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都道府県 市区郡・区町村 神社名(未拝受は薄字) 拝受数 福島県 会津若松市 蚕養国神社 1 郡山市 安積国造神社 鹿嶋大神宮 2 白河市 南湖神社 1 石川郡 石川町 石都々古和気神社 1 大沼郡 会津美里町 伊佐須美神社 1 東白川郡 棚倉町 都々古別神社 1 耶麻郡 西会津町 大山祇神社 1 8
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戻る ■福島県の商店街 (数字は加盟商店数) 福島市 五十辺商工会 96 新町商工振興会 94 中央町商工振興会 91 福島市本町商店街振興組合 82 万世町商店会 81 太田町商店街振興組合 68 福島市文化通り商店街振興組合 67 南福島商工振興会 63 福島北裡商店街 62 中町商店会 60 福島駅前通り商店街振興組合 58 パセオ協同組合 57 信夫通り振興会 52 スズラン通り商店街協同組合 51 瀬上商店会 47 一番丁商店会 45 並木通り商店街振興組合 44 五老内商店会 43 西部商店会 39 清水商工友会 38 荒町商店会 37 豊田町商店会 37 吾妻通り協栄会 35 野田町商店会 35 渡利商店会 35 県庁通り商店街振興組合 34 市役所東通り商店会 28 レンガ通り振興会 25 曽根田町商工振興会 24 中央通り振興会 23 陣場町中央通り商工会 21 北町商業振興会 20 松木町商店会 15 天神町睦商店会 14 柳町商店会 5 二本松市 二本松市本町銀座商店街振興組合 30 竹田共栄会 26 本町中央商店会 25 根崎商店会 23 若宮振興会 20 本町駅前商店会 20 松岡商店会 18 郭内かすみ商店会 18 亀谷振興会 15 本町上口商店会 14 本町親交商店会 14 石井商店会 9 本町まゆみ商店会 8 岳下商店会 7 大平商店会 7 金色商店会 7 塩沢商店会 2 杉田商店会 2 岳温泉商業組合 1 郡山市 西部地区商店会 131 郡山市中央商店街振興組合 110 郡山市さくら通り商店街振興組合 65 郡山駅前大通り商店街振興組合 65 郡山市大町商店街振興組合 62 サンシティ専門店会 61 方八町商店会 50 麓山商店会 45 駅前アーケード商店街 43 長老通り商店街 40 桑野商店街 38 南銀座商店街 38 本町商店街 37 さくら通り虎丸商店街振興組合 31 郡山市文化通り商店街振興組合 30 大重商店街 30 ふれあい商店会 23 さくら通り西商店街 21 駅前陣屋通り商店街 20 駅前南通り振興会 20 日の出過り共栄会 20 門前商工会 20 開成商工振興会 19 希望ケ丘商店街 16 並木商店会 16 深沢通り商店会 15 合同庁舎通り商店街 14 亀田商店街 11 蔵場商店会 11 平和通り商店街 10 旭町通り商店街 6 テアトル通り商店振興会 3 須賀川市 須賀川中央商店街振興組合 62 大東商店会 58 本町商店会 53 八幡町商店会 51 須賀川市上北町商店街振興組合 50 須賀川市宮先町商店街振興組合 46 諏訪町商店会 45 西川商店会 42 馬町商店会 40 丸田町商店会 38 仁井田商店会 37 大町商店会 35 三丁目商店会 21 弘法坦商店会 21 旭町商店会 19 東町商店会 19 南上町商店会 17 北町商店会 13 加治町商店会 8 白河市 白河市中央商店街振興組合 140 新蔵方部振興会 96 本町銀座会 71 大工町商店会 70 昭和町商店会 59 天神町共栄会 49 金屋町商工振興会 39 横町しんこう会 37 年貢町振興会 35 田町商盛会 25 大町商店会 5 一番町商店会 3 道場町商店会 3 会津若松市 中央通り商店振興会 131 会津若松大町駅前通り商店街振興組合 105 大町四ツ角中央商店街振興組合 72 神明通り商店街振興組合 67 会津若松市本町中央商店街振興組合 46 会津若松市役所通り商店街振興組合 33 会文通り商店会 22 門田商栄事業協同組合 12 栄町四丁目通り商工会 11 喜多方市 喜多方市仲町商店街振興組合 44 喜多方市中央通り商店街振興組合 31 下町南部商工振興会 23 塗物町商店会 14 駅前大通り商店会 8 熊倉町商栄会 8 上町商工振興会 6 新町商店会 5 市役所通り商店会 3 寺町商店会 2 緑町商店会 2 駅前商店会 1 南北町商店会 1 松山町商店会 1 関柴町商店会 1 菅原町商店会 1 相馬市 相馬市駅前商店街振興組合 70 宇多川町商店街振興組合 64 大町商栄会 55 ハートフル栄町商店街振興組合 52 荒井町商栄会 50 駅東商栄会 42 田町商店街振興組合 38 西部商栄会 33 相馬市中央商店街協同組合 30 向町商栄会 23 上町名店会 10 原町市 栄町商店街振興組合 61 中央通り商店会 58 原町市駅前商店街振興組合 52 本町商店会 49 ふれあい通り商栄会 46 駅ひがし商店会 46 四つ葉商店会 41 大町商店会 34 栄町二丁目商店会 30 原町市旭町商店街振興組合 29 南町二丁目商店会 25 栄町共栄会 24 栄町三丁目商店会 20 南町一丁目商店会 17 東一番町商店会 14 いわき市 うえだ商店会 154 平東大通商店会 138 鹿島町商店会 102 ルート6・シンボルタウン商店会 93 レンガ通り商店会 80 平三町目商店街振興組合 79 東栄会商店会 73 江名商和会 72 白銀商店会 70 窪田商店会 70 駅前商店会 70 小名浜名店街協同組合 66 横町商店会 65 五町目商店会 64 新川町商店会 63 平大通り協議会 56 泉商店会 56 中田商店会 54 協同組合中島商店会 49 温泉通り商店会 49 銀座街商店会 48 ヤンヤン商店会 47 大工町商店会 45 銀座商店会 45 いわき市平弐丁目商店街振興組合 44 平一丁目商店街振興組合 44 平窪商店会 44 中央通り商店会 44 一番町商店会 43 上町商店会 42 西町商店会 36 四町目商店会 35 五色町商店会 30 赤井商店会 28 中央商店会 28 大倉商店会 27 いわき駅前サンパルク商店会 26 古湊商店会 24 平和通り商店会 22 並木通り商店会 21 草野商店会 18 山田商店会 18 三田小路商店会 17 西部商店会 15 才槌小路商店会 15 夏井商店会 14 五番街商店会 5 福島県商店街振興組合連合会
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子どもの権利委員会・一般的意見14号:自己の最善の利益を第一次的に考慮される子どもの権利(第3条第1項) 前編 一般的意見一覧 子どもの権利委員会 第62会期(2013年1月14日~2月1日) CRC/C/GC/14(2013年5月29日/原文英語〔PDF〕) 日本語訳:平野裕二〔日本語訳全文(PDF)〕 目次 I.はじめに(パラ1-9)A.子どもの最善の利益:権利、原則および手続規則(パラ1-7) B.構成(パラ8-9) II.目的(パラ10-12) III.締約国の義務の性質および範囲(パラ13-16) IV.法的分析および条約の一般原則との関係(パラ17-45)A.第3条第1項の文理分析(パラ17-40)1.「子どもにかかわるすべての活動において」(パラ17-24) 2.「公的もしくは私的な社会福祉機関、裁判所、行政機関または立法機関によって」(パラ25-31) 3.「子どもの最善の利益」(パラ23-35) 4.「第一次的に考慮される」(36-40) B.子どもの最善の利益と条約の他の一般原則との関係(パラ41-45)1.子どもの最善の利益と差別の禁止に対する権利(第2条)(パラ41) 2.子どもの最善の利益と生命、生存および発達に対する権利(第6条)(パラ42) 3.子どもの最善の利益と意見を聴かれる権利(第12条)(パラ43-45) V.実施:子どもの最善の利益の評価および判定(パラ46-47) → 以下、子どもの最善の利益 後編A.最善の利益の評価および判定(パラ48-84)1.子どもの最善の利益を評価する際に考慮されるべき要素(パラ52-79) 2.最善の利益の評価における諸要素の比較衡量(パラ80-84) B.子どもの最善の利益の実施を保障するための手続的保護措置(パラ85-99) VI.普及(パラ100-101) 「子どもにかかわるすべての活動において、その活動が公的もしくは私的な社会福祉機関、裁判所、行政機関または立法機関によってなされたかどうかにかかわらず、子どもの最善の利益が第一次的に考慮される。」 子どもの権利条約(第3条第1項) I.はじめに A.子どもの最善の利益:権利、原則および手続規則 1.子どもの権利条約第3条第1項は、子どもに対し、公的領域および私的領域の双方における自己に関わるすべての行動または決定において、自己の最善の利益を評価され、かつ第一次的に考慮される権利を与えている。さらに、同規定は条約の基本的価値観のひとつを表明するものでもある。子どもの権利委員会(委員会)は、第3条第1項を、子どものすべての権利を解釈しかつ実施する際の、条約の4つの一般原則のひとつに位置づける [1] とともに、特定の文脈にふさわしい評価を必要とする動的な概念としてこれを適用している。 [1] 「子どもの権利条約の実施に関する一般的措置」に関する委員会の一般的意見5号(2003年)、パラ12、および「意見を聴かれる子どもの権利」に関する一般的意見12号(2009年)、パラ2。 2.「子どもの最善の利益」の概念は新しいものではない。それどころか、この概念は条約以前から存在するものであり、1959年の子どもの権利宣言(第2項)、女性に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(第5条(b)および第16条第1項(d))、ならびに、諸地域文書ならびに多くの国内法および国際法にすでに掲げられていた。 3.条約は、他の条文でも子どもの最善の利益に明示的に言及している。第9条(親からの分離)、第10条(家族再統合)、第18条(親の責任)、第20条(家庭環境の剥奪および代替的養護)、第21条(養子縁組)、第37条(c)(勾留中における成人からの分離)、第40条第2項(b)(iii)(法律に抵触した子どもが関与する刑事上の問題についての法廷審理に親が立ち会うことを含む手続的保障)である。子どもの売買、児童買春および児童ポルノに関する条約の選択議定書(前文および第8条)ならびに通報手続に関する条約の選択議定書(前文ならびに第2条・第3条)でも、子どもの最善の利益に言及されている。 4.子どもの最善の利益の概念は、条約で認められているすべての権利の全面的かつ効果的な享受および子どものホリスティックな発達 [2] の双方を確保することを目的としたものである。委員会はすでに、「子どもの最善の利益に関するおとなの判断により、条約に基づく子どものすべての権利を尊重する義務が無効化されることはありえない」と指摘した [3]。委員会は、条約上の権利に優劣は存在しないことを想起するものである。条約に定められたすべての権利は「子どもの最善の利益」にのっとったものであり、いかなる権利も、子どもの最善の利益を消極的に解することによって損なうことはできない。 [2] 委員会は、締約国が、「子どもの身体的、精神的、霊的、道徳的、心理的および社会的発達を包含する」「ホリスティックな概念」として発達を解釈するよう期待している(一般的意見5号、パラ12)。 [3] 「あらゆる形態の暴力からの自由に対する子どもの権利」に関する一般的意見13号(2011年)、パラ61。 5.子どもの最善の利益の概念を全面的に適用するためには、子どもの身体的、心理的、道徳的および霊的不可侵性を確保し、かつその人間としての尊厳を促進する目的で、すべての主体の関与を得ながら、権利基盤アプローチを発展させていくことが必要である。 6.委員会は、子どもの最善の利益が三層の概念であることを強調する。 (a) 実体的権利:争点となっている問題について決定を行なうためにさまざまな利益が考慮される際、自己の最善の利益を評価され、かつ第一次的に考慮される子どもの権利であり、かつ、ひとりの子ども、特定のもしくは不特定の子どもの集団または子どもたち一般に関わる決定が行なわれるときは常にこの権利が実施されるという保障である。第3条第1項は、国家にとっての本質的義務を創設したものであり、直接適用(自動執行)が可能であり、かつ裁判所で援用できる。 (b) 基本的な法的解釈原理:ある法律上の規定に複数の解釈の余地がある場合、子どもの最善の利益にもっとも効果的にかなう解釈が選択されるべきである。条約およびその選択議定書に掲げられた権利が解釈の枠組みとなる。 (c) 手続規則:ひとりの子ども、特定の子どもの集団または子どもたち一般に関わる決定が行なわれるときは常に、意思決定プロセスに、当該決定が当事者である子ども(たち)に及ぼす可能性のある(肯定的または否定的な)影響についての評価が含まれなければならない。子どもの最善の利益を評価・判定するためには手続上の保障が必要である。さらに、ある決定を正当とする理由の説明において、この権利が明示的に考慮に入れられたことが示されなければならない。これとの関連で、締約国は、幅広い政策問題に関する決定であるか個別事案における決定であるかに関わらず、決定においてこの権利がどのように尊重されたか――すなわち、何が子どもの最善の利益にのっとった対応であると考えられたか、それはどのような基準に基づくものであるか、および、子どもの利益が他の考慮事項とどのように比較衡量されたか――を説明することが求められる。 7.この一般的意見において、「子どもの最善の利益」という表現は上述の3つの側面を網羅するものとする。 B.構成 8.この一般的意見が対象とする範囲は条約第3条第1項に限定されており、子どものウェルビーイングに関わる第3条第2項、ならびに、子どものための施設、サービスおよび便益が定められた基準を遵守すること、および、当該基準が遵守されるようにするための機構が整備されることを確保する締約国の義務に関する第3条第3項については対象としていない。 9.委員会は、この一般的意見の目的を述べ(第II章)、締約国の義務の性質および範囲を明らかにする(第III章)。また、条約の他の一般原則との関係を示しながら、第3条第1項の法的分析も提示する(第IV章)。第V章では、子どもの最善の利益の原則の実際上の実施についてもっぱら取り上げ、第VI章では一般的意見の普及に関する指針を提示する。 II.目的 10.この一般的意見は、条約の締約国が子どもの最善の利益を適用しかつ尊重することを確保しようとするものである。この一般的意見は、とくに個人としての子どもに関わる司法上および行政上の決定その他の行動における、また子どもたち一般または特定の手段としての子どもたちに関わる法律、政策、戦略、プログラム、計画、予算、立法上および予算上の発議ならびに指針――すなわちあらゆる実施措置――の採択のあらゆる段階における、正当な考慮の要件を明確にする。委員会は、この一般的意見が、子どもに関係するすべての者(親および養育者を含む)が行なう決定で指針とされることを期待するものである。 11.子どもの最善の利益は動的な概念であり、常に変化しつつあるさまざまな問題を包含するものである。この一般的意見は、子どもの最善の利益を評価・判定するための枠組みを提示するものであり、特定の時点における特定の状況下で何が子どもにとって最善かを明らかにしようと試みるものではない。 12.この一般的意見の主な目的は、自己の最善の利益を評価され、かつこれを第一義的な考慮事項として、または場合によっては最高の考慮事項として(後掲パラ38参照)扱われる子どもの権利についての理解およびその適用を強化するところにある。この一般的意見の全般的目的は、権利の保有者としての子どもの全面的尊重につながる、真の態度の変革を促進することである。より具体的には、これは以下のことに関連する。 (a) 政府がとるすべての実施措置の立案。 (b) ひとりのまたは複数の特定の子どもについて、司法機関もしくは行政機関または公共団体がその代表者を通じて行なう個別の決定。 (c) 子どもに関わるまたは子どもに影響を与えるサービスを提供する市民社会団体および民間セクター(営利組織および非営利組織を含む)が行なう決定。 (d) 子どもとともにおよび子どものために活動する者(親および養育者を含む)がとる行動についての指針。 III.締約国の義務の性質および範囲 13.各締約国は、自己の最善の利益を評価され、かつ第一次的に考慮される子どもの権利を尊重しかつ実施しなければならず、またこの権利を全面的実施するためにあらゆる必要な、慎重なかつ具体的な措置をとる義務を負う。 14.第3条第1項は、締約国に対して3つの異なる態様の義務を課す枠組みを定めたものである。 (a) 公的機関がとるすべての行動、とくに子どもに直接間接に影響を与えるあらゆる実施措置、行政上および司法上の手続において、子どもの最善の利益が適切に統合されかつ一貫して適用されることを確保する義務。 (b) 子どもに関わるあらゆる司法上および行政上の決定ならびに政策および立法において、子どもの最善の利益が第一次的に考慮されたことが実証されることを確保する義務。これには、最善の利益がどのように検討・評価され、かつ決定においてどの程度重視されたかを説明することも含まれる。 (c) 民間セクター(サービス提供部門を含む)または子どもに関わるもしくは子どもに影響を与える決定を行なう他のいずれかの私的機関による決定または行動において、子どもの利益が評価され、かつ第一次的に考慮されることを確保する義務。 15.規定の遵守を確保するため、締約国は、条約第4条、第42条および第44条第6項にしたがって多くの実施措置をとり、かつ、あらゆる行動において子どもの最善の利益が第一次的に考慮されることを確保するべきである。このような措置には以下のものが含まれる。 (a) 国内法その他の法源を再検討し、かつ必要なときは改正することによって、第3条第1項を編入し、かつ、すべての国内法令、州または準州の立法、サービスを提供するまたは子どもに影響を与える民間機関または公的機関の活動を規制する規則、ならびに、あらゆるレベルにおける司法上および行政上の手続において、子どもの最善の利益を考慮する要件が、実体的権利としても手続規則としても反映されかつ実施することを確保すること。 (b) 国、広域行政圏および地方のレベルにおける政策の調整および実施において子どもの最善の利益を擁護すること。 (c) 自己に関連しまたは影響を与えるすべての実施措置、行政上および司法上の手続において、自己の最善の利益を適切に統合され、かつ一貫して適用される子どもの権利を全面的に実現するため、苦情申立て、救済または是正のための機構および手続を設置すること。 (d) 子どもの権利の実施を目的としたプログラムおよび措置のための国内資源の配分、ならびに、国際援助または開発援助を受けている活動において、子どもの最善の利益を擁護すること。 (e) データ収集を確立し、モニタリングしかつ評価する際に、子どもの最善の利益が明示的に説明されることを確保するとともに、必要なときは子どもの権利の問題に関する調査研究を支援すること。 (f) 子どもに直接間接に影響を与える決定を行なうすべての者(子どものためにおよび子どもとともに活動する専門家その他の者を含む)に対し、第3条第1項およびその実際の適用に関する情報および研修の機会を提供すること。 (g) 第3条第1項で保護されている権利の適用範囲が理解されるよう、子どもに対しては子どもが理解できる言葉で、ならびに子どもの家族および養育者に対して適切な情報を提供するとともに、子どもが自己の視点を表明し、かつ、子どもの意見が正当に重視されることを確保するために必要な条件を整備すること。 (h) 子どもが権利の保有者として認識されるようにするため、マスメディアおよびソーシャルネットワークならびに子どもたちの関与を得ながら行なう広報プログラムを通じ、自己の最善の利益を評価され、かつ第一次的に考慮される子どもの権利の全面的実施を阻害するすべての否定的な態度および物の見方と闘うこと。 16.子どもの最善の利益を全面的に実施する際には、以下の要素が念頭に置かれるべきである。 (a) 子どもの権利の普遍性、不可分性、相互依存性および相互関連性。 (b) 子どもは権利の保有者であるという認識。 (c) 条約の世界的な性質および対象範囲。 (d) 条約上のすべての権利を尊重し、保護しかつ充足する締約国の義務。 (e) 経時的な子どもの発達に関わる行動の短期的、中期的および長期的影響。 IV.法的分析および条約の一般原則との関係 A.第3条第1項の文理分析 1.「子どもにかかわるすべての活動において」(In all actions concerning children) (a) 「すべての活動において」(in all actions) 17.第3条第1項は、子どもに関わるすべての決定および活動においてこの権利が保障されることを確保しようとするものである。すなわち、子ども(たち)に関連するすべての活動において、子どもの最善の利益が第一次的に考慮されなければならない。「活動」という文言は、決定のみならず、すべての行ない、行為、提案、サービス、手続その他の措置を含む。 18.行動をとらないこと、すなわち不作為もまた「活動」である(たとえば、社会福祉機関が子どもをネグレクトまたは虐待から保護するための措置をとらなかった場合)。 (b) 「にかかわる」(concerning) 19.この法的義務は、子どもに直接間接に影響を与えるすべての決定および活動に適用される。したがって、「にかかわる」とは、第一に、ひとりの子ども、集団としての子どもたちまたは子どもたち一般に直接関わる措置および決定をいい、第二に、たとえ子ども(たち)が措置の直接の対象ではない場合でも、子ども個人、集団としての子どもたちまたは子どもたち一般に影響を及ぼすその他の措置をいう。委員会の一般的意見7号で述べたように、このような活動には、子どもを直接対象とするもの(たとえば保健、ケアまたは教育に関わるもの)のみならず、子どもたちおよび他の住民集団を対象とする活動(たとえば環境、住宅または交通機関に関わるもの)も含まれる。したがって、「にかかわる」という文言は非常に広義に理解されなければならない。 20.実際のところ、国が行なうすべての活動は何らかの形で子どもたちに影響を与えるものである。だからといって、国が行なうすべての活動に、子どもの最善の利益を評価・判定する完全かつ公式なプロセスが組みこまれる必要があるわけではない。しかし、ある決定が子ども(たち)に重要な影響を及ぼす場合には、子どもの最善の利益を考慮するために保護の水準を高め、かつ詳細な手続を設けるのが適当である。 したがって、子ども(たち)を直接の対象としない措置との関連では、「にかかわる」という文言の意義は、当該活動が子ども(たち)に与える影響を評価する目的で、個別事案の事情に照らして明らかにされなければならない。 (c) 「子ども」(children) 21.「子ども」とは、条約第1条および第2条にしたがい、いかなる種類の差別もなく、締約国の管轄内にある18歳未満のすべての者をいう。 22.第3条第1項は、個人としての子どもに適用され、締約国に対し、個別の決定において子どもの最善の利益を評価し、かつ第一次的に考慮する義務を課すものである。 23.ただし、「子ども」(children)という文言は、自己の最善の利益を正当に考慮される権利が、個人としての子どものみならず、子どもたち一般または集団としての子どもたちにも適用されることを含意している。したがって、国は、子どもたちに関わるすべての活動において、集団としての子どもたちまたは子どもたち一般の最善の利益を評価し、かつ第一次的に考慮する義務を有する。このことは、すべての実施措置についてとりわけ明らかである。委員会は、子どもの最善の利益は集団的権利としても個人的権利としてもとらえられていること、および、この権利を集団としての先住民族の子どもに適用する際にはこの権利が集団的文化権とどのように関連しているかについて検討する必要があることを強調する [4]。 「先住民族の子どもとその条約上の権利」に関する一般的意見11号(2009年)、パラ30。 24.だからといって、子ども個人に関わる決定において、その利益が子どもたち一般の利益と同一であると理解されなければならないというわけではない。むしろ、第3条第1項は、ある子どもの最善の利益は個別に評価されなければならないことを含意している。個人および集団としての子ども(たち)の最善の利益を明らかにするための手続については、後掲第V章で説明している。 2.「公的もしくは私的な社会福祉機関、裁判所、行政機関または立法機関によって」(By public or private social welfare institutions, courts of law, administrative authorities or legislative bodies) 25.子どもの最善の利益を正当に考慮する国の義務は、子どもが関係するまたは子どもに関わるすべての公的および私的な社会福祉機関、裁判所、行政機関ならびに立法機関を包含する包括的な義務である。第3条第1項では親については明示的に言及されていないものの、子どもの最善の利益は親の「基本的関心となる」(第18条第1項)。 (a) 「公的もしくは私的な社会福祉機関」(public or private social welfare institutions) 26.この文言は、狭義に解釈され、または厳密な意味での社会機関に限定して解されるべきではなく、その活動および決定が子どもおよびその権利の実現に影響を及ぼすすべての機関を意味するものとして理解されるべきである。このような機関には、経済的、社会的および文化的権利に関するもの(たとえばケア、保健、環境、教育、ビジネス、余暇・遊び等)だけではなく、市民的権利および自由に対応する機関(たとえば出生登録、あらゆる場面における暴力からの保護等)も含まれる。私的な社会福祉機関には、営利組織であるか非営利組織であるかに関わらず、子どもによる権利の享受にとって重要であるサービスの提供において役割を果たしており、かつ政府のサービス機関に代わって、または政府のサービス機関と並存する選択肢のひとつとして活動している民間セクター組織も含まれる。 (b) 「裁判所」(courts of law) 27.委員会は、「裁判所」とは、すべての場面におけるすべての司法手続――職業裁判官によるものか素人裁判官によるものかは問わない――および子どもに関わるすべての関連の手続をいうものであって、そこに限定はないことを強調する。これには、調停、仲裁および斡旋の手続も含まれる。 28.刑事事件においては、最善の利益の原則は、法律に抵触した(すなわち、法律を犯したとして申し立てられ、罪を問われ、または認定された)子どもまたは法律と(被害者または証人として)関わりを持った子ども、および、法律に抵触した親の状況から影響を受けている子どもに適用される。委員会は、子どもの最善の利益を保護するとは、罪を犯した子どもに対応する際、刑事司法の伝統的目的(禁圧または応報等)に代えて立ち直りおよび修復的司法という目的が優先されなければならないということである旨、強調する [5]。 [5] 「少年司法における子どもの権利」に関する一般的意見10号(2007年)、パラ10。 29.民事事件においては、父子関係の確定、子どもの虐待またはネグレクト、家族再統合、施設入所等に関する事件で、子どもが直接または代理人を通じて自己の利益を擁護しようとする場合がある。子どもは、たとえば、養子縁組または離婚に関する手続、子どもの人生および発達に重要な影響を及ぼす監護権、居所、面会交流等の問題に関する決定、および、子どもの虐待またはネグレクトに関する手続において、裁判による影響を受ける場合もある。裁判所は、手続的性質のものであるか実体的性質のものであるかに関わらず、このようなすべての状況および決定において子どもの最善の利益が考慮されるようにしなければならず、かつ、子どもの最善の利益を効果的に考慮したことを実証しなければならない。 (c) 「行政機関」(administrative authorities) 30.委員会は、あらゆるレベルの行政機関が行なう決定の範囲はきわめて広く、とくに教育、ケア、保健、環境、生活条件、保護、庇護、出入国管理、国籍へのアクセスに関する決定を包含するものであることを強調する。これらの分野で行政機関が行なう個別の決定は、あらゆる実施措置の場合と同様、子どもの最善の利益によって評価され、かつ子どもの最善の利益を指針とするものでなければならない。 (d) 「立法機関」(legislative bodies) 31.締約国の義務が「立法機関」にも適用されるとされていることは、第3条第1項が、個人としての子どもだけではなく子どもたち一般にも関連するものであることをはっきりと示している。いかなる法令および集団的協定――子どもに影響を与える二国間・多国間の貿易条約または平和条約等――の採択も、子どもの最善の利益によって規律されるべきである。自己の最善の利益を評価され、かつ第一次的に考慮される子どもの権利は、子どもにとくに関わる法律のみならず、あらゆる関連の法律に明示的に含まれるべきである。この義務はまた予算の承認にも適用されるのであり、予算の準備および策定に際しては、それが子どもに配慮したものとなるようにするため、子どもの最善の利益の視点を採用することが必要になる。 3.「子どもの最善の利益」(The best interests of the child) 32.子どもの最善の利益の概念は複雑であり、その内容は個別事案ごとに判定されなければならない。立法者、裁判官、行政機関、社会機関または教育機関は、条約の他の規定に則して第3条第1項を解釈・実施してこそ、この概念を明確にし、かつ具体的に活用できるようになる。したがって、子どもの最善の利益の概念は柔軟性および適応性を有するものである。この概念は、当事者である子ども(たち)が置かれた特定の状況にしたがって、その個人的な背景、状況およびニーズを考慮に入れながら個別に調節・定義されるべきである。個別の決定については、子どもの最善の利益は、その特定の子どもが有する特定の事情に照らして評価・判定されなければならない。立法者による決定のような集団的決定については、子どもたち一般の最善の利益は、特定の集団および(または)子どもたち一般の事情に照らして評価・判定されなければならない。いずれの場合にも、評価および判定は、条約およびその選択議定書に掲げられた権利を全面的に尊重しながら進められるべきである。 33.子どもの最善の利益は、子ども(たち)に関わるすべての事柄に対して適用されるべきであり、かつ、条約または他の人権条約に掲げられた諸権利間で生じる可能性のあるいかなる矛盾を解決する際にも考慮されるべきである。子どもの最善の利益にのっとった、可能性のある解決策を特定することに注意が払われなければならない。このことは、国には、実施措置を採択する際、すべての子どもたち(脆弱な状況に置かれた子どもたちを含む)の最善の利益を明らかにする義務があることを含意するものである。 34.子どもの最善の利益の概念は柔軟なものであることから、個別の子どもの状況を敏感に受けとめ、かつ子どもの発達についての知識を発展させていくことが可能になる。しかし、都合のいいように使われる余地が残る場合もある。子どもの最善の利益の概念は、たとえば人種主義的政策を正当化しようとする政府および他の国家機関によって、監護権をめぐる紛争で自分自身の利益を擁護しようとする親によって、また面倒を引き受けられず、関連性または重要性がないとして子どもの最善の利益の評価を行なおうとしない専門家によって、濫用されてきた。 35.実施措置との関連では、あらゆる行政レベルにおける立法および政策策定ならびにサービス提供で子どもの最善の利益が第一次的に考慮されることを確保するために、子どもたちおよびその権利の享受に影響を及ぼすいかなる法律、政策または予算配分の提案についてもその影響を予測するための子どもの権利影響事前評価(CRIA)、および、実施の実際の影響を評価するための子どもの権利影響事後評価という継続的プロセスが要求される [6]。 [6] 「子どもの権利条約の実施に関する一般的措置」に関する一般的意見5号(2003年)、パラ45。 4.「第一次的に考慮される」(Shall be a primary consideration) 36.子どもの最善の利益は、あらゆる実施措置の採択において第一次的に考慮されなければならない。「される」(shall be)という文言は国に対して強い法的義務を課すものであり、国は、いかなる活動においても、子どもの最善の利益が評価され、かつ第一次的考慮事項として適正に重視されるか否かについて裁量を行使できないということを意味する。 37.「第一次的に考慮される」事項という表現は、子どもの最善の利益は他のすべての考慮事項とは同列に考えられないということを意味する。この強い位置づけは、子どもが置かれている特別な状況(依存、成熟度、法的地位、および、多くの場合に意見表明の機会を奪われていること)によって正当化されるものである。子どもが自分自身の利益を強く主張できる可能性はおとなの場合よりも低く、子どもに影響を与える決定に関与する者は子どもの利益について明確に意識していなければならない。子どもの利益は、強調されなければ見過ごされる傾向にある。 38.養子縁組(第21条)については、最善の利益の権利はさらに強化されている。これは単に「第一次的に考慮される」事項(a primary consideration)ではなく、「最高の考慮事項」(the paramount consideration)なのである。実際、子どもの最善の利益は養子縁組についての決定を行なう際に決定的要素とされなければならないが、これは他の問題についての決定においても同様である。 39.ただし、第3条第1項は幅広い状況を対象とするものであるため、委員会は、その適用について一定の柔軟性を認める必要性を認識する。いったん評価・判定された子どもの最善の利益が、他の(たとえば他の子ども、公衆、親等の)利益または権利と相反するおそれもある。個別に考慮された子どもの最善の利益と、子どもたちの集団または子どもたち一般の最善の利益とが相反する可能性があるときは、すべての当事者の利益を慎重に比較衡量し、かつ適切な折衷策を見出すことによって、事案ごとの状況に応じて解決が図られなければならない。他者の権利が子どもの最善の利益と相反する場合も同様である。調和を図ることができないときは、公的機関および意思決定担当者はすべての関係者の権利の分析および比較衡量を行なわなければならない。その際、自己の最善の利益を第一次的に考慮される子どもの権利とは、子どもの利益が、単に複数の考慮事項のひとつとして扱われるのではなく、高い優先順位を与えられるということである点を念頭に置く必要がある。したがって、子どもにとって最善と思われる対応がより重視されなければならない。 40.子どもの最善の利益を「第一次的に」とらえるためには、あらゆる活動において子どもの利益がどのように位置づけられなければならないかについて意識し、かつ、あらゆる状況において(ただし、とくにある活動が関係する子どもに否定しようのない影響を与える場合に)これらの利益を積極的に優先させることが必要である。 B.子どもの最善の利益と条約の他の一般原則との関係 1.子どもの最善の利益と差別の禁止に対する権利(第2条) 41.差別の禁止に対する権利は、条約上の権利の享受に関するあらゆる形態の差別を禁止するという消極的な義務ではなく、条約上の権利を享受する効果的かつ平等な機会をすべての子どもに対して確保するため、国が適当な積極的措置をとることも求めるものである。そのためには、現実の不平等の状況を是正するための積極的措置が必要となる場合もある。 2.子どもの最善の利益と生命、生存および発達に対する権利(第6条) 42.国は、人間の尊厳を尊重し、かつすべての子どものホリスティックな発達を確保する環境をつくらなければならない。子どもの最善の利益の評価・判定にあたっては、国は、生命、生存および発達に対するその子どもの固有の権利が全面的に尊重されることを確保しなければならない。 3.子どもの最善の利益と意見を聴かれる権利(第12条) 43.子どもの最善の利益の評価には、子どもに影響を与えるすべての事柄について自由に自己の意見を表明し、かつ表明された意見を正当に重視される子どもの権利の尊重が含まれなければならない。このことは、やはり第3条第1項と第12条との切っても切れない関係を強調した委員会の一般的意見12号でもはっきりと述べられている。これら2つの条項は補完的な役割を有しており、前者が子どもの最善の利益の実現を目指す一方で、後者は、子どもに影響を与えるすべての事柄(子どもの最善の利益の評価を含む)において子ども(たち)の意見を聴きかつ子ども(たち)を包摂するための方法論を提供している。第12条の要素が満たされなければ、第3条の正しい適用はありえない。同様に、第3条第1項は、自分たちの生活に影響を与えるすべての決定における子どもたちの必要不可欠な役割を促進することにより、第12条の機能性を強化している [7]。 一般的意見12号、パラ70-74。 44.子どもの最善の利益および意見を聴かれる子どもの権利が問題になっている際には、子どもの発達しつつある能力(第5条)が考慮に入れられなければならない。委員会はすでに、子ども自身の知識、経験および理解力が高まるにつれて、親、法定保護者または子どもに責任を負うその他の者は、指示および指導を、子ども自身の気づきを促すための注意喚起およびその他の形態の助言に、そしてやがては対等な立場の意見交換に、変えていかなければならないことを明らかにした [8]。同様に、子どもが成熟するにつれて、その意見は、その子どもの最善の利益の評価においていっそう重視されるようにならなければならない。赤ちゃんおよび非常に幼い子どもも、たとえ年長の子どもと同じ方法で自己の意見を表明しまたは自己を主張することができない場合でも、自己の最善の利益を評価される、すべての子どもと同じ権利を有する。国は、このような子どもの最善の利益を評価するための適当な体制(適当なときは代理人を含む)を確保しなければならない。意見を表明できない子どもまたは意見を表明する意思のない子どもについても同様である。 前掲、パラ84。 45.委員会は、条約第12条第2項で、自己に影響を与えるいかなる司法的および行政的手続においても、直接にまたは代理人を通じて意見を聴かれる子どもの権利が定められていることを想起する(さらに詳しくは後掲第V章B参照)。 (子どもの最善の利益 後編へ続く) 更新履歴:ページ作成(2013年6月10日)。
