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日蝕まで残り三日の昼下がり。 シエスタやマルトー、そしてクラスメイト達に別れの挨拶を告げて回ったジョセフは、授業を自主休講したギーシュやキュルケ達と共にウェールズの居室でチェスやティータイムを楽しみ、世間話に興じていた。 内容としてはさして意味のあるものではない。ジョセフがルイズに召喚されてからの様々な思い出話や、ジョセフの来た世界、地球の話やハルケギニアの話。 ギーシュやキュルケはそんな他愛ない話を絶え間なく続けることで、不意に訪れるしんみりした沈黙を出来る限り排除しようとしていた。 「いやそれにしてもジョジョ、聞けば聞くほど君の話は荒唐無稽だな。いくら大国とは言え、一つの国に何億人もいたり、しかもそれだけの国を統べる王を入れ札で決めるだなんて考えられない。 そんなにころころ王が代わっていたら、代わる度に大事になるんじゃあないか?」 「うむ、こっちほど王……というか、大統領や首相の権力ってのは大きくないがそれなりにデカいし変わるとなりゃ大事だからな。上の頭がすげ変わる間も国の運営が成り立つようにしとるんじゃ。わしの住んどる国なんか四年ごとにやる入れ札はマジお祭り騒ぎだ」 「へええ! 聞けば聞くほどとんでもない世界だなあ、君の世界は!」 「こっちじゃあまーだやらん方がいいな。やるとしたら、平民の半分以上が読み書きできるくらいになって、選ぶ人間の良し悪しを判断できるよーになったらやっていいかもしらんが……まぁ、無理にやらんでもいいんじゃね? 六千年も同じシステムが続いてるならそれでもいいと思うしな」 好奇心と口の回るギーシュが聞き役になり、ジョセフにインタビューしている今の話題は「それぞれの世界の政治形態について」だった。 ジョセフはこれと言った政治思想がある訳でもない。強いて言えば資本主義支持者で、世界有数の大富豪なスピードワゴン財団くらい稼がなくていいから、食うに困らない生活が維持できればそれでいいと思っているくらいである。 具体的に言えば屋敷の使用人達に払う給料が滞らず、夏や冬のバカンスに専用ジェットで向かう家族旅行や社用旅行で金に糸目をつけず遊び呆けたり……そんなささやかなものでいいと考えていた。 だから魔法を使える貴族が王権の元に政治を司るハルケギニアの治世自体に文句をつける気はない。 「それで上手く回ってるなら別に口出す必要もない。わしゃアカでもなんでもないし」という理由もあるし、この世界に永住する訳でもない通りすがりの異邦人でしかないのも、大きなウェイトを占めている。 ましてや三日後には元の世界に帰るのだから、自分から進んでやりたくもない瑣事に関わる必要などこれっぽっちもないのだった。 そんなことをしている暇があるなら、キュルケにケーキをあーんしてもらったり、タバサにチェスでコテンパンにされている方がよっぽど有意義というものである。 さて、タバサに三戦三惨敗という華々しい戦歴を打ち立て、実力の差を十分に自覚したところでジョセフは椅子から立ち上がりつつ、大きく伸びをした。 「んん……ちっと外の空気吸ってくる」 「行ってらっしゃい」 気ままに読書やお茶の時間を楽しんでいる友人達にひらりと手を振り部屋を出たジョセフは、小さく欠伸などしつつ風の塔から降りた。 これから日蝕までの間、別れの挨拶を告げる友人達のリストを頭に浮かべて芝生を歩き出したジョセフの名を大声で呼ぶ者がいた。 「おぉい、ミスタ・ジョースター! 出来た! 出来たぞ! 調合が出来た!」 茶色の液体が詰まったワインボトルを手に持ち、息せき切って走ってくるのはコルベールだった。 「マジか! もう出来たのか!」 「もうも何も、昼前には錬金出来たんだが学院中を探し回ってもミスタ・ジョースターが見つからなかったのだ。一体どこに行っていたんだね?」 不思議そうに尋ねるコルベールに、ジョセフはニカリと笑みを浮かべた。 「すまんな、ちょっと外に出とった。どれ、ちょっと確認させてくれ」 ワインボトルの栓を開け、飲み口から漂ってくる臭いを手で鼻元に仰ぎ寄せて嗅ぐ。 ゼロ戦の燃料タンクに残っていたそれと同じ刺激臭に、おお、と感嘆の声を上げた。 「やるなぁセンセ! まさかこんなに早く出来るとは正直思っとらんかった!」 「なに、原料と完成品の二つが揃っていたのでね。これが『燃える水』を手に入れてなかったらもう少し時間がかかったかもしれないが、これであの『ゼロ戦』は飛ぶという事だ!」 「うむ! で、ワイン樽五本分のガソリンは何日くらいで錬金出来る?」 「そうだな……私の精神力なら、他に魔法を使わなければ二日以内に五本は可能だ」 「グッド! じゃあ、樽一本くらい余分に作れるか? せっかくだから試験飛行しよう。わしが乗って帰ったらもう二度と乗れんからな、コルベールセンセには一度経験してもらいたい。『技術で作り出したモノで空を飛ぶ』という経験をな!」 ジョセフの提案に、コルベールの顔には見る見るうちに『誕生日にお前の欲しがっていた玩具を買ってあげる』と親に言われた子供のような笑みが広がった。 「そうだ忘れていた、ミスタ・ジョースターが地球に帰ってしまえば『ゼロ戦』に乗れる機会はなくなってしまうんだ! ならば明日の朝までに一本用意しておこう!」 今すぐにでも研究室に戻って錬金を再開すべく走り出そうとしたコルベールの手をつかんで留めた。 「待て待てセンセ、せっかくガソリンの試作品があるんだから作動実験もしてみよう。作っては見たが動きませんでしたじゃどーにもならんだろ」 「それもそうだな! では早速実験してみよう!」 二人でアウストリの広場に向かい、燃料コックにガソリンを注ぎ込む。 「よしよし。さてプロペラを動かさにゃならんなー……」 そう呟くと、ちら、と横で目を輝かせているコルベールを見た。 「まァいっか」 構わずに左手からハーミットパープルを発現させる。杖も詠唱もなく突然現れた紫の茨は、メイジであるコルベールの目には明らかな実像となって映っていた。 「ミ、ミスタ・ジョースター!? それは一体……」 当然、未知の現象を突然目撃することになったコルベールは驚きの声を上げた。 「どうせ三日後に帰るからコレもバラすことにしよう。これは『スタンド』、わしの住む世界では稀にこの能力を持つ人間や動物が現れることがある。これがわしのスタンド、ハーミットパープル。 わしのいた世界ではスタンドはスタンド使いにしか見えんかったが、こっちの世界ではメイジには例外なく見えるらしい。多分魔力とかそんなのが関係しとるんじゃろうが、まぁ今はそんなこたァどーだっていい」 眼鏡の奥の目を大きく見開いたままのコルベールからゼロ戦に視線を移すと、静電気が走るような破裂音を放ちながら、ハーミットパープルを機体に入り込ませていく。 「何をしてるんだミスタ・ジョースター! そんなことをしたら、『ゼロ戦』が……!?」 壊れる、と続くはずだった言葉は驚きと共に飲み込まれてしまった。茨が入り込んだように見えた箇所は穴の一つも開いておらず、まるで機体から茨の彫刻が生えているようにも見えた。 「な……なんだねこれは。『スタンド』……とか言ったか? 先住魔法……ではないのか」 持ち前の強い好奇心を発揮し、恐る恐るながらもまじまじとハーミットパープルの観察を開始するコルベール。 「これはわし自身の生命エネルギーが作り出す像でな。基本的に人それぞれの性格やらなんやらで持つ能力や姿形が変わる。つまり同じスタンドは存在しないと言ってもいいだろう。わしのハーミットパープルの能力は念写に念聴、そして機械操作。 プロペラを動かす為には中のクランクを動かさなきゃならんのだが、それを動かす道具がないんでハーミットパープルで代用する」 「あ、ああ」 いきなり理解を越えた単語が連ねられるが、それでもコルベールはおおよその意味は掴んでいた。 「さあセンセ、ちとコクピットは狭いんでな。上からわしが操作してるトコを見てくれ」 コクピットの風防から中に入ったジョセフの頭上に、レビテーションの魔法をかけたコルベールが浮き上がった。 左手が欠損している為にパイロットにはなれなかったものの、セスナを始めとしたプロペラ機の操縦は普通に出来るジョセフである。それに加えてゼロ戦を兵器と認識したガンダールヴの能力が、初めて乗るゼロ戦の起動手順を逐一頭の中に浮かばせる。 一つ一つの手順の意味をコルベールに教え、コルベールはジョセフから聞いた言葉を興味深げに聞く。 ゆるゆると回っていたプロペラは始動したエンジンの力を借りて大きく回り、スクウェアメイジが起こす風にも匹敵するだけの風力を発生させた。 大日本帝国の名機であるゼロ戦は現役である事を確認したのを満足げに見届けたジョセフは、しばらくエンジンを動かした後で点火スイッチを切ると、もう今にも歓喜を爆発させそうなコルベールに向かって満面の笑みとウィンクと、当然親指も立てて見せた。 コルベールも、立てられた親指が何を示すか一瞬考えた後、ちょっとぎこちない手付きで親指を立て返し、嬉しそうな笑顔を返した。 「やったぞセンセ、バッチリじゃッ! お次は飛行実験だ、ちぃとギュウギュウ詰めだがセンセに空の旅をプレゼントしようッ!」 「おおおお! すごい、すごいぞミスタ・ジョースター! この炎蛇のコルベール、今まで生きてきた人生の中でこんなに胸を高鳴らせたことは無いッ! 今のこの感情の昂ぶりなら、一晩で樽五本分のガソリンすら錬金出来てしまいそうだッ!」 「まあまあセンセ、それで精神力を使い切ってはつまらんだろ。今夜は程々にガソリンを錬金して、ベストコンディションで飛行実験に挑もうじゃないか」 「ああ、そうだな! では私は早速錬金に取り掛かる、それではまた明日会おう!」 「おー、じゃあ朝メシ食った後にここ集合なー」 居ても立ってもいられないとばかりに走り出したコルベールの背に手をひらひらと振ってから、やっとジョセフは茜色に変わり行く空に気付いた。 「いかんいかん、もうこんな時間か。あいつらも飛行実験誘ってみようか」 今日の晩メシなんじゃろなァ~、と即席の節をつけながら友人達を待たせている部屋へと戻っていった。 そして次の日の朝。 ゼロ戦が鎮座するアウストリの広場には、ルイズとウェールズを除く宝探しメンバー、そしてコルベールが集まっていた。 魔法で浮かせた樽からガソリンをタンクに移し変え終わったのを確認してから、ジョセフはもったいぶった動作で友人達に向き直り、帽子を取って恭しく一礼した。 「やあやあ、お集まりの善男善女の皆様方。本日はお日柄も良く、これよりゼロ戦の飛行実験を粛々と執り行いたいと存じます」 雲一つ無い、という訳でもないが特に大きな雲があるわけでもない。十分に晴れた青い空がトリステインの上にあった。 「確かに今日はいい天気だね。で、このぜろせん、とやらは本当に飛ぶのかね? 僕は今でもコレが飛ぶだなんて少しも信じられないんだが。なあヴェルダンデ」 「タルブの村のおじいさんおばあさんは、何人かこのぜろせん、が飛んでいるところを見たって言ってましたけど……」 この期に及んで何回言ったか判らない疑問を口にするギーシュに、シエスタがおずおずと意見を述べた。 「まあまあ、一見は百聞に如かずって言うじゃろ。なんなら賭けてもいいぞ、また金貨二百枚と一年執事の権利を賭けてな」 ニシシ、と笑うジョセフに、ギーシュの顔は渋すぎる茶を無理矢理飲まさされたみたいになった。 「君はもう故郷に帰るんだろ? なんてことだ、賭け金も渡せないうちに帰られるだなんてグラモン家の四男としてこれほど屈辱的なことはないというのに」 「そうそう、忘れてたけど私も二百エキュー貰えるんだったわね。なんならダーリンの分も合わせて私が預かっておこうかしら」 思わず口を滑らせた事に気づいた時にはもう遅い。猫の様なニンマリとした笑みを浮かべるキュルケに、ギーシュはしかめていた顔を更に大きくしかめた。 