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前ページ次ページアクマがこんにちわ ガリアの王都リュティス。 トリステインとの国境から千リーグ離れた内陸部に位置し、人口は三十万を誇るハルケギニア最大の都市。 その東端にはガリアの王宮、ヴェルサルテイルがある。 広大な森を切り開き建てられた巨大壮麗な宮殿は、現在ではガリアの王ジョゼフ一世がその主であった。 中央に位置するは「グラン・トロワ」薔薇色の大理石で組まれた建物は政の中心。 そこから少し離れたところに、薄桃色の小宮殿があり、そこはジョゼフの娘、王女イザベラの住まう宮殿となっていた。 年の頃十七ほどの少女が、ベッドの下をのぞき込む、少女はベッドの下に何もないと知ると、体を起こしてきょろきょろとあたりを見渡した。 青みがかった紙の色と、瞳は、ガリア王家の血をひいている何よりの証であった、彼女は肩まで伸ばされ、よく手入れされた青髪を風に揺らせて、どこか心配そうにしていた。 「ヒーホー、どこに行ったんだい…」 がっくりと肩を下ろし、ため息をつく、彼女が探しているのはつい最近呼び出した使い魔であり、丸っこい体の愛くるしい雪の妖精。 ベッドの隣に垂れ下がった紐を引っ張ると、三人組の侍女が居室に飛び込んでくる。 「お呼びでございますか? 殿下」 「ヒーホーを見なかったかい?」 「ヒーホー様は先ほど、イザベラ様にカキゴーリを作るホー、と言って厨房に…」 「厨房だって?」 と、突然少女の目つきが鋭くなる。 「は、はい、イザベラ様の名を出されたので、私どもには…」 「ああ、いい、用が済んだらすぐ戻るように言いなさい」 心なしか侍女達は、ほっとしたような表情になった。 「ところで、ガーゴイルはまだ来ないのかい」 年長の侍女が首を振った。 「シャルロットさまは、まだお見えになっておりません」 「ただの人形よ。ガーゴイルで十分よ」 「は、はい……」 侍女たちは、恐ろしそうに口ごもった。 今からイザベラの元を訪ねてくるシャルロットは、ガリア王家の血を引く王族であり、イザベラの従妹にあたる。 ある事情によって王家の権利と名前を剥奪されたとはいえ、召使に過ぎない侍女たちが無礼な態度を取れるはずがなかった。 しかしイザベラは、召使たちの無言の葛藤に気づきもせず、ベッドに腰掛け、両手で何かを抱きかかえるような仕草をしていた。 年長の侍女はそれを見て、イザベラの使い魔『ヒーホー』を抱きしめる仕草だとすぐ気づいたが、余計なことを言って怒らせても困るので、生暖かい目でそれを見守っていた。 ■■■ それからまもなくして、プチ・トロワにの庭に、シルフィードが降り立った。 シルフィードから降りたタバサは、シルフィードの食事を衛士に頼むと、王女の部屋の前へとやってきた。 部屋の前では、ガーゴイルが扉を守っており、タバサがやってきたのを確認すると交差させた杖を解除した。 ガリアは他の国に比べて、意思を持たされた人形や像、すなわち”ガーゴイル”がよく使われている。 ”ゴーレム”などは単純作業を繰り返したり、いちいち事細かな命令が必要になるが、ガーゴイルは独立した議事意識をもっており、単純な命令でも複雑な命令をこなすことが出来る。 言い換えれば、ゴーレムより気の利いた存在であった。 ガリアではガーゴイルが至るところで使われているため、ガリアはそれだけ魔法技術が発達した国だとされている。 タバサは、天井から垂れ下がった分厚い生地のカーテンをめくって、イザベラの部屋に入った。 いつもなら従姉妹のイザベラから、腐った卵を投げつけられたり、石を投げつけられたりと嫌がらせされるのだが、今回は何も来ない。 いつもとは違う嫌がらせでも思いついたのだろうか…と思ったところで、目の前に縫いぐるみのような何かがいるのに気づいた。 「ヒーホー、かき氷食べるホー?」 その声を聞いたタバサは、思わず頭にクエスチョンマークを浮かべた。 差し出された器には、細かく砕かれた氷が山盛りになっており、上から半分までは赤く染まっている。 どうしていいか分からず硬直すること一秒、その隙にドタドタドタと足音を鳴らして、イザベラが部屋に飛び込んできた。 「ああああああああっ! ヒーホーこんなところにいたのかい!ああもう厨房に見に行っても居ないから心配した……よ……」 「ホ?」 ガリアの北花壇騎士として数々の任務をこなしたタバサが反応できぬほどの速度で、イザベラはヒーホーを抱き上げてお腹のあたりをなで回し、ほおずりした。 タバサはヒーホーの手から離れて、一瞬だけ宙に浮いたかき氷を素早く両手でキャッチすると、今までにない奇行に走った従姉妹姫を見て目をぱちくりとさせた。 対してイザベラも、ヒーホーに抱きついて頬ずりするという一部始終をタバサに見られて、顔を真っ赤にしていた。 「イザベラちゃん、苦しいホー」 「あ、ああ……」 イザベラはヒーホーを離すと、踵を返してベッドにに座り、こほん、と咳払いをして気を落ち着けた。 ベッドの上に放ってあった書簡を手に取ると、タバサに向けて放り投げる。 恥ずかしいところを見られた、よりによってシャルロットに!そんな羞恥心と怒りと自己嫌悪の入り交じる感情のまま、イザベラは口を開く。 「北花壇騎士(シュヴァリエ・ド・ノールパルテル)七号のあんたの任務よ。さっさと片付けてきなさい」 放り投げた書簡は宙を舞い、かき氷を食べているタバサの足下に落ちた。 だがタバサは書簡に気を向けることなく、黙々と柔らかく甘いかき氷を食べていた。 「かき氷美味しいホー?」 「……美味しい」 「良かったホー」 「お前ら話を聞けー!!!」 勢いよく立ち上がり、両拳を握りしめたイザベラが叫び声を上げる、おでこにうっすらと青筋が浮かぶ程の叫びだった。 「怒っちゃダメだホね、かき氷を食べて落ち着くホー。何味がいいホ?」 「あ、ああ、じゃああたしはこの間のやつを」 「ブルーハワイだホね」 そう言うとヒーホーは、空の器の上に手をかざす、すると掌から極薄の氷の結晶が現れ、局地的なダイヤモンドダストとなって器の中を氷で満たした。 「ああ、これだよこれ、まったく不思議な甘さだよ」 どこから取り出したかプラスチック製の透明なスプーンを手に、イザベラはかき氷を食べはじめた、青筋はとうに消えて、その表情は満面の笑みに変わっている。 「シロップはボルテクス界のスーパーで沢山集めたんだホ、まだまだあるから沢山食べるといいホー」 「よく分からないけどお前の居た所は不思議なところだねえ」 「一度遊びに来ると良いホー、今メタトロンが門を作ってる頃だホ、すぐに行き来できるホよ」 かき氷を食べ終わったタバサは、足下に落ちていた書簡を拾い上げると中身を確認する。 イザベラがかき氷に気を取られているうちに、この部屋を出るべきだろうが、タバサにはそれに勝る決意があった。 ヒーホーの前に、タバサは殻になった器を差し出して、こう言った。 「おかわり」 ■■■ さてタバサ達がガリアで漫才を繰り広げている頃、トリステイン魔法学院では、恒例となったルイズの魔法練習が行われていた。 本日は午後の授業が自習になったため、人修羅とルイズは人気のないヴェストリの広場で練習をしている。 「空気が小さな粒の集合体だとしたら、体は途方もない量の粒が集まってできていると感じるんだ。その小さな粒すべてが、同時に、地面から離れていくように…」 「………ッ!」 ルイズが人修羅の言葉通り、自分の体を構成するすべてが、一度に上に移動する姿を思い浮かべた。 すると周囲に風もないのに、ルイズの髪の毛が浮いた。 ルイズの体と、身につけている服が少しずつ重力の束縛を離れていく、だがそれも数秒だけのことで、ふぅとため息をつくように力を抜くと元通りに垂れ下がった。 「…ふぅっ。ねえ、今のどうだった?」 ルイズが閉じていた目を開き人修羅を見ると、人修羅はルイズから顔を逸らしていた。 「白のレースでした」 「は?」 「なんでもない。髪の毛と服は浮いていたよ。コルベール先生の『レビテーション』と比べると無駄が多い気がするけど」 「……やっぱり、私の魔法は無駄が多いの?」 「そうだけど、ちょっと引っかかるものがあるんだ、疲れてるところ悪いけどさ……この石にレビテーションをかけてくれないか?」 立て膝の姿勢で、人修羅はポケットから小さな石を取り出し、ルイズに見えるよう右手で掲げた。 「わかったわ」 「それと注文がある、浮かせるんじゃなくて、その場に固定する形で魔法を想像して欲しい」 「固定?…うん、やってやるわよ、それじゃ行くわよ」 ルイズは杖を小石に向けると、ぶつぶつと何事かを呟き、小石にレビテーションをかけた。 人修羅はルイズの体から、何らかの力が放出されるのを感じていた、かつてボルテクス界で人修羅は、姿気配を消す鬼、隠行鬼(オンギョウキ)と対峙した。 姿も気配も見えぬ敵と戦ったときと同じように、五感と第六感を研ぎ澄まして、ルイズから放たれる力がどうやって、どんな形で、どんな流れを持って小石に影響を与えるのかを観察していく。 不意に、人修羅が手を振り下げた。 掌に置かれた小石は、人修羅の動きに合わせ地面に落ちるかと思ったが、予想に反し小石は宙に浮いている。 ルイズも少し驚いた様子だった、人修羅はその小石をもう一度握り込んで、ぐいと引っ張る。 「…単純な腕力じゃビクともしない。レビテーションなんてもんじゃないよ、これは、空中に物体を固定してる、それも、とんでもない力でだ」 言い終わるとルイズの集中力も切れたのか、小石は重力に従って地面に落ちた。 ルイズはハァハァと肩で息をしている。 「だいぶ疲れたみたいだな、ちょっとそこのベンチで休もう。なんか飲み物持ってこようか?」 「うん…そうしてちょうだい。なんか、すっごく疲れたわ」 「お持たせ致しました、ガリア北部茶葉のアイスティーです」 「「ん?」」 ルイズと人修羅が声のした方を見ると、いつから居たのかシエスタがトレイを持って中庭の入り口に待機していた。 よく見ると二人分のグラスが乗せられている。 「シエスタ、どうしたの?」 人修羅が問いかけると、シエスタはにこりと微笑んで二人に近寄り、冷たく冷やされた炭酸水の紅茶を差し出した。 「お二人が練習をしているのは聞いていましたから、喉を癒すのに水分を欲されると思いまして、勝手ながらお茶を準備させて頂きました」 「気が利いているわね、シエスタ。ところで怪我したところはもういいの?」 「はい、元々大きな怪我ではありませんし、皆さんから気を遣って頂いたので、もう大丈夫です」 ルイズはシエスタの心遣いに、ちょっとした喜びを感じていた。 そのお返しというわけではないが、モット伯の一件でシエスタが負った怪我を気遣い、怪我の様子を聞く。 シエスタもまた笑みを見せて怪我の回復を告げ、ルイズも、人修羅もそれを聞いて喜んだ。 シエスタから受け取ったアイスティーを飲む、ルイズは茶葉が良い物だと分かったのか、香りを嗅ぎなおし、嬉しそうに微笑む。 人修羅は味の善し悪しはよく分からなかったが、飲みやすく苦すぎないあっさりとした味と、ココロの落ち着くような柔らかい香りのおかげで、それなりに良い物だと想像できた。 一口飲み込んだところで、ヴェストリの広場とアウストリの広場を分ける連絡通路の上に顔を向ける。 「ロングビルさんも一緒にどうですかー」 「え?」「?」 人修羅の言葉に驚いたルイズとシエスタは、つられて通路の屋根を見上げた、すると死角になる位置からロングビルがひょっこりと顔を出した。 ロングビルはスカートを足で挟み込み、正座するような形でレビテーションを唱えて、屋根の上からゆっくりと降りてきた。 「…いつから気がついていたんですか?」 「本塔一階で後ろから視線を感じたし、ヴェストリの広場に出たところでフライか何かを使うような魔力を感じたんで」 人修羅の返答にロングビルが冷や汗を浮かべる、偶然午後の授業が自習になり、偶然ロングビルが人修羅とルイズを見かけ、軽い気持ちで人修羅を監視していたのだが、ここまで自分の動きが気づかれているとは思わなかった。 「それにしては、先ほどはシエスタさんに気づいていらっしゃらないようでしたが…」 「ああ、魔法が行使されるとマガツヒが……ええと生命力と魂の素材みたいなものですけど、それが揺らぐような気配を感じるんです」 「はあ…ちなみに、どれぐらいの範囲で分かるのですか?」 「せいぜい半径50メート…メイルぐらいだと思いますけどね」 殺気を含んだ視線ならどんな遠くでも『心眼』で分かる…とは口に出さなかった。 「改めて考えてみると非常識よね、人修羅って」 唐突にルイズがそんなことを呟いた。 「昨日だってコルベール先生とルーンの解析をしてたし、発音を波として考えるイメージトレーニングだって凄いし、この間見せてくれた…『放電』はライトニング・クラウドより凄そうだし…」 呟きながらも、ルイズは杖を人修羅に向ける。 「でも! なんで空を飛べないのよっ!」 「こらこら杖を人に向けるな、それに文句を言われても困る、俺だって自分で飛んでみたいよ」 頬をふくらますルイズに、両手を上げて人修羅が降参のポーズを取る。 そんな二人を、シエスタから渡されたアイスティーを飲みながら見つめていた。 「ふふっ」 ロングビルはその様子がおかしくて、つい笑みを零してしまった。 目の前にいる人修羅は、ドラゴンやエルフより危険視されるような化け物だとオールド・オスマンから警告されている、それは自分でディティクトマジックを使って確かめた。 いつ噴火するか分からない火山の火口、もしくは巨大なドラゴンの口の中をのぞき込むような恐怖、それが人修羅から感じた力だった。 だが、今はまったくその恐怖を感じない、それは人修羅が無差別に力を振るう暴君ではなく、理知的に、被害を最小限に抑えて反撃をするような存在だと思えたからだろうか。 ルイズをあしらう姿など、まるで年の離れた妹に手を焼いているようにしか見えない、そう思うと故郷の孤児達の姿がまぶたに浮かぶ気がした。 「ルーンはスカアハから多少聞いていたし、サンスクリットはだいそうじょうとフォルネウスが教えてくれたしな…こんなことならルーンはもうちょっと教わっておくべきだったかな」 「へえ、人修羅にも家庭教師がいたの?」 思考の海に落ちかけていたロングビルが、人修羅の声で引き戻される。 どうやら話題は、人修羅が誰から知恵を授かったか…という所らしい。 「家庭教師とは違うよ、いろんな仲魔が、できの悪い俺を支えてくれたんだ。中にはスパルタな奴も居たけどな!ダンテとかダンテとかダンテとか」 「ねえねえ、そういえばこの前言っていたピクシーって言う…妖精の仲間がいたんでしょ?妖精なんて見たこと無いんだけど、ホントにいるの?」 「まあ、妖精さんですか?」 妖精という言葉に、シエスタが興味深そうな表情になる。 「ああ。いたよ、ちょっと口が悪くてちょっと自分勝手でちょっと人の弱みにつけ込んでちょっと怒ると怖い…いやかなり怖いけど、頑張り屋で、電撃が得意な頼もしい奴さ」 頼もしい…その言葉でルイズ、シエスタ、ロングビルの三人は、そろって筋肉ムキムキで身長30サント程度の羽の生えた妖精さんを想像した、なぜかブーメランパンツにサムソンと書かれている。 人修羅の周囲を旋回しつつ、スキンヘッドに空いた穴から電撃を放つ妖精の姿…。 「でも体は小さくて…そうだな、30サント程度かな、女の子の姿をしていてさ、最初に見つけたときは驚いたよ、すごく助けられたなあ…」 女の子の姿と聞いて、話を聞いていた三人はほっと胸をなで下ろした。 「どうしたの?」 「なんでもないわ」「なんでもありませんよ」「わ、私は何も…」 人修羅は頭に?を浮かべたが、すぐにどうでもよくなり、ベンチに背中を預けて空を見上げた。 ピクシーは今頃どうしているんだろうか。 アクマの巣窟と化した病院の中で俺を助けてくれた、アマラの果てで、古き仲間として俺についてきてくれた。 シジマの世界で俺を助けてくれた、ムスビの世界で共に生き、ヨスガの世界で共に戦い…… カグヅチと戦い、ルシファーと戦い、あの最果ての果ての戦いで……共に戦った? 「どうしたの人修羅、黙っちゃって」 ふと目を開けると、ルイズが人修羅の顔をのぞき込んでいた。 「ん?ああ、ごめん、ちょっと考え事してた」 「そう、そろそろ授業時間も終わりだし、夕食前に部屋に戻るわよ」 「ああ…わかった。シエスタ、飲み物ありがとう」 「いえ、人修羅さんもお疲れ様です」 シエスタは一礼すると、夕食の準備を手伝うため、急いで厨房に戻っていった。 「それじゃ私も失礼しますわ、またお話を聞かせてくださいね」 ロングビルもそう言って離れていく、ヴェストリの広場には、人修羅とルイズが残った。 「行きましょ、人修羅」 「…ああ」 どこか腑に落ちない物を感じながら、人修羅はルイズの後を歩いていった。 ■■■ ■■■ 「眩しいな」 夜、人修羅は魔法学院の中庭で、ベンチに腰掛けて月を見上げていた。 青白い光を発する月が、ボルテクス界の中央に浮かぶカグヅチと重なり、顔をしかめる。 「…俺は」 人修羅は自分の記憶に疑問を感じていた。 ボルテクス界は、いわば子宮の内側、世界を生み出すための母体。 その世界では無数のアクマ達が、世界の指針となる思想を、広め満たすために戦い続けていた。 そしていつしか俺は…… すべてが計算され尽くし、例外の認められぬ完全調和の世界、シジマの世界に居た。 強者のみが生き、弱者の生きることが許されぬ世界、ヨスガの世界に居た。 他者との接触を必要としない閉じた世界、ムスビの世界に俺は居た。 そしてすべてのコトワリを否定し尽くし、元の世界に戻ろうとした俺は、無数無限のアクマを従え、明けの明星と共に、唯一の神に、Y.H.V.Hに戦いを挑み、傷つき、倒れ、傷つき、痛み、仲魔を食らい、仲魔のマガツヒを食らい尽くして、敵も味方もアクマもカミも何もかも食らい尽くして……… 「……あのとき、俺はピクシーを食った」 言葉に出すと、それがより実感を伴って現れてくる。 いつ終わるとも分からない戦いの果てに、仲魔だったアクマ達のマガツヒを食らい尽くした。 『吸血』の要領で仲間達のマガツヒを集め、食らった。 消えていくピクシー、ジャックフロスト、だいそうじょう、スカアハ、クーフーリン、メタトロン……そして最後には、ルシファーもY.H.V.Hすらも『食い尽くした』。 この記憶が本当だとしたら、仲魔を呼ぶことができぬ理由が説明できる。 「俺は……」 人修羅が見上げた月は、まるで涙を流したかのように滲んでいた。 ■■■ 翌日、ルイズが授業に出ている間、人修羅はオールド・オスマンの元に呼び出されていた。 「使い魔品評会ですか?」 「そうじゃ。三日後に姫殿下が魔法学院を視察に来られるんじゃ、その際に二年、三年生の使い魔達をお披露目するということになってのう」 オールド・オスマンがひげを撫でながら呟く、どこか申し訳なさそうに言葉を窄めているので、人修羅はオスマンの意図を察した。 三日後に、トリステインの姫殿下が魔法学院に立ち寄るという、視察という名目ではあるが、実際には魔法学院で学んでいる子弟と少しでも接点を作ろうとする貴族達の策略らしい。 とにかく、それを期に使い魔品評会が開かれることになった。 そこで困ったのが人修羅の扱い、品評会は使い魔と生徒全員の参加が求められているが、人修羅を人前に出すのは可能な限り避けたい。 「俺が派手な見せ物をしちゃ、ダメですよね、やっぱり」 「うむ…ワシもどうにかしてやりたいんじゃが、人修羅君の力を王宮の連中に見せるのは気が進まんでのう」 「ルイズさんの説得は大変だと思いますけど、まあ仕方ないですよ」 「ミス・ヴァリエールには病気の姉がおる。見舞いをかねた里帰りをしてもらうつもりじゃ」 「そ、そこまでしなくても…」 「いや本気じゃよ。その理由は、君の使う魔法にあるんじゃ」 「?」 オスマンは机の引き出しから、コルベールによって書かれた報告書を取り出す。 「『アナライズ』。解析の魔法じゃな。我々の用いる『ディティクト・マジック』とも違う。これで病気を解析したことはあるかね?」 人修羅は腕を組み、右手をあごに当てて考え込む仕草を取った。 「…病気を解析したことは無いです。性質や属性、耐性、状態などは細かく分かりますけど、病(やまい)にはまだ」 人修羅の説明を聞いたオスマンは、うんうんと唸った。 「それでも構わんよ、ミス・ヴァリエールの両親は、トリステインを代表する貴族として名高いんじゃが、同時に子煩悩で有名でなあ。 ミス・ヴァリエールの姉が生まれつきからだが弱く、その治癒のため八方に手を尽くしているというのは有名な話なんじゃよ」 「子煩悩?」 「ほれ、彼女は『ゼロ』と揶揄されておるが、それなのに魔法学院に入学させるというのが、既に子煩悩の証明のようなものなんじゃよ。 貴族は10才にもなれば『フライ』ぐらいは使えるようになるが、彼女は『レビテーション』も『念力』も成功した試しがなかった。 ほとんどの貴族は魔法が使えるようになるまで家庭教師の下で練習をさせるじゃろう、しかし彼女の親はそれをしなかった、それが何故だか分かるかね?」 人修羅は首を横に振り、わからない、と呟く。 