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ゼロと使い魔の書 第八話 ところ変わって学院長室。 壁にかかっている鏡が広場の惨状を映し出していた。 水のメイジがギーシュとルイズの使い魔を運び出す光景を、コルベールとオールド・オスマンが無言で眺めている。 ルイズの使い魔があの伝説のガンダールブと同じルーンを刻まれていた、という説明がなされた直後のことである。二人は映像が消えた後もしばし無言であった。 やがてオスマンが立ち上がる音で沈黙は破られた。 「コルベール君。あの使い魔は、一体どうやってギーシュ・ド・グラモンを倒したと思うかね?」 コルベールは室内をゆっくり徘徊する学院長の姿を目で追っていたが、やがてため息と共に返答した。 「正直に言って……まったく分かりませんでした。あの動きは、やはりガンダールブのものだと思うのですが、最後の最後、一体なにが起こったのか…… あの平民が何か『本』のようなものをかざした瞬間、ギーシュの体が勝手に潰れていったとでも言いましょうか、そうとしか見えませんでした」 自分の不甲斐なさに嘆息するコルベールをオスマンはしばらく眺めていたが、やがてその険しい顔をゆるめた。 「コルベール君。あの一瞬で『本のようなもの』を見出しただけでも、君の実力は相当なものじゃ……それはさておき、わしは彼が何をやったか、一つの仮説を立てている。 君は『スタンド』というものを聞いたことがあるかな?」 「スタンド……?いえ、聞いたことがありませんが……」 コルベールの答えを聞くと、オスマンはしっかりとした足取りで学院長室に設置された本棚へと向かう。その姿は到底百を越えた老人のものには見えなかった。 「先日この本棚を整理しとった時じゃ。一体どこから紛れ込んだのか、始祖ブリミルの記した日記の1ページを発見したのじゃ」 「……え!?」 さらりととんでもないことを言われて、コルベールは一瞬遅れて反応した。 「そこには驚くべきことが記されておった……王室に報告したところで偽物に違いないと一笑にふされるのは目に見えておったから、別に誰にも見せてはおらなんだが、 今回の出来事で確信した。あれは本物じゃったとな」 オスマンは本棚の一番上の段に手を伸ばすと、息をかければそのまま崩れていきそうなほどぼろぼろの紙片を慎重に取り出し、コルベールに見せた。 「マジックアイテムにしてマジックアイテムにあらず。魔力のかわりに持ち主の魂がこめられた道具の総称。それがスタンドであるとブリミルは定義しておる。君も知ってのとおり、 始祖ブリミルはハルケギニアを統一した際に先住魔法の使い手と戦っておるが、このスタンドを使う二人の……ふむ、なんと言ったらいいか、エルフではないだろうと書いてあるしの……『スタンド使い』でいいかの。その二人に苦戦を強いられたらしい。 一人は『アニ』。『創世の書』という本を持っておって、記述を読みあげることにより様々な幻獣を召還したらしい。もう一人は『ボインゴ』。『トト』と呼ばれる『絵本』を通して未来を予知したとされる」 ここでオスマンは言葉を切り、コルベールに視線を向けた。 「この『スタンド』について、わしも興味が興味が湧いたからの。別の文献で調べてみたんじゃが、すると出てくるわ出てくるわ。二度目に触れたものを確実に斬る妖刀やら、壁を透過して釣りたいものを釣り上げる釣竿やら、 どんな衝撃でも跪くことにより地面に受け流す鎧やら、とても四系統の魔法では説明できないような代物がいくつもあるんじゃ。一部の物にはあらゆるマジックアイテムを操る虚無の使い魔、ミョズニルトルンですら扱えなかったという逸話も残っておる」 「つ……つまり、ミス・ヴァリエールの使い魔はその『スタンド使い』であるかもしれないと……?」 「あくまで仮定に過ぎん。じゃがその可能性は高いであろう。分かっているとは思うが、コルベール君、このことと『ガンダールブ』の件はくれぐれも王室のボンクラどもには内密に、じゃ。またぞろ戦でも起こされるじゃろうて」 「は、はい!かしこまりました!」 オスマンは開け放された窓に目をやる。遠い歴史の彼方へ思いをはせるように。 「伝説の使い魔が、始祖に仇なすスタンド使い。はてさて、何の因果かのう」 オスマンの呟きは誰にも聞かれることなく霧消した。
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―眼を開いた時、彼の眼に飛び込んできたものは満天の青空だった。 青空・・・? バカな・・・オレはさっき死んだハズだ 延髄を「ブッ刺されて」よォォ・・・! そうだ、覚えている・・・奴らの『覚悟』に負けたことを 「―何だァ~?・・・っつーことはよォォ・・・ ここは天国・・・いや 地獄ってわけかァ?」 爆風の中から現れた男はよく解らないことを呟いている。それを認識したルイズは、しかしその認識を疑わざるを得なかった。 爆風の、中から、現れた、男? 男・・・つまり人間。人間・・・つまり? 現れた男は・・・どうみても貴族には見えなかった。つまり。 平民。平民を召喚してしまった。 「冗談でしょ・・・?」愕然として呟くルイズに、周囲から更に追い討ちがかかる。 「あいつ、平民を召喚しやがった!」 「サモンサーヴァントで平民を召喚するなんて聞いたことないぜ!」 「流石はゼロのルイズ!俺たちに出来ないことを平気でやってのけるッ!」 「そこにシビレないし憧れもしない」 しかしルイズはそれに怒るどころではなかった。強くて美しい使い魔を召喚すれば、散々自分を バカにしてきた奴らを見返すことが出来る。家族に胸を張って会うことが出来る。 彼女はそれを期待していたし、自分ならきっと召喚出来るという根拠の無い 自信もあった。それが、こんなヘンな髪型の平民を召喚してしまうなんて! ―とりあえず、彼は状況を把握することにした。 「城・・・いや砦か?よくわからねーが・・・ここはその中庭って所か? いよいよ天国じみてるじゃあねーか!ええおい?」 そこまで考えて彼は前方を見る。ド派手な髪の少女がそこに立っていた。 「・・・天使にゃあ見えねーな」 そして彼はふと思いつく。もしかしてこれはスタンド攻撃ではないか?既に死に体だったはずの自分をわざわざ攻撃してくる理由など無いとは思ったが、警戒するに越したことはないと彼は判断した。 ルイズは覚悟を決めて―というよりは全てを諦めて―男に話しかけた。 