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夏休み。 この響きにこの上無い程の喜びを感じる学生もいれば、 「夏休みか、そんな時期が私にもありました」 と、哀愁漂う背中で語る社会人など、人それぞれに感慨深いものがあると思う。 では、俺にとってはどうなのか。 少なくとも、中学の時の様に一日中家の中でだらだらと過ごしたり、たまーに友人に誘われて何処かへ出かけたりといった、まあごく普通の一般学生が送る典型的とも言えるのが、俺の夏休みだった。 しかし、高校に入ってからというものの。涼宮ハルヒと出会った事によって年中ずっと振り回されっぱなしの俺にとって、心身ともに休める日など当然の如くありはしなかった(もちろん、田舎に帰るのは別としてだ)。 故にこう断言できる。 夏休みだと? 「そんなもんねーよ」 季節は夏。学生最大のイベント夏休みの真っ只中である。 蛇足だが、俺は高校に入ってからこれで二回目の夏休みである。故に、今は高校二年生というわけだ。 去年の夏の様な事が起こらないよう、ただひたすらに祈るばかりである。 【自宅にて】 さて、何故俺がこうも長々と夏休みについて熱く語っているかというと。それは田舎から帰ってきた翌日の朝、奇跡的にも早起きしてしまった自分を呪いつつ、暇を持て余した俺は何を思ったのか、今までやらずにいた夏の課題を少しでも消化しようと試みたのだ。がしかし、目の前の机の上に積まれた紙切れやらくそ分厚い本やら何やらが山積みされているのを見てやる気を削がれ、現実逃避したくなったのである。 なんでこうも教師どもはアホみたいに課題を出したがるんだろうね? 「あぁ、くそいまいましい」 完全に試合を放棄した俺はその内、なぜお金は貯まらないのかとか、フロイト氏の人間性について等を考察し始めたのだが、フロイト先生は実はエロいんじゃないのか? という結論が出た所で卓上の携帯電話が鳴った。 電話先の相手はあの、涼宮ハルヒだ。 俺は渋々電話に出た。 「なん――」 『キョン! 今ヒマでしょ。いいえ、ヒマに決まってるわ。なんたってあんたはキョンなんだから。キョンはキョンらしくヒマ人でいなさい!』 どうでもいいが、こいつは今何回キョンキョン言ったんだろうね? ヒマな人は是非数えてみて欲しい。 『自分で数えれば? あんたどうせ万年ヒマ人なんだから』 おっと、つい言葉に出ていたらしい。悪い癖だな。 「悪かったな、万年ヒマ人で」 『そんなことはどうでもいいのよ。とにかく! 今から十二時までに駅前集合! いいわね?』 ん? 今は朝の十時三十分だが、あのハルヒが珍しく時間に余裕を持たせるとは。 どうゆう魂胆だ? 『失礼ね。どっかのお馬鹿さんがいっつも遅刻してくるから、わざわざ余裕持たせてあげたんじゃない』 お前等が早すぎんだよ。 「へいへい、わるーござんしたね」 『なんかムカツクわね……。ああ、それと。お昼は食べてきた方がいいんじゃない?』 「なんでだ?」 その時、電話の向こうのハルヒが、何かイタズラを発見したガキの様にニタァっと笑っているのが、 見えたのは錯覚じゃないんだろうな……。 『あたし朝まだ食べてないのよねぇ。あんたちゃんと人数分奢れんの?』 【駅前へ】 さて、いま俺は駅前に到着したわけだが。 その前に言い訳をさせてくれ。俺はあの後、ハルヒの挑発的な言葉を聞いてすぐに出かける準備をしたんだ。どんだけゆっくり行っても、駅前には十一時前後に着くはずであり、少なくとも俺がビリになる事は無いと踏んでいた。 ……いや、何かこう言い訳するのも虚しくなってきた。結論を言おう。 皆さんもうお気づきだと思うが、俺が最後だった。 ハルヒはもちろんのこと、相変わらず寡黙な宇宙人、未来から来た愛くるしい少女、ムカツクほど笑顔を絶やさない超能力者。 超普通人の俺がこいつらに勝てる日は、まあ余程の事が無い限り無いんだろうなぁ……。 そんな俺の沈んだ表情を見て何を思ったのか。ハルヒが非情に嬉しそうで、非常に眩しい笑顔で言い放つ。 「遅い! 罰金!」 何はともあれ(もう古いか、これ)SOS団の面々と会うのも久しぶりなわけで。 どうやら皆何も変わりは無いようで、安心したような残念なような微妙な気分に浸っていると、 「あなたが旅行から帰ってきて嬉しい限りですね。――いえ、その前に挨拶が先でしょうか。お久しぶりです、お元気そうで何よりです」 これまた相変わらずのハンサム顔のニヤケ面が話しかけてきた。 「それはいいが、気色悪い事を言ってくれるな。鳥肌が立つぜ、まったく」 「いやぁ、本心から述べたのですが、――ほんの軽いジョークですよ。そんな顔しないで下さい」 俺の表情から何を読み取ったのか、それとも顔にでたのか。古泉は苦笑した。 そんな奴は無視して、俺は他の団員へと片手を挙げる。 「久しぶり、みんな元気そうで何よりだ」 「当然よ、SOS団団長たるあたしが、夏如きにやられはしないわ! 年中無休なんだから!」 相変わらずこいつはわけの分からない事を言っているが。まあそこが涼宮ハルヒたる所以であり、凹んでるハルヒ何ぞ見たくないね。いや、何か不気味なだけであって、特に深い意味は無いぞ。本当だ。 「お久しぶり。キョン君も、元気そうで良かったぁ」 などと、極上のスマイルを浮かべて朝比奈さんが言う。 いやぁ、そう言われればこの暑さなんぞ地球外を突き抜けて宇宙の果てまでブーンと吹き飛ばせるというものです。それと、その白いリボンが付いた麦わら帽子もとても良く似合ってますよ。 「……」 ふと、視線を感じたのでその方向を見てみると、朝比奈さんの背後霊の様にして長門が立っていた。 そしてここで何も変わっていない、というのが間違いだということに気付く。 珍しく長門は私服姿でいたのだ。それも驚いたことに、朝比奈さんと御揃いの麦藁わら帽子(ただしリボンの色は薄青色だが)をかぶっていた。 「……?」 ジロジロと見ている俺の視線を訝ったのか、長門は数ミリ首を傾げた。 「ふふーん。どう? この前三人で買い物行ったときに色々買ったのよ。二人の服のチョイスはもちろんあたし。みくるちゃんは基が可愛いから何でも似合うけど、有希も結構可愛いと思わない?」 ハルヒはその二人を引き寄せながら言う。ああ、思うぜ。反則だ、その麦わら帽子とリボンは。 そして俺はふと思ったことがあるので、口に出してみた。 「ハルヒ、お前も被ればいいのに。似合うと思うぞ?」 するとハルヒは、 「あたしも買おうと思ったんだけどね、二人の分と自分の買ってたらお金なくなっちゃったのよ。仕方ないから、諦めたわ」 至極残念そうに言った。 【喫茶店へ常連へ】 この後、俺たちはいつもの喫茶店に入り、ハルヒの暴力的なまでの食欲と他三名の昼食代によって、それは決壊したダムがその流れを止める術を持たないように、俺の財布から金が失われていくのだった。 そんな厄介なダム決壊事件の首謀者は、もちろん涼宮ハルヒだ。 朝比奈さんは気を使ってくれたのか、ケーキセットだけという何とも女の子らしい注文をし、申し訳無さそうにそれをチョビチョビと食べていた。それがまた、良い。 「あのぉ……キョン君。本当に大丈夫? わたしの分は自分で出そうか?」 伝票を片手に、そこに書かれている金額を見てひたすら難しい顔をしていた俺に見かねたのか。朝比奈さんが心配そうに上目遣いで聞いてきた。 いえいえ、あなたは何も気にしなくていいのですよ。むしろこっちが奢ってあげたいくらいです。 「いいのよ、みくるちゃん。遅れて来た奴が悪いんだから。じゃんじゃん注文してやりなさい。あ、すいまっせーん! デザートにアイスシャーベット一つくださーい!」 お前は注文し過ぎなんだよ。なんだその目の前に並べられた皿の山は。こいつの胃袋は小宇宙でできてんのか? 「ふふっ、本当に驚きの食欲ですね。これを全部支払う人が可哀相だ」 同情に値します、と俺の隣に座ってる0円スマイル野朗が言った。 お前の食ってるビーフストロガノフも、俺のお陰でタダで食えるんだ。こいつには感謝されてもされたりん。 いや、やっぱこいつに感謝されると何か不気味なので、遠慮しておこう。 「古泉、それは俺に対する挑戦状と受け取っていいのか?」 「まさか。僕は心の奥底からそう思っているのですよ。まあ、そう捕ってもらっても構いませんが」 どうやらこいつは俺に殴られたいらしいな。 「冗談ですよ」 ふっと鼻で笑い肩をすくめた。いちいち感に障る野朗だ。 俺は軽く溜息をつきどこかに安住の地は無いものかと探していると、そこに長門が映ったのでそのまま凝視する。 何ということは無い、いつもの長門なのだが。なんだか妙に楽しそうに見えるのは、俺の気のせいなんだろうな。 リズム良く口にサンドイッチを運び、もくもくと食べる光景は見ていて飽きない。ふと目が合った。何を思ったのか、この対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェイス(最近言える様になったぜ)は、俺にしか分からない様な角度で首を傾げた。 何? とでも言いたいような感じだったが。いや、それを食えるのは俺のお陰なんだから感謝してくれよ。 と、一瞬思ったが。普段助けられてばかりいる俺が、こんなもんで恩返しできていると考えれば。まあ、安いもんかと思い直した。 この無表情な宇宙人は俺の顔から何を読み取ったのか。数ミリほど頷き、また黙々と食べ始めた。 「それじゃあ! デザートも食べ終わった事だし、そろそろ行きましょうか!」 今まで大食い世界王者も顔負けの勢いで食べ物を胃袋に詰め込んでいたハルヒは急に席を立ち、店を出る準備をし始めた。 ん? いつものくじ引きはどうしたんだろうか。グループ分けしなくていいのか? 「待てまて。グループ分けはいいのか? それとも、全員で市内を練り歩くつもりか?」 するとハルヒはキョトンとした顔で、 「何言ってんの? 今日はそんなことしないわよ」 「じゃあ、何をするんだ」 まさか、昼飯食ってはい終わり。じゃないだろうな。だとしたら俺の財布の殉職が報われんぞ。 「あれ? 言ってなかったっけ?」 「何をだ」 食べる事に夢中で肝心なところが抜けてやがるな、こいつはよぉ。 「今日は皆で図書館に行くのよ」 「初耳だぞ」 「それは僕も初耳ですね。いったいどういった御了見で?」 「わ、わたしも……」 「……」 その場全員の発言――約一名沈黙だが。――を受け。あれ、そうだっけ? などと言いつつ、ハルヒは再び椅子に座ると説明を始めた。 その説明によると、せっかくの夏休みなんだし何か夏らしい事をしようと思い、出てきた案が『怪談話』らしい。それも飛びっきりマジな。 「なんでかしらないけど、こうポーンっと出てきたのよね。ポーンって」 年中愉快な頭をしたこいつの中から、ポーンっと出てきたのがそれなら、まあまだマシな方だろう。 宇宙人や未来人や超能力者、未知の生物とかを捕まえにいくなどと言い出すよりはな。 「それはいいが、なんでまた図書館なんだ? 怖い話でも探しに行くのか?」 「ええ、そうよ。百物語やるつもりだし、その方が話の種類も増えて楽しくなるじゃない?」 なるほど、長門が楽しそうに見えたのは気のせいじゃなかったようだ。 図書館に行けることがか、大勢でワイワイしながら行ことがか。どうかは分からないが、少なくとも楽しみ……なのだろう、きっと。 「場所も確保してあるから安心なさい。鶴屋さんに頼んだら快諾してくれたわ。あの人の家、和風だし広いしね。皆で怪談話をするのにうってつけの場所だと思うのよ。真夜中になったら出るかもしれないし? やっぱやるからには本格的にやらないと!」 ずいぶんと手際がいいことだ。将来はツアー会社のコンダクターにでもなるといい。 俺がそんな無関心にハルヒの将来の職業について考えていると朝比奈さんが上目遣いでこちらを覗いていることに気付いた。 「あの、キョン君。わたしそうゆうの苦手なんだけど……」 この年中ドジっ子で麗しくも愛らしいハートフルエンジェルに助けを求められたら、そりゃもう全財産をはたいてでも助けてあげたい衝動に駆られるというものだ。金はもうないがな。 「大丈夫ですよ。何も幽霊や妖怪が本当に出てくるわけじゃ無いですし、いざとなったら耳栓でもして聞き流せばいいんです。それに所詮お遊びですし、気楽にやれば――」 この時、俺のこの言葉の全てに涼宮ハルヒを焚きつける要素があったことにすぐに気付くべきであった。 「なーに甘い事言ってんの! やるからには徹底的にやるわよ! 幽霊や妖怪が出てくるような――いいえ、から傘おばけも思わず全力で逃げ出したくなるような世にもこわーい話をするのよ! 今からそんな甘っちょろいこと言ってると、鶴屋さん家五十周の刑なんだからね!」 そんな喜怒(哀は抜けて)楽で喋るハルヒを見て、この世はまだまだ平和だな。 などと思いつつ、俺は後に起こる身も凍る様な出来事など、想像できるはずもなかったのだった。 その後すぐに店を出ると、俺たちは一路図書館へと向かった。 その内ハルヒは朝比奈さんに絡んで楽しそうに笑ってたし、朝比奈さんも妹を見ているお姉さん的スマイルでハルヒを見ていたし、古泉はいつものようにニヤケ面を満面に湛えていた。 だがその中でも、一番楽しそうにしていたのは長門だったように思う。 笑いながらハミングしスキップを、などは無かったが(そんな長門も見てみたい気もする)家族で遊園地に行くときの我が妹と似たような雰囲気を感じ取った、様な気がする。あくまで内面的にだがな。 【図書館へ】 さて、図書館に着くと館内のヒンヤリとした空気が出迎えてくれた。 夏場のこのくそ暑い時期。やはり冷房の効いた場所というのは極楽と言えるので、俺の顔が緩むことも仕方が無いのだ。いやぁ、エアコンはいいね。エアコンは人間の創った文化の極みさ。 だからハルヒが、 「なぁにアホ面してんのよ。いい? 一人最低十個以上は見つけてくるのよ。それもハンパな物は許さないんだから。特にキョン、あんたサボって寝てたりしてたら罰金なんだから! いいわね?」 ひじょーに楽しそうにそう言うと、ハルヒはリズムよく『サライ』をハミングしながら本棚の影へと消えていく。 それに続いて長門が夢遊病者のような足取りで。残された俺たち三人も散開して『怖い話』の本を名目の元探し始めた。 探し始めてから十五分後。俺は一角の本棚でホラー全集を観ているのだが、どうにも読む気になれず適当な本を手に取ると、手近なソファーへと腰掛けた。 どうやら俺の体は図書館に来ると睡眠物質を体の中で無断で勝手に大量に作り出すらしく、その原因は何なのかと考え始め、このままではハルヒによって神罰が下されるので俺なりに全力で睡魔の野朗に抗っていたのだが、冷房効果もありやがて無力にも暗黒空間へと引きずりこまれる寸前に、 「隣、いいですか?」 微笑を携えたマイエンジェル、ではなく。 「何だ、お前か」 いつもニヤケ面を構えている、古泉であった。 「何か残念そうにされてらっしゃいますが、誰だと思ったのですか?」 「いちいち聞くな、鬱陶しい」 これは失礼、とくすくす笑い出す。 「それで、何のようだ」 すると奴は待ってましたと言わんばかりに、 「今回の件なんですが」 擦り寄ってくるな、顔が近い、息を吹き掛けるな気色悪い。 やれやれと言わんばかりの表情で、古泉は少し身を引いた。 「それで、今回の件なんですが。またこちらから色々とイベントを用意させて頂く事になりました」 「またハルヒが余計なことを考えないようにする為に、か?」 「ええ、そうです。ちなみに今回はドッキリ企画を計画しているので、くれぐれも涼宮さんには一切口にしないようお願いいたします」 どうだか、つい口が滑っちまうかもしれねえな。 「その時はその時ですが。もし本当に幽霊や妖怪が出てきたとしたら、あなたの責任ですよ?」 「わかってるよ、ハルヒには黙っておく。んで、朝比奈さんと長門にこの事は伝えてあんのか?」 「いえ、これから伝えようかと。黙っておくのも一興かと思うのですがね。どうでしょう?」 まあ、言うに越した事はないのだが。怖がって俺に抱きついてくる朝比奈さんを想像すると、こうグッと来るものがあるにはあるが、あの人の場合ショックのあまり気を失いかねん。 長門? ああ、あの宇宙人アンドロイドなら大丈夫だろう。というか、あいつが怖がる姿など想像できん。 「一応言っておくべきだろう。ハルヒの為のドッキリ企画なら、仲間外れにしてしまうのは気が引ける」 「了解しました。ところで、あなたには――」 そう言うと、古泉は視線だけを後ろに配り、 「彼女に構って、足止めをお願いします」 古泉はそう言うとソファーから立ち上がり、そそくさと本棚の群れへと非難して行った。 だが、ここで俺はある事を思いつき、奴を呼び止めた。 「古泉」 「なんでしょう?」 俺はできる限り皮肉ぶった顔をして、 「今年もまた、同じ夏が巡るかもしれんな。そうしたらお前のその企画とやらも徒労に終わるかもな」 それを聞いて古泉は大袈裟に肩をすくめると、 「できるのなら、そのようなことが起こらないように願うばかりですね。その為にこちらから娯楽を提供しているのです。全力を尽くすまでですよ」 冗談めいて言うが、奴は俺に背を向けており表情は見て取れなかった。そのまま本棚へと消えていく。 半分冗談、半分マジってところか。 俺が軽く溜息をつくのと、数秒遅れで。 「ねえキョン。見て見て、なんだか怪しい本を見つけたわ! あからさまに、あたしに読んで下さいって言ってる様なもんよねっ! なによ、あんたのそのショボそうな本は。そうね、特別にあたしが見つけたこの本を読ましてあげるわ。さっ、読みましょ!」 いつもより等比者(あえて誤字するのがポイントだ)二、三倍は明るいハルヒが後ろから頭越しに、まあ今しがた述べられた通りの本を突き出し、俺の隣のソファーに座るとその本を読み始めた。 図書館=寝る場所の俺に。安住の地は無いらしい。 その後の事なのだが。あらかた怪談話の種を探り終えた俺たちは一時解散。そしてまた駅前に二十一時ジャスト集合となっていた。 「それじゃあ、二十一時に駅前集合よ。絶対に遅れちゃダメよ。特にキョン、あんたいっつも遅いんだから。たまには早く来てみなさいよ」 努力はするが、頼むから集合十五分前にはいてくれるなよ。勝てん。 「ダメよ、あたしだって負ける気ないんだから。悔しかったら一番乗りで来てみなさい!」 ハルヒはやっぱり楽しそうに、満面の笑みでそう言った。 「じゃあね!」 「私も帰りますね。それじゃあ、また後で」 そう可愛らしく手を振り、朝比奈さんもヒョコヒョコと帰って行く。 「……また」 何を思ったのか、長門は俺を見上げると、朝比奈さんのマネなのか手を振って帰って行った。 止めてくれ、その格好にそれは反則だ。 「ああ、またな」 そして今は俺と、隣にいるハンサム野朗と二人きりになり、 「そうそう、一応報告しておきますが。あなたがいない間に涼宮さんは、今日に至るまで計十四回ほど閉鎖空間を発生させましたよ」 いきなりそんなことを言い出した。 計十四回と言う事は、一日に何回も発生させたのか。はたまた一日置きに発生させたのかは定かではないが。 「そうか、それはご苦労だったな古泉」 「いえ、慣れっこですが。でもご無沙汰でしたので少々くたびれたのも事実ですね」 両手を上げると肩を落とし、芝居染みた仕草を見せた。 「それで? あいつがムカッ腹立てるほどの事が、俺がいない間にそんなにあったのか?」 「いえ、そうではありませんが……まあ、そう取っても間違いではないでしょう。ちなみに、その主な原因はどうやらあなたの様ですよ」 いよいよもって意味不明だ。 「……俺が何したってんだ」 「あなたは然程悪くは無いのですが、そうですね。言うなれば『会えない時間が想いを募らせた』とでも言った所でしょうか」 何楽しそうな顔してどこぞのキャッチフレーズを謳ってやがるんだ、この野朗は。 「俺にはお前の言ってる事がさっぱり理解できん」 すると古泉は得意のククッという含み笑いをすると、 「おや? そろそろ気づいている頃かと思いましたが……それとも惚けているのでしょうか?」 「理解できんことに気づけってのは、無理難題ってもんだぞ」 「そうですねぇ、涼宮さんには悪いのですが。具体例を挙げますと――」 少々間を空けもったいぶり、田舎の従兄弟達がちょっとしたトラップを仕掛け俺がどんなリアクションをするのか楽しみで仕方が無い、といった感じの表情で俺の顔を観察してきやがった。 「あなたが旅行に出かけていた二週間ほど。毎日一、二回は非通知で電話がかかってきましたよね? 」 「それがどうした」 そして奴が、これまででベストⅢ――いや、ワーストⅢに入るであろう最上級のニヤケ面で言いやがった。 「その全ての電話先の相手は、あの涼宮さんなのですよ」 【自宅にて】 「訳分からんっての……」 あの後、ちょっとばかし寄り道をし、家に帰った俺は飯、風呂、着替え等。やるべきことは全てやり暇を持て余していたのだが、なにぶんまだ十九時近くだ。約束の時間までやることが何も無いので、仕方なく先ほどの古泉の言葉を頭の中で反芻していた。 田舎に帰っていた間中のイタズラ電話の数々。その犯人がハルヒだ? いよいよもって意味が分からん。何がしたいんだ、あいつは。 その後もその行動理念は何なのかについて考察し始めたのだが、そもそも相手があの涼宮ハルヒだ。やる事なすこと全てに良い結果をもたらす事が、限りなくゼロに近い奴にとって俺へのイタ電は、まあヒマだったからだとか、そんなところだろう。きっとな。 そして、「あいつの考えてる事を理解することは、無理無駄無謀」という結論に至った所で、今日は徹夜をする事になるだろうし、それに備えて今から睡眠を摂っておくのも悪くないなと思い、俺はそのままベットに横になった。 さて、これを読んで何かしらの予想できた方はまあ、正解だ。 正解? 何がだよ。と、熱り立つ人も落ち着いてほしい。 結果から言おう。俺は寝坊した。 ここまでくると、最早漫画の主人公の様に王道を突っ走る俺に自分自身ほとほと呆れるのだが、時間が時間だ。そうも言ってられない。 なんせ今は二十一時ジャストだ。そう、駅前集合時間ピッタリである。 「嘘だろ」 夏場のこの時季、少々寝汗を掻いてたりしてたんだが、今はそんな細かい事を気にしてられん。 案の定、ポケットの携帯が鳴り出す。 示された電話相手は、涼宮ハルヒ。 『ちょっと! 何してんのよバカキョン、遅いじゃないの!』 「すまん、今起きたところなんだ」 『はあ? このばか! バカ! バーカッ!』 特大の声量で出迎えてくれた。いい目覚ましだなこの野朗。目覚ましと言えば、なぜ作動してないのだ? 相棒よ。 よく見ると目覚ましの隣にシャミセンが寝ていて、その手はなぜか目覚ましを止める為のボタンに届いていた。なんてこった、絶妙のタイミングでシャミセンが止めたとでも言うのか? 実はまだ人並みの知性を持ち合わせているんじゃないだろうな、こいつは。 「集合、九時だよな」 『いいから、さっさと来なさい! 三十秒以内よ!』 無茶言うなよ、ここからそこまで最速で二十分は掛かるんだぞ。 『寝坊したあんたが悪いのよ。とにかく、さっさと来なさい!』 その後、俺は急いで家を出て可能な限り自転車を飛ばした。 信号待ちなどで待ってると、ハルヒが引っ切り無しに電話で「信号なんてくだらないわ! 無視よ無視!」などと言う。 どうにもこいつは俺を車に轢かせたいらしいな。 駅前に着くと、既に全員揃っていてハルヒが踏ん反り返ってるのも、否応無しに発見できた。 古泉は盛大に肩をすくめ、朝比奈さんは苦笑いのような微妙な笑顔で、長門は沈黙で出迎えてくれた。 そしてハルヒは、怒り笑いで、それでもやっぱり楽しそうにこう言うのだった。 