約 12,371 件
https://w.atwiki.jp/majicaa/pages/1382.html
. /〉 // ____ ___. // } /////〈/⌒\ //〉 }l∨// //,x≦二}_____ / n} ∨}/ //ニニニ/ ) / ]厂 ト ー=ラ〉}ニニ=ノ\ / } ∧ニ.ィ フ\_)\\\\ノ ノ }/ └‐く} { } } \\) }厂`フ /´ ̄ \ \ }ニ}ニ/ ノ / { { /\=}ニ} /\ /(\{ ∨_// 人}ニ}___人==\ . 人__,ノ{ / ∨\. ノ ノ_{⌒\)⌒ { 人/ }ニニ}____{__{ \\。 ∨ ノ〉 ∨ニ\三三≧x 〔)く\n o ∨/⌒ 〉 ̄{ ̄\\厂\ ) ⌒\_ __/ ___ノ⌒\_{厂\}n{⌒\)no⌒(___ (⌒ ノ ̄ /三三三三ノ__\三厂} ( 。o } \ / / ̄厂∨( o\rく三三三三厂)( \o\) \ 〈{{(_ノ {_ ∨\ (\\ニニ厂)o{_ }\\(} \___ \( {__ ∨O °。 \/\\] )⌒\⌒\ 厂\ }(nr∨___)\人__)\ \\_ } \____ \ }ニニ)⌒\ \ \⌒⌒\ \ \ \⌒⌒\ \ ノニニニニ\=\⌒\_____ (\二ニ=‐---‐=ニ二三三 /ニニノニニ=}ニ∧\ ⌒\ \___⌒⌒\___ . /ニニ/ニニ=/ニ=∧ノ\ \ \ ⌒\_ ⌒⌒⌒\ /ニニ/ニニニニニニ=∧ ⌒\ \ \ ⌒\_ Paperfin Rascal / 紙ひれの悪党 (2)(青) クリーチャー — マーフォーク(Merfolk) ならず者(Rogue) 紙ひれの悪党が戦場に出たとき、対戦相手1人と激突を行う。あなたが勝った場合、紙ひれの悪党の上に+1/+1カウンターを1個置く。(激突を行う各プレイヤーは、自分のライブラリーの一番上のカードを公開し、そのカードを一番上か一番下に置く。自分のカードの点数で見たマナ・コストの方が大きいプレイヤーが勝つ。) 2/2 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/multiple/pages/176.html
悪党御免◆SqzC8ZECfY ……まあ、あれだ。 あたしも流石にこう立て続けにわけのわからねえ事態が続けば、自分の正気を疑っちまうくらいのことはする。 ほんとはイエローフラッグで飲みすぎちまって、タチの悪ぃ夢見てんじゃねえかとかな。 ロックやダッチに担がれてうちらのオフィスに帰る途中、奴らに文句やら皮肉やら浴びせられながら、グースカ暢気に寝てんじゃねえかとか。 だがよ、これでもジミ・ヘンドリクスみてえに自分のゲロで溺死するほど節度のねえ飲み方はしてねえつもりだ。 つーか、そんな迂闊をやらかしたが最後、ロアナプラじゃあ何されるか分かったモンじゃねえ。 そんな間抜けは、目覚めたときに一文無しで道端に転がされてようが、それでも二度と目覚めない身体にされてないことをファッキン・クライストに感謝していい。 とにかくだ、あたしはそういった可能性についても考えてみたわけだが……つーか飲んでねえ。 最初にギラーミンとかいう馬鹿が、何やらヤクでもやってんじゃねえかってくらいのイカれた戯言ほざきながら、顔色悪い女とチンピラを吹っ飛ばしたところだ。 そいつが悪夢のジェットコースターのはじまりだったわけだが――じゃあ、その前は? ロックの馬鹿のせいで姐御には殺されかけて、あのジャパニーズ・ヤクザに脚をスライスされかけて散々だった日本から、タイに帰って、ようやく怪我も治って……。 んで、いつものオフィスでヘッドホンで音楽聴きながらぼーっとしてたくらいだが、酒は一滴も飲んでねえぞ。 それが一番新しい記憶だ。 ひょっとしたらうたた寝くらいはしてるかもしれねえが。 よし、じゃあさっさと目を覚まそうぜ、レヴィ。 スリー、ツー、ワンでこんなナイトメアからはおさらばだ。 あたしは右手で自分の頬をぴしゃりと叩いた。 ……。 …………。 ………………。 いてえじゃねえか、ファック!! 夢じゃねえのか? じゃあ、なんであたしはこんなとこにいるんだ。 ハイジャック? 連れ去られた? じゃあロックはどこいった。四六時中、姐御にぴったり付いてる軍曹は? んで、なんであのくそめがねがいるんだよ。 そもそもそんなんで片付けられる事態かよ、これが。 ああ、くそ。わけがわかんねえ。わかんねえぞ、クソがッ! 分かってるのは相変わらずあの赤毛野郎にバッサリいかれた指が痛ぇってことだけだ、クソッタレッ!! ………………オーケー、落ち着けレヴェッカ。 予想外の事態はいつだって起こる。 大事なのはその波に乗り損ねないように、柔軟に合わせることだ。 まずひとつ。 あたしが持ってるのは銃だ。 こいつは大事だ。 これがあるとないとじゃ大違いだからな。 あの赤毛に恵んでもらったみたいな形なのは、とてつもなく気にくわねえが……。 まあ撃ち合いなら問題はねえ。いつものことだ。 弾の残りが気になるが、そいつは他の奴らから銃ともども奪えばいい。 武器は他の連中にも配られてるみてえだからな。 クソッ、それにしても何であたしにはハズレばっかなんだよ。 なんか他にももう一つ、キラキラした妙な宝石があったが、ドンパチやってる最中じゃあ武器のほうが何倍も有難いってモンだ。 ローザミスティカだかなんだか知らねえが、バズーカぐらいよこせってんだよ。 問題はこのボールだ。 荷物をひっくり返したら説明書きが出てきたんで読んでみた。 モンスターボールというらしく、このスイッチを押すとさっきのスタンドだかポケモンだかを出し入れできるらしい。 ポケモンと言うのはこの説明書きに書いてあった。 そもそもポケモンて何だよ、という疑問の答えは書いてなかった。 要点だけをかいつまんで把握しよう。それ以上を考えたところで一文の得にもなりゃしねえし、むしろ時間の無駄だ。 出せるのは10分間限定。時間を過ぎると元に戻り、二時間は出せなくなる。 つまり、今は出せない。ここだけだと不便なとこだけが目立つ。 そうまでして使うほどの強力な代物なのか……銃弾すら弾くこいつを見ると、確かに強力そうだが。 そして、基本的に出した奴の命令を従順に聞く、らしい。 つまりあたしの邪魔をしやがったこの岩っころも次は言うことを聞くってか? ぶっちゃけロボットみてーなもんか。えーと命令は……。 あの野郎がどうやらさっきの戦闘のドサクサで一緒に落としたらしい説明書きを読み上げてみる。 Chage(たいあたり)、 Defence(まるくなる)、 Mud Play(どろあそび)……なんだこりゃ? Rock drop(いわおとし)、 Earthshaker(マグニチュード)、 Self destruction(じばく)……おいおい。 Roll(ころがる)、 Rock blast(ロックブラスト)、 Earthquake(じしん)、 Explosion(だいばくはつ)、 Kamikaze(すてみタックル)、こいつはレベルを上げないと使えないって……レベルってなんだよ。 このカビゴンとかいうやつもポケモン……似たようなもんか。まーパワーはあるようだし、色々便利そうだけどな。 素直にいうこと聞く分、使わせてもらうぜ。 この岩っころは次に言うこと聞かなかったら捨てる。つか他の奴らに拾われたら厄介そうだから埋める。 それにしてもカビゴンってのもだせえな……デカブツだからダッチ……イメージがあわねえな。 「まーいいや……おい、言うこと聞きやがれよ」 あたしが手の平の中のボール越しに話しかけると、ボールの中で小さくなってるそいつは反応するようにモゾモゾと動いた。 あたしはペットなんか飼うようなガラじゃねえからな。役立たずならさっさと見切る。 犬だの猫だなんてのは、あたしんとこじゃあ、酔っ払いが余興のついでに撃ち殺す的にしかならねえんだ。 「あー、それにしても味気ねえな、この飯は……街にいきゃあマシなもんはあるか?」 どっちにしろいつまでもここにいてもしょうがねえ。 とにかくだ、飯も食ったし、動くか。 問題はどう動くかだ。 まず、あの赤毛野郎は殺す。 あの放送がマジならまだ生きてるみたいだからな。 しかし、どっちにいったのかはわからねえときた。 リーゼントの方は……こっちから弾丸ぶち込んだからな。ま、会った時に考えるか。 赤毛のほうもこんな森にいつまでもいるとは思えねえしな……とりあえず、ここを出る。 こんな誰も近づかなさそうな森はさっさと抜けるに限るぜ。 見た感じ、西か北に行きゃあ抜けられそうだ。 とりあえず適当に北にいってみっか。 そしてあたしは、このしみったれた森から抜け出すために、移動を開始した。 ◇ ◇ ◇ 「あーくそ、やっとこの景色からオサラバだぜ」 しばらく歩くと、ようやくあたしは森以外の景色を拝むことが出来た。 観覧車が見えるってことは遊園地か? こっちは西側だから今までは地図の左下の森にいたのかよ。 そこでようやくあたしは、今まで自分の立ってる場所すら碌に掴んでなかったことに気付く。 あーくそ、どうなってやがんだ。 こんなザマじゃあ、立て続けにイモ引いたのも当然じゃねえか……間抜けもいいとこだ。 エダあたりに喋ったら殺したくなるぐらいまで笑われるに決まってる。 とにかく情報だ。 誰かに会ったらこの場所で何が起きてるのか、あのガキと青狸は知り合いみてえだがギラーミンてのは何なのか、赤毛野郎のことも込みで聞けばいい。 ついでに荷物も剥いじまえば獲物も手に入るかもだし、一石二鳥だ。 ――見ろよ。銃じゃ解決しないこともあるんだぜ。 ……うるせェよ、クソッタレが。 なんでここで出てきやがる。 殺し合いしろって言われて、それ以外で解決することなんてあんのかよ。 だいたい、テメェはここにいないってのによ。 ――誇りはねえのか、お前の脳ン中にはよ! あー、うるせーうるせーうるせー! ああ、分かったよ! 認めてやるよ! ぶっ放して暴れてその挙句がこのザマで空回りだよ! そうだ、COOLになれ。 殺し合いとは言ってもいきなりぶっ放すだけが能じゃねえ。 ロアナプラでだって、そんな馬鹿はとっとと蜂の巣にされて御仕舞いだ。 誰が信用できて、誰がそうでないのか……それは自分で判断するしかねえ。 このリストで信用できるのは姐御くらいか……あとは聞いたこともねえ名前ばっかりだ。 ギラーミンの野郎を信用できるなら殺し合いに乗ってやってもいいが、こんな奴を信じるくらいなら、イエス様がルート66をチョッパーに乗ってぶっ飛ばしてたって与太話だって信じるぜ。 決闘やるならさっさとやればいい。 それができねえタマナシが何言ってやがるって話だよ。 あたしは――いや、あたしらは別に死ぬのが怖いってわけじゃねえ。 あたしらは元から歩く死人だ。 ダッチも、姐御も、張の旦那も、他の連中も――ロアナプラに吹き溜まってるような連中はどいつもこいつもくたばりぞこないだ。 墓石の下で虫に食われてる連中と違うところがあるとすりゃ、たったひとつ――。 「拘るべきは――地べたを這いつくばって、くたばるのが許せるか、許せないか、だ」 誇り、ね。 そんな大層なモンでもねえが――ま、やるだけやってやるさ。 【G-1北部 草原 朝】 【レヴィ@BLACK LAGOON】 [状態]全身に軽い負傷、左小指欠損(応急処置済み)、顔面と左脇腹に痛み、 [装備]スプリングフィールドXD 9/9@現実、スプリングフィールドXDの予備弾19/30 @現実、 カビゴンのモンスターボール@ポケットモンスターSPECIAL、ゴローニャのモンスターボール@ポケットモンスターSPECIAL [道具]支給品一式(一食消費、水1/5消費)、応急処置用の簡易道具@現実 [思考・状況] 基本行動方針:悪党らしく、やりたいようにやる。 1:他の参加者と接触してなるべく穏便に情報を集める。他にバラライカの情報を集める 2:クレアを必ず殺す。仗助は殴る程度で勘弁してやってもいい。 3:爆発?を起こしたゼロを許さない。(レヴィは誰がやったかは知りません) 4:他の参加者に武器を、特にソードカトラスがあったら譲ってくれるように頼む。断られたら力付く。 ※クレアが何処へ向かったかは知りません。 ※参戦時期は原作五巻終了後です。 ※スタンドの存在を知りましたが、具体的には理解していません。ポケモンと混同してる節があります。 ※ポケモンの能力と制限を理解しました。 【雛苺のローザミスティカ@ローゼンメイデン】 レヴィに支給された。 ローゼンメイデンの命の源で、いわゆる「魂」の様な物。外観は幾重もの光輪を伴った結晶である。 ローゼンメイデンがこれを持つと雛苺の茨を操ったり人形を巨大化させる能力を身につけることが出来る。 時系列順で読む Back 玉手箱 Next 審判-Judgement- 投下順で読む Back 玉手箱 Next 審判-Judgement- Back Next プッツン共の祭典 レヴィ Survivor
https://w.atwiki.jp/marurowa/pages/273.html
悪党御免◆SqzC8ZECfY ……まあ、あれだ。 あたしも流石にこう立て続けにわけのわからねえ事態が続けば、自分の正気を疑っちまうくらいのことはする。 ほんとはイエローフラッグで飲みすぎちまって、タチの悪ぃ夢見てんじゃねえかとかな。 ロックやダッチに担がれてうちらのオフィスに帰る途中、奴らに文句やら皮肉やら浴びせられながら、グースカ暢気に寝てんじゃねえかとか。 だがよ、これでもジミ・ヘンドリクスみてえに自分のゲロで溺死するほど節度のねえ飲み方はしてねえつもりだ。 つーか、そんな迂闊をやらかしたが最後、ロアナプラじゃあ何されるか分かったモンじゃねえ。 そんな間抜けは、目覚めたときに一文無しで道端に転がされてようが、それでも二度と目覚めない身体にされてないことをファッキン・クライストに感謝していい。 とにかくだ、あたしはそういった可能性についても考えてみたわけだが……つーか飲んでねえ。 最初にギラーミンとかいう馬鹿が、何やらヤクでもやってんじゃねえかってくらいのイカれた戯言ほざきながら、顔色悪い女とチンピラを吹っ飛ばしたところだ。 そいつが悪夢のジェットコースターのはじまりだったわけだが――じゃあ、その前は? ロックの馬鹿のせいで姐御には殺されかけて、あのジャパニーズ・ヤクザに脚をスライスされかけて散々だった日本から、タイに帰って、ようやく怪我も治って……。 んで、いつものオフィスでヘッドホンで音楽聴きながらぼーっとしてたくらいだが、酒は一滴も飲んでねえぞ。 それが一番新しい記憶だ。 ひょっとしたらうたた寝くらいはしてるかもしれねえが。 よし、じゃあさっさと目を覚まそうぜ、レヴィ。 スリー、ツー、ワンでこんなナイトメアからはおさらばだ。 あたしは右手で自分の頬をぴしゃりと叩いた。 ……。 …………。 ………………。 いてえじゃねえか、ファック!! 夢じゃねえのか? じゃあ、なんであたしはこんなとこにいるんだ。 ハイジャック? 連れ去られた? じゃあロックはどこいった。四六時中、姐御にぴったり付いてる軍曹は? んで、なんであのくそめがねがいるんだよ。 そもそもそんなんで片付けられる事態かよ、これが。 ああ、くそ。わけがわかんねえ。わかんねえぞ、クソがッ! 分かってるのは相変わらずあの赤毛野郎にバッサリいかれた指が痛ぇってことだけだ、クソッタレッ!! ………………オーケー、落ち着けレヴェッカ。 予想外の事態はいつだって起こる。 大事なのはその波に乗り損ねないように、柔軟に合わせることだ。 まずひとつ。 あたしが持ってるのは銃だ。 こいつは大事だ。 これがあるとないとじゃ大違いだからな。 あの赤毛に恵んでもらったみたいな形なのは、とてつもなく気にくわねえが……。 まあ撃ち合いなら問題はねえ。いつものことだ。 弾の残りが気になるが、そいつは他の奴らから銃ともども奪えばいい。 武器は他の連中にも配られてるみてえだからな。 クソッ、それにしても何であたしにはハズレばっかなんだよ。 なんか他にももう一つ、キラキラした妙な宝石があったが、ドンパチやってる最中じゃあ武器のほうが何倍も有難いってモンだ。 ローザミスティカだかなんだか知らねえが、バズーカぐらいよこせってんだよ。 問題はこのボールだ。 荷物をひっくり返したら説明書きが出てきたんで読んでみた。 モンスターボールというらしく、このスイッチを押すとさっきのスタンドだかポケモンだかを出し入れできるらしい。 ポケモンと言うのはこの説明書きに書いてあった。 そもそもポケモンて何だよ、という疑問の答えは書いてなかった。 要点だけをかいつまんで把握しよう。それ以上を考えたところで一文の得にもなりゃしねえし、むしろ時間の無駄だ。 出せるのは10分間限定。時間を過ぎると元に戻り、二時間は出せなくなる。 つまり、今は出せない。ここだけだと不便なとこだけが目立つ。 そうまでして使うほどの強力な代物なのか……銃弾すら弾くこいつを見ると、確かに強力そうだが。 そして、基本的に出した奴の命令を従順に聞く、らしい。 つまりあたしの邪魔をしやがったこの岩っころも次は言うことを聞くってか? ぶっちゃけロボットみてーなもんか。えーと命令は……。 あの野郎がどうやらさっきの戦闘のドサクサで一緒に落としたらしい説明書きを読み上げてみる。 Chage(たいあたり)、 Defence(まるくなる)、 Mud Play(どろあそび)……なんだこりゃ? Rock drop(いわおとし)、 Earthshaker(マグニチュード)、 Self destruction(じばく)……おいおい。 