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第一話 ジ・O すべてのはじまり サンタクロースをいつまで信じていたか、なんてことはたわいのない世間話にもならないどうでもいいような話だが、サンタクロースが実在することを知ったのは、実にごく最近のことである。 まあ、年に一日クリスマスにしか仕事をしないと信じられている北欧にいるらしい赤服の爺さんに実際に会ったわけではないのだが、それが存在することを信じるに足る体験を、俺は高校一年の若さでするはめになった。 とりあえず、俺をこんな状態に追い込んだ元凶との出会いから語ることにしよう。 そう、それは忘れもしない入学早々、真後ろの席から聞こえてきたこんな発言からはじまった。 「東中出身、涼宮ハルヒ。ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、異世界人、超能力者、その他普通の人間ではな いものがいたら、わたしのところに来なさい。以上。」 ここで振り向いていなければという考えは、今ならば浮かぶが、こんな電波な自己紹介を聞いて振り向かない人間はいないだろうな。俺の記憶ではクラスの全員が振り向いていた気がする。 当然、俺も振り向いて、そこにえらい美人の姿を見出すことになった。 それが、俺の脳内自叙伝の中では、おそらく涼宮ハルヒとの最初の出会いという題になるのだろう。 最初の電波な自己紹介の件を除けば、涼宮ハルヒはごく普通の女子高生にみえた。そう、当時はそう見えた。俺が、やつのまん前の席であることもあって声をかけてしまったことはそれほど不思議なことではないだろう。 それが、平凡な日常の崩壊のはじまりとも知らずに・・・ 「なあ、しょっぱなの自己紹介のアレ、どのへんまで本気だったんだ?」 腕組みをして不機嫌そうな表情・・・この表情は入学式の日から一度も変化していなかった・・・をデフォルトにしていた涼宮ハルヒは、眉ひとつ動かすことなく、その睨むような視線を俺に向けてきた。 「しょっぱなのアレって何。」 「いや宇宙人とか人間じゃないものがどうとか?」 「あんた、宇宙人なの?それとも幽霊とでもいうつもり?」 俺を睨む目がさらに鋭くなっていた。 「・・・違うけどさ」 「違うけど、なんなの?」 「・・・いやなんでもない」 「だったら話かけないで。時間の無駄だから」 思わず、謝りたくなるようなそんな視線だった。ただひとつ、こいつが自己紹介でいったことが、冗談などではないこと、真剣な発言であったことだけが伝わってきた。まさしく、鋭い針で刺すようにではあったが・・・ 涼宮ハルヒの過去の奇行の数々が耳に入りだしたのは、それから間もなくのことだった。 中学時代クラスメイトだった国木田の近くの席になった谷口というやつが、涼宮とおなじ東中出身で三年間ずっと同じクラスだったことから、実に様々な情報をご教授くださったわけである。 校庭一面に絵文字を書いた事件。(これは市内でもちょっと話題になった、なにぶん関東であんなことがあった後だったため、何か起こるのではないかとかデマすら飛び交っていたな) クラス中の机を廊下に出して教室いっぱいに赤チョークで魔方陣のようなものを書いたこと。 廊下中に御札を貼ったなどさまざまな武勇伝(というのかね?)を聞く羽目になった。 また、涼宮ハルヒの男性遍歴とやらも教授してくれた。まあ、男性遍歴といっても、性的な意味じゃなく、最長一週間、最短五分という告白されてから振るまでの話題ではあったが。 ちなみに谷口は否定していたが、振られたやつのひとりはおそらく谷口であろうというのは、俺と国木田の感想である。 というか、谷口よ、もうちょっと上手に誤魔化さないとバレバレだと思うのだが。。。なんで最短五分のやつの展開だけみょーに丁寧だったのかね?しかも、心理描写のオマケつきで。 四月は、涼宮ハルヒも比較的おとなしかった。まあ、後になれば比較的おとなしかったなあ。。。という程度ではあったが・・・涼宮ハルヒのハルヒらしい行動の片鱗はその頃徐々に現れていたわけだ。 片鱗その1 髪型が毎日変わる。腰に届くほどの長髪なのだが、月曜日はストレート、火曜日はポニーテール(これがまた、よく似合っていた)、水曜日にはツインテールになりと髪を結ぶ箇所が増えていく。日曜日は一体どんな髪型なんだ? 片鱗その2 体育の授業は2クラス男女別で行われるので、男子は隣のクラスで着替えることになっているのだが、ハルヒはまだ男子がいるうちに服を脱ぎ始めたのだ。 その結果、体育の授業の直前の休み時間になり次第、男子一同は着替えを持って、隣のクラスへ移動するのが規定事項になってしまった。 ハルヒには、普通の男子高校生はジャガイモ程度にしか思えないらしい。 片鱗その3 休み時間、放課後にはすぐに姿を消す。 休み時間には、プールやら部室棟やらはては校長室まで、学校中すべてを確認しているかのように見て回っているらしい。四月のプールになんの用があるというのだろうか?屋外プールだから水は緑色してるぞ?ミジンコの観察かね。 放課後消えるのは、帰宅しているのかと思えば、実はすべての部活動に仮入部していたらしい。ちなみに、そのすべての部の先輩方から入部を勧められていた。 これは休み時間になると訪ねてくる上級生が現れるようになってはじめて知ったことである・・・涼宮ハルヒは例によって姿を消していたのだが。 まあ、やつの奇行はすぐに話題になり、北高のほとんどの人間が涼宮ハルヒという奇妙な新入生の存在を認識し始めていたが、これがこれから起こることの序章であるなんて誰も予想してなかったはずだ・・・俺を含めて。 カレンダーのいたずらで普通よりちょっと長いゴールデンウィークが訪れた。谷口はゴールデンウィークには女の子とデートだ、と休み前に言っていたが、結局のところそれはまさしく企画倒れに終わったらしい。 俺の方は、親に言われて、小学生の妹と高校入学祝いのお礼も兼ねて、島根の祖母の家に出かけたものだ。 特に変わったことはなかったと思うが、偶然訪れていた遠縁という渡橋のおばさんから臨時収入を得られたのは、ゲンキンなことだが、ちょっとラッキーと思ったものである。 そう・・・今まで一度もあったことのないおばさんだったことを気に留めなかったとしてもそれは仕方ないことだろう? そして、運命のカミサマとやらが悪戯をはじめたのは、ゴールデンウィーク明け初日だった。まあ、その頃はそんな存在まったく信じてはいなかったがね。 俺より先に席についていた後ろのツインテールに、なんの気の迷いか再び声をかけてしまった。 「曜日で髪型を変えるのは宇宙人対策か?」 ハルヒはデフォルトの表情を崩すことなく視線に鋭さを加えた。驚きが混じっていたのだろうが、ハルヒ研究家(この頃はまだいなかった)以外にはわからなかっただろう。 また、氷の槍(アイスランス)のような返答が来るだろうと身構えていたが、ちょっとだけ違っていた。 「いつ気付いたの。」 そう言われればいつからだっただろう。 「んー・・・ちょっと前」 「あっそう」 ハルヒは頬杖をついて、こっちを凝視しながら面倒くさそうに答えてきた。 「あたし、思うんだけど、曜日によって感じるイメージってそれぞれ異なる気がするのよね。」 初めて会話が成立した瞬間だった。 「色で言うと、月曜は黄色、火曜が赤で水曜が青で木曜が緑、金曜は金色で土曜は茶色、日曜は白よね。」 陰陽五行説かね。とも思わないでもなかったが、わからなくもなかった。 「つうことは、数字にしたら月曜が零で日曜が六なのか?」 「そう」 「俺は月曜が一って感じがするけどな」 「あんたの意見なんか聞いてない」 「・・・・・・そうかい」 投げやりな返事を返した俺が気に入らなかったのか、ハルヒはデフォルトの表情にさらにきつい眼光を乗せてこっちを睨んできた。 さすがに沈黙が続くと精神的に厳しいな・・・と感じた頃、 「あたし、あんたとどこかで会ったことある?ずっと前に」 と訊いてきた。 「いいや」 あるきっかけが状況を一変させることがあることは、本などで読んだことがないわけでもないが、自分の身に降りかかるなんてほとんどの人間は予想しないものだ。 しかし、まさしくそれがきっかけだったわけだ。 運命の歯車というのか?それは静かにしかし着実に動き始めていた。 翌日、俺を驚かせたのはハルヒが法則に反した髪型だったこと・・・というか、腰まで届くほど長かった麗しい黒髪を肩の辺りで切りそろえていたのだ。 それは活動的な性格を表しているようで実にハルヒらしくめちゃくちゃ似合っていたんだが、しかしなんの心境の変化だ? 俺が指摘した次の日に短くするってのも短絡的にすぎないか? そのことについて尋ねたが、まあ予想通りまともな返事は返ってこなかった。 それでも、それから俺とハルヒが会話する機会がわずかに増えた。まあ、ハルヒは休み時間や放課後はすぐ姿を消すから、朝のHR前のわずかな時間だけであったが。 クラブ活動のこと、中学時代の男性遍歴のこと・・・ まあ、たわいもない話ではあった。 その中でわかってきたことは、涼宮ハルヒは何か面白いことを求めることに実に真剣であるということだった。 その点に関して、十年近く前にそんな気持ちを失い、平凡というか倦怠した日々に満足している俺がわずかながらうらやましいと感じたなんてことは否定したい。絶対に。 数日すると、俺とハルヒの関係がクラス中の話題になっていることを自称親友の谷口が教えてくれた。 最初はなんのことかわからなかったが、谷口に言わせると、中学時代を通して、ハルヒとこれほど会話を成立させたやつはいなかったとのことであった。 ハルヒの心境の変化じゃないのかね?とも思ったが、クラス委員長になった朝倉 涼子やふるい付き合いの国木田にまでそれを指摘されるとさすがに否定することは困難だった。 しかし、ハルヒの友達として公認というのが。。。ちょっとな。俺は、ハルヒのデフォルトの不満げな表情しかみていないし。 