだったよ」 「ジェットコースター? フフフッ、真紅と同じこと言うのねぇ」 ジュンの言葉に笑いながら店に入り一番奥の席に座る。 その店内の壁にはたくさんのギターとバイクのパーツが飾られ、 ジュンと水銀燈が座った席の隣には大きなアンプが置かれていた。 へぇ~、カッコイイ店だな・・・。 店内をキョロキョロと見渡すジュンを見て含み笑いをこぼす水銀燈。 そこに水とおしぼりを持った二十歳後半の男が笑顔で現れる。 「おや、銀ちゃん彼氏を連れてくるなんて珍しいねぇ~」 「彼氏? ジュンが? ウフフ、同じ部活の仲間よ。 それより ギターを取りに来たわよぉ」 「あぁ、壊れた箇所も直ってるし、チューニングもバッチリだよ。 それはそうと、注文はいつものでイイのかい? えぇ~と彼氏は 何にする?」 「あっ、僕はアイスコーヒーで」 水銀燈の彼氏? 悪くない勘違いだなぁ~・・・。 男子の人気が高く、いつもセクシーで喋ると猫なで声、 そして笑顔は悪女が見せるそれを感じさせる。 そんな水銀燈の彼氏に間違われたジュンは少しテレ気味になり ながら、店員が持ってきた飲み物に思わず吹きだしてしまう。 「クックク、なんだよ、そのビックルって~」 「うるさいわねぇ~」 ジュンに笑われたのが恥ずかしかったのか、少し頬を赤くしながら 一口飲むと店員が持ってきたギターを受け取る。 水銀燈の口元は軽い笑みを見せながら修理が終えたばかりの ギターを構えて弦を弾く。 「どう、久しぶりの感触。 今の時間は客が来ないから 繋げてもいいよ。 でもボリュームは控えめになッ」 店員が横の置かれたアンプを指差す。 ニヤリと笑った水銀燈はアンプに繋げ1音づつ確かめるように音を出す。 アンプに近く、これといったセッティングもされていない為、やや雑音が 混じる音に笑顔になった水銀燈の指はじょじょに速くなっていく。 これがギター・・・。 何も無い空間に閃いて弾けていく音色はフレーズとなり ジュンの前で踊り出す。 すごい勢いで紡ぎ出されていく音の線に唖然となるジュン。 速いよ、でもこの音、なんだか柔らかくて優しいけど熱い、 これがギター? これがロック? これがスピード・・・? 「バイクがもたらすスピードとロックは同じ領域かしらッ」 そんな金糸雀の言葉が水銀燈の音色と共にジュンの頭を駆け巡る。 今まで当たり障りのない態度で過ごし、目立つことにどこかで恐れ ていたジュンにとって始めて体験したスピードと音楽の世界。 それは、あまりにも大きく、そして強く胸に入り込んでくる。 水銀燈の演奏が終わる頃には汗をかいた手は強く握り締められていた。 昼休みに帰ってきた水銀燈を見つけた真紅は、やや不機嫌な 表情で水銀燈に話しかける。 「授業をサボッてどこに行ってたの?」 「ローザミスティカよ~、ギターを取りに行ってたのよ。 どうしたの 真紅ぅ?」 「別に、バイクに乗って何時間も帰ってこないから心配しただけよ」 あれぇ、真紅ったらもしかしてぇ~・・・? 真紅の目付きと表情を見て水銀燈は少し悪女っぽい笑みを広げる。 その時、教室から出てきた金糸雀が声を掛けてくる。 「2人とも何してるのかしら? 早く部室でお昼にするかしら~」 「そうねぇ、私もうお腹ペコペコよぉ~」 「翠星石とジュンはどこに行ったの?」 「あの2人なら先に部室に行ったかしら~」 グラウンドを横切る形で部室に向かうジュンは両手にメンバー分の 缶ジュースを持たされている。 「さっさと歩くですよッ」 「なぁ、ちょっとは手伝ってくれよ~」 「ふんっ、オタク人間は女の子にジュースをもたすつもりですかぁ?」 まいったなぁ、真紅と同じ事を言ってるよ・・・。 苦笑いをしながらジュンは翠星石の後に続き、階段を登る。 その2人の姿を見ながらグラウンドを横切る真紅達。 「ちょっと歩くの早いかしら~」 「ほぉ~んと、なに急いでるのぉ? フフフ」 「えっ、そんなに急いでなんかないわ」 水銀燈と金糸雀の言葉に答えながら階段を上り、部室のドアを 開ける。 5人分の弁当を広げるのがやっとの長方形のテーブルでジュンと 翠星石は向かい合わせに座っている。 「ジュン、貴方は転校して間がないのだから授業はしっかりでないと いけないのだわ!」 「う、うん、ゴメン」 やや説教ぽく喋りながら真紅は小さなランチボックスをジュンの隣に 置くと、自然なしぐさで座り水銀灯が座った位置にある午後の紅茶を 指差す。 「その紅茶をとって頂戴」 「や~よ、欲しかったら席、変わるぅ? 私ぃジュンの隣で お弁当食べた~い」 水銀燈の発言にジュンは食べかけていたカラ揚げをノドに 詰まらせそうになり咳き込む。 真紅と翠星石は目を大きく開けて水銀燈を見る。 「ゴホッ、ゴホゴホ・・・・何ぃ?」 「なんですって?」 「な、な何、言ってやがるですかッ?」 「冗談よ~、冗談。 2人とも何ムキになってるのぉ?」 ウフフフッ、面白すぎるわぁ~・・・。 小さく笑いながら水銀燈は真紅に紅茶を渡すと隣に座る金糸雀の 耳元で囁く。 「私ぃ、こういう展開ってだーいスキよ~」 「何の展開かしら?」 「あら、金糸雀、見て解らないのぉ?」 そう言いながら水銀燈はジュンと真紅、翠星石の顔をチラッと 見ると、小さく肩を震わせて笑う。 なぜ水銀燈は笑っているのか理解できない金糸雀は不思議そうに 水銀燈を見ながらタマゴサンドを食べていた。 (1)へ戻る/長編SS保管庫へ/(3)へ続く
