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トリステイン2日目は、驚愕から始まる。 「うわあぁぁぁぁぁくぁぁ!!!!!!!!!!!」 廊下を走りぬけ、階段を駆け上がり、扉を蹴り開ける。 朝日にキラリと光る波平-1ヘアーはミスタ・コルベール先生。 「学園長!学園長!!!!がぁくえんちいよぉぉぉおおぉぉお!!!」 ミスタ・コルベールがドアを蹴り開けて学園長室に飛び込みます。 学園長室の主、オールド・オスマンはコルベールに背を向ける形で座っていました。 「あ、会ったことを正直に話しますっ!! つ、使い魔のルーンを調べていて寝オチして起きたら!! いつの間にか目の前でパンツ男が背中に毛布かけてくれたんです!!!! しかもサンドイッチの夜食まで用意してくれててっ!!!! ごくろうさまかっこはぁとかっことじるのメッセージカードまで添えて!!!!! な…なにを言ってるのかわからねーと思うが、私もナニをされたかわかっていない。 頭がどうにかなりそうだ! 妄想とか夢オチなんてチャチなもんじゃあない! もっと恐ろしい何かの片鱗を味わったんですぅぅ!!!!!」 ……………………………………………………………………。 ……………………………………………………………………。 ……………………………………………………………………。 「オスマン………? オールド・オスマン……………!? こ、こいつ……………死んでいる!?」 『怪奇!!パンツ男の恐怖事件』は一晩で学園中の噂になりました。 目撃者は貴族から平民、使い魔にいたるまで多岐に渡りました。 曰く、パンツ男の名前は変態仮面である。 曰く、パンツ男は被るパンツによってゲージ使用技が変わる。 曰く、パンツ男は始祖ブリミルの使い魔の名前すら伝えられていないものである。 曰く、パンツ男のパンツの中に入っていったものは二度と戻ってこれない。 まあそんなこんなで一晩で七不思議の一つに入るぐらいに学園内を練り歩いたわけです。 異世界漂流1日目からナニやってんでしょうねこの男は。 さて、我らのヒロインルイズの寝起きは最悪でした。 まるで半分眠った状態から、いきなり地獄を見せつけられたかのようなテンションでした。 「なんか………ムッチャひどい夢を見た気がする」 なぜかルイズの脳の中ではパンツ被ったパンツ一丁の男が枕元に立ってたり、頭上で回転したりするフラッシュバックが起こります。 恐ろしい。ナニが恐ろしいってそんな見たこともないものが自分の脳の中で躍動的に踊るのが恐ろしいです。 そのフラッシュバックの中にはタバサがいてギーシュがいてキュルケがいてオスマンがいてコルベールがいました。 みんながみんな自分を見て悲鳴を上げたり恐れおののくのを見て、悲しみを感じるよりもなぜか快感を感じていた感覚に恐怖しました。 ルイズは知る由もありませんが、使い魔のルーンを通じて夢に使い魔の記憶が刷り込まれたのでしょう。 ルイズの正気度が1下がりました。 まあ、そんなこんなで朝なので、着替えて授業に出なければいけません。 「服」 「はい」 「下着」 「はい」 「な…ななななな……なんで懐から出てくるの!?」 「……………………」 「ししし、しかもそれ昨日履いてたパンツよね!?」 「姫、暖めておきました」 「嘘つきなさい。それ洗いもしてないじゃないの」 羽柴秀吉作戦は失敗に終わりました。 ルイズ信長はたいそうお怒りになり、乗馬用のムチで叩くこと数度、逆効果でした。疲れました。 しまいには爆発音が轟きました。 すったもんだで硝煙くさい部屋から出ると、部屋の前でキュルケがタバサと話し込んでいました。 「ルイズ、朝から隣で爆発なんてさせないでよ、いやいつでも爆破は勘弁願いたいんだけど」 「騒音公害」 「しつけよしつけ。仕方ないじゃないムチで叩いたら喜ばれちゃったし」 なんだか込み入った事情のようなので、キュルケはスルーすることにしました。 「ところで聞いた?怪人が出たのよ!私見ちゃったのよ!しかもタバサも!!」 「見た。おどろいた」 「「コワ~~~イ!!!」」 息は合ってるもののタバサは棒読みなのでアンバランスです。わざわざ打ち合わせしてたんですかあなたたちは。 「肩に引っ掛けたパンツ一丁で頭にパンティかぶってるの!それでスゴクいいカラダしてるの!!」 「股間から色々なものを取り出していた」 「あと網タイツに皮手袋もしてたわね。ポイント高いじゃないの」 「怪人だけど紳士だった」 「ぜんぜん紳士じゃないわ!なんせ良い所で乱入してきたおかげで私の身体は不完全燃焼よ!!」 「着ていた下着もかぶっていた下着も見たことが無いほど良い生地でできていた。 おそらくはそれなりに爵位を持つか財産を持っている人物が正体」 「よく見てるわね。しかもあの状態の下着に目を凝らすなんて………」 「たぶんメイジかエルフ。窓から飛び降りたり風より早く動いたり壁をよじ登ったりしていた」 ちなみに下着の材質は朝になってから調べて驚き済みだ。 あきらかにトリステインの技術レベルで作れるものではなかったので更に驚きです。 渡されたベビーパウダーも異国の文字で書かれていて読めませんでした。 この時点でタバサは変態仮面の正体を怪しんでいましたが、それを表に出すことはしません。 無表情ですし、正直怖いですし。 ルイズは女たちの噂話を聞いて固まっていました。 「夢だけど………夢じゃなかった」 呆然としながらルイズは潰れました。 いるんですよ、あなたのとなりに変態仮面が……… その日、ギーシュはどこかおかしかった。 いや、ギーシュはいつもおかしいのだが、輪をかけておかしかった。 なんというか魂のネジが外れているというか、頭の中がお花畑に突っ込まれているのか、身動きがとりにくいのか。 どれほど抜けてるかというと昨晩学園を騒がせた『怪奇!パンツ男の恐怖』のことが耳に入らないぐらいである。 そんなギーシュも恒例イベントをこなさないと存在意義がなくなってしまうため、食堂で白いふわふわしたものを落っことしました。 平民、色条狂介がジャストタイミングで拾ってくれるように 「あの、ハンカチを落としましたよ」 「おや、すまないな。ってキミそれはちがうよ僕のハンカチはバラをあしらった見事なものなんだ そんな金モールを過剰にあしらったハンカチは知ら………な……………いや待てよ?」 しかし、それはハンカチじゃなくて!! 「パ」 「ぱ」 「パンティィィだぁ~~~~!!!」 そう、それは小さなぬのきれ、女体の神秘、青少年の希望、アレ、ともいうべき女性の下着だったのです!! 「あ!あのパンツは!!!」 「なんでギーシュのポケットから女物のパンティーが!?」 「あの金モールのドリルロールつきパンツはモンモランシ家に代々伝わるパンツ柄だ!!趣味悪パンツッ!」 「マジか!?モンモランシーのパンツがギーシュのポケットから出てきたということは!!」 「いや待て落ち着け、まだ慌てるような時間じゃない」 「あのパンツが盗ってきたのか、モンモンから渡された物なのかで非常に意味が変わってくるのですが!!」 「ギーシュ貴様!いや、この裏切りモン!」 若者同士が集まるとゴシップに花が咲くといいますが、咲いたのは嫉妬の花でした。 しかしなんでモンモンのパンツの柄を知っているのかマリコルヌ。 「ああ、それは僕の愛しのモンモランシーが昨夜……ガボッ!………」 「ギーシュ!余計なことは言わないで!!」 口に10本ほど香水の瓶を突っ込まれてギーシュは沈黙しました。 言わないでといいながら、ほとんど言ってる様な気もしますが、そこは伏せときましょう。 それを見ながら狂介は汗をぬぐいながら妻の折檻(対弟用)を思い出していました。 秋冬君はいつも春夏にひどいことをされていたなあ……、と。 あと当然古典的にこけておきました。 何故ならば、彼も古き良き時代のジャンプを象徴するギャグマンガの主人公だからです。 「いや、なつかしい俺も妻と初恋の人(のパンツ)を同時に落とした時はひどい目にあった。 あの時は死ぬかと思った………いやマジで」 「朝っぱらからナニ不道徳なことを呟いてんのよ」 やっぱり平民を召喚するのはゼロの私にふさわしいハズレなのね……… 昨晩のダメージが残っているのか、精神テンションが落ちているからか、一転してネガティブ人間です。 「ギーシュさま!私とのことは遊びだったのですね!」 「ああ、ケティ!確かに僕はキミと馬に乗った! でも僕は昨日気づいたんだ!実は僕はモンモランシーのほうが好…………」 「ひどいわ!」 ふと見るとギーシュが二股疑惑で香水の瓶の束をくわえた状態のままビンタを食らってました。 瓶が割れて流血です。 二股疑惑のお仕置きとしてはひどいほうです。 こりゃスルーしてどっかいったほうがいいな。 と、トラブルメーカー経験豊富な狂介はその場を立ち去ろうとしました。 しかし、トラブルというものは総じて逃げようとすると追いかけてくるものなのです。 「待ちたまえ!そこの平民!!」 「え~~~っとコれはアレですか。二股ばれた八つ当たりですか」 「そんなことはしない!グラモンの人間がそのようなはしたない真似をするか!」 「じゃあ平手打ちと折檻の件で」 「平手打ちでも折檻でもない!むしろ望むところだ!」 望むのですか。 「モンモランシーのパンティーを返したまえ!あと僕以外が嗅ぐな!!」 そっちかよ! そう、まだ狂介はフリフリのパンティーを手に持ったままでした。しかもさっきうっかり汗拭いてました。 「い、いやこれはハンカチと間違えただけなんだ。なんか香水くさいし」 「くっ!しっかり嗅いでるではないか!! これでは無事パンティーを取り返しても、一旦洗って、それでモンモランシーに返して履いて踏んでもらってからまた貰わないといけないではないか!」 「いやその手順はおかしい」 変身後ならともかく、変身前の狂介は基本的にツッコミキャラなのです。ドジッコ入ってるけど。 変身後ならツッコミどころありなキャラになれるのですが……… それにしてもなんてことだ!ギーシュが話しているだけで名門グラモン家とモンモランシ家の威厳やら威信やらがモリモリ下がっていく。 「貶められたモンモランシーのパンティのため!このギーシュ・ド・グラモンが決闘を申し込む!!」 このギーシュはダメな方のギーシュでした。
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「あ、牛がいる……」 シエスタが車の窓から外を見て、嬉しそうに呟いた。 「牛?」 モンモランシーは、何か珍しい牛でもいたのだろうかと思い、シエスタに聞いた。 「ええ、あんなに沢山。のどかで良いところですね」 期待した答えとは違ったので、モンモランシーは「どこにでもいるじゃない、そんなの」と言って両手を広げた。 だが、くだらないことでも、屈託のない笑顔で答えられるシエスタの笑顔に、少しだけ救われた気がした。 二人が馬車に乗り、ラグドリアン湖を目指しているのには理由がある。 ラ・ヴァリエール家でカトレアの治療に当たってから二日目の夜。 二人は大食堂で、巨大なテーブルを囲んで座っていた。 カトレアは大事を取って部屋で休んでおり、公爵と公爵夫人、そしてエレオノールの三名がシエスタとモンモランシーに向かい合って座っている。 カトレアは大事を取って部屋で休んでおり、晩餐には参加しないようだ。 「まずは礼を言わせていただこう、ミス・モンモランシー。そしてミス・シエスタ。よくぞカトレアの治療に尽力してくれた」 「私からも感謝を述べさせて頂きます」 公爵に続き、公爵夫人からも礼を言われ、モンモランシーとシエスタはガチガチに緊張していた。 「ま、まだ治療が完了したわけではありませんので」 モンモランシーが返事をする前に、シエスタが申し訳なさそうに呟く。 「いや、それでも礼を言わせて貰う。幼い頃からカトレアを治癒していたメイジが、君たち二人の治癒の力をとても高く評価していた、それにカトレアの笑顔を見たのは一ヶ月ぶりなのだよ」 公爵は、心底から嬉しそうだった。 貴族の威厳よりも、父親としての喜びが勝っているのだろう、公爵のにこやかな笑顔にエレオノールが苦笑した。 「それで、具体的なことは解ったのかしら?よければ聞かせて頂きたいわ」 エレノオールの言葉に、モンモランシーが「はい」と答える。 「はい。ご存じかもしれませんが、人の身体は本来解毒能力を持っています。ミス・カトレアの身体はその能力が弱く、定期的に水の魔法で毒を浄化しなければなりません」 ヴァリエール家の三名は、モンモランシーの説明をじっと聞いていた。 「こちらのシエスタが持つ『波紋』を流すと、浄化能力が回復しました。『波紋』は身体の全体に作用します、それによって水魔法の効果が二倍にも三倍にも増幅されるのです」 モンモランシーがシエスタに目配せをし、シエスタが続きを引き継ぐ。 「私の波紋は、オールド・オスマンが研究されていたものです。一言で言えば…『魔法の素』です。特殊な呼吸法によって、体力や精神力を増強する技術です」 エレオノールが手を挙げ、シエスタに質問する。 「貴方はオールド・オスマン以上の『波紋』を持っていると聞いたけど、それは生まれつきのもの?」 「私は最初曾祖母が『波紋使い』だとは知りませんでした。実家でも私以外に波紋を使える者はいないと、オールド・オスマンが仰っていました。 祖父にも、父にも波紋の訓練を受けさせたと聞いたんですが…私以外には発現しなかったみたいです」 「ふうん…つまり、波紋は個人差が大きいのね…」 うんうん、と納得したような仕草をするエレオノールを前に、シエスタは冷や汗をかいていた。 訓練を受けさせたというのは嘘だ、オールド・オスマンは波紋を世に出さないつもりだった。 『石仮面』の出現がなければ、シエスタに波紋を取得させることは決して無かっただろう。 波紋を悪用されぬために、血筋以上に個人差が大きいと思わせるため、シエスタは嘘をついた。 少しの沈黙が流れた後、モンモランシーが続きを話し出した。 「ミス・カトレアの治癒を完璧なものとするため。ミス・エレノオールにも、ラ・ヴァリエール公爵と公爵夫人に、協力を願いたいことがあります」 「言ってみたまえ」 「私の見立てですが、カトレア様の身体は突然濁った血が綺麗な血に混ざり、身体の中を循環します。その原因を探るために、水の秘薬をいただきたいのです」 「………わかった、可能な限りの『水の秘薬』を集めよう」 「ありがとうございます」 モンモランシーが公爵に礼をすると、エレオノールが呟いた。 「治療のために水の秘薬が必要なのは解るけど、原因究明のために秘薬が必要なら、薬を作るんでしょう?それなら私の研究道具を持ってこさせるわ」 「いえ、その必要はありません」 「…どういう事?」 「シエスタの波紋は、秘薬の効果を劇的に高めるだけでなく、身体にとけ込ませずに形を保つことができます。ミス・カトレアの身体を走る無数の『水』を、より細かく知ることができるのです」 エレオノールが驚き、目を見開く。研究者としての本能なのか、まるで詰め寄るように身体を前に傾けた。 「それはどのくらいの精度なの?」 「えっと…以前、毒を飲んでしまった生徒をシエスタと協力して助けましたが、そのときは身体の表面にある汗の穴が数えられるぐらい…だったと思います」 「素晴らしいわ、それで、その波紋と…」 興奮気味に質問を続けるエレオノールを、公爵夫人が制止する。 「エレオノール。お客様に失礼です」 「……はい」 モンモランシーは、エレオノールを一言で黙らせる公爵夫人の威厳に驚き、自然と苦笑いが出てしまった。 シエスタは、ほれ薬を飲んでしまった生徒ギーシュを思い出し『毒を飲ませた自覚はあったんだ…』と苦笑いをした。 「ふむ、そろそろ頃合いだな」 公爵がちらりと執事の方を見ると、執事は食堂の扉を開け、廊下で待機していたメイド達を部屋へと導き入れる。 メイド達が運ぶ料理は豪勢の一言に尽き、またもやシエスタとモンモランシーの二人を驚かせた。 「さあ、英気を養ってくれたまえ」 公爵の声が、やけに大きく聞こえた。 三日目。 カトレアの部屋で、香水の瓶より少し大きなガラス瓶を手に持ち、シエスタが波紋を流している。 モンモランシーがシエスタに「頃合い?」と聞くと、シエスタは「お願いします」と答えた。 シエスタから瓶を預かり、モンモランシーがカトレアの口元にそれを持って行く。 カトレアは両手を瓶に添えて、中身の『水の秘薬』を飲み干した。 すかさず、シエスタがカトレアの身体に杖を向け、秘薬の位置を確認する。 じわじわと身体の中を拡散していく秘薬は、波紋の効果により身体に吸収されず、秘薬のまま身体の中を巡っていく。 モンモランシーは秘薬の流れを感じ取り、カトレアの身体の中がどうなっているか、極めて精密に検査していった。 「この香り、貴方の香水?……落ち着いた花の香りがするわ」 カトレアが呟いた。 「え?あ、はい」 一瞬きょとんとしたモンモランシーだったが、カトレアの言葉に気付いて慌てて返事をした。 病人を相手にするので、ギーシュの気を引くために作った香水ではなく、あくまでも落ち着いた香りの香水を使っているのだ。 「いい香りね…風に運ばれた香りがするわ。どこかへ消えてしまいそう」 カトレアはベッドの上で目を閉じて、じっとしている。 その表情は喜怒哀楽のどれなのかわからない、だがシエスタには理解できる気がした。 風に運ばれた香り…それは、シエスタが考えるルイズの印象に近い。 タバサ…いや、シャルロットの母に深仙脈疾走(ディーパス・オーバードライブ)をかけようと決心したときも、タルブ村で治癒を続けたときもルイズの姿が思い浮かんだ。 彼女こそ理想の貴族像、そして儚く消えてしまった残り香だった。 シエスタの手が、じわりと汗ばむ。 「……?」 モンモランシーが首をかしげる。 「どうしたんですか?」 シエスタがモンモランシーを見上げ、声をかけた。 「うーん…今ちょっと気になることがあったんだけど……」 「気になることって、何でしょうか」 「水の流れが突然濁った気がするの、でも、水の流れを掴みきる前だったから、具体的にはちょっと解らないのよ」 「それでしたら、一度図にしてみたらどうでしょうか」 「図に?」 モンモランシーが少し驚く。 「曾祖父の故郷では、人間の身体を微細に記した『解体新書』という本で医療が発展したそうです、日記に書いてありました」 図に描く、それは治癒のメイジらしからぬ考えだった。 なにせ優れた水のメイジは、手で触れるだけでその人の水の流れが感覚的に理解できる。 しかし自分はまだそこまでの力はない、波紋の力を借りて図に表すことでなにができるか…少しの時間考えてみた。 タルブ村で治療した傷病兵の中には、女性もいたが、一人一人身体的な特徴があった。 身体的な特徴が、カトレアの病気を生んでいるのだとしたら? 考えを整理するためにも、一度図に書いてみるといいかもしれない… 「わかった。図に書いてみるわ、大きな紙と、ペンを貰ってきてくれない?」 「はい」 三日目の晩、昨日と同じように、シエスタとモンモランシーの二人は晩餐に参加していた。 食後の紅茶を飲んでいると、不意にエレノオールが呟いた。 「それで、なにか細かいことは解ったの?」 エレオノールが二人に問いかけると、モンモランシーが懐に手を入れて、折りたたんだ紙を取り出した。 執事がそれを受け取り、銀製のトレイに乗せてエレオノールの元に運ぶ。 紙を受け取り、開いてみると、そこには無数の線が書かれていた。 線の形は人間のシルエットのようであり、心臓とおぼしき場所には矢印でいくつもの線が描かれていた。 「これは?」 「ミス・カトレアの身体を流れる、水の流れです」 「…なるほどね、アカデミーで研究していたものとは違う描き方ね…これは貴方のアイディアかしら。ミス・モンモランシー」 「いいえ、シエスタのアイディアです。身体の中を図面化する本があると教えてくれました」 「水系統のメイジなら、身体に触れれば水の流れが解るんじゃないの?」 エレオノールが更に質問する、どこか胡散臭そうに感じているのかもしれない、モンモランシーはエレオノールの視線におびえることなく淡々と答えた。 「黒で描かれた線は、波紋を流してから作ったものです、青で書かれたものは波紋を流さない状態で調べた結果です」 エレオノールがハッとして紙を見る、上から下まで素早く目を通すと、ちょうど心臓の部分に大きな差があることが解った。 「…心臓に異常があるってこと?」 エレノオールが顔を上げ、二人を見る。 公爵と公爵夫人も驚いた顔をして、モンモランシーを見た。 「以前にも身体の中をじっくり調べたことはあったわ、心臓はたしかに弱かったけど…」 顎に手を当てて考え込み、エレノオールはうんうんとうなった。 「…心臓は、綺麗な血を送る部屋と、汚れた血を流す部屋に分かれています。 