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一生のうちにたった一遍、三吉は雨の降る往来を母をおぶって歩いた経験のあるのを、その母の死後、時々思いだしては、まざまざと生ける母の姿を、まのあたりに見る思いすることがあった。 母、三吉、四郎、五作、それに先年死んだ長兄の遺子で、来年あたり中学へはいろうという年ごろの宏と、この五人が、小樽《おたる》で死んだ三吉たちの父の葬式を済まし、初七日もおわったところで、遺骨を携え帰京したのであった。 上野へ着けば、どしゃぶりの雨だった。十二月の上旬、日の暮れも早く、雨脚《あまあし》が広場のぬかるみに光って、一層寒い思いがした。 母は一昼夜半の長旅に、すっかり疲れきっていた。そうでなくてさえ、つれあいの死によって、ひどく落胆し、あとの始末やなんか、みんな人手に委《まか》せきりで、自分では何一つ出来ないような状態のところへ、汽車でも汽船でも、すべて乗物には弱い人で、寝台車に寝ていてさえ、わずかばかり食べたものをもどすという按配《あんばい》。ほとんど絶食にひとしいありさまで、上野の駅に降りた時には、よろよろして、出迎いの者に手をひかれ、ようよう駅の表口まで出たくらいであった。 出迎いには、母の弟、つまり三吉たちには叔父にあたる人と、三吉の家内の文子と、ほかに、雑司ケ谷《ぞうし や》の家に親しく出入りしている大橋さんという女の人と、それだけ来ていてくれた。 母が、血の気のない、むくんだような青い顔をして、そのうえ、急に霞《かすみ》でもかかったようなぼんやりした眼をうろうろさせながら、足元も危なげに汽車から降りるのを見ては、迎えの人もさすがに、くやみの言葉、励ましの言葉、……何一つ口には出せないで、ただ頭をさげ挨拶《あいさつ》するだけであった。 「栄子はどうしたろう?」 荷物の揃《そろ》うのを待ったり、タキシーの準備に気を配ったりしている三吉に、母が不意に問いかけるのであった。トランクに腰をかけさせておいたのに、母は立ちあがって、どうして栄子が迎えに来ていないのかと、あたりをうろうろ眺《なが》めまわすようにした。 栄子というのは、三吉兄弟の一番上の姉のことだった。母とは十五か十六しか年の違わない、まるで姉妹のようなもので、普段何かといえば意見が衝突したり、一つ家にいてもあまり互いにたよりあうようなことのない間柄であった。それだのに、父が死んでしまった今、もう四十六にもなるその未婚の娘が、母にとって実感的にいかに懐《なつ》かしまれ親しまるべき存在となっているか、三吉にも理解されて、こうまでも弱々しい心になった母を悲しくさえ思った。 「姉はどうしています?」 四郎に手伝って荷物の世話を焼いている大橋さんに、三吉は近よりながら問いかけた。 「風をひいて昨日《きのう》まで寝てらしったわ。でも熱はそうないんですって」 そのとおり母に報告すると、いくらか気が晴れたらしく、またトランクに腰をおろして、寒いのであろう、道行《みちゆき》の袖《そで》を前にきっちり合わせて眼をつぶった。 目白の四ツ家町にタキシーを乗りつけたころは、雨も小降りになっていたが、その表通りから小路に折れて雑司ケ谷の家へ行くまで、小半町はあった。母のために足駄《あしだ》と傘《かさ》をとりに誰かが行こうとするのを、三吉はいいからと、外套《がいとう》に着ぶくれた背を自動車の降り口にむけて、母に、おぶさるようにと促した。 四郎は小樽からずっと、父の遺骨を持つ役目をあてがわれていた。その四郎がバスケットを持って大股にとっとと行くあとから、三吉は案外母の重いのに感傷的な心強さを感じながら、遅れがちについて行った。 「三吉、大丈夫かえ?」 まさか母も、この子におぶさるような機会があろうとは、思いもしなかったのであろう、気遣《きつか》うように言うその声にも、どこか嬉しそうな張りの籠《こも》っているのが三吉にもわかった。 「大丈夫とも。だが、割に重いんだね」 「そうかねえ。もう骨と皮ばかりだが」 「これからせいぜい、肉をつけるようにするんだな」 「これからかえ?」 そう言った母の声音には、何かしら絶望的な感じが裏づけられているように、三吉には思われた。そのまま母は息を深くひくと、あとはじっと黙して、ぐったり三吉の肩に全身の重みをゆだねるようにした。うしろへまわした三吉の腕は、だんだんだるくなって、門の前の石段を二段あがる時には、足も重く、う諍かりすると、母をおぶったまま、あおのけに倒れそうな気がした。 やっと式台に母をおろして、そこへ出迎いに出た姉の栄子と顔を見あわせると、三吉は額の汗を手の甲で拭《ぬぐ》って、ほっとした。 母は座敷の瀬戸火鉢のそばへ坐ったきり、ほかの人たちが床の間に遺骨をかざり、燈明《とうみよう》をあげ、焼香をしたりするのを、うつろな眼でじっと見ているきりであった。 「お母さんもお焼香なさい」 栄子が立って来て言うと、母は、今まで夢でも見ていた人のように、急にびっくりして娘の顔を見あげた。 「何え?」 そう言って、左の方の耳を相手にぐっとさしのべた。 「耳がとても遠くなったんだよ」と、四郎は姉に説明しながら寄って来た。 「お母さん、お焼香するんだとさ」 栄子の倍ほどの声で四郎が母の耳元で言った。 「お焼香かえ。お焼香なら、もうたくさんだよ。何十遍となくして来たんだから、あとはお前たちでしな」 何をするのも物憂いというように、母は青い顔を不快そうにしかめながら、火鉢の縁に伏さってしまった。そのころ三吉は横浜の弘明寺《ぐみようじ》に文子と二人、わざと世にかくれるような生活を営んでいた。 父が病気で寝ていることを小樽の方から知らせてよこしたのは、十月の半ばごろであった。父の兄、つまり三吉には伯父《おじ》にあたる人は小樽のかなりな大地主であったが、その死後、当主である養嗣子《ようしし》が、世界大戦中船に手をだし、結局三四十万の損失を招い惣のであった。その魚債の整理をするために、親戚が集まって合資会社を組織し、三吉の父は労務拙資者として、同家の債務整理の衝にあたるため、六七年前妻子を東京にのこし、単身小樽に赴《おもむ》いたのであった。その後、死亡当時に至るまで、推されてその会社の代表社員となり、亡兄の遺産整理と同時に利殖の法を、ほとんど寝食を忘れて講じたのであった。 三吉たちにして見れば、父のやっている仕事なんか、馬鹿馬鹿しいものに思われて仕方がなかった。他人の家の財産整理に寝食を忘れたり、手当といえばいくらでもなし、その上いつも憎まれ役にまわって、陰では糞爺《くそおやじ》とか何とか悪口を言われたんでは、たまるものではなかった。ただ父の意を忖度《そんたく》するなら、父にとっては兄の家である。その兄の家を傾けたくない一念から、ああして憎まれたり悪口言われたりしながら、それに頓着なく、ひたむきに務めている心を思えば、無下《むげ》に馬鹿馬鹿しい仕事をやっているとも言えないのであった。 それに、父からの月々の仕送りで、母と五作と宏と、この三人は雑司ケ谷の家◎生計をたて、五作は明治学院に、宏は近くの小学校に通っているのであった。それをいいことにして、三吉は、心では父のやっている仕事を馬鹿馬鹿しいと思いながら、自分の損にはならないので、あえて帰京を促すようなこともなく、のんべんだらりと過して来たのであった。 一朝父が死んだとなれぽ、覿面《てきめん》に一家の負担は、ことごとく三吉の肩におしかぶさって来るよりほかはなかった。 四郎は不運な子であった。ちょうど上の学校へでも行こうという年ごろに、一家は没落したのであった。母方の叔父《おじ》が深川で、当時かなり盛大に釘工場をやっているところへ、職工見習いにはいったのも、そういう事情からであった。 一番の姉は二十歳のころ、当時創設されて間もない女子最高学府に学ぶことは出来たし、三吉は中学卒業後、東京で独力洋画の修業をしようとして失敗し、小樽に戻《もど》って仕方なし税務吏になったり、それから兵隊に行ったり、普通よりは五年も遅れたとはいえ、姉のおかげや、また少しばかり苦学めいたことをして、とにかく早稲田の文科を卒業することが出来た。三吉のすぐ弟の四郎を飛び越して、その次の弟の五作はといえば、これも幼年時代一家没落の悲運に会し、母と二人、樺太の海馬島《かいばとう》まで、昔召使いだったものが漁場をやっている、そこへ落人《おちゆうど》のようにして頼って行ったこともあったが、どう、やら父の方も芽をふきだし、おかげで明治学院の普通部を終え今では、高等部へ通っているのであった。 それにひきかえ、小学校きりで終ったのは四郎だけである。碌々《ろくろく》たる職工で、弟にさえ馬鹿にされ、日給といえぽ二円五十銭か七十銭、震災後大島町で昔の盛んな俤《おもかげ》もなく、貧乏くさくやっと機械を五六台動かすに過ぎない叔父の釘工場に勤めながら、すまいは蒲田《かまた》の裏長屋で、女房と女の子二人、ほそぼそ暮しているのであった。 小樽の東端、築港附近にある崖地《かけち》を宅地にして増収をはかろうと、三吉の父は夏ごろからその埋立工事に、遠いところを毎日現場監督にかよったものであるが、秋になってある雨の降る日、若い時から烈《はげ》しい負けず嫌いの気性で、寒さにもめげず、日暮れてまでも働いているうち、ふと風をひいたのがもとで寝ついたのであった。父病気の報をうけ、三吉はとりあえず四郎を連れて小樽へ行って見ると、父は思ったよりも元気で、奥の一間に、厚い夜具に顎《あご》をうずめ、汗をとっていた。「なあに、汗さえ出してしまえば、けろりと癒《なお》るんですよ」父はむしろ怒っているように、他人行儀な言葉つきで言った。そこの家の者は、父に無断で東京へ病気のことを知らせたのであった。その朝、三吉と四郎が顔を見せるまで、父は予期もしていなかったので、誰が東京へ知らせうと言った、馬鹿野郎! と、頭ごなしに叱られはしないかと、家のものはおどおどしていたが、さすがに、何年となく会わなかった二人の息子の顔を見ることが出来て嬉しいらしく、いつもの短気にも似ず、機嫌《きげん》悪くぷりぷりするようなことはなかった。 医師の診断によれば、カタル性肺炎ということで、三吉は新年号の仕事もあり、万一のために四郎を残して、一先《ひとま》ず小樽をひきあげることにした。 が、三吉が横浜に帰って間もなく、小樽病院に入院するという電報に接したのであった。旅|嫌《ぎら》いの母も、小樽行きを決心しなければならなかった。たった一人の男孫《まご》の宏を連れ、五作に附き添われて旅に立ったのは、十一月の初旬のことであった。 そうすると、雑司ケ谷の家に残るのは、炊事も何も出来ない、病身がちな、その上毎日母校に勤めに出なければならない栄子ひとりである。同居をいやがる四郎の女房をようよう納得させて、蒲田の家をひきはらわせ、雑司ケ谷の家へ来て炊事その他万有をしきらせるように三吉が取り計らったのも、そのためであった。 父の病気は、雑司ケ谷の家、蒲田の家、横浜|弘明寺《ぐみようじ》の家、それぞれに、小さな革命をもたらすことになったのだ。四郎が釘工場を一時ひいて小樽に行っている問、残る女房子供の生計費は三吉の方で負担し、四郎にはまた小遣《こづか》いを支給しなければならなかった。父の死後はなおさらのことである。葬儀を終って一同は帰京したものの、今までは、とにかく遠く離れていたとはいえ、一家の支柱たる父が存命していれば、そこに薄弱ながらも伝統的統一があったのに、一朝にして各人各個に生活の中心がばらぼらとなり、そうして物質の負担はひ乏り三吉の上に背負《しよ》わされることになってしまった。 五作はどういう事情によるか、父の存命中から、雑司ケ谷の家を出て、大崎の方に友人数名と合宿のようなことをやって暮していた。大方学校が遠いので、父や母とも相談してのことであろうと、当時三古としては、別段五作に学資を給与しているわけでもなし、また監督権もなし、深くその理由をただす必要も感じないのであった。 一旦職を失った四郎は、ますます深刻になる不景気のため、容易に就職口をみつけることも出来なかった。 三吉が時々雑司ケ谷の家へ行って見ると、母はいつもぽつねんと、瀬戸火鉢に手をかざしていた。 眼が霞んで、黒瞳《くろめ》と白眼の境界がうす濁りにぼやけているのも、ひとしおの老衰を思わせた。 「小樽から何とも言って来ないかね?」 三吉の顔を見ると、そう訊《たず》ねるのが母の口癖になっていた。 父の慰労金のことであった。いずれ春にでもなったらと、先方から言いだしたことで、母はそれのみを心待ちにしているのであった。七年間も献身的に働いて、しかも代表社員の地位にあって死んだことでもあるし、一年を百円に見積っても七百円、まあ千円ぐらいはよこしてもいいというこっちの肚《はら》であった。 が、三吉は全然そのことに望みを絶っていた。先方では、葬儀の費用を出しただけでも、つりが来ると思っているに違いないのであった。 「まだ何とも言って来ないが、まあ、あまり当てにしないんだなあ。あんな金持のわからずやに、千円やそこらの金で、恩に着せられるような思いをしない方が、よっぽど気がきいている」 三吉がそう言うと、母は憤慨するのであった。 「何も恩に着るのなんのと、そんなことないんだよ。あたりまえのことさ。よこさないったって、取るだけの権利がこっちにあるんだもの」 「えらいことになったなあ」三吉は笑いにまぎらした。 「一体お前たち、あんまり欲がなさすぎるよ。去年だってそうさ。何もかも置いて来るなんて、そんな馬鹿げたことが、; 」 物欲のことになると、この老衰の母にもめざましく活気が溢《あふ》れ、言葉の端《はし》までが鋭く荒くなるのであった。 去年というのは、文子との恋愛事件で三吉が長崎町の家を棄てた時のことを言うのであった。家財|什器《じゆうき》一切、ほかにわずかばかりではあるが貯金まで、残らず先妻の美代の方へ引き渡したのであった。母は何かといえば、そのことで不平を洩《も》らすのであった。巴里土産《パリみやげ》に、母へ黒天鵞絨《くろびろうど》の上等を三吉は持って帰ったのを、襟巻だのその他何かに仕立ててやるつもりで預っておいたまま、それなりになってしまったのが、母にとって、かなりの心残りであった。 「毎月仕送りをするとかって、本当かえ?」 誰にきいたものか、母はそんなことまで言いなじった。 「することにはなってるんだけれど、お父さんが死んだりなんかで、そんな余裕なんかありゃしない」 「余裕があったって、やることはないよ。……一体いくらよこせと言うの?」 「月々七十円」 「ほ、七十円あったら、五作と宏を学校へやって、楽に暮せるよ。……いつまでと言うの?」 「雑誌記者とか、なんとか、まあ、そいった職業婦人にでもなって、自活出来るまでと言うんだが、そんなこと言ってもきりがないから、十一月から、……去年のね、……向う一年間、月々七十円ずつ仕送りして欲しいと言うんだよ」 「お前、出来ればやるつもりかえ?」 「ここに千円も遊んでいる金があったら、一度期にゃってしまいたいくらいなんだが……実はね、間にたってくれる人がいろいろ心配してくれて、今度三百円だけ一纏《ひとまと》めにやって、それも雑誌社から借金しての話なんだが、それでさっぱりと打ち切ることにしたんだ」 「三百円でね?」 母はまじまじと三吉の顔を眺め、まだ何か意にみたなそうであった。 「自分で稼《かせ》いでとった金を、自分が好き勝手に使ったっていいじゃないですか。そのために、お母さんや子供たちに不自由をさせるというわけじゃなし、……」 つい三吉も声を尖《とが》らして、つっかかると、母はじきおどおどと、額を伏せるのであった。 「お前が好きで、美代に金をやると言うのを、誰も何とも言うわけではないよ。それで綺麗に手を切るというなら、……」 母はしょげきって、眼をしばたたいた。 「ただね、五作だって学校がまだあと二年もあるんだし、宏は、はいれる、はいれないは別としても、今年は中学へいれなければならないし、それもこれも噛みんなお前一人の肩にかかるんだからね、……それだから、今三百円のなんのと、そんな金、なんだか泥溝《どぶ》にでも棄てるようで、もったいない気がしたんだよ」 「千円が三百円になったら、やすいもんさ」三吉は、わざとその場の空気を軽くするように、冗談めいた口のききかたをして笑った。 「だが、よくもまあ図々《ずうずう》しく、縁の切れた人間に、一年も仕送りしてくれなんて、言えたものだね。わしらの国では、出来ない芸だよ」 母は三吉の冗談笑いに勢いを得て、またにくていな口をきいた。 「美代は一体に口数がおおすぎて、……ああいうおしゃべりの女、嫌いだよ。縹緻《きりよう》だって少しもよくはないし、……今度の方が、なんぽいいかわからない。第一、口が少いし……」 「第二に縹緻はよしか」 母のお世辞を茶化すように、三吉はわざと言って笑いだした。 「本当だよ。縹緻よしだとも」 母は大真面目であった。が、文子に対する母の批評が当っている当っていないは別として、今では三吉夫婦しかたよりになる人間のいないことを、母が自覚していることは、そういう言葉のはしにも読めるのであった。 春になって暖かくなったら、横浜へ行くよと、母はこれも口癖のようにいうのであった。 「桜の咲くころまでは、弘明寺にいるつもりだから、……」と、三吉も、ぜひ一度横浜へ母の来ることをすすめた。 弘明寺の三吉の家は、秋には芒《すすき》が繁《しげ》ったり、野生のコスモスが咲いたりする原っぱに面していた。その原っぱを越して、まん前に、大岡川の堤につらなる桜並木が見えるのであった。花時になれば、縁側にいながら桜を眺められることを思い、四月までは、とにもかくにも、弘明寺からは動くまいときめていた。 「早く暖かくなるといいわ。雑司ケ谷のお母さんに来ていただくんだから」 文子も四月になるのを心待ちにしていた。 それだのに三吉は、今まで消極的に、強《し》いて自分から逼塞《ひつそく》するようにしていた気持が、にわかに欝勃《うっぼっ》として来るのを感じた。父の死後、文子と二人きりのひそやかな独善的生活に閉じ籠っていられなくなったのも、彼の欝勃たる意気をあおる一つの因をなした。それに、近くある新聞に連載小説を書くことになったので、それを機会に、静かではあるが、便利のよくない横浜をひきあげ、東京に居を移すことにした。 これを一転機として、もっと積極的に仕事もし、世の中へも顔をさらけ出そうと、そういうような気持から、東京もわざと郊外を避け、都塵にうずまるつもりで牛込の矢来に家を捜し、平生はどこか姑息因循《こそくいんじゆん》でありながら、いざとなれば極端なほど一気に物事を決する三吉の癖で、二月にはもう矢来の住人になっていた。. 