Roll(ころがる)、 Rock blast(ロックブラスト)、 Earthquake(じしん)、 Explosion(だいばくはつ)、 Kamikaze(すてみタックル)、こいつはレベルを上げないと使えないって……レベルってなんだよ。 このカビゴンとかいうやつもポケモン……似たようなもんか。まーパワーはあるようだし、色々便利そうだけどな。 素直にいうこと聞く分、使わせてもらうぜ。 この岩っころは次に言うこと聞かなかったら捨てる。つか他の奴らに拾われたら厄介そうだから埋める。 それにしてもカビゴンってのもだせえな……デカブツだからダッチ……イメージがあわねえな。 「まーいいや……おい、言うこと聞きやがれよ」 あたしが手の平の中のボール越しに話しかけると、ボールの中で小さくなってるそいつは反応するようにモゾモゾと動いた。 あたしはペットなんか飼うようなガラじゃねえからな。役立たずならさっさと見切る。 犬だの猫だなんてのは、あたしんとこじゃあ、酔っ払いが余興のついでに撃ち殺す的にしかならねえんだ。 「あー、それにしても味気ねえな、この飯は……街にいきゃあマシなもんはあるか?」 どっちにしろいつまでもここにいてもしょうがねえ。 とにかくだ、飯も食ったし、動くか。 問題はどう動くかだ。 まず、あの赤毛野郎は殺す。 あの放送がマジならまだ生きてるみたいだからな。 しかし、どっちにいったのかはわからねえときた。 リーゼントの方は……こっちから弾丸ぶち込んだからな。ま、会った時に考えるか。 赤毛のほうもこんな森にいつまでもいるとは思えねえしな……とりあえず、ここを出る。 こんな誰も近づかなさそうな森はさっさと抜けるに限るぜ。 見た感じ、西か北に行きゃあ抜けられそうだ。 とりあえず適当に北にいってみっか。 そしてあたしは、このしみったれた森から抜け出すために、移動を開始した。 ◇ ◇ ◇ 「あーくそ、やっとこの景色からオサラバだぜ」 しばらく歩くと、ようやくあたしは森以外の景色を拝むことが出来た。 観覧車が見えるってことは遊園地か? こっちは西側だから今までは地図の左下の森にいたのかよ。 そこでようやくあたしは、今まで自分の立ってる場所すら碌に掴んでなかったことに気付く。 あーくそ、どうなってやがんだ。 こんなザマじゃあ、立て続けにイモ引いたのも当然じゃねえか……間抜けもいいとこだ。 エダあたりに喋ったら殺したくなるぐらいまで笑われるに決まってる。 とにかく情報だ。 誰かに会ったらこの場所で何が起きてるのか、あのガキと青狸は知り合いみてえだがギラーミンてのは何なのか、赤毛野郎のことも込みで聞けばいい。 ついでに荷物も剥いじまえば獲物も手に入るかもだし、一石二鳥だ。 ――見ろよ。銃じゃ解決しないこともあるんだぜ。 ……うるせェよ、クソッタレが。 なんでここで出てきやがる。 殺し合いしろって言われて、それ以外で解決することなんてあんのかよ。 だいたい、テメェはここにいないってのによ。 ――誇りはねえのか、お前の脳ン中にはよ! あー、うるせーうるせーうるせー! ああ、分かったよ! 認めてやるよ! ぶっ放して暴れてその挙句がこのザマで空回りだよ! そうだ、COOLになれ。 殺し合いとは言ってもいきなりぶっ放すだけが能じゃねえ。 ロアナプラでだって、そんな馬鹿はとっとと蜂の巣にされて御仕舞いだ。 誰が信用できて、誰がそうでないのか……それは自分で判断するしかねえ。 このリストで信用できるのは姐御くらいか……あとは聞いたこともねえ名前ばっかりだ。 ギラーミンの野郎を信用できるなら殺し合いに乗ってやってもいいが、こんな奴を信じるくらいなら、イエス様がルート66をチョッパーに乗ってぶっ飛ばしてたって与太話だって信じるぜ。 決闘やるならさっさとやればいい。 それができねえタマナシが何言ってやがるって話だよ。 あたしは――いや、あたしらは別に死ぬのが怖いってわけじゃねえ。 あたしらは元から歩く死人だ。 ダッチも、姐御も、張の旦那も、他の連中も――ロアナプラに吹き溜まってるような連中はどいつもこいつもくたばりぞこないだ。 墓石の下で虫に食われてる連中と違うところがあるとすりゃ、たったひとつ――。 「拘るべきは――地べたを這いつくばって、くたばるのが許せるか、許せないか、だ」 誇り、ね。 そんな大層なモンでもねえが――ま、やるだけやってやるさ。 【G-1北部 草原 朝】 【レヴィ@BLACK LAGOON】 [状態]全身に軽い負傷、左小指欠損(応急処置済み)、顔面と左脇腹に痛み、 [装備]スプリングフィールドXD 9/9@現実、スプリングフィールドXDの予備弾19/30 @現実、 カビゴンのモンスターボール@ポケットモンスターSPECIAL、ゴローニャのモンスターボール@ポケットモンスターSPECIAL [道具]支給品一式(一食消費、水1/5消費)、応急処置用の簡易道具@現実 [思考・状況] 基本行動方針:悪党らしく、やりたいようにやる。 1:他の参加者と接触してなるべく穏便に情報を集める。他にバラライカの情報を集める 2:クレアを必ず殺す。仗助は殴る程度で勘弁してやってもいい。 3:爆発?を起こしたゼロを許さない。(レヴィは誰がやったかは知りません) 4:他の参加者に武器を、特にソードカトラスがあったら譲ってくれるように頼む。断られたら力付く。 ※クレアが何処へ向かったかは知りません。 ※参戦時期は原作五巻終了後です。 ※スタンドの存在を知りましたが、具体的には理解していません。ポケモンと混同してる節があります。 ※ポケモンの能力と制限を理解しました。 【雛苺のローザミスティカ@ローゼンメイデン】 レヴィに支給された。 ローゼンメイデンの命の源で、いわゆる「魂」の様な物。外観は幾重もの光輪を伴った結晶である。 ローゼンメイデンがこれを持つと雛苺の茨を操ったり人形を巨大化させる能力を身につけることが出来る。 時系列順で読む Back 玉手箱 Next 審判-Judgement- 投下順で読む Back 玉手箱 Next 審判-Judgement- プッツン共の祭典 レヴィ Survivor
https://w.atwiki.jp/fadv/pages/1101.html
悪党パーカー/ターゲット 悪党パーカー/ターゲット (ハヤカワ・ミステリ文庫) 題名:悪党パーカー/ターゲット 原題:Backflash (1998) 著者:リチャード・スターク Richard Stark 訳者:小鷹信光 発行:ハヤカワ文庫HM 2000.2.15 初版 価格:\660 前作『エンジェル』を契機に(というよりはメル・ギブソン主演映画化を契機にと言うべきか)新作パーカー・シリーズが書き継がれてゆくようで、古い作品の入手できないストレスが溜まりがちの新しい読者としては、この動きは大変に嬉しい。 悪党パーカー全部持っていると自慢する友人のことがぼくはとっても羨ましい。余談になるけれっど彼は、ロス・トーマスの立風書房絶版シリーズも沢山持っているので、余計羨ましい(こちらは恩恵に預かりまして、おかげでだいぶロス・トマは制覇できました)。 さて本書は、襲撃と裏切りと輻輳したプロットが練りに練られて、なかなかに楽しい娯楽傑作。この作家、ページを開いた瞬間に始まるツカミがとってもうまい。先日読んだ『殺人遊園地』も凄かったが、この作品も凄い。いきなりとんでもないシーンから心臓の高鳴りが聞こえてくるくらい激しくスタート。かくして胸ぐらを掴まえ強引に作品世界へと引きずり込んでゆくようなパワフルな展開にすっかりのめり込んでしまう。 本作はその上二転三転。一見、そう複雑そうにみえないストーリー展開が、どうもプロローグの辺りから引きずってきた怪しい影の出現で、複雑極まりないものに変わって行く様が、スリリングでたまらなく嬉しい。 プロの犯罪者であるパーカーは自分の規律を持っている。規律をしっかり守るためには努力や決意を厭わないそのストイシズムが、ドラマをきりっと引き締めて格好いい。しくじれば歯噛みをして反省する理性も備えている。度胸と知恵で彼はカジノ船を襲撃する。仲間集め。襲撃の準備。下見。裏切りなど。本当映画にしたくなるくらい上出来のプロット。いや、本当に襲撃したくなるくらいのやり口と言うべきであるかもしれない。 (2000.05.04)
https://w.atwiki.jp/ryonarpgb/pages/184.html
悪党の谷 悪党の谷情報 攻略前半 中ボス 後半 ボス ボス後 イベント 最新版 コメント 情報 出現条件:レイオン初心者の館前にいる赤髪に話しかける(要Lv8) 難易度:★★☆ 出現モンスター 名前 HP exp G 備考 土人形 134 4 6 植物 直進して壁にぶつかったらプレイヤーの方向を向く さんぞく 149 7 9 氷弱点 あらくれ 119 6 11 氷弱点 デブータ 268 12 16 石を投げる 動いていれば当たらない ソーサラー 89 10 14 氷弱点 氷魔法攻撃してくる アークメイジ 119 14 14 足を止めた時に魔法攻撃してくる インテリジェント・ソーβ 89 0 0 右の壁に沿って移動する 海底神殿の物より若干攻撃力が低い パイロゲータ 2831 300 480 爬虫類 氷弱点 ローグヘッド 5662 720 960 人男 おもな入手アイテム アイテム名 場所 備考 スペランカヘルメット ボス撃破後 耐聖,防麻,明星 ブラックキャップ ボス撃破後 蟲寄生無効(75%) ホーリーグレイル ボス撃破後 耐冷プラズマ,防捕 ソウルポット16 ボス撃破後 クリスタルのかけら ボス撃破後 プライムブルー ボス撃破後 攻略 主な状態異常:毒、捕獲、沈黙 稼ぎ向きダンジョン・初級。 敵の強さ自体は初級なのだが、仕掛けや敵の動きは先に追加された稼ぎ向きダンジョン2つより明らかに殺意が高い。 天空の塔など同様、敵の動きの多くはパターン化されている。道中の石碑などで敵の情報などが確認できる。 こちらでは攻撃に炎や氷属性、耐性も炎や氷属性などを用意するといい。 前半 道なりに進む。しばらく分岐は無い。 最初の敵の土人形に手間取るレベルだと、すぐ先の折れ曲がった通路で死にかねないので注意。 対応する属性攻撃を用意して手早く片づけたい。 ここの敵は無駄なランダム移動をしにくいので、もたつくとあっという間に囲まれてしまう。 その先では盗賊がアイテムを奪おうと迫ってくる。レイオンで売っているトドの盾を装備して防ごう。 もっともあえて防がず、ひんむかれてみるのもよい。服なんか取られると非常にイイ感じになれる。 盗まれたアイテムは倒せば取り返せるが、時間をかけると失われる。 取り返せなかった場合にはヒドゥンの隠し店舗で買い戻せる。 途中には例のポールがある。回収する場合、戻ってくるときの敵のたまりすぎに注意。 さらに道中には草に囲まれた宝箱もある。くさりがまを用意しよう。 建物(洞窟?)内に入ると食堂っぽい場所に出る。 奥の宝箱や袋を回収する場合も付近の敵に注意。罠用に捕獲耐性を付けると楽。 階段を上がると炎弾の罠。タイミングを見て抜けよう。ただし食らっても大した威力ではない。 そのまま進めば白い石造りの道に出る。道中に貼ってあるチラシは秘密のラボの情報なので見逃さないよう。 そしてここでようやく分かれ道。奥が進行ルート、右が寄り道。 進行ルートにはまた炎弾。屋内は敵の密度も高く、体力に気を配りたい。 梯子を上ると分岐で、左が寄り道。 右のぐねった道の先でワープするメイジの部屋と弾薬補給ポイントを挟んでボス戦へ。 中ボス 行動パターンは火炎放射、ジャンプ攻撃、爆弾発射。ときどき地面の炎を動かす。 火炎放射は前方に薙ぎ払ってくる。正面に陣取り、出してきた手と反対側に動こう。 ジャンプ攻撃は踏まれるとダメージ。攻撃範囲は広くないので炎を踏まないよう避けよう。 3回移動し、元の位置に戻ってくるのでそこでうっかり敵に踏まれないように。 爆弾発射も動きまわって避ける。逃げ回るついでに攻撃できるとよい。 ちなみにこいつに限った話ではないが、氷属性攻撃は爬虫類の敵をパラメータ低下させられる。 そのため、ブリザドやアイスセイバーを用意すればある程度ゴリ押しも出来る。 後半 脱出ポイントの次のマップからはしばらく一本道。 メイジの動きに注意し、魔法を受けないよう進もう。 その先の屋外もしばらく一本道、豚が岩を投げる攻撃をしてくるが、立ち止まらなければ大丈夫。 階段を進むと分岐。屋内は寄り道。 屋内の宝箱を開けると粘液を食らって盗賊に囲まれてしまい、さらに部屋中ベアトラップだらけになり抜け出しにくくなる。 しかし、このトラップ最大の罠は戦闘モードの強制変更。なんの告知もなく無抵抗に変更される。 落ち着いて戦闘モードを戻して対処しよう。 進行ルートをしばらく進むんだ先は、このダンジョン最大の敵であるノコギリ地帯。焦らず動きを見て対処していこう。 難しい動きではないが、通路に挟まれたりして閉じ込められるとまず対処できない。 左上が進行ルートで右が寄り道。寄り道には宝箱がある。 進行ルートでは複雑な通路にノコギリが1体。うっかりすぐに進むと刻まれる。 ノコギリの後をつけるように進もう。 奥の階段を抜けると3つの梯子があるエリア。 右の長い梯子は宝箱、付近の敵を減らしてから取りに行こう。 左の梯子は宝箱のある小部屋なのだが、ノコギリがうじゃうじゃいる上に位置がランダム。 無理に取ろうとしないで、部屋自体を無視して進んだ方がいいかもしれない。 中央の梯子が進行ルートで、豚だらけの通路へ。 次の分岐は下が寄り道。上が進行ルートで、魔力だまりの先は閉じ込め部屋。 閉じ込め部屋については天空の塔とおおむね同様だが、はるかに狭い。 進んだらボス戦。 ボス 前半モードの行動は光弾飛ばし、ビーム、誘導弾、ビームのパターン。 光弾は着弾点が光るのでそこを避ける。ただし高密度かつ詐欺判定なので完璧によけるのは難しい。 威力は低めなのでシェルを使うなどして攻撃チャンスにする手も。 ビームはプラズマ属性、超火力の必殺攻撃。絶対に食らってはいけない。 ビームはフォース属性になりました。それなりのダメージなので一応要注意。 動きは直線的なので溜め中に離れ、発射を見たら横に避ける。 誘導弾は小刻みに動いて避ける。氷属性耐性を固めてもいい。 敵の体力が半分を切ると後半モードへ。 行動は剣召喚、誘導弾、2連ビーム、光弾飛ばし、2連ビームのパターン。 剣召喚は落ちてくる剣を避けるのだが、タイミングが他の攻撃の直前に重なるのが厄介。 誘導弾、2連ビーム1回目の直前に落ちてくるのでそれらと合わせて避ける。 光弾飛ばしの開始と同時に引っ込むのでそこからは前半とほぼ同じ。 2連ビーム2回目の後に再び剣召喚して行動ループ。 どうでもいいがあのナリで種族は人間。目だった弱点は無い。 ボス後 ボスを倒したら光を調べ、宝箱の中身などを回収したら脱出しよう。 ダンジョン内の宝箱やボスは復活するので何度も挑戦できる。 ソウルポット、クリスタルのかけら、プライムブルー以外にもレアアイテムが多いので周回稼ぎに向く。 最奥の左下の宝箱はダンジョンの情報をくれる赤髪の語る、3つのアイテムのうち1つが入っている。 いずれも非常に便利。特定のダンジョンで特に真価を発揮する。 イベント 最新版 最新版での変更箇所 コメント 攻略や最新版に関する追加情報がある場合はコメント欄にお願いします core0153で敵配置、罠配置が若干穏やかになりました -- 名無しさん (2022-06-24 11 18 18) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/fadv/pages/1100.html
悪党パーカー/エンジェル 悪党パーカー・エンジェル (ハヤカワ・ミステリ文庫) 題名:悪党パーカー/エンジェル 原題:Comeback (1997) 著者:リチャード・スターク Richard Stark 訳者:木村仁良 発行:ハヤカワ文庫HM 1999.4.30 初版 価格:\620 一作目の次にいきなり何十年もの時を超えて最新作にとりかかるというのはとても辛いけれど、とりあえず入手できていないものは仕方がないので、読んでしまったという作品。 『人狩り』から三十五年の歳月を経ての新作であるけれど、文体や構成そのものにはほとんど差を感じない。むしろプロットだけならこちらのほうが上を行っているように思う。読み出したらやめられない、パルプ風の手ごろな薄さで、ぺーパーバック本来の娯楽性を密度濃く詰めた一冊だと思う。 一時期クイネルの正体がウエストレイクだという説があったけれども、むべなるかなと思わせるのが、三人称複数での目まぐるしい視点変換、スピーディなリズム、読者を引きつける牽引力豊富な面白さ満載の質感である。確かにこういう作家が国際的なストーリーに走ればクイネル程度のスピード感溢れる面白さでを容易に書けそうな気がしてくる。 クイネルの正体についてはそうしたロマンはもはやなくなってしまったようだけれど、ウエストレイクが多くの別名儀を使用した作家であることもその噂に一役買った原因であったかもしれない。 巻末によると悪党パーカーのシリーズが中断していたのは、作家自身が書けなくなってしまったことだったようである。本作も永い間中断していたものを奥方の励ましで執筆再開、ようやく完成に至ったという裏話があるらしい。作家がもうスタークはいなくなってしまった……と嘆いたという話も劇的に過ぎる気がするけれど、それだけの産みの苦しみをまさに感じさせるのがこの作品である。 読むには手軽でスピーディで過激でいい小説だと思うのだけれど、書き手にとっては重い仕事なのだと思わせる。職人のように言われる作家であっても用意には本は書けない。そう聞くと、読者としては安心します。お手軽に本を書く作家がごちゃまんと存在する、文明の辺境みたいな国に暮らしているせいだとは思うけれども。 (1999.08.30)