人間は呼吸で微弱な『波紋』を生み出していますが、その力は心臓から始まって体中を巡り、最後にもう一度心臓に帰ってきます。 ミス・カトレアは心臓が弱いだけではなく、心臓に小さな穴が開いているのだと考えられます。 汚れた血と綺麗な血が混ざって送られ…その結果、体の中が全体的に弱くなり、全身至る所での発作を起こしてしまうのだと、思います」 「「「…………」」」 ヴァリエール家の三人は、皆一様に絶句していた。 エレオノールにしても、今までに聞いたことのない説を聞いたようなものなので、これをどう考えるべきかと頭を悩ませている。 モンモランシーも、緊張のあまり卒倒しそうだった。 カトレアの身体は、波紋によって回復することは解ったが、心臓がすべての原因なのかははっきりとはしていないのだ。 だが、今は「原因」に対処するのではなく「原因と思わしき場所」に対処しなければならない。 もしかしたら自分の説は大きく間違っているのかも知れない、けれども、今は全力を尽くさなければならないと自分に言い聞かせていた。 公爵が、重い口を開く。 「…対処法は、あるのかね」 「水の魔法で穴を埋めることもできますが、危険です。確実な方法を取るためには、もっと大量の水の秘薬が必要になります」 「やはり、水の秘薬か…」 渋い顔をする公爵を見て、エレオノールが口を開いた。 「実は、王宮から『水の秘薬を控えろ』と通達があったの。どうも水の精霊を怒らせた者がいるらしいんだけど…原因はよく分からないわ」 「水の精霊をですか!?」 モンモランシーの顔がサッと青ざめる。 彼女の父は、以前に水の精霊を怒らせてしまい、干拓に失敗したのだ。 それが原因でモンモランシ家は、水の精霊との交渉役を降ろされてしまった。 「そういえば、モンモランシ家は確か、水の精霊との交渉役を務めていたな、今はその役目を退いていると聞いているが…」 公爵の声が、異様なほど重々しい声として聞こえてくる、モンモランシーは今にも卒倒しそうだった。 父の失敗をダシにされて、非難されるのではないかと思うと、冷や汗が額を流れるのを止められなかった。 「どうかね。君の手で、水の秘薬を手に入れることは出来ないかね」 だが、公爵の口から飛び出した言葉は意外なものだった。 「わ、私がですか」 「水の精霊と交渉し、水の秘薬を手に入れ、カトレアを治癒してくれたのなら…ラ・ヴァリエール家から支援を約束しよう」 実家を助けられる…! 願ってもない公爵からの申し出に、モンモランシーはうわずった声で、まるで叫ぶように声を上げた。 「つ、つとめさせて頂きます!杖にかけて!」 シエスタは隣で、『貴族って大変なんだなぁ』と思った。 ヴァリエール家の三人は、ほっとしたようにほほえみを浮かべていた。 そして四日目… 今日はラ・ヴァリエール家で準備してくれた馬車に乗って、ラグドリアン湖に向かう。 そのため朝食も採らずに、朝早くに出発の準備をすませたのだが、準備された馬車を見てシエスタが絶句した。 馬車を引くのは馬ではなく、竜。 噂には聞いたことがあるが、実物を見るのは初めてなので、シエスタはどうしたものかと冷や汗をかいた。 「…これに乗っていくんですか?」 竜車を指さし、シエスタが聞く。 「そうよ、馬より早いもの。それにこれなら一日で往復できるわ」 「それはそうですけど、なんか、ちょっと怖いですね」 「怖くないわよ、よく飼い慣らされてるわ」 そう言って竜に近づくと、竜はモンモランシーに頭を垂れた。 竜は、無言で頭を撫でさせている、臆病な竜ではこうはいかない、知能が高い竜だからこそ人間とのつきあい方を心得ているのだ。 「御者の方も大変ですね…」 そう言って御者の席を見上げたが、つばの広い帽子を被った御者は、手綱を握ってじっと黙っている。 「シエスタ、これはゴーレムの一種なのよ」 「え?そ、そうなんですか?へぇー…」 まじまじと御者をのぞき込むシエスタ、その様子があまりにも田舎者丸出しなので、モンモランシーは少しだけ恥ずかしそうに顔を背けた。 「お待たせしました」 屋敷の入り口から声がかかる、二人が振り向くと、そこには凛々しい男性の姿…ではなく、男装の麗人とも言うべきカリーヌ・デジレが立っていた。 「「………」」 二人が驚いていると、カリーヌは竜車に近づき扉を開け、二人を中へと導いた。 大きな馬車の中は豪華というよりは上品な作りをしており、居心地の良さを最優先に考えて作られているのが解る。 二人は、カリーヌに導かれるまま竜車に乗り込み、座席に座る。 カリーヌが「出しなさい」と呟くと、馬車はゆっくりと走り出した。 「あの…」 シエスタが呟く。 カリーヌがなぜ付いてくるのか、その上なぜ男装しているのかを質問しようとしたのだ。 意図をくみ取ったのか、カリーヌはどこか懐かしそうにほほえみを浮かべた。 「私は昔、男の姿をして軍隊にいました。お二人の護衛として、マンティコア隊を引退した老兵が務めさせて頂きます」 「は、はあ」 モンモランシーが気の抜けた返事をする。 オールド・オスマンから聞かされてはいたが、目の前に座る人物が『烈風カリン』だとはにわかに信じられない。 「…カトレアを治療して下さったのですから、私から出来るせめてもの誠意ですわ」 カリーヌはそう言って微笑んだ。 がらがらと音を立てて竜車が走る。 カリーヌは窓の外を見て、数日前の森林火災を思い出していた。 (…ピンク色の頭髪、年の頃は20、顔立ちは幼さを残し、顔に大きな火傷のある女性…) (…その女性を『ルイズ』と呼んでいたそうです…) カリーヌは、烈風カリンと呼ばれ恐れられた、希代のメイジであった。 だが、同時に彼女は母でもあるのだ。 ルイズの手がかりを探したいがために、カリーヌは水の精霊にも話を聞いてみるつもりなのだ。 二人の護衛を買って出たのもそのためだった。 見上げた空は、雲一つ無い快晴、どこまでも青い空が広がっている。 だが、カリーヌの心中は未だに曇り続けていた。 To Be Continued→ 戻る 目次へ
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前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 第64話 湖の舞姫 用心棒怪獣 ブラックキング 登場! ハルケギニアに平穏な時が流れるようになってから、しばらくの時が過ぎた。 その間、魔法学院やトリスタニアで少々の事件はあったが、世間はおおむね安定を保っていた。 しかし、平穏とはなにもないことを意味するわけではない。平和な中でこそ行われる熾烈な戦いはいくらでもある。 地球で例えるなら、受験戦争、会社内での成績争い。いずれも、他者を押しのけて自己の利益をはかる生々しい争いだ。 だからどうした? そう思われるかもしれない。しかし過去のウルトラの歴史において、たったひとりの負の情念から凶悪な怪獣が出現した例は数知れないのだ。 『ほかの知的生命体では、なかなかこうはいきません。人間という生き物は、ある意味宇宙でもっとも有用な資源ですね』 この世界のどこかで、ある宇宙人がこう言った。 そして、ハルケギニアは貴族社会。当然、それにはそれにふさわしい戦いの場が存在する。 ある夜、場所はトリステインの名所であるラグドリアン湖の湖畔。 広大な湖畔の一角には貴族の別荘地が並び、そこではある貴族の別荘の広大な庭園を会場にして、トリステインが主催の園遊会が開かれていた。 「諸国の皆さん、本日は我が国の園遊会にお越しいただきありがとうございます。ささやかですが宴の席を用意しました。今宵は堅苦しいしがらみを抜きにして、隣の国に住む友人として語り合いましょう」 トリステインを代表して、アンリエッタ女王(本物)が貴賓にあいさつをした。それに応えて、集まった数百の貴族たちからいっせいに乾杯の声が流れる。そして彼らは、解散を伝えられると会場のあちこちに散って、思い思いに食事や談笑を楽しみ始めた。 もちろん、これはただのパーティなどではない。トリステイン貴族の他にも、ここにはゲルマニアやアルビオンの貴族が何十人も招待され、彼らは楽しげな会話の中で、様々な取引や情報交換、場合によっては縁談の相談などを行っている。 貴族とは権力で成り立っている存在ゆえに、その勢力の維持には他の勢力の取り込みや連帯は欠かせず、特に外国の貴族とのつながりは大きな力となる。逆に言えば、貴族の世界で孤立することは身の破滅を意味することに直結するため、園遊会は貴族たちにとって、自らの繁栄や安全を支えるための重要な行事なのである。 「園遊会の一席で、戦争が起きもすれば止まりもいたします」 マザリーニ枢機卿は、アンリエッタへの教育の一環としてこう語った。 さらに貴族の繁栄は、その貴族の国の繁栄にもつながる。アンリエッタもそのために、数々の貴族とのあいだを行き来して話を続けている。アンリエッタは幼いころに参加させられた園遊会で、子供心には退屈のあまりに抜け出して、少年時代のウェールズと出会って恋に落ちた。今回、この場にウェールズの姿はないが、アンリエッタも今では自分の立場の義務と責任を理解できない子供ではない。 様々な政治的思惑が交差し、場合によっては歴史を動かしかねない交渉がなされていく。平民には想像もできない高度で深淵な駆け引きの場がここにあり、よくも悪くもハルケギニアの社会には欠かせない存在としてあり続けてきた。 そして、そんな賑やかなパーティ会場の一角に、ギーシュとモンモランシーが席を並べていた。 「ああ、我らの女王陛下。今日もなんて美しいんだ! まるで夜空に咲いた一輪の百合。この大空に輝く二つの月さえも、陛下の前ではかすんで見えるでしょう」 「ふーん、つまりわたしより女王陛下のほうがいいって言うのね? わたしが一番だって言ってくれた、あの日の言葉は嘘だったのねえギーシュ?」 「あ、いやそんなことはないよモンモランシー! これは、トリステイン貴族としてのぼくの忠誠心から来てるものであって」 「嘘おっしゃい! あんたの視線、陛下のどこを見てたかわたしが気づいてないとでも思うの? ほんとに、ギーシュの言葉はアルビオンの風石より軽いんだから」 高貴な園遊会にふさわしくない低レベルな喧嘩をしている、きざったらしい一応二枚目と、金髪ツインテールドリルの少女。その場違いな様に、近くを通りかかった貴族の何人かは首をかしげて通り過ぎていった。 しかし、なぜこの場にまだ学生である二人がいるのだろうか? もちろん二人とも遊びで参加しているわけではない。まだ学生の身とはいえ、二人とも名のある貴族の一員である。この場にいるという意味はじゅうぶんに理解していた。 もっとも、まだこういう場での立ち振る舞いがわかってないあたり、二人が無理に参加させられているのは周りから見れば容易に察せられた。 「機嫌を直しておくれよモンモランシー。女王陛下は例外さ、むしろ女王陛下と比べることのできるモンモランシーこそすばらしいんじゃないか。ごらんよ、女王陛下の威光はいまやハルケギニア中に知れ渡り、なんとも壮観な眺めだと思わないかい? アルビオンをはじめとする世界中の名士が幾十人も顔を揃えているよ。これに参加できるなんて、ぼくらはなんて幸せなんだ。そう思わないかい?」 「はいはい、はしゃぎすぎてトリステインの田舎者だって思われないようにしてよね。うちの父上は、この園遊会でモンモランシ家の名誉回復しなきゃいけないって張り切ってるんだから、あんたのせいで失敗したなんてことになったら、わたしは実家に二度と帰れなくなっちゃうわ」 はしゃぐギーシュにモンモランシーが釘を刺した。二人とも、今日は魔法学院の制服ではなく貴族の子弟としてふさわしいきらびやかな衣装に身を包んでいた。ギーシュのタキシードの胸と背中には、グラモン家の家紋である薔薇と豹が刺繍されており、モンモランシーのドレスにも同様に家紋が編み込まれている。ギーシュのグラモン家やモンモランシーのモンモランシ家にとっても今日のことは重要で、ふたりともそれぞれの一族の一員として学院を欠席してでも呼び寄せられていたのだ。 とはいえ、普段は二人とも園遊会に参加することなど、まずない。そもそも園遊会に参加したがる貴族は膨大な数に上るため、国内から参加する家は一部を除いてくじ引きで決めることになっている。今回は幸運にも、グラモンとモンモランシ家が名誉なその資格を勝ち得たのだった。 それゆえに園遊会に参加し、どこかしらの有力貴族とコネを作れれば自分の家にとっての助けになると、ふたりとも大きな意気込みを持ってここにやってきた。特にこのふたりの実家は、かなりのっぴきならない状況を抱えている。 「確かモンモランシ家は、水の精霊の怒りに触れてしまって水の精霊との交渉役を下ろされてしまったんだっけ? そのせいで収入も激減して、なんとか新しい稼ぎ口を見つけなきゃいけない君のお父上も大変だね」 「はいはい、あなたのところだって、お父上やお兄様方の女好きが行き過ぎて、貢いだお金が青天井なんでしょう? 出征の出費の数倍は出してるって、もっぱらの噂よ」 「うぐっ! じ、女性に最大限の敬意を払うのはグラモン家の伝統だから仕方ないんだよ。あっ、心配しないでくれよモンモランシー。僕はいつまでも、君だけの、君だけを愛し続けるからね!」 「はいはいはい。あーあ、こうなったらグラモン家の伝統を見習って、わたしも外国のかっこいい殿方を探そうかしら?」 「そ、そりゃないよモンモランシー」 情けない声を漏らすギーシュを、モンモランシーは白けた眼差しで見下ろしている。ギーシュの手に持った薔薇の杖も、持ち主の心情を反映したのか心持ちしおれて見えるが、自業自得であろう。 モンモランシーはギーシュから視線を外すと、会場に並べられたテーブルに並べられている豪勢な料理を皿に取り、不機嫌そうにしながらも舌つづみを打った。アンリエッタ女王の園遊会の予算削減方針で、前王のころに比べれば半分以下の規模になっているが、それでも山海の珍味を集めた料理の数々はたまらなく美味だった。 没落した貧乏貴族のモンモランシーは、普段こんな豪勢な料理を口にすることはない。魔法学院の料理も平民から見れば豪勢だが、この園遊会の料理に比べれば地味と言ってよかった。貴族と一口に言っても、きっちり勝ち組と負け組はあるのである。 「いっそ本当にギーシュなんか捨てて、ここで新しい彼を探そうかしら」 ため息をつきながらモンモランシーはそう思うのだった。 最近のギーシュのおこないは目に余る。このあいだのアラヨット山の遠足のときには、同じ班になったティファニアに終始くっつきっぱなしで自分のところには一度も来なかった。あの後、少々体に教え込ませたが、まだ怒りが収まったわけではないのだった。 この園遊会での立ち振る舞いひとつで、貧乏貴族が大貴族になることもありうる。もしモンモランシーがどこかの大貴族の殿方のハートを射止めれば、モンモランシ家にはバラ色の将来が約束されるだろう。 でも、ギーシュが冷たくされたときに見せる情けない顔を見ると、許してやろうかという気がどこからか湧いてくるのである。まったく、難儀な男を好きになってしまったものだとつくづく思う。 「ふ、ふん! だったらぼくも、このパーティで外国の姫を射止めてやろうじゃないか。後から後悔しても遅いよ、モンモランシー」 「好きにすれば?」 モンモランシーは軽く突き放した。学院の女生徒ならともかく、それこそ誘いは星の数ほどもあるであろう外国の淑女がギーシュごときの安っぽい台詞にひっかかるとは思えなかったのだ。ただ、それ自体は自分にとって腹立たしいものではあったが。 ギーシュとモンモランシーは、その後もパーティの貴族たちからは一線を引いた距離で、いつも学院でしているような会話を続けた。 どのみち暇は有り余っている。二人とも、それぞれの実家から、やっと掴んだ園遊会の出席権に加えてやるから来いと言われて張り切ってここまでやってきたが、ふたりの実家からの期待はすぐにしぼんでしまった。 それはギーシュとモンモランシーの関係をそれぞれの実家が知ったゆえで、モンモランシ家のほうは娘が武門の名家であるグラモン家の息子と懇意であるなら願ってもなしと言い、グラモン家のほうは五男坊のギーシュがそこそこの相手を見つけたのなら特に咎める気はない、とあっさり認めて、無理に売り込みをしなくてもよいぞと解放されてしまったのだ。 これではふたりの、特にモンモランシーのやる気の減退は著しかった。もっとも、実はふたりの実家がふたりを呼んだ主な目的は、今回の園遊会で有力貴族たちに、「うちの子をどうかよろしくお願いします」という顔見せであったために、最初にそれがすめばほかの活躍を期待などはされていなかった。ふたりが先走っただけである。 ただ、いざ誰かに話しかけようかと思っても、会場にはギーシュとモンモランシーの他には同年代はほとんど見えず、話が合いそうな相手が見つからないのが現実ではあった。 「園遊会でポーションの話題を出してもしょうがないものね。わたしの手作りの香水じゃ、本場の高級品に勝てるわけがないし。あーあ、こういうときキュルケだったらファッションの話題とかから切り出してうまくやるんでしょうけど、正直甘く見てたわ」 モンモランシーは、園遊会という大人の世界に足を踏み入れるのに、自分がどれだけ未熟だったかを参加してつくづく思い知らされていた。 対してギーシュはといえば、ときおり通りかかる女性にダンスを申し込んだりしていたが、例外なくけんもほろろに断られている。いつもだったら怒るところだが、こうも見え透いて失敗していると哀れにさえ見えてくる。 賑やかな園遊会の蚊帳の外に置かれ、すっかり腐っているモンモランシーとギーシュ。 しかし、ふたりは幸運であったのかもしれない。なぜなら、華やかに見える園遊会の裏では、どす黒い思念が渦巻いていたからだ。 「この、伝統も格式もない成り上がりめが。貴様など、一スゥ残らず搾り取って、いずれ乞食に叩き落してくれるわ」 「貴様が余計な横やりを入れたおかげでうちの息子の縁談が破談になった。必ず生かしてはおかんからな」 言葉にはならない貴族同士の敵意や殺意のぶつかり合いが笑顔の裏で繰り広げられていた。 園遊会では、時に莫大な金や権力の移動が起こる。そこでは当然、勝者と敗者の間での憎悪の応酬も日常茶飯事なのだ。それは会場の中に限った話ではなく、園遊会に参加できなかった貴族も合わせると、その恨みの量は果てしなく膨れ上がる。自分を差し置いて園遊会に参加したあいつめ、という逆恨みもまた深い。 ギーシュやモンモランシーの親が、園遊会にふたりを本格的に参加させなかった理由のひとつがここにある。ふたりとも、貴族の一員として園遊会で『そういうことがある』のは知識として知ってはいても、生で体験したことはない。学院では、ギーシュをはじめ貧乏貴族たちがベアトリスに媚びを売っているが、そんな生易しいものではない弱肉強食の世界が園遊会の真実なのである。 いまだ少年のギーシュと少女のモンモランシーは、園遊会のほんの入り口に触れたにすぎない。そのことに気づくには、まだ数年必要であろう。 そして、この渦巻く『妬み』の波動に目をつける者がいても、それは何の不思議もなかった。 夜空から、赤い月を背にして地上を見下ろす赤い怪人。そいつは腕組みをして、地上の貴族たちの駆け引きを眺めながらつぶやいた。 「ウフフ、これはまたすごい『妬み』の力ですねえ。これに関しては、私が小細工をしなくても入れ食い状態ですよ。でもそれだけじゃつまらないですし……フフ、せっかくだからもう少し見物してからにしますか」 趣味悪く人間たちを見下ろし、なにかを企む宇宙人。人間たちはまだ誰も、空にたたずむ悪魔の姿には気づいていない。 パーティ会場で続く、園遊会という名の戦争。それは貴族社会の繁栄と新陳代謝のためには必要ではあるとはいえ、その二面性の強さは幼き日のアンリエッタやウェールズが飽き飽きしたのも当然だと言えた。 しかし、そんな泥沼の中にあっても、美しい花が咲くことはあった。 「ルビティア侯爵家ご息女、ルビアナ・メル・フォン・ルビティア姫様。ご入場あそばせます!」 進行役の声が高らかに響き、会場に新しい参加者がやってきた。 その声に、入り口を振り返った貴族たちは、いっせいに天使が降臨したのを見たかのような感嘆のうめきを漏らした。数名の護衛と使用人を従えて入場してきたのは、淡いブロンドの髪を肩越しになびかせながら、輝くようなシルクのドレスをまとった麗しき令嬢であったのだ。 「おお……なんと」 「美しい……」 貴族たちは、一瞬前まで笑顔背剣の争いをしていたことを忘れ、その令嬢の容姿に見惚れてしまった。 年のころはアンリエッタよりもやや上で、大人びた雰囲気ながらも口元は微笑を浮かべているように優しく、かつモンモランシーと似たサイドテールで髪をまとめている姿は活発さも感じられた。