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ゆっくりいじめ系1534 シャッターチャンスのれいむが可愛過ぎたので、ついゆっくりした。 ツェさんにはすまないと思ってる。 でも、やるならやってやれってきもけ――Caved!!!! シャッターチャンス勝手に後日談 れいむが大好きで写真好きのこの男、最近「ぶろぐ」というものが流行っていると聞いたので自分もやってみることにした。 ぶろぐの内容はもちろん、可愛い可愛いれいむの写真である。 先日の撮影会で撮りまくった画像もすでに公開済み。 これで、れいむ好きの人たちとの交流がさらに広がるといいな、とわくわくしていた。 撮影会の画像を公開した翌日に、早速感想のメールがきていたので読んでみることにした。 --------------------------------------------- subject:れいむちゃんの写真の感想です from:れいむめでにぃ 写真好きおにいさん殿 はじめまして、れいむめでにぃと申します。 ぶろぐを拝見して、可愛いれいむちゃんの写真をいっぱい見せていただきました。 可愛いれいむちゃんの写真に癒されましたが、気になることがあるのでお伝えしたいと思います。 もし、既に知っていらっしゃるようであれば聞き流していただいてかまいません。 --------------------------------------------- 「なななな、なんだろう? もしかして僕が気付いていないだけで、可愛いれいむに怪我でもあったのか!?」 と男は慌てて先を読み進んだ。 --------------------------------------------- れいむちゃんはリボンが無いようですが、これは生まれつきでしょうか? 私も詳しくは知らないのですが、ゆっくりにとって髪飾りにはとても大事な物みたいです。 先日、うちのれいむのリボンが破けてしまったので、新しいリボンを買うまでほどいていました。 その間ずっと、れいむは外に出ることを非常に嫌がっていました。 ゆっくりが髪飾りをしないということは、とても恥ずかしいことのようです。 稀に生まれる髪飾りのないゆっくりを他のゆっくりから離して育てると、そのことを知らずに育ってしまうことが有るそうです。 写真好きおにいさん殿のれいむちゃんは大丈夫でしょうか? ぶろぐの写真を拝見すると、先日の撮影会のあとからの写真は、れいむちゃんが恥ずかしがっているような気がするのですが? もしかしたら、撮影会の時に初めて他のゆっくりと会わせたのではないでしょうか? もしよろしければ、れいむちゃんにリボンを付けてあげてみてください。 それでは失礼いたします。 From れいむめでにぃ --------------------------------------------- メールの内容に男は驚いた。 「な、なんだってーーーー!!」 そういえば最近れいむは、写真を撮ろうとすると逃げようとするようになった気がする。 僕に対しても微妙に目線をあわせようとしない気が…… これはいけない、早速確かめなければ!! 男は部屋の隅に鎮座した、猫ハウスならぬゆっくりハウスの前に腰を下ろした。 「おーい、れいむ! おにいさんはれいむに聞きたいことがあります」 と、ゆっくりハウスに引き篭もっているれいむに呼びかける。 「ゆっ、 おしゃしんとろうとするかられいむはでないよ!」 入り口を覗きこむと、れいむは奥で丸まって――もともと丸いが――出てこようとしない。 「れいむ、もしかしてさいきん機嫌がわるいのは、おリボンが無いからなのかい?」 「ゆゆっ! おにいさんやっとわかってくれたんだね!」 「そうだったらおリボンを買ってあげるから出ておいで。どんなのが良いか一緒に選ぼう」 「ゆ~ん、れいむはかわいいおりぼんがほしいよ!」 ゆっくりハウスから這い出したれいむは、ゆゆ~んと男の膝の上に飛び乗った。 「それじゃあ、どんなおリボンがれいむに似合うかみてみようか」 男はれいむを抱え上げると、パソコンの前に座ってブラウザを立ち上げた。 「えーと、”ゆっくり リボン”とかで検索すれば――っと、いっぱいあるな」 「ゆ~ん、きれいなおりぼんがいっぱいだよ!!」 「うーん、れいむにはこの白いリボンが……いや、それともこちらの黄色いリボンの方が……」 男が、マウスをくりっくすると画面に次々とリボンを表示されていく。 「ゆゆゆっ!! れいむこのおりぼんがいいよ! ひらひらでかわいいよ!」 れいむが身をのりだして「ゆっくり! ゆっくり!」と言い出したリボンは、黒のシルク生地に綺麗なレースが付いたリボンだった。 「れいむはこれがいいのかな? うん、黒いリボンもお嬢様って感じでれいむによく似合うあうな」 リボンの値段を確認すると少々値が張ったが、れいむの初めてのリボンになるのでこれぐらいなら良いだろうと購入することにした。 「――ん、これはゆっくり用じゃないな。」 どうやらゆっくり専門店ではなく一般の服飾店だったみたいだが、べつに問題ないだろうと男は購入ボタンを押した。 「よし、明後日には届くからな、たのしみにしてろよ!」 「ゆ~、まちどおしいよぉ~♪」 久しぶりの「ゆっくり~♪」の声とれいむの満面の笑顔に、男は思わずカメラに手を伸ばしシャッターを押していた。 パシャッ! 「おにいさぁああああああん!! なんでしゃしんとるのぉおおおおおおおお!!!!」 数日後、男が手に提げたゆっくり移動用のバスケットの中から、「ゆゆゆ~♪」というれいむの歌声が流れていた。 男にリボンをつけてもらったれいむはご機嫌だった。 今日は近所の公園というところで、この前会ったゆっくりたちと会えるらしい。 前のときと違って今度はしっかりとおリボンをつけているので、きっとみんなとゆっくりできるはずだ。 「ゆー! 今日はみんなといっぱいゆっくりするよ~♪」 男が公園に着くと、前回のメンバーが既に数人集まっていた。 自分のゆっくりたちを離して、目の届く範囲で思い思いに遊ばせている。 「すいません、遅くなりまして」 と挨拶をして、男はバスケットかられいむを取り出した。 「おや、今日はれいむちゃんはリボンをつけているんですね」 「ええ、どうやらリボンをしていないと恥ずかしいらしくって」 「いやぁ、よく似合ってますよ」 「ありがとうございます。――ほら、れいむ、遊んでおいで」 男がれいむをやさしく地面に下ろすと、れいむは他のゆっくりの所へと飛び跳ねていった。 「ゆっくりしていってね!!」 れいむは遊んでいるゆっくりたちの前に来ると元気に挨拶をした。 「・・・・・・」 「ゆゆっ、きょうはちゃんとおりぼんをつけてきたよ。みんなゆっくりれいむとあそんでね!!」 そう言って、れいむがぴょんと跳ねると、ゆっくりたちはれいむから一歩後ずさった。 「ゆゆっ、みんなどうしたの?」 「ゆっ、またあのゆっくりがきたよ」 「あんなえっちなかみかざりをつけてるなんて、はずかしいわ!」 「わかるよー! いんらんなんだねー!」 「むきゅ! まりさいったいどこをみているのかしら!!」 「まりさはなにもみていないんだぜ! ほんとだぜ!」 「おお、ひわいひわい」 「ゆうーっ!! どうしてそういうこというのぉおおおおおお!!!!」 れいむには皆の反応が理解できなかった。 自分はちゃんと綺麗なおリボンをつけているのに、なぜこんなことを言われるのだろうか? 実は、赤ゆっくりのころから男に飼われていたれいむの感性は、ゆっくりの感性とは少しずれていた。 男と同じテレビをみて、人間の読む雑誌を読んで育ったれいむの感性は、ゆっくりよりも人間よりになっていたのである。 れいむが綺麗で可愛いと思った黒いシルクとレースのおリボンだが、ゆっくりの感性からするとまるで勝負下着のようなえっちな姿だったのだ。 れいむを見たゆっくりたちの目には、れいむはまるでコールガールのように映っていたのである。 「ゆぇえええええええん!! ゆっくりしてよぉおおおおお!!!!」 昼下がりの公園に、れいむの叫び声がむなしく響き渡るのだった。 #おまけーね 「ゆゆぅぅうう……」 楽しそうに遊んでいるゆっくりたちから少しはなれたところに、れいむはポツリと佇んでいた。 その目じりにはうっすらと涙が浮かんでいる。 れいむの飼い主の男は、サークル仲間とのゆっくり談義に気をとられて気がついていない。 「ゆっくりしていってね」 「ゆっ?」 と、そのれいむに一匹のゆっくりありすが声をかけてきた。 ありすはれいむより年上で、手入れの行き届いた綺麗な金髪でゆっくり目にみてもかなりの美ありすだった。 その様子を見た他のゆっくりたちは「またありすのびょうきがでたんだぜ!」とひそひそ話していたが、れいむは気がつかなかった。 「どうしたのれいむ、ゆっくりできてる?」 「ゆうぅう、ゆっくりできないよぉ。せっかくおりぼんつけてきたのに……みんなゆっくりしてくれないのぉおおおお!」 「あらあら、そんなことなわよ。とってもとかいはなおりぼんですてきよ ――ハァハァ」 「ゆっ! ほんとう? ありすおねえさん……」 「ええ、だからないていないでいっしょにゆっくりしましょう」 「ゆ~ん、れいむはありすおねえさんとゆっくりするよ!!」 れいむはうれしくなって、ありすに頬を摺り寄せた。 「ゆ~♪ ゆっくり~♪」 「かわいいわよれいむ、ありすおねえさんとす~りす~りしましょうね ――ハァハァ」 「ゆ~ん♪ す~りす~り♪」 「ありすおねえさんがやさしくしてあげるわ。 す~りす~りす~りす~り ――ハァハァ」 「ゆゆぅ~? れいむなんかへんなきぶんになってきたよ?」 「とかいはなりぼんのれいむかわいいわぁ ――ハァハァハァハァ」 「ゆゆっ! ありすおねえさんちょっとす~りす~りとめてね!!」 「そんなこといっても、あんこはしょうじきよぉ~ ――ハァハァハァハァ」 「ゆぅうううううううう!! もうやめてぇええええええええ!!」 「こわくないからだいじょうぶよぉ、いっしょにすっきりしましょうねぇ!! す~りす~り ――ハァハァハァハァハァ」 「どしてやめてくれないのぉおおおおお!! おにいさぁあああああああん、たすけてぇえええええええええ!!!!」 ゆっくり談義を楽しんでいた男は、今日はまだ写真を撮っていないことに気がついた。 「写真を撮るのを忘れてましたよ。僕のれいむはどこかな?」 「あそこでうちのありすとじゃれ合ってるみたいですね」 男が目を向けた先には、話し相手の飼いゆっくりありすと、頬をよせあっているれいむがいた。 ゆっくり主観では、年上のお姉さんありすがまだ若い蕾のれいむを手篭めにしている真っ最中である。 だが、男の目には二匹が仲むつまじくじゃれあっているようにしか見えなかった。 「おおっ! これはシャッターチャンスですね! れいむー、こっちむいてー!」 と男がカメラを構える。 「ゆぇえええええん!! おにいさんたすけでよぉおおおおお!!!」 パシャッ! 「どぉしてしゃしんとるのぉおおおおおお!!!」 パシャッ! 「いやあああああああああ!! れいむのはずかしいしゃしんとらないでえええええええ!!!!」 「みられたほうがよいなんて、れいむはいけないゆっくりね!! す~りす~り」 「ゆぁああああああ!! ちがうのぉおおおおおおおおおお!!!!!!」 昼下がりの公園に、再びれいむの叫び声がむなしく響き渡るのだった。 このSSに感想を付ける
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おまけ 前 れいむの元から逃げ去った2匹の子れいむは、親れいむから逃げるために、方々に散って行った。 1匹は内風呂の中へ、もう1匹は最初に来た植え込みの中に飛び込んだ。 内風呂に入っていった子れいむは、運よく開いていたドアが目に止まり、その小さな部屋の中に飛び込んだ。 しかし、そのドアにはロープが掛けてあり、使用禁止と書かれてあったのだが、子れいむに文字が読める筈もない。 小部屋の隅でしばらく身を隠していると、親れいむの声が内風呂の中に響き渡った。 自分を追って来たと思った子れいむはガタガタ震えたが、どうやら親れいむは子れいむのほうに来る気はないらしく、向こうで壁に体当たりしている音が聞こえてきた。 その後、ドアの開く音と共に、れいむの悲鳴が子れいむの元まで届いてくる。 何をされているのかは知らないが、今まで聞いたこともないような親の絶叫に、子れいむはチビりながら、その声が止むのを待ち続けた。 やがて親れいむの悲鳴も止み、人間の足音が遠さかって行ったが、子れいむは恐怖に足がすくみ、その場から動くことが出来なかった。 そして、神経を減らし続けた結果、余りの疲れにいつの間にか子れいむはその場所で眠ってしまった。 「まったく!! 今日はゆっくりが多くて、散々だよ」 清掃のおばさんが、まりさ親子を崖下に捨て、露天風呂の掃除を終えて戻ってくると、子れいむの入った部屋の入口に掛けられたロープを取って、ドアを閉めた。 閉められたドアには、こう書かれたプレートが填められていた。 “サウナ室” 「ゆっ?」 子れいむは目を覚ました。 一瞬、自分がどこにいるのか分からなかったが、周りを見渡し、すぐに自分がここにいる理由を思い出した。 どのくらいたったのかは知らないが、小さな部屋の窓からのぞく空は、少し夕日掛かっている。 子れいむはまだ親れいむが怒っているのでは震えた。 悲鳴は聞いていたものの、現場を見たわけではないので、まさか親れいむが死んでいるとは夢にも思わなかった。 どうやって帰ろうか? 謝れば許してくれるだろうか? いろいろ考えたが、結局名案が浮かばなかった。 そんな折、子れいむは空腹感に襲われた。 まりさ達と違って、子れいむはお菓子を食べていないのだ。一度感じると、立ってもいられないくらいお腹が空いてくる。 もう帰ろう。お母さんもきっともう怒っていないだろう。 子れいむの餡子脳は、空腹に負けて、面倒事を考えるのを停止させた。 子れいむは、小さな部屋から出ようとした。 しかし、さっき入ってきた入口は、大きな木の板で塞がれていた。 子れいむは、自分が出口を間違えたのかなと、小部屋の中を行ったり来たりしたが、どこにも出られるような場所は無かった。 「ゆうう―――!!! なんで、でられないのおおぉぉぉ――――!!!」 部屋から出られなくて、泣き出す子れいむ。 しかし、ここで泣くことは、ある意味自殺行為に等しいことを、子れいむはまだ知らなかった。 一通り泣き叫んで、子れいむは誰か助けが来るのを待っていた。 窓から見える空は、もうすっかり真っ暗であり、この時期は夜になると、めっきり寒くなってくるのだ。 ゆっくりは寒いのが大の苦手である。 子れいむも、「寒いのはいやだよおおぉぉぉ―――!!!」とまた半ベソをかくも、そこで子れいむは異変に気がついた。 なぜか部屋が暖かいのである。 本来ならもう寒い時間だと言うのに、この暖かさときたらどうだ。まるで春の陽気のそれではないか!! 「ゆゆっ!! あったかくなってきたよ!!」 暖かくなってきて、喜ぶ子れいむ。 空腹なことも部屋から出られないことも一時忘れ、嬉しくなって部屋中を飛び跳ねている。 しかし、次第に状況が一変し出した。 熱さが下がらないのだ。 春の陽気は次第に夏の昼下がりになり、夏の次に秋が来ることはなく、その後もグングン気温が上昇していく。 「たいようさ―――ん!! もうやめでええぇぇぇぇ――――!!!」 子れいむは、余りの暑さに意識がもうろうとしだしてきた。 すでに沈んでいる太陽に文句を言い放つ。 しかし、太陽(笑)は、子れいむの言うことを無視して、どんどん気温を上昇させていく。 室温70度くらいの頃だろうか? 子れいむの座っている木の板が高温になり、同じ場所にじっとしていられなくなった。 「あじゅいおおおおぉぉぉぉ―――――!!! やめでえええぇぇぇぇぇぇ――――――!!!!」 あまりの熱さに、子れいむは飛び跳ね続けるしかなかった。 その間も、子れいむの体からどんどん水分が奪われていく。 泣いたり、チビったりしなければ、もう少しは水分ももったかもしれないが、既に子れいむの体の水分は限界まで搾り取られていた。 遂には、跳ねる力さえ出てこなくなった。 「なんで……れいむがこんな……めにあわ…なく……ちゃなら………ない…の?」 カサカサになった唇は最後にそう呟くと、子れいむは先に行った姉妹たちの元に旅立って行った。 2時間後、水分の無くなったカラカラの焼き饅頭が、温泉客に見つけられた。 植え込みの中に逃げ込んだ子れいむは、適当な方向に逃げて行った。 とにかく親れいむに捕まるまいと、場所も考えることなく精一杯逃げていく。 やがて、子れいむの体力が付き、これ以上歩けないというところで、子れいむは足を止めた。 「ゆひーゆひーゆひー……」 大きく肩で息を付く子れいむ。 後ろを振り返ると、親れいむの姿は見えないし、声も聞こえない。 逃げ切ったのだと、ようやく子れいむは、一息つくことにした。 子れいむはその場でしばらくジッとしていれば、その内親れいむの怒りも収まるだろうと考え、安全そうな草むらに身を隠して、疲れをいやすべく眠りについた。 子れいむが起きたのは、サウナに入った子れいむと、ちょうど同じくらいの時間だった。 すでに空は真っ暗で、うっすら寒い。 もう親れいむの怒りも静まった頃だろうと、子れいむは巣に帰ろうとした。 しかし、その時になって、ここがどこか全く分からないことに気がついた。 「ゆううぅぅ―――!! ここはどこおおおぉぉぉぉ―――――!!!?」 大声で叫んでも反応してくれるものは誰も居なく、子れいむは仕方なく、運良く来た道に戻れることを祈り、適当に歩き始めた。 しかし、そんなことで無事にたどり着けるほど、世の中は甘くない。 元々体力が少ない子ゆっくりで、しかも飯抜き山中歩行をしたおかげで、せっかく体を休めたというのに、すぐに子れいむの体力は限界に達した。 「……もう……あるけないよ……」 子れいむはその場にうずくまった。 すると、目の前の草影がカサカサと動き出した。 初め、親れいむが迎えに来てくれたのかと思ったが、出てきたのはカルガモの親子だった。 子れいむは落胆したが、すぐにあることが閃いた。 このカルガモ達なら、あの温泉の行き先を知っているに違いない!! あそこまで連れて行ってもらえば、後は巣の帰り方は分かっている。 「とりさん!! れいむをゆっくりおゆのところにつれていってね!!」 カルガモに向かって、跳ねて行くれいむ。 本当に危機意識の薄い饅頭である。 人間ならともかく、野生生物の前に饅頭が行くなど、空腹のライオンの前に自分から進んでいく草食動物に等しい。 結果は言うまでもないだろう。 「ゆぎゃああぁぁぁぁぁぁ―――――!!! なにずるのおおおぉぉぉ―――――!!! れいむはたべものじゃないよおおぉぉぉぉぉ―――――!!!!」 親カルガモはれいむを咥えると、子カルガモの前にれいむを差し出した。 「やめでえええぇぇぇぇぇぇぇ――――――!!!! いだいよおおおぉぉぉぉぉぉぉ――――――――!!!!」 子カルガモに、チクチクと啄ばまれ暴れ狂う子れいむ。 しかし、親カルガモの体長は60㎝近くもあり、子れいむとの力の差は歴然で、逃げだせるはずがない。 子カルガモは、子れいむをボロボロ溢しながら食べていくも、しっかり下に落ちた皮や餡子も、残さず食べていく。 食べ物を粗末にしないその精神は、飽食になれた外界の人間や、どこぞの饅頭一家にも見習わせたいくらいである。 やがて、子カルガモ達がもう食べられなくなると、半分ほど残った子れいむは、親カルガモに美味しく食べられた。 ここで、一家全員が死亡したこととなった。 結局、この一家の不幸はカルガモに始まって、カルガモに終わることとなったのである。 ~本当にfin~ カルガモの親子って可愛いよね!! なのに、ゆっくりが同じことやっても腹が立つだけなのはなぜだろうww ちなみに帽子の設定は、家族は帽子を被ってもなくても個体認識が出来るということで。 今まで書いたもの ゆっくりいじめ系435 とかいは(笑)ありす ゆっくりいじめ系452 表札 ゆっくりいじめ系478 ゆっくりいじり(視姦) ゆっくりいじめ系551 チェンジリング前 ゆっくりいじめ系552 チェンジリング中 ゆっくりいじめ系614 チェンジリング後① ゆっくりいじめ系615 チェンジリング後② ゆっくりいじめ系657 いい夢みれただろ?前編 ゆっくりいじめ系658 いい夢みれただろ?後編 ゆっくりいじめ系712 ゆっくりですれ違った男女の悲しい愛の物語 ゆっくりいじめ系744 風船Ⅰ ゆっくりいじめ系848 風船Ⅱ ゆっくりいじめ系849 風船Ⅲ カルガモとゆっくり 前編 カルガモとゆっくり 後編 カルガモとゆっくり おまけ このSSに感想を付ける
