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3匹の招き猫(3ひきのまねきねこ) 概要 ハーツに登場したお守り系の装飾品。 登場作品 + 目次 ハーツ 関連リンク関連品 ネタ ハーツ 作中説明 装飾品の一種。戦闘終了時のアイテム取得率が上昇する。 エストレーガ等のアクセサリ屋で5500ガルドで買える。 No. 117 分類 装飾品 買値 5500 売値 3685 特殊効果 戦闘終了時のアイテム取得率上昇 入手方法 店 エストレーガ・アクセサリ屋(中盤・終盤)千年砂漠シェヘラ・アクセサリ屋オアシス・アクセサリ屋プランスール・アクセサリ屋ノークイン・アクセサリ屋 合 エストレーガ・アクセサリ屋(終盤)ユーライオ・アクセサリ屋(後半)千年砂漠シェヘラ・アクセサリ屋オアシス・アクセサリ屋ノークイン・アクセサリ屋 材 スメルイカのスルメ×20猛獣の皮×15魔獣の爪×3(730ガルド) 盗 ペリドット(1戦目) ▲ 関連リンク 関連品 101匹の招き猫 ▲ ネタ ▲
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技名 SHIMATCH/招き猫はねけん 演技者 SHIMATCH/招き猫はねけん 出典 ポプラ社 けん玉の技百選 p.88 説明 玉にけんを挿し、手の甲の上に置いた状態で構える。 けん玉を投げ上げつつ、はねけんの回転をかける。 玉をキャッチし、玉でけんを受ける。 備考 特になし タグ はねけん まわし 全日本けん玉道選手権 コメント 名前
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ラノで読む 「いやー、やっぱり掃除姿はフクスケが一番似合うよなー」 「えっと……でも、これは当番制なんだから……」 無理矢理押し付けられた箒《ほうき》とチリトリを手に持たされ、|福永《ふくなが》|幸助《こうすけ》(略してフクスケ)はしどろもどろになりながらも、今日が掃除当番であるちょっとガラの悪いクラスメイトたちのグループに声をかける。しかし、 「だからー、今度お前が当番の時には俺らが代わってやるってさっきから言ってんじゃん」 「でも、やっぱり……」 「っつーわけで、頼んだぜフクスケ!」 彼らはうまく言い返せないでいる幸助の肩をぽんぽんと叩き、ゲラゲラと笑いながら明日からの週末の予定に花を咲かせながら帰り支度を済ませ勝手に教室を出て行ってしまった。 「そんなぁ……」 中等部三年に進級してまだ間もないというのに、さっそく厄介な人たちに目を付けられてしまったと、幸助は肩を落としため息をつく。 わかっていた。今度掃除当番が回ってきたとき、幸助が彼らに向かって「掃除当番を代わってくれ」と言い出せないことを、少年も、そして彼らもまた、わかっていた。 別に普段からいじめられているというわけではないが、面倒事があるといつも押し付けられてしまう。根が真面目で気弱で口下手。幸助は彼らのような者にとって恰好の駒だった。 いつの間にかほかのクラスメイトも居なくなり、幸助は今日もまたひとり寂しく教室の掃除を続けていた。 ある程度片づいただろうか。後は片方に寄せた机を元の位置に戻し、その上に乗せられた椅子を全員分下ろして、最後にゴミを集積場に捨てに行けば完了というタイミングで、 「あれ? フクスケ君ひとりで掃除してるー」 不意に教室へと足を踏み入れた小柄な少女が声をかけられ、ガタガタと机を持ち上げて運んでいた幸助は急に頬を赤く染めた。 「あ、式守《しきもり》さん、どうしたの……?」 「ちょっと忘れ物を……って、あれ? 今日の掃除当番って……あー、さてはまたあいつらか?」 肩の上に正八面体をした握り拳大の黒い物体を浮かべたクラスメイト、|式守《しきもり》|晴香《はるか》は、仁王立ちでビシっと幸助を指さすと、 「ダメだよフクスケ君、イヤならイヤって言わないと、いつまで経ってもあいつらに良いように使われるだけだよ!?」 ゴミを集め終わった後に換気のため開けておいた窓から初夏の風が吹き込み、晴香のポニーテールを揺らす。可愛い、綺麗というよりは、凛々しい、格好いいという形容がふさわしい。彼女の心の強さが体現されたその表情に、幸助は無意識に見とれてしまった。 魂源力《アティルト》の多さだけで双葉学園へと編入され、今に至るまで何の才能の片鱗も見せていない自分とは違い、彼女はその肩の上に浮かぶ黒い物体を扱う魔術系異能者だと幸助は聞いている。どのようなものかまでは知らないが、そこそこの戦闘もこなせる、らしい。 そして、幸助はそんな晴香に対し仄《ほの》かな恋心を抱いていた。 「っと、何? 私の顔になんかついてる?」 じっと見つめられていることに気づき、晴香はペタペタと自身の頬を触ってみせる。 「……あ、ううん。ごめん。ただ、式守さんて、何て言うか、凄いなぁって思って」 自分の気持ちを上手く表現できず、幸助はボソボソと途切れ途切れに口にした。 「お姉ちゃんやお兄ちゃん達も言うんだよね、『うちではハルカが一番凄い』って。私はそれが自分に出来ることだって思ってるから、そのために頑張ってるだけなのに」 晴香は肩の前で上向きに両手を広げ、首を左右に振ってみせる。 「でも、式守さんのそういうところを周りのみんなが……」 「ううん、違う」 彼女は急に幸助に向けて手のひらを突きつけ彼の言葉を遮ると、 「周りのみんなにどう見られるかとか、どんな評価されるとかじゃなくて、私は私の信じる正義のためにやってるだけだから」 きっぱりと言いきった。 「正義……」 「そう、正義。私の前に立ちはだかる悪いラルヴァを討ち倒す正義。来年、高等部に進学したらお兄ちゃんとこの討伐チームに入れて貰う約束してるんだ。そして頑張って頑張って学園一のチームにするのが私の夢」 晴香はぐっと拳を握るとニヤリとしてみせた。心なしか肩の上の黒い物体が彼女の言葉に頷いているように見て取れた。 「って、ごめん。フクスケ君掃除の途中だったね。私も手伝うからさっさと終わらせちゃお?」 自分の夢を語ったことに気恥ずかしくなったのか、晴香は急に思い出したかのように大声で言うと、手近の机を運び始めた。 「夢かぁ、叶うといいね、式守さんの夢」 運んだ机に乗せられた椅子を降ろしながら言う幸助の言葉に、 「フクスケ君は何もわかってないなぁ。叶う、叶えるんじゃなくて、やって、やるんだよ」 机を運ぶ手を止め、晴香は幸助へと背を向けたままぼそりと呟いた。 幸助は手伝ってくれた晴香に礼を言うと「後はコレだけだから」とゴミ袋を持って慌てて教室を飛び出した。 足早に廊下を進む幸助の表情は暗く沈んでいる。 「変なこと言ったかな、僕、式守さんに嫌われたかな……」 頭の中で教室での二人のやりとりを思い返すが、どうしても最後の『フクスケ君は何もわかってないなぁ』が心に重くのし掛かってくる。自分としては彼女を応援したつもりだったのだが―― 中等部棟を出て渡り廊下を越え、中庭を迂回して体育館裏を通り抜けてようやくゴミ集積場へと辿り着く。可燃ゴミ、ペットボトル、缶、ビン、不燃ゴミと並んだそれは学園内に何ヶ所か設置されているのだが、最寄りの集積場ですらこの距離なのだから、掃除を面倒がる人が出てもおかしくはない。 途中まで一人で掃除していたからか他のクラスより大幅に遅れたらしく、可燃ゴミは既に山と積まれている。幸助はその山を崩さないよう手元のゴミ袋を積むと、 「僕、情けないなぁ……」 そのままゴミ集積場を前に再びため息をついた。 |福《・》永家に生まれ、両親から|幸《・》助と言う名を与えられ、クラスメイトからは「|フ《・》|ク《・》|ス《・》|ケ《・》」などと呼ばれているというのに、(自分は不幸だと嘆くわけではないが、それでも)決して幸福ではないよなぁ、とうなだれる。 名は体《たい》を表すとはよく言うが、せめて名に恥じない程度に幸福を呼べるようなラッキーアイテムなんかあればいいのに、などとくだらないことを考えていると―― 「――招き猫……?」 幸助の目の前、ゴミ集積場の不燃ゴミ置き場に、左前足を挙げた|ソ《・》|レ《・》は捨てられていた。 「何となく持って帰って来ちゃったけど……」 凹んでいる時分に藁にもすがる思いで、幸助はゴミ集積場に捨てられていた膝丈ほどの大きめな招き猫の置物を抱え自宅の自室へと運び込んだ。 