それでいてドレスから覗く手足はすらりと細く、しみ一つない肌は最高級の磁器にも例えられよう。そして、一歩一歩静々と歩く様は、まるで天使が雲上を歩んでいる姿をも思わせ、なによりもその美貌は、アンリエッタに勝るとも劣らない。 ルビアナと呼ばれたその令嬢は、例えるならば最上級の人形師が作り上げたドールが生を得たかのような美しさで、一瞬にして会場の貴族たちの目をくぎ付けにしてしまい、粛々と歩むルビアナの姿を貴族たちは惚けながら見送っていく。そしてギーシュとモンモランシーも、初めて見るその美しい姿に感動を覚えていた。 「なんて綺麗な人、いったいどこのお姫様かしら」 「ルビティア侯爵家、ゲルマニアでも五本の指に入る大貴族さ。先代がルビーの鉱山の発見で財を成した一族で、ルビティアの性もその功績で賜ったそうだよ。なにより、侯爵の一人娘は並ぶ者がいないという絶世の美女だと聞いていたけど……ああ、想像以上のお美しさだ。まるでルビーの妖精、いや女神だよ」 ギーシュの例え通り、ルビアナのドレスには無数のルビーがあしらわれており、シルクのドレスの純白とルビーの真紅とで芸術的なコンストラクトを描いていた。 もっともモンモランシーにとってはギーシュのそんなうんちくも、美人の情報にだけは詳しいのね、と嫉妬の火種になってしまうだけで、ブーツの上からヒールを突き立てられるはめになっていた。 やがてルビアナ嬢はアンリエッタの前に立つと、上品な礼をした後にあいさつを交わした。 「はじめまして、アンリエッタ女王陛下。お招きいただき、ありがとうございます。到着が遅れてしまったことを、心からお詫び申し上げます」 「いいえ、遠路はるばる我がトリステインによくぞおいでくださいました。心より歓迎の意を申し上げます。はじめまして、ミス・ルビアナ。本日はささやかながら、トリステインの園遊会を楽しんでいかれてくださいませ」 アンリエッタとルビアナは優雅な会釈をかわしあった。それはまるで、二輪の百合が並んで咲いたかのような輝きを放ち、ささくれだった貴族たちの心を一時なれども癒していった。 だがそれとして、貴族たちは、まさかルビティア家が参加してくるとはと驚きを隠せないでいる。伝統こそないが、ルビティアはルビーの専有により宝石市場に大きな影響力を持つため、貴族と宝石、魔法と宝石は切っても切れない関係な以上、その発言力は単なる貴族の枠では収まり切れないものを持つ。トリステインで釣り合う力を持つ貴族は、恐らくヴァリエール家のみだろう。 さらにそれにもましてルビアナ嬢が参られるとは驚きだ。絶世の美貌を持つ才女だという噂だけは皆耳にしていたが、侯爵の秘蔵っ子なのか表舞台に姿を見せることはほとんどなかった。それを、いくらゲルマニアと同盟関係にあるとはいえ、小国トリステインが招待に成功するとは信じられない。 すると、ルビアナは集まった貴族たちに会釈をすると、鈴の音のような声で話し始めた。 「ここにお集まりの、隣国トリステインの皆さん。そして我が同胞ゲルマニアや、アルビオン、ガリアの皆さま、お初にお目にかかります。わたくしはルビアナ・メル・フォン・ルビティア、以後お見知りおきをお願いします。わたくし、非才の身なれど、祖国のために見識を積み、ひいてはハルケギニア全体の繁栄の役に立てるよう、ここに遣わされてまいりました。どうか皆さま、この若輩の身を哀れと思い、よき友人となってくれることをお願いいたします」 会場からいっせいに拍手があがった。さらにルビアナはアンリエッタと並んで手を取り合い、両者のあいだに友情が生まれたことをアピールする。それは外交辞令のパフォーマンスだとしても、非のつけようもないくらい美しい流れであった。 しかし現実的な問題としては、ルビティアがトリステインを足掛かりにして国外進出を狙っているということを明らかにしたわけだ。アンリエッタ女王はそれを狙ってルビティアを招待したのか? それともルビティアがアンリエッタに売り込んだのか? いずれにしても当然、貴族たちは奮起する。もしルビティア家とコネを作れれば、それはこの上ない力となるだろう。 アンリエッタは一歩下がると、ルビアナに微笑みかけた。 「さあ、堅苦しいあいさつはここまでにして、パーティを楽しんでいらしてください」 「ありがとうございます。では、どなたかわたくしとダンスをごいっしょしてくださいませんか?」 手を差し出したルビアナに、貴族たちはいっせいに前に並んで「我こそは」と競い合った。もちろん、ここでパートナーに選ばれればメビティアとのコネを作る絶好の機会だからだ。 もろちんグラモン家も例外ではない。ギーシュの兄たちもいっせいに駆け出し、ギーシュも兄たちに遅れてはなるまいと兄たちに並んでいく。 モンモランシーは、そんなギーシュの後姿を気が抜けた様子で見送っていた。 「ほんとにバカなんだから……」 止める気はない。グラモン家の一員として、ここで動かなかったら後で父や兄たちに叱られるであろうことはモンモランシーもわかっていた。 しかし、きれいな女性に向かって一目散に駆けていくギーシュの姿を見て、腹立たしいものが胸に渦巻く。後で自分を称える歌の十個でも作らないと許してあげないんだから、とモンモランシーは心に決めた。 そしてあっという間に、ルビアナの前には若い貴族たちの壁が出来上がった。グラモン家をはじめ、あちこちの貴族の子弟たちが、まさに貴公子といった精悍な姿で「私がお相手をつとめましょう」と、ひざまずきながら姫に手を差し出しているのだ。 ギーシュも、四人の兄たちの端に並んでポーズをとっていた。そのポーズの形は、さすが学院で女生徒をデートに誘うのが日課なだけはあって形は様になっているといってもいい。しかしギーシュは、内心では横目で兄たちを見ながらあきらめていた。 「さすが兄さんたち、かっこいいなあ。悔しいけど、ぼくじゃとてもかなわないよ」 いくらギーシュが自惚れの強いナルシストといっても、尊敬する兄たちの前ではなりを潜めざるを得なかった。いまだ学生の身分の自分と違って、すでに成人した兄たちは武門の名門の一員としてそれぞれ武勲を立て、園遊会に出た回数も多い。当然立ち振る舞いも自分とは格が違い、家族だからこそよくわかっていた。 それだけではなく、この園遊会には数多くの貴族が参加しており、グラモンはその中のほんの一部に過ぎない。格式や伝統、資産でグラモン以上はいくらでもおり、さらに見た目美しい美男子も多い。ギーシュを彼の友たちは馬鹿とよく呼ぶが、このような状況を理解できないような愚か者ではなかった。 万が一グラモンに目をつけてもらえたとして、選ばれるのは恐らく長男か次男。末っ子の自分など目にも入れてもらえまい。顔を伏せながらギーシュは、そう思っていた。 しかし…… 「いっしょに踊っていただけますか、ジェントルマン」 声をかけられ、手を握られて顔を上げたとき、ギーシュは信じられなかった。そこには、自分の手を取って優しく見下ろしてくるルビアナの顔があったからだ。 え? まさか、とギーシュの脳はフリーズした。思わず隣にいる兄たちの様子を見てみると、全員が一様に驚きを隠せない様子でいる。ほかの貴族たちも同様で、ギーシュはようやく自分になにが起こったのかを理解した。 「ぼ、ぼくをパートナーに選んでくださったのですか?」 「はい。わたくしと一曲、お相手してくださいませ」 動揺を隠せずに、震えながら尋ねたギーシュに、ルビアナは笑みを崩さずに答えた。 ギーシュの頭が真っ白になる。想像を超えたことが起こったからだけではなく、アンリエッタにも劣らないほどの美貌の令嬢が自分を誘ってくれている。しかも、アンリエッタがまだ”少女”の域にとどまっているのに対して、ルビアナは少女から一歩踏み出した成熟した”女”の美しさを発し、かといって熟れ過ぎた老いの兆候はまったくなく、新鮮な輝きを保っている。まさに、美女という表現の完成形であり、見とれることが罪とはならぬ天女だったからだ。 『こんなバカなことがあるはずがない。これは夢だ!』 あまりの出来事に、ギーシュは己の意識を失神という避難所に逃れさせようと試みた。しかし、隣の兄から「ギーシュ!」と、叱責の声が響くと我に返り、グラモン家のプライドを振り絞ってルビアナの手を握り返した。 「ぼくでよろしければお相手を承りましょう。レディ、あなたのパートナーを喜んでつとめさせていただきます」 「ありがとうございます。ジェントルマン、あなたのお名前をうかがってもよろしいですか?」 「ギーシュ・ド・グラモン。レディ・ルビアナ、あなたのご尊名に比べれば下賤な名ですが、その唇でギーシュとお呼びいただければ、この世に生を受けて以来の名誉と心得ます」 「はい、ではミスタ・ギーシュ。あなたに最高の名誉を与えます。その代償に、わたくしに至福の一時を与えてくださいませ」 「全身全霊を持って、お受けいたしましょう」 覚悟を決めると、ギーシュは己の中に流れるグラモンの血を最大に湧きあがらせてルビアナに答えた。父や兄から教わった女性に尽くすスキルをフルに使い、リードしようと全力で試みる。 その様子を、ほかの貴族たちは呆然と見ているしかなかった。一流の貴族から見ればギーシュの振る舞いは未熟で、なぜあんな小僧がという腹立たしい思いが湧いてくるが、まさか邪魔をするわけにはいかない。モンモランシーは理解が追いつかず、ただ立ち尽くして見ているだけだ。 そして、ふたりはパーティ会場の真ん中に出ると、優雅に会釈しあって手を結んだ。それを合図に、楽団からミュージックが流れ始める。 「交響曲・水と風の妖精の調べ……レディ・ゴー」 涼やかな音楽が始まり、ギーシュとルビアナは手を取り合ってステップを踏み始めた。貴族にとって社交ダンスは基本のたしなみだけに、ギーシュも危なげなく踊りを披露する。 対してルビアナはギーシュに合わせるようにして、ふたりのタップのリズムはほぼ重なって聞こえた。不協和音はなく、ギーシュとルビアナは鏡写しのように美しいシンメトリーを飾り、その心地よさにギーシュはしだいに緊張をほぐれさせていった。 「ミス・ルビアナ、ぼくはまるで白鳥と踊っているように思えますよ」 「うふふ、嬉しいですわ。さあ、ミスタ・ギーシュ、音楽はまだ始まったばかりです。もっと楽しみましょう」 音楽は序曲から第一楽章へと移り、緩やかな動きからタンタンと軽快なリズムに変化し、少しずつ動きが速くなっていく。 月光をスポットライトに、優雅に、時に素早く舞うギーシュとルビアナ。 楽しくなってきたギーシュは、いつもモンモランシーなどにしているように、乏しいボキャブラリーを駆使してルビアナをほめちぎり始めた。 「おお、あなたはなんと美しいんでしょう。世界中のオペラを探しても、あなたほどの人はいない。あなたの髪はキラキラ輝き、まるで海のよう。瞳は……」 そこで、瞳の色を褒めようとしたギーシュは口を止めざるを得なかった。ルビアナの瞳はほとんど閉じられたままで、瞳の色はわからない。するとルビアナはそれに気づいたようで、困ったようにギーシュに言った。 「すみません、わたくしは目があまりよろしくないもので。薄目でい続けなければいけないことを、お許しください」 「そ、それは大変失礼いたしました! ぼくとしたことが、とんでもないご無礼を」 「いいえ、いいのです。それより、もっと楽しく踊りましょう」 気分を害した様子もないルビアナに、ギーシュはほっとした。しかし、瞳が見えないとしても、目を閉じたまま踊り続けるルビアナのなんと美しいことか。 ターン、タップ。音楽に合わせて動きも複雑さを増していく。ここからがダンスの本番だ。 だがギーシュはダンスが複雑さを増すにつれ、ルビアナの信じられない技量を目の当たりにすることになった。ギーシュもガールフレンドをダンスに誘うことは何度もあったが、ルビアナのそれは身のこなし、正確さともに次元が違っていたのだ。 ”この人、とんでもなく上手い!” 心の中でギーシュは驚嘆した。高度なダブルターンを、ルビアナは表情を一切崩すことなく完成させてしまった。その動きの完璧さは、実家で見たダンスの先生のそれを軽く上回っている。 例えるならば、花の上で舞う蝶の妖精。そう錯覚してもおかしくないだろう。 このままだと自分だけ置いていかれてしまう! ギーシュは焦った。全力でリードするつもりが、このままだとルビアナの独り舞台になってしまう。 しかし、ギーシュが焦ったのは一瞬だけだった。ルビアナに置いていかれるかと思ったギーシュの動きが、ルビアナに合わせたように精密さを増し始めたからだ。 「ギーシュのやつ、いつのまにあんなにダンスが上達していたんだ?」 見守っていたギーシュの兄たちが、自分たちの知るギーシュよりずっと卓越した動きを見せるギーシュに驚いて言った。モンモランシーも、以前に自分と踊った時よりはるかにレベルが上の動きを見せるギーシュに驚いている。 いや、一番驚いているのはギーシュ本人だ。自分にできる動きを超えているどころか、知らないはずの動きさえできる。これは、まさか。 「ミス・ルビアナ、あなたがぼくのリードを?」 「はい、失敬かと思いましたが、ミスタ・ギーシュならばわたくしに付いていただけると思いまして。わたくしは少しだけミスタ・ギーシュのお手伝いをしただけ、これは貴方が本来持っている力ですわ」 優しく微笑みかけてくるルビアナに、まいったな、とギーシュは心の中で完敗を認めた。 ダンスを通して、相手の技量をも実力以上に引き出す。操り人形にされている感じは一切なく、それどころか体が動きを元々知っていたかのように自然と動き出している。殿方を立てることも忘れない、この人は紛れもなく天才だ。 「さあ、ギーシュ様ももっと軽やかに。曲はまだまだ続きますわ。もっとわたくしを見て、そしていっしょに楽しみましょう」 「ええ、一時から無限までのすべての時間を、共に楽しみましょうミス・ルビアナ」 「ルビアナとお呼びください。さあ、無限のような一瞬の時間を共に」 ギーシュとルビアナは踊り続けた。ふたりが舞う、その美しさは貴族たちの心に永遠に刻まれ、アンリエッタも心から見惚れた。 だが、それ以上にギーシュは楽しかった。こんな楽しいダンスを踊ったことはない。ルビアナは誰よりも優しく、美しく、ギーシュの目はルビアナの虜になり、ギーシュの体は疲れを忘れて動き続けた。 けれど、永遠は一瞬にして終わる。楽団の演奏が終わり、ふたりの動きが同時に止まる。 それはめくるめく夢の終焉。ふたりに対して、会場から惜しみのない拍手が送られた。 「ブラボー!」 「グラモンの末っ子、まだ学生だというのにやるではないか」 非の付け所のないパーフェクトなダンスに、数多くの賞賛がギーシュに与えられた。ギーシュの父や兄たちも、誇らしげに拍手を続けている。 しかしギーシュの耳には、会場の賞賛はほとんど届いていなかった。彼の意識のすべては、いまだずれることなくルビアナに向かい続けていたのだ。 「ルビアナ……最高でした。ぼくは、こんな楽しいダンスをこれまで経験したことがなかった。一生、いえ来世まで決して今日のことを忘れることはないでしょう!」 「ありがとう、ギーシュ様。わたくしも、心から楽しいひと時を味わわせていただきました。あなたにパートナーになっていただいたことは、間違いではありませんでした」 それはギーシュにとって最高の賛辞であった。この世にふたりといないほどの完璧な女性に認めてもらえたことは、グラモン家の人間としてこれほど誇らしいものはない。 しかしギーシュの夢見心地はすぐに終わらされた。ダンスが終わると、ルビアナには「次はぜひ私と踊ってください」と、貴公子たちが押し掛けてきたのである。ギーシュはたちまち押し出され、現実を意識させられた。 「そ、そうだよね。園遊会じゃ、これが当然さ……」 少しでも多くの貴族とつながりを作るため、有力な貴族は次々にパートナーを変えることが常識だ。 しょせん、自分は偶然選ばれたそのひとりに過ぎない。ギーシュはすごすごと引き下がろうとし、そんなギーシュをモンモランシーはやきもちという名の歓迎で慰めようとやってきた。だが、ギーシュが踵を返そうとした、そのとき…… 「お待ちになって、ギーシュ様」 ぎゅっと手を握りしめられ、振り返ったギーシュは自分の目を疑った。ルビアナが、自分の手を握って引き留めてくれているではないか。 「まだ、わたくしたちのダンスは終わっていませんわ。アンコール、よろしいかしら?」 「ル、ルビアナ……」 「うふふ。さあ参りましょう!」 ルビアナはそのままギーシュの手を引いて駆けだした。ギーシュは訳も分からず、「えええっ!?」と、間抜けな声と顔をしながら引かれていく。 当然、貴族たちは愕然とする。そして、ギーシュの兄たちをはじめとする何人かは後を追って走り出そうとしたが、その背に鋭い叱責が投げかけられた。 「お待ちなさい!」 「じ、女王陛下!? しかし」 「無粋な殿方を好く女性は、この世に一人もおりませんわよ。それにわたくしは、ミス・ルビアナに楽しんでいってくださいと言いました。せっかくのところに水を差して、わたくしに恥をかかせるつもりですか?」 アンリエッタは、自分にも覚えがあることだけに、ふたりを引き止めることを許さなかった。まさかこうなるとは予想外だったが、乙女心がどういうものなのかは自分が一番よく知っている。 がんばってくださいね、とアンリエッタは心の中でエールを送った。この園遊会で、少しでも多くのトリステイン貴族がルビティア家と交友を持ってくれることを期待していたけれども仕方ない。マザリーニ枢機卿は怒るだろうけれど、国家の繁栄とロマンス、どちらが重大であるかなんてわかりきったことなのだから。 女王にそこまで言われては、貴族たちも引き下がるしかなく、悔し気にしながらも足を止めてふたりを見送った。ただ一人を例外として。 ルビアナは、ギーシュの手を引いたままパーティ会場を抜け、邸宅の敷地も抜け、そのままの足でラグドリアン湖の湖畔へとやってきた。 「ふう、ここまで来ればいいでしょう。わぁ、これがラグドリアン湖……なんて大きくて、そして心地よい風が吹く場所なんでしょう!」 湖畔の砂利をシューズで踏みながら、子供のようにルビアナははしゃいでいた。そんなルビアナの姿は、月光を反射するラグドリアンに照らされて、まるで幻想の世界に迷い込んでしまったようにギーシュは思った。 「ルビアナ、いったいなにを……?」 それでもギーシュは、貴族の常識からはあまりにも外れたルビアナの行動を問いかけた。すると、ルビアナはギーシュのほうを向いて、深く頭を下げた。 「すみません、ギーシュ様。ぶしつけだと承知していますが、どうしても他の誰かと手をつなぐのが嫌で、申し訳ありません」 「い、いえ、頭をお上げください。ぼくのほうこそ、レディの心の機微を察せられなかったとは男子として失格……ええっ!」 言いながら、ギーシュは自分の言葉の意味に恐れおののいた。つまり、ルビアナは自分だけと手をつなぎたいと言ってくれている。これが、学院の女子を相手にしたのであれば、余裕を持って大げさにきざったらしく喜びの表現をあげたであろうが、相手はグラモンを歯牙にもかけない規模を誇る大貴族。普通なら、あり得るわけがない。 「ミ、ミス・ルビアナ、お戯れはおよしになってください。ぼ、ぼくなんてまだ未熟な学生の身。あなたのような高貴なお方と、釣り合うわけがありません」 「いいえ、私は自分の意思でここにいるすべての殿方の中から、ギーシュ様、あなたとならば踊りたいと思って手を取りました。私は、自分で認めた相手以外の誰とも踊りはしません」 「で、ですがそれでは貴族としての本分が……あなたも、本国に示しがつかないのでは」 「構いません、すべての責任は私が取ります。私は、いつか骨となるその日まで、自分の踊りだけを踊り続けます。それが私が決めた、生涯ただひとつのわがままです」 はっきりと言い放ったルビアナに、ギーシュは唖然とした。 貴族としての重要な責務のひとつを投げ捨てる。しかも、彼女ほどの大貴族がなどと普通は考えられない。 しかし、同時にギーシュはどこかルビアナがまぶしく見えた。そんなわがままを通しても、彼女の才覚ならば埋め合わせをしてお釣りがくるほどを得られるに違いない。 貴族社会で自分のわがままを通すことがどれだけ難しいか。ウェールズと結婚したアンリエッタも、その道のりは薄氷の連続であったし、平民の才人と恋愛関係にあるルイズも相当な悩みを抱えているのはギーシュにもわかっている。 それでも、自分の通したい筋を、道理に反するわがままだとしながらも通している。貴族社会に合わせるのを当然だと考えていたギーシュには、ルビアナがルイズやアンリエッタと並んで美しく見えたのだ。 「ミス・ルビアナ、いやルビアナ。ぼくはあなたに感動しました。ぜひ、もう一度踊っていただきたい。さあ、お手を」 「ありがとうございます。ギーシュ様、こんなわたしのわがままを聞いてくださいまして」 ギーシュとルビアナは手を取り合い、湖畔をダンスホールにして第二幕を踊り始めた。 