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超機動戦記ローゼンガンダム 第八話 からたちの歌 「どうだ?まだ編成には時間がかかりそうなのか?」 「ああ、まぁメイデンほど力のあるところは無難に遊撃になりそうだがな。都市に置いとくのは勿体無い。 ま、これからさらに忙しくなるんだ。ゆっくり休むのがいいだろう。」 ミーティングルームの通信で話しているのはJUMとべジータだった。 「そうだな・・・前回はどっかの誰かが乱入したおかげでーー」 「おおっとぉ!?会議にでなくては。それじゃあな、JUM。蒼嬢によろしくな。」 バチコーンと下手なウインクをしてベジータは回線を閉じた。 「やれやれ・・・てなわけで僕らはまだ時間ありそうだけど・・・どうしたい?」 「どうも何も・・・次に備えて休むといいのだわ。」 真紅が紅茶を飲みながら言う。 「翠星石も賛成ですぅ~。今度戦いが始まったら休み無しで過労死なんて真っ平御免ですぅ。」 「僕も・・・特に提案はないかな・・・」 翠星石と蒼星石も特にないようだ。ほかの面々もそんな感じだ。しかし・・・ 「だったらぁ・・・私少し行きたいところあるんだけどいいかしらぁ?」 そう言ったのは水銀燈だった。 「水銀燈がこんなトコ来たがるなんて意外ですぅ。もっと派手に遊ぶのかと思ってたです。」 水銀燈の頼みでやって来たのは東北の山奥だった。さすがにこんな山奥にはドッグがないので 最寄のドッグに艦を停泊させて車で来たわけだが。 「なかなか綺麗なトコなのだわ。JUM紅茶を淹れて頂戴。」 「うん、風流だね・・・JUM君、僕は日本茶貰っていいかな?」 「お前らな・・・全く・・・」 JUMが備えつきのポットで紅茶と日本茶を淹れ始める。 「JUM、ここは山道で揺れるからうっかりこぼさないようにね。」 車の運転をしてくれている雪華綺晶が言う。薔薇水晶は雛苺と金糸雀の抱きつかれたまま 少し寝苦しそうにお昼寝中だ。 「それで・・・僕も結構意外だけど水銀燈はここに何の用があるんだ?」 真紅と蒼星石にお茶を渡しながらJUMが言う。 「ん?そうねぇ・・・それは・・・見えてきたわよぉ。」 水銀燈が指を指す。その先には一つの病院があった。雪華綺晶が病院の付近に車を泊める。 「さて、私はここで薔薇水晶達と待機しているよ。まぁ、寝ているが・・・どうも病院が苦手でね。」 雪華綺晶が言う。 「つゆーか、僕達は付いて行かないでもいいんじゃ・・・・」 水銀燈に付いていきながらJUMボソッとが言う。 「そうね・・・でも興味はあるでしょう?水銀燈が何の用か・・・いいじゃない。来るなとは言ってないのだわ。」 真紅がJUMに向けて言う。水銀燈は気にせず病院へ入っていった。 JUM達が病室に入ろうとする。ドアにかけてあるプレートには「柿崎めぐ」とかかれてあった。 「はぁい、めぐ。元気にしてたかしらぁ?」 水銀燈が中に入るとJUM達も一緒に入る。室内に居たのは長い黒髪の少女でどこか儚い感じを思わせる。 そのめぐと呼ばれた少女は水銀燈を確認するとベッドの上でにっこりと微笑んだ。 「この子達はメイデンの仲間よぉ~。せっかくだからめぐにも紹介しようと思ってねぇ。」 水銀燈がJUM達を紹介していく。真紅の紹介のときに余計な事をいい軽く喧嘩になりかけたが。 その中で、JUMはめぐという少女に違和感を感じた。何かがおかしい・・・ 「ふふ、めぐぅ?ちゃんと先生達の言う事聞いてたぁ?あまり困らせたらダメよぉ?」 水銀燈の言葉にコクリと頷くめぐ。JUMはそこでようやく違和感に気づいた。 「水銀燈・・・もしかしてその子、声が・・・?」 「ええ、そうよぉ・・・戦乱でちょっとねぇ・・・でも大したことないわぁ。ね、めぐ?」 JUMの言葉に水銀燈が返す。するとめぐは机においてあったスケッチブックを取ると字を書き出した。 『声がでなくても、文字がかける。気持ちは伝わるよ。』 めぐはJUM達にスケブを見せながら微笑んだ。 「そう言う事よぉ。私達には声なんて問題じゃないもの・・・めぐが生きてるだけで・・・それだけでいいのぉ。」 水銀燈は椅子に座るとお見舞い品のリンゴを剥きながら話してくれた。 私はねぇ、戦災孤児だったのよぉ。アリスの乱でねぇ、親を失って孤児院に拾われたのぉ。 そこでめぐに出会ったの。きっと似たもの同士、惹かれあったんでしょうねぇ。私はその時理不尽に親を 奪われた事で世の中全てが気に入らないって感じだったなぁ。めぐもそうだったのよぉ?今はこんな大人しくて 私は清楚です、みたいな顔してるけどぉ。全てを失った私とめぐはお互いを手に入れたわぁ。 親友を、そして姉妹を。それ以来私達はめっきり大人しくなったの。不思議なもので心が 落ち着くと孤児院のみんなまで愛しくなっちゃったわぁ。ああ、みんな仲間なんだって・・・家族なんだって。 