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●ボルネオ島 米軍呼称“ルート66”A地点 ガンッ! 鈍い金属音が響く。 グレイファントムのメースが“赤兎(せきと)”の胸部装甲に命中した音だ。 “赤兎(せきと)”の動きが鈍る。 メースの打撃がコクピットにまで達した証拠だ。 「よしっ!」 ミッキーがコクピットで歓声を上げた。 「とどめっ!」 振り下ろしたメースが“赤兎(せきと)”の頭部装甲を粉砕し、“赤兎(せきと)”は大地に倒れた。 「セラ、次は!?」 「2時方向、グレッグ騎が押されています」 「よし」 ミッキーの右前方で斧同士でしのぎを削っている騎がいた。 「グレッグ!そのままでいいっ!」 「すまんっ!」 ミッキーのメースが“赤兎(せきと)”の脇腹に命中し、“赤兎(せきと)”の姿勢がくの字に歪む。 グレッグ騎の斧がその顔面を捉えたのは、その直後だった。 「ふぇぇっ……焦ったぜ」 「貸しにしておく」 「了解だ―――指揮官(コマンダー)」 グレッグ騎が不意に動き、斧をミッキー騎めがけて―――いや、正確にはその背後めがけて投げつけた。 ミッキー騎の真後ろで斧を胸部装甲にまともにくらい、斧を振り下ろそうとした姿勢のまま、“赤兎(せきと)”が後ろへ倒れた。 「ミッキー、利子はついてないだろうな?」 ●ボルネオ島 中華帝国軍司令部 「“赤兎(せきと)”隊、被害甚大」 「後退命令を出せ」 朱少将は言った。 「可動機はすべてだ」 朱少将はシートにもたれかかり、深いため息をついた。 「……世代の違いとはいえ」 倍する戦力を持ちながら、“赤兎(せきと)”隊は一方的に倒されたとしか言い様がない。 グレイファントム達を相手に撃破の戦果が挙がっていてないのに、大破騎が投入戦力の3割に達している。 司令官として、これ以上の損害は看過出来ない。 戦いはまだ続くのだ。 徒に貴重な戦力を浪費すべきではない。 「本土からの返答は?」 「飛行艦隊が重い腰を上げてくれました」 参謀は言った。 「この島の鉱物資源を、飛行艦で安全に運びたいというのが本心でしょうが」 「戦場に空荷で来る馬鹿もおるまい」 朱少将は参謀からコーヒーを受け取った。 「負傷兵は集めておけ。本国へ後送する。それと」 コーヒーの香りに満足げな笑みを浮かべた朱少将は、参謀に訊ねた。 「メサイアが確認されたというのは、どこだ?」 「はっ」 参謀は島の地図を指さした。 「島東南部。偵察隊が発見しています。近くでは島北東部でも」 「回せるメサイア部隊は?」 「夕刻までお待ち下さい」 参謀は言った。 「本国から教導隊が到着します」 「教導隊?」 怪訝そうな朱少将に、参謀は自信げに答えた。 「“帝剣(ていけん)”の運用部隊です」 ●ボルネオ島北東部ジャングル 時折、中華兵に見つかるように動くだけでいい。 中華兵が時折思いついたように小銃を発砲するが、メサイア相手では豆鉄砲にすぎない。装甲を傷つけることさえ出来ない。 その前に当たらない。 美奈代は島の北東部でそんなことをしていた。 モグラ叩き。 その任務をそう評したのは、精霊体の“さくら”だ。 「ねぇマスター」 騎体をジャングルの中に潜ませた時、“さくら”が訊ねた。 「この後、どうするの?」 「この後って?」 「この島、いつ出ていくの?」 「今、二宮教官が洋上に出て“鈴谷(すずや)”と通信を試みているが……」 美奈代が戦況モニターに目をやると、二宮騎が戻ってきた。 ジャングルの上空すれすれを飛んで音もなくジャングルの中へと潜り込むという、恐ろしいほど高い操縦技術の手本を見たような気がした。 「つながったぞ」 二宮の声はどことなしに嬉しげだ。 「日没と同時に、ここに来る」 その言葉に、美奈代は時計を見た。 日没までの時間は3時間30分 「ここへ?」 「オトリだ」 二宮は言った。 「我々が通過したルートを通って別動の米軍のTAC(タクティカル・エア・カーゴ)部隊が兵士達の救出に向かう。“鈴谷(すずや)”はその間のマト担当だ」 「……被害……担当艦」 ゴクッ 美奈代は自分の口から出てきた言葉に思わず唾を飲み込んだ。 戦闘において一方的に被害を受け持つことで友軍を有利にする、それが被害担当艦だ。 艦が沈むことで、戦闘に勝利する人柱に近い立場だ。 「よく平野艦長が認めましたね」 それが、信じられない。 乗組員千人の命を預かる身が、あまりに軽率にしか見えない。 「あいつが認めたんじゃない」 二宮は言った。 「認めさせられた―――いや、それさえ違う」 「……」 「“命じられただけ”というのが正しいな」 「そんな!」 美奈代は目を見開いた。 「命じられたら、部下と一緒に死ぬとでも言うんですか!」 「泉」 二宮はため息混じりに言った。 「軍隊だけではない。組織の中間管理職とはそういうものだ。自分が望む望まないお構いなしに仕事を押しつけられる。部下と共に死ぬし、時に部下を殺す」 「……私」 美奈代は言った。 「そんなんなら、一生ヒラで結構です。組織になんか加わりたくないです」 「フン……お前はヒラでは済まないよ」 「え?」 「お前は絶対、私を越えるからな」 通信モニター越しに自分を見つめてくる二宮の声は、不思議と自信に満ちあふれた誇らしさが滲み出ているように見えた。 それは思い上がりかも知れない。 そう思った美奈代は、コンソールを見る振りをして視線を外した。 ―――二宮教官が、私のような問題児を評価してくれているはずがない。 そう思う。 ―――だけど それでも、 ―――もし、そう思ってくれているなら、何という嬉しいことだろう。 そう思えてしまうのだ。 「“鈴谷(すずや)”の上陸地点はここなんですか?」 美奈代は不思議なほどはやる心を抑えながらそう訊ねた。 「ああ。このジャングルの上空を移動することで敵を引きつける。先に海上で別れた米軍のTAC(タクティカル・エア・カーゴ)が正反対の方角で動くことになる」 「なら皆を集合させますか?」 「ポイントCでのランデブーが3時間後だ。30分もあれば十分だろう。そこでいい。というか、下手な通信は逆に危険だ」 「そ……そうですね」 「我々の任務はこの北東部に敵を誘い出すこと。そのためにやることがある」 「米軍が相手にしている敵を背後から叩く?」 「その通りだ」 二宮は楽しげに頷いた。 「ここに誘い出し、後は頃合いを見て撤退。今夜は、“鈴谷(すずや)”でゆっくりシャワーが浴びられるぞ」 二宮の楽しげな声に、美奈代も顔がほころんだ。 「楽しみです」 美奈代騎と二宮騎の作戦は、正直、無駄に近いものとなっていることを、日米両軍で知っている者はいなかった。 中華帝国側、朱少将は、すでに米軍の残存部隊に対する攻撃は貴重な戦力の浪費と見なしており、「撤退するなら勝手にしろ」というスタンスだ。 すでに中華帝国側の米軍残存部隊への攻撃は停止している。 米軍も撤退の通信を受け取っており、負傷兵のTAC(タクティカル・エア・カーゴ)への移乗準備と、TAC(タクティカル・エア・カーゴ)に搭載出来ない兵器や機密文書の処理が進んでいる。 状況は悪くない。 日没まであと1時間。 夕日が眩しい。 金色に染まるジャングルの中、美奈代達はただ、“鈴谷(すずや)”の到着を待っていた。 「もう少しで長野大尉達も到着する」 二宮騎からそんな通信が入った。 すでに敵の攻撃はない。 敵の集結地点はここからかなり離れているし、その方面からの侵入はセンサーで感知出来る。 センサーに反応はない。 「この島ともこれでおさらばだな」 「米軍は、この島を放棄するんですか?」 「違う」 二宮は笑って言った。 「中華帝国は、このままなら降伏するよ」 「―――えっ?」 「連中の補給線を止めた上で小さく叩く。小出しに戦力を使わせれば連中の物資は底を突く」 「……」 「泉。補給線が切れるっていうのは、お前が想像しているより遙かに怖いことだぞ」 「―――はい」 補給線が断たれる恐怖。 そう言われても実戦経験の浅い美奈代には、どうしてもピンと来ない。 ただ、バカみたいに頷くだけだ。 「米軍はこれから制海権と制空権を奪取に動く。後は空から空爆で中華帝国を叩く。こうなればほとんど一方的な戦いになる」 「うまくいきますか?」 「行ってもらわねば―――」 ピーッ! 「熱源っ!」 「何っ!?」 ズンッ!! 二宮騎のMC(メサイアコントローラー)、青山唯中尉の警告。 二宮の驚いた声。 そして、二宮騎が吹き飛ぶ音。 それを美奈代はすぐには理解出来なかった。 目の前で半身を吹き飛ばされた二宮騎が、ゆっくりとジャングルの中に倒れようとしていた。 「泉准尉っ!」 美奈代より早く現実に立ち戻ったのは牧野中尉だ。 彼女の鋭い怒鳴り声が、茫然自失の美奈代を無理矢理に現実に引き戻した。 「―――な、なんですか!?今の!」 「大口径ML(マジックレーザー)の狙撃!」 牧野中尉は引きつった声で言った。 「ま……まさか」 「二宮教官は!」 「バイタル反応正常……せ……センサーに反応なし?そんなバカ……な」 牧野中尉の意識は、敵攻撃に備えたエネルギー感知モニターに集中していた。 ログを見ても、何の反応もない。 「魔法反応まで……ど……どうやって?」 「中尉っ!」 ギンッ! 美奈代の声と、鋭い戦闘機動で、牧野中尉は我に返った。 「て、敵は!」 「センサーに反応なしっ!」 「じゃあ、アレはなんですか!?」 牧野中尉が見たスクリーンに映し出される3騎のメサイア。 重装甲をまとった“歩く要塞”さながらの騎だった。 それは、牧野中尉が見たことのない騎だった。 即座にライブラリーが開かれるが、 「不明っ、該当騎なしっ!」 そう答えるしかなかった。 「い……一体!?」 美奈代達は知らない。 中華帝国側の参謀が言った“帝剣”。 否、それさえ違う。 目の前にいるのは――― 「おそらく、中華帝国側の試作メサイアです」 牧野中尉はそう結論づけた。 「エンジン出力、その他の反応、“帝刃(ていば)”や“赤兎(せきと)”とは比較になりません」 パワースペックは間違いなく“帝刃(ていば)”の倍では効かないだろう。 フレーム反応も最新型だろうことを示している。 あの厚さの重装甲が本物なら、実剣は通らない。 牧野中尉はデータがとれていることを確認しながら、背筋を震わせた。 「こ……こんなの量産されたら!」 厄介じゃ済まない! その声が上がる前に、3騎は動いた。 「准尉っ!後退を!」 牧野中尉は叫ぶ。 データがない敵と斬り結ぶことが如何に危険か知っている牧野中尉の判断は正しい。 だが、 「教官を見殺しにする気ですか!」 美奈代にとって、敵が何だろうと、ここで逃げることは出来なかった。 二宮教官を助ける。 それこそが、美奈代の全てだったのだ。 迫り来る敵は長い柄に斧を付けたハルバードを振りかざす。 対する美奈代騎は斬艦刀を抜刀。 戦いの火ぶたが切って落とされた。
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その頃、フィアは艦内の通路にいた。 まだ“鈴谷(すずや)”が輸送艦の指定を受けていた時分は、その辺が休憩スペースだった頃の名残で、通路の一区画だけが広くなっており、採光のため大きくとられた窓からは夜の帳が降りるアフリカの雄大な景色が楽しめる。 フィアが艦内をうろついている最中に見つけたお気に入りの場所だ。 ―――狭い部屋は嫌いなの。 ―――何故? ―――だって ―――だって? ―――牢屋みたいじゃない。 ―――牢屋?だって、君はもう…… ―――あんなちっちゃい窓しかないなんて、牢屋じゃない。 ―――船の窓は、みんなあんなものなんだよ。 ―――そ、そうなの? 最初に入れられた鉄格子入りの部屋から移された最初の日。 ここを見つけて、窓から見える世界に見入っていたフィアに声をかけたのは、探しに来た染谷だった。 ―――あんな狭い窓から世界を見ていたら、本当の世界まで狭くなるわよ? ―――それは違うよ。 と、彼は言った。 ―――世界を狭くするんじゃない。 ―――この広い世界で迷わないように、わざと狭くするんだ。 ―――目標になる部分だけに絞って、わき目もふらず。 彼は、自分の両手を顔の両側に添えて見せた。 ―――そうすれば、どんな広い世界でも迷わない。 ―――目指す場所だけ見えているから。 バカみたい。 そう思った。 そこが目標だなんて、誰が決めたの? だから、私は言ってやったんだ。 ―――あなたの目標って、何? ―――なんだろうね。 彼は苦笑しながらそう答えた。 その屈託のない笑顔が、私に言わせたんだ。 ―――私、なってあげようか? ―――えっ? ―――あなたの目標に。 私は言ったんだ。 ―――私だけを見なさい。 彼に、言ったんだ。 ―――私があなたの目標。この広い世界でどんなに迷っても、帰ってこれる母なる港、あなたのしとね。それが私よ?覚えていてね? そこまで思い出して、フィアは顔に血が上るのがわかった。 今更ながら、何という大胆なことを言ったんだろう。 恥ずかしくてたまらない。 今日のキスだって、本当に瞬が心配だっから、脇目も振らずにその胸に飛び込んだんだ。 だけど―――だけど!! 「―――っっ!!」 フィアは顔を押さえてその場にうずくまってしまった。 私はなんて言う大胆な女の子なんだろう! いくらライバルのあのブスから瞬を引きはがすためだとはいえ、瞬にしてきたことだけ思い出せば、まるで恥知らずの娼婦じゃない! 違う! 娼婦以下の恥知らずな痴女だ! 今のところ、瞬は私を受け入れてくれているけど、一体、駿は私をどんな女の子だと思っているんだろう! 心配だ! 心配すぎるっ! 「―――おい」 突然、背後からかけられた言葉に、フィアは飛び上がって驚いた。 自分がどんな悲鳴を上げたかさえ定かではなかった。 「……楽しいな」 美夜だった。 「あ……こ、こんばんわ」 窓に張り付いて挨拶するフィアに、美夜はちょっと微笑んで小さく会釈した。 「何だ。最初の頃にはずいぶん警戒されていると思ったが」 「だっ……だって」 フィアはぷぅっと頬をふくらませ、そっぽをむいた。 「こ、怖かったし……何もわかんなかったし……」 「そうか」 隣、いいか? そう断って、美夜はフィアの横に立つと、無言で船窓から夜景を眺めていた。 艦内放送が始まったのは、その時だ。 飛行艦の単調な時間の推移の中ではストレスも貯まる。 だから、食後のこの時間に、艦内に音楽を流すことにしている。 美夜が艦長になる前からの伝統だ。 静かなピアノの調べと、艶めかしくさえある歌手の歌声を、フィアと美夜はただ黙って聞いていた。 「……あの」 フィアも、相手がこの船で一番偉い人物だと知っている。 「今の、なんて歌ですか?」 「―――ああ」 美夜はちょっと笑って言った。 「Fly me to the moon―――私を月へ連れてって」 「……」 フィアは不意に歌い出した。 「Fly me to the moon 私を月へ連れてって Let me sing among those stars 星達の間で歌わせて Let me see what spring is like On Jupiter and Mars 木星や火星の春を私に見せて」 「……ほう?」 美夜はかなり驚いた。という顔でフィアを見た。 「きれいな歌声だな」 「ありがとうございます」 「……」 「……」 「……?」 「……続きは?」 「……ああ」 続きの歌詞を思い出し、フィアは小さく笑った。 「この続きは」 「続きは?」 「駿のベッドで」 「……は?」 「生きて帰ってきたご褒美にとっておきます」 「……そうか」 美夜は苦笑しながら頷いた。 「あの甲斐性なしのどこがいいのかわからないが」 「ムッ―――瞬は!」 フィアが言いかけた瞬間。 ドンッ!! 爆発音がして、艦が激しく揺れた。 艦内の照明が消え、赤い予備電源がともる。 「きゃっ!?」 宙に浮いたフィアを抱きかかえた美夜は、腰の艦内通信装置を手にした。 「平野だ!何の騒ぎだ!?」 「敵襲ですっ!」 副長の高木が艦橋で美夜に答えた。 「敵メサイア数4、本艦に向けて接近中!―――はいっ!」 美夜の指示を受け、高木は怒鳴った。 「FGF(フリー・グラビティ・フィールド)、即時全周囲展開!“伊吹”機関部の出力は全てそっちへ回せっ!」 バンッ! 機関部を狙った一撃が、空中で消えた。 「ほう?」 エーランドはその光景を前に顔を楽しげに緩めた。 「重力防御か!」 部下の騎も艦橋や船体めがけて砲撃を続けているが、全て艦に届く前に無力化されている。 「全騎、攻撃を対重力防御壁用弾頭へ切り替えろ!」 「何とか逃げられそうか?」 フィアに部屋へ戻るよう命じた後、美夜はすぐに艦橋に入った。 「FGFで防御だけは出来ていますが」 高木は顔をしかめたままだ。 「こっちからも反撃出来ません」 「―――やむを得ないな」 いわば魔力によって展開された楯であるFGFは、魔法だろうが実体弾だろうが全て防御出来る万能の楯だ。 しかし、万能過ぎて身内の攻撃までを無力化してしまう。 FGFを展開している間は、敵も味方も何も出来ることといえば、お祈りする位だ。 「最大戦速発揮、ジブチのEU軍に救援信号を出せ」 「し、しかし!」 「元々、ジブチ上空でも十分支援出来る算段だったんだ。それに、万一の際はジブチに戻ることは、染谷達も知っていることだろう?」 美夜はインターフォンをとると言った。 「艦長より整備!メサイアは出せないのか!?」 「そいつは無理だ!」 インターフォンに怒鳴りかえしたのは坂城だ。 その背後では装甲を外され、フレームが丸見えになった二騎のメサイアが並んでいた。 「完成まで、あと120時間はかかるぞ!文句ならぶっ壊した奴らに言ってくんな!山科のを!?それならさっさと言ってくれ!早く終わるぞ?コクピット調整に6時間だ!沈むのが早いか、コクピット調整が終わるか?そんなこと、俺が知るか!」 艦が激しく揺れた。 「周囲の雑音にかまうな!野郎共っ!さっさと仕事続けろっ!」 「―――きゃっ!?」 通路に押し出されるようにして、ハンガーデッキに飛び出してきたのはフィアだった。 誰もが自らの任務に集中して、フィアに構っている余裕なんてどこにもない。 「あ……あれ?」 フィアは、自分が道を間違えたことを知った。 ここは知っている。 あのメサイアとかいう兵器の格納庫だ。 2騎のメサイアがあちこちから火花をあげながら整備を受けている。 でも――― フィアは床を蹴ると、宙を舞った。 「どうして!」 その2騎とは別に、さらに奥で1騎がほったらかしになっている。 フィアはその騎の側で整備兵を捕まえた。 「どうしてこの騎は動かないの!?」 「しかたないんだよ!」 突然の闖入者に驚きながらも、若い整備兵は言った。 「操縦システムが故障していて、下半身が動かないんだ!」 「何よそんなの!」 フィアは、そのメサイア―――“幻龍改(げんりゅうかい)”を睨み付けた。 無言で立つ“幻龍改(げんりゅうかい)”は、フィアに何も答えない。 整備兵に手を引かれ、フィアは再び床に降り立った。 「嬢ちゃん!」 その整備兵はフィアに言った。 「ここ、危ないから!安全な場所へって……お、おいっ!」 その整備兵の前で、フィアは再び床を蹴ると、“幻龍改(げんりゅうかい)”の方へと流れていった。 「整備班長っ!」
