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比那名居 天子 加入条件 2章ボス。「天界へ帰れ!」クリア後にLv10で加入。 ステータス 残機 種族 取得 上昇 下降 復帰体力 2 人 スコア 3 3 100% クラス LV 体力 物理 魔法 速度 防御 てんこ 10 346/346 175 148 148 66 総領娘 10 346/346 181 155 148 66 20 559/559 255 222 214 133 不良天人 20 559/559 264 231 214 133 30 772/772 340 300 280 200 敵登場時 2章「天人は退屈する」。基本Lv+3(最小、最大22)。 2章「天界へ帰れ!」。基本Lv+5(最小、最大25)。 クラス 難易度 LV 体力 物理 魔法 速度 防御 総領娘 Easy / Normal / Hard / Lunatic / 22 / 不良天人 Easy / Normal / Hard / Lunatic / 25 / 追加所持即死耐性 低難易度不所持気符「天啓気象の剣」 (Easyは不所持) 地符「不譲土壌の剣」 (Normal以下は不所持) 「全人類の緋想天」 (Hard以下は不所持)(3クラス目習得なので、「天人は退屈する」ではLunaticでも不所持) アビリティ 初期所持物理攻撃 物理耐性+25 移動 1-4 クラスチェンジ習得物理系状態異常耐性Lv10クラスチェンジ。 劇薬が赤色表示。 防御Lv10クラスチェンジで待機が変化。 アイテム習得地上攻撃耐性+10天狗の宝器のアビリティポイントMAXで習得。 20に変化。50に変化。 たいあたり座布団のアビリティポイントMAXで習得。 突撃信仰のアビリティポイントMAXで習得。 強打要LV10クラスチェンジ。制御棒のアビリティポイントMAXで習得。 超速スピン要LV10クラスチェンジ。要石のアビリティポイントMAXで習得。 レーザー要LV10クラスチェンジ。剣のアビリティポイントMAXで習得。 必殺要LV10クラスチェンジ。笏のアビリティポイントMAXで習得。 天候適性・赤気要LV20クラスチェンジ。爻辞棒のアビリティポイントMAXで習得。 スペルカード 名前 移動後 威力(HIT) 射程 段差 命中 Cri 属性 回数 消費 熟練 必要技能 依存 攻撃属性 習得条件 備考 気符「天啓気象の剣」 ○ 410(2HIT) 直線1-4 上0下0 0 30 魔 4 2 × Lv3 魔法 魔法 緋想の剣 天候を晴に戻す 307 4 × 気質Lv30(装備) 4 緋想の剣Lv30(装備) 地符「不譲土壌の剣」 × 290(1HIT) 1-3範囲 上4下4 +20 -20 物地上攻撃 4 2 × Lv3 物理 魔法 クラス2要石 「全人類の緋想天」 × 320(5HIT) 5-5範囲 上下 0 0 魔 1 4 × Lv5 魔法 射撃 クラス3緋想の剣 指定地点方向への線状範囲人妖神霊特効 備考 前作においてはラスボス兼主人公を担った天人さま。 今作では2章ボスとして登場し、3章開始時に仲間になる。 防御が全キャラで最も高く、復帰体力も100%なのだが、 肝心の体力はLv30でも800に届かないという微妙な数値であり、残機も2しかないので実は結構脆い。 安易に、メイン盾きた!これで勝つる!とはいかない。 速度は平均程度、物理は高め、魔法は低いが、自前の魔符が優秀なので魔法メインの運用が良い。 加入時期が遅く、熟練度上げは結構な手間になる。 死ぬほど威力の低い超速スピンは勿論、命中率が不安な強打、たいあたりはスルーしてしまうのも手。 物理攻撃はトドメ用に鍛えておくと良い。 メインとなる魔法スペル天啓気象の剣は熟練度が無く、威力410と十分な火力があり、 上下0、直線のみだが、移動後可で1-4と脅威のリーチ。 しかもCri30という強烈な補正があり、回数も4回と中々。全体で見ても非常に高性能。 逆に言えば他のアビリティやスペルの殆どが使いにくいので、基本的にこれに頼ることになる。 椛やにとりと同様、元々防御が高く防御待機があるので物理にはかなりの耐久力がある。 特にチルノや諏訪子が苦手とする上位からすの爪は、防御待機ならほぼ無傷で済むので上手く利用しよう。 緋想の剣(Lv30)か、気質(Lv30)を持つ事で、天啓気象の剣がアイテム枠で更に4回使える。 威力は3/4に落ちてしまうものの、依然として超電以上の威力と高いCri率があり、 からす、毛玉、鬼火等の削り程度なら十分にこなせる。選択肢としてどうぞ。 ただし防御の高いかっぱや天狗等には威力の低さからダメージがかなり下がるので注意。 キャラ性能的に装備品には少々悩まされる。 きゅうりはメインのスペルが元々1-4と長い上に上下0なので、高低差の激しい3章では活かしくい。 京人形は上下補正の恩恵はあるが、元からそこそこの機動力があるので、味方との歩調は合わせやすい。 前述の通り緋想の剣を持たせてとりあえず回数を増やしておくのも手。 面倒なら西蔵人形×2で回避特化にしてしまう手もある。店売りなので用意も楽。 自前で何ら回避補正を持たないので安定性は低いが、移動しながらスペルを撃てるので前に出やすく、 元々耐久に難があるので相性は悪くない、気兼ねなく特攻して天啓をお見舞いしてやろう。 合成追加は3章加入なので天候適性・花を是非入れておきたい。 その他は魔法補正、速度補正、魔法サポート、コスト軽減等。 また、3章加入の都合上、封印対策に勾玉+結界もありかもしれない 2周目以降やEXでアイテムに余裕があるなら火力補強にダイソン球が望ましい。 一応技能Lv5の全人類の緋想天も使えるようになる。 優秀な魔法キャラだが、ほぼ天啓気象の剣のみに頼った性能なので、 スペルが切れるとあまりやる事が無くなってしまう。 前述の通り緋想の剣を持たせたり、合成で魔法補正や魔法サポートを追加して火力を上げよう。 EXでは「散歩する天人」さえクリアすれば早期加入が可能。 天子の基本Lvが非常に高いものの、他はきのこ系や毛玉系と耐久が低く、ある程度戦力が揃えば無理なく攻略できる。 EXはアイテム欄が一つなので回避特化が厳しく、EXアビリティで耐久の補強が楽にできるので、相対的な価値は上がる。 復帰が100%のおかげで一撃で残機が減らなければ3発は耐える事ができるので、 高Lvの鉄壁、肉の壁、光に弱い、○○に強い等を見かけたら習得しておこう。 評価 体力★★★★☆ 物理★★★★☆ 魔法★★★ 速度★★☆ 防御★★★★★ タイプ:魔法遊撃型 アビリティ雑感 物理攻撃:★★★ ボコォ。要石で殴る。 天子の物理は結構高いのでダメージは悪くない。トドメ用等に。 防御:★★★ 元々物耐性持ちで素の防御が高いので、物理にはめっぽう強くなれる。 厄介な待機アビリティを持つ八咫烏や鴉天狗をおびき寄せる際の壁として便利。 回避特化や上海でいいとか言っちゃいけない。 一応木刀×2で防御待機する事で物属性アビリティで回復できる。 地上攻撃耐性:★ そもそも地上攻撃属性の攻撃を放ってくる敵が滅多に居ない。EXでなら? にとりのポロロッカは物理属性&地上攻撃属性なので、天子が防御すれば耐性125(25+50+50)で巻きこんでもOKになる。 ちなみに要石を持つと130%まで上がるが、お燐の針山に巻きこまれても平気になる程度で意味は殆ど無い。 突撃1-4:★★ 通常の移動と移動距離に差が無い為、敵をすり抜ける用途でしか使い道がない。 強打:★★ 命中不安だが高威力。肝心な所でクソ外しする危険は低くないが、 物理攻撃と比べて連携の可能性はある。 たいあたり:★ 物理攻撃より僅かに威力が高い代わりに命中に大きくマイナス補正があり、追加効果の遅延はたったの10。 連携の可能性があるものの、強打の方がまだ使い道があるか。 超速スピン:☆ 死ぬほど威力が低く、熟練MAXでも殆ど使いようが無いアビリティ。 確かに周囲全部にダメージが入る珍しい技なのだが、実際の威力の程は名前負けもいいとこ。 技名の由来はベイブレード? レーザー:★★★ サブ遠距離攻撃。天啓が当てられない時に。 魔法が低いので他のレーザー持ちと比べるとダメージはやや低い。 熟練度上げをサボっている場合は物理アビリティよりこちらの方がダメージが出る。 必殺:★★ 必殺率の底上げに。天啓気象の剣が元々Cri率が高いので相性は悪くない。 防御の必要が無い時はこちらを。 天候適性・赤気:★★ 天啓気象の剣とあわせてラスボスキラー能力。だがそれ以外の使い道がない。 スペル雑感 気符「天啓気象の剣」:★★★★★★ 移動後可で高性能な魔法スペル、天候をデフォルトに戻す追加効果有り。 2HITは削りにもトドメにも使いやすく、必殺もガンガン出る。非の打ちどころが無い。 天子がやられる前にいかにしてこれを使い切るかが重要。 地符「不譲土壌の剣」:★ 天子を中心に地震を起こす範囲スペルで、当然のように地上攻撃属性。 敵のときにガンガン使われてかなり痛いので強いように見えるが、実際に使うと物凄く微妙。 物理依存の物属性だが、攻撃属性が魔法なので注意。 「全人類の緋想天」:★☆ 天子最終奥義かと思いきや、やたらと使いにくさが目立つ。 火力自体はかなり高く、範囲スペルで高HITと言えば聞こえは良いのだが、 技能Lv5を必要とし、消費4と重く、回数は1回だけ。ついでに射程は5-5と当てにくい。 5HITもするので高防御相手だと大幅にダメージが下がってしまうのも難点。 また、射撃属性なのでグレイズされる事もある。
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比那名居天子。その性、わがままにて。 俺が天子と会ったのはそもそもの原因は、俺がなんとなく計画した海外旅行だった。そして俺は、俗に言う魔のトライアングルを突っ切 るという、ちょっと面白そうな航空便に乗った。 するとどうだろうか。魔のトライアングルはどうやら俺の世界と現実世界との間にある歪みの一つであったらしく、目出度く飛行機が雲 に入った直後機器系統は狂い、飛行機が雲を抜けたと思ったら俺は幻想郷に入り込んでいた。今だからこそ考えられる仮説を言うならば、 あの飛行機の乗客の中で最も幻想に近かったのがこの俺だったのだろうと、そう思っている。 天人の生活に退屈し、普段から楽しい事を探している天子が俺みたいな楽しいモノを見過ごすはずなどなかった。結果として俺は天子に 拾われ、それ「今から貴方は私の子分だ」やら「家に来なさい」やら言われ、なし崩し的に天子の家で生活する事になった。 その翌日、天子は俺の事を皆に見せて回った。見せながら、「これが外の世界の人間だ」やら「こいつは私の子分なのよ」やら言ってい た。俺は「そうなのか?」という相手の問いに対して、コクリと頷くぐらいの心の余裕しかまだ持ち合わせていなかった。 天子はわがままだ。それに気づいたのは二日目からだった。単純なおつかいから代行で何かをしたりなど、俺が出来る範囲での事を色々 と命令された。しかし天子には恩がある、言う事を聞かないわけにはいかなかった。そしてそんなこんなで天界で一年間、天子の子分とし て生活した。 正直一年間も天子のわがままに付き合い続けたのは恩だけではない。俺は天子に惚れていた。見かけは正直可愛いし、わがままな所も度 が過ぎなければ可愛いもんだ。でも、同時に俺は薄々と気付いていた。天子の美貌があれば引く手数多だろう。そしてその中で俺の手を取 ってくれる可能性は、少しもないのだという事に。 手の届かない愛しい人の近くにいるのは、これ以上は辛い……。 だから俺は、天界を脱出する事にした。 俺の脱出に衣玖さんは快く協力してくれた。もちろん、脱出などという名目ではなく「ちょっと他の所にも行ってみたい」という建前で 頼んだのだ。空も飛べない非力な俺にとって、衣玖さんの手助けは必須だった。 そうして辿り着いた博麗神社で、俺は博麗大結界とそれを管理する大妖怪・八雲紫の存在を知った。俺はすぐに帰してくれと頼んだが、 どうやら八雲紫は今定期的な長期睡眠を取っている最中らしく、すぐに帰る事は出来ないらしい。しょうがなく俺は博麗神社に住ませても らう事にした。 最悪な予感ほどよく当たるものだ。終わった。何もかも。天界を脱出したことも意味がなくなった。博麗神社に突如としてやって来た来 客は、天子と衣玖さんだったのだ。 衣玖さんに手助けを請えば、天子にバレるのが早くなるというリスクがあるのはわかっていた。だが衣玖さんの手助けは俺にとって必須 だったし、なおかつすぐに帰れると考えていたのでリスクを超えるだけのリターンがあると思っていた。まあ……それも撃ち砕かれたが。 天子特有のズカズカという足音が近くまで聞こえてくる。俺は身震いのままに近くの押入れに身を潜めた。 「衣玖ーホントにここに○○がいるのー?」 「彼が大きな動きをしていなければ、恐らくはここに」 「……ふーん…………」 二人が部屋に入って来た。内心、いつバレるのかとヒヤヒヤして呼吸もままならない。 「…………衣玖、ちょっと席を外してくれない? 一人になりたい」 「? わかりました。ですが、くれぐれもご注意を。総領娘様、彼もただの人間とはいえ男ですので……」 「わかってるわよ。……………………それで、そこにいるんでしょ? ○○」 天子が言った直後、押入れの中がグラグラと震え始めた。その凶悪なまでの力に押入れは決壊、俺はそのまま天子の足元に転がり落ちる 事になった。 「………………あー…………えっと……」 とりあえず倒れたままではアレなので、ボロボロになった服を叩きながら立つだけ立ってみる。体の節々がギシギシしてちょっと痛い。 「…………なんで、私の前からいなくなったの?」 天子は俯きながらプルプルと震えている。彼女は博麗神社を倒壊させるほどの地震を起こせる能力を持っている。マズイ。何か言い訳を しなければ……。 「いや、えっと…………うん。ちょっと迷惑かなーって」 「迷惑なんかじゃない。○○は私の言う事聞いてくれた……迷惑なわけがないよ……」 「いや、あー…………俺ただの人間だから天界で生活するのはちょっと変でしょ」 「何のために○○を皆に会わせて回ったと思ってるの? 皆○○の事気に入ってくれてたんだよ?」 「………………あー……」 駄目だ。これ以上は言い訳が思いつかない……。 「…………私の事、嫌になったの?」 「そんなっことはっ……ない……よ……」 「じゃあなんで私の前からいなくなったのよ!」 天子の声が俺を攻め立てる。これは、小っ恥ずかしいが本当の事を言わなきゃいけないのか……? 「…………わかった。言うよ。ただ……この事を聞いたらもう俺の事は忘れてくれ。俺は外の世界に帰る。天子も前のように暮らす。つま らないかもしれないけど……頼むよ」 「………………」 「俺は天子の事が好きだ」 俺の言葉に天子は少しビクッとした。しかしその顔は依然俯いたままだ。やっぱり「子分の分際で」と怒っているのだろうか。 「一目惚れって言われちゃそれまでだけどな。だから一年間天子の傍で生活してた。でも……気づいたんだよ。天子は美人だし可愛い。だ から色んな所からお誘いが来てもおかしくない。 そう……俺がいくら頑張ったって天子は俺には振り向かない。運命の女神は俺に微笑まない。天使は俺に笑いかけない。そんなことわか ってるんだ。俺はあくまで天子の子分。その程度の身分だって…………でも、自分の感情ばっかりは誤魔化せない。だから出て行く事にし た。ただ、そういう事だよ」 これまで溜っていたいた何かがどっと溢れだした。天子への想いも、この現実への悔しさも、全部、全部。 「だから俺は元居た世界に帰る。これ以上天子の近くにいるのは辛いから。天子――手の届かない愛しい人。顔を合わせるのも、これで最 後になるな。…………さよなら、だ」 「――さよならになんかしない」 天子が顔を上げた。目尻には涙が、そしてその顔はそのまま――。 「……んっ!?」 キス、された。 「…………なに……え……? 何で……?」 「………………」 気づけばいつの間にか俺と天子は抱き合う形になっている。どういう事かはよくわからないけれど……え……? 「どうして私が子分なんてものを取ったと思う?」 「いや、それはただの暇つぶしだろ?」 「最初はそうだった。でもね、私飽きっぽいの。一時の暇つぶし程度で一年間も一緒にいたりしないの」 「…………え……え? ど、どういうこと?」 俺の質問に天子は腕を緩め、顔を見せたかと思うと俺の目の前ズイッと寄って来た。 「私も○○の事が好きだってことよ」 そして、二度目のキス。 正直もうわけがわからなかった。けど、煩悩は忠実に働いていた。気がつくと俺は天子を押し倒し、今まさにその服に手をかけようとし ている最中だった。 「――うおっとっ!」 ギリギリで理性を繋ぎとめる。しかし押し倒した天子の姿は魅惑的で、このままじゃあ理性が崩壊するのも時間の問題だった。 「私じゃ……嫌……?」 「いやっそんなことはないけど…………」 「あーもーはっきりしてよ! …………折角勇気を出したのに……」 寂しげに言う天子の声。それだけで、俺の理性は刈り取られた。もう、ダメだ。 「……俺で良いのか? 天子ならもっと上の男だって狙えるだろ? それに、俺みたいなただの人間を……」 「もういいじゃないそう言うのは。○○は私が好き、私も○○が好き。それで……それだけで、十分……」 そのまま俺と天子は崩れるように横になった。 その後、天子の服を脱がそうとした瞬間に衣玖さんが帰って来て、襲っていると勘違いされてビリビリ攻撃をされたのは、色んな意味で 忘れ難い思い出だ。 そんなこんなで。 「あーもーまた失敗したー! 衣玖ーここどうするのか教えてー」 「ここですか? ここはほぐすように掻き混ぜてですね……」 目出度く俺は天子の夫として比那名居家に帰って来たわけだ。今はちょうど天子が衣玖さんに料理を教わっている。なんでも「愛妻料理 の一つも作れなくてどうするの! ○○はそれでいいの!?」と言うのが天子の弁だ。正直俺は「別に良いよ」と言ったのだが、本人が納 得できないらしく結局衣玖さんに教えてもらう事になった。 「――よしっ出来たっ! はい○○これっ!」 「うおっ……これまた個性的な……」 緑色の味噌汁なぞ飲んだことないんだが。あれか、これは実は青汁ですっていうオチですか。 一縷の望みをかけて衣玖さんの方を見るが、ニッコリ笑っていた。笑ってはいるが「食えよ」オーラがヒシヒシと感じられる。怖い。 「…………おし! 俺も男だ。ここは一気に――!」 …………ゴクリ。 「――あーちょっと○○大丈夫!?」 「あら、ダメでしたか」 「いや衣玖そんなに落ち着いてないで早く手当てを――」 俺たちの幻想郷は、今日もおおむね平和だった。 うpろだ1167 ─────────────────────────────────────────────────────────── memory 梅雨も明け、夏の兆しが春を凌駕し始める。日光が降り注ぐ外にいれば、太陽が疎ましく思えただろうが、天子と霊夢は我関せずの態度で縁側に腰掛けていた。 乙女二人揃えば、色恋沙汰へと昇華する。自ずと、互いの腹の探りあいが始まった。 面白いのは他人のことであり、自分の話題など恥でしかない。 だから、どうにかして相手のことを聞き出そうと、あの手この手を使用する。 「あんた、幼い時に天界に昇ったんでしょ。想い人とかいなかったの?」 「何を言ってるのよ、霊夢。神社が壊れたから、精神がおかしくなった?」 「それは残念。そうなら、もうとっくの昔に壊れてるわ」 ちょうど影になっている縁側。心地よい風も吹き、物事を第三者から鑑賞するのには最適な地点である。 冷たいお茶が入ったカップを一度置き、霊夢は目の前に広がる工事現場へと目をやった。 「あ、忘れてた。今日、里から一人来てるの」 「何の為に?」 「神社の修理の手伝いに。一応、博麗神社は里の安全も守ってることになってるの。忙しいらしいし、あんたが連れてきたので十分だと思ったから断ったんだけど、どうしてもっていうから」 「ふ――ん……」 興味なさそうに返答してから、湯飲みを口元へと運ぶ。 天界に住む住民には、地界の物事など、お茶が美味しいか不味いかと同じ位にどうでもいいのだろう。 そして、かつて地上に住んでいた過去を持つからこそ、差があまりないのが分かる。 「あの設計図持ってる人。見える?」 「うん……」 湯飲みを廊下に置いてから、ごろりとうつ伏せになる。 視界が歪む。首を無理矢理現場に向けると、立っていた人が一瞬で傾いた。 ひんやりとした廊下の感覚に、目蓋が重くなる。熱さを増してくる季節、この感覚に世話になることも増えるだろう。 何か直視できないモノがあれば、見る角度を変えればいい。眩しく照りつける日光は目に毒だった。 その眩しさは、普通なら見えるはずの男性や女性達の顔を無に返している。 「こっち側の建物に詳しい人がいなかったからね。どうなることかと思ったけど、ありがたいわ」 「だから、設計図持ってリーダーみたいなことしてるのね」 「本当のリーダーがぐうたらしてるからね」 巫女の言葉に、青い髪の少女も負けずに反論する。 「霊夢がそれを言っては、この世も末よ」 あって数日しかしていない人物の評がそれならば、確かに世も末だろう。 身体の角度を変え、頭を腕で支える。傍観者の態度で労働人を見る少女……比那名居天子は重い目蓋を擦りながら呟いた。 先の天気が絡んだ異変で、博麗神社は崩壊してしまった。原因となった局地的な大地震を発生させたのが天子。 幼い時に親と共に天界の住人となった天子は、地上にいたときは地子と名乗っていた。地上の子が天上に住むのはおかしい。だからこそ、彼女自身改名する決心がついたのだ。 異変の解決よりも、むしろ神社の復旧を犯人にさせるつもりだった霊夢が突き止めたのが、天界に住む少女、天子だった。 元の神社を把握しているのは霊夢だけ。交流が全くなかった天子や天女、訪問でさえ希少だった里の人間が分かるはずもない。 霊夢は設計図段階で、こっそり神社の完成予定を大きく変えていた。大きければ良い。そう考えるただの人間らしい思考である。 だが、後に掃除が以前よりも増え、霊夢にかかる負担が増大してしまう未来を招く結果となってしまったのに彼女の気が付かない。 身を持って知るのは、まだ先のことだ。自業自得、というべきだろうか。 里から派遣される人物は前途多望らしく、大工の親方が信頼して送りだせる程らしい。 下界の建物に対し情報でしか知らなかった天界の人々と、実際に下界で暮らしていたが幼い頃上へ昇った女性。 知識の点で一日の長がある彼は、指示役になるのは当然といえる。 稚拙な下界で燻る存在の命令と誤解されるのでは、と第三者で見ていた霊夢は思ったのだが、的確な判断と無理をさせない指示で、上に立つ者に最重要な信頼をすぐに獲ていった。 「霊夢――! ちょっとこっち来てくれ――!」 「はいはい」 湯飲みを縁側の廊下に置き、霊夢が歩いていく。その先では、設計図とにらめっこする男性と女性が数人。 建設現場で男性よりも女性の方が多い光景は、幻想郷といえども今この時だけだろう。 天子に、何処か耳が初めて捉える反応を示しながらも、はっきりと聞き慣れた音が聞こえた。 天界で飲んでいたお茶と味も変わらない下界のお茶は、拒絶反応が出るはずもなくすんなりと飲める。 または、陶器の入れ物が廊下と交わりたてた音かもしれない。しかし、上でも木の建物は珍しくない訳でもない。気の所為だろうと考えた。 「地面に残っていた跡から推測される社殿の大きさよりも、設計図の方が大きいんだけど……」 「あー―、大丈夫大丈夫。気にしないで」 「それで、もう一つ。この後の天気について……」 「それは少し待ってて。今天気予報するから。天子――!」 遠くから自分を呼ぶ声を聞いた天子は、夢の世界から強制的に帰還を余儀なくされた。 「何よ、もう。ゆっくりしてたのに」 「あんたは天界でも何処でもできるでしょ。この後の天気を教えなさい」 「心配はいらないわ。夕方までずっと晴れ。綺麗な夕日が見れるでしょうね」 「あんたが言うなら信頼できるわね」 男性と女性達の方を霊夢は振り返る。 「ってこと。今日の作業をお願い」 「了解。じゃあ、皆、作業を続けて!」 はーい、という統制された返事。それだけを見ても、彼がリーダーとなっていることは明白だった。 女性達は天界から連れられた人々である。当然だが、上に属する者が下に属する者から受ける支配は一時的には続いたとしても、継続するのは難しいだろう。 天界から彼女達を連れてきた人物がリーダーとなるはずだ。その人物である天子は今、黄金輝く夕日を浴びながら、現と夢の境界でうつらうつらを繰り返していた。 仕事を手抜きしないか監視する唯一の役目も、男性にいつの間にか乗っ取られてしまった。 仕事というべき掃除ができない霊夢と同じく、縁側で作業風景を眺めることぐらいしか残されていなかったのである。 そして、霊夢と天子は会話を交わすこともなく、お茶を飲みながらただぼんやりとしていた。 時折無くなる液体を継ぎ足すために、霊夢が台所へと足を運ぶ以外に二人が腰を上げる動作を行わない。そんな中、天子は夢を見た。珍しい、昔の夢である。 「……じゃあ、今日はここまで。明日も晴れるらしいから、また明日もよろしく頼むよ」 設計図をくるくると丸めながら、彼は口を開いた。終了の宣言が残された後は、いつも労働で疲れた女性達を少し休めてから一旦天界へと帰るのが常となっている。 今日もなんら変わりなく、霊夢が冷えたお茶を作業隊の面々に配っていた。 目蓋を擦りながら、天子は一つ背伸びをする。長い間同じ体勢を保っていたからか、固まった筋肉は僅かな動きでさえも悲鳴を上げた。 緩まった唇から吐息が洩れる。憂鬱が含まれた息は、大気と混ざり一瞬で消えた。 「……あんたにもご苦労さま、って言うべきなのかしら」 空になったお盆を持ちながら、苦笑を備えた霊夢が近づいてくる。そんな彼女に対し、天子は軽く手を振りつつ口を開く。 「当然でしょ。働き手を連れてきてあげたのは私よ」 「そもそも、神社を破壊したのはあんただけどね。暇だからって理由で」 そう言って、霊夢は復興を遂げつつある神社に目をやる。 いくら訪問者が珍しいからとはいえ、日常の証だった神社が存在しないというのは心に隙間が空いたようで好きではない。 「だ――か――ら――。悪かったと思って、造り直してあげてるでしょ」 「本当に悪かったと思うんなら、あんた自身が働きなさいよ」 「嫌よ。面倒じゃない」 言い切る天子に、霊夢はつい苦笑してしまった。両親からどんな教育を受けたのだろう。機会があったら、過去について聞いてみたいものである。 「霊夢、お先に失礼するよ」 別の声。今度は天子の耳に直接聞こえた。以前よりも発生源が近かった所為か、耳が戸惑いを覚えはしない。 見れば、リーダー役だった男性が目の前にいた。その後方では、地面に腰を降ろして談笑する女性達がいる。 大工にしては体格はあまり宜しくない。少し平均から背が高いのが、特徴といえば特徴か。 「ええ、お疲れさま。明日もよろしくね」 「分かってる。親方からも言われたし、頑張らせてもらうよ。……えと……」 彼の視線が天子を向いていることに、天子は霊夢が口を開いてから分かった。 それまでは、頭の奥が見えない何かで握られていた感覚に囚われて身動きさえできなかった。 彼が言葉の最後を滲ませたのに、天子ではなく霊夢が気付いた。惚けている天子は、微小な差異など判別する能力を一時的に失っている。 霊夢は気付いたものの、実際に言葉にしたのは彼女ではない。 「まさか……地子?」 「え……?」 酷く懐かしい響きと音程。霞んだココロが、彩りを取り戻す。 目蓋の裏に浮かび上がる光景は、夕日を塗り替えて雲一つない晴天を取り戻す。 「チコって誰よ。コイツは天子。我侭な天界人、比那名居天子っていうのよ」 「あ、間違えたのか……。すみません、間違えました」 「あ、え……うん……」 天子の頭は、大地震が起こったように滅茶苦茶で、思考が展開する隙間などない。 自己紹介は霊夢に取られ、彼女から口を開く機会を無くしてしまった。 「僕は○○です。里から手伝いに派遣されました」 差し出される右腕。土木工事をしていたからか、楽を繰り返す天子と違い、所々角張り固くなっている。 その手のひらを、夢心地で天子は掴んだ。地獄で苦しむ罪人に、伸ばされた救いの手というのはただの比喩に過ぎない。 だが、今の彼女を表現するならば、その表現こそが的確だった。 「私は……私は天子。霊夢が言った通りにね……」 夢ではない。しっかりと掴んだ彼の手には、ちゃんと暖かさがある。まるで、覚えのない夢のように。 「天子様、ですか。短い間と思いますが、よろしくお願いいたしますね」 「天子様……って柄じゃないけど」 天界に住むべき人物は、その事実だけで地上とは乖離される。彼は、天界自体が尊敬される対象だと思っているようだった。 そんな彼を、霊夢はたった一言で酷評する。我侭で、つまらないからと神社を崩壊させた過去を持つからこそ、彼女のみが言うことを許された台詞。 天子にも反論する権利がある。だが、彼女は口を開かない。溺れて限られた空気を求めるかの如く、口を小刻みに動かしているだけだ。 「では、霊夢。そろそろ失礼するよ。ごめん、長く居座って」 「いいの、気にしないで。暗くなってきたから、気をつけてね」 霊夢が彼に向かって手を振る。天子は何もしなかった。 階段に彼の姿が全て消えてから、天子は知らずに溜息を吐いた。もっと前に吐き出していれば、胸のもやもやの正体に気が付いたかもしれない。 「天子様。暗くなってきたことですし、帰りましょう。お父様もお母様も心配なさいます」 連れてきた者の一人に話しかけられてから、改めて天子は意識を取り戻した。崩壊した頭の中は未だに整理されてないが、常識に乗っ取った判断はできるだろう。 「え、ええ。そうね。そうしましょう。準備お願いね」 「もうできていますわ。後は天子様だけです」 周りを見渡してみれば、手荷物を持った女性達が揃っていた。確かに、夕日は退場を始め、東の空には静謐の闇が広がり始めている。 しどろもどろになりながら、必死に言葉にしても、天子のみが正常な状況を把握していなかった。 「あ……う、そ、そう。分かったわ、帰りましょう」 明日もちゃんと来るのよ、という霊夢の言葉を聞いた気がする。しかし、ぼんやりとした意識がちゃんと記憶するはずもない。 しかし、脳裏で記録されたその言葉を取り出す度に、再び足を運べる口実ができたと心が弾むのだった。 次の日も天子は博麗神社に来ていた。手伝い人を連れてくるのが天子であり、天界でも仕事がある訳でもない。 どうせ天界にいたとしても、暇な一日には変わりがない。だから、話し相手にも困らなく、同質でお茶にも困らないとくれば訪れるのが当然である。 「あんた、様子おかしくない?」 何度目の御代わりを貰った辺りだっただろうか。天子に湯飲みを手渡した霊夢が、そう言った。 その時、天子は仕事風景を何も言わずに見ていた。彼は設計図と実際の光景を照らし合わせながら、アドバイスを投げ掛ける。 集中と凝視は類似している。どちらとも取れて、どちらとも取れない態度を続けていた天子は、予想外の言葉に身を震わせた。 「え?」 「朝からずっとぼんやりしてる。何処か一点を見つめているようで、何も考えてない。どうしたのよ」 「……霊夢には、関係ないよ……」 搾り出した言葉は、あまりにも惨めで、嘘をついていると暗示しているようなものだ。 何故か、声も今にも泣きそうだった。 「……悩み事があるなら、相談に乗るけど?」 「大丈夫。大丈夫だから……」 随分と心が脆くなってしまっていた。しっかり体の心を支えていなければ、今すぐにでも霊夢に飛び込んで、泣き叫んでしまう。 もし誰かにそれを見られて、色々とからかわれるのは本位ではない。だから、その一点のみで天子は踏みとどまった。 薄く目に浮かんだ液体を、振りほどいて。 「間違いないの。間違いは、ないの……」 それから数日後に、宴会の話が持ち上がった。 仕事後に始まり、次の日を休日にすることにより夜中騒いでも仕事には影響を残さない方式。 天気に恵まれ、予定よりも順調に物事を消化していたので、息抜きをする暇ができたのだ。 日頃の宴会の開催場所だった神社が崩壊し、地界の宴会も中止だったのである。 誰ともなく、何処からともなく現れた白黒魔法使いを始めとして、色々と姿を現していたのには霊夢は苦笑するしかなかった。彼女達にとっては、いい口実に過ぎない。救いは、差し入れを少なからず持ってきていたことか。 夕闇が空を包んだ後。料理と酒が地面に引かれた敷物を彩り、人は寂れた神社を賑やかにする。 更に騒がしくなるのは、まだ早い。 人々の前に立った霊夢。その手には、酒が入ったカップが握られている。 「いつもお仕事ご苦労さま。今はゆっくり休んで、英気を養ってね」 「お前、人様に仕事させておいて何言ってんだよ!」 帽子を脱いで、豊かな金髪を露わにした魔法使いが軽口を投げ掛ける。 その言葉に、所々で苦笑が起きた。ただの苦笑で、文句が一言もなかったのが、当然といえば当然である。 「ああ、もう……魔理沙ったら。……じゃ、乾杯!」 乾杯、とあちらこちらで杯は重なり合う。天子も、座席の近くにいた天女と乾杯をする。古今東西、上でも下でも、常識は常識なのだ。 天子は酒は嫌いではない。むしろ、好きの部類に入る。陽気な気持ちで騒ぐのは心底楽しくて仕方がない。 だが、心配事がなければの話。これまで体験した宴には、心配事など二日酔いぐらいしかなかった。 本当に心を煩わせるコトが伴った宴会は初めてだった。 最初はアルコールを摂取すれば酔いに任せて忘れられるだろうと思った。 だから、早いペースで杯を重ねていく。周りにいた天女達が心配する位の速度で。 「……なんでよ……」 騒ぎに紛れ、溜息が誰かに聞こえることはなかった。既に酒の味を感じられない。 乗り遅れてしまったのは天子だけだ。その他の面々は友人や親しい人、話し相手を見つけていた。彼女達の表情に憂いはない。酒の席に心配事は不要である。 見れば、巫女に茶々を入れた魔法使いは彼と楽しげに話をしている。 邪意がない二人の笑みは、初めて会っただろうに意気投合を遂げた証。彼はあまり人見知りをしない性格とはいえ、酒の力は凄いというべきだろう。 心が締め付けられる。胸の奥が解けない糸で、雁字搦めにされた感覚を覚えた。 正体が判らない何か。感情、思念、または他にあるかもしれない。 とにかく、こんな光景を見たくない。目にさせないなら、自分が当事者として魔法使いの位置にいたい。カタチだけの願望が降り積もっていく。 本当に。 嫌になる。 「……なんで……よぉ……」 「なにが?」 心臓が停止するのでは、と思われる衝撃が天子の身体を駆け巡った。 聴覚が捉えた言葉が細胞の一つ一つにまで沁み込み、冷や汗という反応で答える。 「あ……霊夢に、○○……」 「こんばんは、比那名居様。楽しんでおられますか?」 驚く程すんなりと彼の名前が出た。 当然である。何度も呼んだ昔があれば、忘却する方が難しい。唯でさえ多感な子供時代。別の感情さえあれば、常識となろう。 「どうしたのよ、一人で。あんたも宴会には乗り気だったでしょう」 「え……。ちょっと、考え事。そう、考え事よ」 「へぇ……」 奥を覗かれるような感覚を覚える巫女の視線が、実際に痛覚を通じて天子を襲う。 そういえば、と霊夢は話題を転換させた。脇に立っていた、彼へと標準を映す。 「あの時に言った、チコって誰のことなの?」 「ヒナナイ、って名字に覚えがあってね。珍しい名字だろ? でも、テンシって聞いたことなかったんだけど……」 数言口内で呟いてから、彼は天子を改めて見る。 彼の視線は、はっきりと目上の人に対するモノで、何故か天子を苦しめた。 「あの、チコという名をご存知でしょうか? 地面の地に、子供の子って書くのですが……」 「あ……う……」 「アイツは一人っ子のはずですが……。まさか、姉妹とかいたんですかね……」 まだ覚えている。覚えてくれている。 首を傾げる姿は、記憶に焼きついた瞬間の反復。 麻薬の如くに頭を駆け巡る喜びを、天子は他人事のように思った。あまりにも現実を離れていて、邯鄲には信じられない。 「ねぇ、チコってどんな子供だったの?」 もう全てを分かっているのだろう。悪戯を思いついた幼児のように、霊夢の顔が怪しく笑う。 その笑みが天子を一直線に向いていたことに気付き、更に天子は居心地が悪くなった。 「そうだね……。まず、我を主張するってコトが珍しい子供だったかな……」 「そうなんだ……。我侭とか、利己的というか……自分が通ってないと嫌、みたいなことあった?」 「あんまりなかったね。友達とかの決定事に口を挟むのが珍しかったよ」 「ふむふむ……。他には何か、ある?」 彼の言葉を何度も反芻しながら、巫女は彼に先を促す。彼女の頭の中では、現在と過去の乖離を比べているのだろう。 