「……ジョジョ本人に手ずから渡すことにするよ、僕は」 「あらそれは残念」 そもそもゼロ戦が飛ぶということ自体を信じていないギーシュとキュルケは、ゼロ戦にかかりきりのジョセフとコルベールをさておいてそんな軽口で盛り上がっていた。 「さて、んじゃいっちょ行くとするか。センセ、何とか詰めてくれ」 腰に下げていたデルフリンガーを足元の隙間に入れ、コルベールが乗れるスペースを何とか確保する。 そもそもゼロ戦は一人乗りである。座席背部にあった通信機を取り除いたことで二人が乗れないことはない、くらいの広さは辛うじて確保できていたが、そもそも身長195cm、体重97kgもあるジョセフが乗ればそれだけでコクピットのスペースを大きく取ってしまっていた。 コルベールも細いとは言え立派な成人男性の体格を持っている。乗ることが不可能ではないのだが、ぎゅうぎゅう詰めになるのは致し方のないことだった。 「ああ、いや確かに狭いが何とか……というか、ミスタ・ジョースターがこんなに大柄なのが問題ではないのかね?」 「そもそもコレ一人乗りだもんよ。メッサーシュミットなら三人乗れるんじゃが贅沢は言っとれんだろ」 コクピットに乗り込むだけでいい年したジジイとハゲ上がった大人が言い争いしながらも、何とか乗り込むことは出来た。 「よし、んじゃ行くとするか」 クラッチにハーミットパープルを這わせてエンジンを始動させると、プロペラが音を立てて回り始める。計器が示す数値も異常が無いことを教えてくれる。 ブレーキを放すと、ゼロ戦がゆっくりと動き出す。おおよそ目星をつけていた離陸点に辿り着くが、ガンダールヴのルーンとジョセフ本人の経験がゼロ戦が飛び立てる滑空距離に少々足らない、と見えてしまった。 アウストリの広場が狭いわけではないが、それでも飛行機一機が飛び立つ為に必要な距離は並大抵のものではないと言う事だった。 ジョセフは閉じた片目の上に手を翳し、学院の敷地を取り囲む高い塀に舌打ちした。あれがもう少し低ければこの距離でも十分離陸は出来ただろう。 「ううむ。ちと距離が足らんな……あそこの高い壁を吹き飛ばせば何とか行けるかもしらんが」 しょっぱなから物騒な提案に思考が進んだジョセフをたしなめたのは、足元に転がっているデルフリンガーだった。 「相棒、そんな短絡的な方法取んなくても外にいる貴族の娘っ子達に風を起こしてもらえればいけるぜ」 「ああ、それなら行けるか」 「あのちまいのは風のトライアングルだろ? なら大丈夫だ」 風防から腕を出してハーミットパープルをタバサに伸ばす。骨伝導で「広場のあっこらへんに立って思い切り向かい風を吹かせてくれ」と頼むと、タバサはこくりと頷いて指定された場所まで歩いていった。 さして時間を掛からず轟風が巻き起こったのを見届けると、シエスタから受け取ったゴーグルを身に付ける。 「おっしゃ、行くぞセンセ」 「ああ……よろしく頼む!」 踏み込んでいたブレーキペダルから足を離し、スロットルレバーを開く。 加速するエネルギーを解放されたゼロ戦は勢い良く加速を開始する。 操縦桿を軽く前方に押し、尾輪を地面から離れさせ滑走に入る。 段々と壁が近づいてくる中、十分にスピードが乗ったのを確認すると操縦桿を引き、タバサの起こした風に機体を乗せた。 ゼロ戦が浮き上がり、大きなGがコクピット内の二人に圧し掛かる。 そして脚を収納したゼロ戦は魔法学院の壁を飛び越え、更に上昇を続けていく。 「おおお、飛んでいる! 飛んでいるぞ! こんなに早く!」 風防の外で猛スピードで流れていく景色を見、興奮を隠さず叫んだ。 「おい俺にも見せろよ相棒!」 鞘口をカタカタ鳴らして催促するデルフリンガーをハーミットパープルで引き上げれば、デルフリンガーもまた金具をけたたましく鳴らして騒ぎ出した。 「うわー! すげえ! すげえ! なんだこれ、フネとか竜とか比べ物になんねーぞ!」 「そりゃそうよ、こいつぁ最高速度が500km以上出る。ハルケギニアでそんだけの速度を出せる魔法や生物なんてそうはないじゃろ?」 狭いコクピットの中、自慢げに言うジョセフの言葉も、コルベールとデルフリンガーには届いていなかった。 矢のように過ぎる雲の流れと外の景色に釘付けになっていたからだ。 これから同乗者の気が済むまで遊覧飛行したり、雲を突き抜けた上空まで一気に飛んでやりたくもあったが、如何せん肝心要の燃料がタンクの20%しかない。 安全を考慮し、比較的低空飛行で、且つ学院の周辺を飛び回るだけしか出来なかったが、それでもコルベールやデルフリンガーには十分過ぎる驚きと興奮を与えていた。 それは無論、地上で見守っていたギーシュ達や、突然聞こえてきた爆音に何事かと教室の窓から顔を出した学院の生徒や教師達、地面から見上げる使用人達、そして塔の窓から一部始終を見守っていたウェールズも例外ではない。 「ほらほら見てくださいミス・ツェルプストー、ミスタ・グラモン! 飛んでます、竜の羽衣が飛んでますよ!」 お伽噺だった『竜の羽衣』が本当に空を飛んでいるのを見ることが出来たシエスタのはしゃぎ様にも、キュルケもギーシュも構うことが出来なかった。 「……まるで夢でも見ているようだ。まさか、あんなカヌーみたいなオモチャが、あんなに早く飛ぶだなんて……」 「……本当に。何から何まで私達の常識ってものが通用しない世界なのね、ダーリンの世界って」 学院にいる大勢の人間の中で、事情が飲み込めている者はほとんどいない。それでも、ハルケギニアの空を翔けるゼロ戦に視線を奪われていた。 それから二十分後、再びアウストリの広場にゼロ戦が着陸し、そこからジョセフとコルベールが降りてきたのが確認された後、物見高い生徒達が教師の制止を振り切って教室の窓からフライで広場に殺到してくる。 ルイズに召喚されてからこの方、学院の注目を一手に集めてきたジョセフである。 怒涛のように押しかけてくる野次馬達を丁重にあしらい、無遠慮にゼロ戦を触ろうとする不貞な連中にはトライアングルの三人と使い魔が睨みを効かせていた。 今日も今日とて注目を一手に集めるジョセフを羨ましげに見ていたギーシュは、自分を慰めるように鼻先を摺り寄せてくるヴェルダンデにしかと抱き付いていた。 「ああヴェルダンデ、僕の愛くるしいヴェルダンデ、傷心の僕を癒してくれるのは君だけだ」 もぐもぐ、と喉を鳴らして目を細めるヴェルダンデは、しょうがないなあと言いたげなつぶらな瞳で主人を見つめていたのだった。 ちょうどその頃、トリステイン王城のルイズは客間のベッドで頭から毛布を被っていた。 眠っている訳ではない。目ならとっくに覚めている。 しかし、ベッドから起き上がる気分にはなれなかったのだ。 使い魔とも別れて一人、今の自分が唯一頼れる友人であるアンリエッタの所へ転がり込んだはいいものの、今になってその行動が間違いだったことに気付いてしまった。 スタンド使いで様々な悪知恵が働くジョセフがいなければ、自分はただのゼロのルイズでしかない。何も出来ない、魔法も使えないゼロのルイズ。 しかも使い魔が帰還するのを素直に喜んでやれる訳でもなく、さよならも言わずに帰れと置手紙を残しただけ。使い魔を手放す辛さに耐えかねたとは言え、そんな無責任な別れは許されるはずが無い。 自分の都合で呼び出した使い魔を帰すのに、呼び出した張本人はこうして迎えの来ないベッドの上で毛布を被って時が過ぎるのをただ待っているだけだなんて、果たして貴族の振る舞いとして恥ずかしくないのか。答えは既に出ている。 サイドテーブルに置いている帽子に視線が行き、そしてまたすぐ離された。 (……私、バカだわ。こんなことしてたってしょうがないじゃない……) 頭では判っている。ジョセフが帰るその時まで側にいて、謝るところは謝って、最後にさようならと直接言って、きちんと別れを告げるべきなのだと。 まだ日蝕まで二日ある。今から馬を飛ばして帰れば、十分に間に合う。学院に帰って、何もなかったような顔しててもジョセフはちょっとだけ苦笑して、あの大きな手で頭を撫でてくれるだろう。 正直になって、別れたくない帰したくないって駄々をこねられるだけこねて、思い切り泣いて叫んで――自分の中に溜まっているわだかまりを全部吐き出してぶつければいい。 本当はそうしなければならないのだ。 そんな事をしても、ジョセフの意思が変わらないのは判り切っている。 ただ、伝えなければならない。 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールにとって、ジョセフ・ジョースターがとても大切な存在だって言う事を。 人の言う事を先読みできる有り得ない洞察力と推理力を持つジョセフだって、あんな走り書きの文章一つで自分の中で渦巻いている色んな気持ちを察することなんて出来はしない。 ……いや、ハーミットパープルを使えば出来るかもしれないが、多分そんなことはしない。 だからちゃんと自分の口で、自分の気持ちを伝えなければならないのに。 今から部屋を飛び出して、馬に乗って帰るだけでいいのに。 しかし、ルイズはベッドから起き上がる事が出来なかった。 由緒正しいトリステイン名門のヴァリエール公爵家の三女たる者が、よりにもよって使い魔から逃げ出して毛布を被っているだけだなんて。 どんな顔をして帰ればいいのか、果たしてジョセフが本当に自分の思うような行動を取ってくれるのか。もし取ってくれなかったらどうしよう――。 そんな思いばかりが渦巻いて、立ち上がることが出来なかった。 誰にも頼ることが出来ず、誰にも悩みを打ち明けられず、一人きりになった今、16歳の少女に似つかわしい臆病さが前面に押し出されていた。 頭では取るべき行動が判っていても、心が動き出す決意を立てられない。 結局ルイズは、毛布で全身を包みきゅっと目を閉じて、眠気が来るのをひたすら待ってしまった。 日蝕の前日。 ゲルマニア皇帝アルブレヒト三世と、トリステイン王女アンリエッタの結婚式を三日後に控えたその日の朝。 トリステイン王宮は、式が行われるゲルマニア首府のヴィンドボナへのアンリエッタの出発の準備を控え、上から下まで慌しく駆け巡っていた。 トリスタニアからヴィンドボナまでは、馬車で行けば半日弱しか掛からない。 しかし政略結婚と言えども、一国の皇帝と王女の婚礼の儀は建前上目出度い代物であり、祭儀として華々しく、且つ恭しく執り行われるべき代物である。 トリステイン首都のトリスタニアからヴィンドボナまでの旅路そのものが盛大なセレモニーであり、足早に急ぐような野暮な真似が出来るわけも無い。 半日弱の旅路をたっぷり時間をかけ、式前日の夕方にやっと到着することになっていた。 千の御伴を連れて立ち並ぶ行列の主賓たるアンリエッタ自身は、まるで病に冒されたような白い面持ちのまま、今朝本縫いが終わったばかりのウェディングドレスに身を包んでいた。 上質の絹で織られた美しいドレスを着ているというのに、ドレスの色を黒く染めれば葬儀の場に立っていてもなんら違和感を感じさせない佇まいであった。 出発の時間まで四半刻となった頃、王宮に突然の報がもたらされた。 国賓歓迎の為、ラ・ロシェール上空に停泊していた艦隊全滅の知らせ。 それと時を同じくし、神聖アルビオン共和国からの宣戦布告文が急使に拠り届けられた。 ラ・ロシェールに配備されていたトリステイン艦隊が突如不可侵条約を無視して親善艦隊に理由なく攻撃を開始し、一隻の戦艦が撃沈された為、アルビオン共和国政府は『自衛の為』『やむなく』トリステイン王国政府に対して宣戦を布告する旨が綴られていた。 トリステイン王宮はこの知らせに騒然となり、急遽将軍や大臣達を招集した。 しかし名誉ある貴族が雁首揃えてやることと言えば、豪奢な大会議室でただ言葉を踊らせるばかり。 やれこれは互いの誤解から発生した不幸な行き違いだ、アルビオン政府に対し真摯な対応をすべきだ。いや今すぐゲルマニアに急使を飛ばし、同盟に従い軍を差し向けるべきだ。 