それからも、ハルヒとは毎日のように会話を交えていた。まあ、ハルヒの愚痴を聞く日々だったわけで・・・さすがに飽きてきた俺は、変わらない日常と仮入部して納得いく部活に出会えないことへの不満を今日も漏らしていたハルヒに意見してやった。 「結局のところ、人間はそこにあるもんで満足しなければならないのさ。それが出来ない人間が、発明やら思索やらをして文明を発達させてきたんだ。 空を飛びたいと思ったから飛行機を作ったし、楽に移動するために車や電車を作り上げたんだ。でも、それは一部の特別な人間の才覚や発想によって生じたものなんだ。 まあ、天才がそれを可能にしたわけだ。凡人たる俺たちは、人生を凡庸に過ごすのが一番であってだな。分不相応な冒険心なんか出さないほうが・・・」 「うるさい」 ハルヒは俺の演説を中断させて、窓の外に目線向けた。かなり、機嫌を損ねたのはさすがにわかった。 しかしなあ、ハルヒよ、現実から乖離した現象なんて、そうそう起こるものじゃない。それはお前だってよくわかっているんじゃないのか? 普通の日々に感謝する気持ち持っても悪くはないだろ?などと思っていたが、このときハルヒの心情に大きな変化が生じているなんて思いもしないさ。俺は読心術なんて使えない普通の高校生だったからな。 しかし、さきほどの会話がネタ振りにだったのは間違いない。 それは突然やって来た。 春のうららかな日差しは実に眠気を誘う、まして午後の授業となればなおさらだった。 うつらうつら授業を聞き流していたのはたしかに咎められることかもしれないが、襟首をわしづかみにされて後ろに引っ張られ後頭部をハルヒの席の机の角にぶつけられるとは思わなかった。 うむ、頭に強い衝撃を受けると目の前に星がチカチカするというのは本当だな。 などと思いながら、俺は振り返り、叫んでいた。 「何しやがる!」 そこには驚くべきものがあった。 それは、俺が初めて見る涼宮ハルヒの笑顔だった。 それは真夏のひまわりのようで、ハルヒの強い意志を示す大きな瞳に映えるもので・・・なんというか、子供が宝物を見つけた表情とでもいうのだろうか。まあ、それなりに魅力的ではあったさ。認めたくはないけどな。 「気づいたのよ!」 ハルヒは唾を飛ばして叫んでいた。 「どうしてこんな簡単なことに気づかなかったのかしら!」 ハルヒは一光年先に接近した天狼星もかくやという輝く瞳を俺に向けてきた。しかたないので、俺は尋ねた。 「何に気づいたんだ?」 「ないんだったら自分で作ればいいのよ!」 「何を」 「部活よ!」 めまいを感じたのは、頭を机にぶつけたせいではないだろう。 「そうか。そりゃよかったな。ところでそろそろ手を離してくれ」 ハルヒが無意識に締め上げる襟首の手を離すようにと俺はいった。 「なに?その反応。もうちょっとあんたも喜びなさいよ。この発見を」 「その発見とやらは後で詳しく聞いてやる。状況しだいではよろこびをわかちあってもいい。ただ、今は静かにしろ」 「なんで?」 「授業中だ」 ようやくハルヒは俺の襟首から手を離した。 おれは、教卓の方に振り返り、こちらを見つめる全クラスメイトと今にも泣き出しそうな表情を浮かべている今年から教壇にたっているという女教師を視界に確認することになった。 どうぞ、授業の続きを・・・と手で合図した。ハルヒはなにやらぶつぶつ言っていたが、とりあえず授業中は無視した。 で、俺はなんでこんなところにいるんだ? 俺は今屋上へとつながる踊場で、涼宮ハルヒにネクタイをつかまれている。うむ、状況次第ではほぼ間違いなくカツアゲの風景にみえるな教師が見かけたらなんといわれることやら。まったく、こんなところに連れ込んで俺をどうするつもりなんだ? 「協力しなさい」 ハルヒは言った。 「あたしの新クラブづくりに協力しろといってるのよ!」 俺がいまいち理解できない表情をしてるのを読み取ってハルヒは言い直した。ちょっと語気が強くなってる。 「なんで俺がお前の思いつきに協力しなければならんのか、それをまず教えてくれ」 「あたしは部室と部員を確保するから、あんたは学校に提出書類を揃えなさい」 ああ、聞いちゃいないし。 「ああ、そうそう実は部室は確保してあるのよ。ついてきなさい。」 俺はそのまま引きずるように引っ張るハルヒを止めるのに必死で、協力の有無を答える余裕すらなかった。 「なによ?」 「部室とやらにいくのはいいのだが、まず教室に戻ってかばんをとってこないと、週番が帰ったら、教室に鍵がかけられるぞ?」 「教室の鍵ねえ。外すのは簡単だけど・・・まあ、一理あるわね。」 物騒な発言があった気がするが、それは無視しよう。 で、かばんを回収した俺は、結局ハルヒに引きづられるように、部室棟へいくことになった。あれ、なんでこんなことに? その疑問の答えを得る前に、部室棟三階のひとつのドアをハルヒは壊れるんじゃないかという勢いであけた。 「ここよ!」 その部屋は意外と広かった。長テーブルとパイプ椅子がいくつか。まあ、意外なほどに多いのは左側の壁天井までの全面とドア左側の一部まで覆うように存在する本がぎっしり詰まった本棚くらいだった。 老朽化が目立つこの建物の床が抜けるんじゃないか・・・などといらぬ心配をしながら、室内を見回す。 そこにはこの部屋のオマケのように、一人の少女がパイプ椅子に腰掛けて分厚いハードカバーを読んでいた。 「これからこの部屋がわたしたちの部室よ!」 両手を広げてハルヒが宣言した。まあ、神々しいまでの笑顔に彩られている。普段もその表情なら、教室でも孤立することはないだろうに。などとは口にはしなかったが、かわりに俺はひとつの疑問を口にした。 「ちょっと待て。どこなんだよ、ここは」 「文化系の部活動のための部室棟よ。そしてここは文芸部の部屋」 「じゃあ、文芸部なんだろ」 「でも今年の春三年が卒業して部員ゼロ。新たに誰かが入部しないと休部が決定していた唯一のクラブなのよ。でこの子が一年生唯一の新入部員」 「てことは休部になってないじゃないか」 「似たようなもんよ。一人しかいないんだから。それにこの子の許可は取ったわよ」 そういわれて、俺はさっきから俺たちを無視して読書に耽る少女に目を向けた。眼鏡をかけた髪の短いおとなしそうな少女だ。 「本当に許可を取ったのか?」 脅迫とかしたんじゃないかと心配して確認してしまった。 「前に仮入部で知り合っていたから、休み時間に会いにいって部室貸してって言ったら、どうぞって。本さえ読めればいいらしいわ。変わっているといえば変っているわね」 ハルヒよ、お前がいうかね。 しかし、本当にいいのか?とその少女に視線を向けていると、ふいに少女が本から目線をあげて、俺たちの方をみた。 「長門有希」 と平坦な声でいった。どうやら自己紹介だったらしい。 それで用が済んだとでもいうように、少女は本に目線を戻し、再び読書に戻った。 「長門さんとやら」俺は声をかけた。「こいつはこの部室を何だか解らん部の部室にしようとしてんだぞ。それでもいいのか?」 「いい」 長門有希は本から目をそらすことなく答えた。 「いや、多分ものすごく迷惑をかけると思うぞ」 「別に」 「そのうち追い出されるかもしれんぞ?」 「どうぞ」 うむ、まるで無感動というか感情がないかのような返答だ。心の底からどうでもいいと思っているのだろうか? 「まっ、そういうことだから」 ハルヒが先ほどの宣言を続ける。 「これから放課後、この部室に集合ね。絶対来なさいよ。来ないと死刑だから」 お前は小学生か!というツッコミは封印した。ハルヒの満開の笑顔で言われたから、不承不承ながらうなずいた。 死刑はいやだったからな・・・そういうことにしておいた。 次の日の放課後。 俺が文芸部室を訪れると、俺より先に姿を消していたハルヒの姿はなく、今日も本を読みふける長門有希の姿だけがあった。 沈黙・・・静寂・・・ うわあ、いたたまれねえ。 しかたなく、パイプ椅子のひとつに腰掛け、本棚に目を向けていたが、特に興味を持つ題名も見当たらず、長門有希の方を見れば読書に没頭中。この頃の俺はまだ長門の沈黙に慣れていなかった。 「・・・・・・何を読んでいるんだ?」 沈黙に耐えかねて、俺は長門有希に声をかけた。長門有希は返事の代わりにハードカバーの背表紙を俺に見せてきた。睡眠薬かなにかみたいなカタカナが踊っている題名でSF小説らしい程度しかわからなかった。 「面白いのか?」 俺のその問いに、長門有希は眼鏡に手をやり、平坦な声で答えた。 「興味深い」 とりあえず答えているという感じだ。その後も、本が好きなのかとか、たわいもない質問とそれに対する最短の答えの応酬を行った。質問をすると律儀に答えてくれたのには、助かったさ。 この少女は本は相当好きらしい。わかったのはそれくらいだったがな。 ドアを蹴破るように涼宮ハルヒが入ってきた。 「ごめんごめん!ちょっと捕まえるのに手間取っちゃって!」 と満面の笑顔で入っていたのはいいが、そのまるで逃げた子猫を捕獲してきたような発言はなんだ? ハルヒは後ろ手に誰かをつかんでいた。その人物が部屋に入ったのを確認すると、がちゃりとドアの鍵を閉めた。 よくみると、ハルヒが捕まえているのはまたしても少女だった。 不安げに震えた小柄な体の少女は、うん、すんげー美少女だった。しかし、今日ハルヒは「適材な人間」に心当たりがあるからと部活の勧誘に行ったはずだ。 この子のどこが、「適材な人間」なのだろうか? 「なんなんですか!」 その美少女は気の毒にも半泣きの表情だ。 「ここどこですか、何であたし連れてこられたんですか、何で、かか鍵を閉めるんですか?いったい何を」 「黙りなさい」 ハルヒの押し殺した声に少女はビクッと固まった。 「紹介するわ。朝比奈みくるちゃんよ」 おい、それで紹介終わりかよ。 「っていうか、どこから拉致してきたんだ?」 と俺がいうと、「拉致」と言う部分で朝比奈みくるという美少女はビクッと不安げに反応した。いや、俺はなにもしませんし、何も知りませんよ?共犯者じゃないですから。 