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地球防衛戦線ダイガスト 第一話 出撃!! JSDFダイガスト!! 軍楽を思わせる仰々しいファンファーレと供に、テレビ画面に大きくGBCとのロゴが映し出された。 地球各所に散らばる雑多な言語を解析した彼等、ギャラクシー・ブロードキャスト・カンパニーは、放送開始から一月にして、地球全土に『限定戦争』の様相を伝え始めていた。 ほぼ毎日のように地球のどこかで『開催』される領土戦争。未開惑星の蛮土を切り取るこの儀式が、娯楽としてお茶の間に供されるようになって久しい。 銀河列強諸国の市民、臣民は、スポーツ番組のように彼等の星の代表団たる兵士達に拍手喝采をおくる。 一方で、民主主義の名の元、地球人類に対してもそれらの映像は配信されていた。 外宇宙からの悪意によって形作られたその番組は、およそ地球人類にとって楽しからざる内容に充ちている。 最初(はな)から地球人を対等と見なしていない列強よりのリポーターのトークに始まり、CMには各列強主星の観光案内と、列強各軍の装備の玩具とフィギュア。 CMがあけると攻勢に参加する兵士のプロフィールが紹介され、その友人家族までが出てきてエールを送る。 当然、地球人側のコーナーは無きに等しい。 ボクシングや格闘技の試合か、はたまた高校野球か。ことに世界規模でジリ貧の撤退を繰り返している地球人類には、しらける事この上ない。 その日の限定攻勢の舞台は日本。 調度CMあけのエース紹介を終え、試合ならぬ攻勢開始まで10分を切り、攻撃を行う帝政ツルギスタン軍の行軍風景がテレビ画面に映し出される。 まずは土煙を立てて横隊を組んだ五つの影。お椀の下から生やした太い足で理路整然と隊列を組む様は、まさに侵略者の戦闘機械だ。 椀状の上半身からは装甲に包まれた腕も突き出ており、左には小楯、右には馬上槍のような武器を携帯している。全高は30メーター強。 ただでさえ非現実的――それと戦わせられる軍人にとっては悪夢――な光景は、その後ろにそびえ立つ影により、止めを刺される。 有り体に言うと、それは刃を下にして直立した、40メートルオーバーの巨剣だった。 それもファンタジーの悪役が持つような刺々しい装飾と、赤黒いペイントとで禍々しく彩られている。 両翼を広げたような柄飾りの両端には、肘から先が剣になったゴツイ腕がぶら下がり、威圧感をいや増していた。 まさに地獄の軍勢とでも言おうか。初めて見た不幸な者が何事かと目を疑おう頃合いに、ボイスオンリーになっている実況中継の解説者がようやく口を開いた。 「さぁ、限定攻勢三度目ともなりますと、帝政ツルギスタン外征旅団も堂に入って参りました。 ホッカイドウを奪取した実績が、その精強さの裏打ちをしております。 先ずお茶の間の皆様のお目に入りますのは、ツルギスタンMBM(メイン・バトル・マシン)儀仗兵ランツェ。 見事な隊列を組んでおります。その後ろに悠然と、そして雄々しい姿を見せますはツルギスタンの切り札、ブレーディアンであります。 その戦闘能力は同クラスの列強諸兵器でもトップクラスとの誉れ高き、ツルギスタン帝室の象徴です。 パイロットは外征旅団に隠れもない、燦然たる武功を誇る野戦指揮官、アフバルト・シュバウツァー大刃士。 本日は如何なる活躍を見せ、お茶の間の皆様を楽しませてくれるのでしょうか。 対するニッポンのジエイタイは、事前申告によりますと、相も変わらずの旧型、キューマルシキ戦闘車両です。 ツルギスタン・パイロット達は存分に撃破数を増やすことでしょう。 いかがでしょうか、解説のリッケントロップさん」 「はい、仰る通りとなるでしょう。いかな1600年以上の歴史を持つ皇国と言えど、 旧弊は否めないのでしょう。列強の進歩的民主主義に抗い得る訳ではないのです」 「早期の旧態然とした支配からの解放が望まれますね」 「特にジエイカン達の自殺的な戦闘行為貫徹は、列強諸国間でも戦争犯罪ではないかと問題となっています。 彼等蛮族の兵もツルギスタンから学ぶことが多いと思うのですが…」 「まったくですね」 フンと鼻を鳴らし、東和樹(アズマカズキ)三佐はテレビの主電源を手荒く落とした。幕下の自衛官がリモコンを渡そうと手に取ったまま、手持ちぶさたにしている。 「…どちらが蛮族か」 東三佐は堪えきれないように一言漏らすと、長机の上の地図に目を落とした。青森西部、自衛隊小谷演習場。 冬季山岳訓練に格好の舞台となる、山地と平野とが入り組んだ地形が描かれてはいるが、今この瞬間、その地図に意味は存在しなかった。 どうせ敵は馬鹿正直に平野部を突き進んでくる。地形を利用しないし、陣地を築くこともない。奴らは常に限られた兵力でもって、正面攻撃をかけてくる。 名乗りを上げての騎兵突撃か、馬鹿馬鹿しい。 東三佐はいたたまれない気分になり、野戦陣地の指令テントを後にした。そこにテレビがあったのは、GBCのバラエティ枠の番組の方が余程、直前までの敵情を伝えているからだ。 「だからといって…」 テントの外に居並んだ深緑の戦車の列を目の当たりにし、しかし彼は一縷の安心も抱けなかった。 主力戦車論によるところの第三世代戦車90式戦闘車両は、恒星間航行能力を持つ異星文明に対して無力であった。 ラインメタル社製120㎜滑腔砲は敵性兵器の装甲に無惨に弾かれ、 最新技術を惜しげもなく投入した快速な足回りを実現するはずのキャタピラは、それ以上の技術でもって作られた二本の足に及ばなかった。 日本が誇る冶金技術の粋を集めた複合装甲は、30メーターの人型が繰り出す純粋な物理衝撃の前に紙切れ同然に引き裂かれた。 ターレットのコマンダーズキューポラから顔を覗かせている幾人かの戦車長達は、強張った顔の者、 青ざめた者、呆けたような者、実に様々だったが、士気の低さだけは共通していた。 無理もない。東三佐は自分の中にもあるだろう、彼等と同じ感情のうねり――あるいは麻痺――に、拳を強く握り締める。 彼等は敗残兵だった。二度に渡るツルギスタンの攻撃に為す術もなく敗退し、北海道を守りきれず、 かといって死ぬことも出来ず、幸か不幸か青森死守戦に投じられた兵達。 皆、色々なことに疲れ切っていた。 これが負けると言うことか。 兵の前であることも忘れ、東三佐の顔からも覇気が抜けてゆきそうになる。 もともと覇気や威圧感には不自由していない、引き締まった顔貌と体躯とを誇っていたが、 いまやそこにうち続く撤退戦で伸びた無精髭が加わり、野犬のような悽愴な色合いを帯びていた。 いまさら覇気の一つが抜けたところで、なにをか睨み付けているようにしか見えないのは救いだったが。 と、そこへ本部テントから通信士が飛びだしてきた。 「三佐、『サンボン』から通信が…」 サンボンとは旧軍時代の参謀本部を指す隠語だった。現在は勿論存在しないが、幕僚長達からの通信を誰とも無くそう呼んでいた。 東三佐は通信士に一度頷くと、テントに戻りレシーバーを手に取る。 通信機の向こうにいたのは幕僚長どころでなく、内閣総理大臣その人であった。 「苦労をかけているな」 総理大臣、国場道昭(クニバミチアキ)はテレビで見る限り初老の域に入っているものの、張りのある声だった。聞いていると、自然と背筋が伸びてくる。 「苦労ついでにもう一つ、統幕議長と私からの頼みを聞いて欲しい」 「…つまりは命令ですね」 「君たちには承伏しかねる類かも知れないが…」 「何しろ、こんなのでも戦争ですからね。総員、靖国に凱旋する覚悟は出来ています」 「…噂通りの気骨ある人物のようだな。ならば一層、履行には覚悟が要るだろうが…撤退してくれ」 「何ですと?」 東は頓狂な声をあげていた。それから自分の頭の中にある様々な要素が、総理の言葉に停滞を許さず、野戦指揮官としての義務を果たさせようと動き出した。 「富士の機甲部隊とでも交代ですか?それとも関東一円から攻撃ヘリでも?」 「聞いて驚き給えよ」 直後、総理の口から出た言葉は、東三佐に撤退を伝えたときより頓狂な叫びを飛び出させるのだった。 銀河列強諸国は汎人類種恒星間文明である。 その姿形に大した違いがない、ホモ・サピエンスによる文明群ということだ。 特にツルギスタン主星は地球と変わらぬ1Gのため、面白味が無いほど両者に外見的差違は存在しなかった。 ブレーディアンのコクピットに座するアフバルト・シュウバウツァー大刃士――大抵の軍隊に於ける大尉相当――も、その外見はさながら大時代的な貴族士官そのものだ。 青を基調とした古めかしい騎兵将校のような軍服は、肩やら胸やらに金の飾り紐が幾本もはしり、宝塚歌劇の『薔薇』でも使用に耐えそうな豪奢なものだ。 それに身を包んだアフバルトも、高く、形の整った鼻梁に、切れ長の目と、その中に浮かぶ青い瞳とが大層印象的な、地球で言うところの典型的美形の白人だった。 ご丁寧に長めに伸ばした柔らかなブロンドまで見せられると、ツルギスタンの軍人というのはこういうものなのだなと、むしろ納得できるというものだ。 年の頃は二十代の半ばか、そろそろ職務が身に染みて、覇気と優雅さとに形を成しつつある。 「ジエイタイの陣容が変更?」 アフバルトは後方の司令部から届いた通達に形の良い眉毛を歪めた。 理由が解らない。自衛隊の大規模な移動は察知されていない。であるなら、単なる放棄か。それも考えづらかった。 過去二度に渡る自衛隊員達の奮戦ぶりは、彼等の常識を上回っていた。一部のパイロットに恐怖感を植え付けるほどだった。 ある戦車が歩兵を守るために儀仗兵の槍の前に立ちはだかったことがあった。 また、ある戦車はキャタピラが切れても固定砲台となり、貫けもしない滑腔砲を撃ち続けた。 歩兵達は虎視眈々と戦車の影から対戦車ロケットを撃つチャンスを窺っていた。 まさに蛮勇と言うべきか。あれを見た後では、理由もない撤退はあり得ない、アフバルトは確信を得ていた。 「敵手はホッカイドウから下がり続けている『ノーザン・ブル』機甲師団ではないのか?」 「いえ、詳細がハッキリしないのですが…『ボランティア』であると…」 「『無償奉仕』だと?翻訳コミュニケーターが壊れていたのではないか?」 「ああ、いえ、『義勇兵』という意味もあるそうです、地球においては。むしろ『義勇兵』が語源なようですね。国家間で公に救援を送れない場合に執られる志願兵制度らしいです」 「なかなか複雑だな、地球の言葉というのは…レーダーが何か捉えた、一端切るぞ」 「御武運を!」 アフバルトはシートから気持ち、体を乗り出すと、前面モニターの一角を見据えた。 異性文明の兵器と言っても、そこは兵器だけあり、我々の知るコクピットとさして変わらない。必要最低限の設備を、結果的にはコクピット中にバラ巻く配置で。 「なんだと?」 アフバルトは疑問の言葉を口にすると、出撃前に時刻を合わせた腕時計を確認した。 約定の戦闘開始時刻まで、あと三分。が、『皇国人』が入谷演習場と呼ぶ原野に、敵影は二つしかない。 いつもの90式戦闘車両と、その上空を旋回するF-15/J戦闘機。 「隊長、連中、我々を舐めているのですか?」 儀仗兵のパイロットから嘲笑混じりの通信がはいる。 そんな筈はないだろう、自衛隊はこちらの戦闘力を自らの出血でもって熟知しているはずだ。 アフバルトは返事を返す前に、敵機を視認したブレーディアンのメインコンピューターからの反応を待った。彼の辞書には楽観も悲観も存在しなかった。 案の定、異変はすぐに出た。二機の発する赤外線量が尋常でない。 しかもF-15/Jは認識確度が65パーセントといって、コンピューターが小首を傾げている状態。 90式戦車に至っては、形状から予測する確度は90パーセントだが、それ以外の要因により同車両との認識は不可能、との判断が下されている有様だった。 何事かとアフバルトは計測した諸元をディスプレイから読みとる。軽い目眩を覚えた。あの90式戦車は『形こそ同じだが、サイズは二倍』との判断が下されていた。 「…諸君、どうやら皇国人は何かをする気らしいぞ」 アフバルトが各機に注意を促すと、いかにも戦意の高い歓声が返ってくる。勇ましい蛮声と言っても良い。 だが、ツルギスタンの将兵は『皇国人』の本当の反撃が、まだ始まっていない事を思い知ることになる。 戦闘開始を告げる喇叭の音が、入谷演習場に鳴り響いた。 F-15戦闘機とは70年代に於ける技術の未熟さを、潤沢な資金の投入とあらゆる装備の大型化によって、一つの形に押し込んだ代物と言える。 空力という概念が未だ未成熟であった頃に作られた先細りの円筒状の胴体と、それを挟み込んだ巨大で四角いエンジンブロック。 それらを、輪をかけて馬鹿でかいゲイラカイトの様な主翼の下に無理矢理吊り下げ、その後ろに水平尾翼と、二枚の垂直尾翼を立てている。 最高の性能を金に糸目をつけずに求めた、まさに冷戦時代の怪物機だ。 航空自衛隊は時代の寵児として誕生した同機に、更なる改修を加えた多段階能力向上機、F-15/J,MSIPを多数保有していたが、 その日、入谷演習場へと急行するF-15戦闘機は、MSIPとも形状を異にしていた。 長く迫り出した機首部分に、機体各所に生じた奇妙な出っ張り。 およそ空力を考慮に入れていないことに拍車をかけたような姿をしつつ、その戦闘機は実に軽やかに蒼穹を疾駆していた。 そのコクピットの中も、現実の戦闘機を凌駕している。 パイロットの足の間に操縦桿があるのだけは古典的だが――新鋭機は大抵コクピットの右隅に操縦桿がある――コクピットの両サイドにもレバーやらスティックやらが見えていた。 パイロットの前面コンソールには四枚の液晶ディスプレイが存在していた。 それらは現行機にも装備されているが、戦闘時にはそこへ視線を落とす暇がないため、より上部に必要な項目をまとめた電映ガラス板がある。 いざ戦闘となればその程度の意味しか持たないコンソールの筈が、その機体の液晶ディスプレイには常に四面全てに別個の情報が映し出され、自分と、その周囲を伺っているようだった。 何より妙なのはパイロットだ。 通常はゆったりとしたフライトスーツを着用しているが、そのパイロットはまるでライダースーツのようなガッチリとした『つなぎ』を着用していた。 与圧されていない超音速戦闘機につきものの酸素マスクも存在せず、パイロットの顔が確認できる。 意外に幼い、と言っても少年の域は越えている。青年と呼ぶ歳ではあるが、ただ、同年代の日本人によく見るダレた雰囲気は無く、 まさに戦闘機のコクピットに納まるべく引き締まっている。 眉毛の形や鼻梁は意外に整っているので、ヘルメットを脱げばちょっとしたいい男だろう。 もっとも、今の彼の表情はいささか困り気味であった。 「…だから、大丈夫だって言ってるだろ」 「ダメだよ。だって鷹(よう)くん、これが初めての出撃なんだよ!?」 と、四面のパネルの内の一つに顔を映して、しきりに彼の身を案じているのは、妙齢の乙女であった。 長い黒髪がたいそう印象的で、好意的な意味で飾り気が無い。 目鼻立ちは成熟した女性のそれだが、子供じみた心配の言葉が物語るように、どこかあどけなさが抜けきっていなかった。 パイロットと同じように、微妙なお年頃というわけだ。 「透(みなも)、これが最初ってわけじゃないんだ…黙ってたけど…」 パイロット、風見鷹介(カザミヨウスケ)は、堪り兼ねたように幼馴染に漏らした。が、それがいけなかった。 彼女、笠置透(カサギミナモ)は、鷹介のことを心配するのに理由が要らない性質だった。 「うそ?ひどいよ、鷹くん!!黙ってるなんて!?」 「しまった、逆効果…」 鷹介が天を仰ぎかける、その刹那、思わぬ救援が入った。透が占めていたディスプレイが半分に分かれ、これまた印象的な男性の顔が映る。 「透くん、それ位にしてやってくれないか」 張りと渋みのバランスが取れた、何ともセクシーな『男』の声だった。 彫りの深い顔立ちと、意志と知性を兼ね備えた瞳の輝きは、古典的な大人の男の美点を集約したかのようだ。 土岐虎二郎(トキコジロウ)。 彼は今、鷹介の足下を走る戦車のコクピット――今更、戦車は複数人で動かすもの、という常識を口にするのは適切でない――に納まっていた。 「大丈夫、鷹介君は必ず連れ帰るよ。怒るのは、帰ってからでも、遅くは無いだろう?」 「「土岐さん」」 鷹介と透はそれぞれ違うニュアンスを含んだ声で、同じ言葉を口にしていた。 それがなんとも可笑しく、またこの二人のことを代弁しているかのようで、彼の頬になんとも色気のある微苦笑を浮かべさせる。 「さぁ、反撃の狼煙を上げよう、鷹介」 「…応っ!」 一転、威勢の良い返事を返すと、鷹介は左手が握ったスロットルレバーを引き、同時にシートの脇に付いているレバーを右手で倒す。 四面の液晶コンソールに、それぞれ一文字ずつ、J・S・D・Fのアルファベットと、それが頭文字となる単語が表示される。 Jointo・Strugl・Defensive・Form 合体及び格闘による防衛的形態、とでも言おうか。自衛隊の意味でなく、なにか途方もない、子供心をくすぐられる響きだった。 そして、現実に、それは行われたのである。 F-15からウィングとコクピットが分離する。残ったボディが中心線から二つに割れ、それぞれの機首部であった部位が90度に反って折れた。 90式戦車が宙に浮かび上がり、主砲とターレットが分け放たれる。胴体が二つに折れると、左右のキャタピラ部分が別個に別れ、中からマニュピレーターが飛びだした。 二つに分かたれた戦闘機の胴体だった部分が、腕を突きだしている戦車の胴体に、下から突き刺さった。 残ったコクピットと主翼とが戦車の胴体前面に張り付くと、最後に戦車の胴体部から、人の顔が彫刻された、兜を被ったような頭部が突き出てくる。 隠すべくもない、それは、二つが合わさり、人型を成していた。 戦場に佇立する巨人。 我々はそれが何であるのかを知っている。子供心に、その存在を知っていた。渇望していた。 絶対の窮地に現れ、無敵の力をもって敵を倒し、幼心を満たしてくれたもの。 今こそ、何のてらいもなく、その名が叫ばれるとき。 そう、スーパー・ロボット、と。 人型兵器だと!? アフバルト・シュウバウツァーは信じられぬ思いでモニターに映る光景を睨み付けていた。頭のなかでは、冷静な思考と知識とが、総動員で回り続けている。 儀仗兵を含め、そういった兵器は決して珍しい訳ではない。 マニュピレーターを介した、豊富で簡便な武装。 足を使った不整地踏破力と、細やかな機動。 