「せっかく横浜の桜を見に行こうと、楽しみにしていたんだよって、お母さん言ってらしったわ」 ある時、文子が雑司ケ谷へ行って来ての話であった。 「でも、牛込だと近いし、そのうち四郎さんに連れて来てもらうんですって。乗物はいやだから、歩いてですってよ。杖《つえ》をついて」 その、杖という言葉が、強く三吉の頭に来た。そとへなんか出ることもなく、一生をうちでばかり過して来たような母であった。その母が杖をついて、足元も危っかしく歩く姿を、三吉はかつて想像したこともなかった。小づくりな人で、腰も少しくの字に曲り、なおのこと背.は低く、顔も小さく、眼は、三吉兄弟もみんなそれをうけついでいるのだが、人一倍大きく、幾らか険はあっても、今では霞《かす》んで生気のないものであった。遣伝的なリューマチで、指々の節が多少まがり加減になっている、その手に竹の杖でもしっかり握って、目白の通りを、年中脚気の気味で躓《つまず》きがちな足を、古風な内輪にそろそろと運んで来る恰好《かつこう》が、眼をつぶると三吉にありありと見えるような気がして、はかない感じを抱きながらも、しかし心待ちにその日を待つのであった。 夜、電燈を消し、真暗な部屋に三吉は寝て、そうした母の、杖をついて、とぽとぽとやって来る姿を、闇の中に何度も描いて見た。その母は眼を瞠《みは》ったまま、執拗《しつよう》に三吉の方をいつまでもいつまでも、じっと見つめているのであった。母の眼は、何事かを三吉に語ろう、訴えようとしているのであった。 それはもちろん、日ごろから三吉が母の心を推量している事柄に関連して、三吉自身描きだすところの幻影にすぎなかった。その幻影に描きだされた母の、何事かを訴え語ろうとしながら、じっと三吉を見つめている眼の意味は、五作に繋《つな》がるものであった。 、五作は末っ子で、しかも海馬島まで落ちて行って、母と艱難《かんなん》をともにした、いとし児であった。母は老後を五作によって養われようと、それのみ思っていたのだ。五作もまた、中学の課程を終えたら、すぐに月給取りにでもなって、母を扶養しようと、明治学院の普通部を卒業する間際まで考えていたのだが、やはり知識欲に負け、高等部へ、それでも将来を慮《おもんぱか》って商科にはいったのであった。 どうぞ無事に、五作が学校卒業出来るようにしてやってくれと、沈黙の間にも三吉に向って呼びかけている母を、彼は思うのであった。それと、もう一つは、五作と互いに許しあっている、ある若い娘のことである。一度母は、三吉にその娘のことを告げて、将来二人を一緒にさせてやってくれるよう頼んだのであった。 母がしきりに三吉の家へ来たがっているのも、あらためて懇々と、五作のことについて話しておきたいからであろうとは、かねてから彼の想像するところであった。 それだのに、母が矢来の家を訪れる日の来る前に、あの××党事件が勃発したのだ。 三月七日、つづいて三月十五日、次々にほとんど全日本を襲った××党検挙の津波は、五作をも浚《さら》って行ってしまった。 「五作の奴《やつ》、すっかり赤くなっちまやがったよ。まるで余市林檎《よいちりんご》かトマトーさ」 無学の四郎が、自分ではよっぽどうまい警句を吐いたつもりで、あはあは上機嫌に笑っての話であった。三吉がまだ弘明寺にいたころであった。四郎は職のないままに、時々は大崎の合宿へ遊びに行くらしく、そのついでには横浜の兄の方へまわって、晩に一杯御馳走になり、好き勝手な話をするのであった。 父の病気で、最初三吉と一緒に小樽へ行くことになった時、四郎は満足な旅装もなく、三吉が巴里で作った、とてもハイカラな、胴のつまった洋服を借りて行くことにした。その洋服は、あまりしゃれ過ぎ、気恥ずかしくて、日本に帰ってから三吉は一度も着たことはないのであった。それを四郎は、得々として、これ見よがしに、外出ごとに着て出る恰好は、職工のくせに紳士ぶる、つまり孔雀《くじやく》の尾をつけた鴉《からす》といった感じで、滑稽《こつけい》でもあり、また彼の心理を考えれば不憫《ふびん》でもあった。 津軽海峡をわたる連絡船では、一人一人船客の姓名職業等を書いて出すことになっているのだが、小樽からの帰り、その船上で皆の分を五作がひきうけて書いて行くうち、四郎の職業のところで、ちょっと鉛筆をなめって思案しながら、 「職工か」 そう独語《ひとりごと》して書こうとすると、あわてて横合いから四郎が口を尖《とが》らして言ったものである。 「会社員だよ。職工だなんて、やめてくれ」 「だって、職工に違いないんだもの」 五作がどこまでも追究するのを、はねかえすように四郎は反《そ》り身になり、例の、からだにぴっちりと食いこむほどのしゃれた上着の胸前《むなさき》を両手につかんで、ぐっと引きさげて威張って見せた。 「なんでえ! 職工職工って言うなえ。人聞きが悪いや」 すると五作は、憐《あわ》れむともつかず、皮肉ともつかない笑いを浮べた。 「馬鹿だなあ。今に、会社員なんかより、職工の方がうんとえらくなる時代が来るのを知らないんだから」 「そら、またはじまった」 それなり四郎は、わざととりあわないように、船室から甲板の方へ出て行った。 四郎には全くプロレタリア意識なんかないのであった。 「おかしなもんだ。俺なんか一時も早く脱いでしまいたいと思っているのに五作の奴、菜っぱ服を着たいってんだから」 ある夜弘明寺へ来ての話であった。 「研究のためとかいうんだから、それでもいいのか知れないが、とにかく物好きなもんだ。学生なんて暇があって、贅沢《ぜいたく》だよ。金は親や兄弟から貰《もら》えるんで、のんき至極なものさ」 「五作が工場生活でもすると言うのか?」 「そういうわけでもないんだろうが。……今日合宿へ行ったら、連中がそんな話をするもんで、そんなら、五作に、俺とかわろうかって言ってやったよ。お前は俺の工場へ勤める。俺はそのかわりに、何か勉強させてもらおうって」 「工場生活をすると言っても、そいつは労働をするのが主じゃないんだろうよ。……」 工場労働者のなかへはいって行って、たとえば四郎のように、まだ眼覚めようともしない職工を教化し、階級闘争に奮起させるのが彼らの目的であろうと、三吉は想像しながら、それを口に出しては語らなかった。 五作が同志数人と大崎に家を一軒借りて、そこでどういうことをしているのか、おおよそ三吉にもわかって来た。五作はもと、明治学院普通部時代には、文芸部に属し、雑誌に詩や小説を発表したり、ハモニカのバンドを組織したりして、芸術的方面に才能を発揮することを努めていたのであるが、いつかしら、当代青年の一様にひしめき走るめざましい思想の流れに合流していたのである。普通部を終ったら、実社会に出てサラリー・マンになり、母を扶養しようなどという殊勝な心根の消滅したのも、恐らく彼の思想転換に原因すると言っていいであろう。そうして、高等部にすすんでからは、当時文壇でも最左翼と目されていた「文芸戦線」にすら飽き足らずとして、「文化批判」という雑誌を起したくらいであった。 文学芸術というものから、五作の心はまったく離れそむいていた。早晩××運動に赴《おもむ》かずにはいられないであろうとは、三吉の予想していたところであった。 ロシア革命十周年祭には検束されるかも知れないとか、大崎の住所は絶対秘密にしておいて下さいとか、××党の党歌の草案をつくっていますとか、そういう手紙がよく三吉のところへ来た。父が死んでから、月に一度は、金をもらいに横浜へ来るのだが、本所公会堂で建国会撲滅演説会を開いた時、散会後街上にデモンストレーションをやって××と挌闘《かくとう》したとか、そんな話を、熱のある口調で、眼を輝かし、三吉に語りきかすのであった。 二十年前のことである。三吉は中学五年の暑中休暇に、小樽から福山へ帰省したのだが、汽車で函館まで、それから汽船で海上六時間福山港へ着くのを、あいにくその日は船が出ないと聞き、彼は一日待つのをもどかしく思い、下駄《げた》ばきのまま二日がかりで、陸上二十五里の道を歩いたのであった。夕方疲れきった足をひきずって、松前藩時代の唯一の名残《なご》りである三重《みえ》の城近い松城町の、二抱《ふたかか》えもある桜を前庭に持つ家にたどりついて見ると、空にはびこる桜の蔭で一層|黄昏《たそがれ》の色を濃くただよわしている門口に、母が赤児を背負って、ちょうど張板をとりこむところであった。 いつ帰るとも前触れのない三吉の姿をすかし眺めて、母は一旦とりあげた張板を下におき、口をほっかりと開けたままであった。 「歩いて来たよ。船が出ないんで」 「下駄がけで、……まあ!」 母はあきれ、かつよろこんで、いそいそと内へはいって行ったが、その時背に眠っている髪の毛のうすい赤児の頭が、うしろざまにがっくりと反りかえった。その赤児こそ、三吉がはじめて見る弟の五作であった。 流行なのか、カラをづけない襟の低い学校の制服に、太い首筋を見せ、顔も大柄でいかつく、髪をながく波うたせ、三吉をも凌《しの》ぐくらいの背丈にのびた現在の五作をしみじみと眺めながら、三吉は二十年前故郷に帰省した日の葉桜蔭の夕暮を思いだすのであった。 「福山の墓へ骨を納めに、今年は行くつもりだが、お前も行くか?」 「別に行きたくもないけれど、……」 気の乗らない返辞であった。 「お前の生まれた家なんか、覚えはないだろう。今あるかなあ。もうないかも知れない。あの桜の樹だけはあると思うが。……どうだろう、お母さんは行けるかしら?」 「行く気があったら、行けないことはないでしょう」 「今度雑司ケ谷へ行ったら、お前からも言って見な。……時々は雑司ケ谷へ行くんだろう」 「行ってます」 「お母さんは、五作のおまんまを食べないうちは、どんなことがあっても死なないって言ってるそうだ。本当か?」 「ふん、……いつのことだか」 五作は苦笑して眼をそらすのであった。 「何をやるのもいいが、学校へ行っている以上は、満足にちゃんと卒業だけはするようにするんだな」 「ええ」 煮えきらない返辞だと思っていると、ある日学院から葉書が来た。四月から十二月までの授業時間数六百二十九時間、そのうち欠席が二百七時間、こう欠席がちでは修学上はなはだ遺憾であるという注意であった。 学校のことについて、よく五作の意見を質《ただ》そうと思いながら、三吉も仕事がせわしく、そこへ東京転住のことがあったりして、ゆっくり会う機会を持たないでいるうち、折柄の総選挙に彼もまた×x党のために運動をしているようであった。 越えて三月、あの事変であった。 ある日のこと、水島ちゑ子という娘が矢来の家へ、五作さんのことで伺いましたと言って来た。 日あたりのいい二階の書斎に、火鉢をさしはさんで主客は相対したが、あかるい陽射《ひざ》しの照り映《ぱ》えで、その娘の丸顔は一層健康そうな色つやに見えた。剃刀《かみそり》をあてたこともないらしく、西洋の女のように生毛《うぶげ》がめだって、それが野生的な好感を与えると同時に、くるっとした眼にも愛くるしさがあった。 「五作さんが二十日にあげられたってことを、昨日きいたもんですから、……」 やや早言葉で、ちゑ子は前後の事情を物語るのであった。母が言ったのは、この娘のことであった。彼女は、今、自分の愛人が警察にあげられているのに少しもしょげる風はなく、女性の若々しいしなやかさの中にも、敢然とした強い意志をほの見せ、清爽《せいそう》の感じであった。 日本橋のある株屋の小僧さんが、何かのことで、五作のあげられていると同じ警察へ拘留されたのが、二十六日目の日に出ることになって、その時五作から、そっと、これこれの水島ちゑ子という人のところへ、ここに検束されていることを知らせてくれと頼まれたのであった。その小僧さんの手紙を見て、ちゑ子は昨日(二十七日)日本橋のその株屋へ、ともかく行って見ると、主人は親切な人で、一緒に大崎の五作たちの合宿へまで行ってくれたということである。 その合宿の家はしまっていた。前の植木屋できくと、いつの間にか一人いなくなり、二人いなくなりしたというのであった。 「大崎の署から日本橋の方へまわされたらしいんですのよ。四人ですって」 「何か差入れの必要があるかしら?」 「紙が欲しいような話ですけど、……でも、うっかり行けませんわ。偽名しているのかどうか、それもわかりませんし」 「君なんか行っちゃ駄目《だめ》だよ。……大崎の家には、女の人もいたはずだが、どうしたろう?」 「芳子さんやっぱりあげられたらしいんです。拷問《ごうもん》でもされたら、どんなことになるだろうかと、思ってもぞっとしますわ」 さすがにちゑ子は肩をつぼめ、顔をしかめた。 「五作たちもやられるんだろうねえ」 「でも仕方がないと思いますわ。四人別々の部屋にいるんですって。その小僧さんに聞きましたの。英語でもって、大声だして話しあっていますって。何だか、絶食しているらしいとも、言ってましたわ」 黙って成行きを見るよりほかに方法はないと三吉は思った。 「雑司ケ谷のお母さんには、もちろん知らせないでしょうね?」 ちゑ子はいそがしく顔を横に振った。 「わたし、雑司ケ谷のお宅へは、わざと行かないことにしていますの」 「大橋さんにも黙っておきなさい」 「ええ」 大橋さんと.いうのは、三吉の姉の栄子と同じ学校出で、やはりその母校へ勤めている独身の女性であった。住居は雑司ケ谷の家に近く、五作がそこへ遊びに行っている間に、ちゑ子と知合いになったのである。それだから、五作とちゑ子とのことについては、大橋さんにも多少の責任があるのであった。 何はともあれ、五作検挙のことを、母には絶対に知らせないようにと、三吉は皆にいましめておいた。 ことに弟の四郎は、口軽屋なので、厳重に注意をしておく必要があった。 「五作がこのごろちっとも顔を見せないとか、……そんなことをお母さんが言いでもしたら、いい加減にあしらっておくんだぞ。学校の方がせわしいんだろうとか、なんでも友達と旅行に行っているような話だとか、うまくその場をごまかしておけ。警察へあげられているなんて、冗談にも言っちゃいかん」 「大丈夫ですよ。言いやしないから」 四郎は口ではそう言っても、にやにや笑いをしているところを見ると、こいつ、何かほのめかすようなことを言っては、お母さんをからかってるんじゃ癒いかと、不安に思われた。 母と四郎とは、あまりょい仲ではないのであった。四郎のところにも女の子二人あるのに、その方の孫には少しも眼をかけないで、ただ五作と宏とだけを可愛がっている母は、自然と四郎の反感を買うのも道理であった。 四月になってある日の早朝、大橋さんが駈《か》けこむようにしてやって来たゆ茶の間で三吉が新聞を読んでいるところへ、彼女はぴったり坐って挨拶もそこそこに、 「三吉さん、あんまりよ。どうしてすぐに知らして下さらなかったの?」 笠《かさ》にかかるようにいきなり言われて、三吉も面喰《めんく》らった。 「何のことです?」 「五作さんのことよ」 「あッー・あいつまた、おしゃべりしやがったな、……四郎の奴!」三吉は強く舌打ちした。 「おしゃべりじゃないわよ。知らしてくれるのが当然ですわ」 「あなたの方では、当然と思うかも知れないが、……あなたぼかりじゃないよ、……母にしろ、姉にしろ、あとで知ったら、なぜその時知らせてくれなかったかと、不平を言うかも知れない。けれども、こんなことは、知ったって知らないたって、なるようにしかならないんだし、なまじっか母なんかに知らせるより、仮に五作なら五作が、殺されるなりどうされるなりしてから、言ったって、……その方がつまり、よけいな苦労を母にさせないで済むから、今度は僕は、知らしむべからず主義をとったわけなんです」 「違ってよ、違ってよ。お母さんやお姉さんは別よ。わたしにだけは、どうしたって知らせてくれなければ。……じゃ、三吉さん、あんたは、わたしがお母さんやお姉さんに、おしゃべりすると思ったの?……わたしなんぽ馬鹿だって、そんな女じゃないわよ」 よっぽど口惜しいと見え、,涙ぐんでいた。ちゑ子と五作とのことに責任があるので、それで大橋さんはこうまで躍起《やつき》になるのであった。 差入れも何もしないで、ほっておいて下さいと三吉が言っても、大橋さんはいっかなぎくことではなかった。 「いいのよ。わたしは、わたしの気の済むようにするだけなんですから。知らないうちはともかく、知った以上は黙っていられないわ」 中《なか》一日おいて、大橋さんは四郎と二人でまた矢来にやって来た。シャツ、猿股《さるまた》、紙、歯磨《はみかき》、そんなものを差入れして来たというのである。面会は出来なかったが、主任の人の話では、元気でいるとのことであった。 「起訴されるようなこと、なさそうですわ。学生は、そんなに重く見ていないようよ」 「起訴されるなら、されたで、いいじゃないですか」 三吉はやや反抗的な気持になっていた。それには、文子の弟のこともあるのであった。鵠沼《くげぬま》に住んでいる文子の兄から、葉書で、常雄も三月十五日の嵐《あらし》に捲《ま》きこまれたと知らせて来ていた。神戸の親戚の店に働いていたのを、とびだして、去年から尼ケ崎の××党支部に書記を勤めていたのであった。 「これの弟も、神戸の方であげられているんですよ」 三吉は、長火鉢の向う側に、い.つもどおり無口なままおし黙っている文子を、顎《あご》でさし示した。 「これはもう、起訴にきまってるんだ」 「まあ、そうでしたの。御心配ですわねえ。でも、あながち起訴とは限らないんじゃないの」 「それはわかりませんけれど、どうなっても、仕方がないと思っているよりほかはないんですもの」 文子は寂しく微笑するのであった。 四月十日にようよう××党事件も解禁されて、各新聞はほとんど全紙面をあげてその報道につとめた。 その翌日、二十九日間の拘留を終って五作は十八日朝九時前に釈放されるという報告を、四郎は矢来の兄のところへ持って来た。 「大橋さんと僕と、二人で、十八日の朝警察へ行くことにします」四郎が言うのであった。 「大橋さんには気の毒だが、じゃ、そうしてもらおう。一先ずここへ連れて来るんだぞ。雑司ケ谷へすぐ行っちゃいかん」 『、そうしよって、大橋さんも言っていた」 「お母さんには、言いやしないだろうな?」 三吉は四郎の顔色を探るように、釧い眼でじっと見つめた。 「言うもんですか」 「言わなければいい。……だが、お母さん何も訊きやしないか、ー五作はどうしたろうとか、なんとか」 「ちっともこのごろ来ないね、とか、時々|独語《ひとりごと》みたいに言ってるけれど、とりあわないようにしているんです。