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山を越えるとカーキ色の大地が広がり、ホラサーン州の州都マシャドはもう直ぐです。外国からの巡礼者達の多い夏休みなどは、敬虔なイスラム教徒の人々でごった返しています。 最初の頃は黒ずくめの女性達に、違和感を覚えましたが回を重ねるごとにそれもここならではの、風景と思えるようになりました。 初めてここを訪れた時は印象的でした。兼ねてから憬れていたホラサーン地方、アフガニスタンに入国が難しい最近では、ここマシャドが最大絨毯の集積地でもあるからです.特に好きなバルーチ族とトルクマン族そしてグーチャンクルド族、運がよければヘラートからアフガンの古い絨毯が流れてくることも期待できます。そんな訳でいっぱいに期待を膨らませて飛行機のタラップを降りたのです。 確か、夕方に近い午後でした。 穏やかの青い空が広がる飛行場の建物のバックに現れた、白い雲。そのかたちがまるでヤマタノオロチのように8つに分かれ、白い筋が天に駆け上るような勢いで広がっていました。それは地上から湧き上がったオーラのようでしばしの間見とれてしまいました。 それが聖地マシャドとの最初の出会いでした。 あいにくカメラは手荷物にはなく後悔しましたが、その分心にしっかりと残っています。 トルクメン族のベシールと呼ばれる絨毯に有名なクラウドバンドデザイン(雲龍文様)がありますがあとからそんなことを思い出しました。 もしかしたらこの地域には大昔から龍が天を駆けるような不思議な形の雲が現れていたのかもしれません。 なにしろここマシャドからトルクメニスタンのアシカバードまでは、車を飛ばせば僅か2~3時間で着いてしまうのです。
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72話 出会い、別れ、男娼館にて 目的地である男娼館近くにあった雑貨屋で、レオンはクリスの足の怪我の応急手当をしていた。 処置とは言っても止血のために包帯を巻いただけなのだが。 「これで良し……歩けるか? クリス」 「はい、何とか……」 「よし……目的地の男娼館までもうすぐだ。頑張ろう」 「クリス、レオン!」 二人がよく聞き慣れた野太い男の声が響いた。 声の咆哮に向くとそこには自分達に向かって走ってくる髭面の巨漢海賊の姿が。 「ゴメス! 無事だったか!」 「ああ。何とかとっちめてきたわ」 その手には戦利品と思われる見覚えのない武器が握られていた。 ゴメスの話によればクリスが足を負傷する原因となった襲撃者は殺してはいないが、 しばらく行動不能な程に痛め付けてやったとの事。 どんな方法を使ったのかと二人が質問したが、なぜか言いにくそうな表情で はぐらかすばかりで一向に教えなかったた。 レオンもクリスもそこまで深く追求する気もなかったため、すぐに話は切り替わった。 「クリス、怪我の方はどうだ?」 「伯父上に応急処置をしてもらったから、何とか歩く事はできるよ」 「そうか……だが無理はするなよ」 「分かってる」 「それじゃ、改めて行くとするか、二人共」 クリス、レオン、ゴメスの三人は目的地である男娼館へ向け再び歩き始める。 (ふぅ、危ない危ない。流石に掘って気絶させたとは言いずらいからな……) 心の中で安堵の息を漏らすゴメスに、クリスとレオンは気付くはずもない。 周囲を警戒しつつ三人は歩く続け、ようやく男娼館の玄関付近に辿り着く。 しかし、まず三人が見付けたのは玄関前に広がる夥しい量の血痕。 何かを引き摺ったような血の跡が植え込みの中まで続いている。 わざわざ見に行かずとも、漂ってくる異臭で何があるのかは分かる。 但し、異臭は植え込みの中からだけでなく男娼館の玄関扉の向こうからもするようだった。 人狼の姿であるレオンの鋭敏な嗅覚がそれを捉えていた。 そして、玄関扉を開けた先に広がっていたのは――三人の想像を絶する地獄絵図だった。 「こ……これは……」 クリスが信じられないといった表情でその光景を見詰めながら言う。 玄関ホールには全部で六人の死体が転がり、正に「死屍累々」という言葉が相応しい状態だった。 身体を袈裟に斬られた青い山羊のような頭を持った悪魔。 うつ伏せのまま、背中に何かの刺し傷がある青髪の少年。 首を刎ね飛ばされた白い狼獣人の青年。 左肩から胸元に掛けて斬り込まれた銀色の人狼。 こめかみに穴の空いた学生服姿の少女。 左目があるはずの場所がぽっかりと穴が空いている狼獣人の女性。 何れも、まだ死んでからそう時間は経っていないようだった。 「ん? こいつは……!」 左目がなくなった狼女性の死体にクリスは見覚えがあった。 それは間違いなく、この殺し合いにおいて最初に遭遇し、交戦した、 シェリー・ラクソマーコスという狼女剣士だった。 すぐ傍に落ちていた抜き身の太刀にも見覚えがあった。 「こいつがお前が言っていたシェリー・ラクソマーコスか?」 「はい伯父上、間違いありません」 「おい二人共……あそこを見ろ」 「ん?」 ゴメスが指差す先には、奥の壁にもたれるようにして、 俯いたまま動かない狐獣人の青年の姿。 三人が近付いてみても何の反応も示さなかったが、どうやら生きているようだった。 「おい、お前。しっかりしろ」 「……あ……」 レオンの呼び掛けにようやく狐青年――高原正封が顔を上げる。 とても憔悴し切った様子で、目には涙を流した跡もあった。 「ここで何があったのか知ってるのか?」 正封はこくりと頷いた。 「そうか……お前、名前は?」 「……高原正封」 「タカハラ、マサトシ……分かった。クリス」 「はい、伯父上」 「こいつから事情を聞いてくれるか。そこの事務室らしい部屋でな」 「分かりました……」 クリスは未だに呆然自失といった様子の狐青年を伴い、 男娼館受付カウンター奥の事務室へと入って行った。 「さて……ゴメス、手伝ってくれるか」 「何をだ?」 「周りの装備品を回収するのをだ」 「……ああ、分かった」 死体の周囲にはそれぞれの持物だったと思われる銃器や刀、デイパックが転がっていた。 持ち主には申し訳ないが自分達の命も危ない現在、使える物は使わなければ。 また、死体も野ざらしにしておくのは忍びなかったが、埋葬する道具など持ち合わせていない。 体力も無駄に消費するのは避けるべきであった。 事務室内で、クリスは正封からおおよその事の経緯を聞き取っていた。 「そうか、そんな事が……」 クリス達が男娼館を訪れる僅か数十分前に繰り広げられた死闘。 正封によれば、玄関ホールに倒れていた死体の内、狼女剣士シェリー以外は、 自分と行動を共にしていた仲間だったのだと言う。 だがしかし、シェリーが襲来し、あっと言う間に五人が殺されてしまった。 そのシェリーも正封が射殺し、最終的に自分だけが生き残ったのだと、正封は暗い表情で語った。 「その胸の怪我は……」 「これか……その狼の女に刺されたんだ。いや、さっきじゃないよ。 夜中の内に一回襲われたんだ。その時にやられて……随分気絶してた」 「そうか……」 正封の表情や口振り、そして現場の状況からして、正封が虚偽の応答をしているとは考えにくかった。 そう思うと、クリスは正封に対し、同情を禁じ得なかった。 目の前で仲間が全員殺されたのだ、精神的な疲労も計り知れないだろう。 出会った時の憔悴し切った様子がそれを裏付けていた。 「大変だったんだな……」 「あの……クリスさんだっけ? あんたもあの狼女と戦ったのか?」 「ああ……すまない、こんな事になるのだったら何としてでもあそこでシェリーを 止めておくべきだった」 「い、いや、あんたが謝る事なんかないよ。気にしないでよ」 もし最初に遭遇した時にシェリーを倒す事ができれば、 正封の仲間が全員殺される事もなかったのだろうか。 そう考えるとクリスは胸が締め付けられそうな思いだった。 ただでさえ、自分の妹のせいで多くの人々が苦しめられているのだ。 「正封、俺達はこの殺し合いを潰すために行動しているんだ」 「だろう、ね、殺し合いに乗ってるなら複数で行動したりはしないでしょ」 「……それとな、お前に、言っておく事があるんだ」 「何?」 クリスはしばらく間を置き、そして口を開く。 「俺のフルネームはクリス・ミスティーズ。そして俺達と行動を共にしている、 黒い人狼はレオン・ミスティーズ……俺の伯父上。そして――、 俺と伯父上は、この殺し合いの主催者、リリア・ミスティーズの縁者なんだ」 「……それ、マジで?」 「マジだ」 クリスの予想通り、正封はかなり驚いているようだった。 自分と伯父が主催者の血縁者だという事実を公表するのはクリスも抵抗があったが、 いつまでも隠し通せる事でもない。 主催者側の回し者と疑念を抱かれる恐れもあったが、どうやら正封にその様子はないようだった。 「すると、あんたはあのリリアって奴のお兄さんで、あの黒い狼は、二人の伯父さんって事か?」 「そうだ」 「こりゃあ……あの主催者、自分の親戚まで殺し合いに参加させてるのか。 相当イカれて……あ、ごめん、実の妹なんだよな」 「いや、いいんだ。確かにあいつは正気の沙汰じゃない……」 そう、大勢の人々を強制的に集め、爆弾内蔵の首輪をはめ殺し合いを強要し、 自分は高見の見物などと、常軌を逸している。 例え自分の実妹でも到底許す事などできない。できるはずもない。 「だから、何としてもこの殺し合いを潰すんだ。 正封……俺が言えた義理じゃないけど、協力してくれ」 正封に共闘を願うクリス。正封はしばらく迷った末、口を開いた。 「……怪我してるから無理はできないけど、それでもいいなら……」 「本当か。いや、俺も足を怪我しているからその点ではおあいこみたいなものだ」 「おあいことかそういう問題か??」 クリスと正封が事務室内で意気投合していた時、隣の玄関ホールでは、 粗方の目ぼしい武装や道具を回収したレオンとゴメスが、横たわる五人の死体に、 男娼館の備品であるシーツを被せ隠し、簡単ながらも弔っていた。 「随分武器や食糧が増えたな」 ゴメスが回収武器の一つ、アーマライトAR18アサルトライフルを構えながらレオンに言った。 「ああ。後で整理しなければならんだろう。 そろそろクリス達を呼びに行くか」 レオンがこれもまた回収した武器の一つ、サーベルを片手に、 ゴメスと共にクリスと正封がいる男娼館事務室へ向かおうとした、その時だった。 男娼館玄関の扉が開き、ゴメスが良く知る青い飛竜が進入してきた。 「見付けた……! ゴメス……!」 「お前……!」 「あいつは……数時間前に俺達を襲撃した奴か!」 青い飛竜――大宮正悳は憤怒と憎悪に満ちた表情でゴメスを睨み、見据える。 「よくも、よくも俺のケツを掘ってくれたなぁ……!」 「……」 ゴメスは緊張の面持ちのまま、正悳の顔を見据え動かない。 正悳が「あの事」で自分を恨んでいるとは思っていたが、まさかこうも早く、 再び相まみえる事になろうとは。 レオンは事情が今一つ分からなかったが、ゴメスから数時間前に自分達を襲った 目の前の飛竜は――詳細こそ不明だが――意識不明になるまで痛め付けたと 聞かされていたので、恐らくそれが青飛竜の怒りの原因なのだろうとは推測していた。 「お前を何とかしなければワシらの命が危なかったからな、 それにワシに銃を突き付けられて『何でもする』と言ったのはお前だろう?」 「何でもするって確かに言ったけどっ……! まさか、 まさかあんな事されるなんてっ、誰が思う!?」 いつしか正悳は涙声になり、その目からも光る物が見えていた。 自分がゴメスに受けた筆舌し難い責め苦の数々を、またそれを受け、 自らの意思とは逆に身体が順応し、悦楽に溺れて行った自分の痴態を思い出しての事だった。 それを見てゴメスも流石に申し訳なく思ったが、元はと言えば、 正悳が先に仕掛け、しかも殺そうとした事が原因である。 確かに尻を掘ったのは完全な個人的趣味でありやり過ぎたかもしれないが。 「お前だけは、お前だけは殺してやる! ガアアアアアアア!!!」 咆哮を上げながら正悳が鋭い爪の付いた右手を振り翳し、ゴメスに向け突進する。 「おい、やめ――」 「どけぇっ!!」 「ぐおっ!!」 行く手を遮ろうとしたレオンを思い切り払いのける。 レオンは二メートル程吹き飛ばされ床の上に激突してしまった。 「ちっ、やむを得ん――――!」 最早説得する余地はない。ゴメスは戦利品のアーマライトAR18の銃口を正悳に向け、 引き金を引いた。 連射音が室内に響き、空薬莢が床に落ちる金属音も同時に鳴る。 「ガッ、アアァアアアアァ……!!」 胴体に大量のライフル弾を受けた正悳の身体は青から赤に染まり、 その口からも夥しい量の血液が溢れ出た。 どう見ても致命傷である――だが、正悳はまだ諦めていなかった。 「ぐっ……ご、の、やろぉぉォォオオ!!!」 「!!」 「ゴメス!!」 レオンが叫んだ時には、渾身の力で振り下ろされた正悳の右手の爪が、 ゴメスの顔の左半分、そして胴体の胸から腹に掛けての左半分を深く切り裂いた。 死体から流れ出た血で汚れた床の上にまた更に新鮮な朱の色が加わる。 「げふっ……こ……ここまで……なのか……」 身体中が力が抜け、ガクリと膝を付く。遠退く意識に、ゴメスは自分が死ぬ事を悟った。 悔しくない訳ではない、無念でもある。共にこの殺し合いを潰そうと誓った、 クリス、レオンの二人に、そして、自分が死ぬ遠因となった行為の相手にしてしまった、 目の前の青い飛竜に、ゴメスは心の中で謝る。 そして。 ――最後に、脳裏にはっきりと、虹色に浮かんだ。 アレックス…… 一方の正悳も、心臓、肺、肝臓、胃、腎臓、腸、生命活動に必要不可欠な 身体の内臓器官がことごとくゴメスの放った5.56㎜NATO弾の弾頭により、 ズタズタに損傷し、生命活動を維持する事が不可能になっていた。 身体中から力が抜けていく。もう痛みもほとんど感じなくなっている。 自分は真もなく死ぬ。あれ程死ぬのは嫌だったがいざとなるとこうも穏やかでいられるのか。 床に倒れていくのを感じながら、最期に正悳が思うのは、最愛の主人。 (ご主人、申し訳ありません、俺は、もう帰れそうにないです) (ご主人、できれば、俺の事、忘れないで下さい) (ご主人、この思い、伝えたかった) (ご主人、貴方に会えて幸せだった) (ご主人) (ご主人) (ご主人) (ごしゅ―――――――――) (―――――――――――) 床にうつ伏せに倒れた正悳は、とっくに意識は消えていた。 その開かれたままの目は、どこか遠くを見詰めたままだった。 争う声、そして銃声に、事務室にいた二人が玄関ホールに飛び出した時にはもう時既に遅かった。 ついさっきまで生きていたはずの髭面の海賊、ゴメスが、身体の半分をズタズタにされ絶命している。 そのすぐ傍にはさっきまではなかった青い飛竜の死体が転がっていた。 クリスはその飛竜に見覚えがあった。数時間前に自分達一行を襲撃した、あの飛竜に違いない。 どうやらここまで追ってきたらしい。現場の状況から察するに、ゴメスと相討ちになってしまったようだ。 「な、何て事だ、ゴメス……!」 「また……死人が出たのかよ……」 「……」 新たに二人の死体が増えた男娼館玄関ホールで、 生き残った三人の男が悲しみに暮れていた。 【ゴメス@VIPRPG 死亡確認】 【大宮正悳@オリキャラ 死亡確認】 【残り17人】 【一日午前/C-7男娼館:玄関ホール】 【クリス・ミスティーズ@ムーンライトラビリンス改造版】 [状態]:全身にダメージ(中)、右足裂傷(応急処置済)、悲しみ [装備]:三徳包丁(刀身に僅かな亀裂有) [持物]:基本支給品一式、双眼鏡 [思考]: 0:リリアを止める。そのためにもこの殺し合いを潰す。 1:何ていう事だ、ゴメス……。 2:レオン、高原正封と行動する。 3:首輪を外す手段を探す。 4:仲間を集める。同時進行でゴメスの知り合いも捜す。 5:襲われたら対処。 ※参戦時期は本編終了後です。 ※シェリー・ラクソマーコスの死亡を確認しました。 ※足を怪我していますが何とか歩行は可能です。 【レオン・ミスティーズ@ムーンライトラビリンス改造版】 [状態]:全身にダメージ(中)、悲しみ [装備]:シグザウアーSP2340(12/12) [持物]:基本支給品一式、シグザウアーSP2340のリロードマガジン(12×5)、 サーベル、手斧、手榴弾(3)、コルト ディテクティヴスペシャル(6/6)、 .38sp弾(30)、工具箱、水と食糧(3人分) [思考]: 0:殺し合いを止め、リリアと会う。 1:ゴメス……。 2:クリス、高原正封と行動する。 3:仲間を集める。同時進行でゴメスの知り合いも捜す。 4:首輪を外す手段を探す。 5:襲われたらそれなりに対処はする。 ※参戦時期は本編終了後です。 ※拳銃の使い方を一通り覚えました。 【高原正封@俺オリロワリピーター組】 [状態]:精神的疲労(極大)、背中から右胸下辺りにかけ刺し傷(処置済)、悲しみ [装備]:なし [持物]:基本支給品一式、ニューナンブM60(5/5)、38sp弾(20) [思考]: 0:殺し合いはしたくない。とにかく生き残る。 1:……。 ※俺オリロワ開始前からの参戦、ではないかもしれません。 ※「朱雀麗雅」という名前が気になっています。 ※胸元に重傷を負っているため、無理な行動は危険です。 ※クリス、レオンの二人が主催者の血縁である事を知りました。 ※C-7男娼館:玄関ホールの仲販遥、シリウス、トマック、アキラ、デスシープ、 シェリー・ラクソマーコスの死体には白いシーツが被せられました。 また、六人の持物の内、アキラの鉄パイプ、シリウスの増精剤入り小瓶(半分消費)、 それぞれの水と食糧以外の基本支給品は放置されています。 ※シェリー・ラクソマーコスの太刀、FNブローニングM1910(3/6)、 FNブローニングM1910のリロードマガジン(6×5)、トマックのアーマライトAR18(0/30)、 アーマライトAR18のリロードマガジン(30×10)、水と食糧(3人分)はゴメスが回収しました。 ※ゴメスと大宮正悳の死体及び持物はC-7男娼館:玄関ホールに放置されています。 ※C-7男娼館周辺に銃声が響きました。 WOLF S RAIN 時系列順 仮初めの光求め呑んで候 WOLF S RAIN 投下順 仮初めの光求め呑んで候 もう言葉もない、言葉が出ない 高原正封 地雷を踏んだらサヨウナラ 壊される汚される、そして失う クリス・ミスティーズ 地雷を踏んだらサヨウナラ 壊される汚される、そして失う レオン・ミスティーズ 地雷を踏んだらサヨウナラ 壊される汚される、そして失う ゴメス 死亡 It never permits It kills without fail. 大宮正悳 死亡
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前回は、出会い掲示板を紹介しましたが、今回はその続編で「アダルト掲示板」を検証してみたいと思います。 こちらも、何人かのブロガーさんがもう既にお試しになって記事にされている模様ですね。 なんと情報の早い事か… 今回ご紹介させて頂くのは、最近リニューアルされてSNS機能が追加された「アダルト掲示板」です。 このSNSは少し前のミクシーなどにすごく似ておりますが、出会いに特化しているという点では、全然違います。 他のサイトとかですと、連絡先を交換したり会う約束などをしようものなら、すぐにアカウント停止ですがここはそれが前提ですのでやりたい放題です。 ですので、僕なんかは女性会員に手当たり次第コピペのメールを送りまくりましたね!だいたい100人に送ったら2~3人ぐらいはレスポンスがありました。 まー雑な攻略法ですが「数打ちゃ、当たる」でみなさん頑張ってみてください。 ■アダルト掲示板 http //furinuwaki.com/