「遅刻、厳罰!」 【鶴屋家へ】 さて、その時言い渡された厳罰は何かというと、 「鶴屋さん家五十周の刑よ!」 それはマジで言ってんのか? お前も鶴屋さんの家の広さがハンパ無い事は知っているだろう。 結局やる破目になるわけだが、夏場のマラソンほど過酷なものは無いな。陸上選手でも避けてるもんじゃないのか? やがて三周目にしてぶっ倒れた俺に見かねたのか、 「ハルにゃん、もうそろそろいいんじゃないっかな? ほら、本当に五十周してたら時間なくなっちゃうっしさっ!」 玄関前まで出迎えてくれていた鶴屋さんが、天然笑顔百パーセントで言った。 ハルヒは俺にじとーっとした湿った視線を送ると、 「鶴屋さんがそう言うなら、まあいいわ。キョン、鶴屋さんに感謝なさい」 本当に感謝しますよ、彼女には頭が上がらない。 「さあさあ! 前座も終わった事だし、さっさとうちに入っちゃってよっ! めがっさ盛大に持て成してあげるにょろ!」 ……前座扱いですか、俺は。 そしてSOS団の面々は鶴屋家へと入っていくわけだが、実は俺は一つ手荷物を持ってきていて、厳罰を受けている間にそれを古泉に預けていたのだが。 なにやら奴がいつも以上にニヤニヤしているのは、気のせいか? 「大変でしたね。まあ、今回はあなたに非がありますが……。それにしても、あなたも中々粋な方だ」 くそっ、こいつに預けたのは間違いだったか。 俺は汗でベタベタになったTシャツをつまみつつ、苛立ちをあえて隠さずに言った。 「……中身を見たのか」 「ええ、それはもうバッチリと拝見させて頂きました」 ウインクをするな、気色悪い。 「デリカシーの無い野朗だ」 そう言って俺は奴から荷物をひったくると、さっさと女連中に続く事にした。 後ろから付いてくる野朗の、ふうやれやれと言った溜息交じりの苦笑が、また俺をイラつかせたのは内緒だ。 手荷物の中身? それもまた、内緒だ。 【入場、そして怪談へ】 俺たちは鶴屋さんに案内され、少なくとも俺の部屋の三倍はあろうかという部屋に案内されると、 「ここはあたしの部屋だから、じゃんじゃんくつろいじゃっていいよっ! 狭いかもだけどねっ」 なんて言うから、やはりこの人は只者ではない。 その後、鶴屋家のお手伝いさんらしき女性が飲み物を運んできて、「ごゆっくり」の一言に感謝の言葉を述べていると、 「それじゃあ、時間も押してるし。そろそろ始めましょうか!」 第一回『SOS団百物語』の始まりである。 さて、ここで百物語って何? という方もいるであろうから説明しよう。 端的にいえば、「ロウソクを百本用意し、怪談話が一つ終わるごとにロウソクの火を一つ消していく」というものだ。 そして百話終えたのちに何かしらの妖怪や幽霊が出てくる、というのだが。さて、そんなことは本当に起こり得るのだろうか。 俺は幽霊や妖怪なんざ信じちゃいないが、今この場に涼宮ハルヒなる人物がいることを考慮に入れると、そうゆう類の物が出てきてもおかしくは無い。だから古泉の野朗がドッキリなるイベントを企画しているらしいのだが。はて、うまくいくかね。 「うまくいかせてみせますよ。そうでなくては、やる意味がありません」 それはいいが、お前が言うとイマイチ悪寒が走るのは、どうしたことだろうね? 隣の部屋に用意されていた「百」のロウソクに次々と火がともされていき、次第に俺も不安になってきた。 「おい、ハルヒ。こうゆうのは寸止めでやるもんじゃないのか?」 「何言ってるのよ、こうゆうのは本格的にやらないと、幽霊とか妖怪とかツチノコとかは出てこないのよ!」 いや、最後のは出てくるかどうか知らんが。 「マジで出てきたらどうすんだよ」 ハルヒは俺の言葉を意外だとでも言いたそうな顔で見てくると、次第に子悪魔的な笑みを浮かべ、 「なに? あんたそうゆうの苦手なの? ふーん、そうなんだ。へぇ……」 「なに言ってやがる。俺はその手の類は信じてねぇよ。何なら『幽霊不信大会第二十九回』でもやるか? 優勝する自信があるぜ」 するとハルヒは路上パフォーマンスに失敗した道化師を見る様な顔で、 「なにそれ。まあいいわ、そこまで言うなら別にいいのよね? ひゃくものがたり♪」 最後にはとっておきの笑顔――だろう、きっと――をするのだった。 ええい、ドジ踏んじまった。どうやら俺はこいつを止める術を持ち合わせていなく、それに否応なしにホイホイ付いていくしか能が無い様だな。 そんな自分に少し自己嫌悪する。 「やれやれ」 まあ、それも悪くは無いのは、ずっと前から分かっているんだがな。 【百物語、開始】 そんなこんなで「第一回SOS団百物語」は、遂に開始されてしまった。 全てのロウソクに火が灯され、隣の部屋から百のロウソクの熱気が伝わってくる。 さすがに、夏場にやるものとはいえ恐怖で体が冷める前にこの熱気でダウンしてしまうので、窓とふすまは全開にして行われることとなった。今日は風もあまり吹いてないし、まあ火が消える心配はあまりないだろう。 「じゃあ、まずは団長たるあたしから始めるわ!」 さて、いきなりだがここで俺の怪談耐性について語りたいと思う。 それはいいから怪談を聞かせろ? まあ待て、そんなことしたらただでさえ無駄に文字数が多い今回の話が、数十万文字は超過してしまうことになり、ただでさえグダグダな俺の文章が、更にグダグダになることは目に見えている。――そこ、決して俺が怪談話のボキャブラリーが少ないからではないぞ。ヒソヒソするなっ。 俺は中学を卒業するまでは、怖いもの見たさで様々な本や映像を見てきたがたいして怖がったことは無い。 故に、古泉の理論めいたどこで怖がればいいのか分からない話や、朝比奈さんの途中で噛んだりする怖い話のはずなのに逆に和んでしまったり、長門の本の内容をそのまま読むだけで無感情で語られたりしても、全く怖くは無いのだ。 「でね、その湖に何があったと思う? ――河童のメガネがあったのよ!」 ハルヒにいたってはこんな感じだ。ここ、笑うとこ? (それなんて銀●?) だが一人――いや、実のところ二人か。恐ろしいダークホースがいた。 「ずっと前の話なんだけどね、戦時中ここら辺に赤い着物を着た女の人が住んでたんだよっ。戦争に駆り出された恋人を待っててね。 そんでもって、その人いっつも赤い鞄を持って恋人との約束のここの近くの街灯下で毎日待ってたんだけど、その恋人実は死んじゃっててね。 その女の人、その事はもう知ってたんだけど。やっぱ信じられなかったんだろうねぇ。 何年も待ってたんだってさっ!」 鶴屋氏である。 なるほど、序盤は儚い恋の話で和ませる、ですか。そして段々怖くしていくといった具合か。 その証拠に朝比奈さんは、祈るようなポーズをとって悲しそうにしていた。あれ? なんでこんな所に天使が? 俺がそんな愛らしい方を思わず抱きしめそうになり、理性と全面戦争を勃発させたのだが。ハルヒが俺をしかめっ面のアヒル口で見ていたので俺は瞬時に理性と戦争終結を調印した。いや、やっぱり戦争は駄目だね。 「それである時、その人は運悪く通り魔に刺されて死んじゃったんだ。犯人はすぐに捕まったんだけど、その犯人、気がおかしかったらしくてね。殺した女の人の首を――」 妙に切迫した鶴屋さんの雰囲気に、全員静まる。 「切り落として山中に埋めたんだってさ……」 「ひぃっ……」 朝比奈さんは小さな悲鳴を上げると、かたかたと小さく震えだした。 どうやらここから鶴屋ワールドが展開されていくらしい。この人の事だ、相当怖い話を用意しているに違いない。 ですが、はたして俺を恐怖に陥れれますかね、鶴屋さん? 「そんでね、これも謎なんだけど。女の人がいつも大切に持っていた赤い鞄も、どこかに消えちゃったんだってさ」 「犯人が、山中へ一緒に捨てたんじゃ?」 何となしに俺が質問するが、鶴屋さんはニッと笑うと(これがまた不気味だ)。 「ううん。犯人は盗ってないって言い張ったんだってさっ」 「それは虚言という可能性もありますよね」 古泉がずいっと前にでて言う。 「うんっ、そうかもしれないね。真相は闇の中ってやつっさ!」 するとハルヒが怪訝そうな感じで、 「それで? まさか終わりってわけじゃないでしょ?」 「うん、それでねっ。一応警察も、犯人に動機を聞いてみたんだけど。ひたすら怖がるばかりでね、なかなか言い出さなかったんだって。それでも、しばらくすると落ち着いたのか話し出したのさっ」 全員、鶴屋さんの話しの続きを静かに―― 「それでそれで?」 待てないのか、ハルヒよ。 「うん、それでね。動機はまあ、通り魔なんだし。ムシャクシャしてやったんだって。でもね、女の人の首を切り落とした理由が――」 「――死んだはずのその死体は、笑いながら犯人に話しかけてきた」 俺は――いや、その場の全員が驚いた。 「ねぇ、どうして邪魔をするの?」 「な、長門?」 長門が喋りだしたのだ。あくまで棒読みだ、が。それが逆に怖い。 「え、有希……?」 ハルヒも意外そうな顔をし、朝比奈さんに至っては顔が青ざめ、ガタガタ震えだしている。 「それに恐怖した犯人は、その手に持った包丁で何度も何度もその死体の首を突き刺し始めた。 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も――」 突然エラーでも起こしたかの様に、長門は同じ事を繰り返し喋り始めた。流石に悪寒を覚えたね。 「そして首を切断した犯人はその首を持ち去り、山中へと埋めた」 「お、おぉ……よーっく知ってるね長門っち! いやあ、知ってたのかいっ?」 鶴屋さんの言葉に軽く肯定の仕草を見せると、 「この話には続きがある」 そう言って俺を見つめだした。止めてくれ、今はその黒い瞳が怖いぜ。 「……続き?」 仕方なしに俺が言うと、その言葉を待っていたのか長門はゆっくり頷くと喋りだした。 「翌日、犯人は独房の中で死んでいるのを発見された。死因は不明。密室のはずのその空間には他者を殺害する方法はありはしなかった。 だがそれが他殺だという事は明瞭としていた」 「なにそれ? 舌を噛んで自殺とかじゃないの?」 ハルヒの質問だが、きっとそうではないだろう。何となくだが予測はできる。 「なぜなら、その死体は――」 「首から下が無かったから」 予想がハズレた。 「首から下だ? なんでだ、そうゆうのは普通首が無くなったとかじゃねえのか?」 あえて体を持ってったってのは、いったいどういったことか。 俺のこの疑惑に鶴屋さんが明朗に言い返してきた。 「うんっ、それがね。犯人が首を埋めるときに、聞いちゃったんだ」 「なにを?」 ハルヒの怪訝そうな声に応えず、鶴屋さんは同じ言葉で返した。 「きいちゃったんだぁ……」 「…………」 突然クスクス笑い出し、俯いた鶴屋さんの表情は前にかかった髪のせいで伺えない。 当然の如くその場に沈黙が訪れる。 そして次の瞬間―― 「きゃはははははは! ねえ、なんで首だけ埋めちゃうの? あたしの体はどこにいったのかしらぁ? うきゃはっ! きゃはははははははは! ぎゃはははははははははははははははははははははははははははは!」 心臓が止まるかと思った。 突然、鶴屋さんは立ち上がると大声で上記のセリフを叫びだしたのだ。 「ふぁ、ふぇ……はふぅ~……」 白目を剥いて朝比奈さんが倒れてしまった。 「あ、朝比奈さん……? ちょ、ちょっと。大丈夫ですか?」 この出来事に気付いたのか、鶴屋さんは今までの調子を止め、 「あはははは! あれっ? みくるっ、そんなに怖かったのかいっ? ごめんよ~」 といっていつもの調子に戻った。 「あ~、びっくりしたぁ。ちょっと鶴屋さん? いきなり叫び出すのは反則よ!」 畳に手をつき(腰でも抜かしたのか?)、猛抗議をするハルヒに鶴屋さんは笑って返した。 そうだぜ、いきなり叫ぶのはこちらとしてもそれなりの気持ちの準備が……いやまあ、それが狙いなんだろうから、してやられたんだろうな。 「あはは、ごめんよ~。そんなに怖がるとは思わなかったからっさ! あ、でもまだ続きがあるんだっ」 鶴屋さんは何故か持っていた毛布を、横たわった朝比奈さんにかけると(予想してたんだろうな)、話の続きを始めた。 「そいでねっ、独房の看守さんが言うには。死体の近くに何か赤い物を見つけたんだってさっ」 「赤い物、ですか?」 これは俺の質問だ。 「うんっ。真っ赤に血で染まって、中からながーい髪がはみ出てたらしいよっ」 「それって、もしかして……」 ハルヒが先ほどの姿勢のまま言った。あれ、こいつ本当に腰が抜けたのか? 「う、うっさいわね! 黙って聞いてなさいよ!」 どうやら図星らしい。 ニヤニヤしている俺が、ハルヒにグーで殴られたのは蛇足だ。 「あははっ。でね、それはいつの間にか消えててそのまま行方知れずらしいんだっ」 「そして今でもその女性の首は発見されていない」 長門が付け足すように言う。もはやここまでのコンビネーションを見せ付けられると、気付くなと言う方が無理な注文だろう。 どうやらハルヒも感付いたようで、俺に目配せをしてくる。 ああ、そうだな。 この二人、グルか。 「あはははっ! 気付いちゃったっかなぁ? いやあ、バレちゃ仕方ないっさ!」 「仕方ない」 二人は残念そうなのを微塵も見せずにいた。 「あー、でね。もうちょっと付け足させてもらうと」 「今もその赤い鞄は夜になると、自分の体に合う体を探しているらしい」 『お・わ・り』 「どうだい? めがっさ怖かったと思わないかいっ?」 どうにょろ? と聞かれれば。もちろん怖かったさっ。 「ええ、怖かったですよ。思わず、腰を抜かしそうになるほどにね」 そう言うのと横からビンタが飛んでくるのは、まあ言わなくても分かるよな。 しかしここまで見事なコンビっぷりを見せ付けられると、逆に賞賛の美を送りたくなるってもんだ。 「……怖かったにょろ?」 や、止めろ長門。こら、首を傾げるな。それは反則だっ。 「いやー、流石ね二人とも。やっぱりあたしが見込んだだけの事はあるわ。そうね、これを贈呈するわ」 そう言うとハルヒは、どこから取り出したのか黒ペンと腕章二つを取り出した。 お前はドラ●もんか。 腕章に書かれた文字は『恐怖コンビ』。見方を間違えれば別の意味でも恐怖であろう。この二人は。 「あははははっ! あんがとね、大事にするよっ!」 「……」 長門、そんなものにお礼のお辞儀をしなくてもいいんだぞ。 そんな俺の思いを知ってか知らずか、二人ともいそいそと付けだした。 「ふふん、でもね。あたしの方が凄いのよ? なんたって、今日はこれなんだから!」 ハルヒは元気良く言うと、右腕についていた団長印ではない腕章を見せびらかした。 『恐怖大王』 お前はどこのノストラダムスだ。 【休憩、そして……】 「さーて、それじゃあ次行きましょう、次」 一つ火を消した後、また続きを始めたのだが、そういえばさっきから珍しく黙りこくってる野朗がいるな。 「次は、古泉君ね。さ、始めてちょうだい」 「……」 だが古泉は、ハルヒの問いかけに無言で微笑んでいた。 なんだ? このイエスマンが珍しくノーと言える男にでもなったのか? 「おい、古泉?」 軽く肩を揺する、と。 バタリッ こ、こいつ……。 微 笑 み な が ら 気 絶 し て い や が る ! あ……ありのまま今起こった事を話すぜ! 『今まで怪談とか平気だと思っていたサイコ野朗が正座の姿勢で微笑みながら気絶していた。』 な……何を言ってるのかわからねーと思うが、おれも何があったのかわからなかった……頭がどうにかなりそうだった……。 閉鎖空間だとか超能力だとかそんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ。 もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……。 さて、俺はいつの間にポル●レフになったんだろうね? 「って、んなことはどうでもいいんだ!」 と、空気に突っ込んだ俺なのだが。周りの視線が痛いのは気のせいさ、きっと。 「あんた何やってんの……?」 だよね。俺もそう思うぜ、ハルヒよ。 「あーあ。まさか古泉君も気絶しちゃうなんて。これじゃ続きができないじゃない!」 非常に残念そうに言っているが、俺としてはそろそろ休憩を挟みたいのだが。 「ハルにゃん、ちょうどいいから休憩にするっぽ? 飲み物とかも持ってこないとだしさっ!」 俺の思考を瞬時に読みとったのか、自分の意思なのかは定かではないが。 非常にありがたいです、鶴屋さん。 「ああ、俺もそろそろ疲れてきた。ちょうどいいし休憩にしようぜ、ハルヒ」 何しろ三時間はぶっ続けでやってきたんだ。そろそろ休んでも、幽霊や妖怪も文句は言わんだろうよ。 「ふーん……。有希は? 休憩したい?」 「どちらでもいい」 「そっか。それじゃあ、休憩にしましょう」 その後、鶴屋さんは長門をお供に飲食物を取りに行くと言って廊下へと消えていった。 しかし、まさかあの古泉が怖い物嫌いとは。ようやくこいつの知らない一面を垣間見たような気がする。 「まっさか、あの古泉君が気絶しちゃうなんてね。思いもしなかったわ」 そりゃそうだ。 「でもさっきの話、本当なのかしらね? マジだったとしたら、そのうち掘りに山へ行ってみましょうか。何か出てくるかもしれないわ」 「止めておけ。もし本当だったとして、マジで掘り出したりしたらどうする気だ。祟られても知らんぞ」 俺の発言に、ハルヒはMr.ビーンばりにニヤっと笑うと、 「なに? やっぱあんたそうゆうの信じてんの?」 「いや、そうゆう訳じゃないが。気味が悪いだろ、普通」 「そうゆうのを信じてるって言う――ん」 突然、ハルヒは会話を止めると立ち上がった。なんだ? 「どうした?」 「ん、ちょっとトイレ」 そう言うと廊下へと消えていった。 五秒後、戻ってきた。 「なんだ、えらい早いな。普通女性のトイレってのはもっと長いもん――」 「ちょっと来て」 そういうと、ハルヒは俺の手首を掴み無理やり立たせやがった。 なんだ? どうしたってんだか。 「いいから黙って付いてきなさい!」 「わかったから、そう怒鳴るな。家中に響くだろうが」 「ふんっ」 そうして行き着いた先は、 『WC』 「……あん?」 なんのつもりだ、これは。 「まさか……ハルヒ、お前。怖いのか?」 するとハルヒは俺のその言葉に、異常とも言えるほど過剰に反応し、 「バッカじゃないの? そんなわけないじゃない! いい? あんたがトイレに行きたそうだったから、しょうがなく一緒に連れてってあげたの。感謝なさい」 俺がいつトイレに行きたいなどと言ったか、ハルヒさん? 「うるさい! あんたはトイレに行きたかったんでしょうが! あたしがそれを察したの、感謝しろ!」 なんだその滅茶苦茶な理由は。 いや、しかし。ははーん、そうかいそうかい。どうやらコイツは、俺の知らない意外な一面をまだ隠し持ってるらしい。 「ニヤニヤすんな! バカキョン!」 おっと、知らん間に顔がニヤついてたらしい。いかんいかん、悪い癖だな。 それにしても、あの天上天下唯我独尊をモットーとしているようなこいつに、こんな一面があったとはな。 普段、滅茶苦茶な事をしていて気付かなかったが。まあ、こいつも一女子高生って所か。可愛らしい所もあるじゃないか。いや、これも深い意味はないぞ、マジだって。って俺は誰に言い訳してるんだろうね? 「いい? 用が終わっても勝手に戻っちゃダメだからね! 絶対よ!」 ハルヒはそう言って、怒ってんだか怖がってんだか良く分からない勢いで女性用トイレへと入っていった。 数分後。 俺は付き添い人を待っているわけだが。しかし、女性のトイレってのはどうしてこう長いんだろうか。 まあ、女性は色々大変なのは分かっているので別段待つのは構わないのだが。仕方ないので、退屈を紛らわす為に窓の外を見る。 今夜は満月か。いやぁ、いい月だな。 おや? 満月の付近に、もう一つ丸い物が浮遊しているのが見えるのだが。はて、月の野朗はいつの間に分離したのだろうか? アメーバか何かの親類だったのか。 チリーン ふと、鈴の音が聞えたが、まあ風鈴か何かだろう。でもこの音からは、あの球体の鈴の方を連想させる様な、 チリーン 『……ねぇ』 俺は鈴の音に気を取られていたらしく、自分へと近づいてきていたその『存在』に気付けなかった。 もはや空に影の月は無く、代わりにその『存在』がそこにあった。 『私の体、どこにあるか知らない?』 長い黒髪に覆われた、血まみれの生首がそこに『浮いていた』。 「――!!!!!!!」 俺は声にならない悲鳴をあげ、その場に立ち尽くした。 いや、動けなかったんだ。声も全く出せず指一本動かせれない。なるほど、これが金縛りってやつか。 それは分かった。だが、この状況はなんだ? 金縛りってのは幽霊か何かのせいだと言われているが、確かテレビで理論的証明をしていたはずだよな。幽霊なんかの仕業ではない、と。 では、俺の目の前にあるこれはどう説明するよ。 『ねえ、知らない? 知らないの? じゃあ――』 それはもう俺の手が届く範囲にまで迫っており、青白く土汚れがついた顔が良く見え、俺をより一層恐怖のどん底へと叩き落した。 そしてその次の言葉もまた、俺を恐怖させるには十分だった。 『貴方の体、ちょうだい?』 「……っ!!!」 そして次の瞬間―― ――バタンッ! 蹴破ったように扉が開け放たれる音が聞えたと同時に俺はその場に尻餅をついた。 そしてあの生首も消えていた。 「ちょっとキョン! ちゃんといるでしょうね! いなかったら殺す――あら?」 そんな感じでハルヒの声が聞えた。いや、実際は曖昧だったからどうか忘れたが。 「どうしたの? あんた、息荒いし顔色悪いわよ?」 いや、これほどハルヒに感謝したいと思った日は無いね。今なら素直になれそうだぜ。何にかは知らないが。 「……ハルヒ」 「な、なによ」 俺はハルヒの顔をしっかり見据えると心なしかこいつの顔は少し赤かった気がするが、今はそんなことはどうでもいい。 俺は立ち上がると、すぐにでもその場から逃げ出したい衝動に駆られた。 「はやく戻ろう」 「うん? え、ええ。分かったわ」 何か鬼気迫る感じを察してくれたのか、存外素直に言う事を聞いてくれた。 俺はハルヒの手を引きながら、冷静になろうと考える。 何だったんだ、今のは。 新手の催眠術か何かか? それとも古来より伝わる何かの魔術か? それとも未来から来た朝比奈さんの親戚のロボットか何かが四次元ポケットから出した道具に誤作動でも引き起こったのか? ええい、落ち着け俺。そうだ、素数を数えるんだ。 「2 、3 、5 、7 、11、13……」 「ちょ、ちょっとキョン? ……素数? 何言っちゃってんのよ。ほんとに大丈夫?」 いかん、口に出ていた。 「いや、すまん。大丈夫だ」 珍しくハルヒが心底心配そうな優しい言葉をかけてくれるが、よくよく思えば奴をからかえるチャンスだったのだろうが。いや、そんなことはどうでもいい。今は一刻も早く皆のところへと戻らねば。 その間にもう一つの疑問が俺の頭の中に浮かび上がってきた。 これもハルヒの仕業なのか? 【イッキ ショウタイム】 部屋に戻った俺は愕然とした。 火の灯ったロウソクはそのままで、部屋には誰もいなかったのである。 この時の俺はどうにも焦っていたようで、気絶した二人がいないことに何の疑問も持たなかったのだが。 「あれ、なんで誰もいないの? まあいいわ、座って待ってましょ」 「あ、ああ……」 それにしてもこれはどう言うことだ。 さっきのあれにしろ、今のこの状況にしろ。何か不気味なものがある。 幽霊なんぞ信じていない俺だが、あんな間近でリアルなものを見せられちゃ信じないって方が嘘だぜ。 それにしても、浮遊する生首か。いや、待てよ。 