彼は、ラルヴァ研究員の父と専業主婦の母、そして初等部生の妹との四人家族であり、島内の住宅地にある一般的な一軒家で暮らしている。今し方幸助が帰宅した際に母の姿が見当たらなかったのは、夕刻のタイムサービス目当てにスーパーへと買い物へ出かけたからだろう。居間に放置された赤いランドセルから察するに妹もまた帰宅してすぐ母に同伴していったと思われる。何にせよ、変な物拾って帰ってきた幸助にとって、ひとまず何も文句を付けられずに持ち込めたことは幸いである。 自室の床へと改めてその招き猫を眺めてみると、右耳の先が少し欠けそこから目尻をぬけ頬の途中までヒビが入っており、その傷を接着剤によって補修されている。そして、おそらく長年どこかに仕舞い込まれていたのだろう、かなり埃《ほこり》まみれになっていた。 汚れたままにしておくわけにもいかないので、幸助は家族がまだ帰って来ないうちに風呂場へと運び洗い流してやった。すると、綺麗な白地に三毛柄でその首に鈴をさげ左前足を挙げた招き猫がお目見えした。 「ちょっと大きいけど、招き猫なんか飾っておけば、ちょっとくらい僕にもいいことがあったりしないかな」 とりあえずその招き猫を部屋の真ん中に置き、何処かにいいスペースはないかと室内を見回しながら、幸助はふと脳裏に浮かんだくだらない妄想を無意識に呟いた。 「これがギャルゲーだったら、猫耳っ娘に変身して『ご主人様に幸福を呼んであげます~』みたいな展開が起きたりするんだけどねぇ……」 しかし現実は無情《むじょう》で無常《むじょう》だ。幸助は本日何度目かのため息をつくと、招き猫の頭を撫でてやっ―― 「うわっ!?」 突然その招き猫が激しく輝きだし、幸助はとっさに強く目を瞑りすぐさまその上を両腕で覆った。 瞼《まぶた》の裏側が真っ白に見えるくらいに強い光。たった数秒のことだったがかなり長い時間に感じられた。 そして、目を瞑ったままの幸助の耳に、 「……シャバだーーーーー!!」 可愛らしい少女の声で、その声色には似合わぬセリフが届いた。 【招き猫の飼い主】 第一話 君の名前は…… 現実は不定《ふじょう》で不条理《ふじょうり》だ。 光は収まり、徐々に目が慣れてくる。幸助の目の前、さっきまであったはずの招き猫の置物がなくなり、その代わりに、見知らぬ猫耳少女が胡坐《あぐら》で座って彼をを見上げていた。 「そんな馬鹿な……」 歳の頃は幸助と同じか少し上くらい。白地の着物を茶色と黒の斑《まだら》模様をした帯で締め、首には鈴をぶら下げ、長いシルバーブロンドの髪をアップにまとめ上げている。 何より幸助の目についたのは、額から右目尻を抜け頬の途中まで抜けた古傷の痕。それは可愛らしい彼女の顔に対して強いインパクトがあった。 少女はしばらくの間、あたりを見回したり自分自身の姿を眺めたりしていた。そして再び幸助を見上げると、 「なるほど、『オレの力』がお前《めぇ》を呼び、『お前の力』がオレを呼んだんだな」 何が何だかわからないままたじろいでいる幸助に、自分自身をオレと呼ぶ少女はにやりと笑い、彼女の傍らで立ちつくす彼の手をそっと握った。 「えっ……!?」 普段女性に触れることなどまずあり得ない幸助にとって、彼女の行動そしてその手の柔らかさに理解の範疇を超え、何もできないまま硬直してしまった。 「お前の手、やっぱり温《あった》け~わ。体を洗ってもらったときも頭を撫でてもらったときもそうだったけど、こうしてるとお前の力が凄《すげ》ぇ感じられるぜ」 と、その可愛らしい見かけに似つかわしくない口調で言い、握った幸助の手に頬ずりした。その際に彼女の猫耳が幸助の腕を撫で、 「うわぁっ!」 幸助は慌ててその手を振りほどいた。 「っんだよ、急に! ビックリするじゃねぇか!!」 猫耳の少女は今一度幸助の手を握ろうと再び幸助へと伸ばしたが、あからさまに自分を警戒している彼の様子に気づいたのか、小さく舌打ちをすると表情を陰らせゆっくりとその両腕を引っ込めた。 「ビックリしてるのはこっちだ! いったい、君は何者なんだ……?」 幸助が叫ぶ。確かに、猫の力を借りたりその姿に変身できる異能者がいるという話は聞いたことがある。しかし、招き猫の置物が猫耳少女に姿を変えたという今この部屋で起きている事態はそれとはまた異なるだろう。もしも招き猫の|付喪神《つくもがみ》、だとするならこの猫耳少女は―― 「――君は、ラルヴァ、なのか?」 臆しながら言葉を吐き出す幸助の姿に少女は首を傾《かし》げ、 「らるば? らるばって何だ? オレはオレだ。どこにでもある普通《ふつー》の招き猫だぜ?」 「いや、僕の知る限り普通の招き猫は人の姿に変身したりしないはずだ」 「んなこと言われたってなぁ。ってゆーかオレは今お前の……まぁいいや」 少女は口ごもり、胡坐をかいた自身の膝を見下ろす。ちょうど彼女の顔の傷が幸助の視界に入った。 「……傷の位置も一致するし。やっぱりあの招き猫なのか」 「あぁこれか。ったくこちとら焼き物なんだから割れ物注意だってのによぉ。せっかくの器量良しが台無しだぜ」 猫耳少女は再び舌打ちするとふてくされた表情で右目脇の傷跡を手の甲でごしごしと擦った。 「ま、これのせいでゴミとして捨てられかけてたところを助けてくれたんだ。それは感謝してるぜ」 猫耳少女は立ち上がり――奇しくも幸助よりも頭半分ほど背が高かった――彼を見下ろすとニコリと微笑んだ。口調は何かと汚らしくまた右目尻の傷のこともあるものの、元々の綺麗な顔立ちもありその笑顔はとても可愛らしかった。 「そりゃ、どうも……」 「よし、今日からお前はオレの御主人だ。お前んちは何屋だ。|蕎麦《そば》屋か? 団子屋か? 千客万来商売繁盛、私が来たからにはどんどんお客を呼び込んでお前んちを日本一にしてやるぜぇ!?」 いかにも得意げに万遍の笑みで仁王立ちする少女へ、幸助は申し訳なさそうに、 「……いや、うちは普通の一般家庭だよ」 「へ? 店やってないのか? じゃあ何でお前オレのこと拾ったんだよ」 呆れ顔で問い返す。幸助はあまりにバツが悪そうに彼女へと小声で答える。 「幸せに、なりたいから……」 「そりゃまぁ結果的に福を呼ぶことになってるかもしれねぇけどさ、でもオレはこうやって人を招き寄せるだけの招き猫だぜ?」 言って、彼女は左手の手首を折り曲げ優しく拳を握ると、顔の横でクイクイッと招くポーズをとった。 その時だった。 ガチャリと玄関のドアを開ける音と、階下から「ただいまー」という声が幸助の耳に届く。 「まずい、母さん達が帰ってきた!?」 彼は大いに慌てふためいた。それもそのはず、彼が招き猫の置物を抱えて帰宅してから既に二十分以上は経過している。うっかりしていたが母達がいつ帰って来てもおかしくないことを失念していた。誰もいない家でこんな変な子とは言え女子と二人きりでいるところを見られたら何を言われるかわかったもんじゃない。 「おい! 早く元の置物姿に戻れ!!」 「なんでだよ、やだよ。せっかく自由に動けるようになれたってのによぉ……」 「いいから、早く!!」 幸助は我を忘れ先ほど拒んだ彼女の両手を掴み、嫌がる彼女へ「早く!」とせがむ。勢い余り二人は足をもつれさせ、 「「ぅわっ……!!」」 幸助は少女に覆いかぶさって床へと倒れ込んでしまった。 そして、最悪のタイミングで彼の部屋のドアが開く。 「ただいまお兄ちゃんおかえり!! ママがお菓子買ってくれたから一緒に――」 床へと仰向けになって倒れた少女に、うつ伏せで向かい合う二人と、勢いよく開け放たれたドアを挟んで笑顔のまま幸助達を見下ろしていた妹との間で数秒の沈黙が続く。 「――――ママー!! お兄ちゃんが部屋で女の子を押し倒してるー!!」 「違っ……これは……!」 間に合わなかったと幸助は嘆いた。 二人は妹に連れられ(どうやら耳と尻尾は隠せると言うので嫌がる少女に無理矢理隠させた後に)リビングのソファに座らされた。 「あらあらまぁまぁ、幸《こう》ちゃんもお年頃ねぇ。ママのいない間にお部屋に女の子を連れ込むなんて」 幸助の母はキッチンで四人分のお茶を用意しながら、おっとりとした口調で彼らに声をかけた。彼の妹はリビングのテーブルの上に先ほど買って来た菓子の封を開け、 「お兄ちゃん、カノジョ? カノジョ!?」 興味深々に二人へと尋ねながら、むしゃむしゃとそのお菓子を口へ運び続けている。 母の淹れてくれたお茶を啜りながら、幸助はどうしたもんかと頭を悩ませていた。