約 994,612 件
https://w.atwiki.jp/jisakurowa/pages/201.html
30/30【テロリスト】 ○ネイサン・ホーマー/○骨洞芙蘭/○愛餓夫/○貝町ヒ呂/○筑波晴夫/○的中景/○楢谷兵三 /○ウィッチランチャー/○間霧鼎/○ビス/○真楠啓司/○朝霧・イヴリン・ポランスキー/○天霧・レックス・ヒギンズ /○銀鏖院灯燈/○アレクサンドロス・リゲイン/○マイケル/○栗原猛流/○大神尊戎/○聖櫃塚凍風希 /○十戒坂地誇夏/○花戸雷太/○長夫晴登/○植上祥子/○亭葉庄司/○ザカリー/○李槍刑(ランスロット・リー) /○帝泉瑞乃/○刃庭魯依/○東雲(シーザー・フォースター)/○ミメイ 【新規参戦生徒】 ○東海林絵美子/○藍原瀬津奈/○梔崎笆戸理/○淡島佐喜彦/○レイ/○蓼宮楓/○法田三郎/○穂積宗一 /○不動院凛華/○大鳳瀧音/○エカテリーナ/○琴浦周斗/○本郷一真/○亘理実/○下垣鳴海癒里/○夕焼リコ /○冽甲路鳴海/○京終春日/○中川いさ/○東 【リピーター参戦生徒】 ○卜部悠/○朱広竜/○若狭吉雄 【中立】 ○梁絢壬(シャーリー・リャン)/○家中写楽/○麻倉充/○金斃寺火焔/○花渕水樹/○鬼崎嘉聖/○勅使河原勇紀 /○蓮浦新男/○柿村暁寅/○柿村ルイン/○功野錬司/○石谷幸之助/○楠森和葉/○志々尾風香 /○近藤編李/○アーパムー/○志鹿蘭/○法田美岬/○法田恵理 【テロリスト残り30/30名】
https://w.atwiki.jp/jisakurowa/pages/97.html
支給品 施設 書き手用メモ
https://w.atwiki.jp/jisakurowa/pages/121.html
修羅 ◆hhzYiwxC1. 「クソ……眠………」 内木聡右は、そうボヤキながら、慎重に移動していた。今のところ誰とも会っていないが、まだ油断はできない。 …だが、当面の敵はこの眠気だろう。辺りも少し明るくなってきた。もうじき夜は明けるだろう。 このまま何事もなければ事も簡単に押し進むわけだが、正直無理だろと聡右は思っている。 戦う覚悟はできている。だけども“殺す覚悟”だけは――したくなかった。 そんな覚悟は、この世を生きる上で必要ないし、そもそもそれを覚悟と認識すること自体おかしな話だ。そんなもんは覚悟でも何でもない。男なら愛する者を殺す覚悟よりも、愛する者に殺される覚悟を………… 親父さんから幼少期に言われた言葉を、聡右は思い出していた。 「だからって喜佳に殺されるのは、まっぴらご免蒙るけどな。ハハッ」 自分で言った言葉に、自らツッコミを入れている自分が、頻りに虚しく思えてきた。 「……やっぱあれだな。10年間同じ屋根の下で…まだ腐れ縁じゃ、仕舞いにゃアイツに刺されちまうってもんか…………」 「あーくそ…まただよ。何だ俺は……ポエマーに転職しちまったのか? そんなに一人が寂しいのか?」 「一人じゃないですよ」 ゆっくりと振り向いた先には、デリンジャーを構える吉良邑子の姿があった。 「おいおい…いつの間にいやがったんだよ。吉良」 彼女の存在に、正直聡右はかなり驚いたようだった。彼女は、クラスの中でも日頃からとっつきにくかったし、出会いたくはなかった。 「今さっきです」 「で? 俺を殺すか?」 「ハイ!」 明らかに場違いな笑顔と共に銃口を向けながら吉良は無邪気な子供のように頷いた。 聡右と吉良は、おおよそ5m弱距離を置いている。今のところ吉良はこちらと距離を詰める様子は 発砲する様子も見られない。聡右は、コルト・パイソンを、右手に持ち、体の影に隠しながら一歩ずつ後退り、距離を詰める。少しでも距離を詰めれば、当たる確率も少しは低くなるだろう。ゆっくり…一歩ずつ…そう言い聞かせつつ、聡右は後ずさる。 「あなたは個人的に嫌いではないのでちょっとお話に付き合ってください。内木君」 「…………は?」 「だからお話です。でも嫌いではないと言う言葉を勘違いしないでくださいねッ?! 私が愛しているのは現時点では御主人様…英人様しか愛していませんからね!?」 吉良の焦りを含んだ言葉に、聡右は耳を疑った。 「英人……? 玉堤英人のことか?」 「そうです! 私は最初に顔を会わせた英人様の奴隷になったんです! そして彼から与えられた“使命”を全うするつもりです」 「ツッコミたいところが山ほどあるんだがいいか…」 「私はどうせなら思う存分私を嬲ってくれる人か、誠実な人がよかったんです! 英人様じゃなければ内木君やケトル君の奴隷にもなってみたかったわ!」 吉良は、聡右の言葉をすべて無視して無理矢理話を進め続ける。「お話をしたい」と言うのは嘘だったのかと、さらにツッコミたくなる。 「オイオイ吉良ー。吉良さーん」 「? 何ですか?」 「一つ言いかい? 玉堤から与えられた“使命”ってなぁ何なんだい?」 「ハッハッハー!! よくぞ聞いてくれました内木君!」 聡右には、やたらとテンションの高い吉良邑子が、何でこの状況でこんなに楽しそうな全く分からなかった。このハイテンションは、悩みのない奴とか、ムードメーカーの持つテンションとは、明らかに違うもので、決して他人を楽しませるためのものではない。 「“間由佳”以外を……皆殺しにしろって命令です!!」 吉良は、笑顔のままでデリンジャーの引き金を引いた。 これは――純粋無垢な悪意に満ちた笑顔だ。 「どうして躱すんですか~。脳天に弾丸を喰らえば楽に逝けるのに」 「悪いがお断りだね。俺ァ喜佳が心配で死にそうだってのにこれ以上死にそうにさせられちゃあ困る!」 「鬼崎さんですか…」 吉良はもう一発、何やら考えながらもう一発聡右に向けて発砲した。そして、それも聡右に躱されると、デイパックから2発弾丸を摘まみだして、素早く装弾する。 その隙に、聡右は近くの木の陰に身を隠したが、吉良は装弾を思ったよりも速く終わらせ、聡右が隠れている木にむけて的確に発砲し、木の皮を弾き飛ばした。 「私あの人個人的に嫌いなんですよ……おっぱいがおっきいからじゃないですよ? 僻んでなんかいませんよ?」 話す言葉自体は、非常に他愛もなく、それだけならば、普通の女子高生を連想することも可能だが、それだけじゃないからまず無理だ。 「だったら今から喜佳の乳を萎ませてくるから逃がしてくれや!」 「あれは触った時の感触が本物だったから無理でしょうね」 「触ったことあんのかい!! 俺なんて十年一緒に住んでるのに触った事ねえぞ!」 「……はっ!」 聡右は、喜佳と同居していることをクラスメイトにはひた隠しにしていた。そして、今まで何とかバレずに乗り越えてきたが、もうこうなっては後には引き返せない。 「仲いいと思ったら同居してたんですか…そして毎日熱い夜の営みを……きゃっ!恥ずかし!」 「あー! ウゼー!! お前さっきの話聞いてなかっただろ!!」 吉良は、聡右に少しずつ距離を詰めながら、気色が悪いくらいの笑顔で発砲を続けていた。 2発撃ち終え、弾が無くなれば移動しながら手際よく装弾する。無駄のない仕草だ。距離もすぐに縮まる。 「別にいいんですよ! どうせ内木君もすぐにくたばるんですから! ああ…これで三人目…………私とっても嬉しいです…御主人様の役に立ててるってちゃんと実感できます……ああ…英人さまぁ………」 確実に距離は縮まっていた。このままでは、確実に撃ち殺される…聡右は、“ある覚悟”をした。 そうして、再度1発の弾丸が放たれる。もう既にかなり近くに吉良は来ており、聡右はコルト・パイソンを構え、あろう事か銃弾を取り出し、デイパックの中に落とした。 「……何してるんですか?」 聡右は、吉良のその声を聞くと同時に、あろうことか木の陰から姿を現した。 「やっと死んでくれる気になりましたか♪」 「いいや…まあ死ぬかも知んねえけど……最“後”に頼みがあんだ」 「決闘を申し込みてえ」 「決闘…ですか?」 吉良は、聡右の言葉に少しだけ驚いたと言う風だった。 聡右はコルト・パイソンのリボルバーを展開させ、一発残っていた弾丸を取り出した。 「お前のそのデリンジャー。そん中に入ってるのも一発。こっちにも一発だ……どっちが速いか。勝負しねえか?」 「いいですね! そう言うのって燃えますよね! やりましょうよ内木君!!」 吉良は相変わらず気味の悪いハイテンションを身に付けていた。 「背を向けあって……3歩前進したところで振り向き様に撃つ。簡単だろ?」 「ハイ! でも敗けませんよ~英人様のためにもお命頂戴です!」 聡右は、吉良の本質が読めていた。弾をしまい、リボルバーを閉じると、吉良と背を向けて密着し合う。 「「1歩…………」」 互いにアクションは見せない。そうして、二人はほぼ同時タイミングで右足を前に踏み出した。 「「に…」」 そう言いかけた途端に、吉良はルールを破り弾丸を発砲した。 ――――― 吉良は、頭の吹き飛び、倒れた内木聡右を見つめていた。 はずだった。だが違ったのだ。内木聡右は、死んでいない。