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「人類側のフネだと?」 この環礁の水底に潜んでいたのは、太平洋方面部隊のシュナー少佐達だ。 環礁の最も深い場所。 かつての爆心地のクレーターの中に潜む魔族軍巡航艦“シナベール”から発進した魔族軍水陸両用型メース“カプラーヌ”のコクピットでその情報を聞いた。 その後ろには2騎のカプラーヌがついている。 「はい」 “シナベール”の管制官がモニターの向こうで頷いた。 「先程上空を通過したメースの母艦と思われます」 「ただ通過するだけか?」 「コースを変針しました。環礁上空を旋回する模様」 「変針?」 ―――しまった。 シュナー少佐は、内心で共に出撃した部下の人選を後悔した。 シュナー少佐騎の後ろを移動するカプラーヌを操縦するのは、部隊で最も経験の浅いルサカ軍曹なのだ。 ―――戻そうか? シュナー少佐が躊躇したが、今更どうしようもない。 下手に戻せばそれだけで敵にこの場に潜んでいることを察知されかねない。 何しろ、相手は上空を旋回している。 妙な動きをするだけで、ここに潜んでいることが分かってしまう。 「―――ルサカ」 「はっ、はいっ!」 緊張しきった上擦った声が通信機に入る。 モニターがシナベールの管制官から、若い青年士官に切り替わる。 北方部族の出身だろう、浅黒い肌をしたあどけない顔が、突然上官に声をかけられておびえていた。 「な、何でしょうか!?」 「間違ってトリガーを引かなかったことは褒めてやる」 シュナー少佐は噛んで含めるような口調で言った。 「ルサカ。現在、我々がここに潜んでいる理由を言って見ろ」 「は、はいっ!」 ルサカは答えた。 「南米方面から弓状列島へと進む場合の中継基地として環礁を使用する下準備。そ、それと、弓状列島に送り込んだ特別部隊が任務を終了するまでの待機」 「まぁいいだろう」 シュナー少佐は頷いた。 レシーバーに入った、ルサカの安堵のため息は聞かなかったことにした。 「どちらにしろ、我々はここで目立つワケにはいかん。この環礁は魔力バランスを著しく欠いているため、人類が近づかない好条件の場所であり、そのために我々の待機場所にも指定された場所だ。いいか?訓練中に人類の艦と接触して沈めたあの失態を、ここで繰り返すことは許さん」 「は……はい」 「アミラント」 シュナー少佐はもう一騎を駆るアミラント中尉と通信をつないだ。 「ルサカを見張っていろ」 「了解―――ルサカ。いいか?火器の全安全装置をかけておけ」 「し、しかしっ!」 「少佐に殺されたいのか?」 「は……はい」 ルサカはコクピットのコンソール脇にある火器管制装置の安全装置をかけながら、内心で泣きたいほど悔しがった。 シュナー少佐が言う訓練中の失態―――あれはルサカに言わせれば、まさかあんな所に、水の中を進む人類側のフネがあるなんて予想も出来なかっただけだ。 フネと接触し、即座に撃沈したのはむしろ褒めて欲しい。 なのに、報告した途端、一晩腫れが引かなかったほど殴られた。 あんまりだ。 ルサカは内心で思った。 絶対、ここで良いところを見せて、少佐達を見返してやろうと。 「上空警戒態勢のまま、潜望カメラ深度50まで上がる」 カプラーヌの頭部から有線カメラが音もなく射出され、その一部が海面から出た。 コクピットスクリーンに上空の様子が映し出される。 「……あれか」 モニターにはっきりと映し出されているのは、まさに上空を飛び去ろうとしている飛行艦の姿だ。 その甲板上には、メース達の姿も確認出来る。 「……連中、こんな所で何を?」 シュナー少佐にはそれがわからない。 弓状列島の門(ゲート)解放失敗からかなりの時間が過ぎている。 今更、まさか自分達を追いかけてきたとは考えられない。 人類の同士で殺し合っていることは想像出来なかった。 スクリーン一杯に腹を見せた飛行艦が遠ざかっていく。 「……よし」 海中に潜むカプラーヌの中、シュナー少佐は安堵した。 このまま通り過ぎてくれればそれで良い。 この環礁から出ていってくれ。 それだけでいいんだ。 だが――― 「―――ちっ!」 シュナー少佐の目の前で、飛行艦が針路を変えた。 まだここに居座るつもりだ。 「少佐」 ルサカが言った。 「どうするんですか?」 「何もするな」 シュナー少佐は言った。 「こっちが何もしなければ、連中も危害を加えることはない」 「……し、しかし」 「耐えられなければ操縦を切って海底に沈んでいろ。後で引き上げてやる」 「訓練監視用のMSF(魔力飛行偵察ポッド)が被弾した?」 「はい」 オペレーターが頷いた。 「二宮騎が接触しました」 「……あのバカ」 美夜は思わず頭を抱えた。 「あのポッド1基いくらすると思って」 「飛行は可能です」 「データを転送してポッドは破棄しろ」 「転送が不可能です。それに、ポッドの回収は絶対命令です」 「……わかった。該当するポッドを下げろ。待機中の予備ポッドを出せ」 「はい」 予備ポッド。 その球形の飛行物体は、人類から見れば一目で偵察用ポッドであることがわかる。 だが、魔族はそうではなかった。 飛行艦から突然、出現した得体の知れない、球形の物体――― 「飛行砲台だっ!」 気の遠くなるような長い時間、海中に潜んで、攻撃を禁じられたいらだたしさと、いつ敵に攻撃されるかの恐怖感に板挟みにされていたルサカはとっさにそう叫ぶと、メースのコントロールユニットを握りしめた。 途端――― バンッ!! 右腕のクローに仕込まれていたML(マジックレーザー)が火を噴いた。 「馬鹿野郎っ!」 自分が何をしたか? その判断をルサカが理解するより先に、シュナー少佐の罵声がルサカの耳を打った。 「何をしている!」 「ルサカっ!安全装置はどうした!」 「……えっ?」 ようやく、自分が何をしたのか理解が及んだルサカは慌てて火器安全装置を見た。 安全装置はレバー式になっており、すべて安全装置作動中を示す緑に――― 違う。 ルサカは青くなった。 一つだけ、レバーが中途半端な位置で止まっていた。 つまり、かかっていなかった。 「……なっ!」 「アミラント!」 シュナー少佐は怒鳴った。 「ここであのフネを仕留める!シナベール、聞こえるか!?」 「こちらシナベール」 「人類側の通信を止めろ!ここで仕留めて情報を隠滅するっ!」 「了解」 「い、いまの何ですか!?」 美奈代は艦の左舷を抜けていったオレンジ色の光を見て、誰と言わずにそう訊ねてしまった。 「海中からの攻撃っ!」 牧野中尉が答えた途端、“鈴谷(すずや)”の甲板が震え、“鈴谷(すずや)”が急速に高度を上げた。 「どこっ!?」 美奈代は甲板ぎりぎりまで“征龍改”を移動させ、海面をのぞき込んだ。 ML(マジックレーザー)が突き抜けた海域が、小さく白く泡立っているのがわかる程度だ。 美奈代はとっさに30ミリ機動速射野砲を海面にむけた。 「無駄です」 牧野中尉はそう言って美奈代を止めた。 「こんなもの、海中に撃っても効果は期待出来ません」 「じゃあ、“鈴谷(すずや)”が?」 「メサイア母艦の“鈴谷(すずや)”には元から対空用ML(マジックレーザー)しかありません」 牧野中尉は冷たく言った。 「よく見てください。対艦装備もないのに、対潜装備があるわけないじゃないですか」 「……で、ですけど」 「すぐに武装変更命令が出ます」 牧野中尉が言った途端、 「二宮より各騎」 二宮から通信が入った。 「武装変更―――ビームランチャーを装備し、海面を狙え!」 「どこからの攻撃だ!」 “鈴谷(すずや)”艦橋に美夜の鋭い声が飛んだ。 「艦直下の海中です!深度不明!」 オペレーターの城下美芳(しろした・みよし)中尉が答えた。 「先程の至近弾ML(マジックレーザー)の照合―――ライブラリ該当なしっ!」 ほぼ全ML(マジックレーザー)を網羅しているはずのライブラリに該当がない。 第一、水中から発射可能なML(マジックレーザー)なんて聞いたことがない。 水中から撃てば、水と大気でML(マジックレーザー)そのものが消滅してしまう。 じゃあ何が? 美夜は、たった一つだけ心当たりがあった。 「―――っ!」 自らが出した答えに、美夜は一瞬、言葉を失った。 美夜の出した答え。 それは―――魔族軍。 しかも、艦の真下だ。 「艦長?」 フェルミ博士は平然とした顔で訊ねた。 「この艦に対潜攻撃兵器は?」 「―――ありません」 美夜は顔を強ばらせたまま答えた。 「飛行艦に爆雷を搭載する馬鹿がいるものですか」 「―――ふむ」 フェルミ博士は思案げに顎を撫でた。 「―――では、どうするんです?」 「高度上げろっ!操舵、Z字航行開始。機関、出力最大、FGF(フリー・グラビティ・フィールド)戦闘展開。砲術、海面方向に対してジャミング散布―――トラックと通信出来るか!?」 「通信不能っ!短波、長波、レーザーまで、強力なジャミングを受けていますっ!」 「―――っ!」 艦橋の外では、甲板に待機してたメサイア達が巨大な砲を担ぎ上げて両舷に並ぼうとしている。 突発的な事態だというのに、艦全体の動きに無駄はない。 むしろ予定されていたことのように整然と事が運んでいく。 艦長としては当然だが、それでも美夜はそれが頼もしく、また嬉しい。 「成る程?適切な対応だ―――いい艦(フネ)に乗れた」 矢継ぎ早に出される命令に、フェルミ博士は一々頷いた後、丁度、艦橋に入ってきた紅葉に命じた。 「偵察ポッドを全て出したまえ。戦闘データをとる」
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K氏への回答メール 掲載:http //www.melma.com/backnumber_100557_4452619/ 質問の文面は不明。 K氏への回答メール<第一回目の回答> <第二回目の回答> 日清戦争―秘蔵写真が明かす真実 (単行本) 東アジア国際政治史 (単行本) <第一回目の回答> ____様 いつもNHKの番組やニュースをご覧いただき、ありがとうございます。 お問い合わせの件についてご連絡いたします。 4月5日(日)放送「NHKスペシャル シリーズ JAPANデビュー・・・・」をご覧いただき、ありがとうございます。 番組は、「台湾の人びとは親日的」という捉えかたを否定していません。 そうした捉え方があることを前提として、日本の植民地支配を実際に体験した台湾の人々が当時どのような感じ、どのように生きたのか、という実態を明らかにすることで、アジアと日本の歴史に真正面から向き合うとことを目的としています。 そうした過去を直視することで、アジアと日本の未来を探っていきたいと考えているからです。 今後とも、NHKをご支援いただきますようお願いいたします。 お便りありがとうございました。 NHK視聴者コールセンター <第二回目の回答> ____様 いつもNHKの番組やニュースをご覧いただき、ありがとうございます。 再度お問い合わせいただきました件についてご連絡いたします。 「日台戦争」については、1990年代に日本の台湾統治の専門家が「日台戦争」と名付け、以後研究者の間では、この表現が使われるようになっています。 例えば「日清戦争-秘蔵写真が明かす真実」(講談社、1997年)、「東アジア国際政治史」(名古屋大学出版会、2007年)などがあります。 KA徳三さんについては、NHKに対して憤っている、という事実はありません。 また、編集によって、歴史を捏造してはいません。 KA徳三さんの人生には、日本の統治の両面性が反映されています。 一つは、同化政策によって、日本人と同じように小学校に入り、中学校・高等学校へと進路が開け、さらには台北帝国大学医学部へと進学したことであり、番組ではこうした事実を放送しています。 一方で、同化政策後も、台湾人子弟の入学者が制限されていたり、社会的差別があったという面についても、事実に沿って伝えています。 番組では、ことさらに「反日的」な面だけを取り上げているわけでは有りません。 事実を伝えること、その事実を共有することが、日本と台湾のさらに強くて深い関係を築いていくことに資すると考えています。 番組の趣旨をご理解いただきたいと思います。 お便りありがとうございました。 NHKスペシャル担当 NHK視聴者コールセンター 日清戦争―秘蔵写真が明かす真実 (単行本) 檜山 幸夫 日本の民衆は日清戦争によって初めて国家と天皇を認識し、軍隊を容認し、日本人であることを自覚した。日清戦争は日本はもとより東アジア世界に大きな影響を及ぼした。50年戦争の幕開けとなった日清戦争の本質を明かす。 単行本 331ページ 出版社 講談社 (1997/08) ISBN-10 4062082705 ISBN-13 978-4062082709 発売日: 1997/08 東アジア国際政治史 (単行本) 川島 真 (編集), 服部 龍二 (編集) 価格: ¥ 2,730 前近代の「伝統的」国際秩序の変容から、今日のアジア国際政治までを一望、最新の研究成果を踏まえた確かな叙述で、東アジア国際政治の主旋律をつかみだすとともに、多彩な論点から東アジア地域のダイナミックな変動過程を内容豊かに描き出した画期的通史。。 単行本 387ページ 出版社 名古屋大学出版会 (2007/6/8) 言語 日本語 ISBN-10 481580561X ISBN-13 978-4815805616 発売日: 2007/6/8 【資料】NHK JAPANデビュー第1回『アジアの“一等国”』をめぐって