少女は恐らくは何も考えていないだろう、お茶を一口含むなり「熱《あち》ぃ熱《あち》ぃ」と騒ぎながらフゥフゥと吹き冷ましている。 「で、お姉さんのお名前はなんて言うの?」 妹がいきなり核心に触れ、幸助は一気に血の気が引いた。当然ながら彼はまだ彼女の名前を知らない。口裏を合わせるわけにもいかず、また初対面であり互いにフォローしあえる程知り合えているわけでもなく幸助は困り果てた。 「名前? オレは『招き猫』だ」 彼女は幸助の苦悩などどこ吹く風で即答した。 「まね……え?」 しかし、上手く聞き取れなかったのか妹が聞き返す。幸助はこれ幸いにと、 「っと……まね、ねこ……。そう。この子は……|木根《きね》まね子さんっていうんだ。な、まね子?」 即興で、頭をフル回転させ慌てて捲し立てる。 「「まね子、ちゃん?」」 母と妹はいかにも「変わった名前ね」と言わんとした表情で声をハモらせ聞き返す。 「おい、なんだそ――むぐっ」 いかにも不機嫌そうに口を挟もうとした|ま《・》|ね《・》|子《・》の口元を、幸助は腕で遮《さえぎ》り、 「な、まね子?」 もう何が何だかさっぱりわからないがこうなったら騙し通すしかない、と幸助は腹をくくった。 【招き猫の飼い主】第一話 完 続【招き猫の飼い主】第二話 トップに戻る 作品投稿場所に戻る
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招き猫伝説 概要 古の伝説が、今、再び繰り返される。 十二の動物を模した仮面を纏いし魔物たちと、人々と一匹の猫の戦い。 第一章 姫君、騎士を求めて ある日、野外の訓練場で訓練していた一行は、一人の少女を保護する。 爛々とした金色の瞳、縞模様の大きなネコミミと長い尻尾。衣服を纏わず、歩くこともなく四つんばいで、言葉を発することもなく、その姿はまるで獣そのもの・・・それはベルファストにとある猫を彷彿させた。 するとそこに、少女を狙う十二のうち三つの仮面が現れ、一行と交戦する! 第二章 招き猫伝説 突如現れ、意味深な仮面を纏う彼らの情報を集めるため、一行はとある街の大きな図書館にやってきた。 そこで彼らは一人の一般人と出逢い、彼から童話を聞く。 すると前に撃破した仮面たちとは別の三つの仮面が奇襲をかけてきた! そして事態は急展開を迎えることになる・・・。 第三章 心 泰紀の心に迷いはなかった。ルルティと希鳥を人質にとられ、一行は仮面たちの根城へと足を踏み入れる。 そこは人に望まれて忘れ去られた場所だった。その最深部、仮面たちを復活させた黒幕が、その様子を見守る。 そこで仮面たちは卑劣な「交換条件」を設けていた。それはまさに人の心を玩ぶものであった。 第四章 己と、愛と 「このまま勢いに任せて残りの仮面も殲滅する!」 一行は残る仮面たちを撃破するべく、そしてすべてを終わらせるべく、そのまま根城を進んでいく。 同じ魔物でありながら違う道を進び、相容れぬ存在となった泰紀と仮面たち。それは互いに己を貫き通した結果であった。 いつの時代でも「すべて」が明かされることはない。しかし、戦いの先に彼らに待ち構えていたものとは、仮面たちがこのような道を選んだ理由とは、黒幕の目的は一体なんだったのか?
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101匹の招き猫(ひゃくいっぴきのまねきねこ) 概要 ハーツに登場したお守り系の装飾品。 登場作品 + 目次 ハーツ 関連リンク関連品 ネタ ハーツ 作中説明 装飾品の一種。戦闘終了時のアイテム取得率が大幅に上昇する。 ユーライオ等のアクセサリ屋で3000ガルドで合成できる。 No. 118 分類 装飾品 買値 - 売値 15410 特殊効果 戦闘終了時のアイテム取得率大幅上昇 入手方法 合 エストレーガ・アクセサリ屋(後半)ユーライオ・アクセサリ屋(後半)ノークイン・アクセサリ屋ラプンツェル・アクセサリ屋 材 ロット鮎×20クラウドウール×5甘念石×5(3000ガルド) ▲ 関連リンク 関連品 3匹の招き猫 ▲ ネタ ▲
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戻る やるき センス にんたい かいふく 合計 必要ハッパー 初段 1.650(B) 1.914(A) 1.518(B) 1.518(B) 6.600 - 二段 1.700(A) 1.972(A) 1.564(B) 1.564(B) 6.800 60,000 三段 1.750(A) 2.030(S) 1.610(B) 1.610(B) 7.000 120,000 四段 1.800(A) 2.088(S) 1.656(B) 1.656(B) 7.200 200,000 免許 1.875(A) 2.175(S) 1.725(A) 1.725(A) 7.500 300,000 コメントはこちらに 名前
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271 名前:招き猫(B・スターリング)[タクラマカン 収] 投稿日:02/01/03(木) 10 10 現実世界の制覇を争う ○ウム真理教 vs. 2ちゃんねらー遊撃隊 第二回 SF要約選手権
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ラノで読む なんとか母親と妹からの質問攻めを誤魔化し通し、|福永《ふくなが》|幸助《こうすけ》は「まね子を送り届けに行く」と嘘をつき、彼女を連れて家を飛び出した。 「――まね子……まね子かぁ」 幸助がその場の勢いで|木根《きね》まね子と名付けた招き猫の少女が、彼から顔を背け何やらブツブツと呟いている。彼女の表情が伺えず幸助は困り果てた末、 「ねぇ、どうかした?」 気弱な幸助は意を決してまね子へと声をかけた。 「えっ!? ……ってお前《めぇ》「どうかした?」じゃねぇよ! こんなだっせぇ名前付けてくれやがって!!」 自分の世界へと入り込んでいたまね子にとってそれは余りに唐突で、大慌てでその場を取り繕うかのように険しい表情で幸助を睨み――額の傷があるとはいえ普通にしていれば十二分に可愛い容姿をしているというのに――大声でまくし立てた。 「えっ!? ごめん、僕あの時咄嗟だったから……。そうだよね、変だよね。どうしよう……」 彼女に気圧され幸助すぐに謝り返しウジウジと考え込んでしまい、そのまま二人は目線を合わせずそのまま黙りこくる。そして、その沈黙に耐えられなくなったのかまね子は、 「ったく、めんどくせぇ野郎《やろー》だな。しょうがねぇからその名前貰ってやるよ。ほら、その、何だっけ?」 「……まね子。木根、まね子」 今一度幸助から貰った名前を呼ばれ、まね子はふっと小さく微笑むと、 「そうそれ。折角お前《めぇ》が命名してくれたんだ。ありがたく名乗らせて貰うぜ」 そして彼女は幸助へと振り返り彼の肩をポンと叩き、 「オレは今日から木根まね子だ。まぁ不束者《ふつつかもん》だが改めてよろしくな、|ご主人《コースケ》!」 言って、幸助に向かってとても嬉しそうにニッと笑って見せた。 「でさ、コースケ。もう耳出していいか? これ仕舞っとくと疲れるんだよ」 まね子は幸助の返事を待たずに猫耳と尻尾をひょこりと跳び出させた。幸助は少しばかり人目が気になったが、様々な変身系異能者も数多くいるこの島なら大丈夫――だろうか? いや多分大丈夫だろう。 そして、そのまま二人は特にあてもない散歩に出かけることにした。 【招き猫の飼い主】 第二話 大事なご主人 家から数百メートル歩き、二人は双葉公園へと辿り着いた。ゴールデンウィーク明けの公園内には、楽しそうに遊んでいる子供たちや家族連れ、散歩をしている老夫婦やカップルの姿がちらほらと覗《うかが》えた。 幸助たちは途中の自販機でジュースを二本買い、公園のベンチに二人横並びに腰を下ろし一息つく。 葉桜が初夏の日差しを遮り、温かく緩やかな風が辺りをそよぐ。まだ汗ばむほどの気候ではないが、程なくしたら長袖も不要となるだろう。 「そういえば君は……招き猫の化身なんだよね? 変な質問だけど、いったいどれくらいのことができるの?」 ひとまず幸助の目下の疑問がそれだった。確かに招き猫の置物から現れたとはいえ、この子がどれだけのことが出来るのかまださっぱりわかっていない。 「お前、オレの能力を疑ってやがんな? よし、それじゃあこうしようぜ。