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地面から生えた手の前で石像のように立ち竦むモンモランシーの視界に、突如、ジェシカが 捕らえた男の一人に刺される場面が映し出された。 「な…なに?これって…」 それに驚いているうちに、ジェシカが男を突き飛ばして頼りない足取りでどこかへと向かう。 その方向は、今、自分がいる厩舎だ。 「い…いけない!」 『待て!行くんじゃない!!』 ジェシカの元へと駆け出そうとするモンモランシーをロビンが制止する。 (どうして?!ジェシカが危ないのよ!) 『落ち着くんだ。彼女ならまだ殺されない』 (なんでそんな事が判るのよ!) 『相手に殺す気があるなら彼女はもう死んでいる。もっと良く見るんだ』 ロビンは草むらに隠れながら二人の男達を見る。 一人は鍵を使って詰め所の中に入り、もう一人がゆっくりとジェシカの後を追う。 (どういうことよ?なんで鍵を持ってるの?) 『君の精神力を疲弊させる為に、わざとあの娘を殺さず君の元へと向かわせたんだ。 そして、おそらくは警備兵も奴らの仲間だ。街からモット伯の屋敷に向かうには この道を必ず通らねばならないからな。 普通なら夜更けにこんな怪しい馬車が通るのを警備兵が見過ごす筈が無い』 (え…?) 確かにロビンの言う事は正しい。それならば男が鍵を持っているのも不思議じゃない。 だったら、この埋められた死体はいったい誰なんだろう? 『今がチャンスだ。逃げるぞお嬢さん』 ロビンの言葉に思考が中断される。逃げる?ジェシカ達を見捨てて? (いやよ!あんなの見せられて逃げられる訳ないでしょ!) 『ならどうする?残り少ない精神力であの娘を治して、男二人と警備兵を相手にする気か? 間違いなく君は殺されるぞ。それか捕まえられて男達の慰み者にされてから売り飛ばされる。 所詮あの娘は平民だ、放って置けばいい。平民など貴族の奴隷なんだろう? 命を懸けてまで守る必要なんてないじゃないか』 (そうね…あなたの言ってることは正しいわ) 貴族の常識に当て嵌めるならば、この使い魔の言っている事は正しい。 そうだ、この私が平民なんかの為に命を懸けるなんて馬鹿げてる。 そもそもマリコルヌ達の手助けをしようとした事が間違っていた。 どうして貴族の私が名前も知らない平民の為にそんな危険を犯さなくちゃいけないのか? 馬鹿馬鹿しい。 メイドを救おうと躍起になっているマリコルヌと二人の使い魔は頭がおかしいんだ。 平民一人の為に貴族の屋敷に乗り込むなんて狂っているとしか思えない。 だけど…私は彼らとは違う。馬鹿じゃない。 やりたい事だって山ほどある。私には未来があるんだ。 こんなつまらない事で死ぬ訳にはいかない。 『良し、早く馬に乗るんだ。追われない様に他の馬は殺しておけよ』 ロビンに促され、モンモランシーは歩き出す。 『ソッチじゃないぞ。厩舎は向こうだろ?おい…何を考えているんだ!?』 (本当、なに考えてるんだろ) 自らの血で服を染め上げたジェシカがモンモランシーの腕の中に倒れ込む。 それを優しく受け止め、地面に寝かせて治癒の魔法を唱える。 『馬鹿な真似をするな!早く逃げるんだ!』 (そうね…馬鹿よ。みんな馬鹿) ジェシカの腹部から流れ出る鮮血が少しずつ収まっていくが、少ない精神力がそこで枯渇する。 制服の袖を破り、ハンカチと共にそれを傷口に押し当てて止血し、震えるジェシカの手を握る。 「モン…モ…ラシ…さ…」 「解ってるわ。安心して」 モンモランシーが手に力を込めて優しく微笑む。安心したジェシカはそのまま気を失った。 『自分が何をしているのか理解しているのか?』 ロビンが建物の陰に隠れるようにして近づき、主を見上げて問いかける。 (自分でも解らないわよ。だけどね…ここで逃げたら私の中で何かが終わってしまう。 平民の為じゃないわ。私自身の為に…やらなくっちゃあいけないのよ) 主の独白に近い呟きと蒼き双眸に込められた意思を見て、小さな使い魔はケロケロと笑った。 『そうか…ならば君の思う通りにやるがいいさ。勿論、奴らを倒す方法は考えてあるんだろう?』 (え~と…今から考えようかな…って) 困ったように答える自分の主をロビンは呆れたように見詰める。 『君は馬鹿か?』 (うるっさいわね!仕方ないでしょっ!思いつかないんだから) 『参ったな…あの男達だけなら何とかなるが、警備兵も含めるとお手上げだぞ』 (その事なんだけど…) モンモランシーから埋められた死体の事を聞いたロビンが唸る様にゲロリと鳴く。 『それは間違い無いのか?』 (小手も着けてたし血も渇いて無かったから、たぶん…) 喉をプクリと膨らませて何やら考え込む使い魔を、モンモランシーは心配そうな眼つきで見る。 『それなら何とかなるな』 (本当でしょうね?私、死ぬのも捕まるのも嫌よ?) 疑わしげに見る主にゲロッと一声鳴き、ロビンが考えたばかりの作戦を伝える。 (上手くいくんでしょうね?) 心配ではあるものの他の策も思い浮ばないので、モンモランシーは意を決して立ち上がる。 『それは君次第だな。さて、始めようか』
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「ほう…広いな」 歩くにつれ、少しづつ収まってきたルイズを前に食堂に着いたのだが、その結構な広さに、素直に感嘆していた。 「ここで教えているのは魔法だけじゃなくて『貴族は魔法を以ってしてその精神となす』のモットーのもと 貴族たるべき教育を受けているの。だから、ここも貴族の食卓に相応しいものでなければってことね」 長ったらしい説明を受けたが、まぁイレーネにとってはどうでもいい。 ルイズが席に座ろうとすると、絶妙のタイミングで椅子を引くと、驚いたようにルイズが反応した。 「意外と気が利くのね…」 「組織から一通りの事は叩き込まれてきたからな」 妖気を消す薬を使った上での潜入任務用のものだが、その気になれば娼婦の目だってやれるのだ。 使用人の動きも当然叩き込まれている。 「…こんな所で役に立つとは思わなかったが」 まぁ、そのNoの高さ故に潜入などには使われる事は無かったので、今回が初披露という事になる。 しばらくルイズの近くに立っていたが、人が集まろうとしない。 いや、他の席は人で埋まっていたが、ルイズの周りの席だけ綺麗に空いている。 少し考えたが、その理由は一瞬で分かった。 (ああ、ここでは私はエルフだったな) 要は仕事を成した後に姿を見せたがらない街人のようなものだと思えば納得できる。 つまり、恐れているという事だ。 ただ、朝のルイズが嫌そうにしていた赤い髪のキュルケはそうでもなかったようだが。 「見た目より、仲が悪いというわけではないようだ」 からかっているようにも見えたが、それなりに気にかけた上での行動だろうと検討を付ける。 本人に言えば否定されるだろうから、あえて言わないでいるが、とにかく、ここに居ては食事も始まらないだろうとし外に出ておく事にした。 どのみち、まだ一週間は持つはずだ。 「私は外に出ておく。済んだ頃には外で待っている」 「へ?何で外に出る必要があるのよ」 「気付いていないのか…周りを見ろ」 結構大物になるかもしれんと思ったが、場の状況を把握できないというのは、後で後悔するハメになる事が多いので確認させるように促す。 それはもう、夥しい数の視線がこちらに向けられている。 自分にではなく、主にイレーネに。 「と、いうわけだ」 そう言うが否やイレーネが食堂を後にする。 「…って、待ちなさい!あんたの食事は…」 そこまで言って、昨日、自分が言った事を思い出したのか口篭る。 もっともイレーネはそれを気にした様子も無く、とっとと食堂から出てしまったのだが。 「もう…勝手にしなさい!」 「少し、ここを探るか」 食堂から出たイレーネだが、まだ時間はある。 これからしばらくここに居るのだ。少し、学院の構造を調べておく事にした。 「確か、今居る塔が本塔だったな、他にも分塔が分かれているというわけか。…しかし、妖力がほとんど回復していない…やはり再生の影響か」 攻撃型の上位Noが腕一本再生するとしても、数ヶ月かかるのだ。それをこの短時間で行えたのだから、その影響だろう。 高速剣は腕を覚醒させ精神力で押さえつける技のため気にしなくてもいいだろうが、こうなればいよいよ一割の妖力解放すら温存しておいた方がよさそうだ。 少し考えながら歩いていたため、曲がり角で思いっきり人にぶつかってしまった。 これが妖魔なら事前に察知できていたのだが、相手はただの人だ。 「妖魔のようにはいかんものだ…すまんな、大丈夫か?」 「い、いえ…こちらこそ申し訳あり……」 イレーネはそのまま立っていたがぶつかった方はしりもちをついて倒れている。 戦士として鍛えられたイレーネと、そうでない者なら当然の結果か。 「珍しい色だ。私が居た場所でも滅多に無いが…確か『獅子王リガルド』がそんな髪の色だと聞いたな」 男の時代のかつてのNo2。イレーネ自身、直接遭遇した事は無いが、外見はそうだと聞かされている。 が、倒れている方は、イレーネを見たまま固まっている。 「…どうした?立てないのか?」 手を差し出すが…何故か思いっきり叫ばれた。 「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!わわわ、わたしなんか食べたっておいしくないですよぉ!!」 「食べる…?何を言って「ああ…!父様、母様ごめんなさい…!シエスタはエルフに攫われてしまいます!」」 どうにもこうにも、シエスタと言うらしい少女が一人で何か別の世界に突入しているが、それを見たイレーネも動じていないあたりさすがだ。 「ど、どうしよう!学院にエルフがいるってことは貴族の方たちも、連れ去られてしま「とりあえず落ち着け」」 言うと同時に手刀を頭に叩き込む。もちろん角度60°の綺麗なやつをだ。 髪型がクレアに似ていたので思わず後頭部を掴んで、土下座体勢にさせたくなったが、チョップで我慢しておく。 「ひぁ…!た、食べないでくださいぃ~~~!」 「エルフというのは人を喰らうのか?…だとしたら妖魔か?しかし、それならなんで私がそれと同列に扱われなくてはならないんだ」 妖魔扱いされたと思い少しイラついたが表情には出さない。 「い、いえ、わたしも人から聞いただけなんですけど…違うんですか?」 「私はエルフではないから、知らんし、お前達が使うような魔法なども使えん」 「…そういえば、ミス・ヴァリエールがエルフを使い魔にしたって噂になってましたけど…魔法使えないんですか?」 「少なくとも、空を飛んだりする事などできんさ。大体、お前達はどこで私をエルフだと判断しているんだ」 今朝、エルフだと思われていた方がいいと判断したばかりだが、即撤回だ。 半人半妖だが、さすがに妖魔のように人を食うとは思われたくない。 「その…えっと…耳ですかね」 「確かに一般的なものとは違っているが…私はエルフではないよ」 クレアを襲っていたあの女もそうだが、あっちではそう珍しくない。どうやらこっちでは尖っている=エルフというらしいと認識した。 「エルフじゃなくて魔法が使えないって事はわたし達と同じ平民なんですか?」 「同じ?お前、魔法は使えないのか?」 「魔法が使えるのは貴族の方達だけなんですよ。わたしは貴族の方々をお世話するために、ここでご奉公をさせていただいているんです」 「ふん…ならここでは、私もそうなるのだろうな」 ルイズにならともかく、この少女に半人半妖だと言っても理解すらできまいとし、それを言うのは止めたのだが、一つ疑問が浮かぶ。 「…いや、私を召喚したというやつも魔法だったか」 なら、何故に空を飛ばなかったのかは気になったのだが、まぁ些細な事だ。 攻撃型、防御型の違いのように得手不得手があるのだろうというところで納得した。 「わたしはシエスタっていいます。よろしくお願いしますね」 「さっき私に攫われると言っていた時に聞いたよ。イレーネだ」 さっきの事を思い出したのかシエスタが慌ててながら赤くなった。 「す、すいません…!でも魔法を使える貴族ですらわたし達にとっては怖いんです…。その貴族ですら恐れるエルフと思ったんですから…」 「怖い…か。私にも怖いと思うことぐらいあるよ」 もちろん、プリシラに左腕を持っていかれた時の事だが、シエスタは自分と同じだと思ったらしい。 「やっぱりそうですよね。…そうだ!余り物で作った賄い食でよければ食べていかれませんか?」 「ああ、私は…」 「遠慮なんてしないでくださいな。こちらにいらしてください」 大丈夫だと答える前にシエスタに手を掴まれ阻まれた。どうも見た目に反し押しが強いらしい。 こうなればあちらと違って、恐れられていないだけに一方的に弱い形になる。 戦士によっては、どこまでやるのかは違うが、少なくともイレーネは一般人と揉め事を起こすようなタイプではない。 無理に断っても拗れるだけだし、一週間は持つが、食べる必要が無いというわけではない。まして妖力が尽きているのだ。 引っ張られるままに食堂の裏手の厨房に連れていかれ椅子に座らされ待つこと数分。 シエスタが皿に入った暖かいシチューを持ってきた。 半分ぐらい食べたところでスプーンを置くとニコニコしていたシエスタが急に不安そうな顔をして聞いてきた。 「もしかして…お口に合いませんでしたか…?」 「ああ、性質でな。私は大体、二日に一度この程度食べれば事足りるんだ」 まぁ戦士にもよるが、大体このぐらいだ。クレアはさらに少ない方だったようだが。 「駄目ですよ!ちゃんと食べないと大きくなれません!」 長女としてのプライドか、どうも食事を残す妹や弟達とかぶったらしく、思わず似たような説教が出た。 「これ以上成長するというのもどうかと思うが」 身長180センチ、一般的に見ても高身長だ。 「そうですけど…毎日のご飯は大事なんですからね」 (やれやれ…クレアに『欲しくなくても無理にでも体に入れておけ』と言った私の立場が無いな) 因果応報。弟子にやった事がそのまま返ってきたような気がしたため、とりあえずその場は全部食べる事にした。 味は美味かったため、そう苦にはならなかったのは幸いというところか。 というか、本気で久方ぶりにまともな料理を食べた。 戦士時代から性質上、どういったものでも少量摂取すればいいというだけあって、基本的に生でいける果実か、そのまま焼いたものぐらいしか食べていない。 例外も居るだろうが、大抵の戦士はそれで済むため、わざわざ、一般人が食べるような料理を食べようなどというものは非常に少ないのだ。 だから、素直に感想が出た。 「旨いな」 「よかった。全部食べてくれて。いつでも食べに来てくださいね。わたし達が食べているものでよければお出ししますので」 「さすがに、毎日というわけにはな…ルイズの方も終わったようだ、世話になった」 「それじゃあ、またお昼に」 マントを翻し厨房を出るが、先行き不安と言えば不安だ。 「四肢接続を繰り返せばいけるか…?」 本気でそんな危ない事を考えつつ、ルイズと合流し教室へと向かう事になった。 ルイズがイレーネを伴い教室へ入ると、今まで結構話し声とかしていた教室が一気に静まり返った。 全員、正面を向き誰も一切ルイズを、もといイレーネを見ようとしない。 唯一の例外は今朝のキュルケと、その近くに座っている青髪の少女ぐらいだ。 風属性の教師曰く「学院として理想的な状態だ」とのこと。 さすがに、イレーネもこう大人数から人を食うエルフと思われてはたまらないので、ルイズに問いただす事にした。 「…お前達が言うエルフというのは人を食うのか?」 「人を食べるのはオーク鬼とかでエルフは強力な先住魔法を使うけど人なんか食べないと思うわ。急にどうしたのよ」 「そうか。…いや少しな」 どうやらシエスタの思い込みだったようで、一先ず安堵した。 なら訂正する事もあるまいと思い床に腰を落す。 やはり、こうなると背中に大剣が無い事に多少違和感を感じる。 「しかし…あれ全てが使い魔というやつか?」 「そりゃそうよ」 (まるで覚醒者の展示会だな…) もちろん普通の動物も居るが、中に浮いている巨大な目玉。蛸人魚。六本足を持つトカゲ。どれもこれも40番代ぐらいの下位の覚醒者ならありえる形だ。 そうしていると、扉が開き中年の女性の教師が入ってきた。 教室を一瞥するなり、満足げに微笑むと 「皆さん、春の使い魔召喚は大成功のようですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に、様々な使い魔達を見るのがとても楽しみなのですよ」 と、口を開いたが、ルイズとその使い魔であるイレーネと目が合うと一気にその調子が下がった。 「ず、ずいぶんと、変わった…いえ、立派な使い魔を召喚したものですね?ミス・ヴァリエール」 瞬間、ただでさえ冷えていた教室の空気が下がる。それはもう、生徒から空気読めよと言わんばかりの視線がモロにシュヴルーズと呼ばれる教師に集まっていた。 「で、では授業を始めますよ。私の二つ名は『赤土』。赤土のシュヴルーズです。土系統の魔法を、皆さんに講義します」 こほん、と咳払いをし授業が始まるが、イレーネの興味は属性などよりも二つ名の方に移っている。 「お前達は、全員二つ名を持っているのか」 「そうね、大抵二つ名で属性が分かるのよ。あそこの小太りが『風上』。あのキザったらしい金髪が『青銅』。その横のは『香水』。後は…キュルケの『微熱』ね」 「順に、『風』『土』『水』『火』といったところだな。もう一つあるようだが…誰も使えないのか」 「伝説になってるぐらいだしね。虚無は」 「…それでルイズ、お前の二つ名は何なんだ?」 イレーネ自身、『高速剣』という二つ名を持っていたからには、そこのところはやはり興味はある。 