ミュージックは風と波の音。スポットライトは変わらず月光だが、湖畔に反射した光が幻想的に照らし出している。 湖畔の砂利を踏みしめる音さえ、ミュージックに加わる。ダンスをするには不向きな足場のはずだが、やはりルビアナとのダンスはそんな不自由さをまったく感じさせないほど素晴らしかった。 踊るギーシュとルビアナ。その中で、ふたりは語り合い始めた。 「ルビアナ、なぜぼくを……グラモンのたかが末っ子に過ぎないぼくを選んでくれたのですか?」 「それはあなたが、あの殿方たちの中でひとりだけ、温かい眼差しでわたくしを見ていてくれたからですわ」 「ぼくが?」 「ええ。わたしがあの会場に入っていったとき、ほかの方々はルビティアの私だけを見ていました。けれどあなたは、純粋に私だけを見ていてくれました」 「そんな、ぼくはあなたの美しさに見とれていただけで……って、あなたは目が弱いはずじゃ」 「ふふ、見えないからこそ、よく見えるようになるものもあるのですわ。ギーシュ様、あなたはとても明るい人……きっと多くのお友達がいて、あなたはその中心で皆を引っ張っていく太陽のような人なのでしょう」 「か、買い被りですよ」 そうは言ったものの、自分が水精霊騎士隊のリーダーだということをほとんど言い当てている。たぶん、口調や態度などを分析したのだろうが、顔色などにごまかされないからこそ、人柄を見抜く眼力は本物だ。 すごい人だ。ほとんど完全無欠と呼んでもいいのではないか? ギーシュは誰もが認めるナルシストではあるが、あまりのルビアナの能力の高さにコンプレックスを感じ始めていた。 しかし、ルビアナは悲しそうな声でギーシュにつぶやいた。 「ですがギーシュ様、私は本来ならギーシュ様と踊る資格のない卑しい女なのです」 「な! どういうことです。あなたのような素晴らしい方に何があろうと僕は気にしませんよ。美しい薔薇にトゲがあるのは当然のことではないですか!」 「そうではないのです。私の出身がゲルマニアだということはご存知でしょう。ルビティアは財力によって爵位を手に入れた成り上がりの系譜……それゆえに、私は神の御業である魔法を使えないのです。あなたと同じ、メイジではないのです」 ギーシュははっとした。確かに、平民が金銭で爵位を買うのはゲルマニアでは珍しくない行為ではあるが、トリステインではまだ一部の例外を除いては貴族はメイジであるという常識がある。 「軽蔑なさいましたか? 私はしょせん、貴族の名前だけを持つ平民の娘……始祖の血統からなるトリステインの正当なる貴族には劣る……」 「そんなことはありません!」 「ギーシュ様?」 「ぼくは、あなたほど美しく優れた貴族を見たことがない。確かに、始祖ブリミルは我々に魔法をお与えになりました。しかし、ぼくの友人や知り合いにはメイジでなくとも誇り高く、強く、国のために貢献している人が大勢います。ぼくは、そんな彼らを魔法が使えないからと見下したことはない……いや、前にはあったかもしれないけど今は魔法が使えない仲間も皆同志だと思っている。だからあなたも、少なくともぼくの前ではメイジでないことを気にする必要なんかありません」 正直なギーシュであった。だがルビアナは目を閉じたままながら、その瞼から一筋の涙を流した。 「ありがとうギーシュ様、私はトリステインにやってきて本当によかったですわ」 「涙を拭いて、ルビアナ。乙女の涙はもっと嬉しいことが起きたときにとっておくべきです。さあ、今はなにもかもを忘れて踊りましょう!」 手を結び、ギーシュとルビアナは観客のいない彼らだけのステージで楽しく踊り続けた。 いや、正確には少しだけ観客はいた。 一人は会場から唯一ふたりをつけてきたモンモランシー。彼女は楽しく踊るギーシュとルビアナを湖畔の木の影から唇をかみしめながら見つめていた。 「ギィィシュュウゥゥ! わたしとだってあんなに長く踊ってたことないくせにぃぃ! なによ、そんなにそのゲルマニア女のほうがいいわけなの! 今日という今日は血祭りにあげてやるわ!」 まるでルイズが乗り移ったような、鬼気迫る嫉妬のオーラを巻き散らしながらモンモランシーは吠えていた。 そしてもうひとり空の上から、あの宇宙人がその嫉妬の波動を感じ取って笑っていた。 「いやはや、ものすごいマイナスエネルギーの波動ですね。たった一人がこれほどのエネルギーを発せられるとは、なんとも人間というものはおもしろい。けど、このエネルギーを集めるのはやめておいたほうがよさそうですねえ」 硫酸怪獣ホーが勝手に生まれそうなパワーを感じたが、この手のマイナスエネルギーは特定の目的を持って動くことが多いので、宇宙人は制御が面倒だと考えて収集をやめた。 扱いやすいとすれば、パーティ会場で貴族たちが発しているような恨みと欲望のエネルギーである。しかしそれも、先のギーシュとルビアナの披露したダンスの余韻で小康状態にある。 「まったく、余計なことをしてくれますねえ。もう量はじゅうぶんでしたけど、こうも澄んだ空気だとどうも気持ちがよくありません。では……我ながら小物っぽいとは思いますが、八つ当たりしてあげなさい! カモン、ブラックキング!」 宇宙人が指をパチリと鳴らすと、ラグドリアンの湖畔が揺らめいて、周辺を大きな地震が襲った。 なんだ! 驚く人々が事態を飲み込むよりも早く、パーティ会場のそばの地中から土煙をあげながら巨大な黒い怪獣が姿を現した。 「わ、か、怪獣ですぞぉーっ!」 貴族たちは眼前に出現した巨大な怪獣に驚き、魔法で立ち向かうことも忘れて逃げ出したり腰を抜かしたりしていた。 しかしそれは逆に賢明であったといえるかもしれない。なぜなら、ここに現れた黒々とした蛇腹状の体を持ち、頭部に大きな金色の角を持つ怪獣は用心棒怪獣ブラックキング。かつてナックル星人に操られて、ウルトラマンジャックを完敗に追い込んだほどの強豪なのだ。とても準備なしで挑んで勝てるような相手ではない。 ジャックに首をはねられ、怪獣墓場で眠っていたところをあの宇宙人に甦らされて連れてこられた。今回ナックル星人はいないものの、あの宇宙人を新しい主人として、唸り声をあげながらパーティ会場へ進撃しだした。 「適当に脅してやりなさい。その人たちはマイナスエネルギーをよく生んでくれますから、あまり殺してはいけませんよ」 宇宙人のうさ晴らしに巻き込まれて、貴族たちは迫りくるブラックキングから逃げまどった。 もちろん、中にはギーシュのグラモン家のように、一時のショックから立ち直ったら反撃に打って出ようとする武門の家柄もある。しかし、それをアンリエッタは止めた。 「やめなさい! 今は招待客の避難に全力を尽くすのです」 外国からの招待客に万一のことがあってはトリステインの恥。グラモン家のギーシュの兄たちは、武勲をあげるチャンスを逃すことに悔みながらも女王の命に従った。 もっとも、彼らはすぐに自らの蛮勇がストップされたことを女王に感謝することになった。ブラックキングが鋭い牙の生えた口から放った赤色の熱線が、会場のある貴族の邸宅を直撃し、一発で粉々にしたからである。 「すごい破壊力だ」 ブラックキングの溶岩熱線。対ウルトラマンを目的に飼育されているブラックキングは全能力がバランスよく高く、弱点が存在しないと言ってもいい。 一方そのころ、湖畔にいたギーシュたちも当然ブラックキングの巨体を目の当たりにしていた。 湖畔から会場まではざっと百メイル。それなりの距離があって、ブラックキングの目的は会場であるから彼らはブラックキングの横顔を見るだけで済んでいるが、ギーシュはここで無駄な意地を見せていた。 「止めないでくれルビアナ。ぼくはグラモンの一門として戦いに行かねばならないんだ。僕が行かなけりゃ父さんや兄さんたちに合わせる顔がないんだ!」 「おやめください! あなたが行ってもあれを倒すのは無理です。危険すぎますわ」 「相手がなんであろうと、トリステイン貴族がやすやすと引くわけにはいかない! 頼むから見守っていてください。あなたに捧げる武勲をきっと持ち帰ってみせます」 明らかに悪い方向で調子に乗っていた。水精霊騎士隊がいれば、まだリーダーとして自制は効くし、レイナールなどの抑え役もいる。 だが、暴走しかけるギーシュに業を煮やし、ついにモンモランシーが割り込んできた。 「いい加減にしなさいギーシュ!」 「わっ! モ、モンモランシー、いつのまにそこに」 「そんなことどうでもいいでしょ! あなたはまた美人の前だといい格好しようとして。こんな場所に女の子ひとり置いていって万一のことがあったらどうするの?」 あっ! とするギーシュを、モンモランシーはさらに叱りつける。 「女の子ひとりも守れないで、なにが貴族よ騎士よ。もしその人があんたがいない間にケガでもしたら、それ以上の不名誉はないでしょう」 「ご、ごめんモンモランシー、君の言うとおりだ。ぼくは間違っていた、手の中の薔薇一輪も守れないでなにが男だろうか。なんと恥かしい! 許しておくれ」 平謝りするギーシュ。モンモランシーは、ほんとにこれだから目を離せないんだからとまだカンカンだ。 ルビアナは、突然現れたモンモランシーに少し驚いた様子でいたが、すぐに落ち着いた様子でモンモランシーにあいさつをした。 「失礼、お見受けするところモンモランシ家のお方ですわね。ギーシュ様を止めていただき、どうもありがとうございます。私の細腕ではどうすることもできませんでした」 「フン! このバカは甘やかしちゃダメなのよ。可愛い女の子と見れば、ホイホイ尻尾を振る破廉恥男なんだから」 怒りのたがが外れたモンモランシーは、もう相手が誰であろうと遠慮はしていなかった。しかし、無礼な態度をとられたのに、ルビアナの反応はモンモランシーの予想とは違っていた。 「いいえ、それはきっとギーシュ様は博愛のお気持ちがお強い方だからなのでしょう。モンモランシー様がお怒りになったのも、そんなギーシュ様がお好きだからなのですわね」 「なっ! あ、あなた、初対面の相手に何言ってるのよ」 「お隠しにならなくてもよいですわ。モンモランシー様の声には、怒りはあっても憎しみはありませんでした。それに、ギーシュ様のそうしたことをよくご存じとは、きっと貴女はギーシュ様の一番なのでしょうね」 「なっ、なななな!」 モンモランシーもまた、ルビアナの洞察力の深さに意表を突かれていた。 だが、危機は空気を読まずにやってくる。モンモランシーの予想した通り、ブラックキングが歩いたことによって蹴り飛ばされた岩のひとつが偶然にも、こちらに向かってすごい勢いで飛んできたのだ。 「きゃあぁっ!」 岩は数メイルの大きさのある庭石で、避けても避けきれるようなスピードではなかった。フライで飛んでも落ちた岩がどちらの方向に跳ね返るかはわからない。もちろんモンモランシーの魔法で受け止めきれる威力ではない。 しかし、ここでとばかりにギーシュは杖をふるって魔法を使った。 「ワルキューレ、レディたちを守るんだ!」 ギーシュの青銅の騎士ゴーレムが、三体同時に錬金されて岩に向かって飛びあがった。受け止めるなんて無茶は考えていない、ワルキューレそのものの質量を使った弾丸だというわけだ。 飛んできた岩はワルキューレ三体と空中衝突し、互いにバラバラになって舞い散った。そしてギーシュは薔薇の杖を口元にやり、どやあとキザったらしくポーズをとってかっこをつけた。 「ぼくがいる限り、君たちには傷一つつけさせやしないよ」 「ほんと、かっこつけるのだけはうまいんだから。けどまあ、助けてくれてありがと」 モンモランシーはぷりぷり怒ったふりをしながらも礼を言い、それからルビアナも感謝の意を示した。 ブラックキングはしだいに遠ざかり、もう岩も飛んでこないだろう。どうやら完全にこちらは眼中にないようだが、ブラックキングの背中を見送りながらルビアナは残念そうにつぶやいた。 「それにしても、ギーシュ様とのダンスはこれからというところでしたのに、無粋な怪獣様ですわね」 憮然とするルビアナの声色は、日没で鬼ごっこを中断させられた子供のような純粋な憤慨のそれであった。 「まったくだね。ルビアナといっしょなら、ぼくは朝までだって踊れたろうにさ」 「ギーシュ、わたしと舞踏会に出たときに「疲れた」って言って先に抜けたのは誰だったかしら?」 いつもの調子に戻ったギーシュとモンモランシーも同調して言う。怪獣は遠ざかりつつある、もうすぐ園遊会で何かあったときのために待機していた軍の部隊もおっとり刀で駆けつけてくるだろうから、自分たちの出番はないはずだった。 そのころ、会場に乱入したブラックキングは貴族たちを追いかけていた。しかしアンリエッタが迅速に逃げることを最優先させたため、少々の軽傷者を除いては人的被害は出ていなかった。 だが、このまま暴れ続ければいずれは追いついて蹂躙することもできるだろう。けれども、宇宙人はそこまでする必要を感じてはいなかった。 「もういいでしょう。これで人間たちにはじゅうぶんに恐怖を植え付けられました。仕込みはこれまで……戻りなさいブラックキング」 死人にマイナスエネルギーは出せない。貴族たちが逃げまどう姿を見て、じゅうぶんに溜飲を下げた宇宙人はブラックキングを引き上げた。あとは貴族たちのあいだで責任の押し付け合いでも始めてくれれば重畳というものだ。 ブラックキングは命令に従い、あっというまに地中に潜って消えてしまった。後には、呆然とする貴族たちが残されただけである。 そうして、一応の平和は戻った。 貴族たちは破壊された会場から少し離れた場所にある別の庭園に移動して、ほっと息をついている。 当然、ギーシュたちももう抜け出しているわけにはいかず、そこに戻っていた。 「おお、ギーシュよ。無事であったか」 「ははっ、父上。このギーシュ、全力でルビアナ姫をお守りしておりました」 「うむ、それでこそ我がグラモンの一門。よくやったぞ」 ギーシュは父や兄たちも無事であったことにほっとしつつ、帰還を報告した。 もしかしたら怒られるのではと内心では恐々としていたが、父は意外にも上機嫌であった。もっとも、ルビアナが後ろで微笑んでいれば、たとえ怒っていたとしても気分は逆転したに違いない。 けれども、褒められていい気分になっていたギーシュに、次に父が浴びせた言葉がギーシュの心を凍り付かせた。 「ギーシュ、ルビティアの姫のお気に入りになられるとは見事ではないか。これはもう、モンモランシの小娘などと遊んでいる場合ではないぞ」 「えっ……」 ギーシュは言葉を返すことができなかった。それは、ギーシュにとって初めて体験する貴族世界の理不尽のひとつであった。 ルビティアとモンモランシでは、比較にならない格の差がある。家のために、どちらと付き合わねばならないかは言うに及ばずだが、そうなるとモンモランシーと付き合うことはできなくなってしまう。 ギーシュの心に霜が降る。嫌だと言いたいが、そうすれば父の期待を裏切り、激怒させてしまうだろう。さらにグラモン家に恥をかかせることになる。どうすればいいかわからない。 父はギーシュにだけ聞こえるように言ったので、後ろにいるモンモランシーとルビアナには聞こえていないはずだ。ここは自分がはっきりと意思表示をしなければならない。だが、なんと答えればいいのだ? 冷や汗を噴き出すギーシュ。耳を澄ますと、会場のそこかしこから言い合う声が聞こえだした。貴族たちが、格上の自分を差し置いて先にお前が逃げ出すとは何事だ、とか、お前の息子はうちの娘にあれだけ求婚しておいたくせに守ろうともしなかったではないかなどと言い合っているのだ。 これが園遊会の実体。ギーシュはその欺瞞を身をもって体験し、打つ手なく戸惑っている。 まさに、あの宇宙人が望んだとおりの、人間の醜い面がさらけ出された煉獄が実現されつつあった。 「ウフフ、いいですね。これでこそ人間のあるべき姿というものです」 しかし、宇宙人が高笑いし、ギーシュが思考の堂々巡りの深淵に落ちかけたそのとき、誰もが予想していなかった事態が起こった。 「うわっ! なんだ、また地震か!」 地面が揺れ動き、土煙が噴き出して、地中から巨大な影が姿を現す。 「出たっ、またあの怪獣だ!」 ブラックキングが庭園のそばから再度出現し、貴族たちを見下ろして再び暴れだしたのだ。 溶岩熱線が集まっていた貴族たちの一団を狙い、十数人が一度に吹き飛ばされる。さらにブラックキングは狂ったようにのたうちながら庭園に乱入していった。 たちまち逃げ出す貴族たち。しかし、驚いていたのは宇宙人も同じであった。 「ブラックキング! 何をしているんです。誰が出て来いと言いましたか!」 彼は命令をしていなかった。しかしブラックキングは出てきて、今度は宇宙人の命令を聞かずに無差別に暴れている。 これはどうしたというのだ? 困惑しながら空から見下ろす宇宙人。すると彼は、ブラックキングの姿が先ほどと明らかに違うところを見つけた。 「角が、機械化されている!?」 そう、ブラックキングの立派な角があった頭部に、角の代わりに巨大なドリル状の機械が取り付けられていたのだ。 さしずめ、ブラックキング・ドリルカスタムとでも呼ぶべきだろうか。ドリルはそれが飾りでないことをアピールするように、先端から紫色の光線を放ち、離れた場所にある別の貴族の別荘を粉々に粉砕してしまったのだ。 「改造手術をされている。ですが、いったい誰が!」 ブラックキングは正気を失っているらしく、無茶苦茶に吠えて暴れながら熱線や光線を撃ちまくっている。それを止めることは、もう誰にもできなかった。 庭園は大パニックになり、もう秩序だった避難は望むべくもなく、貴族たちは皆好き勝手に逃げまどっている。 そしてその猛威は、不運にもギーシュたちのほうへと向けられた。 「ギーシュ!」 「ギーシュ様!」 逃げ遅れたモンモランシーとルビアナに向けて、ブラックキングのドリル光線の照準が定められる。 ギーシュは、ありったけのワルキューレを錬金してふたりの前に立ちふさがった。しかし、青銅のワルキューレの壁でどれだけ耐えられるものか。 ならば、せめてひとりだけを全ワルキューレでカバーすれば守り切れるかもしれない。ギーシュの耳に、父や兄たちの声が響く。 「ギーシュ、ルビティアの姫様を守るんだ」 そんなことは言われなくてもわかっている。しかし、ギーシュはどれだけ道理をわきまえても、それができる男ではなかった。 そう、好きな子の前でかっこ悪いところを見せるくらいなら死んだほうがマシ。それが男だと信じるのがギーシュだった。 「ぼくは、ふたりとも守る! 足りない分の壁には、ぼくの体を使えばいいんだよ!」 ワルキューレをモンモランシーとルビアナの前に均等に配置し、さらにその前にギーシュは立ちふさがった。 これで死ぬなら本望。ギーシュは覚悟し、彼の耳に父や兄たちの絶叫が響く。 だが、まさにブラックキングの光線が放たれようとしたとき、なぜかブラックキングの頭がふらりと揺れて光線の照準が大きくそれた。 光線ははずれ、ギーシュには爆風と吹き飛ばされた砂や石だけが叩きつけられた。とはいえ、それだけでもじゅうぶんな威力で、ギーシュは傷だらけになりながら吹き飛ばされた。 「うわあぁぁっ!」 「ギーシュ!」 「ギーシュ様!」 ワルキューレの影に守られて爆風をやり過ごせたモンモランシーとルビアナは、すぐにギーシュに駆け寄った。 だがその後ろからブラックキングが狙ってくる。ギーシュの父や兄たちは、駆け付けようとしたが、もう遅かった。 「だめだ、やられるっ!」 ドリルからいままさに光線が放たれるかと思われた。しかし、光線は放たれず、ブラックキングは目の焦点を失い、そのままフラリと揺らぐと地面に倒れこんでしまった。 轟音が鳴り、横倒しになるブラックキングの巨体。ブラックキングは口から泡を吐いて痙攣していたが、すぐに動かなくなってしまった。 「無理な改造で、脳に負担がかかりすぎたんですね」 呆然としたまま、宇宙人はつぶやいた。 貴族たちも、突然絶命したブラックキングに呆然とするしかないでいる。だが、モンモランシーとルビアナは傷ついたギーシュを前に、それどころではなかった。 「ギーシュ、大丈夫! わたしがわかる?」 「ああ、モンモランシーだろう。よくわかるよ、いやあ君の顔を間近で見るのは永遠に飽きないねえ」 「バカ! またかっこつけて傷だらけになって。あなた血だらけじゃない!」 「いやいや大丈夫だよ。ちょっと体中しびれてるけど、痛みはないんだ。かすり傷だよ、ちょっと休めば立てるさ」 だが、そういうときが一番危ないのをモンモランシーは知っていた。一時的に痛覚が麻痺していても、いずれ耐えがたい苦痛に襲われる。治療は一刻を争う。 モンモランシーは杖を取り出して、治癒の魔法を唱え始めた。傷の深そうな部分から順々に、しかし治癒に止血が追いつかない。モンモランシーが焦り始めたとき、ルビアナがハンカチを手にそばにかがみこんだ。 