技術の進歩が実現させた、理想的兵力の運用であるところの、柔軟性の至極といってよかった。 だが、何よりの売りは、その判りやすさであった。判りやすい形で具現化した力は民衆の人気を得やすい。 それは商品価値に繋がる。全てが経済活動と直結した銀河列強にとり、軍とは、スポーツ選手のような側面を持っているのだ。 顧みるに、アレは何なのか。 地球人類は、それを実現する能力を持つのか。確かめねば。アフバルトはインカム越しに名乗りを上げる。 「我が名はアフバルト・シュウバウツァー、栄えあるツルギスタン第三外征旅団第三〇五機甲大隊大刃士である! 諸君らの管制名を述べよ」 返答は即座に行われた。 「大江戸先進科学研究所所属、スーパーロボット、ダイガスト!!」 ツルギスタン将兵からどよめきが湧き起こる。 民間研究施設所有のロボット。果たしてこの国は民生の方が技術レベルが上なのか、それとも唯の捨て石か。 アフバルトはあくまで紳士に、いやスポーツマンシップに乗っ取り、彼等に警告を与える。 「諸君らが立っている場所は、我等の神聖なる約定によるところの限定攻勢の開始線である。 諸君らに他意が無いのであれば、その場より立ち退き給え。これは最後通告であり、これより三十秒の後…」 「つべこべ言わずに掛かってきたらどうだ?あんたらこそ、日本国領度を不当に侵しているんだぜ?」 若者の声だとおもった。 アフバルトはいくつもの星系で戦った経緯から、攻勢初期にあのような果敢な若者がよく現れることを、それを打ち破らざるを得ない悲しみから、よく知っていた。 そんなとき、彼は自らが侵略者である悲しみを胸に秘め、いつもこう言ってきた。 「その意気や良し!!ならば私は君のようなものが二度と出ないよう、全力を持って応えよう!! 全軍、突撃にぃ、うつれぇっ!!」 歓声があがり、五機の儀仗兵が槍襖を敷きつつ人型兵器に突進した。 速い。土煙をあげ、儀仗兵ガーズ・ランツェは一本の楔と化す。異星の軍勢を突き破ってきた、必勝の突撃隊形だった。 迫り来る土煙を前に、ダイガストは右手を弓につがえるように引き絞る。肘の内部よりブースターが顔を覗かせ、噴射炎をあげた。 コクピット――復座式で、背後の一段高い場所に虎二郎の姿があった――で鷹介が右手で握ったサイドスティックを前に押しだし、先端のスイッチボタンを押し込む。 「ブラスト・マグナムッ!!」 右手が、撃ち放たれる矢の如く、肘の先から飛翔する。ある世代には実に見覚えの深い、ロケット・パンチという古色蒼然たるアニメの兵器だ。 対する突進状態の儀仗兵は、回避が効かない。とくにランツェタイプは軽快、突進力が売りであり、けして小回りが利く機体でなかった。 結果、楔の先端、中央の一機の正面に、ロケットパンチが直撃する。 直撃の瞬間、拳の先端に何やら光り輝く力場が視認できた。それから、儀仗兵に当たった部位でなく、その背後に、盛大なブラスト炎が吹き上がった。 儀仗兵はその一撃で機体中枢を貫通する甚大な被害を負い、膝からその場に崩れ落ちた。 GBCのレポーターが呆気にとられ、解説を忘れる。 その眼前で、儀仗兵を打ち砕いたロケットパンチ、いや、ブラスト・マグナムが、ダイガストの突き上げた右肘に帰還する。 楔の先端を砕かれた儀仗兵は、果敢にも二手に分かれてダイガストを挟撃する構えをみせた。 「流石に立ち直りは速いな」 虎二郎はどこか嬉しげだった。同時に、彼の指がシートの前を占有するコンソールパネルの上を、踊るように叩いてゆく。 索敵諸元が鷹介側の四面ディスプレイに投影され、最適の武装が選択される。 ミサイル、準備。 鷹介がコントロールスティックの先端のボタンを押し込むと、ダイガストの背後から生じたように、 どこからともなく二本のミサイルが発射される。下半身に変わったF-15が翼下に吊っていた物だ。 ミサイルは最右方の儀仗兵の足をそれぞれ打ち砕き、殻座させた。 が、右翼のもう一機は更に果敢に突撃の足を速める。その槍先がダイガストを補足した、その時。 「アンカー、発射!」 ダイガストの両腰、F-15の垂直尾翼と水平尾翼とが重なり合って出来た鏃のような装甲が、儀仗兵へと向かって飛びだした。 ダイガストと鏃との間は、輝く光帯が繋いでいる。まさにアンカー。 その鋭い先端が儀仗兵を貫くと、ダイガストは光帯を握り締め、自分と背丈の変わらない相手を軽々と振り回してみせる。 儀仗兵のパイロットの悲鳴が上がった。それからドップラー効果で、それが遠くへと離れてゆく。アンカーが抜けたのだ。 アフバルトは息を呑んだ。 いかに機動性のみを重視したランツェと言え、瞬時にして三機を倒されるなど、これまでついぞ無かった。 百戦錬磨のツルギスタン貴族士官は、その衝撃に、必然とも言える誤断を下した。 「転進!私の左右に付け!!」 忠良なる儀仗兵のパイロット達は即座に命令に従い、アフバルトに合流するための後退に移る。 ブレーディアンを中央に、ツルギスタンの精兵が再結集を果たす。と、アフバルトの側面モニターが、両脇をすり抜ける黒い影を捉えた。 次の瞬間、両サイドに着いたはずのランツェが、もんどりうって吹き飛んだ。四肢がちぎれ飛び、割けた石榴のような破孔を覗かせている。 一体、何が。そこまで考えて、アフバルトは自らの迂闊さに慄然となった。 モニターに移るダイガストは、身長と同じほどの長大な砲を両手でホールドしている。 俺は何をした、ヤツは何をした?無様な突進と転進とを繰り返した俺達を、ヤツはただ撃っただけではないのか。それも一歩たりとも動かずに。 何たる迂闊、何たる無様。 「しかし…だからこそ、アレは倒さねば!!」 アフバルトはブレーディアンの出力を上げ、ダイガストへと肉薄する。 逆さにした剣という奇妙な形状の兵器は、重力に反したかのように地表より僅かに浮き、スルスルと前進する。 見る間にモニターを占有してゆくその偉容に、彼は奇妙な荘厳さすら感じていた。かつて見た帝国聖教の『剣の御使い』の像のような。馬鹿な。 「アレは、敵だッ!」 左手で掴んだスルットルレバーを限界まで押しだし、乗機を最大戦足で疾駆させる。 同時にダイガストがあの巨砲をこちらへと向ける。砲口の形は真円に見える。こちらを完全に補足していた。 頭はそこから離れることを欲していた。だが、体はどうした訳か動かなかった。 アフバルトはそれを帝国軍人魂の精髄であると決めつけ――臆病風と思えば、正気を失いかねない――迷わずブレーディアンの剣状の両腕を振るう。 瞬間、ダイガストの巨砲が地獄の炎を上げ、真紅の鉄塊を吐きだした。 剣と砲弾とがガッチリと食い合い、一瞬の拮抗の後、砲弾がその使命を果たして爆発した。 モニターを紅蓮の炎が満たす。 同時に機体各所から注意を促す警告表示が、モニター上へと悲鳴のように乱舞する。 決してダメージを局限できた訳ではなかった。炸薬によって膨大な鉄量が金属粒子に分解し、高速高温のメタルジェットとなって機体表層を荒れ狂ったのだ。 原始的。だからこそ、恐ろしく信頼度が高い。おそらくあの巨砲も既存の何かを流用した物だろう。 そういえば、皇国がツルガオキ海戦と呼んでいる諸惑星連合との一戦、あの折轟沈した艦の中に、美しく巨大な艦があったな。 アフバルトは何とはなしにそう考え、それが衝撃による軽いショックであると思い至る。 「くっ!?」 頭を軽く振るい、操縦に集中する。既にブレーディアンの間合いの中なのだ。幾度となく蛮土を切り開いてきたブレーディアンの双腕の、その撃勺の間合い。 アフバルトは怒号と共にコントロールスティックのボタンを押し込む。 研ぎ澄まされた刃が左右から、鋏のように、ダイガストの首へと忍び寄る。教本にある類の攻撃ではない。幾多の戦場で切り覚えの、必殺の一撃だった。 だった。過去形である。 前面モニターを銀光が左右から行き過ぎてゆく。前面モニターと言っても、鷹介の前にある四面多目的パネルではない。その先にある、巨大なパノラマだ。 ダイガストの反応は上々だった。虎二郎が早期に発していてくれた警告に沿って、機体を滑るように後ろへと跳ねさせる。 同時に、鷹介の中のファイター・パイロットとしての本能が、殆ど無意識にトリガーボタンを押し込ませている。 ダイガストの胸部装甲の四隅から、それぞれ火線がほとばしった。 発砲炎の代わりに、微かにパルスが確認できた。それとほぼ同時にブレーディアンの前面に幾つかの小さな破孔が生じ、金属が同種の物を食い破る甲高い音が響く。 「ふん」 虎二郎が鼻を鳴らす。 「さすがに30mmでも向こうがデカけれりゃ、大した効果は無いな。試射は儀仗兵で済ましておくべきだったか」 「土岐さん、そういうのは勝ってからにしてくださいよ」 鷹介は虎二郎の肝の座りっぷりに苦笑いを浮かべた。このひと、ほんとにこれが初陣なのか? 彼もそれだけを気にしてはいられない。ブレーディアンの猛攻に、避けているだけでは勝てない。 「撃って、出る!」 サイドスティック――足の間の操縦桿は折り畳まれていた――を倒しながら、一転、ダイガストを突進させる。 機体の身長ほどもある砲を投げ捨て、両の拳を固めた。調度ブレーディアンが火砲を物ともせずに踏み込んできた、その鼻面に、カウンターで右ストレートをお見舞いする。 盛大な金属音が上がり、火花が散るや衝撃でブレーディアンの装甲が歪む。だが、その巨体は止まらない。 ダイガストと比して二まわりも大きいのだから、子供が大人に殴りかかっているようなものか。 ブレーディアンは両腕を縦に並べ、右から左へと同時に振りぬいてきた。 一つは止められても、二つならどうか。まさにブレーディアンの巨体を活かした猛攻だった。 喧嘩慣れしてやがる。鷹介は背筋に冷たいものを感じながらフットペダルを蹴り込む。 ダイガストの腰裏に移っていたF-15のエンジンノズルが炎を上げ、鋼の巨体を横っ飛びに跳ねさせた。 さらに左腕で、唸りをあげて飛んでくる二つの刃を受け止める。 刃を腕の装甲材に深々と食い込ませつつ、ダイガストはそこからバーニアを更に吹かし、自分からブレーディアンの攻撃が描く横薙ぎの軌道に乗ってやる。 振りぬいた腕に流されるまま、ブレーディアンの背後に着地する。 足元の大地を砕きながらダイガストはすぐさま突進、勢いもそのままにブレーディアンを背後から殴りつけた。 子供の喧嘩のようなひどい大振りを、敵が振り返るまで存分に、幾度も浴びせる。 その都度ブレーディアンの巨体が『起き上がりこぶし』のように揺れ、剣を思わせるボディに次々と歪みが作られてゆく。 「こざかしいっ!!」 アフバルトが吼える。それにブレーディアンが応え、剣の柄――おそらく頭部――が後ろを向くや、双眸にも見える紅い偏光器から二条の光線が照射された。 光線は偏光器と同じく、鮮やかなほどに赤い。 光線がダイガストの腕やら肩やらを舐めると、装甲材が瞬時に沸騰し、ケロイドのようにただれる。その出力に虎二郎が思わず嘆息を漏らすほどだった。 「こっちにも欲しいな、あれ」 「偏光レンズが精製できないんでしょ、博士が愚痴ってましたよ」 「技術が無ければ戦争もできん、か」 「無い物ねだってもしょうがないでしょ。今ある物で済ませないと。と言う訳で土岐さん、あれ、使いますよ」 「了解だ」 答えるや虎二郎の指が精密機械のようにコンソールパネル上を跳ね回る。 するとダイガストのコクピットにも伝わるほどの鳴動が始まった。 二人の前のデータ表示の中からエネルギーゲインのバーが急速に伸張し、ダイガストの巨体がこれまで以上の出力に震えていることが判る。 鷹介は高まった出力をダイガストの拳に、ブレーディアンへと叩き込んだ。 これまでを上回る衝撃にブレーディアンが吹き飛ばされる。 そして強引に距離をつくり、ダイガストは左手を自らの後方に回す。 次の瞬間、ダイガストの左手には――どこから取り出したのか――鞘に収まった一振りの太刀が握られていた。 「鷹介、知ってると思うが、事象転換炉が励起状態の輝鋼剣を制御していられる時間は僅かだ」 「わかってますよ、一太刀で仕留めます」 なんとも頼もしい事を口にして鷹介は操縦桿を押し込む。 ダイガストが太刀を地面と水平に、体の前に持ってくると、鞘と鍔とを繋いでいたメカニカルロックが音を立てて外れた。 鯉口が解かれ、鞘の中から眩い金色の奔流が溢れ出る。 「七度(ななたび)死地に赴こうと、我等必ず帰り、護国の刃たらん」 七生護国とでも言おうか、朗々と吟じる鷹介がダイガストに剣を素っ破抜かせると、地上に太陽が現れたかのごとく、神々しい輝きが周囲を照らし出す。 光の元たる、現れた金色の刃は、目も映えるほどの直ぐ刃の直刀だった。 刃その物が輝くという異常な光景にアフバルトは驚嘆する。 なんだ、これは。俺は何と戦っている? 居竦むアフバルトの眼前で、ダイガストのフェイスが面頬に覆われた。 それは彼が瞬時感じた神像のようだという印象から一転し、完全な戦装束への変貌を意味していた。 輝く太刀を八双に構え、ダイガストが踏み出す。 ブレーディアンは両の腕を交差して打ち込みを受け止めようとしたが、ダイガストの太刀はその腕ごと、音も無く侵略軍の巨大兵器を両断した。 崩れ落ちるブレーディアンにダイガストは背を向け、胸の前で鞘に太刀を収める。 「輝鋼剣 一刀両断」 鍔鳴りの音も涼やかに、鷹介の呟きが控えめに戦いの終わりを告げる。 いや、侵略者たちとの戦いは正にこれからであった。 全機能を停止したブレーディアンのコクピットでアフバルトは茫然自失となっていた。 GBCのレポーターも言葉を失い、終いには予定を変更する旨の謝罪広告と、客船の環境映像とが放映され続ける有様だった。 入谷演習場から離れてゆく自衛隊の車両だけは歓喜に包まれている。 初めて一矢を報いたのだ。歓声は止まず、しかしその狂乱の中、 東三佐だけはコマンダーズキューポラから身を乗り出し、複雑な表情で遠ざかってゆくダイガストの巨体を見つめていた。 「いったい何なんだ、あのロボットは…」 それは喜怒哀楽、人毎に違ってはいたろうが、その場に居合わせた者達に共通の言葉であった。 史家は言う、その日より銀河列強の長い悪戦が始まったのだと。
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モンスター(19枚) ライトロード・マジシャン ライラ×2枚 ライトロード・ハンター ライコウ×2枚 スノーマンイーター×2枚 ガスタの静寂 カーム×3枚 ガスタの希望 カムイ×3枚 ガスタ・ファルコ ガスタ・サンボルト ガスタ・ガルド×3枚 ガスタ・イグル×2枚 魔法(9枚) 死者蘇生 光の援軍 月の書 強欲で謙虚な壺×2枚 強制転移 ブラック・ホール サイクロン×2枚 罠(12枚) 奈落の落とし穴 盗賊の七つ道具×2枚 神の宣告 神の警告×2枚 激流葬 強制脱出装置 デモンズ・チェーン ゴッドバードアタック くず鉄のかかし×2枚 エクストラデッキ A・O・J カタストル No.39 希望皇ホープ TG ハイパー・ライブラリアン アーカナイト・マジシャン アームズ・エイド ガチガチガンテツ スクラップ・ドラゴン スターダスト・ドラゴン ダイガスタ・イグルス ダイガスタ・ガルドス ダイガスタ・スフィアード ダイガスタ・ファルコス ブラック・ローズ・ドラゴン 氷結界の龍 トリシューラ 氷結界の龍 ブリューナク サイドデッキ D.D.クロウ×2枚 エフェクト・ヴェーラー×2枚 ゴッドバードアタック トラップ・スタン×2枚 強制脱出装置×2枚 御前試合×2枚 次元幽閉×2枚 連鎖除外(チェーン・ロスト)×2枚
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第九話 弱小国の宇宙戦争 4月も半ばに近づく頃。 富士山麓の東側に広がる東富士演習場は、春の恒例行事である野焼きを終え、一面が黒々とした焼け野原に変わっていた。灰の中からは早くも草が芽を出したところもあり、初夏に向けての陣取り合戦も始まっているようだ。 うららかな春の日差しのもと、青空の中に黒々と浮かび上がる富士の近影は絶景であるが、演習場に集まっているのは富士見物でも桜の名残りを探す粋者でもない。緑地に茶や黒をまだらに散らした迷彩服2型に身を包む陸上自衛官たちがざっと20名に、白衣の研究者数名と、背広がやはり数名。 彼らは一様に固唾を呑んで、1000メートルほど離れた場所に立てられた、薄汚れた鋼板を見守っている。 と、何かが影も残さぬほどの速度で宙を裂いたかと思うと、甲高い音をさせた後、鋼板の後方に盛られた盛土から盛大な土煙があがった。 自衛官の列に混じっていた東和樹三佐は、私物の双眼鏡を覗き込んで思わずガッツポーズをとった。 鋼板には真円の孔が穿たれ、そこから盛り土が崩れた様が確認できた。 続いてブザーが鳴り、技官のアナウンスが入る。 「次は6の台手前の目標に発射します。距離は3000」 3キロ離れた6番の目標という意味だ。富士の裾野の緩やかな丘に盛土の台が幾つか作られ、その手前に一つ、先程と同じように鋼板が立っていた。 技官のカウントが始まると歓声に沸く自衛官たちが静まり返る。 カウントゼロとともに、号砲も無く、また何かが高速で空を裂いた。 再び金属質の甲高い音がして、盛り土が黒い柱となって吹き上がる。 拍手と歓声。 二度にわたり発射された物体はそれぞれ鋼板を貫き、その後ろの盛土を穿ったのだ。 鋼板の正体は戦場から持ち帰ったツルギスタン儀仗兵の装甲材だった。つまり自衛官たちの喜び様は、彼らがついにあの『首なし鎧』を撃破できる手段を得た事に寄るわけだ。 過熱する興奮の中、東は待望の撃破できる手段に目をやり、ちょっと顔をしかめた。 そこにあったのは74式戦車のシャーシの上に、角張ったデザインの砲だけ乗っけた代物だった。はっきり言って自走砲だって今日日、もっとましなデザインをしている。だいたいあれではターレットが無いので砲が旋回できず、車体の向いている方向にしか撃てない事になる。 つまり完全に足を止め、真正面を予測位置として発射するのが一番安定するという事だ。そして足を止めるという行為は被弾の危険をいや増す。異星の無体なロボット兵器の前に装甲防御が役に立たないのなら、絶えず動き続けて狙われないようにするのが残された僅かな選択肢のはずだのに。 実際の運用はどう行われるべきか。だが熟慮の時間は無い、来週にはまたツルギスタンが攻めてくる。 この前のように『獣型』だけなら、ダイガストを先陣にして良い勝負が出来るだろう。