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『春の夜は……』 日一日と暖かさを増す春先の風に、はらはらと、花びらが舞い落ちる。 花を咲かせているのは、水銀燈の家の庭に、一本だけある桜の古木。 今夜は二人で夜桜見物。 桜の根元にビニールシートを敷いて、未成年の二人は密かに、酒を酌み交わしていた。 水銀燈が持ち出して来たのは、口当たりの良い、サクランボのリキュール。 ジュースやスナック菓子だけの筈が、つい、酒に興味津々となって飲み始めてしまった。 二人の頬も、すっかり桜色に染まっている。 「今年も綺麗に咲いたわね、この桜」 「去年は毛虫が大量発生したんだけどぉ、枯れずに済んで良かったわぁ」 この古木は、二人が子供の頃から、こうして花を咲かせてきた。 そして、二人して質素な花見をするのも、子供の頃からの慣例だった。 調子に乗って、木の高い枝まで登って降りられなくなったり―― 折れた枝ごと落ちて、おしりに蒙古斑みたいな青痣を拵えたり―― 今となっては笑い話だが、本当に、いろいろあった。 「真紅ってば、幼稚園の頃に『花咲か爺さん』の真似して、灰被りになってたっけぇ」 「ふふ……そうそう。撒いた途端、向かい風が吹いて、ね」 「灰被りと言ったら『シンデレラ』だけどぉ、真紅はぜぇんぜんダメねぇ。 色気がないからぁ、王子様が迎えに来る気配がないわぁ」 ほろ酔い加減で、けらけらと水銀燈が笑う中、真紅の額がビキビキッ! と鳴った。 「なんですって~? 聞き捨てならないのだわっ」 「ふへ? ちょ……真紅ぅ?」 やおら立ち上がった真紅は、リキュールを瓶ごとラッパ飲みして、ふぅ……と吐息した。 そして、ずびしっ! と水銀燈を指差す。 真紅の眼は、完璧に据わっていた。完全無欠の酔っぱらい。 「シンデレラに魔法がかけられるのは、これからなのだわっ」 「ちょっと真紅ぅ、もう夜も遅いんだからぁ、静粛に――」 唇に指を当てて黙らせようとする水銀燈を余所に、真紅は低い声で告げた。 「…………変身するのだわ」 言うが早いか、徐に服を脱ぎ始める真紅。 一瞬にして酔いが醒める水銀燈。 「えっ? ちょ、ちょっとちょっとぉ! なに、おっ始めてるのよぉ!」 「変身するのだわ。ハニーフラッシュなのだわ」 完全に支離滅裂……でもないか。変身という点では。 しかし、当然の事ながら、看過できる状況ではない。 水銀燈は、いま正にスラックスを脱ごうとしている真紅に縋りついた。 「バカバカぁ! 止めなさいよぉ!」 「離しなさい、水銀燈っ。私はシンデレラになるのよっ」 「もう! この酔っ払いはぁ……って、そうだわぁ」 水銀燈は機転を利かせて、腕時計を午前零時にセットすると、真紅に見せた。 「見なさい、真紅っ。もう時間切れなのよ!」 がぁ~ん!! 擬音で表現するなら、真紅は正に、そんな表情をしていた。 世界の終末を目の当たりにして、茫然と立ち尽くしている様な、そんな顔。 「そんな……酷い……」 かと思えば、今度はぽろぽろと泣きだす始末。これだから酔っ払いは……。 ともあれ、このままでは近所迷惑になってしまう。 「ま、とにかくぅ……冷えてきたし、家に入りましょうよぉ」 しゃくり上げる真紅の肩を支えながら、水銀燈は彼女を、自分の部屋に連れていった。 四苦八苦しながら真紅を宥め、ベッドに寝かし付けたのは、 もうすぐ本当に午前零時を迎える頃だった。 「あ、そうだわ……真紅の服、取ってきとかないとぉ」 水銀燈は庭に出て、脱ぎ散らかされた真紅の服を持って、二階に上がった。 寝ている内に、着せておいた方がいいだろう。 部屋に入り、服を着せようと、下着姿の真紅を抱き起こした。 その途端―― 真紅の眼が、ぱかっ! と開いた。 束の間、訳の解らない表情を浮かべるが、それも一瞬のこと。 あられもない自分の姿と、抱き起こされている状況を目の当たりにして、 真紅は忽ち、顔ばかりか全身を紅潮させた。 「な、なな……なにするのよ、水銀燈っ!」 がすっ! 弁明の機会すら与えられず、水銀燈の頬に真紅の右フックがクリーンヒット。 (ひ……ひどいわぁ……真紅ぅ) 遠退く意識の中で、水銀燈が眼にした壁掛け時計は、午前零時を過ぎていた。 真紅にかかっていた酒の魔法は、解けてしまったらしい。 もう真紅に酒は飲ませない。 そう決意した直後、水銀燈の意識は途切れた。 こうして、二人の慣例行事に、新たな1ページが書き加えられたとさ。
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ピンポーン 真紅「…うぅ…?」 その音で目を覚まし、怪訝な顔をして時計を見る真紅。時刻は午前1時をまわっていた。 どうやら、こんな遅い時間に家を訪れた大馬鹿者がいるらしい。 真紅「…こんな時間に相手をしてられるほど、暇じゃないのだわ…」 そう言い不機嫌そうに布団をかぶる真紅。「ピンポーン、ピンポーン」とまだ玄関のチャイムは鳴っているが、そのうち諦めて帰るだろう…そう考えていた。 しかし1拍の間が空いたあと、その不届きな来訪者はいきなりチャイムを連打し始めた。 これにはたまらず、怒り心頭で玄関に向かう真紅。 真紅「ちょっと!こんな時間に何の…!!」 そこまで言って固まる真紅。そこにはおなじみの顔があった。 翠星石「ほれ見るです。ちゃんといやがったですよ♪」 水銀燈「ダメよぉ…せっかく来てあげたんだから、居留守なんかしちゃあ…♪」 どうやらこの2人、どこかでお酒を飲んでいたら終電を逃したらしく、仕方なしにタクシーでここまでやってきたらしい。 真紅「な、何でタクシーでそのまま家に帰らないの!?」 水銀燈「だって、あなたの家のほうが近いんだもぉん…♪」 真紅「だ、だったら漫画喫茶でもカプセルホテルでも行けばいいじゃない!!」 翠星石「嫁入り前の娘が、そんなトコに泊まれるわけないですぅ!うだうだ言ってねーで、さっさと中に入れやがれですぅ!!」 真紅「嫌よ!早く帰りなさい!!」 そう、真紅にはどうしても部屋の中に人…特にこの2人を入れたくない理由があった。アレを知られたら…そう考えただけでも身震いがする。 しかし、結局勝利したのは2人のほうだった。全く悪びれる様子もなく、ずかずかと奥に入っていく水銀燈。 水銀燈「あらぁ、あれだけ抵抗するからどんな汚い部屋が待ってるかと思えば、案外綺麗に片付いてるじゃない。」 真紅「人として当然だわ。さ、も…もう遅いんだから早く寝なさい!」 そういって電気を消そうとする真紅。 水銀燈「何をあせってるのよぉ…それに床に直に寝るわけにはいかないでしょお。お風呂も入りたいしぃ…」 翠星石「ププーッ!!分かったですよ水銀燈!!真紅はきっと、これを隠したかったんですぅ♪」 そういって本棚を指差す翠星石。そこには綺麗に並べられた女性誌があった。 そして、そこに共通するのはタイトルに「バストアップ」の文字が並んでいることだった。 水銀燈「ぷっ!なぁんだ、あれだけ胸なんてもう気にしないって言ってなのにぃ…。可哀想な子ぉ♪」 真紅「こ、これはもう捨てようと思ってて…」 翠星石「水銀燈!こんなものも発見したですぅ♪」 家宅捜索が楽しくなったのか、辺り一帯を捜索していた翠星石が見つけたもの…それは豊胸マシーンと、「めざせ豊胸手術!」と書かれた30万円貯められる貯金箱だった。 それを見られた真紅は、突然その場に座り込み、泣き出してしまった。 水銀燈「な、何も泣くことないじゃない…」 翠星石「そ、そうです!