……ああ、そうそう」と、四郎はすぐ陽気になる持前で、手をたたきそうにしながら、肩をゆすって笑うのであった。 父がもと使っていた眼鏡《めがね》を鼻の先へかけて、昨夜母は一生懸命新聞を読んでいたというのである。 五作がまだ雑司ヶ谷の家にいたころ、寄り集まる同志らの会話を、母は、完全に理解することは出来ないまでも、そのなかから何かしら小耳にはさんでいることがあるはずであった。それだから、母が、××党事件の新聞記事を読んで、それと、一ヵ月も顔を見せない五作とを結びつけて、忌わしい想像にかられないとは、言えないのであった。 「いくらかお母さんも、感づいてるんじゃないかと思うなあ。ゆうべの、あの、新聞に噛《かじ》りついてる熱心な恰好から見れば。……とてもそれや、眼を皿《さら》のようにして」 事あれかしに、面白がって言う四郎を、三吉は睨《にら》むようにした。 「お前がまた、何かほのめかすようなことを言ったんだろう」 「嘘ですよ」 三吉は四郎を信用することは出来なかった。が、十八日には警察から出ることにもなったし、どうせ遅かれ早かれ母の耳にもはいるのだから、もうやかましく言う必要もないと思った。 巷《ちまた》の騒音もあまり響いて来ない、閑静な矢来の街に、家々の塀開《へいかこ》いからのりだしている桜が、輝く春の陽射しのなかに散って行った。 弘明寺の桜も散ったであろうし、そう思えば、母が横浜行きを楽しみにしているうち、三吉の方で東京へ移りすむようになり、それなら春になり次第矢来へ行こうと、そういう約束のところ、五作の事件で、もう花時も過ぎるのに、そのままになっていることなどが、自然三吉の思案にのぼって来るのであった。 今度のことがあって、なおさら母は五作の将来を案じ、それについては、五作に対する三吉の意中も知りたく、矢来の家へ来たがっている模様であったが、風邪《かぜ》の加減で思うにまかせないようであった。はっきりとは口にしないが、時々四郎が来て、五作は学院の方はどうなるのだろうとか、ああやってぶらぶらしていたんでは、お母《つか》さんも心配だろうとか、暗《あん》に言うのも、すべて母の指図で三吉の意のあるところを、それとはなし探るつもりに相違ないことは、三吉にもよくわかるのであった。 「××の×x××は大丈夫だ。××××××いないよ」 警察を出た日、大橋さんと四郎とに迎えられて、五作は、やはり学生の同志と二人、矢来の家に来ると、玄関にあがるや否や、だしぬけにひどく興奮した風に言うのであった。 縁側に近い日向《ひなた》に三吉はいて、それを聞くと苦虫を噛《か》みつぶしたような、嫌《いや》な顔をした。×xの××××だなんて、歯の浮く感じで、とても我慢がならないのであった。が、三十日間も閉じ籠められて、自由勝手な言葉を使うことの出来なかった彼ら二人は、検挙当時のことや拘留中のことを、のべつ幕なしにしゃべりたてるのであった。続けざまにバットを吸いつける、その指先は、癲癇《てんかん》やみのようにぶるぶる震えていた。 興奮している時に何か言っても、かえって反抗心を募《つの》らすばかりだから、、今日は黙っていようと、三吉は、わざと無関心を装うて、相手にもならなかった。 彼らは今夜からでもまたすぐ運動に着手することが出来るものと、楽観視していたのであった。それが、一日二日日を経て見ると、もう手も足も出ないまでに、彼らの運動が完全に阻止されてしまったことがわかったのであった。 数日過ぎて五作がやって来た。 「俺は××なんてえもの、大嫌いだよ」 のっけから三吉は、反動的にきりだした。そう言われると、ちょっと五作は兄の顔を、額越しに見るようにしたが、学校の服で、それまできちんと膝を折っていたのを、あぐらになって、バットを強いて深く吸いこむと、横の方へぷうと勢いこめて吐きだした。兄に言われた冒頭の一句で、彼は反抗の態度をとったのであった。 「とにかく俺は、俺の生活を脅かすようなものは、御免|蒙《こうむ》りたいんだ。××が起ったら、俺は俺の生活を護るためには、断じて××軍に楯《たて》をつくつもりだ。言っておくが、俺の生活というのは、俺一人の生活じゃないんだ。俺には、扶養しなければならない人間が、幾人かある。俺の生活には、それらの人たちの生活がみんな含められているんだ。そういう人たちの生活を誰かが保障してくれて、俺は俺一人で自由勝手な行動をとれるのだったら、それや、どんなアクションに出るかわからないさ。だが、俺は何も、俺の家族の生活を誰かに保障なんかしてもらおうとは思やしない。俺はどこまでも、家族を扶養するよ。ただ、俺の家族を扶養し得る状態に、俺はおいてもらいたいんだ。お前は、家族制度はすでに崩壊したなんてえことを言ってるが、冗談じゃない、崩壊なんか、ちっともしやしないよ。現に、家族制度はすでに崩壊したなんてことを言っているお前自身、家族の一員になって、俺の扶養をうけているんじゃないか。お前が、俺の思想に反抗するならするで、それは、自由だ。そのかわり、物質的に、俺の世話にならないようにしてくれ。家族制度が破壊したって、そいつは溝やしない。家族がめいめい独立の生計さえたててくれれば、家長なんてものは、いやでも存在しなくなるさ。俺は二十の時、親父に反抗したよ。親父に反抗すると同時に、俺は出奔して、それ以来㍉親父の世話になんかなりゃしないんだ。親子の間だって、兄弟の間だって、金銭をおいて何の情愛そやだ。その点、俺は物質主義者だ。くどいようだが、もう一度言っておく。俺の思想に丈句があるなら、今後俺から鐚《びた》一文貰わないようにして、その上で立派に丈句を言ってくれ」 五作は横を向いたまま、持前の口を尖らしながら、黙ってバットばかりふかしていた。 いつもどおり月の宋に、三吉が金を持って雑司ケ谷へ行くと、玄関次の薄暗い三臀に、母は気むずかしそうな青い顔で寝ていた。風だというのであ一った。 「ものは食べられるの?」 座敷の方から三吉が声をかけると、母は聞きとれないことを言いながら、横になっていたのを起きなおり、床の上に坐るようにして、額を枕におしあてた。そんなふうに動作が出来るくらいなら、たいして悪いのでもあるまいと、あまり三吉は気づかいもしないのであった。それに、病気にはきわめて神経質な姉の栄子もいることだし、粗漏なことのありそうにも思われなかった。 五作は二階にいるというので、三吉はあがって行って小遣いを渡した。 「学問を勉強するために、学校へ行きたいというんなら、いくらでも俺はやってやるよ。明治学院がいやなら、早稲田でもどこでもいい。よく考えておけ」 「考えておきます」 それだけの応対で、あとは、これもいつもどおり、あまり母とも言葉をかわさずに、三吉はすうと帰るのであった。 十日とたたないうちであった。四郎が、母の容態思わしくないことを告げに来た。 「医者は流感だと言ってるんだが、 ….」 四郎の言いたいのは、しかし母の容態よりもほかのことであった。三吉が五作に対してひどく頑固な態度をとっていると、母は考えて、三吉をおこらしては、まだ一人前になっていない五作の行く末が案ぜられる、それだから、五作に、矢来へ行って手をついて謝って来いと、こう言ったというのである。 「俺は頑固だとは思わないよ」 母の心事には同情しながら、三吉は自説を翻そうとはしなかった。 「学校へ行って学問を勉強したいというなら、大学だって何だって、卒業するまでは面倒見ると、俺は言ってるんだ。そうでなくって、ソヴィエットロシアがどうしたとか、××主義がどうしたとか、××だとか何とか、そんなことをするなら、俺の世話になんかなってやるんじや、やり栄《ば》えがしないだろう、それだから、自立でやったがよかろうと、こう言うんだよ、俺は。……これほど物わかりのいい兄貴はないと思うがね」 「お母さんは、その、××主義とか何とか、そういう怖《おそ》ろしいものから五作が手を切るように、兄さんの力でしてやってくれと、こういう肚《はら》だと思うんです」 「怖ろしいものだかどうだか、それは俺には判断がつかんね、……だけど、俺の力で、五作の思想をどうしようのこうしようのと、それは出来んぜ。俺はただ、五作に金をやるかやらないか、その二つの能力があるだけさ」 が、三吉はそんなことを言いながら、心では、昔父の無理解に反抗して立った時代のことを思い起していた。彼は歳四十に近くはあっても、まだ想念の硬化には達しないで、かなり現代に対する敏感性を持っているだけ、口では意地強く反動的な言辞をはいても、それが彼の全部とは言えないのであった。五作は弟ではあるが、言わば三吉五作の問題は「父と子」の問題であった。それに当面して、彼は昔父に反抗したことを思い、それと今と照らしあわせて多少の矛盾煩悶を感ぜずにはいられなかった。五月の細雨は、毎日のように欝陶《うつとう》しく隆りつづいていた。明日の日曜は、…鎌倉のY先生を久し振りに訪問しようと思っていたのに四郎の報告で母の容態も気づかわしく、頭をおしつけられるような空の重さを感じながら、三吉は雑司ケ谷へ行って見た。 四郎と五作は下の座敷で、面白半分に、何かの空鑵《あきかん》を利用して、母のためにアイスクリームを作っている最中であった。 病床は二階に移されていた。天井から吊《つ》った氷嚢《ひようのう》を額にあて、じっと仰向《あおむ》いている母の顔は、しなびて、土気色に見えた。 「医者はね、流感だと言うんだよ。もう、熱も出ないし、あと、一凋問も寝ていれば、よくなるって」 母は痰《たん》のからまる嗄《か》れ声で、きれぎれに言うのであった。 「それならもう安心だ。安静にさえしていれば」 そう言って三吉が枕もとに坐るのを、母はつぶらな眼で、絶えず見まもっていた。 「まだまだ、死ねないよ。もう五年は、どんなことがあったって、死ぬもんか」 氷嚢がのっているために顔は動かせないので、眼の球《たま》だけが横の方へぎうりとまわって、三吉に注がれるのであった。三吉はぞっとした。執念の眼を見る思いがした。小学生時代、解剖の実験に、三吉は猫の首に細引を結わいつけ、締める役目をひきうけたことがあった。その時、息が絶え絶えになりながら、三吉の顔を恨めしそうにじっと睨《にら》みすえた猫の眼が、今の母の眼とそっくりの気がした。 「何も、死ぬの生きるのと、そんなむずかしい病気じゃないんだから、大丈夫だよ」 ちょうどそこへ、アイスクリームを持って四郎と五作があがって来た。いいしおにして三吉は枕もとをはなれた。 たった一匙《ひとさじ》たべたきりであった。 「五作、お前、それ、三吉によくお願いしな。……三吉、頼むからね」 母は、アイスクリームどころではないのであった。 「五作のことなら、もうよくわかってるんですよ、お母さん。ちゃんと話はついてるんです。心配はいりません」 しめきった部屋の蒸し蒸しさに、三吉は腰障子の端を少しあけて見た。黝《くろず》んだ瓦屋根《かわらやね》の不規律な並びの間に、雑木《ぞうき》の群を抜いて大公孫樹《おおいちよう》が、梢《こずえ》を少し南方に傾け、曇り空を圧して若葉に繁りたっていた。 冬になると、黄葉《こうよう》をすっかりふるい落し、枝々がみんな南へ南へと弓のようにしなっている素裸の姿を見せるのであった。真夏には、青葉の火焔を天に向って吹くがように、壮烈な偉観を示すのであった。早稲田の大学に学んでいる時代から、三吉の見馴《みな》れた公孫樹であった。 姉は赤十字で大手術を二度もうけ、病気手当の要領をよく会得しているので、特等看護婦。四郎は小樽病院で一ヵ月も病父に附き添った経験があるので、一等看護卒。五作は二等看護卒。四郎の女の子二人、これは見習看護婦。……そんな具合になっているのだと、四郎五作が、愉快そうに三吉に報告したのも、その日であった。 「病人一人に、看護婦ぼかり何人もいて、……」 母もうって変って、晴れ晴れした顔で笑うのであった。二週間たらずで、この母に永別しようとは、誰が予想したであろう。 安心して三吉は雑司ケ谷の家を出たのであるが、その家において生ける母を見たのは、それが最後であった。 季節季節のその公孫樹の姿を望見することに、三吉はありしその日の病床の母を追想し、とりかえしのつかない不覚の思いにき悔恨の念にかられるのであった。 昨夜《ゆうべ》雑司ケ谷の大学病院に、病名不詳のまま入院したと、四郎が知らせに来たのは、その日からわずか三日の後であった。 「五作のおまんまを食べないうちは、死にきれない」 母の執念は、死ぬまで五作の上にあった。 前年父が小樽で死んだ時、三吉は葬式の朝に行ったのであった。着くとすぐ、旅装をといて紋服にあらため、すでに納棺されてあった父に三吉は対面したのであるが、頭を綺麗に剃り、深い眼を、眠っているように静かに閉じ、頬は痩《や》せ衰えていても、口もとのあたり平和で、死相というようなものは少しも現われてはいなかった。 「いい仏様になりました」 三吉は手をあわせ、拝みながら言ったのであった。 最後の日、父は一同を呼んで、今夜かぎり自分の命は持たないことを告げたということであった。会社の方の事務も一切引き継ぎ、遺言もして、そうしてその夜、真夜中をすぎて二時、自分で予言したごとく永眠したことを、人々は三吉に話し、その大往生を称讃するのであった。のうそれにくらべて、母の死顔には、何という浅ましい煩《ぽん》悩の相が、醜く残されていることだろうと、三吉はしみじみ考えた。が、浅ましく醜い死相であるだけに、母が現世に残した妄執のほども察せられ、三吉としても心残りは増すのであった。 急に跳ね起きて、病弱の身のどこにそれほどの力があるのか、五作と文子と二人がかりで寝かせようとするのに、母は狂人のように反抗しつづけ、あばれまわるのだと、文子が夜遅く病院から帰っての話であった。それこそ、死力とでもいうのであろうか。あとで考えれば、その時母は、すでに精神に異状を呈しながら、刻々に襲いせまる死に対して、根かぎりの抵抗を本能的にこころみたもののようであった。 それから一昼夜あまり母は昏睡状態のまま、入院後十二日目の深更一時すぎ、最後の痰《たん》が咽喉《のど》にごろごろと鳴って落ちるひまもなく息絶えた。 「今死んでは、死んでも死にきれない」 いつかこう母が言った時の、恨みをふくむ眼つき、歪《ゆが》んだ口つぎ、現世に思いを残す凄《すご》いほどの醜い相を、その蒼ざめた死顔は遺憾なくもとどめていた。 三吉は死顔の白布を、二度ととる気はしなかった。 「うう、……うう、……」 仏前で不意にうめくような声がしたのに、三吉は何事かと振りかえって見た。 「ううーひ、……ううーひ、……」 叔父がすっかり背をまろくして額《ぬか》ずき、その顔を両手 に蔽《おお》いながら肩をふるわし嗚咽《おえつ》しているのであった。 この叔父は、三吉の母の弟で、今は大島町に借金だらけのぼろ工場を経営しているのだが、震災前には大井の方に大きな釘工場を持ち、本所の元町に堂々たる店舗をもって、万の金を動かしているのであった。 両国橋畔、大山巌書の表忠碑の建つわずかな三角地に、叔父夫婦に伜《せがれ》と、この三人は避難して、狢火を前に一夜ら中生死の境におびえ、辛うじてあの大震災の犠牲をまぬがれたのであった。叔父の頭の毛は、その夜を境にして、今までの胡麻塩《ごましお》が真白になってしまった。 それ以来めっきり気も弱くなっていた。壮年時代には上海《シヤンハイ》の方へまでも渡り、雄図に燃えたったこともあるのに、それも言わば昔の夢で、災後の金融はまったく逼塞《ひつそく》し、あまつさえ持病の喘息《ぜんそく》には悩まされるのであった。そこへ忽然《こつぜん》と、ただ一人の姉の死であった。今さらのように老病苦死の感にとらわれ、死者を悼《いた》み、わが身の悲運を嘆くのも当然のことであった。 半夜の通夜をすまし、叔父は帰宅すると言って、仏前に焼香をし、そこへじっと額ずくところまで、三吉は隣室から見ていたのであった。そうして、ちょっと顔をそらしていると、あの嗚咽であった。 誰も誰も、三吉の母の柩《ひつぎ》に向って、それほど自然な率直な悲嘆を表白したものはないのであった。それはちょうど、姉に叱られて、あやまり泣く弟の姿のように、単純で、子供らしく、それだけに悲しみの実感が三吉に来た。顔にあてていた手は、いつの間にか白髪頭をしっかりと抱え、経机の下にもぐりこみそうな恰好で、畳にへたばり咽《むせ》び泣くのであった。 徐々に嗚咽もおさまり、洟《はな》をかんでそこにいなおると、叔父はうしろへ向いて眼鏡の眼にあたりを捜しもとめるのであった。 「五作はいないか! どこへ行った、五作!」 「二階です」 四郎は腰軽に立って、梯子段《はしごだん》の下から睡ぴあげた。 「五作、叔父さんが呼んでるよ」 呼ぼれて五作は降りて来たが、怪訝《けげん》そうに敷居際に中腰できょろきょろするところへ、叔父はいつにない烈しさで言った。 「お前のお母さんが、どうしてこんなに早く死ぬようになったか、お前にわかっているのか?」 三吉にも意外であった。が、叔父は工場に出入するものの噂話で、五作たち同志の動静を知っていたのであった。 毎年正月元旦には、未明に起き、家人とは一切言葉をまじえず、水風呂に沐浴《もくよく》して礼服を着し、まず二重橋前に聖寿万歳をことほぎ、次いで愛宕山上《あたごさんじよう》に初日《はつひ》の出を拝し、それから家に帰って初めて家人と年賀の辞をかわす という叔父であった。 五作と思想上相容れないのは当然であると同時に、あまりにも呆気《あつけ》なく、しかも無限の執着をこの世に残して去った姉の死を見て、五作を責めずにいられない心理も首肯されるのであった。 「お前のお母さんの死を早めたのは、お前のせいだとは、思わないのか?」 何と言われても、五作は頑固に口を緘《と》じたままであった。 「ここへ来て、お母さんにあやまるんだ」 気をいらって叔父はどもりながら言うと、自分はあとずさって、仏前に席をあけてやった。ゆらぐ蝋燭《ろうそく》の灯《ひ》に、叔父の頬に流れる涙の痕《あと》があわく光るのを三吉は見た。 「この棺の中には」と、叔父は、そこに台をして横たわる柩《ひつぎ》を指さし、「お前のことばかり心配して、死にきれずに死んで行ったお母さんが、……」 あとは言えずに、叔父は片手に顔を蔽うのであった。 「栄子、お前もよくない。そばについていて、どうして五作を放任しておいた!」 「はい」 栄子は日ごろ叔父に好感情を持たないのであったが、さすがに母の弟として、この場合すなおに責めをうけるのであった。 五作は前に進んで、手をつき、深く頭を垂れさげた。大粒の涙が、ぽたりぽたりと落ちるのが光って見えた。 仏前を離れると、五作は眼をしばたたきながら、急いで二階へあがって行つた。 三吉が行って見ると、立ったままで五作は床柱によりかかり、それに頭をごつんごつんぶっつけ、歯をくいしばり、涙一杯の凄い眼で天井を睨んでは、野獣の底うなりのような声を、間断なく出していた。 母の死を悲しむ心と、主義に殉ずる心と、この二つの心の葛藤を、三吉は見るような気がした。 「いいよ、五作、俺がわかっている」 弟の肩に手をかけて、三吉は、慰めようもないとは知りつつ、そんなことを言うのであった。