しかし『大剣』…ブレーディアンが出てきたらどうか。青森の失落時と同じように、ダイガストはそっちに掛りきりになるだろう。そうなったら『首なし鎧』や『獣型』の相手は自衛隊(うち)が受け持つ事になる。 あの戦車もどき以外にも敵に通用する武器が必要だ。空自で調達を始めているという新型弾頭ミサイルのように、こっちの対戦車ミサイルもアップデートできないのか。いやあの首なし鎧の前じゃ対戦車兵は上から丸見えだ。弾頭を変えたくらいの携行ミサイルだったら肉薄兵器と変わらないか。 まとまらない思考をどう連隊長に伝えたものかと悩む東を、背広のひとりが目敏く見つけていた。 内閣総理大臣 国場道昭である。 「やはり浮かれていない者がいるな」 総理はダイガストが始めて投入された折、短い会話を交わした臨時の指揮官が彼であった事を知る由も無い。 国場の斜め後ろに控えた筆頭書記官は、ここまでに突貫で詰め込んだ情報を掘り返して答えた。 「戦車としては使えない代物ですからね、プロの目は誤魔化せないでしょう。車体に至っては解体予定の74式戦車ですし」 「74式電磁投射砲。急造のレールガンを延命措置した退役戦車の車体に乗っけたもの。ずいぶん乱暴だな」 「アメリカさんはM1エイブラムス戦車を、M1A4として電磁投射砲型に変え始めているようですが…」 「EU内で使いまわしているドイツのレオパルド2もだな。大々的な生産ラインを持っているプロジェクトなら戦況に応じて大胆かつ早急な変更もできようが、わが国の戦闘車両は年次調達数が片手で足りるからな…1台づつ台座に乗せてこしらえている状況では、せっかく『地球防衛戦線』からもたらされたレールガンの基本図面も、宝の持ち腐れだよ」 レールガン…電磁投射砲とは二本の通電したレールの間に、伝導体となる物体を挟み込み、その相互干渉によって物体を押し出す仕組みである。必要になる電力量は言うに及ばず、予期せぬ伝導体のプラズマ化による熱や圧力に耐える構造材が必要である等、実現の上での問題は多かった。 が、ダイガストを筆頭に、異星より解決策を『移植』する事によって、技術に関わるハードルは見る間に低くなっていった。それに加えてここでも『地球防衛戦線』である。 彼らによる技術の流布がどれ程広範囲にわたっているのか?これだけでは判然としないが、首相達の言葉から解釈するのなら、各国の装甲戦闘車両は続々と電磁投射砲化を始めていることになる。 「だが、これでは子供だましなのだ。一点豪華主義――豪華ですらないが――でなく、このふざけた宇宙時代に見合うドクトリンの構築と、それに沿った新たな自衛隊の実現…長期不敗の備えが必要なのだ」 国場は言うは易いが、形にするには難しい問題に閉口した。 自分を含め、軍事を知る政治家が不在だった。『平和国家』や『憲法九条』という教条は近代国家に不可欠な国際政治学といったマクロな視点での軍事学の成長をも妨げ、国家と国民の存続を希求する思考をただの神学論争に摩り替えていた。 神学者が政治をすればどうなるか。極端な話、タリバンを見ればその末路が知れるだろう。清教徒革命も示唆に富んでいる。 軍事費も足りない。『国防費はGDP比1パーセント以内』という枠組みに拘泥し、ソ連のアフガニスタン侵攻にも時宜に合った戦力増強を行えなかったのが戦後日本の国防の現実だ。 だが、いざとんでもない敵を前に国防費の増額を企図したとて、その出所は赤字国債だった。戦時国債との揶揄や九条信者の罵声をうけつつ、四月末には大幅に水増しされた特例公債法が可決される見通しである。 マスコミは相も変わらず意図的に借金の部分を強調していたが、これは『政府』の『国民』に対する債務であり、表現としてはセンセーショナルを狙いすぎてイメージだけが先行している。決して『日本国』が『国民』に無断で『諸外国』に対して借金をしている訳では無いのだが、お茶の間で受け売りの情報のみを信じる人々はいつか莫大な借金を誰かが取り立てに来るという妄想に囚われているようだ。 とどのつまり銀河列強との戦争は、そういった戦後日本という文化が試されているわけだった。 この構図を国民に理解させること。国場道昭にとっての内閣の命題はここにあった。 平野を流れる木曽川の急なうねりの向こうに市街地が広がっている。その中に唐突に延びる一本の滑走路が航空自衛隊岐阜基地だ。空自で使用する航空機や装備品を開発・試験する飛行開発実験団の拠点でもある。 いましもその滑走路に1機のF-15が降着装置を出し、速度と高度を下げて着陸シーケンスに入っていた。 見る者が見ればエンジンの両脇と一体化した膨らみは航空自衛隊の同型にはあるはずの無い機構であり、翼下のパイロンにはミサイルや爆弾と呼ぶには大きく、そして変わった形の機材が吊り下げられている事に気付くだろう。 翼下の機材はいわゆる偵察ポッドというものであり、軍オタであれば『すわ退役をひかえたF-4の偵察機型に代わるものとして研究が始まっているF-15の偵察機型か』とか夢がひろがりんぐするものだが、実際のところは近くて遠い代物だった。 それは駐機場の隅でパイプ机の上の計測機械を睨みつけている、総髪を結わずに垂らした四角四面体な顔が何の間違いか白衣の上に乗っている男…まぁつまり日本が胸を張って宇宙に誇れない大江戸多聞博士の存在を見れば、確定的に明らかなのである。 「…いま見せたように、この偵察ポッドと後部座席の情報処理システムでもって戦場全体を把握するのが、このF-15のキモになる」 博士の解説に、後ろで同じように計測機器を覗き込んでいる鷹介は、素直にへぇと感心した。 富士の裾野くんだりからセスナでもって岐阜まで、この息をする危険物のような男を運んできたのは、ひとえにそのシステム全般に大江戸先進科学研究所の技術――もっと言うのならダイガストの技術が使われているからだ。 防衛省の技術研究本部からダイガストの索敵方法に関して問い合わせがあったのは、初陣から数えてかなり早い段階からだった。 技術研究本部――略して技本――との数度の遣り取りの後、F-15への指揮管制能力の付与を打診されたのは青天の霹靂であった。 銀河列強との限定戦争は戦闘開始位置などという馬鹿正直なものを強要されるうえ、敵情は期日前には数まで公表される有様で、E-767早期警戒管制機のような索敵機の存在価値は著しく低減していた。しかし戦場を俯瞰する目たる管制機としての役目は依然として重要であり、にも関わらず機動力に劣る大型機ではいざ狙われれば生存の確率が低くなる。 ならば各フライトリーダーにその役目を負わせてはどうか。幸いF-15の偵察機化は従来のF-4の偵察機型の技術をもとに研究を始めていたことだし、その機能をもう少し煮詰めてみれば…とか言っている内にダイガストが初陣を飾り、技本内であのロボットの外部情報の収集・処理方法が役に立つのでは?との意見が出る。 決してバ○キリーとか夢見てたわけではない。たぶん。 持参した『とらやの羊羹』が効を奏したのか交渉は円滑に進み、技本はダイガストのメインカメラ機構と一連の情報処理システムのライセンスを得る事に成功する。大盤振る舞いかと言えば、列強のレベルで考えれば所詮は枯れた技術に過ぎないのだが。 これでバル○リーとか作れるかも、とか夢見たやつはいない。きっと。 さて肝心の管制能力であるが、飛行隊長やフライトリーダーとて超高速で交錯する空戦で的確な指示を出す事を期待されても困るというもの。実際のところは戦場から一歩退いたところで全体を見渡し、接近しつつある敵機をいち早く見つけ、列機への警戒や場合によっては後方に迫る敵機をカットするくらいが出来れば御の字だろう。 出来れば一機のレーダーが捉えた敵影を全機が共有し、飛行隊全機が目であり、牙となる状態が好ましいのだが、F-15には未だその機能は無い。 そこで以下のような解決が図られる。 2機編隊同士で組んだ4機編隊が四つ集まり、そこに飛行隊長と飛行班長が付いて計18機。これが航空自衛隊の従来の飛行隊の定数であるが、この中で4機編隊を指揮するのがフライトリーダーとなる。このフライトリーダー機と飛行隊長・飛行班長機に索敵能力の向上と情報共有能力をあたえ、飛行隊を頭脳と筋肉の最低限二つにまとめ上げる。 E-767早期警戒管制機の能力を飛行隊内で分散して請け負う形といえばよいか。 クダクダしくなったが、アニメでは見向きもされないようなプロセスを経て、一つの戦闘単位が完成するのだ。ロボットアニメではおそらく実現されているであろう個々の機体同士の有機的な連携。それは現在においては限られた先進国の、それも新鋭機のみに許された新世代の『強み』なのである。 これで方向性は定まり、さぁ問題は解決したと言いたい所だが、ところがどっこい話はこれだけでは終われない。次はアップデートの話なのである。 これまたロボットアニメによくある『○○実験型』等というテスト機であるが、物量チートの異名を持つアメリカじゃあるまいし、特に軍拡競争の世界の中で1人軍縮を強要される日本で、それもこの世界では現在進行形で戦闘で損耗している主力機をどこから充当するのか。 大体いくら設計に余裕があるのが自慢のF-15でも、突貫で新手の索敵システムと情報処理機能を詰め込むには無理がある。 結果、復座型の機体の後部座席を潰して処理中枢のコンピューターをねじ込むという力業になった。 重量増加による燃費の悪化には、F-15の戦闘爆撃機型であるストライク・イーグル――日本は保有していない――を参考に、機体側面と一体型になった燃料増槽…いわゆるコンフォーマルタンクでもって対応する。もちろん燃料増加による更なる燃費と機動性の悪化が懸念されたが、これはもう急造なので目を瞑るより無かった。 復座型のF-15は新田原の飛行教導隊の機を改造する予定とし、教導隊自体は実戦部隊として新編される。 飛行教導隊とは空自きっての腕っこき達を集めた空戦訓練の敵役部隊であるが、復座機使用の理由等は今回は割愛としよう。騙し騙しにバルキ○ーとか言い続けても、もうロボットとは直接関係の無い話であるからして。 「まぁしかし、二束三文でダイガストの目と同じものをくれてやるのも業腹だったんでな…」 大江戸博士は機材の進捗とともに顔パス化が進んで、今や自衛隊員の眼が無い事を良い事に、唐突にとんでもない事を出だした。 「ダイガストとのデータリンクも付けておいた」 「おいぃっ!」 防衛機密に抵触するだろうことは想像に易く、鷹介はおもわず突っ込まずにはいられない。 「いいだろうが、べつに」大江戸博士、悪びれる素振りも無し。「『たまたま』情報処理の方式が同じだったから混線し易いだけだって。こっちが見てるものも反映されるし、さらに大鳳ともデフォルトでデータリンクしているぞ」 「勝手につなげちゃらめぇとか言いますよ、仕舞いにゃ」 「まぁぶっちゃけ、大鳳のメインコンピューターを介せば脅威度の振り分けをより早く、正確にできるわけだ。それにダイガストにとっても外部からの取得情報が増えるのは有益だろ。ほら、俺によし、お前によし、皆によしだ」 「納得ゆかん…博士、あんたダイガストを介して戦場自体を私物か何かと勘違いしてやいませんか?」 「当たり前だ!戦場一つ把握できずに何が天才か!!」 「言っちゃったよ、この人…」 「だいたい国防や安全保障は本来は敵地攻撃を肯定するものだ。地球に群がるシロアリみたいな連中を相手に守ってるだけじゃ、いつまでも戦争は終わらんではないか!良いか鷹介、俺達はいつか宇宙に討て出るんだぞ、そこんとこをミジンコ並みの脳みそでも理解しとけよ」 「はいはい、博士が『天災』だってのは俺も存じあげていますって。でも流石に航宙艦…いや宇宙船だって準備するのはキツイでしょ。物も、金も、なにより技術も、無い無い尽くしなんですから」 「できるさ」 大江戸博士は不敵に口元を歪めて青空を見上げた。 「この空は地球のどこにだって続いてる。俺たちは1人じゃない。それを考えている人間もいる」 そういう約束なのさ。 博士の笑みが瞬時、淡いものになったが、臭い台詞に若干引いている鷹介が気付く前には、どちらかと言えば邪悪さを想起する類のものに戻っていた。 鷹介にしてみれば、このおっさんが観念的な事を口にするなんざ悔し紛れのハッタリだろうと、その程度にしか考えていなかった。 現に大江戸博士は思い出したように話題を変えると、 「ところで鷹介よ、折角だからこの機にダイガストにも追加武装を着けようと思うんだが」 「もう取り敢えず威力は足りてますから、使い勝手の良い頑丈なやつを着けてくださいよ」 「うむ、ギャラクシー・クィジナート社の巨大生物用フードプロセッサーが良い塩梅に安くてだな――」 「スタァァァァップ!まだ信じてる人もいるんだから、そのネタは止めてー!」 こうして今日も日本はギリギリの独立を守り、鷹介は突っ込みに慣れてゆくのであった。 めでたし、めでたくもなし。 つづく
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第六話 翼よ、あれが46センチの火だ(後編) 簡略化された情報と実際の現地の光景には雲泥の差がある。 絡み合う白い航跡が描く幾何学模様は複雑怪奇であり、高速で横切る機影がそれを更に攪拌して新たな文様を刻む様は、神知学者でなくとも黙示録の光景を夢想させた。 蒼穹を舞台にした神と悪魔の最終戦争。 しかしそれは銀河列強の来寇以来、後先を考える暇もない地球上の各国の頭上で繰り広げられた、新たな日常の光景に過ぎない。アメリカで、EUで、ロシアで、中華人民共和国で、空自のパイロット達が見た事もないような大規模な空戦が行われていた。 メテオールともつれ合うように高度を下げながら切り結んでいるのは全てF-15Jだ。 その意図は明白であり、今しも空戦域の足下に洋上迷彩に身を包んだF-2の一群が差し掛かろうとしている。彼等が翼下に抱えた4発の対艦ミサイルを対応不可能な距離にまで接近して放たせるため、F-15Jは編隊飛行を解いてまでメテオールと一対一に縺れ込んでいるのだ。 戦闘高度がどんどん下がるのもF-15Jが位置エネルギーを速度エネルギーに変換…要は下り加速しながらちょっかいを掛けているからであり、メテオールのパイロット達が功名に逸って追っかけまわしているという二つの現実がマッチングした結果でもあった。 もちろん宇宙人来寇前まではキルレシオ115 0とも言われた『世界最強の戦闘機』の系譜を、つい70年前には世界の全てを敵に回して戦い続けた狂戦士の末裔が操るのであるから、むざとはやられない。 空自のパイロットたちはGに耐えて首をめぐらし、鍛えに鍛えた二つの最高品質の索敵装置、アイボールを駆使して全翼機の追撃をかわし続ける。 左右に機を揺らして射線を外し、かと思えば返す刀のように鋭い航跡をのこして機を翻す。 振り切ったイーグルはすぐさま味方に追いすがる別のメテオールを発見し、見つかるのもお構いなし照準のレーダー波を叩きつけた。 熱烈なラブコールにダンスの相手が代わる。 繰り返し、繰り返し。命懸けの挑発が繰り返される。 「花火の中に突っ込むぞ、サイファー」 「ブレイズが当てた!」 「タリズマン、後方に敵機、ブレイク!」 「尾翼に青いリボンを書いてるのは誰だ?援護に感謝する」 その時、激しい通信の遣り取りの中へ悲鳴じみた報告が飛び込んできた。 「くそっ!下に気づいたやつがいる!!誰か追ってくれ!」 誰しもがギョッとなる。 二機のメテオールが足を縮めて空気抵抗を減らし、真っ逆さまの逆落としに海面へと下ろうとしていた。 F-15Jが一機、無理に追いすがろうとして横合いからレーザーで溶断される。 航空燃料が爆炎の花を咲かせる脇を、イーグルがもう一機駆け下る。90式空対空誘導弾が白煙を曳いてメテオールを追った。狙われたメテオールはダイブを中断して回避に入る。 あと一機、誰か。誰でもいい。 「こっちで受け持ちます!」 その誰かの声は、国際緊急周波数で飛び込んできた。 同時に洋上に閃光が数回瞬き、なにか恐ろしく速いものが射出される。一直線にダイブしていたメテオールとの相対速度は凄まじく、全翼機は自らの速度と重量を上乗せして飛来物に飛び込んでいた。 回避の暇も無く、乾いた音をさせて全翼機の前面に小さな穴が削孔される。ささくれはそれだけで巨大な空気抵抗を発生させる。まして機体内部に銃弾が飛び込んで内部構造が破損した状態では、メテオールは自らの機体剛性を維持できず、空中で四散した。 残骸を挟んで追ってきたイーグルと、迎撃したイーグルに似た何かが、背中合わせに交錯する。 「こちらは大江戸先進科学研究所の太刀風!攻撃隊の護衛は任せてください」 その何かの中で、鷹介はヘルメット内蔵のマイクに向かって叫ぶと同時に、操縦悍を引いて背面飛行に入った。続けて捻りこんで水平飛行に戻しつつ、鋭いターンでF-2の上空に戻ってゆく。 実際のところ空戦では自分がいても足手まといだろう。ダイガストの一部とはいえ、太刀風は単体でメテオールを圧倒するとは思えない。まして空自のF-15Jでは、命懸けも良い所だろう。 だが返ってきたのは、国際緊急周波数からの頼もしい一言だった。 「頼みます」と。 鷹介の胸にイーグルドライバーという言葉が憧れと共に思い起こされた。 だが今は憧れに背を向ける。自分がたどり着いたのはイーグルでなく、その翼下にも守らねばならない多数の攻撃隊がいた。 託されたのだ、そう考える事は、未だ若い彼には出来なかった。 「メテオール、ジエイタイの前衛と混戦中。離脱2」 「中央の敵艦の発砲を確認。回避運動、開始」 「誘導弾第三波、接近中。シーカー補足。射程内まで待機」 「ジエイタイの攻撃隊、レンジAに入ります」 「撃たれますね、あの攻撃隊には」 ディアマンテの戦闘艦橋内で矢継ぎ早に戦況が更新されてゆく中、副官が相変わらずの無表情でパトリキオスに近未来の予測を告げた。 「誘導弾の第四波と同期をとるあたりでしょうか」 「それだけなら本艦の対空火力でどうとでもなるがね。本音を言えばレーザーの出力を上げて吹き飛ばしたいところだが…」 「GBCにしたり顔で大人気ないと非難されますよ」 「この戦争自体が大人気ないとは思わないかい?」 そう言ってパトリキオスは前面の戦術情報ディスプレイの一角に映し出された、対峙する海自の護衛艦群に目を向ける。特に一際異彩を放つ、あの腕の付いた大砲が引っ掴まった平甲板の艦を。 「ダイガストとやらと、まさかこんな形で対決するとはね。