そう聞かれてもルイズが答えないので、まぁ深くは聞かなかったのだが、かなり静かな教室の中、話していたので結構目立っていた。 「ミス・ヴァリエール、使い魔と親睦を深めるのは構わないのですが…授業中は慎みなさい」 「ああ、すまん。続けてくれ」 ルイズが謝るより先にイレーネがそう言ったのだが、思いのほか素直に謝られた事に対して緊張が取れたようで、ようやく何時もの調子に戻ったようだ。 「判っていただければ幸いです。ミス・ヴァリエールには、ここにある石ころを私がやったように金属に変えてもらいましょう」 「わ、わたしですか?」 もじもじしつつ立ち上がらないルイズを若干疑念を含んだ目で見たが、土系統は苦手なのだろうと判断した。 「や、やります」 そんな、視線に気付いたのか、緊張した面持ちでルイズが前に向かうが、別の方向から待ったがかかった。 「先生、ルイズにやらせるのは危険だと思いますけど…」 他の生徒もそれに同調しているが、シュヴルーズは止めさせるどころか、むしろ促している。 「失敗を恐れていては何もできませんよ。気にしないでやってごらんなさい」 もう止められない。ルイズが教壇の前に行き杖を構えると生徒が一斉に机の下に隠れ始めた。 ルイズが呪文を唱えるが、戦いから離れていたとはいえ戦士。イレーネの体が反応した。 体のあちこちが妖力解放した時のように音を立てている。 何か分からんがマズイ! 「そこまでだ、止めろ!」 何故か限界を突破しそうな予感にかられ、ルイズを止めたのだが、もう杖を振り下ろしていた。 「いかん!」 瞬時に妖力解放。大して回復していない妖力を全て回し床を蹴った瞬間、爆発が起こった。 教室がパニックに陥り、他の使い魔達が暴れ出す。 フレイムが火を吐き、飛行可能な使い魔はガラスを突き破り外へ逃げ、その穴から入ってきた大蛇が小太りの少年を飲み込もうとしている。 「ああ!マリコルヌが食われた!」「まだ、食べられてない!助けてくれ!」「火を消せぇーーーー」 まるで、妖魔か覚醒者が町を襲った時の様な阿鼻叫喚だ。 「だ、だから言ったのよ!ルイズにやらせるなって!ってルイズと先生は!?」 キュルケが教壇を指差しながらそう言ったのだが、二人は居なかった。 「うそ…二人とも爆発で!?」 その場に居たはずなのに居ないので、爆発で消し飛んだと思ったらしいが、教室の後ろの方から声がかかった。 「まったく…問題児もいいところだ」 イレーネが珍しく焦った様子で、その右腕にルイズを抱えている。 「左腕が無いんでな。悪いが蹴ったぞ」 その視線の先にはシュヴルーズが倒れていた。 爆発に巻き込まれたわけではないが、イレーネの蹴りが良い所に入ったようで気絶している。 先住魔法というざわめきが起きたが、何の事は無い。ただ疾く動いただけの事だ 妖力解放し、教壇まで一足飛びに飛ぶと同時に教壇のルイズを掴み そのままの勢いで壁を蹴り反転。ついでにシュヴルーズを蹴り飛ばしたのだが、鳩尾に綺麗に決まったようだった。 当然、手加減はしたが急所である。そりゃあ気絶もする。 瞬間的な妖力解放による高速移動。『幻影』程ではないが、かなりのスピードで移動はできる。 ただ、もう回復した妖力を使い果たしたようだったが。 「ちょっと失敗したみたいね」 そんな教室のざわめきを受けても淡々とした声でと事も無げに言う姿を見て改めてイレーネは、こいつは大物になるな。と本気でそう思った。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1226.html
(音声のみお楽しみ下さい) 「……ねえホワイトスネイク」 「ドウシタマスター」 「これはどういうことかしら?」 「昼食ハ既ニ、ホトンド食ベラレテシマッタヨウダナ。 スープトカモキット冷メテイルダロウ」 「……誰のせいなんでしょうねー」 「ソレハ錬金ニ失敗シタマスt」 ドグシャアッ! 「オゴォォッ!」 「あんたが『でぃすく』だの『魔法の才能』だの話し始めたからでしょうがぁあああああああああああ!!」 5話 つまり、こういうことである。 片付けをやっとこさ終えたルイズとホワイトスネイクは、他の生徒より大分遅れてアルヴィーズの食堂に入った。 そしてそこでお腹を空かせたご主人様ことルイズが目にしたのは―― もうほとんど食事が残っていない大皿と、湯気一つ上がらない、きっと冷え切っているであろうスープである。 もちろんお腹をすかせたご主人様はこんなものを見せられた日にはカンカンである。 まあ元はと言えば錬金を派手に失敗して教室を悲惨な状態にしたルイズにこうなった原因はあるのだが、 上記の通りルイズはそれをホワイトスネイクになすりつけた。 責任転嫁である。 その上ホワイトスネイクのスネを蹴っ飛ばしている。全力で。 ルイズとしては、しょうがないんだもん、あたしは魔法が使えないんだもん、みたいな感じでスネてるんだろうが、 責任転嫁された挙句蹴りを食らわされたホワイトスネイクとしてはたまったものではない。 しかし……相手が自分の主人である以上手を上げるわけにもいかず、結局堪えるホワイトスネイクであった。 スタンドの悲しい定めである。 蹴っ飛ばされた方の脚を抱えてケンケンしながら、 ヨーヨーマッもこんなかんじでいつもDアンGにぶん殴られてたに違いない、と思った。 そして一瞬ヨーヨーマッに同情しかけるが、ヨーヨーマッがドMだったことを思い出してすぐに止めた。 こうしてルイズが一人で怒っていて、ホワイトスネイクがケンケンしているところに―― 「あの……ミス・ヴァリエールでしょうか?」 いくらか遠慮のかかった声がした。 その声にルイズとホワイトスネイクが振り向く。 はたして、声の主はメイドであった。 彼女の髪の色は黒。 他のメイドや生徒と比べれば、ここでは珍しい色である。 「何? メイドがわたしに何の用?」 ルイズが思いっきり不機嫌な声でメイドに応える。 腹へっていても多少の愛想は必要だと思うホワイトスネイク。 そしてメイドの方にも、ルイズの不機嫌が分かったらしく、 「あ、あの! その……も、申し訳ありません。 ミス・ヴァリエールが昼食の席に現れなかったもので、お腹が空いてるんじゃないかと……」 「そーよ! もう食事はほとんど無くなっちゃってるし……おかげでこっちはお腹がペコペコよ!」 「で、ですから、大したものは用意できないかもしれませんが、昼食の方を用意しましょうかと……。 他の貴族の皆様がお召し上がりになったものと同じものは用意できませんが……」 これはありがたい。 今朝のようなアホみたいに豪華な食事は期待できないだろうが、それでも十分だ。 お腹をすかせた我が主人たるルイズにとって単純にプラスになることだし、 またこのままルイズが不機嫌なままだと、いつスネを蹴っ飛ばされるか分かったものではないので自分にとってもプラスである。 そうホワイトスネイクが考えていた矢先。 「イヤよ。わたしがいつも昼食で食べてるのと同じのじゃなきゃ、イヤ」 ホワイトスネイクはため息をつきたくなった。 腹減ってるのはしょうがないとして、何故そこで意地を張る。 どうせこのワガママなご主人様のことだ。 貴族はこんなもの食べないとかなんたらかんたら言うんだろうな、とホワイトスネイクは思った。 でもそれを言うとまたスネを蹴っ飛ばされるだろうから、口には出さない。 そう思っていたそのとき―― ぎゅるるるるるるるる……… ルイズのお腹が盛大な悲鳴を上げた。 そしてその音を出したのが自分だと分かると、ルイズは羞恥心で顔を真っ赤にして周囲を見回す。 周りの生徒が聞いていなかったのを確認してルイズはほっと一息ついた。 今のお腹の音を聞かれるのがイヤだったようだ。 食堂に残っている生徒達は皆談笑に夢中で、ルイズには気づかなかったことが幸いした。 まあ、あまり上品な音じゃなかったからな、と思うホワイトスネイク。 そして確認作業を終えたルイズはメイドの方に向き直ると、 「さ、さっきのは取り消し! あと、えっと、で、出来るだけ上品なものを作りなさいよ! 貴族が食べるものなんだからね!」 と、これまた顔を真っ赤にしていった。 何もそこまで恥ずかしがらずとも、と思うホワイトスネイク。 メイドの方もそんなルイズを見て困ったような笑みを浮かべながら、 「かしこまりました。スープの方は今から温め直しますので、そちらで少しだけお待ち下さい。 あ、あと使い魔さんの分も用意させていただきますね」 と言ってお辞儀すると、ぱたぱたと厨房の方へ走っていった。 「何故、マスターハアノ小娘ノ提案ヲ最初ニ断ッタ?」 「貴族は平民が食べるようなものは食べないのよ。下品だから」 「平民? アノ使用人ノ小娘ノコトカ?」 ホワイトスネイクが聞き返す。 「そう、平民。魔法を使えない平民は、あのメイドみたいにわたしたち貴族に奉仕するのよ」 「ナルホド、ナ」 ホワイトスネイクは朝食の席で、自分の姿が使用人に見えていないことは分かっていた。 そして一方、貴族――つまりメイジだが、そいつらには自分の姿が見えている。 (メイジニハ私ノ姿ガ見エル。シカシ使用人、ツマリ平民ニハ私ノ姿ハ見エナイ、トイウコトカ) そのように、ホワイトスネイクは納得しかけて――先ほどのメイドの言葉を思い出した。 (イヤ待テ。サッキアノ使用人ハ『使い魔さんの分も用意させていただきますね』トカ言ッタナ。 ダガ、アノ使用人ハマスターノ言カラシテモメイジデハナイ。 ダトスレバ……) ホワイトスネイクに、興奮に近い感情が湧き上がってくる。 (アノ使用人……スタンドノ才能ヲ持ッテイルノカ?) そして数分後。 ルイズ以外には誰も席に着いていないがらんとした食堂に、ルイズのためだけの食事が並んだ。 ……とは言っても、スープの他にあるのはシチューとローストした鶏肉だけだが。 しかし、量だけは十分ある。 というか二人分は十分ある。 やっぱりホワイトスネイクが見えているらしい。 「どうぞ、お召し上がり下さい」 メイドが笑顔で言う。 ルイズはメイドの声にそっけなく頷いて応えると、目の前のシチューをスプーンですくって、口に運ぶ。 料理の方も見た目には気を使って皿に盛ってはあったが…… やっぱり見た目がボチボチだったからそれが不満なんだろうか、と思うホワイトスネイク。 それでも、突き返さないだけまだマシだと思うことにした。 やっぱり腹減ってると怒る気力もなくなるんだろうか。 しかし、シチューを食べたルイズの感想は―― 「あら……美味しいじゃない!」 感嘆した調子で、ルイズは言った。 「そう言っていただけると嬉しいです」 メイドが嬉しそうに顔をほころばせて言う。 だがルイズは、一口食べて美味しいと分かったからだろうか、 それすら聞こえない様子で、ひたすら食事を口の中に運んでいた。 とはいえ、ガッつくような真似はしない。 由緒ある家柄の出であるルイズは、どんなにお腹が空いていてもテーブルマナーは守るのだ。 その分食事の時間は長くなるが。 そうしてルイズが食事を取っていると―― 「あの……使い魔さんは、お食事をなさらないんですか?」 メイドが、ホワイトスネイクに声をかけた。 「イヤ、イイ。私ハコウイッタ形式ノ食事ヲ取ラナイノダ」 「じゃあどんな食事をなさるんです?」 当たり障りの無いように断ったホワイトスネイクだったが、メイドはさらに深く聞いてきた。 「そうですか、分かりました」で収めればいいものを、と思うホワイトスネイク。 さて、どうするべきか。 自分がスタンドであることを話せば、このメイドにスタンドの才能があるところまで話さなければならなくなるだろう。 まだこちらの世界に来たばかりで、まだ状況のいまいち掴めていないホワイトスネイクとしては、 出来るだけ不要なトラブルは避けたい。 「スタンド使いとスタンド使いは引かれあう」というルールもあることだし、 今の段階でヘタにこの使用人に、スタンドのことは話したくない。 しかし……他の平民の使用人には見えない自分の姿が、この使用人の小娘には見えているのだ。 いずれこの使用人自身も、自分が他の平民とは異なることを知るだろう。 どうするべきか。 彼女にスタンドの才能があることを伝えるべきか、それとも言わずに置くべきか。 しばらく考えたホワイトスネイクは―― 「私ハ空気ヲ食ベル」 誤魔化すことにした。 勿論大嘘である。 空気食って生き延びる人型生物なんているわけ無いだろ常識的に考えて。 しかしこのメイドは―― 「そ、そうなんですか……」 真に受けた。 純真なのか、だまされやすいのか、いずれにしても、 「はいそうですか」で信用するのはどうかとホワイトスネイクは思った。 まあ深く突っ込んでこないのはこちらとしてもありがたいが。 ホワイトスネイクがそんなことを考えていた、そのときだ。 「ごちそうさま」 食事をしていたルイズから声が上がる。 どうやら食べ終わったらしい。 そしてさっきホワイトスネイクが適当なことをメイドに言ったことに反応しなかったあたり、 かなり集中して食事していたようだ。 よほど、お腹がすいていたんだろう。 そう思って、ホワイトスネイクが下を見下ろすと―― 「……全部食ベタノカ」 「だってお腹すいてたんだもの」 メイドがホワイトスネイクの分にと用意した食事まで、さっぱりなくなっていた。 つまり、二人分をきっちりルイズは食べたのである。 いくらなんでもあれだけ食べたら太りそうなものだ。 というか、あれが普通なのか? 「食ベ過ギジャアナイノカ、マスター?」 「別に食べすぎじゃないわよ。いつも歩いてるから太らないし」 そういう問題じゃないだろう、と思うホワイトスネイクであった。 「あなた、名前は何ていうの?」 ルイズがメイドに尋ねる。 「シエスタといいます」 「そう。じゃ、ありがと、シエスタ。おかげで助かったわ」 「い、いえ! そんな、滅相も無いです!」 「いいのよ、そんなに縮こまらなくて。あと、今回の恩は覚えておくわ」 「ミス・ヴァリエール……」 メイド――シエスタと名乗ったが、彼女が嬉しそうに言う。 「そんなに驚かないで。ヴァリエール家の女が恩知らずだなんて思われたら、 私の方が恥ずかしい思いをすることになるもの。 別に特別なことじゃないわよ」 「そ、そそそうですか。あ、ありがとうございます!」 シエスタがかなり恐縮しながら頭を下げる。 その様子から、 (ココマデ卑屈ニナルトハ……ヨホド、平民ニトッテ貴族、イヤ、メイジハ恐怖スベキ対象トナッテイルノダロウナ) そんなことをホワイトスネイクは考えた。 「で、でででは、わわ私はこれで失礼します!」 そんなことを言って、メイドがまた深々と頭を下げると厨房の方へ走って行った。 ちょうどそのとき。 「なあ、ギーシュ! お前、今は誰とつき合っているんだよ!」 「誰が恋人なんだ? ギーシュ!」 「つき合う? 僕にそのような特定の女性はいないのだ。 薔薇は多くの人を楽しませるために咲くのだからね」 こんな会話が聞こえた。 声の方向に目を向けるホワイトスネイク。 するとそこには金髪の優男と、それを取り巻く数人の男子学生が歩きながら談笑していた。 場所はちょうどシエスタが向かった厨房の近く。 「マスター、アレハ誰ダ?」 「あいつはギーシュよ。色んな女の子のところを、あっちへフラフラ、こっちへフラフラしてるナヨナヨしたヤツ。 わたし、あんまりあいつのこと、好きじゃないのよね」 「アレニ惚レル女ハアマリ幸福ニハナラナイダロウナ。 アレハ女ニ気苦労ヲカケルタイプダ」 「でしょうね。まったく、モンモランシーも何であんなのにゾッコンなのかしら……」 ギーシュを眺めながらそんなことをルイズとホワイトスネイクが話していると。 ぽとり、とギーシュのポケットから何かが落ちた。 何か小瓶のようなものだ。 そしてちょうど厨房に入るところだったシエスタがそれを見つけて拾い上げる。 「これ、落としましたよ」 そう言ってシエスタがギーシュに小瓶を差し出す。 だがギーシュは取り巻きとの会話に夢中で気づかない。 いや、今のシエスタの声はそんなに小さなものではなかったし、「気づかないフリをしている」とするのが正しいだろう。 しかしシエスタは、自分の声が小さかったからギーシュは気づかなかったのだと、誤解した。 そしてもう一度、 「あの、すいません。これを落としましたよ」 そう言って、改めてギーシュに小瓶を差し出すと、 「これは僕のじゃない。君は何を言っているんだね?」 ギーシュはそれを否定した。 しかし自分のポケットから落ちたものを自分のものじゃないと否定するとは、無茶もいいとこである。 そして実際、それは裏目に出た。 「おお? その香水はもしや、モンモランシーの香水じゃないのか?」 「そうだ! その鮮やかな紫色は、モンモランシーが自分だけの為に調合している香水だぞ!」 「そいつがギーシュ! お前のポケットから落ちてきたってことは、 つまりお前は今モンモランシーと付き合っている! そうだな?」 「違う違う違う! いいかい、彼女の名誉の為に言っておくが……」 取り巻きたちに問い詰められたギーシュがそこまで言ったところで…… 一人の女子生徒がギーシュの元へぱたぱたと走り寄ってきた。 女子生徒のマントの色は、ギーシュやルイズのそれとは違う。 (ソウイエバ朝食ノトキ、アノ色ノマントヲ来タ連中ハ右側ノテーブルニツイテイタナ。 左側ニハ紫色ノマントヲ来タ連中ガイタ。 アノ小娘ガ茶色ノマントトナルト……1年生ハ茶色、3年生ハ紫色、トイッタトコロカ) そんなことを考えながらホワイトスネイクが見ていると、 「ギーシュさま……」 そういって、女子生徒がボロボロ泣き始める。 二股かけられてたことを、今のやりとりで理解したらしい。 「やはり、ミス・モンモランシーと……」 「違うんだよ、ケティ! 彼らは誤解してるんだ。 僕の心の中に住んでいるのは君だk」 ブワッシィィーーーーン! 「ぶげぁっ!」 有無も言わさぬ強烈なビンタが、ギーシュの頬に叩き込まれたッ! そして―― 「その香水があなたのポケットから出てきたのが何よりの証拠ですわ! さようなら!」 