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Blu-ray 劇場版名探偵コナン ゼロの執行人 豪華盤 発売日:10月3日・12月18日 封入特典 1. 三方背ケース(新規描き下ろしイラスト) 2. 新規描き下ろしを含むアートボード25枚 3. ムービーマークステッカー 4. 青山先生原画ポストカード ここを編集 2018年4月公開。~から紅の恋歌に続く第22作。23作に~紺青の拳がある。 http //www.conan-movie.jp/ 監督 立川譲 原作 青山剛昌 脚本 櫻井武晴 ストーリーエディター 飯岡順一 絵コンテ 立川譲 絵コンテ協力 寺岡巌、金井次朗、菅井嘉浩、許平康 演出 立川譲、菅井嘉浩、平向智子、許平康、宇根信也、鎌仲史陽、重原克也 キャラクターデザイン・総作画監督 須藤昌朋 作画監督 野武洋行、清水義治、堀内博之、岩井伸之、高橋成之、吉見京子、井元愛夕、とみながまり アクション作画監督 金井次朗、寺岡巌、小澤和則 作画監督補佐 本吉晃子、新谷憲、大高美奈、小野可奈子、佐々木恵子、三浦雅子、中島里恵、岩佐裕子 デザインワークス 小川浩 美術監修 石垣努 美術監督 佐藤勝、福島孝喜 美術設定 寺岡巌 3D背景モデリング 長谷川弘行 美術ボード 福島孝喜、佐藤勝、長谷川弘行、政木香里 イメージボード loundraw 色彩設計 加藤里恵 撮影監督・メインタイトルCGアニメーション 西山仁 CG監督 松倉大樹、小岩寛満 特殊効果 林好美 Monitor Works sankaku、わたなべしゅんすけ、中小原明典 グラフィックスデザイナー 志村泰央 編集 岡田輝満 HD編集 藤田育代 HD編集アシスタント 倉田しおり 音響監督 浦上靖夫、浦上慶子 ミキサー 田中章喜、田口信孝 音響効果 横山正和、横山亜紀、山田香織 アシスタントミキサー 小沼則義、鶴巻慶典 音楽 大野克夫 文芸担当 小宅由貴恵 アニメーション制作 TMS/V1 Studio ■関連タイトル Blu-ray 劇場版名探偵コナン から紅の恋歌 劇場版名探偵コナン ゼロの執行人 原画・設定資料集 劇場版 名探偵コナン 新価格版Blu-ray 10巻まとめて購入特典付き 劇場版 名探偵コナン 20周年記念 Blu-ray BOX【2007-2016】 名探偵コナン 安室透/バーボン/降谷零シークレットアーカイブスPLUS 劇場版『ゼロの執行人』ガイド 名探偵コナン 赤井秀一 安室透 シークレットアーカイブス 少年サンデーグラフィック 名探偵コナン 「ゼロの執行人」 オリジナル・サウンドトラック 名探偵コナン ゼロの日常 1 サンデーコミックス 劇場版名探偵コナン ゼロの執行人 上 小学館ジュニアシネマ文庫 名探偵コナン ゼロの執行人 名探偵コナン テーマ曲集4~THE BEST OF DETECTIVE CONAN 5~ 初回限定DVD付 随時更新! pixivFANBOX アニメ@wiki ご支援お待ちしています! ムック本&画集新刊/個人画集新刊/新作Blu-ray単巻/新作Blu-ray DVD-BOX アニメ原画集全リスト スタッフインタビューwebリンク集 最新登録アイテム Blu-ray 魔女見習いをさがして Blu-ray「どうにかなる日々」Blu-ray Happy-Go-Lucky Edition 初回限定生産 Blu-rayDisc付き 『ラブライブ! スーパースター!!』「始まりは君の空」【みんなで叶える物語盤】 BEM~BECOME HUMAN~豪華版Blu-ray Blu-ray 劇場版 魔法少女まどか☆マギカ 10th Anniversary Compact Collection Blu-ray ぐらぶるっ! Blu-ray 映画クレヨンしんちゃん 激突! ラクガキングダムとほぼ四人の勇者 Blu-ray CHRONO CROSS 20th Anniversary Live Tour 2019 RADICAL DREAMERS Yasunori Mitsuda Millennial Fair FINAL at NAKANO SUNPLAZA 2020 ゴブリンスレイヤー Blu-ray BOX 初回生産限定 グリザイア ファントムトリガー THE ANIMATION 03[Blu-ray] 特装版 ラブライブ! サンシャイン!! Saint Snow 1st GIG 〜Welcome to Dazzling White Town〜 Blu-ray Memorial BOX ゾンビランドサガ Blu-ray BOX 初回生産限定盤 Blu-ray 思い、思われ、ふり、ふられ 完全生産限定版 Blu-ray Fate/Grand Carnival 1st Season 完全生産限定版 Blu-ray Fate/Grand Carnival 2nd Season 完全生産限定版 Blu-ray ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかIII OVA Blu-ray 映画プリキュアミラクルリープ みんなとの不思議な1日 BD特装版 Blu-ray アズールレーン 三笠大先輩と学ぶ世界の艦船 ぶるーれい Blu-ray 水瀬いのり Inori Minase 5th ANNIVERSARY LIVE Starry Wishes かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~ 22 OVA同梱版 呪術廻戦 公式ファンブック よつばと! 15 監修 庵野秀明・樋口真嗣など 夢のかけら 東宝特撮映画篇 パラレルパラダイス 13 特装版 アイドルマスター ミリオンライブ! Blooming Clover 9 オリジナルCD付き限定版 美樹本晴彦マクロス画集 軌 わだち― 夜ノみつき 10th EUSHULLY WORKS しらこ画集 ILLUSTRATION MAKING VISUAL BOOK カズアキ画集 Kazuaki game artworks ライザのアトリエ2 ~失われた伝承と秘密の妖精~ 公式ビジュアルコレクション ぼくたちは勉強ができない 第21巻 音声ドラマ ミニ画集付き同梱版 あいきょう 荻pote作品集 ヒョーゴノスケ流 イラストの描き方 TVアニメ『くまクマ熊ベアー』オフィシャルファンブック 押井守原作・総監督 西村純二監督作品 『ぶらどらぶ』 解体新書公式コンプリートガイド OCTOPATH TRAVELER Design Works THE ART OF OCTOPATH 2016-2020 おそ松さん 3rd season SPECIAL BOOK 描きたい!!を信じる 少年ジャンプがどうしても伝えたいマンガの描き方 YMO1978-2043 「小冊子・YMO全トラックリスト2021 Amazon限定表紙版」付き To LOVEる -とらぶる- ダークネス FIGURE PHOTOGRAPHY COLLECTION 斉藤朱夏 CALENDAR 2021.4-2022.3 ラブライブ! サンシャイン!! Aqours DOME TOUR COMIC ILLUSTRATION BOOK ラブライブ! サンシャイン!! Aqours COMIC ILLUSTRATION BOOK 2020 Winter イジらないで、長瀞さん 10 特装版 「はたらく細胞」公式アニメ完全ガイド リスアニ! Vol.43.2「アイドルマスター」音楽大全 永久保存版VII アイドルマスター シャイニーカラーズ 3 CD付き特装版 ウルトラマンマックス 15年目の証言録 ウルトラマンZ特写写真集 じじぃ 人生は深いな 冴えない彼女の育てかた 深崎暮人画集 上 Flat. ぷよぷよ アートワークコレクション 古谷静佳1st写真集 re START THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS STARLIGHT MASTER COLLABORATION! Great Journey ウルトラマンゼロ Blu-ray BOX クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 Blu-ray BOX 初回生産限定版 小林さんちのメイドラゴンBlu-ray BOX ゆゆ式Blu-ray BOX スペシャルプライス版 とーとつにエジプト神 Blu-ray 直球表題ロボットアニメ 全話いっき見ブルーレイ 未来ロボ ダルタニアス 一挙見Blu-ray VOL.1 シュヴァルツェスマーケン 全話見Blu-ray ワールドトリガー一挙見Blu‐ray VOL.1 異世界魔王と召喚少女の奴隷魔術 魔王プレイボックス 初回生産限定 トータル・イクリプス 全話見Blu-ray Blu-ray Cutie Honey Universe Complete Edition 夜ノヤッターマン 全話いっき見ブルーレイ こみっくがーるず Blu-ray BOX 初回生産限定 Blu-ray 幼女社長 むじなカンパニーセット 初回生産限定 ログ・ホライズン 円卓崩壊 Blu-ray BOX 七つの大罪 憤怒の審判 Blu-ray BOX I Blu-ray 水樹奈々 NANA ACOUSTIC ONLINE 『Dr.STONE』2nd SEASON Blu-ray BOX【初回生産限定版】 魔術士オーフェンはぐれ旅 キムラック編 Blu‐ray BOX 今井麻美 Winter Live「Flow of time」 - 2019.12.26 at EX THEATER ROPPONGI - Blu-ray盤 Blu-ray 仮面ライダーゼロワン ショートアニメ EVERYONE'S DAILY LIFE 仮面ライダー一挙見Blu-ray 1号 2号・V3編 仮面ライダー一挙見Blu-ray X・アマゾン・ストロンガー編 スーパー戦隊一挙見Blu-ray 1975-1981 スーパー戦隊一挙見Blu-ray 1982-1986 半妖の夜叉姫 Blu-ray Disc BOX 1 完全生産限定版 裏世界ピクニック Blu-ray BOX上巻 初回生産限定 Levius レビウス Blu-ray BOX【期間限定版】 スーパー戦隊 学研の図鑑 江口寿史美人画集 彼女 アニメディスクガイド80's レコード針の音が聴こえる necomi画集 PHONOGRAPHIC フルーツバスケット アニメ2nd season 高屋奈月 Illustrations 2 彼女、お借りします TVアニメ第1期 公式設定資料集 ドラゴンボール 超戦士シールウエハースZ 超シールガイド ガンダムアーカイヴス『ガンダムビルドシリーズ』編 Angel Beats! 天使画集 Angel Diary PANZER FRAULEIN 野上武志画集 【陸編】 Angel's cage るび様画集 Sweet Dream はすね画集 画集 制服Girl's▼コレクション もりょ作品集 異世界ファンタジーのキャラクターコレクション 劇場版「美少女戦士セーラームーンEternal」公式ビジュアルBOOK アイドルマスター シャイニーカラーズ イラストレーション ワークス VOL.2 Blu-rayDisc付き 八十亀ちゃんかんさつにっき 10 特装版 あんさんぶるスターズ! Ready For Star 2巻 缶バッジ付 Switch エーペックスレジェンズ チャンピオンエディション New ポケモンスナップ -Switch 【PS4】BIOHAZARD VILLAGE PLAMAX 聖戦士ダンバイン サーバイン ノンスケール PS製 組み立て式プラスチックモデル スーパーミニプラ 無敵ロボ トライダーG7 3個入りBOX 魔道祖師 前塵編 完全生産限定版 HGUC 機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ Ξガンダム MG 機動戦士ガンダムSEED モビルジン 1/100スケール カンチ 青 ノンスケール ABS&ダイキャスト製 塗装済み完成品 ☆赤ver 魔女の旅々17 ドラマCD付き特装版 クリストファー・ノーランの世界 メイキング・オブ・インターステラー BEYOND TIME AND SPACE 時空を超えて るるぶアズールレーン からかい上手の高木さん15からかいカレンダーカード付き特別版 「武装神姫」原案イラスト集 ALLSTARS 機動戦士ガンダム サンダーボルト 17 キャラクターブック付き限定版 とある科学の超電磁砲T OFFICIAL VISUAL BOOK Aqours 5周年記念アニメーションPV付きシングル「smile smile ship Start!」【BD付】