「拉致じゃなくて任意同行よ」 いや、それもどうなんだ? ハルヒの説明によると、朝比奈みくるさんはこの高校の二年生でハルヒが書道部に仮入部したときから気にいっており、今回部活を立ち上げるにあたり、この部活の萌えキャラとして任意同行を求め、そのまま引っ張ってきたとのことであった。 かなり、問題な行動じゃないのか? しかし、その後の朝比奈みくるさんの行動も俺の予想外ではあった。 拉致同然につれてこられたというのに、ハルヒの書道部をやめてわが部活にという指示にしたがったのだ。そのとき、ほんのわずかだが、長門有希の方をみたような気がする。 「とりあえず、四人揃ったところで、紹介するわね。」 「そこのぼーっとしてるのが、団員一号のキョン、で窓際で本を読んでるのが、団員二号の長門有希。そして、わたしが団長の涼宮ハルヒよ!」 うむ、ツッコミどころ満載なのだが、まず最初にこのSSは現在第一話終盤になろうとしているのだが、俺の名前でやっと出てきたと思ったら「キョン」というのはどういうことだ? 作者の悪意を感じるぞ。・・・と、この世界に存在しないものに不満を述べてもしかたないので、とりあえず、目の前の存在に苦言を呈しておくとしよう。 「団とはなんだ?そもそもどんな部活をつくるつもりかそろそろ明らかにしてもいいんじゃないのか?」 「あれ?言ってなかった?まあ、いいわ。とりあえず、名前なら決めたわよ。」 「・・・いってみろ」 期待感ゼロの状態俺の声に反して、涼宮ハルヒは満面の笑みで命名宣言を行った。 ・・・とりあえず、お知らせしよう。 なんだかよくわからない涼宮ハルヒの思いつきではじまった部活動設立計画(現在総員4名)の活動の名前は、 「SOS団」 と相成った。 別に、救難信号ではなく、いや、そっちの方がよかったかもしれん。しかし、ハルヒの宣言文には違う言葉が書いてある。 S=世界を O=大いに盛り上げるための S=涼宮ハルヒの 団 で略してSOS団だそうだ。うむ、呆れてよいとおもうぞ。 とりあえず、その日は下校時刻になり、解散した。 今日最大の謎について、俺は朝比奈さんに問わずにはいられなかった。 「朝比奈さん」 「なんですか、キョンくん」 ・・・あなたもその名前で呼ぶのですか?と名づけた親戚のおばさんと広めた妹をうらめしく思ったものだ。 「書道部をやめてまで、こんな活動に参加することはないと思いますよ。あいつのことなら気にしないでください。俺が後から言っておきますから。」 「いえ、いいんです。入ります、あたし」 「でも、多分ろくなことになりませんよ」 「大丈夫です・・・それにおそらくこれは必然・・・なのでしょうし、長門さんがいるのも気になります。」 「気になる?」 「え、や、何でもないです」 朝比奈さんは慌てた感じで首を振った。ふわふわの髪の毛がふわふわと揺れた。 そして、朝比奈さんは俺の方を向いてお辞儀をしながら、 「ふつつかものですが、よろしくお願いします。」 「まあ、そこまで言われるんでしたら・・・」 「それから、あたしのことでしたら、どうぞ、みくるちゃんとお呼びください」 とにっこり微笑む。ハルヒの笑顔とは違うめまいを覚えるほど可愛い笑顔だった。 そういえば、帰る直前、長門から本を渡された。 「貸すから」 読めということだろうか?しかし、こんな分厚い本を読む習慣は俺にはない。 「いつ読み終わるかわからんぞ?」 「いい」 それだけ言って、長門は帰っていった。 ジ・Oはこうして動き出した。
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第5話 危機 『ハルヒ』と『神』 同級生に命を狙われ、『妖怪』同士の対決を見せられて、さらに夜には『妖怪大戦争』をリアルタイムで経験した翌日。 俺が、眠い目を擦りながら、机の中をみると、かるい既視感(デジャ・ビュ)を感じることとなった。 つまり、また、ハルヒが席にいないときに、手紙を発見したわけだ。 ただし、今回は誰が書いたのか。について悩む必要はなかった。前回の可能性②の予想のままに、きれいな封筒に入ったその手紙は女の子らしい筆跡で最後に朝比奈みくるの名前があったからだ。 『今日の昼休みに部室で待っています ♪ 朝比奈みくるより』 誰かが、朝比奈さんの名前を語っている可能性も否定できないが、SOS団室(文芸部室)には長門もいるはずだ。多分安全であろう・・・それに麗しの朝比奈さんの手紙を無視できるわけ無いじゃないか。 というわけで、俺は昼休みになるなり、そそくさと文芸部室に向かった。 トントン・・・とノックをする。以前、部室のドアを開けたら、朝比奈さんの生着替えをみてしまったわけで・・・ 俺と古泉は必ずノックしてから入ることにしている。まあ、古泉は一応こうしているだけですよ?といっていたがな。中の様子はわかるんだな、あの微妙超能力者は・・・うらやましくなんてないぞ。 「はーい♪」 朝比奈さんらしい声が聞こえたので、俺はドアを開けたが、そこにいたのはたしかに朝比奈さんに似ている人物だった。しかし・・・ 「あっ、キョンくん、ひさしぶり。また会えるなんて、夢みたい。」 俺が考えをまとめる前にその人は抱きついてきた。背が高く、以前抱きついてきた朝比奈さんよりさらにボリュームのある胸が俺に当たる・・・正直、たまりません。 「あっ、今、不謹慎なこと考えたでしょう?お姉さんはお見通しです。」 えっと、朝比奈さんのお姉さんですか?その女性はたしかに朝比奈さんにそっくりだったが、背も・・・胸もあきらかに朝比奈さんより大きく、よく似たお姉さんといった雰囲気だったのだ。 「違いますよ。わたしはわたし・・・朝比奈みくる本人です。ほら ♪」 さっきまでいた朝比奈さんが大人になったような姿をしていた女の人は、次の瞬間、朝比奈さんそっくりな姿になっていた。 「信じてもらえました?」 こくこく 「ちなみにドッペルゲンガーとか鏡の『妖怪』でもないですよ。例えば、ほらここのホクロとか。」 そういって、朝比奈さんは胸をちょっとだけはだけさせて、ホクロを見せてくれた。星型のめずらしいホクロだった。 「えっと、ホクロといわれても・・・俺はそれをみるのは初めてなんでが?」 ちょっとしどろもどろになりながら、答えた。顔が熱くなっていたはずだ。 「えっ?このホクロのことを教えてくれたのはキョンくんで・・・あっ、このときはまだ、そっか、どうしよう。」 朝比奈さんは、あたふたした様子で、それはそれで朝比奈さんらしい行動であったわけで 「あなたが朝比奈さんであることは信じます。でも、なんで俺をここに呼び出したんですか?あとさっきの姿は?」 お互い冷静になる必要を感じて、話を変えた。 「そうですね。実は、この世界の運命のとても重要な分岐点がせまっているのです。そこで、わたしは再び許可を得て、少しでもキョンくんの手助けをしたくてやってきました。後、さっきの姿はわたしがここの時代にいたころよりさらに未来からきたからです。」 つまり、さっきの大人の姿は朝比奈さんの未来の姿だったというわけか。何年後なんだろうな。 「この時代の朝比奈さんは?」 「このことは知りません。実際知りませんでしたから。今頃鶴屋さんたちと教室でお昼ご飯を食べているはずです。」 そして、俺に正体を告白したときのようなちょっと真剣な表情になった。 「時間がありません。2つだけお伝えします。一つ目は、長門さんに注意してください。」 長門が?昨日俺の命を救ってくれたあいつがおれになにかをするとは思えないのだが・・・ 「長門さんに悪意はなかったんです。ただ、えっと彼女は生まれて3年程度だったの、それがちょっと問題でした。すいません、それ以上は禁則事項です。あ、これも久しぶりですね。」 まあ、俺は数日前に聞いたばかりですけどね。 「最後にひとつ・・・白雪姫って知ってます?」 「童話のですか?」 「そうです。これから危機に直面したら思い出してください。」 まあ、昨日同級生に襲われて、さらに『妖怪大戦争』を経験したばかりですが。。。 「それとは違うのです。そのとき、キョンくんのそばには涼宮さんがいるはずです。それ以上は・・・残念ながら、禁則事項です。」 こころしておきましょう。 「よろしくお願いします。わたしたちの未来につながる重要な分岐点なのです。おそらく世界の運命すら・・・」 また、世界ですか・・・めちゃくちゃ重いですね。 「涼宮さんの力というのは、そういうものだからです。よろしくお願いします。じゃあ、そろそろ時間ですから、失礼しますね。」 「わかりました、お願いされます。ところで、最後に質問をしていいですか?」 大人モードに戻り、ドアから出て行こうとする朝比奈さんは立ち止まった。 「朝比奈さん、禁則事項でしょうから、あなたがいつから来たのかは聞きません。でもひとつだけ教えてください、あなたの正体は何ですか?」 朝比奈さんはかわらないきれいな栗色の髪をふわりとひらめかして、振り返り、笑顔でこういった。 「禁則事項です♪」 みたものすべてが恋に落ちそうなそんな天使のような笑顔だった。 教室に戻り、残りの時間でせめておかずだけでも食べようかな。などと思って教室に戻ると、それすらハルヒに妨害された。 「あんたに話があったから、お昼も食べないでまってたのに、どこいってたのよ。」 その言葉、幼馴染が照れ隠していっている感じで頼む。 「はあ、なにいってるのよ。今日は部活のとき話があるから、必ず来なさいよ。」 まあ、いわれなくても部活には顔をだすつもりだったが、なぜ念押しされるのかわからなかった。しかもハルヒは怒りのオーラを身にまとっているし、背中に殺気を感じます・・・誰か助けて・・・ 「で、この紙はいったいなんなのかしら?」 現在の状況、SOS団室(文芸部室)内、目を怒らせているハルヒから俺は問い詰められている。生命の危機すら感じるぞ。 原因はいたって簡単だった。ハルヒは昼休みにはさみを忘れたことに気づき、俺のかばんを漁った。(おいおい・・・)で、あれをみつけちまったんだな。これが・・・ そう、それは昨日俺が朝倉からもらった手紙だ。