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「ぷくー!」 れいむは頬を膨らませていた。 威嚇である。 邪魔してはいけない。 頬は通常の倍ほどの大きさにまで膨れ上がっている。 これだけぷくーすれば皮は伸びに伸びて、れいむは痛みの余り頬が本当に張り裂けるのではないかと不安に思った。 それでもこのぷくーをやめるわけにはいかない。 目の前にはゆっくりまりさがれいむと同様にぷくーして威嚇をしていた。 まりさは悪しき人間の手先であった。 理由はわからない、まりさは一言も喋らずにただ人間につき従っていた。 まりさのぷくーは恐ろしいほど威圧的なものだった。 全身は愚か帽子までもが均等に膨れ上がりその全体の体積を二倍三倍にまで膨れ上がっているというのに 未だにより膨れることをやめない。 その威圧感は対峙するだけで餡子が強張りかなちーちーが股間からだくだくと漏れ出すほどである。 だがいまれいむはかなちーちーする訳にはいかない。 かなちーちーすればそれだけ体積が減って威嚇効果がなくなってしまう。 何故これほどのまりさが人間に従っているのか。 れいむには理解出来ない。 守るべきもののためか、恐怖で支配されているのか、さもなくば欲のためか。 だがれいむには関係のないことだった。 絶対にこのぷくー勝負で負ける訳にはいかないのだ。 「おかーしゃんがんばっちぇ!」 「がんばっちぇ!」 何故なられいむには家族が居た。 かわいいかわいい子れいむが二匹。 お歌がうまくて優しくてお母さん思いで れいむにとって目に入れても痛くないほどかわいかった。 今、自分がぷくーをやめればまりさは瞬く間にれいむに襲い掛かり かわいい子れいむ達も惨たらしい目にあわされることだろう。 れいむは絶対に退かず媚びず省みずの強靭な精神でもって限界を超えつつあるにもかかわらずぷくーをし続けた。 既に息を出来なくなって久しい。 呼吸困難で既に顔は真っ青だ。 それでもぷくーをやめまいと噛み締めた唇からは餡子がにじみ出て顎に伝っていた。 目も閉じてしまおうと思ったが、それでは威嚇にならない。 閉じるまいと生理現象を拒否し続けた瞳は逆に飛び出して赤く血走り涙が流れ続けているにも関らず乾ききっていた。 だが、限界を超えたれいむのぷくーは、れいむからその意識を一瞬で奪い去った。 眼球がぐるんと上へ動き白目を剥いた。 意識が消える。 そしてれいむのぷくーもそこで終わりを迎える、はずだった。 「おかあしゃーん!」 「もうちょっちょだょ!もうまりしゃはげんかいだょ!」 子どもたちの声がれいむを現実へと引き戻した。 「ぷっくっくー!!」 れいむは最後の力を振り絞りぷくーをしなおした。 しかしもう5秒ともたないだろう その終焉は間近だった。 4 3 2 …1 パァン。 れいむ達は自分の目を疑った。 限界を超えてぷくーし続けたまりさが、破裂したのだ。 れいむは呆気にとられて思わずぷくーをやめた。 「ちぇっ、俺たちの負けか」 「お前が空気入れすぎるから」 「帰ろうぜ」 悪しき人間達は、まりさに繋いでいた道具を片付けるとそそくさと引き上げた。 後には、小さくしぼんで小指より小さくなったまりさの皮だけが残っていた。 不思議なことに中身はどこにもなかった。 残ったものは皮ばかり その皮も、ためしに伸ばしてみるとゆっくりのものとは思えないほど伸縮自在。 そして何故か少し苦い味がした。 れいむは身震いした。 「おかーしゃんやったね!」 「おかーしゃんちゅごい!」 その時は、子れいむ達の言葉が全てを忘れさせてくれた。 だがれいむは心の底で、これがぷくーをし続けた者の末路かと恐れたのだ。 それから数日後、今度は流れ者のゲスまりさがれいむの巣へと略奪をしかけた。 もちろんれいむはぷくーでまりさを威嚇し、まりさも負けじとぷくーで威嚇し返した。 「ぷくー!」 「ぷ、ぷくー!」 まりさのぷくーは貧相で、れいむに負ける要素は見当たらなかった。 まりさは既に負け戦を悟り顔面蒼白で油汗を垂らしている。 れいむはぷくーしながら心の中でニヤリと笑う。 「おかーしゃんちゅよい!」 「しょんなまりしゃやっちゅけちゃっちぇね!」 もう一踏ん張りして追い払おうと顔に力をいれようとして 視界の隅にまだ片付けていなかったこの前のまりさの残骸が入った。 それはちょうどまりさの目が付いている部分だった。 あの時のまりさが脳裏を過ぎる。 このまま力をいれたら、れいむも、あのまりさみたいに 「ぷふー、!?」 れいむのその迷いが、力を入れるべきところで逆に力を抜かせてしまった。 自分でも信じられない思いでれいむは慌ててぷくーしなおそうとした。 「!ちゃんすだぜ!」 だがまりさはその隙を逃さない。 まりさはさらにぷくーしてれいむを威嚇し、ぷくーしてないれいむは思わず竦みあがってしまった。 「ゆっ」 「いまなのぜ!」 そしてまりさに隙だらけのところを体当たりされて、後はもう悲惨の一言だった。 散々乗っかられて押しつぶされて、泣き喚く子れいむ達の前でたっぷりと時間をかけてれいぷされた。 そしてれいむが足腰立たない状態のまま、今度は子れいむ達が巣の中で犯された。 れいむは何も出来ずにその光景を見るしかなかった。 胸が張り裂けそうになった。 目から餡涙がにじみ流れ出た。 叫び声はただただ掠れきっていた。 そしてまりさが犯すのに飽きた時、子れいむ達は殺された。 れいむは憎悪の余りそのまま憤死しかけた。 その時風が吹いた。 ふわりとれいむの目の前にひらひらとしたものが舞い込んだ。 あの時の、破裂したまでぷくーしたまりさの皮にはりついた絵みたいに薄く薄くなった瞳と目が合う。 れいむは最後の瞬間その瞳に尋ねた。 まりさはだれのためにぷくーしてたの? このSSに感想をつける
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「ゆっ! ここはなかなかゆっくりできるところだね!!」 「かぜさんもはいってこないし、ぽかぽかさんだよ~!」 「ここならえっとうっ! もらくしょうだね! れいむ!!」 「ゆゆっ!! そうだねまりさ!! ここをれいむたちのゆっくりぷれいすにするよ!!!!」 冬の直前にれいむとまりさの番が見つけたのは、 積み上げた石で囲まれた穴だった。それは冷たい風をさえぎり、中の気温を上げる。 石は固まってるようで、れいむとまりさがぶつかってもびくともしなかった。 おまけに床は藁や枯れ草、枯れ木、落ち葉などが敷き詰められている。 少し暗いけど、出入り口をけっかいっ! で覆えばえっとうっ! には困らない。 「ゆゆ~ん!! さいっこうっ! のゆっくりぷれいすだよ!!!」 「れ、れいむ!! まりさはもう……もうっ!!!」 あたらしいおうちを手に入れた喜びのあまり、まりさは興奮し、 れいむとすっきりー! し始めた。れいむはまんざらでもなく受け入れる。 「んほっ!! んほぉぉっ!!! すっきりーっ!!」 「んほっ!! んほぉぉっ!!! すっきりーっ!!」 光悦の表情を浮かべるれいむとまりさ。 れいむの額からは蔦が伸び、そこに赤ゆっくりが1、2、3、4、5、6…… ……張り切りすぎたようだ。 「ゆゆ~んっ!! かわいいおちびちゃんだよっ!!!」 「ゆへへ!! まりさはさっそくえささんをとってくるんだぜ!!!」 ・ 「……? あれ?中に何かいるぞ」 「ほんとだ! ゆっくりじゃねーか!!」 まりさが最後の狩りに行ってる間、お昼のすーやすーやタイム中、 外から聞こえた声にれいむたちは目を覚ました。 「ゆ~っ!!!! だれだかしらないけど!!! かわいいれいむのすーぱーすーやすーやたいむをじゃまするなぁぁぁぁ!!!!」 「しょうじゃしょうじゃ!!!!! ぷきゅぅぅぅぅぅ!!!!」 「ぷきゅー!!」 目が覚めたれいむと、先立って生まれた2匹の子、赤れいむはにんげんを見るや否や ぷくーを始める。このれいむたちは人間の脅威を知らないらしい。 あるいは知っていたが、「こんなにゆっくりしたおうちうをもっているれいむたちに にんげんがかてるわけない!!!!」と思っているのか。 「まずいなぁ……おーい、はやくでてこい」 「おいおい、そんなやつら放っとけよ」 「ほっとけんよ。一応生きてんだろ、こいつらも」 中をのぞいていた青年は手招きしてれいむたちに外に先導する。 その後ろにいる青年は呆れた顔だ。 「ゆぅぅぅぅぅ!!! れいむのゆっくりぷれいすをうばうきだね!!!!!! くずなにんげんはゆっくりしないでしぬといいよ!!! でもそのまえにあまあまもってきてね!!!!! たっくさんでいいよ!!!!!!!」 「れいみゅわきゃっちゃよっ!!! にんげんしゃんは、れいみゅたちに『しっと』 しちぇるんでしょ!!? おおあわりぇあわりぇ!!!! ぎぇらぎぇらぎぇら!!!」 「ゆーんなんてかしこいおちびちゃんなんだろうね!!! さすがれいむのおちびちゃん!!!! そこにきづくなんてやっぱりてんさいだねぇぇぇぇ!!!!」 「おねーちゃんしゅぎょい!!! たいしたゆっきゅりじゃねぇぇぇ!!!」 「最後褒めてんのか、それ?」 出てくるどころか体をねじらせてすーりすーりぺーろぺーろし始めたれいむを見て、 青年たちは息をついた。 「無駄だな。こりゃ」 「だから言ったろ」 「自分で選んだんだ、しゃあねぇか」 青年はその場を後にした。 それすなわち、れいむのかちである!!!(れいむの脳内で) 「ゆっ!!! かったよ!!! かわいいれいむがにんげんにかったよ!!!!」 「しゃしゅがおきゃあしゃんだね!!! ゆっきゅりー!!!」 うれちーちーをしながら尊敬の目で母を見る子れいむ。 帰ってきたまりさのごちそう「らむねさん」を、そのことを肴にしながらたべ、 家族は深い眠りに就いた。 ・ 「ゆっ? なんだかさわがしいよ?」 れいむは目を覚ました。外が騒がしい。 けっかいっ! の隙間から外を見る。そこには何人もの人間がいた。 「ゆぷぷ……れいむにかてないからって、おおぜいひきつれてきたんだね。 そこまでしょうねがくさったにんげんははじめてだよ。おおあわれあわれ……」 れいむはわらう。追い払ってやってもいいが、眠気が強い。 「れいむがほんきになればくずにんげんなんてけちょんけちょんにできるけど、 めんどくさいからみのがしてあげるよ! かわいいれいむにゆっくりかんしゃしてねっ!!! そういうとベッドに戻ろうとして―――― ぼっ! 「ゆっ?」 何かが投げ入れられ、れいむはふりかえった。 視線の先ではけっかいっ! を突き破って、火のついた棒が床に落ちていた。 「ゆっ!!!! あついよ!!! れいむをゆっくりさせないめらめらさんは ゆっくりできないよ!!!!! ゆっくりしないでどっかにいってね!!!!!」 れいむは床に広がる落ち葉や枯れ木をもみ上げできれいに巻き上げ、 火に向かって投げ入れた。消そうと思ったのだろう。しかし 「どぉしてめらめらさんひろがるのぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!?」 火は空中で見事に引火し、それが地面に落ちて床に敷き詰めた落ち葉や 枯れ木に燃え移る。あっという間に出入り口は火の海になった。けっかいっ! などもう燃え尽きている。 「ゆっくり!! ゆっくりしていってね!!! ぺ~ろぺ~ゆぎゃぁぁぁ!!! あ゛づい゛ぃぃぃぃ!!!!!!」 火付きの床をぺ~ろぺ~ろで消そうとして、れいむの舌先が焼け落ちた。 それだけではなく、しゃがんだことで実ゆっくりに引火した。 「ゆがああああああああ!!!!! れいむのあがぢゃんがぁぁぁぁぁ!!!!!!」 言葉も発せぬまま炎に包まれる実ゆっくりたち。 れいむは火を消そうと振り回し、そして。 すぽーん! 「ゆっ!!?」 実ゆっくりは蔦ごと引っこ抜け、炎の中に消えた。 「あがぢゃあああああああああん!!!!!!!!!!!!! ゆぐっ!!!? ゆぐえっ!!!!!!」 れいむがあんこを吐きながらも叫ぶと、実ゆっくりが突っ込んだところから ぱぁんと返事が聞こえた。実ゆっくりと蔦の中の空気が熱で膨張して破裂した音だ。 「ゆはっ!!!! そうだぁぁぁ!!!! までぃざぁぁぁ!!!! おぎろぉぉぉぉ!!!!! れいむをだずげろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」 眠っていたまりさを思い出し、渾身の力で体当たりをかます。 しかし、まりさは起きない。子れいむも赤まりさも同様。ラムネのせいだ。 「ゆっ!!! てんじょうさんがあいてるよ!!!! でいぶだずがるよぼぉぉぉぉ!!!!」 ふと煙が上に逃げていくのに気づき、れいむは今までふさがっていた天井が ぽっかり空いていることに気づく。 炎が燃え移っても一向に起きないまりさと子れいむ赤れいむはすでに諦めた。 (まりさやおちびちゃんなんて、どうでもいいよ!!! でもれいむは世界でただいっぴきっ!!!! にんげんにもかてるとくべつなゆっくりなんだよ!!!) 言うや否やまりさを踏み台にし、飛び跳ねようと試みるれいむ。 熱で溶けやすくなっていたまりさの皮がはがれおちる。 さすがの激痛に、まりさは目を覚ました。 「ゆっ? なんなんだぜ……!? なんなんだぜぇぇぇぇ!!!!!? こればぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!!!?」 「ゆっ! いまごろきづくなんてどんかんなまりさだね!! そんなぐずまりさは れいむにふさわしくないよ!!!!! りこんのいしゃりょうさんにれいむだけたすけて まりさはさっさとしんでね!!!!!!!!」 「ど……うじでぞん……なご……どいぶ……の…………!!!!!!」 れいむはまりさを見下し、げらげら笑うととんだ。 その衝撃でまりさは潰れ、永遠にゆっくりした。子れいむ赤れいむはすでに火の球で 何やら暴れていた。 「よいしょっと!」 「ゆっ!!!!? なにしてるのぉぉぉぉぉ!!」 れいむがもうすぐ外に出ようとした時、大量の火付き棒がれいむに ――正確にいえば穴の中に――向かって落とされた。 れいむは落石事故にあったように棒に正面衝突し、火の海と化した “おうち”にたたき落とされた。 「ゆぎゃぁぁ!! なんでぇぇぇ!!!! めらめらさんはゆっくりできないぃぃぃぃ!!!!」 煙と火のせいで叫ぶこともままならない。それでもれいむは叫んだ。 「もう……や……だ……おう……ちか……え……りゅ!!」 れいむはそのまま燃え尽きた。 ・ 「うおーっさいこーっ!! れいむの断末魔でメシがうまうま!」 外の人間たちは自作の釜の上で作ったおもちを食べていた。 そのおもちは何もつけずとも不思議と甘く、一段とおいしかったそうな。おしまいおしまい。 ――――ハッピー・エンド! …………あれ? Q、描写薄いよなにやってんの!? A、息抜き ゆっくりを燃やして作るモチってすげー甘くてうまそう 今まで書いたモン anko1000 ゆ anko1298 ゆっくりにかけるかね