涙ぐましいじゃないか」 彼の言を証明するように、回避した46センチ砲弾が巨大な水柱を上げ、擾乱する海面がディアマンテの巨体を揺すった。 そこに艦対艦ミサイルの第三波の迎撃報告が続く。当然の事に、歓声も沸かない。 メテオールがいつまでも時間稼ぎに引っかかっているのは予想外だったが、それ以外は順調だった。散発的な誘導弾など物の数でなし、まして山なりの砲弾などは同時に飛来する弾ごとの散布角で相手を包み込む事によって直撃が生じる、言わば可能性の武器だ。たった一発の砲弾になど、当たってやる方が難しいという物だ。 「誘導弾、第四波、発射を確認」 索敵手が淡々と告げる。 「来ましたね、やつらの攻勢限界点が」 副官も自説に異論を持っていないようだった。 そして案の定、ジエイタイの攻撃機も誘導弾を切り離す。もう少し接近してから発射すると読んでいたパトリキオスには些か拍子抜けだった。 すぐにディアマンテのセンサー群は接近する誘導弾を識別し、戦術情報ディスプレイに反映させる。 総数65535、と。 戦闘艦橋に重大な危険を告げるアラートが鳴り響く。沸いて出たかのような誘導弾の群れがディスプレイを埋め尽くすと、クルーはたちまち混乱に陥った。 「うろたえるな!」 パトリキオスが即座に口を開く。 「電子妨害だ!対空モードのレーザーを速射優先にして対処せよ。成すべき事を成せ!」 指揮官の一喝で混乱は最小限に止められた。クルーの命運を預かる身として、パトリキオスは正しく責務を果たした。 問題は現実だった。 なりふり構わず迎撃を開始した対空レーザーが次々と誘導弾を処理してゆく。カウントは素晴らしい速さで減少していった。6万が5万へと。 あと5万だ、畜生。パトリキオスは暗澹たる思いでディスプレイを見守る。 『電子戦機か?しかし、その可能性を持つ大型機は参加していない筈だ。そもそもこっちのセンサーが欺瞞される理由は何だ?なぜ敵がディアマンテの索敵方式を知っている?』 混乱の只中、戦闘艦橋のクルーたちは対処に追われ、ディスプレイの一角を占める映像を失念していた。 あの甲板の上にしがみ付き、仰角をかけていた砲が、その砲口を直接向けて、闇を充たしたような真円をこちらに見せた事を。 結論から言えばディアマンテのセンサーに誤情報を送り込んでいたのは、F-2から放たれた空対艦ミサイルに混じった飛翔体――実に半数にせまる数の電子戦用無人機だった。要は弾頭に炸薬の代わりにジャミング装置を仕込んだ簡潔なものだが、その全て、30発以上の飛翔体を誤情報込みで撃ち落とさねば、戦場に蔓延した電子の霧は晴れない。 強大ではあるが単艦であるディアマンテを逆手にとって目を塞ぎ、艦載機も時間稼ぎに巻き込んで母艦から切り離した。 全てはその一撃のために。 同刻、『いせ』の甲板上でにわかに動き回る人影が増える。 エレベーターが甲板まで競り上がり、格納庫から人間よりも大きな円筒状の物体が顔を見せた。何らかの圧をかけるシリンダーにも見える物体を、荷車に寝せて載せるや、海自隊員達が寄せ集まって人力で推し進める。 規格外で機械に頼れないのだろう、それでも結構な速度でもって甲板に鎮座した獅子王の横にまで持ってくると、砲から生えてるような腕がそれを迎えに来る。 といっても器用に引っ掴むのでなく、手の平を開いて甲板におろす。物体を荷車に括り付けていたチェーンを外して、隊員達が『せーの』と押してやると、手の平にすとんと収まった。 それもこれもハイパワーなロボットアームが物体を握り潰しかねないためだ。 直後に車体に張り付いていた別の隊員達が砲基部の装填装置のハッチを開くと、クレーン代わりの腕が物体を持ち上げてくる。そこから、また人力だ。間に合わせの鉄パイプをてこに、金属板を手で持って壁に仕立てて、巨大な手の平を伝って装填装置内に転がり込ませる。 なんというか、本当に21世紀かと疑いたくなる手段を経て、円筒状の物体は46センチ砲に詰め込まれた。最後の最後でようやく給弾装置が作動して装薬室に設置する。 海が荒れていたら全てがお仕舞いだったが、その日の太平洋は八百万の神々の加護を信じるくらいに穏やかだった。 「装填を確認!離れてください」 土岐虎二郎の声が外部スピーカーから流れると、隊員達はエレベーターへと走って戻る。乗せ終えるや昇降機は何かから逃れるように艦内へと下がっていった。 そこからの仕事はもう獅子王の中だけだ。虎二郎は手元のコンソールパネルに表示された海面の微細な揺れを数値化したものを睨みながら、新たに砲塔内で始まった準備の進捗にも目を光らせる。 「ルートサイクロン・チャンバーは正常、圧縮空間も安定…仮想砲塔、転張確認…砲撃プログラムは問題なし…海面の揺れ、誤差範囲内」 ダイガストに合体していない状態では、外界を映し出すものは操縦席の前に並ぶ多数の液晶モニターだけだ。その中の一つに、『いせ』の艦橋構造物の屋根部分に取り付けられたカメラが捉えたディアマンテの遠景がある。 そこが最も遠くを見通せる高所だった。映像には太刀風から送られてくる観測データも反映され、最適の標的情報が提示されている。 今もディアマンテは猛烈な対空砲火を張り巡らせており、誤情報を含めた全ての飛来物に向けて弾幕を向けていた。 あれに当てるのか。虎二郎はトリガーにかけた指が強張るのを感じた。 この作戦に参加した全ての人々の行動が、この一射のためにあった。 「…重いな、このトリガーは」 思わず呟いていた。 たとえば、あの『いせ』の艦長さんがここにいれば、かわりにトリガーを引いてくれたろうか。いや、ここで職務の違う事を頼んでも無礼にしかなるまい。今も『いせ』はたいした揺れもないまま、予定通りの砲撃位置を堅持していた。 数え切れないほどの予定外がおこる戦場で、予定通りを続ける事こそ、あの艦長の意地なのだろう。 だいたい考えてみれば、虎二郎の足元の席で鷹介はずっと、その操縦悍を握っているのだ。自分が彼と同い年だった頃はもう一回りも昔になるか。果たして自分はあの位の時に何を出来ていたのか。 「いや…」 脳裏に浮かぶのは故郷の空に翻る、見た事のない国の旗だった。 「あんなのは、もう御免だ」 決意を新たに。おりしもディスプレイの発射カウントはゼロを刻む。 ディアマンテの弾幕の只中へと二種の対艦ミサイル群が殺到する。濃密な対空レーザーの嵐は偶発的に多数のミサイルを撃破したが、海面ギリギリを直進する本来の対艦ミサイルの軌道をとった一団は、損耗の少ないままディアマンテの脾腹に突き立った。 爆風は航宙デフレクターに次々と負荷を与え、何の対策もなしに流星群に突っ込んだような、設計の想定外な被害を現出させる。 炎で出来た真紅の華が咲き乱れ、沸騰するかのように荒れる海面が800メーターもの巨体を震わせた。だが、それもほんの僅かの事。 飽和攻撃の絶頂は出し抜けに訪れ、そして波が引くように終わる。 「耐えたか…!」 靴底に感じる揺れが収まってゆく中、副官が呟いた。 反撃を進言しようと彼が口を開きかけた、まさにその時、これまでとは比べものにならない振動とともに、戦闘艦橋が暗闇の中に落ちた。 すぐに非常用の赤色灯が点き、再起動した戦術情報ディスプレイに状況が羅列される。 そこには想像を絶する被害報告が含まれていた。 ディアマンテの甲板が艦の三分の一ほど前方部分の、その内側から爆ぜた。 巨大な炎の柱が破孔を出口と突き立ち、艦の構造材を空へと放り上げる。 その被害と比べれば目立たないが、艦首にも小さな――あくまで巨体に対してだが――黒点が穿たれていた。何かがそこから進入し、艦の内部を衝撃とともに破壊しながら突き進み、その運動エネルギーの尽きたところで爆発したに違いない。 虚実を織り交ぜた誘導弾の飽和攻撃で弱められたデフレクターシールドは、その何かを止め切れなかったのだ。 何か、とは水平射撃で撃ち込まれた46センチ砲弾だった。何らかの方法により、あの巨大な爆発物をディアマンテへと捩じ込んだのだ。 現に平甲板の艦とディアマンテとを一本の航跡のような痕が結んでいる。凄まじい空気の塊が海面に刻んだものだった。 何が起こったのか、それは。 「うむ、さすがディメンジョン・ルートサイクロン機構。吸引力の弱まらない惑星改造掃除機の中枢だけはある」 今回初登場の大江戸博士は四角い顔を喜色満面にしてディスプレイの向こうでふんぞり返っていた。 「装置に穴を開け、圧縮された空間を決壊させる。空間が元に戻ろうとする作用を砲塔内を使って指向・誘導し、火薬では成し得ない威力で砲弾を放り込む…時々、自分の天才が恐ろしくなるな」 「おかげで貴重なルートサイクロン機構と砲塔一本がお釈迦ですがね」 「なぁに、まだ想定内だ。砲身は『やまと』の二番砲塔からあと二本失敬しているし、空間圧縮装置もこれで最後ってわけじゃない。余裕は無いがな…人的損害を減らせるなら御の字だ」 それは安っぽいヒューマニズムでなく、将兵の経験を培った時間と金は引き換えに出来ないという現実的な意味である。 「今回の件で『地球防衛戦線』の情報が信用に値する事も理解されただろう。これで…」 と既に勝った気でいる大江戸博士の通信に、切羽詰った声で鷹介が割り込んでくる。 「『足つき』の連中、まだやる気だ!」 博士と虎二郎の顔が引きつった。 同じ頃、ディアマンテの戦闘艦橋でも副長が顔を引きつらせていた。彼の前にはその原因であるパトリキオスが腕を組み、不動の構えを見せている。 「この程度の損害で本艦は沈まない。メテオールも戦闘能力を残している。であるなら、だ。我々はまだ勝負を投げるわけにはゆかない…そうだろう、諸君?」 部下達の挙げてくる報告はおよそ目を覆わんばかりだった。 艦体前方部分は砲弾が突き通ったために衝撃で電路のそこかしこが破断し、レーザー偏光器の三割が電源を失って沈黙していた。 上甲板の下にはメテオールの格納庫があり、よりにもよって砲弾はそこで爆発している。空間を炎と衝撃が充たし、多数の整備士が炭素の塊に変わっていた。 大破と言って良かった。 だが、だからこそ退けなかった。この損害では暫く限定戦争に参加できないのだ。 ならばここが踏ん張り時だろう。戦闘艦橋の中、パトリキオスだけがそこまでの被害勘定を終えていた。 「惜しかったよ、ジエイタイの諸君。しかし並の軍隊からいざ知らず、宇宙が相手であるセランの船乗りの諦めの悪さは、銀河帝国圏でも随一だ。さぁ、ここからは…」 「…我慢比べだな」 F-2攻撃隊の飛行隊長は国際緊急回線に呟いた。 「我々は305飛行隊と合流し、敵艦載機をたたく。君はどうする?」 「いきます」 鷹介は即答する。 「編隊飛行は未だやっていませんから、単独で一撃離脱につとめます。皆さんはそこを…」 「ひよっこめ、言うじゃないか」 飛行隊長の声は笑っていた。直前の鷹介の言葉には、自分の素性を明かすに近い情報が含まれていた。 「どういう経緯か知らないが、編隊飛行もまだやってないなら松島基地に来いよ。俺たちが揉んでやる」 「あ…」 鷹介は迂闊な事を口走ったと理解したが、何も答えず、ただ機体を左右に傾けた。こういう時の翼を振るような動作はパイロット達にとって共通の、およそ好意的なジェスチャーだった。 そしてスロットルレバーをメカニカルロックまで押し込み、飛行機雲が激しく交差する空戦の渦中に全速で飛び込んでゆく。 対艦任務のみと思われていたF-2の対空戦闘への参戦はメテオール隊を浮き足立たせた。その隙に305飛行隊のイーグル達は残存機で二機編隊を組みなおし、性能で勝る足付き全翼機に二対一であたる体制に移行する。 幾度か爆炎があがったが、その後、戦闘は急速に泥沼化していった。それは空自の寮翼による連携がメテオールを封じ込んだ、という意味合いの方が強かった。 第二次駿河沖海戦の結果はドローとなった。 セラン諸惑星連合が粘り続ければ自衛隊機の残燃料や、護衛艦に戦闘を決する力が無いといった諸問題から、日本側が押し切られる事は想像に難くなかったのだが、銀河列強市民はそうは思わなかった。 泥縄の競り合いに飽きた視聴者がチャンネルを変えたため、GBCの視聴率が落ち込んでゆく段になり、停戦となったのだ。 ごく低速で海面スレスレを飛行するディアマンテの甲板に立ったパトリキオスの表情は重い。 足元に広がる巨大な破孔には飛び込んだ海水が溜まり始め、持ち込んだポンプでもって排水が始まっている。と同時に整備士の炭化した遺体の回収作業も始まっていたが、海水にもまれて誰の物か判らない破片探しになっていた。この有様ではメテオールも着艦できず、今も各々がオガサワラまで自力飛行している。 これだけの被害を出そうと、視聴者とかいう顔の見えない連中に軍の進退まで決せられねばならないのか。GBCはシビリアンコントロールの極致とか放言を繰り返しているが、文民統制とは本来軍人のアドバイスを受けて文民が決定を下すという原則だったはずだ。ならばこんなものは戦争ではない、プロフェッショナルのいない、ただの野蛮なショーではないか。 しかし今は我慢の時だった。パトリキオスは奥歯を噛み締める。 こんな馬鹿げた世情に抗うために、わざわざ銀河帝国の勢力圏でもない辺境にまで赴いているのだ。 リゾート惑星とは比べるべくも無い島を奪ってまで。 「実にもならない植民地経営などに興味は無い。俺たちが望むものは…」 パトリキオスの視線の先には、茫洋とした太平洋が広がっていた。 同じ頃、海堂一佐もまた甲板に立ち、太平洋に向けて黙祷を捧げていた。 『やまと』と運命を共にした同期や乗組員達が見守ってくれていたのか、海自の戦隊に被害はなかった。しかし矢面に立った空自の損害はかなりに昇っている。一足先に本土に帰ってゆくのを見送ったが、その数は行きの半分というところだ。 平時に行われていた毎年数機づつの調達では、この損害には対応しきれまい。いや、そもそもパイロットをどうするのか。このままでは早晩、我々は組織立った戦力を喪失してしまう。 あるいは。 海堂は『いせ』の甲板におさまる巨大な戦車に眼を向ける。 今回は彼らからの申し出で、この荒唐無稽な作戦が実現した。 飽和攻撃の先鋒となった空自の電子戦兵器も、敵方の索敵方法という情報の要は、大江戸先進科学研究所経由で『地球防衛戦線』を名乗るNPOから得たものだという。 異星人の来寇という軍事常識では図れない状況――当たり前だ――のなか、何かが、誰かが、対抗を始めている。大江戸先進科学研究所が第3セクターである事を考えてみれば、差配しているのは防衛省とは別の省という事か。 であるなら、現場である我々ももっと有機的に連携は取れないものか。さしあたっては、 「どうですか、按配は?」 海堂は既視感を覚えながら、獅子王とか言う巨大戦車から出てきた、今にも怪獣と戦いそうな格好をしている男性に声をかけた。 男性が被っているヘルメットは、目から上が黒いバイザーに覆われていて素顔がわからない。が、その口元だけは弛みが確認できて、彼が自分と同じように何らかの満足を覚えている事が伺えた。 「戻ったら早速、各部のチェックですよ。こう見えても精密機械なもので」 「それは『いせ』も同じですな」 海堂は声には出さなかったが、獅子王の重量で甲板に押し付けられた履帯のへこみは、修理を要する類のものだった。これが今回唯一の海自の損害と考えると泣けてくる。 「しばらくは磯子のドックで宿舎生活ですよ。勝敗の如何に関わらず、戦力は消耗してしまう…アメリカさんにしても、EU、ロシアにしても、予備役や予備機をフルに使いまわしているのが現状です…正直なところ、あなた方のような我々の常識の埒外の方たちの力をあてにせざるを得ない…」 「任せてください」 奇しくもそれは虎二郎が数日前に海堂に聞かせた台詞と同じであった。海堂は既視感が確定に変わり、目を見張った後、にやりと笑みを見せた。 「ただ…」虎二郎は続ける。「自分たちのような存在は、常に必要というわけでは無いでしょう。洋上給油みたいな国際協調はダイガストでは無理ですから…それに、おそらく、船団護衛は近々必要になります」 「通商破壊が行われると?…いや、地球人以外が海賊行為をはたらくという事も有り得るのか…それに、スエズやマラッカを奪って、通行料をとる様な列強が現れないとも限らない、か」 「はい。銀河列強との戦争がどれほど荒唐無稽であっても、通常兵力は必須なんです。敵も、兵力の根幹は同じ人類なのですから」 「星は違えど、考えることは同じか…我々の悪夢は終わらないわけですな」 「自分の子供に見せるよりはマシですよ」 「確かに…」 海堂は小さくため息をついた。婚期の遅かった彼がさずかった長男は、来年には防大を受験するといっている。こんな時勢にと翻意を促したが、自分が自衛隊を辞めるなら、と生意気を言われた。胸が熱くなった。 「…なかなか家に帰れない父親ですがね」 海堂は自虐的に言ったものだ。 それを聞いて虎二郎は口元を綻ばせた。 「なぁに、放っておいたって無責任なマスコミがニュースのネタにしますよ。艦長さんの顔も出るんじゃないですか?」 「出ますかね。ああ、どんな見出しにされる事やら」 「惜敗とか…もしかしたら大損害とか?」 「うちの子供たちはもうニュースを自分で解釈できる歳ですから、まぁ、察してくれるでしょう。見せるなら大勝ちしている背中にしたいものですがね」 海堂の頬に淡く、苦いものが浮かんだ。 列強を相手取った海上交通路防衛。思わぬところで耳にしたものだが、眼前の限定戦争で手一杯の今、果たして自分達はそれに対応し切れるのか。 そもそも闘争から目を背け、耳を塞いでしまった日本人という民族が、それに耐えられるのだろうか。 彼らの頭上を太刀風が旋回し、日本に向けて帰ってゆく。残余燃料の限界が近づき、墜落機からの脱出者の捜索を断念しての事だった。 捜索対象の中にはF-2攻撃隊の飛行隊長も含まれていた。