でもねぇ・・・戦いは終わらなかったわぁ。戦火の炎はついに人里から離れた私達の孤児院にまで 飛んできたのぉ。飛び交う銃弾は家族を、燃え盛る炎は家を、そして戦いは再び全てを奪っていったわぁ・・・ そんな中で私はめぐと一緒に逃げたわぁ。でも、子供が逃げれる所なんて知れてる。 崩れ去る孤児院に、私とめぐは埋もれちゃったのぉ・・・でも、何日かたった後、救助作業にきた レジスタンスが助けてくれたわぁ。奇跡的に私とめぐは生きていたのぉ・・・いい間違い。私とめぐしか・・・ 生きてなかったわぁ。生きてはいたけど、私もめぐも深い傷を負ったわぁ。体にも心にも。 私は・・・今はもう傷跡はないけど腹部が結構やばかったらしいわぁ。 めぐは・・・見ての通りよぉ。当時はもっとひどかったらしいけどぉ。傷は消えたけど声だけは戻らなかったわぁ。 それから私はメイデンに入ったのぉ・・・私達みたいな子を出さないために・・・ 「・・・水銀燈にそんな事があったですか・・・何で今まで話さなかったですか?」 「まぁ、メイデンのメンバーだって同じようなもんでしょう?取り立てて不幸自慢するほどじゃないわぁ。」 水銀燈が剥いたリンゴをシャリっといい音を立てながら食べる。 「・・・さて、私達はそろそろお暇するのだわ。水銀燈、あなたはもう少しいるといいのだわ。」 真紅がJUM達を促して部屋を出て行く。そして、部屋の前に真紅は張り付いた。 「真紅・・・何をしているの?」 そんな真紅に蒼星石が言う。 「ははぁ~ん、分かったですぅ。確かにそれは興味あるですぅ♪」 翠星石も同じように張り付く。すると中から声が聞こえてきた。 「え?仲間をどう思ってるかですってぇ?そうねぇ・・・真紅はあのまま五月蝿い貧乳ねぇ。」 水銀燈の声に真紅が拳を振り合げて中に入ろうとする。 「でもぉ・・・あの子ほど背中を預けられる子いないわぁ・・・翠星石はおばかさんで、蒼星石は少し堅物 だけど、仲間を思いやる気持ちは誰よりも強いわぁ。今日は来なかったけど他のメンバーもとっても いい子ばかりだわぁ・・・ふふ・・・何だか孤児院を思い出しちゃうわぁ・・・だから、今度こそ守るわぁ。」 ドアに張り付いていた真紅と翠星石が離れる。 「ふふっ、無粋だったね。ほら、行こう?」 蒼星石が促す。みんなもそれに続いて病室を後にした。 『水銀燈、JUMさんは?』 「JUM?ふふ、そうねぇ・・・見た感じは頼りなさそうでしょう?でも、あれでいい男なのよぉ?」 『そうなんだ。好きなの?』 めぐの質問に少しだけ、ほんの少しだけ水銀燈は顔を赤くすると言った。 「そうねぇ・・・好きよぉ。きっと・・・」 『ふふ・・・水銀燈は可愛いね。』 すると水銀燈はますます顔を赤くした。 「全く、めぐったら、いつの間に私をからかえる身分になったのかしらぁ?」 水銀燈がめぐのおでこを小突く。めぐは嬉しそうに笑うと少しだけ眠そうにする。 「あら・・・そろそろ眠る?私もお暇しようかしらぁ。」 『うん・・・でも、今日は私が眠るまで側に居て欲しいな。』 水銀燈はその文字を見ると優しく微笑むと椅子に座りめぐの手を握った。 『歌・・・歌って欲しいな。』 「ふふ、まるで子守唄ねぇ・・・いいわよぉ。お休み、めぐ。」 水銀燈はめぐの髪を撫でると、優しい声で歌いだした。 ♪からたちのとげは痛いよ 青い青い針のとげだよ ♪ 「そう、水銀燈にそんな事が。」 一足先に車に戻った真紅たちは雪華綺晶や昼寝から起きた薔薇水晶達に今日のことを話した。 「銀ちゃん・・・何で今まで・・・話してくれなかった・・・んだろう?」 「うゆ・・・雛達水銀燈に信用されてなかったの?」 「水銀燈も水臭いかしら・・・」 落ち込む三人。しかし、翠星石がそれを否定する。 「それはちげーですよ。逆を言えば水銀燈は翠星石達を認めたから話してくれたですよ。 だから、やっぱり今日のことはよかったですよ。」 「そうだね・・・辛い事はあまり話したくないもの。それを水銀燈は話してくれたんだもん。」 蒼星石もそれに同意する。程なくして水銀燈が戻ってきた。その水銀燈に真紅が近づいていく。 「おまたせぇ。あらぁ?真紅どうしーーー」 次の瞬間に真紅は水銀燈に抱きついた。そして、しばらく抱きしめた後離れる。 「え・・・え・・?な、なによぉ?真紅ぅ?」 「何でもないのだわ。ただ、抱きしめたくなっただけだわ。」 真紅はそういうと照れ隠しなのかそっぽを向いて言った。こうして彼女らは少し絆を深めると 再び戦いに赴くのだった。 艦に戻ると巴が報告を入れて来る。 「桜田君、SAIYAから通信が入ってたよ。」 「ああ、つないでくれ。」 通信が繋がる。するとべジータが映し出される。 「JUM、編成が決まったぞ。やはりメイデンは遊撃だな。日本中を飛び回り隙あらば他の地域を 攻撃に出てもらうらしい。」 「ま、そうだろうな。しかしまぁ、随分適当だなぁ。」 「仕方なかろう。とりあえずメイデンの戦力に期待してるってこと・・・!?JUM!早速だぞ。 アリスがセンダイシティを攻めそうらしい!急行してくれ!」 「センダイだな。分かった!それじゃあまたな!」 JUMは通信を閉じると巴に艦内放送を開かせる。 「これよりメイデンはセンダイシティでアリスを迎え撃つ!各員、抜かるなよ!」 こうして、メイデンは新たな戦場へ飛び立っていく。 次回予告 センダイシティを攻めるアリス軍。その指揮隊長は何とJUMの学生時代の教師、梅岡だった。 新型の隊長機を乗りこなし本人は全く意図しない精神攻撃でJUMを苦しめる梅岡。果たして戦いの行方は。 次回、超機動戦記ローゼンガンダム トラウマ 倒すべき敵 打ち倒せ薔薇水晶!