https://w.atwiki.jp/fadv/pages/1093.html
悪党パーカー/人狩り 悪党パーカー/人狩り (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 23‐1)) 人狩り―悪党パーカー (1966年) (世界ミステリシリーズ) 題名:悪党パーカー/人狩り 原題:The Hunter (1962) 著者:リチャード・スターク Richard Stark 訳者:小鷹信光 発行:ハヤカワ文庫HM 1976.4.30 初刷 1999.5.31 5刷 価格:\580 映画がきっかけになり、三十七年も前の作品が日本で改めて書店で平積みになる現象というのは滅多にあることではなく、この本、このシリーズにとっては、何とも幸運なことと言うしかない。手ごろな価格。読みやすい薄手の小説。日頃こうした小説を読まない人々にクライム・ノヴェルの世界を広げるいい機会となったに違いない。 さてぼくはと言えば、悪党パーカーに乗り遅れてきた一人なので大変いいチャンスになった。同じように、これをきっかけにこのシリーズを手に取った(たぶん)多くの人と同様に、このシリーズが、現在でも風化していないことには即座に気がついたのである。 十年近く前に、ぼくはマクべインの<87分署シリーズ>を一気読みした。<87分署シリーズ>はちょうどぼくの誕生した年にスタートし、ぼくと同じだけの年を取っている。もちろんシリーズは未だに生き残り続けているし、ぼくも何とかその持久力につきあっている。<87分署シリーズ>と同じような年齢を経ていながら、二十三年という永いブレイクを食らってしまったのがこちらの<悪党パーカー・シリーズ>。 その最初のとっかかり、要するに三十七年前にこのシリーズがスタートした時点で、初めて悪党パーカーというキャラクターの登場を迎えた読者と同じ体験を、時空を越えて味わえるというのは、いわゆる読書の醍醐味の一つである。 ましてやその主人公たるやど肝を抜くような、ある種、極端な人格であり、ある種、ずば抜けたプロフェッショナルである場合においては。しかも一匹狼のテキストのような境遇で、自分の運命を自分で切り拓いてゆく種類の、タフで強靭なキャラクターであるからには。 主役に会わせて文体も冷徹極まりない。アップテンポのストーリー展開。有無を言わせぬバイオレンス。三人称複数の章立ては、とにかくサービス精神にのっとっているかのようで、読者を引きつけてやまない。中毒になってしまいそうなのに、品薄なところは、シリーズの薄幸さを思い知らせる。巻末で作品リストを紹介するくらいならシリーズ全作、再版してもらいたいところである。 (1999.08.30)
https://w.atwiki.jp/fadv/pages/221.html
悪党たちのジャムセッション 悪党たちのジャムセッション (角川文庫) 題名:悪党たちのジャムセッション 原題:Nobody s Perfect (1977) 作者:ドナルド・E・ウエストレイク Donald E. Westlake 訳者:沢川 進 発行:角川文庫 1983.5.10 初版 1998.5.25 改版初版 価格:\880 ドートマンダー・シリーズ第4作。これは1977年の作品だが、別名義で続けているもう一つのシリーズ『悪党パーカー』のように永い中断期間もなく、未だに新作が発表され続けていることがある意味奇跡的でもある。 というのは、ドートマンダーにしても、パーカーにしても、非常にシンプルな設定で、しかもその設定には決定的なほどに縛りが多いからだ。よくぞここまで連続してこの縛りの中で手を変え品を変え、新作を書いてゆけるものだと、そのアイディア力、筆力、ひねり力といったところに、とにかく呆れ、同時に大変な驚愕を感じる。 簡単に言えばどちらのシリーズも盗みのプロフェッショナルの話である。しかしパーカーはクールな成功者、ドートマンダーは不運な失敗者である。ドートマンダーは一作中何度も何度も失敗しなければならないというシリーズ使命を帯びた、いわば短編小説集のようなアイディア・コレクションでもある。パーカーというシンプルな設定と、ドートマンダーという連射的設定とのこの両極を、何年、何十年と、描いて、描いて、なおも描き続けているこの作家をこそ、プロと呼ばないでどう呼ぼう。 さて本書だが、またも新趣向ネタである。新趣向であること自体にもいちいち驚きを感じるが、毎作ごとに喧嘩をしているドートマンダーとケルプの関係が切れずに続いていることにも驚きを通り越し、呆れてしまう。よくぞここまでこのネタをこの関係を引っ張り、新趣向であらねばならぬという難関をクリアしてまでシリーズにこだわってゆくものだ。 本作では珍しくケルプ抜きでドートマンダー主体でスタートする作戦でありながら、厄病神ケルプがやはり中途から絡んできてしまい、そして結果はケルプのせいではないのだが、案の定期待した通りである。 さらに新しい仲間として凶悪ゴリラ・キャラのタイニー・ブルチャーの存在が強烈だ。今後どのくらいチームに破壊を及ぼすのか底知れないものを感じる。 同じミッションを繰り返すのではなく、章ごとに違う展開となる本書の魅力は、殺し屋レオ・ゼーンの存在感抜きに語ることができないだろう。冷え冷えとクールで、プロ。これまた再登場願いたいキャラである。 スラップスティックな70年代の泥棒たちの物語を、とてもプリミティブなギャグで(ラストはまるで映画『ピンクの豹』そのものではないか)、笑い飛ばしてくれる痛快なる怪作ここに極まる。 (2007/01/03)
https://w.atwiki.jp/orirowa2014/pages/345.html
●ドン・モリシゲ。 本名 森茂。 武器商人会社を母体とした秘密結社、悪党商会の現社長。 紛争地域である某国海域の船上で生まれたとされているが詳細は不明。 武器商人である父の事業を手伝いながら、多くの紛争地を渡り歩いていたが父の意向か某年日本へと活動の拠点を移す。 日本でどのような活動を行っていたのかその詳細を掴むことはできなかったが、何かを揉み消した跡は無数に発見できた。何らかの非合法活動に励んでいたと推察される。 程なくして一時的に悪党商会を離れていたようだが、その間は紛争地の最前線で戦っていたとも日本の秘密組織に潜伏していたとも噂されているが詳細は不明。 次に彼が表舞台に姿を現したのは悪党商会の電撃的な社長交代劇。余りの出来過ぎた革命劇に私見ではあるが前社長殺害の関与を疑っている。 悪党商会を完全に掌握し社長の座を獲得したモリシゲは事業方向を一新。 武器開発で培った技術とコネクションを社会貢献に費やす事を打ちだし、多額の寄付や投資などの多くの社会貢献活動に努め慈善家と知られるようになった。 しかし裏ではこれまで通り武器開発を進め、大規模な武器密輸シンジケートを構築。 光さす表での活動に比例して影を濃くするように裏の活動もより非合法な方向へと活動を強めた。 表の世界に秩序を齎すと同時に裏の世界に混沌を齎す、まるで二つの世界を明確に切り分ける神か悪魔のようだ。 その最たるものが孤児院運営だろう。 孤児院はモリシゲにとって都合のいい教育を行う洗脳施設であったと推察される。 彼の経営する孤児院出身の子供らには明らかに戦闘教育を受けた痕跡があり、出院後の死亡率は異常なまでに高くその死亡状況も公にはされない異常なモノばかりである。 モリシゲにとって子供たちは使い捨ての道具でしかなく、その実態は少年兵生産工場であると言えるだろう。 刑事として、親として、それ以前に人間として、身寄りをなくし道理も知らぬ無垢な子供を利用するようなやり口は到底許せるモノではない。 彼は世界から排除すべき悪党である。 ロバート・キャンベルのノートより抜粋 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 世界を変える者がいる。 世界を作為的に捻じ曲げる悪意。 尻尾の先すら掴ませない巧妙さで毒を巻き、気づけば世界は癌細胞の様な病魔に侵されていた。 男は別に世界を救いたかったわけではない。 何を変えようと思ったわけではないのだ。 むしろ変わらぬことを望んだのだ。 つまるところ、男は世界を護りたかったのだ。 人は自分の手の届く範囲しか守れない。 だが、人の身で手の届く範囲などたかが知れている。 人の身に余る願望を持つならば、人の身を超えるしかない。 故に人など捨て去った。 護りたかった全てを護るためにまず己を捨て去った。 そうして護れた世界がある。 だが、ふと思う事がある。 男は多くの者を捨て去ったが、捨て去った多くの者こそが本当に護りたかったものではなかったのか。 果たして男が本当に護りたかったモノのはなんだったのか? ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 電気により革命された世界は常に煌びやかな光に溢れ、夜を克服する事に成功した。 だが努々忘れることなかれ。その恩恵は人の営みにより与えられる物。 いかな都市とはいえ、それを維持する人間がいなければ夜はまたその猛威を振るいはじめるのだと。 街並みから太陽の日が落ちる。 街灯の光すらなく、冷たい鉄筋コンクリートの街並みを照らすのは冷たい月明かりのみである。 そんな薄暗い市街地の端にある小さな公園に集っているのは平和な国で平穏に生きてきた学生たちだった。 学業を修め学友と語らい日々を過ごす、そんな日常を送っていた少年少女。 本来であれば住み慣れた自宅で一日の疲れを癒し、明日に向け英気を養う時間である。 そして殺し合いと言う数奇な運命に巻き込まれた状況でもまた休息を取っていた。 学友たちとの合流と言う当面の目標は達せられた。 どうやって無事にこの孤島から脱出し帰還するのかという課題は残るが、先を見越して一先ず疲れ切った体を癒す事にしたのである。 今日を生き残り、明日を生きるため。 公園のベンチに腰掛けているのは二人の少女である。 どれ程の修羅場をくぐりぬけて来たのか、その身なりは薄汚れ、痛々しい傷跡がいくつも見て取れた。 応急処置はしているが素人仕事の上に大した道具もない。 このような地獄にあれば、いかなる華も薄汚れるという物だろう。 だが、男と女それぞれの学生服に身を包む二人の少女には、泥にも穢れぬ若さと可憐さの華があった。 方や溶けては消える雪のように儚げな白の少女。 方や周囲を明るく照らす太陽のような健康的な少女。 対照的な光を放つ二人の少女はパンを片手に、可愛らしいハンカチをテーブルクロス代わりにして缶詰と水をベンチの上に並べていた。 健康的な少女、一二三九十九は千切った味気のないパンを小さな口に放り込む。 家庭では台所を預かる身として食事に関して一言あるのか、缶詰とパンという味気ない食事に不満気だった。 台所でもあれば簡単な調理ならできたのに、と思うがよそ様の家に忍び込み勝手に台所を使うと言うのも流石に気が引ける。 そもそも街灯すら灯っていないこの街にガスが通っているかも怪しい。 儚げな少女、水芭ユキは黙々と割り箸の先で缶詰の鯖を解し、その身を口に運ぶ。 余り感情を表に出す方でもないが、おいしい物を食べたというリアクションでもない。 味自体は悪くないが物足りない淡白な味わいだ、調味料の一つくらいは欲しいところである。 せめて温めが出来ればよかったのだが、残念ながらユキの両手は冷やす事しかできない。 冷たい水が同行者に好評であったのがせめてもの救いか。 そんな少女たちをよそに少年は一人、休憩も取らずベンチから少し離れた公園の中心で構えた拳をゆっくりと動かしていた。 伸ばしきった拳を止め数秒。切り替えし今度は蚊の止まるような速度で足を上げてゆく。 こうやって今の自分がどの程度動けるのか、何ができるのかを確かめていた。 カウレスの回復魔法によってある程度は回復したが、あの殺し屋から受けた傷は浅くはない。 今の自分がどの程度動けるのか把握しておかなければいざと言うとき支障が出る。 目を惹くような派手さはない、だが目を離せない滑らかなその動きはまるで演武のようである。 その演武のような動きをユキは食事の手を止めぽぅと見つめていた。 「ねぇ……ユッキー」 そこに声をかけられ、慌てて視線をベンチの中央の缶詰へと戻す。 やましいことなど何も無いが、何故か取り繕うように自然さを装ってしまった。 「な、なに? どうかした?」 「……お父さんまで巻き込まれてたんだね、なんて言ったらいいかわかんないけど……心配だよね。 早く探し出したいのに、私たちに気を使わせちゃってごめん」 血の繋がった父親ではないとは説明されており九十九も理解しているものの大事な家族であることに変わりはない。 友達が巻き込まれただけでも最低なのに、家族が巻き込まれるだなんて考えただけでも最悪だ。 その心痛は推し量るには余りある。 一刻も早く無事を確認したいだろうに、こうして足を止めているだけでも苦痛だろう。 だが、休憩を取ろうと言いだしたのは他ならぬユキであった。 疲労が見える九十九やダメージの大きい拳正を休ませたいという考えからだったが、ユキもかなり参ってる自覚はある。 この先を見越して休むべきだという判断だったが、気を使わせたと取られたらしい。 妙なところで気を回してくる少女だ。 この辺は少年とは大違いだ。いや……むしろ似ているのか? 「ぅうん。早く合流はしたいとは思ってるけど、実は心配はあんまりしてないかも」 「そうなの?」 「ええ、私なんかと違って……強い人、だから」 ユキには父に対する絶大な信頼がある。 ユキなんかが心配するなんて、それこそ烏滸がましいほどに父は強い。 その強さは戦力的な意味合いだけでなく、人間としての強度が違う。 ユキにとって、いや悪党商会という組織にとって常に迷いなく決断し、決して間違う事はない絶対的主柱。 森茂とはそんな人間だ。 この場においてもその存在が揺らぐことはないだろう。 「……尊敬してるんだね、お父さんの事」 「そうだね。尊敬してる」 どれだけ悪評を聞かされようとも、それだけは断言できる。 森茂はユキを救い、ここまで育ててくれた大恩人だ。 尊敬していないはずがない。 「いいなぁ、ウチなんて喧嘩ばかりだよ」 「……そうなの?」 九十九は羨む様な声でそう言うと、難しそうな顔で腕を組んで首を捻る。 ユキの中では九十九は家族仲がよさそうなイメージだったから意外と言えば意外な話だった。 実際の所、九十九は父親との折り合いが悪い。 その切っ掛けは父が家業を継がず修理屋として独立したことにある。 その父の決断に関して祖父は何も言わなかったから、九十九も必要以上に追及はできなかったが。 あれだけの腕を持ちながら家業を継がなかった父が、九十九はどうしても許し難かった。 そんなわだかまりはずっと残り続けていて、それから妙にぎくしゃくしている。 もう時代は刀など必要としていない。 伝統工芸であり芸術品としての価値はあるものの、刀の本質は失われた。 いや、失われるのが正しい世の中になった。 それは喜ぶべきことであるのだが、刀そのものが失われる、そんなのは嫌だった。 武器としての価値も銃や戦車、戦闘機に及ばず。 時代の流れに取り残された刀鍛冶は、このまま消えてしまう。 その父の決断は、そう言われたような気がして無性に腹が立った。 九十九は刀鍛冶が好きだ、愛している。 祖父の仕事姿が好きだった。 ひり付くような鉄火場の空気を吸うと胸がすく。 命を削る様に鉄を打つ職人の業を尊敬している。 私もそう在りたいと幼い頃から想ってきたのだ。 だから自分がやらねばと立ち上がった。 「こいつのはただの反抗期だよ、反抗期」 そこで、話を聞いていたのか拳正が口を挟んできた。 状態の確認はある程度区切りがついたのか、手を止めベンチへと近づいてくる。 「それに喧嘩つーか。お前が一方的に拗ねてるだけだろ」 「な、なんだよー。そんなことは、ないぞょ…………? っていうか、なにさっ! こういう話のときあんたいっつもお父さんの味方するよね……!」 この手の愚痴を漏らした時、この幼馴染は常に父の味方をする。 それは彼女の父が少年の命の恩人であるから、というだけでもあるまい。 この少年は妙に義理を重んじる割に、判断にそういう情を介入しないところがある。 「そらまあ……継がなかった親父さんの気持ちもわからんでもないからな」 「え、あんたお父さんの理由知ってんの? 初耳なんだけど」 おっとと口が滑らせた事に気づき拳正が口を噤む。 だがもう遅い。その態度が語っているようなものだ。 痛い程刺さる幼馴染の責めるような視線を黙殺するが、根負けしたように溜息をつく。 「さてな。けど察しはつくだろ」 「なんだよー、知ってるんならいえよー、コノヤロー」 「うっせうっせ、俺に噛みつくんじゃなくて本人に直接聞けよ。いつまでも拗ねてねぇでよ。 答えてくれんだろあの人は。それで納得できなきゃこんどこそ喧嘩でもなんでもすりゃいいさ」 ぐぬぬと表情をゆがめ唸る美少女。 自分より成績悪い癖に、この訳知り顔もまた気に食わない。 気に食わないが、その言葉もなかなかに的を射ている。 父を無視していたわけじゃないが、何となく避けてしまっていたのは確かだ。 自覚もあり反省もしている。 それは余り自分らしいとは言えない。 「……うん。