何も知らない者にとっては、霊夢が浮かべている意地の悪い笑みの理由など分かりはしまい。 「単純に臆病みたいな感じ。些細なことで泣いて、いつも僕の背中についてきたなぁ……」 「へぇ……興味深いわね。じゃあ、チコが大きくなったら……」 そう言って、流し目で天子を見る霊夢。彼や周りの人々から見たとすれば、軽く細められた瞳には、しかし威圧感など存在しない。 天子の心の傷を抉るには、十分過ぎる威力を伴っていたが。 「……お淑やかで、絹のように滑らかで。それこそ、無垢なお嬢様……って感じに育ってるのかしら」 ある意味決定的な一言を言われた。もしも彼が肯定すれば、天子の意味が無くなる。記憶を離れた現在など、手に入れる価値もない。 「ははは……。うん、そうだね。そうなんじゃ、ないかな。ご両親も厳しい方だったしね」 彼の言葉は、現実の厳しさをたった一言で教える。期待を繰り返した刹那を否定し、天子が考える最悪の結末への階段を登っていく。 手摺りなど存在しない階段。足を踏み外せば、奈落へと真っ逆さま。 そして、天子の階段は先が無い。足を踏む隙間さえ無い。まさしく今の天子がおかれている状況だった。 「お――い、○○、霊夢!――! こっち来て飲もうぜ――!」 魔法使いの声。彼女の周りには、既に人々が群がっていた。 見る者を安心させる彼女の笑みには、惹かれる者も多い。天子も通常の心理状態だったならば、積極的に接触を取っていただろう。コップを片手に叫ぶ彼女に他意はないのだろうが、結果としては彼女に救われた形となる。 先程のような安っぽい嫉妬を恥じ、心の中だけで謝る。頭を垂れたままで、顔を上げずに。 今口を開いては、感情の奔流しか現せない。きっと、トコロ構わず泣いてしまう。 彼の目の前で、否定されたチコが天子と暴露されるのはなんとしてでも避けなければならない。 今を生きるチコが、彼が考える正反対の位相に位置することは、彼にとっても苦痛だろう。 「それでは、比那名居様に霊夢。また」 一つ礼をし、彼は喧騒の中に消えていく。湿った天子が纏う雰囲気と、酒に酔う人々の空気は決して交じり合わない。混じらない方がいい。 宴に心配事は、やはり余計なのだ。日々の悩みを忘れるのが酒の力なら。悩みを消し去るのが宴会の効力である。 「……っ……!」 「ええと……」 「……霊夢も行きなさいよ。こ、ここにっ、いて……は、ツ、っ、マラナイわっよ……」 「あのね……、天子」 霊夢の溜息。空気が微かに震える。 それが発端となったのか、俯いた天子のスカートに、ぽたり、と液体が落ちる。その雨は止まることを知らず、何度も何度も落下を繰り返した。 「私の記憶が正しければ」 「あ……ぅ、あぅ……、あ……」 「……あんたの気質は、降雨じゃなかったと記憶してるけど?」 その音は、天子に無情に、無常に聞こえた。 脆く、ひびが入った天子のココロが対抗できるはずもない。 記憶の奥で、誰にも見られないように裸で蹲る彼女は、あまりにも純粋で、あまりにも幼かった。 「う……ぐすっ、うぅう……! うわぁぁぁぁぁ……!」 本当に、二人の周りだけ隔離されている。天子が一目を憚らずに大声で泣いているにも拘らず、誰も寄ってこようとはしない。 酔っているからだろうか。もし理由を問われても、天子にははぐらかすことぐらいしかできないのだが。 「……私も悪かったわ。そんなに悩んでたのに、深く考えないで……」 「本当に悪く思ってるなら、胸を貸しなさいよぉ……」 誰にも注目を浴びないというのは本当に久しぶりだった。不良呼ばわりされたとはいえ、天界に住むのは一種のステータスでもある。 しかも、運が良いのか悪いのか、オマケで天上を許された一家なのだ。それこそ、良い意味でも悪い意味でも注目される。 それとも。 今霊夢の胸で泣きじゃくる天子を完膚無きまでに崩壊させたのは、彼がチコのみに興味を示していたからかもしれない。 チコへの興味は、天子への無関心を意味する。今正体を明かして、惚けさせることはできるだろうが、彼の記憶に漂うチコに摩り替わることはできない。 天子が望むのは、過去から続く道に乗り入れること。 チコならばどんなに良かったことか。過去の喪失さえ乗り越えてしまえば、すんなりと隙間に入り込める。 同じ線路を走りさえすればいい。だが、チコでは乖離が襲う。かといって、天子となった今では彼の予想を裏切ることとなる。 板挟みの状況から逃げるように、天子は泣き続けた。 「寂しいよ……胸が痛いよ……ぉ……! 寂し、かったんだよ……○、○……!」 彼の名を呼ぶ。叫び続ける。 対象となる彼は、天子の現状を知らないのだろう。要らない心配をかけるのも間違いなのだろう。 できることなど何もない。泣き疲れるまで泣き、天子は静かに意識の蓋を閉じた。 「……眠ったの、天子……?」 問いかけても、返答はない。安らかな寝息と、全てを委ねた柔らかさを感じるだけ。 一方的に感情をぶつけられるのは勘弁願いたかったが、知り合いとして他人事ではないので如何ともしがたい。異変で絡んだ縁もある。 だが、解決は二人の問題である。部外者の霊夢が口を挟む隙間など存在しない。 「……願わくば、天子の道に幸あらんことを……」 宗派も何もかもが違う祈祷に効果があるのかは分からない。霊夢は何処か冷めた面持ちで、身動き一つしない天子に向かって呟くのだった。 久しぶりの夢を見た。久しぶりに、ではなく、文字通りに久しぶりの夢。 最後に覚えがある夜を記憶で検索してみる。何故か、目星が付いた。 地子から天子へと改名を決心した日。 しかし、理由までは思い出せない。最後まで躊躇わせていた事由も姿を消している。 亡失には価値が無いから。頭に覚えておき、心に書きとめる価値が無い。諦めるとき、そんな言葉を耳にした。 そして、彼女は自らの口で繰り返す。 麻薬のような、興奮が沈静へと向かう感覚が身体を駆け巡る。 何か重要なことを忘れた虚無感と引き換えに、他にどうでもいいことを得た満足で満たされていた気がした。 無いといえば、無いのだろう。 忘れた記録に、何の価値があるというのか。決して忘れないと誓った記憶でさえ、人間は忘れる。地上にいても、天界にいても同じ。 だから、ヒトは恋して涙を流すのだろう。悲哀でも享受でも、涙という点では同じ。 ただ質が違うだけだ。その質は他人には分からない。自分自身にしかワカラナイ痛みは、貴重であり身の近くには置いておきたくなかった。 「う……」 夢のような時間は、儚くて。自分勝手な立場を恥じる態度さえ見せず、消え去った。 我侭を言い続け、周りを振り回す天子が文句を言えるはずもない。 止まらない時計。其を決定付ける唯一の印である普遍性。 時計に対する動き続ける針は、天子が自分と通そうと吹っかける無理難題と等しい。他へ向けて己を忘れさせないように、わざと無理を言う。 たとえ迷惑だとしても。相手に刷り込まれる情報は、嘘偽りない。何も主張しないよりも、印象に残る。 「テンシ様、気がつきましたか?」 見慣れない天上。身体は覚えがない感触に包まれていて、何も知らない一般人ならば天上の夢心地だっただろう。 実際に天界に住んでいる天子からすれば、布団などやっぱり上も下も同じなのだった。 「え……? なんで、私はここに……?」 辺りをぼんやりと見渡す。改修作業を見るにも飽きて、昼寝の為に霊夢から借りた部屋の一つだった。そこに布団が敷かれ、天子は横になっている。 窓から覗く月は満月。月見酒には絶好というべき夜だろう。 「覚えていらっしゃいませんか? 霊夢が言うには、酔い潰れたらしくて。霊夢はしばらく留守にするというので、私がお世話を預かっているという訳です」 「そう……」 幻とは呆気ない。せっかくの甘美を、一寸の迷いなく消滅させる。届かないユメなら、せめて理想のままに。 実体が無い身体、実感の無い感覚。天子自身が呼吸をしているという事実さえなかったら、もう一度旅に出ただろう。 彼が後ろを向いたときを見計らって、瞳を軽く擦る。水滴が指先に付いた感触はない。涙全てを流し終えたのか、乾き終わる程に時間が経過したのか。 霊夢なりの配慮なのだろう。みっともない表情など、想い人には不要だ。 だが、巫女は致命的な間違いをしていた。泣かれた後で、彼女なりに色々考えてみたのだろう。 用事があるというのが嘘か本当か分からないが、彼と一緒にさせた方がいいと思ったに違いない。 「はい、お水です」 水が入ったコップを手渡され、酔いとは違う頭痛に耐える。 既に感情が爆発した。爆心地に残るのは、粉々になった塵のみ。 酷く冷静になった天子には、巫女との遣り取りで全て吐露していた。もう、熱く訴える感情は無い。 彼を目の前にしても、心が沸き立とうとはしない。 「ん……ありがとう」 当然だが、水に口をつけても、酒のような喉が拒絶する感覚は覚えない。むしろ、水を欲していたのか、天子でも驚く程に早く飲みきった。 酒は大量に飲んでいた。しかし、一人で摂取する量など、友と語りながら潤滑の為に口にするよりは少なくなるだろう。 一人酒は雰囲気を楽しむモノ。相手がいる酒は会話に花を咲かせるモノ。酒とは、芽を出そうとしている種に与える水分である。 「それにしても、天人といえども、酔い潰れるってあるんですね。僕、驚きました」 「……あのね。天人っていっても、元は普通の人間よ。酔いもすれば泣きもするわ」 だから。 冷静過ぎた天子は、以前なら決して口にしない言葉を口にした。もう隠すこともない。 霊夢との付き合いはまだ短い。彼女が秘密を軽々しく口外するとは考えたくもないが、嫌でも最悪に対する供えが必要となる。 我侭な娘が見せた弱さ。しかも色恋が絡むとなれば、噂にならない方が珍しい。 どうせ神社が建ったら、天子は再び天界に隔離される。 彼女が引き起こした異変の後始末として、今は大目に見られているものの、日常が戻ったのならばその限りではない。 「……うん。笑ったり、怒ったり、泣いたり、憂いたり。喜怒哀楽を……持っ……て……」 言葉にすらならなかった。頭の回転は正常値を示しかけているものの、上手く口が動かない。 それとも、それが思考が弾き出した答えなのかもしれなかった。 感情を表すのは、生者にとって当然のコト。するかしないかは、個人の自由に委ねられる。 今の天子は権利を持っていても、身体が不思議と涙を流すからどうにもならなかった。 「泣きなくないのに、っ……ぐっ、泣きたいの……。天人だって、こんなとき、ぐらい……っ、あるん……だからっ……!」 涙は全部流したと思った。たった今飲んだ水が、体内から出ているのかもしれない。 どうでもいいコトには違いない。涙が問題なのではなかった。 布団を握った震える手に、水滴が落ちていく。その中の一つが、灯りに反射して幻想的に光った。 「昔良く泣いてたからって、今泣いちゃ駄目なの? 変わっちゃ駄目なの!? 大人しい子供が、我侭になったからって、どうして泣いちゃ駄目なのよ!」 感情の爆発に使用した、火薬は全て燃えてしまったはずなのだが。訳も分からずに、天子は叫んだ。 それは、あの時からずっと心に秘めていた思い。張り詰めていた分、衝撃も大きい。 「テンシ様……」 「もういや……もういやよ! 私一人過去に取り残されるのはイヤ! 一人にしないでよぉ……!」 部屋中に天子の慟哭が響き渡る。哀愁と絶望が入り混じったその声は、彼女が積み重ねてきた日々の欠片。 「……バカ。お前は、一人じゃないさ。そんなトコロは、昔と変わらないな」 そう天子には聞こえて。いつぞやに体験したはずの、記憶と一致して。 数度しか感じたことのなかった、暖かさが全身を包んだ。心に刺さった棘が一瞬で蒸発する。その傷も、いまや気にする暇もない。 「……○○……?」 「天子……いや、地子。僕のコト、覚えてる?」 「忘れ、る……わけっ……ないでしょうっ、が……!」 彼の胸はただただ安心できた。抱かれているという現在よりも、彼の暖かさと一つになっている結果に身体が解れていく。 知らずの内に、天子は彼の背中に腕を回し繋がりを深くする。 昔よりも随分と広がった背中は、離れていた時間を容赦なくぶつけてきた。 「うう……わぁぁあ……あぁぁぁぁ……!」 一度完全に決壊した綻びを止める力など、天子には残されていなかった。 彼は一方的に打ちつけられる感情をその身に浴びていた。だから、天子は他のことに思考を展開する必要がない。 「……っ、んっ……いつ、気付いたの……?」 「いつ、なんだろ。よく分からない。……けど……きっと、初めて会ったときにじゃないかなぁ……」 軽く天子の頭を撫でる彼。 少しだけのこそばゆさと、嬉しさに天子の胸が一杯になる。以前感じた感触と同じで、芯が溶ける。 「……霊夢が言ってた未来の地子と、現在の天子は反対なの。とっても我侭。それでも……いいの……?」 再び目の奥が熱くなってくる。今更打ち明けるのは、危険な冒険に過ぎなかった。夢のように進んだ物事を壊しかねない台詞。 けれど、天子には白黒はっきりつけなければならないコトでもある。 彼は一つ笑って。 小さく天子の頭を叩いた。 「いいさ。……まだ、今の地子……天子は僕よく分からないから……」 「……バカ……ばか……ぁ……」 やはり、昔と同じように彼に頼らなければならないのだ。昔は助けを、今は救いを。 しかし、その関係は天子にとって嫌ではない。気持ちを代弁するように、彼を更に強く抱き締める。 やがて落ち着きを取り戻した天子。誰にも向けられていない彼女の独白は、虚しく部屋に響いた。 「寂しかったの……。苦しくて、胸が張り裂けそうだった……」 「……」 「でも、嘘みたい……。今、こうして抱き合ってるだけで、悪い冗談みたいに思える……」 「……天子」 「ねぇ……」 顔を彼の目の前に持っていく天子。 意志が宿る目には、言い表せない何かが渦巻いている。 「……伝えたいこと、あるんだけど……。聞いてくれる……?」 「……ああ。何だい?」 一度深呼吸する。その小さな動作でさえ、彼と身体を合わせている天子は彼の実感を得ることができた。 「……私ね、ずっと……」 小さな響きは紡がれることなく、安らかな寝息に侵食された。焦点が合っていなかった視線は、睡魔を追い出そうとしていたのだろう。 結局は負けてしまい、彼の胸の中で眠ってしまったのだが。 軽く彼は眠った天子の背中を擦る。赤子をあやすように動く手のひらは、布と擦れたにも係わらずに音を発生させなかった。 「……今度は、僕の番……ってコトで、いいのかな?」 霊夢の胸で泣き疲れて眠ってしまった天子を、彼はしっかり目撃していた。だから、このような台詞が口を出たのだ。 返答はまだしていない。あの後の言葉を考えるのは、野暮だろう。 「……まぁ、また次の機会に。そうだろ、天子……?」 静かに問いかける。彼女は前髪が鬱陶しく感じたのか、前髪を払う動作をしてから、楽しげに頷いた。 夢を侵食する言葉など覚えがない。だが、寝ているならば聞いて理解しているとも考えにくい。 揺り篭に揺られる天子の唇が微動する。それを理解できたのはとある言葉を示していたのは、静謐な夜に浮かぶ、欠けの無い満月のみだった。 予期できないことが起きるのが人生である。霊夢は今、それを実感していた。 「……おめでとう、というべきなのかしら」 天子が起きるとは、想定外の物事だった。帰ってきて天子を寝かせた部屋の襖に手をかけると、嗚咽が聞こえた。 一応慎重に襖を開けると、二人が抱き合っていたのである。 そのときの天子の表情は、止め処もなく涙を流していながら、福音を得た旅人のように輝いている。 確かに彼女は旅人だった。その旅の過去から未来を、覗いていたのが霊夢。 天子と彼が幼い時に別たれた存在だというのは分かっていた。少なくとも、彼に粘着してチコの過去を聞きだす時には。 「いいえ……。おめでとう……そして、ご苦労さまと……」 音もなく襖を閉める。困難を極めた旅路は、せめて終着点ぐらい幸せに。 またどうしても足を進めなければならない時が来る。遅かれ早かれ、絶対にだ。 酷く酒を飲みたくなった。外には酔い潰れてしまっている友達がいる。無理にでも起こして、現と夢を巻き込んだ色恋沙汰の話で盛り上がるのも悪くはない。 台所の戸棚に仕舞ってあった、とっておきの酒瓶を取り出す。いつ仕舞ったのかは忘れてしまった。 埃を被っているから、かなり昔だとは思うのだが。 表面を薄く覆う埃を軽くほろい、霊夢は足を進め、縁側へと腰掛ける。 「……今は、ただ二人に乾杯を」 頭上に輝く、満月へと容器を掲げる。揺れる水面は、他人行儀に輝いていた。 「そして……幸あれ、と……博麗の巫女の名の下に祈りましょう」 先程は誰か相手が欲しかったのだが、対象は全て幸せそうな表情で眠りについている。 本当の幻は破る価値もない。幻想の名を冠する世界といえども、単純に世知辛い世の中である。夢で慰めを得ることぐらい、許されてもいいだろう。 それに、霊夢自身が一人で味わいたかった。 「……ただ、それだけを……」 二人の船出を祝福するように、巫女は杯を重ねる。 霊夢は分かるはずもない。 月光に映し出される、決して綺麗とお世辞にもいえない文字で描かれた製造日時は、二人が別れた日を刻銘に示していた。 一度栞を閉じた本。 長い間放置して、すっかり埃塗れになった。 汚したくないからと、せっかくかけたブックカバーも汚れてしまった。 でも、そんなのは洗えばいい。 何度も洗って、太陽の下で干せば元通り。 カバーを綺麗にして、再び未読の本にかけよう。 今度は汚さない。 決して手放さない。 まだ半分にも至っていない物語の主役は、今出会ったばかりなのだから。 後書き いきなりですが、私は今他に本腰を入れている小説があります(東方ですが……) その小説と、この天子小説のカタチというか、作風が私にとって全く逆のモノなのです。ですから、いい息抜きをしながら書けました。 オリジナル設定天子盛り……じゃなくて、てんこ盛りでしたが、いかがでしたでしょうか。少しでも楽しんでいただけたら、書き手としてはこれに勝る喜びはありません。 緋想天のストーリーモードのシステムがあまり好きではないので、あまりプレイしていません。ですから、設定と喰い違う箇所もあろうと思います。そこを、それはそれとして楽しんでいだだきたく存じます。 うpろだ1181 ─────────────────────────────────────────────────────────── ある日家に帰ったと思ったら家がなかった。 別段消滅したと言うわけではない。潰れて住めなくなっていたのだ。 なぜこんなことにと思っていると誰か来た。 訊いてみれば竜宮の使いと名乗り、謝罪したいと言う。 さて何に対して謝罪したいのかというと家を壊したことについてらしい。 彼女が壊したわけではないらしいが、上役が壊したらしい。 建て直しはするが時間がかかるので、完成するまでは自分達の家に泊まっていて欲しいと言う。 立て直されるのならとりあえず文句はない。バラック同然なのだから数日とかかるまい。 何故壊したのかについては、誤爆と言われた。 連れて行かれたのは遥か高空。もうどこなのかもわからない。 見渡す限り白い花の咲いていて、所々木々も見える。 さてここまで運んできた竜宮の使いは、その木のところで俺を下ろした。 木は池を取り囲むように生えていて、そこに一人の童女が見える。 あれが壊した張本人ですと竜宮の使(ryに言われたがとてもそうは見えない。 その童女は近づくなり、一発だけなら誤射ということで許してくれといってきた。 悪びれるでもなくケラケラと笑う様子に、もう怒る気もしない。 仕方なく手を振って赦免の意を示すと、嬉しそうに笑って背中を押してくる。 どこに連れて行くのかと思えば池のほとりに宴席があった。 その童女、天子と名乗ったか、はそこに俺を座らせると彼女自身もすぐ隣に座る。 やがてわらわらとどこからともなく天女たちがやってきて盃に酒を注いでいく。 注がれた酒は十分甘く十分旨いが、肴が貧弱なのは頂けない。 隣の天子も呑め呑めと酒を注ぎ桃を出してくるが、こちらも貧弱で頂けない。 天女たちはふわふわと浮かびながら酒や肴の補充をしている。 巻いている羽衣を引っ張るとそれにあわせて回る辺り面白い連中だ。 酒宴を始めて数時間。いつの間にか天子は俺の脇から膝の上に移動していた。 途中で先ほどの竜宮の(ryやら鬼も参加して更に騒がしい。……鬼? 特に竜(ryは俺をここに連れてきたときは打って変わって大ハッスルしている。 酒を飲み、池上で踊り雷も落とす。特に、時折一緒に踊ろうとばかりに顔を寄せて引っ張ってくる辺り大分興奮しているようだ。 とはいえ飛べるわけも無いので誘いを断っていると身を寄せてきて、なら私に掴まっていればよろしいでしょうと言い抱きついてきた。 思わずそのまま空母から俺のストラトフォートレスが発進しそうになるが、子供が見ている手前そうも行かない。 すんでのところで格納庫からのエレベータを止めるのに成功する。 断るとr(ryは残念そうな顔をして池上に戻り、また雷を落としながら派手に踊っている。 膝上の天子は満足そうなでも少し不満そうな表情で俺の首に腕を回している。 些か顔が近いとか胸が当たっている気がするとかあるが気のせいだろう。固いし。 そんなどんちゃん騒ぎを数日していると、俺の自宅が直ったと言われた。 帰ってみるとバラックの趣はそのままで、広さは格段に大きくなっている。 広くするくらいならもっとよく建て直して欲しいものだが、天人相手に文句は言えない。 とりあえず見回っていると、間取りは前の家とほぼ同じのと拡張部分に新たに部屋が継ぎ足されている格好である。 新しい部屋には一つの神棚と一つのベッド、そして一人の童女がいた。 ん? 童女? よく見ると部屋の中に天子がいる。上半身半裸で。 急いで扉を閉め謝るがもう遅い。大石で直線一気に壁が吹き飛ばされる。 バラックとはいえ新築の家が吹き飛ばされるのはとてもとても悲しいものだ。 しかし何故こんなところにいるのか、と扉の向こうから問いかけると、部屋から出てきた天子に、分社を作ったからいつでもこれると言われた。 成る程分社と言うのは先ほどの神棚のことだろう。しかし何故来る必要があるのか。 理由は単に、上は暇だからであった。なので時々泊まりに来るので、その時はどこかに遊びに連れて行けと言われる。 なんと我儘なことだろうか。しかし満面の笑顔でそのようなことを言われてしまえば抗えようはずも無い。 しばらくこの我儘娘の相手が続きそうだ。 うpろだ1205 ─────────────────────────────────────────────────────────── 前回までのあらすじ。 家が壊れた。直ったと思ったら我儘娘が付いてきた。 ああどうしよう。女の扱い方なんざ判らんぞなもし。 しかも奴さんは今しきりに何処かに遊びに連れて行けとせがんでくる。 だが遊びに行くにしても近場に子供の遊ぶようなところは無い。 花街なんぞに連れて行ったところで、後見の竜宮の使いとやらに殴られるだけだ。 というより自分でも行かない所に連れて行ってもどうしようもない。 ならば手頃に山の上の神社とか川原にでも連れて行くべきか。 この暑さなら梅雨とはいえ川に子供らがいるだろう。そいつらと遊ばせておけばいい。 ここまで考えてハタと気付く。あれは天人なのだから、自分よりよっぽど年上だろう。 それじゃあ川で子供と遊ぶのは無いだろうな。神社にしよう。 しかし提案はあっさりと跳ね除けられた。お姫様は里の探索が御要望らしい。 里なら里で取り立てて問題は無い。明るい内なら危険なこともあるまい。 ただ小さな問題は片方が絹布の華やかな服、他方が麻布の服ではどう考えてもおかしいことだ。 普通に考えれば何処かのお嬢様をかどわかしたように思われるだろう。 まあ気にしたところで仕様が無い事か、と思っていたらまた客が来た。件の竜宮の使(ryである。 何をしに来たのかと思えば、出かけるようでしたので替えの服を持ってきましたときやがる。 この出歯亀はどこから見ていたんだ。つか空気読んで天子共々全部持って帰りやがれ。 そう思っていると竜宮の(ryが肩を叩きながら、それでも私は総領娘様の味方ですのでと抜かしやがった。 見れば当の天子は目を輝かせてどの服がいいかなどと選んでいる。これで七面倒臭いことに選び終わるまで待つ羽目になった。 そもそも自分の懸念事項だった、被服の差は竜宮の(ryが持ってきた服では解消されていない。 男性用もあったが、某トラボルタの着ていたような服を着て里を歩く度胸は残念ながら自分は持ち合わせてはいない。 仕方が無いのでタンスの中から、昔この世界に来る時に着ていたジャケットを取り出す。 古いものだが安くも無い代物だったので、それなりに生地も上等で絹布にまだ張り合うことが出来る。 これに適当なYシャツを組み合わせれば何とかなるだろう。 三人で行った里はとても混んでいて、正直帰りたかったが天子がどんどん進んで行くから付いて行かざるを得なかった。 はぐれられても困るので見えなくなる前に手を握ると途端に動きが止まる。 吃驚したような嬉しそうな顔でこちらを見上げてくる天子。突然来る地震。騒ぐ民衆。 自分も驚いていると天女が一人降りてきて何かを耳打ちしてくる。 曰く、誰某が尻の穴を二つにされたくなければ娘から手を離せと仰っていますってここは日本だ、ハリウッド語を話すな。 天女を無視して天子と竜宮(ryと歩いているともう一発地震が来た。しかし二発目は皆予想したもので混乱は無い。 適当に里の商店を見て回る。天子は地震以来存外おとなしく手をつないでいてくれるので助かる。 おとなしいといっても道を歩いている時だけで、店の中に入るとはしゃいでいた。 主に服屋や食事屋などで、竜(ryと一緒に見て回っている。それはいい。だが宝石屋、てめーはダメだ。 小二時間ほど服屋中心に見て回った。正直もう勘弁してくれといった感想だ。 途中、甘味処で甘味を食べる。三人分の出費は地味に辛い。 葛きりを食べていると、横で宇治金時を食べていた天子にいくらか掻っ攫われる。 黒蜜をかけにゃ旨くないだろうにと思っていたが、そうか練乳があるのか。 対面でりゅ(ryが善哉を食いながらそれを生暖かい目で見ている。止めろ見るな。って言うか暑苦しいわ。 と思っていると天子が口の中が冷たいと言い、それを受けてり(ryが善哉の椀を差し出していた。 成る程このためか。しかし暑いのにそのために熱いものを食うとは、宮仕えも大変だ。 最後に博麗神社に行ってみた。天子は乗り気ではなかったが、自分が数年来行ったことが無かったので行きたかったのだ。 なにせ道中が妖怪遭遇頻発地帯な上、普段から妖怪だらけという噂であまり行きやすい所ではない。 だが着いてみると誰もいなかった。妖怪が多いと言うのは嘘だったのだろうか。 安心半分がっかり半分の意味を込め、賽銭箱に幾らか少なめに銭を放り込み鐘を鳴らす。 天子も鳴らす。盛大に。それはもう近所迷惑なばかりに。 急いでr(ryと一緒に全力で天子を綱から引き剥がす。ついでに御仕置代わりに頬を抓りあげる。 天子はいひゃいいひゃいと間抜けな声を上げるが痛そうには思えず、逆に嬉しそうにすら思える。 よく伸びるのうと頬肉を堪能していると一際大きい地震が来た。人に被害は無いが神社は何かが落ちたらしい。 直後風呂上りだったのかストリーク巫女が猛スピードで垂直上昇して行く。色々な意味で大丈夫なのだろうか。 さんざっぱら遊んで満足したのか、自宅の神棚から天子は帰っていった。 帰りしなにまたすぐ来るね、と言っていたがあんまり来られると家が危ないから隔週くらいにして欲しいものだ。 うpろだ1216 ─────────────────────────────────────────────────────────── 比那名居天子は悩んでいた。 ただ憂鬱だった。歌の日があっても欠席し、桃を食べる量も目に見えて減っている。 気がつけば、最近は天上の外れにある小さな浮き岩から、下界を見下ろしながらため息をつくのが日課になっていた。 原因はわかっていた。胸中を埋め尽くしているある感情、それはあの○○とよばれた人間のことに違いない。 数ヶ月程前、どこからともなく幻想郷にやってきた一人の男は、知らず知らずのうちに下界の人間や妖怪達のハートをキャッチしていた。 天子も何度か会ったことはあるが、容姿端麗というわけでも、特殊な能力を持っているというわけでもなかった。まったくの凡人である。それゆえに、あったその瞬間からある種の疑問が付きまとい続けてきた。 何故あんな男に皆惹かれるのか。その思いは同時に、もっとあの人間のことを知りたいという思いにシフトしている。 そのせいかどうかはわからなかったが、ここひと月近く憂鬱な気分が続いていた。 無論、通常の天人にはありえない反応であり、このままでは死神に魂を持っていかれる可能性もあった。 「はぁ……」 深くため息をついても、その気持ちが晴れることは無い。見下ろす眼下には太陽に照らされた雲海が絶景となって広がっていたが、それにすら心を動かされることも無かった。 「大体全部あいつのせいよ……」 その人間のことを考え続けていた天子だったが、下界に降りても必ず会えるというわけではなかった。人間のほうから天界に昇ってくることもなかった。 おそらくは他の妖怪イチャイチャしているのだろう。前に降りた時にはスキマ妖怪や吸血鬼にうつつを抜かしていたことを思い出し、拳を握り締めた天子は、次の瞬間には「人の気持ちも知らないで……」と呟いていた。 無論、○○が自分だけのものでないことなど知っていた。それでも、会うたびに、会えなくても、もっと会いたいという気持ちが募っていくのをとめることができなかった。 自分はどうしてしまったのだろう、と純粋に思う。まさかあの人間に恋でもしたか。そう考えた瞬間、猛烈な恥ずかしさと共に顔が火照った。 「違う、違うしありえない」 ぶんぶんと顔を振って否定する。 それでも、心はそれを肯定していた。認めなくなかっただけだった。 第一それでは―― 「様……総領娘様!」 「は、はいぃ!?」 突然呼ばれた声に思考を蹴飛ばされ、危うく飛び跳ねそうになった。 気がつけば、何者かがすぐ傍まで接近していた。それに反応する余裕も無い。天子は、情けない声を上げながらゆっくりと振り向くことしかできなかった。 「……どうしたんですか?」 見れば、すぐそばに衣玖がいた。その手を腰に当て、何かを探るような視線でじっと天子を見つめている。 「い、いきなり何するのよ……」 「何回も呼びかけましたが。もう、しっかりしてくださいよ。今日は大切なお客様が来るんですから」 「お客様……?」 衣玖の言葉に若干の不信感を抱いたのもつかの間、気がつけばその背後に見たことがあるような影が出現していた。 「よ」 「!!」 そこについ先ほどまで思い焦がれていた○○がいた。 「な、な、なな……」 あまりの驚きに言葉が出ない。心の準備ができず、オロオロしていると、ため息をついた衣玖がやれやれとばかりに口を開いた。 「いえ、何度も声はかけたのですが、総領娘様が完全に無視されたのでご案内してしまいました」 そんな説明はどうでもよかった。 それよりも、他に言いたいことがあった。 「な、何しに来たのよ!?」 やっとの思いで搾り出したのは、歓迎の言葉ではなく、非難のそれだった。 くるならもっと早く来て欲しかった。だが、何で今更来るのよ、とは口が裂けても言えなかった。一応プライドがあった。 「いやぁー天子元気かなーって」 答えを聞いた瞬間、顔が沸騰するほどに熱くなる。 来ない間もずっと心配してくれていたんだ。そんな想いが心を埋め尽くしたが、頭は必死にそれを押さえ込んだ。 「ふん……よ、余計なお世話よ」 勤めて冷静を装いながら、腰に手を当てて胸を張る。恥ずかしいところを見せるわけにはいかなかった。万が一にも本心が悟られたら、そこに漬け込まれる可能性がある。相手は地上の人間なのだ。 「でも元気そうでよかったよ。本当はもっと早く着たかったんだけど、色々つれまわされてゴタゴタしててね」 気がつけば一ヶ月経っちゃった、と○○は笑った。 その表情から察するに、天子の態度を気にした様子も無い。今も少しだけ微笑んで辺りを見回している。 「さすがに天上っていいところだね。これなら長く滞在できそうだよ」 「え……しばらくいるの?」 一際大きく鳴った鼓動と共に、言葉を吐いてから後悔した。けれど、取り返しは付かない。 「あ、ひょっとしてまずかった? 俺嫌われてたかな」 困ったような表情を浮かべ、ぽりぽりと頭を掻く○○。 途端、浮かび上がった罪悪感と、焦りが心を埋め尽くした。取り繕っていた冷静さが一瞬にして砕け、手をわたわたと振りながらたった今吐いた言葉を全否定する。 「い、いや、そんなことは……ない、ですはい」 語尾が地味に壊れたが、そんなことを気にしている余裕はなかった。 ○○の気持ちが変わってしまうかもしれないのだ。さすがにそうなったら立ち直れそうも無い。 と、帰ってきたのは天子の願った○○の笑顔だった。 「よかった。俺も天子のことは好きだから」 が、その答えまでは予想できなかった。 「はい!?」 瞬間、天子の世界が固まった。 よかった? 好きだから? それは一体どういう意図で発した言葉なのか。 完全に思考が停止し、真っ赤に火照った顔と早くなった鼓動だけが感じられる。 「失礼します。○○さん、宴会の準備が整いました。こちらに」 ○○を誘導する衣玖の声が、どこか遠くに聞こえた気がした。 「じゃ、天子、また後で」 固まったまま指先一つ動かせない天子の傍らを、○○が通り抜けていく。 声が出ない。口だけが魚のようにパクパクと動き、視点は虚空を見上げたまま固まっていた。 「ふぅ、総領娘様。もう少し素直にならないとだめですよ?」 衣玖の声が近くで響き、その気配が遠ざかっていく。 しばらくしてから現実に引き戻された時には、既に二人の姿はなくなっていた。 「な、なんなのよ……」 バクバクと高鳴る胸を押さえつけ、二人が去った方向を見つめる。 ○○が自分のことを――、告白してしまえ――、そんな思考が天子の頭を埋め、全ての行動を遮断する。 ついには、そんな自分にすら嫌気が差してきた。 「ああ、もうめんどくさーーいっ!!」 顔をブンブンと振って、宴会場に向けて走り出す。 とりあえず、考えるのは後にすることにした。 ***おまけ*** 幻想郷より高い場所にある世界、天界。 天上というだけあって、雲はその下に存在する。当然ながら、太陽の光を遮るものはない。 そんな中、小さな日傘が一つ、ゆらゆらと揺れていた。 「気をつけてくださいお嬢様。ここは影がありません。一つ間違えば灰になってしまいます」 「解ってるわよ。それよりも、○○は本当にここにきたんでしょうね」 日傘をしっかりと握る細い手。レミリア・スカーレットは傍らに控える咲夜を一瞥し、目の前に聳える浮き島の群れに目を戻した。 「間違いありません。信頼できる筋からの情報です」 「ま、いいわ。とりあえず○○を連れ戻すわよ」 ○○という男が幻想郷にやってきてから数ヶ月、その間、ひと月ほど紅魔館で保護していたものの、先日急に姿を消していた。 もっとも、○○を狙う妖怪は多い。当初はどこぞの神出鬼没妖怪の仕業だと思っていたレミリアだったが、咲夜やパチュリーに調べさせるうちに別の原因が判明したのだった。 「ですね。○○はうちで保護していたんですから。勝手に外出して心配をかけた責任を取らせなければなりません」 腰に手をあててぼやく咲夜。 「とりあえず天人でも締め上げて聞き出せばいいわ」 何はともあれ、目指すものはすぐ傍に居るのだ。焦る必要も無かった。 「あーら、抜け駆けなんて酷い」 と、急にどこからか声が聞こえた。 直後、虚空に亀裂が入り、ゆるゆるとうごめきながら開いていく。 「何をこそこそ山登りをしているのかと思えば、ねぇ?」 たっぷり十秒ほどおいてから、その中から白い傘が現れた。 どうやら、他にも動いている奴がいたらしい。なるほど、と納得したレミリアは咲夜に目で合図し、ひとつ息を吐いた。 「……お嬢様、きましたよ」 「まぁいいじゃない。最後に勝つのは私なんだから」 忌々しげに呟く咲夜をたしなめながら、それに向き合う。 虚空には、いつの間にか姿を現した八雲紫が静かに浮かんでいた。 「後つけてきて正解だったわ。わざわざ貴方達が出向くくらいですもの。つまらないものじゃないわよね」 「さぁ、何のことやら……咲夜、下がってていいわよ」 空気が帯電したようにビリビリと鳴り、得体の知れないプレッシャーが場に満ちていく。 「いえ、むしろここは私が」 クルクルとナイフを回し始める咲夜を一瞥し、ひとつ息を吐く。 時を止められる彼女なら、ミッションの遂行は容易かもしれない。そんな風に考えたレミリアをあざ笑うかのように、紫は傘を振りながら口を開いていた。 「何でもいいわ。ここであったのも何かの縁。弾幕ごっこでもしましょうか?」 「冗談、アンタと遊んでる暇はない」 「そ。なら○○は私が貰っていくわね」 その言葉と同時に、場の空気が凍った。 「目的は同じ、ね」 やはり、目の前の物体は排除しなければならなかった。 「当然」 「愚かな妖怪ね。この私に戦いを挑むなんて。