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契約! クールでタフな使い魔! その① 「あんた誰?」 日本とは思えないほど澄んだ青空の下、 染めたものとは思えない鮮やかなピンクの髪の少女が彼を覗き込んでいた。 黒いマントをまとい手には杖。まるで魔法使いのような格好だ。 いぶかしげに自分を見つめるその表情に敵意の色はない。 だから、とりあえず周囲を見回した。 ピンクの髪の女と同じ服装をした若者達が囲むように立っていた。 共通する事は全員日本人ではない事。欧米人が多いようだ。 するとここは…………ヨーロッパのどこかだろうか? なぜ、自分はこんな所にいる。 そう疑問に思ってから、ようやく自分が草原の中に仰向けに倒れていると気づいた。 ヨーロッパを舞台にした映画に出てくるようなお城まで遠くに建っている。 「…………」 事態がいまいち飲み込めず、しかし警戒心を強めながら彼はゆっくりと起き上がった。 少女は、男が自分よりうんと背が高く肩幅も広い事でわずかにたじろぐ。 「……ちょ、ちょっと! あんたは誰かって訊いてるのよ! 名乗りなさい!」 「やれやれ……人に名前を訊ねる時は、まず自分から名乗るもんだぜ」 「へ、平民の分際で……ななな、何て口の利き方!?」 少女が顔を赤くして怒り出すのとほぼ同時に、周囲に群がっている連中は笑い出した。 「ルイズ、『サモン・サーヴァント』で平民を呼び出してどうするの?」 誰かが言う。笑いがいっそう沸き立ち、少女は鈴のようによく通る声で怒鳴った。 「ちょ、ちょっと間違っただけよ!」 どうやら、この少女の名前はルイズというらしい。 ルイズ……名前から察するにフランス人だろうか。という事はここはフランス? となると、この訳の解らない状況にも説明がつくような気がしてきた。 あのトラブルメーカーの友人が関係しているかもしれない。それはさすがに被害妄想か。 (しかし……スタンド攻撃にしては妙だ。 俺をここに瞬間移動させたのはこのルイズという女らしい……。 だが周りにいる奴等の言動を見ると、どうにもスッキリしねぇ) とりあえず彼は、一番近くにいるルイズを見下ろして訊ねた。 「おい、ここはどこだ。フランスか?」 「フランス? どこの田舎よ。それに使い魔の分際で何よその態度は」 「使い魔……?」 先程聞いた『サモン・サーヴァント』という単語を思い出す。 そして、見渡してみれば黒いマントの少年少女達の近くには、様々な動物の姿があった。 モグラであったり、カエルであったり、巨大なトカゲであったり、青いドラゴンであったり。 「………………」 ドラゴン? 集団から少し離れた所で、髪が青く一際年齢の低そうな少女がドラゴンの身体を背もたれに読書をしている。 ファンタジーやメルヘンでなければありえない光景だ。 もし、これが夢や幻でないとしたら、つまり……現実に存在するファンタジーといったところか? 約五十日ほどの旅でつちかった奇妙な冒険のおかげで、非現実的な事に対する耐性ができたというか、 そういうものを柔軟に受け入れ理解し対処する能力を磨いた彼は、 持ち前の冷静さと優れた判断力のおかげもあって取り乱すような事はなかった。 周囲をキョロキョロ見回している平民の姿に腹を立てたルイズはというと、 教師のコルベールに召喚のやり直しを要求していた。しかしあえなく却下される。 「どうしてですか!」 「二年生に進級する際、君達は『使い魔』を召喚する。 それによって現れた『使い魔』で、今後の属性を固定し、専門課程へ進むんだ。 一度呼び出した『使い魔』は変更する事はできない。 何故なら春の使い魔召喚は神聖な儀式だからだ」 「でも! 平民を使い魔にするなんて聞いた事がありません!」 ルイズとコルベールの会話をしっかり聞いていた彼は、ある仮説を立てる。 つまり自分はルイズの能力によって、元いた場所からここに『召喚』された。 そしてそれは周囲にいる全員が行っているようであり、スタンド能力ではなさそうだという事。 さらにここはドラゴンがいる事からヨーロッパどころではなく、 ファンタジーやメルヘンの世界だという……突飛で奇抜で冗談のような話。 『召喚』されるのは本来――動物やあのドラゴンのような神話の生物等であり、人間ではない。 しかし彼女ルイズは人間を『召喚』してしまった。 『召喚』された生物は、『召喚』した人間の『使い魔』であるらしい。 『使い魔』という単語からだいたいどのようなものかは想像できる。 (俺が……この女の使い魔だと? やれやれ、冗談きついぜ) とにかく、彼にとって今必要なのは現状把握をするための情報だ。 話をするのに一番適しているのは……少年少女達を指導しているらしいハゲ頭の中年。 さっそく彼に声をかけようとしたところで、彼と話をしていたルイズがこちらを向いた。 ルイズは自分が召喚した平民を見た。 身長は190サントはあろうか、黒いコートに黒い帽子をかぶっている。 顔は……なかなか男前だが、それ以上にとてつもない威圧感があって、怖い。 でも、自分が召喚したんだから。自分の使い魔なんだから。 だから、しなくちゃ。 「ね、ねえ。あんた、名前は?」 恐る恐るもう一度訊ねてみる。まただんまりかと思った矢先、男は帽子のつばに指を当てて答える。 「承太郎。空条承太郎だ」 「ジョー……クージョージョータロー? 変な名前ね」 本当に変な名前だった。聞いた事のない発音をする名前だ。 ルイズは彼の奇妙な名前を頭の中で暗唱しながら、彼に歩み寄り、眼前に立つ。 そして彼の顔を見上げて、届かないと思った。承太郎は鋭い双眸で自分を見下ろしている。 やる、やってやる。こうなったらもうヤケだ。 ルイズは、ピョンとジャンプして承太郎の両肩に手をかけて自分の身体を引っ張り上げ――。 CHU! 一瞬だけ、ついばむようなキス。 さっきから鉄面皮を崩さない承太郎もこの行動には驚いたようで、目を丸くしている。 ストン、とルイズは着地した。ほんの一秒かそこらの出来事。 心臓がバクバクする。だだだだって、今のはファーストキスだったから。 頬が熱くなる。周囲の視線が気になる。 承太郎はどんな顔をしてるんだろうと思って、見上げて、ヒッと息を呑んだ。 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ なんだろう、これ。承太郎はただ立っているだけなのに、地響きが起きているような錯覚。 あまりのプレッシャーに、ルイズは思わず一歩後ずさり。 その瞬間、承太郎が叫んだ。 「いきなり何しやがる、このアマッ!」 「キャッ!」 重低音の怒鳴り声のあまりの迫力にルイズは尻餅をついた。 続いて、承太郎も膝をつく。左手の甲を右手で覆い隠しながら。 「グッ……ウゥ!? こ、これは……」 使い魔のルーン。 承太郎の左手に刻まれたものの正体を、ルイズは恐る恐る教えた。 こうして――ルイズは奇妙な服装をした奇妙な平民を己の使い魔としたのだった。 今日召喚された使い魔の中で一番クールでタフな使い魔がこの承太郎だとも知らずに。 目次 続く