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303 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2006/11/27(月) 21 31 38 ID Fbj3A6iz アメリカンジョーク風ゼロの使い魔 ある朝、いつものように大好きな使い魔のサイトをつれて 授業を受けに行こうと部屋を出たルイズは、少し離れたところにある モンモランシーの部屋からギーシュとモンモランシーが出てくるのを目撃した。 見ると、ギーシュはなんとモンモランシーにお出かけのキスをしているではないか。 羨ましくなったルイズは傍らのサイトに真っ赤な顔を悟らせないよう言う。 「ね、ねぇ、ギーシュは出かける前にモンモランシーにチチチ、チュ−してるわよ・・・ あああ、あなたはなんで同じことしないの?」 「は?だって俺、出掛けにキスするほどモンモンと親しくないし」 その日一日、悲鳴が途切れることはなかった・・・・・・ 終わり
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前ページ次ページゼロのエルクゥ 「ついに来たか!」 アルビオン国王、ジェームズ一世は、部下からの報告にしわがれた声で気勢を上げた。 「はっ! 『レコン・キスタ』総司令官、オリヴァー・クロムウェルの名で、明日の正午に全面攻撃を開始するとの次第、伝えて参りました!」 片膝を付いた衛兵が、威勢良く報告の声をあげる。 「恥知らずの坊主風情めが。言いおるわい」 「その連中にここまで追い詰められているのは僕達さ、パリー」 「腹立たしい事この上も無きですな。しかし、こちらには殿下のもたらした硫黄がございます。せめて死に際の恥ぐらいは雪ぐ事が出来ましょうぞ」 「めでたい事だ。これは今夜の宴が楽しみだな!」 「ほほ、早速準備させませぬとな。ほれ! 祝宴の支度じゃ! ぼやっとしとらんと各部に通達せい!」 「は、はっ!」 パリーの一喝に衛兵が慌てて駆け出していくと、玉座の傍らに立つウェールズとパリーは朗らかに笑った。 時は朝。アルビオンの寝ぼすけな太陽は、いまだ地平線に姿を見せていなかった。 § 「そう、明日にはもう……」 「ああ。先ほど向こうから宣戦布告があったそうだ。それに応じ、明日の朝にイーグル号とマリー・ガラント号が出港する。僕達はそれに乗って帰るわけだ」 与えられた客室で、ルイズは何をするでもなく外を見たり、貰った手紙をいじくったりしていた。耕一はその横で、手紙を奪おうとするような刺客が窓の外あたりから来ないかどうか目を光らせながら、デルフリンガーと雑談をしたりしている。 ワルドが報告を持ってきたのは、そんな折であった。 「ついては、今日の夜に祝宴が開かれるそうだよ。是非大使殿一行にも参加してほしい、だそうだ」 「祝宴……」 出陣前の宴席。 他の所の適当な戦争ならそれはさぞ華々しいパーティになるのだろうが、玉砕が目に見えている今この状況では、それは物悲しさ以上のものをルイズの心にもたらす事は出来なかった。 いや―――他のそういうパーティだって、華々しさなんて表面だけで、実はこんなに悲しいのかもしれない。 ノブレス・オブリージュ。力ある者の義務と誇り。 少し前までルイズの存在の基盤であったそれは、昨夜の思索とも相まって、随分ともろい物のように感じられた。 「さて、その余興というわけでもないのだが、ミスタに一つお願いがあるんだ」 「俺にですか?」 「ああ。……一手、お手合わせ願えないか、とね」 「ワルドッ!?」 ルイズが目を見開いて立ち上がる。耕一は、一手? はて暇潰しの将棋―――じゃなくてチェスか何かか。と首を捻っていたが、その反応でふと、学院にいる時の事を思い出した。 「決闘……ですか?」 ワルドは答えず、ニヤリと口元だけに笑みを浮かべた。その通りであったらしい。 「なに、他意はないよ。純粋に、現在のルイズのナイトである君と技をぶつけ合いたいだけさ。これでも、杖一本で衛士隊隊長まで昇りつめたという自負があるものでね。武人としての心が疼くのだよ」 決闘というより、組手だね。そう言ってワルドはまた笑った。 「……俺、亜人なんで、使えるのは持って生まれた力だけですよ。そういう武を競うみたいな戦いを期待されても困っちゃうんですが」 「構わんさ。僕のけじめでもあるんだ。そう固く構えてくれなくてもいい」 婚約者として他の男には負けられん、という事だろうか。なるほど、同じ男としてわからなくもない。 熟した男性の雰囲気を漂わせているが、案外熱い奴なのかもしれなかった。 「……まあ、そういう事なら。怪我しないようお手柔らかにお願いしますよ」 「ふふ。武装した夜盗の集団を秒で蹴散らす男の言葉じゃないぞ? 本気でやらせてもらうから、怪我をしたくなければ気張りたまえ」 ふっふっふ、と含んで笑いながら腕を合わせる男二人に、ルイズは付き合ってられないわ、とばかりに視線を外した。 空に一筋の流れ星でも駆けてやしないだろうか。それとも、稲光が荒れ狂っているか。 「ルイズも立ち会ってもらえないか?」 「ええ? 私も?」 しかし、そんな男の世界に入りきれないルイズを知ってか知らずか、ワルドは引き込もうとしてくる。 「男と男の決闘だ。両者に縁のある女が見てくれていれば気も張るというものさ」 すかした事を言いながらもどこか子供っぽいワルドの口調に、ルイズはやれやれ、と肩を竦めた後、仕方なさげに立ち上がった。暇だったのは確かであるし、彼らの実力自体にも興味があったからだ。 「わかったわよ。二人とも、そんなお遊びで怪我なんてしたら承知しないんだからね」 ワルドが、誰にも気付かれないぐらいに小さく、ニヤリと口元を歪めた。 § ニューカッスル城は、岬の突端に位置する。 それは陸の要所を守る砦ではなく、空の要所を見張る港だ。規模は小さくとも、そこは贅を凝らした貴族の邸宅ではなく、実用一点張りの軍施設の一つだった。洞窟の隠し港などはその最たる仕掛けだろう。 よって、練兵場などの施設には事欠かない。今回の戦の準備には使われないその一つを借り、ワルドと耕一は静かに対峙していた。 「音に聞くトリステイン魔法衛士隊の隊長と、亜人の使い魔殿との立会いとは!」 「なかなか粋な見世物をなさる! さすがは大使殿よ!」 「おやグレッグ候、もう飲んでいらっしゃるのか? 宴は夜からというのに、気が早いですぞ」 「かっかっか! こんな最高の肴を前にして、酒がなくっちゃ始まらんじゃろうが!」 「違いない! わっはっは!」 その周囲には、アルビオン貴族達が緩やかな輪を作って笑いあい、宴の準備からくすねてきたのか酒を持ち込んでいる老貴族までいた。 ルイズは、向き合う二人の真ん中に立って頭を抱えながら……隣に立っている、王立空軍大将、本国艦隊司令長官に目を向けた。 「……もう、ウェールズ殿下までこんなところにいらっしゃって。しかも介添人だなんて」 「ははは。この死地までついてきてくれた皆、生粋の武人だ。技を競う決闘と聞いてじっとしていられる者などおらんよ。その介添人になれるとあらば、これ名誉の一言だ」 端整な顔に人好きのする笑みを浮かべて、ウェールズは笑った。 明日の昼にはその死地の真ん中に飛び込むというのに、どうしてこんなに笑っていられるのだろう。 ルイズは、アンリエッタにアルビオン行きを誓った時の自分の心を思い返しながら、そんな事を思っていた。 あの時は、何の迷いも無かった。いや、今だって、この任務は何より大事のはずだ。命に代えてもと思う気持ちは変わらない。 なのに……この、彼ら誇り高きアルビオン王党派の、真に貴族の誇りたるべき場面を前にしての、この寂寥感は……何なのだろう―――。 「両者、よろしいか」 杖を高く掲げたウェールズの声と静まり返る場に、ルイズは思索から引き戻された。 ざり、と、どちらかもわからない靴が砂を噛む音がする。 ゆっくりと、金属と金属が擦れあう音がして、ワルドがその細身の突剣に見立てた自らの杖を抜き放ち、フェンシングのように構えた。 耕一は、足を軽く開いた自然体のまま、じっとそれを見据えている。 「―――はじめッ!」 ウェールズが杖を振り下ろす合図とほぼ同時に、ワルドが翔けた。 その迅さはまさに風。スピードだけなら、エルクゥにも遜色のない突進だった。 「『閃光』のワルド、参る!」 「くっ!」 二つ名通りの閃光のような突きが走る。 剣に見立ててあるとはいえ、あくまでも杖であるそれの突端は丸く、青銅ゴーレムの全力パンチですら平然と受け止める耕一には牽制の効果すら見込めない。 「相棒! 避けろ!」 「っ!?」 デルフリンガーの一喝で、耕一はざっと飛び退り、ワルドから距離を取った。 「よく見破った」 びゅうん、とワルドの杖の周りに風が渦巻く。目には見えない空気の刃がそこにある。 「『エア・ブレイド』だ。いつの間に唱えたんだ」 『ブレイド』。杖の周りに、地水火風四属性の刃を纏わせ、己が剣と成す魔法。 風のスクウェア・メイジであるワルドの使うそれは、『エア・ブレイド』。目に見えぬ風の刃は、距離を狂わせ、回避を困難とする。 「僕の『閃光』の二つ名は、詠唱の速度から来ているのだよ。さあ、この切っ先、触れれば斬れるぞ!」 ワルドが構える。 「……どんな装甲だろうと撃ち貫くのみ。とか言えばいいのかな、ここは」 右手の指を猛獣の爪のように見立ててパキパキと動かしながら、耕一は目を細めた。 じり、じり、とお互いに円を描き、目配せで牽制しあい……先に飛び出したのは、耕一の方だった。 神速で懐に飛び込み、腕を真横に一閃。 「速いな! だが、当たらぬ!」 「くっ!」 しかし、ヒラリと身軽にそれをかわしたワルドが『ブレイド』を袈裟懸けに振り下ろす。 耕一は真後ろに跳躍して回避し、二人は先程と同じ位置に戻った。 その一合で、周囲を囲むアルビオン貴族の喧騒はぱたりとやみ、皆顔を引き締めた。この試合、一瞬たりとも見逃しては恥だとその顔が心境を表していた。 「だああっ!」 「ふんっ!」 再び耕一が突撃し、ワルドがかわす。もう一度。しかし当たらない。 エルクゥの致命的なパワーもスピードも、当たらなければ意味は無かった。 「力だけでは風のメイジに当てる事は出来んよ。其は風に舞う木の葉の如く。落ちる木の葉を掴もうと力をこめればこめるほど、その力の起こす風に木の葉は飛ばされ、掴む事叶わぬ」 そんな事を言いながら、ヒラリヒラリと耕一の腕をかわして『ブレイド』を振るうワルド。反射神経で『ブレイド』をかわす耕一。 距離を離し、三度、遠目に対峙する。 「…………へへ」 知らず、耕一の顔に笑みが浮かんでいた。 魔法という反則が存在するとはいえ、エルクゥに比肩しうる技術と速度を持つヒト。 それは、耕一の心を躍らせた。 人なる身でエルクゥを打倒する。それが可能ならば―――呪われた一族は、ただの猛獣に過ぎなくなるのだから。 耕一は、笑みを隠さないまま、デルフリンガーをスラリと抜き放った。その左手のルーンが淡く輝き出すのを、ワルドが目を細めて見つめている。 「お、俺の出番かい? 相棒!」 「アレに武器なしじゃちょっと辛いもんでね。力を貸してくれ!」 「おう、任せな! へへ、やっとの出番だ。これはオイラ活躍フラグじゃね!?」 構えるは、八双の型。次郎衛門の記憶から、というより、体が勝手にこの構えを取っていた。 体が軽い。ワルドの微細な動きに合わせて自然に対応してくれる。まるで剣の達人にでもなったかのようだ。 「不思議な構えだな。だが隙は無い。君の故郷の技か……ふふ、興味深い。その力、見せてもらおうっ!」 ワルドが跳ぶ。 「相棒っ! 『ブレイド』に俺を当てろっ!」 「っ!」 「なにっ!?」 デルフリンガーの叫びに答える事が出来たのは、この不思議な体の軽さのおかげだっただろう。 長剣は杖の先に巻きつく風に当たり、そのまま鍔迫り合い―――をする事なく、何の衝撃も起こらずにその風の刃が掻き消えた。 「うおっ!?」 「くっ!」 てっきり剣同士のぶつかりあう衝撃があるものと思っていた耕一は、思いっきり剣を振り抜いてしまった。 