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子どもの権利委員会・一般的討議勧告:子どもの経済的搾取 一般的討議勧告一覧 (第4会期、1994年) 原文:英語 ※一般的討議が行なわれたのは第4会期だが、以下の勧告は第5会期に関する報告書に掲載されたものである。 日本語訳:平野裕二 子どもの経済的搾取に関する勧告 委員会は、第5会期において、とくに児童労働に関連する子どもの経済的搾取(家事労働、子どもの売買、児童買春および児童ポルノのようにインフォーマル部門におけるものを含む)についての一般的討議の際に検討された問題の重要性を認め、かつ委員会と国際連合機関、専門機関およびその他の権限ある機関(とくに非政府組織)との間で交わされた実りのある意見交換を踏まえ、その活動の枠組みのなかでこの現実に引き続き注意を払っていくとともに、この分野における一連の勧告を採択することを決定した。 はじめに 1.子どもの経済的搾取に関する一般的討議は、子どもの権利条約で強調されている、子どもの人権に対する重要なホリスティックアプローチを反映したものだった。この精神にのっとり、子どもの権利委員会は、すべての権利が相互に不可分でありかつ関連していて、そのひとつひとつが子どもの人間の尊厳にとって本質的なものであることを想起する。したがって、条約に掲げられたひとつひとつの権利を実施していく際には、経済的搾取から保護される権利の場合にそうであるように、子どもが有する他のすべての権利の実施およびそれらの権利の尊重を考慮するべきである。 2.委員会はさらに、締約国が、条約に基づき、条約で認められているすべての権利を、自国の管轄下にあるすべての子どもに対し、いかなる種類の差別もなく尊重しかつ確保すること(第2条)、その目的の達成のためにあらゆる適切な措置をとること(第4条)、および、とられるすべての行動において子どもの最善の利益を第一次的考慮事項と位置づけること(第3条)を約束していることを想起する。さらに、子どもに影響を及ぼすすべての事柄について、子どもの意見が正当に重視されるべきであり、かつ、子どもに対し、自己の生活に影響を及ぼすいかなる意思決定過程にも参加する機会が与えられるべきである(第12条)。 3.この一般的枠組みは、当然、子どもの経済的搾取の状況においても適用される。ここで条約は、他の場合と同様に、締約国に対し、十分な法的枠組みおよび必要な実施機構を条約の原則および規定に一致する形で確立することを通じた行動をとるよう求めているのである。 4.そのような措置は、経済的搾取の状況およびそれが子どもの生活に及ぼす有害な影響の防止を強化することにつながるであろうし、子どもの保護の制度の強化を目的としてとられるべきであるし、かつ、いかなる形態の経済的搾取の被害を受けた子どもについても、その身体的および心理的回復ならびに社会的再統合を、子どもの健康、自尊心および尊厳を醸成する環境のなかで促進することにつながるであろう。 5.条約は、その報告制度(条約第2部参照)を通じ、締約国が条約の実施に関して達成された進展の定期的な評価を確保することの重要性も強調している。締約国は、このような監視活動により、自国の法律および政策を定期的に見直し、かつさらなる行動またはその他の行動が必要とされている分野に焦点を当てることができるようになる。そこで委員会は、子どもの状況の改善における報告制度の関連性を想起するとともに、各国、国際連合機関、専門機関および他の権限ある機関に対し、経済的搾取からの子どもの保護の枠組みのなかで以下の一連の勧告を検討するよう慫慂する。 (a) 委員会は、子どもの権利の分野で活動するすべての関連の主体による包括的かつ協調的な行動を通じて初めて、経済的に搾取されている子どもに関わる防止、保護およびリハビリテーションの政策を向上させ、かつその成功を確保することが可能になることを認識する。このような理由から、委員会は、国レベルおよび国際的レベルの双方における調整の重要性および必要性を強調するものである。(i) 委員会は、これとの関連で、政策を調整しかつ子どもの権利条約の実施を監視するための、経済的搾取からの保護の分野で具体的な権限を有する国家的機構の設置を勧告する。a. 国レベルで活動するさまざまな権限のある機関によって構成される(子どもの権利条約に関する国家委員会などの)このような調整機構は、条約の実施に対する総合的かつ学際的なアプローチを確保し、かつ発展する活動の効果的な相互作用および補完性を促進するのに適した立場にある。さらに、あらゆる関連の情報の収集を容易にし、現実の体系的かつ正確な評価を可能ならしめ、かつ子どもの権利の促進および保護のための新たな戦略(経済的搾取からの保護の分野におけるものを含む)の検討への道を開くこともできる。 6.このような調整機構は、協力を奨励すべき{調整非政府組織](労働者団体および使用者団体を含む)調整の活動にとっての重要な参照窓口にもなる。実際、世界人権会議でも認められたように、このような組織は、とくにアドボカシー、教育、研修またはリハビリテーションの分野――あらゆる形態の経済的搾取から子どもを保護するうえでもきわめて重要な分野――で、条約の効果的実施において重要な役割を担うのである。 (ii) 委員会は、子どもの権利条約が国際協力に必要不可欠な役割を与えていることを想起する。委員会はさらに、条約の実施を支えるために国際的な協力および連帯を促進する必要があること、および、国際連合システムにおいて子どもの権利が優先的課題として位置づけられるべきであることが、世界人権会議において認められたことを想起するものである。a. そこで委員会は、各国に対し、とくに二国間および地域間のレベルで、子どもの権利の促進のための協力および連帯を強化する方策を検討するよう奨励する。 b. 委員会はまた、関連の国際連合機関および専門機関、国際金融機関ならびに国際開発機関に対し、あらゆる形態の経済的搾取からの子どもの保護の分野におけるものも含む活動の調整および相互作用を増進させることも奨励する。 c. 委員会はさらに、国際連合機関および専門機関に対し、それぞれの権限にしたがい、子どもの人権および状況についての検討および監視を恒常的に行なうよう奨励する。この枠組みにおいて、委員会は、技術的な助言および援助のプログラムにとって、条約が示唆に富む法的枠組みとして決定的関連性を有していることを想起するとともに、委員会が、国際連合システム全体の行動における子どもの権利についての中心的機関として引き続き果たしていこうと考えている触媒としての役割を再確認するものである。 (b) 委員会は、経済的搾取の状況の防止を確保し、かつ経済的搾取の栄養を受けた子どもの保護およびリハビリテーションを図るために、情報および教育が不可欠な重要性を有することを強調する。(i) この枠組みにおいて、委員会は、締約国が、この条約の原則および規定を、適切かつ積極的な手段により、大人および子どもの双方に対して同様に広く知らせることを約束していることを想起する(第42条)。a. この目的のため、委員会は、締約国が、子どもが自己の権利(学習する権利、遊ぶ権利および休息をとる権利を含む)、自己が享受することのできる保護措置、および、経済的搾取の状況に置かれた場合に――健康にとって有害であり、調和のとれた発達を妨げ、教育を阻害し、または犯罪活動への関与につながる活動の場合などのように――直面するリスクについて認識できるようにすることを目的として、子どもをとくに対象とした、条約に関する幅広い広報キャンペーンを開始するよう勧告する。 b. 同様に、条約に関する意識啓発および理解の深化を図る目的、とくに子どもの尊厳の尊重を確保し、差別的な態度を防止し、かつ経済的搾取の状況からの子どもの効果的保護を達成する目的で、公衆一般を対象とする広報キャンペーン(家庭およびコミュニティのレベルにおけるものならびに労働者および使用者を対象とするものを含む)が構想されるべきである。子どもとともにまたは子どものために働く特別な専門家集団(教員、法執行官、裁判官およびソーシャルワーカーを含む)を対象とする研修も開催されるべきであり、このような研修は、子どもに対する差別ならびに周縁化およびスティグマを防止し、かつ子どもの視点を正当に考慮するよう奨励することに資するであろう。 c. これらのさまざまな活動は、政府機関および非政府機関と緊密に協力しながら発展させられるべきであり、かつ、そこではメディアが重要な役割を果たすことになろう。このような活動は、違法かつ秘密であることが多い経済的搾取の状況に光を当てること、ならびに、このような状況に対する公衆の無関心および冷淡さを克服することに資するはずである。このような活動は、さらに、現在存在する問題の規模を理解し、かつ、これらの問題に立ち向かっていくために必要な措置の採択を検討することも可能にしてくれるだろう。 (ii) 委員会は、子どもの経済的搾取の状況に対抗するための不可欠な防止手段のひとつである教育の重要性を強調する。そこで委員会は、とくに初等教育をすべての子どもに対して義務的かつ無償とすることにより、教育を正当に重視するよう勧告するものである。さらに、教育は、子どもの権利条約で認められているように、子どもの人格、才能および能力の全面的発達を確保するための決定的手段として、また十分な情報に基づく自由な選択を行なう平等な機会を享受しつつ、社会において責任ある生活を送るための準備をしながら子ども時代を経験するための機会を子どもに与える好機として、構想されるべきである。 委員会はまた、条約を、学校カリキュラムの枠組みのなかで、人権のための教育を意味のある形で例示したものとして、また子ども団体の設立または支持等も通じて学校生活および社会生活への子ども参加を奨励するためのインセンティブとして位置づけることも勧告する。合法的に就労している子どもの場合、条約第32条にも照らして、柔軟な教育制度が実施されるべきである。 (c) 経済的搾取からの子どもの保護の分野において、委員会は、子どもは家庭および社会における尊重および連帯の利益を与えられるべき人間存在であると考える。(i) 性的搾取または労働を通じての搾取の場合、委員会は、子どもは保健、教育および発達の観点から特別の保護の利益を与えられるべき被害者であると考える。 (ii) いかなる場合にも、以下の活動は厳格に禁じられなければならない。子どもの発達を脅かす活動または人間の価値および尊厳に反する活動。 残虐な、非人道的なもしくは品位を傷つける取扱い、子どもの売買または隷属状況をともなう活動。 子どもの調和のとれた身体的、精神的および霊的発達にとって危険もしくは有害である活動、または子どもの将来の教育および訓練を脅かしそうな活動。 とくに被害を受けやすい状況および周縁化された状況に置かれた社会的集団との関連で差別をともなう活動。 子どもの権利条約第32条第2項で言及されている最低年齢、および、とくにILOが勧告している最低年齢に満たないすべての活動。 薬物または禁制品の取引など、法律により処罰される犯罪行為のために子どもを使用するすべての活動。 (iii) 子どもの権利条約第32条にしたがい、すべての子どもは経済的搾取から保護される権利を有する。締約国は、子どもの最善の利益を考慮しながら、子どもがいかなる形態の搾取からも法的に保護されることを確保する目的で、基準の策定または現行法の改正を行なわなければならない。締約国は、あらゆる形態の就労(家庭内および農業部門における就労ならびにインフォーマルな就労を含む)を考慮しながら、子どもの保護の確保を目的としたあらゆる立法上、行政上その他の措置をとるよう慫慂される。 (iv) 締約国はまた、経済的搾取の結果、深刻な身体的および道徳的危険にさらされている子どものリハビリテーションを確保するための措置もとらなければならない。これらの子どもに対して必要な社会的および医学的援助を提供すること、ならびに、子どもの権利条約第39条に照らし、これらの子どものための社会的再統合プログラムを構想することが不可欠である。 付属文書IV:子どもの経済的搾取に関する一般的討議 国際連合・子どもの権利委員会は、国際連合諸機関および非政府組織の参加を得て、1993年10月4日、子どもの経済的搾取に関する一般的討議を開催した。委員会はその後、討議のフォローアップ方法を提案するための作業部会を任命した(CRC/C/20、パラ196参照)。作業部会のメンバーに任命されたのは、ルイス・A・バンバレン・ガステルメンディ氏、アキラ・ベレンバーゴ氏、トマス・ハマバーグ氏およびマルタ・サントス・パイス氏である。 勧告 1.一般的討議の記録の拡大版として一件書類がまとめられるべきである。そこには、1993年10月7日に委員会が採択した声明(前掲、付属文書VI)、1993年10月4日の討議の議事要録、委員会を代表して行なわれた発言の書面(前掲、付属文書V)、子どもの売買、児童買春および児童ポルノに関する国際連合特別報告者が行なった発言の書面、および、この分野における現在の主要な政策文書(とくに、国際連合人権委員会が決議1993/79で採択した「児童労働の搾取を撤廃するための行動計画」および同人権委員会が決議1992/74で採択した「子どもの売買、児童買春および児童ポルノの防止のための行動計画」)を含めることが求められる。一件書類の作成および配布に際してはILOとの協力が希望されるところである。 2.これらの文書は、カバーレターを添えて、子どもの権利条約の全締約国、1993年10月7日の委員会の声明で挙げられている諸機関(世界銀行、IMF、UNDP、UNESCO、UNICEF、WHO、ILO、インターポール、および、NGOコミュニティの諸代表)およびこの分野で活動してる他のすべての権限ある機関に対して送付されるべきである。 3.WHOおよびIMFへの書簡では、経済改革プログラムにおける子どもの権利の保護について、両機関と委員会との討議を開催するべきである旨の提案をあらためて繰り返すことが求められる。 4.UNESCOへの書簡では、同機関が、今後の活動プログラムにおいて、学校教育を児童労働(子どもの性的搾取を含む)の効果的な代替的選択肢としていくことを重視するよう勧告することが求められる。 5.ILOへの書簡では、同機関が実施している有害な児童労働撤廃のためのプログラムの重要性、ならびに、最低年齢および就労条件に関するILOの基準(とくにILO第138号条約)の批准および効果的実施の重要性を強調することが求められる。 6.WHOへの書簡では、到達可能な最高水準の健康の享受ならびに疾病の治療および健康の回復のための便宜に対する子どもの権利の重要性を強調することが求められる。 7.すべての書簡で、子どもの権利条約およびこの分野で行なわれている関連のプログラム(児童労働の搾取の撤廃ならびに子どもの売買、児童買春および児童ポルノの防止を目的とする国際連合の両行動計画など)の重要性を強調することが求められる。 8.子どもの権利委員会は、子どもの権利の分野で活動する国際連合諸機関(子どもの売買、児童買春および児童ポルノに関する人権委員会特別報告者、ならびに、差別防止およびマイノリティ保護に関する小委員会および現代的形態の奴隷制に関する同小委員会の作業部会を含む)との効果的な交流および協力を確保することに対して委員会が付与している重要性を踏まえ、条約の実施に関する報告書の検討の枠組みのなかで締約国と行なったこの問題に関する議論について、これらの機関に恒常的に情報を提供していくことを決定する。 更新履歴:ページ作成(2017年2月17日)。
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子どもの権利委員会・一般的討議勧告:子どもの権利と環境 一般的討議勧告一覧 (第73会期、2016年) 原文:英語 日本語訳:平野裕二 報告書目次 1.はじめに 2.子どもの権利と環境の位置づけ関連性 時宜を得た討議 3.法的枠組みの外観人権と環境:変化しつつある風景 CRC〔子どもの権利条約〕と環境 子どもの環境権の定義 子どもの権利の文脈における「環境」の意味 4.子どもの権利と環境の関係の主要な要素4.1 環境危害からの子どもの権利の保護 健康的な環境の確保義務 環境保健に関わる課題 欠陥 持続的な環境の確保義務 課題 政策上の欠陥 子どもにやさしい遊び環境の確保 自然界とのつながりの確保 4.2 変革の主体としての子ども 環境情報へのアクセス欠陥 環境影響評価 環境教育環境の文脈における権利基盤型教育の要素 欠陥 環境に関わる事柄への参加意思決定の機会へのアクセスの欠如 障壁 司法へのアクセス原告適格 立証責任 時効 金銭的負担 4.3 横断的問題としての脆弱性および差別 5.責任および義務政府子どもの権利アプローチの欠如 協力および調整の欠如 能力構築および研修 企業セクターの役割企業セクターの規制 環境の文脈における子どもの権利についての相当の注意(デューディリジェンス) 委員会の役割 NGO、専門家および学界を含む他の関連の主体の役割 6.勧告 7.結論 6.勧告 各国が自国の政策およびプログラムで考慮すべき論点を特定するために子どもの権利に関する意識啓発および議論を行なうフォーラムとしてのDGD〔一般的討議の日〕の目的に照らし、かつ、環境との関係で子どもの権利をどのように保護していけばよいかについての指針を他の関連の主体に提示するため、委員会は以下の勧告に賛同するものである。以下の勧告は、第一次的に義務を負う主体である国に主として宛てられたものであるが、企業セクター、国際機関、市民社会および委員会自身を含む他のステークホルダーの役割も検討している。 国 一般的勧告 国は、子どもの権利の享受を妨げる環境危害から子どもを保護しなければならない。子どもの特有の脆弱性および社会における社会的地位は、政府および政策立案担当者に、このような危害から子どもを効果的に保護し、子どもの力量を強化し、子どもの意見および能力を考慮に入れ、かつ実効的なおよび時宜を得た救済措置にアクセスできるようにするために持続的な努力を行なう、いっそうの義務を課すものである。 国は、子どもたちが有する環境関連の権利を、現在および将来の世代の子どもたち全員がそれを享受しうるような持続可能なやり方で実現することにより、これらの権利を確保するべきである。 国は、すべての子どもが健康的かつ持続可能な環境および自然に平等にアクセスできることを確保しなければならない。国は、環境に関わる不公正の結果として生じている複合的な脆弱性要因にさらされている子ども(女子、障害のある子ども、貧しい子どもおよび先住民族集団またはマイノリティ集団に属する子どもを含む)の権利に対し、具体的に注意を払わなければならない。 国は、国外の子どもの権利に影響を及ぼす越境環境危害を引き起こしまたは助長することを防止するための措置をとるべきである。 立法および政策 国は、現在および将来の子どもたちの権利を十分に反映した持続可能な開発の道筋をとることを可能にするような法的および制度的環境を発展させるべきである。環境に関する国内の法律、政策および行動ならびに国際的取り決め(たとえば国ごとに決定する貢献〔Nationally Determined Contributions〕/国別緩和・適応計画など)においては、子どもの権利に関連する措置を明示的に含めることが求められる。翻って、子どもの権利に関する法律、政策および行動においては環境リスク要因を明示的に考慮するべきである。 国は、たとえば気候変動、生後早期の曝露または大規模開発プロジェクトのための保障措置に関わる関連の法律および政策の立案、実施および監視に際し、子どもの最善の利益を第一次的に考慮すべき問題として考慮するべきである。 企業セクターの規制 子どもの権利を保護するための十分な法的および制度的枠組みを採択する国の義務は、企業によって引き起こされる危害にも及ぶ。とりわけ、国は、企業に対し、その操業においておよびサプライチェーン全体を通じて、環境悪化が子どもの権利に及ぼす有害な影響との関連で相当の注意(デューディリジェンス)を払うことを求めるべきである。 環境の文脈におけるビジネスの影響を考慮に入れながら、ビジネスと人権に関する国家的行動計画に子どもの権利を統合するべきである。 国は、子どもの権利に合致した、よりクリーンな、より環境にやさしい企業実践への移行を支える政策および計画(たとえば都市再開発計画)を策定するよう奨励される。 国は、自ら範を示すとともに、大規模公共部門契約に入札する事業者に対し、自社の活動および傘下のサプライチェーンの活動が環境への影響との関連で子どもの権利に悪影響を及ぼさないことを確保するためにとろうとしている措置の開示を求めるよう奨励される。 実施および説明責任 国は、環境危害から子どもを保護することを目的とする規則を厳格に実施し、執行しかつ監視するとともに、この点に関わる監督機関を強化するべきである。国家的な人権監視機構は、健康的かつ持続可能な環境に関連する子どもの権利を考慮に入れることが求められる。 国は、環境危害から子どもの権利を保護するための部門横断型の行動をとるとともに、保健専門家、環境部門、教育部門、労働部門、都市計画部門、運輸部門、採取部門、エネルギー部門および農業部門を含む関係者間の協力および調整を増進させるべきである。 国は、関連の多国間環境協定および環境政策枠組みを実施する際、自国が負っている子どもの権利関連の義務を編入するべきである。これには、子どもに特化した運用プログラム、ツール、技術的援助および能力構築資料の開発も含めることが求められる。 国は、環境の文脈における子どもの権利の保護のために十分な資源を用意するべきである。 報告 国は、委員会に対する定期報告書に、環境危害が子どもの権利の全面的享受にもたらす影響、および、子どもの権利がそのような危害から保護されることを確保するためにとっている措置を盛りこむべきである。このことは、環境に関わる関連の国際的枠組みのもとで自国がとる行動の文脈で子どもの権利を考慮するために行なっている努力についての報告にも、適用することが求められる。 国はまた、UNFCCC〔国連・気候変動枠組条約〕〔の締約国会議〕に対する環境報告(たとえば国別報告書、適応措置報告など)、化学物質および廃棄物に関する国際的協定ならびに生物多様性条約およびSDG〔持続可能な開発目標〕に基づく環境関連のターゲットの実施に関する報告においても、子どもの権利を考慮するべきである。 健康的な環境の確保 国は、具体的な法律および効果的な企業規制を発展させること等を通じて子ども時代における環境危害への曝露を防止し、かつ治療のための保健ケアへのアクセスを確保するために効果的措置をとるべきである。締約国は、子どもの環境保健上のリスクが不確実である場合には予防的アプローチをとることが求められる。子どもにとって有害である可能性があるすべての毒性化学物質の規制に関して、諸国の国際協力が勧告されるところである。 国は、WHO〔世界保健機関〕その他の関連の国際機関が定めた環境保健関連の基準、指標、定義および年齢分類を実施するために――子どもの権利および最善の利益を指針としながら――いっそう積極的な措置をとるべきである。 国は、子どもの環境保健をモニタリングするための国家的計画を策定し、リスク評価を実施し、優先的懸念事項(被害を受けやすい状況に置かれた子どもを含む)を特定するとともに、これらの優先的懸念事項に対処するための措置(たとえば汚染された土地の時宜を得た除染)を策定しかつ実施するべきである。国は、保健専門家が、環境危害に関連する健康上の影響の診断および治療に関する研修を受けることを確保するよう求められる。 国は、働く子どもが環境リスク要因にさらされる危険な労働実務の禁止および解消を図り、より安全な代替的選択肢を促進し、かつ影響を受けている子どものモニタリングを確保するべきである。国は、生じたいかなる危害についても子どもが必要な治療および補償を受けることを確保するよう求められる。国はまた、安全な仕事に対する親(とくに生殖適齢の女性および女子)の権利も保護するべきである。 持続可能な環境の確保 国は、生物多様性、生態系サービス および天然資源の保護のための、国際的な基準および計画に合致したアプローチおよび戦略の採択および実施ならびに法的枠組みの確立を進めるとともに、現在および将来の世代の子どもたちが生命、生存および発達に対する権利、意見を聴かれる権利、健康、食料および水に対する権利、文化的生活に参加する権利、十分な生活水準、情報および教育に対する権利を行使できることを確保するべきである。とくに国は、世界的な気候変動との関係で子どもの権利を尊重しかつ保護する自国の義務を認識するよう求められる。このような保護のためには、利用可能な最善の科学的知見を指針としながら、温室効果ガスを緊急かつ果敢に削減することが必要である。 国は、すべての子どもおよびその家族ならびにコミュニティが、天然資源および健康的な環境の利益に対してならびに生態系に対して 公平にアクセスできることを確保するべきである。国は、自分たちの土地に対して緊密な物質的および文化的紐帯を有しており、かつ環境悪化の影響をもっとも受けやすいコミュニティ出身の子どもの権利を保護するため、いっそうの取り組みを行なうよう求められる。 子どもにやさしい遊び環境の確保 自治体の計画においては、自分たちのコミュニティで遊び、かつ主体性および自立性を発揮するすべての子どもの自由を増進させる環境にアクセスできるようにすることが優先的に取り組まれるべきである。これには、家族住宅街の道路または学校外で遊びに利用されている通りで自動車の通行よりも歩行者または自転車利用者が優先されるゾーンを創設すること、インクルーシブな公園および遊び場を設置すること、手入れされた緑地、空き地、「自然のままの空間」(wildlands)または自然にアクセスできるようにすること、ならびに、全般的な「歩きやすさ」(walkability)を高めることなどが含まれうる。さらに国は、子どもに関連すると一般的に認識されていない分野における規制を、すべての環境が遊びおよび子どもにとってやさしいものとなることの確保に向けて誘導していく必要性を考慮するべきである。 自然界とのつながりの確保 国は、環境保護、都市計画、保健、教育等の分野における政策、戦略および行動を通じて、子どもが、健康および発達に対する権利の基底的な決定要因のひとつである自然と相互作用できることを確保するための措置をとるべきである。 環境に関する情報および調査研究 国は、人権および自由の享受にとって中心的重要性を有する、環境リスクについて知る子どもおよびその親の権利を承認するとともに、子どもの権利と環境に関連する事柄についての十分なかつ年齢にふさわしい情報が利用できることおよびこのような情報にアクセスできることを確保するべきである。 国は、子ども時代における環境危害への曝露についての調査研究およびモニタリングのための努力を、すべての国で、かつとりわけ開発途上国およびハイリスク状況について、強化するべきである。これとの関係で、国はとくに以下の措置をとることが求められる。モニタリングおよび政策関連の調査研究において、すべての子ども(とくに、被害を受けやすい状況に置かれた子ども)が平等に代表されることを確保すること。国として、調査研究およびモニタリングに子どもおよび親の積極的関与を得るためのインクルーシブなプログラムを立案することが勧告される。 子どもの脆弱性および権利ならびに実際の生活条件(「曝露実態」)を考慮しながら、確固たる曝露関連データを収集すること。 環境危害と子どもの権利への影響との連関性を経時的に探究する縦断的研究、ならびに、発達の臨界時期における曝露を把握する、妊婦、乳幼児および子どもについてのその他の研究を実施すること。 子どもの権利と生物多様性、生態系または自然へのアクセスとの関連のような、十分に探究されていない論点に関する情報の生成および収集を進めること。 個人情報の保護を確保しつつ、子どもの健康および経時的発達を左右する環境上の要因および社会的要因に関連する情報の統合を促進すること。 影響評価 国は、環境に影響を及ぼす可能性が高い法律、政策、行動計画(戦略的環境評価)およびプロジェクト(環境影響評価)の事前評価に際し、子どもの権利を明示的に考慮するべきである。これには、子どもたちをステークホルダー集団として認めること、子どもの権利、リスクおよび脆弱性を十分に考慮すること、ならびに、現実の影響および潜在的影響に対応することが含まれる。 環境教育 国は、CRC第29条第1項(e)に掲げられているように、自然環境の尊重の発達を促進する義務を有する。この目的のため、国は、子どもの権利の促進および若い市民の教育を目的として、子どもたちの意見および提案を包摂した具体的政策を策定するべきである。教員の養成および研修のプログラムには、権利を基盤とする環境教育の意味するところを十分に反映させることが求められる。 国は、早期の段階から、すべての教育段階におけるCRC第29条第1項(e)の意味のある実施に取り組むべきである。これとの関連で、国は、野外活動およびフィールドトリップのような非公式な教育手段を考慮するとともに、関連するときは伝統的知識を包摂することが求められる。カリキュラムは、環境の急速な変化に対応できるよう、頻繁に改訂されるべきである。国は、子どもの学習プロセスのきわめて重要な要素のひとつとして、また市民的参加を構成する社会的実践の実習として、環境保護への子どもの直接の関与を促進するよう奨励される。 国は、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」のSDG4(ターゲット7)およびSDG13(ターゲットb)、UNFCCC第6条/パリ協定第12条(気候対策エンパワーメントのための行動)ならびに他のMEA〔相互環境協定〕に基づく教育上の措置(たとえば生物多様性に関する愛知ターゲット1)の実施および報告に際し、CRC第29条第1項(e)を考慮するべきである。 締約国は、定期審査の際、委員会に対し、自国の全国的教育制度においてCRC第29条第1項(e)を実施するためにどのような具体的措置をとっているかについての情報を提供するべきである。その際、国は、これらの措置によって、環境に関わる自己の権利および責任に関する子どもたちの意識がどのように高まり、環境管理倫理がどのように浸透し、子どもたちが環境保護の主体となるために必要なスキルがどのように伝達され、かつ、すべての生徒が主体的に関与する平等な機会がどのように促進されているかを明らかにするよう求められる。 環境関連の意思決定における表現の自由および参加 国は、環境問題の影響に関する議論に参加する機会がすべての子ども(低年齢の子どもを含む)に対して与えられることを確保し、かつ、あらゆる段階の環境政策立案に子どもたちの意味のある参加を組みこむべきである。 環境関連の参加ならびに子ども同士の共有および学習のための、子どもにやさしい具体的な場の設置を検討するべきである。たとえば、国は、子どもたちが、UNFCCC、CBD〔生物多様性条約〕等のCOP〔締約国会議〕における意思決定において意見を聴かれる権利を有するステークホルダーとして認められ、かつ、気候変動適応および緩和、災害リスク削減または自然保護に関連するプロジェクトの立案および実施に積極的に関与することを可能にする、革新的な機構を発展させることが求められる。 国は、環境権擁護活動家に対して自由な活動を可能にする安全な環境を提供するとともに、18歳未満の活動家に対してはいっそうの配慮義務を負うべきである。 環境関連の事柄における司法へのアクセス 国は、健康的な環境に対する裁判適用可能な権利および世代間衡平の原則を国内法に掲げるよう奨励される。 国は、子どもが、環境危害を理由とする権利侵害について司法および効果的な救済(汚染された土壌の浄化、未然防止措置および予防的措置、必要な医療的および心理的ケアならびに十分な補償を含む)にアクセスできることを確保するべきである。これとの関係で、国は、子どもに関わる環境危害についての苦情申立てを妨げる障壁を取り除くため、立証責任および証拠規則の調整を行なうべきである。 国は、大規模な環境被害の影響を受けるすべての子どもに救済を提供しうるが、影響を受けたすべての子どもが手続に直接関与することは要求されない、集団訴訟および公益訴訟の機構(環境事件に関するものを含む)を確立するべきである。 国は、NGOおよび子どもたちが、環境権侵害の影響を受ける子どもたちの利益のための法的手続において、かつ将来の世代を代表して、訴訟を提起しかつ介入する原告適格を認められることを確保するべきである。 国は、環境との関連で子どもの権利および利益を保護する法的代理が行なわれるようにするための、高い専門性および応答性を備えた司法部門の専門家、市民社会グループおよび法的機構を支援するべきである。国は、司法へのアクセスの向上を促進するため、環境裁判所の設置を検討するよう求められる。 国は、国外の環境上の影響(当該国と当該行為との間に合理的な結びつきがあるときは域外の私企業によるものを含む)によって権利を侵害された子どもおよびその家族に対して救済を提供する、効果的な司法的および非司法的機構へのアクセスを可能とするべきである。 国は、国内人権機関および(または)子どもオンブズパーソンに対し、子どもの権利の妨げとなる環境問題についての苦情を受理する権限を委ねるべきである。 国際機関 環境問題に関する活動を行なっている国際機関は、その政策および技術的援助において、国連システム全体(UNEP〔国連環境計画〕、ILO〔国際労働機関〕、WHO、UNFCCC、HLPF〔ハイレベル政治フォーラム〕およびUNDP〔国連開発計画〕を含む)を通じて子どもの権利の主流化を図るとともに、関連の主体間の協力および調整を増進させるべきである。 ユニセフに対しては、ユニセフ自身のプログラムおよび活動の主流に環境上の考慮を位置づけるための努力を強化すること、環境関連のプログラムおよび活動において子どもの権利の視点を主流化する適切な政策の形成に関して国内的、地域的および国際的レベルで諸国を援助すること、望ましい実践を支援しかつ強調すること、ならびに、委員会に対する国別報告書において、環境危害が子どもの権利に及ぼす影響についての情報を提出することが奨励される。 子どもの権利委員会 委員会は、環境問題に対する子どもの権利基盤アプローチの諸要素の定義の確立に関して締約国に確固たる指針を提示するとともに、子どもの権利と環境との関係に関する一般的意見の作成を検討するべきである。