人間、胸じゃないですぅ♪」 真紅「あなた達には、私の苦しみが分からないからそんな事が言えるのだわ…。私が今まで…どんな思いで生きてきたか…ううっ…」 結局、真紅が泣き止むまでには、1時間を要したという。 翠星石「ふぅ、さっぱりしたですぅ♪」 そういい、先にお風呂に入った水銀燈にドライヤーを借りにいく翠星石。 真紅「待ちなさい。あなたお風呂入った後、ちゃんお風呂と洗っておいたの?」 翠星石「はぁ?」 真紅「すぐに洗わないと、汚れが落ちにくくなるじゃないの。早く洗ってきて頂戴。」 翠星石「客人にそんな事やらせるつもりですか!?おめーの家なんだから、おめーが洗いやがれですぅ!」 そういうと、ドライヤーを使いながら、先ほどはあんなに馬鹿にしていたバストアップ特集の本を読み始める翠星石。その姿に諦めたのか、自分で風呂釜を洗いに行く真紅。 そこには、水銀燈のものであろうブラが置いてあった。思わず手に取り、服の上から試着してみる真紅。ブラの中にタオルなどを入れ、巨乳気分を味わってみる。 真紅「はぁ…こんなに胸が大きければ私だって…」 そういい、鏡の前で色々なポーズを取ってみる。悪くない…そんな満足げな表情が鏡には映っていた。そして、それをただ呆然と眺める水銀燈の姿も。 水銀燈「は、歯を磨こうと思ったんだけど…わ、私は何も見てないわぁ!」 そういうと、そそくさと脱衣所から出て行く水銀燈。真紅の顔は、彼女の名前が示すように真っ赤になっていた。 そんなこんなで、やっと就寝の準備が整った3人。 しかし、ここでも問題が勃発した。 真紅「あなた達、まだ自分の立場が分かってないようね。ベッドは私が使うに決まってるじゃない!」 水銀燈「やぁよ。こんな床の上で寝られるわけないじゃなぁい…。」 翠星石「そうですぅ!このベッドは翠星石のような高貴な者が使うべきですぅ!!」 そう、3人は1つしかないベッドの使用権でもめていたのだ。 ベッドのほかには、数枚の掛け布団しかないというのも、争いの火種になった。 水銀燈「だいたい、あなた彼氏家に泊める時どうするのよぉ?何で予備の布団が無いのぉ…!?」 真紅「あ、あなたみたいにそんな不潔なことはしないから、必要ないのだわ!!」 水銀燈「どういう意味よ…!!ちょっと、あなた何勝手に寝てるのよ!!」 翠星石「うるっさいですぅ…!翠星石はここに寝ることに決めたんですぅ!!」 そんなこんなで、結局一睡も出来なかった3人。次の日、学校では薔薇水晶に全てを任せて保健室で眠りこける水銀燈。半分意識の無い状態で蒼星石に付き添われる翠星石、そして目を真っ赤にした真紅の姿があったそうな。 完
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百合CPの短編 分類はリバ含む。今まで多かったのだけ書いておくけどCP増えたら新たにページを作るといいとおもうよ。 百合じゃなそうなもの(友情物)とかもひとまずここに置いときます ・・・勝手にまとめてる人は分類に自信がないのでおかしいと思ったら言ってね? 蒼星石×翠星石 2 3 4 5 6 7 8 水銀燈×薔薇水晶 2 3 4 水銀燈×真紅 2 3 水銀燈×雛苺 水銀燈×蒼星石 2 3 薔薇水晶×真紅 真紅×翠星石 真紅×雛苺 水銀燈×雪華綺晶 水銀燈×薔薇雪 めぐ×水銀燈 2 3 薔薇水晶×雪華綺晶 のり×巴 巴×雛苺 みっちゃん×金糸雀 雛苺×金糸雀 雛苺×雪華綺晶 色々 2 上に行くほど新しく掲載・更新された作品です。 「百合女帝のり」 めぐとすいぎんとう 翠×雛の『マターリ歳時記』 図書館シリーズ 薔薇、雪華、メグの愛して銀様! 《かくて少女は痛みを乗り越える》 《かくて少女は痛みと共に進み行く》 めぐが色々な曲を聴いてるようです めぐ銀 『有栖川荘にいらっしゃい』
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(あーぁ、暇ねぇ) そんな事を思いながら、水銀燈は銜え煙草で街をかっ歩していた。条例違反だとか関係ない。 (どっかにいいボーカルでも落ちてないかしらぁ…。バンドも解散しちゃったしぃ…まさかオディールのVISAが切れるなんて予想GUYよぉ…) 呟きながら、数か月前の事に思いを巡らす。 当時水銀燈が所属していたバンド、STORM BRINGERはいいバンドだった。 私をネオクラシカルに目覚めさせてくれたし、地元ではそこそこ人気もあった。 が、中心人物であったボーカルのオディール・フォッセーは留学生だったため、卒業と同時にVISAが切れ帰国。 オディールを中心に集まったメンバーも空中分解の様な形になった。 (また一からメンバー集めなんて…めんどくさぁい。STORM BRINGERがレベル高かったから今更変なバンド組めないわよねぇ…) などと考えながら特にアテもなく散歩している。 いや、あてならある。 タバコのストックを切らしてしまったので買いに行こうとして、急にハバネロが食べたくなって今日は隣り街のスーパーが特売日だからついでに飲み物も買いに行く途中なのだ。 だから暇ではないのだが、ここ数か月の生活をみてみると、やはり暇を持て余している。 道半ばの歩道橋の上、金髪の少女がアコースティックギター片手に路上ライブに励んでいた。 (…あの娘、なかなかいいセンスしてるじゃなぁい…) ゆっくりと歩道橋を上る。 聞こえてきた曲はエリック・クラプトンのCHANGE THE WORLD。 水銀燈がその金髪の少女の前に着く頃には一曲歌い終え、次の曲を歌っていた。 「It s beautiful lady~♪」 そして、魅せられた。 金髪の少女の、人形の様な風貌と、 それ以上に魅力的な声に。 「♪and she asks me,do I look all right?♪ ♪and I say "Yes,you look WONDERFULL TONIGHT"♪」 しばらく、呆然と少女の唄に耳を傾けていた。 その声は、力強く、繊細で、どこか儚い。 今はまだ荒削りだが、磨けばどんな宝石よりも輝く。 目の前にいるのは、そんな歌声の持ち主。 水銀燈は思った。 いや、願いに近かったかもしれない。 ―この金髪の少女と、バンドを組んでみたい― やがて少女は歌い終わり、水銀燈を含めたギャラリーに一礼してから片付けはじめた。 「あなた、私とバンド組んでみなぁい?」 金髪の少女は声をかけられ、水銀燈を振り向いた。 「…私と?」 私とバンドを組むんなら、生半可なセンスと技術では許されないわよ。 そんな心の声が、水銀燈には聞こえた気がした。 望むところよぉ。 「あなた以外誰がいるのよぉ。私は水銀燈。元STORM BRINGERのギタリストよ」 水銀燈が言ったバンドの名を、少女は聞き覚えがあった。 となりの街に、時代遅れなハードロックを演るバンドがあって、結構人気があると。 「そう。あなたがあの時代遅れなハードロックバンドのギタリストだったの。 いいわ。私は真紅。一度音を合わせてみましょう」 そして伝説は、静かに幕をあけた。 * 翌週、真紅と水銀燈の二人はスタジオに来ていた。真紅はアコースティックギターを、水銀燈はエレキギターを手に。 「それじゃあ、はじめましょう」 歩道橋の上で出会ってから、二人は互いの携帯のアドレスと番号を交換し、合わせる曲も決めていた。 真紅の希望で「layla-unplaged-」 水銀燈からは「Catch the Rainbow」 ハードロックを時代遅れと言っておきながら、真紅もなかなか、時代を追うような趣味ではないらしい。 