歳食いすぎてボケたのかしら」 「残念、今は昼なのよね。脆弱な『夜の王』さん」 「ははは……」 「ふふふ……」 『上等ォォォ!!』 しばらくの間、宴は終わりそうも無かった。 うpろだ1474 ─────────────────────────────────────────────────────────── 比那名居天子はやっぱり悩んでいた。 はるばる天界までやってきた○○を迎えての宴会。何があっても、それに参加しないわけにはいかない。天子としても○○と一緒にいたかった。 そうして既に人が集まりつつある宴会の輪に飛び込んだのが半時ほど前のこと。多少はドタバタがあったが、衣玖のさりげないサポート(?)あってちゃっかり○○の隣の席を取ることができた。 これでもっと近づける。酒で酔った○○の介抱なんかしちゃってあわよくば、などという淡い期待があったことも否定できない。 ともあれ、宴会は順風満帆といくはずだった。 はずだったのだが……。 「あれー? 咲夜ー、この瓶のお酒もう切れたんだけど」 「いけませんよ。お嬢様、飲みすぎは体に毒です」 「藍、天界の食べ物はあまり摂取しない方がいいわよ」 「はい……ですが、これは地上では味わえませんね。橙に一つお土産とします」 得体の知れない人妖が四人、いつのまにか宴会の席に紛れ込んでいた。 「……」 「どうした天子。 飲まないのか?」 まったく気にした様子も無い○○が、酒の入った瓶を片手に話しかけてくる。 普段なら内心飛び上がって喜んでいる所だったが、今はどんより沈んだ心に僅かな波紋が生まれただけだった。 「うん……いい」 なんとかそれだけ返し、再び宴会に沸く周囲を見渡す。 一見すれば、皆、楽しく雑談にふけっている様に見える。だが約二名の意識が○○と自分に集中していることは、天子にもイヤというほどにわかっていた。 場に満ちる二つの異様な空気。それはスキマ妖怪と吸血鬼から発せられ、天子と○○の間でぶつかって渦を巻いている。 「うっ……」 明らかに敵対するものに向けられた、殺意の渦だ。 それは○○に近づく度に、天子の体に突き刺さっていた。 少しでも○○に触れようものなら、実物が飛んできても不思議ではない。 思わず緊張のあまり生唾を飲み込んだ天子は、たまらず衣玖の元へと退避し、○○に聞こえないように小声で叫んだ。 「ちょ、ちょっと、どういうことなのよ……!! 聞いてないわよ!?」 「さぁ……私にもさっぱり……」 半ばヤケになっても、衣玖は苦笑いで返すだけだった。本当に想定外の事態だったのだろう。 このままでは○○とイチャつくことはおろか、そばに寄る事さえもままならない。 「予想外のことは起こるもの、ですねぇ」 「笑い事じゃないんだけど……」 ははは、と笑う衣玖に対し、盛大なため息で答える。 予想外にもほどがあった。 「でもいいじゃないですか。ここではっきり彼女達に見せ付けてやればいいんです」 「何をよ……」 「○○さんが総領娘様の『モノ』だってことをですよ」 耳打ちされた途端、鼓動が大きく跳ね上がった。 「な、なな、ななな」 顔が熱く火照り、思考が真っ白になる。 あそこまで殺気を漂わせるということはライバルなのだろう。その恋敵の前で○○とイチャイチャする。 ある意味ではこの上ない幸せのように思えたが、天子の頭はそれよりも恥ずかしさでいっぱいだった。 「あれ、イヤなんですか?」 「い、イヤじゃないけど……無理、そう無理!」 二人だけの世界で、○○とあんなことやこんなこと。想像しただけで湯気が出る。 正直今の天子には、手を繋ぐことすら不可能に思えた。 そんな内心を見抜いたのだろうか。衣玖は腰に手を当ててジト目で天子を見つめてきた。 「……総領娘様。あんまりうじうじしてると私が○○さん貰っちゃいますよ?」 思わずびくっとして後ずさるが、肩は衣玖の手でがっちりと掴まれていた。 「いいんですか?」 逃げようにも逃げられない。答えを問う瞳で迫られた天子は、仕方なく、恥ずかしさを懸命に抑えながら口を開いた。 「そ、そんなのダメ……却下……」 「だったらシャキっとしてください。彼女達はイヤですが、総領娘様だったらいいかなと思いますから」 その言葉の真意を問う前に、衣玖は天子の背中をポンと押していた。 心の準備をする間もないまま、ふらふらと○○の隣まで戻る。 「どうしたんだ天子。衣玖さんと話してたみたいだけど。具合でも悪いのか?」 「あ、いや、あの……うん」 曖昧に濁しながら、杯に酒を注ぎ、一気に口に運ぶ。 と、気がつけば○○の頬に桃の破片がくっついているのが見えた。 「……ごくり」 天子の脳にかつてない衝撃が走る。それは、誰でも考えそうな打算の構図だった。 これを取ってあげれば感謝される上、二人の距離もさらに近づく。それは間違いない。 「○○!」 やっと動いたか、という衣玖の視線を背に受けつつ、○○に向き直る。 「ど、どうしたんだ天子……やっぱり体調悪いんじゃないか? 顔真っ赤だぞ」 「大丈夫!! それよりも……」 自然を装い、その欠片に手を伸ばす。二人の妖怪は今もお供と雑談に興じている。邪魔は入らない。 「ちょっと動かないでね」 手が○○へと近づく。その先にあるイチャイチャを胸の奥で確信しながら、天子は心の中で勝利の雄たけびを上げた。 が―― 「ふぅ、危ないわね」 ○○と天子の間を、猛烈な風が一陣、吹きぬけた。 直後、遥か後方で何かが砕け、崩れ落ちるような轟音が響いてくる。 ぎこちない動きで後ろを見れば、そこにあった一つの浮き島が真っ二つに割れ、半分が地上へと落ちかかっていた。 腕に当たっていたら、おそらく無事ではすまなかっただろう。 「あら、ごめんねぇ。手が滑っちゃったわ。お酒おかわり」 「……」 凍りついた場の雰囲気など完全に無視したまま、吸血鬼がひらひらと手を振ってくる。 視線を戻せば、同じく呆然としていた顔の○○が、天子に気がついて視線を戻してきた。 「で、どうした天子」 「え、ああ、ううう、なんでもない」 まともに続けられるはずが無かった。ちらと吸血鬼をみやれば、『今度は顔面に当てるわよ』といわんばかりの雰囲気で酒を口に運んでいる。 冗談ではなかった。 これではイチャイチャどころかお近づきになることすらできない。 「なんとかしないと……」 と、その時、天子の足が置かれていた酒瓶に躓いた。 「あ」 バランスを取る暇もない。重心が傾き、体が○○のほうに倒れ始める。 本来ならばなんとしてでも落下を防ぐ天子。が、今は頭がそれを許容していた。 このまま倒れれば、○○に受け止めてもらえるかもしれない。その計算は確かに正しく、ちらと見た○○はすでに天子を受け止める体勢入っていた。 今度こそ邪魔は入らない。あの吸血鬼もこればかりは防げないだろう。 が、再びどこからか風を切る音がした。 直後、ありえない場所から伸びてきた手が天子の服を引っつかみ、そのまま体を物凄い力で地面にたたきつける。 「がふぅ!?」 若干バウンドした瞬間、すぐ傍の虚空に『空間の亀裂』が見えた。その隙間から人間の腕が生え出し、うねうねと動いている。 が、それは瞬時に亀裂へと吸い込まれ、亀裂自体も宙に溶けて消えた。 「あらあら、自分から転ぶなんて酔ったのかしら。でも○○を避けたのは賞賛に値するわね」 再び静まり返った場に、スキマ妖怪の声が響く。 「……」 もう何も言い返す気にならなかった。 ふらふらと起き上がり、○○から少し離れた場所に座る。 「だ、大丈夫か? 天子……」 「……うん」 それだけ答えて口に酒を運ぶ。 杯は心なしか涙の味がした。 *** それからどれくらいの時間が経ったのか。 既に天子のフラストレーションはマッハだった。 それほど立ってはいなかったが、天子は依然として○○に指一本触れることが出来ていない。 予想外だったのは、衣玖の存在だった。天子が○○から離れたのをいいことに、○○の傍に座って色々と話をしている。 散々な天子としては見ていられなかったが、他はそうでもないらしい。 二人の妖怪も、ボディタッチさえしなければいいと考えているのか、これに介入する動きは見せていなかった。 が、その瞬間はいとも簡単にやってきた。 「さて、随分飲んだしそろそろ帰るわ。咲夜、○○を捕獲しなさい」 空になった杯を置きつつ、レミリアが不満そうな声を上げる。 ずっと機会をうかがっていたのだろう。それは紫のほうも同じようだった。 「あら、それはこっちの台詞。藍、やるわよ」 「いい度胸ね。さっきは変な空間から出て来れなかったくせに」 「そっちこそ、日傘にこもって従者任せだったじゃない」 場に強烈な殺気が満ちる。 「へぇ……やる気なのね」 「今度こそはっきりさせましょうか」 その言葉が終わる前には、宴会場だった場所は吹き飛ばされ、数個のクレーターと化していた。 逃げ遅れた○○を保護する衣玖を遠めで見ながら、爆風で吹き飛ばされる天子。 だが、今度は一回転してゆるやかに地面へと着地した。 「貴方達……」 腰の剣に手を当て、ふらふらと立ち上がる。 「ま、まってください総領娘様。ここで戦ったら――」 衣玖がぎょっとした様子で止めに入った。 「て、天子……?」 驚いた○○まで目を丸くしている。だが、今はそれらに構っている余裕は無かった。 「もういいわよ!! あの妖怪達のおかげで色々台無しよ!!」 腰から引き抜いた緋想の剣がパリパリと音を立て、立っている浮き島が僅かに振動する。 一通り弾幕ごっこを楽しんだ二人の注意が天子にむくのが、はっきりとわかった。 「ふん、最初からそうしていればいいのよ。○○は私がつれて帰るんだから」 「あらあら、今の発言は見逃せないわね。○○は私のものよ」 スキマ妖怪と吸血鬼が、日傘を片手ににらみ合う。その有無を言わさぬ迫力を前にしても、今の天子はひるまなかった。 正直、泣きたかったし喚きたかった。 「○○は……○○は私の――」 剣を構え、足を踏み出す。それに応じるように、二人の妖怪も応戦の構えを取った。 が―― 「ストーーーップ!! 宴会の席で喧嘩しない!!」 次の瞬間、前に回りこんだ○○により、その構図は粉々に壊されてしまった。 いくら本気で怒っているとはいえ、○○ごと切断するわけにはいかない。それは相手も同様のようで、僅かに引くようなそぶりを見せた姿勢のまま、その場で固まっていた。 「どいて○○! そいつら殺せない!!」 はぁはぁ、と肩で息をしながら、緋想の剣を構えなおす。 いくら○○といえどここで引くことはできなかった。もし引き下がれば、以降この人妖達には良いようにされてしまう。 「ごめん……でも、ケンカはしてほしくないし……」 明らかに弾幕ごっこという雰囲気には見えなかったのだろう。確かに、天子にしてみれば本気で真っ二つにしようとしていたのだから当然だった。 「何よ。○○は私達と地上に帰りたくないの?」 「どちらかというと私とね」 むすっとした表情のレミリアと、それを妨害するようにしゃしゃり出た紫がのんびりとした口調で言う。 やはり話し合いは無駄か。そう思った天子が口を開こうとした時、○○がさらに一歩踏み出して深々と頭を下げた。 「ごめん、それでも俺は今、天子や衣玖さんと一緒にいたいから……」 場の空気が固まった。 「……」 今何て、そういおうとしても口が動かない。 ただ魚のようにパクパクすることしかできない天子の手から、剣が落ちて乾いた音を立てた。 「おー、熱いですね○○さん」 静まりかえった場に、何かに感心したような衣玖の声だけが響く。 と、次の瞬間にはスキマ妖怪も吸血鬼、疲れたようなため息をつき、天子に背を向けていた。 「……何か疲れたわ。咲夜、帰るわよ」 「解りました。また日を改めるとしましょう」 「ま、○○がそういうんじゃしょうがないわね。一週間くらいしたらまた来るわ」 それを見届けるかのように、紫と藍もスキマの中に姿を消す。 宴会を蹂躙し、天界を戦いの炎で焼き尽くそうとした妖怪たちは、気がつけば数秒のうちに姿を消していた。 「き、消えた……」 あまりのあっけなさに、ふらふらと地面に座り込んだ天子は、盛大なため息をついた。 気がつけば、どこかに退避していた天人達が場を片付け、新しい酒や桃の用意を始めている。 もう一度飲みなおすのか。そんなことを考えながら辺りに目をやれば、衣玖と○○が向かい合っている様子が目に飛び込んできた。 「あ、○○さん。頬に桃が」 そういうと、衣玖は天子に構うことなく、○○の頬から桃の破片をつまみ取り―― 「んっ」 そのまま食べた。 「衣、衣玖さん……」 ○○が赤くなりながら、呆然と衣玖を見つめている。 対する衣玖も少しばかり頬を染めながら○○を見つめ返していた。 「……」 天子の中で何かが壊れた。 落ちたままの緋想の剣を手に取り、無言でそれを振りかぶる。 「○○さん、下がっていてください」 「この……裏切り者ォォォ!!」 それに衣玖が反応したのは、ほぼ同時のことだった。 ドリルと剣がぶつかり、発生した衝撃波が周囲の地面を抉り取っていく。 「泥棒猫……絶対に許さない!」 「私、もう我慢できないので、頂かせていただきます」 どす黒いものをぶつけ合いながら、ドリルと剣が火花を散らす。 やはり、長い戦いになりそうだった。 新ろだ139 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「なーんで勉強なんかしなきゃいけないのかしら」 毎日毎日、勝手に家に入ってきては勝手なことをして過ごしている比那名居天子はそんなことを言った。 こいつ天人の癖になんでこんなところ来てんのかね。 「こっちは毎日が勉強なんだがな」 掃除に洗濯、畑仕事に炊事ときたもんだ。 こっちとあっちじゃ勝手がてんで違う。 最初は筋肉痛で一日動けなかったもんだ。 「あー、そういう勉強じゃなくて――心持ちとか学問とか、比較的生活に必要のないものよ」 「そうだなぁ、まぁよーわからんが多少はあったほうがいいんじゃないか。先人から学ぶ事だってあるだろうし」 天界じゃどうなってんのかは知らんけどね、と続ける。 「で、なんでそんなことを突然聞くよ。お前らしくもない」 「天界での勉強がつまらないのよ」 声質が変わったので気になって天子のほうを見ると、彼女は眉間にしわを寄せていた。 いかにも怒っているような顔だ。 「なんでつまらないのさ」 「あっちじゃ、欲は捨てろって言われてるのよ。そんなの……つまらないったらありゃしないわ!」 「……いや、天人はそーゆーもんだろ」 迫力に気おされながらも一応答えるがなおも彼女の怒りは収まりそうにない。 と、いうか増幅している気がする。 立ち上がって彼女は言う。 「食欲、性欲、睡眠欲! 恋愛だって出来ないし、挙句の果てには生きる欲求だって! 葛藤もなければ障壁だってない! ただ適当に釣りをして適当に酒を飲み適当に囲碁を打ち適当に食べるだけ! つまらないつまらない! つまらないったらありゃしないわ!」 二度言って(おそらくそれが一番言いたかったんだろう)あーもう!と癇癪を起こしたと思うと、ドカッと座って 腕を組んでムスッとした顔をしてお茶。とだけ言った。 お前はタタリか。 お茶が飲みたいのだろう。 今逆らうとどうなるかわからないし、素直に従っておくことにした。 湯を沸かして茶を入れるまでの間に天子の機嫌は幾分か収まったようだ。 と、いうよりかは吐き出すもの吐き出して楽になったというべきか。 「……まぁ、その感情がどれほどのものかは俺は知らんが――」 ほいよ、と天子の分を渡して向かい合うように座る。 「お前には欲求があるように見えるがな」 つまらないって思うこと自体が欲求の表れじゃないか。 お茶を飲んでそう言う。 「欲求を捨ててから天人になるんじゃないのか?」 「……そういう天人だっているのよ」 「ふーん。でも天界から追い出されるようなことはないよな?」 「今のところはね」 「じゃあ、いいんじゃないか?」 「え?」 驚いて顔を上げる天子。 「まぁ、短絡的っちゃ短絡的だが、追い出されたところで天人は天人だろうしな。 開き直ってしまえばいいさ。それに――」 「それに、追い出されたらこっちである程度は世話してやるよ」 少々恥ずかしいので顔をそらして言う。 むぅ、なんか不服だ。こんな奴に赤面するなんて。 「そう――じゃあ追い出されたらお願いしようかしら」 そう簡単に追い出される気はないけどね、いやむしろ天界を変えてやるわ。と元気になったのか不適に笑って言う天子。 元気になって何より、か? 「……あ、このお茶おいしい」 「新茶だ。元気がないときにはおいしいものが一番だからな」 今となっては無意味だが、別段気にすることもない。 「……決めた」 「……何を」 「私は欲求全制覇を目指すわ!!」 「は?」 「全欲求を実行してやるのよ!」 ……余計なことをしてしまったのかもしれん。 「そうね、まず恋愛からね」 「……相手なんかいるのか?」 天界には――偏見だが――へんてこりんなじいさんしか居ないような気がする。 そもそもあいては欲を捨ててんだから一方通行じゃないか。 「いるわよ」 「そうなのか?」 そいつは初耳だった。天子に恋愛対象なりうる相手がいるとはな。 「……わからない?」 「いや、お前の交友関係なんて知らんのだが」 「…………朴念仁」 「ん、何か言ったか?」 「別にー。意外と難しそうだなって言ったのよ」 「確かにな」 そこだけは全力で同意しておく。 こいつの恋人が如何に大変かは友人の時点で明白であった。 天子はあんたがそれをいうか、と笑みを固めて言っていた。 「まぁ気を取り直して……。計画を立てなければいけないわね!」 「計画って……」 そこまで大規模じゃないだろうが。 暇なのだろうか? やけに楽しそうなので止めはしないけど。 こちらも残っている仕事をやる必要があるしな。 「う~んまずは人間と天人での寿命の違いを何とかする必要があるわね……。 そのためには○○を天人にすれば……、でも天人にしちゃったら欲がなくなっちゃうからなぁ……。 天人にしないで寿命を半永久的にする方法……う~ん……」 天子がブツブツと何か言っているがそこまで大きくないのでよく聞こえない。 どんな計画なのだろうか。 どうせ天子のことだから破天荒なことなんだろうな。 駄洒落かよ。 「――――あ、そうだ!」 何か思いついたのか笑みを浮かべて、何事かと振り向いたこちらに身を乗り出してくる天子。 「○○!」 「どうした、大きい声だして――」 「死んで!!」 「はぁ!!?」 新ろだ151 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「……」 「……」 朝日というにはだいぶ高い角度から差し込む日光に照らされて、天子に頬をつねられながら目が覚めた。 天子は俺の隣、掛け布団のほとんどを自分のほうへ引っ張り込んでみのむしのようにくるまり、 顔と、白い右肩から先だけを外に出してこちらをにらんでいる。 おはよう。そういったつもりが、「おふぁよう」になってしまうのはご愛嬌ってやつだ。 「……」 返事はない。天子は相も変わらず不機嫌そうな、少し腫れぼったい目を向けてくる。 おーい。お、は、よ、う、てんしー。 「……もうお昼前よ。おそよう、○○」 ……ふむ。もうすっかり目も冴えた。起きたからもういいだろ。 頬をつねり続ける天子の指をゆっくりほどいてやり、上体を起こして天子のほうへ体を向ける。 おや、赤くなって顔を背けちゃって。昨日は上から下まで穴が開くほど見たくせに。 「……ずるい」 ん? 「私、起きてからずっと、いたくて動けないのに、○○ばっかりぐーすか寝てて、ずるい」 ああ。 ようやく合点がいった。 昨晩、紆余曲折のナンヤカヤを経て晴れて相思の関係となった俺たちは、勢いのまま……。 あー。あー。 ……まだ痛むのか? 「痛いに決まって……っ!」 飛び掛ってきそうな表情で体を揺らした天子は、しかしへなへなと枕に顔をうずめた。 昨日はずいぶん痛がってたもんなあ。無理すんなつったって聞きやしないし。 「ああうー……話と違うじゃないのよぉー……ここまで痛いなんて」 ん? 「霊夢に魔理沙。ちょっとだけ痛いだけで後は気持ちいいとか大嘘ばっかり。 それに衣玖。……ぐすっ、何が最初から最後までふぃーばーできますよ、よ」 ……んー? 年中イチャついてる××や□□はともかく、△△が衣玖さんに手を出したなんて話聞いたことないぞ? 衣玖さんって結構ズレたとこあるし、あの人あんな体しといて、ひょっとしてまだ……。 ……む、こら、つねるな。 「……むー」 あー、はいはい。悪かった。 てんこみのむし(命名・俺)の布団をまくり、体をすべり込ませる。 天子の体温でほどよく温まった空間で、天子の腰と背に手を回して体を寄せた。 こいつは、俺も最近になって知ったことだが、出るべきところはまっ平らなくせしてその分のお肉がうっすらと全体に広がっている。 かといって見苦しいレベルにまでは至っておらず、こうやって手を回せばふわふわした感触が心地いい。 それに加えて、どんな上質の絹だって霞むような肌と、汗にまみれながらもほんのり上品に漂う桃香。 俺の腕のなかで、小ぶりな鼻をすりつけてくる小動物のような寂しんぼうの存在をしばらく楽しんだ。 ……くぅ。 ……そういえば、昨日の夕食以来何も口にしていなかったのを思い出す。 昨晩の\そこまでよ!/で消費したエネルギーを補給せにゃあな。飯でも作るかい。 ……てんこさん、今の腹の虫は間違いなくお前のお腹から聞こえてきたぞ? なのにどうして、台所へ立とうとする俺を引き止めますか。 「……」 きゅっと目を瞑り、ふるふると左右に首を振る天子。 俺の背をがっちりホールドした両手にさらなる力がこもる。地味に痛い。 「もすこし」 飯にしようや。 「やだ」 いや、腹減ったろ? 「やだ」 風呂入ってさっぱりするか? 「やだ」 いやお前も汗まみれじゃ気持ち悪…… 「やだ」 ほら、天気いいし布団干し…… 「やだ」 洗濯物もたまって…… 「やだ」 えーと…… 「やだ」 …… 「……」 はぁ。 はいはい。わかったわかったわかりましたよ。そんな涙目でにらむな。 オーケーオーケー、気の済むまでいてやるよ。 全くしょうがないな、このわがまま娘め。 「……えへへ」 そんな顔見せられたら、逆らえるわけないだろーが。 ……何? どんな顔かって? ……教えてやらね。 新ろだ442 ───────────────────────────────────────────────────────────
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天子7 天子といっしょ! プロローグ完結編 (Megalith 2012/03/14) 天「○○!遊びに行きましょう!」 同じ部屋で暮らし始めた初日、突然天子は言い出した。 天界での暮らしがよっぽど暇らしく、天子は好奇心旺盛なのだ、だからあの異変を起こしたのである。 ○「いいけど・・・、何処に遊びに行くんだ?」 天「そうね・・・ 紅魔館に行ってみましょう!」 ○「行ったところで何もしないじゃないか、何をするんだ?」 天「別に? ただ行ってみるだけよ。」 ○「大丈夫か?」 天「大丈夫よ、問題ないわ。」 ○「すごく嫌な予感しかしないんだが・・・」 ○○の予想通り、紅魔館に忍び込んだ2人は当然の如く咲夜に見つかり、命からがら逃げ出したのであった。 といっても、咲夜の攻撃を○○が天子を庇っていた為、ほとんど○○が傷だらけという状態なのだが。 天「あー! スリル満点で楽しかったわ、そうでしょ?○○。」 ○「あぁ・・・まぁ・・・な・・・。」 バタリ 天「ちょ、○○、大丈夫?」 衣「総領娘様、いいから手当てをしないと・・・。」 またある日。 天「今日はあの亡霊とかがうじゃうじゃいる所に行ってみましょう!」 ○「白玉楼の事か・・・ 面倒だな・・・」 天「ん、なんか言った?」 ○「あぁ、いや何も言ってないさ。」 天「・・・? そう。」 無論、行って直ぐに庭師の亡霊に追い出されたのは言うまでもない。 また別の日には 天「今日は人里へ買い物に行くわよ!」 ○「あぁ、分かった・・・」 天「ん? なんか乗り気じゃないのね。」 ○「あぁ!なんでもない。 大丈夫だ」 天「そっか、じゃあ行くわよー!」 人里にて 天「あ、お金足りないわね、○○!貸して!」 ○「俺の財布が・・・」 天「次はあそこに行くわよ!」 ○「ま、まだ買うのか・・・」 天「当たり前じゃない! 全部の店を見て回るわよ!」 ○「勘弁してくれぇえええ・・・」 このように二人は遊びに出かける毎日を過ごしている、だが天子は楽しそうだが、常に天子に振り回されている○○は疲れも溜まり、天子に付き合いきれなくなっていた。 ○(はぁ・・・、何かもう、嫌になってくるな・・・。) そんなある日のことであった、いつもの様にベッドで天子が、ソファーで○○が寝ていたときのことであった。 その日は月が明るく、なぜか○○は眠ることができなかった。 そのため、○○は稽古のため外に出た、そこには衣玖がいた。 衣「こんばんわ、○○さん。」 ○「あ、こんばんわ、衣玖さん。」 衣「なんだか疲れているようにも見えますが・・・、大丈夫ですか?」 ○「いえ・・・、正直、大丈夫では無いです。」 衣「総領娘様、ですか・・・。」 ○「はい・・・ 正直、もうわがままには付き合いきれません。」 衣「そうですか・・・ ですが、総領娘様は理由があるんです。」 ○「理由、ですか・・・。」 衣「はい、総領娘様から聞いたと思いますが、総領娘様は友達がいなかったのです。 総領娘様はいつも独りで、寂しかったのです。 実は私も、かなり前から総領娘様から貴方のことは聞いていました。 総領娘様が貴方の事を話しているとき、総領娘様はとても嬉しそうでした。総領娘様は、貴方のことが好きなのです。 好きだから、もっとかまってほしいと願っているのです。 どうか総領娘様のわがままを、聞いてやってくれませんか・・・?」 ○「衣玖さん・・・」 衣「もし貴方にまで見捨てられてしまったら、総領娘様はもう立ち直れないかもしれません。お願いです、総領娘様のことを・・・。」 ○「わかりました」 衣「え・・・?」 ○「今まで自分は、天子は自分を下部の様にしているのだと考えていました。ですが、今の言葉で吹っ切れましたよ。 任せてください、天子を見捨てたりなんて、絶対にしませんから。」 衣「○○さん・・・」 ○「そうだ、明日はまた紅魔館に行く予定だったんだった・・・ すいません、もう寝ますね。」 衣「あ、はい。」 ○「それじゃあ、また」 衣「はい、よろしくお願いします。」 その次の日、二人は再び紅魔館へ遊びに行く事になった。 といっても天子が無理やり連れて行き結局咲夜に追い返されたのだが。 だがその日は二人で紅魔館を逃げ回り、帰るころには夜になっていた。 帰り道、疲れたので紅魔館近くの妖精の湖で休もうという事になったのだ。 その時であった。 天「あー、疲れたけど楽しかったー!」 ○「あぁ、そうだな・・・。」 天「○○、疲れてるみたいだけど、大丈夫?」 ○「あぁ、大丈夫」 ○「天子が嬉しいなら、それだけで十分だから―――――」 天「あ・・・。」 天子の顔が少し悲しそうに見えた、○○は何があったんだというような目で天子を見た。 そして、天子は口を開いた。 天「ねぇ、」 天子は悲しそうな目をして話しかけた。 天「私のこと、嫌い・・・?」 ○○は言葉が出なかった。 ○「どうしたんだ・・・?いきなり・・・。」 天「だって、私がいつも貴方を無理矢理遊びにつき合わさせたり、そのせいで貴方を痛い目に合わせちゃったり、 辛い目にあわせちゃったりしてさ、貴方の事なんて考えないで。 そんなことしたら、嫌われるのは当たり前よね・・・。何で今まで気づかなかったんだろう、私・・・」 ○「天子・・・」 天「私、ずっと寂しくて、貴方とまた会えたのが嬉しくて、だからもっと構ってほしくて、好きになってほしくて。 私、貴方と遊びたかったから・・・ だからあんなにわがまま言っちゃって・・・ ごめんね・・・。 」 天子は、泣いていた。 天「分かってたの・・・貴方が前から嫌がっていた事、無理矢理天界に連れて行って、そのまま無理矢理遊びに付き合わされて それで貴方が嫌がってた事、私のこと嫌になってた事も・・・ 」 ○「天子・・・」 天「ぐすっ・・・ だから○○・・・嫌いにならないで・・・独りはやだよぉ・・・」 ○「・・・」 天「嫌だったこと・・・ 謝るから・・・ お願い・・ ぐすっ・・・ ○○・・・」 ○○は頭の中で、悲しんでいた。 天子がこんなにも寂しかった事。そして自分ですべてを分かっていた事・・・ 昔もそうだった。地子のときからだ。 悩み事を隠して、自分ですべてを責めてしまって、悲しんでいる事。 本当に、昔から変わっていなかった。 ○「天子、さっき聞いたよな? 俺に天子が嫌いかどうかって。」 天「ぐす・・・ うん・・・」 ○「じゃあ、その質問の答えをする。だから天子、目を閉じろ。」 天「うん・・・」 天子はまるで殴られることを覚悟している様子で目を閉じた、怖いのか、体が震えている。 ○「天子」 そして○○は ○「これが、俺の」 天子の顔へと ○「答えだ―――――」 己の顔を近づけた。 ちゅっ 口付けの音と感触に驚いた天子は、驚いて目を開けた。 そう、○○は天子の唇へと口付けをしたのだ。 口を離し、○○は天子と見つめあう形になった。 天「○○・・・ 今・・・」 ○「あぁ、これが答えだ」 天「○○・・・」 ○「天子、俺は天子が好きだ、どんなわがままを言っても、俺は天子を嫌いになったりはしない。 信じてくれ、俺は天子を愛してる。」 天「○・・・○・・・。」 ○「嫌か・・・?」 天「そんな訳・・・ないじゃない・・・ とっても・・・うれしいよぉ・・・。」 ○「天子・・・。」 天「ぐすっ・・・ぐす・・・ うわああああああん!」 そして天子は泣き崩れ、○○の胸に抱きついた。 ○○も、また泣いていた。 ○「天子・・・ ずっと辛かったんだな、寂しかったんだな・・・。気づいてあげれなくて、ごめん、ごめんな・・・。」 天「ぐす・・・ もぅ、なんで・・・貴方が謝るのよぉ・・・」 ○「天子・・・天子・・・」 二人は抱き合って泣いていた。 どれ位経ったであろう?二人は泣くのを止めた、二人の顔は嬉しそうだった。 天「ねぇ、○○・・・」 ○「ん・・・どうした?」 天「今度は、私からキスしてもいい・・・かな・・・?」 ○「あぁ、いいぜ。 よし・・・。さぁ、どうぞ?」 そして○○は目を閉じた、天子はゆっくりと顔を近づけ、互いの唇を重ねあった。 そして天子は舌を○○の口の中に入れ始めた。○○は少し驚いたようだが、直ぐに○○も舌を動かし始めた。 重なった唇の中で、互いの舌を重ねあい、絡め、押し合い、愛していた。 息が苦しくなり、同時に二人は唇を離した。 二人の唾液が糸を引き、二人の間でアーチを作った。 互いの顔は、嬉しさで朱に染まっていた。 天「ね、○○。もっとキスして・・・?」 天子はさらにキスを要求した、だが。 ○「駄目だ」 ○○は、断った。 天「ふぇ・・・? どうして・・・?」 ○「その、俺もしたい気持ちはやまやまなんだが・・・。ほら。」 なぜなら、二人の後ろには。 天「あ・・・。」 三人の妖精が悶絶していたからだ。 三人の妖精は、あの光の三妖精のことである。 おそらく悪戯を仕掛けようとしたのはいいが、その場の空気の甘さに倒れたのだろう。 余談だが、キスしている間二人の半径300メートルの間ではとてつもなく甘い空気が漂っていた。 ○「このままだと、いろいろとまずいからな。 また二人きりのときに、な?」 天「うん・・・!」 そして二人は天界へと帰っていった。 衣玖さんは二人を見て嬉しそうに涙を零していた。 この出来事による短期的な変化としては、この後数日の間二人の事を嬉しそうに衣玖さんが見ていた事。 そして・・・ 天「ねぇ、○○」 ○「どうしたんだ、天子?」 天「その・・・ 一緒に寝たいなって、思って・・・」 ○「そうか、じゃあ、一緒に寝るか?」 天「あ・・・ うん!」 ベッドにて 天「ん、あったかい・・・」 ○「どうだ、苦しくないか?」 天「うん、大丈夫、ギュッって抱きしめてくれて、とっても暖かくて、気持ちよくて、嬉しいの・・・。」 ○「そっか、ありがとうな、そう言ってくれて。」 天「ね、○○・・・」 ○「うん、どうした?天子」 天「・・・だいすき。」 ○「あぁ、俺も大好きだよ、天子・・・。」 そして二人は眠りについた、互いに嬉しそうな表情で・・・ そう、長期的な変化は、その日から毎日二人は一緒に寝るようになったことであった。 エピローグ おしまい ───── うp主「エピローグ、完結です!」 天子「いやー、めでたしめでたしね! これから本編が始まるの?」 うp主「うん、とりあえずもっとイチャつかせられるようにがんばってみるさ。」 天子「そう、頑張ってね!」 うp主「おう! ・・・ところで天子、この後食事に行かない?」 天子「行くー♪」 天子といっしょ! その4(Megalith 2012/03/23) ここは天界、しかしそこに今、とある者が訪れていた。 その名は射命丸、幻想郷最速の名を持ち、新聞記者として新聞を作っているのである。 なぜ射命丸が天界へ出向いたか、それは天子のことについてであった。 以前人里にて天子と○○という人物が仲良く里を歩いていたとの情報が入ったのだ、それを知った射命丸は それを記事にしてやろうと考えたのだが、情報が不足しているため、わざわざ天界へ行き、二人の生活をのぞこうと考えたのである。 そして今、射命丸は二人が住んでいるとされる家に来ている。射命丸はカメラ、そして河童に作ってもらった録音機を手に持ち、部屋を外から覗き込んだ。 文「うーん… ここからでは見えませんね…」 だがそこは違う部屋であった、隣の部屋らしい。 文「あやや・・・?声は微かに聞こえますね・・・ よし、この録音機で聞き取ってやります!」 録音機のスイッチを入れ、起動する、30秒ほど放置し、一度録音をやめ、やや離れた場所で確認してみる。 が、それにはとんでもないものが録音されていた。 天「ん・・・はぁ…」 ○「動くなよー? 久しぶりの筈だから痛いだろ?」 天「はぁ… あっ・・・ なか・・・こすれて、あっ・・・」 ○「よし… 奥まで届いたぞ・・・」 天「ふあぁ・・・っ!? なか・・・あたってるよぉ・・・」 ○「ん・・・ 平気か・・・」 天「あ・・・んんっ・・・!」 ・・・・・・ 射命丸は固まっていた、無理もない、いきなりこのようなショッキングなものを聞いてしまっては誰だってこうなるはずである。 文(ええええええっ!? い、いきなりですね!? もうskmdyをやるまで仲良かったんですかこの二人!? いやいやいや、冷静になりなさい射命丸! これは前代未聞のスクープのチャンス! これを記事にしてやります! タイトルは・・・ 『不良天人、恋人と昼から愛の営み!』 完璧です!) そして射命丸は二人のいる部屋側に移動し、写真を撮る準備をしていた・・・のだが。 さらなるショッキングな二人の声が聞こえてきたのであった。 ○「よし・・・ 出したよ・・・」 天「はぁ・・・はぁ・・・」 ○「よし、次はこっちにも入れるぞ・・・」 天「ふぇ・・・?こっちもするの・・・?」 ○「両方やったほうがいいだろ・・・? どれどれ・・・」 天「そんなに見ないでよぉ・・・ 恥ずかしい・・・」 ○「じゃないと入れられないだろ? よし、入れるぞ・・・?」 天「ふぁあ・・・入って・・・きたぁ・・・」 ○「痛いか?天子」 天「痛くないけど・・・ 変な感じだよぉ・・・」 ○「優しく入れるからな? よし・・・」 天「ん・・・ 奥に・・・進んでる・・・」 ○「よし、奥に届いたか、動かすぞ・・・?」 天「ふぁ・・・あっ・・・! なか・・・こつこつって、あたってるよぉ・・・」 ○「よしよし、大丈夫だよ・・・」 天「あ・・・あふっ・・・ ねぇ・・・早く出してぇ・・・」 ○「あぁ、もうすぐ出すよ・・・」 天「ん・・・、あぁ・・・っ 出た・・・?」 ○「あぁ・・・出したよ・・・」 天「ん・・・//」 射命丸はカメラを持ったまま固まっていた、マズイ、これは記事ってレベルでは無いかもしれない。 射命丸はカメラをしまい、二人を止めることを決意した。 このままではいろんな意味で危ない。内容的にも、ストーリー的にも。 「そんなメタ発言で大丈夫か?」という声が聞こえたがきっと気のせいだろう。 窓に手をかけ、こじ開けた、と同時に二人に言い放った。 文「そこまでですよ!、昼からいったい何をやっているんですか!・・・って、あれ?」 だがこれは射命丸の完全な誤解であった、何故なら・・・ ○「・・・え?」 天「はぁ・・・?」 そこでは、○○がベッドで天子の耳掃除をしているだけだったのだから・・・ ・・・・・・・・・・・・・ 長い沈黙の後、○○は尋ねた。 ○○「おい、一体何をしているんだ?」 武器を手に取り、近づいてきている。 ふと右に目をやると天子も緋想の剣を構えている、ヤヴァイ、殺される。 そう思った射命丸はとっさにこう言った。 文「どうも!文々。新聞です!」 と同時に射命丸の意識は途切れた。 