誰も椅子から腰を上げようともせず、下の者を動かそうともせず、ただひたすらに終着点が考えられていない互いの意見ばかりが飛び交い、なんら実のある結果に繋がる気配は見えなかった。 会議室の上座には、ウェディングドレスを纏ったアンリエッタが座っていた。きらめくような白絹に身を包んだ姿は衆目を引き付ける美しさを醸し出しているが、居並ぶ貴族達は誰一人としてその清楚な美しさに目を留めようとしない。まして意見を求めようともしない。 国を揺るがす一大事の中でも、うら若き王女はただ座っているだけ。 ただ顔を俯かせ、膝の上に置いて握り締めた手をじっと見つめているだけだった。 「――これは偶然の事故――」 「――今なら話し合えば誤解が解けるかも――」 「――この双方の誤解が生んだ遺憾なる交戦が全面戦争へと発展しないうちに――」 会議室での言葉は何一つアンリエッタに届かず、ただ頭の上を通り抜けていくだけ。 誰も王女に言葉を届けようともしないし、届ける意味を見出してもいなかった。 「急報です! アルビオン艦隊は降下して占領行動に移りました!」 伝書フクロウがもたらした書簡を手にした伝令が、息せき切って会議室に飛び込んできた。 「場所は何処だ!」 「ラ・ロシェールの近郊! タルブの草原のようです!」 伝令の言葉に、会議室はより重い空気を漂わせる。 自分達が考えている以上に、事態は重大であることに気付き始めざるを得なくなっていた。 昼を過ぎ、王宮の会議室には次々と報告が飛び込んでくる。 それらはどれも例外なく、頭を抱え耳を塞ぎたくなるような悪い知らせばかりであった。 タルブの領主が討ち死にし、偵察の竜騎士隊は一騎たりとも帰還せず、アルビオンからの返答もない。 敵意を持って杖を向けている敵に対し、未だに自分達がどうするのかも決めあぐねて会議室から出ようともしない貴族達。 それをただ黙って見ているアンリエッタの心の中では、これまで懸命に押し殺してきた感情がゆっくりと、しかし着実に膨れ上がっていたのだった。 (……これが。伝統あるトリステイン王室) 前王は子に恵まれなかった。生まれた子供はマリアンヌとの間に生まれた娘、アンリエッタ一人。側室も設けなかった為、トリステインの王位継承権を持つ者は大后マリアンヌと王女アンリエッタの二人だけ。 王が崩御した後、マリアンヌは王位継承権を放棄し、第一王位継承権を持つようになったアンリエッタは当時7歳。まだドットメイジですらない少女を王座に座らせる訳にも行かず、それから十年間トリステインの玉座は主を失ったまま現在に至っている。 しかし17歳となり、水のトライアングルメイジとなった彼女は、ハルケギニア統一の野望を持つアルビオンに対抗する同盟を結ぶ為の貢物として、四十過ぎの男との政略結婚を組まれていた。そこに彼女の意思は介在していない。アンリエッタの恋心を斟酌されるはずもない。 トリステイン王宮に仕えている貴族達は、王家に傅く素振りをしているだけ。国家存亡の危機に瀕している今、王女に意見を求めることも無く、ただ自分達だけで言葉を踊らせている。 自分に求められている役割は国を統治する王女ではなく、王宮を飾る美しい花。 花瓶に生けられた花に、王の言葉を求める者は居ない。 (そうね。私はずっと彼らから取り上げられてきたのだわ。トリステインという国を。王女としての誇りを) 今にも滅亡しようとするアルビオンで孤軍奮闘するウェールズから、昔送った恋文を返して貰う。そんな困難な任務を頼める相手が、幼い頃の遊び相手しかいなかった。 数少ない友人であるルイズにすら、最初は悲劇の主人公ぶった言葉でしか頼むことが出来なかった。王女としての立ち居振る舞いすら忘れていたのだ。 それを思い出させてくれたのは、皮肉にも平民であり、使い魔である老人、ジョセフ・ジョースターの言葉。 『王族の誇りを捨て、自らに仕える貴族にへつらった! そんな腐れた魂の何が王女か、何がルイズの友達かッ!』 あの夜、自分は王族としての誇りを取り戻したはずではなかったのか。 愛するウェールズは最後の時までアルビオン王家に連なる者として、誇り高く死のうとした。それを無理矢理トリステインに連れて帰らせたのは自分だ。 アンリエッタ・ド・トリステインは、こんな無様な姿を見せる為に愛する人の意思を捻じ曲げたのか? 今の自分は胸を張って、自分の愛する人達の前に顔を出せるだろうか? (……出せないわ。出せるはずが無い) 今の自分は、王女である資格がない。恋人である資格がない。友人である資格がない。 (――どうせ、このまま生き長らえても意にそぐわぬ婚姻をするだけ) 弾む鼓動を抑えるように、ゆっくりと、けれど大きく、息を吸う。 (これから数十年ずっと悔いて生きるのと、今日、死ぬことと。どれだけの違いがあるのかしら) 肺腑に行き渡らせた息を、静かに吐き出していく。 (せめて、トリステインの王女として誇れるように生きてみよう) 俯いていた顔をゆっくりと上げる。意味のない言葉が舞う貴族達を一瞥し、悠然と立ち上がる王女に、貴族達の目が向けられた。 「――トリステインの貴族は誰も彼も臆病者のようですわね」 アンリエッタの唇が紡いだ言葉は、意図せず氷柱のような冷たさと鋭さを纏っていた。 「姫殿下?」 「今正に国土を侵されていると言うのに、下らぬ言葉遊びに興じる様の見物はもう飽きました。それで? 貴方がたは一体どうするというのですか。そのお腰の杖は飾りなのですか? 貴方がたが今唱えなければならないのはつまらぬ御託ではなく、敵を討つ為の呪文のはずです」 呼吸も乱れず言葉に震えもない。言うべき言葉が勝手に流れているような錯覚さえ、アンリエッタは抱いていた。 「しかし、姫殿下……誤解から発生した小競り合いですぞ」 「誤解? 何をどうもって誤解と言うのですか? トリステイン王国の艦隊は祝砲に実弾を込める愚か者が揃っております、とお認めになるつもり? そんな馬鹿な話があってたまりますか。どれだけ下らない道化芝居とて、こんな無様な筋書きは存在しません」 「いや、我々は不可侵条約を結んでおったのです。事故以外に有り得ません」 「事故以外の可能性を貴方が認めたくないだけでしょう。今我々が直面している現実は、アルビオンがトリステインの国土を侵している。条約は紙より容易く破られたのです。どうせ守るつもりなどなかったのでしょう、あの卑怯者達の集まりは」 「しかし……」 なおも言い募ろうとする一人の将軍に一瞥をくれる。 ただのお飾りであるはずの王女は、臣下の勝手な発言を視線一つで遮った。 「貴方がたは御存知? アルビオンを簒奪したレコン・キスタは我がトリステイン王国のグリフォン隊隊長を裏切らせ、名誉ある戦いに赴こうとしたウェールズ皇太子を暗殺しようとしたのです」 突如発せられた言葉に、会議室がどよめく。 王宮近衛である魔法衛士隊隊長の裏切りは、緘口令が引かれていた。この緊急時に会議室に召集された貴族の中でも、その事実を知らない者は少なくなかった。 「アルビオン王家は滅亡寸前であったのに、彼らは最期の名誉ある死すら皇太子から奪おうとしたのです。いみじくもトリステインがレコン・キスタに加担したも等しい忌まわしい出来事を知ってなお、まだ愚にも付かぬ議論を続けるつもりですか」 静かに紡がれる王女の言葉に、貴族達は口を噤む。つい先程まで貴族達の声が溢れていた会議室には、王女の声だけが響いていた。 「この様な繰言を並べている間も、国が踏み荒らされ、民の血が流れているのです。王族や貴族は、この様な時こそ杖を掲げ戦いに出向く存在だったのではありませぬか? そんな最低限の義務すら果たせないのなら、杖など折ってしまいなさい!」 声を張り上げてテーブルを叩くアンリエッタ。 誰も言葉を発さず、杖に手を掛ける者もいない。 「黙って聞いていれば、如何に逃げ口上を美しく整えるかという事ばかり。確かにトリステインは小国、頭上から見下ろすアルビオンに反撃したところで討ち死には必至。敗戦後、責任を取らされるのは真っ平御免と言う所でしょうか。 それならば侵略者に尻尾を振って腹でも見せていれば命が永らえる。そうそう、私の聞き及んだ話ですと王党派は降伏してもギロチンなる処刑道具で首を刎ねられたそうですわ」 「姫殿下、言葉が過ぎますぞ」 マザリーニがたしなめる。しかしアンリエッタは一瞬だけ視線を彼に向けただけだった。 「わたくしは誇り高きトリステイン王国が王女、アンリエッタです。わたくしは王族としての義務を果たしに行きます。卑怯者どもの犬として首を刎ねられたいのならば、自由になさい」 アンリエッタは貴族達にそれ以上構うこともなく、ドレスの裾を捲り上げて会議室を飛び出していく。 「お待ち下さい! お輿入れ前の大事なお体ですぞ!」 マザリーニのみならず何人もの貴族がそれを押し留めようとするが、彼女は躊躇いなく彼らを一喝した。 「軽々しく王女に触れようとするとは何事ですか、立場を弁えなさい!」 アンリエッタに伸ばされようとしていた手が、威厳ある言葉によって動きを失った。そして行き場を無くした手達が彷徨う中、捲り上げた裾を強引に引き千切ると、破き取った裾をマザリーニの顔目掛けて投げ付けた。 「もううんざりだわ、私の意思は私のもの! 貴方がたに左右される云われはないわ!」 見るも無残に敗れた裾を翻し、足音も高く廊下を進んでいく。 会議室を守っていた魔法衛士達は、王女殿下の後ろを自然と付き従っていった。 宮廷の中庭に現れたアンリエッタは、涼やかな声で高らかに叫んだ。 「わたしの馬車を! 近衛! 参りなさい!」 中庭にいた衛士達がアンリエッタの元に集まり、ユニコーンの繋がれた馬車が衛士の手によって引かれて来る。 アンリエッタは馬車からユニコーンを一頭外し、傲慢なほど堂々と背に跨った。 「これより全軍の指揮をわたくしが執ります! 各連隊をここへ!」 前王が崩御してから十年余の時間を経、トリステイン王宮に王の声が響き渡る。 魔法衛士隊の面々は一斉に王女に敬礼し、アンリエッタはユニコーンの腹を蹴りつける。 甲高いいななきを上げて前足を高く掲げる中でも、彼女は悠然とした態度を崩さなかった。 アンリエッタの頭に載ったティアラが日の光を受け、黄金色に輝いたのを臣下に見せた後、ユニコーンは誇らしげに走り出す。 それに続き、幻獣に搭乗した衛士達がそれぞれ叫びを上げて続く。 「戦だ! 姫殿下に続け!」 「続け! 後れを取っては家名の恥だ!」 雪崩を打つように貴族達は各々の乗機に跨り、アンリエッタの後を追いかけていく。 王女出陣の知らせは城下に構える連隊へ届き、後れを取ってはならぬと次々とタルブへ向かって進んでいく。 投げ付けられた裾を手にしたまま、その様子を見ていたマザリーニは呆然と天を見上げた。 アンリエッタが貴族達に放った言葉は、自分も考えていたことだった。 伝え聞く情報は、レコン・キスタとは誇りや名誉という単語から程遠い場所に存在する連中だという事は知っていた。 だが現実問題として、今のトリステインでは彼らに太刀打ちできないことを一番知っているのは、国の政務を一手に引き受けてきたマザリーニである。 今ここで戦いに出たところで、無駄に被害を広げる結果にしかならないと考えている。今更命が惜しい訳ではない。現実的に考えれば考えるほど、国の為、民の為には事を荒立ててはいけなかった。小を切り捨て、大を生かす為にはそうせざるを得なかった。 だが、今この時、条約は破られ、戦争が始まっているのだ。外交のプロセスは既に終わっている。今は互いの国力をぶつけ合う実力行使の時間になっている。それを認めたくない、という気持ちがなかったとは言えなかった。 一人の高級貴族が、アルビオンに派遣する特使の件で耳打ちをする。 マザリーニは頭に被っていた球帽をそいつの顔面に思い切り投げ付けようとして、気が変わる。球帽を掴んだ拳ごと彼の鼻っ面に叩き込んだ。 そしてアンリエッタが投げ付けた裾を頭に巻き付け、叫んだ。 「各々方! 馬へ! 遅れてはならぬ、栄えある姫殿下の元に集え!」 To Be Contined → 戻る
