約 2,018 件
https://w.atwiki.jp/boonshousetsu/pages/53.html
( A`)「いの、とは?」 (*゚ー゚)「維那は雲水の修行を監視し、作法を伝授する役職のことです」 (*゚ー゚)「皆の模範となる僧侶ですね」 (*゚ー゚)「その他にも挙経を務めたり……いろいろと気苦労が多いそうでして」 (*゚ー゚)「あ、挙経とは読経の際に唱え始めを任されることです」 (*゚ー゚)「六知事では四番目にあたりますよ」 ( A`)(風紀委員だな) ( A`)(それにしても風紀委員という言葉が醸し出すエロさは異常だ) ( A`)(生徒会と並んで何やってるか謎なのに異常にラノベ登場率の高い委員会) ( A`)(それが風紀委員) (*゚ー゚)「今は擬古和尚は単に向かってらっしゃるかと思いますが……」 ( A`)「つーことで禅堂にまでやってきたが……」 (*゚ー゚)「あ、いましたね」 (,,-Д-)「……」 (*゚ー゚)「申し訳ありませんが、少し声を落としてください」ボソッ ( A`)「なんでまた」 (*゚ー゚)「擬古和尚が瞑想に入られていますので邪魔をしてはいけません」 (,,-Д-)「……」 ( A`)「すげー、まったく動かない」 (*゚ー゚)「……本当は座禅を行う時間帯ではないのですが……」 ( A`)「じゃあなんで未だに続けてるんだ?」 (*゚ー゚)「擬古和尚は日の大半を座禅に費やすのです」 (*゚ー゚)「只管打坐、という言葉を知っていますか?」 ( A`)「舐めないでいただきたい。そのぐらいは学校で教わってるぞ」 (*゚ー゚)「あれは元来初心者向けの方便だったのですが……」 (*゚ー゚)「擬古和尚はまさしくそれなのです」 ( A`)「ちょっと待てよ、初心者向けなんだろ」 ( A`)「この寺のトップクラスがそんなことに執着する必要あるのか」 (*゚ー゚)「違うのです。擬古和尚はあくまで外面だけを捉えた時にそう映るだけなのですよ」 (*゚ー゚)「実際はもっと深い考えがあって座禅をしているのでしょう」 (*゚ー゚)「擬古和尚にとっての悟りとは『漸悟』……徐々に大悟に近づくことなのです」 (*゚ー゚)「積み重ねの中で答えを自ずから見出していく……」 (*゚ー゚)「譲留和尚とは、真逆、ですね」 ( A`)「なんかつかめてきたぞ」 ( A`)「あれだ、二人は仲がよろしくないんだろ」 (*゚ー゚)「まさしくその通りでして……」 (*゚ー゚)「お互いの悟りに対する認識の相違が大きな障害となっているのです」 (*゚ー゚)「噂では、雲水内で派閥にも別れているとか」 ( A`)「マジかよ……ドロドロしてんな」 ゴーンゴーン ( A`)「お、鐘が鳴った」 (*゚ー゚)「そろそろ食事の時間というわけです」 (,,゚Д゚)パチッ (*゚ー゚)「擬古和尚が目を開けました。くれぐれも粗相のないよう」 ( A`)「いっ、いきなりそんなことを言われてもだな、君ィ」 (,,゚Д゚)スタスタ ( A`)(や、や、やべぇ、近づいてきた。威圧感半端ない) ( A`)(しかしこの人もイケメンだな……譲留和尚とはタイプは違うが……) ( A`)(なんていうかワイルドだな……) (,,゚Д゚)「おい」 ( A`)「ひゃ、ひゃはあいっ!」ビクンッ (,,゚Д゚)「そなたではない。椎伊よ」 (*゚ー゚)「なんでございましょうか?」 (,,゚Д゚)「伴っているのは誰だ」 (*゚ー゚)「今日から修行道に入られる毒念さんです」 ( A`)「え、まあ、そういうことです……」 ( A`)(そのぐらい俺に直接尋ねたらいいだろ……)(,,゚Д゚)「そうか」 (*゚ー゚)「これからどちらへ?」 (,,゚Д゚)「決まっておる。薬石だ。昏鐘が聴こえたのでな」 (*゚ー゚)「左様ですか。では私も後で本堂に向かいます」 (,,゚Д゚)「うむ」スタスタ (*゚ー゚)「……行きましたよ」 ( A`)「あああああ緊張したああああああ」 ( A`)「あの人絶対俺とかいうどうしようもないゴミクズを受け入れてないよ……」 (*゚ー゚)「そんなことはないと思いますが」 ( A`)「いいやあの目は確実に畜生を見つめるような目だった」 (*゚ー゚)「そこまで卑下しなくても……」 (*゚ー゚)「あとは直歳と都寺ですね」 ( A`)「その前に椎伊は飯食いに行かないでいいのか?」 (*゚ー゚)「少し時間をずらします。諸梵和尚の言い付けなので」 ( A`)(ええ子や……) ( A`)(ケツがますます引き締まって見える……) (*゚ー゚)「廊下で薬石を頂きにいく僧とすれ違うと思いますが、会釈程度はお願いします」 ( A`)「会釈ね。そんぐらいなら……ん?」 ( ^ω^)「あ」 ( A`)「……」 ( A`)「……どうも」 ( ^ω^)「……どうも」 ( ^ω^)スタコラ ( A`)サッサ (*゚ー゚)「あの、蓬莱和尚となにか?」 ( A`)「……いや、別に」 (*゚ー゚)「そうですか。あっ、それより」 (*゚ー゚)「正面から直歳の兄蛇和尚が来ましたよ! 行きましょう!」タッタッ ( ´_ゝ`)「んー? なんだ椎伊じゃないか」 (*゚ー゚)「お勤めご苦労様です、兄蛇和尚」 ( ´_ゝ`)「いや大して仕事なんてなかったんだが……それよりそいつ誰よ?」 ( A`)「ど、どうも、本日から厄介になります毒念です」 (*゚ー゚)「兄蛇和尚は弟蛇和尚の実の兄です」 ( A`)「どうりで顔が似てると思ったら」 ( A`)(しかし弟蛇さんと比べたら筋肉質じゃないな) (*゚ー゚)「毘譜寺の直歳ですね」 (*゚ー゚)「直歳とは叢林、つまり僧たちが暮らすこの寺院の修理や整備を担当なさっています」 ( A`)「しっすいって名前の雰囲気はダントツかっこいいな」 (*゚ー゚)「六知事の一人ですね」 ( ´_ゝ`)「六知事といっても一番下だからな。そう他の雲水と変わらん」 (*゚ー゚)「それは自虐が過ぎます。兄蛇和尚のおかげで私たちは安心して暮らせてるんですから」 (*゚ー゚)「皆が皆感謝していますよ」 ( ´_ゝ`)「んなこたないよ」 ( ´_ゝ`)「それより飯だ。二人とも早いとこ本堂に行くぞ」 ( ´_ゝ`)「せっかく弟がうまい料理を作ってやってるんだからな」 (*゚ー゚)「毒念さんは入山前に昼食と同時にお召し上がりになっているそうなので」 ( ´_ゝ`)「じゃあ椎伊だけでいいや。行こ行こ」 (*゚ー゚)「いえ、まだ都寺の荒巻和尚に会っていませんから」 ( ´_ゝ`)「荒巻のおっさんはもう寝ちゃったよ。起きてたのは三時の茶礼までだった」 (*゚ー゚)「うう……なんとなく、予測はできていた事態ですが……」 ( ´_ゝ`)「んじゃ大人しく食事しとけ」 (*゚ー゚)「はあ……そうですね。そうさせていただきます」 (*゚ー゚)「それでは毒念様」 ( A`)「えっ? このタイミングで俺?」 (*゚ー゚)「私たちは本堂で薬石を頂いてきますので」 (*゚ー゚)「あとは解定……ええと消灯までの間ご自由になさってください」 ( A`)「急に言われても何すりゃいいのか」 (*゚ー゚)「せっかくですので単に上がってみてはいかがでしょう?」 ( A`)「一切の知識なしでやっていいのかよ……」 (*゚ー゚)「あくまでもひとつの案ですよ。本気になさらずにしてくださいな」 (*゚ー゚)「では、また明日の朝に」 ( ´_ゝ`)「あー今日は味噌汁の具がわかめだったらいいなー髪欲しいよなー」スタスタスタ ( A`)「……」 ( A`)「一人になった……」 ( A`)「さて……どうしようか」 ( A`)「手荷物とかもねぇし……運ぶものとか何もないな」 ( A`)「完全にゼロからのスタートなわけだ」 ( A`)「……んん?」 ( ^ω^)「!」ビクッ ( A`)「……」スタスタ ( ^ω^)「……」 ( A`)「蓬莱和尚」 ( ^ω^)「な、なんですかな? 毒念殿」 ( A`)「……ブーンでいいよな」 ( ^ω^)「そうしてくれお。そっちのほうが気が楽だお」 ( A`)「中学以来か」 ( ^ω^)「てかなんでドクオがこんなところにいるんだお」 ( A`)「こっちのセリフだろそりゃあ」 ( A`)「お前こそなんで寺なんかにいるんだ。頭丸めてよー」 ( ^ω^)「……出家したんだお。中学校卒業後」 ( A`)「そういやお前高校行かなかったんだよな」 ( ^ω^)「元々母子家庭だったし……それに母ちゃんも中二の時に死んだから」 ( ^ω^)「ハナから進学は諦めてたんだお」 ( A`)「だとしても仏教徒になるかねぇ。普通に働いたんでいいだろ」 ( ^ω^)「生活できるならどこでもよかったんだお」 ( ^ω^)「変にブラックな企業に勤めるぐらいなら寺のほうが安寧できるお」 ( ^ω^)「そっちこそどうなんだお」 ( ^ω^)「剃髪してないってことは僧になったというわけじゃなさそうだし」 ( A`)「いや、俺は……単に修行目的で」 ( ^ω^)「修行?」 ( A`)「俺高校出てから就職もせずブラブラしててさぁ」 ( A`)「四、五年ぐらいそうしてたらさすがに親もぶちきれて」 ( A`)「この腐った心身を叩き直すために寺に入れられたわけよ」 ( ^ω^)「戸塚ヨットスクール感覚かお」 ( A`)「みたいなもんだ」 ( ^ω^)「あれのせいで横浜市戸塚区がいわれのない中傷を受けたお」 ( A`)「まったくの無関係なのにな」 ( ^ω^)「何年寺にいるつもりなんだお」 ( A`)「一応、三年」 ( A`)「でもま、多分三年後には俺も出家の道を選んでると思うわ」 ( ^ω^)「なんでだお?」 ( A`)「だって現実世界に戻ったところで……」 ( A`)「学歴なし職歴なし資格なしの男にマトモな就職口なんてあるわけないだろ……」 ( ^ω^)「気が滅入る話はやめろ」 ( ^ω^)「まあ二十代半ばでの出家なら早いほうだお」 ( ^ω^)「決断としちゃあ悪くないと思うお」 ( A`)「本当か!」 ( ^ω^)「動機はともかくとして」 ( ^ω^)「十代で入山した人たちは僕始め数人いる」 ( ^ω^)「というか現在進行形でまだ十代の雲水もいるお」 ( ^ω^)「だけど大半は人生の途中でつまずいて最終手段として寺に来る人ばかりだお」 ( ^ω^)「いろんな人たちがやってくる。駆け込み寺とはよく言ったもんだお」 ( A`)「中卒のくせにずいぶんと客観的な視野を持ってんな」 ( ^ω^)「うるせえ」 ( ^ω^)「けど六知事の方々はさすがにエリート揃いだお」 ( ^ω^)「擬古和尚なんかはもっとも大悟に近い僧だと寺内じゃ評判だお」 ( A`)「諸梵和尚じゃないのか?」 ( ^ω^)「うちの管主は一番悟りから遠くにいる人だお」 ( ^ω^)「あの人はもう通り過ぎちゃったんだお」 ( ^ω^)「……とまあ、世間話はここまでにして」 ( ^ω^)「夕ごはん食べてくるお」 ( A`)「もう言っちゃうのか?」 ( A`)(久々に会えてちょっと嬉しかったんだけどな……) ( ^ω^)「腹は減るんだおこっちだって」 ( ^ω^)「大体お前口からニンニクの臭いがするんだお。挑発してんのかお」 ( A`)「シメに食べたガーリックステーキは最高でした」 ( ^ω^)「その想像だけで飯が食えそうだお」 ( A`)「でもよ、お前、中学時代より大分ガタイよくなってんじゃん」 ( A`)「肉や魚食ってないのになんでそんな筋肉付くんだよ」 ( ^ω^)「畑の肉を甘く見るなお」 ( ^ω^)「じゃっ、そういうことで」ピューッ ( A`)「行っちまった」 ( A`)「さーてと……」 ( A`)「ぶっちゃけ……寝るまでやることねぇよな……」 ( A`)「消灯は九時だったか……小学校三年生みたいなライフスタイルだ」 ( A`)「……」 ( A`)「……少し体でも動かすか」 ( A`)「せっかくの山なんだし斜面を上り下りしよう」 ( A`)「……」ザッザッ ( A`)「二往復でばてた……俺どんだけ足腰弱いんだよ……」 ( A`)「やめやめ。寝るまで時間を無駄遣いしてやる」 ~消灯後~ ( A`)「なんとなく流れで椎伊とブーンの間に布団を敷いてしまった」 ( ^ω^)「ぐごおおおおおおおおおがぎおおおおおあああああ」 ( A`)「こいつはもう寝てるし……」 ( A`)「しかし九時か……下の世界じゃまだまだガンガン目が覚めてる時間だぜ」 (*゚ー゚)「私たちは三時に起きてますから、もう眠くて仕方ありません……」 ( A`)「でもまだ袈裟を着たままの人がいるんだが」 (*゚ー゚)「あれは……ふわあ、夜座ですね。明かりを消した後も座禅を行うのです……」 ( A`)「殊勝な連中だな……」 (*゚ー゚)「私などはまだ不徳ですから……ふみゅ……そこまではできません……」 (*゚ー゚)「おやすみなさい……」Zzz... ( A`)「寝つき早っ! まあそんだけ疲れてるってことなんだろうけど」 ( A`)「俺もさっさと眠っちまおう」 ( A`)「三時起床なんてめざましテレビの大塚さんクラスの大業だ」 ( A`)「羊がいっぴーき羊がにひーき……ん?」 ( A`)「なんか……禅堂のほうから声がしてる?」 「伊陽よ、なぜ手を解かない。なぜ今更になって拒む必要がある」 「なりませぬ、和尚様。今宵は――いけませぬ」 「五濁悪世いかにして過ぐべき。暗い世に陽の光が不可欠なのだ。さあ」 「あっ……」 ( A`)(おっ、おい) ( A`)(これってあれじゃん) ( A`)(あれじゃん!) 「和尚様――」 「綺麗だ。もう何度触れたか知れぬ。しかし未だ飽くことを覚えず」 「いけません、いけません」 「だがこの身体の震えは拒絶ゆえではない……歓喜にむせび泣いておる。 声を――聴かせてほしい。拙僧の耳に届かせてくれ」 「ああっ」 ( A`)(やられてるのは……若い、いやむしろ、少年みたいな声だ) ( A`)(なんで甘美な嬌声……じゃなくて) ( A`)(え、なに、普通にホモがいるの、ここ?) 「これもっと肛門を気張らぬか!」 「ぬふうぬふう」 ( A`)(もう一組だと!?) ( A`)(声だけならまだ我慢できる……) ( A`)(しかし……ぐちゅぐちゅとかぬぷぬぷとかいう……) ( A`)(水気を含んだ効果音はやめろっ……!) ( A`)「くっ……」キョロキョロ ( A`)(……周りにいる奴は……気付いてるのか……狸寝入りか……) ( A`)(いずれにせよ……) 「ああ! 和尚様っ、そこは、なりません!」 「拙僧は、否拙僧とそなたは、今まさに流連の狭間に活命の息吹を実感しておるぞ――」 「おおこれはよい! 格段と圧が増した!」 「うほおおおおお!!」 ( A`)(この状況で……寝るのは無理……つーか怖い……) ~翌日、午前三時~ ゴーンゴーン ( A`)「うふふ……鐘が鳴ってますわ……」 (*゚ー゚)「ふわ~……むにゃん……あっ、毒念様、お早いですね」 (*゚ー゚)「つい先ほど暁鐘が鳴ったばかりですのに」 ( A`)「起きたというか寝てないというか……」 ( A`)「君のような純粋な少年には実に伝えにくい理由がありましてね」 (*゚ー゚)「はあ……ともかく、朝の粥まで少し時間があります」 (*゚ー゚)「私は朝課で少し用事がありますので」 (*゚ー゚)「粥座の後で荒巻和尚の元に参りましょう。あのお方は朝はお元気ですよ」 ( A`)「あ、ああ、了解」 ( A`)「……」 ( A`)「さて……約一名を除き全員起床して朝の務めに向かったようだが」 ( A`)「おい」 ( ^ω^)「ぐーすかー」 ( A`)「とっくに分かってんだぞ。ブーン起きてんだろ、おい」 ( ^ω^)「……なんだお」 ( A`)「ちょいとばかり質問がある」 ( A`)「昨夜……禅堂の方向から怪しげな声がしていてだな……」 ( ^ω^)「正直僕もあの気持ち悪い声で軽く目が覚めたお」 ( A`)「あれは完全に男同士……ホモセックスを行っていたんだが……」 ( ^ω^)「……まさかこんなに早くこの寺の暗部を知られるとは……」 ( A`)「待て、聞き捨てならんぞ。暗部とはどういうことだ」 ( ^ω^)「ドクオ」 ( A`)「なんだよ話遮りやがって」 ( ^ω^)「衆道って聞いたことあるかお」 ( A`)「んー、完全無知」 ( ^ω^)「 1に目を通してみ」 ( A`)「ほほーうなるほどな……ん?」 ( A`)「ってことはつまり……」 ( ^ω^)「そう、ドクオが今考えている通りだお」 ( ^ω^)「この寺は昔の様式が保存されたままでいる……」 ( ^ω^)「衆道文化も残ってるんだお」 ( A`)「……ここの仏僧たちは全員知ってるのか?」 ( ^ω^)「おそらくは、ほとんどが」 ( ^ω^)「そして知っててみんなスルーしてるんだお」 ( ^ω^)「関わりたくないから」 ( A`)「まあ自分に矛先が向いた時の恐怖は計り知れないからな」 ( ^ω^)「そもそも衆道自体が禅宗とは切っても切れぬ関係……」 ( ^ω^)「禁欲生活において一番困難を極めるのが性欲の抑制だお」 ( A`)「確かにな」 ( A`)「私もそれが最大にして最強の壁であると認識しております」 ( ^ω^)「寺院で稚児を飼っていたのは少年を女の代替品にするためだったとも言われてるお」 ( A`)「うへあ」 ( ^ω^)「精進料理で腥が禁じられてる理由を知ってるかお?」 ( A`)「そりゃあれだろ、殺生はダメとかそういう」 ( ^ω^)「表向きはそうだお」 ( A`)「違うのか?」 ( ^ω^)「仮にそんな所以ならニラやニンニクまで禁止にしないお」 ( ^ω^)「そもそも植物にも生命は宿ってるお」 ( A`)「やけにもったいぶるな」 ( A`)「じゃあなんなんだよ。納得のいく答えじゃないと二度寝しちゃうぞ」 ( ^ω^)「一番の目的は性欲を抑えつけるためだという説があるお」 ( A`)「ああ……香りの強い食い物もアウトなのはそういうことか」 ( ^ω^)「あの手の野菜は精力が無駄についてしまうお」 前へ 戻る 次へ 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/touhourowa/pages/204.html
驟雨の死骸と腹の中、それでも太陽信じてる。(前編) ◆BmrsvDTOHo ひたひたと湿り気を帯びた地面を踏みしめる音が辺りに響く。 例えこの近くに多くの参加者が居ようとも、僅かなその音を聞き取るのは至難であろう。 抜き足差し足忍び足といった言葉で表すのが最も適した歩き方であった。 特段行動に理由があるわけでもない、が強いて言うなら急ぐ必要がもうなくなったからとでも言うべきか。 元々倫理や淑徳に基づいた行動を取る事自体このゲームではバカげたものであったと悟っており 協調や同盟、結託や親しげな言動などは相手を見極める何の基準にもならないのだ。 現に私がその教科書的存在となっている、自らを嘲笑する気さえ起こらない。 故に道に背いた行動を執るたる理由となるのだ。 今から向かおうとしている館は以往聞いた話に拠ると吸血鬼の館らしいが。 そもそもこの幻想郷の多種多様な妖怪の中であのように個を発揮出来る種というのは稀だ。 未確認の妖怪を含めてもそれらは大多数に分類され、名を持つ事すら許されてはいないのだ。 やはりそうなると個を発揮出来る妖怪イコール、力を持つ妖怪と言う事になるのだろう。 しかし力を持つ妖怪となると多くは尊大で傲慢、傍若無人唯我独尊。 寧ろ安定した世界に仕上がっていることの方が驚きだ。 いくら人間と妖怪の決闘用ルール、スペルカードシステムがあるとは言っても 強大な力は持っていて嬉しい只のコレクションではない、全力で使用出来ないとあれば鬱憤も溜まる。 皆誤魔化されているのだ、人間側に。 とは言えあの平和が嫌いだったわけではない、たまに地上に遊び出ては神社の縁側で地上の太陽の下過ごす事は大好きだ。 そんな平素な毎日を過ごしながらも適度な刺激がある。 スペルカードの芸術性や難度を高めようとあの手この手で四苦八苦して考え出し 同じく全力で向かってくる相手に攻略されようと、撃破しようともお互いに残る爽快感。 この世で最も無駄なゲーム、もといスポーツとも言えるだろうか。 森が開け、目の前に大きな門戸が現れた。 しんと静まり返った紅い館の中に人妖の気配は感じられない、レーダーにも反応なし。 尤もあたいの勘はこの中に何かある、とビンビン告げている。 まぁ成り行きで戦いに巻き込まれたとしても負ける気なんてしない、なんたってあたいは無敵なんだから。 「おっじゃましまーす。」 悪趣味な紅い扉に付けられた金ピカの取手……の残骸を捻り、悪魔の巣へと踏み入る、たとえ壊れていようと礼儀は忘れない。 物音一つしない広大な館内は屋外よりも余計不気味に感じられる。 ちょいと見回してみると家具やその他で構成されていたと見られるバリケードの残骸。 なんだいなんだい、後片付けはきちんとしなきゃいけないものなんだよ? そして高貴な館には似つかわしくない不浄の臭いが充満していた。 滾りそそられる血の臭い。 その発生源と思わしきモノがエントランスの片隅に鎮座していた。 これはお空に力を与えた神様だったかね?うろ覚えだからあってるかわかんないけど。 後数日間放置し続ければ、汚水と腐肉と小蝿の三つに分化されるだろう。 そういった死体が嫌いなわけではない、あたいは平等主義者なのだ。 だが原型を留めておらず腐敗臭漂うモノを保存するのには手間がかかる。 少々気が引けるが死体に手を当て会話を試みる。 湖で拾ったお姉さんで試して分かっていることだが雑駁な念くらいは読み取る事が出来る。 この神様は……いいねぇ悔恨と未練に満ち溢れてる。 普段ならこういった魂が此の世を怨み怨霊となるんだけど……。 神様の怨霊なんて心躍るようだよ。 剣はまだまだ使えそうだね、かなりの業物だとあたいの勘が言っている。 血塗られた怨念の篭った凶刃なんて強靭な狂人にぴったりじゃないか。 神様はやはりあたいを見放してはいないみたいだね、天からの贈り物と思ってありがたく頂いておこう。 脇に転がっている神様のスキマ袋と正体不明の袋をおもむろに手に取りとりあえず肩にかけて置く、大量大量~。 この死体……はどうしようか、一通り館内を探索してからでも良いかな? んーとでも優勝者は一人だけだっけ。 それならあたい以外は全員死体になるんだよね? ならここに置いておいても問題はないかも。 追って考えるとしますか。 紅い絨毯が敷き詰められた奥が暗む程の長い廊下を渡っていた時の事。 T字路の曲がり角に差し掛かった時、不意に何かが光った。 注意深く近寄り指で触れてみるとピンと緊張しているピアノ線だった。 気づかないで通り過ぎようとしていれば死にはしないだろうが、多くの裂傷を負っていただろう。 やっぱり悪魔の巣と言うだけありトラップに関しても非道なモノが多いのかねぇ。 一先ず進路妨害となり得る其れを鉄の輪で切断し危険を排除する。 奥に位置していた二階へ向かうであろう細い階段を昇り、フラリフラリと気の向くまま歩いて行った先に 一部屋だけ扉が開け放たれた部屋が見えた。 中に居たのは見知った顔の死体、土蜘蛛のヤマメ。 明るく快活な少女で会話も上手く、話しているだけで心は弾み自然と笑みが零れる。 稲穂の様に金色に輝いていた髪は赤黒い血で目玉同様最早その輝きを失っており。 くりくりとした円らな瞳の片方は所定の位置から零れ落ちている。 嗚呼あたいと同じ境遇の者と引き合わせるなんて神様は皮肉な悪戯をするもんだねぇ。 でも大きな違いがある、ヤマメは死んでいてあたいはこうして生きている。 これが格の違いってやつかね、妖怪としての。 燐の手が徐々に損傷のない目へと伸びていく。 触れるか触れないかの位置でその手は止まった、手は握っては閉じてを繰り返している。 一瞬の出来事であった、鋭利で冷たい爪と細く滑らかな指とがヤマメの眼を抉り取った。 力任せにその神経を引き千切ると燐はその白い掌の中で目玉をコロコロと転がした。 白の領域を赤が見る見るうちに侵蝕し不気味なパターンを作り上げている。 ソレを今は無き右目の前に持ってきて、その様子を左目でまじまじと観察。 未だに血の滴るソレを自らの右目眼窩に押し込もうとしていた。 当然ながら填まるはずもないのだが、狂者はそんな常識を持ち合わせていない。 そのまま眼は掌から転げ落ち、地面に音を立て着地した。 残った目も頂いて有効活用してやろうと思ったけど、たとえ填まろうと無くなったモノが戻るわけでもない。 リタイアした弱いあなたにこの先を見る資格はないわ、閲覧禁止なの残念ながら。 これ以上は勝利者の特権ってものなの、さっきからあなたの後ろに居る と同じ様に暗闇にいらっしゃい、お帰りなさい? 足を振り上げ靴の底で転がっているソレを踏みつけると水っぽい音と共に液体ともつかぬ物が飛び散った。 全て片付け終わったらコレクションに加えてあげるからそれまで待っていてね、ヤマメ。 かんと静まり返った室内、両目の無い亡骸がそこには残されていた。 他に何かないものかと部屋を出て探索していると一際大きな扉に豪華絢爛な装飾が施されたドアノブが見つかった。 恐らく、というよりも先ず間違いなく館主の部屋であろう。 この悪趣味な館の館主の面を拝んでみたいという気もする、当たり前だが現在不在のようである。 一応作法としてノックを三回した後返事が無いのを確認しその扉を開く。 整然と並べられた家具は素人目で見ても一線を画しているのが分かる。 天蓋付のベッドのサイドテーブルには紅茶とそれの共として茶菓子が並べられていた。 淹れたてなのかその紅茶からはまだ湯気が立ち上っていて辺りには芳ばしい匂いが漂っていた。 こういう厚意は有難く頂くモノよね、と燐はそのカップを手に取るとその味と匂いを楽しみつつ館主のため用意されたそれらを戴いた。 「ごちそーさまでした。」 軽食ではあるが約一日ぶりのマトモな食事、思えばタラの芽だってまともに食べられなかった。 あの場で得たものは悪意により押し付けられた疑惑のみだしね。 いや、でも自分に素直になる事に気づけたのだから感謝するべきなのかね? どちらにせよあの兎さんとはもう一度あって話をしてみたいものだ。 粗方の探索を終えたので再びエントランスロビーに戻ろうと歩を進めていた すると開け放たれた玄関扉の方からノイズ混じりの声が聞こえてきた。 どうやら再び主催者からの放送があるらしい、情報は生命線となり得るもの、聞き逃すわけにはいかない。 ………… ……… …… … では、次の放送を聴けるようにがんばりなさい」 ザザッという音と共に放送は途切れた。 今時までの死者は六名で生存者が34名。 うーんペースは落ちているけどいいねぇ、順調に潰し合ってくれている。 全員を手に掛けるよりも数が減った後刈る方が手間も少なくて済む。 あたい好みの死体に仕上げることが出来ないのは残念だけど……。 地図を引っ張り出し制限区域に当たる場所に該当する時間を書き込んでおく、これで失念しても安心。 さて、とこれでこの館にはもう用はないわね、収穫祭でも開いて小躍りしたいくらいの収穫量になっちゃった。 燐は再びその斜めに切り裂かれた紅の扉を押し開けると後ろ手で静かに閉じた。 再び外の明るい日差しに照らされ、暗い館内に慣れていた目を思わず細める。 前方に見える霧の湖に掛かっていた濃霧は徐々に晴れてきている。 これからどうしようか、特に宛ては無かった。 云々唸って考えていたが、ふとそこである事を思い出した。 さっきまで神様の御加護を受けていたのだから今回もそれに肖って見よう、と。 何を思ったか燐は紅魔館で手に入れた緋想の剣を前方に放り投げた。 空中をクルクルと回転し地面に音を立て倒れたそれは南を指し示していた。 「じゃあ南下ルートに決定ー」 木の棒程度の扱いをした緋想の剣を拾い上げ、再びその霧の中へ向け燐は歩き出した。 再び紅の館に静寂が訪れた。 建物も殆ど見あたら無い、畑と雑草で構成されるだだっ広い平野を奇妙な三人組が歩いていた。 一人は氷の妖精チルノ、容姿こそ幼く小柄だがその力は妖精として分類される中では上位に位置する。 背中に生える見事な氷の羽はそれだけでも一見の価値はある。 一際体躯の大きい霊烏路 空、胸に妖しく輝く眼は八咫烏の力、核の力を象徴している。 大きな大きなその黒い羽は他の地獄烏とは比べ物にならない程硬く美しい艶を持っていた。 そして新たに出会った人形妖怪、メディスン・メランコリー。 倒れているメディスンに気づかずに踏みつけるという異色の邂逅を果たした後 お互いに簡素な自己紹介をした。 毒を操る事の出来る妖怪らしい、なんとも物騒な話だが私に敵うとは思えない。 聞けばメディスンは鈴蘭畑で気を失った後目覚めた、がそこに私達が降って来て今に至る、と……。 「それで、チルノこの方角で合ってるの?」 空は先陣を切ってずんずんと進んで行っている小さな背中に声を掛ける。 「さぁ?でも私の勘は良く当たるのよ!」 予想通り、と言えば予想通りの答えが返ってきた。 猪突猛進を体現した様な言動と行動。 「勘、ってあんたね……。」 呆れと憐みの混じった溜息が無意識に口から漏れる。 だが私も別に目的地となる方角を知っているわけでもない、一先ずはチルノに任せておこうか。 となると私の興味の対象は横で縮こまっているメディスンへと移った。 自己紹介だけでは内面までは知る事が出来ない。 まずは対話とスキンシップから、徐々に解していこう。 「あなたは、普段その鈴蘭畑からは出ないの?」 相手の身の回りの事は話題とし易い、当たり障りのなさそうな所から振ってみる。 「うん、人間どころか妖怪も近寄りたがらない程の猛毒の花だから、私自身も毒を振りまいちゃうし……。」 「そうなの……。」 一気に場の空気が重くなってしまった、これは失敗だったようだ。 うーん、やっぱり私、口はあまり上手くないなあ、こういう場合お燐なら幾らでも喋れるんだろうけど。 これ以上続けられる気もしないので、実直な話題を振る。 「メディスン、あなたはこの後どうしたい?」 出来るだけ怯えさせない様に目線の高さを合わせ優しく語りかけたつもりではあったが 突然核心に当たる話を振ったからかその小さな肩と金色の髪がビクッと揺れ動いた。 やはり独特な体徴が威圧的な雰囲気を醸し出してしまうのだろうか。 「わ……私良くわからないの、何でここに居るのかも何故こんな事になっているのかも……。」 声が微かに震えている、そんなに私が怖いのかと思うと少し気落ちする。 「私だって分からないわ、でも動かないわけにはいかないみたいなの。」 先刻の首輪騒動の件を頭に思い浮かべ空はそう述べる、あれは危なかった。 開始時の殺人劇は見ていて非常に腹立たしいものだった。 あのムカつく奴の衒った顔に一発拳を叩き込んでやらないとこの腹立ちは収まらない。 「でも、一人よりも二人、二人よりも三人で居た方が心強い。」 「だから私達と一緒に来てくれる?」 心からの考え、いくら最強と言っても一人では心寂しいモノがある。 霧の湖に着いた後どうするかなんて考えていない。 チルノは何事も無く遊べるとでも考えているのだろうか、この会場に満ちる空気は何か変だ。 メディスンだって放っておけば萎びてしまいそうなくらいか細く健気だ。 「うん……。」 「そう、ありがとう。」 弱弱しいながらも頷きを返したメディスンに対しニコりと微笑みかける。 対してぎこちない笑みがメディスンから返って来た事に安堵する。 メディスンの行動範囲である無明の塚は瘴気に満ち溢れている。 