なぜあのような事を言ったのか、射命丸も分からないらしい。 ちなみにその後要石に縛られて8時間ほど空中に放置されたらしい、その後椛に助けられたそうだ。 文「ど、どうもー。」 あの騒動から一週間、守谷神社に用があるということで妖怪の山を登っている途中の○○に射命丸は挨拶をした。 やはり怒っているのであろうか、こっちを見るなり嫌な顔をしていた。 ○「この前の天狗じゃないか。あの時はよくも盗撮しようとしていたな?」 文「あやややや、すいません。ついスクープの気配を感じて来てしまいました。」 ○「まぁいいさ、記事にはしなかったみたいだしな。 ・・・してたら今頃その羽斬ってますから、ね。」 文(・・・怖っ!) 天界での修行や天界に住んでいる事もあってか、○○は今では天子に並ぶ実力を持っている。 本気を出せば射命丸を倒す事も可能ではあるのだ。○○は乗り気では無いが。 文「いや、正直私驚いているんですよ。あの天人に恋人がいる事について。」 ○「そこまで驚く必要は無いだろ?」 文「そうですかね? わがまま、生意気で自己中心的なあの不良娘に恋人が出来るなんて本当にありえないと思ってましたからね。 それこそあれに惚れる人の顔が見てみたいと思ってましたよ」 ○「それは俺と天子を馬鹿にしてるってことを意味してるんだよな? ちょっと歯食いしばれ。」 文「ああああああ! すいませんすいません! 冗談です」 ○「まぁ、誰が何と言おうと、俺は天子の事を好きだという事は変わらないからな。 たとえ他の奴らが天子を拒んでも、俺は必ず受け入れる、そう決めたんだ。」 文「なるほど・・・ ですが、そう簡単に上手くいきませんよ?」 ○「知ってるさ、だが俺は幻想郷を敵に回してでも、天子を守る。ただそれだけだよ。」 文「そう・・・ですか・・・。」 ○「じゃあ、俺は守谷神社に行くから、もうついてくるなよ?」 文「あやや、何の用で行くんですか?」 ○「ん、ちょっとな。」 文「あ、もしやあの天人の為に守谷神社の今話題になってる―――――」 「豊胸のお守りとやらですか?」 ・・・・・・・・・・ 長すぎる沈黙が始まった。 文は顔を青くし、ヤバイ、やってしまったと言わんばかりに焦っている。 よく見ると○○が剣を抜き始めた、あ、死んだかもしれない。 その0.8秒後、射命丸の意識は再び途切れた。 助けてもらった椛の話によると、木に縛り付けられていたらしい。 ちなみに、あの時○○が守谷神社に行ったのは健康祈願のお守りの為だったらしい。 ○「ただいまー。」 天「おかえりー」 ○「天子ーっと、何してるんだ?」 天「何もー? ごろごろしてるだけー。」 天子はベッドの上でころころと転がっていた、なんとも愛らしい姿である。 ふと帽子が無いことに気づく、すると帽子は隣のテーブルの上に置いてあった。 ふと帽子を手に取る、それは以前、そう20年も前から変わらず、綺麗に手入れされていた。 そう、この帽子は昔、天子が地子の時に、○○が地子にあげた帽子なのだ。 天「どうしたの?帽子なんか見て。」 ○「いや、昔の事を思い出してな。」 天「そうね、この帽子は○○がくれた物だったもの、そうでもなかったら今頃捨ててるわ、それ」 ○「そうなのか?」 天「うん、それに、他の人から物をもらった事なんてなかったし、○○がくれた事がとても嬉しかったから、かな。」 ○「そうだな、あの時は帽子が大きくて被れなかったんだよな。確か両手にぎゅって持ってたんだっけ。」 天「そうね・・・ 懐かしいな・・・。 ま、昔の話はもう止めましょう?ほら、○○もコロコロってしてみれば? 結構楽しいわよ?ほらほらー♪」 ○「そうだな、よーし。」 そして○○もベッドに転がり、すぐさま天子を後ろから抱きしめた。 天「ちょ、ちょっと○○、どうしたの?」 ○「ん、天子捕まえたーってやってみたかっただけー。 ほら、ぎゅーっ。」 天「もう・・・//」 ○「てーんし、こっち向いて。」 天「ん?どうしたの・・・? ん・・・!んむっ・・・!?」 ○○はそのまま天子にキスをした。キスしてすぐには天子は少し抵抗したが、観念したのか、それとも嬉しいのか 抵抗を止め、そのまま嬉しそうに舌を動かし始めた。以前のように外では無く、室内なので、お互いに何も考えず。 舌を動かしていた。 ん・・・んちゅ・・・ちゅ・・・ 唾液の水音だけが部屋の中で聞こえていた。 そして息苦しくなり口を離した、天子の顔は赤く火照っていた、キスのせいで目がとろんとしている。 ○○も理性が崩れかけているらしく、天子を押し倒した。 そしてまたキスを繰り返した、そうしてるうちにお互いに限界が来たのだろうか。 天「ふぁ・・・○○・・・いいよ・・・?」 ○「天・・・子・・・。いいのか・・・?」 天「まだ・・・結婚とかそういうのしてないけど・・・ ○○となら・・・いいよ・・・?」 ○「天子・・・」 天「ん・・・//」 そして二人は再びキスをし、○○は天子の服に手をかけた、その瞬間であった。 カシャリ そのような音が、確かに聞こえた。 二人は一旦止めて、カーテンを開けてみる。すると。 はたて「マナーモードにするの忘れてた・・・まぁ写真は取れたしこれを明日の新聞に・・・」 新聞記者、姫海棠はたての姿があった。 はたて「ふふふ・・・天界にわざわざ出向いて、その甲斐があったわ・・・! これで文に勝つ事が・・・」 天・○「「おい、パパラッチ、そこで何をしている?」」 はたて「へ・・・? ・・・あ」 今度ははたてが何かを言う前に木っ端微塵にした。 のちにはたてに聞いたところ、「二人同時にラストスペルを使われた、誰にって?あの天人とそいつの彼氏よ」 とのことらしい。まぁ無理も無いだろう。 ・・・・・・・・ 天「えーと、その・・・」 ○「そう・・・だな・・・、・・・また今度にしような?」 天「あはは・・・そうだね。」 ○「あー、腹減った、久しぶりにラストスペル使ったからかもしれない。」 天「じゃあご飯にしましょう?今作るから待っててね。」 ○「おう、待ってるぜ。」 少女調理中・・・・・ 天「いただきまーす。」 ○「おう、いただきます。」 ・・・・・・ 天「・・・ね、○○。」 ○「どうした?」 天「ちょっとやってみたい事があるんだけど・・・ ゴニョゴニョ」 ○「ふんふん・・・ よし、分かった。 じゃあ、はい、あーん?」 天「ん、あーん♪」 ぱくっ ○「どうだった?」 天「ん・・・おいしい・・・。 ね、もう一回やって?」 ○「よーし、はい、あーん。」 天「あーん♪」 ・・・・・・ 射命丸はこの二人のことを「幻想郷一のバカップル」と言う様になったらしい。 その名の如く、二人がイチャイチャしてる半径300メートルでは甘い空気が漂うとされている。 余談だが天界の二人の家の下の地上の辺りでは、ほぼ常に甘い空気が充満しており、現在立ち入り禁止だとか。 ともかくこの二人は、いつまでも幸せに暮らしていく事であろう。 おまけ ○「天子って、耳弱いよな。」 天「そうかしら・・・?」 ○「この前の耳掃除のときだよ、あれかなり弱そうに見えたぞ。」 天「んー・・・ そうかもしれない。」 ○「どれどれ・・・ はむっ」 天「え!?ちょっと○○・・・ひゃぁっ!?」 そういって○○は天子の耳たぶを甘噛みしてみた、あの時のように、天子はまたプルプルと震えている。 ためしに耳たぶを吸ってみると、やはり喘ぎ声が聞こえてくる。 少し可愛そうなので口を離した。 ○「やっぱり弱いな。」 天「もう・・・ ばかぁ・・・//」 ○「ごめんごめん、許してくれ。」 天「じゃあ、キスしてくれたら許してあげる。」 ○「ほぅ、わかった、喜んで。」 天「・・・えへへ」 この二人は今日も絶好調である。 独自の解釈とかが多いけど気にしないでね? まだまだ続きます うpろだ0032 縁側にて 「やっぱ春は温かいなぁ」 「そうかしら?今日は寒く感じるわ」 「相変わらず天邪鬼だな、俺と意見を合わせるのがそんなに嫌か」 「いいえ、自分の意見を素直に言ってるだけに過ぎないわ」 「へいへい……の割には結構家に来るよな」 「なっ!あ!貴方が一人寂しく過ごしているのを嘲笑いに来ただけよ!」 どうしてこいつは素直に自分の意見が言えないのだろうか 「んじゃあ俺買い物行くわ」 「え?あ……うん行って来れば」 「なんだ?一緒に行きたいのか?」 「……そんなんじゃないわよ」 「そうかい、帰る時戸締りお願いな(ガチャ)」 「……ばか」 ~小一時間後~ 「ただいまァ~」 返事が無い 「ん、流石に帰ったか」 「……べ、別に寂しい訳じゃないんだから!」 どうやら俺は構ってちゃんだったらしい 「居ないと寂しいもんだな……」 さっき天子が居た縁側に行ってみる 「あ」 居た。どうやら俺が出て行った後寝てしまった様である 「スゥ……スゥ……」 「可愛いなぁ……やっぱ」 「(ビクッ)」 「!?」 「……スゥ」 い、今こいつ動揺しなかったか? 気の所為なのか、見間違いなのか 「絶対ここで寝たら体が痛いって喚くよなぁ」 「うーん……仕方ないか」 少しこっぱずかしいが布団敷いて寝かせてやるか 「来客用の布団どこだっけなぁ」 奥から敷布団と布団を持ってきてすぐ近くの畳に敷く 「おーし寝てるなぁ」 「……」 起こさないように背中の下に手を滑り込ませる 「……ぅん」 「大丈夫かな……っと」 そしてそっと腰と両膝に手を掛け、持ち上げる 「……フフッ」 「?」 いつも賑やかな天子が帰った後の寂しさの所為で幻聴が…… 「よっと、やっぱ軽いなぁ」 「(ギュッ)」 「ん?何か怖い夢でも見てるのかな」 敷布団の上まで移動させ、そっと下ろす 「ん……掴まれてるか」 服の胸元を掴まれていた……仕方がない 「今回だけだ……うん」 自分に仕方が無いと言い聞かせ、添い寝の要領で横たわる 「おぉ……こりゃあ起きたら大惨事かもな」 天子を抱き寄せるような体形で隣に寝ることに 「起きたらなんて言い訳しよう」 「素直に白状しても……許してもらえそうにないか」 横を見ると隣から彼女の寝息が聞こえる、相当近いんだと改めて実感する 「でも俺も素直にならなきゃなぁ……」 「……スゥ……スゥ」 「天子が素直じゃないのは何かと俺の所為だし」 「……スゥ……スゥ」 「いっつも俺が煽っちゃうのも天子が素直になれない原因だろうし」 「……スゥ……スゥ」 「こんなに可愛い彼女を持ってるのにどうして良さを出せてあげないんだろ」 「(ビクッ)……スゥ……スゥ」 「本当はもっと抱きしめたり、料理作ってもらったり、いろんな場所にも連れて行ってあげたい」 「……」 「大好きだよ……とも言えないし」 「……(フルフル)」 「本人を前にすると……なんか言葉が詰まるんだよなぁ」 「……」 「もっと可愛いとか天子の趣味とか聞いて仲を深めたいのに……はぁ」 「……ありがと」 「なッ!?」 いつの間にか少し潤んだ赤い瞳が俺を見つめていた 「そんな風に……思っててくれたんだ」 「お!おま!やっぱ起きてたのか!」 「ふふふ~寝たふりを突き通した甲斐があったわね!」 「じゃあ最初から……」 「いいえ?起きたのは貴方が帰ってきてからよ?」 「まさかとは思っていたが……あ~!ぬが~!」 「すごく……すごく……嬉しかった」 本当に嬉しそうに、静かにはっきりと告げる 「お、おう」 「私は貴方にいっつも反抗的な態度見せちゃうでしょ?」 「あぁ、だから俺も……ごめんな」 「こうして素直に話す機会を何時か作りたいなぁって思ってたんだけど……貴方の本音が聞けたわ」 「はぁ……どうだ、案外考えてる事は普通だろ」 「普通でいいのよ?それに大好きって言ってもらえたし、願望も聞けたし大収穫よ(ギュッ)」 「ちょっ!……いきなりだな」 「……ごめんね、いっつも反抗的な態度とっちゃって」 「気にしてないさ(ギュッ)」 「貴方にギュってしてもらうの初めてかも……温かい」 彼女の柔らかい感触が手から伝わってくる 「アファ……なんか眠くなってきたわ」 「フフフ、一緒に寝る?」 「だな、まだ夕方だが一眠りするか……どうする?」 「そうね、もう一眠りするわ……今度はぐっすり眠れそう」 「んじゃあお休みの前に……」 「随分積極的になったわね」 「嫌か?」 「すぅっごく嬉しいわ」 互いに愛を囁き、唇を合わせ、二人は眠りに落ちて行った
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作者:邪魔イカ 『黒軍に所属する1年生。救護班の一員。こげ茶の髪に赤眼。礼儀正しい性格で使用武器は鎖鎌。あまり戦いが好きではない。』 【天子(てんこ)】黒軍所属の1年生。戦いが嫌という理由で救護班になったものの、たまに前線に駆り出される。礼儀正しいがかなり臆病な性格で、その性格を体現したかのように小柄な体躯(身長135cm)。父から鎖鎌の技術を叩き込まれているが本人は使いたくないと思っている(というかまず戦いたくない)。イメージはプルプル震える小動物みたいな
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天子5 新ろだ2-155(新ろだ2-154続き) 幻想郷。現世で忘れられた様々なモノが流れ着く場所。 「ねぇ○○!ほら、あっちにおいしそうな大福があるわよ!」 「どれどれ…赤○って…天子、止めとけ。腹壊すぞ。それよりあっちの粘っこいやつはどうだ?」 「あのねる○るねるねってやつ?割と美味しそうかも!」 勿論、入ってくるのは物だけではない。植物、動物、ごく稀に人間なんかも入ってくる。 「あーっ!1番と2番の袋間違えた!」 「天子…そこまで⑨が進行していたとは…」 「うるさい!○○のと交換しなさい!この私のが貰えるんだからとっても光栄な事よ!」 「へいへい………うわっ…順番間違えただけでこんなにマズいのか、これ」 「~~♪」 (幸せそうな顔しやがって…可愛いな畜生!) 幻想郷に流れ着いた人間の運命は様々だ。酷いものは来て早々妖怪に食われて絶命する。 「何これ…?納豆ゼリー?……○○、食べ」 「やだ」 「たくない?…って、却下が早すぎるでしょう」 「天子が食べればいいじゃん」 「お断りよ!こんなゲテモノ」 「ゲテモノって分かってんじゃねーか!」 「でも気になるじゃない!」 「知るかー!」 まともな人生を歩めるのは全体の1割にも満たないかもしれない。 そんな1割の中で彼、○○は生を謳歌していた。 「衣玖ー!ただいまー!おみやげ持って来たわよー!」 「あら、これは総領娘様。一体何を持って来てくれたのですか?」 「はい、これ!」 「………納豆ゼリー、沢庵飴、ナマコジュース………すみません、これは一体?」 「天子が選んだ衣玖さんへのおみやげだそうです………ごめんなさい」 「ね、ね、衣玖!早く食べてみてよ!」 (総領娘様が目をキラキラさせて待機していらっしゃる!こ、これは最低どれか一つ食べなければいけない空気!しかし一体どれを…… 納豆ゼリー…そもそも発酵させたものをゼリーにする神経が信じられない 沢庵飴…一番マシに見えるが大根の飴ってどうなの?ばかなの?死ぬの? ナマコジュース…せめてリュウグウノツカイなら「共食い!」とか言ってネタにできたものを…) 「で、ではこの沢庵飴を一つ………………………ゲホッ!カハッ!グゥ!」 予想していた以上の衝撃に、衣玖は思わず飴を吐き捨ててむせていた。 「あー、やっぱり不味いのかぁ。よかった、食べなくて。あはは」 瞬間、衣玖を見ていた○○の目に映ったものは幻想郷の最高神、龍神のオーラであった。 「…天子。今すぐ逃げる事をお勧めする」 「え?」 「…総領娘様?」 「あ、あはは、どうしたの?衣玖?目が笑ってない、わよ?」 龍符「光龍の吐息」 光珠「龍の光る眼」 魚符「龍魚ドリル」 「ちょっと待って下さい衣玖さんその位置は俺まで巻き込まれr」 5分後、黒こげの体が二つ地面に突っ伏していた。 「あいたたたたた…衣玖、怒って帰っちゃった」 「…後でちゃんとした菓子折り持って謝りに行こう。さもなきゃ今度はアレがルナティックになるぞ」 「…うん」 「今からどうする?」 「とりあえずちゃんとしたお菓子探しに行きましょう!」 「そうだな。よし、もっかい下界へゴーだ!」 「おー!」 ~青年&少女移動中~ 「んじゃ、二手に分かれるぞ。俺が西通りで、天子が東通りだ。分かったか?」 「おっけー。…んー。よし、○○!勝負しましょう。どっちがより衣玖が喜ぶ菓子を持っていけるか」 「…上等だ。で、罰ゲームは?」 「そりゃ勿論定番の」 「「敗者は勝者の言う事を何でも一つ聞く!」」 「ふっふっふ。負けないわよ?後で吠え面かくがいいわ!」 「そっちこそ、首洗って待ってろよ!」 ~少女探索中~ 「あ、あったあった。」 天子はそういってパチパチ飴(箱入り)を手に取った。 「前冗談であげたらもの凄い喜んでたものねぇ。ふふふ、勝ちはもらったわ!」 その時の衣玖曰く「口の中がフィーバーしてます!」だ、そうだ。 天子はパチパチ飴を買い、勝ち誇った顔で待ち合わせ場所に向かった。 ~青年探索中~ 「衣玖さんって、何が好きなんだろう…」 意気揚々と飛び出してきたが、持っている情報量の差がありすぎて試合開始前から圧倒的不利だ。 なんで今まで気がつかなかったんだろう、と後悔していると見知った姿が見えた。 「風見さん!メディスン!」 「「○○?」」 風見幽香と、メディスン・メランコリー。花が大好きなかよしコンビのはずなのだが、様子が変だ。 「二人とも久しぶりで」 「ごめん○○、少し黙ってて。」 「…メディスン?」 「で?言いたい事はそれだけかしら?毒人形」 「そっちこそ臨終の言葉はよかったのかしら?」 もしかしてこの二人、今絶賛喧嘩中? 二人の間に険悪という言葉では言い表せないほどの嫌気が満ちている。 そしてどちらからともなく弾幕ごっこを……って! 「死ね!幽香!」 「お灸をすえる必要がありそうね…!」 何も考えていなかった。 頭の中には今自分がいる場所とメディスンの弾幕の性質が何回も何回も反芻して 気がついたらメディスンの前に立ちはだかり、弾幕を全て体で受け止めていた。 「○…○…なんで…」 「お前の…弾幕は…毒だろうが……こんな……人…通り…の多い…場…所…で」 それっきりぷっつりと意識の糸は切れた。 ………………………………………………………………………………………… 「○○、遅いわね…ちょっと見に行って見ましょう」 待ち合わせ時間から十分。ついに天子が重い腰を上げた。 東通りに行ってみると、なにやら人だかりが出来ていた。 「一体何なのかしら?」 覗き込むと、永遠亭のウサギが治療者を搬送していた。 瞬間、天子の脳裏に嫌な予感がした。 いや、まさか、そんな事あるわけない。 そうかぶりを振っていると、日傘を持った緑髪の妖怪が近づいてきた。 「私の名前は、風見幽香よ。あなたが○○と恋仲だっていう天人ね……」 「そ、そうだけど、何?どうしたの?」 「話せば長くなるわ…まずは一緒に来て」 この時点で、天子は無意識中で○○の身に何か起こった事を理解した。 ただ、それをどうしても認めたく無かった。 ………………………………………………………………………………………… 風見幽香に連れてこさせられたのは、永遠亭だった。 そこで自分の彼氏のいる部屋を見た時、天子は永遠亭を破壊しようとした。 風見幽香がいたから、未遂で終わったようなものだ。 「患者 104 ○○ 弾幕による全身裂傷。また、鈴蘭の毒による精神疾患の疑いあり」 そう書かれたカルテが、入口のドアに貼ってあった。 「どういう事よ!何で!何で○○が入院してて!一歩も動けないような重傷なのよ!」 「……メディスン、という毒を操る人形と私が東通りで喧嘩してね。弾幕勝負になる直前に○○が飛び込んだのよ」 「他人事みたいに…!」 「…メディスンは○○を傷つけてしまった強いストレスで心神喪失状態なのよ」 「心神喪失で済むと思ってるの!?どこよそのメディスンとかいうのは!殺してやる!」 「…メディスンの分は私が受けるわ。殺してくれても構わない。でも、今メディスンを殺すのだけは…」 「そういう偽善が一番むかつくのよ!犠牲になってアタシかっこいい!?ふざけないでよ!」 「違うわ。メディスンに謝らせる機会を与えてやってほしいだけ。許すかどうかは別問題よ」 「………っ!」 「私を殺しにくるならいつでもいいわ。私は絶対に抵抗しないから」 そういって風見幽香は去って行った。 結局、天子は部屋の前で日が暮れるまで立ち往生するしかなかった。 「あなたが、彼の彼女ね?」 「…アンタは?」 「八意永琳。医者よ。早速だけど症状の説明を…」 「○○は助かるの!?ねぇ!ねぇ!」 「…結論から言えば、肉体的には完全に助かっているわ」 「どういう…事…?」 「扉の前のカルテにあったでしょう。鈴蘭の毒による精神疾患の疑いあり、って」 「そんな…!じゃあ…」 「…ええ。精神に異常が残っている可能性が高いわ。」 「それって…どんな……?」 「……………周りの全てが自分を攻撃しているような錯覚に陥るわ」 「………!」 「多分、今の彼にとってこの場所は地獄より苦しいでしょう」 「何とかならないの!?ねぇ!医者なんでしょ!?なんか言いなさいよ!」 永琳はそれっきり顔をあげないで、目を閉じた。そして 「彼に…会う?」 天子とってに最も残酷な二択を突きつけた。 ……………………………………………………………………………………… 「○……○……」 そこにいるのは確かに天子の彼氏だった。 ボロボロの体で何も無い場所に椅子を振り回しているのを除けば。 天子はすぐに病室から出た。一秒だってこんな所に居たくなかった。 去り際に永琳が何か言っていた気がするが、よく覚えていない。 もうわからない。こっちまで気が狂いそうだった。 天子は家に帰った。いつの間にか衣玖が深刻な表情で居間にいたが、気にならなかった。 顔を布団にうずめ、一晩中泣いていた。 ……………………………………………………………………………………… 「…総領娘様。起きて下さい」 衣玖の声が聞こえる。分かんない。 「総領娘様。早く起きて○○さんの所に行って下さい」 「………」 衣玖は何を言ってるんだろう。なんにも分かんない。分かりたくない。 「総領娘様」 「総領娘様…」 「天子!」 体中に電流が流れた気がした。思わず跳ね起きた。 「あなたはもう、○○さんの言っていた事を忘れたんですか!」 衣玖の目から水が出ていた。 「何があっても信じるんじゃなかったんですか!」 私の目からも水が出ていた。 「○○さんは今一人で戦ってるんです!」 衣玖が叫んでいる。目から水を流しながら。 「あなたが助けてあげなくてどうするんですか!」 目から出た水が涙だと、理解した。 「早く行きなさい!」 言葉にならなかった。 それでもなんとか声を出す。 「衣玖…」 「はい」 「テーブルのパチパチ飴…お詫びの品よ…食べていいわ…」 「もう頂きました」 「あはは…じゃあ、行ってくるね」 「はい。また夕飯時に」 しゃくりあげながら永遠亭に行った。 永琳に止められたが、歩みを止める気は無かった。 ○○を助けられるのは、私なんだから。 ……………………………………………………………………………………… 私はは、104号室になんの躊躇いもなく入った。 ○○に近づくと、○○はひどく怯えた顔をしながら私の頭に椅子をぶつけてきた。痛かった。 でも、○○の方がもっと痛そうだったから。私は、○○に抱きついた。 それでも○○は椅子を振りおろしてくる。でも、気にはならなかった。 「ねぇ、○○」 ゴスッ!ゴスッ! 両腕に青あざが浮かんできた。 「覚えてる?私が○○に助けてもらった日」 ガスッ!ガスッ! 両足も内出血しているみたいだった。でも、それでも。 「○○、こうして私を抱いてくれたよね」 ガスッ!ゴスッ! 遂に頭から血が流れ始めた。少し意識が霞む。間に合うかな… 「だから、今度は…私が助ける番」 ○○は声になっていない叫びをあげる。 殴って、蹴って、噛みついて 何度も私を遠ざけようとする。 でも、私は離れてあげない。だって、ワガママ天人だから。 「○○。衣玖にあれあげたのよ。パチパチ飴。衣玖あれが大好物なんだから」 ○○の動きが徐々に鈍くなり、遂に止まる。 「○○は何もあげなかったでしょ。だから、あの勝負は私の勝ち。後は、罰ゲームよ。」 敗者は勝者の言う事を何でも一つ聞く。それが、罰ゲームの内容だった。だから。 「命令するわ。私を抱きしめて。あの日みたいなキスをして。」 「………………………………………………どっちか、一つに、しろよ」 ○○は私の大好きな○○に戻っていた。 優しく、でも絶対に離さないように。○○は抱いてくれた。 ああ、○○だ。私が世界一好きな○○が、戻って来た。 信じてくれた。私を、最後の最後まで。 私からも、○○からも、とめどなく涙があふれていた。 「何、言ってるのよ…二つで、一つよ…」 「…天子」 「うん」 「ごめん…天子…ごめんな…!俺、天子に一杯殴ったり…」 「いいよ、○○。だって、私の信じてた通りになったんだもん」 「え…?」 「抱きしめてくれるし、キスもしてくれるじゃない」 「当たり前だ、俺はお前の彼氏だぞ、このワガママ天人め」 二回目のキスは、鉄の味がした。 ……………………………………………………………………………………… 「痛い!痛いよ天子!傷薬痛い!」 「うーごーかーなーいーの。全身切り傷なんだから仕方ないでしょう。退院させてもらっただけでも儲けものよ」 「あがががががががが!○○痛い!めっちゃ痛い!」 「はいはい動かない。じっとしてろ!」 結局二人とも出血多量で失神した後処置してもらい、永琳に無理を言って退院させてもらっていた。 いまは自宅療養中である。 しかし傷薬の塗りあいっことは…………どこまでバカップルなのか。 風見幽香はこの様子を見て呆れかえったのか、家にお見舞いの花だけ置いて帰ってしまった。 メディスンは症状が治まってから後日謝りにきたが、あの二人はおかげで愛が深まった、等と言い、逆に歓迎していた。 メディスンも今回のことで反省し、街中での弾幕の乱発を止めるようになっただろう。 実は私はまだ○○さんにお詫びの品を貰っていない。 しかしそんな些細な事は広い空に浮かぶ小さな雲のようなものだろう。 今日も天界の空は快晴だ。 おお!口の中でフィーバーする!これは止められませんね… 新ろだ2-258 この地はとても暑い。考えなくてもそれはそうだ。 ここは地上の幻想郷とは違って日光を遮る雲なんて下の下の下、下下下の下。雨の日も関係なく、燦々と照らす日光が恨めしいくらいの様子に、しばらく前から事情があってここに住む事になった彼は既にダウンしていた。 「……暑い、死ねる」 ここは天界。それも最上と呼ばれる有頂天。非想非非想。要するに外の世界で言えば真夏の富士山の山頂に住んでいるかのようだ。 よくこんな所に住んでいて彼女の肌はウルトラバイオレットとは無縁なのだろうと頭を抱えるが、今の彼にはそんな些細な事を考える放熱機能が存在しなかった。 本来ここに住まう天人ならばそんな事は気にしないだろう。何せ天女の羽衣、天衣無縫と言うように、地上では考えられない技術を使って作られている衣服を纏う天人には季節など然程問題ではない。 しかし彼は人間だ。理由はどうあれこの天界に住んでいようとそれは変わらず、彼は生と死の狭間を右往左往してその姿は正に『テンション上がってきた』と言った某メジャーリーガーの様だった。 今にも目の前に池とか湖があったら「ヒャッハー! 汚物(汗)は消毒(流さないと)だー!」と叫びながら全裸になって飛び込んでいただろう。正直気色悪いが。誰が好きこのんで男の全裸など見なければならない。 「あ゛ー……」 地下の妖怪ツアーコンダクターが連れてそうな半分だけ生きている死体の物真似をしても状況が変わる訳じゃない。むしろ無駄な事をしているだけで汗がドッと放出され、思考回路とSAN値をガリガリと削っていた。 水なんてもう飲み干した。要するに死へのカウントダウンが近づいている。成仏した後の世界で死ぬとはこれまたおかしい事だと思いながら、彼の意識はズブズブと沈んでいく。 沈むのであれば出来ればここに良く来る竜宮の使いのような豊満なバディに沈みたいと心の底から望んでいたが。 「へーるぷ、まいすてでぃ……」 彼が最期に呟いたのは愛する者の名前だった。 「いや勝手に殺すなよ」 可愛い女の子とイチャイチャ出来るリア充なんぞ爆破すればいいと時折真剣に思う。一番真っ当なのが小型爆弾を体内に仕込み、起爆装置を作動させる事か。 いや、いっその事軽く拉致してガイ○ックの如く人間爆弾に改造してあげるのが一番溜飲を下げやすいだろう。 そんな物騒な事を思われているとはいざ知らず、彼は本当に意識を沈めてしまった。 その時彼は夢を見ていた。何とも奇妙な夢だが、概要はこうだった。 視界に広がる断崖絶壁を彼はただ登っていた。しかも酷い事に命綱は無い。更に足元を見ると地面らしいものなんて見えやしない。 それだけで彼の第三の足、別名制御棒、別名不思議な根、別名ミシャグジ様、別名マーラ様がキュッと縮むような感覚に襲われ、とうとう力尽きて崖から手を離してしまった。 ああ、死んだな俺と何十秒にも渡る走馬灯を見ていると、突然の出来事が。 なんと地面に激突するかと思っていたら、地面一体に広がるとても柔らかい“ましゅまろ”によって助かったのだ。 彼はそのマシュランボ……“ましゅまろ”に感謝し、存分にその感触を味わっていた。 『ち、ちょっと……!?』 ましゅまろが何か発したような気がするが気にせず極上の弾力を頬で、指で、舌で感じとる。 『んんっ、んっ……!』 何故かましゅまろが艶っぽい音を出しているが夢なので仕方ない。気にかかる事は突然空から“落石注意”と書かれた看板が降ってきた事くらいか。 後はもう絶影鐙を手に入れた馬超か赤兎馬に乗った呂布の如く無双状態となって欲望のままに夢を堪能した。或いは戦国ロボ忠勝を手に入れた若き日の家康か。 『はぁっ……あっ……やっ、止め……んぅ!?』 一般的に夢を見ている状態とは心身喪失状態とされる。この状態で罪を犯したとしても、法律上無罪とされる。これは楽園の裁判官でも白の判決を下してくれるだろう。あの裁判官は法律に則った判決をしないが。 問題は本当にその状態なのか、という証明だ。一歩間違えると悪魔の証明になりかねないのだが、ここでは本当に彼は夢を見ている事だった。夢を見ていると自覚しながら罪を犯したとしたらそれは法律上罪になるのだろうか? CAST IN THE NAME OF GOD. YE NOT GUILTY.要するにそういう事だ。 『ひぁっ! そ、それ以上は……ぁぁっ……!』 突然食欲に襲われた彼は目の前にある極上のましゅまろを見て食べたくないと思うだろうか? いいや有り得ない。 軽くましゅまろを唇で甘く噛むと、勢いのままに吸い付く。時折ましゅまろから艶めいた悲鳴に似た何かが聞こえるが、夢なのだから気のせいにした。 甘く口当たりの良い極上のピーチ味のましゅまろ。それは決して外の世界でも味わえない、ある意味彼にのみ食す事を許されたレア中のレア食材。 何度か全身を使って味わった事があるが、何度でも食べたいと心底思う中毒性ながら副作用は殆ど存在しない、言わば合法の麻薬のような、そんな気分だった。 『……この』 突然地震がする。なんとましゅまろ世界が大きく揺れ始め、あちこちに地割れが起きていたのだ。 ――まさか。そう思うよりも先に彼が頭上を見上げるとそこにあったのは。 落石注意の看板の通りだったのだ。 「いい加減にしなさい!」 「ぐへぁ!」 その声が完全に聞き終えるよりも先に、彼の頭に鈍い痛みがやって来た。突然襲撃してきた後頭部の鈍い痛みに、さすがの彼も夢から解放され、現実世界に強制送還された。 「何すんだ天子!?」 「それはこっちの台詞でしょ!」 血液的な意味で顔を真っ赤に染めた彼の前にいるのは、羞恥と興奮的な意味で顔を真っ赤に染めた彼の恋人であり、彼がここにいる所以でもある比那名居天子がそこにいた。 改めて彼は状況を確認すると、彼女はいつもの服装だが夏の暑さのファッションの一つなのだろう、いつもよりもスカートを短くし、思わず被りつきたくなる白く丸い膝頭が顔を覗き、瑞々しい太股が少しだけかいま見えた。 問題は顔を真っ赤にしながらスカートの裾を掴み、必死にその見る者というか彼を魅了する太股を隠そうとしている事くらいだ。 丈が足りずにもじもじしている様は実に愛らしい。先ほどと同じようにむしゃぶりつきたくなる。 「痛い」 「自業自得でしょ、全く」 そっぽを向いているけど紅潮した頬は隠せてない。その姿を見て更に彼の欲望を誘う。 これは今日の夜が楽しみだと思うが、辛抱溜まらなくなって野外でも別に何の問題もなかった。問題はお外で致そうと思ったら緋想の剣でぶった切られた事だ。 「あと、ごちそうさまでした」 「解っててやってたの!?」 「いやいや、俺は寝ていただけだ。どうしようもないくらい美味しそうなものがあったから食べていた夢を見ただけだ」 「……本当は?」 「断崖絶壁の時点で状況は把握してたから明晰夢だがはぁっ!!」 要するに彼の夢は現実とリンクしていたのだ。 天子の視点からすればこんな感じだった。 茹だるような暑さにダウンした彼氏が木陰で寝ていたので、ちょっと恥ずかしいけど周りに誰もいなかったから、嬉し恥ずかしドキドキの膝枕をしてあげたのだ。 その時彼が「絶壁が……絶壁が……!」と魘されていたので、天子は思わず地上に突き落とそうか考えていたそうだ。 膝枕をされると一般的に分かるのだが、される側は仰向けになると必然的にする側の人間の胸元を仰ぐ形になる。 だから彼は断崖絶壁の夢を見たのだ。 一万日と二千日経っても大きくならない。八千日過ぎた頃からもう諦めるしかなかった。一億と二千秒経っても膨らむ事も無い。鬼が来たその日から有頂天に宴会は絶えない。 そして絶壁の下には魅惑のましゅまろ。これは彼の後頭部にあった天子の太股を暗示していた。 彼は夢を見ていて、なおかつ自分が現実ではどの様な状況なのか把握した上で夢を自在に操ったのだ。 明晰夢自体はそこまで難しいものではない。夢である事を理解しながら夢を見続けるだけでいいので、特別な素質など必要ない。 そして彼はましゅまろを存分に味わったのだ。 頬で、指で、舌で、唇で。ありとあらゆる手段を使ってましゅまろという名の魅惑の太股を。 「ふぅん、解っててやったんだ? しかも絶壁って理解して? うん解った。あなたがとっても死にたがりだって事が」 「オレのそばに近寄るなああ───────────ッ」 ただ延々と要石で殴られ続ける。終わりがないのが終わり。それがスカーレット・ラプソディ・レクイエム。 ラプソディだかレクイエムだかどっちか解らんな。 「はーい地上のみんな、元気?」 「ん?」 「とってもキュートで愛らしいみんなのアイドル天子ちゃんの天気予報の時間がはっじまるよー」 「みんなのじゃなくて俺だけのアイドルであって欲しい」 何格好良さげな臭い台詞吐いてるのコイツ? 正直失笑しか出ないんですけど。 「最近は地上で衣玖もやっているってあの天狗の新聞に載っていたけど、やっぱりここは本家本元、私の出番ね」 「おい何を言って……」 突然の天子の一人寸劇に珍しく状況が掴めない彼が止めようとした最中、天気予報がされた。 「本日の幻想郷の天気は、ちょっぴりエッチな人間が出す血の雨ときどき細かい要石の破片でしょう」 「なにそれこわい」 何が言いたいのか速攻で理解した彼だったが、伊達に天子は何百年も天人をやってない。 言い終わると同時に跳躍、そこから一気に彼に近づくと、躊躇なく【天気予報】が執行されたのだった。即ち遠A。 「かぁなぁめ石だッ!」 あれ、この番組ってやらせ番組じゃねと思ったが、彼氏は即座に意識だけが失われていた。 「とまぁ、そんな事があって死にかけたが」 紆余曲折の末に、改めて天子の膝枕を堪能する。 「というか、私がこんな事するなんて滅多にしないんだから、あ、ありがたいと思いなさいよ!」 「解ってる。天子の膝が俺専用の場所だってな」 「うぅっ……あぅぅ……」 こっ恥ずかしい事を平然と言いのける彼にボッと顔を沸騰させ、天子はわたわたと膝の上の彼を落とさないようにしながら器用に慌てふためく。 「そ、そういえばっ!」 「んっ?」 「ど、どうしてくれるのよ! あなたが、その、吸っちゃうから、もうちょっと長いスカート履かなくちゃ、バレちゃう……」 膝枕をしながらも天子は裾を気にしていた。どうやら先程寝ながらやったイタズラによって、天子の太股にキスマークが残された。 それも器用にスカートの端から見えるか見えないかの瀬戸際。パッと見わからないかも知れないが、よく見ると虫刺されのようになった何かの痕が残されている。 恋愛事に敏感な幻想郷の少女達の中には、その痕を見てそれがキスマークであると認識するのは少なくないだろう。 今は誰もいないが、今の格好では誰かに見つかる可能性が無いとは言いきれないので、天子の恥ずかしさは既に天元突破していた。 俺のドリルが(そこまでよ!)。 「いいんじゃないか?」 「どうして? すっごく、恥ずかしいのよ……」 あっけらかんと言い放つ彼に天子は弱々しく抗議する。