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研究院長モンモラス ユグドラシルの貴族家に生まれ、騎士になることを志していた男。 しかし最愛の女性を失ったことで『死者の蘇生』を夢見て独自の研究に没頭していった。 ガノッサ帝崩御の直前、マイスナーによって魔術研究院院長の座に据えられる。 狂気に満ちた彼の瞳には最早、嘗て夢見た未来は映らない。 関連項目 ユグドラシル七師将 モンモラスとの対峙 栄光の結晶 狂犬覚醒 D3兵器 悪魔開発 執着 era3 ユグドラシル 人名
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トリステインの首都トリスタニア。 タルブ戦で勝利したトリステイン軍と、アンリエッタを称えるお祭りも一段落し、街は普段の落ち着きを取り戻していた。 とは言っても首都である以上、にぎやかであることには違いはない。 平民達にはあまり関わりのないことだが、この日、王宮ではシュヴァリエ授与式が行われていた。 トリステインの貴族達にとって、シュヴァリエの称号は最下級ではあるが、非常に名誉な称号でもあった。 タルブ戦で活躍した者達ですら、恩賞や勲章、もしくは役職を与えられた者達がほとんどであり、シュヴァリエを授与される者はシエスタとモンモランシーの二人のみだった。 王宮の一室で待機するように命じられたシエスタは、革張りの柔らかいソファに身を預けていたが、柔らかすぎて落ち着かないようだった。 魔法学院の制服を着たとき、自分がこんな上質の服を着て良いのだろうかと恐れたものだが、王宮はそれにも増して豪華であり上品であり、そして恐ろしかった。 オールド・オスマンとミス・ロングビルは、先ほどアニエスと名乗る女騎士が連れて行ってしまい、40メイル四方はありそうな部屋でシエスタは孤独だった。 壁を見てみると、薄い灰色と茶色の波が通っており、それが天然の岩石模様なのか練金で作られたものなのかシエスタには判別できない。 だが、考えられぬほどの手間と技術によって作られているのだろうと、一人で納得した。 ソファにしてもそうだ、生まれて間もないグリフォンの産毛でも使われているのだろうか、ふわりと体を包み込む独特の柔らかさと質感は生まれて初めて体験する。 視線をテーブルに向けると、つなぎ目一つ無い大きなテーブルに金箔の線が入っている。 テーブルの大きさは縦2メイル横4メイルの長方形だが、一枚の樹木から削り出されたらしく、深い茶色の木目には一つとして繋ぎ目はない。 ラ・ロシェールの桟橋には劣るが、かといってこれほどの樹木はなかなか見かけられぬ事だろう。 これから王女、いや女王となったアンリエッタの前に呼ばれ、直々にシュヴァリエを授与される。 それを考えると、シエスタは今にも気絶してしまいそうなほど、頭が混乱してしまう。 天井を見上げるとくすんだ銀色の細工が施され花びらの形をしたシャンデリアが象牙のフィルターごしに光を出しており、窓から入ってくる光だけでは照らされぬソファの足下までをも十分に照らしていた。 よく考えてみれば強い光なのに目が痛くならないのはこれも魔法か、かなりの手間と技術と、金がかけられているに違いないと思って……シエスタは考えるのを止めた。 ミスタ・グラモンが『貴族の生活には見栄も必要なんだ』と語っていたが、どこまでが見栄なのか、どこまでが純粋な財力なのか、シエスタにはとても考えることは出来ない。 不意にガチャリとドアを開ける音がして、シエスタは体を強ばらせた。 扉の方に視線を向けると、制服姿のモンモランシーが親に呼ばれたという 「緊張してる?」 もじもじと手を膝の上で動かしたり、壁に掛けられた絵画や調度品を見回しているシエスタに、モンモランシーが声をかけた。 「あ、え、はい。緊張、してます」 肩をびくっ、と震わせつつ、シエスタが答えた。 その様子を見たモンモランシーが、にこりと笑う。 「私も緊張してるわよ」 「落ち着いてるじゃないですか」 「落ち着いてる?ううん、心臓がどきどき音を立ててる、シエスタに聞こえるんじゃないかってぐらい、私、緊張してるわ」 モンモランシーが自身の胸に右手を当てた。 シエスタの向かい側の席に座ると、緊張してきょろきょろしているシエスタを見つつ、モンモランシーが喋り始めた。 「…私の家はね、代々ラグドリアン湖に住む水の精霊と関わってきたの。あの湖ってすごく綺麗で、深くて…ほんとうに神秘的なのよ」 「水の精霊、ですか」 「そう。あなたも使ってた水の秘薬、あれも水の精霊の一部よね。モンモランシ家は代々水の精霊との交渉役を担ってきたわ…でも、ある時水の精霊を怒らせちゃって、交渉役を外されたの」 「……」 シエスタは黙ってモンモランシーの話を聞いた。 なぜこんな話をするのか解らないが、大切な話をしていると感じていた。 「水の精霊に頼んで、大きな瓶に入って貰ったまでは良かったんだけど…お父様ったら『歩くな、床がぬれる』なんて言っちゃうから、水の精霊を怒らせちゃったのよ」 「……」 「シエスタ?……おかしいとか思わないの?」 「え!いえ、あの、私おかしいとか、そんなことは」 しどろもどろになるシエスタを見て、モンモランシーはため息をついた。 「もう、ちょっと緊張がほぐれるかと思って恥ずかしい話までしたのに」 「すみません…」 「謝らなくたって良いわよ。…ともかく、それで水の精霊を怒らせて干拓は失敗。私の家は交渉役を外されたわ」 モンモランシーは居住まいを正すと、凛とした表情でシエスタに向き直った。 いつものモンモランシーと違い、普段意識することのなかった貴族としての威厳に満ちている気がした。 