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前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百話「怪獣100匹!増殖計画」 脳波怪獣ギャンゴ 地獄超獣マザリュース 夢幻怪獣バクゴン 百体怪獣ベリュドラ 登場 内容が連続している夢を毎日見るようになった才人。その上、ルイズやシエスタなどの学院の人間が、 同じ夢を見ているようだということを知る。その原因は何なのか、と調査を始めたのだが……その矢先に リシュが少女から、成熟した亜人の姿へと変貌した! 才人はリシュの術中に陥り、ルイズたちの目の前で どこかへと消されてしまった! しかもそれと時を同じくして、トリステイン中で異常事態が同時発生し始めたのだった……! トリステインのとある町の一つ。ここに、突如として一体の怪獣が出現した。 「ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!」 首と一体化した頭部の左右から回転するアンテナが生え、腕はマジックハンドのよう。 腹部にはトーテムポールを思わせる模様と、およそ自然に生まれた生物とは思えない 奇妙な外見をした怪獣、その名はギャンゴ。それが何の前触れもなく町のど真ん中を うろつき始めたので、町中がたちまちの内に大パニック。住民が大慌てでギャンゴから 離れるように逃げていく。 「ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!」 我が物顔で町を闊歩するギャンゴ。と、その時、民家のガラス窓が光ってミラーナイトが この場に登場した。 『せぇいッ!』 ミラーナイトは早速ギャンゴに飛びかかっていき、チョップを繰り出す。 だがチョップはギャンゴの身体をすり抜けてしまった! 『何ッ……!?』 「ギャアオオオオオオウ!」 動揺するミラーナイト。ギャンゴの方はそんなミラーナイトを意に介さず、腕を振り上げて 近くの民家の屋根に振り下ろした。 U字型の手が当たり、屋根が抜けて民家が破壊された。 『! この状況……昨晩と同じ!?』 こちらから全く触れられない怪獣が、物を破壊する……昨日出現したレッドキングと同じで あることに、ミラーナイトはすぐに気がついた。 「ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!」 『くッ……!』 それでもミラーナイトはどうにかギャンゴを止めようとしたが、何をしても一切が無駄で あることを思い知らされ、やむなく退却する他なかった。 ギャンゴは今のところ、積極的に町を破壊しようとはせずに徘徊しているだけ。それだけが救いであった。 「オギャ――――――!」 別の町では、けばけばしい色彩の巨大生物が赤ん坊そっくりの叫び声を発しながら、町の人たちを 脅していた。超獣マザリュースである。 『ビームエメラルド! ジャンナックル!』 それに果敢に攻撃を仕掛けているのはジャンボット。しかし、ミラーナイト同様、全部の攻撃が マザリュースをすり抜けてしまい、効果を上げられない。 『駄目だ……! 触れることすら出来ない……!』 どうすることも出来ずに立ち往生するジャンボット。彼は内蔵のレーダーでマザリュースを確認する。 『レーダーには確かに実体の反応がある。しかしこれでは虚像同然ではないか。どんな仕組みに なっているんだ……!?』 その謎は、ジャンボットの電子頭脳を以てしても解くことは叶わなかった。 「グアアァァァ――――!」 また別の町では、夢から脱け出てきたかのようにデタラメな怪獣がうなりを発していた。 怪獣バクゴンという。 それに対峙するグレンファイヤーも、先の二人と同じ状況に陥っていた。 『だぁぁぁッ! 全っ然掴めねぇーッ!』 グレンファイヤーはバクゴンに何度も掴みかかるのだが、手は空振りするばかり。徒労ばかりが 重なり、肩で息をする。 『このグレンファイヤー様が、怪獣を前にしてすごすご引き下がるしかねぇなんて屈辱だぜ……! けど、他にどうしようもねぇ……』 悔しさを噛み締めながら、グレンファイヤーはバクゴンを放置して退却していった。 そしてトリステインの中心、トリスタニアでは、もっと大きくもっと恐ろしい怪獣が出没していた。 「ウオオオオオオォォォォ……!」 城下町を、比喩でも何でもなくそのまますっぽりと覆い尽くす悪魔のシルエットを都中の 人々が見上げ、恐れおののく。 「な、何だあれは……!? あれも怪獣……いや、生き物なのか……!?」 「で、でかすぎるだろ……!」 アルビオンに出兵した者は巨大超獣ゼロキラーザウルスを目にしているが、そびえ立つ怪獣は その何十倍はあるという、異常にもほどがあるサイズ! その身長、何と約4000メイル! 桁が違う! あまりに大き過ぎて、トリスタニアからでは全容が見えないくらいだ! 「よ、よく見たら何匹もの怪獣が積み重なって出来上がってるぞ! 気味悪い……!」 そしてその怪獣は、大量の怪獣が折り重なって悪魔に似た輪郭を構成していた。最早滅茶苦茶。 心臓の弱い者は、その事実だけで卒倒するありさまであった。 「一体何匹の怪獣がいるんだ……? 百匹か……!?」 誰かがそんなことを言った。その通り、あの異形の大怪獣は百体怪獣の異名を冠する、 その名もベリュドラである。 現在はその場に直立しているだけだが、もしあれが暴れ出したとしたら……トリスタニアは 丸ごとペシャンコにされてしまうだろう。それを考えると、人々は全く気が気でない。ベリュドラは そこにいるだけで人々を脅かしている。 王宮からは、アンリエッタもベリュドラを見上げて戦慄していた。 「……一体この国に、何が起きているの……?」 トリステインの各地に出没した怪獣たちにまるで手出し出来ずに撤退したミラー、グレンは、 魔法学院のルイズの部屋に集合していた。 「あーもー! 何がどうなってんだ! 殴れなきゃ戦いにすらなんねぇぜ!」 頭をかきむしりながら喚いたグレンに、ミラーがうなずく。 「今はまだどの怪獣も比較的大人しいですが……仮にあれらが暴れ始めたら、未曽有の大惨事に なるのは必至です。その前に、どうにか対処しなければ……」 「けど対処するったって、一体全体どうすりゃいいんだ? そもそもあいつら何なんだよ。 本物の怪獣なのか? それとも俺たち全員が悪い夢でも見てんのか?」 『……あの怪獣たちの出現は、サイトが誘拐された直後のことだった。この二つが関係していると 考えるのが自然だろう』 シエスタの腕輪から、ジャンボットが意見する。 『ここから導き出されることは、この事態はリシュが引き起こしているのだろう』 「けどよぉ、どんな力がありゃあここまでぶっ飛んだことが出来るんだ? いやそれ以前に、 リシュは何者なんだよ。ちっこい女の子かと思えば、いきなり大きくなりやがったんだって? おまけに宇宙人が協力してると来た。ゼロまでテレパシーが途絶えてやがるし……」 「その点が解明できれば、謎は一辺に氷解するのでしょうが……」 三人の相談の傍らで、シエスタ、そしてルイズは重苦しい表情でうつむいていた。 「サイト……」 ルイズはベッドに腰掛けながら、枕を抱きしめて才人の身を案じてつぶやく。 その時、部屋の扉が忙しなくノックされたかと思うと、勢いよく開け放たれた。 「失礼するぞ! ルイズ、サイトが消えたと聞いたが!」 駆け込んできたのはクリスであった。彼女はミラーとグレンの顔を目にして一瞬驚く。 「あなた方は……?」 「私たちはサイトとここにいるルイズたちの友人です」 簡単に説明したミラーが、クリスに促す。 「クリスさん、あなたのことは伺ってます。突然ここに来られたということは、もしやあなたは サイトが消えたことに関して何かご存じなのでしょうか?」 「ああ、そうだ。サイトと話をした後、色々と調べ事をして、あることの確信を得ていたのだが…… 一歩遅かったようだな。まさか、こんなに早く動くとは……」 クリスの言を聞き、ルイズがバッと顔を上げる。 「クリス、あなたはリシュについて……サイトを連れ去っていったあの女のことを、何か知ってるの? だったら教えてちょうだい! お願いッ!」 必死な顔で懇願するルイズ。それを受けて、クリスは一時瞑目した。 