今誰か呼んで欲しい奴とかいるか?」 「え、っとそうだなぁ。なら式《しき》も……」 突然聞かれてふと思い当ったのは、幸助が憧れているクラスメイトの女子だった。 「よし、もう何も言うな。手」 「……は?」 まね子は幸助の言葉を遮《さえぎ》ると彼へ右手を突き出し、ひらひらと振って見せた。 「いいからちょっと手ぇ貸せよ、手」 「なんで君と手をつながなきゃならないのさ」 急に周りの目が気になり、幸助は頬を赤らめてしまう。そして場を取り繕うように手にしたジュースを飲み干すと、まね子から少し距離をとるようにベンチの右端まで座る位置をズリズリと離していった。こんなところで女の子(しかも猫耳和服少女)とベンチで二人並んで座り、あまつさえ手を繋いでいるなんてことが知っている人に見つかったら何を言われるかわかったもんじゃない。 「いちいち五月蝿《うるせ》ぇな。俺の能力は例えば「客」みてぇに不特定多数を呼び込むならまだしも、特定の誰かを呼ぶとなると相手の情報をオレ自身が知らなきゃどうしようもねぇだろ?」 言って、まね子は幸助の空けたベンチのスペースを詰めて座り直す。 「あぁもう、わかったよ。って、もしかして手を繋ぐだけでこっちの考えてることがまね子に伝わっちゃったりするの?」 幸助は恐る恐る彼女へと左手を差し出す。まね子は右手で乱暴に掴み取ると、 「そりゃ無理だ。オレがわかるのは「そいつが誰と会いたいか」だけだ。……っと、よし。それじゃこのまま呼んで欲しい奴のことを想像しとけ。今からこっちに来るように仕向けてやっから」 「え、まさか今呼んで今すぐ来るの!?」 慌てて手を離そうと強く引いたが、時すでに遅し。 「んだよ、女かよ」 早速「今逢いたい人」を見透かされてしまい、幸助は耳まで真っ赤に染まる。 「……そんなの僕の勝手じゃないか。聞かれて咄嗟に思いついたのがその子だったんだから」 「あ? 別に何も言ってねぇだろ。いいか、やっからもう黙れ、じっとしてろ」 まね子はすっと目を閉じ、左拳を顔の高さで上下にゆっくりと招いてみせる。口は悪いがこうやっておとなしくしている横顔はとても可愛らしい女の子に見えるのに……と、彼女の右側へと座っていた幸助はしばらくその様子を眺めていた。 ふと、ちょうど視界に入る彼女の右目沿いの傷跡が気になった。やはりまね子はキズ物になってしまったのが原因で捨てられてしまったのだろうか――。 クスクスという笑い声が耳に届き幸助は我に返る。視線を正面へ戻すと、ちょうど彼らの座るベンチの前を通り過ぎていった二人組の女子高等部生の姿があった。 見られた、笑われた。先ほど浮かんだ不安が再び脳裏によぎり、幸助は背中に嫌な汗が滲《にじ》んで行くのを感じた。今のは全く知らない人だったからいいものの、例えばこれがクラスメイトとか――特に自分をからかってきたり掃除を押し付けてきたりするあのガラの悪いグループとか――だったりしたらと思うと……。 「終《お》ーわりっと」 まね子の声と共に繋いでいた手がほどかれる。彼女は怪訝そうな表情で幸助の顔を覗きこむと、 「お前、途中で余計なこと考えただろ」 「しょうがないじゃないか、人に見られて恥ずかしかったんだから。もしかしてその事だけに集中するべきだった?」 幸助の心配事など全く関係のないまね子は、ぱっと勝ち誇った表情へと変わり「出来ればその方がいいんだがな、まぁ問題はねぇはずだぜ」と言い放った。 「……問題ないって、何かが起こったのかって気がしないんだけど。これでもう大丈夫なの?」 「あぁ。もう早速こっちに向かってると思うぜ」 まね子はニヤニヤとしながらジュースを喉へと流し込んだ。そんな彼女の言葉に幸助はふと気になる点が思い当たり彼女へと尋ねてみる。 「早速こっちに、って……。あれ? それって僕が呼んだってあっちにばれてないよね?」 相手が相手だけに自分が呼んだことがばれたらすごく恥ずかしい、という気持ちがある。むしろばれると困る。 「ばれねぇばれねぇ心配すんな。これっくらいなら、相手の心理の中で適当な理由が構築されて『ちょっとあいつの所に行かなきゃ』って思い浮かんで、優先的に行動を起こすってだけだ」 「絶対にばれない?」 「しつっこいな、オレを信用しろって」 まね子はオロオロとしている幸助の背中をバシバシと叩いてやる。――と、幸助の学生証へと着信が入り二人揃ってビクリと反応してしまった。 「……もしもし?」 「もしもし。私、|式守《しきもり》ですけど」 電話の主はちょうど今まさにまね子の能力で幸助の元へと呼び込んだ相手、|式守《しきもり》|晴香《はるか》だった。 「えっ……と、え、本当に式守さん!? ど、どうしたの?」 「私さ、今日の掃除の時間に……ちょっとフクスケ君にキツく言い過ぎたたかなってさっき急に気になり出しちゃって」 「……うん」 「だから、もしフクスケ君が今時間大丈夫なら謝りに行こうかと思ったんだけど」 「今から!?」 「うん、できれば直接会って謝りたいし。次に学校で会うときにしちゃうと土日挟んで明々後日《しあさって》になっちゃうから」 その会話の全てがまね子に聞かされた説明の通りに事が進んでいるという状況に幸助は大いに驚いた。 「でも私フクスケ君ちの住所わからなかったから、こうやって電話で聞こうと思って。今とりあえず双葉公園のほうに向かおうと思うんだけど」 「……何でまた双葉公園に?」 確かに、幸助の家は双葉公園に近く数百メートルでたどり着く距離にあるが『住所を知らない』という晴香が何の脈略もなく口にしたことに対し、まね子の言葉が間違っていて実はここへ呼び込んだことがばれているのではないかという不安に冷や汗が浮かぶ。 「何でって――あれ? そういえば何でだろ。なんとなくそっちへ向かわなきゃって思って」 「そんな……でもやっぱりいいよ、僕は全然気にしてないし。そもそも式守さんの言ってた方が正しいんだし」 「ううん、でもやっぱり私の言い方も悪かったと思う。ほんとごめんなさい」 そしてそのまま特に会話することもなく晴香から「急にごめんね、それじゃあまた月曜日に」と通信を切られ、幸助は学生証を片手に不満とも安堵ともとれない深いため息をついた。 「な、こっち来るって言われたろ? ってかせっかく呼んでやったのに何で断っちまうんだよ。お前」 「何でと言われても。そりゃ無理だよ、心の準備もできてないのに」 「ほんと、情《なっさ》けねぇ奴だなぁ」 「何とでも言って。いやでもこれって凄いな、まね子。ねぇ他《ほか》には何か出来ないの?」 「ほか?」 結局晴香と直接会うチャンスを断ってしまったものの彼女と電話で話をすることができ有頂天になっている幸助は、彼女へと更なる期待を抱いていた。彼も人である。招き猫に期待するものと言えばそれはもちろん―― 「やっぱりさ、招き猫が呼び込めるものっていったら人の他にも、ほら、お金とか、さ」 目を輝かせ、隣に座るまね子を見つめる幸助に対し、まね子は彼を哀れむような目つきで見下し、深いため息を込めて答える。 「……はぁ。悪《わり》ぃがオレにぁ無理だよ」 「え? でもほら、君は招き猫なんだしちょっとくらい……」 「っとに面倒臭《めんどくせ》ぇ奴だなぁ。いいか、ちっと見てろ」 言葉通り面倒臭そうに言うと、まね子はベンチを立ち上がり両膝を手で押さえて二、三度屈伸運動をしだす。そして屈んだ体勢で止まると握った左手を頬の横まで上げ「招き猫ポーズ」を取った。 すると、何の前触れもなく彼女からカッっと眩《まばゆ》い光が放たれ――彼女の姿が消えると同時に傷のある招き猫の置物がそこに鎮座していた。 まね子に「見てろ」と言われた幸助はベンチから腰を上げ、彼女の本体である招き猫の置物を上下左右からぐるぐるとじっくりと観察してみた。膝丈程の、左前脚を挙げた白字に三毛柄の招き猫。首には鈴を下げ、空《あ》いた右前脚はしっかりと大地に踏ん張っている。額から右頬にかけて一本ヒビが入っているが―― ――空いた右前脚? 程なくして置物が三度《みたび》光り輝き、まね子の姿へと戻った。彼女は地に屈んだまま幸助を見上げると、 「コースケ、わかったか? 今お前が想像してる招き猫と、さっきのオレとの違いがたぶんあると思うんだけど。何か気付かねぇ?」 「……その傷は関係ないよね?」 「ぶっ殺すぞ、お前」 幸助に言われ、まね子は額の傷を右手で覆い隠すとギロリと睨み上げた。 「う、ごめん。でも……何か違和感がモヤモヤとはするんだけど。