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「消極的制裁行為」 ゆっくりたちが多く暮らしている、人里に隣接している草原。 ひらひらと宙を舞う蝶を追いかけて、ぴょんぴょん跳ねているのは一匹のゆっくりれいむだ。 れいむは綺麗なお花畑の花を踏み潰しながら、夢中で蝶を追いかけていく。 「ゆっゆっ!ちょうちょさんまってね!!」 ぴょんと大きくジャンプするれいむ。 口をあんぐりと開けて、蝶を飲み込もうとするが…紙一重のところで避けられてしまう。 「ゆぐぐぐぐ!!ひどいよちょうちょさん!!ゆっくりたべられてね!!!」 地団駄を踏むれいむ。しかし、蝶だってそう簡単に食べられてくれるわけがない。 れいむが追う蝶は、そのまま木の上のほうへ上っていった。 「ゆゆ!!まってねちょうちょさん!!」 枝の隙間をぬって飛んでいく蝶。 れいむはそれを目視すると、勢いをつけて大きくジャンプした…! 太い枝の上に飛び乗ったれいむ。その枝を伝って、蝶を追いかける…が。 一瞬の油断だった。焦ってしまったばかりに、れいむは足を踏み外してしまったのだ。 「ゆゆぅ!!おちちゃうよ!!」 このまま地面に激突すれば、無傷ではすまない。 直後襲うであろう激痛の恐怖に、れいむは強く目をつぶった。 がさがさ!!がささっ!!! しかし、れいむは地面に落下することはなかった。 れいむはゆっくりと目を開く。何故か、目に映るもの全てが逆さまだった。 そして、宙に浮いているような不思議な感覚。 れいむ自身には、何が起こったのかわからないだろう。 実は枝から落ちたときに、れいむの髪飾りが細い枝に引っかかったのだ。 その細い枝はそのままれいむの体重を支え、結果としてれいむを地面への落下から守った。 ぐい~ん! 枝の弾力で上のほうへ引き戻されるれいむ。 地面への落下を免れたれいむは…上下逆さまの状態で宙吊りになっていた。 当のれいむも、だんだん状況を理解していく。 自分が助かったとわかると、安心して「ゆっくりぃ~♪」と微笑んだ。 だが、本当の悲劇はここからだった。 十分ゆっくりしたので家に帰ろうと、枝から降りようとする。 そこで、初めてれいむは自分が置かれた状況を、正確に理解したのだった。 「ゆっ!ゆっ!」 宙吊りのままのれいむは、ゆっさゆっさと体を揺さぶる。しかし、枝から自分の身体が外れる気配はない。 髪飾りは、周囲の細い枝としっかり絡まっている…四肢を持たないゆっくりには解くことは出来なかった。 「ゆー!だれかたすけて!!ここじゃゆっくりできないよ!!」 最初は浮遊感を楽しんでいたれいむだが、自力での脱出が無理だと分かった途端助けを求め始める。 しかし…周りには人間はおろか、ゆっくりや他の野生生物もいない。 仮に見つけてもらったとしても、助けてもらえる保障はどこにもないのだ。 「ゆっくりしたけっかがこれだよおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」 あれから3時間。 おでこに止まった蝶に「ゆっくりたべられてね!」と舌を伸ばすも届かず、あっさり逃げられた。 あるとき、人里のほうから子供たちがやってきた。誰も居ない寂しさから開放されて喜んだれいむ。 れいむはその喜びを表現しようと、歌を歌い始めた。 「ゆっゆっゆ~♪」 しかし、その歌を気持ち悪がられ「きもーい!」「しね!!」などと罵られる。 「ゆ!!れいむはきもちわるくないよ!!れいむはかわいいゆっくりだよ!!」 とれいむが口答えすると、子供たちは下から木の棒でつついたり、ぺちぺちと全身を叩いたりして れいむの反応を楽しんだ。その間もれいむを罵倒し続ける子供たち。 とうとうれいむは泣き出してしまった。 「ゆっ…ゆゆっ、ゆ゛っぐり゛いいいぃぃぃ!!!」 「うわ!!こいつ泣いてるぞ!!気持ちわりぃ!」「もう飽きたな。早く帰ろう!」 「皆でおやつ食べようぜ!お母さんがクッキー焼いてくれるって!」 宙吊りのれいむを放置して、子供たちは走り去っていく。 そして、事態は一向に進展しないまま、今に至る。 「ゆっくりー!!」と叫んでみても、誰も来ない。 それに、だんだんお腹がすいてきた。 きっと、さっきの子供たちは今頃おいしいおやつを食べているだろう。 そう思うと、れいむの空腹はさらに強くなってくる。 「ゆっくりぃ…」 お腹に力が入らず、声が出ない。 たまに体を揺さぶってみるが、やはり無駄だった。細い枝に引っかかった髪飾りは、びくともしない。 諦めて、宙にぶら下がったままうとうとし始める… そこへ、一人のお兄さんがやってきた。 「お、君はそこで何をやってるんだい?」 お兄さんは何かがいっぱい入った籠を背負っている。 話しかけられたれいむは、ゆっくりと質問に答えた。 「ゆ!ゆっくりひっかかっちゃったよ!!」 「そうか、だから逆さまにぶら下がってるんだね。…それ!」 ぴん!とれいむの体を指ではじくお兄さん。 ゆらゆらと振り子のように揺さぶられるれいむは、ぷんぷんと体を膨らませた。 「おにーさんひどいよ!!ゆっくりたすけてね!!」 「あはは、面白いなぁ♪…よし、今から下ろしてあげるから、ちょっと待っててね」 すると、お兄さんはれいむの髪飾りに絡まった細い枝を丁寧に解いて、れいむを地面に下ろしてくれた。 「ゆゆ!!ありがとう!!これでゆっくりできるよ!!」 「そうかい、じゃあ僕は帰るから、ゆっくりしていってね!」 れいむに背を向けて去っていくお兄さん。 彼が背負っている籠の中身がれいむの目に入ると、れいむは大声でお兄さんを呼び止めた。 「おにーさん!!それなあに!?」 「あ、これかい?これは“りんご”だよ。食べたことないの?」 「たべものなの!?れいむたべたいよ!!ゆっくりちょうだいね!!」 遠慮の欠片もないれいむ。お兄さんの目の前にやってきて、図々しく大きな口を開けた。 「うーん……それじゃあ、お兄さんの家に来てくれるかい?来てくれればりんごをあげるよ」 「ゆ!!いくよ!!おにーさんのおうちでゆっくりりんごをたべるよ!!」 「そうと決まったら早速出発だ!お兄さんの家はこっちだよ」 そうしてお兄さんとれいむは、人里離れたお兄さんの家へと向かった。 お兄さんが扉を開けると、れいむはすごい勢いでその中に飛び込んだ。 昼間から木の枝に宙吊りになっていたから、今まで何も食べてないのだ。 本能に忠実なため空腹には勝てない。部屋のど真ん中に鎮座したれいむは、大声で叫んだ。 「おなかすいたよ!!はやくりんごちょうだいね!!」 「はいはい、今出すからね」 お兄さんは籠の中からりんごを3つ取り出すと、れいむの目の前に置いた。 「むしゃむしゃ…しあわせ~♪」 お腹をすかせていたれいむは、あっという間に3つのりんごを食べつくしてしまった。 「りんごおいしいね!!でもこんなんじゃたりないよ!!もっとちょうだい!!」 「これ以上はダメだよ。残りは明日食べようね」 そう言って、りんごの入った籠を台所に持っていってしまうお兄さん。 れいむは不満そうな顔をしながらも、我慢することにした。 「さて、僕はちょっと用事があるから出かけるね。れいむはゆっくりお留守番しててね」 「ゆゆ!!わかったよ!!ゆっくりまってるね!!」 「じゃあ行ってきます…あ、そうそう、ひとつだけ約束して欲しいことがあるんだ」 お兄さんはれいむの目の前にしゃがみ込んで、神妙な声で語りかける。 ただならぬ雰囲気を感じたれいむは、「ゆ?」と首をかしげた。 「台所にはりんごが沢山あるんだけど…“ぜ っ た い に”食べたらダメだよ」 「ゆゆ!!」 「お兄さんとの約束、守れるかな?」 れいむはしばらく考え込んだあと…ぴょんと跳びはねながら満面の笑みで答えた。 「まもれるよ!!りんごはもうたべないよ!!あしたたべるんだもんね!!」 「そうそうよく分かったね、れいむは偉いね。じゃあ行ってきます。 お土産も買ってくるから楽しみにしててね!」 お兄さんはれいむに手を振りながら、笑顔で家から出て行った。 お兄さんが家から出て扉を閉じると…れいむは一目散に台所へ向かった。 もちろん先ほどの約束は覚えている。覚えているが、れいむはその約束を破るために台所に来たのだ。 台所に入ると、床の上にはりんごが沢山入った籠が置いてあった。 しかし、その籠はかなり大きいため、このままではりんごを食べることは出来ない。 そこでれいむは、ここから跳びはねて籠の中に入ればいい、と考えた。 「ゆゆ…ゆっくりとぶよ!……それっ!」 しかし、れいむが思い描いたとおりにはならなかった。れいむは自分の跳躍能力を過信していたのだ。 れいむの体は籠のふちに当たって、そのままぼよんと床落ちて2,3回弾んだ。 「ゆ!いたい!!いたいよ!!」 バウンドが止まると、れいむは体勢を整えて籠のほうに目をやる。 そこには… 「ゆゆ…やったね!!さくせんせいこうだよ!!」 先ほどの衝撃で倒れた籠が転がっていた。りんごは床の上に転がってしまっている。 予定とは違うが、結果オーライ。れいむは早速りんごを貪り始めた。 「むーしゃむーしゃ!!しあわせ~!!」 それは、れいむにとって最後の“しあわせ”だった。 時間も忘れて、りんごを食べ続けるれいむ。 ふと、遠くから扉を開く音が聞こえ、続けてお兄さんの声も聞こえてきた。 「ただいまー!」 「ゆ゛っ!?」 そこで、れいむは初めて我に返った。 周りには食いかけのりんごが撒き散らされている。 そして、倒れたまま転がっている籠。 れいむは今になって気づいたのだ…このままでは、約束を破ったことがバレてしまう、と。 「ゆっゆゆ!!」 慌ててその場を跳ね回るれいむだが、いまさらどうにかなるわけでもない。 台所にやってきたお兄さんに、決定的な犯行現場を目撃されてしまった。 目の前の惨状に、思わず声を上げてしまうお兄さん。 「これは…!」 「ゆゆっ……お、おにーさんのりんごおいしかったよ!!もっとたべさせてね!!」 こんなことを言いながら、精一杯媚びた笑顔を浮かべるれいむ。 一瞬お兄さんのこめかみに青筋が浮かんだが、れいむはそれを見ていなかった。 「…はぁ」 大きなため息をつくと、お兄さんはれいむの方へと歩み寄る。 何かされると思ったれいむは、強く目をつぶった。 「ゆゆ!!ゆっくりやめてね!!……ゆ?」 次にやってきたのは、痛みではなく浮遊感だった。 目を開けると、れいむはお兄さんに抱きかかえられており、そのまま最初の部屋に連れ戻された。 宙で手を放され、ぽよんと床に落ちるれいむ。 「ゆ?ゆるしてくれるの!?」 お兄さんを見上げて声をかけるが、お兄さんは無言で台所へ行ってしまった。 おそらくれいむが荒らした台所を片付けるためだろう。 とりあえず危機は去ったと思ったれいむは、その部屋でゆっくりし始める。 床の上をコロコロ転がったり、ベッドの上でぽんぽん弾んでみたり。 でも、お兄さんがいつまでたっても戻ってこないので、れいむは退屈になってきた。 ちょうどそのとき、れいむはあることを思い出して…お兄さんのいる台所へと向かった。 そこでは、れいむが食べ散らかしたりんごをお兄さんが片付けている最中だった。 「おにーさん!!おみやげはどこ!?れいむにゆっくりちょうだいね!!」 「……」 満面の笑みを浮かべるれいむに、沈黙するお兄さん。 お兄さんの顔はぴくりとも動かず、台所の片づけを続けている。 何か返答があるのだろうと待っていたれいむだが、いつまでたってもお兄さんは答えてくれない。 「おにーさん!!おみやげちょうだい!!れいむにちょうだい!!」 ぽんぽんお兄さんの目の前で跳ねて見せるが、お兄さんはまったく目もくれない。 邪魔そうにするそぶりすら見せない。 やがて台所を片付け終えると、お兄さんは先ほどの部屋に戻って本を読み始めた。 「れいむをむししないでね!!れいむにおみやげちょうだいね!!」 お兄さんの視界に入るように、喚き散らしながら上下に跳ねるれいむ。 それでもお兄さんはまったく反応しない。まるで、れいむが見えていないかのように… さすがのれいむも、何かが違うと感じ取ったのだろう。 形容できない怖さに身を震わせながらも、れいむは必死にお兄さんの目の前でジャンプする。 「おにーさん!!れいむはここにいるよ!!むししないでね!!」 が、返されるのは沈黙だけ。 お兄さんは本を読み終えると、それを本棚に戻してベッドにもぐりこんでしまった。 歯を食いしばって「ゆぎぎぎ…」と唸るれいむ。 もう何がなんだか分からないが。とにかく怒りと不安だけが蓄積されていく。 「おきてよ!!ねないで!!れいむといっしょにゆっくりしていってね!!」 お兄さんはまったく反応せずすやすやと眠っている。 れいむはお兄さんの体の上に乗ってどんどん跳ねるが、それでも目を覚まさない。 一体どうしたら自分の相手をしてくれるのか、れいむには全然わからなかった。 「ゆ゛っくりしてい゛ってね゛!!!!ゆ゛っくり゛してい゛ってね!!!!」 れいむの貧弱な語彙力では、もうそれしか言うことはなくなってしまっていた。 結局、れいむは疲れ果てて眠りにつくまでの10時間、ずっとお兄さんを起こすべく跳ね続けたのだった… 「……ゆ!?ゆっくりしていってね!!」 差し込む朝日のまぶしさで目を覚まし、いつもどおりの言葉と共に起き上がるれいむ。 周りの状況がいつもと違うので最初は戸惑ったが… ぐるぐる周囲を見回して、少しずつ自分が置かれた状況を理解する。 ここはお兄さんの部屋。そして自分はベッドの上にいる…という具合に。 目が覚めてくると、まず最初に視界に入ったのはお兄さんの姿だ。 お兄さんはテーブルに向かって何かをしている。 興味をそそられたれいむは、跳びはねてお兄さんの足元へと向かった。 「おにーさん!!なにしてるの!?れいむにゆっくりみせてね!!」 黙殺するお兄さん。 お兄さんは味噌汁を啜ったり、目玉焼きを口に運んだり…簡単に言えば、朝食をとっていた。 口に何か物を入れる動作を見て、すぐにそれが食べ物だと分かったれいむは… 「れいむもおなかすいたよ!!ゆっくりごはんをもってきてね!!」 …お兄さんは沈黙したまま食事を続ける。 れいむはお兄さんの脚に体当たりするが、お兄さんは何事もないように沈黙を守ったまま。 しばらくすると、食事を終えたお兄さんはお皿を抱えて台所に向かう。 「ゆ!!おなかすいたよ゛!!ごはんをもってきてね゛!!」 涙目になりながらお兄さんの前に立ちはだかるが、れいむに見向きもしないお兄さんはそのまま歩き続け… ぽーん!! 「ゆぎゅ!?」 れいむは軽く蹴飛ばされてコロコロ転がり、ゴミ箱にぶつかって止まった。 倒れたゴミ箱からばらばらとゴミがあふれ出し、れいむはその下敷きになってしまう。 「ゆぐっ!!ぐるじいよ!!おにーざんだずげで!!」 ちょうど台所から出てきたお兄さんは、散らばっているゴミを見ると不思議そうな顔をしてれいむのほうへ 歩み寄ってきた。 やっと自分を見てくれた…そう思ったれいむは、心から安心しきっていた。 ところが… 「はぁ…何もしてないのに、どうしてゴミ箱が倒れてるんだろう?」 「ゆ!!れいむがぶつかってたおしたんだよ!!ゆっくりここにいるよ!!」 「うーん…ここら辺は後で掃除しないといけないな」 やはりお兄さんは、れいむなど存在しない、という風に振舞っている。 ゴミを粗方片付け終えると、お兄さんはそのまま本棚の前でこれから読む本を選び始めた。 「ゆぐぐぐぐ!!どうじでむじずるの゛!?れいぶはごごにいるのにぃぃぃぃぃ!!!」 涙声で訴えるれいむ。しかし、その訴えもお兄さんには届いていないようだ。 お兄さんの読書タイム。 れいむは、椅子に座りテーブルに向かって読書するお兄さんの足元で、ずっと喚き続けた。 「おにーざん!!おながずいだよ!!ごはんもっでぎでね゛!!!」 「だいぐづだよ!!いっじょにゆっぐりじようよ゛!!!」 「おねがいだがらごっじむいでよ゛!!れいぶをぶじじないでえ゛え゛え゛ぇぇぇ!!!」 とうとう泣き始めるれいむ。それでも、お兄さんはまったく反応を示さない。 もっともっとお兄さんに呼びかけたかったが、空腹のせいで体に力が入らない。 れいむはそれでも声を張り上げながら、お兄さんの脚に自分の体を擦り付けることで気を引こうとした。 そのままお兄さんは読書を続け…4時間が経った。 「ゆ゛っ…ゆ゛っぐり゛じようよぅ…!」 声を張り上げようとしても空腹は限界に達しており、また喉もかれていたのであまり声が出ない。 どうしてお兄さんは自分にまったく見向きもしないのか。 自分はここにいるのに、どうしてお兄さんは自分がいないように振舞うのか。 れいむは必死に考えたが、すぐに餡子脳の限界に達してしまって考えるのを止めた。 れいむには、お兄さんがとる行動の意味も、自分が昨日約束を破ってしまったことも、まったく頭の中に なかったのだ。 そして12時。昼食の時間である。 お兄さんは電話の受話器を上げて、どこかに電話をかける。 「えーと、味噌ラーメンと…ギョウザ!…そうです、どっちも一人前で」 ラーメンの出前だった。しかし、れいむは昼食のメニューよりも『一人前』という言葉がショックだった。 「ふだりだよ゛!!れいむ゛もいるがら!!だべぼのはふだりぶんだよ゛!!!」 やはり、自分の存在を認識されていない。餡子脳でもそれがハッキリとわかった。 しばらくしてやってきた出前のおじさんから品を受け取り、代金を支払うお兄さん。 味噌ラーメンとギョウザ。確かに頼んだものが届いた、と確認する。 しかし、その目は…れいむの姿をまったく捉えていない。 「はふっ!…あーうまい!!」 ひとりで昼食をとり始めるお兄さん。 その間、れいむは足元でひたすら食べ物をねだり続けるが…答えは返ってこない。 「おながずいだよぅ…ゆっぐりでぎないよぅ…!」 朝昼と2食も食事を抜いているため、れいむは普段の元気を失っていた。 無理やり食べ物を横取りしようにも、テーブルはれいむが飛び移ることの出来ない高さだ。 そして、お兄さんに体当たりしても全然びくともしない。 万策尽きたれいむは… 「ゆ……おねがいだがらゆっぐりざぜでよぅ!!」 その言葉をお兄さんに無視されると、ずりずり這いずってベッドのほうへ向かった。 もうベッドの上に飛び移る体力もないれいむは、そのままうとうとし始めた… それから一週間。 れいむはことあるごとにお兄さんの気を引こうとしたが、その全ては完全に黙殺された。 お兄さんは食事を全てテーブルについて取るので、れいむは横取りすることも出来ないし、 おこぼれにあずかることも出来ない。 まともな食事にありつけないれいむにとって、唯一の食べ物… それは、時折どこからともなくやってくる蚊やハエ、そしてゴキブリだった。 「むーしゃ…むーしゃ…」 …全然“しあわせ”じゃない。 人間に例えれば雑草を茹でて食べるような行為を、れいむは続けるしかなかったのだ。 たまにお兄さんがしゃべる時といえば、それは電話の相手との会話だった。 最初は自分に話しかけてくれたと喜んで跳ねるのだが、すぐにそれがぬか喜びだと思い知らされた。 電話の相手と談笑するお兄さんに背を向けて、れいむはテーブルの下で「ゆっぐりぃ…」とため息をつく。 外に出たい、という願いも無視されるため、家の外に出ることもできない。 れいむの体の構造では、玄関の扉も窓も自力で開けることができないからだ。 「みんなでいっしょにゆっくりしようね!!」 「ゆゆー!!おかーさんおうたうたってー!!」 「ゆっゆっゆ~♪ゆゆっゆゆ~♪」 「ゆっぐ…いっじょにゆっぐりじだいよぉ……!!」 窓の外で仲良くゆっくりしているゆっくり一家を見て、れいむは悔し涙を流した。 どんなに大声を上げても、外のゆっくり一家は振り向いてはくれなかった… 当然、お風呂にも入れてもらえない。 「すっきりしたいよー!!」とお兄さんの目の前で跳ねてみたこともあった。 しかし、お兄さんはそれに気づかずにれいむを蹴飛ばして、風呂場へ去っていってしまう。 れいむは壁にぶつかって…「ゆっ、ゆっぐ…」と涙を滲ませた。 ただ蹴られただけなら、こうはならない。 「けらないでね!!ゆっくりあやまってね!!」と謝罪を求めるぐらいのことはするだろう。 だが…このれいむは、ただ蹴られたのではない。自分の存在が、お兄さんに認められていないのだ。 お兄さんには自分が見えていない。自分が聞こえていない。お兄さんの中には、自分が…いない。 「れいむ゛はごごにいるのに゛!!どぼじでむじずるの゛!?」 どんなに泣き喚いても、お兄さんはこっちを向いてくれない。慰めてもくれない。 自分はここにいるよ。ずっと前からここにいるよ。だからこっちを向いて! そんな心からの叫びも、ことごとく受け流される。 「ゆっぐ……ゆっぐりぃ……ゆっぐりいいぃぃぃ…!!」 れいむを腐らせるのは、この上ない孤独。 腐っていくのは体ではない、心である。 自分と同じ姿をしたゆっくりの幻覚を見ては、それに話しかけようとするが… 「ゆっぐりじでいっで……あぁぁぁぁぁなんでいなぐなっぢゃうのおお゛お゛お゛!??」 何かの見間違いだったのだろう、それはすぐにかき消えてしまう。 かつてはただの食料でしかなかったハエやゴキブリに対しても… 「ゴキブリさん…いっしょにゆっくりしようね…!」 などと話しかけて、頬ずりまでしようとする始末。 ゴキブリがどこかに去っていくと、れいむは孤独によってさらに心をえぐられるのだった。 そしてさらに一週間がたって… れいむに、転機が訪れた。 