人間が其処に訪れない理由は勿論妖怪が多い事もあるがその毒気にやられてしまうからだ。 そんな事と未だ妖怪となって間もない事からメディスンは感情の享受経験に欠けていた。 メディスンは人間を忌み嫌い、人間はメディスンを忌み嫌う。 本来ならばそれで何の問題も無い関係である。 新米妖怪にとって人間に関しての知識に疎い事の危険性を知る術は無かった。 か弱いからこそ知恵を付け、文明を作り出し、豊かな感情を持っているのだ。 その刺激は個々を尊重する妖怪にとって耐性が必要なものだった。 投げ掛けられたお空の曇り無い微笑みは、殊の外新鮮であり眩しいものであった。 悪意や嫉み恐怖といった感情には慣れていたが善意や親しみなど友好的な感情を受け取るのは初めて。 経験した事のない衝撃がメディスンの中に生まれるのはごく自然な事だ。 メディスンにその心が惹かれる感覚が他者に対する興味という感情と知る由はない。 僅かながら乾いた空気と溝が埋まった気がした。 「あ、なんか聞こえる。」 チルノが思い出したように喋り始めた。 確かにブツッという音が断片的に聞こえる。 「--------------皆様、お体の具合はいかかで?……」 周囲に耳障りなノイズと共に声が聞こえてきた。 間違いない、あの開始時に澄まして喋っていた主催者の声だ。 相変わらず偉そうに高説を垂れている。 が、途中で気になる単語が出てきた、第一回放送という。 寝ている間に聞き逃したのだろう、まあどうでもいいか。 その後淡々と名前が読み上げられていく、死んでリタイアした者達ってどういう事?まさかとは思うけど……。 入ると首輪が爆発する禁止エリアも発表されている、どうやら時間によって増えて行くみたいね。 「………では、次の放送を聴けるようにがんばりなさい」 始まりと同じくノイズが入った後放送がブツりと途切れる。 「チルノ、今の放送聞いてた?」 どこか上の空の様子のチルノに念のため尋ねてみる。 「あーもう!何であんな遠まわしな言い方するのさ、分かりにくいじゃない!」 どうやら彼女なりに必死に内容を理解しようと奮闘していたようだ。 私だって頭の良いほうではないがそれでもなんとか理解出来た、その内理解するだろうから放っておこう。 メディスンに視線を向けると再び怯えた様子が見て取れる、殺し合い等の物騒な単語が出てきたからだろうか。 私だって驚いている、未だ半信半疑ではあるが何か引っかかる。 幸いにも今読み上げられた名前の中にさとり様、こいし様、お燐の名は無かった。 万が一、という事もある、死者の名前として読み上げられるなんて縁起でもない。 チルノが先陣、お空とメディスンがその後ろに付く形で何も無い平野を進んで行く。 非常に不安ではあるがとりあえず任せてみようと結論付けたのだ。 何処で拾ったのか木の棒をブンブンと振り回しながら妖精の勘とやらに頼って道を決めている。 それに頼るしかないと言うのも情けない話ではあるが地上に出て間もない私にこの辺りの地理は分からない。 左手には脈々とそびえる山々が見える、地霊殿に居た頃には見られなかった地上特有の風景だ。 雄雄しく連なっているそれらは八咫烏様には敵わないものの力強く美しかった。 胸に植え付けられた八咫烏様の眼がギロリとこちらを睨んだ気がした、迂闊に褒める物ではない。 「お、前から誰来てる。」 先頭を切っていたチルノが声を上げる。 確かに豆粒程の人影がこちらに向かって歩いて来ているのが見て取れる。 だが“居る”事が分かるだけで身形までは良く見えない、何故か既視感に襲われた。 ともあれ此れだけ歩いて殆ど人妖と遭遇しなかっただけにその影に安堵感を覚えたのも確かだった。 万が一これが本当の殺し合いであった場合不用意に近づくのは頷けない。 さてどうしたものか……避けるべきか。 「ちょっとあたいがひとっ飛びして誰か確認してくる!」 「あ、こら!」 止める間もなくチルノはひとっ飛び……もとい走り出していってしまった。 慌てて私とメディスンも後ろを追いかける、がチルノは意外と早かった。 数十メートル前を走っているチルノを只管追いかける。 これだからチビっ子は困るんだ……。 横を走っていたメディスンが徐々に疲れてきたようなのでひょいと担ぐと二人で追いかける。 軽い少女一人加わった程度で八咫烏様の力を得た私の疲労は変わらないのよ。 と、その時地の先からチルノの叫び声が聞こえてきた。 張り上げられたその威勢の良い声は数十メートル近く開いたこの場所にまで聞こえる。 「やいやいそこのお前!あたいの事を無視するなんて何者だ!」 ……どうやら無視されて怒っているらしい、相手にするのも億劫なのかチルノにクルりと背を向けている。 「……良い度胸ね!このチルノ様をここまで一貫して無視するとは。」 手に氷塊を出したと思うと徐にその“影”に走り出した。 殴りかかるつもりなのかぶつけるつもりなのか分からないが、誰であろうと手を出して良い結果が得られるはずもない。 攻撃即ち宣戦布告と取られて当然、別に負ける気なんてこれっぽっちもしないが出来れば避けておきたい。 「馬鹿!チルノ攻撃するな!」 チルノが走りながらこちらをクルリと振り返ったと思うとまた声を張り上げた。 前方不注意はいつ何時も危険なものである。 たとえそれが歩行中であっても足元には気をつけるべきなのだ。 走行中であるならばなおさらの事注意すべきだ。 「馬鹿って言うなこのb……」 フベッ!という小気味の良い声と共に小さな人影が地にキスをした。 見事顔面から行った、痛いってもんじゃないだろう。 しかしそれが僥倖となるなんて誰が想像しただろうか。 その僅か数十cm上、空を切り裂く音と共に橙色の刀身を持った緋想の剣が空振った。 もし転倒していなければ悪意と血がこびり付いたその剣がチルノの胴を無残に引き裂いていた。 そして、剣を振るっているのは紅いみつあみの髪、猫の耳を持った少女は見間違えるはずも無く。 「あれっ外した?」 お燐だった。 見知った顔である筈の面持ちは大きく変容していた。 ここまで心から楽しそうなお燐はそう見たことは無い。 身体はその表情に反するかのように酷く痛めつけられていた。 片目が無いのだ、血が赤黒くこびりついている。 服にも紅い飛沫が飛び散りその異様さを引き立てていた。 まさかあれはその手に掛けた者の……。 あんなにも優しかったお燐が何故? 何故チルノを殺そうとした? 振るう剣に一瞬の迷いも見られなかった。 錯乱しているのか? そうだ、錯乱しているに違いない。 あんな優しかったお燐が自ら人を殺せるはずがない。 ここは一度退くしか……話を聞いてくれる状態でもなさそうだ。 何より、この二人は関係ない。 「…って痛いじゃないのさ!お空がいきなり叫ぶから転んじゃったじゃないの!」 地面にへばり付いていたチルノがむくりと起き上がり喚いた。 ……その時には既に目の前に燃え盛る火の玉が迫っていた。 轟々と音を立てて迫り来るソレを見てチルノはほぼ反射的に屈んでいた。 屈まなかったら蒸発する、と野生の勘が告げていた。 必死に手を頭に遣り震えている事しか出来なかった。 ふむ、やはり神様は奇妙な巡り合わせを好むみたいだね。 先刻の片目を欠いたヤマメの死体との邂逅やら今回のコレやら。 目の前にいた馬鹿な氷精はどうでも良い。 燐の興味は格下の妖精には向いてはいなかった。 まさかこんなに早く地霊殿の仲間と遭遇するなんてね。 それで、どうすればいいんだっけ?あったら。 ころすんだったっけ? どうせなかまになってもろくなことがないのはもう経験ずみだ。 痛みはすくないにこしたことはない、あたいだっていたいのはいやだし。 じゃあとっとと三人ともかたづけてつぎへ。 そういえば太陽をたべたけものがいたっけ、あまぐも?なんかちがうなぁ。 さとりさまはよわいひとだ、あたいがさがしてまもってあげないと? ずっとずっとそばにおいてあげないとふあんでしょうがない。 だから……。 お空がその制御棒を此方に向け弾幕を放ってきた。 だがその弾幕は明らかに手心の篭った一撃、何時もの勢いなんてあったもんじゃない。 あ、でも制限が加わっているのに気づいてないのかな? ともあれ力の配分を間違っているのは確かだ。 「こんな大振りな弾幕あたりゃしないよ~」 視界を覆うほどの大きさで相変わらず馬鹿げた威力だが直線的すぎるその大玉は横に一歩避けるだけで済んだ。 直情馬鹿、の一言で片付けるには反則的な力。 「そんなんじゃウォームアップにもならないよ。」 大玉を避け視界が開けた途端、お空の姿が目の前に飛び込んできた。 始めからその弾幕はフェイク。 その注意を弾幕に引きつけると共に、視界を遮り接近そして……。 「っっ!」 支給品を沸かしたお湯をお燐に向け投げつけた。 灼熱地獄の業火に慣れているとは言え煮えたぎったお湯を体にかけられれば怯みが生じる。 地面を転がりその熱さに悶えるお燐。 痛覚はなくとも熱さは感じる。 その間僅か一分にも満たない時間。 燐に掛かったお湯がその熱さを無くし、冷静さを取り戻すのに払った代償はお空達の逃走だった。 むくりと起き上がった燐は周囲をキョロキョロと見回す。 遥か遠くに豆粒大の影。 別に逃がしても良い、だがお空を他の誰かに殺されたくは無い。 と言うよりもきにくわない。 親友なのだ、あたい好みのしたいにしあげたい。 あたいだけのおくうにしてあげる。 コレクションにすればずっといっしょ。 えいえんにいっしょ、おくうと。 お燐の事だ、手加減した火球が直撃しようとあの程度の熱湯を掛けようと火傷なんて負わないだろう。 それでも隙を生み出すには十分だった、小さな仲間を二人小脇に抱えてお空は山中を駆けていた。 何であんな風になってしまったのよ……お燐。 「……なしなさいよ!放しなさいよ!」 チルノが騒いでいる、焦って抱えたためその顔は進行方向と逆を向いている。 「何で逃げたのさ!お空の弱虫!」 妖精には場の空気が読めないのか、或いは単にチルノの性情のせいなのか、単に後者だろう。 明らかに様子のおかしい空に向かい不躾な言葉をぶつけていた。 お空は何も答えない、唇を噛み締め苦い表情をしていた。 暫し駆けた後、道半ばで急に止まった。 地に二人を下ろしその頭をわしゃわしゃと撫でる。 「二人はこのまま真っ直ぐ南に下りて麓で待っていてくれる?」 「私は……お燐と話をして来なきゃいけないから。」 いつに無く真剣な表情でお空が二人に語りかける。 そうだ、私はあの子を止めなければならない義務がある。 嘗て自分が増長しすぎた時に怨霊を地上に送るというリスクを背負ってまで私を止めてくれたお燐。 その恩を返す時が今なのだろう、出来ればこんな悲しい機会で返したくは無かった。 「あたいも付いて行く!お空だけに良い格好させるもんか!」 ここで退けばまたお空に負けた様な気がしてくる。 お空への憧れと同時にプライドの高いチルノは置いてきぼりにされる事に強い対抗感を覚えていた。 暫しの沈黙の後お空が宥めるかの様にチルノに語りかけた。 「チルノ。」 「これは私達二人の問題、だから。」 「う……。」 瞳に宿った決意は妖精であるチルノや妖怪に成り立てのメディスンにも読み取れるほど強く真っ直ぐなモノだった。 そこに水を注せる雰囲気は無く、ただ頷く事しか二人には出来なかった。 「ありがとう……。」 そう言い残し背中を向け来た道を引き返していく姿は風前の灯の様に儚げだった。 どこか物寂しげな、哀愁を漂わせるその背中。 「お空!」 その背中に向けチルノが声を振り絞り叫ぶ。 「絶対戻ってくるよね?」 何故か言わなければ二度と会えないような気がして。 呼びかけに歩みを止めたお空はその右手を上に挙げ返答すると今度こそ行ってしまった。 その後ろ姿を見送った後、残されたメディスンとチルノは只管麓を目指し下って行った。 会話も無く二人とも言い表せない不安とそれを伝える事の出来ないもどかしさを抱えたまま。 上空に燦燦と輝く太陽とは裏腹に二人の頭の中には灰色の雲が掛かっていた。 振り払っても振り払っても払拭しきれないその不安は徐々に大きく育っていく。 地面に残された足跡を辿り燐は山中に足を踏み入れた。 斜面は緩く腰程の高さがある草叢が茂生している。 人の手があまり加わらず、獣道の様な倒れた草が織り成す道を唯ひたすら登って行った。 ほぼ間違いなくお空もこの道を通っていることだろう。 追跡は容易だ、早く追いついて一緒になりたい。 親友は何時も一緒にあるべきなのだ、何時も。 再び神様は私に微笑んだようだった、日頃の行いが良いからだろうか。 お空が道の先から此方を目指し真っ直ぐと歩いて来ている。 思わず口元が緩み、笑みが零れる。 乾いた笑みではない、自然な満面の笑みであった。 「やあ、お空」 声が多少上ずったがこれも歓喜の表れだ、止める事は出来なかった。 「お燐、あなた一体どうしちゃったの?」 再びその姿を見ても酷い怪我だ、肩にも深い刺傷が見受けられた。 右目のないその顔で不気味に微笑む親友の有様はとても見ていられないモノだった。 「まさか他の妖怪に襲われてそんな風に?」 そうであって欲しい、という身勝手な願いが言葉に表れていた。 もしかしたら一方的に襲われただけかもしれない、お燐はただの被害者かもしれない。 まだ自分の親友は手を血に染めていない、と信じていたかった。 そんな想いもお燐が紡ぐ言葉によって打ち砕かれる事になる。 「他の妖怪にやられて?」 ケラケラと笑うお燐は本当に心底可笑しそうな様子を見せた。 「そうね、それはそれでだいたいあっているかもしれない。」 「ある意味不意を衝かれて嵌められたのだから襲われたとも言えるかもね。」 「けどね、傷の代償としてあたいは戦いに於ける真理を得たのさ!」 「人を信じない事、無慈悲になる事、そしてね…。」 だらりとだらしなく下げていた手に握っていた緋想の剣を肩近くまで振り上げ 私の胴体目掛けて勢い良く振り下ろしてきた。 咄嗟に右手の制御棒で防ぐがその勢いには躊躇いなど微塵も感じられなかった。 「昔の縁由を断ち切ること。」 「お空、もうこの手はとっくに汚れているんだよ。」 寸陰、目の前のお燐が猫に姿を変えその尻尾で掴んだ鉄の輪が首元目掛けて襲い掛かってきた。 身を引く事で何とか血の噴水になる事は避けるが、瞬時に口に加えた剣で胸部目掛けて飛び付いてくる。 息を吐く間も無いその応酬に言葉を発する時間さえ取らせてくれない程だ。 人型に戻ったお燐が猫の口元程の高さの位置の剣を蹴り上げ逆手で振う、狙うは頭部。 屈んでその振るわれた剣を避ける、同時にその眼前にお燐の膝蹴りが急襲。 「お燐、あんたは何でそんな……。」 防いだ後此方も制御棒を振るう等で反撃を入れようとはするが如何せん猫の姿と人型を織り交ぜて攻撃してくる。 どうしても捉えきる事が出来ない。 対して此方も烏になれば良いかと言えばそうではない、寧ろ唯一の武器らしい武器の制御棒さえ使えなくなり却って不利だ。 もう語りかけるのも無駄なのだろうか、狂疾に囚われた親友を救う手立てはもう無いのだろうか。 「その眼を見ればわかるよ、なにがいいたいのか、なにがやりたいのか」 「あたいは正気だよ、お空。」 「自分に素直になるとこんなにも満ち足りた気分になれるんだと知ったんだ。」 「だからそろそろ観念してくれないかな?」 迷いの無い太刀筋は確かに強かった、悲しいまでに強い。 ここで私が殺されてしまえばもうお燐を止めようとする者は居なくなるだろう。 負けられないんだ、この戦いは。 交錯し相反する思いがぶつかり合い火花を散らしていた。 お空と分かれた後、言い付け通り黙々と山を下り続けていたメディスンとチルノ。 頂点を超え逆斜面の山の中腹辺りまでに差し掛かった時会話の無かった二者の沈黙をチルノが破った。 「ねえ、メディスン。」 先程までの威勢は既にない、彼女らしくない重苦しい声のトーンで喋り始めた。 「何?」 恐らく言わんとしている事はもうメディスンにも伝わっている事だろう。 だけど敢えて口に出す、この言葉を。 「戻ろうよ、お空の下へ。」 戻って何が出来るかなんてあたいには分からない。 でもお空にはまだ教えて欲しい事がいっぱいある。 ちょっとでもお空の役に立てるかもしれない。 そんな根拠のない自信から足取りは重くなっていた。 「私は空さんの事はまだ良く知らない、けど空さんが望んだのは私達を先に行かせる事だったよ?」 「そんなの分かってる、でも……それでも。」 みんなを守る為の最強、お空はそう言っていた。 あたいには今まで守るべき対象なんていなかった。 今お空はその守りたいと願っていた相手と戦っている、傷つかない訳が無い。 私はそんなお空を守りたい、守ってあげたい。 「ごめんねメディスン、あたいはやっぱり行くよ、お空を守りに。」 踵を返し再び山を登って行くその姿に迷いは感じられない。 私はどうするべきなんだろうか……。 放送というもので聞こえてきたのは間違いなく八意先生のものだった。 この事自体もしかしたら大規模な実験なのかな。 とにかく八意先生に会いたい、けどお空達の行く末も気になるのは確かだった。 始まりはあんな出会いであったがお空が私に向けてくれた笑みは紛れも無く純粋で好意の篭ったものだった。 あんなに真っ直ぐな性格の妖怪には久々に出会った。 お空の事をもっとよく知りたいと強く思った。 その時既に足は無意識にチルノの後ろを追っていた。 こうして二人は言い付けを破り山を引き返した。 これが大きな分水嶺となる。 背の高い草の生い茂る山中、未だお燐の攻撃は熾烈を極めていた。 地形の利を上手く生かした戦法を取る燐はその速度と手数の多さを生かして一撃離脱戦法を取っていた。 草叢から飛び出してはこちらの首を掻き切ろうと鉄の輪を振って来る。 最早私が何を言ってもお燐は聞く耳を持ってくれない、懸命の呼びかけにも妖しい笑みと振舞われる剣筋で答えて来るのみだった。 ここまでキャットウォークが嫌らしい攻撃だとは思いもしなかった。 自機狙いで突進してくるだけではなく置き土産として残して行く弾幕の量、性質共に“弾幕ごっこ”の時の其れとはモノが違った。 弾幕に規律性はなくばら撒くだけばら撒くものとなっており、隙や慢心さえあれば首を描き切ろうとしてくる。 しかし単調な攻撃である事に変わりはない、避け続けていれば自然と眼も慣れ、回避にも余裕が出てくる。 飛び掛ってくるタイミングに合わせ制御棒でその刃を防ぐ、足で堪えるが衝撃は大きなものだった。 「お燐、そんな単調な攻撃が何時までも効くと思う?」 「この一発で目覚ましなさい!」 すっと着地したお燐に右足の融合の足でその刃を押しのけるようにして足蹴りする。 ゴツゴツとした右足の勢いを乗せた足蹴によりその体は再び草叢へと押し戻された。 大きなダメージにはならないだろうが衝撃と意思表示には十分な威力だ。 藪の中からお燐の声が聞こえる。 ケラケラと笑いながら。 「今のは中々の反応だったよ、流石お空だね、よくできましたー。」 あやす様な口ぶりでこちらを褒めちぎってくる。 「でも単調な攻撃ってのはいただけないねー、ただ駆け回っていただけだと思うの?」 草薮がガサガサと音を立てている、見ればグルリと囲むようにして茂みが揺れ動いている。 「弾幕ごっこならこんな手は使っちゃ駄目なんだけどね。」 さぞ嬉しそうに言葉を紡ぐ、禁じ手を使う事自体は甘美なるものなのだ。 この会場に於いて卑怯や違反といった言葉は寧ろ相手に対する賛辞となってしまう。 何を言おうと負け犬の遠吠え、勝者のみが相手を自由にする権利を得られる。 例え相手を生かそうと殺そうとそれは勝手なのである。 「今やってるのは殺し合いだから」 お燐がそう言い放つのと同時に周囲の草叢から弾幕が浮かび上がる 普段地獄跡で見かける怨霊を模した弾幕、食人怨霊が逆回転で重ねられて四重となっている。 駆け回り私をここから逃がさない様にしたのはこのためか……。 蜘蛛の巣に掛けるために綿密に飛び回ってホールドしておいた、と。 だが複雑な弾幕程以外にも抜け道は見つけやすいものである。 時間差で迫り来るのが幸いし一つ一つ丁寧に避けていけば造作のないものだと思った。 何度も見た事のあるお燐の弾幕だ、避け方も知っている。 それだけに妙に引っかかるモノがあった、これだけならば弾幕ごっこに於ける禁じ手と言う程のものではない。 せいぜいLunaticないしHard程度だろう。 禁じ手となるのは回避不可、という事は……。 案の定最後の食人怨霊を避けた途端、旧地獄の針山の回転弾が飛んできた。 確かに、これならば禁じ手となるだろう、下がれば爆発若しくは後方から戻る弾に当たり、かといって前進は不可。 道が無いならば道を作れば良い、私にはそのためのスペルも能力もあった。 迫る針山にお空は敢えて向かって行った、接触まで後数mという所。 本来ならば自殺行為にしか過ぎないその行動、だが核融合、究極の力は不可能を可能とする。 刹那、お空の前に薄い膜の様な物が現れた。 核熱バイザー、弾幕を打ち消す用途に使用出来る上に、攻撃も可能。 実に5つもの針山を消し、最早遮るものはないと思っていた。 それが甘かったのだ。 お燐とは長い付き合いなのだから想定され得る、という所まで頭が回っていなかった。 針山弾幕と核熱バイザーが相殺されると同時に目の前に異物が飛んできた。 唐突すぎるその物体の出現にお空は為す術なく後方に飛ばされた。 後方にあるは収縮中の弾幕、そこに飛ばされるという事が意味するのは……。 「 」 焼ける様な痛みと共に深々と背中に突き刺さる針状弾。 あまりの激痛に音を上げることさえ出来ない。 鋭利な先端は皮膚を突き破り筋組織と血管を傷つけた。 溢れ出た血の温かさと痛みで意識がフッと飛びそうになる。 更に拡散しようと進む弾は傷口を広く深く、複雑に切り裂く事を容易とした。 ズブズブと進む弾は暫し蠢いた後、その動きを止めた。 目の前の草薮からお燐が人の形となり姿を現した。 距離はかなり開いているがその手に持った緋想の剣の切っ先は此方へ向けられている。 敗北、その二字が頭の中を徐々に覆っていった。 「ちぇっくめーいと。」 「やっぱりお空は甘いね、あの時に私にその制御棒を使って核融合の力で止めを刺しておけば良かったんだよ。」 曇り無い笑みでこちらにそう語りかけてくる、自分が殺される事を想定して話しているのにだ。 その顔だけは相も変わらず何時もとの違いはなかった。 「そんな事出来る訳……。」 「ないだろうね、冷酷になれないお空には。」 言葉を遮り一転して冷たい表情に変わったお燐が続けた。 心まで見透かされるような視線はさとり様の第三の目を想起させた。 「お空はまだあのおちびさん達とあたい以外に参加者に会ってないんだろうね。」 「会えば嫌でも知る事になるよ、この世界の不条理さを。」 「でもまあ、それもないか。」 「ここであたいが殺してあげるよ、今後苦しまない様に。」 ブンと一振り緋想の剣を振るい此方を見つめお燐がその一歩を踏み出した。 ここで殺されるのも悪くは無いかもしれない、それでお燐が満たされるのならば。 止める事は適わず最早その身体も限界を迎えている。 ああ、地上の世界はこんなにも理不尽だったのか。 ゆっくりとゆっくりと。 その時。 横から懐かしく威勢の良い声が飛び込んできた。 「やい!そこの馬鹿猫!」 119 悲しみの空(後編) 時系列順 108 驟雨の死骸と腹の中、それでも太陽信じてる。(後編) 107 幽霊がいるとして人生を操作しているとしたら 投下順 108 驟雨の死骸と腹の中、それでも太陽信じてる。(後編) 99 夢よりも儚い砕月 火焔猫燐 108 驟雨の死骸と腹の中、それでも太陽信じてる。(後編) 83 ゆめのすこしあと 霊烏路空 108 驟雨の死骸と腹の中、それでも太陽信じてる。(後編) 83 ゆめのすこしあと チルノ 108 驟雨の死骸と腹の中、それでも太陽信じてる。(後編) 83 ゆめのすこしあと メディスン・メランコリー 108 驟雨の死骸と腹の中、それでも太陽信じてる。(後編)
https://w.atwiki.jp/hshorizonl/pages/576.html
← ◆◇◆◇◇◇◇◇ 小さな、部屋だった。 からっぽで、何もない。 仄暗い屋内には、家具の一つも置かれてない。 四角い箱。白塗りの壁や天井。 木目のフローリングは、埃を被り。 窓から、朝焼けの光だけが射す。 伽藍堂の空間に、穏やかな茜色が灯る。 朧気な薄明りの部屋は、寂寞に包まれる。 静かに、漠然と、時間だけが流れていく。 そんな“マンションの一室”で。 ボクは壁に寄りかかるように、腰掛けていた。 沈黙の中で、虚空へと視線を向けながら。 緩慢な時の流れに、身を任せていた。 桜色の髪を持つ“砂糖菓子の少女”が、ボクの隣に座る。 薄暗い部屋の茜色を、静かに見つめている。 ボクも、彼女も、ただ其処に居る―――。 『……どうか、これは』 沈黙を、静かに断ち切るように。 傍らの少女に、ボクは語りかける。 『ボクの懺悔だと、思ってほしい』 それは、己の旅路の果てに得た“答え”であり。 そして、己の背負った“罪の告白”だった。 『ボクはこの世界で、愛の姿を見た』 ボクは、振り返った。 この聖杯戦争で辿った物語を。 共に歩み、背負い続けた、二人の少女を。 飛騨しょうこ。 “今度こそ、向き合いたい”。 彼女は歌い続け、断絶を乗り越えた。 小鳥は死の果てに、祈りを繋いだ。 雨を越え、慈しい唄を歌い、真っ直ぐな愛を親友へと届けた。 松坂さとう。 “愛のために、生きたい”。 彼女は無垢な祈りを抱き、駆け抜けていった。 砂糖菓子は死を超えて、祈りに殉じた。 受け取った想いを胸に、運命の愛へとその命を捧げた。 『死が分かつとも、決して終わらない』 そんな少女達の羽ばたきを、ボクは最期まで見届けた。 『……キミたちの愛に、そんな祈りを見出した』 しょうこも。さとうも。 何処までも、愛に直向きだった。 彼女達だけではない。 さとうの想いを受け止めたしおも。 想いを抱く機凱のアーチャーも。 誰もが愛に殉じ、愛を貫いていた。 『ボクは、キミたちとは違った』 けれど、ボクは。 そう、在れなかった。 『愛を、呪いにしてしまったんだ』 遠い日の記憶。 歌を紡ぐ少女は―――シアンは、かつてのボクが歩む意味の全てだった。 彼女は、守らねばならない存在だった。 しかし、ボクは。 傍らに寄り添う愛を。 受け止められなかった。 『ボクの傍らに居てくれたシアンを、自分の罪の証と見てしまった』 かつて、シアンは命を落とした。 ボクの師に等しい存在だった、アシモフの手によって。 彼女は、共に死にゆく筈だったボクに、自らの想いを託してくれた。 シアンの自己犠牲的な献身によって、ボクは命を繋ぎ止めた。 守るべき少女に、ボクは救われた。 そうしてシアンは死を超越し、ボクに寄り添う“謡精”と化した。 そんな彼女に、ボクは自らの罪を見てしまった。 シアンを守れず、シアンを救えず、結局は彼女を死に至らしめた―――そんな己の業が、常に纏わりついた。 ――――ボクは、シアンを守れなかった。 ――――彼女を死者にするばかりか。 ――――彼女の方がボクを守って、その存在を捧げたのだ。 だからこそボクは、寄り添うシアンに苛まれた。 生命の枠組みを越えて、ボクにしか知覚できない霊体となったシアンは、次第に他者への関心を失っていった。 人間であることを喪失したかのように、彼女はボクだけに笑顔を振り撒いた。 その姿に、ボクは自らの罪を更に見出していった。 彼女がこうなったのは、他でもない己のせいだと。 やがてボクの中で、シアンは“かつての罪の象徴”へと変貌していった。 『ボクは、ボクの中にいる“愛する者”を、受け入れられなかった』 シアンとの旅路に打ち拉がれたボクは、“一人の少女(オウカ)”に新たな心の支えを見出した。 彼女は摩耗して打ち拉がれたボクを、暖かく受け入れてくれた。 新しい居場所に己の拠り所を見つけたことで、ボクはシアンを無意識に“過去”として規定してしまった。 そしてシアンにも、日常からの疎外の果てに、自らが“死者”であるという決別を受け入れさせてしまった。 ボクとシアンの想いは、すれ違い続けた。 互いに案じ合いながら、心は結び付かず。 それ故に、最後は互いに互いを手放した。 『だからこそ……彼女を喪ったんだ』 きっと、シアンにあの結末を迎えさせたのは。 彼女を籠の中に束縛した“高天の皇神”でも、その手で死を齎した“もう一人の雷霆”でもない。 ましてや、彼女の力を強奪した“理想郷の使徒”ですらない。 ―――“自分は、もうここにいなくてもいい”。 ―――“彼は、ひとりでも生きていける”。 シアンにそんな想いを抱かせた、ボク自身だ。 あの瞬間、ボク達の旅路は終わりを告げた。 聖杯戦争を通じて。 さとう達との出会いを経て。 幾つもの想いに触れて。 死してなお、寄り添い合う“愛”を見て。 ボクは、答えに辿り着いた。 『ボクの中に、もうシアンの声は届かない』 そうして、ボクは。 その答えを―――受け入れた。 ボクの中にあるシアンの声。シアンの歌。 結局それは、過去の記憶が生んだ幻影に過ぎない。 己の後悔と悲嘆が作り出した、執着の証でしか無い。 『それでいい。それが、答えなんだ』 シアンは、もういない。 それだけなら、とうの昔に分かっていた。 けれど、今のボクは。 シアンを喪ったことの意味を、やっと受け入れられた。 自分には、彼女と再び会う資格などないのだ。 しょうこ。さとう。 ボクは彼女達のようになれなかった。 愛する人と向き合えず。 愛する人の死を越えられず。 共に在る未来へと、目を向けられず。 自らの業に、ただ押し潰された。 だからこそ、永遠の愛を貫けなかった。 これは、ボクに与えられた罰だ。 エゴを貫き通して、世界を掻き乱して。 結局何も掴み取れなかった、罪人の顛末だ。 聖杯を得ようとも、得られずとも、関係はない。 愛を裏切った過去の業は、どんな奇跡でも拭えない。 故にボクは、今度こそシアンを喪ったのだ。 愛を喪失し、ボクは思い返す。 この舞台で出会った少年の姿を。 ―――神戸あさひ。 ―――彼の願いは、既に聞いていた。 彼は、“家族との幸福を得ること”を求めた。 掌から零れ落ちた妹を取り戻して、全てをやり直したい。 それは即ち、さとうを内面化した妹の存在を否定することだった。 ボクには、その意味が理解できた。 大切だった者の変貌を受け入れられず、“奇跡”によって己の道を取り戻そうとしている。 言うなれば、それは。 相手の意思の否定であり。 自己満足のための行為であり。 身勝手な独善に過ぎない。 そう断じることも出来ただろう。 ―――それでも、神戸あさひを憎めなかったのは。 ―――ボクもまた、エゴのために戦っていたからであり。 ―――ボクと同じ業を、彼に見出したからだった。 かつてボクは、シアンとの決別を受け入れるしかなかった。 今の彼女は“ミチル”であり、自分が守り抜こうとした“シアン”はもういない―――。 ボクは、抗いようのない結末を受け止めた。 それが彼女にとって幸福であると信じて。 神戸あさひは、違った。 彼は、ボクの合せ鏡だった。 変わってしまったシアンを認められず、彼女と共に在る時間を取り戻そうとする―――そんな“有り得たかもしれないボク自身”だった。 愛する者との断絶ほど、大切な者との離別ほど、胸を引き裂かれることはない。 故にボクに、彼を否定する資格などなかった。 否定など、出来るはずがなかった。 満足気に事切れていた彼が、最後に何を思っていたのかは知る由もない。 ボク達と別れて、そして命を落とすまでの間に、何を得て、何を見出したのか。 その答えはきっと、彼自身にしか分からない。 ボクはただ、ボクの道を歩むしかない。 