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疑念! 意思の在り処 ゼロ戦の周囲を竜騎士隊が固めて飛ぶ。弾切れのゼロ戦にとってはありがたい護衛だ。 しばらくするとスタープラチナの目が前方にいる十数匹の敵竜騎士を発見した。 迂回できそうなので承太郎はゼロ戦を傾け方向を変える。 すると他の竜騎士もゼロ戦を囲むように軌道を変え、戦闘の竜騎士が速度を調節してゼロ戦に接近してきた。 承太郎は伝令用の小さな黒板にスタープラチナで素早く文字を書いてそれを見せる。 『前方に竜十数騎確認、回避する』 彼は慌てて前方を確認するが敵影など見つけられなかった。 だが『ひこうき』という奇妙な風のマジックアイテムを使う彼等は、多分自分達では解らない何らかの方法で敵の存在を知りえたのだろう。 ゼロ戦と竜騎士隊は順調に敵を回避しながらダータルネスへと接近する。 しかしダータルネスまで後少しというところで、承太郎はそれを発見した。 それは百騎を越えようかという竜騎士の群れ。 そして地図につけられた幻影作戦目的地は、百の竜の群れの目前であった。 つまり発見される前提で百の竜の前に飛び出さなければならない。 百の竜の存在を承太郎は小さい黒板に書いて皆に教える。 すると竜騎士隊は互いの顔を見てはうなずき合い、百の竜の待つ空へと突っ込む。 「えっ!? じょ、ジョータロー! 大変、みんなが……!」 「野郎……そういう、事か。……何が護衛だ、あいつ等は……捨て駒だ」 「捨て……? ま、まさか、囮になって私達を……」 「……行くぜ、ルイズ。詠唱の準備に入れ」 「ジョータロー!? 本気!?」 竜騎士隊を盾にするようにしてゼロ戦を飛行させながら、承太郎は奇妙な感覚に陥った。 ――これは本当に、俺が望んだ戦いなのか? 味方の竜騎士が敵の竜騎士の注意を引く。 そして複数の竜騎士から魔法を受けて墜落し、またはゼロ戦への攻撃を自ら受けて墜落し、彼等は若い命をアルビオンの空に散らしていく。 ――こうなる事は解っていたはずだ。ウェールズの仇を討つための戦争なんだからな。 承太郎はスタープラチナで座席の下のレバーを引っ張った。 コルベールからもらった説明書の内容が正しければ、これで速度が増し敵を振り切れる。 尾翼下の胴体の外板がはずれて鉄の筒が現れると、そこから青白い炎が噴出する。 炎の使い手コルベールが開発したロケット推進機関だ。 ――仇を討つなら俺一人でアルビオンに忍び込みクロムウェルを暗殺すればいい。 ゼロ戦の加速に敵の竜騎士達は驚愕し、追いつく事も魔法の狙いをつける事も不可能。 これで作戦は成功したも同然だろう、竜騎士隊の犠牲を払って。 ――なぜ俺は異世界の戦争なんかに首を突っ込んでいる? ゼロ戦は計器速度で450ノット近い速度を捻り出して飛び続ける。 敵を振り切った今、ダータルネスまで障害は無い。 ――この世界で戦う理由を見つけた途端、俺はそれをしなくてはならないと思った。 ウェールズを殺し、そして死後までも彼の生命と名誉をもてあそんだレコン・キスタを、確かに承太郎は許せないし怒りも感じている。 だが何かが違う。その怒りが何かに利用されている気がする。 ダータネルスの港に到着し、船を係留するための桟橋が多数見えてきた。 「上昇して。虚無の魔法を使うわ」 「…………」 承太郎は無言でルイズの指示に従い、ゼロ戦を操縦する。 高度を下げて減速し、風防を開けてルイズが詠唱を開始すると、承太郎は先程まで考えていた疑問が薄らいでいくのを感じた。 ルイズの虚無の詠唱を聞いていると、なぜか心が安らぐ。 作戦がうまくいきそうだから安心しているのだろうか? 仲間を――犠牲にしたのに。 わずかな疑心が、安らぎを拒絶する。 エクスプロージョン。ディスペルマジック。 あの時に感じた高揚感や信頼感などは、今感じているこの感情は、まさか。 詠唱が完成する。 描きたい光景を強く心に思い描くべし。 なんとなれば、詠唱者は、空をも作り出すだろう。 虚無の魔法イリュージョンにより雲が掻き消え、空に幻影が描かれ始める。 それは巨大な戦列艦の群れ。 ここから何百キロメイルも離れた場所にいるはずのトリステイン侵攻艦隊の姿。 ロサイスに向かっていたアルビオン艦隊は、ダータルネス方面からの急便の知らせを聞き全軍を反転させた。 ヴュンセンタール号の作戦会議室で将軍は報告を受け取り、もぬけの殻となったロサイスへ全軍を全速前進させた。 しかし上陸が成功しても苦しい戦いになるだろう、アルビオンには手つかずの五万の軍隊が眠っているのだ。 帰還中のゼロ戦の中には沈黙が流れていた。 竜騎士隊の犠牲を目の当たりにしてルイズは落ち込んでいたが、きっと承太郎も同じ気持ちだろうと思い無言の彼を気遣っていた。 だが承太郎は、確かに彼等の犠牲を憂いてはいたものの、ずっと考え事をしていた。 『使い魔として契約していない竜は気難しく、乗りこなすのが一番難しい幻獣なんだ。 乗り手の腕、魔力、頭のよさまで見抜いて乗り手を選ぶんだぜ』 先日、竜騎士隊の一人が言った言葉を思い出す。 つまり使い魔として契約すれば、竜は無条件で主を乗り手として選ぶ。 タバサのシルフィードもとても従順で、タバサだけでなく自分達も平気で乗せる。 使い魔とは、そういうものなのだろうか。 だとしたら自分はどうなのか? 伝説の使い魔ガンダールヴのルーンを刻まれた自分は? この世界で戦うと決めたのは本当に自分の意思か? この世界でウェールズの仇を討つと決めたのは本当に自分の意思か? この世界でルイズを守ると決めたのも本当に自分の意思なのだろうか? 自分の怒りは悲しみは、使い魔のルーンに介入されてしまっているのではないか。 脳味噌が頭から左手に移ったような気分になり、承太郎はタバコを点けた。 そういえば最近あまり吸っていなかった、ルイズが嫌がるからだ。 「ちょっと、こんな所で吸わないでよ。煙がこもるじゃない」 「……やかましい、黙ってろ」 ルイズを気遣ってタバコを吸うのをやめようかと一瞬考えたのは、本当に自分の意思か? 気分転換のために吸っているはずのタバコが、やけに不味く感じられた。 自分の意思の在り処はどこなのだろう? 頭か、胸か、それとも左手か。 一匹の風竜がアルビオンの空を飛んでいた。 黒衣の男を乗せたその竜は、何かを発見してそれを主に教えよう小さく鳴く。 だが竜は人語を話せない。 伝説の韻竜でもなければ、人間との完全な対話は不可能だ。 だが黒衣の彼は風竜の頭を撫でるとを森の中に降下させ、そこに倒れている竜騎士隊を発見する。 着ている服装を見るにアルビオン軍ではないようだが、だとするとトリステインかゲルマニアの連中だろうか? なぜこんな場所に? 主から連合軍に協力するよう言われているし、見捨てていくのも寝覚めが悪い。 人間十名は全員重傷、風竜は一匹だけ無事で擦り傷がある程度だが気絶している。 残る九匹の風竜は全部死んでいた。死因は魔法で受けた傷や落下した衝撃。 そして生き残った十人の騎士達が死ぬのは時間の問題であり、水のスクウェアメイジが貴重な秘薬を使っても助かりそうにない奴もいる。だが。 「死んでいないのなら……問題なく『治す』!」 黒衣の男は、手袋をつけた両手からさらに『腕』を出して、竜騎士隊の騎士と竜を次々と触っていった。 「さて、こいつ等が目を覚ましたら……トリステイン軍の旗艦にでも行くか。 ガンダールヴが承太郎さんだったとして、どうすっかな~?」 黒衣の男は、ハルケギニアの人間では決してありえない『個性的』な髪型だった。 第六章 贖罪の炎赤石 完 ┌―――――――┘\ │To Be Continued └―――――――┐/
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ザ・サン…もとい頭を光らせながらコルベールが何やら疲れきった様子でプロシュートに近付いてきた。 「君に言われたとおり、樽五本分のガソリンの精製が今、終わったところだよ」 「早いな」 この前ガソリンのサンプルを作ってから数日、それから飛ばせるだけの量を精製する事になったのだが、結構早く出来たのでそれなりに驚いていた。 「それが飛んだ姿を見たくてね…ふふ…ここ数日徹夜続きだったよ」 目の下のくまがスゴイ。 俯き怪しく笑いながら荷台に積んだ樽を浮かしながら運んでいる姿は、なんかもう色んな意味でペリーコロ(危険)さんである。 広場に付きガソリンを入れていると、他の教師からアルビオン宣戦布告を聞いたコルベールがブッ飛んでいた。 「なんですと…!アルビオン軍がタルブ村に!?」 スデに他の教師や生徒達には禁足令が出ているらしい。 「ヤベー状況か?」 「…トリステイン艦隊は司令長官が戦死した上に、残存艦艇も無傷の艦はほとんど無いらしい」 地上戦力も3000対2000で劣っている。 つまり、制空権を抑えられ、蹂躙されるだけという事だ。 「まぁついでだ、あいつに『これ』を見せるっつったからな」 「タ、タルブに行くというのかね!?禁足令が…」 そこまで言って関係無い事に気付いた。 目の前の男は生徒でもなければ貴族でもない。 「ちょ、ちょっと何やってんのよ!」 そこに飛び込んでくるのはルイズだ。 「タルブまで空の散歩だ」 「散歩って…聞いたでしょ!?アルビオン軍が攻めてきたって!!」 「放っといても、そのうちこっちに来んだろーが、それにだ」 「…それに?」 「守んのは性に合わねーんだよ。どうせ相手すんなら打って出た方が早い」 「兄貴の能力じゃここの連中巻き込むしな」 「そういうこった」 必要であれば巻き込むのも躊躇しないが、能力的には敵のド真ん中での能力使用による殲滅が最も適している。 ルイズもグレイトフル・デッドの射程はどのぐらいか聞いていたが、それ以上の射程の大砲でドンパチやっている戦場に行かせる事はできない。 「…こんなのでアルビオン軍に勝てるわけないじゃない!怖くないの…!?死んじゃったらどうするのよ…!!この馬鹿!!」 「怖くねーやつなんていねぇよ。それを上回る『覚悟』を持ってるか持ってねーかってこった。恐怖心を持たないヤツが居たとしたらそいつは、ただの馬鹿だ」 「じゃあ…なんでタルブに行くのよ…!」 泣きそうだが、必死になってこらえる。泣いたところで説教が始まるか、ガン無視されるだけだ。 「言うだろーが、『攻撃は最大の防御』ってな。待ってるだけじゃあ状況が悪くなるだけだ。………こっちだと一応オメーらも仲間なんだからよ」 「あたしとしては『仲間』より『恋人』って言って欲しかったんだけどね」 「な…ッ!何時からそこに居やがった…!」 「おもしろそうな事やってるからさっきからそこに居たんだけど」 よく見るとタバサも隣に居る。 仲間云々の部分はルイズに聞こえない程度の声で言ったつもりだったがしっかりキュルケに聞かれていたらしい。 「ちッ!…時間がねー、オレはもう出るぜ」 「照れなくてもいいじゃない。…あ、でもそんなダーリンも素敵ね」 「レア」 そんなやり取りを見ていたルイズだが、自分も含めて仲間と思っていてくれている事に気付いた。 「…なによ…性に合わないって言ったくせに、結局守るためじゃない」 「ルセーな…あっちに居た時は、オメーらみてーなマンモーニは居ねーんだよ」 ペッシの事はスルーしているが気にしない。 空にペッシが泣き顔で『ひでーや兄貴ィィィ』と言っているような気もしたがこれも無視した。 そう言いながらゼロ戦に乗り込もうとする。 「わ、わたしも、それに乗って行くわ!」 「言っとくが、こいつが墜ちたら死ぬぞ?」 「わたしはあんたのご主人様なのよ!?あんた一人死なせたら…わたしがどうすんのよ!そんなのヤなの!」 ルイズの目をジーっと見る。目は反らさない。 それだけ確認すると、何も言わずゼロ戦に乗り込む。 「な、なによ!こんな時ぐらい言う事聞きなさい!」 しばらくするとゼロ戦の中から破壊音が聞こえ、操縦席から壊れた馬鹿デカイ無線機が放り投げられた。 