あれは何か言ってなかったか? つい最近聞いた事のあるようなセリフを……。 「ちょっと、なにボーっと突っ立ってんのよ。あんたもさっさと座りなさいよ」 俺はかなり深く思考していたようで、ハルヒの声に呼び覚まされると不承不承に座った。 「全く、あんたさっきからちょっと変よ?」 「ああ……いや、なんでも無いんだ。気にしないでくれ」 「ふーん……」 いくらなんでも、ハルヒに「実はわたくし、先ほど幽霊なんかを見ちゃいまして」などと言える訳が無い。 もしさっきのが偽者か何かだったとしても、ハルヒが俺の言葉を聞いて信用してしまえばそこらじゅうに怪奇現象が巻き起こってしまうかもしれない。そんなのはごめんだ。 さすがの俺もこうゆう幽霊沙汰やらなんやらは傍観者でいたいし、そんなものはテレビなどで見ていれば充分なのだ。間違っても当事者などご免蒙る。 さて、しばらくしても皆戻ってこないのに痺れを切らせたのか。ハルヒは勢い良く立ち上がると、 「ああ、もう! 遅すぎるわ皆、何やってんのかしら。ちょっとキョン、探しに行くわよ」 「探すったって、どこへ」 ハルヒは少し考えるような仕草をしたが、 「そうね、鶴屋さんと有希は台所へ行ったのよね。とりあえずそこへ行きましょ」 否定する要素も無いので、俺はそれに同意した。 薄暗い廊下を彷徨う事しばらく。台所らしき広い厨房へとたどり着いた。 「変ね、いないのかしら」 見渡した限りでは人っ子一人いないのだが。さて、どこにいったのやら。 すると―― 「ひっく……ぐすっ……ひっぐ……」 女性のすすり泣く声が、厨房に響いた。 この時点で俺はさっきの事もあり、すこーし薄気味悪く感じたと同時に何かこう胡散臭いように思えたのだが。 さてどうゆうことだろうか。 「あら? 誰かいるの?」 ハルヒは何の訝りも無く声の元へと進んでいく。 そこには見慣れた超ロングヘアーがチャームポイントの鶴屋さんが、こちらに背を向けてしゃがみこんでいた。 「鶴屋さんじゃない! ねえ、何で泣いてるの? 大丈夫?」 「ひっぐ……ハルにゃん……? あのねっ……あたしね……」 ハルヒが鶴屋さんの肩に手を置くと、鶴屋さんはこちらを向きその表情は―― 「今、どんな顔してる?」 表情は無かった。 それは見事なまでに肌一色で、目も口も鼻さえもどこで研磨してきたかと思うぐらい、ぴっかぴかのつるっつるにテカっていた。いわゆる、のっぺらぼうだ。 「えっ?」 ハルヒの驚愕した声が聞え、一歩二歩とこちらへ下がってきた。 まさか、鶴屋さんの顔が無いなどと思いもしなかったのだろう。ただでさえ大きい目がいつも以上に見開かれている。 「ねえ、あたしの顔。どこにあるのかなっ?」 鶴屋さんはゆっくりと不気味に立ち上がると、ふらーりふらりとこちらへと近づいてくる。 「な、なにこれ。まさか、本物……?」 「俺が知るか」 無感情にそう応えると、ああ、そういえばこうゆうこともするんだったな。などと、ちょっとした仲間ハズレ意識に苛まれたのは、まあどうでもいいことだが。 さて、そんな思考を張り巡らせていると。思った通りに周りの戸から続々と『妖怪もどき』が出てくるわけだが。 「う、うらめしや~ですぅ……あいたっ。ふぇ~、痛いですぅ」 白い着物と黒髪のカツラをかぶった、なんとも貞子チックな姿をした朝比奈さんが着物の裾を踏みつけてこけたり。 「……ユニーク」 何かこう、どこぞの歌のお姉さんが番組のイメージキャラクターをどこをどう間違えればそんなモンスターに描けるのか。といった具合の着ぐるみを着た長門がいたり(ていうか、お前がユニークだ)。 その後ろでは引き戸の出入り口に引っかかってる古泉がいた。真四角の石の壁のような……これはヌリカベか? いや、お前何やってんだ? 「おや? おかしいですね。僕の計算ではギリギリ通れるはずなのですが……」 微笑みながら必死に抜けようとするが、どうもうまくいきそうにないな。 「あっはははははは! おっかしー! もう我慢できないっぽー!」 ついに鶴屋さんが堪えきれずに高笑いを始めた。っていうか、さっきののっぺらぼうからいつの間に戻ったのだろうか。 「ああ、これかいっ? ちょっとした特殊メイクってやつっさ! ほら、映画とかでもよくあるにょろ?」 と言って右手に風船を割った後のような残骸を持っていた。なるほど、特殊メイクか。 でも特殊メイクなんて滅多にできるものではないし、何よりそんな技術者がどこにいるのか、と思ったが。 ここが鶴屋邸なのを忘れていた……。何でもありなんだろうな、きっと。 「……あんたたち、何してんの?」 ハルヒの当然の質問に古泉が、 「いえ、ちょっとした余興をしようかと思ったのですが。どうやら失敗したみたいですね」 肩をすくめ――たかったようだが、できないので仕方なく前に突き出ている手を上げた。 どうでもいいけど古泉、それ滑稽だぞ。 「ふぇ~、ごめんなさい。あたしがドジっちゃったから……」 いえいえ、この計画は元より成功する要素なぞ皆無だったので、あなたが心配する必要は無いですよ。 ところで、朝比奈さん。そのはだけた生足と胸の谷間はどこのエデンなのでしょうか? 「へ? ひゃっ! ……もぉ~、キョン君?」 朝比奈さんが頬を赤らめながら服装を正す。その時に胸の谷間がいっそう誇張されるのだが―― たいしょおおおおおお!!! 生盛いっちょおおおおおっ!!!! ふと、じめじめした視線に気付き何となしにハルヒを見ると。 「……変態」 「うっ」 ハルヒの容赦無い変態扱いにより俺はそこそこのダメージを受けてしまった。 いやだね、ハルヒ君。これは不可抗力でありながら服装の乱れを注意してあげる俺の優しさであり、決してやましいことなんか無いんだよ? うん。 するとハルヒは本当にどーでもよさそーに溜息をつき、 「まあいいわ。さっ、みんなさっさと戻るわよ」 さっさと戻ろうとしたのだが、誰も付いてこない事を怪訝に思ったのだろう。目をパチクリさせた。 「なに? どうしたのよ」 「あー、あたしこれの片付けしてから行くねっ! 色々面倒なんだよっ」 「あたしも着替えないと……」 「わたしもこの着ぐるみを片付けなければならない」 「いやぁ、僕もとりあえずここから出なければならないので」 それぞれ多種多彩な言い訳を言うのだが、なんだそのチームワークは? これも何かのたくらみか? 主に古泉主犯の。 「っそ、まあいいわ。じゃあ、あたしは先に戻ってるから」 ハルヒはあっさりと真に受け、廊下へと歩いていった。 「おい、何考えてやがる」 俺は先ほどからどうにか戸から出ようとしている真四角な奴に話しかけた。 「いえ、何も。本当です、今回のドッキリというのはこれだけですから」 だとしたら、随分と情け無いドッキリだな。 「あはは、ご尤もです。ところで、あなたは戻らないのですか? ああ、ヒマなのでしたらこれを抜け出すのに手伝って欲しいのですが」 「さあてね。ところで、お前気絶してたんじゃないのか?」 まさか、演技とか言い出すんじゃないだろうな。 「やだな、先に言わないで下さいよ。ご名答、演技ですよ。まあ、ちょっとした記憶がフラッシュバックして、少しの間気絶はしましたが……」 「ちょっとした記憶? なんだそれ?」 「それはですね――」 と、あの解説好きな奴が珍しく喋るのをやめると少し冷や汗のようなものを流しだした。 ここで気付いたが、古泉の視線は俺を捕らえておらず、ある一点を見ていたので俺もそれに倣う。 「んん?」 そこにいたのは鶴屋さんなのだが。さてさて、いったいあの笑顔がいつも以上満面な方に何があるというのだろうか。 鶴屋さんはこちらに気付いたのか、手を振ってきたので俺も振り返す。 「鶴屋さんがどうしたんだ?」 俺の声に古泉はハッとしたようにまたこちらをみると、 「い、いえ。何でもありません。なんでも……」 なんだ? いつも冷静沈着な野朗が珍しく焦ってるな。奇妙な事もあるもんだ。 「そういえば、朝比奈さんは?」 「着替えに行ったのでしょう。長門さんもね」 俺が聞きたいのは、朝比奈さんが気絶したのはお前と同じく演技かどうかってことだ。 あの純粋無垢なお方が気絶する演技をドジも無くできるとは、考えられん。 「そのことでしたか。いえ、彼女は本当に気絶していましたよ。それこそ気絶した人間を起こすのは容易ではないので、長門さんに手伝って貰いましたが」 なるほどね。そりゃ長門なら腕に噛み付いてナノマシンやらなんやらを体に流し込んで、無理やり起こす。なんてことは簡単なのだろう。 「そうかい、分かったよ。それじゃ、また後でな」 すると古泉は立ち去る俺を慌てて呼び止めてきた。 「ま、待ってください。どうかここを抜け出すのを手伝ってくれませんかね?」 くそう、耐えろ俺の顔。笑っちゃ駄目だ、ここは目一杯の皮肉顔を作るんだ。 そして俺は古泉を突き放す為の言葉を捻り出した。 「やなこった」 前に突き出た両手とともにうな垂れた奴は放って置いて、さっさと戻ることにした。 「キョン君キョン君、ちこーっといいかいっ?」 厨房から出ようとしたところを鶴屋さんに呼び止められたのだが。さて、あのハルヒと同調できるようなお方が一体俺に何の用があるのだろうか? ちこーっと恐い。 「はあ、何でしょう?」 「あっはっはっ! そう警戒しないしない」 地の文読まれた!? 「んでね、これあげるっ」 そう言って鶴屋さんに差し出されたそれは、 「指輪、ですか? それも二つ。何で俺に?」 少々傷がついたりしているが、そこそこの代物だということは素人目からでも分かるほど、それは手の込んだ物だと分かった。 「いやぁ、特に意味は無いんだけどさっ。まっ、あたしからの真心として受け取ってよっ」 なんなんだこれは。つまりこれは、鶴屋さんから俺へのプレゼントとして取って良いのだろうか? 「ああ、ちっがうよっ! マジホンにそれはただあげただけっさ。それをどう使うかは、君次第ってねっ!」 「はあ……そうっすか」 「あははははっ! そうっすそうっす!」 すると鶴屋さんは急に思い出したように、にゅふふふと笑い出した。なんだなんだ。 「キョンく~ん? ハルにゃんに変な事しちゃダメっぽよ。分かったにょろ?」 【真・度胸試し】 はいにょろ。 などと言う前に、そんな恐ろしい事はまず思いつかないわけで。あの後、俺はハルヒのいるであろう部屋へと廊下を歩いていた。 それにしても、鶴屋さんの言動はイマイチ理解不能な事が多い。どっかの金メッキのアナキン製アンドロイドでも理解できんだろう。俺が理解できないんだ、間違いねぇ。 さて、指輪についてだが。ただでさえ俺は一つの懸案事項を抱えているわけだが、それでさえタイミングがいまいち良く分からないのにもう一つ増えるってのは悩み物だ。 というか、プレゼントするなら新品の物を渡すだろうに。ハルヒにこんな物を渡したらどんな文句が飛んでくるやら。 何を考えているのだろうか、あのお方は。 って、何で俺はこれをハルヒに渡す事前提で考えてるんだ? 鶴屋さんは言った。これをどう使うかは俺次第だと。ならば、別にそんな自ら火に入るような夏の虫にならずとも―― ――チリーン 思わずぞわっと来たね。 またか、また鈴の音か。さっきのトイレ前での事が鮮明に蘇るぜ。 「おいおい、勘弁してくれ……」 これもまた古泉のドッキリとかじゃねえだろうな。機関とやらが本気を出せばあれぐらいの立体グラフィックぐらい簡単に作れそうだが。 だがこれは断言できる。あれはマジもんだ。直に見た俺が言うのだから間違いない。 チリーン……チリーン…… 連続で聞える鈴の音に思わず身構えるのだが、どうやら遠ざかって行くようだ。 それも俺がこれから進む方向へ。その方向には、ハルヒ一人で待っているはずの部屋が―― 「……! 狙いはハルヒか!」 俺は右手に持っていた指輪をズボンのポケットにしまうと駆け出した。 かつて無いほど全力で駆けたと思う。廊下を走るな? そんなこと知ったこっちゃないね。 ハルヒがあれを見たら、まず間違いなく世の中には奇怪なもので溢れ返るだろう。 いや、そうじゃない。そうじゃないんだ。 自分に素直になれ、俺。いいか? そんなこと知った事じゃない。今お前が一番懸念していることはなんだ? 「あいつの身の危険だ!」 そう、ならお前にできることは何がある? 超普通人の俺ごときに、あんな得体の知れないものに立ち向かえる力でもあるのか? いや、無いね。これは断言できる。なら今すぐにでも長門や古泉に助けを求めるべきじゃないのか? え? 「そんな時間ねえよ。だけどな、今一番近い位置にいるのはこの俺だ。俺が行かなきゃ誰が行くよ?」 オーケー、よく言った。それでこそ俺だ。 それなら、後は最善を尽くすだけだ。いいか? 逃げるなよ、立ち竦むな、より最善の動きをしろ。そしてなにより――死ぬなよ。 「死ぬにはまだ心残りが多すぎるぜ、まったくな」 そうしてようやく見えた鶴屋さんの部屋に浮いた物体が透けて入って行くのが見えた。 「くそっ!」 俺は部屋の障子に手を掛けると力任せに開けた。間に合ってくれよ、最悪な光景だけは見たくない。 「ハルヒ!」 精一杯あいつの名前を叫び、そこにいたのは―― 「な、なによキョン! ビックリしたじゃない、どうしたのよ。そんなに慌てて?」 そこには畳にちょこんと座って、固焼きせんべいを豪快に食べてるハルヒがいた。 なんだ? もしかして全部俺の気のせいで、それが何かの拍子に不安が加速してあんな物を見たり聴いたりしちまったのか? だったら俺のさっきの心の葛藤は、このやるせなさはどうしてくれよう。 「はあ……いや、何でもない――」 その時、俺は見てしまった。 ハルヒの後ろに浮く、『奴』に。 『ねぇ、その体。チョウダイ?』 そしてゆっくりとハルヒの後頭部へと近づき―― ぶちんっ 「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」 その時、正直何が起こったのか自分でも良く分からなかった。 頭の中で何かが弾けたかと思うと、気付いたら俺は部屋の壁に激突していた。背中が非常に痛む。 くそ、動けねぇ。 「なっ、なっなっなっ……?」 ハルヒは喋ろうとして声が出ないようなそんな感じだった。まあ突然目の前の野朗が自分を抱き寄せて飛び込み、あまつさえ壁に激突した、なんて事が起こっちゃまあそうなるよな。 「ちょ、ちょっとキョン? 何するのよ、放しなさい!」 腕の中でハルヒが暴れだし、俺の全身に満遍なくダメージが行き渡るのだが、 『ねえ、どうして邪魔をするの?』 あの声がした途端、ハルヒは暴れるのを止めた。 「えっ? キョンじゃないわね。あ、あれ……」 ハルヒは口をパクパクさせると、それを見た。 そりゃビックリするさ、俺も宙に浮く生首を見た時は恐怖でどうにかなりそうだったぜ。 だがな。今はそんなことすら、ひたすらにどうでもいいのさ。 『ねえ、どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうし――』 「ああ、そうだな。自分でも良く分からんな」 俺は狂ったように「どうして?」を連呼しだした生首幽霊の声に割り込んだ。 どうにかして立ち上がり、ハルヒを庇うようにして後ろへ回す。背中の痛みがひどいがそこは我慢だ、俺。 「トイレでお前に襲われた時、俺は一瞬諦めたね。『ああ、ここで死ぬんだな』とも思ったさ。だがな、こいつだけは駄目だ。俺がいくら死のうが、ハルヒだけは死んでも渡さん。こいつは確かに毎日バカやって、俺や周りを巻き込んで非常識な事をしたり、厄介なことを毎回持ち込んで俺を苦悩させたり、迷惑の台風みたいな困った奴だ」 「ちょっとキョン、あんた何言って――」 「だがな!」 途中でムカついてきたのだろう。ハルヒの非難する声が聞こえたが俺はそれを遮り演説を続けた。 「だがな、俺はそんな馬鹿やってるこいつが好きなんだよ。毎日振り回されたり後始末やらなんやらさせられたりするがな、ハルヒはいつだって俺に非日常をくれた。毎日が退屈で、平凡すぎる日々を送ってた俺に退屈のたの字も出ないほどにな。そうさ、だから俺はハルヒを死んでも守る。絶対にだ!」 後で冷静に考えると、良くもまあここまでクサイ台詞が言えたもんだ。その場の勢いってやつは恐ろしいね、まったく。 まあ最後に凄んでみるものの、相手は幽霊だ。効果なんて期待できないのは明白だ、が。 その幽霊の目は見開かれていて、瞳孔も開いてるんじゃないかと思うほどだった。幽霊って目あったんだね。 『……さ……ん……の……ゆ……さん……』 なにやら不気味にぽつりぽつりと呟きだしたが、気にしてはいられない。危険な状態には変わり無いのだ。 くそ、何か無いのか。何か……。 (ん……?) 何と無しにズボンのポケットを探っていると、冷たい金属の感触がしたので、俺は取り出した。 指輪だ。 そう、さっき鶴屋さんがくれた指輪なのだが、今この状況でとてもじゃないが役に立ちそうにはない。 だがそうでもなかったようだ。見開かれていた幽霊の目はさらに見開かれ、K点突破したのでは無いかと思うほどだった。 『それは……わたしの……のぶゆきさん……』 ここで俺は頭の中に電撃が走り、ピーンときた。 なるほど、そうゆうことか。 つまりこの幽霊は、鶴屋さんが百物語で話した怪談の中の女性。通り魔に刺されて死んだ無念の霊ってところか。 そしてこの指輪は本来、この女性とのぶゆき氏が付けるはずだった。それをなぜ鶴屋さんが持っているのかは不明だが、やはり知っていたのだろうか。 「そう、これはあなたの。そしてあなたの恋人がつけるはずだった指輪だ。愛する人を失ってしまい、互いの指に嵌められなかったのはさぞ残念だったことだろう」 俺はその場に合わせ、もっともであろう言葉を慎重に言葉を紡いだ。 「だから、今その無念を晴らそう。その役目は俺たちが引き受ける」 そう言うと、俺はハルヒの手を取り立ち上がらせる。怪訝そうなハルヒの顔だが、今までの話で察していたのか俺の行動に何も言わない。 「ハルヒ、この指輪を嵌めてくれ」 「分かったわ。けど――」 するとハルヒは俯いた。俺の言葉でも待ってるのか? 「けど、なんだ?」 仕方が無いので聞くとハルヒはソッポを向き、顔を赤らめて言う。 「……あんたがつけてよ」 しばらく俺はポカーンとしていたが、ハルヒがむっとした表情をしたので慌てて俺は声を捻り出す。 「あ、ああ。分かった。わかったからそうむくれるなよ」 「ふん」 むすっとしたままハルヒは右手を差し出した。こうゆうのは薬指に嵌めるんだったよな。 俺はハルヒの手を取り、薬指に指輪を近づける。 「待って」 なんだ、やっぱり俺につけられるのは嫌だったのか? ハルヒよ。だったら、最初からそう言えば―― 「何言ってんの? あたし何にも言ってないわよ」 それじゃあ、今の声は? 俺はもしやと思い、生首幽霊を見た。が、そこにいたのはもはや生首だけではなかった。 赤い着物を着た、長髪の女性がそこにいた。 「あら? 体が……」 ハルヒも思わず声を上げた。 「これ? ああ、生前の記憶がこれしかないから、仕方ないのよ」 女性は首を横に振り、悲しそうにそう言う。いや、しかし中々似合ってますよ。 「ふふ、ありがとう」 一瞬笑った女性だが、すぐに寂しげな表情に戻ってしまった。惜しいな、笑った方が可愛いのに。 などと俺が思っていると、ハルヒがアヒル口で唸り声を上げながら俺の足を踏んだ。 「そ、それで。待て、とはどうゆう事ですかね?」 なんとか耐えつつ、俺は女性に聞く。 「できれば、左手の薬指につけてくれないかしら。あなたたちが私の代役と言うならね」 俺としてはどちらでもいいのだが、彼女としては何か重要なのだろう。黙って従う。 「そういえば、左手の薬指に指輪を嵌めることは愛の力とかそうゆう事の助けになるって聞いたことがあるわ。そうゆうことなの?」 ふと、ハルヒが思い立ったように言う。ほう、そんな意味があるのか。 「そうね、そうゆうこともあるわ。でも――」 女性は俺たちを見比べると、俺に向かってこう言った。 「あなたは、彼女のことが好き?」 『へっ?』 正直、間の抜けた声だと我ながら思い、ハルヒもそう思ってるだろう。ていうかハモるな。 だがここで「AHAHA、そんな事アーリマセン。嫌いデース」などと言ったら何もかもパーになってしまう。 ここは超えるべき壁……! 「……好きよ」 「へっ?」 なんと、あのハルヒが「好き」などと。いやまあ、状況的には仕方ないか。 「あたしはあんたのことが好きよ。あんたはどうなのよ」 威圧するような、それでいてどこか不安そうな目が俺を捕らえる。止めてくれ、そんな目で俺を見るな。 耐え切れなくなった俺はそっぽを向き、仕方なしにこう言ってやった。 「お、俺も……す、す、好き……だ……」 ええい、くそう! 何て恥ずかしい言葉なんだ、これは。ここがアメリカじゃなくて良かったぜ。じゃなきゃ俺は荒野の果てまで全力疾走しているところだ。 「そう、それは良かったわ。それじゃあ」 顔を赤くした俺とハルヒを見て女性はクスクス笑いながら、哀愁漂う雰囲気はどこ吹く風で愛しそうに俺たちを見ていた。 そして彼女は、結婚式でよく聞くあの言葉を言ったのだった。 『両者、その健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?』 そうか、そうだったな。この人は大好きな人を失い、そして自らも殺されてしまい結婚式などできなかったんだ。そうだ、俺が代役を勤めると言い切ったのだ。ならば責任も俺にあり、やはり言わなければなるまい。 「はい、誓います」 「……」 だがハルヒは黙ったまま、俺を見ているのだった。なんだ、何を言いたい。 「あなたは……?」 女性が怪訝そうに聞くと、ハルヒは大声でこういった。 「そんなのダメね、命ある限り? 死んだらそこではいさようなら? そんなの許さないわ! いい? あたしと結婚するような奴は死んでもあたしを好きでいてくれるような奴じゃないとダメなの! もちろん、あたしが死んでもそいつのあたしへの愛をちゃんと確認してやるんだから、油断なんてさせないわよ!」 なんつー出鱈目なことを言いやがる。ああ、いかん。頭が痛くなってきた。 しかも、なんで俺を見ながらそれを言うのか、詳しく教えてほしいもんだぜ。いや、やっぱいい。なんか怖い。 「あんたも幽霊なんかになってこの世に残ってるようじゃダメよ! あの世に彼氏がずーっと退屈そうにあんたの事待ってるかもしれないじゃない。いいえ、そうに決まってるわ。でもね、好きな女より先に死ぬ男なんて、バカ以外の何者でもないわ! そのバカ面を引っ叩いてやりなさい! あたしが許可するわっ!」 満足そうにそう言い切ると、腕を組み得意そうに満面の笑みを浮かべた。 おいおい、何てこと言ってるんだ。これじゃあ、俺の頑張りが水の泡じゃねえか。どうしてくれるよ。 「……っぷ」 っぷ? 「あははははははははははははは! あ、あなた面白いわね。……そうね、そうよね。私より先に死んじゃって、何やってるんだか。ああ、でも。待たせてる私もわたしかな?」 幽霊の女性が楽しそうにそういうのだった。それと同時に体の透明度が上がっているのか、だんだん存在が薄くなっていく。 「あはははは……あら? もう時間なのかしら。そうね、それじゃあ最後に私たちの代役のあなたたちに、ちゃんとしてもらおうかしら」 やっぱりやるのか、あれを。というか俺さっき言ったのに言い損じゃねえか。 「文句言わないの。それとも何? あたしとじゃ嫌だっての?」 「別にそうゆうわけじゃ……」 「じゃあどうゆうわけよ」 「いや、だからだな――」 「はいはい、そこまで。他人の痴話喧嘩なんて私は見たくないわ」 女性は呆れたようにそう言うが、表情はもはや哀愁などではなくひたすらに朗らかだった。 