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猫眼石殺人事件 山本周五郎 ------------------------------------------------------- 【テキスト中に現れる記号について】 《》:ルビ (例)春田三吉《はるたさんきち》 |:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号 (例)急|検《しら》 [#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定 (例)※[#感嘆符二つ、1-8-75] ------------------------------------------------------- [#3字下げ]挑戦の電話[#「挑戦の電話」は大見出し] [#3字下げ]その一[#「その一」は中見出し] 春田三吉《はるたさんきち》は東邦日報社の記者で社会部の至宝といわれていた。――一昨年《おととし》の春、東大の法科を出るとすぐに入社したという、まだほやほやの新人だが、満二年にならぬあいだに五つの大事件を扱い、その内三つは警視庁の刑事諸君をだし抜いて、自ら事件を解決し、――その記事を紙面に連載して、帝都五百万の市民をあっといわせたものである。殊《こと》に、 「百万円の殺人事件」として知られている彼《か》の「プカゴア公使殺害事件」は、なにしろ被害者が外国公使であるため事件の迷宮入りと共にプカゴア国から百万円の賠償金を請求され、国際問題にまで発展したのであるが、春田三吉のすばらしい活躍によって、犯人がプカゴア国革命党員の一人であることを突止《つきと》め、みごとにこれを捕縛したのだから、世人は驚嘆した。この事件は当時の全国新聞紙が筆を揃えて特報したから、諸君も御存じであろうと思う。 春田三吉はまだ弱冠二十七歳である。色白の痩形で、どちらかというとのっぽ[#「のっぽ」に傍点]の方だ、煙草を喫《す》わぬかわりにいつもチュウインガムを噛んでいる。 「絶えず歯を動かしているのは、頭脳活動を明敏にするためだ」というのが彼の口癖である。 ――夏でも冬でも厚手ツイードの背広ひとつで、決して外套を着たことがない、帽子は祖父《おじい》さんが洋行した時(だから明治二十三年だ)巴里《パリー》の古物屋から買ってきたという恐るべき骨董品で、天辺《てっぺん》にいくつも穴の明《あ》いているのを平気で冠《かぶ》っている――まあこういった風貌である。 この春田三吉が第四番めに手がけた、 「猫眼石殺人事件――」ほど怪奇を極めたものはあるまい。この事件では遉《さすが》の春田三吉が、社長から二度も辞表を求められたほどで、元々痩せている彼がお蔭で一貫目も体重を減らしたとぼやい[#「ぼやい」に傍点]ているくらいだ。――ここには先《ま》ずこの事件を詳しく紹介しようと思う。 諸君は「謎の侠盗」といわれている幻怪不思議な人物の事を聞いたことがあるはずだ。 彼は二年ほど前から都下の各富豪や、政治家、豪商を襲って、現金は勿論、秘蔵の数万、数十万円もする骨董宝物を奪う怪賊だ。――当局の必死の活動にもかかわらず、今日まで絶対にその正体を掴まれたことがない。もっともこの怪賊に襲われた富豪や政治家たちは、いずれも悪徳不正の連中で、そのため世間の同情は寧《むし》ろ怪賊の方に集り、 「日本のアルセーヌ・ルパン、現代の鼠小僧次郎吉――」とまで評判をとるようになった。 春田三吉も無論、この「謎の侠盗」を狙っていたのだが、他の事件に追われて、まだ手を着ける暇がなかった。ところが果然、実に思いがけなくも、侠盗の方から春田三吉に挑戦してきたのである。―― 十二月も押詰《おしつま》った或る日、春田三吉が出社して社会部の自分の机へ向うと間もなく、卓上電話のベルが鳴った。(社会部の平部員で自分の机に電話を持っているのは、彼だけだ) 「ああ社会部の春田です」 「お早うございます、春田さん」社の交換手が出ると思ったら、向うはひどく嗄《しゃが》れた老人の声である。 「何誰《どなた》ですか――」 「御機嫌は如何《いかが》でございますかな」 「誰ですか君は、用事なら早く頼みますよ」 「大層な気早ですな――実はいささか興味のある御報告を申上《もうしあ》げたいと思いますので、というのは、丸ノ内の第一ホテルに上森鶴子夫人と名乗る新帰朝者……左様、一週間ほど以前ヨーロッパから帰ってきた婦人が滞在しているのを御承知でしょうな」 「それがどうしたんです」 「今日、午後八時十分、上森夫人のお部屋へ或る男が侵入します、そして夫人の宝石類と現金を頂戴することになっております」 春田三吉の第六感はその時早く、電話の相手が「謎の侠盗」ではあるまいか、――という疑いを持った。そこで電話の応待《おうたい》をしながら手早く机上のメモへ鉛筆で、 (この電話がどこからかかっているか、交換台で至急|検《しら》べろ)と書いて丸め、向うにいる給仕の机の上へぽん[#「ぽん」に傍点]と抛《ほう》った。 「それは御親切なお知らせで恐縮です」 春田はなるべく電話を長びかせようとして、態《わざ》とゆっくり構えた。「――してみると、上森夫人は貴重な宝石類を持っているわけですな」 [#3字下げ]その二[#「その二」は中見出し] 「左様、まず邦貨にして五十万円はあるでしょう、――それをすっかり頂戴しようというのです、これは警視庁へもお知らせしておきました。今夜の八時十分ですお忘れなく」 「有難《ありがと》う、ところで貴方《あなた》は――?」 「ふふふふふ」相手は嗄《しゃが》れ声で笑った。「そんなお芝居はやめましょう春田君、君はもうこちらが謎の侠盗だということを御存じじゃありませんか、――なんのために交換台へ此方《こっち》の電話を検べさせたんです?」 春田は跳上《とびあが》るほど驚いた。メモへ書いて給仕に交換台を検べさせたことが、既に相手に知られているのだ。 「ではこれで失礼」相手は嘲るようにいった。「また今夜、八時十分にお会いいたしましょう」 「ああ、ちょっと……」急いで呼び止めようとしたが、そこで電話がぷつりと切れた。 「――畜生!」春田三吉は思わず舌打をした。 「分りました」給仕が帰ってきた。 「どこから掛けていた。相手は何番だ」 「それが――隣の社長室です」 今度は春田三吉まさに椅子《いす》から跳上った。そして脱兎のような勢《いきおい》で社会部室を横切り、扉《ドア》を蹴放さんばかりにして社長室へとびこんだ。――部屋の中は森閑としている。そして、電機ヒーターに背中を炙らせながら、大きな革椅子に凭《もた》れて、社長細野平五郎氏はぐっすりと眠りこけていた。 春田三吉は直《す》ぐ廊下へとびだし、階下から玄関の受付まで走りまわって、怪しい人物の出入りを慥《たしか》めたが、ついに要領を得なかった。 「社長――社長、起きて下さい」春田は社長室へ戻ってくると、大|卓子《テーブル》を叩きながら呶鳴《どな》った。細野社長は「痩せた河馬《かば》」という綽名《あだな》をもっている、白髪頭で白い口髭があって、その名のごとく眼も体も細いくせにひどく動作が鈍い、まるで陸《おか》へあがった河馬のようである――春田の喚き声に、うすぼんやりと薄眼を明け、それから両腕を頭の上まで伸ばしながら、大きな欠伸《あくび》をして、ゆったりと椅子の上に身を起した。 「ああよく眠った。うちの新聞を読んでいると良い心持《こころもち》に眠くなるよ、全く――近頃の東邦日報はまるで眠り薬のようじゃ」 良い記事がすこしもないという皮肉だ。ふだんの春田青年なら怒りだすところである。しかし今日はもっと重大なことが持上《もちあが》っていた。 「それどころではありません社長、謎の侠盗が僕に挑戦してきました。丸ノ内第一ホテルに滞在中の上森鶴子夫人を襲って、現金と宝石類を盗むというんです、しかも今夜八時十分に決行すると時間まで予告してきました」 「――ほう、面白いな」社長の細い眼が少し大きくなった。 「面白い――なる程。それではもっと面白いことをお知らせ申しましょう。侠盗が僕に電話をかけてきたのはどこだと思います、この東邦日報社の建物の中からですよ」 「なんだと、――?」 「しかもこの部屋ですぜ」 「馬鹿なことを」 「交換台で訊《き》いて下さい。社長が眠っているあいだに、天下のお尋ね者、犯罪の王者、謎の侠盗は堂々と社長室へ乗《のり》こみ、社長の電話を使って犯罪の予告をしたんです、――こいつはすばらしい特種ですぜ」 細野社長の赧《あか》い顔がぴたりと動かなくなった。それから静かに椅子を立ち「痩せた河馬」という綽名をそのまま、ぶらぶらと室内を歩き始めた。 「――侮辱だ、許しがたき侮辱だ」 「そうですとも、犯罪者仲間の脅威の的だった東邦日報は今や侠盗の泥足で汚されたんです。こいつをスクープされたら我が社は新聞界の嗤《わら》いものです」 「春田君、捉《つかま》えろ!」社長は低い声でいった。「すぐに丸ノ内第一ホテルへいくんだ。警視庁と協力してホテルの使用人全部を調べあげろ、部屋の隅々を探れ、上森夫人の宝石を一個たりとも侠盗に渡すな」 「引受けました!」 「待て――」社長は呼止《よびと》めて、「君一人では心配だ――否、君の腕を疑るわけではないが、なにしろ相手は千軍万馬往来の怪人物だ、僕もあとから手伝いにいこう」 「どうぞ御自由に」 痩せた河馬などにこられては却《かえ》って足手|纏《まと》いだと思ったが、春田三吉は急いで社長室を出ると、チュウインガムをひとつ口へ放りこみ、帽子をひっ掴んで外へとび出した。 [#3字下げ]意外! 侠盗、夫人を殺す[#「意外! 侠盗、夫人を殺す」は大見出し] [#3字下げ]その一[#「その一」は中見出し] その夜の第一ホテルほど物々しい光景はなかった。ホテルのある仲通り二号地は、角|毎《ごと》に正服《せいふく》私服の警官が立番しているし、辻待のタクシーには全部刑事が乗込んで、侠盗の逃亡に備えている。ホテルは昼のうちから何度も大捜査が行われ、屋上庭園から地階の燃料庫、ボイラー室まで、隅という隅、鼠の穴にいたるまで検索された。それにも増して厳重なのは、使用人の調査だった。まず支配人から始めて部屋附の給仕、ベル給仕《ボーイ》、|お茶少女《ティーガールズ》、掃除番、帳場係り、交換手から料理人、風呂番まで、一人一人呼出して警視庁捜査課長自ら訊問にあたった。 春田三吉は勿論、この捜査に立会《たちあ》ったが、建物にも使用人にも異常のないことをたしかめた。そして遅い夕食の後三階の上森夫人の部屋へあがっていった。 上森夫人は三階の七、八、九の三部屋を借りていた。七号が応接間、八号が居間、九号が寝室で、寝室の隣が浴場になっていた。夫人は貞枝という少女の召使いと二人でこの三部屋を使っているのだ。 春田三吉は、警視庁で「鬼警部」といわれる名探偵、橋本刑事部長と共に応接室へ入っていった。鶴子夫人は年の頃二十七八、非常に美しい婦人で、むしろ凄艶《せいえん》と云《い》いたいくらい、――巴里《パリ》一流の衣装店で作らせたという贅沢《ぜいたく》な部屋着を着て、高価な香水を花のごとく体の周囲に匂わせている。 「何か怪《あやし》いものがみつかりまして――?」夫人は鬼警部に美しく微笑しながらいった。ゆったりと寝椅子に凭れて、すんなりした脚を組合《くみあわ》せているのが、なんともいえず嬌《なま》めかしい。橋本刑事部長は眩《まぶ》しそうに眼を外《そ》らして、 「いや、建物にもホテルの使用人にも怪むべき点は発見されません。――つまり、侠盗は未《ま》だこのホテルへいささかも手をつけていないのです。つまり」 「つまり――」と夫人が引取った。「侠盗は結局わたくしの宝石を盗むことはできないというわけですのね」 「仰せのとおりです、二号地区は蟻の這う隙もない厳重な警戒線で取巻《とりま》いてあるし、ホテルの内外は二十数名の警官が張込《はりこ》んでいます、侠盗が神様でないかぎり、到底この部屋へ忍びこみ、貴女《あなた》の持物へ手をつけることは不可能です、絶対に――」 「ちょっとお伺いいたしますが」と春田三吉、 「御所持の宝石類はどこへお納《しま》いですか」 「寝室ですわ」夫人はにこやかに答えた。「寝室の枕箪笥《まくらだんす》の中に入れてございます」 「もっと早く適当な銀行へでもお預けになった方がよかったですね」 「わたくし日本の警察を信じています」 「侠盗だけは別ですよ」 「馬鹿な?」鬼警部が喚いた。「アメリカや仏蘭西《フランス》なら知らぬこと、日本の警察は犯罪者に馬鹿にされるようなちゃちなもんじゃない」 「そうなって貰いたいですね」春田三吉はそういい捨てると、立っていってもう一度改めて寝室の捜査をはじめた。 寝室は四坪ほどの広さで、東側に窓、北側の壁に飾り煖炉《だんろ》があり、その脇に浴室へいく扉《ドア》がある、寝台《ベッド》は南側の壁に添っておかれ、頭のいく方に豪華な枕箪笥があった。春田三吉は床を叩いたり壁を探ってみたり、どこかに脱《ぬ》け穴がありはしないかと、三十分もかかって調べたが、結局なにも発見することはできなかった。 「どうだね、何かあったかね」春田が戻ってくると、橋本刑事部長はからかい[#「からかい」に傍点]顔で訊いた。 「君はプカゴア公使事件からこっち、だいぶ気を好《よ》くしているようだが、相手が謎の侠盗では少し荷が勝ち過ぎるぜ――また新聞記者は記者らしく、我々の捜査を嗅ぎまわっている方が安全だろう」 「有難う、橋本さん御親切は忘れませんよ」春田はにっこり笑って、「しかし僕は侠盗から呼ばれているんです、彼の好意を無にするわけにはいきませんからね」 そして春田は階下へ降りていった。 あとから手伝いにいく、といった細野社長が、どうしたわけかまだこないのである。玄関まで出てみたがやはりきた様子はなかった。時間は遠慮なくたっていく――七時、七時三十分……。 いよいよ時間は切迫してきた。三階の廊下には十五名の警官が立番に当った――応接室には、橋本刑事部長と春田三吉が頑張っている。壁の時計が八時を打った時、 「わたくし疲れていますから寝室へ退《さが》らせていただきますわ」といって鶴子夫人は起上《おきあが》った。そして二人に会釈して小間使いの少女と共に寝室へ入っていった。 [#3字下げ]その二[#「その二」は中見出し] 春田三吉はさすがに凝乎《じっ》としていることができなくなった。白昼堂々と東邦日報社の社長室を侵され、堪難《たえがた》き侮辱を与えられているのである。 春田三吉だけでなく、東邦日報社の名誉に賭けても侠盗を仕止めなければならないのだ。 「――八時五分」橋本鬼警部が呟いた。 春田青年は烈しくガムを噛みながら時計を見た――とその時、寝室から小間使いの少女が出てきた。 「どうしました?」 「はい、奥さまが葡萄酒《ぶどうしゅ》を召上《めしあが》るとおっしゃいますので……」そういって少女は廊下へ出ていった。 橋本部長は喫っていた煙草を灰皿で揉消《もみけ》した。春田三吉も噛んでいたガムを吐出《はきだ》し、愛用のステッキを握り緊《し》めた。――張切《はりき》った弓弦《ゆみづる》のような、息苦しい一秒一秒が経っていく。しかし何事もない。何事も起らなかった。 「八時十分、時間だ」鬼警部がほっとしながら呟いた。 その時である、寝室の方に何か妙な物音がしたので、春田三吉は弾かれたように――たった三歩で居間を横切りながら、寝室の扉《ドア》へ馳せつけた。そのとたんに中から、 「犬め、犬め、畜生……」と叫ぶ鶴子夫人の声が聞え、 「ユウレカ!」と妙な男の喚き声が起った。 春田は咄嗟《とっさ》に中へ跳込もうとしたが、扉《ドア》には内側から鍵がかかっていた。そこで、駈けつけてきた橋本部長と力を協《あわ》せて、扉《ドア》へどしんと体を叩きつけた。寝室の中からは再び、 「助けて――ッ」という夫人の悲鳴、とほとんど同時に、絹を裂くような断末魔の声が聞えてきた。 扉《ドア》は樫材の頑丈なものだったが、それでも二人が押破るまでに三分とは掛らなかったに違いない、それにも不拘《かかわらず》二人が押破った扉《ドア》と共に部屋の中へ転げこんだ時には、既に既に――そこでは惨虐な犯罪が行われた後だった。 寝台《ベッド》の横のところに、白い寝衣《ガウン》を血まみれにして上森鶴子夫人が倒れている――そしてはだけ[#「はだけ」に傍点]られた雪のような胸の、左の乳房の下にぐさ[#「ぐさ」に傍点]とばかり短刀が突刺されていた、――夫人の胸部《むね》から流れ出た血は、寝台《ベッド》のシーツから床の絨毯《じゅうたん》まで染め、更《さら》にカーペットの方まで拡がっていた。 春田三吉はひと眼見るより、すぐに隣の浴室へとびこんだ。しかしそこには誰もいない、引返して窓の鎧扉《よろいど》を調べたが、そこにも内側から鍵が掛っている――このあいだに鬼警部は、急を警戒の者に知らせて、ホテルの出入を一切禁じ、自分は寝台《ベッド》の下や置戸棚のかげを捜していた。 「何者もいない、鼠一匹いないぞ」橋本部長は狂気のように叫んだ。「こんな馬鹿なことがあるか、一方口の応接間には我々がいた。居間の外、廊下いっぱいに警官が立っている。窓も扉《ドア》も内側から鍵がかかっている。しかもその中で殺人が行われるとは?」 「事実は事実です、――そして」といいかけて、春田三吉は一足跳びに枕箪笥へ駈けつけた。「そうだ、宝石――」 「侠盗は殺人を犯した。奴の手は血で汚れたのだ。全警察力をあげても彼を捕縛するぞ、奴は殺人鬼だ」 「――待って下さい、それは違います」春田青年が部長の言葉を制した時――どこからか人の呻《うめ》く声が聞えてきた。 「おや、変な声がしますぜ」 「――うん、呻き声だな……」 「しかもこの寝室の中です」 春田三吉は声のする方へ近寄っていった。呻き声は北側から聞えてくる、春田青年は全身を耳にしてすり寄ったが、やがてその呻き声が飾り煖炉の中から聞えてくるのを知って、いきなり鉄製火架を掴み、力任せに引張った。 果然、火架ががたり[#「がたり」に傍点]と鳴ったと思うと、火床がぱくり明いて、向うに薄暗いぬけ[#「ぬけ」に傍点]道が現われた――しかもそこに誰か倒れている。 「部長、誰か倒れています」 「待て、迂闊に手出しをするな!」