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日中歴史共同研究 第1期「日中歴史共同研究」報告書 目次 第2部 戦争の時代 第1章 満州事変から盧溝橋事件まで 満洲事変から日中戦争まで 戸部 良一<その2> 戸部良一: 防衛大学校教授(外部執筆委員) http //www.mofa.go.jp/mofaj/area/china/pdfs/rekishi_kk_j-2.pdf 目次 満洲事変から日中戦争まで 戸部 良一<その1> 満洲事変から日中戦争まで 戸部 良一<その2>2.関係安定化の模索と挫折4)梅津・何応欽協定 5)広田三原則 3.華北の紛糾1)幣制改革 2)「北支」工作(華北「自治」運動) 3)多発する事件 4)対ソ戦略と対中政策 5)内蒙工作と綏遠事件 6)西安事件 7)対中政策の再検討 8)盧溝橋事件前夜 2.関係安定化の模索と挫折 4)梅津・何応欽協定 広田や重光が、満洲国の実在を所与のものとして、中国統一を進める国民政府との間に安定した関係を構築しようとしたのに対して、これに逆行する動きが華北で繰り返される。現地の関東軍や支那駐屯軍が、国民政府による中国統一に否定的であったからである。現地軍は、失地回復を諦めない国民政府の本質を「抗日」であると見なし、それゆえ満洲国の防衛や対ソ戦略の観点から、華北にそのコントロールが及ぶことを阻もうとした。対ソ戦の場合、国民政府は抗日のためにソ連に協力するかもしれないと危惧された。出先の軍人たちは、国民政府の「誠意」はポーズにすぎないとして大使交換にも批判的であった36。 こうした中、華北で事件が発生する。戦区内で活動する抗日反満の武装集団はときおり熱河に侵入し関東軍を刺激していたが、1935 年5 月中旬、業を煮やした関東軍は長城線を越えてこれを討伐した後、満洲国領内に引き揚げた。このとき日本側では、河北省主席・于学忠がこの武装集団を陰で支援していたと睨んだ。また、同じ5 月の初め、反蒋・反国民党の親日新聞社の社長2 人が天津の日本租界で暗殺された。日本側の調査では、犯人は国民党の特務組織のメンバーであるとされた。ここでも、河北省当局と国民党機関の責任を問う声が上がったのである37。 5 月29 日、支那駐屯軍参謀長の酒井隆は、軍事委員会北平分会委員長代理の何応欽に対して二つの事件の責任を問い、国民党機関の河北省撤退、于学忠の罷免、于学忠軍(東北軍系)と中央軍の河北省外への移駐などを要求した。軍司令官・梅津美治郎の不在を狙った酒井の独断であったが38、要求通告の事後報告を受けた梅津や陸軍指導部は、一時戸惑った後これを追認した39。 要求通告後、支那駐屯軍は天津の省主席官邸前に部隊を展開して威嚇し、関東軍も国境近辺に部隊を集中して圧力を加えた。中国側は日本政府に斡旋を要請したが、広田外相は、地方的軍事問題は外交交渉の埒外であるとして関与しなかった。苦況に陥った何応欽は6月10 日、結局、酒井の要求を受諾するとの口頭による回答を寄せ、後日、要求を受諾したという事実のみを記した書簡を送った。これがいわゆる梅津・何応欽協定である。中国側は合意内容を実行したが、それは日本との協定によるものではなく、中国自身の自発的 36 戸部良一「陸軍「支那通」と中国国民党」『防衛大学校紀要』第68 輯(1994 年3 月)48-50 頁。 37 島田俊彦「華北工作と国交調整(1933 年~1937 年)」『太平洋戦争への道』第3 巻、98-101 頁。 38 酒井の独断については、松崎昭一「再考「梅津・何応欽協定」」軍事史学会編『日中戦争の諸相』(錦正社、1997 年)35-39 頁を参照。 39 在中国若杉大使館参事官より広田外務大臣宛電報(6 月7 日)外務省編『日本外交文書昭和期Ⅱ第1 部第4 巻上』第299 文書。 12 な行政措置であるとの立場をとった。つまり中国側からすれば、梅津・何応欽協定なるものは存在しないとされるのである40。 同じ頃、察哈爾省の張北でも事件が起こった。日本陸軍の特務機関員が同地で中国兵に不法監禁されたというのである。それまでにも察哈爾省に駐屯する宋哲元の第29 軍(西北軍系)と関東軍・満洲国側との間には、たびたび紛争が生じていた。関東軍はこの張北の事件を利用し、満洲国の国境防衛と内蒙古自治工作に役立てようとした。 関東軍から派遣された土肥原賢二(奉天特務機関長)は省主席(宋哲元)代理の秦徳純に対し、第29 軍の長城以南撤退、排日機関の解散などを要求し、6 月27 日秦徳純はこれを認める文書の回答を提出した(土肥原・秦徳純協定)。この結果、第29 軍は河北省に移駐していった。かつて長城の防衛戦で関東軍と激しく戦い、今度は察哈爾省から追われた第29 軍は、当然ながら強烈な抗日意識を持つことになる。 1934 年から1935 年前半にかけて、満洲国の実在を所与のものとして、国民政府との間に安定した関係を構築しようとした日本政府の試みは、限定的ではありながら、一定の成果を挙げつつあるように見えた。だが、華北での出先軍人の策動はその試みに冷水をかけ、中断させてしまう。日中提携の実現を図ってきた南京政府や北平政務整理委員会のいわゆる親日派の人々からは、日本軍人による傍若無人の行動と、それを掣肘しない日本政府に対して、嘆きの声が上がった。黄郛によれば、梅津・何応欽協定は彼らに対する国内的支持を弱め、彼らに「悲哀ト絶望トヲ感セシメタ」という41。 5)広田三原則 華北の状況変化によって困難さが増したとはいえ、日中関係全体の安定化を目指す動きが断念されたわけではない。むしろ、華北での出先軍人の突出を抑えるとすれば、大使昇格をテコとして全般的な日中関係安定化を進めることが必要であると考えられた。 こうした発想から、日中外交当局の間で国交全体を改善するための協議が開始される。1935 年1 月、広田外相が帝国議会で日中親善を謳った直後、国際司法裁判所判事の王寵恵が来日し、日中国交に関する三つの原則を提示したが、9 月になって初代大使の蒋作賓は、あらためてその原則を説明した。(1)相互の独立尊重と対等関係、(2)友誼に基づく交際、(3)平和的方法による問題解決、という三原則が実現されるならば、中国としては満洲国を当面不問に付し、さらに上海停戦協定と塘沽停戦協定の取消に同意してくれるならば経済提携を進め軍事的協力も検討したいと蒋大使は述べた。 一方日本では、中国に対する方針についての協議が7 月あたりから外務・陸軍・海軍の三省事務当局間で始まり、10 月4 日、関係大臣の了解事項となった42。その中の、(1)中国の排日言動の徹底的取締と欧米依存政策からの脱却、(2)満洲国独立の黙認(できれば正式承認)、(3)赤化勢力の脅威排除(防共)のための協力、がいわゆる広田三原則である。了解事項の付属文書として、中国の統一あるいは分立を助成したり阻止したりすることを行わない、という申し合わせがなされたが、これは華北の事態を睨み陸軍を牽制するために付 40 梅津・何応欽協定の成立経緯については、臼井『日中外交史研究』141-154 頁を参照。 41 在中国有吉大使より広田外務大臣宛電報(6 月25 日)『日本外交文書 昭和期Ⅱ第1 部 第4 巻上』第245 文書。 42 「対支政策[広田三原則]決定の経緯」『現代史資料8・日中戦争1』102-108 頁。 13 け加えられたものと言えよう。 日中両国の三原則を比べてみると、中国側の原則はまだしも相互主義的であったが、広田三原則は一見して明らかなとおり、日本側の一方的な要求に終始していた。日本側の原則は、相手国との相互的なギヴ・アンド・テイクよりも、国内の関係者の主張や要求をどのように調整するかということに重点を置いていた。10 月7 日、広田外相はこの三原則を蒋大使に提示した。しかし、これによって日中関係安定化のための交渉が動き出すことはきわめて難しかった。交渉の前提となる「原則」それ自体に問題があったからである。その上、1935 年後半には、交渉の環境も悪化しつつあった。 3.華北の紛糾 1)幣制改革 国民政府は、国内敵対勢力を制圧しながら日本に抵抗するという政治的・軍事的問題のほかに、経済的にも深刻な問題に直面していた。世界大恐慌の影響に加えて、剿共戦の長期化や満洲事変以後の日本との武力紛争が、軍事費を増大させ国家予算を圧迫した。満洲の喪失は関税収入の大幅な減少を招いた。さらにこれに輪を掛けたのがアメリカの銀政策である。アメリカが内外の市場から銀を買い付けたため、銀貨が高騰し、中国から大量の銀が流出したのである。中国は実質的に銀本位制をとっていたため、甚大なダメージを受けた。 中国はアメリカに銀買上の中止と銀価抑制を要請したが、協力を得られなかった。次いで中国は各国に借款を要請する。この要請を受けた日本は、しかし、消極的であった。満洲国建設に資金を注ぎ込んでいたため、外債に応じる財政的余裕がなかった。仮に応じるとすれば、中国が債務を返済することが先決であるとされた。また、中国が外債を有効に使うためには複雑な貨幣制度(幣制)を根本的に改める必要があるとされたが、国民政府にはそれを実現する能力がないとも判断された。 イギリスでも、貨幣制度の改革なしには借款は一時しのぎにしかならないと考えられた。ただし蔵相のチェンバレン(A. Neville Chamberlain)は、日英の共同借款が日英協調を促し東アジアの安定に資することに期待をかけた。この大蔵省の後押しもあって、イギリスは政府首席経済顧問のリース=ロス(Frederick W. Leith-Ross)を中国財政再建援助のために現地に派遣することになる。 1935 年9 月、訪中前に来日したリース=ロスは日本側に注目すべき提案を行う。その提案とは、中国を経済的混乱から救うには銀本位制を放棄させる幣制改革が望ましく、幣制改革のためには借款を供与しなければならないが、これを具体化する方式として日英両国が1000 万ポンドの借款を満洲国に与え、それを満洲国が中国に対して満洲喪失の代償として引き渡したらどうか、というものであった。つまり、満洲国を経由しての日英共同借款によって、中国を経済的苦況から脱却させ、日英協調を実現し、さらに中国の満洲国承認も引き出そうとリース=ロスは提案したのである43。だが、日本政府はこの提案に否 43 木畑洋一「リース=ロス使節団と英中関係」野沢編『中国の幣制改革と国際関係』210頁。 14 定的であった。中国の幣制改革の実現可能性については依然として懐疑的であり、共同借款についても反対であった。列国による借款は中国の国際管理につながる危険性があり、少なくとも列国の政治的影響力を維持・強化させるので望ましくはないと考えられた。それよりも中国は一時しのぎの借款に頼らず自力更生を図るべきであると広田外相や重光次官は論じた44。 日本の対応に失望したリース=ロスは中国政府に幣制改革を勧告する。それは中国自体がそれまで検討してきた改革構想にほぼ合致したものであった。こうして11 月4 日、国民政府は幣制改革を断行する。銀本位制を廃止して管理通貨制に移行し、貨幣の発行を三つの銀行にだけ限定して銀を国有化する、というのがその改革の骨子であった。イギリスは単独の借款供与には踏み切らなかったが、自国の銀行が保有していた銀を中国側に引き渡すことで、幣制改革の成功を助けた。アメリカは中国の銀を購入する協定(米中銀協定)を締結し、中国が保有銀を売却して得たドルあるいは金をベースにして銀本位制から脱却することを可能にした。 日本の否定的な予想にもかかわらず、中国の幣制改革は成功への道を辿る。国民政府は幣制改革によって西南派や華北将領等の地方勢力の経済的な基盤を掘り崩し、その面からも国家統一を進めようとしたのである45。 2)「北支」工作(華北「自治」運動) 国民政府の幣制改革は、日本陸軍にとって歓迎されざる事態を意味した。それはイギリスの差し金によるものと見なされ、イギリスの影響力の拡大を伴うことが警戒された。それに加えて、国民政府による経済的な面での華北コントロール強化も憂慮すべき事態であった。華北将領たちの間でも、地方的利害から幣制改革には抵抗があった。こうして華北では陸軍出先機関による反撃が始まる。 出先軍はまず、察哈爾省から河北省に移ってきた宋哲元ら華北将領に圧力を加えて、現銀の南送を防止し、幣制改革を妨害しようとした。また、梅津・何応欽協定の成立以来、出先軍は華北「自治」運動を陰で工作していたが、幣制改革後はこの運動を性急に強行しようとする。 関東軍は、華北将領に国民政府からの離反を促すため、満洲国国境の山海関付近に一部兵力を集中した。陸軍中央はこの措置に驚き、兵力移動は認めたものの、まだ「北支」工作のために武力を行使すべき段階ではないと関東軍に自制を説いた。外務、陸軍、海軍の三省事務当局は意見調整を行い、華北「自治」を支持することには合意したが、そのための行動には慎重さが必要であるとし、「自治」の程度は最初から過大な要求をすることを避け、漸進的に行うべきであると申し合わせた。 一方現地では、土肥原から華北「自治」を要請された宋哲元(平津衛戍司令)、商震(河 44 波多野澄雄「幣制改革への動きと日本の対中政策」野沢編『中国の幣制改革と国際関係』272-273、松浦正孝「再考・日中戦争前夜」『国際政治』第122 号(1999 年9 月)135-137 頁。 45 幣制改革の政治的側面に関する新しい解釈については、樋口秀実「1935 年中国幣制改革の政治史的意義」服部龍二ほか編『戦間期の東アジア国際政治』(中央大学出版部、2007年)を参照。 15 北省主席)、韓復榘(山東省主席)らが、その圧力をかわしながら、何とか「自治」へのコミットを回避しようとしていた。結局のところ、「自治」運動の成果として実現したのは、戦区督察専員(戦区の行政首長)の殷汝耕を長とし、戦区を領域として11 月25 日に成立した冀東防共自治委員会だけであった(12 月25 日、冀東防共自治政府に改組)。殷汝耕には叛逆者として国民政府から逮捕状が発せられた。 南京の国民政府は、華北将領に対して日本に屈服しないよう牽制しつつ説得するとともに、日本の要求に何らかのかたちで対応する必要に迫られた。そのため蒋介石は北平軍事分会を廃止し、宋哲元を冀察綏靖主任に任命するとともに、高度の自治権を持たせた「大官」を華北に派遣する、との案を提示した。在中国大使の有吉明はこの提案に注目し、「自治」運動を抑制して蒋介石による事態収拾を見守るべきではないかと意見具申した。ところが、本国政府は国民政府による大官の華北派遣に反対する。国民政府ないし国民党の影響力が華北に残存し強化されるのではないかと警戒したのである。国民政府が大官として何応欽を華北に派遣し、「自治」の態様や防共等について日本側と協議しようとしたとき、日本側は彼と会おうとしなかった。 現地陸軍は華北将領に対する圧力を一段と強めた。特務機関等が後ろで糸を引く「自治」運動が各地で繰り広げられた。こうした動きに対して、12 月9 日、北平では大学生を中心とした数千人のデモ隊が「抗日救国」を叫び、公安当局と衝突した。16 日には1 万人以上が参加したデモが北平で展開された。華北の将領は「自治」推進と反対の板挟みとなり、軍閥としての利益から自己保身を図った。物情は騒然とし、ついに何応欽も事態収拾不能を認めざるを得なくなった。 12 月18 日、最終的に妥協の産物として発足したのが冀察政務委員会である。8 月末に廃止された北平政務整理委員会(政整会)に代わる、国民政府の地方行政機関として設置された。ただし、国民政府が黄郛や何応欽のように華北に地盤を持たない有力者を派遣して地方行政を担当させたのではなく、冀察政務委員会は宋哲元を委員長にしたことに示されているように、あくまで華北の実力者を主体とした地方機関であった。日本側が華北将領による「自治」を要求していたからである。そしてその分、南京(国民政府)と北平(冀察政務委員会)は意思の疎通に欠けるところが多くなった。中央政府の思惑や地方軍閥の利害も複雑に絡み合った46。 日本は当初、華北五省(河北、察哈爾、山東、山西、綏遠)の「自治」を目指したが、冀察政務委員会は河北・察哈爾の二省と北平・天津の二市を管轄したにすぎなかった。また、国民政府からの分離を目指したのに、冀察政務委員会は国民政府の地方行政機関として設置された。こうした点で、現地陸軍が目指した華北「自治」の目標はまだ達成されていなかった。 一方、日本の外交当局は、国民政府が「自治」運動の抑制を求めてきたとき、それを中国の内政問題であるとして突っぱねながら、華北への大官の派遣に反対し、何応欽の北上に際しては彼との接触を避けた。1936 年1月、日本政府は「第一次北支処理要綱」を決定 46 南京の国民政府と華北将領、特に宋哲元との関係については、Marjorie Dryburgh, North China and Japanese Expansion 1931-1937 Regional Power and the National Interest (Curzon Press, 2000)、光田『中国国民政府期の華北政治 1928-1937 年』を参照。 16 し、現地軍の性急な行動には自制を求めつつも、華北の「自治」推進を追認した47。 こうして、出先陸軍の「北支」工作により、国民政府では、いわゆる親日派の影響力が低下していった。政整会廃止の数ヵ月前に黄郛は委員長の職を辞した。1935 年11 月、汪精衛は何者かによって狙撃され、やがて行政院長兼外交部長を辞任した。12 月には、外交部次長として対日外交を取り仕切ってきた唐有壬が暗殺された。国民政府内の親日派との提携によって対中関係を安定化させようとしてきた広田・重光外交は、その前提を失い、広田三原則をめぐる交渉もほとんど動かなくなった。 その上、1936 年2 月、東京では陸軍過激派将校によるクーデタ(二・二六事件)が発生し、日本の首都は一時、麻痺状態に陥った。反乱軍鎮圧後、広田を首班とする内閣が発足したが、暫くは政府も軍も事件の再発防止と国内の安定に関心と努力を注がねばならなかった。 3)多発する事件 中国では、華北でもそれ以外の地域でも、日中関係をこじらせる問題や事件が相次いで発生していた。両国の関係をこじらせた問題の一つは、冀東特殊貿易である48。中国から言えば、冀東地区での密貿易にほかならない。満洲事変以前も関東州から渤海湾を渡って河北省沿岸や山東半島へ向かう密貿易は少なくなかったが、事変以後は、日本商品への関税が高かったことと、戦区の沖合での密輸取締船の活動を日本側が禁止したこともあって、戦区を経由する人絹や砂糖等の密輸が飛躍的に増えた。 冀東政権が成立すると、その行政経費を捻出するため同政権は輸入品に特別税を課したが、それは国民政府の正規の関税の4 分の1 程度であったので、その特別税を払っただけの「特殊貿易」が横行し、国民政府の関税収入に大きなダメージを与えるとともに、国内経済を混乱させた。中国側はこれに抗議したが、日本は中国の内政問題であるとして取り合わなかった。 