そう言うと、女子生徒は泣きながら行ってしまった。 女子生徒の姿が見えなくなった頃、騒ぎを聞きつけたのか、女子生徒がもう一人現れた。 顔つきを見る限り、おおよその状況は理解しているらしい。 というか、間違いなくギーシュをぶん殴るなり何なりするつもりの顔だ。 「あれがモンモランシー。 あの子、おだてられるのが好きなのかしらね。 いっつもギーシュの歯の浮くようなお世辞で顔を赤くしてるのよ」 テーブルに着いたまま、ホワイトスネイクと一緒に様子を見ていたルイズが、興味なさそうに言う。 「シカシマスター。コノママ放ッテオイテイイノカ?」 「どういうことよ?」 「アノ小僧……確カギーシュトカ言ッタナ。 ギーシュハ今カラアノモンモランシートヤラカラモ、何ラカノ制裁ヲ受ケルダロウ」 「でしょうね。で、それがどうかしたの?」 「私ガ言ッテルノハ、ソノ後ノコトナノダ。 状況ヲ簡潔ニ整理スレバ、ギーシュハ友人タチノ目ノ前デ二股ガ露見シ、アノヨーニフラレタ事ニナル。 果タシテ、コノママ自分ガ惨メナママデ済マセラレルカナ……?」 「え……ちょ、ちょっと待って! じゃあシエスタが……。でも、そんなのムチャクチャよ! フられたのはギーシュのヤツが二股かけてたからじゃない!」 「ダガ、元ヲ辿レバシエスタノ親切ガ招イタ事ナノダ。 ギーシュガシエスタニ責任ヲナスリツケナイ、トハ言イガタイナ」 「…………」 ちなみに、ホワイトスネイクにここまでの推測ができたのは、冒頭のルイズの理不尽な制裁があったからに他ならない。 ホワイトスネイクはあの一件で、この世界の理不尽を理解していたのだ。 貴族ならこれぐらいはやるだろう、と。 そのように考えられるようになっていたのだ。 何とも皮肉な話である。 そして現場では―― 「誤解だよ、モンモランシー! 彼女とはただ、一緒にラ・ロシェールの森へ遠乗りしただけで……」 ギーシュが首を振りながら疑惑を否定する。 だが、額には冷や汗が伝っている。 今時分が置かれた状況がディ・モールトヤバイことは自覚しているようだ。 「やっぱり……あの一年生に手を出してたのね」 「お願いだよ、『香水』のモンモランシー! 咲き誇る薔薇のような顔を、そのような怒りでゆがませないでくれ! 僕まで悲しくなってくるじゃあn」 ドグシャアッ! モンモランシーの蹴りが、ギーシュの股間に炸裂したッ! 「おごおおぉぉっ……」 呻き声を上げて、がっくりと膝を突くギーシュ。 なんというか、ギーシュはもうアワレすぎて何も言えない状態になってしまった。 それをモンモランシーは上から見下ろして、 「嘘つき!」 そう叫ぶと、肩を怒らせながら去っていった。 「お、おい。大丈夫か、ギーシュ」 取り巻きが心配そうにギーシュに言う。 ギーシュは荒い息をしながら、取り巻きの手を借りて立ち上がると、 額にびっしり浮いた冷や汗をハンカチでぬぐい、 「あの、レディたちは、ば、薔薇の、存在の、意味を、理解して、いないようだ」 やはりキザったらしい、芝居がかった口調で言った。 そのまますらすら言えたならもう少しマシだったんだろうが、 それほどにモンモランシーの放った金的は強力だったらしい。 そうして、ギーシュが股間の痛みに耐えながら立っていたとき。 「あ、あの……し、失礼します」 いきなり訪れた修羅場に、呆然と立ち尽くしていたシエスタが声を上げた。 ホワイトスネイクはそれを聞いた瞬間、シエスタが地雷を踏んだことを理解した。 そしてシエスタが背を向けて去ろうとすると―― 「待ちたまえ」 ギーシュがその背中に声をかけた。 その声に、びくっとシエスタは震えると、そろそろと振り向き、 「な、何でしょうか?」 震える声で、シエスタが言った。 「君が軽率に……香水の瓶なんか拾い上げてくれたおかげで、二人のレディの名誉が傷ついたぞ! ……どうしてくれるんだね?」 「も、申し訳ありません! お許し下さい!」 シエスタはひたすら頭を下げる。 だが、仲間の前で恥をかいたギーシュは収まらない。 「どうやら君には、貴族へ無礼を働くとどうなるか、身をもって知る必要があるみたいだな……」 そう言うと、ギーシュはシャツに刺した薔薇の造花を抜く。 薔薇の造花はギーシュの杖である。 早い話、ギーシュはシエスタに魔法を使おうとしているのである。 その様子をテーブルから見ていたルイズは、 「信じられない……ギーシュのヤツ、シエスタに責任をなすりつけるどころか、魔法まで使うなんて!」 マスターが言えたことじゃないな、とホワイトスネイクは思ったが、そこは黙っておいて 「私ノ言ッタ通リニナッタナ。サテ……ドウスル、マスター?」 ルイズに決断を促した。 シエスタには申し訳ないが、仮にルイズが「何もしない」と言ったなら、ホワイトスネイクは放置するつもりでいた。 偶然にも見つけたスタンドの才能の持ち主を失うことにも多少厳しいものがあるが、 それでもスルーする選択肢も頭の中に入れていた。 しかし、ルイズはホワイトスネイクの言葉に頷くと、 「命令するわ、ホワイトスネイク。シエスタを助けなさい。 でも、ギーシュに攻撃しちゃダメ。あんたが攻撃されるまではね」 そう命令した。 その内容でさっきまでの自分の心配が杞憂だったことが分かり、ホワイトスネイクは内心に苦笑した。 そして、もう一度命令の内容をなぞる。 ギーシュに攻撃するな、とわざわざ言うということは、ルイズ自身になにか考えがあるということ。 その点に関しては、自分が考える必要はないだろう。 そう察したホワイトスネイクは、 「了解シタ、マスター」 と、それだけ言うと、ルイズの元から、風のようなスピードで離れる。 そして、杖を抜いたギーシュに跪いて怯えていたシエスタの前に、音も無く降り立った。 「……何だ? お前は」 ギーシュが訝しげにホワイトスネイクを見て、言う。 そして数秒後、授業中にペリッソンをぶちのめした、ルイズの使い魔だと分かると―― 「お、お前は……ルイズの、使い魔か! な、何だ! 何の用だ!」 瞬く間に取り乱し始めた。 ほんの一言、ルイズのことを「ゼロ」と言っただけのペリッソンを有無も言わさず叩きのめした、 このホワイトスネイクの恐ろしさは、ギーシュも自分の目でよく分かっていた。 「マスターノ命令ヲ遂行スルタメダ。『シエスタを助けろ』ト命令サレタノデナ」 ホワイトスネイクの言葉で、ギーシュは長机に着いていたルイズを見つけると、そちらへ目を向ける。 「どういうことだ、ルイズ! 何で君が首を突っ込むんだ?」 「あら、そんなの決まってるわ。私はそのシエスタに恩があるもの。 たとえシエスタが平民だろうと変わりは無いわ。受けた恩は、返すものよ」 当然の事と言わんばかりの調子で言うルイズに、ギーシュはますます苛立ちを募らせる。 そして、ルイズの言った「受けた恩は、返すもの」と言う言葉に、シエスタははっとしたようにルイズを見る。 「大体悪いのはあんたよ、ギーシュ。 二股なんてかければ、いずればれるに決まってるじゃない。 なのに、あんたはその責任を自分で取らないばかりか、シエスタにその責任をなすりつけようとした……。 貴族のすることじゃないわよ、ギーシュ」 そのルイズの言葉で、ギーシュは完全に頭に血が上った。 常日頃から「ゼロ」と呼んでバカにしているルイズに、ここまで言われたのがガマンならなかったのである。 「……いいだろう。そこまで言うのなら、ルイズ。君も覚悟できてるんだろうね?」 「覚悟?」 「『決闘』だ、ルイズ! 僕は君に、決闘を申し込む!」 きた、とルイズは思った。 シエスタを私刑に処しようとするギーシュの前に立ちはだかるということは、 真っ向からギーシュと敵対することを意味する。 そしてこういう場合、互いに決着をつけるには……決闘しかない。 決闘で、互いが納得するまで戦うしかないのだ。 たとえ「貴族同士の決闘を禁じる」ルールがあったとしても、 昼食の後に授業が控えていても、それ以外の決着は無い。 「いいわよ。場所は?」 「ヴェストリの広場だ。用意が出来たらすぐに来てもらおう!」 「用意? そんなの、いらないわよ。 杖はここにあるし、わたしにはやる気もある。 準備が必要なのは、あんたの方じゃないの?」 「まさか。君がレディだから、ほんのちょっぴり気遣っただけさ。 だが、それも必要ないというなら、今すぐにでも始めようじゃないか。 でも……」 そこでギーシュは言葉を切ると、 「君にはその不躾なメイドを慰めるなり何なりする仕事が残ってるだろう? それが終わったら、来るといい。僕は先に行っているよ」 そう言って、取り巻きたちと一緒に行ってしまった。 やがて、食堂にはルイズとシエスタ、ホワイトスネイクだけが残った。 「あ、あの、ミ、ミス・ヴァリエール……」 シエスタが震えた声でルイズに声をかける。 「心配しないで、シエスタ。あんなキザったらしいことだけしか脳が無いヤツに、わたしは負けたりしない。 それに、約束したでしょう? 『恩は返す』って。 わたしは約束は破らないわ」 「そ、その、でも……」 「大丈夫よ。あなたは何も間違ったことはしちゃいないし、後悔する必要も無い。 だから、あなたは今までどおりでいいのよ」 「は、はい! ありがとうございます! 本当にありがとうございます!」 シエスタが声を震わせて、何度もルイズに頭を下げる。 ルイズはそんなシエスタを尻目に、ホワイトスネイクを引き連れて食堂を出た。 食堂を出たところで、不意にホワイトスネイクが、 「ソウイエバ、ダ。マスター」 「何よ?」 「何故、先ホド『ギーシュに攻撃するな』ト命令シタ?」 「『決闘』でぶちのめさなきゃ、意味が無いからよ」 「…………ナルホド、ナ。了解シタ、マスター」 正直、ホワイトスネイクにはよく分からない話だった。 敵がいるなら倒せばいい。 どんな方法を使ってでも、奇襲でも、だまし討ちでも、何でも。 それが、プッチ神父とともにあったころのホワイトスネイクだったからだ。 障害を突破するのに、手段は選ばない。 「目的」に到達さえ出来れば、その過程で何が起きようと関係の無いこと。 それが、プッチ神父の信条であり、ホワイトスネイクの信条だった。 しかし……今の主人であるルイズは違う。 過程を大事にして、その上で結果に到達しようとする。 過程においてさえも、プライドを高く保ち続ける。 プッチ神父とは逆の考え方だ。 だからこそ、ホワイトスネイクにはよく理解できない。 授業の片づけで、DISCによって魔法を使えるようになることを、拒んだことも含めて。 (今ハ……理解スル必要ハナイ。後デ、分カッテクルハズダ。 私ハマスターノ元ニ来テカラ、マダ1日ト少シシカ経ッテイナイノダカラ……) そう考えながら、ホワイトスネイクはルイズの後を追った。 二人の行き先は、ヴェストリの広場。 二人の目的は、決闘。 To Be Continued...
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前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔 ルイズは久しぶりに上機嫌だった。 何かが良くなったわけでもない。午前中もやっぱり魔法は失敗してしまった。 それでもルイズの心は軽かった。 ここ最近ずっと味気なかった食事も、今はなんだかとても美味しく感じる。 康一が教室で言ってくれた言葉を思い出した。 そうだわ。わたし、まだ17なんだもの!これからどんなことがあるか分からない。 まだ自分の『運命』に絶望するのは早すぎる! 使い魔だって、最初はみんなと違ってたからがっかりしたけど、よく考えたら人間なんだから、猫や鳥を召還するよりずっと上等だわ。 ルイズは食事を終え、ナプキンで口元を拭いた。 午後は自習らしい。せっかくだから魔法の練習をしよう! そこに数人の男子が通りがかった。 そのうちの一人が、ポケットから小瓶を落としたので、ルイズは声をかけた。 「ちょっと。何か落としたわよ。」 ん?と振り向いた顔を見て、ルイズはゲッという顔をした。 ギーシュ・ド・グラモン。さっき教室でわたしに嫌味を言った、キザで嫌なやつ! 「なんだいルイズ。もう片付けは終わったのかい?」 ギーシュがいかにも嫌味な口調で言った。 ルイズは思わず怒鳴りそうになったが、我慢することにした。 確かに、自分の失敗のせいで彼にも迷惑をかけた。だからぐっと堪える。 「ええ。ミスタ・コルベールにもういいって言われたの。それより、その小瓶。あんたが落としたんでしょ?」 と、床に落ちている紫色の小瓶を指差した。 今度はギーシュのほうが、ゲェ~!!という顔をした。だが、瞬時に表情を取り繕うと、 「し、知らないね。それはぼくのものじゃないよ。適当なことを言わないでくれたまえ。」 と背を向けようとする。 「嘘!あんたのポケットから落ちたの見たんだから!いいから持っていきなさいよ!」 別にギーシュのことなんかどうでもよかったが、適当よばわりされたのは我慢ならなかった。 すると、ギーシュと一緒にいた友人達が、「おおっ!」と騒ぎ始めた。 「おい、ギーシュ!それってもしかしてモンモランシーの香水じゃあないのか!?」 「そうだ!この鮮やかな紫色の小瓶・・・間違いない!モンモランシーのだ!ギーシュ・・・お前モンモランシーと付き合ってるのか?そうだろ!」 「あ、あんまり騒ぐんじゃない!いいかい?彼女の名誉のために言っておくが・・・」 ギーシュが否定しようとしたとき、ルイズの後にあるテーブルから、一人の女の子が立ち上がった。茶色のマントだから一年生だろう。 その栗色の髪をした可愛い少女は、涙ぐんだ目でギーシュを見つめた。 「ギーシュ様・・・やはりミス・モンモランシーと付き合っておられたのですね・・・」 ぼろぼろと涙がこぼれる。 ギーシュは慌てて女の子の肩を抱いた。 「い、いやだな。ケティ。そんなつまらない勘違いで美しい顔を涙に濡らさないでおくれ。ぼくはいつだって君一筋なんだから・・・」 「へぇ~~~?君一筋・・・ねぇ。」 ギーシュはぎくりと固まった。ゆっくりと声をしたほうに顔を向けると、きれいな金髪の巻き髪をした女の子が立っていた。 「ギーシュ。あなた、やっぱり一年生の子に手を出していたんだ・・・」 ギーシュはケティの肩を抱いていた手をぱっと離した。 「ちち違うんだモンモランシー!彼女とはラ・ロシェールの森まで遠乗りをしただけで・・・。ああっ!その薔薇のように麗しい顔を怒りにゆがめないでおく・・・!」 その瞬間、バッチコーーン!と食堂中に響くいい音をさせて、ケティのビンタが飛んだ。 「ギーシュ様!最低です!」 そして泣きながら走り去っていった。 「ああっ!ケティ!」 思わず手を伸ばしたギーシュに、背後からドバドバとワインが振りかけられた。 ギーシュがゆっくりと振り向くと、モンモランシーはワインの空き瓶を床に投げ捨てたところだった。 「二度と私に近づかないで。」 凍りつくような声色でそれだけ言うと、つかつかと歩き去っていく。 要するに二股をかけていたらしい。ルイズは馬鹿なやつ。とつぶやいて立ち上がった。 ワインまみれで立ちすくむギーシュの横をすり抜けて出口へ向かう。 「待ちたまえ・・・!」しかしそこでギーシュがルイズを呼び止めた。 「・・・・なに?」 ルイズが振り向くと、ギーシュはルイズに薔薇の造花をつきつけた。 「君の軽率な行動のおかげで、二人のレディの名誉が傷ついてしまった・・・。どうしてくれるのかね?」 ルイズは薔薇を払いのけた。 「わたしの知ったことじゃあないわ。ギーシュ。二股かけてたあんたが悪いんじゃない。」 まわりの生徒達がやんややんやと騒ぎ立てた。 「そのとおりだギーシュ!お前が悪い!」 ギーシュの顔に赤みがさした。 「ぼくは君が呼び止めたときに、知らないといったはずだ。そこで引き下がっていれば、こんな騒ぎにはならなかった!」 ルイズは呆れた。心の底から呆れた。こんなやつが貴族を名乗っていいのだろうか。 だから馬鹿にした口調で斬って捨てた。 「あんたが二股をかけるのが悪いんでしょ。『青銅』・・・いや、『二股』のギーシュ?」 集まってきた人垣がどっと笑う。 ギーシュは思わず頭に血が上りそうになったが、それを堪えた。 相手は『ゼロ』のルイズだ。この僕が何をむきになることがある。 ギーシュはやれやれ、と溜息をついて見せた。 「まぁ、君のような似非貴族に、マナーを期待するのが間違いだったか。いいさ、行くがいい。『ゼロ』のルイズ。」 似非貴族!これ以上ルイズの心に突き刺さる言葉は他になかった。 「・・・ヴァリエール家を馬鹿にするならタダじゃおかないわよ、ギーシュ。」 ルイズが声の震えを押さえつけるようにして言うと、ギーシュはふふん、と笑った。 「僕はヴァリエール家を馬鹿にしてなんかいないさ。ヴァリエール家はトリステインでも最も由緒正しき家柄の一つだ!僕はとても尊敬しているよ!」 ただね・・・、ギーシュは口元をゆがめた。 「君は別だ、ルイズ。由緒正しきヴァリエール家に相応しくない落ちこぼれ。未だに魔法の一つも使えない似非貴族とは君のことさ。」 ギーシュはルイズを指差した。ルイズはその指に、自分の心臓を抉られたように思った。怒りと悲しみで言葉が出てこない。 「今日も授業をぶち壊してくれたね。君のような似非貴族がメイジのふりをしているから、僕たちはとても迷惑しているんだ。」 ルイズを助けに入る者はいない。みな、少なからずもルイズに思うところがあったのだ。 ところで・・・。ギーシュは、ルイズの耳元で囁いた。 「君・・・本当にヴァリエール公爵家の子どもなのかい?」 ルイズの頭が真っ白になった。気がついたときにはギーシュに杖を突きつけていた。 「決闘よ!!」 ギーシュは一瞬ぽかん、としたようだったが。やがてぷっと吹き出した。 周り中がどっと笑い出す。 「あはははは!ルイズ!君は自分が何を言っているのか分かっているのかい?君が僕と決闘だって!?」 ギーシュが馬鹿にしたようにいった。ルイズは震える声で答えた。 「そうよ!わたしはあんたに決闘を申し込むわ!」 ギーシュは、笑うのをやめた。でもねぇ・・・ 「この学院では決闘は認められていないんだよね。特に『貴族と貴族の決闘』はね・・・!だから、君がこうお願いするなら受けてもいいよ。」 芝居がかった口調で続けた。 「『今まで貴族のふりをしていてすみませんでした。わたしはしがない平民ですから決闘を受けてください』とね。」 口笛が飛んだ。騒ぎを聞きつけてあつまった人垣から「いいぞー!やれやれー!」と野次が飛ぶ。 くやしい!くやしい!くやしい!くやしい! ルイズは手を裂けんばかりに握り締めた。 どうがんばっても、わたしよりこいつのほうが貴族らしい・・・。そんなことくらい自分が一番分かっている。 貴族にも、平民にもずっと馬鹿にされてきた!誰もはっきりとは言わなかったが、ギーシュが言っているのは、ずっと自分が思ってきたことなんだ。 わたしはギーシュが憎いんじゃない・・・反論できない自分が情けないんだ!! 涙で視界がゆがむ。座り込んでしまいそうだ。 でも、こんなやつの前で泣いたりするもんか!泣くもんか!泣くもんか!泣くもんか! ルイズは必死に唇をかみ締めてギーシュを睨みつけた。 そのとき、高らかに声が響きわたった。 「それなら、ぼくが決闘を申し込むよ!」 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド ざわめく群集をかき分けて、ゆっくりとギーシュの前に立ちふさがったのは、『ゼロの使い魔』と呼ばれた、小さな平民の男の子だった。 前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔
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前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百十二話「あなたは……だれ?(前編)」 集団宇宙人フック星人 登場 艱難辛苦を乗り越えて、タバサ親子を救出することに成功した才人たち。しかしガリア王国を 抜けないことには、安心することは出来ない。そういうことなので、才人たち一行はひとまず キュルケの実家のフォン・ツェルプストーの城を目指し、ガリアとゲルマニアの国境へと馬車の 進路を向けていた。 その道中、荷台の中の才人とルイズは水のルビーを通して、ミラーナイトと話をしていた。 『そうですか、無事にタバサさんを救い出せて何よりです。サイトもルイズも、よく頑張りましたね』 「でも、まだガリアを脱出するまでは安心できないわ。わたしたちがタバサを奪還したことで 検問も張られてるでしょうし、それを無事に突破できればいいんだけど……」 「ガリア政府も、また新しい怪獣を差し向けてくるかもしれねぇ。用心しとかないとな……」 不安が残るルイズたちに、ミラーナイトは告げる。 『いざという時は、私たちも助力します……と言いたいところですが、ガリア政府は想像以上に 厄介な相手のようです。すみませんが、私たちの助けはあまり期待しないでいて下さい』 「どういうこと?」 ルイズが聞き返すと、ミラーナイトはゼロがゴーデス怪獣と戦っていた時に、彼らウルティメイト フォースゼロに降りかかっていた事態を打ち明けた。 『ルイズが誘拐されかかった時とタバサさんの救出作戦の時の両方、私とジャンボットと グレンファイヤー、三人とも同時に出現した怪獣の退治をしてたんです』 『それでお前たちの救援がなかったのか』 つぶやくゼロ。 『ええ。四つの場所で怪獣が同時出現するという事態が二度も起こるなんて偶然は考えられません。 これはガリア政府の策略と見ていいでしょう』 『俺たちを分断するためにか……。確かに、ガリアは俺たちが考えてたよりもやばいかもしれないな』 『はい。……今もなお、どうしてガリアが怪獣を操れるのかが不明ですし、今度はどんな手を 打ってくるものか、予測がつきません。故に、どんな小さな異常の兆候も見逃さないように くれぐれも気をつけて下さい』 ミラーナイトの警告を受けて、才人は大きく顔をしかめた。 「死ぬような思いしてヤプールをやっつけたのに、まさかそれに劣らないような敵が現れるなんてな。 さすがにそういうのは嫌になるぜ……」 ぼやきながら、ふとタバサの方に目を向けた。タバサは母親に寄り添いながら、安らかに 寝息を立てていた。 「よく眠ってるな、タバサの奴」 「一度怪獣の体内に呑み込まれたものね。その時にかなりの負荷が掛かったんじゃないかしら」 あれからまだ一度も目を覚まさないことにはいささか心配されるが、タバサの寝顔には 大きな安堵の色があった。自分たちが助かったことを、無意識に理解しているのだろうか。 とりあえず、タバサ自身は大丈夫そうだと才人は感じた。 「パムー」 そして眠るタバサ親子の上に、黄色い小動物が乗っかっている。この生き物についてルイズが 才人に尋ねた。 「ところで、あの生き物は何なのかしら。アーハンブラ城跡で急にどこからか出てきたかと思えば、 ずーっとタバサにくっついて離れようとしないし。サイト、あれのこと知らない?」 「いや……端末に情報はないな」 『俺はダイナから、あんな生き物の話を聞いた覚えがあるぜ。確か、ハネジローって名前だったかな』 「ハネジロー? 変わった名前ね……」 ルイズたちのひそひそ話を子守唄代わりにしながら、タバサは深い眠りに就いている。 そしてタバサは夢を見る。過去の記憶、自分が経験した冒険の一部の夢を……。 ヤプールとの決着がついた、アルビオン戦役の以前のこと――。 「キャア―――ッ!」 「キャア―――ッ!」 「キャア―――ッ!」 深夜のトリステインの村の外れで、ウルトラマンゼロが三人の宇宙人に囲まれていた。 目が退化したコウモリのような首の宇宙人、その名はフック星人。宇宙人連合の構成員であり、 一つの村を丸ごと利用した侵略計画を進めていた。その内容とは、夜な夜な村の住人を全員偽の村に 移し、本物の村にはハルケギニアを攻撃する秘密基地を建造するという大胆不敵なものであった。 しかしこの村出身の商人が、夜間に村に帰ってきたことをきっかけに計画は露呈することとなった。 昼に村にいなかった商人のことを、村人に化けたフック星人は誰も知らず、その異常の話がゼロの元まで 届いたのだ。父セブンからフック星人の話を聞いていたゼロはすぐに事件の真相に行き当たり、フック星人の 侵略計画を叩き潰すために夜の村に乗り込んだ。そしてフック星人は最後のあがきとして、巨大化して ゼロとの交戦を開始したのだった。 「キャア―――ッ!」 「フッ!」 フック星人の集団は一斉にゼロに飛びかかる。だがゼロは宇宙空手の達人、一人一人に 的確に打撃を入れて瞬く間に返り討ちにした。 「キャア―――ッ!」 しかしフック星人も後がないため、そう簡単には倒れない。身軽な動きでゼロの周囲を跳び回り、 翻弄しようとする。 『そんなことしたって無駄だぜ! お前らの弱点は知ってるんだ!』 だがゼロは慌てず、フック星人を一網打尽にするための攻撃を放った。 「シェアッ!」 「キャア―――ッ!!」 全身をスパークさせて、まばゆい閃光を発する! これを浴びたフック星人は頭を抱えて苦しみ、 バタバタと地面に倒れ込んだ。 夜行性のフック星人は、強烈な光にひどく弱いのだった。 『フィニッシュだぁッ!』 両腕をL字に組んだゼロは、スリーワイドゼロショットを発射。それが全フック星人に命中し、 フック星人は消滅したのだった。 かくしてフック星人は全滅した。朝になれば村にもトリステイン軍の手が入り、村は元の平和を 取り戻すことだろう。 「……キャア―――ッ……!」 だがしかし……! 実は一人だけ、フック星人が生き残っていたのだ! 森の中に身を 潜めていたフック星人は、いずれゼロとハルケギニア人たちに復讐することを誓いながら、 夜の闇の中に消えていった……。 それから時間が経ち、死んだと思われた才人がトリステインに帰還した後のこと――。 ガリア南部の山地の中にあるアンブランという小さな村の入り口前で、グレンとタバサ、 シルフィード一行は鉢合わせた。 「おう、お前ら! 久しぶりじゃねぇか!」 「あッ、グレン」 人間に姿を変えたシルフィードがグレンに手を挙げ返してから、首を傾げて尋ねかけた。 「わざわざこんな辺鄙なところに、何の用なのね?」 アンブランは三方を山に囲まれた、陸の孤島のような場所だ。一番近い街からでも、徒歩で 三日も離れている。何の用事もなしに来る場所ではない。 そのことについて、グレンはこう答えた。 「風の噂でな、この村がコボルドってのに狙われてるって聞いたもんだから、やっつけに 来たって訳よ。お前らも同じなんじゃねぇのか?」 「さすが鋭いのね。その通りなのね」 タバサたちも、コボルド退治の任務でこの地にやってきたのだ。トリステインの戦争も 終わったことだし、これともう一つ、引きこもりの貴族の子をどうにかする任務を済ませたら 魔法学院に戻るつもりでいる。 「でも頼まれてもいないのにこんな山の中にまで、よく来るのね」 「場所は関係ねぇよ。困ってる人がいるのならどこにだって駆けつける、それが俺たちだぜ! 何より、コボルドどもはこの村の人たちのほぼ全員に、無条件降伏しろなんて無茶な脅迫を してんだろ? ますますほっとけねぇぜ!」 義勇に燃えるグレン。彼の言う通り、アンブラン村を狙うコボルドは事前に、村に降参して 自分たちの身柄を差し出せという無茶苦茶な要求を突きつけたのだった。それが呑めなかった場合は、 コボルドは村を力ずくで壊滅させるつもりなのだ。 タバサはこの脅迫を、いささか奇妙に感じていた。コボルドは知能が発達した亜人ではないので、 普通は脅迫なんて高度なことは出来ない。可能なのは、稀に生まれてくる先住魔法を操るほどの知能を 持ったコボルド・シャーマンだが……何故わざわざ戦力を明かすような真似をするのだろうか。自分たちが 倒されない絶対の自信でもあるのだろうか? 「ところでグレン、前会った時より何だか元気そうね」 「ああ。実はサイトの無事が分かったんだぜ! そこからも色々あってさ。まぁその辺は 追々話そうじゃねぇか……」 グレンとシルフィードが和気藹々と会話しながら、三人は入り口の門をくぐってアンブラン村に 足を踏み入れていった。 アンブラン村は街から離れた小さな村であるが、意外と栄えていた。村人たちは、別の土地から 来た人間が珍しいのか、タバサたち三人を人なつっこい顔で見つめている。 「何だか随分とのんびりしたところなのね」 シルフィードも彼らの朗らかな雰囲気に当てられたのか、気軽な感じでつぶやいた。 が、グレンはいやに神妙な顔になっている。 「……」 「あれグレン、そんな顔してどうしたのね? まだコボルド退治は始まってないのね」 シルフィードが気づいて問いかけると、グレンはぼそりとつぶやいた。 「……何か、のんびりとしすぎじゃねぇか? 村全体が脅迫されてるってのによ、不安の色が見えねぇぜ」 「あッ。まぁ、言われてみたらそうだけど……そういう土地柄なんじゃないのかしら。そこまで 気にするようなことでもないと思うのね」 「そうかねぇ……」 不思議そうに首を傾げるグレン。 「なーんか、変な引っ掛かりみたいなもんも感じるんだけどよ……。気のせいかね」 タバサは内心、グレンの言葉に同意した。彼女もまた、この村には妙な違和感を覚えていた。 村人たちに、特段おかしいところがある訳ではないのだが……。 ともかく村で一番立派な屋敷へと向かって進んでいると、その方向から時代がかった甲冑に 身を包み、槍を持った老人が忙しなく走ってきた。 「怪しい者ども! 名を名乗れ!」 老人に槍を向けられるタバサたち。すると村人の男が呆れた声で老人をたしなめた。 「ユルバンさん、このお嬢さまは貴族ですよ。恐らく、お城からいらした騎士さまでしょう」 ユルバンと呼ばれた老戦士はタバサを見つめる。 「ふむ……よくよく見ればマントをつけておられるな。だが、貴族さまといえど、わしの許可 なくしてこのアンブランに立ち入ることは許されぬ!」 「そう言うあんたは何者なんだ?」 グレンが問い返すと、ユルバンは名乗りを上げた。 「わしはユルバンと申すもの。恐れ多くも領主のロドバルド男爵夫人よりこの槍を与えられ、 このアンブラン村の門番件警士として治安を預かっておる。わしの言葉は男爵夫人の言葉と 心得られよ。さて、神妙に名乗られ、当村にやってきた理由を述べていただきたい」 シルフィードがコボルド退治で派遣されてきた件を話すと、ユルバンは何故かたちまち顔を歪ませた。 「うぬぬぬぬぬぬぬ! あれほどわし一人で十分だと申し上げたのに……ロドバルドさまは、 まだこのわしが信用ならぬとおっしゃるのか! ええい!」 ユルバンはひょこひょこと来た道を引き返していった。グレンは周りの村人に質問する。 「あの爺さん、やたら偉そうだが一体何なんだ?」 「あのユルバン爺さんは、この村を守っている兵隊なんだが……未だに自分が優秀な戦士だと 思ってるんだよ」 「昔は相当な使い手だったらしいが、今はあの通りさ」 「一人でコボルド退治に行くって息巻いていたんだが、年寄りの冷や水もいいところだ。 いやあんた方が来てくれて助かったよ。あと三日もすればあの爺さん、痺れを切らして 飛び出していっただろうさ」 笑う村人たちだが、その言葉に貶す響きはなかった。村人からは愛されているのだろう。 タバサたちはそのまま、ユルバンの背中を追いかけて屋敷に近づいていった。 屋敷の主人は、銀髪の老婦人であった。彼女がユルバンの言った、ロドバルド男爵夫人であるらしい。 ロドバルドはタバサたちに、コボルド討伐依頼の説明をした。コボルドの群れは村から 徒歩で一時間ほど離れた廃坑に住み着き、まだ村は襲われていないが、夜な夜な数匹の偵察隊が 様子を探りに来るという。要求が受け入れられる気配がないと分かれば、すぐにでも村に攻め込んで きそうな雰囲気のようだ。 コボルドは夜行性なので、攻め入るなら日が出ている内だ。ロドバルドはタバサたちに、 村に泊まって夜が明けてから討伐をすることを勧めた。もちろんタバサは承諾した。 と、説明が済むとグレンがロドバルドに質問を投げかけた。 「ところで奥さん、コボルドは村の人たちの身柄を要求してるけどよ、それが何でなのかは分かんねぇか?」 村の人間をどうにかしてしまうつもりなら、脅迫などせずとも直接攻め入った方が効率的だろう。 そうしないということは、何らかの理由があるということになるが。 「……いえ、わたしには皆目見当がつきません。ただ、この村にはかつて『アンブランの星』という 大きな“土石”の結晶がありましたが、故あって使い果たしてしまいました。もしかしたら初めの 目的はそれで、今はないことを嗅ぎつけて腹いせにそのようなことを言い出したのかもしれません」 「そっか……」 今度は、ロドバルドがタバサたちに告げた。 「先ほどのユルバンのことでお願いがあるのですが……。恐らく『自分も連れていけ』と あなた方に言うと思います。その際、きっぱりと断っていただきたいのです」 タバサは、じっとロドバルドを見つめた。 「あの通り、ユルバンはかなりの年でございます。本人は未だ若い者には負けないと申して おりますが……亜人相手の実戦には耐えられないでしょう。彼は何十年も、わたしたちのために 尽くしてくれました。今や、夫も子もいないわたしには、家族のようなものなのです」 「……」 ロドバルドの、ユルバンに対する慈愛で満ちた言葉を受けて、グレンは何やら思案に耽って腕を組んだ。 その後、果たしてロドバルドの言葉通りに、ユルバンはタバサたちに討伐に連れていって くれるように、必死に頼み込んできた。 ユルバンのその熱意は、かつての失態を取り返すためだと本人が語った。二十年前、今回のように コボルドの群れがアンブラン村を襲い、立ち向かったユルバンだったが敵の棍棒の一撃でたちまち 昏倒してしまった。気がついた時には、コボルドの群れはロドバルドが退けていたが、彼女はその代償で 魔法を使えなくなってしまった。ユルバンはそのことを悔い、今回で名誉挽回をするつもりなのだった。 タバサはそれよりも、ロドバルドが魔法を使えなくなったということを気に掛けた。たとえ どんな重傷を受けようとも、普通は魔法が使えなくなるほどの後遺症は出ない。もっともユルバンが 嘘を吐くとも思えないので、何か他に魔法を使えない理由があるのかもしれないが。 「後生です。わしを連れていって下され。なに、足手まといにはなりませぬ! こう見えても、 鍛錬を怠ったことはありませぬ! 騎士さま方に迷惑は決してかけませぬ故! なにとぞ!」 懸命に頭を下げるユルバンに対して、タバサに代わってグレンが言い放った。 「じゃあ、足手まといにならないっていう証拠を見せてもらおうじゃねぇか」 「と、言うと?」 「ちょいと表出な。力試ししようぜ」 屋敷の中庭で、タバサとシルフィードが見守る中、グレンとユルバンは対峙していた。 グレンがルールを説明する。 「いいか、あんたが俺にその槍で一撃でも入れることが出来たんなら討伐に連れてってやるよ。 ただし、槍を落としたらあんたの負けだ、きっぱりとあきらめな。自分の得物を落とすことは すなわち戦士として負けだってことは、あんたほどの奴なら分かるだろ?」 「無論! わしの腕が真に若い者にも負けんということを、この勝負で証明してみせよう! すまぬが、素手相手といえど、わしの名誉のために加減はせんぞ」 「なに、全然構わねぇさ。本気のあんたじゃなきゃ、この勝負意味がねぇや」 グレンがぐっと拳を握って構えると、ユルバンは槍を構えてまっすぐに突進してきた。 