駄目だ、わからないや」 「……はぁ、そっから説明しなきゃならねぇのか」 「何だろう、腹の底から馬鹿にされてる気がするよ……」 まね子は立ち上がるとワザとらしく大きなため息をつき、先ほどのベンチへと戻るとドサリと勢いよく腰を下ろす。そして自分の右隣の空きスペースをポンポンと叩き、幸助へと無言で「さっさと座れ」と促《うなが》した。 今だにモンモンと考え込んでいた幸助はそそくさと彼女と並びベンチへと座り直した。 「まず、オレら招き猫ってのは大きく分けて二種類、いや三種類か。……あ、違《ちげ》ぇや、もっといるわ。えーっと、四、五、六……」 まね子は首を傾げ両手の指を折り数える。 「そんなにいろいろな種類いるの?」 「――お前、|招き猫《おれら》を舐めんなよ? ……と、まぁとりあえず今は他の系統の奴らのことは省くぜ。とにかく、オレと同じ系統の招き猫は三種類いんだわ」 まね子は右手の指を三本立て、幸助へと見せつける。 「今の見たろ? オレは人を引き寄せる『左前脚挙げの招き猫』だ。で、他に金運を呼び込むことのできる『右前脚挙げの招き猫』って奴。こいつらは空いた左手で小判を抱えてることが多いな」 小判――そうか。幸助は置物となった彼女《まねきねこ》への違和感がそれだったことに気付く。 「あー……思い出した。右手と左手と小判の有無か。って、三種類目は?」 幸助に訪ねられたまね子はムスっと表情を曇らせ幸助からそっぽを向くと、多少の間を開けた後に、 「………………左前脚挙げて、右前脚で小判抱えてる招き猫」 ボソリと小さく呟いた。 幸助はしばらく右手と左手を上げ下げしながら考えていたが、 「あ、僕がイメージしてるのってそのタイプだ。つまりその三種類目の招き猫なら人とお金と両方引き寄せられるってことだよね?」 ポンと手を打ち彼女へと向いた。しかしまね子は幸助に背を向けたまま、 「…………あぁ、そうだよ!!」 まるで逆鱗に触れられたかのように彼へと大声で怒鳴り返した。 「あれ、ごめん。何か怒ってる?」 「怒ってなんかねぇよ! もういいだろ、帰るぞ!!」 そして彼女はそのまま幸助と目を合わせないままベンチを立ち上がり、彼へと振り返ることもなく勝手にスタスタと歩きだした。 「ちょっ、待ってよ」 幸助は慌てて彼女の後を追った。まね子が小声で「……余計なこと言っちまった」と呟いたが、幸助の耳には届かなかった。 幸助は早足で双葉公園内の遊歩道を進むまね子の後姿を追いかけていたが、ふと、緩やかにカーブを描《えが》いた先のベンチに腰を下ろしゲラゲラと馬鹿笑いをしている二人組に気づき、 「うわ、最悪だ……」 小声で呻く。このタイミングでよりにもよって、それは放課後に幸助へと掃除当番を押しつけていったクラスメイト達だった。 こんなところを見つかったら面倒事どころの騒ぎじゃない。ばれないうちに逃げようかと考えたのだが、幸助の事情など知る由《よし》もなくスタスタと先行していくまね子の姿に気付いた彼らがこちらへと振り向いた。 「お、フクスケじゃん」 「奇遇じゃねーか、ちょうど今お前の話《はなし》して――って、おいおいおい!? なにこいつ、すっげー可愛い子連れてんぜ!」 「なっまいきー。しかもこの子って変身系異能者? 猫耳に尻尾でしかも和服姿なんてマニアック過ぎんぜ」 二人はベンチを立ち上がると幸助達の進路に立ちふさがり、いやらしい目つきでまね子に見入っていた。とりあえず異能者と勘違いしてくれたおかげで、どうやら人へと変身した|招き猫《ラルヴァ》だとは気付かれてないらしいと幸助はひとまず肩をなで下ろす。 しかし、彼の隣でただでさえイライラしている様子だったまね子はその上さらに行く手を遮られてしまい、 「コースケ。何だこのガラの悪い奴らは」 感情が直《ちょく》で現れているのか、無理矢理絞り出したかのような低い声で幸助へと尋ねた。 「ねぇもう機嫌直してよ、まね子……。この二人は山本君と宮沢君。僕のクラスメイトだよ」 幸助はなんとかまね子をなだめすかしながら二人のことを説明する。しばらく二人組を睨んでいたまね子は幸助に聞こえるかといった小声で「なるほど、そうかこいつらさっきコースケの雑念に出てきた……」と舌打ち混じりに呟く。 幸助たちのそのやり取りを聞いた彼らはいつもの調子で彼らを囃し立て始めた。 「よぉ。お前ら名前で呼び合ってんの?」 「なぁなぁ、まさかフクスケのカノジョなんかじゃねーよな!?」 「カノジョだなんて。違うよ、この子とはそんなんじゃ……」 幸助が大慌てで否定すると、 「まじで!? じゃあさじゃあさ、俺らのこと紹介しろよ。一緒に遊ぼーぜ!」 「まぁもちろんフクスケ君には途中退場してもらうけどな!」 「え、それはちょっと……」 「んだよ、いいじゃねーか減るもんじゃねーし。お前ちょっとどけよ」 更に追い討ちをかけられてうろたえる幸助を二人はゲラゲラと笑い合い、そして腕っ節の強い宮沢が幸助の肩を突き飛ばす。 幸助と彼らとは今年初めて同じクラスになった仲といった程度で、中学三年に進級してまだ一ヶ月とちょっとしか経っておらず幸助はまだこの二人のことをよく知っているというわけではなかった。ただ、元々旧知の仲だった山本と宮沢は、これまではオドオドしている幸助を嘲弄の的《まと》にしているだけであり、直接暴力を奮われたのはこれが初めてだった。 「えっ――――がはっ!」 「コースケ!?」 幸助は宮沢によってその場に「突き倒す」ではなく、約数メートル離れた遊歩道沿いの垣根へと文字通りに「突き飛ばされ」た。例え宮沢が人並み以上の腕力を有しており、また幸助が人よりも小柄であったとはいえ、それは一般中等部生が引き起こすものと考えるにはあまりに異様な威力だった。 そして、着物の袖を翻《ひるがえ》し急いで幸助のもとへと駆け出そうとしたまね子の肩に山本が腕を回して引き留め、その指先で彼女の顎先をゆっくりと撫でながら、 「あんな奴ほっといてさ、俺達と一緒に楽しいことしねぇ?」 耳元へ顔を寄せ優しく囁いた。しかしまね子は彼へと一切見向きもせず、猫のように鋭い八重歯で彼の指先に噛みついた。 「った!」 山本は突然の激痛に悲鳴を上げまね子から飛び退いたが、すぐさま彼女の左襟首を掴み上げ鋭く睨みつけた。 「このクソアマがぁ……こっちが優しく声掛けてやってりゃいい気になりやがってよぉ……!!」 いくら彼女が気の短く怒りっぽい男勝りな性格の|招き猫《ラルヴァ》とはいえその容姿は線の細い人間の女の子である。男相手に腕力で挑まれてしまっては体力的な差は歴然だった。――が、 「――――離しやがれ」 言ってまね子は左手で拳を握ると力いっぱいに振り降ろす。すると、まるでその拳に引き寄せられたかのように山本の体が地面へと叩きつけられた。 山本の手から離れたまね子は幸助の元へと駆け寄ると、彼の手を引き立ち上がらせて背中や腰回りの砂や葉っぱを払い落してやる。 「大丈夫か、コースケ」 「うん……僕は大丈夫。って、まね子それ……」 幸助は、自分の傍らに寄り添うまね子の左襟がいつの間にか鋭利な刃物のような何かによって切り裂かれていることに気付いた。皮膚には傷は見当たらなかったものの彼女の胸元の柔肌が露わになっており幸助は淡く頬を染める。 「あんの野郎《やろー》、オレの大事な一張羅を……」 まね子は服を切り裂かれた左襟辺りを右手で押さえ、地面から起き上がった山本をきつく睨みつける。山本もまた負けじとまね子へと歩み寄る。 「ムカついた、あいつらぶっ倒してやる。おいコースケ、お前もオレと一緒に相手しろ」 いきなりとんでもないことを言い出したと、幸助はまね子へと大きく首を横に振った。 「え!? そんな、無理だよ勝てっこないよ。それに僕は喧嘩なんかできないし……」 「お前……オレ一人に男二人を相手しろってのか? いくらオレでも腕力勝負じゃ相手にならねぇんだからな。いいからやれ、オレが絶対に守ってやっから!」 切り裂かれた着物を抑えてるまね子の右手が強く握られる。山本達に凄みをきかされ、まね子からは無理難題を押し付けられ、窮地に立たされた幸助の脳裏に一つの疑問が浮かんだ。 さっきまね子の服を切り裂いたのは恐らくは山本のはずなのだが、彼は今ナイフ類を所持していなく、また隠した様子もポケット等に仕舞った仕草もない。先ほど二人がもみ合った際に破れたのであるならわからなくもないが、一体どうやってまね子の服を切ったというのか――。 