華北でもう一つ日中関係をこじらせたのは、1936 年5 月、支那駐屯軍が兵力を3 倍(約5800)に増やしたことである。この兵力増強は、長征を終え(1935 年10 月)陝西省延安に根拠地を構えた共産軍に対処することを目的としていたが、これには隠れた理由もあった。性急かつ強引に華北「自治」運動を画策する関東軍に、「北支」工作から手を引かせ満洲国育成に専念させるというのが、その理由である。「北支」工作は支那駐屯軍が主導するものとし、そのために兵力増強とともに軍司令官を親補職にして関東軍司令官と同格としたのである49。 支那駐屯軍の増強は、事前通告を行わず、新たに駐屯地とされた豊台が義和団事変最終議定書に明記されていなかったこともあり50、中国側から厳しい批判を招いた。関東軍に 47 『現代史資料8・日中戦争1』349-350 頁。 48 冀東特殊貿易については、藤枝賢治「冀東貿易をめぐる政策と対中国関税引下げ要求」軍事史学会編『日中戦争再論』(錦正社、2008 年3 月)を参照。 49 支那駐屯軍の増強については、松崎昭一「支那駐屯軍増強問題」『國學院雑誌』第96 巻第2 号・第3 号(1995 年2 月、3 月)を参照。 50 日本陸軍は当初、通州を新駐屯地にしたいと考えていたが、通州は義和団事変最終議定書で認められた列国の「占領」地に入っていなかったため、国際的な批判を招くとして断念された。豊台も同議定書には明記されていなかったが、以前にイギリス軍が駐屯していたことがあり、そのとき中国側が抗議しなかったので、陸軍はここを新駐屯地に選んだ。 17 対する牽制という内向きの理由は当然ながら表面には出せず、むしろ日本は兵力を増強させてまた何か事を起こそうと画策しているのではないか、という疑惑を強めてしまった。 上海では1935 年11 月、海軍陸戦隊の水兵が射殺される事件が発生し、翌年2 月になって、犯人は中国の特務組織に関わる人物であることが判明した。華中・華南の権益や居留民の保護を担当する海軍を、上海の水兵射殺事件は強く刺激した。1936 年8 月には、一時閉鎖していた成都の領事館再開を前に、現地に赴いた新聞記者を含む日本人グループが暴徒に襲われ、死者2 名、重傷2 名の被害を出した(成都事件)。同年9 月、広西省の北海で薬局を営んでいた日本人が殺害された(北海事件)。広西省に移駐してきた19 路軍が排日を煽っていたことを重視した海軍は、艦船を北海に派遣して現地調査を行い、国民政府が責任を回避し事件解決を遷延させる場合には武力行使も辞さないとの強硬な姿勢を示した。北海事件直後には漢口で日本領事館の警察官が射殺され、上海でもまた水兵が殺害される事件が起こり、これらの事件も海軍を硬化させた。 ただ、このときは華北の事態を重視する陸軍が北海への陸兵派遣に消極的であり、成都事件を解決するために始まった川越茂大使と張群外交部長との交渉に、北海事件の解決委ねられることになった。 4)対ソ戦略と対中政策 その頃、日本政府は広田三原則の行詰りに応じて対中政策を見直し、新しい方針を打ち出していた。1936 年6 月、陸海軍が国防方針を改訂したとき、政府はこれと並行して同年8 月、国家戦略としての「国策の基準」を定め、これに準拠して「帝国外交方針」、「対支実行策」、「第二次北支処理要綱」を策定したのである51。 このうち「対支実行策」では、国民政府を反ソ・対日依存の方向に誘導し、華北の特殊性を認識させてその「自治」を容認させるとともに、具体的には防共協定・軍事同盟の締結、日本人顧問の傭聘、日中航空連絡、互恵関税協定の締結(冀東特殊貿易の廃止とその交換条件として排日高率関税の引下げ)、経済提携の促進等を提案することが方針とされた。 注目されるのは、防共協定の締結という方針である。ここには、日本の対ソ戦略バランスの悪化という事情が絡んでいた。そもそも満洲事変は対ソ戦略上有利な態勢を構築することを目的の一つとして始められたが、結果的には逆説的にも日ソ間のバランスは日本にとって不利な方向に傾いた。ソ連が外交的には日本に対して宥和的な態度をとりつつ、軍事的には日本の脅威を深刻にとらえ、極東領土の軍備強化を図ったからである。1934 年6月の時点で、ソ連陸軍の極東兵力は日本陸軍の総兵力に匹敵し、対ソ前線に位置する満洲と朝鮮の日本陸軍兵力はソ連極東陸軍の30 パーセントに達しなかった。しかもこの兵力の格差は広がりつつあった52。 陸軍が日ソ戦の場合の中国の向背を懸念し、抗日を本質とすると考えられた国民党の勢力を華北から排除しようとした背景には、こうした対ソ戦略バランスの劣勢があったのである。さらに、1936 年2 月、陝西省の共産軍が一時、山西省に進出してきたことは、現 51『現代史資料8・日中戦争1』361-371 頁。 52 防衛研修所戦史室『戦史叢書・大本営陸軍部1』(朝雲新聞社、1967 年)352 頁。 18 地および本国の陸軍の警戒を強めた。これを受けて3 月末、多田(駿)支那駐屯軍司令官は宋哲元との間に、極秘裡に防共協定を結んだ53。また、前年12 月、華北「自治」に反対して繰り広げられた北平のデモにも、共産勢力の影響力増大が感知された。皮肉なことに、日本が国民党機関を排除した後の間隙に、その特務組織による苛烈な弾圧が姿を消したこともあり、共産勢力が浸透していたのである54。 以上のような対ソ・防共の考慮は、「第二次北支処理要綱」にも貫かれている。そこでは、中国の領土権の否定、独立国家の樹立、あるいは満洲国の延長を図るかような行動は避けるが、華北の「分治」を促進して防共親日満の地帯を建設し、国防資源の開発と交通施設の拡充を進めてソ連の侵攻に備えるとともに、日本・満洲国・中国の三国「提携共助」を実現することが謳われた。注目されるのは、華北「分治」が政府の確定した方針として掲げられたことである。開発すべき国防資源としては鉄、コークス用石炭、塩、石炭液化、棉花、羊毛等が挙げられた。既に関東軍や支那駐屯軍の依託を受けて、華北の経済資源に関する調査が進められており、1935 年12 月には満鉄の子会社として興中公司が設立され、華北資源開発に関する事業を開始していた55。 成都事件が起こったのは、このような国交調整方針が固まった頃である。日本側の要求は当初、犯人・責任者の処罰、排日の取締という事件解決に重点を置いていたが、やがて国交調整方針に含まれる全般的なものへと膨らんでいった。北海事件など、その後に続く事件の発生が日本側の態度を硬化させた。一方、中国側は事件解決と排日取締には応じたものの、それ以外の点では日本の要求に対して妥協を拒んだ。中国側は、塘沽・上海両停戦協定の廃棄、冀東政権の解消、華北自由飛行(満洲国と華北との航空連絡に消極的であった中国側を牽制するため、中国軍の監視を名目に関東軍が華北に軍用機を飛ばしていたもの)の中止、密貿易の停止、内蒙古に侵入した「偽軍」(傀儡軍)の解散、を要望し、日本側と正面から渡り合った。 成都事件をきっかけとして1936 年9 月に始まった川越・張群会談は、こうして進展を見せなかった。そのうちに関東軍の後押しする内蒙軍が綏遠省北部に侵入し、そこで中国軍と衝突した事件(綏遠事件)をめぐって会談は暗礁に乗り上げ、同年12 月、事実上、打ち切られた。 5)内蒙工作と綏遠事件 綏遠で中国軍と衝突したのは、察哈爾省で内蒙古自治を目指して活動していた蒙古の王族、徳王の軍隊である。南京の国民政府は蒙古人の自治要求に押されて蒙古地方自治政務委員会(蒙政会)を設置したが、徳王はこれにあきたらず、土肥原・秦徳純協定で宋哲元軍を察哈爾省から押し出した関東軍に接近した。1936 年4 月、察哈爾省の徳化に徳王を主席とする内蒙軍政府が関東軍の指導下に成立し、満洲国との間に相互援助条約を結んだ。内蒙工作を強引に推進していたのは関東軍参謀の田中隆吉である。陸軍指導部は必ずし 53 臼井勝美「冀察政務委員会と日本」『外交史料館報』第16 号(2002 年6 月)34-35 頁、安井三吉『盧溝橋事件』(研文出版、1993 年)68-71 頁。 54 安井『盧溝橋事件』85 頁。 55 華北での日本の経済活動については、中村隆英「日本の華北経済工作」『年報・近代日本研究』第2 号(1980 年)を参照。 19 もこれを支持しなかった。やがて徳王は財政的基盤の脆弱な内蒙軍政府を強化するために、綏遠省の東部を支配下に入れようとする。同年11 月、徳王のために田中が掻き集めた無頼の匪賊部隊が蒋介石打倒を唱えて綏遠省に侵入した。しかし、この部隊は紅格図で簡単に敗れ、百霊廟に駐屯していた徳王の内蒙軍も綏遠軍の攻撃を受けて潰走した56。 この綏遠事件での中国軍の勝利は、日本軍に対する初めての勝利、しかも「無敵」の関東軍を打ち破った大勝利であると大々的に報じられ、中国各地で喝采を浴びた。綏遠への侵入に関東軍が間接的に関与していたことは間違いないが、実は戦闘にはほとんど参加していなかった。だが、これまで鬱積してきた対日屈服感からの解放も手伝って、綏遠事件の勝利は誇大に受け取られた。綏遠事件は中国の抗日感情を昂揚させ、日本に対抗する自信を回復させた。そして、その直後に歴史を転換させる事件が起こる。 6)西安事件 それは12 月12 日、剿共戦の督戦のため西安を訪れた蒋介石が、内戦停止・抗日救国を訴える張学良と楊虎城によって拘禁された事件である。張・楊と延安の共産勢力との間には以前から共同抗日についての協力関係が生まれていた。事件発生の報を受けて延安から周恩来が飛来し、最終的に蒋介石は釈放された。事件収束に至る真相はいまだ不明だが、この西安事件によってその後の共同抗日と国共合作が促されたことは疑いない。 そもそも蒋介石は、満洲事変以後、安内攘外の方針に基づき日本との妥協を図ってきたが、究極の場合の対日戦の準備を疎かにしていたわけではない57。国民政府は剿共戦を戦うためドイツから軍事顧問を招聘し、軍事組織・戦略・戦術の近代化を図るとともに、その助言に基づき、対日戦に備えた軍事的措置を講じつつあった58。1936 年4 月には、ドイツとの間に1 億マルクの貿易協定を結んだ。ドイツからの武器の輸入とタングステン等の輸出によるバーター協定であった。中国はこのようなドイツとの密接な経済的・軍事的関係によって日本を牽制しようとしたが、同年11 月の日独防共協定の成立により、親独政策による対日牽制は頓挫した。 蒋介石は対日牽制のためにドイツとの連携だけでなく、ソ連(1932 年12 月国交再開)との連携も模索した59。一方、かつて国民党を敵視していたソ連も、中国の対日牽制を維持・強化する上で、蒋介石の指導力に着目した。反ファシズム人民戦線戦術を採用していた(1935 年8 月)コミンテルンは、中国共産党に対しこれまでの反蒋抗日ではなく、連蒋抗日の路線を勧告した。蒋介石は、外蒙古を衛星国化して新疆を「赤化」し北鉄(東支鉄道)を満洲国・日本に売却したソ連に対して、不信感を拭い去ることはできなかったものの、日本の強引な華北工作に対抗するため、対日戦の場合に軍事援助が得られるかどう 56 内蒙工作については、森久男「関東軍の内蒙工作と蒙疆政権の成立」『岩波講座・近代日本と植民地1 植民地帝国日本』(岩波書店、1992 年)を参照。 57 中国の国防計画については、安井『盧溝橋事件』126-135 頁。 58 対日戦準備に対するドイツ軍事顧問団の貢献については、Hsi-Huey Liang, The Sino-German Connection Alexander von Falkenhausen between China and Germany 1900-1941 (Van Gorcum, 1978), chap.7-8 を参照。 59 蒋介石の対独・対ソ連携構想については、樹中毅「蒋介石の民族革命戦術と対日抵抗戦略」『国際政治』第152 号(2008 年3 月)、鹿錫俊「日ソ相互牽制戦略の変容と蒋介石の「応戦」決定」軍事史学会編『日中戦争再論』を参照。 20 かをソ連に打診していた60。さらに蒋介石は、紅軍(共産軍)に対して討伐を中断することはなかったが、日本に対抗する上での共産党との政治的妥協の可能性も排除しなかった。たしかに日本との和解の可能性をまだ諦めてはいなかった。しかし、華北分離の動きがこれ以上強まれば、日本との武力衝突の可能性にも備えなければならなかった。そうしたところに西安事件は起こったのである。 7)対中政策の再検討 西安事件は日本にとっても大きな衝撃であった。事件は、一方では中国の内部分裂の深刻さを示すものと受け取られたが、他方では国内統一に向かう重大な転機とも見られた。 関東軍は事件の結果、中ソ両国が抗日に関して完全に一致したと分析し、これまでのように華北「自治」を国民政府からの権限委譲によって実現するのではなく、国民政府の意向には捉われず日本が自主的に追求すべきであると主張した61。これに対して、参謀本部戦争指導課は、西安事件を契機として中国では内戦反対と国内統一の気運が進んだと指摘し、抗日人民戦線派が健全な新中国建設運動に転化し得るかどうかは、日本が従来の「帝国主義的侵寇政策」を放棄できるかどうかにかかっていると論じた62。言論界でも、国民政府による統一を肯定的に評価する中国再認識論が説かれ、実業界の一部には1936 年後半あたりから、華北分離工作を批判し、日中経済提携を説く主張が浮上していた63。 こうして対中政策の再検討が始まる。そのイニシアティヴをとったのは、戦争指導課長から作戦部長に昇任した石原莞爾である。彼は将来の対ソ戦を睨んで当面は満洲国育成に専念し日満一体の軍需産業基盤強化を図るため、中国との衝突回避を望んだ。そのため内蒙工作に反対し、華北分離を否定し、冀東政権廃止の可能性も考慮しつつあった。 一方、外務省でも対中政策の見直しがなされていた。その主眼は、華北分治工作の中止と経済的施策の実行にあった。1937 年3 月、広田内閣に代わる林銑十郎内閣の外相に佐藤尚武が迎えられて、陸海軍両省を巻き込んだ対中政策の再検討が本格化した。4 月に政府は「対支実行策」「北支指導方策」を決定し、華北の分治や中国の内政を乱す政治工作は行わないことを定め、前年の華北分治の方針を否定した。「対支実行策」では、国民政府が指導する中国統一運動に対して「公正なる態度」で臨むことが基本とされ、防共協定や軍事同盟の締結という要求項目はなくなった。反ソ・対日依存への誘導という前年の方針も謳われなくなった。「北支指導方策」では、目的達成のために華北民衆を対象とした「経済工作」に主力を注ぎ、これに国民政府の協力を求めることが合意された64。画期的な政策転換であった65。 60 この頃の中ソ関係については、Jonathan Haslam, The Soviet Union and the Threat from the East, 1933-41 (University of Pittsburgh Press, 1992), chap.3 を参照。 61 関東軍参謀部「対支蒙情勢判断」(1937 年2 月)臼井勝美「昭和十二年「関東軍」の対中国政策について」『外交史料館報』第11 号(1997 年6 月)67-70 頁所収。 62 参謀本部第二課「帝国外交方針及対支実行策改正に関する理由竝支那観察の一端」『現代史資料8・日中戦争1』382 頁。 63 この点については、伊香俊哉「日中戦争前夜の中国論と佐藤外交」『日本史研究』第345号(1991 年5 月)を参照。 64 『現代史資料8・日中戦争1』400-403 頁。 65 佐藤外相の下での政策転換については、臼井『日中外交史研究』第9 章、藤枝賢治「「佐藤外交」の特質」『駒澤大学史学論集』第34 号(2004 年4 月)を参照。 21 その頃、横浜正金銀行頭取の児玉謙次を団長とする実業家グループが訪中し、中国の実業家たちと会談した。帰国後、児玉は冀東政権の解消と冀東特殊貿易の廃止を訴える意見書を佐藤外相に提出した。児玉訪中団のメンバーであった藤山愛一郎(大日本製糖社長)は岳父の結城(豊太郎)蔵相のメッセージを新任の外交部長王寵恵らの国民政府首脳に伝えた。それは日中経済提携の実績によって出先の関東軍や支那駐屯軍を抑制し、両国の関係安定化を図りたいとの趣旨であった66。 だが、現地では支那駐屯軍が林内閣の新方針に同調的だったのに対して、関東軍はそれを次のように強く批判していた67。政治的工作を行わず重点を経済的工作に置くというのは、従来の方針に比べて著しく消極的であり、日本との国交調整に応じる意思のない国民政府に親善を求めるのは、その「排日侮日」の態度を増長させるだけである。もし武力行使が許されるのであれば、中国に一撃を与えて、対ソ戦の場合の背後の脅威を除去するのが、最も有利な対策と言うべきだろう、と。 西安事件の衝撃を受けて、日本には対中政策の転換を図ろうとする動きが生まれたが、関東軍のように、それに反対する主張も根強かった。また、政策転換の実績を挙げるには時間が必要であった。そして、その実績が挙がる前に、1937 年6 月林内閣は総辞職した。後継の近衛内閣の外相に就任したのは広田弘毅であった。 8)盧溝橋事件前夜 日本の国防方針において、中国は仮想敵国のひとつであった。