ワルドも、なぜか消え失せてしまった『エア・ブレイド』を再び纏わせるのが精一杯だったのか、その隙の追撃はなく、二人はお互いに跳び退って距離を取る。 「へへっ、どーよ。チャチな魔法だったらいくらでも吸収してやるぜ!」 「先に言えっ!」 耕一の簡潔な抗議に、周囲を囲んでいたアルビオン貴族の中でまだ余裕のある者は、然りと頷いた。めんごめんご、と謝るデルフリンガーに、あまり謝意はなさそうだ。 「……魔法を吸収するとはね。城が一つ買える値段がつくぞ。ヴァリエール家の宝物か何かかい?」 ワルドが涼しげな笑みを浮かべながら、杖を構える。 「場末の武器屋で金貨100枚で買った、って言ったら信じる?」 「それは……掘り出し物もいいところだね。―――さて、やはり、まともに叩くのは無理か。二つで満足しておくしかあるまいな」 ワルドの笑みが、徐々に獰猛なそれに変わっていく。 「くるぞっ! 相棒っ!」 ワルドの『エア・ブレイド』が不意に解除されたかと思った瞬間、ぶおん! と大きな音が鳴った。 台風の中、暴風に煽られたかのような衝撃。『ウィンド・ブレイク』の魔法が耕一を襲う。足を踏ん張ってなんとか踏み止まり、本能的に剣を掲げた顔の正面だけに緩やかなそよ風が吹いた。 「横だっ!」 その隙に、ワルドは耕一の側面に回りこみ、『エア・ブレイド』を構えて突進してくる。 迎え撃つように耕一が跳ぶ。今度は振り切らないように、デルフリンガーを風の刃に当てて迎撃―――。 「フッ……」 「なにっ!?」 ぶぅん、と、ワルドの刃が振られるはずの場所を迎え撃とうとした耕一の剣が空を切った。ワルドは杖を微動だにさせないまま、耕一の横をそのままの勢いで通り過ぎていく。 その先には―――介添人である、ウェールズとルイズが立っていた。 § 二人の顔が驚愕に歪む前に、ガンダールヴが振り向く前に、周囲のボンクラどもが事態に気付く前に……自らの『ブレイド』はその使命を全うする。ワルドはそう確信して、疾駆する速度を上げた。 その使命とは―――彼の所属する『レコン・キスタ』の敵、アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーの命。そして、その傍らに立つルイズの持つ、アンリエッタの恋文。 その二つがあれば、『レコン・キスタ』は瞬く間にアルビオンとトリステインをその版図に含める事が出来るだろう。 もう一つの目的は、ルイズ自身であったが……手紙と一緒に気絶させて持ち帰り、もう一度話をすればいい。どうしても反抗するのであれば、その首を手折るまでだ。 そんなワルドの計算は、9割9分までが正解だった。 唯一の誤算は―――ルイズの心を、無力な子供と舐めすぎた事だった。 § コーイチの横をすり抜けて、ワルドが向かってくる。その顔には、見た事もないような獰猛な笑み。 心が真っ黄色に染まる。それは、エルクゥの警告信号。 『敵に、気をつけろ』 それまでのルイズであれば、きっと何も出来ずにいた。 事態を把握できず、事実を認識できず、状況の動く様子を眺めるだけであっただろう。 しかし、今のルイズは、違う。 事態を把握し、事実を認識し、状況を見据える。そうあろうと決めたルイズの心は、明確に判断を下した。あれは敵。狙っているのは、自らの傍らに立つ、おともだちの大事な人。 振り向きつつあるコーイチの足では間に合わない。周囲の貴族達もまだ事態に気付いていない。唯一間に合うのは―――自分だけだ。 ルイズは、とんっ、と軽く床を叩く靴音を残し、兇刃と、刃の狙う先との間に、その小さな体を滑り込ませた。 前ページ次ページゼロのエルクゥ
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前ページ次ページゼロの軌跡 第十三話 タルブ動乱 「ヴァリエール様、見えました。レコン・キスタの船です」 「早かったわね…各員、所定の場所について!危なくなったら無理せずに退却すること」 突貫で柵を植え堀を穿ってどうにか篭城の形だけ整えたものの、稼ぎ出さなくてはならない時間はあまりにも長く、戦力差は絶望的なまでに開いていた。 恐らくは先遣隊か、未だ米粒ほどにしか見えない本隊から遠く進んで二隻の船が先行し、タルブ村をその射程に収めようとしていた。 ルイズは臍を噛む。 この部隊に足りないものは、多くのものが欠けてはいるが、何よりも空への攻撃手段が全く存在しないのだった。 まず空からの射撃、体勢が崩れたところに上空と地上から一斉に攻めかかる。このような戦法はルイズのような戦の素人でも容易に想像がつく。 これは本当に一時間ともたないかも知れない。そんな弱音を抑えることは出来ても、砲弾の雨を防ぐ術は何ら持ち合わせてはいなかった。 重い音が空から響く。遂に砲撃が始まったようで、数発の黒球が船から零れてきている。 「全員隠れてッ!」 数秒後、放たれた砲弾の一発が広場に着弾して折角組み上げたバリケードを粉々に吹き飛ばした。幸い、死人は出なかったようだが。最初の一撃でこれでは先が思いやられる。 さて、次はどうすべきか。ルイズが考え込もうとした時、敵の進軍を告げる声が上がった。逡巡する間も、局面を左右する権限も彼女には与えられていないようだった。 「グリフォンと竜に乗った敵が十五前後、こちらに突っ込んできます!」 顔を上げると、幾つかの黒点が急速に姿を大きくしながら近付いて来るのが見える。 司令部を真っ先に潰そうということか。その意図に気づいても打開策はなく、ルイズは立ちすくむばかりだった。 ルイズの姿を彼らも認めたか、空高くに三つの火球が浮かび、それは狙い過たずルイズを目掛けて落ちてくる。避けなければと頭では考えても、ルイズの足は動いてはくれなかった。 その火球の熱に浮かされたように、ルイズは目を閉じる。 しかし、いつまでたっても炎がルイズの身を焦がすことはなく、周囲から喜びを含んだどよめきが湧き上がる。 おそるおそる目を開ければ、炎の代わりに蒸気がルイズの顔に襲い掛かった。水が目に入って、慌てて顔を手で拭く。その姿を見ることは出来なかったが、もう何が起こったかはっきりと分かっていた。 激しい蒸気と駆動音。一歩ごと踏みしめる大地はその振動で確かな存在を伝えていた。 「レン!<パテル=マテル>!」 「そんなところで突っ立ってたら鴨射ちよ、ルイズ」 会話している間にも、ルイズをかばう<パテル=マテル>に魔法が放たれる。氷が砕ける音、岩がぶつかる音、炎が燃える音、風が空気を切り裂く音が二人の会話を邪魔するにいたって、レンは標的を認識する。 「煩い蝿を黙らせてやりなさい。ダブルバスターキャノン!」 <パテル=マテル>が振り向いて、照準を空に浮かぶ船に合わせる。メイジの魔法をものともせずに、二つの光線は船の中心を貫いて空に吸い込まれていった。 船は真ん中から折れて砕け、紙細工のようにゆっくりと大地に向かって落下していった。 見たこともない異形のゴーレムから放たれた二条の光。それが母艦を撃墜したのを見て、十数機の敵兵はしばらく動けずにいたが、<パテル=マテル>が再び構えたのを見て、我先にと逃げ出していった。 敵が去った後、皆が広場に集まって輪をなし、幾度も幾度も歓声を上げた。 未だ亜然と呆けたままのルイズに、レンは声をかける。 「危ないところだったわね、間に合ってよかった。そうそう、もっと早く戻ってくるはずだったんだけど、遅れたのはシエスタの責任だから」 そんな、レンちゃんひどいですよ~。と、シエスタも人垣をかき分けてルイズに駆け寄ってくる。 いつの間にか、逃げたはずの女性たちも二十人ほど、ルイズを囲む輪の中に混じっていた。 「あなた達、どうして…?」 「そりゃあ、私はタルブ村の人間ですから。故郷は自分の手で守るものです」 「レン!なんで連れ帰ってきたのよ?」 「シエスタに言いくるめられちゃったの。まあ八割方は避難させたから合格点じゃないかしら」 レンは悪びれもせずに飄々と答えを返す。話にならないと踏んで、ルイズはシエスタに突っかかった。 「ここはもう戦場なの。ただの平民のシエスタに何が出来るのよ!」 「そういうルイズ様には何が出来るのですか?ゼロであるルイズ様が、無数の敵兵に立ち向かえるのですか?」 今だけは失礼な申し様をお許しください。そう前置きしてシエスタはルイズに諭した。それは、本当はルイズも理解していて、今現在もルイズが歩んでいる道だったからだ。 「無力であれば何もなさらないのですか?それは無力であることを理由に逃げているだけのことです。 無力であっても尚、生きるために足掻くのが人ではないでしょうか。そうやって努力しない者が、どうして他人の助けを求めることが出来ましょう。 自らの無力と世界の不条理に甘えて何もしない者に差し出される手などありません。常日頃から、そして苦難の時に立ち向かう者にこそ救いはあるはずです。先ほど、レンちゃんがルイズ様を助けたように」 「シエスタ…」 「私はルイズ様の心を読むことなんて出来ません。でも、私や他の人に接する態度や言動、各地での評判を聞けば、ルイズ様が私達と意思を同じくする素晴らしい貴族だってわかります。 だから、こんな無力な私ですらルイズ様を助けようと戻ってくるんです。なら、私も出来るだけのことをするだけです。 それに無力ですが何も出来ないわけではありません。手当てと伝令くらいならこなしてみせます」 反論の余地もなくルイズが困ってレンを見ると、レンは意地悪く笑っていた。 レンもこうやってシエスタに論破されて彼女らを連れ帰らざるを得なかったのだ。それを理解して、ルイズも根負けしてシエスタらを認めることになった。 「さあ、敵はまた来るわよ。油売ってないで準備しなさい」 「二隻落とされて、まだ攻めて来るっていうの?」 「そうね、五千の軍で人数二百ばかりの村を攻めたら鉄のゴーレムの放った光で船が落ちたので退却します。って上官に報告出来るような軍人だったら逃げてくれると思うけど」 そんな報告が出来るはずもない。そんなことをすれば間違いなく背信を問われて営倉行きだろう。 広場に集まっていた者はわらわらと持ち場へ戻り、ルイズとレンが残された。 「さあ、私達も急ぐわよ、ルイズ」 「待って、レン。あなたは何故ここにいるの?」 何を今更、と表情で応えるレン。しかし、ルイズは問いかけなければならなかった。 「シエスタがここに残るのはわかったわ。彼女はこのタルブ村の人間だもの。 でも、あなたは?レン。タルブ村はおろか、このトリステインの人間ですらない。遥か異世界ゼムリアの人間でしょう。あなたが肩入れしなければならない理由はないわ」 「…」 「だから、レン、あなたを巻き込むわけにはいかない。早く逃げなさい」 「冗談じゃないわ!」 その言葉はルイズの紛れもない本心であり、だからこそレンをいたく傷つけた。 「ふざけないで!何が今更逃げなさいよ!こんな世界に呼びつけて、今まで散々レンを連れまわして。それでいて少し危なくなったら一人でどっか行けなんて言うのね。 さっきルイズがしてくれた約束は何だったの。一緒に元の世界の手がかりを探してくれるんでしょう。世界を旅して周るんでしょう。 理由がないですって?そんなものいくらでも作れるわ。でも本当に必要なの?」 言ってレンは俯いた。 前はシエスタ達を逃がすという役目があればこそ、渋々タルブ村を離れたのだ。だが、シエスタはこの村へと戻った。ならば、もう村を離れる気はレンにはない。 ルイズなりに自分のことを心配しての発言だとレンは勿論理解はしている。それでも、諾々と承服出来るものではなかった。わかっていたからだ。ここで自分が逃げれば、ルイズ達に二度と会えなくなるであろう事が。 そんなレンに、ルイズは尚も言葉を重ねようとしたが、口からは吐息しか出ては来なかった。 それよりも、零れそうになる涙を堪えるのに精一杯で、慌てて後ろを向く。 レンは明言こそしなかったものの、ルイズの身を案じてこの戦いに参加することを決意してくれた。身を危険に晒してでも、ここに残ると言ってくれた。 そして、この後も一緒に旅をすることも。 「ありがとう、レン…」 幾つもの意味を込めて感謝の言葉を送る。涙に震える言葉は誤魔化せていないだろうが、それでも構わなかった。 「敵が来ました!二百ほど。馬に乗ってます!」 やはり来たか。その知らせにルイズとレンは村の入り口まで走る。 いきなり二百とは。相手にしてみればわずか数%に過ぎないのだろうが、それはこちらの戦力のおよそ八割もの数だ。 周囲が浮き足立つが、レンの落ち着いた声がそれを静める。 「まずは出鼻を挫くわ。力の差を見せ付けないことにはわずかな時間も稼げないから。