橋本刑事部長は素早く右手に拳銃《ピストル》を取出しながら、左手で懐中電灯をさしつけた。そのあいだに春田三吉は倒れている男を抱き起したが懐中電灯の光で相手の顔をひと眼見るなり、 「あっ!」と仰反《のけぞ》るばかりに驚きの叫びをあげた。 [#3字下げ]笑う侠盗[#「笑う侠盗」は大見出し] [#3字下げ]その一[#「その一」は中見出し] 飾り煖炉の向うに倒れていたのは何者であったか? ――細い絹紐で厳重に縛られ、猿轡《さるぐつわ》をかまされている背広服の男。 「注意しろ、危険だぞ」 声をかけながら橋本刑事部長がさしつける懐中電灯の光で、ひと眼見るなり春田三吉は仰反るばかりに驚いた。 「あっ! 貴方《あなた》は……社長」 左様、意外にもそれは東邦日報の社長細野平五郎その人であった。春田三吉は狐につままれたような気持で、社長の縛《いましめ》をとこうとした。橋本部長はそれを見ると慌てて、 「待ち給え、――」と押止め、社長の体を寝室へ運びだして、身体検査を始めた。春田青年は呆れて、 「橋本さん、貴方《あなた》はまさか社長を疑っているんじゃないでしょうね」 「場合によれば君だって疑うぜ」 部長は吐だすようにいいながら、細野氏の体中を点検した後、縛ってあった絹紐の結び目まで叮嚀《ていねい》に調べ始めた。細野氏はさっきから身もだえしながら、早く解いてくれという合図をするのだが、部長の身体検査はまるまる十五分もかかってしまった。 「宜《よろ》しい」やかて部長の許しがでて、猿轡をとり、縛《いましめ》をとかれるや、細野平五郎氏は地だんだ[#「地だんだ」に傍点]を踏んで喚きだした。 「この鯖《さば》ども[#「ども」に傍点]、能なしの穴熊、殺人犯人を眼前にして阿呆のように儂《わし》の身体検査などしている、見ろ! 犯人は貴様たちが遊んでいる暇に悠々と逃亡したぞ、この鰊《にしん》の頭め※[#感嘆符二つ、1-8-75]」 「犯人は逃げた? 何処《どこ》へ――?」 「飾り煖炉の後《うしろ》に脱《ぬ》け道があるんだ、奴は儂《わし》に疑いのかかるようにしておいて、其処《そこ》から階下《かいか》へ逃げたのだ」 「しかし出口には全部網が張ってある」 「そんな網がなん[#「なん」に傍点]になる、警官まで捉えろとはいってあるまい?」 「な、何だって?」橋本部長は眼を剥いた。細野氏は冷笑して、 「そうさ、奴は警官の服を着ていたよ」 「――しまった」橋本部長は脱兎のように跳出して行った。 果して細野平五郎氏のいう通りだった、凡《およ》そ二十分くらい前に、一人の正服警官が地下室から出てきて、 「部長の命令で警視庁へいってくる」 と云《い》い、部長用の自動車に乗って立去ったという事が分った。橋本鬼警部がどんなに、口惜《くや》しがったかはいうまでもあるまい。それから脱《ぬ》け道の捜査をしたが、それは厨房の脇から寝室の飾り煖炉へ通じているもので、元はそこに非常|梯子《はしご》があったのを、そのまま壁で塞いだものだった。 橋本部長は、犯人の乗って逃げた自動車を押えるように、全市の警察へ非常手配を命じておいて再び寝室へ戻ってきた。 「ところで細野さん、貴方《あなた》はどうしてこの寝室にきていたのか、それを伺いましょう」 「儂《わし》はもう五時間も前にきていたよ」細野氏は煙草に火をつけながら、「相手が侠盗とあっては迚《とて》も諸君の力では足りまいと思ってね、――お手伝いする積《つも》りできたんだ」 「それは光栄ですな、然《しか》しお手伝いがとんだ事になってお気の毒です」 「どう致しまして」細野氏は部長の皮肉を軽く受流《うけなが》して、「儂《わし》は此処《ここ》へきてひと通り建物を検べると、すぐにあの脱《ぬ》け道を発見した。つまり建物の構造の具合からして、どうしてもあの辺に非常梯子がなければならん、と考えたんじゃ。そこで司厨室を調べると、料理を運ぶリフトの竪穴《たてあな》に、元の非常口が横から見えていた、是《これ》だなと気がついたので、其処《そこ》から潜り込んでいくと、果して非常梯子があって三階へ通じている、――儂《わし》は音のしないように注意しながら登っていった。そしていま一歩で寝室へでようとした時、あの……上森夫人の悲鳴が起った」 細野社長はひと息ついて、「儂《わし》は急いで跳だそうと、飾り煖炉の蓋を押上げた、とたんに向うから犯人が儂《わし》の頭を殴りつけたので、不覚にも儂《わし》はそのまま倒れてしまったのだがその時――犯人が警官の服を着ているのを見たのじゃ」 「大胆不敬な奴だ」部長は歯ぎしりをして叫んだ、「だが侠盗め、こんどは殺人を犯している今までの馬鹿げた世間の同情も是で帳消しだぞ」 「いや、侠盗は殺人はしませんよ」春田三吉が断乎《だんこ》としていった。 [#3字下げ]その二[#「その二」は中見出し] 「だって現に上森夫人を……」 「侠盗は殺人をしません」春田青年は重ねていった。 「侠盗の狙ったのは『宝石』です。もしこの犯人が本当に侠盗なら、夫人を殺すより宝石を奪って逃げたはずです。ところが御覧の通り宝石には手も着けてありません」 「それは夫人に発見されたからだろう」 「僕はそう思いませんね、この事件はそんな単純なものではなさ相《そう》ですよ、夫人は犯人に襲われた時『犬め、犬め、――』と叫んでいました、それから犯人の声で『ユウレカ』というのも聞えました……この二つの言葉に何か謎があるとは思いませんか」 「まあそんな謎は其方《そっち》へとっておき給え、要するにだ、侠盗は午後八時十分に夫人の室《へや》を襲うと予告した、そしてその時間に犯罪が行われたのだ、是で犯人が侠盗であるということに疑いはあるまい、――兎《と》に角《かく》我々は侠盗を捕えてみせる、必ず奴を捕縛してみせるよ」 「そうですか、僕はまた侠盗ではないと思いますから、僕の信ずるところをやってみます」 「すると君は我々と競争する気かね」 「僕は真犯人を突止めさえすればいいんです、お手柄は部長に進呈しますよ」春田三吉は皮肉に一揖《いちゆう》して立上った。 細野社長と春田三吉がホテルをでるとき、階下の仮訊問室では、上森夫人の小間使いである可憐な少女貞枝が、刑事たちに厳しく訊問されているところだった。 「君は本当に犯人が侠盗でないと思うかね」 外へ出ると社長がいった。 「単に僕が思うだけじゃありません」春田はチュウインガムを口へ入れながら 「侠盗でないという事は事実ですよ」「どうしてじゃ?」 「神出鬼没といわれる侠盗があんなへま[#「へま」に傍点]な真似をする筈《はず》がありません。全体なんの必要があって夫人を殺すんです?」 「では犯人は誰だ」 「二つの仮定があります」春田は声をひそめて、 「第一は、侠盗に恨みを含む奴がいて、罪をなすりつけるためにやった仕事。第二は、夫人に恨みのある男、――この二つですね、僕は第二の方が有力だと思います」 「どうしてね?」 「犯人は上森夫人を襲った時『ユウレカ』と叫びました。ユウレカというのは何の事か御存知ですか?」 「知らんね、何じゃ」 「希臘《ギリシャ》の哲学者で大数学者のアレキメデスというのを御存じでしょう。アレキメデスが比重の法則を発見した時に、思わず叫んだのがこの『ユウレカ』という言葉なんです、本来その言葉にはなんの意味もないんですが、それ以来『発見したぞ』というような意味で使われるようになりました。つまり――犯人は上森夫人を『発見したぞ』と叫んだ訳です」 細野社長はひそかに舌を巻いた。 「たた分らないのは」と暫《しばら》くして春田がいった。「午後八時十分にホテルを襲うと約束した侠盗が、遂《つい》に姿を現わさなかった事ですよ」 「――何かつまり、その」と社長は低い含声《ふくみごえ》でいった。 「つまり、侠盗の方に都合の悪いことができたんじゃろ」 「とすると奴は、初めて約束を破ったことになりますね、少《すくな》くとも僕に対しては一本借りができた訳です」そう云って春田三吉は笑った。 社へ帰ると、春田三吉は直ぐに朝刊の原稿を書き始めた、それは警視庁で発表する「侠盗殺人犯」の説に対して、犯人は別にあるという事を主張するものであった。社長は十時近くまでいて帰ったが、春田は原稿が組上ってくるのを待つために残った。すると十一時十分ほど前のことである。机上の電話がジリジリと鳴ったので、受話器を取ってみると、 「やあ、――春田君」という声、 「ああ!」 と春田青年は危く跳上りそうになった。それは正に今朝聞いた侠盗の声なのだ。 「八時十分にはお眼にかかれなくて残念でしたね」 と相手は含声で云った。 「だが誤酔しないで下さい、侠盗は約束を無にするような事はありません、僕はホテルへいきましたよ、ただ意外な事件がかち[#「かち」に傍点]合ったために、宝石を頂戴することができなかっただけです、――ホテルへいったという証拠には、君が橋本部長と議論して、犯人は侠盗でないと主張して下すったのを知っています。君の頭はすばらしいです、仰有《おっしゃ》る通り僕は決して殺人などはしませんからね」 そういって侠盗はからからと笑った。 [#3字下げ]猫眼石の謎[#「猫眼石の謎」は中見出し] [#3字下げ]その一[#「その一」は中見出し] 「さて用件です」侠盗は続けた、「貴方《あなた》は僕が殺人犯人でないと庇《かば》ってくれた、僕は実に感謝してます、そこで感謝の印に今度の事件に関する良い物を進呈しましょう」 「――何ですか」 「会ってから申しましょう、いま直ぐにきて下さい、大森の望翠楼ホテルにいます、二階の六号室で豊田といって訪ねて下されば分ります」 「君自身がいるんですか」 「侠盗自身お眼にかかりますよ、だが――決して同伴者をつれてきてはいけませんよ、もし警官でも連れてくるようだと、却って君の身が危険ですからね」 「分った、僕一人でいきましょう」 「ではお待ちしています」そこで電話は切れてしまった。 春田三吉は椅子からはね上った。侠盗が自ら会おうというのだ、警察界の謎、闇の世界の英雄、犯罪王「侠盗」と会えるのだ。 「しめた、しめた、――」 春田三吉は新しいチュウインガムを口へ抛りこむと、帽子を掴んで社をとびだそうとしたが、ふと思いかえして社長室へ戻り、大|卓子《テーブル》の抽出《ひきだし》から、社長の拳銃《ピストル》を取ってズボンの|隠し《ポケット》へ突込んだ。そして社用の自動車を命じて、一路大森へとすっ飛ばした。 「へ! 侠盗先生」春田はにやりとした、「春田三吉がどこまで甘ちゃんだと思うと間違うぜ、――殺人事件に関する手懸りを貰ったら、その後で君の体を頂戴したいもんだ」春田三吉の胸には既に満々たる闘志が燃上《もえあが》っていた。 「それにしても」 それにしても不思議なのは侠盗である。橋本部長と、犯人が侠盗であるかないかを議論したのは、あの狭い寝室の中であって、其処《そこ》には橋本鬼警部と細野社長と自分だけしかいなかった筈だ。隣の部屋は勿論、廊下にも警官がはいっていたのだから、立聴きをする隙などある筈がない、然《しか》も彼はちゃんと橋本部長と自分の議論を聞いているのだ。 「全く神出鬼没だ、何処《どこ》に隠れていたのか、あの飾り煖炉の他に脱《ぬ》け道があったのか」 遉《さすが》の春田三吉も是ばかりは見当がつかなかった。 二十分の後、車は大森の高台にある望翠楼ホテルへ着いた。受付できくと二階六号に豊田という人物が慥《たしか》にいる、名刺を通じて案内を頼むと、一応電話をかけた後、 「お眼にかかるそうですから、どうぞ」 といって宿直の給仕《ボーイ》が先に立って二階へ案内した。 愈々《いよいよ》侠盗と面会するのだ、果して侠盗とは如何《いか》なる人物であろう、また、――春田三吉は、事件の手懸りを得たら、そのあとで侠盗を捕縛する積《つもり》でいるが、侠盗はそれを知らないでいるだろうか? ――それとも侠盗が春田を呼だした事にも何か裏があるのではないだろうか? 探偵界の若手花形と、犯罪界の王者との、この歴史的な会見こそ実に未曾有の事件といわなければなるまい。――春田は二階六号室の前にきた。 「此方《こちら》でございます、どうぞ」給仕《ボーイ》は扉《ドア》を叩《ノック》して、 「お入り、――」 という返辞が聞えると、挨拶をして階下《した》へ立去った。春田三吉は部屋へ入った。 それは十|米《メートル》四方ほどの洋室で、南と東が大きな硝子《ガラス》窓になって居り、北側に窪房《アルコーブ》があってカーテンで仕切り、寝台が置いてあるという簡単なものだった。 「是はようおいでなされた」 春田が入ると、片隅の卓子《テーブル》に向っていた一人の老人が立ってきた。年の頃六十余りで、古びた羅紗《らしゃ》の背広を着け、背骨の曲った、ひどく痩せた体つきである。 「貴方《あなた》が豊田さんですか」春田青年は鋭く相手を睨みつけながら訊いた。老人はごほんと嗄《か》れた咳をして、 「はい、私は豊田さんに頼まれた者でして、貴方《あなた》様にお渡しする物を言いつかっているのでござります――どうぞおかけ」 「有難う。で……豊田さんは?」 「左様、なにか急用ができたとか仰有《おっしゃ》って、十五分ほど前におでかけなさいましたがの、なに用件は分っておりますで私から申上げまするじゃ」老人はそういって大儀そうにチョッキの|隠し《ポケット》から紙包を取出した。 春田三吉は老人の様子を穴の明くほど見戍《みまも》った。果してこの老人のいう通り、侠盗は出かけたのであろうか、それとも、――この老人こそ侠盗の変装したものではあるまいか? 「是でこざります」老人は紙包を差出《さしだ》した。 [#3字下げ]その二[#「その二」は中見出し] 春田三吉は紙包を受取った。披《ひら》いてみると中から女持ちの指環《ゆびわ》が一個出てきた。 「――指環ですね」 「左様で……」 それは台が白金で、大きな猫眼石《キャッツアイ》が入っている、そして環の周囲には羅典《ラテン》語で、 《猫の眼は太陽の光の如く汝《なんじ》の動静を看視す、汝、偽る勿《なか》れ》と書いてあった。 「で、――是をどうしろというのですか」 「つまり、豊田さんが仰有《おっしゃ》るのはこうですじゃ、――」老人は咳をして、「その指環は飾り煖炉の脱《ぬ》け道に落ちていたので、明《あきら》かに犯人が落としていったものに相違ない、――私には何が何やら分りませんがの、貴方にはお分りじゃろうと云っとられました」 「――なる程」春田は頷いて、指環を紙に包むと、上衣《うわぎ》の内|隠し《ポケット》へ確《しっか》りと納《しま》って。 「さて、――」と向直《むきなお》った、「是で第一の用件はすんだ訳ですね、御好意は感謝します、こんな重大な手懸りがある以上、必ず近いうちに上森夫人の殺人犯人は突止めてみせますよ」 「……はあ――」 「ところで第二の用件です」 春田三吉はずいと椅子を寄せる振《ふり》をしながら、いきなり右足で相手の椅子の足を力任せに前へ引いた。不意を喰った相手は椅子と共に、だっ[#「だっ」に傍点]と仰反《あおむけ》に倒れる。 「な、何をなさる」と驚いて跳起《はねおき》ようとするところを、春田は飛鳥のようにとび掛って押えつけた。 「き、気でも違ったか」 「気は慥《たしか》だ、侠盗先生、うまく化けた積《つもり》だろうが、春田三吉の眼は少しばかり見えるぜ、動くな!」 「ち、違う、わし[#「わし」に傍点]は唯《ただ》――」 「黙れ」春田は叫びざま、相手の上衣《うわぎ》の両袖を掴んで半分ほど引抜き、それを後で確りと結び合せてしまった。何のことはない狂人病院で狂人に衣《き》せる狭容衣《きょうようぎ》の形である。 「もうじたばたしても駄目だぜ」春田は相手を壁へ凭せかけておいて、勝誇《かちほこ》ったように立上った。 「君の変装は実に巧《たくみ》だったが、一つだけ失敗だよ、教えてあげようかね、それは君の靴さ」いわれて老人は恟《ぎょっ》とした。 「はっははは今更見たって無駄だ、そのように背骨の曲っている人間は、必ず靴の前が減っている筈だ。ところが君のを見ると寧ろ後の方が磨り減っているじゃないか、――つまり君の背骨は曲っていない証拠さ」 「うーむ」老人は思わず呻き声をあげた。 「どうだい、もう泥を吐いても宜《よ》かろう」 「参った、参ったよ春田君」老人は遂に兜を脱いだ。 「殺人犯人が侠盗でないというのを聞いて、実は君の眼に敬服していたんだが、君は予想以上に頭が働く、正に僕の敗北だ、兜を脱ぐよ、――ところで、こう勝敗がついた以上は、もう自由にしてくれるだろうな」 「どう致しまして」春田は冷笑した、「僕は警官じゃありません、犯人捕縛の手伝いこそするが、放免する権利は与えられていませんからね」「然しまさか僕を警察へ」 「渡しますとも、さぞ警視庁では喜ぶことでしょう、きっと橋本部長は昇進しますぜ」 「馬鹿な、そんな事ができるか」侠盗は叫んだ、「僕を警視庁へ渡したって、上森夫人の殺害犯人は捕まりゃせんぜ、彼奴《きゃつ》はそこらあたりの犯罪者とは種が違う、彼奴《きゃつ》と戦えるのはこの『侠盗』あるのみなんだ」 「貴方《あなた》は春田三吉を忘れていますよ」 「駄目だ、君の腕にも敬服するが、奴だけは君の手にも負えない、――第一君は『猫眼石』の指環に彫ってあった、あの羅典《ラテン》語の意味が分ったか」「なに、直ぐ分りますさ」「冗談じゃない、羅典《ラテン》語の辞典を引いている内に、第二の殺人事件が持上るぜ」 「な、なんだって?」春田はぎくりとした。 「第二、第三の殺人事件だ」「嘘だ!」 「証拠がある」「見せ給え」 「見せる、だから僕を自由にしてくれ」 「いかん!」春田は冷笑った、「そんな手に乗る僕じゃない。先に証拠を拝見しよう」 「――仕方がない」 侠盗は諦めて、「あの机の一番下の抽出《ひきだし》を明けてみ給え、そこに小さな筐《はこ》がある、それを出してきてくれ」 「宜し、動くな、動くと――」 そういって春田は拳銃《ピストル》を取出し安全錠を外して見せながら、机の前へ跼《かが》んで一番下の抽出《ひきだし》を明けた、――抽出《ひきだし》は湿気を食ったとみえてなかなか開かなかったが、両手で力任せに引くとようやく開いた。と――その刹那であった。抽出《ひきだし》が開いた瞬間、内側から黒い鉄製の罠がとび出して、ガチリ[#「ガチリ」に傍点]とばかり春田三吉の両手をはさ[#「はさ」に傍点]んでしまった、 「――ああ!」と叫んだが遅い、頑丈な罠は、恐ろしい力で両手を噛緊《かみし》め、引いても押してもびくとも動かぬ。 「あっはははははまさに主客転倒だね」侠盗はさも愉快そうに笑いながら立上ってきた。 [#3字下げ]謎の指環[#「謎の指環」は大見出し] [#3字下げ]その一[#「その一」は中見出し] 「おい春田《はるた》君、春田君!」