「ったく…あの時のペッシと同じ目ぇしやがって…言っとくが後ろに席はねーぞ」 組織を離反すると決意した日、マンモーニながら自分達に付いてくると言った弟分と同じような目をしていた。 だからこそペッシと同じようにルイズを連れて行く気になった。 ルイズがゼロ戦に乗り込むと同時に各計器チェック、機銃弾装填確認を行う。 全て良好。旧日本海軍の整備力の高さと固定化の賜物だ。 「ミス・ヴァリエール!…行くな…と言いたいところだが止めても君は行くのだろうから…これだけは言わせて欲しい」 何時に無く真剣な顔のコルベールを見てルイズが操縦席から身を乗り出しそれを見る。 「自分の身を大事にしなさい。わたしから言えるのはそれだけだよ」 「あたし達も『仲間』なんだから付き合うわよ」 キュルケに同意するようにタバサも無言で頷く。 「…ついでだ、纏めて面倒みてやるが、万が一の覚悟ぐらいはてめーでしろよ」 そう言うが、甘くなったなと思う。 イタリアに居た時なら、任務を遂行するためには切り捨てる事も必要だと割り切っていたはずだが ブチャラティの言う事もここに来て分かるような気はしてきた。 「『任務は遂行する』『弟分も守る』『両方』やらなくちゃあならないのが『兄貴』の辛いところ…ってとこか」 「なんか言った?」 「何も言ってねーよ」 「…嘘ね!」 ルイズが後ろで色々五月蝿いがエンジンをかけそれを無視する。 「兄貴、このままだと距離が足りねぇ、前から誰かに風を吹かせてもらわねぇと」 「オメーに分かんのかは理解できねーが…気がきいたな」 「俺は伝説の武器だからよ、ひっついてりゃあ大概の事は分かるさ」 「自分で伝説とか言ってるヤツが一番危ねーんだよ」 「あ、それ結構傷付いた、ヒデーよ兄貴ィ」 「前を見なさい前をーー」 軽口叩きながらコルベールに風を吹かしてくれるように伝える。 風が吹くと同時にブレーキを踏み込みピッチレバーを合わせる。 ブレーキを弱めフルスロットルにすると、勢い良く加速する。 「ぶぶぶぶぶぶ、ぶつかる!」 「舌ぁ噛むぞ黙ってろ!」 後ろでルイズが辞世の句を頭に浮かび上げているが、壁にぶつかる手前で操縦桿を引き上げると、それに合わせゼロ戦も地を離れた。 「素晴らしい…まるで私の信念が形となったようだ…」 このハゲ、ゼロ戦が飛んだ姿を見てどこぞの軍人が乗り移ったご様子で日食の事はすっかり忘れている。 「なにこれ…ホントに飛んでる!」 「しかも、はえーなこいつ、おもしれえ!」 「そりゃあな」 巡航速度程度でも350キロ以上は叩き出せるゼロ戦だ。 フルスロットルなら524キロまで出せる速力を誇る。 当然、キュルケとタバサを乗せたシルフィードは置いていかれている。 「ちょっと、もうあんな先にいかれてるじゃない!もっと速度出ないの!?」 「無理」 (は、速過ぎるのねーー) 二人を乗せている以上出せる速度は決まっているが、乗せていなくても付いていけないである事は今、必死こいて飛んでいるシルフィードが一番よく知っている事だ。 タルブ村に接近するにつれ、村から煙が立ち昇り、ほとんどの家は廃墟と化している。 プロシュート自身、目的の為なら無関係の者を巻き込む事は厭わないタイプだが、この場合は別だ。 明らかに、目的も無いのに破壊行為をしている。 まぁ、それが分かっているからこそ、イラ付きが自分にも向かっているのだが。 「なにこれ…ひどい…」 ルイズが眼下の惨状に目を覆うが、今の自分ではどうする事もできないため、それを見る事しかできない。 「兄貴、一騎来るぜ」 「他はどうしたよ?」 「居るとは思うが…まだ分からん」 その竜騎兵を無視しタルブ村上空を旋回するように飛ぶ。 「ちょっと!なんで何もしないのよ!」 ギャーギャー五月蝿いが無視決め込んでいると、ありえない速度の『竜』に驚いたアルビオン竜騎士隊が全騎囲むようにして、こちらに向かってきていた。 囲みを突破し離脱する形で距離を取ると180°反転し速度を飛行可能速度ギリギリに落すと……群れの中に真正面から『突っ込んだ!』 「な…!なにやってんのよあんたはーーーーッ!反転はともかく減速のわけを言いなさいーーーーーー!!」 「ヤベーって!あいつらのブレスを受けたらこいつでも一瞬で燃え尽きちまうぜ!」 機動と運動性能のみを追求し装甲を全て捨てた機体であるゼロ戦が火竜のブレスを受ければそうなる事は容易に予想できる。 「火竜よりオメーのがあぶねーだろ!」 喚きながら首を絞めようとするルイズをスタンドで阻む。 少しばかり連れてこなけりゃあよかったと思ったが、もう手遅れだ。 「だ、だったら頑張りなさぁぁぁい!こんなとこで死んだら恨んでやるんだから!!」 この状況下で墜とされた場合、両名とも死亡確定なのだがあえて突っ込まない。突っ込んだら負けのような気がする。 「ほほほほ、ほら!かか、囲まれたじゃない!ブ、ブレスがくるわ!」 もうこれ以上無いぐらいルイズがテンパっているが、プロシュートにしてみれば風竜ではなく火竜がブレスを吐くという方が『スゴク良かったッ!!』 「弾は補充が利かねぇからな…このブレスが良いんじゃあねーか! こいつを燃え尽きさせられるぐらいの火力なら、十二分に温まるだろうからよ・・・!」 全騎射程圏内、当然向こうのブレスは届かないがあえて接近した。 「グレイトフル・デッド!」 「ぜ…全滅!?二十騎もの竜騎士がたった三分で…ば、化物か!」 報告を聞いたサー・ジョンストンが喚くが後ろに控えているワルドとしては、この被害は想定済みの事だ。 「やはりガンダールブが出てきましたな」 そんな冷静なワルドを見てプッツンきたのかジョンストンが掴みかかった。 「貴様…!そもそも何故竜騎士隊を預けた貴様がここにいるのだ!臆したか!!」 それを横から見ていたボーウッドが咎めるようにして入ってきたが、矛先がワルドからボーウッドに変わっただけだ。 「何を申すか!竜騎士隊が全滅した責任は貴様にもあるのだぞ!貴様の稚拙な指揮が竜騎士隊の全め…」 喚きながらボーウッドにも掴みかかろうとするが、その途中で言葉が途切れた。 「流れ弾か…ここまで飛んでくるとはな。注意しようではないか子爵」 「ええ、流れ弾ですな」 見るとジョンストンの額に穴が開き、そこから血が吹き出している。 いくら、怪我が魔法で治せるとはいえ、脳に食らえば一発で致命傷だ。 ぬけぬけと言うが、当然流れ弾などではない。 だが、この二人が何もしていない事は回りの船員達が見ている。 「それで、レキシントンの準備は整ったのかね?」 「気付かれないように高度を取りましたので少々手間取りましたが、今終わったようですな」 「偏在か…便利なものだな。しかし、レキシントンを犠牲にする必要があったのかね?」 「私は元魔法衛士隊の隊長ですからな。アンリエッタが出てきている以上、士気は高いでしょうしメイジの比率も多い事はよく知っています」 「士気完全にを打ち砕き、メイジにも止めることができない戦法というわけか… まぁそれはいいとして、全艦に伝達『司令長官戦死。コレヨリ旗艦艦長ガ指揮ヲ執ル』以上」 一方こちらラ・ロシェールに布陣したトリステイン軍だが、ハッキリ言って手詰まりになっていた。 敵はこちらより数が多い三千、おまけに艦隊砲撃の援護付き。 対してこちらは数は二千だが、アンリエッタが陣頭指揮を取っているため士気は高くメイジの数では有利といえた。 「敵艦隊はまだ見えませんが…砲撃に備えて空気の壁で防ぐように手配はしておきました」 国民からはからっきし人気の無いマザリーニではあるが、この男が居なければトリステインなど国として成り立っているかどうか怪しいものだ。 有能だが、周りから評価されていない。どことなく暗殺チームに通じるものがある。 「しかし…砲撃も完全に防げるわけではないでしょうし それを耐えたとしても突撃してくるでしょう。とにかく我々には迎え撃つことしか選択肢はありませんな」 「勝ち目は…ありますか?」 勝算など無い戦いだったが、それをここで言うのは兵の士気にも関わる事だし、それをアンリエッタに言うのも憚られた。 「メイジの数では上回っておりますので…五分五分…といったとこでしょうかな」 そうは言うが実際のところ、上空からの長距離砲撃の前ではそれは意味を成さない。 勝ち目は無いが…やれるところまではやると悲壮な決意をした瞬間、騒がしくなった。 竜騎士が一騎近付いてきたのである。 兵が攻撃を仕掛けるが、風に阻まれる。魔法も同じだ。 そして、竜騎士が近付くと、その正体も分かった。 「…ワルド子爵…裏切り者の貴方が今更何の用がおありですか!」 「ふっ…勇敢な事だな。さすがに兵の士気も高い。お飾りながら国民の人気だけはあるとみえる」 「黙りなさい…!ウェールズ様の仇とらせてもらいます!」 「おお…!恐ろしい、恐ろしい!そんな事をされては返すものも返せなくなります」 「返すもの…?」 「元々は王党派の『物』だったが…必要が無くなったので返しておこうと思いましてな」 「一体何を…!?」 「是非受け取っていただきたい。ウェールズも取り返したいと思っていた物をな」 そう言うとワルドが掻き消え風竜がどこかへ飛んでいく。偏在だったという事だ。 「落ち着きなされ。将が取り乱しては、軍は瞬く間に壊走しますぞ」 そう言われてもアンリエッタの心中では色々な疑念が巻き起こっていた。 返すものとは何か。王党派の物でウェールズも取り返したいと思っていた物… そう考え、空を向くが何かが見えた。 空の大きさから比べれば点のような大きさにすぎなかったが…僅かだが、それが大きくなってきている。 「枢機卿…あれは…?」 そう問われマザリーニも空を見上げる。 瞬間、嫌な予感がした。 そして、その数秒後その予感が的中した事を確信した。 「ア、アルビオンの奴ら…なんという事を…全軍ラ・ロシェールより速やかに離脱!」 「枢機卿…!この後に及んで何を…!」 空を見上げたまま、撤退命令を出したマザリーニに憤りかけるも 顔が尋常じゃなかったので、もう一度空を見上げると、その意味を理解し自身も固まっているマザリーニをユニコーンに乗せ兵と共にラ・ロシェールから逃げる。 「気付いたようだが、もう遅い!」 遥か上空から何か巨大な物がトリステイン軍目掛け落ちてきている。 「『レキシントン』号だッ!!」 落下の微調整を風で行っていたのは当然偏在のワルドだ。 船体にはこれでもかというぐらい火薬が仕込まれている。 それに気付いたトリステイン軍だが、落下により加速した巨大戦艦レキシントンを止める術などありはしない。 文字どおり壊走し逃げ惑う。 「ブッ潰れろぉぉぉぉ!!」 最高に『ハイ!』になった偏在のワルドが地面と激突する20秒ほど前に船体に火を付ける。 そうして船体が燃え上がり、地面に激突すると同時にレキシントンが大爆発を起こした。 「き、旗艦を…こんな事に使うなどとは…!」 アンリエッタとマザリーニは辛うじて爆発から逃れたものの、他はもうスデに壊走していると言ってもいい状態で、被害状況すら分かりはしない。 もちろん、このまま壊走状態のままでは、何もせずに敗北するであろうことは十分に分かっている。 「部隊の再編を…被害状況も確認しなければ」 生き残った将軍と素早く打ち合わせをするが、遥か彼方から下がりに下がった士気にトドメを刺す光景を見る事になった。 「……なんだ…あの船は…」 歴戦の将軍ですら、我を忘れたかのようにその船を凝視している。 その目には、あの巨大戦艦『レキシントン』よりも一、二回り大きく、さらに装甲を金属で覆った艦が空を飛んでいる光景が目に映っていた。 その船からボーウッドがラ・ロシェールを見ている。 『レキシントン号だッ!』作戦には本来乗り気ではなかったが、この船を見た瞬間気が変わった。 装甲を金属で覆い、さらに、あのクロムウェルが連れてきたシェフィールドと呼ばれる女がもたらした技術より格段に上の装備のこの船を。 少し後ろを見る。 そこには、ワルドが召喚した使い魔が鎮座していた。 正直なところ、この船が存在するのが使い魔のおかげだなど未だ半信半疑だ。 確かにジョンストンなどより、余程司令長官らしい佇まいをしている。 船長服を身に纏い、パイプを吸っている姿など、憎たらしいぐらい余裕あり気だ。 これが、人間であればまだ納得できたであろうが… 「『ストレングス』か…確かにレキシントンが玩具に見える船だが…」 そう呟き視線を前に戻す。 その使い魔の正体は広義で見れば『猿』だった。 ←To be continued