「準備オッケェよぉ。」 真紅のアコギを構え、数個コードを鳴らし、チューニングに狂いがない事を確認した水銀燈が言った。 「じゃ、まずはlaylaからやりましょうか」 アコギ特有の、サスティンのない暖かな音色が響き渡り、真紅の歌声がそれに重なる 「what do you do~♪」 驚いた。真紅の歌ったメロディーラインは、本家のそれとは大きく違っていた。 透き通る歌声は、原曲のもつ雰囲気を崩さず、なお存在を主張する。 自然と、水銀燈のギタープレイにも熱がこもる。 「なかなかいい感じじゃなぁい。すぐに次の曲、イケる?」 laylaを演り終え、水銀燈が真紅に言う。 「Catch the Rainbowね。いけるわよ」 水銀燈が再びアコギからメロディーを紡ぐ。 「We beleave~♪ we catch the rainbow~♪」 憂いを帯びた真紅の歌声。 冴え渡る水銀燈のギタープレイ。 この曲は、二人に確信をもたらした。 ―私たちは、きっと虹をつかめる―。 「エレキ持って来たのに、結局使わなかったわねぇ~」 スタジオからの帰り、二人は喫茶店でティータイムと洒落こんでいた。 「そうね。まぁいいじゃない。それより今は、他のメンバーをどうするかの方が問題だわ」 真紅の言う通り。バンドを編成するには、最低でもあと二人、ベーシストとドラマーが必要だ。 「そうねぇ。知り合いに何人か当たってみるわぁ。それでもダメならメン募かしらねぇ」 「私も何人か当たってみるわ。じゃぁ、今日はこれで解散ね。いいベーシストかドラマーがいたら連絡頂戴」 そう言い真紅は席を立ち、水銀燈もそれに続く。 帰り道、別々の道を歩きながら、二人は同じ事を考えていた。 最高に楽しめそうだ、と。 * 「ねぇねぇ聞いた?水銀燈のバンド。まぁバンドって言っても、メンバーはまだ水銀燈とボーカルだけなんだけどぉ。まだベーシストとドラマーが決まらないらしいわよ」 最近、蒼星石はよくこの噂を耳にする。 元STORM BRINGERの実力派ギタリスト・水銀燈が、無名のボーカリストと一緒にメンバーを探している、と。 STORM BRINGERは、蒼星石がバイトするスタジオの常連だったし、ライヴにも何度か足を運んだことがある。 メロコア、パンク勢がシーンを占領する中、ブルースを基盤としながらも、ネオクラシカルなどの様式美を取り入れたハードロックバンド。 良く言えば時代に惑わされない音楽性。 悪く言えば時代遅れなスタイル。 だがその時代遅れな音楽も、蒼星石は決して嫌いではなかった。 ボーカルであるオディール・フォッセーの帰国にともなって空中分解したと聞いたが、そのハードロックバンドのリードギタリストだった水銀燈が、新たなメンバーを探していると言うのだ。 それも、なかなか難航しているらしい。 地元で有名なベーシストやドラマーとセッションしたという話をいくつか聞いたが、どれも決定打には至らなかったようだ。 「ねぇちょっと君」 蒼星石は、スタジオでのバイト中にも関わらず、客の女の子に話しかけた。 「水銀燈のとこのバンド、まだベーシストとドラマーがいないんだって?」 話しかけられた女の子はワンテンポ遅れて、 「え…?あ、はい。たしかまだ募集してたハズですよ」 と答えた。 「そう。ありがと」 笑顔でお礼を言うと、蒼星石はカウンターに戻り、女の子達は帰っていった。 (運が良ければ、水銀燈はまたこのスタジオに来る…。いや、待つ必要はないか) 蒼星石は店のパソコンを少しいじった。 するとあら不思議。 スタジオ会員の名前と連絡先が一人の漏れなく表示される。 その中にはもちろん、水銀燈の名前もある。 (こーゆーのが個人情報流出って言うんだろうなー…) 思いながら、店の電話をプッシュする。 コールするのは、もちろん未来のリードギタリスト。 『もしもぉし』 「あ、もしもし~いつもお世話になってます、スタジオらぷらすです~。水銀燈さんの携帯電話でよろしいですか?」 『そうよぉ。で、何か用事ぃ?』 「えぇ…いやなに。大した事じゃないんですよ。ただ、腕の立つベーシストとドラマーが必要なんじゃないかなー…と思いまして、ね」 数分後、セッションの約束を取り付けた蒼星石は静かに電話を置いた。 日時は来週。 来週までに四曲。 久しぶりだね、こんなに胸が高鳴るのは。 * その日の夜、双子の姉であり、ドラマーでもある翠星石に水銀燈とのセッションの事を話す。 「マジですか!?こいつは久々に腕がなるですぅ。で、何を合わせるです?」 「うん。向こうの希望でlaylaとCatch the Rainbow、こっちからはsunshine of your loveと正しい街を言っておいたよ」 運命があるとすれば、多分今回のような事を言うのだろう。 蒼星石と翠星石のいたバンド、STONE FREEが解散し、出来過ぎなぐらいバッチリなタイミングでの水銀燈のメンバー集め。 蒼星石は、何かを確信せざるにはいられなかった。 ~次回予告~ 真紅「次回『コスモスター』、君は宇宙を体験するッ!」 翠「絶対見るですぅ!」 長編SS保管庫へ/(2)へ続く
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今日は日曜日。というわけで水銀燈は遅くまでお気に入りのCDを聴いていた。 そのまま目覚ましもかけずに眠り、起きた時には既にいいとも増刊号は終わっていた。 「さすがに寝すぎたわねぇ…」 ちょっとだけ後悔してパジャマから普段着に着替え、部屋を出て行った。 それから少し家でテレビでも見ていたのだが、ずーっと見てるとさすがに飽きてくる。 暇を持て余した水銀燈は財布だけ持って駅前へぶらりと出かけて行った。 気候は暖かく過ごしやすいのだが、さすがに日曜なだけあって街には人が溢れている。 水銀燈はブティックやCDショップを見たりしていくが、大した収穫は無い。 そのままブラブラしていたが、不意に美味しそうな香りが漂ってきてそっちに顔を向ける。 その方向には、有名なハンバーガーショップがあった。 「良い匂いねぇ…」 そう言えば朝食――あの時間なら昼食だが――はろくに食べていない。 パンに挟んだとろけるチーズとビーフを想像すると、お腹がグーっと鳴った。 「ちょっと寄ってこうかしらぁ」 空腹に逆らえず、その店の方へと足を進める。 すると、見知った顔を店の前に見つけた。紫の服を着た眼帯の少女、薔薇水晶だ。 薔薇水晶は水銀燈には気付かず、物珍しそうにその店を見上げていた。 「ばらしー、奇遇ねぇ」 「…あ、銀ちゃん…」 水銀燈に名前を呼ばれてやっと薔薇水晶は気が付き、水銀燈のほうに振り向いた。 「どうしたのぉ、こんなところで」 「…ちょっと買い物に…銀ちゃんは?」 「私? 私は別にブラブラしてただけよぉ」 それだけかわすと、薔薇水晶はチラチラとまた店の方を見る。 その様子に水銀燈は少し首を傾げた。 「どうしたのぉ?」 「ううん、何にも無いけど…」 「ふぅん…? そうだ、ここで立ち話もなんだから、マッ○に寄ってかない?」 「え…」 水銀燈がそう持ちかけると、薔薇水晶は少し顔を強張らせた。 その様子に水銀燈は気が付いた。 「どうしたの? マッ○って嫌い?」 「いや、そうじゃないけど…その…」 「けど?」 聞き返すと、薔薇水晶は少し恥ずかしそうに目線を少し逸らした。 少しすると、薔薇水晶は口を開く。 「…あのね、マッ○って入ったことないの…」 「ええ? 