「……皆を巻き込んではと思っていたが、こうなってしまったからには黙っている意味はないか。 分かった、わたしの知っている全てを話そう。ただし、月並みな言い方だが、これは『ここだけの話』と いうことにしてほしい」 その頼みに皆がうなずくと、クリスは己の抱えている事情をこの場の者たちに打ち明け始めた。 「話は恐らく、皆が思っている以上に大きい。順序立てて説明しよう。まずはわたしがこの学院に 来た理由から話す」 「トリステインの魔法技術を勉強されるためではなかったのですか?」 意外そうにシエスタが聞き返す。 「それは表向きの理由だ。本当は……サキュバスを封印するために来た」 「……さ、サキュバス? それ一体、何なの? ま、まさか、怪獣?」 唖然とするルイズ。座学の成績がトップクラスの彼女すら、そんな名前は初耳であった。 「いや、怪獣とは違う。先住の種族、いわゆる亜人の一種なのだが、出生はよく分かっていない。 彼らが使う魔法は、四大系統には属さないものだ」 「属さないって……つまり、先住魔法?」 「いや、あれを魔法と呼んでいいものかも迷う。エルフのそれとも大きく逸脱したものなのだ」 そのサキュバスの扱う魔法とやらを語るクリス。 「サキュバスは、他者に自在に夢を見せる力を持っている。その夢を通して、他者から生気を 奪い生きる力を得ている。つまり人間を食い物にする危険な存在なのだ」 「夢……!」 聡明なミラーは、この時点で何かに察しがついたようだった。 「彼らの見せる夢は相手の望みに満たされた世界であり、決して不快など与えない。そのまま夢の中に 留まっていたいと思わせるほどに完成された、偽りの楽園だ。だが、夢を見せられている方は心地よい 眠りの中で生気を抜かれ続けていく」 「じゃあ、サイトにき、キスをした女が、そのサキュバスってことなの?」 「今の状況から考えると、そうとしか思えん」 「ですが、サキュバスという名前の種族は噂にも聞いたことがありません。彼らは普段、 どうしているのですか?」 ミラーの問いかけには、クリスは次の通り答える。 「この恐ろしい存在に対して、人間は何もしなかった訳ではない。我が一族が中心となって 封印の術を編み出し、戦いの果てに四百年前に封印し、深い眠りに就かせることに成功した。 その時間の中でサキュバスの名は世間から忘れ去られたのだ」 「なるほど……」 「しかし、その封印は絶対のものではない。年月によって風化し、破られてしまうこともある。 故に、我が一族は定期的に封印を監視し続けてきた。そして、このトリステイン王国に封じられた 一体の術が薄れていたことを確認した我が一族は、対サキュバスの戦士でもあるわたしに調査及び 再封印の指令を下したのだ」 「そんな事情があったのですか……。そして、そのサキュバスの一体が、サイトさんと ミス・ヴァリエールが地下室で発見したリシュさん……」 つぶやくシエスタ。 「でも、どうして少女の姿をしてたのでしょう……?」 「恐らく、力を温存するのと同時に相手を油断させるためだろう」 実際、ゼロたちもリシュが未知の種族であることが分かっていながら、子供だからと危険視 していなかった。その効果は覿面だった訳だ。 「この学院の皆が見た『夢』は間違いなく奴の仕業だ。正体を晒したということは、それだけの力を 蓄え終わったということだろう」 「そ、そんな重大な話を、何で今までずっと秘密にしてたのよ!」 苛立ち紛れに問い詰めるルイズ。クリスがもっと早くにこのことを教えてくれていれば、 サイトがさらわれることもなかったのに。そんな気持ちが織り交ざっていた。 「すまない。だが、夢とは精神の無防備な状態。それを支配するサキュバスには、たとえどんな力が ある者でも、夢の中では刃向かうことが出来ない。更にはたった一体だけでも、その力は広範囲に及ぶ。 記録では、百の人間が一辺に犠牲になったこともあったという。それが明るみに出たら、良からぬ者が 生体兵器として利用しようと考える恐れがある。ましてや、戦後間もないトリステインに厄介事を 増やしてはいけないと心配したのだ」 そのクリスの思いを聞いては、ルイズもさすがに文句をつけられなかった。 「だが、今回は秘密にしていたことが仇になってしまった。誰がどこに封印されているかの 記録がないので手をこまねいていたが、今をして思えば、もっと早くに周りの協力を求めて いればよかった……」 「そ、それでサイトはどうなっちゃうの? まさか、死んじゃうなんてこと……!」 青ざめて尋ねかけるルイズ。 「……サキュバスは、生気を吸い取る対象を夢の世界に連れ込み、この世界から消してしまう こともある。運よく帰還できた人間もいたが、その時には百年の時間が経過していたということだ」 「ひ、百年……!?」 ますます顔が青くなるルイズとシエスタ。そんな時間、待っていたら彼女たちの寿命が尽きてしまう。 ここでミラーが口を開く。 「これで今までの謎に説明がつきました。最近の魔法学院周辺での怪獣の異常な頻出…… その原因は、サキュバスことリシュに違いありません!」 「えッ!? ミラー、それってどういうことだよ?」 グレンが振り向いて問い返すと、ミラーは自分の推理を語った。 「私はゼ……サイトから、夢のことで相談を受けてます。それによると、おかしな夢、つまり リシュに見せられていた夢の開始と怪獣の頻出の始まりの時期はほぼ一致します。要するに、 リシュの力は怪獣にまで及んでいたということでしょう。最初の内は、眠っている怪獣を夢遊病の ように動かすに留まっていましたが……夢とは本来、脳が記憶を整理する現象。それを操作する ということは、相手の精神を掌握するのと同義。力を蓄えている内に、覚醒した状態でも自分に 都合のいいように怪獣を操れるほどになったのでしょう」 しかも、とつけ加えるミラー。 「ここからは私の憶測ですが……怪獣の生命力は人間とは比較にならないほど莫大。その生気を 奪うことで、リシュは本来の能力を超えた力まで身につけた。人を現実世界から夢の世界に連れ込む のとは逆に、夢の存在を現実にする力を……。つまり、今トリステインを脅かしている実体とも 幻ともつかない怪獣たちは、サイトの記憶からリシュが作り出したものなのです!」 「な、何だってー!?」 グレンを初め、皆が驚愕した。 「それならば宇宙人が協力してることにも説明がいきます。この能力を駆使すれば、正真正銘百体…… いえ、もっと多くの、無数の怪獣を好きなだけ作り出せるのですから。放っておいたら、怪獣をどんどん 増殖されるかもしれません!」 「そ、それってどう考えてもやべーじゃねぇか! 早く止めねぇと、手がつけられなくなっちまうぜ!」 「ええ……。クリスさん、どうにかサイトを取り返す方法はないのでしょうか。最悪、サイトを 奪い返せばその事態は阻止できるはずです」 聞かれたクリスが、重々しく告げる。 「我が一族は、夢の世界に侵入し、捕らえられた人間を連れて帰る方法も有している。それを使えば……」 「よぉーしッ! だったら早速頼むぜ! 俺が行って取り返してくる! 善は急げだ!」 グレンがパンッと拳で手の平を叩いて意気込んだが、ミラーに待ったを掛けられる。 「落ち着いて下さい。向かう先は夢の世界……サキュバスの領域ですよ。相手に圧倒的有利です」 「その通りだ。更に、サキュバスを倒すか術を解かなければ、夢の世界から解放されることはない。 戻ってこられる保証はない。助けに行ってそのまま……ということも十分あり得る」 「危険が何だ! 仲間のためなら、そんなもの恐れはしねぇ!」 「だから落ち着いてと……。すみません、クリスさん。少し相談をさせて下さい」 しばらくの間、クリスには席を外してもらって、仲間内で話し合う。ミラーがグレンを諭した。 