昨日のあわただしさでかばんにいれたまま忘れていたのだ。・・・朝比奈さん(大)からの手紙はきちんと持ってSOS団室にいっていたのが不幸中の幸いってやつだ。 しかし、言い訳はしないとな。なにせ、傍目には告白のために呼び出された文章にしかみえないからなあ。 『放課後誰もいなくなったら一年五組の教室に来て』 はあ、俺はかばんの奥で寝ている『ナイフ妖怪』をうらめしく思った。 「これ、朝倉の字よね。」 「まあ、そうだな。」 否定しても無意味だろう。朝倉はクラス委員長だ。ハルヒがクラスメイトにいくら無関心でも記憶力はたしかだ。HRとかでみたことがあるだろう朝倉の筆跡を記憶している可能性は高い。ごまかしが通じる相手ではない。 なにせ、ミステリー研仮入部の際には、出されたミステリークイズとやらをひとつ残らず正答したらしいし。ホームズの踊る人形を一回みただけで全部覚えるって、お前は人間かよ。まあ、普通の人間じゃないわけだが・・・ 「つまり、朝倉から告白されたと・・・それで朝倉は今日からなんか入院とかの理由で休んでるんだけど?一体なにがあったのかしら?」 はい、命狙われましたと答えるわけにはいかないわな・・・どうするよ?俺。 俺は、窓際で本を読む恩人?に無意識に視線を向けた。 「なんで、有希に視線を向けるわけ?有希が何かを知っているとでも?」 「知ってる。」 お、長門の助け舟だ。俺は大型船に救助された漂流者のような気分になった。 「朝倉涼子は今精神的ショックで寝込んでいる。」 頭の中で俺を助けてくれた大型船は氷山に激突していた。たしかに、朝倉は長門に負けて、ナイフ形態で眠っているわけだが・・・ 「ふーん、そのショックって どうして起こったの?」 「襲ったから」 ・・・その大型船は有名な四本煙突の豪華客船だった。沈没まであとわずかだ。どうしよう。 たしかに、長門の発言に間違いは無かった。 朝倉は、俺を『襲って』、長門に敗れて、『精神的ショックで眠っている。』と言いたいのだろう。 しかしだ、今の長門の発言を元に連想したら、こうならないか? 『俺が』、朝倉を『襲って』、『精神的ショックを与え』、そのショックで朝倉は寝込んでいる。 ・・・俺、犯罪者確定?弁護してくれそうな存在は・・・古泉はついさっき「バイトです。」と慌てて出て行った。 朝比奈さんは、どうしたものかとおろおろしている。 長門以上に饒舌かつ当事者で説得力ある説明をしてくれそうな朝倉は・・・しばらく、ナイフ形態から戻れない。 ・・・終わった。\(^o^)/ 「ふーん、あんた、委員長萌えだったわけ?SOS団から犯罪者が出るなんて・・・団長として引責辞任ものよ。」 目がマジだ・・・ハルヒはかなり怒っている。冗談では通りそうにないし・・・やれやれ、どうしたものか・・・ 俺は、昼休みの朝比奈さん(大)の警告の意味を今更ながら理解していた。人生経験の少ない長門には、最低限の言語が与える誤解というものがよくわかっていなかったのだ。 「ま、まて。朝倉が退院してくれば・・・」 朝倉の家に行くまたはお見舞いに行くという選択肢の無い選択ウィンドウが悲しい。まあ、朝倉はここにいるわけだしな・・・それに、朝倉の仲間がいてもそれは敵だろう? 「言い訳は見苦しいわよ、キョン。まあ、SOS団員ってことで、あたしたちから通報はしないであげるわ。みくるちゃんも有希もいいわね。これが最後の情けよ。おとなしく自首しなさい。まったく、襲うなら・・・」 ハルヒが口ごもったので最後の部分は聞き取れなかった。 「とりあえず、キョンは今日は家に帰ってよっく考えなさい。あたしもSOS団の今後を考えないといけないから。」 そういって、ハルヒは床を10回、ドアを1回蹴飛ばして、帰っていった。・・・ハルヒよ、そのドアは引き扉だ・・・。 蝶つがいが壊れた部室のドアは悲しげに揺れていた・・・ 「えっと、キョンくん・・・わたしはキョンくんを信じてます。涼宮さんの誤解も解けると思います。ただ・・・」 しかたなくドアを修理している俺に、朝比奈さんは慰めようと声をかけてくれた。すごく不安そうな表情が浮かんでいたが・・・ 「言語による情報の伝達に齟齬が発生した。申し訳なく思う。」 長門もそういってきた。いや、長門に弁護を求めてはいけないのは朝比奈さん(大)から警告されていたのに、それを失念していた責任は俺にあるし、長門は命の恩人だ。恨む気にはなれない。 「だいじょうぶです。朝倉が退院してくれば、問題は解決しますよ。」 時間が経過し朝倉が人間形態に戻れば、誤解は解けすべてが解決すると考えていた。即断即決・直情径行、待つという選択肢をまったくもっていないハルヒの性格のことを俺は失念していたのだ。このときは・・・それがあんなことの原因になるなんてな・・・ その夜は、朝倉復活まで針のムシロに正座しているような気分になることが容易に予想できる一週間弱、部活を休もうかなどと思いながら、朝比奈さんの甘露と針のムシロを天秤にかけながらひたすら悩み、それでもなんとか眠りについた。 ハルヒの一瞬みせた悲しそうな顔がちらついていたのは気のせいと信じている。 そして、翌朝を迎えるはずだった・・・しかし、まさしく新約聖書のメシアの言葉を守るように、それはすぐに来たのである。 「キョン、キョン、起きなさい。」 「あと、5分・・・」 妹のフライングボディプレスが来るまでの癖でそう答えていた。 「ばかキョン!とっと起きなさい。」 それは、妹の声ではなかった。キンキンとよく響くこの声は・・・ 目を開けると、ハルヒの輝く瞳が目に入った。その後ろの空が夜空の黒ではなく、灰色をしていたからその瞳は普段よりさらに輝いて見えた。・・・灰色?ここは閉鎖空間か? 「気づいたら、制服でここにいたのよ。隣にやっぱり制服姿のあんたがいて・・・なに、この灰色の世界、なんか・・・気持ち悪い。昔の・・・」 ハルヒ、怖ければ腕につかまっても構わんぞ。 「するわけないでしょ!」 よしよし、これでこそハルヒだ。まずは確認だな。 「古泉を見なかったか?」 「なんで、古泉くんなの?みてないわよ。とりあえず、これからどうする?学校から出る?」 どうだろうな・・・この空間がどの程度の広さか不明だが、一定範囲以上は多分・・・ 予想の通りだった。今回の閉鎖空間は北高の敷地全体だけを覆っていた。透明な壁に阻まれてそれ以上は出られそうになかった。 しかたないので、職員室で鍵を調達し、SOS団の部屋へ行く。 「とりあえず、喉渇いてないか?」 そういって、俺はハルヒにお茶を勧める。朝比奈さんの甘露には程遠いだろうがな・・・ 「あんた、あまり驚いてないのね。」 いや、驚いているさ。ここに俺とお前しかいないことにな。 「電話とか通じないか調べてくる。キョンはここにいて。動いちゃだめよ。」 こんな状況でも仕切るのはさすがハルヒといったところか。 俺は、ハルヒに言われた通り、SOS団室に留まった・・・ここにいるのが一番確実という確信があったからだ。その予想は、完全には当たらなかったが概ね正しかった。 「いやあ、遅くなりました。」 窓の外にいたのは、古泉の声でしゃべる白いカラス(普通サイズ)だ。多分、古泉で間違いないだろう。普通に姿を現すと思っていたのだがな、この微妙超能力者なら。 「遅かったじゃないか。」 「時間がありません。はっきり言ってこれは異常事態です。」 発言内容に比べて、古泉の声に緊張感はない。多分、向こうではあの笑顔だろうと想像できるよな声だった。 「どういうことだ?」 「ここは普通の閉鎖空間とは違います。隠里への入り口を開くことができる仲間たちの総力でもこの『白いカラス』の分身が通れる大きさの穴しか開けませんでした。しかも、今はほぼ完全にふさがっています。僕がここから弾き飛ばされるのも時間の問題でしょう。」 つまり、ここには俺とハルヒしかいないということか? 「そういうことです。涼宮さんの力が原因なのは間違いありません。しかし、これからどうなるかはまったく見当がつきません。」 おいおい・・・ハルヒと二人でこんなところに閉じ込められるのか?助かるかもわからない状況で? 「いいじゃないですか。アダムとイブですよ。『神』があなた方にエデンの園を準備したのかも知れませんよ?」 殴るぞ・・・ずいぶんと殺風景なエデンの園だな。蛇どころか多分ねずみ一匹いない。 「おっと時間が・・・」 カラスの姿は今ではスズメ程度まで小さくなっていた。 「最後に、朝比奈みくると長門有希から伝言です。朝比奈みくるからは『信じてます』と、長門有希からは『PCの電源を入れるように』・・・とのことでした。では、また、会えることを・・・」 古泉の姿は小さくなり、小さな白い玉になって消えていった。 PCの電源? 俺は、団長席のPCの電源ボタンを押した。OSの画面が立ち上がる様子は無い。しばらく、黒い画面をみていると。。。 YUKI.N >(*^ー゚)ノ ぃょぅ みえてるかな? 長門・・・なのか? ああ、みえているぞ。 YUKI.N >この回線もあとちょっとしか持ちそうにないの。だから、ちゃっちゃっと話すよん。 ・・・長門が壊れた・・・というわけじゃないな。これもこいつの特徴と考えるべきだ。 YUKI.N >えっとね。『かくれざと』っていうけど、どっちかというと『妖怪の巣穴』みたいなものなのよん。 だから、そこにも『巣食う妖怪』がいるって考えるほうが自然なのよね。 『神人ちゃん』がそうなのかもしれないけど・・・ちょっと疑問なのだよ、ワトソンくん。 結論いっちゃうと、今のわたしでも何が起ころうとしているのか、というかそいつが何しちゃおうとしてるのか はぜんぜんわかんないの。 正直お手上げ ┐(´ー`)┌ しかたないので、せめて護衛役をおいといたよ。(  ̄ー ̄) ニヤリッ わたしが、最初に読んでた本の間にあるよん。説明書はきちんと読むんだぞ? 判りにくいが・・・とりあえず、本を探せばいいのか。 YUKI.N >後は、あなたを信じるしかないね。こちらの世界のためにあなたたちは必要だと思うのん。だから、戻ってきてね。 