「お手伝いしますわ」 ハンカチを包帯代わりに、それでも足りなければドレスを引きちぎってルビアナはギーシュの止血をしていった。 その行為に、ギーシュは「大事なお召し物をぼくなんかのために、もったいない」と止めようとしたが、ルビアナは気にした様子もなく言った。 「よいのです。ギーシュ様のお役に立てて破れたのなら、このドレスは私の誇りですわ。それより、ギーシュ様のために一番がんばっておられるのはモンモランシー様です。モンモランシー様をこそ見てあげてください」 こんなときの気配りもできて、モンモランシーはこれが大人のレディなのかと少し悔しくなった。 だけど負けない。こんなぱっと出のゲルマニア女なんかにギーシュをとられてたまるものか。 やがて手当は終わり、治療が早かったおかげでギーシュはたいした後遺症もなく普通に立ち上がることができた。 「あいてて、まだ少し痛むけどもう大丈夫だよ。モンモランシー、ルビアナ、君たちのおかげだ。ありがとう」 「ま、まあ、あんたに助けられたわけだし、わたしにだって貴族の誇りってものはあるから当然よ」 「わたくしは何もしていません。モンモランシー様が、ギーシュ様を救ったのですわ。本当に、お似合いのふたりです」 ルビアナにそう言われ、ギーシュとモンモランシーは照れた。 しかし、それぞれの家の問題はまだ引きずっている。すると、ルビアナはギーシュとモンモランシーの手を取り、三人の手を重ねて言った。 「わたくしたち、とてもよいお友達になれそうですね」 その光景で、グラモン家はもうなんの文句も言うことはできなくなってしまったのである。 それだけではなく、ルビアナは事態の鎮静に四苦八苦しているアンリエッタの元に向かうと、各国の貴族たちに向かって宣言した。それはまとめると、今日の事件での損失はルビティア家が補填する。自分は、危急の事態にあっても冷静に判断するアンリエッタ女王に深い感銘を受けた、トリステインにルビティアは協力を惜しまない。これからもトリステインで皆さまとお付き合いしたいのだと。 それにより、不満をたぎらせていた貴族たちは一気に大人しくなった。ゲルマニア有数の大貴族とのパイプがつながるのなら、今日のことなど安いものだ。 当然、アンリエッタにとっても渡りに船である。ルビアナの申し出に感謝し、友好を約束した。 そして、夢のような時間は終わりを告げる。園遊会は満足の内に終了し、ギーシュとモンモランシーはルビアナと別れる時がやってきた。 「さようなら、ギーシュ様、モンモランシー様。おふたりと出会えて、今日はとても楽しい一日でした」 「ルビアナ、短い時間でしたけどぼくもとても楽しかったです。あなたからはいろいろと教えられました。今日のこの時を一生胸に焼き付けることを約束します」 「ま、まああなたがいい人だっていうのはわかったわ。だからわたしからも言うわ、ありがと」 手を取り合い、別れを三人は惜しんだ。 これからルビアナはゲルマニアに帰る。そうなれば、また会えるかはわからない。 そうなれば……ギーシュは不安だった。ルビアナにとって、今日のことぐらいは数多くある出会いのひとつに過ぎず、すぐに忘れ去られてしまうのではないか? グラモンとルビティアはそれほどの格差がある。 しかし、ルビアナはギーシュの心の機微を見抜いたのか、再びギーシュとモンモランシーの手を取り言った。 「そうですわ。再会を願って、このラグドリアン湖の水の精霊に誓いを捧げましょう」 「え? 誓い、ですか」 「はい、ラグドリアンの精霊は別名誓約の精霊と聞いております。私たちの友情が永遠であることを誓えば、いつか必ずまた会えますわ」 それは虹色の提案であった。精霊への誓約は違られることはないという。 だが、人間の誓約に絶対はない。するとルビアナは、同じく見送りに来ていたアンリエッタに見届け人を頼んだ。 「ええ、わたくしでよければ見届けさせていただきますわ。あなた方三人の誓約、トリステイン女王の名の下に、この耳と目にとどめましょう」 それ以上の確約などはあろうはずがなかった。ギーシュ、モンモランシー、そしてルビアナはラグドリアン湖を望み、それぞれの誓いの言葉を口にした。 「誓約します。ぼく、ギーシュ・ド・グラモンはモンモランシーを一番に愛し続け、ルビアナを永遠に愛し続けることを」 「誓約します。わたし、モンモランー・ラ・フェール・ド・モンモランシーはギーシュを愛し、ルビアナと変わらぬ友情を持ち続けることを」 「誓約します。私、ルビアナ・メル・フォン・ルビティアはギーシュ様とモンモランシー様に永久に続く友情を貫くことを」 こうして誓約は終わり、三人は固く友情を結んで別れた。 別れ際に、モンモランシーはルビアナに「ギーシュ様をよろしく」と頼まれ、「当然よ」と言い返した。 遠ざかっていくルビアナの馬車を見送りながら、ギーシュとモンモランシーは思った。 いい人だった。そして、すごい人だった……できるなら、あんな大人になりたいものだ。と。 また会える日はいつ来るだろうか? ふたりの胸を、寂しい風が吹き抜けていった。 だが、事態は収束したが、謎はまだ残っている。 空から一部始終を見守っていた宇宙人は、この園遊会で集まったマイナスエネルギーの塊を手にしながらも釈然としない様子でつぶやいていた。 「『妬み』のエネルギー、確かに頂戴いたしました。しかし、いったい何者がブラックキングを改造したのでしょう……ブラックキングが地中に潜ってから出てくるまで、ほんの数十分……そんな短時間で、ブラックキングを改造できるほどの技術を持った者が、まだハルケギニアにいるというのですか? それに、なんの目的で……? 一体何者が……まさか……これは、遊んでいてはまずいかもしれませんね」 ハルケギニアで起きている異変の元凶の宇宙人。しかしこの宇宙人も、ハルケギニアのすべてを知り尽くしているわけではない。 深淵のように美しく純粋で底のない邪悪との邂逅が、すぐそこに迫っていることをまだ誰も知らない。 ハルケギニアの戦士たちとウルトラマンたちを翻弄する、短いが熾烈な戦いが、もう間もなく始まる。 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
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前ページ次ページとある魔術の使い魔と主 「なっ……待て待て、どういうことなんだ?」 「だから言ったじゃない。作れないのよ」 次の日の夕方、当麻は解除薬を貰おうとモンモランシーの部屋に再び訪れた。 ちなみに、今日はシエスタと会っていない。当麻にとって、あそこはあかずの間に見事認定されたのだ。 これでやっとシエスタが解放されるなー、と思いながらドアを開いたのだが、現実はそう甘くない。 ギーシュは隣で残念そうな表情を浮かべて黙っている。そして、モンモランシーが今日の一日を簡潔に説明した。 「仕方ないじゃない。秘薬が売り切れてたんだもの」 「そんなんありっすか!? てかいつごろ手に入るんだ?」 「それがもう、入荷が絶望的なの」 淡い期待をことごとく裏切られ、当麻は深いため息を吐いた。 (なんでこうなっちゃうんですか!? まるで治しちゃいけないような展開……。あー、久しぶりに言いますよこれ。さんはい、不幸だー) 体をぐったりと机に預ける。魂が抜けてしまいそうな脱力感であった。 その様子に少し罪悪感を感じたのか、モンモランシーは詳しい話を付け加えた。 「その秘薬ってのはね、ガリアとの国境にあるラグドリアン湖に住んでる水の精霊の涙なの」 「なんですか、そのファンタジー要素満載のアイテムは」 聞き慣れない言葉に、モンモランシーは首を傾げる。 「? とにかく、その水の精霊たちと最近連絡が取れなくなっちゃったらしいの」 打つ手がないとお手上げポーズをとり、さらにはギーシュも既に諦めている。 「ったく、本当にツイてねーな」 当麻は再びため息を吐きながらも、一人決心して立ち上がった。二人の視線が集まる。 「どうするのよ」 「仕方ない。こちらから行って貰うしかないだら」 「ええええ! 正気? 水の精霊は滅多に人前に姿をあらわさないし、ものすごーく強いのよ。怒らせでもしたら大変よ!」 「ん~、怒らせなければいいだけの話じゃねえか? それにほら、魂の高速ボディランゲージでもすればきっと向こうも出てくるさ」 「だとしても! わたしは行かないんだから! 学校も休むわけにはいかないんだから」 ふん! とそっぽを向くモンモランシーに、当麻はピキリと頭の中で音がした。 「つかあんたがそんなもんを使うからこーなったんでしょーが! ルイズが元に戻るまでちゃんと責任を負いなさいッ!」 「な……勝手に飲んだのはルイズでしょ! わたしは悪くないわ」 「だったらこのことをアンリエッタ女王陛下にお伝えしちゃいますよ!」 グッ、とモンモランシーが言葉に詰まる。 惚れ薬は作られる事を禁じられている。それを、あろう事か女王陛下に伝えられたら人生は間違いなく悪い方向に変わっていく。 つまりは、まだ捕まりたくはないモンモランシーであったのだ。 「わ、わかったわよ……。行けばいいんでしょ、行けば!」 最悪ー……、とうなだれるモンモランシーに、ギーシュは手を肩に乗せた。 「安心してくれ恋人よ。ぼくがついているじゃないか」 「あんたよわっちいし、正直気休めにもならないわ」 そういってギーシュの手をどける。この二人、恋人として大丈夫なのだろうか? と当麻は自分の身ではないのに不安を覚えた。 その後、三人は出発の打ち合わせを始めた。 学校の事もあるので、早く行って早く帰ろうという話になり、出発は明日の朝となった。 シエスタとルイズは留守番である。当麻を敵と見なしているので、おそらく共に行動できないからだ。 はぁ、サボりなんて初めてだわ、とモンモランシーが思わず呟く。 「なあに、サボりなんてすぐに慣れてしまうさ! あっはっはっ」 「俺なんて夏休みじゃなかったら一週間以上休むことぐらい余裕であったぜ」 一方の二人は、全くと言っていい程気にしていなかった。 「凄いなキミは! いつの間にこんな竜を従えてたんだね!」 「あなた……何者なの?」 二人は別々の感想を述べる。当麻はそれに対してハハハと、苦笑いをこぼした。彼の左手のルーンは光輝いている。 そう、当麻とギーシュとモンモランシーは風竜の背中に乗っているのだ。馬より早く目的地に辿り着けるのがポイントである。 タルブ村での戦闘で、当麻はワルドの乗っていた風竜を左手のルーンの力で従えたのだ。本来なら手放す予定であったのだが、なぜか懐かれてしまい、こうして飼っているのである。 しかし、飼っていると言っても基本は放し飼い、こうして必要な時に当麻が口笛を使って呼ぶのであった。 「あれがラグドリアン湖よ」 しばらく時間が経ち、モンモランシーが指差した。二人がそちらに視線をやる。 そこには、太陽の光りがキラキラと輝いている大きな湖が一面と広がっていた。 おぉ~、と二人は感想を口にする。ここが目的地であるのだと理解した風竜は、丘の上へと降り立った。 「これがラグドリアン湖か! いやぁなんとも綺麗な湖だ! ここに水の精霊がいるのか! 感激だ! ヤッホー――!」 地面の感触を得たギーシュは、叫びながら丘を駆け降りていった。 一人、旅行の気分を味わっているギーシュは、ぐんぐんと加速していく。しかし、勢いをつけたスピードはそう簡単に止まるわけがない。 案の定、そのまま湖へと足からダイビングした。 「背が立たない! 背が! 背がぁぁぁあああぁぁあああああッ!」 泳げないのか、必死に手足を激しく動かしている。バシャッバシャッ、と水しぶきが綺麗であった。 「やっぱりもう少し考えたほうがいいかしら?」 モンモランシーの悩みに『俺もそう思うぜ』と言いたいのか、風竜が鳴く。 「まああいつにもいいところはあんだろ……」 さすがの当麻もこれにはなんて言葉をかければいいかわからなかった。 風竜と別れを告げた二人は、ゆっくりと波打ち際まで近づいた。 同時、ギーシュも岸辺にたどり着く。必死に泳いだのか、ゼーハーゼーハーと激しく呼吸をする。 「き、きみたちはなんでほっとくんだ! 泳げないぼくを見捨てないでくれよ!」 ギーシュの必死の叫びも、右から左へと流したモンモランシーはじっと湖面を見つめた。哀れみの意味も含めて、当麻はポンと肩に手を当てた。 好きな子にあっさりとスルーされたギーシュは、燃え尽きたようにその場で崩れてしまった。 「うぅぅううぅぅうう。トウマ! キミだけがぼくの味―――」 「ヘンね」 「どうした?」 モンモランシーの疑問に、当麻は耳を傾け、そばに向かう。 「水位があがってるわ。昔、ラグドリアン湖の岸辺はずっと向こうだったはずよ」 「そんな上がるのか? 見間違いとかじゃねえのか?」 「そんなことないわ。ほら、あそこに屋根が出てるわ」 当麻はそっちの方を向くと、たしかにそこには藁葺きの屋根が見えた。さらによく見ると、澄んだ水面の下に家が沈んでいることに気付いた。ダムに沈んだ村という単語が思い出される。 モンモランシーは水に指をかざして目をつむった。 その間、当麻はギーシュが気になり後ろを振り返る。 そこには、 体育座りでいじけているギーシュの姿があった。 地面にひたすら指でなにか文字を書いている。おまけに、「みんな……みんな……ぼくに扱いが酷いよ」と、呟いているのが余計に怖い。 しばらく放っておくか、と思い再びモンモランシーへと視線を向ける。 「水の精霊はどうやら怒っているようね」 既に目を開けて、困ったような口調で言った。 「それだけでわかるのか?」 「わたしは『水』の使い手、香水のモンモランシーよ。ここの水の精霊と、トリステイン王家は旧い盟約で結ばれているの。その際の交渉役を、モンモランシ家は何代もつとめてきたわ」 「つとめてきた?」 「えぇ……今はいろいろあって他の貴族がつとめているわ」 モンモランシーの口調が少し重くなった。おそらく、あまりよろしくない出来事があったのだろう。 変に蒸し返すのもどうかと思ったのか、当麻は深く追求しない事にした。 「あれか? 水の精霊ってこう女性の体なのかやっぱり」 ファンタジーRPGでの水の精霊といえばそういうイメージを当麻が持っている。実際にこの目で見るのはなんか問題が少しありそうだが……。 モンモランシーが口を開こうとしたその時、ギーシュが二人へと飛びかかってきた。 「なんでぼくを無視し続けるんだよぉぉおおぉおお」 いじけてもかまってくれない事に気付き、怒りよりも悲しさが先行した。なんというか、惨めである。 「キャッ」 「ととと……」 ギーシュの全身を使った愛情表現も、モンモランシーは回避する。その際、態勢が崩れたのか、当麻へと体を預けた。当麻もまた、ガシッとモンモランシーの腰に手を回す。 「な、ななななななななな何してんのよッ!」 「ん? いやまあ倒れそうだったからさ……」 ばっしゃーんと再び湖へと突っ込んだギーシュの存在を忘れ、モンモランシーは顔を真っ赤にして、当麻から離れる。 「べ、別に一人でなんとかできたわよッ!」 「ん……いや、そりゃ悪かったな」 なんで怒っているんだろ? と不思議がる当麻をよそに、モンモランシーは必死に高鳴る鼓動を抑える。 一方、 「し、死ぬ! 今度こそ死んでしまうからぁぁああぁああぁあ」 ギーシュの悲痛な叫びに当麻は、頑張れ、と応援した。 ギーシュはずぶ濡れとなったシャツを脱ぎ、扇いで乾かしている。あまりの落ち込み具合に、モンモランシーも一応は謝ったが、効果ははたしてあったのだろうか? そうこうしている内に、かなり時間が経っていた。当麻は早く水の精霊を見てみたい様子である。 すると、そんな当麻に気付いたのか、モンモランシーは腰にさげていた袋から一匹のカエルを取り出した。鮮やかな黄色に、黒い斑点がいくつも散っている。 「それがあんたの使い魔か?」 モンモランシーの手の平にちょこんとのっかって、命令を待つ姿は使い魔にしか見えない。 当麻の問いにえぇと頷くと、人差し指を立てた。 「いい? ロビン。あなたたちの古いおともだちと連絡が取りたいの」 そういって、モンモランシーは手に持った針で指の先をついた。ぷくーと風船のように赤い血が膨れ上がる。その血をカエルに付着させた。 それからすぐに、モンモランシーは魔法を使って傷の治療をする。瞬く間に傷は塞がり、皮膚に残った血をぺろっと舐めた。 「覚えていればわたしのことがわかるわ。じゃあロビンお願いね。偉い精霊、旧き水の精霊を見つけて盟約の持ち主の一人が話をしたいと告げてちょうだい。わかった?」 カエルは肯定の意をこめて、ピョンと湖の中へと消えていった。 「ロビンが水の精霊を呼びに行ったわ。見つかったら連れてきてくれるでしょう」 「ずいぶんと簡単じゃないか」 「呼ぶことだけは、ね。問題は水の精霊が涙を渡してくれるかの話なんだけど……」 瞬間、水面が突如光だした。 なんとも早い、水の精霊のお出ましであった。 前ページ次ページとある魔術の使い魔と主
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前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第二十三話「ラグドリアン湖のひみつ(前編)」 水棲怪人テペト星人 カッパ怪獣テペト 登場 トリステインの戦勝のお祝いから、数日後のこと。才人とルイズ、それからギーシュと、 金色の巻き毛の少女の四人は、トリステインとガリアとの国境にあるラグドリアン湖にやってきた。 才人の乗っている馬にはルイズも跨っており、才人の胸元にギュッとしがみついている。 「これが音に聞こえたラグドリアン湖か! いやぁ、なんとも綺麗な湖だな! ここに水の精霊がいるのか! 感激だ! ヤッホー! ホホホホ!」 一人旅行気分のギーシュが馬に拍車をいれ、わめきながら丘を駆け下りた。 馬は水を怖がり、波打ち際で急に止まった。慣性の法則で、ギーシュは馬上から投げ出されて 湖に頭から飛び込んだ。 「背が立たない! 背が! 背ぇええええがぁああああああッ!」 ばしゃばしゃとギーシュは必死の形相で助けを求めている。どうやら泳げないらしい。 「やっぱりつきあいを考えたほうがいいかしら」 金色の巻き毛の少女、魔法学院の生徒の一人、通称『香水』のモンモランシーが呟いた。 「そうしたほうがいいな」 才人が相槌をうった。するとルイズが心配そうな顔で、非常にしおらしい仕草で才人を見上げる。 「モンモランシーがいいの?」 「そ、そういうわけじゃねえよ。待ってろ。すぐに元のお前に戻してやるからな」 冷や汗をかきながら、才人は普段の気の強い彼女とは真逆のルイズに弁明した。 どうして才人たちがラグドリアン湖にいるのか、そして何故ルイズの性格がおかしくなっているのか。 それには長い長い、同時に馬鹿らしい経緯がある。 そもそもの事の発端は、才人が露店で水兵服を購入したことだ。ハルケギニアでは兵士の 制服というだけの服だが、日本人の才人の常識からすると、セーラー服は女子学生の着るものなのだ。 そして同時に、男心をやらしい感じに興奮させるものでもある。それを才人は、シエスタに頼んで 日本のものに近いように仕立て直してもらい、そのまま彼女に着てもらった。シエスタを選んだのは、 比較的日本人顔なので、周囲の人間の中では一番似合うと思ったからだった。 果たして、セーラー服はシエスタにとても似合っていた。着こなした彼女の姿に才人は、 郷愁の念もあり、やばい感じに大興奮した。……と、これで終わっていればマシだったのだが、 この場面をギーシュとマリコルヌの二人に見られたことから話はおかしな方向へ突き進んでいく。 この二人もシエスタのセーラー服姿に目を奪われ、このことをルイズに話すと才人を脅して 予備のセーラー服を譲らせたのだ。そしてギーシュの方は、一度フラれてヨリを戻したいと 思っているモンモランシーにそれを送った。下心が見え見えの贈りものだったが、意外にも モンモランシーは悪いようには思わず、教室にまで着てきた。それを見たルイズは、すぐに 才人の買ったものだと気づき、どうしてモンモランシーが着ているのか訝しんだ。 これに焦ったのは才人だ。モンモランシーからたどられて、シエスタにセーラー服を着せて 楽しんでいたことが知られれば、彼女のことだ、怒り狂ってまたひどい目に遭わされるに違いない。 才人は証拠抹消のために、その日の内にシエスタからセーラー服を返してもらうことにした。 だがその時には既に遅かった。才人の様子がおかしいことにすぐに気がついたルイズは、 姿をくらました才人を探す内に、マリコルヌが自分でセーラー服を着て、映ったものを 正反対の姿で映すマジックアイテム『嘘つきの鏡』で楽しんでいる現場を押さえた。 そして彼から、真相を聞き出してしまったのだ。 