「彼女を一人の貴族として教育しているからじゃよ。魔法学院は、魔法と社交を学ぶ場所でもあるんじゃ。たとえ魔法が成功しなくとも、親にとって彼女は『貴族』なんじゃよ」 「はあ…なるほど」 どこか別の世界の話のようで、人修羅は気のない返事をしてしまった。 「納得いかんという顔じゃの」 「あー、その何と言いますか、別世界というか、いや実際に別世界なんですけど、社交ってのがイマイチよく分からないんです。 元の世界で貴族と言ったら、イギリスとか華族とか平安貴族ぐらいしか思いつかないし」 オスマンはふむふむと頷く。 「そういえば、君の生まれは貴族の居ない土地じゃったの。まあ一言で説明すれば…貴族にとって『貴族である』とは、生まれだけでなくその生き方を含めたすべてなんじゃよ。 ミス・ヴァリエールは両親の期待を一身に背負っておる。魔法が使えなくとも、優れた政で争いを回避し、調和を保った貴族は沢山いるのじゃよ。 ただ残念なことに政だけでは絶対的な評価にならんのじゃ、貴族は威光すらも魔法に頼るんじゃ」 「なるほどね……じゃあ、ルイズさんの両親は、メイジだけではなく、あくまでも政治を司る貴族として一人前になれるよう願ってるんですね?」 「そう考えて良いじゃろう。だからこそ君に、彼女の姉、ミス・カトレアを診察し、可能なら君の持つ回復魔法で治癒を施して欲しいんじゃ」 「恩を売れと?」 「言葉を選ばぬなら、その通りじゃ」 ■■■ 午前の授業が終わり、昼食が終わったところで、今度はルイズが学院長に呼び出された。 三日後の使い魔品評会に参加できないと聞いたルイズは、不満を漏らすだろうか、それともヒステリックに怒りを表すだろうか、それとも納得してくれるだろうか? そんなことを考えて日向ぼっこをする人修羅の周囲を、使い魔達が囲んでいた。 「ふもっ」 「ようヴェルダンデ。ミミズ?いや、俺はミミズは食べ慣れてないんだ。ごめん」 「ゲコゲコッ」 「ロビンか、最近暑いって?そりゃ季節がそうなんだから仕方ないよ、水場に行けばいいじゃないか。え?人間達に踏まれそうになった?そりゃ大変だな、主人と一緒に部屋に居ればいいじゃないか。え?臭いがキツイ?」 なぜか使い魔達の言葉が分かるので、人修羅の周りには使い魔達が近づきやすい。 特にシルフィードは普段の鬱憤が溜まっているのか、よく喋る。 「きゅい!」(ひとしゅらー、こんにちわなのねー。今日のお肉はいつもと違ったのね、ひとしゅらも食べた?) 「ああ、シルフィードか。昼飯はいつもと違う肉だった?ああ、昨日俺が取って来た熊の肉かな」 「人修羅が捕まえてきたの?美味しかったのね!」(きゅいきゅい!) 「そう言ってもらえるとありがたいよ。それにしても体が大きいから、食べ物も大変だなあ」 「そんなことは無いのね、人間の方が沢山食べるし、無駄も多いのね」(きゅい、きゅきゅ) 「ああ確かにマルトーさん嘆いてるよな。せっかくの料理も食べ残しが多いんじゃ残念だよなあ」 「まったくその通りなのね!この間はお姉様、意地悪な従姉妹にかき氷を沢山食べさせられて、お腹壊しちゃったのね」(きゅいきゅいきゅい、きゅい!) 「へえそれは大変だなあ……ん?」 人修羅は学院の本塔からただならぬ気配を感じた。 見ると、タバサが血相を変えてシルフィードの元に飛んで来た、比喩ではなくフライを用いて超低空を移動している。 シルフィードは顔を青ざめ、他の使い魔達も悪い予感がしたのか、人修羅の周囲からパッと離れていった。 ゴツン 「きゅい!」 「喋っちゃダメ」 「きゅい~…」 タバサはシルフィードに近づくと、自分の背より大きな杖でシルフィードを叩いた、シルフィードは涙目になって謝っている。 「お、おい、そんなに叩いちゃかわいそうだって」 人修羅が止めようとすると、タバサはずいと人修羅に詰め寄った。 小柄なタバサが、人修羅に掴みかかる勢いで顔を見上げている姿は、ちょっと犯罪的と言える。 「シルフィードが(人語を)喋ったことは誰にも言わないで」 「え?ああ。(かき氷を食べて腹をこわしたなんて)誰にも言わないよ」 「絶対に、誰にも言わないで」 「事情はともかく、言いふらす真似なんかしたくないよ。大丈夫、絶対に誰にも言わない」 「…ありがとう」 「どういたしまして」 ぺこりと頭を下げたタバサは、シルフィードの背に飛び乗り、どこかへ飛んでいってしまった。 タバサの様子では、これからシルフィードに教育という名のお仕置きが待っている頃だろう。 「それにしても、かき氷ってこの世界にもあったのか…」 結局、人修羅はシルフィードが喋った事に気がついていなかった。 ■■■ 「人修羅」 使い魔達が離れてしまい、また一人で日向ぼっこをしていたところ、背後から聞き慣れた声で呼びかけられた。 「ルイズさんか、学院長の話は終わったの?」 「…それなんだけど、ちょっと聞きたいことがあるの」 「ああ、いいけど…」 人修羅がそう呟くと、ルイズは人修羅を花壇脇のベンチに誘った。 ルイズが座り、その隣に人修羅が座る、と同時にカランコロンと午後の授業開始時間を告げる鐘が鳴った。 「授業、いいの?」 「いいの。……ねえ人修羅、私には二人の姉がいるの。長女のエレオノールお姉様と、次女のカトレア姉様。 エレオノール姉様はすごく頭が良くて、魔法アカデミーの主任研究員を務めていらっしゃるわ」 「アカデミー?大学…国営の研究機関とか、そんな感じのものか?」 「そうよ、トリステインの魔法研究を中心を担っているわ。姉様は土系統を得意としているんだけど、それを病気の治癒に利用できないか研究していると言っていたわ」 「病気か…それって、もしかして、もう一人のお姉さんのために」 ルイズが空を見上げる、両手にはぎゅっと力が込められ、膝の上で握り拳を作っている。 「オールド・オスマンから聞いたの?その通りよ、私もいつかアカデミーに入って、カトレア姉様の病気を治してあげたいの」 そうっと、ルイズが人修羅の袖を掴む。 ルイズに買ってもらった服のうち、今日着ている者は魔法学院の制服と作りは同じで、色がクリーム色になっている。 硬すぎず柔らかすぎない天然素材で作られたそれを、ぎゅっと握りしめて、ルイズは人修羅の顔を見上げた。 「私、魔法が使えなくて悔しかった、ちい姉さまを助けたいのに何もできなくて悔しかったのよ。 人修羅の力は世に出すなって、オールド・オスマンから言われたけど、私の使い魔なら、協力して、ちい姉様を助けるために協力して! …お願い……」 ルイズが涙を流している。 輝く涙の粒に、人修羅は驚愕した。 「あ、ああ。その、泣かないでくれ。断るつもりはないよ。 それにまだ俺の力が役立つと決まった訳じゃないんだ、この世界でどれだけ通じるか分からないし、とにかく、一度見てみないと」 「……うん」 ルイズは静かに頷いた。 その頭に、人修羅は軽く手を乗せて、撫でる。 (妹ができたらこんな気持ちだろうか?どこか微笑ましくて、守ってやりたくなる…) 思わずほほえんだ人修羅を見て、ルイズも少し安心したのか、小さくほほえんだ。 二人の様子は、恋人と言うより、仲の良い兄妹のようであった。 ……と、のぞき見していたマリコルヌはコメントしている。 ■■■ 「…すー…」 「寝ちゃったか、泣き疲れて眠るなんて子供みたいだな」 「すー…げっぷ」 「……なんか酒臭いぞ」 ふと先ほど、ルイズに泣きつかれた時のことを思い出すと、ルイズは頬どころか耳まで真っ赤に染めていた気がする。 あのときは興奮のためだと思ったが、よく考えれば,、こんなに感情を露わにするなんて異常ではないだろうか。 「あの、ミス・ヴァリエールは大丈夫でしょうか?」 「シエスタ?」 いつの間にか、近くに来ていたシエスタが、心配そうにルイズの顔をのぞき込んだ。 「先ほど学院長室で、ずいぶん強いお酒を召し上がっていたようですけど…お水を部屋にお持ちしましょうか?」 「酒?どういうこと?」 「ええと、学院長室で、オールド・オスマンが……」 『ミス・ヴァリエール!まず気を落ち着けるために一杯飲みなさい。 いいかね、君の姉のことはワシも少しは聞いておる、治癒の方法を探して君が努力しているのもよく知っておる。 おっと飲み干したならもう一杯飲みなさい、これは薬酒でのう、健康のためを思って取り寄せたんじゃ、まず味見しなさい。 それで人修羅くんの力で診察してもらってはどうかと思うんじゃよ、彼はワシらとは違う体系の魔法を知っておるし…おうおうイケる口じゃの、もっと飲みなさい。まだ飲みなさい、ほれ飲みなさい……』 「っていう事があったんですけど」 「あのじじい!ルイズさんが泣き上戸って知っててやりやがったな!」 「うっぷ…うおぇええぇっ」 「うわぁ!?」 「きゃあ大変!?」 前ページ次ページアクマがこんにちわ
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前ページ次ページアクマがこんにちわ カチャリ、小さな音が静かな空間に響く。 かつて人修羅と共に戦った『だいそうじょう』は、人修羅にこう語った。 『汝中道を歩むべし。静寂を求む者は静寂に惑い、喧噪を求む者は喧噪に惑う……』 静かな空間では、その静かさのせいで小さな音にも惑わされる、自分の呼吸や心音にすら惑わされるという。 それでは喧噪の中にいるのと差はない。 大僧正の言葉を思い出しつつ、人修羅はびみょーな力加減でナイフを引く、柔らかく煮込まれた肉から動物性とは思えぬほどさらりとした肉汁が流れた。 その肉をフォークで刺そうとして、カチャリとまたもや音を立ててしまった。 「……………」 そーっとルイズの顔色を伺うと、ルイズは人修羅のことなど気にせず朝食を食べていた。 ほっとしたのもつかの間、フォークの先端に刺さった肉を口に運ぼうとした時、ぼちゃっ、と皿の上に肉が落ちた。 よく見るとナプキンの上にソースが少しだけ飛び散っている。 ヴァリエール家の朝食は、ものすご~く胃に悪かった。 ◆◆◆ 「俺さ、箸しか知らないんだよ」 「ニャ」 「フォークなんてグラタンとかスパゲッティの時しか使わないしさ」 「ニャ」 「テーブルマナーのテの字も知らないんだよね」 「ニャ」 朝食の後、人修羅は屋敷の裏庭に案内してもらい、猫を相手に黄昏れていた。 黒猫はカトレアのお友達らしく、人修羅の言葉に相づちを打つなどして知能の高さを見せている。 「そもそもさ、俺ってただの学生だったんだ。だったんだけどなあ…」 「ニャ」 東京受胎に巻き込まれた時も困惑したが、ルイズに召喚されてからも別の意味で困惑していた。 人修羅は一定の推論を元にカトレアに治療を施したため、研究者肌のエレオノールから決して低くない評価を受けた。 更に、ハルケギニアとは別の体系づけられた文化の出身とあって、ヴァリエール公爵からは気に入られ、『賓客』の扱いを受けている。 一昨日夜は使い魔兼従者扱い。 翌日は医者扱い。 そして今日からは賓客扱いである。 それ自体はとても光栄なことだが、緊張感漂う朝食の席だけは勘弁して欲しかった。 間違いなく胃に悪い。 人修羅は頭に乗った猫を両手で抱えると、向きを変えて顔を見つめた。 「お前だってネズミ捕まえるときは爪を使うのが一番だろ?俺は箸を使うのが一番いいんだ」 「ニャー」 「え?ネズミなんか捕まえない?ご飯はカトレアさんがくれるの?食器は陶磁器? さいですか…」 猫にテーブルマナーで負けた気がして、ヘコんだ。 ◆◆◆ しばらくして猫がどこかに立ち去った後。 人修羅は軽く背伸びをして深呼吸し、裏庭を見渡した。 裏庭は塀に囲まれた長方形の広場で、地面が石畳なのを除けば魔法学院の『ヴェストリの広場』を連想させる雰囲気になっている。 ここに案内してくれたメイドによれば、ヴァリエール家は代々この裏庭で魔法と兵法を研究したとか。 「ミスタ」 ふと、後ろから声をかけられた。 振り向いてみると、そこにはエレオノールとルイズが人修羅を見つめていた。 「ミスタ…って、いや、僕はルイズさんの使い魔ですし、そんな風に言われても…」 「あら、それならばどうお呼びしたら良いかしら」 「人修羅で結構です」 「そう言えば、貴方の国では敬称をあまり用いないのでしたわね。解りましたわ。それでは早速ですが、今日は貴方が指導したという、ルイズの魔法を見せて頂きます」 エレオノールが杖を振ると、10メイルほど離れた場所に甲冑が現れた。 飾り気のない全身鎧だが、鉄製であるらしく、鈍い輝きを放っている。 「ルイズさん、準備はいい?」 「…ええ」 ルイズは緊張気味に答え、杖を構えた。 人修羅はルイズの背後に立つと、両肩に手を乗せる。 「緊張し過ぎ。肩の力を抜いて自然体で立つんだ、前に教えたとおりゆっくりと呼吸してくれ……集中は『する』ものじゃない。既に『集中している』んだ」 ルイズは人修羅に言われたとおり、口から少しずつ息を吐き、次に鼻から少しずつ息を吸った。 じわり、じわりと体が熱くなっていく気がして、自分の姿勢が乱れていることに気づく。 背筋の伸ばし方や、重心の僅かな違いを体が敏感に感じ取り、肉体が最もリラックスできる位置へと矯正されていく。 「…やるわ」 ルイズが呟く。 「解った」 人修羅はそう言ってルイズから離れた。 ルイズが甲冑へと杖を向ける、その距離およそ10メイル。 「ラナ」 杖と甲冑の間に、不可視のフィールドが現れ、空気を包み込む。 「デル」 直径1メイルほどの空気の固まりはその場に固定されながらも運動エネルギーを与えられ、潰された風船のようにぐにゃりと歪んでいく。 「ウインデ!」 パンッ! 乾いた音が、裏庭に響く。 それに一瞬遅れて金属の固まりが石畳の上を転がり、ガシャン、ガラガラと不快な音が響いた。 ルイズは自分の魔法が『爆発』ではなく、人修羅曰く『衝撃波』となって発動したことに一種の満足感を感じた。 が、今は魔法学院ではなく厳しい厳しい姉の前なので、はしゃぐこともできない。 ゆっくりと後ろを振り向いて姉の顔を伺うと、姉はルイズではなく、ルイズが起こした衝撃波の痕跡をじっと見つめていた。 「………今のは『エア・ハンマー』の詠唱ね。でも、何か違うわ」 「!」 ルイズは姉の言葉に背筋を寒くした。 確かに教師の見せる『エア・ハンマー』とは違うので、またもや説教が飛ぶのかと思いこんでしまい、肩が震えた。 「それについて、俺…僕の考えを説明します。そのためにもう一つ協力して貰いたいんですが」 人修羅がさりげなくルイズのとなりに立ち、肩に手を置いた。 ルイズはビクンと肩を震わせたが、人修羅の手の温かさを感じていると、不思議とふるえが収まっていく気がした。 「ええ。何をすれば良いのかしら」 「じゃあ、先ほど飛び散ったこの鉄片に、強力な『固定化』をかけて貰えませんか」 「固定化を?」 「必要なことなんです」 エレオノールはこくりと頷き、人修羅の手に乗った小さな鉄片に杖を向け、詠唱を始めた。 固定化がかけられると、今度はルイズに鉄片を見せる。 「ルイズさん、今度はこの鉄片を砕いてくれないか」 「これを?」 「ああ、コレを土のかたまりだと思って、『ほぐす』感じでやってくれないか」 「…解ったわ」 ルイズが頷くのを見て、人修羅は鉄片を地面に置き後ろに下る。 その様子を見て、エレオノールは人修羅の態度に感心していた。 エレオノールは何度もルイズの爆発に巻き込まれている、そのためルイズが魔法を使う時には近づかないように心がけている、しかし人修羅は違う。 爆発を全く恐れていない、すべて受け入れてやると言わんばかりの態度で、ルイズに自信を与え続けている。 「もう、羨ましいわね」 エレオノールは、頑なな妹の心をほぐした使い魔に感謝すると共に、ほんの少し嫉妬していた。 ◆◆◆ 何度かの実技を終えたルイズは、精神的にも疲れたのか、うっすらと額に汗を浮かべていた。 ルイズの目の前では、エレオノールと人修羅が地面にしゃがみ、ルイズの行った魔法を検分している。 「これは完全に固定化を解除されているわ、凄い…こんな事までできるなんて」 「こっちは上手くまっぷたつに割れてますが、よく見ると断面が合いません。断面は割れたんじゃなくて消滅してるんです」 「いずれかの系統魔法に特化した例はアカデミーにも記録されていますが、こんな形で固定化を取り除く例は覚えがありませんわ」 「僕が見た限りでは、精神力と集中力は魔法学院の中でトップだと思います。密度が違うんですよ」 「確かに…こちらの鉄片は、中央に小さな穴を開けてありますわね。集中力は目を見張るものがあるんでしょう…ルイズの魔法を『失敗』で片づけるのは愚かでしたわね」 「でもその加減を教えてくれる人が居なかった。爆発を起こすのは風船に水を入れすぎるのと同じだと、誰も指摘できなかったんじゃないですか」 「ええ。お恥ずかしい限りですわ」 散らばった鉄片を人修羅が拾い、ルイズに魔法の指示を与える。 それを何度も繰り返して作られたサンプルの数々、そこにはルイズの魔法がどれだけ特異なのか、また、どれだけ強力なものなのかが示されていた。 エレオノールと人修羅が、サンプルに触れて様々な推論を述べ、意見を交わしていく。 二人とも真剣で、ルイズが口を挟む隙は見つけられない。 それが少しだけ悔しくて、ルイズはため息をついた。 「ルイズさん、疲れた?」 「え! あ、ううん。まだ大丈夫よ」 ピンク色の髪の毛を揺らして直立するルイズに、エレオノールが声をかけた。 「ルイズ、貴方もよく訓練したのね。爆発させずに、微細な加減もできるようになったなんて…よくやったわ」 「え」 ルイズはその言葉に驚き、目をぱちくりとさせた。 (エレオノール姉様が、私を褒めてくれたの?) 「……ま、これで少しは迷惑をかけなくなるでしょうね。修理費用の無心はもうダメよ」 「は、はい」 エレオノールがルイズから視線を外しても、ルイズはきょとんとした表情のままエレオノールを見つめていた。 姉の優しい言葉など、何年ぶりだろうか…… 「それでは、次はルイズの魔法を指導するにあたり、参考になったという、人修羅さんの魔法を見せて頂きたいと思いますわ」 「俺のですか?ここでやると石畳が…」 「ここは練兵場も兼ねておりますから、それぐらいは直ぐに直せますわ」 人修羅はぐるりと裏庭を見渡した。 それなりの広さがあるのは解っているので、後頭部をぽりぽりと掻きながら「仕方ないか」と呟く。 「それじゃあ、これから魔法を幾つか見せます」 「どのような魔法を使うのですか?」 「そうですね…ルイズさんの『爆発』は失敗として片づけられていましたが、僕がこれから使う魔法は、爆発を攻撃に利用するため、範囲を限定して放てるんです」 「範囲を、限定」 「ええ、だいたい直径15メイルを消滅させるんですけど…ま、論より証拠、やってみますよ」 人修羅はそう言うと、十歩ほど前に進んで、虚空に手を向けた。 「 メ ギ ド 」 ◆◆◆ 「おねーさまっ!おねえーさま!」 「はっ!?」 気が付くと私は、ルイズとミスタ・人修羅に腕を掴まれ、体を支えられていた。 「エレオノールさん、大丈夫ですか?」 ミスタが私の顔をのぞき込み、そう聞いてくる。 「あっ、だ、大丈夫ですわ。少し驚いてしまっただけなので」 そう言って一人で立とうとするが、膝が笑っているのか腰が抜けたのか、うまく立ち上がることができない。 ふと、先ほどミスタが放った魔法の痕を見る。 丈夫に作られた石畳には、スプーンでくりぬいた果物のように、綺麗なすり鉢状の穴が作られていた。 直径は15メイルもあるだろう。 ミスタの魔法はルイズの爆発に似ていると聞いたが、実際に見てみるとまるで別物だとわかる。 ルイズの爆発は『危ない!』と思えたが、ミスタの魔法…確か『メギド』だったか、それはとても幻想的で、儚い色の魔法だった。 連想するのは死ではなく、消滅。 この石畳のように、綺麗に消滅できるのなら、私はそれで良いかもしれない…そう思わせるほどの蠱惑的な輝きを放っていた。 「ルイズさん、とりあえず屋敷まで運ぼう」 「う、うん」 魔法の輝きを思い返しているうちに、ミスタは私を軽々と抱きかかえた。 …俗に言うお姫様だっこで。 「…………あ、あの、ありがとう…ございます」 ミスタの手は、強大な魔法を放つとは思えぬほど柔らかく、そして暖かい。 こんなにも胸がドキドキするのは何時以来だろうか、ああ! しかも殿方に抱き上げられるなんて!だめよ妹の使い魔に!私ったら何を考えているの…! エレオノールは、いつの間にか魔法にかけられていた、トリステインの魔法アカデミーですら知らぬ、異国の魔法に。 それは地球で『吊り橋効果』と呼ばれていたとか……。 ◆◆◆ エレオノールを部屋まで運んだ人修羅とルイズは、公爵から直々の話があると侍女に言われ、緊張した面持ちで応接間へと向かった。 魔法学院の学院長室よりも広い応接間は、目立った調度品の数こそ少ない。 しかし壁や天井、暖炉にシャンデリア、テーブルにソファなど、必要最低限のものがすべて最高級品質のもので作られている。 人修羅もそろそろ慣れてきたのか、案内の侍女に導かれるままにソファに座り、公爵を待った。 「ねえ、人修羅」 「何?」 ルイズは人修羅の隣に座り、正面を向いたまま小声で話し出した。 「オールド・オスマンが言ってたわよね。