「・・・あんた、誰?」 ドグシャアア!! 言い終わる間もなくルイズは首根っこをつかまれ、そのまま地面に叩きつけられた。 「いっ・・・!!な・・・何をするのよ!貴族にこんなことをしてただで済むと・・・ 痛ッ!?」 叩きつけられたものではない―焼け付くような擦り切れるような名状しがたい痛みを感じて、ルイズは首をつかんでいる手を見る。 「何よこれ・・・ まさか・・・魔法・・・!?」 男の手を中心に、ルイズの体は首から胸にかけて完全に凍っていた。 「ここはどこだ?てめーはオレに何をした?3秒で答えな・・・首をブチ割られたくないならよォォ」 ルイズは一瞬で理解した。冗談で言っているんじゃあない、こいつの眼にはやると言ったらやるスゴ味がある! 「こっ、ここはトリステイン魔法学院で!あんたは私が召喚したのよ!!」 ・・・ 数瞬の沈黙が流れ。 「魔法だと?てめー・・・イカレてるのか?それともバカにしてんのかァァ~?」 「う、嘘じゃないわ!ここはトリステイン王国のトリステイン魔法学院であなたは私が サモンサーヴァントで召喚した使い魔なの!!」 「・・・つまり ここは魔法の学校で てめーはオレを魔法で呼び出したってワケか?ガキ」 「そっ、そうよ!解ったのなら早く手を―」 「・・・ブチ・・・割れな・・・」 「なッ!?」 尋問は失敗、このガキは死んでもオレに何かを喋る気はねーらしい。男はそう判断したようだった。しかし首に力を入れようとしたその時、男の鼻先をかすめてサッカーボール大の火球が地面に激突した! 「何だァァ~?スタンド攻撃かッ」 男が火球の射出地点とおぼしき場所に眼を向けると・・・そこには燃えるような長髪の少女がいた。 「何だかよく分からないけど・・・あなた、その子から手を放しなさい!さもないと容赦しないわよ!」 「キュ・・・キュルケ・・・」 バッ! 「容赦しねェだとォォ~~?なめてんのかァーーッこのオレをッ!!」 男がルイズを投げ捨てて立ち上がると、その体からは壮絶な冷気が噴き出しはじめた。 「いいだろう てめーら全員氷づけにしてからゆっくり尋問するのも悪かねーッ」 そして男は自らの力を―スタンドを、発現させる。 「ホワイト・アルバムッ!!!」 戻る 次へ
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■ ゼロの変態 ├ ゼロの変態-1 ├ ゼロの変態-2 ├ 第二話 使い魔暗殺者(ヒットマン)メローネ! ├ 第三話 シエスタ ├ 第四話 余の仇名はゼロ ├ 第五話 二股貴族物語 ├ 第六話 フルボッコ・ギーシュ・シティ① ├ 第七話 フルボッコ・ギーシュ・シティ② ├ 第八話 コードギーシュ~反逆の富竹~ ├ 第九話 ジャイアントモール~ギーシュが燃え尽きる日~ └ 最終話 ホワッツ・ア・ワンダフル・ヘンタイ ■ 新ゼロの変態 ├ 第一話 帰ってきた変態 ├ 第二話 カオスは大変なものを残して行きました ├ 番外 惑いて来たれ、地味な神隠し ├ 第三話 チャームポイントは泣きボクロ ├ 第4話 ディノクライシス ├ 間奏曲(インタールード) ├ 第五話 ついてない男 ├ 第六話 テニヌの皇帝 └ 最終幕(フィナーレ) ■ ゼロの変態マキシマム └ 第一訓 ちらっと目に入った物の方が印象に残る
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前ページ次ページゼロのメイジと赤の女王 翌朝、早々に目覚めた陽子はとりあえずいいつけを済ませようと、そっとルイズの部屋を抜け出した。 広い廊下を歩きながら周囲を見て回るが、無駄に大きな城は何がどこにあるのかさっぱりわからない。 「・・・さて、水場はどこにあるんだろう」 少し困ったようにひとりごちた陽子に、冗祐が助言する。 「使用人をつかまえて訊いたほうが早いのでは?」 「そうだな、これだけ広いのなら働いている人も大勢いるか・・・」 「ならば丑の方角に、人が」 「わかった、ありがとう」 教えられた方向へ向かえば、遠くから人影が向かってくるのが見えた。彼女――――どうやら女性だ――――は陽子に気づくと軽く目を見張って、にこりと笑んだ。 切りそろえられた黒髪と白い肌に散ったそばかすの愛らしい、陽子とそう歳の変わりなさそうな少女だ。 「お早うございます。・・・えーと、新しい使用人の方ですか?」 陽子は苦笑して首を振る。 「お早う、・・・わたしは使用人ではないよ。どうやら昨日、ルイズという子に召喚されたらしくって」 「まあ。・・・それじゃ、あなたがミス・ヴァリエールの使い魔さんですか?」 驚いた様子の少女に、陽子は苦笑したまま尋ねる。 「・・・もう、そんなに有名か?」 「ええ。召喚の魔法で平民を呼んでしまったって、それは噂になっていますわ」 「そうか・・・」 どうやら人間が召喚されたことは本当に珍しいことらしい。これはしばらくは見世物かなと辟易する陽子に、少女が小首を傾げた。 「それで、ミス・ヴァリエールの使い魔さんは、こんなに早くにどうされたんですか?」 「ああ、彼女に洗濯を申し付けられて・・・そうだ、すまないけれど、洗濯する場所を教えてもらえないか?」 少女はそうですかと屈託なく笑んで、片手に下げた籠を示してみせる。中にはシーツか何かだろうか、白い布が丸められて詰め込まれていた。 「わかりました。私も丁度向かうところだったんです。一緒に参りましょうか」 「助かる。・・・わたしは中陽子。あなたは?」 少女は珍しいお名前ですねとにっこりして、先導して歩き出した。 「シエスタと申します。平民同士、これからよろしくお願いしますね、ヨウシさん」 他愛無い話をしつつ洗濯をしながら、陽子はシエスタにうまく表現できない不思議な感覚を覚えていた。 無礼にならないように気をつけてはいたが、あまりに視線をやるのでシエスタも見られていることに気づき、少々居心地が悪そうに訊ねる。 「・・・あの、ヨウシさん?私に何かついてますか?」 「・・・あ!・・・いや、」 ぶしつけを恥じるように陽子は視線を逸らし、そしてようやく彼女に感じるものが何かに思い至る。――――郷愁、だ。 「・・・じろじろ見てしまってごめん。なんだか、懐かしい気がして。・・・わたしが昔住んでいたところの人々が、シエスタのような綺麗な黒髪をしていたんだ」 「まあ、そうなんですか」 シエスタはわずか陽子にさした影に気づかぬ振りで笑って見せた。