「あの女、ぜってー許さねー……」 「おぃ山本、やっぱりこの女、変身系の身体強化異能者か? さっきお前ぶっ倒されてたじゃねーか。しかもあの顔の傷とかけっこー戦闘経験あったりすんじゃね?」 山本の隣へと並んだ宮沢が、自身の右額を指差しながらまね子の傷のことに触れる。それを聞きまね子の耳がピクリと反応した。 「宮沢、てめーびびってんじゃねーよ。さっきは不意打ちでやられちまったが、このまま引き下がれるか。たとえ異能者だろうと相手はたかが女とフクスケだけなんだぜ!?」 「確かに、そりゃそうだ」 宮沢はハッと鼻で笑い、近くに並べられてあった簡易ベンチを脚で高く蹴り上げ、落下してきたそれを拳一発で真っ二つに殴り壊し、雄叫びをあげた。 「っしゃあらぁーー!! 痛い目見たくなけりゃ素直に言うこと聞いといた方が身のためだぜぇ!?」 「弱虫フクスケも女の前だからって似合わねーことしねーよなぁ?」 幸助は二人にたじろぎ一歩後ずさる。しかしまね子は彼らと対峙したまま、 「なぁコースケ。こいつらもなんか変な力持ってるみてぇだな。一人は切断系、もう一人は殴打系ってところか?」 不意に、まね子が核心に触れる。たしかにまね子の言う通り、山本は刃物を持たずにまね子の衣服の右袖を切り裂いた。先ほどの宮沢も常人ならざる腕力で公園のベンチを一台殴り壊している。この二人はもしかして―――― 「うん。この島には異能者っていって不思議な力を持った人間が沢山いるんだけど……、でもなんかちょっとおかしいんだ。確か山本君たちは異能者じゃなくて一般学生として学園に通っているはずなのに……」 幸助の言葉に山本達は互いに目配せすると鼻で笑い合う。 「へっ、遊ぶ時間削ってまで異能者向けのカリキュラムなんかうぜぇもん受けてられっかよ。めんどくせぇ」 「そんな、他の異能者の人たちはみんなラルヴァ討伐とかいろいろと頑張ってるのに……」 「んなもん俺らの知ったことか。正義だなんだと自分の力を過信して勝手に死地へとむかってるだけじゃねーか」 「バレなきゃいいんだ。フクスケもチクんじゃねーぞ?」 「ばれなきゃって……。でも、二人が本当に異能者だったら、こんなことしてたら風紀委員が黙ってるはずがないよ!」 幸助が力説する。異能者が能力を乱用して問題を起こしようものなら学園側が対処へと動くに決まっている。しかし幸助の言葉を聞いた山本達は平然とした様子で、 「頭悪いな、フクスケ。だから今からお前らを黙らせるんじゃん」 さらりと言い捨てた。 「さてと、邪魔なフクスケはさっさと潰《つぶ》す。そしたら二人がかりであの女を……」 「へっ、オレがお前ら如きに負けたりするかよ」 まね子はニヤリと笑い彼らを挑発した。 「……チョーシに乗ってんじゃねぇぞ、コラァ!!」 既に二度やられている山本が叫び、二人はまね子達へと襲いかかった。 ――それは終始一方的な喧嘩だった。どんなに強い腕力を持とうと、指先を刃物のように扱う能力を持とうと、それが近接攻撃でしか効果を発揮できないのであれば相手に触れられない限りはまったくの無意味であった。 まね子は幸助に背を向け二人の追撃をかわしつつ、力強く握った拳を突きつけ、そして何も掴まずに振り降ろす。一度喰らった山本は一歩身を引いたが、突っ込んできた宮本は、 「うわっ!?」 彼女の左拳に導かれるようにそのまま地面へと転がり倒れた。 「宮本、あの左手に気をつけろ!」 山本が叫ぶ。 「気をつけてどうにかなればいいけどな」 まね子は数メートル程距離を取った山本へと左拳を向けすぐさま一気に引き戻す。まるで見えないロープで繋がれているかのように山本の体が彼女の左手に引き寄せられ、ちょうど立ち上がった宮本へと激突した。 まね子の左手に振り回され、二人はそのまま立ち上がっては引き倒されてを、何もできないまま動けなくなるまで何回も何十回も繰り返させられる羽目となった。 「いいか。コースケは相手の気持ちも考えてやれないようなウスノロ野郎だがな、それでもオレの大事なご主人だ。こいつ以下のお前《めぇ》らカスどもにゃあ好き勝手させやしねぇぜ!!」 まね子は折り重なるように地に伏せたまま気を失っている山本達を見下ろし、肩で息をしながらも力強く啖呵を切った。 「ねぇ、まね子。さっきのあれってどうやったの?」 「あ?」 ほとんど何もせず三人の喧嘩を――そのほとんどがまね子の独壇場だったのだが――眺めるしか出来ないでいた幸助は、彼女の持つ能力が気になって仕方がなかった。いくらラルヴァとはいえ|招き猫《まね子》があんなに戦うことが出来るなんて想像だにしなかったからだ。 「オレの左手はな、普通に招けば相手の心を呼び寄せるだけだが、全身全霊を込めて全力で招けば、相手の意思を無視してその肉体ごと引き寄せることができんだ、すっげぇ疲れるけどな。それだけだよ」 まね子の説明に幸助はぐうの音も出ずに立ちつくした。まね子は額の汗を拭うと、肩をほぐすように左腕をぐるぐると回し、 「オレもう力を使い果たした。今度こそ帰るぞ。着物も直さねぇとならないしな」 言って、幸助を促し足早に家路につこうとした。しかし幸助は彼女の後を追わず、 「でも、山本君達をこのままにしていくわけにも……」 「……あのなぁ。こいつらはお前を潰すとか言ってた奴らだぞ? 放っとけよ」 「だからって……」 後ろの二人組を気にする幸助にまね子は苛立ったのか舌打ちすると、 「お前はさ、そんなんだからさっきみたいに舐められんだよ」 踵を返し、地に伏せた二人の元へと屈みこむ。 そして、右手で相手の肌に触れ左手で数回招く行為を二人それぞれに施す。幸助はまね子の傍らへと移動しその様子をしばらく眺めていた。 「これで――まぁオレには誰が来るのかはしらねぇが――今こいつらの知り合いがこっちに向かうように呼び寄せといた。これでいいだろ?」 「うん、ごめん。ありがとう」 幸助からの感謝の言葉を受け、まね子は立ち上がらないまま彼を見上げると、少し寂しそうに微笑んだ。 「……せっかくコースケと一緒に家まで歩いて帰るだけの力は残しておいたのによぉ、今度こそホントにスッカラカンまで使いきっちまったぜ」 「え?」 屈んだままのまね子の体から、今までとは比べ物にならないほど限りなく力なく淡い光がこぼれ出す。 「途中で棄てたりしないで、ちゃんとコースケんちまで連れて帰ってくれよ……。頼んだぜ、|ご主人《コースケ》」 「まね子……」 光が収まると、幸助の足元には額にひびの入った招き猫の置物へと戻った彼女の姿があった。 「棄てるわけがないじゃないか」 幸助もまた微笑み返すと彼女《まねきねこ》を大事に抱きかかえた。 【招き猫の飼い主】第二話 完 続【招き猫の飼い主】第三話 トップに戻る 作品投稿場所に戻る
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我が輩は猫である。名前はミケ。三毛猫だからミケ。 ひねりも工夫もないが、拾われて早2年、我が輩はこの名が気に入っている。 思い返せば2年前、死にかけの子猫だった我が輩を拾って帰ったご主人はまだ小学生。 定食屋を営む両親からは飲食店に猫なんてとこっぴどく叱られていたものだ。 それでも我が輩を家に置きたいと必死に庇ってくれたご主人のために、我が輩は一肌脱いだ。 「招き猫」―そう。我が輩はただの猫ではなかったのだ。 「ミケー!」 時刻は夕方。ご主人がセーラー服のスカートを翻して帰ってきた。 「ただいま、ミケ」 ご主人にぎゅっと抱きしめて貰う時間は、我が輩にとって何にも代え難いものだ。 「にゃあ」 我が輩は一声鳴いて店の入り口に向かう。食事時は我が輩の時間だ。 「あ、あの定食屋さん、猫がいるー!」 「可愛いじゃん」 「そういえばお腹空いたね、ここで食べていこうよ」 学校や会社帰りの人の足が、ご主人の両親の店に向く。 我が輩は彼らをちらりちらりと眺めながら時折ちょいちょいと顔を洗うふりなどして彼らを手招きする。 2年前、味は良いのだが近所の安価なファミレスに押されて潰れかけていた店を救うには、それで充分だった。 「あ、ねこちゃんだー」 「かわいー!」 夕飯時の店の喧噪には子供の声も混じりにぎやかなことこの上ない。 我が輩は満足して、ご主人の部屋にある猫ベッドで体を丸めた。 「今日もお店、大繁盛だったよ」 これならお前を大学まで行かせられるって、お母さんが言ってた。 「みんなお前のお陰だよ、ありがとう」 そういってご主人は、我が輩の長い毛をもふもふと撫でくった。 ・・・我が輩の方こそ。ありがとう。ご主人。 END 「単発もの」に戻る ページ最上部へ