後になって今ここで抗議しなかった方が良かったと思ったのだが。 彼が突然上半身を起き上がらせ、天子の耳元に口を寄せると、こう呟いたのだ。 「だって他の奴に天子は俺のって教えたいじゃないか」 「うぅぅ~……」 可愛いと思いつつも、年甲斐もなくとかそういった実年齢について触れてはならないのが幻想郷に住まう紳士達の暗黙のルール。 「それにどうせ服で隠れてる所に一杯」 「わー! わー! 言わないで!」 顔を真っ赤にした初心な天子が強引に彼の言葉を遮る。昨日の夜も先程と同じように天子の肢体の有りとあらゆる所に刻印を施したのだから、今更凄まじい分母の数に対して分子が一つ増加しても殆ど変わらない。 そんなころころと表情が変わる彼女の、空を思わせる青の髪と対になるような真っ赤な顔に、更に赤くさせたくなる欲求に駆られる。 不意に天子の絹糸のような髪に指を絡ませ、彼女のルビーを思わせる瞳の大半を彼で映す。 「な、なに……?」 時間が経つにつれ、彼女の瞳が徐々に期待に満ちて潤う。 「天子ってやっぱり可愛いよな」 「えっ? ぅええっと、とと当然じゃない!」 「食べたくなるくらい」 「へっ? んむぅ……!」 見つめられるのに耐えられなくなって視線を逸らした天子の隙を突き、彼が半ば強引に唇を奪う。 初めは突然の事態に目を見開くが、即座に理解すると同時に天子の思考回路はオーバーヒートを起こし、やがて考える事を放棄した。 ただし、呼吸が苦しくなったのか彼の胸を叩いて次を促す。彼女のこの動作に抵抗の意思はもう無く、むしろこの口付けに情欲が駆られてしまっていたのだ。 呻くように天子の瑞々しく柔らかい唇が僅かに開かれたのを把握し、彼の舌技が彼女の理性を果物の皮を扱うように丁寧に剥く。 「んんっ、はぁっ……あっ……」 周囲に誰もいない事をいい事に、文字通り天下の往来で二人の周囲にピチャピチャと淫猥な水音が響く。その音で更に天子の瞳が濡れる。 髪を撫でていた筈の彼の手はいつしか彼女の背に回り、離さないと言わんばかりに強く抱き締める。欲望を表すように彼の舌が口内を駆け巡った。 絡められる互いの舌。初めは彼が導くように、舌から歯茎を丁寧になぞり、唾液を交換する。しかしそれもやがて動きを止め、天子に何かを促すように自分から何かをするという事はしない。 やがて意を汲んだのか、天子の方から積極的に絡めるようになる。さすがに何回もしていると何を欲しているのか、言わずと知れていたようだ。 「んくっ、んっ……あっ、ふぅ……」 初めは突然のキスに天子の手も彼の胸元に添えられていたが、高まる欲望に彼の首を回すようにして彼女から強く抱き締めてくる。 さすが不良天人と言われるだけあって、欲を捨てて天人になるのに彼女の欲が収まる事は無い。むしろだんだん自分でも制する事が出来なくなっているのか、天子の肢体は時折不自然に身動ぎしていた。 当然それを見逃す彼ではない。いつまでも続けていたかったキスをゆっくり止めると、二人の舌に銀色の飴細工のようなアーチがかかる。 いつまでも繋げていたかったが、名残惜しむように途切れるそれを見る天子の呼吸は肩で息をするほど荒かった。 「はぁっ……はぁっ……」 「なぁ、天子」 逆に恐ろしいほど落ち着いた彼の様子を伺うほど、今の天子の心と体に余裕は無い。 「何をして欲しい?」 虚げな天子と視線を交錯させると、彼はハッキリと言い放つ。少しだけ唇の端が上を向いたのは、天子には視界では見えてながら何も見えなかった。 目は口ほどにものを言う。何かを期待するように蕩けた瞳は何を欲しているのかは、当然のように彼は理解している。 しかし理解しながら彼は聞く。 「う~……」 先程のキスマークを隠すのとは違う理由で太股を擦り合わせながら裾で必死に隠そうとする姿に、音もなく生唾を飲む。 「わ、わかってるんでしょ……?」 「言わなくちゃわからないなぁ」 「うう~……」 口に出す恥ずかしさが勝つか、それとも欲望が勝つか。そんなもの経験上賭けるまでもないギャンブル。あまりにも一方的な結果となる事に知る前に笑みが溢れる。 そしてとうとう天子が折れた。今までにも何度も同じ事をしているが、全てが全てこの結果だ。 「……め、命令、よ」 「ん」 「……今、とっても暑いから、その、私をお風呂に、連れてっ、来なさい……」 「ッ!? ……ああ、解ったよ」 内容の方向性は解っていたが、まさかのお風呂への要望に虚を突かれた彼は目を見開く。しかし、これからかするであろう愉悦に笑みを溢すと、すぐに彼女をお姫様抱っこにしながら、二人だけで住んでいる屋敷へと向かったのだった。 そして唐突だが舞台は紅魔館に移る。そこにいた二人の少女が突然――。 「「そこまでよ!」」 と叫んだのだ。 「あら、奇遇ね、動かない図書館さん」 「そちらこそ。えっと……」 片や紅魔館の地下室の主。パチュリー・ノーレッジ。そしてもう一人は――。 「私は花果子念報新聞記者……姫海棠はたて!」 まるでどこぞの調整された傭兵の如くクルクルシュピンと回転しながら自己紹介をする姿に、パチュリーは「また変わった記者が増えたのね」と呟いていたのだった。 Megalith 2011/07/30 うだるような暑さの中で俺は己の欲望を何の躊躇いもなく口にした。 「あー、てんこの髪をクンカクンカしたいなぁ」 「……ぬええっ!?」 本人がいた。 ◆ 「おお、来てたのか、てんこ。どうした、平安のエイリアンみたいな声を出して」 「私はてんこでもエイリアンでもなく比那名居天子よ!」 いつでも遊びに来いという社交辞令をいい事に、こちらの事情などお構いなしに遊びに来る天子が、今日も勝手に我が家に上がりこんでいた。 夏バテしてしまいそうな暑い日が続く中でも、どうやらツッコミの勢いは衰えていないようだ。 「それよりもあんた、何を口走ってるのよ!」 何事もなかったかの様に話が進む可能性を信じていたかったが、どうもそういう訳にはいかないらしい。 仕方がないのでここは本人のご要望通りに復唱することにしよう。 「俺は髪をクンカクンカしたいって言っただけだぞ?」 「私にそんな事をしたいだなんて変態よ!」 怒ってるせいなんだか、それとも暑さのせいだかなんだか、天子は顔を真っ赤にしてこちらを罵ってくる。 そういえば前に自慢しに持って来ていた緋想の剣とやらも、こいつに似合う綺麗な赤色だったな、なんて事を思い出す。 「全く、何を考えてるんだか…………あ、暑くて汗だってかいてるし、それならせめてお風呂に……」 先程までのキレの良さはどこへ行ったのかと問いたくなるような素振りを見せ、天子はごにょごにょと何かを呟いている。 やはり、天子には顔を赤くして恥ずかしがってる姿がとても似合っていると改めて思う。 だからこそ、俺はいつもからかうことを止められないのだろう。 「何でお前がそんなに慌ててるんだ」 「何でって、だってあんた私の髪を……その、クンカクンカしたいって!」 まさか自らクンカクンカと言うとは思わなかった。 意外と天人っぽく落ち着いた様子を見せる時もあるが、地の性格がこうであるからして、興奮するとついつい勢いであれこれとやらかすところが出てしまったか。 そして、思った通り気付いていないらしい。 「お前はてんこじゃなくて、天子だろうが」 「…………え?」 自分で『てんこ』ではないと言ったのだから、俺が『てんこ』の話をしていたところで『天子』には関係ないと、つまりはそういうことなのだが。 「違うのか」 「違わないけど……違わないわよっ!」 屁理屈のようなものなのに、一度自分で言った事を曲げるのが嫌なのか、一瞬反論しかけたものの納得してしまったようだ。 もちろん俺の目に映る天子は微塵も納得してるようには見えないが。 「不満そうだな」 「べ、別に私には関係ないことなんでしょ!」 どうしてこいつはこうも意地っ張りなのだろう、などという疑問を初めて抱いたのはいつだったか。 そっぽを向いて拗ねる姿は、そんないつかの天子を見ているかのようだ。 けれども、俺の抱く感情はあの頃と大きく違っていて。 ――――ああ、愛おしいな。 「うひゃっ!」 こちらを見ていなかったのをいい事に抱き寄せると、天子は体をビクッとさせながら驚きの声をあげた。 俺みたいな普通の人間とは比べ物にならないほど強く、長い時間を生きている筈なのに、こうしているとただの女の子のようだ。 「……い、いきなり何するのよ」 借りてきた猫かと言わんばかりに、急におとなしくなった隙をついて髪を撫でる。 穏やか川のせせらぎを思わせるように、指の上をさらさらと流れていく青い髪は触れていて、とても心地良い。 そして、その感触を十分に楽しんだ後、本来の目的を果たす為に髪を手繰り寄せた。 「あー、天子の髪はいい匂いだな」 「そ、そう。まあ、この私の髪なんだから当然よね。ちゃんと時間を掛けて手入れだってしてるんだから…………あ、あなたの為に」 消え入りそうなか細い声は、これほど近くにいて、ようやく聴こえる程の小さなもので。 だからこそ他の誰でもない、俺にだけ向けられた言葉なのだという事を強く感じさせる。 そんな天子の気持ちを大事にしたくて、意地を張って誤魔化したりされないように優しく抱きしめ、そして心を込めて髪を撫でていく。 人に甘えることが苦手な彼女にも、安心して寄りかかって貰えるようにと。 「……ねえ、黙ってないで何か言いなさいよ」 「愛してるぞ、天子」 「……わ、わた…………分かってるわよ、そんなこと」 「そうか」 「うん、ちゃんと、分かって……るんだから」 俺を抱き返す天子の腕にそっと力が込められるのが分かる。 密着していて既に距離などなかった筈なのに、更に天子に近づいたように感じるのは、きっと心が触れ合っているからなのだろう。 それが堪らなく嬉しくて、だからこそ、それ以上を求めたくなってしまう。 「……なあ、天子」 「なに?」 先程までとは違う熱さの中で、俺は改めて己の欲望を何の躊躇いもなく口にした。 「ちゅっちゅしたい」 「……は?」 「天子とちゅっちゅしたい」 「……………………なああっ!?」 慌てて俺から体を離した天子は、一体何を言ってるんだとばかりにこちらの様子を伺ってくる。 ここまでしておいて今更な感もあるが、流石に調子に乗り過ぎただろうか。 けれど、こちらを罵倒する様子は一向に見られない。 期待してもいいのだろうか。 俺が天子を求める気持ちと同じぐらい、天子もまた俺を求めてくれる事を。 「悪かった、天子が嫌なら止める」 「えっ?」 好かれている自信がない訳ではないし、求めれば答えてくれる程には愛されていると思う。 ただ、俺がどれだけ彼女に求められているか、ということに関しては正直に言って不安があった。 だからこそ、試してみたかったのだ。 天子も俺と同じ感情を抱いていてくれているのかを。 俺の言葉の意図を探るように向けられる天子の視線が、俺の視線と絡み合う。 普段からしっかりした人間であるつもりはないが、今の自分はきっといつも以上に情けない顔をしているだろう。 それに呆れたのか、一言だけ『仕方ないわね』と口にすると、真っ直ぐとこちらに向き直り、そして話し始める。 「……一度しか言わないからよく聴きなさいよ」 言われずとも、もはや外の喧騒など聴こえておらず、今の自分には天子の声しか聴こえていなかった。 それでも、わざわざそう口にするのだからと、天子を見つめ直し、意識を集中させる。 すると、途端に天子の顔が迫ってきて、そして。 「わ、私だってあなたのことが、好きなんだから…………だからっ!」 その瞬間、二人の距離が0になった。 抱きしめあった時よりも、更に深く触れ合う心と体に、俺が満たされていくのが分かる。 ――――ああ、愛されているのだな、自分は。 そんな俺の感情が天子にも伝わったのか、ゆっくりと唇を離すと優しい表情を浮かべながら、言葉の続きを口にする。 「だから、そんな顔しないでよ…………バカっ」 天子の言う通り、馬鹿だったのだろう。 今の自分が果たしてどうなのかと言われれば、それもそれで分からないが、少なくともさっきまでの自分は、間違いなく。 天子の性格を知っていてなお、それでも彼女の愛に対して不安を抱いてしまっていたのだから。 「すまん」 「……謝られるぐらいなら、いつもみたいにからかわれてる方がマシよ」 「からかわれるのが好きなんて、変わった奴だな」 「そんな事は言ってないわよっ!」 自分の愚かさをいつまでも悔いるのは止めよう。 それが天子の要望にも繋がっているのであれば、なおの事だ。 ならば、今は天子のお望みを存分に叶えるとしよう。 「そういえば以前、天子はいじめられると喜ぶらしいと聞いたが、あれはそういう事だったのか」 「勝手に納得するな! ……っていうか、誰がそんな事を言ってたのよ?」 「衣玖さん」 「よりにもよって!?」 「まあ、本当はただの個人的感想なんだがな」 「私の事を何だと思ってるのよ、あんたは」 「……ドM天人?」 「さっきの言葉を撤回して、泣いて謝らせたい気分になってきたわ」 いかん、少し調子に乗り過ぎたか。 けれども、変に深刻な顔をしているよりも、やはりこうしている方が俺たちらしいのだと思う。 こんな関係だからこそ不安に思う事もあるが、こうして天子はいつだって俺に付き合ってくれるのだから。 「全く、あんたって本当に性格が悪いわね」 「不良天人なんて呼ばれる奴にはお似合いだとは思わないか?」 「……わ、私はそこまで性格悪くはないわよ」 恥ずかしがる天子に俺はそっと顔を近づけ、そしてもう一度自らの欲望を包み隠さず口にする。 「今度はこっちからキスしたい」 「……か、勝手にすればいいじゃない」 「では、お言葉に甘えて」 夏の日の、蕩けるような熱さの中で、二人の距離が再び0になった。 (あー、天子とくんずほぐれつしたいとか言い出さないかしら) (……こいつの事だから『相変わらずの絶壁だな』とか言い出して来たら) (『違うわよ、嘘だと思うなら確かめてみなさい』とか言い返せば!) 「……」 「な、何よ、じろじろ見て。私の胸部に関して何か言いたい事がありそうね!」 「……安心しろ、俺はお前が好きだ」 「……あ、ありがとう」 (えへへ……って、はっ! そ、そうじゃなくて) (……動かない図書館が動くのは何とか阻止しておかねば)
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天子4 新ろだ442 「……」 「……」 朝日というにはだいぶ高い角度から差し込む日光に照らされて、天子に頬をつねられながら目が覚めた。 天子は俺の隣、掛け布団のほとんどを自分のほうへ引っ張り込んでみのむしのようにくるまり、 顔と、白い右肩から先だけを外に出してこちらをにらんでいる。 おはよう。そういったつもりが、「おふぁよう」になってしまうのはご愛嬌ってやつだ。 「……」 返事はない。天子は相も変わらず不機嫌そうな、少し腫れぼったい目を向けてくる。 おーい。お、は、よ、う、てんしー。 「……もうお昼前よ。おそよう、○○」 ……ふむ。もうすっかり目も冴えた。起きたからもういいだろ。 頬をつねり続ける天子の指をゆっくりほどいてやり、上体を起こして天子のほうへ体を向ける。 おや、赤くなって顔を背けちゃって。昨日は上から下まで穴が開くほど見たくせに。 「……ずるい」 ん? 「私、起きてからずっと、いたくて動けないのに、○○ばっかりぐーすか寝てて、ずるい」 ああ。 ようやく合点がいった。 昨晩、紆余曲折のナンヤカヤを経て晴れて相思の関係となった俺たちは、勢いのまま……。 あー。あー。 ……まだ痛むのか? 「痛いに決まって……っ!」 飛び掛ってきそうな表情で体を揺らした天子は、しかしへなへなと枕に顔をうずめた。 昨日はずいぶん痛がってたもんなあ。無理すんなつったって聞きやしないし。 「ああうー……話と違うじゃないのよぉー……ここまで痛いなんて」 ん? 「霊夢に魔理沙。ちょっとだけ痛いだけで後は気持ちいいとか大嘘ばっかり。 それに衣玖。……ぐすっ、何が最初から最後までふぃーばーできますよ、よ」 ……んー? 年中イチャついてる××や□□はともかく、△△が衣玖さんに手を出したなんて話聞いたことないぞ? 衣玖さんって結構ズレたとこあるし、あの人あんな体しといて、ひょっとしてまだ……。 ……む、こら、つねるな。 「……むー」 あー、はいはい。悪かった。 てんこみのむし(命名・俺)の布団をまくり、体をすべり込ませる。 天子の体温でほどよく温まった空間で、天子の腰と背に手を回して体を寄せた。 こいつは、俺も最近になって知ったことだが、出るべきところはまっ平らなくせしてその分のお肉がうっすらと全体に広がっている。 かといって見苦しいレベルにまでは至っておらず、こうやって手を回せばふわふわした感触が心地いい。 それに加えて、どんな上質の絹だって霞むような肌と、汗にまみれながらもほんのり上品に漂う桃香。 俺の腕のなかで、小ぶりな鼻をすりつけてくる小動物のような寂しんぼうの存在をしばらく楽しんだ。 ……くぅ。 ……そういえば、昨日の夕食以来何も口にしていなかったのを思い出す。 昨晩の\そこまでよ!/で消費したエネルギーを補給せにゃあな。飯でも作るかい。 ……てんこさん、今の腹の虫は間違いなくお前のお腹から聞こえてきたぞ? なのにどうして、台所へ立とうとする俺を引き止めますか。 「……」 きゅっと目を瞑り、ふるふると左右に首を振る天子。 俺の背をがっちりホールドした両手にさらなる力がこもる。地味に痛い。 「もすこし」 飯にしようや。 「やだ」 いや、腹減ったろ? 「やだ」 風呂入ってさっぱりするか? 「やだ」 いやお前も汗まみれじゃ気持ち悪…… 「やだ」 ほら、天気いいし布団干し…… 「やだ」 洗濯物もたまって…… 「やだ」 えーと…… 「やだ」 …… 「……」 はぁ。 はいはい。わかったわかったわかりましたよ。そんな涙目でにらむな。 オーケーオーケー、気の済むまでいてやるよ。 全くしょうがないな、このわがまま娘め。 「……えへへ」 そんな顔見せられたら、逆らえるわけないだろーが。 ……何? どんな顔かって? ……教えてやらね。 新ろだ661 「だからわたしは言ってやったのよ。 『あんたなんか極光の彼方へ吹っ飛ばしてやるんだから』って」 「……で、その『極光の彼方』が俺の家だった、と?」 ありのまま今起こったことを話すぜ。 部屋でくつろいでいたら、空から天子が降ってきた。 何を言ってるのか分かってもらえると思う。 「も、もちろん計算通りよ。急に○○に会いたくなっちゃったから、わざと吹き飛ばされてきたの」 「言い分は分かった。 ……それで、どうしてくれるつもりだ?」 ここは部屋の中で、つまり降ってくるためには当然、越えなくてはいけないものがある。 そして、その証は俺の頭上にしっかりと刻まれている。 ……要するに 「……まあ、ちょっと計算間違えたかしら。まさか屋根に落下するとは思ってなくて」 「始めからそんな計算なかったんだろうが!」 見事にぶち抜かれた屋根を見ながら、頭を抱える。 「……ふんだ。あの妖怪が悪いのよ。わざわざ出向いて喧嘩吹っ掛けるんだもん」 「無視しろ。どうせ勝てないんだから」 「勝てるわよ! ……勝てるけど」 「……手加減してるなんて言うなよ」 先回りして言い訳を潰して、天井を指差す。 「そこに、あそこ、あっちもだし、あれも。……そしてここ」 あちこちに空いた穴ぼこに、木の板を打ち付けて押さえただけの突貫工事。 直しても直しても目の前の砲弾に撃ち抜かれる屋根は、いつからかきちんと修理することを放棄された。 「何度目だと思ってるんだよ」 「……悪かったって言ってるじゃない」 「言ってない。今初めて謝罪の言葉を耳にした」 「……そうね、私からも謝るわ」 唐突に後ろからか聞こえる声。 思わず振り返ると、天子と犬猿の仲である八雲紫がいた。 「ごめんなさいね○○。ちょっとからかっただけなのに、この娘冗談が通じなくて」 「あんたが近くにいること自体、天子にとって着火材なんですから、この上油振り撒くような真似せんで下さい」 ほんとにわざとやってんじゃないかこの人。 「失礼ね、撒いてるのは油じゃないわ。ガソリンよ」 「わざとだな? わさとなんだな!?」 詰め寄る俺を手で制して、こちらに近寄ってくる紫。 「申し訳ないとは思ってるのよ。 ……だから、ね」 言うなりしなだれかかってきた。 女性特有の甘い匂いに少しくらっとする。 「……あの、紫さん?」 「動かないで。お詫びの印に、いいことしてあげる」 妖艶な笑みを浮かべた紫に、逆らえないまま押し倒される。 「全部私に任せておきなさい。とっても気持ちいいわよ」 次第に近付いてくる紫の顔。 その美貌に目を奪われ、なすがままになっていると、視界の隅を、黒い影が横切った。 「離れなさい、この色ボケ妖怪!」 どうやら天子がお得意の石弾、通称タケノコ弾を飛ばしたらしい。 威嚇するように紫を睨む。 その程度のことに紫は怯むこともなく、天子を見つめ返す。 発砲の直後に嫌な音がした。 また壁修理するはめになるのか。 「聞こえなかったの? この年増! 今すぐ○○から離れろ!」 「……へえ?」 ぎりりと眉を吊り上げる天子と、艶然と微笑む紫。 ……なんか嫌な予感。 「ちょっ、紫、本当にやばいから……」 言い終わる前に口を手で塞がれる。 再び近付いてくる顔。 手を頬にずらして、親指は俺の唇の上。 そしてうつむきがちに親指に口を当てれば、頭頂部でうまい具合に接触部分が隠れて…… …… 「ごちそうさまでした」 しばらくそうしたあとに、にっこりと微笑む紫。 「ふ、……ふふふふ」 たっぷりと怨念を含んだ天子の笑い声が聞こえる。 「……コロス」 巨大な「ゴ」の文字を大量に背中に掲げ、夜叉が今ここに降臨した。 「殺してやるーーーーー!!!! YUKARYYYYYYYYY!!!!」 「あらあらあらあら……」 ばらまかれるタケノコ弾。某名人も真っ青の20連射。 そのことごとくを避ける紫。 唸る弾幕、軽快なグレイズ、破壊される家具、壁、柱。 「人様の家で、弾幕ごっこすんなーーーーーー!!」 ……現実は時に厳しい。 もうもうと土煙を上げる、我が家だったものを見つめ呆然と佇む。 「ああ、楽しかった。 わたしはそろそろ帰ることにするわ。 また遊びにくるわね。ごきげんよう」 「二度と来るなーーーーー!!」 悪びれる風もなくすきまへと消えて行く紫。 畜生。……こうなったら。 「……待て」 こそこそと逃げようとする天子に声をかける。 ビクリと肩を震わせ、ぎこちなく振り向く天子。 「あ、あはははは……」 「……笑ってごまかすな」 「あっ、わたし用事思い出した。それじゃあ、帰るわ」 ふわりと宙に浮き一目散に飛び去っていく。 「待てーーーーーー!!! 家なんとかしろーーーーー!!!!」 「……全く」 俺の抗議に呼応するように、後方から布がはためき、天子を絡めとった。 「勝手に出ていったと思ったら…… 何をしているんですか、総領娘様?」 「い、衣玖……」 「挙げ句また人の家を壊して……」 「あ、あんたには関係ないでしょ! 離しなさい、お父様にいいつけ……ぴぎゃっ!?」 暴れる天子を抑える羽衣が一瞬青白く光ったかと思うと、天子がウェルダンになっていた。 「申し訳ありません○○様。総領娘様に代わり謝罪させていただきます」 「あの~……天子から煙出てますが?」 「この程度で死ぬようなお方なら、天界は平和なんですが……」 ……こええ、逆らわない方が良さそう。 「さて、家は責任をもって修理するとして、しばらくの住処のことですが」 混乱する俺を他所に今後の処置を淡々と告げる衣玖さん。 「これからしばらく、天界で生活して頂くということで、よろしいでしょうか?」 「は?」 「他にどこか宛でもありますか?」 「……いえ」 「では行きましょう」 「いや、だからちょっ……」 答えを待たずに天子と一緒に羽衣に絡めとられ、荷物のようにくるまれたまま宙に浮く。 そしてあっという間に雲の中へと連れられてしまった。 ……衣玖さん、これ、拉致っていいません? 天界の大きな屋敷のとある部屋へ連れられて、しばらく待つように言われ一時間ほど。 慣れない豪華な部屋に居心地悪くうろうろする俺に、ようやく扉を叩く救いの音が聞こえた。 「○○さん、入りますよ。 ……ほら総領娘様も」 なにやら言い合いの声が聞こえるが大丈夫か? 「これは罰なんです。そんな目をしてもだめですよ」 ……あ、電気が走る音。 「早くしてください。折角準備した服が気に入らないなら、『そこまでよ』でもいいんですよ?」 次の瞬間ドアが勢いよく開かれる。 ……衣玖さんって、実はS入ってないか? 「○○さん、お待たせしました」 入ってきた天子に目を奪われる。 頭にはいつもの桃付き帽子の代わりに、白いヘッドドレス。 カラフルなスカートに掛かっているのはひらひらのエプロン。 両方に入れてある桃の刺繍はこだわりなんだろうか。 他にも袖口やら肩口やらが微妙に改造されたそれは、メイド服によく似ていた。 「……なによ?」 見つめられて居心地が悪いのか、不機嫌そうな顔で見上げてくる天子。 「いかがですか、○○さん? かなりの自信作なんですが」 ……あんたが作ったんかい 「ああ、紹介が遅くなりました。今日より貴方の世話を致します比那名居でございます」 いや、どうみても天子じゃ…… 「反省を促すために客人の世話係をして頂こうかと。 何かありましたら、遠慮なさらずお申し付けください。 ……比那名居、ご挨拶を」 一度苛立たしげに衣玖さんを睨み付けた後、やけ気味に三指を付く天子。 「比那名居と申します。○○様がここに住まう間、お世話をさせて頂きます。 どうぞよろしくお願いいたします」 「……どうです○○さん?」 ……なにがですか? 「普段強気なあの娘が自分の足下に跪く。……こう、クるものがありません?」 ……オーケー、あんたがSなのは分かった。 「……楽しそうですね」 もちろん口には出さない。余計なことは言わないことが長生きの秘訣だ。 「ああ、まさか総領娘様が殿方に三つ指を付く日が来るなんて……」 ……あんたの仕業でしょ、あんたの。 「と、いうわけで総領娘様、しっかりと○○さんのお世話をしてくださいね」 言いたいことだけ言って部屋を出ていく衣玖さん。 あとにはメイドっぽい天子と、客人の俺が残される。 「……」 「……ごめん」 不貞腐れたまま横座りして、ドアを睨んでいた天子が急に切り出す。 「……え?」 「悪いとは思ってるのよ。だからこんな格好もしたし、世話係もちゃんとやるし……それから」 唐突に立ち上がり、近付いてくる天子。 しばらくうつ向きがちに顔を伏せていたが、やがて意を決したように上げる。 「少しかがんで、目を閉じて」 「は?」 「いいから!」 「……こうか?」 天子の顔の高さまで顔を下ろして目を閉じる。 同時に唇に柔らかいものが触れた。 驚いて目を開けると真っ赤になった天子がそこにいた。 「……お詫びの印」 意味に気付いてこちらも赤面する。 「紫もしてたけど、これで許してくれる?」 ……ええと、紫はしてないんだけど、まあいいや。 そして衣玖さん、Sなんていってごめん。 不安と恥ずかしさの混じった上目遣いとか、しおらしい態度にマッチした衣装とか、……確かにこれはクるものがある。 「いいや、許せないな」 「……え?」 芽生えた意地悪心をそのまま口にする。案の定泣きそうな顔をあげる天子。 意地の悪い笑いがこみあげてくる。 「じゃあ……んむ!?」 今度はこちらから唇を奪ってやる。 驚く天子の口をこじ開けて、舌を突っ込む。 時折うめく天子の声に、さらに激しく口内を蹂躙した。 「……はあ、……はあ、なにするのよ!?」 ようやく解放された天子が、抗議の声をあげる。 「許してほしいならこれくらいしないと」 「……ぐっ」 満足げに答えてやると、悔しげに声をつまらす天子。 「むー……」 拗ねたように膨れっ面でソッポを向く。 ……可愛い。 「悪かったって」 優しく抱き締めて空色の綺麗な髪を撫でてやると、少し機嫌が治ったのか、心地よさげに目を細めた。 ……こんな生活も悪くないかもしれないな。 せっかくの機会だしここにいる間、たっぷりもてなしてもらおう。 甘える猫のように頭をすりつけてくる天子を撫でながらそう思った ……数日後 天界のとある一室に二つの人影があった。 並んで座ったそれらは、一点の空間をニヤニヤしながら見つめている。 空間の向こうには天子を膝に乗せた○○がいた。 「……うまくいったようね」 「……お陰さまで。こちらはお約束の『天狗の絵画』でこざいます」 片方が写真の束を差し出す。 そこに写っていたのは、どれも○○と天子が一緒にいるものだった。 「……これで総領娘様も少しはおとなしくなるでしょう」 「そうね、こんな弱味まであることだし。 ……あの天狗にも報酬をはずんだほうがいいかしら?」 「それには及びません。 『こんな素晴らしいネタをもらって、この上報酬などいりません』と言ってましたので」 「そう。……それにしても」 片方がにやりと笑いながら言う。 「永江屋、お主も悪よのう」 「八雲様にはかないません」 部屋にふたつのあやしい笑いが響いた。 すきまの向こう側の様子が、天人の熱愛生活と称して、 天狗の新聞にすっぱぬかれていることを、まだ○○と天子は知らない。 新ろだ988 「ボクシングをやってみたいわ」 天子は唐突に、ぼそりと呟いた 「何を言ってるんだお前は」 「しゅっしゅレアッパー!」 そう言い放つと天子の拳は勢いよく俺の脇腹をえぐった 「ぐはっ!?それはフックだっ」 天子は電気のひもを相手にボクシング?をしている 「なんでいきなりボクシングなんだ」 「TV見てたら・・・楽しそうで」ゾクゾク うわぁ 「ああっ、そんな蔑んだ目で見ないでっ(悦」 「・・・まぁあれだ、ボクシングは顔に怪我しそうだからやめとけ」 せっかく綺麗なんだから、なんて言ってみたり 天子はニヤニヤしながら 「え、えへへ・・・あ、ありがとう」 「お、おう」 何となく照れ隠しで互いに顔をそむけた 「そ、そういうこと言われると、胸がきゅってなるね」 「そのささやかな胸がk」 すべてを言い終える前に天子のフックが俺の顎を打ち抜いた 俺は意識を失いつつ、拳闘の才能はあるな、などと思った 終ワル 新ろだ2-019 昼下がり。 うだるような暑さは幻想郷でも変わらない。 風通しが悪い家ならばその暑さはお察しの通りである。 「おじゃまするわよー……ってあんた、何やってんの」 そんな町外れにある環境劣悪な家にやってきた天子が見たものは、居間で仰向けに横たわる○○の姿だった。 「暑くてなんもやる気が起きない……」 「たしかにここだけ一段と暑いわね、私にはあんまり関係ないけど。……はいこれ」 「……なにこれ?」 家に上がってきた天子から渡されたものを、動く気すらないのか、起き上がらずに受け取る○○。 そんな様子にも、暑いのは事実だし、いちいち気にすることはないので天子は特に何も言わなかった。 「スイカよ」 「……イカ?」 「す・い・か!」 意思の疎通が出来ないことにはさすがに怒ったが。 「どこをどう見たらそれがイカに見えるのよ」 「常識にとらわれてはいけないのがココだし、緑と黒の縞模様で丸いイカもいるかなーって」 「どこの珍獣島よ……」 「あ、でも触手がないからイカとして失格だね」 「もう一度言うけど、それはイカじゃないわよ」 時折吹っ飛ぶ○○の思考は、大抵は誤った言葉の聞き取りやそこから発展していく脳内妄想によるものだが、 どういう思考をしているのかいまだに掴めない天子は内心ため息をついた。 一方○○は、西瓜と聞いて元気が出たのか起き上がって受け取った西瓜を抱えてなでていた。 「みんしゃい、六ヶ月ですわ」 「男が子を作るかっ!」 「実は雌雄同体でして」 「私という女がいながらなにやってんのよ!」 「『ああっ、やめてください! 私には心に決めた方が!』『げへへへへ、そんなこといったって体は正直だな?』」 「雌雄同体の癖して裏声使うのね! っていうか男役が下衆だわ!」 「全南米が泣いた!」 「明らかに正しくない方向で泣きそうねそれ! しかも位置が微妙!」 「映画化決定!」 「まさかの!?」 「一家に一台!」 「もうなにがなんだかわからないわっ!」 こいつのよくわかりにくいボケに対して突っ込むのもなんか慣れてきてしまったな、と天子は思った。 本人曰くスキンシップらしいがもう少しまともなスキンシップを期待したいところである。 「さて、せっかく持ってきてもらったんだし、食べようか」 仕切りなおすように彼は抱えた西瓜を軽く叩いて言った。 「それはいいんだけど……、あんた仕事は?」 「いやはや最近は皆、物を大事に使ってくれてね、商売あがったりだよ」 朗らかに笑う○○の仕事は直し屋である。 曰く、鍋の取っ手から家の屋根までなんでも直す、ただし物に限るとのこと。 日常品ならほぼ何でも、ある程度は直せるので需要はあるのだが、まれに仕事がまったく入ってこない時がある。 別に誰が原因ということではなく、自然現象みたいなものだと彼は言っていた。 同時に『他人の不幸で食べてく身だから、仕事が無いのはいいことなんだけどね』とも言っていたが、それに対して天子は不服だった。 それならば大半の商売は他人の不幸で食べていっているではないか、と指摘したが、○○は困ったように苦笑いを浮かべるだけだった。 「私としては、壊れたのを無償で直すのが問題だと思うんだけど?」 「そうなのかなぁ」 自覚が無い○○の発言に天子は自然とため息が漏れた。 村の人から慕われるのはかまわないが、生活が出来なかったら意味がないのである。 大事なのは金銭よりも人情というのはわからなくもないし、そこが彼の魅力の一つでもあるのだが、少なくとも商売人としては失格である。 「だからあんたはバカなのよね」 「うっさい絶壁」 「ぜっ、ぺきって……」 ピクリと青筋を浮かべる天子。 周りの女性たちと比較して、胸のことを天子は気にしていた。 それを本人に突きつけるような類の発言はタブーなのは当然の事。 さらに、形はどうあれ心配して言ったつもりの言葉が罵倒という形で帰ってきたことが余計に天子を腹立たせた。 「チビスケに言われたくないわ!」 「ちちちちちチビスケちゃうわい!」 怒る天子の言葉は売り言葉に買い言葉。 赤くなる○○に対して、優勢になった天子は赤くなりながらも若干余裕の表情になった。 「私よりも身長が低いのに?」 「うぐっ……」 実は○○、天子よりも身長が低いのだ。 そこまで小さくはないのだが、○○は初めて天子と出会ったときに密かにショックを受けたものだった。 これ以上の成長は半ば諦めてはいるが、指摘されて気持ちのいいものではない。 「その身長じゃ、広場で遊んでる子供たちの中に入っても違和感無いんじゃないの?」 「そこまでは小さくないと思う所存でありますですよ!?」 大人の中に混じったら確実に子ども扱いではあるけど、とも○○は思った。 そんな考えを振り払うかのように彼は反撃に転じる。 「て、天子だって胸の大きさから言ったら子供たちと大差ないんじゃないかな!?かな!?」 「しし失敬ね! そこまで無くは無いわよ!」 「いやー、ぶっちゃけあんまり変わらないと思うんだけどな。むしろもう成長しないだけ負けてるかもしれないね」 「なっ……!」 興奮してどんどん赤くなる二人。 どちらが勝っているかは不明であるが、どちらも同じぐらいのダメージであろう。 二人の口げんかは加熱する。 「あ、あんたも成長期とっくに過ぎてるじゃないの!」 「どこぞの天人とは違って成長する人間だからまだ伸びる可能性はあるもんね!」 「どうせ伸びずに老いて縮んでいくのが関の山よ!」 「そっちこそ縮もうにも縮まない胸持ってるくせに!!」 「なによ!」 「なにさ!」 そうして双方睨みあい、 「「ふんっ!!」」 同時にそっぽを向いた。 ミーンミンミンミンミン……。 ジジジジジジジジ……。 シン、とした家の中に、蝉の鳴き声と、遠くで聞こえる街の喧騒だけが響いている。 「……ま、まあ」 しばらくして、あいかわらず天子のほうは見てはいないが、唐突に○○が口を開いた。 無意味に咳き込むのはばつの悪さか照れか、はたまた両方か。 「そんな天子を好きになったんだけど、さ」 そう言う○○は、先ほどとは別の意味で真っ赤である。 ちらりと天子のほうを見て、思わず目が合い彼はあわてて視線を戻した。 「……私もよ」 「え、それってどうい――」 う意味、と言おうとした○○であったが、近づいてきた天子に抱きしめられたことにより最後まで言うことはできなかった。 「私も○○の小さいところが好きなのよ。こうやって抱きしめられるし」 途切れた問いに対する回答か、天子はそう答えた。 それを聞いて○○は少しムスッとした。 「小さい、という発言に少々悪意を感じます」 「形容の仕方に文句言わない」 「言います。ていうか、抱きしめるだけなら別に相手が高くてもいいじゃん」 「私より身長が高い奴なんかに抱きしめられるのも見上げるのも屈辱で嫌だし、抱きしめるのも抱きしめている気がしなくって嫌」 「それって単に身長が高い人が嫌なだけじゃ……」 「そうよ。文句あるの?」 「いえ別に。