それどころか、弾丸は発射する少しだけ前にしゃがんで躱されていた。 まるで最初から、自分がルールを破ることを分かっていたかのように。 そうして聡右は振り向き、コルト・パイソンの銃身で吉良の頭部を殴打した。 「?! ……そん……な」 「悪いな…だが手加減……ちょっとはしたつもりだぜ」 吉良は、一撃で倒れた。先ほども言ったように、聡右は吉良の本質を見抜いていた。こいつは無邪気だがその分邪悪でもある。絶対にルールを破ると、聡右は踏んでいた。だからこそ初撃を躱すことだけに全力を注げた。 そうして、呆気に取られる吉良に、一撃を喰らわせる。 コルト・パイソンに弾丸は込められていなかった。あの時弾丸をしまったのは弾倉ではなく、制服の袖。ここまでされても、不思議と吉良を殺したいとは思わなかった。吉良でなくとも同じだ。改心できるならばしてほしい。 こんな馬鹿げたゲームに乗るなんておかしい。若狭の思うつぼだからだ。 「悪いな。できれば普通の方法で生き延びてくれよ」 聡右は、それだけ言うと、そそくさとその場から走り去った。 「うぅ……頭が…」 吉良は、聡右が去ったあとすぐに、千鳥足のまま立ち上がった。 「ああ…銃は……ちゃんとありますね…」 吉良は、すぐに傍らにあったデリンジャーに目を向けた。そして、すぐにデイパックから銃弾を取り出し、装弾する。 「…………やってしまったわ…私って駄目な娘…」 「ああホントにダメダメだな」 突然、後ろから心地のいい声が響いた。 「…誰です?」 「お前は主人の声も思い出せないのか? 奴隷失格だな。奴隷の奴隷にでもなってろよカス」 「ひ…英人様!?」 吉良のすぐ後ろには、玉堤英人の姿が、英人は、心底吉良を見下すような視線で吉良を見つめる。 「こんな奴隷…要らないな……あっさり倒される奴隷なんて」 「待ってください!! 次は頑張ります……だから…………捨てないで…」 吉良は、涙ながらに英人に懇願した。 本当はそこに英人はいないのに。本当は自分が殴られた時のショックで幻覚を見ているだけなのに。 【G-6 山道/一日目・黎明】 【男子二十二番:内木聡右】 【1:俺(たち) 2:アンタ(たち) 3:あの人、奴(ら)、○○(名前呼び捨て)】 [状態]:健康 [装備]:コルト・パイソン(6/6) [道具]:支給品一式、予備弾(18/18) [思考・状況] 基本思考:喜佳と合流したい。仲間を集めてゲームを潰す 0:ゲームに乗る気はない。 1:戦いを極力避ける 2:助けを求める生徒は見捨てない(だからと言って油断もしない) 3:襲ってくる者は退ける(殺しはしない) 4:内心では吉良が改心してくれて、生き残ることを望んでいる [備考欄] ※喜佳がもしもゲームに乗っていたら、どうするかまだ決めていません(死ぬことはないだろうとは思っていますが、それでも心配です) ※喜佳が銃を扱える事実は聡右以外は知りません ※玉堤英人が吉良邑子を利用し、人を殺させていると思い込んでいます 【9:吉良邑子(きら ゆうこ)】 【1:私(たち) 2:貴方(たち) 3:あの人(たち)、ご主人様、お嬢様、○○(名字くん、さん付け)】 [状態]:頭を殴打、倦怠感、自分の無能さに対する憎悪 [装備]:レミントン・デリンジャー(2/2) [道具]:支給品一式×3、予備用44マグナム弾(24/40)、木刀 [思考・状況] 基本思考:ご主人様(英人)の命令に従い、間由佳以外を皆殺しにする 0:間由佳がもしゲームに乗っていても出来うる限りは説得する 1:もし彼女を殺してしまった場合はご主人様を殺して自分も死ぬ 2:自分が見つける前に彼女が死んでいた場合も、1と同様の行為を行う 3:聡右を逃がしてしまったことが相当ショック 4:私はいらない娘なのかしら…… [備考欄] ※他生徒に出会い、交戦に縺れ込んだ際に、彼女は「ご主人様(英人)の命で動いている。」と言いかねません(彼女に悪意はない) ※如月兵馬の「雫切り」の太刀筋をなんとなく覚えています ※H-5の民家の一つは、未だに電気が点いています ※H-7の海岸に如月兵馬の遺体が横たわっています 時系列順で読む Back 欺き欺かれて Next I am Genocider 投下順で読む Back 記憶の監獄 Next I am Genocider とあるヤクザと居候少年 内木聡右 Shake! No Country For Old Man 吉良邑子 traffic
https://w.atwiki.jp/jisakurowa/pages/146.html
制服を着た小悪魔 ◆hhzYiwxC1. 早朝。 海野裕也は、激しく後悔していた。どうしてこんなことになったのか。 ほのかに対し、激しく申し訳ないと思っている。 話は、黎明にまで遡る。 学校の保健室のベッドに、重傷の北沢樹理を運んだことから始まった。 彼女の息は荒く、すぐに彼女の傷口を治す必要があることは、裕也にもすぐに分かった。 昔小説か何かで読んだ方法を思い出しながら、包帯を巻いてゆく。 しばらく彼女はその痛みの中でもだえ苦しんだが、しばらくするとその影も薄れ、少しだけ落ち着きを取り戻した途端、樹理はゆっくりと眠りに就いた。 それに安堵した裕也は、しばらく樹理の寝顔を眺め、一息ついたところで席を離れようとした。 だが、突然彼女が、樹理が裕也の服を掴んできたのだ。北沢の息は、再び荒くなってきていた。 「ねえ…海野君さぁ」 「…何?」 「苦しいからさぁ…………上着脱がしてよ」 喘ぎにも似たその言葉に、裕也は顔を真っ赤にして、蒸せたような低い叫びを上げ、樹理から目をそむけた。 「彼女持ちのくせに初心ねぇ…………」 「ところで海野君さ…」 「倉沢さんとはどこまで行ったの?」 「どこまで行ったの?」 その言葉を、海野裕也は一瞬理解できなかった。 何故どこまで行ったのか?聞いて来るのか分からない。もう告白を成功させた時点で全ては完成させられたのに。 呆気に取られたような顔をしていると、北沢樹理は、呆れ顔で溜め息をついた。 「海野君さ。恋人同士は付き合い始めたらそれで終わりと思ったりしてるんじゃない?」 海野裕也は、かなり遅いながらも漸く樹理が何を言いたいのか理解した。 「………は……初めてのデートの時に……そ…その」 「こ……これって言わなきゃダメ!?」 「ふふ…………ダメーっ」 樹理の微笑みに、悪魔染みた何かを感じた裕也は、適当な理由を付けてその場を離れたかったが、樹理は放してくれない。 顔を再び真っ赤に染めながら、裕也はボソボソと、呟く。 「い………………いい雰囲気になったから…………その…」 「……」 樹理は裕也の態度にイライラしていた。 そして、ある程度予測もできていた。どうせいいトコ行っててキスぐらいまでだろう。 だが、何で苛立ちが募るのかは、よく分からなかった。 「どうせキスがやっとでしょ?! ヘタレ野郎」 思わず大きな声が出てしまった。 ふと我に返って裕也の方を見てみると、彼は驚くべきことに涙目になっていた。 「もしかして泣いてんの? うわあ…リアルで幻滅だわ…」 「ど…どうじで………どうじでそんな……非道いこと……」 「非道いですって? じゃあアンタは倉沢さんと体目当てで付き合ってないって言い切れる!?」 裕也は反論できない。 「…………幻滅2回目~………………」 「まあ倉沢さん。仲販さんテトさんほどじゃないけど胸大きいしね。触りたいでしょうよ。思春期の男子としては」 「でも……ほのかが嫌だって言ったから…………」 「………………アンタらさ。ホントにお互い付き合ってるって自覚ある?」 「エッチは愚か胸も触らせてくれない…それどころかキスもほぼ無し。アンタらさ……実際には恋人同士じゃ……」 「そんなことないよ……」 「僕はほのかが…好きだ」 「……幻滅3回目~…朝っぱらからのろけんじゃねえよ…………」 裕也の躊躇いのない瞳に、睨むような目付きで樹理が言った。 「ねえ…さっきからどうしたの?北沢さん。ずっと変だよ?」 裕也は恐る恐る樹理に問いかける。 だが、樹理は何も言わない。 「もしかして……脚のこと…」 「言わないで!!!!」 ついに、保健室の中に怒号が木霊した。 「殺すわよ……ヘタレ野郎」 樹理の怒りと憎悪の込められた瞳に、裕也はたじろいだ。 そこから彼女に言葉を掛ける勇気は湧かなかった。 だが、すぐに樹理は泣き崩れる。すぐに涙を制服の袖で拭った。 「私さ…………何か悪いことしたかな? 今までずっと…」 「…北沢さんは悪くないよ…」 「悪いのはこのゲームさ。誰も悪くない」 裕也は、樹理に優しい言葉を掛ける。 だが、樹理はそんな慰め求めてはいなかった。 「じゃあさ…………しちゃう?」 「? ………何…」 裕也がそう問い掛ける前に、彼は樹理の手によってベッドの上に引き摺りこまれた。 「…幻滅4回目。どこまで鈍いのよアンタは」 「鈍いって何……ちょっと北沢さん…………!?」 樹理は、戸惑う裕也の意思をよそに、彼のズボンのチャックを下し始めていた。 「樹理でいいよ。