「それじゃあ、いくわよ」 そしてまた繰り返し、あれを言う。 ただし、内容を若干変えてな。 『両者、その健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命尽きても永久に、真心を尽くすことを誓いますか?』 これにはハルヒも満足したようで、満足そうに笑った。 「誓います」 「もちろん、誓うわ!」 そして女性は嬉しそうに頷き、 「よろしい、それでは。指輪の交換を」 俺はハルヒの持つ少し傷ついた指輪を受け取り、こっちからも手渡した。その後ハルヒの左手を手に取り、指輪を薬指に嵌めると、 「あたしもつけてあげるわ」 そう言ってハルヒは俺の左手の薬指に指輪を嵌めた。 「ありがとう」 指輪を付け終わった瞬間、一陣の風が巻き起こり俺は思わず目を瞑った。そして目を開けた時、女性の幽霊が消えたのを知ることになる。俺は安堵した反面なにか物悲しい気分になったのだが、さて一体どうしたことだろう。 だが、次の言葉で俺の顔が引きつることとなる。 「後の誓いのキスはあなたたちにまかせるわ。お幸せに♪」 【激闘? 終えて】 「ああーっ!」 呆然としている俺を尻目に、ハルヒは悲鳴をあげた。 「ど、どうした?」 俺はハルヒの視線の先を追い、そこにあったのは、 「ロウソクの火、全部消えてる……」 隣の部屋の見るも無残に溶け残った、ロウソクの墓場であった。 先ほどの風で火が消えてしまったのだろうか。それにしても、再び火を点けるにはロウソクが小さすぎるか。 俺はハルヒをなだめる試みをしてみた。 「まあいいじゃねえか。本物の幽霊も出てきたし、それを成仏させる手助けをしたんだ。こんな体験はそうそうできやしないぜ。それともハルヒ、お前はまだ満足しないのか?」 すると奴は何か思案するポーズを取り、むーっと唸り始めたかと思うと何を閃いたのか、急に不気味にニタァっと笑いやがった。 「そうね、満足できないわ。だって、さっきの誓いまだ続きがあるじゃない」 このヤロウ、さっきの女性の言葉しっかり聞いてやがったな。 「あのな、あの人は成仏できた。俺たちも助かった。これで万々歳じゃねえか。それじゃ駄目なのか?」 「だーめっ! あたし、中途半端なことは嫌いなのよね。それともなに? あんたはあたしとしたくないの?」 別にそうゆうわけじゃないが。いやいや、何を言っている俺。 「なら目ぇ瞑りなさい。いいから、さっさとする!」 「……本気なのか?」 「……そうよ、悪い?」 顔を赤らめながら言うハルヒはいつもより可愛く見え、そりゃもうポニーテールにした時に匹敵するのでは無いのかと思うほどだ。ポニテ教の俺が言うのだから間違いない。 だから、俺が目を瞑ってあまつさえ口先を尖がらせるなどといった愚行をしたのは――まあ、今更か。 パシャッ! 目を瞑ってでも分かるフラッシュの光とシャッター音で、俺は何をやられたのか察した。 ――しまったぁ。 「ふふーん、バカね。あたしが易々とキスすると思った? 乙女のキスはそんな安っぽくないのよ。あんたのバカ面、しかと撮ってあげたわ!」 そう高笑いするハルヒの右手に掲げられていた物は、安物の使い捨てカメラだった。 なんてこった。俺としたことがこれを想定しなかったわけではないが、その場の流れに身を任せたと言うか。いや、勢いというものはまったく恐いね。 「お待たせしました……おや? どうなされたのですか?」 俺が愕然たる面持ちでいると、廊下から古泉がニヤニヤしながら出てきた。この野朗、何分かったような面してやがる。 「聞いて古泉君、今こいつあたしの唇奪おうとしたのよ。どう思う? ケダモノでしょ?」 古泉はそれを聞くと、俺を一瞥し意味深にニヤリとした。なんなんだお前は。 「ははは……いや、全く。その通りで」 このイエスマンめ。 「ところで古泉君、他のみんなは?」 「そのうち来られるかと。……ほら、来ましたよ」 すると、廊下から足音が聞こえてこの場はすぐに賑やかになるのだが。 「そう、じゃあ皆で一緒に写真撮りましょ。それで今日は終わり! ね、キョン?」 お前がそれでいいなら、まあいいさ。 その後、俺たちは全員揃って集合写真を撮りそのまま解散という流れになったのだが。 さて、ここで色々な話を聞けたので紹介しておこう。 まずは長門から。 「あの屋敷には不確定要素の情報が出入りしていた。そして先ほどまで敵性であったそれは途端にその性質を失った。情報統合思念体はこれに疑問を抱いている」 ほう、宇宙人様にも分からないことがあるんだな。だが、これだけは言っておこう。 「長門」 俺は首を傾げる宇宙人の、その黒い瞳を見つめながら言う。 「前に、俺はお前に幽霊はいるか云々を聞いたよな。その問に対してお前は禁則と答えた」 「そう」 相も変わらず無表情なのだが、なにか興味を惹かれたようにこちらを見ている長門に対して、俺はこう言い切った。 「いるぜ、幽霊は。珪素や宇宙とかは抜きにしてな。魂は残るのさ。その人次第でな」 自分でもクサイ台詞だとおもうが、まあ俺は自己満足した。長門といえばそのままじーっとこちらの目、というか心を覗き込むように見つめてきたのだが。 俺はこの後、一生忘れないであろう光景を頭の海馬組織に刻み込むことになった。 「……そう」 数ミリだが、柔和に微笑んだ長門がいた。 思わずクラっときた事は言うまでもないな。 次に朝比奈さん&鶴屋さんコンビ。 「どうだい? キョン君。うまくいったかいっ?」 さて、なんのことでしょうか? 鶴屋さん。 「あ、あの。騙したみたいで、ごめんなさいっ。でも、その、あの。皆に黙っておくようにって言われて……」 あの、朝比奈さん。何についておっしゃってるのでしょうか? 「え? いやだから、キョン君と涼宮さんをふたりっきりにさせるって、古泉君が……」 へえ、古泉がそんなことを。あの野朗、許すまじき。 「ところで、キョン君や。あの指輪は役に立ったかねっ?」 そういえば、この勘の鋭い先輩方はやはりアレに気付いていたのだろうか。 「ええ、それはもう。助かりました。鶴屋さんは、アレに気付いてたんですか?」 「まあねっ。あたしその手の事には敏感だからっさ! 直ぐに気付いたのだよっ」 やっぱりただ者ではないが、今はひたすらにこの超人先輩に感謝するだけである。 なぜ指輪を持っていたかは、聞かないでおこう。 「えっ? 何ですか、指輪って? アレって?」 どうやらこの事は知らされていない朝比奈さんは、頭の上にクエスチョンマークを浮かべほえほえっとしていた。 「あっはっはっ! 指輪はこれだし、アレはアレだよ。ねっ、キョン君や!」 「ええ、そうですね。コレはコレで、アレがアレなんです」 「な、何ですかぁ? 何なんですかぁ?」 すっかり置いてけぼりにされた朝比奈さんに鶴屋さんは高笑いしたし、俺もそれに合わせて笑った。 「もうっ! 二人ともひどいですぅ~!」 すっかり怒り心頭な朝比奈さんの機嫌をどう取ろうか。さて、この世はまだまだ平和である。 そして朝比奈さんは車で家まで送迎してくれると言った鶴屋さんの言葉に甘え、鶴屋さん共々車内に乗り込むと出発した。 それを見送っていた俺の隣に、爽やかフェイスのハンサム野朗が近寄ってくる。 「今回は助かりました。あなたに涼宮さんと接してもらう事によって、彼女を幽霊やその類のことを考えさせないようにしようと思ったのですが、どうやら本物が出てきたみたいでしたね」 「なんだ、お前も気付いてたのか」 「ええ、まあ。あの幽霊は、鶴屋氏のお話の通り。この辺りに住んでいた女性の、まあいわば霊魂とでもいいましょうか。鶴屋氏の話を聞いた涼宮さんは、そんなものいるわけがないという意思とは裏腹に、心のどこかではもしかしたらいるのかもしれないという、ごく普通の人が思う矛盾を感じたのでしょうね。そしてそれが涼宮さんの力によって実際に現れてしまった。といったところでしょうか」 皮肉なものです、と古泉はわざとらしく肩をすくめた。 「涼宮さんがそれを目撃することによって、幽霊や妖怪が世の中にはびこってしまうことを危惧していたのですが。どうゆうわけかその心配も杞憂だったみたいですね。安心しました」 その後、俺は長門を家まで送り届けると申し出た古泉と長門の背中を見送りつつ、先ほどの古泉の言葉を思い起こしていた。 確かに、普通の人間の感じる恐怖感を感じたハルヒが自身の力によって幽霊を呼んじまったと言うのなら。なるほど、それは皮肉なのかもしれない。 「だが、まあ」 だからと言ってハルヒが世の中に幽霊や妖怪の類が蔓延るように願うとは、俺には思えないね。 なぜなら、あいつはただ親しい仲で一緒にバカやったり楽しく遊んだりしていたいだけなんだ。 「………」 この時、俺は無性に腹が立ってきていた。 長門は言った、ハルヒの力は周りの環境に影響を及ぼす力だと。朝比奈さんはハルヒの力は時間を歪ませて過去へ戻れなくさせた力だと。古泉に至っては、ハルヒの力は世界を創ったり壊せたりといった神扱いだ。 ハルヒの力、ハルヒの力、ハルヒの力―― 「ちっ」 俺は思わず舌打ちした。 だってそうだろ? 別にいて欲しくないものでも、ちょっと願ってしまえば現れちまう。自分では迷惑かけているつもりは無いのに、願っただけで勝手に世界の法則が狂ってしまうだと? 俺なら嫌だね、そんな力はいらない。 どこのどいつだ。ハルヒにそんな無粋な能力をくれた野朗は。今のあいつにはそんなもの必要ねぇんだよ。 なぜかって? 「あいつには俺たちがいるんだ。それでいいじゃねえか」 だがここで俺はある事に気付いた。 長門も朝比奈さんも古泉も、そのハルヒの力の影響で今ここにいるのだ。では、元よりハルヒに力がなかったら、あいつらもここにいないという訳になる。 なんつー皮肉だ。どこの誰だか知らないが、よくやるよ。すげぇすげぇ、拍手を送るぜ。 だがな、だったら俺はなんの為にここに、SOS団にいるんだ? ハルヒに強制的に入れられたから? 違うね、だったらすぐに辞めてハルヒなんぞずっと、それこそ我関せずにずっと無視すればよかったんだ。 なら、なぜそうしなかった? 俺よ。 「知らねえよ、気分だろ。そんなもん」 だが俺はその後に起こった出来事を見て、これは既に規定事項であったことを知ったはずだ。 では、それを踏まえた上でもう一度問おう。 なぜお前は今ここにいる? 「じゃあ逆に聞くぜ。お前は目の前の奴が放っておくだけで世界を滅茶苦茶にしちまうようなやつで、それを知ったうえで放っておくのか? 俺は嫌だね。何もせずに、何も知らずに世界が改変されちまうなんざ御免被る。どこに逃げても同じなんだ。だったらいっそ、そいつをできる限り抑えようとする方が懸命だろう?」 いや、これは誤魔化しだな。すまん。 どうせ誰も聞いちゃいねえんだ。本音言っちまえよ、俺。 「そうだな……放って置けない、のかもしれん。見ていて危なっかしいのさ。いちいち自分から火ダルマになった家の中に突っ込んで行く様な奴だ、水も被らずにな。なら俺は、外からできるだけ――全力でその火を消す努力をするさ。それで危機が免れられるならな」 これが俺の本音だ。誰がどう言おうとな。――そこ、クスクス笑うなっ! だがまあ、大体そんなもんだろ? ハルヒが暴れて、俺が裏方でなんとかしたり、尻拭いやらなんやらをするのさ。 なに、いざとなったら長門や古泉や朝比奈さんがサポートしてくれるさ。それで今のSOS団が守られるなら、俺は喜んで何でもする。 俺は今のこの日常が楽しいんだ。だが、それを壊すような奴らがいるなら……。宇宙のどっかにいるハルヒを狙ってる奴らや、『機関』とやらの敵対勢力、未来人のあのいけ好かない野朗。 「来るならきやがれってんだ。俺が――俺たちSOS団は負けやしないぜ。迎え撃ってやる」 俺は夜明けが近くなり、白みがかった景色に向かって呟いた。 やられやしないさ、そう強く思えるね。 今の俺たちならな。 【帰り道】 俺は鶴屋家から駅前までの道を進み始めると、少し歩いた先にハルヒがいるのがわかった。 ぼけーっと突っ立って、これから昇るであろう朝日の方向を見ていた。 「何してんだ? お前」 俺が声をかけると、ハルヒは一瞬こちらを見たと思ったらまた日の方向に顔を向けた。仕方が無いので、ハルヒの隣に行くと俺もそれに倣う。 しばらくそうしていると、とうとう朝日が昇り始めた。結局寝なかったな、帰ったら速攻ベッドインだ。 そんなことを考えていると、ふとハルヒが口を開いた。 「あんたさあ、さっきの幽霊――」 ここで俺は一瞬ドキッとしたね。ああ、やっぱりお前も見ちゃってたんだな。 「本物だと思う?」 普段ならここで、「ノー! ノー! ノー! 断固イイエデース!」とかそんな類の言葉を出すのだが、ハルヒの雰囲気があまりにも、なんかこう哀愁漂っていたからか。 何を血迷ったのか俺はこう言ってしまった。 「そうだな、本物だったのかもしれんな」 すまん世界。すまん皆。世界は混沌の中へ―― 「そう。あたしね、不思議なことや非日常な事柄ならなんでもいいと思った」 ハルヒは俺の思考とは裏腹に話し出した。 ああ、やっぱそうか。 「それこそ幽霊でもなんでもどんとこい! ってね。でも、でもね」 ハルヒはちらっとこちらを見ると、また朝日の方を向いて誓うようにしてこう言った。 「幽霊があんなに悲しいっていうのかな。虚しいものなら、あたしは幽霊なんていらない――って言うのも変ね。そうね、会おうとは思わないわ。だから、幽霊はあたしの不思議リストから除外することにしたの」 そう言うとハルヒはそのまま黙ったので、俺が沈黙を破った。 「……そうか」 これだけじゃいつかの踏み切り前での発言と変わりないので、俺は少し付け足してみた。 「いいんじゃないか? お前がそう言うなら。俺はただお前の背中を押してやるだけさ」 そうして俺は笑みを作ると、ハルヒに向けた。 ハルヒは一瞬キョトンとし、これまた少しだけ微笑み、すこーしの間だけ目を瞑ったかと思うと、次に目を開けた時いつものあの得意げな顔に戻っていた。 「当然よ! あたしはSOS団団長であって、それ以上でもそれ以下でもないわ! あんたもSOS団の雑用係りとしてだいぶ自覚してきたようね。そうよ、あんたは黙ってあたしの背中を押してくれさえすれば――いいえ、ちゃんと押しなさいよね! いい? わかった?」 コロコロと表情を変えて忙しいやつだ、まったく。だがまあ、普段のハルヒに戻ってくれて何よりだ。 憂鬱気味なハルヒなんてのは見たくないね。何か落ち着かなくなるのさ。あのハルヒがそんな気分に陥ってると、こっちもメランコリー状態になっちまう。 いやいや、深い意味は無いんだ。本当だ――いや、もう自分のこの捻くれた考え方が面倒になってきたな。正直に言っちまおう。 俺は涼宮ハルヒに少なからず好意を抱いている、のかもしれん。 「ったく、素直じゃねえなぁ……・」 「なに? 何か言った?」 おっと、自分のヘタレ加減にほとほと呆れて思わず声に出ちまってたか。 「いいや、何でもねぇよ」 俺が首を横に振ったのを見てハルヒはふーん、と言うと、 「ところでさキョン。あんたあの時、何か色々面白いこと言ってたじゃない?」 突然そんなことを言い出した。 あの時? ……ああ、幽霊と対峙したときだろうな、きっと。 だが俺はあえてこう言う。 「あの時?」 「惚けても無駄よ、あたししっかり聞いたんだから」 お前、よく覚えてられたな。突然のことのはずだ、どんだけ冷静なんだよ。 「さて、何のことかね」 「あたしの事散々言ってくれたわね。バカやら迷惑やら非常識。果てには迷惑の台風ですって? ふーん、あんたあたしをそんな風に思ってたんだぁ」 口調は怒っているが、顔がニヤニヤしているのはどういったことか。 「い、言ったような。言わなかったような……」 「いーえ、言ったわ。あたしの記憶力なめんじゃないわよ。それで? この落とし前はどうやってつけてくれるのかしら、キョン?」 たく、こいつはどうしてこうなんだろうか。もうちょっとこう、可愛げがあっても……って俺は何考えてんだ。 「はあ……じゃあ、どうすれば許してくれるんだ?」 うーん、そうねとハルヒは唸ると、何を閃いたのか頭の上に豆電球を作りだしたようで、すこし目を見開いてすぐにニヤニヤしだした。 「そうね、あの時のセリフもう一回言ってくれたら許したげるわ」 「あの時って……どの時だよ」 「あんたがあたしのこと滅茶苦茶に言った後よ。非日常をくれたとか、退屈のたの字もでないとか。あ、あと――あたしが好きだ、とか……」 うあ? 俺そんな事言ったのか。くそ、死にてぇ。すいません、どこかに小口径の銃はありませんかっ! 「い、言ったか……なあ?」 「言ったわ! 絶対に言った!」 あまりにもハルヒがマジな声を出すので、俺は少し溜息をついた。今日何回ついたか分からんな。 「……どうしても言わないと、許してくれないのか?」 ハルヒはそっぽを向くとポツリと、 「………うん」 何だかんだいって、こいつも可愛いとこあるんだな。まあいい、今日の俺は太っ腹な上に心が広いから何だってしてやるさ。 「そうだな。俺は、いつもバカやってたり、毎日振り回されたり、事の後始末やら雑用やらをやらされたりして、そりゃもう不平不満タラタラってもんだ」 俺の言葉を聞くと、そっぽを向いていたハルヒは不意を衝かれた猫のようにこっちを向くと睨んできた。 「な、なによそれ!」 まあ、落ち着けって。 「もんだが、そんな日常も悪くないとも思えたね。なんたって、お前はいっつも無茶やって、色んなことに首突っ込んで、それこそ俺の日常とはかけ離れた非日常さ。それを、お前がくれたんだ。そりゃもう、退屈だーなんて言う暇が無いほどにな。ほんと、ありがとよ」 俺はただひたすらに思ったことをぶちまけて、すっきりした気分になった。いや、ぶちまけるって素晴らしいね。 だがハルヒは俺の言葉にまだ満足しないのか。不満そうな視線を向けてくる。 「な、なんだ?」 「それだけじゃないでしょ? 一番大事な部分が抜けてるわ」 うっ、確かに記憶力だけはいいらしいな。 ていうか、本気で俺にあれを言わせる気か? こいつは。 「当然でしょ。じゃないと、許さないって言ってんの! さあ、さっさと言いなさい!」 ハルヒは怒ったようにそう言うと、期待の眼差しでこちらを見ていた。 やれやれ、どうやら腹を括るしか無いようだ。 「わかったよ。えーっとだな……コホンッ。だから、俺はそんなハルヒがす、す……好きだ。そうさ、だから俺はハルヒを死んでも守る。絶対にな」 最後はもう自棄だ。ええい、どうにでもなれ! すると、 「……っぷ! あはははははははははははっ! あーおかしーっ! だ、だってあんた、マジなんだもん! くふっ! だ、だめ……お、おなか……お腹痛い……」 ……ええっと、ハルヒさん? 何故にそんなに面白かったのかこのヤロウ? くそ、何の罰ゲームだこれは。これなら、まだ闇のゲームのほうが何倍もマシだぜ。 「はあはあ、はあ、はぁー……あー、面白かった。いいわ、許してあげる♪」 「そうかい、そりゃ良かったな」 俺は何かどうでもよくなってくると、さっきから眩しくなりつつある朝日の野郎を睨んだ。 なんなんだろうか、この奈落の底に叩き落とされたような気分は。 「なによ、そんなに落ち込まなくたっていいじゃない。大丈夫よ、あんただって本気で言ってたわけじゃないんでしょ? その場の流れみたいなものよねぇ。あたしもよくあるわ、そうゆうこと」 だから、安心なさいと言うが、さて何に安心しろってんだ。 「……結構マジだったんだがな」 俺は非常にちいさーくぽつりと呟いたのだが、 「ん? なんか言った? キョン」 「別に、なんも」 危うく聞かれるところだった。危ない危ない。というか、何を呟いてんだ、俺よ。 「それじゃ、さっさと帰りましょ」 そう言うとハルヒは歩きだした。俺も後に続く。 ここで俺は、本当に唐突に。ハルヒ的にいうならばポーンっと思い出したことがあった。これを忘れるなんて俺の脳みそはいつの間にか誰かに蟹ミソにでも換えられちまったのか? 今日最大の懸案事項じゃないか。 「ハルヒ」 「ん? なによ、キョン」 俺は前方でリズム良くハミングしていたハルヒを呼び止めると、今まで肩に掛けていた手さげバッグから黄色いリボンの付いた麦わら帽子を取り出し、それをハルヒの頭に被せた。 麦わら帽子を浅めに被ったハルヒは、キョトンとしているようだった。うむ、いい表情だぞ。これなら痛手を負った俺の財布も報われるぜ。 とりあえず何も言わないのもあれなので、俺は男として当然の決まり文句を言ってやる。 「似合ってるぞ」 【九月一日】 さて、ちょっとした後日談を語ろう。 新学期早々。俺は自分の席に向かう途中、その後ろの席にハルヒがいるのを確認した後、谷口に呼び止められた。 「よお、キョン。はあ……いいよなぁ、お前は。ほんと、羨ましいぜ」 谷口よ、俺のどこに羨望を感じるのか。俺とお前は似たり寄ったりだろうが。 「ああ? 何言ってやがる。嫌味か? そんなもんつけといてよ」 というか、なんだってこいつは苛立ってるんだか。 「谷口、夏休み中に彼女作ってね。この前また振られたんだってさ」 「ほっとけ」 横から国木田が割って入ってきた。ほう、そんなことが。 「それはいいが、そんなもんとは。いったいなんだ?」 すると谷口と国木田は「こいつ、まだとぼける気か?」と言った風な顔をした。 「なんだよ。何がいいたいのかハッキリしてくれ」 「じゃあ、ハッキリ言わせて貰うがな。お前のその左手薬指についてる、そりゃなんだ?」 「まあ、パッと見たところ婚約指輪だよね」 国木田が答える。 「それじゃあ、涼宮も左手につけてる……ありゃなんだ?」 「まあ、見た感じキョンと同じ指輪だね。ペアルックかな?」 数秒間の沈黙。 俺はじとっとした視線の谷口と、満面の笑みの国木田を見比べ深い思考を張り巡らせ、いくら鈍感な奴でも辿り着くであろう結論へと辿り着いた。 要するに、俺はあの時からずっとハルヒとお揃いの婚約指輪を付けていたわけだ。 当然? 夏休みの間中はハルヒに呼び出されてあちこち連れてかれたりして……はたから見ればラブラブのカップル……。 ……あれ? な、なんだってー!!!!! 「あ、あ……」 愕然とした俺に何を思ったか。谷口と国木田は首を横に振り俺の肩を叩くと、そのままどこかへ行ってしまった。 一人残された俺は何となしにハルヒの方を見ると、視線が合った。ニンマリとしたその嬉しそうな笑顔は、何故かいつもより輝いて見えたのだが。 俺は頭痛がしたようで、左手を顔に当てた。 この左手についている婚約指輪は何故か少し輝いて見えたのだが、俺の気のせいということにしとこうか。 それよりも今はハルヒの笑顔の方が、何万倍も眩しいんだからな。 指輪物語―完―