したがって、陸軍は毎年、中国と開戦した場合の作戦計画を作成した。中国の軍備強化に伴い、1937 年度(1936 年9 月から1 年間)の対中作戦計画での使用兵力は、前年度の9 個師団から14 個師団に増加した68。ただし、対ソ戦に備えての軍備拡充を焦眉の急としていた参謀本部では、中国との戦争は極力回避すべきであると考えられていた。 支那駐屯軍はこの作戦計画を受け、参謀本部の指示に基づいて華北の占領計画をつくった69。作戦計画が華北要地の一時的「占領」にとどまらず、やや長期の「確保」を要求していたので70、現地軍の占領計画も、万一の場合の不測事態計画であるとはいえ、それ相応に詳細なものとなった。 そして、華北では、そうした不測事態が起こりかねない状況になりつつあった。1936年、北平郊外の豊台に支那駐屯軍の増強部隊を収容する兵舎を建設したとき、中国人の間には、日本軍が軍用飛行場をつくろうとしているのではないか、との疑心暗鬼が生まれた71。 66 松浦「再考・日中戦争前夜」142-143 頁。 67 在満州国沢田大使館参事官より堀内外務次官宛(6 月11 日)外務省編『日本外交文書昭和期Ⅱ第5 巻上』第144 文書。 68『戦史叢書・大本営陸軍部1』368-370、412-414 頁。 69 支那駐屯軍の華北占領計画については、永井和『日中戦争から世界戦争へ』(思文閣出版、2007 年)第1 章を参照。 70 『戦史叢書・大本営陸軍部1』413 頁。 71 エドワード・J・ドレー「戦争前夜」波多野澄雄・戸部良一編『日中戦争の軍事的展開』(慶應義塾大学出版会、2006 年)27 頁。 22 同年、平津地区で行われた支那駐屯軍秋季大演習も中国側の疑惑をかきたてた72。 北平近郊に駐屯する中国軍第37 師は第29 軍の中で最も抗日意識が高いとされており、第29 軍の高級将校の中には共産党員も紛れ込んでいた73。1936 年9 月18 日、柳条湖事件5 周年の日、豊台の日本軍と第37 師の兵士との間に小競り合いが生じた。中国側の謝罪と豊台からの撤退で事は収まったが、日本軍が中国軍に武装解除を要求しなかったのは第29軍を恐れたからだという噂が広まり、これを聞いて憤慨した連隊長の牟田口廉也は、今後類似の事件が起きたならば、今度こそ仮借することなく直ちに中国軍を膺懲し、侮日・抗日観念に一撃を加えねばならぬ、と部下に訓示したという74。 牟田口が予想した類似の事件は、それから10 ヵ月後、盧溝橋で起こることになる。対ソ戦闘法の夜間演習を行っていた日本軍部隊と中国軍との衝突であった。そのとき、前内閣(林内閣)の対中政策転換に反対し、中国の「増長」を憎み、華北を国民政府の政治的コントロールから分離することを目論んでいた対中強硬論者は、中国に「一撃」を加えることを躊躇しなかったのである。 72 安井『盧溝橋事件』107-113 頁。 73 第29 軍副参謀長の張克侠は共産党員、第37 師長の何基.は共産党シンパで1939 年に入党した。同上、91 頁。 74 秦郁彦『盧溝橋事件の研究』(東京大学出版会、1996 年)67-69 頁、臼井「冀察政務委員会と日本」36-38 頁。 第1期「日中歴史共同研究」報告書 目次 日中歴史共同研究
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ガンダムクロニクル 一年戦争編詳細 CM-0001 RX-77-2 ガンキャノン203号機 所属 地球連邦軍 分類 モビルスーツ 出展 機動戦士ガンダム プロフィール 地球連邦宇宙軍の「RX計画」によって開発された中距離支援用MS。RX-78ガンダム同様コア・ブロック・システムを搭載し、堅牢な装甲と砲撃戦用のキャノン砲を両肩に装備している。中距離支援MSとして良好な戦果を上げた本機は、少数ではあるが量産され様々な部隊に配備された。 固定装備 ● 格闘[機動重視] ● キャノン砲[攻撃重視] ● 頭部バルカン砲[防御重視] 特殊機能 ■[攻撃重視]遮蔽物越しに攻撃可能 主兵装 ■ビーム・ライフル■ハンド・グレネイド コメント キャノン砲[発射数 4 装填12] 頭部バルカン砲[発射数 5 装填15] コレはカード名称と番号、マーキング以外はME-0005のデータです。 CM-0002 Gスカイ・イージー 所属 地球連邦軍 分類 支援機 出展 機動戦士ガンダム プロフィール コア・ファイターとGファイターの機体後部で構成させる戦闘機形態。Gメカにコア・ファイターが直接着いた状態のため、ガンダムのパーツは介在していない。この形態はコア・ブースターのようなコア・ファイターのパワーアップバリエーションと言える。 固定装備 ● ミサイル[攻撃重視] ● 機首バルカン砲[防御重視] 特殊機能 ■[攻撃重視]遮蔽物越しに攻撃可能 主兵装 コメント コレはカード番号とマーキング以外はME-0011のデータです。 CM-0003 RB-79 ボール 所属 地球連邦軍 分類 支援機 出展 機動戦士ガンダム プロフィール 地球連邦宇宙軍のモビルポッド。大戦末期の一大反抗作戦に備え、ジムの生産不足を補うために開発された。構造が単純なため非常に生産性が高く、大量に生産されている。 固定装備 ● キャノン砲[攻撃重視] ● キャノン砲[防御重視] 特殊機能 ■遮蔽物越しに攻撃可能 主兵装 コメント 武装やステータスなどは、全て排出版と同じ。 CM-0004 FF-X7 コア・ファイター 所属 地球連邦軍 分類 支援機 出展 機動戦士ガンダム プロフィール RXシリーズのコア・ブロックとなる多目的戦闘機。推進器に熱核ジェット・ロケット・エンジンを使用しているため、地球上から宇宙まで装備の換装なしに運用が可能であった。垂直離着陸能力なども備えた、まさに、「万能戦闘機」と呼ぶに相応しい高性能戦闘機である。 固定装備 ● ミサイル[攻撃重視] ● 機首バルカン砲[防御重視] 特殊機能 ■遮蔽物越しに攻撃可能 主兵装 コメント 武装やステータスなどは、全て排出版と同じ。 CM-0005 61式戦車 所属 地球連邦軍 分類 支援機 出展 機動戦士ガンダム プロフィール 地球連邦陸軍の主力戦車。150mm砲を2門装備した独特のシルエットを持ち、MS登場までは地球連邦陸軍の主力兵器として幅広く使用されていた。MS登場以降は地上戦の主役の座をMSに奪われ、支援兵器としてMS部隊のサポートなどを行なっている。 固定装備 ● 2連装キャノン砲[攻撃重視] ● 2連装キャノン砲[防御重視] 特殊機能 ■遮蔽物越しに攻撃可能 主兵装 コメント コレはカード番号以外、ME-0028のデータです。 CM-0006 ガンダム (ロールアウトカラー) 所属 地球連邦軍 分類 モビルスーツ 出展 機動戦士ガンダム MSV プロフィール 地球連邦宇宙軍の「RX計画」によって開発された白兵戦用MS。ロールアウト直後の機体のため塗装が施されておらず、構造材の色である薄いグレーのままとなっている。この後、最終調整とともに白・赤・青のガンダム特有の象徴的なトリコロールカラーへと塗装される。 固定装備 ● ビームサーベル[機動重視] ● 頭部バルカン砲[攻撃重視] ● 頭部バルカン砲[防御重視] 特殊機能 主兵装 ■ビーム・ライフル■ガンダム・シールド ・・・他 コメント コストが10安く、機体性能はプロトタイプ・ガンダムと同等に下げられている。 プロトタイプ・ガンダムとは違い格闘がビームサーベルなので使いやすい。 CM-0007 RGM-79 ジム先行量産型 所属 地球連邦軍 分類 モビルスーツ 出展 機動戦士ガンダム MSV プロフィール 地球連邦軍主力MSジムの前期生産モデル。後期型のジムとは機体の仕様が若干異なる。ビーム・スプレーガンやシールドなどのオプション兵装は、このタイプから確立していたようだ。 固定装備 ● ビーム・サーベル[機動重視] ● 頭部バルカン砲[攻撃重視] ● 頭部バルカン砲[防御重視] 特殊機能 主兵装 ■ビーム・スプレーガン■ガンダム・シールド…他 コメント 武装やステータスなどは、全て排出版と同じ。 CM-0008 RGC-80 ジム・キャノン 所属 地球連邦軍 分類 モビルスーツ 出展 機動戦士ガンダム MSV プロフィール ガンキャノンの量産モデルとして開発された中距離支援用MS。ジムのパーツを流用することで、ジム・キャノンが生産された。一説では大戦中の生産数は48機だとされている。 固定装備 ● 格闘[機動重視] ● キャノン砲[攻撃重視] ● 頭部バルカン砲[防御重視] 特殊機能 ■[攻撃重視]遮蔽物越しに攻撃可能 主兵装 ■ビーム・スプレーガン■ガンダム・シールド コメント コレはカード番号とマーキング以外はME-0042のデータです CM-0009 RAG-79 アクア・ジム 所属 地球連邦軍 分類 モビルスーツ 出展 大河原邦男コレクション M-MSV プロフィール ジムをベースに開発された水陸両用MS。ジオン公国軍が戦線へと投入したMSM-03ゴッグなどの水陸両用MSに対し、従来の地球連邦海軍の装備では対抗できないため、量産化の目途がたったジムをベースに急遽開発されたものの、性能は予定より下回ったようだ。 固定装備 ● ビーム・ピック[機動重視] ● 魚雷[攻撃重視] ● 魚雷[防御重視] 特殊機能 ■[固定装備]水中の敵に対して攻撃力上昇 主兵装 ■ミサイル・ランチャー コメント 武装やステータスなどは、全て排出版と同じ。 CM-0010 RX-79[G] 陸戦型ガンダム (シールド未装備仕様) 所属 地球連邦軍 分類 モビルスーツ 出展 機動戦士ガンダム 第08MS小隊 プロフィール 地上戦用に開発された陸戦型のガンダム。運用域を地上に限定することで、RX-78ガンダムに比べコストパフォーマンスの良い機体となった。右肩に刻印された[061]のナンバーから、この機体が第06MS小隊の隊長(1番)機であることがわかる。 固定装備 ● ビーム・サーベル[機動重視] ● 胸部バルカン砲[攻撃重視] ● 胸部バルカン砲[防御重視] 特殊機能 主兵装 ■ビーム・ライフル■180mmキャノン■小型シールド …他 コメント 武装やステータスなどは、全て排出版と同じ。 CM-0011 MS-05 ザクI 所属 ジオン公国軍 分類 モビルスーツ 出展 機動戦士ガンダム プロフィール ジオン公国軍が一年戦争以前から主力としていたMS。ザクIIの登場によりその座を奪われたが、ランバ・ラルや黒い三連星といったエースパイロットが愛用のザクIで多くの戦果を上げている。 固定装備 ● ヒート・ホーク[機動重視] 特殊機能 主兵装 ■ザク・マシンガン■ザク・バズーカ ・・・他 コメント 武装やステータスなどは、全て排出版と同じ。 CM-0012 MS-06F ザクII 所属 ジオン公国軍 分類 モビルスーツ 出展 機動戦士ガンダム プロフィール ジオン公国軍の主力MS。ザクIIは、一年戦争中両軍を通して最も生産された名機で、MSの代名詞とも言われる。様々な環境下での運用が可能で、数多く用意されたオプション兵装を使い分けることで在来の兵器を圧倒した。 固定装備 ● ヒート・ホーク[機動重視] 特殊機能 ■固定シールド搭載 主兵装 ■ザク・マシンガン■ザク・バズーカ ・・・他 コメント 武装やステータスなどは、全て排出版と同じ。 CM-0013 MS-07B グフ 所属 ジオン公国軍 分類 モビルスーツ 出展 機動戦士ガンダム プロフィール ジオン公国の陸戦用MS。ザクIIJ型に変わる陸戦用MSとして開発された。局地戦にも対応しており熱帯・砂漠地帯でも運用が可能。対MS戦闘を想定し格闘戦能力を重視した設計になっており、高電圧で敵機の計器やパイロットにダメージを与えるヒート・ロッドを装備している。 固定装備 ● ヒート・ロッド[機動重視] ● フィンガー・バルカン[攻撃重視] ● フィンガー・バルカン[防御重視] 特殊機能 ■[機動重視]電撃攻撃(※機動力低下) 主兵装 ■シールド コメント コレはカード番号とマーキング以外はMZ-0004のデータです。 CM-0014 MS-09 ドム 所属 ジオン公国軍 分類 モビルスーツ 出展 機動戦士ガンダム プロフィール ジオン公国軍の陸戦用MS。ジオン公国のツィマッド社が開発した重MSで、熱核ジェットを使用したホバー走行により、重MSでありながら地上の高速移動を実現している。次世代の陸戦用MSとして制式採用されたが、開発時期が遅かったため充分な数の配備には至らなかった。 固定装備 ● ヒート・サーベル[機動重視] ● 拡散ビーム砲[攻撃重視] ● 拡散ビーム砲[防御重視] 特殊機能 ■[攻撃重視/防御重視]シールドをダメージ貫通、テンション減少 主兵装 ■ジャイアント・バズ コメント 右肩にジオンのエンブレム、胸に「013」のナンバーが入る。 CM-0015 MSM-04 アッガイ 所属 ジオン公国軍 分類 モビルスーツ 出展 機動戦士ガンダム プロフィール ジオン公国軍の水陸両用MS。水陸両用MSとして、水中だけでなく地上での機動性にも優れており、アイアン・ネイルを使用した格闘戦も得意としていた。この機体は左足に刻印されたナンバーから、アジア方面で使用された機体であると推測できる。 固定装備 ● アイアン・ネイル[機動重視] ● メガ粒子砲[攻撃重視] ● 6連装ミサイル・ランチャー[防御重視] 特殊機能 ■[固定装備]水中の敵に対して攻撃力上昇 ■[攻撃重視]シールドをダメージ貫通 主兵装 コメント 武装やステータスなどは、全て排出版と同じ。 CM-0016 ド・ダイYS 所属 ジオン公国軍 分類 支援機 出展 機動戦士ガンダム プロフィール ジオン公国軍の要爆撃機。当初は爆撃機として運用されていたが、推力に余裕があったことから、輸送機に代わるMSの輸送手段として機体上部にザクIIやグフなどのMSを乗せ、地上の各戦線で活躍した。 固定装備 ● ミサイル[攻撃重視] ● ミサイル[防御重視] 特殊機能 ■遮蔽物越しに攻撃可能 主兵装 コメント 武装やステータスなどは、全て排出版と同じ。 CM-0017 ドップ 所属 ジオン公国軍 分類 支援機 出展 機動戦士ガンダム プロフィール ジオン公国軍の小型戦闘機。航空力学よりもバーニアなどの宇宙工学に基づいた設計がなされており、極めて運動性が高い反面、航続距離が短いという欠点を持っている。しかし、ガウ攻撃空母との連携によってそれらの弱点を補うことが可能であった。 固定装備 ● ミサイル[攻撃重視] ● バルカン砲[防御重視] 特殊機能 ■遮蔽物越しに攻撃可能 主兵装 コメント 武装やステータスなどは、全て排出版と同じ。 CM-0018 MS-06R-2 高機動型ザクR2タイプ (ジョニー・ライデン専用機) 所属 ジオン公国軍 分類 モビルスーツ 出展 機動戦士ガンダム MSV プロフィール R2型のジョニー・ライデン専用機。R2タイプは外見こそザクであるが、内部構造はすでにザクとは別物の機体であり、「ザクの皮をがぶったゲルググ」と呼ばれるほどの性能を有していた。ライデンの駆る真紅の機体は、彼の人気と相まって非常に知名度が高かったのである。 固定装備 ● ヒート・ホーク[機動重視] 特殊機能 ■固定シールド搭載 主兵装 ■ザク・マシンガン■ザク・バズーカ■ジャイアント・バズ ・・・他 コメント MZ-0055との差は、機体に「402」のマーキングがある。 CM-0019 MS-06V ザクタンク 所属 ジオン公国軍 分類 モビルスーツ 出展 機動戦士ガンダム MSV プロフィール ザクの現地改修機。補給がままならないジオン公国軍の地上部隊が、廃品パーツを利用して製作した改造MSだが便宜上Vタイプとして登録されている。戦力としてはあまり期待できないが、戦闘に投入されることもあったようだ。 固定装備 ● 3連装マシンガン[攻撃重視] ● 3連装マシンガン[防御重視] 特殊機能 ■固定シールド×2搭載 コメント 武装やステータスなどは、全て排出版と同じ。 CM-0020 陸戦型ザクII (スパイク・シールド仕様) 所属 ジオン公国軍 分類 モビルスーツ 出展 機動戦士ガンダム 第08MS小隊 プロフィール 陸戦型ザクIIのバリエーション機。右肩のシールドに格闘戦用のスパイクが装着されたタイプの機体。見通しが利かないジャングルなどでは度々近距離での遭遇戦が発生するため、このように武器の持ち替えなしで格闘戦に即応できるような工夫がなされている。 固定装備 {● 格闘攻撃[機動重視]}; ● ヒート・ホーク[機動重視] 特殊機能 ■固定シールド搭載 ■[機動重視]強制回頭(※命中毎に耐久力が減少)固定シールドが破壊された後はヒート・ホークを使用 主兵装 ■ザク・マシンガン■ザク・バズーカ(増加マガジン仕様)■マゼラ・トップ砲 ・・・他 コメント コレはカード名称以外、MZ-0076のデータと同じと見せかけてコストが5高い。 シールドにスパイクが付いているが…多少は通常のザク盾に比べて耐久力が上なのだろうか? 0083Ver.2(両雄激突)より、機動重視攻撃の仕様が大幅変更。フェンリル隊仕様陸ザクと同じ仕様に。 上へ戻る?