本当に?」 薔薇水晶の告白に水銀燈は驚いて声を上げた。 今時この手の店に行った事が無い人がいるなんて驚きだ。 「…私のうち、こういう所行かせてくれないから…」 「…ああ、なるほどね」 薔薇水晶の親の躾は厳しく、確かにこういう所に行かせてくれるとは考えにくい。 薔薇水晶に世間ズレしている所もこういうのが関係しているのだろう。 水銀燈はクスッと笑うと薔薇水晶の手を取った。 「銀ちゃん?」 「良い機会よ。行ってみましょうよぉ」 「えっ、ちょ、ちょっと…」 戸惑う薔薇水晶を無視し、そのまま手を引っ張って店の中へ入っていった。 「いらっしゃいませー。ご注文の方をどうぞ」 相変わらずのスマイルを向ける店員に、水銀燈は馴れたようにメニューを見て選んでいく。 対して薔薇水晶は少しオロオロしながら水銀燈の隣からメニューを覗き込んでいた。 「そうねぇ…私はダブルチーズのポテトセットで。ポテトはSで、ドリンクはコーラよぉ」 「かしこまりました。そちらの方はいかがされます?」 「えっ、私は…えっと…」 水銀燈の注文を受け取った店員は今度は薔薇水晶の注文を聞く。 だが、突然振られた薔薇水晶はどう答えて良いか分からずにオロオロするばかり。 しばらくすると水銀燈は苦笑いを浮かべて助け舟を出した。 「この子にも私のと同じのをお願いするわぁ」 「かしこまりました。こちらで召し上がりますか?」 「ここで食べてくわぁ」 「はい。ではしばらくお待ち下さい」 そういうと店員が奥へ注文内容を言い、しばらくすると頼んだ物が出てきてそれを持って二人は空いてる席へ着いた。 席に座ると薔薇水晶は安心したように軽く溜息を吐いた。 「…ありがとう銀ちゃん、助かった…」 「別にあんなの考える必要ないわよぉ。食べたい物を言う、それだけなんだから」 「…分かってるんだけどね…」 「まあ、良い社会勉強になったんじゃない?」 水銀燈はコーラを一口飲んで、チーズバーガーを一口食べる水銀燈。 それに倣って、見よう見まねで薔薇水晶も食べ始めた。 「どう? 初めてのハンバーガーは?」 「…美味しい」 「でしょ?」 そこでようやく薔薇水晶に緊張も解けたのか、笑顔になってチーズバーガーをパクパクと食べだした。 それから談笑しながら食べていたのだが、不意に薔薇水晶のバッグから携帯の着信が鳴り始めた。 薔薇水晶は食べるのを止めてバッグから携帯を取り出しディスプレイを見ると、少し嫌そうな顔をした。 「誰?」 「…お父さま…」 「お父さんから?」 「うん…出かけてると頻繁に掛けてくるの…」 「…本当にいるんだそういう親…」 少し引き気味の水銀燈。薔薇水晶はしばらくその携帯を見ていると、電話に出ることも無く着信を切ってしまった。 そのまま電源を切ると携帯をバッグにしまう。 「いいの? 出なくて」 「うん…今は邪魔されたくないから…」 少し照れくさそうに言う薔薇水晶に、水銀燈は優しく微笑んだ。 食べ終わると店を出て近くの公園にやってきた。 春の陽気が心地良く、手ごろなベンチを見つけるとそこに腰掛けた。 「良い天気ねぇ。気持ち良いわぁ」 「本当…なんだか幸せな気分…」 「私もよぉ…」 それから沈黙が流れる。だがちっとも嫌にならない、心地良い沈黙。 ただお互いがそこにいれば良い、それだけだった。 しばらくすると、不意に肩に薔薇水晶がもたれ掛かってきた。 見てみると、目を閉じて気持ち良さそうに寝息を立てている。 「…可愛い顔しちゃって…。…なんだか私も眠くなってきちゃったわぁ…」 遅くまで寝ていたはずなのに、薔薇水晶の寝顔を見ていたら自分まで眠くなってきてしまった。 それから程無くして水銀燈も目を閉じ、薔薇水晶にもたれるように眠りに着いた。 そんな至福の日曜日。 モデル曲:Cheese Burger(フジファブリック)
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ザスッ ザスッ ザスッ 黒い羽が、地面を突き刺していく。 銀髪の人形の背中から撃ちだされる、無数の羽がことごとくかわされ………。 「くっ…!!何なのよこいつ…!」 顔をしかめる人形の前には、黒いマスクとスーツに身を包んだ男がナイフを持って立っている。 人形の名は、ローゼンメイデン第一ドール水銀燈。 男の名は、”正義日記”所有者”12th”平坂黄泉。 平坂は「正義日記」で羽をかわしながらも、水銀燈の体の一部を狙っていた。 狙っているのは、腹。 脇腹を斬りつければ、あのサイズの人形ならあっけなく殺せるだろう。 平坂はそう考えていた。 「モウヤメロ、ドウセオ前ハ死ヌ」 「誰が……死ぬもんですかっ!!」 羽は曲線を描き、平坂に突撃するも結果は同じ。 限界が近い。 水銀燈の契約なしでのエネルギーはかなり少ないため、命にかかわるだろう。 「(仕方ないか――――――――。そろそろ退却かしら)」 水銀燈は逃げるという行為に恥を覚えるも、羽を広げる。 「逃ガシハシナイ」 しかし、平坂のナイフで羽の一部を切り裂かれてしまった。 「この……ッ!!」 羽はしばらくすれば自然再生できるのだが、水銀燈は自分の体の一部が、たとえ一時的にでも 「欠落」することが許せなかった。 「マア、王手、トイッタトコロカ」 片羽はもう使えない。 完全に死ぬ。そう覚悟したとき―――――――。 「グヌオッ!?」 平坂の右肩を銃弾が撃ち抜く。 平坂の視線の先には、一人の少女が立っていた。 「クッ・・・仕方ナイカ………。」 正義日記には、平坂の死が予知されていたため、平坂は案外潔く逃走する。 少女、遠藤カンナは追おうとはしなかった。 「何で、助けたのよ?」 「鷹野を倒すには、沢山の、大勢の力が必要なの。だから、あなたの力がほしい」 水銀燈は考えた。 今、ここでカンナと契約してしまえば、自分は、生き残れるかもしれない。 平坂だって、契約後の力なら殺せる! 「わかったわ。でも、その代わりに………私の指輪に口付けをしなさい。それが”契約”の証よ」 するとカンナは、あっさりと契約の口付けをした。 水銀燈は、心の中で嗤う。 鷹野になんて勝てないし、勝つ気なんてない。 なら、真のマスターであるめぐの病気を、治す。 そのための生贄が、カンナ。 私の羽は、葬りの羽。あなたをいずれ葬る、――――――――葬羽<ホウムリバネ>。 [水銀燈@Rozen maiden] [状態]全身疲労(中)、左羽欠損、奉仕(マスター) [支給品]アイスピック@現実、ニンテンドーdsi@現実 [方針]優勝して、めぐの病気を治す。 [思考・状況] 平坂黄泉と戦闘後、遠藤カンナと行動。 1.カンナは利用して、あとで殺す。 2.平坂は絶対殺す。 ※原作七巻終了時からの出典です。 ※羽は二時間ほどで回復します。 ※カンナと契約しました。 [遠藤カンナ@20世紀少年] [状態]健康、冷静、対主催 [支給品]リボルバー銃@現実、催涙スプレー缶@ひぐらしのなく頃に [方針]鷹野を倒す。 [思考・状況] 水銀燈と行動。 1.ケンヂおじちゃんと、オッチョおじさんに会う。 ※原作終了後からの出典です。 ※水銀燈と契約したため、水銀燈の力の使いすぎは彼女の死にも繋がります。 [平坂黄泉@未来日記] [状態]全身疲労(小)、右肩負傷、優勝狙い [支給品]正義日記@未来日記、果物ナイフ@現実、缶コーヒー@現実 [方針]正義のために勝つ [思考・状況] 水銀燈と戦闘。 1.水銀燈とカンナは必ず殺す。 2.天野雪輝、我妻由乃、雨流みねね、来須圭吾は必ず殺す。 ※正義日記が壊れれば彼も死亡します。