その際、委員会はとくに以下の対応をとることが求められる。子どもの権利条約に含意されている、健康的かつ持続可能な環境に対する子どもの権利について詳細な説明を行ない、かつ、自然とつながる子どもの能力の重要性を承認すること。 気候変動に関するパリ協定で子どもの権利および世代間衡平に明示的に言及されていることを考慮に入れ、気候変動と子どもの権利に関して国がどの程度の義務(緩和、適応、および、気候変動の結果として避難民化した子どもの権利に関する義務を含む)を明らかにすること。 教育の目的としておよび権利として自然環境の尊重を発達させることに関するCRC第29条第1項(e)を実施する方法について、締約国に対していっそう具体的な指針を提示すること。 子どもの権利と生態系の保護、生物多様性ならびに天然資源の管理および天然資源へのアクセスとの関係、ならびに、これらの政策に関わって国が負っている子どもの権利関連の義務を明らかにすること。 子ども時代における毒性物質および汚染への曝露の防止およびモニタリングならびに診断および治療、企業セクター(サプライチェーン全体を含む)の効果的規制ならびに過去の権利侵害についての説明責任を確保する方法について、明確な指針を提示すること。 情報および参加の権利ならびに環境危害からの保護のための救済を受ける権利を子どもがどのように行使できるべきかについて説明すること。 委員会は、毒性物質および汚染が子どもの権利に及ぼす影響について、このような有害な物質および廃棄物への曝露を防止する国の義務を認識し、かつ〔企業セクターが子どもの権利に与える影響に関わる国の義務についての〕一般的意見16号に立脚しながら、研究を主導することを検討するべきである。 委員会は、環境との関連で子どもの権利を強化するツールとしての影響評価の役割を検討するとともに、この点に関わる望ましい実践の共有を図るべきである。 委員会は、締約国との対話の際、子どもに焦点を当てた環境保護措置を実施するよう政府に対して系統的に求めるとともに、子どもの権利と環境についてとくに取り上げる節を総括所見に設けるべきである。 委員会は、CRC第31条を考慮して、子どもおよびその養育者が地域環境をどのように利用しているのか理解する目的で、子どもおよびその養育者の日常生活についてならびに居住条件および近隣地域の条件の影響についての調査研究を実施するよう、締約国に対して勧告するべきである。 委員会は、環境関連の法律、政策および行動に子どもの権利を統合していく方法についての望ましい実践を、いっそう締約国と共有していくべきである。たとえば委員会は、環境保護の文脈におけるCRC第12条の実現に関する最善の実践から得られた教訓を共有していくことが求められる。 委員会は、環境問題に関する総括所見を、SDGと、またUNFCCC、水俣条約ならびに化学物質および廃棄物に関するその他の国際協定、「仙台防災枠組2015-2030」ならびに生物多様性条約に基づく国の誓約と一貫して関連づけることにより、国が有するCRC上の義務および国による報告にこれらの枠組みを堅固に位置づけることを図るべきである。委員会は、環境保護の文脈で子どもの権利を充足するために必要な影響および措置についてならびに達成された進展についてモニタリングし、行動しかつ報告する諸国の意識および能力を高める目的で、CRCとこれらの国際的枠組みとの整合性を強化するよう求められる。 委員会は、子どもの権利と環境に関わる関連の法的決定を監督するべきである。さらに委員会は、環境危害の文脈における子どもの権利侵害についての、人権機関および委任権限受託機関(国連人権機構、人権理事会の特別手続およびNHRI〔国内人権機関〕など)による調査を奨励することが求められる。委員会はまた、環境危害の被害者である子どもが効果的救済にアクセスできることを確保するため、利用可能な国際的苦情申立て機構の活用も促進するべきである。 委員会は、とくにUNEP、UNFCCC、UNDPおよびWHOに働きかけて、子どもの権利と環境の統合の改善を確保するための援助を申し出るとともに、委員会の自身の活動において、環境問題に関わるこれらの機関の意見および情報を求めるべきである。委員会は、環境問題および持続可能な開発の問題に関して国際的に行なわれる討議および交渉に対し、関連機関への書面の提出およびこれらのプロセスに参加する国々への技術的ブリーフィング等を通じて、意見表明および情報提供を行なうよう求められる。 委員会は、大規模災害の影響および企業セクターの責任について取り上げることなどにより、子どもの権利と環境との関係に関する公衆の意識啓発を図るべきである。 市民社会組織 NGO、研究者および学術機関を含む市民社会は、環境の文脈における子どもの権利の理解および保護の向上を促進するための科学的知見(説得力のある事例研究を含む)を収集しかつ普及するべきである。さらに、CSO〔市民社会組織〕は、法律上および政策上の欠陥に関する情報、ならびに、子どもの権利と環境に関わる最善の実践の実例の収集を援助するよう奨励される。 市民社会は、委員会および他の人権機構に対し、環境危害が子どもの権利に及ぼす影響についていっそうの情報を提供するとともに、これらの問題に関する子どもたちの意見をそこに含めるべきである。 市民社会は、人権、環境、公衆衛生、都市計画、ビジネスおよび他の関連の問題に関わるコミュニティ内で、環境問題の子どもの権利に関わる側面についての認識を強化するために連携を強めるべきである。子どもの権利および環境についての活動を行なっている関連の主体間の望ましい協力例を、学習プロセスの参考とするために共有することが求められる。 子どもの権利団体は、環境に関わる今後の取決め、法律および政策についての交渉に参加することを含め、自己の方針、プログラムおよび活動に環境問題を統合するよう奨励される。環境団体は、その活動において子どもの権利を十分に顧慮するべきである。 7.結論(略) 更新履歴:ページ作成(2017年5月29日)。
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子どもの権利委員会・一般的意見16号:企業セクターが子どもの権利に及ぼす影響に関わる国の義務 前編 一般的意見一覧 子どもの権利委員会 第62会期(2013年1月14日~2月1日) CRC/C/GC/16(2013年4月17日/原文英語) 日本語訳:平野裕二〔日本語訳全文(PDF)〕 目次 I.序論および目的(パラ1-7) II.範囲および適用(パラ8-11) III.条約の一般原則と企業活動との関連(パラ12-23)A.差別の禁止に対する権利(第2条)(パラ13-14) B.子どもの最善の利益(第3条第1項)(パラ15-17) C.生命、生存および発達に対する権利(第6条)(パラ18-20) D.意見を聴かれる子どもの権利(第12条)(パラ21-23) IV.国の義務の性質および範囲(パラ24-31)A.一般的義務(パラ24-25) B.尊重義務、保護義務および充足義務(パラ26-31) V.具体的文脈における国の義務(パラ32-52)A.子どもの権利の享受のためのサービス提供(パラ33-34) B.インフォーマル経済(パラ35-37) C.子どもの権利と企業の世界的操業(パラ38-46) D.国際機関(パラ47-48) E.緊急事態および紛争状況(パラ49-52) VI.実施の枠組み(パラ53-84) → 企業と子どもの権利 後編A.立法措置、規制措置および執行措置(パラ53-65) B.救済措置(パラ66-72) C.政策措置(パラ73-74) D.調整措置および監視措置(パラ75-81) E.連携措置および意識啓発措置(パラ82-84) VII.普及(パラ85-86) I.序論および目的 1.子どもの権利委員会は、経済および企業活動の性質のグローバル化、地方分権化の傾向の継続、ならびに、人権の享受に影響を与える国の機能の外部委託化および民営化といった要因により、この数十年の間に企業セクターが子どもの権利に及ぼす影響が増大してきたことを認識する。企業活動は、たとえば技術的進歩、投資およびディーセントワークの創出を通じて子どもの権利の実現を強化する種々の方法によって社会および経済が前進するための、必要不可欠な原動力である。しかしながら、子どもの権利の実現は経済成長によって自動的にもたらされるものではなく、企業が子どもの権利に悪影響を及ぼすこともありうる。 2.国は、子どもの権利条約、子どもの売買、児童買春および児童ポルノに関する選択議定書ならびに武力紛争への子どもの関与に関する選択議定書から派生する子どもの権利に対して企業の活動および操業が及ぼす影響について、種々の義務を有する。これらの義務は、子どもが、権利の保有者であると同時に、消費者として、合法的に就労している被用者として、将来の被用者および企業の指導者として、ならびに企業が操業しているコミュニティおよび環境の構成員として、企業活動の関係者でもあることを反映して、さまざまな問題を対象とするものである。この一般的意見は、これらの義務について明らかにするとともに、当該義務を果たすために国がとるべき措置の概略を示すことを目的としている。 3.この一般的意見の適用上、企業セクターとは、規模、部門、所在、所有関係および組織体制に関わらず、かつ国内企業か多国籍企業かの別を問わず、すべての企業を含むものとして定義される。この一般的意見ではまた、子どもの権利の享受にとってきわめて重要なサービスの提供に関して役割を果たしている非営利団体に関わる義務についても取り上げる。 4.国として、企業の活動および操業の文脈において子どもの権利を尊重し、保護しおよび充足するための十分な法的および制度的枠組みを定めることならびに権利侵害が生じた場合に救済措置を提供することが必要である。これとの関連で、国は以下のことを考慮するよう求められる。 (a) 子ども時代は他に代えがたい身体的、精神的、情緒的および霊的発達の時期であり、暴力、児童労働または安全性を欠いた製品もしくは環境上の危険にさらされること等の子どもの権利侵害は、生涯にわたる、とりかえしのつかない、かつ世代さえ超えて及ぶ影響を有する可能性がある。 (b) 子どもは政治的発言権を持たず、かつ関連の情報にアクセスできないことが多い。子どもは、自己の権利を実現させるうえで、自らはほとんど影響力を有しない統治制度に依拠している。そのため、自己の権利に影響を与える法律および政策についての決定において発言権を持つことは困難である。意思決定の過程で、国は企業関連の法律および政策が子どもに与える影響を十分に考慮しないことがある一方、逆に、企業セクターは、子どもの権利に関わりなく諸決定に強力な影響力を行使することが多い。 (c) 自己の権利が侵害された際に子どもが――裁判を通じてであれ、または他の機構を通じてであれ――救済を勝ちとることは一般的に困難であり、企業による権利侵害の場合にはその度合いがさらに高まる。子どもは、法的地位、救済機構に関する知識、経済力および十分な法的代理を欠いていることが多い。さらに、企業の世界的操業を背景として生じた権利侵害に対する救済を子どもが勝ちとることには特段の困難が存在する。 5.企業の活動および操業によって広範な子どもの権利が影響を受けうることに鑑み、この一般的意見では、条約およびその選択議定書の関連条文をすべて検討することはしない。この一般的意見は、これに代えて、企業活動が子どもの権利に及ぼす影響がもっとも顕著なものとなる可能性がある特定の文脈に焦点を当てつつ、各国に対し、企業セクターとの関連で条約を全体として実施するための枠組みを提示しようとするものである。ここでは、各国に対し、以下の取り組みを進めるための方法についての指針を提示することを目指す。 (a) 企業の活動および操業が子どもの権利に悪影響を与えないことを確保すること。 (b) 企業が子どもの権利を尊重できるようにする(自社の操業、製品またはサービスと関連している事業関係全体および自社の世界的操業全体において子どもの権利を尊重することも含む)ための有効かつ支援的な環境づくりを進めること。 (c) 民間当事者としてまたは国の代理機関として行為する企業によって権利を侵害された子どもが効果的な救済措置にアクセスできることを確保すること。 6.この一般的意見は、締約国報告書の審査に関する委員会の経験および民間セクターに関する一般的討議(2002年)[1] を踏まえたものである。また、子どもを含む多数の関係者との地域的および国際的協議ならびに2011年以降行なわれてきた公的協議も参考にしている。 [1] 子どもの権利委員会・第31会期報告書(CRC/C/121)付属文書II。 7.委員会は、企業と人権についてすでに定められ、かつ発展しつつある国内的および国際的な規範、基準および政策指針とこの一般的意見との関連性を心に留める。この一般的意見は、国際労働機関(ILO)が定めた最悪の形態の児童労働の禁止および撤廃のための即時の行動に関する第182号条約(1999年)および就業が認められるための最低年齢に関する第138号条約(1973年)を含む国際条約と一致するものである。委員会は、人権理事会が採択した国際連合「保護・尊重・救済」枠組み報告書および「ビジネスと人権に関する指導原則」、ならびに、ILO「多国籍企業および社会政策に関する原則の三者宣言」の関連性を認める。経済協力開発機構(OECD)・多国籍企業行動指針、グローバル・コンパクト、子どもに対する暴力に関する国連研究および「子どもの権利とビジネス原則」等の他の文書も、委員会にとって有用な参考文書となった。 II.範囲および適用 8.この一般的意見では、基本的に、条約およびその選択議定書に基づく各国の義務について取り上げる。この一般的意見の作成時点で、人権に関わる企業セクターの責任に関する、法的拘束力のある国際文書は存在しない。しかし委員会は、子どもの権利を尊重する義務および責任は、実際には国ならびに国が管理するサービスおよび制度に留まるものではなく、私人および企業にも適用されることを認めるものである。したがって、すべての企業は子どもの権利に関わる自社の責任を果たさなければならず、また国は企業がそのような責任を履行することを確保しなければならない。加えて、企業は、条約およびその選択議定書に基づく子どもへの義務を履行する国の能力を損なうべきではない。 9.委員会は、企業による自発的な企業責任履行行動(社会的投資、アドボカシーおよび公共政策への関与、自主的行動規範、社会貢献活動その他の集団的行動等)が子どもの権利の増進につながりうることを認知する。国は、子どもの権利を尊重しかつ支える企業文化づくりの手段としてこのような自発的な行動および取り組みを奨励するべきである。しかしながら、このような自発的な行動および取り組みは、条約およびその選択議定書に基づく義務にしたがって国が行動しかつ企業を規制すること、または企業が子どもの権利を尊重する自社の責任を遵守することにとって代わるものではないことが強調されなければならない。 10.重要なこととして想起しておかなければならないのは、条約およびその選択議定書は、国の内部の体制、分化および組織にかかわらず、国全体を関与させるものであるということである。さらに、権限の委譲および委任を通じた地方分権化は、自国の管轄内にあるすべての子どもに対する義務を履行する国の直接の責任を減殺するものではない。 11.この一般的意見では、まず、企業活動に関連する国の義務と条約の一般原則との関係について検討する。次に、子どもの権利と企業セクターに関わる国の義務の一般的性質および範囲を明らかにする。その後、子どもの権利に対する企業の活動および操業の影響がもっとも顕著な文脈(企業がサービス提供者である場合、子どもがインフォーマル経済の影響を受けている場合、国が国際機関に関与する場合、および、国による子どもの権利の保護が不十分な地域で企業が国外操業する場合を含む)における義務の範囲について検討する。最後に、実施および普及のための枠組みの概要を示してこの一般的意見の締めくくりとする。 III.条約の一般原則と企業活動との関連 12.子どもの権利は普遍的であり、不可分であり、相互依存的であり、かつ相互に関連している。委員会は、国が子どもの権利アプローチにのっとって行なう、企業の活動および操業に関するすべての決定および行動の根拠となる条約の4つの一般原則を明らかにしてきた [2]。 [2] 子どもの権利員会「あらゆる形態の暴力からの自由に対する子どもの権利に関する一般的意見13号」(2011年、Official Records of the General Assembly, Sixty-seventh Session, Supplement No. 41 (A/67/41), annex V)、パラ59参照。 A.差別の禁止に対する権利(第2条) 13.条約第2条は、各国に対し、「子どもまたは親もしくは法定保護者の人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的、民族的もしくは社会的出身、財産、障害、出生またはその他の地位にかかわらず、いかなる種類の差別もなしに」、自国の管轄内にある子ども1人ひとりの権利を尊重しかつ確保するよう求めている。国は、企業問題を扱うすべての法律、政策およびプログラムが、その内容または実施において、故意にであるか否かにかかわらず、子どもに対して差別的とならないことを確保しなければならない(たとえば、親もしくは養育者による雇用へのアクセス、または障害のある子どものための製品およびサービスへのアクセスについて扱うもの)。 14.国は、私的領域一般で差別を防止し、かつ差別が生じたときは救済措置を提供するよう要求される。国は、企業の活動および操業を背景として行なわれる子どもへの差別を特定するため、適切に細分化された統計データおよびその他の情報を収集するべきであり、また企業セクターにおける差別的慣行を監視しかつ調査するための機構が設置されるべきである。国はまた、差別から保護される権利に関する知識および理解を企業セクター(メディア・宣伝・広告部門を含む)内で促進することにより、企業がこの権利を尊重できるようにするための支援的環境をつくるための措置もとるよう求められる。企業の意識啓発および感受性強化は、すべての子ども、とくに被害を受けやすい状況に置かれた子どもに対する差別的態度への異議申立ておよびその根絶を目的として行なわれるべきである。 B.子どもの最善の利益(第3条第1項) 15.条約第3条第1項は、子どもに関わるすべての行動において、子どもの最善の利益が国家にとって第一義的な考慮事項とされなければならない旨、定めている。国は、子どもに直接間接に影響を与える企業の活動および操業についてのあらゆる立法上、行政上および司法上の手続においてこの原則を統合しかつ適用する義務を負う。たとえば、国は、企業の活動および操業のあり方を定める法律および政策(雇用、課税、腐敗、民営化、交通および他の一般的な経済問題、通商問題または財政問題に関するもの等)の策定において、子どもの最善の利益が中心的に位置づけられることを確保しなければならない。 16.第3条第1項はまた、子どもに対して何らかの形態の直接サービス(ケア、里親養護、保健、教育および拘禁施設の運営を含む)を提供することによって私的または公的な社会福祉機関として機能している企業にも直接に適用される。 17.条約およびその選択議定書は、子どもの最善の利益を評価しかつ判定するための枠組みを提示している。子どもの最善の利益を第一次的に考慮する義務は、競合しあう優先課題(短期的な経済的考慮と長期的な開発に関わる決定等)の比較衡量を国が行なう際、きわめて重要なものとなる。国は、子どもの最善の利益を考慮される権利が意思決定においてどのように尊重されたか(当該権利が他の考慮事項とどのように比較衡量されたかを含む)について説明できるようにするべきである [3]。 [3] 自己の最善の利益を第一次的に考慮される子どもの権利(子どもの権利条約第3条第1項)に関する一般的意見14号(2013年、近日発表)、パラ6参照。 C.生命、生存および発達に対する権利(第6条) 18.条約第6条は、すべての子どもが生命に対する固有の権利を有すること、および、国は子どもの生存および発達を確保しなければならないことを認めている。委員会は、条約の実施に関する一般的措置についての一般的意見5号(2003年)で表明した、「子どもの身体的、精神的、霊的、道徳的、心理的および社会的発達を包含する」「ホリスティックな概念」としての子どもの発達の理解 [4] を明らかにするものである。 [4] Official Records of the General Assembly, Fifty-ninth Session, Supplement No. 41 (A/59/41), annex XI、パラ12参照。 19.企業の活動および操業は、第6条の実現にさまざまな形で影響を与えうる。たとえば、企業活動によって生ずる環境の悪化および汚染は、健康、食料安全保障ならびに安全な飲料水および衛生設備へのアクセスに対する子どもの権利を損なう可能性がある。投資家への土地の販売または貸与により、地元住民がその生存および文化的遺産と結びついた天然資源にアクセスできなくなる可能性もあり、このような状況においては先住民族の子どもの権利がとくに危険にさらされるおそれがある [5]。タバコおよびアルコールならびに飽和脂肪、トランス脂肪酸、糖分、塩分または添加物の多い食品および飲料のような製品の販売促進が子どもに対して行なわれれば、子どもの健康に長期的影響が生じる可能性がある [6]。企業の雇用慣行によっておとなが長時間労働を要求されれば、年長の子ども、とくに女子が親の家事および育児の義務を引き受けることになるおそれがあり、これは教育および遊びに対する子どもの権利に悪影響を及ぼしうる。加えて、子どもをひとりにしておくことまたは年長のきょうだいのケアに委ねることは、ケアの質および年少の子どもの健康に影響を生じさせる可能性がある。 [5] 先住民族の子どもとその条約上の権利に関する一般的意見11号(2009年、Official Records of the General Assembly, Sixty-fifth Session, Supplement No. 41 (A/65/41), annex III)、パラ35。 [6] 到達可能な最高水準の健康を享受する子どもの権利に関する一般的意見15号(2013年、近日発表)、パラ47参照。 20.企業セクターとの関連で第6条を実施するための措置は、状況に合わせて修正するとともに、広告・販売促進産業ならびに事業の環境面での影響の効果的規制および監視のような防止措置も含むものである必要があろう。子ども、とくに年少の子どものケアとの関係では、企業がたとえば家族にやさしい職場方針を導入することを通じて第6条を尊重できるようにするための環境づくりのため、その他の措置も必要とされよう。このような方針においては、おとなの労働時間があらゆる発達段階の子どもの生存および発達に与える影響が考慮されなければならず、かつ十分な有給育児休暇が含まれなければならない [7]。 [7] 乳幼児期における子どもの権利の実施に関する一般的意見7号(2005年、Official Records of the General Assembly, Sixty-first Session, Supplement No. 41 (A/61/41), annex III)の各所参照。 D.意見を聴かれる子どもの権利(第12条) 21.条約第12条は、自己に影響を与える事柄について自由に意見を表明するすべての子どもの権利、および、これにともない、その子どもの年齢および成熟度にしたがってこれらの意見を正当に重視される権利を定めている。国は、子どもに影響を与える可能性がある、企業に関連する国レベルおよび地方レベルの法律および政策を策定する際には――一般的意見12号 [8] にしたがって――常に子どもの意見を聴くべきである。国はとくに、マイノリティ集団および先住民族集団の子ども、障害のある人の権利に関する条約第4条第3項および第7条で述べられているとおり障害のある子ども [9] ならびに同様の脆弱状況にある子どものような、自己の意見を聴かせるにあたって困難に直面している子どもと協議することが求められる。企業の活動および操業の規制および監視に関わる政府機関(教育査察官および労働査察官等)は、影響を受ける子どもの意見を考慮するようにするべきである。国はまた、提案されている企業関連の政策、法律、規則、予算またはその他の行政決定について子どもの権利影響評価が実施される際にも子どもの意見を聴くことが求められる。 [8] 意見を聴かれる子どもの権利に関する一般的意見12号(2009年、Official Records of the General Assembly, Sixty-fifth Session, Supplement No. 41 (A/65/41), annex IV)。 [9] 障害のある子どもの権利に関する一般的意見9号(2006年、Official Records of the General Assembly, Sixty-third Session, Supplement No. 41 (A/63/41), annex III)、全般。 22.子どもは、「自己に影響を及ぼすあらゆる司法上及び行政上の手続において……聴取される」具体的権利を有する(条約第12条第3項〔第2項〕)。これには、企業が引き起こしまたは助長した子どもの権利侵害に関わる司法手続ならびに調停および仲裁の機構も含まれる。一般的意見12号で指摘されているように、子どもは、このような手続に自発的に参加することを認められるべきであり、かつ、直接に、または意思決定プロセスのさまざまな側面に関する十分な知識および理解ならびに子どもとともに活動した経験を有する代理人もしくは適当な団体の援助を通じて間接的に、意見を聴かれる機会を与えられるべきである。 23.企業が、見込まれている企業プロジェクトの影響を受ける可能性があるコミュニティと協議する場合もあるかもしれない。そのような状況においては、企業が、子どもに影響を与える決定について子どもの意見を求めかつ考慮することが決定的に重要となりうる。国は、このようなプロセスはアクセスしやすく、インクルーシブであり、かつ子どもにとって意味のあるものでなければならず、また子どもの発達しつつある能力および子どもの最善の利益を常に考慮するものでなければならないことを強調した、具体的指針を企業に対して提示するべきである。参加は任意であるべきであり、かつ、子どもに対する差別のパターンに異議を申立てるのであってこのようなパターンを強化してしまうのではない、子どもにやさしい環境で進めることが求められる。可能なときは、子ども参加のファシリテーション能力を有する市民社会組織の関与を得るべきである。 IV.国の義務の性質および範囲 A.一般的義務 24.条約は、子どもの特別な地位に鑑みて国に対して特段の水準の義務を課す、子どものための一連の権利を規定している。子どもの権利の侵害は、それが子どもの発達に深刻かつ長期的な影響を及ぼすことが多いゆえに、とりわけ重大である。第4条は、条約上の権利を実施するためにあらゆる適当な立法上、行政上その他の措置をとり、かつ子どもの経済的、社会的および文化的権利の実現に対して利用可能な資源を最大限に配分する国の義務を定めている。 25.国際人権法上、国には3つの態様の義務、すなわち人権を尊重し、保護し、かつ充足する義務が課されている [10]。これは結果義務および行為義務を包含するものである。国は、その機能を民間企業または非営利組織に委譲しまたは外部委託する場合にも、条約およびその選択議定書に基づく自国の義務から免れることはない。したがって国は、子どもに影響を与える企業の活動および操業との関係で子どもの権利を尊重し、保護し、かつ充足しない場合には条約上の義務に違反することになる。これらの義務の範囲については以下でさらに詳しく検討し、また実施のために必要とされる枠組みについては第VI章で議論する。 [10] 経済的、社会的および文化的権利に関する委員会「教育への権利に関する一般的意見13号」(1999年、Official Records of the Economic and Social Council, 2000, Supplement No. 2 (E/2000/22), annex VI)、パラ46参照。 B.尊重義務、保護義務および充足義務 1.尊重義務 26.尊重する義務とは、国は子どもの権利のいかなる侵害も直接間接に助長し、幇助しまたは教唆するべきではないということである。さらに、国は、企業の活動および操業を背景とする場合も含め、すべての主体が子どもの権利を尊重することを確保する義務を負う。これを達成するため、企業に関連するすべての政策、法律または行政上の行為および意思決定は、透明であり、十分な情報を踏まえており、かつ子どもの権利に対する影響についての全面的かつ継続的な考慮を含むものであるべきである。 27.尊重する義務とはまた、国は、それ自体が企業の役割を担うときまたは民間企業と取引を行なうときに、子どもの権利の侵害に関与し、これを支援しまたは容認するべきではないということも含意する。たとえば、国は、公的機関による調達契約が、子どもの権利の尊重を誓約している入札者によって獲得されることを確保するための措置をとらなければならない。治安部隊を含む国の機関および制度は、第三者による子どもの権利の侵害に協力し、またはこれを容認するべきではない。さらに、国は、子どもの権利を侵害する企業活動に公的資金その他の資源を投資するべきではない。 2.保護義務 28.国は、条約およびその選択議定書で保障された諸権利が第三者によって侵害されることから保護する義務を負う。この義務は、企業セクターに関わる国の義務を検討する際、第一義的重要性を有するものである。この義務は、国が、企業が子どもの権利侵害を引き起こしまたは助長しないようにするためにあらゆる必要な、適当な、かつ合理的な措置をとらなければならないことを意味する。このような措置には、法令の制定、その監視および執行、ならびに、企業が子どもの権利にどのように影響を及ぼしうるかの枠組みを定めた政策の採択が含まれうる。国は、企業によって引き起こされまたは助長された子どもの権利侵害の調査、裁定および是正を行なわなければならない。したがって国は、企業によって引き起こされまたは助長された子どもの権利侵害について、当該侵害を防止しかつ是正するために必要な、適当なかつ合理的な措置をとらなかった場合またはその他の形で当該侵害に協力しもしくはこれを容認した場合には、責任を負う。 3.充足義務 29.充足する義務により、国は、子どもの権利の享受を容易にし、促進し、かつそのための条件整備を進めるために積極的行動をとるよう要求される。すなわち、国は、子どもに影響を与える企業活動に関して、第4条に一致する形で立法措置、行政措置、予算措置、司法上の措置、促進のための措置その他の措置をとらなければならない。このような措置は、条約およびその選択議定書の全面的実現にとっての最善の環境を確保するようなものであるべきである。この義務を履行するため、国は、企業が子どもの権利を尊重できるようにするための、安定した、かつ予測可能な法令上の環境を整備することが求められる。このような環境には、労働、雇用、健康および安全、環境、腐敗防止、土地の使用ならびに課税についての、条約およびその選択議定書を遵守した、明確な、かつ十分に執行される法律および基準が含まれる。また、雇用における機会および待遇の均等を図るための法律および政策、職業訓練およびディーセント・ワークを促進し、かつ生活水準を向上させるための措置、ならびに、中小企業の推進に資する政策も含まれる。国は、企業慣行のあり方を定めている政府省庁およびその他の国家的制度内で条約およびその選択議定書に関する知識および理解を促進し、かつ、子どもの権利を尊重する企業文化を醸成するための措置を整備するべきである。 4.救済措置および補償 30.国は、企業のような第三者によるものを含む子どもの権利侵害について、効果的な救済および補償を行なう義務を有する。委員会は、一般的意見5号において、権利が意味を持つためには、侵害を是正するための効果的救済措置が利用可能でなければならない [11] と述べている。条約は、いくつかの規定で、処罰、賠償、司法的対応、および、第三者によって引き起こされまたは助長された危害からの回復を促進するための措置を求めている [12]。この義務を履行するためには、子どもおよびその代理人によって知られており、迅速で真に利用可能かつアクセス可能であり、かつ受けた危害に対する十分な補償を提供する、子どもに配慮した――刑事上、民事上または行政上の――機構を設けることが必要である。子どもの権利に関連した監督権限を有する機関(労働、教育、保健および安全分野の査察官、環境審判所、徴税機関、国内人権機関ならびに企業部門における平等に焦点を当てる機関を含む)も、救済措置の提供にあたって役割を果たすことができる。これらの機関には、人権侵害の積極的な調査および監視が可能であり、かつ、子どもの権利を侵害した企業に対して行政上の制裁を課すことのできる規制権限を持っている場合もある。いずれにせよ、子どもは、独立のかつ公平な司法、または行政手続の司法的再審査を利用できるべきである。 [11] 一般的意見5号(2003年)、パラ24。国はまた、2005年の総会決議60/147によって採択された「国際人権法の重大な違反および国際人道法の深刻な違反の被害者が救済および補償を受ける権利に関する基本原則および指針」も考慮するべきである。 [12] たとえば子どもの権利条約第32条第2項、第19条および第39条参照。 31.補償の水準または形態を決定する際、諸機構においては、子どもは自己の権利の侵害の影響をおとなよりも受けやすい可能性があること、および、当該影響は不可逆的な、かつ生涯に及ぶ被害をもたらす可能性があることが考慮されるべきである。諸機構においては子どもの発達および能力の発展しつつある性質も考慮されるべきであり、また、補償は、子ども(たち)の継続的被害および将来の被害を限定するために時宜を得たものであることが求められる。たとえば、子どもが環境汚染の被害者であることが明らかになった場合、子どもの健康および発達に対するこれ以上の被害を防止し、かつ、すでに生じたあらゆる被害からの回復を図るための即時的措置が、関連するすべての当事者によってとられるべきである。国は、企業関連の主体が引き起こしまたは助長した虐待および暴力の被害者である子どもに対し、医学的および心理的援助、法的支援ならびにリハビリテーションのための措置を提供することが求められる。国はまた、たとえば関連の法律および政策の改正ならびにその適用(関係する企業関連の主体の訴追および当該主体に対する制裁を含む)を通じて、虐待が再び行なわれないことも保証するべきである。 V.具体的文脈における国の義務 32.企業の活動および操業は幅広い子どもの権利に影響を与えうる。しかしながら委員会は、企業の影響が顕著なものとなる可能性があり、かつ、国の法的および制度的枠組みが不十分であり、実効性を欠いており、または圧力を受けていることが多い具体的文脈として、以下の文脈を例示的に特定した。 A.子どもの権利の享受のためのサービス提供 33.企業および非営利団体は、子どもの権利の享受にとってきわめて重要なサービス(清潔な水、衛生設備、教育、交通、保健、代替的養護、エネルギー、警備および拘禁施設等)の提供および運営において役割を果たしうる。委員会は、このようなサービスの提供の形態について具体的に述べることはしないものの、国は、子どもの権利の充足に影響を与えるサービスを外部委託しまたは民営化した場合にも条約上の義務を免れるものではないことを強調しておくのは重要である。 34.国は、条約に掲げられた諸権利が損なわれないことを確保するため、サービス提供への民間セクターの関与を考慮した具体的措置をとらなければならない [13]。国は、条約に一致した基準を定め、かつこれを注意深く監視する義務を負う。これらの機関の監督、査察および監視が不十分な場合、子どもの権利の深刻な侵害(暴力、搾取およびネグレクト等)が生ずる可能性がある。国は、とくに差別からの保護の原則に基づき、このような体制においてサービスへの子どものアクセスが差別的基準によって脅かされないことを確保するとともに、すべてのサービス部門について、子どもが、独立の監視機関、苦情申立て機構、および、関連するときは侵害の際に効果的救済を提供できる司法的手段にアクセスできることを確保しなければならない。