“裕也”」 樹理の言葉が甘い口調に変わった瞬間、樹理もまた、制服を脱ぎ始めていた。 黒を基調とし、紫色の装飾がところどころに目立つブラに包まれた、ほのかほどではないにしろ形のいい胸が姿を現した。 「触りたいなら触っていいよ。倉沢さんは触らせてくれないんでしょ?」 裕也は、このとき口では抗っていた。 だが、何もせずに流された。 結局、海野裕也は、流されたのだ。 北沢樹理は、自分の身に降りかかった不幸が、未だに信じられない。 どうして自分が、と問い掛けても、もう元には戻れない。 だったらいっそ、みんな不幸になってしまえばいい。 失うものは何もない。そのためなら何だって………… 早朝。 海野裕也は、激しく後悔していた。どうしてこんなことになったのか。 ほのかに対し、激しく申し訳ないと思っている。 【D-4 学校・保健室/一日目・早朝】 【男子 四番:海野裕也(うんの-ゆうや)】 【1:僕(達) 2:君(達) 3:君(ら)、○○(呼び捨て)】 [状態]:ほのかに対する罪悪感 [装備]:なし [道具]:支給品一式×3、P-90(150/200)、P-90の予備弾薬(200発×5本) 12ゲージショットシェル(12/12) 、不明支給品×1(北沢樹里の支給品)、ウィンチェスターM1873(0/4) [思考・状況] 基本思考:優柔不断故に流されています 0:北沢の行動に困惑 1:誰かに襲われたら自分がなんとかする。 2:倉沢ほのかを捜す。 [備考欄] ※“今からすること”について躊躇していますが反論できずに流されています 【女子 八番:北沢樹里(きたざわ-じゅり)】 【1:私(達) 2:あなた(達) 3:あの人(ら)、○○(呼び捨て)】 [状態]:右足損傷(踵から先損失・治療済み)、制服が肌蹴ている、自暴自棄 [装備]:なし [道具]:なし [思考・状況] 基本思考:倉沢さんには悪いけど……海野君を奪っちゃおっかな~? 0:愛餓夫を許さない 1:海野裕也を奪って倉沢ほのかを不幸にする 2:もっともっとクラスメイトに不幸になってほしい(失うものがないので、何でもする気です) [備考欄] ※“今からすること”についてあまり躊躇していません ※“今からすること”は、どんなに遅くても放送終了までには終わっていますので、誰かが彼らを発見するとしたら事に及んだ後になります 時系列順で読む Back EGO-IZUMU Next 第一放送 投下順で読む Back EGO-IZUMU Next 第一放送 CHICKEN RUN 海野裕也 Visit O,s Grave CHICKEN RUN 北沢樹里 Visit O,s Grave
https://w.atwiki.jp/jisakurowa/pages/177.html
楠森昭哉は苦悩する/内木聡右は疑心する/そしてケトルは盲進する ◆hhzYiwxC1. 1年前のある雨の日。 ケトルは校門の屋根のもとで項垂れていた。 ケトルは当時、フラウやテトとは違うクラスにいた 幼馴染だったフラウと、その友人たちは兎も角、テトのことなど当時の彼は知らないわけだ。 彼はその日、自分の事だけで精いっぱいだった。 持ってきた傘にはところどころ小さな穴が空いていて、それも今気付いた。 午前中はギリギリ曇天でとどまっていたから保険のつもりで持ってきたわけだが、その保険会社が倒産したような気分だ。 天気が雨でなくとも、こんな気分の平日は、ヘコまないわけがない。 「最悪だ……」 フラウにさっきから携帯で掛けている。 だが一向に彼女は出ない。部活中でマナーモードにでもしているのか? それにしてもこの穴の空き具合だと、ハッキリ言ってびしょ濡れは必至だろう。 「ホントに最悪だよねー」 突然背後から声が響いた。とてもきれいな、澄んだ声。 ふと目をやると、そこには見知れた顔。 だが面識などありはしない高嶺の花。 「ねえケトルくん?」 となりのクラスのテトがそこにいた。 男なら誰でも欲情しそうな魅力的な身体……特にその胸が、少し歩いただけなのに少しだけ揺れている。 ハッキリ言ってこの状況は、犯罪的であった。幸いこの時季節は秋。衣替えの時期だ。 厚手のブレザーで、多少胸のボリュームは抑えられているが、それでも少しだけ揺れる。 無論、運動のような激しい動作を行った場合の揺れよりも小さな、震度1程度の揺れ。 だがそれがいい アニメオタクであり、匿名掲示板にもたびたび足を運ぶケトルにとっては、それこそ最高のシチュエーション。 ひょっとして彼女はブラをしていないのだろうか? そう妄想すると、今夜ゴミ箱の中身がティッシュで埋まってしまうかもしれない。 「そう思わない? ケトル君」 答えられない。 美味し過ぎるシチュエーションなのに一言も言葉を発することはできない。 寧ろ、疼こうとしている自分の駄息を必死に抑え込もうとすることに全力を注がざるを得ない。 「やっぱり気になる? 私のおっぱい」 …この女。言いやがった。何の羞恥心もなく花の女子高生が別クラスの別に親しくもない男子(童貞)に向けて、誘惑のまなざしを向けながら「おっぱい」と 「別に私は恋なんてしないだろうから今この場で触らせてあげてもいいんだけどね」 「ぜひお願いします」 何も考えずにそう言った途端。ケトルはグーで鼻を殴られた。 「調子に乗ってました。すいませんテトさん」 テトから受け取ったティッシュを、鼻血滴る右鼻に詰め込みながら、そう謝罪する。 その時のテンションは酷く低かったが、今でも彼の中では興奮は冷めやらない。 「ホントに男ってケダモノばっかね。まあそこが可愛いところなんだけどね」 それだけ言い残すと、テトは雨の止まぬグラウンドの外に出た。 そして真っ直ぐ校門へと向かう………… 見間違い。それとも白昼夢だろうか? テトは消えていた。 その晩、ケトルがティッシュを一箱使い切る事となる。 用途についての詮索は控えてほしい。 ―― しばらくあてもなく彷徨っていたケトルが思うのは、その日の白昼夢の出来事。 何故だろう? 親友のフラウがちょっと前に死んだばかりだと言うのに、悲しくもなんともない。 どうしてだろう。と色々考えていたら、ケトルはある物を発見した。 それは扉――――― 一方で、楠森昭哉と内木聡右は、地下室の探索を開始していた。 「随分と古いな…………埃だらけだ…」 聡右は、たびたび目を擦りながら、懐中電灯で暗い地下室を照らし何かがないかと探索する。 「いえ、内木さん。古いと言うのほどでもないかもしれませんよ。ここは」 「? どう言うことだ楠森」 「確かに、埃は凄いんですが…………見てください。さっき見つけた本です」 そう言って昭哉は、聡右に本を手渡す。 その本。一冊の、何の変哲もない本は、懐中電灯で照らしてみると確かに表紙がよく見えないほどの埃を被っていた。 だがその側面。ページ部分を照らしてみると、不自然な事にほとんど黄ばんでいない。 「本は放っておけば劣化します。ページが黄ばんで表紙の崩壊も始まる。だが、この本は明らかにおかしい。まるでこの埃は取ってつけたような感じの付け焼刃だ」 「つまり何が言いたいかといいますと…」 「この本…延いてはこの地下室にあるものは新しいと言うことになります」 「……新しいとどうなんだ?」 昭哉の説明を未だ深く理解しない聡右は、再度問い返す。 「これらの施設・並びにこの島自体が、謎を解くための“ダンジョン”であるという説が浮上します」 「内木さん。ここは便宜上は無人島だ。だのに何で新しい本や映画館がある? 映画館にも行きましたがそこも真新しかった。数年前に無人島と化したとしても不自然なくらいに」 「主催者が…………僕らに何かを解いて欲しがっている…僕はそう推理しますね」 「悪いがさっぱり分からんな。この部屋の全容も、若狭の意図も」 「………誰かいるのかい?」 突然響いた声。 男の声と言う事は理解できるが、妙に高く幼げな声。 声は意外と近くから響いていた。 昭哉が声のする方向に懐中電灯を向けると、そこにはケトルが立っていた。 「や……やあ。楠森君に内木君」 「ケトルさんでしたか……ビックリしましたよ」 「ビックリさせてゴメンよ。でもここで何をしてるんだい? 扉みたいなのが開いてたから来たんだけど」 「その理由でしたらこいつです」 昭哉は、例のカードキーを翳し、それを懐中電灯で照らしながらケトルに見せた。 「ここにF-4の書かれています。僕はこれを頼りにここまで来たんです」 「内木君は?」 「俺か? 俺の場合は乗りかかった船って奴だ」 「で? ケトルさんは?」 ケトルは……答えに詰まった。 言えるはずもなかろうよ。自分の親友を“間違えて”殺した上に、自分はそれをあまり悲しいとは思わず、夢の中のテトに欲情している。 言ったらまず見放される。 下手したら殺されるかもしれない。極限状態のクラスメイトは、きっとストレスを抱え込んでいるに違いないというのに。 「僕は…………若狭にテトが捕らえられていると推測してるんだ…あいつから彼女を救いたい」 内木聡右は思い出す。 