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…QUATTROのホール全体に流れるSE。ステージはまだライトアップされていない。 薄暗いホールの中には、今か今かとローゼンメイデンを待ち望むファン達がいる。 前の方にいるファン達はおおきくROZEN MAIDENと書かれたバンドTシャツを着ている。 老若男女問わず、多くのファン達がSEのリズムに合わせて体を揺らしていた。 「(いつみても、この雰囲気はいいのだわ…)」 ステージ脇まで着た真紅は、そう思い深呼吸をする。 「「すぅー…はぁ」」 他のメンバー達も同じタイミングで深呼吸して、静かに笑いあった。 「いっつも偉そうなくせに…緊張しすぎよぉ、真紅ぅ?」 「あら、水銀燈。人のこと言える?あなたも緊張しているように見えるのだわ」 「まったく二人とも情けねぇですぅ!」 「そういう翠星石も足震えてるのよぉ~!」 「まぁまぁ…誰だって緊張するんだから」 「…私は、大丈夫だよ?」 「ふふ、ばらしぃーちゃんは凄いですね」 と、そんなことを言ってるとスタッフの一人が声をかける。 「ローゼンメイデンさん、そろそろお時間です」 「わかったのだわ…照明を消してちょうだい」 ホールの電気が消え、完全に真っ暗になる。 「「おおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」 地響きを起こしそうな声。ほとんど悲鳴のような歓声に包まれる。 ステージの一カ所にスポットライトがあたった。ドラムである。 両腕を上げ、その手にROZENと書かれたドラムスティックが輝く。 彼女はそれを一回転させると。人間離れした勢いでドラムを叩き出す。 地面を揺らすツーバスの音。それと同時にステージ全体がライトアップされる。 水銀燈と雪華綺晶が同時に同じフレーズを弾き、ショルキーを背負った薔薇水晶がそれにあわせる。そこに、スラップで蒼星石が参加し…ブレイク。 一瞬、静かになる… 今まで目を閉じていた真紅がゆっくり目を開き。スタンドマイクを掴んだ。 「We Are ROZEN MAIDEEEEEEEEEEENN!!」 真紅がシャウトすると、観客は途端にハイになる。それと同時に水銀燈と雪華綺晶がギターを弾きはじめる。 「一曲目はこれなのだわ!HIGHEST!」 パンクサウンドとツーバスの重たい音。ライブということで本来は入っていない水銀燈&雪華綺晶の超絶ギタープレーも織り交ぜられたスペシャル仕様。 観客達はローゼンメイデンの音に酔いしれ、ジャンプする者、首を振る者、それぞれがそれぞれの好きなノリ方をする。ロックバンドのファンは意外と統一した動きをするものだが、ローゼンファン達は好きなように音にのる。 好き勝手やりたいヤツが揃ったバンドのファンは、やはり好き勝手したいヤツのようだ。 曲は終盤に入る。と、水銀燈に向かってニヤリと笑う。水銀燈はその意味を感じて、ニヤっと笑い返した。さらに、雪華綺晶はその隣にいた薔薇水晶にも目配せした。薔薇水晶は困った顔をした後、コクリと頷いた。その表情を言葉に表すと「やれやれ」といった感じだ。 「HIGHEST! HIG…」 真紅の最後のシャウトの途中で、突然声をかき消すようなギターソロが始まる。 びっくりした真紅だったが、しばらくムッとした顔をして…やがて、苦笑した。 そして、自分の前を水銀燈に開け渡す。水銀燈が前に出て行く時、真紅はぼそっと言った。 「あなたに声をかき消されるのも、久しぶりなのだわ…」 水銀燈にはその声が聞こえたようで、ニッと笑って見せた。その後、雪華綺晶と薔薇水晶を見る。 「(いくわよ、きらきーにばらしぃー)」 「(ええ、お姉様)」 「(…頑張る)」 三人の息があった瞬間、始まったのは超絶ソロだった。 薔薇水晶の壮大なキーボードテクニック、最初は水銀燈も雪華綺晶もそれにあわせる。 しばらくすると、キーボードの音が抑えられ…水銀燈と雪華綺晶は同時に飛んでもないことをはじめた。ファン達も目を見開いて絶句し、呆然と目の前の光景を見る。 水銀燈と雪華綺晶は、二人で同じフレーズを弾いているのだ…アンジェロラッシュで… 真紅はその様子を見て驚いた後、金糸雀に紅茶を持ってこさせた。 彼女はよく水銀燈のソロの間紅茶を飲んでその光景を眺めているのだが、一曲目からそれを行ったのは初めてだった。 暖かいダージリンティーを飲みながら、ソロの様子を見ている。久しぶりに見た。 水銀燈のギターソロをじゃない。水銀燈が楽しんで弾いているギターソロを… そして、その隣の新メンバー…雪華綺晶を見た。彼女が来てから、このバンドは良い感じに変化した。特に、同じギタリストである水銀燈にとって。 二人はソロを弾きながら、定位置に戻る。水銀燈は真紅にウインクする。 真紅は苦笑して、マイクの前に立った。 「まったく…あなた達!ボーカルの歌をかき消すとは何事なのだわ!!…まぁ、いいのだわ…次の曲にいくのだわ!!」 ようやく現状になれたファン達が歓声を上げる。 この調子でライブは進んでいく。雛苺と雪華綺晶が同時にステージからダイブしたこと以外、特にトラブルもなく、ライブは終盤へと入っていった。 「いよいよ、最後の曲なのだわ…これも新しいアルバムからの曲だったわね…」 真紅が言うと、水銀燈がAのパワーコードを掻き鳴らした。 「ラストナンバーなのだわ!Rock‘n’Roll kingdom!!」 ラストナンバーは真紅が作詞作曲したパンクナンバー、Rock’n’Roll kingdomだった。 タイトルの通りのロックンロール賛歌である。 真紅は彼女には珍しいほど荒れ狂った歌い方をし、それにのせられた水銀燈と雪華綺晶も激しくギターを弾く。途中でとうとう雪華綺晶のギターの弦が切れたが、彼女はそんなこと気にせずギターを弾き続けた。 スタジオレコーディング時はパートがなかった雛苺も、半デス声で途中から参加。 薔薇水晶も体を揺らし、水銀燈の隣でショルキーを弾く。 蒼星石も雪華綺晶の隣で、暴れ回るようにベースを弾く。彼女がここまで熱くなるのも珍しい。 翠星石のツーバスの勢いもさらに増していく。 …こうして、新生ローゼンメイデン初のライブは、見事成功に終わったのだった。 だが、ノンビリしてるわけにはいかない…次のライブ会場が待っているのだ。 第六話に戻る/長編SS保管庫へ/第八話に続く