委員会は、国以外のすべてのサービス提供者が条約に一致する政策、プログラムおよび手続を整備しかつ適用することを確保するための、常設の監視機構または監視手続が設けられるべきことを勧告する [14]。 [13] 子どもの権利委員会・第31会期報告書(CRC/C/121)付属文書II。〔訳注/「サービス提供者としての民間セクターおよび子どもの権利の実施におけるその役割」に関する一般的討議の勧告〕 [14] 一般的意見5号、パラ44。 B.インフォーマル経済 35.インフォーマル経済は、多くの国で経済活動人口の重要な割合を巻きこんでおり、かつ国民総生産に著しく寄与している。しかしながら、子どもの権利は、権利を規制しかつ保護する法律上および制度上の枠組みの外で行なわれる企業活動によって特段の危険にさらされる可能性がある。たとえば、このような状況で製造されまたは取り扱われる製品(玩具、衣類または食品等)は、子どもにとって不健康かつ(または)危険なものとなりうる。また、小規模家内企業、農業部門および接客部門のような隠れたインフォーマル労働分野には相当数の子どもが集中していることが多い。このような労働ではしばしば、雇用上の地位が不安定であり、報酬が低く、不定期でありまたはまったくなく、健康上のリスクがあり、社会保障が欠けており、結社の自由が制限されており、かつ、差別および暴力または搾取からの保護が不十分である。このような労働によって子どもが学校に通えず、学業を行なえず、かつ十分に休息しかつ遊ぶことができないこともあり、これは条約第28条、第29条および第31条の違反となる可能性がある。さらに、インフォーマル経済で働く親または養育者は、生存保障水準の所得を得るために長時間労働をしなければならず、そのため自己の保護下にある子どものために親としての責任を果たしまたはケアを行なう機会が深刻に制限されることが多い。 36.国は、子どもの権利が明確に認識されかつ保護されることを可能にすべく、企業活動が、経済の規模または部門にかかわらず、あらゆる状況下で、適切な法律上および制度上の枠組みのなかで行なわれることを確保するための措置を整備するべきである。このような措置には、意識啓発、インフォーマル経済が子どもの権利に与える影響についての調査の実施およびデータ収集、働く親または養育者に十分な給与を支払うディーセント・ワークの創設の支援、土地の利用に関する明確かつ予測可能な法律の実施、低所得家庭に対する社会的保護の提供、ならびに、インフォーマル部門の企業に対する支援(とくに、技能研修、登録のための便益、効果的かつ柔軟な信用供与・銀行業務サービス、適切な課税体制および市場へのアクセスを提供することによるもの)が含まれうる。 37.国は、労働条件を規制し、かつ、経済的搾取、および、危険な労働または子どもの教育を妨げる労働もしくは子どもの健康にとってもしくは身体的、精神的、霊的、道徳的もしくは社会的発達にとって有害である労働から子どもを保護するための保護措置を確保しなければならない。このような労働は、他では見出されないというわけではないものの、インフォーマル経済および家内制経済において見出されることが多い。したがって、国は、就労に関する法定最低年齢および適切な労働条件に関する国際基準を執行し、教育および職業訓練に投資し、かつ子どもが満足のいく形で労働の世界に移行できるようにするための支援を提供する等の手段により、このような状況にある企業を対応の対象に含めるためのプログラムを立案しかつ実施することが要求される。国は、社会政策および子どもの保護政策の対象にすべての者、とくにインフォーマル経済下で働く家族が含まれることを確保するべきである。 C.子どもの権利と企業の世界的操業 38.企業は、子会社、契約業者、供給業者および合弁企業の複雑なネットワークを通じ、ますます世界的規模で操業するようになりつつある。これによって子どもの権利に生じる影響が、肯定的な影響であれ否定的な影響であれ、単一の企業体(親会社、子会社、契約業者、供給業者または他の企業体のいずれであるかを問わない)の作為または不作為の結果であることはめったにない。そうではなく、そこには異なる法域に置かれた複数の企業体間の結びつきまたは参加をともなっている可能性がある。たとえば、供給業者は児童労働の使用に関与しているかもしれず、子会社は土地からの立退き強制を行なっているかもしれず、契約業者またはライセンスを受けた事業者は子どもにとって有害な製品およびサービスの販売促進に関与しているかもしれない。このような状況にあっては、国が子どもの権利を尊重し、保護しかつ充足する義務を果たすことがとりわけ困難になる。それはとくに、企業は、たとえ活動の中心、登記および(または)本社をある国(本拠国)に置き、かつ他の国(受入れ国)で操業している単一の経済単位であっても、法的には異なる法域に置かれた別々の事業体であることが多いためである。 39.条約上、国は、自国の管轄内で子どもの権利を尊重しかつ確保する義務を負う。条約は国の管轄を「領域」に限定していない。委員会は以前、国際法にしたがい、各国に対し、自国の領域的境界を越えている可能性がある子どもの権利を保護するよう促した。委員会はまた、条約およびその選択議定書に基づく国の義務は、国の領域内にある子ども1人ひとりおよび国の管轄に服するすべての子どもに適用されることも強調してきた [15]。 出身国外にあって保護者のいない子どもおよび養育者から分離された子どもの取扱いに関する一般的意見6号(2005年、Official Records of the General Assembly, Sixty-first Session, Supplement No. 41 (A/61/41), annex II)、パラ12。 40.域外義務については、子どもの売買、児童買春および児童ポルノに関する選択議定書でも明示的に言及されている。第3条第1項は、各国が、最低限、選択議定書上の犯罪が、当該犯罪が国内でまたは国境を越えて行なわれるかを問わず、自国の刑法において全面的に対象とされることを確保しなければならないと定めている。子どもの売買、児童買春および児童ポルノに関する選択議定書第3条第4項に基づき、企業を含む法人についてもこれらの犯罪に関する責任(刑事上、民事上または行政上の責任のいずれであるかは問わない)が定められるべきである。このようなアプローチは、拷問、強制的失踪およびアパルトヘイトの共謀等の分野との関連で、当該権利侵害および共謀を構成する行為がどこで行なわれたかにかかわらず国民に対する刑事裁判権を設定する義務を各国に課している他の人権条約および人権文書とも一致する。 41.国は、自国の領域的境界を越えて子どもの権利の実現のための国際協力に関与する義務を負う。条約の前文および諸規定は、「すべての国、とくに発展途上国における子どもの生活条件改善のための国際協力の重要性」に一貫して言及しているところである [16]。一般的意見5号は、「条約の実施が世界の国々の協力にもとづく活動である」ことを強調している [17]。このように、条約に基づく子どもの権利の全面的実現は、部分的には各国がどのように相互作用するかによって変わってくるものでもある。さらに委員会は、条約がほぼ普遍的に批准されていることを強調する。したがって、条約の規定の実現は、企業の受入れ国および本拠国の双方が重要かつ平等な関心を向けるべき問題である。 [16] 子どもの権利条約第4条、第24条第4項、第28条第3項、第17条および第22条第2項、ならびに、子どもの売買、児童買春および児童ポルノに関する選択議定書第10条および武力紛争への子どもの関与に関する選択議定書第10条参照。 [17] 一般的意見5号、パラ60。 42.受入れ国は、自国の管轄内で子どもの権利を尊重し、保護し、かつ充足する第一次的責任を有する。受入れ国は、自国の国境内で操業する多国籍企業を含むすべての企業が、これらの企業が子どもの権利に悪影響を及ぼさず、かつ(または)外国法域における権利侵害を幇助しもしくは教唆しないことを確保する法律上および制度上の枠組みのなかで十分な規制の対象とされることを、確保しなければならない。 43.本拠国もまた、当該国と関係行為との間に合理的つながりがあることを条件として、企業が域外で行なう活動および操業との関連で子どもの権利を尊重し、保護しかつ充足する、条約およびその選択議定書に基づいて生ずる義務を負う。合理的つながりが存在するのは、企業が、当該国にその活動の中心を置いており、当該国で登記されもしくは当該国を本拠としており、または当該国に主要な事業場所がありもしくは当該国で実質的企業活動を行なっている場合である [18]。この義務を履行するための措置をとるにあたっては、国は、国際連合憲章もしくは一般国際法に違反し、または条約に基づく受入れ国の義務を縮小させてはならない。 [18] 経済的、社会的および文化的権利の領域における国家の域外義務に関するマーストリヒト原則(2012年)、パラ25参照。 44.国は、企業による域外的な権利侵害を受けた子どもおよびその家族に対し、自国と当該行為との間に合理的つながりが存在する場合に救済を提供するための効果的な司法的機構および非司法的機構にアクセスできるようにするべきである。さらに、国は、他の国における調査および手続執行について国際的な援助および協力を行なうことが求められる。 45.国外で操業している企業による子どもの権利侵害を防止するための措置には以下のものが含まれる。 (a) 公的資金その他の形態の公的支援(保険等)へのアクセスについて、自社の海外操業における子どもの権利へのいかなる悪影響も特定し、防止しまたは緩和するための手続を企業が実施していることを条件とすること。 (b) 公的資金その他の形態の公的支援の提供について決定するにあたり、子どもの権利に関する企業の過去の履歴を考慮すること。 (c) 企業に関して重要な役割を有している国の機関(輸出信用機関等)が、国外で操業する企業に支援を供与する前に、当該期間が支援するプロジェクトが子どもの権利に与える可能性のあるいかなる悪影響も特定し、防止しかつ緩和するための措置をとるとともに、当該機関は子どもの権利侵害を引き起こしまたは助長する可能性が高い活動を支援しない旨の規定を置くことを確保すること。 46.本拠国および受入れ国はともに、企業が自社の世界的操業全体を通じて子どもの権利を尊重できるようにするための制度上および法律上の枠組みを確立するべきである。本拠国は、条約およびその選択議定書の実施を担当する政府の機関が貿易および海外投資を担当する政府機関と効果的調整を行なえるよう、効果的機構が設けられることを確保するよう求められる。本拠国はまた、開発援助機関および貿易推進を担当する在外公館が、人権(子どもの権利を含む)に関する外国政府との二国間対話に企業関連の問題を統合できるよう、能力構築も図るべきである。OECD・多国籍企業行動指針の遵守を表明している国は、企業問題の文脈において子どもの権利の尊重を確保するための十分な資源、独立性および権限が自国の各国連絡窓口に与えられることを確保することにより、域外的に生じる問題についての仲裁および調整に関して当該窓口を支援するよう求められる。OECD各国連絡窓口のような機関が行なう勧告は十分に実施されるべきである。 D.国際機関 47.すべての国は、条約第4条に基づき、国際協力を通じて、かつ国際機関の構成員としての活動を通じて、条約上の権利の実現に直接協力するよう求められる。企業活動との関係では、このような国際機関には、世界銀行グループ、国際通貨基金および世界貿易機関のような国際開発・金融・貿易機関ならびに諸国が集団的に行動するその他の地域的機関が含まれる。国は、このような機関の構成員として行動する際には条約およびその選択議定書に基づく自国の義務を遵守しなければならず、また、国際機関からの融資または国際機関の政策が子どもの権利侵害につながる可能性が高いときは、当該融資を受け入れまたは国際機関から課される条件に合意するべきではない。国はまた、開発協力の分野でも自国の義務を保持するのであり、協力のための政策およびプログラムが条約およびその選択議定書に一致する形で立案されかつ実施されることを確保するべきである。 48.国際開発・金融・貿易機関に関与している国は、当該機関が、その意思決定および活動において、かつ企業セクターに関わる協定の締結または指針の策定を行なう際に、条約およびその選択議定書にしたがって行動することを確保するためにあらゆる合理的な行動および措置をとらなければならない。このような行動および措置は、児童労働の根絶にとどまらず、すべての子どもの権利の全面的実現を含むべきである。国際機関は、新たなプロジェクトにともなって子どもに危害が生じるリスクを評価し、かつ当該危害のリスクを低減するための基準および手続を定めることが求められる。これらの国際機関は、現行の国際基準にしたがって子どもの権利侵害を特定し、これに対応し、かつこれを是正するための手続および機構を整備するべきである(このような権利侵害が、当該機関と関係のあるまたは当該機関が資金を拠出した企業活動によって引き起こされ、またはそのような活動の結果として生じた場合を含む)。 E.緊急事態および紛争状況 49.紛争、災害または社会秩序もしくは法的秩序の崩壊を理由として保護のための制度が適正に機能しない状況下で企業が操業している場合、受入れ国および本拠国の双方にとって、子どもの権利を尊重し、保護しかつ充足する義務を履行するうえで特段の課題が生じる。条約およびその選択議定書は常に適用されるのであって、緊急事態時にその規定から逸脱することを認めた規定は存在しないことを強調しておくのが重要である。 50.このような状況では、企業によって児童労働が利用され(サプライチェーンおよび子会社における利用を含む)、子ども兵士が使用され、または腐敗および脱税が行なわれるおそれが高まる可能性がある。このようなおそれが高まることに鑑み、本拠国は、緊急事態および紛争の状況下で操業している企業に対し、子どもの権利に関する相当の注意(デュー・ディリジェンス)をその規模および活動に応じて厳格に払うよう要求するべきである。本拠国はまた、国境を越えて操業している企業によって生じる、子どもの権利に対する予見可能な具体的リスクに対応する法令を策定しかつ実施することも求められる。これには、自社の操業が子どもの権利の深刻な侵害を助長しないことを確保するためにとった措置の公表を要求すること、および、子どもが徴募されもしくは敵対行為で使用されていることがわかっているまたはその可能性がある国を最終目的地とする場合に武器の販売もしくは移転または他の形態の軍事援助を禁止することも含まれよう。 51.本拠国は、紛争または緊急事態の影響を受けている地域で企業が操業しておりまたは操業を計画しているときは、当該企業に対し、その地域の子供の権利の状況に関する現在の、正確かつ包括的な情報を提供するべきである。このような指針においては、企業はそのような環境にあっても他の場合と同じように子どもの権利を尊重する責任を有する旨、強調することが求められる。子どもは紛争地において暴力(性的虐待または性的搾取、子どもの人身取引およびジェンダーを理由とする暴力を含む)の影響を受ける可能性があるのであって、国は、企業に対して指針を示す際にこのことを認識しておかなければならない。 52.企業が紛争の影響を受けている地域で操業する際には、条約の関連規定に基づいて受入れ国および本拠国が有している義務が強調されるべきである。第38条は国際人道法の規則の尊重を要求しており、第39条は適切な心理的回復および社会的再統合のための対応義務を国に対して課しており、かつ、武力紛争への子どもの関与に関する選択議定書には18歳未満の子どもの軍隊への帳簿に関する諸規定が掲げられている。紛争の影響を受けている地域で操業する際、企業は、民間警備保障会社を雇う場合があり、かつ、施設の保護またはその他の操業の過程で子どもに対する搾取および(または)暴力の使用といった権利侵害に関与する危険を冒す可能性がある。これを防止するため、本拠国および受入れ国ともに、このような会社が子どもを徴募しまたは敵対行為で使用することをとくに禁止し、子どもを暴力および搾取から保護するために効果的措置をとることを要求し、かつ、子どもの権利侵害についてこのような会社の要員の責任を問うための機構を設ける国内法を導入しかつ実施するべきである。 (企業と子どもの権利 後編へ続く) 更新履歴:ページ作成(2014年3月23日)。
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子どもの権利委員会・一般的意見14号:自己の最善の利益を第一次的に考慮される子どもの権利(第3条第1項) 後編 (子どもの最善の利益 前編より続く) V.実施:子どもの最善の利益の評価および判定 46.前述したとおり、「子どもの最善の利益」とは、特定の状況における子ども(たち)の利益のあらゆる要素の評価を基礎とした権利であり、原則であり、かつ手続規則である。特定の措置について決定するために子どもの最善の利益を評価・判定する際には、以下の段階を踏むことが求められる。 (a) 第一に、当該事案の特定の事実関係において、何が最善の利益評価に関連する要素であるかを見出し、その具体的内容を明らかにし、かつ、各要素が他の要素との関係でどの程度の重みを有するかについて判断する。 (b) 第二に、その際には法的保障およびこの権利の適切な適用を確保する手続にしたがう。 47.子どもの最善の利益の評価および判定は、決定を行なう必要がある場合に踏まれるべき2つの段階である。「最善の利益」評価は、特定の子ども個人または特定の子ども集団について、特定の状況において決定を行なうために必要なあらゆる要素を評価し、かつ比較衡量することから構成される。この評価は、意思決定担当者およびその部下――可能であれば学際的なチーム――によって実施されるものであり、その際には子どもの参加が要求される。「最善の利益判定」とは、最善の利益評価に基づいて子どもの最善の利益を判定するために行なわれる、厳格な手続上の保障をともなう正式な手続をいう。 A.最善の利益の評価および判定 48.子どもの最善の利益の評価は、それぞれの子どもまたは子どもたちの集団もしくは子どもたち一般の特有の事情に照らして個別事案ごとに行なわれるべき、独自の活動である。これらの事情には、当事者である子ども(たち)の個人的特質(とくに年齢、性別、成熟度、経験、マイノリティ集団への所属、身体障害、感覚障害または知的障害があること等)、ならびに、子ども(たち)が置かれている社会的および文化的文脈(親の有無、子どもが親といっしょに暮らしているか否か、子どもとその親または養育者との関係の質、安全に関わる環境、家族、拡大家族または養育者が利用できる良質な代替的手段の存在等)が関連する。 49.何が子どもの最善の利益にのっとった対応であるかの判定は、その子どもを他に比べるもののない存在としている特有の事情の評価から開始されるべきである。このことは、利用される要素と利用されない要素があることを含意するとともに、これらの要素の比較衡量がどのように行なわれるかにも影響を与える。子どもたち一般については、最善の利益の評価には同一の要素が用いられる。 50.委員会は、子どもの最善の利益の判定を行なわなければならないいかなる意思決定担当者による最善の利益評価にも含めることができる諸要素を、非網羅的にかつ序列を設けずにリスト化することが有益であると考える。リストに掲げられた諸要素が非網羅的な性質のものであるということは、これらの要素に限ることなく、子ども個人または子どもたちの集団の特有の事情に関連する他の要素を考慮することも可能だということである。リストに掲げられたすべての要素が考慮に入れられ、かつそれぞれの状況に照らして比較衡量されなければならない。このようなリストは、具体的な指針を示しつつも、柔軟なものであるべきである。 51.このような諸要素のリストの作成は、国または意思決定担当者が子どもに影響を与える具体的分野(家族法、養子縁組法および少年司法法等)の規制を行なう際の有益な指針を提示することになるであろうし、必要であれば、自国の法的伝統にしたがって適切と考えられる他の要素を追加することもできる。委員会は、リストに要素を追加する際には、子どもの最善の利益の最終的目的が、条約で認められた諸権利の完全かつ効果的な享受および子どものホリスティックな発達を確保するところに置かれるべきであることを指摘したい。したがって、条約に掲げられた諸権利に反する要素、または条約上の権利に反する効果を有するであろう要素は、何が子ども(たち)にとって最善かを評価するうえで妥当なものと見なすことができない。 1.子どもの最善の利益を評価する際に考慮されるべき要素 52.以上の予備的検討を踏まえ、委員会は、子どもの最善の利益について評価・判定する際、当該状況との関連性に応じて考慮されるべき要素は以下のとおりであると考える。 (a) 子どもの意見 53.条約第12条は、自己に影響を与えるすべての決定において自己の権利を表明する子どもの権利について定めている。子どもの意見を考慮に入れない、または子どもの年齢および成熟度にしたがってその意見を正当に重視しないいかなる決定も、子ども(たち)が自己の最善の利益の判定に影響を及ぼす可能性を尊重していないことになる。 54.子どもが非常に幼く、または脆弱な状況に置かれている(たとえば障害を有している、マイノリティ集団に属している、移住者である等)からといって、子どもが自己の意見を表明する権利を剥奪され、または最善の利益の判定の際にその子どもの意見が重視される度合いが低くなるわけではない。このような状況に置かれた子どもが権利を平等に行使できることを保障するための具体的措置が、意思決定プロセスにおける役割を子ども自身に対して保障する個別の評価が行なわれ、かつ、必要なときは、自己の最善の利益の評価への全面的参加を確保するための合理的な配慮 [9] および支援が提供されることを条件として、採用されなければならない。 [9] 障害のある人の権利に関する条約第2条参照。「『合理的配慮』とは、……他の者との平等を基礎としてすべての人権及び基本的自由を享有し又は行使することを確保するための必要かつ適切な変更及び調整であって、特定の場合に必要とされるものであり、かつ、不釣合いな又は過重な負担を課さないものをいう。」〔川島聡=長瀬修仮訳〕 (b) 子どものアイデンティティ 55.子どもたちは均質な集団ではないことから、その最善の利益を評価する際には多様性が考慮に入れられなければならない。子どものアイデンティティには、性別、性的指向、民族的出身、宗教および信条、文化的アイデンティティ、性格等が含まれる。子どもと若者は基礎的な普遍的ニーズを共有しているものの、これらのニーズがどのように表出するかは、広範な個人的、身体的、社会的および文化的側面(子どもおよび若者の発達しつつある能力を含む)次第である。自己のアイデンティティを保全する子どもの権利は条約によって保障されており(第8条)、子どもの最善の利益の評価においても尊重・考慮されなければならない。 56.たとえば子どものために養護施設または里親への委託を検討する際の宗教的および文化的アイデンティティについては、子どもの養育に継続性が望まれることについて、ならびに子どもの民族的、宗教的、文化的および言語的背景について正当な考慮を払うものとされており(第20条第3項)、意思決定担当者は、子どもの最善の利益についての評価・判定を行なう際、この具体的文脈を考慮に入れなければならない。子どもの最善の利益を正当に考慮するということは、子どもが、自国および出身家族の文化(および可能であれば言語)にアクセスでき、かつ、当該国の法律上の規則および専門職向けの規則にしたがい、自己の生物学的家族に関する情報にアクセスする機会を与えられることを含意する。 57.子どものアイデンティティの一部としての宗教的・文化的価値および伝統の維持が考慮されなければならないとはいえ、条約で定められた権利に一致せず、またはこれらの権利と両立しない慣行は、子どもの最善の利益にのっとったものではない。意思決定担当者および公的機関は、文化的アイデンティティを理由とすることによって、条約で保障された子ども(たち)の権利を否定する伝統および文化的価値を許容しまたは正当化することはできない。 (c) 家庭環境の保全および関係の維持 58.委員会は、子どもの最善の利益の評価および判定を、子どもが親から分離されることも考えられる(第9条、第18条および第20条)という文脈のなかで行なうことが不可欠であることを想起する。委員会はまた、前述の諸要素は具体的権利であり、子どもの最善の利益の判定における唯一の要素ではないことも強調するものである。 59.家族は社会の基礎的集団であり、かつ、その構成員、とくに子どもの成長およびウェルビーイングのための自然な環境である(条約前文)。家族生活に対する子どもの権利は条約に基づいて保護されている(第16条)。「家族」という文言は、生物学的親、養親もしくは里親、または適用可能なときは地方の慣習により定められている拡大家族もしくは共同体の構成員を含むものとして広義に解されなければならない(第5条)。 60.家族の分離を防止することおよび家族の一体性を保全することは、子どもの保護制度の重要な構成要素であり、「このような分離が子どもの最善の利益のために必要であると決定する場合」を除いて「子どもが親の意思に反して親から分離されない」ことを要求する、第9条第1項で定められた権利を基礎としている。さらに、親の一方または双方から分離されている子どもは、「子どもの最善の利益に反しないかぎり、定期的に親双方との個人的関係および直接の接触を保つ」権利を有する(第9条第3項)。このことは、監護権を有するすべての者、法律上または慣習上の主たる養育者、里親、および、子どもが強い個人的関係を有する者にも適用される。 61.親からの分離が子どもに及ぼす影響の重大性を踏まえ、このような分離は、子どもが切迫した危害を経験する危険がある場合またはその他の必要な場合に、最後の手段としてのみ行なわれるべきである。分離は、より侵襲性の低い措置によって子どもを保護できるときは、行なわれるべきではない。国は、分離の手段をとる前に、親が親としての責任を担うことに関する支援を提供するとともに、子どもを保護するために分離が必要である場合を除き、子どもを養育する家族の能力を回復しまたは増進させるべきである。経済的理由は、子どもを親から分離させることの正当な理由とはなりえない。 62.子どもの代替的養護に関する指針 [10] は、子どもが不必要に代替的養護に措置されないこと、および、代替的養護が行なわれる場合、子どもの権利および最善の利益に応じた適切な条件下で提供されることを確保することを目的としている。とくに、「金銭面および物質面での貧困、またはそのような貧困を直接のかつ唯一の理由として生じた状態のみを理由として、子どもを親の養育から離脱させること……が正当化されることはけっしてあるべきではなく、このような貧困または状態は、家族に対して適切な支援を提供する必要性があることのサインと見なされるべきである」(パラ15)。 国連総会決議64/142付属文書。 63.同様に、子どもまたはその親の障害を理由として子どもを親から分離することもできない [11]。分離を検討することができるのは、家族の一体性を保全するために家族に提供される必要な援助では、子どものネグレクトもしくは遺棄のおそれまたは子どもの安全に対する危険を回避するのに十分に効果的ではない場合のみである。 [11] 障害のある人の権利に関する条約第23条第4項。 64.分離が行なわれる場合、国は、条約第9条に一致する形で、子どもおよびその家族の状況が、可能な場合には十分な訓練を受けた専門家から構成される学際的チームによって、適切な司法の関与も得ながら評価されたことを保障するとともに、他のいかなる選択肢によっても子どもの最善の利益を充足させることができないことを確保しなければならない。 65.分離が必要なときは、意思決定担当者は、子どもが、その子どもの最善の利益に反しないかぎり、親および家族(きょうだい、親族、および、子どもが強い個人的関係を有している者)とのつながりおよび関係を維持することを確保しなければならない。このような関係の質およびこのような関係を保持する必要性は、子どもが家庭外に措置される場合の、面会その他の接触の頻度および期間に関する決定において考慮されなければならない。 66.子どもと親との関係が移住(親が子どもをともなわずに移住する場合または子どもが親をともなわずに移住する場合)によって切断されている場合、家族再統合に関する決定において子どもの最善の利益を評価する際に、家族の一体性の保全について考慮することが求められる。 67.委員会は、親としての責任が共有されることは一般的に子どもの最善の利益にのっとったものであるという見解に立つ。ただし、親としての責任に関わる決定においては、何が特定の子どもにとっての最善の利益であるかが唯一の基準とされなければならない。法律により、親としての責任が一方または双方の親に自動的に委ねられるのであれば、これは子どもの最善の利益に反している。子どもの最善の利益を評価する際、裁判官は、事件に関連する他の要素とともに、双方の親との関係を保全する子どもの権利を考慮に入れなければならない。 68.委員会は、子どもの最善の利益の適用を促進し、かつ、親が異なる国々に住んでいる場合のその実施の保障について定めている、国際私法に関するハーグ会議諸条約 [12] の批准および実施を奨励する。 [12] これには、国際的な子の奪取の民事上の側面に関する第28号条約(1980年)、国際的な養子縁組に関する子の保護および協力に関する第33号条約(1993年)、扶養義務に関する判決の承認および執行に関する第23号条約(1973年)、扶養義務の準拠法に関する第24号条約(1973年)が含まれる。 69.親または他の主たる養育者が犯罪を行なった場合、影響を受ける子ども(たち)に対してさまざまな刑が及ぼす可能性のある影響を全面的に考慮しながら、個別の事案ごとに、拘禁に代わる措置が利用可能とされかつ適用されるべきである [13]。 [13] 親が収監されている子どもに関する一般的討議の勧告参照。 70.家庭環境の保全には、子どもが有するより幅広い意味の紐帯を保全することも包含される。このような紐帯は、祖父母、おじ/おばのような拡大家族ならびに友人、学校およびより幅広い環境に適用され、親が別居して異なる場所で生活している場合にとくに関連してくる。 (d) 子どものケア、保護および安全 71.ひとりの子どもまたは子どもたち一般の最善の利益を評価・判定する際には、子どものウェルビーイングのために必要な保護およびケアを子どもに対して確保する国の義務(第3条第2項)が考慮されるべきである。「保護およびケア」の文言も広義に解されなければならない。その目的は、限定的なまたは消極的な文言(「子どもを危害から保護するため」等)では述べられておらず、むしろ子どもの「ウェルビーイング」および発達を確保するという包括的理想との関連で述べられているからである。広義の子どものウェルビーイングには、物質面、身体面、教育面および情緒面で子どもが有する基礎的なニーズならびに愛情および安全に関するニーズが含まれる。 72.情緒的ケアは子どもが有する基礎的なニーズのひとつである。親または他の主たる養育者が子どもの情緒的ニーズを充足しない場合、子どもが安定した愛着を発展させられるように措置がとられなければならない。子どもは非常に幼い段階でいずれかの養育者に対する愛着を形成する必要があるのであり、このような愛着は、それが十分なものである場合、子どもに安定した環境を与えるために長期間維持されなければならない。 73.子どもの最善の利益の評価には、子どもの安全、すなわち、あらゆる形態の身体的または精神的暴力、侵害または虐待(第19条)、セクシュアルハラスメント、仲間からの圧力、いじめ、品位を傷つける取扱い等からの保護 [14]、ならびに、性的搾取、経済的搾取その他の搾取、薬物、労働、武力紛争等からの保護(第32~39条)に対する子どもの権利も含まれなければならない。 [14] 「あらゆる形態の暴力からの自由に対する子どもの権利」に関する一般的意見13号(2011年)。 74.意思決定に対して最善の利益アプローチを適用するということは、現時点での子どもの安全および不可侵性について評価するということである。ただし、予防原則により、決定が子どもの安全にとってもたらす将来の危険および危害ならびにその他の影響の可能性について評価することも要求される。 (e) 脆弱な状況 75.考慮すべき重要な要素のひとつは、子どもが置かれている脆弱な状況(障害があること、マイノリティ集団に属していること、難民または庇護希望者であること、虐待の被害者であること、路上の状況で暮らしていること等)である。脆弱な状況に置かれた子ども(たち)の最善の利益を判定する目的は、条約で定められたすべての権利の全面的享受と関連するだけではなく、これらの特定の状況(とくに、障害のある人の権利に関する条約、難民の地位に関する条約で対象とされている状況)に関わる他の人権規範とも関連するものであることが求められる。 76.特定の脆弱な状況に置かれた子どもの最善の利益は、同じ脆弱な状況に置かれたすべての子どもの最善の利益と同一にはならないであろう。子どもは一人ひとり独自の存在であり、かつ各状況はその子どもの独自性にしたがって評価されなければならないので、公的機関および意思決定担当者は、子ども一人ひとりが有する脆弱性の種類および度合いの違いを考慮に入れなければならない。子ども一人ひとりの出生時からの生育史が個別に評価されるべきであり、同時に、子どもの発達過程全体を通じ、学際的なチームによる定期的再審査が行なわれ、かつ合理的な配慮に関する勧告が実行されるべきである。 (f) 健康に対する子どもの権利 77.健康に対する子どもの権利(第24条)および子どもの健康状態は、子どもの最善の利益の評価において中心的重要性を有する。ただし、ある健康状態について複数の治療が考えられる場合、または治療の結果が不確実である場合には、考えられるあらゆる治療の利点が、考えられるあらゆるリスクおよび副作用との関連で比較衡量されなければならず、また子どもの意見がその年齢および成熟度に基づいて正当に重視されなければならない。これとの関連で、子どもは、当該状況についておよび自己の利益に関わるあらゆる関連の側面について理解できるように十分かつ適切な情報を提供されるべきであり、また可能なときは十分な情報を得たうえで同意を与えることが認められるべきである [15]。 [15] 「到達可能な最高水準の健康を享受する子どもの権利」に関する一般的意見15号(2013年)、パラ31。 78.たとえば、思春期の子どもの健康について、委員会は、締約国には、すべての青少年が、健康に関わる適切な行動を選択できるようにするため、学校に行っているか否かを問わず、自己の健康および発達にとって必要不可欠な、十分な情報にアクセスできることを確保する義務があると述べた [16]。このような情報には、タバコ、アルコールその他の有害物質の使用および濫用、飲食、性および生殖に関する適切な情報、早期妊娠の危険性〔ならびに〕HIV/AIDSおよび性感染症の予防に関する情報が含まれるべきである。心理社会的障害を有する青少年は、可能なかぎり、自分が生活しているコミュニティで治療およびケアを受ける権利を有する。入院または入所施設への措置が必要なときは、決定を行なう前に、かつ子どもの意見を尊重しながら、子どもの最善の利益についての評価が行なわれなければならない。同様の考慮は年少の子どもについても当てはまる。子どもの健康および治療の可能性は、他の態様の重要な決定(たとえば人道的理由による在留許可の付与)との関連でも、最善の利益評価・判定の一部に位置づけられる場合がある。 [16] 「子どもの権利条約の文脈における思春期の健康と発達」に関する一般的意見4号(2003年)。 (g) 教育に対する子どもの権利 79.乳幼児期の教育、非公式な教育および関連の活動を含む良質な教育に無償でアクセスできることは、子どもの最善の利益にのっとっている。特定の子どもまたは子どもたちの集団に関わる措置および活動についてのあらゆる決定は、教育に関わる子ども(たち)の最善の利益を尊重するものでなければならない。教育またはより良質な教育に対していっそう多くの子どもがアクセスできることを促進するため、締約国は、教育が、未来に対する投資であるのみならず、楽しい活動、尊重、参加および大志の充足のための機会でもあることを考慮に入れながら、十分な訓練を受けた教員および教育関連のさまざまな場面で働くその他の専門家を確保し、かつ子どもにやさしい環境ならびに適切な教授法および学習法を整備する必要がある。