「だから私は緊張なんかしていられないの。私がシュヴァリエになったことで交渉役に戻れるかもしれないんだから。私はモンモランシ家の一員として恥ずかしい姿は晒せないの」 「……!」 シエスタはツバを飲み込んだ、その時の音がモンモランシーに聞こえるのではないかと考えてしまうほど、体の中で大きく響いた。 モンモランシーの持つ迫力は、彼女自身が背負っている家名その他諸々のものの使命感だった。 魔法学院の一員となって、貴族の間に混じって行動することに慣れたつもりだったが、 決定的に違う生まれの差が見えた気がした。 「シエスタにも、何か目標とか、夢とかあるんでしょう?それを思えば大丈夫よ」 「目標、夢…はい。あります」 モンモランシーがシエスタを気遣って、話をしてくれたのだと、今更ながらに気づいたシエスタ。 少し落ち着きを取り戻したのか、深くため息をつくように息を吐き出して、ゆっくりと音が立たぬ程度に波紋の呼吸を始めた。 顔を上げたシエスタの瞳には、リサリサと同じ深い優しさと厳しさを湛えた色が浮かんでいた。 「そうよ、だから緊張し過ぎちゃ駄目」 モンモランシーはそう言うと、にっこりと笑った。 その後、女官が二人を玉座へと案内し、厳かにシュヴァリエの授与式が行われた。 モンモランシーには、モンモランシ家から当主以下何名かが出席し、シエスタには親族の代わりに魔法学院学院長オールド・オスマンとミス・ロングビルが出席した。 他には、タルブ戦に参加した将軍が数名と、ロングビルのお目付役としてアニエスがいるだけであった。 略式とはいえ女王アンリエッタ直々にシュヴァリエの授与を行うのだから、モンモランシ家の感激といえばそれはもう大変なもので、モンモランシーの父親は誰よりも緊張していた。 対してモンモランシーとシエスタの二人は、あらかじめ女官に教わった通りの礼節を守り、堂々としたものであったという。 授与式が終わった後、シエスタ達は先ほどまで使っていた控え室に戻り、オールド・オスマン達やモンモランシ家の人々と共に談笑していた。 モンモランシーの父親が言うには、オールド・オスマンは昔と全く変わっていないらしい。 改めてオールド・オスマンの不可思議さを確認した二人だった。 「ところでミス・シエスタは、怪しげな魔法を使うと聞きましたが」 父親の『怪しげな』、という言葉にモンモランシーが眉をひそめる。 モンモランシーはシエスタの能力を高く評価しており、友人だと思っているが、他の貴族が元々平民だったシエスタを見下すのは至極当然のことだ。 「ほっほっほ、シエスタはワシの恩師の…ええとひ孫さんでしての。正確には水系統ではありませんのじゃ」 「ほう?」 興味深そうに聞き返すモンモランシーの父に、オールド・オスマンは飄々と、時折嘘と真実を混ぜながら答えた。 「まあ、軍人なら魔法の力だけでなく体も鍛えて基礎体力を向上させるじゃろう?それと同じじゃよ、シエスタは自己治癒能力を他人に分け与えられるほど持っておるんじゃ」 オールド・オスマンは、シエスタの曾祖母は吸血鬼退治を生業とする女性であり、彼女の使う魔法は平民も貴族も本来持っているはずの力だと説明した。 特にその力は平民、貴族、亜人、精霊…つまり生命が必ず必要とする力であり、特にその力は治癒の力として非常に優れているのだと主張するに至って、モンモランシ家当主の目に、何かを打算するような表情が浮かんだ。 オールド・オスマンはモンモランシ家が干拓に失敗し、苦しい経済状況に陥っていると知っていた。 だからこそあえて「精霊」という単語を含ませて興味を惹いたのだ。 「ミス・モンモランシー、シエスタと共に治癒を繰り返して、何か得るものはあったかね?」 突然オールド・オスマンから話を振られて、紅茶を飲んでいたモンモランシーの動きがピタリと止まった。 オリーブのような鮮やかな緑で描かれたツタが、ソーサーの中央へとカップを導く。 モンモランシーは静かに、浅く広口のティーカップをソーサーに乗せると、手に持ったソーサーをテーブルに降ろしてから一呼吸を置いた。 「シエスタのおかげで学ぶことは沢山ありましたわ、水の流れがより微細に感じられますの。体全体の流れを大きく感じることで、かえって微細な濁りや漏れが感じ取れるようになりましたわ」 「おお!そうか、それは素晴らしい、いずれはトライアングル、いや、水のスクエアになれるかもしれんな!」 興奮した口調で喜びを表現する父の姿を見て、モンモランシーは少し困ったように肩をすくめた。 「ミス・シエスタ!これからも娘のライバルとしてよく頑張ってくれたまえ」 「は? …はい!あ、それに私もミス・モンモランシーにお世話になっていますから」 一瞬呆気にとられたシエスタだったが、勢いよく返事をして、顔を真っ赤にした。 そんなシエスタを見て、モンモランシーが笑っていた。 一方、ロングビルは一足早く王宮を出て、城下町を歩いていた。 成り行きで仕方なく、不本意だが仕方なくシュヴァリエの授与式に出席したが、正直なところ生きた心地がしなかった。 今でこそなりを潜めているが、ロングビルはトリステインの貴族達に一泡も二泡も吹かせた『土くれのフーケ』そのものなのだ。 その上王宮内ではアニエスがぴったりと後ろに張り付いていた、ただでさえ息苦しい空間なのに、余計な息苦しさと不安を感じ、早々に王宮から立ち去ったのだ。 唯一の救いは、アニエスがあらかじめ「王宮内では行動を監視させてもらう」と前置きしてくれたことだろうか。 どうせなら王宮を出る前に、どこかに隠れているウェールズに「バカ野郎ー!」