耳許《みみもと》で呼ばれる声に、ふと気づいた三吉は、眼をあけようとしたが、頭の中がひどく痛むし、恐ろしく眩《まぶし》いので、しばらくは低く呻《うな》り声をあげるばかりだった。 「もう一本注射を打ってみて下さい」細野社長の声だ。 「いやもう大丈夫です」 そういっているのは社の雇い医師である。――春田三吉はそう思いながら、それからおよそ十分ほどは、夢とも現《うつつ》ともつかず、うつらうつらしていたが、やがて次第にはっきりと覚めてきた。そして頭を振向《ふりむ》けてみると、そこは見覚えのある東邦日報社の医務室で、自分は寝台《ベッド》にいるし、枕元には細野社長と医師が心配そうに立っていた。 「あ、社長でしたか」 「気がついたね。――気分はどうだ」 「それより僕はどうしてこんな処へきているんです、たしか……僕は大森の」 「望翠楼ホテルだろう」 「そうです、あそこで侠盗と――」 「君の負けだったらしいな」 社長はにやりと笑って、医師へ振返り、 「もう結構です、どうか帰って下さい」といった。――そして医師が立去《たちさ》ると枕元へ椅子《いす》をよせてきて、 「二時間ほど前に儂《わし》の家へ電話がかかってきた、無論侠盗からさ、――君が望翠楼ホテルの二階六号室にいるから迎えにこいというんだ、そこで編輯《へんしゅう》部の者を二三人|伴《つ》れていってみると君が倒れていたという訳なんだ」 「――畜生!」三吉は歯噛みをした。全警察界のお尋ね者、犯罪の王者たる侠盗を完全に捕縛しながら、ほんの些細な油断のために、どたん場で取逃《とりにが》すばかりか、逆にこっちが翻弄された形になってしまったのだ。 「こんな手紙がおいてあったぜ」口惜《くや》しそうな三吉の様子を見ながら、社長は一通の手紙をわたした。 「到れている君の胸の上においてあったのだ、至急と上書がしてある」 三吉は手早く封を切ってみた。――手紙はタイプライターで打ったもので、 「――こんな失礼をする積《つもり》はなかったが、眼には眼という俚諺《りげん》がある、僕の親切に対する君の返礼の仕方が不作法に過ぎたから、こんなことになったのだ、責めるなら自分を責め給え。……さて、親切ついでにもう一つ君に教える、すぐ警視庁へいって、留置されている少女貞枝(殺害された上森夫人の侍女)に会い給え、そして僕の進呈した猫眼石の指環《ゆびわ》を見せるのだ、これは極《ご》く内密に行わなければいけない。そして一刻も速きを要する、君は必ずなにか得るものがあるだろう。侠盗」 三吉は寝台の上へはね起きた。 「社長、僕の上衣《うわぎ》をとって下さい」 「どうするんだ」 「早く、訳は後で話します」 社長が「痩せた河馬《かば》」の本性を出してのろくさと立上り、手当をするために医者の脱がした三吉の上衣《うわぎ》を、椅子の背からとってやると、待《まち》かねていた三吉は外側の|隠し《ポケット》からまずチュウインガムを一つ取って口へ抛《ほう》りこみ、内側の|隠し《ポケット》に紙へ包んだ猫眼石の指環のあるのを慥《たしか》めると、 「――占《し》めた」といいながら寝台から跳下《とびお》りた。 呆れている社長を後に、帽子をひっ掴んで社を出ると、戸外はまだようやく朝の光が動きはじめたばかりで、野菜を積んだ車などが、石敷道をがらがら通っている有様《ありさま》だった。――四辻まで走ってタクシーを拾い、警視庁へ乗りつけると、いきなり駈けこんで、 「橋本さんはいますか」と受付へ叫んだ。 「課長室にいられます」 「有難う」三吉は階段を跳上って刑事課長室の扉《ドア》を叩いた――橋本鬼課長はいた、 「やあお早う、どうしたい」 「お願いです」春田三吉は課長の腕を掴んで引立《ひきた》てるようにしながら、「上森夫人の侍女の貞枝という少女にすぐ会わせて下さい。大急ぎです」 「なんのために会うんだ」 「第二の殺人事件を防ぐためです」 「――※[#感嘆符疑問符、1-8-78]」鬼課長は眼を剥いて起上《たちあが》った。 [#3字下げ]その二[#「その二」は中見出し] 地下室になっている拘留室まで、薄暗い石の廊下を曲り、曲りいくあいだ、三吉の胸は怒濤のように騒ぎたっていた。――昨夜、望翠楼ホテルで謎の侠盗は、 「続いて第二の殺人事件が起るぞ」といった。そして手紙にも、――貞枝と会うことは一刻も速く……と書いてある。もし遅れたらどうしようと思うと、二分とかからないその道次《みち》が、千里もいくようにもどかし[#「もどかし」に傍点]かった。 「比室《ここ》だ、――」橋本課長はそういって、第二十三号拘留室の前で立止まった。 看視人がきて、鍵を明《あ》ける、薄暗い部屋の中に、茫然と横《よこた》わっていた少女は、扉《ドア》のあく気配を知って、怯《おび》えたように跳起《はねお》きた、――三吉は課長にことわって、自分一人だけ拘留室の中へ入ってくると扉《ドア》をぴたりと、閉めて、 「貞枝さん、――とおつしゃいましたね」と声をかけた。貞枝は痩形の眼の涼《すずし》い、おちょぼ唇《ぐち》をした美しい少女で、昨日から警官たちの訊問ですっかり怖気《おじけ》がついたらしく、おどおどした様子で三吉を見上げている。 「そんなに怖がることはありません、僕は東邦日報という新聞社の記者で、決して貴女《あなた》を疑っている訳ではないのです、――貞枝さんのお家はどこですか」 「――はい、あたくし……あの、孤児《みなしご》ですの、アメリカで上森夫人に助けていただき、一緒に日本へ帰ってまいりました」 「そうですか、では日本に御親類があるかないかも御存じないのですね」 「――ええ」貞枝はそっと袖口で眼を拭いた。 「お気毒《きのどく》でしかし御安心なさい、もし貴女《あなた》さえよければ、僕がなんでも御相談に乗りますよ、名刺を差上《さしあ》げておきますから、ここを出たらぜひ訪ねていらっしゃい」 「ありがとう存じます」 「そこで、さっそくですが、貴女《あなた》にお訊ねしたいことがあるんです」そういって春田三吉は猫眼石の指環を取出し、少女の眼前《めのまえ》へ差出した、 「これは上森夫人の殺された現場《げんじょう》に落ちていた物ですが、これについて何かお心当りはありませんか、――?」 少女の顔色はさっと変わった。 「こ、これが……彼処《あそこ》に?」 「なにか心当りがありませんか」 「やっぱり、――やっぱり、――」少女は怯えたように身を慄《ふる》わせた。 「どうしたんです、貞枝さん」 「ま、松井男爵が危いんです!」 「え、――松井さん?」 「外務大臣の松井さんです、早くなんとかしてあげて下さい、でないと殺されます」 今度は春田三吉が仰天した。――松井男爵は欧羅巴《ヨーロッパ》の某大国で大使をしていたが、先月はじめ、アメリカを廻って帰国すると同時に、一躍外務大臣の栄職についた人である。 「どうして松井外相が殺されるんですか」 「猫眼石の指環です。あたくし桑港《サンフランシスコ》で上森夫人のお供をして、XXX国領事の夜会へまいりました、――その時、XXX国領事と松井外相とのあいだに、少しばかり口論がありました。その場は上森夫人が仲へ入って無事に納まったのですけれど、松井男爵はすぐお帰りになられました、そのお帰りになる時……XXX国領事は、――今夜の記念に! といって猫眼石の指環を男爵にお渡ししたんですの」 貞枝はひと息ついて語りつづけた。 「その時、猫眼石の指環を貰ったのは三人いました、一人は男爵で他の二人は、上森夫人と加奈陀《カナダ》汽船会社のランドンという船長です、――ところが」 「――?」 「あたくし達が加奈陀《カナダ》汽船のコンドル号で日本へ帰る途中、そのランドン船長は、太平洋の真中《まんなか》で煙のように消えてしまいました。船の人達は海へ堕《お》ちたのだといっていましたが、いま考えると誰かに殺されたに相違ありません、――船長の部屋には謎のように彼《あ》の猫眼石の指環が遺されてありました。そして、上森夫人の殺された時にも猫眼石……二人つづけて怪《あや》しい死態《しにざま》をしたとすれば、今度は同じ猫眼石を持っている松井外相の番ではないでしょうか、春田さま」 少女の話を聞くうちに、春田三吉は事件の秘密が少しずつ分るように思われてきた。 桑港《サンフランシスコ》におけるXXX国領事の夜会、――領事と松井男爵の口論、――三つの猫眼石。事件の核心はここにある、操っている絲《いと》はXXX国領事だ。これは考えていたよりも大事件だぞ……そう思った三吉は、 「ありがとう、お蔭で大分はっきりしてきました、貴女《あなた》のいうとおり、本当に今度は松井外相に危険があるかも知れません、失礼します」春田三吉は立上って、 「繰返《くりかえ》していいますが、警視庁から出されたら、すぐ僕のところへ訪ねていらっしゃいよ、決して悪いようにはしませんからね」 「ありがとう存じます、――」 頼もしげに、うるんだ眸子《ひとみ》で見上げる少女を残して、三吉は脱兎のように廊下へとび出して行った。 [#3字下げ]第二の殺人事件[#「第二の殺人事件」は大見出し] [#3字下げ]その一[#「その一」は中見出し] 「大臣に会わせて下さい」永田町にある外務大臣官邸の玄関で、春田三吉は喚きたてていた。 「議会まえでお急《いそ》がしいから、大臣は一切面会はなさいません」 「しかし、どうしても五分間のうちに会わなければならんのだ」 「駄目です」受付は頑強に拒絶して動かない。 「よろしい」三吉は頷いて、例の「猫眼石の指環」を取出し、「ではこれを持っていってこういい給え、国家の重大事について御面会したいと、――名刺はこれだ、急いで頼む」 猫眼石の指環が興味を唆《そそ》ったか、玄関子は不承不承に奥へ去ったが、今度はひどく慌てて戻ると、 「御面会なさるそうです、どうぞ」と云《い》いながら応接室へ案内した。 外相松井男爵は小柄の肥った体で、眼の鋭い、口髭の濃い、いかにも精悍な感じのする人物だった。――つかつかと応接室へ入ってくると、いきなり指環を差出して、 「君か、この指環を持ってきたのは」と立ったままでいう、まるで豹が咆えるような声である。 「その指環に御記憶がございましょう?」 「どうして知っている、――」 「閣下」春田三吉は椅子から起って、 「猫眼石の指環を貰ったのは三名、閣下を除いて他の二人は殺されました」 「――何じゃと?」外相の眼がぎらりと光った。春田三吉は一歩前へ出て、 「桑港《サンフランシスコ》における夜会で、XXX国領事が三名の人物にこの指環を贈ったのです、一個は松井閣下、一個は加奈陀《カナダ》汽船のランドン船長、もう一個は上森夫人、――ところが日本へ廻航中ランドン船長は太平洋上で謎の死を遂げ、上森夫人は第一ホテルの寝室で刺殺されてしまったのです。しかも……両者とも現場《げんじょう》に『猫眼石の指環』を残して」 「矢張《やっぱ》りそうか、――」外相は唇を噛《かみ》しめながら、 「それで、君のきた理由は?」 「閣下、――三人の内二人は殺されました。とすると今度は、閣下の身に万一のことでも」 「わははははは」松井外相は豪傑笑いをして、「君、ここは日本だぜ、フランスでもイギリスでもない、一国の外務大臣がそう易々……」といいかけた時、田浦次官が入ってきて、 「閣下、首相から至急のお手紙です」と云って一通の書面を差出した。 「うむ、」――至急といわれて、外相はすぐ書面の封を切って読み下したが、見る見るその顔に朱を注いだと思うと 「怪《け》しからん、脅迫状じゃ」と喚いた。 「――閣下」と春田三吉が乗出《のりだ》す、外相は手紙を三吉に渡しながら、 「君の予言が的中した、見給え」 「拝見します」三吉は手紙を披いた。見ると青色の書簡紙へ赤のインクで、 [#ここから2字下げ] ――今夜、午後八時十分、閣下の生命《いのち》を頂戴|仕《つかまつ》る。 いかなる防禦をなさるとも、我等の手より免るるを得ざるべし。侠盗。 [#ここで字下げ終わり] 「あ! ――侠盗※[#感嘆符二つ、1-8-75]」三吉は愕然とした。「午後八時十分」といえば上森夫人の殺害された時刻と同じである。しかし、――侠盗という署名は疑わしい、決して人を殺さぬはずの侠盗、世の悪を懲《こら》し、弱者を救う侠盗が何のために外相を殺す必要があろう。 「嘘だ!」春田三吉は叫んだ。「侠盗というのは嘘です閣下、――第一、閣下の身辺に危険の迫っていることを、僕に知らせてくれたのは侠盗なんです。それが閣下を狙うはずはありません」 「そんな事は何方《どっち》でもよい。田浦君、――すぐ警視庁へ電話をかけて、一応この手紙を見せておいてくれ給え、しかし特に警戒の必要はないから!」 「いや閣下」春田青年は強く遮ぎって、 「これは単なる脅迫状ではありません、ぜひとも厳重な警戒を――」 「馬鹿なこんな、下らぬ脅しに一々怯えていた日には、外務大臣などは務まらん。――君は桑港《サンフランシスコ》で、儂《わし》とXXX国領事と口論したことが事件の原因を作ったもの……と思っているらしいが、そんな事は有り得ない、あの時|儂《わし》は、XXX国の東洋政策を論難したので、そのために殺されるなんて馬鹿なことがあるはずはないのだ。どうか出しゃばら[#「出しゃばら」に傍点]んでくれ」そういって外相は大股に立去った。 [#3字下げ]その二[#「その二」は中見出し] 首相官邸における閣議に出て、松井外相が帰ってきたのはその夜八時二十分前だった。 「橋本課長がお待ちしています」 主事が出迎えながら囁《ささや》いた。 「何処《どこ》にいる?」 「応接間です」 「よし、誰がきても会わんからな」 「かしこまりました」 大臣はつかつかと応接室へ入って行った。そこには警視庁の橋本刑事課長が待兼ねていて、外相の顔を見るなり、 「さっそくですが閣下」と急《せ》きこんでいった。 「今夜の警戒は警視庁の方へお任せ願います、閣下は軽く見ておいでですが、あの脅迫状は必ず実行されますぞ」 「では警戒しても無駄じゃないか」 外相は革張の深椅子へどかりと腰を下しながらいった。 「第一ホテルの事件を調べさせたらあの時も怪賊は八時十分を予告した。警視庁は全能力をあげて、蟻の這い出る隙もないまでに警戒網を張った、――しかし、怪賊は悠々と仕事をしてしまったそうではないか」 「それについては弁解は致しませぬ、しかし今夜は是非とも……」 「無駄だ、が、――まあそんなに、心配なら勝手にし給え。なあに何もありやせんさ」剛腹な外相はそういいながら応接室を出ていった。――橋本刑事課長はすぐさま官邸を辞して、外へ出た。外にはもう二時間もまえから厳重な警戒陣が張廻《はりめぐ》らされていたが、刑事課長は更《さら》に警官の数を二倍にすることを命じた。一方松井外務大臣は、応接室を出ると、その足で次官室を訪れ、 「これから二時間ばかり仕事を片付けるから、誰も部屋へ入らぬように頼む、面会者があっても取次ぎをせんでくれ」 「承知致しました」 「君は十時までここにいて貰おう、仕事が片付いたら夜食を一緒にするから」 そういって次官室を去ると、廊下の突当《つきあた》りになっている大臣の事務室へと入っていった。大臣室は十メートル四方の洋間で、東側に煖炉《だんろ》があり、それに近く大型の事務|卓子《テーブル》がおかれてある。南がフランス窓で、これには厳重に鎧扉《よろいど》が下されてあった。 大臣が入っていって、今しも卓子《テーブル》に向ってかけようとした時であった、――不意に室内の電灯がぱっと消えたと思うと、 「あ――!」と驚く大臣の背後から、何者とも知れずがっちりと羽交絞めにした者がある。 「だ、誰だ」 「叱《し》ッ声を立てない方がよろしい!」 怪漢は外相の耳許で囁いた、「……それから、あの書類をお出しなさい、急ぎますぞ」 「あの書類とは――?」 「桑港《サンフランシスコ》で、上森夫人から渡された書類です」 松井外相は愕然として、相手を突放そうと身を藻掻《もが》いたが、怪漢は非常な腕力で抑え込み、ずるずると垂帷《カーテン》の蔭へ引摺っていった。 「さあ、何処《どこ》にありますか」 「知らん、そんな物は忘れた」 「受取《うけと》ったことはたしかですね」 「――そうかも知れん、――君は誰だ?」 「思出《おもいだ》して下さレもう五分しか時間がありません、上森夫人から受取った書類は何処《どこ》にありますか」 「…………」 外相は何か低い声で答えた。そして垂帷《カーテン》の蔭はひっそりと鎮《しずま》ってしまった。 外務大臣官邸の大臣室にひそんでいた怪人物、水も洩らさぬ警戒陣をどう潜って、どうして、大臣室へ侵入したのであろうか――、このあいだにも時計の針は進んで、午後八時五分を過ぎていた。 不意に大臣室の電灯がぱっと点いた。 そして、――見よ、大型事務|卓子《テーブル》には、松井外務大臣が俯向《うつむ》いてせっせと何か書き物をしているではないか。 どうした事であろう? あの怪人物はどこへいったのか、松井外相はどうして人をも呼ばず、平然と事務を執《と》っているのか? ――この謎を解くまえに、我々は大臣室の窓の外を見るとしよう。 窓の外に、ぴったり身を寄せて、さっきから室内の様子を見戍《みまも》っている青年があった云うまでもなく春田三吉だ。 「――八時十分ジャスト」 腕時計を見て呟《つぶや》きながら、そっと右手の拳銃《ピストル》を執直《とりなお》した。その刹那であった、――突然 プス! プス※[#感嘆符二つ、1-8-75] プス※[#感嘆符二つ、1-8-75] と消音銃の射撃音が聞えたと思うと、春田三吉の頭上の鎧扉《よろいど》が砕け飛び、フランス窓の硝子《ガラス》が粉微塵《こなみじん》になって、弾丸《たま》は松井外相の体へ霰《あられ》のように集中した。 「あっ――、ッ」春田三吉は、松井外相の体が横さまに倒れるのを見ながら茫然と立竦《たちすく》んだ [#3字下げ]追撃[#「追撃」は大見出し] [#3字下げ]その一[#「その一」は中見出し] 消音銃の猛射を浴びて松井外相の倒れる姿を見た三吉は、 「しまった!」思わず喚いて振返った。 消音銃の弾道は彼の耳許をかすめた、振返って見ると丁度《ちょうど》正面に、道を隔てて林政局の建物がある、――その二階の窓の一つが、今しも内側から閉まるところだった。 「あすこから射った、犯人はあすこにいる」 気付くのと、行動を起すのと同時だ。――二|呎《フィート》近い塀を飛鳥のように乗越える、警戒の警官隊はまだ事件を知らぬのか、道の上にはまだ誰も見えなかった。 春田三吉は脱兎の如く林政局の横手へ廻り、通用口から建物の中へ踏込《ふみこ》んだ。丁度その時、正面にある階段を、二人の男が足早に下りてくるのと、ばったり眼を見合せた。 ――此奴《こいつ》らだ! と三吉が感づく、刹那! 相手の一人がいきなり持っていた銃を挙げて射つ、 「どっこい」三吉はひらり跳退きざま右手の拳銃《ピストル》を狙い撃ちに浴びせた。 タンタンタン タンタン※[#感嘆符二つ、1-8-75] 「ひ――※[#感嘆符二つ、1-8-75]」悲鳴と共に、銃を持った方がだだだだッ、凄《すさま》じい物音をたてながら階段を転げ落ちた。三吉は大股に部屋を走りぬけると、狼狽して階段を駈け戻ろうとする一人を、跳躍して後からばっと組附《くみつ》いた。 相手は五|呎《フィート》あまりの小柄な奴だったが、恐ろしい膂力《りょりょく》で、必死に組附く三吉の手をふり放して行こうとする、三吉は夢中で相手の足を掴んだ、こいつが見事にきまった、怪漢の本は階段の手摺を押砕《おしくだ》きながら、撞《どう》! と下の広間《ホール》へ墜落した。三吉も続いて跳下りると、起上ろうとする奴を体当りにたっ[#「たっ」に傍点]と突倒し、 「外には警官隊がいるんだ、神妙にしろ」と押伏せる。 「くそっ※[#感嘆符二つ、1-8-75]」 相手は英語で喚くと、すばらしい力ではね起きる、三吉がひっ掴む手を、強引に良《ひき》ずったまま二三歩、と! 不意に足を返すや、右手の拳で三吉の顎へ、火の出るような鈎撃《フック》を叩きつけた。 「あっ!」くらくらっと眩暈《めまい》を感じてよろめく、隙、怪漢はたたたと階段を駈登《かけのぼ》った。 「うぬ、逃がすかッ」三吉は猛然と後を追った。 怪漢は二階から三階へ上った、そして三階の窓から外へ脱出すると、予《かね》て見て置いたらしく、裏手に接して建っている煖房《だんぼう》用煙突へとび移って、するすると、鉄梯子《てつばしご》を下りた。――そして三吉がその後から伝い下り、裏手の塀を乗越えた時、ひと足違いで怪漢は、裏通りに待たせてあった自動車へとび乗り、凄じい速力で走り去るところだった。 「残念ッ」叫んで、足を宙に二三十メートル追ったが、忽《たちま》ちぐんぐん距離ができた、――と葵坂通《あおいざかどおり》へ出たとたんに、一台の空車《あきぐるま》が通りかかったので三吉は身を跳《おど》らせてとひ乗り 「向うへ行く車を追ってくれ、早く」と呶鳴《どな》った。 「ど、どうしたんです」 「スパイだ、急げ!」 「スパイ? ――合点です」 運転手は全速力を出した。 向うの車は気違いのように走った。溜池を赤坂見附へ出て、紀尾井坂を上り、更に四谷見附から麹町《こうじまち》へ入って、参謀本部から日比谷の方へ向う。 「分らん、変な方へ行きゃあがる」 呟いていると、意外や※[#感嘆符二つ、1-8-75] 車はXX署の前でぴたりと停った。 「あ、警察の前で……」 仰天する三吉。車がぎぎぎぎと軋《きし》りながら停まるのを待って、転げるようにとび下りて駈けつける、――覗いて見ると運転手のいない車の中に一人の男が倒れていた。 「どうしました旦那」後から来た運転手が声をかける、 「君、済まないが手を貸してくれ」 「よし来た」運転手に手伝わせて、倒れている男を引出してみると、雁字搦《がんじがら》みに縛られている。 「あ、此奴《こいつ》だ※[#感嘆符二つ、1-8-75]」正に、林政局の二階から松井外相を狙撃した外国人である。――意外な結果に春田三吉は呆然と声をのんだ。 [#3字下げ]その二[#「その二」は中見出し] 謎だ、謎だ。全体これは何としたことであろう。――春田三吉は二人の兇漢を襲撃し、一人を拳銃《ピストル》で撃倒《うちたお》した。そして残る一人を追いつめてきた。兇漢は待たせてあった車に乗って逃げた。林政局の裏からここまで――寸刻も眼を放さず追い詰めてきた。ところが……兇漢を乗せた車はXX署の前で停り、運転手のいない車の中に、当の兇漢は縛られて倒れていたのだ。 「――誰が縛ったのだ、いつ?」 三吉は夢に夢見る心地で呟いた。 「おや、旦那――ここになにか手紙のようなものがありますぜ」 怪漢の体を抱え下した運転手が、そう云って――男の胸のところを指さした。縛られている男の上衣《うわぎ》の下に、一枚のカードが挿込《さしこ》んである、三吉は手早く取上げて読んだ。 [#ここから3字下げ] おめでとう、春田三吉君。 君の活躍はすばらしかった、此奴《こいつ》はアンドレイ・ブブノフと云う名でXXX国機密員の腕利きだし、君が射倒した奴は単に「レバーのA」と呼ばれている有名な暗殺団の一人だ。――詳しいことは此奴《こいつ》を調べれば分るだろう、君はこれら二名を仕止めたのだ、多分君は今月から昇給だぜ、……もう一度おめでとう。 [#地から1字上げ]侠盗こと(日本ルパン) [#ここで字下げ終わり] 「う――む、侠盗か」三吉は思わず感嘆の呻《うめ》きをあげた。 運転手と二人で、兇漢を署の中へ担ぎ込むと、三吉は直《す》ぐ警官の一人に男を引渡して、外務大臣官邸の警戒本部へ電話をかけ、橋本課長を呼んだ。 「課長は居られません」返辞は簡単だった。 「居ないって? どうしたんだ※[#感嘆符疑問符、1-8-78]」 「三十分ほど前にそちらへ帰られました」 三吉は電話を切った。と――側にいた警官の一人が、 「あ、課長ならお部屋にいますよ」 と注意した。「然《しか》し重要な用務があるから誰も来てはいかんと云う申付《もうしつ》けです」 「ちぇッ、こちらこそ重要なんだせ」 舌打をしたが仕方がない、三吉はどっかり椅子へ腰をかけた。チュウインガムを噛みながら先《ま》ず考えたのは「侠盗」のことであった。実に不思議な人物である、――今度の事件では最初から三吉は侠盗に助けられてきた、蔭になり日向《ひなた》になり三吉のために助力してくれた。なんのためだ、……なんの必要があってこんなに三吉を助けるのであろうか。 「――そこに、謎がある」 三吉は腕組をした。 なんのために蔭武者として活躍したか、それを判断するのが先だ。彼も一個の法律破壊者である。何か目当《めあて》がなくて無駄骨折りをする訳がない、――「では何が目当か?」 そう呟いた時、三吉の頭へピン[#「ピン」に傍点]と閃めいたものがある。 「――上森夫人の宝石」 三吉は椅子から跳上った。 「そうだ、この事件の最初に侠盗は『上森夫人の宝石を頂戴する』といっていたではないか、――奴の目的物はあの巨万の宝石だ。そしてその宝石筐《ほうせきばこ》はいま……この警察署に保管されている」 春田三吉の眼がきらりと光った――と、その時玄関の方から遽《あわただ》しい跫音《あしおと》が聞えて、二人の部下を従えた橋本課長が現われた。仰天したのは三吉ばかりではない、内勤警官は眼をぱちくりさせて、「あ、課長さん」と叫んだ、「貴方《あなた》は外出なすったんですか」 「何を寝呆《ねぼ》けているんだ、僕が外相官邸へ警戒に行ったのを知らんのか」 「然し二十分ほど前に帰られて、誰も来てはならんと仰有《おっしゃ》って課長室へお入りなさった筈《はず》ですが」 「なに? ――僕が帰った※[#感嘆符疑問符、1-8-78]」 鬼橋本の顔がさっと蒼くなった。――三吉は事態を察した。二十分まえに課長室へ入ったのは偽者である。課長に変装して入込《いりこ》んだのだ、――とすると、それは「侠盗」以外にあり得ない。 「――課長!」三吉は大声に、「直ぐXX署の廻りへ非常線を張って下さい、貴方《あなた》に化けて課長室へ侵入したのは侠盗です」 「――何のために」 「上森夫人の宝石を取るためです」 「そうかッ」橋本課長は喚くなり、厳戒を命じて、脱兎の如く課長室へ殺到したが――扉《ドア》を明けると、意外にも偽の橋本は悠々と卓子《テーブル》に向って何かしている。 「――いたッ」と三吉が喚く、 「今度こそ逃がすな!」 橋本鬼警部はだっ[#「だっ」に傍点]と相手に突っかかった。相手は不意を衝《つ》かれて手も足も出ない。椅子と共に仰向《あおむけ》に使れるところを、とび掛った橋本課長は、有無を云わさずつかまえてしまった。 [#3字下げ]左様なら春田君[#「左様なら春田君」は大見出し] [#3字下げ]その一[#「その一」は中見出し] 「どうだ、動いてみろ侠盗!」 橋本課長は相手を椅子へかけさせて、さも得意そうに喚いた。 「天下の侠盗もこうなっては惨めなものさ、悪業《あくぎょう》の酬《むく》い了挙に到るというところだ、どうだ、何とかいわぬか」 「ば、ば、馬鹿者、馬鹿者どもッ」 「おおやかましい、声が高過ぎるぞ」 「己《おれ》は、己《おれ》は……」 まるで捕われたライオンのように呶号《どごう》し、荒れ狂い始めた。橋本課長は舌打ちをして、 「黙れ、黙れというに、此奴《こいつ》!」 と振返り、「こいつをつれていけ」 と命じた。そして部下の者が尚《なお》も叫び狂う侠盗を連去《つれさ》ると――どっかり椅子にかけて、 「春田君、まあ掛け給え」 と云った、「階下《した》で君の捕縛したスパイを見たよ、それから林政局に倒れていた奴も連行してきた、傷か? ――傷は太腿《ふともも》の貫通創だから大したことはないさ」 「で……松井外相はどうしました?」 「ははははは、君も外相が射たれたと思っているんだね」課長は愉快そうに笑った。 「何ですって、課長」 「つまらぬ茶番さ。僕は今度こそ兇漢を捕えようと思ったから、外相と相談して態《わざ》と奴等を誘《おび》き寄せたのだ」 「だって現に消音銃に射たれて――」 「あれは人形さ」 刑事課長はにやりとした、「僕は東京一の人形師に命じて外相の人形を造らせておいて、松井男爵が入ってくると直ぐ電灯を消して人形を椅子にかけさせたのだ。奴等はそんなこととも知らず、人形を射殺して安心していたと云う訳だ。いや大笑いだよ」 課長は腹を揺《ゆす》って笑った。 「今度の事件は君の推察通りだ。XXX国政府が政治上の機密の洩れる事を怖れたのが原因で、上森夫人は、――実はXXX国の女スパイだったんだ」 「え、あの夫人がXXX国のスパイ?」 「あの美しい顔をひと皮剥けば、憎むべき売国奴の正体が現われただろう。――然し桑港《サンフランシスコ》領事館の夜会の時、彼《あ》の女は松井男爵の鋭い眼に睨まれて、一堪《ひとたま》りもなく兜を脱ぎ、今までのスパイの役目を捨てて正しい日本人に返る事を誓ったのだ。この事情は直ぐXXX国の密偵に探知された。それで、上森夫人がスパイをして稼いだ巨額の富と宝石を持って帰国するのを追跡し、遂に之《これ》を殺害してしまい更にその事情を知っている松井男爵をも暗殺しようとしたんだ、――猫眼石の指環は要するに『暗殺の標識』だったのさ」 「課長はそんな事も御存じだったんですか」 「驚いたかね、はっははははは」 鬼警部は愉快そうに、「然し犯人捕縛の功名は君にして[#「して」に傍点]やられたよ、いずれ君には特賞があるだろう――ところで」と振返って、 「あの偽者が宝石に手を着けたかどうか調べなければなるまい、――おい村田君、保管倉庫から上森夫人の宝石筐を持って来てくれ給え、大急ぎだ。……おや、春田君は帰るかい」 「もう僕には用が無さそうだし、それに帰って朝刊の記事を書かなきゃなりません。どうも失礼しました」 「じゃあ失敬、いずれ賞与の通知をあげるよ」 春田三吉は課長室を出た。 毎《いつ》も平々凡々たる橋本刑事課長が、今日はなんとすばらしい敏腕振りを発揮したことだろう。今度の事件が国際スパイ問題から起った――ということは、自分だけ知っている事だと思っていたのに、あの課長は既に何も彼《か》も明察していたのだ。それに……あの偽《に》せ課長の侠盗を取押えた腕前はどうだ。 「橋本課長も立派なもんだぞ」 三吉は自分の手で侠盗を捕えようと思っていたのである、それを課長に先手を打たれたのだから少なからず癪だった。 社へ帰ったのは深夜一時に近かった。編輯部では待機の姿勢で、殆《ほとん》ど全員が待構えていた。東邦日報社独占の「上森夫人殺人事件、猫眼石の謎――踊る暗殺スパイ団」という特大記事を朝刊に載せるためである。 「社長はいるか」机へ向いながら三吉が訊《き》いた。 「さっき電話が掛ってきましたよ、なんでも一時半までには帰るそうです」 「宜《よ》し、帰られたら知らしてくれ」 三吉は鉛筆を取上げ、チュウインガムを口へ抛り込んでさらさらと原稿を書き始めた。 [#3字下げ]その二[#「その二」は中見出し] 三十分ほど夢中で書いた。 「――社長が帰られました」 と給仕が知らせにきたが、耳にもかけず書き続けている、書く側から原稿は工場へ運ばれて行くのだ。――すると間もなく、 「お茶をおあがりなさいませ」という声がした。 「よし、そこへ置け」返辞をしたがふと振返ると、 「や、――君か」 と三吉は驚いて鉛筆を置いた、――それは上森夫人の侍女貞枝であった。 「お言葉に甘えて伺っていました」 「宜かった宜かった、あれから直ぐ社へきていたんだね」 「はい――」少女は悲しげに、「他に頼る者もありませんし御親切なお言葉に従ってこちらへ参ったんですの」 「それが一番良いんだ」 三吉は少女の手を握って、「君も今度の事件ではさぞ心を痛めたろう、これからは僕と社長で、きっと君を仕合せにしてあげるよ」 「――済みませぬ」 「元気をだして。さあ――笑うんだ、君の美しい顔は笑うのがいちばん似合っている、今夜から僕を兄だと思い給え――」 「春田さま」少女は思わず三吉の手を熱く握りかえすのだった。――その時、卓上電話の鈴がけたたましく鳴った。 「ああ春田です」三吉が受話器を取ると、 「やあ春田君だね、記事はできたかい」 「――あっ※[#感嘆符二つ、1-8-75]」 三吉は仰天した。相手の声は紛れもない侠盗ではないか。 「はっはははは、驚いたかね、勿論――拙者は『日本ルパン』の侠盗だよ」 「君はXX署を出たのか?」 「出たのかって? 左様、XX署の警官諸君は、一斉に敬礼して僕を送出《おくりだ》して呉《く》れたよ。何故《なぜ》ならば、――僕は橋本課長の服装をちょっと借りていたからね」 「……訳が分らん」 「ご尤《もっと》も、それでは簡単に話してあげよう、つまり一言にして云えば、――さっき後から現われたのが偽の課長、即ち拙者だったのさ」 「なんだって※[#感嘆符疑問符、1-8-78]」 「先に帰っていたのが本物で、後から二人の部下を従えて現われたのが実は侠盗だったという訳さ、――君がそれに気付かなかったのは意外だよ、何故《なぜ》って、運転手に化けてブブノフを縛り、XX署の前で君に引渡したのは拙者だ、それは君が知っていたろう、ところが課長はそれより二十分もまえに課長室へ帰っていた、――若《も》しそれが侠盗ならブブノフを縛る訳には行かん筈じゃないか? どうだね」 「う――む」 「呻ったね、はっは。人間はひどく驚くと呻る外に手を知らぬらしい、拙者が君と一緒に課長室へ行った時、――あの鬼警部もひどく驚いて、いや恟《びっく》り仰天して呻るだけだった。そうだろう誰だって自分の外に自分が現われたら仰天するさ、課長は呻り、喚き、暴れたんだ。拙者はその暇に先生を退却させて、――ひと仕事したのさ」 事情が判《はっ》きりした。――なんたる奇智、なんたる大胆、侠盗は自ら刑事課長に化け、本当の刑事課長を、みんごと「偽者」にしてしまったのであった。 「ところで拙者が何故こんな悪戯《いたずら》をしたか改めて説明する要はあるまいな? ――約束通り上森夫人の宝石は頂戴したよ、拙者は『宝石を貰う』と誓った、だからそれを実行したのさ、君が帰るとき拙者は『宝石筐を持ってこい』と云っていたろう、――あれをそのまま頂戴してきたんだ、いずれこの金は、東北地方の貧民救済事業に寄附するよ。じゃあ是で失敬、また事件があったら仲よくやろうな、春田青年万歳」 電話はがちゃりと切れた。 侠盗は「宝石」を取った。日本ルパンは最後のどたん場で見事な芝居に成功したのである――三吉は鉛筆を措《お》いて社長室へとび込んで行った。 「――社長!」社長は相変らず革椅子に長くなって、ぐうぐう眠っていた。――と、不意に三吉はびくっ[#「びくっ」に傍点]と身慄いをした。何故《なぜ》かしらん、眠っている社長の姿を見た刹那、 ――若しや侠盗はこの社長ではないか。 と云う気がしたのである。しかし直ぐその馬鹿な考えを打消《うちけ》し、社長の眠りを覚まさぬように注意しながら、そっと戻った。 「今度は逃した、然しいつか必ず侠盗の正体をあばき出してやる、日本ルパンの手に手錠を嵌《は》めて見せるぞ」 三吉は拳を握って呟いた、――工場では、既に「猫眼石殺人事件」の記事が半ば刷上《すりあが》っていた。 底本:「山本周五郎探偵小説全集 第二巻 シャーロック・ホームズ異聞」作品社 2007(平成19)年11月15日第1刷発行 底本の親本:「少年少女譚海」 1937(昭和12)年1月~4月 初出:「少年少女譚海」 1937(昭和12)年1月~4月 入力:特定非営利活動法人はるかぜ
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Top 三題噺 「サンマ」、「ブランコ」、「おまる」 207 名前:サンマ、ブランコ、おまる[sage] 投稿日:2008/10/23(木) 07 31 41 ID CHqs/Tf3 「なぁサンマの参太郎よ、知ってるか?」 物知りで知られているサンマの三吉が話しかけてきた。暇を持て余しているらしく 以前は無口だったのに最近は口数が多くなった。 「人間の世界にはブランコというものがあるらしい」 「ブランコ?それは何だい?」 「人間の遊具だ。主に子供が遊ぶものでな。ぜひとも作ってみたいものだ」 「無理さ。材料がないもの」 「それもそうだな」 「なぁサンマの参太郎よ、知ってるか?」 また三吉が話しかけてきた。 「人間の世界には、おまるというものがあるらしい」 「おまる?それは何だい?」 「用を足すものだ。白い陶器で、できててな……」 「へぇ~それは滑稽だなぁ。垂れ流せばいいものに、わざわざそんなものを作るなんて」 「全くだ、人間とはおかしな生き物だ」 「なぁサンマの参太郎よ、知ってるか?」 次の日もまた三吉が寄ってきて、話しかけてきた。話し好きに男になってしまったようだ。 「人間の世界にはタバコというものがあるんだ」 「タバコ?それも聞いたことがないなぁ」 「白い筒状のものでな。火をつけて吸うと気持ちよくなるらしい」 「へぇ、見てみたいな」 私がそう言うと、三吉は愉快そうに笑った。 「それならそこにあるじゃないか。あれがタバコと言ってな……」 三吉が胸ビレで前方を差して言う。 「え?どれ?ここからじゃよく見えないよ」 と、そのとき突然、体がフワリと浮かび上がった。水の抵抗を押し退けて あっという間に水面へ。そして……体は遂に宙へ浮いた。 「あぁ……あれがタバコなのか。なるほど、嬉しそうに吸っているな」 「お客さん。このサンマは北海道産で脂がのってて旨いすよ。刺身でいいですか?」 男は網ですくったサンマを得意気に客に示しながら尋ねた。 客はタバコの煙をくゆらせながら、笑みを浮かべてうなずいた。 名前 コメント ページ最上部へ