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医師により緊急処置を施されたメグは酸素マスクを曇らせながら 静かに眠っている。 窓を塞ぐカーテンの隙間から夜明けを告げる太陽の粒子が病室を淡く 照らすと壁に立てかけられたギターがシルエットとして浮かび上がっていた。 そのギターの影が時間の経過と共に少しづつ移動し、時計の針が午前から 午後になる頃、メグはようやく意識を取り戻した。 (私はどうしたの?ここは?何をしてるの?) 目覚めたばかりのメグは記憶と意識の混乱で今の状況が掴めない。 そこに面会謝絶のフダを無視し、水銀燈が入ってくる。 「メグぅ、メグぅ!!」 自分に声を掛けているのが昨日、会ったばかりの水銀燈だとメグは かろうじて覚えている。 「す、水銀燈・・・」 酸素マスクをした声は聞き取りにくく、水銀燈はメグの口元に横顔を近づける。 「来てくれたの、水銀燈・・・私、覚えてるわ・・・貴女は大切な友達」 「そうよ、私は水銀燈よ。メグ、大丈夫なのォ?」 ほとんど力のない腕を動かし水銀燈の頬を触る。 「ありがとう、私は大丈夫・・・ねぇ、水銀燈。私・・・夢を見たわ」 意識を失いながらもギターを手放さなかったメグは深い記憶の奥底で多くの 場面を見た。 それはまるで壊れた映写機からスクリーンに映し出されるスライドのように 見える場面は、決まって数年前に交わされた水銀燈との約束であった。 無くしたはずの記憶の断片、しかしメグを支えてくれた人々の呼びかけに 答えようと必死で闇の奥底から這い上がってくる。 そんな葛藤の末に掴んだひとかけらの記憶と、思い出を失わぬように心と 強い精神力で繋ぎとめていた。 「約束は・・・きっと守るわ、水銀燈・・・」 頬にあてられたメグの冷たい手に自分の手を重ねる水銀燈。 「あたりまえじゃないィ~。勝つのはァ、私だけど、メグとのギター 勝負は楽しみにしてるわぁ」 水銀燈の言葉に酸素マスクの中でかすかに笑うメグ。 その時、水銀燈の携帯電話が着信を知らせる。 「ゴメンね、メグぅ。これから仕事なの。終わったらすぐに来るからぁ~」 そう言うと水銀燈は酸素マスクの中で微笑むメグの頬にそっと 口付けをして病室を出て行った。 ドアを閉めながら手を振る水銀燈にメグも力のなくなった腕をゆっくり と上げて見送る。 静かに閉じられる病室のドア、それは開きかけていたメグの記憶のドアも 同じように静かに閉じられようとしていることに水銀燈とメグはまだ 気付いていなかった。 * 水銀燈は病院でタクシーを捕まえるとPVの撮影が行われるスタジオに 向けて走り出した。 「ねぇ、どうだったのメグの様子?」 水銀燈がスタジオに到着すると心配そうな顔つきの真紅達が集まってきた。 「どうにか大丈夫そうよ、それに発作の後でもォ、私の事を覚えていて くれたわァ~」 水銀燈の言葉に真紅達も安堵の笑みが広がる。 「メグは病気なんかには負けないの~、きっとヒナ達のことも 思い出してくれるの~!」 「チビ苺にしてはいいこと言うですぅ~」 「私・・・メグさんのギターを・・・また聴きたいな」 「そうね、きっとすぐにメグはみんなの事を思い出すわ。そして 元気なメグのギターも聴けるはずよ」 真紅は祈るような気持ちで言った言葉に水銀燈達は力強くうなずいた。 * その後、薔薇乙女はPV撮影を撮り終え、控え室でお茶を飲んでいた。 その控え室のドアをノックする一人の女性がいた。 「誰か来たかしら~」 金糸雀がドアを開けると、そこには白いドレスを身に着けた巴がいた。 「巴ぇ~、ひさしぶりなの~」 巴に飛びつく雛苺を優しく受け止め、雛苺の頭をなでる。 「雛苺はいつも元気ねぇ」 「こんにちは、巴さん。そのドレス姿は素敵だね」 蒼星石は巴にお茶を煎れながらニコリと笑った。 「あぁ、このドレスはCM撮影の衣装よ、さっきスタッフに薔薇乙女が このスタジオに要るって聞いたから顔を出しにきたの」 「へぇ~、CM撮影なんだ。巴さん、順調そうだね」 偶然とは時として重なるもので巴と薔薇乙女が控え室で話していると、 4回ほどノックの音が聞こえたと同時にドアが開き目をキラキラと 輝かしながらノリとミチコが入ってきた。 「こんにちは~、あっ、巴もいたの。きゃ~、みんな久しぶりねぇ~」 「こんにちは金糸雀」 「ノリにミッちゃんかしら~、今日はどうしたのかしら?」 「私とミッちゃんね、声優さんでこのスタジオに来たのよ、そうしたら 薔薇乙女って書いた紙がドアに張っていたから顔を出してみたの」 「声優?何の声優かしら?」 「ホラ、今すごい人気がある、くんくん探偵って番組。