と罵声でも浴びせてから出て行けば良かったかなと思いつつ、ロングビルは裏通りに入っていった。 裏通りには秘薬の材料や、マジックアイテム類を売っている店がある、表通りの大きな店と違い中古品や粗悪品、もしくはご禁制スレスレのものを売っている店があった。 そのうち一つ、がらくたのようなマジックアイテムを扱っている店に入ると、ロングビルは壁にかけられた板に目をやった。 薄暗い店内の壁にぶら下がるそれは、幅一メイルほどの木板で、手のひらサイズのメモがいくつも貼り付けられていた。 よく見ると『高く買い取ります』等と書かれており、この店の常連達が欲しい商品を集めるために使う掲示板のようだった。 そこに目的のものが貼り付けられていないのを見て、ロングビルは落胆し眉間にしわを寄せた。 …つまりは、ルイズからの連絡が無いのだ、注文書が連絡の代わりになっているはずだが、それが無い。 タルブ村での戦いで『アルビオンを疾走した騎士が現れた』とは聞いている、デルフリンガーは『心配するな』とは言っていたが、ルイズが今どうしているのか気になって仕方がなかった。 おかしな話だが、ルイズという存在はロングビルの心に完全に入り込んでいた。 化け物、吸血鬼、貴族、虚無、理解の範疇を超えた存在を裏で支えているのが私だという自負があった。 もし、ルイズに見捨てられたら…と思うと、ロングビルの背筋に冷たいものが走る。 「今日は買っていかないのかい」 「え?ああ、めぼしいものがないね」 店の店主に声をかけられ、ロングビルは素っ気なく返事をした。 店主の体つきは良く、カウンターの上にだらしなく出した腕は太い、しかし背は低いようで椅子は他よりも高いものを使っていた。 浅黒く、頬にしわの刻まれた初老の男性だが、昔は傭兵か何かをしていたらしい。 「また来るわ」 そう言ってロングビルは店を出て行こうとした。 ギィ、と音を立てて扉を開くと、フードを被った二人組が店に入ろうとしているところだった。 身分を隠して店に来るものや、すねに傷を持った者がフードを深く被ることは多いが、それにしてもボロのようなフード付きローブを着た二人組と鉢合わせするのは不気味だ。 早々に立ち去ろうとするロングビルの腕を、二人組の片方が掴む。 ギョッとして振り向くと、フードを被った二人組のうち、背の低い方が左手でロングビルの左腕を掴んでいた。 ギィー、と間の抜けた音が鳴る、扉の閉まる音だ。 「あ」 あんた何者だい、私に何か用?……と言おうとしたロングビルの表情が固まる。 フードの隙間から見慣れたピンク色の髪の毛が見え隠れしていたのだ。 「丁度良かったわ、鳥で落ち合いましょう」 フードを被った女はそう言ってロングビルから手を離した。 夕方、空が赤みがかる頃…フードを被った二人組と、ロングビルの計三人は、ブルドンネ街のはずれにある安宿で合流した。 この宿屋の前には秘薬屋があり、元はどこかの貴族の三男だった男が店主を務めている、店主には使い魔が居て、それがカラスだったので、この店の近くにある宿のことを「鳥」と言っていたのだ。 ロングビルは右手の袖に仕込んだ杖を取り出し、サイレントを唱えた。 土系統を得意とするロングビルは他の系統が苦手だが、それでも盗みに使えるサイレントは必死で練習し、会得していた。 ディティクト・マジックを唱え、この部屋が覗かれていないか、音を聞かれていないかと確認をしてから、ベッドに座る二人の前で呟いた。 「耳も目もないみたいだよ」 ロングビルの言葉を聞き、二人はフードを外した。 「ふう」 窮屈な服装から解放されたのか、大げさに息を吐きながら、ルイズがフードを外した。 ピンク色の髪の毛が短く、ショートカットになっているのを見て、ロングビルは軽く驚いた。 「切ったの?」 「切れたの」 ルイズが短く答えると、ルイズの隣に座る男が、ためらいがちにフードを外した。 「あら、いい男じゃない」 「もう、キュルケじゃあるまいし」 ワルドの姿を見たロングビルは軽口を叩き、ルイズもそれにつられて笑い出した。 「…で、何者なのか説明してもらえるんだろうね」 ロングビルが備え付けの椅子に座りつつ、ルイズに質問する。 「ええ。彼はジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。この間アルビオンの王様を殺した人よ」 「…なんですって?」 ロングビルの瞳が驚きに見開かれる。 「とりあえず…そうね、タルブ戦の話をする前に、彼との再会から話しましょ」 そう言って、ルイズはワルドと自分との因縁を語り出した。 ニューカッスル城では、まだ自分がルイズだとは気づかれてなかったこと。 タルブ戦で戦い、吸血竜となった吸血馬を翻弄するほどの実力があること。 そして『エクスプロージョン』を放った後、ワルドの母親を生き返らせようとしたが、失敗してしまったことなどを話した。 ティファニアに関することはあえて話から除外した、今の時点でテファの存在を事細かくワルドに教える必要はないと判断したからだ。 最後に、ワルドの母から聞いた話を元に、高等法院のリッシュモンがレコン・キスタに通じて居るであろうことまで話した。 その間、ワルドはじっと黙っていたが、話が一段落するとおもむろに口を開いた。 「ルイズ、こちらの女性は?」 「土くれのフーケよ」 ルイズがあっさりと自分の正体をばらすので、ロングビルが慌てた。 「…!ちょっ」 「ああ、君がか。ルイズから話は聞いたよ」 だが、予想に反してワルドはあっさりとそれを受け入れた。 ロングビルからしてみれば、ワルドという男は良くも悪くも純粋で子供っぽい。 『ルイズを殺した憎きフーケ』だと思われていたらとても勝ち目はないと思っていただけに、そのあっさりとした反応が返って不気味だった。 