シアンを喪った。彼女の声は届かない。 その現実を、受け止めるしかない。 『ボクは、せめて……』 だからこそ、ボクは思う。 一呼吸を置いて、口にする。 『彼女の人生の幸福だけでも、祈り続けたい』 己になんの価値も無いというのなら。 せめて愛する人の価値だけでも祈りたい。 『愛を貫こうとする誰かの想いを、守り抜きたい』 己は何も手に入れられないのなら。 誰かの愛(ネガイ)だけでも、守り抜きたい。 ボクのように、取り零すことのないように。 慈しき誰かの道筋を、照らして往きたい。 『……それがボクに出来る、贖罪だ』 きっと、ボクは。 心の何処かで、それを理解していた。 だからこそ、この聖杯戦争に―――ボクは召喚された。 シアンの声を、望まないのなら。 シアンの喪失を、受け止めたのなら。 何故、ボクはサーヴァントになった? 答えはただ一つ。 ボクのこれまでの旅路に、納得が欲しかったから。 自分の戦いに、意味があったのか。 それを確かめたくて、ボクはしょうこの歌に呼び寄せられた。 しょうこの想いを守り抜くことで、自分の存在する意味を確かめたかったのだ。 エゴを貫き、エゴを押し通し。 そうして、後悔を背負い続けても。 ボクには、ボクのエゴを貫くしかない。 変わらぬ己のサガを自嘲して。 ボクは、喪ってきたものを振り返る。 『アーチャー』 ボクの隣に座る“砂糖菓子の少女”。 彼女はボクの言葉を聞き届けてから、静かに口を開いた。 『あなたのそれは、“愛”だと思うよ』 そうして、彼女は。 ボクのエゴを、想いを。 シアンに抱いてきた感情を。 そんな言葉と共に、肯定する。 『今でもずっと悔やみ続けるくらい、その娘を愛していたんだね。 けれど貴方は、そんな自分を見つけられなかったから……聖杯戦争に招かれた』 ボクは思わず、目を丸くして。 彼女の方へと、視線を向けた。 『自分を好きになれないのって、辛いよね』 彼女はゆっくりと、ボクの方を向いて。 その瞳で、ボクを見つめていた。 彼女は、自嘲するように微笑んでいた。 まるで過去を振り返るかのように。 自らの“出自”を、追憶するかのように―――。 『……私としおちゃんの想いは、途絶えなかった』 そして彼女は、言葉を紡ぐ。 『しょーこちゃんの祈りだって、私に届いた』 自分の愛と、この世界での道程。 それらを噛み締めるように。 『みんなの愛を、あなたは繋いでくれた』 ボクのことを、見つめ続ける。 『だから。あなたと、その娘の愛も……』 彼女の言葉を、ボクはどう受け止めていたのか。 自分自身にも、それを知る由はなかったけれど。 『終わることなんてない』 宝石のような、彼女の紅い瞳は。 ボクのことを、真っ直ぐに捉えていた。 それだけは、確かなことだった。 ――――貴方は、皆の愛を繋いだ。 ――――貴方の愛も、終わりはしない。 彼女はそうして、ボクを肯定してくれた。 戸惑いと、動揺。そして、一欠片の感慨。 ボクの胸に、様々な感情が去来する。 『……ねえ、アーチャー』 小さな部屋を包む、朝焼けの茜色。 箱庭の中をぼんやりと照らす、微かな薄明かり。 それは仄暗くて、何処か物悲しくて。 『しょーこちゃんの傍にいてくれて、ありがとう』 けれど、今は。 少女の想いに寄り添われて。 その朧気な光に抱かれて。 小さな安らぎを、覚えていた。 ◆◇◆◇◇◇◇◇ ――――極光と、爆熱。 ――――破局と、災厄。 ――――轟音。轟音。轟音。 ――――五感が、塗り潰される。 ――――破壊が、降り注ぐ。 ――――死が、幾度となく。 ――――己を、押し潰しに来る。 周囲は、最早焦土と化していた。 まるで戦火に飲まれたかの如く。 市街地は、破壊の限りを尽くされていた。 次々に飛来する爆炎と熱弾。 機関砲の如く放たれる怒涛の質量。 破滅の嵐を齎す、徹底的なまでの空爆。 其処には、焔獄が顕現していた。 燃やされ。砕かれ。穿たれ。崩され。 怒涛の咆哮がけたたましく轟く中。 全てが、灰燼に帰していく。 世界の終末が訪れるかのように。 全てが、焼き尽されていく。 上空。何処までも蒼い空。 鮮明な景色を背負い、“機械仕掛けの極星”は地上を見下ろす。 視界に入る都市ごと纏めて、敵を焼き尽くすべく。 その巨大な鉄翼より展開される“無数の砲身”から―――“魔弾”を次々に繰り出す。 劫火が荒れ狂う、禍災の中心。 猛き蒼雷が、激流に抗うように。 眩き閃光を、迸らせる。 「おおおおおおおおおォォォォォォォォォォォォ―――――ッ!!!!!!!!!」 ガンヴォルトは、ただ吼えていた。 自らの肉体と霊基から、ありったけの魔力を引き出し。 迫り来る爆撃を、全力の雷電によって凌ぎ続ける。 雷撃鱗が、次々に襲い掛かる光弾を掻き消す。 迸る放電が、無数の降り注ぐ鉄塊を撃ち抜く。 弾ける落雷が、数多もの熱源を撃墜していく。 幾十。幾百。幾千。幾万 夥しい物量と熱量の弾幕。 凌ぎ切れ。灼き切れ。断ち切れ―――。 血に汚れた身体を振り絞り、ガンヴォルトは雷電を我武者羅に放出する。 「――――迸れ!!!“蒼き雷霆(アームドブルー)”ッ!!!」 最早、限界など受け入れない。 負傷、消耗、疲弊―――そんなものはどうだっていい。 摩耗していく魔力の肉体に、必死で鞭を打つ。 使える燃料を只管に焚べて、雷霆は叫ぶ。 ―――閃く雷光は反逆の導。 ―――轟く雷吼は血潮の証。 ―――貫く雷撃こそは万物の理。 「“VOLTIC CHAIN(ヴォルティックチェーン)”――――ッ!!!!」 幾重に解き放たれる、巨大な鉄鎖。 まるで蜘蛛の巣のように張り巡らされ。 その全てが電撃を放出しながら、膨大な数の掃射を焼き払っていく。 しかし、間髪入れず。 漆黒の槍が、連射される。 それは、風を切り裂きながら。 “無数の鎖”を、いとも容易く突き破る。 混沌の黒槍。 イミテーション・ケイオスマター。 幾つにも分裂させた武装を、砲弾の如く放っていた。 ガンヴォルトは、即座に駆け出す。 轟炎の流星が降り注ぐ中を、必死に走り抜ける。 黒槍から逃れながら、歯を食いしばる。 雷撃鱗は、最早“解除されなかった”。 途切れぬ砲撃を防ぎ、凌ぎ、時に削られながら。 それでも即座に“修復”を繰り返し、展開を続けていた。 クードスの蓄積。託された祈り。 令呪による加速。共鳴と解析の連鎖。 そんな中で繰り広げられた、果てなき死闘。 ガンヴォルトの霊基は、既に限界を超越していた。 “爪”を経た先の伝説。 オルタ化したガンヴォルトにとっては、未来における戦い。 “鎖環(ギブス)”の逸話さえ、彼は既に再現していた。 あの“旱害”との戦いで、雷霆は己の未知なる伝承を“自らの能力”として手繰り寄せている。 未来のガンヴォルトは“第七波動(セブンス)”の限界を超え、“暴龍”と称される圧倒的な力を得ていた。 その影響により“蒼き雷霆”の出力は飛躍的に上昇した。 そうして到達した“次の段階(ネクストフェーズ)”―――その一つが“雷撃鱗の常時発動”である。 永続する雷撃鱗が、致命傷を妨げる。 降り注ぐ暴威から、ガンヴォルトを守り続ける。 しかし、それだけだ。 止め処無い圧倒的な猛攻に対し、ただやり過ごすことしか出来ない。 攻めなければ、詰む。 このままでは、物量に押し潰される。 蒼き雷霆は、決死の覚悟で力を振り絞る。 「迸れ、“蒼き雷霆(アームドブルー)”……!!!」 ―――天体の如く揺蕩え雷。 ―――是に到る総てを打ち払わん。 「―――“LIGHTNING SPHERE(ライトニングスフィア)”ァァァッ!!!!」 暴龍の咆哮と共に、放電を繰り返す雷球の壁が展開される。 迫り来る絨毯爆撃を掻き消しながら、ガンヴォルトは跳躍した。 雷球を纏い、ガンヴォルトは飛翔する。 業火の雨霰の中を、強引に突き抜けていく。 弾ける雷電。 駆け抜ける霹靂。 繰り返される爆炎。 あらゆる弾幕を突破しながら。 蒼光の雷霆は、機凱の天使へと目掛けて翔ぶ。 歌は、聞こえない。 爆音と轟音だけが、鼓膜を響かせる。 感覚の全てが、死の狭間に立っている。 最早、己と敵だけしか見えない。 ただ突き進むことだけが、存在を奮い立たせる。 再び降り注ぐ、“混沌の黒槍”。 雷壁に直撃する、致死の刃たち。 閃光が迸り、その熱量が拮抗し。 そして―――相殺へと至る。 激突したケイオスマターとライトニングスフィアが、ほぼ同時に消滅した。 「迸れ……“蒼き”、“雷霆”……―――!!!」 霊基の魔力を滾らせて。 雷霆は、すかさずに“次弾”を解き放つ。 ―――煌くは雷纏いし聖剣。 ―――蒼雷の暴虐よ、敵を貫け。 「“SPARK(スパーク)”――――“CALIBUR(カリバー)”―――――ッ!!!!」 雷撃の巨剣を突き立てて、流星の如く突進を続ける。 破壊を齎す無数の嵐を、凄まじい勢いで突破していく。 轟音。衝撃。波紋。爆炎。 夥しい数の弾幕を振り切り、ガンヴォルトは只管に翔けていく。 前へ。前へ。前へ、前へ、前へ―――。 肉体の限界さえも突き抜けるように、彼は我武者羅に前進していく。 その刃を、雷撃を。 視線の先に居る敵へと届かせるべく。 彼は只管に、飛び続けた。 そして、ガンヴォルトは。 数多の極星を、突き破り。 数多の破壊を、超えて。 シュヴィの眼前へと、迫る。 まさしく稲妻の如く突き抜ける“雷霆”を前に。 シュヴィは、その両眼を見開いた。 「進入禁止(カイン・エンターク)」 ―――典開。 雷剣を妨げる“壁”。 刃を受け止める“防御”。 しかし、迸る閃光は。 立ちはだかる防壁さえも、貫かんとする。 「進入禁止(カイン・エンターク)」 ―――二重典開。 “壁”が、持ち堪える。 それでも雷剣は、吼える。 それでも雷剣は、挑む。 「進入禁止(カイン・エンターク)―――!!」 ―――三重、典開。 “壁”が、遂に上回る。 蒼雷の剣が、限界を迎えた。 輝く刃が弾け、砕け散る。 「迸れ、“蒼き雷霆(アームドブルー)”!!! 械翼を撃ち抜く、極光の昇雷となれッ!!!」 だが―――まだだ。 まだ、終わらない。 蒼き雷霆は、それでもなお吼える。 ありったけの魔力を絞り出し、叫び続ける。 少女の祈りに報いる、“威信”の雷剣。 この手に、再び解き放つ―――! ―――掲げし威信が集うは切先。 ―――夜天を拓く雷刃極点。 ―――齎す栄光、聖剣を超えて。 「“GLORIOUS STRIZER(グロリアスストライザー)”――――!!!!!」 雷光の聖剣が―――三重の防壁を、粉砕した。 硝子の破片のように、粉々に砕け散っていく。 肉体が、消耗していく。 魔力で構築された殻が、次第に朽ちていく。 ガンヴォルトは、それを悟っていた。 マスター不在の中、令呪のブーストと自前の魔力によって現界を繋ぎ止め。 度重なる連戦とダメージにより、霊核は既に限界を迎えている。 そんな状況において、彼はスペシャルスキルの連続発動という離れ業を成し遂げた。 まさしくそれは、意地による限界の突破だった。 されど、境界線を飛び越えたのは彼だけではない。 マスターを喪いながら宝具の全力解放を行い、死力を懸けて猛り続けている。 それは、シュヴィもまた同様だった。 「ッ、『全方交差(アシュート・アーマ)』―――!!」 驚愕に表情を歪ませたシュヴィが、即座に対処を行う。 全方位に対する“霊骸”の噴射。推進力と猛毒による、形無き防壁。 「ッ、ぐ、あああああああ――――ッ!!!!」 ガンヴォルトが、絶叫する。 既に全身を“霊骸”に汚染されている彼にとって、それは致死の呪いに等しく。 その苦痛は、瘴気は、ガンヴォルトの肉体を瞬く間に蝕んでいく。 最早、立ち向かうことなど出来ない。 最早、足掻くことなど出来ない。 この害毒を前にして、雷霆は堕ちていくしかない。 ―――その筈だった。 ガンヴォルトが、歯を食いしばった。 聖剣を突き立てるように構えたまま。 彼は、眼前の敵を見据えていた。 「―――――まだ、だ……」 全身を猛毒に蝕まれながら。 ガンヴォルトは、闘志を滾らせた。 「まだ……終わらない……ッ!!!」 その姿を、前にして。 シュヴィは―――戦慄する。 「貫けェェェェ――――――ッ!!!!!」 そして。 聖剣の刃が。 遂に、霊骸の防壁を。 一閃するように――――切り裂いた。 雷電が、弾けるように迸る。 瘴気を貫き、閃光を走らせ。 眩き蒼で、鮮明に視界を染めた。 シュヴィは、目を見開く。 三重の防壁。霊骸の噴射による阻害。 幾重にも重ねた防御が、突破された。 その意地に、その咆哮に。 少女は、気押されかける。 ―――迫る。 ―――迫る。 ―――迫る。 ―――迫る。 雷電が、聖剣が。 シュヴィへと、迫る。 荒れ狂う“暴龍”が。 機凱へと、迫る。 その身を穿つべく。 その身を貫くべく。 一直線に、突き抜ける。 そして、眩き刃は。 シュヴィの、機械の肉体を。 間もなく、貫かんとした―――。 ――刹那の合間に。 ――シュヴィの思考が、入り乱れる。 “蒼き雷霆”から流れ込んだ記憶が、情報が。 まるで走馬灯のように、けたたましく反響していく。 “蒼き雷霆”。最強の“第七波動”。 解析を繰り返し、己の武器へと昇華させた能力。 その力の真髄を、一瞬の狭間に喚び起こす。 “掲げし祈歌が集うは切先”。 “轟かせるのは相想の叫び”。 “戦禍を裂く雷刃極光”。 “齎す栄光、械剣を超えて”。 “この遊戯に、幕を下ろせ”。 ――――瞬間。 ――――蒼き雷霆が、目を見開いた。 熱と共に、痛みが駆け抜ける。 意識が揺さぶられる。 視界が、紅に染まる。 五感が、崩壊していく。 迸るような異常が、神経を灼く。 蒼き雷霆が解き放った“聖剣”は。 真正面から、打ち砕かれていた。 機凱が放つ“一撃”が、その雷鳴を引き裂いた。 「私、が……」 そして、ガンヴォルトは気付く。 “何か”に貫かれていることに。 “何か”に穿たれていることに。 「一手、先を……行った……」 やがて彼は、視線を落とした。 真紅の血液が、止め処なく溢れている。 抗えぬ苦痛が、己を蝕んでいく。 “機械仕掛けの聖剣”が。 雷霆の身体に、深く抉り込まれていた。 秘めたる第七波動の力を解き放つ能力『UNLIMITED VOLT(アンリミテッドヴォルト)』。 威信を宿した聖剣を解き放つ究極の雷撃『GLORIOUS STRIZER(グロリアスストライザー)』。 ガンヴォルトの第七波動を解析し、自らのものとして取り込んだシュヴィは、その極限の力を“結合”した。 「『聖典・蒼雷煌刃(グロリアスストライザー・テスタメント)』」 即ち、それは――――必殺の聖剣。 この遊戯に幕を下ろす、機巧の鬼札。 その刃は“不治の呪縛”に祝福される。 機械仕掛けの聖剣は、蒼き雷霆の聖剣を上回った。 ◆ 堕ちていく。 意識が、身体が、魂が。 奈落へと、墜落していく。 終焉の幕が、下りていく。 動け、動け、動け―――。 幾らそう訴えても。 肉体を支える雷電は、応えてくれない。 全身が“霊骸”で朽ちていく。 振り絞られた魔力が枯渇していく。 五感も、掠れていく。 鼓動の熱が、失われていく。 呼吸すらも、ままならない。 腕を、足を、指先を動かそうと藻掻いても。 身体は人形のように、呆然と揺れるのみ。 胴体を一直線に貫かれて。 深く抉られた刺傷から、鮮血が溢れ出る。 体中を灼くような熱と痛みに蝕まれ。 ガンヴォルトは、宙を舞うように転落していく。 走馬灯が、過る。 懺悔が、脳裏に浮かぶ。 “大切な人を守ってほしい”。 二人の少女は、己に祈りを託した。 魔力パスを通じて、彼女達の遺志はこの身に刻み込まれた。 ―――ボクは、いったい。 ―――何を成し得たのだろう。 戦禍の雨に。 葛藤と苦悩は、融けていく。 その疑問に答える者は無く。 蒼き雷霆は、死の淵へと身を委ねていく―――。 その時、彼は。 その眼を、見開いた。 己の身から零れ落ちていく“破片”を。 霞む双眸で、確かに捉えていた。 『満ち行く希望(フィルミラーピース)』。 それは、全てを映し出す夢幻の鏡片。 蒼き雷霆が愛した少女の力を封じ込めた、心の断片。 己の転落と共に、虚空を舞う“彼女との縁”。 ガンヴォルトは、必死に手を伸ばそうとして。 しかし、その掌は何も掴めず。 伸ばされた手は、行く宛もなく。 だというのに。彼の脳裏には。 ――――“うたが、きこえる”。 ――――“いつかのうた”。 ――――“あのこの、うたが”。 あの時の感覚が、鮮明に蘇っていた。 跳ね上がる魔力と電力。猛る威信。 己の想いと誓いに寄り添う―――“翼”への安らぎ。 ガンヴォルトの薄れゆく視界は。 離れゆく鏡片を、確かに捉え続けていた。 それは、己と彼女を分かつ“呪縛”の象徴であり。 そして、己と彼女を繋ぎ止める“祝福”の具現だった。 その破片は、今。 彼にとっての、最後の“絆”となる。 ――――満ちていく。 ――――求めた希望(あした)が。 ――――その心に、焼き付く。 ――――翼(いのり)が、此処にある。 霊基に、再び魔力が流れ込む。 雷電が、己の魂を駆けていく。 悲壮の暗雲が、切り裂かれていく。 再び彼は、手を伸ばした。 取り戻された気力を振り絞り。 摩耗しきった肉体を、動かした。 届け。届け。届け。届け――――。 「――――届け」 その掌の先に。 蒼き雷霆は“光”を見た。 ◆◇◆◇ 小鳥は歌う。 慈しい唄を。 小鳥は目指す。 心の果てへと。 小鳥は、羽ばたく。 愛を取り戻すために。 失意の濁流を抜け。 曇天から一条の光が射す。 その時、既にもう。 歌声を融かす雨は、上がっていた。 蒼い空を仰いで。 あの日の歌を背負って。 小鳥は、永久へと飛び立つ。 ◆◇◆◇ 《ねえ、お願い―――!》 《彼は今も、ずっと戦い続けてる!》 《貴女を見失っても!誰かの幸せのために、走り抜いてるの!》 《だからっ!応えてよ、シアン!》 《彼のために、歌を奏でて!!》 《アーチャー!》 《あんたを、独りにさせない!》 《挫けそうになったら!》 《私も、傍にいるからっ!》 《あなたが居たから、さとうと向き合えた!》 《あなたが居たから、私はまた唄えたの!》 《慈しいあなたの旅路を、誰にも呪わせない……!》 《あの娘の歌を!!あなたに、届けさせて!!》 《――――GV!》 《あなたと出会えて―――》 《私はずっと、幸せだったよ!!》 ◆◇◆◇ 小鳥の唄だけは。 決して、誰のものにもならない。 如何なる解析も、模倣も、捉えられない。 その詩は、彼女だけのものだ。 何故なら、彼女は。 言葉を融かす雨の中でも。 愛のために、歌い続けたから。 雨は、上がった。 愛の唄は、空へと届いた。 慈しき小鳥、飛騨しょうこは。 蒼き雷霆、ガンヴォルトのマスターだ。 彼女は、叫んだ。 祝福(ウタ)を、繋ぎ止めた。 “電子の謡精(サイバーディーヴァ)”。 それは、孤独に戦う少年に寄り添う。 一人の少女の、祈りの力である。 二人のマスターの遺志を受け継ぎ、限界を超越した“霊基”。 機凱の弓兵との死闘により、極限まで到達した“共鳴”と“解析”。 心を記録するミラーピースを介して、届けられた小鳥の“祈り”。 彼女を呼び起こす奇跡が、祝福が、此処に揃う。 その歌は、いつだって。 彼が“再起”する時に奏でられる。 ―――愛だけは、終わらせない。 ◆◇◆◇ ―――解けないココロ溶かして――― ―――二度と離さない、あなたの手――― 《あなたは、死なせない》 《今度こそ、私が傍にいるから》 ――――“SONG OF DIVA”―――― 《立ち上がって、GV―――!!!》 ◆◇◆◇ ―――雷鳴が、轟いた。 ―――歌が、響いた。 蒼き閃光が、眩い輝きを放つ。 絶望を超越した極光が、降臨する。 嵐のように吹き荒れる魔力の渦。 巻き起こる激流の如く、迅雷が駆け巡る。 愛の歌が、聞こえる。 愛の歌が、木霊する。 愛の歌に、紡がれて。 その雷は、極限へと到達する。 波紋が、大地を揺らす。 解き放たれる“力”が、衝撃を巻き起こす。 溢れ出る雷電の煌きが、轟き渡る。 舞い上がる粉塵は、やがて“英霊”の纏う気迫に散らされていく。 その身には、数多の傷を背負う。 摩耗と疲弊は変わらず、彼の肉体を蝕む。 それでも、今の彼は―――先程までの瀕死の姿とは、明らかに違っていた。 溢れ出んばかりの魔力の高まりが、その霊基を究極の域へと導く。 蒼き雷霆―――ガンヴォルト。 煌めく稲光の中心に、彼は立つ。 荒れ果てた焦土に、凛として佇む。 混迷の朝を、満ちゆく“希望”が切り裂く。 “新たなる神話”が、ここに幕を開ける。 シュヴィ・ドーラは、目の当たりにした。 満身創痍の姿で復活した、“蒼き雷霆”の姿を。 癒えぬ負傷と消耗を背負いながら、それでも 精悍に佇む“英霊”の姿を。 霊核を確実に撃ち抜いた筈なのに―――雷霆は今もなお健在だった。 そのことに、シュヴィは驚愕を隠しきれなかった。 ―――そして。 ―――少年の傍らに寄り添う。 ―――“電子の歌姫”を。 ―――シュヴィは、認識した。 金色の髪を靡かせて。 胡蝶のような衣装を纏い。 碧い羽を、背中から拡げていた。 まだ幼さの残る、その眼差しに。 確固たる意志と覚悟を、宿していた。 “歌姫”は、守護霊のように雷霆へと寄り添う。 その直ぐ側で、彼女は歌い続ける。 “電子の謡精(サイバーディーヴァ)”。 蒼き雷霆の伝説と共に往く、祈りの歌姫。 孤独に戦い抜いた少年に寄り添う、たった一人の少女。 慈愛と祈念をその胸に抱き、奇跡はそこに降臨する。 雷霆の傍らに寄り添う“少女”。 その姿を、視覚に焼き付けて―――。 シュヴィは思わず、言葉を漏らす。 「あなたは……“天使”?」 そして、その瞬間。 “雷霆”の魔力が、迸るように昂った。 まるで、天をも撃ち抜く稲妻のように。 まるで、天をも引き裂く暴龍のように。 その気迫が、歌姫の加護と共に―――解き放たれた。 シュヴィは瞬時に、自らの武装を解き放つ。 その鋼鉄の巨翼によって、“殲滅”を開始せんとする。 敵は“雷霆”と“歌姫”――――。 全火力を駆使して、徹底的に、確実に仕留める。 「【典開】―――――」 故に、躊躇いはしなかった。 初手より、最大火力を放つ。 迷うことはなかった。 この一撃で、仕留める。 例え、仕損じたとしても。 次の爆撃で、討ち滅ぼす。 灰燼すらも、遺してはならない。 「偽典・混沌天―――――」 瞬きの刹那。一瞬の狭間。 シュヴィは、信じられぬ現象に直面する。 蒼き雷霆の姿が、突如として“消えた”。 その視界から、忽然と消失し。 即座にシュヴィは、魔力反応を探知しようとした。 その瞬間の出来事だった。 ―――貫くような衝撃が、突き抜けた。 ―――弾けるような破砕の音が、轟いた。 シュヴィの思考が、理解が、振り切られる。 何が起きたのか。それを認識するまで、半歩遅れる。 自らに起きた異変に気付いた彼女は、驚嘆に目を見開く。 全典開の械翼。 その巨影が、崩されていた。 右翼の中心が、“雷撃”に撃ち抜かれていた。 翼の右半身が、大きく損壊する。 走り抜けた衝撃に、そのバランスを崩す。 何が起きた。一体、どうなっているのか。 シュヴィは、その攻撃の正体が分からなかった。 視認どころか、魔力探知をも掻い潜って、その一撃は叩き込まれた。 やがてシュヴィは、ようやく認識する。 自身の感知を突破して―――気が付いた時には既に滞空をしていた、“蒼き雷霆”の姿を。 彼は一瞬で宙を翔け抜けて、その身を雷撃の流星と化し。 シュヴィの探知さえも振り切って、巨翼の半分を貫いたのだ。 振り返ったシュヴィは、己に背を向けるガンヴォルトを視た。 ―――いつの日か 世界が終わる時も――― ―――あなたさえいれば 怖くないの――― 飛翔した雷霆を支えるのは。 愛を歌い、揺蕩う“謡精”。 少女は、ただ謡い続ける。 少年への想いを貫くように。 その唄は、戦場を駆け抜けていく。 ―――冷たく降りしきる雨[降りしきる]――― ―――陽炎消えて[陽炎]――― 響き渡る歌。 少年を導く祈り。 蒼き雷霆は、いま。 焦がれ続けた愛と共に在る。 シュヴィは、焦燥と動揺に駆られる中。 残された隻翼で、ありったけの武装を解き放つ。 怒号のような咆哮と共に、それは解き放たれる。 「【典開】―――――ッ!!!」 『偽典・焉龍哮』―――『一斉掃射』。 拡散する追尾弾の如く放射される、獄炎の濁流。 龍精種の放つ魔技『崩哮(ファークライ)』。 それを模倣し、殲滅へと特化させた爆撃。 破滅の流星群が、雷霆へと殺到する。 「迸れ」 ―――切れ間から差し込んだ――― ―――光の梯子 生命の道標(コード)――― 「蒼き雷霆“アームドブルー”」 ―――あどけない寝顔見つめる――― ―――月明かり真白の花――― 蒼き雷霆は。 ただ静かに、呟く。 迫り来る死の影を前にしても。 彼は動じず、怯まず。 その詠唱と共に―――無数の鎖を、展開する。 張り巡らされる巨大な鎖。 迫る『焉龍哮』を、真正面から受け止め。 迸る雷電によって、その全てを搔き消していく。 ―――戯れに裂いた水面に――― ―――広がって消えていく――― それは、シュヴィが解析した『ヴォルティックチェーン』のようであり。 しかし、出力と威力は、桁違いに跳ね上がっている。 彼女は、間もなく気付く。 これは『ヴォルティックチェーン』とは違う。 この能力は、技は、己でさえも知らない技であると。 記憶の共有による『解析』を経ても尚、この術理には辿り着かなかった。 ガンヴォルト―――オルタ。 その力は、奇跡の果てに解放された。 今ここにいる彼が本来体得していない異能。 暴龍へと到達した『未来の雷霆』が行使する、拒絶と破滅の力。 それは本来の彼自身が掴み取る技ではない。 されど、飛騨しょうことの離別を経て。 威信(クードス)の蓄積を経て。 解析による潜在能力の解放を経て。 自らの限界さえも突破したガンヴォルトは、己の伝説の極点へと至った。 ―――茨の道でも優しさ――― ―――此処にある胸の奥に――― 鎖環(ギブス)の伝承と逸話は。 既に、彼のものと化している。 故に、この究極の技さえも行使できる。 “第八波動”の力に飲まれ、臨界点を超えて発動した異能。 未来の伝承において、それは己の仲間へと向けられた。 しかし今は、違う。 蒼き雷霆は、己の意地を貫き通すために、その技を放つ。 シュヴィは、咄嗟に発動しようとした。 解析。敵の武装と能力を読み取り、己のものへと昇華する。 機凱種の中でも『解析体』と呼ばれる個体が持つ技能。 その術を使えば、恐らくは雷霆を守る『歌』さえも模倣できる――。 ―――解けないココロ溶かした――― ―――あなただから――― しかし。 だというのに。 彼に寄り添い、歌い続ける少女を見て。 シュヴィは、足踏みをした。 覚悟を振り絞り。 懸命に歌い続けて。 その未来に、祈りを捧げて。 歌姫は、其処に佇む。 たった一人の少年を、支えている。 そんな少女の姿が、視界に焼き付く。 思考回路に、刻み込まれる。 その鮮明な姿が。 シュヴィに、衝撃を与える。 解析―――出来ない。 この能力は、模倣し得ない。 否、違う。 シュヴィは“躊躇った” 何故ならば。 それが彼の“よすが”であることを。 彼の心の拠り所であることを。 シュヴィは、理解してしまったからだ。 自分だけの愛(ココロ)を、他者に差し出す。 自分だけの愛(オモイ)を、他者に捧げる。 その重みを、その意味を、彼女は誰よりも知っていて。 だからこそ、躊躇した。 少年に寄り添う、無垢な愛を―――“模倣”することなど出来ない。 そして。 蒼き雷霆は、呼吸を整える。 自らに寄り添う『意思』を噛み締めて。 無数の鎖を、次々に解き放つ。 これが、究極の雷撃。 これが、最強の雷霆。 天を穿つ、極限の技。 伝説は、幕引きへと至る。 ――――祝福。選択。再生。覚醒。 ――――救済。顕天。未来。愛情。 ――――雷霆よ、迸れ。 ――――拒絶しろ。 ――――拒絶しろ、哀しみを!! 「オクテスッ、ヴェトォォォォォォ―――――――!!!!!!!!!!!」 ―――蒼雷が、蒼天を裂いた。 無数の鎖を起点に、空と雲を穿つ雷撃が解き放たれた。 まるで、宙を舞う『星屑の嵐』のように。 解き放たれた至高の雷電は、械翼ごとシュヴィを飲み込んだ。 ◆ 翼が、焼け落ちていく。 己の力が、崩れていく。 限界を超えたガンヴォルトの雷撃。 それは、全典開―――シュヴィの切り札さえも打ち砕いた。 己は、負けるのだろうか。 雷撃に焼かれたシュヴィの中に、そんな想いが過る。 なけなしの意地だった。 霊核の損傷は、修復不可能な域に届いている。 最早、消えてゆくことは避けられない。 だからこそ、シュヴィは。 ガンヴォルトを此処で食い止めることを選んでいた。 彼をみすみす逃して、最期の足掻きをさせないためにも。 せめて、この場で刺し違えてみせる。 そう思考して、戦い抜いていた。 ――――それだけじゃ、ない。 そんな“合理性”に割り込むように。 思考には、ノイズが走り続ける。 それは、心あるが故に芽生える“感情”。 命ある者が持ち得る、有機的な“非合理性”。 ――――私は、ただ。 ――――この人に、勝ちたい。 記憶の共鳴。度重なる激突。 繰り返される交錯の中で。 シュヴィは、ガンヴォルトの想いを掴んでいた。 彼もまた“大切な誰か”のために戦い抜いて。 自らの意志を、愛を、貫かんとしている。 そんな彼に対して、共感と慈悲を抱き。 同時に―――“負けたくない”と思った。 それは、心あるが故の想い。 共に祈りを握り締める相手への、一欠片の対抗心。 愛を背負い、愛を貫くことで、己の存在証明を果たす。 それは即ち、エゴと呼ぶべきものなのだろう。 心という動力が、駆け抜けていく。 祈りを焚べて、限界を突き抜けていく。 械翼は崩壊した。 無数の武装には、もう頼れない。 即座に発動できる武器は、数少ない。 しかし。 それで、十分だった。 この力があるのならば。 ああ―――構わなかった。 ◆ 機械仕掛けの肉体は、電撃で焼かれ。 内部のあちこちから、鉄屑が軋むような音が響き。 顔の左半分などの外殻も損壊し、無機質な鋼鉄の素体が顕になっている。 既に魔力の肉体は消滅寸前になりながら。 地上へと堕ちたシュヴィは、それでも立つ。 彼女は、眼前に降り立った敵を見据えた。 アーチャー――蒼き雷霆、ガンヴォルト。 彼は、真っすぐにシュヴィを見据えていた。 その傍らに、歌姫が漂いながら。 雷霆は、最後の決着を悟ったように身構える。 「【典開】」 翼を失ったシュヴィ・ドーラ。 彼女が解き放つ、最後の武器。 それは、大地を焼き尽くす咆哮でも無ければ。 天を引き裂く一撃ですらない。 「『偽典・走刃脚(ブレイド・アポクリフェン)』」 ―――彼女が受け継いだ。 ―――祈りの、証だった。 機凱の両足を覆った装甲を見て。 蒼き雷霆もまた、身構える。 「……『蒼き雷霆(アームドブルー)』」 その掌に雷撃を纏わせて。 彼は、眼前の敵と対峙する。 沈黙と、静寂。 焦土と化した戦場に。 荒れ果てた風が、吹き荒ぶ。 刹那のような時間。 永遠のような睨み合い。 互いの呼吸が、意識が。 鮮烈なまでに、研ぎ澄まされていく。 ―――そして ―――二人は。 ―――同時に。 ―――疾走した。 駆け抜ける二つの閃光。 交錯する雷撃と斬撃。 擦れ違い、突き抜けていく。 一瞬の間に、全てを賭けて。 二人は、死線の果てへと到達する。 再び、世界から。 音が、消え失せた。 荒廃した大地で。 二人は、背中合わせで佇む。 一秒でさえも、無限に感じられる。 そんな交錯と余韻の果てに。 やがて、その場に崩れ落ちたのは。 機凱のアーチャー。 シュヴィ・ドーラだった。 ◆◇◆◇ ―――シュヴィ。 ―――ごめんな。 お前は、悪党の俺とは違う。 目的のために、俺が捨てたものを。 