そう言えばテトはあの時分校にいなかった。二階堂永遠や卜部悠らと共に。 謎の多い二階堂は兎も角として、テトや卜部はいたって普通の女子高生だ。 だが、この殺し合い。全て若狭一人で動かしているとは考えにくい。 誰かがこの殺し合いで糸を引いている。 ここにきてその“誰か”が誰なのか……すぐに一つだけ選択肢が頭に浮かんだ。 鬼崎嘉聖。 奴ならばすべてのことをやってのけることが可能だ。 だが、あれほど喜佳に組を継がせたかっていた嘉聖自身が喜佳自身が死ぬかもしれないゲームを? それ以前に、このことを楠森やケトルに話せるだろうか? 喜佳は、家の事で一部のクラスメイトからは白い目で見られている事は知っている(最も、朽樹良子らはそれらを全くものともせずいつも通り喜佳に接してくれているようだが) 楠森昭哉も最初は明らかに自分を疑っていた。 ケトルもどちらかと言えば流されやすいタイプだ。 聡右は悩む。 結論から言うと嘉聖を始めヤクザ関係者はこのゲームに一切関与していない。 だがそのことを聡右は知らない。 ただ父親同然に慕っていた鬼崎虎之佑を殺したのは間違いなくあの老怪だとは分かっている。 罪の一つや二つ簡単に奴は揉み消せるのだ。 だからこそ出会ってしまったその巨悪を疑わずにはいられない。 浅はかであるが、一番の逃げ道でもある。 ―― 一方で楠森昭哉も推理する。 若狭吉雄を憎悪しつつも、若狭一人でゲームが成り立っているとは到底思えない。 卜部悠及びテトは少なくとも若狭側…………同様にあの場にいなかった二階堂永遠は保留(グレーと仮定した上で)としてだ。 だが、裏で糸を引いているのが若狭だとしたら、どうしてもつじつまが合わない。 卜部悠は性格が悪い事は知っているが、天上天下唯我独尊という人物ではない(むしろそれは銀鏖院水晶が当てはまるが、銀鏖院はあの場にいた)だろう。 事実、卜部は喧嘩で他クラスの生徒を半殺しにしかけていた朱広竜にしょっちゅう絡んでいる。 “虎の威を借る狐”にも見えなくはない。 だがその虎が不在の今、卜部は何故いつもの態度を維持できる? 聊か考えすぎかもしれないが、若狭が黒幕で卜部達が裏方というわけではなく、その実逆………………! 逆転の発想………………! 黒幕は……いたいけな女子高生………… 突飛な、机上の空論としかケトルや内木聡右は取ろうとはしないだろう。 それに昭哉自身もそうであってほしくないと思っていた。 もしそうだとしたら、自分がこのゲームに抗おうとする原動力。 それが根本から削がれてしまうのだ。 自分は道化にはなりたくない。その一心で、彼もまた自分の考えを黙殺した。 だからこのケトルは………… 「もし君達がゲームに抗おうとしてるなら協力したいんだ。僕はテトを助けたい」 ケトルの声に対し、聡右と昭哉は黙り込んだまま。 「…………もしですよ? テトがこのゲームを主催し、僕らを陥れようとしているとしたら……」 「何だよそれ」 ケトルは、昭哉の首筋にサーベルの刃を向けた。 「テトが今どこで何をしているのかなんて細かい事気にしない。でも! 彼女を疑うことは僕は決して許さない! 言っていい事と悪い事があることを!! ちゃんと理解して物を言ってくれ楠森君!!」 「お…おいケトル!」 「………わ…分かりました。刃を下げてくださいケトルさん」 「………ご免。………それはそうとさっきのキー……」 「そうでした…暗くてよく分かりにくいんですがここにそのキーで開けれる“何か”がここにあるはずなんです」 「そうだな……速いとこ探さねえと……んん?」 埃だらけの棚に手を置くと、聡右は何かしらの違和感を覚えた。 何かが置かれている。少なくとも本ではない何か。 それは手に取れた。 手に取れるサイズの、木製の何か。 照らしてみて分かった。 「オイ……何か分からんが変な箱見つけたぞ」 【F-4 地下室/一日目・午前】 【男子十三番:ケトル】 【1:僕(達) 2:君(達) 3:あの人(達)、○○さん】 [状態]:やや疲労、悲しみ、テトへの想いによる憂鬱 [装備]:サーベル [道具]:支給品一式、M79グレネードランチャー (0/1)、チャフグレネード予備擲弾×4 [思考・状況] 基本思考:どうにかして殺し合いを止めさせる 0:テトのことを知りたい 1:やる気になっている相手の説得が無理だと思ったら逃げる [備考] ※夢など様々な要素からテトがなにかを知っていると悟りました 【男子二十二番:内木聡右】 【1:俺(たち) 2:アンタ(たち) 3:あの人、奴(ら)、○○(名前呼び捨て)】 [状態]:健康、心が揺れている [装備]:コルト・パイソン(6/6) [道具]:支給品一式、予備弾(18/18) [思考・状況] 基本思考:喜佳と合流したい。仲間を集めてゲームを潰す 0:楠森と共にF-4の地下室を調べる 1:喜佳は無事なのか? あの爺が黒幕だとしたら…… 2:戦いを極力避ける、ゲームに乗る気はない。 3:助けを求める生徒は見捨てない(だからと言って油断もしない) 4:襲ってくる者は退ける(殺しはしない) 5:内心では吉良が改心してくれて、生き残ることを望んでいる 6:ケトル、由佳、英人、吉良を警戒 [備考欄] ※喜佳がもしもゲームに乗っていたら、どうするかまだ決めていません(死ぬことはないだろうとは思っていますが、それでも心配です) ※喜佳が銃を扱える事実は聡右以外は知りません ※玉堤英人は吉良邑子、間由佳を利用し、人を殺させていると思い込んでいます ※エルフィがパニックを起こした責任が自分にあると思って、追うのを躊躇ってしまいました ※ゲームの黒幕が鬼崎嘉聖ではないかと推測しました 【男子十一番:楠森昭哉】 【1:俺(達) 2:あなた(達) 3:彼(彼女)(達)、名字(さん)】 [状態]:怒り、激しい憎悪、裏切られた悲しみ [装備]:消化器 [道具]:カードキー、本(BR)、工具箱(ハンマー、ドライバー、スパナ、釘)、木の枝、支給品一式 [思考・状況] 基本思考: 若狭吉雄を許さない(具体的にどうするかは決めていない) 0: F-4の地下室を調べる 1:倉沢ほのかは保留 2:内木聡右を少し警戒 3:海野裕也が少し心配 4:ケトルを危険視。危ないようなら切り捨てる [備考欄] ※今回のイベントが本の内容をなぞったものだと考えています ※自分では冷静なつもりですが、その実かなり危ない状態です ※卜部悠、テトが主催者側に居ると確信しました ※内木聡右を以前よりは信用しています ※主催者陣における若狭吉雄の現在の立ち位置について疑問を抱いています 時系列順で読む Back 思い通りにいかないのが世の中だなんて割り切りたくないから Next 狂乱祭 投下順で読む Back 思い通りにいかないのが世の中だなんて割り切りたくないから Next 狂乱祭 誓いの剣 ケトル 愛にすべてを 誤算 楠森昭哉 愛にすべてを 誤算 内木聡右 愛にすべてを
https://w.atwiki.jp/jisakurowa/pages/198.html
文化祭の前日のようです~琴浦・穂積編~ ◆ADV7qahRJE 紅色に染まりつつある空に、鳴り響くチャイム音と学校から出ていく生徒が更にそれを早めるかの様に見える。 そもそもそんなの俺の主観でしか無い訳なのだが、まぁ別にそれは置いておくとしてだ。 俺の名は穂積宗一。何処にでも居る様な名前の何処にでも居る様な一般の高校生だ。 決して百足(むかで)とか紅露(こうろ)とか般若とか、そんなトンデモ名前では無い訳だからな。 まぁ強いて違うとこを挙げるならば若干人を見極めるくらいだが、正直今の世の中には不必要な物だと俺は思う。 こういう事を思うたび、戦争の策略家(挙げるんなら毛利、尼子、クロカン、竹中、鍋島らへんなのか?)にでも生まれていたら少しはこれを使えたかもしれないと思い、たまに落ち込んでしまうが、今更後悔しても遅いだろう。タイムスリップ出来る訳じゃあるまいし。 ところで話を元に戻すが、今現在この三年生の教室に居るのは俺一人だ。 まぁだからといって何か様がある訳でも無くただ単に明日ある文化祭の準備に追われてた訳だ。俺は雑務だったが、うちの生徒は何故か某男塾の面子と戦っても違和感ねぇ奴しか居ない訳だし、その為に何か組み立てたりする奴とかは全部そいつらに任したがね。 ガララララ… 「ん」 そんな中、突如として聞こえたドアの開く音に若干驚きつつもすぐにその感情をどっかにやる。 しかしまぁ…大体こういうのは予想はつくのだが。 「そっういっちくーんー!帰りましょー!」 教室内に響き渡る俺に対する誘いに「だが断る」と俺は後ろ側の開いたドアに向かって言い放つ。 「…出来るなコイツ」 「出てこい琴浦。テメェって事は分かってんだぞ?」 「ちぇー。分かったから待っとけよ」 そう言いながら渋々ドアの出入口から出て来たのは俺の数少ない友、琴浦周斗である。 