そうだね、そうする」 この激動の一日を経て九十九の心境にも変化があった。 当然だ、これだけの多くの死に触れ価値観を変えない方がどうかしている。 人は容易く別れ、合えなくなって後悔を彼岸へと持ち越す。 あっと言う間に聞きたかったことも聞けなくなるのだ。 聞けるうちに聞いておかなくては後悔する。 後悔しない生き方をしようと決めた。 「それじゃあ、お父さんと喧嘩するためにも帰らないとね!」 死ねない理由がまた増えた。 生きて帰らなければ。 九十九のその決意を聞いて、ユキがポツリと呟いた。 「喧嘩か…………私はしたことがないな」 ユキは父と喧嘩などしたことがない。 だって父はいつだって圧倒的に正しく、ユキなんかが逆らう余地などなかった。 そこに疑問を持った事などないし、疑問など必要なかった それでいいと思ってきたし、そこに間違いなどないと思ってきた。 だけれど、今は違う。 問わなければならない。 命がけでユキに疑問を託した人がいる。 だから、このノートを託された者としての責任として。 「…………初めて喧嘩するかもね」 誰に言うでもなく一人呟く。 そうなったとき自分はどうするのだろう。 そんなことを想いながら。 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 十分な休息を取り、腹も膨れた。 この状況で万全など望むべくもないが、最低限の英気は養えた。 終わりに向けて動き出すにはいい頃合いだろう。 「で、行く当てはあんのか?」 首輪の解除や脱出方法など課題はあれど、とりあえず当面の目標はユキの父親の捜索である。 どこに向かいそうなどの心当たりを訪ねてみるが、ユキは静かに首を振る。 「さすがにこれだけ状況が動いた今となってはちょっと……」 「ま、そりゃな」 殺し合いが開始してもうじき1日が経とうとしている。 開始直後なら予測もつくだろうが、ここまで来ると予測のしようもない。 「じゃあ地道に歩いて探すしかないんでない?」 身もふたもない九十九の意見だが、あながち的外れという訳でもない。 禁止エリアによって行動範囲は狭まり、参加者同士の遭遇率も上がっている。 それが望む相手とは限らないだろうが、動いていれば誰かに出会う事もあるだろう。 「ま、動き出さなきゃ始まらねぇか」 「そうだね」 二人も同意し、動き始めようとしたその矢先だった。 ふと、ユキは自らの足元を見た。 そこには月明かりから伸びる黒い影が落ちていた。 先ほどまではなかったその影を追って、ゆっくりと視線を上げる。 その影の先に、その男は立っていた。 ユキの視線に気づき、拳正と九十九もその男の存在に気付いた。 それは人相の悪い大男だった。 人を見かけで判断するような二人ではないが、殺し合いの場だ。 剣呑な空気を放つ男はその筋の人間にしか見えない。 警戒を示し二人が身構える。 だがただ一人、ユキの反応だけが違った。 「お父さん…………!」 そう言って男の元へと駆け寄っていく。 まさかこれから探そうという探し人が向こうからやってくるとは思うまい。 取り残された二人は互いに丸くし、答えを求める様に視線を合わせた。 「……偶然が過ぎんだろ」 「んー。向こうもユッキーの事探してただろうし、そう言う事もあるんじゃない?」 そう言ってあっさりと割り切ると九十九はユキの後を追おうとする。 だが、拳正は引き留めるようにその腕を取った。 「? どったの?」 「いや…………何でもねぇよ」 「そう? じゃあ私たちも行こ」 腕を放す。 九十九は少しだけ不思議そうに首を傾げたが、すぐさま気を取り直すとパタパタと駆けて行った。 拳正は一人、ユキから聞かされた人物像を頭に浮かべながら、表情を険しくするのだった。 「お父さん! ああよかった無事だったのね。いいえ、無事なのは心配していなかったけれど……えっと」 いち早く男の前に駆け寄ったユキは何時になく早口で捲し立てる。 普段はクールを気取ってるユキがここまで取り乱すのは再会が余りにも不意打ちだったからだろう。 そんなまとまりのない言葉を遮る様に、大男の黒い手がその頭を撫でた。 「うん。キミも無事でよかったよ、ユキ」 見慣れた笑顔にユキも安心したように表情を崩す。 そこに遅れて二つの足音が駆け付けた。 それを振り返り、ユキは二人を父へと紹介する。 「えっと、お父さん。こちら同じクラスの新田拳正くんと一二三九十九さん。 この場で合流できて、今は一緒に行動をしてるの」 「やあ、ユキが世話になったようだね。俺はユキの保護者をしている森茂という男さ」 強面な顔に似合わぬ温和な態度で森は応じる。 友人の親に挨拶され、九十九はいえいえと照れながら頭を掻き、拳正は無言のまま目を細める。 森はその二人を一瞥した後、キョロキョロと首を振り周囲を見渡した。 「それで、キミの仲間はこれだけかい?」 「ええ、他にも仲間はいたのだけれど、みんな…………」 ミロ、朝霧舞歌。そして夏目若菜、斎藤輝幸。 彼女たちがこの地で出来た頼もしい仲間はみんな死んでしまった。 生き残ったのはこれだけだ。 「そうかい。もう少しまとまっているかと思ったけれど、思いのほかそうでもないのか…………」 一瞬、サングラスの奥の森の瞳が怪しく輝いた気がした。 拳正と九十九を一瞥するその意味深な視線に九十九は何も感じていないようだが、拳正はその眼を睨み返した。 「こらこら、なに睨んでんのよアンタは。狂犬か」 ぺしぺしと頭を叩かれる。 しばらく無視していた拳正だが、無視し続ける限りぺしぺしも止まらず。 「だーもう! ホイホイ怪我人の頭を叩くんじゃねぇよ!」 「なにさ、大して力入れてないんだから痛くないでしょ!?」 そして、いつものようにじゃれ合い始めるバカ二人。 「いいのかい? 彼ら?」 「……うん。ほっといて大丈夫だから」 人の振り見て我が振り直せというが、彼らを見て幾分か興奮していたユキも冷静になれた。 いつまでも再会を喜んでばかりはいられないのだ。 ユキは父に聞かねばならないことがある。 「それで…………お父さん。確かめたいことがあるんだけど」 「確かめたいこと? なんだい藪から棒に」 普段と変わらぬ優しい声。 この男の人相に見合わぬ思慮深さと慈悲深さをユキはよく知っている。 これほどの大恩のある相手に、猜疑心を持っているだけで罪深い事のように感じられてしまう。 それでも告げねばならぬことがある。 「…………お父さんは、私たちをどう思ってるの?」 言い出しにくそうに歯切れ悪く、声は少しだけ震えていたかもしれない。 それでも何とか切り出した。 「私たち、とは?」 「……孤児院の、みんなの事」 なぜこの場でそんな事を聞くのか。 意図が読めずに森は不思議そうに首をかしげる。 しかし他ならぬユキの問いだ。理解できずとも答えるに吝かではない。 「もちろん愛しているよ。それこそ我が子と変わらぬくらいに。 どうしたんだい? こんな状況で不安にでも駆られたのかい?」 親の愛情を確認したがる子供をあやす様に朗らかな声で言う。 強面な顔にくしゃりと皺を寄せた、いつも通りの父のどこか不器用な笑み。 その言葉はすごく嬉しい。 この言葉を受け入れて楽になりたいという弱さが顔を出す。 だが、それをグッと堪えて下唇を噛みしめる。 「……………………お父さんが…………お父さんが、私たちを利用しているって本当?」 遠まわしな聞き方ができるような器用さをユキは持たない。 どう切り出そうか迷いに迷ったが、結局率直な言葉しか出てこなかった。 思わぬ言葉に森は悲し気に眉を寄せ、肩を竦める。 「酷い話だ。そんな話をどこで?」 「参加者の一人から、聞かされたわ……嘘をついているようには…………見えなかった」 FBI捜査官であるロバート・キャンベルがユキに託した言葉だ。 命を懸けて伝えられた言葉に嘘などあるはずもない。 少なくともユキにはそう見えた。 「だったらその人が勘違いをしていたんだろう。 俺たちの仕事は誤解を受けやすいからね。それくらいユキも理解してくれているだろう?」 悪党商会は世間から見れば悪党だ。 そういう色眼鏡をかけた偏見の目で見られるのはいつもの事である。 気にするべきことじゃないさと森は重い問いを軽く流した。 「じゃあ、サクラやウミやモミジはどうなったの?」 先に卒院した孤児院の仲間たち。 その行く末を問う。 こればかりは軽く受け流せることではなかったのか。 その問いに森は真剣な面持ちで僅かに押し黙る。 その結末は問うまでもなくユキだって知っている。 彼らは全員死んでしまった。 なあなあでヒーローたちと戦う表の仕事と違う、危険を伴う裏の仕事に従事していた。 サクラはブレイカーズの怪人に返り討ちに合って殺された。 ウミはヒーローを暗殺しようとして失敗して死んでしまった。 モミジは、どうしたんだったか。 なるほどこれは悪党商会のための鉄砲玉として育てられたと思われても仕方ない結果だ。 ロバートの指摘でユキもその視点があるという可能性に至った。 故にその真意を知りたかった。 「……彼らは残念だった。それに関しては確かに俺の責任かもしれないね。 だがそれも悪党商会の理想を達するための尊き犠牲だ。無駄にはしない」 沈痛な面持ちで悔やむ様にその死を悼む。 その決意もまた嘘だとは思えなかった。 確かに孤児院の仲間たちのその後は悲惨だ。 だが、それらは決して強要されたことではない。 悪党商会に育てられた恩返しとして働いていたのは彼らの意思だ。 それはユキ自身そうだったからよく理解している。 ユキだってその復讐心を晴らすように多くのブレイカーズの怪人を始末してきた。 どちらかと言えば、押しきったのはこちらの方だ。 だがそれは騙されているだけだと、都合よく使うための洗脳によるものだとロバートは告げる。 洗脳された少年兵は己の環境を疑問には思わない。 ならば、その少年兵の立ち位置から真実を判断するのは困難だ。 どちらが正しいのか。 ユキには分からなくなる。 そもそも裏の顔を隠し通していた朝霧舞歌の嘘を見破れなかったように、ユキに嘘を見破れるほどの見る目はない。 いろんなものを呑み込んで、これまでの父親としての森を信じるのか。 命を賭けてユキの身を案じたロバートを信じるのか。 結局はそう言う話なのだろう。 「私は、お父さんを信じていいの……?」 自分の迷いと不安を吐露するように。 聞くべきではないことを聞いてしまった。 「誰にどんなことを吹き込まれたかは知らないが、それはキミが決める事だ」 突き放すような言い分だが、そうなのだろう。 自分を信じろなんていう人間を信用できるはずもないし。 疑っている相手にこんな事聞くこと自体がどうかしている。 ロバートと森のどちらを信じるのか。 そう問われればユキが信じるのは森だ。 ロバートの遺志は確かに疑念の種を植え付けるには至ったが、人柄まで知っている親代わりとなった人の信頼まで覆せるかというと難しい。 彼の死を申し訳なく思っても、決定的な証拠でもなければそれまでの数年間を裏切れない。 「だがその結論の前に、俺からもキミに伝えるべきことがある」 「え、なに…………?」 ユキの結論に至ろうかというその寸前、森の方から唐突に切り出された。 「俺は殺し合いに乗っている」 「え………………?」 それはユキにとって天地がひっくり返るような衝撃だった。 傾きかけた信頼の天秤がひっくり返るほどの。 「そ、そんなッ!? お父さんならそんなことしなくてもみんなで脱出だって……!」 あんな奴の言いなりになるだなんて考えもしなかった。 悪党商会の社長にして技術顧問。 その知識と技量があれば、殺し合いに乗らずとも生還の道を歩む事は難しくない。 「そうだね。不可能ではない。だが、そうはしなかった」 事実として、森は首輪の解除に成功している。 脱出方法だっていくらでも見つけられるかもしれない。 多くが生き残る可能性のある方法ではなく、ただ一人の優勝を目指す。 その道しか選べなかったのではなく、いくつかの選べる道の中からそれを選んだ。 出来る出来ないの話ではなく、するかしないかの話だ。 これはそれだけの話である。 「…………なら」 みっともないほど震える声で解かり切ったその先を問う。 殺し合いに乗ったのならば、やるべきことなど決まっている。 「ああ、全員殺さなくちゃならないね」 殺害宣言。 皆殺しの対象は、当然ユキも例外ではない。 同時にそれはユキにとって疑惑を肯定する言葉でもあった。 「キミに告げたのは最低限の義理だ。 さあ選びたまえ。黙って死ぬか、戦って死ぬか」 ルール無用の殺し合いだ。宣戦布告めいた殺害予告など必要ない。 黙って殺しても良かったのを、わざわざ選択肢を用意してやったのは森のユキに対する最低限の義理である。 だが、そんなモノありがたくもなんともないのだが。 「…………そんな」 見るからに戸惑うユキ。 そんな選択肢を突き付けられても選べるはずもない。 父と戦うだなんて考えたこともなかった。 ロバートの手記を読み、疑念を抱いてからですらそんな展開は微塵も想像していなかったのだ。 それを甘いと捉えるべきか、それだけ信頼していたと捉えるべきか。 なにより戦ったところで絶対的存在である父に勝てるはずがない。 ユキの頭が過熱しパンクする。 眩暈がしてふらりと倒れそうになったユキを後ろから誰かが支えた。 「ユッキーのお父さん」 「なんだい?」 ただですら白い顔を青白くして言葉を失ったユキに変わり、一二三九十九が前に出る。 九十九はキッと強い視線を森へと返した。 他人の家庭の事情に口を挿むのはどうかと思っていたので黙って見守っていたが、殺す殺さないの話になってくるとそうも言ってはいられない。 「ユッキーを愛しているっていうのは嘘なんですか?」 「本当さ。けど、愛しているのと殺さないってのは別の話だろう?」 愛してるから殺さないってことはない。 むしろ愛しているから殺すなんて事も珍しい話ではない。 無理心中なんて最たるものだろう。 世界にそういう悲劇があふれているなんて事くらいは九十九だって知っている。 新田拳正だって父に殺されかかったのだから。 「ならそれは誰のためです? 自分のため、それともユッキーのためですか?」 だがそこにはそこに至る事情がある。 それを知らず他者を批判するほど傲慢ではない。 愛する者を手にかける。 それに足る理由があるのか。 「違うね。世界のためだ」 愛や情などと言った我欲だなんて入り込む余地がない絶対的な大義。 森が掲げているのはそういう物だった。 「そんなモノのために大事な人を殺そうとしているの? そんな親いるはずがない」 九十九の声が怒りに震える。 喉がヒリつく。一二三九十九はそんなモノを認めない。 世界なんて物のために子を殺そうとする親というモノを認める訳にはいかなかった。 「それは君がそうあって欲しいというだけだろう。現実と願望を混同してはいけない」 だが森と言う脅威はこうして現実としてある。 ユキも殺すし、九十九も殺す。 それがこの現実の結末だ。 「いいえ、私は信じます」 「信じる? 何を?」 「ユッキーの信じるあなたを」 「…………へぇ」 ユキですら揺らいでいる中で、ユキの信じる森を信じるというのか。 森は少しだけ感心したように息を漏らす。 「面白いね、君。 いや、本当に。そんな思考で、ここまで生き残ってるのが不思議で仕方がない」 ぬぅと九十九に向かって森が黒い手を伸ばす。 その指先が少女に触れる前に、背後から拳正が不意打ちのような形で跳びかかった。 問答無用で殴りかかる。 「そう急くなよ、少年」 だが、大男を容易く吹き飛ばす肘撃は翻した漆黒の手のひらに容易く受け止められた。 ピクリともしない。 感触は大岩のように固く、重い。 全身に痛いほどの寒気を感じながら、猫のような俊敏さで跳ねる様に引く。 「ッ…………べぇな。師匠級」 強がるように口元に笑みを浮かべるが、ゴクリと喉が鳴り背筋に冷や汗が垂れた。 初撃で嫌と言う程、力の差を理解する。 つまりは、今の自分たちではどう足掻いても勝ち目がない。 「や、やめて。お父さん! 新田くん!」 少女の叫びは届かない。 男二人は視線を交わらせる。 状況は動いてしまったのだ、もはやその言葉に耳を傾ける価値はない。 「もう止めらんねぇよ、割り切れ!」 拳正が叫ぶ。 森はここで全員殺すつもりだ。 そうであると割り切ってそう動かなければ、本当にそうなる。 「なるほど、君は君で面白い」 その拳正の焦りを見透かすように笑みを浮かべる。 先ほどまでユキに向けていた父の笑みとは違う悪党らしい、相手を嘲笑う笑みだった。 「絶対に勝てないと理解したうえで、ユキと後ろの女の子をどう逃がすかだけを考えている」 「どうかな。そう見せかけてアンタをぶっ倒すつもりなのかもよ」 「わかるさ、君と同じ状況なら俺だってそうする」 そのやり取りに自分を犠牲にするような幼馴染の選択を知り、九十九が怒りを示した。 「ちょっと拳正! あんたまたそんなこと考えてんの!?」 「わりぃけど、今回ばかしはお前に構ってる余裕はねぇ。水芭連れてとっとと逃げろ!」 要望が通る希望はないと理解しながら、そう言う事しかできない。 拳正をして、それほどに抜き差しならぬ状況にある。 「さてユキ、彼らは選んだぞ、キミはどうする?」 森は拳正らからユキへと視線を移し、再び問いを迫る様に投げる。 これが慢心による油断ならばよかったのだが、生憎と、どこにも突ける隙などない。 ユキはそれでも選べなかった。 抵抗することも逃げることもできず、ただ震える事か出来なかった。 「それがキミの限界か」 それを見て森は失望したように首を振る。 そして今度こそ拳を構える拳正とへ向き直った。 「仕方ない。まずは彼らを殺そう。その間にキミも決断出来るだろう」 拳正が息を吐く。 