お前はずっと、持ち続けていた。 そんな慈しいお前を、俺なんかに付き合わせた。 俺は所詮、運命に踊らされる道化だった。 挙句の果てに、最期までお前を呪ってしまった。 それでも。 身勝手だとしても。 俺のエゴだとしても。 お前だからこそ、伝えたい。 今まで、ありがとう。 シュヴィ。 お前は、俺が捨てた“心”だ。 お前と出会えて、良かった。 お前が居たから、俺は救われた。 だから、いつかまた。 一緒に、ゲームを始めよう。 俺の大切な仲間も、交えて。 今度こそ、皆で勝とう――――。 ◆◇◆◇ 壮絶な火力の応酬、その果てに。 周囲一帯の街並は、焦土と化していた。 空爆によって焼き払われたように。 人々が生活を営んでいた市街地は、硝煙に包まれた更地と成り果てていた。 鮮明な青空に見下されながら。 戦禍の舞台に、風が静かに吹く。 穏やかな息吹のように。 傷付いた街を、癒やすかのように。 死闘は幕を下ろし。 其処には、沈黙が横たわる。 機凱のアーチャー、シュヴィ・ドーラ。 彼女はただ、空を見つめていた。 最早、その身は動かなかった。 幾ら魔力を振り絞ろうとしても。 機巧の肉体は、応えてはくれない。 仰向けに倒れる少女に、終わりの時が訪れる。 故にシュヴィは、茫然と思う。 ―――果たせなかった。貫けなかった。 ―――リップの最期の願いに、報いることが出来なかった。 霊核の損傷という壁に阻まれ、もはや己の現界の維持は不可能であると悟り。 せめて雷霆のアーチャーだけは食い止めることを選び、互いの意地をぶつけ合い。 そしてシュヴィは――――敗北した。 リップは、己に全てを託した。 それなのに、自分は―――。 彼の望みを、叶えられなかった。 彼の祈りを、繋げられなかった。 剰え、彼の遺志にも応えられず。 なけなしの意地さえ、押し負けた。 慙愧の念と、瀕死の身体に打ちのめながら。 しかし、不思議な心地の中で。 ゆっくりと、視線を動かした。 自身の右手に触れる“暖かさ”。 優しく添えられた“温もり”。 シュヴィはその正体を、すぐに察した。 雷霆のアーチャー、ガンヴォルト。 彼は、横たわるシュヴィの側で膝を付き。 彼女の右手を―――そっと握っていた。 その最期を、見届けるかのように。 悲嘆の闇へと、墜ちることのないように。 ガンヴォルトの傍に、“謡精”はもう居なかった。 彼はただ一人で、其処に佇んでおり。 それでも今は、死にゆく少女に寄り添うことを選んでいた。 「……やっぱり……」 己が消えゆくことを悟りながら。 シュヴィは、ぽつりと呟く。 「泣いて……いるん、だね……」 手を添える少年の温もりを、確かめながら。 シュヴィは、言葉を紡ぎ出す。 「……誰かの、ために」 その温もりの意味を、少女は知っていた。 理解できない筈がなかった。 誰かのために、意地のために、祈りのために。 自分の痛みと哀しみを押し殺して、それでも走り続ける。 そんな“慈しい人の姿”を、シュヴィは知っていた。 「すまない」 そして、ガンヴォルトも。 少女の想いを、噛み締めていた。 「キミとも……違う道が、あれば」 誰かに寄り添い、共に歩もうとする。 誰かの痛みを知り、支えようとする。 何かを背負う誰かのために、自分も背負うことを選ぶ。 ガンヴォルトは、そんな少女の在り方を見つめていた。 「手を、取り合えたのかもしれない」 二人の記憶と感情は、融け合い。 共に分かち合い、理解へと至った。 この死闘の果てに、少年と少女は。 「ボク達は……同じ、だから……」 互いに歩み寄り。 互いに慈しんだ。 その胸に抱く想いを。 その心に宿る、一欠片の愛を。 「“シュヴィ”。どうか、幸せに」 だからこそ。 “蒼き雷霆”は、餞別を手向ける。 “記憶の共鳴”の果てに知覚した、彼女の名を呼びながら。 例えこれから、共に消え行くとしても。 それでも、彼女の“幸福”を―――願わずにはいられなかった。 そんな彼の想いを受け止めて。 シュヴィは、呆然とした顔を浮かべて。 しかし気が付けば、その口元には。 穏やかな微笑みが、零れていた。 何故だが、その時。 シュヴィは、思った。 ――――“彼”の声が、聞こえると。 共に歩み、傍で寄り添ってくれた。 そんな“マスター”の声が、届いたような気がした。 心の中で反響した“彼の言葉”は。 シュヴィを案じるように、慈しくて。 シュヴィを労うように、穏やかで。 それがただの幻であるのか。 魔力パスに宿った彼の意思であるのか。 確かめる術は、無かったけれど。 彼女にとっては、それが聞こえただけでも十分だった。 ―――蒼き雷霆。 ―――彼も、同じだったのだろう。 彼もまた、声を求めていた。 その声との繋がりを噛み締めることが。 彼にとっての、安らぎだった。 シュヴィは、それを確認した。 「“ガンヴォルト”」 そして――その名を、呼んだ。 終わりへと向かっていく中で。 シュヴィは、“愛”に触れる。 その心に遺された、一つの哀しみが。 安らかに、浄化されていく。 「あなたも……幸せ、に……」 腕の中に居た少女。 シュヴィ・ドーラは、消えてゆく。 蒼い朝の光に、融けていくように。 身体を構築する魔力が、霧散していく。 穏やかな笑みを湛えて。 果てしない、蒼い空の下で。 風と共に、散り行く。 “少女”を看取った―――桜の花のように。 ――――リク。 朝日の中で去り行く少女は。 最期に、そう呟いていた。 その名の意味を。 ガンヴォルトは、既に悟っていた。 解析。感応。記憶の共鳴。 彼女が抱いていた愛を、彼は知覚している。 だからこそ彼は―――シュヴィの最期を、見届ける。 慈しみを、その瞳に湛えながら。 ガンヴォルトは、魔力の粒子となる少女を見守り続けた。 空は、果てまで澄んでいた。 稲光のように、鮮明な蒼だった。 そんな色彩へと還るように。 愛を抱く少女、シュヴィ・ドーラは。 この舞台から――――姿を消した。 【アーチャー(シュヴィ・ドーラ)@ノーゲーム・ノーライフ 消滅】 腕の中にいた少女は、去っていき。 光の欠片と化して、空へと舞っていく。 花弁のように消える温もりを、見送りながら。 ガンヴォルトは静かに、哀しげに、微笑んだ。 そして、空を見上げた。 蒼い情景を、視界に焼き付けて。 少年は、ゆっくりと立ち上がった 舞台の上から、降りていくかのように。 彼はただ、か細い足取りで、歩き出す―――。 ―――ああ。 ―――ボクも、潮時だ。 彼は、既に理解していた。 己の霊基が、とうに限界を迎えていたことを。 意地と気力だけで、現界を成し遂げていた。 崩れゆく霊核をものともせず、此処まで戦い抜いた。 あらゆる能力を振り絞って、決死の覚悟で戦い抜いた。 それはまさに、限界の踏破だった。 ここまで戦い抜けたのは、奇跡であり。 “彼女”が寄り添ってくれたからなのだろう。 ――――今はもう、あの歌声は聴こえない。 それでも、構わなかった。 酷く満足で、清々しい気持ちだった。 脳裏に、一人の少女の顔が浮かぶ。 この聖杯戦争で、自分を呼び寄せたマスター。 取り零した愛と再び向き合うために、翔び続けることを決意した“慈しい小鳥”。 彼女の唄が、笑顔が。 ふいに頭の中を、駆け抜けた。 それだけで、もう悔いはなかった。 それだけで、彼は満たされていた。 もう振り返ることはない。 ただ一つ、願うことが在るとすれば。 ――――神戸しおと、そのライダー。 ――――彼らの旅路の果てに、幸福があらんことを。 飛騨しょうこ。松坂さとう。 彼女達が繋いだ愛の先にいる少女。 彼女達の未来が、“幸せなもの”であってほしい。 それだけが、今の雷霆の願いだった。 それでいい。それが、彼の祈りだった。 そして―――少年は、空を見上げた。 空の果てへと届いた唄に。 想いを、馳せていた。 ◆◇◆◇ 消えてゆく。 ボクの存在が。 座へと、還っていく。 『あなたと、その娘の愛も……』 『終わることなんてない』 誰かの声が、聞こえる。 誰かの歌が、聴こえる。 『あなたと出会えて―――』 『私はずっと、幸せだったよ!!』 これは、走馬灯なのだろうか。 最期に見る、夢なのだろうか。 その答えは、分からなくて。 けれど、その声の先に。 ボクは、眩い光を見ていた。 ◆◇◆◇ ―――慈しい風が吹いて。 ―――懐かしい匂いがした。 ◆◇◆◇ 永遠のような時間が。 ただ静かに、流れ続けていた。 光の中に、包まれるように。 記憶の果てを、揺蕩うように。 暖かな静寂に、身を委ねていた。 此処は―――何処なのだろう。 そんな疑問を、ふいに抱いて。 意識が少しずつ、覚醒へと向かっていく。 ボクは、ゆっくりと瞼を開いた。 雲の一つも無い、青々とした空。 果てまでも鮮明な色が、視界に入った。 それは先程まで見つめていた景色と、似通っていて。 自分は、生きているのか―――そんな疑問を抱きかけた。 しかし、そうではなかった。 ボクはそのことに、すぐ気付いた。 その“懐かしい声”を聞いて。 ボクは何かを悟って、受け入れた。 『おかえりなさい、GV』 仰向けに横たわるボクの顔を、“彼女”は覗き込んだ。 薄い紫色の髪を靡かせて、紅い瞳でボクを見つめる。 ひどく、懐かしい声で―――懐かしい顔だった。 爽やかな風が吹く平野で、ボクは“彼女”の膝に頭を乗せて眠っていた。 ボクは呆然と、“彼女”を見上げていた。 あの“奇跡”を経て、今度こそ別れへと至ったと思っていた相手が。 ボクのすぐ傍に、確かに存在している。 「―――――シアン……?」 ボクは、“彼女”の名を呼んだ。 “彼女”は―――“シアン”は、慈しみを眼差しに込めて。 ボクのことを、じっと見つめていた。 『あなたを苦しませて、ごめんなさい』 そしてシアンは、そう告げる。 その声に、切なさを滲ませて。 『あなたを独りにして、ごめんなさい』 ボクは、彼女の言葉を聞き届ける。 シアンの懺悔を―――ただ、受け止める。 『私は、あなたを支えられなかった』 彼女の顔に浮かぶ、悲しみを見て。 ボクは思わず、言葉を零しそうになった。 ――――そんな顔をしてほしくない。 ――――キミに罪なんかない。 シアンの謝罪に、そう返しそうになって。 けれどその言葉は、喉の手前で堰き止められた。 彼女が悔やむ意味を、ボクは理解してしまったから。 “自分のせいで、貴方を傷付けてしまった”。 それは―――ボクも、シアンに抱いていた感情だったから。 『そして……』 それから、彼女は。 一呼吸の間を置いて。 悲しみの顔を、微笑みへと変えた。 『誰かの祈りを守ってくれて、ありがとう』 ――――そう伝えたシアンに。 ――――ボクは思わず、目を見開いた。 『愛を唄う小鳥が、私に伝えてくれた―――』 感慨を噛み締めるように、シアンは呟く。 ボクの傍に寄り添ってくれた“小鳥”。 その歌は、彼女へと届いていた。 『あなたは最期まで、慈しい歌のために戦っていた』 彼女の言葉が。想いが。 ボクの心を、静かに癒やしていく。 胸の内に抱いてきた葛藤が。 その慈しさに、解かれていく。 『おつかれさま。どうか、ゆっくり休んで』 そうして、シアンはボクに笑いかける。 穏やかで、安らかな彼女の声に。 ボクは思わず、言葉を失いかけて。 「……ボク、は」 けれど、ボクは。 意を決して、言葉を紡ぐ。 「キミの存在と、向き合えなかった」 シアンが、己の悔いを伝えたように。 「キミを喪った罪ではなく、キミ自身を見つめるべきだった」 ボクもまた、伝えたかった。 「ボクこそ……キミに、謝らなくてはならない」 彼女への想いを。 彼女に抱く、懺悔を。 シアンがそれを届けたように。 ボクも、それを届けたかった。 それこそが――此処まで背負い続けた、ボクにとってのケジメだったから。 そんなボクの告白に、シアンは。 何処か切なげに、優しく受け止めるように。 静かな微笑みを浮かべていた。 『……一緒だったね、私達』 ―――ああ、きっとそうなのだろう。 ボクはただ、それを悟った。 ボクも、彼女も。 互いを想い、互いを愛し、運命を共にして。 それ故に、ボク達は擦れ違った。 信じ合っているにも関わらず、ボク達の感情は平行線を辿っていった。 だからこそ、ボク達は。 後悔を抱いて、此処まで至った。 愛する者を支えられなかった哀しみと共に。 ボク達は、歩み続けた。 『みんなの想いは、ずっとあなたと共に在る』 そして今、やっと二人は結びついた。 穏やかで、澄み切った、碧空の下で。 互いに後悔を分かち合いながら。 祈りの言葉によって、浄化された。 『私も、今度こそ……あなたの隣で寄り添うから』 シアン。 キミが、此処に居る。 そんな想いを、伝えてくれる。 それだけで、十分に幸福だと言うのに。 『だから。何度でも、伝えるよ』 彼女は、何処までも。 愛おしい言葉を、繋げてくれる。 『ありがとう、GV』 シアンが、ボクの頬に触れる。 優しく撫でるように。 ボクという存在を、確かめるように。 今の彼女は、とても幸せそうに笑っていた。 『私の――――愛する人』 彼女の温もりが。 ボクを、優しく包む。 その暖かさに触れて。 ボクはようやく、悟った。 ああ、そうか。 そうなんだな。 シアン、ボクは。 ここにいて、いいんだ。 ――――良かった。 「ありがとう、シアン」 ボクは、微笑んでいた。 掛け替えのない安堵を胸に抱いて。 その安らぎを、抱いていた。 「――――ボクは今、幸せだよ」 【アーチャー(ガンヴォルト(オルタ))@蒼き雷霆ガンヴォルト爪 消滅】 時系列順 Back IMAGINARY LIKE THE JUSTICE Next はじまり、はじまり 投下順 Back IMAGINARY LIKE THE JUSTICE Next はじまり、はじまり ←Back Character name Next→ 165 この愛をくれたあなたに(1) 皮下真 172 人外魔境渋谷決戦(1) 165 この愛をくれたあなたに(1) ライダー(カイドウ) 172 人外魔境渋谷決戦(1) 165 この愛をくれたあなたに(1) アーチャー(シュヴィ・ドーラ) GAME OVER 165 この愛をくれたあなたに(1) アーチャー(ガンヴォルト[オルタ]) GAME OVER
https://w.atwiki.jp/hakarowa4/pages/183.html
白光の中の叫び ◆auiI.USnCE 「ふう……疲れたー」 腕を回しながら、少女――藤林杏は真っ直ぐ伸びた道を進んでいる。 長い藤色の髪を揺らしながら、大きく伸びをした。 殺し合いも始まって早々壮絶な追いかけっこをしたのだ、流石に杏もくたびれていた。 出来れば、少し休みたい気もしていたのだが、 「おい、杏……あの鉄の馬は放置していていいのか?」 「うんー? ああいいのよ、もう動かないし」 「そ、そうか……ううむ、よく解らないものだな。あれは」 杏の一歩後ろで歩いている怪しい仮面の男が、まだ暫く移動を続けるよう提案したのだ。 襲ってきた敵を撃退したとはいえ、あれだけでの物音を出したのだから他の人間に気付かれている可能性が高い事。 それと、杏達の足でもあったバイクの燃料が尽きた事も含めてだった。 それ故になるべく現場から離れるようにハクオロ達は大通りを只管直進している。 「けれど、ハクオロさん。これからどうするの?」 「知り合いを探すんじゃないのか?」 「それは当然だけど、でも知り合いを見つけるだけじゃ殺し合いは……」 「終わらないな。それは当然の事だ」 杏が思っていた疑問。 ただ殺し合いに乗らない、知り合いを探そう。 それだけでは殺し合いは終わらない。 至極当然の事で、ハクオロも杏の言葉を継いで言う。 「なら、どうすればいいの?」 だから、杏はその答えをハクオロに望む。 未だに半信半疑だが、彼は国を束ねる王らしい。 実際怪しさも半分あるが、風格も杏から見てそれにあったのだ。 そんなハクオロなら、もしかしてという期待。 ただの一般女子高生でしかない杏じゃ辿り着けない答えを持っている。 そう、願ったいたのだが。 「そうだな、首輪を何とか外してあの男を打倒する……そんな言葉が欲しいのか? 杏は?」 「えっ?」 彼は何かを諭すように、杏に言葉を返す。 確かに首輪を外す事は大切ではあるのだろう。 もしかしたら、そんな綺麗な言葉が欲しかったかもしれない。 虚をつかれて、戸惑っている杏にハクオロは言葉を重ねる。 「杏。必要なのはお前がどうしたいのかだ。誰かに縋って得た考えではいけない」 「私がどうしたい……?」 「そう。お前がこの殺し合いの中で、どう考えどう行動していくか……自分の意志で決めて動くのだ。その行動にこそ、意味がある」 ハクオロが杏に伝えたい事。 それは、杏がどうしたいか、自分の意志で考えて進む事。 その行動にこそ、意味があるのだ。 「私は……妹を、好きな人を守りたい」 そして、杏がポツリと呟いた言葉。 大切な妹を、好きな人を守りたい。 本心から出た、意志のこもった言葉だった。 「ならば、それを行えばいい」 その言葉にハクオロはやっと笑みを浮かべ。 杏の頭を軽く撫で、デイバックから何かを取り出した。 「お前は私に武器を与えたからな。今はお前には武器は無いだろう。かわりに使え。守るために」 一丁の自動拳銃と弾倉。 それが杏の手に渡される。 杏は驚き、ハクオロを見る。 「これを使えって……?」 「別に、そうではない。守るため……その心構えみたいなものだ」 「心構え……?」 心構えを、ハクオロは杏に伝えようとして。 その時だった。 「杏、危ないっ!」 わき道から、三人の集団が襲い掛かってきたのは。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 「居ますね」 「居るね」 「居ます」 三人の人間が同時に同じ言葉を紡ぐ。 視線の先には、二人の人間がいた。 幸い三人には気付いている。 「幸先がいいですね」 そういったのは、眼鏡をかけた少年竹山。 この集団のリーダーである者だった。 竹山の言葉に、二人の少女が頷く。 黄色の髪の少女が笹森花梨。 茶色の髪の少女が古河渚だった。 「さて、前述の通り、僕達は彼らを殺します。いいですね?」 この集団は殺し合いに乗っている。 成仏させて、新たな人生を開く為に。 竹山の言葉に、花梨は頷いて。 「うん、了解なんよ。私も準備できてる」 花梨は少し楽しそうに、スコープ付きの短機関銃を持ち出す。 視線はもう、これから自分が殺す相手に。 「な、渚ちゃんは……?」 「私は……」 渚は一丁のリボルバーを取り出して考える。 視線の先にいるのは、渚と同じ制服を着た少女。 言うまでもない、渚の知り合いである藤林杏だ。 杏はいい人で、こんな自分の面倒を見てくれている。 とても優しい人だ。 それなのに、その人を殺す。 殺そうとしている。 いいのか。 それでいいのか。 迷い、戸惑う。 でも、自分達はもう死んでいる。 だから、だから。 いい人である杏は、ちゃんと成仏しなきゃダメだ。 「はい、大丈夫です」 だから、渚はコクンと頷く。 はんば、自分を納得させるように。 竹山はその渚の葛藤を知らずに 「じゃあ、行きましょう。相手は二人ですし虚をつけばうまく行くと思います」 「私が先陣を切ればいいんよね?」 「はい、笹森さんの短機関銃が有れば問題ないと思います……本当は僕に渡してくれればいいんですが」 「これは私が支給されたもんなんよ。手放す気はないんよ」 「はあ……そうですか」 竹山はやれやれといったように頭を振って、自分の支給された刀を取り出す。 そして 「じゃあ、いきましょう!」 その合図とともに、三人は駆け出す。 殺す標的の二人が、駆け出した三人に気付き、応戦しようとする。 そして、花梨が短機関銃を撃とうとした瞬間、 「え? きゃあああああああああああああ!?!?」 道に溢れ出る、眩いばかりの閃光。 その白光は花梨はおろか、竹山や渚の視界すら奪いつくす。 竹山の作戦は、愚策ではない。 しかし、唯一の誤算といえば、グレネードランチャーの閃光弾という強力すぎる武器を相手が持っていると気付かなかった事だ。 そして、戦いは混戦と相成っていく。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 「くっ、まさか」 竹山は苦々しい声を出して、刀を杖に立ち上がる。 未だに光でちかちかする視界で辺りを見回す。 花梨や渚は光に驚いて、随分と自分から離れるように散らばっているようだ。 この状況を不味いと竹山は考える。 離散してしまったら、集団で襲う意味が無い。 各個撃破されてしまうのが落ちだ。 「早く、合流しなければ……」 「悪いがその時間は与える訳には行かない。 お前が頭か」 「なっ!?」 「集団は頭を叩くのが鉄則だ。まずお前からだ」 竹山の前に立つ男。 ハクオロが睨むように竹山を見る。 竹山が刀で応戦しようとするが、 「遅い……悪いがしばらく眠ってもらうぞ」 瞬く間に避けられ、そして手刀が首筋に落とされる。 それだけの事。 それだけの事で、竹山の意識は闇に落ちていった。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ あー! また襲撃!? ハクオロさんが閃光弾使ったのはいいけど、私まで見えないじゃない! どうしようどうしよう!? 手に持った拳銃。 人を殺せる武器。 これを使うの? 私が? ハクオロさんが渡してくれた拳銃。 その拳銃がとても重たく感じる。 これで、私はどうする? どうしたい? 私は……。 私は……。 撃てない。 これは人を殺す武器だ。 最初のアンドロイドじゃない、今度は人間だ。 だからきっと、私は撃てない。 撃ちたくない。 そして、視界が戻ってくる。 眼前にいるのは拳銃を持った二人の少女。 え? 殺される? 私は? あの二人が拳銃を撃てば、私は死ぬ。 嫌だ。 いや。 そんなのいや。 死にたくない。 まだ死にたくない。 朋也にも会ってない。 椋にだって会っていない。 二人に会いたい。 まだ死ねない。 死にたくない。 そう思った瞬間。 手に持っていた拳銃がとても軽く感じて 銃の引き金を二回引いた。 とても、軽く感じた。 パンパンと軽い音が響いて。 視界も更に鮮明になってきて。 「え…………?」 撃った一人の姿が明らかになる。 あれは、知り合い。 古河渚、私の友達だった。 私は……友達を撃ったの? 拳銃が重たくなっていく。 身体の震え止まらなくなっていく。 血の気が引いて、たっていられない。 心が折れそうだ。 そう、だ……私は撃ったんだ。 撃ってしまったんだ…… 大切な、友達を 撃った。 そんな…… 私は…… 「いやぁああああああああああああああ!!」 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 「いやぁああ!? 目が!」 「笹森さん、落ち着いて……落ち着いてください」 突然の光で私達は混乱していました。 私は直接見なかったからよかったものの、笹森さんはじかに見てしまって目が殆ど見れなくなっている状況になってしまている。 笹森さんを落ち着かせようと思って、声をかけるも効果が無い。 私はどうしようか戸惑ってしまって、その場でおろおろするばかり。 その時、 「ひぐっ!?」 「え……?」 二つの乾いた音。 それが銃声と気付くのに大分かかって。 私の頬が軽く切れていたことに気付いて。 頬に血がしたった時、私は顔が蒼ざめて。 そして、 「痛いよぉ……」 花梨さんの制服が血に染まってるのを見ました。 そして、鉄の臭いが鼻をついて。 私は思ってしまう。 ああ、これが死だと。 生きていて、そして訪れる死。 今自分が、藤林さん達に与えようとした死。 それが余りにも自分が身近に感じて。 ……あ。 もしかして、自分も死んでしまう? いえ、でも自分はもう死んでいる。 ……………………違う。 この頬の痛みと。 この血の臭いは。 この死の空気は。 現実に、あるモノだ。 つまり……私は死んでしまう……の……だろうか。 いや。 いや。 ……嫌。 「嫌ぁああああああ」 漏れる絶望の声。 私はこの場に居たくなくて逃げ出そうとする。 「待って渚ちゃん! 置いていかないで! 私を置いていかないで!」 引き止める声。 それすらも、私は振り切って私は闇雲に走り去る。 怖かった、死が。 嫌だった、死が。 だから、私は逃げさっていく。 私は何処に行くのだろう? 藤林さんを殺そうとした私は 一体何処に行く事ができるのだろう? でも、ただ、私は 死がとても嫌だった。 【時間:1日目午後3時半ごろ】 【場所:B-2】 古河渚 【持ち物:S W M36 "チーフス スペシャル"(5/5)、.38Spl弾×30、水・食料一日分】 【状況:頬にかすり傷、恐慌状態】 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 「ちっ……杏!?」 竹山を気絶させ、その武装を奪ったハクオロが次に聞いたのは、乾いた音と杏の悲鳴。 そして、地に伏せている少女一人と逃げ去っていった少女一人が見えて。 ハクオロは走って、杏のもとへ向かう。 「杏、大丈夫か!」 「は、ハクオロさん……わ、わた……わたし……う、撃っちゃ……た」 「おい、しっかりしろ!」 「わ、わた……し」 杏の瞳は虚ろで。 ただ目の前の事実が信じられないようにうわ言を呟いている。 ハクオロは舌打ちをしながら、杏の状況を感じ取り、 (くっ……撤退するしかないか) 眼鏡の少年や地に伏せているの事も気になるのは事実だ。 しかし、これ以上戦場の臭いが色濃いこの場所に杏を置いておく訳がいかない。 そう判断したハクオロは、苦虫を噛み潰すように 「杏、逃げるぞ!」 「わた……」 「ちっ、抱きかかえるが、文句は言うなよ!」 未だに虚ろな目を浮かべる杏を抱え、そのまま逃げ去っていく。 だから、ハクオロは気付かない。 地に伏せていた少女が怨嗟の声をあげていた事に。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 痛い。 痛くてたまらない。 それなのに。 逃げた。 逃げられた。 あの女に。 私が怪我を負ったのに。 彼女は逃げたんだ。 自分の命可愛さに。 私だってまだ生きているのに。 あの女は、逃げちゃった。 私だって、怖い。 痛いのは嫌だ。 そんなん、皆一緒なのに。 古河渚は、一人で逃げ出した。 撃たれた肩がじくじくと痛む。 血が止まらない。 涙が溢れてくる。 それなのに、頭は沸騰するくらい熱かった。 それなのに、心は真っ黒く染まっていくのを感じる。 「……せない」 この感情は何だろう。 「……許せない」 怒り。 怨み。 そんなのだろうか。 「絶対に、許さない」 一人で逃げ出したあの子が。 私を置いていったあの子が。 「絶対に……絶対に……」 古河渚が 「絶対、殺してやる」 殺したくなるほど、憎い。 【時間:1日目午後4時ごろ】 【場所:B-2】 笹森花梨 【持ち物:ステアーTMP スコープサプレッサー付き(32/32)、予備弾層(9mm)×7、水・食料一日分】 【状況:左肩軽傷、古河渚への憎しみ】 竹山 【持ち物:水・食料一日分】 【状況:気絶】 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 「ほら、水だ……落ち着いたか?」 「……ありがとう、ハクオロさん」 戦場から大分離れた民家に、ハクオロと杏は居た。 ハクオロの懸命な語りかけの結果、杏は大分落ち着きを取り戻してきている。 しかし、友人に向かって撃ってしまった。 その事実が杏を苦しめている。 「私……渚に向かって撃っちゃった……そんなつもり無かったのに」 杏の手が震えている。 当たり前かもしれない。友達を撃ってしまったのだから。 殺すつもりはなかったなんて言葉は免罪符にすらなりえない。 延々と杏を苦しめるだろう。 銃を不用意に渡してしまったハクオロにも非はある。 それをハクオロ自身が理解している。 理解しているからこそ、彼女に言葉をかけなければならない。 あの時、伝えられなかった心構えを。 「杏。人は余りにも呆気なく死ぬ。私とて例外ではない」 人は簡単に死んでしまう。 どんな人であれ、致命傷を負えば死んでしまう。 意志を持っていても、それすらも捻じ伏せて。 「そして、人を簡単に殺してしまうのは、その武器でもあろう」 例えば刀、例えば斧。例えば弓矢。 そして杏が持っている拳銃もそうだ。 刀ならば、切れば死ぬ。 拳銃ならば、撃てば死ぬ。 「武器は余りにもあっさり殺してしまう事ができる」 「……じゃあ、なんでそんなモノを私に渡したのよ……」 杏の若干怨みも篭った声。 そんなモノを自分に何故私渡すのかと。 「しかし、武器を使うのもまた人だ」 ハクオロは語る。 武器を使うのもまた人だ。 「それをどう使うのかを決めるのも、また人でしかない。杏」 「どう使うって殺すしか……」 「意志の問題だよ。武器を護る為に使うのか。それとも殺すために使うのか」 「言葉を変えただけじゃない」 「そうかもしれないな。けれど、それでも自分が持てる意志は違うぞ?」 人は意志を持つ事ができる。 武器を護る為に使うのか、それとも殺す為に使うのか。 他にも使い道があるのかもしれない。 それでも、それを決めるのはまた人だ。 だから、 「武器に使われる事は決していけない。杏」 武器に、使われてはならない。 それでは、何の意志も無く人の命を奪ってしまう。 「君が友達を撃ってしまったのは変わらない事だ。だが」 変わらない罪。 けれども 「それを受け止める事は辛いが……けれども、君はそれ受けて、どう生きていく? どうしたい?」 撃ってしまった事実。 それを受けて、藤林杏はどう生きていくのか? ハクオロの視線は慈愛に満ちていて。 杏は、その言葉を受け止め考える。 撃ってしまった友達。 悔いても悔いても悔やみきれない。 だけど、そのことは変わらないのだ。 泣いても泣いても、変わらない。 なら、 「謝りたい……撃ってしまった事……渚に謝りたいよ……」 その撃ってしまった事を友達に謝りたい。 それが、杏に今出来る事。 杏が今したいことだった。 ボロボロに泣きながら、それでも決めた、杏が今したいことだった。 「なら、それをすればいい」 ハクオロは笑う。 そして。 「お前がそれをしたいのならば、私はお前が為すべき事に全力で手を貸そう」 力強く放たれたその宣言は。 杏から見ても、正しく王たるものの言葉だった。 【時間:1日目午後4時ごろ】 【場所:B-3 民家】 藤林杏 【持ち物:H K P2000(15/16)予備弾倉(9mm)×6、水・食料一日分】 【状況:健康】 ハクオロ 【持ち物:ゲンジマルの刀、エクスカリバーMk2(0/5)、榴弾×15 焼夷弾×20 閃光弾×18 水・食料一日分】 【状況:健康】 ※ミニバイクはb-2の近くに放置されています 078 Strange encounter 時系列順 081 be ambitious 079 Full Metal Sister 投下順 081 Hariti 035 Machine Heart 藤林杏 128 枯死 ハクオロ 040 「クライストとお呼びください」 古河渚 竹山 094 そらに響くは彼女の嘲笑 笹森花梨
https://w.atwiki.jp/orirowa2014/pages/199.html