最近ボクシングのプロになる事が決まった比較的まともな部類の一般人以上、超人未満で、そのボクシングで鍛え上げられた体に比例し、顔には所々にある小さい切り傷にでかいバンソーコーが貼っており、間違いなく一般人が見たらビビるであろう奴である。 「あのなぁ琴浦…お前今日部活の練習はしなくていいのかよ。近々初試合があんだろ?なら練習した方が…」 「おっとそれは心配ご無用だぜ我が同志よ!」 ピシッと俺に指を指し、白鳥の湖の様なポーズを取る周斗にあえて俺は突っ込まず、本題を続ける。 「何故だよ」 「ふふふ、この琴浦周斗、将来性を見込まれ12時近くまで使える様になったんだぜ!」 「…つーかそれ、テメェが遅くまで残って練習してるからだろうが」 明らかにこれは突っ込まれずにおられずについ突っ込むが、コイツはこんなんながらも結構出来る子だ。プロになる事も決まってるし、十二時まで練習してるのは事実だし、多分コイツは二十四時間スパーリングしても大丈夫なんじゃなかろうかと思うくらいだしな。 「ところで話は変わるんだが宗一、少し良いか?」 「んだよ。どうでも良いなら帰るぞ」 「まぁ待てよ宗一。珍しく真剣な話なんだ」 「…じゃあ、話せよ」 持ち上げていた学生カバンを机に置き直し、椅子に足を組んで座り、琴浦の方を見直す。 立ちっぱなしの琴浦は誰かのか分からない机に座ると、ややトーンを下げ口を開く。 「実はさ、明日の文化祭の朝会、サボろうと思うんだけ「すまん。今すぐ帰るわ」 俺はまた学生カバンを持ち、出入口の方へと急ぐ。 琴浦は俺の肩を掴むと俺の方を向かせ、超至近距離で訴え続ける。 「ま、待てよ宗一!俺とお前の仲だろ!?匿ってくれないのか」 「嫌だね。そんなリスク背負いたくはねぇ」 「いや、でもお前雑務だろ?少しくらい、手伝うって名目でさ!?」 「…はぁ」 おもわず俺は溜め息と呆れ声が混じった声を出す。 大体コイツはこうなったら頑も譲らない。迷惑野郎としか言い様が無いが、面倒くさいし仕方ないか。 「分かったよ。少しくらいなら居ても良い」 「マジで!?」 「マジだが」 「…宗一ぃ!愛してるぞっ!」 「近寄んな気色悪い…てか誤解されるからそういうのはやめい」 …『明日コイツが死ねば良いのに』にと思ったのは今日で三十六回目だ。 自重しろよ冗談抜きで。 ◇◆◇◆◇◆ 「じゃ、俺こっちから今日帰るわ」 学校から出て暫く琴浦と帰っていた時にふと琴浦が三つに分かれた道の右方向に体を若干カーブさせながら俺に言った。 基本的にコイツと道が別れるのはもう少し先の交差点な訳なので、何か理由でもあるのか?とふと思い俺は琴浦に尋ねる。 「琴浦、今日何か用事でもあんのか?」 琴浦は「む」と言ってそっちの道の方へと進ませる寸前で両足を止めさせると、何も迷う事も無く一言言った。 「買い物、だよ」 何故買い物で一回言葉を区切ったかは分からんが、俺はとりあえず「ん、そうか」と返すと、琴浦とは逆方向の自宅の方へと歩みを進め始める。 「宗一!」 いきなり響いた琴浦の声に俺は対向線の若干遠めに居る琴浦の方向を振り向きながら、なるべく大きな声で返事する。 「手短に話せ琴浦。急いでんだろ」 少ししか見えない琴浦が頭を掻きながらも大きく息を吸うのが分かると、琴浦は叫んだ。 「明日、最高の文化祭にしような!一生忘れられない、最後の文化祭なんだからな!」 …ベタな事を言う阿呆だ。 でもまぁ、シカトはしないのが最低限の礼儀だと俺は思い、また自分の行く方向へと視界を写しながら、一言聞こえる様に言った。 「あぁ、また明日な」 そして俺は後少しで沈むであろう太陽が照らす光による影を引き連れながら俺はまた帰路についた。
https://w.atwiki.jp/jisakurowa/pages/9.html
@wikiにはいくつかの便利なプラグインがあります。 アーカイブ コメント ニュース 動画(Youtube) 編集履歴 関連ブログ これ以外のプラグインについては@wikiガイドをご覧ください = http //atwiki.jp/guide/
https://w.atwiki.jp/jisakurowa/pages/184.html
最悪の一日:~吉良邑子の場合~ ◆EGv2prCtI. 修学旅行より二週間前。 クラスは修学旅行の話題で持ちきりだった。 森屋英太やフラウ辺りのようにはしゃいでたり。 玉堤英人や片桐和夫のように仲間と黙々と計画を立てていたり。 それに最後の青春の年だ。 そりゃそれで何もしない生徒なんか居ないし、そうでなくとも少しは気には止めるイベントである筈だった。 だが、そんなことなど初めから興味の無いかの如く、女子九番、吉良邑子はただ窓際の席から一点のみに視線を向けている。 吉良邑子。 恵まれた家庭に育ち、才覚に置いても一般的なラインよりは幾らか上に芽吹いていた。 どんなスポーツでもどんな教科の勉学でも無理なくこなすことが出来る。 そんな彼女の全てが狂い始めたのは三年前、中学三年生の頃だ。 当時、受験によるプレッシャーが彼女にのしかかっていた。 一応この高校は近くの学校と比べれば比較的学力を必要とされるので、それなりには高い倍率と試験が待ち構えている。 それもエスカレーター式に大学に入れるというのだから、多くの中学生達がそれを狙わない筈がない。 邑子もその一人だった。 いや、そうであったと言うべきだったのか。 その頃の邑子はすっかり自信、というかやる気を喪失していたのだ。 思春期――だろうか? その時期によくある現象だ。 見えない将来や、今の堕落した周囲。 自分が生きていることに意味はあるのだろか? 見いだせない答えがただ頭の中で錯綜し続ける。 そして訪れるのは無限に広がる無。 生きる意志すら飲み込んでしまいそうな広さの無だ。 そこに邑子は全てを持って行かれようとしていた。 その時に思い出したのだ。 ――幼い頃の、あの記憶を。 街角の占い屋。 たまたま覗いた紫の内装の店の中で、これまた紫のヴェール、 紫の手袋、紫のローブに身を包んだ女性が中央に座っている。 怪しい香の匂いが立ち込め、異様な雰囲気が漂うその空間。 その猫背の女性が「初回だからロハで」と自分のことを占ってくれた。 「愛した者にはずっと仕えると未来は明るい」 これが、そのおおまかな内容だった。 普通ならばただの恋愛占いの結果だと受け取ることになっていた。 しかし――邑子は違った。 自分の進むべき道が瞬間的に見えた――のだろう。 恐らく、その記憶で。 それからだった。 邑子は、誰かに奉仕しようと努力し始めた。 それが自分の存在意義で、そして自分の未来の為であるとでも確信したからだ。 そうして中三、高一、高二の時間はすぐに過ぎていった。 今度は以前から気になっていたあの猫族の女子生徒――テトを慕おうとしている。 悪いことなどではない筈だ。 テトに気に入って貰えるように邑子は数ヶ月前から手を回していた。 そしてその日の昼休みを迎えた時、待ちに待った邑子はテトに体当たりを敢行した。 「あ……!?」 テトの口元が、後一センチ、という所で邑子の顔が止まっていた。 廊下でのすれ違いざま、邑子はテトと口吻を交わそうとした。 しかし、頬に大きな抵抗を感じてそれ以上顔を近付けることが出来ない。 両手でテトが邑子の顔を押さえているのだ。 そのままテトは床に邑子の顔を受け流すと、廊下の奥向こうへ走り去る。 「待って! お願い!」 邑子は頬を張られたようなショックを受けながら、叫んだ。 周りの目など気にもならなかった。 邑子にとってはテトは光の筋でテト以外は無――そう、あの受験の時に迫った死の虚無に等しかったのだから。 にも関わらず、邑子は再びその虚無に囲まれてしまった。 テトはもはや邑子が視認できない、何処かの角を曲がって行ってしまった。 虚無から邑子に向けられるのは驚嘆。或いは嘲笑。 気にはならなかった。 それよりテトに裏切られた悲しみの方が邑子には大きかったからだ。 深い深い深海の底に突然沈められたような感覚。 それ程までに邑子は当座、テトに依存していた。 だが、まだ手段が無い訳ではなかった。 これまでも“主人”を作る為に仲間達に協力してもらっているのだ。 今回もその仲間達に手を貸して貰う必要が出てきた。 邑子が選んだ次の行動としてはそれだけだった。 放課後。 太田太郎丸忠信、壱里塚徳人、愛餓夫らと共に旧校舎裏でそれを待つ。 そして来た。 貝町ト子とテトだ。 この太田の第三の手とも言える貝町ト子という人間は薬物中毒でもあるどうしようもないゴミクズで、それなのにテトの友人なのだ。 邑子にはさっぱり理解出来なかった。 早くテトとこんなゴミを離させたかった。 餓夫が、テトを角材で殴りつけて気絶させる。 それから前から太田がテトの肩を掴んで、制服を強引に脱がせ始める。 ああ――いよいよテトは本当のテトを露わにしてくれるのだ。 そう考えると邑子の身体に熱が帯び始める。 「で? 壱里塚や吉良はしねーのか? 子猫ちゃんの調教をよ」 その為に邑子は太田ごときの仲間となったのだ。 この誘いを断る理由など、無い。 「私は遠慮なくさせていただきますね! 太田君!」 「いや……や……めて……」 邑子は、テトの背後から身体を密着させる。 テトの尻尾を無理矢理掴んで、それを自分の顔の近くまでぐっと引っ張る。 何度もそれを繰り返して、その度にテトは苦痛に顔を歪めた。 それを加え、目の前で太田に蹂躙されるテトの表情を見ながら思った。 ああ、自分は本当はこんなことを望んでいた訳ではない。 だがテトのこの表情を見ていると、脳神経の奧から快感が巻き上がる。 テトにはそんな魔力があるのだ。 いや――魔力、と言うよりは魔性か。 生まれ持っての魅力。己の意思とは無関係に人を惹き付ける情欲的な肉体。 そう、悪いのはすべて――