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一つの村が燃えていた。 周りから火竜が炎を吐きかけ、炎上を助けている。 空中に浮かんでいる艦隊から下りる多数の兵士が、逃げ惑う平民をあざ笑っていた。 メラゾーマとかベギラゴンとかそんなチャチなもんじゃあない。 村の名は、タルブ。 この兵士達は――アルビオン軍。 つまり、レコン・キスタの軍であった。 トリステイン侵攻の第一歩となるであろう、タルブの村への襲撃。 もちろん、平民は立ち向かうことなど出来ない。 森の中へ逃げ、一足でも早く安全を確保しに行く。 彼らの困惑に答えてくれるものは、誰一人とて居なかった。 今出来るのは、燃え行く村の草原、家を呆然と見つめる事だけ。その中で、シエスタは膝をつき、だらんと力なく腕を地面に置いた。 その惨劇を、なんとも思わずに、ただゆっくり地面を踏みしめる者が居た。 「フフ……小躍りしたい気分だよ」 彼こそ、何故か生きてたワルドである。小躍りて。 ちなみにナランチャに少しだけとは言え頭まで射撃されたので、後遺症か少し壊れてます。 「ガンダールヴ……貴様だけはこの私が倒して見せよう」 復讐心丸出しで、狂気に染まった声を口にするワルド。ワルド……酸素欠乏症にかかって…… とか親父に殴られたことのなかったニュータイプみたいなことを言うと、問答無用で襲い掛かってくるので注意である。 「村を燃やして占領する!?なんと アヒーッ 占領!」 やっぱり壊れていた。 「ただただ逃げ惑う平民を恐がるメイジがおるか?いなァァーいッ!」 壊れていた。 「お、恐ろしいッ 私は恐ろしいッ!何が恐ろしいかってガンダールヴ!人を傷つける事が快感に変わっているんだぜーッ!」 元に戻ってくださいお願いします。 「ハッピー うれピー よろピくねー」 周りの兵士が汚物でも見るような目でワルドを見ている。 「フヒャホ! フヒィ フヒィーッ フヒィーッ」 最早何も言うまい。 兵士の視線がハエも寄ってこないほど腐りきったカボチャを見る目に切り替わった所で、ワルドは正気に戻って咳払いをした(手遅れ) 上空で威圧感を醸し出す『レキシントン号』を見上げ、僅かに笑う。 「ふふ……待っていろ、ガンダールヴ」 復讐鬼と言えなくもないが、迫力に欠けていた。 「おおー」 コルベールの作り出した『ガソリン』。 研究の末、石炭を利用しつつ錬金に成功。その数、タンクいっぱいの樽5本分。 やはりコルベールの才能は素晴らしいものだ。一つのサンプルから、ここまで完全なガソリンを作り出すとは。 ナランチャは感嘆しつつ、ビンに注がれている、これからの研究用のガソリンを見つめている。 ルイズはコルベールにゼロ戦の改修の進み具合について聞いていた。もう飛べるらしい。 「いや、ホント凄いよ先生。マジに恐れ入ったよ」 「ふふふ、どうですか、このコルベールの……才能ッ!」 それだけ言って、満足げにゼロ戦へとガソリンを注ぎ込む為、樽を浮かせて運んでいくハゲ頭。 全員が苦笑して、また沈黙する。 「ねえ……ナランチャ。もし、あっちに帰って、こっちにも自由に行き来できるとしたら……どうする?」 「……さあな、少なくとも、それは難しいだろうと思うぜ」 もっともな意見だ。 ギーシュは今にも泣き出しそうである。 三人娘は堪え、タバサは背を向けて懐から取り出したはしばみ草をむさぼり食っていた。 そう。日食は今日。 もしかしたら、今日限りでナランチャはこの学院から姿を消すかもしれない。 「み、皆さんッ!大変ですぞォォォッ!」 コルベールが凄いスピードで帰ってきたと思ったら、汗で頭を一層光らせている。 太・陽・拳。 うおっまぶしっ、と全員が呟いた。 「あ、アルビオンがタルブ村に侵攻して……」 「な……」 コルベールのそれを皮切りに、全員が叫ぶ。 「「「「な、なんだってーッ!?」」」」 「つまり、このトリステインは狙われていると言うことですぞッ!」 「「「「な、なんだってーッ!?」」」」 「さらになんと!アンリエッタ王女が戦地へェェェ!」 「「「「な、なんだってーッ!?」」」」 ジェットストリームナンダッテの炸裂である。タバサまで…… 「お、おいッ!?ゼロ戦の準備は済んでんだろうな!」 「もちろんですぞ!」 「野郎ども、行くぞーッ!敵の大将の首取りになぁーッ!」 「オォーッ!」 「「「「ガンホー!ガンホー!ガンホー!」」」」 何か異様に盛り上がっていた。タバサまで…… 走ってゼロ戦に向かい、触ってみる。操作方法が手に取るように分かった。そして、コルベールに言う 「足が付いていないようだが」 「あんなの飾りです。この世界の人間にはそれが分からないのですぞ」 「ルイズからは、完成度80%と聞いたが」 「80%?冗談じゃあない、現状で100%の力は出せるのですぞォォーッ!」 さっそく操縦席に乗り込み、ゼロ戦を、蘇らせる。 コルベールの歓声と、ルイズの怒号が聞こえるが、ルイズを載せるわけには行かない。 もし自分が帰れたら、その時ルイズまで巻き込むことになるからである。 プロペラが回り始め、前の壁に突っ込んでいった 「ま、マジかよッ!わーわー、タバサ!浮かせろ頼むからァーッ!」 「分かった」 強風が吹いた。 ゼロ戦が浮く、浮く、浮く。 浮力を得て、シルフィードなどとは比べ物にならないほどのスピードを出して、飛んだ。 「ナランチャ・ギルガ、いきまーす!」 ずっと言ってみたかったbyナランチャ こうしてコルベールの報告から僅か1分38秒でナランチャは飛び立った。 他にも「ナランチャ・ギルガは、ゼロ戦で行きます!」とかバリエーションはあったが、やはりシンプルな方が以下略。 だって、初めて『G』を操縦するのにザクを撃墜したパイロットの台詞だし、ナランチャもこれに乗るの勿論初めてだし以下略。 「タバサァ!さっさとシルフィード飛ばせて!速いわよアレ!」 コルベールが止める間もなく、ルイズたちは飛び立った。 ゼロ戦はその先を行って、どんどん差が開き続けている。 止める術がないと分かると、コルベールは手を振り、無事を祈り始めた。 「……ああ、魔力使い果たしちゃった」 コルベールはそれだけ嘆いた。 タルブの村は、未だに燃え続けている。 兵士が乱雑に食料を奪い取り、まさにレコン・キスタの支配下にあった。 「……ちっ、見回りは退屈すぎるぜ」 一人の竜騎兵は、毒づいた。 しかし、その退屈を吹き飛ばすような体験を、これからするようになるとは、彼は予想だにしていなかった。 その空を突き進む黒い『シミ』は、やがてその騎兵の肉眼で、フォルムを確認できるほど接近して―― 「ここからいなくなれぇーッ!」 「じぉんぐッ!?」 そう、ゼロ戦である。俺の体、皆に貸すぞ!ってなんか卑猥だよね。 竜を越えるスピードで突っ込まれた為、プロペラでミンチよりひどい事になった騎兵は地上に落ちた。何故プロペラが曲がってないのか? 思いの力である。 タルブ村の村民達も空を見上げ、口々に感想を言い合う。 「ありゃあ……竜の、羽衣!」 「ナランチャさんッ!?」 シエスタが一番大きい声をあげる。 空中では既に、『竜の羽衣』が火竜達にその牙を剥こうとしていた。 「ぬうう!行くぞ!」 「「「ジェットストリームアタァーック!」」」 「ようし、いい子だ」 問答無用で正面突破されてズタズタに引き裂かれる騎兵。 正面突破って言うけど、正確にはエアロスミスが超加速で突っ込んだだけです。 「ぐふッ!」 「ぎゃんッ!」 「げるぐぐッ!?」 迎撃する間もなく、そのスピードに翻弄される騎兵達。 一匹の竜が迎え撃つが、あっというまに後ろを取られ、機銃で蜂の巣にされる。ケンプファーの如く。 エアロスミスの機銃とは大違いの威力だ。 火を吐く竜の二酸化炭素を探知し、ゼロ戦に付き添うエアロスミスも、置いていかれつつ射程範囲内ギリギリからの攻撃をする。 「うわあ!脇腹に弾丸がザクッと……」 「がざッ!」 「きゅべれぃッ!」 「ちょうきょりきょうこうていさつがたふくざのじんっ!」 「落ちろ、落ちろーッ!」 爽快と言わんばかりに撃ち落す。カ・イ・カ・ンってヤツだろうか。というか敵の断末魔…… ゼロ戦の装甲では、攻撃が一発当たっても結構やばかったりするが、当たらない。 ナランチャは元の世界では、ギャングになってからスパロボを買い、運動性と武器とENを改造した真・ゲッター1に必中と集中を使用して敵陣に突入させ、殲滅させる事を生きがいにしていた男である。ゲッター・トマホォォォク!ゲッター・シャイィィンッ! まあもちろんその内飽きて、ミスタがゼオライマーで覚醒+愛+MAPメイオウ攻撃を連発し、興奮した拍子に手が滑って落として壊したのでもうやっていない。 え?5部の時代だとゼオライマーはスパロボに登場してない?嘘でしょ? とにかく、今の彼は運動性フル改造のテッカマンと同等の存在であった。 右翼を傾け竜のブレスを避け、エアロスミスで撃つ。 圧倒的ではないか、という声が聞こえてきた。 まるで相手になっていない。 今のナランチャを苦戦させるとしたら、やはり彼しか居ないのだ。 「なッ……ワルドッ!」 「地獄から……舞い戻ったよ」 「ダメじゃないかワルドォォォ、死んでなきゃああああ!」 悪役の台詞を口にするナランチャ。 ふと、陸上で兵士と戦うルイズたちの姿が見えた。笑う。 これで、多分地上は大丈夫だ。援護射撃もきちんとしてやる。 火竜は殆ど全滅、残るは、きっとこのワルド一人―― ワルドは今日、火竜に乗っている。風の使い手なのに?風竜に乗れ!風竜に! 他の者の竜より幾らか大きい。舌打ちして、連射。 ワルドは右へ旋回して回避し、竜に炎を吐かせる。 それが機体をかすめ、右の翼が少々焼け焦げるが、問題はない。 至近距離から機銃を打ち込もうとするが、それすらワルドは回避した。 「避けた!?」 「それでこそ私のライバルだ!」 今度はワルドの番だ、こちらも至近距離からの炎。 宙返りして、潜る様にそれをかわしてエアロスミスを撃ち込もうとするが、風の動きを読んだワルドはいとも簡単にエア・ニードルで捌く。 「ガンダールヴッ!異世界から着た貴様などは、この世界の蚤だと言うことが何故分からんのだ!」 どこの赤い人だよ。 エア・カッターでゼロ戦を切り刻まんとするが、左翼の先端にかすっただけで終わる。 始めて乗るゼロ戦にしては上出来というか、ガンダールヴのルーンがなければ、操縦する事すら間々ならなかっただろう。 「お前に蜂の巣にされた私の苦しみ!存分に思い知れ!」 「情けないヤツッ!」 「何がッ!貴様こそ、その力を無駄に消費していると何故気づかん!」 「貴様こそッ!」 何だか逆シャアの世界に入り込んだ二人。正気に戻れ。 兎も角、火竜の下を取ったナランチャは、ゼロ戦は撃つのが無理な姿勢でも、エアロスミスなら狙えると踏み、射撃。 加速が足りなかった分羽を少し抉るだけに止まるが、ワルドは少しの驚きを見せる。 「被弾しただと!?だが、革命の為にも、負けぬ!」 「世直しの事……知らないんだな……! って待った、このままじゃ俺が俺じゃなくなっちまう」 「あ、そういや私も」 「「ハッハッハッハ」」 正気に戻った二人(?)。もうこれ2人ともダメなんじゃね? 何でここで切るのかはわからないが、次回へ続く。 誰だ思いっきり適当じゃねぇかとか言った奴は。正直すまんかった 次回、最終回。思いっきりシリアスモードへと変貌するのであった…… To Be continued ...