《オデット》 熱い 痛い 苦しい 饑い 憎い 穢らわしい 嫌だ 否だ 厭だ 燃えている。 世界が燃えている。 たとえ現実には夜明けを前にして静まりかえっている街角の風景の中にいるとしても オデットの目に映る世界は劫火の地獄だった。 世界は何時までも劫火に包まれている。 あの時、あの灼熱地獄の中からずっと。 『ありがとよ、オデットさんよぉぉぉ! 俺の踏み台になってくれてさぁぁあああ! そこの人殺しから守ってくれてさぁぁぁあああ!』 何故? 私は彼を守ろうとしたのに 何故彼は私を 「そりゃあ、それが当然の事だからだ」 声が聞こえる。 そしてオデットは死ぬ。劫火の街の中で、何度も、何度も 餓死焼死爆死病死戦死自死事故死溺死轢死圧死撲死中毒死窒息死出血死感電死転落死横死惨死斬死慙死頓死憤死狂死殉死脳死衰弱死即死枯死餓死 死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死 死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死 死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死 死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死 死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死 死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死 死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死 死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死 独りで看取られて惜しまれて望まれて望んで選ばれて選ばれなくて侵されて食らわれて静かに騒がしく諦めて抗って次を望み天を望み何も望まず どんな死でも苦しくない死など無いどんな死でも自分が消える意味のある死など無い 嫌だ 否だ 厭だ 違う これは私じゃない 死ぬのは死んだのは私じゃない違う違うちがうちがう 「死ぬなんてのは一回きりのお楽しみだと思ってたが、こんな大盤振る舞いで楽しめるなんて 中々いかしたアトラクションじゃねえか。え?」 また声が聞こえる。 声の主はあいつだ。 燃える世界の中、長身痩躯のダークスーツの男が笑っている。 「しかし折角の見せ物を楽しむにはよ、肴が足りねえな」 そう言いつつ、ダークスーツの男は何かを摘み上げる。 それは人間の眼球だった。奇妙な色に虹彩が輝くそれを男は口に放り込むとぐちゃぐちゃと咀嚼する。 「こんなもんじゃまだまだ食い足りねえよ。なぁ?」 あの眼の色、私に話しかけてきた黒ずくめのオッドアイの白い顔の男 の瞳を私がわたしが口に わたしが? ぐちゃぐちゃ、ごくり。と嚥下すると、業火の渇きが癒される。 癒される、癒されたのは私。 食べたのも私 じゃあ 私が 今 食べた物は 「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!!!!!!!!!!!」 思い出した思い出したおもいだあしたあ 熱くて死んで飢えて死んで渇いて死んで苦しくて死にたくなくて 苦しくて食らいたくて飢えて食らいたくて渇いて苦しみをなんとかしたくて食らいたくて 食いたくて死にたくなくて食らいたくて楽しみたくて楽しみたくて楽しいから 楽しい楽しい楽しい楽しい美味しい美味しい美味しい美味しい楽しい美味しいから あの人をあの男の人をあの人間を人間を嬲って捥いで潰して削って奪って 食らって 「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙」 喉に指を突っ込む。吐く。吐き出す食べたものを全部 食べた物全部 だってそれは 「勿体ないことするんじゃねえよ。 それともアレか、次の飯を賞味する為に腹を空けとこうって寸法か?」 劫火の中、相変らずダークスーツの男は厭らしい笑みを浮かべている。 「あ゙なた」 そうだこいつ 思い出した こいつが 「あなたが わたしを おかしく したのね あなたが あんなひどい ひどいこと させたのね わたしを あやつって」 そう言うと、黒い毒のような男は面白そうに笑った。 「おいおい、勘違いするな」 男は楽しげな足取りで近づくと、地に崩れ落ちた私を覗き込んだ。 「やったのは俺だ。やったのはお前だ。それは同じことだ。 何故なら俺はお前なんだからな」 「なに を いう の」 「俺はお前自身だ。何故なら――」 いつの間にか、男の顔は私の目の前にあった。 「俺がお前の本当の姿だからだ」 ふらふらと、さっきまでいた倉庫に戻る。 「おい、新しい獲物がいるぜ」 私の傍らにいるダークスーツの男が言うとおり、そこには見知らぬ人間が一人増えていた。 自然と 私は 笑顔になった 新しい食べ物 新しい玩具 新しい人間 「EgdeDnIw」 《バラッド》 「ウィンセント!危ない!」 叫ぶと同時に、バラッドは持っていたせ○とくんのぬいぐるみを全力で鵜院に投げつける。 「うわっ!」 剛速球で投げられたせ○とくんをもろに食らった鵜院は、その場から弾かれて倉庫の床に倒れる。 「EgdeDnIw」 それは火傷の角女の口から奇怪な呪文が漏れる直前の出来事だった。 次の瞬間、バラッドの超人的な動体視力は信じ難い光景を捉えていた。 鵜院の体を弾いた直後の、中空に留まったままのせ○とくんぬいぐるみに 頭からつま先まで、平行して何本もの切れ込みが入る。 まるでハムの塊がスライスされるように空中で輪切りになったぬいぐるみは、バラバラの残骸となって地面に落ちた。 その、ぬいぐるみの背後 一瞬前まで鵜院が立っていたその場所の後ろに磔になっている茜ヶ久保の体にも 頭部から水平に、幾筋もの血の線が走っていた。 「だ ず げ で」 そして、地獄の悪魔が考えた積木崩しのように 輪切りにされた茜ヶ久保一の体はボトボトと嫌な音を立てて床に散らばった。 鉄棒で突き刺されたままの肩と腿の一部だけを壁に残して。 全ては一秒にも満たない間の惨劇だった。 「なんとか間に合いましたねぇ」 ようやく彼女に追いついてきたピーターの呑気な声が背後から聞こえた。 状況はその通り、間一髪だった。床にへたりこんだままの鵜院の様子を見て、バラッドはとりあえず安堵する。 目の前で起きた出来事に固まっているが、彼自身の体に怪我はないようだ。 彼を追いかけた理由は、自分でも上手く説明できない、言ってみれば殺し屋の勘が働いた所為だった。 本来であれば全ては鵜院自身が決めたこと、彼が死のうがそれは彼自身の責任だし、彼女に彼を助ける義理など無い。 しかし彼女は鵜院の後を追っていた。 自分にこんなお節介な一面があるとは、彼女自身意外だった。 もっとも、本当ならこんな修羅場に突撃する前に鵜院を見つけて止める心算だったのだが…… 修羅場――そんな言葉すら生易しい地獄絵図を作り出した女は、新たな闖入者には一瞥くれただけで 一跳躍で今しがた自分が作った地獄の上に移動する。 そして茜ヶ久保だった部品が散らばる上に四つ這いになると、床の血溜まりに顔を埋めた。 ぐちゃぐちゃぐちゃ 胸が悪くなるような音が、女の口元から響く。 (死体を食ってる――) うどん玉のように零れ落ちた脳を、湯気と臭気の立ち上っているまだ温かい臓物を、 餌にありついた豺狼の如く、女は夢中で咀嚼し、飲み下していた。 血の海の中、山羊の様な角を持つ全身焼け爛れた女が 細切れになった人間の死骸を只管貪り喰っている。 それは殺し屋であるバラッドですら目を背けたくなるような、酸鼻を極めた凄餐だった。 「うええええええええ」 身内の無残な最期に耐え切れなかったのだろう、鵜院が嘔吐するのが目の端に映る。 あのピーターですら、この光景には珍しく顔を顰めていた。 「なんて下品な食べ方を……」 ――どうもその理由はズレているようだが。 「ウィンセント」 バラッドは努めて静かな声で、えづいている鵜院に声をかけた。 鵜院が涙に濡れた顔を上げる。 「ユージーはまだ便所にいる。連れて逃げろ」 そう言いつつ、バラッドは死体を喰らい続ける女から瞳を離さない。 敵は『この女一人』だ。この女の近くには『誰もいない』、この倉庫の周りにも。 まだショックから回復していないのか、鵜院が逡巡しているその時、女が腸の一部を咥えたままこちらを振り向いた。 「早くしろッ!」 バラッドの怒号と、弾かれた様に駆け出す鵜院と、食事を止めた女と 全てはほぼ同時だった。 「哈ッ!」 バラッドは既に用意していた苦無――日本のニンジャの武器だ。ピーターに支給されていたのを彼女がブン取った――を 女に向けて投擲する。 彼女の手を離れた苦無は目に留まらぬ速さで、過つことなく女の急所へと向かっていった。 「DlEihs」 しかし苦無は突然女の前に出現した光の盾によって弾かれた。 女は逃げるウィンセントよりバラッドのほうに気が向いたのか、こちらを見て血塗れの顔で笑っている。 (茜ヶ久保を殺したあの攻撃……そして今の防御。 こいつ、超能力者か? それともこういう能力を持った改造人間ってヤツなのか?) 高速で思考を巡らせながらも、バラッドは次の攻撃に動いていた。 「ピーター!」 「はいはい」 既に両手の戒めを解かれていたピーターがMK16を構え、女に向かって連射する。 「吻!」 それに併せてバラッドは円を描くようにして女との距離を縮めると、別方向からもう一本の苦無を投擲した。 二方向からの同時攻撃。 先程の苦無を打ち落とした一方向だけに対応するバリアではこの連携攻撃は防げない。 「ElCriC」 しかし、今度は女を包むように現れたドーム型の光によって 銃弾も苦無も床に弾き落とされるだけの結果に終わった。 (厄介だな……。 それにしてもコイツが攻撃前に唱える言葉、WOと同じようにそれが能力のトリガーになっているのか? ふん、まるで呪文を唱えて魔法を使う御伽噺の魔法使いだな――) 思考の中で軽口を叩きながらも 現実では、滅多な事では動じないバラッドの頬を一筋の冷や汗が伝っていた。 殺し屋の勘が、最大級で危険信号を告げている。 (だからこそ……コイツは此処で一気に始末する!) 苦無を失ったバラッドが朧切を取り出すと同時に 女の指先がゆらりとバラッドを指した。 「EgdeDnIw」 それは茜ヶ久保を殺害したのと同じ呪文。 大気を操ることによって発生した真空の刃が、バラッドを切り刻まんと殺到する。 それは人の目には見えざる不可避必中の惨殺魔法。 しかし (視える――――!) 先のピーターによる銃撃とバラッドの立ち回りによって ただでさえ埃舞う倉庫の中には巻き上げられた土煙が充満している。 その土埃が、大気の僅かな変化をバラッドに可視化させて教えてくれた。 (矢張りカマイタチか。 見えてさえいれば――――!) 見えてさえいれば、対処できる。 「疾!」 朧切を振り下ろす風圧によって、真空刃を打ち消す。 彼女の体を輪切りにしようと迫っていた見えない刃は、虚しく埃の中に溶けて消えた。 己の攻撃を防がれて尚、女は血塗れの歯を剥き出して笑っていた。 しかしその目、先程まではどこか胡乱だった女の目は、今はバラッドを見据えている。 興味を持ったか。 殺したいのか。 私を。 鎌鼬を破った朧切を正眼に構え、バラッドは女と対峙する。 じりじり、と向かい合った、それは数瞬だったが、バラッドには永劫の時のように感じられた。 ――そして、機は訪れた。 女が動こうとした。 手を伸ばし、何ごとかを唱えようとする。 その瞬間に、バラッドは女に切っ先を向けて朧切を投げつけた。 「DlEihs」 端から見ればバラッドの行動は自分の唯一の武器を投げ捨てる愚行にしか見えないであろう。 朧切は当たり前のように光の盾に弾かれて宙を舞う。 それがバラッドの狙いだった。 女の注意を、目の前の朧切に集中させること。 その間に、女の背後にはその命を刈取る本命の刃が迫っていた。 それは、最初に弾かれて床に落ちていた二本の苦無だった。 仕掛けは単純である。 苦無には最初から、細く頑丈なテグスが結ばれ、その糸はバラッドの両手と繋がっていた。 使用したテグスは先程イヴァンを探している最中に商店街で手に入れたものだ。 彼女は朧切を手から離した次の一瞬に、両手の糸を繰って苦無を引き寄せる。 そして朧切に集中した女にとって完全に死角になる背後から攻撃する。 バラッドの卓越した熟練の操作がこの魔技を可能にしていた。 最初からこれが狙いだった。 女の作るバリアはいつまでも持続して存在するものではない。 また、バリアを張れば女自身もこちらに対して攻撃が出来なくなる。 故にバリアが張られるのは朧切を弾く一瞬、そのバリアが消えた瞬間を見計らって 攻撃の呪文を唱えられる前に死角から急襲した苦無が女の体を切り裂く。 狙うは首輪の上、首の頚動脈だ。 極細の糸を結んだ刃物を操り、遠距離にいる相手を斃す。 これはバラッドが最も得意とする殺人術の一つだった。 即席作りの凶器だが、バラッドの操作に問題はない。 (お前の喉笛を掻っ切ってやる!) 光の盾が消えた瞬間、死角から二本の刃が女に襲い掛かる。 貰った――――! 女目掛けて殺到する苦無に バラッドは勝利を確信する。 女の喉が切り裂かれる。 そうなるはずだった。 それは奇妙なダンスのようにも見えた。 体を傾げた女がくるりと舞う。 その間に、二本の苦無は一瞬前まで女の喉が存在していた空間を 虚しく通り抜けた。 「なっ……!?」 バラッドには眼前で起きたことが信じられなかった。 苦無は完全に死角から襲い掛かっていた。その存在を、少なくとも目視するのは不可能だったはずだ。 片方だけを避けたのなら偶然ということも有り得る。 だがこの女は苦無を二本とも避けてみせた。 まるで何処から攻撃が来るのか、最初からわかっていたみたいに―― 唖然としながらもバラッドが飛んできた苦無をキャッチし 更に宙を舞う朧切(これにもテグスが結んであった)を回収できたのも 彼女の身体に染み付いた無意識が為せる技だったであろう。 しかし奇妙なダンスを終えた女が再びこちらを向いた時 バラッドの動きは一瞬だけ停止した。 楽しげに笑う異形の女。 その女に重なるように いや、その女の存在と交ざるように 長身痩躯の男の幻影が彼女には見えた。 「ヴァイザー?」 バラッドは思わずその男の名を呟く。 その一瞬の空白が、致命的な隙となった。 《裏松双葉》 遠くで爆発音がした直後、何かが倒れるような大きな音が聞こえた。 次いで、人の叫ぶような怒鳴るような声。 「ひっ!」 暗い部屋の中、裏松双葉は自分の耳……正確には入れ替わった天高星の耳だが……を塞いで、部屋の隅に蹲った。 どれだけの時間そうしていたか。 次に恐る恐る耳から手を離した時、既に彼女が隠れる店の内は再び静寂に包まれていた。 (天高先輩……もしかして天高先輩が襲われたの?) 自分の身が安全だと安心した後、ようやく彼女は 今は彼女自身の体を操っている同行者の安否に思い至った。 (まさか、殺されたんじゃ……!?) 最悪の想像が頭を過ぎる。 血溜まりの中に突っ伏した死体、その顔は…… その死体は、彼女の身体。 「嫌――――!!」 頭を抱えて、彼女は再び床に蹲る。 天高のことも心配だが、それ以上に自分の身体が死んでいるかもしれないという想像 もう永遠に、永久に、元の自分自身の肉体に戻ることが出来ないという想像は彼女に嘗て無いほどの恐怖を齎した。 今まで何度も、いや何時でも心のどこかで常に、こんな厄介な体質の身体なんて無くなってしまえばいいのにと思っていた。 しかし本当に自分の身体が無くなったかもしれない状況に置かれた今 彼女はまるで一条の光もない暗黒の宇宙に身一つで放り出されたような絶望と恐怖を感じていた。 (こんな事になるなら、元の身体に戻っておけばよかった! 恥ずかしがらずに、彼に女の身体に戻る方法を教えればよかった!) 絶望と共に途方もない後悔が彼女の中を駆け巡る。 オブラートに包まず言ってしまえば 彼女の身体が男から女に戻る方法は一度射精することである。 そうすれば肉体は一気に男性から女性へと戻る。 単純な方法だが、初心で内気な双葉は、どうしてもその方法を出会ったばかりの男性に打ち明けることが出来なかった。 だけどこんな事になるなら、ちゃんと伝えておけばよかった。 ……いや、まだ手遅れだと決まったわけじゃない。 「……行かなくちゃ」 勇気を振り絞って立ち上がると、そっとドアを開けて隙間から周囲を窺う。 安全を確認すると、双葉はトイレに向かって走る。 同行者と彼女の身体の安否を確かめるために。 天高に会うことが出来たら、今度こそ女に戻る方法を彼に話そう。 (だからお願い……!どうか無事でいて……!お願い……!) 心の中で祈りながら、彼女はトイレのある一階へと階段を駆け下りた。 「生」に続く
https://w.atwiki.jp/sousakurobo/pages/798.html
統合暦331年3月14日八坂州私立八坂高校―― 二人の少女が固唾を呑んで見守る先では二体の巨人が直立不動の姿勢で眼前の敵と睨み合っている。 いや、敵と呼ぶには些かの語弊がある。目の前の相手に些かの恨みも無く、敵意も無い。寧ろ、親愛の情さえ抱いている。 では、何故、この両者は闘志を燃やし、対峙しているのか? 何の遺恨も持たず、ただ只管に武を競い合うだけの戦いを興じるのに理由など不要。ただ目の前の相手が強者だから戦いたい。ただそれだけだ。 そして、矢神玲が高校スポーツギア選手としての立場でいられるのは、残り半月も残されておらず、二人が武を競い合う事が出来る日も僅かしか残されていない。 だからこそ、一日一日を一戦一戦を大切に……などという考えは一切持ち合わせていない。 ――完膚なきまでに叩き潰してやる。 口には出さないが、それが二人の総意であり、強者に対する礼節であると考えているからだ。 リヴァーツは右肩に担いだ身の丈程もある巨大な斬馬刀を真上に放り投げ、円を描きながら落下するソレを片腕で掴み取り、右足を軸に旋回し、砂埃を巻き上げた。 竜巻の様に巻き上げられた砂埃が晴れた中から、前傾姿勢で斬馬刀を水平に構えたリヴァーツが姿を露にした。 「こっちの準備はOKだ」 「相変わらず、見得を切るのが上手いというか何と言うか……」 守屋は苦笑混じりに答えながら、アイリス・ジョーカーの右腕に装着されたバックラーから幅広のブレードを展開し、リヴァーツに突き付けて、姿勢を下げた。 アイリス・ジョーカーのモニター越しにリヴァーツの一挙手、一投足を見逃さぬように獲物を狙う鷹の眼で、その姿を凝視した。 「茜華、合図を頼む」 「……うん。分かった」 アイリス・ジョーカーの外部スピーカーから守屋の声が拡大され、霧坂は頬を赤く染めながら、試合開始のサイレンを鳴らした。 (名前で呼ばれただけで凄く嬉しいなんてね……) 霧坂茜華が守屋一刀から愛の言葉を囁かれて……基、愛の言葉を吼えられ、数十分後。 二人の間で変わった事と言えば、お互いの呼び方が苗字から名前に変わった事である。 家族以外の異性に名前を呼ばれた事の無かった彼女にとって、それはあまりにも新鮮で、無上の喜びと気恥ずかしさを与えていた。 「すまんな。霧坂。本来ならば私がアレを控えさせねばならなかったのだが……全く、空気の読めん男共だ」 守屋と矢神の決着を見守る、もう一人の少女、小野寺織は体裁の悪そうな様子で霧坂に謝罪の言葉を述べた。 彼女の恋人、矢神玲が空気を読まずに愛機と共に八坂高校の許可を得た上で、想いを伝え終わったばかりの守屋と霧坂がいるギアスタジアムに乗り込んだからである。 互いの想いを伝えた合った直後の高校生カップルがどうなっているかなど、余程の大馬鹿者でも分かり切っているにも関わらず、違法ギア顔負けの空気の読めなさに小野寺は居た堪れない気分になっていた。 「小野寺部長が謝ることなんて無いですって! それに何と無く、こうなるんじゃないかなーって気してましたし」 小野寺とは対照的に霧坂は別段、気にした様子も無く、苦笑混じりに答えて舌を出した。 勝負を持ちかける方も持ちかける方だが、勝負を受ける方も受ける方なのだから。 「小野寺部長が矢神さんの事を一番近い所で見守っていたのと同じ様に、私も一刀の事、一番近い所でずっと見守り続けて来たんですよー? だから、今回も見守ってあげましょ! 二人が戦うのもこれが最後になるでしょうし……ね?」 「そうだな……お互い、面倒な男を好きになってしまったものだな?」 小野寺は自嘲気味に、しかし、目を細めながら微笑む姿は何処と無く楽しげでもあった。 霧坂は一回り小さな上級生のそんな姿を見て、きっと自分も同じような表情をしているのだろうと照れ臭い様な気分ではにかんだ。 お互いにそれを悟られまいと、鋼鉄の巨人と共に武を競い合う男達の方へと顔を向けた。 ――勝てなくても良い。ただ悔いの残る戦いだけはしないで欲しい。 でも、出来ることなら負けないで欲しい。勝って、私に勝ち誇って欲しい。私も精一杯の笑顔で応えるから―― 二人の少女は同じような事を心の内で想いながら、二体の鉄巨人の戦いを見守った。 鋼を纏い、多くの好敵手達と競い合ったスポーツ選手達も学生という立場を終え、其々の未来へと歩み、新たな芽を伸ばしていった。 守屋一刀が八坂高校を卒業してから数年後―― 私立八坂高校理事長室。理事長兼、スポーツギア部の顧問、弥栄栄治はデスクの上に足を投げ出し、部員名簿に目を通しながら深い溜息を吐いた。 加賀屋望、小野寺織、守屋一刀。何れも劣らぬ実力と、素質、自己鍛錬を怠らない剛の者達だったが、彼等は既に卒業している。 部員数は一時よりも数倍に膨れ上がり、付き合いのあるメーカーも増えたが、彼の表情は明るくは無い。 「何て言うのかなぁ……フィーリング? 何か、僕が求めていた選手じゃないんだよねぇ……」 スポンサー契約を打ち切られる程弱くは無く、高みを目指せる程度には強いが、彼の胸中を昂ぶらせる程の強い何かを持っているわけでも無い。 「八坂高校の理事長に就任して苦節八年……ま、一生分働いたってことなのかも知れないね」 そして、彼は意を決したかの様に表情を緩めて、すっと立ち上がり、理事長室を後にした。 無人の理事長室。デスクの上には一通の手紙。その封筒には無駄に気合の入った達筆でこう書かれていた。 『退職届』 「さらば、八坂高校! そして、ただいま! 自由な日々!」 弥栄栄治 守屋一刀達が卒業した後も変わらず、八坂高校の理事兼、スポーツギア部の顧問を勤めていたが 加賀谷、小野寺、守屋の様な大会制覇の素質を持った選手が集らず、ある日、忽然と姿を消した―― デルタランス重工スポーツギア開発ラボ。そのテストスペースでは今、新たなスポーツギアが産声を上げようとしていた。 若い職員達が固唾を呑んで見守る中、新型アームドギアのコクピットブロックでも、テストパイロットを申し出た職員、阿部辰巳が緊張した面持ちで機体を起動させていた。 高校時代の愛機を製造していたメーカーに見事、就職を果たした彼はスポーツギア選手としての経験を生かして様々なアイデアを提案。 遂には来春、お披露目用の新型スポーツギアの開発総指揮を任される立場にまで上り詰めていたのである。 阿部の合図に合わせて、施設内移送用の貨物車両が、仰向けになった塗装も済んでいない巨体を持ち上げ、機体各所の固定具を解除した。 砂埃を巻き上げ、新型――リヴァイド・クォーツが地面に着地すると、テスト戦闘用に配置されていた十機のドローンが一斉に銃弾を放つ。 「頼むぜ、クォーツ!」 阿部は吼えながら、リヴァイド・クォーツのブースターに火を点し、雷の様な軌跡を描きながら銃弾を潜り抜ける。 目立った戦績があるわけでは無いが、高校時代はスポーツギアの名門、八坂高校のレギュラーを卒業の時まで勤めたのだ。この程度の芸当、造作も無い。 徐々にブースターの出力を上げながら、飛び交う弾幕の隙間を縫う様に掻い潜って、密集陣形で弾幕を展開するドローンの正面へと躍り出る。 「よし……エラーも、バグも無いな。回避行動テスト完了。格闘戦テストに移行する!」 リヴァイド・クォーツの背部に背ビレの様にマウントされた、反りのある片刃のバスターソードを引き抜き、更にブースターの出力を上げ、地を蹴り、低く長い放物線を描き、ドローンの群れの中を突っ切り、背中合わせに地面に降り立つ。 バスターソードの刀身に付着した血液の様なオイルを振り払うと横一文字に両断された七機のドローンが、爆発と言う名の七輪の赤い花火を咲かせ、激しい炎のうねりが三機のドローンと、リヴァイド・クォーツを呑み込んだ。 「流石、新型のアイカメラ。焼き付きの心配も無いし……」 爆炎の奥で黒い影が炎を切り裂き、奇襲を仕掛けるが、その場にはバスターソードが地面に突き刺さっているだけで、肝心なリヴァイド・クォーツの姿は無い。 瞬時にテスト戦闘用ドローンに搭載されたAIが位置検索を開始するが、AIが位置を特定するよりも早く、真上からの激しい衝撃に円筒状のボディを叩き潰され爆発、炎上する。 「炎の中の影もバッチリ。冷却も完璧だな」 阿部はコクピットブロックのステータスパネルと、モニタを交互に見ながら、想定通りに機能が働いていることに満足気に頷いていると、生き残った二機のドローンが宙を舞い始めた。 「空中戦テストに移行……少し、乱暴に動かす。ドローンを三十機追加、AIの思考ルーチンを最大値に上げてくれ!」 阿部は報告を入れながら、ブーストレバーを最大値まで一気に引き上げながら、リヴァイド・クォーツを跳躍し、宙を舞うドローンを追い始める。 だが、リヴァイド・クォーツのブースターは阿部が想定した通りに作動せず、流星の如く勢いで先行するドローンを容易く追い抜き、地面に激突した。 「ブースターの加速係数の計算、間違えてるじゃないか。誰だよ、こんな初歩的なミスをやらかしたのは……あ、私だわ」 「テ、テメェ! 殺す気か!?」 女性職員の一人が悪びれた様子も無く、半笑いで自身の過ちを告白するなり、阿部は泡食ったようにリヴァイド・クォーツのコクピットの中から這い出て、拳を振り上げながら怒声を放った。 阿部辰巳 八坂高校卒業後、デルタランス重工に就職。長期間に渡ってリヴァイドシリーズの開発、テストパイロットを勤める。 その第一歩は決して華々しいとは言えず、度重なる苦難の連続だったそうだ―― 「おー……格闘戦用に多重間接機構を採用した割に頑丈じゃん!」 矢神玲の試作型スポーツギア、リヴァーツの上半身に採用されていた新機軸の機構で、より人間的でしなやかな動きを再現。 高い格闘戦能力と、運動能力、追従性を持つ反面、防御能力の脆弱さの克服を課題とされていた。 リヴァイド・クォーツにも同じ機構が採用されているが、防御能力の高さはリヴァーツの比では無い。 現に煙を吹いて沈黙するリヴァイド・クォーツの四肢は問題無く繋がっており、破損の形跡は無く、ブースターの暴走でオーバーヒートを起こしているだけで 奇しくも、耐久性・防御力の高さを証明した事になり、阿部は二の句を次げずに拳を下ろし、事故の原因となった女性職員、歳方アリアは満足気な表情を浮かべた。 「クォーツは俺達が一から作った……言わば、子供みたいなもんなんだぞ? 少しはな……」 「子供ねぇ……悪いけど、もう暫くしたら産休取るからスケジュールの再調整を頼んだよ」 「……は? 産休……って、産休!?」 「正真正銘、私と辰巳のナマの子供。認知はしてくれるんだろうね?」 歳方アリア 高校卒業後、恋人が全力で羽ばたける様に公私共にサポートに徹する。 最近、新たな命を授かったらしく、報告したところプロポーズされたらしく、嘗ての仲間達に自慢混じりの報告をする彼女の姿が目撃されている―― 八坂高校の外に出て、スポーツギアに携わる者もいれば、八坂高校へと舞い戻り、スポーツギアと共に歩む者もいる。 八坂高校の校内に伸びるモノレール。正門駅から二駅進んだ山間部には八坂高校が誇る、ギアスタジアムが要塞の様にそびえ立っている。 スタジアムには格納庫兼、ミーティングルームが併設されており、その地下にはシミュレータールームが設置されており、スポーツギア部の部員がシミュレーター訓練を受けている。 「先生ー! 全訓練プログラム完了しましたー!」 「次はシミュレーターを使っての模擬戦を全部員と五セット後、俺と模擬戦。終わった者から休憩に入って良し!」 スポーツギア部の部員が次の指示を仰ぐために顧問教師に声をかけると、新任の若い教師が手馴れた様子で次から次に指示を出す。 謎の失踪を遂げた顧問兼、理事長の弥栄栄治に代わって、代役を務める事になった新任教師――三笠慶は部員達の訓練成績に合わせて、訓練内容を修正しながら、模擬戦の様子を伺った。 元々、八坂高校スポーツギア部の副部長として腕を鳴らしていたのだ。スポーツギア乗りの教育など手馴れていて当然である。 彼が現役のスポーツギア選手だった頃と比べて、倍以上に増えた選手陣の大声がシミュレータールームに響き渡り、仮想世界に次から次へとスポーツギアが産み落とされ、其々に戦いを繰り広げた。 ワンテンポ遅れて、三笠も戦績表を片手に現役時代の愛機、クランを仮想世界に産み落とし教え子達の様子を見守っていると、クランのAIがコクピット内にロックオンアラートをかき鳴らした。 まだ模擬戦は始まったばかりで、彼の生徒が戦いを挑んでくるには早過ぎる。 「……全く、しょうがない奴だな」 三笠は呆れたように呟きながら、キーボードを操作し、ロケットランスを背部装着状態で構築し、最大出力で空へと上昇し、足元に撃ち込まれた砲弾を避ける。 そして、一瞬程前まで立っていた場所に穿たれた弾痕の形状、アラートから着弾までの時間を逆算し、AIよりも早く狙撃手の位置、武器、弾丸の種類を見抜き、無手だった両腕にブーストハルバードを形成し、予測地点へと急行した。 三笠慶 八坂高校卒業後、教育大学へ進学。赴任先の母校で担任を受け持ちつつ、スポーツギア部の新顧問として活躍。 暫く後に敏腕のスポーツギアトレーナーとして名を馳せることになる―― 蓄積された経験からくる勘に従い、予測地点へ向かうと案の定、“元”恋人のかつての愛機ブクレスティアが大口径のスナイパーライフルを構えて、クランを狙っていた。 「やっぱり、燐か!」 「偶には撃っておかないと腕が錆付いてしまうからね。と言うわけで、相手お願いね」 呑気な口調と共にスナイパーライフルの銃口が火を吹き、大口径のライフル砲がクランに吸い込まれるように一直線に胸部を捉えた。 黒煙を吹きながら、頭から落下するクランが地面に激突する寸前で身体を反転させロケットの様な勢いでブクレスティアへと肉迫し、両腕で構えたブーストハルバードを点火。 ブクレスティアを大地諸共、抉り砕くが、砕け散る破片の中に鋼鉄は含まれていない。 「そう言えば、慶さん? お弁当忘れて行ってたよ?」 クランが斬撃に移る際の僅かなタイムラグを突いて、ブースター最大出力で跳躍。 両者の上下位置が逆になり背中合わせになるが、ブクレスティアの砲口はクランの方に向いたままである。 そして、再度、放たれる砲弾と呑気な言葉。 「態々、届けに来てくれたのか? 悪いな……」 申し訳無さそうな言葉と共にクランの背面ブースターと、ハルバードに接続された十二基のブースターが点火し、高速反転と共に剛撃が薙ぎ払われ、砲弾を一刀両断に切り落とす。 「相変わらず、先生と奥さんスゲーよな。色んな意味で」 生徒の前で繰り広げられる三笠啓と、その“元”恋人にして“現”妻、燐。新婚夫婦の日常会話は必殺必中の魔弾と、一撃必殺の剛撃がのんびりとした言葉と共に飛び交う。 実は隠れた八坂高校名物になっている事を当の本人達は自覚していない。 