「いいですか。気持ちは分かりますが、私とあなた、出来るかどうかは置いてジャンボットも 救出役になるのは絶対に駄目です」 「なッ、何でだよ!」 「リシュが宇宙人と組んでいるということは、当然私たちへの準備もあるということになります。 実際、ゼロが手も足も出せずにサイトごと捕らえられてしまいました。そして現実世界に怪獣の 危機が及んでいる現状、最悪の事態になった時のことを考えれば、これ以上貴重な戦力を失うような ことになってはなりません。更には、私たちが行けばリシュを本気にさせてしまうかもしれない。 サイトとゼロは人質でもあるんですよ」 『ミラーナイトの言う通りだ。非情かもしれないが、ここはこらえるべきだ』 そうと言われては、グレンも反論できない。ぐッ、と言葉を詰まらせるのみ。 「だったら、どうすりゃあ……」 「……わたしが行くわ!」 と、ルイズが名乗り出た。 「ルイズ!」 「わたしは“虚無”の使い手よ。サキュバスとも対等に渡り合える可能性がある。それに…… サイトはわたしの使い魔なのよ。落とし前なら、わたしがつける」 「いいのですか? どんな危険があるかも分かりません。確実に、厳しい戦いになりますよ」 問いかけるミラー。ルイズは固い決意を顔に表して首肯した。 「分かりました……。クリスさん、話は纏まりました」 ミラーが部屋の外で待っていてもらったクリスを呼び、ルイズが救出に向かうことを伝えた。 「ルイズ、いいのだな? もう一度言うが、戻ってこられる保証はない。我が一族の技は、 あくまで彼らを封じることに特化している。もしお前がサイトに続いて夢に取り込まれて しまった場合は……すまないが、お前たちのことはあきらめて封印を行わせてもらうことに なるだろう」 クリスの警告を受けても、ルイズの意志は変わらなかった。 「覚悟の上よ……!」 この世界は、恐ろしい危機に見舞われている。世界を救うためには、ゼロの力がどうしても 必要なのだ。それだけではない。ゼロは何度も自分たちを助けてくれた。そして才人も、自分を……。 だから今度は、自分が二人を助け出さねばならないのだ。 「分かった。では準備に取りかかろう」 早速魔法の用意を執り行うクリス。その間にシエスタ、ミラー、グレンがルイズに言葉を掛けた。 「こんな時、何の力もないのがもどかしいですが……ミス・ヴァリエールに全てを託します。 どうか、サイトさんとゼロをお救い下さい」 「夢の世界とは精神の世界。だから何があろうと、精神で負けてはいけません。いいですね」 「つまりドーンッ! と行けってこった! いざという時は勢いだぜ勢い! このこと、忘れんなよ!」 デルフリンガーは、何やら考え込んでいて言葉を発しなかった。 最後に、クリスが呼びかける。 「向こうがどうなっているか分からない。夢の世界は不安定で常に変化していると思ってくれ。 だから、慎重に。軽々な行動は慎み、機会を待つんだ」 「分かったわ。それじゃ、お願い!」 「では……行くぞッ!」 クリスが呪文を唱えると、足元に魔法陣が浮かび上がる。 そしてクリスの魔法を受けたルイズの視界が、徐々に白く染まっていった。夢の世界へと 移動していっているのだ。 かくして、ルイズは夢の世界へと旅立っていった。果たして、才人とゼロを救出することは出来るのか。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
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「明日は虚無の曜日とか言って休みだってな。」 あれから数日がたったある日、ポルナレフが唐突に切り出した。 「そうね…て、なんであんた知ってんの?」 「ギーシュが言っていた。明日の虚無の曜日にモンモランシーとか言う小娘と街に行くとかな。」 (あれ?あいつ昨日ケティと仲良さ気に喋ってなかったっけ? さてはまた…) ルイズは昨日目撃したことを思いだし、ギーシュにまたあの不幸が起きないよう心の中で祈った。 「で、お前明日用事あるか?」 ルイズは少し考えて 「特に無かったと思うけど…」 と答えた。 「ちょうどいい。なら、明日その街に案内してくれ。」 「ハァ!?」 ルイズは素っ頓狂な声を上げた。 「何であんたの為にせっかくの休日を潰さなくちゃならないのよ!ギーシュ達に案内してもらいなさいよ!」 「男女の恋路を邪魔するのは無粋だ。」 ポルナレフが意外と真面目な事を言う。 「じゃあ今まで決闘してきた相手は?一人一人当たっていけば…」 「ギーシュ以外、誰も目を合わせようとすらせん。」 今度はちょっと淋しそうに言った。変に寂しがり屋らしい。 「…」 「だからお前しかいないんだ。頼む。」 ポルナレフが手を合わせて懇願した。 「…分かったわよ。しょうがないわね。」 ルイズがやれやれといった感じで言った。 「で、何しに行くの?買い物?」 「そうだ。」 ポルナレフが首を縦に振る。 「お金は?」 「ある。世話にはならん。」 「ふーん…」 何も知らないルイズは、どうせ厨房の手伝いかなんかで貰ったんだろうと思った。 その次の日の朝、学院から二人は馬に乗って出発した。 ポルナレフは馬に乗ったことは無いが、ラクダには乗ったことがある。 ラクダの方がよっぽどよく揺れる(らしい)のでポルナレフは馬に乗ってもさしたる苦痛は無かった。 「街まで馬で片道3時間だったか?」 ポルナレフはルイズの方を向いて尋ねた。 「ええそうよ。…てあんた何で知ってるの?」 「メイドのシエスタという娘に聞いた。まったく、シエスタはいい娘だ。 こんな俺にも何かと親切にしてくれる…まさに女性の鏡だな。きっと将来、良妻賢母になるだろう。夫になる奴はかなりの幸せ者だ。」 ルイズは、(ふーん…そんなメイドがいるのねぇ)と感心した。 「そうそう、平民同士だからかもしれんが、厨房の奴らは気のいい奴らばかりでな…」 ポルナレフはルイズに厨房の人々の事を話した。 平民とあまり交わったことの無いルイズにとってそれは新鮮な話だったが、あまり興味は無く、たまに相槌を打つだけで殆ど聞き流していた。 やがて二人は城下町に着いた 「…狭いな。本当にこれで大通りなのか?」 ポルナレフがトリステイン城下町きっての大通り、ブルドンネ街の人込みを歩きながらぼやいた。 「狭いかしら?人込みは否定出来ないけど、大通りってこれぐらいじゃない? それより、どこに行くのかいい加減教えなさいよ。」 ルイズが先を歩くポルナレフを追いかけながら言った。 「武器屋にな…」 「武器屋?」 「ああ。いつも決闘の時ナイフ使ってるだろ?あれは少し訳があって本来使ってはいけないものなんだ。 金が出来たからその代わりとなるような剣を買おうと思ってな。」 ポルナレフはルイズにそう言ったが、この時、半分しか理由を話してなかった。 本当の理由はチャリオッツを使うときにナイフより剣の方がリーチが長く連係が効く、と考えたからだ。 「それで場所は分かるの?」 「確かピエモンの秘薬屋とか言う店の近くにあるとかマルトーが言っていた。地図も有るんだが、まだ地理が分からなくてな… すまないがちょっと見てくれないか?」 ポルナレフはルイズにマルトーの描いた地図を渡して、先を歩くよう促した。 ルイズは異世界から来たとか言うポルナレフが一週間と少しで常識的な知識や金を手に入れていたのには 舌を巻いたが、まだ地理が分からないと聞いて少し優越感に浸った。 やがて店は見つかり、二人は羽扉を開けて中に入った。そしてポルナレフは店の奥から出て来た店主に話しかけた。 「レイピアを探しに来た。出来れば丈夫な物を頼む。」 ポルナレフはそう言うと袋を取り出した。先日オスマン達から巻き上げた金である。 