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――今生きているということは、それ自体が奇跡なのだ。 惰弱な自己完結から、川村ヒデオは死に魅せられていた。 そんな彼が“生”という熱を取り戻せたのは、仲間の一人に諭され、そのような結論を得られたためだった。 例え世界を破滅させるために生かされているのであろうと。仲間達と共に、明日を、明後日を、一日ずつ生きてみようかと……そう思うことができた。 そして、アルハザンに飼い殺された現状から脱する算段のついた、その矢先。 「……殺し合い、か」 気が付けばヒデオは、見知らぬ街角に一人で立っていた。 いつの間にか、身を包む衣服はクロスフラッグス以来着通しだった野戦服ではなく。以前の勤め先で袖を通していたような、黒いスーツとなっていた。ヒデオの身に起こった変化はそれのみでなく、見慣れぬ腕時計の重みが、左腕でその存在を主張していた。 一瞬ばかり、あれは夢だったのではないかという疑問……というよりも、願望が生まれた。だがその腕時計――主催者の説明していたBRデバイスと、首輪の冷たさと圧迫感が容赦なくそんな甘えを否定し、ヒデオにこの事態を受け入れることを強要して来ていた。 (……まずは、認めよう) どれほど非現実的に思えても、これもまた紛れもない現実であると。ヒデオは自らが、致死の爆弾を組み込まれた首輪を嵌められ、殺し合いの舞台に上げられたという事実を認識した。 (だが。いったい、どうやって……) 隔離空間都市の、忘れ去られた地下区画。アルハザンの強制収容所に囚われていた自分を、どのようにして連れ出したというのか。 世界を律する権利を巡り、彼の地で執り行われていた聖魔杯という舞闘会。それを管理していたのは、他ならぬ当代の聖魔王――すなわち世界を統べし存在、名護屋河鈴蘭だ。 彼女と、彼女の率いる魔殺商会がどれほど常識外れな力を有しているのかは、その片鱗しか知らぬヒデオにも痛いほど理解できていた。最終的に露見し、明日には救出作戦が決行されることになったとはいえ、そんな彼女達の目を一月以上掻い潜り続けていたアルハザンの警戒を、この主催者達はさらに上回り、未だ彼らの魔の手にあった自分達を連れ去ったというのか。 ここで自然と、この殺し合いを催したバグラモン達とアルハザンが繋がっているという推察が生まれる。だがヒデオは答えを急ぐ前に、既に得ている情報があることを思い出していた。 (確か……名簿や。詳細な、ルールの説明が。あったはず……) バグラモンの言葉を信じれば、このBRデバイスなどという腕時計の中に、そのような機能が備えられているという。 腕時計と言ったが、液晶画面には何も表示されていなかった。その下に電源と思しきボタンを見つけ、ヒデオはそれを押してみることにした。 ブゥン……という微かな音と共に、液晶画面に光が走る。 《これより、初回起動時の説明を開始します》 電子音で再現された丁寧な女性の声が聞こえたかと思うと、液晶画面からの発光がさらに強まった。ちょうどヒデオの正面に向かって大量の朧な光糸が舞い上がり、縒り合されて行く。一瞬の後、光はデバイス本体に備え付けられた液晶画面を、遥かに巨大にしたようなスクリーンを紡いでいた。 《この立体映像はタッチパネル機能を有しています。説明を続けても構わないようでしたら、画面中央の続行という文字に触れてください》 立体映像にタッチパネル? と疑問も浮かんだものの、ヒデオは言われるがまま実行した。 指先が映像に届いた途端、素早く光の板はそこに記す内容を書き変えて行き、本格的な説明が開始される。デバイスを装着した左腕を動かしても、またヒデオ自身が動いても、説明画面は連動して表示位置を修正し、持ち主に見易い位置へと移動してくれていた。それを確認したヒデオは、まずは付近の建物の中に身を潜めることにした。再開された説明では、基本ルールの時点で早速バグラモンの説明では省略されていた箇所が見つかった。 「……ゾーン?」 《はい》 零した疑問に対しての、予想もしなかったデバイスからの返答に思わずヒデオは息を呑む。もっとも、実際に彼の様子を見た者が居れば、まるで表情に動きがないと思うことだろうが。 《ゾーンとは本来、デジタルワールドを構成する小世界のことです。大きさや性質は様々ですが、それぞれが独自の世界として存在した上で、さらに上位のデジタルワールドという構造に内包されています。 今回のバトルロワイアルにおけるゾーンとは、バトルロワイアル会場宇宙という上位構造に内包された九つのゾーンを意味しています》 何だかさらっと、凄いスケールの単語が飛び出した気がしたが。 《各ゾーンは次元ごと遮断されていますが、自律した意志を持つ存在、及びにその付属物は、その境界を越えて別のゾーンに移動することができるよう設定されています》 ゾーンごとの大きさは統一されておらず、またそれぞれに対応した地図がデバイスには内蔵されているという。別のスクリーンを展開する機能があるらしいので、これまた指示に従うと脇に新たな画面が出現した。画面に並んだ文字から地図を選択すると、大部分は現在ヒデオのいるゾーンを表した。名はエリダナゾーンというらしく、細かい説明の文字列が下の方に表示されていたが、途中まで目を通した後、重要度は低いと一旦無視することにした。 (行き来は可能だが、隔絶された九つの世界での殺し合い……?) 妙に非効率的だと、ヒデオの思考に引っかかった。 このエリダナゾーンの大きさは、およそ二十八キロ四方だという。会場内でも最大のゾーンなどと銘を打たれてはいたが、これに準ずる広大な空間が、後八つもあるというのか。それでは参加者同士が接触する可能性、つまりは殺し合いの進行に差し障りが出ると思うが…… ヒデオの疑問を置いて説明は続き、次は参加者名簿が開かれる。 一番上に表示されたのは、63/65という文字。分母から欠けた数字が何を意味するのかは、ヒデオにもすぐに当たりがついた。 考えるまでもない。これが名簿であり、そこから2と言う数字が減っているのであれば……それは開幕の場において主催者に刃向い、粛清された二人の参加者を意味しているのだろう。 ……思えば殺し合いなどと言う異常事態の真っただ中で、無力なヒキコモリに過ぎぬはずの自分が縮み上がらずに居られるのは、ふつふつと燃え続けている怒りのためなのかもしれない。 マリーチと呼ばれた白い女は、笑っていた。 その目の前で命が――奇跡が喪われたということに。 ルナスと呼ばれた姫のことを、ヒデオは知らない。エルシアのことも、結局よくは知らない。 それでもわけのわからぬ間に連れて来られて、わけのわからぬ間にその生涯を終えるなど。彼女達にとって、決して納得できる幕引きではなかったはずだ。 例え主催者達にとっては、命など自在に操れる程度の物なのだとしても。そんな風に二つの奇跡が潰えたことが、ヒデオには容認できなかった。 ましてやそれを、さらに多く――何十と繰り返させるなど、決して許すことはできなかった。 否。許せない、ではない。許さないのだ。 (……止めてみせる) ヒデオは、名簿に刻まれた仲間達の名前に目を通して行く。 リュータ・サリンジャーや、エリーゼ・ミスリライトと長谷部翔希のペアと言った、聖魔杯で時に協力し、時に争ったライバル達。共にアルハザンに囚われていた、北大路美奈子。 そして――そして。自分をあの閉じたアパートの一室から連れ出してくれた、唯一無二たる最高のパートナー。電子の神を目指す精霊、ウィル子。 こんな殺し合いで彼らを死なせることなど、あってはならない。それだけは絶対に許さない。 決意をさらに確固たるものとして、ヒデオは再び思考を巡らせる。 バトルロワイアル。そう呼称される戦いに参加するのは、実はヒデオにとって初めての経験ではない。先に述べた聖魔杯がそれだ。だが全種族無差別級のバトルロワイアルという名称とは裏腹に、彼の大会において殺しはご法度であった。それが何故なのか。今ならヒデオにも、あの夜語られたお題目ではない、本当の理由がよくわかる。 きっと、鈴蘭はよく知っていたのだ。 命は、奇跡なのだと。それが喪われることは、あってはならない悲しいことなのだと。 だからこそ、名簿に彼女の名を見つけた際には、頼もしい想いで一杯であった。 絶対に、彼女はこのふざけた殺し合いを認めないだろう。数多の猛者を退けて来たヒデオの欺瞞を見抜き、容赦なく叩き潰したその力と苛烈さで、この殺し合いを止めようとするはずだ。 名簿には他にも、伊織高瀬やヴィゼータと言った魔殺商会の仲間達……そしてあの、一切の底を見せないみーこの名まで羅列されていた。頼れる者達の存在に気持ちが昂ぶって行くのを感じたヒデオだったが、直後ある事実を思い出したことで、その興奮は一気に冷めてしまった。 あのエルシアが。これまでの大会中に見せたそれ以上の、おそらくは全力を解放した彼女が。ヒデオの知る限りみーこと並ぶ最強の一角が、バグラモン達に易々と葬り去られているのだ。 鈴蘭達ならば必ず……そう思いはしたものの、彼女らも自分と同じように首輪を嵌められ、参加者として会場のどこかにいるということは。バグラモンやマリーチが、彼女達さえ上回るチカラを誇る証明なのではないだろうか。 みーこ辺りはエルシアと同じように、こんな首輪など歯牙にもかけていないのかもしれないが……それでも結末は同じだと。言外に自身の方が強大であると、バグラモンは告げていた。 マリーチの言葉も気がかりだ。ヒデオの知るみーこなら、やはりエルシア同様、セレモニーの場で大暴れしていたことだろう。それを阻んだのが、彼女の言う支配なのだろうか。 この殺し合いの主催陣が、鈴蘭達すら上回る存在であるという考えを支持する要素は、他にもある。最初に抱いた疑問の解と言うべき、二人の参加者の名を目にしたためだ。 アーチェス・アルエンテと、霧島レナ。それぞれアルハザンの首魁と、中枢の幹部であった。 聖魔杯の裏で暗躍し、ヒデオを始めとした何人もの参加者を拉致監禁し、人質を盾に自分達の野望の為、強制労働に従事させていたアルハザンという組織。彼らの監視下にあったはずの、ヒデオや美奈子が何故こんな殺し合いに呼ばれたのか。その答えは主催者とアルハザンの間に協力関係があるから……というわけではなさそうだと、ヒデオは認識した。 何故そう判断したのか、理由は簡単だ。バグラモンが言っていたではないか。主催者の息のかかった参加者、『ジョーカー』は紹介された三人以外に、後一人だけだと。 それを信じるなら、アーチェス依存症とまで仲間に評された霧島レナがアーチェスを抜きにジョーカーとなる可能性は皆無に等しく。またアーチェスの性格からしても、部下であるレナを参加させながら己のみがジョーカーになるとは考え難かった。 無論バグラモンの説明自体が嘘で、残るジョーカーは一人ではなく、二人以上という可能性もある。だがそれを言い出せば、紹介された三人以外のジョーカーの存在を示唆したこと自体、参加者の疑心暗鬼を駆り立てるためのハッタリであるという線も出て来る。 何より、主催陣がアルハザンと手を結んでいる場合と、魔殺商会とアルハザン、その両者を纏めて相手取り、なお優位に立っている場合と……想定しておくだけの段階から、自らに都合の悪い事態である後者を考慮しないというのは、愚の骨頂というものだろう。 仮に、主催陣と関わりがなくとも。アルハザンが危険ということに、変わりはないのだから。 思考に一区切りをつけ、ヒデオは続いて支給品の欄を確認する。どうやらリロードのボタンに触れれば、選択した支給品をデバイス内から取り出せるらしい。また逆に、ロードボタンを押すことで、デバイス外にあるアイテムや装備品を取り込むことができるのだという。 一先ず自らが腰かけていた椅子を対象に選択し、ロードボタンに触れる。椅子は――まるで、エルシアがそう果てたように、淡い緑の0と1の配列に分解された。だが儚く虚空へ霧散した彼女の時とは異なり、椅子の変じた数列は、ヒデオの装備するデバイスへと吸い込まれた。 半ば驚愕しながら、今度はリロードを選択した。逆再生のように緑色の数列がデバイスから吐き出され、再構築される。その後には完全な形の四脚の椅子が、元通りそこに存在していた。 (……似ている) ウィル子の能力に。 ヒデオは驚嘆の思いで、自らが装備したデバイスに視線を注いでいた。 森羅万象の全てを、0と1のデジタルな情報として認識し、処理し、表現する。今ヒデオの眼前で見せられたこのデバイスの機能は、電子の神の雛形の持つ力に、酷く近似していた。 そういえばゾーンとは、本来“デジタルワールド”を形作る物、という説明だったか。 (……) “デジタル”という奇妙な符丁に気づきながらも、ヒデオは敢えて答えを求めて思索に沈もうとはせず、閑散とした街路へと足を運んだ。 現実は甘くないということを、ヒデオは理解しているつもりだ。所詮は世の常識も非常識も満足に知らぬ自分が、一人で頭を捻ったところで空回りするのが関の山だろう。 だから、他の参加者と合流し、彼らの持つ情報を得るまで、答えを急ぐのは避けるべきだ。 無論、殺し合いに乗った危険人物と遭遇してしまうことも考えられる。そうなれば自分が、満足な抵抗すらできずに命を落とす可能性が高いということも。 それでも、あの時バグラモンに立ち向かったマヒロと言う少年のように。ヒデオの仲間以外にも、殺し合いを止めようとする者はきっといるはずだ。我が身可愛さに引きこもっていては、彼らと出会う可能性も等しく失ってしまうことになるだろう。 (エリダナは、広い。まず目指すなら……ここ、か) そう聞いたこともなかった街での目的地を定め、だだっ広いのに誰もいない寂しい街を、ヒデオは一人歩いて行く。 やがて、目星を付けた施設のある、地図の上ではA-5エリアと呼ばれる地区に差し掛かる。西カルナ商店街という通りを踏破する寸前に至り、自身の足取りを重く感じ始めた頃。 ヒデオは、見覚えのあるメイド服の人物を目にした。 ◆ 「うぐっ……えぐ……いやぁ……っ!」 窓の開いた軽食店の中で、艶やかな褐色の髪をした少女が、嗚咽を上げながら泣いていた。 「何で……どうして……っ!」 あの非常識な闇の世界から、ようやく抜け出して。生き別れていた母とも、遂に再会できたというのに。 今までずっと、ずっと不幸だった分。これからは、親子水入らずの幸せな時間を、たくさん過ごして行くはずだったのに。 どうして――どうして、こんな、殺し合いなんかに。 「やだぁ……帰りたい。帰りたいよぉ、お母さあん……っ!」 助けを求めど、応える声はない。 大きな声を出せば、血に飢えた殺人者に嗅ぎつかれるかもしれない。だから必死に黙ろうとして、そうするたびにこんな境遇にあることに耐えられなくなって、また思わず呻いてしまう。 ――あの人はもう、自分はこんな世界にいなくて良いと言ったのに。 どうしてあの時と同じような格好をさせられて、こんなところに連れて来られているのか。 目の前で、女の人が爆弾で、頭を吹き飛ばされるような……あの時よりも、もっと凄惨で。自分の首にも、冗談でも何でもなく。本当に爆弾を仕掛けられて、無理矢理殺し合いの舞台に立たされる、そんなずっと無慈悲な世界に。どうして、自分が…… そんな現実を受け入れられず、少女は駄々を捏ねるように泣いていた。 「いやだ……死にたくない、死にたくないよ! 生きたい、お母さんと生きて行きたぁいっ!」 あの日、自らの喉を引き裂いた冷たい感触が蘇り―― 今度はそのまま息絶える己を想像して、彼女は絶叫していた。 《これより、初回起動時の説明を開始します》 「――ひゃっ!?」 そんな空気を無視して突然響いた、電子的に再生された丁寧な女性の声。完全な意識外からの声に、少女はその身を縮こまらせていた。 「――って、あれ……?」 声の出所が自らの左手首の辺り――見覚えのない腕時計だと気付いて、彼女は拍子抜けしたような気分の後、ようやく落ち着きを取り戻した。 冷静になった少女は、自らの手に巻かれたそれが何なのか、じっと眺めてみた。やがてそれが何なのか、ようやく見当が付く。 主催者の説明していた、殺し合いのための道具。BRデバイス。 認識した瞬間、今度は怒りが沸騰した。 「こんなもの――っ!」 拒絶の意思の余り投げ捨てようとして、取り外せないことに気づく。苛立ちのままに、彼女は左腕を壁に叩きつける。だが堅い音を響かせだけで、デバイスが壊れることはなかった。 《この立体映像はタッチパネル機能を有しています。説明を続けても構わないようでしたら、画面中央の続行という文字に触れてください》 「――うるさいっ!」 勝手に起動した機械にそう怒鳴って、少女は荒く息を吐いた。深い呼吸を繰り返した後に、再び彼女は泣き崩れそうになる。 「何で……っ、どうして、私なのぉ……?」 《繰り返します。この立体映像はタッチパネル機能を有しています。説明を続けても構わないようでしたら……》 機械は同じ言葉を、事務的に。丁寧ながらも、淡々と繰り返すだけだった。 一定の時間が過ぎれば、また同じ文言が告げられて。こちらの状態などお構いなしに、電子音声は繰り返される。受け入れろ、受け入れろと囁き続けて来る。 「――ッ!」 少女は遂に耐え切れなくなって、右手を機械の電源スイッチへと伸ばした。耳障りな機械の声を黙らせようと人差し指が触れたところで、しかし彼女はそれ以上押し込むのを止めた。 ここでこの機械を黙らせることは、ただの逃げでしかないのだと思い至って。 ――逃げ出した者どもの末路をしっかりと覚えておけ。それは僕であり、彼女だということを。進むことしかできぬ道から逃げ出せば、そこに魔が訪れる。あの夜、逃げるために死を覚悟した君の前に……僕が現れたように。 悪を名乗った青年が別れ際に述べた言葉が、彼女の中に蘇る。 ――だが進めば、道は続いている。あのクソガキのように諦めなければ、いつだってそれは見える。 「……逃げなかったら。諦めなかったら」 そして。ここにはいない男に、少女は問い掛けていた。 「私、またお母さんのところに帰れるかな? 高瀬さん……」 自らを主人と呼ぶよう強制して来た、無茶ばっかりして、理不尽なことばっかり押し付けて来る悪党で……それでも自身を母と巡り合わせてくれた恩人に、彼女は問うた。 答えはわかっている。彼女の知るあの男なら、きっとこう答えるだろう。 ――ああ、もちろんだ鈴蘭……! 逃げなかった者。諦めなかった者だけに、道は続いているのだから――! (――はい、ご主人様!) 親戚中をたらい回しにされ、気づけば二十億と言う借金を背負わされていた、吾川鈴蘭改め。 実母と同じ、名護屋河の姓に戻った少女は、殺し合いという運命とも戦う覚悟を決めた。 ◆ やはり諦めないことは大切ということか。あるいは運命に立ち向かう決意をした薄幸の少女に、ようやく天が微笑んだか。名簿から得られた情報は、彼女を勇気づけるに充分な物だった。 (沙穂ちゃん、みーこさん、ご主人様……それに、長谷部先輩までいる!) 