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登録日:2012/05/22(火) 19 31 50 更新日:2023/02/15 Wed 01 47 18NEW! 所要時間:約 2 分で読めます ▽タグ一覧 ガンダルフ チート デュリンの災い トールキン ナルシスト仮面 バルログ ヒョー←勘違い フライングバルセロナアタック メイプルストーリー モンスター ロードオブザリング 主人公より先に立った項目 元ネタ 元祖 原点 厨二 悪魔 指輪物語 最強 火 炎 鞭 魔物 バルログとはJ・R・R・トールキンの『指輪物語』や『シルマリルの物語』などの創作に登場する怪物である。 【概要】 元はマイアール(*1)と呼ばれる精霊達であったが、初代冥王モルゴスに誘惑され堕落。以降は彼に仕え闇の勢力の一角を担う存在となった。 なお、「バルログ」とは複数名の総称であるため、各々が別々に個体名を持っている。 『シルマリルの物語』時代のエルフは丈高く、身長は2~3メートルほどもあり、(多分)バルログはその2倍ほどと描写されているので大きさは4~6メートルくらいだと思われる。 映画『ロードオブザリング』でも5m強の大きさで描かれている。 元精霊とは思えないほどのおっそろしい姿をなさっている。 映画でも全身に炎を纏い頭部には曲がった二本角、背中には巨大な翼を持つ二足歩行の獣という、如何にも強力で邪悪な存在といった格好良い姿で描かれた。 ただし原作ではこいつには特定の姿というものは無い。 (原作でも「翼のように恐ろし気な炎」等は存在しており、かけ離れた描写でもないが。) また、上記の通り映画では翼を生やしているが、原作・映画共に明確に飛行している描写は無く、本当に飛べるのか不明。 ゴスモグ(下記参照)を首領とした彼らは、エルフや人間から脅威とされた。 炎を操る厨n・・・ではなく怪物であり、翼を持ち、剣や革紐のついた鞭を得物とし、その力をもって大いに虐殺を行った。 しかし、エルフとの大戦争(怒りの戦い)でそのほとんどが倒され、第三紀の時代ではモリアに潜む一体が登場するのみとなっており、それも作中で撃ち滅ぼされている。 【有名なバルログ】 ■ゴスモグ バルログたちの長。得物は鞭と鉞。 主人のモルゴスさんがバカでかい蜘蛛にマジで食われる5秒前にも、ちゃんと駆けつけて蜘蛛から主人を守る忠臣。 フェアノール、フィンゴンといったエルフの王族を殺した猛者。(一騎打ちではないのでチキンだが) 最後にはエルフの将軍エクセリオンと相打ちになって死んだ。負傷していたエクセリオンが対処出来るような相手ではなかったので心中に近い形で幕を閉じた。 ■ドゥリンの禍 映画『ロードオブザリング』にも出てきた奴。得物は鞭と剣。 上記の戦争で生き延び、命からがら霧降り山脈まで逃げ、その奥深くで何千年も眠っていた。 ガタガタ震えながら冬眠してる可愛い姿を想像するかもしれないが、実は違う。 先述のようにこいつには決まった形というものが無いのだが、実は形態を変化させてある程度その環境に適応することが出来るのだ。 しかし、ミスリル採掘に夢中になって地中を掘り進んだドワーフ達が誤って解放してしまい、ドワーフの地下大都市カザド=ドゥーム(モリア坑道)を滅ぼす。 ドゥリンの禍という呼び名はこの時殺したドワーフの王・ドゥリン六世に由来する。 その後は約千年間坑道の深層に潜み続け、時にはモリア再建にやってきたバーリンらを滅ぼすなどしており、内部に住みついた大量のオークや得体のしれない怪物たちと合わせて、モリアが恐ろしい危険地帯と化す最大の要因となっていた。 そして指輪の仲間たちが通過しようとした際、オークらと共に彼らの前に立ちふさがり魔法使いガンダルフと対峙。 ガンダルフとの一騎打ちとなり、地底の闇の底から山脈の上部へと至る激戦の末、遂に打ち滅ぼされた。 ちなみに、映画では描写されていないが、ガンダルフによって地底の水に叩き落された際には、アメーバ状っぽいものに形態変化して乗り切ったらしい。この形態の撮影も検討されていたが、最終的にボツになったそうな。 『指輪物語』の時代にはバルログを打ち倒せるほどの強者はほどんど残っておらず、作中ではとにかくヤバイ奴であると描写されている。 実際、衰退の途にあったとはいえドワーフの一大都市であったカザド=ドゥームをたった一体で滅ぼしており、映画では驚異の殺戮マシーンと化していたレゴラスも怯え、云百云千と居たオーク達も蜘蛛の子を散らすように逃げ出す始末。 最終的に、ガンダルフが人の姿のままで行使出来る力で対処出来たのか、無理やりマイアの力の片鱗を発揮したのか詳細は不明。原作では「力をこめて投げつけて止めを刺した」的なことが漠然と述べられている。 元々指輪物語が様々なゲーム等に与えた影響は絶大であったが(オークやミスリル等)、現在ゲームやファンタジー作品で使われている「バルログ」という単語の元ネタも、ほとんどがこの魔物である。 追記・修正はバルログを倒してからお願いします。 △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] 同じような存在であるガンダルフがいなかったらマジヤバかったなぁ… -- 名無しさん (2014-01-12 12 11 32) ちなみに大昔にはコイツを五体倒した人間や冥王と互角に殴り合うエルフがいます -- 名無しさん (2014-03-19 23 01 46) 画家によっては挑発白髪の大男だったり2足歩行の竜のような姿だったりします -- 名無しさん (2014-08-05 17 24 54) ※2 指輪世界の設定は教授の制作時期に合わせて変遷しているので、バルログの強さも一定ではないよ。昔のバルログはウルクハイとは言わないまでも後のトロルレベルかも。冥王モルゴスは軍団の強化と反比例して本体は弱体化していった(力を消耗していった)ので後になるほど弱い。フィンゴルフィンは紛れもなき傑物だが。 -- 名無しさん (2014-09-16 09 06 07) ↑ 流石に、地殻変動起こす程の戦い起こした、竜とすら並び称される程の戦力がトロルレベルは無い。バルログと渡り合えた上古のエルフと言ったら、ガンダルフやナズグル辺りと対等な存在な訳だし -- 名無しさん (2014-12-05 00 27 54) 他にもルンゴルシンという個体がアングバンドを守っていたらしい。さらに言うと、ヴァラールによるモルゴス軍せん滅作戦で数体のバルログが地底に逃れたと書いてあったから、ドゥリンの禍もその一つでまだ地下に生き残りがいるのだろう(モルゴスが復活するか、誰かが掘り起こす、どでかい地震でもない限り、目覚めないと思うが) -- 名無しさん (2015-05-18 17 51 28) ↑ルンゴルシンは個体名ではないよ。ウィキペディアの昔のバルログの記事は誤りが多い。今は修正されてるけど。 -- 名無しさん (2016-01-20 16 18 32) 文中の赤字だけど、モリアに万単位のドワーフなんておらんよ。第三紀のモリアは完全に衰退していて、モリア内でも無人の箇所の方が多くなってるくらいだし。追補編よく読んでみ。 -- 名無しさん (2016-01-20 21 38 14) 映画一作目→うおおおすげえ。2作目→あれ?なんかひょろくなってね? -- 名無しさん (2016-02-28 12 38 14) 地底湖に落ちて火が一旦消えたからひょろくなってたのかもね -- 名無しさん (2017-02-19 23 43 37) ヒョー -- 名無しさん (2018-01-31 19 12 54) 聖闘士星矢ハーデス編に登場する冥闘士ルネの冥衣は多分これが元ネタ。 -- 名無しさん (2018-06-20 15 20 51) ドラマに出たせいでドゥリンの禍が二世早まることに… -- 名無しさん (2023-02-14 01 25 49) 名前 コメント
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登録日:2016/02/27 (土) 03 07 20 更新日:2024/04/25 Thu 21 00 29NEW! 所要時間:約 34 分で読めます ▽タグ一覧 エルフ エント オーク トロル トールキン ドワーフ ファンタジー ホビット ホビットの冒険 ロードオブザリング 人間 所要時間30分以上の項目 指輪物語 文学 架空の種族 種族 「耳が長く、弓や魔法が得意な森に住む美しき妖精エルフ」 「背丈が低く、斧や鎚を振るう髭もじゃの鍛冶師ドワーフ」 「醜悪で邪悪な魔物オーク」 現代のファンタジー作品で当たり前のように登場している存在の開祖といえるJ.R.R.トールキンがホビットの冒険や指輪物語、シルマリルの物語などで描き出した種族たちについて紹介する。 【エルフ】Elf みんな大好きエルフ族。 しかし実は「エルフ Elf」という単語は「作品内の言語をトールキンが英訳した」単語であり、作品内の設定において実はエルフという名前の種族は存在しない。 本来の名前は彼らの言葉で『クウェンディ Quendi』と言う。「話すもの」という意味である。より狭義には『エルダール Eldar』という単語も、「エルフ」と訳される。「星の民」という意味になる。 ~来歴~ 創造神『イルーヴァータル Ilúvatar』によって作られた種族。「イルーヴァータルの長子」とも呼ばれる。 最も強く美しく作られた種族であり、中つ国に住む全ての生物の中での最上種。半精霊的な存在であり、種族自体が善なる力を持っている(一部人格が明らかに善でないものもいるが・・・)。 古代中つ国における主要種族であったが、歴史と共に徐々に神々の国『アマン Aman』へと移り住んでいき、最終的には中つ国の主役を人間へと譲り渡した。 ~外見~ 身長は概ね人間と同等かそれ以上、種族自体がそろって超美形・モデル体型で例外はいない。成人すると見た目は歳をとらず、ヒゲも基本的に生えない。肌が白いのは共通しているが、髪や瞳の色はいくつかに分かれる。 さて肝心のエルフ耳だが、実は作中「エルフの耳が尖っていた」という記述はない。 しかしトールキンの手紙などから判断すると設定的にも耳は尖っていたようであり(ただし決して長くは無い)、これはむしろトールキン以前の、単純な「妖精」としてのエルフ像を継承した部分か。 おっぱいの大小は残念ながら全く描写がないのでわからない。 なお人間に比べると少なくとも幼少期はやや小柄らしく、『ホビットの冒険』内でホビット(基本的に身長3-4フィート程度)のビルボが「子供用のエルフの防具」がちょうどいい描写がある(*1)。 ~生態~ 不老不死の種族だが、父と母から生まれるのでちゃんと子供時代もある。他の種族に比べて子供時代が長く、身体的な成人になるまで50年以上かかるらしい。 寿命と言うものがなく、病にかかることもないので、だいたい不老不死といって差し支えない。が、さすがに肉体を保てなくなるほどの大ケガをすると物理的に死んでしまう。 また精神がダイレクトに肉体に反映される種族なので、心労を重ねると見た目が老けたりもするし、甚だしいと悲しみのあまりに死んでしまったりする者もいる。 ただし何らかの理由で死んだとしても、その霊魂はアマンにある『マンドスの館 halls of Mandos』に集められる。 彼らはここで静かに暮らすか、場合によっては再び別の肉体をまとって現世に戻ったりもするので、本当の意味で「死ぬ」ことはない。 種族の本能として西海の彼方のアマンへ憧れる本能があり、それに捕らわれてしまうと中つ国でどんなに楽しく暮らしていたとしても、エルフの港である灰色港からアマンへと旅立って二度と戻ってこない。 海に関連するものなどを見てしまうと強くその本能が引き出されるようで、レゴラスは海鳥の声を聞いてこの憧れに捕らわれている。 ~能力~ 他種族から見ると様々なチート的能力を持つ。肉体は超頑丈で多少の傷では死なず、また身体的に疲労することもなく暑さ寒さも苦にしない。五感は鋭く運動神経も桁違いで、どっかの傭兵並のステルス技術も持っている。 チートなのは肉体だけではなく、手先の技にも優れ、工作力も多種族に比べ高い。また言葉の技術にも優れ、文字や文法など言語における様々な発明を行っていた。彼らの言語は人間の言語の元になっている。 さらに種族自体が霊的な力を持っており、触れるだけで人間の苦痛が癒されたり、住んでいたところが一種のセーブポイント的安全地帯になったりする。彼らが作った物などにもその力は反映され、退魔の力を持つようになる。 チート種族なので当然戦闘における強さもハンパではないが、基本的にあまり好戦的ではなく、ごく一部の闘争心に溢れた英雄クラスの人間には及ばない部分もある。 またオーク相手にすら慈悲を示すことがあるので、恐ろしく強いのにあまり戦闘向きの種族ではない。主要な武器は剣、槍、弓などだが、戦が多かった時代は斧や棍棒など重量級の武器も使っている。 ~文化~ 衣食住は基本的に人間とあまり変わらない文化を持っている(正確には人間がエルフの文化を模倣したというべきだが)。 自然を愛する種族であり、映画の影響で森に住んでいるイメージも強いが、平地や山に石造りの都市を作る氏族の方が本来は主流。ただ前述の通り頑丈な種族なので、野宿でも全然平気なため家屋を持たないこともある。 食事については割りと不明な部分が多く、食べなくても身体の維持には問題ないんじゃないかという描写もある。食事の目的は栄養よりもむしろ活力や楽しみなのかもしれない。よって酒は勿論、歌や詩もこよなく愛する。 氏族にもよるが高い鍛冶技術を保持しており、その技術はドワーフ鍛冶に勝るとも劣らない。古い時代は人工の宝石を作り出す技術も持っていた。また船作りの技術においては圧倒的で、アマンへと向かう船は彼らだけが作ることが出来る。 植物を強く愛する種族なので、鍛冶のために見境なく燃料となる木々を切りまくるドワーフとはそりが合わず、また強欲で物質に執着する彼らを軽蔑している節もあり、基本的には仲が悪い。 ただし、ドワーフは水が苦手にも拘らず、真珠を珍重したので、古代のシンダールエルフとドワーフの王国、特に都市国家ベレゴストはシンダールの輸出する真珠とドワーフの土木技術の交換という形で相利共生していた。 その関係が崩れるのは、シンダール王シンゴルがベレゴストと並ぶ大都市ノグロドから招いた宝石細工師に大甥の遺品に秘宝シルマリルを取り付けるよう依頼して、逆に強盗殺人に逢ってしまってからである。 特殊分類 ◆「三大氏族」 エルフの中での主要な氏族(エルダール)はさらに3つの氏族に分かれる。 一つは『ヴァンヤール Vanyar』。最初にアマンに向かい、それから中つ国に戻ることがなかった氏族。 いわば一番神々に近いエルフといえるが、それゆえに歴史にはまったくと言っていいほど登場しない。空のエルフとも言う。 二つ目は『ノルドール Noldor』。二番目にアマンに向かった氏族だが、初代『冥王 Dark Load』モルゴスに父を殺された王子フェアノールがブチ切れ、モルゴスを追って氏族ごと中つ国に帰還した。 フェアノール以下非常に人騒がせな氏族であるが、それゆえに歴史を豊かに彩ってきた。エルフの中でも博識で技術に優れ、同じ工神アウレに師事したこともあって珍しくドワーフと仲が良い。知恵のエルフとも言う。 三つ目は『テレリ Teleri』。三番目にアマンに向かった氏族だが、途中で王を失いそのままアマンへ向かう集団と、中つ国に残った集団に分かれた。 しかしアマンについた氏族はプッツンしたノルドールに襲われて船を強奪され、中つ国に残った氏族(主に中つ国西部に住んでいたシンダール)はモルゴスとノルドールの戦いに巻き込まれて大打撃を受けるなど、基本ろくな目にあっていない。だいたいフェアノールのせい。 中つ国に残ったエルフは殆どこの氏族だが、この後さらに複数の氏族に分岐する。海のエルフとも言う。 ◆『アヴァリ Avari』 エルフの中で、アマンへ向かおうとした氏族(エルダール)と異なり、最初からアマンへ向かおうとしなかった氏族の総称。早くに歴史から消えたため、殆ど物語には登場しないが、古代の人間たちの師匠は主に彼らであったという。 ◆『上のエルフ High Elves』 かみのえるふ。うえのえるふではない。かみとは古日本語で「むかし・古代」を指す意味であり、「上」という意味とのダブルニーミングとなっている。『光のエルフ Elves of Light』とも言う。 この世界において太陽と月が出来る前の古代、アマンを照らしていた二本の光る木の輝きをその眼で見たことがあるエルフのことを指す。要するに一度神々の地へ行ってまた戻ってきたエルフである。 逆にアマンへ一度も言ったことがないエルフは、その光を眼にしていないということで『闇のエルフ Dark Elves』と呼ばれるが、別にダークな種族という意味ではない。 当然肌も黒くない(映画に出てくるエルフも、2-3人を除いてほぼ全員闇のエルフに分類される)。 上のエルフは二本の木の聖なる光をその身に宿しており、またアマンで神々から直接教えを受けているため、その力は中つ国の闇のエルフに比べぶっちぎり。有名な人物だと、ガラドリエル奥方がこれに当たる。 ◆『灰色エルフ Grey Elves』 テレリ族の内、中つ国西部に残った氏族の一つ。アマンへ渡ることを強く切望していたものの諸事情で断念したグループで、主に中つ国内陸部の森林地帯に住んだ者たちは『シンダール Sindar』、中つ国の沿岸地域に住み航海技術に長けた者たちは『ファラスリム Falathrim』と呼ばれる。 シンダールは中つ国に住み着いたメリアンという強大な精霊(マイアール)の庇護を受けており、ファラスリムは同じく精霊で中つ国近海域を守る任務を帯びていたオッセとウィネンに師事していたため、暗闇のエルフの中では最も洗練された、上のエルフにほぼ匹敵する文明を築いていた。海を渡れなかったそもそもの原因がメリアンやオッセらにあるのでその責任として庇護したという面もある。 しかし、上述したようにノルドールの引き起こした戦禍に巻き込まれて要らぬ被害を被ってきた歴史から上のエルフに対して反感を抱いている者や、 灰色という名称は彼らが光のエルフと闇のエルフの中間の存在である事を意味する他、複数のニュアンスが含まれているとされ、どれが本来の意味なのかははっきりしない。 有名な人物はシンダールだとガラドリエルの夫のケレボルンや闇の森の王スランドゥイル、その息子のレゴラスが該当する。ファラスリムでは指輪物語の最後の章に登場した灰色港の主キアダンが該当する。 ◆「森のエルフ Silvan Elves」 シンダールと同じく、中つ国に残ったテレリ系氏族のうちの一つ。灰色エルフよりもさらに早い段階で旅を中断して『緑葉の森 Wood of Greenleaves(後に闇の森 Mirkwood)』に住む事を選んだ。レゴラスの一族は灰色エルフだが、宝玉大戦の終結後に森エルフに合流して滅亡した国を再興したという経緯から、生活様式のかなりの部分が森エルフの影響を受けている。 創作でよくある「森に住み緑色の軽装な弓使いの軽量キャラ」というイメージは本来この氏族の特徴であり、エルフ全体の特徴ではない。 闇のエルフに属し、一度もアマンへいったことがない氏族なので、実はエルフの中ではかなり原始的で、力も弱いほうに属する。人間に比べればそれでも充分チートだが。 ~言語~ いわゆるエルフ語を話すが、詳しくいえば『クウェンヤ Quenya』と『シンダリン Sindarin』の二つの言語に大別される。クウェンヤはアマンに渡った上のエルフの、シンダリンはアマンに渡らず中つ国に定住したエルフの言語にあたる。 「指輪物語」に登場するエルフは、日常会話ではシンダリンを、改まった場や詩歌にクウェンヤを話す事が多い。また、人間の言語のうちでも外来語としてクウェンヤやシンダリンの単語を使う場合がある。 【ドワーフ】Dwarf エルフと仲が悪いことで有名な職人種族。これも正確には「英訳された」呼び方であり、本来のエルフ語では『ナウグリム Naugrim』と呼ぶ。 ただこれは始めてドワーフを見たエルフ達がその(自分たちに比べて)醜さに驚いて呼んでしまった差別的呼称であり、「発育不良者」という今だったら規制にひっかかりそうな意味。 その後ドワーフ達への理解が深まるに釣れ、『ゴンヒアリム Gonnhirrim』即ち「石の名匠」とも呼ばれるようになった。 彼ら自身のドワーフ語では『カザード Khazâd』と自称する。 ~来歴~ 創造神イルーヴァータルに作られたエルフと異なり、神々(『アイヌア Ainur』、正確には精霊もしくは天使に近い)の一人である“工人”『アウレ Aulë』が作り出した種族。 アウレは中つ国があまりに更地なことに心を痛め、中つ国での開発・建築を担当するドワーフを自分で作り出した。イルーヴァータルはドワーフがエルフより先に生まれることは許さなかったものの、その存在を認めて彼らに命を与える。 そのためイルーヴァータル自身が作り出したエルフ・人間に対し、「イルーヴァータルの養子」とも言う。 最初に生まれたのは7人のドワーフであり、彼らはそれぞれの氏族を立ててその王となった。このためドワーフには7つの氏族が存在する。 ~外見~ 人間に比べて二周りほど小柄で、120~150センチ。後述のホビットよりは大きい。小柄だが頑健な体つきで、見た目にもずんぐりとムッキムキである。肌の色は白く、髪や瞳の色はバリエーション豊か。 ファッションとしては何よりもヒゲを大事にし、一定の年齢になると例外なくヒゲを伸ばす。 そして昨今ののじゃロリ系ドワーフ娘を愛される方には残念なお知らせだが、トールキンのドワーフは外見に男女差がない。 つまり女性もずんぐりむっくり、ひげもじゃである。服装にもまったく性差がないので、ドワーフ以外の種族では見ても男女の違いが全くわからないほど(映画ではさすがに見分けがつくようになっていたが)。 ~生態~ 寿命はだいたい250~300年ぐらいだが、やや歳のとり方が特殊。 30歳ぐらいで既に戦に出られるぐらいの体格になっているが、成人と認められる時期、結婚適齢期は100歳前後。つまり心身は比較的早く大人になり、その後壮健な状態が長く長く続く……というサイヤ人的な歳のとり方をする模様。 男性に比べて女性の数が著しく少なく、非常に繁殖速度が遅い。しかも女性は外見だけでなく中身も男性にそっくりで、技術の向上に熱心なあまり結婚しようとしない女性も多く、平和に定住していないとたちまち絶滅の危機に瀕する。 死後はエルフのようにアマンへと魂が向かうわけではないが、ドワーフたちは創造主であるアウレがドワーフ用の憩いの場所をアマンに設けていると信じている。 ~能力~ アウレがドワーフを作ったとき、中つ国は冥王『モルゴス Morgoth』が支配する世紀末状態。 それに対抗するため体は極めて頑丈に作られ、滅多なことでは死なないしへこたれない。特に鍛冶の種族だけあって熱に対する耐性はものすごく、彼ら自身が鍛えた防具を身につけていれば、竜の炎にすら耐えることができた。 性格的には頑固で独立心が強く、恩を受けても仇を受けても必ず返す律儀さがある。人間やエルフと違いたとえ冥王相手であってもその魔力に屈することはないが、反面強欲で怒りっぽいので煽られて思惑通りに動いちゃうことはよくある。 またドワーフといえば、その鍛冶の技術の素晴らしさが知られている。エルフや人間の武器の中にもドワーフ製は非常に多く、アラゴルンの「折れたる剣」ことアンドゥリルも元を辿ればドワーフ鍛冶の手によるものである。 さらに石を加工する技術においてはエルフさえ足元にも及ばないものがあり、人間やエルフの城や都市の建築にも深く関わってきた。 ~文化~ 鍛冶や建築を何より得意とし、また愛する種族である。 逆にそれ以外のことには殆ど無関心で、住み着いた先でそれぞれの文化に合わせてライフスタイルを変える柔軟さももっている。特に言語はその土地の言葉を速やかに覚えてそれを使いこなす。 彼ら自身、独自の言語である『クズドゥル Khuzdul』を持っているが、これは儀礼的な言葉であって常用することはなく、普通は自分の名前ですらその土地の言葉で名乗る。 エルフ族とは価値観の違いや歴史上のアレコレから伝統的に仲が悪いと思われがちだが、実は良好な関係を築いたことも結構ある。 特に技のエルフであるノルドール族とは幾多の戦争で生死を共にするほどに親密だったが、彼らが殆ど中つ国から去ったので、森に住む系統の仲の悪いエルフ族だけが残ってしまったのである。 