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横に並んで歩き、塀の陰に消える二人の背中が、目の奥に焼き付いている。 校舎と校門は、かなり離れていた筈なのに――彼女たちの笑顔は、ハッキリ見えた。 瞬きをする度に、その光景が頭の中でフラッシュバックする。 どうして、あの二人が? 蒼星石の頭を占めているのは、その疑問だけ。 双子の姉妹という間柄、姉の友好関係は熟知しているつもりだった。 けれど、翠星石と柏葉巴が友人という憶えはない。 彼女たちは、蒼星石の知らないところで交流があったのだろうか? 翠星石ならば、有り得そうだった。可愛らしい姉は、男女を問わず人気者なのだから。 しかし、それなら今日、巴との会話の中で、翠星石の話題が出ても良さそうなものだ。 (それが無かったところから察して、つい最近の付き合いなのかな。 昨日、姉さんが体育館にいたのも、柏葉さんと今日の約束をしてたのかも――) なんだか除け者にされたみたいで、蒼星石の気持ちは重く沈んだ。 隣を歩く水銀燈が、彼女の浮かない表情を盗み見ていたことにも、気付いていなかった。 第五話 『もう少し あと少し…』 「ねえ――」 何を話しかけても、生返事しかしない蒼星石に焦れて、水銀燈は彼女の前に立ちふさがった。 が、俯いたままの蒼星石は、それにすら気付かず歩き続け…… 水銀燈の肩に、こつんと額をぶつけた。 「あ…………」 「ちょっとぉ。さっきから、なぁに冴えない顔してるのよぉ」 「……ごめん。考え事してた」 「私と居るのは、退屈ぅ?」 「ち、違うよっ! そんなつもりじゃ――」 不機嫌そうに眉を顰める水銀燈に、蒼星石は頭と手を、ブンブンと横に振って見せた。 そして、自分の軽挙妄動を恥じて、歯がみした。 正直なところ、翠星石と巴の関係は、気になって仕方がない。 けれども、それを引っ張り続けていては、誘ってくれた水銀燈に失礼と言うものだ。 蒼星石は笑顔を作って、ムリヤリに気分をすり替えた。 「ホントにごめんね、水銀燈。さあ、気を取り直して、どこかでお昼にしよう」 「……そぉねぇ。いい加減、お腹すいちゃったわぁ」 「じゃあ、駅前のファミレスに行こっか。お詫びに奢るよ」 「あぁら……食べ物くらいで、私が許してあげるとでも思ってるぅ?」 さりげなく怖いことを口にする水銀燈。彼女の場合、どこまで冗談なのか分からない。 しかし、見た限り表情は穏やかで、満更でもなさそうだった。 蒼星石と水銀燈は、女子高生とは思えないほどの量を食べたばかりか、 デザートにパフェまで注文して、舌鼓を打っていた。 同い年の娘たちなら、カロリーに配慮したり、ダイエットに気を遣うのだろうが、 この二人には、あまり関係のないコトらしい。 人間の身体には、余剰のエネルギーを脂肪として蓄える『脂肪細胞』なるモノがある。 この細胞は思春期くらいまでに総数が決まってしまい、以降は殆ど増えることがない。 子供の頃から痩せ形体型だった彼女たちには、この脂肪細胞が少ないため、 結果的に“食べてもあまり太らない”体質になっていたのである。 「水銀燈って、スタイル良いよね。食事は三食しっかり摂ってるんでしょ。 なのに、目立って太ってるワケでもないし、痩せすぎてもないんだもの」 「そう言う貴女だって、イイ線いってるわよぉ。 お爺さんたちと暮らしてると、生活が規則正しくて、食事を抜く事ってないでしょぉ?」 「ボクの場合は、食べなかったり、おかず残したりすると、ひどく心配されるんだよね。 どこか身体の具合が悪いのかー! ってさ。お陰で、好き嫌いがなくなったよ」 「あー。なぁんとなく、光景が目に浮かぶわぁ。 お爺さん達よりも、翠星石の方が大騒ぎしてそうねぇ」 水銀燈は、珍しく無邪気に笑いながら、眩しげに細めた目で蒼星石を見つめた。 「でもぉ、それを疎ましく思うのは贅沢というものよ。 心配されるってコトは、とっても大切に想われてるって証拠だもの。 正直、羨ましいわね」 そう言った水銀燈の顔に、ほんの僅か……うっかり見落としかねない影がさす。 一瞬の変化だったにも拘わらず、蒼星石は見逃さなかった。 そして、彼女の家庭環境を思い出し、得心した。 水銀燈の両親は共働きで、以前から、あまり家には居ない方だった。 だから、なのだろう。彼女は普段から物憂げで、勝手気ままに振る舞っている。 干渉されることを嫌い、とてもではないが、部活動に精を出すような気質には思えなかった。 しかし、現に水銀燈は剣道――個人競技を選ぶところが彼女らしい――に勤しんでいる。 昨日の練習風景から推測して、技量も高いようだ。 それに、自分に似た娘……柏葉巴とも、なかなか気が合うらしい。 (やっぱり、寂しいのかな) 一匹狼みたいに過ごしていても、水銀燈だって、多感な年頃の女の子。 眩しそうに細めた目も、実のところ、羨望の眼差しだったのかも知れない。 思った途端、蒼星石は、胸に妙な息苦しさを感じた。 そして、急に、さっきの翠星石と巴の姿を思い出して、寂しい気持ちになった。 (キミも、ボクと同じだね。脆い心に鎧を着せ、必死に護ってる、さびしん坊なんだね) 親近感が興味へと変わる。蒼星石は、もうちょっとだけ水銀燈と一緒に居たいと思った。 彼女は「同情なんて――」と嫌悪感を露わにするかも知れない。 でも、それは寂しさを覆い隠すための、強がり。 だったら――――似た者同士で、傷を舐め合うのも、たまには良いだろう。 校門で見た光景を忘れたくて、蒼星石はテーブルに身を乗り出し、水銀燈に詰め寄っていた。 「よかったら、これから……ちょっと遠くに出かけない?」 「えっ? なぁに、いきなり」 水銀燈が、怪訝な顔をする。当然だろう。いくらなんでも、突飛に過ぎた。 眉間に刻まれた縦皺が、躊躇のほどを窺わせる。 「遠くって、どこまで行く気よぉ」 「海を見に行こうかなって。なんとなくね、今、そんな気分なんだ。 心配しなくても、夜までには帰ってくるつもり」 「こんな晩秋に? 物好きねぇ」 「意外に、いいものだよ。人っ気が少ないから、くつろげるし」 ふぅん……と相槌を打った水銀燈の瞳に、酔狂な光が宿る。 潮風に吹かれながら、閑散とした浜辺を当て所なくブラつくのも悪くない。 彼女の眼差しが、そう語っていた。 「そぉねぇ。たまには、面白いかも」 「うん。じゃあ、行こうか」 言って、二人は同時に腰を浮かせる。 奢りの約束どおり、蒼星石が纏めて会計を済ませ、彼女たちは駅へと足を向けた。 土曜日の午後、昼休みも終わった時間帯。 人も疎らな電車の中で、蒼星石と水銀燈は、並んでシートに座った。 窓を透して射し込む陽光に背中を炙られ、ちょっと暑い。 「目的地はまだ何駅も先だし、向かいの席に移る?」 蒼星石の気遣いに、水銀燈は欠伸を堪えながら、気怠そうに答えた。 「別にいいわよぅ。こっちの方が、あったかいしぃ」 彼女が構わないのなら、蒼星石にも異論はない。黙って電車に揺られていた。 ――いくらか経って、ふと、肩に感じる重み。 見れば、瞼を閉じた水銀燈が、寄り掛かって寝息を立てていた。 お腹がいっぱいになって、程良い揺れに身を任せながらの、ひなたぼっこ。 眠気を催すのも、当然の環境だろう。 いつもの、少し険のある自信家な表情からは想像も付かないほど、無邪気な寝顔だ。 期せずして、水銀燈の意外な一面を見られて、ちょっと得した気分の蒼星石だった。 がたん―― 列車が大きく揺れて、水銀燈がヒッ! と息を呑み、目を覚ます。 「んぁ…………着いたぁ?」 「ううん。もう少しだよ」 「そう……じゃあ、あと少し……」 言って、水銀燈は再び、蒼星石の肩に体重を預けてくる。 蒼星石は、そんな彼女を可愛いと思った。「寝てていいよ、起こしてあげるから」 第五話 おわり 三行で【次回予定】 海を見に行こう。口を衝いて出た、突然の気紛れ。 無意識の内に、わだかまる寂しさを、海に捨ててしまおうと思ったのだろうか。 砂浜を踏み締めながら、彼女たちは素直な気持ちを曝け出す。 次回 第六話 『心を開いて』