あれの劇場版 の声優さんになったのよ~。ねぇ、ミッちゃん」 ノリの発言に飲みかけの紅茶を噴出すいきおいで真紅は大声を出す。 「貴女達、くんくんの声優に選ばれたの!?」 「あれ、真紅ちゃん、くんくん好きなの?じゃぁ、これ要る?」 ミチコはそう言うと紙袋から劇場版くんくん探偵の非売品ポスターや マグカップなどのノベルティーグッズを出してきた。 「あぁ~、あぁ~、素晴らしいのだわ」 目をトロ~ンとした表情でミチコから手渡されたグッズを机に並べて 眺める真紅。 「こんな真紅を見るのは初めてですぅ~、目が完全にイッてるですぅ」 真紅の表情に控え室にいる薔薇乙女と巴、ノリ、ミチコは楽しく笑い出すと、 その笑みと笑い声は柔らかく控え室に充満していく。 それはまるで無くした時間が巻き戻り、あの頃の薔薇乙女とラプラスが 一緒の時間の中ですごした頃を思い起こさせていた。 ただ、今のこの場にメグとオディールがいないのを除いて。 * 容態が安定したメグは酸素マスクを外されるまでに回復したが脳を蝕む 病魔は脳の神経組織を破壊し下半身が麻痺しだしていた。 (足が動かせないのが何なの!腕さえ動いたらギターは触れるわ、 もう一度、あの感覚を・・・) メグはベッドから落ちるように床に這いつくばり壁際に立てかけられている ギターに近づく。 「うぅ~、もうすぐ手が届くわ」 衰弱した体で病室の床を腕の力だけで這っていくメグ、その無様とも取れる 姿の奥底には誰にも負けない強い気持ちが見えた。 それは無くした自分自身を取り戻そうと必死で戦うメグの姿であった。 震えるメグの指先がギターのボディーに触れると、立てかけてあるギターが バランスを崩し床に倒れ、ネックにヒビが入る。 「この中に私がいるの、この音の中に忘れた私がいるの」 メグはそう言葉に出しながら倒れヒビが入ったギターを抱きしめる。 その細い腕は定期的に訪れるミオクロニー発作から脳の前頭葉から起こる 複雑部分発作にいたっていた。 激しく痙攣しだし、自分では制御できない体の動きは抱きしめるギターを 大きく揺さぶっていた。 「何よォ、もう少しで自分が掴めそうなのにィィィ!!」 メグは涙を瞳に貯めながら自分の体を呪うかのような声をだす。 その大声に看護婦が急いでメグの病室に駆け込んできた。 そこで見たのは痙攣しながらもヒビの入ったギターを抱きしめ、 涙を流し床で意識を失っているメグの姿であった。 その流した涙と共にメグの記憶と思い出の全ては無残にも 流れ出し、消えてしまっていた。 * 「ねぇ、メグ?メグ?」 「・・・」 「メグぅ、私よ、水銀燈よ」 「・・・?」 あの発作の後にも数回ほど小さな発作を起こし、メグの記憶障害と 下半身の麻痺は悪化の道を辿っていた。 ただ、医師による的確な投薬治療なのか、メグ自身の生きる力が勝ったのか 発作の回数は激減し車イスでの行動などは許されるまでになっていた。 しかし、その代償にメグには水銀燈の記憶も残ってなく、感情すら 失いつつあった。 そんなメグは1週間後、両親が迎えに来ることになっていた。 自宅で介護を受けながら地元の病院で治療を行う話になっていたのだ。 こうしてメグと会えるのは後1週間。 「わだじの おみまい ぎてくれてありがとう・・・?」 「水銀燈よ、私はメグの友達の水銀燈よ」 「ありゅ、がとう、水銀燈ざん・・・」 すでにはっきり言葉を発音できないメグを水銀燈は強く抱きしめた。 今や絶大な人気を誇る薔薇乙女の過密なまでのスケジュールのため、 こうしてメグと会えるのが最後になるかもしれない水銀燈は、そっと メグの耳元に顔を近づけて囁く。 「ねぇ、メグぅ。私は、待ってるからァ~。約束の場所で待ってるからァ」 「約束の場所」 その言葉にメグの瞳に一瞬だけ輝きが見えた気がしたが、すぐに元の表情 に戻ってしまった。 「今、メグは帰っていったよ」 「そう・・・メグは元気そうだった?」 「うん、痙攣や発作は落ち着いてきたみたいだけど、記憶のほうは・・・」 「そう。えっ、解ったわァ、今いくわァ~。ゴメン巴、ラジオの公開収録が 始まりそうなのよ」 「うん、水銀燈も忙しいだろうけど体には気をつけてね」 水銀燈との電話を切る巴は故郷に向かうメグを見届けたノリ、ミチコは 言葉数少なく有栖川大学病院の前にいた。 いつしか秋から冬に変わりつつある東京の鉛色をした空から小雨が 降り出し、巴達の肩を濡らし始めていた。 (12)へ戻る/長編SS保管庫へ/(14)へ続く
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蒼星石とレンピカその1 蒼星石とJUMその1 水銀燈と雪華綺晶と薔薇水晶その1 水銀燈と雪華綺晶その1 水銀燈とJUMその1 水銀燈と薔薇水晶