貴方のルーンは『ガンダールヴ』だって」 「そうらしいな。まあ俺にはそこら辺が良くわからないんだが…デルフリンガーの方が詳しいはずだ」 「昔、始祖ブリミルに仕えてたガンダールヴも、貴方みたいだったのかしら」 「どうかなあ」 「どうしてわたしは魔法ができないのか、ずっと悩んでいたわ。みんなと同じ魔法を使いたい、母様、父様、姉様みたいに、ちゃんと魔法を使いたいってずっと悩んでた」 「大丈夫だ。レビテーションだって仕えるようになったじゃないか、まだ力みすぎだけどさ」 ルイズは、しばらく黙っていた。 が、不意に人修羅の方に顔を向けると、ぎゅっと人修羅の袖を摘んだ。 「あのね、わたしね、立派なメイジになりたいの。別に、そんな強力なメイジになれなくてもいい。ただ、呪文をきちんと使いこなせるようになりたいのよ」 人修羅は黙ってルイズの独白を聞いた。 「私は自分の得意な系統もわからない、どんな呪文を唱えても失敗なんてイヤだった。小さい頃から、ダメだって言われてたわ…。 お父さまも、お母さまも、わたしには何にも期待してない。クラスメイトにもバカにされて。ゼロゼロって言われて……。 わたし、ほんとに才能が無いって思ってた。得意な系統も存在しない、出来損ないのメイジ、いいえ、メイジにもなれないと思ってた。 魔法を唱えるときも、なんだかぎこちないの、失敗するって自分でも解るのよ。 先生や、お母さまや、お姉さまが言ってたけど…得意な系統の呪文を唱えると、体の中に何かがうまれて、それが体の中を循環する感じがするんだって。 それはリズムになって、そのリズムが最高潮に達したとき、呪文は完成するんだって。そんなこと、一度もないもの」 「でも、人修羅が来てくれて、わたし、手がかりを掴んだ気がするの、虚無とか、そんな大それたものじゃなくて……まだ見ない私だけのリズムがある気がするのよ。 人修羅の魔法を見ると、怖いけど、でもすっきりするの、たくさん泣いたあとみたいに、心が空っぽになるけど、空しいんじゃなくて…なんか、嫌なものが流された気がするのよ」 ルイズはそこで言葉を句切った。 じっ、と黙っていると、ルイズは人修羅から手を離し、居住まいを正した。 「ねえ。人を、殺したこと、ある?」 その質問に人修羅は、静かに、だが重々しく答えた。 「あるよ」 「戦争で?」 「似たようなものかな。殺さなきゃ殺される。話し合いで解決できたこともあるけど、決して多くはない」 「あの『メギド』の魔法で殺したこともあるの?」 「ある」 「そのとき、どんな風に考えたの?どんな気持ちだったの?」 人修羅はほんの一呼吸置いて、答えた。 「…仲魔を巻き添えにしたくない、けれども魔法を放たなければ自分達が死ぬ。だから魔法を放つときはいつも祈るような気持ちだった。改めて考えてみると、あの魔法を打つ時はいつも必死だった」 人修羅の言葉に、ルイズはハッとした表情になった。 「……それかもしれない」 「それ、とは?」 「ねえ、それで、仲間を巻き添えにした事って、ある?」 「敵が魔法を反射しない限りは、一度もなかった…と思う」 「それだわ、きっとそれよ、だから私、人修羅を呼んだのかもしれない。 私、魔法を失敗してカトレア姉様を怪我させたことがあるの、でも姉様は私の魔法は私だけのものだから、大切にしなさいって言ってくれた。 私、失敗だって言われ続けた爆発も、カトレア姉様の言葉があったから嫌いにはならなかったの。 ううん。違うわ。嫌ったこともあるけど、私の魔法が起こしたことは、私の責任だから、私の責任から逃げないようにって教えてくれたのがカトレア姉様なの」 興奮気味になっていたルイズは、いつの間にか自分が人修羅に顔を近づけていたと気付き、こほんと咳をしてから居住まいを正した。 「…それでね。私は、自分の魔法を制御したい、って思ったのかもしれない。だから私は人修羅を呼んだのかもしれない、って思ったの」 「そうか。そう思っていたなら上出来だよ」 人修羅はぽん、とルイズの頭に手を乗せた。 「ゆっくりやろう」 「うん…」 ルイズはしおらしく頷き、上目遣いで人修羅を見た。 これはちょっとクるものがある。 しかもちょっと目がうるんでる気がする。 やばい、これはやばい。 東京受胎が起こる前、比較的仲の良い同級生と遊びに行くこともあったが、だいたいは複数人だった。 今更だが、女の子と二人きり、しかもアクマになった時から成長が止まっているとすれば、自分はまだ17歳。 ほとんど同年代の女の子に上目遣いで迫られていると言えるだろう。 「うおっほん!」 「ぬお!」「おっ、お父様」 突然聞こえてきた咳払いに驚き、ルイズと人修羅は慌てて距離を取った。 声の主、ヴァリエール公爵はルイズ達と対面のソファに座り、執事を後ろに待機させた。 執事は銀製のトレイを持ち、その上には手紙らしき物が置かれている。 「…さて。ミスタ・人修羅。先ほど別のメイジにもカトレアの様子を見て貰ったところ、驚くほど水の流れが澄んでいると言われた、健康そのものだと」 公爵は微笑みながら言葉を紡ぐが、先ほどのわざとらしい咳払いのおかげで、どうもその微笑みに裏があるように見えて仕方がない。 「そ、そうですか。それは良かったです」 人修羅はほんのちょっとだけ冷や汗を流した。 「ところで、つい先ほど魔法学院のオールド・オスマンから、ルイズ宛に手紙が届いたのだが…」 公爵の言葉で執事がテーブルの脇に移動し、ルイズの前にトレイを差し出した、ルイズはトレイから手紙を取ると、すぐにその封を開けて中を読み始めた。 「まあ…」 手紙に目を通したルイズは、その内容に驚き、思わず声を上げた。 一通り読み終えたルイズは手紙を畳み、テーブルの上にそっと置く。人修羅はさりげないその仕草に感心し、心の中で(このさりげない上品な仕草が貴族かあ)と呟いた。 「姫殿下が私に会いたかったと、オールド・オスマンに仰ったそうです」 ルイズがそう呟くと、公爵はうむ、と頷いた。 「ゲルマニアに嫁ぐ前に…私に、一目会いたかったって…」 「ゲルマニア?」 その地名がキュルケの故郷を指すものだと思い返し、思わず人修羅も呟いてしまった。 公爵はふぅ、と息を吐いてから、ちらりと人修羅を見た。 人修羅はその視線に苦しげなものを感じたので、真剣に話を聞くため居住まいを正した。 「姫殿下は、アルビオンの反乱に心を痛めておられる」 公爵はハルケギニアの政治情勢を説明した。 アルビオンの貴族たちが反乱を起こし、今にも王室が倒れそうなこと。 反乱軍が勝利を収めたら、次にトリステインに侵攻してくるであろうこと。 それに対抗するために、トリステインはゲルマニアと同盟を結ぶことになった、結束を固めるためアンリエッタ王女がゲルマニア皇室に嫁ぐことになったと……。 「そう、そうだったの……」 ルイズは沈んだ声で言った。 ルイズは幼い頃、王女アンリエッタの遊び相手を務めていた、今回の結婚もアンリエッタが望んだ物ではないと、明らかに想像できた。 「姫さま…」 沈みこむルイズに、公爵が声をかける。 「ルイズ、今すぐ準備をしなさい。馬車を竜に引かせれば明日にはトリスタニアに到着するだろう。姫殿下にお目通りを願って来なさい」 「お父様?」 ルイズは、ハッと顔を上げた。 そしてごくりとツバを飲み、すっくと立ち上がると、祈るように手を合わせた。 「ありがとうございます、お父様!」 ルイズはそう言うと、そそくさと応接室を出て行った。 人修羅もそれに付いていこうとしたが、公爵が呼び止める。 「ミスタ・人修羅。君は使い魔として召喚されたとはいえ、大変に迷惑をかける」 「いや、気にしないでください。……それに俺にまでミスタなんて敬称を付けなくても……」 「そう言うわけにもいかん。ヴァリエール家の従者の行いは、ヴァリエール家がその責を取らねばならん。君に敬称を付けるのは、君を準貴族として扱ってのことだ。ルイズの魔法を監督してくれるとなればそれぐらいは当然だ」 「そ、そうですか。 …ところで、俺だけを残した理由は、何ですか?」 人修羅の瞳が、ほんの僅か金色に輝く。 その気配にただならぬものを感じた公爵は、懐からもう一通の手紙を取り出した。 「…実は、ルイズ宛とは別に、オールド・オスマンから私宛の手紙があった。そこには君がどれだけ学院に協力的なのか、また戦いを望まぬのかが書かれていた……が」 公爵は静かにその内容を語り出した。 オールド・オスマンからの手紙は、人修羅に関することととルイズに関すること。 魔法学院卒業生のエレオノールは息災か、カトレアという姉妹のことを大変気にしていたが体調はどうか…等々。 手紙に特別なことなど書かれているとは思えないが、公爵の表情はどこか厳しい。 「特に何かを危惧しているとは思えない手紙だが、オールド・オスマンはルイズ宛の手紙について、トリステインとガリアの故事を引用している」 「故事?」 「四百年ほど前の話だと言われているが……ウィリアムというトリステインの王子に思いを寄せた、ガリア公爵家の少女が手紙をしたためた話だ。 その手紙は一種のラブレターなのだが、トリステインの王子には既に婚約相手のルージェという貴族の子女がおられ、しかもその方には別の貴族…確かウォールという名前の貴族が恋心を抱いていたのだよ。 ラブレターの話を聞きつけたウォールは、王子が浮気していると思いこみ、アラを探したのだが尻尾も掴ませない。当然だ、王子はラブレターに丁重な断りの返事を出したのだからな。 オールド・オスマンはこう書いている。 『ミス・ヴァリエールは王女と大変仲が良いと聞き及びる次第、魔法学院ご来訪の際にもしきりにミス・ヴァリエールを探しておられました。ウィリアム王子の故事の如くゲルマニアの皇帝に嫉妬されるなどありましたら、笑い話にも………』 とな」 「はあ」 人修羅は気のない返事をした、その故事が何だというのか、その故事をわざわざ例えに上げたオスマンの思惑もまるで解らない。 公爵は一呼吸置くと、人修羅の顔を見据えた。 「十中八九、姫殿下はルイズに何か頼み事をするだろう。それも表立てぬ事でだ」 「は?」 「ここでこの故事を例に挙げる意味が無い。すなわち、アンリエッタ王女がしたためた手紙か何かがあり、婚約つまりこのゲルマニアとの同盟を妨害するに足る場所に保管されていると見る。 アンリエッタ姫殿下は、おそらく、アルビオンの王子ウェールズ・テューダー殿下に思いを寄せておられる……思いのあまり婚約を望む手紙をしたため、ウェールズ殿下に送ったのかもしれんなぁ…」 人修羅は唖然として、呆けそうになったが、すぐに気を取り直して真剣な表情になった。 「その手紙一つで、そこまで解るものなんですか」 「オールド・オスマンは文献学をやりすぎて歴史を紐解きすぎたのよ。一時期はエルフに対しても寛容であるべきだと主張し、左遷された。そんな人物がわざわざこのような意味のない例を出すはずがない」 公爵はテーブルに手をつき、真剣な表情で人修羅を見た。 「裏庭での魔法の実践、見せて貰った。ルイズがもし身を危険に晒す選択をした場合、どうかルイズを守ってやってくれんか」 「…俺はルイズさんに養って貰ってる身です。可能な限りは守ります、ですが、暗殺にまで完全に対処できるとは思っていません」 「君でも不可能があるのか?」 「あるのか、ではなく、不可能を可能にするのが人間です。ならば、自分が絶対だと思っている物でも、いつか崩されると危機感を持つべきです」 「そうか! わかった。 君は今までそうして戦ってきたのだな、私の妻は私よりも遙かに優れたメイジだが、昨晩私にこう言ったのだ、『勝てる気がしない』と!君は弱いからこそ弱点を知り油断せぬのだな、だからそこまで剣呑な気配を持ちながら平穏を望む!」 人修羅は、表情にこそ出さなかったもののの、内心で唸っていた。 これほどまで評価されたら、誰であろうと、今更止めますとは絶対に言えないだろう。 「ルイズさんの身は守ります、ですが戦争に積極的に参加しようとは思いません、それだけは解って下さい」 「うむ……ルイズを第一に考えてくれるのなら、私からは何も言うことはない」 二人はどちらともなく手を差し出し、ぐっ、と強い握手をした。 人修羅は公爵の手に雄大さを感じ、公爵は人修羅の手に鞘に入った杖(刃)を感じた気がした。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 所変わってガリアの首都にあるイザベラの居城、プチ・トロワ。 「……どーしろって言うんだろうね、これ」 イザベラは私室のベッドの上で、長さ2メイルほどの杖を振り回していた。 朝から侍女や衛士を呼びつけて実験させたが、特になんて事のない棒だと言われてしまった。魔法を使う杖でも無さそうだし、マジックアイテムでも無い。 「ヒーホー。こんな棒きれ、何に使えっていうのさ」 ベッド脇のテーブルの上で、小さな雪だるま(冬将軍というらしい)を作っていたヒーホーは、テーブルから飛び降りてベッドによじ登った。 「スカアハは武術のタツジンで、みんなからソンケーされているんだホね。その棒はセタンタが練習に使っていた槍にそっくりだと思うホー」 「槍ぃ?」 イザベラは鼻で笑った、メイジである自分に槍を使えとはたいした皮肉だ。 魔法の才能が皆無だから槍で戦えと言うのか?冗談じゃない! 「なんだい、こんなもの!」 イザベラは興味を失ったとばかりに、杖を放り投げ、ベッドに寝ころんだ。 「あーあ、なんか面白いこと無いかねえ…って、なんだいこりゃ」 投げたはずの杖は床に落ちず、空中で静止していた。 「……マジックアイテム、なのかい?いや、でもディティクトマジックじゃ何も解らないって言ってたし…」 むくりと体を起こし、おそるおそる杖を掴むと、ゾクっとする不可思議な感触が伝わってきた。 「………なんか、絡まってる…?」 杖を握った手に力を入れて、ひねる。すると杖は宙に固定されていた力を失い、イザベラの手に収まった。 イザベラは今の感触を思い出しながら、杖をねじりながら突いたり、風を絡みつける姿をイメージした。 すると杖は風を巻き込み、窓に掛かるカーテンを揺らし、シャンデリアを動かした。 「…ははは、はははははははっ!なんだいこれ、面白いね!」 「イザベラちゃん楽しそうだホー」 イザベラは杖をねじることで、風や空気を巻き込み、また空中に固定させることを覚えた。 空中で杖をねじって固定し、そこに飛び乗って座る、すかさず杖を空中から解き、体が落ちきる前に杖を虚空に伸ばし、ねじる。 すると階段を上がるようにどんどんどんどん体が持ち上げられていく。 「おっと、高く上がりすぎたね…」 シャンデリアと同じ高さになったところで、イザベラは自分が高く上がりすぎたと思った。 「こう…いや、こうか?」 絡まった空間を、半分だけ解く姿をイメージして杖をひねると、杖はゆっくりと降下していく。 「ふぅん、なかなか面白いマジックアイテムじゃないか」 着地したイザベラはそう呟いて、杖を高く掲げた。 イザベラの頭の中では、すでにこのマジックアイテムをどう試すかで埋まっている。 何せ魔法の才能がない自分が、詠唱も何もなしに風を操り、宙に浮くこともできたのだ。 マジックアイテムに頼るようで少し癪だが、これもヒーホーとその友人?がくれた物だと思えば、自分のためだけにあるマジックアイテムのようで悪くない。 「ヒーホー!こいつはいいね、少し使いこなせるように試してみるよ」 「気に入ったホ?良かったホね! イザベラちゃんの周りの風も喜んでるホ!」 「風が喜んでる?」 おかしな事を言うヤツだ、そう思ったイザベラの耳に、誰かかささやく声が聞こえてきた。 『……』 「あん?」 「イザベラちゃんと一緒に踊れて嬉しいって言ってるホー」 ヒーホーの言っていることは、精霊魔法の観念に疎いイザベラでもなんとなく理解できた。 眉間に皺を寄せていたイザベラだが、自分の周りを包む風に、声のような意志のような物を感じてくると、その表情は笑顔へと一変した。 「はっ、ははは!あははははははははは!」 (このアタシが!先住魔法の使い手になるってのかい!) イザベラは、気が触れたような高笑いを続けていた。 ただごとではないと感じた侍女が医者を呼んだのは余談である。 前ページ次ページアクマがこんにちわ
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前ページ次ページアクマがこんにちわ 「まあ、それでは人修羅さんは異国から来られたの?ハルケギニアの地図にない国だなんて、とても遠いところからいらしたのね」 「遠いですよ。そりゃもういろんな意味で遠いです」 ヴァリエール公爵のの屋敷で、人修羅はカトレアの部屋に呼ばれ、他愛もない話をしていた。 噂でしか聞いたことのない東方の話ということで、カトレアの質問が続く。 二人を見守っているのが、カトレアの部屋に集まった大蛇や犬や猫や小型のバグベアーやら……とにかく沢山の動物達。 彼らはカトレアのお友達らしい、馬車で領内を移動する時は、馬車の中にお友達も沢山乗り込むのだとか、その様はまるで移動動物園だろうか。 それにしても、蛇の上にカエルが乗っていたり、ワシやフクロウがネズミを背に乗せて飛んでいる。 「お前ら動物の本能はどうした」と言いたかったが言っても意味がないので笑うことにした。 「トリステインとゲルマニアでも様式が違うのに、もっと遠いところから召喚されたのでしょう?生活にも混乱があったでしょう、大変でしたわね」 「いやあそこら辺はルイズさんが良くしてくれますし、オスマン先生も気遣ってくれましたんで、不便ではないです」 「あらあら、それじゃあルイズにもずいぶん気に入られたのね」 「そうなんですかね?」 ははは、と人修羅が笑う。 カトレアという人物は、髪の毛の色や顔立ちこそルイズに似ているが、胸が……じゃなくて物腰や態度がまるで違う。 子供の頃から体が弱く、家族に守られていたせいか、刺々しいところや貴族の気負いが感じられない。 会話しているだけでも癒される気がした。 ふと、もう一人の姉、エレオノールの姿を思い出す。 きっと彼女は、病弱な妹や、魔法が使えない妹の前に立ち続けていたのだろう、貴族にしか解らない重責や、妹を庇うために、ずっと気を悩ましていたのに違いない。 そんな事を考えていると、扉の向こうから”ドタドタドタドタ”と足音が聞こえてきた。 気のせいか「お姉様待って!」とか「カトレアが毒牙に!」などと聞こえてくる。 ドン!とぶち破らんばかりの勢いで扉が開かれる。 「こ、こ、この悪魔め!ルイズばかりでなくカトレアを毒牙にぃッ!!」 「お姉様ー!違うんです、違うんですってば!」 そこに居たのは、ものすっごい形相で人修羅に杖を向けるエレオノールと、その足にしがみついて引きずられてきたルイズの二人だった。 「まあ姉様ったら、そんなに慌てなくても人修羅さんは逃げませんよ」 「カトレアッ!だまされちゃダメよ、私は見たのよ!そいつは何か良く解らないけど変な黒い影を沢山連れてる怪しい危なそうな奴よ!」 「エレオノールお姉様、それはオールド・オスマンも確認して」 「だまらっしゃい!ええい、成敗してやるわーーッ!」 「お姉様ってば~!」 昨晩の厳粛な食事風景が夢だったのかと思わせるほど、エレオノールは取り乱していた。 「あらあら、にぎやかで楽しいわね」 そう言って微笑むカトレアは、姉妹の仲で一番大物なのかもしれない。 ◆◆◆ ルイズの必死の説得により、一応の落ち着きを取り戻したエレオノールだが、相変わらず人修羅に厳しい視線を向けていた。 ベッドに腰掛けるカトレア、その直ぐ手前に立つ人修羅、更に人修羅の脇で心配そうにカトレアを見つめるルイズ。 そしてそれらを睨んでいるのが、エレオノールである。 「話を聞かずにディティクトマジックを使った私にも非はあります。精霊を従えているという事で納得しましょう。ですが…もしルイズに、カトレアに害を与えたら、絶対に許しませんよ…?」 そう言いつつも、手には昨日人修羅から預かった治癒魔法の結晶体を握っている。 研究する気はマンマンのようだ。 人修羅は思わず苦笑いを浮かべた、隣ではルイズも苦笑いで人修羅を見ていた。 「ええと、ミス・エレオノール。オールド・オスマンは、系統の違う治癒の力がカトレアさんの治療に役立つのではないかと期待して、帰省許可を出したんです」 「ええ、それはルイズからも聞いたわ」 「ですが治癒を約束できる訳じゃないんです。決して害は与えませんが、何の成果も得られなくとも、怒らないでくださいよ」 「それも理解しているわ。とにかく貴方がどんな魔法を使うのか解らないと意味がないの。そうね……とりあえず、カトレアのペットに魔法を」 エレオノールが、部屋の隅でこちらを見ている数匹の動物を指さす、するとカトレアはハッキリとした声で異を唱えた。 「お姉様、ここにいる皆は、お友達ですわ」 「……カトレアのお友達で試しなさい」 お友達と言い直したが、人修羅の魔法を試させることに躊躇いはないようで。聞いている方は思わず冷や汗を流した。 「いいんですか?」 「ルイズの使い魔をしてくれる貴方が、悪い人のはずがありませんわ」 にっこりと微笑むカトレア、それに合わせて猫や犬や鳥やウサギが合唱のように鳴いた。 