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竜騎士隊の竜に乗りながら、私は竜と竜に乗る騎士を観察した。 竜騎士隊というのはルイズ曰く、竜を自在に乗りこなし戦う騎士隊。まさに名の通りの連中だ。 竜を乗りこなすことのできる人間で構成され、さらにその全てが貴族だという。 しかし、よくこんな恐ろしい生物に乗れるものだ。しかも結構楽しそうに。私には到底信じられない。 竜を乗りこなすにしてもやはり訓練は必要だろう。基本は乗馬と同じようなものだからな。違いは乗るものが馬か竜かの違いだけだ。 だが、その違いはあまりにも大きい。馬なんて高が知れてるし普通の人間でも対処できる。しかし、竜は違う。 普通の人間では太刀打ちするにはあまりにも強大な存在だ。巨体で空を飛び、鍵爪を振るい、火を吐く。 まさしく怪物だ。魔法が使えなくては話にもならない。しかしメイジでも正直ドットやラインでは相手にならないんじゃないかと思っている。いや、ならないだろう。 そして竜騎士隊のこのごつい竜を見てさらにその思いは高まった。つまり竜に乗っている奴らは最低でもトライアングルの実力を持っていなければならないわけだ。 そんな力を持った人間だから強い怪物に意のままに操り自分の強さを示したいのだろうか?それともただ単に空を飛ぶ力強い存在への憧憬か? 考えながら懐で強大な存在に脅え震える猫を安心させるように撫でる。 まあ、どれだけこのことに思いを馳せようと、普通の人間であるために竜に恐れしか感じない私には竜に乗る者の気持ちなど理解できるわけが無かった。 竜は馬と比べればあっという間に学院についてしまった。 竜を使えばタルブの村へ日帰り旅行ができるな。もちろんする気はないが。 さて、ゼロ戦はそれなりの大きさがある。全長は9mほどで、翼幅は11mほどだろう。ゼロ戦は徹底的な重量減量がされた戦闘機だ。 当時日本にはアメリカやイギリスように戦闘機用の力強いエンジンがなかったため、無駄な重量を許さない設計が求められた。 そしてそれがゼロ戦の一番の特徴といってもいいだろう。それゆえにゼロ戦は軽い。きっと魔法でも楽々浮かばせることができるだろう。 しかし縦9m、横11mだ。いくら軽いといっても場所はとる。だから学院内に置く場所も当然限られてくる。 というわけでゼロ戦は学院の中庭に降ろすことになった。中庭なら広さも申し分ない。そして早速ゼロ戦を降ろし始める。 私とルイズは竜騎士隊がゼロ戦を中庭に降ろす様を見守っていた。 「ねえヨシカゲ」 「なんだ?」 ルイズが何気なく私に話しかけてくる。 「それで誰が運び賃を払ってくれるの?もうゼロセンも降ろし終えるわよ」 「あ……」 「あ、ってもしかして忘れてたわけ?あきれた……」 そうだ。ほかの事に気を取られていてすっかり忘れていた。金が要るんだったな。 「ほら、早くその払ってくれる人のところ行ってきなさいよ」 「あ、ああ」 ルイズに言われなかったら本気で忘れてたな。さて、さっさとコルベールを見つけに行かなければ。 そう思ってこの場から離れようとしたとき、誰かがこちらへ近づいてくるのがわかった。それは物凄い勢いで近づいてくる。 その正体はコルベールだった。こちらが知らせに行く前に来てくれるとはありがたい。しかし、移動速度が少し早過ぎないか!? 様子からして走ってはいない。歩いている。しかし、それはもはや速歩き域を超えた恐るべき速さ、カール・ルイスやベン・ジョンソンも真っ青な速度だ。 もう陸上選手にでもなったほうがいいんじゃないか? 「あれってミスタ・コルベールじゃない?」 「ああ、そうだな」 コルベールが近づいてくる。 「……目が血走ってない?」 「……血走ってるな」 コルベールがさらに近づいてくる。 「……息も妙に荒いわよ」 「……裸の女を前にした思春期の少年のようだな」 コルベールがかなり近づいてくる 「それがこっちに向かってきてるわね」 「……ああ」 コルベールが馬車馬のごとく近づいてくる。 「そういえば前教室で先生えらく興奮してたわよね」 「私がその対象だったな」 コルベールがロケットエンジンを積んでいたかのように不意に加速する。まるで狙いを定めたライオンのようだ。 「きっとまたあんたが対象よ。逃げなくて平気なの?」 「……平気なわけが無い!」 そうだ!早く逃げなければ!今の奴はあのときよりも興奮している! あのときのように迫られてしまう!キスされかける!今度は貞操が危ういかもしれない!さあ逃げろ私!奴がいない世界まで! 逃げようとした瞬間、物凄い力と衝撃が肩に伝わった。 まさか!? そう、そのまさかだった。何もかも遅すぎたのだ。私の肩は既にコルベールによって掴まれていた。 振り返り振りほどこうとした瞬間さらにもう片一方の肩も掴まれてしまう。そして私はコルベールと真正面から向き合う形となってしまった。 やばい、目がやばい、眼がやばい!狂人の一歩手前だ! 「ハァハァハァハァハァハァハァ……、き、きみ!ここここ、これはなんだね!?よよよよよよっよ、よければハァハァハァハァ私に説明してくれないかね!」 段々とコルベールの顔が近づいてくる。そしてこちらの体もコルベールに引き寄せられる。 「せ、戦闘機!戦闘機です!空を飛ぶための道具!わかったら離してください!」 「ここ、これが飛ぶのか!はぁぁぁぁあああ!す、素晴らしい!」 紅潮していた頬をさらに紅潮させさらにこちらに顔を近づけてくる。それに対抗するようにコルベールの顔を掴み遠ざけるように押し返す。 そうだ、こんなときこそ冷静にならなければ!コルベールを落ち着かせ、いや、落ち着かせなくてもいい。とにかく金を払わせなくては! 「コ、コルベールさん。もっとよくこれを見たいと思いませんか?自分の手で余すことなく調べたいと思いませんか?空を飛ぶ様を見たくはありませんか?」 「ま、まさか分解させてくれるのかね!これを飛ばして見せてくれるのかね!さ、早速やってくれんかね!ほれ!好奇心で手が……!」 よく見ると手が小刻みに震えている。いや、どちらかといえば痙攣している。そして手だけじゃなくコルベールの全身が痙攣している。大丈夫なのか!?まあいい。 近づいてくるコルベールの顔をさらに押しのける。 「そのためにはコルベールさんにも協力していただきたいんです」 「な、なにかね!?」 「運び賃を立て替えてくれませんかね?それと秘薬の代金も。右手の指が折れていて」 そして渾身の力を持って私はコルベールを引きはがした。危なかった。 「もしかしてこれが翼かね!?羽ばたくようにはできておらんな!この風車はなんだね!?」 「プロペラといって、それを回転させ風の力を得て前に進むんです」 「なるほど!よくできておる!」 コルベールは先程よりは落ち着いた様子でゼロ戦のあらゆる場所を見て回っている。 コルベールは私の話を二つ返事で了承した。秘薬はとっさに思いついたことだが言ってよかったな。 「ヨシカゲ」 「ん?」 そんな風に思っているとルイズが話しかけてくる。 「立て替えてくれる人ってミスタ・コルベールのことだったの?」 「いや。違う。これはあくまで偶然だ。私はコルベールさんを利用しただけに過ぎない」 本当は初めからコルベールに払わせる気満々だったのだが、その辺は話さないほうがいいだろう。話したら何を言われるかたまったもんじゃない。 「あんたね、こんなことしていいと思ってるの?しかも秘薬の代金まで出させて。秘薬の代金ぐらい私が払うわよ」 「何を言ってるんだ。私は代金を払ってもらう。あっちはそれでゼロ戦を研究する権利を得る。別に悪いことなんかしちゃいないだろう?お互いの利害が一致しただけだ」 「そ、そうだけど。なんだか利用してるみたいでいい気持ちがしないわ」 「ふ~ん。だが、世の中なんてこんなもんだぞ」 たしかに、実際はコルベールを利用しているだけだ。しかし、それは悪いことじゃだろうと私は思う。なぜなら私だけが得をしたわけじゃないからだ。 コルベールが興味深そうにゼロ戦を見て回る様を見ながら私はそう感じていた。それにしても、 「なあルイズ。私がコルベールさんに襲われていたとき、助けてくれてもよかったんじゃないか?」 「だって、わたしに的が向けられたらどうすんのよ」 知るか。
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遺産! 破壊の杖と竜の羽衣 素朴だが美しかったタルブの村は、すでに無かった。 ほぼすべての家が焼け焦げ黒い煙が上がっている。 草原ではアルビオン軍の兵士達とトリステイン軍の兵士が睨み合っていた。 そして、トリステイン軍を狙って竜騎士隊が攻撃に移ろうとした時、遠くから奇妙な音が聞こえてきた。次第にそれは轟音となった。 一人の竜騎士が音の正体を発見する。緑色の、奇妙な竜だ。 あんな竜騎士は自軍には無い、敵だ。 竜騎士隊は新たな敵を迎撃すべく展開した。 ゼロ戦からタルブの村の惨状を見下ろした承太郎は、激しい怒りに震え操縦桿を力強く握りしめていた。 「野郎……許さねえ」 機体を捻り、タルブの村目掛けて急降下するゼロ戦。 狙いは竜騎士隊だ。 謎の轟音を聞き、村人達は森の中から空を見上げた。 一瞬、木々の間を通った見覚えのある形に気づいたシエスタは、慌てて森の端まで走っていった。 「シエスタ!? 危ないぞ!」 父と、何人かの村人が後に続く。 そして、森の端まで来て視界が開けると、シエスタ達は一様にして驚いた。 竜の羽衣が飛んでいる。 アルビオンの竜騎士の吐いた炎のブレスを華麗に回避し、羽衣の一部がチカチカと光ったかと思うと、敵の竜騎士は突如爆発した。 いったい何が起こっているのか、それは解らない。 でも確かな事がひとつだけ。 「ジョータローさんが、助けに来てくれた……」 喜びや安堵感が一気に押し寄せ、シエスタはポロポロと涙をこぼした。 ゼロ戦の機関砲を受けた火竜は、ブレスを吐くための器官を撃たれて引火し、無残に爆死して草原の中に落ちた。それを見たアルビオン軍が慌てふためく。 驚いているのはトリステイン軍も同じだが、どうやらそれが味方の仕業らしい事が解ると、一斉にアルビオン軍へ突撃した。 士気の高さはすでに逆転している。優勢は、トリステイン! 「スタープラチナ……」 スタンドを出現させ、その優れた視力で敵影を探す承太郎。 三騎の竜騎士が横に広がって迫ってきていた。 さすがに火竜のブレスを受けてはゼロ戦もただではすまない。 「上等だ、かかってきやがれ」 承太郎は鮮やかにゼロ戦を旋回させ、竜騎士隊の背後を取る。 「は、速い!? 何なんだあの竜は!」 竜騎士隊はあまりの機動力の差に驚愕し、その隙を狙われ機関砲に撃ち落とされる。 「な、何だ! なぜやられている!? あの竜のブレスが見えない!」 火竜の飛行速度はおよそ時速150キロ。だがゼロ戦は実にその時速400キロを誇る! さらに両翼に装備された二十ミリ機関砲と機首装備の七・七ミリ機銃は、まさに目にも留まらぬ速度で敵を撃ち殺す強力な武装だ。 天下無双と謳われたアルビオンの竜騎士を、パワーでもスピードでも圧倒している。 これこそ地球の人間達の叡智が生み出した『科学』の力だ。 タルブの村人達は、いつしかほとんどが森の端に集まっていた。 そして一騎、また一騎と竜騎士が撃墜されるのを見て歓声を上げる。 「すげえ、すげえぞ! アルビオンの竜騎士なんざ相手じゃねえ!」 「本当に飛んでやがる! シローの野郎が言ってたのは本当だったのか!?」 「速さが段違いだ! あんなすげーもんだったら、もっと拝んどきゃよかった!」 「見ろ、最後の一騎だ! 行け行け! 後ろを取った! やった、撃墜!」 これなら勝てる、これならタルブの村は救われる。 誰もがそう信じて疑わなかった。 「五分五分?」 タルブの村からやや離れた道に陣を構えていたアンリエッタは、そう聞き返した。 「ええ、五分五分です」 マザリーニ枢機卿は、竜騎士隊をわずか十二分で全滅させた竜の羽衣を見ながら言った。 「確かに竜騎士隊は全滅いたしました。あのたった一騎の竜によって。 しかしアルビオン艦隊はまだ無傷。我が軍も砲撃により大打撃を受けております」 「……そうですか……」 戦う心を折らせないために、マザリーニ枢機卿は嘘をついた。 五分五分どころではない。 敵軍は空におり、その数は三千。しかし我が軍は砲撃で崩壊しつつある二千。 確かにあの謎の竜の戦果は目覚しいが、あの程度で引っくり返る戦いではないのだ。 それに見たところ、あの謎の竜は竜騎士を倒す火力はあるようだが、とても艦隊を相手にできるような火力は持ち合わせていないらしい。 敵の旗艦レキシントン号は今も圧倒的な優位に立って――爆発した。 「何じゃと!?」 爆発はそれほど大きなものではなかったが、爆発したのはどうやら後甲板のようだ。 あそこは確か司令部のはず。 つまりこの戦場にいる敵軍のトップの人間は、今ので爆死したと見ていい。 「マザリーニ! 旗艦で爆発が起こりました、これで勝率はどうなりましたか?」 アンリエッタの問いに、マザリーニ枢機卿は頭を抱えた。 「えー、七分くらいにはなりましたかのう」 もちろん嘘だ。敵の司令官を倒したとしても、次に偉い奴が指揮を取るだけ。 圧倒的戦力差はこの程度の奇跡ではくつがえらない。 そう、この程度の奇跡では。 と、空が急に暗くなった。月が太陽を隠し始めたのだ。 「そういえば今日は日食でしたな。……不吉な事が起こらねばよいが。……ん?」 暗くなりつつある空を、一匹の風竜が飛んでいた。 自軍の竜騎兵ではないようだ。あれもあの謎の竜のような援軍だろうか? しかし竜二匹の援軍でどうにかなる状況ではない。奇跡でも起こらねば勝ちはない。 レキシントン号の司令部らしき場所に、 破壊の杖――ロケットランチャーを撃ち込んだ承太郎は、使用済みのロケットランチャーをしまうと、続いて機関砲と機銃の弾丸で追撃をかけた。 