戦い方によってはルイズを圧倒する実力の持ち主なのだ、どう考えても勝ち目はない。 「心配するな、ルイズが自分を死んだことにした後、君はルイズを影ながら支えてくれたのだろう?僕は君のような人が居てくれたことを嬉しく思うよ」 ワルドは心底からそう思っているようで、その表情もどこか無邪気に見えた。 毒気を抜かれたロングビルは肩を落として呟く。 「…まあ、そう思ってくれるなら、それはそれでいいけれど…」 ふと思いつく。 この男も、きっとルイズに惹かれているのだろう。 自分と同じように、ルイズに見捨てられたくないと思っているのだろう。 さらけ出すには恥ずかしい心を、容易に露出させてしまうのが、ルイズの魅力なのだろうかと思った。 「あんたも大変だったろうけど、私も大変だったよ。そうそう、一昨日アニエスって奴とウェールズが魔法学院に来てさ」 「一昨日?」 ルイズが聞き返す。 「そう、一昨日さ」 ロングビルは、シエスタとモンモランシーがシュヴァリエを授与されたことを話した。 また、ウェールズが身分を隠して魔法学院を訪ねてきたことも話すと、ルイズは少しだけ不満そうに顔を見上げ、そのままベッドに寝ころんだ。 「……シエスタがシュヴァリエかあ」 本来、戦場から一番遠いはずの人が、戦場で活躍してシュヴァリエを授与されたという話しは、ルイズの心に重くのしかかった。 「………」 ルイズは、天井を見上げつつ、喉の奥から出てこようとした言葉を飲み込んだ。 ”会いたいな” 会ってどうする?自分は生きていたのだと告白するか? おそらく、それは無理だろう、オールド・オスマンが吸血鬼対策を練っているはずだ。 虚無の魔法にある『忘却』を使って、吸血鬼に関する記憶をすべて消してしまえば、あるいはシエスタと再会できるかも知れない。 そしてキュルケ、モンモランシー、タバサ、ギーシュ、あの時私を助けようとしてくれた友人達とまた笑いあえるかも知れない。 自分が死んだという記憶を消せば、ちい姉様に会えるかもしれない… そこまで考えてルイズは頭を振り払った。 「…だめね、思い出に浸ると弱くなるわ」 ルイズの言葉を聞いたワルドが呟く。 「そうかもしれないな」 少しの間沈黙が流れると、ロングビルが唐突にルイズの頭を指さした。 「ところで、どうしたんだい」 「何が?」 ルイズが返事をしつつ、ロングビルの指先を見る。 それが自分の髪の毛を指しているのだと気づいたので、ルイズは苦笑した。 「失恋とかそんなんじゃないわよ、ちょっと油断して切られちゃったの」 「お隣の色男にかい?」 「バカね、そんなんじゃないわ。ワルドの首だって切られそうだったもの」 話が剣呑な方向に行きそうなので、ロングビルが眉をひそめた。 そして期待通り、ルイズはまた突拍子もないことを言い出したのだ。 「ちょっとミノタウロスと戦っちゃったの」 「はあ?」 ロングビルは口を半開きにして、この波乱の人生を送る少女の言葉に呆れた。 To Be Continued→ 戻る 目次へ
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imageプラグインエラー ご指定のURLはサポートしていません。png, jpg, gif などの画像URLを指定してください。 研究院長モンモラス ユグドラシルの貴族家に生まれ、騎士になることを志していた男。 しかし最愛の女性を失ったことで『死者の蘇生』を夢見て独自の研究に没頭していった。 ガノッサ帝崩御の直前、マイスナーによって魔術研究院院長の座に据えられる。 狂気に満ちた彼の瞳には最早、嘗て夢見た未来は映らない。 関連項目 ユグドラシル七師将 モンモラスとの対峙 栄光の結晶 狂犬覚醒 D3兵器 悪魔開発 執着 era3 ユグドラシル 人名
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精霊! ほんとのきもち その① 到着したラドクリアン湖はやけに水位が上がっていた。 かつて精霊との交渉役を務めていたモンモランシ家の娘であるモンモランシーは、使い魔のカエル、ロビンに自分の血を一滴垂らして水の精霊を呼びに行かせた。 するとモンモランシ家の血を覚えていてくれたらしく、水の精霊が現れる。 不定形の姿のそれはウニョウニョと動いて不気味だった。 「私はモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。 水の使い手で、旧き盟約の一員の家系よ。カエルにつけた血に覚えはおありかしら? 覚えていたら、私達に解るやり方と言葉で返事をしてちょうだい」 すると水の精霊はいろいろな形に変えた後、全裸の美女の姿になった。 さっそく身体の一部(通称、水の精霊の涙)を分けてもらうよう頼むと、精霊はニッコリ笑って「断る。単なる者よ」と言い放った。 そして水の中に帰ろうとしたため、ルイズは慌てて呼び止める。 何でもするからどうか、と食い下がると、水の精霊は条件を出した。 自分に仇なす襲撃者、人間を退治しろとの事。 争い事を嫌がったモンモランシーだが、ルイズはその条件を飲んだ。 「という訳でジョータロー、ギーシュ、よろしく」 しかし結局戦うのは男二人らしい。 ギーシュとモンモランシーの見ている前で虚無の魔法を使う訳にはいかないし、モンモランシーは戦いは苦手で足手まといにしかならないので仕方ない。 ちなみに花びらを油に錬金して燃やす戦法は、水の精霊を怒らせるかもしれないという事で禁止された。 「ならば新しく開発したゲッター・ワルキューレの出番かな。 