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癌。悪性腫瘍の一種。他の細胞に浸潤あるいは転移し、身体の各所で増大することで生命を脅かす。 ガン細胞を身体から切り離しても、なお細胞は生き続けられるという魔物とも言うべき病。 実際にかかったら、それこそドエライ事であるが、そんな不治の病を悪用せんと立ち上がった女がここに・・・。 プルルル・・・プルルル・・・ガチャ 紅「もしもし?」 銀「うぅ・・・ひっく・・・し、真紅ー・・・」 演技とはバレナイように慎重に泣き真似でかかる水銀燈。 一体何をしたいのかというと冒頭でもあったので、もうお分かりだろう。 紅「水銀燈・・・?貴方、悪戯電話なら他でやってほしいのだわ。」 銀「ち、違うわよ・・・。ひっく・・・ど、どうしよう、真紅ー・・・」 真剣さを伝えるためか普段の猫なで声を潜ませている。 紅「どうしようって・・・どうせ、また男をたぶらかして痛い目にあったのでしょう? 残念だけど、それは自業自得という奴なのだわ。」 銀「・・・癌。」 紅「は?」 銀「どうしよう・・・私、癌・・・乳癌を宣告されちゃったのよー!!」 来た、普通なら本人には余程のことが無い限り宣告などはしないのだ。 真紅もそれを承知で受け流す。 紅「はぁ・・・まったく・・・何を言うのかと思えば・・・くだらない。 私は明日も朝から授業だから、もう寝るのだわ。お休みなさい、水銀燈。」 下らない悪戯ね・・・とため息を吐きながら電話を切ろうとする真紅。 しかし、水銀燈もここで切られてたまるかと粘る。 銀「ほ、本当なのよ!!・・・もうどうしようもない・・・ひっく・・・手の施しようが無いからって・・・ 私に直接言ってきたのよ・・・。残りの時間、精一杯楽しみなさいってまで・・・。うう・・・。」 紅「ちょ、ちょっと貴方、ついて良い冗談と悪い冗談があるのだわ!!」 銀「うう・・・本当よ・・・。ぐす・・・何ヶ月か前からね・・・ひっく・・・胸に違和感があって・・・ 最初の内は放っておいたんだけど・・・ぐす・・・時間が経つにつれて・・・だんだん・・・うう・・・。」 紅「・・・」 呆然とする真紅。いくら相手が水銀燈とはいえ、こんな性質の悪い冗談をしかけてくだろうか? 心の中で、天使と悪魔が「信じてあげるのだわ!!」と「相手は水銀燈なのだわ!!」と戦いあっている。 銀「胸にね・・・段々、大きなしこりが・・・うう・・・。・・・まだ、信用しない? そうよね・・・今まで散々・・・酷いことしてきたもの・・・それこそ自業自得だわ・・・」 紅「い、いや、そういうわけは・・・」 銀「でもね・・・ぐす・・・今度ばかりは本当なのよ・・・。ひっく・・・診断書だってあるの・・・ せいせいするでしょ?厄介払いができて・・・ふふ・・・ぐす・・・。」 紅「ちょ、ちょっと水銀燈・・・。分かったのだわ・・・今度ばかりは・・・本当のようなのだわ・・・」 真紅の心の中で天使が勝利の雄たけびをあげた。 水銀燈もまんまと嵌った真紅に対して笑いが堪えきれないでいる。 銀「・・・ありがとう・・・くく・・・いや・・・最後ばかりは貴方にだけは・・・サヨナラを言いたくて・・・」 紅「そ、そんな・・・何を弱気なことを言うのだわ?!いつもの貴方はどこにいったの?!」 銀「・・・人間、死の前ではどうしようもないってことよ・・・ぷぷ・・・あ、ごほん!!・・・ あ、あと・・・そのね、この事は皆には黙っていて欲しいのよ・・・心配させたくないから・・・」 紅「わ、分かったのだわ・・・。・・・貴方、学校はどうするの?」 銀「分かんない・・・何とか頑張るけど・・・」 紅「そう・・・無理はしないのだわ・・・。でも、皆はあなたのことを教師としてだけではなく愛してるのだわ・・・ だから、その・・・仕事なしでも会いたくなったら何時でも、会いに来て欲しいのだわ・・・。」 思いがけない真紅の思いやりに溢れた台詞、水銀燈から見ればかなりクサイ台詞に やっぱり笑いを堪えきれなくなってしまいそうになる水銀燈。 銀「く、くくく・・・」 紅「す、水銀燈?!ど、どうしたのだわ?!」 銀「な、何でもないわ、ただ貴方の台詞・・・いや、心遣いが嬉しくって・・・」 紅「そう・・・私でよければ何でも力になるのだわ・・・。だから、さっきは疑ったりして申し訳ないのだわ・・・。」 銀「い、いいのよ・・・その・・・真紅も明日早いんでしょ?・・・もう・・切るわ・・・」 紅「こんな時にまで貴方って人は・・・分かったのだわ・・・お休みなさい・・・。」 銀「お、お、お休みなさい・・・」 ガチャンと電話を切った後、爆笑に次ぐ爆笑を引き起こし隣人からお説教を受けた水銀燈。 翌日は学校を休み、その次の日学校へと赴き、真紅に対して診断書をチラつかせ搾取するだけ搾取してやろうと 悪どいことを考えながら眠りに入った。 翌々日の学校はそりゃ大変な騒ぎであった。前の日に真紅が水銀燈の癌を全生徒、職員に対して告白したのだ。 男子生徒の中には後を追って自殺しようする生徒がいたり、女子生徒もそりゃ好かない先生だったが それでも熱意を持って接してくれていたことに感謝の念が芽生えたのか、号泣しだしたり。 銀・蒼を除く全員「・・・・・」 職員室ももはや喪中といった雰囲気で、授業の時間割もかなり滞る始末。 どうしたらいいのか、水銀燈の人生、残りの時間どうやって有意義に過ごさしてやろうか などと思い思いに感慨に耽る。授業開始のベルが鳴っても誰も教室へは行こうとしない。 今は、そんなことより水銀燈の方が大事であるという感じである。 蒼星石は後追い自殺志願者を引き止めるのに忙しく、この場にはいない。 雛「そ、そうなのー!!皆で水銀燈をリーダーにして・・・怪盗団を結成するのー!! 水銀燈の欲しいものを、ぜーんぶ、盗んできてあげるのよー!!」 何をいいだすのだろう、教師がそんなことしていいわけがない。 あからさまに全員から糾弾される雛苺。 翠「う~ん・・・たしかに水銀燈は猫なで声ですから、ぴったりだと思うのですが・・・」 紅「有栖キャッツ・アイってわけ・・・冗談じゃないのだわ・・・。」 薔薇「何言ってるの・・・。雛苺先生も・・・そんなことしても・・・銀ちゃんは・・・悲しむだけ・・・。」 雪華「ばらしーの言う通り・・・。」 何故か親指を上げ、GJと言いたげな雪華綺晶。 そこに、独特のエンジン音をあげて水銀燈のコルベットがやってくる。 雪華「このエンジン音は・・・水銀燈の・・・コルベット・・・」 そう雪華綺晶が呟くや否や、全員で水銀燈の元へとかけつける教師一同。 そして、そんな学校では大変な事になってるとは夢にも思っていない水銀燈は。 銀「さぁてと・・・こいつを使って・・・真紅を・・・どうしようかしらぁ・・・」 その手に持つ紙封筒を揺らしながら、今後の展開を考える。 まずは高級フランス料理でも奢らせようかしらねぇ・・・などと呑気に構えてたが 流石に、この学園の異様な事態に気づき始める。大勢の人だかりが自分に向かってきてるのだ。 水銀燈は自分の周りに生徒や同僚たちがぞろぞろと集まり始めたことに驚きを隠せないでいる。 銀「・・・え?な、何なのかしらぁ?う、嬉しいわねぇ・・・こんなお迎えがあるなんてぇ・・・」 紅「水銀燈・・・もういいのだわ・・・。ここにいる全員が貴方のことを知っているの・・・」 銀「・・・え?」 紅「貴方は黙っていて何て言ったのだけれど・・・ごめんなさい・・・。 やっぱり・・・こういうことは・・・皆にも知ってもらいたくて・・・。」 言ったのか、言ってしまったのかと真紅を見つめる水銀燈。 真紅だけで良かった、良かったのに・・・と冷や汗をかきながら 銀「そ、そう・・・もう、知られちゃってるのねぇ・・・」 男子生徒「先生ー、死なないでよー!!俺達、水銀燈先生の授業だけが楽しみでこの学校に通ってるんだよー!!」 その言葉を受けて、男泣きする男子たち。もう二度とあの水銀燈の色・・・いや勇姿は見られないのかと。 女子生徒「せ、先生っ!!