そして才人が一番恐れていた時がやってくる。セーラー服の引き取りに向かった才人の下へ やってきたのは、彼との逢い引きと勘違いしてセーラー服を着てきてしまったシエスタだった。 そしてその現場には、ルイズが待ち伏せをしていた。完全に才人とシエスタの関係を誤解した彼女は、 殺意すら抱いて必死に逃げる才人を追いかけ始めた。 この後が重要な点である。才人は、連れ込んだギーシュをある罠に掛けようとしている モンモランシーの部屋に逃げ込んだのだ。すぐに追いついたルイズは、怒りによる喉の渇きを その場にあったワインで潤してから、いよいよ才人を追い詰めたのだが、その時に異常が発生した。 何と、ルイズの怒りが急激に消え去り、代わりに才人への尽きることのない好意が湧いて、 彼にベッタリになってしまったのだ。 才人は助かったことを喜ぶより、不自然に態度が急変したルイズを怪しんだ。そしてその原因を調べると、 すぐにモンモランシーに行き着いた。何とあの時モンモランシーは、極度の浮気性に手を焼かされる ギーシュを自分の虜にするために、ワインに違法の強力な惚れ薬を混ぜて飲ませようとしていたのだ。 それをルイズが飲んでしまったという訳だ。 すぐにルイズを元に戻したいと考えた才人は、モンモランシーを半ば脅迫して解除薬を 作らせることにした。だが、ここでまたも問題が一つ発生した。解除薬に必要な材料の一つ、 ラグドリアン湖の水の精霊の涙が売り切れで、再入荷も絶望的な状態らしい。何でも、 精霊との連絡が取れなくなったとか。だが才人は諦めなかった。待っても再入荷されないなら、 こっちからもらいに行けばいい。 こうして、才人とモンモランシー、そしてついてきたギーシュと才人から離れようとしない ルイズの四人は、はるばるラグドリアン湖へやってきたのだった。 ……ちなみにこの一部始終を、ゼロは心底呆れ返りながら傍観していた。 「サイトぉ~」 ルイズは相変わらずの調子で、猫のようにゴロゴロ喉を鳴らして才人に甘えている。 男冥利に尽きる状況だが、才人はげんなりとしている。 「……やっぱり早く元に戻さないとな。こんな調子で四六時中くっつかれてたら、俺の身体が持たねえや」 『そうだな。このまんまじゃ俺も、怪獣退治の任務を果たせないぜ』 才人の独白に相槌を打つゼロ。何せ、ルイズが片時も才人を離そうとしないので、変身して 怪獣との戦いに赴くことが出来ないのだ。現にここに至るまでに一度怪獣が出現したのだが、 その時も聞き分けのなくなったルイズに捕まってしまったので、グレンファイヤー探しで忙しい ミラーナイトに代わりに出動してもらう羽目になった。ミラーナイトからも現状を呆れられてしまった。 才人とゼロがルイズを元に戻す意志を固めていると、びしょ濡れのギーシュそっちのけで 湖面を見つめていたモンモランシーが、首をひねった。 「ヘンね」 「どうした? どこがヘンなんだ?」 才人が聞き返すと、モンモランシーがラグドリアン湖の異常を説明する。 「水位があがってるわ。昔、ラグドリアン湖の岸辺は、ずっと向こうだったはずよ」 「ほんと?」 「ええ。ほら見て。あそこに屋根が出てる。村が飲まれてしまったみたいね」 モンモランシーが指差した先に、藁葺きの屋根が見えた。才人は、澄んだ水面の下に黒黒と 家が沈んでいることに気づいた。モンモランシーは波打ち際に近づくと、水に指をかざして 目をつむった。 モンモランシーはしばらくしてから立ち上がり、困ったように首をかしげた。 「おかしいわ。水の精霊の気配を感じない」 「そんなのわかるのか?」 「わたしは『水』の使い手。香水のモンモランシーよ。このラグドリアン湖に住む水の精霊と、 トリステイン王家は旧い盟約で結ばれているの。その際の交渉役を、『水』のモンモランシ家は 何代もつとめてきたわ」 「今は?」 「今は、いろいろあって、他の貴族がつとめているわ。ともかく、そういう訳で、わたしは 水の精霊の気配を感じることが出来る。……そのはずなのに、今は何も感じないわ。 どういうことなのかしら……」 モンモランシーが訝しんでいると、木陰に隠れていたらしい老農夫が一人、一行の元へとやってきた。 「もし、旦那さま。貴族の旦那さまがたは、もしや、人さらいの亜人どもを退治しに参られたかたがたで?」 「えッ! それ、何の話? ラグドリアン湖に何が起きてるの?」 いきなり物騒な話をされて驚く一行を代表して、モンモランシーが問い返した。農夫は違うことを 悟ると深く落ち込んだが、それでも事情を教えてくれた。 「まず二年ほど前から、増水が始まったんでさ。ゆっくりと水は増え、今ではわしの屋敷まで沈んじまった。 けど今思えば、それはまだましな方でしたわ。ここ最近は、それに加えて、湖の周辺で見たことのない姿の 亜人が夜中に目撃されるようになったんでさ。それと同時に、村の人間が少しずつ消えてくようになったんですよ。 きっと、その亜人どもの仕業に違いねえ。それなのに、領主さまも女王さまも、今はアルビオンとの戦争に かかりっきりで、こんな辺境の村など相手にもしてくれませんわい。わしらはいっそのこと、村を捨てるべきかと 本気で考えてる次第です」 よよよ、と老農夫は泣き崩れた。彼の話の深刻さに、才人たちは同情を寄せる。 「その見たことのない亜人とは、どんな姿なのかね?」 ギーシュが尋ねると、農夫が身振り手振りを入れつつ説明する。 「わしが見た訳じゃないんですけど、何でも頭のてっぺんが皿でも乗っけてるように平らで、 口は鳥のくちばしのようにとんがってるそうです。しかも、魚のように水の中で生きてるみてえで。 湖の中から這い出てきたとこを見たという奴が何人もおりますわ。水の精霊は、どうしてそんな連中を 湖に住まわせたのやら……」 農夫の証言を聞いて、才人が呟く。 「丸で河童だな」 「カッパ?」 河童を知るはずがないギーシュらが聞き返すと、才人が説明を挟んだ。 「俺の故郷に伝わる……まあ、亜人みたいなもんさ」 「ふぅん? 案外、それが正体だったりしてね」 「まさか。サイトの故郷ってはるか東のロバ・アル・カリイレなんでしょ? そこの生き物が、 トリステインにいる訳ないわ」 話し合っても、亜人の正体はさっぱり分からなかった。それから、農夫が落胆して去っていったあとで、 モンモランシーが腰にさげた袋からなにかを取り出した。それは一匹のカエルであった。鮮やかな黄色に、 黒い斑点がいくつも散っている。 「カエル!」 カエルが嫌いなルイズが悲鳴をあげて、才人に寄り添う。 「なんだよその毒々しい色のカエルは」 「毒々しいなんていわないで! この子はロビンって言って、わたしの大事な使い魔なんだから!」 モンモランシーはカエルを湖の中に入れ、水の精霊を探しに行かせる。だがしばらくした後に、 モンモランシーの下へ戻ってきた。カエルからの報告に、顔をしかめる。 「やっぱり、湖のどこにもいないみたい。どこかの貴族に連れられて、別の場所に行ってるだけなら いいんだけど……この異常な状況じゃ、その線は薄いわね。きっと、何か訳があって身を隠してるんだわ……」 「さっきの人が言ってた亜人ってのが関係してそうだな」 推測した才人は、次のことを提案する。 「その亜人って、夜になると現れるんだったな。じゃあ夜を待って、そいつを捕まえようじゃないか。 きっと水の精霊の手掛かりが掴めるはずだ」 「それ、本気で言ってるのかね!? ぼくは手荒なことは、その、あまりしたくないぞ。危険だし……」 怖気づいて尻込みするギーシュだが、モンモランシーは対照的に意気込む。 「わたしはやるわ。元とはいえ、わたしは水の精霊との交渉役のモンモランシ家に連なる身。 水の精霊の異常を見過ごす訳にはいかない」 「うッ、モンモランシーはやるのか。だったら、ぼくがやらない訳にはいかないな。愛しい モンモランシーを残して学院には帰れないよ……」 まだ怖がっているものの、ギーシュが意見を翻した。 「ギーシュ、わたしのために……」 「当然さ、モンモランシー……」 「はいはい。そういうのは終わってからにしてくれ」 見つめ合って二人の世界に入ろうとするギーシュとモンモランシーを、才人が現実に引き戻した。 そして才人たち一行は、夜になると、湖の岸辺の木陰に隠れ、亜人とかいうものが現れるのを待ち受けた。 「地元の人の話じゃ、この辺りでよく目撃されるみたいだ。どんな顔してるか知らないが、 出てきたらすぐにとっ捕まえてやるぜ」 才人は既にデルフリンガーを抜き、木陰からわずかに顔を覗かせて、岸辺をじっと見張っている。 その背中には、相変わらずルイズがピッタリ張りついていた。 「わたしは戦いなんて出来ないから、捕獲はあなたたちに任せたわよ」 「安心してくれモンモランシー。ぼくの勇敢な戦乙女たちが、亜人なんぞ簡単にひねり上げてくれるさ」 モンモランシー相手に見栄を張っているギーシュだが、恐怖心がなくなった訳ではなく、 脚はガクガク震えていた。それを紛らわすためにワインをあおっていて、顔が赤い。これで本当に 使い物になるのかと、才人は若干不安だった。 そうしていると、デルフリンガーが声を上げた。 「相棒、誰かやってきたぜ」 「亜人か!?」 「ローブをすっぽり被ってるから、そこまでは分かんねえな」 才人が岸辺を確認すると、確かに、デルフリンガーの証言通りの人影が現れていた。人数は二人で、 随分身長に差がある。 亜人でなくとも、既に地元の人間は誰も寄りつかなくなったこの場所にやってくるとは、 ただ者ではないはず。一体誰だ、と思っていると、ゼロが不意に告げた。 『あいつら、キュルケとタバサじゃねぇか』 「え?」 思わず目を見張った才人は、ルイズをどうにかなだめて自分から離し、木陰から出てそっと 人影に近づいていった。そして名前を呼ぶ。 「おい、キュルケ! タバサ!」 「えッ!? その声はダーリン!」 振り返った二人組は、目深に被ったフードを取り払った。その下からは、よく見知った顔が出てくる。 ゼロの言った通り、キュルケとタバサだった。 「お前ら、どうしてこんな場所にいるんだ!」 「そっちこそ、どうしてこんなところにいるのよ? ここ、ガリアの領地よ」 才人とキュルケは互いに同じ質問をした。するとそこに、木陰に待たせていたルイズが 才人へと走り寄ってきて、悲しそうにパーカーの袖を引っ張った。 「キュルケがいいの?」 「だから違うって! ややこしくなるから、お前はちょっと黙っててくれ」 ギーシュとモンモランシーも才人たちの下へやってくる中、キュルケはぽかんと今のルイズを見つめた。 そして才人に聞く。 「いつのまにルイズを手なずけたの?」 「いや、そうじゃねえから」 才人はキュルケたちに、ここまでの経緯を説明した。 「なるほど、モンモランシーのせいでこんなことに……。まったく、自分の魅力に自信のない女って、最低ね」 「うっさいわね! しかたないじゃない! このギーシュったら浮気ばっかりするんだから! 惚れ薬でも飲まなきゃ病気が治らないの!」 「もとを辿れば、ぼくのせいなのか? うーむ」 モンモランシーとギーシュのコントは置いて、今度は才人が質問する番になる。 「それでそっちは、どういう理由でここにいるんだ?」 聞かれて、キュルケは困ってしまった。彼女はタバサの事情を知っているのだが、それは 才人たちに教えるのは憚られる内容なのだ。それで無難な説明をする。 「そ、その、タバサのご実家に頼まれたのよ。この辺に出る亜人が、タバサの実家の領地に 被害を出してるから、退治を頼まれたってわけ」 「お前たちも同じような目的だったのか」 納得した才人は、周辺に目を配る。 「それで、問題の亜人は今どこに……」 と噂したからなのか、周辺の草むらがいきなり、ガサッと音を立てて揺れた。 「きゃあッ!? な、何!? 誰かいるの!?」 モンモランシーが脅えて大声を出したが、草むらからは何も出てこない。だがその代わり、 森の中で黒い影が頻繁に動き回るところが目に入る。 「な、何者だあ!? か、か、隠れてないで出てこい! 卑怯者めぇ!」 半狂乱になってガチガチ歯を鳴らすギーシュが、小刻みに震える手で杖を握り締めて叫んだ。 恐怖に打ち震えるギーシュとモンモランシーを尻目に、タバサが才人とキュルケに囁きかける。 「気をつけて。囲まれてる」 「えッ!?」 「相棒、後ろだ!」 突然デルフリンガーが叫んだ。それと同時に、人間に似た影が湖面から飛び出し、才人たちに 襲い掛かってきた! 「きゃあああッ!」 悲鳴を上げるルイズ。だが素早く反応した才人が振り向き様にデルフリンガーを振るったことで、 影はバッサリ斬られて仰向けに倒れた。 「うわッ!? 河童!」 影の正体を見た才人が叫んだ。口元は鳥のもののようにとがり、四本指の間に水かきを持った容貌は、 河童そのものだったのだ。 しかしそれを、ゼロが否定した。 『こいつは亜人でも、ましてや河童でもねぇ! テペト星人だ!』 「えッ!? テペト星人だって!?」 すぐに才人が通信端末で検索すると、今目の前にいる怪人と全く同じ姿の宇宙人が引っ掛かった。 ラグドリアン湖の亜人の正体は、侵略者テペト星人だったのだ。 「カァ――――――――!」 仲間の一人の後に続くかのように、湖や森の中から、大量のテペト星人が飛び出てきて 才人たちに押し寄せてきた。 「きゃああああ! た、たくさん来たぁ!」 「お、おのれ! モンモランシーには手出しさせないぞ!」 モンモランシーが悲鳴を上げると、ギーシュがなけなしの勇気を奮い立たせた。青銅のワルキューレを 作り出して、テペト星人の軍団を迎撃する。 キュルケとタバサはすぐに攻撃を仕掛けた。火炎球と氷の矢を放ち、迫るテペト星人を片っ端から薙ぎ倒す。 「おらぁッ!」 才人も、今は震えるばかりのルイズをかばい、テペト星人をばっさばっさと斬り伏せる。 突然の襲撃に度肝を抜かれた一行だが、驚いていたのは一瞬だけで、テペト星人を次から次へと 返り討ちにしていった。特にキュルケとタバサのコンビが最も敵を倒した。二人の連携は見事で、 一方が呪文を唱えている間に、もう片方が攻撃魔法を放ち続けることで、全く隙を作らなかった。 「こいつら、アルビオンに出てきた連中より、はるかに弱いわね」 自分たちに手出し出来ないでやられていくテペト星人に対して、キュルケが余裕ぶって評した。 確かに、テペト星人は特筆するような戦闘能力を持たず、巨大化することも出来ない。 かつて地球に侵入した者たちも、ウルトラ警備隊が生身で難なく撃退したほどだ。 だが、敵もわざわざやられるためにやってくるのではない。ブラック星人がスノーゴンを 手元に置いていたように、戦闘力のない侵略者は往々にして、代わりの戦力を所持している ものであることを才人は知っていた。 「! 見て!」 「な、何あれ!? でっかい卵!?」 果たして、テペト星人との交戦中に、ラグドリアン湖の中央に途轍もなく巨大な卵が浮かび上がってきた。 タバサとキュルケが見ている中で卵はすぐにひび割れ、中から巨大怪獣が現れる。 「キャ――――――――!」 卵の中から出現した、一つ目で頭頂部が皿の形状になっている、これまた河童そっくりな怪獣こそ、 テペト星人の用心棒で、彼らの住む星の名前を与えられた大怪獣、テペトであった。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
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偽愛! 素直クールに萌えろ! その② 朝起きたら何もかも元通りになってないかな、と思った。 昨晩見たあれはすべて夢で、承太郎は今日も無愛想で寡黙でクールで。 「ルイズ、おはよう」 おはよーなんて言葉、承太郎の口から初めて聞きましたよ。 とルイズは昨晩の出来事が夢ではない事を確認しながら、ベッドから起き上がった。 「……おはよう」 この承太郎をどうしたものかと頭を悩ませながら、ルイズは朝の身支度を整えた。 頭が変になっても承太郎は承太郎らしく、 着替え中はちゃんと自分から部屋を出て行ってくれた。 ベッドの下に放り捨てられていたデルフリンガーもしっかり回収してだ。 その時「覗きなんざこの俺が許さねー」とか凄んでたりする。 また、朝食は厨房ではなく食堂で摂ろうとついてきて、クラスメイトを驚かせたりした。 ちなみにギーシュはモンモランシーを必死に口説いている。 昨晩急に姿を消した事を心配していたのだが、 なぜか朝会ってみたら妙によそよそしかったと、教室でギーシュは説明してきた。 「……そういえば、あの時モンモランシーも一緒にいたのよね。 ジョータローがおかしくなった原因に何か心当たりないかしら?」 「ルイズ。俺は少しもおかしくなってねーぜ」 「……そう?」 確かに今は普段通りに見える、ような気がするけど、何か違う。 いつもより半歩ほどルイズに近づいて立ってるような気がするし、 眼差しが柔らかいというか優しいというかギーシュっぽいというか。 「どう思う? ギーシュ」 「今は普段通り見えるんだが、一晩眠ったら治ったんじゃないか?」 「だといいんだけど……」 異変が顕著に現れたのは、授業後になってから。 今日に限ってなぜか承太郎もギーシュも厨房に来なかったため、 どうしたのかなと思ってシエスタがわざわざ寮まで様子を見に来たのだ。 「ジョータローさん、今日は何か用事でもあったんですか?」 「いや……ただルイズの側にいただけだぜ」 その瞬間シエスタは戦闘体勢に入ったーッ! 今……この学院にキュルケとタバサはいないすなわちッ! ツンデレ・ルイズ! ブラック・シエスタ! 一騎討ち!! 承太郎を挟んでルイズとシエスタが火花を散らす。 「ミス・ヴァリエール……一緒にいる時間が多いからって、なかなかやりますね」 「いや、特に何もしてないんだけど……」 「でも私とジョータローさんはマフラーの暖かい糸で結ばれているんです!」 無言で承太郎はマフラーをシエスタに渡した。 唐突すぎてその行為の意味を理解できずシエスタは首を傾げる。 「シエスタ、悪いがこいつは返すぜ」 「え」 ピシッ、とシエスタは真っ白に固まりヒビが入った。 黒が白に染まる時、それは敗北を意味する。 「ど、どうして……」 「悪いが……ルイズの前で他の女からもらった物を身に着けたくねーんでな」 「なっ!!」 「えっ!?」 この発言にはルイズも一緒に驚いて顔を真っ赤にしてしまう。 一方シエスタは涙目になってマフラーを抱きしめ走り去ってしまった。 「うわぁ~ん!」 泣きながら。 ちょっぴりシエスタに悪い気もしたが、それ以上にルイズは浮かれていた。 つまり承太郎はシエスタより自分を選んだのだ。感激であるハッピーである。 「じょ、ジョータローにもようやく、つつ、使い魔の自覚ができてきたのかしら」 「もちろんだ。俺はルイズの使い魔だぜ、おめー以外は目に入らねー」 「ほほ、ホントに? ホントにそう思ってる? 心から」 「俺が……嘘をつくと思うか?」 「『ああ嘘だぜだがマヌケは見つかったようだな』とか言うつもりじゃないでしょうね」 「ルイズ。お前が俺をどう思おうと、俺の気持ちは変わらない……」 「ああああ、あんたの気持ちって、なっ、何よ」 期待と期待と期待と期待と期待に平らな胸をふくらませてルイズは彼の言葉を待った。 「おめーは俺を惚れさせ――」 「こりゃ駄目だね。魔法で心をやられてら」 が、その言葉は無粋な声にさえぎられた。声は承太郎の背中から出ていた。 「で、デルフ!? ちょっと、今のどういう意味よ!?」 「いやね、こうやって身に着けられてたら、そいつの事は何となーく解んのよ。 こいつ、魔法で精神を操られてるわ。水の魔法かねぇ? それとも一服盛られたか」 「一服盛られ……?」 次の瞬間、ルイズは部屋から猛ダッシュで駆け出してしまった。 一人残された承太郎は、いい場面を邪魔したデルフリンガーをぶん殴ったとか。 アンロックの魔法でモンモランシーの部屋の戸は問答無用で開錠された。 そして目をギラつかせて入ってくるルイズ。 いったい何事かとモンモランシーと、ギーシュが目を丸くして彼女を見た。 「る、ルイズ? ノックも無しに失礼じゃないのかい? というか鍵をかけてあったのに、どうやって開けたんだ?」 「あらギーシュもいたの。実は最近簡単なコモンマジックは使えるようになったのよ」 虚無の魔法を覚えてから、ルイズは説明の通りコモンマジックを習得していた。 ようやく自分の系統を見つけたからこその成長といえよう。 だがそんな事、今はどうでもいい問題だった。 「ところでギーシュ、昨日の夜の事なんだけど」 「昨日の?」 「あのワイン、何か変な物入ってなかったでしょうね」 「ははは、まさか。あのワインはモンモランシーが僕のために用意してくれたんだ。 変な物が入ってる訳ないじゃあないか。ねえ、モンモランシー?」 笑顔で振り向くギーシュ。苦笑で顔をそむけるモンモランシー。 