ワルキューレ3に変身すれば水の中でも通常のワルキューレより一割は強い」 一割かよ、と三人とも呆れる。 それより普通にワルキューレを七体出して承太郎のフォローをしろとルイズは命令。 戦闘準備を整えて一時間ほどすると、水の精霊が言っていた襲撃者が現れた。 漆黒のローブで姿を隠した二人組は、水辺に立つと呪文を唱え出す。 間違いないと踏んで、承太郎は木陰から二人に忍び寄る。 そしてギーシュも花びらを舞わせて七体のワルキューレを出現させた。 承太郎とワルキューレの挟み撃ちだ。 即座に二人の襲撃者は、囲まれた時にもっとも有効な対処法を取った。 すなわち一点突破。 その場にとどまり四方八方からの敵を迎え撃つより、包囲網が狭まる前に一箇所の敵を倒してそこから逃れる方が簡単なのだ。 そして二人が一点突破に選んだのは一人で向かってくる承太郎ではなく、七体が列を成して迫るワルキューレの方だった。 一人で襲ってくる得体の知れない強そうな相手より、数をそろえねばならない七体のゴーレムの方が御しやすいと考えたらしい。 二人はワルキューレに迫りながら素早く詠唱、炎の魔法が一体のワルキューレを吹き飛ばした。 続いて放たれた魔法の竜巻他のワルキューレを薙ぎ払う。 「そ、そんな! フーケを倒したこの僕のワルキューレが!!」 ワルキューレの指揮を取っていたギーシュが木陰から姿を出してうろたえる。 フーケを倒した晩にキュルケと決闘して負けた時点で気づくべきだったが、所詮ギーシュはドットメイジであり魔法の威力はお話にならず、発想力も乏しいので花びら錬金油戦法を禁止されたらろくな作戦を考えられず、 さらに第一部ラストバトル補正がついてない彼が格上の敵に勝つのは至難であった。 モンモランシーはギーシュがフーケを倒したという話を『デマ』だと確信した。 ちなみにフーケを倒した現場を見てないルイズも、ギーシュが一人でフーケを倒したという話に半信半疑になってしまった。 証人はタルブの村の皆さんです。残念ながら学院にはシエスタしかいません。 さらに今ここには証人誰一人としていません。ギーシュピンチ。 二人の謎のメイジの魔法がギーシュを襲おうとした瞬間、承太郎がスタープラチナを出現させた。 「スタープラチナ・ザ・ワールド」 世界が反転するような錯覚の後、止まった時間を認識しているのはルイズと承太郎だけだ。 承太郎は一気に敵メイジとの距離を詰め、即座に手に持っていた杖を奪い取る。 距離があったため、それだけでもう時間切れになってしまい時間が動き始めた。 突然杖を失った襲撃者二人は困惑し、ギーシュとモンモランシーは承太郎の瞬間移動に唖然とする。 「よし! そいつ等を捕まえて、湖を襲ってた理由を吐かせなさい!」 勝利を確信してルイズは木陰から飛び出した。 「え、ルイズ?」 間の抜けた声を出した襲撃者のフードを後ろから掴んだ承太郎は、引っ張り倒すようにしてフードを脱がせる。 すると見覚えのあるシルエットが現れた。 「さて。キュルケにタバサ、命が惜しかったらなぜ精霊を襲っていたのか話しな。 さもねーといくらお前達でも容赦しねー」 「え、キュルケにタバサ?」 ルイズ達は慌てて襲撃者に駆け寄り顔を確認する。 それは確かにキュルケとタバサだった。 なぜ水の精霊を襲っているのか、なぜ水の精霊を守っているのか、お互いが疑問をぶつけ合い、事情を説明し合う事になった。 ルイズがこれまでの経緯をあらいざらい話すと、キュルケは呆れ返ってしまった。 「惚れ薬ねぇ。自分の魅力に自信の無い女って最低」 「し、仕方ないじゃない! ギーシュったら浮気する事しか頭にないんだから!」 「い、いやそういう訳では……しかし元をたどれば僕のせいなのか? うーむ」 はい今宵もやって参りました『一番悪いのは誰ですか?』ターイムッ! 回答者の皆様は答えをフリップに書いてお出しください。 では一番悪いのは誰ですか!? ルイズ『ギーシュとモンモランシーの両方』 キュルケ『魅力に自信を持てないモンモランシー』 タバサ『コッパゲ』 ギーシュ『タバサの×』(何かを書いて消した後がある) モンモランシー『浮気者のギーシュ』 承太郎『魅力的すぎるルイズ』 「……見事に意見が分かれたわね。というかタバサとギーシュの答えは何よ?」 キュルケに視線を向けられた二人は、お互いの顔を見る。 「いや……ジョータローが飲み物を欲しがった元々の理由は君にあるだろう」 「コッパゲが飲ませたのが悪い」 タバサ特製はしばみ茶の件を知らないルイズとキュルケとモンモランシーは、二人の会話の意味を理解できなかった。 キュルケは承太郎とはしばみ草のファーストコンタクトの一件を知っているものの、その後タバサがはしばみ茶なんて物を作っているとは全然知らないのだ。 知っているのは被害者である承太郎、ギーシュ、コルベール、シルフィードと、加害者のタバサのみなのである。 「まあギーシュとモンモランシーに二票ずつって事でとりあえず決着ね。 それじゃ今度は私達の事情を説明するわ」 無口なタバサに代わりキュルケが理由を話す。 水の精霊が水かさを増やしたせいで領地が被害に遭い、原因である水の精霊を退治するようタバサの実家に依頼が来たとの事だ。 そうなるとキュルケ達も手ぶらで帰る訳にもいかない。 そこで承太郎がアイディアを出した。 「ならもう一度水の精霊と交渉してみよう。 水を増やす理由を教えてもらって、そっちを解決すりゃあ問題ねー。 水浸しになった領地が何とかなれば、水の精霊を退治する必要も無くなるだろ」 「さすがダーリン、惚れ直しちゃう」 「だが交渉に失敗した場合、この二人をどうにかして……精霊から涙をもらうとするか。 そうしねーとルイズに俺の気持ちを解らせる事ができねーからな。 それとキュルケ、次にルイズの前で俺をダーリンなんぞと呼びやがったら、スタープラチナをおめーに叩き込む。いいな?」 「……モンモランシー。万が一の時はあなたも道連れにするわよ」 キュルケに杖を向けられて、モンモランシーは蒼白な顔をうなずかせた。 そして翌朝、再び水の精霊を呼び出し水を増やすのをやめるよう頼んでみる。 とりあえず襲撃者を止めたという事で、水の精霊は理由を話し任せるべきかを思案した。 だがルイズ達が約束を守ったのだから、自分も約束を守り、また信用して話すべきだろうと言うと、水の精霊の涙を分けてくれた。 慌ててギーシュが持っていたビンで水の精霊の涙を受け取る。 すると水の精霊は水を増やす理由を語り出した。