貴金属に携わることが多いので、財産として蓄えたそれらが敵に狙われることがよくある。特に財宝を狙う竜との戦いは最早伝統行事レベルで、取ったり取られたり殺ったり殺られたり大忙しである。 とかく竜やらバルログやらに本拠地を襲われて逃げ出すことを繰り返しており、集団としての技術の継承にも熱心ではないため、かつての技術の中には失われたものも多い。特に武器・防具に関する技術は古代のそれに比べ大きく後退してまった。 かつて龍の祖グラウルングと戦った時代のドワーフは、エルフの軍勢を蹴散らしたその炎に耐える防具、あらゆる刃を跳ね返したその鱗をぶち抜く斧を作り出す技術を持っていたのだが、後代になるとグラウルングに比べれば遥かに弱いスマウグにすら手も足も出なくなってしまっている。 特殊分類 ◆『長髭族 Longbeard』 ドワーフの7部族の中で最も高位な王家を戴く氏族であり、物語の舞台となる西方世界の主要氏族。 始祖たる王の名をとって『ドゥリンの子ら Durin 's folk』と呼ばれることもある。「指輪物語」のギムリ、「ホビット」の13人のドワーフなどはこの氏族の出身。 ちなみに他の6部族は、それぞれ『火髭族 Firebeards』、『太腰族 Broadbeams』、『鉄拳族 Ironfist』、『堅髭族 Stiffbeards』、『石足族 Stonefoots』、『黒巻毛族 Blacklocks』という。 【人間】Man 一応我々と同じ種族ということになっているが、作品世界内での特殊な設定もあるので一応。 「定命の人間と不死のエルフ」という関係性はこの時点で確立され、そのまま現代でもよく使われるモチーフである。 ~来歴~ 指輪物語世界においては、創造神イルーヴァータルによってエルフの次に作られた種族。「イルーヴァータルの末子」とも呼ばれる。 エルフに比べて性質が善に偏っておらず、モルゴスに利用されて悪の道に堕ちた氏族も多い。 エルフやドワーフ、あるいはモルゴスやオークなど先住者から学びながら文明を作っていき、それら精霊的な存在が次々と中つ国を立ち去り、あるいは衰退していったため、最終的に中つ国の主要種族となる。 ~外見~ まあまんま人間である。物語の主役たちが所属する西方世界の主要部族は白人系だが、他地域では身体的特徴で間接的に示唆する程度だがモンゴロイド系、黒人系も登場する。明らかに生物種レベルでホモ・サピエンス・サピエンスとは違うような人間もいる。 ~生態~ まあ普通に人間である。ただし寿命にかなりの氏族差・個体差があり、古い時代の人間の中には400歳まで生きた人もいる。オークを除けば増える速度は最も速い。 エルフと違って、その死後魂がどこに行くのかは最もイルーヴァータルに近いアイヌアですら知らない。 死は人間にとって呪いであり、同時に恩寵であると言われている。死んだ後でも魂をアイヌアに管理されるエルフ達と違い、人間の運命はその外にある。 ~能力~ やっぱり普通に人間である。体格や能力、知能や人格も様々で個性が強い。 善の力に溢れるエルフ、志操堅固なドワーフに比べて非常に悪に染まりやすく、初めて人間と出会ったエルフ達は「エルフよりドワーフより、むしろオークに似ている」と思ったほど。作中では東方や南方の人間が悪の手先として登場する事が多いものの、西方人の中にも悪に寝返ったり普通に追従している者が多数いるため、物語全体としては八割方の人間は常に善悪の狭間で右往左往しており、ごく少数派であるドゥーナダンの英雄だけが悪を寄せ付けない高潔で勇敢な存在として描かれているという構図になっている。 身体的能力においては殆ど全面的にエルフに劣るが、種族として非常に闘争心が強いため、エルフさえ及ばない優秀な戦士をしばしば輩出する。 オーク同様闘争を好み、またオーク以上に統率が取れているため、あるいは最強の種族であるといえるかもしれない。 ~文化~ それぞれの氏族がそれぞれの文化様式を持っており、西方の文化が種族的なスタンダードというわけではない。東方や南方でも、エルフやドワーフの影響を受けて独自の高度な文明を築いた社会も存在しているようだ。 西方世界では特にエルフの影響が大きく、言語や文化は殆どエルフ起源のものといっても過言ではない。また王家の中にはエルフの姫を妻とした半エルフの家系も存在し、特別な尊敬を集めている。 数が多く容易に分散するため、その言語は標準語として広い種族間で使われている。 特殊分類 ◆『半エルフ Half-Elf』 エルフ語では『ペレゼル Peredhel』。人間とエルフの間に生まれた子供。歴史上7人存在する。不死のエルフと定命の人間では両者の運命は全く異なるため、アイヌアがそれぞれいずれかの種族に属することを選ばせた。 人間族の運命を選べばエルフの不死性は失われてしまうが、強靭な肉体や美麗な容姿などエルフ的要素の多くはそのまま。寿命も普通の人間より遥かに長い。 有名な人物だとエルロンド・エルロス兄弟がそれに該当する。エルロンドはエルフに、エルロスは人間に属することを選んだ。 なお、作中における半エルフの両親は全て「人間の男とエルフの女」の組み合わせである。男のロマンはいつの時代も変わらないということか。 というか、トールキン自身が年上の奥様と恋愛結婚しており、「高貴な女性/年上萌え」の属性を発現していたフシがある。 なお、人間男性×エルフ女性の他にも、エルフ男性×マイア(下級精霊)女性などの組み合わせも存在した。 ◆『ドゥーナダン』Dúnadan 複数形は『ドゥーネダインDúnedain』。 古代において『エダイン Edain』と呼ばれた、エルフの友、同盟者として冥王モルゴスと戦った人間たち、またその子孫のこと。エルフのためにモルゴスから受けた傷の代償として、神々から特別な恩寵を与えられた。 具体的に言うと2m前後のパワー溢れる体、400年を越す寿命といった生物的な強さと、西の海に新たに作られた彼らのための大陸などである。 彼らはエルフから得た知恵と西のアマンからの贈り物によって栄え、また中つ国の人間達を教導して尊敬されたが、時代が下るにつれて徐々に傲慢になっていく。 最終的には捕虜にしたサウロンの口車に乗せられ、永遠の命を求めアマンを侵略しようとしたため、創造神イルーヴァータルによって大陸ごと沈められてしまう。 しかし誠実さを失わなかった一部の人間は生き残って中つ国に帰り着き、そこで再び王国を作り上げ、後世に国家と血脈を残した。彼らをエルフ語でドゥーネダイン、即ち西方の人と呼ぶ。 彼らは中つ国の人と交じり合って徐々にその力を失っていったが、王家などの純粋な家系にはその力が多く残されており、特別な扱いを受けていた。 アラゴルンはこの王家の末裔にあたり彼も長命であった。指輪物語で描かれた時代の年齢は80代頃で結構なお年であったが普通の人間の20代から30代頃の身体・容姿である。 ◆『北方の民 Free Men of the North』 霧降山脈東側のロヴァニオンと呼ばれる地方に住んでいる民。エスガロスや谷間の国(デイル)といった都市を築いて住む者や、闇の森を開拓して住む者などその生活形態は様々。 中でも北国人(ノースメン Northmen)と呼ばれる一派は勇猛な騎馬民族として知られ、絶えず東夷の侵入に悩まされていたゴンドールにとっては心強い同盟者だった。ローハン Rohanとその民ロヒアリム Rohirrimは、東夷との戦いで窮地に陥った執政(*2)を救援した見返りにゴンドールから割譲された領地に定住した彼らの子孫にあたる。 作中では基本的に味方サイドの存在として描かれているものの、褐色人から土地を奪ったり野人を狩猟感覚で虐殺したりなど善良とは言い難い血生臭い描写も見受けられる。理想化された人物の多いドゥーネダインと比べると良くも悪くも現代とは異なる倫理観を持った普通の古代人・中世人といった所。 古代から中世にかけてのゲルマン系民族が大まかなモチーフで、人名や固有名詞にゴート語やその他のゲルマン語が多用されている。 ◆『ハラドリム Haradrim』 原義はエルフ語で「南の民」の意。一般には西方世界から見て南の異民族を指す。北アフリカ+中東風スタイル。映画ででかい象(ムマキル)に乗ってた兵士達。ゴンドールに比較的近い近ハラドに住む褐色肌の人間(スワート人)とさらに南の遠ハラドから来る人間に大別される。 ヌメノール時代に過酷な植民地支配を受けていた経緯で、その子孫であるドゥーネダインやゴンドールを敵視している。また、サウロンの甘言によって堕落した一部のヌーメノール人が彼らの中に入り込んでより一層悪の影響を受けやすくなっている。 しかしその反面、平時にはゴンドールと交易を行っており、軍隊は立派な鎧兜を身につけているため蛮族とは言うものの、文化や技術の水準自体はそれなりに高い。 遠ハラドの人間は「黒くて半分トロルのような」という現代のコンプライアンスからすると問題にしかならない表現が使われているものの、冥王の使い捨ての駒として駆り出される彼らの姿を見てサムが善悪の線引きに疑念を覚える等、完全に邪悪な存在ではない事も示唆されている(*3)。 ◆『東夷 Easterling』 西方世界から見て東の異民族の総称。ロヒアリムと同じく騎馬や戦車の扱いに長けている。肌の色は浅黒いのが主流らしい。背は西方人よりも若干低く、ドワーフを人間サイズにしたような骨太の体形。 エルフと冥王の双方を恐れている上、ヴァラールの手の及ばない東方に住んでいるためこちらも悪の影響を受けやすく、しばしば冥王に唆されて西方人と戦いを繰り広げてきた。フン族やモンゴル軍団をイメージしたのか異民族の中でも一際強力で、何度かドゥーネダイン諸国を滅亡の淵まで追い詰めたことがある。ただ、古い時代にはエルフに味方する一族が見られた他、ドワーフとは比較的友好的な関係を持っている。また、旗色が悪くなるとすぐに恐慌状態になって逃げ惑うオークとは違い、敗北を悟っても尚臆さず戦いを挑むなど、彼らなりの矜持という物がある模様。 特に、第一紀にフェアノールの息子のマイズロス、マグロール兄弟に忠誠を誓っていたボールは冥王モルゴスの大軍に殿として徹底抗戦して、一族壊滅に追い込まれるも寝返った一部の東夷を道連れにした上で、主君やその弟達が戦場を離脱するまで時間を稼ぐ忠誠心と武勇を見せた。彼等が命を捨てて逃がした連中がシルマリル独占の為に他のエルフの一族を襲撃しまくって、キアダン率いるシンダールの一派とマイズロスの甥であるケレブリンボール達ナルゴスロンドのノルドール残党を除いて壊滅状態に陥らせたのは皮肉としか言いようがない(*4)。 映画ではオリエント+中国風で、兜は日本の具足をモチーフにしているらしい。 ◆『褐色人 Dunlending』 霧降山脈の西麓からゴンドール北部の山岳地帯に住んでいる部族。東夷と同じく日に焼けた浅黒い肌と表現されているため誤解されやすいがゴンドールの建国以前から当地に住み続けていた先住民でれっきとした白人系である。アラゴルンが招集した死者の軍勢やブリー村の人間たちの多くも褐色人と共通の祖先を持つ。 元々住んでいた土地から放逐された歴史からローハンを深く恨んでおり、映画で描かれたようにサルマンやオークと結託してローハンの領内への襲撃を繰り返していた。 モチーフになったのはギリシャ・ローマ等の都市文明と敵対し、後にゲルマン人に土地を追われたケルト人やガリア人等の欧州の先住民族。 【ホビット】Hobbit 「ホビットの冒険」「指輪物語」の二作品で主役を張る有名な種族。 エルフやドワーフのような一般名詞ではなく、トールキンの造語なため、権利上の問題を避けてRPGなどでは別の名前で出ることも多い。 実はこの言葉も造語ながら「英訳された」単語であり、本来はホビット自身が『クドゥク Kuduk』と自称している。 同時代の人間達にはこの種族名はあまり認知されておらず、『小さい人 Halfling』と呼ばれる事が多いが、 ホビットたちは自分たちは半分ではないぞとあまりこれを好まないらしい。 ~来歴~ 生物的には人間の亜種。かなり早い段階で人間から分かれたらしく、今では自分達を「大きい人たち」つまり人間とは別の種族だと認識している。 長くひっそりと暮らしてきた種族で、「指輪物語」の時代以前は一切歴史の流れに関わってこなかった。 本来は3つの氏族があり、それぞれ違った生活様式を保持していたのだが、徐々に一体化し均質化していった。 ~外見~ ちっちゃくなった中世~近世のイギリス農民。 身長は成人で100~120センチ。ドワーフに似た体格だが、ムキムキな彼らと違ってぽっちゃり系。歳をとると基本見事な中年太りを披露することになるが、特に恥とはされない。むしろ痩せてる人が不思議がられる。 髪は男女問わず全員天パで、色は茶色系が多い。美形ではないがフランクな顔立ちで、スマイル0円。 また外見上の大きな特徴として、足にもっさもさの剛毛が生えているという点がある。その生えっぷりはさながらもふもふスリッパの如しで(映画だとソフトな感じになっていたが)、これ+足の裏の皮が分厚いため、ホビットは基本的に靴をはかない。 ~生態~ 中つ国でも『ホビット庄 The Shire』とその近辺にしか生活していない珍しい種族で、住み慣れた土地を離れたがらないためその存在を知る者は少ない。 基本的に人間とほとんど変わらない生態だが、寿命は普通の人間より少し長めで、100歳を越えることも珍しくない。 食べることに人生の9割をかけており、食事は一日6回(ちなみにこれはイギリス流。Breakfast 朝食、Elevenses 午前のティータイム、Lunch 昼食、Afternoon Tea 午後のティータイム、Dinner 夕食、Supper 夜食 という充実したラインナップ)。よく働きよく作りよく食べる働き者である。 傾向としてはお百姓さんらしく保守的で、外から来たもの、新しいものはだいたいなんであれ拒否反応を示す。 ~能力~ 臆病で平和的な性格といい、小太りでハラペコなところといい、どう見ても強そうな種族には見えない。 しかしいざとなればホビットは目にも止まらぬほど敏捷に動くことができ、生命力や魔法への抵抗性も強く、食料や水を断たれた極限状態に置かれてもそうそう死ぬことはない。 また視力が鋭い上に手先が器用で、エルフほどではないが弓を扱えば優秀な射手になる。しかし最も得意なのは投石で、鋭い一撃を急所に当ててオークや人間ですら一撃で倒すほどの使い手である。 …しかし彼らの勇気は「自分でも気づかないほど心の奥底に眠っている」のがデフォなので、基本的には平和でのんびり、臆病な小動物系キャラである。 ちなみに、うなり牛(バンドブラス)と呼ばれたホビットはかなりの戦闘力を有しており、馬に乗れるほどの巨体(ホビット基準で)を持ち、彼に率いられたホビット達は攻めこんできたゴブリン軍を撃退しているほど。この戦いで彼は敵王ゴルフィンブールの首を棍棒で弾き飛ばし、首を100ヤード先のウサギの巣穴にホールインワンする活躍をしている。おまけにゴルフの起源となりましたとさ。 ~文化~ 一般的な中世~近世のイギリス人(農民)。人口の殆どが農民であり、素朴で単純な文化を保持している。服装などは足元以外全くそのままイギリス農民。 ただしこれらの純朴な特徴は3大氏族の内最大の種族であったハーフット族の特徴であり、先進的かつ冒険的な狩猟民族系の氏族も昔はいた。 基本的に水は苦手とされており、船にのったり泳いだりはしない。ただし、例外的に船乗りを輩出したり、水を恐れない氏族(ストゥア族)も存在し、子孫にもその血が時々現れる。 またファロハイド族には、冒険好き(大多数のホビットからするとただの変わり者)のところがあるとされる。例をあげれば、ビルボやフロドはファロハイドの流れをくむトゥックの血筋。 本来は住居として、山や丘を掘り抜いた洞窟型の家を好む。ただし建設に向いた地形には限界があるので、現在では平地に家を建てることも一般化してきている。 前述の通りホビットの文化で最も重んじられるのは食であるが、しかし原型が原型なので(彼ら自身はそうは思っていないだろうが)そんな豊穣な食文化と言うわけではなく、基本質より量である。 ホビット庄で地産地消されているのはパン(小麦)、ケーキ、パイ、ベーコン(豚肉)、ソーセージ、鶏肉、乳製品、リンゴ、いちご、ぶどう、かぶ、人参、じゃがいも、トマト(*5)、茸など。特に茸は大好物。 酒は労働者らしく、ワインよりビールを愛する傾向にある。 特徴的な文化として、『パイプ草 pipe-weed』(*6)なる喫煙の習慣が知られている。 ホビットはかつてのイギリス人並みにタバコ好きで、常に一服つける機会を狙っている。この習慣はドワーフや人間たちにも伝わったが、ホビットのタバコ好きには及ばない。 【エント】Ent エルフ語では『オノドリム Onodrim』と呼ばれる。 「物を言う木」というヨーロッパの普遍的な伝承に着想をえてトールキンが作り出した種族。 トールキンの造語ではなく、古英語で巨人を意味する言葉だったが、D Dをはじめとするその後のファンタジーでは、権利関係の問題で「木 Tree」+「巨人 Giant」の合体語である「トレント Treant」と呼ばれることが多い。 作品内においては、「歩く木」というよりはむしろ「木を思わせる巨人」といった方向性であったが、その後のトレントのイメージに引っ張られたのか、映画では完全なトレントとなっていた。 ~来歴~ "工人"アウレが作り出した鍛冶の種族ドワーフを見て、その妻"大地の女王"『ヤヴァンナ Yavanna』は心を痛めた。彼らは鍛冶の燃料とするために、木々を無慈悲に切り倒すに違いなかったからである。 このためヤヴァンナはイルーヴァータルに願い、抵抗できない木々にも守り人を用意することにした。これによって「木の牧人」(*7)ことエントが生まれることになった。 このためエントは半ば植物であり、半ば動物であるという独特な生き物として完成している。 彼らの生活は木々、そして森林の平和を守ることであり、エルフや人間など、中つ国の情勢に積極的に関わることはほとんどなかった。 ~外見~ 映画ではほとんど「歩く木」といった感じだったが、原作の描写を読む限りは、もう少し人間型寄りらしい。 肌は樹皮のようで、髪は枝葉のよう、手足は根のようだったと言われているが、逆に言えばそれらの人型らしい部位が存在するということでもある。 木々に近い動物(というかその祖先は木から作られた)なので、外見も体格も個性が非常に豊かなのが特徴。 ただし基本的には「巨人」であり、ほとんどの個体は人間よりはるかに大きい。 ~生態~ その独特な来歴同様、生物としても非常に特殊。 まず栄養は動物のような食事ではなく、住居の近くから湧き出している特殊な「水」を飲むことによって得る。これに限らずエントは基本的に綺麗な水、綺麗な土、きれいな空気を好むが、これはやはり植物由来であるためか。 寿命はエルフ同様にとてつもなく長く、基本的には殺されない限り死ぬことはない。 ただし一か所にとどまってずっと座っていると、そのうちに徐々に木々に近づいていき、やがては「意思がわずかに残る巨木」のようになってしまうという。 外部からの攻撃で動き回る望みを失ったエントなどはこうなったりするようだ。 繁殖については動物的な側面が出ており、男性個体と女性個体によって子供が作られる。 しかしある事情から、エントは女性だけが行方不明になってしまっており、新たな子供が生まれなくなって数千年がたつ。(*8) ~能力~ 動物と植物のいいとこどりのような、極めて強力な能力を持っている。 普段は非常に温厚で理知的、かつ我慢強いが、一度怒らせると大変なことになる。 動作はその巨体からは想像もできないほどに俊敏になり、目にも留まらぬ速度で動くことができる。さらに外皮が木のように硬く厚く、毒も効かないので人間やオークが使う武器ではほとんどダメージを与えることができない。 腕力もすさまじく、指でつかむだけで岩壁をぼろぼろに粉砕し、その拳は鉄の塊すら薄い板にプレスしてしまうほど。 個体の戦闘性能においては中つ国でも屈指の存在といってもよく、武器ならばよほど強力で大量の斧、あるいは火などを使わない限り勝ち目は全くない。それらの武器を用いても大抵は余計に怒らせるだけに終わる。 ~文化~ ありのままの自然を愛し守る種族なので、他の生き物のように発展した物質文明を築くようなことはなかった。 中つ国に生まれた当初はしゃべることも出来なかったのだが、エルフと接触することで彼らから言葉を学び、それを自己流に改良して「エント語」というものを作り出した。 物を作ることはないが、言葉の技を使うのは好まれていたので、エント語は果てしない時間の末にとてつもない複雑で長大、かつ表現力に富む詩的な言語へと進化している。 これらはエントの文化や生物的特質と密接に関連したもので、多種族ではとても使うことが出来ない。 エルフから言語を教わったこともあり、またエルフ自体が自然を愛好する種族なので、エルフとは基本的にとても仲が良い。窮地に陥ったエルフを救ったこともあるほど。 反面、そもそもの来歴からしてドワーフは(憎むほどではないが)あまり好まない。 相性的に最低なのはもちろんオークで、戯れに動物や植物を殺傷する彼らに対しては一切情け容赦がない。 【オーク】Orc 英訳される前のエルフ語では『オルフ Orch』、オーク自身の言葉では『ウルク Uruk』。 実写映画では多分一番活躍していた戦闘員。 そして、創作界隈においては最も原型から変化した種族でもある(*9)。 ~来歴~ その誕生に関しては、実は作品内でも二つの説があってはっきりとわかっていないことになっている。 1つ目の説は「捕らえたエルフを拷問の末に損壊・堕落させて作り変えた」という説。映画でサルマンが言っていたので、知っている人も多いだろう。 2つ目の説は「捕らえたエルフを真似て、冥王が人工的に作り出した所謂劣化コピー」という説がある。これは「指輪物語」の原作内で言及されている。 いずれも古代の冥王モルゴスによって、エルフを元に作られた人工的な生命体という点は共通している。そのため生物としての自律性こそあるものの、モルゴスやその後を継いだサウロンには絶対的に服従する。 なお、オークが種族として作られたのは遥か古代(指輪物語の年より約2万7千年前)であり、それ以降に登場するオークは新たに作り出されたものではなく、原初のオークの子孫である。 つまりエルフが闇堕ちしたらオークになるという意味ではないので注意されたし。 ~外見~ 人間を醜く崩しまくったような外見。無論見た目だけでなく挙措動作も美しくない。 映画では耳が尖っていたが、ホビット同様に原作ではそういう設定はない(ただし、エルフ同様に尖ってないと100%の断定はできない)。 体格は種族によってかなり差があるが、大多数は人間に比べやや小さい。ホビットよりはやや大きく、ドワーフと同程度。 そして何よりも豚型ではないという事であり、創作界隈でオークが豚型としてもデザインされているのはダンジョンズ ドラゴンズの影響である。 ~生態~ 何かを期待していた紳士諸兄には残念だが、設定的にはちゃんと牝のオークから生まれる生物。(そもそも設定を鑑みればオークの体の方が拒否反応を起こしかねない) 人間よりさらに繁殖力が高いが、喧嘩や殺人、場合によっては共食いもデフォなのでその性質ほどに増える速度は速くない。生物としての寿命は不明だが、そもそも長く生きられる個体そのものが少ない。 