レンが魔法を唱えた後、混乱している敵陣に突撃しなさい」 馬の足は速く、数列に並んで隊伍を組んだ騎士がもう数十メイルの位置にまで迫っていた。 レンは悠々たる仕草で組まれたバリケードの前に出て呪を紡いだ。 「青き氷晶の輝き!恐怖にその身を凍らせぬ者は無いと知れ!コキュートス!」 草が青々と茂っていた道、それが瞬く間に分厚い氷で覆われていく。運悪く魔方陣の中心部にいた数騎は悲鳴をあげる間もなく見事な氷のオブジェと化した。 少し外れにいた者も足を凍りつかせた馬を統御できずに、例外なく地面に投げだされる。 直接的に被害を被ったのは僅かに三十騎程だったが、先頭集団の潰乱に対応できない後続が更に被害を拡大した。 暴れる馬の蹄に足を踏み砕かれるもの、鋭い氷で腕を傷つけるもの、倒れた味方を避けようしたばかりに落馬してバリケードに突っ込むもの。 あまりの惨状に堪りかねて指揮官が隊列を整えようとした時、武装した平民がバリケードから出て突撃してきた。舌打ちしながら見やると、先頭を走ってくる鎌を持った少女が彼の視界に入る。 あの年でまさか敵対しようというのではあるまいが、ならば手にしている武器は何だ。大の男でも持て余しそうな金色の大鎌は。 一瞬躊躇ったために彼の回避行動は少し遅れた。飛び上がった少女を追いきれずに無我夢中で体を捻ったが、右腕の肘から先を綺麗に落とされる。それとも、その程度で済んだというべきか。 ただの平民しかいないだと。スクウェアクラス以上の魔法を行使する手練が混じってるじゃないか。しかも何だ、あの餓鬼は。亜人か化け物か。 落馬した味方を救うことはもはや出来ず、彼は撤退を宣言。出鱈目の情報と無茶な命令を与えた上官に向かって思いつく限りの悪罵を心中でつく。 離脱できたのは百騎ほど。この被害をどう報告したらいいだろうと馬を走らせながら頭を悩ませる。しかし、背後から聞こえてきた轟音がそれを遮った。一体何事かと振り向けば。 「空を飛ぶ鉄のゴーレムだとぉ!?」 体当たりだけで鞠のように吹き飛ばされていく部下を見ながらも、片腕を失った彼に何が出来るわけでもなかった。いや、五体満足であったとしても無理な話だったろう。 彼に許されたのは、逃げながら部下の無事を祈ることだけだった。だから彼はそうした。 「大勝利じゃねえか。すげぇぜ、嬢ちゃんの魔法があれば怖いもの無しだな」 「あんなアーツ撃ち続けたら五、六発で打ち止めよ。そうそう使えるものじゃないわ。それより怪我人の手当てを」 完全に圧倒したとはいえ、村側の被害もゼロでは済まなかった。騎兵と歩兵で殴りあったのだから、奇跡的な被害の少なさといっても過言ではないだろう。 それでも、戦力比を考えればいずれジリ貧となるに違いない。 多方面に展開されて波状攻撃を掛けられれば、レンと<パテル=マテル>の獅子奮迅の活躍があったとて一時間も耐え切れるとは思えなかった。 それまでにどのくらい時間を稼げるか。日が完全に落ちるまで持ってくれれば勝算が出てくる。 今だ中天にある太陽を睨みつけて、レンは考え込む。 次に取るべき手を実行に移すために、レンはルイズと<パテル=マテル>を呼んだ。 前ページ次ページゼロの軌跡
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前ページ次ページゼロの騎士 なにが起こった? トリステイン魔法学校二年ギーシュ・ド・グラモンは焦っていた ギーシュは二股がばれ メイドに罵声をあびせ そのメイドを庇った男と決闘をすることになった 娯楽に飢えていた貴族の子弟達にとって恰好のイベントとなり、集まった人だかりの前で高らかに決闘を宣言 ところが相手は杖を使わないという 男がメイジではなかったことにギーシュは安堵した 決闘開始と共に一体の青銅でできたゴーレムを作り出す それに対し男が困惑の反応をみせる 自分の魔法に男が怯んだと思い余裕を見せていたギーシュだったが、次の瞬間ゴーレムが目の前で弾け飛んだ 男が地面に向かい拳を打ち付けていた ……………………… 久しぶりの戦闘だ イヴァリースではチョコボの森にいたのだが、チョコボは懐いていたし、森には他の魔物がいなかったためなかなか戦う機会がなかった だが一度体に叩き込んだ技はそうそう忘れるものではない …まぁ多少さびついているかもしれないが それにこちらの魔法を見てみたいという気もあった なにしろ未体験な事が多すぎる 情報はいくらあっても困ることはないのだ 広場につくと既に人だかりができていた 決闘を挑んできた彼は<青銅>のギーシュ・ド・グラモンというらしい ながながと口上をたれた後決闘は開始された こちらが出方を伺っていると、ギーシュはなにかつぶやきながら手に持つ薔薇の造花をふり、落ちた花弁が地についた瞬間、おそらく青銅で出来ているであろう女騎士の象が現れた 見たことのない技だ 未知の技法に警戒しつつ、小手調べにこちらから手を出してみた 「大地の怒りがこの腕を伝う! 防御あたわず! 疾風、地裂斬!」 青銅の象<ワルキューレ>はたった一撃で動かなくなってしまった あっけにとられているギーシュ 神界の戦乙女の名を冠する割に、たいしたことはなかった それがラムザの感想だった だが敵を侮り油断するほどラムザは愚かではない そうでなければ先の獅子戦争を生き残ることなんてできなかった しかしあの耐久性じゃ…牛鬼一体倒せないな… ギーシュが再び薔薇をふると、今度は7体のワルキューレが現れた 「すこしばかり…君を見くびっていたよ。だが、これで終わりだ!」 ギーシュはそう叫ぶと、ワルキューレに陣形をとらせた 二体を自分の守りとし、あとの五体が近寄ってくる 守りの内一体が剣、一体が槍 残りの五体は内二体が剣、一体が槍、残り二体がハルバードだ ラムザは数を見て即座に呪文を唱える 「たゆたう光よ、見えざる鎧となりて、小さき命を守れ... プロテス!」 ラムザの体がほのかな光に包まれる それを見たギーシュは即座にワルキューレを走らせた 槍とハルバードをもつワルキューレが少し間を開けて取り囲み、剣をもつ二体が接近してくる ラムザはワルキューレの射程圏に入る前に剣の一体に拳を放つ 「渦巻く怒りが熱くする! これが咆哮の臨界! 波動撃!」 拳の波動を受けたワルキューレは身をひしゃげさせたままつっこんでくる それを軽くいなし瞬時に十数発の拳を打ち込んだ、ワルキューレは轟音をたて吹き飛ぶ 「な、なんなんだよぉ!」 焦るギーシュは続く四体を突撃させる 「ひるがえりて来たれ、幾重にも その身を刻め... ヘイスト!」 ラムザの周りに先程とは違う光が現れた それが消えると、その場にいたはずのものが……いない ………………… 「消えた? またあの移動術?」 先程まで見ていたはずのラムザがいない 食堂で騒ぎを起こし、そのまま広場で決闘をするというラムザとギーシュをみていたキュルケだったが、突然の事にあっけにとられていた 「違う、今度のは…」 「…! 速い!」 さき程まで本に向かい興味を示さなかったタバサも、未知の事象に目を奪われていた 得体の知れない…魔法? しかしギーシュのワルキューレをほふっているのは魔法ではない、しかも武器を使っているわけではない、ただの拳だ その拳でもう一体の剣をもつワルキューレを地に伏せさせた 三体のワルキューレによる刺突をよけたラムザは、的確に、比較的弱い関節部を狙いまた一体行動不能にした 残りのワルキューレはあと四体 ………………… 「なんと…」 ラムザとギーシュの戦いを見ていたのは、広場にいた生徒達だけではなかった 教師からの報告を受けたオスマンと、そこに居合わせたコルベールも、遠隔地を覗く魔法 遠見の鏡でそれを見ていたのだ 「ガンダールヴとは…あらゆる武器を使いこなすのではなかったかね?」 「私が聞いたのはその通りです、オールドオスマン」 「しかし、彼は武器を使っていないようだのう」 「そうですね…いや、オールドオスマン、ラムザ君が剣に手をかけましたよ!」 …………………… なんだ? ラムザは自分が倒したワルキューレの持っていた剣に手をかけた その瞬間左手のルーンがほのかに光ったかと思うと、体が軽くなるのを感じた 突然の事に驚くラムザに、ワルキューレがハルバードを振り下ろす ラムザは一旦考えるのをやめ、最小限の動きでその一閃を避けワルキューレにきりかかる 同じ青銅同士がぶつかりあったのだ 普通ならどちらも使い物にならなくなるだろう しかし、ラムザの予想を裏切られた ワルキューレは真っ二つに引き裂かれたにもかかわらず、ラムザの持つ剣はその状態を変える事はなかった その事にも驚かされたが今は後回しにし、ラムザは返すひとふりでもう一体のワルキューレも地に沈めた ワルキューレ、残り二体 ………………… ルイズは開いた口を閉じることができなかった 確かに自分の召喚した人間は強い なんとなくだがそう感じていた しかし、これほどまでとは… 確かにギーシュはドットクラスのメイジだ メイジのランクで言えば最下級になる とはいえ、メイジに対して素手で太刀打ちできるかと聞かれれば、答えはNOだ しかし目の前で起きていることは現実だ メイジを素手で圧倒している 最初は途中で止めに入る気だったルイズだが、もうそんな気はおきなかった ただ見ていることしかできなかったのだ ラムザは残りの二体のワルキューレも斬り伏せる …もうギーシュを守るものは何もなかった 「これで終わりかな…?」 ラムザによる降伏勧告がなされる 「うあぁぁああああああ!」 追いつめられたギーシュが薔薇をふり再びワルキューレを呼び出す その瞬間その薔薇をラムザが切り落とす 「この薔薇から魔力を放出していたのか、それがないと魔法は使えないみたいだね」 杖が切り落とされた瞬間、錬成されかけていたワルキューレは中途半端な状態で止まってしまった 「こ、降参だ……」 膝をつくギーシュ 「僕の負けだよ…」 「じゃあ勝者として僕から要求させてもらってもいいかな?」 「あぁ…敗者である僕に断れる理由はないよ」 「まず最初に…シエスタに対して謝ってもらおう、そして平民に対してあまり差別的な行動をしないよう気をつけてほしい 二つ目に君の二人の彼女に対する謝罪と誠意ある行動 二股だなんて紳士のすることじゃない 三つ目に、君はルイズをバカにしてるようだね?それをやめてもらおう、あと僕は使い魔じゃない、ルイズを守る騎士だ」 「わ、わかった。あのメイド君にも二人にもルイズにも謝ろう」 「最後に…」 「ま、まだあるのかい!?」 「いや、これは僕からのお願いだ」 「お願い?」 ラムザの言葉にギーシュは顔を曇らせた 「僕と友達にならないか? これは僕からのお願いだから僕のことが気にくわないなら断ってくれてもいい」 「友達?」 「あぁ、どうだろう?」 ギーシュは戸惑っていた まさかそんなことを言われるとはおもっていなかったからだ だが、ギーシュはラムザに対して一種の憧れのような感情を抱いていた それは決闘に負けた悔しさや惨めさに隠されギーシュ自身気付いていなかったものだが、ラムザの誇りだかさ、騎士としての強さ、男としての器量に確かに惹かれていたのだ 数秒の間をおいてギーシュが話し出す 「まさか決闘の相手にそんやことを言われるとはね…。いいだろう、今日から僕達は友達さ、むしろこっちこら頼みたいくらいだ!」 そう言ったギーシュに対してラムザが手を伸ばし、立つ手助けをした そして二人は握手をして言葉を交わす 「ありがとう、改めて紹介させてもらおう、僕はグラモン家の三男、ギーシュ・ド・グラモンだ」 「僕はラムザ、ラムザ・ベオルブだ。僕も三男なんだよ、奇遇だね」 それまで電撃的な速さで進む戦いに静まり返っていた観衆がざわめきだした そこに予鈴のチャイムの音が聞こえた為一部の生徒達が授業に向かい、残った観衆も熱をもちながらもしぶしぶといった感じでそれぞれの場所に散っていった そんな中でラムザはたくさんの声をかけられた 中には平民がドットを倒したくらいで粋がるなだとか非難めいたものもあったが、大半はラムザの戦いぶりを讃えるものだった いくら貴族といっても、若い彼らの心をうつだけの力がラムザにはあった そこにシエスタが走ってきた 「ラ、ラムザさん。だ、大丈夫ですか!? お怪我とかありませんか? あぁミスタグラモン私のせいで申し訳ありません!」 顔に涙を浮かべながら救急箱をもってきていた どうやらラムザが決闘に負けて怪我をしたと思っていたようだが、怪我のないラムザとギーシュの様子に混乱しているようだ そこにルイズが歩いてきた 「薬箱は必要ないのよ、えーっと…」 「あぁ、シエスタですミスヴァリエール」 「あぁメイド君、先ほどはすまなかったね、紳士としてあるまじき態度だった、グラモン家のものとして女性にあのような態度をとった事は恥ずべき事だ、許してほしいミスシエスタ」 「いえ、あの、え、えええ!? 