呑まれぬよう違わぬよう。 絶対的な死を前に平常心を保てるように心を整える。 同時に先手を取って動く。 後手に回ればその時点で終わりだ。 それほどの差が彼我にはある。 真正面から突っ込むと見せかけて、靴底に煙が出る勢いで切り替えし、側面へと回り込む。 戦士としての本能があの漆黒の右腕は危険だと告げている。 それを避け、砲のような鉄甲が嵌め込まれ、塞がっている左手側へ。 小回りだけは小兵である拳正が上だ。 自身の発揮できる最速で回り込み、これが最初で最後の勝機と、全身に廻らせた気を爆発させ地面を踏み込む。 脇腹下にある人体急所『京門』を目がけ、最大級の裡門にて打ち抜く。 籠めるは渾身。狙うは必殺。 その後の防御も、躱されることも考えない。 そういう余分は全て捨て、ただこの一撃に全てを懸ける。 「な、」 拳正の持つ最高の一撃は狙い通り急所へと直撃した。 だが、まるで手応えと言う物がない。 当たらないのならばまだいい。 だが直撃して何一つ効果がないと言うのはどうか。 最大限の攻撃が直撃しても、何のダメージも与えられないとなればそれは何をしても、どうにもならない事に他ならない。 絶望的だ。 「もう反撃してもいいかい?」 「ッ!?」 左腕にはめ込まれた鉄甲で殴り飛ばされる。 化勁が間に合わず直撃を受け、吹き飛ばされるようにザリザリと地面を滑った。 自ら跳ぶ事で最低限のダメージ軽減はしたが、脳が揺れ景色が歪む。 踏み込み過ぎた代償は小さくない。 「てぇい!」 「おっと」 そんな拳正を助けようと、九十九が背後から森に斬りかかる。 太腿に斬りかかられた森は反射的に腕を振るった。 裏拳が少女に直撃し、紙人形みたいにその体が転がっていく。 ユキには常に意識は払っていたが九十九に関しては余りにも戦力外すぎて完全に意識から外していた。 不意打ちを許してしまったが特に問題はない。 悪威に刃など通らないのだから。 この通り傷一つない。 倒れこんだ九十九は鼻から大量の血を流しながら動かくなった。 意識を失ったのか、それともあるいは。 「――――――テメェ」 跳ね上がった拳正が血走らせた目を見開き飛びかかる。 だが直後、その体が空中で静止し両足がぷらんと宙に浮いた。 その腹部には黒い刃が突き刺さっている。 「ぐっ…………ぁッ!!」 森は拳正を振り返ることすらなく、佇んだままぐにゃりと曲がった右腕を伸縮させていた。 高質化した先端は飛びかかる少年の脇腹に深々と突き刺さり、その体を持ち上げている。 「フン…………!」 腕を振るう。 鞭のようにしなり、先端に突き刺さった少年の体が乱暴に投げ捨てられる。 受け身も取れず背中から叩きつけられ、その体が派手に地面を転がった。 「……生意気だねぇ」 不満そうに森がそうぼやく。 腹部を貫かれる直前になって激昂した頭を冷やしたのか、拳正は刃を躱せないと見るや否や、避けることを早々に諦め生意気にも刺され方を選んだのだ。 腹部は貫いているが恐らく致命には達して居まい。 加えて、幸運にも背負っていた荷物がクッションになったのかまだ意識があるようだ。 「く………………ッ」 だが貫かれた腹の傷は深い。 開いた穴からは大量の血が流れている。 これまで募ったダメージもあり、すぐには起き上がることが出来そうにない。 そこに一歩、森が歩を進める。 動かないユキよりも動けない拳正のトドメを優先した。 龍次郎も、ワールドオーダーも、あるいはここに集められた全員がそうなのかもしれない。 森自身も同類だからこそよく理解できた。 この手の眼をする輩は諦めるということを知らない。 こういう手合は力量に関わらず早々に止めを刺すべきである。 龍次郎を野放しにした事から学んだ森の教訓だ。 「…………いや……いや、やめてぇえええ!!」 悲鳴のような絶叫が響いた。 赤い血を流して倒れこむ少年と少女。 ユキの脳内で父と母を失った絶望の光景がフラッシュバックするように重なる。 その再現を他でもない、あの絶望から助け出してくれた恩人の手で再現されようとしていた。 それは拭いようもないより深い絶望となってユキに襲い掛かる。 そして何もできず、それを見ているしかないあの日のままの自分。 「え…………?」 だがそこでユキが言葉を失う。 目の前に誰かがいた。 何者か、などと問うまでもなく、何者であるかは理解できた。 そこにいたのは余りにも意外な人物だった。 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 黒く煤けた赤い空を見ている。 一組の男女が私に覆いかぶさるように倒れていた。 二人分の大人の体重は小さな私には押しつぶされてしまいそうになるほど重く身動きが取れない。 生暖かい赤い液体が頬を濡らす。 私はその液体を拭う事もせず、ただその光景を阿呆のように見上げていた。 悲鳴すら漏らせずただお父さんとお母さんと呼んでいた人間が、物言わぬただの肉袋となるのを見ていた。 お父さんが仕事先で遊園地のチケットをもらってきてくれた。 お母さんもじゃあお弁当を作ろうねと笑ってくれた。 ウチはお金持ちではなかったから、そういう所には縁遠くて私も何日も前からはしゃいで今か今かと次の日曜日を楽しみにしていた。 それなのに、どうして。 行楽日和の日曜日は地獄と化していた。 山道を走る多くの車は横転し、中から這いずるようにして多くの人が逃げ惑う。 転げたトラックから零れた荷物は逃げ惑う人に踏みつぶされ、何処かに届くはずったぬいぐるみは綿を出しながら笑っていた。 黒い煙を上げなら炎上する車の下には潰れたカエルみたいな死体がある。 暴れまわるゴリラみたいな怪人の足元には引きちぎられたみたいな人のパーツが転がってる、 お父さんとお母さんも私を庇うようにして、死んでしまった。 誰も助けてくれなかった。 誰も助けられなかった。 誰もが我先にと逃げ出し、逃げ遅れた者は皆死んだ。 ああ私も死ぬのだと、凍ったように冷めた心で理解する。 恐ろしくはなかった。 恐怖よりも絶望が勝った。 だって小さな私の世界では両親は全てだった。 その両親(すべて)を失って、この先どうやって生きていくというのか。 他の親族も、頼れるような人もいない。 私にこの先などないのだ。 ならば、ここで終わった方がいっそ。 「――――遅くなった」 その終わりを否定するようにその大きな男は現れた。 霞む瞳では陽炎に揺れるその背ははっきりとは見えず、ただその大きな背中だななんてどうでもいい事を考えていた。 あれほど恐ろしかった怪人は現れた男に一瞬で消し飛ばされた。 事もなげに事態を収束させた男は私の上に圧し掛かるお父さんとお母さんを大事なものに触れる様に引き剥がしていった。 「だ……れ…………?」 返る答えはない。 その代わりに体を抱えあげられる。 そこで初めて男の顔を見た。 皺の深い強面のおじさん。 見上げた顔はどこか泣いているようにも見もえた。 だけど、多分それは見間違い。 この人が泣く理由なんてないし、こんな強い人が泣くだなんて間違いなんだと思った。 私は両親に抱かれているように酷く安心して、微睡に落ちるように意識を手放した。 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 「くッ…………そ」 倒れた拳正の下へ、逃れようもない死神の足音が迫る。 立ち上がろうと地面に手をつくが、体が持ち上がらない。 この場にいる誰よりも力量差を理解して、これがどうしようもない状況であると理解しているのは拳正である。 だが、どんな状況でも最後まで絶対に諦めないのもまた拳正だ。 この矛盾を抱えた、手が悔しげに地面を掻く。 血が抜けて軽くなっているはずなのに、自らの体がどうしようもなく重い。 だが、動かねば終わる。 動いても終わるとしても動かねば始まらない。 無理矢理に腕に力を籠める。 そこでクシャりと言う音がした。 気付けば、倒れた拍子に零れ落ちたのか、その手の下に何かが転がりそれを握りしめていたようだ。 それは拳正の支給品の中にあった、用途もわからず奥底にしまわれていた何の変哲もない本の頁だった。 この状況では血を拭う足しにもならない。 何の意味もない道具のはずなのだが。 「ん…………?」 森が眉をひそめた。 目の前で起きた僅かな異変に足を止める。 ゆらりと幽鬼のように拳正が立ち上がったのだ。 「おや、まだ立てる…………」 感心の言葉はそこで途切れる。 次の瞬間。森の足元が僅かに浮き上がり、後方へと押し出された。 「何ッ、だ…………!?」 体勢を立て直しながら地面を滑る。 何が起きて、何をされた? いや、何が起きたかなど考えるまでもなく明白だ。 掌打を打たれ、それを喰らった。 だがそれこそあり得ない。 衝撃を全て無にするはずの悪威を着ているのだ。 打撃ごときで吹き飛ばされるなどあり得ない話である。 だが、それ以外の何物でもない。 実際その動きは見えていたし、そうくる事も読めていた。 なのにどういう訳か反応すらできなかった。 油断もあっただろうが、それ以上に少年の動きはそれほどに異様だった。 明らかに異変が起きていた。 訝し気に少年を見る。 「――――呵々」 老獪さを感じさせる少年らしからぬ笑いが漏れた。 その表情を見て、油断してはならぬと数多くの怪物を見てきた森の直感が警告を鳴らす。 先ほどとは別種の必殺の決意を持って漆黒の右腕を夜に溶かすように解く。 粒子と化した右腕が死を届ける嵐となって拳正へと襲い掛かった。 回避はおろか認識すら不可能な分子に溶けた刃の渦。 一秒後にはミキサーの中に放り込まれたようなズタズタの死体が一つ出来上がっているだろう。 「――――――――空気が悪ぃな」 涼やかに言って、少年は強かに地面を踏み抜く。 瞬間。その足元を中心にして勢いよく空気が爆ぜた。 突風が吹き荒れ、森の頬に叩きつけられる。 その風に煽られて、宙に舞う粒子は彼方へと吹き飛ばされた。 驚愕に目を見開く森をよそに少年が再び笑う。 超常でも異能でもない。 つまる所、ただの震脚である。 足を上げた地面には罅一つなく、一切無駄のない踏み込みによりできた足型のみが刻まれていた。 「おいおい、いきなりなんだい、変わりすぎだろ。悪魔とでも契約したのかい?」 「悪魔かぁ。よく言われる」 辺りに霧散した悪刀を腕へと引き戻しながら、意味不明の何かを見るような眼で目の前の存在を観る。 動き自体は先ほどまでの少年の延長線、八極拳士のそれだ。 だが、あまりにも質が違う。 成長などと言う次元ではない、進化したとしか表現できない別次元の領域にある。 一体何が起きたのか。 大悪モリシゲをして一目では図れぬ、何かが起きている。 ユキの周囲の人間はある程度は洗ってある。 新田拳正の事も識っている。 拳正は普通の人間だったはずだ。 このような変化はありえない。 ならば、あり得るとするなら別の、この地にしかない要素。 つまりはあの男の用意した悪意。 クシャクシャに握りつぶされた一枚の紙切れが舞う。 それは何かの1ページ。 ヘブライ語で書かれていたため、読むこともできず意味が分からず荷物の奥底に押しこめた新田拳正の支給品。 だが、見つけたその時に同行していた少年に問うべきだったのだ。 それはかつてとある中学生が悪魔を降臨させた、とある男の”悪意”によって必然的に紛れさせられだ、望んだ存在を降霊させる”本物”の魔導書の1ページ。 少年の場合は今の自分を変えたいと言う変身願望を満たす悪魔だった。 だが拳正には少年のような願望もなければ悪魔や霊に対する知識もない。 故に、思い浮かべることのできる怪物など一人だけ。 降霊憑依(インストール)――――――――李書文。 李氏八極門の開祖にして、中国拳法史史上最強と謳われる魔拳士である。 魔拳士はニカリと笑い、手首を返して挑発する様に手招きする。 見れば、先ほど刺されたはずの腹部からの流血は殆ど収まっていた。 止血をしたのではない。そんな暇はなかったはずである。 誰だって興奮や力の隆起である程度の血流を操ることは可能だ。 心を乱す、心を落ち着ける。力を籠める、力を抜く。 その誰にでもできるその行為を突き詰めればこの通り、出血量すらも制御できる。 加えて、脳内物質を操り大量に発生させたエンドルフィンによって痛みを緩和。 行動の支障を全て排除した。 もはやそれはどのような才覚があろうとも、このような若輩に至れる領域ではない仙道の域である。 魔拳士が拳を固め、悪党が兵器を構えた。 人類最古の武器と人類最新の武器を手にした二人が火花を散らした。 「呵々。どれ遊んでやろうか小僧」 「はっ。デカい口を叩くなよクソガキ」 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ そして異変は少女たちの前でも起こっていた。 見上げる少女の瞳が動揺に揺れる。 無力に打ちひしがれ絶望に膝をついた少女の前に現れたは、あまりにも意外な、そしてここに居るはずのない人間だった。 何か言うべきなのに、何を言うべきなのか、何を言えばいいのかわからず言葉が出ない。 「さて、少年が惹きつけている今の内に一旦引こう」 ユキの言葉を待たず、それだけを言う。 現れた男は気絶した九十九を軽々と抱え上げ、ユキを導く様に悠然と動き出した その背中を見るだけで涙が出そうになる。 まるで、それはあの日の救世主のようで。 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 「では――――――行くぞ」 足音とは思えぬ甲高い音を立て地面を蹴る。 それを迎え撃つように、劈くような風切音が上がった。 漆黒の右腕が触手のように蠢き、残像すら置き去りにして少年を切り刻まんと襲い掛かる。 空間すら切り裂かんとする幾重もの刃の鞭を前にしながら、少年は顔色一つ変えなかった。 「ったく、片目じゃ距離感掴みづれぇナっとォ…………!」 音速を超える鞭の先端を紙一重で避ける。 紙一重。だが余裕を持った刹那の見切りによる紙一重だ。 まるで未来予知のような精密さで一切の無駄なく適切に的確に。 受けは崩しであり同時に攻撃である八極の合理。 地面に叩き付けられた刃の鞭を横合いから激しく弾き飛ばすと、すっと右踵を浮かせた。 それは八極拳の動きの起点だ。 攻撃を予期し、次の動きを見逃さぬよう森が目を見開く。 だが、次の瞬間、悪党が身をくの字に曲げる。 気付けば、すでに掌打が腹部に突き刺さっていた。 注視していたはずなのに、気づけば懐に忍び込まれている。 音速戦闘にすら対応可能なモリシゲが捉えられないどころか、反応すらできない。 「ぐぅ――――――ッ」 痛みはないが肺を圧迫され呼吸が乱れる。 浸透勁が通っている。 そうなるとこれは非常に拙い。 何せダメージの度合いが分からない。 外傷や骨折は分かりやすいが無痛症である森には自らのダメージを計るすべがない。 悪威を過信しすぎたのか。否。悪威は万全である。 多くの規格外生物を屠り去ってきた三種の神器に隙などあるはずもない。 悪威の万能耐性は戦艦砲すら真正面から受け止める。 それこそ世界を滅ぼす攻撃すら無効化してきた。 その悪威が、ただの体術などに後れを取るはずがない。 だが、この目の前で起きている事実はどうか。 漆黒の腕をドロリと溶かし液状化させた悪刀を振るう。 固体でも気体でも届かぬなら、その中間、液体ならどうか。 浴びせかけられた液体は回避も防御も不可能である。 瀑布のような刃の飛沫に飲み込まれんとする拳士は片足をすっと振り上げた。 地面を強かに踏むと、発破でもかけられたように地面が爆ぜ大量の土泥が舞う。 刃の液は土の壁に飲まれ、その身には届かない。 この拳士は液体すらも阻むのか。 だが、その足元。 地中より水が染み出る様に分離させた悪刀の一部が音も無く飛び出した。 真正面から振るった刃は囮。狙うは右目の死角である。 完全に知覚不可能な襲撃。 それを達人は何事もなかったように首を傾けるだけで躱した。 視覚でも聴覚でもなく、別の何かを読んでいる。 だがそれを云うのなら森とて百戦錬磨の戦士だ。 一線を退いたとはいえ数多の戦場を超え、数多くの規格外生物を葬ってきた。 しかし、これほどの先読みなど出来ようはずもない。 「お前さんは人を見てねぇのさ」 森の心中を読んだような言葉。 同時に、今だ落ち切らぬ舞い上がった土塊の間を縫って、正中線に並ぶ人体急所に吸込まれるように打が飛んだ。 拳撃は金的、肘撃は丹田、靠撃は鳩尾へ。 大型獣すら屠り去る一撃の連打。 小兵の打撃に巨体が大きく宙を舞う。 「ま、无二打に拘りを持ってる訳じゃぁねぇが、ここまで来ると傷つくねぇ。やっぱ仕掛けはその服かぃ?」 モリシゲの健在を確認してそうぼやく。 打ち込んだ打は幾度か。 二の打ち要らずと謳われた拳もこれでは泣こう。 だが、屈辱であると言うのなら森も同じだ。 悪威がなければ、とうに数度は死んでいる。 あらゆる善悪を知り尽くし、数々の規格外生物を葬り去ってきたこの大悪が、ただの体術に翻弄されるなど誰が思おう。 悪刀は当たらず。 悪刀ですら捉えられない相手に悪砲も当たるまい。 残弾は1発。博打に出るには分が悪すぎる。 「そうだね、侮っていたわけじゃないが、認識を改めよう。人間の五体はそこまで至れるのか」 人のまま己が五体を練り上げた達人の技量。 それは兵器に頼った森とも、人を捨て去った龍次郎とも違う。 規格外の怪力を持った怪物とはまるで違う強さの質だった。 「なに、これでもまだ頂には至らぬ身さ。未熟未熟」 正義でも悪でもない。 目的のために力を求めるのではなく。 ただひたすらに己を磨き練り上げることそのものを目的とした狂気。 人を破壊する事だけに特化した、世界を破壊する事ない人間と言う規格内の怪物。 