ひっく・・・ごめんなさい・・・私達・・・もっと・・・水銀燈先生と・・・ぐす・・・一緒にいたかったです。 今まで・・・うう・・・本当にごめんなさい。」 そしてこっちでもまた今まであまり好かれることの無かった女子たちからの声。 どうしよう、今更、嘘でしたぁ・・・などと言える雰囲気ではない。 蒼「水臭いよ・・・水銀燈先生・・・。僕も何か力になれることがあったら何でも言ってね・・・。」 翠「お、おめえの為に、毎日旨い飯を作ってやるですぅ・・・だから・・・だから・・・し、死ぬんじゃねえです!!」 雛「ヒナもうにゅーを毎日お家までお届けするのー!!だ、だから元気出すのよー!!」 金「お、お葬式では・・・カナが精一杯バイオリンで送り出してあげるのかしらー・・・」 紅「体に良い成分のある紅茶もあるの・・・それを飲んでれば・・・きっと貴方だって・・・うう・・・」 雪華「これ・・・私が・・・戦場で・・・命を救ってもらったことのある・・・お守り・・・。・・・あげるね?」 ローゼン「俺に出来ることといえば・・・資金面だけのことだ・・・。必要な時にでも声を掛けてくれ!!」 ラプラス「私も微力ながら何かお力添えすることがあれば・・・」 薔薇「銀ちゃん・・・」 全員「「水銀燈先生!!」」 もはや本当に癌で死んでしまいたい気分に駆られる水銀燈。 紅「その封筒・・・診断書ね・・・」 銀「え?あ、ああ、そ、そうよぉ・・・」 実際には医者である男に色仕掛けで作らせた偽の診断書だが。 一般人から見れば、到底区別はできない。 雪華「そんな・・・こんなに重いなんて・・・ひっく・・・」 男子生徒「うおー、銀様ー!!死なないでくれー!!」 紅「何でもっと早く・・・言ってくれれば・・・」 銀「・・・ちょ、ちょっと・・疲れちゃったわぁ・・・。や、やっぱり、家に・・・帰るわねぇ・・・」 逃げたい一身でどうにか学園を後にする水銀燈。 どうしよう、今更嘘だと言えばどうなるか・・・恐い・・・、一体どうしたらいいのか。 家に帰っても、落ち着けないでいるがふとある妙案を思いつく。 携帯電話を取り出して、真紅へとメールを出す。 今日は何月何日でしょう?・・・てへっ(ハートマーク)。 ガンガン!!ガンガン!! 紅「水銀燈ッ!!いるのは分かっているのだわ!!早く出てきなさい!!」 翠「翠星石の涙を返しやがれですぅ!!」 蒼「水銀燈・・・君がまさか、そんな事をするなんて思いもしなかったよ!!」 雛「ヒナ、絶対に許さないんだからー!!」 金「有栖学園一の策士を騙すなんて、いい度胸なのかしら!!」 薔薇「銀ちゃん・・・出てきなさい!!」 雪華「流石に・・・パンツァーファウストは・・・でも・・・自動小銃ぐらいなら・・・」 銀「や、やっぱり、無理があったわぁ・・・あわわわOTL」 布団に体を隠し、借金取りから隠れてる債務者のような水銀燈。 今度ばかりは流石にやりすぎだったようだ。人を呪わば穴二つ。 その後、1ヶ月は学校へは近づけなかった水銀燈であった。
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金糸雀ファイルのテーマ 心霊編 ※クリックで演奏開始 Music ピコピコ 氏 罰と言えば皆さんは何を想像するだろうか? 幼少の頃の他愛のないイタズラに対しての罰を思い出す人もいれば授業中の居眠りがバレて廊下に立たされた事を思い出す人もいるだろう。 それとも仲間でゲームをしたさいの罰ゲームだろうか? ひとしきりゲームで盛り上がった後の罰ゲームもまた楽しいものである。 人気ロックバンド、ローゼンメイデンのメンバーもよく遊び感覚で他愛のない罰ゲームをして遊んでいた。 「イッ~ヒッヒッヒッ、それロンですぅ~」 「しまったわぁ~、まさか高いんじゃないでしょねぇ~?」 「高いですよぉ~、緑一色(リューイーソー)ですぅ!!」 「キャー、もう最低ぇぇ~。最悪なのに振りこんじゃったわぁ」 「これで水銀燈はハコね、さぁどんな罰ゲームがいいか決めるのだわ」 「う~とね、水銀燈は全裸になってスタジオ一周なの~」 「それは却下よぉ!!そんなことしたら捕まっちゃうわぁ」 「じゃ、水銀燈らしくどこかの大使館に殴りこみなんてどう?」 「それのどこが私らしいのぉ?それも却下よぉ!!」 「しかたないわね、それじゃ意味なく通行人を殴るのだわ」 「却下よぉ!貴女達はどうしても私を犯罪者にしたいみたねぇ~」 ここは某収録スタジオの一室。 レコーディング中の休憩で始まったマージャン大会に負けた水銀燈の罰ゲームはなかなか決まらない。金糸雀はどんな罰ゲームがいいのか腕組をしながらチラッと窓の外を見てみる。 (あっ、アレがイイかしらぁ~!!)そうヒラめいた金糸雀の提案した罰ゲームに水銀燈はコクッと頷いて了解した。 このスタジオからさほど離れていない場所に経営難で潰れたホテルが建っている。 そのホテルは例のものが出るとの噂。そこに普段から怖いもの無しで通っている水銀燈を行かせての肝試しが始まった。 「じゃ、持っていくのはカメラと懐中電灯だけかしら~」 「このカメラでホテルを撮影したらイイのねぇ、こんなの楽勝よぉ」 「憑りつかれんじゃねぇですよぉ水銀燈」 「残念ねぇ~そんな脅しに私はビビらないわよぉ~」 そう言い残すと水銀燈は夜中の廃ホテルに入っていく。 朽ち果てた建物が出す独特の匂いと、昔は人で賑わっていただろうロビーなどを懐中電灯の灯りだけで奥に進む水銀燈。 「あれ、ライトの電池が切れ掛かっているわぁ~、もう最低ぇ!こんな所で 真っ暗になったら転んじゃうわぁ~、もうかぁ~えろ~」 水銀燈がホテルから出ると不思議と切れ掛かっていたライトの光量が元にもどる。 接触が悪かったのか?そう考えた水銀燈はメンバーのもとに帰り、早速カメラの映像を確認する。 「まぁ、気味の悪いところね、よくこんな所に一人で行けるわね」 「あったりまえよぉ、私を誰だと思ってるの真紅」 「確かに気味悪いですけどぉ~、映っているのは水銀燈の顔ばかりですぅ」 「しょうがないじゃない、こんな暗い所でカメラを見ながら前に進めない ものぉ~~」 「それもそうだね、別段変わったモノが写ってるわけじゃないし、そろそろ 僕たちもレコーディング作業に戻ろうか?」 蒼星石の言葉にメンバーはレコーディングに戻った。 しかしローゼンメイデン、いや、音楽業界一のオカルトマニアである金糸雀だけはこの映像に何か異質なものを感じ取っていた。 「この映像いらないならカナが貰っていくかしら~」 そう言うと金糸雀はカメラからDVDを抜き取ると自分のバックにしまった。 そしてレコーディングが終わりマンションに戻った金糸雀は早速あの映像をチェックする。 (ん~、短い映像だからよくチェックするかしら~) (…えっ、何かしら今の。もう1回見るかしら~) (ふぎゃぁ~、こ、これは!!す、水銀燈の背後にぃぃぃ!!) (『 NGワード・心霊 季節外れでゴメンな 』 ) その恐るべき真実を見た金糸雀は日記にこう書いた。 11月25日 出ると噂される場所にはそれなりの出来事があるのを今日改めて実感した。 やはり火のない所に煙はたたない。 あの水銀燈の背後に現れた謎の女性はなんだったのだろう? しかしこれをメンバーで見ている時に発見しなくて良かった。 怖がりの翠星石は次の日から仕事に来なくなるだろう。 真紅は1週間ほど寝込むだろう。当事者の水銀燈にいたっては…まぁ平気か? それよりも明日はあのホテルに隠された過去を調べてみようと思う。 短編連作SS保管庫へ