「たああああああッ!」 しかしグレンは少しもひるまず、槍を手で掴んであっさりと止めた。 「何ッ!?」 そのままグイッと槍を引っ張り、ユルバンを自分の方へ引き寄せる。 「ぬおおおおッ!」 ユルバンを強引に間合いに入れると、すかさずチョップを仕掛けてユルバンの槍を握る手を強打した。 「ぐあぁッ!」 ユルバンは衝撃に耐えられず、たちまち手を放してしまった。ユルバンが真っ青になる内に、 グレンは槍をひったくって投げ捨てた。 あっという間の決着であった。 「あ、ああ……」 「……こいつで分かったろ。あんたを連れてけねぇ理由」 がっくり、とその場で膝を突くユルバン。グレンはうながれる彼に言い聞かせる。 「これがあんたの現実だ。そりゃあ確かに、その歳になっても鍛えてはいるんだろうさ。 だが老いってのは、現実ってのは残酷なもんだよ。どんなに頑張っても、肉体の衰えってのは どうにも止められねぇもんだ。あんたの身体も、こうして俺に簡単に負けるぐらいに衰えてたんだよ」 「……無念……。やはりわしは、あの時と同じ役立たずであったか……」 「俺が言うのも何だが、んな落ち込むなよ。男爵夫人はあんたに期待してねぇとか、そんなんじゃねぇ、 純粋にあんたに生きててほしいって思ってるから、あんたに討伐を許さないんだぜ。男爵夫人にとって、 あんたはそれだけ大きな存在だってことだよ。そこはあんた自身も誇るべきだ」 グレンは優しい声で説いた。 「戦いってのはよ、何も敵を倒すことや名誉を回復することだけじゃねぇんだぜ。大事な人を 悲しませないようにするために、自分の命を守り抜くこと。これだって立派な戦いなんだ。 コボルドは俺たちが責任もって退治するから、あんたは自分の命を守って、男爵夫人を 悲しませないようにする戦いに励みな。男爵夫人の笑顔守れんのは、俺たちじゃねぇ、 あんたにしか出来ねぇことなんだからな」 グレンの説得を、ユルバンがどこまで納得したのかは知らないが、彼は名誉を懸けた勝負で 負けたのだ。ベテラン戦士として、勝負の上での約束を破ることはしないだろう。 グレンがユルバンを残してその場を後にしようとすると、彼をロドバルドが待っていた。 「戦士さん、ありがとうございます。ユルバンを止めてくれて」 「いや、礼なんかいいぜ。そもそも、俺が勝手なことをした訳なんだしさ」 「それでも言わせて下さい。恐らくあなたが考えてる以上に、ユルバンの存在はわたしたちに とって大切なものなのです。彼の命が守られることの他に、嬉しいことはありません」 随分と大仰なことを語るロドバルドの背中を、タバサがじぃっと見つめていた……。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
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反省する使い魔! 第八話「情報交換×スタンド・レッスン」 音石はルイズ、ミス・ロングビルの案内の元 現在、トリスティン魔法学院、学院長室にいる。 部屋の中は隅に本棚、壁には一枚の鏡と絵を並べているといった いたってシンプルなものだった。 「学院長、連れてまいりました」 「うむ、ご苦労じゃったのミス・ロングビル …さて、はじめましてオトイシ君。わしがこのトリスティン魔法学院 学院長のオールド・オスマンじゃ」 「………………………」 音石は無言だった、オールド・オスマンが挨拶をしても ただ黙っていたのだ。 当然、ルイズはそんな使い魔の反応を黙ってはいなかった。 「ちょっとオトイシッ!学院長オールド・オスマンが 直々に挨拶してるっていうのにだんまりだなんて 無礼にも程があるわよ!!」 「ふぉっふぉっふぉ、別にかまわんよ。ミス・ヴァリエール」 「ですが学院長!」 「彼の現状も察してあげなさい」 「…………わかりました…… あ、でも学院長……その…決闘の件なんですけど…」 「ふむ、その件なら先程、君らが来る前に コルベール君と話し合ったんじゃが……」 ルイズは息を呑んだ。理由はどうであれ、自分の使い魔である平民が 貴族に危害を加えたのだ。どんな罰を受けてもおかしくはなかったし そもそも魔法学院では決闘自体が禁止されている。 下手をすれば退学処分もありうるんじゃないかと不安になっているのだ。 しかし………。 「不問じゃ」 「え?」 ルイズは一瞬、オスマンがなんと言ったのか理解に遅れたが 飲み込むと同時に喜びと疑問が込み上がってきた。 「不問って……ほ、本当ですか、オールド・オスマンッ!?」 「ふむ、話は大体聞いておる。 今回の事の発端はギーシュ・ド・グラモンの二股から始まった事じゃ ましてやその罪を無関係な給仕に擦り付けつけるなど笑止千万、 君の使い魔はあくまで人助けにをしたにすぎんよ」 「で、ですが…。仮にも相手は貴族、 もしもこの事がギーシュの実家に知れたら黙ってはいないはずです。 それに元々、決闘は禁じられていますし……」 「それはあくまで貴族同士の場合じゃよ、ミス・ヴァリエール な~に、安心せい。 二股を揉み消すために無関係な給仕に罪を着せ、 あまつさえ、それを助けた平民に決闘を挑み敗北した などという情けない事実をグラモン家に知られたら一番困るのは ギーシュ本人のはずじゃ、例えグラモン家が抗議してこようと 適当に追っ払ってやるわい、ふぉっふぉっふぉっふぉ」 オスマンが笑って答えるが それでもルイズは胸を撫で下ろすものの それでもまだ不安なところがあった。 「で、ですがオールド・オスマン… 理由はどうであれ、先に手をあげたのは私の使い魔です!」 「……ミス・ヴァリエール、君は自分から罰を受けたいのかね?」 「い、いえ!?そういうわけでは………」 「確かに先に手をあげたのは君の使い魔じゃ、 じゃがのミス・ヴァリエール、彼がミスタ・グラモンに 蹴りをかましたのはミスタ・グラモンが君を侮辱したからじゃ、 主人を侮辱され使い魔が怒った、別に珍しくもなかろう? それに、女癖の悪いミスタ・グラモンにはちょうどいい薬じゃわい」 ルイズは驚いた、不問になったこともそうだが 一番驚いたのはオールド・オスマンが言った一言だった。 「え?……ギーシュが…私を侮辱したから怒った? ……オトイシ、それ…本当なの?」 意外そうに目を見開かせルイズが隣にいる音石を見上げた、 しかし音石はただ一言……、 「フッ、一体なんのことだ?」 と鼻で笑っただけだった。 「さて………前置きはこれくらいにして そろそろ本題に移ろうかの」 オールド・オスマンが改めて口を開く、 その言葉にルイズだけではなく、 学院長室にいる全員が音石を見た。 オスマンが言う『本題』………、 それはこの場にいる誰もがわかりきっていた事だった。 「オトイシくん、単刀直入に聞こう…… 先程の決闘、ミスタ・グラモンのワルキューレを粉砕した 『アレ』は……なんじゃ?」 「……………………………………」 「……ふむ、では質問を変えようかの 君は………一体何者じゃ?」 「オトイシ、正直に話しなさいッ!ご主人様からも命令するわ!!」 音石はなにかを思いふけるように目を瞑った。 扉の前で待機しているミス・ロングビル、 オスマンの隣に立っているミスタ・コルベール、 椅子に腰をかけ机に手を置くオールド・オスマン、 そして隣で音石を睨むルイズ。 彼ら全員が音石を見る中、10秒ぐらいして音石は なにかを決断したらしく、ゆっくりと目を開け口も開いた。 「話すのは……2人までだ…、 ルイズとあんたには話してもいい、だが… コルベール先生とそこにいる……、ロングビル……だったか? 悪いがあんたらはダメだ。ご退場願うぜ」 「「「なっ!?」」」 音石の発言にオスマン以外の3人は唖然とした。 しかし、オスマンは至って落ち着きながら 音石に質問した。 「ほう…、それはどうしてかの?」 「悪いがそれも言えねェ、 そこにいる二人が出て行かない限りはな…」 「…ふむ、あいわかった。コルベール君、ミス・ロングビル、 そういうわけじゃ、席をはずしておくれ」 「学院長、よろしいのですか?」 「かまわんよ、コルベール君。ワシは彼を信用する」 「…………了解しました」 コルベールは学院長室を退出し、 それに続いてロングビルも部屋を後にした。 「これでよろしいかの?」 「十分だぜ、じいさん」 「ちょっとオトイシ!?偉大なるオールド・オスマンに 向かってそんな呼び方―――」 「よいよい、そう呼んでもらったほうが 親近感が持てるというものじゃ」 「そ、そんなモノでしょうか?」 「そんなものじゃよ、ミス・ヴァリエール おっと、話が逸れてしまったの。ふぉっふぉっふぉ」 笑いながらオスマンはパイプを取り出し、火をつけた。 どうやらお互い固くならず気楽にいこうということを示しているらしい。 音石もそういうことならと部屋の中央に置かれてある 来客用の椅子に腰を下ろした。 ルイズも躊躇ったものの周りの流れに任せたほうがいいと 判断したのか、音石の向かいの椅子に腰を下ろした。 「ふむ、それじゃあひとつずつ質問するとするかの、 まずは…そうじゃな、なぜあの2人を追い出したのじゃ?」 「この『チカラ』ははっきり言ってそう何人にも教えていい シロモノじゃねェんでな…。大体あんな状況じゃあ 気が張りすぎて教える気にもなれねーよ」 「………ほう、気付いておったのか」 「え、え、なに?どういうこと?」 ルイズは音石とオスマンが何のことを言っているのか 理解できず、二人を交互に見渡した。 「わかんねーか、ルイズ?」 「わ、わからないから聞いてんでしょう!? ご、ご主人様にもわかるように質問しなさいよ!!」 「たくっ、しょうがねーなぁ、いいかルイズ? さっきのコルベールとロングビルの二人がいた位置を よーく思い返してみろ」 「え?」 ルイズはなんの事を言っているのか理解不能だったが 頭の中で先程の2人の配置を思い返す。 まずロングビルは自分たちの後ろのドアで待機していた、 続いてコルベールは自分たちと今も向かい合っている学院長の隣……、 「……………あっ!」 「わかったか?よほどオレを警戒してんだろーよ オレをついさっきまで囲んでたんだからなぁ」 「い、いくらなんでも、そうこじつけるなんて無礼じゃない!? たまたまそこに立っているだけだったかも知れないじゃない!?」 「いや…、彼の言うとおりじゃよ。ミス・ヴァリエール」 「そ、そうなんですか!?オールド・オスマン!?」 「気を悪くせんでおくれ、彼が得体が知れないというのも 当然あったんじゃが、ワシはあくまで念入りにという 前提で警戒しておったんじゃ、君の使い魔に 乱暴するなどという考えはこれっぽっちもありゃせんよ」 「そ、そうでしたか…」 「ふむ、しかし…ワシも気になるのぉ オトイシ君、一体どのあたりから気付いておったんじゃ?」 音石がギターの弦をいじりながら答えた。 「なんとなく…ってのもあるんだが、 一番ピンッと来たのはロングビルだな」 「彼女が?…はて、特に怪しい素振りはなかったはずじゃが?」 「オレが一番気になったのはソコじゃねーよ ドアの前で待機していたってところだ」 音石がそう言うとルイズの頭に?マークが浮かび上がった。 「は?どういうことよ」 「確証はないんだがよ~~、あのロングビルって女 じいさんの秘書かなんかだろ?」 続いてオスマンが眉をひそめた。 「ほう、なぜそう思う?もしかしたら教師という可能性も―――」 「ないな、少なからず今まで見た限りじゃあ さっきのコルベール、授業で見たシュヴルーズ、 そして散歩の時にチラチラ見かけた奴ら……、 言っちゃ悪いがどいつもこいつもいい歳こいた中年ばかりだ。 それに比べたら、あのロングビルはどぅおー見たって若い、 それにさっき彼女はあんたに変わってオレとルイズを呼び出した。 それはつまり日頃付きっきりでじいさんの傍にいるってこと……だろ? そんな奴がじいさんから離れた位置にいるってところが 引っ掛かったんだ。ま、さっき言ったとおり確証なんてなかったがな」 音石の話を聞いたオスマン、ルイズは 心のなかで感心した。 この男、見かけによらずかなり頭がキレると………、 「ふむ、なるほど納得した。 では次に、君は一体どこの出身なんじゃ? 君の格好、そしてその手に持つ楽器……… ワシはこの歳になるまでハルケギニア中の ありとあらゆるものを見てきたんじゃが…………、 はっきり言ってそのような楽器は見たことがないし、 君はさっきの決闘の時にも何度かそれを弾いていたが あんな音は聞いたことがない」 オスマンは咥えていたパイプを一旦口から離し、 再度パイプを口につけた。 「こう言っちゃあ何だが、その楽器は我々の文化とは えらくかけ離れておる………、もちろん君自身ものぉ」 オスマンの推理に今度は音石が心の中で感心した。 このじじい、なかなか侮れねーぜ………。 そして音石は決心した、 当初は『スタンド』の詳細を教えるだけと考えたが、 得体の知れない自分の要求にも応じてくれた心優しさ、 そして、少しの手掛かりから相手を探る抜け目のなさ、 このじいさんになら信頼し、話してもいいかもしれない。 …以前の音石なら決してこんな決心はしなかっただろう、 しかし、音石は三年間刑務所の中で あらゆる犯罪者の目というモノを見てきた。 当然犯罪者の目にも個性がある。 信用できる部類と信用できない部類だ、 しかし犯罪者なだけにその目の違いは 普通の人並み以上にはっきりしている。 先程も言ったとおり、 音石はそんな目をしている人間たちを三年間も見てきたのだ。 オスマンの目は信用できる部類だと音石の心が 無意識に決断させたのだろう。 「ルイズにも言ったがよぉ、オレはこの世界の人間じゃねェ ここハルケギニアとは異なる世界、 地球ってトコからおれはルイズに召喚されたんだ」 パイプを咥えていたオスマンが目を見開いた。 「………なんと、それは本当かの。ミス・ヴァリエール」 「えっ?あ、はい!確かに昨夜、そう言ってましたが… まさか本当だなんて…………」 「おいおいなんだよルイズ、やっぱり信じてなかったのか?」 「あんな突拍子も無い話、信じろってのが無理な話よ!!」 「はっはっはっ、違いねーぜ」 音石が笑う一方でオスマンが溜息をついた、 やれやれ、ミスタ・ヴァリエールはとんでもないのを 呼び出したモンじゃとでも言いたそう顔をしている。 しかしある意味、異世界などという突拍子もない話を 落ち着いて飲み込んでいるあたりは流石というべきだろう。 「初めに言っておくがよぉ、オレの居た世界じゃあ 魔法なんてモノは実際に存在しねぇんだよ、 あるにはあるが御伽噺とかそういった空想の中だけの話だ」 「ほう、魔法が存在しない世界か………」 オスマンが興味深げに考え込み、髭をいじっている。 しかしそれでもルイズは腑に落ちないらしい、 納得いかないのか、イライラしている感じが あからさまに顔に出ている。 「魔法が存在しないなんて、とても考えられないわ… 不便な事この上ないじゃない」 「魔法が常識のこの世界の人間なら誰だってそう言うだろうよ…」 「どういう意味よ?」 ルイズが首をかしげ、 音石はため息をついて呆れた。 「ルイズぅ、昨日言っただろうがよぉ~、 この世界は俺がいた世界とは文化が違いすぎるってなぁ、 確かにオレの世界には魔法は存在しねェ、 だが変わりに科学技術っつーもんが発達してんだよ」 「科学?」 ルイズがさらに首をかしげた。 オスマンもはじめて聞く単語に疑問を抱いている。 「科学…ふむ、一体どういうものなのじゃ?」 「あー…、科学っつーのはなー、えーっと…… あーーっ、だめだっ!!いざ説明するとなると どう説明すればいいかよくわかんねェな」 音石は頭を掻いた、科学もないこの世界の人間に どうわかりやすく説明すればいいのか迷っているのだ。 しかしオスマンはそんな音石の態度を察したのか ふむ、まあその話はまた次に機会にするとしようかの と答えてくれた。 「まあそんなわけで、俺のいた世界には確かに魔法は存在しねェ… だが変わりにってったら言い得て妙だが魔法とは似ても似つかねェ 特殊な『チカラ』は確かに存在した」 「それが『アレ』か………」 「『スタンド』、精神力・生命エネルギーが具現化した像(ヴィジョン)」 沈黙が流れた。 ルイズもオスマンも何かを考えているのか ルイズは音石を見ながら、オスマンはパイプを咥えながら ただ黙り込んだ。 不意にオスマンのパイプを見ているうちに 音石はルイズに召喚される前にタバコを買ったのを思い出し、 上着のポケットにしまってあったタバコを取り出し 一緒に買ってあったライターで火をつけた。 ルイズからそれなんかのマジックアイテム?と聞かれたが 音石はライターっていう特殊な仕掛けで火が出る道具だ と簡単に説明するとルイズは…そぅ、と小声で吐き捨てた。 「ふむ、亜人ではなく 精神が具現化した像(ヴィジョン)か……… 長生きしてみるもんじゃ、まさかこの歳になって 異世界の住人の『チカラ』に出会えるとは…、 世の中捨てたモンじゃないのぉ」 「………説明を続けるぜ、スタンドには 人間と同じように個性みたいなもんが存在するんだ」 「個性?精神力が具現化した『チカラ』なんでしょう? なのに感情や意思なんて存在するの?」 「そういうスタンドも存在するらしいぜ? まあ、オレも調べただけで実際に見たわけじゃねーがな… てゆーかオレが言いたい個性ってのはそんなんじゃねーよ。 スタンドは人によってそれぞれ異なるってことだ」 「つまり、人によってスタンドとやらの 姿かたちは様々っということかの?」 「へェ、さすがに察しがいいじゃねーか まあ、口で説明するよりも見てもらったほうが早いな」 すると音石が立ち上がり、視線を机に向けた。 「『レッド・ホット・チリ・ペッパー』」 音石が口を開いた瞬間、机の上に 話題のスタンド、『レッド・ホット・チリ・ペッパー』が発現した。 「きゃあっ!!?」 