名簿の中に見つけた、もう二度と会うこともないだろうと思っていた闇の世界の住人達。 かつて散々振り回してくれたが、この異常な事態こそ彼らの住まう世界だろう。こんな時にこれほど頼りになる者達を、鈴蘭は他に知らなかった。 彼らなら、きっと何とかしてくれる……疑う余地もなく、そう信じられた。 また、彼女を勇気付けた事実はそれだけではなかった。 鈴蘭は支給品を確認し、その内の二つを身に着けていた。 一つは何でも、銘を“魔王の見えざる手(タキオン)”というらしい、神器。とはいえそもそも神器が何なのかが、鈴蘭には既にさっぱりだけれども。 この鮮やかな真紅で縁取られた漆黒のガントレットには、ボタン一つで伸びる、まるで水晶のように透き通った刃が仕込まれているがそれはともかく。右手のみとはいえガントレットという防具が手に入ったことは重畳だ。もう一つの支給品、鈴蘭がいつの間にか着替えさせられていた伊織魔殺商会のメイド服には、銃弾さえ通さぬ魔導被膜が施されている。剥き出しの頭と両掌は無防備だったわけだが、その内右掌は新たな加護を得られたのだから。 理不尽の数々を思い出すこの服を着せられていたことは、最初は嫌がらせかとも思ったものだ。しかしながら、生き残るという決意を固めた今となっては有り難いことこの上ない。この装備ならきっと、力を貸してくれるような人達と出会うまで生き残ることができることだろう。それから皆と力を合わせて、こんな酷いことをする悪い奴らをやっつける。そうしたら、最後は大好きなお母さんの待つ我が家に帰ってのハッピーエンドだ。 「よーぅしっ!」 そう前向きに未来を想像して奮起した鈴蘭は、ずっと身を隠していたプロウス軽飯店を出発することにした。パニックに陥っていた時に店内を荒らしてしまったけど、ちゃんと後片付けをしておいたから許して欲しい、などと思いながら店を出たところで――鈴蘭は正面の商店街から、幽鬼のように迫る人影に気づいた。 「――えっ?」 それと目が合った瞬間。鈴蘭はまるで冗談のように、己の顔から音を立てて血の気が引いて行くのを感じた。 正面から歩いて来るのは、漆黒のスーツに身を包んだ、如何にも、といった風体の男。痩せ気味の体躯はしかし、弱々しいという印象よりも、そういった『仕事』に際して邪魔にならぬよう、必要最低限まで絞った故だろうと感じさせた。その身に纏う危うい雰囲気は、鉄の凶器である首輪の存在感すらも問題なく溶け込ませて……否、従えている。 男は無手であったが、そんな事実が何の励ましになると言うのだろうか。銃弾すら通さない魔導被膜に浮かれていた鈴蘭がそう思うほど、彼は只者ではないという空気を纏っていた。 何より恐ろしいのは、その目。筋の一つも動かさない無表情の中、鈍い光を湛えた双眸からは、浴びせられた箇所に冷ややかな痛みを感じるほどの圧力が放たれていた。 突然聞こえ始めた、カチカチと言う耳障りな音が、己の歯の根が噛み合わないために生じている物だと鈴蘭は気づいた。 (こ、こここここ、殺し屋さんだぁああああああああああああああああああああっ!?) あの時乗り込んで来たチンピラはおろか、連れ込まれた暴力団の事務所にも、ましてや魔がどうのという闇の世界にだって、こんな冷め切った、墓石のような眼光の者はいなかった。 この男は、他者に虫ほどの関心も抱かず、容易く殺す者の眼だと。そういった人種を初めて見た鈴蘭に信じさせるほど、悪しき目付きをしていた。 怖気に支配された鈴蘭の四肢が、ガクガクと小刻みに震え出す。全身の汗腺が開いて、嫌な湿気が服と身体の隙間に籠り始めた。 そんな鈴蘭から男は冷酷な視線を少しも外そうとせず、一挙手一投足を捉え続けている。 間違いない――この男は、殺し合いに乗っている。そうでなければ、こんな獲物の隙を狙うような、恐ろしい目つきをしているわけがない。 鈴蘭はふと、ガントレットに仕込まれた刃の存在を思い出した。だが自分は完全な素人だ。眼前の男にそれを届かせることができるかと問われれば、絶対に無理だと断言できる妙な自信があった。それほどの威圧感がひしひしと伝わって来ていたのだ。 (ご、ごごごごご主人様、ご主人様ぁ!? これ良いですよね、逃げても良いですよねっ!?) 彼曰く、進むべき道を逃げれば魔が訪れるそうだが…… ……どう見ても眼前の男こそ、その訪れた魔という奴だろう!? 「……あの」 「いいぃぃぃやぁああああああぁぁぁぁああっ!?」 その男が、何事かを言わんと口を開いたと同時に。低い声で耳朶を撫でられ、恐怖心が限界を迎えた鈴蘭は、喉の奥から絶叫を迸らせた。 引き返して店の中に戻っては追い詰められる。恐怖に支配された頭で何とかそのことだけは思考しながら、鈴蘭は素早い動きで西側へと身を翻し、以前までの己とは比較にならない速度で疾走し始めた。 鈴蘭はあの時自身に改造手術を施してくれた魔殺商会に、初めて心底からの感謝を抱いた。そのおかげで今、あの男に追いつかれ、殺されてしまう可能性を少しでも下げることができたのだから。 (うう、後ろにいませんように! 後ろにいませんように! ちゃんと、逃げ切れますようにぃぃっ!) 涙目で祈り続ける聖女候補には、振り返って確認する余裕もない。鈴蘭は陸上で鍛えた走力をフルに活用し、どうか振り切れますようにと繰り返しながら、全速力で逃走した。 ◆ ――この殺し合いの場で、最初に合流できたのが名護屋河鈴蘭とは、何という幸運だろうか。 そう思い、重くなった両足を引きずるようにしながら彼女の下に近づくと、違和感があった。 正確には知らないが、鈴蘭はヒデオよりも年上だったように思う。 だが目の前の彼女は、ヒデオよりも若く――十代半ば頃の可憐な少女に見えた。しかも悪の組織の影の総帥と豪語するに似合わぬ、いっそ清楚ですらある顔立ちをしている。 気のせいだろうか。その違和感を確かめようと、口を開いたその瞬間。乙女のような悲鳴を上げて、彼女は全速力でヒデオから逃げ出した。 人間がそんな速度で走れるのだろうか。そう思わざるを得ない速さで、これがオリンピックであるならばただの異常事態と言うほどの跳躍を見せながら、鈴蘭……と思しき少女は、涙目でヒデオから距離を取って行く。 「鈴蘭……さん?」 どうせ既に疲労困憊していたヒデオの脚では、彼女が普通の人間でも追いつけはしなかっただろうが、それ以上に驚愕が足を止めていた。 (今の、反応は……) まるで、これまで散々浴びて来た……自身の見た目に対するリアクションではないか。 川村ヒデオはこれと言った取り得もない、平凡なヒキコモリである。だがそんな彼にも、彼を街角ごとの職務質問で若年性出不症候群に追い込み、就職活動を失敗させ――そして一時的とはいえ、人外魔境の聖魔杯で。誰より無力な彼を優勝候補にまでのし上がらせるハッタリを支えた、目付きの悪さというありがたくない生来の特徴があった。 だが鈴蘭は、そんなヒデオにも怯えることなく接してくれた数少ない相手であり――何より初対面ではなく知己の間柄のはずなのに、どうしてあのような反応が返って来たのだろうか。彼女がこの状況で自分を避けると言う理由も、皆目見当が付かない。 ……………………それに、あんな可愛らしい悲鳴を上げるような人だっただろうか? いや、今の疑問は少々失礼だったかもしれないが……云々。 とにかく事実として、今の少女は、ヒデオの知る鈴蘭とはいくつかかけ離れている点があった。 程なく浮かんだのは、単なる人違いという可能性。名簿で名護屋河睡蓮なる名を見たことを、ヒデオは思い出す。名護屋河という姓の特異さ、また名前の類似性から、睡蓮が鈴蘭と肉親であるという推測に突拍子はないと思われる。また先の少女は、面影はあっても鈴蘭とは別人に見えた。故に彼女の身内、年齢から考えて妹辺りである睡蓮ではないか、と考えられるのだ。 故に初対面の睡蓮が、ヒデオの容貌に恐れを抱き、逃げ出してしまったのではないかというのが一つ目の仮定。慣れたとはいえ、殺し合いの場においても――だからこそかもしれないが――自身の見た目は他人に恐怖心を抱かせ、拒絶されてしまうという事実に若干、いやかなり傷つきながらも、それが最も妥当な説明ではないかとヒデオは結論付ける。 とはいえ、情報不足の身で答えを決めつけるのはあまりに危険だ。 先の少女は、雰囲気が違うとはいえ、余りにも――それこそ姉妹としても、鈴蘭と似過ぎていた。理屈に合わないとしても、本人ではないと信じることが難しいほどに。 昨日寝付く前の時点では、鈴蘭達の方に特に変わったことが起きたなどとは聞いていない。だがそれでも、先程の少女が鈴蘭だった場合。同様に魔殺商会やリュータ達、地上の仲間達との間に、何らかの齟齬が生まれている可能性があるのだ。 無論、その可能性が低いことは理解しているのだが、今の状況では常に最悪の想定を行っておくべきだろう。 しかし一方で、やはり不足している情報から悲観的な想定ばかりしても、自ら生んだ不安で雁字搦めになってしまわないとも限らない。そのバランスの見極めは容易ではないが、解決に近づくための方法として一つ、実に明瞭な答えがあった。 (アシュレイ・ブフ&ソレル咒式事務所に……向かおう) その解決策とは――参加者でも主催者でも、何でも良い。とにかく情報を集めて行くことだ。そうすれば余計な不安に足を縛られることはなくなり、また現実に起こっている事態への的確な対処が可能となるのだから。 参加者の内二人の名を冠したその場所なら、情報目的に足を運んで無駄になる、ということはまずないだろう。 (もう、追いつけないなら。鈴蘭さんの、ことは……後でゆっくり、考えよう) およそヒデオの知る彼女なら。彼女の身内や、本人であるなら。そう簡単に死ぬはずはないと、祈るように言い聞かせながら、ヒデオは歩みを再開した。 こうして――後に二代目聖魔王、魔眼王と呼ばれた青年の、正史から外れた戦いは……敬意を抱く初代聖魔王に、見た目のせいで逃げられると言う形で幕を開けた。 【一日目/朝/エリダナゾーンA-5・西カルナ商店街】 【川村ヒデオ@戦闘城塞マスラヲ】 [参戦時期]第五巻『光を目指して走れ!』①終了後 [状態]両足に軽度の疲労 [装備]BRデバイス@オリジナル [道具]基本支給品一式、不明支給品×3 (確認済み) [思考]基本行動方針:殺し合いを止める。 0:鈴蘭の奇妙な反応に対しての疑問。 1:アシュレイ・ブフ&ソレル咒式事務所に向かい、情報収集。 2:ウィル子達と合流。 3:殺し合いに乗っていない参加者と協力したい。 4:アルハザン(アーチェス、レナ)、ジョーカー達を警戒。 [備考] ※服装は野戦服ではなく、魔殺商会時代や『レイセン』などの黒いスーツ姿となっています。 ※鈴蘭との参戦時期のズレに気づいていません。 ※参戦時期的に睡蓮のことは知りませんが、彼女と鈴蘭は肉親であると推測しています。 ◆ 「……はぁ、はぁっ」 両膝の上に掌を添えて、俯いた鈴蘭は荒い呼吸を繰り返していた。 脇目も振らずに逃げ続けた結果。いつの間にか辺りは、多くの家屋やビルの並んだ街並みではなく、足首程度の背丈をした無数の青草が群生する平地となっていた。 あの恐ろしい目つきをした男から逃げる一心で、とにかく足を止めてはならないとだけ思い続けていた鈴蘭は、途中でオーロラのような壁――デバイスの説明にあった次元の壁を越えて、エリダナからグリンゾーンへと移動していたのだが、そのことにはまだ気づいていなかった。 「……ここ、どこぉ?」 辺りを見渡し、あの目付きの悪い男の姿が認められないことに一安心した後に、鈴蘭はまた目尻に涙を滲ませて、そんな声を上げた。 見知らぬ地とは言え、まだ街の中なら辛うじて余裕を保っていた少女の精神は、殺し合いという極限状態の中、逃げなければという強迫観念でさらに擦り減らされ、決壊しかけていた。せめて誰か一緒に居てくれれば、まだ踏み止まれたかもしれなかったが……もう、限界だった。 まさか自分が必死の思いで逃げた相手が、未来の仲間だとは知る由もなく。鈴蘭は心細さに押し潰され、両手で自身を抱くようにしながら膝を着き、譫言のように母の名を呼んだ。 「うぐっ……いやぁ……お母さぁん……」 「――マァーム!」 そうしてまた、恐怖に震えていた鈴蘭の耳を叩いたのは、同じく母を呼ぶ幼い声だった。 「マーム! どこー? マーム!」 「え……っ?」 その舌足らずな声の含んだ、余りに幼い気配にか。恐怖ではなく、関心の方が上回った鈴蘭は俯いていた顔を持ち上げ、声のした方へと視線を走らせた。 (えっ?) 何、あれ……というのが、声の主を見た鈴蘭の第一印象だった。 ほんの極少量、桃色を帯びた白い楕円体から、身近な四肢の生えたような四足歩行の生物。左右対称の長い耳の下にある円らな黒い瞳を寂しげに歪ませているそれが、とてとてとて、と草原を走りながら、声を張り上げていたのだ。 首――というか、前足のすぐ後ろぐらいの部位に、銀の円環が巻き付いていることを考えると、あの生き物も参加者なのだろうか。人間の言葉を話す、人間ではない姿をした生き物を目にした驚きに、鈴蘭はどんな感情を抱けば良いのかわからずにいた。 そんな鈴蘭が見守る近くにまで、その生き物は気づく様子もなく寄って来る。 「マーム! マーム……うぅっ。うぇっ、えぇーん……!」 やがて生き物がそう、まるで泣くのを堪えるようにするのを見て、鈴蘭は胸に小さな痛みが走ったのを感じた。 (この子も……お母さんのこと、探してるんだ……) バスケットボールほどの大きさしかないこの子もきっと、自分と同じ参加者であるのなら。突然殺し合いなんかに連れて来られて、その心細さや恐ろしさから母を探す心に、見た目ほどの差はないのではないかと鈴蘭には感じられた。 「……ねえ、あなた」 先程の男よりは、目の前で涙を浮かべつつある小動物に恐怖を覚えなかったからか。また、孤独感に苦しんでいた中で、自分とそっくりな心境の相手を見つけられたからか。それとも、極限状態が鈴蘭の精神を微かに狂わせていたからか。 気が付けば鈴蘭は、その生き物に自分から声を掛けていた。 「……だーれ?」 害意も何もない、純粋無垢で舌足らずな返事に、鈴蘭の中の警戒は一層鳴りを潜める。 施設にいた頃に年下の子供達を相手にした時を思い出して、鈴蘭は膝を曲げ、生き物に視線の高さを近づけることにした。 「私、名護屋河鈴蘭」 「な、ご……ら?」 「あはは、長いよね。鈴蘭で良いよ」 可愛らしく言い淀み、困った様子の生き物に、鈴蘭はそう笑顔で応えた。 「すず……スズ!」 「鈴蘭」 「スズ!」 「うーん、しょうがないか」 名前をしっかり憶えて貰えなかったことに苦笑しながら、鈴蘭は尋ねてみた。 「ねえ、あなたの名前は?」 「トコモン!」 元気の良い返事の、その無邪気さに、先程まで鈴蘭を苛んでいた感情はすっかり消えていた。今度は自然と自らの表情が綻ぶのを感じながら、鈴蘭はさらに問い掛ける。 「トコモンは、お母さんを探してるの?」 「あいっ!」 「トコモンのお母さんは、ここに連れて来られているの? 名前は?」 「マム、いた。ドルモン、みた!」 見た、と言った。目にしたと言うのなら、参加者の中にトコモンの母親――ドルモンがいる可能性は高いだろう。見た限り、右前脚についているデバイスを起動することも、自分の現在置かれた状況を理解することも、トコモンにはできそうにないと思えたが……おそらくはあの始まりの場所で、母の姿を確認したということだろう。 「そっか。そうなんだ……」 確認するように呟いて、鈴蘭が覚えたのは、何とも言えない憤りだった。 何で自分が。そう思っていたことが恥ずかしくなるほどの怒りが、静かに燃え始める。 人間かどうかなんて関係ない。こんな、現在の状況すらわかっていなさそうな、トコモンをその母親と一緒に殺し合いなんかに放り込んだバグラモン達主催者を許せないという気持ちが強まっていたのだ。 「トコモン。お母さんに会いたいよね」 「あいっ」 「……じゃあね、トコモン」 鈴蘭は義憤を抑え、努めて穏やかな表情を作りながら、すっかり奇抜さより愛らしさの方を感じるようになったトコモンの瞳を覗き込んだ。 「一緒にお母さんのこと、探そっか?」 「ホントーッ!?」 くりくりっとした目を大きく見開いて、声のトーンを一つ高めたトコモンの問いに、鈴蘭は静かに頷いた。 「うん。本当だよ」 喜色満面の笑顔を浮かべ、その場でぽんぽん跳ね回るトコモンの様子に安らぐものを感じて、自分が笑っていることに鈴蘭は気づいた。この子が喜ぶ様子を見ると、鈴蘭も嬉しかった。 鈴蘭は、ほんの少し前まで孤児だった。神殺し、と呼ばれる呪われた血筋の運命から遠ざけるために母に捨てられ、しかし何の意味もなく、深き闇に住まう者どもに狙われた。何の関係もない、ただ都合の良い弱者に対する人間の悪意に晒されもした。 そんな彼女を、それでも大勢の人達が助け、母のところに返してくれた。 今また、きっとそのせいで殺し合いなんかに放り込まれてしまったけれど……だったら今度は、同じようにこんなところに放り込まれて、母から遠ざけられてしまったトコモンを助ける側に鈴蘭が回る番だ。今この子の力になってあげられるのは、鈴蘭だけなのだから。 自分と同じだと感じたトコモンを見捨てて生還しても、きっとそれは逃げだと思うから。 (私はもう逃げないって、決めたんだから) ……まあ、あの殺し屋さんはともかく。 あれは逃げたんじゃなくて、戦略的撤退! などと内心で言い訳しながら鈴蘭は身を起こし、呼びかけるように固めた右拳を天に翳した。 「よし。それじゃ行こっか、トコモン!」 「あいっ!」 母に会いたい。その気持ちに相違なく、子供達は声を張り上げた。 こうして……既に己が逃げたこと。それによって魔が迫りつつあることに気づかないまま。 鈴蘭の。不幸という名の雪玉は、さらに加速し始めようとしていた。 【一日目/朝/グリンゾーンH-5・草原】 【名護屋河鈴蘭@お・り・が・み】 [参戦時期]第一巻終了後 [状態]健康、疲労(極小) [装備]BRデバイス@オリジナル、魔殺商会メイド服@お・り・が・み、神器“魔王の見えざる手(タキオン)with銘エーテル結晶”@お・り・が・み [道具]基本支給品一式、不明支給品×1(確認済み)、魔殺商会メイド服残り四着 [思考]基本行動方針:殺し合いを止めて、母の下に帰る。 1:トコモンと一緒に、トコモンのお母さん(ドルモン)を探す。 2:魔殺商会の人達や、長谷部先輩と合流したい。 3:ヒデオ(名前は知らない)、ジョーカーの三人(名前は知らない)を警戒。 【トコモン@DIGITAL MONSTER X-evolution】 [参戦時期]オメガモン対デュークモン後、マグナモンに襲われるまでの間 [状態]健康 [装備]BRデバイス@オリジナル [道具]基本支給品一式、不明支給品×3(未確認) [思考]基本行動方針:マム(ドルモン)に会いたい。 1:スズ(鈴蘭)に付いて行く。 [備考] ※X抗体を獲得しています。 ※バトルロワイアルという状況を理解していません。 ※参戦時期的にドルモンはドルガモンに進化していましたが、成長期の姿に退化していることに特に疑問を抱いていません。 【支給品解説】 魔殺商会メイド服セット@お・り・が・み 名護屋河鈴蘭に本人支給。伊織魔殺商会女性社員用制服。耐熱耐冷耐電防弾防刃の五重魔導被膜が施された優れた護身アイテム。予備を含めた計五枚セットを支給。 000 オープニング 投下順 002 邪龍胎動 トコモン ??? GAME START 名護屋河鈴蘭 ??? GAME START 川村ヒデオ ???