それに、わたしという個体もあなたに戻ってきてほしいと思ってるの。ちょっと、はずかしい(*^-^*)けどね♪ YUKI.N >また、図書館に・・・ YUKI.N >Prince その言葉を最後にPCはまったく動かなくなってしまった。 長門が最初に読んでいた本か・・・たしかこれだな。 かちゃり、という音がして、みたことのある紙の鞘に包まれたナイフが落ちてきた。これは・・・俺にかばんにしまっておいた朝倉じゃなくて、ミセリコルデとかいう西洋の短剣だな。 『痛いわね。あら?わたし、なんでこんなところにいるわけ?』 朝倉か?何でここに?たしか、こいつは俺のかばんの中の隠しポケット(普段は、男子高校生のためのひみつ空間)にしまっておいたはず。 『あら、質問に質問で返すように学校で教わったかしら?』 ・・・えっと、すまん。今はこいつが最後のよりどころなのだ。 で、説明書がこれか、ナイフのあったページに長門文字の説明書きがあった。 『注意:鞘から取り出すと人間形態に戻る。でも、一週間経過していないと、殺人鬼モード(怖いよ(*´・д・)(・д・`*)ネー)が健在なので注意しないと駄目だぞ。(・∀・)ニヤニヤ 』 丁寧なのかよくわからん説明だが、今朝倉を鞘から出すと、襲われるかも・・・ということか? 「とりあえず、事情を説明する。ここは・・・」 『必要ないわよ。今朝から起きてはいたから、それに殺人鬼が周囲の物音に鈍いと思うの?』 なるほど、聞こえてはいたというわけか・・・『妖怪』ってのはよくわからん。 「で、どうしたらいい?」 『それはあなた次第じゃない?わたしを信じてここから出してくれれば、涼宮さんの誤解を解く協力をするかも知れないし、あなたを殺してここから脱出するってのもありかもね♪』 こいつは・・・ ・・・俺は、何も言わずに鞘からナイフを取り出し、床に置いた。 「あら、信じちゃっていいの?」 「俺はお前を信じる。裏切られたら、その時はその時だな。」 朝倉は、消えたときの姿・・・つまり北高一年五組の委員長に戻り、不可思議とでもいう風に俺を一瞥した。 「そう・・・ただの人間だと思っていたけど、ほんとに不思議なひとね。涼宮さんが興味を持つわけだわ。」 そうかね。単にジタバダするしかないなら、できる限りのジタバタをしようとしているだけだがね。 「まあ、いいわ。とりあえず、涼宮さんを探しましょう。」 とりあえず、俺を襲うという選択肢は選ばないでくれたらしい。 「あ、ああ・・・」 俺と朝倉が部室を出て、ハルヒを探しに行こうとしたとき、窓から光が差し込んできた。青い・・・どこかでみた光だ。 「神人・・・」 呆然とつぶやく声は俺のものだ。 朝倉は険悪な表情で窓の外を睨んでいる。 「ちょっと、キョンなにあれ!?って、涼子。」 ハルヒは部室の扉を壊さんばかりの勢いで飛び込んできて、俺と朝倉がいることに驚いているようだった。 「こんなところでも逢引なの?」 「いや・・・涼宮それは・・・」 まだ、心の準備ができていなかった俺はしどろもどろだった。 「今はそれどころじゃないわ。ここは危険よ、ついてきて・・・涼宮さんを頼んだわよ。」 朝倉は、そういうと部室飛び出していった。 「涼子、逃げるの!」 ハルヒはそう叫んでいたが、俺はハルヒの手を掴んで朝倉を追いかけることにした。 「馬鹿っ!それどころじゃない、ほら、行くぞ!」 今は朝倉の指示が正しいだろう。あの神人がこの部室棟を攻撃しないという保障なんてない。 あれは、ビルを一撃で破壊できるだけの力がある。それは、昨夜みせてもらったばかりだ。 近くでみた神人は昨夜よりはるかに巨大に見えた。動き出さないのが幸いだった。 「おかしいですね。選ばれた人間一人だけのはずなのですが・・・」 声だと?この閉鎖空間に他に誰かいるのか? グラウンドまで逃げた俺たちの上、灰色の空から、声が聞こえてきた。神秘的な、しかしどこか蔑むような色の混じった声だった。 「隠れてないで出てきたら?」 朝倉は、灰色の空の一点を睨んで笑顔でそういった。 「いけませんね。慈悲の短剣らしからぬ言葉ですよ。」 「あなたに言われたくないわね、サンダルフォン。」 「ほう、ばれてましたか?」 そこに姿を現したのは、『神人』ほどではないが、巨大な、それに白い翼を供えた人間のような姿をした存在・・・簡単にいえば、天使ってやつだ。 「あの戦いで全滅してはいないといわれていたしね。ザ・ビーストの情報力を甘くみないでよね。」 朝倉は笑顔のまま、しかし警戒するような口調でそういった。俺も、この『天使』というやつから敵意を感じていた。 「わたしのことがわかったとして、あなたに何ができます?もうすぐ、あの御方が降臨されます。この空間には『あれ』は干渉できませんし、この国の連中にしても同じですよ。」 「・・・そうね。わたしにできるのは、あなたの妨害くらいね。」 「そういうことです。もうすぐ、三年間待ち望んでいたときが来るのです。邪魔して欲しくないですね。」 そういって、サンダルフォンと呼ばれた天使は、神人の方に目を向ける。 神人は姿を現してから不思議なことに動く様子がない。しかし・・・大きくなっていないか? 神人はその大きさを増し、どこか神々しい雰囲気をかもし出していた。そう、まるで神をイメージしたら、こんな風になるんじゃないかという雰囲気だ。 「サンダルフォン。少し時間くらいもらえるかしら?」 「ふっ、構いませんよ。わたしは争いは嫌いですし、あの御方が復活されればすべて片付きますからね。兄弟たちも再臨します。わたしが手を汚すまでもありません。別れの言葉をいう時間くらい差し上げますよ。」 いやなやつだ・・・天使に抱く感想としては不適切かもしれないが、テレビドラマの陳腐な悪役のようなその発言と蔑む声色は、その姿とのギャップもあり、実に不愉快だ。 朝倉は、俺には聞こえないようにハルヒに耳打ちした。ハルヒは驚き、その後、顔を真っ赤にしていたが・・・なにをいったんだ? 「そういうことだから、涼宮さん、お幸せに。」 そういって、ハルヒから離れて、つぎに俺に耳打ちしてきた。 「涼宮さんの誤解は解いておいたから、あと、わたしの能力はここでも使えるから、サンダルフォンをなんとかする。あなたたちは逃げる方法を考えて!」 「おいおい、朝倉。」 それは、死亡フラグってやつだろうが・・・殺人鬼の、ではないけどな。 「時間がないから、後は任せたわよ。それじゃ、涼宮さんとお幸せに。」 朝倉のその言葉と共に、朝倉も、サンダルフォンと呼ばれた天使も、神人も姿を消し、俺たちはグラウンドに取り残された。 ・・・違うな、これは朝倉の能力だ。おそらく、俺たちの周囲に結界を張っているのだ。つまり、姿を消しているのはむしろ俺たちと考えるべきなんだろう。 「涼宮・・・」 俺は混乱していた。時間がない。頭の中はまとまらない。 「なによ。」 「お前にはなにが起こっているか、わかるか?」 「そうね。あたし自身が不思議な体験をしてるってことくらいね。天使とか巨人とかちょっと楽しいかも・・・」 相変わらず能天気なやつだ・・・しかし、おかげで少し頭の整理ができそうだ。 神人はまるで神のような姿になりつつある。そして、古泉に言わせると、ハルヒには『神』の力と呪いがかかっている。 そして、あの天使の発言・・・ 要するに、『神人』ってのは『神のさなぎ』みたいなもんだったんだ。そして、今、『神』が羽化しようとしているわけだ。 人類を絶滅させようとしたたちの悪い、しかし、全知全能の『神』とやらが・・・ 防がなくてはならない・・・のかな。 やれやれ・・・俺はこんな主役的立場は望んでないぞ、と苦情を言いたくなった。しかし、このままでは言う機会も相手も失うんだな・・・ 「ハルヒ、お前こんな世界が楽しいか?ここには何もないし、誰もいないぞ。」 「うーん、よくわかんないけど、あたしはずっと孤独だったから、今わくわくしてることの方がいい。」 こいつが孤独だったのは、『神』の呪いのせいだったはずだ・・・ハルヒをここまで追い込んだ『神』に怒りを感じた。 「俺は断る。こんな世界はいやだ。どこかの誰かに運命を委ねるのもごめんだ。それに、俺はあいつらと一緒に居たいと思う。長門、朝比奈さん、古泉、国木田、谷口・・・やつらと一緒に世界を体験したい。」 「なによそれ!あたしと一緒じゃ駄目ってこと?」 「そうじゃない。俺にとってお前は・・・」 長門風にいうなら言語での情報伝達では不完全だ。ハルヒを説得するには・・・ 俺が、朝比奈さん(大)と長門のヒントを思い出した。 朝比奈さんは「白雪姫」と、長門は「Prince」といっていた。もしかして、それはこの状況へのヒントだったのでは?朝比奈さん、長門、もしかして俺にそんなベタなことをやれと? パリーン・・・ガラスが砕けるような音が響く・・・ 「てこずらせてくれましたね。」 無傷の天使とぼろぼろの姿で横たわる朝倉の姿がみえる・・・朝倉、お前そこまで・・・おそらく、サンダルフォンを止めるため命がけで戦ってくれたのだ。時間を稼ぐために、絶望的な戦いを・・・ 「しかし、もう終わりです。力を受けついだ人間よ。こちらに来なさい。世界を変えるのです。」 天使のくせにイブにリンゴを勧めたという蛇のような発言だな。 「ハルヒ、お前の孤独はこいつらのせいだ。それにもう、お前は孤独じゃない俺がいる。長門も朝比奈さんも古泉もそこの朝倉さえ、お前のことを気にかけてた。むしろ、世界はお前のためにあったんだ。」 天使の誘惑にハルヒ耳を傾けないように俺は叫んだ。 「小ざかしいですね。力仕事は嫌いなんですが、邪魔されたくはありませんからね。ごみが、これでもくらいなさい。」 そういって、サンダルフォンは俺に手を向けてきた。おそらく攻撃してくるつもりだろう・・・ ヒュン! 「ぐっ!?なんだと・・・」 風を切る音がして天使の手にはナイフが刺さっていた。そう、朝倉の本体 ミセリコルデだ。 最後の機会だ! 「ハルヒ、俺、実はポニーテール萌えなんだ。いつだったか、お前のポニーテール反則的なまでに似合ってたぞ。」 「はあ?バカじゃないの、こんなと・・・」 抗議の声をあげようとするハルヒの口をふさいだ・・・もちろん、俺自身のくちびるで・・・だ。ハルヒがどんな表情をしていたかは知らない。こういうときのマナーを守って目をつぶっていたからな。 周囲の世界がどうなっていたかも、見てはいない。しかし、なにかの絶叫のようなものが聞こえた気がした。 目を開いたとき、最初に視界に飛び込んだのは、見慣れた俺の部屋の天井だった。 ・・・夢か?夢なのか?・・・ 夢にしてはいやにリアルで、くちびるには感触が・・・ ・・・フロイト先生、爆笑してください・・・ ジギスムント・フロイトが知人にいないことに心底感謝した。いたら、何と言われることか。 おそらく、夢判断とやらを聞いた後、朝倉にナイフを借りにいくところだ。こんなときこそあいつの出番だろうし・・・ 『あら、それはわたしが慈悲の短剣だからかしら?』 かばんの中から声が聞こえた気がした。気のせいだったが・・・そういえば、朝倉はどうしたろう。 あれが夢だったのか、それとも現実だったのか・・・ いずれにせよ。ひとつ確かなことがある。 その後一睡もできなかった・・・