食性は人間同様雑食だが、嗜好として肉、とくに人間の生肉を好む。しかし汚れた水や不衛生な食物でも健康にまったく影響はないようで、兵站的には実にありがたい存在。衣住も極めて不潔だが全く問題ない模様。 トロルのように石になるわけではないが太陽の光は嫌いで、日中は外を出歩くことが出来ない。 ちなみにゴクリによるとゴブリンの肉は「美味い」らしいが、生魚を食って根菜を嫌っているような食生活の奴の感想なので人間の味覚でどうなのかはわからない。 ~能力~ 肉体的な能力は元となったエルフの足元にも及ばず、せいぜい人間やドワーフと同程度。しかし五感はなかなか鋭く、夜目が利く上に嗅覚も鋭い。 極端に好戦的なため一見戦闘向きに見えるが、強いのは闘争心というより嗜虐心なので、不利になるとあっさり戦意を失う。また戦術的な行動や秩序だった連携は下手で、数で押す戦い方を基本とする。 粗暴すぎるので誤解しがちだが、知識はなくとも知能は人間並みにある。本来手先もそこそこ器用なのだが、オーク社会が世紀末すぎるので伝習や経験の蓄積に深刻な欠陥がある。 自分たちで武器や防具をつくる技術こそあるものの、どれも著しい粗悪品である。 ただし自分達の主人である冥王の力の強い影響下にあり、その直接的な支配下にある場合は比較的まともな行動が取れる。 知能はより狡猾に、弱い意志力は強化され、秩序だった行動もなんとか可能になるし、冥王の指示通りに複雑な攻城機械や火薬などを製作・運用することもできる。 ~文化~ 非常に好戦的かつ無秩序な種族なので、複数の異なる集団から形成される高等社会構造は作りようがなく、原始的な部族単位で集団を形成している。 その社会は流動性が高く、習俗や言語も絶えず変化している。サウロンは彼らに日常言語として自身が作り出した「暗黒語」を与えたのだが、各部族の間であっという間にスラング化し差が広がってしまった。 そのため他部族間で会話する場合それぞれの暗黒語では通じず、その地方の人間語を共通語にするという本末転倒なことになっている。 冥王の強い制御下にある場合は、本能を押さえてある程度まとまった集団を形作ることも可能になるが、それでも仲間割れや同士討ちは日常茶飯事。 冥王から産み出されたためその力とリンクしている部分が多く、冥王の力が弱るとオークも弱まる。 しかし絶対的な服従こそしているものの、冥王のことを敬愛しているわけではなく、むしろ心中では憎んでいる。 粗暴な気質もあって自発的な忠誠心と言うものはほとんどなく、基本的に厳しい監督下におくか直接的な報酬で釣らないとまともに働かない。 日光に弱いため、洞窟や地下等、日に当たらない場所に部族の居留地を構えることが多い。 特殊分類 ◆『ウルク=ハイ Uruk-hai』 暗黒語でそのまま「オーク達」という意味だが、狭義には「指輪物語」の時代に突如出現した大型のオーク種族のことを指す。 人間並みの大きな体格を持ち、身体能力、知性共に他のオークを上回っている。 しかし何より強化されたのは意志力と社会性で、太陽の光も我慢することができ、衝動性を抑えてまともな集団行動も出来るようになった。人間並みの忠誠心と戦略的思考も持ち合わせており、兵士としての能力はオークより桁違いに高い。 来歴は不明だが、サルマンかサウロンが、オークに人間の要素を加えて作り出した新種族という説が有力。映画では泥沼のような孵化場で大量生産されていた。 ◆『ゴブリン Goblin』 本来オークの呼び名の一つだが、文脈によっては、通常のオークよりやや小型の亜種を指すこともある。映画ではかなり明確に亜種として設定されている。 【トロル】Troll 暗黒語では『オログ Olog』。 トールキン以前の「トロール」は、おおむね北欧における野生的な妖精(決まった外見や大きさが無い)、という定義であり、「悪の大型種族」として規定されたのはこのトロル以降である。 ビジュアル的には非常にわかりやすくまたインパクトがあったため、このモチーフも現代まで殆ど形を変えずに伝わっているが、オークの方が大きく変化してトロルの小型のようなイメージになっている。 ~来歴~ オーク同様、上古の冥王モルゴスが作り出した種族。オークがエルフの代用品であるのと同様、トロルもエントの代用品として作られた。 ~外見~ オークに比べ、氏族(というか型式?)によって大きく外見・体格が異なるのが特徴。 人間よりは大きく、がっちりしてパワフルな体格というのは共通しているが、それにもかなり幅がある。春麗に対するザンギエフぐらいのサイズのものから、映画に出てきた5-6mもの大きさのものまで。 体色も緑だったり黒だったり白だったり様々な模様。 ~生態~ 描写が少なく、殆どわからない。雌雄の別があるのか、どうやって数を増やしているのかも不明。オークに比べてもさらに生物としての完成度が低いので、ひょっとするとただ作られるだけで繁殖できない可能性もある。 食性は(作中でわかる限り)オークに似て肉食性。人間の肉もお好きな模様。 ~能力~ 外見どおり非常にパワフルで、その手にかかれば鋼の鎧もダンボール同然。基本全裸もしくは半裸だが防御力も高く、その表皮を貫いてダメージを与えるのは並の武器では難しい。 そのため一見極めて強力な兵隊に見えるが、知能に致命的な欠陥がある。映画『ホビット』に登場する3匹のトロルも大概アホだったが、あれでもトロルの中では類稀な知性の持ち主である。 大多数のトロルは幼児並の知能しかもたず、会話がギリギリできるかどうかというところ。 またオークよりさらに太陽の光に弱く、直射日光を浴びると体がたちまち石になって死んでしまう。そのため夜間か曇天でなければ外を出歩くことができず、戦争に使える状況は限られる。 ~文化~ 文化の背景となる社会と呼べるようなものを作れるほど知能レベルが高くない。最高に知的なトロルでも、1人あるいは2-3人で原始狩猟民族的な採集(獲物には人間も含む)生活を送るのがせいぜい。 古い時代は今よりさらに頭が悪く、言葉を話すことさえ出来なかったが、徐々に改良されたのか、ホビット~指輪物語の時代の個体は会話程度なら可能。 しかし自分たちの言葉を成立させるほどではなく、オーク語や人間語をおぼろげにしゃべれる程度である。 日光が大敵なので、日中は「トロル穴」と呼ばれる巣穴で眠ることになる。食料となった人間達の持ち物はその穴に溜め込んだりすることもあるので、トロル穴は他種族にとっては一種のお宝部屋となる。 特殊分類 ◆『オログ=ハイ Olog-hai』 ウルク=ハイと同時期に現れた、戦闘用に改良されたトロル。知能や戦闘能力も多少は向上しているが、何よりウルク=ハイ同様、太陽の光に耐えられるようになっている点が大きい。 これによって通常の戦闘にも投入できるようになり、人間にとってはすさまじい脅威となった。 ※追記:修正は『テングワール Tengwar』でお願いします。 △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] エルフがウルトラマンみたいw -- 名無しさん (2016-02-27 03 42 44) ↑ ガラさんとかは光の国からやってきたが、別に僕らの為じゃない -- 名無しさん (2016-02-27 09 46 15) ↑ガラ様が中つ国にやって来たのは、未開地の広がる中つ国で一旗揚げたいという開拓者精神にあふれた理由。わりとアグレッシブなお方である。 -- 名無しさん (2016-02-27 11 14 38) 黒天パ族てw -- 名無しさん (2016-02-27 11 43 09) ずいぶん勉強したな…まるで異種族博士だ。 -- 名無しさん (2016-02-27 12 12 39) 繁殖力と性格でバランスとってるエントのぶっ飛んだ戦闘力好き -- 名無しさん (2016-02-27 12 51 09) ↑個体としての戦闘力は実質中つ国最強だもんな -- 名無しさん (2016-02-27 13 18 46) 「ファンタジーを名乗るなら一からのオリジナルで勝負せんかい!」が信条のトールキンとしては、彼自身のアイディアをテンプレにして寄生しまくった日本のファンタジーはケツに(笑)がつくだろうな。 -- 名無しさん (2016-02-27 15 27 51) ↑ D Dの悪口はそこまでだ -- 名無しさん (2016-02-27 15 37 09) オークがエルフから作られるって話を知ったとき、もとになるエルフはどこにいるんだよって思った。映画だと敵(オーク)は大量にいるけど、味方(人間やエルフ)は少ない感じだったし -- 名無しさん (2016-02-27 17 48 55) どうもこうブツブツとサーバーが落ちると、安全のため編集が小分けになって困るのう・・・ -- 名無しさん (2016-02-27 20 39 39) ファンタジーのエルフが皆こうなら、襲いかかった奴(ソッチ的な意味で)は返り討ちにされるね......。 -- 名無しさん (2016-02-27 21 38 57) トールキンのエルフをそのまま借りると人間の立つ瀬が無くなるので日本のゲームや小説に出てくるのはどれも弱体化がデフォルトになってる -- 名無しさん (2016-02-27 23 11 00) ゼロ魔のエルフは化物強いけどな -- 名無しさん (2016-02-28 02 10 54) エルフは「オークにすら慈悲を示す」とあるが、そんな描写・設定あったっけむしろモルゴスとその眷属に一番憎しみを抱いてると思うが -- 名無しさん (2016-02-28 12 18 49) ↑8 時々やたら日本の作品をやたら貶したがるヤツ居るけど何なんだろうな?トールキンの世界観を下地にしたファンタジーなんてむしろ海外のほうが多いくらいなのに。てかトールキンにしても別に完全オリジナルじゃなくて元からある伝承に多少アレンジした程度のものが多いってのはここ読むだけで解るんだけど -- 名無しさん (2016-02-28 13 48 43) 意外と、人間の男を逆レイプした女エルフもいたりして? 人間じゃ腕力で勝てないし。 -- 名無しさん (2016-02-28 18 52 11) モリヤ最下層を作った種族って、知られていないだけで一応イルーヴァータルの創造物なのか、イアイアとか言い出しそうな本物の外から来た生命なのか気になるな。 -- 名無しさん (2016-02-29 11 21 51) ↑大蜘蛛ウンゴリアントのようにモルゴスすら知らない暗黒の生き物もいたりするので、その類かもしれない にしても作者のトラウマのせいで悪者扱いされる蜘蛛の哀れさよ。世界トップクラスにゴキブリが多い日本では益虫扱いされる事実を知ったら驚いたろうな -- 名無しさん (2016-02-29 18 24 38) 時代背景的に普通の感性なんだろうけど、有色人種がことごとくサウロン軍にされているな -- 名無しさん (2016-03-01 12 58 59) ↑作者がそういう時代の人間ってのもあるが物語のモチーフになった中世のヨーロッパ自体が実際に東と南から何度も侵略を受けていたって歴史的側面もあるからそうなるのは半ば必然みたいな所もある。 -- 名無しさん (2016-03-04 12 05 43) なんだなんだこの無駄な細かさは…せっかくここまで書いたんだから、人間の女性とエルフの男性のカップルも未邦訳の本には出ている事も書いてくれ(結果的には結ばれなかった悲恋だが) -- 名無しさん (2016-04-06 19 16 23) オークも、オークとして産まれたことへの絶望と憎悪、エルフへの羨望の裏返しの憎しみに駆られて判断力を失ってるだけだとどこかで聞いた。 -- 名無しさん (2016-04-09 15 17 52) ↑ブサメンに生まれてせいで卑屈になってイケメンに嫉妬するみたいな理由はヤだなぁ…… -- 名無しさん (2017-01-21 01 30 36) 人間の死後の行き先が「最もイルーヴァータルに近いアイヌアですら知らない」となっていますが、マンウェとマンドスだけは知っているはずですね -- 名無しさん (2017-10-30 16 49 33) テングワールって何かと思ったら、中つ国で使われている文字のことか。つまり中つ国はテングワールの国とも言えるな……テング…ワール…の国……テング…の…国…うっ、ピンクの光が。 -- 名無しさん (2018-09-12 20 21 53) ここまで細かく編集したなら、ドラゴンとかも説明してくれたら面白いけどなあ -- 名無しさん (2019-02-23 16 15 59) 『ウルトラマンガイア』に環境再生施設「エント」があったけれど、「森を守るため造られたもの」ということはトールキンの物語に由来する名前だったのか…… -- 名無しさん (2019-07-27 22 37 57) 表示がおかしくなっていたので復元 -- 名無しさん (2022-09-04 16 47 46) 作中での南方人とかの扱いはまあ良いとは言えないけど、トールキン自身はアーリア人を中心とする人種主義にはどちらかと言えば批判的な立場だったとか。というより自国も含めた当時の列強の帝国主義とか現代社会全体を支配するイデオロギーに対して否定的な態度だったらしい。 -- 名無しさん (2023-04-23 16 58 50) 肌の黒いエルフ、ヒゲが無く太くないドワーフ、喫煙しないホビットにされそうな現代指輪物語… -- 名無しさん (2024-01-24 19 23 22) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/suttoko/pages/101.html
【巻数】 1巻 【ページ数】 147ページ 【解説】 J.R.R.トールキンによって1954~1955年に出版されたファンタジー小説。2002年3月に映画3部作の第1作、「旅の仲間」が日本で公開された。春日部さんも鑑賞済みの筈。 【コメント】
https://w.atwiki.jp/sweetberry/pages/22.html
なぜなぜカレンダー 日曜日の特集 月曜日~土曜日は暮らしの疑問 このがある年0~3問または年4問~
https://w.atwiki.jp/aniwotawiki/pages/7060.html
登録日:2012/06/21(木) 21 47 15 更新日:2024/02/20 Tue 21 45 53NEW! 所要時間:約 5 分で読めます ▽タグ一覧 あの鐘を鳴らすのは アンナタール サウロン サーチライト チート トールキン ファンタジー ヘタレ ロードオブザリング 一つの指輪 中つ国最強のヘタレ 主人公より先に立った項目 冥王 冥王サイナン様 堕落を誘う者 弱体化 指輪物語 最強 目玉 策士 苦労人 詰めが甘い <〇> 【冥王(笑)サウロン様の半生】 冥王メルコールにヘッドハンティングされて闇勢力に加入 その冥王が投獄されたりもしたけど、 サウロン「ああ、ゴスモグさんwwwお疲れ様ッスwwwあ、ここ座ります?wwwいえ、私は大丈夫ですからwww」 と、バルログやドラゴンなどで占められてる体育会系社会の同僚の知将(笑)として廃墟に隠れ住んでたら刑期を終えた冥王が宝を盗んで帰ってきた ↓ 最強の狼と戦ったら死ぬ運命をもつ最強の犬が攻めてくる その狼をけしかけたのに犬に負けたので、サウロン「俺が最強の狼に変身したら勝ち確定www」のはずが返り討ちに遭ってコウモリに変身 冥王は最強の狼の子を引き取ってトップブリーダーっぷりを発揮する ↓ 宝を奪い返しに来たエルフの子守唄で冥王ともども就寝 ↓ 約7000年前、西方からの神々が参戦した『怒りの戦い』で闇勢力全滅 サウロンは「降参しますごめんなさいすみませんすみません」と、投降に見せかけて サウロン「うはwwみーんな死んじゃったww俺しかいねえwww俺がボスじゃwww中つ国俺のものwww」 と中つ国奥地にしばらく潜伏したのち、超イケメンに変身してエルフを騙して指輪を作らせる ↓ エルフに作らせた指輪に自分の魂を移すと『ひとつの指輪』完成 気をよくして指輪のポエムを歌うが、エルフが地獄耳だったのでバレて隠してしまい、エルフ支配作戦大失敗 ↓ エルフ・人間を一網打尽にする しかしサウロン、人間の国『ヌーメノール』に攻められ、その軍事力の前に即降伏、牢屋にぶち込まれる ↓ サウロン「こいつらを西にけしかけて潰し合わせれば良いんじゃんwww俺天才www」 と、巧みな話術でヌーメノール政権に取り入ることに成功。『不死』に対する人間の嫉妬を利用して、西方の国へと侵攻させる ↓ 想像以上にぶちギレた神がヌーメノールの国土をまるごと海に沈め、巻き込まれるサウロン「ぎゃああ」 ↓ サウロン「でも指輪あるから余裕ですwww何度でも蘇られますwwwヌーメノール消えちまったからあとは余裕www」 モルドールに残してきた指輪に魂を移していたおかげで変身能力はなくなったけど復活、意気揚々とエルフ・人間勢力の掃討開始 ↓ サウロン「負けた指輪とられた」 エルフ・人間連合軍との『最後の同盟の戦い』で壊滅的大敗北、指輪の回収も失敗 ↓ 亡霊のような状況からなんとか力を蓄え頑張る。 ガンダルフが怪しんで調査に来たので逃げ隠れしてやり過ごすサウロン「今度はいける」 ↓ ドワーフが持っていた指輪をいくつか回収成功したけど利用するつもりだった竜がやられ、オーク軍も敗北。 白の会議に正体がバレて逃げ去る。 ↓ 中つ国をほぼ制覇しかけたが指輪消滅で消滅。 サウロン「いや!!!イヤァァァ!!!!!」 ↓ ダゴールダゴラス待ちなう * * * + 手抜きです n ∧_∧ n + (ヨ(*´∀`)E) Y Y * サウロンは、J・R・R・トールキンの中つ国を舞台とした小説、『指輪物語』『シルマリルの物語』の登場人物。 元来、工芸の神アウレに仕えるマイア(*1)であったがモルゴスの反逆に加担して堕落。 前史『シルマリルの物語』では、初代の冥王モルゴスの最も力ある召使。『指輪物語』においては「一つの指輪」の作り主である冥王として登場する。 第三紀(「旅の仲間」)から数えて7000年前より以前のアルダ(天地)創造の頃、モルゴスがのメルコールとして知られていた頃の最古参だが、その頃からずっと演技をしながらスパイを続けていた。 妖術や策略に長けるとされる彼は、作中では巨大な狼などの怪物にも変身しているようにどのような姿にも変身する能力を持っていた(*2)ので、主に諜報や特殊工作活動の類の指揮及び実行を担当していた。 明らかにゴスモグ等の方が戦闘能力はありそうだが、何も力とは腕力だけを指すものではないのだよ。 主に情報戦や特殊工作に勤しんでいた所為で、世紀末な脳筋軍団に合流したのは、バルログ等と比べるとしばらく後。 中つ国第一紀においてモルゴスの副官兼と召使して活躍したが、モルゴスが、神々の住まう地、アマンよりの軍勢との戦いで捕まってしまったため、制裁を恐れて姿をくらます。 そうした見るからに肩身の狭そうな境遇や、クライマックスでも活躍を言及されなかったり、上記の狼に返り討ちに遭ったり等々、不遇な境遇エピソードの多さの影響で件がネット界隈でクローズアップされ、冒頭のような苦労人扱いを半分ネタで受けたりする。 第二紀からは美しく立派な姿になってエルフに接近。 彼らを利用し、エルフ、ドワーフ、そして人間たちに「力の指輪」を齎し、後に『指輪物語』へと続くきっかけとなる「一つの指輪」を作り出す。 指輪を受け取った人間の王たちはその誘惑に屈し、やがて「指輪の幽鬼」へと姿を変えサウロンに仕えた。 サウロンは指輪を介して中つ国の支配を目論んだのである。 しかしサウロンの目論みを勘付いたエルフとドワーフは力の指輪の使用を取りやめたため、中つ国の完全支配は失敗。 サウロンはエルフたちとの争いを続けることとなった後、西方の海にある人間の島国「ヌーメノール」に攻められ、その軍隊のあまりの強大さにびびって降伏、捕虜としてヌーメノールに連れて行かれたが、彼は甘言によって不死の命を獲得するために神々の国アマンに攻め入るように仕向ける。 目論見通り、ヌーメノールの大軍勢はアマンに攻め入ったが、堕落した人間に対する神の怒りが爆発、サウロン自身も美しい姿に変身する力を失い、ヌーメノールと共に水中に没した。 指輪製作時に力の多くを指輪に注いだことも幸いして、サウロンは魂だけで中つ国へと帰還、一つの指輪の力でまた形をとることが出来たが映画では指輪をつけた指をちょん切られただけで死んでしまう虚弱体質と化す。いわば指輪が本体状態。 かつての配下を再び集めて中つ国の覇権を握ろうとするが、人間とエルフの連合軍との戦いで相討ちになり、原作ではイシルドゥアに指をちょん斬られてまたまた姿を消す。 が、これは何もデメリットばかりでもない。 経緯を見るとあからさまにヘタレ臭いが、この作品では神やその眷属は放埓に力を行使していると、堕落して力を失っていく。同じマイアールのサルマンなんて、哀れな爺さんっぽい何か状態にまで堕ちてしまった。 それに対して、指輪がバックアップなので、そうした劣化がサウロンには恐らくは無い。隆盛期にあった頃のサウロンは、竜等を作りまくってすっかり萎びた先代冥王モルゴスを上回る力を持っていたとする資料もあったりする。 実際、モルゴスはマイアールの中でも強者であるとは言え本来格下の筈の月のティリオンに対しては一度目の襲撃を返り討ちにされてからはもう手を出せなくなり、ティリオンより総合力が勝るとされる太陽のアリエンに対しては最初から敵わないと諦める程弱体化していた。 また、この指輪の力によりサウロンはウルゴスト(第三紀にまで生き延びた竜)(*3)ですら、「冥王当人を敵に回したくない」と述べていたり、映画「ホビットの冒険」で無双していたガラドリエルが張っている守りを中つ国で唯一破れる存在だとも言及されている。 何だかんだで冥王を名乗る資格はあるらしい。 そして第三紀。 力の素晴らしさを過信して「指輪の力に心酔してそれに縋って戦争仕掛けて来るに決まっている。捨てるなんて有り得ない」と思い込み、今度こそはと軍勢を招集し、再び中つ国の制圧を開始する。 その所為でホビット達を捉え切れず、後少しで中つ国を掌握できるところで、フロドらの働きにより滅びの山の火口に指輪を投げ込まれて消滅した。 寸前でようやく相手の策略を悟ったが、時既に遅しとはまさにこのこと。 追記・修正は一つの指輪を指にはめてからお願いします △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] 素晴らしい端折り方だ -- 名無しさん (2014-01-21 00 59 19) 今度は大魔王モルゴスの復活まで待たなきゃいけないのね -- 名無しさん (2014-01-21 01 08 21) 力作な項目だと思った(こなみ) -- 名無しさん (2014-02-28 02 35 19) Wikipediaや中つ国wikiを見たらサウロンの別名が色々書いてあったんだけど、唯一絶対神みたいな名前だった。妖精や魔法使いを弾圧するところとかそっくりだと思った(便乗) -- 名無しさん (2014-06-24 21 47 48) 目玉状態のサーチライトがけっこういい加減な探知でちょっと笑ってしまう -- 名無しさん (2014-11-25 00 00 57) 美女に変身したサウロンの同人誌とか誰か作らないだろうか -- 名無しさん (2015-05-17 23 12 51) 冥王っていうから閻魔大王みたいな地獄の王なのかと思ったら、原文では「ダークロード(闇の王)」って書いてあるのね。