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モンモラスとの対峙 ユグドラシル首都ファンタズムを目指す皇帝アーサーと悪魔祓い一行。 そんな彼らの行く手を度々阻んでいたのは、 魔術研究院メイガスの研究院長モンモラスと研究院所属の魔術師たちだった。 幾度にも亘ってアーサーの前に立ちはだかったモンモラスだったが、遂に引導を渡す時が来た。 「今の魔術は見事だった、魔術師(メイガス)」 王の剣を喉元に突きつけ、優越感を含んだ微笑を浮かべるアーサー。 そこにはもはや、王宮に居た頃の優しい皇子の、弱き皇帝だった頃の面影はなかった。 追い詰められた狂気の魔術師は、遂に奥の手、『禁書』の封印を解く。 関連項目 栄光の結晶 era3 ユグドラシル 事件
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前ページ次ページデュープリズムゼロ 第二十八話 『ラグドリアン湖の激戦』 「はぁ…」 水の精霊の涙を求めてラグドリアン湖を目指しているミントは一つ溜息を漏らして何故自分が今こんな目に遭っているのかと考え、その馬鹿馬鹿しさに改めて悲観に暮れる… 「おぉ、どうしたんだい僕の愛しき麗しの女神!その憂いを秘めた「うるさい!くだらない事言ってないであんたは馬の操作に集中しなさい…」」 ミントは自分の馬の手綱を代わりに操っているギーシュがやたらとキラキラした瞳で自分を見つめてくる事にうんざりしながら力無くギーシュを睨み付ける。 「うぅ…ギーシュ…」 「我慢なさい、そもそもあんたが全部悪いんだから。」 「うっ…それは…分かってるわよ…」 ミントとギーシュのやり取りを恨めしげに見ていたのはそもそもの原因であるモンモランシー、そしてミントに無理矢理に連れてこられたルイズである。 今ルイズとモンモランシーはそれぞれ一人で馬に、ミントは非常に不本意ながらギーシュの馬の後ろに乗っている。 それは四人が学園を発つ為、学園の馬を借りようとしたのだが生憎と空いている馬が三頭しか居なかった故の苦肉の策。 そもそもミントはギーシュを学園に置いていくつもりであった。 が、厄介な事に薬の影響下にあるギーシュはミントが目を離すと他の生徒達にミントの魅力を説いて回ったり…挙げ句実家にミントの事を恋人だの紹介したいだのと手紙を綴り始めたりとやりたい放題だったのでしようが無く連れて行く事にした。 「だったら私は行かずに残るわ。」 そう言ってルイズが面倒事から逃れようとするも巻き添えを求めるミントはそれを許さずそもそも馬に乗り慣れていないミントがここは誰かの馬に相乗りするという話しに相成った。 そしてその役目を買って出たのは勿論絶賛ミントにベタ惚れ中のギーシュで、ミントもこれに関して深く考える事も無く了承した。 しかしそんなミントの安易な考えを裏切るかのようにミントの視線の先で手綱を操りながら愛を詠うギーシュはそれはもうひたすらにうざかった… (馬の操作をしなくて済むのは楽だけど精神的にきついわね…これならルイズ置いて自分で馬に乗ってくれば良かったわ…モンモランシーもこいつの何が良いのか全然分からないわよ…) そんなミントの心を知らずギーシュの駆る馬の足取りは軽く、一行は昼を大きく回った頃に目的地であるラグドリアン湖へと辿り着いたのであった。 ____ ラグドリアン湖 「……変ね、ラグドリアン湖の水位が上がってるわ!」 「水位が?」 ラグドリアン湖に到着した途端、モンモランシーはその変わり果てた光景に驚愕した様子を浮かべた。 「ええ、ラグドリアン湖の岸はここよりもずっと向こうだったはずなのよ。……ほら、あそこに屋根が出てるわ。村が湖に呑まれてしまったみたいね。」 「うわ、ほんとだ……」 モンモランシーが指差した先には、確かにワラぶきの屋根が湖から突き出ている。更に水面をよく注意して見れば、家が丸ごと水の中に沈んでいることが分かった。 それを興味深げに観察しているミントとルイズを放置しモンモランシーは波打ち際まで歩いていって水に手を触れて精神を集中させる為、目を閉じる。 因みにミントにとって用済みとなったギーシュは起きていると鬱陶しいだけなので現在モンモランシーのスリープクラウドの魔法で夢の中である。 「……水位が増えてるのはやっぱり水の精霊の仕業みたい。理由までは流石に分からないけど水の精霊は、どうやら怒っているようね。」 「触っただけでそんな事が分かるなんてやるじゃない…あんたを連れてきたのは正解だったわね。」 自分の世界には無かったそのメイジの技能にミントは素直に感心する。 「ふんっ…当然よ、『水』のモンモランシ家は、水の精霊との交渉役を何代も務めていたんだから。」 「務めていた?何?今はその交渉役じゃ無い訳?」 