召喚というものがどういうものか、学院に住み込みで奉仕しているシエスタは多少ではあるが知っている。 シエスタと同年代か少し下のように見えるこの少年は、いきなり家族や友人や馴染んだ場所から引き離されたのだ。心細い中に懐かしさを感じるものを見つければ気にもなるだろう。 それにシエスタは曽祖父譲りの髪色を気に入っていたので、褒められたことは単純に嬉しかった。 「この色、珍しいでしょう。曾お祖父ちゃん譲りなんです。私の地元でも、この髪は私の家族だけなんですよ。 もしかしたら、ウチの曾お祖父ちゃんとヨウシさん、同郷だったのかもしれませんね」 「・・・・・・だったら、面白いね」 苦笑交じりに答える陽子に、シエスタは余計なことを云ってしまったことを悟る。 ふるさとのことはタブーなのかしら――――召喚されてしまった身であるならばそれもあるのかもしれない、あるいはもっと複雑な事情かもと考えて、シエスタは話題を変えることにした。 「ところで、人が使い魔として召喚されるなんて今までになかったって話ですけれど、ミス・ヴァリエールはヨウシさんになんておっしゃっていました?」 「ああ・・・」 陽子は思い出すようにすいと視線を上に向ける。 「・・・そうだね、普通人が召喚されることはないって云っていたな。それで、使い魔は主人の目となり耳となり、そして主人を守る存在だって云ってたけど、わたしには無理だから雑用とかをやるようにって」 「まあ。それじゃ、使い魔というよりは使用人に近いんですね。そうですよね、幾ら何でも人間にそんな危ないことはさせられませんよね」 「そうだね。・・・よし、シエスタ、これで洗濯物は全部?」 ぱん、と最後のシーツの水気をきって、陽子はシエスタを見た。シエスタは空の籠を見下ろし、笑顔でシーツを受け取る。 「はい、これでお終いです。・・・すみません、私の分まで手伝ってもらっちゃって」 陽子も薄く笑んで答える。 「案内してもらったお礼代わりに。また何かあったら頼りに行ってしまうかもしれないし」 「ああ、それならいつでもいらしてください。私、基本的に厨房周りにいますから。もしいなくても厨房の誰かに聞けばどこにいるか教えてもらえると思います。それから、」 シエスタは陽子の脇に絞ってある白いレースを手に取った。 「ついでに、これも干しときますね。乾いたらミス・ヴァリエールのお部屋まで持っていきますので」 少し迷ったが、陽子は素直にシエスタの好意を受けることにした。 「ありがとう。じゃあ、お願いしても構わないかな」 「どういたしまして。それでは、私戻りますね」 「うん、ありがとう、シエスタ」 「いいえ。それでは」 礼をしてぱたぱたと駆けていくシエスタの背を見送り、さて、陽子は聳え立つ白亜の城を見上げた。金波宮とはまるで違う建築様式で造られた城は朝日を受けきらきらと輝いている。 「・・・それじゃ、お姫様を起こしにいこうか。そろそろ良い時間だろう」 呟いて、朝特有のざわめきに溢れ出す城をストロベリーブロンドの髪の少女の元へと歩き出した。 「ルイズ。ルイズ、朝だよ」 「んー・・・。あと5分・・・・・・」 「・・・どこかで見た光景ですね」 「煩いぞ冗祐」 余計なことを呟く使令を黙らせて陽子はルイズを呼ぶ。少女はむにゃむにゃとなにやら呟いて顔をしかめ、むーと寝返りをうち朝日に背を向けた。意外に寝起きはよくないようだ。 「ルイズ。そろそろ起きないと、遅れてしまうんじゃないか?起きて、ルイズ」 「うー・・・。うるさいわねえ・・・」 身体を軽く揺さぶられ、とうとう観念したようにルイズがむっくりと起き上がる。手の甲でこしこしと目元をこすると、ようやくそこで陽子の存在に気づく。 「ひぇっ?!あ、あんた誰よ?!どういう訳で私の部屋に入ってきてるの?!」 「・・・どういう、って。ルイズが起こせと云ったんだろう」 悲鳴さえ上げられて、陽子は流石に呆れ返る。盛大に寝惚けているにしても忘れられているとは思わなかった。 「あなたが昨日召喚した使い魔だ。もう一度自己紹介が必要か?」 「・・・・・・・・・。あー。・・・あー・・・、そうだったわね。・・・いいえ、自己紹介は必要ないわ」 ルイズは可愛らしく欠伸をしながら、ベッドの上に座り込んだ。服、と単語だけで命じられ、陽子はベッド脇の制服を彼女に渡す。 「下着」 制服を受け取ったルイズは次いでそう告げた。まだ眠たそうで、とてものこと意識がはっきりしているとは思えない。 「どこにあるの?」 「そこのー、クローゼットのー、一番下の引き出しに入ってる」 妙に間延びした口調に苦笑を噛み殺しながら適当に一揃い取り出して彼女に渡す。ルイズはのっそりした動きで下着を身につけた。 「服」 「その服は違うの?」 「着せて」 こどもではあるまいしと陽子は呆れたが、はたと思いついてなまぬるい顔をする。・・・そういえば、王になった直後はいつでもどこでも女官がついてまわり、なんでもやろうとしてくれたことを思い出す。 特に陽子を着飾らせることについてはそれが使命とばかりにものすごく燃えており、どれだけ簡素な格好で赦してもらうかが重大な問題だった。ちなみにその攻防戦は現在進行形である。 (・・・・・・そんなもんなんだろうか) どうせ同性なんだしと陽子はいまだ寝惚け眼のルイズにブラウスを着せだした。 老人ホームのボランティアで要介護者の着替えを手伝ったときのことを思い出しつつだったことは、ルイズには云わないほうがいいかもしれない。 前ページ次ページゼロのメイジと赤の女王
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前ページ次ページゼロの使い魔はメイド その日最後の授業が終わると、ルイズは軽く伸びをしてからすぐさま席を立った。 夕食までは、まだまだ時間がある。 その間生徒たちのすることは、各人バラバラであった。 異性に粉をかけたり、カードゲームに興じたり、くだらないおしゃべりをしたり。 中には真っ先に自室に戻り、予習復習をびっちりと行う勤勉な者もいる。 ルイズもそんなうちの一人だった。 これで魔法が使えないという点がなければ、絵に描いたような優等生の出来上がりだ。 それは入学当初から、使い魔を召喚し、二年へと進級した今も変わらない。 ゼロと呼ばれて馬鹿にされ、友人がいないこともそれに拍車をかけていたかもしれなかった。 部屋に戻ると、 「お帰りなさいませ」 控えめな笑みと共に、若いというより幼いメイドがルイズを出迎えた。 