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ラノで読む ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 【招き猫の飼い主】これまでのあらすじ 福永幸助はゴミ捨て場で拾ったひび割れた招き猫の置物から変身した顔に傷のある和服姿のネコ耳少女を「木根まね子」と名付けた。妹や母の質問から逃れまね子と共に訪れた公園で彼女の「人を招き寄せる能力」を披露してもらうが、その場に居合わせた悪ぶるクラスメイト達に襲われてしまう。辛うじてまね子の隠し技「人を無理矢理に引っ張り寄せる能力」によって撃退するも力を使いすぎたまね子はそのまま招き猫の置物へと姿を戻してしまった。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ まもなく夕方の六時に差し掛かるというのに、未だ太陽は沈まず西の空にぽっかりと浮かんでいる。五月も中旬まで入ると日の長さが顕著だ。梅雨入り前の今はまだからりと乾いた初夏の風が吹き込んでいる。 クラスメイト達とのゴタゴタから離れた幸助は、招き猫の置物へと姿を変えてしまったまね子を抱えて帰宅した。置き去りにしてしまったクラスメイト達の元にも、まね子の能力によって呼び込まれた彼らの知り合いが訪れたことだろう。 玄関に父親の靴はない。今日もまた研究に没頭しているらしい、今朝がた帰りが遅くなるか泊まり込みとなると言っていたことを思い出す。母親と妹は、気配とその時間帯からおそらくキッチンで晩ご飯の用意をしていると察しがつく。幸助は一言「ただいま」と声をかけ、見つからないうちに二階の自室へと駆け込んだ。 「さて、と」 部屋に戻るなり幸助はきょろきょろと室内を見回した。抱えた招き猫をそのまま床へと置いてやるのも気が引け、彼は座布団を用意し置物と化した彼女をその上へとゆっくり乗せてやった。 「しかし、これが人間の姿に変身するんだもんなぁ……」 双葉学園へと編入されてもう数年とななることもあり、学園生として異能やラルヴァについてもそれなりに知識を持ち合わせていたとはいえ、やはりその本質を目の当たりにしてしまうとやはり驚きを隠せないでいた。 ゆっくりと手を伸ばし招き猫の頭を撫でてみる。右耳の付け根から頬へと続く傷跡、すっと伸ばした左前脚、胸元の鈴。 幸助はふと、山本の異能によって切り裂かれた和服の襟元から露わになったまね子の胸元を思いだす。小振りとはいえ女性特有の緩やかな曲線を描いた彼女のそれ。幸助は激しく脈打つ心臓音と共に耳まで真っ赤になりながら、招き猫の置物の腹部を恐る恐る――もしこのタイミングでまね子が変身したらきっと凄い怒るんだろうなと思いながら――触ってみた。しかし、彼の手のひらに伝わったのは、当たり前だが冷たい陶器の感触だけだった。 「お兄ちゃーん、ご飯ーー」 その瞬間、階下から響く妹の声に幸助は慌てて招き猫から手を離した。悪いことをしていたという自覚があるからか激しい鼓動を続ける心臓が収まらない。「すぐ行く」と返答したものの幸助がダイニングへと訪れるまでに数分の時間を要することとなった。 【招き猫の飼い主】 第三話 今日から一緒に 「|美裕《みひろ》ちゃん、好き嫌いしないでちゃんと食べなさいね」 「……はぁい」 母に指摘され、ハンバーグに添えられている|甘く煮た人参《シャトー・キャロット》をフォークでつついていた妹の美裕は、不意に幸助の方へ振り向くと、 「ねぇお兄ちゃん」 「人参ならいらないからね。ちゃんと自分で食べろよ」 幸助は妹の発言の続きを聞かず即座に拒否を示す。 「ちぇ、ケチ。ってそうじゃなくてさっき来てたまね子ちゃんさ、お顔の傷がちょっと怖かったけど綺麗な人だったよね」 「あー、うん。そうだね」 早速触れられたくない話題を振られ、幸助はつい適当に相づちを打ってその場をやり過ごそうとした。が、 「お母さん達とは初対面だったしちょっとばかり猫かぶってた分もあるでしょうけど、根は優しそうないい娘みたいねぇ」 隣の母から追い打ちをかけられてしまう。まぁ僕とも初対面だけどね、と言いかけて幸助は口を噤《つぐ》んだ。しかも「猫をかぶってた」というのも意味は違えどあながち間違いでもないために、幸助は言葉に窮してしまった。 「うーん、そうかなぁ。でも凄い口悪いよ、怒りっぽいし」 「あら、お母さんはあまり気にしないわよ。それに清楚可憐な大和撫子だけがいい女性と言うわけでもないと思うわ」 母はふふっと小さく微笑むと空席になっている父の椅子を優しい目で眺め、 「女の子はいずれ恋をし母となる。愛する人のため、我が子のため、女だってちょっとくらい強い心も持っていないとね」 「お兄ちゃん、まね子ちゃんとケッコンするの!?」 「違っ!! ありえないよ、そもそもまね子は……」 「えー。あたしはまね子ちゃんがお|義姉《ねえ》ちゃんになるのがいいー。ねぇお母さん?」 「そうねぇ、私もあの|娘《こ》好きよ。美裕ちゃんとは違ったタイプであの娘みたいな子供も欲しかったし」 「二人ともなに言ってんだよ!」 とんでもないことを言い出す母と妹に強く言い放つと、幸助はいつの間にか量の増えていた人参《シャトー・キャロット》の山にフォークを突き刺し口へと放り込んだ。 その瞬間、 「コースケ~、腹減った~」 まるでタイミングを計ったかのように、廊下からまね子の声が届いてきた。幸助の背中に冷や汗が流れる。 「え!? お兄ちゃん、この声もしかしてまね子ちゃん!?」 「あら? 幸ちゃん、おうちまで送り届けたんじゃなかったの?」 先ほどまでの様子から、まさか勝手に人型に変身できるというのはあまりに予想外すぎ、幸助は慌てふためいた。 「えっと、あ、うん。いろいろあって、ちょっとごめん」 そして幸助は立ち上って出迎えようとする母たちをを押しとどめ、一人ダイニングから飛び出す。 「お、幸助出てきた。オレもう力使いすぎて腹ぺこだぜぇ」 長い銀髪をアップにまとめ上げ白地の着物を茶色と黒の帯で絞めた、右目のあたりに傷のあるネコ耳少女|木根《きね》まね子が、へらへらと笑顔を浮かべ腹をさすっていた。首に下げた鈴が彼女の動きに合わせてチリチリと鳴っている。幸助は彼女の姿にうなだれため息をつくと、 「いつの間に人間の姿に戻ってるんだよ!? さっきまで全く変化する気配なかったのに!! あと耳と尻尾も!!」 「何でって、そりゃさっきまでずっとおまえに抱っこしてもらってたしな。その後もお前またオレの頭とか手とか胸とか腹とか撫でてくれたろ?」 「それならその時に戻ってくれたらよかったのに。っていうか変身のきっかけとか決まりとかあるの?」 「あん時はまだかったるかったんだよ、いっぱい力使ってすぐだったしな」 言って、んーっと両腕伸びをするまね子。 「あとあれ、よくわかんねーけど今はなんかコースケに触れられたり近くにいればこの姿になれるみたいだぜ。なぁなぁ、そんなことより耳と尻尾は出したまんまでいいよな?」 伸ばした両腕を脱力し、そのまま自分の両耳に触れピョコピョコと動かしてみせる。 「それはホント頼むから仕舞っておいてくれないかな」 「やだ、めんどい、だるい」 まね子は幸助の言葉にムッと唇を尖らせ、指先で両耳をピンと引っ張りながらにらみつけた。 「そんなこと言わないで、俺のためと思って――」 「まね子ちゃんも一緒にご飯食べよう……って、なにその耳と尻尾!?」 またしてもタイミングを計ったかのように美裕がダイニングの扉を開けて幸助たちに声をかけ、そしてまね子のネコ耳姿に驚いて廊下へ飛び出してきた。 「うわっ!? これはその、そういう異能者なんだよ。な、まね子?」 「あ、あぁ。なんかそういうことらしいぞ」 幸助は心の中で天を仰いだ。 「へぇぇ……そうなんだぁ。で、まね子ちゃんもご飯一緒にどう?」 美裕もまた初等部生とはいえ双葉学園の生徒である。異能者だという説明にあっさりと納得したようだと幸助は陰で胸をなで下ろす。 「いいのか?」 「うん! ママもたくさんで食べた方が楽しいって」 「やりぃ! お言葉に甘えさせてもらうぜ」 「こっちこっち、今日はハンバーグなんだよ!」 「はんばーぐ?」 美裕は、聞きなれない単語に首を傾げているまね子の手を引いてダイニングへと入っていった。