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第十三話 爆進!深海の暴君 侵略地上げ獣『宇宙大帝グソクムシ』登場 ダイガストが宇宙大帝グソクムシの周囲を走ると、その数瞬前の位置を紫の光条が追いかけ、続けて閃光が撃ち据える。閃光が放たれるたび、大気を引き裂く轟音が響き渡り、原野の土や木々を引き裂いて跳ね上げる。 放電のようだが、直前の紫のサーチライトのような光は何だろう。虎二郎は眼下の光景に手出し出来ない事に何ともいえない焦燥を感じつつ、今はコクピットにいない事を意識しないよう、気を取り直す。 何の巡り会わせか、虎二郎はモンタルチーノと対峙していた。遠足参加の親子たちは下山するか、遠巻きにダイガストの行動を見物するか、はたまた率先して空き地の宇宙ヤクザと揉み合いになるかに分かれている。虎二郎は東から優希を託されているので、おいそれと下山組に混じれなかったし、鷹介一人に地上げ獣を任せる気もなかった。どこで通信を入れたものかと思案していると、 「火、ないですかね」 と、ホイホイ現れたのがモンタルチーノ本人だった。先ほどダイガストの登場に驚いて取り落とした葉巻の火が消えてしまい、それをみみっちくも拾い上げて土を払って、さて改めて火をと思ったら、火種を持たせていた若頭が若い衆の加勢に行ってしまった。そこで周囲を見渡して、近くにいた現地人に声をかけた次第だった。 「いや、子供が出来てから、タバコは止めているので…」 虎二郎はモンタルチーノの真意を測りかね、やや上ずった声を出していた。 まさかダイガストのパイロットである事を見越しての接触か。思わず虎二郎は少し離れたところで巨大ロボットと巨大甲虫の取り組みを応援している息子と東の娘に視線を泳がせる。幸い、子供たちの近くに宇宙ヤクザの姿は無い。 では、偶然か。虎二郎の疑りを嘲笑うように、モンタルチーノはさも情けない声で落胆した。 「そやな、子供いたら、こんなもん百害あって一利なしやな」 「…すみません」 「ああ、あんさんが謝る事やあらへんよ。むしろ立派に親やってますやん」 宇宙の悪党だというのに、何だろうこの違和感。虎二郎は微妙な居心地の悪さを感じつつ、この地球人離れした、というより三次元離れした模範的すぎる脂ぎった中年男に質問をしてみる。 「親と言うのなら、この有様にも説明が欲しいのですが。せっかくの遠足が散々だ。怪獣は論外にしても、それよりも、あんな明らかな地球外のゴミを投棄して…廃液が垂れ流しじゃないですか。地下に流れ込んだら、汚染された地下水が山を下って平地の下に広がってしまう。農業用水や飲用水に使ってる人もいるってのに、あんたらは何がしたいんだ?」 「何がしたいと訊かれれば、お仕事がしたいだけやね」 モンタルチーノは悪びれる素振りも無く答えたもので、聞いていた虎二郎は血液が沸点に近づくのを感じた。 「環境を破壊することが仕事だとでも?」 「いやいや、、破壊したいのはあんさん達の常識やね。汚染された水源地なら、いっそ山ごと掘り返しましょ。跡にはどでかい更地が出来るんやで。そこに何こさえよか?マンション、ショッピングモール、それとも宇宙港?」 「馬鹿な!複雑な地下水流動を無視すれば砂漠化が始まるぞ。それに失われる山の生態系や保水機能は?」 「超銀河ゼネコンは惑星レヴェルで耕作地を作るような真似も出来るんやで。治水にゃ心配は要らへんけど、それでも気になる言うなら現地法人と行政に頼み込んで、監視組織でも作りゃあ良え。生態系は、知らん。ここ、金になるような希少生物、おるんか?惑星環境に影響を及ぼす生物がおるん?」 「生態系はそういう問題じゃないでしょう!それに監視組織って、ただでさえ出費を嫌がる企業に加えて、お役所からお金が出てると聞くだけで文句をつけに来る人がいるんだよ、この国には」 「文句をつけに来て、それで適正な運用の監視とか言ってポストを要求してくるんやね、わかります。どこの星にも小ずるい奴がいるもんやね。そういう時こそ、ワシらモンタルチーノ商会やで。超銀河ゼネコンの下請けに現地法人の採用とか、厄介な折衝、プロ市民対策、開発計画まで、任せて!安心!モンタルチーノ商会!宇宙時代のスタンダードやで」 「完全にあんたらに牛耳られてるじゃないかっ!?」 「それじゃ現地にビタ一文も金を落とさん銀河投機家の差配を待ちまっか?それとも管理経済と思想統制の果てに皆で貧しくなって、最小不幸とか開き直る銀河共産主義の国にでも組み込まれるのがお好みで?」 「そりゃ極論に過ぎるだろう!」 「そやね、確かに極論や。でも、それだけに行動につなげるのは速いで。『時は金なり』だっけか?どこの星にも似たような言葉はあるもんやな。わし、そういうの大好き」 蛙の面に何とやら。モンタルチーノの場合は外見も水生生物じみているので、まさに文字通りである。 しかも本来なら技術屋である虎二郎にとって、技術の発展を全面的に肯定するモンタルチーノの姿勢は、ともすれば自分の立場に近いのではないかという錯覚さえ感じてくる。 『あれ?俺の方が間違ってるのか?もっと大々的に銀河列強から技術を導入して、効率を求めたら、みんな幸せになれるんじゃないか?』 それは基礎理論を放棄した地に足が着いていない思考であって、現に困惑する虎二郎は足もとが揺らぐようなイメージを感じていた。 東三佐とモンタルチーノ商会若頭は額も触れ合わん距離で硬直状態に陥っていた。掲げた両手が互いの手の平同士と組み合い、プロレスのような格好で力比べが始まって久しい。ただ、必死の形相の東と比べ、若頭の顔には幾分余裕があった。 「さっきは子分たちが世話になった。だが、こっちにも面子があってな」 そう言って腕の力を強め、東を捻じ伏せにかかる。 東は肩が悲鳴をあげるのに耐え、絞るように抗いの声をあげる。 「知った事か、侵略者どもめ。東北で武器を売りさばいたのもお前らだろう!」 「それこそ知った事か。この辺境惑星に一体どれだけの星間国家と、星間組織が介入していると思っているんだ?」 「無責任なッ!」 「持つかよ!いちいちッ、こんな辺境にッ!」 若頭が圧し掛かるように力を込め、東の腰が砕けかける。東は瞬時その力に抗おうと踏ん張るが、直ぐに逆に力を抜いて自分から後背に倒れ込む。若頭の腹に片足をかけて。 勢い込んだ若頭は自分の力でもって、見事な巴投げを決められていた。半回転して受け身も取れずに背中から落っこちる。背中から肺にかけてが鉛に置き換わったような、嫌な息苦しさに顔をしかめながらも、直ぐに立ち上がってファイティングポーズをとる。 若頭が脇を締めて胸の高さで拳を並べて構えると、東も左半身を前にした左構えの徒手格闘の構えをとっていた。巴投げのダメージより回復する暇を与えず、左の肘から先を最小の動作で突き出す。 若頭がそれを拳で打ち払うと、続けざまに右のフックが音も無く視界の隅から飛んできたので、上半身をかがめて拳の下を潜り抜けながら東へと肉薄した。下がった上体の腹に膝蹴りが突き刺さったのは、この時だった。衝撃に若頭の動きが鈍り、東はコンビネーションのシメに右の肘を容赦なく首裏に突き落とした。 「ぐっ!?」 しかし苦悶の声を上げたのは東の方であった。戦車の装甲に肘をぶつけた時のような、鈍く、重い痛みが右腕の中を駆け巡っていた。 「残念だったな、そこは昔折られてから特殊鋼に変えてあるのさ」 堅気どころか生身じゃなかったわけだが、東がその言葉の具体的な意味を理解するより早く、若頭は彼の背後に回り込んで丸太のような腕でもって裸締めを仕掛けた。東は咄嗟に頸動脈と腕の間に指を挿み入れて失神を回避するが、この状況を打開する妙策がある訳でもない。指ごと首が締めあげられ、失神までの間に痛みが増すだけだった。 「さぁ、向こうもそろそろ終わるんじゃないか?」 若頭の声が息苦しさに朦朧とした東の頭に響く。視界の隅でダイガストが球体になった化け物ダンゴムシの体当たりを受けて派手に転倒するのが見えた。 鷹介はダイガストを立ち上がらせると、そこから横跳びで離脱する。直後に紫の光条と放電とが、誰もいなくなった空間を満たした。 足を止めれば放電が襲ってくる。かと言って、機敏で無いところに着け入って背後を取れば、こいつは体を丸めて転がりだそうとする。鷹介としては市街地に出したくないので、機体を壁にして止めざるを得なかった。それが最前から続く対峙の推移である。 ギャラクシー・コーカサス・オオカブトのように始終接戦を強いられる訳ではないが、こっちはこっちで攻め手に欠ける。そこに単独戦闘のせいで標的の解析が進まず、情報不足のままであるという事実が拍車をかけていた。 「んなろっ!」 鷹介は半ば逆切れ気味に宇宙大帝グソクムシに殴打の応酬を浴びせるが、これがまた利いている様子がサッパリ無い。巨大カブトムシと同様に、分厚い甲殻を維持する筋肉が衝撃を緩和しているのだろう。鷹介は知らないが、まして今回は本来なら深海の水圧に耐えている生物であるからして、尚の事頑丈さには定評があった。 再度距離を取りつつ、コンソールパネルの余剰エネルギーのバーにちらりと目を落とすと、意に反して殆ど伸びていない。普段なら虎二郎が微細な出力調整を行って余剰のエネルギーを溜め、グラビティ・スプラッシャーや輝鋼剣といった超兵器を使用するエネルギーを賄う筈が、コンピューター任せの制御ではダイガストを動かすのが手一杯だった。 結局のところ列強――の特異な戦争形態――に伍するというダイガストという触れ込みは、熟練搭乗者無しには考えられないのが現状だった。まして搭乗者も素性を知らない主機である事象転換炉の事まで考慮に入れるなら、工業製品としてのダイガストは甚だ不適格な代物である。 では列強への反撃の一手となるような生産性と簡便性に優れた工業製品とは何なのかと問われると、これはもう大江戸博士や防衛省技術研究本部の人たちに頭を捻って貰う他ない。極論すればダイガストとは『その時』が来るまでの時間を稼ぐ存在であるからして、むしろ今回のような地方自治体を脅かす悪党への掣肘こそ使命であると言える。 詰まる所、風見鷹介は泣こうが喚こうが、雨が降ろうが槍が降ろうが、いずれの組織の急先鋒となって戦って、戦って、戦いぬく、徹頭徹尾素敵な定めにある訳だ。『正義のスーパーロボット』として。 「表面からはダメージが通っていないようだ…それなら」 鷹介は現状の困難さに軽い疲労感を覚えつつ、機を横方向に小さく跳躍させ、巨大甲殻類の側方に再び回り込む。着地と同時に左腰のアンカーを発射すると横方向に弧を描いて飛んで、節くれ立った足の一本に引っ掛けた。その足めがけてダイガストは踏み込んだ速度そのままに拳を叩きつける。 まさに茹で蟹の甲殻を割るような快音をさせ、叩き折れた節足が宙を舞った。 「よし、このまま全ての足を叩き折ってやる」 まるで昭和のヒーローのような事を口走る鷹介だったが、良い事なのか悪い事なのか、残虐シーンの垂れ流しは始まらなかった。巨大甲殻類が速くも体を丸め、足を使わない移動方法を選択したからだ。 さらに球体になった甲殻の間から白色のガスが噴射を始める。ガスに触れた地表は見る間に白く結氷し、土壌中の水分が霜柱に変化して土を盛り上げた。続いて先ほどから発射していた放電と同じ現象を、今度は冷えた外殻に沿って走らせれば、 「くそ、こいつは見ただけで判るぞ…」 鷹介の引きつった頬を冷や汗が伝う。 超低温により電気伝導の効率が撥ね上がった地表と甲殻とに電気がはしり、磁気浮上効果によって甲殻類の巨体が僅かに地表から浮き上がった。そこで回転を始めれば、凄まじいスピードの空回りになる。その様たるや、まるで稲妻をまとった黒い竜巻――縦回転だが――だ。 そして鷹介の悪い予感の通り、黒い竜巻は存分に稼いだ運動エネルギーをそのままに、ダイガストに向かって発射された。 大質量の金属塊が巨大な衝撃にもんどり打って倒れ込む轟音が山間に響く。甲高い音の後、重い音がまるで雷鳴のように殷々と響いた。 フレームにまで達したかと勘繰る嫌な音に、虎二郎はハッとなる。 続けざまに東優希の悲痛な『おとーさん!』との叫び声が耳に飛び込んできた。見れば東がごつい黒服に裸締めを仕掛けられている。矢継ぎ早に悪化する状況に、今更のようにダイガストの出動は浅慮だったかと後悔の念が過ぎる。 実際のところ土岐虎二郎は、仕事と親の二つの顔を同時にこなさねばならぬ現状に、困惑していた。 鷹介に通信の一つも入れてやりたいし、東の加勢にも行きたい。しかし宇宙ヤクザどもの目もあるし、虎太郎や優希を巻き込むなど持っての外だ。 優先順位の付け方に惑う彼を正気に帰したのは、息子の些か苛立った声だった。 「父さんっ!ダイガストが負けちゃうよ!」 「う!…む…」 更に焦る虎二郎をよそに、モンタルチーノは我が意を得たりとばかりに、虎太郎の言に飛びついた。 「ボン、もうじき決着付きそうやで。いよいよダイガストも終いかも知れんね。そしたら、おっちゃん達がこの山を、でっかいショッピングモールと団地に変えたるさかいな。この辺は宇宙の技術で、見違えるくらいに便利になるでぇ。どや、嬉しいやろ?」 いわゆるドヤ顔で自説を展開するモンタルチーノだったが、対する少年は想定外に残念そうな顔をした。 「この山がなくなったら、カブトムシ捕れなくなっちゃうよ」 「そんなのショッピングモールで買うたら良えねん」 「おじさん、自分の手で捕らなきゃ意味無いんだよ」 息子の何気ない言葉――しかし子供にとっては一大事だろう――は、虎二郎の心を電撃のように走り抜けた。おうた子に教えられる、とは良く言ったものだ。 自分の手で。自分の意思で。自分の力で。もちろん、時には介添えも必要だろう。しかし最後は、或いは最初に決めるべきは自分自身であり、それは父子の間でも、この早すぎる文明同士の邂逅でも、同じ事が言える筈だ。 虎二郎はそれを思い出させてくれた息子の頭に、誇らしげに手を乗せると 「それじゃ、こちらも用が在りますので」 そう言って形ばかりの会釈をして、モンタルチーノに背を向けた。 モンタルチーノも虎太郎の言葉に痛いところがあったのか、苦笑いしながら火の消えた葉巻をスパスパしていた。 「虎太郎、この通信機の使い方は憶えてるな。これでお前が知っている宇宙大帝グソクムシのことを鷹介に教えてやるんだ。俺はひとっ走り、優希ちゃんのお父さんに加勢して来るからな」 虎二郎は土岐家公然の秘密であるところのダイガストの事を息子に託し、その声援を背に受けながら駆け出した。涙目の優希の横を一陣の風となって駆け抜け、その威勢のまま、 「加勢、御無礼!」 黒服の若頭の脇腹に、存分に速度を乗せた爪先でもって蹴り込む。 防備もへったくそも無い所を蹴られた若頭は、衝撃に吹き飛ばされて体をくの字にして悶絶した。開放された東も首筋を摩り摩り、新鮮な空気を呷る様に吸い込んでいる。 それでも先に立ち上がったのは若頭であったのは流石と言うべきか。 「素人が!トンでもないところ蹴りやがって!肋骨が折れて肺にでも刺さったらどうしてくれる!」 「意外に元気だな。しかし、どうもこうも…」 虎二郎も若頭のタフさに呆れつつ、開放された父の姿に泣き笑いを見せる優希にちらりと目をやり、 「知ってるか?対バイオロン法だと子供の夢を奪い、心を傷つけた罪は特に思いらしいぞ?」 「バイオロンに裁判権が無いだろうが、その欠陥法律!そもそも俺は部分的サイボーグで、全身義体じゃ無い!大体、なんで俺がサイボーグな事をお前が知っている!?」 「まぁ、おたく等が出張ってる時点でギャグ回だからな、この話」 「メタるのも大概にしろよ、こん畜生」 メタルと聞けば君の人生は輝いているか、とか思わず口にしたくなった東だったが、止めておくのも大人の分別だ。それに、ほんの寸劇でも、茶番のお陰で体力を回復できた。立ち上がると思いのほか足に力が戻っている。 「感謝します、土岐さん。あとはこちらで」 「いけますか?」 「やれますよ…自衛官ですから」 東は今度はすんなりとその言葉を口に出来ていた。 「鷹介兄ちゃん!」 ヘッドセットから聞こえてきた虎太郎の声に、鷹介は大そう驚かされた。 「虎太郎君か!?」 「父さんの代わりにボクが教えるね!そいつは宇宙大帝グソクムシ。海洋惑星の海底に住んでる巨大生物だよ。外殻は深海の水圧に耐える強靭な構造を持ってるから、生半可な攻撃は効かないよ。目は深海で餌を探すために蛍光灯のような発光器官を備えていて、フィルターをかけると紫外線照射器官に変わるんだって。それで紫外線の放射によってくうきをいおんかさせて…えーと…」 虎太郎は銀河最強甲虫DVDの受け売りが限界に達し、理解しきれない用語に発言が覚束無くなってきた。鷹介はそれに何とも云えない可笑しさを覚えつつ、 「なるほど、紫外線レーザーによって空気をイオン化させ、減衰の少ない電撃の通り道を作っているってわけだな。解ったよ」 「うん、それ!それと海底のねっすいふんしゅつこー(熱水噴出孔)でも活動できるように体の中に冷却ガスを持ってるんだ。地上に上がると、このガスで土と自分を冷やして、電気の力で浮き上がるんだって。その時に回転すると、摩擦が少ないから何キロ先にも飛んでゆく速度を得られるらしいよ。環境が激変したら、そうやって遠くに移動するんだって」 うん、今しがた食らって確かめた。鷹介の目の前のディスプレイには、機体の異常を告げるレッドアラートが乱舞していた。 熱水噴出孔は地下の鉱物を含む水を噴出すこともあるため、宇宙大帝グソクムシはそのような金属を摂取して強靭な体殻を作るのではなかろうか。そんな仮説に思い至りもしたが、生命の神秘という現実逃避をするのも、この場合は致命に至りそうだったので止める。 それよりも、どうやってこいつを退けるかが問題なのだ。 「虎太郎君、それで宇宙大帝グソクムシの弱点はないのか?スペシウムを叩き込めば倒せる袋みたいな」 「そんなあからさまな弱点があったら真っ先に教えてるよぅ。全身が水圧に耐えるちょーこーみつど(超高密度)の甲殻だから、輝鋼剣みたいなぶんしけつごー(分子結合)ごと斬れる武器は有効だと思うけど…あとは体は頑丈でもあくまで水の中の生き物だから、今みたいに水の上にいると、水中よりは重たく感じてるかも!」 その輝鋼剣が使えないんだがなぁ。鷹介は子供相手に大江戸博士に向けるような文句を言うわけにもゆかず、結局は不確定な予測を元に宇宙大帝グソクムシの側方へとまたぞろ回りこみ、最前と同じように周囲をグルグル回るという形に落ち着いた。 参考までにコクピットシートの前にある複合情報ディスプレイ――前面大型モニターではない――にチラリと目を落とせば、絶望的なまでに余剰エネルギーのバーは上昇していなかった。輝鋼剣はおろか、このままではグラビティ・スプラッシャーも使用できない。 一方で火器管制装置はディスプレイ上に信号を送り、幾つかの項目に点灯させて主人に訴えかけてきている。 30mm Rail Gun : Ready AAM-4/C : Empty 460mm Cannon : Ready そういや『ヤマト砲』を照準装置の標定のために持ってきていたっけ。こいつなら、あるいは。微かな期待をこめて目の隅に映る数値を読み上げると、砲弾はあってもそれを飛ばす装薬を僅かばかりしか持ってきていないと判った。 