ルイズが召喚した使い魔・シャーリー。 「お茶、いれてくれる」 ルイズはマントを脱ぐのを手伝ってもらいながら、シャーリーに言った。 「はい。ただ今」 パタパタと響くメイドの足音を聞きながら、ルイズは椅子の上で息をついていた。 やはり、自分の部屋は落ちつく。 当人にはわからないが、その顔は非常にリラックスしていたものだった。 いつもの高飛車とも、あるいは驕慢とも言える険が消えたその顔は、ルイズという少女が生来持っている美貌をぐんと引きたてている。 魔法が使えぬコンプレックスをひた隠しにするように、貴族たらんと虚勢をはる普段からはまず想像もできない顔だった。 何故、こんな風になれるのかと言えば、その理由はシャーリーである。 今までルイズが接してきた平民というのは、多くがヴァリエール家の使用人だ。 名家であり、優秀なメイジを輩出するエリートであるヴァリエール家は、その一族のみならず、その使用人たちにも一種の自負があった。 そのため、ヴァリエールの人間でありながら、魔法の使えないルイズには少なからぬ蔑視が向けられていた。 無論、表だってそれを出すわけではないが、繊細な少女の心は敏感にそれらを感じ取っていた。 だから、ルイズは貴族であることにこだわり、高圧的な態度に出ることが多かった。 自身の心を防御するために。 それはこの学院においても同じことだった。 けれど、シャーリーに対してはそんなことはない。 する必要がなかった。 彼女は頭からルイズに従順であったし、十三という年齢ながら家事全般が器用にこなすし、気もきく。 それに、勤勉だった。 何よりも、シャーリーは他の平民たちのような、服従の中に蔑みをこめた、あの嫌な眼をしていなかった。 それはひとえに、異邦人であるシャーリーには貴族=魔法使いという認識がないせいであろう。 魔法が絶対という感覚を持たない少女にとっては、ハンデを持ちながら決して卑屈にならないルイズの姿は決して蔑むようなものではなかった。 むしろ尊敬の念さえ感じられるものであったのだ。 年齢が近いということもプラスに作用したのかもしれない。 熱い紅茶が用意され、豊潤な香りがルイズの口や鼻を潤した。 紅茶を堪能し、ほっと息をついてから、 「明日はでかけるから、今日は早めに休みなさいよ」 「おでかけですか」 間を置いて、シャーリーがたずねる。 「城下町へ買い物に行くのよ」 「街……ですか」 この世界にきてからそこそこ日数がたっているが、シャーリーはまだ学院内のことしか知らなかった。 一体、この魔法の国の街というのはどんなものか。 不安がなくはないが、少女の好奇心はくすぐられた。 「そう、馬で……」 ルイズは言いかけたが、すぐに黙ってしまった。 「――?」 主人の態度を、シャーリーは奇異に感じた。 「あなた、馬に乗れる?」 ルイズは少しばかり困った顔で言った。 「いえ、乗馬の経験は……」 シャーリーは申し訳なさそうに首を振った。 「そうかあ。困ったわね……」 ルイズは、人指し指をこめかみに当てながら言った。 「馬でいってもけっこう距離があるし……。まさか、歩いていくわけにもいかないし……。かといって、馬車だと時間がかかりすぎるし……」 と、思案に暮れだした。 「あの、なんでしたら、お留守番を――」 シャーリーが言いかけた。 「ダメよ、そんなの」 ルイズはすぐNOを突きつけてしてしまう。 かなり強い口調だった。 「そ、その…。あなたに社会見学をさせるためでもあるんだから、いなかったら意味ないでしょ?」 ルイズはそう言ったものの、どこか言い訳じみていた。 シャーリー自身はあまりそのあたりはわかっていなかったが。 ただ、どきまぎしつつあれやこれやと考えるルイズを見つめるばかりだった。 「もっと早く行ければ……たとえば、こう空を飛んで……。空、空を飛ぶ……か」 空と何度も言った後、ルイズははたと気づいたような顔になったが、すぐにまた考え込んでしまった。 「といっても、主人はあいつだし……そもそもアレは……」 (何を考えてるんだろ……?) シャーリーがルイズを見ていると、ふっと部屋に影がさした。 窓の外を、何か大きなものが横切ったのだ。 「あ……」 「あ!」 シャーリーとルイズ、二人の少女は同時に、その大きなものを見た。 それは、いかにも狂暴そうな、大型のワイバーンである。 肉食性で知られるその狂暴な生き物は、すいっと学院内の敷地に降り立った。 ワイバーンの背中には、青く長い髪をした少女が乗っていた。 ひらりと飛び降りた少女は、さげていた革袋から骨付き肉を取り出し、無造作に後ろへ放った。 ワイバーンはそれを口でキャッチして、ばりばりと骨ごと肉を食ってしまった。 「考えてたら……か。相変わらず品のない連中ね」 ルイズはげんなりとした顔で、青い髪の少女とワイバーンを見た。 シャーリーもそっと様子をうかがう。 少女のほうはせいぜい顔を知っている程度だが、ワイバーンのほうはわりと顔なじみだ。 というか、ほぼ毎日顔を合わせている仲だった。 ワイバーンの名は、モード。 学院の生徒によって召喚され、使い魔となった、いわばシャーリーの『同業者』だ。 性別もシャーリーと同じ。 すなわち、雌だった。 使用人たちの話によると、この春に召喚された使い魔の中では最大の大物らしい。 さすがに風竜や火竜などと比べれば見劣りはするものの、ワイバーン属の中でも最大の大きさを誇る種で、下手なメイジよりもずっと危険で恐ろしい。 と、シャーリーは聞いていた。 マルトーによると、学院長のオールド・オスマンは若い時ワイバーンに襲われ、あやうく食われかけたことがあるとか。 噂に違わず、その性格は狂暴で、ルーンの効果か人間を襲うことはないけれど、主人以外にはまったく懐かない。 元々が、人間が容易く飼いならせるような生き物ではないのだから、仕方ないが。 他の使い魔たちは、下手をすればおやつにされかねないのでみんなモードを避けていた。 まったくもって賢明な選択だろう。 しかし、シャーリーにはその恐ろしさというのは、今ひとつわからなかった。 確かに巨体で恐ろしい外見だが、シャーリーからすればどちらかというとおとなしく思えた。 ワイバーンのモードは愛想いいわけでないけれど、シャーリーには牙をむいて威嚇することはなかった。 そんなわけで、いつの間にかモードの餌はシャーリーがやるようになっていたのだ。 ワイバーンに続き、主のほうに視線を送る。 長い青髪に、広い額をした美少女だった。 