ぽりぽりと後頭部をかきつつ、人修羅が動物たちに目を向け、小声で呟く。 「…『アナライズ』」 すると人修羅の視界に、もう一つの視界が重なった。 動物たちの持つ個別の生命力や特技が、時にはそのまま、時には比喩的なイメージで頭の中に浮かんでくる。 「あのバグベアーはコロって名前で、水や氷に強そうですね。あと精神力が強くて『眠りの霧』にはかかりにくそうですね」 「こっちの小鳥は、まだ名付けられてないのか…あ、怪我をしていたんですか?ちょっと生命力の器がハッキリしているけど身が少ない…全快時より1/10程体力が減ってますね」 「一番大きい蛇さんは、鱗に隠れて見えないけど、かなり怪我が多いかな…あれ?意外と寒さに強い。なるほどミズチの眷属なのか…この子に嘗められると怪我の治りが早くなりそうですね」 ボルテクス界では敵の弱点を分析する時しか使わなかったが、こうして使ってみると意外なことまで解る。 病気の原因が解るかは微妙だが、集中して何度も行えば、かなり細かいところまで解析できそうだった。 一通りの解析が終わると、カトレアは嬉しそうに微笑んだ。 「凄いわ。まだ教えてないことまで解ってしまうのね。ねえエレオノール姉様。私は人修羅さんに診察して頂きたいと思うわ。だから人修羅さんに怖い顔をしないであげて」 「……解ったわよ」 エレオノールは、ちょっと拗ねたように唇をとがらせて呟いた。 ◆◆◆ 「………………」 人修羅は『アナライズ』による診察の途中、ルイズとエレオノールに協力を願った。 二人の体と比べて、カトレアの体にどのような違いがあるか、またそれによってどんな影響があるのかを具体的に知るためであった。 しかし「胸を比べる気か」と誤解したエレオノールとルイズに睨まれ、冷や汗を流す羽目になる。 ボルテクス界では、敵の弱点を知るために用いていた『アナライズ』だが、意外にも病気の診察にも効果的らしい。 そもそも『アナライズ』を使わずとも、自分と仲魔の状態異常は理解できていたのだから、『アナライズ』を併用すれば人体の診断も難しくない。 人修羅は直接カトレアの背中に手を当てて、そこから感じられる微細な違和感を探った。 三十分ほど経過したところで人修羅による診察が終わる。 「まず確認したいことがあるんですけど…カトレアさんは、体のあちこちに水の淀み…つまり病が起きるんですよね?」 人修羅はこぢんまりとしたテーブルを挟み、エレオノールと向かい合って座っていた。 「ええ。そのたびに水系統のメイジに頼んで、治癒を施させているわ」 「つい最近、下腹部のあたりが弱まりませんでした?なんかつい最近治療を受けたような気がするんですけど…」 人修羅が自分の体の部位を指で示しながら、カトレアの体から違和感を感じた箇所を伝えた。 「他には?」 エレオノールは人修羅を試すような言い方をする。 その隣からルイズの熱い視線。 まるで「恥かかせんじゃないわよ!」と聞こえてきそうな程の気迫がこもっている。 人修羅は二人の妖気を身に受けつつ、カトレアの状態をエレオノール達と比較して説明した。 それにしてもエレオノールの視線は厳しい、妹を思うあまりなのか、それとも学者肌なのか、食い入るように、殺気が混じってるんじゃないかと錯覚するほどの視線を向けてくる。 人修羅も医学に詳しいわけではない。 人間の生命そのものと言えるマガツヒを食らい、魔力を行使して魔法を行使し、生命力を燃やして様々な種類の技を操ってきた。 生前には医者や鍼灸師だったという思念体から習ったり、崩れ落ちた本屋で拾った『よくわかる家庭の医学』やら『奇病・難病スペシャル』を読んで得た、いわば付け焼き刃の知識しかない。 一通り説明し終える頃にはと、人修羅のおでこに緊張の汗が浮かんでいた。 「つまりカトレアの体は窒息寸前の状態だと言いたいのね?」 説明を受けたエレオノールが、腕を組んだまま呟いた。 「はい。お二人と比べると、カトレアさんの呼吸動作には差違が無いんですが、一回の呼吸で得られる活力が少し低いんです」 人修羅が肺の輪郭をなぞるように、虚空で手を動かす。 それを見てエレオノールは、あごに手を当てて俯き、うぅんと唸った。 「続けますね。人間の血液中には呼吸で得た酸素を運ぶ”赤血球”ってのがあるんですけど、それを作り出す骨の内側が、ルイズさんと比べて流れが速いんです。何と言うか、未成熟なまま血が流れていく感じで…」 「それはつまり、カトレアは血がその役割を果たしきっていない…という事かしら」 「ええ。これは血の病というか、血を作り出す器官の病、そんな風に感じました」 エレオノールは無言で、また考え込んでしまった。 今度はエレオノールに代わり、カトレアと人修羅を見守っていたルイズが口を開く。 「ねえ人修羅、貴方の魔法で治せないの?」 「うーん…俺の知っている魔法は怪我を治すのには抜群なんだけど、この手の病気にどれぐらい効果があるか怪しいんだよな……たとえばさ、そこにティーカップがあるだろ」 人修羅がティーカップを指さす。 「人間の残存生命が紅茶だとする。怪我や疲労でどんどん消費され、0になると人間は死んでしまう。俺の魔法は器に紅茶をつぎ足すようなものなんだ」 ルイズがティーカップをちらりと見て、頷く。 「けれども人間の生命力には、個人差がある。それが器の大きさだ、カトレアさんの場合器がルイズさんより小さい、継ぎ足しても容量を超えると零れてしまう」 カトレアの生命を入れた器は、ルイズの半分以下にしか感じられなかった。 それを正直に言って不安を募らせてはいけないと思い、人修羅は慎重に言葉を選んだ。 「そうなの……」 ルイズが残念そうに肩を落とす、と今度はエレオノールが口を開く。 「それは、カトレアの体は、私たちより弱くできている、しかもその状態が正常だと言いたいの?」 あまりにも直球な発言に驚き、人修羅は口ごもった。 「人修羅さん、貴方の思うように言ってくださいな、私に遠慮はいりません」 人修羅のとまどいを察したカトレアが呟く。 「……じゃあ、言わせて貰います。カトレアさんの体が弱いのは、自然なことなんですです。 だから水系統の『治癒』だけでは根治にならない。 エレオノールさんと、ルイズさんの間で毛の色が違うように、人間は両親から少しずつ特徴を貰って生まれてきます。 祖父母や曾祖父母、もっと前の人たちから少しずつ受け継いでいます。 カトレアさんの場合は、偶然、血を作る力が弱いという特徴を受け継いでしまったのかもしれないです。 根治を目指すには『治癒』ではなく『強化』の考え方も必要だと思います」 エレオノールは人修羅の言いたことが解ったのか、静かに口を開いた。 「カトレアの体は、『弱い状態が正常』だと言いたいのね?それなら『治癒』だけでは原因解明ができなかった理由として一応の説明が付くわ」 隣では、ルイズが膝の上で両拳を握りしめ、俯いていた。 「ねえ人修羅…貴方の魔法で、カトレア姉様を治すことはできないの?」 「俺の魔法じゃ無理だ。でも、手段が無いわけじゃない。俺が使っていたアイテムの中に、『ソーマ』という霊薬がある。 『アミターパ』『アムリタ』『無量寿光』『甘露』『生命』『エリクサー』って別称でも呼ばれるんだけど、それなら遺伝病だろうが先天性のものだろうがお構いなしだ」 はっ、とエレオノールが顔を上げた。 「貴方の国では、その薬で血の病が治る前例があるの?」 相変わらず厳しい目を向けるエレオノールに、人修羅は執念と呼べる物を感じた。 「そこら辺は大丈夫、人間が用いれば、先天的な病や欠損も治してしまう究極の薬だからな。仲魔達のお墨付きだよ」 強力な敵と戦いで幾度となく命を落としかけた人修羅だが、その危機をソーマによって救われていた。 アクマにとってのソーマは『最良の薬』とされているが、人間にとっては『不老不死の妙薬』だという。 もし入手できれば、ならばカトレアの体にも効果があるのではないだろうか。 「でも、人修羅は元の世界に帰れないんでしょう?」 ルイズがそう呟いて、カトレアを見た。 カトレアは相変わらずにこにこと笑顔を浮かべているが、いつの間にか膝の上に猫を乗せていた。 「…ソーマが無ければ根治は難しい。だから、別の方法で治癒を続ける」 「その方法とは?」 エレオノールが身を乗り出した。 「昨日、エレオノールさんに渡した、あの結晶です」 ◆◆◆ エレオノールは呼び鈴で侍女を呼び、結晶をカトレアの部屋に持ってくるよう言いつけた。 すぐさま、赤く塗られた木箱が運ばれてくる。 ちょっと大きめの重箱に見えるそれは、内側が絹製のクッションになっており、傷の付きやすいものを保管するのに使われているようだった。 人修羅は、昨晩のことを思い出してまたもや微妙な気持ちになる。 自分の感覚では、ズボンのポケットに無造作に放り込んでも良い物だと思っていたが、ハルケギニアのメイジから見れば非情に重要なアイテムになりうるらしい。 「この結晶をどう使うというのかしら」 純白の、これまた絹製の手袋を着けて、結晶を摘むエレオノール。 「適当に枠を付けて、ネックレスにすれば大丈夫です」 「これをネックレスにするの…まあ、大きさは問題無さそうだけど、どういった原理でこれがカトレアの治癒に役立つのかしら」 「それはオールド・オスマンと、ミスタ・コルベールの協力を得て作成したんですが、一度傷を付けると少しずつ魔力が溶け出してしまうんです」 「溶け出す?」 「ええ、結晶に込めた治癒の力が少しずつ溶けて、身につけている人へと生命力を補充し続けるはずです」 「…そうか、これは風石と同じように、消費することでその力が一定の範囲に拡散するのね?」 「その認識で良いと思います」 「もう一つ聞くわ、安定性はどの程度?これにはかなりの力が込められているみたいだけど」 「魔法学院の外壁に叩きつけても壊れないので、かなり安定していると思いますよ」 その時外壁を貫通したことまでは喋らない事にした。 エレオノールは結晶を箱にしまうと、席を立って人修羅に向き直った。 「解りました。貴方の診察にはある程度の体系付けがなされているようです。また着眼点もアカデミーの研究内容に通じる物がありますわ。 我々の研究では証明されぬ部分があるので、その点は仮説と判断させて頂きますが、それでも治癒術としてはかなりのレベルにあると認識しました。貴方の考案を受け付けましょう」 そう言って、エレオノールは微笑みを浮かべた。 厳しそうな目つきは相変わらずだが、ほんの少し嬉しそうな口元が、新たな発見と考察による満足感を表している気がする。 ルイズもそうだ、先ほどとは違い、目を輝かせている…… 年が離れてても姉妹なんだなあ、目元なんか本当にそっくりだ。 「そう言って頂けるとありがたいです。一応魔法でカトレアさんの体力を回復しておこうと思うんですけど、どうしましょう」 そんな人修羅の言葉に三人が賛成した。 「ええ、是非お願いするわ」 「お願いしますね、人修羅さん」 「人修羅、お願い」 「んじゃあ早速……『ディア』!」 人修羅の手から放たれた光がカトレアを包む、緑色に光るそれはカトレアの体に浸透し、疲労を取り除き、傷を再生させ、活力を与えた。 「あっ…」 水系統の治癒とは違う、体の芯から活力がわき出すような感覚に驚き、カトレアは思わず声を上げた。 「カトレア?大丈夫?」 心配したエレオノールは『ディティクト・マジック』を使いカトレアの体を調べた。 水の系統を得意としている訳ではないが、それでもカトレアの治癒のため必死に鍛錬し、ある程度は検査できる。 「ううん……なんか、体が熱くなるみたい。どう言ったらいいのかしら……体の内側から暖まるような気がするわ」 そう言ってカトレアが笑顔を見せた、エレオノールはカトレアの体に生命力が満ちていると分かり、杖を下げる。 「大丈夫みたいね」 「ええ。でも不思議ね、水系統の治癒と違って、体が軽くなったような気がするわ」 「それじゃ、しばらく様子を見ましょう」 エレオノールの言葉で、この場はお開きとなった。 ◆◆◆ 診察の後、人修羅は侍女に先導されゲストルームへと通された。 テーブルの上には、デルフリンガーが寝かされ、そのほかの私物は机の側にまとめられている。 昨日はルイズの使い魔ということで、平民の従者が泊まる部屋に案内されたのだが、この部屋はどう見ても貴族向けの一級品の部屋だ。 人修羅は適当な椅子に座ると、顔を天井に向け、口を開けた。 「あ゛~~~~」 『おおう、どうしたんだそんな声出して』 「デルフよ聞いてくれ、最初は『解析』だけをするつもりだったんだ。オールド・オスマンとの話でもそうだった。 でも実際にはどうよ、夕べは賓客という寄り使い魔扱いで、この部屋よりもっと小さかったろ? それが診察を始めたらエレオノールさんは根掘り葉掘り聞いてくるし…って当たり前だよな、妹の命がかかってるんだし、俺って自分で言うのも何だけど怪しいし。 とにかくアナライズを何度も何度も使って今までロクに見てこなかった部分まで注視したよ、どうせなら仲魔を召喚して診察して貰おうかと思ったけど今の俺は召喚できないだろ!? もう俺の知識だって限界はあるしさあある意味アクマと会話するより緊張するっての! それはともかくさあ、俺はちょっとショックなんだ」 『何が?』 「死者蘇生の魔法を持っていても、先天性の病気を完治できない」 『相棒よ、それは高望みしすぎだぜ』 「やっぱりそう思う?」 『たりめーよ、何でもかんでも出来たら、ブリミルみたいに引っ張りだこだぜ。そしたら助けを求めて人が集まってくる、んで、その中にゃ相棒の力を利用する奴が出てくるぜ絶対に』 人修羅は椅子に座り直し、テーブル中央に置かれたデルフリンガーを手前に引き寄せた。 「なんだ、力を利用されるとか、そんな話がデルフから聞けるとは思わなかった」 『それがさあ、ちょっと思い出したんだよなあ、ブリミルを慕ってた弟子が居るんだけどよ、そのうち一人がこれがまたいけすかない奴で……』 デルフの話に興味を引かれ、人修羅がへぇと呟いたところで、コンコンとノックの音が響いた。 「ミスタ・人修羅。ヴァリエール公爵が、間もなくこちらにお見えになるそうです」 侍女はそう告げると、すぐに扉を閉じた。 『んじゃ俺黙ってるから』 「おい、デルフ!」 人修羅は慌てて服装をチェックし、デルフリンガーを壁に立てかけ、失礼がないよう心がけた。 数分後、白髪交じりの金髪を丁寧に整えたヴァリエール公爵がゲストルームへと姿見せる。 「ミスタ・人修羅。君には感謝しても足りない、ヴァリエール家に古くから仕えている水系統のメイジが、カトレアの体調を見て驚いていたよ、とても健康だとね」 「あ、ありがとうございます」 ゲストの元に足を運ぶ、つまり、ヴァリエール公爵は人修羅を賓客扱いしているのだろう、それに気づいたせいか人修羅の緊張もピークに達していた。 「しかし、それほどの力を持ちながら、君はルイズに仕えている、それが不思議でならん」 「そうですか?」 「ルイズに聞いたが、君はサモン・サーヴァントで呼び出されたそうではないか。召喚される前の生活に不満があったらしいが…」 「まあ、そんなところです」 「そうか。ではルイズの使い魔を続けてくれると考えても、良いのかな」 「たぶん、ルイズさんの寿命が尽きるまで、僕は生きていられると思います。それまでは……」 ヴァリエール公爵はうんうんとうなずき、満足そうに自分のあごを撫でた。 「ところで、君の国にはトリステインとは違う学問が発達しているそうだな、ルイズが言うには、ブシドーだとか、カガクだとか」 何か嫌な予感がして、人修羅の背中に冷や汗が流れた。 「は、はい」 「こう言ってルイズを励ましてくれたそうではないか、『失敗を経験した者を登用すべし』」 「ああ『葉隠』の一説ですね、そういえばそんな話したな」 「うむ。それだ、それを聞いたとき私は君を、ひいては君の国の文化性に驚かされたよ。 魔法の優劣にこだわり、貴族として最も肝心な治世を忘れた者にも聞かせてやりたい。 君の国の、サムライという…ハルケギニアで言えは聖堂騎士に近いのだろうかな、戒律を尊ぶ戦士だとか。 そういった話を聞いてみたい。ルイズに接している君が持つ文化性というか、ハルケギニア外に体系づけられた文化にも学ぶことがあるやもしれん」 「は、はあ、じゃあ何から話しましょうか……」 人修羅は冷や汗をだらだらと流しながら、顔を引きつらせぬよう気合いを入れた。 過剰な期待はしないでくれ! 俺は一般人なんだ! 俺は聞きかじりの知識しか無いんだーーーー! …と叫びたくても叫べない。 人修羅の長い長い一日は始まったばかりである。 ◆◆◆ 公爵の質問攻めで、人修羅が精神的に疲れはじめたころ。 ルイズはカトレアの部屋で、二人きりで話をしていた。 二人並んでベッドに座り、ルイズがカトレアの髪の毛をすいている。 「ちい姉さま、体の調子は悪くない?」 「大丈夫よルイズ、貴方は心配性ね」 「人修羅、怖くなかった?」 「怖いはずないじゃない、貴方が召喚したんでしょう?」 ルイズは、後ろからカトレアに抱きつき、髪の毛に顔をうずめた。 「ごめんなさい…私、何もしてない、人修羅に魔法を教えて貰って、今度はカトレア姉様まで見て貰っちゃった…」 嗚咽が聞こえてくる。 カトレアはルイズの手を取って、優しく自分の手で包み込んだ。 「ルイズ、貴方の努力を知っているわ。私のためにどれだけ貴方が悲しんだか、私はいくら感謝しても足りないと思ってるの」 「で、でも、私まだ、魔法もほとんど仕えなくて、人修羅にばかり、使わせて」 「貴方がそうやって悩むのは、貴方が優しいからよ。その優しさを人修羅さんにも向けてあげなさい、あの人は貴方を必要としているの。だから召喚に応じたって、私に言ってくれたわ」 「…………」 「少しだけ、素直になってあげなさい、ね?」 ◆◆◆ ◆◆◆ 数時間前。 ガリアの北花壇騎士団を統率する、イザベラの私室。 「うぅ~ん……」 「ヒホー」 豪華な天蓋付きのベッドで寝ているイザベラは、額に汗を浮かべてうなされていた。 「うう…」 腹を枕代わりにされたヒーホーは、イザベラ程度の重さなど気にならないのか、寝息を立てて熟睡しているようだった。 「ヒホー」 さて、イザベラがうなされている理由は……… 「何だこれはーーーっ!?」 霧深い森林の中で、イザベラはナイトドレスのまま両拳を握りしめ、雄叫びを上げた。 「ヒホ! イザベラちゃんも来たホー?」 「ああっ、ヒーホー!こ、ここは、何だいこれは!」 イザベラは、ぴょこぴょこと足音を立てるヒーホーを見つけ、飛び込むように抱きついた。 「おかしいホね、呼ばれたのはヒーホーだけのはずだホ」 「呼ばれた?呼ばれたってどういう事だい、ここは何なんだ?」 「ここはピクシーの住んでる泉の森だホね。この近くにスカアハの影の国があるホー」 「ピクシー?それって、妖精のことかい?影の国?いったい何なのさ、これは」 ヒーホーに抱きついたまま、きょろきょろと辺りを見回す。 霧の濃さはすさまじく、1メイル離れた樹木すら少し霞んで見えるほど、今ヒーホーから離れたら二度と会えない気がして、イザベラはよりいっそう強く抱きしめた。 「あら、ヒーホーったらこっちに来ちゃったの?」 ふと頭上から声がした、イザベラが顔を上げると、そこには蝶が…いや、蝶のような羽の生えた、小人が飛んでいた。 「なっ、ななななな、何!?」 「モー・ショボーだホ!久しぶりホねー」 ヒーホーが手を振って挨拶をすると、モー・ショボーと呼ばれた子人が二人の前に着地した。 「スカアハに呼ばれてるんだホね、影の城に行きたいんだホー。どうにかならないホ?」 ちょこん、と首をかしげるヒーホー。もちろんイザベラは抱きついたまま。 「それは知ってるけど……でも、その子はスカアハに呼ばれてないんでしょ? 私が影の城に案内しちゃまずいわよ」 「うーん、でもイザベラちゃんを一人で置いていくのは不安だホー」 「おおお置いて行くって!?やめてくれよ!あああ、あたしはこんなところで死にたくないよ!」 取り乱すイザベラを見て、モー・ショボーがくすりと笑った。 「大丈夫!ここで死んでも魂はピクシーになるだけよ。お友達が増えたら私も嬉しいんだけどなあ」 「ひー!」 イザベラは怖がってしまい、ヒーホーの体に顔を押しつけた。 モー・ショボーはイザベラの怖がる様子を見て、クスクスと笑っていたが、ざわりと森の気配が変わったのを感じ取り表情を変えた。 「あっ……」 「ヒホっ」 ヒーホーとモー・ショボーが、二人同時に同じ方向を向いた。 「ねえ人間さん!凄い事よ、貴方はこの世界に入る許可がないけれど、ヒーホーをお世話してくれたから、特別にスカアハが姿を見せてくれるって!」 「ヒーホー、助かったホー。イザベラちゃんもう安心だホ。泣きやむといいホー」 イザベラがヒーホーの体から顔を離す、微妙に目と鼻頭を赤く貼らして、ぐずっ、と鼻を鳴らした。 「本当に大丈夫なのかい、それにスカアハっていったい何なんだい」 「とっても強い女神様だホー」 ヒーホーの言葉が、不自然なまでに森に響く。 するとあたりを立ちこめていた霧がみるみるうちに晴れていき、周囲に立ち並ぶ木々がはっきりと見えるようになった。 