このような要求に対応し、かつ、いかなる種類の脆弱性であってもそれによる限界を克服する子どもの責任を増進させることは、子どもの最善の利益にのっとった対応となろう。 2.最善の利益の評価における諸要素の比較衡量 80.基礎的な最善の利益評価とは子どもの最善の利益に関連するすべての要素の一般的評価であり、各要素の重みは他の要素次第で変化することが強調されるべきである。すべての要素がすべての事案に関連するわけではなく、また事案が異なれば用いられる要素およびその用いられ方も変わってくる場合がある。各要素の内容は、決定の態様および具体的事情に応じ、子どもごとおよび事案ごとにさまざまであるのが当然であるし、全般的評価における各要素の重要性についても同様である。 81.最善の利益評価における諸要素は、特定の事案およびその事情について検討する際に相反する場合がある。たとえば、家庭環境を保全することは、親による暴力または虐待のおそれから子どもを保護する必要性と相反するかもしれない。このような状況においては、子ども(たち)の最善の利益にのっとった解決策を見出すため、諸要素の比較衡量を行なわなければならない。 82.さまざまな要素を比較衡量する際には、子どもの最善の利益の評価・判定を行なう目的が、条約およびその選択議定書で認められた諸権利の全面的かつ効果的な享受および子どものホリスティックな発達を確保するところにあることを念頭に置かなければならない。 83.状況によって、子どもに影響を及ぼす「保護」関連の要因(これは、たとえば権利の制約または制限を含意する場合がある)を、「エンパワーメント」(これは、権利を制限なく全面的に行使できることを含意する)のための措置との関連で評価しなければならないことがあるかもしれない。このような状況においては、諸要素の比較衡量にあたり、その子どもの年齢および成熟度が指針とされるべきである。子どもの成熟度を評価するためには、その子どもの身体的、情緒的、認知的および社会的発達を考慮に入れることが求められる。 84.最善の利益評価においては、子どもの能力が発達することを考慮しなければならない。したがって、意思決定担当者は、決定的かつ変更不可能な決定を行なうのではなく、しかるべき変更または調整が可能な措置を検討するべきである。そのためには、決定を行なう特定の時点における身体的、情緒的、教育的その他のニーズを評価するだけではなく、考えられる子どもの発達の道筋も考慮し、かつその道筋を短期的および長期的に分析することも求められる。この文脈で、決定においては、子どもの現状および将来の状況の継続性および安定性についても評価を行なうべきである。 B.子どもの最善の利益の実施を保障するための手続的保護措置 85.自己の最善の利益を第一次的に考慮される子どもの権利が正しく実施されることを確保するためには、子どもにやさしい若干の手続的保護措置を設け、かつこれにしたがわなければならない。このように、子どもの最善の利益の概念は手続規則なのである(前掲パラ6(b)参照)。 86.子どもに関わる決定を行なう公的な機関および組織は、子どもの最善の利益を評価・判定する義務に一致する形で行動しなければならない一方、子どもに関わる決定を日常的に行なう者(たとえば親、保護者、教師等)は、この2段階の手続に厳格にしたがうことは期待されない。とはいえ、日常生活のなかで行なわれる決定も、子どもの最善の利益を尊重・反映するものでなければならない。 87.国は、子どもに影響を与える決定のために子どもの最善の利益についての評価および判定を行なうことを目的とした、手続上の厳格な保護措置をともなう正式な手続(結果を評価するための機構を含む)を整備しなければならない。国は、とくに子ども(たち)に直接影響する分野において立法者、裁判官または行政機関が行なうすべての決定を対象とする、透明かつ客観的な手続を策定しなければならない。 88.委員会は、国および子どもの最善の利益を評価・判定する立場にあるすべての者に対し、以下の保護措置および保障に特段の注意を払うよう慫慂する。 (a) 自己の意見を表明する子どもの権利 89.手続のきわめて重要な要素のひとつは、意味のある子ども参加を促進し、かつその最善の利益を特定するために子どもとコミュニケーションを図ることである。このようなコミュニケーションには、手続についてならびに考えられる持続可能な解決策およびサービスについて子どもに情報を提供すること、ならびに、子どもから情報を収集することおよび子どもの意見を求めることが含まれるべきである。 90.子どもが意見表明を希望しており、かつこの権利が代理人を通じて充足される場合、当該代理人の義務は、子どもの意見を正確に伝達することである。子どもの意見が代理人の意見と食い違う状況においては、必要に応じて子どもに別の代理人(たとえば訴訟後見人)を選任するよう、子どもが公的機関に対して求められるようにするための手続きが設けられるべきである。 91.集団としての子どもたちの最善の利益を評価・判定するための手続は、子ども個人に関する手続とは若干異なる。多数の子どもたちの利益が争点となっている場合、政府機関は、当該集団に直接間接に関わる措置の計画または立法上の決定を行なう際、すべてのカテゴリーの子どもたちが対象とされることを確保する目的で、当該集団の代表性を確保するやり方で抽出された子どもたちの意見を聴き、かつその意見を正当に考慮するための方法を見出さなければならない。その方法としては、子ども公聴会、子ども議会、子ども主体の団体、子ども組合その他の代表機関、学校における討議、ソーシャルネットワークサイト等、多数の例が存在する。 (b) 事実関係の確定 92.最善の利益評価のために必要なすべての要素をまとめるため、特定の事案に関連する事実関係および情報は、十分な訓練を受けた専門家によって取得されなければならない。これには、とくに、子どもに近い立場にある者、子どもと日常的に接触している他の者、特定の出来事の目撃者等から事情を聴取することが含まれることもある。収集された情報およびデータは、子ども(たち)の最善の利益評価において用いられる前に、検証・分析されなければならない。 (c) 時間知覚 93.時間の経過は、子どもとおとなとではその知覚の仕方が同一ではない。意思決定が遅滞しまたは長期化することは、子どもの発達にともない、子どもにとりわけ有害な影響を及ぼす。したがって、子どもに関わる手続または子どもに影響を及ぼす手続は、優先的処理の対象とされ、かつ可能なかぎり短い期間で完了することが望ましい。決定の時期は、可能なかぎり、それが自分にとってどのような利益となりうるかに関する子どもの認識に対応しているべきであり、また、行なわれた決定は、子どもの成長発達およびその意見表明能力の発達にしたがい、合理的な頻度で再検討されるべきである。ケア、治療、措置および子どもに関わるその他の措置に関するすべての決定は、その子どもの時間知覚ならびに発達しつつある能力および成長発達の観点から定期的に再審査されなければならない(第25条)。 (d) 資格のある専門家 94.子どもは多様な集団であり、一人ひとりが独自の特性を有しているのであって、そのニーズを十分に評価できるのは、子どもおよび青少年の発達に関わる事柄について専門性を有する専門家のみである。だからこそ、正式な評価手続は、とくに児童心理学、子どもの発達ならびに人間の発達および社会的発達に関わる他の関連の分野で訓練を受け、子どもとともに活動した経験があり、かつ入手した情報を客観的に考慮する専門家によって、親しみやすく安全な雰囲気のもとで進められるべきである。子どもの最善の利益を評価するにあたっては、可能なかぎり、学際的な専門家チームの関与が求められる。 95.解決策の諸選択肢から生ずる結果の評価は、子ども個人の特性および過去の経験を踏まえつつ、考えられる各解決策によって生ずる可能性のある結果についての一般的知識(すなわち法学、社会学、教育学、ソーシャルワーク、心理学、保健学等の分野における知識)に基づいて行なわれなければならない。 (e) 弁護士代理人 96.子どもの最善の利益が裁判所またはこれに類する機関によって公式に評価・判定される場合、適切な弁護士代理人が必要になろう。とくに、子どもの最善の利益判定が行なわれる行政上または司法上の手続に子どもが付託された事案であって、決定当事者間で争いが生じる可能性がある場合、後見人、または子どもに代わってその意見を伝える代理人に加えて、子どもの弁護士代理人が任命されるべきである。 (f) 法的理由の説明 97.自己の最善の利益を評価され、かつ第一次的に考慮される子どもの権利が尊重されたことを実証するため、子ども(たち)に関わるいかなる決定においても、立証、正当化および説明が行なわれなければならない。立証においては、その子どもに関わるすべての事実関係、最善の利益評価において関連性を有すると認定された諸要素、個別事案における諸要素の内容、および、子どもの最善の利益を判定するために行なわれた当該諸要素の比較衡量の経緯が明示的に明らかにされるべきである。子どもの意見と異なる決定が行なわれた場合、その理由を明確に示すことが求められる。例外的に、選択された解決策が子どもの最善の利益にのっとったものでない場合は、そのような結果にも関わる子どもの最善の利益が第一次的に考慮されたことを示すため、その根拠が明らかにされなければならない。他の考慮事項が子どもの最善の利益に優越すると一般的に述べるだけでは十分ではない。すべての考慮事項を当該事案との関連で明示的に明らかにし、かつ、当該事案においてそれらの考慮事項がいっそう重視された理由を説明しなければならない。理由の説明においては、子どもの最善の利益が他の考慮事項にまさるほど強力ではなかった理由も、信頼できるやり方で実証されなければならない。子どもの最善の利益が最高の考慮事項とされなければならない状況(前掲パラ38参照)があることも考慮されなければならない。 (g) 決定を再審査しまたは修正するための機構 98.国は、子どもに関わる決定が子ども(たち)の最善の利益を評価・判定する適切な手続にしたがって行なわれなかったと思われる場合に、当該決定について異議を申し立て、または当該決定を修正するための機構を、自国の法体系内に設けるべきである。当該決定の再審査または当該決定に対する異議申立てを国レベルで行なえるようにすることが常に求められる。これらの機構は、子どもに対して知らされるべきであり、かつ、手続上の保護措置が尊重されなかった、事実関係が誤っていた、最善の利益評価が十分に行なわれなかった、または競合する考慮事項が重視されすぎたと考えられる場合に、子どもが直接または弁護士代理人を通じてアクセスできるようなものであるべきである。再審査を行なう機関は、これらのすべての側面を検討しなければならない。 (h) 子どもの権利影響評価(CRIA) 99.前述のとおり、あらゆる実施措置の採択も、子どもの最善の利益が第一次的に考慮されることを確保する手続にしたがって行なわれるべきである。子どもの権利影響評価(CRIA)は、子どもおよび子どもの権利の享受に影響を与えるいかなる政策、法令、予算またはその他の行政決定の提案についてもその影響の予測を可能とするものであり、諸措置が子どもの権利に及ぼす影響の継続的な監視および評価を補完するものとして用いられるべきである [17]。CRIAは、子どもの権利に関するグッド・ガバナンスを確保するため、政府があらゆるレベルで進めるプロセスに、また可能なかぎり早い段階で政策その他の一般的措置の策定に、組みこまれなければならない。CRIAを実施する際には、さまざまな手法および実践を発展させることができる。これらの手法および実践においては、最低限、条約およびその選択議定書が枠組みとして用いられなければならず、また、とくに、評価に際して〔条約の〕一般原則が一貫して適用され、かつ検討中の措置が子どもたちに及ぼす種々の影響について特別な考慮が払われることを確保しなければならない。影響評価そのものを、子どもたち、市民社会および専門家ならびに関連の政府機関、学術的調査研究および国内外で記録された経験から得られた知見に基づいて行なうこともできる。分析の結果、変更、代替策および改善のための勧告が行なわれるべきであり、また当該分析結果は公に利用可能とされるべきである [18]。 [17] 「企業セクターが子どもの権利に与える影響に関わる国の義務」に関する一般的意見16号(2013年)、パラ78-81。 [18] 各国は、貿易協定および投資協定の人権影響評価に関する指導原則についての、食料への権利に関する特別報告者の報告書(A/HRC/19/59/Add.5)を参考にすることができる。 VI.普及 100.委員会は、各国が、この一般的意見を、議会、政府および司法機関に対し、国および地方のレベルで広く普及するよう勧告する。この一般的意見は、子どもたち――排除の状況に置かれている子どもたちを含む――、子どものためにおよび子どもとともに働くすべての専門家(裁判官、弁護士、教師、後見人、ソーシャルワーカー、公立または私立の福祉施設の職員、保健職員、教師〔重複ママ〕等を含む)ならびに市民社会一般に対しても知らされるべきである。この目的のため、一般的意見を関連の言語に翻訳し、子どもにやさしい/ふさわしい本案版を利用可能とし、かつ、これを実施する最善の方法に関する模範的実践を共有するための会議、セミナー、ワークショップその他のイベントを開催することが求められる。関連のあらゆる専門家および専門職員を対象とする正式な着任前研修および現職者研究にも、この一般的意見が編入されるべきである。 101.国は、委員会に提出する定期報告書に、直面した課題に関する情報とともに、子ども個人に関わる司法上および行政上のあらゆる決定ならびにその他の活動において、また子どもたち一般または特定の集団としての子どもたちに関わる実施措置の採択のあらゆる段階において、子どもの最善の利益を適用しかつ尊重するためにとった措置についての情報を記載するべきである。 更新履歴:ページ作成(2013年6月10日)。
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一般的意見21(2017年):路上の状況にある子ども 一般的意見一覧 CRC/C/GC/21 配布:一般(2017年6月21日) 原文:英語 日本語訳:平野裕二(日本語訳PDF) I.はじめに:「いままでと違う語り方」 II.全般的文脈 III.目的 IV.子どもの権利アプローチに基づくホリスティックな長期的戦略 V.路上の状況にある子どもに関連する条約の主要な規定 VI.普及および協力 I.はじめに:「いままでと違う語り方」 1.この一般的意見のための協議に応じてくれた路上の状況にある子どもたちは、尊重、尊厳および権利に対するニーズについて力強く口にした。自分たちの気持ちを表現するにあたり、子どもたちはとくに次のように語っている。「人間として尊重してください」「路上で暮らしたことが一度もない人たちに、私たちは普通の人たちのようにプライドのある人間なんだとわかってほしい」「僕たちを路上から追い立ててシェルターに入れればいいという話じゃない。地位を認めてくれという話なんです」「政府は、私たちが路上にいるべきではないと言うべきじゃない。路上にいてもいやがらせをするべきじゃない。私たちは受け入れられるべきなんです」「路上で暮らしているからといって、私たちが権利を持てないということにはなりません」「路上に出れば、影響が残る。そこから立ち去ろうと、そうでなかろうと」「助け、慈善、憐れみはほしくない。政府は、コミュニティと協働して僕たちに権利を与えるべきです。僕たちは慈善を求めているんじゃない。自分でやっていける人間になりたいんです」「(人々は)僕たちに、夢をかなえるために才能を活用するチャンスを与えてくれるべきです」「いままでと違う語り方をする機会をください」[1] [1] 引用した子どもたちの声はいずれも、この一般的意見のための協議で出されたものまたは提出された意見書に掲載されていたものである。それぞれ、バングラデシュの子どもたち(ダッカから提出された意見書)、ラテンアメリカの子どもたち(メキシコにおける協議)、ブラジルの15歳男子、インドの18歳男子・女子、コンゴ民主共和国の子ども・若者たち、ヨーロッパの子ども・若者たち(ブリュッセルにおける協議)、パキスタンの16歳男子、ブルンジの男子、ブラジルの18歳男子の声。 II.全般的文脈 趣旨 2.この一般的意見で、子どもの権利委員会は、路上の状況にある子どもに関する包括的かつ長期的な国家的戦略(ホリスティックな子どもの権利アプローチを活用し、かつ子どもの権利条約にのっとって防止および対応の両方を取り上げるもの)の策定についての有権的指針を提示する。条約はこれらの子どもに明示的に言及していないものの、条約のすべての規定は、条約の大部分の条項の違反を経験している、路上の状況にある子どもにも適用されるものである。 協議 3.7回の地域協議で、32か国の子ども・若者たち計327名が協議の対象とされた。市民社会を代表する人々が意見書提出の一般的呼びかけに応じてくれたほか、先行版草案は全締約国と共有された。 用語 4.これまで、路上の状況にある子どもを表すための用語として「ストリートチルドレン」(street children)、「路上にいる子ども」(children on the street)、「路上の子ども」(children of the street)、「家出した子ども」(runaway children)、「放逐された子ども」(throwaway children)、「路上で生活しかつ/または働いている子ども」(children living and/or working on the street)、「ホームレスの子ども」(homeless children)、「路上とつながっている子ども」(street-connected children)等が用いられてきた。この一般的意見では「路上の状況にある子ども」(children in street situations)を用い、(a) ひとりでいるか仲間または家族と一緒にいるかを問わず、路上に依存して生活しかつ/または働いている子ども、および、(b) より幅広い層の子どもであって、公共空間と強いつながりを形成しており、かつその日常生活およびアイデンティティにおいて路上がきわめて重要な役割を果たしている子どもを包含するものとする。このより幅広い層には、常時ではないものの周期的に路上で生活しかつ/または働いている子ども、および、路上で生活しまたは働いているわけではないものの、仲間、きょうだいまたは家族に同行する形で定期的に路上に出ていく子どもが含まれる。路上の状況にある子どもに関わって、「公共空間にいる」(being in public spaces)とは、路上または露店市場、公園、公共のコミュニティ空間、広場ならびにバスおよび鉄道の駅で相当の時間を過ごすことも含むものとして理解される。学校、病院またはこれに類する施設のような公共建築物は含まない。 主要な所見 5.路上の状況にある子どもとの関連では複数の異なるアプローチが用いられており、時にはそれらが組み合わされている。これには、子どもの権利アプローチ(子どもが権利の保有者として尊重され、かつ決定がしばしば子どもとともに行なわれるもの)、福祉アプローチ(子どもを客体または被害者として捉えて路上からの「救出」が図られ、かつ子どものための決定がその意見を真剣に考慮することなく行なわれるもの)および抑圧アプローチ(子どもが非行少年と捉えられるもの)等がある。福祉アプローチおよび抑圧アプローチは子どもが権利の保有者であることを考慮しておらず、かつ子どもを路上から強制的に排除することにつながるので、その権利をさらに侵害することになる。実際のところ、福祉アプローチおよび抑圧アプローチが子どもの最善の利益にかなうと主張しても、それが権利を基盤とするアプローチになるわけではない [2]。条約を適用するためには子どもの権利アプローチを用いることが不可欠である。 [2] 一般的意見13号(あらゆる形態の暴力からの自由に対する子どもの権利、2011年)、パラ59および一般的意見14号(自己の最善の利益を第一次的に考慮される子どもの権利、2013年)参照。 6.路上の状況にある子どもは均質な集団ではない。とくに年齢、性別、民族、先住民族としてのアイデンティティ、国籍、障害、性的指向およびジェンダーアイデンティティ/ジェンダー表現という観点からの特質は多様である。このような多様性は、さまざまな経験、リスクおよびニーズがあることを含意する。物理的にどのようにおよびどのぐらいの時間路上にいるかは子どもによって相当に異なっており、仲間、家族構成員、コミュニティの構成員、市民社会関係者および公的機関との関係の性質および規模も同様である。子どもたちの人間関係は、路上で生き抜くうえで役に立つ場合もあれば、その権利が暴力的に侵害される状況の固定化につながる場合もある。子どもたちは、公共空間において、仕事、社会化、レクリエーション/余暇、寝泊まりする場所の確保、睡眠、調理、洗濯および有害物質濫用または性的活動を含むさまざまな活動に従事している。子どもたちは、このような活動に自発的に従事することもあれば、現実的な選択肢がないために、または他の子どももしくは大人による威迫または強制を通じて、従事することもある。子どもたちは、このような活動を単独で行なうこともあれば、家族構成員 [3]、友人、知り合い、ギャングの構成員または子どもを食い物にしようとする仲間、年長の子どもおよび/もしくは大人とともに行なうこともある。 [3] 家族とともに路上の状況にある子どもについて、この一般的意見では主たる権利の保有者である子どもに焦点を当てる。路上の状況にある子どもが自分自身の子どもを持っている場合、各世代の子どもの最善の利益が第一次的に考慮されなければならない。 7.データが体系的に収集されまたは細分化されていないことが多いため、何人の子どもが路上の状況にあるのかはわかっていない。推定数は、社会経済的、政治的、文化的その他の諸条件を反映した、用いられる定義によって変動する。データが存在しないためにこれらの子どもは不可視化されており、そのために政策が策定されず、または場当たり的な、一時的なもしくは短期的な措置しかとられない状況が生じている。その結果、子どもを路上に追いやり、かつ子どもが路上にいるときにも継続する複合的な権利侵害が根強く残ってしまう。この問題はすべての国に関わるものである。 8.子どもが路上の状況に置かれる現象の原因および広がりならびにこのような子どもの経験は、国の内部でも国によっても異なる。経済的地位、人種およびジェンダーに基づく不平等は、路上の状況にある子どもの出現および排除の構造的原因のひとつである。このような不平等は、物質的貧困、社会的保護の不十分さ、対象等が明確化されていない投資、腐敗、および、より貧しい人々が貧困から脱出する能力の弱体化または消失につながる財政(税・支出)政策によって悪化させられる。紛争、飢饉、伝染病の流行、自然災害もしくは強制立退きによって引き起こされる突然の不安定化、または避難もしくは強制移住につながる出来事により、構造的原因の影響がさらに加重される。その他の原因として挙げられるのは、家庭またはケアもしくは教育のための施設(宗教的施設を含む)における暴力、虐待、搾取およびネグレクト、養育者の死亡、子どもの遺棄(HIV/AIDSによるものを含む)[4]、養育者の失業、不安定な家庭状況、家庭の崩壊、複婚 [5]、教育からの排除、(子どもまたは家族の)有害物質濫用および精神的疾患、不寛容および差別(障害のある子ども、魔術を行なう者であると非難されている子ども、家族から拒絶された元子ども兵士、および、自己のセクシュアリティについて疑問を持ちまたはレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、インターセックスもしくはエイセクシュアル(無性愛)であると自認したために家族から追放された子どもに対するものを含む)、ならびに、児童婚および女性性器切除のような有害慣行 [6] に対する子どもの抵抗を受け入れられない家族の姿勢等がある。 [4] 一般的意見3号(HIV/AIDSと子どもの権利、2003年)、パラ7参照。 [5] 女性差別撤廃委員会の合同一般的勧告31号/子どもの権利委員会の合同一般的意見18号(有害慣行、2014年)、パラ25-28参照。 [6] 前掲パラ19-24。 III.目的 9.この一般的意見の目的は次のとおりである。 (a) 路上の状況にある子どものための戦略および取り組みに子どもの権利アプローチを適用するにあたって国が負う義務を明らかにすること。 (b) 子どもが権利侵害、および、生存および発達のために路上に依存しなければならない状態につながる選択肢の欠如を経験しなくてもすむようにし、かつ、すでに路上の状況にある子どもの権利を、一連のケアを確保しかつ子どもが自己の可能性を全面的に発達させられるよう援助しながら促進しかつ保護することを目的として、ホリスティックな子どもの権利アプローチを活用することに関する、国に対する包括的かつ有権的な指針を提示すること。 (c) 路上の状況にある子どもが権利の保有者および完全な市民として尊重されることを増進させるため、これらの子どもにとって条約の特定の条項がどのような意味を持っているのかを明らかにするとともに、子どもが有している路上とのつながりに関する理解を増進させること。 IV.子どもの権利アプローチに基づくホリスティックな長期的戦略 A.子どもの権利アプローチ 説明 10.子どもの権利アプローチにおいては、子どもの権利を実現するプロセスが最終的成果と同じぐらい重要になる。子どもの権利アプローチは、権利の保有者としての子どもの尊厳、生命、生存、ウェルビーイング、健康、発達、参加および差別禁止を確保するものである。 11.国連児童基金(UNICEF)によれば [7]、子どもの権利アプローチとは次のようなものである。 (a) 条約その他の国際人権文書で確立された子どもの権利の実現をさらに進める。 (b) 振舞い、行動、政策およびプログラムの指針として、条約その他の国際人権文書に定められた子どもの権利に関する基準および原則(とくに差別の禁止、子どもの最善の利益、生命、生存および発達に対する権利、意見を聴かれかつ真剣に考慮される権利、ならびに、自己の権利の行使にあたり、子どもの発達しつつある能力にしたがって養育者、親およびコミュニティの構成員による指導を受ける子どもの権利)を活用する。 (c) 子どもが権利の保有者として自己の権利を主張する能力、および、義務の保有者が子どもに対して負っている自己の義務を履行する能力を構築する。 [7] UNICEF, Child Rights Education Toolkit Rooting Child Rights in Early Childhood Education, Primary and Secondary Schools (Geneva, 2014), p. 21 参照(https //www.unicef.org/crc/files/UNICEF_CRE_Toolkit_FINAL_web_version170414.pdf より入手可)。一般的意見13号、パラ59も参照。また、"Human Rights Based Approach to Development Cooperation" も参照(http //hrbaportal.org/the-human-rights-based-approach-to-development-cooperation-towards-a-common-understanding-among-un-agencies より入手可)。 路上の状況にある子どもにとっての重要性 12.委員会は、子どもの権利アプローチを採用する戦略および取り組みにおいては、段階または文脈にかかわらず、望ましい実践に関する主要な基準が充足されるものであると考える。路上の状況にある子どもは、自分たちの生活に対する大人の介入に不信感を抱いていることが多い。これらの子どもは、社会で大人から人権侵害的取扱いを受けてきたせいで、たとえ限られたものとはいえやっとのことで勝ちとった自律を放棄することにためらいを覚えるようになっている。この〔子どもの権利〕アプローチが重視するのは、これらの子どもが路上への依存に代わる手段を見出せるよう支援することを含む、子どもの自律の全面的尊重である。そこではこれらの子どものレジリエンスおよび対処能力が促進され、意思決定における主体性の強化と、社会経済的、政治的および文化的主体としてのエンパワーメントが図られる。このアプローチは、このような子どもがすでに有している強みと、自分自身の生存および発達ならびに仲間、家族およびコミュニティの生存および発達に対する積極的貢献に立脚するものである。このようなアプローチを適用することは、道徳的および法的要請であるのみならず、長期的な解決策を路上の状況にある子どもたちとともに特定しかつ実施していくための、もっとも持続可能なアプローチでもある。 B.国家的戦略 概要 13.条約上の義務を遵守するため、国は、路上の状況にある子どものためのホリスティックかつ長期的な戦略を採択し、かつ必要な予算配分を行なうよう促される。以下、諸分野を横断する問題およびプロセスを掲げた後、このような戦略で取り上げられるべきテーマ別の内容を扱う。路上の状況にある子どもたちが、自分たち自身の生活に関する専門家として、戦略の策定および実施に参加するよう求められる。国にとっての第一歩は、これらの子どもの権利を擁護する最善の方法を決定する目的で、自国にいるこれらの子どもに関する情報を収集することである。国は、ある分野(たとえば財政分野)の政策が他の分野(たとえば教育分野)にどのような影響を及ぼし、ひいては路上の状況にある子どもたちにどのような影響が生じるかを理解するため、分野横断的アプローチをとるよう求められる。国は、部門横断的な協力および国家間の協力を奨励するべきである。 立法および政策の見直し 14.国は、この一般的意見の勧告を反映させる目的で法律および政策をどのように改善できるかについて、評価を行なうべきである。国は、即時的効果をともなう対応として、子どもまたはその親もしくは家族が路上の状況にあることを理由として直接間接の差別を行なっている規定を削除し、子どもおよびその家族を路上または公共空間から一斉にまたは恣意的に退去させることを認めまたは支持するいかなる規定も廃止し、路上の状況にある子どもを犯罪者として扱いかつこれらの子どもに不均衡な影響を及ぼす罪名(物乞い、夜間外出禁止規定違反、徘徊、浮浪および家出等)を適宜廃止し、かつ、商業的性的搾取の被害者であることを理由に子どもを犯罪者として扱う罪名およびいわゆる道徳犯罪(婚姻外の性交渉等)を廃止するよう求められる。国は、子どもの権利アプローチに基づき、かつ路上の状況にある子どもについて具体的に取り上げる子ども保護法または子ども法を導入しまたは見直すべきである。このような法律は、権限付与のための政策、委任命令、運用手続、指針、サービス提供、監督および執行機構によって実施されるべきであり、またその制定にあたっては主要な関係者(路上の状況にある子どもたちを含む)と連携することが求められる。国として、法的権限を委ねられた専門家およびサービス機関による支援介入を容易にするために必要な状況下において、参加型調査に基づき、国内的関連性を有する政策およびこのような子どもの法的定義を定めなければならない場合もありえよう。ただし、法的定義を定める手続によって、権利侵害に対処するための行動が遅延させられるべきではない。 国の役割ならびに国以外の主体の責任、規制および調整 15.路上の状況にある子どものための戦略では、国および国以外の主体が認知されるべきである。第一次的義務を負う国の役割については後継Vで述べる。国は、親または養育者が、その能力および資力の範囲内でかつ子どもの発達しつつある能力を尊重しながら、子どもの最適な発達のために必要な生活条件を確保することを援助する義務を負う(第5条、第18条および第27条)。国はまた、補完的主体である市民社会組織が、子どもの権利アプローチに基づき、路上の状況にある子どものために個別化された専門的サービスを提供するにあたっても、資金提供、認可および規制を通じて支援を行なうべきである。企業セクターは子どもの権利に関わる責任を履行しなければならず、国はそのことを確保するよう求められる [8]。国と国以外の主体との調整が必要である。国には、国以外のサービス提供者が条約の規定にしたがって活動することを確保する法的義務がある [9]。 [8] 一般的意見16号(企業セクターが子どもの権利に及ぼす影響に関わる国の義務、2013年)、パラ8参照。 [9] 一般的意見5号(子どもの権利条約の実施に関する一般的措置、2003年)、パラ42-44、同7号(乳幼児期における子どもの権利の実施、2005年)、パラ22、同9号(障害のある子どもの権利、2006年)、パラ25および同16号、パラ25参照。 複雑さへの対処 16.戦略では、構造的不平等から家族間暴力に至る複合的な原因を取り上げなければならない。また、即時的実施のための措置(子どもの一斉検挙または公共空間からの恣意的退去の強制を停止すること等)および漸進的に実施すべき措置(包括的な社会的保護等)も考慮する必要がある。法改正、政策転換およびサービス提供のあり方の変更を組み合わせることが必要になる可能性が高い。国は、子ども時代が終了して以降も人権を充足していくことへの決意を表明するよう求められる。国はとくに、代替的養護の環境および路上の状況にある子どもについて、支援およびサービスが突然停止されないようにするため、これらの子どもが18歳に達して成人期に移行する際のフォローアップのための機構を確保するべきである。 包括的な子ども保護制度 17.立法上および政策上の枠組みのなかで、子どもの権利アプローチを基盤とするホリスティックな子ども保護制度のために予算を拠出し、このような制度を発展させかつ強化することは、防止および対応のための戦略において必要とされる実際的措置の基礎である。このような国家的な子ども保護制度は、路上の状況にある子どもに手を差し伸べられるものでなければならず、かつこのような子どもが必要とする具体的サービスを全面的に編入したものであるべきである。このような制度は、あらゆる関連の状況を横断した一連のケア(防止、早期の支援介入、路上でのアウトリーチ、ヘルプライン、ドロップインセンター、デイケアセンター、一時入所ケア、家族再統合、里親養育、自立生活または他の短期的もしくは長期的な養育オプションを含む)を提供するものでなければならない。ただし、このような状況のすべてが、路上の状況にあるすべての子どもにとって妥当性を有するわけではない。たとえば、防止および早期の支援介入は、路上との強くかつ有害なつながりを発展させつつある初期段階の子どもにとっては優先的課題だが、路上の状況下で生まれた子どもにとっては妥当ではない。入所措置を経験していない子どももいる可能性がある一方、家族再統合が妥当または適切ではない子どもも存在する。戦略においては、子どもの権利アプローチがひとつひとつの状況に適用されることを明確にするべきである。子ども保護制度にアクセスする際の行政的負担および遅延は軽減することが求められる。情報は、子どもにやさしくかつアクセスしやすい形式で利用可能とされるべきであり、かつ、路上の状況にある子どもに対し、子ども保護制度を理解しかつうまく活用するための支援が提供されるべきである。 子どもと接触する人々の能力構築 18.国は、路上の状況にある子どもと直接間接に接触する可能性がある、政策立案、法執行、司法、教育、保健、ソーシャルワークおよび心理学等の分野のすべての専門家を対象とした、子どもの権利、子どもの保護および路上の状況にある子どもの地域的背景に関する良質かつ基礎的な着任前研修および現職者研修に投資を行なうべきである。このような研修は、国以外の主体の専門性を活用して実施することも考えられるほか、関連の養成機関のカリキュラムに統合することが求められる。指定された任務の一環として路上の状況にある子どもとともに働く専門家(たとえば路上を基盤とするソーシャルワーカーおよび警察の子ども保護専門部署等)に対しては、子どもの権利アプローチ、心理社会的支援および子どものエンパワーメントに関する綿密な付加的研修が必要である。「アウトリーチ・ウォーク」や「ストリート・ウォーク」は、現場研修の重要な手法に数えられる。