幸助はげんなりした表情のまま二人の後を追っていった。 ラルヴァ研究者の妻であり、二十年近く双葉島で暮らしている母もまた、ちょっと普通じゃないまね子のネコ耳姿を「異能者だから」とちょっと説明しただけで簡単に納得してしまったようだ。無理矢理でも隠そうとしていた幸助は拍子抜けな状況に安堵のため息をついた。いやまだ父という関門が残ってはいるが。 「幸ちゃんも隅に置けないわねぇ」 「……なにが?」 幸助の隣の席で「うめぇうめぇ」とハンバーグにがっついているまね子を眺めていた母が嬉しそうなニヤけ顔で幸助に呟いた。 「さては『送り届ける』なんて嘘ついてお母さんたちに内緒でまね子ちゃんお泊まりさせるつもりだったんでしょう?」 「ぶっ……!?」 母の明け透けな発言――しかも当たらずとも遠からず――に幸助は啜っていたスープを吹き出してしまった。隣のまね子が「コースケ汚ねーなー」としかめっ面をする。 「まね子ちゃん、うちにお泊まりしていくの?」 きょとんとした表情をして話を聞いていた美裕がぱっと笑顔を浮かべて幸助達に尋ねる。 「あ? 泊まってくっつーか、この先ずっとコースケの元で世話になるつもりなんだが、なぁご主人?」 「ご主人!? ウソ!? お兄ちゃんとまね子ちゃんってケッコンするの!?」 「オレとコースケが、ケッコン?」 「いやだから僕とまね子はそういうんじゃなくて……」 「おい、そういうんじゃねぇって何だ、コースケ? お前まさかオレのこと嫌いだなんて言うんじゃねぇだろうな」 まね子は少々ドスの聞いた低めの声で、おたおたしている幸助を睨み上げる。 「さっきの今でそんなすぐに好きとか嫌いとか即答できるわけないだろう」 にっちもさっちも行かず幸助は助け船を出して貰おうと母の方へと向く。が、母は母で、 「お父さんが帰ってきたらご報告しないといけないわねぇ」 などと嬉しそうに言っている。幸助は頭が痛くなったような気がした。 キッチンの流し台で無言のままカチャカチャと洗い物をしている母の後ろ姿を、幸助はダイニング越しにリビングのソファーからしばらく眺めていたが、意を決し、 「……お母さん」 「なぁに」 母は洗い物の手を止め、背中越しに声を返した。 「僕はどうしたらいいのかな」 「まね子ちゃんのこと?」 当のまね子は先ほど美裕に「ねぇねぇまね子ちゃん、ご飯食べ終わったらあたしと一緒にお風呂入ろう?」と誘われ、また母からも促されて、今は風呂場でキャイキャイと二人で騒ぎ合っている。 「美裕が暴走して結婚とか言ってるけど、そういうのじゃなくて……。なんて言うか、|まね子《あいつ》身寄りがないみたいでさ、なんとか力になってあげたいと思うんだけど……」 「うん、お母さんもそれはとても素晴らしいことだと思うわ。けど幸ちゃんはまだ中等部生なんだから、やっぱり中等部生らしくまずは健全な交際を心がけるべきよ」 「だから僕たちそんなんじゃないって……」 だめだ、美裕だけじゃなく母まで暴走している、と幸助は心の中で深く嘆いた。 「まぁ、もちろんそれは将来の話。そういった下心なしにしても、例え少しでも彼女を想っているからこそ「あの子の為に」って気持ちが芽生えるんじゃないかしら」 「そう、なのかな」 幸助は首をかしげた。 まるでありふれた物語のように突然自分の元へと姿を現せたまね子。 ぶっきらぼうで口が悪いけど何かと自分を慕って来てくれるまね子。 クラスメイトにからまれた情けない自分を身を呈して守ってくれたまね子。 そしてふと、憧れているクラスメイトの|式守《しきもり》|晴香《はるか》の姿が脳裏をよぎり……、 「うーん、やっぱりよくわからない」 頭の中でぐちゃぐちゃになってしまい、幸助はダイニングテーブルに突っ伏した。そんな息子に母は小さく微笑む。 「幸ちゃん十五歳なんだし、お母さんはまだゆっくりと大人になればいいと思うわ。それにあの子、本当は――」 「「綺麗になった!!」」 胸元から腰回りにかけてバスタオルを巻いただけのまね子と美裕が仁王立ちになって幸助の前へと立ちふさがった。 「なっ…………!?」 「まね子ちゃん凄いんだよ! 自分がイメージした人を呼び寄せられる異能者なんだって!! だからあたしね、まね子ちゃんに……ん?」 言いかけて兄の表情の変化に気づき美裕は話途中に口を噤む。幸助がまね子へと「何故ばらした?」といわんばかりの表情を向けたからだ。 まね子はそんな幸助へと数歩近づき、悪びれもせず唇を尖らせると、腰に手を当てそのバスタオル越しの胸を張って答えた。 「ミヒロの奴が何でもかんでも聞いて来るもんでさぁ。でも招き猫のラルヴァってやつは隠し通したぞ、褒めろ」 至近距離でまね子の風呂上がりの艶《つや》やかな肌に見入ってしまったが、瞬時に我に返り幸助は慌てて、 「ネコ耳姿でその能力じゃ答え言ったようなもの……って、は、早く服着て来いよ。ほら美裕も!」 いつまでもバスタオル姿のままでいる二人を脱衣場へと無理矢理に促した。 「いい? 聞いてお兄ちゃん。まね子ちゃんね、人を呼び寄せられる異能者なんだって! 知ってた!?」 兄に話の腰を折られた美裕はパジャマに着替えた後、開口一番にまるで自分のことのようにまね子の能力の話を続けた。当のまね子は、母用に買い置かれてあったと思われる真新しいレモン色のパジャマ姿。着慣れていないのだろうか袖や襟首をしきりに気にしているようだった。 「……うん、知ってる」 テンションの上がっている妹とはかなりの温度差で幸助が受け答えた。その能力のおかげで一悶着があったばかりだし、月曜に登校した際にどんな事態になるか想像したくもない。 「でね、あたしまね子ちゃんにお願いしたの。だからきっともうすぐ帰って来るの」 「帰って、来る……?」 妹の言葉に、幸助の背筋へと嫌な汗が流れた。まさか……。 「ただいま」 二度あることは三度ある。幸助自身が「自分は呪われているのではないか」と思うほど計ったかのようなタイミングで玄関の扉が開かれた。今日は泊まり込みになるかもしれないと言っていたくたびれ顔の父が帰宅してきたのだ。 「パパ!」 美裕は満面の笑みを浮かべ玄関へと走っていき父へと抱きつく。父はにこりと微笑み、美裕の頭を優しく撫で、 「ただいま、美裕」 「あらお父さんお帰りなさい。今日は泊まりになるんじゃなかったの?」 そしてキッチンから玄関へと出迎えた母へと荷物を預けると、ぐいとネクタイを弛めた。 「いやぁ、職員の手違いで研究資材の搬入に問題が発生してね。今日はいったん解散して明日また改めて、ってことになったんだ」 「あらあらまぁまぁ」 ふうと小さくため息をつく父に、母は困ったようなそしてちょっとだけ嬉しそうな表情で受け答えた。 幸助はあまりに迂闊だったと慌てふためいた。完全に油断していた。泊まり込むと聞いていたのでとりあえず今晩だけでもやり過ごし、この週末のうちになんとか策を講じればいいと考えていたのだが、まさか妹の希望で使用された『まね子の能力』によって全ての可能性を強制的に切り替えてこの父が帰宅してくるとは予想だにしていなかったからだ。 「まね子、今すぐに招き猫の置物へと戻ってくれないか!?」 「はぁ!? やだね、なに言ってんだ。今晩は美裕と一緒に寝るって約束してんだからな!」 まね子はぷいと頬を膨らませ幸助を睨みつける。 「うるさい黙れ! このオレに約束破れって言うのか!!」 叫び、ドンと踏み込み幸助へと詰め寄った。するとまね子のその大声が玄関へと聞こえてしまったのか、 「誰か来ているのか?」 母と美裕へと尋ねる父の声が二人の耳へと届き、幸助の顔が真っ青になった。 「そうそう、お父さん。今日は幸ちゃんから大事なお話があるみたいなの。ちょっと、幸ちゃーん」 「う、えっと……」 母から話を振られ幸助は言葉に窮した。 父の目が息子と共にいるネコ耳娘を真っ直ぐ見据え、 「これはこれは、我が家にラルヴァが訪れているとは」 餅は餅屋、ラルヴァにはラルヴァ研究者か。父はまね子を見るなり表情も変えず開口一番に言い当てた。 「え? 違うよ。まね子ちゃんはラルヴァじゃなくて異能者だって言ってたよ、ねぇママ?」 パパ何言ってるの? と美裕が両親を見上げるが、母は「うーん、そうねぇ」と言葉を濁らせただけだった。 万事休す。幸助は微動だにすることもできず、まね子はただただ事態を理解してないまま、目の前の幸助と玄関先の三人を見回していた。 【招き猫の飼い主】第三話 完 続【招き猫の飼い主】第四話 トップに戻る 作品投稿場所に戻る