https://w.atwiki.jp/jisakurowa/pages/174.html
◆xZ2R3SX0QQ氏の作品 話数 タイトル 登場人物 chapter2 添島龍子は行動する/如月兵馬は動かない 添島龍子、如月兵馬 登場させたキャラ 1回 添島龍子、如月兵馬 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/jisakurowa/pages/186.html
愛にすべてを ◆EGv2prCtI. 何度か、非常に危険な銃声が聞こえて、しばらくは身を隠さざるを得なかった。 朱広竜(男子二十番)は、映画館から東の集落の家に隠れ、休息を取っていた。 あからさまに楽しんで殺したとしか思えない死に様の尻田堀夫が玄関のすぐ傍に転がっていたが、気にも止めなかった。 死体なんて見慣れたものだからだ。 失われた中指の痛みは相変わらずだったが、それでも他の部位や頭を落ち着かせることは出来た。 軽い睡眠もとった後、四時頃になって、広竜は動き始めた。 すると家を出る時、奇妙な違和感を覚えた。 堀夫の死体から完全に血が消え失せていたのだ。 元より顔面は青白くなっていたが、固まっていた血溜まりも、口から溢れた血もきれいさっぱり消えていたのだ。 まるで血が普通の水のように自然に蒸散したみたいだった。 誰かが家の中に入ってきた気配はない。 ――すると、何故こんなことに? だが、それは考えても仕方のないことだ。 異常な事態ではあるが、こんなことが起きている時点で異常な事態なのだ。 今更、それ以上の不可思議な現象が起きても驚くべきではない。 それは隙を作る因子になり、ほとんど自殺行為に通ずる。 今は、勝ち残ることだけを考えるべきだった。 つまり、どうしたら如何にこれ以上の消耗を少なく、残りのクラスメートを殺せるか、ということだ。 この万全ではない状態、手元にあるモーゼルC96ミリタリーだけでどうにか済ませられるのだろうか? しかし出来ればなるべく甚振り尽くして殺したいところでもある。 ともかくなるべく、分校の近くには行きたくなかった。 家に行く途中の山道で聞こえた、マシンガンの音。 やはり生徒に渡されたマシンガンは鹿和太平に支給されたイングラムのみ、という訳ではなかったのだ。 今の自分の状態だと、少なくとも激しい消耗は免れない。 どうにか奪えれば御の字、しかしリスクも高い。 万が一の奇襲も無い訳ではないのだ。 そう思い、しばらくは禁止エリアのF-5を壁にするように海に沿うように移動していた。 これは地図の右下端にあたる海岸、男子十番の如月兵馬が頭を撃ち破られ、死んでいた。 これまた鹿川と同じように血が一切無くなっていた。 エックス資料だかなんだか、そういうタイトルのドラマでこれに似たような話をしていたのを記憶していたが、それはあくまで作り物の世界での話だ。 しかし――実際にそんな作り物じみた超常現象が広竜の目の前で起きてしまっている。 立て続けに。 二度も。 そして山の中ではエヴィアン(女子三番)が例によって干涸らびて死んでいた。 エヴィアンとは言うものの、顔が銃で撃たれて損壊していた為、広竜は背中の羽でそう判断した。 改めて見ると、死体から全身、そして周りに飛び散った筈の血が一滴残らず抜き取られているようで、やはり余程の技術―― 否、魔術にも似た何かを持つ誰か、そしてこの殺し合いを企てた誰かが行ったに違いない。 少なくとも、夜中の分校に居なかった三人、そして若狭に殺されたラトを除くクラスメートにこんなことが出来る生徒が居 たとは思えなかった。 裏で色々動いている太田太郎丸忠信(男子六番)にも到底出来るとは思えないのだ。 死んでミイラになった生徒が放送で名前を呼ばれるまでの時間とその前の放送からの時間照らし合わせると僅かに数時間。 流石に広竜にも、せめて一日あれば不可能ではないが、そこまで短時間では出来ない。 ――つまり、この島の何処か、或いは島の周りで広竜の理解の範疇では及ばない、何かが動いていることを確信出来る。 もちろん、それが分かったところで、どうなることでもない。 死体より生きた誰かを捜し出さなければならない。 広竜の目的は、そこにある。 そうして山の中を歩いている内に、突如ミニバンが横を通り過ぎた。 中に乗っていたのは太田太郎丸忠信と鬼崎喜佳。 その時には既に周囲が暗くなり、雨が降り始めていたので茂みに隠れて相手に気付かれないようになんとかやり過ごせたようだ。 直後に近くで連続して何発か銃声があり、忠信達と誰かが交戦したのが分かった。 とにかく、銃声の数から考え、決着が付いたとしても最低生き残った側が何らかの形で消耗しているのは明らかだった。 そうして、今、ミニバンを探している。 当座の山の中は蒼暗い空のコントラストに合わせてほとんどダークグリーンに見える木々の塊。 これだけ暗い上に雨で地面がぬかるんでいる。 そんな状態でミニバンなんかで走っていたらすぐに気付くようなものだが、にも関わらずミニバンは中々見つからない。 続けて広竜が銃声が聞こえたと思う方向を辿っていると、その内に、何か地面に黒っぽいものが二つ転がっているのが視界に入った。 それに近付いて、懐中電灯の光をその暗い色の寝袋みたいな物体に向けた。 内木聡右(男子二十二番)と鬼崎喜佳(女子七番)だった。 二人とも、一発で仕留められていた。 しかし、意外なことに、この二つの死体にはまだ血がこびり付いていた。 雨で広がって土を変色させている分も、まだ残っている。 二人ともこれまで見かけた死体に比べれば大分状態がよかったのだ。 血を抜かれているにせよ抜かれていないにせよ、どちらにせよ死んだのがつい先刻であるのははっきりしていた。 死体の近くにはミニバンのタイヤの跡が地面に残っている。 ということはこの跡を追って行けば―― がさり、と少し高台になっている林の中から音が聞こえた。 広竜は反射的にその方向に懐中電灯を投げ付けた。 懐中電灯は途中で木にぶつかり、そのまま足元ぐらいの長さの草の中に落ちていった。 「広竜くん、偶然ですねえ」 嫌に粘着質な声が耳に届いた。 相手も懐中電灯を持っていて、その光が上向きになり、そして、顔が浮かび上がった。 左目が潰れた、不気味な笑顔をこちらに向けていた。 その顔は――記憶が正しければ太田のグループに居た変態女、吉良邑子(女子九番)だった。 畜生、よりにもよってこんな奴に―― 広竜はモーゼルC96を腰の高さで構えると標準を素早く邑子に合わせ、引き金を引いた。 ぱあん、と弾丸が邑子の懐中電灯を弾き飛ばし、瞬間に光がばちっとショートした挙げ句割れて消えた。 もう僅かな物陰しか見えない中、広竜は聡右達の死体が有る場所から大きく迂回し、邑子の居た位置に間合いを詰めた。 泥で足音が出てしまうが、これはどうしようもなかった。 とにかく今居る場所を知られないのが大事だった。 「内木君はここで死んだのですね」 思いの外、動いている広竜の後ろ側で声が聞こえた。 邑子がいつの間にか聡右達の死体の傍にいて、それを懐中電灯で照らしていたのだ。 「内木君は卑怯にも私に不意打ちしてきたんですよ」 ――誰だってお前のことは殺したくなる。 広竜は邑子の言葉にそう反応したが、位置を悟られない為に決して口には出さなかった。 「……あなたもすぐに内木君の元に送ってあげますよ!」 そう邑子が叫び、瞬く間にぶん、と何かが風を切って唸った 。 広竜は咄嗟にモーゼルC96を持ち上げたが、その前に木刀か何かが広竜の右手に直撃していた。 しかも恐らく普通に投げ付けた割には、かなり精確に木刀は広竜の手に向かってきたようだった。 「しずくなげ! なんちゃって」 はしゃぐように、邑子の口から高いトーンでそう飛び上った。 「ちいっ!」 広竜は舌打ちした。 邑子に位置が掴まれていた――確かに特定される条件は揃ってはいたが、しかし、普通の一般的な女子生徒がここまで出来るだろうか? 広竜は銃を拾い直し、左手で弾丸を発射した。 こちらでの発砲は慣れないが、右手が手負いの以上仕方がなかった。 案の定、邑子に弾が当たった気配は無い。 上手く扱えない状況の銃など易々当たるものではないのだ。 逆に邑子の手元が光り、広竜の頭に何か掠めた。 