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#ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (?.jpg) 深淵探索 【深淵探索】エリア1【不死級】1-4 【イベント】三吉君様杯・混浴洗技会 エリア3【不死級】3-7 1WAVE 基礎能力 名称 HP タイプ 種族 【ソリュシャン】戦闘メイド「プレアデス」 706,204 心 粘形種 【アルベド】湯治の夢魔 808,512 知 悪魔種 【シャルティア】湯治の吸血鬼 735,963 心 不死種 状態異常耐性(黄色有効・100=100%耐性無効) 名称 眠り 石化 封印 麻痺 呪印 出血 毒 火傷 凍結 滲水 感電 暴風 結晶 聖印 絶望 ソリュシャン 100 100 100 100 100 100 100 100 アルベド 100 100 100 100 100 100 100 100 シャルティア 100 100 100 100 100 100 100 100 パッシブスキル 名称 能力 ソリュシャン - アルベド - シャルティア - 行動パターン + 【ソリュシャン】戦闘メイド「プレアデス」 【ソリュシャン】戦闘メイド「プレアデス」 順序 行動 効果 HP100%以下 1 命中/毒属性強化(中) 自身に3ターン、毒エレメント強化+100%自身に3ターン、命中+Lv4 2 棘々侵毒 全体に4回の物理攻撃(毒)全体に3ターン、毒-15% 3 防具破壊毒爪撃 単体に1回の物理攻撃(毒)単体に3ターン、防御力-40% 4 命中/毒属性強化(中) 自身に3ターン、毒エレメント強化+100%自身に3ターン、命中+Lv4 + 【アルベド】湯治の夢魔 【アルベド】湯治の夢魔 順序 行動 効果 HP100%以下 1 水弾 単体に1回の魔法攻撃(水) 2 水弾 単体に1回の魔法攻撃(水) 3 夢魔の洗技 敵単体のHP80000回復 4 泡沫 全体に1回の魔法攻撃(水)全体に3ターン、防御力-30% 夢魔の洗技 敵単体のHP80000回復 + 【シャルティア】湯治の吸血鬼 【シャルティア】湯治の吸血鬼 順序 行動 効果 HP100%以下 1 地熱泉 単体に2回の魔法攻撃(水)単体に2ターン、火傷状態・火傷-15%、火エレメント耐性-20 2 水撃球 全体に1回の魔法攻撃(水) 3 地熱泉 単体に2回の魔法攻撃(水)単体に2ターン、火傷状態・火傷-15%、火エレメント耐性-20 4 地熱泉 単体に2回の魔法攻撃(水)単体に2ターン、火傷状態・火傷-15%、火エレメント耐性-20 お肌ツヤツヤでありんす 自身のHP回復自身に3ターン、攻撃力-50% エリア3【不死級】3-7 2WAVE 基礎能力 名称 HP タイプ 種族 三吉君 25,104 技 粘形種 【モモンガ】白骨の美丈夫 999,999 技 不死種 状態異常耐性(黄色有効・100=100%耐性無効) 名称 眠り 石化 封印 麻痺 呪印 出血 毒 火傷 凍結 滲水 感電 暴風 結晶 聖印 絶望 三吉君 100 100 100 100 100 100 100 モモンガ 100 100 100 100 100 100 100 100 100 パッシブスキル 名称 能力 三吉君 被ダメージカット+99% モモンガ 命中+Lv4被ダメージカット+50% 行動パターン + 三吉君 三吉君 順序 行動 効果 HP100%以下 1 通常攻撃 単体に1回の物理攻撃 2 リフレッシュ HP回復状態異常回復 3 通常攻撃 単体に1回の物理攻撃 + 【モモンガ】白骨の美丈夫 【モモンガ】白骨の美丈夫 順序 行動 効果 HP100%以下 1 集団全能力強化(中) 敵全体に3ターン、攻撃力+50%敵全体に3ターン、スキルダメージ+75% 2 火弾 単体に1回の魔法攻撃(火) 3 焼夷 全体に1回の魔法攻撃(火) 注意点 ・ 名前 コメント
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完全ノンフィクション!どうやって決勝進出を決めたのか! (当日のノートを丸写ししましたので、実際の順位とは異なります) お名前 1R 2RA 2RB 2RC 該当者なし 1位 1位 XX 1位 トリビア男 2位 4位 XX 3位 山本 3位 3位 XX 7位 三吉 4位 XX 4位 4位 川崎倫太郎 5位 6位 1位 XX 小鍋祐輔 6位 XX 2位 5位 wkmt 7位 XX 5位 6位 近藤甫 8位 XX 8位 2位 A 9位 6位 6位 XX 鴻漸 10位 6位 6位 XX ひろにい 11位 2位 XX 7位 鍋島直茂 12位 5位 3位 XX 1.決勝進出枠は6から8 2.順位点などは特になく、順位を合計したりもせず、ただ一度でも高い順位を取ったかどうかで勝負 3.「3位ぐらいまでは気にします」 4.上に乗っとり、1位及び2位獲得経験者を抽出する お名前 1R 2RA 2RB 2RC 該当者なし 1位 1位 XX 1位 当 トリビア男 2位 4位 XX 3位 当 山本 3位 3位 XX 7位 三吉 4位 XX 4位 4位 川崎倫太郎 5位 6位 1位 XX 当 小鍋祐輔 6位 XX 2位 5位 当 wkmt 7位 XX 5位 6位 近藤甫 8位 XX 8位 2位 当 A 9位 6位 6位 XX 鴻漸 10位 6位 6位 XX ひろにい 11位 2位 XX 7位 当 鍋島直茂 12位 5位 3位 XX 5.決勝進出枠は8 6.ペーパー3位は2R各企画の3位よりも優先 お名前 1R 2RA 2RB 2RC 該当者なし 1位 1位 XX 1位 当 トリビア男 2位 4位 XX 3位 当 山本 3位 3位 XX 7位 当 三吉 4位 XX 4位 4位 川崎倫太郎 5位 6位 1位 XX 当 小鍋祐輔 6位 XX 2位 5位 当 wkmt 7位 XX 5位 6位 近藤甫 8位 XX 8位 2位 当 A 9位 6位 6位 XX 鴻漸 10位 6位 6位 XX ひろにい 11位 2位 XX 7位 当 鍋島直茂 12位 5位 3位 XX 7.稀代の4ゲッター・三吉の存在が明らかになる。カワイソス 8.8人埋まったものと勘違いする 9.決勝の準備をする 10.8人いない 11.4ゲッターかわいそうだから入れてあげよう お名前 1R 2RA 2RB 2RC 該当者なし 1位 1位 XX 1位 当 トリビア男 2位 4位 XX 3位 当 山本 3位 3位 XX 7位 当 三吉 4位 XX 4位 4位 当 川崎倫太郎 5位 6位 1位 XX 当 小鍋祐輔 6位 XX 2位 5位 当 wkmt 7位 XX 5位 6位 近藤甫 8位 XX 8位 2位 当 A 9位 6位 6位 XX 鴻漸 10位 6位 6位 XX ひろにい 11位 2位 XX 7位 当 鍋島直茂 12位 5位 3位 XX 12.決勝進出者決定! 決勝進出者 該当者なし トリビア男 山本 三吉 川崎倫太郎 小鍋祐輔 近藤甫 ひろにい 実際 お名前 1R 2RA 2RB 2RC 該当者なし 1位 1位 XX 1位 当 トリビア男 2位 4位 XX 3位 当 山本 3位 3位 XX 7位 当 三吉 4位 XX 4位 4位 ? 鍋島 5位 5位 3位 XX ? 川崎倫太郎 6位 6位 1位 XX 当 小鍋祐輔 7位 XX 2位 5位 当 wkmt 8位 XX 5位 6位 近藤甫 9位 XX 8位 2位 当 A 10位 6位 6位 XX 鴻漸 11位 6位 6位 XX ひろにい 11位 2位 XX 7位 当 企画書の「3位ぐらいまでは気にします」と書いたので、「ぐらい」を4位に適用させれば・・・。 こちらのミスの再発は絶対にしてはいけません。鍋島くん改めてごめんなさい。
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秋田県護国神社秋田市寺内大畑5-3 古四王神社秋田市寺内児桜1-5-55 太平山三吉神社秋田市広面字赤沼3-2 土崎神明社秋田市土崎港中央3-9-37 弥高神社秋田市千秋公園1-16 秋田神社秋田市千秋公園1-8 日吉八幡神社秋田市八橋本町1-4-1 総社神社秋田市川尻総社町14-6 三吉神社総本宮秋田市太平八田木曾石51-1 三皇熊野神社本宮秋田市牛島西3-10-11 三皇熊野神社里宮秋田市牛島東2-2-36 日吉神社秋田市新屋日吉町10-67
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札幌市中央区 札幌護国神社 北海道神宮 北海道神宮頓宮 札幌三吉神社 伊夜日子神社 札幌市東区 札幌諏訪神社 烈々布神社 札幌市西区 発寒神社 西野神社 琴似神社 札幌市北区 新琴似神社 室蘭市 室蘭八幡宮 稚内市 北門神社 網走市 網走神社 網走三吉神社 出雲大社 北見市 北見神社 北見稲荷神社 目梨郡羅臼町 羅臼神社 山越郡長万部町 飯生神社 利尻郡利尻町 北見冨士神社 礼文郡礼文町 厳島神社 天塩郡豊富町 豊富八幡神社 野付郡別海町 別海神社 標津郡標津町 中標津神社 標津郡中標津町 標津神社 上川郡上川町 大上川神社
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#ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (?.jpg) 深淵探索 【深淵探索】エリア3【不死級】3-7 【イベント】三吉君様杯・混浴洗技会 エリア1【不死級】1-4 1WAVE 基礎能力 名称 HP タイプ 種族 【ソリュシャン】戦闘メイド「プレアデス」 298,894 心 粘形種 【アルベド】湯治の夢魔 315,185 知 悪魔種 【シャルティア】湯治の吸血鬼 266,928 心 不死種 状態異常耐性(黄色有効・100=100%耐性無効) 名称 眠り 石化 封印 麻痺 呪印 出血 毒 火傷 凍結 滲水 感電 暴風 結晶 聖印 絶望 ソリュシャン 100 アルベド 100 100 シャルティア 100 100 パッシブスキル 名称 能力 ソリュシャン - アルベド - シャルティア - 行動パターン + 【ソリュシャン】戦闘メイド「プレアデス」 【ソリュシャン】戦闘メイド「プレアデス」 順序 行動 効果 HP100%以下 1 命中/毒属性強化(中) 自身に3ターン、毒エレメント強化+40%自身に3ターン、命中+Lv1 2 棘々侵毒 全体に4回の物理攻撃(毒)全体に3ターン、毒-20% 3 防具破壊毒爪撃 単体に1回の物理攻撃(毒)単体に?ターン、防御力-% 4 棘々侵毒 全体に4回の物理攻撃(毒)全体に3ターン、毒-20% 5 通常攻撃 単体に1回の物理攻撃 6 通常攻撃 単体に1回の物理攻撃 7 命中/毒属性強化(中) 自身に3ターン、毒エレメント強化+40%自身に3ターン、命中+Lv1 8 防具破壊毒爪撃 単体に1回の物理攻撃(毒)単体に?ターン、防御力-% 9 棘々侵毒 全体に4回の物理攻撃(毒)全体に3ターン、毒-20% 10 通常攻撃 単体に1回の物理攻撃 11 通常攻撃 単体に1回の物理攻撃 + 【アルベド】湯治の夢魔 【アルベド】湯治の夢魔 順序 行動 効果 HP100%以下 1 水弾 単体に1回の魔法攻撃(水) 2 通常攻撃 単体に1回の魔法攻撃 3 夢魔の洗技 敵単体のHP回復※回復量は最大HPの5%ほど + 【シャルティア】湯治の吸血鬼 【シャルティア】湯治の吸血鬼 順序 行動 効果 HP100%以下 1 地熱泉 単体に2回の魔法攻撃(水)単体に2ターン、火傷状態・火傷-10%、火エレメント耐性-30 2 通常攻撃 単体に1回の魔法攻撃 3 通常攻撃 単体に1回の魔法攻撃 4 水撃球 全体に1回の魔法攻撃(水) 5 地熱泉 単体に2回の魔法攻撃(水)単体に2ターン、火傷状態・火傷-10%、火エレメント耐性-30 6 通常攻撃 単体に1回の魔法攻撃 7 お肌ツヤツヤでありんす 自身のHP回復自身に3ターン、魔法攻撃力+50% 8 通常攻撃 単体に1回の魔法攻撃 9 水撃球 全体に1回の魔法攻撃(水) 注意点 ・全員状態異常に弱い。睡眠や麻痺が有効。 ・全体毒、全体出血、全体火傷があると非常に楽。 ・ソリュシャンの全体毒が-20%×4回と痛いので全体回復を用意しよう。 エリア1【不死級】1-4 2WAVE 基礎能力 名称 HP タイプ 種族 三吉君 11,820 技 粘形種 【モモンガ】白骨の美丈夫 580,659 技 不死種 状態異常耐性(黄色有効・100=100%耐性無効) 名称 眠り 石化 封印 麻痺 呪印 出血 毒 火傷 凍結 滲水 感電 暴風 結晶 聖印 絶望 三吉君 100 100 100 モモンガ 100 パッシブスキル 名称 能力 三吉君 被ダメージカット+99% モモンガ - 行動パターン + 三吉君 三吉君 順序 行動 効果 HP100%以下 1 通常攻撃 単体に1回の物理攻撃 2 リフレッシュ 敵全体のHPを回復※回復量は最大HPの1%ほど敵全体の状態異常解除※デバフは解除しない 3 通常攻撃 単体に1回の物理攻撃 4 通常攻撃 単体に1回の物理攻撃 5 リフレッシュ 敵全体のHPを回復※回復量は最大HPの1%ほど敵全体の状態異常解除※デバフは解除しない 6 重傷回復 敵単体のHP回復※回復量は最大HPの7%ほど 7 通常攻撃 単体に1回の物理攻撃 + 【モモンガ】白骨の美丈夫 【モモンガ】白骨の美丈夫 順序 行動 効果 HP100%以下 1 焼夷 全体に1回の魔法攻撃(火) 2 通常攻撃 単体に1回の魔法攻撃 3 焼夷 全体に1回の魔法攻撃(火) 3 通常攻撃 単体に1回の魔法攻撃 4 骸骨壁 敵全体に3ターン、防御力+50%敵全体に3ターン、クリティカル+20% 5 焼夷 全体に1回の魔法攻撃(火) 6 通常攻撃 単体に1回の魔法攻撃 7 通常攻撃 単体に1回の魔法攻撃 8 焼夷 全体に1回の魔法攻撃(火) 9 骸骨壁 敵全体に3ターン、防御力+50%敵全体に3ターン、クリティカル+20% 注意点 ・非常にHPの低い三吉君だが、ダメージを99%カットするので攻撃で倒すことはできない。 ・三吉君を倒すには毒・出血・火傷による割合ダメージが必要。 ・リフレッシュで状態異常を解除するためMP残量に注意。 ・毒、出血、火傷、睡眠、麻痺が非常に有効。これらだけでもクリア可能。 おすすめキャラクター ・スリップダメージと行動不能による攻略が可能。 ・①毒 ②出血か火傷 ③睡眠か麻痺 ・上記①②③全てが成功したら後は溜めるを3ターン続けるだけで倒せる。 ・成功確率を高める命中補正の遺物と全体命中強化か回避ダウンが使える補佐役を用意しよう。 守護者統括 「集団毒化(中)」による全体毒-20%持ち。また「夢魔の双眸」による全体睡眠役も可能。装飾による命中補正により成功確率が高い。 真紅の花嫁 「集団毒化」による全体毒-15%持ち。 百中の隻眼 「撒射 鳶」による全体毒-15%持ち。命中+Lv2のパッシブスキル有り。 白金の鎧 「投射」による全体出血-15%持ち。 祝宴恐装 「焔泉」による全体火傷-15%持ち。命中+Lv3のパッシブスキル有り。 水着換装プレアデス 「集団睡眠」による全体睡眠持ち。命中+Lv4のパッシブスキル有り。 千変万化の顔無し 「命はコインで」による全体麻痺持ち。命中+Lv4のパッシブスキル有り。 盾の勇者の剣 「ファスト・ライト」で全体に命中+Lv4を与えられる。必ず一番最初に行動させよう。 祝宴祭装 「冥府への贈物」で敵全体の回避率を下げられる。必ず一番最初に行動させよう。 名前
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都道府県 市区郡・区町村 神社名(未拝受は薄字) 拝受数 秋田県 秋田市 秋田神社 秋田県護国神社 古四王神社 三皇熊野神社 里宮 三皇熊野神社 本宮 12 総社神社 太平山三吉神社 土崎神明社 日吉神社 日吉八幡神社 三吉神社総本宮 弥高神社 大館市 大館神明社 釈迦内神明社 2 男鹿市 真山神社 1 鹿角市 天照皇御祖神社 鹿角八坂神社 鹿角八坂神社 御朱印帳限定 3 北秋田市 鷹巣神社 綴子神社 2 仙北市 浮木神社 神明社 御座石神社 3 大仙市 唐松神社 1 能代市 釣潟神社 1 横手市 横手神明社 1 仙北郡 美郷町 秋田諏訪宮 熊野神社 2 28
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狐 赤坂小太郎/阿部の清明/飯山狐/井内源二郎/一杯もりの長七/因州狐/姥狐/うりう谷のおよね狐/裏山の狐/遠藤の尾白/御出狐/お梅/お梅狐/お菊狐/小倉狐/お小町狐/オコン狐/おさいざん狐/おさかべ狐/おサトさん/おさみ狐/お小夜/おさん狐/おさん狐(鳥取県三朝町)/お三狐/お三狐/お三門真の昼狐→お三狐/お三子狐/おしも狐/おしも狐(兵庫県)/小女郎狐/オジョロ狐/オジョンコ/尾白/お袖狐/オダイブ様/オタジョウ様/お辰狐/お種狐/おたねさん/オッコシこざえもん/越辺の久兵衛/おでん狐/乙姫狐/乙姫様→乙姫狐/おとら狐/おとら狐(孫娘)/踊り提灯→竹次郎/おとん狐→おとん女郎/おとん女郎/御花狐/おはま女郎/おはる狐/オハン狐/おまん狐/お万狐/おまんさん/おみつ女郎/おもと狐/お山の権坊/おヨシさん/折矢様/負われ狐/加茂の狐→オダイブ様/ 隠れ笠の金丸/勘三郎狐/管長狐/狐の三吉さん→三吉狐/黒天狗/黒ひげ天ぐ/玄狐稲荷/権三郎狐/小太郎/小三郎/小よし狐/ 三吉狐/さんこう狐/三本狐/二郎太郎狐/ 大法主狐/竹駒稲荷/竹次郎/太郎太夫狐/釣狐/出合いの亀太/藤四郎/鳥居越の中三郎 仲間のお姫/二階堂の煤助/鶏喰の闇太郎/[鼠狐]]/野荒らしの鼻長 八郎左衛門/はら斑狐/半まだら狐/柊狐→柊求女之丞/柊求女之丞/広谷狐/福吉狐/ またら狐/万太郎狐/弥陀坂のお梅→お梅/翠髪/メラコ/ 山崎狐/与左衛門/与三狐