ただし、その雰囲気は深窓の令嬢というにはほど遠く、全体に粗野で、獣性すら感じさせるものだった。 名前は、確か。 (エザリア? いや、エリザベート? いえ、イザベラ……だったかな?) 「言うだけ無駄よね、あのガリアの、意地悪おでこ魔女なんかには……」 ルイズが、諦めたようにため息をついた。 窓から下を見ると、イザベラは赤い髪をした少女と何か話しているようだった。 様子からして、友人同士なのだろう。 こちらはシャーリーもよく知っている。 キュルケという、ルイズとは仲の良くない少女だ。 ルイズが一方的に嫌っているようにも見えるが、それは深く言及すべきではないだろう。 (空を飛ぶ……か) シャーリーは先ほどルイズのつぶやいていた言葉を思い返しながら、モードを見た。 巨大な翼。 大の大人でも、四、五人は楽々と乗せられるであろう広くたくましい背中。 こんな生物が襲ってきたらさぞかし恐ろしいだろうが、従順な使い魔であるならさぞ頼もしいだろう。 (空を飛ぶって、どんな気持ちだろう?) 憧れをこめた目で、シャーリーはワイバーンの翼を見つめた。 それから。 「あの、シャーリー? またお願いできない?」 空になったティーポットを載せたトレイを厨房まで運ぶ途中、シャーリーはメイド仲間の一人にそう声をかけられた。 こう言われると頼みごとの内容はすぐにわかった。 イザベラのワイバーンに餌をやってくれというのだ。 「いつもいつも悪いんだけど……あのワイバーンに近づいて平気なの、あなただけなのよね」 「わかりました」 シャーリーはすぐに承知し、少し早足で歩き出した。 ティーポットを厨房に運んだ後、すぐに餌をワイバーンのもとへ持っていく。 餌は、日によって異なるが、大抵は羊か、豚。あるいは牛肉だった。 その総量、シャーリーのような少女に抱えられるようなものではないが、ワイバーンの巨体を考えると、少量とすら言えた。 シャーリーが専用の手押し車に乗せて肉を運んでいくと、ワイバーンのそばで主人のメイジが何事かしていた。 何か長いものを磨いてるようだが。 (魔法の杖、かな?) 一口に魔法の杖といっても、わりと個人差があることをシャーリーが知ったのは最近のことだ。 ルイズの持つタクトのようなタイプが多いが、長い木を削りだしたようものから、青銅製の造花などけっこうバラエティーに富んでいる。 ワイバーンはシャーリーが近づくと、かすかに首を持ち上げて低く鳴いた。 「なんだ、メイドかい?」 使い魔の反応で、気づいたのだろう。 主人のイザベラも顔を上げた。 「あの、使い魔の食事を持ってまいりました」 シャーリーが頭を下げると、 「ん、ご苦労」 イザベラはそれだけ言って、また杖?を磨き始めた。 シャーリーはワイバーンに餌を与えると、帰る前の挨拶をとイザベラのほうを向いたが、 (……っ) イザベラの手の中にあるものをはっきりと見て、驚いた。 杖ではなかった。 それは、どう見ても銃である。 多分ライフル銃の類ではないだろうか。 銃器などとは無縁の生活をしてきたシャーリーだが、まず見間違えではない。 それとも、彼女の杖はこういう形のもの、なのか。 しばしシャーリーは銃に釘付けになったままだった。 イザベラはシャーリーの視線に気づくと、わずかに表情を歪める。 「あんだよ、メイジが銃を持ってちゃいけないのかい?」 「し、失礼いたしました!」 シャーリーは頭を下げながら、 (やっぱりアレ、銃なんだ……) なんとも不思議な気分になっていた。 この魔法の世界で、まさか銃にお目にかかろうとは。 (やっぱり、魔法の銃なのかなあ……) 密かに考えながら、シャーリーは手押し車を押しながら早々に退散する。 しかし、 「ちょっと、待ちな」 イザベラが急に呼び止めた。 「は、はい」 咎められるのでは、とびくびくしながら、シャーリーは振り返る。 イザベラはじろりとシャーリーを、特にブルネットの髪に注視していた。 「お前、身内にバンクスとかいうやつはいるかい?」 しかし、イザベラが聞いてきたのは実に意外なことだった。 バンクス。 どうも誰かの名字らしいが、特にシャーリーの記憶に残るものはない。 「――いいえ。ございません」 「ふん、そうかい。もう用はないよ、いきな」 イザベラはひらひらと手を振った。 シャーリーは訝しく感じながらも、ほっと安心して戻っていった。 「……なーんか、あの女に雰囲気似てたんだがね。気のせいかな?」 イザベラはかすかに空を見上げて、つぶやく。 ぐるる、とワイバーンが鳴いた。 翌日になって。 ルイズとシャーリーは、馬を駆って一路城下町を目指していた。 颯爽と馬を走らせるルイズの後ろを、馬にしがみつくようにしてシャーリーが追う。 いや、というよりも。 どう見たってシャーリーは馬に乗っているだけで精一杯だった。 乗馬などしたことがないので当然なのだが。 にも関わらず、ぴったりとルイズの馬についてくる。 (……不思議な子よねえ?) ルイズはちらりとそれを振り返りながら思った。 学院の馬はきちんと訓練されたものばかりだが、それでもまったく経験のない人間が自由に乗りこなせるわけではない。 なのに、シャーリーはそれができている。 できているというか、馬が自ら積極的に動いているようだった。 まるで姫に忠誠を誓う騎士のように。 もしかすると、この異国の少女には動物を魅了し、従えさせる力があるのかもしれない。 (……そういえば、どっかでそんな不思議な力のある人間の話を聞いたことがあるような……) ヴィ……なんとかだったろうか? 確か古い本でそんな名前の存在をちらりと目のした記憶がある。 あらゆる獣を自在に使役する力を持った人間について―― (でも、まさかねえ?) シャーリーは、とてもそんなことをしているようには見えない。 確かに動物になつかれやすいタイプなのかもしれないが、それはあくまで好意を持たれるということで、自由に操るなどほど遠い。 「シャーリー、大丈夫? 無理しないで」 ルイズが声をかけると、 「は、はいっ」 必死な表情ながら、シャーリーは返答をした。 その必死さがどうにも可愛くて、悪いとは思いながら、ルイズはついつい笑ってしまった。 虚無の曜日。 魔法学院の生徒はその日をヴァカンス、あるいは勉学や鍛錬に用いる。 しかし、中には何もせずに部屋の中でじっとしている者もいる。 イザベラもその一人だった。 もっとも彼女の場合、平日の授業を勝手に休んで遊びに行く、要するにサボることは日常茶飯事だったが。 イザベラは机の上で、黒光りする短銃を手入れしていた。 