「ゆっ……ゆっ…」 意味もなく、意味のない声を出し続けるれいむ。 精神的なダメージは限界に来ていた。 目はすでに輝きを失い、満足な食料を得られないために体中が乾ききっていた。 唯一潤っていると言えば、だらしなく開いた口から漏れている涎ぐらいだろう… お風呂に入れてもらっていないため、髪はボサボサで髪飾りも黄色く変色していた。 「ただいまー」 そこへ、仕事を終えて帰ってきたお兄さんが現れた。 いつもなら目の前のれいむの存在などまったく気にしないで、ベッドで休憩するのだが… 今日のお兄さんは、いつもとは様子が違った。 「…え、れいむ?」 「ゆっ!?」 テーブルの下に篭っていたれいむは、最初何が起こったのかわからなかった。 お兄さんが、二週間ぶりに自分の名前を口にした。 れいむは驚きと喜びのあまり、うまく声が出なかった。 でも…気のせいではない。お兄さんはじっとれいむの方を見ている。 お兄さんの目には、確かにれいむの姿が映っているのだ。 「れいむ…やっと帰ってきたのか!!今までどこに行ってたんだ!?」 そう言ってれいむを抱き上げ、強く強く抱きしめる。 れいむは苦しくてたまらなかったが、それよりもお兄さんが自分を見てくれたという喜びが勝った。 今なら…今だけなら、どんなに強く抱きしめられても、我慢できる。 とめどない涙で前が見えなくなっても、全然気にならなかった。 お兄さんがれいむを放すまで、れいむは抱きしめられたままゆっくりし続けた。 これでやっとゆっくりできる。もう一人ぼっちじゃない。 これからはお兄さんと思う存分ゆっくりできるんだ…! そして、れいむをベッドに置くとお兄さんはれいむを見下ろして問い始める。 「今までどこに行ってたんだ!!勝手に出て行ったらダメじゃないか!!」 「ゆっ!!れいむずっどごごにいだよ゛!でもおにーざんがむじじだんだよ゛!!」 「はぁ?どうしてそんな嘘をつくんだ!ずっとれいむを心配してたお兄さんの身にもなってみろ!!」 バン!!とテーブルを強く叩く音に、れいむは身震いした。 「で、でも゛!!ほんどだよ゛!!れいむはずっどゆっぐでぃおうぢにいだよ゛!!!」 「まだ言うか…そんな嘘をつくれいむとはゆっくりできないな」 「ゆ゛!?」 “れいむとはゆっくりできない” いやな予感がした。 よくわからないけど…よくわからないのに、れいむは震えていた。 何かが怖い。それが何なのか分からないけど、とにかく怖い。 「れいむがそういう嘘をつくのなら……お兄さんは『一人でゆっくりする』よ」 びくっ!! 何もされていないのに、れいむの体が痙攣した。 脳裏に思い浮かぶのは、お兄さんに無視され続けた二週間の出来事。 次の瞬間には、れいむは先ほどの態度と打って変わって、泣き叫びながら必死に謝罪し始めた。 「いやだあああああああおぁっぁぁぁ!!!ひどりでゆっぐりじないでええ゛え゛え゛え゛ぇぇぇぇ!!! れいむもいっじょにゆっぐりざぜでよお゛お゛お゛お゛ぉぉぉぉぉ!!!」 「『一緒にゆっくりさせてください』…だろ?」 「いっじょにっ!!おねがいでずがら!!いっじょにゆっぐりざぜでぐだざい゛い゛い゛ぃぃぃ!!!」 「よし、そこまで言うならしょうがない。許してあげるよ!」 普段どおりの、優しいお兄さんだった。 それから。 お兄さんとれいむは、いつまでも一緒にゆっくりし続けた。 たまにれいむが何か文句を言うと、お兄さんは優しくこう問いかける。 『一人でゆっくりするかい?』 そう問いかけてやれば、れいむは必ず文句を言うのを止めた。 不味いご飯も我慢した。三日お風呂に入れてもらえなくても我慢した。 外に出してもらえなくても我慢した。遊んでもらえなくても我慢した。 砂を食べさせられても我慢した。熱湯を飲まされても我慢した。 目にわさびを塗られても我慢した。舌にからしを塗られても我慢した。 頭に穴を開けられて、餡子を少し吸われても我慢した。 かなづぢで体中を叩かれても我慢した。釘で貫かれても我慢した。 体の一部をちぎられても我慢した。自慢のリボンを取られても我慢した。 髪の毛を引きちぎられても我慢した。タバコの火を押し付けられても我慢した。 舌をちぎられても、目をえぐられても、とにかく我慢した。 ただただ、あの一言が怖かったから。 『一人でゆっくりするかい?』 その言葉が聞きたくないから、れいむは我慢し続けた。 お兄さんとれいむは、いつまでも一緒にゆっくりし続けた。 にっこり微笑むお兄さんに、原形をとどめない顔で微笑み返すれいむ。 お兄さんは…とてもとても、優しかった。 GOOD END あとがき いつもよりあっさり、それでいてマイルドに仕上がったと思います。 ごゆるりと… 作:避妊ありすの人 このSSに感想を付ける
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「消極的制裁行為」 ゆっくりたちが多く暮らしている、人里に隣接している草原。 ひらひらと宙を舞う蝶を追いかけて、ぴょんぴょん跳ねているのは一匹のゆっくりれいむだ。 れいむは綺麗なお花畑の花を踏み潰しながら、夢中で蝶を追いかけていく。 「ゆっゆっ!ちょうちょさんまってね!!」 ぴょんと大きくジャンプするれいむ。 口をあんぐりと開けて、蝶を飲み込もうとするが…紙一重のところで避けられてしまう。 「ゆぐぐぐぐ!!ひどいよちょうちょさん!!ゆっくりたべられてね!!!」 地団駄を踏むれいむ。しかし、蝶だってそう簡単に食べられてくれるわけがない。 れいむが追う蝶は、そのまま木の上のほうへ上っていった。 「ゆゆ!!まってねちょうちょさん!!」 枝の隙間をぬって飛んでいく蝶。 れいむはそれを目視すると、勢いをつけて大きくジャンプした…! 太い枝の上に飛び乗ったれいむ。その枝を伝って、蝶を追いかける…が。 一瞬の油断だった。焦ってしまったばかりに、れいむは足を踏み外してしまったのだ。 「ゆゆぅ!!おちちゃうよ!!」 このまま地面に激突すれば、無傷ではすまない。 直後襲うであろう激痛の恐怖に、れいむは強く目をつぶった。 がさがさ!!がささっ!!! しかし、れいむは地面に落下することはなかった。 れいむはゆっくりと目を開く。何故か、目に映るもの全てが逆さまだった。 そして、宙に浮いているような不思議な感覚。 れいむ自身には、何が起こったのかわからないだろう。 実は枝から落ちたときに、れいむの髪飾りが細い枝に引っかかったのだ。 その細い枝はそのままれいむの体重を支え、結果としてれいむを地面への落下から守った。 ぐい~ん! 枝の弾力で上のほうへ引き戻されるれいむ。 地面への落下を免れたれいむは…上下逆さまの状態で宙吊りになっていた。 当のれいむも、だんだん状況を理解していく。 自分が助かったとわかると、安心して「ゆっくりぃ~♪」と微笑んだ。 だが、本当の悲劇はここからだった。 十分ゆっくりしたので家に帰ろうと、枝から降りようとする。 そこで、初めてれいむは自分が置かれた状況を、正確に理解したのだった。 「ゆっ!ゆっ!」 宙吊りのままのれいむは、ゆっさゆっさと体を揺さぶる。しかし、枝から自分の身体が外れる気配はない。 髪飾りは、周囲の細い枝としっかり絡まっている…四肢を持たないゆっくりには解くことは出来なかった。 「ゆー!だれかたすけて!!ここじゃゆっくりできないよ!!」 最初は浮遊感を楽しんでいたれいむだが、自力での脱出が無理だと分かった途端助けを求め始める。 しかし…周りには人間はおろか、ゆっくりや他の野生生物もいない。 仮に見つけてもらったとしても、助けてもらえる保障はどこにもないのだ。 「ゆっくりしたけっかがこれだよおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」 あれから3時間。 おでこに止まった蝶に「ゆっくりたべられてね!」と舌を伸ばすも届かず、あっさり逃げられた。 あるとき、人里のほうから子供たちがやってきた。誰も居ない寂しさから開放されて喜んだれいむ。 れいむはその喜びを表現しようと、歌を歌い始めた。 「ゆっゆっゆ~♪」 しかし、その歌を気持ち悪がられ「きもーい!」「しね!!」などと罵られる。 「ゆ!!れいむはきもちわるくないよ!!れいむはかわいいゆっくりだよ!!」 とれいむが口答えすると、子供たちは下から木の棒でつついたり、ぺちぺちと全身を叩いたりして れいむの反応を楽しんだ。その間もれいむを罵倒し続ける子供たち。 とうとうれいむは泣き出してしまった。 「ゆっ…ゆゆっ、ゆ゛っぐり゛いいいぃぃぃ!!!」 「うわ!!こいつ泣いてるぞ!!気持ちわりぃ!」「もう飽きたな。早く帰ろう!」 「皆でおやつ食べようぜ!お母さんがクッキー焼いてくれるって!」 宙吊りのれいむを放置して、子供たちは走り去っていく。 そして、事態は一向に進展しないまま、今に至る。 「ゆっくりー!!」と叫んでみても、誰も来ない。 それに、だんだんお腹がすいてきた。 きっと、さっきの子供たちは今頃おいしいおやつを食べているだろう。 そう思うと、れいむの空腹はさらに強くなってくる。 「ゆっくりぃ…」 お腹に力が入らず、声が出ない。 たまに体を揺さぶってみるが、やはり無駄だった。細い枝に引っかかった髪飾りは、びくともしない。 諦めて、宙にぶら下がったままうとうとし始める… そこへ、一人のお兄さんがやってきた。 「お、君はそこで何をやってるんだい?」 お兄さんは何かがいっぱい入った籠を背負っている。 話しかけられたれいむは、ゆっくりと質問に答えた。 「ゆ!ゆっくりひっかかっちゃったよ!!」 「そうか、だから逆さまにぶら下がってるんだね。…それ!」 ぴん!とれいむの体を指ではじくお兄さん。 ゆらゆらと振り子のように揺さぶられるれいむは、ぷんぷんと体を膨らませた。 「おにーさんひどいよ!!ゆっくりたすけてね!!」 「あはは、面白いなぁ♪…よし、今から下ろしてあげるから、ちょっと待っててね」 すると、お兄さんはれいむの髪飾りに絡まった細い枝を丁寧に解いて、れいむを地面に下ろしてくれた。 「ゆゆ!!ありがとう!!これでゆっくりできるよ!!」 「そうかい、じゃあ僕は帰るから、ゆっくりしていってね!」 れいむに背を向けて去っていくお兄さん。 彼が背負っている籠の中身がれいむの目に入ると、れいむは大声でお兄さんを呼び止めた。 「おにーさん!!それなあに!?」 「あ、これかい?これは“りんご”だよ。食べたことないの?」 「たべものなの!?れいむたべたいよ!!ゆっくりちょうだいね!!」 遠慮の欠片もないれいむ。お兄さんの目の前にやってきて、図々しく大きな口を開けた。 「うーん……それじゃあ、お兄さんの家に来てくれるかい?来てくれればりんごをあげるよ」 「ゆ!!いくよ!!おにーさんのおうちでゆっくりりんごをたべるよ!!」 「そうと決まったら早速出発だ!お兄さんの家はこっちだよ」 そうしてお兄さんとれいむは、人里離れたお兄さんの家へと向かった。 お兄さんが扉を開けると、れいむはすごい勢いでその中に飛び込んだ。 昼間から木の枝に宙吊りになっていたから、今まで何も食べてないのだ。 本能に忠実なため空腹には勝てない。部屋のど真ん中に鎮座したれいむは、大声で叫んだ。 「おなかすいたよ!!はやくりんごちょうだいね!!」 「はいはい、今出すからね」 お兄さんは籠の中からりんごを3つ取り出すと、れいむの目の前に置いた。 「むしゃむしゃ…しあわせ~♪」 お腹をすかせていたれいむは、あっという間に3つのりんごを食べつくしてしまった。 「りんごおいしいね!!でもこんなんじゃたりないよ!!もっとちょうだい!!」 「これ以上はダメだよ。残りは明日食べようね」 そう言って、りんごの入った籠を台所に持っていってしまうお兄さん。 れいむは不満そうな顔をしながらも、我慢することにした。 「さて、僕はちょっと用事があるから出かけるね。れいむはゆっくりお留守番しててね」 「ゆゆ!!わかったよ!!ゆっくりまってるね!!」 「じゃあ行ってきます…あ、そうそう、ひとつだけ約束して欲しいことがあるんだ」 お兄さんはれいむの目の前にしゃがみ込んで、神妙な声で語りかける。 ただならぬ雰囲気を感じたれいむは、「ゆ?」と首をかしげた。 「台所にはりんごが沢山あるんだけど…“ぜ っ た い に”食べたらダメだよ」 「ゆゆ!!」 「お兄さんとの約束、守れるかな?」 れいむはしばらく考え込んだあと…ぴょんと跳びはねながら満面の笑みで答えた。 「まもれるよ!!りんごはもうたべないよ!!あしたたべるんだもんね!!」 「そうそうよく分かったね、れいむは偉いね。じゃあ行ってきます。 お土産も買ってくるから楽しみにしててね!」 お兄さんはれいむに手を振りながら、笑顔で家から出て行った。 お兄さんが家から出て扉を閉じると…れいむは一目散に台所へ向かった。 もちろん先ほどの約束は覚えている。覚えているが、れいむはその約束を破るために台所に来たのだ。 台所に入ると、床の上にはりんごが沢山入った籠が置いてあった。 しかし、その籠はかなり大きいため、このままではりんごを食べることは出来ない。 そこでれいむは、ここから跳びはねて籠の中に入ればいい、と考えた。 「ゆゆ…ゆっくりとぶよ!……それっ!」 しかし、れいむが思い描いたとおりにはならなかった。れいむは自分の跳躍能力を過信していたのだ。 れいむの体は籠のふちに当たって、そのままぼよんと床落ちて2,3回弾んだ。 「ゆ!いたい!!いたいよ!!」 バウンドが止まると、れいむは体勢を整えて籠のほうに目をやる。 そこには… 「ゆゆ…やったね!!さくせんせいこうだよ!!」 先ほどの衝撃で倒れた籠が転がっていた。りんごは床の上に転がってしまっている。 予定とは違うが、結果オーライ。れいむは早速りんごを貪り始めた。 「むーしゃむーしゃ!!しあわせ~!!」 それは、れいむにとって最後の“しあわせ”だった。 時間も忘れて、りんごを食べ続けるれいむ。 ふと、遠くから扉を開く音が聞こえ、続けてお兄さんの声も聞こえてきた。 「ただいまー!」 「ゆ゛っ!?」 そこで、れいむは初めて我に返った。 周りには食いかけのりんごが撒き散らされている。 そして、倒れたまま転がっている籠。 れいむは今になって気づいたのだ…このままでは、約束を破ったことがバレてしまう、と。 「ゆっゆゆ!!」 慌ててその場を跳ね回るれいむだが、いまさらどうにかなるわけでもない。 台所にやってきたお兄さんに、決定的な犯行現場を目撃されてしまった。 目の前の惨状に、思わず声を上げてしまうお兄さん。 「これは…!」 「ゆゆっ……お、おにーさんのりんごおいしかったよ!!もっとたべさせてね!!」 こんなことを言いながら、精一杯媚びた笑顔を浮かべるれいむ。 一瞬お兄さんのこめかみに青筋が浮かんだが、れいむはそれを見ていなかった。 「…はぁ」 大きなため息をつくと、お兄さんはれいむの方へと歩み寄る。 何かされると思ったれいむは、強く目をつぶった。 「ゆゆ!!ゆっくりやめてね!!……ゆ?」 次にやってきたのは、痛みではなく浮遊感だった。 目を開けると、れいむはお兄さんに抱きかかえられており、そのまま最初の部屋に連れ戻された。 宙で手を放され、ぽよんと床に落ちるれいむ。 「ゆ?ゆるしてくれるの!?」 お兄さんを見上げて声をかけるが、お兄さんは無言で台所へ行ってしまった。 おそらくれいむが荒らした台所を片付けるためだろう。 とりあえず危機は去ったと思ったれいむは、その部屋でゆっくりし始める。 床の上をコロコロ転がったり、ベッドの上でぽんぽん弾んでみたり。 でも、お兄さんがいつまでたっても戻ってこないので、れいむは退屈になってきた。 ちょうどそのとき、れいむはあることを思い出して…お兄さんのいる台所へと向かった。 そこでは、れいむが食べ散らかしたりんごをお兄さんが片付けている最中だった。 「おにーさん!!おみやげはどこ!?れいむにゆっくりちょうだいね!!」 「……」 満面の笑みを浮かべるれいむに、沈黙するお兄さん。 お兄さんの顔はぴくりとも動かず、台所の片づけを続けている。 何か返答があるのだろうと待っていたれいむだが、いつまでたってもお兄さんは答えてくれない。 「おにーさん!!おみやげちょうだい!!れいむにちょうだい!!」 ぽんぽんお兄さんの目の前で跳ねて見せるが、お兄さんはまったく目もくれない。 邪魔そうにするそぶりすら見せない。 やがて台所を片付け終えると、お兄さんは先ほどの部屋に戻って本を読み始めた。 「れいむをむししないでね!!れいむにおみやげちょうだいね!!」 お兄さんの視界に入るように、喚き散らしながら上下に跳ねるれいむ。 それでもお兄さんはまったく反応しない。まるで、れいむが見えていないかのように… さすがのれいむも、何かが違うと感じ取ったのだろう。 形容できない怖さに身を震わせながらも、れいむは必死にお兄さんの目の前でジャンプする。 「おにーさん!!れいむはここにいるよ!!むししないでね!!」 が、返されるのは沈黙だけ。 お兄さんは本を読み終えると、それを本棚に戻してベッドにもぐりこんでしまった。 歯を食いしばって「ゆぎぎぎ…」と唸るれいむ。 もう何がなんだか分からないが。とにかく怒りと不安だけが蓄積されていく。 「おきてよ!!ねないで!!れいむといっしょにゆっくりしていってね!!」 お兄さんはまったく反応せずすやすやと眠っている。 れいむはお兄さんの体の上に乗ってどんどん跳ねるが、それでも目を覚まさない。 一体どうしたら自分の相手をしてくれるのか、れいむには全然わからなかった。 「ゆ゛っくりしてい゛ってね゛!!!!ゆ゛っくり゛してい゛ってね!!!!」 れいむの貧弱な語彙力では、もうそれしか言うことはなくなってしまっていた。 結局、れいむは疲れ果てて眠りにつくまでの10時間、ずっとお兄さんを起こすべく跳ね続けたのだった… 「……ゆ!?ゆっくりしていってね!!」 差し込む朝日のまぶしさで目を覚まし、いつもどおりの言葉と共に起き上がるれいむ。 周りの状況がいつもと違うので最初は戸惑ったが… ぐるぐる周囲を見回して、少しずつ自分が置かれた状況を理解する。 ここはお兄さんの部屋。そして自分はベッドの上にいる…という具合に。 目が覚めてくると、まず最初に視界に入ったのはお兄さんの姿だ。 お兄さんはテーブルに向かって何かをしている。 興味をそそられたれいむは、跳びはねてお兄さんの足元へと向かった。 「おにーさん!!なにしてるの!?れいむにゆっくりみせてね!!」 黙殺するお兄さん。 お兄さんは味噌汁を啜ったり、目玉焼きを口に運んだり…簡単に言えば、朝食をとっていた。 口に何か物を入れる動作を見て、すぐにそれが食べ物だと分かったれいむは… 「れいむもおなかすいたよ!!ゆっくりごはんをもってきてね!!」 …お兄さんは沈黙したまま食事を続ける。 れいむはお兄さんの脚に体当たりするが、お兄さんは何事もないように沈黙を守ったまま。 しばらくすると、食事を終えたお兄さんはお皿を抱えて台所に向かう。 「ゆ!!おなかすいたよ゛!!ごはんをもってきてね゛!!」 