だがその程度で沈むほどレキシントン号はやわではない。 「やれやれ……さすがにあれだけでかいと、倒すのは難儀だな」 いっそ飛び降りてスタープラチナで戦って制圧しようか、 などと考えているうちに空が少しずつ暗くなっていく。 承太郎は太陽を見上げた。月が太陽を少しずつ隠していく。 「やれやれ……早いとこケリをつけねーと、帰れなくなっちまうな」 レキシントン号の砲撃を回避しつつ空を飛んでいると、承太郎は風竜を発見した。 スタープラチナの目で確認すると、その背中には見覚えのある四人。 「……仕方のねー奴等だ」 その口調は呆れながらも、どこか嬉しさを含んだものだった。 「ガンダールヴ!」 甲板から謎の竜を目で追っていたワルドは、それに乗っている承太郎の姿を発見した。 「そうか、あの爆発は奴の仕業か。やってくれる……!」 「どうするつもり? ワルド」 フーケが問うと、ワルドはニヤリと笑った。 「我々の出番が来たようだ。奴は私の獲物、私が仕留めてみせよう。 貴様は草原で戦っている兵隊を蹴散らしてこい」 草原で戦っていたアルビオン兵はすでに逃げ出し、トリステインの兵士達は歓声を上げていた。それを見てフーケの双眸が細まる。 「村を焼くのは気が引けるけど、貴族の犬を蹴散らすのなら遠慮はいらないねぇ」 そう呟くと自身にレビテーションをかけて、甲板から飛び降りていった。 「さて、私も行くとするか」 それを見送ったワルドは、自分用の竜を取りに向かった。 「やっと追いついたわね」 シルフィードの上でキュルケが笑う。前方にはゼロ戦の姿があった。 「どうやら竜騎士隊はもう倒してしまったようだな」 地面に落ちている竜の死体を発見しつつギーシュが呟く。 「まだ」 タバサが冷たい声で言った。 日食で隠れつつある太陽の中から風竜が舞い降りてくる。ワルドだ。 「ガンダールヴ!」 ワルドは叫んで風の魔法を放ってきた。 ゼロ戦は咄嗟に攻撃を回避するが、少々無茶をしたらしく機体が揺れる。 「ジョータロー!」 ゼロ戦がシルフィードの下へとよろけてくるのを見たルイズは、突然飛び降りた。 「ちょっ、ルイズ!?」 「な、何をしているんだ君はー!?」 慌てふためく二人のかたわらで、タバサは冷静にレビテーションでルイズを浮かせる。 「馬鹿な、ルイズ!?」 ルイズが飛び降りるのを見て、承太郎も彼女を拾うべく機体を操作し風防を開けた。 「うっ……ジョータロー……!」 「ルイズ!」 速度を落とし、スタープラチナを出して腕を伸ばす。 何とかルイズをキャッチした途端、ゼロ戦が大きく揺れた。 ワルドの風の魔法が機体をかすめたのだ。 操縦席にルイズを引っ張り込み膝の上に乗せると、承太郎は思いっきり怒鳴る。 「馬鹿野郎ッ! てめー、いったい何しに来た!?」 「だ、だって……ジョータローの事が心配で、心配で心配でたまらなかったんだもん!」 泣き喚くルイズを見て、承太郎は責める気を失う。 理屈の問題ではないのだ。 「……やれやれだぜ」 今まで出会った中で、もっとも鬱陶しい女。それがルイズだというのに、 どうして嫌いになるどころか、気に入ってしまっているのだろう。 「ホッ、何とか拾えたみたいだ」 シルフィードの背中でギーシュが胸を撫で下ろす。 そして、気づく。草原で戦っているトリステイン軍の異変に。 「あ、あれは……」 「何、どうしたの?」 キュルケとタバサも疑問に思って草原を見た。 見覚えのある巨大な土のゴーレムが、トリステインの兵士達を襲っていた。 「土くれ」 タバサが敵の正体を言う。 「マズイぞ……タルブの村人達も近くにいるはずだ。 あの兵士達、逃げ出しているじゃないか! フーケを何とかしないと!」 「タバサ!」 キュルケに名を呼ばれ、タバサは阿吽の呼吸でシルフィードを降下させる。 一度は倒した相手、何とかなるはずだ。だが。 タバサはゼロ戦がワルドから一方的に攻撃されている姿に気づいた。 咄嗟に風の魔法を唱え、ワルドの風竜に攻撃する。 だがワルドは軽やかにそれを回避すると、こちらにも魔法を放ってきた。 「わっ、わぁ! 何事だ!?」 「苦戦してる」 タバサがゼロ戦を指して言う。 理由は解らないが、竜騎士隊を全滅させてゼロ戦は、ワルドたった一人に苦戦している。 承太郎の話では、ゼロ戦には『きかんほう』とかいう、強力な銃がついていたはず。 所詮銃は銃だと侮っていたが、竜騎士隊が全滅している姿を見ると、恐らく想像以上の威力があったのだろう。 だがそれをワルドに使う気配は無い。 ならば答えはひとつ。 「多分、弾切れ」 「何ですって!?」 「それじゃあジョータローとルイズは反撃できないって事かい!?」 承太郎の能力をすべて把握している訳ではないが、少なくとも空中で遠距離攻撃をできるようなものではないと三人は理解している。 ルイズは魔法が使えない。銃弾も尽きたのなら、ゼロ戦はもう速く飛ぶ的でしかない。 ならば。 「……タバサ、キュルケ」 ギーシュが杖を手にして立ち上がる。 「僕は空中で敵に向けて飛ばす魔法なんて使えない。 だから君達二人でジョータローとルイズを援護してやってくれ」 「ちょっと、ギーシュ? どうするつもり?」 「土くれのフーケは、僕一人で倒す」 キュルケは耳を疑った。フーケを一人で倒す? ギーシュが? 「な、何馬鹿な事、言ってんのよ! かなう訳ないじゃない!」 「しかし! フーケを倒さねばタルブの村が危ない!」 「だからって勝てる訳ないでしょうが! あんたはドットクラスなのよ!? 土のドットと、土のトライアングル。実力が根底から違うの! ちょっと、タバサからも何とか言ってやって!」 タバサなら説得力のある言葉でギーシュを止めてくれるだろう。 そう思った。 でも。タバサは言った。 「あなたが今までの戦いで学んだ事を、忘れないで」 「ああ」 タバサはギーシュの力強い眼差しに、根拠もなく勝機を感じた。 これはただの勘。だが幾多の死線を潜り抜けたタバサの勘なのだ。 「行ってくるよ!」 迷いを見せぬ足取りでギーシュはシルフィードから飛び降りた。 「ちょっ、ギー……タバサ! 何であんな……」 困惑したキュルケはタバサに説明を求めようとしたが、 突然シルフィードが速度を上げたため次の言葉をつむげなかった。 「彼等を援護する。あの風竜を魔法で攻撃」 「……もうっ! どうなっても知らないからね!」 そう言いながらキュルケはファイヤーボールをワルドに向けて放った。 タバサも風の詠唱に入っている。 そしてギーシュは、タルブの村の草原にレビテーションで着地した。 その小さくも勇ましい人影に、フーケは気づく。 彼女は村人まで襲う気は無く、むしろ逃げた臆病な兵士達を追いかけるつもりだった。 しかし貴族が出てきたのなら話は別だ。 嗜虐的な笑みを浮かべ、殺意の目線をギーシュへ向ける。 「ぎ、ギーシュ様!?」 森の中から、シエスタはそのメイジの姿を見て驚いた。 あのギーシュが、たった一人で、自分達を守るために、立ち向かおうとしている。 兵士達ですら逃げ出した、強大で恐ろしいゴーレムを操るメイジに。
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「でも、ゼロセン……だったわよね。ゼロセンをどうやって学院まで持って帰るわけ?ヨシカゲのものになったんだったら当然持って帰るんでしょ?」 どうやって学院に持って帰ったらいいかに気がついたと同時にルイズも同じことを思ったらしく、私に尋ねてくる。 私も今考えているところだ。 「そういえばそうですよね。学院に持って帰るにしても大きくて移動されませんし、今はそのネンリョウとかいうものがなくて飛べないんですよね?」 シエスタもルイズの言葉で気がついたのか疑問の声を上げる。 だから考えてる所だ! 察せよそれぐらい! そんな無理なことを思いながら持って帰る方法を考える。 どうすれば、どうすればいい!? 「あんなの運べるのドラゴンくらいよ。しかも竜騎士隊のドラゴンみたいに訓練されたやつ」 どうすればい……竜騎士隊? 「その竜騎士隊ってのはなんなんだ?」 「え?竜騎士隊?知らないの?」 「知らないから聞いてるんだろ」 予想はつくけどな。 だがそれが100%合っているとは限らない。 聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥だ。 それがどれだけ稚拙なことだろうと、知らなかったり、情報が曖昧であれば、訊ねることを恐れてはいけない。 「まったく、ニホンには竜もいないの?」 「ああ。はるか昔はいたかもしれないけどな」 嘘だ。竜なんているわけないだろ。 大体あんなファンタジーが生きてること自体が異常なんだよ。 タバサの使い魔の竜だけでも普通の人間には脅威過ぎる。 それがこの世界にはあれ一匹だけじゃない、数多くいるんだ。 あの竜よりさらに大きな竜だっているだろう。 火を吐く竜だっているに違いない。 それに危険なのは竜だけではない。 竜に匹敵するような危険な生物は他にもまだまだいるはずだ。 なんといってもこの世界はファンタジーだからな。 ファンタジーの世界に出てくる生き物は大体いるだろう。 そう考えるとこの世界はなんて危険に満ち溢れてるんだ。 クソッ!こんな世界に住むことになるなんて本当に最悪だ! 「竜騎士隊っていうのは、その名前の通り竜を乗りこなして戦う騎士隊のことよ。竜を乗りこなすことのできる人間だけが入隊することができるわ。 もちろんみんな貴族で構成されてるのよ」 「へえ。そりゃ凄い」 そうだ。 今は世界がどうのこうの考えている場合ではない。 なにがあろうとこの世界に来てしまった以上、私はこの世界で生きていくしかないのだ。 この世界で『幸福』になるしかない。 それにしても、やっぱり予想通りだったな。 やはり名は体をあらわすというのは全国共通だな。 そして学院に持って帰る方法が見えた気がする。 「なあ、ルイズ。その竜騎士隊とやらにゼロ戦を運んでもらえないものだろうか?」 「……はぁ?あんたなに言ってんの?」 「だから、竜騎士隊にゼロ戦を運んでもらえないか、って聞いてるんだ」 ドラゴンでゼロ戦が運べるならドラゴンで運べばいい。 ルイズがドラゴンなら運べるといったのだ。 この世界の住人であるルイズが。 だとしたら運べる。 単純な考えだが一番現実的だ。 そして、 「バカじゃないの?」 これが私の問いに対するルイズの答えだった。 「竜騎士隊が平民の願い事なんて聞くわけないじゃない。ゼロセンを運んでそれが国のためになるわけでもないし」 確かにその通りだが…… それなら、 「ならルイズが頼めばどうだ?私は平民だがお前は貴族だ。貴族が頼めば竜騎士隊も動いてくれるんじゃないか?」 平民がダメなら貴族だ。 よかったなルイズ。お前の唯一の存在価値である貴族が私の役に立つときがきたじゃないか! 「そんなことあるわけないじゃない」 ……とことんゼロだな。 まったく役に立たない。 これじゃ存在価値ゼロのルイズだ。 「そりゃ動かせないわけじゃないけど」 「え?」 動かせるのか? 「え?って何よ。え?って。家が家だからコネがないわけじゃないわよ」 早くそういえよ。 これで存在価値ゼロではなくなったわけだ。 「でもね。その様子だと勘違いしてそうだから言っておくけど、いくら頼んでもタダじゃ動かないわよ」 「ん?どういうことだ?」 「軍人っていうのは色々あるから貧乏なのよ。だからお金を稼ぐためにそういった頼みを引き受けてくれる人もいるんだけど、それには当然お金がいるわ。 お金を稼ぐためにやってるんだから当然だけど」 「……金か」 それは考えてなかった。 やはりどの世界でも金は大事だな。 元の世界では幽霊ですら金が要る世の中だったしな。 「そう、だからゼロセンを学院まで運ぶのには運び賃がいるわ」 「あ~、それは大体幾らぐらいなんだ?」 「さあ?わたしにはわからないわ。でもヨシカゲに払える金額じゃないことはたしかね」 「なあ、悪いが立て替え「わたしは払わないわよ」……わかったよ」 チクショウ、どうすりゃいいだ? 金、金、金、金、金、金、金、金、金、金、金! 金なんて持ってるわけねえだろ! 金、金、金、金、金、金、金、金、金、金、金、……チクショウッ! 大金になりそうなものなんて持ってるわけが……あ。 ゼロ戦はなんだ? 戦闘機だ。 単純にいって何ができる? 空を飛ぶことができる。 この世界に科学はあるか? あるわけがない。 だが、エンジンを作っていた男がいただろ? コルベールだ。 あいつは自力でエンジンを作り、私がエンジンを知っていると言ったら相当興奮していた。 そんな奴にゼロ戦を見せたらどうなる? 間違いなく調べさせてくれだとかいうに決まっている。 コルベールにとってゼロ戦は最高の研究対象のはずだからな。 研究したくてしたくてたまらないだろう。 それを許す代わりに運び賃を立て替えてくれと言えば……きっと立て替えてくれる。 間違いない。 「ルイズ。金は用意できる。だから竜騎士隊にゼロ戦を運ばしてくれ」 「うそ!?」 最悪、コルベールが払ってくれなくても運ばせてしまえばこちらの勝ちだ。
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【種別】 アイテム 【所属】 トリステイン 【解説】 竜の羽衣という名前で流布していたお宝魔法アイテムだったが、その正体は、太平洋戦争中の地球から、トリステインのタルブ村に迷い込んでしまった零式艦上戦闘機。形状から52型と推測される。操縦者は大日本帝国海軍少尉の佐々木武雄さん。 【備考】 エンジンカバーの「辰」の文字の由来は、竜の意味という説と、石原裕次郎主演映画「ゼロ戦黒雲一家」が元ネタという二説がある。しかしながら、実際のゼロ戦のエンジンカバーに大きな文字や絵を描くと怒られたそうである。