「おおっ!!?」 ルイズもオスマンもさすがに 獰猛な顔と姿をした『レッド・ホット・チリ・ペッパー』 いきなり現れたことにより驚きの声を上げたが、 机の上に立っていたチリ・ペッパーが よっこらせと言わんばかりに机の上に腰を下ろし 腕を組み、胡座をかいている姿を見て 危険性はないと判断した。 二人とも一応危険性はないのは最初からわかってはいたのだが 先程も言ったように、チリ・ペッパーの獰猛な顔や姿を いきなり見せられたら警戒………というよりも びびるのは当たり前なのかもしれない。 「こいつがおれのスタンド、 『レッド・ホット・チリ・ペッパー』だ」 「ふ、ふ~む、間近で見ると迫力あるのぉ~。 しかし、なるほどの…、間近で見て納得したわい 魔力も感じなければ実体感もあまり感じんのう」 「ねえオトイシ、あんたの居た世界じゃあ 誰もがこのスタンドってのを出せるの?」 『レッド・ホット・チリ・ペッパー』をまじまじ眺めていた ルイズの質問に音石がおっ!と声を上げ、 パチンッと指を鳴らし、ルイズを指差した。 「なかなかいい質問じゃねーかルイズ さっきも言ったが、スタンドってのは特殊な『チカラ』だ。 それを扱える奴のことをスタンド使いと呼ぶが、 誰もが扱えるわけでもないし、ましてや 世間に知れ渡ってるわけでもねーんだよ」 音石の答えにルイズは疑問に思った。 「知れ渡っていない?それは変じゃない? だって、魔法が存在しない世界でこんなのが 現れたらあっという間に広まるはずじゃあ……」 「スタンドはスタンド使いにしか見えねーんだよ」 「ええっ!?」「ほう………」 ルイズの驚きの声とオスマンの渋い声が同時に上がった。 「え…、でも私たちにははっきりと見えるわよ!?」 「ふむ、恐らく我々の世界では精神力を魔法で 扱っておるからじゃろう、そう考えれば説明がつく」 「あ……。な、なるほど…さすが学院長…」 「今日の授業で聞いたばっかだろ」 「う、うっさいわね!! ちょ、ちょっとうっかりしていただけよ!!」 「左様でございますか………、おっと、話がずれちまったな。 スタンドってのは個人によってそのデザインが違うし ちょっと特殊な能力があるんだ」 「ほほう、特殊な能力とな」 オスマンが興味深そうに呟くと、 『レッド・ホット・チリ・ペッパー』に目を移した。 もちろんルイズもである、するとルイズは 『レッド・ホット・チリ・ペッパー』を眺めていると あることに気付いた。 「特殊な能力…、 この『レッド・ホット・チリ・ペッパー』……だっけ? 決闘で見たとき、今みたいに体が光ってると思ってたけど、 よく見ると何かを身に纏ってるように見える…… これ……、もしかして雷ッ!?」 「半分は正解だな。まあ、雷なのは雷なんだが………。 正確に言えば、こいつは電気と同化してるのさ」 「………ねえ音石、電気って何?」 「あー…、そういやここの文化ほとんど魔法頼りなんだよなぁ」 ルイズたちが電気を知らないのも無理はなかった。 例えば、ここに燭台があるとしよう。 地球の文化ならわざわざ燭台に歩み寄り、 蝋燭などに火を灯さなければならない。 しかし、この世界では魔法を唱えるなり、 魔法で作られた特殊な道具を使えば一瞬で 火を灯すことができてしまう。 つまり魔法の活用性の良さが仇になっているのだ。 そのせいもあってか、ここハルケギニアは 今の地球のようなあらゆる道具の技術の発達によって 生み出された科学技術がないのはもちろん、 人工で電力を生み出すことなど魔法以外ありえないのだ。 「電気ってのは…そうだな、人工で生み出した雷。 簡単に言えばこんな感じだな もちろん、魔法はなしだぜ」 「魔法を使わず雷を生み出す!? あんたの世界じゃあ、そんなこともできるの!?」 「まあ、待てよルイズ。俺の世界の話は また今度じっくりしてやる。今はスタンドの 話に集中しよーや」 「え、…あ……、うん……」 ルイズは戸惑ったものの確かに音石の言うとおり、 いちいち音石の世界に質問をしていたら日が暮れてしまう。 ルイズはそう判断した。 「ふむ、つまり君のスタンド、 『レッド・ホット・チリ・ペッパー』は その電気という雷と同化する能力というわけじゃな。 それについてはわかったんじゃが…、 しかし、一体スタンドとはどうやって身につくのじゃ?」 「オレが知る限りじゃあ、理由は2つある。 生まれたときから身につけているやつと……、 ある特殊な『弓と矢』で貫かれたやつ……、 オレは後者に値するがな」 「特殊な『弓と矢』? それに貫かれたら誰でもスタンド使いになれるの?」 「いや、あくまで確率の問題だ 貫かれてそのままおっ死ぬ奴もいる」 音石はこの時、杜王町で『弓と矢』を使い 多くの犠牲者を出した虹村形兆と、 その形兆を殺し、『弓と矢』を使っていた 自分の過去のことを思い出していたが、 ルイズとオスマンに言ったところで意味がないと 判断し、あえて話さないことにした。 「まあ、大体こんな感じだな。 これで十分か、じいさん?」 「フォッフォッフォ、むしろ十分すぎるくらいじゃわい。 ふたりとも時間をとらせてすまんかったのう、 もう部屋に戻ってもかまわんよ」 「わかりました…オトイシ、いくわよ」 「はいよ…」 ルイズの後に続くように音石も立ち上がり、 『レッド・ホット・チリ・ペッパー』をおさめ、 扉に向かい学院長室を後にしようとしたが… 「オトイシ君、最後にひとつ聞きたいんじゃが…」 「ん?」 半開きの扉を掴み止めながら、音石は首を捻らせ 後ろを向いた。その時見せたオスマンの顔は 今まで以上に真剣さを物語っていた。 「君は……、なぜ異世界の住人でありながら ミス・ヴァリエールの使い魔を務めてくれるのじゃ? 彼女になにか恩でもあるわけでもないじゃろうに……」 このオスマンの質問に、一瞬音石のそばにいる ルイズも不満になった。たしかにいくら 召喚されたからといって、異世界の人間である 音石が自分の使い魔をする義理なんてどこにもないからだ。 しかし、音石からは意外にも素っ気無い言葉が返ってきた。 「別に理由なんて特に考えてねェよ、 まっ、強いて言うなら………、 おもしろそうだから………だな」 音石の答えにオスマンもルイズもきょとんとした 顔をしながら、目を見開いたが すぐにオスマンが顔を戻し、笑顔で笑い始めた。 「ふぉっふぉっふぉっふぉ! なんとも気さくな男じゃわい、 呼び止めてすまなんだな、もう行ってよいぞ」 そのままルイズが失礼しましたと声を上げ、 二人が階段を下りる音が遠ざかっていった。 二人が学院長室を後にすると オスマンは自分の机の引き出しをひとつ引いた。 「伝説の使い魔『ガンダールヴ』か……、 まさか異世界の住人だったとはの……。 ん?まてよ…、そういえば……」 オスマンが何かを思い出したのか、 立ち上がり、学院長室を後にした。 しかし、引き出しを閉め忘れたままである。 そこには、先程コルベールが持ってきた本、 『始祖ブリミルと使い魔たち』とその上に 音石のルーンを書き記した紙が置かれていた。
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前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第九十八話「恐れていたレッドキングの出現報告」 どくろ怪獣レッドキング 登場 ……ルイズとキュルケの喧嘩から端を発した、二人の決着の舞台となるミスコンの本番当日が 遂にやって来た。出場する選手は、他の人はルイズとキュルケの熾烈な争いに割って入るのを 躊躇ってしまったからか、この二人だけ。……イベントとして大丈夫なのか? そんな俺の懸念をよそに、ミスコンはつつがなくスタート。第一審査の学力対決――二人が一時間 延々とテスト問題を解いているという内容で、恐ろしく地味だった――はルイズに分がありそうでは あったが、第二審査の体力対決――普通の体力測定で、こっちも恐ろしく地味だった――は体格が 上のキュルケの方が勝っている感じだ。 そして多分勝負の分かれ目となる、肝心の水着審査! と自己アピール。キュルケはやはりと 言うべきか、この勝負に一番の力を入れてきていて、とんでもなく際どい水着とよく纏まった アピールを披露したのだった。これはルイズ大分不利なんじゃないか? 心配する中、壇上に立ったルイズは――先日買い物に行った際に、俺がルイズに似合うと 言ったあの水着を着ていた。 な、何だよ。結局、あれを買っていたのか。俺の意見なんかどうだっていいみたいな顔を しておきながら……そういうの、かわいいじゃんかよ。 そしてルイズは、何故このミスコンに出場したのかという質問に対して、こう答えた。 「そ、それは……。一番の動機は、クラスメイトから勝負を挑まれたからです。わ、わたしは、 挑まれた勝負から逃げることはしません。そして、その決断をする勇気は……ある人がくれた ものです。だから、わたしは……こうして、この場に立っています。り、理由は、その二つです」 ……ルイズに勇気を与えた人、か。それってどんな人なんだろうな。……まさか、俺…… じゃあないよな。そこまで行ったら嬉しすぎるんだけどなぁ。 ともかく、ルイズのアピールはたどたどしいところもあったが、真摯な気持ちがありありと こもっていて、情熱の点ではキュルケにも負けないものだった。観客からの感触も悪くない。 勝負の行方はいよいよ分からなくなってきた。果たして、投票の結果は――。 「栄えあるミスに選ばれたのは……ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール!」 結果は、僅差ながらもルイズの勝利であった! よかった……キュルケには悪いけれど、ルイズはかなり不利な勝負に向けて、あれこれと 努力を積み重ねていたからな。俺も立場上は両方の応援代表だったけれど、内心ではどこかに ルイズに勝ってほしい気持ちがあった。それが叶って、すごく嬉しい気分だ。 「優勝したルイズさんには、トロフィーとティアラが贈られます」 再び壇上に上がったルイズは、司会進行からトロフィーとティアラを授かる。トロフィーを抱え、 ティアラで着飾ったルイズの姿は……普段のつっけんどんな態度が嘘みたいに、とても輝いて見えた。 「さぁ、勝者としてのお言葉をどうぞ」 自分の勝ちなのに、どこか信じられないという風にポカンとしていたルイズだったが、 司会に求められて慌てて口を開いた。 「あの、その、ありがとうございます! う、嬉しいです……!」 「この優勝に自信はありましたか?」 「自信なんて……なかったです。だ、だから、信じられなくて。本当に、本当に、嬉しいです!! ありがとうございます!」 ルイズ、心の底から感激しているって感じだ。本当、よかったな、ルイズ……。 「おめでとう、ルイズ!」 「おめでとーう!」 「おめでとう、ルイズさん!」 クリスやギーシュ、春奈たちの学校の仲間たちもルイズに称賛の言葉を贈った。 「あれが優勝のコメント? まるで子供ね。けど、ルイズらしいわ」 「……ん」 モンモランシーは少々手厳しいコメントだったけれど、嫌味らしさは微塵もなかった。 タバサもそれにうなずく。 「まさか、ルイズに負けるなんて……」 キュルケは少なからずショックを受けていたようだったけれど、悔しさは見せずに勝者へ向けて 惜しみない拍手を送った。他のみんなも手を叩き、ルイズは万雷の拍手で勝利を祝福された。 色々大変だったけれど、ミスコンもこれで大団円ってところだ――。 「ピッギャ――ゴオオオウ!」 しかしその時、体育館の外から耳をつんざく何かの雄叫びが聞こえてきた! 今のは、経験から言うと……また! 「ピッギャ――ゴオオオウ!」 気がつけば、いつの間にか外の町の真ん中に大怪獣がそびえ立っていた! あいつは、図鑑を開かなくても知っている! 怪獣の中でも一、二位を争うほど有名な奴だ! その名はレッドキング! ……何だか写真で見たのとちょっと違うような感じもするけど。 「ピッギャ――ゴオオオウ!」 レッドキングは雄叫びを発しながら、足を振り上げて家屋を踏み潰し始める! ――深夜のトリステイン、一地方の村にて。 『ピッギャ――ゴオオオウ!』 「うわぁぁぁぁッ!」 「み、みんな起きろー! 怪獣だー!」 寝入っていた村が、今は大パニックに覆われている。突如として大怪獣が出現し、村の破壊を 始めたからだ。村人たちはたまらず飛び起き、大慌てで避難していく。 怪獣の名はレッドキング――限りなく本物に近い、イミテーションではあるが。 レッドキングは人間など到底及ばない暴力を以て村を蹂躙するが、正義を守るチーム、 ウルティメイトフォースゼロがそれを見過ごしはしない。ほどなくして村にミラーナイトが 駆けつけたのだった。 『とぁッ!』 池の水面から飛び出したミラーナイトは、すかさずレッドキングに飛びかかっていき飛び蹴りを 仕掛ける。相手の先手を奪う、華麗ながら速い攻撃である。 だが。 スカッ。 『な、何ッ!?』 ミラーナイトの飛び蹴りは、レッドキングの身体をそのまま突き抜けてしまったのだった。 空を切って着地したミラーナイトは言葉を失う。今のはどういうことなのだろうか。 今度は手の平を広げて掴みかかるも、やはり手はレッドキングをすり抜ける。全く触れることが 出来ないのが、これで確定した。 『ピッギャ――ゴオオオウ!』 そうだというのに、レッドキングの方からは物体に干渉し、今もまた家屋を崩したのだ。 それはつまり、このレッドキングが単なる幻影の類ではないことを意味している。 『こ、これはどうなってるんだ……? こちらからは指一本触れることすら出来ないのに…… 向こうは建物を破壊しているなんて!』 怪奇現象に直面してミラーナイトは混乱して叫んでいた。 「うわあああああッ!」 「怪獣だぁーッ!」 祝賀ムードだった体育館は一転、悲鳴の合唱が発生して生徒たちが一斉に避難していく。 「ゼロ!」 『おうよ!』 そんな中、俺はこっそりと人の間から脱け出て、物陰に隠れた。もちろん、変身して レッドキングと戦うためだ! 「デュワッ!」 ウルトラゼロアイを装着し、ゼロに変身! 飛んでいったゼロは、レッドキングの前で 巨大化して着地した。 『やめな! こっからは、このウルトラマンゼロが相手になってやるぜ!』 「ピッギャ――ゴオオオウ!」 構えを取って挑発するゼロに気がついたレッドキングは、持ち前の好戦さを発揮してすぐさま こっちに向かって突っ込んできた! 『ピッギャ――ゴオオオウ!』 ミラーナイトをまるで無視して村を破壊していくレッドキング。ミラーナイトは一切の手出しが 出来ずに見ているしかない悔しさを味わわされていたが、ここでレッドキングに異変が発生。 唐突に挙動を変え、何もない虚空に振り返ったかと思うと、そっちに向かって駆け出したのだ。 『な、何だ?』 呆気にとられるミラーナイト。更にレッドキングはパンチやキックを繰り出すが、そこにはやはり 何もないのだ。 「ピッギャ――ゴオオオウ!」 『くッ! ぬおッ!』 レッドキングの繰り出すパンチやキックをガードするゼロだが、レッドキングはパワー型怪獣を 代表するような奴。一発一発の重量が尋常じゃなく、食らう度にゼロはふらつく。 『何の! やられたままじゃいられねぇぜ!』 しかしゼロは気を取り直すことで態勢を立て直し、レッドキングに肉薄。そして素早く 相手のつま先を踏みつけた! 「ピッギャ――ゴオオオウ!?」 これは痛い! どんな生物もつま先までは頑丈ではない。レッドキングも同じなようで、 悶絶して動きが止まる。 ゼロはその隙を突いて相手の首を脇に抱え込み、そのままひねり投げた! 『でぇぇぇりゃあッ!』 「ピッギャ――ゴオオオウ!」 レッドキングの巨体が地面に激しく打ち据えられる! 『ピッギャ――ゴオオオウ!』 ミラーナイトの見ている前で、レッドキングがいきなり前転して大地に仰向けに倒れ込んだ。 当然、ミラーナイトは何もしていない。 『さ、さっきから何が起こってるんだ……?』 さっぱり理解が出来ないミラーナイト。彼の視点からだと、一人相撲をしていたレッドキングが 自分から地面に投げ出されたようにしか見えないのだ。 「ピッギャ――ゴオオオウ!」 起き上がったレッドキングは尻尾を横に振り回して攻撃してきた。その一撃はまるでハンマーの殴打。 ゼロも受け止め切れずに殴り飛ばされた! 『うぐあッ!』 負けるな、ゼロ! レッドキングを倒せるのはお前だけなんだ! 『言われるまでもねぇさ! せぇぇいッ!』 立ち上がったゼロは再度飛んでくる尻尾を見事キャッチ。相手の勢いを逆に利用して、 ジャイアントスウィングを掛ける! 『おおおおおおおッ!』 「ピッギャ――ゴオオオウ!」 レッドキングの足が地面から離れ、宙に浮いて猛スピードで回転する! とうとうレッドキングは宙に浮き上がって高速回転を始めた。しかも回転軸はレッドキング 自身にはなく、虚空の一点を中心に大きく回っている。 これにミラーナイトは、レッドキングは自分の力で回転しているのではなく――そもそも レッドキングに浮遊能力はない――何かに振り回されているようだ、と感じた。 『こいつ……さっきから、見えない何かと戦っている、というのか……?』 つぶやくミラーナイト。普通ならちょっと考えにくいことであるが、先ほどからのレッドキングの 奇行はそうでもないと説明がつかないものであった。 レッドキングを地面に叩きつけたゼロは、いよいよとどめの必殺光線を発射する! 『これでフィニッシュだぁぁッ!』 腕をL字に組んで、ワイドゼロショット! 光線は綺麗にレッドキングに命中した。 「ピッギャ――ゴオオオウ!!」 この攻撃にレッドキングも耐えられず、一瞬にして大爆発を引き起こした。 『ピッギャ――ゴオオオウ!!』 最終的に、レッドキングはいきなり爆発を起こして消滅した。