基礎研修および専門研修には態度面および行動面の変革ならびに知識伝達およびスキル開発が含まれるべきであり、また部門を越えた協力および連携が奨励されるべきである。国および地方の政府は、危険な状況にある子どもがいる家族および路上の状況にある子どもの早期発見およびこれらの家族および子どもに対する支援の提供においてソーシャルワーカー(路上を基盤とするソーシャルワーカーを含む)が果たしているきわめて重要な役割を理解しかつ支援することが求められる。専門家には、運用手続、望ましい実践のあり方に関する指針、戦略的訓令、諸計画、達成基準および懲戒規則を参加型のやり方で策定する過程への関与が求められるべきであり、かつこれらを実際に実施するための支援が提供されるべきである。国は、路上の状況にある子どもと直接間接に接触する可能性があるその他の関係者(交通機関で働く人々、メディアの代表、コミュニティおよび精神的/宗教的指導者ならびに民間セクター関係者等)を対象とする感受性強化および研修を促進するよう求められる。これらの関係者は、「子どもの権利とビジネス原則」[10]を採択するよう奨励されるべきである。 [10] http //childrenandbusiness.org 参照。また一般的意見16号も参照。 サービス提供 19.国は、路上の状況にある子どもが保健および教育等の基礎的サービスならびに司法、文化、スポーツおよび情報にアクセスできることを保障するための措置をとるべきである。国は、地元の路上のつながりを熟知しており、かつ子どもが家族、地元のコミュニティサービスおよび一般社会とつながり直すことを援助できる、訓練を受けたソーシャルワーカーの関与を得た路上における専門的サービスのための対応が、自国の子ども保護制度においてとられることを確保するよう求められる。このことは、子どもが路上とのつながりを放棄しなければならないことを必ずしも意味するものではなく、むしろ支援介入においてはこれらの子どもの権利が保障されるべきである。防止、早期の支援介入および路上を基盤とする支援サービスは相互に強化しあう要素であり、効果的、長期的かつ効果的な戦略の枠組みのなかで一連のケアを提供することにつながる。第一次的に義務を負うのは国であるものの、市民社会の活動は、革新的かつ個別化されたサービス対応を発展させかつ提供していく国の努力を補完するものとなる可能性がある。 地方政府レベルでの実施 20.取り組みの成功は、地元の状況に関する詳細な理解および子どもに対する個別化された支援にかかっている。取り組みを拡大する際には、その過程で子どもたちを見失うことがないよう配慮されなければならない。国は、小規模かつ柔軟で、十分な予算を有しており、しばしば地域的専門性を持った市民社会組織が主導している、子どもの権利アプローチを基盤とした、地方レベルの、パートナーシップに基づく専門的支援介入を奨励しかつ支援するよう求められる。これらの支援介入は、地方政府が調整し、かつ国が全国的な子ども保護制度を通じて支援するべきである。これらの支援介入にとって、能力構築のための資源および組織運営スキルについては民間セクターからの、また科学的知見に基づいた意思決定を可能にする調査能力については学術研究機関からの、支援が役に立ちうる。子どもにやさしいまちおよびコミュニティは、路上の状況にある子どもを受容する雰囲気づくりに貢献し、かつこれらの子どものための社会的ネットワークおよびコミュニティを基盤とする保護制度の基礎となる。路上の状況にある子どもに対し、地方における、分権化されたボトムアップ型の計画プロセスに参加するための支援が提供されるべきである。 監視および説明責任の確保 21.法律、政策およびサービスの効果的実施は、透明でありかつしっかりと執行される、監視および説明責任の確保のための明確な機構にかかっている。国は、路上の状況にある子どもに焦点を当てながら公共政策を監視する、国および国以外の主体の連合組織、委員会または作業部会のような社会的説明責任の確保のための機構等への、路上の状況にある子どもの関与を支援するべきである。子どもの権利オンブズパーソン等の、条約の実施を促進しかつ監視するための独立した国内人権機関 [11] は、路上の状況にある子どもにとって容易にアクセスできるものでなければならない。 [11] 一般的意見2号(子どもの権利の促進および保護における独立した国内人権機関の役割、2002年)、パラ2および15参照。 司法および救済措置へのアクセス 22.路上の状況にある子どもであって人権侵害の被害者またはサバイバーである子どもには、実効的な法的その他の救済措置(弁護士による代理を含む)に対する権利がある。これには、子ども自身および(または)大人の代理人による個人の苦情申立てのための機構へのアクセス、ならびに、国および地方のレベルにおける司法的および非司法的救済機構(独立した人権機関を含む)へのアクセスが含まれる。国内的救済措置が尽くされたときは、適用される国際的人権機構(通報手続に関する条約の選択議定書によって設置された手続を含む)にアクセスできるようにされるべきである。被害回復のための措置としては、賠償、補償、リハビリテーション、謝罪および権利侵害の再発防止の保証などが考えられる [12]。 [12] www.ohchr.org/EN/ProfessionalInterest/Pages/RemedyAndReparation.aspx 参照。 データ収集および調査研究 23.国は、学術研究機関、市民社会および民間セクターと提携して、路上の状況にある子どもについてデータを収集しかつ細分化された情報を共有するための、体系的な、権利を尊重する参加型の機構を発展させるべきである。国は、このような情報の収集および利用がこれらの子どもにスティグマを付与しまたは害を及ぼすことがないようにしなければならない。路上の状況にある子どもについてのデータの収集は、子どもに関する国家的なデータ収集に統合されるべきであり、その際、国内データが世帯調査だけに依拠するのではなく、世帯環境の外で暮らしている子どもも対象とすることを確保するべきである。調査研究の目的および項目の設定、ならびに、情報の収集、政策立案の参考に供するための調査研究の分析および普及ならびに専門的支援介入の立案に、路上の状況にある子どもが参加することが求められる [13]。路上の状況は急速に変化するのであり、調査研究は、政策およびプログラムが更新されることを確保するために定期的に実施されなければならない。 [13] Office of the United Nations High Commissioner for Human Rights (OHCHR), "A Human Rights-Based Approach To Data" 参照。www.ohchr.org/Documents/Issues/HRIndicators/GuidanceNoteonApproachtoData.pdf より入手可。 V.路上の状況にある子どもに関連する条約の主要な規定 概観 24.条約およびその選択議定書に掲げられたすべての権利は、すべての子どもにとってと同じように路上の状況にある子どもにとっても、相互関連性および不可分性を有している。この一般的意見は、委員会の他のすべての一般的意見とあわせて読まれるべきである。この一般的意見では、路上の状況にある子どもにとって特段の重要性があり、かつこれまで委員会による一般的意見の焦点とされてこなかった条項に焦点を当てる。たとえば、暴力、教育、少年司法および健康に関連する規定が重要なのは明らかだが、ここでは、すでに採択した一般的意見をどちらかといえば簡潔に参照する形でしか取り上げていない。他方、他のいくつかの条項については、路上の状況にある子どもにとっての意味合いおよび委員会がこれまで詳細に検討してこなかった経緯に鑑み、より詳しく吟味している。以下の条項の選択は、路上の状況にある子どもにとって社会的、経済的および文化的権利よりも市民的及び政治的権利が優越することを意味するものではない。 A.子どもの権利アプローチにおいて総括的関連性を有する条項 第2条:差別の禁止 社会的出身、財産、出生その他の地位を理由とする差別の禁止 25.国は、自国の管轄内にある子ども1人ひとりに対し、いかなる種類の差別もなく、条約に掲げられた権利を尊重しかつ確保しなければならない。しかし、子どもたちは差別を主要な原因のひとつとしてが路上の状況に身を置くことになっている。子どもたちは次に、路上とつながりを持っていることに基づいて、すなわちその社会的出身、財産、出生その他の地位を理由として差別されることになり、生涯にわたる悪影響を受けることになるのである。委員会は、条約第2条に基づく「その他の地位」を、子どもまたはその親その他の家族構成員が路上の状況にあることを含むものと解釈する。 制度的差別 [14] 26.差別は直接的である場合もあれば間接的である場合もある [15]。直接差別には、「ホームレス問題に対処する」ための不均衡な政策アプローチであって、物乞い、徘徊、浮浪、家出および生き残るための行動を防止するために抑圧的取り組みを行なうもの(たとえば地位犯罪の法定 [16]、路上浄化活動または「一斉検挙」ならびに警察による標的化された暴力、いやがらせおよび強要行為など)が含まれる。直接差別には、路上の状況にある子どもが窃盗または暴力の被害を申告した場合に警察が真剣に対応しようとしないこと、少年司法制度において差別的取扱いを受けること、ソーシャルワーカー、教員または保健ケア専門家が路上の状況にある子どもへの支援を拒むこと、ならびに、学校で仲間および教員によるいやがらせ、辱めおよびいじめを受けることも含まれる場合がある。間接差別には、たとえば料金の支払いまたは身分証明書の提示を要求することによって基礎的サービス(保健および教育など)からの排除をもたらす政策が含まれる。路上の状況にある子どもは、たとえ基礎的サービスから隔離されなくとも、そのような制度の内部で隔離される可能性がある。子どもは、たとえばジェンダー、性的指向およびジェンダーアイデンティティ/ジェンダー表現、障害、人種、民族、先住民族としての地位 [17]、出入国管理上の地位およびその他のマイノリティとしての地位(とくに、マイノリティ集団は路上の状況にある子どもたちのなかで人口比以上の比率を占めていることが多いため)を理由とする、複合的かつ交差的形態の差別に直面する場合もある。差別の対象とされる子どもは、暴力、虐待、搾取〔および〕HIVを含む性感染症の被害をいっそう受けやすい立場に置かれ、その健康および発達がさらなる危険にさらされる [18]。国は、差別の禁止に対する権利の保障とはあらゆる形態の差別を禁止する消極的義務に留まるものではなく、条約上の権利を享受する実効的な機会平等をすべての子どもに対して確保するための適切な積極的措置も要求するものであることを、想起するよう求められる。そのためには、実質的不平等の状態を是正するための積極的措置が必要である [19]。制度的差別は法律上および政策上の変化に敏感であり、したがってこれらの変化によって対処することができる。路上の状況にある子どもたちは、公衆による差別および否定的態度に直面していることを具体的な懸念として強調するとともに、それに対抗するための意識啓発措置および教育的措置を求めている。 [14] 経済的、社会的および文化的権利に関する委員会〔社会権規約委員会〕・一般的意見20号(経済的、社会的および文化的権利に関する差別の禁止、2009年)、パラ12参照。 [15] 前掲、パラ10参照。 [16] 一般的意見4号(条約の文脈における思春期の健康と発達、2003年)、パラ12および一般的意見10号(少年司法における子どもの権利、2007年)、パラ8-9参照。 [17] 一般的意見11号(先住民族の子どもとその条約上の権利、2009年)参照。 [18] 一般的意見4号、パラ6および同3号、パラ7参照。 [19] 一般的意見4号、パラ41参照。 差別の解消 27.差別は、国の憲法、法律および政策において路上の状況にあることを理由とする差別が行なわれないことを確保することによって形式的に、また路上の状況にある子どもたちに対し、根強い偏見に苦しんできて積極的差別是正措置を必要としている集団として十分な注意を払うことによって実質的に、解消されるべきである [20]。路上の状況にある子どもの事実上の平等を加速させまたは達成するために必要な一時的な特別措置は、差別とみなされるべきではない。国は、路上の状況にある子どもが法の下で平等であること、路上の状況にあることを理由とするすべての差別が禁止されること、差別およびいやがらせの扇動 [21] への対処が行なわれること、路上の状況にある子どもおよびその家族が財産を恣意的に奪われないこと、ならびに、夜間外出禁止規定が法律に適合した、比例性を有する、かつ非差別的なものであることを確保するべきである。国はまた、態度を積極的な方向で変革する目的で、路上の状況にある子どもの経験および権利に関する専門家、民間セクターおよび公衆の感化を図るよう求められる。国は、路上の状況にある子どもたちが主導しまたは関与する創造的な芸術プログラム、文化プログラムおよび(または)スポーツプログラムであって、目に見える相互の対話および交流を通じ、専門家、コミュニティ(他の子どもたちを含む)およびより幅広い社会とともに誤った考え方への対処および障壁の打破に役立つプログラムを支援するべきである。このようなプログラムとしては、路上のサーカス、演劇、音楽、アートおよびスポーツマッチなどが考えられる。国は、子どもの権利アプローチに基づいて感化およびスティグマ除去のためのメッセージならびにストーリーを普及させかつ増幅させる目的で、印刷媒体、放送媒体およびソーシャルメディアと協働するべきである。路上の状況にある子どもが行なう犯罪についての公衆の恐怖心は、メディアによって煽られた、現実に見合わないものであることが多い。メディアは、正確なデータおよび証拠を活用し、かつ、子どもの尊厳、身体的安全および心理的不可侵性を保障するための子どもの保護基準にしたがうよう、積極的に奨励されるべきである。 [20] 経済的、社会的および文化的権利に関する委員会〔社会権規約委員会〕・一般的意見20号、パラ8参照。 [21] 前掲、パラ7。 第3条(1):子どもの最善の利益 28.この権利に付随する義務は、路上の状況にある子どものホリスティックな身体的、心理的および道徳的不可侵性を保全し、かつその人間の尊厳を促進するための、子どもの権利アプローチの一環としての基本的義務である。これらの子どもはとりわけ脆弱な状況に置かれていることが明らかにされてきている。委員会がすでに指摘したように、特定の脆弱な状況に置かれた子どもの最善の利益は、同じ脆弱な状況に置かれたすべての子どもの最善の利益と同一にはならないであろう。子どもは一人ひとり独自の存在であり、かつ各状況はその子どもの独自性にしたがって評価されなければならないので、公的機関および意思決定担当者は、子ども一人ひとりが有する脆弱性の種類および度合いの違いを考慮に入れなければならない [22]。このような文脈においては、「脆弱」性は、路上の状況にある個々の子どもの回復力および自立との関連で考慮されるべきである。 [22] 一般的意見14号 、75-76参照。} 第6条(生命、生存および発達に対する権利 生命に対する権利 29.路上の状況にある子どもは、とくに国の関係者によって超法規的に殺害され、大人または仲間によって殺害され(いわゆる自警団的正義と関連する殺人を含む)、かつ犯罪者個人およびギャングと関係を持たされる/その標的にされるおそれがあるとともに、国がこのような犯罪を防止しない場合には、危険な形態の児童労働、交通事故 [23]、有害物質濫用、商業的性的搾取および安全ではない性的実践と関連した、生命を脅かされる可能性がある状況にさらされるおそれ、ならびに、十分な栄養、保健ケアおよび居住場所にアクセスできないために死亡するおそれもある。生命に対する権利は狭く解釈されるべきではない [24]。これは、自然死ではないまたは時期尚早な死を引き起こすことを意図したまたはそのような死を引き起こすことが予想される作為および不作為から自由であり、かつ尊厳のある生活を享受する、個々人の権利に関わるものである。1999年、路上の状況にある子ども3名および若者2名を警察が1990年に拷問しかつ殺害した事件について、米州人権裁判所は、生命の恣意的剥奪は殺人という不法行為に限定されるものではなく、尊厳をもって生きる権利の剥奪にも及ぶと判示した。生命に対する権利についてのこのような捉え方は、市民的および政治的権利のみならず経済的、社会的および文化的権利にも及ぶものである。もっとも脆弱な状況に置かれた人々――ストリートチルドレンの場合のように――を保護しなければならないということは、当然のことながら、生命に対する権利を、尊厳のある生活のための最低条件を包含する形で解釈することが必要になる [25]。 [23] 一般的意見4号、パラ21参照。 [24] 条約の準備作業では、第6条に基づく生命、生存および発達に対する諸権利は補完的なものであって相互に排他的なものではなく、かつ、同条は積極的義務を課すものであることが明らかになっている(E/CN.4/1988/28)。 [25] Villagran Morales et al v. Guatemala 事件における米州人権裁判所の共同意見(1999年11月19日)。www.corteidh.or.cr/docs/casos/articulos/seriec_63_ing.pdf より入手可。 30.委員会はすでに、絶対的貧困という条件下で育つことが子どもの生存および健康を脅かし、かつその基本的な生活の質を損なうものであることを強調している [26]。 [26] 一般的意見7号、パラ26参照。 生存および発達に対する権利 31.委員会は、各国が、「発達」を、子どもの身体的、精神的、霊的、道徳的、心理的および社会的発達を包含するホリスティックな概念として解釈するよう期待する。路上の状況にある子どもにとって、自己の生存および発達のために公共空間で選択できる活動および行動の幅は限られたものである。第6条に基づく国の義務により、子どもの行動および生活様式に対し、たとえそれが、特定のコミュニティまたは社会によって、特定の年齢層を対象とする支配的な文化的規範に基づいて容認されると判断された行動および生活様式に一致しないものであっても、慎重な注意を向けなければならない。プログラムは、路上の状況にある子どもたちの現実を認めるときに初めて効果的なものとなりうるのである [27]。介入においては、路上の状況にある個々の子どもたちを、これらの子どもが社会に最大限積極的に貢献できるようにしながら最適な形での発達を達成できるよう、支援することが求められる [28]。 [27] 一般的意見3号、パラ11参照。 [28] 一般的意見5号、パラ12参照。 尊厳のある生活の確保 32.国は、路上の状況にある子どもの尊厳ならびに生命、生存および発達に対するこれらの子どもの権利を尊重する義務(この目的のため、国家主導の暴力を行なわず、かつ生き残るための行動および地位犯罪を犯罪として扱わないようにすることが必要となる)、第三者が引き起こす危害から路上の状況にある子どもを保護する義務、ならびに、これらの子どもの発達を最大限可能なまで確保する目的で、子どもの権利アプローチに基づいてホリスティックな長期戦略を立案しかつ実施することにより、生命、生存および発達に対するこれらの子どもの権利を充足する義務を負う。国は、信頼のおける支援的な大人――家族構成員または国もしくは市民社会のソーシャルワーカー、心理学者、ストリートワーカーもしくはメンターなど――が路上の状況にある子どもを手助けするのを援助するべきである。国はまた、路上で死亡する子どものために尊厳および敬意を確保するため、葬儀に関する手続的および実際的な体制も整備することが求められる。 第12条(意見を聴かれる権利) [29] 33.路上の状況にある子どもたちは意見を聴かれることに関して特別な障壁に直面しており、委員会は、各国に対し、これらの障壁を克服するための積極的努力を行なうよう奨励する。国および政府間機関は、路上の状況にある子どもたちに対し、司法上および行政上の手続において意見を聴かれ、自分たち自身の取り組みを遂行し、かつ、コミュニティレベルおよび国レベルで政策およびプログラムの概念化、立案、実施、調整、監視、検証および広報に(メディア等も通じて)全面的に参加できるようにするための、支援的なかつ力を発揮できるような環境を提供するとともに、このような環境の提供に関して市民社会組織を支援するべきである。支援介入は、その対象である子どもたち自身が、これらの子どものために行なわれる決定の客体としてみなされるのではなく、ニーズの評価、解決策の立案、戦略の形成およびその遂行に積極的に関与するときに、これらの子どもにとってもっとも有益なものとなる。国はまた、防止および対応のための戦略を策定する際、家族およびコミュニティの構成員、専門家およびアドボケイトなどの関連する大人の意見にも耳を傾けるべきである。支援介入においては、路上の状況にある個々の子どもが、その発達しつつある能力にしたがって自己の権利を行使しかつスキル、回復力、責任および市民性を発展させられるよう支援することが求められる。国は、路上の状況にある子どもたちに対し、意味のある参加および集団的表現の空間を生み出すことにつながる子ども主導型の団体および取り組みを自分たち自身で形成するよう、支援および奨励を行なうべきである [30]。適当な場合、かつ適正な保護措置がとられるときは、路上の状況にある子どもたちが、スティグマおよび差別を軽減し、かつ他の子どもたちが最終的に路上の状況に至らないよう援助する目的で、自分たちの経験を共有することによる意識啓発を行なうことも考えられる。 [29] 一般的意見12号(意見を聴かれる子どもの権利、2009年)。 [30] 前掲、パラ128。 第4条(適切な措置) 34.締約国は、第4条に基づき、条約で認められた権利の実施のためにあらゆる適切な立法上、行政上その他の措置をとるものとされる。このことはすべての子どもに差別なく当てはまるのであり、その際、もっとも不利な立場に置かれた集団――路上の状況にある子どもがこれに含まれるのは明らかである――に特別の注意を払うことが求められる [31]。最低限の中核的義務として、すべての国は、何をおいても、1つひとつの社会的、経済的および文化的権利が最低限必要な水準で満たされることを確保しなければならない [32]。国は、このことが路上の状況にある子どもにも適用されることを確保するべきである。利用可能な資源が存在しないことは、それ自体では、国がこの中核的義務を遵守しないことについての有効な主張にはならない。委員会がすでに述べたように、子どもの権利によって課される即時的かつ最低限の中核的義務は、たとえ経済危機の時期であっても、いかなる後退的措置によっても損なわれてはならない [33]。国は、経済危機の時期の後退的措置によって路上の状況にある子どもが影響を受けないことを確保するべきである。 [31] 一般的意見5号、パラ8参照。 [32] 経済的、社会的および文化的権利に関する委員会〔社会権規約委員会〕・一般的意見3号(締約国の義務の性質、1990年)、パラ10。 [33] 一般的意見19号(子どもの権利実現のための公共予算編成、2016年)、パラ31参照。 第5条(発達しつつある能力に一致した指示および指導) 35.国は、防止を強化するため、親、拡大家族、法定保護者およびコミュニティの構成員の、子どもにその年齢および成熟度にしたがって適切な指示および指導を行なう能力(その際、これらの者が子どもの意見を考慮に入れることを援助することも求められる)、子どもが発達できる安全かつ支援的な環境を提供する能力、および、子どもが主体的な権利の保有者であり、適切な指導および指示を与えられれば、発達するにしたがってこれらの権利をますます行使できる存在であると認識する能力の構築を図るべきである。委員会は、子どもの発達しつつある能力の原則について詳しく述べている――子どもの知識、経験および理解力が高まるにつれて、親または法定保護者は、指示および指導を注意喚起および助言に、そしてやがては対等な立場の意見交換に、変えていかなければならない [34]。路上の状況にある子どもに対しては、その人生経験を尊重する、とくに配慮した指示および指導が必要である。路上の状況にある子どもの大多数は家族との接触を維持しており、このような家族とのつながりを強化する効果的方法に関する科学的知見も増えつつある。路上の状況にある子どもが親、拡大家族または法定後見人との肯定的つながりをほとんどまたはまったく持っていないときは、第5条で言及されているようにコミュニティの構成員の役割がいっそうの重要性を帯びるのであり、これには、市民社会組織と関係する信頼できる大人からの支援も含まれると理解される。 [34] 一般的意見12号(意見を聴かれる子どもの権利、2009年)、パラ84および一般的意見14号、パラ44参照。 B.市民的権利および自由 第15条(結社および平和的集会の自由に対する権利) 概観 36.路上の状況にある子どもたちが生きている現実は、子ども時代に関する伝統的な定義または概念化には適合しない。これらの子どもたちは、他の子どもたちに比べ、公的空間と独特の関係を結んでいる。したがって、公的空間との関連で国が第15条に課す制限は、路上の状況にある子どもたちに不均衡な影響を及ぼす可能性がある。国は、これらの子どもが結社および平和的集会のために政治的および公的空間にアクセスすることが差別的なやり方で否定されないことを確保するべきである。 市民的および政治的空間 37.結社および平和的集会は、路上の状況にある子どもたちが、たとえば働く子どもの組合および子ども主導の団体を通じて権利を主張していくために必要不可欠である。しかし委員会は、総括所見のなかで、子どもたちが声をあげるための政治的空間が与えられていないことに関する懸念を恒常的に表明してきた。このような状況は、法律にしたがって団体登録を行なう際に必要となる場合がある信頼できる大人とのつながりを持たないことが多い路上の状況にある子どもたちにとって、とりわけ押しつけられやすい。路上の状況にある子どもたちは、結社および平和的集会のための取り組みを発展させていくための書類の記入および情報へのアクセスに関して支援を得られない場合がある。抗議または集会の参加人数を増やすため、路上の状況にある子どもたちに金が支払われることもありうる。これらの子どもは搾取の被害を受けやすい可能性があり、かつこのようなイベントに参加することの意味合いを理解していないこともあることから、保護と参加の権利との間でバランスをとる必要性に関する複雑な問題が生ずる。しかし、委員会が総括所見で表明してきたように、このことが、結社および平和的集会に対するこれらの子どもの権利を制限する言い訳として用いられるべきではない。第15条は、国に対し、路上の状況にある子どもたちが自己の参加権を行使し、かつ大人による吸収および操作に対抗できるようエンパワーすることを要求しているのである。 公的空間 38.市民的および政治的権利の文脈における結社および平和的集会に加えて、委員会は、路上の状況にある子どもたちが、生存および発達に関わる自分たちの権利(第6条)を満たすために、休息、遊びおよび余暇(第31条)[35] のために、ネットワークづくりおよび社会生活の組織化のために、かつこれらの子どもの生活全般の主要な特徴のひとつとして行なう、公の秩序を脅かすことなく公的空間で集まるための選択を尊重することの重要性を強調する。路上の状況にある子どもたちにとって、このような態様の集まりは生活の一部である。その生活は、食事、睡眠またはレクリエーションのような個別の活動に常に分解できるわけではない。路上の状況にない子どもたちにとっては、このような他者との協力的共存は主として家庭または学校のような場面で生ずるものである。路上の状況にある子どもたちにとっては、それは公的空間で生ずる。このような子どもたちは、結社の権利(ここでは、条約で保護されている他の諸権利とあいまって、「公的空間で他者と時間を過ごすこと」と解釈される)を行使できる安全な空間を持てなければならない。委員会は、第31条との関連で、公的空間における子どもたちへの寛容度が低下しつつあることを検討したことがある [36]。委員会は、この一般的意見で、寛容度の低下に関わるこれらの懸念を、第31条で対象とされているもの以外の目的で子どもたちが公的空間を使用することとの関連でも、あらためて表明するものである。 [35] 一般的意見17号(休息、余暇、遊び、レクリエーション活動、文化的生活および芸術に対する子どもの権利、2013年)、パラ21参照。 [36] 前掲、パラ37参照。 第15条に対する制限 39.第15条(2)にしたがい、公の秩序との関連でとられる取締まりその他の措置が許容されるのは、当該措置が法律に基づいており、集団的評価ではなく個別の評価に基づいて実施され、比例性の原則を遵守し、かつもっとも侵害度の小さい選択肢である場合に限られる [37]。すなわち、路上の状況にある子どもに対するいやがらせ、暴力、一斉検挙および路上浄化活動(大規模な政治的、公的またはスポーツイベントを背景として行なわれるものを含む)、または結社および平和的集会に対するこれらの子どもの権利を制限しまたは当該権利に干渉するその他の介入策は、第15条(2)違反である。合法的に設置された働く子どもの組合もしくは路上の状況にある子どもたちが主導する団体を承認しないことおよび(または)路上の状況にある子どもが合理的アクセスの手段を有しない団体認可を要件とすることは、これらの子どもに対する差別であり、かつ第15条(2)に一致しない。 [37] 一般的意見6号(出身国外にあって保護者のいない子どもおよび養育者から分離された子どもの取扱い、2005年)、パラ18参照。もともとは国境を越えた保護者のいない子どもおよび養育者から分離された子どもとの関連で展開した解釈だが、委員会は、この一般的意見において、路上の状況にあるすべての子どもについてもこの解釈を適用する。 実施措置 40.国は、路上の状況にある子どもたちに対するいやがらせを行なうべきではなく、またこれらの子どもが公共空間において関係をとり結びかつ平和的に集会する場所から恣意的に退去させるべきではない。この権利を侵害する者に対しては制裁が科されるべきである。公の秩序に関わる状況に、路上の状況にある子どもの権利の尊重を擁護するようなやり方で対応する警察および治安部隊の能力構築のため、専門的研修が必要とされる [38]。地方政府の条例は、第15条(2)との一致を確保するために見直されるべきである。国は、子どもの権利教育およびライフスキルの育成を通じて路上の状況にある子どものエンパワーメントを図ること、関係者が、意思決定の際、結社および集会を通じて表明されるこれらの子どもの意見を受け入れる心構えを持つようにすること、ならびに、これらの子どもがコミュニティの他の子どもとともにレクリエーション、余暇、スポーツ、芸術活動および文化的活動に参加することを促進することなどの積極的な措置を支援するよう求められる。路上の状況にある子どもたちの結社および平和的集会が第15条に基づく保護を受けるために、これらの結社および集会が正式に登録されていることが法律上の要件とされるべきではない。 [38] 一般的意見13号、パラ44参照。 第7条(出生登録)および第8条(身元) 41.身元を証明する手段がないことは、教育、保健サービスのその他の社会サービス、司法、相続および家族再統合に関わる路上の状況にある子どもの権利の保護に悪影響を及ぼす。国は、最低限、あらゆる年齢のあらゆる子どもが無償の、アクセスしやすい、簡便かつ迅速な出生登録を利用できることを確保するよう求められる。路上の状況にある子どもに対し、法的身分証明書を取得するための積極的支援が提供されるべきである。国および地方政府は、市民社会の関係者/住所と関連づけられた非公式な身分証明書を提供することのような革新的かつ柔軟な解決策を認めることにより、子どもが当面、基礎的サービスおよび司法制度における保護にアクセスできることを可能にするよう求められる。路上の状況にある子どもは頻繁に移動することが多く、かつ物理的な身分証明書を、紛失し、毀損しまたは盗難されることなく安全に保持し続ける手段を有しないことから、これらの子どもが帳面している課題を克服するための革新的解決策が採用されるべきである。 第13条(表現の自由)および第17条(情報へのアクセス) 42.路上の状況にある子どもが自己の権利に関する情報にアクセスし、このような情報を求めかつ伝える権利は、これらの権利が理解され、かつ実際に実現されるようにするためにきわめて重要である。状況に特化したアクセスしやすい子どもの権利教育は、参加を妨げる障壁を克服し、これらの子どもの意見に耳が傾けられることを可能にするうえで役に立つだろう。路上の状況にある子どもは、(a) 国の役割および説明責任ならびに人権侵害に関わる救済のための苦情申立て機構、(b) 暴力からの保護、(c) セクシュアルヘルスおよびリプロダクティブヘルス(家族計画および性感染症予防を含む)、(d) 健康的なライフスタイル(食事および運動を含む)、(e) 安全なかつ敬意のある社会的および性的振舞い、(f) 事故の防止ならびに (g) アルコール、タバコ、薬物その他の有害物質の濫用の悪影響に関連する、正確な、質の高いかつ子どもにやさしい情報にアクセスできなければならない。 第16条(プライバシー、名誉および信用 43.路上の状況にある子どもは、公共空間で活動を行なわなければならないことを考えれば、プライバシーの制限を経験する場合がある。これらの子どもは、自らまたはその親もしくは家族が路上の状況にあることを理由とする差別により、第16条違反の被害をとりわけ受けやすい立場に置かれる。委員会は、強制立退きが条約第16条違反であることを認識するものであり、自由権規約委員会は、これまでに、これが市民的および政治的権利に関する国際規約第17条違反であることを認めてきた [39]。スティグマについて取り上げたパラ27の勧告および警察による非差別的なかつ敬意のある取扱いについて取り上げたパラ60の勧告は、名誉および信用との関連で指針となるものである。 [39] CCPR/CO/83/KEN, para.22 および CCPR/C/BGR/CO/3, para.24 参照。 C.家庭環境および代替的養護 第20条(家庭環境を奪われた子どものための特別な保護および援助に対する権利) 養護の態様 44.路上の状況にある子どもであって主たる養育者またはこれに代わる養育者がいない子どもについては、国が事実上の養育者であり、かつ、第20条に基づき、一時的または恒久的に家庭環境を奪われた子どもに対して代替的養護を確保する義務を負う [40]。養護の態様には、路上の状況にある子どもに対する実際的および精神的支援(子どもに対し、路上のつながりを放棄しかつ(または)代替的居住施設への移動を要求しまたは強制することなく、信頼できる大人のストリートワーカーまたは仲間同士のサポートを通じて行なわれるもの)、ドロップインセンターおよびコミュニティセンター/ソーシャルセンター、デイケアセンター、グループホームにおける一時的入所養護、里親養育、家族再統合ならびに自立生活または長期的な養護の選択肢(養子縁組を含むがこれに限られない)が含まれる。たとえば収容房または閉鎖施設における自由の剥奪は、保護の一形態にはけっして位置づけられない。 [40] 一般的意見13号、パラ33および35参照。 子どもの権利アプローチの適用 45.路上を離れて代替的養護に移行する過程で主体的行為者としての子どもを尊重しない介入策は、功を奏しない。子どもは、脱走した場合または措置が失敗した場合には、しばしば路上に復帰することになる。路上の状況にある子どもが馴染みのない地域に送られてほとんど知らない親族と暮らすことになった場合、措置はうまくいかない。国は、代替的選択肢の開発および提供に子どもの権利アプローチを適用することにより、子どもが自己の生存および(または)発達のために路上のつながりに依存せざるを得なくなることおよび自己の意思に反する措置を受け入れざるを得なくなることを回避することができよう。国は、立法、規則および政令を通じ、措置、養護計画の策定および見直しならびに家族の訪問に関わる決定において子どもの意見が求められかつ考慮されることを確保するべきである [41]。