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反攻に出た米軍の第一目標になったのは、スマトラ半島とボルネオ島だ。 熱帯雨林が生い茂り、象からニシキヘビまで生息する豊かな自然に恵まれたこの一帯は、交通の要衝、マラッカ海峡と共に地下資源の宝庫としても知られている。 それだけに双方には、すでに中華帝国軍から大量の部隊が送り込まれている。 米軍は、その資源を島ごと奪還すべく、フィリピンとラピス島から機動部隊を送り込んだ。 フィリピン方面からの攻略部隊には、同盟国たる日本から送り込まれた部隊も混じっていた。 空母赤城と葛城主力の空母打撃部隊、戦艦金剛級4隻で編成される砲撃打撃部隊。 隣国がすでに敵国という日本にとって、これほどの戦力を派遣すること自体が、一種の賭けに近い。 その穴埋めとして―――いや、実際は米軍より最も投入を期待されたのが、メサイア部隊。 つまり、美奈代達だ。 美奈代達がどういう方法でスマトラ半島を突破したか? それはもう、奇跡としか言いようがなかった。 美夜自身、“鈴谷(すずや)”の戦没を覚悟した作戦を決行した。 何か? サイクロンだ。 サイクロンが発生している間は、例え軍用機といえど、容易には航空機が離発着出来ないことをいいことに、アンダマン海で偶然発生し、ジャワ海に動くサイクロンの中に入り込み、操舵手の死に物狂いの操艦でスマトラ上空を突破するという、冒険小説並の作戦を決行したのだ。 結果、完全無傷で敵上空の突破に成功した“鈴谷(すずや)”は攻略部隊に合流を果たした。 サイクロンが過ぎ去った後の、どこまでの青い抜けるような空を、真綿が浮かんでいるような純白の雲が流れていく。 エメラルドブルーの海面が、陽光を優しく照らし出す。 そんな中―――。 キュィィィッ―――ズンッ! キュィィィッ―――ズズンッ 背筋が寒くなるような音の後、腹に響き、鼓膜がどうにかなりそうな音が響き渡る。 美奈代の目の前。 “鈴谷(すずや)”の開かれたメサイア発艦用ハッチの向こう側。 上陸地点、コード“ジュノー”海岸は、この音と共に黒い悪魔のような爆発が連続して発生している。 発生源は、40センチ砲8門を搭載した戦艦―――正確には戦闘砲撃支援艦「金剛級」4隻の艦砲だ。 「全体としてはすでに上陸に成功はある」 「主力C中隊は敵と接触、剣火(けんか)を合わせつつあり」 「B中隊はどうした!」 「A中隊前進!他の部隊に後れをとるなっ!」 通信機には英語で様々な会話がダイレクトに飛び込んでくる。 爆発音。 様々な兵器の動作音 殺し合う人間の生の声。 立ち会った世界に悪酔いしそうになった美奈代は、軽く頭を左右に振った。 呼吸を整えようとするが、どうにも息が荒くなる。 水が欲しいが、どうしようもない。 心臓の鼓動が爆発しそうなくらい高まっている。 「小隊各騎」 突然、通信機に入った二宮の声に、美奈代は背筋がビクッとなった。 「はっ!」 「これより発艦を開始する」 ―――来た! 美奈代は死刑判決を受けた囚人の気持ちがわかった気がした。 死ねと言われるのは、こんな感覚なんだろう。 「状況は見ての通りだ」 ―――冗談だろう。 美奈代は首をすくめた。 何しろ、今や海岸線は艦砲支援によって、黒い壁が一面に立ちはだかっているのだ。 あそこに突っ込めというのか? 冗談じゃない。 「二宮より泉」 二宮は、発進直前になって、突然美奈代を名指しで呼んだ。 「こちら泉」 応答しつつ、美奈代ははっきりと二宮からロクなことはいわれないだろうと予測した。 いつものことだ。 「我々の上陸地点は“ジュノー”海岸のポイント“フォックスロット”だ。お前は私の後ろについてこい。いいか?離れるな?」 「り……了解」 後ろについてこい。 どうでもいいことに聞こえるが、美奈代ははっきりと、自分がその言葉にカチンと来たことを自覚した。 ―――お前は不安だから、私の後ろについてこい。 そう、言われた気がしたからだ。 見返してやる。 そう、心に誓う美奈代の目の前で、二宮騎が発艦しようとしていた。 一方、ここで米軍を出迎えるのは、中華帝国第三方面軍第82機甲師団だ。 その師団長である朱少将は、米軍上陸地点の様子をモニター越しに眺めていた。 砲撃の激しい振動でカメラが揺すぶられ、何が映っているか判りづらいが、もう慣れた。 この様子では、前線の兵士達は塹壕に籠もるしかないだろうなと、朱少将は考えた。 ただ、無駄な行動は、砲弾の破片や爆発の衝撃波で損害を増やすだけだ。 今は、それでいい。 「日本軍の砲艦が出てきましたな」 参謀がコーヒーの入ったカップを手渡ししてきた。 「政治屋共はともかく、さすがに軍人は骨があるな。同業者として喜ぶべきか嘆くべきか」 「対艦攻撃装備はまだ使うべきとは思っていません。現在展開中の部隊は、橋頭堡を築くための斬り込み隊にすぎません。本隊上陸時の上陸舟艇用に備えておくべきかと」 「斬り込み隊相手に本気になっていいかな?」 「勿論」 参謀は肩をすくめた。 「切り込み隊の大出血で攻略を諦めてくれればおめでとうです。何より、無傷で敵を内地に誘い込めば、消耗するのは我が軍の方ですが、それにしても」 参謀は憮然として言った。 「40センチ砲32門の報復は勘弁して欲しいです」 「全くだ」 朱少将は、小さく笑って頷くと、モニターを切り替えた。 別なカメラからの映像が入る。 前のカメラより500メートル後方の陣地からの映像だ。 画面一杯に、真っ黒い闇が広がっている。 「一体……?」 朱少将は首を傾げざるを得ない。 「日本軍は、砲弾に何を詰め込んだんだ?」 爆発するたびに恐ろしく濃い暗闇が立ちこめる。 報告によると、目視、レーダー、赤外線……とにかく観測兵器の全てが役に立たないという。 「不明ですが」 参謀は言った。 「はっきりしたことは、あの“闇”の向こうでは、米軍が上陸しつつあることです」 「参謀として」 朱少将は頷いた。 「あと、どれくらいで米軍は前進を開始すると思う?」 「そうですな」 参謀は少し考えた。 「上陸開始からして……時間的な転換点は」 参謀は腕時計をチラと見て、 「10分です」 そう、答えた。 「それより早ければ無謀、遅ければ無能です」 参謀の言うとおりになった。 きっかり10分後。 “闇”の向こうで信号弾が上がった。 色つきの煙幕と閃光で命令を伝えるのだが、それは“闇”をはるかに越えた高さで炸裂したため、中華帝国側陣地からも丸見えだった。 「敵に動き!」 前線指揮官の一人は、塹壕から双眼鏡で信号弾を確認した。 撤退信号なはずはない。 ここで打ち上げられる信号は一つだけだ。 「各員備えろっ!メサイアが来るぞ!」 「さぁいくぜっ!」 米軍グレイファントム部隊の上陸時点での任務は、橋頭堡の確保だ。 上陸地点の前に出て、後続の機甲部隊や歩兵達の上陸ポイントへの敵メサイアや航空機攻撃の阻止役とも言う。 その彼らが前に繰り出す。 主力部隊―――正確には上陸部隊司令部(えらいさんたち)が、やっと強襲揚陸艦から追い出され、重い尻を海岸に乗り上げ、上陸が一段落したこと。 そして、艦砲射撃支援が最終弾着を迎えたこと。 つまり、もうここに彼らが待機する理由はなくなった。 様々な要因が、グレイファントム達を待機命令から解き放ち、前へと駆り立てた。 彼らは漆黒の闇に向かって突撃していく。 「きゃぁっ!」 「なっ!?」 通信機に、そんな声を耳にしたクルツ中尉は、不意に、斜め前方を移動していたイーサン中尉騎の右腕が吹き飛ぶ光景に出くわした。 腕が後方に引きちぎられたように吹き飛んだかとおもうと、今度は左足の膝装甲付近に爆発が走り、イーサン騎はバランスを崩して横転した。 「イーサンっ!」 「く、くそっ!」 イーサンは何とか立ち上がろうとするが、脚を破壊された以上、もがくのが精一杯だ。 「大丈夫か!」 「俺のことは放っておけ!」 イーサンは通信機越しに野太い声で吠えた。 「貴様こそ前に出ろっ!」 「し、しかしっ!」 他の僚騎が、彼らの横をすり抜けて闇の中へと飛び込んでいく。 クルツはイーサン騎を一瞥すると、 「後で逢おうぜ!」 そう言って、騎体を闇へと向けた。 闇の向こうにいる敵を倒すために。 イーサン騎の仇を討つために。 だが――― 敵は闇の中から襲いかかってきた。 オレンジ色に輝く物体がクルツ騎を―――いや、グレイファントム達に一斉に襲いかかったのはその時だった。 「なっ!?」 漆黒の闇からの敵は、クルツ騎の左腕を根本から引きちぎった。 「砲撃っ!?」 まずいっ! クルツは舌打ちした。 左腕をやられた以上、シールドがない! 楯を腕ごと失い、バランスまでも失いかけた騎を必死で操作するクルツ中尉の目の前。 スクリーン一杯に、オレンジ色の光が迫りつつあった。 高価な電子兵装の塊であるグレイファントムの上半身がまともに吹き飛ばされた。 「誰の騎だ!」 闇の中へと入る直前、その光景をちらと見た騎士が怒鳴る。 「クルツ騎!」 「くそ、あの野郎!」 「ヴィット大尉!」 MC(メサイアコントローラー)が怒鳴る。 「シールドを構えてくださいっ!闇の向こうからの砲撃が―――」 ガンッ!! ヴィット大尉はその衝撃で、首の骨が折れたと思った。 それほど激しい振動が彼を襲い、彼は意識を失った。 頭部MCL(メサイア・コントローラー・ルーム)付近に直撃弾を受け、MC(メサイアコントローラー)はMCL(メサイア・コントローラー・ルーム)ごと爆死。騎体は大破したことを、彼はこの時点では知る術すらなかった。 シールドに激しい衝撃を幾度も感じながら、闇を抜けたグレイファントム達の運命もまた、過酷だった。 闇を抜けた先。 そこは本来あるべき南方特有の強い日射しに照らされた光の世界。 ボコボコに変形し、使い物にならなくなりつつあるシールドを構えたグレイファントムの騎士達は、突然の浮遊感に襲われた。 「なっ!?」 もんどり打ってグレイファントムが地面を転がる。 それも一騎や二騎ではない。 何騎ものグレイファントムが同じような目に遭わされた。 砲撃地点の前方少し前にあったメサイアサイズの塹壕に落ちたのだ。 「くそっ!」 落下の衝撃で故障した各部からの警報が鳴るコクピットで、マックス大尉が、やり場のない怒りを爆発させていた。 彼の騎は大の字になって塹壕の下に転がっていた。 こんな目に遭わせてくれた敵以上に、こんな無様な醜態をさらしている自分自身が許せない。 「畜生のコンコンチキのクソッタレのマザーファッカー!」 落下のショックはシートが吸収してくれたが、怒りばかりはどうしようもない。 ガンッ! 激しい音と共に、何かが落下してきた。 どこのマヌケが――― 自分のことを棚に上げ、音がした方角を向いたマックスの視界に入ってきたのは、垂直に落下して砲塔がへしゃげた戦車だ。 しかも一両や二両ではない。 軽く20メートル近くの落下だ。いくら戦車でも無事では済まない。 特に、中の戦車兵達は――― 「畜生めがっ!」 マックスは騎体を無理矢理操作して立ち上げ、速射砲を準備した。 まだ撃てる。 「マーク、セドリック、返事をしろっ!まだ図々しく生きているヤツがいたら、誰でもいいっ!ラードック、モーリスっ!応答しろっ!」 「カークスですっ!」 「イーリッド、生きてますっ!」 通信機に生き残った騎士達の声が入る。 「よしっ!」 マックスは心の底から満足したという顔で頷いた。 「集まれっ!借りを返すぞっ!」 「了解っ!」
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「きゃあっ!」 とっさに構えたシールドが左腕ごと切断された。 シールドを持った左腕が宙を舞い、地面に落下していく。 「な、何が!?」 シールドが全く何の役にも立たなかった。 装甲をチーズのように切り裂くという表現があるが、これじゃまるで豆腐だ。 「近衛の装甲って、飾りなの!?」 左腕を失ってバランスを失ったさつきは、騎体バランスをとろうとSTRシステムと格闘しながら怒鳴った。 「装甲の役目果たしてないっ!」 「早瀬っ!」 宗像が怒鳴った。 「長野教官との接触は一時お預けだ。降りるぞ!」 「で、でもっ!」 「敵の機動性に、こっちがついていけない。このままなら一方的にこっちが不利だ!」 「―――わかった!」 「美晴、私と一緒に敵騎をけん制しろ。さつきは後退しろ」 「了解っ!」 「困るんだよ」 静かな、しかし明白な叱責を含んだその一言に、神妙に頭を下げたのは、かつて神音の元を訪れたあの男だ。 「ユギオ……もう10年だ」 「……はっ」 神音の前でみせた軽さはどこにもない。 「この10年間の我々の投資額を、考えたことはあるのか」 「……申し訳ありません」 「我々にも投資するからには理由(わけ)がある。世論が言うような馬鹿げた慈善事業(きれいごと)に投資しているつもりはない」 「はい」 「この10年間、何をしてきた?レンファの怠慢ぶりにすべての責任を負わせるつもりだろうが、我々相手ではそうはいかんぞ?」 「……」 「レンファを選んだ選定ミスといい、その怠慢を放置したことといい、お前達の罪こそ叩くべきだという者が圧倒的多数だ。 状況は10年前とは大きく変化しつつある。 世論は負けっぱなしのお前達に愛想を尽かし始めている―――誰の非かは、一々口の端に乗せるつもりもない」 「……」 「……一年だ」 「一年?」 「これが最後通告だぞ、ユギオ」 「一年で、せめて我々を説得するだけの功績をあげろ」 「……はっ」 「―――さて。状況を説明してもらおうか?その……人類同士に争わせるという話を」 ● 特殊艇“ヒューマー”艦橋 「トラウムへようこそ!エーランド少佐!」 特殊艇“ヒューマー”艦橋に入ったエーランド少佐を出迎えたのは、ずんぐりとした体型の中年男、ゴトランド大尉だ。 エーランド少佐とは、長年に渡って魔界の辺境紛争で死線をくぐり抜けてきた因縁深い仲だ。 「世話になるぞ。ゴトランド」 「なんの」 ゴトランドは楽しげに肩をすくめた。 「ベネルスボリイ紛争以来ですな。すでに退役されたと聞いていたのですが」 「ぬるま湯の生活は性分にあわん」 「少佐は戦場の方がお似合いです」 「世辞か?」 「ハハッ!まさか!」 「まぁいい。“鍵”の現在位置は?」 「はっ―――おい」 ゴトランドに声をかけられた彼の副官が一礼の後、スクリーンを操作した。 スクリーンに映し出されるのは、アフリカからアラビア半島にかけての地図だ。 「3時間前、“アフリカの角”を離れた“鍵”は現在、アラビア湾を移動中。このままのコースをとると、オマーン湾、ホルムズ海峡を経由して、明後日にはドバイに入ります」 「ドバイ?」 「人類が作り上げた砂上の楼閣ですよ」ゴトランドは言った。 「酒に女に―――ロクでもないところですよ」 「ずいぶん楽しんだらしいな」 「ガハハッ!少佐にはかなわない―――まあ、船乗りの特権とでも見てください」 「とがめてはいないさ」 スクリーンから視線を外すことなくエーランド少佐は小さく笑った。 長い金髪が照明を美しく反射して輝いている。 背の高い、すらっとした容姿といい彫りの深い顔立ちといい、俺なんかよりずっとドバイの女達にはモテるだろうな。と、ゴトランドは内心思った。 「どのあたりで追いつきそうだ?」 「艦そのものが追いつくのはアラビア湾上空、16時間後を予想。ですが、メースでしたらソコトラ島上空、発艦後1時間以内で叩けます」 「忙しいことだ。