「へぇ、分かりやした。で、あのお嬢さんは…」 店主が店内を見て回っているルイズをちらりとみる。マントの留め具に描かれている五芒星に気付いたらしい。 「私の主人だ。ただ連れ添いに来てもらっただけだ。」 そうポルナレフが言った 「そうでっか。そういえば最近下僕に剣を持たせる貴族が増えてやすね。自分から求めてくるのは珍しいけど。」 「ほう…そうなのか?」 「えぇ。何でも最近は貴族の宝物を狙ったメイジの盗賊が出るらしくて…」 「『土くれのフーケ』とやらか?」 「よくご存知で。その土くれに備えるためとかなんとか。おっと失礼。少しばかし見てきまさあ。」 しばらく待つと店主がやけに装飾が施されたレイピアを持って来た。 「しかし旦那、今時レイピアなんて使う人なんかいませんぜ。せいぜい貴族様の装飾品でさあ。」 「…」 成る程、確かに店内にレイピアは中々見当たらない。あってもどれもが華美な代物だらけだった。 実戦で使えるかどうか非常に怪しい物ばかりである。 「ちなみにそれは幾らだ?」 「へぇ2000エキューで。」 ポルナレフの所持金は500エキューしかない。明らかに足らなかったし、法外な値段だということも気付いた。 「ちなみに安いので幾らだ?」 ポルナレフが今度はかなり下手に出た。 「そうですなあ…そこの壁に立て掛けてあるので大体400エキューですな。」 店主が指差した先にはさほど装飾が華美でないレイピアが壁に立て掛けられていた。 見た所錆びてはいないし、そこそこ丈夫そうだ。 「それじゃあ、あれをくれ。」 ポルナレフは店主にそう言って袋の中から金貨を取り出して支払おうとした時、 「俺にさわんじゃねえ!貴族の娘っ子!」 いきなり店内でそんな声がした。ポルナレフが思わず振り返るとルイズが一本の剣を握っている。 「やい!デル公!お客さんにそんなこと言うんじゃねえ!」 店主が剣に向かって叫んだ。ポルナレフには何がなんだか分からなかった。 「ひょっとしてこれインテリジェンスソード?」 ルイズが驚いたように言った。 「何だ?その『インテリジェンスソード』というのは?」 「へぇ、魔法がかけられていて、意志を持って喋る剣のことでさぁ。」 「ほう…」 ポルナレフは多少興味を持ちルイズの方に歩いていくとその剣を手に取った。 こちらはさっきのレイピアと違い、刀身に錆が浮いている。喋るだけの駄剣か、と思っていると、 「…おでれーた。おめえ『使い手』か?」 剣が驚いた様に言った。 「『使い手』?」 「そうだ。どうだい?レイピア使うんならマンゴーシュはいるだろ?長すぎるし片刃でマンゴーシュには到底向かないが、俺を使わないか? お前さんならきっとマンゴーシュ、いや、むしろ変則的な二刀流として使いこなせる。」 「…成る程な。レイピアと大剣の変則的二刀流か…面白いかもな。」 「そうよ。だから俺を……」 「だが断る」 「ナニィ!?」 「すまないが意思を持つ剣というのにトラウマがあるんでな。しかも片刃というのが、な。」 そういうと剣を元の位置に戻した。 「ちょ、ちょっと待って!お願い話を聞いてね、ね!」 「…」 ポルナレフがうざそうに剣を見る。 「ほら、手足はないけど歌えるぜ!♪アア~オ~~~ンン~~トォ~~…」 「……」 ポルナレフがますますうざそうに見る。どうやら今度はインドでのトラウマを思い出したらしい。 それに気付いて、 「頼みます。買ってください。このデルフリンガー、一生のお願いです。トラウマだなんて言わないでね、ね?」 遂に剣は遜りはじめた。 その態度にポルナレフもさすがに哀れに思い、店主に聞いた。 「…このデルフリンガーとやらは幾らだ?」 「…100エキューでいいでさぁ。」 ポルナレフは袋から残りの金貨を全て出すと店主に渡した。 「じゃあ『あいつ』も頂こう。」 「何でそんな剣買ったの?装飾が殆どないレイピアと錆が浮いた口の悪いインテリジェンスソードなんてあまりにも趣味悪いわよ。」 店を出て大通りに戻ってからルイズが言った。 「人に趣味が悪いとか失礼だぜ、なあ相棒。」 鞘から少しだけ刀身が出ていたらしい。デルフリンガーが喋った。 「相棒と呼ぶな。」 パチンと完全に鞘に収め、(「あ、ちょ、待って…」) 「…まあ、レイピアは俺の最も得意な武器だ…ただこいつは余りにも哀れ過ぎてな…金にも余裕はあったし。」 と言って鞘に収めたデルフリンガーを見た。錆さえ落とせば使えるかと思ったが、マンゴーシュの代わりにはならないだろうしやっぱり無理だなと思い直した。 「ところで案内したんだからそれなりに御礼ぐらいはするんでしょうね?」 ルイズがずいっとポルナレフに詰め寄る。 「悪いが剣を買ったので持って来た金が無くなってな…まあ、普段から世話してやっているんだ。礼なんて別にいらんだろ。」 「な、ななな、何よそれ!私の休日潰してそれは無いんじゃない!?」 ルイズはポルナレフの『礼なんて無くて当然だろ』という態度に憤慨した。 「それじゃあ街で貴様の買い物でもしておくんだな。俺ももう少し町を見ておきたいしな。」 そう言うと、怒鳴るルイズを無視してポルナレフは通りを歩いて行った。 To Be Continued...
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所変わってこちらはルイズの部屋。 貴族相手の『女神の杵』亭でも、上等な部類に入る部屋(最上級の部屋は何故か先約を取られていた)を取ったワルドは、 テーブルに座ると、ワインの栓を抜き、二つあるグラスにそれぞれ注いだ。 「君も一杯やるといい」 テーブルについたルイズは、差し出されたグラスをチラリと見たが、片手でそれを押しやった。 ワルドはすこぶる寂しそうな顔をして、グラスを飲み干した。 「使い魔君のグラスは取るのに、僕のグラスは受け取ってもらえないんだね」 「やめてよ、子供みたいなこと……。 私は貴方のことを信頼しているわ。それで十分じゃないの?」 「まさか……十分とは言えないよ」 ワルドはルイズの小さな顎をくいと持ち上げた。 視線が絡まる。 「君を振り向かせてみせる。そう約束したじゃないか」 ワルドの瞳を真っ向から見返し、ルイズは静かにワルドから離れた。 「私は、大事な話があるっていうからここにいるのだけれど……?」 あくまでつれない態度を崩さないルイズのセリフに、ワルドは途端に真面目な顔つきになり、ルイズから数歩離れた。 「君の使い魔……彼はただものじゃあない。僕には分かる」 またDIOの話かと、ルイズは思った。 この頃は、どいつもこいつも口を開けばDIOの事ばかり話しているように思え、ルイズは複雑だった。 実際にはそんなに会話には上ってはいないのだが、朝のモンモランシーの様子が強烈な印象となって脳裏に焼き付けられていたせいもあり、ルイズは過敏になっていた。 それを表に出すのは……貴族らしくないことは重々承知してはいたが。 「そんなこと、嫌ってほど分かってるわ。 アイツ人間じゃないもの」 ついつい返答がぶっきらぼうなものになってしまわずにはいられなかった。 内心後悔しているルイズに、ワルドは首を横に振って見せた。 「違う、そういう意味じゃない。彼の左手に刻まれているルーンだ。 まだよく見ていないから断言は出来ないが……あれはひょっとすると、『ガンダールヴ』のルーンかもしれないんだ」 「ガン…ダールヴ……?」 「そう、『ガンダールヴ』。 かつて始祖ブリミルが使役したと伝えられる使い魔さ」 突然の話に、ルイズは間の抜けた返事をすることしかできなかった。 しかし、呆気にとられたルイズとは対照的に、ワルドは何故か興奮した様子で語る。 そんなワルドの瞳は、鋭いナイフにも似た危険な光を放っていた。 「使い魔は主人と似た性質を持った者が現れる、というのが通説だ。 ……もし彼がそうだとしたら、君はそれだけの力を秘めたメイジということになるんだ」 真面目な顔をして伝説の話をするワルドに、ルイズは段々ついていけなくなった。 ブリミルが使役したとワルドは言うが、例え事実であっても、それは六千年も前の話なのだ。 遡ること六十世紀である。 そんなものが現代に甦りましたと言われてすぐに信じ込むほど、ルイズは信心深くはなかった。 あるいはガリアの神官だったら、泣いて喜ぶくらいのことはしたかもしれなかったが。 「眉唾物ね。 はいそうですかと鵜呑みにできない話なのは、あなたもわかってると思うけど」 「僕は至って真面目だ。以前王立図書館の文献で見たんだ。 」 間断無く断言してきたワルドに、ルイズは言葉に窮する形となった。 気圧された、と言ってもよいだろう。 それくらい、今のワルドは野心に満ちた目をしていた。 「昔の君も、どこか他のメイジ達とは違う空気を纏っていたが、今の君はそれ以上だ。 底知れないオーラが放たれ始めている……。凄まじい力の迸りだ」 「僕とて並みのメイジではない。だからそれがわかる」 興奮を隠しもせずにまくし立てワルドは再びルイズに迫った。 「た、確かにあいつが凄いのは認めるわ。 でも、それはただ単にあいつが凄いのであって、あいつが『ガンダールヴ』だから、ってわけじゃあないんじゃないの?」 焦ったルイズは、方々に視線を彷徨わせながら、その場しのぎをすることしか出来なかった。 だが、そのルイズの言葉に、ワルドは我が意を得たりとばかりに微笑んだ。 「そうかい? なら、僕はそれを確かめたい。この目でね」 ―――――――――――― 翌日、まだ日がようやく登ったばかりという時に、ワルドは一人廊下を歩いていた。 何事かを秘めたその瞳は深く鋭い色を放ち、道を行く足取りは、目的地に近づいてゆくにつれ重くなっていくばかりだった。 しかし、彼は彼の望むものを手に入れるためにも、その足を止めるわけにはいかなかった。 やがて、一つの部屋の前でワルドは歩を止めた。 それは、『女神の杵』亭で最も上等な部屋であり、昨晩ワルドが借りようとしたが、既に先約を取られていた部屋であった。 その部屋に泊まっている人物の名前をロビーで聞いたとき、ワルドは我が耳を疑うと同時に、やり場のない怒りを感じたものだった。 しかし、幸いにもその怒りが、部屋の中から放たれてくる異様な空気に耐える力をワルドに与えていた。 ワルドは決心するように深呼吸をすると、扉をノックした。 幾ばくかの沈黙の後、やけにゆっくりと扉が開かれ、いつものメイド服に身を包んだ少女が姿を現した。 その少女の姿を見るや、ワルドは心持ち体を仰け反らせてしまう。 昨晩、顔色一つ変えずに盗賊を何人も惨殺した人物……シエスタに、ワルドは苦手意識を感じていたのだ。 「どのようなご用件でしょうか、ミスタ・ワルド」 まさかこんな朝早くからメイドが出てくるとは露とも思っておらず、出鼻を挫かれた形となったワルドだったが、すぐに気持ちを立て直すと、率直に用件を伝えることにした。 「あぁ、朝早くからすまないとは思うが、君の主人に会わせてはもらえないか? まだお休みであるというなら、時間を改めてからまた来るが……」 貴族と平民という関係であるにも関わらず変に下手な口調なのは、自分に自信を持っている証拠か、それとも苦手意識の表れか。 いずれにせよ、貴族特有の傲慢な態度を出さなかったことが功を湊したのか、案外すんなりと取り次いでもらえることが出来た。 入室を許可され、シエスタに続いて部屋に入ったワルドだったが、一歩部屋に足を踏み入れた途端、彼は自分の背中に氷柱を差し込まれたような寒気を感じて硬直した。 部屋に入る前から、その異様な雰囲気に鳥肌を立てていたが、扉の中と外ではその雰囲気の濃さは段違いだった。 重苦しく、絶望的で、息が詰まりそうな圧迫感が全身を包んだ。 思わずそのまま回れ右をして立ち去りたい衝動に駆られるが、雀の涙ほどのプライドで何とか持ちこたえる。 改めて一歩一歩ゆっくりと奥へと進むその足取りは、断頭台への階段を上る囚人のように沈痛だった。 やがて部屋の最奥に至ったワルドを、部屋の主であるDIOが薄い微笑みを顔に浮かべて迎えた。 「これはこれは、子爵。小鳥も目覚めぬ早朝に、一体何のようかな?」 急な訪問に対して、嫌な顔をするどころか、まるで待ちかねていたような口振りである。 「いや、こんな朝でしか話せないこともあるのだよ、使い魔君」 敢えてDIOを単なる使い魔としか認識していない振りをするワルド。 ワルドよりも頭一・五個分は背の高いDIOの視線が、自然と見下ろしたような形であり、 それが段々ワルドの自尊心を刺激し始めたからだった。 再びこの息の詰まるような部屋の空気に飲まれてしまう前に、ワルドは勢いに乗せて話を進めることにした。 「君は伝説の使い魔、『ガンダールヴ』なのだろう?」 「…………?」 単純明快なワルドの問いかけだったが、しかし、DIOは心当たりがないと言わんばかりに眉をひそめただけである。 それらしい反応を返してこないことに、ワルドは焦ったような素振りを見せた。 「『ガンダールヴ』! 君の左手に刻まれているルーンのことだ! 学院長のオスマン氏などから聞かされていないのか?」 あのオスマンなら十分ありうるという事実に、ワルドは言い切ってから気がついた。 本当に知らないのかもしれないと、不安になったワルドだったが、 オスマンの名前を聞いて、DIOはようやく何かを思い出したような顔をした。 「あぁ、『ガンダールヴ』か。 確かにオスマンとやらがそんな単語を口走っていたな。忘れていたよ」 ホッとするとともに、ワルドは少し落胆した。 ルイズも、この使い魔も、伝説の『ガンダールヴ』に対して全く興味を示していないからだった。 自分一人だけが舞い上がっているような錯覚に陥り、非常に気まずい。 「う、うむ。思い出してくれて何よりだ。 ……とにかく君はその腕前を以て、あの『土くれ』のフーケを撃退した。 これは事実だ」 「撃退ときたか、フフフフフ………いや失礼、ハハハ……」 『撃退』という部分を聞いた途端、DIOは何とも面白そうに笑い出した。 その理由が分からないワルドは、おかしそうに笑うDIOに首をかしげるだけだった。 DIOのひとしきりの笑いに区切りを見た後、ワルドは咳払いをした。 「……ゴホンッ。 そこでだ。あの『土くれ』を追い払ったほどの君の腕前に興味が出てね。 実力を知りたいのだ。手合わせ願いたい」 その一言で、笑みを浮かべていたDIOの顔が、見る見るうちに冷たくなっていった。 同時に、ともすればこの場で即座に襲いかかってきそうなほどの敵意が、背後からワルドに突き刺さった。 確認するまでもない、シエスタだろう。 反射で背後を向いてしまわぬように、ワルドは全力を傾けた。 前門のDIO、後門のシエスタである。逃げ場など無い。 「何かと思えば決闘の真似事か……このDIOに対して」 「……その、通り」 血のように赤く、液体窒素のように冷たい瞳がワルドを射抜く。 いつのまにか固く握りしめていた拳が、汗でじっとりと濡れていくのを感じつつ、ワルドはDIOを見返した。 DIOは暫くワルドを睨んでいたが、ふと何かを思いついたような顔をして考え込み始めた。 ワルドにとっては胃に悪い沈黙が続いたが、やがてDIOは顔を上げ、了承の意をワルドに示したのだった。 「うむ、いいだろう。 この決闘は、お互いを深く知る良い機会になるだろうからな」 その時のDIOは、先程の渋い顔とは打って変わった、清々しいものであり、かえって不気味ですらあった。 しかし、何か嫌な予感を感じても、これは自分が選んだ事である。 そうそう容易く裏をかかれるような事態には陥らないだろうと踏んでいた。 