音と、この暗さでなくても存在が視認出来ないであろう銃、多分、邑子が持っているのはデリンジャーだった。 なら―― 攻勢に転じ、広竜はモーゼルC96を撃ち続け、走りながら邑子の元に近付いた。 途中でモーゼルC96のグリップの脇の弾倉が低い音で爆発するように破裂した。 デリンジャーの弾が命中したのだ。 広竜はこの瞬間を待っていた。 デリンジャーの装弾数は、往々にして二発。 邑子は既に二発、広竜に向けて撃っている。 今だ―― 広竜はモーゼルC96を捨て、一気に飛び掛かり邑子の立っている位置に横薙ぎに蹴りを入れた。 がは、と邑子の口から息が漏れる音がした。 間髪入れず、広竜は蹴りに入れた足の踵を落とした。 ばき、と骨を折る手応えを感じた。 そのまま追い打ちをかけるように広竜は邑子の身体を踏み付け、また足を持ち上げては落とし続ける。 いける、いけるぞ――! 「甘いですよ、広竜く――」 そう聞こえた時、どん、と近くで音が、更に間髪入れずにぱらららら、と遠くで、数時間前に聞こえた音が聞こえたと思った瞬間、広竜の顎に強烈な衝撃が走った。 衝撃が顎から、一気に額へ広がっていく。 最後に、冷たい風が顔の内側を通った。 広竜の意識はそこで霧消した。 朱広竜は、先程まで自らが蹴っていた鬼崎喜佳の死体の上に、転がった。 広竜の額に穴が空き、そこからも、そして首元からも血が流れ出していた。 内木聡右が持っていた筈のコルトパイソンが、硝煙を吐いていた。 吉良邑子は、広竜から少し離れた聡右の死体に回り、そこに落ちていたコルトパイソンを拾い上げ、広竜目掛けて撃ったのだ。 聡右の学生服を被っていたその銃を邑子は懐中電灯で運良く見つけることが出来た。 しかし、吉良邑子もその時にはもはやこの世には存在していなかった。 邑子の右脚の付け根から、左肩の辺りまでに不思議なことに穴がきれいに一直線、いつの間にか並んでいた。 予測など出来る訳も無かったに違いない。 穴から血が脈打つようにぷしゅっぷしゅっと噴き出し、それをまるで邑子自身がこれまた不思議そうに見ている、ようだった。 やがてそれも止んで、邑子の身体もまた、濡れた落ち葉の元に倒れて、血の池ををゆっくり広げ始めていた。 「あはははは、もうすぐですね、裕也くん!」 ほとんど雨が混じった涎を垂れ流しながら、P-90を持った少女が笑った。 その片手には、泥まみれの、海野裕也だったものがぶら下がっている。 ――倉沢ほのか(女子十三番)だった。 海岸に放置されていた小型船を見つけて、そこに行くために通りかかったところに二人の銃撃戦を聞きつけたほのかが邑子を狙撃したのだ。 雨の音で、二人はほのかの接近に気付くことが出来なかった。 そうしてもう残り少ない標的を探す為にほのかが足を動かそうとしたと同時に、またもや発砲音が響き、ほのかの左手の手首の辺りの骨と脇腹の肉が周囲に撒き散らされた。 ついでにほのかに捕まれていた裕也の腕も若干抉れた。 左手の神経がほとんど役立たずになっているのを理解しながら、ほのかは極限まで目を見開いて振り返った。 十メートル程遠くに停車した車――ミニバンの中に、誰かが入っていた。 その中から、誰かが長いものを構えている。 それが誰なのかは、もうほのかはどうでもよかった。 反射的に、ほのかのP-90がミニバンに向かって伸ばされて吠えた。 ミニバンの天井辺りの鉄板が半分ほど吹き飛んで、内側の後部座席にも大きな荒れ地を作り出した。 そのままいきなりミニバンがほのかに向かって凄まじいスピードで強攻してきて、ほのかの全身がミニバンのボディを強烈に叩き付けられた。 ほのかが倒れた。 前輪のタイヤが、ほのかが掴んでいる裕也の右腕を引き千切り、ミニバンの一トン半近い全体重をかけてほのかの胸を踏み付けた。 ぼきぼきと石に乗りかかるように前輪が浮きながら通り過ぎて、立て続けに後輪がほのかの身体を巻き込んだ。 大木に激突して、ミニバンが止まった。 内臓も骨格もぐちゃぐちゃになったほのかの身体は、もはや原型を留めていなかった。 そして大破したミニバンの中、その運転席の男――太田太郎丸忠信の頭には一発の銃弾が入り込んでいた。 脳漿が、サイドボックスに飛び散り、奇妙な水玉模様を描いていた。 座席が赤く染まり、忠信はただ見開いた目を、車のアクセルを撃たれた痙攣で踏んだ自分の足下に向けている。 まるきり、雨曝しになっている自分の髪から落ちてくる水滴を見ているようだった。 そして山の中に、ただ静けさだけが、訪れた。 【男子六番:太田太郎丸忠信 死亡】 【男子二十番:朱広竜 死亡】 【女子九番:吉良邑子 死亡】 【女子十三番:倉沢ほのか 死亡】 【残り2人】 何度もしつこいぐらいに銃声があったが、それからはしんと静まり返り、真夜中のような不気味な雰囲気だけが島を支配していた。 手掛かりを探してはいたが、宛てもない中で、英人は、もう疲労困憊していた。 そして、もう地獄の時間が終わる時も近付いていた。 神社の境内の怪しい儀式の跡の傍、英人は携帯電話をちらと見てしまった後、柱に腰を掛けていた。 圏外、午後七時四十五分。 普段なら、きっと温かい食事を取っているのだろう。 しかし今英人は、どうすることもなく、ただここに座り込んでいるだけだ。 より生き残りが少なくなるのを待っていたのもある。 英人の武器はスティンガーとナイフ、スパナしかない。 ……これで、残り八人を相手するなど、とても考えられない 。 それならひたすら殺し合ってくれていた方がいい。 スティンガーはとてもではないが銃撃戦に向いた武器ではない。 百パーセント一撃で倒せるならいいが、スティンガーを撃って確実に相手に当てられる自信も腕も、英人には無い。 反動は問題ないが、ミサイルの爆風も不安だ。 ナイフ、スパナは、これらで、銃相手にどう戦えと言うのだろうか。 スティンガーを外した場合、やむを得ず使うしかなくなるが、刺したり殴る前に撃たれて終わりだろう。 戦力に不安があるし、どうにか他の生徒の死体から取り残された武器でも回収する必要があるのは明白だった。 そうでもしなければ今のままの英人が生き残れる筈もない。 とにもかくにも、何しろ――とにかく疲れた。 これ以上、動きたくない。 身体が鉛のように重い。 身体中の感覚が休息を訴えているようだ。 そもそも動かそうとしても全く動かない。 ――機械でも疲れるものなんだな。 英人は、自然にそう思っていた。 森屋英太の言葉は、嘘でない。 きっとその通りだ。 自分には情というものがまるで無い。 二階堂永遠に感じた恐怖は、自分の左腕を持っている事実以上にきっと自分と同じタイプの人間を見つけてしまったからだ 。 自分と向き合ってしまったことこそコンプレックスになっているのだ。 そして、由佳もフラウも失った今も、悲しみの感情すら沸いてこない。 泣き声の一つも上げられない。 涙すら流せない。 機械だからだ。 出てくるのは血とゲロだけだ。 ――きっと、今のこの胸の痛みも偽物だ。 咄嗟に押さえた右手に伝わる滲み出る血のぐっしょりとした感触も。 そして、床に傾く脳の血流の乱れも。 迫り来る死の鼓動も。 「あった……!」 貝町ト子(女子五番)はつい数秒前にショットガンで撃ち倒した玉堤英人のデイパックから赤い液体の入った注射器を見つけた。 これこそ、自分が追い求めているものだった。 恐らく太田太郎丸忠信の荷物から支給品として英人に渡されていたのだ。 頭のもやもやが膨大なうねりを伴って、ト子の神経を圧迫している。 麻薬の禁断症状が完全に表に現れて、ト子の思考回路を完全に凍結させている。 ト子は、もう限界を迎えていた。 レミントンM870を放り出して、ト子は注射器を掴むと赤い液体を左手の動脈に一気に流し込んだ。 そしてしばらくして、ようやく頭の中の熱が収まってきた。 一息ついて、ト子は、英人の死体に目を向けた。 「これで一安心だが、若狭からの放送が無いのか」 それは、まだ島にト子以外の生きている生徒が居るということである。 午後六時の放送の時点で、まだ忠信も吉良邑子も生きていた。 「まだ生きているかも知れない……」 ここまで装備をかき集めれば十分対抗は出来るかも知れない。 それでも相手だってここまで生きてこられた分、ト子と条件が全く同じかも知れない。 忠信の恐ろしさも、邑子の恐ろしさもト子は十分理解していた。 もしも、忠信か邑子がが倉沢ほのかのようなマシンガンを使っていたら、そもそも勝負にならない。 だが戦い方を工夫すればどうにかなるのではないのだろうか。 これはスポーツではない。 ゲームでもあるかも知れないが、しかし参加者同士のやり取りにルールなど無いのだ。 そう、あらゆる手を使って自分は麻倉美意子も、和音さんも、サーシャも、暮員未幸も、今目の前に居る玉堤英人も葬ってきたのだ。 いくら相手が忠信だろうと邑子だろうとほのかだろうと攻める術は残されている。 「とにかく動くしかないな。早く、こんな馬鹿げたクソゲームを終わらせないと」 「そうだ、だから君が死ねばいい」 冷たい死の言葉。 