国は、施設措置を最後の手段に限定する、確立された国際的制限 [42] を尊重するとともに、子どもが不必要に代替的養護に措置されないことを確保し、かつ、代替的養護が行なわれる場合、子どもの権利および最善の利益に応じた適切な条件下で提供されることを確保するよう求められる [43]。国は、国および市民社会が運営するシェルターおよび施設が安全かつ良質であることを確保するべきである。路上の状況にある子ども自身と相談したうえで、家族構成員への措置がその子どもの最善の利益にかなうと判断される場合、両方の側で慎重な準備およびフォローアップが必要となる。路上と長期的措置との間にはしばしば移行段階が必要であり、この期間の長さは、子どもとともに、個別の事案ごとに決定しなければならない。代替的養護施設がないことを理由として子どもの収容目的で警察の留置房またはその他の拘禁房を使用することは、受け入れられない。 [41] 一般的意見12号、パラ54、同6号、パラ40および同7号、パラ36(b)参照。 [42] 一般的意見3号、パラ35参照。 [43] 子どもの代替的養護に関する指針(総会決議64/142付属文書)。 第9条(親からの分離) 46.路上の状況にある子どもの多くは、路上でまたはそれ以外の場所で家族とともに暮らしており、かつ(または)家族とのつながりを維持しているのであって、このようなつながりを維持するための支援が提供されるべきである。国は、家族が路上で働いているまたは路上で暮らしていることのみを理由として、子どもをその家族から分離するべきではない。また、路上の状況にある子ども自身のもとに生まれた赤ん坊または子どもを分離するべきではない。金銭面および物質面での貧困、またはそのような貧困を直接のかつ唯一の理由として生じた状態のみを理由として、子どもを親の養育から離脱させることが正当化されることはけっしてあるべきではなく、このような貧困または状態は、家族に対して適切な支援を提供する必要性があることのサインと見なされるべきである [44]。長期的分離の防止策として、国は、親がたとえば季節的雇用のために年の一定の期間国外に出稼ぎに行く子どもを対象とする、一時的な、権利が尊重される養護の選択肢を支援することができる。 [44] 一般的意見14号、パラ62参照。 第3条(3)(ケアおよび保護のための機関、サービスおよび施設)および第25条(措置の定期的再審査) 47.ケアおよび保護に関わる権利が充足されなかったことの結果として子どもが路上の状況に至ることを防止する目的で、またすでに路上の状況にある子どもたちのために、国および国以外の主体によるサービスを設置し、維持し、かつその質を監視することは重要である。国は、良質で権利を尊重するサービスを提供するとともに、市民社会組織が同様のサービスを提供することを支援するよう求められる。路上の状況にある子どものために活動している国以外の機関、サービスおよび施設は、国による支援、資源の拠出、認証、規制および監視の対象とされるべきである。このようなサービスの従事者は、パラ18にしたがった研修を受けるよう求められる。 第18条(親の責任) 48.子どもが路上の状況に至ることを防止し、かつすでに路上の状況にある子どもを対象とする家族再統合プログラムを強化するためには、親および法定保護者への支援が不可欠である。国は、親および法定保護者が子どもの養育責任を果たすにあたって適当な援助を与え、かつ、子どものケアのための機関、施設およびサービスの発展を確保する義務を負う。国は、不安定な状況にある家族に圧力を加える構造的な力を解消するための措置をとるべきである。対応すべき主要な問題としては、窮乏している地域において権利を基盤とするコミュニティ開発を向上させること、包括的な経済的および社会的セーフティネットを確立すること、安全かつ負担可能な保育所その他の専門的サービスを提供すること、ならびに、家族を対象として十分な住居および所得創出へのアクセスを改善することなどがある。構造的および政策的アプローチに加え、脆弱な状況にある家族には、十分な訓練を受けた専門家のファシリテーションによる、個別事案ごとの解決策が必要である。国は、子どもが路上の状況に至ることの増大につながる条件の世代間伝達の阻止につながることが証明されている、子どもの権利アプローチに基づく家族支援プログラムに投資し、かつその規模の拡大を図るよう求められる。国は、路上の状況に至るおそれのある子どもがいる家族を――スティグマを付与しないようなやり方で――優先させつつ、すべての親および養育者を対象として、子どもの権利および肯定的な子育てに関する、非選別的な教育を提供するための措置をとるべきである。このような教育には、子どもの権利(子どもの声に耳を傾け、かつ意思決定に子どもの意見を取り入れる方法を含む)、肯定的な子育て(肯定的なしつけのためのスキル、非暴力的紛争解決および愛着育児(アタッチメント・ペアレンティング)を含む)および乳幼児期の発達を含めることが求められる。パラ35および49も参照。 D.十分な生活水準 第27条(十分な生活水準に対する権利) 親、養育者および子どもに対する支援 49.第27条(3)にしたがい、国は、子どもが路上の状況に至ることを防止し、かつすでに路上の状況にある子どもの権利を充足するため、すべての子どもがその身体的、精神的、霊的および道徳的発達のために十分な生活水準を享受することを確保するべきである。国は、この権利の実施のために、親および子どもに責任を負う他の者を援助するための適当な措置をとらなければならず、また必要な場合にはとくに栄養、衣服および住居に関して物的援助および支援プログラムを提供しなければならない。これらの規定は、国の裁量の余地を残さないものである。締約国の国内条件にしたがった、かつその財源内におけるこれらの規定の実施は第4条とあわせて解釈されるべきであり、すなわち、社会的、経済的および文化的権利に関する最低限の中核的義務を履行する国の義務をとくに顧慮しながら、締約国の利用可能な資源を最大限に用いて、かつ必要なときは国際協力の枠組みのなかで、進めることが求められる。物的援助という点では、路上の状況にある子どもが優先的ニーズとして挙げるのは、親および養育者に対する国の支援(とくに補助金をともなう十分な住居および所得創出に関連するもの)を通じて提供される、安全な生活場所、食料ならびに無償のかつアクセス可能な医療ケアおよび教育である。第27条(3)の解釈は、親および子どもの養育に責任を負う他の者を援助するための措置に限られるものではない。必要な場合に物的援助および支援プログラムを提供する義務は、子どもに直接提供される援助も意味するものとして解釈されるべきである。このことは、路上の状況にある子どもであって家族とのつながりが存在しない子どもまたは家族とのつながりに虐待がともなう子どもについて、とりわけ妥当する。サービスという形をとった子どもへの直接的な物的援助は、国が提供することもできるし、市民社会組織に対する国の支援を介して提供することも可能である。ひとり親家族および再構築家族にとっては、子どもの扶養料を確保するための国の措置がとりわけ重要となる(第27条(4)参照)。 十分な住居 50.住居に対する権利は、路上の状況にある子どもにとってとりわけ関連性が高い、第27条の重要な要素である。この権利は、経済的、社会的および文化的権利に関する委員会によって、いずれかの場所で安全に、平和にかつ尊厳をもって生活する権利として広く解釈されてきた [45]。同委員会は、「十分」性の概念を住居との関連で考察する際には、保有の法的安定性、サービス、物資、便益およびインフラストラクチャーの利用可能性、負担可能性、居住適性、アクセス可能性、立地ならびに文化的相当性に注意を払う必要があることを明らかにしている [46]。また、子どもは強制立退きの実行によって不均衡な被害を受ける集団のひとつに数えられる [47]。強制立退き(非公式または不法な住居の解体によるものを含む)は、人生を子どもにとっていっそう不安定なものとすることによって、子どもが路上で寝泊まりすることを余儀なくさせ、かつさらなる権利侵害にさらす可能性がある。路上の状況にある子どもたちとの協議で目立ったテーマのひとつは、子どもたちが路上にいるほうがましだと感じるほどの、一部の国営「シェルター」の不十分さおよび不適切さならびにこれらの施設における高水準の暴力および安全性の欠如である。 [45] 経済的、社会的および文化的権利に関する委員会〔社会権規約委員会〕・一般的意見4号(十分な住居に対する権利、1991年)、パラ7参照。 [46] 前掲パラ8。 [47] 経済的、社会的および文化的権利に関する委員会〔社会権規約委員会〕・一般的意見7号(強制立退き、1997年)、パラ10参照。 実施措置 51.国は、子どもの保護を向上させ、かつ子どもが路上の状況に至る可能性を低減する手段のひとつとして、不安定な家族への圧力を弱めかつこれらの家族を強化する目的で、貧困および所得不平等の根本的原因に対応するための措置をとるべきである。このような措置には、経済的不平等を減少させる税制および支出政策を導入すること、公正な賃金をともなう雇用および所得創出のためのその他の機会を拡大すること、農村開発および都市開発のために貧困削減に寄与する政策を導入すること、子どもに焦点を当てた政策および予算策定を導入すること、移住が多いことがわかっている地域で子ども中心の貧困緩和プログラムを強化すること、ならびに、十分な社会保障および社会的保護を提供することが含まれる。具体的な例としては、欧州・北米諸国で活用されている子ども給付プログラムや、ラテンアメリカ諸国で導入され、かつアジア・アフリカ諸国で広く適用されている現金移転プログラムなどが挙げられる。国は、銀行口座を持っていない可能性があるもっとも周縁化された家族のもとにもこのようなプログラムが届くように努力するべきである。物的支援は、親および養育者に対して、かつ路上の状況にある子どもに直接提供する形でも、利用可能とされるべきであり、またこのような機構およびサービスは子どもの権利アプローチに基づいて立案しかつ実施することが求められる。住居に関しては、子どもが路上の状況に至ることを防止するために保有の安定性が必要不可欠である。これには、安全であり、かつ安全な飲料水、環境衛生および個人衛生のための便益へのアクセスをともなう十分な住居にアクセスできることが含まれる。子どもは、非公式または不法な住居で生活している子どもを含め、十分な代替的居住先を提供される前に強制立退きの対象とされるべきではない。国は、影響を受ける子どもに対して適切な対応を行なうことを要求される。立退きの悪影響を最小限に抑えるため、子どもの権利および人権に関する影響評価が開発事業およびインフラ整備事業の必須条件とされるべきである。 E.障害および健康 第23条(障害のある子ども) 52.障害のある子どもは、経済的および社会的要因を含むさまざまな理由で路上の状況に至るとともに、時として物乞いのために搾取されることがある。国は、このような搾取を防止しかつ明示的に犯罪化するためおよび加害者を裁判にかけるために必要な、あらゆる措置をとるべきである [48]。路上の状況にある子どもは、路上生活の諸側面(暴力、搾取および有害物質濫用など)の悪影響により障害が発達するおそれのある状況に置かれる可能性がある。また、路上の状況にある子どもは、知的障害および心理社会的障害により、搾取および虐待の被害をとりわけ受けやすい状況に置かれうる。国は、障害のある子どもがサービス(インクルーシブな教育を含む)にアクセスすることを妨げる障壁を特定しかつ除去することを含む、特別な保護措置をとるべきである。 [48] 一般的意見9号、パラ76参照。 第24条(健康)[49] および第33条(薬物および有害物質の濫用 53.路上の環境は、心身の健康に関わる問題についての脆弱性を高める可能性がある [50]。課題として挙げられるのは、有害物質濫用、HIV [51] その他の性感染症への感染、妊娠、暴力(仲間によるものを含む)、希死念慮および自殺、規制対象外の医薬品を用いた自己流の治療ならびに感染症、汚染および交通事故への曝露の問題が生じる割合が不均衡に高いことなどである。委員会は、路上の状況にある子どもの具体的ニーズにあわせた健康教育および保健サービス(セクシュアルヘルスおよびリプロダクティブヘルスに関するものを含む)の必要性を強調する。このような教育およびサービスは、親しみが持ててかつ支援的であり、包括的であり、アクセスしやすく、無償であり、秘密が守られ、非審判的であり、差別を行なわず、これらの子どもによる自律的決定を尊重し、かつ親の同意を要件としないようなものであるべきである [52]。保健サービスは、物理的位置または社会的地位にかかわらずアクセスできることが求められる。路上の状況にある子どもは、普遍的な医療保障および社会的保護制度を通じた基礎的保健ケアサービスに無償でアクセスできるべきである。国は、路上の状況にある子どもを対象とする、有害物質濫用の予防、治療およびリハビリテーションのためのサービス(ハームリダクション〔危害軽減〕サービスを含む)ならびにトラウマ治療サービスおよび精神保健サービスの利用可能性を高めるよう求められる。これらのサービスを提供するスタッフには、子どもの権利および路上の状況にある子どもが置かれている特有の状況に関する研修を受けた専門家を配置するべきである。国は、有害物質濫用、性感染症およびHIVと闘ううえでとりわけ効果を発揮しうる、適切な支援を受けたピアエデュケーションを促進することもできる。路上の状況にある子どもを薬物売買への関与から保護するために、特段の注意が必要である。 [49] 一般的意見15号(到達可能な最高水準の健康を享受する子どもの権利、2013年)参照。 [50] 一般的意見4号、パラ34参照。 [51] 一般的意見3号、パラ30参照。 [52] 前掲、パラ20-21、一般的意見4号、パラ11および26、ならびに、一般的意見15号、とくにパラ8、11および28参照。 F.教育、余暇および文化的活動 第28条(教育) 54.アクセスしやすい、無償の、安全な、関連性のある、かつ良質な教育は、子どもが路上の状況に至ることを防止し、かつすでに路上の状況にある子どもの権利を充足することのためにきわめて重要である。教育は、多くの子どもにとって、より広い社会との最後の接続点となっている。国は、路上の状況にある子どもが学校に留まれること、および、良質な教育に対するこれらの子どもの権利が全面的に充足されることを確保するため、親、養育者および家族への支援を含む十分な対応をとるべきである。教育上のさまざまな選択肢が必要であり、これには、市民社会とのパートナーシップに基づいて提供される、「セカンドチャンス教育」、遅れを取り戻すための学級、移動学校、職業訓練(市場調査と連結され、かつ長期的な所得創出支援によるフォローアップがあるもの)および公式な教育へとつながる経路などが含まれる。教員に対しては、子どもの権利および路上の状況にある子どもならびに子ども中心の参加型教授手法に関する研修が実施されるべきである。 第29条(教育の目的)[53] 55.路上の状況にある子どもを対象とする教育の目的は、第29条に合致し、かつ読み書き能力、計算能力、デジタルリテラシー、ライフスキル、子どもの権利教育、多様性への寛容および市民性教育を含んだものであるべきである。このような教育は、保護、発達および参加に対する子どもの権利の充足(子どもの自律の強化、ならびに、リスク状況の切り抜け方の向上を目的とする子どものエンパワーメントを含む)のために、子どもが路上の状況に至ることを防止するために、かつ路上の状況にある子どもにとって、死活的な重要性を有する。国は、学校カリキュラムを通じて、かつ学校に通っていない子どもも対象とするために非公式な教育および路上での教育を通じて、良質なかつ無償の子どもの権利教育およびライフスキル〔教育〕を、すべての子どもに対して普遍的に提供するための措置をとるべきである。 [53] 一般的意見1号(教育の目的、2001年)。 第31条(休息、遊びおよび余暇) 56.委員会は、休息、遊び、余暇ならびに芸術的および文化的活動への参加に対する権利を強調する。路上の状況にある子どもたちは、独自の創造性を発揮して路上のインフォーマルな環境を遊ぶ機会のために活用している [54]。国は、これらの子どもが、たとえば服装規則に関連して公園および遊び場から差別的なやり方で排除されないことを確保する [55] とともに、これらの子どもが創造性を発達させかつスポーツを実践することを援助するための措置(移動式のレクリエーション施設およびスポーツ施設による援助を含む)をとるべきである。 [54] 一般的意見17号〔パラ49〕。 [55] 前掲、パラ49。 G.子どもに対する暴力および特別な保護措置 第19条および第39条(あらゆる形態の暴力からの自由) [56] 57.あらゆる形態の――情緒的、身体的または性的な――暴力は、子どもが路上の状況に至ることの根本的原因のひとつであり、かつその結果のひとつである。路上の状況にある子どもたちの生活ではあらゆる種類の暴力が大規模に広がっており、そのことは子どもたち自身が強調する主要な懸念のひとつとなっている。路上の状況にある子どもを保護するために、具体的かつ即時的な緊急の措置がとられなければならない。一般的意見13号に掲げられたすべての勧告とあわせ、このような措置としては、体罰を含むあらゆる形態の暴力の禁止、家族およびコミュニティとの関係が切断される過程で脆弱な立場に置かれた子どもにアウトリーチするための機構、暴力、差別およびその他の形態の権利侵害を通報するための機構、および、国家的主体であるか非国家的主体であるか、個人であるか集団であるかを問わず暴力の加害者に責任を負わせるための機構などが挙げられる。一部の警察関係者ならびに組織犯罪および麻薬取引に関与している者など、これらの子どもからその安寧に対する脅威として通報された個人に対応するための、特別な機構を設置しなければならないこともあるかもしれない。 [56] 一般的意見3号、パラ19および36-37、同4号、パラ2および23、同8号(体罰その他の残虐なまたは品位を傷つける形態の罰から保護される子どもの権利、2006年)ならびに同13号。 第34~36条(性的虐待、性的搾取、人身取引その他の搾取) 58.路上の状況にある子どもは性的な暴力および搾取の被害をとりわけ受けやすい状況にあり、子どもの売買、児童買春および児童ポルノに関する条約の選択議定書はこのような子どもにとってとりわけ関連性を有する。路上の状況にある子どもの具体的事情を理解する訓練を受けた専門家によって、ジェンダーに配慮した対応が行なわれるべきである。子どもは、性的搾取または労働搾取を目的とする人身取引を通じて路上の状況に至る場合があり、かつ(または)、路上の状況に至ったとたんに、そのような人身取引および身体部位のための人身取引ならびにその他の形態の搾取の被害を受けやすい状況に置かれる場合がある。 第32条(児童労働) 59.委員会は、各国に対し、路上の状況にある子どもを経済的搾取および最悪の形態の児童労働から保護するため、条約第32条(2)ならびに国際労働機関の最低年齢条約(1973年、第138号)および最悪の形態の児童労働条約(1999年、第182号)の規定を実施するよう促す。児童労働に反対する行動は、子どもが教育に移行することを可能にし、かつ子どもおよびその家族に対して十分な生活水準を保障する支援の提供を含む、包括的措置から構成されるべきである。このような措置は、子どもの最善の利益を反映し、かつ当該措置が子どもの生存および発達にいかなる意図しない悪影響も生じさせないことを確保するため、路上の状況にある子どもおよび他の主要な関係者と連携しながら策定することが求められる。物乞いまたは無認可売買を犯罪化することは、結果として商業的性的搾取といった最悪の形態の生存行動をもたらしかねない。路上の状況にある子どもを対象とした、金銭のやりくりのスキルを発達させかつ収入を保護するための貯金制度は有益である。 第37条および第40条(少年司法) 60.路上の状況にある子どもは、標的とされ、犯罪者として扱われ、かつ最終的に少年司法制度または成人司法制度に関与することになる可能性がより高いほか、保釈金を負担できず、かつ身元引受人となる責任ある大人がいない場合もあるために、ダイバージョン、拘禁に代わる措置または修復的司法実践から利益を受けられる可能性はより低い。警察の違法行為――いやがらせ(子どもの所持金および私物を盗むこと、これらの子どもを一斉検挙すること、または、しばしば上官および(または)政治家の命令によってこれらの子どもを恣意的に移動させることを含む)、腐敗、強要(金銭または性交を求めるもの)および身体的、心理的または性的暴力など――は一般的に見られる権利侵害であり、国はこれらの行為を緊急に犯罪化するべきである。委員会は、路上の状況にある子どもを犯罪者扱いし、かつ強制的な施設措置につながる「寛容度ゼロ」政策の適用について懸念を覚える。国は、路上の状況にある子どもの処罰ではなく保護を重視しながら、コミュニティ志向の警察活動を支援するとともに、多文化的な警察機構を採用するべきである。国は、懲罰的ではない修復的な少年司法制度の文脈において、路上の状況にある子どもを含むすべての子どもに対してすべての権利を保障するよう求められる [57]。 [57] 一般的意見6号、パラ61ならびに一般的意見10号、パラ6、8-9および16参照。 第38条(武力紛争) 61.武力紛争への子どもの関与に関する条約の選択議定書は、路上の状況にある子どもが軍隊または武装集団への徴募の被害を受けやすい立場に置かれているがゆえに、関連性を有する。紛争の結果、子どもたちは、社会的ネットワークが破壊されること、家族がばらばらになること、コミュニティからの避難を余儀なくされること、または動員解除された子どもの戦闘員がコミュニティから拒絶されることを通じて路上の状況に至る可能性がある。防止との関連では、平和教育を含む子どもの権利教育および徴募防止のための取り組みが、路上の状況にある子どもたちに届くようにしなければならない。家族からの子どもの分離を積極的に抑制するために武力紛争の影響を最小限に抑える介入が必要であり、また家族追跡プログラムを優先的に実施するべきである。子どもを対象とする武装解除・動員解除・再統合プログラムにおいては、武力紛争への子どもの関与の原因および結果である路上とのつながりの力学を考慮することが求められる。 VI.普及および協力 普及 62.委員会は、各国が、政府、法制度および行政機関内で、かつ路上の状況にある子ども、親および養育者、職能団体、コミュニティ、民間セクターならびに市民社会に対して、この一般的意見を広く普及するよう勧告する。印刷媒体、インターネットおよび子どもたち自身のコミュニケーション手段(語り聞かせおよびピアエデュケーションなど)を含むあらゆる普及手段が活用されるべきである。そのためには、この一般的意見を関連の言語(手話、点字ならびに障害のある子どもおよび読み書きの水準が限られている子どもにとってわかりやすい形式を含む)に翻訳することが必要になろう。また、文化的に適切なかつ子どもにやさしい版および文字中心ではなく図版中心の版を利用可能とすること、ワークショップやセミナーを開催すること、一般的意見の意味合いおよびそれを最善の形で実施する方法について話し合うための年齢および障害に合わせた支援を行なうこと、ならびに、路上の状況にある子どものためにおよびこれらの子どもとともに働くすべての専門家の養成・研修に一般的意見を編入することも必要である。国はまた、路上の状況にある子どもについての情報を委員会への報告書に記載することも奨励される。 国際協力 63.委員会は、各国に対し、子どもが路上の状況に至ることの防止およびすでに路上の状況にある子どもの保護に関する国際的なコミットメント、協力および相互援助を強化するよう求める。これには、効果的であることがわかっている権利基盤型の実践の特定および共有、調査研究、政策、監視および能力構築が含まれる。協力のためには、各国、国際連合諸機関、地域機関、市民社会組織(子ども主導の団体および研究者団体を含む)、子どもたち、民間セクターおよび専門家グループの関与が必要である。委員会は、これらの主体に対し、防止および対応を目的とする良質な、科学的根拠に基づく支援介入策に関連した、継続的かつハイレベルな政策対話および調査研究を推進するよう奨励する。これには、国際社会、国内、広域行政権および地方の各レベルにおける対話が含まれる。このような協力においては、移住者、難民および庇護希望者ならびに国境を越えた人身取引の被害者/サバイバーとして国境を越える子どもの保護に対応しなければならないこともありうる。 更新履歴:ページ作成(2018年7月29日)。
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普通の子ども ◆hqLsjDR84w ◇ ◇ ◇ 市街地へと歩みを進めつつ、思考を巡らせる。 朧さんに先頭を任せているので、それくらいの余裕はある。 完全に人を頼りきってしまうつもりはないが、いまは考えなければならないときだ。 前を行くおキヌさんが心配そうに振り向いているので、微笑みを返してから思考に没頭する……―― ◇ ◇ ◇ 僕のなかには、三つの記憶がある。 僕自身、すなわち才賀勝という少年の記憶。 おじいちゃんである人形破壊者(しろがね)・才賀正二の記憶。 そして――自動人形(オートマータ)の造物主・フェイスレスの記憶。 一つ目は僕が生まれた日より培ってきたものであるのに対し、二つ目と三つ目は違う。 二つ目はおじいちゃんの血を飲んだことで入手し、三つ目は僕の身体を手に入れようとしたフェイスレスによって流し込まれた。 だから僕のなかには三つの記憶がある――が、断じて三人分ではない。 おじいちゃんはしろがねとして百年以上生きてきたし、フェイスレスに至っては二百年をゆうに越える。 ただ単に、『長い』だけではない。 おじいちゃんは医者にして、懸糸傀儡制作の第一人者であり、剣術も免許皆伝の腕前で、一流企業『サイガ』のトップでもあった。 フェイスレスに至っては『賢者の石』を造り上げるほどの錬金術師であり、人形繰りの天才であり、おじいちゃんの右腕として『サイガ』の上層部に常にいて、さらにはしろがね-Oという改造人間を作り出すほど人体や工学にも精通している。 つまり――『多い』。 僕のなかにはただ三人分の記憶があるのではなく、僕という普通の子どもの記憶と、あらゆる分野に精通した人間二人の記憶がある。 医学も。 剣術も。 化学も。 工学も。 生物学も。 経営学も。 錬金術も。 言語能力も。 人形繰りも。 全部、僕のなかに『ある』。 使いこなせるかはさておき、事実として間違いなく存在している。 そんな膨大な知識をもってしても、現状は不可解だ。 朧さんやおキヌさんと話したところ、全員が『いまはいつなのか』という認識が違っていた。 二人とも、僕より過去を現在だと思っていた。 からかっているワケではないようで、また思い違いでもないらしい。 普段ならば決して考えないが、すでにある発想に至る要因は十分にあった。 刃さんが物干し竿の柄紐を解くと、空間に穴が開いた。 おキヌさんによると、美神令子というGS(ゴーストスイーパー)は時空移動能力を持つという。 朧さん曰く幽霊の気配は一つしか捉えられなかったというのに、もう死んだはずの人間が何人も名簿に記されている。 仮説――――このプログラムの参加者は、『異なる時間』から呼び出されている。 ならば、頷ける。 いろいろと納得がいく。 この仮説を口にはしていない。 認識の違いからおキヌさんと朧さんは思い至っているかもしれないものの、まだ僕から告げてはいない。 他の誰かから告げられてもいない。 それに――もし『これが真実である』のなら、『明かさないほうがいい』ことだってあるかもしれないのだから。 とにかく、考えを固めたいところだった。 『どうにかすることによって時間移動が可能である』という確証を得たい。 「…………って!?」 不意になにかに当たった。 いや、当たらなかった。通り抜けた。 「うわわっ! ちゃんと前を見てなきゃダメですよ、勝くん」 「ご、ごめんなさい」 いつの間にか、おキヌさんが足(?)を止めていたようだ。 見れば、朧さんもまた少し前で立ち止まっている。 歩み寄っていくと、朧さんは険しい表情のまま静かに口を開く。 「何者かが飛行しながら迫ってきています」 朧さんの視線の先を確認するが、なにも見当たらない。 困惑していると、十秒ほど経ってからその視線の先に人影が現れた。 「あれ? おキヌちゃんじゃない」 腰まで伸ばしたストレートの茶髪。 紫色の派手なボディコンスタイル。 整った顔立ちで、気が強そうな目つき。 さらに、いまのおキヌさんに対しての発言。 運がいい。心から、そう思った。 僕が所持していない霊に関する知識を有しており、時空移動能力を持っている。 まさしく――現時点においてもっとも会いたかった参加者の一人だった。 「なによ、ジロジロ見て。 ……でもなんか育ちがよさそうな雰囲気してるわね、賢そうな顔つきだし、もしかしてお坊っちゃまとかかしら…………」 小声でぼそぼそと言っているのが聞こえてくる。 確信した。彼女こそ、話に聞いた美神令子さんその人だ。 ◇ ◇ ◇ 「み、美神さぁ~~~ん!」 三十秒ほど目をぱちくりさせて、おキヌさんはようやく状況を認識したらしい。 「そんな大きな声出さなくても聞こえてるわよ」 「無事でよかったです~~~!」 「はいはい」 おキヌさんに勢いよく抱きつかれながら、美神さんは具合が悪そうに頬をかいた。 ぶっきらぼうな言葉に反して、どこか気恥ずかしそうな笑みを浮かべている。 「ところでおキヌちゃん、なんで幽体離脱してんのよ」 「……? いったいなにを言ってるんですか、美神さん」 「いやいや。なにって、そのままなんだけど」 「…………?」 「幽体離脱するのはいいけど、体どっかに置いてきちゃダメでしょ」 「………………?」 首を傾げすぎて、おキヌさんの首の角度が大変なことになっていた。 そのそぶりに、美神さんもまた困惑を露わにする。 もしやと思った。 こういう、認識のズレは知っている。 美神さんとおキヌさんも、お互いに『認識している現在』が違っているのかもしれない。 指摘するべきか否か。 いま、『参加者の時間軸が異なっている』可能性に触れてしまっていいのだろうか。 迷う僕とは違い、朧さんは迷わなかった。 「なるほど。お二人の時間軸も異なっているようですね」 なんの躊躇もなく、あっさりと言ってのける。 意図せず口が半開きになった僕の前で、美神さんは「あーあーあーあー」と四回ばかり声に出したのち深く頷く。 「そういうことね」 「……えっ?」 未だよく分かっていないらしいおキヌさんをよそに、美神さんは一人納得したように呟く。 「なるほどなるほど。 通りでジャンとちょっと話が合わなかったはずだわ。うむうむ」 「どういうことですか?」 「うーん、これおキヌちゃんに言っていいのかしら。 でもまあ幽霊のおキヌちゃんなら大丈夫か。うん、言っちゃおう」 美神さんも迷わなかった。 「『私の時間軸』だと、おキヌちゃんって身体手に入れてるのよね」 「はあ。でも私、三百年前に死んでるんですけど……」 「まあいろいろあったのよ」 「いろいろあったんですか」 「そうそう」 「いろいろですかー」 僕が『時間軸のズレについて触れないほうがいいかもしれない』と思った理由は、こうしてあっさりと乗り越えられた。 『言ってはいけない未来もある』と思ったのだが、完全に無視されていた。 一瞬躊躇したのを見るに、美神さんも気付いていたはずなのに…… 「っていうことは、キース・ブラックも美神さんのような能力を持っているのでしょうか」 「ほぼ間違いなくね。 他人をつれてこれる辺り、私のより使い勝手いいんじゃないかしら」 「むむむ、強敵ですね」 おキヌさんのほうも、大して気にしていないらしい。 身体手に入れるって、それ相当のことだと思うんだけどなあ…… いや、まあ置いとこう。 すんなり片づいたのなら、それに越したことはない。 なにより、いまの話題に乗っておきたい。 「あの美神さん、おキヌさんから話は聞いてます。 アナタには時間移動能力がある――とのことですが、本当でしょうか」 「ん、まあ……ね」 いままでの会話ですでに明らかだったが、あえて尋ねておいただけにすぎない。 にもかかわらず、帰ってきた返事は曖昧なものだった。 「雷くらいのエネルギーがあれば発動できるようですが、それでこの殺し合いをなかったことにするのは可能ですか?」 「無理」 またしても、美神さんは迷わなかった。 おキヌさんが目を見開いているが、僕には大した驚きがない。 朧さんも同じだったようで、平然としている。 「と、いうと」 「まず、ここに張られている結界。 地図の端だけじゃなく上も、そして下まで張られてるでしょうね。 ちょうどいまこのホウキで上昇して確認してきたんだけど、そっちから来たってことはアンタたちも見てきたの?」 「はい」 「張られてたでしょ? なんか、目には見えない壁みたいのが」 「……はい」 「それは、三次元的に物体を阻むだけの結界じゃないのよ。 四次元的、つまり時空移動さえも完全に遮ってしまっている。 だから――」 一拍置いて、美神さんは断言する。 「無理」 おキヌさんは驚き、僕と朧さんは驚かない。 「その結界を解除すれば、どうにかなりませんか?」 「うーん、それ考えてたんだけどね。まあ無理。 ここを出なきゃいけないから、結界の解除は必須だと思うのよ。 でもそれで『時空移動できるようになった! 全部なかったことにしよう!』は無理、少なくとも私には。 私は時空移動能力を受け継いでいるけれど、決して完全に使いこなせるワケじゃないのよね。 どれだけ膨大なエネルギーを集められたとしても、ちょうど過去のキース・ブラックが殺し合いを始めようとしているところに移動してー……ってのは無理」 「そう、ですか……」 驚きはない。 そう、ない。 ないはずなのに……勝手にため息がこぼれた。 多少なりとも、期待してしまっていたのだろう。 けれど、それでも――大人しくかっこつけて諦めてなんかやらない。 「では結界について、教えていただけませんか? 僕は『父親の方針』で様々な分野の知識を『まあまあ』持っているんですが、心霊関係についてはまったく知らないんです」 問いかけると、美神さんは目を丸くした。 「もっと凹むと思ってたんだけど、結構タフね。 うちの横島くんだったら、間違いなく二週は引きずるんだけど」 「そんな余裕、ありませんよ」 そう、落ち込んでいる余裕はない。頭を切り替える。 僕は普通の子どもにすぎないんだから、その分抗うんだ。 全部なかったことにするのが無理なら、いまできることをやってやる――! 「落ち込んでたら、キース・ブラックの思うつぼだもの。 一番の敵は、結界でも首輪でも殺し合いに乗った参加者でもない。 諦めようとする自分自身の弱い考えと、なにより戦わなきゃいけないんだ」 美神さんの目を見て言い切ってから、勢いよく頭を下げる。 「だから――覆っている結界を取り払う方法を教えてください」 GSとして働いている美神さんにとって、結界の知識はそうそう明かせぬものだろう。 おキヌさんの言葉通り利益優先主義であるのならば、なおさらである。 ゆえに頭を下げる。 それでもダメならば、他のなにかを考える。 そう思っていると、美神の返事より先にエンジン音が響いた。 「……ッ!?」 反射的に顔を上げると、美神さんとおキヌさんもそちらを見つめている。 朧さんだけが一人、そちらに視線をやらずにあらぬ方向を眺めている。 「警戒する必要はないですよ。 迫ってきている男が殺し合いに乗っている可能性はありません。 苛立ちこそ溢れ出していますが、殺気は漂っていませんし――それに」 エンジン音は、僕らから少し離れたところに止まった。 原付を止めると、乗っていた男性がゆっくりと歩み寄ってくる。 「なにより、彼は最速のスプリガン――ジャン・ジャックモンドですから」 長く伸ばした金色の髪を風になびかせて、ジャンさんは朧さんに鋭い視線を飛ばす。 「おいおい、なにバラしてんだよ。一応機密事項だろうが、そいつは」 「ふふ。元より、アナタは知りたければ知れというスタンスではないですか」 「はッ! 俺たちに軽々しく手ェ出したら終いだって、バカどもに知らしめてやるだけだろ」 「現状、手を出されていますけどね」 「だから分からせてやるんだろうが、あのしたり顔のキザ野郎によ」 「そう上手く行っていないようですが」 「ちッ。久々に会ったってのに見透かしたみてえな口調は変わんねーな、朧。 でもその通りさ。なにも間違っちゃいねー、ボコられっぱなしだ。だが終わっちゃいねー。生きてる以上は、あの野郎に分からせてやる。 アンタだって、言われるがままってワケじゃねーんだろ。もしそうなら、こんなガキたちがアンタと一緒にいられるはずがねえ」 言いながら、ジャンさんは朧さんから視線を外す。 