内田燐 高校卒業後、教師になった恋人と結婚し現在は専業主婦。 最近、幼馴染の妊娠が発覚し、実は内心で先を越されてしまったと悔しがっている―― 一スポーツ選手として鋼鉄の巨人と共に戦った彼等も今や、巨人を作る者。巨人を駈る者を育てる者と、似ているようで違う。違うようで似ている道を歩んでいた。 だが、相変わらず、選手として活躍を続ける者達もいる。高校時代は向かう所、敵無しの猛者だった彼等ですら、プロの世界の壁は非常に高く、分厚く、険しい。 悔しさに涙を流した事、不甲斐無さに憤った事、それまでに積み上げて来た実績から来る絶対的な自信を打ち砕かれたのも、一度や二度どころか数え上げてはキリが無いほどだ。 それでも彼等は決して諦めない。身に纏うは鋼鉄。ならば、内包する心、意思、魂も鋼鉄で無ければならないのだから。 そして、今日も鋼鉄と共に、たった二人っきりの戦場。ギアスタジアムのバトルフィールドへと歩を進める。 まず最初に待ち受けるはスタジアム全体を埋め尽くす群集達が送る、空が割れんばかりの大歓声。 「西軍、選手入場です! マティアァァァァス!! イェェェェガァァァァア!! アァァァァンドッ!! 片桐ィィィィ!! セイ!! リィィィィ!!」 「誰が女の子の日だ!!」 「あ……失礼。セイラさんでした?」 「セイナだ!! 片桐セイナ!! 毎回毎回、人の名前忘れたり、間違えたりしてんじゃないよ!!」 アナウンサーの恒例の名前の呼び間違えに、片桐は激しく憤慨し、コクピットブロックの中で地団駄を踏み、新たな愛機、マティアス・イェーガーがその動きを再現した。 その様を見て、大歓声を上げていた観客達は申し合わせたかのように腹を抱えて笑い出しした。 片桐セイナ―― 卒業後、プロモーターチーム『ジャッカル』のスカウトを受け、プロに転向。 若輩ながら好成績を収めるが何故か、名前を間違えられたり、忘れられたりする珍事が頻発するが、一説には大会本部の故意と噂されている。 片桐セイナ。敗北を重ねて涙を流した回数は覚えていないが、名前を間違えられた回数だけは決して忘れていない。 古今東西、スポーツ選手や、芸能人にスキャンダルのネタが尽きた例は無く、それはスポーツギア選手であっても例外では無い。 「もう嫌……我慢の限界だわ!」 女は目に大粒の涙を浮かべ、嗚咽を漏らしながら、男に指を突き付けた。 だが、乱暴な男にありがちな横暴な怒号や罵声が帰ってくることも無ければ、軽薄な男にありがちな都合の良い言葉も無い。 当然、身勝手な男の様に事態を解決するためだけの謝意の無い、無意味な謝罪の連呼も無い。気弱な男の様に神妙な態度で黙り込むわけでも無い。 男はスポーツギア選手という華々しい職業に就いているが、ただの一度でも浮気をしたことなど無かった。 有名選手であるが故の傲慢さとて欠片すらも持ち合わせておらず、彼女に暴言を吐く事は勿論、暴力を振るった事も無い。 背丈もあり、顔立ちも整っている。一つ物事に集中して打ち込んでいる。面倒見も良く、同性からも慕われている。 性格も知的でありながら、時折、ユーモラスな一面を覗かせる事もある。優しく、紳士的でもあった。 誠実な男である。そう評しても良いだろう。だが、とある夏の暑い日……彼女が愛した男は突如として中身が入れ替わったかのように人が変わり、奇行に走るようになった。 「私に不満があるんだったら言ってよ!? 一体、何が原因なの!?」 女はヒステリックに叫んだ。だが、男は鋭い目で睨み返すばかりで彼女には何も言わず、作業に没頭し続けた。 熱帯魚用の水槽の中で全裸パントマイムという謎の奇行に、ただ只管に打ち込んでいた。 「……ッ!! さようなら!!」 時間が凍結したような空間に女は耐え切れずに部屋を飛び出していった。 「加賀屋。お前の彼女が泣きながら走り去っていく所を見たのだが……何年、同じことを繰り返す気だ?」 程無くして、奇行に走る男――加賀屋の相棒が呆れ帰った様子で声をかけた。 加賀谷望―― 高校卒業後、多くのプロモーターチームからスカウトされるが、自らチームを立ち上げ全世界のギア選手達に戦いを挑む。 華々しい活躍に彼に想いを寄せる女性は数知れず。しかし、その華々しい日々の影で彼の奇行に涙を流した女性も数知れず。 夏のゴシップ誌に加賀屋望の名を乗せない出版社など存在しない。 加賀屋は水槽を叩き割り、相棒――月島静丸の前に踊り出て、シュノケールのラバーを食い千切り、床に吐き捨てた。 「何処で……ナニをかけ違えたのだろうな……」 寂しげな口調で吐き出された言葉は、割れた水槽から溢れ出る大量の水が床を濡らしていく音に掻き消された。 「何もかもを間違えすぎだ……」 「独り寝の夜はThis is a pen!!」 月島が頭を抱えて嘆くと同時に全裸の加賀屋が意味不明な事を叫びながら跳躍し月島に飛び掛った。 「俺に……」 月島は両の爪先に力を込めながら、身を屈めて跳躍する加賀屋の下を潜り抜ける。 床を踏み締める音と水が弾かれる音が耳朶を叩くと同時に月島は身を翻しながら、加賀屋の後頭部に回し蹴りを叩き込み、部屋の壁に叩き付ける。 「ウホッ」 だが、加賀屋はゴムロープで跳ね返されたかの様な勢いで、再び、月島へと肉迫する。 「そんな趣味は無い!」 月島は半歩ほど身を逸らして、加賀屋の腕を掴み、窓の外へと投げ飛ばした。 マンションの七階部分から落下した人間が無事に済む可能性は限りなく低い。 「毎年毎年、手間をかけさせる……! だが、今日は容赦せん……!」 月島は周囲の気配を探りながら、腰のホルスターからハンドガンを引き抜き、油断無く構えた。 夏の暑さで頭の配線を違えている加賀屋は、あの程度で死ぬことなど有り得ない。仮に加賀屋が空を飛んだとしても、月島は顔色一つ変える事は無い。 月島は足音を立てない様に加賀屋の部屋の壁沿いを移動しながら、何故か、暖房になっている空調の設定を冷房に切り替え、最低温度に設定した。 兎に角、冷気だ。そして、陽光を遮断しなければならない。それである程度は無害化が出来るのは八坂高校スポーツギア部のOB達に聞いている。 「次は氷……製氷機……!」 突然の奇襲……もとい奇行にも対応出来る様に油断無く、冷蔵庫の前まで移動した。ありったけの氷をばら撒く。 それで多少なりとも、冷却効果に期待が出来るはず――そう考えていた。それが加賀屋のトラップである事に気付かずに冷凍室を開くと―― 「ヘイ!!」 冷凍庫から漂う生温い空気と意気揚々と手を上げる全裸の加賀屋が飛び出した。 なんでやねん――月島の意識がツッコミ芸人に支配されかけるのも一瞬、鋼鉄の意志で以って、躊躇う事無く、ハンドガンのトリガーを立て続けに引き絞る。 螺旋によって得られた破壊エネルギーを纏った鋼の弾丸が五発、加賀屋の眉間、咽喉、心臓、腹、股間に放たれる。 「加賀屋バリアァァァァ!!」 「クッ……ふざけるなッ!!」 月島静丸―― 高校卒業後、加賀谷と共にプロモーターチーム「デモンズレッド」を結成。 伝説のスポーツギア乗りとしての第一歩を踏んだかのように見えたが夏になると人が変わる加賀谷に耐え切れず、早速分裂の危機に陥っている。 とは言え、プロのスポーツギア選手、皆が皆、特殊で奇抜な人生を歩んでいるわけでは無い。 当然の事ながら、プライベートでは人並みの幸福を謳歌している選手もいる。尤も、それが普通なのだが。 プロスポーツギア選手、矢神玲。彼も人並みの幸福を掴んだ選手の一人である。 加賀屋望が住まいを構えるマンションで月島が、たった一人の死闘を繰り広げているすぐ外では、矢神が三人の子供……では無く、小さな子供を二人と、小さな妻を連れて散歩をしていた。 夏になれば自宅近くのマンションから変態が降って来る。加賀屋の醜態を始めて知った時、矢神夫妻はこの世の終わりが来たのかと戦慄したものだったが、今となっては慣れたものだ。 「あの人のアレも相変わらずか」 矢神は月島の怒号が鳴り響く、マンションの一室を仰ぎ見て苦笑した。これもある意味、夏の風物詩のような物で避けて通れないのだから苦笑するしかない。 「だが、あんな様でも腕だけは鈍らせんからな……無様を晒してくれるなよ?」 小さな妻――矢神織。旧姓小野寺は更に小さな二人の娘の手を引きながら、柔らかい笑みを浮かべながら夫――矢神玲の方へと振り向いた。 二日後に控えているリーグ戦。矢神玲の対戦相手は加賀屋望。嫌というほど、その実力を知っているだけに否が応でも気が張り詰めてしまうのは無理も無い。 「愛する妻が、そう言うんじゃ負けてらんねぇな」 「ぱぱ! 頑張ってね!」 「ね!」 五歳の娘、鈴音が激励の言葉を上げ、二歳の娘、琴音が真似するかのように続いた。 試合の無い日は家族サービスの日と決めている彼は加賀屋との決戦を一先ず、頭の片隅に放り投げ、緩んだ顔付きで二人の愛娘を抱き上げた。 「おう! また勝つから応援していてくれよな? 二人が応援してくれないとパパ、悲しくて負けちゃうぞ~?」 そう言うと鈴音が心配そうな顔付きで矢神の頭を撫で、琴音を鈴音の真似をして矢神の頭を撫でた。 「しかし、織の顔でこの言動と仕草か……三人目こそ、俺似の男の子と思っていたけが、三人目も織の娘の方が良いかも知れんな……」 「やれやれ……子煩悩なことだ」 神妙そうな顔付きで、三人目の子供のことを考え出す夫に呆れる様な、くすぐったい様な笑みを浮かべながら織は嘆息した。 小野寺織―― 大学在学中に妊娠、出産、入籍と人生の一大イベントが一斉に訪れるも、思いの他、子煩悩な夫、二人の娘の四人で穏やかとは言えないまでも幸せな日常を送っている。 目下の悩みは彼女と瓜二つの二人娘と並んで歩いていると、三姉妹と呼ばれたり、夫が男手一つで三人の娘を育てていると同情されるくらい、高校時代から顔立ちと体型が変わらない事。 「何だ? 織も抱っこか? 首なら空いているから飛び付け」 そう言って、矢神は二人の娘を抱きかかえたまま、腰を曲げて飛び付き易い様に首を伸ばすと、織は撫でる様に唇を交わして挑発的な視線を送った。 「二十五にもなって公衆の面前で痴態を晒すわけにはいくまい?」 「路上でのソレは痴態じゃないのか?」 「フン……ただの愛情表現だ」 そう言って、織はニヤけながら、顔を朱に染め、そっぽを向く。飛び付きたいのは山々だが、人目に付く場所で夫に甘えるのはガラでは無い。 そう思っての行動は彼女にとって、尚更、らしく無い行動を取ってしまっていた。それも悪くないとは思うが、恥ずかしいものは恥ずかしい。 そして、矢神はそれを見抜いて、口の端を吊り上げた。 「鈴音と琴音も可愛いが、やっぱり、織が一番可愛いな」 矢神玲―― 高校卒業後、加賀谷、月島のチームにスカウトを受けるが、この二人と戦えないのは嫌だと辞退しオーナー兼選手の単独チーム「デュエリスト」を結成。 現在はスポーツギアメーカーでテストパイロットの依頼をこなしながら、リーグ戦で多くの戦いを制し、世界にその名を馳せている。 そして―― 武を競い合いながら戦う者達とは、また違った意思で鋼鉄と共に道を歩む者達もいる。 地球統合政府が統治する左右対称の円形大陸。五十の州に区分された大陸に全地球人類、約七十八億人が日々の生活を送っている。 大陸から遠く離れた海の向こうには小さな群島が点在している。群島には人の姿は勿論のこと、動物や植物はの姿すら無く、文字通り、何も無い荒野が広がっている。 「GEARS01より各機へ……今日で前線配備期間も終了だ。やるべき仕事を片付けて家に帰るぞ」 流線型の装甲に覆われた黒紫の隊長機が、狩りが始まる瞬間を待ち構える猟犬の様に伏せている部下達に檄を飛ばす。 「GERAS03了解! 死亡フラグを立てねェようにやったりましょうぜ!」 「GEARS02了解。俺、故郷に帰ったら結婚するんだ」 「おいおい! 02! 早速、死亡フラグ立ててんじゃねェよ!」 GEARS01の檄をネタにGEARS02と、03が漫才を始め、GEARS01――守屋一刀は、深いため息を吐いた。 統合軍の中でも地球最高権力機関、中央議会が指揮命令権を持つ特殊部隊の精鋭達が任務に当たる態度では無い。 だが、そんな事は如何でも良い。些細な事だ。守屋が呆れているのは其処ではない。 「GEARS03、勘違いをするな。物語が端役が下手な事を口走るから死亡フラグなんてモノが立つんだ。だが、俺達は端役では無い。 世界の裏側で地球人類の日常を守るために人知れず戦うヒーローだ。だからこそ、ありとあらゆる困難を痛快に打ち砕いて、ハッピーエンドを迎える義務がある」 地球には争いが無い。貧困が無い。明日を奪う外敵がいない。ある意味で事実であり、ある意味で虚実である。 中央議会の管理下に置かれたGEARSの隊員達は、それを真実にするため、世界の裏側で人知れず、存在しない筈の兵器を用い、存在しない筈の脅威を滅ぼす義務がある。 例えば、守屋一刀が過去に八坂高校の地下で目撃した異形などが、その存在しない筈の脅威に類する。 「GEARS01! 02! 03! 任務継続中です! 私語は謹んで下さい! 特にGEARS01! 分隊長の貴方がそんな事では困ります! 良いですか、私達は……」 「GEARS01、我々、ヒーローに立ちはだかる困難が現れました。痛快に撃ち砕くための指示を」 「GEARS02、そのまま聞き流せ。GEARS04は語録が少ない。それに聞き流している方が面白い」 「いい加減にして下さい! 私達は任務中ですよ!?」 響き渡るGEARS04の怒号に反応したかのように黒紫の隊長機――安綱と、猟犬の様に伏せていた白銀のアームドギア、不知火が其々に火器を構えて立ち上がった。 「な、なんですか……?」 狼狽するGEARS04を尻目に守屋達は切り立った崖の先に並び立ち、眼下に広がる荒野を睥睨した。 「体裁ばかりに気を取られているから肝心な局面で実力を発揮出来なくなる……敵のお出ましだ。フォーメーション、ランサーシフト。ファーストアタックは俺がやる。GEARS04、遅れるなよ……アタック!」 「02了解」 「03了解! 04遅れんなよ!」 「04了解ッ!!」 守屋の攻撃命令と共に四機のギアが崖を蹴り砕き、崖崩れとなって崩落する岩石と共に山肌を伝って滑りながら、縦一列に並んで草木一つない荒野へと一気に降り立ち、更に跳躍する。 安綱は宙を舞い、守屋が敵と呼んだ異形を視界に収めるなり、左肩の装甲に接続された巨大な盾の様なパーツをパージし、右腕に再接続し、機体各所に刻まれた模様から黄色の閃光を放った。 全攻撃目標――有効射程圏内。エネルギー変換率八十パーセント。刀身形成開始 安綱の裂けた口の様なアイカメラが真紅の輝きを放ち、右腕に接続された刀身発生ユニットから、赤褐色の光を放つ巨大な刀身が形成されていく。 刃渡り八千メートル、横手にて二百メートル、重ね六十メートル、大戦中の地球統合軍ですら持ち得なかった究極の超巨大剣――要塞剣草薙が天を貫きながら、その姿を露にした。 エネルギー変換率100% 刀身固定完了 安綱が草薙を横手に構えると、その動きに合わせて赤褐色の刀身が天を薙ぎ、風を切り、地を払いながら揺らめいた。 「故郷で妻と腹の中の子供が俺の帰りを待っているんだがな……貴様等が世界の裏側で跋扈してたら、式は勿論、新婚旅行にも行けんだろうがッ!! 指輪もだッ!!」 守屋の個人的な都合による咆哮と共に赤褐色の剣閃が轟々と音を立てながら、群島一面を真紅に染め上げ、異形の群を両断し、分断された異形の肉片混じりの鋼鉄が瞬時に沸騰。 辺り一面も血液とも、オイルとも付かない熱を持った鉄片となって島々を真っ赤な花火で埋め尽くした。 攻撃目標94%消滅――刀身形成ユニット冷却開始 安綱の報告と共に赤褐色の刀身が砕け散り、硝子片の様に舞い散って、空気中へ溶け込む様に消え、草薙の柄に相当する刀身形成ユニットから冷却材が真っ白な白煙となって勢い良く噴出した。 「残り6%は全部俺が頂きだーッ!!」 草薙の刀身を解除し冷却モードに移行した安綱を追い抜く白い影。GEARS03の不知火が長く伸びた両腕から拳の先端、肘先から二本のビームソードを展開し、口に相当する部位からビームキャノンを吐き出しながら異形の群へと突貫した。 「03先行し過ぎないで!!」 一人で先行する03に04の怒声が飛ぶが、02のブースターが最大出力で火を吹いて、安綱の頭上を飛び越え、03の不知火へと追い付き、背中のウェポンラックから十二基のビームチャクラムを一斉に放った。 これで03の先行というよりは、04の出遅れという形になった。 「04、足並みを乱すな。とっとときやがれ、このドンガメ……」 そして、02は敵を屠りながら、04に対し、たっぷりと侮蔑を込めた通信を送り、それに対し、04はヒステリックな叫びを上げながら、02を追いかけた。 「やれやれ……これでは、まるで高校生の部活動だ」 安綱のコクピットの中で、この部隊の空気を作り上げた最大の元凶である守屋は心底呆れた様に大きく溜息を吐いた。 守屋一刀―― 高校卒業後、士官学校での訓練を経て、地球統合軍へ入隊。存在しない筈の異形、存在しない筈のアームドギア、阿修羅、不知火、安綱などを目にして来た経緯により中央議会の管理下にある特殊部隊GEARSに配属。 現在は戦隊長候補生の下士官として分隊の一つを指揮。世界の目に届かない所で跋扈する異形の駆除任務を遂行中。 見せ掛けの平和をより確固な物とするため日々奮闘中という建前の裏で、第二の故郷に残してきた妻との再会を待ちわびる日々を送っており、任務に臨む態度は真面目とは言い難い。 「ただいま」 「おかえりなさい。ご飯にする? お風呂にする? それとも、あ・た・し?」 長期に渡る戦いに赴いていた夫が軍服姿のまま玄関を跨ぐと、その帰りを待ちわびていた妻は、弾む気持ちを抑え切れないといった様子で、喜色満面の笑み浮かべながら夫――守屋一刀に抱きついた。 「大分、腹も大きくなったな」 「スルーか? スルーですか? この野郎」 妻――守屋茜華。旧姓、霧坂は新妻さながらの態度で夫を迎え入れようとするも、当の本人は腹の中に宿る新たな命以外に興味など無いと言わんばかりに妻の腹の中にいる子供を慈しむ様に優しく撫でた。 「そういうのは学生の時に大概やっただろう?」 「やってる途中でアナタが赤面して強制終了になった覚えしか無いわね」 「俺達ももうすぐ人の親になる。馬鹿はやってられんだろう?」 一刀は待ちに待った妻との再会にも関わらず、冷静なポーズを崩さずに馬鹿にした様な態度で諭した。 「大人になっても親になっても……って、何かヤバそう……」 「どうした……?」 茜華は不満気な態度で反論しようとするが、表情を一変。腹を抱えるようにして押さえて、玄関に座り込んだ。 そして、一刀は心配そうな表情で茜華の顔を覗き込んだ。その表情からは完全に血の気が失せている。 「いや……予定じゃ、もうちょっと先って言われてたんだけど……なんか、産まれそう……」 「い、いよいよか……! きゅ、救急車!! 救急車で良いのか……? ああ、もう知るか! 救急車でも、消防車でも、パトカーでも、タクシーでも、ギアでも何でも良いから今すぐ来い!!」 一刀は茜華の肩を支えたまま、モバイルシステムを起動し、二人を取り囲むほどの数の立体映像を立ち上げ、関係のある物から無い物まで、やたらめったらに自宅へと呼び付け、かかり付けの産婦人科へと茜華を移送…… 茜華を乗せた救急車を消防車、パトカー、タクシーが四方を囲み、その先頭と最後尾にはスポーツギア。真上にはアームドギアが全周囲を完全防御しており、その様はVIPの護送の様にも、または遥か太古の倭国にあった大名行列さながらだった。 そして、茜華は朦朧とした意識の中で自分の身体の事、産まれてくる子供の事よりも―― (素で……こんな事を仕出かすアンタが……一番の大馬鹿だわ……) 穴があったら飛び込んで、一生を其処で過ごしたくなる程の羞恥に耐え、一人の女から、一人の母親になるというのにも関わらず、ろくな心構えが出来ないまま分娩室へと運び込まれる事になった。 ぎこちない笑みで必死に自分を励ましながら、助産師の指示に従いながら背中や腰、下腹部をマッサージをしたりと妻を不安がらせまいと必死な様子の一刀に嬉しいやら、呆れるやら、面白いやら、愛しいやらで苦笑を浮かべ、母親としての一番最初の使命に臨んだ。 「元気な男の子ですよ」 必死に大きな産声を上げる赤子を差し出され、一刀はまるで壊れ物でも扱う様に恐々とした様子で両腕を震えさせながら我が子を抱いた。 すると忽ちの内に赤子は泣くのを止めて、キャッキャと笑い出し、一刀も釣られた様に微笑を浮かべて、しっかりと抱いて、茜華の目によく見えるように屈んで赤子を見せた。 「よく頑張ったな。茜華……」 「うん……ありがと……名前、決めてる?」 一刀は心からの喜びの言葉を茜華にかけ、茜華は瞳を潤ませながら、それに答えた。 子を産むのが母親の役割ならば、子の名前を付けるのは父親の役割。入籍前から二人で決めていた事だ。 そして、一刀は咳払いを一つして、茜華と我が子にこう答えた。 平和な世界を『創』造して戦った先人達より送られた『土』を踏み締め、人々の前途ある未来を象徴する守屋の子―― 「創土(ソウド)だ。この子の名前は守屋創土だ」 「武器の名前は付けなかったんだね」 「それは俺の代で終わりだ。この子に宿る名前に物騒なものは無用……平和、幸福、未来。当たり前の日常があれば、それで良いのさ」 霧坂茜華―― 高校卒業後、恋人と進む道が分かれるが交際開始当日に受けたプロポーズの宣言通り二人して二十四歳を迎えた直後に入籍。 夫の赴任期間終了後の長期休暇中、タイミングを申し合わせたかのように第一子、創土を儲ける。 守屋創土―― 守屋一刀、茜華夫妻の長男として、この世に生を宿す。 これから、彼がどの様な未来を創造し、彼がどの様な土を歩んでいくのか、今はまだ誰にも分からない。 奇しくも、その名にSWORDの名を宿してしまった彼の人生は今、始まったばかりなのだから。 ↓ 感想をどうぞ(クリックすると開きます) +... 名前
https://w.atwiki.jp/rs_wiki/pages/293.html
【各スタイル概要・スキル解説】 魔法タイプ モータル+ワーム悪魔 アラクノ+血十字悪魔 モータル+血十字+α悪魔 バインド悪魔 物理タイプ ブルース悪魔 その他サブスキル 【スキル育成】 モータル+カウンター悪魔 バインド悪魔 【ステータス振り】 魔法 毒闇標準型 バインド標準型 物理 ダブクリ狙い型 【装備】 魔法 毒闇悪魔 バインド悪魔 物理 ブルース悪魔 各スタイル概要・スキル解説 魔法タイプ モータル+ワーム悪魔 モータルクラウドなどで攻撃兼広範囲のタゲを取り、ワームバイトでカウンター。 健康を比較的高く取れば、契約系スキルなどの併用でかなり安定してソロが可能。 燃費・威力共に悪魔スキルの中では優秀、早い段階で狩りが可能なので悪魔の育て始めにすることが多い。 Lv200以降は毒が効かない敵が多くなる上、敵の攻撃も激しくなってくるため、他タイプに切り替え必須。 CP獲得スキル ドローボディー Slv1時の消費CPは-4、Slv+1ごとに+1改善、Slv50で+45。 安定して使え、自スキル射程に持ち込めるCP獲得スキル。難易度も低いので優先的に育てておきたい。 範囲攻撃スキル モータルクラウド Slv1時の消費CPは-65、Slv+1ごとに-5増えていく。即死判定までの時間は(10-Slv*0.1)秒、最短3秒。 手動範囲攻撃スキルの中では最も高火力。難易度が高く消費CPの上がりも激しい。Slv1時の威力は割合高めだが、伸びは案外悪い。純粋魔法増加効果を受けない。 ポイズンガス Slv1時の消費CPは-27、Slv+1ごとに-2増加。 モータルに比べると威力は半分に落ちるが、使用制限が無くタゲ集めに使いやすい。ダメージを求めるならモータル選択がお勧め。純粋魔法増加効果を受けない。 リアクションスキル ワームバイト Slv1時の消費CPは-7、Slv+1ごとに-3増加。発動確率はSlv1で4.2%、Slv+1ごとに+0.2%。単純計算でSlv1→Slv50で発動率3倍。 相手を無力化しダメージも与える汎用スキル。初期発動確率が壊滅的なので早めに育てておきたい。消費CPは高Slvドローか青POTがあれば解決する。 アラクノ+血十字悪魔 カウンタースキルの中で最も高威力のアラクノフォビアを主攻撃にする。 発動率が低く相当殴られる必要があるが、ブラッディークロスとの併用で耐久力が向上する。 アラクノ・血十字ともに難易度5、特にアラクノは高Slvにならないと使えない発動率なので、普通はモータル+ワームから派生する。 他プレイヤーを移動不能にするのでPT厳禁。 CP獲得スキル ドローボディー Slv1時の消費CPは-4、Slv+1ごとに+1改善、Slv50で+45。 安定して使え、自スキル射程に持ち込めるCP獲得スキル。CP獲得の要なので優先して育てたい。難易度も低い。 主要スキル アラクノフォビア Slv1時の消費CPは-26、Slv+1ごとに-6増加、Slv50で-320。発動確率はSlv1で3.1%、Slv+1ごとに+0.1%。 低Slvでもダメージが高いが、発動率に難有り。本気で使い込むならCPが枯渇しない程度にSlvを上げること。 ブラッディークロス Slv1時の消費CPは-12、Slv+1ごとに-1増加。発動確率はSlv1で4.3%、Slv+1ごとに+0.3%。 回復リアクション。回復量は敵の数×与ダメなので知識や装備する十字架によってスキルレベルを調節する。瞬時回復ではないので薬回復装備が必須。 モータル+血十字+カウンター悪魔 モータルやポイズンガスなどで範囲攻撃し、攻撃を受けてカウンター発動+ブラッディークロスで回復。カウンターは地獄の矛、マッドデビルなど。 モータルや矛主体のスタイル。 装備で耐久力を高め、モンスター数の多いソロ狩場に突っ込むと効率が出る。 低Slvではダメージが貧弱なので、こちらも派生振りを推奨。 主力スキル モータルクラウド 詳細はモータル+ワーム悪魔。 ダメージは高いがクールタイム有り。モンスターが分散している狩場では、ガスのほうが使いやすい場合もある。 ポイズンガス 詳細はモータル+ワーム悪魔。 汎用スキル。モンスターを手っ取り早く釣りたい場合など。 地獄の矛 消費CPはそれほど変わらない。発動率は10%固定。 ダメージが死んでるのでマスター推奨。難易度も低い。 バインド悪魔 青POTやドローボディーなどでCPを溜めてバインドブレイズで攻撃。 ドロー×4<同Slvバインド という燃費の悪さが難点だが、イクスト+青POTや闇P(古代神有り)狩りなら高い効率を出すことができる。 初めからこのスタイルで育てられないことは無いが、将来性を考えると資金を用意しておいたほうが良い。 主力スキル バインドブレイズ Slv1時の消費CPは-19、Slv+1ごとに-4増加。攻撃回数は初期3HIT、Slv10ごとに+1HIT。 効率の良い青POT狩りは一撃で倒せることが前提。初めからバインド一本で育てる場合はオーバーキルにならないように注意してスキルを調節しつつ育成。称号「錬金術」によりバインドの属性ダメ表記が上昇する不具合がある。(与ダメは正常) 物理タイプ ブルース悪魔 青POTなどでCPを溜め、ブラックブルースで攻撃。 消費CPがかなり多く、一定水準以上の装備でないとリターンに乏しい。 資産家前提での育成を推奨。 主力スキル ブラックブルース Slv1時の消費CPは-24、Slv+1ごとに-9増加。攻撃回数は初期2HIT、Slv25ごとに+1HIT。最大6HIT。防御貫通率は(25+Slv*3)%。Slv25で防御実質貫通、以上で防御に比例でダメ増加。 攻撃性能の伸びが優秀だが、消費CPがそれを上回って伸びる。装備性能にも依存するので、計算ツールフル使用推奨。 その他サブスキル スキル名 説明 血の契約 25+30×SlvHP回復。難易度が少々高め。 魂の契約 25+4×SlvCP獲得。手順を考えればマスター付近想定を推奨。 マッドデビル Slv15程度はないとソロでも効果継続は難しい。 悪態 200以降mobの攻撃が激しくなっていくので。特にワーム以外の毒闇では必須。 悪口 魔法ダメージ増加。 死の香り 毒抵抗はがし、物理スキルのダメ補助。高Slvでの使用推奨。 スキル育成手順 モータル+カウンター悪魔 モータルと汎用リアクションのワームを主体にした育成例。 初めはどうしてもPT・秘密頼りになるが、Lv50辺りからソロができるようになる。 Lv1〜40 真っ先にワーム習得。 ワーム、ヘルプリズン、地獄の矛など、初期は発動確率が低く、ダメも低いので 序盤は蟲前提分のネクロのスキル[フルアタック]や[ミラーカーズ]などを使って、 ネクロ主体で攻撃する方が効率が良い。 Lv40〜90 一旦、ワームSlv20くらいで留め、モータルをSlv15〜20くらいまで上げる方が無難。 秘密に行かないのであれば、ワーム一直線でも。お好みで。 血の約定、魂の契約は、モータル前提分で十分な回復量を得られるはず。 初期で血十字取ったらCP運用がきつくなるので注意。 Lv80〜110 一気に蟲マス一直線。なぜなら藪エルフは、大地抵抗高いので、モータルの威力半減。 よって蟲を上げたほうが効率が良い。(発動確率も上がる) CP消費(蟲の多重発動)を考えて、装備整って無いならモータルより毒ガス(SLv1~12まで)使用の方が吉。 CP溜めにここらへんでドローマスする育て方もある。装備や資金と相談で。 Lv100〜140 ここまで来たら、HP回復スキルで血十字を取っても良。 ただし、CP消費の兼ね合いで、今はSlv10前後に留めて、後は装備の上昇分任せが吉。 先にモータル育てるなら、血十字は取らなくてもおk。あったらソロ釣り時が大分楽に。 ここからバインドに切り替える人もいる。 Lv130〜180 モータル一直線。即死は期待しないように 以上でワーム・モータルは十分実用レベルに。 前に血十字を取っていなかった人は、モータルマスったら血十字を取ったり、 後々アラクノ取る事を考えてネクロスキルを取ったり、 高レベモータル使用でのCPマイナス対策の為にファントムインパルス取ったり、ご自由に。 Lv170以降 毒の効かない敵が出てくるので、路線変更を余儀なくされる。お好み育成で。 アラクノを取るにしろバインドを取るにしろ、 モータル効かないとなると蟲の火力だけでは微妙になるので使わなくなる バインド悪魔 Lv1〜40 真っ先にバインド習得。攻撃力の低いドローボディー(バインド前提分)を先に取るより、 スピンフラッシュ、地獄の矛、ヘルプリズンを先に取り(バインド前提分) それをバインド取るまでの攻撃手段とした方が良い。 Lv40〜80 資金有り余っているならマスターの勢いでPOTがぶ飲みしながらバインド一直線。 それ以外なら、バインドSLv1~3くらいで止め、ドローをマスする。 (CPの消費を考えながらドロー1回=バインド1回くらいになるように調節してあげる。) 血の盟約を使いたいなら、お好みで。 Lv60〜120 資金あるなら只管POTがぶ飲みでバインドマスが一番(消費を抑えようとすると挫折する)。 それ以外なら、バインドSLv10~20以下にして(装備と相談)、 ポイズンガスをSLv1,or死臭前提の12まで&ポイズンスプレーをSLv20~30前後まで上げる。 低下兼にするなら、その分アラクノ前提の低下スキルへ。 