事態を一切呑み込めていない ミラーナイトは、レッドキングの再出現を警戒してしばらく周囲の様子を伺っていたが、それ以上 何事も起きる気配がないので、構えを解いた。 『……結局、何だったのだろうか……』 ミラーナイトはそんなひと言を漏らしていた。突然現れたレッドキングに対して何も出来ないかと 思いきや、レッドキングは奇行の果てに爆散した。この訳の分からない事態に、混乱するのも当然というもの。 ミラーナイトは思わず、今回の戦いとも呼べない戦いで感じたことをそのまま口にした。 『まるで、夢でも見ていたかのようだ……』 レッドキングを倒し、学校からの帰り道。俺はルイズと一緒に歩いていた。 「ルイズ、改めて優勝おめでとう。ホントにお前、よく頑張ったよ」 「あ、ありがとう……」 あの後ドタバタしたので直接言えていなかった称賛の言葉を伝えると、ルイズは控えめに お礼を言ってから、 「あ、あの、サイト? その、優勝のこと、だけど……」 「ん? どうした?」 「……わたしがキュルケに勝てたのは、サイト、あなたが色々手伝ってくれたからよ。あなたの アドバイスがなかったら、きっと無理だった……。だから、その……ほんとに感謝してるわ……。 ありがとうね……」 二度目のお礼。な、何かルイズ、急にしおらしくなることが最近多いよな……。そういう かわいいところを見せられると、ルイズのことを意識してしまって何だか気恥ずかしくなる……。 「あ、あの、ルイズ?」 「何よッ!」 「あ、ごめん。やっぱ、何でもない」 何か言おうかと思ったが、今回も変にルイズを意識して、結局言うことが思いつかなかった。 「じ、じゃあ、わたしの話を聞きなさい」 「何だ?」 ルイズの話? ミスコンが終わって、まだ何かあるのだろうか。 「わ、わたし、ミスコンのために水着、買ったわよね」 「あ、ああ。そうだよな」 「そ、それだけに着て終わりってもったいないでしょ? そう思うでしょ?」 「確かに。かわいい水着だったし、一度着たきりじゃもったいないよな」 そうだな、今年の夏は過ぎたけれど、また次の機会にでも泳ぎに行く時とかに着るのも いいだろうな。と思っていると……ルイズは言った。 「だ、だから……ここ、こ、今度、海に……つ、連れていきなさいよ!」 「海に?」 え? お、俺が、ルイズを……? 「そうよ! で、でで、でも、言ったでしょ!? これは水着がもったいないからって! だ、だから仕方なく、あんたと行ってあげるんだからッ!」 そ、そういうことか。でも……女の子から泳ぎに誘われるなんて、すごくドキドキするな……。 夏休みには、シエスタたちと遊びに行ったはずだが……。 「お、俺は別にいいけど。……じゃあ、いつ行こうか」 「そ、それはあんたが決めることでしょ!? ちゃんと計画立てて、それにせっかくだから、 た、楽しませてよね!」 「分かったよ。がんばってみます」 ルイズと泳ぎに行くプランか……。俺に上手に立案できるかな? 更にルイズは要求する。 「……じゃあ、とりあえず。この場は、わたしを家までエスコートしてちょうだい」 「はいはい。んじゃ、行きますか」 ぶっきらぼうに呼びかけたら、ルイズは怒鳴り声を出した。 「『行きますか』じゃないわ! エスコートなんだから、もっと優雅に!」 「優雅って……。お前、いつもそればっかだな」 やっぱり、育ちがいいとそういうの気にかかるもんなんだろうか。まるで貴族みたいだよな。 ……いや、ルイズが「優雅」って言うの、これが初めてだったじゃないか? 何だかよく 言われているような気がしたけど……。 「サイト?」 「あ、ああ、何でも。んで、優雅な誘い方って?」 「『レディ、こちらです。お手をどうぞ』。これくらい考えつかないの?」 おいおい、無茶言うなよ。俺は日本の一般庶民だぞ。ってルイズ相手に言っても、しょうがないか。 「はいはい。ではレディ、こちらです。お手をどうぞ」 「……ありがとう、ジェントルマン」 俺が差し出した手をルイズが取り、俺たちは再び歩き出す。いい歳して手をつないで歩くのは 恥ずかしかったが……ルイズが横にいると、何故だか周りの目はそれほど気にならなかった。 ……つい最近、似たようなことがあったような気がしたのも、その理由かもしれない。 家に帰ると、リシュが俺を出迎えてくれた。 「ただいま、リシュ」 「お帰り、お兄ちゃん! 今日がお兄ちゃんの学園のミスコンだったんだよね。楽しかった?」 と尋ねてくるリシュに、俺はぐっと親指を立てた。 「ああ、バッチシな! 当初の目的だった、ルイズとキュルケの仲も多少なりは改善できたみたいだし」 その本来の目的が達成できただけでも、苦労した甲斐があったというものだ。 「これからは、平穏な日常が送れるだろうな。久々に明日が来るのが楽しみな気分だぜ!」 ルイズといつか、泳ぎに行く約束もしたしな! またルイズやみんなと楽しい時間を過ごすんだ。 そう、明日から……! ……そう思っていたら、クス、といった音がした。 「そうだね……平穏な明日が来るよ……。これからは、もう何にも苛まれない……」 「……? リシュ、今何か言ったか?」 「ううん! 何も言ってないよー!」 ニコッと笑いかけたリシュは、クルリと背を向けてそのままパタパタと家の奥へ走っていった。 ……その姿はいつものようにあどけない、無邪気なもの、のはずなのだが……俺は何故か…… 妙に不安なものを感じた。どうしてなんだろうか……。 平穏な明日……明日は、来るよな。当たり前のことなんだが……。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
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前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百五十四話「闇が来る」 炎魔人キリエル人 炎魔戦士キリエロイド 超古代尖兵怪獣ゾイガー 登場 ブリミルたちの村の上空に浮かび、その不気味さで村の人々を脅かしているキリエル人の ゆらめく姿を、才人は奥歯を噛み締めながらにらみつけた。 「やっぱり……あいつか……!」 この時代からしたら遠い未来だが、才人にとってはほんの二日、三日前の出来事。ロマリアで いきなり襲いかかってきた怪人そのものである。まさか六千年前の時点で既にハルケギニアにいて、 こうしてブリミルたちを脅かしていたとは。 キリエル人はおびえている村の人間全員に向けて、高圧的に言い放ち続ける。 『この世界はもうじき闇によって滅びる。貴様ら愚かで無力な人間を救うことが出来るのは、 我々キリエル人だけである! 今すぐに我々にひざまずいてしもべにあることを誓うのだ! さすれば救いの道は開かれる!』 その言い分に、外にいる村の住人は皆一様に困惑する。 「そんな勝手なことをいきなり言われても……」 「俺たちはあんたのことを何も知らないんだぞ! それでしもべになれだなんて無茶な……!」 尻込みしている人間たちに、キリエル人は苛立ったように怒鳴り散らした。 『黙れ! 貴様ら下等な人間に選択の余地はない。貴様らに与えられた道は、キリエル人を 崇め忠実なる下僕となることだけだ!』 一方的に言いつけるキリエル人に強く反論する者たちが現れる。誰であろう、ブリミルと サーシャだ。 「そんな勝手な要求は呑めない! ぼくたちにはぼくたちの信仰があり、生活がある。いきなり 出てきたあなたの言いなりになるなんてことは御免だ!」 「わたしはこの村の者じゃないけど、一つだけ言ってやることがあるわ。あんた何様なのよ! 礼儀ってものの意味を調べてから出直してきなさい!」 二人の発言に、キリエル人はますます不興を募らせているようであった。 『愚か者どもが! 己らの矜持の方が、命より大事だとでも言うのか! キリエル人の救いを 受けなければ、お前たちはこの世界とともに滅亡するのだ!』 その言葉にもブリミルが言い返す。 「ぼくたちはその滅びとかいうのを阻止するために頑張ってるんだ! それに光の戦士たちも 力を貸してくれている。世界を滅ぼさせたりはしないぞ!」 光の戦士、という単語に、キリエル人の怒りのボルテージはマックスになったようだった。 『よりによってウルトラマンを頼りにしようなどとは……愚行の極致! あまりに罪深い! もはやその罪は、我が聖なる炎でないと清められぬぞぉッ!』 喚きながら、キリエル人は火炎を飛ばして村のテントを焼き始めた! 「きゃあああああああッ!?」 一気に巻き起こる悲鳴。メイジたちは慌てて水の魔法で消火に掛かるが、火災の勢いは 凄まじく、またキリエル人が次々に火を放つので手が足りない。 「やめろ! 暴力に訴えるんだったらこっちも……!」 キリエル人へ杖を向けるブリミルだが、すぐに小さくうめく。 「くッ、呪文詠唱が間に合うか……!」 「あの高さじゃさすがに剣が届かないわ! 誰か、弓持ってない!?」 サーシャが弓を求めるが、それが届けられる前にブリミルたちの先頭に立つ者があった。 「いい加減にしろよ! このエセ救世主、いや救世主気取りの大馬鹿野郎!」 もちろん才人だ。 『何だと……!?』 正面から罵倒されたキリエル人はすぐに顔色が変わる。 「お、おいきみ! 危ないぞ!?」 「いや待った! 彼なら恐らくは……!」 メイジの一人が泡を食って才人を止めようとしたが、ブリミルが神妙な面持ちで制止した。 「守る相手に暴力を振るって言うことを聞かすなんて馬鹿もいいところだ! お前の本性は 神でも何でもない、ただの底抜けのわがまま野郎じゃねぇか! 自分の振る舞いが物語ってるぜ!」 才人の遠慮のない非難の言葉に、キリエル人は怒りの矛先を全て彼に向けた。 『おのれ、キリエル人に向かって何たる口の利き方……地獄の炎で焼かれて己の罪を思い知れッ!』 才人へと灼熱の火炎を猛然と放ってくるキリエル人! だが才人はスパークレンスを掲げて、その光で火炎を打ち払った! 『その光はッ!? そういうことか……!』 一瞬驚愕したキリエル人だが、すぐに察してこれまで以上の怒気を纏う。 『ウルトラマン! 全ては貴様らのせいだ……! 貴様らの存在が愚かな人間どもを惑わせるのだ! おこがましいと思わんのか!』 「ほざけ! お前がどう思おうが知ったことじゃねぇ! 俺がすることはただ一つ……お前の 暴力からこの人たちを守ることだけだッ!」 言い切って、才人はスパークレンスを高々とかざした。すると先端の翼型の意匠が左右に開き、 まばゆい閃光が発せられる! 「ヂャッ!」 光とともに、才人の身体はたちまち巨躯なるウルトラマンティガへと変身する。 「おおッ!?」 「あれはまさしく、光の戦士……! あの少年がッ!」 メイジたちの間でどよめきが起こった。一方のキリエル人は、ティガになった才人を激しく ねめつける。 『よかろう。見せてやろう、キリエル人の力を! キリエル人の怒りの姿をッ!』 キリエル人の足元の地面が突如ひび割れ、マグマの噴出のように火炎が噴き上がると、 それとともにキリエル人の姿が変化。ティガと同等の体格の怪巨人へと変化した! 「キリィッ!」 現代のハルケギニアで戦ったのと同じキリエロイド。しかし顔はあの時の笑い顔とは違い、 泣き顔のように見える。 「タァーッ!」 「キリッ!」 すぐにティガとキリエロイドの決闘が開始される。ティガの先制の拳をキリエロイドが 腕を差し込んで止め、ボディにパンチを入れる。 「ウッ!」 「キリッ! キリィッ!」 ひるんだティガにキリエロイドの猛攻が仕掛けられる。スピーディーな回し蹴りの連発からの 側転キックという、流れるような連続攻撃にティガは身を守るので手一杯になる。 キリエロイドの軽やかな身のこなしから来る絶え間ない攻めには反撃の余地がない。しかし 才人も既にキリエロイドと戦って、その動きが分かっているはずだ。それに目の前の相手からは、 以前ほどの力は感じられない。 では何故苦戦しているのか。 『くッ……やっぱり身体を思うように動かせねぇ……!』 それはもちろん、ティガの肉体に慣れていないからである。もう長いことゼロとして戦って 来たので、その身体能力に慣れ切った分、違うウルトラマンのスペックに逆に対応できていないのだ。 「キリィーッ!」 「ウワァァァッ!」 キリエロイドの火炎弾が直撃し、大きく吹っ飛ばされるティガ。このまま押し切られてしまうのか? 『くッ、くそぉッ……!』 よろめきながら身を起こすティガ。その時に、その耳にブリミルたちの応援の声が届く。 「がんばれ! 立ち上がってくれサイトくん!」 「しゃんとしなさい! 光の戦士はその程度じゃへこたれないはずよ! わたしたち何度も 見てるもの!」 『ブリミルさんたち……!』 わぁわぁと声を張り上げて応援してくれるブリミルたちに、ティガは目を向ける。 「ぼくは信じてるよ! 光の戦士は何も言わないが……とても優しく、勇敢な人たちだとね! きみたちこそが、この世界を救ってくれる勇者だ! ぼくたちも戦う、だから負けないでくれ!」 『……!』 ブリミルの激励の言葉に、才人の心が沸き上がる。 「キリィィィッ!」 一方でキリエロイドは苛立ちを募らせたかのように、ブリミルたちへと火炎を飛ばして攻撃する! 「うわぁぁぁッ!」 ブリミルたちの窮地! ……しかし、火炎は途中でさえぎられて、彼らには届かなかった。 「ハッ!」 瞬時にスカイタイプに変身したティガが超スピードで回り込んで、その身で火炎を打ち払ったからだ! 「おぉッ! 光の戦士が、守ってくれた!」 「サイトくん……!」 「やるじゃないの」 ブリミルたちが歓喜し、サーシャはティガの背中に苦笑を向ける。 「タァーッ!」 今度はティガの反撃の番だった。スカイタイプのスピードを活かしたラッシュを仕掛け、 キリエロイドを押していく。キリエロイドも迎え撃つものの、徐々にティガの動きのキレが 増していき、少しずつ防御が追いつかなくなっていく。 「キッ、キリィ!?」 ティガの動きがどんどん良くなっていくことにキリエロイドは困惑していた。 才人はブリミルたちの応援によって心が震え、かつ戦いながらティガの身体能力に順応 しているのだ。戦いながら成長している! こうなったからには、最早完全にティガの流れである。 「タァッ!」 「キリィッ!」 ティガのハイキックがキリエロイドを蹴り飛ばす。そして距離を開けたところで、カラー タイマーに添えた腕を伸ばして青い光線をキリエロイドの頭上に放った。 「ハッ!」 光線が弾け、白い煙のようなものがキリエロイドの全身に降りかかる。するとキリエロイドが たちまちにして頭の天辺から足のつま先に至るまで凍りついていく! 「キリ……!?」 ウルトラ戦士には珍しい冷却攻撃、ティガフリーザーだ! キリエロイドは全身氷漬けに なってしまい、一歩も身動きが取れなくなった。 「フッ!」 今こそが絶好のチャンス。マルチタイプに戻ったティガは胸の前で交差した両腕を左右に 大きく開いて、同時にエネルギーを最大にチャージ。そして腕をL字に組んで必殺の攻撃を 繰り出す! 「タァッ!」 ティガの最大の必殺技、ゼペリオン光線が炸裂! キリエロイドは一瞬にして粉々に砕け 散って消滅したのだった。 「おおおおおおおッ! 勝ったぁッ!」 「やったぞぉーッ!」 ティガの逆転勝利に村の人々は一斉に歓声を発した。ブリミルとサーシャも満足げにうなずく。 ……しかしキリエロイドが砕け散っても、キリエル人が完全に消滅した訳ではなかった。 ほとんどのエネルギーが飛び散りながらもどうにか生き長らえ、生命の保存のために人知れず 異次元に逃れていく。 『おのれ……よくもやってくれたな……! この恨みは決して忘れん……。たとえ何千年 経とうとも、再び相まみえたその時には、より強めた怒りの姿によって復讐をしてくれる……!!』 恨み節を残して、キリエル人はこの世界から退散していった。 「フッ……」 そんなことは知らずに、ティガは変身を解いて才人に戻ろうとしたのだが……不意に嫌な 気配を感じ取って後ろに振り返った。 「フッ?」 そして驚愕する。視線を向けた先の背景が……徐々に真っ黒い闇に塗り潰されていくのだ! 決して夜の闇ではない。もっと恐ろしい……生存本能が非常に危険なものだとの警告をガンガン 鳴らす。 「な、何だあれは!?」 ブリミルたちも闇に気がつき、恐れおののく。彼らもまた、迫る闇が大変危険なものだと いうことを直感で理解していた。 「ハッ!?」 ティガ=才人は、キリエル人の「闇によって滅びる」という発言を思い返した。 『まさか……もう来るってのか!?』 ――現代のハルケギニア。教皇の即位記念式典が行われるアクイレイアはガリアとロマリアの 国境付近に存在する。アクイレイアからわずか北方十リーグのところには、火竜山脈を南北に 突き破る街道があり、そこに国境線が敷かれている。 その名も虎街道(ティグレス・グランド・ルート)。直線で十数リーグもの長さになる、 ロマリア東部からガリアへ通ずる唯一の街道だ。左右を切り立った崖に挟まれていて昼でも 薄暗い土地であるため、昔は人食い虎や山賊などの被害が相次いだ記録が残っている。 それ故の物々しい通称だが、整備が進んで安全が確保された今では常に商人や旅人が行き交う、 ハルケギニアの主街道の一つに数えられている。 だが、そんな虎街道のガリア側の関所では、ある揉め事が発生していた。 「通れねぇ? お役人さん、どういう了見だい?」 ロマリアの祝祭ももう目前だというのに、関所の門が固く閉ざされ、誰一人としてロマリアへと 通行できないでいるのである。式典に参加するためここまで旅をしてきた者たちは当然ながら困惑し、 一様に関所を管理する役人に説明を求める。 だが、役人からの回答はたった一つだけ。 「通れぬものは通れぬのだ。追って沙汰があるまで、待っておれ」 当然そんな答えにならない答えでは納得がいかない。