その直後には、ト子は既に地面に崩れ落ちていた。 いや、“ト子だったもの”――だろうか。 FIM-92スティンガーに撃ち出されたミサイルの直撃による爆風はト子の上半身を粉々に砕いたのだ。 残った下半身ももはや黒こげになって黒煙を吹き出させ、まるきり調理に失敗した燻製肉のようになっていた。 生きていられたら下手な戦闘用レプリカントより強固だと褒め称えられてもいい。 玉堤英人は、俯せになりながら、しかし、しっかりとその手にスティンガーを握っていた。 出血で朦朧としかけている中でも、距離としては十分命中させられるだけ近かった。 だが、その爆風は英人の身体も吹き飛ばしていた。 至近距離から高熱を帯びた風を受けた英人もまた、顔や、背筋や、更にその内の内臓を焼き尽くされていた。 どう考えても、致命的な傷だった。 熱どころか、寒さまで感じつつあった。 震えが、全身を動かしていた。 機械の身体が、死に瀕している。 焼け焦げたト子や自分の身体の臭いももう届くことはない。 動くはずのない腕を、背中に動かそうとしながら英人は思った。 僕は、機械でありながら、人間としての感情に従ってしまった。 それは、事故に遭って以来、初めてのことだったのかも知れない。 ――由佳やフラウのことは自らも気付かない内に、きちんと悲しんでいたのだ。 ――本当に悲しんでいなければ、少し前、疲労などと言って、放心している筈がなかった。 現に、最低でもスティンガーの引き金を引くだけの力が残っていたのだ。 本当の機械なら、さっさと神社から離れて、由佳のことも忘れて、最後の可能性だけを賭けて残りの相手を探しに行っているだろう。 そうなっていたら、さっさとスクラップになっているか、ただの殺人マシーンになっている。 そしてこれも、本当の機械なら有り得ない現象が起こっていた。 少しずつ、英人から記憶が消えていっていた。 脳細胞が徐々に死んでいっているのだ。 もう、数秒後には英人も森屋英太達のように物言わぬ屍と化す。 そんな中でも、英人は脳細胞の死体の山をかき分けて、必死に思い出そうとした。 ただ、思い出したかったものは一つだけ。 ようやくそこまで辿り着いた時には、もう、英人の伝達神経は完全に、途絶えていた。 ――最後に、脳裏にはっきりと、虹色に浮かんだ。 由佳…… 【男子十九番:玉堤英人 死亡】 【女子五番:貝町ト子 死亡】 【残り0人/ゲーム終了・以上本部選手確認モニタより】 黒い海に浮かぶ観光船の中。 全体の電気が通っていて、夜の海とは対照的に船は鮮やかな光を放っていた。 だが、中にはほとんど誰もおらず、船内の部屋の一室、灰色の猫族の少女が膝を畳んで座り込んでいる。 何も纏っていない身体はただ時々思い出したかのように毛がふわりと浮かぶだけだった。 そして、その少女の膝の上に、黒い猫族の少年もぬいぐるみのように座っていた。 こちらも何も着ていない猫族の少年は、一切目を開けることも無く、ただ少女の胸元に抱かれて、子猫のように静かな寝息を立てている。 少女は少年の母親であるかのように、ただやわらかな腕で抱きしめ、そのまま離そうともしない。 「テト」 部屋に、長い銀髪の少女が入ってきた。 その顔には生気が無く、濁ったような瞳がたださえざえと電光の光を跳ね返している。 服も赤黒い何かですっかり汚れきっていた。 テトと呼ばれた少女は、静かに顔を上げて、そして、無表情のままその銀髪の少女を見続けている。 「永遠よ。銀鏖院水晶の死体に乗り移って、ゲームを観戦した後に小型船に乗って帰ってきた」 永遠は、続けて言った。 「ゲームは終わった。これから死体を回収しに行く」 「卜部ちゃんは?」 ただ淡々と、事務的な会話が続けられた。 本当に、非常にあっさりとしている。 永遠はその性質上、それは至極、当然のことであったが、ただ、テトもまるきり永遠のような、感情がこもっていないような話し方だった。 「悠は、私達のように島に行って死んでしまった」 ――悠の死も、テトが神社で何をしたかも、永遠は分かっていた。 小型船を発見したきっかけも悠の死体を見つけたからだったし、途中で自分の身体――銀鏖院水晶の身体から突然血が失われていく感覚から考えて、テトが何かを行ったのだと考えるのが妥当だった。 とにかく、全ては永遠の考え通りに動いていると言っても良かった。 ――テトはそれを聞いて頷き、そして、嘲笑するように口の端を上げながら永遠を見据えた。 その反応に、永遠は些か違和感を感じていた。 「……そう。二階堂さん、あなたも愚かだわ……人を信じるから痛い目に遭うの……」 「え……――!?」 その時にようやく、永遠は気付いた。 永遠の、銀鏖院水晶の肉体が――崩れていっていた。 身体中から水分が抜け出し、結合を失った細胞がバラバラになり、そして床に溶けていく。 ゼラチン質なピンクの塊の中に永遠は沈み込もうとしていた。 「……馬鹿、な!」 それを見た永遠は顔に驚愕の表情を上げてはいなかったが、しかし、口調から狼狽していたのは明らかだった。 もがくように上半身を動かして、テトの元へ、這いずるように身体を引き摺っていった。 「あな、たは! 力の、反動を……」 それが言い終わることは無かった。 二階堂永遠という存在はものの二十秒で完全に消失し、テトの目の前にはにはただのできそこないのゼリーみたいなものしか残っていなかった。 「あなたは、本気で本物の神の力を利用出来るつもりだったの?」 ただ、テトはゼリーに向かって、そう放語した。 神の力――は、永遠が予想したよりも遥に強く、そして、永遠が予想出来ない自体をも招いていた。 部屋には、テトと、猫族の少年――ラトしか、居なかった。 跡形も無く消え去った永遠などいざ知らず、テトはただ愛おしそうにラトを抱きしめ直し、その胸元でラトの鼓動をはっきりと感じている。 その中から自然と、幸福がじわりと湧き出してきた。 ラトさえ一度殺せれば、太田太郎丸忠信達に復讐出来れば、そして一度そのラトの身体を清める為の血が手に入れば永遠達は、もう用済みだった。 テト自身、初めから永遠や悠を利用していたに過ぎなかった。 確かにこれはテトだけでは実行出来なかっただろう。 永遠達の協力があったからこそ、全ての条件を満たすことが出来たのだ。 ――その後は、神の力で、永遠達を始末するだけだった。 「私はラトが居るから耐えられる……」 最後に永遠が言おうとした、力の反動。 永遠の予想通り、テトはあまりにも大きすぎる神の力に制限を受けていた。 だが今は本来テトが受けるべき代償は全てラトの身体が全て受け止めている。 神の力を扱いきれないテトとは違い、完成された神の器――ラトは、その肉体自体にももはや常人とは異なる力が宿っていた。 ラトの身体が有れば、島中の死体から血を抜き出すことも、二階堂永遠の肉体を溶かすことも訳が無かったのだ。 そして、この島で流されていた血で清められたラトの身体は生きている。 肉体はまだ以前との寸分の狂い無く、生体活動を続けている…… 自分の望む姿のまま、自分が望む、自分がなすがままのラトが。 テトはもう一度、ラトに口付けた。 それから、横になって、目を閉じたまま――この先も、目覚めることはないであろうラトを見つめながら、テト自身も瞳を閉じた。 暗い。 そう、自分は暗い闇の底に一人ぼっちだった。 明るい太陽――ラトが来てくれるまでは。 その太陽の熱を今、全身で受け止めている。 だから、本当はもう暗くなどない筈だ。 この先も、近くで太陽が照らし続けられる限り。 そして二人を邪魔する咎人も、全て聖なる太陽の炎が焼き尽くすだろう。 「ああ、ラト……これからは、ずっと一緒。私達は、ずっと……」 【女子二十二番:二階堂永遠 死亡】 時系列順で読む Back 愛にすべてを(中編) 完結 投下順で読む Back 愛にすべてを(中編) 完結 狂乱祭 神崎健二 死亡 思い通りにいかないのが世の中だなんて割り切りたくないから サーシャ 死亡 思い通りにいかないのが世の中だなんて割り切りたくないから 和音さん 死亡 思い通りにいかないのが世の中だなんて割り切りたくないから 暮員未幸 死亡 永遠に、美しく 日向有人 死亡 DOUBT 白崎篠一郎 死亡 DOUBT 長谷川沙羅 死亡 楠森昭哉は苦悩する/内木聡右は疑心する/そしてケトルは盲進する 楠森昭哉 死亡 楠森昭哉は苦悩する/内木聡右は疑心する/そしてケトルは盲進する ケトル 死亡 楠森昭哉は苦悩する/内木聡右は疑心する/そしてケトルは盲進する 内木聡右 死亡 永遠に、美しく 鬼崎喜佳 死亡 永遠に、美しく 卜部悠 死亡 胡蝶の夢 苗村都月 死亡 永遠に、美しく 太田太郎丸忠信 死亡 Panic Theater 朱広竜 死亡 水晶の間欠泉 吉良邑子 死亡 狂乱祭 倉沢ほのか 死亡 スカーフェイスと摩利支天 玉堤英人 死亡 狂乱祭 貝町ト子 死亡 永遠に、美しく 二階堂永遠 死亡 永遠に、美しく テト 生還