DIOの了承を受けて、ワルドは決闘の段取りを伝えた。 「この宿は昔、アルビオンからの侵攻に備えるための砦でもあったんだ。 中庭に練兵場がある。私はそこで待っているから、準備が整い次第、いつでも来たまえ」 そう言い残して、ワルドはDIOの部屋を後にした。 シエスタの刺すような視線のせいで、部屋を出るまでのわずかな距離がやけに長く感じられた。 やっとの思いで部屋を出て扉を閉めた後、ワルドは知らず知らずのうちに深い溜息をついていた。 DIOの部屋の中での圧迫感のせいで締め出されていた酸素を、 必死で取り戻すかのようでもあった。 ワルドは呼吸を落ち着かせた後、ひとまずは自分の思い通りに事が運んだことを喜んだ。 DIOと立ち合い、『ガンダールヴ』の力を引き出し、その上でDIOの力の限界をルイズに見せつけるという筋書きである。 だが、彼の画策した決闘劇が、思いも寄らぬ方向へ逸れていくことになるとは、思いも寄らなかった。 二十分後、約束の場所である『女神の杵』亭中庭の練兵場。 そこでワルドの前に立ち塞がることになったのは、メイド服に身を包み、無表情ながらも焦げ付くような闘志を身に纏う、シエスタという少女であった。 「これは……一体どういうつもりだ?」 to be continued……
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前ページ次ページゼロの使い魔・ブルー編 「貴様……」 「ルイズ、君は逃げたまえ」 ルイズはそういわれると、震える足でよろよろと逃げ出していく。 ワルドがギーシュに向けて、杖を振る。 杖の先から放たれた雷光は、先ほどのようにワルキューレに阻まれる。 「土のドッド如きが私に勝てると思っているのかね?」 「やってみれば解るさ!」 ギーシュが跳ぶようにして距離を詰め、粗いながらも速く、剣を振る。 ワルドはそれを杖で受け止める。 「メイジが剣を使うか!」 「使っちゃいけない理由もないと思わないかね」 ギーシュは剣を打ち込みながらも、詠唱を完成させる。 剣を防いでいたワルドも同じように、詠唱を完成させ、 ほぼ同時というタイミングで魔法を放つ。 「『錬金』!」 「『エア・カッター』!」 だが、ギーシュの方が速い。 ワルドの足下が粘土のように柔らかくなり、 ワルドは体勢と狙いを崩す。 外れた『エア・カッター』が礼拝堂の椅子の角を切り落とした。 「今だ、ワルキューレ!」 「く……」 ワルドは迅速に粘土から足を抜くが、そこにワルキューレが襲いかかる。 詠唱が間に合わないのを見て取ったワルドは、 腰に下げていた紅い剣を左手で器用に引き抜き、ワルキューレに振りかぶる。 「遅いッ!」 ワルキューレの拳が直撃して、ワルドは倒れ込みそうになる。 だが持ち直すと、左手に持った剣を再びワルキューレに向けて振った。 ギーシュはその剣が何か揺らぎのようなものを纏ったのを見た。 それは膨れあがるとその剣をそのまま大きくしたような形を取り、 ワルキューレを切った。切断面が赤熱している。 ギーシュは危険を感じ、とっさに飛び退く。 先ほどの斬撃と交差するようにワルドが再び剣を振るう。 剣がワルキューレを通り過ぎる。交差した赤熱の線が十字の様に見えたかと思えば、 次の瞬間にその線が膨れあがり、ワルキューレが爆発する。 「な、何だって……」 ワルドがギーシュの方を睨みつける。 ギーシュは細剣では打ち合えないと考え、 ワルキューレを全て出し、 剣を細剣から長剣に変え、薔薇をしまい込む。 ワルキューレを散開させ、複数方向から攻め込ませる。 ワルドは前から来た殴りかかってきた二体の腕を巨大化した剣で切り裂き、 右から来た一体を杖でいなし、左から来た二体を風で吹き飛ばした。 しかし、背後から来たワルキューレの一撃を受ける。 「ぐっ……」 しかし俊敏に身を翻し、そのワルキューレに向け斬撃を繰り出す。 そのワルキューレは先ほどのものと同じように十字に切り裂かれ、吹き飛んだ。 「な、なんだあの剣は……」 ギーシュは恐怖におののいた。爆発するのも不思議ではあるが、 ワルキューレをあっさり切り裂いてしまうそれはブルーやアセルスのそれを彷彿とさせたからだ。 切り裂かれたワルキューレを見回す。 と言っても、消し飛んだので五体しかないが。 (あれ?) そこで疑問に思った。消し飛んだのは先ほどの二体だけなのである。 何故なのか、先ほどの剣を使えば全て消し飛ばすことも出来たはずだ。 なら、使えない? (……なんでだ?) 「呆けている余裕があるのかね?」 ワルドが巨大化した剣を振り下ろす。 ギーシュはそれをとっさに剣で受け止めた。 そう、受け止めた。 (ワルキューレをあっさりと切れるのなら、剣ごと僕は切り裂かれているはずだ) やはり、使えないのだろうと考えた。剣を押し返して弾き、 吹き飛ばされていたワルキューレを再びワルドに向けて、 自身は距離を取る。そして、何故使えないのかを考え始めた。 (なにか条件があるのか?) それが解るまでは、距離にはいるのは危ないと判断し、遠くから機を狙う。 二体を相手しているワルドに生じたその隙をギーシュは見のがさなかった。 「今だ!」 杖でいなされ、倒れ込んでいたワルキューレが跳ねるように起き上がり、 ワルドに蹴りを飛ばす。ワルドは不意の一撃を食らう……が、倒れなかった。 「……魔法衛士隊の連中は化け物か」 そして、またワルキューレが十字に切られ、消し飛ぶ。 そこでようやくギーシュは気付いた。 あの斬撃を出した時と、出してないときの相違点に。 (もしかしてあれは、殴られないと使えないのか?) 最初の時も、二番目の時も、今の時も消し飛ばされたのは 攻撃を成功させたワルキューレだった。 ならば、とギーシュは残った二つと自分自身で三方向から攻撃を試みる。 ただし、自分の攻撃はわざと外して。 一体目を剣で無理矢理倒したワルドは、 ギーシュのフェイントに引っかかって背後のワルキューレの一撃を食らう。 するとギーシュには目もくれず、紅い剣を振りかぶり、 背後のワルキューレを同じように十字に切り裂く。 切られたワルキューレは、やはり爆ぜた。 「やっぱりか、その斬撃は攻撃を受けないと使えないようだね!」 ギーシュは笑いながら勝ち誇った声で言う。 ワルドはそんなギーシュに冷静に返す。 「解ったところでどうしようもあるまい」 「へ?」 「攻撃せずにどうやって勝つというのだ?」 ギーシュが固まる。 ワルドはそんなギーシュに向けてゆっくりと一歩ずつ歩み寄って来る。 ギーシュは今度は汗を流して、必死に頭を回転させる。 (え、えーと、冷静に考えればそうじゃないか! どうしようも――?) そこで、一つの閃きを得て、剣を構え直す。 ワルドはそれを見て、一度立ち止まる。 「死ぬ覚悟が出来たのか?それとも逃げる気か?」 「どちらでもないね」 「そうか」 そう言うと、片手で剣を振り上げる。 ギーシュはそれを集中して見つめていた。ワルドが剣を振り下ろす。 ギーシュはそれに対して剣を斜めに構えて受け止める。 そして、そのままワルドの懐まで入った。 「何――?」 ワルドが右腕の杖を振り上げる。 ギーシュはそれは無視し、剣を回して左手を絡め取り、 そのままその手に在った剣を弾き飛ばす。 紅い剣が宙に舞い、風を切る音を鳴らして礼拝堂の固い床に突き刺さる。 ギーシュは振り上げた形になった剣を右腕にたたき付けようとする。 が、ワルドは『ウィンド・ブレイク』を唱え、ギーシュを吹き飛ばす。 当然、剣を振り下ろすことは出来ず、ギーシュは床にたたき付けられる。 「……どうやら私は君を見誤っていたようだな。 だが、もう油断はせぬ」 ワルドは呪文を唱え、杖を振る。 