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小さな町の 小さな病院の 小さな病室で 小さな小窓から 小さな景色を観ている女の子がいました。 銀:こんにちは、メグ 長くて銀色の髪の女の子がとびらをあけて入ってきました メグ:うん だけど呼ばれた女の子はからだを動かさないで返事をするだけです 銀:きょうはね、学校の給食でヤクルトが出たんだよ 銀の髪の女の子は話しはじめます けど、メグと呼ばれる女の子はあんまりおもしろくなさそうです メグは外のことを楽しそうに話す女の子がうらやましかったんです 銀:メグはきょう何を食べたの? 銀の髪の女の子は決まってお話を始めると途中でメグにお話をふります メグ:野菜を煮込んだものとご飯、味はしなかったわ メグはそっけなく言います 銀:そっか、あのね給食ってとっても美味しいんだよ元気になったら一緒に食べようね 銀の髪を揺らしながら少し声を大きくして言います メグは心臓に重い病気をもっていて病院の中から出たことがありません だから、給食を食べたことがなかったのです めぐ:別に食べたくないよ、水銀燈と違って私は食いしん坊じゃないから 水銀燈と呼ばれた女の子は少し目を曇らせましたけどニコっと微笑むと ランドセルの中から丁寧に袋に包まれたパンをとりだしました はい、どうぞ と言いながらメグに渡しました 銀:このパンね私の大好物なんだ、だからメグにも食べてほしかったの パンはこんがり小麦色に焼けていてクルクルと巻かれていました まるでメグの三つ編みみたいだね というとメグは少し頬を膨らませます メグは左右の髪に小さな三つ編みをしていて水銀燈はそれがメグにすごく似合っている からその三つ編みが好きでした メグ:砂糖ばっかりでからだに悪そう パンには白い砂糖がふんだんにかかっていました 病院で食事をしているメグは甘いものをほとんど食べたことがないからほんとうはすごく 嬉しかったのです 銀:そんなことないよ、まるで雪が降ったみたいで綺麗でしょ とっても美味しいんだよと、水銀燈が言おうとしたよりも早くメグは言いました メグ:雪はただ白いだけで全然綺麗じゃないよ、窓の外の景色が白くて見えなく なっちゃうだけだもん メグにとって雪は部屋の中が寒くなって周りの景色が消えてしまうだけのものでしかないのです 銀:そうだよね…でもねそのパンは美味しいんだよ さっき言いそびれたことを言って話を換えます 水銀燈はほんとうは大好きな雪についてもっとお話したかったんだけど それはメグがお外で遊べるようになるまでの我慢にしました 水銀燈が食べてみて、と言うとグ~とお腹がなりました 銀:あ、…えへへちょっとお腹空いちゃったかな 持ってきたパンはほんとうに美味しくて いつも学校で余らないのです、だから水銀燈は自分の食べる分を我慢してメグに持ってきたのでした メグ:わざわざからだに悪いものを我慢して持ってきたのね 水銀燈は違うよと否定します そんなことはメグも分かっています 自分に美味しいパンを食べさせたいという水銀燈の気持は分かってるんだけど メグは皮肉を言ってしまいます ほんとうはこんなことを言いたくはなかったのに 自分の言いたいことがなかなか言えません メグ:じゃあ半分こね、私が全部食べたらからだに悪いから水銀燈が残りを食べて そういうと水銀燈は目を輝かせて笑って“ありがとう”と言いました チクンとメグは胸が痛みます 病気だからじゃありません ほんとうは自分が言いたかったことなのに、お礼を言うのはこっちなのに、 なんだか悲しくなってきました 銀:いただきまーす もぐもぐと食べている水銀燈を見ながらメグもパンを口に運びます いままで食べたことがないような口いっぱいに広がる甘い幸せを感じながら ほんの少しだけ半分こしたのをもったいなかったと思いました でもこんなに美味しいものを水銀燈と一緒に食べることができて めぐは幸せでした 誰かと食事をすることがないメグは誰かと一緒に食事をするのが嬉しかったのです 銀:ごちそおさま、ねえメグ美味しかったね 満面の笑みで感想を口にする水銀燈を見てメグはこころの中で“ありがとう”をして メグ:甘すぎ とだけ言うのでした
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………まさか、あの距離からこのスピードに追いついたの? 並んだ水銀燈を横目で見ながらめぐはギアチェンジを行い突き放しにかかると、 水銀燈とめぐとの差は5mほど開く。 しかしその差は先ほどとは違い大きく開くことなく距離を保ったまま水銀燈は 追尾してくる。 そのまま2台は一般車を避けながら走ると大きなカーブが表れる。 信じられない速度で2台はそのカーブに突入していく。 「こちらヌーノです、ローゼンがブルーRの真後ろに付いたままカーブに 突っ込んでいきます……おぉぉぉ~ヤッたかぁぁぁ!!」 「どうしたぁ~!事故ったのか? おい、2台はどうしたんだよ?」 「フルカウンター切ってます、真横を向いたままカーブを抜けていきました。 ローゼン立ち上がりでケツ振ってます、コケそうです……いや、持ち直したぁぁー! ヤバイです、ブルーRも凄いけどローゼンがヤバイくらいの勝負を仕掛けてます!!」 流れたリアを持ち直すと水銀燈はニヤリと笑い、アクセルを開ける。 膨大な回転から生まれるトルクが路面を伝わりフロントが数十センチほど浮く。 