……じゃあ天人だったら?」 「釣りと酒と宴ばっかりしているヨボヨボの爺みたいな奴に抱きしめられたくないわよ」 そもそもあいつらは興味すらないから例に出しても無駄ね、と続けて天子は答えた。 その答えを聞いて顔を上げた○○の顔は、ちょっとの期待とその期待に対する恥ずかしさがうっすらと見えた。 「……つまりは」 「あんたが一番って事」 そう言われた彼は、『これは熟れたトマトですか?』『いいえ、彼はナンシーです。』と言いたくなるほどに顔を真っ赤にし、再び、今度は小さく大人しくなって顔を伏せた。 一方の天子は、意地の悪い笑みとやさしい微笑みの半々という微笑みコンテストで特別賞をもらえそうな、むやみやたらと器用な笑みを浮かべつつも顔は仄かに朱色を示していた。 その様子をチラリと見て○○はちょっと拗ねた。 「……でもそれって身長で決めたわけだよね」 「確かに身長は評価の一端を担っているけど、それだけではないわよ」 「例えば?」 「○○はたまーにかわいくなるわよね、今とか」 「…………ひきょうもの」 「ふふん。愛い奴め、うりうり」 頭をなでられた○○はうっとうしそうにしていたが、何も言わずにされるがままになっていた。 撫でているほうの天子は内心、上目遣いの破壊力に悶絶しながら、このまま押し倒してレッツゴーR指定な事をしてしまおうかという考えを、理性を総動員して押し留めながら、表情にはおくびにも出さないという水面下の戦争状態だということを○○は知らない。 ちなみに、○○が真っ赤になった時点でもちょっとあぶなかった。 少しして○○が問いかけた。 「ところで天子さんや」 「なんだね?」 「……いつまでこうしてるつもり?」 「嫌?」 「嫌ってわけじゃないけど」 「じゃあなんなのよ」 天子からの疑問に○○はスイカに視線を移した。 「スイカ、食べたいなぁって。折角持ってきてくれたわけだし」 「あー。……うーん、もうちょっとだけこのままで」 「ん」 再び静かになる室内。 ただ前と違うのは、この暑い中抱きしめている二人組が居ることである。 天子は天人だからか特に暑そうでもないが、抱きしめられて密着度が高い○○はそれなりに暑く感じていた。 「ねぇ○○」 「なに」 「キス、していい?」 突然の天子の提案に言葉を失う○○。 しかし天子は冗談でもなく本気であった。 このまま押し倒して何かしら嫌われるよりも、理性が生きている合間にキスという行為で少しでも欲望を払おうと、そういう魂胆である。 「……いきなり突然だね」 「そういうものじゃない?」 「ムードとかあって、自然とそうなるものだと思ってた」 「現実とはえてして想像と違うものなのよ」 「そういうものかな」 「そういうものなの。ほら、顔上げて」 節目がちな○○に天子は催促はするが、○○は顔を上げようとしない。 「まだ心の準備というものが……」 「つべこべ言わない。早くしないと私が上げさせるわよ」 「それも悪くはないかな……なんて」 惚けたことを言う彼を見て、天子は本日何度目かのため息をついた。 心の中では天明の飢饉にパンケーキ女王が鈴の音と共にナポレオン状態であったが。 「……普通こういうの、逆だと思うのよね」 「現実とはえてして」 「想像と違うもの、ね。ずいぶん身近な使い回しだこと」 「でも、そういうものなんでしょ」 「まあね」 苦笑した天子は問答無用と○○の顔を上げさせ、暑い部屋の中、それ以上に熱い二人が静かに口付けを交わしたのだった。 一瞬にも永遠にも思える時の中、天子はゆっくりと唇を離した。 そのまま見詰め合う二人。 「…………」 「…………」 「…………あぅ」 たまらず目をそらす○○。 「……ねぇ○○」 「……なに」 「前言撤回するわ。たまにじゃなくて頻繁に可愛くなるわね、貴方」 「はたしてそれは喜ぶべきなのか怒るべきなのか」 「食べていい?」 キスした後に今更のように赤くなって目をそらす○○の姿に天子の理性もう決壊寸前だった。 一応相手に尋ねるのは最後の良心だろうか。 天人としては論外もいいところであるが、そこは不良といったところか。 一方の○○は少し呆けていたが。 「スイカを?」 「……ずいぶん変わった趣向ね」 ○○自身はただ単にスイカを食べるという意味にとった発言であったが、思春期男子よろしく発情中であった天子は、一体どこで知ったのかまったく別の意味に捉えた。 「でもまあ、あんたにそういう望みがあるのなら叶えてやらないことも無いけど……?」 「えっと、もしかしてスイカって愛でるものなの?」 「えっ」 「えっ」 しばらくの沈黙。 天子は彼にまったくその気が無いことを知った。 それを知ると、不思議なことに今までの欲望やら欲情やらがスッと抜けていってしまった。 代わりに浮かぶのは呆れや怒り。 自然と抱きしめる力が入る。 「な・ん・で、あそこでスイカを食べることに繋がるのよ!」 「痛い痛い絞まってる絞まってる」 手加減はそれなりにしていたが、本気で痛そうだったので天子は力を緩めた。 「はぁ。……あんたとはそういう雰囲気になるのは無理ね」 「いきなり酷いこといわれたよ!?」 まったく理解していない彼を見て、こりゃ駄目だと天子はこの日で一番大きいため息をついた。 「ところで天子」 「なに?」 「えっとだね、なんだ、あれだ」 珍しく躊躇する○○に天子は不思議に思った。 もしかして自分の考えてたことに理解してくれたのだろうか、そんな期待が頭をよぎる。 「……なんていうか、その、やっぱり胸、無いんだなって」 「………………」 「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い……」 結局、スイカは食いそびれたらしい。 新ろだ2-154 「暇ヒマひま暇暇ひま暇ひま暇ー!」 「総領娘様、どこぞの楽団のトランペットよりうるさいです」 「だな。口をスキマ送りにしたらどうだ」 天界。永遠の楽園にして、欲望を捨てる厳しい修行を積んだ者のみが至れる境地…のはずなのだが。 ここにいる 比那名居 天子はご覧のワガママさを維持したまま天界に来ている。 所謂親の七光りというやつだ。 なるほど、子供のころからこんなところにいれば、ワガママにもなろう。 そう思いつつも今日も暇ひまとギャーギャーうるさい天子を宥める作業が始まっていた。 「大体ここの連中は頭おかしいんじゃない!?なんでこんな退屈なとこで暮らしていけるわけ!?」 「いや、お前も天人だろ…」 「私はここの連中みたいに腐った脳味噌してないわよ!」 「だって親の七光りだもんな。修行してないし」 「七光りだろうとなんだろうと私はいいのよ!細かいわね○○は!衣玖、アンタもなんか言いなさいよ!」 「では、空気を読んで。…総領娘様、あんまりうるさいから○○さんに迷惑がかかってますよ?」 「え………………………ま、○○、ホント…?」 「まぁかかってないといえばウソになるな」 「………ごめんなさい…………ワガママ言って………」 「い、いや、そこまで深刻になられても困るんだが……」 「総領娘様。嘘です。正直そこまで迷惑に思ってません」 「…衣玖。表に出なさい」 「お断りします」 剣符「気炎万丈の剣」 魚符「竜魚ドリル」 「やめれぇぇぇぇぇぇぇ!せめて俺がいないところでやってぇぇぇぇぇ!」 と、このような日常だ。 衣玖さんいわく、天子は俺が来る前はもっとワガママだったらしい。 正直想像したくもない。天子も、それをいなす衣玖さんも。 俺が避難している間、衣玖さんと天子は剣とドリルを打ちつけ合いながら何か話している。 ここからじゃ話の内容までは聞き取れない。 「…しかし、ホントに総領娘様は○○さんの名前に弱いですね」 「べ、別にそんな事ないわよ!あるわけないじゃない!○○なんか…」 「○○なんか?では、総領事様が○○さんをいらないと思うなら即刻排除いたしますが」 「○○なんか…○○なんか…」 「さぁ、早くその次の言葉を。たかが人間一人です。10秒かかりません」 「うっ…ぐすっ…えぐ」 天子が座り込んで急に泣き出してしまった。衣玖さんも呆然としている。 「お、おい、天子?」 「ヒック…衣玖…お願い…もぉいじめないで…○○消しちゃやだよぉ…」 「そ、総領娘様?す、すみませんでした。まさかそんなに思っていたとは…」 「グスッ…グスッ…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 とりあえず慰めねば。 泣いている天子の背中をさすってやる。 「おい、天子、どうした?大丈夫か?」 「○○…○○ぅ…えぐっ…ぐすっ…」 天子がこちらに向き直り抱きついてきた。 「ごめんなさい…ごめんなさい…嫌いにならないで…」 「て、天子?嫌ってなんかないから、泣きやんでくれ、な?」 「ご…さい…」 天子は泣き疲れて寝てしまった。 一応布団を敷いて寝室に寝かせてやる。 「○○さん。総領娘様の事でお話があります」 「…なんですか?話って」 「さっきの会話で分かったと思いますが、総領娘様は○○さんに依存しています」 「依存…ですか」 「はい。もはや恋仲どころではありません。父と娘にすら見えます」 「まずい、ですよね…」 「ええ、とても。このままいけばいつか道を踏み外してしまわれるでしょう」 「道を…踏み外す…」 「現代風にいうなら「やんでれ」ですね」 「なんでそんな事知ってるんですか…」 「まぁ、総領娘様が○○さんに依存するのは理由があるのかもしれません」 「それを探って解決してこい、という空気ですよね、これ」 「そうです。私としましても友人が二人一気に他界するのは良い思いしませんからね」 「…怖い事いわないで下さいよ…」 しかし衣玖さんに言われた事、心当たりが無いわけではない。 いつもは天上天下唯我独尊を地でいく天子が、時折泣き虫の幼子のようになるのだ。 しかも、その状態になるのが日に日に延びているのだ。 確かに、これは依存だろう。 俺は天子が好きだ。あらゆる事を自分勝手に決める事の出来る自由さが好きだ。 そんな彼女が俺に依存してその魅力を失ってしまうような事があってはならない。 そう思った時、俺の足は自然と寝室に向かっていた。 「…天子?起きてるか?」 「…○○?」 「ああ、そうだ。ちょっと布団の中入るぞ」 「え?」 そう言って天子のいる布団の中に潜り込み、抱きつく。 「ち、ちょっと?○○?いきなり何を…」 「天子。話がある」 「な、何?」 「天子、俺がこの場で天子を嫌いになるって言ったら、どうする?」 「○○…私の事…やっぱり嫌いになっちゃったの…?ごめん、ごめんなさい、何でもするから…」 「天子!」 涙があふれる目を手で覆い隠そうとする天子の顔を俺の手で正面にホールドする。 天子はビクッと怯えていた。まぁ、叫んでしまったしな。 「天子、俺の事は好きか?」 「好き…だよぉ…当たり前じゃない…嫌われたくないよぉ…」 「俺も天子が好きだ。でもな、天子。俺と天子には違う部分があるんだ。分かるか?」 「………わかんない………」 「俺は天子を信じてる。天子が俺の事好きだっていうの疑わない。天子、お前はどうだ?」 「……………あ……………」 天子がハッとした表情になる。頼む、届いてくれ! 「天子も、信じてくれ。俺の事。俺が天子を好きだって事。どんなワガママ言ったって、絶対嫌いになんてならない」 「○…○…」 「俺が好きなのは、自由な天子だから。自分を縛るのは、もういいだろ?」 「えぐっ…う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 「おーよしよし。いい子いい子」 「ありがとぉ…○○…有難う…」 天子の頭を撫でる事十分。大分落ち着いた様で、泣き顔に笑顔が戻ってき始めていた。 「ねぇ、○○」 「なんだ?」 「キス…しましょう?」 「大歓迎だ。何回でも、どんなキスでもいいぜ?」 「じゃあ、……とびっきり深くて、溶けちゃいそうな奴を、朝になるまで。ずっと。ずーっと。」 「ああ、いいとも。何億回だってしてやるぜ」 「これからは、我慢した分ずっとワガママ言っちゃうんだからね!覚悟してなさいよ!」 「期待させてもらうぜ」 それから、本当に朝日が昇るまでキスをした。 終わった後、二人で寄り添って寝ていたらニヤニヤした衣玖さんに 「昨夜はお楽しみでしたね」 なんて言われて飛び起きたのを覚えている。 そして、今日も天子のワガママに付き合うことになる。 「○○!下界の甘味を制覇しに行くわよ!」 「分かった分かった。…財布の中身大丈夫かなぁ」 「そんな事は無くなってから考えればいいのよ!さ、早く二人で美味しい甘味食べましょ?」 そう言って上目づかいで腕を絡めてくる天子。その顔にはにかんだ笑顔が浮かんでいた。それは反則だろ… 「…そうだな。よし!行くか!衣玖さん、行ってきます」 「衣玖ー!おみやげは期待してていいわよー!」 「俺の財布がぁ!?」 「気にしない気にしない!さ、行きましょ!」 下界に向けて歩いて行く二人。 お天道様に照らされたその後ろ姿は、これからの二人の未来を暗示しているようで。 「どこかで聞きましたね。恋愛は二人でバカになる事。言い換えれば、お互いをどこまでも信用すること。 ーーーーーーーそれが、恋人の条件だと。 全く…お似合いですね、あの二人は。まぁ、精々おみやげに期待しておきましょう」 そう言って振り返る衣玖の姿は、どこか嬉しそうだった。
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天子2 memory(うpろだ1181) 梅雨も明け、夏の兆しが春を凌駕し始める。日光が降り注ぐ外にいれば、太陽が疎ましく思えただろうが、天子と霊夢は我関せずの態度で縁側に腰掛けていた。 乙女二人揃えば、色恋沙汰へと昇華する。自ずと、互いの腹の探りあいが始まった。 面白いのは他人のことであり、自分の話題など恥でしかない。 だから、どうにかして相手のことを聞き出そうと、あの手この手を使用する。 「あんた、幼い時に天界に昇ったんでしょ。想い人とかいなかったの?」 「何を言ってるのよ、霊夢。神社が壊れたから、精神がおかしくなった?」 「それは残念。そうなら、もうとっくの昔に壊れてるわ」 ちょうど影になっている縁側。心地よい風も吹き、物事を第三者から鑑賞するのには最適な地点である。 冷たいお茶が入ったカップを一度置き、霊夢は目の前に広がる工事現場へと目をやった。 「あ、忘れてた。今日、里から一人来てるの」 「何の為に?」 「神社の修理の手伝いに。一応、博麗神社は里の安全も守ってることになってるの。忙しいらしいし、あんたが連れてきたので十分だと思ったから断ったんだけど、どうしてもっていうから」 「ふ――ん……」 興味なさそうに返答してから、湯飲みを口元へと運ぶ。 天界に住む住民には、地界の物事など、お茶が美味しいか不味いかと同じ位にどうでもいいのだろう。 そして、かつて地上に住んでいた過去を持つからこそ、差があまりないのが分かる。 「あの設計図持ってる人。見える?」 「うん……」 湯飲みを廊下に置いてから、ごろりとうつ伏せになる。 視界が歪む。首を無理矢理現場に向けると、立っていた人が一瞬で傾いた。 ひんやりとした廊下の感覚に、目蓋が重くなる。熱さを増してくる季節、この感覚に世話になることも増えるだろう。 何か直視できないモノがあれば、見る角度を変えればいい。眩しく照りつける日光は目に毒だった。 その眩しさは、普通なら見えるはずの男性や女性達の顔を無に返している。 「こっち側の建物に詳しい人がいなかったからね。どうなることかと思ったけど、ありがたいわ」 「だから、設計図持ってリーダーみたいなことしてるのね」 「本当のリーダーがぐうたらしてるからね」 巫女の言葉に、青い髪の少女も負けずに反論する。 「霊夢がそれを言っては、この世も末よ」 あって数日しかしていない人物の評がそれならば、確かに世も末だろう。 身体の角度を変え、頭を腕で支える。傍観者の態度で労働人を見る少女……比那名居天子は重い目蓋を擦りながら呟いた。 先の天気が絡んだ異変で、博麗神社は崩壊してしまった。原因となった局地的な大地震を発生させたのが天子。 幼い時に親と共に天界の住人となった天子は、地上にいたときは地子と名乗っていた。地上の子が天上に住むのはおかしい。だからこそ、彼女自身改名する決心がついたのだ。 異変の解決よりも、むしろ神社の復旧を犯人にさせるつもりだった霊夢が突き止めたのが、天界に住む少女、天子だった。 元の神社を把握しているのは霊夢だけ。交流が全くなかった天子や天女、訪問でさえ希少だった里の人間が分かるはずもない。 霊夢は設計図段階で、こっそり神社の完成予定を大きく変えていた。大きければ良い。そう考えるただの人間らしい思考である。 だが、後に掃除が以前よりも増え、霊夢にかかる負担が増大してしまう未来を招く結果となってしまったのに彼女の気が付かない。 身を持って知るのは、まだ先のことだ。自業自得、というべきだろうか。 里から派遣される人物は前途多望らしく、大工の親方が信頼して送りだせる程らしい。 下界の建物に対し情報でしか知らなかった天界の人々と、実際に下界で暮らしていたが幼い頃上へ昇った女性。 知識の点で一日の長がある彼は、指示役になるのは当然といえる。 稚拙な下界で燻る存在の命令と誤解されるのでは、と第三者で見ていた霊夢は思ったのだが、的確な判断と無理をさせない指示で、上に立つ者に最重要な信頼をすぐに獲ていった。 「霊夢――! ちょっとこっち来てくれ――!」 「はいはい」 湯飲みを縁側の廊下に置き、霊夢が歩いていく。その先では、設計図とにらめっこする男性と女性が数人。 建設現場で男性よりも女性の方が多い光景は、幻想郷といえども今この時だけだろう。 天子に、何処か耳が初めて捉える反応を示しながらも、はっきりと聞き慣れた音が聞こえた。 天界で飲んでいたお茶と味も変わらない下界のお茶は、拒絶反応が出るはずもなくすんなりと飲める。 または、陶器の入れ物が廊下と交わりたてた音かもしれない。しかし、上でも木の建物は珍しくない訳でもない。気の所為だろうと考えた。 「地面に残っていた跡から推測される社殿の大きさよりも、設計図の方が大きいんだけど……」 「あー―、大丈夫大丈夫。気にしないで」 「それで、もう一つ。この後の天気について……」 「それは少し待ってて。今天気予報するから。天子――!」 遠くから自分を呼ぶ声を聞いた天子は、夢の世界から強制的に帰還を余儀なくされた。 「何よ、もう。ゆっくりしてたのに」 「あんたは天界でも何処でもできるでしょ。この後の天気を教えなさい」 「心配はいらないわ。夕方までずっと晴れ。綺麗な夕日が見れるでしょうね」 「あんたが言うなら信頼できるわね」 男性と女性達の方を霊夢は振り返る。 「ってこと。今日の作業をお願い」 「了解。じゃあ、皆、作業を続けて!」 はーい、という統制された返事。それだけを見ても、彼がリーダーとなっていることは明白だった。 女性達は天界から連れられた人々である。当然だが、上に属する者が下に属する者から受ける支配は一時的には続いたとしても、継続するのは難しいだろう。 天界から彼女達を連れてきた人物がリーダーとなるはずだ。その人物である天子は今、黄金輝く夕日を浴びながら、現と夢の境界でうつらうつらを繰り返していた。 仕事を手抜きしないか監視する唯一の役目も、男性にいつの間にか乗っ取られてしまった。 仕事というべき掃除ができない霊夢と同じく、縁側で作業風景を眺めることぐらいしか残されていなかったのである。 そして、霊夢と天子は会話を交わすこともなく、お茶を飲みながらただぼんやりとしていた。 時折無くなる液体を継ぎ足すために、霊夢が台所へと足を運ぶ以外に二人が腰を上げる動作を行わない。そんな中、天子は夢を見た。珍しい、昔の夢である。 「……じゃあ、今日はここまで。明日も晴れるらしいから、また明日もよろしく頼むよ」 設計図をくるくると丸めながら、彼は口を開いた。終了の宣言が残された後は、いつも労働で疲れた女性達を少し休めてから一旦天界へと帰るのが常となっている。 今日もなんら変わりなく、霊夢が冷えたお茶を作業隊の面々に配っていた。 目蓋を擦りながら、天子は一つ背伸びをする。長い間同じ体勢を保っていたからか、固まった筋肉は僅かな動きでさえも悲鳴を上げた。 緩まった唇から吐息が洩れる。憂鬱が含まれた息は、大気と混ざり一瞬で消えた。 「……あんたにもご苦労さま、って言うべきなのかしら」 空になったお盆を持ちながら、苦笑を備えた霊夢が近づいてくる。そんな彼女に対し、天子は軽く手を振りつつ口を開く。 「当然でしょ。働き手を連れてきてあげたのは私よ」 「そもそも、神社を破壊したのはあんただけどね。暇だからって理由で」 そう言って、霊夢は復興を遂げつつある神社に目をやる。 いくら訪問者が珍しいからとはいえ、日常の証だった神社が存在しないというのは心に隙間が空いたようで好きではない。 「だ――か――ら――。悪かったと思って、造り直してあげてるでしょ」 「本当に悪かったと思うんなら、あんた自身が働きなさいよ」 「嫌よ。面倒じゃない」 言い切る天子に、霊夢はつい苦笑してしまった。両親からどんな教育を受けたのだろう。機会があったら、過去について聞いてみたいものである。 「霊夢、お先に失礼するよ」 別の声。今度は天子の耳に直接聞こえた。以前よりも発生源が近かった所為か、耳が戸惑いを覚えはしない。 見れば、リーダー役だった男性が目の前にいた。その後方では、地面に腰を降ろして談笑する女性達がいる。 大工にしては体格はあまり宜しくない。少し平均から背が高いのが、特徴といえば特徴か。 「ええ、お疲れさま。明日もよろしくね」 「分かってる。親方からも言われたし、頑張らせてもらうよ。……えと……」 彼の視線が天子を向いていることに、天子は霊夢が口を開いてから分かった。 それまでは、頭の奥が見えない何かで握られていた感覚に囚われて身動きさえできなかった。 彼が言葉の最後を滲ませたのに、天子ではなく霊夢が気付いた。惚けている天子は、微小な差異など判別する能力を一時的に失っている。 霊夢は気付いたものの、実際に言葉にしたのは彼女ではない。 「まさか……地子?」 「え……?」 酷く懐かしい響きと音程。霞んだココロが、彩りを取り戻す。 目蓋の裏に浮かび上がる光景は、夕日を塗り替えて雲一つない晴天を取り戻す。 「チコって誰よ。コイツは天子。我侭な天界人、比那名居天子っていうのよ」 「あ、間違えたのか……。すみません、間違えました」 「あ、え……うん……」 天子の頭は、大地震が起こったように滅茶苦茶で、思考が展開する隙間などない。 自己紹介は霊夢に取られ、彼女から口を開く機会を無くしてしまった。 「僕は○○です。里から手伝いに派遣されました」 差し出される右腕。土木工事をしていたからか、楽を繰り返す天子と違い、所々角張り固くなっている。 その手のひらを、夢心地で天子は掴んだ。地獄で苦しむ罪人に、伸ばされた救いの手というのはただの比喩に過ぎない。 だが、今の彼女を表現するならば、その表現こそが的確だった。 「私は……私は天子。霊夢が言った通りにね……」 夢ではない。しっかりと掴んだ彼の手には、ちゃんと暖かさがある。まるで、覚えのない夢のように。 「天子様、ですか。短い間と思いますが、よろしくお願いいたしますね」 「天子様……って柄じゃないけど」 天界に住むべき人物は、その事実だけで地上とは乖離される。彼は、天界自体が尊敬される対象だと思っているようだった。 そんな彼を、霊夢はたった一言で酷評する。我侭で、つまらないからと神社を崩壊させた過去を持つからこそ、彼女のみが言うことを許された台詞。 天子にも反論する権利がある。だが、彼女は口を開かない。溺れて限られた空気を求めるかの如く、口を小刻みに動かしているだけだ。 「では、霊夢。そろそろ失礼するよ。ごめん、長く居座って」 「いいの、気にしないで。暗くなってきたから、気をつけてね」 霊夢が彼に向かって手を振る。天子は何もしなかった。 階段に彼の姿が全て消えてから、天子は知らずに溜息を吐いた。もっと前に吐き出していれば、胸のもやもやの正体に気が付いたかもしれない。 「天子様。暗くなってきたことですし、帰りましょう。お父様もお母様も心配なさいます」 連れてきた者の一人に話しかけられてから、改めて天子は意識を取り戻した。崩壊した頭の中は未だに整理されてないが、常識に乗っ取った判断はできるだろう。 「え、ええ。そうね。そうしましょう。準備お願いね」 「もうできていますわ。後は天子様だけです」 周りを見渡してみれば、手荷物を持った女性達が揃っていた。確かに、夕日は退場を始め、東の空には静謐の闇が広がり始めている。 しどろもどろになりながら、必死に言葉にしても、天子のみが正常な状況を把握していなかった。 「あ……う、そ、そう。分かったわ、帰りましょう」 明日もちゃんと来るのよ、という霊夢の言葉を聞いた気がする。しかし、ぼんやりとした意識がちゃんと記憶するはずもない。 しかし、脳裏で記録されたその言葉を取り出す度に、再び足を運べる口実ができたと心が弾むのだった。 次の日も天子は博麗神社に来ていた。手伝い人を連れてくるのが天子であり、天界でも仕事がある訳でもない。 どうせ天界にいたとしても、暇な一日には変わりがない。だから、話し相手にも困らなく、同質でお茶にも困らないとくれば訪れるのが当然である。 「あんた、様子おかしくない?」 何度目の御代わりを貰った辺りだっただろうか。天子に湯飲みを手渡した霊夢が、そう言った。 その時、天子は仕事風景を何も言わずに見ていた。彼は設計図と実際の光景を照らし合わせながら、アドバイスを投げ掛ける。 集中と凝視は類似している。どちらとも取れて、どちらとも取れない態度を続けていた天子は、予想外の言葉に身を震わせた。 「え?」 「朝からずっとぼんやりしてる。何処か一点を見つめているようで、何も考えてない。どうしたのよ」 「……霊夢には、関係ないよ……」 搾り出した言葉は、あまりにも惨めで、嘘をついていると暗示しているようなものだ。 何故か、声も今にも泣きそうだった。 「……悩み事があるなら、相談に乗るけど?」 「大丈夫。大丈夫だから……」 随分と心が脆くなってしまっていた。しっかり体の心を支えていなければ、今すぐにでも霊夢に飛び込んで、泣き叫んでしまう。 もし誰かにそれを見られて、色々とからかわれるのは本位ではない。だから、その一点のみで天子は踏みとどまった。 薄く目に浮かんだ液体を、振りほどいて。 「間違いないの。間違いは、ないの……」 それから数日後に、宴会の話が持ち上がった。 仕事後に始まり、次の日を休日にすることにより夜中騒いでも仕事には影響を残さない方式。 天気に恵まれ、予定よりも順調に物事を消化していたので、息抜きをする暇ができたのだ。 日頃の宴会の開催場所だった神社が崩壊し、地界の宴会も中止だったのである。 誰ともなく、何処からともなく現れた白黒魔法使いを始めとして、色々と姿を現していたのには霊夢は苦笑するしかなかった。彼女達にとっては、いい口実に過ぎない。救いは、差し入れを少なからず持ってきていたことか。 夕闇が空を包んだ後。料理と酒が地面に引かれた敷物を彩り、人は寂れた神社を賑やかにする。 更に騒がしくなるのは、まだ早い。 人々の前に立った霊夢。その手には、酒が入ったカップが握られている。 「いつもお仕事ご苦労さま。今はゆっくり休んで、英気を養ってね」 「お前、人様に仕事させておいて何言ってんだよ!」 帽子を脱いで、豊かな金髪を露わにした魔法使いが軽口を投げ掛ける。 その言葉に、所々で苦笑が起きた。ただの苦笑で、文句が一言もなかったのが、当然といえば当然である。 「ああ、もう……魔理沙ったら。……じゃ、乾杯!」 乾杯、とあちらこちらで杯は重なり合う。天子も、座席の近くにいた天女と乾杯をする。古今東西、上でも下でも、常識は常識なのだ。 天子は酒は嫌いではない。むしろ、好きの部類に入る。陽気な気持ちで騒ぐのは心底楽しくて仕方がない。 だが、心配事がなければの話。これまで体験した宴には、心配事など二日酔いぐらいしかなかった。 本当に心を煩わせるコトが伴った宴会は初めてだった。 最初はアルコールを摂取すれば酔いに任せて忘れられるだろうと思った。 だから、早いペースで杯を重ねていく。周りにいた天女達が心配する位の速度で。 「……なんでよ……」 騒ぎに紛れ、溜息が誰かに聞こえることはなかった。既に酒の味を感じられない。 乗り遅れてしまったのは天子だけだ。その他の面々は友人や親しい人、話し相手を見つけていた。彼女達の表情に憂いはない。酒の席に心配事は不要である。 見れば、巫女に茶々を入れた魔法使いは彼と楽しげに話をしている。 邪意がない二人の笑みは、初めて会っただろうに意気投合を遂げた証。彼はあまり人見知りをしない性格とはいえ、酒の力は凄いというべきだろう。 心が締め付けられる。胸の奥が解けない糸で、雁字搦めにされた感覚を覚えた。 正体が判らない何か。感情、思念、または他にあるかもしれない。 とにかく、こんな光景を見たくない。目にさせないなら、自分が当事者として魔法使いの位置にいたい。カタチだけの願望が降り積もっていく。 本当に。 嫌になる。 「……なんで……よぉ……」 「なにが?」 心臓が停止するのでは、と思われる衝撃が天子の身体を駆け巡った。 聴覚が捉えた言葉が細胞の一つ一つにまで沁み込み、冷や汗という反応で答える。 「あ……霊夢に、○○……」 「こんばんは、比那名居様。楽しんでおられますか?」 驚く程すんなりと彼の名前が出た。 当然である。何度も呼んだ昔があれば、忘却する方が難しい。唯でさえ多感な子供時代。別の感情さえあれば、常識となろう。 「どうしたのよ、一人で。あんたも宴会には乗り気だったでしょう」 「え……。ちょっと、考え事。そう、考え事よ」 「へぇ……」 奥を覗かれるような感覚を覚える巫女の視線が、実際に痛覚を通じて天子を襲う。 そういえば、と霊夢は話題を転換させた。脇に立っていた、彼へと標準を映す。 「あの時に言った、チコって誰のことなの?」 「ヒナナイ、って名字に覚えがあってね。珍しい名字だろ? でも、テンシって聞いたことなかったんだけど……」 数言口内で呟いてから、彼は天子を改めて見る。 彼の視線は、はっきりと目上の人に対するモノで、何故か天子を苦しめた。 「あの、チコという名をご存知でしょうか? 地面の地に、子供の子って書くのですが……」 「あ……う……」 「アイツは一人っ子のはずですが……。まさか、姉妹とかいたんですかね……」 まだ覚えている。覚えてくれている。 首を傾げる姿は、記憶に焼きついた瞬間の反復。 麻薬の如くに頭を駆け巡る喜びを、天子は他人事のように思った。あまりにも現実を離れていて、邯鄲には信じられない。 「ねぇ、チコってどんな子供だったの?」 もう全てを分かっているのだろう。悪戯を思いついた幼児のように、霊夢の顔が怪しく笑う。 その笑みが天子を一直線に向いていたことに気付き、更に天子は居心地が悪くなった。 「そうだね……。まず、我を主張するってコトが珍しい子供だったかな……」 「そうなんだ……。我侭とか、利己的というか……自分が通ってないと嫌、みたいなことあった?」 「あんまりなかったね。友達とかの決定事に口を挟むのが珍しかったよ」 「ふむふむ……。他には何か、ある?」 彼の言葉を何度も反芻しながら、巫女は彼に先を促す。彼女の頭の中では、現在と過去の乖離を比べているのだろう。 何も知らない者にとっては、霊夢が浮かべている意地の悪い笑みの理由など分かりはしまい。 「単純に臆病みたいな感じ。些細なことで泣いて、いつも僕の背中についてきたなぁ……」 「へぇ……興味深いわね。じゃあ、チコが大きくなったら……」 そう言って、流し目で天子を見る霊夢。彼や周りの人々から見たとすれば、軽く細められた瞳には、しかし威圧感など存在しない。 天子の心の傷を抉るには、十分過ぎる威力を伴っていたが。 「……お淑やかで、絹のように滑らかで。それこそ、無垢なお嬢様……って感じに育ってるのかしら」 ある意味決定的な一言を言われた。もしも彼が肯定すれば、天子の意味が無くなる。記憶を離れた現在など、手に入れる価値もない。 「ははは……。うん、そうだね。そうなんじゃ、ないかな。ご両親も厳しい方だったしね」 彼の言葉は、現実の厳しさをたった一言で教える。期待を繰り返した刹那を否定し、天子が考える最悪の結末への階段を登っていく。 手摺りなど存在しない階段。足を踏み外せば、奈落へと真っ逆さま。 そして、天子の階段は先が無い。足を踏む隙間さえ無い。まさしく今の天子がおかれている状況だった。 「お――い、○○、霊夢!――! こっち来て飲もうぜ――!」 魔法使いの声。彼女の周りには、既に人々が群がっていた。 見る者を安心させる彼女の笑みには、惹かれる者も多い。天子も通常の心理状態だったならば、積極的に接触を取っていただろう。コップを片手に叫ぶ彼女に他意はないのだろうが、結果としては彼女に救われた形となる。 先程のような安っぽい嫉妬を恥じ、心の中だけで謝る。頭を垂れたままで、顔を上げずに。 今口を開いては、感情の奔流しか現せない。きっと、トコロ構わず泣いてしまう。 彼の目の前で、否定されたチコが天子と暴露されるのはなんとしてでも避けなければならない。 今を生きるチコが、彼が考える正反対の位相に位置することは、彼にとっても苦痛だろう。 「それでは、比那名居様に霊夢。また」 一つ礼をし、彼は喧騒の中に消えていく。湿った天子が纏う雰囲気と、酒に酔う人々の空気は決して交じり合わない。混じらない方がいい。 宴に心配事は、やはり余計なのだ。日々の悩みを忘れるのが酒の力なら。悩みを消し去るのが宴会の効力である。 「……っ……!」 「ええと……」 「……霊夢も行きなさいよ。こ、ここにっ、いて……は、ツ、っ、マラナイわっよ……」 「あのね……、天子」 霊夢の溜息。空気が微かに震える。 それが発端となったのか、俯いた天子のスカートに、ぽたり、と液体が落ちる。その雨は止まることを知らず、何度も何度も落下を繰り返した。 「私の記憶が正しければ」 「あ……ぅ、あぅ……、あ……」 「……あんたの気質は、降雨じゃなかったと記憶してるけど?」 その音は、天子に無情に、無常に聞こえた。 脆く、ひびが入った天子のココロが対抗できるはずもない。 記憶の奥で、誰にも見られないように裸で蹲る彼女は、あまりにも純粋で、あまりにも幼かった。 「う……ぐすっ、うぅう……! うわぁぁぁぁぁ……!」 本当に、二人の周りだけ隔離されている。天子が一目を憚らずに大声で泣いているにも拘らず、誰も寄ってこようとはしない。 酔っているからだろうか。もし理由を問われても、天子にははぐらかすことぐらいしかできないのだが。 「……私も悪かったわ。そんなに悩んでたのに、深く考えないで……」 「本当に悪く思ってるなら、胸を貸しなさいよぉ……」 誰にも注目を浴びないというのは本当に久しぶりだった。不良呼ばわりされたとはいえ、天界に住むのは一種のステータスでもある。 しかも、運が良いのか悪いのか、オマケで天上を許された一家なのだ。それこそ、良い意味でも悪い意味でも注目される。 それとも。 今霊夢の胸で泣きじゃくる天子を完膚無きまでに崩壊させたのは、彼がチコのみに興味を示していたからかもしれない。 チコへの興味は、天子への無関心を意味する。今正体を明かして、惚けさせることはできるだろうが、彼の記憶に漂うチコに摩り替わることはできない。 天子が望むのは、過去から続く道に乗り入れること。 チコならばどんなに良かったことか。過去の喪失さえ乗り越えてしまえば、すんなりと隙間に入り込める。 同じ線路を走りさえすればいい。だが、チコでは乖離が襲う。かといって、天子となった今では彼の予想を裏切ることとなる。 板挟みの状況から逃げるように、天子は泣き続けた。 「寂しいよ……胸が痛いよ……ぉ……! 寂し、かったんだよ……○、○……!」 彼の名を呼ぶ。叫び続ける。 対象となる彼は、天子の現状を知らないのだろう。要らない心配をかけるのも間違いなのだろう。 できることなど何もない。泣き疲れるまで泣き、天子は静かに意識の蓋を閉じた。 「……眠ったの、天子……?」 問いかけても、返答はない。安らかな寝息と、全てを委ねた柔らかさを感じるだけ。 一方的に感情をぶつけられるのは勘弁願いたかったが、知り合いとして他人事ではないので如何ともしがたい。異変で絡んだ縁もある。 だが、解決は二人の問題である。部外者の霊夢が口を挟む隙間など存在しない。 「……願わくば、天子の道に幸あらんことを……」 宗派も何もかもが違う祈祷に効果があるのかは分からない。霊夢は何処か冷めた面持ちで、身動き一つしない天子に向かって呟くのだった。 久しぶりの夢を見た。久しぶりに、ではなく、文字通りに久しぶりの夢。 最後に覚えがある夜を記憶で検索してみる。何故か、目星が付いた。 地子から天子へと改名を決心した日。 しかし、理由までは思い出せない。最後まで躊躇わせていた事由も姿を消している。 