ちなみに、相当な資金無いとバインド一直線はムリです。 なので後々何になりたいかを考えて、その前提スキルを取って行く方が吉な感じです。 Lv110〜150 資金ある人は、バインドもドローマスして次は何を取ろうかな状態。お好み育成で。 それ以外の人は、血十字やマッドを上げつつバインドのスキルをオーバーキルにならないよう調節。 低下兼にするなら、その分低下スキルへ。 Lv140〜180 悪魔一本で行くなら、そのまま血十字などをCPと相談しながら上げる。 バインドも狩りでPOT代稼げる頃なのでそろそろ上げれる筈。 Lv180〜 ここまでくればソロ安定。イクスト無いなら出切る限り省エネ育成で。 健康を十分上げていれば改良型POT連打などでパブル馬ソロが可。攻速装備揃ってれば心臓使用でウマさ最上級。 バインド一本で行くなら、死臭マス、嫌味マスは必須。その後は悪態で耐久力UPを、悪口でダメUP。 ステータス振り 悪魔は基本、運振りさえしなければ、後から幾らでも手直しが効くのでその分気が楽に。 魔法 毒闇標準型 モータル+リアクションスキルを使う悪魔全般のステ振り。 最も発動率の高いワームもSlv50で1/6の確率。 血十字も時間回復なので、健康を装備含めLv×2程度維持しておくと安心。 力 :★★☆☆☆ 鎧装備分。沢山振って100。それ以上は、装備に合わせて。 敏捷 :★☆☆☆☆ 必要ない。ドロー+イクストなどでCP溜めるなら、当たる程度で。上げすぎるとカウンタースキル発動しないので注意(missでは発動しない) 健康 :★★★★☆ 振らないと、攻撃に耐えられません。 知識 :★★★★★ 火力の要。無いと狩の効率が下がる。初めは健康優先で。 知恵 :★★☆☆☆ 強化十字架要求分。一先ずペンダント装備要求の65まで。 カリスマ:★★★☆☆ 同上。 運 :☆☆☆☆☆ 必要ない。 バインド標準型 バインド悪魔の標準的なステ振り。 物理扱い(命中判定がある)ので、敏捷にも気を遣わなければならない。 力 :★★☆☆☆ 装備要求分。 敏捷 :★★☆☆☆ 詳細は下記参照。 健康 :★★★☆☆ 狩りを安定させる為にある程度必要。後は装備で補う。弱化十字架装備も考慮。 知識 :★★★★★ 優先して上げるべき。 知恵 :★★☆☆☆ 強化十字架装備を考えているなら、ある程度振っておかないと後で装備できなくて泣く。 カリスマ:★★☆☆☆ 知恵と同じ。 運 :★☆☆☆☆ 追加命中率、ドロップ率が上がるが、基本、運は装備で補う。 【敏捷】:バインドには命中率補正が殆んど無いので、敏捷を振っておかないと攻撃が当たらない。 振りすぎに注意して敏捷比率靴、マッドデビルの存在を考慮に入れ、 健康に重要性が出てくるLv140辺りを目安にステ調節するが吉。 【知恵】:強化十字架の分を知識に振るか知恵に振るか。 Gv出ないなら、絶対に強化十字架装備推奨。 振りは、ブリーフ装備前提で考えるか否か。 【補足】:基本、Gv出無い=強化十字架タイプ、Gv出る=弱化十字架タイプ。 どっちも一長一短。(Gv用に再振りする人もいる。) POTがぶ飲みで無い限り、蟲やアラクノで捕まえて狩るスタイルにならざるを得ないので、 その場合は、健康重視な振り方になってくる。 要は、課金しているか否かでも弱化か強化か分けて考えると良い。 物理 ダブクリ狙い型 ブルースを選ぶ奴には解説不要。 力 :★★★★★ 火力の為に必要です。 敏捷 :★★★☆☆ 当てる為に。マッドで上がるのでそこそこ削れる。 健康 :★★★☆☆ 鞭の要求、マッド使用の為に若干多めに。 知識 :★☆☆☆☆ ステ反転しても装備が外れない様に。 知恵 :★☆☆☆☆ 同上。 カリスマ:★★☆☆☆ 装備要求分。 運 :★★★☆☆ ダブクリ、ドロップ狙いの為に振り。 装備 毒闇悪魔 カウンター発動率に影響する[スキルレベル]、単純火力の[知識]が基本。 問題は耐久力だが、ワームか血十字とHP効率装備・バルログの指(鞭U)があれば大抵のやつは耐えれるように。 武器 [スキルup]。攻速より廉価で、ダメ底上げ、発動確率UPにもなる為使い安い。ただ、探しても見つかりにくいので、その時は諦めて攻速鞭。CP消費抑える為にイクストラクターでもおk。この型ではバルログ指は意味無い。 ドローで溜める派なら、序盤は、ボルティッシュ等で売ってる攻速鞭より、火遊びセット全装備の方が良い。その他のT品鞭は全く使えない品。 ブラディークロスを使う場合、バルログの指(受けたダメージの30%をCPに変換)を装備する事で、被弾する事でCPが回復し、血十字が発動する事でHP回復と半永久的に回転させられる。 DXUはあまり良い物が無い。がGVで使うならスタミナアマリリスも良い。ドロー粘着ならスネークボーンも。 他装備 十字架 基本[スキルup]。[攻速]は、使いません。 ベースは大地十字架は存在しないので、闇十字架。 首 防御面が不安ならHP上昇、HP効率、攻撃面を強化したいならデビネク。 HP効率の方が安定する。 頭 防御面が不安なら[防御効率]、[HP効率]、モータル,ワーム等の攻撃力を重視するなら[知識上昇]。 中盤以降はネクロT品が有用。 手 初期は[防御効率]かパパ手。その後はマスグリ。ハンズが最終装備。 ネクロT品も意外と優秀 鎧 防御効率デビメ、大家デビメ。防御重視ならムーンライトストーカーも。[HP効率]、[防御効率]ミスコでもおk。U鎧のサウリアンはT品のせいでゴミ化。抵抗装備揃えられない人用。 靴 防御効率。 レザヒ。地獄炎の靴〜のT靴が優秀だが入手困難、ネクロTはCP効率と移動速度30%で手軽。 指 クエレザ*8(薬回復の付いた物が良)。もしくはクエダブ*8(一つ薬回復があるものに変えても吉)。 Lv200付近からは致命打/決定打、各種抵抗、運固定。ベースはなるべくレザリン。 バインド悪魔 武器 バインド一本なら、攻速イクストラクター。それまでは攻速鞭か魔王鞭(ベースは1.2秒物)。 他タイプ兼用なら、まずはイクストラクター。買えないなら諦めて廉価Uのスネークボーン。 序盤は火遊びセットの”口火”でもおk。 DXUはあまり良い物が無い。ロシペルの左手はその名の通り”悪魔”的だが、装備要求があまりにも高すぎてエサU視されている。 他装備 十字架 [スキルup]。[攻速]が安定する。お好きな方を。 首 [攻速]かデビネク。 上級強化十字架装備等でバインドの1発ダメが相当高いなら、スキル物でバインドの本数増やす方が良 頭 [知識上昇]系。 [運上昇]も。 低下ネクロ兼なら[大家]物も。 耳 HP上昇、HP効率。 DXU星子が最終装備 腰 初期なら[敏捷固定]か[健康固定]。 ある程度になると健康上昇、健康比率、運比率。 手 攻速が安定。 強化十字架装備の為のブリーフも。 鎧 スキル補正+2の大家デビメ、攻速デビメ。 防御重視ならムーンライトストーカーも。 最高補正の[大家]デビメLxが最終目標。 U鎧のサウリアンはT品のせいでゴミ化。 スキルUPがほしいレイス期は多少使えるかもしれないが、フレームを考えると攻速デビメの方が安定する。指などで抵抗装備揃えられない人用。 靴 防御重視なら[防御効率] そうでないなら命中率重視で[敏捷比率]か[運比率]。 大道無門やスピリットオブコマーシャルなど[スキルup]も良い。 指 クエダブ*8(解除もの)。 十字架装備の為足りないカリスマをスタリンLxで補う人も・・・ 一撃で倒せるならタート(出来ればロトHP物)がほしいが ブルース悪魔 スキルレベル上昇で防御貫通率が上昇、ダメージ補正が低い。 [攻撃速度]・ブルースのHIT数を好みまで上げ、火力を求めるなら[Slv上昇]、燃費を求めるなら[攻撃]で固めるのが基本。 武器 序盤はイクストで。ローズソーンも良いが魅了0%が存在しないのがネック。 中盤以降はDXU。[ダメ上昇]が付いてる物が多く、健康要求もDXやUMと比べ低いので。 餌Uとして投売りされてるので入手は容易。 Gvでるならドロー粘着用に攻速異次元スタミナアマリリス(Nでも十分使える)。 他装備 十字架 [スキルup]か[攻速]。 首 デビネク![運比]。 ベース骨首も。mobにより使い分け。 頭 [HP効率]、[防御効率]。 [運上昇]。 耳 [HP効率]。 腰 [健康上昇]、[運上昇]。 手 [攻速]。新Tに攻速品があるので比較的入手容易。 Uはバター。 鎧 [スキル上昇]、[HP効率]。 DXUはドレイクプルームやサリーンなど。 靴 [運上昇]、[防御効率] DXUはレザヒ、スタチュー。 指 各種抵抗。 魅了が効かないMobに対してはタートの火力底上げが有効。 スタイルの書いてくれてたのすまん、消した。スタイルの詳細じゃなくて、そいつにどんな使い道があるかを書きたいんだ。参考にして書いた箇所の面影だけで許してくれ。 -- 了解です。 -- RIG バインド悪魔だが、バインド一直線はcp枯渇し過ぎて無理がある。LV180パブル狩りなら、30位で一旦止めたほうがcp運用が効いて狩り易い。それと、ドローを取るよりバインドと言うのも頂けない。序盤は何かとお金が掛かるし、がぶ飲みと言っても相当装備にお金も掛かる、そう考えれば狩りやすいのはドローを中心として上げて行き、cp運用を考慮に入れながらバインドをちょっとづつ振る方がはるかに効率が良い。 -- デクス バインド一直線は確かに序盤のザコ相手にはオーバーキルになりますね。しかし最近は序盤ザコを狩ってレベル上げする人は殆どいないですからねぇ・・・青の消費を抑えたい人ならドロー振りもありですが、完全青狩りでGvもでないならドローよりはマッドや血十字優先ですかね。-- 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/boujyutsuki/pages/59.html
概要 省略名称ILF。別称理想郷。 エリアUS近海の島に本社を置く親会社Ark技研の子会社である。その中でも一番主力である本社はエリアJPに配置している。第四世代防術機が現れてきた頃に、活動が始まった。 理想主義を掲げ、様々な分野で活動を行う非常に規模のある企業。ILF恒例のIJ独立は検討されたが、防術機製作チームは結成しなかった。結成されていたら、SITBとなっていただろう。 完成した機体はILFと並ぶ子会社AWFAへ輸送(転送)し、そこで戦場へ投下させる。と言う事もありILFは戦闘を行わなわず、提供を行っているのだ。 製作された機体の設計図の行方は機密企業RUAへと転送され、厳重に保管されている。 ILFが作る防術機に使用しているOSは主にI.S.H.S.C-OSである。 ※I.S.H.S.C-OSについては設定・用語を参照。 本社近海の島に理想郷工業教育高等学校があり、卒業生はILFに無条件で入社が可能。 歴史 組織Log参照のこと。 2167年にArk技研の前身と思われる組織が設立され、そこから始まる。 2210年にようやくArk技研が完全に姿を現し、子会社であるILFが設立された。 防術機を開発したのは2210年の冬であると思われる。 2230年には人手不足となったため、理想郷工業教育高等学校が設立された。 徽章 imageプラグインエラー ご指定のURLはサポートしていません。png, jpg, gif などの画像URLを指定してください。 防術機 +第二世代~第四世代 Proto edge 画像 imageプラグインエラー ご指定のURLはサポートしていません。png, jpg, gif などの画像URLを指定してください。 †外装進展次第更新† 種別 中量機・小型機(第四世代) 機体データ HEALTH(耐久力) 1919 ENERGY(エネルギー容量) 68 Metal上移動速度 150km/h Wood上移動速度 28km/h 地面上速度 32km/h 空中移動速度 160km/h 水中移動速度(前後) 30km/h以下 武装 G-127 Mk,L(ガトリング)×1 UBT-334 Assassin(ガトリング下)×1 10385 Dissolve saw(円チェーンソー)×1 D-Charger(ランチャー)×1 BC9(榴弾)×1 解説 ILFが始めて製作した防術機であり、実弾兵器、EN兵器を平均的に取り付けた武装試験機でもある。 とあるスクラップ機に武装を試験積みしたように見える。 動力にはコアで生成されるエネルギーを使用する。 コアで生成されたエネルギーは二基のチャージャーへ送り、正面から見て右側では推進部分へ送り届ける。左側では胴体を通し、上半身にあるエネルギータンクへと送り、武装を使う際瞬時にその武装へとエネルギーを送り届ける。 装甲には強度や海水に対する耐食性に優れるチタン合金を使用している。その為、水中を移動できる能力を持ち、水中を使った戦術あるいは救助が可能となっている。 元々はホバーレッグだったが、あまりにも莫大な耐久力が原因で審査が通らず。他企業の助言を受けタンクレッグとなった。 非常に鈍足な機体となっているため、支援機として扱われていたり、輸送させられていたりする。 「Gatling spouts fire when shoot it too much!」by mechanic ※動力については兵器の構造を参照。 ※実弾兵器・EN兵器については設定・用語を参照。 †開発停止† Road edge 画像 imageプラグインエラー 画像URLまたは画像ファイル名を指定してください。 †Proto edge完成後改造予定† 種別 軽量機・小型機(第四世代)[予定] 機体データ HEALTH(耐久力) ENERGY(エネルギー容量) Metal上移動速度 Wood上移動速度 地面上速度 空中移動速度 武装 (マシンガン)×1 UBE-334 Killer(マシ下)×1 10385 Dissolve saw E-Spec(円チェーンソー)×1 D-Charger(ランチャー)×1 BC8(ビーマー)×1 解説 未完成 ILFが始めて製作した防術機(武装試験機)のBT機、エリートバージョンだ。 動力は通常のコアによるエネルギーだったが、生成の効率を上げる為、コアを強化した。 Proto edge同様コアで生成されたエネルギーは二基のチャージャーへ送り、正面から見て右側では推進部分へ送り届ける。左側では胴体を通し、上半身にあるエネルギータンクへと送り、武装を使う際瞬時にその武装へとエネルギーを送り届ける。 装甲には強度や海水に対する耐食性に優れるチタン合金を使用していたが、ILFによるチタン合金研究で耐久力が下がってしまうが、質量を軽くした物質チタンリウム合金を使用した。軽さを活かし、ホバー装置を搭載。元がホバー足だったため、その怨念からだろう。Proto edge同様、水中を移動できる機能を搭載していて、水中を使った戦術あるいは救助が可能となっている。 「」by mechanic ※動力については兵器の構造を参照。 †開発停止† N2 Frostbite 画像 imageプラグインエラー ご指定のURLはサポートしていません。png, jpg, gif などの画像URLを指定してください。 種別 軽量機・小型機(第四世代) 機体データ HEALTH(耐久力) 1565 ENERGY(エネルギー容量) 31 Metal上移動速度 290km/h Wood上移動速度 274km/h 地面上速度 274km/h 武装 RG-No.8(レールガン)×1 汎用EG ±I(RG横)×2 BA Charger(ランチャー)×2 解説 ILFが防術機にて遺跡調査中、偶然名技研製のN2が破損状態で発見された。研究の為、そのN2を回収し、修理・改造をしたものが本機「凍傷」である。 雪が舞い所々氷結している遺跡、埋めれぬ傷跡達が名前の由来である。 ILFが初めて改造した防術機でもある。右前足側面にあるロゴが改造品を物語っている。 軽快な動きをウリとしている純正機とは裏腹で、武装を積み込んだ為、僅かに機動性が劣る。 歴戦の跡なのか、所々に弾痕や切断痕が残る。 最近では対策機の開発により簡単に前線へ出ることが出来なくなったようだ。 「Make demonstration of light movement to a partner.」by mechanic ダウンロード なし Nightmare Fighter 画像 imageプラグインエラー ご指定のURLはサポートしていません。png, jpg, gif などの画像URLを指定してください。 種別 中量機・小型機(第二世代) 機体データ HEALTH(耐久力) 1493 ENERGY(エネルギー容量) 57 Metal上移動速度 255km/h Wood上移動速度 215km/h 地面上速度 215km/h 武装 E/E MG-19(速射砲)×2 E/E D-Attacker(戦車砲)×1 E/E H-Missile(ランチャー)×4 解説 通称「常闇ノ夢」、ナイトメアとそのまま呼ばれることも。更に短縮されメアと呼ばれる。 急造の為、E/E社から仕入れたパーツを装着している。 N2対策機が開発された頃に開発された機体である。 対策機への復讐を目的に開発されたらしい。 急造の為、E/E社から仕入れたパーツを装着している。 ホバーにより軽快な動きを実現、第二世代の為、後進は出来ない様になっている。 もしかしたらこの機体まで対N2機になっていたりするであろう・・・ 「This is good. Add sanctions to the people overthrowing N2.」by mechanic ダウンロード なし Nightmare Fighter Ⅱ 画像 imageプラグインエラー ご指定のURLはサポートしていません。png, jpg, gif などの画像URLを指定してください。 種別 中量機・中型機(第二世代) 機体データ HEALTH(耐久力) 1545 ENERGY(エネルギー容量) 74 Metal上移動速度 290km/h Wood上移動速度 240km/h 地面上速度 241km/h 武装 E/E MG-19(速射砲)×2 E/E D-Attacker(戦車砲)×1 E/E H-Missile(ランチャー)×4 解説 これの元機であるNightmare Fighterとの大きな違いは有人ということである。 武装は変えず、機体そのもののリサイズが施されている。 ホバーにより軽快な動きを実現、第二世代の為、後進は出来ない様になっている。 やっぱりこの機体まで対N2機になっていたりするであろう・・・ 「It became slightly big and returned to the battlefield.」by mechanic ダウンロード なし Nightmare Fighter Ⅱ albino 画像 imageプラグインエラー ご指定のURLはサポートしていません。png, jpg, gif などの画像URLを指定してください。 種別 中量機・小型機(第二世代) 機体データ HEALTH(耐久力) 1079 ENERGY(エネルギー容量) 47 Metal上移動速度 340km/h Wood上移動速度 318km/h 地面上速度 318km/h 武装 E/E MG-19(速射砲)×2 E/E D-Attacker(戦車砲)×1 E/E H-Missile(ランチャー)×4 解説 Nightmare Fighter Ⅱの量産を行おうとした結果、装甲に異常が出た機体で、一時は産廃になる筈だった。 本家と比べると耐久力が大幅に減少している代わりに機動性が向上している。 急造の為、E/E社から仕入れたパーツを装着している。 きっとこの機体まで対N2機になっていたりするであろう・・・ 「To become in this way...」by mechanic ダウンロード なし イベント用防術機 Nightmare Fighter Ⅱ 1st Anniversary 画像 imageプラグインエラー ご指定のURLはサポートしていません。png, jpg, gif などの画像URLを指定してください。 種別 中量機・小型機(第四世代) 機体データ 武装 E/E MG-19(速射砲)×2 E/E D-Attacker(戦車砲)×1 E/E H-Missile(ランチャー)×4 解説 元機はNightmare Fighter Ⅱ。防術機が始まってから一周年を記念してアレンジを施された金色の一機。 「Congratulations on the first anniversary!」by mechanic ダウンロード 防術機 N-F_Ⅱ 1st A +第七世代 Escorpio GSM-2。Ground Supply Machineの略称。日本名「地之蠍座」。 地上からの補給物資運搬を主な目的とした無人機。無人機のため、ジャマーにかかると完全に動作しなくなるため、チーム極限が開発した超強化対ジャマー装置を搭載している。 補給だけだとほぼ意味がないため、対防術機エネルギーカノンやミサイル等を搭載し、補給後、そのまま戦うことが出来る。 水上を移動する能力があり、使い勝手がよい。 水上に浮く様から、アメンボと呼ばれることが多い。 Grand spilit 軽飛行型 BurstBl-7。Blはブラスタの略称。日本名「非衰魂」。理想郷グリーンが着色されている。 戦場に投下され、多くの傷を負い、放置された両腕下部より実弾を放つように改造された逆足の中量型ブラスタ。この時の改造主は不明。 それをILFが回収し、飛行ユニットを搭載、改造を加えたものだ。歴戦の機体であったのか、多数の部品の欠けが見られる。 今では白夜の愛機として頻繁に運用されている。 修理もせず飛行出来るようになり、鉄くずのような存在であるため、スクラップと呼ばれることが多い。 Grand spilit sports 不明 SportBl-8。日本名「非衰魂・競」Grand spilitを競技用に改造したもの。これは通常の戦闘では使用が出来ない。 Vendaval ζ 軽量型 K-16。KはKillerの略称。日本名「二陣強風」。最後のζはゼータと読む。 Vendabal χの量産型。使用エネルギーの削減が認められ、量産された。武装が試験型と大きく異なり、少し異なる雰囲気を出している。 機動性がやや劣っており、耐久力が増している。 背中のユニットが特徴的で、バタフライと呼ばれることが多い。 Vendaval χ 軽量型 K-17。KはKillerの略称。日本名「一陣豪風」。最後のχはエックスではなくカイ。理想郷グリーンが着色されている。 ILFは数多くのホバー機を開発しているが、大きな問題点があった。それは浮上、すなわちホバーによる過剰なエネルギーの使用である。 これが原因で少し機体の動作に支障が出ていた。この大量使用を回避すべく、チーム極限が現代の技術に近いスカート型の浮上器を開発した。 これに特に問題のない上半身を装着し、試験機、即ちプロトタイプとして開発されたのがこの防術機だ。技術は古いが他のホバー機以上の機動性を誇るようになった。 4連バースト式エネルギーバルカンは使用したエネルギーを排出するため、不純なエネルギーが繰り返し使われるのを防ぐ。 ロックオン式ワンショット高速移動スラスターが搭載されており、数秒間前進補助スラスターを展開することが可能。止めることが出来ず、使用後は切り離す。 今では優巫の愛機として頻繁に運用されている。 下半身が印象的すぎたためか、スカートと呼ばれることが多い。 Annihilator(開発停止) 重量型 SHT-24。Support Hover Tankの略称。日本名「滅造者」。理想郷グリーンが着色されている。 しかし、異常な利便性の無さからか、開発停止となった。 地上主力兵器として開発された戦車足型のホバー機。8連エネルギーブラスターを浴びたら一溜まりもなくなるであろう。 水上・水中を移動できる能力があり、ステルス能力に優れていたようだ。 Athana・N 軽量型 TC-27。TはTactical、CはCommandの略称。日本名「韋駄天・純」。 高速機動の試験機として開発された本機は、粒子と弾薬型固形エネルギーを運用した初の機体である。 ??? +??? あなたは理想郷の真実を見る覚悟は出来ているか――― +機密情報開示 imageプラグインエラー ご指定のURLはサポートしていません。png, jpg, gif などの画像URLを指定してください。 ようこそ。真髄へ。 1、エネルギー IUOEnergy-0βPT 理想郷が電気に取って代われる存在を作る「TAIME計画」で出来上がった初期の試験型エネルギー。TAboo ILF Magic Energyの略称。 やや緑色がかかった水色をしている。まだこの時は、気体に似た形質をしていて、電気の代わりになるのみであった。欠点が数多く存在しており、電気同様使いきりのようなものだった。 因みに、IUOとはILF Unknown Objectのことである。 IUOEnergy-0β IUOEnergy-0βPTの実用試験型となる。出力を向上させ、環境に配慮した。まだ完全に環境に影響は無いわけではない。色は薄暗い水色。 なかなかの出来であり、一時期、ILF内で使用されてきた。 IUOEnergy-0E IUOEnergy-0βが突然変異をした姿。過剰な出力を誇るが、その代償からか、環境に悪くなった。環境に強く配慮したいILFはこれを処理し、廃棄した。 より暗い青色で、紫にやや近い。とても怪しさが漂う。ILFエネルギー史上最も危険な物質となってしまった。 EはErrorである。 IUOEnergy-0C/1 IUOEnergy-0βを改良する計画において、初期に作られたエネルギー。これは、環境により良くし、温度によって液状になる性質を持つ。 ただし、出力が低下してしまった。色は緑。 CはChallenge。 IUOEnergy-0C/2 IUOEnergy-0βを改良する計画において、より改良を重ねられたエネルギー。これは、出力をより強化し、循環で使えるようになった。 この時は、まだ循環による出力の減少がほぼ無く。非常に画期的であった。色は白がかかった緑。 IUOEnergy-8β IUOEnergy-0C/1とIUOEnergy-0C/2の両方を見事に組み合わせたエネルギー。より安定した液体、気体となるようになった。 ただし、循環による出力の減少が激しすぎるため、簡易的な浄化装置が製作された。電気に完全に取って代われるようになった。色は白。 IUOEnergy-8α IUOEnergy-8βを極限まで改良することで生まれた、理想郷が誇る水色に光る謎のエネルギー物質。現在では運用されている。電気の代わりはもちろん、ありとあらゆる物に取って代われる存在となる。 環境には無害となった。液体、気体に加え、固体となることが出来、元素に似た形質を持つことが出来る。そのため、用途に応じた状態で使用する。 循環で使用する場合、出力が半分となり、さらに循環させると、出力が無くなる。この出力が完全な状態でなければ、その機械も完全に動作しない。 これを解決すべく、「浄化」と呼ばれる処理をすることが多い。浄化装置を通すことにより、それぞれの出力が蘇るため、循環の回路に入れられる事も多い。 †これより、準規制対象。† IUOEnergy-8αUL IUOEnergy-0αをリミッター着脱装置に通したもの。これは出力を数倍に引き上げるが、あまりにも出力が大きいため、過剰な戦力を持つことができる。 規制を回避するため、現在はILFの倉庫の奥深くに入れられている。いざとなったら使用するのみ。色はマゼンタ。 ULはUnlimitのことである。 2、設計図 理想卿が防術機等政策目的の設計図はRUAへ転送される。極めて厳重なセキュリティが仕込まれており、絶対にRUAのシステムに侵入することは不可能とされている。これには不思議が多い。そして、絶対に触れてはならない。 3、アルビノ 理想卿の悩める事情の一つ。理想郷が防術機を作り始める頃は、そこまで量産機を製造しておらず、何かと量産だけの技術が発展途上であった。そのため、第二世代防術機「Nightmare FighterⅡ」の量産を行っている途中、一機だけ装甲に違和感のある機体が出来てしまった。これは廃棄するのが勿体無いため、塗装を一切行わない白塗りの状態で量産機達に紛れて戦場に立つようになった。これら量産失敗機は本来使用している装甲より軽く、脆いため、その量産機以上の機動性を持つことができた。白い機体色が由来となり、これらは白いだけでアルビノと呼ばれるようになった。 4、錬金術 研究所棟のある部屋。そこで日々活動をしている錬金術室の室長アルミナが行っている錬金術では、合金を只管開発している。代表的な合金はアルファカーボンⅡ。これはRai-den系列の防術機の本体装甲に扱われている。他にも様々な合金を開発し、様々なテストの末、採用される。 +簡易組織テンプレート通りに記入 組織名/Idealistic Laboratory and Factory 拠点/富山県氷見市沿岸部 勢力規模/エリアJPからエリアUS近海小島まで 活動内容/防術機の製造、提供、水質保全等。 目的/平和維持
https://w.atwiki.jp/nwxss/pages/507.html