そこでふと気づく、木々の隙間からは、木漏れ日一つ無い。 それどころか太陽らしきものが無いのに、あたりは昼間のように明るい。 自分が置かれている環境が、あまりにも不可思議なものだと気づいたイザベラは、ガバッと顔を上げて辺りを見回した。 いつの間にか、周囲の木々が見あたらなかった。 森の中に作られた直径30メイルほどの広場、その中心で、イザベラとヒーホーが立ちつくしていた。 ゆらりと、前方の景色が歪む。 歪みは景色をレンズのように押し広げていき、その中心から一人の女性が現れた。 黒色のマントと帽子を纏い、宙に浮かんだ状態で座している、神秘的と言うよりは破滅的な気配のする女性だった。 「あ………」 死ぬ。 イザベラは直感的にそう思った、自分は死ぬ、いやもう死んでいるのかもしれない、いやむしろ自分は死ななくてはいけない。 そう思わせるだけの圧倒的な、死の気配が漂っていたのだ。 「ヒーホー!スカアハ、元気だったホー?」 「貴方こそ元気そうで何より…この少女にずいぶんと気に入られたようですね」 「そうだホー、イザベラちゃんは優しいホー」 「ところでヒーホー、貴方の居る世界のことですが…」 立ちつくしているイザベラをよそに、ヒーホーとスカアハの話が進められる。 「その世界は既に受胎しています。受胎したまま肥大化した世界…まれにあるのです」 「貴方以外のアクマを、そちらの世界に送ることは出来ません、世界が許容量を超えて崩壊してしまうかもしれないのです」 「その世界に人修羅がいるはず、どうにかして人修羅に会うのです、彼もアクマを召喚できず難儀していると思いますから」 「アイテムは幾つか貴方に渡しておきます、役立ててください」 等々… 「解ったホ!ちゃんと人修羅に会って伝えるホー」 「お願いしますよ」 ヒーホーが右手を挙げて、大丈夫だと宣言した。 と、そこでヒーホーは、すぐ横で固まったままのイザベラに気が付いた。 「スカアハ!イザベラちゃんは魔法を上手になりたいんだホ! イザベラちゃんもお願いするといいホね!きっと強くなれるホ!」 ヒーホーがイザベラの袖を引っ張るが、反応がない。 それを見たスカアハは右手を胸の高さまで上げて、パチンと指を鳴らした。 「あっ」 意識を取り戻したイザベラは、自分がまだ生きていることに違和感を感じた。 自分はもう死んだはずでは無かったのか?では今目の前にいる人は何だ? 「落ち着きなさい。イザベラ。貴方はヒーホーをそちらの世界に誘い、不可能に近い召喚を無理のない形で実現してくれたのです。 貴方が召喚してくれなければ、我々もどれほど時間をかけたことでしょうか。それほどこの世界は遠く、そして世界は脆いのですから」 「は、はい」 イザベラは徐々に落ち着きを取り戻し、スカアハの言葉を租借して、必死に理解しようとする。 「その礼として……貴方に力を授けましょう。影の国に入る資格までは授けられませんが、この力を使って、いつか影の国にたどり着けることを期待していますよ」 スカアハはマントの内側、闇色の空間から一本の棒を取り出す、それは樫の木を削って作られた、長さ2メイルほどの杖であった。 無骨で飾りのないそれに、スカアハは指先で何かの文字を書いていく。 「え、力って、あ……」 イザベラの夢は、そこで終わった。 「………あぁぁぁぁああああああ!!???」 「ヒホッ!?」 叫び声を上げながら、がばっ、と跳ね起きたイザベラ。 枕代わりのヒーホーが急な衝撃に驚いて、体を揺らした。 「あ、イザベラちゃん、おはよーだホ」 「ああ……ヒーホー、ごめんね驚かせて、なんか嫌な夢を見た気がするよ」 「夢だホ?」 聞き返すヒーホーを抱き寄せて、イザベラが話を続ける。 「ああそうさ、霧深い森の中で変な奴が現れて…変な棒をあたしに渡したんだ」 「それ、夢じゃないホ!」 そう言ってヒーホーがベッドの片隅を指さす。 「え?」 ヒーホーが指さした先には、夢の中で渡された、長さ2メイルほどの杖が寝かされていた。 前ページ次ページアクマがこんにちわ
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前ページ次ページアクマがこんにちわ 貴族派の戦艦が、ニューカッスル城の城壁に向けて大砲を放つと、崩された城壁の間から人間・亜人の傭兵が城内へと突撃した。 数の激減した王党派は、抵抗むなしく無残にも殺されていった。 そしてあらかた城内が制圧された頃、どぉーん…と、大砲のような音が何処かから聞こえてきた。 多くの者は大砲の音だとして、気にもとめなかったが、幾人かは違和感に気づいていた。 その音は、地面から響いてきたのだ。 ■■■ ニューカッスル城から少し離れた、秘密港の奥。 ワルドに人質にされていたルイズは魔法を放ち、凄まじい閃光と衝撃波を作り出した。 その凄まじさは、アルビオン大陸の一部に地響きとなって現れたのである。 「うぐあっ!」 吹き飛ばされたワルドは、紙くずのように宙を舞い縦穴の壁に背中を打ち付けた。 杖を手放さないのは流石と言うべきだろう、しかし、ルイズの『爆発』によって集中力が乱され、『フライ』の魔法自体は解かれていた。 理性は『レビテーション』で落下速度を殺すべきだと叫んでいたが、本能はそれを否定し、自由落下による離脱を選んだ。 時間にして数秒、縦穴を落ちきり、周囲の暗雲が明くなり始めた頃、『フライ』を唱えて体制を立て直した。 空を見上げるが、そこには暗闇が広がるばかりで何も見えない。 だが、その向こうに…、使い魔の恐るべき形相が浮かぶ。 どくん、どくん、どくん… 「…は、はぁ、はっ、は……」 心臓の音がやけに大きく聞こえ、冷や汗をかいた脇の下と額は、じっとりと濡れている。 ルイズの使い魔が見せた悪魔のような表情と、赤黒い輝きを思いだし、ワルドは背筋に寒い物を感じた。 震えながら懐を探り、ルイズから受け取った手紙の存在を確かめる…そこには幼少時の手紙と、この任務のために書かれた手紙の二通が入っていた。 「…目的の物は手に入れた。」 ワルドは自分に言い聞かせるように呟くと、アルビオンの貴族派拠点へと移動すべく、口笛でグリフォンを呼びつつ明るい方へと飛んでいった。 得体の知れない不安を抱えたまま…… ■■■■■■■■■ 時は少し戻り、爆発の瞬間。 「やめろおおおおっ!」 人修羅は叫ぶや否や、宙に浮かぶルイズ目指して跳躍した。 ルイズの体から放たれる力が、ルイズ自身に向けられていると気がついたからだ。 人修羅が跳躍して、ルイズを抱き留めるまでの、ほんの一瞬…。 光と熱を伴う爆風が、ルイズ自身の体を抉っていくのが、まるでスローモーションのように見えた。 今まで何度も魔法を失敗しても、たいした怪我も負わせなかったルイズの『魔法』が、無慈悲に肉体を削っていくのが見えた。 杖を持つ右手が潰れ、腕が裂け、骨が露出し、そして骨すらも砕かれて飛散していく。 (届け!) スローモーションのような世界で、人修羅はルイズに近づこうとしていた。 (早く!) 近づこうとする一瞬の間にも、ルイズの体は削られていく。 (あと少しなんだ!) 右肩まで抉れたところで、体を掴んだ。 そのまま背中に手を回して抱きしめると、手に持っていたデルフリンガーを壁に向け、ドカッ!と突き刺した。 どぉぉぉぉん… おおおぉぉぉん… おぉぉぉぉん… 爆発音は縦穴で反響し、うめき声のような音となって周囲に満ちる。 音が止んだ頃、デルフリンガーを壁面に突き刺して、右手一本でぶら下がっている人修羅と、その左腕で抱えられたルイズだけが残されていた。 二人は桟橋とは反対の壁にぶら下がっており、岸壁と平行に伸ばされた桟橋にはとても手が届きそうにない。 このまま壁を上ったとしえも、桟橋側にしか足場らしい足場はないので、どうにかして反対側まで辿り着かねばならないだろう。 「ルイズさん…」 ルイズの体を見て、人修羅が呟いた。 杖を持っていた右手は肩から先が失われ、服はほとんどが吹き飛び、玉のような肌は火傷を負って、髪の毛は半分が焼かれている。 一刻も早く治療すべく、人修羅はルイズを抱きしめ、呪文を唱えようとした。 「メディアラハ …う、おっ」 治癒の魔法を唱えようとした瞬間、デルフリンガーの角度がずるりと下がった。 『相棒!ちょっと浅いぜ、このままじゃ落ちるぞ!』 デルフリンガーが鍔を鳴らさない程度の声で現状を伝えると、人修羅が苦虫をかみつぶしたような顔をした。 ガンダールヴのルーンは、抜け落ちそうなデルフリンガーをその場に保つべく、『最適な体の動き』を引き出している。 それ以外のことに気を向ければ、すぐにでも落ちてしまいそうな危うい状況…。 このままではルイズの治癒もままならない。 「くそ…」 時間にしてほんの数秒、ワルドが縦穴を落ちきって体勢を立て直した頃、人修羅の体から赤黒い光が漏れ始めた。 「爆風……風、風か」 人修羅は桟橋を見上げて、覚悟を決めた。 瞬間、人修羅はデルフリンガーを引き抜いた反動を利用して壁を蹴り、宙に舞った。 一瞬でデルフリンガーを左手に持ち替え、空いた右手を壁にかざす。 「ジャァッ!!」 掌から放たれた『ヒートウェーブ』は爆風となって壁を抉り、その反動で人修羅の体が吹き飛んだ。 空中で体勢を立て直しつつ「届け…っ!」と、絞り出すような声を出して手を伸ばす。 そして人修羅の手は、見事桟橋を掴んだ。 ■■■■■■■■■ 爆発の瞬間、ルイズの意識は光に包まれた。 真っ白な眩しさで塗りつぶされた世界は、暗闇と同じで何も見ることはできない。 暗闇か眩しさか解らない深淵の中で、ルイズは心臓の鼓動を聞いていた。 どくん… どくん… その音は自分の体ではなく、どこか遠くから聞こえてくる気がした。 何処だろう?そう思った瞬間、ルイズの意識は急速に引き上げられる…… 「ここは…」 目を覚ましたルイズは、首を左右に動かして、自分が異常な場所にいることを知った。 血のように赤い液体が壁を流れ、あるいは天井から滴となって降り注ぎ、巨大な洞窟に川を作っている。 どうやら自分はその川の中で、仰向けになっているらしい。 不快感よりも先に考えたのは、人修羅に向けられた魔法を自分自身へと放ったこと。 あの爆発の後どうなったのかが知りたくて、ルイズは体を起こした。 いや、体を起こそうとしたが、上手く力が入らずに体が起こせなかった。 それも違う。上手く力が入らないのではなく、右腕が肩から失われていたのだ。 体を起こそうと何度かもがき、ようやく自分の右腕が無いと気がついた時、緊張のあまり喉を細めて息を吸い込んだ。 「ヒッ」 悲鳴のような息を吸う音が鳴った。 (痛くない。痛いはずなのに、痛くない。どうして、どうして痛くないの。なんでここには誰もいないの) パニックに陥りそうな頭を必死に押さえ、残っている左手を使って傷口を確かめる。 ぬちゃ…と粘度の高い水音がして、かえってそれが冷静さを取り戻すきっかけになった。 (少なくとも出血はしていない、それに、わたしには意識もあって、まだ生きている) ルイズは左手で体を支え、よろめきつつ体を起こす。 ふと、水面に映る自分の姿を見た。 自分の顔がぼやけて映っている。 (違う) 水面が揺れて顔が上手く映らない。 (違う) 暗くて顔がよく見えない。 (ちがう) ルイズは左手で、おそるおそる自分の顔に触れた。 ぬちゃ…と、まるで腐肉に触れたかのような音が聞こえる。 「あ、あああああ」 顔の右半分は焼けただれ、眼球すら潰れていた。 「うああああーー あ、あーーーー」 (わたしはもう死んでいる) 「ち、ちが、う」 (この傷で生きているはずがない) 「いや、いやだ」 (わたしは魔法で、わたしを) 「ああああううううああああううあ、ああああ…」 ルイズは膝を付き、頭を抱えた。 「どうして、どうして」 涙を流しながら、嗚咽混じりに助けを求める。 「いや…たすけて…たすけて…」 「ちいねえさま、おねえさま…おとうさま、おかあさま…」 「…ひとしゅら!」 どくん!と、今まで聞いたことのない、地響きのような心臓の音が聞こえてきた。 どくん、どくん、どくん………繰り返される規則的な音は、下流の果てから聞こえてくる気がした。 「ひとしゅら?」 ルイズはその音が、人修羅が自分を呼ぶ声に聞こえた。 呆然とした表情のままだが、ぴたりと涙が止まり、体に生きる力がみなぎる気がして来る。 ゆっくりと立ち上がり、音の聞こえる方に向かって、ゆっくりと、しかし地力強く歩き出した。 ■■■ ルイズは歩きながら、洞窟の壁や、流れてくる赤い水を見た。 洞窟の壁面からは相変わらず血のような水が流れ続けている、だが、川の水は深くなる様子もなければ、勢いが変わることもなかった。 また、水の中を歩く感覚はあるのに、波立つことがない、つまりこれは液体に見えて液体でない何かなのだろう。 その上洞窟と呼ぶには、壁が生々しい。まるで巨大な竜に飲み込まれ、その喉を歩いているような気すらした。 しかし、考えたところでどうにもならない。ルイズは小さな疑問を抱きながら、音の聞こえる方に歩き続けた。 どれぐらい歩いただろうか、洞窟の奥から聞こえてくる鼓動を頼りに、ひたすら進み続けたが、音が近くなる気配もなければ遠くなる気配もない。 そして自分にも、疲れる気配がない。むしろ足にまとわりつく血のような何かが、体に力を与えてくれるような気すらするのだ。 「ひとしゅら…」 ぼそっ、と呟く。 何処まで行けばいいのだろう、いつまで歩けばいいのだろう…そう考えて顔を上げたその時、今まで変化の無かった洞窟の奥が広がっていると気づいた。 「…っ」 ルイズはぐっと手を握りしめ、その奥に向かって歩き続けた。 たどり着いた場所は、円形の巨大なホールを思わせる構造で、よく見れば反対側にも、天井にも黒い穴が見えた。 そこからは絶えず赤い液体が流れ続けている、おそらく、自分が歩いてきた洞窟と同じように、あの赤い液体はいくつもの通路からこのホールに集まるのだろう。 ルイズはふと、耳を澄ます。 先ほどまで聞こえてきた、心臓の音がある一点から聞こえてくる。 その場所がホールの中央だと確信し、一歩、足を踏み出す。また一歩、また一歩…… 中央に向かって底が深くなっているせいか、足を進める度に体が沈んでいく。 だが恐怖は無かった。よく考えてみれば…この場所で、自分は呼吸すらしていないのだから。 膝が浸かり、腰、胸、肩、頭…全身が水の中に沈みきったが、息苦しさはまるで感じられない。 それどころか、どこか安らぎを感じてしまう。 中央部へと近づくにつれ、自分とは別の人影らしきものが、中央を目指してゆっくりと移動しているのが見えた。 その人影は、よく見れば体に人修羅と同じ模様があり、弱々しく光っていた。 「人修羅?」 心の何処かで、”ちがう”と感じながらも声をかける、だが人修羅らしき人影は振り向くこともなく、ゆっくりと中心部に向かって進んでいく。 「あっちにも…こっちも…みんな、人修羅と同じ模様を…」 気がつけば、辺りには幾つもの人影が浮かんでいた、皆人修羅と同じ模様があり、まるで死人のような動きでゆっくりと移動している。 中には上半身のないもの、頭の半分削れた者、右半身を失った者、胸に大穴を開けた者など、多種多様な”死に方”を見せていた。 そんな光景の中、ルイズは驚くほど冷静だった、それらの人影が自分の知る人修羅とは違う存在だと、心の何処かで確信していたのだろう。 ルイズはその先から聞こえてくる、心臓の音を頼りにして、無数の人影と共に歩き続けた。 ある地点に到達すると、周囲の人影は赤い粒となり、形が崩れていった。 その赤い粒も、塩の粒が水に溶けるようにして、周囲の液体に溶けていく。 色こそ濃くならないものの、周囲に満ちる『何か』が次第に濃くなるのを感じた。 辺りに満ちた何かは、あえて言うなら魔法に伴う『力』だろうか。それがどれ程膨大なものかは感じ取れないが、その流れだけは解った。 中央部に居る誰かに、ゆっくりと吸い込まれていくのだ。 「あ…」 そしてルイズは、ようやく中央部へとたどり着いた。 血のように赤い水の集まる場所には、その血を吸い続け、どくん、どくんと鼓動する一人の男が仰向けになっていた。 「人修羅」 そっと傍らに跪き、人修羅の頬をなでる。 (私の知ってる人修羅だ) そう思うと、とたんに不安や緊張感が取れていく。 それどころか眠っている人修羅を気遣う余裕すら生まれてきた。 「眠ってるの? 疲れているのかしら」 ルイズは自分が裸同然だと知りながら、人修羅の脇に寝そべって、その手に触れた。 どくん… どくん… 人修羅の手から、体から、いのちの鼓動が伝わってくる。 「ねえ、私の魔法、どうなったの?人修羅を傷つけなかった?」 そっと人修羅の手に、指を絡めた。 「あなたが来てから、何度も魔法を練習したわ、一緒にやろうって言ってくれたから、頑張ったけど」 ぎゅっと、手を握る。 「やっぱり爆発しちゃった。 でも、貴方を傷つけなくてよかった。 …お願い。私の代わりに、ちいねえさまの体を治してあげて」 まるで遺言のような囁きが終わる頃、ルイズの体からも、小さな赤い粒がしみ出て来た。 まどろみに任せて、ルイズは目を閉じた。 考えてみれば、自分の魔法が失敗ばかりだと自覚した頃から、ずっと人目を気にしていた。 その時に自分を慰めてくれたワルド子爵に、憧れを抱き続けていたつもりだったが、人修羅を召喚してからしばらくはワルド子爵のことを思い出してはいない。 ワルド様に再開するまでの間、ずっと自分は人修羅に甘えていた。 そして今、人修羅にすべてを任せて眠るつもりでいたのだ、そんな自分に気がついて、情けないあまり「ああ」と声を上げた。 ■■■ (……そっか、私。 私を慰めてくれる人を探していたのかもしれない…。) (魔法が使えないから、失敗ばかりするから、慰めて欲しくて。それで人修羅を召喚したのかも) (私はずっと甘えていた、お母様にも、お父様にも、家庭教師にも先生方にも怒られて当然) (でも、ワルドさまに捕らわれた時に、人修羅に向けた魔法はちゃんと操りきったわ。使い魔を傷つけるなんて貴族失格だから、人修羅を怪我させたくないから、私は、操られた自分の体を吹き飛ばした) (人を操る魔法にも耐えて、自分の意思で魔法を使ったのよ、それだけは、それだけは褒めてくれるかな) 人修羅の手が、ルイズの手を握った。 ■■■■■■■■■ 桟橋をよじ登り、洞窟内の陸地へと移動した人修羅は、ルイズを地面に横たえて手をかざした。 「…メディアラハン!」 詠唱と共に放たれた治癒の光により、ルイズの体は映像を巻き戻すかのように治っていく。 それはまさに『魔法』であった。 『すげえ…』 デルフリンガーですら、こんな速度の治癒魔法は知らない。おそらく先住魔法でも不可能だろう。 「ルイズさん、ルイズさん」 声をかけながら、肩や頬を叩いて反応を確かめるが、ルイズの返事はない。 肉体は完全に再生され、心臓の鼓動や自発呼吸が完璧でも、意識はまだ戻っていないようだ。 「ルイズさん! ルイズ!」 最後は叫ぶような声で名を呼んだが、目覚める気配はない。 そうしているうちにも外では戦いが続いている、いや、もう終わっているも同然であろう、少ない王党派はもう全滅している頃だ。 今は戦いの高揚感に勢いづいた傭兵達が、我先にと略奪を繰り広げているだろう。 『お、おい、相棒。そろそろこの洞窟も気づかれちまうぞ』 「…そうだな。デルフ、お前はどうしたらいいと思う?」 人修羅は、靴下と靴しか着けてないルイズに自分の上着を着せると、上着に入れていた『つぶて』を無造作に取り出し、ズボンのポケットへと入れた。 『嬢ちゃんをここに置いて、戦うか…抱いて逃げるとか。…相棒にはそれだけの力があるはずだ』 地面に突き刺しておいたデルフリンガーに視線を向ける。 「そうだな。力押しでやれば大抵のことは片付く。だけど俺にも恐れはあるんだ。 人間の悪意が怖い。悪意は疑いを呼び、疑心暗鬼がやってくるからな。 力で適わぬと知った誰かが、俺とルイズさんを利用しようと、知古を巻き込んで悪意を振りまくかもしれない。それが怖い。 俺は人間だった頃、優柔不断で、人に流されて生きる方が楽だと思って、だらしない生き方をしていた。今もそれは変わらないらしい。こうして窮地に陥るまで、戦う決心が出来ないんだからな」 人修羅はデルフリンガーの鞘ベルトを利用して、ルイズを背負い、デルフリンガーを掴んだ。 「俺は、馬鹿だろ」 『いやあ、そこらの貴族より人間らしいや』 ■■■ 「おい、こっちだ、荷車の跡があるぞ!」 秘密港に通じる道を見つけた傭兵達が、土壇場で捨てられたお宝や、貴族派の首を期待して駆けていく。 城から少し離れた場所にある洞窟の入り口は、木々に遮られて辺りからは見えないが、脱出の際に使われた荷車の跡がはっきりと残っており、彼らも迷うことなくたどり着けた。 「この中だな」 「いかにも何かありそうな場所だ、おめえら、行くぞ!」 「おお!」 勝ち戦となった貴族派の傭兵は、我先にと洞窟へ入っていった。 傭兵団長らしき男は先遣を部下に任せて、あらかた片付いた頃に突入しようと思っていたが… ごおおおっ、と、突然洞窟の中から吹雪が吹き出した。 「まだメイジが残ってやがったか」 そう言って残った部下に弓矢を構えさせたが、自分の体は宙に吹き飛んでいた。 「あれ?」 五秒ほど空を飛び、地面に投げ出され、団長は意識を失った。 その様子を見ていた傭兵達は、団長を剣で殴り飛ばした男をにらみつけた。 顔に入れ墨を入れ、背中に子供を背負っている、得体の知れない男だ。 傭兵達が飛びかかろうとしたその時。 「ジャアッ!」 男のかけ声と共に、周囲に竜巻が起こった。 「うわああああああ」「ひいーーーー!」 竜巻に巻き込まれた傭兵達は宙を舞い、情けない叫び声を上げる。 男はその下を瞬く間に通り抜け、戦場と化した城下町へと走り去っていった。 前ページ次ページアクマがこんにちわ