顔を上げてくださいミスタグラモン!」 頭を下げるギーシュを慌てて止めるシエスタ 「許すだなんてとんでもない! わ、私がですか!?」 「あぁそうさシエスタ君、それにルイズ、君にも謝ろう、すまない」 「な、なによ、あんた私になにかしたっていうの? 」 「君の使い…いや、君の騎士に迷惑をかけたからね」 「別に問題ないわ、むしろ私の言うことを聞かないラムザの方が問題だわ!」 「すまない、今後気をつけよう」 ルイズの言葉に苦笑するラムザ 「そろそろ行かないと授業に遅刻するわ! もう行くわね。ラムザ、行きましょう」 そう言ってルイズは歩いていく ギーシュも授業に向かうようだ シエスタから後で伺うという旨を聞き、ルイズの後を追うラムザ 「授業は僕も出ないといけないのかい?僕は調べ物がしたいんだけど…図書室でもあればそこにいきたい」 「図書室は貴族専用だからあなたが入れるよう先生にお願いしておくわ、今はとりあえず授業に一緒にでてちょうだい」 「そうか…わかったよ」 ルイズの言葉を聞いたラムザはそう返事すると、ルイズについて教室にむかった ………………… 「むぅ…」 学長室でオスマンがうなる 「あれは剣と本人を強化したんでしょうか?」 「いやぁ…あれは剣自体にはなにもなかったのじゃろう、剣の扱いに長けた物は一刀の下に全てを両断すると聞く。あれは彼の技術…もしくはガンダールヴに付加される技術なのかのう」 かなりの年を重ね見た目は老人であるが、やはり学長になるだけの人物だ 見ているところは見ている 「しかし決闘相手に対して友達になろうとは…のう、面白い奴だのう、コルベール君」 「いや、本当に。あれにはルーンによる干渉が影響しているのでしょうか?」 「いや、きっと彼の本来の気質じゃろう。そうじゃコルベール君、君授業はいいのかね?」 「おお! 忘れていました! でわオールドオスマン、また後で来ます!」 そう言うとコルベールは早足で部屋を出て行った 「ガンダールヴか…」 学長室の中、一人になったオスマンの声が静寂の中に消えていった 第四話end 前ページ次ページゼロの騎士
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前ページ次ページゼロの軌跡 第七話 狂ったお茶会 その日、オスマンは自室で昼食をとっていた。 人の生に必要な栄養と熱量を摂るにしては、それは不必要なまでに贅と趣向を凝らされたものであったが、間断なく痛みを訴える胃を無視しええず、料理人への冒涜ともとれる速さで彼は箸を置いた。 しかし食事の前後に捧げた祈りは、食事量とは対照的に平時に比して遥かに長いものであり、皮肉なことに既にその在り様が一種の不信心といえた。 とはいえ、その真摯であるところは誰にも否定できないだろう。果たしてそれが報われたのかどうか、ノックもなしに部屋に上がりこんだロングビルが一声にしたのは彼の待ち望んでいた吉報だった。 「ミス・ヴァリエールがミス・レンと和解したようです」 快哉が口をつく。一瞬にして天上の人となったオスマンだったが、やはり始祖ブリミルは彼の日頃の乱行に目こぼしをくれなかったようで、ロングビルの第二声によって彼は深淵にまで叩き落された。 「五人の生徒がミス・レンに決闘を吹っかけました」 「君は一人で我々は五人だ。流石に一対五では君に勝ち目などあるまい。ここは一対一の勝負を五回行うということでどうかな」 レンとルイズがヴェストリの広場に着くと、相手から決闘の方法について提案が出された。その内容にルイズはおろか、周囲の観客までもその馬鹿馬鹿しさに思わず耳を疑った。 いかに言葉を重ねようと、彼らの魂胆はあまりも露骨で見え透いていた。小柄なレンに連戦が出来るほどの体力はあるまいと踏んで、思うままに嬲ろうということか。 「そんなの面倒だわ、貴方達五人一斉に掛かってきてもレンは構わないわよ」 「君がそう言っても、我々には我々の誇りがある。年端も行かない少女を大勢で囲んだなどと言われては、その信念は拠って立つ場所を失うだろう」 誇りとか信念とか、言葉の意味を軽んじる連中ばかりがそういう重い言葉を口にする。自分の中身が空洞だから言葉で埋めようとしているのか。 その精神をなくした言葉に意味も力もあろうはずがない。彼らに使われる言葉があまりにも哀れだ。 キュルケとギーシュがよく似た思考を巡らせているうちに決闘の準備が整ったのか、辺りのざわめきは急速に静まっていった。 どこか喧騒にも似たしばしの静寂、合図が出され決闘が始まった。 さて、どうしてやろうか。平民の女風情、一ひねりにしてやってもいいのだがそれでは些か興をそぐというものだ。そう考えた貴族はすぐに己の浅はかさを悔いることになった。 レンが大鎌を取り出し、その右手を動かした瞬間までは彼はレンの姿を捉えていた。その後、右手の草むらでたった音にほんのわずか気を取られる。石を投げたのだと気づき視線を正面に戻した時にはレンの姿は見えなくなっていた。 どこに消えたか迷ったのも一瞬、視界に差した影がレンの形を成す。彼が上を向くのとレンの上空からの一撃がほぼ同時。 「うふふ、ごきげんよう」 理解も納得も追いつかぬうちに叩き込まれた柄の一閃。 スカートの裾を持ち、愛らしく別れを告げる少女の足元に彼は声もなく崩れ落ちた。 「卑怯だぞ!小娘!」 石で気をそらすという戦法を採ったレンに残りの四人から批判が浴びせられる。だがその声からは怒りは微塵も感じ取れず、怯えと恐れのみがはっきりと表れていた。石などを使わなくても彼女の力はあまりにも明らかだったからだ。 そこにレンから再び提案がなされた。彼らが先ほどその空虚なプライドのために拒絶したそれ。 「だから言ったでしょ、まとめて相手してあげるからいらっしゃい」 彼我の戦力差を思い知り、彼らも今度は甘んじて受け入れた。彼らの理念とやらは、仲間の一人が気絶した程度で羽を生やして逃げおおせるものらしかった。 「せいぜい楽しいお茶会にして欲しいものね」 レンがこちらの世界に来てからこの方、まともな戦闘は行っていない。自分がこの世界でどのくらい通用するのかどうか確かめておかなくてはならなかった。 無論、この程度の連中に負けるつもりは毛頭ない。レーヴェやヴァルター、カシウスといった猛者相手ならともかくも、戦歴も実力も三流の猟兵以下の彼らに遅れを取るようでは<殲滅天使>の異名も泣こうというものだ。 勝つ、彼らを完膚なきまでに叩きのめす。 その上で、この世界で使われる魔法、戦術を知り、<パテル=マテル>とオーバルアーツを有効に利用する土台を構築しなければならない。 そう考えとりあえず見にまわったレンだったが、彼らのとった行動を見て、開始早々に期待の半分はたやすく打ち砕かれたことを知った。 レンを遠巻きに半包囲した彼らは各々勝手に呪文を唱え始めたのだ。それを一瞥しただけで彼らがいかに戦闘に慣れていないか分かろうというものだった。更には敗北を見ても何も学ばない連中ですらあるらしい。 互いに援護できない位置に陣取れば、何人いようが単なる各個撃破の対象となるに過ぎない。ましてやレンの機敏さを考えれば、仲間同士の距離を取ることが愚の骨頂であると何故理解できないのか。 距離を生かしてアウトレンジから魔法を放つにしても、それが戦術的な意味を何ら持たない、思考の放棄の末に生まれた散漫なものである限り、レンを追い詰めることなど出来ようはずもない。 統制の取れていない散発的な攻撃は微塵も脅威にはなりえない。エアハンマーやファイヤーボールがレンめがけて飛んでくるが、それら全てを難なくかわしていく。 決闘の第二幕が始まってわずか数分。彼らから戦術を学ぶ愚を悟り、レンは攻勢に出た。 金色の鎌を振りかざしてレンに向かって放たれた火球を払いのける。作り出した一瞬の空白の利用して戦術オーブメントを起動させた。 見せてやる。そして震え慄くといい。これが導力魔法オーバルアーツだ。 貴族社会体制と特権階級意識の温床であるこの世界の魔法とは似て非なるもの。 無数の人間のたゆまざる克己と努力が育てた知恵の果実。 女神エイドスの息吹を受けたセピスの結晶と人の生み出した導力理論、その申し子。 大鎌を頭上に振り上げ、レンは高らかに呪を唱えた。 「請い願うは遥か地の底のひとやの瘴気、迸るその白き災いをもたらさん! ホワイトゲヘナ!」 レンの詠唱が終わった瞬間、一人の足元に魔方陣が浮き出た。彼の知っている如何なる図形文様とも異なる規則で描かれたそれは大地と異界とを結ぶ道となる。 本能が警鐘を鳴らす間もなく、地の底から這い出た悪霊と瘴気が彼を包み込んだ。数瞬の後にそれは天高く消え去ったが、生気を吸い付くされたその貴族は杖を取り落とし顔から地面に倒れこんだ。 残る三人はアーツの範囲外におり無傷だったが、彼らもその顔からは完全に血の気が失せていた。 レンが行使した魔法は彼らの理解の範疇にはなかった。先の戦闘で見せた身体能力の高さなら理解もできようというものだが。 もしや先住魔法か、この一見良家の子女然とした少女はエルフかさもなくば精霊か幻獣、その類か。 到底敵し得る相手ではないと判断したものの、だからといって前言を翻して頭を下げる気にはなれなかった。半ば自暴自棄になって呪文を唱えようとする。しかし、再び始まったレンの詠唱を耳にして、その口は凍りついた。 その局面にあっても尚、矜持と命を天秤にかけその平衡を保っていられた彼らは一種の賞賛が送られるかもしれないが、それはしばしば無謀と呼ばれるものでもあり、そう呼ばれたものが例外なく辿った末路を彼らも歩むこととなった。 「全てを飲み込み土塊へとその姿を変えよ、大地を揺るがす怒号!ジオカタストロフ!」 毎日使用人達の手によって美しく整えられていたヴェストリの広場は当分の間見るも無残な姿を晒すことになるようだった。 木も花も草も折れて曲がり地中に埋まっている。柵は壊れ塀は崩れ、銅像は粉々になって既に誰を象って作られたものであるかもわからなくなっていた。スクウェアクラスのアーツを放ったのだからそれも道理。 しばらく庭師が暇をもてあまさずに済むだろう。 オスマンの命を受けてコルベールが広場に着いたのは全てが終わった後。無責任な述懐を胸の内にしまい、生徒を指揮して五人の救助にあたった。 決闘が終わり、レンはルイズの方に足を向けた。 本来ならばここまで大規模のアーツを使う必要などなかった。それでもレンがそうしたのはルイズを試したかったからだ。 <パテル=マテル>を操るだけでなく、一人の戦士としてもその強さを誇るレン。 その異能を目の当たりにしても、ルイズはレンと共にあろうとするのか。 そしてレンは正義の騎士などではない。つい半年前まで犯罪結社<身喰らう蛇>にいてその力を恣意的に振るっていたのだ。 今回の決闘の理由も、あの貴族達が貴族らしからぬ振る舞いをしたからレンが立ち上がったのではない。それがレンにとって不愉快で、認めることの出来ないものであったからだ。 結局、レンはトリステインやリベールの法律と道義に則って行動するのではなく、誰の掣肘も受けずにレン自身の価値基準で行動する。 ならば私も問わなくてはならない、とレンは思ったのだ。 ルイズは私に手を差し伸べた。真に貴族であろうとする誇りをその胸に秘めて。 私はそれを美しく、また心地よく感じたからその手をとった。 決闘の前に差し出されたルイズの手は、私に対する謝罪の証だ。 ならば今から私がルイズに差し出す手は、ルイズと私との盟約だ。 次は私がルイズに受け入れてもらう番だ。 この世界での私の在り様を彼女が肯定してくれるならば。 道を違えるまでのしばらくの間、私はルイズと共にあろう。 もう一度、ルイズの手を握らなくてはならない。 「一つ尋ねるわ、ルイズ」 ルイズの目を捉え、レンは語り始める。 「レンはあなた達の理では動かない。私は私の思うように行動するわ。 私はこの世界では異邦人で、持っている力は異質にして脅威」 そしてレンはルイズに手を差し伸べる。ルイズがレンにそうしたように。 「それでもルイズはレンを受け入れてくれるかしら?」 ルイズはレンの手を硬く握り、答えた。 「それでもレンと私は同じ道を歩いて行けるわ。 そして私はレンの力になれるし、なりたいと思っている」 「<身喰らう蛇>執行者NO.ⅩⅤ<殲滅天使> レンよ」 「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ。よろしくね」 ルイズもまた、歩き出すために一つの決断をした。 握手の後、ルイズはレンに提案する。 「レン、私はこの魔法学院を退学することにしたの。一緒に来てもらえるかしら」 「もちろんよ、行きましょう。ルイズ」 二人はオールド・オスマンのいる学院長室へと歩き出した。 前ページ次ページゼロの軌跡