辺りを見渡そうとして――ある一点でオブジェのように静止した。 「…………」 そちらでは、美神さんがおキヌさんの背後に身を隠していた。 けれどおキヌさんは幽霊であるので、まあ、うん。 美神さんの姿は、見事に透けて見えている。 それはもう完全に。まったくもって丸見えだった。 「…………」 「…………」 「…………よォ、しばらくぶりだな」 「…………あっ、バレた」 なにがあったのかは定かではないが、なにかしらがあったのが明白だった。 にもかかわらず、美神さんは素知らぬ顔で切り出す。 「悪いとは思うけど、間違ってたとは思ってないわよ。 あの状況で残ってても話がこじれるだけだったし、面倒ごとに巻き込まれるのも好きじゃないもの」 「み、美神さぁん! なにしでしたんですかあ!?」 「なにしたっていうか、なにもしなかったというか」 おどおどするおキヌさんをよそに、美神さんはしれっとしている。 少しばかり間を空けて、ジャンさんは静かに答えた。 「別に責める気もねーよ。 あんときは頭に来て怒鳴ったけど、終わったいまとなっちゃアレで正解だ」 反論を待っていたのだろうか。 意外そうに、美神さんの眉が揺れ動く。 「なによ、それ。 私にとって正解だったけど、アンタにとっちゃ違うでしょ? 怒ればいいじゃない」 「…………はッ。ンなこたねーよ。 お前が残ってたところで、あそこに転がる死体がもう一つ増えてただけだ。 あのあといろいろあって丸く収まったんだけどな、その直後に気味の悪い動く人形が現れて――」 ジャンさんは、自嘲気味に口角を吊り上げる。 「俺以外、全員殺されたんだからな」 静寂が辺りを包む。 誰一人として口を開かない。 『気味の悪い動く人形』――心当たりがある、ありすぎる。 「その人形って言うのは……」 尋ねようとして口籠もる。 特徴を聞いたところで、どうなるというのか。 それが誰なのかを知ったとして、なにになるというのか。 「安心しろよ。破片になるまでブッ壊してやった」 ぽん――と、頭を軽く叩かれる。 その手はひどく傷ついていた。 「なんだよ、美神。らしくねえじゃねえか」 「……なんでもないわよ」 「もし戻ってきたところで意味なかったって言ってんだから、気にしてんじゃねえよ」 「……別に。気になんかしてないわよ」 「そうかい」 言葉に反して、美神さんは下唇を噛み締めていた。 その理由を問うことなどできるはずもない。 「んで朧、このガキと霊はなんなんだ? こんだけやられたあとなんでな、役に立たねえヤツとつるむ気はねーぜ」 「見た目で判断するのはよくないですよ。その少年は伸びる余地があります」 「将来の話じゃなくて、いま役立ってもらいてえんだよ。 じゃなきゃ、こんだけの首輪をくれたヤツらに示しがつかねえだろ」 ジャンさんが開いたリュックサックには、いくつもの首輪が入っていた。 「そういうことでしたら問題ありません。 戦闘は発展途上ですが、工学知識のほうはすでに完成されていますよ」 「あァ?」 露骨に眉をひそめるジャンさんに、僕は向き直る。 僕自身は普通の子どもだが、僕の記憶は普通ではない。 その自負は――ある。 「錬金術と工学の知識には自信があります」 「…………本当か?」 「本当です。 現状、首輪を眺めてもなにも掴めていませんが……それでも、僕の知識がたしかなものであるという確信はあります」 何せ、その知識はフェイスレスのものであるのだから。 しろがねを操り、自動人形を操り、他にも様々な人を操った――諸悪の根元のものであるのだから。 その知識が大したことないのならば、こうはなっていない。 普通の子どもである僕が『ゲェム』を突破し続けているのは、アイツの記憶があるからなんだ。 「そうかよ。だったら役に立ってもらうぜ」 「ただ、工具や作業を行うスペースがなければ、どうにもなりませんが……」 「工具なら俺が持ってる。スペースは……まあちょっと行けばあんだろ」 言いながら、ジャンさんは原付を蔵王にしまい込む。 同行してくれるらしい。 「で、お前なんて言うんだよ」 「あっ、はい、僕は――」 そういえば、まだ名乗っていなかった。 若干しどろもどろになりつつ、ゆっくりと告げる。 「才賀勝と言います」 次の瞬間、視界が反転した。 「…………あれ?」 なにが起こったのか。 分からない。なにも、分からない。 名前を言ったと同時に、奇妙な浮遊感を味わい――いつの間にか目の前に土がある。 立ち上がろうにも立ち上がることができない。 「勝くん!」 心配そうなおキヌさんの声。 振り向くこともまたできなかった。 背中に押さえつけられている圧迫感がある。 「ジャン、アナタはなにをしているのですか?」 朧さんの声は、これまで聞いたことがない冷えきったものだった。 首が動かないため、僕の視線は地面に向けられたままである。 地上にある僕の影の上には、もう一つ影が重なっていた。 そのもう一つの影は、僅かに結われた長い髪を揺らしている。 朧さんと美神さんも髪は長いが結っておらず、おキヌさんに至っては『影ができない』。 必然――僕の上に馬乗りになっているのは、ジャンさんということになる。 「落ち着けよ。 この俺がキース・ブラックの言いなりになってるワケねーだろ」 軽口を叩くような口調とは対照的に、僕の身体にかかる力は強くなった。 腕どころか指一本動かない。 これでは『分解』で逃れることも不可能だ。 「ただ、な。 『才賀』ってヤツに痛い目見せられたあとだからな。 疑り深くなるのは仕方ねえだろ。甘いことしてらんねえって痛感したんだしな」 才賀。 その姓を持つ参加者は、僕以外に三人。 しろがねと、おじいちゃんと、アンジェリーナさん。 その誰もが殺し合いに乗るはずがない。断言できる。 「才賀正二ってジジィ知ってるか? 俺と美神は、そいつに襲われたんだけどよ」 バカな。 そんなはずがない。 おじいちゃんに限って、それはない。 しろがねのために生きてきたおじいちゃんでも、しろがねのために誰かを殺すなんて…… ――ありえない、のか? 僕がいる。 ギイさんがいる。 アンジェリーナさんがいる。 だから、いくらしろがねのためでも…… ――本当に? 「ジャン、血縁関係だからといって必ずしも同じ思想とは限らないというのは、アナタがよく知っているはずですよ」 「うるせえな。その通りだけど、違うとも限らねえだろ」 朧さんとジャンさんがなにか言っているが、ほとんど耳に入らない。 僕のなかには、おじいちゃんの記憶がある。 おじいちゃんがしろがねのために、なにをしてきたのか。 しろがね一人のために、どれだけの犠牲を生んできたのか。 知っている。よく、知っている。 ――ありえないと断言できるのか? 「もちろん……僕のおじいちゃんなんだから、よく知ってますよ」 平静を装いつつ返答すると、ジャンさんは大げさなため息を吐いた。 「まァ、この件についてはいろいろ不可解な点も多いからな。 自分の親戚が手ぇ染めたかもしれねー話とか聞きたくねーかもしんねーけど、聞いてもらうぜ」 「…………構いません」 たしかに聞きたくはない。 けど、聞かねばならない。 聞かないワケには――いかない。 ◇ ◇ ◇ 「――ってことだ」 ジャンさんの話が終わる。 終始押さえつけられていたせいで身体が痛むが、そんなことはどうでもいい。 「そういう……こと、ですか」 ジャンさんのいう『不可解』は、僕にとって『不可解』でもなんでもなかった。 つまり――いったいなにがあったのか、僕はすべてを理解した。 おそらく、間違いはない。 「断言します、ジャンさん。 最初に遭遇した才賀正二と、寺の前で会ったという才賀正二は別人です」 「――ッ、やっぱりか……!」 「寺の前にいた才賀正二が、僕のおじいちゃん・才賀正二であり――」 僅かに迷う。 が、言わねばならない。 隠しておけば信用が薄れるし、そうなればアイツの被害者が増えかねない。 「最初に遭遇した才賀正二は、僕の父・才賀貞義です。 名簿には『フェイスレス』という名で記載されている男です」 なにもかも、アイツの仕業だ。 他人に成り済ますことができるアイツならば可能だし、アイツならばやりかねない。 ここにおじいちゃんがいるのならば、むしろ率先してやるだろう。 引っ掻き回しに引っ掻き回して――そして、結果的におじいちゃんを死に追いやった。 アイツの思惑はたしかに実っていた。 知らない間に歯を噛み締めていたらしく、口のなかに血の味が染みてくる。 「……信じろってのかよ、それを」 話し終えた僕に、ジャンさんは冷たく言い放つ。 当然だろう。それはそうだ。分かり切っている。 誰が信用できるものか。こんな話を。こんな戯言を。 アレほどまでの知識を持ちながら、ただ恨みで引っ掻き回すなど。 仮初の姿とはいえ親子として接し続けた親友を、あっさりと裏切るなど。 そんな輩がいてたまるか。あっさり受け入れられてたまるものか。 「信じてください。 フェイスレスならやりますよ、間違いなく。 迷わず断言できます、だって僕のなかには……」 だから、僕は鬼札(ジョーカー)を切る。 「その、フェイスレスの記憶があるんですから。 こういう状況において、あの男がそういう行動に出ることなんて――お見通しですよ」 身体にかかる力が強くなる。 予想していた。 予想していたけど、やっぱり痛い。 痛いけど、言葉を続ける。 「僕はアイツの『器』になるべく、作られた子どもなんですよ。 身体を乗っ取り新しい身体を得るために、僕は生み出された。 僕という器に、アイツ自身を『転送(ダウンロード)』するためにッ」 ぎりぎりと、身体の軋む音がする。 痛い。本当に痛い。涙が出そうだ。 でも泣かない。ここは泣くべきときじゃない。 「そんな大それたことが簡単にできるワケがない! ダウンロードは三つ段階を踏まねばならないんだ! 第一段階で『記憶』を、第二段階で『人格』をダウンロードさせ、第三段階で『ミクスチャー』させて完了だ! でも僕は、おじいちゃんの手によってダウンロードは第一段階で済み――人格は僕自身のまま、アイツの記憶だけを手に入れたんだッ!!」 笑う。 おじいちゃんのおかげで、アイツの思惑は覆されたんだ。 だから笑う。笑ってやる。笑って語ってやる。 「…………証拠になるもんでもあんのかよ」 ほんの少し、身体にかかる力が弱くなる。 未だ信じ切れないという声色だ。 「あるよ」 ――鬼札(ジョーカー)は二枚ある。 「僕のデイパックの底に、二つ蔵王がある。 それを開けば分かるよ。全部本当なのがね」 「美神!」 「私ぃ!? 関係ないじゃない!」 「この話に信憑性があるかねーかで、あのジジィに対する礼も変わるだろ。 もし本当だったら、さんざん弄ばれたってのに、現状全然仕返しできずに掌の上にいたことになるぜ」 「まあ……ねえ」 渋々といった様子で、美神さんが近付いてくる。 僕とジャンさんの間にあるため苦心していた様子だが、どうにか蔵王を取り出したらしい。 「なによこれ」 ばさりと書物の落ちる音がする。 そちらを最初に出してくれたのなら、話は早い。 「そのファイルの十六章と十七章を開いてください。 できれば全員で目を通してくれると、話が早くて助かります。 章題は『しろがね』と『勝』です。ページ数は――」 時間をかけて思い出すまでもない。 脳ミソに刻み込まれている。 忘れられるものか。 時間が経つにつれて、みんなが言葉を失っていくのが分かる。 しようがないことだ。 ――――愛人との間に子どもを作り、不要となった様々な存在を処分するための『餌』とする。 そんな内容が記されているのだから。 「読み終わったら、もう一つの蔵王から中身を出してください」 頃合いを見計らって頼むと、ちょうどいいタイミングだったらしい。 美神さんが取り出した蓄音機を地面に置いくと、それは勝手に起動する。 『記憶の伝達が完全でなかったときのため、私はこの部屋を残しておくことにする』 この蓄音機に残された内容もまた忘れられない。 『【いまは勝】よ、この録音を聞き、私が誰か認識できるか』 淡々と再生されていく。 僕がアイツに用意された器に過ぎないという事実が、無感情に淡々と。 たっぷり五分ほど経って、蓄音機は『思い出せ』以外の言葉を発しなくなる。 そこで、美神さんは蓄音機を蹴り飛ばす。 僕がかつてやったように、完膚なきまでに破壊した。 僕の身体に籠められた力も、ほどなくして弱くなった。 「…………悪かったな」 「構いませんよ。そう簡単に信じてもらえるとは思ってませんでしたから」 立ち上がって関節を伸ばす。 身体の節々が痛むが、ゲェムが終わったときほどじゃない。 「一つ、訊かせてくれ。 どうしてあんなこと明かしたんだ。あんなもん……聞いて欲しくなんか、ねえだろ」 おかしな質問だった。 答えなど分かり切っている。 「信用してもらうためなら、なんだってしますよ。 聞いて欲しくないことを教えるくらい、大したことじゃない。 そんなことを躊躇している余裕なんかないんです。 『これはできない』だとか、『他の方法を考える』だとか、僕にはそんなこと言ってられないんです。 ここには朧さんやジャンさんみたいな強い人がいるし、美神さんみたいな専門知識を持っている人もいるし、フェイスレスはそんな人たちを手玉に取っているけれど――」 呼気を整えて、はっきりと断言する。 「僕は、普通の子どもですから」 はッ――と短く笑い、ジャンさんは髪を掻き揚げた。 「躊躇しねえ、か。 同じ考えだ。俺も――そんなことする気はねえからな」 【A-4 東部/一日目 昼】 【才賀勝】 [時間軸]:黒賀村である程度過ごしてから。 [状態]:健康 [装備]:物干し竿@YAIBA [道具]:首輪×2(おキヌ、朧)、貞義のファイル@からくりサーカス、基本支給品一式 [基本方針]:殺し合いを止める。 【おキヌ】 [時間軸]:本編にて生き返る前(美神令子の時間移動能力を知っている時期) [状態]:不健康、首輪解除 [装備]:無し [道具]:マーラの銀鏡@スプリガン、ランダム支給品0~1、基本支給品一式 [基本方針]:勝についていく。 ※幽霊です。『本人が触れたいと思うもの』以外はすり抜けます。 【朧】 [時間軸]:不明 [状態]:健康 [装備]:無し [道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3、水晶髑髏@スプリガン、中性子爆弾@ARMS [基本方針]:殺し合いに乗る気はない。 【美神令子】 [時間軸]:ルシオラを敵だと認識している時期。 [状態]:疲労(小)、雷撃のダメージ、すり傷。 [装備]:青き稲妻@GS美神極楽大作戦!! [道具]:ヴァジュラ@スプリガン、鍋@現実、土手鍋(説明書未読)@金剛番長、基本支給品一式、首輪(ナゾナゾ博士) [基本方針]:殺し合いには乗らない。脱出するべく首輪を調べる。アシュタロスには関わらない。 ※ジャンと少しばかり情報を交換しました。 ※植木、ユーゴーと情報をテレパスで共有しました。 【ジャン・ジャックモンド】 [時間軸]:少なくともボー死亡後。 [状態]:疲労(大) [装備]:なし [道具]:基本支給品一式×5、首輪×5(剛力、暁、パウルマン、アンゼルムス、正二) 門構@烈火の炎、翠龍晶@うしおととら、閻水@烈火の炎、対AMスーツ用特殊ライフル(弾丸:11)@スプリガン、拡声機@現実、工具@からくりサーカス あるるかん@からくりサーカス、カロリーメイト9000キロカロリー分(一箱消費)@現実、H○NDA・スーパーカブ110@現実、不明支給品1~5(確認済み) [基本方針]:殺し合いには乗らない。殺し合いに乗ったと思しき相手は、躊躇せず殺す。高槻涼に会う。 ※美神と少しばかり情報を交換しました。 【支給品紹介】 【工具一式@からくりサーカス】 白雪宮拳(剛力番長)に支給された。 フェイスレスがマリオネットや自動人形を制作する際に用いていたもの。 【貞義のファイル@からくりサーカス】 才賀勝に支給された。 才賀貞義(フェイスレス)が才賀家に残したファイルであり、彼の思惑がある程度記されている。 【貞義の遺した蓄音機@からくりサーカス】 才賀勝に支給された。 才賀貞義(フェイスレス)が才賀家地下に遺した蓄音機である。 『転送(ダウンロード)』が成功しても効果が表れない際の保険として、ダウンロード後の自分に『現在は才賀勝ではない』と自覚させるべく遺した。 ◇ ◇ ◇ 「あーらら、まーた勝くんの勝ちか。 これで、またしても『ゲェム』の連敗記録は続く――と。 「あんなフツーのガキに負けるなんて考えられない? やはり自動人形は旧式に過ぎない、Oの時代が来ている? ふ、ふふふふ……言うなァ。実際、君たちだって負け続きのクセに。 「それに、才賀勝がフツーの子どもだって? フツー、フツー、フツー、フツー……ねえ。 だいたいさァ、そもそもの話として、その『フツー』ってのはなんなのさ。 音信フツーってことかい? 一方的にだけど僕は彼と連絡を取れるし、彼の姿をこうしてリアルタイムで眺められるじゃないか。 それとも、なんだい? 文字通りに『通らない』ってことかい? 「…………この言葉遊びこそ、まさしく通らないな。 「ともかく――彼を普通のガキだと思っているのなら、それこそ君らに勝ち目はないよーん。 「勝くんは、僕の知識を持ってるんだから。 自動人形やOの構造を知っているからこそ、分解するポイントも知っている。 それに、頭だってメチャクチャいいんだぜえ。 僕には及ばないと言っても、勝くんの持つ知識にはないはずの仕掛けだって弱点をズバッと見抜いちゃう。 正二から受け継いだ『見浦流』も、自動人形殺しの日本刀『雷迅』と組み合わせることで真価を発揮している。 アレに斬られちゃあ自動人形はおしまいだし、Oだって油断していられない。 正二の血液――つまり生命の水を飲んでいるから、完全なしろがねほどじゃなくても身体能力や治癒力だって向上してるしね。 さらに、彼が使っている三種のマリオネットは、この僕が僕自身のために残した代物だ。 どれもかなりクセがあるけれど、その分だけ使いこなしたときのポテンシャルは図抜けている――そして彼は自在に操れるようになってきている。 「つまり――才賀勝は『普通の子ども』なんかじゃない」 「分かっている? はッ! ハハハハハッ! 「あー……笑わせるなよ。そういう不意打ちはズルだぜ。 君たちは、断じて分かっていない。なーんにも理解していない。 僕の言わんとしていることを、自動人形もOも揃ってこれっぽっちも読み取れていない。 「勝くんは『普通の子ども』ではないが、しかし――自分を『普通の子ども』と思っているのさ。 「よくよく考えてみろよ。 僕と正二の記憶に、けた外れの頭脳、人形繰りに剣術、さらには百八十億もの莫大な遺産。 それだけたくさんのものを持っているのに、普通――それこそ普通は、だ。 普通、自分をただのガキだと思えるか? 思えるはずがないんだよ。それこそ『普通』なら。 「でも、勝は違う。 自分を『普通の子ども』と見て、その上で油断をしない。 決して思い上がらずに、むしろ自分自身の力を過小評価している。 九割九分九厘勝てる状況でも、残りの一厘を考慮に入れることを忘れない。 「幼少期、豊かな生活をできなかったせいかもしれない。 出生の件もあり、イジメられていたせいかもしれない。 母親と祖父を早くに失ってしまったせいかもしれない。 自分が単なる器に過ぎないと知ったせいかもしれない。 僕と正二の記憶を手にしてしまったせいかもしれない。 あるいは――加藤鳴海と死に別れたせいかもしれない。 「いかなる場面においても、『もう大丈夫』だとか『勝ちは決まった』だとかそんなふうに安心してしまうことがない。 「自分を過小評価しているからこそ、多少の傷では動じない。 自分を過小評価しているからこそ、敗色濃厚でも揺らがない。 自分を過小評価しているからこそ、血みどろになろうと考える。 自分を過小評価しているからこそ、命以外のすべてを投げ出せる。 自分を過小評価しているからこそ、奇策にだって出ることができる。 自分を過小評価しているからこそ、所持する手札をすべて使い果たす。 自分を過小評価しているからこそ、恥も外聞もなく勝利に貪欲になれる。 自分を過小評価しているからこそ、自分のなかの恐怖から目を逸らさない。 自分を過小評価しているからこそ、連日連夜アレだけのトレーニングに励む。 自分を過小評価しているからこそ、自分を過大評価している君たちに――勝つ。 「これが、ヤツのもっとも恐ろしいところだ。 注意すべき点は、僕の知識ではない。正二の知識でもない。 生命の水で得た身体能力や治癒力でも、並外れた頭脳でも、類稀なる観察力でも、正二が遺した日本刀でも、僕が作った三種のマリオネットでもない。 「自分自身を『普通の子ども』と見なしている――――それこそが、才賀勝最大の武器なのさ。 「ま、君たちには分からないんだろうけどね。 いいんだよ、それで。むしろ余計なこと考えるなよ。 こんなものはゲェムなんだから、盛大にやられたほうが盛り上がるだろ? だいたい勝くんは僕のボディになるんだから、ほんとに殺してもらっちゃ困るんだよねえ」 【備考】 ※A-4東部に、貞義の遺した蓄音機@からくりサーカスが壊れた状態で転がっています。 投下順で読む 前へ:ワンダーランド2 戻る 次へ:「お前は弱いな」 時系列順で読む 前へ:ワンダーランド2 戻る 次へ:[[]] キャラを追って読む 100:100話到達記念企画、首輪の謎に迫る! おキヌ : 朧 才賀勝 102:明暗 ジャン・ジャックモンド 107:能力者CO/価値観の不一致 美神令子 ▲
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欧州評議会:18歳未満の子ども・若者の参加についての閣僚委員会勧告 18歳未満の子ども・若者の参加についての加盟国に対する閣僚委員会勧告CM/Rec(2012)2 2012年3月28日、第1138回閣僚代理会合において閣僚委員会が採択。 原文:英語(PDF) 日本語訳:平野裕二 活用のためのツール子ども参加アセスメントツール(2016年3月;概要)/チャイルドフレンドリー版概要/効果測定指標の概要 耳を傾ける-行動する-変革する:欧州評議会子ども参加ハンドブック――子どものために/子どもとともに働く専門家のために(2020年10月;概要) 目次 セクションI-定義 セクションII-原則 セクションIII-措置参加権の保護 参加の促進および参加に関する情報提供 参加のための空間の創設 閣僚委員会は、閣僚委員会は、欧州評議会規程第15条bの条項に基づき、 欧州評議会の目的が、とくに共通規則の採択によって加盟国間のいっそうの統合を達成することにあることを考慮し、 子どもの権利を保護する、拘束力のある既存の欧州文書および国際文書ならびにとくに以下の文書の効果的実施を確保する必要性を考慮し、 人権および基本的自由の保護に関する欧州条約(ETS No. 5) 子どもの権利の行使に関する欧州条約(ETS No. 160) 改正欧州社会憲章(ETS No. 163) 性的搾取および性的虐待からの子どもの保護に関する欧州評議会条約(CETS No. 201) 子どもの養子縁組に関する欧州条約(改正)(CETS No. 202) 子どもの権利に関する国際連合条約(UNCRC) 障害のある人の権利に関する国際連合条約 以下のことを顧慮し、 子どもの権利および若者政策の分野における欧州評議会の目的 第3回欧州評議会国家元首・政府首班サミット(ワルシャワ、2005年)およびそこで表明されたUNCRCの義務を全面的に遵守する旨の誓約 欧州評議会の若者政策についての加盟国に対する閣僚委員会決議CM/Res(2008)23 1985年から2008年にかけて8回開催された欧州評議会若者担当閣僚会議の関連の結論 欧州評議会のプログラム「子どもたちのために、子どもたちとともに構築する欧州」および子ども参加の促進に関する戦略的重点 欧州評議会の閣僚委員会、議員会議および地方自治体会議が採択した子ども・若者の参加に関連する勧告およびとくに以下の勧告を想起し、 入所施設で暮らす子どもの権利に関する勧告(2005)5 若者のシティズンシップおよび公的生活への参加に関する勧告(2006)14 ポジティブな子育ての支援政策に関する勧告(2006)19 子どもを暴力から保護するための統合的国家戦略に関する勧告CM/Rec(2009)10 民主的シティズンシップ教育および人権教育に関する欧州評議会憲章についての勧告CM/Rec(2010)7 子どもにやさしい司法に関する欧州評議会閣僚委員会指針(2010年) 「自己に影響を与える決定への子どもの参加の促進」に関する議員会議勧告1864(2009) 「地方生活への若者の参加」に関する改正欧州憲章についての欧州評議会地方自治体会議勧告128 (2003) UNCRCおよびとくに以下のように規定する第12条を想起し、 「1.締約国は、自己の見解をまとめる力のある子どもに対して、その子どもに影響を与えるすべての事柄について自由に自己の見解を表明する権利を保障する。その際、子どもの見解が、その年齢および成熟に従い、正当に重視される。 2.この目的のため、子どもは、とくに、国内法の手続規則と一致する方法で、自己に影響を与えるいかなる司法的および行政的手続においても、直接にまたは代理人もしくは適当な団体を通じて聴聞される機会を与えられる。」[1] [1] 国連・子どもの権利委員会(2009)、意見を聴かれる子どもの権利に関する一般的意見12号も参照。 以下のことを確信し、 意見を聴かれ、かつ真剣に受けとめられる権利は、すべての子ども・若者の人間の尊厳および健康的な発達にとって基本的重要性を有すること 子ども・若者の声に耳を傾け、かつその意見を年齢および成熟度にしたがって正当に重視することは、自己に影響を与えるすべての事柄において子ども・若者の最善の利益が第一次的に考慮される権利ならびに暴力、虐待、ネグレクトおよび不当な取扱いから保護される権利の効果的実施にとって必要であること 子ども・若者が有している能力および子ども・若者が行ないうる貢献は、欧州社会における人権、民主主義および社会的結束を強化するためのかけがえのない資源であること 加盟国政府が以下の措置をとるよう勧告する。 1.意見を聴かれる権利、真剣に受けとめられる権利および自己に影響を与えるすべての事柄に関する意思決定に参加する権利をすべての子ども・若者が行使でき、かつその意見が年齢および成熟度にしたがって正当に重視されることを確保すること。 2.地方、広域行政圏、国および欧州の各レベルにおけるならびに市民社会との、この勧告の実施に関する知識および望ましい実践の交流を奨励すること。 3.この勧告の付属文書委掲げられた原則および措置を、自国の立法、政策および実務で考慮すること。 4.この勧告(付属文書を含む)が翻訳され、かつ、子どもおよび若者にやさしい広報手段を活用しながら、子ども・若者も含めて可能なかぎり広く普及されることを確保すること。 事務局長に対し、本機関の基準設定、協力および評価活動への子ども・若者の参加を奨励すること、ならびに、この勧告を欧州評議会の関連の運営委員会、諮問機関および協議機関ならびに条約機構および監視機構に送達し、それぞれの活動においてこの勧告を考慮するよう慫慂することを指示する。 事務局長に対し、この勧告を、欧州文化条約(ETS No. 18)の締約国であって欧州評議会加盟国ではないすべての国に送達することを指示する。 付属文書 セクションI-定義 この勧告の適用上、 「子ども・若者」とは、18歳未満のすべての者をいう。[2] 「参加」とは、個人および個人の集団が、自己の意見を自由に表明し、意見を聴かれ、かつ自己に影響を与える意思決定に貢献する権利、手段、空間および機会を有し、かつ必要な場合には支援を受けられることをいう。その際、これらの者が表明した意見はその年齢および成熟度にしたがって正当に重視されるものとする。 [2] 18歳は、欧州評議会加盟国における通常の成人年齢である。UNCRCは18歳未満の人々を子どもと定義しているものの、日常的言説では、「若者」という言葉は12歳または13歳よりも年長の人々を指して用いられることがしばしばある。また、13~17歳の人々は「子ども」ではなく「若者」と自認しているのが一般的であり、そのように呼んでほしいと考えていることが多い。統計の運用上は、国連は15~24歳の人々を若者と定義している。この定義は、UNCRCおよび他の関連の国際条約で定められた子どもの法的定義を損なうものではない。 セクションII:原則 自己の意見を自由に表明する子どもまたは若者の権利に、年齢制限はない。就学前の年齢層、学齢層および正規の教育を離れた者を含むすべての子ども・若者は、自己に影響を与えるすべての事柄に関して意見を聴かれる権利を有し、かつその意見は年齢および成熟度にしたがって正当に重視される。 子ども・若者の参加権は、人種、民族、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的もしくはその他の意見、国民的もしくは社会的出身、財産、障害、出生、性的指向またはその他の地位のようないかなる事由に基づく差別もなく、適用される。 子ども・若者の発達しつつある能力という概念が考慮されなければならない。子ども・若者の能力が高まるにつれて、大人は、自己に影響を与える事柄に影響力を及ぼす権利をいっそう享受するよう、子ども・若者に対して奨励するべきである。 より少ない機会しか有していない子ども・若者(脆弱な状況に置かれているまたは複合差別を含む差別の影響を受けている子ども・若者を含む)の参加を可能にするため、特段の努力が行なわれるべきである。 親・養育者は子どもの養育および発達について第一義的責任を有しており、したがって、子どもの参加権を出生時から擁護しかつ醸成するうえで基本的役割を果たす。 意味のある形でかつ真正に参加できるようにするため、子ども・若者に対し、その年齢および状況にふさわしいすべての関連情報およびセルフアドボカシーのための十分な支援が提供されるべきである。 参加が効果的で、意味のある、かつ持続可能なものとなるためには、参加が1回かぎりの出来事ではなくプロセスとして理解されなければならず、かつ、時間および資源に関する継続的コミットメントが必要とされる。 自己の意見を自由に表明する権利を行使する子ども・若者は、脅迫、報復、被害化およびプライバシー権の侵害を含む危害から保護されなければならない。 子ども・若者は常に、その参加の範囲(子ども・若者の関与の限界、参加によって生じることが期待される成果および実際の成果、ならびに、子ども・若者の意見が最終的にどのように考慮されたかを含む)について十分に知らされているべきである。 UNCRC第12条に関する一般的意見にしたがい、子ども・若者の意見が聴かれるすべてのプロセスは、透明かつ情報が豊かであり、任意であり、敬意があり、子どもたちの生活に関連しており、子どもにやさしい環境で進められ、インクルーシブ(非差別的)であり、訓練による支援があり、安全でありかつリスクへの配慮がなされ、かつ説明責任が果たされるようなものであるべきである。加盟国は、この勧告を実施するためのすべての立法上その他の措置にこれらの要件を統合するよう求められる。 セクションIII:措置 参加権の保護 子どもまたは若者の参加権を保護するため、加盟国は以下の措置をとるべきである。 子ども・若者の参加権を可能なかぎり最大限に法的に保護すること(憲法および法令における保護を含む)。 現行の法律、政策および実務において子ども・若者の意見がどの程度聴かれかつ真剣に受けとめられたかを定期的に検証するとともに、これらの検証において子ども・若者自身の評価が正当に重視されることを確保すること。 子ども・若者に対し、苦情申立てを行なうための子どもにやさしい手段ならびに司法手続および行政手続を通じた効果的な保障措置および救済措置(これらの措置を利用する際の援助および支援へのアクセスを含む)を提供するとともに、子ども・若者がこれらの機構を利用できることを確保すること。 権利侵害の被害をとくに受けやすい子ども・若者(親から分離されている者、マイノリティ集団出身者、障害のある者ならびに保健ケア施設および監護施設または矯正教育施設で暮らしている者を含む)を対象とする安全確保措置が設けられていることを確保すること。 自己に影響を与えるすべての事柄について意見を聴かれる子どもまたは若者の権利を制限する法律上の規定または実務慣行を見直し、かつ取り除くよう努めること。 子ども・若者の参加の強化に対して調整のとれたアプローチをとり、かつ意思決定・政策立案体制において参加が主流化されることを確保すること。 子どもの権利オンブズパーソン/コミッショナーのような適切な独立の人権機関がまだ存在していない場合、パリ原則 [3] にしたがってこのような機関を設置すること。 公式な場面および非公式な場面の両方で子ども・若者の参加を支援するため、十分な財源の配分および有能な人材の確保を図ること。 [3] 1993年12月29日の国連総会決議48/134。 参加の促進および参加に関する情報提供 子ども・若者の参加に関する情報の普及および知識の増進を図るため、加盟国は以下の措置をとるべきである。 一般公衆、子ども、若者、親および専門家の間で子ども・若者の参加権に関する意識を高めるための広報・教育プログラムを実施すること。 教員、弁護士、裁判官、警察、ソーシャルワーカー、コミュニティワーカー、心理学者、養育従事者、矯正教育施設・刑事施設職員、保健ケア専門家、公務員、出入国管理官、宗教的指導者およびメディア従事者の間でならびに子ども・若者団体のリーダーを対象として、子ども・若者の参加に関する専門的能力の増進を図ること。可能な場合、このような能力構築活動に、子ども・若者自身が講師および専門家として関与するべきである。 子ども・若者に対し、子ども・若者の権利ならびにとくに子ども・若者の参加権、参加のために利用できる機会およびこれらの機会を活用するための支援が受けられる先に関する、その年齢および状況にふさわしい情報(文字以外の形式によるものおよびソーシャルネットワーキングメディアその他のメディアを通じてのものを含む)を提供すること。 18歳未満の子ども・若者の権利(参加権を含む)を学校カリキュラムの構成要素にすること。 子ども・若者とともに働くすべての専門家の養成カリキュラムで18歳未満の子ども・若者の権利について教えることを提案すること。 子ども・若者の意見および経験に関する理解の向上を可能にし、子ども・若者の参加を妨げる障壁およびその克服方法を特定する目的で、子ども・若者に関する調査研究、子ども・若者とともに行なう調査研究および子ども・若者による調査研究を奨励すること。 参加権の行使に関する子ども・若者の能力構築を図るため、子ども・若者の間で同世代による支援および情報ネットワークを促進すること。 参加のための空間の創設 自己に影響を与えるすべての事柄に参加するすべての子ども・若者の機会を最大化するため、加盟国は以下の措置をとるべきである。 親・養育者に対し、法律および親訓練プログラムを通じて、子ども・若者の人間の尊厳ならびに権利、気持ちおよび意見を尊重するよう奨励すること。 相互の尊重および協力を奨励する目的で、世代間対話の機会をつくり出すこと。 とくに、教育・学習実践および学校環境に影響を及ぼすための公式・非公式の手法を通じてならびに学校共同体の運営に学校児童生徒評議会を統合することを通じて、学校生活のすべての側面への、子ども・若者の積極的参加を確立すること。 たとえばインタラクティブな教育方法の活用ならびにノンフォーマル教育および非定型的学習の承認を通じて、子ども・若者の人間の尊厳を尊重し、かつ学校生活における自由な意見表明および参加を可能にするようなやり方で教育を提供すること。 団体生活、コミュニティ生活、異文化間学習、スポーツ、余暇および芸術への子ども・若者の関与を支援するとともに、アクセスしやすい非定型的な参加手法を考案するために子ども・若者と協働すること。 民主主義とシティズンシップの学習および実践のための好ましい空間として、子ども・若者が運営する非政府組織に投資すること。 地域、広域行政圏または国のレベルで、たとえば子ども・若者評議会、議会またはフォーラムのような協議機関を設置すること。 家族および子どもにサービスを提供する機関が、サービスの開発、提供および評価への子ども・若者の参加を支援することを確保すること。 子ども・若者が、メディアを通じて自由に自己表現し、かつ、対面での参加を補足する手段として情報通信技術(ICTs)を通じて安全に参加する機会を増進させるとともに、参加の原則に関する理解をメディアおよびICTsに統合すること。 子ども・若者が公的生活および民主主義機関に参加する機会(代表としての参加を含む)を増加させること。 UNCRCの第12条およびその他の関連条項の実施ならびに欧州評議会の関連文書および子どもの権利に関するその他の国際基準のモニタリングへの参加に関して、子ども・若者およびその団体を支援すること。 更新履歴:ページ作成(2021年1月7日)。/冒頭に「活用のためのツール」を追加(2023年2月3日)。/冒頭の「活用のためのツール」に関連資料へのリンクを追加(8月9日)。