「うっ……そ、それは……」 ミントのその指摘に、思わずモンモランシーは口ごもる。 「モンモランシ家は結構前に干拓事業をする際に水の精霊を怒らせて交渉役を降ろされたのよ。トリステインじゃ結構有名な話よ。」 言い淀んでいたモンモランシーの代わりにルイズが簡潔な説明をミントに行う、家の恥を晒されるのは悔しいが事実なのでモンモランシーとしても肯定せざるを得ない。 「でも少なくとも水の精霊を呼び出すのは問題ないでしょ、モンモランシー?というかそれ位は最低限やってもらわないとね…」 「ぐ…分かってるわよ、黙ってみてて。」 ミントの挑発的な言葉に応え、モンモランシーは腰に下げた袋から自分の使い魔のカエルを取り出した。 「ひっ、カエル!!」 「情けないわね~…たかがカエルじゃない?」 情けない声を上げたのはルイズでそれを嘲笑ったのはミント、ルイズはカエルがどうも生理的に苦手なのだが言われっぱなしも癪である為ルイズは頬を膨らませた。そして… 「あっ、カボチャ!!」 「ひぃっ!!?」 仕返しとばかりのルイズの嘘にこれまた情けない悲鳴が湖畔に響く…咄嗟に反応したミントだったがそれは直ぐに嘘だと気が付いたので恨めしそうな目でルイズを睨む。 「…あんたも人の事言えないじゃ無い…」 「ルイズ!!」 「あ~~~もう!二人ともうるさいから静かにしてなさいっ!!水の精霊を今ロビンが呼びに言ってるんだから騒がないでよ!!」 二人の言い争いの間に使い魔のロビンを湖へと放したモンモランシーが二人に怒鳴りつける事で取り敢えず二人の言い争いは鎮静化したのだった。 程なくしてロビンがモンモランシーの元に戻って来る。すると大きく湖の水面が膨らみそこから不定型な水柱が現れた。 水柱は一行をしばらく観察するような様子を見せた後その姿を徐々に人間の女性のシルエットへと変形させていった。そして、ようやく形作られたそのシルエットはモンモランシーの姿を模していた。 これで取り敢えずの最低条件はクリアできた。それを確認したモンモランシーはルイズとミントが見守る中、水の精霊に向かって一歩前に出る。 「水の精霊よ、私ははモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。水の使い手で旧き盟約の一員の家系に連なる者。カエルにつけた血に覚えはおありかしら。覚えていたならば私達に分かるやり方と言葉で返事をしてちょうだい。」 その言葉に反応したのか、モンモランシーの姿を模している水の精霊はフルフルと震えるように会話を始める。 「………覚えているぞ、単なる者よ。貴様の身体を流れる液体を我は覚えている。お前に最後に会ってから月が52回交差した。」 水の精霊の覚えているという言葉にモンモランシーは心底安堵する。 「良かった。水の精霊よ、お願いがあるの。あつかましいとは思うけど、あなたの一部を私達に分けて欲しいの。」 「……………」 今度は何か考えるかのように沈黙をする水の精霊。その様子に一行はどうもイヤな予感を感じずにはいられなかった。 「断る、単なる者よ。」 その水の精霊の一言を聞いてルイズとモンモランシーは内心当たり前かと一応の納得をする。「下さい。」「はいどうぞ。」という話がそもそもあり得ないのだから…しかしミントは違う。 「はぁっ?けち臭い事言ってんじゃ無いわよ!良いからほら、あんたの涙を寄越しなさい。それがないとあたしが困るのよ。」 恐れも遠慮も一切無く、ミントは水の精霊に両手を突き出して軽い催促のステップを踏んでみせる。 これにはモンモランシーもルイズも思わず絶句する… 「断る、ガンダールブよ、我にはお前達へ我が一部を差し出す理由が無い。お前が我が一部を求めるならば我にその力を認めさせ、契約の元で求めるが良い。」 水の精霊には感情が無いのか、ミントの暴言にも特別怒った様子も無く淡々と切り返した。 「ガンダールブって?」 モンモランシーが水の精霊の言葉に疑問符を浮かべるもそこまで怒った様子が見られない水の精霊のその反応にミント以外は胸を撫で下ろした。 が、ミントの続ける言葉に更に精神をすり減らす事となる。 「成る程、涙が欲しかったら自分とバトルして力を見せてみろって事ね?な~んだ、あんた案外話せるじゃ無い。」 そう、青ざめる連れ二人等意に介さず、ミントは精霊の先の発言にとあるシンパシーを感じ、つまりは何を求めているのかを察していたのだ。 「あんた何言ってんのよ!!!!バカなの!?いいえバカよ!!」 「お願いミント、止めて!!これ以上水の精霊怒らせたら私の家取り潰しになっちゃう!!」 大泣きしながすっかりやる気になったミントに縋り付くルイズとモンモランシー、それを正直鬱陶しく感じながらもミントは手にしたデュアルハーロウを水の精霊に突きつけると高らかに宣言した。 「うっさいわね~…ほら、下がった、下がった。、…さ、レッツバトルよ!!」 「………来るが良い…単なる者よ。」 「…嘘でしょう…」 嘆く二人を置き去りに弾かれたようにミントが岸辺を走る。するとミントがつい先程まで居た地点へと高圧縮された水塊がまるで鞭の様に連続で叩き付けられた。 不定形故のしなやかな動きがミントの蹴った地面を次々と水が穿つ… 「相棒、あの水には当たるなよ!水の先住には心を狂わす力がある!」 「オッケー。切り裂け!!」 デルフリンガーの助言を受けてミントのステップは更に鋭さを増す… 勿論ミントは防戦をする気も無く、デュアルハーロウから放たれた魔法、高水圧の水の鋭い刃は未だモンモランシーの姿を模したままの水の精霊の胴を袈裟に切り裂いた。 水の飛沫を巻き上げ、一瞬その形を崩した水の精霊、だが次の瞬間には当然とでも言うか元の姿へと戻っていた。