その対照的な反応を見て、ルイズは『犯人』が誰であるか、頭でも心でも理解した。 一方ギーシュも、モンモランシーが冷や汗を垂らしている事に気づき眉をひそめる。 「ど、どうしたんだいモンモランシー? まるで『ワインに何か入れてました』みたいな顔をして……」 「ギーシュどいてそいつ爆発させられない」 ルイズが杖を構えると、ギーシュは慌てて身を引いた。 本当に土くれのフーケを倒した男かと疑問になるくらいうろたえている。 「も、モンモランシー。まさか、君は……」 「あなたが勝手に飲ませたんじゃない!」 ついにモンモランシーは白状した。あのワインに何か入っていたのは確定事項だ。 それを飲まされそうになっていたギーシュは顔を真っ青にする。 「いいい、いったい何を入れたんだい!?」 「ギーシュがいっつも浮気するから悪いのはギーシュよ! 土くれのフーケをやっつけたなんて『デマ』まで使って女の子の気を引いて!」 顔を真っ赤にして怒鳴るモンモランシーの迫力は相当のものだった。 だがそれ以上に迫力のある顔でルイズが怒鳴り返した。 「ギーシュの事なんか『どうでもいい』のよ! ワインに何を入れたの!?」 「……惚れ薬よ」 「ほ……惚れ薬ですって!?」 「お、大声で言わないでよ! 禁制の品なんだから……!」 どうやらデルフリンガーの言っていた事は正解らしい。 承太郎の様子がおかしいのは、薬を盛られたからなのだ。 モンモランシー曰く、ギーシュにこれ以上浮気させないため自ら調合したらしい。 それを聞きギーシュは感激した。 「ああ! モンモランシー……そんな薬に頼らなくても、僕は君の虜さ!」 「ななな、何勘違いしてるのよ! べ、別にあんたとつき合ってるのなんて暇潰しよ! ただ浮気されるのが嫌なだけで、仕返ししてやろうと思っただけなんだから!」 このモンモランシー実にツンデレである。 そしてそのデレっぷりを垣間見たギーシュは思いっきりモンモランシーを抱きしめた。 「僕が浮気なんてする訳ないじゃないか!」 「してるじゃない!」 キィーンッ、という甲高い金属音が響いた。ギーシュの脳内だけで。 モンモランシーの膝がギーシュの股間にめり込み、男にしか解らない痛みが炸裂。 まさに黄金色の波紋疾走。 口を縦長に開いて唇を引ん剥き、白目になって脂汗を垂らすギーシュは、 瞬間最大風速とはいえマルコリヌのブサ顔を超越していた。 その場に崩れ落ちるギーシュを無視して、というか頭を踏んづけて、 ルイズは身を乗り出してモンモランシーを睨みつけた。 「ジョータローを元に戻しなさい」 「そのうち治るわよ」 「そのうちっていつ?」 「個人差があるから一ヶ月から一年くらい」 「ふざけないで。今すぐ何とかしなさい」 「生憎だけど解除薬作るお金がもう無いの。高価な秘薬が必要なのよ。 惚れ薬を作る時に全部使っちゃったし、どうしようもないわ」 「じゃあ実家に頼んでお金を送ってもらいなさい」 「あんたの公爵家と一緒にしないでよ! うちにそんな余裕は無いわ!」 そういえばド・モンモランシ家は干拓に失敗して領地の経営が苦しいと聞く。 ついでにグラモン家も出征のたびに見栄を張りまくって金欠らしい。 となると、この二人は資金面では期待できない。 仕方ないとばかりにルイズは金貨の入った袋を取り出した。 (姫様。ジョータローのために、このお金使わせていただきます) 心の中で感謝の祈りを捧げ、袋を開ける。 モンモランシーは中身を覗き込んで目を丸くした。 「500エキューはあるじゃない。さすがラ・ヴァリエール……」 「これで秘薬を買って、明日中に何とかしなさい。 それとこのお金はとある方からいただいた、とても大切なお金なの。 1エキューたりとも無駄遣いしてみなさい。ただじゃおかないわよ」 渋々といった様子でモンモランシーはうなずいた。 部屋に戻ると、承太郎がデルフリンガーを踏みつけていたのでとりあえずなだめた。 それからルイズは改めて承太郎の様子を観察する。 惚れ薬を飲んだという事は、つまり自分に惚れている訳で。 「ね、ねえジョータロー。私の事、好き?」 などと試してみたくなるものだ。 「ああ。好きだぜ」 素直にクールに恥ずかしげもなく答える承太郎を見て、 逆にルイズは猛烈に恥ずかしくなってベッドの中に逃げ込む。 (明日になれば元通り明日になれば元通り……。解除薬は別に明後日でもいいかな?) なんて考えながら、ルイズは眠りについた。
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前ページ次ページゼロの夢幻竜 第二十四話「指輪」 「つまり話を整理すると、変装して私の部屋に入った姫様をギーシュが見ていた。そして、中の話を立ち聞きしている所をモンモランシーに見つかった。と、こういうわけね?」 ギーシュはルイズの問いかけに対しうんうん、と頷く。 ルイズはやれやれといった感じで眼前の二人、ギーシュとモンモランシーを見つめた。 立ち聞きをするギーシュもたいがいだが、そんな彼に対し、なかなかほっとけないという様な姿勢を見せるモンモランシーも良い勝負だった。 「放っておけないんですか?」 「う、五月蝿いわねっ!私はね、こんな時間に女子生徒の部屋の前でうろうろしているのは誰かなって通りがかっただけよ!」 ラティアスの何気ない質問に対して、モンモランシーは真っ赤になって反論する。 ああ、この人もご主人様と似たり寄ったりな人なんだなと、ラティアスは頭の中で勝手に結論づける。 「でも君は!それが僕だと分かると直ぐに来てくれたじゃないか!」 「はぁ?何勘違いしてるのよ!あなただから余計に危なっかしいんじゃない!この節操無し!」 ギーシュは縒りを戻しでもしたいのか、構ってくれと言わんばかりのオーラを放つ。 が、そんな物が今のモンモランシーに効く筈も無くあっという間に一蹴された。 彼女だって、彼がこんなに浮気性でなければ色々と考えてやれんでもないと考えていた。 が、その酷さは数日前に起きた香水の一件で、すっかり白日の下に晒されている。 その為にモンモランシーは、ラティアスに口では乱暴な事を言いつつも、内心では感謝していた。 そしてラティアスは、目の前で起きている痴話喧嘩に溜め息を吐きつつ思う。 この分ではどうやら、二人が結ばれる道程はここから月への道程ほどになりそうだ。 「二人とも!姫様の御前よ!私語は慎みなさい!」 弛みきったその場の空気を引き締める為に、ルイズはぴしゃりと言った。 ルイズが二人ともと言ったという事は、自分は入っていない。 と言う事は少なくとも、自分は置いてけぼりにされていないという事にラティアスは気を良くした。 ラティアスは困った様な声でアンリエッタに話しかける。 「どうしますか、王女様。この二人、さっきの話を立ち聞きしたそうですけど、どうします?」 「そうね……今の話を聞かれたのは不味いわね……」 「因みにあんた達は一体どの辺りから話を聞いていたの?」 ルイズの質問に答えたのはギーシュだ。 「確か……破滅の一途を辿らせる手紙だとか、アルビオンのウェールズ皇太子だとかの辺りからだが?」 その正直な答えにルイズは瞠目する。 何て事だ。それでは話の肝心な所は、ばっちり全部聞こえていたという事ではないか。 これでは何の隠し立てのしようも無い。 恐らくは隣でぶすっとした表情を浮かべているモンモランシーも同様だろう。 「今更引き取ってくれって言うのは難しいですし、かと言って、この任務に巻き込むのも……」 ラティアスはそう言って値踏みするような目で二人を見た。 ギーシュに関しては、例の決闘を参考にしたので力量は大方分かっていた。 包み隠さず言えば、七体の脆い青銅ゴーレムしか操れないドットメイジの彼が戦力に加わったとて、大きな変化がある訳ではない。 平民の傭兵や野盗相手にならどうという事は無いが、道中でお相手するのは彼と同じメイジ、それも大半、いや全員が彼以上の力量を持った者達なのだ。 ハッタリをかます位の所業が精一杯だろう。 モンモランシーに関しては未知数とも言える。 ラティアスも見る事が出来る野外における授業(そもそも野外授業の数自体がかなり少ない)でも、彼女はあまり魔法を見せた事が無いし、見せる事があってもかなり小規模な物に限定されていたからだ。 使い魔召喚の儀において蛙を召喚していた事から、水系統のメイジだという事は分かっていたがそれきりである。 また、水系統は攻撃用の魔法と回復用の魔法の二つを操れる事を、ルイズから伝え聞いていた。 それらを纏めて考えるなら前衛は使い魔である自分が務めればいい。 魔法使いには呪文詠唱が必要なのでいい時間稼ぎになるからだ。 攻撃にはギーシュの武器を持った『ワルキューレ』、ルイズが持ち得る魔法を使って対応する。 後衛兼補助としてモンモランシーが回復と攻撃に務める。 戦闘態勢としては一応様にはなっているが、如何せん火力の小ささが否めない。 想定するだけ無駄だったか? そんな時、ギーシュが立ち上がって仰々しく言った。 「姫殿下!その困難な任務、是非ともこのギーシュ・ド・グラモンに仰せ付け下さい!」 その様子を見てモンモランシーは眉を顰めた。 「あんたって人は……今度は姫殿下にまで色目を使うつもり?!」 「ば、馬鹿な事を言わないでおくれよ、モンモランシー!僕は純粋に姫殿下のお役に立ちたいと思ってるんだ!それに今のままでは僕自身の誇りに傷が付いたままじゃないか!その回復の為にも、僕はこの任務に同行しようと思っているんだよ!」 「どうだか……」 ギーシュの熱弁にも関わらず、モンモランシーはすっかり冷えた視線をあさっての方向に向けている。 と、ギーシュの口上を聞いていたアンリエッタが彼に質問を投げかけた。 「グラモン?あのグラモン元帥の?」 「息子で御座います。姫殿下。」 ギーシュは恭しく一礼して胸を張る。 アンリエッタはそんな彼を見て期待を込めて尋ねる。 「あなたも私の力になってくれるというのですか?」 「この部屋の戸口において、事の次第を聞きし時からそう思っておりました。この上任務の一員に加えていただけるなら、それはもう望外の幸せでございます。」 「まあ……有り難う。お父様も立派で勇敢な貴族ですが、あなたもその血を受け継いでいるようですね。ではお願いしますわ。この不幸な姫をお助け下さい、ギーシュさん。」 「勿論ですとも。ああ、姫殿下が僕の名前を呼んで下さった!姫殿下が!トリステインの可憐な花、薔薇の微笑みが……」 ギーシュは最後まで言う事が出来なかった。 横のモンモランシーが聞いていられないとばかりに、ギーシュの後頭部を叩いたからである。 叩かれた所を摩りながらギーシュは涙ながらに言った。 「痛いじゃないか、モンモランシー!」 「ふん。やっぱり色目使ってるんじゃない。」 モンモランシーは呆れて物も言えないという様に溜め息を吐く。 と、そこに王女の声がかかる。 「あなたは?」 「はい。私はモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシと申します。」 「モンモランシ家……するとあなたのご実家は、トリステイン王家と旧い盟約を結んだ水の精霊との交渉役を行っているというあの……」 「申し訳御座いません、姫殿下。現在それは別の貴族が務めております。」 「それでも古来より王家に使えてきた由緒正しい名家の一つに違いはありませんわ。あなたは力を貸して下さいますの?」 そう言われてモンモランシーは自国の王女の前にいるにも拘らず、「あー」とか「うー」とか言いつつ返事を若干延ばす。 彼女は面倒な事には首を突っ込みたくない質だったし、正直とばっちりを受けた感もあった。 だが隣で、紅潮しつつも澄ました顔をして立っているギーシュを見て意を決した様に答えた。 「微力では御座いますがお役に立てる事が出来るなら……先程の任務、ご同行いたします。」 「有り難う。あなたの力もきっと道中で仲間を救うでしょう。お願いします……」 アンリエッタはモンモランシーに向かって儚げに微笑む。 そこへギーシュが歓喜の言葉を突っ込んできた。 「来てくれるのかい、モンモランシー!ああ、君の永久の奉仕者としてこれほど嬉しい事は無いよ!」 「勘違いしないでよ、ギーシュ。私はあくまでもついて行くだけですからね。お目付け役みたいな私がいないと、あんた何をしでかすか分かったものじゃないし。」 釘を刺す様に言うモンモランシーだが、ギーシュはそんな事はお構い無しとばかりに嬉しがっている。 そんな二人を余所にルイズは真剣な声で言った。 「では、明日の朝、アルビオンに向かって出発する事に致します。」 その言葉にギーシュとモンモランシーは驚いた。 「明日の朝だって?!学校はどうするんだよ!せめて2~3日休みが出来る時でなきゃ……」 「それじゃ遅いのよ!この任務が一刻を争う事態だってのは聞いてたんでしょ?明日の朝出る。これ絶対。良いわね?……姫様もそれで宜しいですね?」 「分かりました。情報によるとウェールズ皇太子はアルビオンのニューカッスル付近に陣を構えていると聞き及んでいます。」 「了解しました。アルビオンへは以前姉達と旅行に行った事があるので、地理で迷うといった事は無いと思います。」 「そうですか。念の為に。旅は危険に満ちています。アルビオンの貴族達はあなた方の目的を知り次第、ありとあらゆる手を使って妨害してくるでしょう。」 それからアンリエッタはルイズの羽ペンと羊皮紙を使い、軽やかに手紙をしたためる。 直ぐに手紙は書き終わったようだが、彼女はそれをじっと見つめていた。 やがて悲しそうに首を振るのを見たラティアスは薄ぼんやりと判断する。 誰にも見られてはいけない手紙の内容。 そして先程の表情を合わせて考えると、書いてあった事というのは恐らく…… 「姫様、どうかなさいましたか?」 「え?ああ、何でもありません。」 王女の様子を怪訝に思ったルイズは声をかける。 しかしアンリエッタは顔を少し赤らめただけだった。 アンリエッタは何かを吹っ切るかの如く一回頷き、末尾に何か一言書き加えた後に小さな声で呟く。 「始祖ブリミルよ。この自分勝手な姫をお許し下さい。でも国を憂いていても、私はやはりこの一文を書かざるを得ないのです。自分の気持ちに嘘を吐く事は出来ないのです。」 ホント、自分勝手よねぇ、という一文がラティアスの喉まで出かかったが、そこは流石に精神感応が出来る動物。必死になって抑えた。 そしてアンリエッタの呟きはラティアスの考えを確たる物にした。 アンリエッタが書いた手紙の内容というのは、ほぼ間違い無くウェールズ皇太子への恋慕の思いだろう。 ゲルマニアの皇帝が憤るというのは、幾ら恋愛だけで済んだとはいえ、また一国の王女とはいえ、不義の女性を娶るわけにはいかないからだ。 アンリエッタは羊皮紙を巻き、携帯していた杖を振った。 すると手紙に封蝋がなされ、次いで花押が押される。こうなれば完璧な密書の完成である。 ルイズは密書を手渡しで受け取ったが、その際アンリエッタから説明を受けた。 「ウェールズ皇太子にお会いしたら、この手紙を渡して下さい。確認が取れ次第、件の手紙を渡してくれるでしょう。」 それからアンリエッタは右手の薬指から指輪を引き抜き、ルイズに手渡した。 暗紫色に妖しく輝くそれは見る者を引き付けて離さない魅力がある。 「母君から頂いた『水のルビー』です。せめてものお守りです。お金が心配なら売り払って旅の資金に当てて下さい。」 「そんな!そのような大事な物を易々と使うわけにはいきません!」 ルイズは案の定抗弁する。 ラティアスにしてみれば、アンリエッタは指輪を手放す気など無いのではないかとさえ思えた。 何故か。売り払って旅の資金にしていいとまで言うのなら、指輪の由来を語って情を入れさせる必要は無いからだ。持っている本人が使いにくくなってしまう。 それに、売っていいほどまだ安価なやつならまだあるだろうし。 だが、アンリエッタは首を振って続ける。 「よいのです。どうか気になさらないで。この任務にはトリステインの未来がかかっているのですから。私も母君の指輪が、アルビオンに吹く猛き風からあなた方を守るよう祈りますわ。」 トリステインの未来……と、アンリエッタは言う。 だがラティアスはこの一晩で未来の平安が、かなり危うく、そして脆い土台の上に乗っている物と痛感したのだった。 前ページ次ページゼロの夢幻竜
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マリーブランシュモラン(マリー=ブランシュ・モラン) フランスのアルクール伯の系譜に登場する人物。 関連: フランソワルイドロレーヌ (フランソワ・ルイ・ド・ロレーヌ、夫)
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前ページ次ページるろうに使い魔 ヴァストリ広場にてタバサと別れた後、剣心はそのまま暫くの間あてもなく彷徨いていたが、やがて日も暮れ夕焼けに差し掛かると、一旦散歩をやめて部屋に戻ることにした。 部屋には、一足先にいたルイズが、膨れっ面をして待っていた。 「…遅かったじゃない」 「ちょっと用があった故、すまないでござる」 とはいっても、元々予定には入れてなかったので、遅いも何もあったものではないが。まあいいわ。とルイズは一人頷くと、今の進行状況を説明した。 「取り敢えず今日モンモランシーに買い物に行かせて、大方の材料は揃ったらしいの。…でもあと一つだけ足りないものがあるのよ」 「どんなものでござる?」 「…『水の精霊の涙』」 それは、この世界に住む『精霊』から取れる身体の一部であり、『惚れ薬』を作るにあたっての重大な要素の一つらしく、これが無ければ解除薬は作れないらしい。 「アイツ、最初は闇市場で入手したらしいんだけど、今は丁度売り切れらしくてさ…手に入れるには水の精霊に直談判しに行く必要があるらしいのよ…」 はぁ…とルイズはため息をつく。この世界で精霊は大いなる存在である。もし怒らせでもしたら、その恐ろしさは計り知れない。 「モンモランシーも最初はイヤイヤだったんだけどさ…やっと折れてくれたわ。明日には早速ラグドリアン湖へ向かうつもりだから」 と、一通りルイズの話を聞いた剣心は、ギーシュはどうしたのかと尋ねた。 「アイツも連れてくってさ。野放しにしてたら何仕出かすか分かったもんじゃないし…不本意だけど、監視の目は必要よ」 忌々しげにルイズが呟く。考えると、本当に奇妙な事件に巻き込まれたものだ。だがいつまでもボヤいてたって始まるものではない。ルイズ達はそう考え、明日朝早くに備えて寝る準備をした。 第三十四幕 『精霊の約束』 そして翌朝―――。ラグドリアン湖道中にて。 元々ラグドリアン湖というのは、ガリアとの国境の近くに存在する、大きな湖である。その広さ六百平方キロメイル。ハルケギニア随一の名勝ともいわれ、緑鮮やかな森と、澄んだ湖水が織り成すコントラストは、神がざっくりと斧を振って世界を形作ったものとは思えない程の芸術品でもあった。 無論、これほどの美しさを誇る湖が、只の湖な訳がない。古くから住むハルケギニアの先住民、水の精霊が住まう由緒ある楽園でもあった。 馬車に揺られて数時間、剣心達の目にはやっとその美しき湖畔の全貌が見え始めていた。 「綺麗でござるなぁ……」 何故か馬車の中ではなく、屋根の上で一人胡座座りをしていた剣心は、その美しい湖を見て感嘆の声を上げた。 勿論こうしているのは、中にいる彼のせいである。 そしてその剣心の感想に呼応するかのごとく、馬車の中から奴の声が聞こえた。 「そうだろう!! 見たまえこの美しさ。ああ、心の全てが洗い流されるようだ…この湖の前では、善と悪、貴族と平民、そして男と女の区別などちっぽけに見える…そう思わないかい!!」 「ちょ…暴れんじゃないわよ!!」 馬車の扉を開けて、ギーシュが身を乗り出した。すっかりこの湖の虜になっているようだ。遅れてモンモランシーが慌てて同じように身を乗り出す。 二人の手と手には、ルイズが片時も離れさせないようにと、手錠のようなもので繋がれていた。だから、ギーシュが身を乗り出せば、モンモランシーもつられて出てきてしまうのだ。 しかし、そんな事はお構いなしにギーシュは一人ラグドリアン湖で叫ぶ。ちなみに彼には、面倒なので「観光旅行で精霊に会いに行く」位のことしか伝えてなかった。 ……端から見ればツッコミ所満載だが、そこはまあギーシュである。特に何も考えていないようだった。 「精霊さぁぁん、おいでなさぁぁい、いぃぃィィィヤッホォォォォォォォォォォォ!!!」 「だからっ…暴れるんじゃ…」 しかし、余りにも身を乗り出しすぎたせいか、ギーシュは激しくバランスを崩してしまい、そのまま湖に向けて大きくダイブしていった。 当然繋がれているモンモランシーも、ギーシュの後を追う形で水の中へと吸い込まれていった。 