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前ページ次ページゼロの軌跡 第十四話 銃火のマドリガル 「ルイズ、あなたは<パテル=マテル>と行動して」 「何言い出すのよ!どうしてレンが<パテル=マテル>と離れなければいけないの」 レンがルイズに告げた内容は驚くべきものだった。 <パテル=マテル>はルイズと行動を共にし、レンは単独で戦場に出るというのである。 「レンは前線に出なければならないわ。いくら士気が高くて地の利がこちらにあるとはいえ、訓練を受けた軍人相手に戦争の素人である平民が立ち向かうのは無理だから。 でもそれだとレンが積極的に動くことは出来なくなる。 後方で指揮を取りつつ援護、前線が崩壊しそうになったら救援に向かう役が必要。それが可能なのはルイズと<パテル=マテル>だけなのよ」 「でも…。私、そんなこと出来ないわ」 戦で指揮を取った経験もなければ、<パテル=マテル>を上手く動かせる自信もルイズにはない。 それでも、ルイズ以外にその役を肩代わり出来る者はいないのもまた確かだった。 「ルイズにやってもらうしかないの。私達には後なんてないのだから。 …早速来たわよ。覚悟を決めなさい」 姿を現したのは歩兵。ちらほらと杖を持ったメイジも散見される。進軍速度がゆっくりなのは先の騎馬隊の轍を踏まないためか。その陣は重厚で容易には崩せそうになかった。 「銃隊前に、構え!」 レンの号令に銃を持った男たちが応える。一糸乱れずとは言えないが、寄せ集めの民兵にこれ以上を望むのは酷というものだろう。 敵の目鼻が見える距離まで引き付ける。彼らが突撃の姿勢を見せた瞬間、矢の様に引き絞られた声が飛んだ。 「今よ!撃て!」 さして広くもない街道に密集した集団に向けて放たれた弾丸は狙いを外しようもなく、その全ては標的へと吸い込まれていく。前面の幾人かは腹や足を押さえ、また幾人かは腕を動かすことなくその場に倒れ伏した。 後の先を見事に取られたレコン・キスタ兵は一瞬怯みを見せたが、自分達が敵兵より遥かに多いことを思い出し、再び喊声を挙げて走り出した。 このままでは不利とみて、レンはオーブメントに手をかざす。このペースで強力なアーツを使い続けては近いうちにクォーツのエネルギーも空になるだろうことは分かっていたが、 かといって今ここで退けばその『近いうち』さえレン達には訪れはしないだろう。 <パテル=マテル>の存在が恋しかったが、その助力は得られない。おそらくはこの部隊のほかに別働隊がいるはずだ。それもグリフォンなどを連れたメイジが。 レンは騎馬隊を退けた後、次にレコン・キスタが打つであろう手を予測した。 もしレコン・キスタが正面からタルブ村を攻め落とそうとすれば、たとえそれが出来たとしてもレコン・キスタ軍に無視できない被害が出るだろう。 ならば空中機動力のある部隊でタルブ村の内部に侵入し、お互いを孤立させて各個撃破すればいい。 敵将が馬鹿でなかったらその位は策を弄するだろう。そうなってから対策を講じては遅い。 だから、<パテル=マテル>をルイズに託したのだ。 ここは何があってもレンとその指揮下の百五十人で防ぎきらなくてはならなかった。 オーブメントの回路が駆動する感触を得て、レンは呪文とともに鎌を振り下ろす。 「滾り吹き上げる大地の血、骸を糧とし触れる総てを朱に染めよ!ナパームブレス!」 融けずにあった氷に覆われていた道は赤く燃え盛る火炎に飲み込まれ、舞い上がった氷の結晶は吹き荒れる火の粉に取って代わられた。 火に巻かれのたうち転がりまわる者の悲鳴が響く中、獣の嘶きと共に遠くの森から飛び上がる姿があった。 やはり別働隊がいたか、とレンは舌打ちしたが眼前の敵を放置することは出来ず、後ろを振り向かずに敵中へとその身を踊らせた。 「頼むわよ、ルイズ。<パテル=マテル>を立派に操ってみなさい」 ルイズは民家の屋根に登り戦局を見守っていた。 向かってくる歩兵の数はレンが指揮する部隊よりずっと多い。そうそうに出番があるかもしれないと考え、いつでも援護に出れるように準備していた。 しかし、レンの放ったアーツで炎が地面を裂いて溢れた瞬間、森の上に現れた人影にそれを断念する。十数の空行騎が一直線にルイズのほうに飛んでくるのが見えたからだ。 「<パテル=マテル>、少しだけ力を貸して」 ルイズの請願に応え、<パテル=マテル>からミサイルが発射される。空中に放り出されたそれは一瞬頭上で回転していたが、点火されると敵兵目掛けて雲を引きながら飛んでいく。 命中したのは数発だったが、爆風と熱波は周りを巻き込む。悲鳴を上げて墜落したのはおよそ十騎。 あとは肉弾戦で仕留める他ない。 ルイズが大きな手のひらに飛び乗ると、<パテル=マテル>は青白い炎を噴出し空中へと飛び上がった。 敵兵は散開してルイズを囲むように飛び回る。そのうちの一騎に狙いを定め、接近して鉄の拳を叩き込んだ。真上から振り下ろされたそれを受け流すことは出来ずに、一人と一匹は真下の民家の屋根を抜いた。 その間に敵が手を拱いているはずもなく、魔法が続けざまに<パテル=マテル>に襲い掛かる。土で作られたゴーレムがその手を伸ばす。それをどうにかすり抜けたところにファイヤーボールが直撃した。 <パテル=マテル>の手がルイズを包んで守ってくれたが、熱までは防ぎようがなく彼女の白い足に水泡が膨れ上がる。 回避に専念しようかとも考えたが、この巨体では敵の魔法をかわすことは困難だと判断し、ルイズは再び攻勢に出る。 鉄の軋む音を聞き竜が怯え竦んだのを見て取り、<パテル=マテル>は杖を構えて呪文を唱えていたメイジを乗騎もろとも吹き飛ばした。 「まさに化け物だな、あのゴーレムは…」 ワルドはグリフォンの手綱を操り、必死に逃げ回っていた。 既に五騎が落とされ、戦場を飛んでいるのは<パテル=マテル>と彼の操るグリフォンのみ。 未だ目の前に立ちはだかる鉄のゴーレムを打倒する方法が浮かばないでいた。 エア・ハンマーは既に何発も放っている。うち一発は関節部に命中し、数本のパイプをもぎ取ってはいたが、決定打には程遠かった。 <パテル=マテル>を行動不能にするまでエア・ハンマーを撃ち続けようとしたが、残りの精神力も囮になってくれる味方もワルドは持ち合わせていなかった。 このまま引き下がっては貴重な空戦力の浪費にしかならない、せめて倒すための糸口を見つけられないかと逃げながら観察していると、<パテル=マテル>の左手に立つ人影を見出した。 おそらくはあれがこのゴーレムを操っている術者だろうとあたりを付け、彼は戦局を変えるべく賭けに出た。 身の危険も顧みず、ワルドは剣を抜き<パテル=マテル>に向かって直進する。 振り下ろされる右手を紙一重で避け、手のひらの上で身動きの取れないメイジにそのまま剣を突き出そうとする。しかし、そのメイジはワルドがよく見知った、意外な人物だった。 「ルイズ!」 「ワルド様!」 思わず剣を引いたワルドに、彼の婚約者から声が掛かった。 「何故ワルド様がレコン・キスタの軍に身を投じているのですか?」 「ああ、僕の可愛いルイズ。どうして婚約者同士が争わなければならないのだい。さあ、こっちへおいで」 ワルドの頭の中では、ルイズは小さくか弱い少女でしかなかった。甘言を弄せば自分に従うだろうと予想し、彼は昔のようにルイズに囁く。 しかし、ルイズは以前のような世間知らずの令嬢ではなかった。既に彼女は一人のトリステイン貴族として己のなすべきことを見据えていた。 「ワルド様、もう一度お聞きします。どうして魔法衛士隊隊長のあなたがレコン・キスタに参加しているのですか?返答次第では、私はあなたを倒さねばなりません」 その言葉が本当か否か、それが読み取れないほどワルドは愚かではなかった。 一つ息を吐き、彼女に別れの言葉を告げる。 「大人になったのだね、ルイズ」 「ワルド様、一体何を…?」 「僕は僕の目的のためにレコン・キスタの旗の下に居る。国と民を捨てて自分のためだけに行動している。君に罵られても、軽蔑されても、杖を向けられてもなさなければならないことがある。 だから、お別れだ。ルイズ。 君が僕の前に立つのなら、僕はまた君に剣を向けるだろう。その時は容赦はしない」 「私もです。ワルド様」 「ここは一旦退こう。…さようなら、もう僕のものではない、可愛いルイズ」 それから三度の侵攻があった。ルイズ達は辛くもそれを退けて村を守ったが、一戦するごとに被害は幾何級数的に増大した。負傷者が増え、戦闘要員が減り、更に負傷者が増える悪循環。 敗北はもう目の前にまで迫っていた。 「戦闘が可能な人数は何人?」 「七十三人です。そのうち軽症を負っている者が二十八人」 「重傷者の搬送も追いついていません。手当てするにも人手が足りない有様です」 既に村の入り口は抜かれ、防衛線は広場まで後退している。砲弾で吹き飛ばされたバリケードをかき集め、民家の家具をありったけ積み上げてなんとか防いでいるという状態だった。 「<パテル=マテル>も右足が動かないわ。常に飛んで移動しなくちゃならないから出力もだいぶ落ちてるみたい」 「困ったわね、レンのアーツもあと二、三発ってところかしら」 レンがオーブメントにカプセルを差し込むと、クォーツにわずかだが光が戻る。これでEPチャージも最後の一本を使い果たした。 空になったそれを投げ捨ててレンは立ち上がる。その拍子に腕に巻いた白い包帯が取れそうになったが、生憎と頓着している暇はなかった。 「もう限界よ、ルイズ。撤退するしかないわ」 「まだアンリエッタ様の軍が到着するまで四、五時間は掛かるのよ!」 「次の侵攻を防げるかどうかすら分からないわ。もし防げたとしても、その時には撤退出来るような余力は残されてないの。負傷者を見捨てていくわけにはいかないでしょう」 「でもこのままじゃ「敵襲です!歩兵、騎馬合わせておよそ八百!」」 二人の会話を敵襲の知らせが遮った。全ての選択肢は消えて失せ、絶望が村を覆った。 決まりね。と、レンは言って鎌を持ち直す。 「村人は全員、即刻退去しなさい。レンと<パテル=マテル>で逃げるだけの時間は稼ぐわ」 「レンちゃん!そんなの危険すぎます!」 「シエスタ。あなたはまだ動けるでしょう。怪我人に肩を貸して早く避難しなさい」 なおも言い募るシエスタだったが、それを切って捨てたのはレンではなくルイズだった。 「あなたが残ったら私もレンも逃げることが出来なくなるの。あなたがここで出来ることはもうないわ。わかったら、早くなさい」 「でも、でも、そんなことって」 「レンと私を殺したいの?シエスタ?」 シエスタはしばらく俯いて拳を震わせていたが、ルイズとレンが翻意することのないのを悟ると、彼女に出来ることをなすために重傷者の中へと走っていった。 広場に残ったのはルイズとレンの二人。そして傍らには<パテル=マテル>。 「私は止めないのね。レン」 「あなたには言っても無駄だからよ。頑固者のルイズ」 これから二人が始めるのは死に向かう進軍だった。懸絶した戦力の差を前にして、それでも二人は並んで立っていた。 数百メイル離れた所には死神が列を成して歩いていた。それでも二人は笑っていた。 「死ぬんじゃないわよ」 「あなたこそ」 ルイズは右手を、レンは左手を、それぞれ固めた。そして一度だけ、互いの手を打ち付ける。 オーブメントを起動させ、<パテル=マテル>の手に飛び乗り、二人は敵陣に向かって疾走する。 前ページ次ページゼロの軌跡