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や行のキャラクター や 野菜治 第39回 藤原康弘・桶雅景・鬼豚馬・桐山泰典・池田一平・ナカノ実験室 恥の多い人生を送ってきて、死後もなお自分の心中の時の下着について葛藤する。全身着ぐるみ人参など、さまざまな自我を持っている。 柳小路エンリケ三郎 第21回 桐山泰典 豪華客船ダイパニック号の乗客、無人島への漂着者の中では唯一の客。通称ウスラのっぽさん。公家とカスティージャ王家の血をひく良家の御曹司であるため、世間を知らず、砂浜に打ち上げられたボトルメールの出会い系スパムメールに返事を出してしまう。よって砂浜は出会い系ボトルメールだらけになるのである。正気なようでいてオカシクなっていく船員たちと比較すると、オカシイようでいて結構正気だったりするのだが、そういうのって数の論理には勝てないものである。ちなみに彼の持ち込んだ貞子のDVDがすべての問題の根源でもある。よって亀には運んでもらえない。 矢吹丈 第10回 池田一平 少年院出身、不屈の名ボクサー。石版には「明日のための○ヶ条」が刻まれているようだ。力石とのクロスカウンター相打ちにダウンし、そのまま真っ白に燃え尽きる。気の早い話である。 ゆ よ ヨーカン・マン 第22回 藤原康弘 銀河鉄道の乗客の一人。灯台守、ないし灯台そのもの。デンマーク北部、タカスギルデショセンの灯台守を父トースト・マンから引き継ぐ。銀河鉄道の沿線をループ移動しているらしく、下車すると元の駅に戻っている。さらに、ある駅を超えるととんがりコーン化してしまい、存在すること自体が難しくなってしまう。善行を積むことにより頭上の灯台は蝋燭→懐中電灯→灯台とグレードアップする。首からラジカセをぶら下げており、そこに星々のささやきを録音している。北山のヴィレッジバンガードがお気に入りのようだ。 横綱審議委員 第3回 全員 横綱審議委員。第3回の登場人物は全員横綱審議委員。
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「センター700点以下は全員ミジンコかシーモンキー」 一月二十一日の独り言 ○予備校にて。センターの話をしてる人達がいる。 聞いてて思った。 −俺,て実は頭良いんじゃないの? 暴言。 だって 「全体で6割取れれば日大合格するらしいよ」「え、まじ?」 「うんまじまじ」「でも,6割なんて無理だよな」 と, 神のお言葉。 俺様ガッツポーズ。 ひれ伏せ愚民どもが発言。(注;実際に声は出してません) つーかセンターの平均点は600点前後だと信じて疑ってませんでした。 700以下は全員ミジンコかシーモンキーだと思ってました。実話です。 だからセンター終わって自己採点した時「…まじか…科目一つ少なく受けたかな」とかおもいました。 10月の模試の『あなたのセンター獲得点数予想』では460点というありがたい数字を頂いたにもかかわらず。 しかしどうやら俺様はもっと威張って宜しいご様子。 ふは、ふははは、ふはははははははははははははははは! http //web.archive.org/web/20020212002414/http //yokohama.cool.ne.jp/chinakiss/dia.html
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元スレURL 璃奈「出会い厨釣って安曇追分駅に放置する」 概要 出会い厨を僻地に誘導しよっと 安価で釣れたのは… タグ ^天王寺璃奈 ^短編 ^安価 コメディ 名前 コメント
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大馬鹿者達の出会い ◆lcMqFBPaWA …緑 新緑の匂いのかぐわしい美しい森の中においては、緑など探す必要もないほどに溢れている。 だが、それが森の中を走る青い線…川のすぐ傍だとしたらどうだろう。 無論、川の傍とて苔などが生していはいるし、川の内部には海草の類が繁栄していることだろう。 しかし、これはそのどちらとも違う。 何故なら、その緑は…動き出したのだから。 そう、それはモノではなく… 「…う、む…ゲホゲホッ!! むう…死ぬかと思ったのである。 おのれあの女め、世紀の大天才にして人類の財産であるこの我輩の頭脳の損失を惜しむ気は無いのか! …む? いやむしろ我輩の財産は頭脳であるからしてその他の部分など不要とでも考えたか!? 否! 断じて否!! このセリフは何となく死亡フラグである気もするがそもそも我輩に死亡フラグなど通用するはずも無い以上何の問題も無いのである。 兎に角! 我輩の! この両の手は! ギターを鳴らすのにとても重要である以上! 断じて不要などでは無いのであーーる!! いや、そもそも我輩の頭脳を刺激するのにこれ以上無いほどに重要なモノである事を考えるとむしろ真の頭脳と言っても過言ではないのである!! つまり! 我輩の頭脳よりも更に貴重な人類の財産と言ってよいのである!! ……む、だが待つのである。 そもそも我輩の頭脳以上に貴重なモノなど存在するはずが無い! つまりやはり頭脳の方が貴重であるか!? …………いや!! 問題ナッシーーーング!! そもそも、我輩自体が人類の財産であるのだからして悩む必要など無いのである!! うむ! そもそも最初から結論なぞ出ていたのである以上やはり我輩は天才であった以上証明終わりなのである!」 ……この物体が何か、 そう、聞かれると、多くの人はこう答えるであろう。 「キチ○イ」 と。 そのキチ○イ、本人の言によればその名は『ドクターウエスト』 少し前までほぼ土座衛門であった事を考えると、非常に丈夫な生き物であると推測される。 …あるいは、頭の緑で光合成でも行っているのかも知れない。 「うむ! 結論が出た所で話を戻そう!! そもそもあの女め! この人類史上最大の財産である我輩を! ……む、何時の間にか我輩は歴史上においても最高の天才であると認識されていたのであるか。 当然のこととはいえ少しは照れるのである。 うむ、兎に角歴史上最高の天才という財産である我輩を無慈悲にも突き落とすとは何たる極悪人であるか! 親の顔が見たいである! ええい親! 出て来い! と言っても出てくるはずも無いのである! うむ、ならば勝手に想像するのである! 確か『子は親の鏡』ということわざがあったはず。 うむ、先人も中々良い事をいうのである! つまり、あの女の親の顔はあの女の顔を鏡に映せば良いのだ!! あいにくと鏡はここには存在しないが問題ナッシーーーング!! そもそも鏡に映るのは自分の顔と相場は決まっているのである! つまりあの女の顔を鏡に映せば写るのはあの女!! つまりあの女の親の顔はあの女の顔ということである!! うむ、親! 娘にどんな教育をしているであるか!! この人類最高の天才であるドクターウエストを殺そうとしたのであるぞ!! 全く…凡骨リボンは無事であろうか…… ………………………………………………む? ぼ! 凡骨リボーーーン!!」 一しきり叫んだ後で、更に大きな声で叫ぶキチ○イ。 だが、その声音は先ほどまでのものとは多少異なる。 特に意味の無い(本人には大有りなのだろうが)叫びと違い、多分に驚愕とか心配とかそういった感情を混ぜたものであった。 そう、先ほどまですっかり忘れてはいたが、元々彼は一人では無かった。 凡骨リボンこと『藤林杏』 ウエストに言わせると凡骨である、何処にでもいると言ってよい普通の一般人である。 最も、ウエストの叱咤によって多少なりとも生きることに意義を見出した辺り、少しばかりの根性はあるようだが。 兎に角、その杏であるが、非常に不安定な状況であった事は違いない。 加えてそこにはウエストを川に落とした相手『椰子なごみ』が居たのだ。 最早杏の命は風前のともし火と言って過言では無いのかも知れない。 「ええい! こうしては居られんのである!! 待っていろ凡骨リボン!! 今助けに天才が行くぞ!! ……むう、だがそれにしても何処にいるのであろうか? そもそも先ほどの所に戻った所で既に手遅れと言う可能性も…否! そんな事ナッシーーーング!! この超天才に限って間に合わぬなどという事があるはずが無い! それに凡骨リボンとて凡骨なりに頑張っておる!! いざとなったら川に飛び込んで逃げる事位! ……む、待て、川であると? そういえばそもそも我輩は川に落とされてこんな所に居るのである以上、凡骨リボンも同じような目に会っているともしれず。 そうなるとむしろ我輩は川を下るべきなのではと思うのが素人の浅はかさ! そんな事をしても見つかる可能性の低い以上! やはり我輩は先ほどの所に戻るべきなのである!! うむ、そうと決まれば休んでいる暇など無い! 早速戻るのである!!」 とっくの昔に走り出しながらも、それでも意味不明な事を言い続けていたウエストだが、それでも目的地が定まったのは多少は意味があったらしく、彼は今までよりも早い速度で川の横を駆け上り始めた。 どうでもいいがあれだけの大声で叫びながら走り続けている辺り相当の肺活量と言って良いだろう。 …だが、その肺活量故に、彼の身には危険が迫る事となる。 ◇ 「ええい!! また進めないであるか!! この天才の歩みを妨げるとはいい度胸ではあるが相手が自然である以上は度胸も何も会ったものではないわけで… つまり平たく言うと我輩の手に破壊ロボが無いので命拾いしたな自然!! 今度会ったら覚えておくのである!!」 あれから数十分、ウエストは川の側を登りながら文句を叫んでた。 地図上で見ると平坦なようでも、実際に川を追うというのはかなり大変な作業である。 大地の起伏は人の足では進めず、密集する草木は容易く人の行く手を遮る。 既に三度、ウエストは回り道を余儀なくされていたのだ。 一応、科学者ではあるのだが、ウエストは兎に角タフだ。 それこそ○キブリ並みの生命力と言っても過言では無いのだが、その彼にしてもこうも何度も回り道をさせられては流石に堪える。 元より川に流されて体力を消耗した身では、急な勾配と自然の妨害は十二分に強大な敵であった。 ……だが、それでもウエストは歩みを止めない。 元より負けず嫌いな彼のことである。 ここで足を止めては何かに敗北したと考えても不思議は無い。 …だが、それ以前に……要するに、藤林杏の事が心配であったのだろう。 無論、本人が聞いたら確実に否定するのだろうが。 ◇ 「…湖…か…」 (知らぬ間に北に向かっていたのか…) 目前に広がる光景を目にしながら、片手に鞘に収まった刀を携えた制服姿の少女―千羽烏月は一息ついた。 先ほどの別れ、馴れ合うような中では無いとはいえ、元よりの顔見知りである浅間サクヤとのそれは、どうやら知らずうちに烏月の心に陰を落としていたようだ。 “ふざけるんじゃないよ、この馬鹿! そんな事をされても、桂は喜ばないよ! あの子はそんな子じゃない!” “いいや、あんたはわかっちゃいない。 ……あの子は、例え見知らぬ誰かが死のうと心を痛める子だ。 そして、それと同じくらい、誰かが誰かを傷つける事に心を痛める子だよ! それを……桂のために皆殺しにしよう、だって? そんなの桂に対する侮辱だ!” 「解っているさ…そんな事くらい…」 そう、誰よりも…烏月自身がその事をよく理解している。 何故なら…桂は烏月の事を誰よりも良く見ていてくれていたのだから… そう、約束したのだ… 烏月は桂を守る『鬼切り』であり。 桂はその烏月を空より見守る星であると。 (そう、だからこそ…) 桂の為に人を…鬼でないものを殺さなければならない…/桂の笑顔が、声が烏月の覚悟を曇らせる… 相反する意思。 同じ場所から生まれたが故に完全に分かれる事の無いソレは、烏月の心を割る。 無論、その程度で烏月の心は壊れたりはしない。 だが、それでもそれは確実に、烏月の力を奪う。 迷いは、太刀先を鈍らせる。 その程度の事は、思い返す必要すらないほどに刻まれた教え。 その教えに従い、……人を切った事すらある。 今更…何を悩むというのか。 “鬼を切るために、ソレを阻む人を切る” “桂を生かすために、ソレを阻む人を切る” たった… そう、たった、二文字程度の違いでしかないというのに、だ。 何が違う? 何故違う? そう、違うのは、変わったのはたった一つだけ。 『羽藤桂』 その存在が、烏月を変えたのだ。 いくらその為に、と思い込んだ所で、その底にある想いだけは偽れない。 “桂さんの悲しむ顔を、見たくない” 烏月が人を切れば、桂は嘆き悲しむだろう。 切られた人の為に、そして、切った烏月自身の為に。 ならばこそ、切らねばならない。 大切な人を守る為に、切らねばならない。 たとえ桂が嘆き悲しもうと、切らねばならない。 (何て…矛盾だろう……) 思わず、烏月の顔に自嘲の笑みが浮かぶ。 桂を守る為に、桂を嘆き悲しませる。 桂を守りたいから、桂に会うわけにはいかない。 今の烏月は矛盾の塊でしかない。 いや、元より矛盾の塊であったものが、サクヤとの再会によって矛盾を意識したと言うべきか。 …だが、 (…だから、人を切れる) 矛盾が矛盾であると理解したのであればこそ、それは存在できる。 桂の為に人を切る。 そこに矛盾が存在すると理解出来たのであれば、もう迷う必要などは無い。 迷いが正確に理解出来たのであれば、それ以上迷う必要などないのだから。 (そう…だから……!!) 刀を鞘から抜き放ち、肩に担ぎ上げる。 そして、そのままの流れに従い、背後へと切り流す。 切っ先の向きと共に体を背後に向け、 「貴方は…この殺し合いに乗っているのか?」 先ほどからその方向より聞こえていて、丁度姿を現した声の主に、詰問した。 ◇ (……何であるかこの女は) 漸く、先ほど藤林杏と別れた場所までたどり着いたドクターウエストを迎えたのは、刀を構えた女子学生であった。 黒い長い髪に、正面に突き出された切っ先。 明らかに、危険そうな人物であった。 (……むむ、この外見は…) 「お前は…もしや少し前にクリス・ヴェルティンと来ヶ谷唯湖が会ったとかいう女であるか!?」 少し前に別れた二人が、大聖堂にて襲われた相手の内の一人ではないのか? その疑問が、ウエストの脳裏を過ぎる。 あの二人を襲った、恐らくは殺し合いを肯定している人物。 それが、この場所に居るということは… 「…その二人は「貴様!! 凡骨リボンをどうしたであるか!? この場所にいるという事は殺したのであるか!? …いや、凡骨とは言えそう簡単にはやられる筈も無い!! そうなると逃げられてこの場所に戻って来たという訳か!! そしてこの我輩がのこのこと現場に戻って着た犯人のようにこの場所に来たという事であるな!! むう、そうなると次にお前は我輩を襲う気であるな! 構えた刀がその証!! ならば我輩は一目散にこの場から逃げ………………ノォーーーーーーウ!!!! 逃げる!? 言うに事欠いて逃げるであると!? この世紀の大天才ドクターウエストに逃走など許される筈が無い!! つまりこれは敗北ではなく転進である!! という訳で凡骨リボンを探しに転進するであーーーーーる!!」 …ウエストの言った名前について尋ねようとした烏月の言葉を遮って、ウエストが叫ぶ。 基本的に何から何まで間違っているようでいて、半分くらいは正解な辺り、ある意味天才という名は相応しいのかもしれない。 兎にも角にも逃げ…転進しようとしたウエストではあったが… 「……ドクター…ウエスト…?」 多少の戸惑いと共に発せられた烏月の声に、ピタッ!!と、 それこそポーズボタンでも押されたかの様に停止した。 そして、首だけがコマの様に半回転しながら。 「むむ!? 何故初対面の筈の我輩の名前を知っているのであるか!? …いや、そもそも世紀の大天才である我輩の顔を知らない者など我が宿敵大十字九郎以外に居る筈もないのであるが! ……むう! さては貴様我輩のファンであるな!! それならそうと先に言うが良い! 普段はサインはお断りであるが今回に限り特別に…」 「必要ありません」 一気呵成に放たれたウエストの言葉を、埒があかないと判断したか、烏月が遮る。 その声は、あくまで平坦だ。 ウエストを前にして普通にしている辺り、かなりのものであると言えるだろう。 「…とりあえず、順番に放してもらえないか? まず、先ほど言った二人、そして…凡骨リボン…とは何だ?」 ウエスト相手に駆け引きは不要と判断した為、話を促す方向に持っていく。 果たして、烏月の読み通りに、 「ノォーーーーーー!! 我輩のサインよりもクリス・ヴェルティンに来ヶ谷唯湖に凡骨リボンのほうが価値があると!? 否! 断じて否!! むう、死亡フラグ二回目のような気がするであるがどうでもいいのである! まさか大十字九郎以外にもこのような相手が居るなど!! ええい! 貴様など大馬鹿者の十分である! やーいこの大馬鹿者!! うむ、気が済んだのである。 それでクリス・ヴェルティンに来ヶ谷唯湖は先ほど大聖堂にて大馬鹿者に襲われたと言っていたぞ。 黒い制服と長い髪に日本刀とくれば概ね間違いないのである。 ついでに凡骨リボンは本名藤林杏と言うが凡骨リボンで充分である。 そして見た限り周りに凡骨リボンが死んだと思われる証拠はないので問題ナッシングである。 うむ、凡骨リボンごときに逃げられるとはやはり貴様は大馬鹿者なのであろう。 やーい大馬鹿者!!」 いかなかった。 …いや、質問に答えている辺り目的は果たしているのだろうが… 兎に角長すぎる。 肝心の内容よりも無駄話のほうが遥かに長いのだから。 だがそれでも充分ではあるのだろう。 (大聖堂…あの二人組か…?) 何処の国かは不明だが西洋系の少年と、日本人と思わしき少女。 名前から考えると、恐らくは間違い無いのだろう。 そして… 「…私がここに着たのは少し前です。 その藤林杏という人は知りません」 具体的に何があったのかは不明だが、ウエストはその杏という人物と合流する為にここに来たのであろう。 その杏なる人物がどうなったのかは不明だが…兎に角、 (殺し合いには乗っていないという事か…) あの二人組と共に行動し、他にも仲間がいるということは、そうなる。 つまり、利害の一致によって手の組める相手では無いということだ。 …だが、 「貴方の名は、ドクターウエストなのですね?」 「……我輩の名も知らぬ大馬鹿者に答えてやる理由などないが我輩の名を知らぬ者がいるというのも納得いかないので答えてやろう! いかにも!! 我輩こそが世紀の大天才! ドクターウエストであーる!! さあ、わかったからには」 「…では」 ウエストに喋らせていては埒が明かないと充分に理解出来たが故に、烏月は遮って、デイパックに手を入れた。 そして、 「コレに、見覚えは?」 ソレを、取りだした。 恐らく、ウエストを名乗る人物は、偽名では無い。 あそこまで自然に偽名を使える人間が居るとは思えないが故に。 だが、それでも確認の為にそれを見せた。 「ぬおっ!? それは我輩がエルザ用に作った『我、埋葬にあたわず』ではないであるか!! 