誰が見てもダメージが入っているとは思えない。 「やっぱ効かないか…」 ミントは予想していたとはいえその光景にやはり驚きつつ自分に迫る水の弾丸をたたき落とし次の魔法を放つ体勢に移った。 そしてミントの今の一撃に一番驚いていたのは誰あろう水の精霊であった… 『系統魔法』とも『先住魔法』とも違う永遠を生きる自分にも知り得ない未知の魔法とそれを操る人間等、自然と興味が湧く… 続いて水の精霊を襲ったのは紫電を放つ巨大な暗黒の球体。それは水面を削り取るようにしながら高速で真っ直ぐ水の精霊に向かう。 ハルケギニアには存在しない属性の魔法は水の精霊をそのまま周囲の水もろともに飲み込むと強烈な力場を生んで何も残さず消滅した。 消滅した水面を補うようにして大きく波立った水面…そこにはもうモンモランシーのシルエットを模った水の精霊は居なかった。 しばらくの後、水面が穏やかさを取り戻す。すると姿は見えないにしても再び湖畔に水の精霊の声が響いた。 「…そなたの力我は存分に見せてもらった。我はそなたを認めよう。武器を納めよガンダールブ…」 とミントも半ば予想出来ていたかのように素直にデュアルハーロウを背に納めると戦闘態勢を解除する。 「ったく…判れば良いのよ。」 不遜に言ってミントはルイズとモンモランシーが居た場所へと戻る。ウィーラーフもそうだったが所謂人智を超えた存在というのは人の力を試すのがやたらと好きなようでミントは実際この流れは予測が出来ていた。 だがルイズ達はそうも行かない。 「何なのよ…一体…」 と、理解の追いつかないままルイズとモンモランシーの二人は呆然と水面とミントを見つめていた。 事態に収拾が付いた事で一行はようやく再び水の精霊との交渉を再開する。 水の精霊もまずミントの存在に疑問を抱いた為、ミントが何者であるかを問い、またミントも自分の身分、置かれている状況などを掻い摘みながら水の精霊に答える。 思わぬ形ではあるがミントが王女である事を知ったモンモランシーは「ありえない…ありえないわ…」と譫言のように呟いていた。 そうして互いにある程度の情報を交換した後、ようやくミントが『精霊の涙』を要求するも水の精霊は再びこれを拒否した。 これに声を上げてミントは反論したが水の精霊曰く、ここ数日水の精霊は何者かの襲撃を受けて実際困っており、その襲撃者を何とかすれば『精霊の涙』をミントに譲ると言う。 なんにせよお宝を手に入れる為に、何かと『お使い』を頼まれるのはミントにとっても馴れた物である。無論、面倒だとは思うがこればっかりは仕方が無い。 こうしてミント達は今夜、水の精霊を襲う襲撃者に備える事となったのであった… 前ページ次ページデュープリズムゼロ
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ロランスドクレルモンモントワゾン(ロランス・ド・クレルモン=モントワゾン) フランスのモンモランシー公の系譜に登場する人物。 関連: アンリイッセイドモンモランシー (アンリ1世・ド・モンモランシー、夫)
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モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシは困っていた。 何故か? 今しがた召喚した彼女の使い魔(予定)が目の前で壮絶なまでにのた打ち回っているからだ。 ひれの付いた尾が地面を叩くと地響きが起こり、振り上げた頭が塔に当たるとその壁を砕く。 びったんびったんびったんびったん 「流石私の使い魔、生きがいいわね」 「この状況でその発言はどうかと思うわ」 明後日の方を見てそんな事を言うモンモランシーに級友のキュルケが突っ込む、それでも巨大な(30メイルほどはありそうな)魚の様な使い魔はビチビチのたうっていた、砂埃が舞い立ち美しい翠色の鱗もその輝きを失いつつある。 本来ならば陸上であってもある程度の活動が可能なこの魚のような竜、ガノトトスがかくも苦しみのたうっているのは、深い水深に居たところをいきなり陸上に呼び出され肺兼用の浮き袋が急激に膨れ上がったせいだ。 その辺の魚ならば『暴れることも出来ず、程なくご臨終』で終わるのだが、曲がりなりにも魚竜である彼の生命力は容易い死を許さなかった。 しぶといのも考え物である。 「ちょっと大人しくなって来たんじゃない?」 「そりゃ魚を水から上げればいずれは大人しくなるでしょうよ」 「でもこれ、変な魚よね? 脚とか生えてるし」 「…そういう魚なのよ、きっと」 ぴたん…、ぴたん…、 激しくのたうっていた巨体も勢いを失いつつあった 「んじゃ、そろそろ『コントラクト・サーヴァント』といきますか」 「貴方…、こうなるのを待ってたわね」 「おほほほほ、この程度は頭を働かせないとね」 鼻歌交じりのスキップで頭の方に近づいてゆく 「うぇ」 歯茎と白目を剥き、舌を出してデロンとへたっているその顔は人食い鮫を数倍イカツクしたようなシロモノだ、さらに 「さ、魚臭ッ!」 「ま、魚だし」 太陽に暖められて猛烈に生臭くなっていた 「ほらほら、ブちゅっとやったんさい」 「貴方の使い魔なんだから、貴方がやりなさいよ!」 「あ、ほらでもさあ」 「何よ?」 「このままほっといて死んじゃったら、召喚のやり直しにならないかしら?」 「死体は貴方で片付けなさいよね」 「えーっ、貴方のお得意の火の魔法で…」 「いやよ!」 この後コントラクト・サーヴァントをすませ使い魔となったガノトトスが噴水に向かって必死でのたくり進み、水に漬かったまま丸まって動かなくなってしまうのは余談である。