戦艦の主砲弾というのは超重量のため、弾頭と装薬が別個にされているのが常だ。これは機械によるサポートはあっても装填作業自体は人間が行うからであり、人力作業で解決できる量に限りがあるからだ。ダイガストのヤマト砲も同様の――さすがに近代化改修により殆ど自動化されているが――システムを主砲弾ごと流用しているため、使っている道具は同じであった。 なお現代の艦載砲は小型化が進んでおり、弾頭と装薬が一体式になった薬莢式に変わっている。…が、これを弾庫や、主砲の自動装填装置に詰める作業はやはり人力であり、筆者が話した現役自衛官さんによると『最近の若いのはこれが嫌で辞める』との世知辛いお話を聞いた。 まぁともかく、このままでは46センチ砲弾を最大威力で飛ばす事は出来ないわけだ。…戦艦の砲撃が最大威力を発揮するのは、山なりの軌道を描いた砲弾が標的に対して垂直に突き立つ時であり、ダイガストのように水平射撃に用いるのは想定外であるのだが。 『山なり…軌道…待てよ?』 悲観に天を仰ぎかけた鷹介だったが、ふとした閃きが彼の戦意の底割れを踏み止まらせた。即座に上空の大鳳を呼び出し、 「権藤さん!この辺りの空のフライトプランを調べてください!それと最新の気象情報をこっちにも!」 「よしきた!」 権藤は詳細は求めず、直ぐに鷹介の要請に応えるために、大鳳のセントラルコンピューターに記録されている周辺空域の民間機と軍用機のフライトプランに目を通す。それはいち民間機である大鳳には知りえない情報も含まれるのだが、とかく国防に関する仕事にも就くため、国場総理の肝いりでフライトプランや航路に関する裁量と、その判断を下す情報に触れる権限が与えられていた。 その間に鷹介はダイガストを宇宙大帝グソクムシの側面から飛び出させ、正面から顔面に組み付かせる。 「虎太郎君、こいつの紫外線レーザー照射器官ってのは…」 「複眼を覆ってる黒いフィルターだよ!」 「諒解!」 照準レティクルを調整し、前面モニターにでかでかと映るバグ・アイド・モンスター(複眼の化け物)の、黒々とした目に合わせてトリガーボタンを押し込む。 ダイガストの胸部下方面の装甲、左右二箇所が展開して銃口が露になる。冷却用液体水素が周囲を白く染め始めるや、電磁パルスを伴う影がそれを引き裂いた。左右の銃口が交互に二発づつ、青白い閃光をほとばしらせる。その時間は1秒を幾つにも割った、ほんの僅かな時間に過ぎない。 発射された30mmレールガンの弾はあやまたず、宇宙大帝グソクムシの双眸を覆う黒いフィルターを破砕した。仰け反る巨大甲殻類は苦し紛れに紫外線の道を作ろうとするが、フィルターを通さない光は蛍光灯の暖光程度で、昼の太陽の輝きには到底及ばない。そして放電能力の威力が失われたと察するや、直ぐにもう一つの武器である磁気浮上回転攻撃のために体を丸め始める。 あれをまた食らうのは拙い。鷹介は血相変えて、宇宙大帝グソクムシの図太い足の一本をダイガストの脇に手挟み、球体の内側に引き込ませないように踏ん張った。更に外殻と外殻の隙間に照準を合わせ、 「ライアット・クローラーっ!間に合えぇっ!!」 肩部装甲を変形させた射突板を楔代わりに打ち込んだ。金属と金属が軋りあう嫌な音が山間の空気を震わせる。 宇宙大帝グソクムシはダイガストを振りほどこうと身をよじり、手当たり次第に冷却ガスの噴霧と放電を繰り返した。至近距離でせめぎ合う両者の動きは、その一挙手一投足が地を揺らし、次々と立ち上る閃光や掃いた様な白色の結露とあいまって、この世ならざる光景を現出させていた。 だが、擬似的な神話の闘いもその終りが近づく。 鷹介の耳に権藤の自身ありげな声が届いた。 「ダイガスト、こちら大鳳。向こう10分間、この辺のフライトプランは無い。それと気象情報と大鳳からの光学測距データをそっちとリンクさせた」 「諒解、ありがたいです」 大鳳からの光学データは権藤の思い付きだろう。ベテランの機転が有り難かった。 鷹介はコクピットシート前の多目的情報パネルに指先で触れ、精密射撃プログラムを呼び出す。同時にトリガーボタンから両腰のアンカーを発射させると、二本の飛錨は宇宙大帝グソクムシの巨体をぐるりと回ってから、大地に突き立って固定させる。 続けてダイガストの後背部の空間が水面の様に波立ち、圧縮させた場の中に格納されていた巨砲を呼び出した。 しかし砲身長だけで23mを超えるヤマト砲である。今の両者が密着した状況では、どう考えても砲口を標的に向けて発砲するだけのクリアランスが無い。まして片腕は宇宙大帝グソクムシの足を引っ掴んで踏ん張っている有様だ。 では、どうするのか。その解として、鷹介はヤマト砲を地面でなくダイガストと平行に、つまり砲口を天に向けて構えさせた。 右手一本で体に添えるようにして立てた砲が描く砲撃の軌跡は、ダイガストの精密射撃プログラム内で絶えず計算を繰り返され、上空の風量・風向や、大鳳からの観測データも踏まえて、鷹介の目にはディスプレイ上で一本の線となって見えた。 すなわち、発砲地点と着弾地点が殆ど同じ。 「発射!」 砲口が紅蓮の華を咲かせる。それは装薬量の少なさから、いつもより慎ましいものになった。それでも赤熱した砲弾は天を駆け登り、発砲時に生じた運動エネルギーを徐々に位置エネルギーへと変換して、やがて地上を遥かにする高度でそのベクトルを失う。 1.4トンもの鉄塊が空中で静止した様に見えたが、それは直ぐに重力に引かれて下降し、高度という位置エネルギーを今度は下向きのベクトルへと変わった運動エネルギーに変換して、来た時と殆ど変わらない姿勢のまま、スピードだけは幾倍かに増して落下していった。 もちろん、それは途方も無い凶器だった。 鷹介の悪戦苦闘により何とかその場に縫い止められた宙帝王グソクムシの頭上に、一変、俄かに影が差したかと思うや、プラスチックに重量物を落としたような軽い炸裂音がした。あまりの運動エネルギーに、金属を含む分厚い甲殻も抗うべく無く、何とも頼りない音になったのだろう。宇宙帝王グソクムシの背の真ん中あたりに、比較的小さな穴が開いていた。 と、次の瞬間、巨大甲殻類の体内で遅延信管を発動させた46センチ砲弾が炸裂し、背の破孔から炎の柱となって立ち上る。焦熱と衝撃は甲殻内をひたすらに蹂躙し、外殻の繋ぎ目の所々から火の舌が覗いた。 ぽん、と最後に宇宙帝王グソクムシの口から黒煙が吹き出て、それきり、巨大生物の抵抗は無くなった。 外骨格は形こそ変えなかったが、その内側はもはや生物のそれでは無くなっている事だろう。 それでも残る偉容は、帝王と称されるに足るもののように、鷹介には思われるのだった。 「やられてもうたやないかーっ!あー、止めや、止めや!!帰るでー!」 モンタルチーノのやる気のない声が聞こえ、若頭は固めた拳を解いた。対する東は距離を離して構えたまま残心を崩さない。 し切り直しの後、幾度か拳を交えたが、決着は着かなかった。徒手空拳の腕前を機甲科の東に問うても詮無い事であるし、若頭も青森で『現地の若造に負けて』からは、往時の動きを取り戻すためにトレーニングを欠かしていない。それで地上げ獣が先に敗れてしまったのでは立つ瀬が無いのではあるが。 若頭はどちらかと言えば獣性を感じさせる笑みを浮かべると、 「やるもんだ。あんた、もし今の仕事が上手くいってないのなら、うちに来るといい」 「断る」 今の仕事が上手くいっていないのなら。そのくんだりが耳に痛いが、東は毅然と言い放つ。それは織り込み済みなのか、若頭はくるりと背を向けて手を振った。 「直ぐにとは言わない。だが、考えてもみろ。あのロボットがツルギスタンやセランを追っ払っても、銀河列強相手の国際化は止められない。この混沌の中で必要になるのは、金と力だ」 東は反論しなかった。見込みを付ける相手を間違えていると思うが、最後の捨て台詞には一考の余地があった。 水が引くように撤収を始める宇宙ヤクザを睨みつけるのを止め、東は構えを解くと、麓の荒れ野に佇立する巨大ロボットに眼をやる。最初は訳の判らないアマチュアのオモチャだと思っていたが、今やこの国の誰よりも宇宙の傍迷惑な来訪者と矛を交えているのは『彼等』だ。 『彼等』はいつまで、どこまで戦いを続けるのだろう。或いは、どんな形であれ、最後となるその時まで――夢想は唐突に腹に娘がしがみ付いてきた事で終わりとなった。心配をかけてしまったのだろう、頭を撫でてやる。 そういえば逃げた人達はどうしたろうか。先導していた曹長の携帯番号くらい確認しておけば良かったが。だが、こんな所で私闘まがいの事をしていたと、外部の人間に知られれば、それこそ厄介だ。『自衛官、白昼に宇宙ヤクザと乱闘』…明日の朝刊の三面は硬いだろう。 東はそそくさと闘争で乱れた衣服を正すと、早く此処から立ち去ろうと心に決める。 周囲を見渡すと土岐父子の姿も確認できた。さっそく優希が虎太郎に手を振るが、もう一方の手は東が握っており、父の心の平穏は保たれていた。 何やらとんだ遠足になってしまったが、子供達の中には純粋な憧れの目をあのロボットに向け、手に汗を握っているのだろう、小さな拳を作って歓声を上げている者までいた。充分なレクリエーションにはなったのかも知れない。 東は事此処に至り、ダイガストという存在とも向き合わねばならないと認識した。 認めた、と言うには胸の中が整理しきれていないだけだった。 背の低い下生えが風にそよぐ原野に、両刃の剣と方形の先が細まった凧型楯とが、並んで転がっていた。 何処の騎士が使ったものか。すわ、そこは欧州の古戦場であろうかと夢想してみれば、件の剣は切っ先から柄頭までが1000メーターもあり、それを使うとすれば生半な巨人では済まない事になる。というより、そのような巨大生物の生活基盤を支える生態系を考えるのなら、たぶんその星は低重力で全てが巨大というような、相対的な意味ではそのサイズが普通であって巨大とは言い切れない、そんなそもそも論的な問題が発生してしまう。 しかし件の剣については幸いにして、そんな『宇宙ヤバイ』的な話ではなかった。 それらは北海道の原野に降り立った帝政ツルギスタンの航宙船であり、彼等の前線基地であり、挙句に日本国に開かれた大使館であるとの強弁まで聞くに至ると、何か、もっと酷いものに思えてくるのではあるが。 段平の剣のような形の船はツルギスタンが誇る航宙戦闘母艦グロス・ツルギスタン級の一隻、ウンエントリヒであり、楯型の建造物は外征旅団が外地で活動する上での居住・生産・整備等の施設を整えたプラント船だった。 プラント船の機能はツルギスタン本星と変わらない生活を将兵達に保障していると謳われる。これは規律絶対と集団行動が前提である軍人達にとっての事であるので、一般的なツルギスタン市民にも満足のゆくレヴェルかと言えばそうでも無いのだろうが、星を渡る侵略者というものがどういうモノなのか、その一端が知れる。米軍の原子力空母の居住設備をして、小さな町ほどの施設と評する場合があるが、ここまでの規模になると比べるのも馬鹿馬鹿しい。 なお、二つの超巨大船で働いているのは軍及びその関連業者であり、厳密な文官・文民は乗船していなかった。といってもツルギスタンは軍事主導の貴族制であるため、乗り込んでいる上級貴族たちの中に官僚的な意味合いを持った者が含まれているのだが。 そして植民地兵等まで交えて考えると些か複雑になるこの船の身分制度の、その頂点に立つ軍人であり官僚であるのが、ハンス・グラーフ・ルドガーハウゼン大剣卿である。 今、彼はウンエントリヒ内の執務室でモンタルチーノからの『成功報告』を受け、カイゼル髭の下の唇を満足そうに歪めていた。 「よくやってくれた。実に良い仕事だ」 「おかげで虎の子の地上げ獣が一匹、ワヤですわ。機材の損金、請求させて貰いますさかい」 執務机の上に投影された空間ディスプレイのモンタルチーノは、その台詞と裏腹にさして堪えた様子でも無い。必要経費は払われる約束だった。 「これでご依頼通り、大江戸先進科学研究所に列強各国の鉄くずが渡るように手配しましたで。それで大剣卿さんは敵に塩を送るきでっか?」 「塩は重要な物資だが、過ぎれば毒にもなる。卿も、ゆめゆめ忘れぬ事だ」 詮索無用ということか、はたまたモンタルチーノの水ぶくれの体形を指してのことか。宇宙ヤクザはもともと贅肉の中に埋もれがちな首をすくめて見せると、「それでは、またの御贔屓に~」と通信を切った。 それにしても奇妙な遣り取りであった。 モンタルチーノ商会の不法投棄はツルギスタンにより依頼されたものであり、宇宙の粗大ゴミの数々は大江戸先進科学研究所に渡るべくして渡ったものである、と。 ルドガーハウゼンは執務机の上の多機能情報ボード――見た目は下敷き――に投影されたデータに目を落とす。そこにはキリル文字のようにも見えるツルギスタンの言語が羅列されていたが、幾つかの画像データは地球のものであり、絵面とそこに記された各国の文字から読み解くのなら、ロッキード・マーティン、BAEシステムズ、ダッソー、SAAB、スホーイカンパニー、三菱重工、等々と軍事部門を持つ地球の企業が列挙されていた。そして、それらの企業からは矢印が曳かれ、一つのツルギスタンの言語へと結ばれている。 「地球防衛戦線…ようやく尻尾を掴んだ」 その単語を見つめ、ルドガーハウゼンが呟いた。 ダイガストの産みの親、大江戸多聞を追っていたゴシップライターが掴んだ情報だった。地球の各国へと宣戦布告した銀河列強が、各地で少なく無い被害を受けているのも、この存在からリークされたという軍事情報による部分が大きい。 その存在の明確な形を突き止めれば、あるいはダイガストの急所を抑える事が出来るやも知れない。 今回のモンタルチーノへの依頼は、つまりは地球防衛戦線への追跡の一手であった。 大江戸先進科学研究所に回収させるように仕向けた機械部品を解析されれば、近いうちにアメリカやEUと交戦状態にある列強への有効な攻撃手段が発見されるだろう。 それがルドガーハウゼンの予測通りの経路で北米や欧州の戦線に投入されたならば、彼の目論見は達せられるし、そうでなくても粗大ゴミにツルギスタンに拘わるような機材は紛れ込ませていない。どう転んでもツルギスタンの軍勢に向けられる矛が鋭くなる訳ではないのだ。 その結果は近い将来、明らかになるだろう。 「問題はそれよりも…」 ルドガーハウゼンがタッチパネル式である多機能情報ボードの表面に指で触れると、ページをめくったように、表示された情報が全く別のものに変更される。 出てきたのは解像度の低い画像だった。暗色の背景に、勾玉の尖った部分を前にしたかのような、奇妙な物体が映っていた。色は赤みを帯びた金色で、大気圏内で見る旭日の輝きを思わせる。解像度が悪いのはそれがとんでもない遠方を拡大して映したもので、周囲が暗色なのは夜でなく宇宙空間と言うこと。 つまるところ、その物体は地球に接近しつつある彼らの御同類というわけだ。 「銀河帝国近衛艦隊旗艦『旭光』…存外にお早いご到着で」 ルドガーハウゼンがカイゼル髭の下から漏らした言葉には、隠しきれない苛立ちが含まれていた。 つづく
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日記/2012年01月23日(MON)/遊戯王OCG 【魔轟神】で《創星神 sophia》を出したい 2012-01-24 展開力に定評のある【魔轟神】なら《創星神 sophia》を出せるかも知れないと思い、土日の間に試していました。 結論から言えば「可能」です。さすがOCG界のポポポポーン。 ただし大会で結果を出せるようなものではありませんので、その点は御了承ください。 まずは失敗例を2つ。 《創星神 sophia》の特殊召喚には成功しますが運要素が大きいのと使用カードの枚数から失敗としています。 失敗1 【手札】 《魔轟神クルス》 《マンジュ・ゴッド》 《簡易融合》 《限定解除》 《死者転生》 《おろかな埋葬》(または《未来融合-フューチャー・フュージョン》) 【デッキ】 「HERO」と名のついたモンスター(《未来融合-フューチャー・フュージョン》を使う場合に必要。) 《創星神 sophia》 《サクリファイス》 【墓地】 効果モンスター以外のモンスター(使わないが《ダイガスタ・エメラル》の効果を発動するために必要。) 《魔轟神獣ユニコール》 【エクストラ】 《ダイガスタ・エメラル》 《カルボナーラ剣士》(レベル4効果なし融合モンスターなら何でも良い) 《E・HERO エスクリダオ》(《未来融合-フューチャー・フュージョン》を使う場合に必要。) 【手順】 1 《おろかな埋葬》を発動。《創星神 sophia》をデッキから墓地に送る。 (《未来融合-フューチャー・フュージョン》の場合は《E・HERO エスクリダオ》を利用して墓地に送る。) 2 手札から《マンジュ・ゴッド》を召喚。効果でデッキから《サクリファイス》を手札に加える。 3 《簡易融合》を発動。1000ライフを払い《カルボナーラ剣士》を融合召喚。 4 《マンジュ・ゴッド》+《カルボナーラ剣士》で《ダイガスタ・エメラル》をエクシーズ召喚。 5 《ダイガスタ・エメラル》の効果で墓地から《カルボナーラ剣士》を特殊召喚。 6 《ダイガスタ・エメラル》の効果でエクシーズ素材としている《カルボナーラ剣士》を取り除き、それを墓地から特殊召喚。 7 《死者転生》を発動。《魔轟神クルス》を捨てて、墓地の《創星神 sophia》を手札に加える。 《魔轟神クルス》の効果で《魔轟神獣ユニコール》を墓地から特殊召喚。 8 《限定解除》を発動。1000ライフを払い手札から《サクリファイス》を特殊召喚。 9 《ダイガスタ・エメラル》《魔轟神獣ユニコール》《カルボナーラ剣士》《サクリファイス》をゲームから除外し、手札から《創星神 sophia》を特殊召喚。 失敗2 【手札】 《魔轟神クルス》 《魔轟神獣チャワ》 《幻銃士》 《サクリファイス》 《イリュージョンの儀式》 《簡易融合》 【墓地】 効果モンスター以外のモンスター(使わないが《ダイガスタ・エメラル》の効果を発動するために必要。) 《魔轟神獣キャシー》(レベル1の「魔轟神」チューナーなら良い。) 《レベル・スティーラー》 【エクストラデッキ】 《ダイガスタ・エメラル》 《魔轟神レイジオン》 《TG ハイパー・ライブラリアン》 《カオス・ウィザード》(レベル4効果なし融合モンスターなら何でも良い。) 