部隊の乗艦が済んだばかりだというのに……」 「前祝いですよ」 「そう願おう」 エーランド少佐は笑みを真顔に戻した。 「ゴトランド、出るぞ!」 「了解っ!」 ●“鈴谷(すずや)”士官室 泉美奈代が20年近い人生の中で、この日、初めて自覚出来た感情が一つあった。 嫉妬だ。 「……」 「いや……だから」 美奈代達の目の前では、別室で食事をとる染谷達の姿があった。 染谷達といっても、染谷と後は二人。 小林少尉と、あの金髪の少女―――フィアだ。 あどけなさの残るものの、恐ろしいほど愛くるしい体を、艦内用に支給されているスウェットスーツに包んだフィアは、まるで体を染谷にすりつけるような、甘えた仕草をしながら食事を続けている。 目の前の美奈代達なんて眼中にないといわんばかりだ。 「行こう?。美奈代」 「そうだな」 「ちょっと待って!」 女子候補生からのあからさまな冷たい視線を、半分泣きそうな顔にやっと笑みを浮かべて誤魔化そうとしていた染谷は、その冷たい言葉に悲鳴に近い声を上げた。 「あ、あの……その……」 声がうわずって、うまくしゃべることが出来ない。 「こ、こういう女の子は、女の子が面倒を」 つまり、代わってくれ。と言いたいのだ。 ところが、頼んだ相手は―――。 「私達メサイアパイロットの候補生だし」 さつきは汚物を見るような目つきで言った。 「任務じゃないわね」 「そういうことだ」 「だから誤解だ!ぼ、僕は!」 立ち上がろうとした染谷だったが、腕を掴まれ、動きを止めた。 フィアが甘えた顔で染谷の腕に抱きついたのだ。 染谷の腕に頬をすり寄せるフィアの表情は、恍惚としている。 「……はいはい」 美晴が冷たい声で言った。 「ごちそうさま」 「まさか……染谷がロリコンだったなんて」 「よく憲兵隊が何も言わないものだな、この性的病人に」 「恐ろしく言いたい放題言われている気がするのは何故だろう」 「私達、これから訓練だから」 「通りかかっただけなんです」 「病気が移ると困るので。失礼します」 「一体、君たちは僕をなんだと思って!」 抗議する染谷に、美晴とさつきが揃って答えた。 「性犯罪者(×2)」 「なっ!?」 「……その格好で」 中学生位の少女とベタベタしている光景を冷たく指さして宗像は言った。 「自分がノーマルだと言う方がどうかしている……訓練に遅れるぞ?行こう」 宗像に促され、じっと二人を見つめていた美奈代は、しぶしぶという顔で踵を返そうとした。 不意に、フィアの視線が美奈代のそれとぶつかったのは、その瞬間だ。 感情を殺した美奈代の視線と、好奇心さえ感じるフィアの視線。 動いたのフィアだ。 まとわりついていた染谷の腕から体を離し、一瞬だけ美奈代に挑発的な笑みを浮かべたかと思うと、首を伸ばして瞳を閉じた。 チュッ そんな効果音が、小さく響いたのは、その直後のことだった。 ●“鈴谷(すずや)”ハンガーデッキ 「一体、誰なのよ?あの子。ねぇ、美奈代?」 しきりと拳銃の手入れを続ける美奈代は、妙に何かをぶつぶつ言い続けていた。 「?」 さつきが、そんな美奈代の口元に耳を近づけた。 「……暴発による業務上過失致死は……」 「やめなって!」 「……劇薬を、食事に混ぜるのはどうだろう……」 「勘弁してよ!」 さつきは美奈代の肩を揺すった。 「私ゃね!?ワイドショーで“あの子なら、絶対いつか何かやるだろうと思っていました”なんて言いたくないからね?」 「早瀬……せめて“あんな真面目そうな子が”程度にしてやれ」 宗像は言った。 「初めて出来たオトコに、別のオンナが出来たんだ。嫉妬するなという方が無理だ」 「それが流血沙汰ですか?美奈代さんらしいというか」 「お前ら、私を何だと思っているんだ?」 美奈代は声を荒げた。 「まるで、二宮教官の男運のなさが乗り移ったみたいに!」 「どういう解釈かわかんないけど……そうか」 ポンッと手を叩いたのはさつきだ。 「そう考えれば、染谷が美奈代に惚れるなんて前代未聞の珍事も納得出来る!」 「結果は100%の失恋ですね!」 「かなり手ひどい終わり方になるな……なにしろ、あの人の男運だ」 「ちょっとぉ!」 「泣くな泉。オンナに走ればいいことだ。いつでも協力してやろう」 「それで……二宮教官が普通の男運になれば」 美晴が言った。 「二宮教官も今年こそ本命のカレが出来ることに!」 「1年前に、これが現実になっていればよかったのにねぇ……」 さつきはしみじみと言った。 「欲求不満を、私達へのシゴキで発散するなんていう、不毛な生活を、教官も味わわずに済んだのに」 「風邪だって、誰かにうつすとよくなるって言いますしね」 「あんなにヒドイ男運もらってたまるもんか!」 美奈代はたまらずに怒鳴った。 「あれは不幸どころじゃないぞ!あんなヒドい男運をもって、それでもオンナとして―――」 次の瞬間、美奈代は、目の前で腕組みしながらにっこりと微笑んでいる相手を見て二つのことを思いついたという。 一つは、フィアというオンナ殺して自分も死ぬか。 もう一つは、ここで死ぬか。 ……しかし、相手はそんな美奈代の子供じみた発想を認めてくれるほど、甘くはなかった。 何しろ、相手は、美奈代達にとって鬼より怖い相手なのだ。 ●“鈴谷(すずや)”艦橋 「大陸から?」 「間違いありません」 美夜に答えたのは、レーダー要員の川村真由軍曹だ。 「電探、魔探共に反応ありませんが、衛星がとらえています」 「連中は、人工衛星というものを知らないらしいな」 美夜は、その間抜けぶりがほほえましくさえ思い、小さく笑った。 「どれくらいで接触しそうだ?」 「推定20分後」 アデン湾上空1200メートル上空。 あと10分でソコトラ島上空にさしかかる。 海上では圧倒的に不利だが、陸地ならメサイアも本領を発揮して戦える。 進路は決まった。 「針路変更。ソコトラ島へ向かえ―――全艦戦闘態勢、メサイアの発艦急がせろっ!」 “鈴谷(すずや)”の“目”が接近するメースをとらえたのはそれから5分後のことだ。 海面すれすれを高速で移動してくる反応は3。 反応の大きさはメサイア級だ。 訓練のため発艦しようとしていたメサイア隊は即座に武装を演習用のそれから実戦用のそれに変更し、艦を続々と離れた。 皆がアフリカ大陸方面からの攻撃に備えていた。 何が来るかわからない。 レーダーが攻撃をとらえるかさえ不明。 美奈代達は、内心でおびえながら神経をアフリカ方面へと集中させていた。 ―――しかし ●紅海上空 太い光が走ったかと思うと、 「きゃっ!?」 左舷側に展開していた美晴騎から悲鳴が上がった。 「な、何!?」 「6時方向より艦砲射撃!」 牧野中が怒鳴った。 「魔族軍が後ろから!?」 「違います!この攻撃は―――」 ●“鈴谷(すずや)”艦橋 「北イエメン軍だと?」 「艦艇数6,いずれも“25型”コルベット艦タイプ」 「ずいぶんな骨董品だな……まだ浮いていたのか?」 「艦長。飛行艦“ホデイダ”より通信です」 「通信?」 「貴艦は我が領空を侵犯しつつあり。速やかに武装を解除し停船せよ。停船に応じない場合は……撃沈する」 「馬鹿な!帝国はソコトラへの寄港と上空通行の許可を―――!」 わめきかけて、美夜は司令部が犯した大失態にようやく気づいた。 「通信……相手は、北イエメン軍と言っていたな?」 ●紅海上空 「少佐。敵に増援の模様」 「さっきの一撃は、景気づけですかね」 「……さてね」 海面すれすれを高速で移動するメースのコクピットで、エーランドは小さく笑った。 ついさっき、観測された高魔法エネルギー反応。 それは、全く見当違いの方角を狙った一撃にすぎなかった。下手をすれば味方に当たっていたはずだ。 接触しようとする艦があの艦の味方なら、あんな発砲は、意味を為さない。 「……まさかな」 エーランドは、自らにわき上がった発想に首を振った。 「あれが、あの艦にとっての敵だなんて……」 「少佐、どうします?」 「エーリヒ、クンニ。このまま突っ込むぞ。お前達は後方の艦をやれ」 「了解っ!」 ●“鈴谷(すずや)”艦橋 イエメン共和国。 それが、現実世界の名だが、それは1990年5月22日の南北イエメン合併があってこその存在だ。 かつての一大王国イエメン王国は15世紀に王朝が分断し、南北両イエメン王朝が成立。ヨーロッパの植民地化など紆余曲折の末、再び両国が成立したのは1967年のこと。 南イエメン王国と、北イエメン共和国となって以降も、相手国は自国の領土と主張し、紛争が絶えない。 相手国は自国領。 つまり、ソコトラ島も片方の国からすれば領土なのだ。 だからこそ、ここを通行したり利用したければ、双方の国に許可を得る必要がある。 それがこの紅海を渡る際の常識だ。 ところが――― 「北が来るとは……」 美夜が頭を抱えたのも無理はない。 帝国外務省は、国交がないことを理由に、北イエメンからの通行許可を入手していなかったのだ。 “鈴谷(すずや)”は北イエメン軍からすれば、領海・領土に侵入する敵でしかない。 「前門の虎……後門の狼……か」 「どうなさいますか?」 「“ホデイダ”へ通信開け。我、魔族軍の追撃を受け撤退中。通行を許可されたし」 返答は至近距離を狙った攻撃だ。 「図々しい……ってわけか」 もう苦笑するしかない。 「針路そのまま、艦隊を突っ切るぞ!」 ●北イエメン軍飛行艦“ホデイダ”艦橋 “鈴谷(すずや)”が向かう先に展開するのは、アヴドラ提督率いる北イエメン軍だ。 「日本軍、速度落とさずに接近します!」 レーダー手の報告に、アヴドラ提督は無言で頷いた。 「日本軍となれば恐れる必要はない」 「しかし」 アトバラ副司令は異議を唱えた。 「ここでの交戦は日本との国際問題に」 「あんな腰抜け共に気を使う必要なんてあるものか。だいたい、外交チャンネルのない国同士で、どうやって国際問題が起きる?」 「それは」 アトバラはそれでも食い下がった。 相手はメサイアをすでに発艦させているのだ。 「魔族軍の追撃から逃れてきたと宣言しています」 「欺瞞だ」 アヴドラ提督は言い切った。 「問題は、連中が我が国固有の領土を侵していること。違うか?」 「……はっ」 「なら、我々がここで国際法にのっとり、停戦命令を出すことに問題はないだろう」 アヴドラ提督は命じた。 「停船しないならば撃沈しろ!照準、日本軍艦艇!」 ●“鈴谷(すずや)”艦橋 「北イエメン軍索敵レーダー、本艦を照射!」 「どうしても、やるつもりか」 「艦長!8時方向から魔族軍メサイア2騎、本艦を追い抜きます!」 「追い抜く?連中、どこへ?」 「針路には、北イエメン軍が」 「記録しっかりとっておけよ!?あの黒人共に警報を出せ!」 「本艦の対空砲は!?」 「動ける候補生共は、全員対空砲座につかせろ!けん制だけでやらせるんだ!」 海軍艦艇が搭載する、実体弾を使用する対空システムは、砲弾一発ずつの一発必中を前提とはしていない。 敵機の予想針路に面で砲火を叩き込むことで、どれか一発ぶち当てるような、そんな仕組みにすぎない。 別な表現をすれば下手な鉄砲を数撃って当てる仕組みなのだ。 これに対して、飛行艦の対空砲は、弾数こそ少ないが、SC(シップス・コントローラー)の火器管制によって射撃されるML(マジックレーザー)を使用する関係上、一発ごとに命中が期待出来る。 無論、一発必殺の狙撃がそう簡単に出来るはずもないし、こんなことが公然と言われるようになったのは、第4世代の火器管制装置が出回ってからだ。 現在、イエメン軍が装備する飛行艦とその砲は、ML(マジックレーザー)が開発されたばかりの頃の代物。 一発必中なんて夢物語。 撃てるだけマシ。 そんな頃の代物だ。 現在の艦艇の中でも一二を争う高額な装備である火器管制装置を、イエメンのような貧乏国がそう簡単に更新出来るはずもない。 さらに、イエメン軍の配備する飛行艦は、ML(マジックレーザー)砲を主砲以外に搭載していないフリゲート・タイプと、さらに小型のコルベット・タイプにすぎない装備の貧弱さもある。 つまり、何が言いたいかというと――― ●紅海上空 魔法攻撃の火線が走り、すぐ近くの海面で連続した爆発が生じる。 「下手くそがっ!」 派手な爆発ではあるが、騎体が水を被ることさえない。 全く見当違いの場所に攻撃が降り注ぐ中、メースを駆るエーリヒは、僚騎を駆るクンニと共に海面を自在にメサイアで駆ける。 ML(マジックレーザー)を、右へ左へとかわすその機動は、とても人類側のメサイアの出来る芸当ではない。 エンジン出力と、そこから生み出される大推力に裏付けられた、魔族軍メースの真骨頂というべき機動だ。 「クンニ!やるぞ!」 エーリヒは、腰にマウントしていた銃を構えた。 人類の分類で言えば、ML(マジックレーザー)砲を連射出来るML(マジックレーザー)速射砲が陽光に照らされ、黒く鈍い光を放つ。 海面の爆発が段々と近づいてくる。 さすがに接近すれば敵狙いやすいということか。 エーリヒはそう思うが、恐怖だけは感じなかった。 これで恐怖を感じていたら、ずっと昔に死んでいるはずだ。 ズームしたように接近する人類側の飛行艦に、エーリヒは照準を合わせた。 ●“ホデイダ”艦橋 飛行艦サヌアの真横を、メサイアがすり抜けた。 アヴドラ提督の目にはそうとしか見えなかった。 ただ―――すり抜けた。 そう見えたのだ。 だが……。 ズンッ!! 次の瞬間、サヌアは上下二つに引き裂かれたように爆発、炎の塊に変化した。 爆発の衝撃が、斜め後方を飛行していた“ホデイダ”を激しく揺すった。 「なんだ!?」 「メサイアです!」 突然の振動にバランスを崩し、手近にあったパイプを掴んだアトバラは怒鳴った。 「メサイアがやったんだ!提督!」 その時、彼の目に映ったものは、席に座る提督と、その背後の船窓越しに見えるメサイアの青い騎体だった。 ●“鈴谷(すずや)”艦橋 「“ホデイダ”、撃沈!」 「これは……艦長!」 目の前で一方的に沈められていく北イエメン軍飛行艦達を前にした高木副長は、すがるような目で美夜を見た。 「真理!」 美夜はインターホンを掴むと、二宮に回線を開いた。 「敵メサイアをけん制して!その間に“鈴谷(すずや)”はソコトラに逃げ込む!」 ●紅海上空 「了解した」 二宮は答えると、教え子達に命じた。 「全騎、当てなくていいから、敵騎の“鈴谷(すずや)”への接近をくい止めろ!“鈴谷(すずや)”からの対空砲火の巻き添えになるんじゃないぞ!」 「了解っ!」 「2騎同時に動け!1騎がけん制のための砲を撃て、もう1騎は斬艦刀を装備、敵が近づいたら振り回せ!」 ちらりと美奈代騎を睨んだ二宮は続けた。 「楯になってもいい!」 「何で私を見ながら言うんですか!?」 「ふんっ」と、二宮は鼻を鳴らした。 「泉は私と組め。長野大尉は柏と、さつきと宗像でペアを」 先の戦闘で捕獲したハルバードを装備するのは、さつきと美晴。剣は二宮、手斧は長野が装備している。 さつきと美晴は長物が得意だということは、富士学校時代から体に叩き込まれているので、美奈代は文句を言うつもりもない。 飛行戦闘という、メサイア同士の戦闘では異例の戦いでも、リーチを稼げる長者使いを上手く使った方が効率がいいこともわかる。 ただ―――なんで自分が二宮教官と? そんな美奈代の疑問に答えるように、二宮がイヤミたっぷりに言った。 「男運のないオンナ同士、仲良くやろうじゃないか」 「さて……逃してくれるかしら?」