何故大馬鹿者がソレを持っておるのだ!? それはエルザのものひいていえば我輩のものであるぞ! さあさっさと返せ!!」 「…残念ながら返す訳にはいけません」 どうやら、ウエストという男は本物のようだ。 見ただけで烏月の知らない内容まで自分から喋っている以上、間違いないだろう。 「何故であるか!? 我輩のものである以上持ち主に返すのが筋である!! おのれ、警察!! 何故何時もはしつこい位いるのにこんな時に限っていないのであるか!! かくなるうえは我輩自らの手で持って取り返すしか無いであるか!? いやしかし破壊ロボ無しで『我、埋葬にあたわず』と戦うのは………… ……! ふっ! ふはははははははははははははははゲフッゲフッ!! ハアハア…ふ! 墓穴を掘ったであるな!! そもそも『我、埋葬にあたわず』は魔道の心得が無くては使えないのである!! 取り返した所で我輩自身にも使えないのであるがそれはそれ!! 兎に角大馬鹿者にはそれは使えぬ! さあ、さっさと我輩に返すついでに謝るのであー「使えます」る?」 何やら意味不明に叫び続けるウエストを、烏月の声が遮る。 「私はコレが使えます。 確かに説明書にあった『魔力』というものは所持していませんが、私の用いる『霊力』であっても使用可能なようです」 「な…なんであると?」 「…加えて、私にはこの刀もあります。 貴方には私をどうにかすることは「何であるかその『霊力』というものは!!??」 説明とともに、自身の優位を伝え、同時に質問したいことを尋ねようとした烏月を、今度はウエストが遮る。 「『霊力』!? この世紀の大天才である我輩の知らん力が存在するというのか!? 否! 断じて否!! むう、三回目であるが二度ある事は三度あるので問題ないのである。 うむ、知らぬのであればこれから知ればよいだけの事!! まず『我、埋葬にあたわず』を使用可能という事は魔力に近似した力であると推測されるのである!! 加えて大馬鹿者が力と自覚している以上それなりの技術体系が存在しているということになるのである!! むむむむむむ!! おい大馬鹿者!! いや霊力女! お前は何と言う名前で何人であるか!?」 「…千羽烏月、日本人だが…」 ぶしつけな質問ではあったが、烏月は答えた。 いい加減、大馬鹿者呼ばわりは我慢出来なかったのであろう。 「……日本人!! また日本人であるか!! おのれ大十字九郎といいどこまでも我輩に立ちふさがるか!! 兎に角! 日本には!! ……む、待つのである、我輩の世界の日本とは限らぬのであるが…… いや! どっちにしろ日本には変わらないのである!! 千羽烏月の世界の日本には我輩の知らない技術があるとそういうことである!!」 「…私の…世界?」 いい加減鬱陶しい気もするウエストの叫びを普通に聞きながら、烏月は気になった事を問う。 世界…とはどういう意味なのか。 「む…千羽烏月よ、お前はアーカムシティを知っておるか?」 「…生憎と、知らないな」 「覇道財閥は? ブラックロッジは知らんのであるか?」 「…知らない」 「ふん、やはりであるか」 納得したようにウエストは僅かに嘆息する。 そして、疑問を浮かべたままの烏月に告げた。 ◇ 「…そんな、事は」 「ある筈無いとでも言うであるか? 凡骨リボン辺りとは違いお前はある程度理解納得できるのではないか?」 「……」 無い…とは言い切れない。 荒唐無稽であることは確かなのだが、それでも逆の意味で納得出来る。 あの双子の鬼は、蘇ったのでは無く死んでいなかった。 少なくとも、死んでいない場所からやって来た。 そういう事だとしたら、あの時の双子の言葉の不可思議さが、理解出来る。 だが、そうだとするならば… 「ふむ、さて千羽烏月よ、我輩は興味を持ったのであるからして……!!」 振るった太刀は、空を切った。 ウエストが、退きながら尻餅を付く。 気が抜けながら振るった為か、かわされたようだ。 「なっ!何をするのであるか!?」 「気が変わった。 ここで死んでもらう」 少しだけ考えていた事は、どうやら最悪の悪手であったようだ。 「どういう事であるか!?」 「…お前は天才と言っていたが…ならこの首輪を外せるのか?」 「当たり前である!! この程度のオモチャを解体するなどこの世紀の天才ドクターウエストにとっては朝飯前のおやつ前である!!」 「……なら、何故まだ外していない?」 「決まっているのである! 構造が判らないもの解体など出来る筈が無いのである!!」 「…そうか」 ウエストの鼻先に、切っ先を突きつける。 つまり、首輪の現物さえあれば、この男は首輪を解体出来るということだ。 それはつまり、まだ出来ないという事だ。 なら 「僥倖というべきか…桂さんの身に危険が及ぶ前に、憂いを絶つことが出来る」 今切っておけば、少なくともこの男によって首輪が解体される事はなくなる。 つまり…『首輪が爆破される可能性も減るということだ』 少し前までは、万が一の時の為に桂さんの首輪を外してもらう事も考えた。 だが、主催者がそこまで強力だというのなら、それはこれ以上無いくらい危険な行為だということだ。 最悪の場合、ウエスト達が首輪を外したとして、その時に未だ首輪の付いた者は皆、首輪を爆破される可能性があるということだ。 そんな事態を、未然に防げた。 「ええい千羽烏月!! 憂いとはどういう事であるか!? ついでにその計算とはだれであるか!?」 「答える必要は無い」 そう、答える必要なんて無い。 意味も無い上に、もし、彼が桂さんと出合っていたとしたら、決心が鈍りかねないから。 だから、切っ先を突き出そうとして、 「優勝したとしても帰れないのであるぞ!!」 咄嗟に、切っ先を逸らした。 何本か、ウエストの髪が宙を舞う。 「…やはりであるか。 一体何人こんな大馬鹿者がいるのであるか。 よいか千羽烏月よ。 思い出してみるのだ、あの時あの二人は帰すなどとは一言も言っておらぬのだぞ」 何… 「具体的にどうなるのかなど我輩にはわからんが、それでも碌な事にはならないのである。 お前がその計算とやらを優勝させたところで殆ど何の意味も無いのである」 そんな…事 「だから優勝狙いなど意味ナッシーーーーーング!! ふはははは! 判ったのなら大人しくこの刀を退けてこの我輩の頭脳に頼るがいい!! 今なら霊力に関して知っていることと、ついでに実験に協力すれば許してやらんでもない!!」 だが、 「…だからと言って! どうしろと言うんだ!! 他に桂さんを生き延びさせる道があるとでも言うのか!?」 「だから我輩が首輪を外してやるのだ!! そしてその後に皆で主催者とか言う奴らをミックミクにしてやるのだ!!」 「そんなこと!」 「出来ないとでも言うのであるか!?」 「お前は! お前たちは出来るとでもいうのか!?」 「出来ないのでは無いのである!! そもそもこの大天才に不可能のなどナッシーーーーング!! やるのである!!」 「……!!」 ああ、そうできたらどんなに良いのだろう。 サクヤさんに謝り、共に桂さんを守り、生きて帰る。 それが出来たら、どんなに素晴らしいのだろう。 だけど、そんな事、出来るのか? こんな事をできる様な相手に、そんな奇跡みたいな事が出来るのか? 「それでも!! 生きて帰れる可能性があるのなら!!」 「こんな事を始めるような相手を信じるであるか!?」 「……!!」 ああ、そうだ。 そもそも、最初から最も信じられない相手を信じなければ、桂さんを生かして帰す事が出来ない。 それでも、約束したんだ。 桂さんを守るって。 サクヤさん言われたって退かなかった。 今更、こんな見ず知らずの相手に言われたからといって何だというのだ。 どんなことがあっても、桂さんを殺させる訳には行かない。 だから… 「小娘! 一つだけ聞いておく事があるのであるのでさっさと答えるのだ!」 思考を、遮られる。 「その、計算とやらが死んだとしたら貴様はどうするのだ!? さっさと答えい!!」 「……お前に答える理由は無い…」 「そんな答えは必要ナッシーーーーング!! さっさと答えるのだ! お前「ご・と・き」とてその程度の事が起きるかも知れないという予想ぐらいは出来るであろう!!」 「……その、時は…」 「次にお前は優勝して生き返らせるというのである!!」 「………………違う…」 「…何であると?」 「その…時は…」 そう、その時は… 「私も、桂さんの後を追う…」 それが、私に出来る唯一の事だ。 桂さんを生き返らせるなんて事は出来ない。 何故なら、それは人から外れるという事。 桂さんを『鬼』にするということだ。 そんな事は…出来ない。 人から外れた存在として歩ませる事は、…出来ない。 「……お…」 「大馬鹿者である!」 …そんな事、いまさら言われなくても解ってる。 「とりあえずその計算式とやらに一発ブン殴られてくるのである!! 少しは見所があるかと思ったのであるがお前ごとき大馬鹿者で充分である!! いや、むしろ『超』大馬鹿者の名が相応しい位の大馬鹿者である!!」 …そうなのかもしれない。 だけど、それだから何だって言うんだ? 「…いや……青い…で、あるな」 (…?) 変わった? ウエストの表現が? ◇ 「…一つだけ教えておくのである。 大天才として…………いや、かつての大馬鹿者の先達として…」 そう、我輩は大馬鹿者だったのである。 天才であろうと、間違いは犯すのである…。 「一人になるのはイカンのである」 ……理論は、完璧だった筈なのである。 …いーーーーや!! そもそも完璧でない筈など無い! この世紀の大天才ドクターウエスト!によりによって計算間違いなど存在しないのである! だが、それでも、 「人生二足歩行ということわざはお前の国のものなのであろう? 片方の足しかない二人が一人の人間として歩いていくという… 一人では道を間違えても誰も教えてくれないのである…」 恐らく…あの時エルザが居たのならあれは成功していた筈なのである。 そもそもエルザを蘇らせる為の行動であったのだからエルザが居る筈は無いのであるが… それでも…あの時、エルザが必要だったのである。 「別に同胞でも恋人でも僕でも好敵手でも構わんのである。 一人で居ては、……いずれ間違えるのである…」 我輩には…エルザが必要だったのである。 エルザが居なくなってから…我輩は死者の蘇生を諦めたのだから。 天才に挫折はあり得ないのなら…エルザの居ない我輩は、天才ではなかったのであろう… 「千羽烏月よ…お前はまだ一人ではないのであろう? ならば…まずはその計算とやらに会っておくのだ…会って…そして… 共に行くのである…」 我輩のような…大馬鹿者にならずに、済むかもしれないのだから…… ◇ 「…………それを言うなら人生二人三脚だ。 それに後の内容は比翼の鳥のものだ…」 (…いや) 違う…な。 そんなことを言うべきでは無い。 (道を間違えた…か…) 千羽党の鬼切り部として…無辜の人を切るのは間違っている。 そんな事は…… (……違うな) そう、違う。 鬼切り部は関係無い。 私という、千羽烏月の道が、間違っている。 それは、理解している。 「今更言われなくても…解っている……」 そう、…理解している。 正しい道が何なのか。 私のするべき事は何か。 …だけど、 「それでも…私は…桂さんに死んで欲しくないんだ…」 桂さんの側にいては、私は桂さんを優勝させれられない。 優勝したとしても帰れないとしても、それでも、生きてはいられる。 だから、私は桂さんに会うわけにはいかない。 「何一つ解っておらんであるな」 ああ、 「そうかも、しれないな…」 結局、私は何をしたいのだろう。 「死んで欲しく無いであると!? そう思うのであるならとっととその計算とやらを見つけだして命に代えても守るのである!! 優勝させるなどという甘い事を言っている場合かこの大馬鹿者!!」 「甘い…か」 そう…だな。 桂さんに死んで欲しくないなら…こんなふざけた催しなどに参加させてはいけなかったのだ。 そもそも、桂さんを守るのなら、桂さんの側から離れてはいけないのだ。 その事を、あの時イヤというほどに思い知らされたというのに。 私は、ただ彷徨っていただけだ。 いや、違う。 「私は…臆病だったのかな…」 桂さんの近くで人を切れば、間違いなく彼女は私を恐れるだろう。 ……怖かったのだ。 桂さんに嫌われる事が。 ◇ 「私は…桂さんを探す。 探して……そして、守る」 「そうであるか」 (そうして…優勝を目指すかもしれない…) 下の句を、烏月は告げなかった。 守る。 桂を守るのならば、その選択肢は捨てられないのだから。 「さて、ではとっとと大聖堂に向かうである!!」 「……は?」 ウエストの答えに、烏月は思わず聞き返した。 言っている内容が、良く解らなかったが故に。 「『は?』ではないである! そもそもお前の所為で時間を取ったのであるぞ!! 我輩は凡骨リボンを探さねばならぬのであるからして手を貸すのが当然であろう!! ついでにいえば『我 埋葬にあたわず』は我輩の持ち物であるからして勝手にしようした代金として対価を払うのが当然であろう!!」 「……二手に別れた方が、効率がよいのでは?」 「そうしたいのは山々であるが、お前が会ったティトゥスなどは我輩ではどうにもできないのである! そして我輩が死んではお前も困るであろう? さあ、さっさと我輩を守りつつ進むのだ!!」 「…………」 一瞬、何故こんなのを守らないといけないのかという疑問が烏月の頭を過ぎるが… …仕方がないかと思い返す。 「どの道計算とやらが何処にいるのか知っているはずもないのであろう? ならば人の多い場所を目指すのだ!!」 「私はそちらから来たのですが…」 「ならば丁度良い!! 早速進みやすい道を案内するのだ!!」 「…………」 ゴツンッ! 「あべしっ!!」 とりあえず、いい加減一発殴っておくことにしたらしい。 【D-4 湖周辺/一日目 午前】 【千羽烏月@アカイイト】 【装備:地獄蝶々@つよきす -Mighty Heart-】 【所持品:支給品一式、我 埋葬にあたわず@機神咆哮デモンベイン】 【状態:肉体的疲労小、精神的疲労中、身体の節々に打撲跡、背中に重度の打撲、右足に浅い切り傷(応急処置済み)】 【思考・行動】 基本方針:羽藤桂に会う。 1:桂を守り共に脱出する、不可能な場合桂を優勝させる。 2:トルタ、恭介に対する態度保留。 3:クリス、トルタ、恭介、鈴、理樹は襲わないようにする。 【備考】 ※自分の身体能力が弱まっている事に気付いています ※烏月の登場時期は、烏月ルートのTrue end以降です ※クリス・ヴェルティン、棗鈴、直江理樹の細かい特徴を認識しています ※岡崎朋也、桂言葉、椰子なごみの外見的特長のみを認識しています ※恭介・トルタが殺し合いに乗っている事を知りません。 ※ドクター・ウェストと情報を交換しました。 【ドクター・ウェスト@機神咆哮デモンベイン】 【装備】:無し 【所持品】支給品一式 、フカヒレのギター(破損)@つよきす -Mighty Heart- 【状態】気絶、肉体的疲労大、左脇腹に銃創、スタンガンによるダメージ 【思考・行動】 基本方針:我輩の科学力は次元一ィィィィーーーーッ!!!! 1:凡骨リボン(藤林杏)を探しに大聖堂へ 2:ついでに計算とやらも探す 3:霊力に興味 【備考】 ※マスター・テリオンと主催者になんらかの関係があるのではないかと思っています。 ※ティトゥス、ドライを警戒しています。 ※フォルテールをある程度の魔力持ちか魔術師にしか弾けない楽器だと推測しました。 ※杏とトーニャと真人と情報交換しました。参加者は異なる世界から連れてこられたと確信しました。 ※クリスはなにか精神錯覚、幻覚をみてると判断。今の所危険性はないと見てます ※烏月と情報を交換しました。 110 希望の星 投下順 112 Monochrome~モノクローム~ 107 光の先には? 時系列順 114 トーニャの不思議なダンジョン及びあやかし懺悔室 087 復讐者 ドクターウェスト 115 もう一人の『自分』 079 この地獄に居る彼女のために 千羽烏月 115 もう一人の『自分』
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砂漠と森に挟まれたごくごく狭い草地で、一人の少女が膝を抱えていた。 まだ十にもならない幼い顔は陰鬱な色に沈み、悲しげな瞳は荒涼とした砂だらけの大地をぼんやりと見詰めている。 少女の名は、高町なのはといった。 (なんで、こんなことになっちゃったんだろう……) ジュエルシードを巡った悲しい事件から、数ヶ月の時が流れていた。 あれ以来特に大きな出来事もなく、なのはは家族や友人達と平和な日々を過ごしていた。 朝起きて学校に行き、アリサやすずか達と一緒に勉強したり遊んだりする。 友達と別れて家に帰ってからは、翠屋を手伝い、宿題に取りかかる。 普通の子供と変わらない一連の流れを済ませた後は、新しい日課となった魔法の訓練をこっそりと終え、ベッドに入った。 眠る前に思い出すのは、かつて事件の渦中で出会い、大切な友人となったユーノやフェイト達の事。 いつか彼等と再会するその日を思い描きながら、ゆっくりと睡魔に身を委ねた。 これが、なのはにとってごく当たり前の、いつも通りの一日だった。 だから、何処とも知れぬ暗い空間で我に返った時には、夢を見ているんだと思った。 周囲には大勢の人がいて、寝ていた筈の自分は何時の間にか普段着に着替えている。 何が何だか分からないで困っていると、YHVHと名乗る存在が現れた。 聖書に関する知識を持たずとも、それを「神様だ」と思ったのは、子供らしい純粋な感性が真実を半ば捉えたというところだろう。 しかしその神様は、すぐ後に現れた悪魔と一緒になってとんでもない事を要求してきたのである。 (……ころしあい、なんて) 思い描くだけでも抵抗感があるその言葉。 それは拒否権の無い命令となって、なのは達に下された。 本当に全てが夢であったなら、どれだけ良かっただろう。 しかしなのはは今、ただ殺し合いの為だけに用意された暗い世界に放り出されているのである。 日常から非日常への急速な変転は経験したことがあった。 かつてフェレット姿のユーノに出会い、導かれるままにレイジングハートを手にした事は昨日の様に思い出すことが出来る。 だが今回の不条理さ、理不尽さはそれとは比べ物にならない。 果敢にも神と悪魔に反抗した男は、無残にその命を断たれることになった。 「……!」 あの怖ろしい光景を思い出すだけで、なのはの身体は震えが止まらなくなる。 周りにいる人々の姿は暗かったり眩しかったりでよく見えなかったのに、神の悪意か、一人の人間が土くれと化し消滅する様だけは脳裏に焼き付いていた。 嫌だ。 怖い。 悲しい。 余りにも過酷な現実が、少女の心を押し潰そうと重く圧し掛かった。 ──しかし、そこで潰されないのが高町なのはである。 「……なんとか、しないと」 PT事件にまつわる一連の出来事は、普通の少女だったなのはに大きな変化をもたらした。 決して折れない不屈の心。 出来ることを全力でやるという決意。 