第八章 九秒前の白 _at_one_or_zero_ 1 超能力開発機関『学園都市』第六学区。 とうの昔に日の暮れた街で、狂おしいほどに加速する魔王同士の争い。 花火のように。夜空を抉り瞬く光。 星のように。夜天を切り裂き流れる光。 鼓膜を襲う轟音の波は、瞬くたびに世界を揺るがせる。 五感を超えた恐怖を産む。 『蝿の女王』ベール・ゼファー、『荒廃の魔王』アゼル・イヴリス、そして、『東方王国の王女』パール・クール。 それは、ブレーキの壊れた殺戮機構。 夫々が裏界の名立たる魔王である彼女らの戦闘。人智を超えた暴力の応酬は、際限なく加速する。 二対一。 ベルとアゼルの二柱と、鎬を削るパール。 けれど、常に優勢であるのは、パール・クールであった。 ―――世界には、 どれほど知略をめぐらせても、どれほど力で圧倒しようとも、全てをひっくり返す、絶対的な力が在る。 非常にキニクワナイ。が―――、今のパール・クールが、正にソレだった。 魔導具『東方王国旗』。 この『学園世界』の『震源』に立てられた『旗』は、この世界をパール・クールの所有物であると証明する。 此処が、ただの忘却世界であるのなら、この世界一つ分の『力』を得るだけの筈であった。しかし問題は、此処が、ただの世界ではなかったこと。 『学園世界』。 それは、ありとあらゆる世界の学校/学園が集合する世界。 それは、ありとあらゆる、ソレこそ無限の世界の断片を寄せ集めた領域。 それは、無限の世界が重なり合った、一つでありながら無限(スベテ)である『世界』。 だからこそソレは―――、『学園世界』の『震源(中心)』は、無限の世界の中心足りうる。 故に、『震源』に立てた『東方王国旗』は、所有者たるパール・クールに『無限の力』を供給する。 だから、同じ基準の上では、決して追いつけない。 幾らこの身が、『蝿の女王』ベール・ゼファーの『力』が強大であろうとも、同じ方向の力を競ってしまっては、勝利はない。 必要なのは別の基準(フィールド)。別の方向性(ベクトル)。 幸運にも、手元にあった二枚のカード。 最強の最弱、上条当麻の幻想殺し(イマジンブレイカー)。『荒廃の魔王』アゼル・イヴリス。 即ち、端的な『秩序』と『死』。 けれど。それでも、届かない。 適材適所(さいだいげんのこざいく)。 しかし、その程度で追いつけるほどに、両者に開いた性能差は易く無かった。 それもまた、忌々しい。 必要なのは、もう一つ上の性能。 必要なのは、もう一つ先の能力。 成長が、喪失の回復であるのなら、ソレがもたらされるのは絶望の先。 失くし続けていた事に、気付くだけでは足りない。 其処から更に奪われなければ、届かない。 心に刻まれた虚は、大きければ大きいほどに、喪失の怨嗟は比例して、動的で強大な『力』足り得るのだから。 時計の針を、進めるしかない。 役目を終えた役者の粘り(ワガママ)が、スベテの日程を破壊する。 与えたものが至宝に至るには、まだ時間がかかる。 ならば、奪うべきものは――― 「………答えは、一つしかないわね」 2 花火のように。光が夜空を抉り瞬く。 星のように。流れ夜天を切り裂く光。 そして、瞬く光の度に、鼓膜を襲う轟音の波。 『―――情報、通信関係が何者かにハッキングされています。 自己診断(システムスキャン)では異常(ノイズ)を発見できませんでしたが、現状を鑑みるにそう考える他在りません』 0-Phoneのスピーカーは耳元だと言うのに、電話の向うの初春の声が、上手く聞き取れない。 『残念ながら、回線越しでは『対話の相手(わたし)』が初春飾利と証明できません。ですが―――』 意識が他所に奪われる。 三柱の魔王が争う光景は、その余波だけで学園都市を震撼させる。 まるで、夜戦の記録映画だ。 遠目で見るには美しく、けれど虐殺を約束する死の光が、途切れる事無く、学園都市の空を埋め尽くしていた。 『………って、柊さん、聞いてます? そっちは通話環境があんまりよくないみたいですけど』 「ああ………、聞いてる」 返す言葉も上の空。ただ、その光景に圧倒される。 あまりにも巨大な暴力の発露に、超能力(レベル5)という『力』を持つ御坂美琴ですら、その暴力の主を知っている柊蓮司は、更に輪を掛けて、 常に、言葉を喪失している。 『兎も角そっちに行きましたから、彼女から聞いてください』 初春飾利は、そんなコトを言った。 そして、 「お待たせで在りますよ!! 蓮司! 美琴!!」 マーセナリー・オブ・イタリアンヴァンパイア。 ノーチェという名の吸血鬼傭兵は、分を置かずに登場した。 けれど、そんなコトどうでも良くなるぐらいに、気にかける余裕をなくすほど、遠雷の戦場が二人の心を占めて居た。 ―――絶望的に、 魔王という名の暴虐の塊。地獄から這い出た悪鬼の暴力。 絶望的なのは人間(ひと)の命だ。 柊蓮司(ナイトウィザード)と御坂美琴(超能力者)ですら、その余波に恐怖する。 五感を超え、精神すら蝕む恐怖を前に、魔王同士の争いに巻き込まれて、上条当麻(ただの高校生)が無事であるなどと、どう信じろと言う。 心が軋む。 余計な回り道が悔やまれる。もっと早く助けに行っていれば、もしかしたら。 だから、 「―――急いで上条当麻を保護して欲しいので在ります―――」 傭兵吸血鬼が吐いたその科白を、理解するのに少し時間が必要だった。 3 花火のように。夜空を抉り瞬く光。 星のように。夜天を切り裂き流れる光。 鼓膜を襲う轟音の波は、瞬くたびに世界を揺るがせる。 学園都市で繰り広げられる、異世界の魔王の狂宴は、未だ終わりを告げる気配が無かった。 『東方王国の王女』パール・クールは、余りある『力』を、余す事無く火力につぎ込んで、異世界の街並みを灰塵に埋めてゆく。 学園都市で繰り広げた、『蝿の女王』と『荒廃の魔王』との闘争。パール・クールは、己が策謀を以って、ベール・ゼファーの策を打ち破り勝利した筈だった。 本当ならばソレで終わり。あとはこの世界を奪い取って、更なる力を得るだけ。 その筈だったのに。 (嗚呼、イライラする………) 爆炎の向うから、光が走る。肌に覚える感覚から、尋常ではない威力を感じ取った。 並みの魔王ならば、一撃で消し飛ぶ魔光。しかし、今のパールには児戯に等しく。 「――――。」 一瞥。ただそれだけでベール・ゼファーの光は霧散する。 直後、いつ間に回りこんだのか、背後からも弾丸が迫る。 反応できずに直撃。けれど、アゼル・イヴリスの血弾も、自慢の柔肌に。キズ一つ付けられない。 そう、彼我の戦力差を鑑みれば、勝負はとっくに決まっている筈だった。それでも、敵対する二柱の魔王は、諦める事を知らなかった。 「あんたらいい加減にしなさいよね。仮にも魔王が晩節を汚すんじゃないわよ」 まるで人間のように。諦めが悪く、逃げ回りながら、隙を見て攻撃を重ねてくる。 キズ一つつかない。とは言え、だからこそ、そんな敵を潰せない事に、パール・クールのストレスは右肩上がりに昇っていく。 諦めが悪い。この絶望的な状況で、何故心を折らないのか。 ここに固執する理由など無い。所詮、忘却世界の一つ。 いまに固執する理由など無い。奪還する気なら、今は損害を抑えておくべき。 なのに何故、『蝿の女王』と『荒廃の魔王』は足掻き続けるのか。 「あの人間。かしらね……」 特異な右手を持つ。けれども普通の人間。ソレを使って、あの二柱は状況を逆転できると思っているのか。 一笑に付す。 幾らなんでもソレはありえない。人間如きに、仮にも魔王が希望を見出すなど。 嘲弄を貼り付けて、パール・クールは攻撃は苛烈の一途を辿る。 * * * 紅い月の光の下で、激突する力と能力(チカラ)。刻まれる、人智を超えた争いの爪痕。 パール・クール。アゼル・イヴリス。 世界を震撼させる二柱の魔王。その闘争は、既に元第六学区では収まりきらず、ビルを砕き、道を抉り、破壊の爪あとは拡大の一途を辿る。 機銃を掃射するように、爆撃がばら撒かれる。 二柱の魔王は光の航跡を引いて、高層ビルの谷間を縫うように飛行する。 「いい加減! 諦めなさい!!」 「私は―――、負けない!!」 整然と立ち並ぶ高層ビル群を挟んで、攻撃魔法の応酬は更に加速の一途を。 黒々とそびえるビルの合間。高速飛行の最中では、針の穴のような僅かな隙間から、僅かに覗く敵の姿に、致命的な魔術を投げつけた。 針穴を抜け、肉薄するものは防ぐ。そうでないものは、ビルの壁面を抉り取り、そもそも身体に届きはしない。 流れる風景は、ビル壁と敵とを交互に繰り返す。 壁、敵、壁、敵、壁、敵、壁、敵、壁、敵、壁、敵、壁、敵、壁、夜。 「!?」 幾つ目かのビルを過ぎた瞬間、驚愕にアゼルは身を留めた。 攻撃の瞬間、その視力は、何も居ない空間を認識する。 パール・クールは何処だ。隠れるところなど、何処にもない筈。 ――!? 第六感に走る脅威に、即座に反転。 奇襲。 ビルを突き抜け、粉塵に身を隠し、パール・クールは、右手に刃を生んで斬りかかっていた。 「くぅっ!!」 変形した右手の刃が、魔力を束ねた光剣を受け止める。 無音の衝撃に、夜気が震えた。 鍔迫る右手が焼ける。プラーナをつぎ込み即座に修復。痛みが続く限り、敵の刃は届かない。 斟酌の間を越え、互いの瞳にお互いを見出せる距離で、にらみ合う。 「………ホント、しつこいわよ、アンタ」 口火を切る、『東方王国の王女』。 光剣をギリギリと押し込みながら、嗤う。 「………、―――っ!!」 対するアゼルに、返答の余裕は無い。 ここでヘタに力を抜けば、右手ごと身体を二つに割られる。 「絶望と諦観がアンタのクセに! 荒野のヒキコモリが、このパールちゃんの手を煩わすんじゃないわよ!!」 諦めろ。そして、死ね。 漆黒の瞳に、燈る敵意が謳う。 だが、 「私は―――、負けない」 パールの光剣が押し戻される。 アゼルの右手が、首筋に向かうのを止められない。 「っ!! このっ!」 からみ合う刃を外し、パールは一歩退いた。 抵抗を失ったバイオオーガンは、鋭く夜気を切り裂いた。 向けられる刃に、不機嫌に、パール・クールは眦を吊り上げる。 「なに、ソレ――――」 負けない。私は、負けない。 アゼル・イヴリスはそういった。 彼我の戦力差は絶望的。出来るのは惨めに足掻く事だけ。如何在っても、彼女(アゼル)にこの状況をひっくり返す事などできないのに。 「私は―――、負けない。 上条君を信じてる」 繰り返し、曇りの無い瞳で、アゼルは言った。 月匣に送り込んだ少年が、必ず戦況をひっくり返すと、『信じている』。 「は?」 一瞬、パール・クールは忘我した。 アゼルが何を言ったのか理解できなかった。 『信じている』 彼女はそういった。 仮にも魔王が、人間に向って『信じている』。 「あ―――。 は。アハハハハハハハハハハハハははッッ!!!!!!!!!!!!!」 嘲笑う。 腹を抱えて呵呵大笑。 なんてこと。人間如きに、魔王が、仮にも魔王が。 「あははははは!!!!!!!! ねぇ、アンタ。あたしを笑い殺す気!? 最高じゃない、その冗談!!」 嗤う。哂う。 「―――貴女には、解らない」 ただ一言。アゼルはそうとだけ告げる。 曇りなく揺ぎ無く、ただ確信していると。 その様子に、パールは眦から涙をこぼす。 「あははははは!!! いいわ、最高よ!! 私の月匣を、たかが人間が踏破できるなんて本気で思ってるんだ!!」 そして決める。 その貌を絶望に染めてやると。 月匣を任せている配下に命じて、上条当麻を必ず殺してやる。 そしてその死骸を見せ付けてやれば、こいつはどんな表情をするだろう―――? 「あははははははははは!!!!」 せめて、ソレまでは保ちなさいよ、アゼル・イヴリス。 哂いながら、パール・クールは侵攻を再開した。 4 トンネルを抜けると、其処は雪国だった。 「みぎゃあっ!!」 まるで猫のような悲鳴をあげて、普通の高校生・上条当麻は雪原にダイブする。 『じゃあ逝って来い』と、不吉な科白と共に背中に弾けた鋭い痛みは、ハイヒールの踵で蹴られたもの。 ハイヒールである。しかも踵。 理不尽な不意討ちに悲鳴をあげて、その上。 「おぶっ!?」 硬質な地面に顔面を打ち付けて、重なる悲鳴。 「ふ、不幸だ―――」 顔を抑え、よろよろ。ゆらゆら。と、起き上がる。 「ちょっとっ!! いきなり蹴りくれるとは、余りに乱暴じゃぁございませんことっ!! その辺何か申し開きがあるなら、今すぐ口頭にて報告のこと!!」 口調錯乱。そして怒鳴る。 けれど、 「あれ?」 振り向いた先に加害者たる黒いドレスの女は無く。 白い。 雪原のように白い世界が其処にはあった。 「………。え?」 あくまで白く、果てまで白い世界。 視覚でわかる。 リノリウムのような、アスファルトのような硬質の感触が、ソレが雪の色でないことを如実に語っている。 つい先ほどまで、瓦礫の転がる廃墟に居た筈なのに、コレはいったい如何言うことか。経験は無いが、まるで空間移動でもしたかのようだった。 上条は自分の右手を見つめる。 それが異能の力であるのなら、仮令神様の奇跡ですら打ち消す右手。その効果があるのは右手の手首から先だけ。右手以外ならば効果は素通りする。 しかし例外的に、右手を含む全身に効果を及ぼすような異常は、打ち消される事がある。 例えば、夏の御使い堕し(全人類の中身の入れ替え)や、神の右席の神罰執行(強制失神)などは、上条当麻に効果を及ぼさなかった。 存在を喰らう結界に囚われても、無事であったのも右手の力だ。 だと言うのに、コレはいったい如何言うことか。 首を傾げながら、上条はぐるりと辺りを見回す。 どこまでも、何処までも。見渡す限りに白一色。 単色の世界。地平の境界線は曖昧。 対象物は無く、広大な空間に、遠近感が狂う。 奥行きは見て取れぬ。白い壁が目前に迫るような圧迫感。 鳥肌が立った。 「……う゛ぇ……。キモチワル」 慣れない光景に、眩暈を覚える。 悶絶する事、数秒。上条は再び視線を上げた。 何時までも、悶えているワケには行かない。 ―――アイツの力の要は『東方王国旗』。 問答無用のマジックアイテムなんだから、アンタの右手にかかれば一発でぶっ壊れるわ。 上条が此処に送り込まれたのは、その『旗』を叩き折るため。 そのために、アゼルたちは二人で強大な敵に立ち向かっている。一秒たりとも、無駄にして良い時間など無い。 「と、兎も角。この何処かに月匣ってのが在る筈だ―――」 けれど、見渡す限りに白、白、白。 地平線は曖昧で、対象物すらない。ただ只管に広大で、無辺な、空白の世界。 こんな、意味不明な白の中で、 「……―――。一体、何処に行けってんだよォオおおおおおおおおおおおおお!!!」 「うっさい。黙れバカ」 今度は、革靴(ローファー)で蹴っ飛ばされた。 「まったく。巣から落ちた小鳥じゃあるまいに、ピーピーピーピー鳴いてんじゃ無いわよ」 理不尽な体罰を執行した張本人を、上条当麻は恨めしげに睨み付ける。 「て、てめぇなぁ……―――」 紫を基調とした上品な制服の上から、星と太陽をあしらった高山外套を羽織った銀色の少女。 今夜の騒動の原因その一、大魔王ベール・ゼファー。 魔王は、軸足に体重を預け佇んでいる。すぐにでも第二撃を放つ準備は万端だ。 三白眼を半眼にして、上条は言った。 「スカート」 「!?」 輝明学園の制服は丈が短い。だからといって見えたわけではないが。 地味な復讐に、今度は、鉄拳が飛んできた。 「いきなり何しやがるコンチクショウ!!」 「………ふん。こんな所で油売ってんじゃないわよ。何が出るか判らないし、時間無いんだから」 「いや、ソレは俺だって判ってんよ。でも、何処に行けってのさ」 明らかな八つ当たりに、上条はぐるりと首をめぐらせる。 そこは変わらず、あたり一面の真白。空薄で空虚な、純白の闇。 そんなもの星の無い夜の海と何が変わろう。導なく寄る辺無い空間で、一体どちらに向えというのだろうか。 上条だって焦っている。 ソレを見て、 魔王は一つ溜息をついた。 「道は、何処にあると思うの?」 「…………?」 余りに唐突な発言に、上条は首を傾げる。 「ごめん。いきなりそんな哲学っぽい事訊かれても訳判んねー」 「……。はぁ」 魔王は再び溜息をついて。 「―――まったく、コレが肉のある人間の限界なのかしらね……」 「……肉て」 生々しい表現に呻く上条を他所に、波打つ銀髪を掻きあげる。 「意思在る所。よ」 「……???」 「『意思あるところに道はある。』 たとえ未踏の砂漠であろうと、不毛の氷原であろうと。意志を持って進むと決めれば、おのずと道は生まれでる―――。覚えておきなさい―――」 ベルの黄金の瞳が、真直ぐに上条を捉えた。 「あんたが、アゼルを助けたいと願うのなら、その過程(道)は目的(結果)に、繋がるべくして繋がるもの―――」 そう、魔王が言い終えると同時、 「!? うおぅわぁ!!?」 ソレは如何なる業か。あらゆる異能を打ち消す少年は、見えざる手により大地から持ち上がる。 視界が俯瞰に書き換えられる。鳥ではなく、空中浮遊系能力者でも無い上条が、経験したことも無い鳥瞰の視界。 鳥瞰に捉える無辺の視界に、輝線が走った。 果てに向かい真直ぐに引かれる線は、垂直に、そして水平に、一定の法則を伴い縦横無尽に駆巡る。 「嘘だろ。おい」 『道』が、そこに。 ファンタジー映画のようなクオリティの現象に、上条はポカンと口を開く。 呆然とする彼の足元には、ワイヤーフレームで描かれた、万里に架かる長城の偉容。それが、押し上げられた上条当麻の身体を、受け止めていた。 ← Prev Next →
https://w.atwiki.jp/forsale-lawyer/pages/309.html
我輩の問題 一、『小僧判事』の陰口 で忽ち天下の同情を一身に蒐めた、弁護士高木益太郎氏の法律新聞第千九百五十五号(三月十八日発行)に『山崎弁護士の奇異な上告趣意』と云ふ題で、又仲間が一人増へたそうな左の記事が出た。 米国伯爵、法学博士、医学博士、哲学博士、平民大学総長、其他色々の肩書を有する、奇人弁護士山崎今朝彌氏は今回「民権新聞」に対する新聞紙法違反事件に付きて、刑事上告趣意書を大審院刑事第一部横田裁判長に差出し、藤波判事主任となり、目下取調中なるが其趣意書中の一節に曰く 若し之をしも強いて安寧秩序を破壊するものなりとせば、日毎日常の新聞雑誌は悉く秩序紊乱となり、之を不問に付する全国の司法官は、原審判事山浦武四郎殿、江木清平殿、西豊芳二郎殿三名を除く外皆偉大なる低能児の化石なりと云はざるを得ず、天下断じて豈に斯くの如き理あらんや云云、原裁判は真に呆きれて物が言へずと云はざるを得ず、云云。 猶同氏は曩に麹町警察の巡査某及び警部遠藤某とを、傷害被告人として、東京区裁判所へ告発したるが、萬一検事が右暴行巡査の氏名をさへ遠慮するが多きことありては由々しき一大事なりとて、左の如き文面を葉書に印刷し、塩野検事を始め諸方へ配布しつつありと。 終りに、私は一月末日、陛下の赤子を態と公然傷害した麹町警察の巡査某(人物は判明し居るも署員の同盟罷口により氏名は不詳)と警部遠藤某とを告発仕り候(東京区裁判所塩野上席検事係)マサカとは存候も、萬一、検事が右暴行巡査の氏名さへも遠慮するなら、誓て遂には由々敷不祥事を続発せん、斯くては真に邦家の一大事、平素愛国の貴下は是非此点に特別の御留意と御監視とを賜り度此段得貴意候也・・・・・・山崎今朝彌 すると、間もなく都下十数の新聞に、僕が其の為め又懲戒裁判に付せられた、とかの記事が大々的に報道された。二三日我慢したが僕が遂々敗けて各社に、 二、左記取消文を送つた 四五日前の貴紙上に、私の出した上告趣意書が過激だつたとの理由で、私が懲戒裁判に付せられた旨の記事が出ましたが、あれは途方もないウソ間違ひですから宜敷御取消を願ひます。元来私は懲戒されない事を左程名誉とも思つていませんから、懲戒された処が決して不名誉とも思ひません。此点では取消して貰ふ必要もありません、がアノ記事の為めに当然無罪になるものが有罪になつたり、又は常に事を好み上を憚らざる不届者奴がなどと、其筋からニラマレたりしては困ります。既に懲戒裁判があつたものと早呑込して、四方八方から悔みや見舞を受けてるにも弱つています。元来アンナ無茶の判決を攻撃叱咤するに、アノ位の文句を使用する事は当然で、其は吾々の権利であらねばなりません。思想問題に関しては大審院は下級裁判所より厳刑主義を採り、原判決を取消すなどの事はソレが仮令従来にない例であらふとも、コレに限つては必らず原判決が破毀され被告は無罪とならねばなりません。カヨウな確信の下に書いた私の上告趣意書、少しは過激に渉つた点ありとするも一字一句、一句一節のみ読まず文章全体を読んで貰へば、ソウ大した問題になる程の不穏文書でない事は、私が誓て全国の司法官に代て保証する処であります。右全文御掲載の上全部御取消相成度し。 然るに飽く迄非を遂げ我を通す新聞社は期せず一致して、此取消を出して呉れなかつた。依て私は貴誌を借り問題の論文と問題の判決と問題の上告趣意書とを識者に発表して総てを解決せんとする。 三、論文「自由?死?」 維新の大業完成し、憲法は発布せられ民法は創定せられ議院は設けられ、法律規則の整備に従うて人民の権利大に伸張し、文物制度燦然として光輝を放つ事今日の如きは非ずと称せらる。然り、人権は尊重確保せられ、生活の安定は得、財産は保護せられ、現代を謳歌する民の尠からざる事は吾人も之を認む、併し斯くの如き幸福に浴し得るものは、所謂ブルジヨアジーのみ、我等多数の無産階級は寸毫も顧みられず。 例へば憲法第二十九条に保障せられたる、言論著作印行集会及び結社の自由の如き、附属法律の為に保証金無きプロレタリアは思想発表の具として一新聞紙をも発行するを得ず、即ち無産者は印行の自由を殆ど根底より奪はる。社会運動者、労働運動者が言論集会結社に、不法の圧迫干渉を受け、甚だ敷自由を束縛せられつつあるは天下周知の事実なり。我国には、現時海外文明国に類例無き、治安警察法第十七条なるものの厳存せるあり、曽て議員の質問に当局者は、該法は適用せざるかの如くほのめかし、伝家の宝刀として存置し、時々質朴なる労働運動者を闇撃ちし其団結権を脅威するは、盲者を陥穽に導くに同じ。斯の如くして憲法の保障なるものは、往々事実に於て無産者に役立たず、茲に到つて憲法は、プロレタリアの為には空文にして、反古同様のものに非ざるなきやを疑はざるを得ざるなり。其他の汎有法律規則も、特権階級の保護は至れり尽せりと雖も、無産者は殆ど保護の埒外に放置せらるるの観なきに非ず而も罰則の適用例は、ブルジヨアーには寛大にプロレタリアは峻厳苛酷を極む。帝国議会は、軍備拡張と増税と歳費増加と我田引鉄との議決機関の観ありて、議員は只管に、権力に媚び財閥に諂ひ、自己の囊中を重からしむる事にのみ腐心し、神聖なりと謂はるる議場は、乱闘哮噬あさましくも醜陋なる野獣境を現出せり。 之を要するに、現社会に於て特権階級は、跋扈跳梁横暴を極むるにかかはらず、無産階級は未だ真に自覚せる者尠くして、民権の確立前途遼遠の感なきに非ず、然れど、近時覚醒の兆漸次濃厚を加へ、黎明は刻一刻と近づきつつあり、吾等は全力を発揮して、無産者のため民衆のため暁鐘を撞かむとするものなり。(新人会、丹悦太) 四、第一審判決 大正十年(公)第一三四号 判決 小川孫六 丹悦太 右両名に対する、新聞紙法違反被告事件に付、当裁判所は検事川上吉達干与審理判決すること左の如し。 主文 被告人孫六を発行人並編輯人として各罰金三十円に処す 被告人悦太を罰金五十円に処す 右罰金を完納すること能はざるとき被告人孫六を六十日間、被告悦太を五十日間各労役場に留置す 押収品は差出人に還付す 理由 被告人孫六は、呉市古川町四十二番地の七に於て、発行する民権新聞の発行人兼編輯人なる処、大正十年七月二十五日発行の、同新聞第一号第一面に、自由? 死? と題し云云。(前記論文の摘載に付き中略す)との安寧秩序を紊すべき記事を掲載したるものにして、被告悦太は右記事を執筆したるものにして、自己の氏名を表示して、前記掲載の事項に署名したるものなり。 右の事実は 一、被告人孫六の当公廷に於ける、自分は呉市古川町四十二番地の七に於て、発行する民権新聞の発行人兼編輯人なる処、大正十年七月二十五日発行の、民権新聞第一号第一面に、自由? 死?と題する判示同旨の記事を、此通り(証第一号証を示す)掲載したるに相違なし記事は丹悦太が執筆したるものにして自分は予て雑誌にて丹の名前を知り居りたる故、同人に対し自分は近々新聞を発行するに付き、投稿し呉れと頼み置きたる処、其後大正十年七月二十日前後の頃と思ふ、丹より原稿を送付したるにより、原稿を其儘新聞に掲載したるものにして、新聞に掲載しあると原稿とは毫も異ならず、原稿には新聞に掲載通り自由? 死?と題し、新人会丹悦太と氏名を書き次に記事を掲載したる旨の供述。 一、被告人丹悦太の当公廷に於ける、大正十年六月中と思ふ小川孫六より、民権新聞を発行する故何か投稿して呉れと申込み其後自分宅を訪問し、投稿を依頼したるに付、自分は原稿用紙に自由? 死?と題する記事を執筆し、小川に送り民権新聞第一号に掲載せしめたり、其原稿は此民権新聞(証第一号を示す)に掲載しある通りにて、自由? 死?と題し次に新人会丹悦太と書き、次に記事を記載せるものなる旨の供述。 一、押収に係る大正十年七月二十五日発行の民権新聞第一号第一面中の記載。 とに依りて之を認む。 法律に照すに 被告人孫六の所為は、新聞紙法第四十一条前段に該当するを以て、同条所定の罰金刑を選択し、尚同法第四十四条を適用し、同人を発行人並編輯人として、各罰金三十円に処すべく、被告人悦太の所為は、同法第九条第二号第四十一条前段に該当するを以て、同条所定の罰金刑を選択し、同人を罰金五十円に処すべく、尚刑法第十八条に依り被告人孫六に対し、罰金不能の場合に於ける労役場留置期間の言渡を為すべく、押収品は刑事訴訟法第二百二条に依り、差出人に還付すべきものとす。 仍て主文の如く判決す 大正十年十一月十八日 呉裁判所 判事 横溝邦恵 五、第二審判決 小川孫六 丹悦太 右両名に対する新聞紙法違反被告事件に付、大正十年十一月十八日呉区裁判所が言渡したる、有罪判決に対し各被告人より、適法なる控訴の申立ありたるを以て、当裁判所は検事帆高寿一干与審理判決すること左の如し。 主文 原判決を取消す 被告人孫六を発行人兼編輯人として各罰金三十円に処す 被告人悦太を罰金五十円に処す 右罰金を完納すること能はざるときは、被告人孫六を各十五日間被告人悦太を二十五日間各労役場に留置す押収物は差出人に還付す 理由 被告人孫六は、呉市古川町四十二番地の七に於て、発行する民権新聞の発行人兼編輯人なる処、大正十年七月二十五日発行同新聞第一号第一面に、自由? 死?と題し云云。(第一審判決と同一に付き中略す)との趣旨の、安寧秩序を紊すべき記事を掲載したるものにして、被告人悦太は右記事を執筆し自己の氏名を表示して、前記掲載の事項に署名したるものなり。 右の事実は 一、被告人孫六の当公廷に於ける、自分は職工及労働者を覚醒する目的を以て、大正十年七月二十五日呉市古川町四十二番地の七に於て、民権新聞初号を発刊し其社長兼発行編輯人となり居るものなり、而して七月二十日前後に丹悦太方を訪問したる際、自分は此度民権新聞を発刊するに付、何か記事を投稿し呉れ度き旨を依頼し置き、大正十年七月二十五日発行の民権新聞第一号第一面に悦太の執筆し呉れたる自由? 死?と題する判示の如き、記事を掲載したることは相違なし、該新聞は労働者のみに千五百部頒布したりとの旨の供述と。 一、被告人悦太の当公廷に於ける、大正十年七月二十五日発行民権新聞第一号第一面に掲載せられたる、自由? 死?と題する判示の如き、記事は自分の執筆したるものに相違なく、該記事は小川孫六より、七月二十日頃何か投稿し呉れと依頼せられたるに付、之を執筆したる上孫六に送付し、同人が該新聞に掲載したるものなり、而して判示の記事には新人会丹悦太なる署名を、為したるに相違なしとの旨の陳述と。 一、押収に係る証第一号民権新聞第一号(大正十年七月二十五日発行)第一面中に判示と、同趣旨の記事記載あり。 とにより之を認定す。 法律に照すに、被告人孫六の判示所為は、新聞紙法第四十一条前段に該当するを以て、同条所定の罰金刑を選択し、尚同法第四十四条を適用し同人を発行人兼編輯人として、各罰金三十円に処し、被告人悦太の判示所為は、同法第九条第二号第四十一条前段に該当するを以て、同条所定の罰金刑を選択し、同人を罰金五十円に処すべく、右罰金不完納の場合に於ては、刑法第十八条に則り、被告人悦太を二十五日各労役場に留置すべく押収物件は没収に係らざるを以て、刑事訴訟法第二百二条に依り差出人に還付すべきものとす。 然れば原判決は、被告人両名に対する罰金不完納の場合に於ける労役場留置に付き、一日一円の割合に相当する期間を定めたる失当あるのみならず、原審第二回公判始末書中大正十年十一月十八日呉区裁判所公開廷に於て、第二回公判始末書に記載したると同一の判事裁判所書記列席の上云云、判事は判決を言渡す旨を告げ判決主文の朗読に依り判決を言渡し云々と記載しありて、列席判事裁判所書記の、官氏名を欠如す従つて原裁判所に於ては、如何なる判事裁判所書記列席の下に、判決を言渡したるものなりや、全然之を知るに由なく、斯の如き重要なる手続に違背して為されたる原審判決は、結局失当たるを免れず、仍て各被告人の控訴は其理由あるに付、刑事訴訟法第二百六十一条第二項を適用し、主文の如く判決す。 大正十年十二月二十六日 広島地方裁判所刑事部 判事山浦武四郎、江本清平、西豊芳二郎 六、問題の「上告趣意書」 一部大正十年(れ)九九号 丹悦太、小川孫六上告趣意書 第一点 原判決が安寧秩序紊乱として判示したる被告署名の本件の記事に、判示の如く「自由?死?」と題し、第一段に現代社会の幸福は所謂「ブルジヨアジー」のみ享くる所にして無産者は毫も顧られざる事を論し、其例として言論の自由は憲法に於ては保証さるる処なるも事実に於ては保証金なき「プロレタリア」は一新聞だに発行するを得ざる事を挙げ、第二段に、社会運動者が常に不法の圧迫手段干渉を受くる事、総ての法律規則が特権階級に有利にして無産者の保護に欠くる所ある事、罰則の適用も亦「ブルジヨアジー」には比較的寛大なる事を説き、末段に於て、現在の特権階級は跌扈跳梁専恣横暴を極むるが故、我等は全力を尽して無産者の為め暁鐘を撞かんとするものなりとの趣旨を述べたるに過ぎずして、事実全く其通り、少しの誇張も虚飾もなく、文詞用語も亦頗る冷静平凡、奇矯に失せず激越に渉らず、十数年来萬人均しく、文章に演説に、都鄙到る処に言ひ古され、語り尽されたる、有触れたる論議なれば、毫末も社会の平静を紊り共同の生活を乱すものにあらず。若し之れをしも強ひて安寧の秩序を破壊するものなりとせば、日毎日常の新聞雑誌は悉く秩序紊乱となり、之れを不問に付する全国の司法官は、原審判事山浦武四郎殿、江本清平殿、西豊芳二郎殿三名を除くの外、皆偉大なる低能児の化石なりと謂はざるを得ず、天下断じて豈此の如き理あらんや。然らば原審が奮然と意を決して之れを安寧秩序紊乱と目し、新聞紙法第四十一条に問擬したるは不法も亦甚だしきもの、真に呆きれて物が言へすと云はざるを得ず。原判決は畢竟破毀を免れず被告等は到底無罪を免れず。 第二点 原判決は理由に於て「被告孫六は呉市に於て発行する民権新聞の発行人なる処・・・・・・同新聞第一号に『自由?死?』と題し、云々の記事を掲載し、被告人悦太は右記事・・・・・・に署名したるものなり」とのみ事実を認定し之れに新聞紙法を適用せり。 然れども右事実の認定のみにては右民権新聞が果して出版法により発行する新聞にあらずして、新聞紙法により発行する新聞なる事実明かならず。然らば原判決は犯罪構成の要件たる事実を完全充分に判決に掲げさる不法あり。 仮りに判決に謂ふ新聞とは、当然一定の題号を行ひ定期に発行する出版物のことなりとせば、原判決には証拠に依らず事実を認定したる不法あり。蓋し原判決掲記三箇の証拠の如何なる部分(証第一号は記事のみを採用したる点に注意)にも、本件民権新聞が一定の題号を用ひて定期に発行する出版物なることを推知するに足る記載なければなり。 第三点 原審は法廷に於て検事の論告に対して起立せざる被告を退廷せしめ、被告最終の供述を聴かずして裁判せり。然れども公開を禁じたる法廷に於て、聊か被告が我意を通し検事の論告の際起立せざればとて裁判の威厳を損するものにあらず。否却て斯る事にて判事が我意を通し意地を張り、悉く所謂児戯的形式的官僚的態度に出て、其特色を発揮して啀み合ふ方が、却て裁判の威厳を損するものなれば、強制して迄も起立させべきものにあらず。従つて起立せざることは勿論、起立せよとの説諭に従はざる行為と雖も之れを不当の行状なりと云ふを得ず。 然らば之れを不当の行状なりして被告に退廷を命じ、被告最終の供述を聴くことなく、こつそり審理を続け弁論を閉ぢたるは、公判手続上重大なる違法あるものにして、原判決は此点に於ても到底破毀を免れず。 大正十一年二月二十日 弁護人 山崎今朝彌 大審院第一刑事部 御中 七、総て無罪の判決 右事件の大審院判決言渡は、延期に延期を重ねていたが、四月四日午後一時刑事第一部横田裁判長係りにて、『原判決を破毀す被告を無罪とす』との言渡があつた。之れで私の杞憂も、杞憂に過ぎなかつた事となり、全国の司法官も全部低能ではない事となつた訳である。マアよかつた。 <山崎今朝弥著、山崎伯爵創作集に収録>