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第3話 ネットワーク 『鶴屋家』と『機関』 土曜日、朝、9時5分前。 昨日の長門の話を聞いて、インターネットで調べたり、考え込んだりして夜更かししてしまった結果、約束の駅前に到着したのはその時間である。普通に考えれば間に合ったというべきなのだが・・・ すでに俺を除く4人が揃っていた。昨夜電波話をしてきた長門も含めてだ。長門は文芸部員ではなかったのか? 「遅い。罰金!」 顔を合わせるやハルヒは言った。 俺の約束の時間には間に合っているだろうという反論を無視して、SOS団規則第9条を押し付けてきた。ちなみに、団則はすべてハルヒの頭の中にしかなく、俺たちに確認することはできない。 しかたなく、渡橋おばさんからもらった福沢さんが財布から消えていくのを心の中で嘆きつつ、駅前喫茶店でおごることになった。 そして、店内でコーヒーを飲みつつハルヒ団長様から今日の計画を拝聴したわけだ。 ハルヒの提案はこうだ。 5人で二つの班に分かれて、市内の探索を行う。不思議なものを発見したら、即座に互いの携帯で連絡を取る。12時にはまた駅前に集合するという単純かつ多分無意味なものだった。 3時間程度で見つかる不思議なんてあるわけないからな。 で、くじ引きで班分けが行われたわけだ。 結果、俺と朝比奈さんの二人とハルヒ、古泉、長門の三人の二組に分かれた。 ハルヒはしるしのついていないくじ(楊枝)を不満そうに睨んでいたが、まあそれはそれだ。俺としては朝比奈さんと二人というくじ運に感謝したいところだ。 「キョン解ってる?デートじゃないんだからね。まじめに探索しなさいよ!」 「わあってるよ」 と答えはしたものの、俺の頭の中は3時間弱のデートの時間をどう過ごすかで埋め尽くされていた。 そして、俺と朝比奈さんは川沿いを歩いていた。 傍目にはデート中のカップルに見えるだろうか?などと不埒な考えを抱きつつ、朝比奈さんと手をつなぐタイミングを狙っていたりした。 「水がきれいですね。」 朝比奈さんは、川面を覗き込みながらそういい、川の中から石を拾いあげようとしていた。 「きゃっ!」 このかわいい悲鳴も朝比奈さんのものだ。そして、俺の体に朝比奈さんのやわらかい・・・胸があたっていた。どうやら、石の裏にくっついていた変な虫に驚いたらしい。 つい、俺が抱き寄せようと考えたのは、まあ、健全な男子高校生の思考としてはごく普通だと信じたい。 「ちょい、少年!うちのみくるにおいたはダメにょろよ!」 へっ? 今日は土曜日だというのに近くに犬の散歩をしている人もめずらしくいない状況で、つまり周囲には誰もおらず、俺と朝比奈さんだけだ。 今の声はいったい何だ? 「あの~、鶴屋さん。声を出しちゃだめですよ。」 朝比奈さんがへんなことを言い出していた。 「大丈夫っさ!『人払いの結界』は張ってあるにょろ!」 また、聞こえた。どうやら幻聴ではないようだ、朝比奈さんのポーチの中から聞こえてきている。 「みくる・・・そろそろ出してほしいにょろ。めがっさ息苦しいっさ。」 「あっ、はい」 朝比奈さんがポーチから出したのは、人形?人形というかぬいぐるみというのか、コロボックルのような髪の長いそれを朝比奈さんは取り出し、そして地面に置いた。 「ふ~、息苦しかったにょろ。ポーチの中は無理があったにょろ。」 ・・・こいつ、動いてるぞ。 俺は、とうとう幻をみるようになったらしい。その人形は背伸びをして、こっちに目をむけてきた。ちょこちょこと動き回る姿はちょっと愛らしかった。 「きみがキョンくんだね~?みくるからよっく話は聞いているよ~。ふーん。へえーっ。」 などと言ってきた。 俺は生きてるかのように話す人形のせいで固まってるし、朝比奈さんは真っ赤になって慌てていた。 俺の状態を把握したらしいその人形は、 「この姿に驚いているにょろ?みくる~、スモークチーズはあるかい?」 などと言い出すしまつだ。 ここでなぜ、スモークチーズなのか?夢をみているにしても意味不明だ。 しかも、朝比奈さんはポケットからスモークチーズを取り出して(持ってるんですか!?)人形に手渡していた。 人形の方もそれをかじってるし・・・そして、次の瞬間・・・ 目の前にいたのは、ポーチサイズの人形ではなく、かつてのハルヒ並みに腰まで届くきれいな髪をした女の人だった。 「自己紹介が遅れたね。あたしは鶴屋、みくると同じクラスなのさ。鶴にゃんと呼んでくれてもいいにょろよ?」 鶴屋さんは自己紹介をしてくれたわけだが、一番重要なことが欠けている気がする。つまり、自分は何者かってところだ。 「えっと、朝比奈さん・・・」 俺は助けを求めるように朝比奈さんの方をみる。 朝比奈さんは、何かを決心したかとような真剣な表情をしていた。 「キョンくん」 朝比奈さんの栗色の髪がふわりとゆれた。 「お話したいことがあります。」 小鹿のような瞳になにかを決意したようすが浮かんでいた。 「わたしはこの時代の人間ではありません。もっと未来から来ました。それに・・・普通の人間とも違います。」 桜の木の下のベンチに座り、朝比奈さんは語り始めた。かなり躊躇していたようで、鶴屋さんから、あたしが話そうか?といわれてはじめて口を開いた。 「歴史を改変してしまう可能性がありますから、わたしがいつの時代から来たのかをお話することはできません。ただ、わたしがこの時代に来た目的はお伝えできます。」 昨日に引き続きいろんなことが起こるものだとある意味関心していた。 ちなみに、鶴屋さんは俺たちからちょっと離れて、川で石投げをして遊んでいる。おっ、8回か。 「涼宮さんのことです。」 また、ハルヒか・・・ 「涼宮さんは時間の流れに影響を与えるほどの力を持っています。彼女の行動がわたしたちの未来に大きな影響を与えることがわかり、監視を行うことを決定し、わたしが派遣されてきました。」 つまり、未来からの監視役ってことか・・・信じられない話ではあるが、 「で、あの人は?」 俺はさっきから無邪気に遊んでいる人を指差して尋ねた。 「鶴屋さんはわたしのこっちに来てからの友人です。鶴屋家に代々伝わる人形に魂が宿った存在、『妖怪』ちゅるや人形が鶴屋さんの正体です。それ以上のことはわたしからはちょっと・・・」 また、『妖怪』かよ。 「あとは、あたしが補足するっさ。」 さっきまで離れた川面で遊んでいた人が目の前にいた。 「あたしたちもハルにゃんには注目していたのさ。まあ、あたしは『鶴屋家』の方が忙しいという事情もあったけど、なにより、みくるがハルにゃんに選ばれたので『鶴屋家』としてみくるに協力することにしたというわけ。」 鶴屋さんの家に朝比奈さんが下宿でもしているのだろうか?押入れの上段で寝ている朝比奈さんのイメージが・・・ 俺の勘違いを否定するように、鶴屋さんはやれやれと続けた。 「違うさ。『鶴屋家』はあたしたちの所属する妖怪ネットワークさ。」 まあ、鶴屋さんの説明を要約するとこうだ。 鶴屋さん自身は齢数百歳という古い人形に魂が宿った存在で、代々鶴屋というそれなりに知られた名家の主であり、かつ、この付近の妖怪を束ねる『鶴屋家』という妖怪集団(これをネットワークと呼んでいるらしい)のリーダーを務めている。 『鶴屋家』のような妖怪集団は各地にあるらしいが、『妖怪』には単独行動を好むものや対立するものもいるため全体像は不明らしいが。 『鶴屋家』の存在もあって比較的安定した状態だったこの街に降って沸いたのが、『涼宮ハルヒ』という存在。 それに対する各所からのアプローチに対応するのに『鶴屋家』が手一杯になっていたところに、未来から朝比奈さんがやってきたと。 朝比奈さんたちと自分たちの利害が一致したことから、同盟関係を結び、『鶴屋家』は朝比奈さんに協力しているというわけである。 「個人的にもみくるのことがめがっさ気に入ったというのが本当のところ。みくるは面白い子だからっさ。ハルにゃんもそれでみく るに目をつけたと思うにょろ。」 と鶴屋さんが屈託のない笑顔で付け加えたとき、朝比奈さんはちょっとはずかしそうにしていた。 「えっと、信じてもらえないでしょうね。こんなこと。」 鶴屋さんの説明が終わった後、朝比奈さんは川面を眺めながら、つぶやいた。 まあ、今目の前で起こったことは普通でないとは理解し始めていた。本当に『妖怪』とやらがいるということも納得しないといけないようだ。 しかし・・・ 「いや・・・でも、お二人は何で俺にそんな話をしたんですか?」 「あなたが涼宮さんに選ばれた人だからです。」 と俺の方に振り向いて朝比奈さんは真剣な表情で、 「さっきいったように未来のことを伝えるのは禁則事項だから、詳しくお教えすることはできません。でも、キョンくんは涼宮さんにとってとても重要な人なんです。」 