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魔人幻想録 動画リンク コメント 魔人幻想録 507人目の幻想入り 作者 原案 灰音氏 絵 しゅら子氏の二人制、人修羅の人。 絵柄と塗りが変わってる。エンコが苦手などじっ子さん。 マウスで絵が描ける変態。自称「手抜き幻想入りの宣言者」 現在アカウント削除によって更新停止中 ひとこと 版権キャラクター描きの人。メガテン3の通称人修羅というキャラで 幻想入りしている。また同社のゲーム、アバタールチューナー2では RGP史上最強とも言われるボスとして登場。 幻想入りキャラの中でも最強候補の一人に数えられるだろう。 また、オリジナルキャラの女版の人修羅「しゅら子」というエロ担当の 女性キャラも幻想入りさせている。おっぱいおっぱい! 他にもカオスな仲魔が登場し、チルノ軍の中では集団戦の鬼になれそうだ。 主人公 A面主人公 名前:人修羅。チルノの子分?チルノからはイレズミと呼ばれる。 特徴:上半身裸、半ズボン、首の後ろから角が生えている。 能力:魔法が効かない、悪魔が呼べる、 コトワリ(?)とマガタマ(?)を操る程度の能力 B面主人公 名前:しゅら子(と思われる?) 特徴:上半身裸の変態、腐女子、人修羅と違って死ぬほど弱い。 能力:風邪を引かない程度の能力(クロスフリーより) 動画リンク 新作 一話 コメント・レビュー DDSAT2じゃなくてDDSAT1の隠しボス何だけどなー -- (構成員 男) 2013-10-17 00 11 39 名前 コメント すべてのコメントを見る ※この作品のレビューを募集しています。レビューについては、こちらをご覧下さい。
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NEUTRALサイドに所属するキャラクター 投下ルール 登録前に自分のイラストID(URLの末尾6~7桁)を確認し、上から順に該当するところに登録してください。 間違っているところを発見したらお手数ですが修正をお願いします。 一番下においてある基本の欄をコピペして上書きすると書きやすいかもしれません。 イラストID 種別 キャラクター名 性別 年齢 身長 特徴 特技・職業 関連キャラクター 作者(敬称略) 2117560 悪魔 憑かれた青年 男 ? 184 ? ? ? 班長 2118119 悪魔 マネキン ? ? ? ? ? ? 班長 2119471 チューナー 茅吹上総 男 25 184 ? ? ? DNewt 2125831 ペルソナ使い 井上雁歌 女 18 154 ? ? ? mkz 2162964 チューナー 鷹野秀樹 男 17 165 ヘタレ ? ? アレ夫 2237382 悪魔 メタルス 男 32 ? ? ? ? 班長 2252790 悪魔 チェシャ・プリンス ? ? ? ? ? ? 鸚鵡 2265475 悪魔 ワーウルフ 男 ? ? ? ? ? とりまる 2267003 悪魔 トライヘッド 男 ? ? ? ? ? 班長 2271364 サマナー エフゲーニャ 女 ? 159 ? HeresyPavilion従業員 PB mkz 2286101 人修羅 リュウ 男 ? 176 ? ? ? FOX 2290763 悪魔 ジェミニ ? ? 169 双子 Crows head経営 ? 時計猫 2294324 人修羅 サトミ 男 19 172 ? ? ? 班長 2294510 サマナー 九十九雅香 女 19 162 ? ? ? よしざわやすし 2300775 チューナー スィンザ 男 ? 178 ? ? ? おっとっと 2301317 サマナー 仄寺靱 男 18 ? ? 料亭 ? shirano 2305732 人修羅 ジュリ 女 15↑ 154 ? ? ? とりまる 2322115 ペルソナ使い 私木蒼司 男 18 175 ? ? 美心鏡花 たいま 2331125 ペルソナ使い 間里厘 女 15 ? ? ? ? おたに 2350081 チューナー 茜鶴キリ 女 16 155 ? ? ? 智 2361205 人修羅 ハクト 男 10 120 ? ? ? 龍我 2370069 ペルソナ使い 日向翠 女 17 162 ? ? ? ゆん 2375531 人修羅 橙 ? 2 ? 猫修羅 ? ? ゆん 2390079 ペルソナ使い カエデ 女 22 166 ? ? ? ヨエ 2406965 ペルソナ使い 御堂小太郎 男 ? 181 ? ? ? ハルタ 2407922 悪魔 デヴィボルク ? ? ? ? ? ? (゜д゜) ウボァー 2412362 ペルソナ使い 久我山晶 男 17 177 ? ? ? ミサイルみさ子 2417500 悪魔 ネコじゃらし職人のネコマタ 女 ? ? ネコじゃらし好き あらゆるものをネコじゃらしに作り変えてしまう職人芸の持ち主 ? いしいたける 2423129 悪魔 フセヒメ ? ? ? ? ? ? どらこ 2425960 人修羅 アカイヌ 女 2 ? ? ? ? shirano 2432892 ペルソナ使い アヤメ 女 16 ? ? ? ? azyw 2433079 悪魔 ジェットヤロウ ? ? 177 素早い ? ? 班長 2436869 サマナー 加藤悠里 女 17 156 力:33 ? 加藤勇太、雄飛 あお 2440496 サマナー 犬飼柴太郎 男 21 178 犬好き ? フセヒメ(使役) どらこ 2455235 悪魔 コン ? ? ? ? ? ガオ ゆん 2455235 悪魔 ガオ ? ? ? ? ? コン ゆん 2456956 サマナー 篠崎沙耶 女 15 149 LAW抜け ? ? mkz 2461182 サマナー 仁科涼子 女 26 170 ? 探偵 ? おいやん 2473960 その他 南戸哉 ? ? 170 被憑依体 ? ? 色素 2474914 ペルソナ使い 春日博人 男 14 161 ? ? ? 葦切 2490458 悪魔 白狐 男/女 外見10↑↓ 90~120 個体差有 天狐に変化可能 天狐 時計猫 2491298 悪魔 猛将サンタクロース 男 ? ? ? ? ? mkz 2500296 サマナー 狼劉風 男 40 190 おっさん ? ? 龍我 2502794 人修羅 イリス 女 ? 160 ? ? ? 黒銀 2502977 チューナー ウーノ 男 32 189 童貞 庭木の剪定及び農業 ? 油鳥 2517483 サマナー ナニガシ氏 人? ? 180 変態 錬金術師 ラゴ(検体) ワイト 2530600 その他 橘修一郎 男 21 178 双子:弟 ? 橘弥乃里 ゆん 2530600 その他 橘弥乃里 女 21 162 双子:姉 ? 橘修一郎 ゆん 2531132 サマナー 飯田芳子 女 25 154 ? OL ? こはの 2531233 ペルソナ使い リドリィ・波川・スティルマン ? 9 131 ? ? ? mkz 2531518 人修羅 友寄まひる 女 12 128 ? ? ? YAYANE 2541464 悪魔 怪異キリビト ? ? ? ? 人間に取り憑く ? 藤村たかの 2556845 チューナー ヴァン 男 20? 175 ? ? ? ジンタ 2571101 ペルソナ使い 葦原環 男 ? 175 ? ? ? 味好み 2573286 サマナー イヴ・セリス 男 23 150 ? Sand of time経営 ? 龍我 2583457 悪魔 キング 男 4 97 ? Sand of time従業員 ぴくテン双六 ティアマト 伽眠 2583461 悪魔 ティアマト 女 自称18 175 ? Sand of time従業員 ぴくテン双六 キング ゆん 2613756 人修羅 柊 女 26 180 ? Sand of time従業員 ? たいま 2614295 その他 フェイ 男 17 175 ? デビルバスター ローゼット ※犬 2615618 ペルソナ使い 月白 男 26 172 ? ? ? ※犬 2620400 人修羅 ハーシュ 女 16 160 ? ? ? ※犬 2622975 サマナー 京極屋蘭馬 女 19 160 ? 京極屋店主 ヴァン/麒麟 ジンタ 2623389 悪魔 麒麟 男 ? 180 ? 蘭馬の仲魔 京極屋蘭馬 ジンタ 2628382 ペルソナ使い 麻都夕璃亞 女 7 110 ? ? ? 龍我 2634817 悪魔 Pングー ? ? ? ? ? ? 砂肝 2646736 ペルソナ使い 雨ヶ瀬恋花 女 17 157 ? ? ? 鰐島ろっぱー 2650175 悪魔 ティアマトとキングの子供たち 男/女 ? ? ? Sand of time従業員 ぴくテン双六 ティアマト/キング 伽眠 2656761 人修羅 マツバラ 男 35 173 ? 古書店店主・大家 ? おいやん 2662159 悪魔 狸 男/女 10↑↓ 80~130 個体差有 ? 白狐/狛 龍我 2670599 悪魔 オゴポゴ ? ? 200~300 ? ? ? mkz 2670599 悪魔 オウルマン ? ? 170↑↓ ? ? ? mkz 2670599 悪魔 ツララオンナ 女 ? ? ? ? ? mkz 2670599 悪魔 ツクモメガミ 女 ? 幼女 個体差有 ? ? mkz 2674983 悪魔 天狐 男/女 成年 140~170 個体差有 白狐から変化可能 白狐 時計猫 2687602 ペルソナ使い 久賀岳人 男 17 167 ? ? ? のひ 2688270 サマナー 友寄シンヤ 男 20 172 デビチル ? 友寄まひる YAYANE 2717072 サマナー 鬼島克昭 男 37 188 ? ? 雨ヶ瀬恋花 鰐島ろっぱー 2728586 人修羅 シンドウ 男 34 ? ? ? ? ご飯ぶっかけ飯 2747184 ペルソナ使い サチ 女 ? 中型犬 わんこ ? ? 砂肝 2778801 人修羅 ルーデンドルフ卿 男 300強 179 ? でらしねすとオーナー ? mkz 2793765 悪魔 ズンパオ 男 ? 170~300 股間 ? ? アレ夫 2793944 ペルソナ使い 杉浦哲平 男 32 178 ? ? ? G.Hound 2796605 悪魔 ヨツンヴァイン ? ? 100~250 ? ? ? 尾崎将人 2799244 サマナー 縁文香 女 20代前半 ? ? 新聞記者 ? 720 2799803 悪魔 ナカノシト ? ? ? ? ? ? こはの 3079432 サマナー サイ 男 ? 174 足がやや不自由 ? ケイ 時計猫 3391534 チューナー 加藤雄飛 男 23 173 隻腕、火傷 元テンプルナイト、味覚音痴 加藤勇太、悠里 あお 3174405 悪魔 黒狐 男/女 個体差有 個体差有 ツンデレ 変化 白狐 あお 3160509 サマナー 那々月 十日 男 20 160 底上げ靴の5㌢含め160㌢の小ささ アルカ(仲魔)の溺愛っぷり ? 前原 3380050 人修羅 アマギ 無 19 174 もふもふ好き 服屋(を開店したい) ? 蒼弥 3028384 サマナー 篠崎浩哉 男 25 173 ニセ隻眼、アリス愛好家 ニート 篠崎沙耶(妹) mkz 3089104 チューナー 飽月夕人 男 20 168 狂人 カンナヅキ警備員 リドリィ mkz 4776180 サマナー 鮎川円 女 16 148 天然 女子高生 ケルベロスのミケ 梅こんぶ 4787831 悪魔 ミケ 雄 ? ? 性格イケメン 円の保護者 鮎川円 梅こんぶ 4850127 ペルソナ使い 弘瀬頼 女 16 163 ナビ子 女子高生 鮎川円 梅こんぶ コピペ用(削除しないでください) id 種別 名 性 歳 身長 特徴 特技職業 関連 作者
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前ページ次ページアクマがこんにちわ 「わたしは二年生のルイズ・ド・ラ・ヴァリエール。今日からあんたのご主人様よ。覚えておきなさい!」 こんにちは人修羅です。 前回、やさしく掴んだはずの右手で思いっきりぶん殴られ、こんなことを言われました、人修羅です。 なんか俺、俺を呼び出した少女に思いっきり嫌われたみたいです、鬱です…。 「……なんで平民のあんたは、のこのこ召喚されたの?」 「学院長室でいろいろ話を聞いてたんだが……目の前に今のゲートが表れてね。コルベール先生が召喚のゲートだと教えてくれたんだ、誰が俺を呼んでるんだろうか見るつもりでくぐり抜けたんだけどね」 俺がそう言うと、ルイズさんは思いっきり落胆したようで、はぁ~と長いため息をついた。 長い息の猫がいたら気が合ったかもしれない。 「このヴァリエール家の三女が……。由緒正しい旧い家柄を誇る貴族のわたしが、なんであんたみたいなのを使い魔にしなくちゃなんないの?」 「そんなこと言われてもなあ」 「……契約の方法が、キスなんて…」 「そんなこと言われても…って、何だって?」 聞き間違いでなければ、契約の方法がキスだとか言っていたはずだ。 俺は改めてルイズさんの顔を見た、すっっっっっごく不満そうな目でこっちを見ている。 対して俺は無表情になっていると思うが、内心は穏やかでなかった、だって心臓がバクバク鳴ってるんだもの。 シンジュク衛生病院で出会ったピクシー、彼女は甘えん坊で、よく俺にほおずりをしてきた。 でもキスはしてない。 他にもサッキュバスとかティターニアとか綺麗な女性(女神)の仲魔はいたけど、何て言うか、恥ずかしくて手を出したことはない、だって俺チェリーなんだもの…。 「……先ほど、オスマン先生は、今すぐに契約する必要はないと言っていた。俺もこの世界のことはよく分からないしな、時間をかけて理解してくれればいい」 「そう、そうなの」 何を納得したのかよく分からないが、ルイズさんはそう言って、悔しそうに歯をかみしめて俯いてしまった。 何か悪いことしただろうか。 コンコン、とノックの音が聞こえ、続いて男性の声がする。 「ミス・ヴァリエール。コルベールです。」 「…はい」 ルイズさんは頼りない声で返事をすると、部屋の扉を開けた。 「おお、やはり人修羅さんもこちらでしたか、今後のことについてミス・ヴァリエールを交えて話をしたいのです、学院長室に来て頂けますかな」 「ええ。かまいません」 「…はい」 ルイズさんはやはり元気が無さそうだ、大丈夫かな。 ■■■ わたしは、学院長の部屋で、呆然としていた。 今日だけでもいろいろな事が起こりすぎて、頭が疲れていたのかもしれない。 私が変な格好の平民だと思っていた男は、ハルケギニアとは違う世界で、学校に通っていた経験があるらしい。 だけど、何かの争いに巻き込まれて友達は皆死んでしまい、学校という物に未練を持ち続けていたそうだ。 彼が呼ばれたのはそのせいかもしれない、とコルベール先生が説明していた。 人修羅が持っていたマジックアイテムも不思議だった、人修羅の説明では、魔力を一瞬で回復させる秘薬や、使っても使っても無くならない不思議な治癒薬、どんな毒でも治せる解毒薬、魔法を封じ込めた石などがあった。 コルベール先生は、人修羅を『幾多の戦いを乗り越えた戦士』だと評していたが、私には人修羅が『頼りない』存在にしか見えなかった。 一通りの説明を受けた後、人修羅と契約を行うか否かは私の手にゆだねられる事になった。 私は『時間を下さい』としか言えなかった。 ■■■ 夜、ルイズは人修羅に、メイジとは何か、貴族とは何か、使い魔とは何かを説明していた。 「…つまり、使い魔は感覚を共有したり、秘薬の素を探したり、主人の身を守ったりするの」 「なるほどー。契約はしてないから感覚の共有はできない。この世界の秘薬を俺は知らないし。まあ、ある程度なら身を守ることはできるかもしれないな」 「はあ…さっきから『かもしれない』ばかりで、あんた本当に戦士なの? まあ、何度召喚しても貴方がゲートから出てくるから、今更あなたに帰れとは言えないけど」 「何年も戦ってたのは事実だけど、この世界のことはまだよく分からないから……。それに敵の実力を見誤って、仲魔を怪我させたこともあるんだ、大事な物を一つの怪我もなく守りきれるとは思ってないよ」 「…やっぱり頼りないわ」 「耳が痛いなあ」 人修羅はルイズとの会話の中で、仲間が傷ついた時のを思い出した。 ピクシーが万能属性の最大魔法『メギドラオン』でやられた時、人修羅は死者をも生き返らせる『反魂神珠』のことも忘れて狼狽えていた。 冷静に考えれば解ることなのに、感情に流されて狼狽えてしまう自分が止められない、それは人修羅の強さでもありながら弱さでもあった。 何が起こるか解らない、だからこそこの世界でも、誰かを守ると思ったら決して油断できない。 そんなことを考えている内に、ルイズが大きなため息をついた。 「はぁー…もう疲れたわ、今日はもう寝るわよ」 「じゃあ、俺は外で寝るよ」 「何言ってるの、あんたはちゃんと明日の朝私を起こすのよ。それと、脱いだ服は洗濯しておいてね」 あろうことはルイズはその場で服を脱ぎ始めた。 「…!? …!! ■○◇??+!!?」 「おやすみなさい、ああ、それと古くなった毛布を一枚あげるから、これを使っていいわよ」 ルイズはネグリジェに着替えると、脱ぎ捨てた服と下着、それとタンスの中に入っていた薄手の毛布を人修羅に投げた。 そのままベッドにはいると、指をぱちんと鳴らしてランプの明かりを消す、どうやらこの部屋を照らしていたランプはマジックアイテムらしい。 「………デカルチャー」 人修羅はそう呟くと、薄ぼんやりと光を発する身体を包み隠すように毛布を自分に巻き付けて、体育座りのようなポーズで部屋の隅に座った。 (うわあこの毛布、フローラルな香りがする、これって女の子の臭いなんだろうか、それとも香水の香りなんだろうか……まずいなあ俺実は臭いフェチ?これじゃ本当に変態じゃないか…) 人修羅は、ルイズに協力しようと思ったことを、ちょっとだけ後悔していた。 ■■■ 翌朝、人修羅はいつの間にか眠っていたが、朝日が窓から部屋に差し込んだ瞬間にぱちりと目が覚めた。 瞬間的な覚醒は、人間の身体だったころとは大違いだった、遅刻ギリギリで通学路を走っていた人間は、周囲の環境の変化ですぐに目を覚ましてしまう悪魔になっていた。 「朝か」 窓から空を見ると、まだ朝日が昇って間もないのか、昨日と比べてずいぶん薄暗い気がした、とりあえず床に脱ぎ散らかされた下着や靴下などをひとまとめにして脇に抱え持った。 ドアノブに手をかけ、廊下に出ようと思ったところで、ふと考える。 自分は今半裸だ、上半身裸で、入れ墨にしか見えない模様が体中にある。 他人が俺を見たらどう思うか…ちょっと想像してみた。 『下着を持った全身入れ墨男』 どくん、どくんと、心臓が鳴る。 自分が動揺しているのが解る、体中の魔力が冷や汗と共に対外に漏れだしている感じがした。 ふと自分の腕を見ると、技を放つ時のように、体中の魔力が体表面に満ちて、肌色の部分までもが黒くなっていた。 「落ち着け、落ち着け俺。誰かに見られても、説明すれば変態じゃないって解ってくれるさ」 そう小声で呟いて扉を開け、廊下に出る。 ふと左を見ると、そこには杖を構えた褐色肌の女性がいて、俺をキッとにらみつけていた。 なんで? ■■■ 「!!?」 朝、突然隣の部屋から何か得体の知れない力が流れ込んでくる気がした。 何が起こったのか解らなかったが、それが隣の部屋から突然流れ得てきたのには気付くことができた。 廊下に向かって右手側は、ヴァリエールの部屋、そしてその部屋には昨日召喚された男がいたはず。 昨日召喚された男は、途方もない力を持っていると、直感的に理解できた。 あのとき私が召喚した使い魔の、『フレイム』も、男から目を離すことができずにいた。 自分もそうだ、ただそこに存在しているだけで空間が歪むような、そんな力の本流がルイズの召喚ゲートから現れ、目が離せなかった。 ミスタ・コルベールがオールド・オスマンの元に、男を連れて行ったが…その時にはあの驚くべき熱風とも冷水ともつかない力の本流はなりを潜めていた。 それが今、突然あらわれたのだ、もしかしたらあの男がヴァリエールに何かをしたのではないか? 無謀だと思いつつも、キュルケは杖を手にして、ネグリジェ姿のまま廊下に飛び出した。 