涙目になりながらお兄さんの前に立ちはだかるが、れいむに見向きもしないお兄さんはそのまま歩き続け… ぽーん!! 「ゆぎゅ!?」 れいむは軽く蹴飛ばされてコロコロ転がり、ゴミ箱にぶつかって止まった。 倒れたゴミ箱からばらばらとゴミがあふれ出し、れいむはその下敷きになってしまう。 「ゆぐっ!!ぐるじいよ!!おにーざんだずげで!!」 ちょうど台所から出てきたお兄さんは、散らばっているゴミを見ると不思議そうな顔をしてれいむのほうへ 歩み寄ってきた。 やっと自分を見てくれた…そう思ったれいむは、心から安心しきっていた。 ところが… 「はぁ…何もしてないのに、どうしてゴミ箱が倒れてるんだろう?」 「ゆ!!れいむがぶつかってたおしたんだよ!!ゆっくりここにいるよ!!」 「うーん…ここら辺は後で掃除しないといけないな」 やはりお兄さんは、れいむなど存在しない、という風に振舞っている。 ゴミを粗方片付け終えると、お兄さんはそのまま本棚の前でこれから読む本を選び始めた。 「ゆぐぐぐぐ!!どうじでむじずるの゛!?れいぶはごごにいるのにぃぃぃぃぃ!!!」 涙声で訴えるれいむ。しかし、その訴えもお兄さんには届いていないようだ。 お兄さんの読書タイム。 れいむは、椅子に座りテーブルに向かって読書するお兄さんの足元で、ずっと喚き続けた。 「おにーざん!!おながずいだよ!!ごはんもっでぎでね゛!!!」 「だいぐづだよ!!いっじょにゆっぐりじようよ゛!!!」 「おねがいだがらごっじむいでよ゛!!れいぶをぶじじないでえ゛え゛え゛ぇぇぇ!!!」 とうとう泣き始めるれいむ。それでも、お兄さんはまったく反応を示さない。 もっともっとお兄さんに呼びかけたかったが、空腹のせいで体に力が入らない。 れいむはそれでも声を張り上げながら、お兄さんの脚に自分の体を擦り付けることで気を引こうとした。 そのままお兄さんは読書を続け…4時間が経った。 「ゆ゛っ…ゆ゛っぐり゛じようよぅ…!」 声を張り上げようとしても空腹は限界に達しており、また喉もかれていたのであまり声が出ない。 どうしてお兄さんは自分にまったく見向きもしないのか。 自分はここにいるのに、どうしてお兄さんは自分がいないように振舞うのか。 れいむは必死に考えたが、すぐに餡子脳の限界に達してしまって考えるのを止めた。 れいむには、お兄さんがとる行動の意味も、自分が昨日約束を破ってしまったことも、まったく頭の中に なかったのだ。 そして12時。昼食の時間である。 お兄さんは電話の受話器を上げて、どこかに電話をかける。 「えーと、味噌ラーメンと…ギョウザ!…そうです、どっちも一人前で」 ラーメンの出前だった。しかし、れいむは昼食のメニューよりも『一人前』という言葉がショックだった。 「ふだりだよ゛!!れいむ゛もいるがら!!だべぼのはふだりぶんだよ゛!!!」 やはり、自分の存在を認識されていない。餡子脳でもそれがハッキリとわかった。 しばらくしてやってきた出前のおじさんから品を受け取り、代金を支払うお兄さん。 味噌ラーメンとギョウザ。確かに頼んだものが届いた、と確認する。 しかし、その目は…れいむの姿をまったく捉えていない。 「はふっ!…あーうまい!!」 ひとりで昼食をとり始めるお兄さん。 その間、れいむは足元でひたすら食べ物をねだり続けるが…答えは返ってこない。 「おながずいだよぅ…ゆっぐりでぎないよぅ…!」 朝昼と2食も食事を抜いているため、れいむは普段の元気を失っていた。 無理やり食べ物を横取りしようにも、テーブルはれいむが飛び移ることの出来ない高さだ。 そして、お兄さんに体当たりしても全然びくともしない。 万策尽きたれいむは… 「ゆ……おねがいだがらゆっぐりざぜでよぅ!!」 その言葉をお兄さんに無視されると、ずりずり這いずってベッドのほうへ向かった。 もうベッドの上に飛び移る体力もないれいむは、そのままうとうとし始めた… それから一週間。 れいむはことあるごとにお兄さんの気を引こうとしたが、その全ては完全に黙殺された。 お兄さんは食事を全てテーブルについて取るので、れいむは横取りすることも出来ないし、 おこぼれにあずかることも出来ない。 まともな食事にありつけないれいむにとって、唯一の食べ物… それは、時折どこからともなくやってくる蚊やハエ、そしてゴキブリだった。 「むーしゃ…むーしゃ…」 …全然“しあわせ”じゃない。 人間に例えれば雑草を茹でて食べるような行為を、れいむは続けるしかなかったのだ。 たまにお兄さんがしゃべる時といえば、それは電話の相手との会話だった。 最初は自分に話しかけてくれたと喜んで跳ねるのだが、すぐにそれがぬか喜びだと思い知らされた。 電話の相手と談笑するお兄さんに背を向けて、れいむはテーブルの下で「ゆっぐりぃ…」とため息をつく。 外に出たい、という願いも無視されるため、家の外に出ることもできない。 れいむの体の構造では、玄関の扉も窓も自力で開けることができないからだ。 「みんなでいっしょにゆっくりしようね!!」 「ゆゆー!!おかーさんおうたうたってー!!」 「ゆっゆっゆ~♪ゆゆっゆゆ~♪」 「ゆっぐ…いっじょにゆっぐりじだいよぉ……!!」 窓の外で仲良くゆっくりしているゆっくり一家を見て、れいむは悔し涙を流した。 どんなに大声を上げても、外のゆっくり一家は振り向いてはくれなかった… 当然、お風呂にも入れてもらえない。 「すっきりしたいよー!!」とお兄さんの目の前で跳ねてみたこともあった。 しかし、お兄さんはそれに気づかずにれいむを蹴飛ばして、風呂場へ去っていってしまう。 れいむは壁にぶつかって…「ゆっ、ゆっぐ…」と涙を滲ませた。 ただ蹴られただけなら、こうはならない。 「けらないでね!!ゆっくりあやまってね!!」と謝罪を求めるぐらいのことはするだろう。 だが…このれいむは、ただ蹴られたのではない。自分の存在が、お兄さんに認められていないのだ。 お兄さんには自分が見えていない。自分が聞こえていない。お兄さんの中には、自分が…いない。 「れいむ゛はごごにいるのに゛!!どぼじでむじずるの゛!?」 どんなに泣き喚いても、お兄さんはこっちを向いてくれない。慰めてもくれない。 自分はここにいるよ。ずっと前からここにいるよ。だからこっちを向いて! そんな心からの叫びも、ことごとく受け流される。 「ゆっぐ……ゆっぐりぃ……ゆっぐりいいぃぃぃ…!!」 れいむを腐らせるのは、この上ない孤独。 腐っていくのは体ではない、心である。 自分と同じ姿をしたゆっくりの幻覚を見ては、それに話しかけようとするが… 「ゆっぐりじでいっで……あぁぁぁぁぁなんでいなぐなっぢゃうのおお゛お゛お゛!??」 何かの見間違いだったのだろう、それはすぐにかき消えてしまう。 かつてはただの食料でしかなかったハエやゴキブリに対しても… 「ゴキブリさん…いっしょにゆっくりしようね…!」 などと話しかけて、頬ずりまでしようとする始末。 ゴキブリがどこかに去っていくと、れいむは孤独によってさらに心をえぐられるのだった。 そしてさらに一週間がたって… れいむに、転機が訪れた。 「ゆっ……ゆっ…」 意味もなく、意味のない声を出し続けるれいむ。 精神的なダメージは限界に来ていた。 目はすでに輝きを失い、満足な食料を得られないために体中が乾ききっていた。 唯一潤っていると言えば、だらしなく開いた口から漏れている涎ぐらいだろう… お風呂に入れてもらっていないため、髪はボサボサで髪飾りも黄色く変色していた。 「ただいまー」 そこへ、仕事を終えて帰ってきたお兄さんが現れた。 いつもなら目の前のれいむの存在などまったく気にしないで、ベッドで休憩するのだが… 今日のお兄さんは、いつもとは様子が違った。 「…え、れいむ?」 「ゆっ!?」 テーブルの下に篭っていたれいむは、最初何が起こったのかわからなかった。 お兄さんが、二週間ぶりに自分の名前を口にした。 れいむは驚きと喜びのあまり、うまく声が出なかった。 でも…気のせいではない。お兄さんはじっとれいむの方を見ている。 お兄さんの目には、確かにれいむの姿が映っているのだ。 「れいむ…やっと帰ってきたのか!!今までどこに行ってたんだ!?」 そう言ってれいむを抱き上げ、強く強く抱きしめる。 れいむは苦しくてたまらなかったが、それよりもお兄さんが自分を見てくれたという喜びが勝った。 今なら…今だけなら、どんなに強く抱きしめられても、我慢できる。 とめどない涙で前が見えなくなっても、全然気にならなかった。 お兄さんがれいむを放すまで、れいむは抱きしめられたままゆっくりし続けた。 これでやっとゆっくりできる。もう一人ぼっちじゃない。 これからはお兄さんと思う存分ゆっくりできるんだ…! そして、れいむをベッドに置くとお兄さんはれいむを見下ろして問い始める。 「今までどこに行ってたんだ!!勝手に出て行ったらダメじゃないか!!」 「ゆっ!!れいむずっどごごにいだよ゛!でもおにーざんがむじじだんだよ゛!!」 「はぁ?どうしてそんな嘘をつくんだ!ずっとれいむを心配してたお兄さんの身にもなってみろ!!」 バン!!とテーブルを強く叩く音に、れいむは身震いした。 「で、でも゛!!ほんどだよ゛!!れいむはずっどゆっぐでぃおうぢにいだよ゛!!!」 「まだ言うか…そんな嘘をつくれいむとはゆっくりできないな」 「ゆ゛!?」 “れいむとはゆっくりできない” いやな予感がした。 よくわからないけど…よくわからないのに、れいむは震えていた。 何かが怖い。それが何なのか分からないけど、とにかく怖い。 「れいむがそういう嘘をつくのなら……お兄さんは『一人でゆっくりする』よ」 びくっ!! 何もされていないのに、れいむの体が痙攣した。 脳裏に思い浮かぶのは、お兄さんに無視され続けた二週間の出来事。 次の瞬間には、れいむは先ほどの態度と打って変わって、泣き叫びながら必死に謝罪し始めた。 「いやだあああああああおぁっぁぁぁ!!!ひどりでゆっぐりじないでええ゛え゛え゛え゛ぇぇぇぇ!!! れいむもいっじょにゆっぐりざぜでよお゛お゛お゛お゛ぉぉぉぉぉ!!!」 「『一緒にゆっくりさせてください』…だろ?」 「いっじょにっ!!おねがいでずがら!!いっじょにゆっぐりざぜでぐだざい゛い゛い゛ぃぃぃ!!!」 「よし、そこまで言うならしょうがない。許してあげるよ!」 普段どおりの、優しいお兄さんだった。 それから。 お兄さんとれいむは、いつまでも一緒にゆっくりし続けた。 たまにれいむが何か文句を言うと、お兄さんは優しくこう問いかける。 『一人でゆっくりするかい?』 そう問いかけてやれば、れいむは必ず文句を言うのを止めた。 不味いご飯も我慢した。三日お風呂に入れてもらえなくても我慢した。 外に出してもらえなくても我慢した。遊んでもらえなくても我慢した。 砂を食べさせられても我慢した。熱湯を飲まされても我慢した。 目にわさびを塗られても我慢した。舌にからしを塗られても我慢した。 頭に穴を開けられて、餡子を少し吸われても我慢した。 かなづぢで体中を叩かれても我慢した。釘で貫かれても我慢した。 体の一部をちぎられても我慢した。自慢のリボンを取られても我慢した。 髪の毛を引きちぎられても我慢した。タバコの火を押し付けられても我慢した。 舌をちぎられても、目をえぐられても、とにかく我慢した。 ただただ、あの一言が怖かったから。 『一人でゆっくりするかい?』 その言葉が聞きたくないから、れいむは我慢し続けた。 お兄さんとれいむは、いつまでも一緒にゆっくりし続けた。 にっこり微笑むお兄さんに、原形をとどめない顔で微笑み返すれいむ。 お兄さんは…とてもとても、優しかった。 GOOD END あとがき いつもよりあっさり、それでいてマイルドに仕上がったと思います。 ごゆるりと… 作:避妊ありすの人 このSSに感想を付ける
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ゆっくりいじめ系2216 「さあ、おたべなさい!」のこと(上)から 「あー、金と時間損した……ただいまー」 「ゆゆっ!おにいさんがかえってきたよ!!」 「おにいさん、ゆっくりしていってね!!」 玄関のドアが開く音に続いて飼い主の青年の声が聞こえるや、 二個のれいむは押し合いへし合い、お兄さんを出迎えようと玄関に走った。 そんな光景を目の当たりにしたお兄さんは、素っ頓狂な声を上げざるを得ない。 「へっ!? 何で二個!?」 「ゆゆ!おにいさんがたべてくれないからふえちゃったんだよ!!」 「ゆっくりできるれいむがふえて、にばいゆっくりできるよ!!」 れいむ達は、あくまで前向きだった。 お兄さんは「ああ、そういえばこいつ今朝割れたんだっけ」と、どうでも良過ぎて忘れていた事を今思い出した。 ゆっくりが適当な存在であることはお兄さんも承知していたつもりだった。しかしまさか分裂するとは…… 頭を掻きながら家に上がり、とりあえず腰を落ち着けるお兄さんに、れいむ達はぴょこぴょこついてくる。 「おにいさん、れいむおなかすいたよ!!」 「れいむもだよ!!ゆっくりごはんをちょうだいね!!」 「これ食い扶持が増えたってことだよなあ……別にそのぐらい困らないけどよ」 お兄さんはブツブツ言いながら、台所にゆっくりフードを取りに行く。 しかしゆっくりフードは買い置きを切らしており、残っていたのはあと一食分ほどだった。 彼は「しまった」と言おうとしたが、よく考えたら勝手に増えたのはゆっくりの方であることを思い出し、やめた。 他に何か作るか……と思うも、ペットショップ店員の言葉が脳裏に蘇る。 「基本的にこれ以外は食べさせないで下さいね。人間の料理などを食べさせると、舌が肥えますから。 そうすると餌代がかさむようになりますし、ゆっくりも満足出来難くなりますから、どちらにとっても良くないんですよ。 このゆっくりフードがゆっくりにとって、美味し過ぎず不味くもなく、一番ゆっくり出来るバランス食品なんです」 一度彼もゆっくりフードをつまんでみたことがあるが、何とも言えぬ微妙な味だった。 あれなら自分で作った酒のツマミなどの方が、よほど食べ物として上等と言える。 そんなものを食べさせて食事の水準を上げてしまっては、お互いの不幸を招こうというものだ。 仕方なく彼はゆっくりフードの箱を手にし、わくわくと身体を揺する二個のれいむの元へと戻る。 「おい、悪いけど一人前しかないぞ」 「ゆゆっ!?そんなぁぁぁぁぁ!!」 「れいむおなかいっぱいたべたいよ!!」 当然、れいむたちからはブーイングが噴出。しかし彼にとってこれは初めてではない。 以前にもゆっくりフードを買い忘れてしまい、れいむの晩ご飯が抜きになったことがあった。 確かにその晩は機嫌が悪かったが、翌日買ってきた餌を与えると、ケロリと忘れて上機嫌に戻った。 極端な話、数日抜いたところで別に死ぬようなものでもない。そう彼は楽観視していた。 「まあ明日は少し多めに買ってくるから。今日はそれで我慢しとけ」 「れいむおたべなさいしてつかれたよ!!おなかぺこぺこだよ!!」 「れいむだっていっしょだよ!!」 「だったら仲良くはんぶんこしないとな。それがゆっくりってもんだろ」 「「ゆっ・・・」」 しかしこの問題の根は、空腹とはまた違うところに存在した。 れいむたちは「二倍ゆっくりできる」と前向きに考えていたが、事実はそうではない。 お兄さんが与えてくれる有限のゆっくりを、二人ではんぶんこしなくてはいけないのだ。 それでは充分にゆっくり出来ず、満足な「おたべなさい!」が出来るかどうか解らない。 この「ごはんが足りなかった」という一事は、れいむ達の心にそう印象付けるに至った。 しかし内心はそう感じていても、そこはゆっくり。出来る限り波風を立てず、お互いゆっくりする方向で動いた。 「ゆっ、れいむ、いっしょにたべようね。おにいさんをこまらせないでね」 「ゆゆ、わかってるよ!はんぶんこしようね!」 「れいむはゆっくりしてるね!!」 「れいむもゆっくりしてるよ!!」 二個のれいむは形ばかりのすりすりで一応の親愛を高めると、食事に取り掛かった。 とはいえ、ゆっくりの知能で綺麗に二等分など出来るはずもなく、自然と偏りが生じた。 多く餌を取れた方のれいむは、「むーしゃ、むーしゃ♪」と食事に集中している。 そうでない方のれいむは、まだ咀嚼をしているもう一個のれいむを羨ましそうに見つめている。 そんな手持ち無沙汰の状態だったから、お兄さんがぽつりと呟いた一言に気付けたのだろう。 「くだらねえな……」 (ゆっ!?) れいむたちを見下ろすお兄さんの瞳は、どこか冷ややかだった。 いつもはぶっきらぼうながら、どこか暖かみのある視線を送ってくれていたのに。 しかしそれも無理からぬ。青年は心のどこかが次第に冷えていくのを感じていた。 彼は「自分対れいむ」という限定的に完結した関係性の中に意味、救いを見出していたのだ。 それがもう一個ゆっくりが増えたことにより、「れいむ対れいむ」という異なる関係性が生まれた。 人間は人間同士、ゆっくりもゆっくり同士の方が接しやすいだろう。 となると、彼がそこに食い込んでいくのにはエネルギーを使わなければならない。 それが彼には面倒臭い。それは彼が日頃疎ましく感じていた、社会というものの構図だからだ。 実際にはれいむたちは、お互いを内心嫌っており、お兄さんにゆっくりしてもらうことしか考えていない。 だが客観的に事実を見れば、れいむたちはお互いにゆっくりしており、お兄さんは観察者に過ぎなかった。 彼にはゆっくり同士が仲良く過ごすのを眺めるような趣味は無かった。 (いや、これは自己中心的な考えか……) そう思いなおしたとて、一度感じてしまったことを撤回することなど出来はしない。 まあ、長く付き合っていれば色々ある。自分もその内、こういった観察の良さが解ってくるかもしれない。 そう自分を納得させながらも、お兄さんは表情を顰めたままれいむ達に背を向け、PCの前に腰掛けた。 (おにいさんがゆっくりできてないよ。きっとこのゆっくりできないれいむのせいだよ) そんな様を見ていた食いっぱぐれいむは、お兄さんの感情の機微を直感した。 お兄さんは、れいむたちが増えちゃったのを見て、明らかにゆっくり出来なくなっている。 「晩御飯を食いっぱぐれる」という、分裂のデメリットを味わった方のれいむだからこそ出来た発想かも知れない。 このままではお兄さんもゆっくり出来なくなり、れいむの享受出来るゆっくりも、以前の半分以下になってしまうだろう。 まさに負のスパイラル、ゆっくり無き世界。待っているのは絶望だけ。 早急に何とかしなければならない。 ようやく食事を終えたもう一人の自分を見ながら、れいむは決心を固めた。 とにもかくにも、まずはゆっくりしなければならない。 とは言え、れいむ同士では到底ゆっくり出来ない。同じ髪飾りをつけたゆっくりなど気持ちが悪くて仕方がない。 お兄さんが構ってくれなければ、ゆっくり出来ない子と過ごすしかなくなってしまう。そんなの嫌だった。 れいむはネットの巡回を楽しむお兄さんの足下へと縋り付いて行った。 「おにいさん!れいむとあそぼうね!れいむとゆっくりしてね!!」 「えっ? どうしたんだ急に」 「おにいさんとゆっくりしたいよ!