「長門や古泉はどうなんです?」 たしか長門も自分は『妖怪』だといっていた・・・しかし、古泉はどうなんだ。あの人畜無害そうな笑顔が頭に浮かぶ。 「あの二人はあたしたちに近い存在っさ。正直、ハルにゃんがこれだけ的確にみくるたちを集めるとは思わなかったにょろ。」 「そうなんです。わたしも距離を置いて観察するつもりでした。まあ、『妖怪は妖怪と惹きあうもの』ですから。」 また、その発言か・・・あれ、そうすると・・・ 「おそらくハルヒにそのことを伝えるとかは禁則事項ってやつでしょうが、ひとつだけ教えてください、朝比奈さん。」 「はい・・・?」 「あなたの正体はなんですか?」 朝比奈さんは微笑んだ。いい笑顔だった。 「いまは・・・禁則事項です♪」 彼女はいたずらっぽく笑った。 そろそろ、駅前に戻ると正午になりそうな時間だった。鶴屋さんもついてくるというので、3人で駅前に向かうと、すでにハルヒたちが戻ってきていた。 「遅い!ってその人誰?」 ハルヒは文句を言いかけた後で、鶴屋さんに気づいたらしくそう問いただしてきた。 「えっと、わたしのクラスメイトで友人の鶴屋さんです。」 朝比奈さんが鶴屋さんを3人に紹介した。 「みくるちゃんの友達ね。よろしく、鶴屋さん。」 「よろしくっさ、ハルにゃん、あたしのことは鶴にゃんでいいにょろ?」 ハルヒはちょっと戸惑っていた。おそらく、先輩からこんな風に声をかけられたことはないんだろうな。 「えっと、鶴屋さん。あたし、名前言ってないけど・・・」 鶴屋さんはあだ名で呼んでもらえないことがちょっと不服そうだったけど、さすがに鶴屋さんの雰囲気は朝比奈さんと違って上級生っぽいというか、大人っぽいもので、さすがのハルヒでもちゃんづけで呼ぶのはためらわれたようだ。 「みくるからよーく話は聞いているっさ。こっちの眼鏡っ子が有希っこで、そっちが古泉くんだね。あっ、そうにょろ。みんなはご飯まだにょろ?」 鶴屋さんはハルヒにこれ以上問いただされないようになのか、上手に話を変えた。 「この近くに知り合いの店があるっさ。あたしのおごり。一緒にご飯たべるにょろ。」 「それはありがたいですね。どんなお店なのですか?」 これは古泉の発言である。ずっと、鶴屋さんを見つめていたが、惚れたか?古泉よ。 「ん~、なんでも大丈夫っさ。和洋中からタイ料理までこの辺にあるにょろ。」 さすがに驚いた。発言からすると、この付近の数店舗のお店が知り合いというか、おそらく鶴屋系列のお店なのだろう。 「じゃ、ご飯にしゅっぱーつ!」 団長の元気な言葉と共に、俺たちは鶴屋さんに案内されて、近くのイタリア料理店に向かった。 「おいしかったー♪学食とはえらい違いだったわね。」 3人前くらい食べた後、ジェラートをぱくつきながら、ハルヒは料理の感想述べている。よく入るな。ちなみに、長門とハルヒ二人で6人前を食べているわけで・・・鶴屋さんもちょっと驚いていたぞ。 「鶴屋さん、これ本当におごりで大丈夫なんですか?」 普通にパスタを堪能した後、コーヒーを飲みながら尋ねた。それなりに高級そうなお店だったし、全員で10人前食べたわけだ。福沢さん2枚でも足りそうにない。 「大丈夫っさ。」 鶴屋さんは軽くながした。さすがは鶴屋当主ってことなんだろうな。 「さて、午後の部を開始しましょう。鶴屋さんはどうするの?」 ハルヒは不思議探索とやらを、午後も続けるつもりらしかった。 「あたしは午後は予定があるっさ。だから、みくるのことよろしく頼んだよ。」 と言い残して、鶴屋さんは去っていった。『鶴屋家』が忙しいというのは本当らしい。 ちなみに、午後の部もくじ引きで班分けされたわけだが、今回は、俺と長門がペアで、もう一班はハルヒと朝比奈さん、古泉の3人となった。ハルヒが不満そうにくじを睨んでいたのも、出発前にデートじゃないと釘をさされたのも午前中とおなじだった。 ハルヒたち3人が出発した後、俺と長門が残された。 「・・・」 「どうする?」 長門は無言。 「・・・行くか。」 とりあえず、ハルヒたちと逆の方に歩きだす。長門も無言でついてきた。 「長門、昨日の話だけどな」 「なに?」 「信じざるを得ないような気がしてきた」 「そう」 長門と会話を試みるも、成功とはいえない状態が続いた。昨日の夜同様にいたたまれない沈黙が・・・ どこか時間をつぶせる場所はないかと脳内検索をかけると、昨日の長門の部屋を思い出した。こいつは部屋を本で埋めるくらいの本好きだ。ということは、図書館あたりにいけばいいかもしれない。 「長門、この街の図書館へ行ったことはあるか?」 「ない」 ちょっと意外ではあったが、好都合でもあったので、図書館へ向かうことにした。 図書館に来るのは久しぶりというか・・・小学生依頼だったかもしれない。以前の記憶よりかなりきれいになっていた。 館内に入ると長門は、夢遊病患者のようにふらふらと歩いていった。とりあえず、退屈することはないだろう。読み終わるのに数時間は軽くかかりそうな分厚い本を手に取って、立ち読みをはじめた長門の様子を見てから、俺は手ごろな本を一冊みつけて、席に座り読み始めた。 『おーともないせかいにー』 やばっ!本を読みながら寝ていたらしい。しかも、携帯をマナーモードにするのを忘れて・・・自分の携帯の着ウタが流れたのに気づき、大慌てで携帯を取り出す。周囲の迷惑そうな視線に目であやまり、携帯を受けられる場所に向かう。 「何やってんのこのバカ!」 ハルヒの声がこだました。おかげで目がはっきりと覚める。 「今何時だと思ってるの!」 時刻を確認すると、4時をまわっていた。 「すまん、寝過ごした。」 「はあ!?なにやってんのよ、このアホンダラゲ!」 「すぐ戻る」 「30秒以内にね」 「長門とはぐれたんだ。さがしてすぐ戻る。」 「はあ・・・一分待つわ。すぐ来なさい。」 長門とはぐれたと言った後、なぜかハルヒの声に安心したような感じが混じっていた気がしたが、気のせいだろうな。 その後が大変だった。 長門はさっきの場所にいたんだが、 「まだ、読み終わっていない。あと、352ページ。2時間39分で読み終わる。」 多いって!てか、閉館時間は5時だ。 「その本は貸し出し禁止じゃない。借りていけばいいだろ?」 「借りる?」 どうやら、図書館で本を借りた経験はないらしいので、大慌てで図書カードの作成手続きをして、本を借りて・・・ 駅前に戻ったときは4時30分になっていた。 その結果・・・おろおろする朝比奈さんと肩をすくめる古泉、そして、怒った顔のハルヒと合流し、 「遅刻!罰金!」 という託宣をいただいた次第である。財布が軽くなっていく・・・ 最後に、朝比奈さんから、 「今日はわたしたちの話を聞いてくれてありがとう。」 という言葉をいただいたのが、まあ、最大の戦果だな。 長門の 「ありがとう」 という声も聞こえた気がするが、小さい声だったのでほんとうにそういったのか自信はない。 月曜日・・・朝からハルヒは不機嫌だった。 まあ、さわらぬ神に祟り無しということで、その日は声をかけるのは避けた。俺も考えることが多かったからな。 放課後、ハルヒは掃除当番に当たっていたので、部室には、古泉と長門の二人だけだった。朝比奈さんも不在らしい。 さて、最後の一人か・・・こいつもなのだろうか? 「古泉、お前も俺に涼宮のことで話があるんじゃないのか?」 古泉の口元の笑みがほんの少し意味合いを変えた。 「お前も、ということは、すでにお二方からアプローチをうけているようですね。」 図書館で借りてきた本を読んでいる長門の方を一瞥して答えた。まるで、何でもわかっているような表情が気に入らない。 「場所を変えましょう。涼宮さんに聞かれてはまずいですからね。」 古泉と俺は食堂の屋外テーブルに自動販売機でコーヒーを買ってから向かった。コーヒーは古泉のおごりだ。 「どこまでご存知ですか?」 古泉はすべてお見通しというような笑顔で質問してきた。 普通に答えるのはしゃくだが・・・ 「涼宮がただものじゃないってことくらいだな。」 「それなら話は早い。その通りなのです。」 まあ、この返答は予想の範囲内だった。土曜日の会話でも人間は俺だけといわれていたからな。 「お前も『妖怪』とかいう存在なのか?」 「先に言わないで欲しいですね。それに、僕は人間ですよ。」 ほう、ちょっと意外だ。朝比奈さんたちの間違いだったのだろうか? 「ただし」 そうきたか。 「普通の人間か?と問われたら『いいえ』と答えないといけないでしょうね。」 「どういう意味だ。」 「そうですね・・・今の僕は超能力者ってことになると思います。」 超能力者か・・・たしかにハルヒの望みの中にもあった言葉だな。 「『妖怪』と無関係か?という問いにも『いいえ』と答えますよ。僕に超能力と呼ぶしかない力を与えている存在は、『妖怪』とでも呼ぶべきものですから。」 そこで『妖怪』なのかよ。 「本当はですね。この段階で接触する予定ではなかったんです。しかし、あのお二人がこうも簡単に涼宮ハルヒと結託するとは思わなかったもので、急遽転校してきたら、涼宮さんに捕獲されたという次第です。」 ハルヒが虫取り網で古泉を捕獲しているイメージが浮かんだ。 「僕の所属しているネットワーク『機関』は涼宮さんをずっと監視していました。距離を置いてですね。彼女の力は危険ですから。」 ストーカーかよ。 「我々も必死なんですよ。自覚されていないとはいえ『神』の力というのは危険きわまりないものですから・・・」 はあ? 「なんだ、その『神』の力というのは?」 「おや、まだ聞いていませんでしたか。涼宮さんに力を与えた存在、それは『神』という妖怪です。」 「・・・それは、貧乏神とか厄病神のたぐいか?」 古泉はやれやれという風に顔を横に振った。 「たしかに貧乏神という『妖怪』も存在しています。しかし、ここでいう『神』は違います。僕としては、それを『神』とは呼びたくないんですけどね。 しかし、それを表現する言葉は『神』しかないんですよ。数十億の人々がその存在を信じている唯一絶対の存在、それゆえに最強の存在だった『妖怪』・・・それが『神』です。」 