ほぼ同時にルイズの部屋の扉が開かれ、中から例の男が姿を現した、その手にはなぜかルイズの服…というか下着が抱えられていた。 ■■■ 「…」 顔が赤くなっている、気がする。 昨日、あの草原で見た覚えのある、赤毛で褐色肌の大人なおねーさんが、スケスケなネッネッネッネッネグリジェ!を着てこっちに杖を向けている。 落ち着け俺。 落ち着け、サッキュバスがよく迫ってきたじゃないか、それに比べればなんて事はないはずだ、でも呼び出したサッキュバスはなぜかいつもレオタード姿で俺に迫ってきた。 それに比べて、どうよ、赤毛に褐色肌、放漫なおっぱいにくびれたウエスト、やばいよこれは直視するのは恥ずかしいよ!エッチ臭いよ! 「…服は着た方がいいと思うぞ」 かろうじてそれだけ声を出す、だが目の前の女性は、なおも俺に警戒心の強い視線を向け続けている。 「ひとつ、聞きたいんだが」 「……」 「下着を洗濯しろと言われたんだが、洗濯場所とかあったら教えてほしい」 「……洗濯?」 「そうだ、よく分からないんだが、これも使い魔の仕事らしいから」 「……はあ」 さっきとはうってかわって、呆れたような視線で俺を見る。 やめてくれよ、そんな目で見ないでクレヨ! 年頃の女の子の下着を洗うなんて、俺だって困ってるんだから! 「いいわ、教えてあげる。でも一つだけ聞かせて…さっきの力は何?」 「さっきの力?…ああ、そうか、もしかしたら寝てるのを邪魔してしまったかな」 「何をしたの?身体から勝手に火が出るかと思ったわよ」 俺は少しの間沈黙した、正直に言おうか迷ったからだ、だが、今ここで変な嘘をつくより、正直に言った方がきっと信じてくれる…そう思った。 「この格好で外に出て下着を洗ったら、俺はどんな目で見られるのかと思ったんだ、好きでこんな格好をしている訳じゃないのに、変態だとか言われたら、俺…」 「わ、わかったわ、わかったわよ、ヴァリエールにに危害を加えた訳じゃないのね」 「…むしろ危害を加えられてる気がする」 諦めたような口調でそう言うと、目の前の女性は杖を降ろして、大きなため息をついた。 「まあ仕方ないわね。私はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーよ。私を呼ぶ時はキュルケで良いわ。貴方は?」 「俺は人修羅だ。よろしく。…ところでいいかげん服を着た方が良いと思うんだが」 「あら、心配してくださるのかしら?ミスタ・ヒトシュラは意外と紳士なのね、すぐ案内してあげるからちょっと待っててくださるかしら」 「助かるよ、ありがとう。それと俺は呼び捨てで良いよ」 部屋に入ったキュルケさんは、ゆったりとした作りのワンピースを着て部屋から出てきた、ルイズさんの部屋のお隣さんは、いい人のようだ。 ううっ…人情が目にしみて涙が出そう。 ■■■ ここトリステイン魔法学院は、空から見ると五角形の形の塀に囲まれているらしい。 それぞれの頂点は塔になっており、それぞれが学生寮などに使われている。 中央の本塔は学院長室や宝物庫、そして食堂があるのだとか。 俺はキュルケさんに案内されて本塔の食堂にやってきた、ここなら朝早くからも人がいるので、話を聞いて貰うには丁度良いそうな。 キュルケさんが、ここで働いている平民の人に声をかけた、よく見るとその人はメイドさんで、黒髪の綺麗な女の子だった。 大和撫子がメイド服を着た感じで、俺は内心穏やかじゃなかった俺、女物の下着を抱えたままで顔を真っ赤にしてたらきっと変態だと思われるから冷静を装っていた、必死で。 俺に代わってキュルケさんが説明してくれたおかげで、変態だと思われることなく、魔法学院付きのメイドさんに洗濯場所を教えて貰うことができた。 俺は『悪い魔法使いの手でこんな姿にされた』らしい。 それを聞いたメイドさんは哀れむような視線で俺を見つめていた。 ところでお洗濯のことだが、メイドさんが言うには、素人にシルクの下着を洗わせたら下着が駄目になってしまうらしい、下着はデリケートなんだとか… 洗ってくれるというメイドさんの申し出が有り難かった、申し訳ないけど。 もしかしたら人生で一番幸福な瞬間ってこういう事を言うんじゃないだろうか。 「それじゃ、私は戻るわ。またね人修羅」 「ああ、ありがとう」 キュルケさんが手を振って部屋へと戻っていく、俺は同じように右手の平を見せて手を振った。 「それでは、洗濯物をお預かりします」 「あの、もし良かったら洗濯場所とか教えてくれないかな、水くみ場とかも教えてくれると嬉しいんだ。いつまでも頼ってたら怒られちゃうしね」 「わかりました、こちらです」 「ありがとう。えーと…」 「私はシエスタです、この学院で厨房付きのメイドをしています。そちらはミスタ・人修羅でよろしいですか?」 「ミスタはいらないよ、呼び捨てにして貰って構わない。よろしくねシエスタ」 「はい」 魔法学院の敷地は、正五角形の頂点に塔があり、塔と塔が塀で結ばれている。 ルイズさんとキュルケさんの住む『寮塔』と、『水の塔』の中間に門が作られており、そこが魔法学院の正門になっている。 使用人の宿舎は正門から向かって右側の『水の塔』とその奥にある『風の塔』の中間に建てられていた、魔法学院の外壁沿いにあるそれは、二階建ての大きな洋風建築であり、右手側に大きな煙突が伸びている。 俺は使用人の宿舎前で、朝日に照らされる本塔を見上げた。 ボルテクス界に変貌した東京とは違い、その建物の姿は清々しさと、ほんの少しのファンタジー臭いを併せ持っていた。 「お待たせ致しました」 「あ、荷物があったんだ。お礼に俺が運ぶよ」 使用人宿舎から出てきたシエスタは木箱を持っていた。 俺はそれをひょいと持ち上げる。 「あ、いけません、人修羅さんはミス・ヴァリエールの使い魔さんですから、そんなことをやらせるわけには…」 「いいって、困った時はお互い様さ」 シエスタは、ちょっとだけ困ったような顔をしたが、すぐに笑顔を見せてくれた。 「ありがとうございます。人修羅さんって、優しいんですね。噂とは大違いです」 「…そうでもないよ。て、ちょっと待ってくれ、噂って何?」 「あ」 シエスタは口を開けて、しまった、と言わんばかりの顔をした。 俺は歩きながら、なるべく優しい口調で、シエスタに噂というのがなんなのか聞いてみることにした。 「この格好は好きでなった訳じゃないんだ、変だと思われるのは解る。言いにくいかも知れないけど、できればその噂がどんなものか教えてくれないか? もし何か誤解されてたら困るからさ」 「はい…あの、夕食の時に貴族様が噂話をしていらしたんですが…東方の蛮族だとか、南方の怪しい部族だとか…」 「あー、まあ、そりゃしょうがないね。この格好じゃなあ」 正直、魔王とか化け物とか言われてたらショックで落ち込むところだった。 シエスタは俺に噂の内容を教えてくれたので、俺の正体を明かしたい…が、俺が悪魔と一体化した人間だと説明しても、怖がるか嘘だと思われるかのどちらかだろう。 俺は苦笑いしてから「気にしてないよ」と言うだけに留めておいた。 ■■■ 「おーい、起きてくれー。 るいずさーん、目を覚ましてくれー。 八時だよ!全員集合!」 「うぅん…何よもう、うるさいわね…きゃああああ!?」 「あ、起きた」 目を覚ましたルイズが見たものは、前身に変な模様が描かれた、人間の男だった。 ベッドから転げ落ちそうになったルイズは、慌てて毛布を引っ張り、身体を隠す。 「ななな、何よあんた!」 「あんたとは失礼な!自分で召喚しておいてそれはないでしょうが!」 「召喚?……ああ、そっか、昨日あんたを召喚したのよね、驚いたわ…」 ルイズは気を取り直して起きあがると、欠伸をしてから人修羅に着替えを手伝うよう指示した。 「服」 人修羅は椅子にかけられたままの制服を、ルイズの脇に置くと、ルイズはだるそうにネグリジェを脱ぎ始めた。 「………」 人修羅は鼻の下を伸ばす暇もなく、呆れた。 「下着」 「し、下着ぐらい自分で取った方が…」 「口答えしないの! そこのクローゼットのー…、一番下の引き出しに入ってるから」 想像を絶する美しさの女神や、男を魅了して止まないサッキュバスに迫られた経験のある人修羅でも、同年代の着替えは狼狽える。 実際には何十年も戦い続け、既に人間の寿命を超えている人修羅だが、あくまでも感性の基準は高校生のままだった。 人修羅は同世代の女の子のクローゼットを開け、中に入る下着を手渡すという、背徳的なドキドキ感を楽しむ余裕もなく、無言で下着を手渡した。 ルイズは下着を身につけると、再びだるそうに咳いた。 「服」 「横に置いたよ」 「着せて」 おいおいマジかよ、と思いつつ振り向くと、下着姿のルイズが眠そうな眼をしてベッドに座っていた。 今朝廊下で会ったキュルケさんといい、この世界の貴族はこんなにも目のやり場に困る存在なんだろうか、それとも俺がおかしいんだろうか。 「平民のあんたは知らないだろうけど、貴族は下僕がいる時は自分で服なんて着ないのよ」 というルイズの言葉を聞き、これは文化の違いだから仕方がないと思って諦めたのか、人修羅は無言で着替えを手伝い始めた。 「男に着替えさせるなんてはしたないなあ」 「何よ、平民のくせに。そんな生意気な使い魔にはお仕置きよ。朝ごはんヌキね」 ルイズは指を立てて、勝ち誇ったように言った。 人修羅は悪魔であり、人間ではない、しかし人間の部分も保持している。 そのため腹が減る、腹が減っても生き続けられるし、空腹感を魔力で誤魔化すこともできるが、なるべくなら『食事』だけは人間に近い感性を残しておきたかった。 だから人修羅は腹が減る。 人修羅はため息をつきつつ、近くの森で食べられそうなものを探した方がいいかもしれない…と考えていた。 ■■■ ルイズと人修羅が部屋を出ると、向かい側にはこの部屋と同じような、木でできたドアが壁に三つ並んでいた。 今朝はキュルケさんに驚かされて、この塔がどんな作りだったのか調べていなかったなぁ…と思いつつあたりを見回すと、隣の部屋からキュルケさんが姿を現した。 ルイズさんと比べると、背が高くて色気もムンムン、窓から差し込む光は彫りが深い顔と突き出たバストを強調させていた。 ルイズと同じ制服のブラウスを着ているが 一番上と二番目のボタンを外し、胸元を覗かせている。 実は夜魔やサッキュバスの血を引いてるんじゃないだろうか、とまで思ってしまった。 彼女はルイズを見ると、にやっと笑った。 「おはよう。ルイズ」 「おはよう。キュルケ」 ルイズは顔をしかめ、嫌そうに挨拶を返した。 「ちゃんと用事は済んだ?人修羅」 「ああ、おかげで水くみ場とかも教えて貰ったよ、さっきはありがとう」 俺が今朝のお礼を言うと、ルイズは驚いた顔で俺とキュルケさんを見た。 「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!なんであんたキュルケと喋ってるのよ!」 「あら、嫉妬?」 「違うわよ!」 癇癪を起こしたルイズさんをからかい、楽しそうに笑うキュルケさん。 喧嘩するほど仲が良いということわざが有るが、この二人もそんな関係なのだろうか。 「それにしても『サモン・サーヴァント』で、平民を召喚しちゃったなんて、あなたらしいわ。さすがはゼロのルイズ」 ルイズがぐっと歯を食いしばった。 「…うるさいわね」 あたしも昨日、使い魔を召喚したのよ。誰かさんと違って、一発で呪文成功よ。おいでフレイム!」 キュルケさんの言葉に続いて、部屋の中からのっそりと、真っ赤で巨大なトカゲが現れた。 ボルテクス界で共に戦った火の精霊『フレイミーズ』によく似た懐かしい熱気が感じられた。きっとこの子はサラマンダーだろう。 「へー、かわいいなあ。よしよし」 俺が手を伸ばすと、サラマンダーは首を持ち上げてこちらを見た。 そのまま猫のように顎を撫でると、嬉しそうに「きゅーん」と小さい声を出した。 「…フレイムが懐くなんて。やっぱり…」 「ん?」 やっぱりとは何だろう、俺がキュルケさんの方を向くと、慌てて顔を逸らしてしまった。 「これって、サラマンダー?」 ルイズが悔しそうに尋ねた。 「そうよ! 火トカゲよ! 見てよ、この尻尾。ここまで鮮やかで大きい炎の尻尾は、間違いなく火虫亀山脈のサラマンダーよ? ブランドものよー。好事家に見せたら値段なんかつかないわよ!」 「そりゃよかったわね」 苦々しい声でルイズが言った。 「素敵でしょ。あたしの属性ぴったりよ」 「あんた『火』属性だもんね」 「ええ。微熱のキュルケですもの」 そんなやりとりをした後、キュルケさんはフレイムの頭を軽く撫でた、おそらく『ついてこい』と命じたのだろう、何となくそんな気がする。 「それじゃ、お先に失礼」 そう言うと燃えるように鮮やかな赤髪をかきあげて、颯爽と去っていってしまう。 サラマンダーのフレイムくんは、大柄な体に似合わない可愛い動きで、ちょこちょことキュルケさんの後を追っていった。 昨日召喚されたばかりだというのに、既に信頼関係を結んでいる気がして、人修羅はキュルケとフレイムのコンビがちょっとだけ羨ましくなった。 ■■■ キュルケが二人の視界から消えると、ルイズは拳を握りしめ、悔しそうに叫んだ。 「くやしー! 何よ何よ何よあの女! 自分が火竜山脈のサラマンダーを召喚したからって! ああもう!」 「まあまぁ、そんなに怒らなくても」 「何よ!あんたまであの女の肩を持つの!?さっきだって」 「朝、廊下で出くわしてさ、洗濯場所を教えて貰ったんだ」 「何のほほんとしてるのよ!なんであいつがサラマンダーで、何でわたしがあんたなのよ!」 「まあまあ、ほら、サラマンダーじゃ洗濯とか着替えとかできないし」 「平民よりネズミの方がよっぽどましよ!」 ルイズはそう言い捨てると、機嫌を悪くしたままキュルケが消えた方へと歩いていった。 人修羅はルイズから三歩下がって、後をついて行く。 「……辛いだろうなあ」 ルイズに聞こえないよう、小声で呟いた。 ■■■ トリステイン魔法学院の食堂は、本塔の一階部分にあった。 位置的には、正面玄関に入ってすぐの場所だと解っていたが、実際に百人以上の人間が座れる巨大な食堂を見ると、その荘厳な雰囲気に驚いてしまった。 二年生のルイズ達は、真ん中のテーブルに座るらしい、食堂の正面に向かって左隣はルイズ達より大人びている気がする、おそらく三年生だろう、彼らは皆紫色のマントを身につけている。 逆に右側では、茶色のマントを身につけた生徒さん達が着席している、おそらく一年生だろう。 人修羅の記憶の中にも似たような場面があった、体育祭で学年別に色分けされたジャージだ。 世界が違っても、学校は似たようなシステムなんだなぁと、またもや感心して「へー」と呟いた。 ルイズの話では、朝昼晩と、学院の中にいるすべてのメイジ達がここで食事を取るらしい。 正面玄関から見て一番奥はロフトになっており、そこには教師らしき年長者達が座って談笑している、何人かはこちらを…明らかに俺を見ている。 左右の階段からロフトに上がれるようだが、俺があそこに行くことは決して無いだろう。 って言うか、上からじろじろ見られるのが恥ずかしい、うう、服がほしいよう…。 気を取り直してテーブルを見ると、見たこともない豪華な飾り付けがされている、陶器に銀細工を施した燭台にはローソクが立てられ、その脇には花が飾られ、大きな籠にはフルーツが盛られ…漫画やテレビでみた貴族の屋敷そのものだった。 人修羅が食堂の蒙華絢燗さに驚き、口をぽかんとあけているのに気づいたルイズは、得意げに指を立て、こう言い聞かせた。 「トリステイン魔法学院で教えるのは、魔法だけじゃないのよ」 「はあ」 「メイジはほぼ全員が貴族なの。『貴族は魔法をもってしてその精神となす』のモットーのもと、貴族たるべき教育を存分に受けるのよ。だから食堂も、貴族の食卓にふさわしいものでなければならないのよ」 「はあ」 「どう?わかった? 本当ならあんたみたいな平民はこの『アルヴィーズの食堂』には一生入れないのよ。感謝してよね」 「へえ、アルヴィーズって言うのか、なんか聞き覚えがあるような…」 「小人の名前よ。ほら、壁際に小人の像がたくさん並んでいるでしょう」 ルイズの言葉につられて壁を見渡すと、確かに壁際にはいくつもの小人の彫像が並んでいる。 「へー、オートマータかぁ、すごい数だなあ…」 「よく知ってるわね」 「まあ、似たような物を見たこと有るって言うか…やっぱり踊るの?」 「そうよ。まあそれはいいわ。ほら椅子をひいてちょうだい。まったく気の利かない使い魔ね」 ルイズが腕を組み、人修羅を見上げた、桃色がかったブロンドの長い髪が揺れるその仕草を見た人修羅は『つんとした顔も可愛くね?可愛くね?』とか言いながら変なポーズを取りたくなったが、変態だと思われるのがイヤなので止めた。 とりあえず無言で椅子を引くと、ルイズは何も言わずに椅子に腰掛けた。 「それにしても、朝から凄い料理だなあ」 人修羅の呟きを聞いたルイズは、当然、と言いたげに顔を上げた。 「これぐらい当然よ、テーブルマナーは貴族の最低限のたしなみよ」 ううむ、と人修羅が唸る。 一時期、暇に任せてボルテクス界で本を拾いまくった、それこそ普段は読まないような雑学の本や哲学の本も読みあさった。 基本的な頭のつくりは一般高校生だったため、難しい本はよく解らなかったが、それでも面白い発見があった。 ある本には、イギリスの貴族はどんなできの悪い子供でもテーブルマナーだけは徹底的に仕込まれると書かれていたのを思い出した。 世界は違っても人間である以上、どこか似通った文化になるのかもしれない…そんな事を考えつつ、自分の座る場所を聞こうとして床を見た。 そこには、皿が一枚置いてあった。 人修羅の脳裏に、ものすごく嫌な予感がわき上がってくる。 「なんか、皿が置いてある」 「そうね」 「なんかスープらしきものが入ってる」 ルイズは頬杖をついて、数々の悪魔と神を従え、妖精や外道に尊敬されるまでになった人修羅に、こう言った。 「あのね? ほんとは使い魔は、外。あんたはわたしの特別な計らいで、床」 「オーマイゴッド」 人修羅はそう呟くと、顔を右手で覆い、ためいきをついた。 床に座って皿を手に取る、よく見るとスープには申し訳程度に小さな肉のかけらが浮いており、皿の端っこに硬そうなパンが二切れ、ぽつんと置いてある。 人修羅は考える。 アクマにとっての食料、霊的エネルギーとも言うべき『マガツヒ』が、今の人修羅には無尽蔵に在る。 だが、人間を捨てきれぬ人修羅は、腹が減るという感性をあえて残している。 しかしマガツヒがあるから死ぬことはない、けれども腹は減る。 人修羅はスープの入った皿を床に置いて、テーブルの上を見た。 あまりの差にちょっとだけ涙が出そうになった。 その上、周囲では学生達が目を閉じて祈りの声を唱和している。 「偉大なる始祖ブリミルと女王陛下よ。今朝もささやかな糧を我に与えたもうことを感謝致します」 というるいずの声が聞こえてくると、いよいよ人修羅も『ああ文化の違いってやつか異文化交流異文化交流…』と考えて、諦めがついたようだった。 とりあえず手を合わせ、呟いた。 「いただきます」 スープを少しずつ口に含み、唾液と混ぜてゆ~~~~~っくりと味わう。 とても質素なスープに見えたが、意外にも素材が良いのか調理がよいのか、美味しいのがまた悲しかった。 ふとルイズを見る、フォークとナイフを扱うその手つきは淀みない、背筋も正しい、他の生徒を見ると、鶏肉についた皮に悪戦苦闘している者もいる。 人修羅は、昨日コルベール先生から教えて貰った、ルイズの話を思い出した。 コンプレックス、その一言で片づけるにはあまりにも過酷かも知れない。 ルイズの生まれは、トリステインでも有数、と言うよりは王家に一番近いとまで言われる大貴族らしい。 生まれだけでなく、家族は皆メイジとしての腕も凄いのだとか。 そんな中で産まれたルイズは、魔法がすべて失敗してしまう、サモン・サーヴァントは人修羅が呼び出されたので、一応『成功』扱いを受けているが、本人は納得していないと思える。 メイジは当たり前のように空を飛べる、当たり前のように魔法で扉に鍵をかけ、またそれを解錠できる。 メイジは超能力者のように、魔法で物を浮かせたり、自由自在に操ることもできる。 しかしルイズはそれらが一切できない。 ルイズの姉は昔、魔法学院に在籍しており、それこそトップを独走する程優秀な成績を残して卒業し、今はアカデミーという研究機関で魔法の研究をしていると、オスマン先生が言っていた。 それをふまえた上で人修羅は、自分が受けた扱いを冷静に受け止めた。 貴族と平民の差がこれ程までに絶対的で圧倒的だとしたら、魔法の使えないルイズはどれだけ苦しい思いをしてきたのだろうか。 ボルテクス界で、人修羅は人間だった友達を『殺した』。 弱肉強食を提唱し、弱い者を虐殺しようとする友達を説得できなかった、だから殺した。 すべての存在を引きこもりにして、誰とも干渉しない静かすぎる世界を作ろうとした友達を説得できなかった、だから殺した。 もし、ルイズがあの時、世界の命運を握るハメになったら、ルイズはどんな世界を作ろうと願うだろうか? コルベール先生は、サモン・サーヴァントについて、こう言っていた。『お互いが必要としている存在が導かれる』と。 それが事実なのか、詭弁なのか解らない、しかし、今はそれを信じてみたかった。 「アー美味しくて涙が出そう」 そんなことを呟いた人修羅のお皿に、ルイズのフォークが伸び、鳥の皮と少しの肉が乗せられた。 ちょっと嬉しかった。 前ページ次ページアクマがこんにちわ