メイジが銃を熱心に扱うことは珍しい。 その威力や精度において、銃はメイジの攻撃魔法と比較すれば取るに足らないものだから。 少なくとも、一般に流通しているものは―― ゆえに剣と同じく、メイジからすれば蔑視の対象でしかなかった。 「イザベラ、いる?」 いきなりノックもなく、ドアが開かれた。 入ってきたのは、キュルケだった。 「留守だよ」 イザベラは手入れを中断することなく、さめた声で言った。 「ちょっとあなたの使い魔の手を借りたいのよ、お願い」 キュルケはイザベラの発言をスルーして、手を合わせた。 「今からじゃ、ちょっと追いつけないの」 「また新しい男かい? そのうち人に言えない病気もらうぞ?」 イザベラはうんざりした顔で、銃に弾をこめる。 その銃は、他の短銃と異なり、レンコンのような弾倉があった。 弾丸も鉄の玉ではなく、リップスティックを思わせる形状をしていた。 「違う、違う」 毒舌を受けてもキュルケは平然としたままで、手を振った。 慣れているのだろう。 「ヴァリエールの後を追いかけたいのよ」 「あ? お前がそっちの趣味に目覚めたって噂はマジなのかい? やだねえー……」 「興味があるのは、ヴァリエールじゃなくって、その使い魔のほうよ」 「使い魔ぁ? あいつに使い魔なんかいたか?」 手入れの終わった銃を懐にしまい、イザベラはようやくキュルケに顔を向けた。 「そりゃいるに決まってるじゃない。でなけりゃ進級できないわよ」 「……そうだったね。で、珍しい猫か何かか、その使い魔は?」 「人間よ。人間の女の子」 それを聞くなり、イザベラの表情は変わった。 「人間だと? そいつはマジかい?」 「もちろんよ。使い魔っていっても、ほとんどメイドみたいなものだけど」 「……」 イザベラは無言になった。 しかし、すぐに立ち上がり、長い髪を後ろで束ね始めた。 「人間の使い魔か。面白そうだ。いっちょ見学としゃれこもうかね」 「ありがとう! 手を貸してくれるのね!」 キュルケはにっこりとしてイザベラに抱きついた。 「暑苦しい。その無駄にでかい乳、押しつけんじゃないよ」 イザベラは苦い顔をして、キュルケを押しのけた。 キュルケは、 「あらん、冷たくしないでよ」 と、笑っている。 それからすぐに、学院から二人の少女を乗せたワイバーンが飛び立った。 前ページ次ページゼロの使い魔はメイド
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【種別】 使い魔 【解説】 メイジがサモン・サーヴァントによって呼び出した生き物の総称。 メイジの属性によって使い魔の属性は依存し。 使い魔候補の眼前に銀色の鏡のようなものが出現する。 その後、使い魔となるかどうかはその候補の意志によって決まる。 使い魔になることを承諾しその鏡に触れると引きずり込まれ、術者の元に転送される。 その際、使い魔の体には主への好意で当たりとか忠誠心であったりとかが自動的に刻み込まれる。 その後、コントラクト・サーヴァントを行い、使い魔契約は完了する。
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使い魔は皇帝1 使い魔は皇帝<エンペラー>-2
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地面から生えた手の前で石像のように立ち竦むモンモランシーの視界に、突如、ジェシカが 捕らえた男の一人に刺される場面が映し出された。 「な…なに?これって…」 それに驚いているうちに、ジェシカが男を突き飛ばして頼りない足取りでどこかへと向かう。 その方向は、今、自分がいる厩舎だ。 「い…いけない!」 『待て!行くんじゃない!!』 ジェシカの元へと駆け出そうとするモンモランシーをロビンが制止する。 (どうして?!ジェシカが危ないのよ!) 『落ち着くんだ。彼女ならまだ殺されない』 (なんでそんな事が判るのよ!) 『相手に殺す気があるなら彼女はもう死んでいる。もっと良く見るんだ』 ロビンは草むらに隠れながら二人の男達を見る。 一人は鍵を使って詰め所の中に入り、もう一人がゆっくりとジェシカの後を追う。 (どういうことよ?なんで鍵を持ってるの?) 『君の精神力を疲弊させる為に、わざとあの娘を殺さず君の元へと向かわせたんだ。 そして、おそらくは警備兵も奴らの仲間だ。街からモット伯の屋敷に向かうには この道を必ず通らねばならないからな。 普通なら夜更けにこんな怪しい馬車が通るのを警備兵が見過ごす筈が無い』 (え…?) 確かにロビンの言う事は正しい。それならば男が鍵を持っているのも不思議じゃない。 だったら、この埋められた死体はいったい誰なんだろう? 『今がチャンスだ。逃げるぞお嬢さん』 ロビンの言葉に思考が中断される。逃げる?ジェシカ達を見捨てて? (いやよ!あんなの見せられて逃げられる訳ないでしょ!) 『ならどうする?残り少ない精神力であの娘を治して、男二人と警備兵を相手にする気か? 間違いなく君は殺されるぞ。それか捕まえられて男達の慰み者にされてから売り飛ばされる。 所詮あの娘は平民だ、放って置けばいい。平民など貴族の奴隷なんだろう? 命を懸けてまで守る必要なんてないじゃないか』 (そうね…あなたの言ってることは正しいわ) 貴族の常識に当て嵌めるならば、この使い魔の言っている事は正しい。 そうだ、この私が平民なんかの為に命を懸けるなんて馬鹿げてる。 そもそもマリコルヌ達の手助けをしようとした事が間違っていた。 どうして貴族の私が名前も知らない平民の為にそんな危険を犯さなくちゃいけないのか? 馬鹿馬鹿しい。 メイドを救おうと躍起になっているマリコルヌと二人の使い魔は頭がおかしいんだ。 平民一人の為に貴族の屋敷に乗り込むなんて狂っているとしか思えない。 だけど…私は彼らとは違う。馬鹿じゃない。 やりたい事だって山ほどある。私には未来があるんだ。 こんなつまらない事で死ぬ訳にはいかない。 『良し、早く馬に乗るんだ。追われない様に他の馬は殺しておけよ』 ロビンに促され、モンモランシーは歩き出す。 『ソッチじゃないぞ。厩舎は向こうだろ?おい…何を考えているんだ!?』 (本当、なに考えてるんだろ) 自らの血で服を染め上げたジェシカがモンモランシーの腕の中に倒れ込む。 それを優しく受け止め、地面に寝かせて治癒の魔法を唱える。 『馬鹿な真似をするな!