奥ゆかしい訳だけど、多少まぎらわしいな -- 名無しさん (2016-01-06 19 27 07) 見た感じネタや間違いが入り混じってるなあ。ここの内容を真に受けて他所のコメントに書き込んでる人もいるし。ウィキペディアか中つ国wikiのサウロンの記事の方も見ることをお勧めする。 -- 名無しさん (2016-04-30 04 28 00) ↑じゃあ修正して、どうぞ -- 名無しさん (2016-04-30 10 53 48) 出だしが秀逸だったのに、冗長になってるな -- 名無しさん (2016-10-11 21 04 53) 出だしが秀逸?どこが?まず7000年前って点が間違い(モルゴスが冥王として君臨したのは1万年以上)、ゴスモグに遠慮してるのは間違い(逆ならともかく)、モルゴス共々眠らされるのは間違い(その場にサウロンはいない)、他にも色々あるけどネタと間違いが混在していてダメだね、真に受けた人が他のネット辞典や中つ国wikiのコメント欄に書き込んだりするから困ったもんだわ -- 名無しさん (2017-04-26 19 55 51) では修正をよろしく頼む -- 名無しさん (2017-04-26 20 00 03) ↑ウィキペディアか中つ国wikiの記事見とけばいいんだよ -- 名無しさん (2017-04-26 22 21 09) 上から目線で注文付けて筆は動かさないと。一年前にコメントした人も結局修正していない。オークでも最もマシな働きするぞ -- 名無しさん (2017-04-26 22 50 44) 映画観た感想としては終盤のボス戦みたいなのが全体的にあっさり気味だなって感じた -- 名無しさん (2017-04-26 22 54 26) ↑×3 記事の限りじゃ物語(第三紀内)基準だから記事通り約7000年前。「ゴスモグは戦闘力的にはモルゴスよりもしかして上じゃね?」とすら言われたりもするから、所詮それ絡めたネタだろう。記事内でも「ダゴールダゴラスで『復活する』」ということしか言及されておらず、「別にモルゴス同等夜の扉の向こうに追放されたなんて一言も書いてない」から。別に記事の内容は間違ってはいない。 -- 名無しさん (2017-04-26 23 03 30) ↑モルゴスともども寝てないだろサウロンは。トル=イン=ガウアホスから脱走したあとはタウア=ヌ=フインに行っててアングバンドに戻ってないんだよ。あとHoMeの原文読みゃ分かるが教授はダゴール・ダゴラスで戻ってくるのは、モルゴスとその被造物としか書いてないんだよ。マイアールのサウロンやバルログが戻るかは不明なの。そもそもマンドス第二の予言自体教授は廃棄しようと考えていたらしいって息子が書いてるからダゴール・ダゴラス自体ない可能性もある。中つ国wikiの化けミミズでのコメントで憂慮してた人はホント正しいことを言ってるね。 -- 名無しさん (2017-04-27 00 21 19) ↑↑>"所詮それ絡めたネタだろう。"だけど間違いとネタが混在してるから問題なんだよ。分かるやつには分かるネタなら別にいいんだよ。 -- 名無しさん (2017-04-27 00 22 03) ↑×5皮肉は結構。俺はここだけを見て信じ込んで他所でも同じこと書き込むような人に対して呼びかけてるだけなんで。 -- 名無しさん (2017-04-27 00 30 24) だからそれだけ立派な知識持ってるなら、なおのこと読まない人もいるコメ欄でうだうだ言ってないで本文修正してくれよ。よっぽど多くの人から感謝される。やたら外部サイト推すし、今のままじゃ「中つ国wiki民うぜー」としか思われんぞ -- 名無しさん (2017-04-27 00 33 17) 最強クラスとはいえ、亜神側のマイアールとしてモルゴスの意思に従った以上、それに属した判定になるだろうサウロンは最終戦に参加するって事でいいんじゃないかねえ どうせ呼び出されるだろってな -- 名無しさん (2017-04-29 00 35 30) とりあえずだごーるがあるかどうかは別として、あるなら参戦するだろう。ただしモルゴスと同様に世界外に追放くらったらしい記述はないから、世界の中をぼろぼろの状態で彷徨ってるあたりの率は高いかね。大魔王自身じゃないんだから世界外で平然とはしてられんだろうし。どの道最期にはアングマール等ともども召喚されるだろう。 -- 名無しさん (2017-04-29 00 46 22) ああ、アングマールじゃなくてアンカラゴンだった。まあいいや -- 名無しさん (2017-04-29 00 46 46) ゲームでは冥王としての威厳を見せてくれたな。誰にも仕えないと言い切ってる所を見るに、もう既にメルコールからは独立したと考えているみたいだ。 -- 名無しさん (2017-11-03 09 44 54) 映画で指輪が火口に落ちた時の反応が「!!(直前に気付いた時)」「!?(指輪が溶けた時)」「・・・(崩壊していく時)」って感じでかわいかった -- 名無しさん (2019-01-28 16 30 47) 記事の誤りに言及するだけでほならね理論で顔真っ赤にしてる人達が気の毒だと思った(小並感) -- 名無しさん (2021-05-03 00 38 21) 中つ国wikiのコメ欄にたむろってる連中は元から妙な選民思想に凝り固まってるし、世に出たテクストよりトールキンのお気持ちばっかり気にしてるんで、総じてカルト宗教臭い印象しかない -- 名無しさん (2021-05-03 01 05 08) ↑×2 おかしいと思う箇所があるなら、どこか分からんから指摘してくれ、というだけの話でな。アカウントの関係で記事が編集できないなら米欄にでも書けば済む話だし -- 名無しさん (2021-05-03 01 19 02) 思いっきり書かれてね? -- 名無しさん (2021-05-03 01 49 30) 素直に編集の仕方判らないって言えばいいのに…w -- 名無しさん (2021-07-15 23 07 35) ハルブランド -- 名無しさん (2022-11-04 00 52 21) ハリポタのお辞儀の大先輩 -- 名無しさん (2023-02-26 18 16 38) 名前 コメント
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157 名前:指輪物語[] 投稿日:01/10/01(月) 01 40 不法投棄して一件落着。 254 名前:指輪物語[] 投稿日:01/10/04(木) 11 44 この指輪、すごいけどいらない。 SF要約選手権。 293 名前:指輪物語[] 投稿日:02/01/08(火) 08 24 指輪を、捨てた。 第二回 SF要約選手権 581 名前:指輪物語[] 投稿日:2006/09/13(水) 20 48 43 来た、捨てた、勝った 593 名前:指輪物語[sage] 投稿日:2006/09/15(金) 02 24 23 みんな指輪が悪いんや 721 名前:指輪物語[sage] 投稿日:2008/03/21(金) 08 58 21 魔王の指輪パクったらチョーヤバかったので捨た。 【ネタバレ】名作を要約するスレ【上等】
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第弐話 指輪物語 サブタイトルの元ネタは「ロード・オブ・ザ・リング」(2001)の邦題名。 概要 原作第1巻WAVE.2「不可能な任務(ミッション・インポッシブル)」とWAVE.3「シャル ウィ ダンス?」の夏祭り・盆踊り編を再構成。 2話から本領発揮。 お笑いの基本「天丼」を駆使したコメディパートと永澄・燦の恋愛パートを主軸に永澄と瀬戸内組の戦い、永澄と政のソフトホモ描写、燦の天然ボケなど 「瀬戸の花嫁」の主なギャグ要素が揃ったお話。 原作にはない最後のオチも好評でした。 アバンタイトル 海底 瀬戸家 満潮一家と蓮の会話中、泡の効果音が聞こえます 蓮の湯のみ「瀬戸」 コンクリ詰め+檻に閉じ込められる豪三郎 永澄父「も、猛獣!?」 こちらも会話中にうめき声が聞こえます 提供 夜店の金魚 Aパート 祖母の家 永澄「ああは言ったものの・・・」 回想シーンではなぜか永澄の声が犬の鳴き声になっています 祖母から渡される軍資金が5,000円に(原作では1,000円でした) 祖母の言動が永澄と燦を惹き合わせようとするものなっています 原作では命の保身のためでした 政にときめく永澄母 夜店 ここからの夜店のシーン中はモブキャラの喧騒が聞こえます 燦の浴衣 原作3話盆踊り編の浴衣、髪型はアニメ版のまま 永澄「とととと!とんでもございません!」 「ブルブルブル」と水島さんの声が重なって聞こえます わたあめ→りんご飴→チョコバナナ 「天丼」ネタ りんご飴屋が追加されました 射的屋「俺の背中に立つんじゃねぇ」 元ネタは「ゴルゴ13」の主人公「デューク・東郷」の有名な台詞。 おめん屋 スーパー戦隊系、仮面ライダー系(龍騎のナイト?)、ウルトラマン系(ネクサス?)その他 燦「うぐぅ」 元ネタはPCゲーム「Kanon」のヒロイン「月宮あゆ」の口癖 燦「“金魚掬い”と書いて“金魚救い”と読むきん!」 藤代「晩ごは~ん!!」 永澄の後ろには墓地や十字架のイメージイラストが Bパート 永澄「晩ごはんはイヤー!!」 シャークがぶつかった狛犬像が泣いています 一方の瀬戸内組(アニメオリジナルパート) ここでも政は豪三郎が永澄を始末すること対して否定的であることが描かれています 豪三郎「エニックス!」 耳血が吹き出てます 永澄「ガンガン!」 こちらも耳血が吹き出てます 豪三郎「こんガキャ(なぜかヤギの声)したらぁ!!」 永澄母「じゃあね 政さ・・・じゃなくて」 豪三郎「ちくしょう嫌われてもうた・・・」 中島の二本目の足が食べられました バケツ→スーパーボール→水風船 ここでも「天丼」 スーパーボール屋が追加 燦の超音波で鼓膜が破れた永澄 ここでも耳血 炭坑節 政「掘って~掘って~ 担いで~担いで~ チョチョンがチョン 筋がいいですぜ さぁ 安心して あっしになにもかも委ねてくだせぇ」 永澄「あぁ でも・・・なんだか・・・ あぁ!」 取り巻き1「出た!アニキの少年殺し!」 取り巻き2「どうなっても知らんでぇ!」 見つかった指輪 豪三郎が探してくれました 原作では蓮が拾いました 天国 永澄祖父「その声に耳を傾けてはいかん!永澄! お前はこのまま、こ、こっちの・・・」 天国に留まらせようとしています ひどい・・・ 祖母の家 微かに動いてる全身包帯永澄 燦の薬指に輝く指輪 アニメオリジナルのオチです ED キャスト 永澄の祖父:長克己 リンゴ的屋:鶴岡聡 俊おじさん:矢部雅史 次回予告 「輝く海! 輝く無人島! そして輝く燦ちゃん!! 輝きすぎだぞ俺! あの組長お父さんの監視から逃れ 燦ちゃんと二人っきりで過ごせるなんて はずがないよな~ あぁ? 何このちっこいの? これが燦ちゃんの護衛? 護衛つうか殺し屋だろ!これェー!? これが大人のやり方なのかァーッ!!」 提供 超音波で耳血を出しながら吹き飛ばされる永澄 エンドカード 浴衣姿で照れる燦 →第参話 「天国に一番近い島」に進む →第壱話 「極道の妻(おんな)」に戻る →各話解説に戻る 次回予告の修正ありがとうございました -- 管理人 (2007-08-23 19 00 33) 名前 コメント
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キラ「アムロ達からはぐれて暗い洞窟をさまよっていたら、仮面のような顔をした不気味な奴が現れたんだ。 そいつこそが、その洞窟の主の「変態仮面」だったんだ。 変態仮面は僕を見つけると、なぞなぞでの勝負を挑んできてね、 勝負に僕が勝てば出口までの道を教えてくれるけど、負けたら食べてしまうと脅かしてきたんだよ」 パーティーもたけなわになって、キラは村の子供達にせがまれて昔の冒険談を披露していた。 子供キッカ「食べゆって?」 子供レツ「父ちゃんたちが豚を焼くみたいに、口からケツの穴まで棒で通して丸焼きにするんだぜ」 子供カツ「ガクガク (*1)))ブルブル」 子供キッカ「そんなの怖くないもん(TдT)」 キラ(負けてたら本当に挿されて食べられてたかも (*2)))ブルブル) その頃、庭師のロランは、ソシエたちにダンスで引っ張り回されてへばっていた。 アルの方はまだ色気より食い気なので、鴨の丸焼きやローストビーフやサラダや蜂蜜パンに続けざまに手を伸ばしている。 そして、アムロは花火を盗もうとしたイタズラ小僧を捕まえていた。 || ||.,.,.ヽv,,.. '^⌒⌒ヽ/ ヽ、 ガロード「魔法使いの先生、この通り反省してるから下ろしてくれよ」 (,(,( r'ノr /W〈 W从 ジュドー「大人は横暴だな」 (・∀・; )| リ;゚д゚リ ガロード「ジュドー、余計なこと言うな」 ミ≡≡≡≡≡j ミ≡≡≡≡≡j ミ≡≡≡≡≡j ,r'⌒⌒^'、 ハー忙シイ! (_/(_/ ヽ)ヽ) ( rνyy'ソ =3 ε=ヽヾ# ゚ー゚ノ 丿 ヽ~ノ ヾ ん T ) 94 名前:番外編・兄弟版指輪物語 旅の仲間編4投稿日:03/03/29 13 00 ID ??? 陽気なパーティも終わりが近づき、主催者のキラが挨拶に立った。 キラ「村の皆さん、今日は僕の誕生パーティに出席してくれて本当にありがとうございます。 そしてこれでお別れです。僕は行かなければなりません。行かなきゃいけないんだ…」 最後の方の言葉を口の中でつぶやきながら、キラは隠し持っていた指輪を指にはめ、 指輪の魔力は、昔キラが変態仮面から逃げるのに使った時のように、彼の姿を村人達の前からかき消した。 村人達のパニックは言うまでもない。彼らが大騒ぎする中を通り抜け、指輪の力で姿を見えなくしたキラは、ゆうゆうと屋敷に帰ってきた。 キラ「これで指輪は僕と一緒に村から消える。指輪は僕だけの物だ…」 ほくそ笑むキラ。その背後の闇から声がした。 アムロ「指輪の魔力をもてあそぶのは感心できないな、キラ。その指輪は置いていったほうが良い」 キラ「この指輪を狙っていたんですね、アムロ」 アムロ「そんな指輪はいらない。その指輪は人の精神をねじ曲げてしまう呪いの指輪だ」 キラ「そう言って脅すんだ。指輪は誰にも渡しはしない。僕の『いとしいしと』なんだ!!」 アムロ「『いとしいしと』。変態仮面も指輪のことをそう言っていた。キラ、お前も変態仮面のようになりたいのか?」 キラ「……(次のレス参照)」 アムロ「君がああやって堕ちていくのを見過ごすことは出来ない。外してくれ」 キラ「わかりました。指輪は置いていきます。この箱に入れて、厳重に封印をすれば誰も開けないでしょう」 キラは古い宝石箱を持ってくると、指輪を入れてアムロに渡した。渡されたアムロはキラを鋭い眼光でにらんで、 アムロ「……宝石箱に入れた振りをして右ポケットに隠した指輪を出せ」 キラ「お、おかしいな。入れたはずだったのに」 弁解するように言うキラからアムロは鋭い視線を外さない。気圧されて、やっとキラは脂汗を流して指輪を床に転がした。 そして指輪を手放したキラは憑き物が落ちたような表情でアムロに別れを告げ、住み慣れた家を立ち去っていった。 95 名前:番外編・兄弟版指輪物語 旅の仲間編4投稿日:03/03/29 13 01 ID ??? 指輪の呪いに毒されたキラの図。 ,. - ─ - ., ,. '´ \ / ヽ . / ヽ / ] '1,' , / ,イ/ / ,!, /!, , ,! ! |, / /'、.,レ/∧ ,ィ+tイ! !、! '.|l ! /\`_ヽ Vi!r'_,フj i ] . !l !l ! i | !' i リ ,イ,.イ ' !/ |,ハヽ!``-- ! --'"レ ノリレ' !' /`ー、ヽ-ゝ、 ー‐ /!.l ,r'~`ヽ、 ,.ィ" ri l i ト、j i i `ト、 .,.イ ! ', ) 、 、 y; ヽ、_ ,. -‐''" 、 くゝソノリ~i | - 、 , -‐'7ハ ヾニト- ~` ー- 、_ , ィ ´ ,ゝ、_ `r' l | 、レ // `テ三..ノく _ ` ヽ、 / , -' ,、 `、_) l,i, i // (/ ...,,;;;; ` 、 ヽ ;' '" ノ ;;;; i ! // ..... ;;イ、_、_\ _ _ノ l ..,, __,ィ"-‐´ ̄`i ゙゙゙= ...,,,,,. l | ,// - = "" ;; / ` '''' '" ヾ ;;;,, ,i l,// ,,..," / _,,.....,_ ,. -- .,_ \ ;,. ;' V ;! `; /; ノ ,.ィ'"XXXXヽ /XXX;iXXミ; -,、 ヾ '" ''' /./! ヾ / ,. - '"XXXXXXXX;i! ,!XXXXi!XXXXX;`iー;,、 i 、. / ; ゙i ; , | ,. r'"XXXXXXi!XXXXXX l! |XXXXX;|XXXXX;| |`ヽ、 ,! ,' | ,.レ" |XXXXXXX|XXXXXXX;l! !XXXXX;|XXXXX | i ` ;! i! / ! |XXXXXXX|!XXXXXXX| XXXXXx|XXXXX;! ! `. / | '" l |XXXXXXX|XXXXXXX | 112 名前:番外編・兄弟版指輪物語 旅の仲間編5投稿日:03/03/30 10 44 ID ??? 指輪を外したキラだが、旅装は解かなかった。 キラ「何か、さっきまで自分の中の違う誰かがささやいているようでした」 アムロ「違う誰か?」 キラ「ここ最近、その声が強くなってきていました。指輪を持ってモルドールへ行けって言うんです」 アムロ「…それで旅に出ようとしたのか。しかしモルドールは危険過ぎる」 キラ「モルドールに行くのは止めますよ。でもここは出ます。指輪の近くにいるとおかしくなっていきそうなんだ」 アムロ「行くあてはあるのか?」 キラ「フロンティア・サイド。昔行ったでしょう?妖精(エルフ)の領地なら安全じゃないですか」 アムロ「そうだな、それが良いだろう…。道中気をつけて」 キラ「さよなら、古い友人。魔術師アムロ」 キラが去った後、アムロは床に落ちた指輪を拾い上げようとした。しかし指輪をつまみあげた瞬間。 | / ̄ ̄ ̄ ̄ヽ===/ ̄ ̄ ̄ ̄ヽ | | | =ロ -=・=- |, | -=・=- ロ= | | /ヽ /ノ ヽ / ヽ|ヽ |/ `─── / ` ─── | | アムロ「!!」 悪意に満ちた二つの眼のビジョンが彼の脳裏に映り、思わず指輪を取り落としてしまった。 アムロ「あの眼の発するプレッシャー…あれがキラの精神を蝕んでいたのか…?」 そしてアムロもこの指輪の魔力に支配されていたかも知れなかった。冷や汗が流れる。 外ではアムロの不安に応じたように雷雨が突然降り出し、村人は大慌てでパーティの後片付けを始めた。 113 名前:番外編・兄弟版指輪物語 旅の仲間編5投稿日:03/03/30 11 48 ID ??? 悪意に満ちた二つの眼の図。 ,. - ─ - ., ,. '´ \ / ヽ . / ヽ / ] '1,' , / ,イ/ / ,!, /!, , ,! ! |, / /'、.,レ/∧ ,ィ+tイ! !、! '.|l ! /\`_ヽ Vi!r'_,フj i ] . !l !l ! i | !' i リ ,イ,.イ ' !/ |,ハヽ!``-- ! --'"レ ノリレ' !' /`ー、ヽ-ゝ、 ー‐ /!.l ,r'~`ヽ、 ,.ィ" ri l i ト、j i i `ト、 .,.イ ! ', ) 、 、 y; ヽ、_ ,. -‐''" 、 くゝソノリ~i | - 、 , -‐'7ハ ヾニト- ~` ー- 、_ , ィ ´ ,ゝ、_ `r' l | 、レ // `テ三..ノく _ ` ヽ、 / , -' ,、 `、_) l,i, i // (/ ...,,;;;; ` 、 ヽ ;' '" ノ ;;;; i ! // ..... ;;イ、_、_\ _ _ノ l ..,, __,ィ"-‐´ ̄`i ゙゙゙= ...,,,,,. l | ,// - = "" ;; / ` '''' '" ヾ ;;;,, ,i l,// ,,..," / _,,.....,_ ,. -- .,_ \ ;,. ;' V ;! `; /; ノ ,.ィ'"XXXXヽ /XXX;iXXミ; -,、 ヾ '" ''' /./! ヾ / ,. - '"XXXXXXXX;i! ,!XXXXi!XXXXX;`iー;,、 i 、. / ; ゙i ; , | ,. r'"XXXXXXi!XXXXXX l! |XXXXX;|XXXXX;| |`ヽ、 ,! ,' | ,.レ" |XXXXXXX|XXXXXXX;l! !XXXXX;|XXXXX | i ` ;! i! / ! |XXXXXXX|!XXXXXXX| XXXXXx|XXXXX;! ! `. / | '" l |XXXXXXX|XXXXXXX | 115 名前:番外編・兄弟版指輪物語 旅の仲間編6投稿日:03/03/30 13 07 ID ??? 暗く寒くなった部屋で指輪のことを考えているアムロの耳にドアがきしむ音が聞こえた。 アムロ「アルか?」 アル「ここにいたんだ。キラも見つからないし、どうしたのかと思っちゃったよ」 アムロ「ああ…。雨でずぶ濡れになってしまったな。今部屋を暖めるから、体をよく拭いて着替えてくるんだ」 暖炉にあたってホットミルクを飲みながら、二人は話していた。 アル「ねえ、やっぱり、キラは行ってしまったんだね…」 アムロ「知ってたのか?」 アル「キラは何も言わなかったけど、そんな気がしてた。だって、家族だよ? ……最近様子が変だったんだ。ずっと寝不足っぽいし、元気もなかったし。病気だったのかなぁ。 そのくせこの指輪だけは何時間もあきずに眺めてうれしそうに笑ってたけど」 アルがアムロに差し出したのはキラが置いていった魔法の指輪だった。 アムロ「指輪?!触って何ともなかったのか?」 顔色を変えて聞くアムロにアルは面食らったが、正直に何もなかったと答えた。 アル「これ、魔法の指輪でしょ?僕要らないからアムロが持っていってよ。アムロが魔法使いだからキラはあげるつもりだったんでしょ?」 アムロ「違う。僕も要らない。その指輪は使わないんだ」 声を振り絞って言った。自分のものにしたいという欲望を抑えるのに必死だった。指輪にはそういう魔力があるらしい。 アル「それじゃあどうしよう、この指輪」 アムロ「そこにある宝石箱に入れて鍵をかけて」 アルが箱に鍵をかけると、アムロは魔法でもう一度鍵をかけた。アルの前で魔法を使ったのはこれが初めてだ。 アムロ「僕は急用があるから行かなきゃならないが、2ヶ月以内に戻るから、この宝石箱はそれまで誰も知らないところに隠すんだ。誰にも秘密だよ」 雨も上がって翌朝。アムロはアルにしつこく指輪のことの念を押して村を去って行った。 link_anchor plugin error 画像もしくは文字列を必ずどちらかを入力してください。このページにつけられたタグ アムロ・レイ キラ・ヤマト シリーズ パロディ ファンタジー 兄弟指輪物語