悪威の抗体リストには世界を焼き尽くす炎や全てを切り裂く刃は登録されていても、達人の拳などというデータは入っていない。 こういう怪物もいる、という事だ。 規格外の怪物ばかりに目を向けていたからその足元を掬われた。 森茂の人生が世界を壊す怪物を倒すために捧げた56年だったとするならば。 この拳は人体を効率よく破壊するために四千年練り上げられた拳。 人と人との戦いとなれば勝てぬのは道理である。 「だが、――――――――」 だが、その道理を覆してこその森茂だ。 勝てぬのらば勝てる手段を作り出すまでである。 そしてその手段は既に完成しつつある。 魔拳士が構える。 悪威の特異性に気付いたからには狙うべくは漆黒の悪威に守られていない頭部だ。 身長差から狙いを付けるのが困難であるが、上背の相手に対する技も当然存在する。 この域に達した達人に捨て技など無い。 放つ全てが一撃必殺に足る絶招である。 流れる様に拳士が駆ける。 踏み込みは突風その物。 風の動きを予期できないように、意を消した動きは人の知覚を凌駕する。 制空権にて放つ絶招。 人の首など容易く吹き飛ばす一撃が無防備な頭部へと襲い掛かった。 だが、しかし。 森はその一撃を回避した。 これまで反応すらできなかった敵の動きに、ここに来て始めて対応した。 想定を変えたのだ。 ただの体術だとは思わず、時間や空間を吹き飛ばす異能使いの相手だと想定して対応する。 事実はどうあれ結果としてそうなるのなら森にとっては変わりない。 達人は初見でも、そう言う類の相手ならばむしろ得意分野である。 身を躱した悪党は反撃の拳を振りかぶる。 漆黒を固めた悪刀の拳 しかしその一撃は両腕と体全体で描く円、大纏に包みとられる。 そのまま一足で背後に回り込まれ、背中合わせとなった。 両手を広げた様から鳳凰双展翔と呼ばれる反撃技。 高めた勁を背に叩きこまれる。 「む――――っ」 不可解さを示す声は、攻撃を受けた方ではなく、攻撃を放った方から漏れた。 その手応えに違和感を感じた。 否、違和感自体は初撃から感じていた。 その違和感が徐々に強まってきている。 森は幾分か吹き飛ばされたものの、遂に倒れることなく体勢を立て直した。 拳正はその違和感を払拭すべく、追撃に奔る。 迎え撃つ裏拳を避け懐に入り込むと、双手による双撞掌で相手の胸部を強かに打つ。 敵を貫くその衝撃はしかし、相手を僅かに一歩、後退させるに止まった。 「おいおい…………さすがにこいつぁ」 打が通った感触がない。 体勢の崩れもなく、森はすぐさま反撃に転じ鍵爪のように変化した腕を振り下ろした。 だが近接戦の技量は次元が違う、その反撃は捌くに容易い、が。 「――――達人の拳、堪能させてもらった。だが、それもここまでだ」 悪党は宣言する。 ここから先、八極の打は通らない。 悪威は学習する。 未知の衝撃に対しても自動学習により闘いながら耐性を構築していく。 耐性が出来上がるまで相当なダメージが蓄積されただろうが、まだ動けているのだから森の勝ちだ。 モリシゲがこれまで何と闘ってきたと思っている。 未知の攻撃をしてくる相手など珍しいことではない。 そんな相手と戦ってきたのだ。 そんな相手から勝ち続けてきたのだ。 これまでも、これからも。 「そうかい? ここからだろ」 自身の研鑽を科学に否定されながら、拳士は変わらず揺らがず積み上げた八極の構え。 耐性など知ったことか。 すべきことなど一つ。 ただ打ち抜くのみ。 達人が集中に息を漏らす。 だが、その集中が僅かに乱れる。 何か幽霊でも見た様に目を見開き、目の前の森以外の何かを見ていた。 この領域の戦いにおいてそのような油断は致命的だ。 致命的だからこそ、そのような隙を目の前の達人が見せるなど信じがたい。 それだけの何かがあるのかと、森の思考が至った時。 「―――――よう」 直後、森の背後からの声がかかった、 そして振り返るよりも早くその頬が強かに殴り飛ばされた。 「ッ…………誰だ!?」 咄嗟に受け身を取りながら、体勢を立て直す。 完全に虚を突かれ、躱す事が出来なかった。 見事な一撃だった。 目の前の相手に集中していたとはいえ、森に悟られずに背後をとれり、警戒していた頭部に一撃をくれられるほどの使い手。 そんな人間は世界中を探してもそうはいない。 この会場の生き残りに限るのなば、さらに絞られ片指ほどもないだろう。 「頭部ががら空きだよ。悪冠(あっかん)がないのだから気を付けないと」 皮肉ったらしい声が聞こえる。 言葉の通り、頭部を護る悪威の補助パーツ悪冠がなくては絶対防御としては片手落ちだ。 三種の神器の存在のみならず補助パーツまで知っている人間もまた限られる話なのだが。 「まったく…………冗談きついねぇ」 それは、強面の大男だった。 深く刻まれた目じりの皺に威厳を感じさせるような口鬚。 温和なようでその奥底に刃のような鋭さを湛えた目つき。 傷だらけの体躯からは歴戦の勇者の貫録が窺える。 とても見慣れた、とてもなじみ深い男だった。 そこには――――森茂が立っていた。 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 戦場を離れたユキたちが身を隠したのは小さな診療施設だった。 扉には鍵がかかっていたが、男が手をかざすと不思議と鍵が開き扉はすっと開かれた。 備え付けのスリッパに履き替えることもなく土足のままキィキィとなる薄い木の床を軋ませながら受付を通り過ぎる。 待合室を抜けて奥の診療室へと足を運ぶと、そこにはこの城の主が座っていたであろう丸い椅子と整頓され薬品やノート並べられた机があった。 そして部屋の片隅には、患者を寝かせる小さなベッドが置かれていた。 そのベッドの上へと抱えていた九十九をそっと寝かせる。 「鼻の骨が折れているようだ。道すがら応急処置はしておいたが、脳震盪も起こしているようだから無理はさせないようにね」 声をかけた方向からカタンという音が響いた。 フローリングの室内にローファーの足音を鳴らし、狭い診察室の入り口に立ち尽くす雪のような少女。 声をかけられても少女は俯いたまま。 暫くの沈黙の後、ようやくその口を開いた。 「どうして?――――お父さん」 付していた顔を上げる。 そこでようやく真正面から男の顔を見た。 厳つい顔に似合わぬ優しい目。 この目が悪党っぽくないからっていつもサングラスをしてたから、素顔は久しぶりに見た気がする。 その男は間違いなく森茂、その人だった。 「どうして、とは? 俺がここにいる事に対してかい? それともキミを助けたことかな?」 正直、そのどちらもだ。 移動している間に少しは頭も冷えるかと思ったが、考えが纏まらず混乱は増すばかりである。 拳正と闘っているはずの森がこちらにいるのは明らかにおかしいし、ユキを殺そうとした森がユキたちを助けるのもおかしい。 どう考えてもこの状況は、何もかもがおかしかった。 「そうだねぇ。まずはこの俺に関して答えようか」 混乱するユキを急かすでも突っぱねるでもなく。 絡み合った糸を紐解く様に、森はその疑問に一つ一つ答えてゆく。 「どうやら俺は増えたらしい。いや増えたと言うより分裂したの方があってるかな」 「分裂…………? …………あっ」 「どうやら心当たりがあるようだね」 俄かには信じがたい話だが、分裂と聞いてロバート・キャンベルに託されたナイフがそういう物だったことを思い返す。 そのナイフを九十九に預けたのは他ならぬユキだ。 九十九が森に切りかかったあの時、傷はつかずとも分裂体は生まれていた? 「俺がキミを助けた理由だが…………キミは俺の家族だ。家族を助けるのに、理由がいるかい?」 理由など必要ない。家族なのだから。 助け合うのは当たり前。 それは彼らの育った孤児院の理念である。 そうやって皆は育てられたのだ。 「けど…………ッ!」 だけどそれは違う。 つい先ほど否定された。 森は自らが優勝を目指すと公言しユキを殺そうとした。 「最初から、家族なんかじゃなかったッ…………それが真実だったのよ」 ロバートのノートに書かれた通りだ。 森にとってユキたち孤児院の子供達は道具だったのだ。 それが真実。 「それは違う」 だが違うとはっきりとした声が否定する。 「誓ってキミを、キミ達を愛している」 「…………嘘よ」 「嘘じゃない、本当さ」 その言葉に嘘はないと繰り返しのように告げる。 もう諦めたはずの心が波を打つ。 こうも心を揺さぶるのは森が稀代の詐欺師なのか、それとも本当に……? 「いいかいユキ。そもそもキミの知りたい真実とはなんだ? それは本当に君の求める真実なのか?」 「それは…………」 確かに、森がユキたちを利用しようとしていたとして、それでどうなるというのか。 森に悪意があれば全てが嘘になるのか。 新たな家族ができて、仲間出来て、親友と呼べる友達に囲まれ幸せだった。 それら全ても嘘なのか。 それは違う。 そうではない。 真実を知ろうとしたのはロバートの意思だ。 その死の原因となったユキにはその遺志を継ぐ義務がある。 だから追い求めようとした、何よりユキに関わることだ、知ろうとするのは当然の事である。 だけど遺志を継いだつもりでロバートの求めた真実とユキが求めた真実だって別のモノなのかもしれない。 自分は、自分たちは本当に愛されていたのか。 その愛は本物だったのか。 結局のところ、ユキが知りたかった真実はそれだった。 それが否定されてしまう事こそ何よりも恐ろしかったんだ。 だから最初から森はそれだけを答えていた。 「なら、あっちのお父さんはそうじゃないの…………?」 他の方法がなかった訳でもなく、生き残るためでもなく。 多くの手段からユキを殺す選択肢を選んだ。 だが残酷なその問いに父は優しく首を振る。 「いや。同じさ。あっちの俺もキミのことを大切に思っている」 「だったら…………! どうして………………?」 「君が大切だからこそ、殺さねばならない」 その結論がどうしても分からない。 生き残るためにそれしかないというのなら理解できる。 仕方ないと諦めもつくだろう。 だが、そうではない。 それではまるで、森がユキを殺したがっているようではないか。 「そう、それもまた真実だ。俺はキミを殺そうとしている」 同じ口で対極の真実を語る。 なにが真実なのかユキには分からない。 そもそも真実とは何だ。 「真実など追い求めたところで意味はないのさ。 真実は一つではないし、別の真実で覆い隠されることもある。 一つの真実だけで結論を得ろうなどとそれこそ無理な話だ」 真実ほど曖昧なものはない。 主観よって変わることもあれば、時や場合でだって変化する。 そんなものを追い求めても意味はない。 「重要なのは理解して受け入れ、自分の中でどういう意味を持つのか、何がベストなのかを決断する事だ」 ユキを殺そうとする森茂もまた森茂であり。 ユキを助けようとする森茂もまた森茂である。 そのどちらも嘘ではない。 どちらが正しいか、などという一枚岩の真実など存在せず。 どちらも正しいという、矛盾した真実があるだけだ。 一面を切り取りその人を理解することなど出来るはずもない。 「なら、せめて理由を教えて。どうして優勝を目指そうと思ったの…………?」 何事にも理由はあるはずだ。 特に、ユキのよく知る森茂という男は理由なく行動する男ではない。 森が本当に悪人だったとしても、騙されていたとしても、せめて納得がしたい。 「言ったろ、世界のためだ」 つい先ほど一二三九十九の問いに答えた通りだ。 この決断は誰のためでもなく世界のためである。 森の掲げる壮大な理想は悪党商会の上役ならば全員が知っていた。 悪党商会加護下の孤児院で育ったユキもまた理解している。 その為にユキ達全員の死が必要? そうなると逆に分からなくなる。 自分を殺す事にそれほどの価値があるのか。 「世界のバランスを取るために、優勝しなくちゃいけないってこと…………?」 「少し違う。取り戻したかったのさ、俺は。この殺し合いはいい機会だった」 「取り戻したかったって、何を?」 「――――――決意をさ」 この世界には世界を捻じ曲げようと言う悪意がある。 その悪意から世界を守護らねばならない。 そう誓った、その決意を。 世界を守護る。それは人の身に余る偉業である。 人を捨てなければ大業は為らない。 故にモリシゲは捨ててきた。 情を、人間性を、不要なあらゆるものを捨ててきた。 そして世界を維持し続けてきた。 今こうして世界が成り立っているのは森のおかげであると言っても過言ではない。 「俺はこれまでそうやって来た。これからもそうするためにこれは必要な行為だ」 世界のバランスを取り永劫を管理する。 その為のナノマシン技術による延命計画。 肉体は体組織を作り替えれば維持できる、不老不死もいずれ遠くない未来に可能となるだろう。 だが、精神はそうはいかない。 つまるところ――――彼は疲れたのだ。 世界のため人間性を捨て続ける日々に。 最初から非人間であったのならばよかったのかもしれない。 だが彼は愛に満ちた男だった。 恋人を愛し、家族を愛し、仲間を愛し、隣人を愛する。 そんな当たり前の人間だったのだ。 そもそも彼が非人道的な人間だったのなら、こんな理想など持たなかった。 後継者の育成はもしもの時の保険と言う意味もあったが、この役目を譲り渡してしまいたいという弱さでもあった。 半田は優秀な技術者だったが人間性がまとも過ぎた。 恵理子は人間性を捨てれる女だったが世界の維持を任せるには過激な所があった。 茜ヶ久保は一番見込みがあったのだが、少し頭が悪すぎた。 詰まる所、得られたのはこの道を歩むのは森茂しかいないという結論だった。 やるしかないのならやるだけだ。 だが、家庭を作り、子を為し、孫も出来た。 人間的な幸福を得れば得るほど理想からは遠ざかる。 人の身で人の域を超えた理想は叶えられない。 何よりも許しがたかったのが。 そんな生き方も悪くないのかもしれない、などと言う考えが一瞬でもよぎった己自身だ。 許せなくて許せなくて許しがたい。 そんなことはこれまでの森茂が許さない。 切り捨ててきた全てのモノが許さない。 だからこそ、取り戻したかった。 そのためには、 「一番護りたい人(モノ)を壊さねば護れない理想(モノ)がある」 大切なモノのために大切なモノを切り捨てる。 それが森の決意だ。 「矛盾してるわ…………そんなの」 「そうだね」 だがそんなものだ。 そもそも人間は矛盾している。 清濁併せ持っての人間であり。 聖人にも憤怒があり、悪人にも慈悲がある。 一面を切り取りその人間を理解したなどとそれこそ傲慢だ。 世界にも人心にも善と悪があり全てはバランスが大切なのだ。 「だがそれでいいのさ。その矛盾を飲み込み、悪と知りながら悪を成す。 故に我らは名乗るのだ――――悪党と」 一つの信念を錆びず変わらず長年持ち続けらるのならば、それは正真正銘の怪物だ。 あるいは、とっくに壊れているのか。 「さて、少し口を滑らせすぎたかか。あの娘に中てられたようだ」 ベッドに寝かした九十九を見つめる。 唯一使用したロバート・キャンベルが自分自身を分裂させるという例外的な使用法であったため表立つことはなかったが。 生み出された分身体は基本的に産み出した者の味方であり、僅かながらその影響を受ける。 その僅かが、こちらを選んだ森茂とあちらを選んだ森茂の行動を分けたのだ。 「滑らせついでに謝ってしまうと、キミの両親が死んだあの襲撃、あれは俺のせいだ。 詳しくは言えないが、キミ達家族が襲われたのは俺の因果に巻き込まれたからだ。これに関しては恨んでくれてもいい」 散々心を乱してきたユキだが、その告白に対してその心中に意外にも驚きはなかった。 きっと心のどこかでそんな気はしていたからだろう。 たまたま襲われていたところに都合よく駆けつけるなんて、そんなことがあるはずがない。 「なら…………お父さんが私を気にかけてくれるのは、その責任を感じているから?」 それでも恩人であることには変わりなく、それに関して責任を感じていることは理解していたから。 責める気にも恨む気にもなれなかった。 ただ、注がれた愛が同情や責任によるものだったなら、それはあまりにも悲しすぎると言うだけで。 「いいや、違う。まるっきり関わりがないという訳ではないが、そういう責任からではないさ。 家族に会いを注ぐようにキミに愛を注いできたつもりだ」 ギュッと両手で手を握りしめられる。 暖かい手。 大好きな、ユキにとって陽だまりのような手。 ユキに世界を教えてくれた温もり。 「俺は行くよ、あっちの俺を何とかしないと。キミはどうする?」 名残惜しくも、温もりが離れる。 「俺と一緒に戦ってもいい、ここで何もしないのもいいだろう。何だったらあっちの俺に味方するのもいい。 何もかもキミの自由だ、自分で考えて好きにしたらいい」 ロバートの話、森の話、もう一人の森の話。 それらを知ってどうするのか。 何を考え、どういう答えを持つのか。 ユキの決断を、問うていた。 教え諭す父のように。 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 「あんだテメェら、双子かぁ?」 眉にしわ寄せ少年が、訝しげな声を上げる。 それは奇妙な光景だった。 同じ顔をした男が、同じ声、同じ仕草で対峙している。 一卵性双生児であればそれもあり得るのだろうが、よもや生き別れの兄とここで出会ったいう事もあるまい。 どちらにも対処できるよう、それぞれを頂点にして三角形を描く位置へと距離を取る。 苦戦を強いられている中、同レベルの敵が増えたとなれば、さしもの達人とはいえ少々厳しい状況となるのだが。 ちらりと先程まで争っていた方の様子を窺うが、どうやら乱入者にこちら以上に驚いている様子である。 