商人の一人は殺気立ちながら詰め寄った。 「おい、待ってくれよ! 明日の晩までにこの荷をロマリアまで運ばないと、大損こいちまう! それともなんだ、あんたが代わりに荷の代金を払ってくれるとでもいうのか?」 「バカを申すな!」 一喝する役人だが、街道の利用者たちからは次々に不満の声が噴出した。 「教皇聖下の即位三周年記念式典が終わってしまうだよ! この日をわたしがどれだけ楽しみに していたのか、あんたたちに分かるもんかえ!」 「サルディーニャに嫁いだ娘が病気なんだよ」 役人はそれを抑えつけようととうとう杖を構えた。 「わたしだって知らん! お上からは、街道の通行を禁止せよ、との命令以外、何も受けて おらんのだ! いつになったらこの封鎖が解かれるのか、わたしの方が知りたいくらいだ!」 全く以て要領を得ない役人の言葉に、集まった人々が顔を見合わせる。 その時、一人の騎士が役人の元に駆け込んできた。 「急報! 急報!」 「どうなされた?」 「リュティスより未確認の……!」 馬から降りるのももどかしく、手綱を放り投げたままでの息せき切った報告であったのだが…… それよりも早く、その未確認の「何か」は、空の彼方より虎街道上空を横切っていった。 「ピアァ――――ッ!」 それは、巨大な鳥だったのか? それとも竜だったのか? あまりに速すぎて街道の人間の 目では全く見えなかった。分かったのは二つだけ。フネなどでは断じてないこと、そして…… 何体も街道上空を通過して、ロマリア方面へと飛んでいったことだ。 「な、何だ? 今のは……」 「リュティスから来たって? あんなものすごい速さの、何かが……」 事態がまるで呑み込めずに、利用者たちは先ほどまでの喧騒が一転して呆然としていた。 だが……彼らの背筋を、急にひどく寒いものが駆け抜ける。 「な、何だ……? この感じは……」 「何か、すごく嫌な感じが……」 唖然と空を見上げたままの人間たちの目に飛び込んできたのは……飛行物体の進行ルート上を たどるように、ロマリアへと移動する――と言うべきなのだろうか――「暗闇」としか言いようの ないものであった。 「ひやあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!?」 この場にいた人間は全員、恐怖の絶叫を発して腰を抜かしたり、その場にうずくまって がたがた震えたり、必死に物陰に身を潜めるようにして息を殺したりと恐怖に駆られた 反応を示した。――彼らの本能が、あの「闇」が、人食い虎などとは比べものにならないほど 危険で恐ろしい、おぞましいものだと感じ取ったのだ。 その「闇」は、関所の人間にはまるで無関心かのようにそのまま通り過ぎていった。「闇」が 完全に去って、人間たちの恐怖心はようやく消えたのである。 役人は未だ冷や汗まみれの顔でつぶやいた。 「一体、何が始まるというんだ……」 そのひと言が発せられたのと――ロマリア領空を警護するロマリア艦隊が、先に超高速で 飛んでいった飛行物体の集団――超古代の怪獣ゾイガーの群れに壊滅させられたのはほぼ同時であった。 そしてゾイガーの露払いが済んだのを見計らうように、「暗闇」は確実にアクイレイアへと 近づいていったのである……。 「プオオォォォォ――――――――!!」 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
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夜になりルイズの部屋に戻ったのだが、どうも2~3点相違点があったので改めて問いただす事にした。 「…あの二つの月は何だ?」 「何って…月は二つあるものよ?」 クレアと火を囲んでテレサについて話した夜を思い出すが、月というものは一つだ。間違いない。 「どうも、相違点があるな…そもそも、エルフというのは何だ?」 「あんたの居たとこじゃ『クレイモア』って呼ばれてるんだっけ?先住魔法を行使する種族よ」 「…私は魔法など使えんぞ」 エルフなのに魔法が使えないんだー、そう、それって私と同じ『ゼロ』って事ねーーー…… …… ………… 「ここ、この馬鹿ぁーーーー!」 「五月蝿いぞ、静かにしろ」 「魔法が使えないエルフなんて平民と同じじゃない…!こんなのを使い魔にするなんてぇ~~…」 契約の時の喜びはどこにやら、思いっきり凹んでいる。 ぶっちゃけ、エルフなぞより数倍厄介な連中なのだが、魔法が使えない=平民というのが常識のこの世界では、その反応は当然と言えた。 (まぁ一般人からすれば妖力解放も一種の魔法のようなものか) 上位Noの戦士でも抜き身すら見えない高速剣、クレアを追っていた奇妙な太刀筋の剣を使う女のようにアレも一般人から見れば、魔法みたいなものだろう。 もっとも、今の腕では高速剣は使いたくても使えないのだが。 「そもそも、私が居た場所では魔法などというものは存在しないのだが…どうも、お前達と我々の間で認識に違いがあるようだな」 「失敗ばかりで…サモン・サーヴァントで…やっと成功したと思ったのに…」 聞いてない、そりゃあもう、イレーネの話なぞ全く聞いていない。 (どうも、思っていたより事は厄介なようだな) 妖魔が居ない事やそれに変わるオーク鬼のような化物が居るという事は大陸が違うという事で納得できないこともないが 月が二つあるなどという事は、それだけではありえない事だ。 「で、私は何をすればいいんだ?」 「うう…一つは、使い魔は主人の目となり、耳となる能力を与えられるんだけど…無理みたいね。わたし何も見えないもん」 「『無理みたい』という事は他の者は見えるという事か。まぁ私の視界に映ったものを他人に見られるというのは、あまりいい気はしないがな」 「二つは、使い魔は主人の望むものを見つけてくるのよ。秘薬とか。」 「モノによるが、この辺りの地理を知らんから無理だな」 二つ目も早々に否定されさらに凹んだルイズが搾り出すかのように三つ目を言う。 「これが一番大事なんだけど…使い魔ってのは主人を守る存在なわけで、使い魔の能力で主人を守るのが一番の役目なんだけど…」 ちらちらとルイズの視線が左腕に注がれている。 それを見て、まぁ無理も無いとは思う。 右腕もどれだけ使えるか試さない事にはどうしようもないが、限界近くまで妖力解放してせいぜい元の1/10以下の高速剣だろうと予測を付けている。 ここでは、魔法という物が幅を利かせているらしく、一割程度の妖力解放でどれだけやれるか、まだ分からない事が多すぎるのだ。 最初に契約されそうになった時の反応を見る限り、一割でもこちらの動きについてこれなかったようだが、所詮人間の学生だ。 ドラゴンやその他の化物にどれだけ通用するか分かったものではない。 「並の人間なら、遅れは取らんと思うがな」 「いくら速く動けるたって、メイジに対抗できなきゃ意味無いのよ…」 「メイジというのは何だ?」 「ホッント何も知らないのね…系統魔法が使える者達の事で、ここの学生は全員貴族の子弟よ」 飛んでたのはそういう事かと納得しかけたが、一つ疑問が浮かんだ。 「お前は、飛んでなかったがメイジじゃないのか?」 痛い。そりゃあもう痛いところを突いた。 だが、構わず第二撃が加えられる。高速剣の異名は伊達じゃあない! 「全員と言っていたからには、お前も貴族の子弟なんだろ?」 ルイズが固まっていたが、時間が経つにつれブルブルと震え始めた。 「ままま、魔法も使えない使い魔が、ごご、ご主人様をお前呼ばわりするんじゃないのーー!あんた、しばらくご飯抜きよ!」 もちろん原因は、『お前』呼ばわりされた事ではない。 常人なら死活問題だが、そんな事はクレイモアにとっては一週間近く飲まず食わずでも問題無いが、やはり急にキレた事は気になった。 「なにか要らん事でも言ったか?…お前だけ魔法とやらが使えな「さてと!しゃべったら、眠くなっちゃったわ!」」 イレーネの言葉を思いっきりルイズが遮る。それはもう、焦った様子で。 墓穴を掘るとは、まさにこの事だろう。 その様子を見て、ルイズは魔法が使えないのだろうと確信した。 「まぁ、気にするな。我々の中にも『色つき』という不完全な…」 そこまで言ってボフっと何かが投げられてきた。 一般的に言う下着というやつだ。 「こ、これ、明日になったら、洗濯に出しとくのよ!ホントなら、あんたにさせようと思ってたんだけど、その腕じゃ無理そうだし!」 まだ、何か焦っているが、イレーネからすれば、洗濯は腕一本でも十分にできる範囲だ。 戦士時代は黒服が着替えを持ってきていたが、隠遁してからは一人で暮らしていたのである。 半分妖魔とは言え、半分人間だ。 食事は性質上いいとして、やはり掃除、洗濯はそれなりに自分でしなくてはならない。 クレアと再び出会った頃には、下手な主婦などより、その方面のスキルは磨かれていたりする。 まぁ、その場はルイズの温情だろうと判断して何も言わなかったのだが、魔法云々に関してはあまり言わないようにした。 「了解、ボス」 テレサがオルセから指令を受けていた時、こう返していたなと思いつつ返事をすると毛布が一枚投げられてきた。 「ベッドは一つしか無いから寝る場所は床ね」 別段異存は無い。というか戦士にとっての寝床というのは大体床がメインだ。 ベッドで寝るにしても簡素なものだったし、貴族が使うようなベッドは逆に気持ち悪い。 欲を言えば大剣が欲しいとこだったが、腕を無くしたままの逃走劇途中だったため、さすがに持ってきていない。 壁に背を預けると、ルイズが指を弾きランプの灯りが消えた。 便利なものだな。と思いつつ目を閉じ静かに眠りに入った。 朝になり目覚めてすぐ妖力を探るが、思わず苦笑した。 昨日、この地に妖魔は居らず組織の力は及んで無いと思ったばかりだというのに、妖力を探った自分に。 「さすがに、朝日は一つだけか…」 近いうち、この学院の最高責任者に接触しなければならないが、それにはルイズの手を借りねばならない。 したがって、当面は従順にしておく事にした。 何の事は無い。組織に比べれば赤子のようなものだ。 (それにだ…どうも私を恐れている者達は私をエルフと呼んでいたな) 『クレイモア』と『エルフ』何か類似点があるのかと思ったが、そこら辺の情報は皆無なため判断のしようがない。 (それなら、それで最大限に利用させてもらおう) 恐れられているという事は、無用なトラブルを回避できるという事だ。 こういった意味合いでは、クレイモアと一般人の間で揉め事が少なかったと言う経験がある。 まぁ、例外もあるが。 「ヘックシ!」 「風邪か?ヘレン」 「冗談じゃねー…誰かが噂でもしてるんだろ」 ベッドの上のルイズを見るが、あどけない寝顔を晒しグースカ寝ている。 「寝顔は、あの時のクレアと大して変わらんものだな」 改めて言うが、年齢は、ちびクレア<<ルイズである。聞いたら絶対怒る。 「ルイズ、朝だ」 「うぅ~~~ん…」 起きないので思いっきり毛布を剥ぐ。 放っておいてもよかったが、起こさないままにして、責任問われるというのも御免だ。 「ふにゃ…!なに?なにごと!」 「朝だ」 単調に返すが、瞬間ルイズの顔が一気に青ざめる。 「えええええ、エルフーーーーー!?なんでわたしの部屋にエルフがぁーーー!?」 そう言えば、ノエルも寝起きが弱かったなと思いつつ目を覚まさせる。 「イレーネだ。顔でも洗え」 「…ああ…そうだった…わたしが召喚したのよね…」 朝一番から一気に、心臓が最大稼動し覚醒したルイズだが、思い出したかのように命じた。 「ふ、服と下着」 「下着の場所はどこだ?」 「クローゼットの一番下」 さすがに、片腕では着替えさせる事もできないので自分で着替えたのだが、当の本人は釈然としていない。 「なんで使い魔が居るのに自分で着替えなくちゃいけないのよ…」 もちろん、イレーネには聞こえない程度の呟きだ。 そうこうしていると、扉が開き部屋に誰かが入ってきた。 「なな、何勝手に人の部屋に入ってきてるのよ。キュルケ!」 相手を睨みつつ、心底嫌そうな声で言葉を放つ。 「朝一番に『エルフ』って叫びがしたから見に来てあげたんじゃないの、ルイズ」 「そ、そうよ!私の使い魔はエルフなんだから!!」 当然違うし、魔法なども使えないのだが、意地もありルイズもエルフで通す事にしたようだ。 キュルケと呼ばれた女がイレーネをまじまじと見るが、ちょっと恐れを含んだ口調で言った。 「ほんとにエルフね…凄いじゃない」 どの辺りでエルフと見なしているのかと問いただそうと思ったが止めた。イレーネ自身、エルフと思われていた方が動きやすいのだ。 「あなたも使い魔を召喚したんじゃなかった?」 「ええ、そうよ。いらっしゃい。フレイムー」 後ろから、真っ赤な巨大なトカゲが現れ熱気が辺りを包むが、それを見たイレーネが思わず妖力解放しかけたのは内緒だ。 (下位Noの覚醒者がこんな形をしていたな…) イレーネの価値観では一般的な動物以外の形をしている生物=覚醒者なのだから、まぁ当然なのだが、やはりここは元居た場所とは何かが決定的に違うらしい。 「それってサラマンダー?」 「そうよ、ここまで鮮やかで大きい尻尾は、絶対に火竜山脈のサラマンダーね。好事家に見せたら値段なんかつけられないぐらいのブランドものね」 「これは…こいつ自身が熱を出しているのか」 「『火』属性の微熱のキュルケぴったりでしょ?ささやかに燃える情熱は微熱。それで男の子はイチコロなのよ。あなたと違ってね。」 キュルケが得意げに胸を張るとルイズも負けじと張り返すが、その差は歴然。 あまり例えにしたくないが、妖力解放したテレサと自分ぐらいの差がある。 それだけ、妖力解放した時のテレサの妖力が化物じみていたという事だが。 「あなた…お名前は?」 「イレーネだ」 改めてキュルケがイレーネを見つめる。 身長180サント前後。銀色の綺麗な長髪。髪の色と同じ銀色の目。マントから覗く生の脚の付け根。ルイズとは違い出るとこ出ている胸。 自分とはタイプ的に違うが…こう一言で言えば… 「…ライバルになるかもしれないわね」 「なにか言ったか?」 「いえ、何も。じゃあ、お先に失礼」 赤い特徴的な髪をかきあげ、キュルケとフレイムがルイズの部屋から出るが、ルイズは拳を握り締め喚いていた。 「くやしー!なによ!ちょっと胸が大きいからってーーー!!」 「個人差だ。気にする事もあるまい」 当のルイズは、ジト目でイレーネを、特に胸の辺りを凝視している。 「あんたはいいわよそりゃあ!」 「お前はまだ成長してないだけだろう。これかというところだな」 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、現在16歳。この年齢から成長するかと言われれば微妙なところである。 もっとも、その見た目故、イレーネは13歳ぐらいに思っているのだが。 ともかく、プンスカ怒りながらのルイズを先頭に『ルイズの』朝食を摂りに食堂へ向かう事になった。
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わたしはヴェルダンデを押し退けようとするがビクともしない 一陣の風が舞い上がり、ヴェルダンデをふきとばした 「誰だッ!」 ギーシュが激昂してわめいた 朝もやの中から、長身の貴族が現れた。あれはワルドさま 「貴様、ぼくのヴェルダンデになにをするだー!」 ギーシュは薔薇を掲げるが、ワルドさまも杖を抜きギーシュの造花を散らす 「僕は敵じゃない。姫殿下より、きみたちに同行することを命じられてね。 きみたちだけではやはり心もとないらしい。しかし、お忍びの任務であるゆえ、 一部隊つけるわけにもいかぬ。そこで僕が指名されたってワケだ」 ワルドさまは、帽子を取ると一礼した 「納得できねえな」 プロシュート!? 「姫さんは誰にも話せないってんでルイズに言ったんだろ、どういう事だ?」 「それは、おそらく僕がルイズの婚約者だからだと思うんだ、姫殿下も 粋な計らいをしてくれる」 「ルイズそれは本当なのか?」 プロシュートが顔に汗を浮かべながら質問してきた 「ええ、ワルドさまは両親同士が決めた許婚よ」 「マジかよ・・・・・」 プロシュートが信じられないって感じで呟く まあ・・・『ゼロ』のわたしには勿体無いくらいの人だしね わたしが立ち上がると、ワルドさまは、わたしを抱えあげた 「久しぶりだな!ルイズ!僕のルイズ!」 「お久しぶりでございます」 ワルドさまはとても嬉しそうだ。十年ぶりかしら・・・ 「相変わらず軽いなきみは!まるで羽のようだね!」 「・・・お恥ずかしいですわ」 「彼らを、紹介してくれたまえ」 ワルドさまは、わたしを降ろすと帽子を被り直し言った 「あ、あの・・・、ギーシュ・ド・グラモンと、使い魔のプロシュートです」 わたしが交互に指差すと、ギーシュは深深と、プロシュートはつまらなそうに 頭を下げた 「きみがルイズの使い魔かい?人とはおもわなかったな」 ワルドさまはきさくな感じでプロシュートに近寄った 「僕の婚約者がお世話になっているよ」 「そりゃどうも」 プロシュートが素っ気無く答える ワルドさまが口笛を吹くと、朝もやの中からグリフォンが現れた 「おいで、ルイズ」 ワルドさまはわたしの手を引くとグリフォンに跨り、わたしを抱きかかえた 「では諸君!出撃だ!」 頭の中に声が聞こえてきた お忍びっつってる側からデケぇ声で出撃だぁ?この野郎、ふざけてんのか? ワルドさまの軍人としての振る舞いにプロシュートは我慢出来ない様だ 確かにコレ、お忍びの重要任務よね・・・ ワルドさまに気をつける様に頼む? 笑い飛ばされるだろうか・・・ 気分を悪くするだろうか・・・ プロシュートに気にしすぎと言う?・・・ 無茶苦茶怒るわね・・・きっと どうする・・・どうする・・・どうする、ルイズ? よしっ、決めたわ! 聞かなかった事にしよう!