早く逃げるんだ!』 (そうね…馬鹿よ。みんな馬鹿) ジェシカの腹部から流れ出る鮮血が少しずつ収まっていくが、少ない精神力がそこで枯渇する。 制服の袖を破り、ハンカチと共にそれを傷口に押し当てて止血し、震えるジェシカの手を握る。 「モン…モ…ラシ…さ…」 「解ってるわ。安心して」 モンモランシーが手に力を込めて優しく微笑む。安心したジェシカはそのまま気を失った。 『自分が何をしているのか理解しているのか?』 ロビンが建物の陰に隠れるようにして近づき、主を見上げて問いかける。 (自分でも解らないわよ。だけどね…ここで逃げたら私の中で何かが終わってしまう。 平民の為じゃないわ。私自身の為に…やらなくっちゃあいけないのよ) 主の独白に近い呟きと蒼き双眸に込められた意思を見て、小さな使い魔はケロケロと笑った。 『そうか…ならば君の思う通りにやるがいいさ。勿論、奴らを倒す方法は考えてあるんだろう?』 (え~と…今から考えようかな…って) 困ったように答える自分の主をロビンは呆れたように見詰める。 『君は馬鹿か?』 (うるっさいわね!仕方ないでしょっ!思いつかないんだから) 『参ったな…あの男達だけなら何とかなるが、警備兵も含めるとお手上げだぞ』 (その事なんだけど…) モンモランシーから埋められた死体の事を聞いたロビンが唸る様にゲロリと鳴く。 『それは間違い無いのか?』 (小手も着けてたし血も渇いて無かったから、たぶん…) 喉をプクリと膨らませて何やら考え込む使い魔を、モンモランシーは心配そうな眼つきで見る。 『それなら何とかなるな』 (本当でしょうね?私、死ぬのも捕まるのも嫌よ?) 疑わしげに見る主にゲロッと一声鳴き、ロビンが考えたばかりの作戦を伝える。 (上手くいくんでしょうね?) 心配ではあるものの他の策も思い浮ばないので、モンモランシーは意を決して立ち上がる。 『それは君次第だな。さて、始めようか』
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わたしは今、馬車に乗っている。ミス・ロビンクルが御者を務め、キュルケと タバサ、プロシュートの四人で荷台に乗っている。 「フーケってのは何者なんだ?」 プロシュートは知らないらしい、今から捕まえにいく『土くれのフーケ』の説明をする。 「通称、土くれのフーケ。マジックアイテムが好きな盗賊よ。フーケは深夜に こっそり忍び込んだり、白昼堂々ゴーレムと現れたり。神出鬼没、男か女かも 分からない。ただ、盗んだ後にフーケのサインがしてあるだけ」 「名前から察するに土系統のメイジか?」 「そうね、少なくともトライアングルクラスのメイジね」 「これは、罠の気がする」 プロシュートが聞き捨てならないことを言い出した 「気?気がするですって、何で?」 「俺の勘だ」 「勘ですって?」 馬鹿馬鹿しい、わたしは何を期待したというんだろ 「悪くないんじゃないの、女の勘とか言うし」 キュルケ、こいつは男よ 「勘、馬鹿には出来ない」 タバサも同意らしい、滅多に開かない口を利いた 「今まで、捕まらなかったフーケの情報が何で今回入手できたんだ? それは、目撃されたのでは無く、ワザと見つかったと考えるべきだ」 「ダーリン、冴えてる」 プロシュートの仮説にキュルケが目を輝かせ、タバサがコクコク頷いている 「確認しとくぜルイズ、フーケは生け捕りにして破壊の杖をゲットすりゃいいんだな」 一々物騒なのよね、この使い魔は 「ミス・ロングビル、後どれくらいで着くんだ?」 「もっ、もうすぐですわ」 プロシュートに声を掛けられたミス・ロビンクルはうっすらと汗を掻いていた 「どうした、暑いのか?」 「ええ、なんだかこの辺りは蒸しますし」 ミス・ロングビル・・・なんだか怖がっているように見えるのは気のせいだろうか?
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ルイズは今夜も夢を見ていた。古ぼけた部屋の中の、かすみがかった人物達の夢。 ルイズはまた自分ではない誰かになっていて、かすみがかった部屋でかすんだ姿の まま、かすんだ男達と音の擦り切れた会話を交わしていた。 あの使い魔、ギアッチョを召喚した時から――いや、正確にはギーシュとの決闘を 終えた日から、ルイズはこの不思議な夢ばかりを見るようになっている。 使い魔となった者は、主人の目となり耳となる能力や人語を解する能力などを手に 入れる。ギアッチョにはそんな力はなかったが、ひょっとするとそれが夢の共有と いう形で発現しているのかもしれないとルイズは考えた。もしそうだとすると、この 夢を決闘の翌日から見るようになったということは――あの決闘を通して、 ギアッチョが自分を少し認めてくれたということなのかもしれない。ならば、と ルイズは思う。日々霧が晴れるように鮮明さを増してゆくこの夢は、彼が徐々に 心を開いていってくれているということなのだろうか。勿論、霧が全て消えれば 信頼度MAXなどというわけではないのだろうが、興味なんてさらさら無いように 見えるギアッチョが日々内心自分に心を開きつつあると思うと、ルイズはなんだか 無性に嬉しかった。 「どこに行くのよ」 ドアに向かって立ち上がったギアッチョにルイズが問いかける。外はもう双月が 煌々と輝いている時間である。 「剣の練習だ」 ギアッチョはそう言って喋る魔剣デルフリンガーを掴む。 「ちょっと待って わたしも行くわ」 そう言ってベッドから跳ね起きるルイズをギアッチョは物珍しげな眼で見る。 「ああ?何しに行くんだよ」 「何しにって・・・こっ、このわたしが見てあげるって言ってるのよ!ありがたく 思いなさい!」 ルイズはそう言うとギアッチョより先にドアを開けて行ってしまった。ギアッチョは その後姿を眺めながら、 「全くコロコロと機嫌の変わるヤローだなァァ あれが女心と秋の空ってヤツか? え?オンボロよォォ~~」 デルフリンガーの柄を鞘からわずか引き抜いて言う。話を振られた魔剣は、 「えっ!?あ、ハ、ハイ そのようでダンナ・・・」 先日ギアッチョにタンカを切った時の威勢のよさは微塵も無くなっていた。 ギアッチョが中庭へ出ると、先に到着していたルイズがキュルケと喧嘩をしていた。 その後ろには心配そうに主人を見守るフレイム。二人をサイドから眺めるような 位置でタバサが本を読んでいる。 「何でてめーらがここにいる?」 