元より頑固な面のあるなのはだったが、良くも悪くもその性質はさらに強まっている。 或いは子供ゆえの向こう見ずな愚直さに過ぎないのかも知れないが、不当で理不尽な仕打ちに抗おうとする心に、何の間違いもある筈が無い。 「止めよう。 絶対に、殺し合いなんてさせない」 誰にでもなく、自分自身に誓いを立てる。 知らず暗い空を仰いでいたなのはの顔は、幼く純粋な決意に満ちたものだった。 そうして彼女が取った行動は、現状打破の第一歩。 恐らくはこの世界に呼ばれた多くの者が最初に行うであろう行為、支給品の確認である。 (……持てるかな?) 傍らには大きなサイズのデイパックが置いてある。 なのはがこの場所に"送られた"時からずっとそこにあった物だ。 この中にたっぷり荷物を詰め込んだ場合、中学生かそれ以上ならまだしも、九歳の少女がどこまで持ち歩けるのか不安が残る。 ともあれ、中身を確かめるべくジッパーを開く。 すると女の子の顔が出てきた。 「ふぇぇぇ!?」 先程の決意の表情も瞬く間に吹き飛び、なのはは頓狂な声をあげて派手に飛び退いた。 (お、おばけ!?) 間合いを取ってじっとデイパックを睨み付けるが、特に何事も起こらない。 油断無く近付き、恐る恐るもう一度中を除くと、女の子の顔は目をぱっちり開いた無表情のまま、一切動きを見せていなかった。 何の事はない、只の人形である。 「だ、だよね、にゃはは……」 誰にともなく照れ笑いをしながら、人形を取り出してみた。 あるのは顔だけではなく、首から爪先まで全身揃っている。 「あ、かわいい」 一人で勝手に驚いたことも忘れ、年相応の声をあげるなのは。 西洋人の少女と思しきその人形は赤いドレスを身に纏い、金の髪にリボンを結っていた。 子供の目から見てもかなり精巧な作品と思え、角度を変えてあちこち眺め回していると、どこからか一枚の紙が抜け落ちた。 拾い上げると、そこには"蓬莱"という二文字だけが記されていた。 「?」 ホウライと読むが、小学三年生の知識には無い。 (でも、何でこの子が入ってたんだろう) 人形の出来に感心していても、現状を忘れた訳ではない。 殺し合いの為に用意された道具の中に、何故こんな物が入っていたのか? 考えながら、じっと少女の顔を見詰める。 不意に、なのはの感覚に触れるものがあった。 (……これって、魔力?) はっきりとは分からない。 しかし一瞬、人形の中に極めて小さな魔力を感じた様な気がした。 果たしてどういう事なのか、振ったり逆さにしたりしてみたが、それで何が起こる訳でもない。 取り合えず保留とし、支給品の確認を続けることにした。 人形をきちんと腰を下ろして座らせられたことに微かな満足を覚えつつ、再びデイパックに目を戻す。 次に出てきたのは、名簿と地図だった。 (ここに連れて来られた人の名前……だよね) まず名簿を眺めると、ざっと見るだけでも五十以上の名前が記されていた。 上から順に名前を確認していく。 知らない名ばかりがズラリと並んでおり、それも日本人らしき者は少ない。 多くは外国人か、或いは──違う世界の住人か。 程無く"高町なのは"の名に行き当たり、もし他に誰か知っている人がいたら、と考える。 こんな危険な場所にはいて欲しくないと強く願う一方で、心を許せる誰かの存在を期待している自分もまた否定できなかった。 相反する想いに揺れ動きながら名簿を読み進め、ついに、その名を見つける。 「ユーノくん……!」 なのはの運命を変えた少年、ユーノ・スクライア。 その名が、確かに名簿に記載されていた。 予想はしていた。 あのYHVHとサタンが現れた奇妙な空間で、「なのは」と呼ぶ声を聞いていたのだ。 姿ははっきり見えなかったが、異様な事態に戸惑う中で聞いた彼の声は、未だ耳に残っている。 「いたんだ…… ユーノくん……」 安堵と悲しみが胸の中でごちゃ混ぜになり、膨れ上がった感情が眼から零れ落ちそうになる。 しかしぐっと堪え、鼻を啜った。 喜んでも悲しんでも、ユーノがここにいるという事実は変わらない。 (ユーノくんに会わなきゃ) まずはそれが目標だ。 時空管理局に務め魔法に深く精通している彼は、なのはにとって何より心強い存在である。 それから残りの名前を確認したが、結局、なのはの知人はユーノ以外にいなかった。 無論、ティアナ・ランスターやジェイル・スカリエッティという人物の事も知る筈が無い。 取り合えず名簿を脇に置き、地図に目を移す。 5×5のマス目に区切られているのは、禁止エリアがどうのと言っていたやつだろうか。 「ゲームのマップみたいに見えるのは気のせいだよね」 何となく独り言を呟き、周囲の地形と地図を照らし合わせてみる。 遠くの方は暗くてよく見えないが、前方に砂漠、後方に森が広がっているとなれば、C-IVの塔を囲む森の外周であることは間違いない。 明るくなればもっと判り易くなるだろう。 さらにデイパックを覗くと、簡素な水と食料が入っていた。 特に気にすることも無くそれらを取り出し、 「──!」 下に隠れていた物を見て、なのははぎょっと目を見開いた。 拳銃だった。 それも、かなり大きい。 微かに震える手を伸ばし、両手でゆっくりと持ち上げてみる。 ズシリと重い。 手に伝わるその重さは、物理的な重量によるものだけではなかった。 先程の人形とは違う、余りにも明確な"殺し合い"の為の道具。 銃そのものには狩猟やスポーツなどの使い道もあるが、このデイパックに入っている以上は、ただ一つの用途にのみ使えということだろう。 そんなこと、出来るはずが無い。 強烈に湧き上がった嫌悪の感情に任せ、なのはは人殺しの凶器を放り捨てようとした──が、刹那、脳裏によみがえった過去の映像がその手を止めた。 白いバリアジャケットを身に纏い、空を飛んでいる。 レイジングハートから放たれるのは光の矢、狙うものは一人の人間。 周囲からかき集めた魔力は凄まじい量に膨れ上がり、ともすれば拳銃などよりもっと大きな力を、自分と同じくらいの少女に向けて全力で── 「違う!」 突如沸き起こった嫌な考えを、なのはは大声で否定した。 魔法で人を撃つことと、銃で人を撃つこと。 それはまるで異なる意味を持つ筈だ。 あの時は、彼女──フェイトと解かり合うことだけを考えていた。 対話に応じず力を振るってくるフェイトに気持ちを伝えるには、自分も全力でぶつかるしかないと思ったのだ。 拒絶や否定の為ではなく、それが相手にとっても自分にとっても良い結果をもたらすと信じたからの行動だった。 しかし今手の中にある銃という凶器は、解かり合うという言葉とはむしろ真逆の結果をもたらすのだろう。 非殺傷設定など期待できる筈も無い。 ただ他人の存在を否定する為だけに用意された武器なのだ。 (……使わない) やはり、置いて行くことに決めた。 その判断は忌避や逃避の類いではなく、なのはの明確な決意の表れだった。 先程は適当に放り出そうとしたが、後で誰かがこの銃を拾い、別の誰かを傷付けないとは限らない。 砂の中に埋めてしまおうかと思い、広大な砂漠の方に目を向けた。 直後、なのはは振り向いた。 物音が聞こえたとか、魔力を感じたとか、そういう何らかの切欠があったのかどうかなのは自身にも判らない。 ただ直感的な動作だった。 森を背に、全身銀色の怪物が立っていた。 フェンブレンは、木立の中で呆然と立ち竦んでいた。 (一体、何が起こっている……!) 現状は全く彼の理解を超越していた。 ハドラーの命により死の大地の東南を警護していた自分が、何故この様な事態に陥ったのか。 否、彼だけではない。 あのYHVHだのサタンだのいう連中が現れた得体の知れない空間の中で、確かにハドラーの気配を感じ取ったのだ。 妙に暗がりではあったが、その姿を見たような気もする。 (ワシだけではなく、ハドラー様までこの事態に巻き込まれたと言うのか……) かつては魔王と呼ばれ、現在は魔軍司令の任に就くハドラー。 親衛騎団にとって創造主であり、絶対的忠誠を誓う君主でもある。 そのハドラーを容易く捕らえることが出来る者など限られている。 となるとこの事態は大魔王バーンの意向か、もしかすると冥竜王ヴェルザーの企みか。 何れにしても早計は禁物である。 速やかにハドラーと合流し、指示を仰ぐことがフェンブレンの義務だった。 とは言っても、ハドラー自身の身を案じている訳ではない。 案じる必要など無い。 彼がそこいらの有象無象に負けることなど万一にも有り得ないことだし、どんな危機的状況をも打破できる力があると信じている。 「ふん、ならば動くか」 フェンブレンは一人ごちると、腕を一閃させて傍らに置いてあった鞄を切り開いた。 どう動くにせよ、まず最初に手持ちのアイテムの確認をせねばならない。 とはいえ、鞄を逆さにしてぶちまけた数々の物品の中で、彼が必要とする物は名簿と地図だけだった。 オリハルコンから誕生した金属生命体には水も食料も不要であるし、全身が刃物であるが故に武器を頼みにすることもない。 そうして散らかした様々な支給品には目もくれず、まずは名簿を眺め──硬直する。 もしフェンブレンの頭部がヒムやアルビナスといった仲間達と同じ造りであったなら、その顔は驚愕に歪んでいたことだろう。 「アバンだと……!?」 想像もしていなかった名前が、そこには記されていた。 ダイやポップといったアバンの使徒、そして元百獣魔団長でありながら魔王軍を裏切ったクロコダイン、小賢しいばかりの司令補佐ザボエラ。 ハドラーも含め知っている名は幾つもあったが、中でもアバンだけは別格の驚きをもたらした。 (死んだのではなかったのか……!?) かつて魔王ハドラーを倒した人間の勇者。 しかしその後、デルムリン島の戦いにおいて復活したハドラーを前にメガンテを使用、死んだものと伝えられていた。 それが、生きていたというのだろうか。 今や魔王軍にとって最大の脅威となっているダイ達を育て上げた、ある種の伝説と化していたような男が。 フェンブレンは予想外の事実に暫し言葉を失っていたが、しかし、と思い直す。 (しかし…… ワシのやることに変わりはあるまいよ) 敵の首魁とも言える男が生きていた。 ならばこの世界にいる唯一のハドラー親衛騎団として、今度こそ確実な死を与えてやれば良いだけだ。 むしろ甲斐のある仕事が増えたと言ってもいいだろう。 (勇者アバンか。 腕が鳴るわ) どうせ知った名前は少ないので、名簿はもう必要無い。 フェンブレンは地図だけを片手に歩き始めた。 飛翔呪文トベルーラによる移動も考えていたが、生い茂る木々でハドラーを見落とすという万一の失敗を想定し、まず森を抜けるまでは足で移動することにした。 そうして、どれほど歩いただろうか。 木々の向こうに砂の大地が見えてきた頃、その手前に人間の少女を発見した。 (……アレも、この殺し合いとやらに招かれたのではあるまいな) 特に意識せず、木の陰に隠れるような位置から少女の背中を見据える。 どうやら自分の支給品を確認しているらしく、鞄の中から色々と取り出しているところだった。 どうでも良いか、とフェンブレンは踵を返す。 今の彼には目的があり、ザコ一匹に関わっている暇は無い。 (いや、だが) 去ろうとした足を止める。 後姿を見るだけでは何の変哲も無い人間の少女だが、本当にそうだろうか。 自分やハドラー、アバンなどといった一流の戦士が"殺し合い"の名目で集められたというのに、一方でただの獲物にしかならないであろう小娘を浚って来るという事は有り得るのだろうか。 外見では判らない何か特殊な資質を秘めているのかも知れない。 或いはYHVHやサタンについて、価値のある情報を持っている可能性もある。 (何も無ければ、殺せばいいだけか) それは本当に様々な可能性を考慮した上での結論か、或いは彼の嗜虐的な欲求を正当化する為の理屈か。 フェンブレンは再び少女に向き直り、何やら一人で大声をあげているその背中に歩み寄って行った。 背中に腕を突き付ける。 その状態で尋問する。 良い情報が得られなければ色々と痛い目に合わせ、さらに尋問する。 必要が無くなれば殺す。 考えるとも無しに脳裏に浮かんだ、簡素な予定。 それは一瞬後に破綻することになった。 少女が唐突にこちらを振り向いたのだ。 「!」 少女はフェンブレンの姿を見、目を見開いた。 銀色に煌く全身刃の怪人──その姿は人間からはさぞ脅威に見えることだろう。 しかし、少女の顔に浮かんだ驚きや動揺の気配は長続きしなかった。 少し経てば彼女は真っ直ぐな目でじっとフェンブレンを見詰め、 「あ、あの、わたし、高町なのはっていいます」 そんな風に話しかけてきた。 (……何だ、この小娘は?) フェンブレンは微かに苛立ちを覚えた。 先程、少女──タカマチナノハと名乗った──は背後から近付く彼の存在に気付いた。 硬質なオリハルコンの身体ではあるが、一介の戦士として気配を隠すことぐらいは出来る。 それがアバンの使徒ならまだしも、何の変哲も無さそうな小娘に悟られたのだ。 さらに、こちらを向いてからの反応も気に入らない。 弱者を痛めつける嗜好を持つフェンブレンからすれば、驚き戸惑い腰を抜かして悲鳴をあげる程度のリアクションがあれば内心楽しめるところだ。 しかし実際はその真逆、少女の対応は冷静なものだと言っても良い。 (ただの小娘ではないのか、やはり) 考えながら、なのはが抱えている物体に意識を向ける。 この形は、確か"銃"と呼ばれる武器ではなかったか。 実物をその目で見るのは初めてだったが、かつてアバンが製造した魔弾銃のことは、彼の弟子達に関する情報として親衛騎団全員が知るところとなっている。 「あ、あの」 なのはが何か言いかけた瞬間、フェンブレンは動いた。 両者の間にあった幾らかの間合いは秒も経たずに消え去り、一瞬後には超金属で出来た刃の腕が少女の首に突き付けられていた。 「小娘、貴様は何か知っているか? あのヤハウェだのサタンだのいう連中は何だ? この銃はどこで手に入れた?」 相手の言葉など無視し、一方的に問う。 なのはの顔にも流石に恐れの色が浮かび、喉元に迫った冷たい刃を見た。 しかしすぐにその視線をフェンブレンの顔に戻し、 「……あの人たちのことは知りません。 鉄砲は、鞄の中に入ってました」 微かに震えてはいるものの、ハッキリとした声音で答えた。 「本当か? 見ての通り、ワシの身体は全身がよく切れる刃物でな…… 指先だけでもこの通りよ」 突き付けた手からゆっくりと指を伸ばし、なのはの左頬に触れる。 そのまま柔肌に沿って動かすと、一筋の赤い線が後を引いた。 幼い顔が苦痛に歪む。 しかしそれはフェンブレンが期待するよりも遥かに小さな反応であり、なのはは尚も目を逸らすことなく「本当に知りません」と告げたのである。 (ほう……) フェンブレンは内心、感嘆の声をあげた。 小さく、か弱そうな見た目からは想像もつかない精神力。 本当に恐怖や危機感というものが無いならば、それはただ心の壊れた人間でしかない。 しかし未だ十歳にもならぬなのはは、恐怖を感じ、なおそれを乗り越える意志の強さを有しているのだ。 ……なんと、いたぶり甲斐のある娘だろうか。 しかし、と思い直す。 現在はゆっくり趣味に興じていられる様な状況ではない。 小娘で遊んでいる時間があるなら、一刻も早くハドラーを探すべきだろう。 本当に何も知らないのであれば、残念ではあるが、楽に死なせてやることにしよう。 フェンブレンがそう考えて腕を突き出そうとした瞬間、 「じゃあ、次はわたしが質問します」 なのはがそんなことを言った。 「な……に?」 「あなたは、その…… 殺し合い、をするつもりなんですか?」 フェンブレンは絶句していた。 相手に命を握られているこの状況で逆に問いかけるとは、彼の常識では考えられないことだった。 「もしそうなら、絶対にやめて下さい。 他の人とも、ちゃんと話せばなんとかなると思います」 「……ワシがどう動こうと、貴様には関係の無いことだ」 「関係あります。 わたしだって、ここに連れて来られたんですから」 まるで眼前の刃が見えていないかの様に、なのはの抗弁は早い。 フェンブレンの中には、彼女の正気に対する疑いすら浮かび始めた。 「みんなで力を合わせれば…… ユーノくんもいるし、外に連絡が取れればきっと逃げ出せます。 ヤ…… えっと、ヤハヴェ? さんもサタンさんも、どうしてこんな事をするのか、話を聞ければ……」 なのはは更に話を続けている。 その内容は聞き流しつつ、フェンブレンはほんの僅かな時間を思索に費やした。 今は親衛騎団として動くことに集中すべきである。 しかし個人的な嗜好からすれば、目の前の小娘に対する興味もまた捨て難い。 そのタフな精神が無残に崩れ去り、泣き叫ぶ姿を是非見てみたい。 「あと、それと……」 すぐに結論は出た。 行動目的を幾つか追加しつつ、後は運次第というところだ。 「あ、あなたの名前を教えて下さい」 その要求に、フェンブレンは低く笑った。 つくづく面白い小娘だと思う。 「いいだろう小娘。 ワシはフェンブレンだ、覚えておけ」 オリハルコンの腕が一閃した。 「う……ん」 数分後、草むらの中に伏していたなのはは唸りながら上体を起こした。 左頬にズキズキと重い痛みが残り、ひどく腫れ上がっているのが分かる。 フェンブレンと名乗った怪物の指で傷を付けられた後、さらにその腕で──刃ではなく側面の平面部で──強く打たれたのだ。 鏡を覗けば大変な有り様になっているだろう。 (でも……殺されなかった、よね) 自分の命が相手に握られている事はよく分かっていたが、それでも何か言わずにはいられなかった。 目の前にいる人(?)が他の誰かを殺し、誰かに殺されるかも知れない──そう考えると黙っていることなど出来なかった。 ユーノが見ていたら、無茶し過ぎだと怒るだろうか。 ぶたれて意識を失っている間に、フェンブレンはどこかへ行ってしまった様だ。 殺そうと思えば殺せた筈なのにそうしなかったのは、少しは想いが通じたのかも知れない。 (それに、名前も教えてくれたし。 へん…… ブレン? さん、だよね) 正確な名前は後で確認することにして、なのはは立ち上がった。 そこでふと妙な違和感を覚え、周囲を見回し、すぐにその原因に思い当たる。 銃が無かった。 (持って行っちゃったんだ……) 肩を落としそうになるが、今更どうしようもない事だった。 弾が入っていたかは判らないが、とにかくあの銃口が誰かに向けられない事を祈るしかない。 「……行かないと」 いつまでもここにはいられない。 ユーノを探し、殺し合いを止めなければならない。 どうやらフェンブレンは他の支給品には手を付けていないようだった。 放り出されたままになっている各支給品をデイパックに詰め直そうとして、なのははもう一つの事に気付いた。 奥にまだ何か入っている。 中身を調べた時は拳銃の方に気を取られ、どうやら意識がそちらに向かなかったらしい。 取り出してみると、それは液体の入った青い瓶だった。 円筒状の本体に奇妙な形の蓋が付いており、一見は香水か何かを思わせる。 底の部分に折り畳んだ紙がセロハンテープで貼り付けてあり、開いてみると簡単な説明が書いてあった。 『ポーション HPを50回復する ※飲み物です』 「……???」 今一つ解かり難い。 