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前ページゼロのイチコ 右へ左へと曲がりくねってる森を潜り抜けると聞いたとおりのきこり小屋が見つかった。 外から見るに普通のきこり小屋だ。一体何があって教師たちはあんな怪我を負っただろう。 「イチコ、様子を見てきてくれる?」 「はい、頑張ります」 気合を入れ、地面を潜りゆっくりと小屋へと近づいていく。 顔を半分だけ出して動くその姿はちょっと不気味だった。 しかし、幽霊であると言うのはこういうところで便利だった。 絶対死なない、というより既に死んでるから、入ったとたんに罠が発動しても何も問題は無い。 あの宝物庫の魔法すらすり抜けたのだから、よほどの事がなければ大丈夫だろう。 小屋の下へと潜ると、そのままスルスルと地下から小屋の中へと侵入していく。 そうして一分もしない内に今度は扉から抜け出てきた。 「ご主人様、誰も居ませんよ~!」 隠れていた草むらから顔を出す。近くにロングビルが居るかもしれないんだから叫ばないで欲しい。 小屋の中はこざっぱりした物で、机と木材が少々、あとは斧などの道具があるだけだった。 暖炉が無いところを見ると冬には誰も来なくなるのかもしれない。 机の上には大きな筒状のモノが置いてあった。 筒の端に突起物が付いている。作りも細かいのだけれどそれがどんな意味を持つかは分からない。 なんだろう、これは。杖なんだろうか? 剣でも鎧でも装飾品にも見えなかった。 確かあの宝物庫に保管されているものは魔法に関するものばかり。しかし目の前の物体はそのどれにも当てはまらなかった。 「う、重いわね」 持ってみると相当の重量があった。 どうやら全て鉄で出来ているようだ。 しかしロングビルは見当たらない。これが宝なのだろうか? それにしては無用心すぎる。しかしこれ以外でソレらしいものは小屋の中には無かった。 「これ、ロケットランチャーみたいですね?」 とイチコが筒を見て言う。 「イチコ、これが何か分かるの?」 「ぇえっと……いえ。やっぱり勘違いだと思いま――」 その時、轟音と共に床が揺れた。窓から見える空には一斉に鳥たちが羽ばたいて行く。 その空を覆い隠すように巨大な岩が現れる。窓から太陽が見えなくなり、小屋の中は薄暗くなった。 そこで自分たちが危ない状況に置かれてる事に気がつき小屋の外へと飛び出た。 外には塔と見間違えるほど巨大なゴーレムが歩いていた。 まるで子供がそこら中の岩や泥を固めて作った人形のようだ。しかしその大きさはゴーレムとしては最大級だと言える。 歩くごとに地面が揺れ、木がザワザワと音を立てる。 それを見て、思った。私は今日死ぬかもしれないと。 大貴族の娘として生まれ、魔法は使えないまでも誇りだけは失わないようにと生きてきたけれど。 まさか、こんな名誉も何も無いところで死に直面するとは考えていなかった。 それほど予想外だった、これほどのゴーレムを操れる術者が盗賊なんてしてるわけが無い。そんな思い込みもあったかもしれない。 「ご、ごごご主人様?! に、逃げないと!」 とイチコの声で我に返る。そうだ、戦わないと。 宝物をその場に置くと、杖を取り出し呪文を唱える。 炎を打ち出したつもりだったが、いつもどおり失敗。ゴーレムの肌に小さな穴を空けただけだ。 しかも、その穴はすぐに塞がってしまう。 二、三度呪文をぶつけるが結果は同じ。私の呪文では歯が立たない。 「こんなの無理ですよ! 逃げないと」 イチコが必死に叫ぶ。 そうだ、宝は取り戻したのだから逃げると言う手もある。 だけど盗賊相手に、背を向けて逃げるのか? 「逃げない!」 杖を振り、足を狙う。だけどバランスを崩すことすら出来ない。 ゴーレムはゆっくりと、まるで嘲るようにゆっくりと歩いてくる。 「ぇえ?! でも逃げないと、潰されちゃいますよ? あんな大きな足に踏まれたら車道で車に引かれたカエルさんみたいになっちゃいますよ?!」 また意味が分からない事を言っている。 でも、私は貴族。 「たかが盗賊に背は向けられないわ。イチコ、あんたは逃げなさい」 足に攻撃を集中させる。でも呪文が当たり、次の呪文の詠唱が終わる頃には穴が完全に塞がっている。 これでは埒があかない。 「ダメです、ご主人様が死んじゃいます」 「死なないわよ、あのゴレームに勝つつもりなんだから!」 コモンマジックに切り替える。 もう、このさい失敗を気にしててもしょうがない。どうせ失敗するなら詠唱が短い魔法を連発する。 だが、失敗魔法も込めた魔力に比例していたのか。威力が落ちるため一撃が弱くなる。結果、ゴーレムの表面が焦げるだけだ 失敗魔法の考察なんてした事が無かった。少しだけ後悔する。 そうしている間にもゴーレムとの距離は縮まり。 もう、手を伸ばさば掴まれる距離まで来ていた。 「ご主人さま!」 ゴーレムの手が振り上げられる。 あぁ、これは潰される。そんな考えが頭をよぎった。 その時横から勢いよく飛んできたイチコに突き飛ばされた。 いきなりの事で受身がとれず、地面を派手に転がった。 つづいて轟音が鳴り響き、破壊された小屋の木片が飛んでくる。 あわてて手で顔を庇うが飛んできた木片が右手にあたった。 激痛が走る、やばい、骨が折れたかもしれない。 右手も気になるが、左手はまだ無事。のんびり横になってて良い状況じゃない。 左手で体を支えて起き上がる。右手から走る激痛を噛み殺す。体からじっとりと汗が出た。 「イチコ、無事?!」 ギーシュのゴーレムもすり抜けたのだから大丈夫だとは思うのだけど。 改めてあたりを見渡すと当然のようにゴーレムは健在。ゴーレムが歩いた森の木はなぎ倒され、小屋はコナゴナになっていた。宝は……よかった、無事だ。 イチコは広場の中央に体半分埋まって居た。キョロキョロと辺りを見回してこちらの存在に気づく。 「ご主人さま~、無事ですか~?」 「無事よ……あんたは?」 痛みを殺してなんでも無い様に振舞った。イチコに知れると余計に混乱をきたすことは目に見えている。 「私は幽霊ですから大丈夫です。それよりご主人さま。やっぱり逃げましょうよ」 「しつこいわね、逃げるわけにはいかないのよ」 「どうしてですか、死んだらどうにもならないんですよ?!」 「死んでも名誉は守れるわ!」 と言ったら、イチコの表情が張り付いたように動かなくなった。 なんでいまさら驚くのよ。 アンタは貴族じゃなかったの? ゴーレムがゆっくりとこちらへ向きなおす。 どうにも動きが鈍い。あれだけの大きさを動かせるほど術者が練達してないせいだろうか? その時、ゴーレムの足元にある宝に目がいく。さきほど見つけた鉄製の宝物である。 あの宝は学院の宝物庫にあった品。だとするならば何らかの魔法道具である可能性は高い。 上手くアレを拾って使えば、まだなんとかなるかもしれない。 そう考えると、まずは身を軽くするために背中に背負っていたインテリジェンスソードをその場に置いた。 「おいおい、お嬢ちゃん何するんだ? 右腕骨折してるのにまだやろうってか?」 このお喋り剣、また余計な事を言う。 「ぇえ? 骨折してるんですか?」 「いいから、アンタは下がってなさい!」 また口論になりそうだったので、右腕を庇いながらも走り出す。 ゴーレムは相変わらずゆったりと動く、あれなら避けれないことも無い。 再びゴーレムの拳が振り下ろされる。 だがその拳は見当違いの場所へと落とされた。やはり、術者、ミス・ロングビルはこのゴーレムを完全に操りきっては居ないようである。 揺れた地面にバランスを崩されながらも私は宝の元へと走る。 宝は相当の重量があり、左腕だけで持ち上げるのは難しかったがなんとかなった。 「お願い!」 念を込めてそれを振る。 なんでも良い、なにかこの事態を好転させる結果が出てくれれば。 もうゴーレムはいつでも私を踏みつぶせる位置にいる。これで何も起こらなければ本当にチェックメイトだ。 だけど、無常にも何も起こらない。いつもの失敗魔法のように爆発すらしない。 「なんでよ?!」 杖じゃなかった? いや、何らかの魔法アイテムだとしても魔力を通せば何らかの反応はあるはず。 だったら、何故? 私がゼロだから? 何度振っても何も起こらない。ふと上を見上げるとゴーレムがじっとこちらを見ていた。まるで何かを待っているように。 それに違和感を覚えて私は手を止める。 それが合図だったとばかりにゴーレムは再び動きはじめた。 すぐさま潰されると思ったが、ゴーレムの手に掴み取られる。 「ああっ!!」 右腕が圧迫されて痛みが走った。 痛みで思考が一瞬中断されたが、すぐに元に戻る。ゴーレムはこのまま私を潰す気は無いようだ。 考えてみれば、私はまだ宝を抱えている。宝ごと握りつぶすわけにもいかないのだろう。 それでも、私の命がもうほとんど残ってないことは分かった。 こうなってしまえばロングビルが直接手を下すのもいいし、片手で私の頭を潰してもいい。 ともかく、私は死んだ。 これで良かったのだろうか? 良かったかどうかと言えば全然良くない。 魔法をちゃんと使えるようになりたかったし。 女王陛下のお役に立ちたかった。 家族にももう一度会いたかった。 キュルケをまだぎゃふんと言わせてない。 編み物ももうちょっと上手くなりたかった。 それでも、私は最良の選択はしたと思う。 そうするしか無かった。ここで背を向けて逃げる選択をしたら私は私でなくなってしまう。 使い魔の責任を取らなければ、私は一生魔法使いとしてダメになってしまっていると思う。 だから、ベストじゃないけど一番ベターな道だったと思う。 そう言えば、イチコには悪いことをした。 呼び出してまだ間もないのに、死ぬなんて無責任よね…… 「ご主人様!」 声がしたほうを見る。 イチコが剣を引きずって走ってきているのが見えた。 まだ居たんだ。 あんなに逃げたいと言っていたのに、なんで向かってきてるのよ。 誰よりも争いごとが嫌いで、すぐ泣く癖に。 私よりも力が無くて、剣を持ち上げるのも一苦労のはずなのに。 下がってろって言ったのに。 なんで、そう泣きそうな顔で走ってるのよ。 痛みで頭が朦朧として、「逃げろ」と言う事もできない自分が腹立たしい。 「ご主人さまぁ!!」 剣が地面に引っかかるたびによろけ、顔は涙で前が見えてるか怪しかった。 「そうだ、相棒。それで良い!」 それでも両手で剣を握って離さない。 「『使い手』の力は心だ。もっと心を奮わせろ!」 左手のルーンが白く輝きはじめる。 剣先が浮き上がる。 ゴーレムはそれを見て私を掴んでいない方の手を振り上げた。 イチコには通じなくても、インテリジェンスソードは破壊可能だ。 ゴーレムは先ほどとは段違いのスピードで拳を振り下ろした。 イチコの体が浮き上がる、剣と共に。 魔法使いでも無い、剣士が空を飛んでいる。 剣を振り上げ、細身の少女が空を翔る。 地上からはるか高い、ゴーレムよりも頭上まで舞い上がった。 それはまるで、他愛も無い子供の頃に読んだ絵本の一幕のように感じられた。 「ご主人様を、離して下さい!」 振り下ろした剣は分厚い岩を切断し、私を握っていたゴーレムの腕を切り落とした。 握られていた力が緩められたことと、落下の浮遊感で 私は――意識を手放した。 目を覚ますと、そこは自室だった。 右手は包帯でぐるぐるに巻かれている。 一瞬何が起こったか分からず、ぼーっとベットの天蓋を見上げていた。 「……あれ?」 どうして、こんなところに。 生きてる? 起き上がると腕の痛みが走った。驚いて一瞬目をつぶる。だけどそのおかげで完全に目が覚めた。 そう言えばイチコは? 部屋を見回すとすぐに見つかった。相変わらず部屋の中央で浮いていたからである。 すぅすぅ、と小さな寝息を立てて眠っている。 窓の外を見ると綺麗な満月が空に上がっていた。 「ぉう、嬢ちゃん。起きたか」 部屋の壁にインテリジェンスソードが立てかけられていた。 「私、どうなったの?」 「とりあえず、全員無事だ。宝も取り返せた」 「そう……ロングビルは?」 「相棒が倒した。いまごろは王宮の地価牢だろうよ」 イチコが? そう言われて思い出す。イチコがゴーレムの腕を一刀両断したことを。 「あれって、アナタの仕業?」 「どの仕業か大体予想がつくが、オレは剣だぜ。ただの道具だ」 つまり、正真正銘あれはイチコの力だったというのだろうか。 「一体、あの後何があったの? それになんでいきなりイチコが強く……」 と聞こうとしたのだけれど、再び睡魔が襲ってきた。 すごく、眠い。 「ま、それに関しては明日教えてやる。とりあえず今日は寝とけ」 「何よ、えらっそうね……」 そう言いながらベッドに横になった。 前ページゼロのイチコ