ギアッチョが当然の疑問を発すると、 「ちょっと食べすぎちゃったのよ で、運動しようと思ったらこのおチビちゃんが やって来たワケ」 返答にもルイズへの罵倒を織り交ぜるキュルケだった。 「だ、誰がチビよ!このストーカー!」 「ストッ・・・!?」 「ストッ・・・!?」 ルイズの一撃はキュルケの心を見事に刺し貫いた。別に感謝されたくてやって いたわけではないが、それにしたってキュルケの行動は――無論本人は肯定など しないだろうが――ひとえにルイズを心配するが故なのである。そこに気付いて いないとはいえ、ルイズのこの一言は相当なダメージだった。 「・・・ストーカーね・・・ フフフ・・・ストーカーですって・・・」 がっくりと肩を落としてブツブツと呟くキュルケに流石のルイズも異変を感じたのか、 「えっ!?ちょっとわたし何かした!?」とタバサに助けを求めている。 タバサが「どっちもどっち」と呟いたのを合図に、ギアッチョは彼女達から魔剣へと 視線を移す。 「で? どーすりゃあいいんだオンボロ」 「ど、どうするって?」 「剣なんざ扱ったこともねーって言わなかったか?喋れんなら剣の指南ぐれー 出来るだろ 前の持ち主の剣術とかよォォー」 完全に人まかせ、否剣まかせのギアッチョである。 「あっ、あーあーなるほど!だからダンナはわざわざこの俺をお買いになられた わけッスねェー!さすがはギアッチョのダンナ!」 デルフリンガーはなんとかギアッチョの機嫌を損ねまいと頑張っている。 「てめーそのダンナってのはどうにかならねーのか?」 「え・・・いや、相棒ってのもなんか違うし兄貴はもう取られてるし・・・」 よく分からないことを言い出すデル公だった。 「まぁいい で、結局どーすんだ」 「どうするって言われても・・・え、えーと じゃあとりあえず剣を抜いて・・・」 ギアッチョは言われるままに柄に手をかけ、剣を引き抜き―― バッグォォオオン!! 突如として中庭に轟音が鳴り響いた! 「何・・・だァァ~~~?」 ギアッチョが音のしたほうを振り向くと、岩が集まったような巨大な化け物が 本塔の壁を殴りつけているところだった。 「あれも使い魔だってェのか?」 抜きかけた剣を収めてルイズ達と合流したギアッチョが問う。 「あれはゴーレムよ それもとんでもなく大きい・・・!あんなものを練成する なんて・・・少なくともトライアングルクラスのメイジだわ」 どうやらあれは魔法によって作られるものらしい。彼女達の反応を見るに、 相当高度な魔法のようだ。 「なんにしても・・・見過ごすわけにはいかないわね!」 言うが早いかキュルケが走り出し、 「ちょっ、何やってんのよ!」 ルイズがそれを追いかける。タバサはギアッチョにちらりと眼を向けると、 「危険」 一言告げて先の二人を追いかける。ギアッチョは一つ大げさに溜息をつくと、 仕方なく彼女達のあとに続いた。 ゴーレムの肩の上に、黒衣に身を包んだ女性が立っている。彼女――土くれの フーケは、今まさに「仕事」の只中であった。大怪盗の名を持つ彼女の今宵の 目的は、トリステイン魔法学院本塔の宝物庫に秘蔵されている「破壊の杖」で ある。幾重にも封印が施された扉からの侵入を諦めた彼女は、魔法の薄い 外壁のほうを狙っていた。しかし内側よりは防御が甘いとは言え、高レベルの メイジがかけた固定化の魔法はそう簡単に破れるものではない。ゴーレムの 拳に、本塔の外壁は全くこたえた様子を見せなかった。しかしフーケは 慌てない。ぶつぶつと何事か呟くと、ゴーレムの両腕は鋼鉄の塊へと変じた。 フーケのゴーレムはそのまま壁へと突きのラッシュを放ち――何度目かの 突きで、固定されていた壁は見事に爆砕した。 フーケはちらと地面を見下ろす。学院の生徒達が何名かこちらに向かって いるが、彼女はクスリと笑うとそのまま宝物庫へと侵入した。 キュルケは走りながら魔法を唱え、ルイズとタバサがそれに続く。三者三様の 魔法が激突するが、多少の破損が認められるだけでゴーレムは問題なく 動き続ける。小うるさいアリ共を潰すべく、動く岩塊が右腕を打ち下ろし、 「きゃああっ!?」 間一髪逃れた三人に容赦なく左腕が振り下ろされる! 殺られる――!!ルイズは死を覚悟した。 しかし鉄の拳が彼女達を押しつぶす寸前、タバサが魔法を発動させる! バシィィィンッ!! タバサが打ち込んだ風がゴーレムの拳を刹那弾き返し、 「逃げて」 言うや否や二人に杖の先を向ける。 「なッ・・・タバサ!!」 タバサの風に二人はゴーレムの射程外まで吹っ飛び、そして再び呪文を 唱える間も、ましてや逃げる間も少女達の悲鳴が届く間もなく、タバサを 鋼鉄の拳が―― ズンッ!! 圧死の痛みの代わりに誰かに抱きかかえられる感触を感じて、タバサは 閉じていた眼を開いた。少女の眼に最初に飛び込んできたものは、 幾度も眼にしたことのあるボタンの多い服。そして彼女の頭上で、幾度も 耳にした声が響いた。 「てめー・・・シルフィードだったか?なかなかガッツがあるじゃあねーか」 ギアッチョが飛び乗ったシルフィードは、彼が何かを言う前に主人目掛けて 亜音速で飛来し、ゴーレムの拳が地面に激突する一瞬の間隙を縫って 主人を救い、空へと上昇した。タバサを捕まえたのはギアッチョである。 ギアッチョとシルフィード、それぞれが一瞬ですべきことを把握しなければ 出来ない芸当だった。使い魔同士の信じられないコンビネーションに、 破壊の杖を抱えて出てきたフーケを含む誰もが呆然と空を見上げていた。 一瞬あっけに取られていたフーケだったが、目的を果たしたことを思い出すと さっさとこの場から逃げることに決めた。地響きを立てて去ってゆくゴーレムを 見送って、 「大丈夫」 とタバサは一言口にする。それを合図にギアッチョが抱えていた手を離し、 タバサの命で風竜はゆるゆると地上へ向かった。 「――ありがとう」 シルフィードが地面に降り立つ直前、タバサは小さな声で言う。ギアッチョは 一瞬だけタバサに眼を遣ると、フン、と鼻を鳴らした。 「タバサ!!大丈夫!?タバサ!!」 「無事なのあんた達!?」 地上に戻った2人と1匹に、キュルケとルイズが駆け寄る。その顔は今にも 泣き出しそうだった。ギアッチョは3人を見渡して、誰にも怪我がないことを 確認すると、 「てめーらそこに並びな」 彼女達を一列に整列させる。 そしてルイズ達に待っていたのは。 「このッ・・・バカ野郎共がッ!!!」 鬼も裸足で逃げ出さんばかりのギアッチョの怒鳴り声だった。