亡失には価値が無いから。頭に覚えておき、心に書きとめる価値が無い。諦めるとき、そんな言葉を耳にした。 そして、彼女は自らの口で繰り返す。 麻薬のような、興奮が沈静へと向かう感覚が身体を駆け巡る。 何か重要なことを忘れた虚無感と引き換えに、他にどうでもいいことを得た満足で満たされていた気がした。 無いといえば、無いのだろう。 忘れた記録に、何の価値があるというのか。決して忘れないと誓った記憶でさえ、人間は忘れる。地上にいても、天界にいても同じ。 だから、ヒトは恋して涙を流すのだろう。悲哀でも享受でも、涙という点では同じ。 ただ質が違うだけだ。その質は他人には分からない。自分自身にしかワカラナイ痛みは、貴重であり身の近くには置いておきたくなかった。 「う……」 夢のような時間は、儚くて。自分勝手な立場を恥じる態度さえ見せず、消え去った。 我侭を言い続け、周りを振り回す天子が文句を言えるはずもない。 止まらない時計。其を決定付ける唯一の印である普遍性。 時計に対する動き続ける針は、天子が自分と通そうと吹っかける無理難題と等しい。他へ向けて己を忘れさせないように、わざと無理を言う。 たとえ迷惑だとしても。相手に刷り込まれる情報は、嘘偽りない。何も主張しないよりも、印象に残る。 「テンシ様、気がつきましたか?」 見慣れない天上。身体は覚えがない感触に包まれていて、何も知らない一般人ならば天上の夢心地だっただろう。 実際に天界に住んでいる天子からすれば、布団などやっぱり上も下も同じなのだった。 「え……? なんで、私はここに……?」 辺りをぼんやりと見渡す。改修作業を見るにも飽きて、昼寝の為に霊夢から借りた部屋の一つだった。そこに布団が敷かれ、天子は横になっている。 窓から覗く月は満月。月見酒には絶好というべき夜だろう。 「覚えていらっしゃいませんか? 霊夢が言うには、酔い潰れたらしくて。霊夢はしばらく留守にするというので、私がお世話を預かっているという訳です」 「そう……」 幻とは呆気ない。せっかくの甘美を、一寸の迷いなく消滅させる。届かないユメなら、せめて理想のままに。 実体が無い身体、実感の無い感覚。天子自身が呼吸をしているという事実さえなかったら、もう一度旅に出ただろう。 彼が後ろを向いたときを見計らって、瞳を軽く擦る。水滴が指先に付いた感触はない。涙全てを流し終えたのか、乾き終わる程に時間が経過したのか。 霊夢なりの配慮なのだろう。みっともない表情など、想い人には不要だ。 だが、巫女は致命的な間違いをしていた。泣かれた後で、彼女なりに色々考えてみたのだろう。 用事があるというのが嘘か本当か分からないが、彼と一緒にさせた方がいいと思ったに違いない。 「はい、お水です」 水が入ったコップを手渡され、酔いとは違う頭痛に耐える。 既に感情が爆発した。爆心地に残るのは、粉々になった塵のみ。 酷く冷静になった天子には、巫女との遣り取りで全て吐露していた。もう、熱く訴える感情は無い。 彼を目の前にしても、心が沸き立とうとはしない。 「ん……ありがとう」 当然だが、水に口をつけても、酒のような喉が拒絶する感覚は覚えない。むしろ、水を欲していたのか、天子でも驚く程に早く飲みきった。 酒は大量に飲んでいた。しかし、一人で摂取する量など、友と語りながら潤滑の為に口にするよりは少なくなるだろう。 一人酒は雰囲気を楽しむモノ。相手がいる酒は会話に花を咲かせるモノ。酒とは、芽を出そうとしている種に与える水分である。 「それにしても、天人といえども、酔い潰れるってあるんですね。僕、驚きました」 「……あのね。天人っていっても、元は普通の人間よ。酔いもすれば泣きもするわ」 だから。 冷静過ぎた天子は、以前なら決して口にしない言葉を口にした。もう隠すこともない。 霊夢との付き合いはまだ短い。彼女が秘密を軽々しく口外するとは考えたくもないが、嫌でも最悪に対する供えが必要となる。 我侭な娘が見せた弱さ。しかも色恋が絡むとなれば、噂にならない方が珍しい。 どうせ神社が建ったら、天子は再び天界に隔離される。 彼女が引き起こした異変の後始末として、今は大目に見られているものの、日常が戻ったのならばその限りではない。 「……うん。笑ったり、怒ったり、泣いたり、憂いたり。喜怒哀楽を……持っ……て……」 言葉にすらならなかった。頭の回転は正常値を示しかけているものの、上手く口が動かない。 それとも、それが思考が弾き出した答えなのかもしれなかった。 感情を表すのは、生者にとって当然のコト。するかしないかは、個人の自由に委ねられる。 今の天子は権利を持っていても、身体が不思議と涙を流すからどうにもならなかった。 「泣きなくないのに、っ……ぐっ、泣きたいの……。天人だって、こんなとき、ぐらい……っ、あるん……だからっ……!」 涙は全部流したと思った。たった今飲んだ水が、体内から出ているのかもしれない。 どうでもいいコトには違いない。涙が問題なのではなかった。 布団を握った震える手に、水滴が落ちていく。その中の一つが、灯りに反射して幻想的に光った。 「昔良く泣いてたからって、今泣いちゃ駄目なの? 変わっちゃ駄目なの!? 大人しい子供が、我侭になったからって、どうして泣いちゃ駄目なのよ!」 感情の爆発に使用した、火薬は全て燃えてしまったはずなのだが。訳も分からずに、天子は叫んだ。 それは、あの時からずっと心に秘めていた思い。張り詰めていた分、衝撃も大きい。 「テンシ様……」 「もういや……もういやよ! 私一人過去に取り残されるのはイヤ! 一人にしないでよぉ……!」 部屋中に天子の慟哭が響き渡る。哀愁と絶望が入り混じったその声は、彼女が積み重ねてきた日々の欠片。 「……バカ。お前は、一人じゃないさ。そんなトコロは、昔と変わらないな」 そう天子には聞こえて。いつぞやに体験したはずの、記憶と一致して。 数度しか感じたことのなかった、暖かさが全身を包んだ。心に刺さった棘が一瞬で蒸発する。その傷も、いまや気にする暇もない。 「……○○……?」 「天子……いや、地子。僕のコト、覚えてる?」 「忘れ、る……わけっ……ないでしょうっ、が……!」 彼の胸はただただ安心できた。抱かれているという現在よりも、彼の暖かさと一つになっている結果に身体が解れていく。 知らずの内に、天子は彼の背中に腕を回し繋がりを深くする。 昔よりも随分と広がった背中は、離れていた時間を容赦なくぶつけてきた。 「うう……わぁぁあ……あぁぁぁぁ……!」 一度完全に決壊した綻びを止める力など、天子には残されていなかった。 彼は一方的に打ちつけられる感情をその身に浴びていた。だから、天子は他のことに思考を展開する必要がない。 「……っ、んっ……いつ、気付いたの……?」 「いつ、なんだろ。よく分からない。……けど……きっと、初めて会ったときにじゃないかなぁ……」 軽く天子の頭を撫でる彼。 少しだけのこそばゆさと、嬉しさに天子の胸が一杯になる。以前感じた感触と同じで、芯が溶ける。 「……霊夢が言ってた未来の地子と、現在の天子は反対なの。とっても我侭。それでも……いいの……?」 再び目の奥が熱くなってくる。今更打ち明けるのは、危険な冒険に過ぎなかった。夢のように進んだ物事を壊しかねない台詞。 けれど、天子には白黒はっきりつけなければならないコトでもある。 彼は一つ笑って。 小さく天子の頭を叩いた。 「いいさ。……まだ、今の地子……天子は僕よく分からないから……」 「……バカ……ばか……ぁ……」 やはり、昔と同じように彼に頼らなければならないのだ。昔は助けを、今は救いを。 しかし、その関係は天子にとって嫌ではない。気持ちを代弁するように、彼を更に強く抱き締める。 やがて落ち着きを取り戻した天子。誰にも向けられていない彼女の独白は、虚しく部屋に響いた。 「寂しかったの……。苦しくて、胸が張り裂けそうだった……」 「……」 「でも、嘘みたい……。今、こうして抱き合ってるだけで、悪い冗談みたいに思える……」 「……天子」 「ねぇ……」 顔を彼の目の前に持っていく天子。 意志が宿る目には、言い表せない何かが渦巻いている。 「……伝えたいこと、あるんだけど……。聞いてくれる……?」 「……ああ。何だい?」 一度深呼吸する。その小さな動作でさえ、彼と身体を合わせている天子は彼の実感を得ることができた。 「……私ね、ずっと……」 小さな響きは紡がれることなく、安らかな寝息に侵食された。焦点が合っていなかった視線は、睡魔を追い出そうとしていたのだろう。 結局は負けてしまい、彼の胸の中で眠ってしまったのだが。 軽く彼は眠った天子の背中を擦る。赤子をあやすように動く手のひらは、布と擦れたにも係わらずに音を発生させなかった。 「……今度は、僕の番……ってコトで、いいのかな?」 霊夢の胸で泣き疲れて眠ってしまった天子を、彼はしっかり目撃していた。だから、このような台詞が口を出たのだ。 返答はまだしていない。あの後の言葉を考えるのは、野暮だろう。 「……まぁ、また次の機会に。そうだろ、天子……?」 静かに問いかける。彼女は前髪が鬱陶しく感じたのか、前髪を払う動作をしてから、楽しげに頷いた。 夢を侵食する言葉など覚えがない。だが、寝ているならば聞いて理解しているとも考えにくい。 揺り篭に揺られる天子の唇が微動する。それを理解できたのはとある言葉を示していたのは、静謐な夜に浮かぶ、欠けの無い満月のみだった。 予期できないことが起きるのが人生である。霊夢は今、それを実感していた。 「……おめでとう、というべきなのかしら」 天子が起きるとは、想定外の物事だった。帰ってきて天子を寝かせた部屋の襖に手をかけると、嗚咽が聞こえた。 一応慎重に襖を開けると、二人が抱き合っていたのである。 そのときの天子の表情は、止め処もなく涙を流していながら、福音を得た旅人のように輝いている。 確かに彼女は旅人だった。その旅の過去から未来を、覗いていたのが霊夢。 天子と彼が幼い時に別たれた存在だというのは分かっていた。少なくとも、彼に粘着してチコの過去を聞きだす時には。 「いいえ……。おめでとう……そして、ご苦労さまと……」 音もなく襖を閉める。困難を極めた旅路は、せめて終着点ぐらい幸せに。 またどうしても足を進めなければならない時が来る。遅かれ早かれ、絶対にだ。 酷く酒を飲みたくなった。外には酔い潰れてしまっている友達がいる。無理にでも起こして、現と夢を巻き込んだ色恋沙汰の話で盛り上がるのも悪くはない。 台所の戸棚に仕舞ってあった、とっておきの酒瓶を取り出す。いつ仕舞ったのかは忘れてしまった。 埃を被っているから、かなり昔だとは思うのだが。 表面を薄く覆う埃を軽くほろい、霊夢は足を進め、縁側へと腰掛ける。 「……今は、ただ二人に乾杯を」 頭上に輝く、満月へと容器を掲げる。揺れる水面は、他人行儀に輝いていた。 「そして……幸あれ、と……博麗の巫女の名の下に祈りましょう」 先程は誰か相手が欲しかったのだが、対象は全て幸せそうな表情で眠りについている。 本当の幻は破る価値もない。幻想の名を冠する世界といえども、単純に世知辛い世の中である。夢で慰めを得ることぐらい、許されてもいいだろう。 それに、霊夢自身が一人で味わいたかった。 「……ただ、それだけを……」 二人の船出を祝福するように、巫女は杯を重ねる。 霊夢は分かるはずもない。 月光に映し出される、決して綺麗とお世辞にもいえない文字で描かれた製造日時は、二人が別れた日を刻銘に示していた。 一度栞を閉じた本。 長い間放置して、すっかり埃塗れになった。 汚したくないからと、せっかくかけたブックカバーも汚れてしまった。 でも、そんなのは洗えばいい。 何度も洗って、太陽の下で干せば元通り。 カバーを綺麗にして、再び未読の本にかけよう。 今度は汚さない。 決して手放さない。 まだ半分にも至っていない物語の主役は、今出会ったばかりなのだから。 後書き いきなりですが、私は今他に本腰を入れている小説があります(東方ですが……) その小説と、この天子小説のカタチというか、作風が私にとって全く逆のモノなのです。ですから、いい息抜きをしながら書けました。 オリジナル設定天子盛り……じゃなくて、てんこ盛りでしたが、いかがでしたでしょうか。少しでも楽しんでいただけたら、書き手としてはこれに勝る喜びはありません。 緋想天のストーリーモードのシステムがあまり好きではないので、あまりプレイしていません。ですから、設定と喰い違う箇所もあろうと思います。そこを、それはそれとして楽しんでいだだきたく存じます。 ───────────────────────────────────────────────────────────
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天子6 Megalith 2011/10/28 物好きだ、と告げた。 「あら、私は物好き?」 物好きだろう、と、さらに言葉を重ねる。 非想非非想天の娘、比那名居天子は、そんなこちらを見つめて、くすくすと微笑っていた。 外は雲一つない夜空。部屋を照らすは、行灯の光だけ。 今、自分は何故か天界にいる。拉致されたと言うべきなのか、自分から来たというべきなのか。 総領娘が幾分か真面目になった、ということでの報酬というような形で、今ここにいる。 「何か、わからないことあれば教えるけど」 書見台の書を指されるが、そっと首を横に振った。わからないほどのものではない。 「私が暇なの。ちょっとは構ってよ」 そう言いながら、畳の上でころころと転がる。可愛らしいものだが、お嬢様としてそれはどうなのか。 「いいじゃない、貴方しかいないんだし」 そうか、とため息をついて、やっぱり物好きだ、と思う。こんな自分のどこが良かったのか、はてさて。 出会いは忘れられない。忘れられるものか。 妖に追われ、偶然出会った彼女が、符を使って追い返してくれたこと。 そのときの、緋想の色に染まった、彼女の姿を忘れることなど。 そのまま惚れるに惚れ込んで、だが格式高い天人相手にどうすることもできない、はずだった。 そのはずだったのに、気が付けば彼女が訪ねてくるようになり、さらに気が付けば、こんなところまで来てしまった。 「……ね」 不意に、ころん、と、隣に転がってきた彼女に、何だ、と問いかける。 「……ここにいるのは、退屈?」 少し考えて首を振る。少なくとも退屈ではない。 天子の我儘に振り回されて下界へ降りることもしばしばだが、退屈だとか嫌だとか思ったことはない。 「……本当?」 身体を起こした彼女に、どうしてそんなことを聞くのかと尋ねる。 少し迷ったような素振りの後、天子は口を開いた。 「……私が」 とん、と背中を預けて、天子はぽつり、ぽつりと言葉を紡いでいく。 「勝手に連れてきてさ。貴方は諾々と受け入れてて。修行とか勉強とか何とかさせてて」 声は小さくて、普段の彼女らしいとは思えない。 そんなことは気にしなくていい、と伝える。 自分は居たくて、ここにいるのだから。 傍にいたいから、ここにいるのだから。 「……だって、私だけみたいで」 ぼそぼそと天子は呟く。 「私だけが、貴方を好きみたいで」 書をめくる手が止まった。ぎゅっと、こちらの服の裾を握りしめて、彼女は続ける。 「初めて、貴方を見たときからずっと。ずっと」 知らなかった。彼女がここに自分を連れてきたのは、暇つぶしの気まぐれではなかったのか。 「……そんな風に思ってたの?」 すまない、と一言だけ。けれども、信じられなかったのもわかってほしかった。 文字通り、天の上の存在だから。 ずっと、ただの気紛れでここにいさせてもらえるのだと思ってたから。 だからこんなにも、必死だったのだと。 傍にいたいから。好きだから。 初めて見たときから、ずっと。 「……本当?」 本当だとも。そうでもなければ、ここにはいない。 だから、今必死なのだと。 ずっと貴女の傍にいるために。 卑小な人の身だけれども、何とか追いつけるように。 「……貴方は、何も言ってくれないもの」 言われて、気が付く。そういえば、想いをしっかりと、はっきりと、伝えてはいない気がして。 そうじゃないのだ、という自分に、天子は首を振った。 「……じゃあ、態度で示して」 甘えるような声で、膝に手をかけて。 「……今は誰も、いないもの」 だから、と、口唇に指を滑らせた天子に、くらりとするような色香を感じて。 「……貴方を、ください」 灯りに照らされた顔が、赤く染まるのを確認して。 自分の想いが向くままに、愛しい彼女を抱き寄せた。 天子といっしょ! プロローグ (Megalith 2012/03/09) -----天子side----- 私は幼い時から友達が居なかった。 いや、一人だけいた・・・ 名前は、○○という名前だった気がする。 彼は別の世界から来たと言っていたが・・・ 紫につれて来られたのだろう。 彼も友達は居なかったらしい、だが、私にかまってくれるただ一人の人だった。 確か、ある日のこと・・・ 地子「ねぇ」 ○○「ん?どうしたんだ、地子?」 地「貴方は、私のこと嫌じゃないの?」 ○「ううん、全然。 どうしてそんなこと聞くんだ?」 地「だって。私、わがままだし、皆は親の七光りだとか言ってくるし・・・」 ○「大丈夫だよ、俺は、その、えーっと・・・」 地「?」 ○「地子のことが、好き・・・だから。」 地「あ・・・」 ○「・・・嫌だったか?」 地「ううん・・・ありがとう。」 嬉しかった、とても。だけど――――― 私はその後すぐに、天人に、天子になった。 天界に行くことを、○○には言わなかった。悲しいから、言いたくなかったから。 天界に行けば、友達も出来ると思っていたけど、友達は出来なかった。 だから私は、あの異変を起こしたのだ。その結果、霊夢や魔理沙などいろいろな奴と知り合えた。 だけど、心の中にはまだ何かが残っていた。 ○○に会いたい、そう思っていた。 だが、私が天子になってから、もう20年近く経っていた。彼は私を覚えていないかもしれない、いや――― 妖怪に食われたのかもしれない―――― いくら探しても、彼には会えなかった・・・ 本当に、死んでしまったのかもしれない。 そう考えると、涙が出てきた。だけど、そんなのは嫌だったから、もう忘れようとしていた・・・ それから、2週間ほど経っただろうか――――― 天子「はぁ・・・はぁ・・・」 私は、とある森の中で妖怪に囲まれていた。 天人である私は不老不死なので、妖怪と戦えば普通に勝てる。 だが、妖怪の不意打ちを喰らい、崖から落ちて、足が動かなかった。 肝心の緋想の剣も、それにより遠くに落ちてある、手を伸ばしても、届きそうにない。 妖怪は長い爪で私を引き裂こうとしている。死ななくても、痛みはあるから、きっととても辛いことになりそうだと思った。 衣玖を呼ぼうとしても、怖くて声が出なかった。 天「嫌・・・助けて・・・」 妖怪が爪を振り上げた、このままなら腹を2つに裂かれるだろう。 天「嫌・・・いやだよ・・・」 もう駄目だ――― そう観念して目を瞑った。 そして・・・ 肉を切り裂く嫌な音が、目の前で聞こえて、体に大量の血が付いた。 だが、痛みはなかった。 天「あれ・・・?」 目を開けて体を確かめる、そして気づいた。 これは私の血じゃない、妖怪の血だ。 天「ど、どうして・・・?」 上を見てみると、一人の男がいた。西洋風の控えめな鎧を身に付け、両手には剣が握られている、確か、双剣というものだったはずだ。 彼が近づいてくる、私を助けてくれるようだ。だが、返り血のぬっとりとした感触が気持ち悪くて、意識が遠のいていった。 男「おい・・・大丈夫か?」 そう聞こえた、だが返事をする気力もなかった。意識が遠のき、視界が暗くなっていった・・・ だが、何故だろう。 胸が波打っているのは、何故なのだろう―――― そんなことを考えながら、意識は完全に闇へ落ちていった。 ---○○side--- 俺は幼い時、そう、6歳ぐらいのときだっただろうか。 何故か解らないが、俺は普通の世界から突然、この幻想郷に飛ばされた。 親とも離れ、だれも知り合いは居なかった。 当たり前だが、友達も居なかった・・・ いや、一人いた。名前は、地子という子だった。 元々人をほおっておけない性格だった俺は、同じく一人だった地子をほおっておけなかった。 だから、地子と遊ぶようになった。 そんなある日のことだった。 地子「ねぇ」 地子が突然、俺に話し始めた。 ○○「ん?どうしたんだ、地子?」 地「貴方は、私のこと嫌じゃないの?」 驚いた、もしかしたら、地子は自分は渋々遊んでいるとでも思っていたのかもしれない。 だが、そんなつもりは微塵もなかった。いや、このときから、俺は地子のことを好きになっていた。 ○「ううん、全然。 どうしてそんなこと聞くんだ?」 地「だって。私、わがままだし、皆は親の七光りだとか言ってくるし・・・」 ○「大丈夫だよ、俺は、その、えーっと・・・」 上手く言えなかったが、言ってみた。 地「?」 ○「地子のことが、好き・・・だから。」 地「あ・・・」 ○「・・・嫌だったか?」 地「ううん・・・ありがとう。」 嬉しかった、地子が俺のことを受け入れてくれたのだと、そう思っていた。 だが―――― それからまもなくして、地子は里から去った。否、いなくなった。 俺は必死に探したが、二度と地子に会うことはなかった。 もしかしたら、妖怪に食われたのかもしれない・・・ そう考えると、涙が出てきた。 だから、もう考えるのをやめて、忘れようとした。 それからしばらくして、スペルカードルールというのが誕生して、俺もそれに乗って、スペルとやらを手に入れた。 この時、俺は妖怪から人を守る、いわばハンターになっていた。 並みの妖怪なら余裕で倒せる実力を身につけ、里での評判も良かった。 それと同時に、地子の記憶も、薄れていった――― そして、23歳になった、ある日のこと。 ○○「・・・ふぅ、今日の仕事は終わりだな。帰るとするか・・・」 いつものように妖怪を討伐し、もうすっかり日も暮れたから家に帰ろうとしていた、そのときだった・・・ 「嫌・・・いやだよ・・・」 ○○「・・・なんだ? まさか、襲われてる奴がいるのか!?」 俺は真っ先にそこへ向かった、そこでは複数の妖怪が女を殺そうとしていたところだった。 妖怪は3体、倒せない相手ではない――――― 俺は後ろから一気に倒すことにした。だが妖怪は爪を振り上げる、まずい、間に合うか・・・? 俺は双剣を握り締め、妖怪に向かって走り出した、そして剣を振り上げ、呟いた。 「迅符『疾風残殺』―――――」 そして、妖怪を一瞬で切り刻んだ、よかった、間に合った・・・ だが女には返り血が大量についている、気絶してしまうかもしれない。 女は綺麗な衣装を身に付け、長い青髪が綺麗だ。貴族か何かだろうか? ○○「おい、大丈夫か・・・?」 女に手を差し伸べる、だが、女は意識が遠のいていた。そして、そのまま目を閉じてしまった。無理も無い、こんなに返り血が付いているのだから。 仕方が無い、女を抱き上げ、とりあえず自宅に連れて行くことにした。 ふと、右に目をやると、なにやら怪しげな光る剣があった。もしかして、彼女のものかもしれない。 ついでにもって行くことにした。 だが、何故だ? 胸が波打っているのは、何故なのだろう・・・ そう思いながら、俺は自宅へと向かっていった。 ───── 次回からイチャつく要素が一気に増えます。 あくまでこれはプロローグなので今後このような話は一切無いです。 どうか温かい目で見守っていただければありがたいです。 天子といっしょ! プロローグその2 (Megalith 2012/03/11) ---天子side--- 天「う・・・ん・・・?」 まだ意識が朦朧としていたが、体を動かすことができた。 ここは・・・? どうやらさっき意識が途切れる前に見た男の家らしい。 彼は誰なのだろう、そしてなぜ胸が波打つのだろう・・・? そのとき、彼が部屋に来た。どうやら心配してくれているらしい。 男「お、気がついたみたいだな、大丈夫か?」 天「うん・・・もう大丈夫よ、ありがとう」 男「無理するなよ?足を怪我してるんだしな」 天「大丈夫よ、私を誰だと思っているの?」 男「さぁ?知らないな・・・ 貴族か何かなのか?」 彼は私のことを知らないようだ。あの異変の後人里に時々顔を出していたから、たぶん知っていると思ったのけど・・・ 天「はぁ・・・ まぁいいわ、ところで、貴方の名前は?教えなさいよ」 男「おいおい、普通は助けられたそっちが先に言うものじゃないのか?」 随分生意気な奴だな、と思いながらも、彼が助けてくれなければ酷い目にあっていたのも事実・・・ 仕方がない、教えるとしよう。そして口を開いた。 天「私の名前は――――」 名前を言ったそのときだった、確かに彼が固まったのがわかった、そして驚いた様子で目を見開いている。 天「なによ、そんなに驚く必要がある?」 男「す、すまないが、もう一度ゆっくり言ってくれないか?」 天「はぁ・・・何なのよ・・・?」 天「私は天子。比那名居 天子よ。」 さらに男は目を見開いた。いったいどうしたというのだろう・・・? 男「あ・・・、あぁ・・・?」 天「さっきから何なの?人の名前を聞いてそこまで驚く?」 男「なぁ・・・、お前。」 天「ん?」 男「地子って奴を、知っていないか―――――?」 天「え・・・?」 私も目を見開き、固まった。まさか・・・? 天「あ、貴方の名前は・・・?」 男「あぁ、俺か・・・」 その名前を聞いた瞬間、 男「俺は・・・」 私は、 男「○○っていうんだ―――――」 涙が溢れるのを感じた―――――。 やっと、やっと会うことが出来た―――――。 ----○○side---- ○「さて・・・どうしたものかな。」 彼女を家に連れていったのはいいが、どうすればいいのかまったく分からない。 とりあえず返り血を拭き、寝室に寝かせておく。 ふと、足の怪我を確かめる、が・・・ ○「傷は・・・? 思っていたより深いな?」 その怪我は普通の人間なら致命傷になりうる傷だった。 ○「驚いたな・・・、どういうことだ?」 俺はしばらく考えた、が。あまり深く考えるのは止めておくかと考えて、なんとなく彼女の顔を見てみた。 ○「ふむ・・・結構、いや、すごく可愛いな・・・ しかし、何故かな。地子を思い出すな。」 ○「地子も、こんな感じだったな。 はぁ、結局地子は何処行ってしまったんだろうな・・・」 ○「もしかしたら・・・ いや、考えるのは止めるか。」 そうして、寝室に彼女を寝かせ、自分は居間で昔を思い出していた。 そうして30分ぐらい経っただろうか? 様子を見に寝室へと向かった、すると、彼女は意識を取り戻していた。 女「う・・・うーん・・・」 ○「お・・・気がついたらしいな?」 女「うん・・・もう大丈夫よ、ありがとう」 ○「無理するなよ?足を怪我してるんだしな」 女「大丈夫よ、私を誰だと思っているの?」 ○「さぁ?知らないな・・・ 貴族か何かなのか?」 どうやら彼女はやはり偉い何からしい。話し方で大体想像できる。 助けられた身にしては、随分生意気だと思ったが・・・ 何故だろうか、地子になんだか似ている気がする、こういうわがままな所が、だ。 とりあえず名前を聞いてみるか?と思ったそのときだった。 女「はぁ・・・ まぁいいわ、ところで、貴方の名前は?教えなさいよ」 ○「おいおい、普通は助けられたそっちが先に言うものじゃないのか?」 やはり、生意気だと思った。とりあえず、名前を確認して、人里で相談すれば大丈夫だろうと考えていた、その時だった。 女「私の名前は―――――よ。」 一瞬、心臓が波打った。まさか・・・?いや、聞き間違いか・・・? ○「すまない、もう一度いってくれないか?」 女「何よ・・・?仕方ないわね」 女「私は天子。比那名居 天子っていうの」 比那名居・・・ 地子と同じ苗字だ・・・!?まさか・・・ ○「あ・・・、あぁ・・・?」 女「さっきから何なの?人の名前を聞いてそこまで驚く?」 ○「なぁ・・・、お前。」 確かめなければ・・・ 女「ん?」 ○「地子って奴を、知っていないか―――――?」 女「え・・・?」 彼女も固まっている、どういうことだ・・・? 女「貴方の、名前は・・・?」 まさか、いや、そんな筈は・・・? とにかく名前を教えよう。そして ○「俺の名前は・・・ ○○っていうんだ――――」 それを聞いた彼女も固まって目を見開いている・・・ 間違い・・・ないのか? ---天子&○○side--- 二人は固まっていた、もしかしたら、いや、まさか―――― そのような考えが二人の頭に存在していたからだ。 そして長い沈黙の後、天子は口を開いた。 天「貴方、○○なの・・・?」 ○「あぁ、じゃあ、お前は・・・?」 天「地子・・・よ・・・。 今は天子だけど・・・」 再び、互いに目を見開き、固まっていた。二人の目には涙が溢れていた。 長い沈黙の後、二人は笑い始めた。こんな形で再開するとは思っていなかった上に、久しぶりの再開が嬉しかったのだろう。 しばらく笑いあった後、こんどは○○が口を開いた。 ○「いやー・・・久しぶりだな、地子。」 天「ちょっと、今の私は天子よ?さっき言ったじゃない?」 ○「あぁ、そうだったな、天子」 天「うん・・・でも、本当に久しぶり、○○」 ○「そうだな、さて・・・、天子。あの時、なんで居なくなったのか説明できるか?」 天「えぇ、説明するわ。」 少女説明中・・・ ○「なるほど、そんな事が・・・」 天「うん・・・。ごめんね・・・?突然居なくなったりして・・・。」 ○「大丈夫だ、それに、また会えたからいいじゃないか?」 天「うん・・・ ありがとう」 そうして天子は○○に寄りかかった、○○は躊躇わず、天子を優しく抱きしめた ○「ん、どうだ?」 天「うん・・・暖かい・・・」 ○「こうやるのも、20年ぶりか?」 天「うん、そうだね・・・ ね、もっと強くギュッて、して?」 ○「あぁ。」 ぎゅっ 天「私さ、ずっと寂しかったの。」 ○「天子・・・」 天「地子の時も友達いなくて、天子になっても天界で友達作れなかったからさ、あなたにまた会えて、本当に嬉しいの。」 ○「あぁ、俺も嬉しいよ、天子。」 天「うん・・・ ありがとう、○○・・・。」 ○「ははは、こういうところは、昔と変わらないな。」 天「?」 ○「いつもは強気だけど、寂しがりやなところがさ。 あと・・・ えーっと・・・」 天「なによ?」 ○○は天子の体を見て言った。 ○「胸m」 完全に言い切る前に天子は○○から離れ、○○が置いておいた緋想の剣を手にとった、 ○「あ、やっぱりそれ天子のだったk」 そして、また言い切る前に○○に振り下ろした。 ○「うおお!? いきなり何をするんだ!?」 天「うるさい!うるさーい! 貴方、一番気にしてることを!」 ○「あ、やっぱり気になってたんd」 またまた言い切る前に剣を頭に振り下ろした、○○は間一髪でかわした。 天「うがー!」 ○「オーケーオーケーw まずは落ち着け、天s」 またまたまた言い切る前に、なぜか扉が開いた。誰だと思って二人が見ると。 衣玖「ここから総領娘様の声が!?」 天「あ、衣玖・・・」 ○「ん? 天子の知り合いか?」 恐らく、衣玖から見れば、この状態は○○に天子が誘拐され、天子が抵抗しているように見えるのであろう。 衣玖は怒っているのだろうか・・・? 体に電気が纏っているのが分かる。 ○「なぁ・・・ 天子・・・」 天「うん・・・」 ○「逃げたほうが、いいかな?」 天「うん、たぶん無理。」 ○「え、ちょ、おま」 衣「貴方、総領娘様に何をしているのですか!」 と、同時に電撃が家を包んだ。 天&○「アッーーーーーー!?」 衣「・・・本当に申し訳ありませんでした、まさか総領娘様の幼馴染だとは・・・」 ○「いや、いいですよ、ハハハ・・・」 結果、電撃によって家は丸焦げになり、とても住める状態では無くなっていた。 さぁ、どうしたものか。 天「家、黒焦げになっちゃったわね・・・」 ○「あぁ、どうしたものか・・・。」 衣「どうしましょう・・・。そうだ!、○○さん、天界に住んでみるというのはどうでしょうか?」 ○「はあ!?」 衣「それなりの部屋はお貸しします、いかがでしょうか?」 ○「さすがに無理があるような・・・ なぁ、天子?」 天「いいじゃない!早速そうしましょう!」 ○「おいい!?」 衣「では行きましょう、しっかりお #25681;まりくださいね?」 天「あ、衣玖ずるい!」 ○「いや、まずちょっと俺の話を聞いてくれないk」 もう何回目だろうか、○○が言い切る前に衣玖と天子は急上昇し、天界へ向かっていった。 ○「のおおおおおおおおおおおおおおお!?」 高速で上昇していく中、○○は、とんでもないことになったと思っていた。 ○「まず天子、聞きたいことがある。」 天「・・・うん。」 ○「なぜ俺は天子の部屋にいるんだ?」 天「し、知らないわよ! 衣玖に聞いてよ!」 ○「衣玖さん、とんでもないことをしてくれやがったな・・・」 そう、衣玖の言ったそれなりの部屋とは、天子の部屋のことであった。 確かに綺麗ではあるし、そこそこ広い、だがベッドは一つしかない上に風呂ももちろん1つだ。 いくら幼馴染で仲良しとはいえ、いきなり2人で同じ部屋で過ごすのはハードルが高すぎる。 ○「と、とりあえず風呂入って寝ようか。」 天「え!? あ、うん、分かったわ・・・ でもどうするの?風呂一つしかないわよ?」 ○「あ、じゃあ先に入っていいか? そっちのほうが気が楽だろ?」 天「分かったわ・・・ じゃあ待ってるから。」 ○「おう。」 風呂にて ○「なんか、とんでもないことになったな・・・ これから、どうなるんだ?」 ○「まぁ、いいか。」 ちょ、ええんかい。 ○「よし、次入っていいぞ、」 天「ん、分かったわ」 少女入浴中・・・ ○「天子、ずいぶん遅いな?、いや 俺が早すぎるのか?」 天「ん、おまたせ」 ○「おう、さて、寝るわけなんだが・・・」 ○○はベッドを見つめて困ったような顔をした。さすがに二人で寝るのはまだ恥ずかしいらしい。 ○「とりあえず、天子はベッドで寝てくれ、俺はソファーで寝るから。」 天「うん、ごめんね?」 ○「ああ、気にするな。」 それから二人は寝巻きに着替え、そのまま寝ることになった。が ○(落ち着かない・・・こんな状態で落ち着けるか・・・! あぁ!天子の寝息聞こえるんですけど! やべぇ! 耐えろ俺!) と、暫くしてからのことであった。 天子がうなされている事に気づいた。 天「ん・・・うぅ・・・」 悪夢でも見ているのだろうか・・・ 天子は苦しそうな顔で毛布を握り締め、震えていた。 ○○は心配そうに天子の手を握ってあげた、すると暫くして、表情が元に戻り、再び安らかな表情に変わっていった。 ○「おやすみ、天子」 そういって○○は天子の髪を撫でて、再びソファーに横になり、そのまま眠りについた・・・ 朝。 少し早く目が覚めた天子は、昨日の夢を思い出していた。 最近天子はよく悪夢を見ていた、皆が天子を軽蔑し、離れて行き、虐められる、とても悲しい夢を。 だが今日は違った。なぜか途中で光のようなものが現れたのだ、その光は天子を抱きしめ、そこで悪夢は終わった。 こんなことは初めてなのだ。 天「なんだったのかしら、アレ・・・。 とても優しくて、暖かかったな・・・」 ふとソファーを見てみる、そこでは○○が寝ている。 ふと、自分の髪が少し乱れているのに気づく、寝癖ではなく、誰かに撫でられたような跡だ。 きっと、○○が撫でてくれたのだろう、そしてあの夢の光の正体は、○○だったのだろう。 そう思うと、嬉しい気持ちになってきた。 そして少し目を細め、ソファーで寝ている○○のところへ近づく。 そして○○の髪を優しく撫でた。 天「ありがとね、○○。」 そして、二人の共同生活の1日目が始まるのであった。 続く! ───── うp主「やーっとイチャつかせることが出来たかな?」 天子「まだじゃないの? これってイチャついてるって言うのかしら・・・。」 うp主「うぐぐ、まぁ次回からが本編だから、気にしないでくれ。これはプロローグなんだからな。二人が再開するまでの。」 天子「ふーん・・・」