200キロを超えるスピード域でのサーカス。 それは鋭利なカマを手にもつ死神とのダンス。 1秒後は死の宣告をうける領域でのライヴ。 ―――果てなく煌いて広がっていく音速の音色 ―――輝きが生まれるその瞬間に見える風の音色 ―――スピードの中で閃いて紡ぎ出される永久の音色 それら全てが混じり重なりメロディーとなって水銀燈の中で踊り出す。 その音色がもたらす輝きに身を任せるように水銀燈はZX-10Rを操る。 「凄ぇ~、オレ、こんなの見たこと無ぇよ………」 「どうした?解るように実況してくれwww」 「スマン、実況つーっても解らないかもしれないが……踊ってます!! ローゼンのニンジャが踊ってますッ!! 先ほどの差は全くありません。 ブルーRと平行して走ってます。ローゼンが抜きそうですッ!!」 ………なぜ? どうしてこのGT-Rに付いてこれるの? 月明かりに輪郭だけが浮かんでいたスプーランドの観覧車がどんどん近付く。 それはゴールである有栖川大橋が近づいてきた証拠である。 あと1つ、そのゴールまでには後1つだけ大きなカーブがある。 そのカーブで並んだ水銀燈を突き放して逃げ切る作戦をめぐは考えていた。 水銀燈とめぐは猛スピードで大型トラックとステーションワゴンを追い抜くとカーブが見えた。 そしてその向こうにはゴールの有栖川大橋がある。 「あのカーブで差をつけてやるわッ!!」 そう声に出しためぐは真横を走る水銀燈を確かめるように見ると、声を無くしてしまう。 ………えっ、笑っているの? どうして? この速度が怖くないの? 目前に迫るカーブを前にしても水銀燈はスピードを緩めることなく走る。 その顔には恐怖など微塵も感じさせない軽やかな表情が見てとれた。 まるで優しい何かを聴いているような、そんな爽やかな顔付きを感じた めぐの脳裏に不意に浮かび上がる妹の笑顔と言葉。 ―――スピードが上がると風の中から歌が聴こえそうになるよ ―――きっと風の中にはステキな歌があるんだね ………薔薇水晶……あっ、しまったわぁぁぁ!! ほんの一瞬だが集中力を失っためぐの目前にカーブが現れる。 横を走っていた水銀燈はいつの間にかインを取り、車体を寝かせて 在りえない速度でカーブを抜けていく。 ………クッ、抜かせないわッ あせるめぐもハンドルを切りカーブを抜けようとするが、薔薇水晶の言葉と、 横をスリ抜けていく水銀燈に判断力が遅れた。 その一瞬の遅れがハンドリングを狂わしてしまう。 「やべぇwwwwブルーRが膨らんだぁぁぁー!!ぶつかるぞー!!」 カーブで膨らんだブルーRはそのまま側面を高速の壁に接触すると、反動で3回ほど スピンしながら左のフロントを高速の壁に叩きつけるようにしてぶつかる。 「やってしまったwwwブルーRが事故ったー!! 大丈夫かブルーR」 「なにぃぃー、事故ったのか? どんな状況だよ?」 「膨らんで壁に接触、そのあと派手にスピンして左フロントから壁に ぶつかりましたー、えっ、あぁぁ、動くぞ、ブルーR、まだ諦めてないー、 走ります。ブルーR、ローゼンを追いかけだしましたwww凄ぇぇぇ!!」 スピードが出ていたとはいえ側面が接触したさいに速度はある程度緩められ、 その後のスピンから左フロントも当たった角度がよかったのか大きな破損は 見えなかった。 ………まだ、まだ動けるわッ、あんなバイクに負けるわけには… 素早くギヤチェンジをし、アクセルを踏み込む。 キズを負ったモンスターは息を吹き返したように走り出す。 「うわぁぁ、凄ぇ、ブルーRがゼロヨン並みの加速をかけたぁぁー!! ローゼンに追いついていくwww ゴールはもうすぐだ~、どっちが 勝つのか解らねぇぇぇー!!」 ゴール地点である有栖川大橋の側道には多くの人達があつまり バトルの決着をまっている。 ローゼンと呼ばれる水銀燈が操るZX-10Rと推定900馬力以上のブルーR。 その2台が放つエクゾーストノートが夜明けが始まった空に響き渡る。 「おい、聞こえてるよな、あの音」 「あぁ、どっちだよ、どっちの音が先行してんだよ?」 「だんだん近付いてくるぞ、決着が近いぞ!!」 一人の男は2台の咆哮を耳にしながらタバコをくわえ左手で風を遮るように 火をつけようとジッポーライターを着火させる。 フッ―――――――えっ? 男の目を眩しいヘッドライトが照らしたと同時に一陣の疾風が駆け抜けていくと 着けたばかりの炎が一瞬にして消える。 夜明けが近い空は東から薄い紫が広がり出している。 9月最初の太陽が海から顔をだすと、その陽光は強く眩しいばかりの 輝きをもってZX-10Rの上で高く腕を突き上げた水銀燈を照らし出す。 「ローゼンだぁぁぁぁぁ!!」 「来たぁぁ、ローゼンガールのニンジャが勝ったぁぁぁ!!」 路肩から大勢の人々が駆け抜けていく水銀燈に手を振りながら歓声を上げ、 止めている車からは祝福のファンファーレとばかりに鳴らされたホーンが こだまする。 ………あぁ、スピードの中にあるフレーズに近づけたわぁ 歓声とホーンが渦巻く有栖川大橋で水銀燈は送れてたどり着いたブルーRを確認すると、 3回ほどエンジンを吹かし大きくフロントを持ち上げて観衆の中を駆け抜けていった。 