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昨日 - 今日 - 15年戦争資料庫 ページ数3119一部公開 「南京事件」143枚の写真&読める判決、「ラーベの日記」を読みながらブログ『1937年秋冬コレクション』、産経iza 安禅不必須山水 iza!(復活)もどうぞ. また、ja2047 memorialとTohoho ピース ウォークも. ■当資料庫の御利用にさいしてのお願い メニュー欄から現場にたどり着けないときは、サイト内検索を御利用ください。複数のキーワードを使えば「and検索」ができます。 サイト内検索 and or New! 宇都宮けんじさんへの諌言書 New! 第13回-第14回 福島県県民健康管理調査検討委員会 甲状腺検査結果について New! 舩橋淳(映画作家) 今は平時でなく、戦時になりつつある~圧倒的な危機感という視点~ New! 都知事選候補者宇都宮氏と細川氏の記者会見 New! 東海村での未就学児甲状腺検査の結果(2013)と5歳女児肺転移甲状腺がんの症例(2009) 福島県外3県における甲状腺結節性疾患有所見率等調査成果報告書について 素線量に関するメモ 甲状腺がんの罹患率(発生率)10 万人あたり~国立がん研究センター「がん統計」より New! 5月30日のUNSCEAR報告書プレスリリース仮訳 橋下徹大阪市長の慰安婦妄言 【資料】遭難者はどちらも心臓に持病 作られた逮捕 10ミリシーベルトでも危険 ~ICRPは放射線被ばくの発がんリスクを1/10に過小評している・松崎道幸 5.8キツネにつままれた仙台高裁の判決(決定)を読み解き未来を提示する緊急の判決報告会(第1回目) ふくしま集団疎開裁判・仙台高裁2013-04-24決定 ふくしま集団疎開裁判・仙台高裁の判決 福島第1原発事故 市町村別、甲状腺検査結果を開示 【部内参考資料】東大早野教授らの「内部被曝はゼロ」報道誘導論文 集団疎開裁判の会リーフレット・改訂版 「鈴木眞一学会」のこと :県外3市の甲状腺検査結果(環境省) 国連人権理事会UPR日本報告を採択(死刑、代用監獄、「慰安婦」、フクシマ) 「放射線被ばくと健康管理のあり方に関する市民・専門家委員会」からの緊急提言 子どもたちを被曝から守ろう! 集団疎開裁判の会リーフレット ⇒集団疎開裁判の会リーフレット・改訂版 甲状腺検査説明会20130210at二本松by鈴木眞一 チェルノブイリ小児甲状腺がんと事故時年齢 甲状腺がん新たに2人、第10回福島県県民健康管理検討委員会についての報道 年賀状に換えて 12.28日比谷屋内集会「『集団疎開裁判』と福島の今までとこれから」【配布資料】 「公衆の線量限度は年間1mSv」 国内法の記述ついて 甲状腺検査に関する緊急資料集 緊急資料集・10月末日=「甲状腺検査」説明会を前にして 「公開質問状について」スライドby ni0615 緊急資料集・11月10日 緊急資料集・速報11月11日 11月10日説明会@福島市・県側配布資料 【緊急資料11 月16 日】甲状腺検査・診断における「福島県立医大メソッド」について 福島県民健康管理調査の問題点index 甲状腺がんについての「公開質問状」:内部被曝研2012_10_15 毎日新聞スクープ_福島健康調査 「秘密会」で見解すり合わせ 内部被曝問題研究会が理事長声明を発しました 放影研の「原爆被爆者の死亡率に関する研究 LSS第14報」に関する資料 生井兵治さんの「放射線安全神話を撃つ」121024@明石町 IAEA特別歓迎用プラカード 「原発と共存する日本」から「原発事故と共存する日本」へ 奥村岳志さんの論考「IAEAと福島 管理人用for myself ICRPとIAEA文書の本棚 放射線審議会委員名簿 不測事態のシナリオ 資料:原発村OBによるNHKにたいする「抗議と要望」 ついに虚言もここまで来たか、中川恵一「チェルノブイリの教訓」週刊新潮12.1 人体影響・チェルノブイリなどからの知見 電力会社の秘密警察を務めたエネ庁と科学技術館~東京新聞2011.11.20 ホールボディ検査・計画と結果報告 ver_6南相馬市のWBC検査の結果は安心できるか.pdf 3月末に行われた児童の甲状腺検査について 山下俊一教授と日本財団 1Bqの摂取が与える預託線量Sv 公開された資料で判明報じられなかったプルトニウム「大量放出」の事実 ヨウ素131における「線量係数」一覧2011.8.21改訂しました 特設庫・放射能汚染とデマ汚染に抗す 長崎大・山下俊一教授の『語録』 小出裕章:たね撒きジャーナル 小出裕章:最新講演ビデオ 今中哲二:低線量放射線被曝とその発ガンリスク ICRPの2007年勧告:index 児玉龍彦氏の発言 田口汎 広島・長崎原爆被爆の原点に戻る index 笹本征男インタビュー占領下の原爆調査が意味するもの(上) 笹本征男インタビュー占領下の原爆調査が意味するもの(下) 7/8東大緊急討論会におけるレジュメ:島薗進「放射能の影響と戦後日本の医学」 twitterより:島薗進氏による中川保雄『放射線被曝の歴史』(1991年)の紹介 必読! 低線量被曝による「脳障害」「不妊」「糖尿病」などを警告するドイツ女医のインタビュー 黒鉄好のレイバーコラム「時事寸評」第10回:被曝地フクシマで進行する戦慄の事態~ついに刑事告発された御用学者・山下俊一らの大罪を問う! 発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針 いわゆる『防災指針』:「原子力施設等の防災対策について」原子力安全委員会 「環境放射線モニタリング指針」平成 20年 3月原子力安全委員会 放射能汚染とデマ汚染に関するメモ 阪神教育闘争・文献リスト Validation もろもろ ☆新防衛大綱考 ☆ウィキリークス情報 尖閣列島問題、河内謙策氏の論考をめぐって 河内謙策氏の反中国・尖閣闘争論 【参考資料】右派諸氏の尖閣紛争・戦争論 番外:映画『ザ・コーヴ』関連 デマビラ『朝鮮進駐軍』の話iza 「韓国併合」100年日韓知識人共同声明 2010年5月10日 全文 日韓歴史共同研究」 第二次報告本文リンクと関連資料を収集中です。 日中歴史共同研究」 第一次報告本文と関連資料を収集中です。 大田昌秀講演「沖縄戦と集団自決裁判について」 「ある神話の背景」の研究 「海上挺進第三戦隊陣中日誌」の研究 竹田宮と第84師団派遣中止 -自家用 《資料庫Menu》 読める控訴審判決「集団自決」 沖縄戦庫/沖縄戦資料index/沖縄戦ニュース/沖縄戦裁判 従軍慰安婦庫 在日由来&徴用と連行庫 満州事変庫 南京事件庫/ 「百人斬り競争」と南京事件 内容目次 日中戦争庫 太平洋戦争庫 BC級戦犯庫 昭和史庫/ 兵は凶器なり15年戦争と新聞メディア一覧 台湾の歴史・日台関係史 靖国問題庫 歴史共同研究庫 「偉そうな軍人さんは嘘をつく」庫 「警察官は制服を着ているとなぜ威張るのか」庫(未作成) 9.11陰謀論庫 資料探索庫 平和思考庫 贋声嘯聚 New! 歴史改竄デマビラ New! その他庫 番外庫 新資料庫 GAZA兵器と人間・資料庫@wiki izaブログ最新 izaエントリー・リスト 管理人へのメール Link---- ブライダル 不動産検索
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「泉准尉が撃破した正体不明の騎は」 作戦終了後、洋上に撤退した“鈴谷(すずや)”のハンガーで、美夜は二宮に言った。 その背後には、美奈代が撃破した三騎のメサイアの残骸が転がっている。 「中華帝国軍の最新鋭メサイア―――それも」 整備兵達が忙しく立ち回るのをチラリと見た美夜は続ける。 「王制党親衛軍の次期専用騎と見て間違いないわね」 こうして見ると、その装甲の分厚さは信じられないほどだ。 整備兵達が騎体のあちこちを調べているのを眺めながら、美夜は嬉しげに言った。 「この騎をこの程度の破壊で確保出来たことは、実に有益な事よ」 そして、苦い顔をしている二宮に言った。 「あんたの騎体中破は、部下の功績で不問にされるだろうし」 「……感謝、します」 二宮は、むすっとした顔で敬礼した。 その顔が余程気に入ったのか、美夜は嬉しげに微笑んだ。 「あんたの弟子にしておくにはもったいない素質ね。あの子」 「……」 「育てた甲斐があったんじゃない?」 「このことで」 二宮は言った。 「つけあがらなければ良いけど」 「大丈夫じゃない?」 “鈴谷(すずや)”帰艦時点のスコア16騎、陸戦艇1の戦果は、むしろ伝説の世界だ。 美奈代騎担当の整備兵達の足取りが明らかに軽いのがわかる。 「―――とはいいたいけど」 美夜は、ちらりと二宮を見た。 「あの子、抜擢されるかもよ?」 「抜擢?」 「内親王護衛隊(レイナガーズ)か、天皇護衛隊(オールドガーズ)」 「まさか!」 「なにがよ」 美夜はあきれ顔だ。 「宗像准尉だって、内親王護衛隊(レイナ・ガーズ)配属が内定していたんでしょう?それに、あなただって―――」 「おおいっ!艦長っ!」 ハンガーの隅々まで届くその大声を発したのは、坂城だった。 「あの騎体のことだが」 今、艦長室にいるのは、坂城とその部下のシゲ、美夜と副長の高木少佐。そして二宮と長野だけだ。 壁にもたれかかった姿勢で腕組みをする坂城の表情は、愛用のレイバンに隠れてわからない。 「エライことがわかった」 「エライこと?」 「電磁筋肉はアメリカ製のE&H社製の最新型。去年の冬、シンガポールの見本市でお披露目になったばかりの量産されていないヤツだ。ついでに電子機器の大半はドイツ製」 「……」 「……」 皆がポカンとした顔で坂城を見た。 撃破したのは中華帝国騎だ。 戦闘後、捕虜となった騎士とMC(メサイアコントローラー)は中華帝国人だ。 「どういうことです?」 長野が訊ねた。 「対立する国のパーツで組み上げた騎だというのですか?」 「そんなこと、俺が知るか」 坂城はにべもなく答えた。 「俺は技術屋で、政治屋や外務の役人じゃねぇ」 「……」 「といっても、俺からすればもっと厄介なことがある」 坂城はそう言うと、ポケットから何かを取り出すと、長野に放り投げた。 「外せたのは、それだけなんでな」 それを長野は両手でキャッチした。 銀色に輝く金属の塊。 サイズはタバコのフィルターくらいだ。 恐ろしく軽い。 「検査は中央に任せるつもりだ。“鈴谷(すずや)”の機材じゃ詳しいことはわからねぇ」 「これは?」 手の上で転がすように眺めていた長野が訊ねた。 「泉の嬢ちゃんがブッ倒した騎が掴んでいたエモノから外したのさ」 「獲物?あのバズーカですか?」 「ああ」 坂城は顎で合図すると、脇に控えていたシゲがテーブルに写真を数枚、ひろげた。 「長野大尉さんよ―――そいつが何で出来ているか、わかるか?」 「……アルミですか?」 二宮や美夜達も長野からその金属を受け取った。 「そうね……でも、アルミにしては感触が」 「詳しくないけど……セラミックかしら?」 「硬度からしてアルミでもセラミックより固てぇ」 「じゃぁ、なんです?」 「さぁな……学者先生にでも聞いてくれ」 壁から離れた坂城が、写真に広げられたテーブルに両手をついた。 「俺からすれば、泉の嬢ちゃんの最大の功績は、“こいつ”を捕獲したことだ」 テーブルの上に広げられた写真は、すべてあのバズーカの各部を撮影した物だ。 「単なる……」 長野は、そこまで言いかけて口を閉ざした。 実体弾ではなく、大口径高出力のML(マジックレーザー)砲だ。 それだけなら、長野は発言を止めなかったろう。 問題は、発射時にML(マジックレーザー)特有の反応は何もなく、メサイアのシールドを瞬時に融解させるほどの破壊力を持つ。 トドメとして、横にいる上官、二宮が感知するどころか、避けることさえ出来なかったことだ。 MC(メサイアコントローラー)二人が“攻撃はセンサーで拾えなかった”と主張しているし、ログもその通りだったことを示している。 ML(マジックレーザー)攻撃飛来を告げるセンサーが、ML(マジックレーザー)攻撃を検知出来なかった。 かすっただけで、対ML(マジックレーザー)コーティングが施された装甲が溶けた。 それは、看過出来る話ではない。 「これから話すことは、俺の仮説に過ぎねぇと思われるだろうが」 坂城は言った。 「こいつは人類の造った代物じゃねぇ」 「……は?」 二宮と美夜が目を点にした。 「どういう?」 「まず、こいつにはネジがねぇ」 二宮が見る限り、坂城は本気だ。 「それらしいモノぁあるんだが、バラし方がわからねぇ。もし、中華製だとしても、工業規格ってもんは今時世界共通だ」 「……」 「わざわざ、この砲のためだけに、特別な規格を造ったなんてこたぁありえねぇ」 「……よろしいですか?」 坂城とほぼ同い年の高木が言った。 「憲兵隊からの報告によれば、捕虜が興味深いというか、おかしなことを」 「ん?」 「あの兵器は、中華帝国でも知っている者はごく一部で、単に“筒”とだけ呼ばれていたそうです。捕虜達も数日前に初めて見たと」 「“筒”?」 「はい。装弾数6発。実は」 高木が首を傾げた。 「おかしい。というのは、ここからでして」 「言ってみろ」 「はい―――パイロットやMC(メサイアコントローラー)達が知っているのは、その砲の使い方……単に、トリガーを引くことだけなんです。しかも、彼らは、この兵器をML(マジックレーザー)を発射出来るバズーカ程度としか聞かされていません。使用後は梱包の上本国送り。なにより分解整備は禁止されていたそうです」 「……で、だ」 坂城はテーブルの上にあった写真の一枚を掴んだ。 筒の端に取り付けられていた金属製のプレートが写っていた。 「何て書いてあるかわかるかい?」 「ん?」 美夜が写真を受け取ったが、 「……?」 首を傾げるしかなかった。 「少なくとも、目にしたことのある表記じゃないわね」 「北京語、ハングル、アラビア語にサンスクリットまで調べたが、該当するモノぁねぇ」 「じゃあ?」 「……シゲ」 「へい」 脇に控えていたシゲが鍵の付いたアタッシュケースを開いた。 「……こいつは、アフリカの記念にもらっておいた代物だ」 アタッシュケースの中身は、半ば焼けこげた金属のプレートだった。 「これは?」 「魔族軍のメサイアの残骸さ」 「!?」 その一言に、二宮と長野の表情が強ばった。 「アフリカで擱座した魔族軍メサイアで、“鈴谷(すずや)”に収容されたのがあったろう?あの騎体から剥がれ落ちたプレートが、これだ」 坂城は写真とプレートを横に並べた。 「―――比べてくんな」 「……い」 何度も見た。 目が痛くなるほど見比べた。 そして、そういう結論にイヤでも達した。 「一体……これは」 長野が救いを求めるように上官達の顔を見た。 その表情は硬く強ばっている。 「……坂城整備班長」 美夜は殺気だった声で言った。 「情報に感謝する」 「プレートは返しておくさ」 坂城は言った。 「これから、イヤでも手にはいるだろうからな」 坂城がアタッシュケースから取り出し、写真の上に乗せたプレート。 写真とそのプレートをみれば、イヤでもわかるだろう。 一つは魔族の兵器からとったプレート。 もう一つは、中華帝国軍メサイアの兵器のプレート 接点はない。 あってはならない。 そのはずなのに。 「中国人っては、誰と商売しているんだ?」 二宮の皮肉を咎める者は、ここにいはなかった。 誰でも一目でわかること。 プレート同士の言語は―――共通していた。