とうとう、神様まで『妖怪』かよ? 「これは聞いていませんか?人がその存在を信じたら、『妖怪』が誕生すると。」 長門の本に書いてあった気がする。 「ならば、『神という妖怪』が誕生してもなんの不思議もないでしょう?」 ふむ 「しかし、涼宮に力を与えた存在は滅んだんじゃないのか?『神』は死んだとでもいうのか、ニーチェが言ったように?」 「僕自身は3年前のことには直接関わっていなかったので、これは『機関』の仲間からの受け売りですが、涼宮さんに力を与えた『神』というのは旧約聖書などの神が妖怪化したものだったそうです。旧約聖書を読んだことは?」 「ほとんどないな。アダムとイブとか、ノアの箱舟とかその程度の知識だ。」 「それならわかると思いますよ。ノアの箱舟で神は何をしましたか?」 まわりくどい言い方だな。こいつの癖なのだろう。 「雨を降らせて洪水を起こし、ノアの箱舟に乗ったもの以外を絶滅させただったかな。」 「ご名答です。ある意味残忍な殺戮者だと思いませんか?動物を含めて自分が選んだもの以外を絶滅させる。『神』とはそんな存在だったわけです。」 「まあ、物語の上ではそうだな。」 「そこが重要なのです。そのような『神』の実在を人類が信じたから、『神』はそのように妖怪化したのです。」 わかるようなわからないような話だ。 「しかし、その『神』は滅んだと・・・」 「その通りです。考えてもみてください。我々が今現在イメージしている神は、どのような存在でしょう?人類を殺戮し、選んだものだけを天国へ送り、自分に従わないものを地獄へ送る。そんな存在をイメージしていますか?あなたは望んでいますか?」 「少なくとも俺は望まないな。」 古泉はうなずくと話を続けた。 「そういうことです。その結果、『神』は二度目の滅びを迎えた。しかし、強大な力を持っていた『神』はその力をこの世界に不満をいだく誰かに託し、世界を破滅させる最後の賭に出たのです。そこで選ばれたのが・・・」 「涼宮というわけか・・・」 「そういうことです。」 いつもの笑顔で古泉はうなずいた。その目に真剣さが垣間見えた気がした。 「さっきお前は、長門と朝比奈さんが涼宮と結託するのが都合が悪いような言い方をしていたが、どういうことだ?」 「それも簡単にご理解いただけるかと思いますよ。核ミサイルをどこかの一ヶ国だけが持っている世界があったら、その世界はどれほど危険だと思いますか?」 強大な力をどこかが独占してはまずいということか。 「今は僕たちの『機関』も、『バロウズ』も、『鶴屋家』も比較的友好な関係を結んでいます。それ以上にたちの悪い存在があるものですから。」 「なんだ、『バロウズ』というのは?」 「ああ、それもご存知でなかったですか。3年前の『神』との戦いにおいて重要な役割を果たしたネットワークの後身にして、長門さんが属しているネットワークですよ。」 なるほど、長門のいっていた仲間たちか。 「僕としては一番不思議なのがあなたの存在なのです。」 「俺がか?」 「その通りです。僕たちの『機関』も『バロウズ』や『鶴屋家』、おそらく対立組織もですが、お互いの存在を調べようとやっきになっています。知っている分有利になりますからね。しかし、あなたはごく普通の人間です。これは僕たちが保障します。」 うれしいような微妙な気分だな。SOS団内では俺だけが普通の人間というわけか。普通なら逆なのだが・・・ 「そうではありません。『妖怪と妖怪は惹きあうもの』ですし、それは僕に力を与えている存在にしても同じです。しかし、あなたにはそんな存在は確認できない。それなのにSOS団にいて、しかも重要な存在となっている。これはちょっとした謎ですよ。」 たまたまってやつじゃないのか? 「神はサイコロを振らないといいますから。」 いやそれは否定されてるだろ。 「いずれにせよ、今お話したことは涼宮さんには話さないでください。まあ、話しても信じないとは思いますが、『神』は涼宮さんが間違ってもこの世界に満足してしまわないように、彼女の願望を実現しない、もしくは、実現していることを自覚させないという呪いをかけているらしいのです。」 やっかいなものだな。 「ふたつ質問していいか?」 「どうぞ」 「涼宮の力がそれほど危険なら、涼宮を消すとかという方向に流れてしまいそうなものだが・・・」 「そのような強硬意見や世界の破滅をむしろ望む存在もいます。しかし、それでは『神』のおもうつぼと僕たちは考えています。 涼宮さんは今は潜在的とはいえすさまじい力を秘めています。僕たちとしては、爆弾の解体に自信がない以上解体よりもその力が潜在状態で維持されることを望んでいるわけです。」 「ふたつ目だが、お前は超能力を持っているといったが、それなら、証拠をみせてみろよ。例えば、この冷めたコーヒーを温めるような。」 その問いも予想していたかのように古泉は肩をすくめてみせた。 「申し訳ありません。超能力者ではあるのですが、超能力の矛盾も同時に持ってしまっているのです。 観測条件下などでは超能力は使えないのです。例えば、ほら、そこの監視カメラとかね。 わずかでも超能力が記録に残る可能性のある場所では使えない。それが僕の超能力の欠点なのです。 僕に力を与えた存在がそのように生まれたためだと思われます。カメラ付き携帯電話には参りました。 おかげで超能力が使える場所なんてほとんどありませんから。」 しょうがないので、冷めたコーヒーをのどに流し込んだ。たしかに冷めたままだった。 「そうそう、『機関』でこの学校の監視を担当しているのは僕だけではありません。その人の能力ならお見せできますよ。」 ほう、みせてもらいたいものだ。 「それでは先に戻っていますね。多分、すぐにわかると思いますよ。」 特になにをするでもなく、古泉は部室の方へ歩き去っていった。何がわかるというのだ?と思いながら、紙コップをくずかごに捨てようとしたとき、紙コップがきれいに真っ二つになっていることに気づいた。 おいおい、なにがおこったんだ。カマイタチでもあるまいし・・・
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キャラ 肩くらいの黒鹿毛でかわいい顔立ち 私服は背伸びした感じ ちょっと控えめな性格 特に何が得意というわけでもない普通のミリオタ 身長145cmB78W55H79 黒ドレスな勝負服 芝C中C長D 逃げ9/先行9/差し11/追い込み12 ヒミツ 実は自撮りが好き ウマスタのフォロワーめっちゃおる 実は、将来はトレーナーになろうと志している ウマ娘トレーナーは大成しない…だがモモさんは違う!ギュッ if能力 指導93/運61/見る目94 2023/10/20追記 モモさんトレーナー奮闘記やりました。 化け物が生まれました。 → 一鬼当千の夢 モンダイブイ もう一回やりました GⅠは勝てなかったよ… →モバイルブルブル トレーナー 若く見える中堅くらいのいい感じのトレーナー33歳女子 指導83/運45見る目/70/実績61 気絶したり幼児退行したり愉快なひと サポカ SSR根性 テイオーと並んで接戦 スピードスターと回復系 スピボたけえ テイオーの柔軟性を真似しようとして足がつったりから回る ブンブクらしさを見せてよって言われるやつ SR賢さ 研究中に机でつっぷして居眠り 毛布かけてあげるブレス 中距離コーナー○くらいだけどスキルポイントが体感倍貯まる ルームメイト ダイナモブレス 努力と根性とライブ4時間遅らせたコンビ。 かわいい。 なかよし タキオン 研究仲間。互いの論文の内容で喧々諤々。 ☕<ショバ代をいつもどうも… キタちゃん テイオーつながりでパーティーだのなんだの 練習も見てあげてるみたい。 🍑<才能と体格に恵まれた子に理論与えて~! 概要 たぬき お前のような普通がいてたまるか。 モブウマ娘ダイス3人目のクラシック三冠達成者。 …おかしいな難易度は変わってない+菊花賞にテイオー出てくるというifの歴史すら乗り越えてくる。 走りながら戦術をコピーしたり、マックイーンとパーマーのフィジカルに押し負けたりとつじつまが合いやすいシナリオに驚いたね!名前とキャラと戦績が見事にはまった奇跡の子。 あとライブを4時間延期したコンビでダイナモブレスが同じ部屋なのもいいね。 ちっちゃくてかわいい部屋。戦績がかわいくない 次にやったマスチモブースターが3000逃げてケロッとしてたり逃げで再加速してエアシャカール突き放したりするフィジカルの天才な上に一緒に走らなくても見ただけでペーストとかわかる目の良さだったり記憶力だったり脳内仮想敵相手に練習できる天才肌だったのでよく比較されてのも面白い子。 モモさん横になりますね…。 戦績 メイクデビュー 1位(追い込み) 京都ジュニア 1位(差し) ホープフルステークス 2位(追い込み) 弥生賞 1位(追い込み5.5馬身) 皐月賞 1位(トウカイテイオー)(テイオーのマークから差し) 日本ダービー 1位(トウカイテイオー)(先行究極テイオーステップトレース) 京都大賞典 2位(メジロマックイーン)(追い込み) 菊花賞 1位(★トウカイテイオー)(マックイーンの真似した幻惑逃げ) 大阪杯 2位(トウカイテイオー)(追い込み究極じゃないテイオーステップ) 天皇賞春 3位(メジロマックイーン)(スタミナ勝負せず追い込み) 宝塚記念 3位(メジロパーマー)(焦らず追い込みしたが届かず) 京都大賞典 1位(追い込み) 天皇賞秋 1位(差し) 有馬記念 4位(メジロパーマー)(追い込み) 逃げ1回/先行1回/差し3回/追い込み9回 ダービーと菊花賞でしか前目のレースしてないのホントたぬき 主な勝利レース クラシック三冠 天皇賞秋 アオハル杯優勝チーム 【Maniac over basic】 ダート:モントブティック 短距離:モーニングブギウギ マイル:タマモブリオッシュ 中距離:ハナモモブンブク 長距離:モントブザー