飲料であることはハッキリと書かれているが、どうにも飲もうという意欲を湧かせにくいデザインである。 なのはは暫くその真っ青な外観を凝視した後、意を決した。 蓋を取り、中にある液体を一気に喉に流し込む。 ……微妙な味だった。 (栄養ドリンクか何かかな…… でもこれから大変そうだし、力を付けておかないとね) どうにも誤った選択をしたという思いを捨て切れず、頭の中で理屈を付けて正当化しておく。 それから空になったポーションの容器も含め、目ぼしい荷物は全てデイパックに収めた。 何の役に立つかは判らないが、件の人形も手足が曲がり過ぎないよう注意して丁寧に入れておいた。 「う~ん、やっぱり重い……」 色々な物が入ったデイパックは、やはりなのはの小さな身体では少々きつく、学校の鞄の様にはいかない。 とは言え銃が一つ無くなったことを考えれば、最初の状態よりはマシになっているのかも知れなかった。 取り合えず、砂漠に対し右へ進んで行けばいつかは絶望の町が見える筈である。 なのはは幼い顔に決意を浮かべ、ゆっくりとではあるが、歩み出した。 頬の傷がずいぶんマシになっていることには、暫く気付かなかった。 【C-IV/森と砂漠の境 1日目 深夜】 【高町なのは@リリカルなのはシリーズ】 【状態】:疲労(小) 【装備】:なし 【道具】:共通支給品、蓬莱人形、ポーションの空瓶 【思考・状況】 基本行動方針:ユーノとレイジングハートを探し、脱出の方法を考える。 1;絶望の町へ向かう。 2:参加者を見かけたら協力を求める。 3:殺し合いに乗ろうとしている人は止める。 【備考】参戦時期は一期終了後、A s開始前です。 フェンブレンの名前と容姿を記憶しました。 【蓬莱人形@東方Project】 アリス・マーガトロイドが所有する人形。 アリスなら生きているように操ることが出来るが、彼女の手を離れれば只の人形。 「……幸先の悪い」 同じ頃、フェンブレンは真っ暗な山中に佇み、人間で言うところの舌打ちの様な仕草をしていた。 彼は飛翔呪文トベルーラを使用して北へ向かった。 しかし希望の塔とやらが眼下を通過し、高い山を越えようとした所でその効果は急速に失われていった。 本来の自分であれば、この程度の距離を飛んだところで魔力を使い切ることは無い筈である。 飛行中も妙な圧迫感の様なものを感じ、魔力を存分に消費できなくなっていた。 (呪文の効果を抑制する力が働いているのか…… つくづく面倒なことだ) とりあえず、当分は足を使うしかないだろう。 遠くに見える湖の様な大きな穴を眺めつつ、フェンブレンは高町なのはの事を思い返していた。 度胸がある、と見て良いのだろうか。 嗜虐趣味を持つ身で言うのも何だが、やや異常性を感じなくもない。 人間という生物を高く評価しているハドラーなら彼女の事を褒めるのかも知れない。 しかし他の親衛騎団はともかく、フェンブレンは彼に忠誠を近いつつも、その思想や価値観までそっくり自分のものにしようとは思っていない。 フェンブレンにとってなのはは、例えるなら調理の難しい食材と言ったところだろうか。 その分、料理として完成させ食したならば上質の味を楽しめそうだ。 『ユーノくんもいるし』 その言葉だけは明確に記憶している。 あの後なのはに支給されていた名簿を確認してみれば、確かにユーノという名前があった。 あの希望的観測に満ちた話の中でその名を挙げるということは、少なくともなのははユーノとやらを状況を打開する有力な戦力と見ているか、或いは個人的に信頼を置いているものと考えても良いだろう。 本当にユーノが使える者だったならば、ハドラーの前に引き立てて巧く利用するのが良いだろう。 しかしそれほどの価値も無いザコだった場合は……自分の趣味の方に利用させて貰う。 (己だけならば恐怖にも苦痛にも耐えられるかも知れん。 しかし目の前で他人が同じ目に遭わされるとなれば…… どうかな) もしフェンブレンの頭部がヒムやアルビナスといった仲間達と同じ造りであったなら、その顔は残酷な笑みに歪んでいたことだろう。 とは言え、この想定は全てが都合の良い方に流れた場合のものだ。 なのはもユーノも他の参加者に呆気なく殺されるという可能性の方が高いかも知れない。 親衛騎団としての己の立場も忘れてはいない。 なのはが抱えていた銃を奪って来たのは、これがアバン達が造った新武器であった場合、その威力や構造を調べておくべきだと思ったからだ。 まずは責務を優先させるべく、フェンブレンは北に向かって山を降り続けた。 【C-III/山中 1日目 深夜】 【フェンブレン@ダイの大冒険】 【状態】:健康、魔力消費(大) 【装備】:なし 【道具】:地図、トンプソン・コンテンダー(残弾0) 【思考・状況】 基本行動方針:ハドラーと合流し、指示を仰ぐ。 1:北へ向かって下山する。 2:参加者を見かけたら尋問して情報を集める。 3:アバンの使徒や仲間達は必ず殺しておく。 4:ユーノとかいう人間を探す。 5:全てがうまく運べば、なのはの前でユーノをいたぶってみる。 【備考】高町なのはとユーノ・スクライアの名前を記憶しました。 【トンプソン・コンテンダー】 衛宮切嗣が使用していた単発拳銃。 元々は狩猟用に開発された銃であり、改造によって30-06スプリングフィールドという大口径弾を撃てるようになっている。 ※C-IVの森の中にフェンブレンの支給品(共通支給品、未確認×3)が放置されています。デイパックは切られて使い物になりません。
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part29-522ふもっふ◆uwH5dlGqj6さんの作品です。 私の名前は小早川ゆたかです。 あこがれの志望校になんとか入学でき、そこへ登校してます。 でも、自宅からは遠いので親戚の泉さんの所に居候しており、こなたお姉ちゃんやそうじろう叔父さんによくしてもらってます。 私小さい頃から病弱で身長も小柄・・・で、でも大きくなったら伸びるもん! 「ゆたか・・・」 「あっ、みなみちゃん」 私を呼んでる人は岩崎みなみちゃん。受験日の試験後に気分が悪くなってトイレに行ったときに、 「・・・大丈夫?保健室まで一緒に行こうか?」 なんて言ってくれてハンカチまで貸してくれた優しい人だよ。 まぁあの時は私を同学年の受験生と思ってなかったらしいけどね・・・。 「ゆたか・・・少し顔色悪そうだけど・・・大丈夫?」 「えっ・・・そうかな?自分じゃよくわからないけど。今は何ともないよ」 「そう・・・それならいいけど」 ホントにみなみちゃんは優しいなぁ。みなみちゃんの彼氏になった人は絶対幸せになれるよ。うん。 次の日、私はいつものように朝目覚める。・・・ん?ちょっと頭が痛いような?まあそんなことで学校休むわけにはいかないし、頑張っていこっと。 「おはよう、お姉ちゃん。叔父さん」 「ゆーちゃん。おはーっ。・・・なんか顔色悪そうだね?大丈夫?」 デジャブ?昨日もみなみちゃんに聞いたような・・・?続いて叔父さんも口を開いた。 「ホントだ。ゆーちゃん風邪引いたのかい?一応熱測ったほうが」 「少し頭が痛いですけど・・・大丈夫です」 「無理しちゃ駄目だよ。ゆーちゃん」 「叔父さん・・・ありがとうございます」 お姉ちゃんや叔父さんの優しい気遣いを受けつつ、それでも私は学校へ行くことに。 ただ、この時、今までになかった事が私に降りかかろうとはこのとき思いもしなかった。 そして、私は学校に到着した。なんだろ・・・朝起きたときと比べて身体がだるく、朝よりも頭痛が強くなり、足取りが重い・・・。 あれ、本当に風邪引いちゃったのかなぁ。自分ではよくわからないんだけど・・・。 とりあえず保健室に行こう。私はそう思った。 学校に入り、真っ先に保健室へ向かう。確か1階だったよね・・・。 歩くたびにしんどくなってきちゃった。 あっ。保健室が見えてきた。・・・・・・あれ、景色が霞む・・・。 バタッ。 「だ、大丈夫ですか!?」 最後に聞こえた声・・・誰だろう。男の人だったような・・・。 私は目が覚めた。・・・ここはどこ・・・?ベットの上で寝てるという事は・・・保健室? 「お気づきになりましたか」 突然話しかけてきた。その彼はベットで寝ている私の横に椅子に座っている。 えっ?誰だろうこの人。初めて見るような・・・。でもこの声、聞いたことあるような。 「身体の具合はどうです?もう大丈夫ですか?」 「えっと、少し頭がボーッとするような・・・」 「先程保険の先生が風邪と仰っていました。頭がボーッとするのはその所為では?」 「風邪なんですか・・・朝からちょっと調子が悪かったのでもしかしてとは思ったんですけど・・・」 「・・・あまり無理をなさらないほうがいいですよ」 「は、はい・・・」 なんかとても優しそうな人だなぁ。みなみちゃんと一緒でいい人そう。 あれ?でも私ベットの上で寝てるということは・・・ 「あの・・・私を運んでくれたのはあなたなんですか?」 「えっ、そうですが・・・。いえ、いきなり保健室の前で倒れてしまったので、放っておけずにはいられませんでした」 「そ、そうなんですか・・・あ、ありがとうございます・・・」 「いえ。お気になさらずに」 その時、彼は満面の笑みを私に見せてくれた。と同時に私の顔が赤くなってることがわかった。 「え、えと、その、ホントにありがとうございましたっ!」 「どうしたんですか?顔が赤いですよ?熱が上がったのでは・・・」 そ、そんなんじゃないです。えと、・・・なんか恥ずかしいような・・・。 そして数分経ち、彼が椅子から立った。 「それでは、そろそろ僕は失礼します」 彼が保健室から立ち去ろうとした。いけない!今度こそはちゃんと聞かないと。 「あ、あのっ」 「はい?」 「・・・あなたのお名前は・・・折角助けてくれた人の名前を知らないなんて失礼かと思いますので・・・」 「・・・礼儀正しいですね。僕は古泉。3年生の古泉一樹です。よろしければあなたのお名前を」 「え、えっと・・・1年生の小早川ゆたかです!」 「小早川さんですか。1年生と言う事は今年入学したばかりですか」 「そ、そうです」 「そうですか・・・これからも頑張ってくださいね。では、お大事に」 そう言い残し、彼・・・ううん。古泉先輩は保健室を出て行った。 「それにしても・・・」 さっきからなんかドキドキが止まらないよ・・・この感情は今まで感じたことないなぁ。 もしかして、この気持ちが・・・この感情が・・・ これが『好き』って気持ちなのかなあ。 そうだ。私は古泉先輩の事が好きなんだ・・・。 とりあえず保険の先生から今日は大事をとって家に帰りなさい。と言われちゃった。それから薬を飲んでゆっくり休みなさいと。 確かにこれ以上迷惑かけたら駄目だし、今日は帰ろうかな。 「担任の先生にはちゃんと言っておくから」 「はい。ありがとうございます」 学校を出ようとしたとき、みなみちゃんと出会った。 「ゆたか・・・大丈夫?」 「みなみちゃん。私風邪みたいだから今から家に帰るんだ」 「そう・・・ごめん、ゆたか」 「み、みなみちゃんが謝ることないよ~うん。身体の弱い私の所為だから」 「でも・・・」 「あっ、もう授業始まっちゃうよ。みなみちゃん」 「あ・・・ごめん。もう私、行くね・・・お大事に」 やっぱりみなみちゃん優しいなぁ~。優しすぎるよ。こんなに私のこと思ってくれたり。 あっ、今朝起きた事話せばよかったかな?まあ明日でいいや。 無事に家に着いた。やっぱり身体がだるくなってきちゃった・・・。途中で倒れなくてよかった~。 「叔父さん。ただいま」 「ゆ、ゆーちゃん!どうしたんだい。まだ学校終わってないんでしょ?何か忘れ物かい?」 「えと、実は学校で倒れて・・・」 「何ぃ!?倒れた!こりゃいかん!救急車呼ばないとな」 「お、叔父さん落ち着いて。た、ただの風邪だよ・・・」 「へ?な。なんだ~風邪か~。やっぱり今朝言ったときに今日は休んだほうがよかったんじゃなかったかな?」 「ご、ごめんなさい・・・」 「謝る事はないさ。ささ、着替えてベットに横になってなさい。後で薬とか持ってきてあげるから」 「ありがとうございます」 それから自分の部屋に入り、ベットで寝る事に・・・。 それにしても・・・古泉先輩か~。あの人も優しい人だったなぁ・・・。 おまけにかっこいいし・・・ そう考えてるうちに深い眠りについた。 『私、あなたの事が好きです!ど、どうか私と付き合ってください!』 『・・・偶然ですね。僕も君の事が好きだったんです。初めて会ったあの日から・・・僕なんかでよければ・・・』 『あ、ありがとうございます!古泉先輩!』 『これから僕達は恋人同士ですから「一樹」と呼んでもいいですよ』 『・・・じゃあ、一樹さんで・・・』 そうして私達はキスをしようと・・・ 「!」 目が覚めた。なんか凄く恥ずかしい夢を見てたような・・・。夢にまで出てきちゃうなんて・・・。 「・・・今何時だろ・・・?」 「今は夕方の5時半だよ。ゆーちゃん」 「え、こ、こなたお姉ちゃん!?」 「そ、そんなに驚かなくても!」 びっくりした。まさかお姉ちゃんがいるとは。 「ところで、具合はどう?ゆーちゃん?」 「うん。ゆっくり眠ったら楽になったよ」 「そっかそっか。それはよかったよー。じゃあ一緒に格ゲーやる?」 「ふぇ!?そ、それはちょっと・・・」 「アハハ。冗談だよ冗談。じゃあご飯が出来たら持ってきてあげるからね」 「ううん。いいよ。私も一緒に食べるよ」 「そう?じゃあ出来たら呼ぶからそれまでゆっくり休んでなよ」 楽になった。って言ったけどやっぱり身体が少しだるいかな? そうだ。お姉ちゃんも3年生だし、古泉先輩の事知ってるかも。聞いてみようかな。 「あっ。お姉ちゃん」 「ん?どしたの?ゆーちゃん」 「えと・・・聞きたい事が」 「どーぞどーぞ。先輩がなんでも聞いてあげるよ・・・勉強以外で」 「・・・古泉先輩という人知ってる?」 「こ、古泉。小泉・・・ああ!あの人か!」 「お姉ちゃん知ってるの!?」 「確か・・・1年生の時にこの学校に転校してきて、んでSOS団ていうクラブに入ってるみたいだよ」 SOS団・・・?なんだろ・・・。 「まあ詳しくはかがみから聞いたほうがいいかもね。SOS団の一員だし」 お姉ちゃんが言うに、かがみ先輩はSOS団にいるキョンって人が好きで親しくなるためにSOS団に入ったとか。 「じゃあ明日学校で聞いてm・・・」 「ゆーちゃん。明日学校休みだよ」 「はぅ」 「そだ!」 「?」 お姉ちゃんは明日、家にかがみ先輩とつかさ先輩が遊びに来るって言った。 だからその時に聞いたらどうかな?って。うん。そうさせてもらおうかな。 何か改めて思い返すと恥ずかしくなってきたなぁ。それと同時に不安も・・・。 もし、古泉先輩に彼女がいたらどうしよう・・・。もし、古泉先輩に好きな人がいたらどうしよう・・・。 いろいろ考えてたら夜の7時になり、お姉ちゃんの声がした。 夕食を済ませ、お風呂に入る。そして薬を飲み、まだ病み上がりだから早めに寝よう。 おやすみ・・・。 そして朝になった。昨日丸一日寝てたのにぐっすり眠れるなんて・・・風邪の所為かな。 身体は・・・うん。もう大分楽になった。でも念のため体温測っておこうっと。 パジャマの上のボタンを少し開け、その中から体温を私の脇に挟む。後は待つだけ。 ピピッ。 「んー。35.9か・・・風邪ももう直ってるや」 ガチャ。ドアを開ける音がした。 「ゆーちゃんおはよー。具合はどう?」 「うん。もう直ったよ。お姉ちゃん」 「そっかそっか。それはよかったよー」 「・・・お昼に来るの?先輩達」 「うん。それくらいかな」 「そっか・・・」 だんだん緊張してきた。古泉先輩の事を聞けると思うと。心臓がドキドキしてきちゃった。 「・・・いやー恋する乙女は一段と可愛いねぇ~」 「ふぇ!?お、お姉ちゃん!?」 「まあその古泉って人からいろいろ聞けたら、今度は私が恋愛のテクニックやら必勝法やら教えてあげるよ」 「すごーい。お姉ちゃんて昔恋とかしてたの?」 「え・・・う、うんうん。恋愛経験は豊富だからいろんな事教えたげるよー」 「ありがとう!お姉ちゃん」 (うーん・・・ギャルゲーでいろいろその知識養った。なんて言えないや・・・) お昼になり、インターホンが鳴った。来たみたいです。 「おーす」 「こんにちは。かがみ先輩」 「こんにちは。ゆたかちゃん」 「やあ。ささ、上がって・・・ん?つかさはどったの?」 「ああ。今日朝から風邪引いちゃってさ。急に来れなくなったんだ」 「そうなんだ。風邪流行ってるのかねぇ」 「ん?」 「まま、私の部屋でいろいろ言うよ」 私達3人はお姉ちゃんの部屋へ向かう。 そして、適当にテーブルを囲んで座った。 「さてと・・・今はまだ5月だし風邪が流行ってる時期じゃないと思うけど」 「いやいや。実は昨日ゆーちゃんが風邪でダウンしたんだよ」 「そうなの?」 「はい。学校で倒れてしまって・・・」 「た、倒れたって・・・」 「それでさ、今日はゆーちゃんがかがみに聞きたい事があるんだってさ」 「へ?私に?何何?」 「え、えと・・・かがみ先輩ってSOS団に入ってるんですか?」 「・・・うっ。こ~な~た~。あんた・・・」 「喋ったよ」 「わ、私のイメージがぁ・・・・・・」 「まあまあ」 あれ・・・私聞いてはいけない事聞いちゃったのかな。かがみ先輩落ち込んでる。 「で、ゆーちゃんが聞きたい事はこの事じゃないでしょ」 「あっ。そうだった。そ、それで、そのSOS団の中に古泉先輩って人いますよね・・・?」 「えっ?いるけど・・・」 「・・・・・・」 うう、この先の事緊張して話しにくいよ・・・。なんか恐いし・・・。でもかがみ先輩はこういう事に鋭いのか、 「・・・もしかして古泉君の事好きだったりして」 「はぅ!?」 「流石かがみん・・・一発で見抜くとは」 「その顔の赤さ。どうやらそうらしいね」 「えっと、その・・・あの・・・その通りです・・・」 「うんうん。その気持ち、よーくわかるわ。で、聞きたい事って古泉君に彼女がいるのか、好きな人がいるのか・・・でしょ?」 そ、そこまで見抜くなんて・・・。え、エスパーか何かですか先輩は。かがみ先輩は顔がニコニコしてる・・・。 「そ、そうです・・・」 「んー。実は私もキョン君も朝比奈さんも気になってたのよね。古泉君は付き合ってる人とかいるのかどうか」 「そうなんですか?」 「うん。でね、聞いてみたのよ。そしたらさ」 「・・・・・・」 「いないって」 「・・・い、いないんですか?」 「うん。いないみたいよ」 「よかったねー。ゆーちゃん」 よ、よかった・・・。もし誰かいたらもう絶望だもんね。 とりあえずは一安心だね。あ、でも好きな人はいるのかなぁ。 「あの・・・かがみ先輩」 「ん?なぁに?」 「因みに何ですけど・・・好きな人とかは聞いてますか?」 「うーん・・・。これは教えてくれなかったわね。流石に」 「そ、そうですか・・・」 そうだよね。いくらなんでもそこまでは喋ってくれないかぁ・・・。 でも、付き合ってる人がいない。という情報は大きい。まだ私にもチャンスがあるって事だよね。よーし!がんばろっかな。 