少なくとも味方の増援を待っていた、という雰囲気ではなさそうだ。 「…………君は、誰だ?」 「尋ねずともわかるだろう? 悪威を着ている以上、幻覚や幻影ではないという証明は成されている」 悪威の万能耐性は精神耐性まで含まれる。 逆説的に目の前の存在が夢幻でないという証明となっていた。 目の前に現れた『自分』を見る。 失ったはずの右腕も健在。 体の傷もかつて刻まれた古傷ばかり。 それはこの会場に来たばかりの森茂の姿その物だ。 幸いと言うかなんというか三種の神器まではないようだ。 と言うより衣服すらなく、加えて言うなら首輪もない。 体内ナノマシンを表面化させ、全身を黒い鎧で覆っているようである。 「クローン? それともコピーか、まさかドッペルゲンガーやスワイプマンという訳じゃあないんだよね?」 「さて、そんなことはどうでもいい事だろう」 その言葉の通りだ。 過程など意味がない。 こうして目の前に立ち塞がっていると言う事実の前には全てが無意味だ。 「俺が、俺の前に立ちふさがるのかい?」 「そういう事だね」 「俺なら俺のしようとしている事が理解できるはずだろう?」 「出来るとも。だが、お前にも俺が理解できるだろう?」 「……そうだね。その通りだ」 互いが互いを誰よりも理解している。 己の事なのだから当然だ。 どれほど頑ななのかだって嫌になるほど理解している。 その上で譲れないのだから、殺し合うしかないのだろう。 二人の森茂の間に剣呑な空気が流れる。 分身体は、さりげなく風上へ移動しており悪刀の粒子化対策も万全だ。 なにせ相手もモリシゲなのだ、当然のように三種の神器の特性も弱点も誰よりも理解している。 だが、足りない。 知識程度で覆せるほど、装備の差は小さくはない。 素手では完全装備たる三種の神器に及ぶはずがない。 「なにせ俺は凡才だったからねぇ。装備に頼るしかなかったのさ」 「そうだね、だからまあ今は、数に頼るさ」 拳正がザッと地面を踏み鳴らし、三種の神器を構える森へと向き直た。 「よくわからねぇが、そっちの色眼鏡のねぇ方は味方ってことでぇいいんだな?」 「そうなるかな。共闘はお嫌いかい?」 「いや、構わねぇさ」 本来の師匠の気質なら断っていたのかもしれないが、弟子はその辺に拘りがない。 勝利に対する認識の違いだ。 それがこの師弟の一番の違いである。 目の前に立ちふさがる二人を眺め、森がサングラスの奥の眼を細める。 「まったく次から次へと、何者かの意思を感じるねぇ」 学生三人を殺すだけの話が、いつの間にやら伝説の拳法家を相手取り、自分の分身まで出てくる始末だ。 雪だるま式に状況が悪くなる、まるで天の意志が自らを殺そうとしているようだ。 こうも想定外の邪魔が入るとそのようなものを感じざる負えない。 「……さて、そう言えばアイツ曰く俺は倒される側だったか。 とするならば、アイツが望んでいるのはこういうものか。 そうなると、誰のためのという事になるが…………まあいい」 得体のない思考を打ち切る。 あの男の目的など、探ったところで得るものなどない。 だが思い通りになるのも面白い話ではない。 「そう思い通りにいくと思うなよ」 ここにいない誰かに向かって悪態をつく。 確かに二人掛かりと言う点は脅威だが、既に悪威は達人の技を学習し、装備のない森茂は脅威ではない。 「そちらが二人なら、こちらも二人でいくまでだ」 言って。荷物の中らから首の消失した死体を引きずり出した。 一見すればただの猟奇死体だが、その死体が何であるのか、もう一人の森にはすぐさま理解できた。 何せよく弄った体だ、見覚えがあって当然と言える。 それは一億人に一人のナノマシン適合者、鵜院千斗の死体だ。 その死体の全身にふつふつと黒い斑点のような穴が開き始める。 まるで大量の虫に喰われていくように肉体が欠けて行き、最後には骨すら残らず消え失せた。 「おやおや。もったいないねぇ」 「そう言わないでよ。命あっての物種ってね」 ナノマシン適合者の死体。 元より研究材料としても持ち帰るつもりだった代物だが、見方を変えればそれはナノマシンの詰まった宝物庫であるという事だ。 その死体を悪刀によってバラバラに解体して体内に取り込めば、一時的なドーピングとして利用できる。 適合率と首輪による制限がある以上、パワーアップとはいかないが消費した不足分程度は補えるだろう。 そして、これだけあれば切り札が切れる。 「では、早々に終わらせよう。所詮君たちは俺にとっては前哨戦だ」 強敵に取り囲まれながら大胆にもそう言い放ち、森が左腕にはめ込まれた砲を構えた。 消滅砲『悪砲』 あらゆるものを消し飛ばすその一撃ならばなるほど早期決着にはうってつけだ。 だが、それはあくまでも当たればの話である。 どのような一撃であれ、来ると分かっているのならこの達人は躱す。 悪砲の特性を理解している森も同じく、そう簡単に当たりはしないだろう。 そんな事は砲撃手だって理解している事だ。 だというのに、ここで悪砲を構えたという事は。 「なるほど、いきなり切り札を切ろうという訳か」 もう一人の森がいち早くその意図を察する。 知識のない拳正には何が起ころうとしているのか分からないが、ただことではない気配は察せられる。 発動前に潰すか、引くか。 拳士の直感は後退を選んだ。 「賢明だ、あれに近づくのは旨くない」 同じく距離を取った森がそう評する。 瞬間、悪砲の引き金が引かれる。 だが、地を劈く爆発音は鳴り響かなかった。 漆黒の悪砲からは砲弾が放たれるのではなく、白く輝く刃が出現したのだ。 否。それは光り輝いているのではない。 そこには”何もない”のだ。 何もかもを消滅させ、闇すらも消滅させた結果、残った無が白く輝いて見えるだけ。 ――――――消滅刀『悪無(アクム)』 悪砲による消滅砲を悪刀の刃で固定する。 悪威を着ていなければ使い手すら消滅に巻き込まれる、 消滅砲を固定する悪刀は常に消滅し続けているため、長くはもたない。 三種の神器が揃った時にしか使えない、正真正銘森茂の最強最後の切り札である。 全てを呑み込む白い闇。 その刀を中心として周囲の景色が歪む。 いや、それは歪みなどと言う次元ではない、空間が捻じれ曲がっている。 そして暴風が吹き荒れた。 周囲の風がその刀に吸い込まれて行き、その結果暴風が生まれているのだ。 もはやあれは顕現した奈落その物である。 「――――さあ始めようか」 子供くらいなら吹き飛ばしてしまいそうな暴風吹き荒れる中、悪党が開始を宣言する。 この程度の風で怯む二人ではないが、一瞬だけ出遅れた。 暴風を付き従え、先手を取って悪党が迫る。 狙いは拳正だ。 空間を歪ませながら斬撃が奔る。 だが、砲撃を捨て剣戟に出たのは悪手だろう。 近接戦ではこの魔拳士を上回ることなど不可能である。 とは言え、触れるものすべて消し去る消滅刀は防御はおろか受け流す事すら許さない。 選択肢はただ一つ避ける事だけ。 魔拳士は振り下ろされた斬撃の軌道を見切り、紙一重で身を躱す。 そして反撃へと転じようとした所で、その体がクンと消滅刀へと引き寄せられた。 「な…………ッ!?」 暴風に巻き込まれているからではない。 消滅した空間が損失を補填するように周囲を常に取り込み続けているのだ。 紙一重での回避では空間ごと巻き込まれる。 そう気付いた時にはもう遅い。 白い闇に引き寄せられる。 この刃に触れればあらゆる存在、それこそ剣龍龍次郎であれ消滅は避けられない。 だが、一瞬の後に巻き込まれんとする拳正の体が、横合いから蹴飛ばされた。 拳正と入れ替わる様にして、割り込んだのはもう一人の森だ。 その危険性をよく知る森は蹴り飛ばした反動で躱すが、完全とはいかず消滅に巻き込まれ僅かに皮膚の表面が剥げる。 赤い肉が露わになりそこからふつふつと血が沸き立つ。 だが直後。ボコボコと剥がれた皮膚の表面が泡立った。 傷口が塞がって行き、一瞬で修復され、黒い膜でおおわれる。 首輪がないという事はナノマシンの活動に制限がないという事だ。 三種の神器はなくともこちらのモリシゲには人の域を超えた異常再生がある。 「ああっ。俺ってメンドクサイなぁ…………ッ!」 「まったく気が合うね、俺もそう思うよ……ッ!」 そう言いながら、もう一人の森は引く。 反撃したところで悪威は越えられない。 今の森にはダメージを与える術がない。 ダメージの通る可能性があるのは二つ。 一つは悪威を避けた無防備な顔面への攻撃。 これは相手側も理解しており、常に強く警戒しているため難しい。 消滅刀の存在によりその難易度はさらに上がった。 相手が森茂ともなれば不可能ともいえる。 そしてもう一つは達人の打。 悪威の耐性にすら存在しない領域の武。 先ほど蹴り飛ばされた拳正はすぐさま立て直しており、どころか攻撃は既に完了していた。 冲捶を牽制として、本命たる肘打を打ち込む。 猛虎硬爬山。かつて李書文が牽制にて敵を屠り、无二打と謳われる元となった絶技である。 だが、しかし。 先ほどは一歩引かせた。だが今度は遂に一歩たりとも動かなかった。 まるで打撃を巨大な釈迦の腕に掠め取られたような手応え。 体勢の崩れない相手から反撃の刃が飛ぶ。 空間ごと食い破るその斬撃を、達人は先ほど同じ愚を犯すことなく大きく身を引いて躱した。 「おっと、流石に君には当てづらいねぇ」 お互い無傷の痛み分け。 体術においては達人の技量は圧倒的であり、モリシゲをしても捉えるのは難しい。 その事実は変わらない。 だが、この攻防で勝敗はどうしようもなく決定づけられた。 学習は完全に完了した。 もはやこの先、どう間違っても八極拳は通らない。 こちらからは何をしてもダメージは与えられず、向こうの攻撃は掠っただけでも一撃死。 これでは勝負として成立していない。 地上最強の達人と裏世界を牛耳る悪党の現身の二人がかりですら戦いにすらなりはしなかった。 三種の神器を揃えた大悪党相手に勝ち目などどこにもありはしない。 「少年。拳正くんだったか、いや今は違うのか」 「いやあってるよ」 そんな状況の中、横合いのもう一人の森が拳正に話しかけてきた。 同じく降霊を行った少年のように降ろした存在に精神性が引き摺られているが、ここにいるのはあくまで拳正だ。 「俺ならナノマシンに干渉して悪威の耐性を無効化できる、一瞬だけどね」 悪威の完全耐性が完璧ならば、そもそもその完全耐性を発動させなければいい。 同じDNAを持つ分裂体ならば認証情報を誤魔化して干渉できる。 「そのためには悪威に直接触れなきゃならないんだが、正直今の俺じゃ難しい。 だから、その隙を作ってほしい、まあそれで俺は死ぬだろうけど、気にせず攻撃してくれ」 「我知道了。心得た」 あっさりと了解を告げると、達人は駆けだす。 だが、隙を作ると言ってもどうするのか。 悪無を潜り抜け打を放つことは出来るだろう。 だが、体勢を崩そうにも崩せない。 何一つ衝撃を受け付けない相手に恐らく投げ技も通じまい。 こうも警戒されては頭部を狙うのは無理だろう。 ならばどこを狙うのか。 坦。と地面を蹴って懐へと踏みこむ。 暴風と共に迎え撃つ消滅刀。 暴風の中で息を吸う。 呼吸は力の源だ。 丹田に込めた力を爆発させるように息を吐き発勁を高める。 悲鳴のようなうなりを上げて振り下ろされる消滅刀。 それに合わせる様に拳を合わせた。 狙いは一つ。ただ一点頭部以外にも悪威に守られていない個所がある。 ――――白い闇を吐き出す左腕に填められた悪砲そのものだ。 悪砲はナノマシン技術を応用した超合金によって構成されているが、悪威のような自動耐性を兼ね備えているわけではない。 並みの攻撃で破壊されるような強度ではないが――――では並みではない攻撃ならばどうか。 瞬間、大爆発が起きた。 砲撃のような一撃に悪砲が大きく軋みを上げる。 「………くぅッッ!!」 武器を持つ手を強かに弾かれ、森の体勢が完全に崩れた。 だが同時に拳正の拳の皮が剥げ、漏れ出した血液が吸込まれていくように消えてゆく。 消滅刀の周囲は常に空間が消滅している。 その発生源である悪砲を素手で殴れば被害は免れない。 そこに駆け寄る黒い影。 体勢は崩れた。 悪威の自動重心制御があるため、体勢を立て直すまで1秒とかかるまい。 故に勝機はこの1秒。 胸の中央にそっと手がかかった。 指先が青く輝く、強制的にナノマシンを接続しハッキングを開始する。 セキュリティブロックを同一であるDNA情報により正面から突破。 如何にドーピングしたとはいえ制限がある以上、一度に使用できるナノマシン量に関しては分裂体の方が上だ。 物量で使用者を誤認させ、機能にバグを流し込み、権限をこちらに上書きする。 「ちィ………ッッッッッ!!!」 慌てた様に森が弾かれた消滅剣を引き寄せる。 だが、悪砲は特大の衝撃を受け軋みを上げ、崩れ落ち始めている。 このような状態で無理な運用をすればどうなるか。 一瞬、消滅刀の白が輝きを増した。 否。これは輝きなどではない。全てを呑み込む消滅の渦だ。 悪砲ごと森の左腕を巻き込みながら暴発した渦が広がる。 その消滅の渦に巻き込まれながらも、ハッキングを続けるもう一人の森は手を止めなかった。 それすらも織り込み済みと言った風に、動じることなく最後まで仕事を成し遂げて、完全に世界から消滅した。 工程完了。 その瞬間、悪威の機能が停止する。 停止は時間にして僅か数秒。 だが、刹那を奪い合う達人の領域に、数秒は十分すぎる。 森の胸部へ、トンと何かが触れる。 それは肩。 消滅の光と入れ替わる様にして小柄な影が森の懐に現れていた。 距離は既に息遣いすら分かる程の零。 之即ち必中必殺の間合い。 十字勁にて中央に落とされた重心は、中心から八極へと至る。 天地開闢に匹敵するような大爆発が巻き起こる。 機能を停止した悪威は、一撃を受けた胸部を中心に弾け飛ぶように千切れた。 衝撃はそのまま胸骨を砕き、臓腑を攪拌する。 血を吐いた。呼吸すらままならない。 だが、 「………………捕まえた」 捕まえたのは森の方だ。 この相手を捉えるだけでも一苦労だった。 だがようやく捉えた。 漆黒の腕で渾身の一撃を放った直後の相手の肩を掴む。 こんな拘束、達人に掛かれば一瞬で振り払える。 だが、決着は一瞬もかからなかった。 ビクンと少年の体が弾けるように跳ねて、そのまま地面へと倒こむ。 この悪威はありとあらゆる規格外の超常を相手取るために開発された万能兵器だ。 その中には当然、対霊も含まれる。 そして与えられた情報を解析し耐性を自動的に作り上げるという特性は単なる防具の範囲に収まらない。 崩れゆく悪威を右腕の悪刀と接続。 蓄積した情報を共有、掴んだ腕から霊的ショックを流し込む。 肉体にダメージはないのだが、降霊である以上これには耐えようもない。 触れた瞬間、気持ちよく成仏しただろう。 口元の血を拭う。 己が現身は消滅し、八極に達した魔拳士は去り、残るは未熟なその弟子のみ。 悪威は破壊され、悪砲は消滅し、残ったのは残り僅かな悪刀だけ。 こうして生きて立っているのだからモリシゲの勝ちだ。 あの男が用意した自らを殺そうという運命、その尽くを退けた。 その事実はそれなりに痛快である。 「く…………ぁ」 少年の口から呻きが漏れた。 取り付いた稀代の八極拳士の霊は排除したが、憑代となった少年が死んだわけではない。 意識こそないものの、ここで見逃すモリシゲでもない。 失った右腕を左腕のように補完して、その漆黒を振り上げる。 だが、振り下ろさんとするその手がピタリと止まった。 何か喜ばしい物を見たように悪党が笑う。 降りかかる数々の運命を打ち払った最後に、ついに彼の運命が来た。 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 結局、ユキは残ることを選んだ。 いいや違う。何も決断できなかったと言った方がいいだろう。 ただ動けなかっただけ。 診察室の椅子に座りながら落ち込む様に俯いて肩を落とす。 どうすればよかったのだろう? 分裂したもう一人の父から語られた話によって。 父が本気で自分を愛していることも、父が本気で殺そうとしていることも理解した。 それを喜べばいいのか、悲しめばいいのか。 そんな自分の感情すら理解できないでいた。 自分を殺そうとする父を戦うか? それこそ無理だ。 勝ち目がないからではない。 結局のところ、自分は最後まで父を敵視することなどできなかったのだ。 だって、恩を返したいとずっと思っていた。 他の孤児院の皆もそうだ。 だから、危険な仕事だって喜んで引き受けた。 その結果が無残だったとしても、死んでいった仲間たちも誰一人として父を恨んでなどいなかっただろう。 それはユキも同じだ。 例え父が自分を殺そうとしてたのだとしても、恨めない。 与えられた愛情が本物だったと言うのならなおさらだ。 結局のところ父にとってはどちらも大事で、より大事なモノを選んだだけ。 苦しいのは父も同じだ。そんな父を憐れにすら思う。 そんな心情でどちらの父の味方もできない。 だから、動くことができなかった。 「…………ぅう、痛ったい」 「一二三さん…………?」 ベッドに寝かせた一二三の口から呻きのような声が漏れ、ユキの意識がそちらに向いた。 どうやら九十九が意識を取り戻したようである。 「あっ。触らない方がいいよ鼻の骨が折れてるみたいだから」 「うぅ…………鼻が低くなるぅ」 傷を抑えようとする九十九の手を制止する。 鼻が折れてると聞いて、本気なんだか冗談なんだが分からない泣き言を漏らした。 「一応お父さんが応急処置はしてくれたみたいだけど」 本来であれば外科手術が必要な治療でも森の手にかかればナノマシンにより安全かつ即座に実行できる。 少し腫れているが、すでに整形されているため見た目上の変化は殆どない。 