【手順】 1 手札から《魔轟神獣チャワ》の効果を発動。《魔轟神クルス》を捨てて、《魔轟神獣チャワ》を特殊召喚。 《魔轟神クルス》の効果で《魔轟神獣キャシー》を墓地から特殊召喚。 2 手札から《幻銃士》を召喚。効果で《銃士トークン》を2体特殊召喚。 3 手札の《イリュージョンの儀式》を発動。《銃士トークン》1体をリリースし、手札から《サクリファイス》を儀式召喚。 4 手札の《簡易融合》をセットする。 5 《魔轟神獣チャワ》+《銃士トークン》で《TG ハイパー・ライブラリアン》をシンクロ召喚。 6 《魔轟神獣キャシー》+《銃士トークン》で《魔轟神レイジオン》をシンクロ召喚。 《TG ハイパー・ライブラリアン》と《魔轟神レイジオン》の効果でデッキから3枚ドロー。 ※この効果で《創星神 sophia》をドローするか《死者転生》で墓地の《創星神 sophia》を回収するかできないと終わり。 7 セットした《簡易融合》を発動。1000ライフを払い《カオス・ウィザード》を融合召喚。 8 《魔轟神レイジオン》のレベルを1つ下げ、《レベル・スティーラー》を墓地から特殊召喚。 9 《魔轟神レイジオン》+《カオス・ウィザード》で《ダイガスタ・エメラル》をエクシーズ召喚。 10 《ダイガスタ・エメラル》の効果でエクシーズ素材としている《カオス・ウィザード》を取り除き、それを墓地から特殊召喚。 11 《ダイガスタ・エメラル》《TG ハイパー・ライブラリアン》《カオス・ウィザード》《サクリファイス》をゲームから除外し、手札から《創星神 sophia》を特殊召喚。 そして上記2例を経た成功例が以下。 【手札】 《創星神 sophia》 《魔轟神獣ノズチ》 《魔轟神獣ケルベラル》 《マンジュ・ゴッド》 《サクリファイス》(または《イリュージョンの儀式》) 《簡易融合》 【場】 リリース用モンスター×1 【デッキ】 《サクリファイス》(または《イリュージョンの儀式》) 【墓地】 効果モンスター以外のモンスター(使わないが《ダイガスタ・エメラル》の効果を発動するために必要。) 【エクストラ】 《ダイガスタ・エメラル》 《魔轟神獣ユニコール》(レベル4シンクロモンスターなら何でも良い。) 《カオス・ウィザード》(レベル4効果なし融合モンスターなら何でも良い。) 【手順】 1 手札から《マンジュ・ゴッド》を召喚。効果でデッキから《サクリファイス》(または《イリュージョンの儀式》)を手札に加える。 2 《簡易融合》を発動。1000ライフを払い《カオス・ウィザード》を融合召喚。 3 《カオス・ウィザード》+《マンジュ・ゴッド》で《ダイガスタ・エメラル》をエクシーズ召喚。 4 《ダイガスタ・エメラル》の効果でエクシーズ素材としている《カオス・ウィザード》を取り除き、それを墓地から特殊召喚。 5 手札から《魔轟神獣ノズチ》の効果を発動。《魔轟神獣ケルベラル》を捨てて、《魔轟神獣ノズチ》《魔轟神獣ケルベラル》の2体を特殊召喚。 6 《魔轟神獣ノズチ》+《魔轟神獣ケルベラル》で《魔轟神獣ユニコール》をシンクロ召喚。 7 《イリュージョンの儀式》を発動。儀式リリース用モンスターをリリースし、手札から《サクリファイス》を儀式召喚。 8 《ダイガスタ・エメラル》《魔轟神獣ユニコール》《カオス・ウィザード》《サクリファイス》をゲームから除外し、手札から《創星神 sophia》を特殊召喚。 使用カードが全て無制限というのがポイント。 【魔轟神】のデッキスペースを考えると魔轟神以外のモンスターの3枚投入は難しいでしょうが。 《高等儀式術》はコスト軽減に加え、デッキから墓地に通常モンスターを送れるので《ダイガスタ・エメラル》の蘇生効果の使用条件を満たしてくれる点でも便利なのですが 【魔轟神】に通常モンスターは採用し難いので《高等儀式術》は余り推奨出来ません。 《ダイガスタ・エメラル》の効果条件には事前に《簡易融合》で効果なし融合モンスターを墓地に送っておくか《大地の騎士ガイアナイト》をシンクロしておく事になるでしょう。 《魔轟神獣ノズチ》+《魔轟神獣ケルベラル》からのレベル4シンクロは、《魔轟神獣チャワ》+《魔轟神獣ガナシア》でも可能。 手札に《魔轟神クルス》、墓地に《魔轟神クシャノ》《魔轟神獣ユニコール》が存在する場合なら《死者転生》で墓地の《創星神 sophia》を回収する余裕も出てきます。 《簡易融合》は普通の【魔轟神】でも採用できますし、《マンジュ・ゴッド》もエクシーズ、シンクロ素材と見ればそれ程問題無いですが、 《サクリファイス》《イリュージョンの儀式》《創星神 sophia》を最低1枚入れないといけない事が辛いですね。 【魔轟神】に限らずこれら3種を複数枚積むのはデッキにとってはリスクが高く、1枚ずつ入れた場合《貪欲な壺》が制限カードな現状では《死者転生》は3枚入れておく事になるかなと。 《イリュージョンの儀式》も一旦墓地に落ちると《魔法石の採掘》か《転生の予言》でも無ければ回収できないので…2枚必要になるかも。 《シューティング・クェーサー・ドラゴン》と《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》を1ターンで並べる方が【魔轟神】には現実的ですね。 やはり天使族でやるのが良いのか。 天使だと以下の方法が理想的?。 【手札】 《創星神 sophia》 《創造の代行者 ヴィーナス》 《A・ジェネクス・バードマン》 《神光の宣告者》(儀式モンスターなら何でも良い。) 《高等儀式術》(または《限定解除》) 《簡易融合》 【デッキ】 《神聖なる球体》×3 【エクストラ】 《ガチガチガンテツ》(ランク2エクシーズモンスターなら何でも良い。) 《大地の騎士ガイアナイト》(レベル6シンクロモンスターなら何でも良い。) 《カオス・ウィザード》(レベル5以下効果なし融合モンスターなら何でも良い。) 【手順】 1 手札から《創造の代行者 ヴィーナス》を召喚。 効果は発動。1500ライフを払い《神聖なる球体》をデッキから3体特殊召喚。 2 《神聖なる球体》を手札に戻して、手札から《A・ジェネクス・バードマン》を特殊召喚。 3 《A・ジェネクス・バードマン》+《創造の代行者 ヴィーナス》で《大地の騎士ガイアナイト》をシンクロ召喚。 4 《神聖なる球体》×2で《ガチガチガンテツ》をエクシーズ召喚。 5 《簡易融合》を発動。1000ライフを払い《カオス・ウィザード》を融合召喚。 6 《高等儀式術》または《限定解除》を発動。手札から《神光の宣告者》儀式召喚。 7 《ガチガチガンテツ》《大地の騎士ガイアナイト》《カオス・ウィザード》《神光の宣告者》をゲームから除外し、手札から《創星神 sophia》を特殊召喚。 で、この《創星神 sophia》の出し方を考えた後にVジャンプを見たんですけど、 今度出る『スターターデッキ2012』から、またカードフォーマットが変更されるんですってね。テキストの表記方法とイラスト部分の拡大。 だから、そういうのは2年前の変更時にちゃんと済ませておけって。 2010年の変更は2002年から使っていたものを変更したって事で理解できますが、今度のは期間も短く、別にやらなくて良いレベルなので。。 テキスト文字の拡大は低年齢ユーザーに合わせたものなのでしょうが、正直要らない。余計な事はするなと。誰かが作ったオリカみたいじゃないか。 対象年齢12歳以上の建前はどこにいったのか。今まで通りのテキスト表記で苦しむようではOCG自体をプレイできんでしょうが。あー。 また、オリカ用のテンプレートを作らないといけないのか。 まぁ殆ど変わっていないのでそのままでも良いのですが、今後そのフォーマットで進んでいく事を思うと……。あーあー。 『BEGINNER S EDITION 1(第7期)』とかどうするんでしょう。また変えるの? この点からもメーカーの展開の甘さを感じてしまいます。 フォーマットの変更、今からでも止めませんか?。 名前 コメント ◇◆前へ/次へ/目次へ
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1位 ジロウ ポイント 113400 使用デッキ SDC MAX スキャンカード デブリ・ドラゴン ジェムナイト・サフィア ヴェルズ・ヘリオロープ EXデッキ No.39 希望皇ホープ ジェムナイト・パール ダイガスタ・エメラル インヴェルズ・ローチ メイン ゴブリンドバーグ ジェルエンデュオ D・HERO ディフェンドガイ ヴェルズ・マンドラゴ 黙する死者 大嵐 激流葬 2位 イチロー ポイント 113200 使用デッキ SDC MAX スキャンカード デブリ・ドラゴン ジェムナイト・サフィア ヴェルズ・ヘリオロープ EXデッキ No.39 希望皇ホープ ジェムナイト・パール ダイガスタ・エメラル ラヴァルバル・チェイン メイン ゴブリンドバーグ D・HERO ディフェンドガイ ジェルエンデュオ ヴェルズ・マンドラゴ 大嵐 黙する死者 激流葬 3位 らきすた ポイント 109400 使用デッキ SDC MAX スキャンカード ジェムナイト・サフィア デブリ・ドラゴン ヴェルズ・ヘリオロープ EXデッキ No.39 希望皇ホープ ジェムナイト・パール ダイガスタ・エメラル セイクリッド・プレアデス メイン ゴブリンドバーグ ヴェルズ・マンドラゴ D・HERO ディフェンドガイ セイクリッド・エスカ セイクリッド・スピカ 光の護封剣 デストラクト・ポーション
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第十二話 お父さんのお仕事は 侵略地上げ獣『宇宙大帝グソクムシ』登場 五月頭。 新緑で山は沸き立つようだった。萌木色の若葉が輝くようで目に眩しい。そんな山中のハイキングコースを歩く小学生の我が子の姿は、同じ様にまた眩いものだった。少なくとも東和樹三佐にとっては、再編成が済めば妻子の疎開先でもある富士駐屯地界隈を離れて出征せねばならない身であるため、その感情はひとしおだった。 2年になる娘の父兄同伴の遠足に平日を潰して参加できたのも、今のうちに少しでも思い出を作っておけという連隊長らのはからいである。 正直なところ北海道から疎開してきた自衛隊員の娘が、転校先で何らかの不利益を被らないか不安だったのだが、今も同級生の手を握って三つ編みと一緒に無邪気に振るっているのを見ると無用な心配だったと言うか、むしろ手を取ってるのが男子生徒であって仲良すぎませんか、ねぇ、おとーさんは許しませんよとか別の心配を抱いてしまう。 件の男子生徒の父親だろう、東とさして年齢の変わらないように見える30代の男性が、彼の気持ちを察してか苦笑いを向けてきた。 「有給ですか?」 「ええ」東は曖昧に頷いた。「そちらも?」 はい、と男性は微笑みでもって返してくる。 「忙しい時と暇な時が極端な職場でして。ああ、土岐と言います。そこの虎太郎の父です」 そういって男性は東の娘と手をつないだ少年を指さす。そういや娘が疎開先で最初にできた友達だとか、妻が言っていたような。思い出して東はぺこりと頭を下げた。ついつい脱帽時敬礼にならないように、ちょっと腰を曲げる角度を浅くする。 「娘が…優希がお世話になってます。父の東和樹です」 「いえいえこちらこそ」 とかなんとか、大人の処世の遣り取りを数度繰り返すと、当然のように互いの職業の話になるわけで、 「ところで東さんのご職業は?あ、自分は技術屋なんですが」 「(特別国家)公務員です」 とっさに無難なところを口にしていた。自衛官の子息をつかまえて人殺しの子供呼ばわりする教師がいるが、そういう政治活動にだけ無駄に熱心な人間がどこにいるとも判らない。まして決して義務を遂行できていると思えない現状では、部下や僚友には後ろめたかったが、娘のためにも身分を明かす気にはなれなかった。まぁ、公務員だとしても目の敵にする人間はいるものだが。 少なくとも虎二郎はそういうい妬み嫉みとは無縁の普通の大人であるため、奇跡的なこの邂逅の意味に気付く訳もなく、 「それはまた…親方日の丸といっても、銀河列強のせいで(失職的な意味で)不安もあるんじゃないですか?」 「ええ、(戦力的な意味で)不安はありますね」 「でも日本にはダイガストもありますよ」 そう言われるのが一番堪えるんですよ。東は追従の笑みを浮かべながら心中でそう思った。 もちろん虎二郎は駿河沖で海堂に話したように、ダイガストが全てを解決するジョーカーだとは思っていない。しかし東が自衛官だとは知らないので、どうしてもダイガスト=無敵のロボットという一般の方向けの宣伝文句を口にすることになる。 要は大人になって家庭を持つと、いろいろと気にしなけらばならない事が増える訳だ。 もちろん、彼らの子供たちにはそんな事は関係無いわけで、 「おとーさん達、仲よさそうだね」 東優希は父の心配をよそに上機嫌だ。栗色の髪をツイストドーナツみたいにふわりと一つに編んだのが、子供ながらの清涼感を醸して似合っていた。いかにも現場の男然とした父と違って優しげな面立ちなのは母親似だろうか。 彼女としては初めてのお友達である虎太朗くんの『おとーさん』と自分の『おとーさん』が――外見上は――意気投合しているというのは嬉しいことだった。そこは子供だけあって算段は無く、まして父親の嫉妬じみた視線など判る筈もない。 それは虎太朗少年にしても同じことで、優希が転校してきた時にクラスの悪童どもが北海道から来たと知った途端『やーい、おまえん家、つるぎすたーん』とトトロが聞いたら全力で殴りに来るレベルの暴言を吐いたとき、少年ながらの正義感に任せたら、こうなっていた。 担任の女性教師は悪しき平等で悪名高い組合には入っていなかったが、教師としてケンカは絶対的に悪の立場であったから、事態は早々に電話連絡で虎二郎の知る処となる。 その晩、父は通念的な注意を息子にしたのち、誇らしげに頭を撫でてやった。 ちなみに鷹介は時折夕飯などに招待されるようになった土岐家の子供に、年長者としての義務である喧嘩の仕方を教える、いわゆる『おにーさんかぜ』を吹かせようとチャンスを窺っていたのだが、透に引っ叩かれて未遂に終わっている。 一方でそんな微妙な立場の優希であったが、彼女にしてみれば周囲の反応など何処吹く風で、あくまで天真爛漫に春の終わりを謳歌していた。 「緑色がいっぱいで目がふわふわするねー。北海道じゃ、まだ桜が咲いてるのに」 「へー」 虎太朗少年はそろそろ女の子と手をつなぐのが恥ずかしいお年頃で、無難に相槌をうっていたものだが、 「お引越ししたら、こっちの桜はもう咲いてなくてね、今年のお花見はできなかったの。おかーさんは、もうおうちには帰れないんじゃないかって言ってるし…帰りたいなぁ…」 優希はツルギスタンに占領された故郷をおもい、幼い貌を曇らせる。女心と秋の空じゃないが、虎太朗は『あれ、何か地雷踏んだかな?』と』仰天した。 後ろで見ていた虎二郎は『地雷を踏んでも足を離さなければ大丈夫だ』と、そこからのフォローを期待して息子を応援していたが、東父は『残念、最近の地雷は踏んだら側、爆発するのだ』と早速突入のタイミングを計りはじめる。 いささか大人げない東父の介入が実現しなかったのは、先頭グループから聞こえてきたどよめきに邪魔をされたからだった。子供たちの悲鳴じみた声までが聞こえたとき、東は娘を虎二郎に任せるや、様子を見てきますと言って走り出していた。 彼の目は既に三等陸佐のものにかわっていた。 ハイキングコースは山中の空き地に続いていて、そこで喫食と散策の予定であったのだが、空き地は目も覆わんばかりのゴミの山に様変わりしていて、到底のどかな昼を過ごす場所では無くなっていた。赤錆びた機械部品がうず高く積まれ、破れた管や接続口からはパステルカラーや蛍光色の液がダダ漏れている。その液は刺激臭を発していて、草むらの所々で気化なのか腐敗反応なのか、得体の知れない白煙が立ち上がる有様だ。 山道からどうやって持ち込んできたものか、ゴミの山の間には作業服の男たちが行き来していた。さらに現場監督らしき人物から説明を受けているのは、でっぷりと太った水ぶくれの肥体をビジネススーツに押し込んだ五十絡みの胡散臭い男…言わずと知れた広域指定銀河暴力団モンタルチーノ商会のボス、ドン・モンタルチーノその人である。 「小悪党役でも出番やからな、頑張っちゃうで、わし」 「モンタルチーノ様、誰に向かって話しているのですか?」 いつもの若頭も黒服サングラスの変わらぬいでたちで、モンタルチーノの奇矯な発言に突っ込みを入れる。 「いやいや、全国の女子高生ファンのみなさんに挨拶をやな…それよりも、何や煩そうてあかんな、何事や?」 「地元の子供のイベントのようですね」 「そりゃあ間が悪い話やな。せやけどこっちもお仕事やから、お帰り願おか」 モンタルチーノが山道と空地を区切った木柵の前まで行くころには、続々と到着する遠足参加者たちで何重もの人垣が出来上がっていた。先頭では若い女教師が予想外の事態にパニックになりかけている。 「一週間前の下見じゃこんなの無かったのに…」 「あー、お嬢さん、引率の先生か?」 モンタルチーノは海苔のような眉と、色の悪くなった明太子のような唇でもって不細工な営業スマイルをつくり、 「ここ、産業廃棄物の処理場になるんや。作業の邪魔しちゃいかんよ、じきに重機もくるさかいな。危ないから、子供らをはやく引き揚げさせてんか」 両生類ににじり寄られるような不快感に女教師は怯んだ。重機も来るというし、確かに言うとおりかも。言いくるめられる寸前の彼女を引き留めたのは、父母の列から上がった手と声だった。 「私は市役所職員ですけど、そんな話は聞いてないです。処理場認可の提示をしてください」 「非番の警察です。重機と言っていましたが、積み下ろしに公道を止めるのなら届け出は?」 「消防士だが、廃液から煙が出ているぞ。対策と届出は出ているのか?」 この国、面倒くせぇ。モンタルチーノは思わず喉まで出かかった言葉を頑張って飲み込んだ。 お役所の突っ込みに父兄たちのボルテージが徐々に上がっていた。ここまでの山道で適度に疲労し、テンションも上がっている。どよめきの中に舌打ちや詰問の声が混じり始めていた。 東三佐はどうもおかしな空気になっている事に顔をしかめる。衆をたよりに気が大きくなっているような。