「じゃあお姉ちゃん。朝言ってた恋愛必勝法教えて~」 「うっ!」 「は?あんた恋愛経験してないんじゃ・・・」 休日もあっという間に過ぎて、月曜日が来た。学校へ行く支度しなきゃ。 「お姉ちゃん。そろそろ行こ~」 「ゆーちゃんは早いねえ・・・。ほい準備完了!」 「気ぃつけて行けよー」 「行ってきま~す」 今日は体調もばっちりだし、学校で倒れる事は・・・ないと思う。 お姉ちゃんからは一応必勝法を教えてもらったし、今日は放課後を使って古泉先輩をガンガン攻めようかと思うんだ。 でもお姉ちゃんの言ってた『セーブはこまめにね』ってどういう意味なんだろ・・・? 教室に入ると、みなみちゃんがいた。早いなぁ。 「おはよーみなみちゃん」 「ゆたか。おはよう。風邪は治った?」 「うん。お陰様で」 「そう・・・よかった・・・」 「・・・ありがとね。心配してくれて・・・」 午前の授業が終わり、お昼休みにお姉ちゃんがやって来た。 「ゆーちゃん。ゆーちゃん」 「お姉ちゃん。どうしたの?」 「かがみがさ、放課後に教室で待っててって言ってたよ」 「放課後?なんでだろ?」 「・・・ゆーちゃん鈍いねー。例の人と会わせてくれるようにかがみが言ったんだよー」 「例のひ・・・ホントに!?」 「うん。だから放課後、ここで待ってたらいいよー」 「うん。ありがとう。お姉ちゃん」 「礼ならかがみに言ったほうがいいよ。じゃあね~」 かがみ先輩、そこまでやっててくれたんだ・・・。これは私も頑張らないといけないなぁ~。 机に戻るとみなみちゃんが話しかけてきた。 「ゆたか・・・先輩はなんて言ってたの?」 「へ!?あ・・えーとね。話すとちょっと長くなるけどいいかな?」 「うん・・・いい」 私はこれまでの事を話した。 「というわけなの・・・なんか話してたら恥ずかしくなっちゃった」 「・・・・・・古泉先輩か・・・」 「?もしかしてみなみちゃん、知ってるの?」 「・・・・・・顔をチラッと見ただけ。よくはわからない」 「そっかぁ」 「・・・ゆたか。私からも成功するように応援する・・・」 「ありがとう~みなみちゃん」 「・・・・・・」 そして放課後になり、私とみなみちゃんは別れた。私はかがみ先輩と・・・古泉先輩を待つのみ。 そして、ドアが開いたっ。 ガラッ 「うぃ~す。wawawa忘れ物・・・うぉあ!・・・って冷静に考えればここ1年の教室じゃねーか!」 「・・・・・・」 「・・・すまん・・・ごゆっくりぃ~」 なんだろう今のは・・・。 そして5分後に2人がやって来た。うう、緊張する~。 「お待たせ。ゆたかちゃん」 「あ、かがみ先輩・・・」 「おや、小早川さんじゃないですか。僕と会いたいって言ってた方は彼女ですか?」 「あ、はははい!」 「光栄です。僕もお会いしたいと思っておりました」 「・・・」 ボフッ!!! (あちゃ~。古泉君今凄い事言ったような・・・つかなんだこの展開は!) 「こ、小早川さん!大丈夫ですか!」 「だ、大丈夫です~」 数分後、何とか落ち着いた私。そこでかがみ先輩が口を開いた。 「じゃあ。そろそろ帰ろ。これから2人で帰ったほうがいいかもね」 そんなかがみさん。私にプレッシャーを与えないで・・・。 「では、帰りましょうか。小早川さん」 「は・・・はい」 嬉しい。憧れの古泉先輩と一緒に帰れるなんて・・・。プレッシャーはかなり感じるけどなんとかなるよね!・・・多分。 私はふと思い出し、かがみ先輩の元へ寄った。 「かがみ先輩。その・・・ありがとうございました」 「ううん。いいのいいの。ゆたかちゃんは真面目で大人しいし、古泉君とはピッタリなんじゃないかな?私も応援してるよ」 「はい。ありがとうございました」 お姉ちゃんにかがみ先輩。それにみなみちゃん。みんなが私の事を応援してくれてるなんて・・・。私幸せものだなぁ。 放課後に古泉先輩と一緒に帰る。毎日がそうだった。そんな事がもう1週間たった。 そして次の日の帰り道、いつもの様に2人で帰宅し、他愛もない話でいろいろ盛り上がった。 ただ、今日の会話で気になることが・・・。 「じゃあ古泉先輩って何の委員会に入ってるんですか?」 「えっと・・・僕は保険委員ですね。もうかれこれ2年やっておりますが」 「そうなんですか」 「今年に保険委員に入った1年生ですか。随分と真面目ですね。しかも物静かなところは僕と同じ部活にに所属している方と似てるんですよね」 「・・・・・・」 「でもって話したらこれまたその人に似ていて・・・小早川さん?どうしましたか?」 「へっ!?あ、いえ・・・その人って、岩崎みなみって人ですか?」 「おや、ご存知でしたか。その通りですよ」 「よく喋ったりとかもしてるんですか?」 「そうですね。いろいろと・・・」 「そうなんですか・・・あっ、私こっちですから。さようなら」 「はい。さようなら」 家に帰宅して私は部屋に直行した。そして鞄を置き、制服のままベッドへ寝転んだ。 「なんでだろ・・・あの時みなみちゃんは・・・」 私はお昼休みの時を思い返した。 「というわけなの・・・なんか話してたら恥ずかしくなっちゃった」 「そうなの・・・・・・古泉先輩か・・・」 「?もしかしてみなみちゃん、知ってるの?」 「・・・・・・顔をチラッと見ただけ。よくはわからない」 「そっかぁ」 みなみちゃんが嘘をついたなんて考えられないし・・・でもなんでだろう。 私は1時間位考えた。考えているとある理論に辿り着いた。 「もしかして、みなみちゃん古泉先輩のこと好きなのかな。うん!きっとそうだよ」 私は身体を起こした。 「みなみちゃんの性格から考えて、私が古泉先輩を好きって言っちゃったからみなみちゃん・・・諦めたのかな・・・駄目だよ!そんなの!」 私は明日みなみちゃんに話してみようと決意した。もし私の考えがあってたらみなみちゃんが可哀想過ぎるよ・・・私なんかの所為で。 次の日になり、学校へ向かった。朝からみなみちゃんに聞こうかと思ったけれど時間がないんだよね・・・。だからお昼休みに。 「ゆたか・・・おはよう」 「ふぇ!?みみみみなみちゃん!おおおはよう!」 「?・・・大丈夫?」 「う、うん。私は全然大丈夫だよ!」 「そう。それならいいけど・・・」 ふう。びっくりしたー。あっ、授業始まっちゃう。 そして、お昼休みになりいつものようにみなみちゃんとお昼を・・・。じゃなくて!その前に! 「み、みなみちゃん!」 「!・・・ゆたか。どうしたの?」 「ご、ごめん。ちょっと話があるの。だからついてきて」 「でも・・・お昼・・・」 「あとあと~」 私は無理矢理みなみちゃんを引っ張った。 人気のない廊下まで私はみなみちゃんを連れてきた。 「・・・ゆたか?」 「あっ。ご、ごめんねみなみちゃん!」 「うん。大丈夫・・・それより話って・・・」 「そ、そうだった!えとね・・・単刀直入に言うけど・・・・・・古泉先輩の事好き・・・かな?」 「・・・・・・どうして?」 「えっと、私の勝手な考えだけど、古泉先輩と一緒に帰ってるってのは・・・もう知ってるよね?」 「・・・・・・うん」 かがみ先輩の支援で古泉先輩と一緒に帰ることになった時の次の日。私はみなみちゃんにこの事を話した。だから知っている。 「その時ね・・・古泉先輩に聞いたの。委員会はどこに入ってるかって。そしたら古泉先輩、保険委員に入ってるって」 「!」 「・・・古泉先輩はみなみちゃんの事を話してた。真面目で物静かだって・・・みなみちゃんとよく会話もしたりしてるって・・・」 「・・・・・・」 「だからね。教えて欲しいの。みなみちゃんは・・・古泉先輩の事・・・好き?」 「・・・・・・」 沈黙が続いた。 この沈黙は数分続き、沈黙を破ったのはみなみちゃんだった。 「・・・ごめん・・・ゆたか・・・・・・」 「みなみちゃん・・・?」 「・・・私、ゆたかの言うように・・・古泉先輩が好き・・・私が初めて好きになった人・・・・・・」 「みなみちゃん・・・」 「保険委員に入ってから先輩にいろいろ優しくしてもらった。失敗しても優しく援護してくれた・・・そんな彼に私は・・・好きになってしまった・・・・・・」 「でも、ゆたかが先輩を好きになったって聞いたときにはどうしようかと思った・・・もしこの事言ったらゆたかがどうにかなってしまうかと思って」 「みなみちゃん」 「だから私は先輩を諦めてゆたかの応援をしようと思った・・・これでゆたかが幸せになれるならって・・・」 「みなみちゃんはそれでいいの?」 「えっ?」 「そんなの。私は全然嬉しくない!友達・・・ううん。親友の気持ちを知ってて私だけが幸せになるなんて・・・・・・そんなの絶対にやだよっ!」 気がついたら私は涙を流していた。 「ゆたか・・・」 「でも。みなみちゃんはホントの事話してくれた・・・だから・・・・・・今日告白しよっ!」 「え!?」 「もちろん私だけじゃなくみなみちゃんも一緒に。それで私達の気持ち伝えよっ!」 「でも・・・そんなの・・・」 「もう。みなみちゃんも人なんだよ!誰がどんな恋愛してもいいの!みなみちゃんの人生なんだから好きにしてもいいんだよっ!・・・仮にこの話聞いた後に私だけ告白して成功しても全然嬉しくないよ・・・」 「ゆ・・・たか・・・」 「ねっ。だから今日の放課後に・・・古泉先輩に告白しよう。・・・どっちが付き合うことになっても恨みっこなしだよっ」 そうして私は微笑んだ・・・。涙は出てるけど悲しい顔はせずに微笑んでみせた。 「・・・・・・ごめ・・・ん・・・・・・ゆたか・・・・・・」 みなみちゃんは私に抱きついて泣いた。 この後みなみちゃんと別れ、私はお姉ちゃんの教室に。確かかがみ先輩って同じクラスにいたよね? 3年生の教室の前。凄く威圧があるように感じるけど・・・頑張ってお姉ちゃんを探した。 「あっ!このクラスだ」 そして教室に入ろうとしたらある人に呼び止められた。 「あれ?ゆたかちゃん。こんなとこで何してるの?」 かがみ先輩だ。ちょうどいいというかなんというか・・・。まあいいや。 「あのかがみ先輩・・・ちょっとよろしいですか?」 「うん?どうしたの?」 「実は・・・」 私はかがみ先輩に告白の事を耳元で話した。 「えっ!?は、早くないかな・・・」 もちろん承知です先輩。でも・・・いてもたってもいられないといいますか・・・。 「うーん。わかったわ。古泉君にそう伝えとくね」 「あ、ありがとうございます」 「・・・・・・頑張ってね」 「・・・はい!」 そして私は自分の教室へと戻っていった。 「ふー。ゆたかちゃんならいいと思うけどなぁ・・・あんなにいい子だし、可愛いし。・・・後は鈍いのか確信犯なのかよくわからない彼なのよね・・・。上手くいくといいけど」 自分の教室に入って早速みなみちゃんにこの事を話した。 「みなみちゃん!かがみ先輩が話とくって」 「そ、そう・・・」 「私達、頑張ろうね!」 「・・・・・・ありがとう・・・ゆたか」 「えへへ・・・なんかお腹すいちゃったなぁ~お昼まだだった。いただき・・・」 ガラッ。 教室のドアが開いた。 「では授業を始めます」 「・・・あぅぅぅぅ」 時間というものはホントによくわからない。あっという間に放課後になってしまった。 「ゆたか・・・どこで・・・告白するの」 「えっとね。私達が先輩に会ったところ」 そう。私達はあの場所で出会った。あの場所で古泉先輩に出会った・・・。その場所は・・・・・・。 保健室前 「ここで・・・・・・告白するの・・・?」 「うん・・・流石に部屋には鍵がかかって入れないから。駄目かな?」 「・・・・・・私達らしくていいと思う」 一瞬だけみなみちゃんが笑ったように見えた。 後は待つだけ。 数十分待った。すると、 「お待たせしてすみません」 き、来たっ!き、緊張してきた~。 「おや、岩崎さんもご一緒でしたか。2人とも僕に用があるのですか?」 「そ、そうです!今から私達の言うことを聞いてください!」 「・・・はい」 まずは・・・みなみちゃんから言う事に。 古泉先輩を待ってるときにどっちが先に言うかじゃんけんで決めたんだ。 「・・・・・・古泉先輩・・・」 「・・・・・・」 ち、沈黙が・・・みなみちゃん、頑張れ! 「初めて会ったときから好きでした。・・・こんな私でよければ・・・付き合ってください・・・・・・」 「!」 みなみちゃんはそう言い、頭を下げた。 す、ストレートだなぁ・・・みなみちゃん。でも凄いよ。 「そうだったのですか・・・岩崎さんの気持ちはよくわかりました。・・・・・・小早川さんは・・・?」 「へっ!?あ、はい」 わ、私の番だ・・・。緊張するよ・・・。 「えっと・・・古泉先輩・・・先輩に、ここで助けてもらったとき、優しくて、とてもいい人で。そんなあなたを私は・・・好きになりましたっ!」 「・・・・・・」 「こんな私でよかったらですけど・・・お付き合いしてくださいっ!」 「・・・・・・お2人のお気持ちはよくわかりました。ですが・・・」 こ、このパターンは!?お姉ちゃんが言ってたけど、言葉の最後にですが。しかし。でも。といった言葉が出てきたらアウトだって!ど、どうしよ~。 「ですが・・・今答えを出すのは・・・雰囲気的にどうかと思いまして・・・」 「・・・へっ?」 「・・・・・・」 「・・・どちらかに僕がお付き合いしますと言いましたら、もう1人の方が余計に悲しくなるのではないかと思いまして・・・」 「・・・そ、そうですよねっ。えへへへ・・・」 「・・・・・・」 「ですから・・・お2人の電話番号を教えて頂けませんか?今夜にでも結論を出したいと思いますので・・・」 「は、はい!わかりました!・・・でもどうやって私達に伝えるのですか?」 「ええ。もう1人の方には申し訳ございませんが・・・僕がお付き合いしたいと思った方に電話させていただきます。大体・・・9時位ですね・・・」 「そう・・・ですか・・・」 そして私達は連絡を交換し、古泉先輩は去っていった。笑顔で・・・。 こうして私達の告白は終わった。 「・・・ふ~。緊張したよね。みなみちゃん」 「・・・・・・うん」 「・・・あの言い方だと古泉先輩は私たちどっちかが好きみたいだよね」 「・・・そうだった。あの言い方は恐らく・・・」 「これはもう恨みっこなしだよ。例え私が振られてみなみちゃんが古泉先輩と付き合うことになっても私は恨まないよ。むしろ達成感があるからね。だから、私達は友達だよっ。ずーっと」 「・・・ゆたか。私も同じ・・・私達の関係は変わらない・・・・・・」 うん。私達は一緒だよ 家に帰宅し、私はずっと待った。電話が鳴るのを・・・。 お姉ちゃんにこの事を話したら、 「ゆーちゃん。・・・なかなか行動力あるね・・・。正直驚いたよ」 「えへへ。私も自分がやった事に凄く驚いてるよ」 「ま、後は連絡を待つだけだね」 「うん・・・」 「大丈夫だって。ゆーちゃんなら大丈夫」 「・・・ありがとう。お姉ちゃん」 今の時間は・・・8時30分。 あと・・・30分・・・。 心臓がバクバクしてきた・・・・・・でも私は待つ・・・・・・。 そう 例え振られても 私達の関係は 変わらない ずっと・・・ 数週間後・・・ 「かがみん。どしたの?」 「き、キョン君に振られちゃった~」 「・・・それはそれは。今日はトコトン付き合ってあげるからね・・・」 「・・・こなたぁ~!!!」 「部活メンバー!集合!」 「セリフがちょっと違うぞ。ハルヒ」 「いいじゃない。飽きてきたんだもん」 「・・・あのなぁ」 「出番が少ないでしゅ・・・」 「・・・あなたは需要はある。心配はいらない」 「ホントですか!?長門さん」 「・・・嘘」 「・・・・・・」 「遅くなりました。申し訳ございません」 「遅いぞ・・・しかし、お前もそんな趣味だったとはな。意外だ」 「どういうことです?」 「・・・こっち来い」 「あれはどうみてもロリコン扱いだよな?な?」 「失礼ですね。彼女も立派な女性です」 「だが、あの身長じゃな・・・」 「確かにそうかもしれませんが・・・断じて違います。年齢もそうでしょう。それに僕の別の次元では確かにロリコンと疑われるような発言がありましたが、彼は彼。僕は僕です」 「・・・・・・誰か俺のポジションを代わってくれ。頭が痛い・・・」 「それは大変です。保健室に行きましょうか?」 「断る!」 「みなみちゃん」 「・・・ゆたか」 「あの・・・」 「あの時言った事忘れてない・・・私達はずっと変わらない関係・・・」 「みなみちゃん・・・うん!そうだよね!」 「そ れ は」 「ワタシタチモ操ナノデスカ~?」 「あっ。田村さんにパティ」 「・・・2人も同じ・・・ずっと友達」 「だよね~」 「うぅ~この2人・・・萌えr・・・」 「ハイ!ストップ」 「どこ行くの岩崎さん?」 「ちょっとトイレに・・・」 ガラッ 「うぃ~す。wawawa忘れ物・・・うぉあ!」 バタッ 「あっ・・・」 「また1年の教室に来てしまった・・・っと、すまんかった。大丈夫か?」 「・・・はい」 「立てるか?」 「だ、大丈夫です・・・」 「そうか・・・悪いな。俺の所為で」 「いえ・・・」 「じゃな・・・」 「あの・・・!」 「ん?」 「お名前は・・・」 「俺か・・・俺はナイスガイの谷口だぜ!お前は?」 「岩崎みなみです・・・」 「そうか。その無垢な可愛さは俺の同学年のAマイナーの奴とそっくりだぜ。じゃあな」 「・・・・・・」 「あの人・・・また来たよ」 「むむ~みなみちゃんは恋をしてますな」 「ワタシニモワカルノデス」 「・・・・・・ええぇぇぇ!!!」 「かがみ先輩」 「ゆたかちゃん。よかったわね。成功して」 「はい。ありがとうございます。かがみ先輩のおかげです」 「私あんまりなにもしてないわよ。ゆたかちゃんの実力」 「そんなことは・・・」 「とにかく、古泉君と喧嘩しないようにね。幸せになってね」 「・・・ありがとうございましたっ!」 タッタッタ・・・ 「ハァ・・・羨ましい・・・」 放課後になった。 「古泉先輩」 「小早川さん」 「も~ゆたかでいいですよ~先輩」 「すみません。慣れないもので・・・ゆたか・・・さん」 「~~~」 「では帰りましょうか」 「・・・はい!」 「・・・ここの公園で先輩の返事を聞いたのですよね」 「そうですね。あの時はなかなか恥ずかしかったですね」 「私の気持ちわかって頂きました?」 「ええ。たっぷりと」 「アハハ」 「・・・・・・」 「・・・・・・」 「・・・先輩」 「・・・どうしましたか?ゆたかさん」 「もう一回・・・あの場所で・・・して欲しいです」 「・・・・・・行きますか?」 「はい!」 私達は公園のブランコの前に立った。そして、 「・・・・・・」 「僕が前かがみにならないといけませんね」 「あ~馬鹿にしましたね。今!」 「いえいえ。・・・その膨れた顔も可愛いですよ」 「もう~・・・ってわあっ!?」 いきなり古泉先輩にお姫様抱っこされた。 「この方がいいですね」 「・・・先輩・・・・・・大好きです」 「・・・僕もですよ・・・ゆたか」 私達は キスをした まだ古泉先輩の事はよくわからない所もあるし、古泉先輩も私の事をもっと知って欲しい。 でも私達はこれからお互いの事を知るようになっていく。 これからもずっと・・・・・・ 完 作品の感想はこちらにどうぞ