れいむとおはなししてね!!」 れいむがこんな風に遊びをせがんで来ることなど、今までほとんど無かった。 珍しいことだとお兄さんが一瞬戸惑っている間に、沢山ごはんを食べた方のれいむが慌てて駆け寄って来た。 お兄さんの足に身体を擦りつけていたれいむを、身体を使って押しのける。 「ゆっ、れいむ!おにいさんのじゃましちゃだめだよ!!」 「ゆゆ、でも、でも・・・」 「おにいさんはゆっくりしてるんだよ!れいむはれいむとゆっくりしようね!!」 「ゆぅぅぅぅ・・・・・」 沢山ごはんを食べて幸せになった方のれいむは、少し心に余裕が出来ていたようで、 「ゆっくり出来ないれいむとでも何とかゆっくり過ごしてやろう」という気概を見せていた。 しかしもう一方のれいむにとって、そんな気遣いはありがた迷惑も良いところであった。 「まあ良いじゃないか、仲良くしてろよ。ゆっくりはゆっくり同士の方が良いだろ」 「ゆゆ・・・おにいさん・・・・・」 「おにいさんもそういってるよ!むこうにいってゆっくりしようね!!」 お兄さんにまで言われては仕方がない。ここでゴネてお兄さんにまで嫌われたらどうしようもない。 部屋の隅に置かれたれいむ用のゴムボールに向かって、意気揚々と跳ねていくれいむと、 後ろ髪を引かれる思いで渋々その後ろについていくれいむ。 お兄さんはその背中をどこか寂しげに見送ると、PCに向き直り、面白動画サイトを見てアハハと笑っていた。 れいむとれいむは交互にゴムボールに体当たりし、キャッチボールのような遊びをしていた。 何だかんだで身体を動かす遊びは楽しいし、遊び相手がいるというのも悪くない。 それでもやはり、相手が自分と全く同じものだと思うと、両者とも良い気持ちはしなかった。 これからお兄さんが仕事に行っている間、ずっとこんな思いをしなければならない…… 一方のれいむは「その内慣れるさ」と自分に言い聞かせていたが、ごはんを少ししか食べられなかった方のれいむは 空きっ腹を抱えながら、来るべき憂鬱な生活を想像して、そんなのは耐えられないと感じていた。 「ゆっ!れいむ、ゆっくりしてる?」 「ゆっ・・・?れいむはゆっくりできてるよ!!」 「いっぱいゆっくりして、おにいさんをゆっくりさせてあげようね!!」 そんなものは欺瞞だ。れいむが二人もいる限り、お兄さんはきっとゆっくり出来ない。 空きっ腹のれいむはボール遊びを中断し、もう一方のれいむの傍に駆け寄った。 「ゆ?どうしたの?れいむもっとあそびたいよ!!」 「れいむきいてね。あしたになったらまたおたべなさい!しようね」 「ゆゆ!?でもまたたべてもらえなかったらたいへんだよ!もっとゆっくりしてからじゃないとだめだよ!」 「だいじょうぶだよ。れいむにいいかんがえがあるよ」 「ゆゆ・・・ほんとう?さすがれいむだね!!」 自分の分身の考えた作戦なら、きっと素晴らしいものに違いない。 疑いもなくそう確信したれいむは二つ返事で承諾し、二人はゆっくりと明日の打ち合わせを始めた。 ヘッドホンを付けて動画を見ていたお兄さんがその密談に気付くことはなかった。 もしかするとそれは、れいむ達が楽しそうにしている声をむざむざ聞きたくないという、ある種の防衛行動であったのかもしれない。 それぞれがダラダラと時間を過ごし、夜は更け、やがて一人と二個は深い眠りについていった。 運命の朝。 お兄さんがいつも通りの時間に起きて来ると、居間のテーブルには二個の饅頭が行儀良く並んでいた。 「「おにいさん、ゆっくりしていってね!!」」 「ああ……おはよう。そういえばお前増えたんだっけ……」 そこ邪魔だからどいとけよ、とれいむたちに言い、流しに顔を洗いに行こうとするお兄さん。 しかしそんなお兄さんを、れいむたちは「ちょっとまってね!!」呼び止める。 「ん……何だってんだよ?」 「おにいさん!きょうこそれいむをたべてもらうよ!!」 「ふたりになったからにばいゆっくりできるよ!!」 「またその話か。だから俺は要らないって」 「えんりょしないでね!いっぱいあるからたべていってね!!」 「あのなあ……」 「れいむ!あれをやろうね!」 「ゆゆっ、わかったよれいむ!!」 「おい、ちょっとは聞けよ」 れいむたちの打ち合わせ。それはお兄さんのおいしい朝ごはんになること。 いっせーの、で二人同時に「さあ、おたべなさい!」をする。 そのまま放っておいてしまえば、可愛そうなれいむは四人に増えてしまう。 れいむが増えるとお兄さんはゆっくり出来なくなるのだから、今度こそ食べるしかあるまい。 お兄さんを脅かすようで気が引けるやり方だが、食べてもらいさえ出来ればゆっくりしてもらえるのだ。 その結果を得るためには、仕方の無い妥協だった。 れいむたちは互いに頷きあい、お兄さんにの顔をきりりと見つめる。そして…… 「「いっせーの、」」 「「さあ!」おたべなさい!!ゆっ!?」 「ああ、また……あれ?」 「さあ!」までは二人同時に発声した。しかし肝心の「おたべなさい!」を行ったのは一方だけだ。 作戦立案をした空きっ腹のれいむの方は、割れたれいむの隣で平然と、丸々と構えている。 お兄さんへの親愛は衰えていなかったため、「おたべなさい!」は痛みもなく上手くいった。しかしこの状況は何だ? 「ゆゆ、れいむどうしたの!?ちゃんとおたべなさいしてね!!」 「・・・・・・」 何か失敗したのだろうかと、割れたれいむが必死に呼びかける。 だが残ったれいむは何も言わず、割れいむが予想もしていなかった行動に出た。 バクンッ 「むーしゃ、むーしゃ・・・しし、しししししあわせーーー♪」 「ゆあああぁぁぁぁぁ!?どうしてれいむがたべちゃうのおぉぉぉーー!!」 れいむが「おたべなさい!」をしたのは、お兄さんに美味しく食べてもらうため。決して他の人間や動物には食べられたくない。 なのに何故かれいむを焚き付けたれいむの方が、お兄さんのためのれいむの身体をむしゃむしゃと食べ始めた。 こんな結末、苦痛と絶望以外の何者でもない。「おたべなさい!」を冒涜されたれいむは、その全生涯を否定されたのだ。 「むーしゃ、むーしゃ♪」 「やめてね!!れいむをたべないでね!!れいむをたべていいのはおにいさんだけだからね!!」 空きっ腹れいむがどんなにゆっくり食べたとしても、一度誰かに口をつけられてしまった以上、 割れいむが「ふえちゃうぞ!」で再生する事は最早無い。同胞……いや、自分自身の裏切りを甘受し、このまま消えていくだけだ。 「どうじてごんなごとするの!!れいむやめてね!!これじゃゆっぐりでぎないよ!! やべてよおぉぉぉぉぉ!!!ゆっぐ」 「むーしゃ、むーしゃ、しあわせーーーーー♪」 残された半身の口も食べられてしまい、断末魔の叫びが途絶える。 もう一人の自分の身体を跡形も無く食べつくしたれいむは、一回りほど大きくなり、心身共に満たされていた。 れいむはやっぱり、ものすごく美味しかった。こんなれいむをお兄さんが食べたら、一生分のゆっくりが味わえることだろう。 更にそんなれいむを食べたれいむには、ゆっくりが二人分乗算されている……これこそがこのれいむの、真の作戦だったのだ。 でっぷりと膨れた身体を引きずり、残ったれいむはお兄さんに向き直る。 「おにいさん!!れいむはやっぱりすごくおいしいんだよ!!おにいさんもきっとすごーーくゆっくりできるよ!! れいむはゆっくりできるれいむをたべたから、きのうよりもなんばいもゆっくりしてるよ!! こんなにゆっくりしたれいむならおにいさんもたべてくれるよね!!さあ・・・」 「あー、ちょっと待て」 お食べなさい、と言おうとしたれいむを、お兄さんがその手で制止する。 お兄さんは一連の光景を眺めて、どん引きしていた。この上食べてもらえないと泣き叫ばれては敵わない。 「俺、甘いもの嫌いなんだよ」 「ゆ・・・・?」 「食べたらオエッて吐いちゃうぐらいな。だからお前は食えん。悪いが」 れいむの頭は真っ白になった。 どうして? あんな裏切り紛いのことを働いてまで、お兄さんにゆっくりしてもらおうとしたのに…… どうして甘いものが嫌いなのに、れいむのことを飼ってたの? れいむと一緒にいっぱいゆっくりしたら、最後には甘い甘いれいむを食べるって決まってるのに。 れいむのゆっくりは、お兄さんに食べてもらうためにあったのに。 れいむは自分を食べてもらう以上に、お兄さんをゆっくりさせてなんてあげられないのに。 じゃあれいむは、本当はゆっくりできない、いらない子だったの? 次から次へと溢れてくる疑問が、そのまま涙となったかのように目からこぼれて来た。 「ゆっ・・・・ゆぐっ・・・・どうじで・・・・・・・・ゆぐっ・・・・」 「はぁ……別に食べてもらう以外にも付き合い方は色々あるだろ。そう落ち込むなよ」 お兄さんは事も無げにれいむを一瞥すると、洗面所に顔を洗いにいってしまった。 れいむははっと我に返り、お兄さんのあとを必死な顔でついていく。 「おにいさん!まってね!!れいむをたべなくてもいいよ!!だかられいむをきらいにならないでね!! れいむゆっくりできないゆっくりじゃないよ!!おにいさんといっしょにゆっくりしたいよ!! もうあんなことしないからね!!だからあんしんしてゆっくりしていってね!!ずっといっしょだよ!!」 「…………」 バシャバシャと水を顔にかけながら聞いていたお兄さんには、返事は出来なかった。 続く
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「れいむのあかちゃんがうばれるよぉおお!!!!」 「ゆゆ!れいむがんばってね!ゆっくりしたあかちゃんをうんでね!」 森に行く途中の農道に、出産体勢のゆっくりが2匹いた。 れいむ種とまりさ種。れいむ種のほうは胎生妊娠をしているのか、すごく膨れていた。 用事はゆっくり潰しだったので手間が省けて良いことだ。 「れいむがゆっくりできるこをえらんだからね!!ゆっくりきたいしててね!」 「ゆ!ゆっくりまつよ!」 れいむがブルブルと震え、顎のあたりがミッチミチと開き始める。 何度見ても不気味な光景だが、俺は少し気になった。 「おいまりさ。ゆっくりできる子を選んだって、どういうことだ?」 「ゆ?」 ようやく俺の姿に気がついたようで、まりさが振り返る。 「まりさたちは、うまれるあかちゃんをえらべるんだよ!ゆっくりりかいしてね!」 どうやらこいつら、生まれる子供の種を選べるらしい。 なんとも便利な設定をしているものだ。 人間だったら、男女産み分けできるとかそんな感じか。 「ほほー。じゃあれいむはゆっくりした赤ちゃんを、体の中に作ったんだな」 「ゆ゙ゆ!!!ぞうだよぉお゙おっ!!!いばがらうばれる゙がら、ゆっぐり゙みででねええ゙ええ゙えっ!!!!」 れいむが絶叫とともに回答してくれた。 「おう。ゆっくり見せてもらうぜい」 そして生まれた自慢の「ゆっくりした赤ちゃん」を即座に潰してやろう。 俺はまりさと同じように、期待に満ちた目でれいむを見守った。 期待のベクトルは真逆なのだが。 「ゆっぼぉぉおっ!!!!うばっ!!!うばれるぅぅっ!!!!」 スポーン!と、弾けるような音とともに1匹の赤ゆっくりが飛び出した。 それは見事に地面に着地すると、閉じていた目を開きながら第一声を放つ。 「ゆっくちちちぇいっちぇにぇっ!!!!」 れいむ種の赤ゆっくりだった。 その言葉に、親のれいむとまりさが涙をこぼしながら返事をする。 「ゆぁああっ!!ゆっくりしてるよぉぉっ!!すごくゆっくりしたあかちゃんだよぉおっ!!!」 「ゆぅぅうっ!!!すごくっ!!すごくゆっくりしてるよぉおお!!!」 さらに、れいむは言う。 「ゆうぅうっ!!!いまからおチビちゃんのいもうとをうんであげるよぉお!!!あと10にんもいるよぉおお!!」 なんと、この親れいむの体内にはまだ10匹もの赤ゆがいるという。 数は少ない胎生妊娠で11匹も産むとか、信じられない個体だ。 ワンドアの冷蔵庫並に大きいれいむだったので、まあ納得できないこともないが。 驚く俺など気にも留めず、れいむの出産は続いた。 「ゆうっぅうっ!!!うばれるぅうぅっ!!!」 スポーン! 2匹目。れいむ種の赤ゆっくりだった。 「ゆっくちちちぇいってにぇ!!!」 親まりさは満面の笑みでその赤れいむに返事をした。 「ゆぎょええ!!!うばれるぅうぅっ!!!」 スポーン! 3匹目。れいむ種の赤ゆっくりだった。 「ゆっくちちちぇいってね!!!」 親まりさは微笑んで赤れいむに返事をした。 「ゆっぴょっらぁぅうっ!!!うばれるぅうぅっ!!!」 スポーン! 4匹目。れいむ種の赤ゆっくりだった。 「ゆっくてぃちちぇいってにぇ!!!」 親まりさはそこそこ笑って赤れいむに返事をした。 「ゆぎょっぺえええええ!!!うばれるぅうぅっ!!!」 スポーン! 5匹目。れいむ種の赤ゆっくりだった。 「ゆっきゅぴちちぇいっちぇにょぇ!!!」 親まりさは引きつった笑みで赤れいむに返事をした。 スポーン! スポーン! スポーン! スポーン! スポーン! 結局、11匹の赤ゆっくり全てがれいむ種だった。 親れいむは出産を終え、最高の笑顔でふうふうしている。 逆に、親まりさは今にも爆発しそうな顔でプルプルしていた。 「ゆっふぅ・・・!みんなれいむにそっくりで、すごくゆっくりしてるねっ!!」 「・・・」 親まりさは応えない。 「ゆ・・・?まりさ?」 ゆっくりと、親まりさが親れいむの方を向いた。 「れいむ・・・どうしてみんなれいむとおなじすがたのおチビちゃんなの・・・?」 返事によってはタダじゃおかねえ、的なニュアンスを感じる言葉だった。 しかし、親れいむはそんなことまるで感じていないように答える。 「ゆゆ。れいむはすごくゆっくりしてるよ!だからみんなれいむとおなじれいむになってもらったんだよっ!!」 ピクンと一度震えると、親まりさは親れいむに体当たりをした。 「どぼじでぞんなごとずるのぉおおっ!!?まりざはまりざのおチビちゃんがほしがっだんだよぉおっ?!?!」 出産で疲れた親れいむは、反撃することができない。 親まりさの攻撃が続く。 「どぼじでっ!!どぼじでっ!?!みんなれいむじゃゆっぐりできないでじょおぉお!!!!」 「ゆびょっ!!ゆぶ!!!ゆぎゅうぅぅぅ!!!!」 親れいむの上で何度もジャンプする親まりさ。 閉じ切っていない産道から、餡子が流れ出る。 「だっべっ!!だっでれいむがいぢばんゆっぐりっ!!!ゆっぐりじでるんだよぉおっ!!!??」 なんとかひねり出した言葉は、親まりさをあおるだけであった。 「うるさいよ!!!れいむなんてぜんぜんゆっくりできないのにっ!!!」 「ゆ゙っ!!?」 これには困惑していた赤れいむもビックリする。 「かりもへたっぴなのにっ!!!まりさがいなかったられいむはぜんぜんゆっくりできないくぜにいいいっ!!!」 「どぼっ・・・!どぼじでっぞんなごどおぉっ・・・!!」 親まりさの攻撃は止まらない。 産道からあふれる餡子は、もう親れいむの半分ほどにもなるだろうか。 「れいむたちは、ぜんぜんゆっぐりできないっ!!!いちばんだめな"しゅぞく"だよっ!!!」 「びっ・・・!ゆ゙っ・・・!ゆぼ・・・!!」 親れいむは死んだ。 餡子が無くなってからも、親まりさはペラペラになった皮をれいむ種の悪口を発しながら踏み続けた。 しばらくすると、親まりさは森に向かって跳ねて行った。 残されたのは、れいむ種のダメさをさんざん聞かされた赤れいむ11匹。 どれも涙を流し、頼る存在もなく震えていた。 「れいみゅだぢは・・・・ゆっぐぢできないゆっぐぢなのぉお・・・」 「おぎゃあじゃん・・・・」 「どぼぴぺ・・・」 産み分けは良くないなあ。 俺はそんなことを思いながら帰路についた。 おわり。 作:ユユー
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ある日の事、博麗神社にれいむの親子が訪れた。 「ゆゆ!ここはゆっくりできそうなところだね!ここをれいむたちのゆっくりぷれいすにするよ!」 子れいむを引き連れた親れいむが高らかに宣言する。 どうやら神社の巫女は外出中のようだ。 勝手に縁側に上がり込んだれいむの親子。 その目の前にはゆっくりれいむが座布団の上に佇んでいた。 「ゆ、れいむがいるよ!ゆっくりしていってね!」 「「「ゆっくりしていってね!!!」」」 挨拶をするれいむ親子。しかし反応は無い。 「ここはゆっくりできるところだね!ここをれいむたちのゆっくりプレイスにするよ!!!」 「れいむたちにごはんをもってきたられいむもゆっくりさせてあげるよ!!!」 「ゆっくりしないではやくごはんをもってきてね!!!」 子れいむが話掛けるも、ゆっくりれいむはその場から動かずゆっくりしているままである。 「れいむのことばがわからないの?ばかなの?しぬの?」 「ばかなれいむはゆっくりしんでね!」 「ゆっくりしすぎたれいむはきもいね!」 「おおぅ、きもいきもい」 それぞれが思い思いの罵詈雑言を並べ立てるも、ゆっくりれいむは構わずゆっくりしている。 「ゆっくりしかしないれいむはゆっくりしね!!!」 ついに子れいむの一匹がキレたようだ。ゆっくりれいむに体当たりを行う。 れいむのたいあたりはつよいんだぞ、等と考えながら子れいむは体当たりを繰り返す。 他の子れいむも体当たりを始め、ついには親れいむまでゆっくりれいむに体当たりを始めた。 しかし・・・ゆっくりれいむは体当たりをくらいへこんだものの、すぐに体当たりされた所が元に戻るのだ。 何回、何十回体当たりを繰り返しても、結局は元の状態に戻るのである。 「やせがまんはよくないね!!!」 「はんげきしてこないなんてほんとうにばかなれいむだね!!!」 「もうひといきでれいむをおいだせるよ!!!」 「みんながんばろうね!!!」 傷一つ負わないゆっくりれいむをまのあたりにしても、反撃してこないのをいいことに攻撃を仕掛け続ける親子。 しかしどれだけ体当たりをしても、依然としてゆっくりれいむは元の状態に戻るのである。 「どぼじでじな゛な゛い゛の゛お゛!!!」 「ばや゛ぐじね゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!!」 「ざっ゛ざどい゛な゛ぐな゛れ゛え゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!!」 気付けば体当たりの反動で逆にボロボロになっていたれいむ親子。 などつゆ知らずゆっくりし続けているゆっくりれいむ。 「あら、やけに騒がしいと思ったらまた沸いたのね」 声のした方を見上げるれいむ親子。 そこには幻想郷の素敵な巫女、博麗霊夢の姿があった。 「「「「ゆっくりしていってね!!!」」」」 霊夢の姿をみるなり元気に挨拶するれいむ親子。 「きょうからここはれいむたちのゆっくりプレイスだよ!!!」 「おねーさんはゆっくりできるひと?ごはんをくれたらゆっくりさせてあげるよ!!!」 「このゆっくりしすぎただめなれいむなんかよりかわいいれいむをゆっくりさせてね!!!」 「ゆっくりできないならさっさときえてね!!!」 さっきまで泣いていた事などどこへやら。 家の主に対してふてぶてしい態度で要求をするれいむ親子。 「・・・分かって無いわねぇ」 霊夢は親子を抱えると空に舞い上がり。 「わぁー、おそらをとんでるみたい!!!」 等と喜ぶれいむ達を更に上空に放り投げ。 霊符『夢想封印』 「ゆべっ」 「ゆがっ」 「ゆぐっ」 「ゆぎっ」 色とりどりの光弾をぶつけ、中身を地面にぶちまけさせた。 「これでよし、と。はい、お待たせ」 ゆっくりれいむを膝の上に乗せる霊夢。 「ゆっくりしていってね!!!」 膝に乗せ終えると一言、ゆっくりれいむは声を上げた。 その声を聞いた博霊の巫女はとてもゆっくりできていた。 いつからか、幻想郷とそれに関わった所にある異変が起こっていた。 名の知れたものの顔を模した謎の物体(?)、ゆっくりの発生である。 本人の身近に現れたそれは、一人に一匹だけであった。 まれに「ゆっくりしていってね!!!」と喋るがそれ以外一切話さない。 別にそれがどうと言うわけではなかったので、異変とは認知されなかった。 それからどれ位経っただろうか。 姿形はそのゆっくりと大差ないが、主に博麗霊夢や霧雨魔理沙といった 中でも有名人のクラスの姿を模したゆっくりが山を中心に発生するようになった。 依然として何一つ食べず、あまり変わらない『オリジナルゆっくり』とは違い、 それらは繁殖したり群れを作ったりするようになった。 食物を口にするため、害になることもあった。 正体が未だに分からないオリジナルと違い饅頭な為に人に食べられる事もあった。 最初のうちに姿を見せたゆっくりは大体の時間を元となった者と過ごしていた。 そのゆっくり達は誰からも一目置かれるようになった。 後から大量に現れたゆっくり達はずさんに扱われた。 そう。 後から嫌と言うほど沸いたゆっくり達は永遠にゆっくりできない。 どんなに頑張っても、どんなに強くなっても、どんなに賢くなっても。 ただ「ゆっくりする」為にだけ現れた「オリジナルゆっくり」のようにゆっくりできないのである。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー あとがき 初投稿です。 初期の頃のゆっくりだからこそゆっくり出来ていたんじゃないかなと思い書きました。 オリジナルゆっくりれいむと後から沸いたれいむを区別するために前者はゆっくりれいむと表記してます。 このSSに感想を付ける