「うおわああああああああああああああああああ!!!」 「きゃあああああああああああああああああああ!!!」 ドボン!! と派手な水飛沫が二つその湖に現れた。 「あっ…背がっ…背が立たなぁぁぁぁぁぁい!!!」 「お願っ…静かにっ…ブクブク……」 まるで漫才のように溺れる二人を見て、ルイズは冷ややかな視線を送った。 「お似合いじゃないの、お二人とも」 「………助けなくていいでござるか?」 「ほっときましょ。邪魔しちゃ悪いわ」 目的はギーシュを元に戻すことだというのに、心底どうでもよさそうにルイズは首を振ると、構わず馬車を走らせるよう馭者に告げた。 しかし、溺れている二人は結構本気で助けを求めているようだったので、結局見かねた剣心が屋根から降りて助けに行くことになった。 「やっぱり付き合い考えようかしら…クシュン!!!」 剣心により救出された後、大きなタオルで身をくるむようにしていたモンモランシーが、同じような格好をしたギーシュを見てくしゃみをした後、次にどこか不思議そうな表情を浮かべた。 「それより変ね…前より水位が上がってないかしら?」 「…どういうこと?」 「確か昔は、岸辺はずっと向こうだったはずよ?」 そう言って、モンモランシーは遠くの方を指差す。その位置を見れば、丁度屋根と思しき部分が少し出ているのがみつかった。 それだけでも確かに大分水位が上がっているのがルイズ達にも分かる。 「お怒りなのかしら…ああ嫌だわ…逆鱗に触れなきゃいいけど…」 「けどよく分かったわね…ってそう言えばアンタ達モンモランシ家は確か…」 「ええ、このラグドリアン湖に住む水の精霊と、トリステイン王家は旧い盟約で結ばれててね、その際の交渉役を代々私達『水』のモンモランシ家が務めてきたわ」 そう言って、どこか遠い過去を思い出したのか、モンモランシーは苦い顔をしてため息をついた。 「今はもうやってないけどね…小さい頃に一度、領地の干拓を行うときに、水の精霊の協力を仰いだのよ。水の精霊って凄いプライド高くてさ、機嫌損ねたら大変だっていうのに、父上ってば『床が濡れるから歩くな』なんて言うからさ…」 「じゃあアンタは精霊を見たことがあるのね?」 まるでモンモランシーの話はどうでもいいかのようにルイズは、聞きたいことだけを尋ねた。 話を無視されたことに、モンモランシーがムッとして何か言おうとしたとき、通りすがりの農夫が姿を表した。 「おお、もしかして貴族様でいらっしゃいますか?」 「………?」 突如現れたその農夫から話を聞くと、どうやら彼は沈没した村の一人らしい。二年ほど前から突如増水が始まり、ゆっくりながらも確実に水かさは増えていき、ついにはこの様相を呈したとのことだった。 農夫は、ルイズ達のマントを見て貴族だと分かり、水の精霊の交渉役に派遣された一行だと勘違いしたようだった。 「一体水の精霊は何を怒っておられるのか…わしらみたいな農民には到底確認することがままなりませんて……」 言うだけ言って農夫は去ったあと、ルイズ達はそこから更に進んだ、比較的広い場所で馬車から降りることにした。 「ここいらがいいかしら」 辺り見渡しながらモンモランシーそう呟く。そして腰に下げた袋を取り出して紐を開けた。中から出てきたのは、色鮮やかな黄色に黒い斑点がついたカエルだった。 「ひっ、カエル!!」 それを見たルイズが、悲鳴を上げて剣心に寄り添う。どうやらカエルは苦手なようだった。 「おいおい、たかがカエルにビクつきすぎじゃないか。そんなことのために彼に寄り添うなど笑止千万…ぶほぉ!!!」 気障ったらしく皮肉を込めるギーシュを、ルイズとモンモランシーは思い切り蹴飛ばした。 目を回して倒れたギーシュを尻目に、モンモランシーはこのカエルの使い魔を手に置いて命令した。 「いいことロビン? わたしは貴方達の古いおともだちと、連絡を取りたいの」 そしてポケットから針を取り出すと、モンモランシーはそれで自分の指を小さくついた。直ぐに血が膨れ上がり、それをカエルの背中に一滴垂らすと、更に二言三言話して手を離した。 「じゃあお願いね。偉い精霊、旧き水の精霊を見つけて、盟約の持ち主が話をしたいと告げて頂戴」 カエルは頷くような仕草をとると、ぴょこんと跳ねて湖へと飛び降りた。 「今水の精霊を呼びに行かせたわ。覚えてれば…だけど、まあ大丈夫でしょう」 剣心達は、精霊が呼ばれるまでの間、素直に待つことになった。 「確か、『精霊の涙』でござったな…てことは、その精霊殿に頼んで泣いてもらうということでござるか?」 「いいえ違うわ。涙…とは言うけど、あくまでそれは通称よ。本当はね―――」 その時、離れた水面が光りだし、そこから何かが姿を表し始めた。 「な、何なの…?」 水面から出てきたのは、文字通りに大きな水の塊だった。ぐにゃぐにゃと蠢きながら宙に浮くそれは、気味悪いながらもキラキラと眩い光を放っていた。 ふと足元を見やれば、モンモランシーの使い魔のカエルがぴょんこぴょんこと主人のもとへと帰ってきた。 「ありがとう。きちんと連れてきてくれたのね」 モンモランシーは使い魔のカエルを拾い上げると、未だに蠢く水の塊に向かってこう言った。 「わたしはモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。水の使い手で、旧き盟約の一員の家系よ。カエルにつけた血に覚えはおありかしら? 覚えていたら、わたしたちに分かるやり方と言葉で返事をして頂戴」 すると、精霊らしき水の塊が、ぐにゃぐにゃと姿を変え始めた。やがて一通り蠢いていくと、やがて一糸纏わぬ透明の、モンモランシーそっくりの形をとった。 次に顔の表情を何度か入れ替わる。笑顔、怒り、悲しみ、それを何回か繰り返した後、再び無表情…いや。 「………?」 剣心の姿を見て、ほんの一瞬だけ憎々しげな表情を作った後、(この視線に気づいたのは剣心だけだった)元に戻るようにモンモランシーの問いに答えた。 「覚えている…単なる者よ。貴様の流れる液体を、我は覚えている。貴様に最後に会ってから、月が五十二回交差した」 朗々と響くような声で、水の精霊は話す。確かにその姿は噂にたがわぬ美しさだった。 「良かった…水の精霊よ、頼みがあるの。厚かましいとは思うけど、あなたの一部を分けて欲しいの」 成程、一部が涙になるのか、と剣心は思った。確かにあの容姿では、どれをとっても水ではある。涙とはあくまで比喩らしい。 一瞬の間沈黙が流れ…そして水の精霊はにこっとした表情をとって…こう言った。 「断る、単なる者よ」 「で、ですよねー……」 普通だったら、ここでモンモランシーは踵を返して帰ろうとしただろう。水の精霊は怒らせるとどうなるか、一番良く分かっているからだ。 しかし『惚れ薬』にかかった相手がギーシュであるため、むざむざと引き返す訳にもいかない。何とか頼み込むように、もう一度お願いした。 「あの…でもわたしたちには貴方の一部が必要でして…その、何とかなりませんか…?」 しかし、水の精霊は笑顔のまま固まった態度を取っていた。ダメ、という意思表示なのだろう。 沈黙する空気の中、時だけが刻一刻と流れていく。モンモランシーは、改めてギーシュを見た。 「知っているかい? 水の精霊で誓うと永遠に結ばれるという話。そこに男女の境はない永遠の契になるらしいよ」 「コラあんた、ケンシンから離れなさいよ!!」 その言葉を自分にではなく、剣心に向けて言っている。彼は相手にしていないようだが、少なくともギーシュは、それを自分に向けて言うことはもうないのだろう。 「………」 そう思うと怒りより悲しみが大きく込み上げてくる。あんなギーシュは嫌だ。いつものように気障ったらしい語句を並べて、女を見境なく追っていた彼の姿が、今はすごく恋しく思えてきた。 「………っ!!」 モンモランシーは、無意識に拳を震わせていた。暫くそうしたまま佇んでいると、おもむろにギーシュのとの手錠の鎖を引っ張り、彼を引き寄せたかと思うと、思い切り彼の頭を殴りつけた。 「えっ―――ぐわあっ!!!!」 ゴツン!! とドデカイ音とタンコブを残して気絶したギーシュを再度見つめた後、モンモランシーは決心したように叫んだ。 「お願いします!! 厚かましいことは重々承知です。けど私には貴方の一部が必要なんです!! 何でもします、何でも致します!! ですから…」 「モンモランシー……あんた…」 土下座をしてまで何度も頭を下げるモンモランシーを見て、剣心やルイズも驚いたように目を見張った。 暫くの間モンモランシーは懇願し続けていると、その声を聞き入れてくれたのか、不意に水の精霊は言った。 「…よかろう。ただし条件がある。世の理を知らぬ者よ、貴様は何でもすると申したな?」 「…はい」 少し身を竦めたモンモランシーだったが、何とか気を持ち直して尋ねた。 「ならば、我に仇なす貴様らの同胞を退治してみせよ」 「……退治?」 と聞いてルイズ達は顔を見合わせたが、とにかく水の精霊の話を要約するとこうだった。 どうやら最近、水の精霊を倒そうと夜な夜な襲撃する輩が出てきたという。水の精霊は今、増水のためにそちらまで気が回らないらしく。そこで交換条件としてルイズ達に頼みこむとのことだった。 「そ、それは…」 撃退、と聞いてモンモランシーは顔を青くした。戦いなんてしたことない。ギーシュは今あんな状態だし…と言っても普通だとしても役に立つかは分からないが。 ルイズは魔法も使えない劣等生。爆発は使えるかもしれないけど…それ以上に相手がどのくらいの手練れなのかが分からない。 水の精霊を襲う輩なのだ。あちらだって相当の腕が立つはずだ。一介の生徒が立ち向かうなんて無理がありすぎる。 「どうだ? 世の理を知らぬ者よ。この条件…呑むのか?」 「そんな…え…っ…と…」 どうしよう…と蹲って考えるモンモランシーを他所に、ルイズはずいっと一歩前へ出ると、確認するように水の精霊に聞いた。 「では、その輩を退治すれば、『精霊の涙』を頂けるということでよろしいですね?」 「単なる者よ、我は人と違って約束は破らぬ。成功した暁には望み通り我の一部を進呈しよう」 それを聞いたルイズは、安心したように胸をなでおろすと、自信満々に精霊に言った。 「分かりました、ではその任、わたしたちが確かにお引き受け致しましょう」 「ちょ…いきなり何言い出すのよ!!?」 泡を食って叫ぶモンモランシーだったが、水の精霊は確かに聞き届けたのか、微笑んだ表情のままこう言った。 「そうか…ならば任せるぞ。勇気ある者よ」 そう残した後、水の精霊は再び水の塊に戻りつつも、ゆっくりと湖の中へと姿を消した。 その夜、ルイズ達は侵入者を待ち伏せるため、木陰の奥で身を隠すことにした。 「全く…何で安請け合いしたのよ…」 膝を抱えて蹲ってたモンモランシーが、ため息まじりにそう言った。不安でしょうがないのだ。 何でもするとは言ったが、まだ心の準備は出来ていない。単純に相手の実力が分からぬ不安。自分達で勝てるのか、生き残れるのかという不安。よしんば生き残れたとしても、失敗してそれで水の精霊に怒りをかわれないかと思う不安。 とにかく今、モンモランシーは色々な不安に押しつぶされそうになっていた。 「だって、早く決めないと見限られる可能性だってあったじゃないの。ちゃっちゃと終わらせたほうがいいでしょ?」 対するルイズは、不安などどこ吹く風の様子で、まるで観光に来たかの様子で木陰から写る湖を見ていた。どこにそんな余裕があるのか、モンモランシーは不思議でたまらなかった。 「それにしても、あんたがあそこまで言うなんてね、まあ少しは見直したかしら」 と、ルイズは昼間の事を思い出し、ニヤニヤ顔でそう言った。すかさずモンモランシーは顔を真っ赤にする。 「か、勘違いしないでよ!! アイツがあのまま学院に帰って変な噂でも立てられたら、遊びといえ付き合ってたわたしの名誉にも傷がつくからよ。それだけのことよ!!」 プイッとそっぽを向くようにモンモランシーは叫んだ。ルイズに限らず、トリステインの女貴族というものは、妙にプライドが高い反面、素直になれない傾向が多いのだ。 だけど…今はそんな事言っている場合ではない。 「大体あんたねぇ、何でそんな能天気なのよ。これからすること分かってる?」 襲撃者の退治。これから起こるだろう激闘に、モンモランシーは身を竦ませる。 ギーシュは、一人酒を煽って寝ていた。観光旅行としか教えていないため、襲撃については全く知らされてなかった。全くどこまでも能天気である。 つまり、実質戦えるのはルイズと自分とあの平民位だ。 「わたし戦いなんてしたことないわよ。ちゃんと作戦とか考えてあるんでしょうね?」 「策? そんなのある訳ないじゃん」 モンモランシーはあんぐりと口を開けた。全くもって理解できない。今の状況を分かっているのか? 「あ…あんたが言い出したんじゃないの!! 本当に大丈夫? 最悪殺されるかもしれないのよ?」 それを聞いたルイズは、ああそうか…知らないのか、と含み笑いを浮かべた。 「ま、ケンシンなら大丈夫でしょ。それに…」 自分は伝説の虚無だから、とルイズは言おうとして止めた。これは姫様との秘密の約束だ。まあ剣心なら万に一つもないだろう。 それを聞いて、モンモランシーは首をかしげる。 「あの使い魔そんなに強いの? フーケを捕まえた位の事はキュルケから聞いてはいたけど…」 どうせ誇張だろう、とあまりあてにしてなかったというのが現状だ。それに相手の素性が分からぬ以上、敵はフーケより手強いかもしれないというのに…。 そうして話している内に、ついにその時はやって来た。 「…来たでござる」 森の上から観察していた剣心が、下にいるルイズ達に呼びかける。ひっ、とモンモランシーは小さな悲鳴を上げる。ルイズも一瞬固まった。 音を立てずに剣心は下まで降りると、周りに聞こえないような声で言った。 「ルイズ殿はモンモランシー殿達を頼むでござる。拙者一人で行ってくる」 「手助けは? 相手は何人なの?」 「二人。暗いうえにフードを被っているから誰かは分からぬが、他に人影はいないようでござる」 なら大丈夫だろう。下手に援護して邪魔しても悪いだろうし。そうルイズは考えると、任せてもいい? と剣心に聞いた。 「大丈夫、直ぐ戻ってくるでござるよ」 いつもの爽やか笑顔で剣心は言うと、一人その場を離れていった。 本当に作戦もなしに突っ込んでいった彼を見て、遂に耐え切れなかったのかモンモランシーがまくし立てる。 「ねえ本当にいいの? 彼一人で大丈夫なの!?」 「うるさいわねぇ、黙って見てなさいよ」 ルイズはそう言うと、高みの見物とばかりに木陰から剣心の姿を見た。杖を構えているとはいえ、その表情は完全に剣心を信じきっているようだった。 どうなっても知らないからね、モンモランシーは最後にそう呟くと、ルイズと同じように木陰から覗いた。 剣心は、ゆったりとした動きで二人の襲撃者に歩み寄る。フーケの家を奇襲したのと同じ、気配を悟らせないような動きで。 早く切り込みなさいよ、とモンモランシーはハラハラしたように呟いていたが、幾度となく彼を見てきたルイズには分かる。あんなの、気づくはずない。まるで幽霊か何かだ。 一人が杖を掲げてルーンを唱え始める。恐らく水の精霊を引きずり出す手筈を整えているのだろう。それを見かねた剣心は、後ろから声を変えた。 「そこまでにするでござるよ」 「なっ……!!!」 ここで二人は、ようやく背後を取られていたことに気付いた。余りの出来事のためか、声をかけたのが剣心だとは気づかず…また暗闇のせいでお互いの姿が上手く認知出来なかった為、片割れの一人が撥ねるように飛び退き、杖を詠唱して反撃に移る。 隙のない動きで、氷の矢『ウインディ・アイシクル』を唱えると、それを剣心に向けて撃ち放った。 (速いな…) そう思いながらも、その氷の矢を難なく回避した剣心は、弾切れの頃合を見計らってそのまま突っ込んでいった。残りの矢を的確な動きで躱し、相手に接近していく。 あと少しで間合いに入る瞬間――― 「…っと!!?」 不意に剣心の横から火の玉が飛んできた。もう一人が接近するタイミングを見計らって、炎を飛ばしたのだった。 剣心は素早く回避しようとしたが、その火の玉は剣心の後を追うように飛んでくる。 火の玉はそのまま着弾、ドゴンと爆発し炎上するが、そこに剣心の姿は無かった。 (成程、強いな…) 隙のない連携攻撃。うまく息も合っている上に個々の実力もかなり高い部類だろう。本来なら手加減する相手ではないということが分かるのだが…しかし何故か剣心は刀を抜こうとはしなかった。 なんというか、強い以前に違和感が剣心に纏わりついていたのだ。 (何だろう…どこかで見たような…) そしてそれは、相手の二人組にも同じだった。 (―――速い) (うん、それに隙がないね) すっぽりと顔を隠しているフードの中、謎の二人組は小さな声で会話をする。 真っ暗闇の中で目で追うこともままならぬそのスピードに、二人も多少なりとも驚いているようだった。 (けどさ…何か見覚えがあるのよねぇ…) (………) 小さな相方は答えない。けど違和感は同じように感じているはずだ。……けどまさか「彼」がこんなところにいるなんて思えない。 (でも…『まさか』…ねえ) しかし本当に彼なら、彼なのだとしたら…? そう思い、警戒を緩めてそのフードを取ろうとした…その時だった。 相手が、ここぞとばかりに間合いを詰めてきたのだ。 「…っ!!」 小さな片割れの一人が、その先を見切って素早く杖を振る。『エア・ハンマー』だ。しかし相手は、逆に身を小さく屈めて空気の槌を躱しながら突進していく。 (もし本当に彼なら…) すかさず一人が『フレイム・ボール』を唱える。しかし今度は火球ではなく、周囲を照らすような形で炎を纏わせ放つ。 何処かの御庭番衆が得意とした『極大火炎』のような炎に対し、相手は……。 「なっ……!?」 何と、得物の剣を扇風機のように振り回すことでそれを避けたのだ。まるで大道芸のような力業である。 相手からはフードのせいで、まだこちらを認識できてはいないようであるが、少なくともこちら側は相手の正体が分かった。こんな芸当をするのは、自分たちの知る中では一人しかいないからだ。 相手はこれを機に大きく跳躍する。しかし二人は…彼女たちはもう、闘う気はもうなかった。 「ケンシン!!」 杖を下げ、代わりにフードを取って素顔を晒す。それを見た剣心…と木陰に隠れていたルイズとモンモランシーが目を丸くした。 フードの中身は、真っ赤な髪を蓄えた、あのキュルケだったのだ。それに続いて相方もフードを取る。そこにはあいも変わらず無表情なタバサの顔があった。 「キュルケ殿、それにタバサ殿も!!」 とここで漸く違和感の正体に気付いた剣心は…攻撃するために既に高く跳躍していたのをすっかり忘れていた。 「…おろっ!! しまった!!」 何とか方向を変えようとして、必死に格闘すること数秒。キュルケ達に衝突しない位置まで剣心は移動することはできた。しかし…。 「おろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」 その代わり湖へと大きくダイブする羽目になってしまったのであった。 「ああ、やっぱりダーリンだ!! 道理で強いと思ったわ!!」 プッカリと水面に浮かぶ剣心を見て、キュルケが可笑しそうに手を差し伸べ、剣心を引き上げる。その様子を見ていたルイズ達も、慌てて駆け寄った。 「ちょっとアンタ達! 何でこんなとこにいるのよ!!」 「ルイズ!!? あんた達もいたんだ…というか、それはこっちのセリフよ、こんなとこで何してんのよ?」 月の明かりが闇を照らす中、突然の出来事に、しばし皆は呆然としていた。 前ページ次ページるろうに使い魔
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オンモラキ 分類:ばけどりポケモン No.3-495 タイプ:ゴースト/ひこう 特性:のろわれボディ(30%の確率で受けた技をかなしばり状態にする) HP 攻撃 防御 特攻 特防 素早 オンモラキ 65 90 65 85 60 105 ばつぐん(4倍) --- ばつぐん(2倍) でんき/こおり/いわ/ゴースト/あく いまひとつ(1/2) くさ/どく いまひとつ(1/4) むし こうかなし ノーマル/かくとう/じめん 図鑑 全身骨だけの化け鳥で鳴き声も気味の悪い声で鳴く。 技 ドリルくちばし、みだれづき、かげうち、ボーンラッシュ、ホネブーメラン、きゅうけつ、がむしゃら、たたりめ、おにび、はねやすめ、なきごえ、ふるいたてる、おきみやげ等 その他 名前もゴーストやジュゴンみたくシンプルに百鬼夜行の妖怪オンモラキ(陰摩羅鬼)とそのまんま。 遺伝 タマゴグループ 飛行 孵化歩数 5120歩(※特性「ほのおのからだ」「マグマのよろい」で2560歩) 性別 ♂:♀=1:1 名前 コメント