そう思っていると、ふと近くの父兄の一人がこちらを見ているのに気づく。間借りしている駐屯地の、普通科の曹長だったか。特段親しい訳でもなかったが、こういう時だからだろう、彼は話しかけてきた。 「ちょっと、嫌な空気ですね」 「そうだね」 生返事を返した東は、次の下士官の言葉にドキリとする。 「ざっと見たところ、三佐が最上級です」 「機甲科だけどね」 「いざ悶着が起これば兵科の違いなんて些細な問題になりますよ。どうにもあの連中、堅気の雰囲気じゃありません」 「根拠は?」 東も同じような印象を持っていたが、何となくで将校の権限を振るうわけにはゆかない。それは曹長もわかっていたようで、 「地元の土建屋連中には見えません。ガタイの良すぎるのが柵の向こうで作業してますが、中東人とも南米人とも違います。アングロサクソンにしては肌が浅黒すぎる。それに、むこうに積み上がっている機械類はちょっと見たことがないですね。少なくとも車両や重機の部品じゃあないですよ」 じゃあ何処の誰で何の機械なのかとの疑問が湧くが、最近じゃあそういう輩は違法の星間商人とかいう一昔前なら正気を疑われるオチがつく。 そやつ等の跋扈のせいでひと月前にエライ目にあった事だし、東の口ぶりは必然、真剣みを帯びてくる。 「戦車の機関にも見えないしな…わかった、では曹長、この遠足に同伴している『知り合い』の数はわかるか?」 ああ畜生、有給取ったってのに、何でこんな事口走っているんだ、俺は。 ふと気づいて、内心で自己嫌悪が渦を巻く東をよそに、そっちも子持ちであろうに曹長は嬉しげに答える。 「知ってる限りで5名です」 「手分けして避難路の確保と誘導の準備をたのむ。参加者の安全が第一だ」 「避難路の確保と誘導を行います。タイミングはどうしますか」 「各自の判断で」 「承りました」 「よろしく頼む」 会釈のような脱帽時敬礼を交わすと、曹長は人ごみの中を器用に縫って消えた。実際の流れは向こうで考えてくれるだろう。それくらいの機転が利かねば最上級の下士官なんぞ就けはしない。要は先刻の会話は東の責任で曹長にフリーハンドを与えた訳だ。 あれ、気が早かったか?今のは最善の選択だったか?今更のように自分の行動に疑問が湧いてくるが、たぶん幾ら考えてもベストの答えは出ない。 「おとーさん!」 背後から娘の声がした。振り返ると追いついた優希が不思議そうな顔をしている。 「お弁当、食べれないの?」 「そうだね」純真な目がつらく、東は困ったような笑みをつくる。「また来よう」 「でも、おとーさん、また仕事でしょ。いつ帰ってこれるの?」 「ちょっと判らないな…でも、次に帰ってきたら山でも海でも、遊園地でも、優希の行きたいところに連れて行ってあげるよ」 遊園地との言葉に優希の目が輝く。東は今日ほど娘との約束が重いと感じた事はなかった。 一種異様な父娘のやり取りに虎二郎は首を傾げる思いだったのだが、北海道からの引っ越しと、なかなか家に帰れない公務員というキーワードから、東の職務に思い当ってハッとなる。 「なぁ虎太朗、優希ちゃんのお父さんの仕事って、もしかして…」 「自衛隊で戦車に乗ってるって言ってた」 「そうか」 ダイガストと戦車では安全性に天と地の開きがあるだろうが、それでも同じ舞台に立つ子を持つ身として、虎二郎は身につまされる思いだった。そう思うと東親子の姿は荘厳なものに見えてくる。しかし、この光景をいつまでも続けさせてはならないし、いくつもの家庭に広げさせてもいけない。 それに眼前のゴミの山。弱者の無知につけ込み、未来に渡る負債を押し付ける強者の傲慢。それって先進国がやって来た事じゃないの、とか思わない事も無いが、この際こっちが被害者なので知らんぷりを決め込んでおく。 まして鷹介の青森での悶着からモンタルチーノ商会の事を周知されている大江戸先進科学研究所のスタッフであれば、この光景が意味することは分かっていた。 どうせ銀河列強の活動で生じた雑多なゴミをまとめて引き受け、人知れず山中に遺棄するハラだろう。銀河帝国文明圏にとって地球は辺境の最外殻のひとつだ。より外延へと調査を進めるための中継基地に使うもよし、銀河連邦警察の目の届かぬ辺境を危険な産業廃棄物の処分場にするのもよし。彼らにとって地球の商業的価値など、その程度だった。そこに暮らす人々が顧みられる事はない。 「宇宙ヤクザめ、俺の第二の故郷を薄汚い欲望で汚させはせんぞ」 「ぶえっくしょいっ!」 誰かが噂をしているのか、モンタルチーノは盛大なくしゃみを吐いた。 「こりゃあ、どこかで女子高生が噂してるんやな」 とか下世話な軽口をたたいてみるが、どうせ恨み言の類だと内心では分かっている。なんてったって悪党だから、恨みを買った記憶には事欠かない。 モンタルチーノもできれば自分と関わりのある人間とは全てwin‐winの関係――越後屋、そちも悪よのぅ、ではあるが――でありたいと思ってはいるが、そうなるために強引な地ならしが必要な場合も多々ある。それが文字通りの意味であったりするあたりが、正に悪党の面目躍如であるのだが。 今も教師にPTAに公務員がこぞって説明を求めていたが、いちいち取りあうつもりもない。場を占拠しているのはこちらであり、主導権をくれてやるつもりも無いのだから、立場の違いは明らかだ。 「それじゃそろそろ、お暇願おか」 モンタルチーノの命令一下、ガタイの良い作業員たち…つまるところ宇宙ヤクザの構成員達が、横にズラリと並んで父兄の列を押し戻し始める。 父が突き飛ばされ、母が追い散らされ、子供の泣き声が混じる。誰かが拙いと思った時には混沌の火蓋が切って落とされていた。突き飛ばされた父親たちが立ち上がりざまに宇宙ヤクザに掴み掛り、あるいは胴にタックルをする。暴力の応酬に前列から雪崩を切ったような壊乱がおこり、後続の父兄と子供を物理的に巻き込んで無秩序な流れが起こり始めていた。 先刻の曹長が人の雪崩から抜け出て、秩序立った列を作るように避難誘導を始める。幾人かの年嵩の教師も声を張り上げて誘導を行っていた。しかし絶対的な流れは壊乱に変わりない。 最前列の取っ組み合いも見る間に苛烈なものになっていた。参加者は昭和の香りのする喧嘩っ早い土建屋の方々は言うに及ばず、先ほど抗議の声を上げていた非番の警官や消防士も交じっており、荒事慣れしている者が多かった。しかもここまでのハイキングコースで体も温まっており、適当な見回りをしていた宇宙ヤクザの面々と違っていきなりフルスロットルだ。 形勢不利と見たヤクザ者が武器を使ったのは、自然の流れであった。 リレーバトンほどの白い発信器の先端からプラズマの刃が発生する。金属加工用のプラズマ溶断機を違法改造したもので、彼らはDOS(ダイナミック・オプティカル・ソー)と呼んでいる。ちなみにプラズマの刃渡りが長いのは、もちろん長DOSである。いずれにせよ出力は最低にまで絞るが、アーク光への暴露時間が長ければ結構な火傷を負うし、目によろしくない不可視光線の類も出ていた。で、それを両手で握って腰だめに構える。術理もへったくそもない、体ごとぶつかる事が前提の荒くれ殺法だ。 いかん。東は光の刃を確認するや、優希を虎二郎に預けると駆け出していた。手には熱い茶の入ったステンレスボトル。横合いから駆け込みながら、そいつで宇宙ヤクザの向う脛を引っ叩く。 響き渡る金属音が二度、三度。東は一撃くれたやつには目もくれず、次々とDOSを抜いた者に襲い掛かる。攻撃を察知して避けるやつには、続けざまに顎なり鼻っ柱なりにステンレスボトルの角が飛んできた。 血の気の多い父親たちは奇襲で生じた綻びから木柵に取りつくと、怒りのままに引っこ抜こうと手をかける。それで何が好転する訳でもないのだが、動き始めてしまった暴力はきっかけが無ければ中々止まれない。 それはモンタルチーノこそ理解していた。不甲斐ない一家の荒くれたちの根性は後で叩き直すとして、携帯電話型の通信機を懐から取り出すと、何やら言葉少なに指示を飛ばす。 通信を切り、葉巻に持ちかえて隅を口で噛み切る。口腔から鼻へと甘い香りが抜けて、イライラを瞬時忘れさせた。 若頭がモンタルチーノの葉巻に火をつけた時、それは唐突に始まった。 山が激しく揺れ、木々が倒れる。間欠泉のように土が空高く吹き上がり、その中に巨大な影が立ち上がる。影の巨大さに地震では起こらなかった悲鳴がたちまち巻き起こった。 現れたのは全長40メーターに達するダンゴムシのような生物だった。しかし地球では石の下などに生息する種より足が太く、甲殻の最後尾部分はエビの尻尾のように左右に広がっている。節の端々には棘のような突起が目立ち、全体の印象を凶悪にしていた。 「宇宙大帝グソクムシ!!」 虎太朗が例によって銀河最強甲虫DVDの映像から、その名前を思い出して指差した。 「海洋惑星の暴君!凄い!大きい!」 巨大甲虫に目をキラキラさせる虎太朗に優希の方はドン引きである。女心が分かるにはマダマダと、息子の行動に虎二郎は淡い笑みを浮かべ、それから二人の肩に手を添えて空の一点に目を向けた。 「さぁ、こっちも準備が整ったみたいだ」 ジェットエンジンの轟音と共に何かが近づいていた。 ほどなく空の青にスコップの先のようなシルエットが浮かび上がり、それがどんどん高度を下げてくる。 子供たちは知っていた。大江戸先進科学研究所の大型輸送機。それが運んでくるものを。 「ダイガストだー!!」 幾人かのソプラノが唱和し、悲鳴と怒号の喧騒の中に確かに響き渡った。大人たちも足を止め、手を止めて、子供たちの声の示す先を見上げる。 確かに鋼鉄の巨翼に吊り下げられた機械人形の雄姿があった。 歓声が上がる。ついでに宇宙ヤクザ達の動揺も。 「なんつー御都合主義や…」 モンタルチーノのタラコ唇から葉巻が転げ落ちた。 時系列は僅かに戻る。 整備を終えたダイガストは自衛隊の富士演習場で火砲の試射を行った。これまでの如何にも日本的な何となくの協力体制が実を結んでの、これまた何となくの使用許可だった。そして、つつがなくテスト工程を終え、大鳳に吊り下げられての帰途のこと。 「…それで、同期のやつらは速成でパイロットになるそうで」 鷹介はダイガストのコクピットから大鳳の機長に、愚痴のような、整理しきれないモノをうち明けていた。数日前に再会した柘植隼人から聞かされた件だった。 「末期の予科練みたいなもんか…まぁ、皆、何がしかの覚悟があって続ける事を選んだんだろ」 会話の相手である権藤機長はそろそろ頭に白いものが混じり出した中年男だが、鷹介と同じように元々は航空学生出身者であり、脂っ気の抜け始めた顔貌には任務と訓練とで自分を律し続けた凄味が滲み出ている。現役時代は輸送機のパイロットではあったが、イラクでの空輸任務もこなした実際の戦地を知る貴重な人物だった。 そんなベテランが退職して大江戸研に席を置いていると云うのも、あの博士や人の悪い総理の暗躍があったのではないかと思われる。 権藤機長は計器類を確認しながら会話を続ける。大鳳は大型機ではあるが、人手不足のために副機長の席は常に空いていた。 「戦争資源ってやつは、人間の調達が一番難しいんだ。それなのに教育用の機体まで持ち出すって事は、後のパイロット育成計画にまで影響が出るって意味だぜ。それも次があれば、って話だが…」 権藤にはどこか自棄な言動があった。若い鷹介はそれこそがベテランの醸す空気だと思っている。 「大体、お前の同期だって直ぐに実戦配備ってわけでも無いだろ。小松や築城のパイロットと入れ替えるのが先じゃないのか?まぁ北海道、青森と盗られて、そっちからの引き上げ組の受け入れで、方々の基地もてんやわんやらしいが」 それは企業にも言える事で、ツルギスタンやセランの統制下でどのように振る舞うかで、経団連の混乱が続いている。なお、ツルギスタンは占領地への製造業者の帰還に優遇措置を発表しているが、それは取りも直さずメイド・イン・ツルギスタンを名乗る事であり、日本にとっては利敵行為と成り得る。 外資系企業の中には早くも占領地で別法人を作ろうという動きが出始めており、各国の経済関連の役人の頭を抱えさせていた。銀河列強ではその流れを歓迎し、新たな胴元となってマネーゲームの参加者を募っている節もある。世界経済の停滞で息も絶え絶えだったファンドがこれに触発され、目を血走らせて次なる賭場への種銭のために新興国への投資を引き揚げさせると、それがまた新たな要素となって世界経済を混迷させる。 一方、先進主要国では戦備のために雇用が生まれ、徐々に経済が上向き始めているが、それを支えているのは金にモノを言わせての資源争奪戦であり、資源産出国――大抵は後進国――への拙速すぎる金の流れは現地での格差を拡大させ、末端の人々の目に見えぬ不満もまた膨れてゆく。 自由主義経済の構造の行き詰まりに端を発する混乱によって遅滞していた地球の歴史の歯車は、銀河列強の介入によって再び回り始めるが、歯車に点されるのは潤滑油で無く混乱であり、いやな軋み音を響かせていた。 ダイガストもそういった流れの最先端に存在するものであるが、運用に関わる鷹介や権藤がその事を認識するのも無理な話であった。彼らの居場所はコクピットであり、そして彼らが信頼する機械たちが予定外の通信を受けたのは、そんな時だ。 「こちら土岐です。権藤さん、今どの辺ですか!?」 「はいよ、こちら権藤。現在は静岡上空3000フィート。どうした?そっちは有給じゃないのか」 「その有給中に宇宙ヤクザと鉢合わせしたんです。遠足のコースで不法投棄の真っ最中。ダイガストをこっちに回せませんか?」 「俺の方は構わんが…」権藤は操縦桿を握りながら器用に首をかしげる。「大江戸博士は何て?無許可じゃ動かせんぞ」 「列強の鉄くずを分捕るチャンスですと言ったら、二つ返事でOKが」 「ひと様のゴミを掻っ攫うのが国防の重責かい…」 皮肉をこぼしながらも権藤は大鳳のスロットルをしぼると、大型機を最小の旋回半径で見事に回頭させ、虎二郎の通信機めざして高度を下げていった。 一方で蚊帳の外だった鷹介は『主人公(笑)』というフレーズを感じずにはおれなかった。だから山肌に巨大な甲殻類を視認した時には、ようやくの出番にちょっとの興奮を憶えたものだった。 逆に心配したのは権藤だ。 「地上げ獣とやらかい…風見、山肌のハイキングコースには土岐さん達がいるからな、近づくなよ。火砲にも頼るな。ツルギスタンとの戦闘じゃ無ぇんだ、戦域外への柵越えを防いでくれるバリアなんざ無いぞ」 「つまり巨大カブトムシの時と概ね一緒。頼れるのは自分の拳一つ、と」 「あとは知恵と勇気だ。高度よろし、投下するぞ!」 「ロック解除確認。行ってきます!」 大鳳の腹の下に無理やりな風情で抱えられていたダイガストが、重力と慣性に従って降下を開始する。速度エネルギーも位置エネルギーも十分にあるため投弾にも等しい有様だが、権藤も手慣れたもので、ダイガストは地上げ獣の目の前に弾着する見事な放物線を描いていた。 着陸地点が近づくと、腰裏のスラスターが噴射を開始して慣性に抗い始める。着火した気化燃料とともに空間中の微量の重力子にもはたらき 掛け、見た目以上の制動効果が生まれていた。それでも相殺し切れない慣性がダイガストの着陸と共に盛大な土煙となって巻きあがり、その重量感を居合わせた人々に伝えてくる。 光の国の巨人か、自我を持った勇気あるロボットか。ダイガストがファイティングポーズを取るや、子供たちから割れんばかりの歓声が巻き起こった。 こりゃ、無様な戦いは出来ないな。鷹介は思わぬ見学者達の視線を感じながらダイガストのコンディションを確認する。 斜面で足を取られて滑落しないよう足回りは敏感に。子供たちの只中に飛び込まないよう行動禁止区域を策定。虎二郎がいないため出力調整は自動で。ダイガストの制御プログラムは日々、情報の蓄積と共に最適化を繰り返してきたので、東北でギャラクシー・コーカサス・オオカブトと戦った時のようなギリギリの制御を強いられはしないが、さりとて全力全開で機体を振り回せるわけでもない。 注意点ばかりだが、ともかく、ここから引き離そう。鷹介は行動指針を決し、ダンゴムシとウチワエビの不義の子のような巨大甲殻類の側面に回り込むと、両手でもって押し込んだ。いつぞやの巨大カブトムシと同じく、全高はダイガストの胸くらいまでだ。やってやれないサイズではない、はず。 しかし巨大甲殻類も節くれ立った太い脚でふんばって微動だにしない。 それならばと拳を固めて引き絞り、殴りつける様子を見せるや、今度は甲殻類がごろりと体を丸め、ダンゴムシよろしく球形になって転がり出した。動かない物と思っていたせいで、ダイガストは盛大な空振りをうつ。 コミカル回じゃ無いんだぞ。鷹介の脳裏に泣き止まない怪獣に肩をすくめた光の国の巨人の姿が思い起こされる。だがダイガストに怪獣墓場まで飛んで行く機能はない。気を取り直し、腰のアンカーを一つ発射して球状になった甲殻類に巻きつける。そこで軽く横に振って球体にベクトルを与えてやれば、アンカーが解けて外れた後も、山の斜面を転がり落ちてゆく寸法だ。 巨大甲殻類はうまい具合に丘陵を転げ降り、麓の原野で球体を解くや、地に足を突き立てて踏みとどまった。 高い所から見渡すと麓では至る所で赤色灯を点けた車両が走り回り、引っ切り無しに巨大生物の出現と避難を訴える防災無線が鳴り響いている。 これはツルギスタンやセランの軍勢から遠く離れた内地での椿事だ。あり得ない事態に誰しもが浮足立っている事だろう。何より最初に巻き込まれた小学生たちが哀れだ。 「まったく…こういった手合いの、人の迷惑を顧みたい事と言ったら!」 モンタルチーノのふてぶてしい面を思い出し、ふつふつと湧き上がる憤りと共に鷹介はフットペダルを踏む。ダイガストが斜面を下って巨大甲殻類に追撃をかけようとした、まさにその時。 「!」 鷹介の視界が突然、紫の光に照らされたかと思うと、驚きよりも早く閃光がモニターを充たした。 衝撃がコクピットを揺さぶり、機体の表面温度が跳ね上がった事をコンソールパネルと警報とが伝えてきた。被弾個所である腹部の積層熱制御フィルムが次々と蒸発する事によって、機体が受けた熱エネルギーは即座に大気に発散されていたが、それは使い捨ての防御装置を失った事を意味した。 鷹介はすぐさま、ダイガストをその場から離れさせる。役目を終えた熱制御フィルムの薄片が風に舞った。 常ならば虎二郎なり大江戸博士なりが事態の解析を始めてくれるのだが、今日の彼は一人きりだ。 やけにコクピットが広いな。鷹介を得体の知れない不安感が包んでいた。 十三話に続く