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『ゆっくり公民 ~カースト制~(前編)』 29KB いじめ 差別・格差 仲違い 群れ 希少種 自然界 人間なし 3作目 前編 ゆっくり公民 ~カースト制~ anko2703 ゆっくり公民 ~奴隷制~ の続きになります。 話自体は独立していますが、前作を読んだ後の方が分かりやすいかもしれません。 ※ゲスなゆっくりが制裁されず生き残ることがあります 人気の無い森の中に、ぽつんと広がる小さな広場その中心は土が盛り上げられ小さな丘を形成している。 その上に立って、一匹のゆっくりが周りのゆっくりに向けて演説をしていた。 「よって、ただしいしんこうこそが、ゆっくりがゆっくりするためにひつようなのです!」 「わたしたち、えらばれたきしょうしゅがもりやさまのもと、しもじものゆっくりをみちびかねばなりません!」 新緑のように明るい髪の毛、小さなカエルを象った髪飾り、片側のみお下げには蛇のようなアクセサリーが巻きつく、ゆっくりさなえである。 丘の上で演説を続けるさなえの周りには20を越すゆっくりが、思い思いにさなえの話に耳を傾けている。 その場に人間がいればとても驚くだろう、なぜならその場に集まっているゆっくり達、その全てが人間により希少種と呼ばれるゆっくりであったからだ。 もしこの場に、ゆっくりを商売に使っている人間がいれば、喜び勇んで乱入したことだろう、ゆっくりらん、ゆっくりさなえ、ゆっくりえーりん、ゆっくりけーね、ゆっくりもこう、ゆっくりてんこ、そしてゆっくりすわこ。 人間の間では万札を持って取引が行われるゆっくりが一同に会しているのだから。 そんなさなえの後ろに立って、やさしい表情でさなえを見守っている一匹のゆっくり――ゆっくりかなこは小さく呟く、 「さなえ、とってもゆっくりしているね……」 (思えばここに来るまでずいぶん苦労したからねぇ) このかなこは、この群れの長である、前の長の後を継いだわけでも、簒奪をした訳でもなく自らの力で長い時間をかけてこの群れを創っていった。 かなこやさなえがゆっくり出来る群れ、「しんっこう」に守られた群れ、そんな他とは一風変わった群れである。 「ゆ、ゆ、ゆっくりと探すよ!」 ぽよん、ぽよん、ぽよん、森の中をゆっくりが跳ねている、黒髪に赤いリボンと飾りの付いたもみあげ、ゆっくりれいむである。 ゆっくりの中では、けして能力の高いほうでは無いとされるれいむ種、それにしてはこのれいむの動きは鋭い――最もゆっくりとしてではあるが。 狩りを行っていると思しきしのれいむは、目的地があるのか一心不乱に直進している。と、とある茂みの前に来るとその場で止まり、キョロキョロと周囲を見回す。まるで誰にも見つからないように警戒しているかのようだ。周りに誰も居ないのが確認できると、れいむはその茂みにもぐりこんだ。しばらくの間、もぞもぞと動く茂み、そこから顔を出したれいむの口には赤い木の実――木苺が咥えられていた。 木苺、野生のゆっくりにとっては、とても貴重なあまあまを手に入れたれいむはうれしそうに元来た道を引き返す。せっかく手に入れたあまあまをその場で食べてしまわないのは子供に持って帰るためなのだろうか? 「ゆ~♪これでまりさとゆっくりできるよ~♪」 いや、このれいむは、まだ成体になったばかりの若いれいむである。緩みきった顔と発言から察するに、この木苺は恋人の下に持っていくつもりらしい。 もうすぐで群れのゆっくりプレイスだ、待ちきれないのかれいむの足も速まる。 その時、群れの方からゆっくりが現れる、白髪に赤眼、頭に黒いリボンをつけたゆっくりみょんである。 これを見たれいむは、動揺し一瞬足を止めてしまう、思い直して急いで通り過ぎようとするれいむの口に何かが入っているのを見咎めたのか、みょんはれいむを引き止める。 「そこのれいむ、ちょっとまつみょん!」 「ゆ、みょみょん、れいむになにかよう?」 「おまえ、その口の中に何を入れているみょん?」 「ゆぅ、こ、これはたいしたものじゃないよ、ほんとうだよ、しんじてね!」 慌てて言い訳をするれいむ、もっともそんな態度では相手にはバレバレである。 「いいから、さっさとだすみょん!みょん、これはきいちごさんだみょん!れいむいいものをもっているみょんね!」 「わ、わっかたらもういいよね、これはじゆうじかんにとったんだよ、れいむのだよ!」 「なにを、いってるみょん、みょんだってあまあまがほしいみょん、せっかくだからもらってやるみょん!」 「ゆぅ、やめてね、やめてね!」 急いで口の中に木苺を戻そうとするれいむ、しかし木苺に向かって伸ばした舌がみょんの言葉で止まる。 「ゆ、"せんし"であるみょんのたのみを"どれい"れいむはきけないのかみょん?」 「ゆ!」 「まぁ、そういうわけで、このきいちごさんはみょんがもらっていくみょん!みょんはひびのけいびでつかれているみょん!」 木苺を持ち去られてしまったれいむは、力なくその場にたたずむ…… 帰ってくるときの高揚した気分は既に無く、どんよりとした心を抱えて、れいむは両親の待つ、おうちへのみちを歩き出した。 「しかたがないんだよ、れいむは"どれい"でみょんは"せんし"なんだから……」 2.カースト制 ~Caste System~ 「おかえりーれいむ!ゆ、なにかあったの、わからないよー?」 夕方、沈んでおうちに帰ってきたれいむを、父親であるちぇんがお家に迎え入れる。 奥には母親のれいむ、そしてれいむの妹のちぇんが既に待っていた。 れいむの様子を不思議がる父ちぇんとは異なり、母れいむは娘の様子に何かを察したのか、一瞬悲しそうな眼をすると、それを吹き飛ばすかのような声を出した。 「れいむ、はやくはいってねむーしゃむしゃにするからね!」 夕方とは言ってもまだ表が明るいこの時間は、本来ならばゆっくりの夕食の時間としては早すぎる。 この早目の夕食は、れいむの顔にゆっくり出来ないものを感じ取った母れいむの気遣いである。 その言葉と共に奥から一枚の葉っぱを引きずってくる、その上には四匹の夕食が並べられていた。 春の柔らかな草、集められた虫、少しだけ混ざった色とりどりの花が食卓に春の味を届けている。 「「「「むーしゃむしゃ、しあわせ~!」」」」 食事にしあわせ~する家族。 お花を口にして、苦味のあとの甘みにゆっくりとしていたれいむは、本来ならまりさと一緒に食べるはずだった木苺を思い出し、再びゆっくりと出来なくなってしまった。 横ではそんなこととは露知らず、父ちぇんと妹ちぇんが食べながら、嬉しそうに今日の狩りでの手柄話をしている。 すると、れいむの横に母れいむが擦り寄ってきた、 「おちびちゃん、どうしたの、す~りす~り」 まるで赤ゆっくりの様な扱いに、れいむはむず痒いものを感じるが、肌から伝わる母のぬくもりにゆっくりする。 「ねぇ、いったいなにがあったの、おかあさんにだけ、ゆっくりとおしえてね?」 父ちぇんとは逆方向を向き、小さな声でれいむに問いかえる母れいむ。 その言葉に、れいむも反対側を向き小さな声で答える。 「ゆぅ、そ、それがね……」 話を聞いた母れいむは、再びれいむにす~りす~りをし始めると言った。 「ごめんねれいむ、おかぁさんがれいむでごめんね、せめていもうとみたいに、ちぇんにうんであげられれば……」 その言葉にれいむも悲しみを吹き飛ばす、 「そんなことないよ、れいむはおかぁさんとおなじれいむで、とってもしあわせだよ!」 れいむの返事でさらに涙を流してしまう母れいむ、 「ありがとう、おちびちゃん、でもね、このむれではしかたがないんだよ……れいむはしかたがないんだよ……」 その日、二匹はしっかりとくっついて眠った、妹ちぇんが 「おねえちゃん!おかあさんをひとりじめしないでねー!」 と怒り出すぐらいに。 次の日の朝、朝食を摂るとれいむの家族は群れの仕事へ向かった、群れの広場に集まると、父ちぇんと妹ちぇんはちぇんたちが集まっている一画へ向かう。 「さきにいってくるよ、がんばってくるよー」 「ちゃんもがんばるんだよー、おねえちゃんもがんばってねー!」 れいむと母れいむは広場の中心に向かう、そこには群れのれいむ種が集まっていた。 しばらくその場で友達のれいむと話をしていると、中央の丘の上にゆっくりが現れる、さなえだ、 「さぁ、みなさん、きょうも、もりやさまへのかんしゃをわすれず、ゆっくりとはたらきましょう!」 「きょうのおしごとは、みなみのはらっぱでのかりになります、さなえたち、きしょうしゅのしじにしっかりとしたがってがんばれば、たくさんのごはんがあつまりますよ!」 「さぁ、ゆっくりとしないではらっぱへむかってください!」 すると、さなえの後ろに付いていた4匹のみょんが口に咥えた木の枝で南を指し示す。 「さぁ、さなえさまのしじどうりすすむみょん!」 れいむ達はぞろぞろと南の原っぱへ向かった、群れのある森から南へ進んだところにある原っぱは一方を森に一方を岸にはさまれ場所で、人間にとっては、とても小さなものだが、ゆっくり達にとっては森の中で手に入りにくい草さんや、虫が手軽に取れる、優秀な狩場である。 狩場に着いたれいむ達は思い思いに周囲へ散り、ゆっくりでも食べられるやわらかい草や花、動きの遅い虫を集めては口に入れて行く。 優秀なれいむは誰よりも早く口の中をいっぱいにすると、群れに引き返す。 重い体で跳ねて移動したれいむは、広場のの中心でゆっくりしているさなえの元に向かった。 「ふぅ、あ、おわりましたか。じゃぁくちのなかをみせてください、はい、おっけーです、そこにだしておいてください」 れいむが口の中から狩りの成果を取り出すと、それをみたさなえは続けた。 「ごくろうさまです、じゃぁ、もういっかいいってきてください!」 れいむはさなえに背を向けると、南の原っぱへ向けて走り出した。 原っぱと群れを数回往復すると、広場のさなえの横には、大きな山が出来ていた、戻ってきたれいむ達をみるとさなえは。 「これくらいですね、つぎからもってきたものは、むれのそうこにもっていってください」 口の中がいっぱいなゆっくり達は、目だけで返事を返すと、群れの食料庫へと向かう。 この群れの食料庫は、群れの一画にまとめて作られており、木の洞を利用して作られている。 一つ一つに蓄えられる量は少ないが、倉庫によって蓄えるものを変えたり、いっぱいになった食料庫の数を数えることで群れの現在の備蓄を管理できるようになっている。 れいむが食料庫が並ぶ一画――群れのゆっくりには、まとめて「そうこ」と呼ばれる――へ向かうと先頭を進んでいたれいむがそうこへたどり着いたのか、ぱちゅりーに呼び止められていた。 「むきゅ、はっぱさんをとってきたれいむね、そこのきのよこにおいてちょうだい!」 と、もみあげで自分の右側の木の方を指し示すぱちゅりー、れいむ達は一匹づつその木の根元に狩りの成果を吐き出していく。 れいむも口の中のものを出してしまう、周りに目を向けると、れいむ達の来ている場所以外でもぱちゅりー達が忙しそうに動き回っている、奥のほうはよく見えないが、黒い帽子がそちらへ向かっている所を見ると、まりさ達が狩りの成果を運び込んでいるようだ。その手前にはまばらだがちぇんが口を膨らませて向かっている、れいむは父ちぇんや妹ちぇんが居ないものかと、思わず探してしまう。 すると口の中を軽くして、狩場へ戻るはずのちぇんたちが、不自然に止まっているのが気にかかった。 彼らの視線の先を追うと、薄暗い森の中には不自然な黄金色、ゆっくりらんである。らんはぱちゅりー達を指揮しているのか、らんの下には数匹のぱちゅりーが集まっていた。 後ろから来たれいむに背中を叩かれ、れいむは焦って狩場へと戻ることになった。 そんなことを昼ごろまで続けていると、原っぱでれいむ達の仕事を監督していたみょんが、原っぱに残るゆっくりに声をかける。 「ここでおしまいにするみょん、みんないまもっているものだけをもって、むれにかえるみょん!」 れいむも指示に従い、今口の中にあっただけをもって群れへと引き返した。 群れの広場ではさなえがニコニコとして待っていた。最後に持ってきた食料合わせてさなえの横には大きな山が出来ている。 「みなさん、ごくろうさまでした、みなさんのがんばりともりやさまのおかげで、こんなにたくさんのごはんさんがあつまりました!」 「これから、みなさんのせいせきにおうじてごはんさんをぶんぱいします、みなさん、けんかせずにならんでください!」 「それと、きょうはごごはじゆうじかんにします、みなさん、ゆっくりしてくささいね!」 途端に、さなえの前にれいむの列が作られる、一匹ずつ山から今日の戦果に応じてて食料を受け取ると、各々のおうちへと帰って行った。 やっとれいむの番になる、目の前にはニッコリと笑うさなえ、 「れいむさん、あなたはとてもゆうしゅうでした、これがきょうのはいぶんになります」 さなえが、山から分けて取ったのは、れいむの種の報酬としては大目の食料だった、心なしか虫も多く入っているようである。 「ありがとう、さなえ、ゆっくりしていってね」 れいむは自分の分の食料を口に含むとおうちへ向かう、少し進むと母れいむが口を膨らませながら待っていた、どちらも目で合図すると、ゆっくりとおうちへ向かった。 おうちに着き、入り口の結界を外して中に入ると、れいむと母れいむ口の中の物を吐き出した、母れいむはれいむの持ってきた食料を見ると、 「ゆ、いっぱいあるね、れいむはとってもゆうしゅうだね」 とれいむを褒める、照れくさいれいむはおうちの外に目をやり、父ちぇんと妹ちぇんを待つふりをした。 そこに飛び込んでくる影、 「ただいまなんだねー!」 「おねえちゃん、ただいまー!」 父ちぇんと妹ちぇんのご帰還である、二匹はお帽子を外すと、中から狩りの戦果を取り出した。 「ゆぅ、ちょうちょさんだよ、すごいよ!」 感嘆の声を上げるれいむ、ちぇん達は二匹で目を合わせると、 「わかるよー、きょうは、おはなさんのあるばしょをみつけたんだよー!」 「おはなさんもはいっているよー」 盛り上がりかけた家族を、母れいむが止める。 「さぁ、おひるのむーしゃむしゃにするよ」 「「「「むーしゃむしゃ、しあわせ~!」」」」 食事が進みむと、食べるのが早い父ちぇんが一番に食べ終わってしまう。 お皿を片付けに巣の奥へ向かった父ちぇんは、戻ってくると、母れいむに聞いた、 「ちぇんたちは、きょうのおしごとはもうないんだよー、れいむたちはどうなの?」 まだモグモグとやっていた母れいむは、一度飲み込んでしまうと答える。 「れいむたちも、きょうはもうないはずだよ。はるさんは、おしごとがすくなくていいよね。なにかあるの?」 「じつはね、れいむ、さっきのおはなさんのばしょ、けっこうちかいんだよ、このあとかぞくみんなでゆっくりしようよー」 「ゆぅ、それはとてもゆっくりできそうだね♪」 盛り上がる両親に対して、娘達の反応は鈍かった、 「ゆぅ、れいむはきょうのじゆうじかんは、いきたいところがあるんだよ」 「ちぇんもだよー、わかってねー!」 「がーん、わ、わからないよー」 ショックを受ける父ちぇんとは異なり、母れいむは何か理解したのかニッコリと笑うと、 「わかったよ、おちびちゃん、おかあさんとおとうさんふたりでいくからね、ゆっくりしてきてね」 「「ゆっくりしていってね」」 それで昼食はお開きとなり、れいむと妹ちぇんはおうちを飛び出した、れいむとは反対方向にすごい勢いで駆けていった妹ちぇんとは反対に、れいむはゆっくりと群れの広場へと向かう。 広場では、れいむと同じように多くのゆっくりが待ち合わせをする広場、れいむは広場にまりさ種がいるのを確認すると、胸を撫で下ろした。 (よかったよ、まりさたちも、きょうはもう、じゆうじかんみたいだよ……) キョロキョロと周りを見回すれいむ、しばらくするとお目当ての相手が見つかった。 黒いトンガリ帽子をかぶった、ゆっくりまりさである。 「ゆ、まりさ、ゆっくりせていってね!」 「れ、れいむゆっくりしていってね!」 挨拶を交わす二匹、どちらともなくゆっくりの多い広場から移動し、森の中へ戻る。 「ゆ、れいむ、きょうはどこにいくのかぜ?」 「そ、そうだね、そうだ、まりさ、きいちごさんをみつけたから、いっしょにいこうね!」 「きいちごさんは、とってもゆっくりしているのぜ、いっしょにいくのぜ!」 れいむとまりさは、いそいそと木苺のある場所へ向かった。 その場所は以前れいむが見つけて隠していた場所であり、さいきんやっと実が赤く甘くなったことから、昨日収穫に踏み切ったのだが、みょんに奪われてしまった所である。 れいむは失敗を取り返すべく、今度はまりさ同伴で、あの茂みに向かった。 