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前ページ次ページアクマがこんにちわ ■■■ 朝食を終えた生徒達が、ばらばらに教室へと移動していく。 魔法学院の教室は、半円形のホール状になっており、円の中心に教壇が設置されている。 それを囲うようにして机が配列されており、外周に行くほど足場が高くなっている、最後列まで昇って教壇を見下ろすと、机の上がよく見える。 それはテレビで見た、どこか大きな大学の講義室のようであり、人修羅は大学という環境に憧れを持っていたので、ちょっとだけ得した気分になった。 その上、石で作られた建物なので、教室の雰囲気はどこか中世ヨーロッパの臭いが漂っている気もする。 ヨーロッパになど行ったことはない、想像上のヨーロッパに思いを馳せているだけだが、人修羅にとってはそれも新鮮で喜ばしいことだった。 人修羅とルイズが中に入っていくと、先に教室にやってきていた生徒たちが一斉に振り向き、じろじろと二人の姿を見た。 そして周囲からくすくすと笑い声が聞こえてくる、先ほど会ったキュルケはこちらにウインクを見せ、青い髪の毛の少女は他の生徒とは違いこちらを見向きもしない。 キュルケの周囲は、男子生徒が固めている、男がイチコロになるのも無理はないなと思い、人修羅は一瞬だけはにかみを見せた。 もちろん素早く視線を巡らし、キュルケが室一のバストを誇っているのは確認済みである。 階段のような段差を昇っていき、最後列の席に近づくと、人修羅は食堂と同じように椅子を引いた。 ルイズは無言でそれに座る、人修羅は立ったまま教室内の『使い魔』らしき生き物を見回し、どんな生き物が使い魔になっているのかを確認しようとしていた。 キュルケのサラマンダーは、椅子の下で眠り込んでいるようだ。 肩にフクロウを乗せている生徒もいるし、教室の窓からは大きなヘビが中をのぞき込んでいる、空には昨日も見かけたドラゴンがいて、蛇の後ろから教室内をちらちらとのぞき込んでいるのが解った。 昨日は、あの青い髪の毛の少女がドラゴンに乗っていた、おそらくあの少女の使い魔だろうと予測して、人修羅は目を閉じた。 肌の感覚を少しずつ敏感にしていく、感じるのは温度でも風の流れでもなく、純粋なエネルギー。 以前、古くから人間と関わり、何度も召喚されたことがあるピクシーが、こんなことを言っていた。 マガツヒ、魔力、精神力、マグネタイト、気、霊力…それらは同じものかもしれないし、違うものかもしれない、と。 誰からそんなことを聞いたのか解らないが、人修羅にとってそれは大きなヒントだった。 自分の身体の中を流れる混沌としたエネルギーを、より効率よく、的確に操るための、糸口になったのだ。 今感じようとしているのもそれだ、教室内の人間、使い魔達のエネルギーを肌で感じようとしていた。 いくつもの小さな粒、その中でひときわ大きな力の塊が二つ、そしてそれとは別に濃密な力が一つ存在している。 人修羅が目を開け、力を感じた場所を一つ筒確認していくと、二つの大きな粒はキュルケと青髪の少女。 そして濃密な力は…不思議なことに、ルイズから発せられていた。 ■■■ 「皆さん。春の使い魔召喚は大成功のようですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に、様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」 いつの間にか教壇には教師らしき人物が立ち、教室内を見渡していた。 人修羅がふとルイズを見ると、俯いて肩を縮めていた。 教壇の方から視線を感じ、人修羅がさりげなく視線の元を見る、そこにはシュヴルーズと名乗った、中年女性のメイジがいた。 「…ミス・ヴァリエールもよく召喚を成功させましたね」 シュヴルーズが人修羅を見てそう言うと、教室中がどっと笑いに包まれた。 「ゼロのルイズ! 召喚できないからって、変な格好の平民なんか連れてくるなよ!」 その言葉に怒りを覚えたのか、ルイズは勢いよく立ち上がった。 ピンク色の髪を揺らしたまま、可愛いらしい声に必死の怒りを乗せて怒鳴る。 「違うわ! きちんと召喚したわよ! こいつが来ちゃっただけよ!」 別のメイジがルイズの方を向いて、こう大声を上げた。 「嘘つくな!『サモン・サーヴァント』ができなかったんだムガッ」 「お友達を侮辱してはいけませんよ」 ゲラゲラと笑い声が上がりかけたところで、シュヴルーズが杖を振って魔法を使い、笑い声を注意した。 シュヴルーズのこめかみにはうっすらと冷や汗が浮かんでいる、人修羅にはそれが解った、昨日のうちに人修羅の存在が通達されたのだろう、明らかにルイズと、人修羅に注意が向けられている。 先ほどルイズを侮辱した生徒は、シュヴルーズが杖を振ると同時に出現した粘土で、口を覆われていた。 窒息させるまでの効果は無く、ただ張り付いているだけだが、生徒を黙らせるにはそれで十分らしい。 ルイズもそれを見て、ふん、と鼻を鳴らし着席した。 ■■■ 「では、授業を始めますよ」 コホンと咳をして気を取り直したシュヴルーズが、右手に持った杖を軽く振った。 すると机の上に、直径三センチから四センチほどの石ころがいくつか出現した。 人修羅はそれを見て「へー」と呟き、感心していた。 「私の二つ名は赤土。赤土のシュヴルーズです。これから一年皆さんに『土』系統の魔法を抗議します。魔法の四大系統はご存知ですね? ミスタ・マリコルヌ」 ぽすん、と音を立てて、マリコルヌと呼ばれた少年の口から粘土が消える。 「は、はい。ミセス・シュヴルーズ。『火』『水』『土』『風』の四つです!」 マリコルヌの回答が満足のいくものだったのだろう、シユヴルーズは口元にわずかな笑みを浮かべて頷いた。 「今は失われた系統魔法である『虚無』を合わせて、全部で五つの系統があることは、皆さんも知ってのとおりです。その五つの系統の中で『土』はもっとも重要なポジションを占めていると私は考えます……」 シュヴルーズによる土系統の抗議は、去年一年間のおさらいを兼ねており、人修羅にとってはこの世界の魔法を知る上で大いに役立った。 万物の組成を司る重要な魔法、金属や石を作り出し、加工し、建築物を造り出し、農作物の収穫にも役立つという、生活に密着した重要な系統…それが土系統らしい。 人修羅はなるほど、と思いつつ、天地創造の神話に登場するような、神様や魔神などの仲魔を思い出していた。 彼らは、人間が呼吸をするのと同じぐらい簡単に、天地を作り出すこともできたはずだ。 しかしボルテクス界では、彼らの邪魔をする存在もまた同格の神々だった、そのため天地創造の力は完全に発揮されることはなく、彼らの力は戦いでのみ発揮されていた。 シュヴルーズの行った『練金』は、魔法を戦いの手段として使っていた人修羅にとって、とても興味深く、そして面白いものだった。 ■■■ 俺は最後列に座るルイズの後ろで、壁を背にして立ったまま、授業風景を見ていた。 授業は滞りなく進み、何名かの生徒が指名され、練金の実演を行っている。 シュヴルーズ先生が練金した石ころを、真鍮に変える者もいれは、鉄や青銅に変える者もいた。 中には失敗して、中身が石ころのままだった生徒もいるが、ほとんどの生徒は練金に成功していた。 「それでは最後に、ミス・ヴァリエールにやって頂きましょうか」 「え? わたし?」 目の前でルイズさんが指名された。 …おいおい、危険だろう、規模は小さいとはいえ爆発を実演させるなんて、危ないんじゃないだろうか。 俺はコルベール先生から、ルイズさんの魔法が爆発すると聞いていたので、危険だと思ったが…シュヴルーズ先生は自信満々にこう続けた。 「そうです。ここにある石ころを、あなたの望む金属に変えてごらんなさい」 なるほど、この先生は自分の『練金』によほど自信があるのだろう、先ほども粘土を生徒の口に貼り付けたあの手腕は見事だった。 きっと、多少の爆風なら簡単に封じ込めてしまうに違いない。 しかしルイズさんは立ち上がらない、背後からでも困ったようにもじもじしているのが解る。 よほど緊張しているのだろうか。 「ミス・ヴァリエール! どうしたのですか?」 シュヴルーズ先生が再度ルイズさんに呼びかける、するとキュルケさんが困ったような声でこんな事を言い出した。 「先生」 「なんです?」 「やめといた方がいいと思います……」 「おや、どうしてですか?」 「危険です」 キュルケさんがきっぱりと言い放つ、あまりの言い分に俺は呆気にとられたが、教室のほとんど全員が頷いていたので、思わず「え?」と口から声が漏れてしまった。 「危険? どうしてですか?」 「先生はルイズを教えるのは初めてですよね?」 シュヴルーズ先生がキュルケさんに疑問を投げかけると、キュルケさんはそれを質問で返した。 キュルケさんの言葉を信用するなら、この先生はルイズさんが魔法を失敗して爆発するのを知らない。 「ええ。ですが彼女が努力家ということは聞いていますよ。それに……」 ちらりと俺の方を見る、どうやら俺という存在を呼び出したことで、よく分からないけどルイズさんは期待されてるらしい。 「…さぁ、ミス・ヴァリエール。気にしないでやってごらんなさい。魔法の得手不得手は誰に出もあるのです、失敗を恐れていては、何もできないのですよ?」 にっこりと微笑むシュヴルーズ先生とは対照的に、キュルケさんは顔面蒼白でこう言った。 「ルイズ。やめて」 おいおい、キュルケさんはこの教室の中じゃそれなりに実力があると思ったのに、そんな人がルイズの魔法を恐れるのか?もしかして俺、ルイズさんを止めた方が良いのか…? ……しかし、俺が止める間もなくルイズさんが立ち上がった。 「やります」 ルイズさんはつかつかと教室の前に歩いていき、黒板を背にして教壇の前に立った。 緊張した顔で教壇を見ると、右手で杖を握りしめ、肩の高さに掲げる。 隣に立っているシュヴルーズ先生が、緊張を解きほぐそうとしてルイズさんに笑いかけた。 「ミス・ヴァリエール。この石をどのような金属に錬金したいのか、強く心に思い浮かべるのですよ」 ルイズさんは真剣な表情で頷いた、その仕草がどこか可愛らしいので、俺は心の中でガッツポーズを取ろうとした。 そう、顔も仕草もとても可愛らしい、しかし……。 ルイズさんが呪文を唱えようとした瞬間から、杖を介して収束していくエネルギーは、方向性を持たない暴風のようなもので、どこに飛んでいくか解らない危うさに満ちていた。 前の列に座る生徒達は、既に机の下に隠れており、キュルケさんは机の影から心配するように俺を見ていた。 ……やっぱりルイズさんを止めるべきだったかもしれない。 そんなことを考えている内に、ルイズさんは呪文を唱え終わり、杖を振り下ろした。 俺の目には、石ころが琥珀のような濃密な黄色と紫の輝きに包まれたように見えた、それはあらゆる耐性を破壊させる『万能属性』に酷似している。 しかもルイズさんは、自分の目の前、それこそ目と鼻の先で『万能属性』のエネルギーを爆発させようとしている。 「やばっ」 俺は教壇めがけて跳躍した。 ルイズさんの隣に着地し、すかさず右手で石ころを握りしめる 熱い、今からじゃ投げるのも間に合わない 片手じゃ押さえきれない、左手を重ねる、石ころが意外と大きい、手に隙間ができる 腹に手を押しつけて、もっと強く押さえ込む マサカドゥスによって得た魔法反射能力が、勝手に発動しそうになる 万能属性じゃない? 複数属性の魔法? 反射するな、反射したらどこに飛ぶか解らない まずい、押さえろ、押さえ込め! 押さえ込め!!! 押さ ■■■ 使い魔のフレイムに覆い被さる形で、私は床に伏せた。 ヴァリエールの魔法は、気合いを入れるといつも爆発する。 去年、『ロック』を唱えようとして鍵穴を吹き飛ばした事件は、ヴァリエールが『魔法の成功しないメイジ』として有名になるきっかけだった。 ランプに火を灯そうとして、着火のルーンを詠唱したヴァリエールが、ランプを爆発させたこともある、あの時は破片で自分の手を怪我していた、その時はバカにする気も起きず、むしろ哀れだとも思えた。 練金の授業で、ヴァリエールはいつになく真剣な面持ちで杖を握りしめていた、気合いを入れれば入れるほどヴァリエールの魔法は大きな爆発を産む、それを知っていた私はフレイムの上で頭を抱え、鳴り響くであろう爆音に備えていた… ボシュッ ………? いつものような、ドカン!とか、ズドン!という盛大な爆発音が聞こえない、代わりに聞こえてきたのは気の抜けるような音だった。 同じく机の下に隠れている、隣の男子生徒(なんて名前だっけ?)がおそるおそる顔を上げていた。 男子生徒は、口を半開きにして、ぽかんと教壇の方を見ていた。 私も机から顔を出して教壇を見た……いつの間にか教壇の脇に立っている人修羅が、両手から煙を立ち上らせている。 シュゥシュウと音を立て、煙が出ているその手には、何か服の切れ端のようなものが少し垂れ下がっていた。 違う、人修羅の上半身は裸だ、ということは…あれは、掌の皮膚!? ■■■ 「いてー、ルイズさん大丈夫?怪我とかない?」 俺はなるべく軽いノリでルイズさんに話しかけた。 手の怪我は大したこともない、これぐらいなら一分ほどで再生できる。 「ひと、しゅら…」 ルイズさんは呆然と俺の手を見ていた、その瞳は困惑に彩られ、心の内は解らない。 もしかして魔法を邪魔されたので、怒っているのだろうか? 「ちょっと!その手!」 「あ、ああ、ごめん。見たこと無い魔法なんで、ちょっと驚いて咄嗟に掴んでさ、投げようとしたんだけど」 「そうじゃないわよ!そうじゃ…ミ、ミセスシュヴルーズ!水のメイジに、治癒を」 「大丈夫だって!ほら」 俺は狼狽えるルイズさんに掌を見せた、破れて垂れ下がった皮膚は既に風化を初めており、黒く焦げた部分もピンク色になっている。 「え? あ、あれ、さっきのは? 酷い火傷で…」 「見間違いだよ見間違い」 迷ったけど、俺は嘘をつくことにした。 このアクマの身体に秘められた再生能力を自慢するのも、ルイズさんに変な引け目を感じさせるのも、いいことでは無いと思ったからだ。 「あ、何よ、でも腫れてるじゃない…ミセス・シュヴルーズ。私は使い魔の治癒を頼んできます」 「え?ええ」 ルイズさんは、なぜか早口で喋っている、シュヴルーズ先生は一瞬だけ呆気にとられたようだが、すぐに気を取り直して返事をしてくれた。 そして俺はルイズさんに腕を捕まれ、まるで連れ去られるような勢いで教室から出て行くハメになった。 ■■■ 俺はルイズさんに引っ張られ、廊下を早歩きで移動している。 ここまで俺のことを気にしてくれるのだから、『大丈夫だよ!』と言って手を振りほどくのはかえって失礼だろう。 魔法学院の建物から外に出ると、朝とは別の水くみ場にたどり着いた。 「そこで手を冷やしなさい」 ルイズさんはそう言い放つと、教室に戻るつもりなのか、ずいぶん急いで建物の中へと戻っていった。 …そのとき、俺の耳は、ルイズさんが教室とは別の方向に歩いているのを察知してしまった。 そろり、そろりと足音を殺し、気配を消して、ルイズさんが走り去った方へ近づいていく。 周囲の音や気配を拾いつつ歩くと、使い魔らしき魔力を含んだ動物の気配がいくつも感じられた。 その中に一つだけ、小さく、頼りなく輝くような気配があった。場所は魔法学院本塔の裏側…ヴェストリの広場だ。 本塔の作る日陰で薄暗いその広場は、今の時間なんの授業にも使われていないのか、人の気配は一つしか存在しない。 唯一の気配は、扉から広場に出たところで立ちつくし、右手に杖を握りしめたまま肩をふるわせて、嗚咽を漏らしていた。 「…うっ……ぐすっ…あ゛うううっ…」 ルイズさんが、泣いている。 ぽたり、ぽたりと地面に水滴が落ちる。 俺の胸が、ずきりと痛み出した。 …痛み、心の苦しみ、俺がずっと忘れていた感情が、アクマとなったあの日から消えていたはずの感覚が、なぜか今感じられる。 俺は二人の友達を殺した、弱肉強食の世界を作ろうとした友達を殺し、閉じられた停滞の世界を作ろうとした友達を殺した。 でも胸は痛まなかった、あのとき俺は何も感じていなかった。 オスマン先生とコルベール先生に『俺は人間を捨てきれない』と言ったが、あれは嘘だ。 俺はアクマとなったあの日から悪魔になった、だから俺は人間らしさにこだわり、馬鹿なことをして、進んで笑いを取って、自分が人間だったのを忘れないようにしていた。 俺は…『人間を捨てられない悪魔』じゃなくて『人間に憧れる悪魔』になってしまったんだ……。 そんな俺の胸に、今、人間の時に感じていた、ココロの苦しみが湧き出している! 俺は後ろから、できるだけ優しくルイズさんを抱きしめた。 ■■■ 私は、自分が情けない。 教師に練金の実技を指名された時、私は怖じ気づいていた。 ツェルプストーが私に「やめて」と言った時、私は止めるべきだった。 練金の実技は、使い魔にメイジとしての姿を見せる、チャンスだと思いこんで、私は必死の思いで魔法を成功させようとした。 …けれども、結果は失敗だった。 それどころか使い魔は、人修羅は、私の目の前に飛び込んで、爆発を起こす魔法を両手で押さえ込み、爆発を防いでくれた。 だけどその代償として、私は使い魔を怪我させてしまった……。 酷く手を腫らせた人修羅は「大丈夫?」と言って、私の身を心配してくれた。 それなのに私は『悔しい!』と思ってしまった。 そう考えた自分が許せない、人修羅は私を助けようとしてくれたのに、私は人修羅に敵意を向けてしまった。 そんな自分が情けなくて、私は人修羅の手を引いて教室を抜け出し、誰もいない場所を探した。 廊下を走る間、私は、あふれ出る涙が止まらなかった。 ヴェストリの広場に足を踏み入れ、そこに誰もいないと解ると、ついに私は声を我慢できなくなってしまった。 「うぇっ……う゛ぅ…うああああ……っ」 どうすればいいか解らない。 何をして良いのか解らない。 私が何でここにいるのか、わからない… ■■■ 「ルイズさん」 「!」 不意に、肩が温かいものに包まれる。 背後から回された、模様の描かれた腕が、私を抱きしめていた。 …人修羅? 「俺は、ここに召喚される前、地獄のような場所にいたんだ。家族も同級生もみんな死んで、生き残っていた友達も、最後には誰もいなくなった、みんな、死んだんだ」 「………」 「だから形はどうあれ、また人間と会うことができて、俺は嬉しいんだ。ルイズさんが召喚してくれたから、俺はまた人とふれあうことが出来た、俺はそれが何より嬉しいんだ」 「………」 「だから、気を落とさないでくれ、俺はルイズさんに助けて貰ったんだ、だから……」 「……ふんっ」 わたしは、人修羅の腕を振りほどいた。 はしたないことだと解っているけど、袖で顔を拭い、人修羅の方を振り向く。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・プラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 人修羅の額に、右手に持った杖を向けてから、左手で人修羅の首を掴む。 わたしの唇が人修羅の唇と重なった。 。 「………え、えっと」 驚いたのか、人修羅は呆気にとられて目を泳がせていた、恥ずかしさもあるのか頬を少し赤く染めている。 それを見た私は、ちょっとだけ恥ずかしくなった。 「かっ、勘違いしないでよ!使い魔の契約よ!」 「え、あ、そうなの? あ、あはは、ビックリしちゃった、あははは」 照れ隠しなのか、後頭部をぽりぽりとかき始める人修羅を見て、私はちょっとだけむかついた。 「……キスだったんだから…」 「え?」 「……ファーストキスだったんだからね!」 私の怒鳴り声が、昼前の魔法学院に響く。 どうして怒鳴ってしまったのか、自分でもよく分からない。 だけど、私のココロは、ヴェストリの広場から見上げた空のように、とても青く透き通っている気がした。 前ページ次ページアクマがこんにちわ
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アバタールチューナー的気分転換 アバタールチューナー2周目やってます。 人修羅に会うんだ~。 ってわけで,あとダンジョン3つ終わると人修羅に会います。 「はやっ」 とかそう言う話ではなく。 「アバタールチューナーはすげー短い。」 の方です。 実際ダンジョン10個ぐらいしかないしね~。 2周目はマスタキャンセラ(メギド系以外全部無効) 持ってるからボス戦もみんなオートだし・・・。 雑魚戦は全体攻撃で一瞬だしね・・・。 人修羅との最初の接触予定日は明後日かな~~~。 まあ,酷い負け方するんだけどね^^;