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天子3 うpろだ1205 ある日家に帰ったと思ったら家がなかった。 別段消滅したと言うわけではない。潰れて住めなくなっていたのだ。 なぜこんなことにと思っていると誰か来た。 訊いてみれば竜宮の使いと名乗り、謝罪したいと言う。 さて何に対して謝罪したいのかというと家を壊したことについてらしい。 彼女が壊したわけではないらしいが、上役が壊したらしい。 建て直しはするが時間がかかるので、完成するまでは自分達の家に泊まっていて欲しいと言う。 立て直されるのならとりあえず文句はない。バラック同然なのだから数日とかかるまい。 何故壊したのかについては、誤爆と言われた。 連れて行かれたのは遥か高空。もうどこなのかもわからない。 見渡す限り白い花の咲いていて、所々木々も見える。 さてここまで運んできた竜宮の使いは、その木のところで俺を下ろした。 木は池を取り囲むように生えていて、そこに一人の童女が見える。 あれが壊した張本人ですと竜宮の使(ryに言われたがとてもそうは見えない。 その童女は近づくなり、一発だけなら誤射ということで許してくれといってきた。 悪びれるでもなくケラケラと笑う様子に、もう怒る気もしない。 仕方なく手を振って赦免の意を示すと、嬉しそうに笑って背中を押してくる。 どこに連れて行くのかと思えば池のほとりに宴席があった。 その童女、天子と名乗ったか、はそこに俺を座らせると彼女自身もすぐ隣に座る。 やがてわらわらとどこからともなく天女たちがやってきて盃に酒を注いでいく。 注がれた酒は十分甘く十分旨いが、肴が貧弱なのは頂けない。 隣の天子も呑め呑めと酒を注ぎ桃を出してくるが、こちらも貧弱で頂けない。 天女たちはふわふわと浮かびながら酒や肴の補充をしている。 巻いている羽衣を引っ張るとそれにあわせて回る辺り面白い連中だ。 酒宴を始めて数時間。いつの間にか天子は俺の脇から膝の上に移動していた。 途中で先ほどの竜宮の(ryやら鬼も参加して更に騒がしい。……鬼? 特に竜(ryは俺をここに連れてきたときは打って変わって大ハッスルしている。 酒を飲み、池上で踊り雷も落とす。特に、時折一緒に踊ろうとばかりに顔を寄せて引っ張ってくる辺り大分興奮しているようだ。 とはいえ飛べるわけも無いので誘いを断っていると身を寄せてきて、なら私に掴まっていればよろしいでしょうと言い抱きついてきた。 思わずそのまま空母から俺のストラトフォートレスが発進しそうになるが、子供が見ている手前そうも行かない。 すんでのところで格納庫からのエレベータを止めるのに成功する。 断るとr(ryは残念そうな顔をして池上に戻り、また雷を落としながら派手に踊っている。 膝上の天子は満足そうなでも少し不満そうな表情で俺の首に腕を回している。 些か顔が近いとか胸が当たっている気がするとかあるが気のせいだろう。固いし。 そんなどんちゃん騒ぎを数日していると、俺の自宅が直ったと言われた。 帰ってみるとバラックの趣はそのままで、広さは格段に大きくなっている。 広くするくらいならもっとよく建て直して欲しいものだが、天人相手に文句は言えない。 とりあえず見回っていると、間取りは前の家とほぼ同じのと拡張部分に新たに部屋が継ぎ足されている格好である。 新しい部屋には一つの神棚と一つのベッド、そして一人の童女がいた。 ん? 童女? よく見ると部屋の中に天子がいる。上半身半裸で。 急いで扉を閉め謝るがもう遅い。大石で直線一気に壁が吹き飛ばされる。 バラックとはいえ新築の家が吹き飛ばされるのはとてもとても悲しいものだ。 しかし何故こんなところにいるのか、と扉の向こうから問いかけると、部屋から出てきた天子に、分社を作ったからいつでもこれると言われた。 成る程分社と言うのは先ほどの神棚のことだろう。しかし何故来る必要があるのか。 理由は単に、上は暇だからであった。なので時々泊まりに来るので、その時はどこかに遊びに連れて行けと言われる。 なんと我儘なことだろうか。しかし満面の笑顔でそのようなことを言われてしまえば抗えようはずも無い。 しばらくこの我儘娘の相手が続きそうだ。 ─────────────────────────────────────────────────────────── うpろだ1216 前回までのあらすじ。 家が壊れた。直ったと思ったら我儘娘が付いてきた。 ああどうしよう。女の扱い方なんざ判らんぞなもし。 しかも奴さんは今しきりに何処かに遊びに連れて行けとせがんでくる。 だが遊びに行くにしても近場に子供の遊ぶようなところは無い。 花街なんぞに連れて行ったところで、後見の竜宮の使いとやらに殴られるだけだ。 というより自分でも行かない所に連れて行ってもどうしようもない。 ならば手頃に山の上の神社とか川原にでも連れて行くべきか。 この暑さなら梅雨とはいえ川に子供らがいるだろう。そいつらと遊ばせておけばいい。 ここまで考えてハタと気付く。あれは天人なのだから、自分よりよっぽど年上だろう。 それじゃあ川で子供と遊ぶのは無いだろうな。神社にしよう。 しかし提案はあっさりと跳ね除けられた。お姫様は里の探索が御要望らしい。 里なら里で取り立てて問題は無い。明るい内なら危険なこともあるまい。 ただ小さな問題は片方が絹布の華やかな服、他方が麻布の服ではどう考えてもおかしいことだ。 普通に考えれば何処かのお嬢様をかどわかしたように思われるだろう。 まあ気にしたところで仕様が無い事か、と思っていたらまた客が来た。件の竜宮の使(ryである。 何をしに来たのかと思えば、出かけるようでしたので替えの服を持ってきましたときやがる。 この出歯亀はどこから見ていたんだ。つか空気読んで天子共々全部持って帰りやがれ。 そう思っていると竜宮の(ryが肩を叩きながら、それでも私は総領娘様の味方ですのでと抜かしやがった。 見れば当の天子は目を輝かせてどの服がいいかなどと選んでいる。これで七面倒臭いことに選び終わるまで待つ羽目になった。 そもそも自分の懸念事項だった、被服の差は竜宮の(ryが持ってきた服では解消されていない。 男性用もあったが、某トラボルタの着ていたような服を着て里を歩く度胸は残念ながら自分は持ち合わせてはいない。 仕方が無いのでタンスの中から、昔この世界に来る時に着ていたジャケットを取り出す。 古いものだが安くも無い代物だったので、それなりに生地も上等で絹布にまだ張り合うことが出来る。 これに適当なYシャツを組み合わせれば何とかなるだろう。 三人で行った里はとても混んでいて、正直帰りたかったが天子がどんどん進んで行くから付いて行かざるを得なかった。 はぐれられても困るので見えなくなる前に手を握ると途端に動きが止まる。 吃驚したような嬉しそうな顔でこちらを見上げてくる天子。突然来る地震。騒ぐ民衆。 自分も驚いていると天女が一人降りてきて何かを耳打ちしてくる。 曰く、誰某が尻の穴を二つにされたくなければ娘から手を離せと仰っていますってここは日本だ、ハリウッド語を話すな。 天女を無視して天子と竜宮(ryと歩いているともう一発地震が来た。しかし二発目は皆予想したもので混乱は無い。 適当に里の商店を見て回る。天子は地震以来存外おとなしく手をつないでいてくれるので助かる。 おとなしいといっても道を歩いている時だけで、店の中に入るとはしゃいでいた。 主に服屋や食事屋などで、竜(ryと一緒に見て回っている。それはいい。だが宝石屋、てめーはダメだ。 小二時間ほど服屋中心に見て回った。正直もう勘弁してくれといった感想だ。 途中、甘味処で甘味を食べる。三人分の出費は地味に辛い。 葛きりを食べていると、横で宇治金時を食べていた天子にいくらか掻っ攫われる。 黒蜜をかけにゃ旨くないだろうにと思っていたが、そうか練乳があるのか。 対面でりゅ(ryが善哉を食いながらそれを生暖かい目で見ている。止めろ見るな。って言うか暑苦しいわ。 と思っていると天子が口の中が冷たいと言い、それを受けてり(ryが善哉の椀を差し出していた。 成る程このためか。しかし暑いのにそのために熱いものを食うとは、宮仕えも大変だ。 最後に博麗神社に行ってみた。天子は乗り気ではなかったが、自分が数年来行ったことが無かったので行きたかったのだ。 なにせ道中が妖怪遭遇頻発地帯な上、普段から妖怪だらけという噂であまり行きやすい所ではない。 だが着いてみると誰もいなかった。妖怪が多いと言うのは嘘だったのだろうか。 安心半分がっかり半分の意味を込め、賽銭箱に幾らか少なめに銭を放り込み鐘を鳴らす。 天子も鳴らす。盛大に。それはもう近所迷惑なばかりに。 急いでr(ryと一緒に全力で天子を綱から引き剥がす。ついでに御仕置代わりに頬を抓りあげる。 天子はいひゃいいひゃいと間抜けな声を上げるが痛そうには思えず、逆に嬉しそうにすら思える。 よく伸びるのうと頬肉を堪能していると一際大きい地震が来た。人に被害は無いが神社は何かが落ちたらしい。 直後風呂上りだったのかストリーク巫女が猛スピードで垂直上昇して行く。色々な意味で大丈夫なのだろうか。 さんざっぱら遊んで満足したのか、自宅の神棚から天子は帰っていった。 帰りしなにまたすぐ来るね、と言っていたがあんまり来られると家が危ないから隔週くらいにして欲しいものだ。 ─────────────────────────────────────────────────────────── うpろだ1474 比那名居天子は悩んでいた。 ただ憂鬱だった。歌の日があっても欠席し、桃を食べる量も目に見えて減っている。 気がつけば、最近は天上の外れにある小さな浮き岩から、下界を見下ろしながらため息をつくのが日課になっていた。 原因はわかっていた。胸中を埋め尽くしているある感情、それはあの○○とよばれた人間のことに違いない。 数ヶ月程前、どこからともなく幻想郷にやってきた一人の男は、知らず知らずのうちに下界の人間や妖怪達のハートをキャッチしていた。 天子も何度か会ったことはあるが、容姿端麗というわけでも、特殊な能力を持っているというわけでもなかった。まったくの凡人である。それゆえに、あったその瞬間からある種の疑問が付きまとい続けてきた。 何故あんな男に皆惹かれるのか。その思いは同時に、もっとあの人間のことを知りたいという思いにシフトしている。 そのせいかどうかはわからなかったが、ここひと月近く憂鬱な気分が続いていた。 無論、通常の天人にはありえない反応であり、このままでは死神に魂を持っていかれる可能性もあった。 「はぁ……」 深くため息をついても、その気持ちが晴れることは無い。見下ろす眼下には太陽に照らされた雲海が絶景となって広がっていたが、それにすら心を動かされることも無かった。 「大体全部あいつのせいよ……」 その人間のことを考え続けていた天子だったが、下界に降りても必ず会えるというわけではなかった。人間のほうから天界に昇ってくることもなかった。 おそらくは他の妖怪イチャイチャしているのだろう。前に降りた時にはスキマ妖怪や吸血鬼にうつつを抜かしていたことを思い出し、拳を握り締めた天子は、次の瞬間には「人の気持ちも知らないで……」と呟いていた。 無論、○○が自分だけのものでないことなど知っていた。それでも、会うたびに、会えなくても、もっと会いたいという気持ちが募っていくのをとめることができなかった。 自分はどうしてしまったのだろう、と純粋に思う。まさかあの人間に恋でもしたか。そう考えた瞬間、猛烈な恥ずかしさと共に顔が火照った。 「違う、違うしありえない」 ぶんぶんと顔を振って否定する。 それでも、心はそれを肯定していた。認めなくなかっただけだった。 第一それでは―― 「様……総領娘様!」 「は、はいぃ!?」 突然呼ばれた声に思考を蹴飛ばされ、危うく飛び跳ねそうになった。 気がつけば、何者かがすぐ傍まで接近していた。それに反応する余裕も無い。天子は、情けない声を上げながらゆっくりと振り向くことしかできなかった。 「……どうしたんですか?」 見れば、すぐそばに衣玖がいた。その手を腰に当て、何かを探るような視線でじっと天子を見つめている。 「い、いきなり何するのよ……」 「何回も呼びかけましたが。もう、しっかりしてくださいよ。今日は大切なお客様が来るんですから」 「お客様……?」 衣玖の言葉に若干の不信感を抱いたのもつかの間、気がつけばその背後に見たことがあるような影が出現していた。 「よ」 「!!」 そこについ先ほどまで思い焦がれていた○○がいた。 「な、な、なな……」 あまりの驚きに言葉が出ない。心の準備ができず、オロオロしていると、ため息をついた衣玖がやれやれとばかりに口を開いた。 「いえ、何度も声はかけたのですが、総領娘様が完全に無視されたのでご案内してしまいました」 そんな説明はどうでもよかった。 それよりも、他に言いたいことがあった。 「な、何しに来たのよ!?」 やっとの思いで搾り出したのは、歓迎の言葉ではなく、非難のそれだった。 くるならもっと早く来て欲しかった。だが、何で今更来るのよ、とは口が裂けても言えなかった。一応プライドがあった。 「いやぁー天子元気かなーって」 答えを聞いた瞬間、顔が沸騰するほどに熱くなる。 来ない間もずっと心配してくれていたんだ。そんな想いが心を埋め尽くしたが、頭は必死にそれを押さえ込んだ。 「ふん……よ、余計なお世話よ」 勤めて冷静を装いながら、腰に手を当てて胸を張る。恥ずかしいところを見せるわけにはいかなかった。万が一にも本心が悟られたら、そこに漬け込まれる可能性がある。相手は地上の人間なのだ。 「でも元気そうでよかったよ。本当はもっと早く着たかったんだけど、色々つれまわされてゴタゴタしててね」 気がつけば一ヶ月経っちゃった、と○○は笑った。 その表情から察するに、天子の態度を気にした様子も無い。今も少しだけ微笑んで辺りを見回している。 「さすがに天上っていいところだね。これなら長く滞在できそうだよ」 「え……しばらくいるの?」 一際大きく鳴った鼓動と共に、言葉を吐いてから後悔した。けれど、取り返しは付かない。 「あ、ひょっとしてまずかった? 俺嫌われてたかな」 困ったような表情を浮かべ、ぽりぽりと頭を掻く○○。 途端、浮かび上がった罪悪感と、焦りが心を埋め尽くした。取り繕っていた冷静さが一瞬にして砕け、手をわたわたと振りながらたった今吐いた言葉を全否定する。 「い、いや、そんなことは……ない、ですはい」 語尾が地味に壊れたが、そんなことを気にしている余裕はなかった。 ○○の気持ちが変わってしまうかもしれないのだ。さすがにそうなったら立ち直れそうも無い。 と、帰ってきたのは天子の願った○○の笑顔だった。 「よかった。俺も天子のことは好きだから」 が、その答えまでは予想できなかった。 「はい!?」 瞬間、天子の世界が固まった。 よかった? 好きだから? それは一体どういう意図で発した言葉なのか。 完全に思考が停止し、真っ赤に火照った顔と早くなった鼓動だけが感じられる。 「失礼します。○○さん、宴会の準備が整いました。こちらに」 ○○を誘導する衣玖の声が、どこか遠くに聞こえた気がした。 「じゃ、天子、また後で」 固まったまま指先一つ動かせない天子の傍らを、○○が通り抜けていく。 声が出ない。口だけが魚のようにパクパクと動き、視点は虚空を見上げたまま固まっていた。 「ふぅ、総領娘様。もう少し素直にならないとだめですよ?」 衣玖の声が近くで響き、その気配が遠ざかっていく。 しばらくしてから現実に引き戻された時には、既に二人の姿はなくなっていた。 「な、なんなのよ……」 バクバクと高鳴る胸を押さえつけ、二人が去った方向を見つめる。 ○○が自分のことを――、告白してしまえ――、そんな思考が天子の頭を埋め、全ての行動を遮断する。 ついには、そんな自分にすら嫌気が差してきた。 「ああ、もうめんどくさーーいっ!!」 顔をブンブンと振って、宴会場に向けて走り出す。 とりあえず、考えるのは後にすることにした。 ***おまけ*** 幻想郷より高い場所にある世界、天界。 天上というだけあって、雲はその下に存在する。当然ながら、太陽の光を遮るものはない。 そんな中、小さな日傘が一つ、ゆらゆらと揺れていた。 「気をつけてくださいお嬢様。ここは影がありません。一つ間違えば灰になってしまいます」 「解ってるわよ。それよりも、○○は本当にここにきたんでしょうね」 日傘をしっかりと握る細い手。レミリア・スカーレットは傍らに控える咲夜を一瞥し、目の前に聳える浮き島の群れに目を戻した。 「間違いありません。信頼できる筋からの情報です」 「ま、いいわ。とりあえず○○を連れ戻すわよ」 ○○という男が幻想郷にやってきてから数ヶ月、その間、ひと月ほど紅魔館で保護していたものの、先日急に姿を消していた。 もっとも、○○を狙う妖怪は多い。当初はどこぞの神出鬼没妖怪の仕業だと思っていたレミリアだったが、咲夜やパチュリーに調べさせるうちに別の原因が判明したのだった。 「ですね。○○はうちで保護していたんですから。勝手に外出して心配をかけた責任を取らせなければなりません」 腰に手をあててぼやく咲夜。 「とりあえず天人でも締め上げて聞き出せばいいわ」 何はともあれ、目指すものはすぐ傍に居るのだ。焦る必要も無かった。 「あーら、抜け駆けなんて酷い」 と、急にどこからか声が聞こえた。 直後、虚空に亀裂が入り、ゆるゆるとうごめきながら開いていく。 「何をこそこそ山登りをしているのかと思えば、ねぇ?」 たっぷり十秒ほどおいてから、その中から白い傘が現れた。 どうやら、他にも動いている奴がいたらしい。なるほど、と納得したレミリアは咲夜に目で合図し、ひとつ息を吐いた。 「……お嬢様、きましたよ」 「まぁいいじゃない。最後に勝つのは私なんだから」 忌々しげに呟く咲夜をたしなめながら、それに向き合う。 虚空には、いつの間にか姿を現した八雲紫が静かに浮かんでいた。 「後つけてきて正解だったわ。わざわざ貴方達が出向くくらいですもの。つまらないものじゃないわよね」 「さぁ、何のことやら……咲夜、下がってていいわよ」 空気が帯電したようにビリビリと鳴り、得体の知れないプレッシャーが場に満ちていく。 「いえ、むしろここは私が」 クルクルとナイフを回し始める咲夜を一瞥し、ひとつ息を吐く。 時を止められる彼女なら、ミッションの遂行は容易かもしれない。そんな風に考えたレミリアをあざ笑うかのように、紫は傘を振りながら口を開いていた。 「何でもいいわ。ここであったのも何かの縁。弾幕ごっこでもしましょうか?」 「冗談、アンタと遊んでる暇はない」 「そ。なら○○は私が貰っていくわね」 その言葉と同時に、場の空気が凍った。 「目的は同じ、ね」 やはり、目の前の物体は排除しなければならなかった。 「当然」 「愚かな妖怪ね。この私に戦いを挑むなんて。歳食いすぎてボケたのかしら」 「残念、今は昼なのよね。脆弱な『夜の王』さん」 「ははは……」 「ふふふ……」 『上等ォォォ!!』 しばらくの間、宴は終わりそうも無かった。 ─────────────────────────────────────────────────────────── 新ろだ139 比那名居天子はやっぱり悩んでいた。 はるばる天界までやってきた○○を迎えての宴会。何があっても、それに参加しないわけにはいかない。天子としても○○と一緒にいたかった。 そうして既に人が集まりつつある宴会の輪に飛び込んだのが半時ほど前のこと。多少はドタバタがあったが、衣玖のさりげないサポート(?)あってちゃっかり○○の隣の席を取ることができた。 これでもっと近づける。酒で酔った○○の介抱なんかしちゃってあわよくば、などという淡い期待があったことも否定できない。 ともあれ、宴会は順風満帆といくはずだった。 はずだったのだが……。 「あれー? 咲夜ー、この瓶のお酒もう切れたんだけど」 「いけませんよ。お嬢様、飲みすぎは体に毒です」 「藍、天界の食べ物はあまり摂取しない方がいいわよ」 「はい……ですが、これは地上では味わえませんね。橙に一つお土産とします」 得体の知れない人妖が四人、いつのまにか宴会の席に紛れ込んでいた。 「……」 「どうした天子。 飲まないのか?」 まったく気にした様子も無い○○が、酒の入った瓶を片手に話しかけてくる。 普段なら内心飛び上がって喜んでいる所だったが、今はどんより沈んだ心に僅かな波紋が生まれただけだった。 「うん……いい」 なんとかそれだけ返し、再び宴会に沸く周囲を見渡す。 一見すれば、皆、楽しく雑談にふけっている様に見える。だが約二名の意識が○○と自分に集中していることは、天子にもイヤというほどにわかっていた。 場に満ちる二つの異様な空気。それはスキマ妖怪と吸血鬼から発せられ、天子と○○の間でぶつかって渦を巻いている。 「うっ……」 明らかに敵対するものに向けられた、殺意の渦だ。 それは○○に近づく度に、天子の体に突き刺さっていた。 少しでも○○に触れようものなら、実物が飛んできても不思議ではない。 思わず緊張のあまり生唾を飲み込んだ天子は、たまらず衣玖の元へと退避し、○○に聞こえないように小声で叫んだ。 「ちょ、ちょっと、どういうことなのよ……!! 聞いてないわよ!?」 「さぁ……私にもさっぱり……」 半ばヤケになっても、衣玖は苦笑いで返すだけだった。本当に想定外の事態だったのだろう。 このままでは○○とイチャつくことはおろか、そばに寄る事さえもままならない。 「予想外のことは起こるもの、ですねぇ」 「笑い事じゃないんだけど……」 ははは、と笑う衣玖に対し、盛大なため息で答える。 予想外にもほどがあった。 「でもいいじゃないですか。ここではっきり彼女達に見せ付けてやればいいんです」 「何をよ……」 「○○さんが総領娘様の『モノ』だってことをですよ」 耳打ちされた途端、鼓動が大きく跳ね上がった。 「な、なな、ななな」 顔が熱く火照り、思考が真っ白になる。 あそこまで殺気を漂わせるということはライバルなのだろう。その恋敵の前で○○とイチャイチャする。 ある意味ではこの上ない幸せのように思えたが、天子の頭はそれよりも恥ずかしさでいっぱいだった。 「あれ、イヤなんですか?」 「い、イヤじゃないけど……無理、そう無理!」 二人だけの世界で、○○とあんなことやこんなこと。想像しただけで湯気が出る。 正直今の天子には、手を繋ぐことすら不可能に思えた。 そんな内心を見抜いたのだろうか。衣玖は腰に手を当ててジト目で天子を見つめてきた。 「……総領娘様。あんまりうじうじしてると私が○○さん貰っちゃいますよ?」 思わずびくっとして後ずさるが、肩は衣玖の手でがっちりと掴まれていた。 「いいんですか?」 逃げようにも逃げられない。答えを問う瞳で迫られた天子は、仕方なく、恥ずかしさを懸命に抑えながら口を開いた。 「そ、そんなのダメ……却下……」 「だったらシャキっとしてください。彼女達はイヤですが、総領娘様だったらいいかなと思いますから」 その言葉の真意を問う前に、衣玖は天子の背中をポンと押していた。 心の準備をする間もないまま、ふらふらと○○の隣まで戻る。 「どうしたんだ天子。衣玖さんと話してたみたいだけど。具合でも悪いのか?」 「あ、いや、あの……うん」 曖昧に濁しながら、杯に酒を注ぎ、一気に口に運ぶ。 と、気がつけば○○の頬に桃の破片がくっついているのが見えた。 「……ごくり」 天子の脳にかつてない衝撃が走る。それは、誰でも考えそうな打算の構図だった。 これを取ってあげれば感謝される上、二人の距離もさらに近づく。それは間違いない。 「○○!」 やっと動いたか、という衣玖の視線を背に受けつつ、○○に向き直る。 「ど、どうしたんだ天子……やっぱり体調悪いんじゃないか? 顔真っ赤だぞ」 「大丈夫!! それよりも……」 自然を装い、その欠片に手を伸ばす。二人の妖怪は今もお供と雑談に興じている。邪魔は入らない。 「ちょっと動かないでね」 手が○○へと近づく。その先にあるイチャイチャを胸の奥で確信しながら、天子は心の中で勝利の雄たけびを上げた。 が―― 「ふぅ、危ないわね」 ○○と天子の間を、猛烈な風が一陣、吹きぬけた。 直後、遥か後方で何かが砕け、崩れ落ちるような轟音が響いてくる。 ぎこちない動きで後ろを見れば、そこにあった一つの浮き島が真っ二つに割れ、半分が地上へと落ちかかっていた。 腕に当たっていたら、おそらく無事ではすまなかっただろう。 「あら、ごめんねぇ。手が滑っちゃったわ。お酒おかわり」 「……」 凍りついた場の雰囲気など完全に無視したまま、吸血鬼がひらひらと手を振ってくる。 視線を戻せば、同じく呆然としていた顔の○○が、天子に気がついて視線を戻してきた。 「で、どうした天子」 「え、ああ、ううう、なんでもない」 まともに続けられるはずが無かった。ちらと吸血鬼をみやれば、『今度は顔面に当てるわよ』といわんばかりの雰囲気で酒を口に運んでいる。 冗談ではなかった。 これではイチャイチャどころかお近づきになることすらできない。 「なんとかしないと……」 と、その時、天子の足が置かれていた酒瓶に躓いた。 「あ」 バランスを取る暇もない。重心が傾き、体が○○のほうに倒れ始める。 本来ならばなんとしてでも落下を防ぐ天子。が、今は頭がそれを許容していた。 このまま倒れれば、○○に受け止めてもらえるかもしれない。その計算は確かに正しく、ちらと見た○○はすでに天子を受け止める体勢入っていた。 今度こそ邪魔は入らない。あの吸血鬼もこればかりは防げないだろう。 が、再びどこからか風を切る音がした。 直後、ありえない場所から伸びてきた手が天子の服を引っつかみ、そのまま体を物凄い力で地面にたたきつける。 「がふぅ!?」 若干バウンドした瞬間、すぐ傍の虚空に『空間の亀裂』が見えた。その隙間から人間の腕が生え出し、うねうねと動いている。 が、それは瞬時に亀裂へと吸い込まれ、亀裂自体も宙に溶けて消えた。 「あらあら、自分から転ぶなんて酔ったのかしら。でも○○を避けたのは賞賛に値するわね」 再び静まり返った場に、スキマ妖怪の声が響く。 「……」 もう何も言い返す気にならなかった。 ふらふらと起き上がり、○○から少し離れた場所に座る。 「だ、大丈夫か? 天子……」 「……うん」 それだけ答えて口に酒を運ぶ。 杯は心なしか涙の味がした。 *** それからどれくらいの時間が経ったのか。 既に天子のフラストレーションはマッハだった。 それほど立ってはいなかったが、天子は依然として○○に指一本触れることが出来ていない。 予想外だったのは、衣玖の存在だった。天子が○○から離れたのをいいことに、○○の傍に座って色々と話をしている。 散々な天子としては見ていられなかったが、他はそうでもないらしい。 二人の妖怪も、ボディタッチさえしなければいいと考えているのか、これに介入する動きは見せていなかった。 が、その瞬間はいとも簡単にやってきた。 「さて、随分飲んだしそろそろ帰るわ。咲夜、○○を捕獲しなさい」 空になった杯を置きつつ、レミリアが不満そうな声を上げる。 ずっと機会をうかがっていたのだろう。それは紫のほうも同じようだった。 「あら、それはこっちの台詞。藍、やるわよ」 「いい度胸ね。さっきは変な空間から出て来れなかったくせに」 「そっちこそ、日傘にこもって従者任せだったじゃない」 場に強烈な殺気が満ちる。 「へぇ……やる気なのね」 「今度こそはっきりさせましょうか」 その言葉が終わる前には、宴会場だった場所は吹き飛ばされ、数個のクレーターと化していた。 逃げ遅れた○○を保護する衣玖を遠めで見ながら、爆風で吹き飛ばされる天子。 だが、今度は一回転してゆるやかに地面へと着地した。 「貴方達……」 腰の剣に手を当て、ふらふらと立ち上がる。 「ま、まってください総領娘様。ここで戦ったら――」 衣玖がぎょっとした様子で止めに入った。 「て、天子……?」 驚いた○○まで目を丸くしている。だが、今はそれらに構っている余裕は無かった。 「もういいわよ!! あの妖怪達のおかげで色々台無しよ!!」 腰から引き抜いた緋想の剣がパリパリと音を立て、立っている浮き島が僅かに振動する。 一通り弾幕ごっこを楽しんだ二人の注意が天子にむくのが、はっきりとわかった。 「ふん、最初からそうしていればいいのよ。○○は私がつれて帰るんだから」 「あらあら、今の発言は見逃せないわね。○○は私のものよ」 スキマ妖怪と吸血鬼が、日傘を片手ににらみ合う。その有無を言わさぬ迫力を前にしても、今の天子はひるまなかった。 正直、泣きたかったし喚きたかった。 「○○は……○○は私の――」 剣を構え、足を踏み出す。それに応じるように、二人の妖怪も応戦の構えを取った。 が―― 「ストーーーップ!! 宴会の席で喧嘩しない!!」 次の瞬間、前に回りこんだ○○により、その構図は粉々に壊されてしまった。 いくら本気で怒っているとはいえ、○○ごと切断するわけにはいかない。それは相手も同様のようで、僅かに引くようなそぶりを見せた姿勢のまま、その場で固まっていた。 「どいて○○! そいつら殺せない!!」 はぁはぁ、と肩で息をしながら、緋想の剣を構えなおす。 いくら○○といえどここで引くことはできなかった。もし引き下がれば、以降この人妖達には良いようにされてしまう。 「ごめん……でも、ケンカはしてほしくないし……」 明らかに弾幕ごっこという雰囲気には見えなかったのだろう。確かに、天子にしてみれば本気で真っ二つにしようとしていたのだから当然だった。 「何よ。○○は私達と地上に帰りたくないの?」 「どちらかというと私とね」 むすっとした表情のレミリアと、それを妨害するようにしゃしゃり出た紫がのんびりとした口調で言う。 やはり話し合いは無駄か。そう思った天子が口を開こうとした時、○○がさらに一歩踏み出して深々と頭を下げた。 「ごめん、それでも俺は今、天子や衣玖さんと一緒にいたいから……」 場の空気が固まった。 「……」 今何て、そういおうとしても口が動かない。 ただ魚のようにパクパクすることしかできない天子の手から、剣が落ちて乾いた音を立てた。 「おー、熱いですね○○さん」 静まりかえった場に、何かに感心したような衣玖の声だけが響く。 と、次の瞬間にはスキマ妖怪も吸血鬼、疲れたようなため息をつき、天子に背を向けていた。 「……何か疲れたわ。咲夜、帰るわよ」 「解りました。また日を改めるとしましょう」 「ま、○○がそういうんじゃしょうがないわね。一週間くらいしたらまた来るわ」 それを見届けるかのように、紫と藍もスキマの中に姿を消す。 宴会を蹂躙し、天界を戦いの炎で焼き尽くそうとした妖怪たちは、気がつけば数秒のうちに姿を消していた。 「き、消えた……」 あまりのあっけなさに、ふらふらと地面に座り込んだ天子は、盛大なため息をついた。 気がつけば、どこかに退避していた天人達が場を片付け、新しい酒や桃の用意を始めている。 もう一度飲みなおすのか。そんなことを考えながら辺りに目をやれば、衣玖と○○が向かい合っている様子が目に飛び込んできた。 「あ、○○さん。頬に桃が」 そういうと、衣玖は天子に構うことなく、○○の頬から桃の破片をつまみ取り―― 「んっ」 そのまま食べた。 「衣、衣玖さん……」 ○○が赤くなりながら、呆然と衣玖を見つめている。 対する衣玖も少しばかり頬を染めながら○○を見つめ返していた。 「……」 天子の中で何かが壊れた。 落ちたままの緋想の剣を手に取り、無言でそれを振りかぶる。 「○○さん、下がっていてください」 「この……裏切り者ォォォ!!」 それに衣玖が反応したのは、ほぼ同時のことだった。 ドリルと剣がぶつかり、発生した衝撃波が周囲の地面を抉り取っていく。 「泥棒猫……絶対に許さない!」 「私、もう我慢できないので、頂かせていただきます」 どす黒いものをぶつけ合いながら、ドリルと剣が火花を散らす。 やはり、長い戦いになりそうだった。 ─────────────────────────────────────────────────────────── 新ろだ151 「なーんで勉強なんかしなきゃいけないのかしら」 毎日毎日、勝手に家に入ってきては勝手なことをして過ごしている比那名居天子はそんなことを言った。 こいつ天人の癖になんでこんなところ来てんのかね。 「こっちは毎日が勉強なんだがな」 掃除に洗濯、畑仕事に炊事ときたもんだ。 こっちとあっちじゃ勝手がてんで違う。 最初は筋肉痛で一日動けなかったもんだ。 「あー、そういう勉強じゃなくて――心持ちとか学問とか、比較的生活に必要のないものよ」 「そうだなぁ、まぁよーわからんが多少はあったほうがいいんじゃないか。先人から学ぶ事だってあるだろうし」 天界じゃどうなってんのかは知らんけどね、と続ける。 「で、なんでそんなことを突然聞くよ。お前らしくもない」 「天界での勉強がつまらないのよ」 声質が変わったので気になって天子のほうを見ると、彼女は眉間にしわを寄せていた。 いかにも怒っているような顔だ。 「なんでつまらないのさ」 「あっちじゃ、欲は捨てろって言われてるのよ。そんなの……つまらないったらありゃしないわ!」 「……いや、天人はそーゆーもんだろ」 迫力に気おされながらも一応答えるがなおも彼女の怒りは収まりそうにない。 と、いうか増幅している気がする。 立ち上がって彼女は言う。 「食欲、性欲、睡眠欲! 恋愛だって出来ないし、挙句の果てには生きる欲求だって! 葛藤もなければ障壁だってない! ただ適当に釣りをして適当に酒を飲み適当に囲碁を打ち適当に食べるだけ! つまらないつまらない! つまらないったらありゃしないわ!」 二度言って(おそらくそれが一番言いたかったんだろう)あーもう!と癇癪を起こしたと思うと、ドカッと座って 腕を組んでムスッとした顔をしてお茶。とだけ言った。 お前はタタリか。 お茶が飲みたいのだろう。 今逆らうとどうなるかわからないし、素直に従っておくことにした。 湯を沸かして茶を入れるまでの間に天子の機嫌は幾分か収まったようだ。 と、いうよりかは吐き出すもの吐き出して楽になったというべきか。 「……まぁ、その感情がどれほどのものかは俺は知らんが――」 ほいよ、と天子の分を渡して向かい合うように座る。 「お前には欲求があるように見えるがな」 つまらないって思うこと自体が欲求の表れじゃないか。 お茶を飲んでそう言う。 「欲求を捨ててから天人になるんじゃないのか?」 「……そういう天人だっているのよ」 「ふーん。でも天界から追い出されるようなことはないよな?」 「今のところはね」 「じゃあ、いいんじゃないか?」 「え?」 驚いて顔を上げる天子。 「まぁ、短絡的っちゃ短絡的だが、追い出されたところで天人は天人だろうしな。 開き直ってしまえばいいさ。それに――」 「それに、追い出されたらこっちである程度は世話してやるよ」 少々恥ずかしいので顔をそらして言う。 むぅ、なんか不服だ。こんな奴に赤面するなんて。 「そう――じゃあ追い出されたらお願いしようかしら」 そう簡単に追い出される気はないけどね、いやむしろ天界を変えてやるわ。と元気になったのか不適に笑って言う天子。 元気になって何より、か? 「……あ、このお茶おいしい」 「新茶だ。元気がないときにはおいしいものが一番だからな」 今となっては無意味だが、別段気にすることもない。 「……決めた」 「……何を」 「私は欲求全制覇を目指すわ!!」 「は?」 「全欲求を実行してやるのよ!」 ……余計なことをしてしまったのかもしれん。 「そうね、まず恋愛からね」 「……相手なんかいるのか?」 天界には――偏見だが――へんてこりんなじいさんしか居ないような気がする。 そもそもあいては欲を捨ててんだから一方通行じゃないか。 「いるわよ」 「そうなのか?」 そいつは初耳だった。天子に恋愛対象なりうる相手がいるとはな。 「……わからない?」 「いや、お前の交友関係なんて知らんのだが」 「…………朴念仁」 「ん、何か言ったか?」 「別にー。意外と難しそうだなって言ったのよ」 「確かにな」 そこだけは全力で同意しておく。 こいつの恋人が如何に大変かは友人の時点で明白であった。 天子はあんたがそれをいうか、と笑みを固めて言っていた。 「まぁ気を取り直して……。計画を立てなければいけないわね!」 「計画って……」 そこまで大規模じゃないだろうが。 暇なのだろうか? やけに楽しそうなので止めはしないけど。 こちらも残っている仕事をやる必要があるしな。 「う~んまずは人間と天人での寿命の違いを何とかする必要があるわね……。 そのためには○○を天人にすれば……、でも天人にしちゃったら欲がなくなっちゃうからなぁ……。 天人にしないで寿命を半永久的にする方法……う~ん……」 天子がブツブツと何か言っているがそこまで大きくないのでよく聞こえない。 どんな計画なのだろうか。 どうせ天子のことだから破天荒なことなんだろうな。 駄洒落かよ。 「――――あ、そうだ!」 何か思いついたのか笑みを浮かべて、何事かと振り向いたこちらに身を乗り出してくる天子。 「○○!」 「どうした、大きい声だして――」 「死んで!!」 「はぁ!!?」 ───────────────────────────────────────────────────────────
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天子 (惹かれあう魂) CHARACTER CH-063 赤 1-1-0 U 【連動〔黎星刻〕(自動A) このカードは、敵軍効果では破壊されない】 (自軍配備フェイズ) 《0》自軍G1枚を廃棄し、このカードを敵軍配備エリアに配備する。その場合、カード2枚を引く。 コードギアス系 女性 子供 別名「蒋麗華」 [0][0][0] 出典 「コードギアス反逆のルルーシュR2」 2008 このカードを連動に持つカード 黎星刻 周香凛