「そうなんだ。けど、お父さんって……」 「あっ……」 九十九は意識を失っていたからモリシゲが分裂したことを知らないのだ。 襲ってきた相手が治してくれたと言われても訳が分からないだろう。 あなたが切ったからお父さんが増えましたというのはなかなか説明が難しい。 「よくわからないけど、仲直りできた、って訳じゃないみたいだね……」 そうであったならよかったのにという顔で、難しい顔をするユキを見てそうではないと理解する。 寝ころんだままの九十九はよっこいせという掛け声とともに足を振り上げ、その反動でベッドから跳ね上がる様に起き上がった。 そして勢い余って、いててと呻き少しよろける。 「まだ動かない方が…………!」 「ありがとユッキー。けど、どうせあのバカが無茶してるんでしょ。じゃあ、行かないと」 森との敵対は続いていて、拳正はここにいない。 状況を判断するには十分な材料だ。 もう死んでいるなどとは欠片も思わないのだろう。 「どうして…………」 「え?」 「どうして、そんなに迷いなく動けるの?」 あの殺し屋の時もそうだ。 何の力もないのに、躊躇いもなく駆けていく。 何の迷いもないように。 「行ったところで何もできないとは思ないの? 助けになるどころか足手まといになるだけよ、死ににいくようなものだわ」 堰を切ったように責めるような言葉が出た。 言ってしまって、後悔する。 責めるつもりなんてなかったのに。 「うーん。死ににいくつもりはないんだけどな。死ぬのは私だってイヤだし」 ははと力なく笑う。 九十九だって死ぬのは嫌だ。 助けられ、生きてくれと言われた。 自ら死に向かうのはそんな彼らへの裏切りだ。 「けど後悔しないように生きるって決めたから。私は生きて、生き残るの。そのために行かなくちゃ」 なんて強欲なんだろう。 死にに行くのではなく生きに行く。 後悔しながら生きるか、後悔せずに死ぬかではなく、後悔せずに生きるにために九十九は行くのだ。 そうすると決めたからそうするだけ。 彼女にとってはそれだけの事。 思えば拳正も、父だってそうだった。 それができない弱者はユキだけ。 ユキだってそう願った。 何かもを取りこぼしたくないと願ったはずなのに。 ユキは途端に動けなくなる。 普段だってそうだ。 いざと言う時になると引っ張るのはどんな状況でも奔放なルピナスや、意外と土壇場に強い夏実だった。 「どうやったらあなたたちみたいになれるかな…………?」 ポツリとそんな本音が漏れた。 「ん? わたしたちって私や拳正みたいにってこと? いやー。なんない方がいいでしょ私たちみたいなのなんて」 冗談めかした本音だったが、沈痛な面持ちのまま無言でいるユキの態度を見て。 考えたこともなかったが真剣に考えてみる。 「多分、バカだからじゃないかなぁ。いやホント……自分で言うの何なんだけどさ。 難しい事を考えず、大事なモノが大事だから、それだけしか見えてないんだよ」 大切なモノを大切にする。 何て当たり前で、何て難しい。 助けられないとか、足手まといになるだとか。 きっと彼女にはそんな小賢しい思考すらありはしない。 行かなくてはという想いだけで彼女は動いている。 それは時に無謀とも蛮勇とも呼ばれるものだが、少なくとも動けなかったユキなんかよりよっぽど勇敢だった。 「ねぇ。ユッキーはどうしたいの?」 問いかけられる。 同じような問いを父も投げかけられた。 どうしたらいいかなんて、誰も強制などしない。してくれない。 優しく残酷な問いだ。 自分はどうしたいのか。 目を閉じて自分に問いかける。 ユキだって大切なものを護りたい。 何かを失うなんて耐えられない。 失う事はユキにとって何よりも恐ろしい事である。 そんな事を、父はずっと続けてきたのだろうか。 自らの手で大切なものを切り捨て続けて、そうやって生きてきたのだろうか。 それは酷く、悲しい生き方の様な気がして。 ずっと強い人だと思ってきた。 ずっと迷いない人だと思ってきた。 けれど、そうでなかったとしたならば。 「ありがとう一二三さん。私のやりたい事、決まった。 お父さんと新田くんたちの所に行くわ」 目を見開き、自分が得た答えを見る。 すぐへこたれて、落ち込む癖に、諦めだけは悪い。 なんて性質の悪い女。 けれどそれが私だ。 開き直るしかない。 大切な人を助けたい。 ただ一つ、それだけの事だったんだ。 真実など己の中に一つ持っていればいい。 「よーし、じゃあ行こう!」 「けど、一二三さんが行くのは許可できない。安静にしてないとダメ」 「へっ?」 えいと九十九をベッドに寝かしつける。 九十九は抵抗できずあっさりと倒れた。 「こんなにふらふらじゃない。脳震盪がまだ治ってないんでしょ? こんな状態じゃつれていけないよ」 「えぇ。一緒に行く流れじゃないの!? ヒドくないユッキー?」 抗議する九十九を笑いながら見送って。 診察室の扉に手をかける。 「ええ、そうね。私は――――悪党だから」 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 「やあ、ようやく戦う気になったのかい。ユキ」 現れた少女を見て悪党は笑った。 待ち人が来たのだ、それは喜ばしい事だろう。 だが、対照的に険しい表情をした白い雪のような少女は首を横に振った。 「いいえ、違うわ」 彼女は戦いに来たのではない。 彼女がここにきたのは別の目的のためだ。 「助けに来たの、お父さんを」 「残念だったね、キミを助けた方の俺はもう消えたよ」 消滅刀の暴走に巻き込まれ分裂体は消滅した。 それを知り、痛みを堪えるような悲痛な面持ちでユキは俯く。 それでも再び顔を上げて森から目をそらさず、強く在ろうと視線を維持する。 「……そう、それは残念だわ、本当に。 けど違うわ、私はあなたも救いたいのよ、お父さん」 その言葉がよほど意外だったのか。 暫く森は動きを止めると、呆れたように溜息をもらした。 「俺から何を聞かされたのかは知らないが。 救いなど気安く口にする物じゃあないよユキ」 他者を救うということは言葉にするほど簡単な話ではない。 特に森ほどこじらせた人間を救うことなど不可能に近い。 だが、ユキは怯むことなく、覚悟を決める様に一度目を閉じる。 そして大きく息を吐いて、決意を口にした。 「――――――私が悪党を継ぐわ」 森の愛するユキも森の愛する世界も両方救い上げる。 これが森茂を救うただ一つの冴えた方法。 「あなたの理想は私が引き継ぐ、だからあなたが何をか犠牲にする必要なんて、ない」 その理想も背負った重さも全てユキが継ぐ。 それがユキの出来る森に対する恩返しであり、森に与えられる最大限の救いだった。 森は目を見開き静止していた。 しばらくそうしていたが、吹き出すように笑う。 「出来るのかい、キミに?」 「分かりません。けれど必ず成し遂げて見せます」 その覚悟を問うような森の問いに、出来るとは断言できなかった。 この場で根拠のない返答をすればそれこそ不誠実だろう。 それでもやると決めたのだ。 悪党を背負うと言うのは並大抵のことではない。 例え世界中に『悪』と罵られようとも、自らを貫き通す強さが必要だ。 森茂ですら挫けかけた茨の道である。 これまでも森茂だからこそできた偉業である。 ユキにそれが務まるのか。 「では、キミが悪党を継ぐに足るか見極めさせてもらおう」 告げる森の全身から殺気が放出される。 満身創痍の人間から放たれているとは思えない程濃密な気配だった。 「まさか、この程度で折れる安い覚悟で口にしたわけじゃあないんだよね?」 森がこれまで歩んできた、そしてユキが歩もうとする道とはそういう道だ。 この程度乗り越えられずして選べる道ではない。 そうだ。 こうなることは分かっていた。 森を救うためには森を討たねばならぬ。 愛する者のために愛する者を討つ。 その矛盾こそが悪なればそれを呑み込む者こそ悪党である。 胸の痛みに手を握り絞める。 ここに来てユキは深く父を理解する。 ああこれが『悪党』の重みか。 「さあ、覚悟はできたかい? それとも撤回するかい。まあどっちにしても殺すけれど」 森が僅かに歩を進める。 悪威は破られ、悪砲は壊れた。 残ったのは失われた両腕に当てられる僅かな悪刀のみ。 増強したナノマシンは強敵二人を退けるのに大半を使用した。 悪刀及びナノマシンの残量からして気体化、液体化は不可能。 その密度はもはや元の腕よりも軽いくらいだ。 だが、それでも。 ひよっこ一人に勝利するには十分に過ぎる。 降りかかる運命を退け続けた大悪党である。 小娘など相手になどなる物か。 「さあ来い小娘! 我は悪党商会社長、森茂である。この世全ての善と悪を知る大悪である!」 悪党を見定める戦いに相応しいく悪党らしく名乗りを上げる。 己が矜持を示すように。 「悪党商会戦闘員、水芭ユキ。行きます!」 それに倣うようにユキも名乗りを返す。 ここから先は父と娘ではなく、悪党同士の戦いだ。 氷の刃と変形した漆黒の右腕が交錯する。 打ち負け、砕け散った氷が粒となって宙に舞い、月明かりに反射して光輝く。 「くっ…………!?」 押し負ける。 ユキに体は小兵であった拳正よりも小さいのだ、体格差があり過ぎる。 それを覆す様な達人の技量もユキにはない。 体格もない技量もない、ないない尽くしだ。 もう一度、氷の刃を作って打ち付ける。 ユキに出来るのは諦めない事だけ。 未練たらしく諦めが悪いのが唯一の取り柄なのだから、それを貫くしかない。 だが何の苦も無く、打ち払われる。 「ぅあああああああああああああッッッ!!!!」 そんな事は知った事かと、砕けた氷の破片が落ち切る前に、次の刃を生み出し打つ打つ打つ。 「馬鹿の一つ覚えだな」 気合や根性、そんなもので乗り越えられるほど、悪党は甘くない。 そんなものでは運命は超えられない。 何一つ変えることなど出来ないのだ。 森の両腕が変化する。 片腕は剣に、片腕は盾に。 氷の刃を盾で受け止め、返す刃で斬りかかる。 「む」 外れた。 いや、外した。 今の攻防。おかしかったのは森の方だ。 「…………なるほど、そう言う事か」 自身の体を見る。 見れば、全身がキラキラと光り輝いていた。 そこには細かく砕かれた氷の粒が月明かりを反射する光。 つまり彼女は無駄に勝てない打ち合いをしていた訳ではなく、その破片により体温を奪う事こそが目的だったのだ。 とっくに全身は麻痺していたのか、既に鬚すら凍っていた。 皮膚感覚すらない無痛症の森では気づくのが遅れる事すら織り込み済みだろう。 森を良く知るユキだからこそ思いついた作戦だ。 「悪くない。だが」 だが、悪刀で象られた両腕は健在だ。 この両腕ばかりは麻痺もクソもない。 例え絶対零度であろうとも凍り付きはしないだろう。 森が突き出した両手を合わせた。 腕が融合され突撃槍のような形へと変化する。 そして何の衒いもなく、そのままユキに向かって一直線に突撃する。 みえみえの攻撃だ。 盾として山のような氷の壁をその軌道に生み出す事も容易い。 「ッ!?」 だが全身を一本の槍とした突撃は止まらず、突撃を受けた氷壁が砕ける。 勢いを止めぬ突撃から、何とか身を躱す。 飛び込むようして前転し、立ち上がる。 細かな狙いをつけられないと見るや、瞬時に大雑把な突撃に攻撃方法を変更した。 軽量級のユキでは森の全力突撃を受ける事など不可能だ。 ユキに対して嫌になる程有効な攻撃である。 再び突撃槍が迫る。 その足止めに氷の矢を連射する。 だが豆鉄砲を連射したところで戦車が止まるはずもない。 降り注ぐ矢を全て弾き飛ばしながらユキに向かって一直線に迫る。 止まらない。 半端に攻撃していたのが災いした。 避けきれず、槍の先端がユキの脇腹を掠めた。 僅かに掠めただけなのに、ユキの体は吹き飛ばされるようにバランスを崩して倒れる。 学ランが裂け、白い肌に一筋の朱が浮かんだ。 あと数センチ深ければ、臓腑がポロリと飛び出していただろう。 「どうした!? この程度か、水芭ユキィ!」 怒号のような森の叫び。 容赦などない。 倒れたユキを粉砕すべく、全力で地面を蹴る。 「私は…………」 倒れたユキに漆黒の突撃槍が迫る。 もはやそれはあらゆるものを粉砕する核弾頭。防ぐ術など無い。 かと言って倒れた状況から躱せるものでもない。 絶体絶命の状況にて、少女は叫ぶ。 「――――――私は、悪党を継ぐッッ!!!!」 肉を貫く鈍い音共に赤い鮮血が舞った。 まるで時が凍ったような静寂が落ちる。 討った者、討たれた者。 互いに言葉を発することなく視線を交わらせぬまま決着という事実を受け入れる。 ポタポタと血の滴る音だけが、時が動いているのを知らせていた。 漆黒の槍の先端はユキの眉間の寸前で止まっていた。 そして地面より突き立った氷柱は、悪威の破れた森の胸元に深々と突き刺さっていた。 突撃を迎え撃つように氷柱を地面より生み出し、森の突撃の勢いを利用したカウンターを仕掛けたのだ。 地面を支点としていれば押し負けることはない。 重要なのはタイミングと強度。 それら全てを成し遂げる、実力が彼女にはあった。 だが薄氷の勝利だった。 あと一歩踏み込めていたならばユキの命はなかった。 あと一歩足りなかったのは、凍傷により足が壊死しかけていたのが原因だろう。 そもそも分裂体と魔拳士との連戦がなければ。 そもそも三種の神器が健在ならば。 敗北した理由は山のようにあるが、何を言ってもいい訳にしかならないだろう。 ただありのままの事実を告げる。 「――――キミの勝ちだ、ユキ」 悪党は敗北し、新たな悪党が勝利した。 漆黒の槍が腕へと戻り、氷の槍が溶ける様に砕ける。 体を支えていた柱が消滅し、森の体が倒れる。 「ッ! お父さん…………!?」 身を起こし、倒れた森へと駆け寄る。 森の隣でその手を取ろうとして、森がそれを制した。 「さて、あまり時間もない事だし、伝えるべきことを伝えよう」 悲観的な別れではなく、淡々と口を開く。 親子としてではなく、対等な悪党としての別れを選んだのだ。 「脱出手段はいくつか用意されているはずだが、恐らく一つは中央にあるだろう。そこを目指すといい。 戻ったのなら孤児院の院長室にある3番目の引き出しの底を調べるといい。引き継ぎに必要な手続きはそこに揃っている。 この手の作業で半田がいないのは痛いが、困ったことがあったら寮母を頼りなさい。君は知らなかっただろうがあれでも昔は相当な猛者だったからね、色々と助けになるだろう。 後は妻には俺が死んだという事実だけ伝えてくれ。こうなる覚悟は常にできている女だ。気にすることはない。子供と孫にはぁ……そうだなアレが上手くとりなしてくれるだろう。キミは気にしなくていい」 シッカリとした言葉で、矢継ぎ早にに遺言めいた言葉を残してゆく。 いやそれは遺言その物なのだろう。 もう己にはあまり時間がない事を誰よりも理解してた。 「…………お父さん」 ユキの声が僅かに震える。 だが、もう涙を見せる弱さなど許されない。 悪党を継ぐとはそういう事だ。 ここで泣いてしまえば、それこそこの戦いが無意味になる。 けれど、どうしても視界が歪んで前が見えなくなっていく。 そっとその頬に手が添えられる。 今にも消えてしまいそうな漆黒の手。 仕方ないなと泣いた子供をあやす様に瞳に溜まった滴に指を添える。 「強くなったなぁ、ユキ」 満足そうにそう言って最後の弱さを拭い取る。 最後の仕事を果たした漆黒の腕は地面に落ちるでもなく消え去った。 【森茂 死亡】 【C-5 公園近く/夜中】 【新田拳正】 [状態] 気絶、ダメージ(中)、疲労(中)、右目喪失(治療済み)、額に裂傷(治療済み)、両手に銃傷(治療済み)、右足甲にヒビ(治療済み)、肩に火傷(治療済み)、右腕表面に傷 [装備] なし [道具] 基本支給品一式 [思考] 基本方針 帰る 1 帰る方法の模索 【水芭ユキ】 [状態] 疲労(小)、頭部にダメージ(大)、右足負傷、精神的疲労(中) [装備] クロウのリボン、拳正の学ラン [道具] 基本支給品一式、ランダムアイテム1~3(確認済み)、 ロバート・キャンベルのデイパック、ロバート・キャンベルのノート [思考] 基本方針 悪党を貫く 1 中央へと向かう 2 首輪の解除方法と脱出方法を探す 【C-5 診療所/夜中】 【一二三九十九】 [状態] ダメージ(中)、左の二の腕に銃痕、鼻骨骨折(治療済み) [装備] なし [道具] 基本支給品一式×3、、ランダムアイテム1~4(確認済み) サバイバルナイフ、サバイバルナイフ・裂(使用回数 残り1回)、風の剣、ソーイングセット、クリスの日記 [思考] 1 帰る方法を探す 【魔導書の1ページ】 斉藤輝幸がオセを召喚する際に使用した魔導書の1ページ 使用者が望む存在を降霊する本物の魔導書であるのだが、本物なのはこのページのみである 150.人でなしの唄 投下順で読む 152.勇者 時系列順で読む 復讐者のイデオロギー 新田拳正 そして1日が終わる 水芭ユキ 一二三九十九 !緊急クエスト! ― 悪党をやっつけろ ― 森茂 GAME OVER
https://w.atwiki.jp/arcadia-impression/pages/23.html
板名「赤松健」 タイトル「小悪党アスカくん」 作者「雑草」 オリ主、トリップ? 2009年から原作設定の2003年にタイムスリップ。トリップ物で最近では珍しい原作知識なしの主人公。文章力は本板の中では低いと思う。基本ギャグ中心で話は進められるが、会話のテンポが悪くそのおかげですこし損をしている。個人的にギャグは笑えなかった。褒めるべき点は主役の最弱設定を貫き通している所。 -- 名無し (2009-06-27 12 54 46) 名前 コメント .