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もくじを見る 商品情報 概要 追加ポケモン 追加わざ 追加とくせい 関連項目 商品情報 商品情報 タイトル 『ポケットモンスター スカーレット ゼロの秘宝』(後編・藍の円盤)『ポケットモンスター バイオレット ゼロの秘宝』(後編・藍の円盤) 配信開始日 2023年12月14日(木) 公式サイト 後編・藍の円盤 概要 主人公はアカデミーの姉妹校であるブルーベリー学園へ交換留学をしに行く。ブルーベリー学園は海の中にある新しい学校で、特にポケモンバトルの教育に注力している。主人公は授業に参加したり学生たちと交流したりして、アカデミーとは異なる学園生活を体験することになる。 追加ポケモン いずれもパルデア図鑑に掲載されるようになる。 No. 名前 分類 タイプ 特性 タマゴグループ 性別 備考 通常特性 隠れ特性 ♂ ♀ 1018 ブリジュラス ポケモン はがね ドラゴン じきゅうりょく がんじょう すじがねいり 鉱物 ドラゴン 50% 50% 『後編・藍の円盤』解禁により追加 1019 カミツオロチ ポケモン くさ ドラゴン かんろなミツ さいせいりょく ねんちゃく 植物 ドラゴン 50% 50% 『後編・藍の円盤』解禁により追加 1020 ウガツホムラ ポケモン ほのお ドラゴン こだいかっせい - 未発見 50% 50% 【パラドックスポケモン】『後編・藍の円盤』解禁により追加 1021 タケルライコ ポケモン でんき ドラゴン こだいかっせい - 未発見 50% 50% 【パラドックスポケモン】『後編・藍の円盤』解禁により追加 1022 テツノイワオ ポケモン いわ エスパー クォークチャージ - 未発見 50% 50% 【パラドックスポケモン】『後編・藍の円盤』解禁により追加 1023 テツノカシラ ポケモン はがね エスパー クォークチャージ - 未発見 50% 50% 【パラドックスポケモン】『後編・藍の円盤』解禁により追加 1024 テラパゴス ポケモン ノーマル テラスチェンジ(ノーマルフォルム時)テラスシェル(テラスタルフォルム時)ゼロフォーミング(ステラフォルム時) - 未発見 50% 50% 【伝説のポケモン】『後編・藍の円盤』解禁により追加 1025 モモワロウ ポケモン どく ゴースト どくくぐつ - 未発見 50% 50% 【幻のポケモン】『後編・藍の円盤』解禁により追加 追加わざ わざ名 タイプ 分類 効果・備考 エレクトロビーム でんき かえんのまもり ほのお きまぐレーザー ドラゴン サイコノイズ エスパー サンダーダイブ でんき じゃどくのくさり どく じんらい でんき タキオンカッター はがね テラクラスター ノーマル ドラゴンエール ドラゴン ハードプレス はがね はやてがえし かくとう パワフルエッジ いわ みわくのボイス フェアリー やけっぱち ほのお 追加とくせい とくせい名 所持ポケモン ゼロフォーミング テラスシェル テラスチェンジ どくくぐつ 関連項目 ゼロの秘宝 コンテンツ 碧の仮面 藍の円盤 番外編
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前ページ次ページゼロの軌跡 第九話 公爵令嬢のクエスト 「ひどい目にあったわ…」 「それはレンの台詞のはずよ、ルイズ」 「レンは楽しんでたじゃないの…」 ルイズの実家、ヴァリエール公爵家に二人が到着したのは朝方のこと。 愛娘が帰ってきたと喜んだのも束の間、まだ学院の休暇に入っていないことを思い出した一家は何があったかと慌ててルイズを出迎える。そこで彼らが見たものは、末娘と謎の少女と鉄のゴーレムだった。 「ただ今帰りました、お父様、お母様、お姉様。彼女は…私の親友のレン。このゴーレムは<パテル=マテル>」 一体何から聞けばいいのだろうと思い悩んだが、客人に礼を失することがあってはいけない。とりあえず朝食の席に同伴し事情を聞くことにしたのだが、開口一番ルイズの一言に食卓の一家は凍りついた。 「魔法学院を退学して領地経営の勉強をすることにしました」 順を追って話すことにしたルイズだったが、わずかに三十秒後、サモンサーヴァントのくだりで父ヴァリエール公爵が顔を真っ赤にしてレンに杖を向けた。姉カトレアが必死になだめて事なきを得たものの、 ルイズが全てを話し終えた後、今度は母カリンも幽鬼のように立ち上がりレンに決闘を申し込んだ。冷静に見えてその実、十二分に頭に血が上っていたらしい。レンは勿論その申し入れを快諾。 これにはカトレアも処置無しと天を仰ぎ、三人が庭で思う様戦っている間にルイズに詳しく話を聞くことにした。 戦いが終わり、疲れ果てた両親に姉妹は必死の説得を試みる。 それが功を奏したのか、はたまたあまりの事態に考えることをやめたのか定かではないが、どうにか両親はルイズの退学とレンを迎え入れることを認めたのだった。 「終わったことを気にしてはいけないわ、ルイズ。明日からはどうするの?」 「お父様に許可を貰えたから、とりあえずは町や村、色々な場所を視て周ろうと思うの。自分の家の領地だというのに、私はまだ何も知らないから。レンは一緒に来る?」 「そうね…気が向いたらついて行くわ」 それからルイズは毎日のように領内を飛び周った。 多くの場合はレンが一緒だったが、<パテル=マテル>はしばしばその姿を見せなかった。 <パテル=マテル>を一体何のために自律行動させているのかと不思議に思いレンに尋ねてみれば、元の世界に帰る手がかりを探させているという答えが返ってきた。 遠く離れてもスタンドアロンでそこまで高度な行動出来ることに驚きながらも、ルイズはレンに協力を申し入れる。 レンがリベールへの帰還を望んでいるのなら、召喚主であるルイズがそれを手伝うべきだろう。必要ならヴァリエール家の力を借りることになっても構わない。 そう思ったがルイズの助力はやんわりと拒絶された。 「トリステインの人はもし手がかりを見つけてもそれとわからないと思うわ」 それを聞いて自分の力が及ばないことに歯噛みする。 一緒に旅をすればレンについて何か分かるかも知れない。彼女を救うために出来ることはまだあるかもしれない。ルイズはそんな祈りにも似た思いを抱いて、馬を走らせた。 「徴税官が不当な税を取り立てているかもしれないっていうこと?」 「はい。アンリエッタ様の天領よりも税は一割重うございます。隣の街、あそこはうちと同じくヴァリエール領ですが、そこと比べても五分多く税を支払っております」 「妙ね…すぐにお父様に言って綿密な調査を行うわ」 「ヴァリエール家のご令嬢の口添えがあるとは…本当に有難うございます」 領内を回っているうちに、二人は多くの出来事に遭遇した。 「山に凶暴なオウガが棲みついたらしいわね」 「このままではおちおち山に入ることが出来ません。軍や騎士団も頼りになりませんし、猟兵に頼むようなお金もうちの村にはないのです」 「うふふ、ここはレンの出番ね」 「一体何を…あなたのような可愛らしいお嬢さんが立ち向かえる相手ではありませんぞ」 「まあ見てなさい。来て!<パテル=マテル>」 地に足をつけて暮らしている平民と直に話し、悩みを訴えを聞く。 「農作業に必要な風車が壊れてしまいました。ルイズ様はメイジでいらっしゃいます。どうか風車を直していただけませんか?」 「え、いや、その…私は土メイジじゃないから…。ギーシュでも連れて来れればよかったんだけど」 「ああ、これでは畑に水をやることも出来ません。私らはどうすれば」 「少し風車を見せてもらうわよ… なによ、全然簡単な機構じゃない。今レンが設計図を書いてあげるから、その通りに作り直しなさい」 それはルイズにとってもレンにとっても初めての経験で。 「マスター、何か冷たい飲み物を…って、一体この騒ぎはなんなのよ」 「真昼間から大の男二人が酔っ払って大喧嘩さ。全くいい迷惑だよ」 「ワインを飲み過ぎたこの前のルイズにそっくりね」 「レンだって顔真っ赤にして介抱されてたじゃないの…。私が説得してくるわ」 「頼んだよ、お嬢ちゃん」 「ちょっと、そろそろ落ち着きなさいよ」 「「黙ってろ、小僧!」」 「こぞっ…アンロック!!」 「更に滅茶苦茶にしてどうするのよ、ルイズ」 奇しくもそれは、エステルがヨシュアと遊撃士としての旅をしたのに似ていた。 「エステルもこうやって旅をしていたのかしら」 「どうしたの、レン?」 問題を解決したあとはそのまま祝宴にもつれこむことがしばしばだった。無論、功労者であるルイズとレンがそれに参加しないということを周りの人間が認めるはずもなく、毎回村や町をあげての狂乱に巻き込まれるのだった。 お世辞にも上品とはいえない宴だったが、二人には物珍しく楽しいものであった。 とはいうものの、毎回夜遅くまで酔っ払いに絡まれるのもひどく疲れることだったから、酔いを醒まそうと二人で外を散歩していた。 「リベールには遊撃士っていう仕事があってね、今の私達みたいに民間人の問題、遊撃士はクエストってよぶらしいんだけど、それを解決するの。 国家や軍に対しては中立で、民間人のために活動するんだって」 「そのエステルっていう人も遊撃士だったのね」 「そうね、新米でまだまだ弱かったけど」 今までレンは自分とその周りの人間のことを殆ど語らなかった。リベールの文化やちょっとした機械工学などあたりさわりのないことしか話そうとしなかったのだ。 これはレンのことを知るいいチャンスかも知れないとルイズは意気込んだ。もしかしたらレンを救うためのその手がかりが掴めるかも知れない。 「ルイズみたいに思い立ったらすぐ行動する人だったわ。本当にお人よしで自分の事は顧みないで、困った人を見ると助けないではいられなかった。<身喰らう蛇>にいた犯罪者の私を引き取ろうとするくらいのお馬鹿さん。 エステルがそんなことを言うものだから、結局レンは組織には戻らないであちこちを旅していたの。意思もなく意味もなく」 空に白く輝く月を眺めながら、レンは独り言のように話し続けた。 「エステルの恋人のヨシュアはね、今はエステルと遊撃士をしているけどヨシュアは昔、レンと同じで組織の執行者だったの。私を拾ってくれるように組織に頼んだのがヨシュアだったらしいわ」 だからエステルとヨシュアがいなければ、私はここにいなかったかもしれない。 そうレンは、少しだけ、淋しそうにつぶやいた。 頭を振って、視線をルイズに戻す。 「お酒はダメね。あてられて、しゃべりすぎてしまったわ。忘れてちょうだい」 「そんなことないわ、もっと話して欲しい。私はレンのことをもっと知りたいの」 「あらあら、エステルと同じことを言うのね」 レンはルイズに笑いかけて踵を返した。 それは、これ以上は話さないという明確な意思表示だった。 「そろそろ寒くなってきたわ。部屋に戻りましょう、ルイズ」 その夜、ルイズはベッドの中で延々とその思考を巡らせていた。 数週間もの間寝食を同じにして、それでもルイズはまだレンを包む闇の、その断片すらも手にしてはいなかった。 レンはいつでも余裕たっぷりにその類稀なる頭脳と力を振るっていた。<身喰らう蛇>で身につけたその異才は、常にレンを覆い隠していた。 ルイズがいくらレンを見つめても、圧倒的なまでの力量の差で、その内実はようとして窺い知れなかった。 ルイズがレンの心の深奥の一端にかけたのはただの一度きり。サモンサーヴァントの際にレンに絞め殺されそうになった時のその、人がお互いの心に触れるにはあまりにもわずかな瞬き。 それ以来レンは片時も、執行者『レン』としての仮面を外してはいない。 これはレンに対する侮辱なのだろう、と思いながらもルイズは願わずにはいられなかった。 小さい子供は暖かく大きな手に守られて、何も思い悩むことなくただただ笑っていられれば、それでいいはずなのだ。その心を引き裂くような痛みを強要し、彼女の世界を閉ざす権利など神だって持っていない。 いや、あってはいけないのだ。 それでも、この世界は冷たいばかりではない。姉様やキュルケやギーシュや、この旅で出会った多くの人達のように、レンにも優しく接してくれる世界がある。 ならば、いつか『レン』が本当の自分を取り戻して、ただの稚く優しい少女として、一人のレンとして生きられる日が来ますように。 「そして、出来れば私が、その力になれますように」 その言葉が隣で寝ているレンに届いたかどうか。 そのままルイズは眠りに落ちていった。 「ルイズに手紙が来ていますよ。シエスタって方から」 「シエスタから?一体何かしら」 久しぶりにヴァリエール家に戻ったルイズとレンはシエスタからの手紙を受け取った。 「ルイズもたまには学院に紅茶でも飲みに来ませんかって、お茶会のお誘いかしら」 「…半分は当たりよ」 半分?と首をかしげたレンに、ルイズは便箋を差し出す。 「シエスタの実家、タルブ村っていうらしいんだけど。休暇が取れたから遊びに来てくださいだって」 「それは素敵ね、行きたいわ。いいでしょう、ルイズ」 「勿論よ、早速準備しなきゃ。ちいねえさま、というわけですので少し出かけてきます」 一時間後、カトレアに見送られてルイズとレンはタルブ村へと飛び立っていった。 前ページ次ページゼロの軌跡