「「むーしゃむしゃ、し、しあわせ~♪」」 茂みに着いた二匹は、さっそく木苺を口に入れる、わずかな酸味と強烈な甘みが、ゆっくり達を怒涛のしあわせ~で押し流す。 しばらく呆然としてしまう、れいむとまりさ、とてもゆっくりした時間が流れる。 「すごいのぜ!れいむ、とってもゆっくりしているのぜ!」 「ま、まりさもも、とってもゆっくりしているよ!」 しばらく他愛もない話を続ける二匹、 「そういえば、こんどまりさのおねえちゃんが、ひとりだちすることになったのぜ!」 「ゆ!そうなのまりさ、おめでとう!」 れいむも驚きの声を上げる、一人立ち、この群れではそれは、純粋に一匹で暮らすという事では無く、番を貰い二匹で生活することを意味する。 確かに、春のこの時期は、成ゆっくりになる若いゆっくり達の恋の季節でもあり、かっぷるならば群れ中に見られる。しかし、この群れでは特有の事情があり「けっこんっ」――番になるには少し大変である。 「ありがとうなのぜ!れいむ!」 「まりさのおねえちゃんて、まりさだよね?あいては?」 「みょんなのぜ、おうとうさんもみょんならあんしんだって、いってたのぜ!」 「ゆぅ、そうなんだ……みょんならあんしんだよね……」 下を向くれいむ、まりさはそんなれいむを元気付けるかのように、 「ま、まりさも……がんばって、もうすぐひとりだちするのぜ、れいむそうしたら……」 「ゆぅ、まりさ……」 見詰め合う二匹、そんな所へ現れる邪魔者、金髪に真っ赤なカチューシャ、ゆっくりありすである。 「あら、こんなところにいたのねまりさ!ありすにさがさせるなんて、とかいはじゃないわ!」 「ありす!なんなのかぜ!」 「ゆ、ありす、なにかあるの?」 驚くまりさとれいむを無視してまくし立てるありす。 「なにをいっているのよ、まりさ!ありすはまりさにあいにきたのよ!」 「ありすといっしょに、ゆっくりしましょう!」 「ま、まりさは、いまれいむとゆっくりしているのぜ、ありすはあとにするのぜ」 「あら、だいじょうぶよ、まりさ、れいむはきゅうようができたそうよ!」 「ゆゅ!!!」 ありすは、れいむの方に向き直ると、まりさに見せていたのとは別の、酷薄な表情をれいむに向ける。 そして、ゆっくりとれいむににじり寄ると、 「わかっているわよねぇ?"どれい"のれいむが"へいみん"のありすに、さからうわけないわよねぇ?」 れいむに呟く。 れいむはプルプルと震えるが、一転、後向くと無言で走り去った。 「ゆ、れいむ、どこにいくんだぜ?」 背後から問いかける、まりさの声を唯一の救いとして…… れいむはただひたすらに、おうちへ向けて走っていた。本ゆんは気がつかないものの、目からには涙が流れている。 「じ、じかたがないんだよ、ありずはべいゆんはんだがら……」 自分に言い聞かせるように呟くれいむ、 「れいぶだちが、ゆっぐりじでいないからいけないんだよ……」 逃げ帰ったおうちは、まだ家族の誰も戻っておらず、ガランとしていた。 れいむはおうちの奥、自分のべっどに飛び込むと声を押し殺して泣き出す。 「どうじて、どうして、れいむがこんなめに……みんなあの、かーすとがわるいんだよ!」 この群れは、群れのゆっくりの中に、独特の階級制がある群れである。 基本的にこの階級は、ゆっくりの種により決まり、一つの例外を除けば階級が上下することは無い。 れいむ達、れいむ種は階級制度で最も下に位置しており、群れの中ではとても不利な立場に立たされている。 また、下位のゆっくりは上位のゆっくりへ絶対服従が義務付けられており、これが下位の者達へのいじめや迫害につながる事例も多いのである。 群れの長である、かなこがその思想の元に作った群れの階級は4つで、自らを含む希少種のゆっくりを、神に仕えるゆっくとして、最高位に据えたもので並べると、 1.希少種ゆっくり 2.戦士ゆっくり:まりさ種、みょん種 3.平民ゆっくり:ちぇん種、ありす種、ぱちゅりー種 4.奴隷ゆっくり:れいむ種 となっている。 長かなこはこの階級制度を「ゆっくり・かーすと」と呼んでおり、このカーストの違いにより、群れのゆっくり達は様々な区別を受けることになる。 カーストの違いによって起きることは、先ほどれいむが遭遇した様な、上位のゆっくりからの強要だけでなく、群れでの仕事の割り当てや仕事の報酬分配にも影響しており、この「かーすと」はゆっくたちに重く圧し掛かっているのだ。 しかし、カーストがこの群れに引き起こすことそれだけでは無い。 泣き疲れたれいむは、そこで眠ってしまい、気がつくとおうちの外からゆっくりの声が聞こえる――両親が帰ってきたのだ。 「れいむ、ただいまなんだよー!」 「ただいま、れいむ、ゆっくりしていってね!」 「ゆ、ゆっくりしていってね、おかえり、おとうさん、おかあさん……」 沈んだ様子のれいむに、気がついたのか気がつかないのか、父ちぇんは膨らんだお帽子を尻尾で押さえ、おうちの奥へ向かった。 残って結界を直していた母れいむは、れいむを心配そうな目で見るが、れいむが後ろを向くと、それ以上声をかけてはこなかった。 「ただいまなんだねー!!!わかるよーー!!!」 異常にハイテンションな妹ちぇんが、おうちに飛び込んで来たのは、それからだいぶ経って、もうそろそろ暗くなろうかというころだった。 おうちの中でもピョンピョンと動き回り、天井に頭をぶつけた妹ちぇんは、父ちぇんに注意され、一応の落ち着きを取り戻した。 「ちぇんはね、おとうさんとおかあさんに、おはなしがあるんだよー!」 そんな、妹ちぇんを夕食の準備を整えた母れいむが抑える。 「おちついてね、おちびちゃん、むーしゃむしゃしてからきこうね」 そうして、テンションの高い妹ちぇんと、沈んだれいむという、両極端な姉妹をいれた家族の夕食が始まった。 「「「「むーしゃむしゃ、しあわせ~!」」」」 れいむも、むーしゃむしゃを済ますと、少しは心に余裕が生まれる。 そんな、れいむを見つめる母れいむの顔にも笑顔が生まれた。 最後まだ食べていたれいむの、おかたずけが終わると、再び食堂に集まった。 尻尾をピクピクとさせて、焦る妹ちぇん。 それと対照的に落ち着いた父ちぇんが口を開く。 「それで、おちびちゃんなにがあったのー、おはなしって?」 「ゆ、おとうさん、ちぇんはね、ちぇんわねー、"ひとりだち"することにしたんだよー!!!」 「「「ゆ、ゆー!?」」」 騒然となるおうちの中、驚く家族に向かって、妹ちぇんは続ける。 その話によると、以前からいずれは、ずっといっしょにゆっくりしようと約束はしていたのだが、とうとう今日の自由時間に「ぷろぽーず」され、ずっといっしょにゆっくりしようねと答えたのだという。 「ゆぅ、よかったね、おちびちゃん、おかあさんもうれしいよ!」 手放しで喜ぶ母れいむとは反対に、考え込むような表情をする父ちぇん、 「おめでとうおちびちゃん、それであいては……?」 「あかくなるきのしたのおうちのぱちゅりーだよー♪」 「にゃ、ぱちゅりー、わかるよーめでたいんだよー♪」 父ちぇんも加わりお祭り状態になるおうちの中、れいむは妹の幸福に小さく「おめでとう」と呟くのが精一杯だった。 にゃーにゃー喜んでいる妹を祝福する気持ちは大きいが、自分が苦労しているものを手に入れた妹に、ぱるぱるしてしまう。 父ちぇんはそんなれいむに気がつくと、 「わかるよー、さびしいけど、おめでたいんだよー、れいむににたおちびちゃんも、きっともうすぐおよめにいくんだねー!」 「ゆ!」 慌てるれいむの言葉を、図星を指された動揺と見たのか、妹ちぇんがれいむの方にやってくる。 「わかるよー、おねえちゃんもすみにおけないだよー!おねえちゃんのこいびともおしえてね?」 れいむの心の中に黒いものが広がる、自分の幸福に酔っているのか、無邪気に聞いてくる妹ちぇん、父ちぇんも好奇心と書かれた目をこちらに向けてくる。投げやりになったれいむは呟いた、 「れいむのこいびとさんは……まりさだよ!」 「「「ゆ、ゆ!!!」」」 途端に慌てだす父ちぇん、 「にゃ、まりさなの……おめでたいけど、まりさは、まりさは……わからないよー!」 「大丈夫だよ、おちびちゃん。おとうさんとおかあさんもがんばるからね、おちびちゃんもがんばれば、まりさのところへおよめにいけるよ!」 この家族がこんな話をしているのは、この群れ特有の事情である。カーストとそれに付随したこの群れの掟がれいむを苦しめているのだ。しかし、この問題はれいむの家族だけでなく、この群れの多くの家族にもこの時期に訪れる問題である。 カーストはゆっくり達の種によるもので一つの例外を除けば生涯上下することは無い、その一つの例外がけっこんっである。 番の間でカーストが異なる場合、低いカーストのゆっくりも、番の高いほうのカーストに合わせて群れでは扱われる。 例えば、れいむとまりさのゆっくりでは最も一般的な番について考えてみよう。れいむのカーストは4番目の「どれい」であり、相手のまりさのカーストは2番目の「せんし」である。この二匹が番になった場合、れいむは群れの中では2番目の「せんし」カーストとして扱われることになる。それでは、低いカーストのれいむが、みんなまりさやみょんとけっこんしたがるのではないか、それには一つの掟が立ちふさがる。この群れではゆっくりのけっこん――番の誕生に際して群れに税(食料など)を納めることになっている。この税は番になるゆっくりのカーストが同じなら少ないが、カーストに差があると増加するようになっているのだ。先ほどのれいむとまりさの例では、カーストが2つも異なるため、群れに納める税はとても多くなってしまうのだ。しかも、それだけではない、群れの中での慣習として、税と同じくらいの食料を高いカーストの相手に送ることになっているのだ。 この群れでは、ゆっくりの種ごとに仕事を割り振り、その中での働きに応じて分配を受ける決まりになっている。 これによって備蓄を管理し、ゆっくり達も飢える事が少ないのだが、個々の家族が大きな備蓄を作るのも難しくなってしまっている、それを作ろうとすれば群れの仕事の入っていない自由時間に狩りをして貯めるしかない。 大体の場合、番を作ろうとする若いゆっくりには、同じカースト同士のけっこんでも税を集めるのは大変であり、大半はそのゆっくりの両親がこの税を集めることになる。もちろん同じカースト同士なら、それぞれの家族で半分づつ税を集める事により、家族の負担は軽いものと成る、先ほどの家族で父ちぇんが妹ちぇんの相手を聞いて、安心していたのはこれが原因である。 しかし、れいむの場合これが大変な問題となる、2つも上のカースト、税だけでなく、まりさに送る分も合わせれば莫大な量となり、その分を普段の仕事の分配から貯めるの不可能である。 れいむの両親は、ちぇんとれいむであり、カーストとしては「へいみん」にあたる。 しかし、それも決して高いカーストとは言えず、裕福な家族というわけでは無い、春は群れの仕事が少なく自由時間が多い時期ではあるが、その自由時間を全て狩りに費やしてもそんな莫大な食料を集められるかは、ほとんど賭けになってしまう。 しかも、この家族の娘はれいむだけでは無い、ぱちゅりーと番に成るため少ないとはいえ、妹ちぇんだってそのための税を一匹で集めるのは大変であり、れいむのためだけに狩りをするわけにはいかないのだ。 そんな絶望的な状況にも関わらず、れいむは少しばかりの希望を持っていた。 れいむはれいむ種としては非常に狩りの能力が高く、自分自身でもそれを理解していたため、自分の狩りに自信持っていたのだ。 れいむの自信はそれだけでは無い、れいむはまりさからの自分に対する愛を信じていた。 納める莫大な税、相手への贈り物と普通に考えれば基本的に不可能に思える高いカーストとのけっこん、実はこれには一つだけ裏技が存在する、けっこんに際して群れに納める税は、低いカーストのゆっくりとその家族に押し付けられる事が多いが実は払えばどちらが出しても問題は無いのである。もう一つ、高いカーストのゆっくりへの贈り物はあくまで慣習であり、高いカーストのゆっくりが辞退すれば必要の無いものでもあるのだ。 例として、群れの希少種のあるらんが、ちぇんを番に迎えた時はけっこんにかかる税は全てらんが群れに支払った一件は群れの中でも有名である、高カーストの希少種にとってそれぐらいは簡単なことである。 れいむはこれまでも、こんな時のためにこっそりとおうちの中へ、へそくりを作っていた。 れいむは考える、 (れいむは、これからじゆうじかんはぜんぶかりにつかうよ……おとうさんとおかあさんもおうえんしてくれるよ) (まりさだって、きっときょうりょくしてくれる、まりさは"せんし"だからきっといっぱいごはんをもらっているよ) (おくりものだって、きっとまりさは、いらないっていってくれる、れいむとけっこんするためだもんね) (そうだよ、これはきっとふたりのあいのしれんだよ、まりさとれいむでがんばるよ、ありすになんか、ありすになんかまけないよ!) れいむは強い決意を固めた、体の中の餡子に火がともったようだ、体の底から気力が湧き上がる、そうだ、沈んでなんかいられない。妹にも置いてはいかれない、れいむはまりさとけっこんするんだ! 沈んでいたと思えば急に盛り上がりだした娘に、両親はついていけない。 結局その話は、そこで終わりとなり、妹ちぇんについては明日、父ちぇんが相手のぱちゅりーのおうちを訪問することが決まった。 家族が寝静まっても、れいむの中に生まれた炎は消えなかった。 翌日以降、れいむは自由時間を使い、ひたすらに狩りを行うことになる、母れいむもそんな娘の気持ちを慮ってか必死に狩りを手伝ってくれた。 そして、数日後、巣の中には、自分で溜め込んだ食料を見て満足げにうなずくれいむの姿があった。 食料庫に溜め込んだ食料は目的のためにはとても足りない、しかしまずこうして自分の力をまりさに示すことが出来る。 そうだ、まりさに会いにいこう。まりさとことからの事を考えなくては。 気合を入れたれいむは、まりさのおうちに向かって駆け出そうとしてから一瞬止まり、別の方向に駆け出した。 「ゆ、そうだよ、からだをきれいにしなくちゃ!うふふ、そういえばしばらくまりさとあってないね!」 「あえないじかんが、あいをそだてるんだね!」 れいむが向かったのは群れのある場所から、しばらくかかる小川だった、森の外を流れる大きな川、そこから分岐して森の中を流れるこれはその小ささから、ゆっくりの交通をほとんど阻害せず、また多くのゆっくり達の命をはぐくむ貴重な水源となっている。 れいむ以外にも、数匹のゆっくりが水浴びをしている部分は浅くなっており、流れがそれなりに速く、子ゆっくりには危険なものの成ゆっくりには水浴び場として利用されている。 れいむも水の中に入ると、流れに逆らって少し水の中に留まる。体がふやける前に外に出ると体を振って水分を弾き飛ばす。その後は、小川の横に生えていた硬くて丈のある草を齧る取ると、それを水につけ髪の毛とリボンにあてた。 「ゆ、ゆ、ゆ、とこんなかんじだね!」 体が乾くまで、川べりでゆっくりと待つれいむ、春であるためか他のゆっくり達はほとんど二匹組で番かかっぷるであると思われる。 (ゆ~れいむも、こんどはまりさといっしょにくるよ) 体の乾いたれいむは、群れの方角へ急いだ、さすがに小川への往復を含めると、もう夕方に近い時間となっており、暗くこそなっていないもの、少し気が早くおうちへ帰るゆっくり達が群れの広場にも見られる。 まりさを探しに、まりさのお家まで足を伸ばそうかと考えたれいむは、運良く広場でまりさを見つけることに成功した。 「ゆ、まりさ、ゆっくりしていってね!」 「ゆゅ!れいむ、ゆっくりしていくのぜ!」 驚きの声を上げるまりさ、れいむはまりさに話があると伝えると、まりさを広場から離れた森の中へ連れ出した。 このあたりは、群れのゆっくりのおうちも無いため、あたりにはゆっくりの気配が感じられない。 「れいむ、いったいたいせつなおはなしってなんなのかぜ?」 「ゆ、まりさ、それはね……それは……」 いきなりは話を持ち出せないれいむ、そうだと思いなおし、別の話題から入ることにする。 「まりさ、じつはね、れいむのいもうとのちぇんが、ひとりだちすることになったんだよ!」 「ゆ、おねでとうなのぜれいむ!」 「それでね、まりさ、れいむもひとりだちしようかとおもうんだよ!」 驚いて、目を見開くまりさ、れいむは続ける。 「だから、れいむはまりさと「まつのぜれいむ!」 れいむも声がまりさの声で止められる。れいむはまりさの目を見つめる、真剣な目だ、 (ゆ~、まりさ、わかっているよ、まりさからいってくれるんだね、おとこらしいよ!) 「れいむ、まりさはありすと、ずっといっしょにゆっくりすることにしたのぜ!」 「ゆぇ!……ゆゆゆ、え?なに?」 混乱するれいむを尻目に、悲しそうなまりさは続ける、 「まりさは、ありすとつがいになることにしたのぜ……」 「なんで、なんでなのまりさ、れいむといっしょにゆっくりしてたよね!?なんで!?」 「れいむ、まりさとずっといっしょにゆっくりするって、ぜいはどうするきなのぜ?」 「れいむもがんばってあつめてるよ、まりさときょうりょくしてあつめればきっとあつめられるよ!」 「れいむ、それだけじゃないのぜ……それだけじゃ!」 「ありすはもう、ぜいをはらえるだけあつめているのぜ、それだけじゃなくて、まりさのおうちにおくりものもよういしてくれたのぜ!」 「れいむ、まりさにもいもうとがいるのぜ、れいむがふたりいるのぜ、わかるのぜ?」 「へいみん」であるありすと、「せんし」であるまりさのカーストの差は1つとはいえ、ありすにそれだけの食料を集める能力があった訳では無い。れいむは知らないことだが、まりさの番になる予定のありすの父親はまりさ種であり、姉妹もまりさが一匹であった事から、ありすはそれだけのものを用意することが出来たのである。 茫然自失の態のれいむに、悲しそうな顔をするとまりさは、帰っていた。 一匹で取り残されるれいむ、何かを考えるより先に体が動き、走り出していた。 「どぼじで、どぼじでこんなことに……れいぶがれいぶがなにかわるいことをじだの?」 涙を流しながら走るれいむ、途中で群れのゆっくりともすれ違うが、だれもがれいむの表情に避けていく、ひたすらに走ったれいむは気がつくと、いつか狩りをした原っぱにたどり着いていた。 「ゆぐぅ、ゆぐぅ、ぅぅぅぅぅ……」 泣き続けるれいむ、気がつけばもう夕方も通り過ぎ、辺りは薄暗くなっていた。 原っぱのゆっくりの背丈ほどの草を押し倒し飛び乗ってれいむは空を見上げた、普段森の中に住み、暗くなると外出を避けるゆっくりにとっては、めったに見る事の出来ないもの――空には星が輝いていた。 星の美しさに一瞬、悲しみを忘れてゆっくりするれいむ、 「ゆ、きらきらさんはとてもゆっくりしているよ……」 「まりさ……かなしいよ……、でもわるいのはまりさじゃないよ、わるいのはおきてとかーすとだよ、れいむは、れいむはひげきのひろいんさんなんだね」 そうして、空を見上げる悲劇のヒロイン、夜空のライトアップの元、うーうーという音楽が流れ、観客が集まろうとしていた。 ゆっくり公民 ~カースト制~(中編)へ続く……