「おぉ~いッ、こちらチーム深紫のリッチーです。誰か通報したのかパトカーが 4台くらい有栖川大橋に向かってるのをキャッチしたwww 祭りは終わりだぁ~みんな散れwww」 「やべぇ、みんな解散だぁ! 警察が来んぞォ、散れ散れぇ~!!」 バトルを実況していた走り屋からの情報がギャラリーに行きわたると、 路肩に止まっていた車やバイクは逃げるようにその場を後にした。 * 一番近いインターから下道に下りためぐは車を止めて窓を開ける。 9月最初の夜明けが連れてきた風がフワリと入ってくると長い黒髪をなびかせる。 ―――ふぅ~ ハンドルに額を乗せるようにうつむきながらシートベルトを外す。 一気に緊張感がめぐの体から抜けていく。 「ヤラれたわね、でも次は…」 そう呟くめぐの頬に冷たい感触が伝わる。 ハンドルに顔を埋めていためぐは驚きながら横をむくと、そこには冷えた コーヒーをもった水銀燈が立っていた。 「派手にぶつかったみたいだけど、ケガでもしたのぉ?」 「ふんッ、このコーヒーは勝者の余裕のつもり?」 「べぇ~つにぃ…」 水銀燈はそう言いうと顔を空に向け、昇りだした太陽の光に目を細めて 缶コーヒーのプルタブを開けて一口グイッと飲む。 それを見ていためぐも同じようにコーヒーを乾いたノドに流す。 そしてゆっくりと水銀燈に話し出す。 「貴女、あの距離からどうやって追いついたの? それにあのスピード の中で笑っていたわね? どうして? 死ぬかもしれない速度の中でどうして笑っていられるの?」 めぐの予測もしない質問に水銀燈はしばし考えるように視線をブルーRの 後ろに止めたZX-10Rに向ける。そしてニコッと笑うと背伸びをしながら言う。 「最高の音楽を聴いてる時って笑うでしょ~」 「最高の音楽? ちょっとフザケてるの? 私が聞きたいのは…」 「あぁ~ら、ブルーRさんには聴こえないのぉ? スピードの中から 生まれる最高のフレーズが、ウフフフ」 「スピードの中から生まれる…フレーズ?」 「そうよぉ、貴女もそぉんな速い車に乗っていてバンドもしてるから 探していると思っていたわぁ~」 めぐは水銀燈の話を聞くと以前に薔薇水晶が言っていた言葉を小さな声で呟く。 「スピードが上がると風の中から歌が聴こえそうになる……」 「なぁ~んだ、貴女も解ってたんじゃないのぉ~フフフ」 そんなめぐの呟きを聞いた水銀燈はフッと軽く笑いながら背を向けて ZX-10Rに跨るとヘルメットを手にする。 「ちょっと待って!!」 「やぁ~よ、バトルの申し込みなんでしょ~?私はこれでも学生よぉ 今日から学校が始まるの。貴女の相手をしてるヒマなんてないわぁ。 じゃぁ~ねぇ」 そう言いと水銀燈はエンジンを始動させ、めぐの横を通り過ぎていく。 そんな水銀燈を目で追いかけながら小さな声で笑いが込み上げてくる。 「フッフフフ、私の完敗だわ。まさかあの子と一緒の世界をローゼンが 見ていたなんて……スピードの中から生まれるフレーズかぁ…フフフ」 笑いながらめぐはダッシュボードに置かれた薔薇水晶の写真を見る。 そして水銀燈が差し出したコーヒーを口にすると、その味は少し爽やかな 涙の味がした。 「おはようジュン」 「おはよ~ですぅ、ジュン」 「皆々様、おはようかしらぁ」 「あぁ、おはよう」 新学期が始まりそれぞれが校門をくぐりながら挨拶をする。 ジュンと真紅達は有栖川神社でのライブ映像を部室で見ようと 教室に入らずにそのまま校庭を横切り部室に向かう。 「なぁ、空き地に水銀燈のバイクがあったけど教室にいるのか?」 「さぁ、どうかしら? 翠星石、金糸雀、貴女たち水銀燈を見た?」 「翠星石は見てねぇですよぉ、でも水銀燈がこんな早く学校に来るのは 珍しいですぅ」 「カナも見てないかしらぁ、さっきから電話してるのに出ないかしら~」 部室のドアをひらくと、そこにはライダースーツを着たままの姿で寝息を 立てている水銀燈の姿があった。 「まぁ、水銀燈。こんなところで眠っていたのね」 「また夜通しバイクで遊んでたのかしらぁ?」 「行儀が悪いですぅ~」 机に頬を乗せて静かに寝息を立てている水銀燈の寝顔はどこか幼く見え、 そして楽しい表情にも見えた。 「ははっ、思いっきり眠っているよ、なんだか起こすのカワイソウだな」 「そうね、ライブ映像は水銀燈が起きてからみんなで見るのだわ」 「まったく水銀燈は不良娘ですぅ~でも寝顔が少しカワイイからこのまま 寝さしてやるですよッ」 ライブを撮ったDVDを机の上に置くと、ジュンと真紅達は音を立てないように 部室を出て行った。 ―――すぅ~すぅ~ 静かになった部室では水銀燈の寝息だけがゆるやかに流れている。 そんな水銀燈の寝顔からは深夜から明け方にかけての激しいバトルを 繰り広げてきたことなど想像できない。 ―――閃きと輝きが交差する領域で奏でられる最上の音色 ―――風が奏でる世界、その領域にある音を私は掴みたい。 ただ、時折きこえる寝息交じりの小さな微笑は恐らくあの領域で感じ、 そして掴んだフレーズを夢の中で聴いていることは容易に想像できた。 (10)へ戻る/長編SS保管庫へ