杖の先から雷光が迸り、ギーシュに向かって飛ぶ。 「があっ……!?」 ギーシュの前進に激痛が走り、あまりの痛みに崩れ落ちる。 ワルドはそれを冷酷な目で見つめて、小さく唱えた。 「『エア・ニードル』」 杖が青白い光に包まれる。 先ほど、ウェールズを貫いたものだろう。 ワルドは、電撃を喰らって動けないギーシュに一歩一歩近づく。 そして、すぐ前で一旦立ち止まり、杖を振り上げる。 「君を殺したら、ルイズを追うとしよう。 この城の包囲から逃げられる筈もない」 そして、杖を振り下ろす――が、それは一本の剣によって途中で遮られる。 ワルドは咄嗟に、彼が入ってきたであろう扉とは反対側の、始祖像まで飛び退く。 杖を防いだ人影は、剣を構え直す。左手に刻まれたルーンが光り輝いている。 「ブルー!」 「相棒、ようやく出番か!」 「貴様……どうやって此処まで!」 ブルーは答えずに、短く呟く。 数本の剣が現れ、ワルドに向かい飛ぶ。 ある意味、もの凄い解りやすい返答かも知れない。 ワルドは呪文を唱えて風を巻き起こし、それを弾き飛ばす。 ギーシュは誰かの手が自分の手を引っ張るのを感じた。 その力を借りて、何とか立ち上がりその手の先を見る。 「ルイズ……」 「間に合ったみたいね」 ボロボロで、まだ感覚がはっきりしない状態でも、ギーシュは何とか笑いを作る。 「逃げなかったのかい?」 「貴族は背中を見せないわ」 ギーシュは今度は笑いを作らず、心の底から笑いを浮かべる。 「逃げるとき、足が震えてたよ……」 「……そ、その時はその時よ!」 ルイズが顔を赤くして騒ぎ立てるが、 ギーシュは笑いを止めて、正面を向く。 ワルドと、彼らが対峙していた。 「……そうか、主人の危機が目に映ったか」 「ルイズを騙したのか?」 彼らは歩みながら、ルーンを刻む。ワルドは動かない。 「目的のためには手段を選んではおれぬのでな」 「それは勝手だ。だが、他人を巻き込むな」 ルイズはその様子を見ていた。 ブルーは……いや、ルージュか……? どちらとも解らないが、怒っているように見える。 どちらも、そういう人には思えないのだが。 それに、ルイズのために怒っているのとも、違う気がする。 むしろ、ワルドの行為そのものを憤っているような……。 と、そこで彼が動いた。目に追えぬほど速い……とまでは行かないが、 それなりに速く、ワルドに突っ込み、剣を振り下ろす。 ワルドは身体を翻してかわし、青白く光ったままの杖を突き出す。 ブルーが剣で受け止めると、ワルドは飛び退いて距離を取る。 そして、一度『エア・ニードル』を消し、再び唱える。 「く……ユビキタス・デル・ウィンデ……」 その呪文を唱え、ワルドが杖を振ると、 ワルドが分身する。突如出現したとも言える。 数を増やして、最終的にワルドは5人に分身した。 それを見て、彼らは剣を止めて、飛び退く。 「風の遍在だ……知っているとは思うが」 「知らん」 その言葉を聞いた途端、短く返してブルーは再び斬り込む。 刻まれたルーンから発せられた光が彼らを覆うと、 今度こそ目にも見えぬほどの速さになった。 ワルド達の内の一人が、呪文を唱える。 「『ウィンド・ブレイク』!」 風が、彼らめがけて放たれる。 彼らは反射的に、デルフリンガーを前に突き出す。 剣で風が防げる道理はないが、それでも防御しようとした。 「ちょ、相棒」 「剣で魔法が防げるはずが――」 その言葉を言い終える前に、魔法の威力が到達する。 しかし、身体に伝わってくるはずの衝撃は来ない。 少々困惑していたがそれでも考えると、 手に持った剣が風を吸い込んでいる事を発見する。 「何だと……!」 「おお、なんだこりゃ……そういや……なんかそんな事も出来たような……」 自分でもよくわかっていないらしいデルフリンガーに、彼らは問い詰める。 「どう言う事だ」 「いや、ちょっと待って。今思い出すからよ……」 「『ウィンド・ブレイク』!」 「……取り敢えず、防いでもらうぞ」 ワルド達が放った突風を、今度は意志を持ってデルフリンガーで防ぐ。 先ほどの雷撃と同じように、突風は吸い込まれ、彼らに届くことはない。 「その剣……一体何だというのだ!」 「……そうだ、思い出した!」 彼らはその声は無視して狼狽しているワルド達に切り込む。 「い、いやちょっと、聞いて欲しいかなー、なんて」 「聞いてやれる余裕はない」 「……まぁいいさ、今はやりたいようにやっちまいな、『ガンダールヴ』!」 そう叫ぶと、デルフリンガーが光り出す。 ワルド達が再び『エア・ニードル』を唱える。 「…杖自体が魔法の中心!打ち消すことは出来ぬ!」 そういって、五人のワルドが杖を突きだしてくる。 それを受け流し、回避し、いなす。 最後に振り下ろされたのを受け止めると、デルフリンガーを包んでいた光が弾ける。 そこには、磨き抜かれたように輝きを返す、錆びの混じらぬ鋼の刃があった。 「何なんです?」 「……細かいことは気にすんな!行くぜ!」 懐に入れたワルドのうちの一つを切り上げる。 それは悲鳴も上げずに消滅した。 ワルドの遍在達が彼らを取り囲んで、杖を突き出してくる。 彼らはそれを軽く跳躍して、回避する――軽くと言っても、 人一人飛び越せるぐらいの高さだったが。 そのままワルド達の内の一人の頭を足場に大きく飛んで、包囲から離脱する。 その動きを見ていたギーシュは呟く。 「やっぱり、凄いな……彼は」 軽い音と共に地面に着地する。 次にその音を大きく、激しくしたような音と共に剣を振り抜く。 一気に距離を詰めて、勢いを乗せた斬撃がワルドの内もう一人を斬る。 が、それも斬られると消滅する。 人一人斬っても尚余る勢いを、床を滑るようにして制動をかける。 バランスを崩しかけて、途中で片手を付いた。 「どれが本物か解ったりしないか?」 「それは無理」 「……全員叩けばいい話だな」 立ち上がり、後ろを振り向く。 ワルドが始祖像の下で杖を構えている。 青白い光は、既に消したようだ。 呪文を唱えて、彼らに向け杖を振り下ろす。 「『ライトニング・クラウド』!」 杖の先に、青い光が灯り、放電する。 後ろから、かすれた小さな叫び声が聞こえてくる。 「気をつけたまえ、ブルー! それを喰らえばただでは済まないぞ!」 轟音と共に、杖先から雷が放たれる。 デルフリンガーで受け止めるが、吸い込みきれない。 それどころか勢いに押されてだんだんときつくなってくる。 「相棒、このままだとジリ貧だぞ!」 その言葉に対して、彼らは剣を握る手を強めるどころか、 片手を離してしまう。デルフは思わず叫びかけるが、叫べなかった。 器用に、回転させる。今まで押されていた雷を押し返し始める。 そして最後には雷を弾くと同時に、青白い光と唸るような低い音を放ち始める。 「な、なんか嫌な感じがするんだが!?何というか折れそうな」 「確かかなり摩耗するからな」 「……もう少し優しく扱ってほしいな俺」 そのまま、地面を蹴ってワルドまで跳ぶように駆けよる。 ワルドは咄嗟に呪文を唱えて、『エア・ニードル』を纏わせる。 それで剣を受け止めようとするが、 デルフは何も遮る物が無いかのようにワルドの身体をあっさりと切り裂く。 だが、その姿もかき消える。 残り一人、本体であるだろう最後のワルドを探すために、辺りを見回す。 「離して!」 声のした方へ振り返ると、ワルドがルイズを捕らえて、杖を此方に向けていた。 ギーシュは突き飛ばされたのか、少し離れたところで倒れている。 「ルイズを離せ」 「そうはいかない。彼女は僕の目的のために必要なのでね ……君は優秀なメイジのようだ。 どうかね、君も『レコン・キスタ』……いや、私と共に来ないかね?」 「お断りだ」 「そうか、なら此処でお別れだ」 ルイズを捕らえている手とは反対の右手で杖を軽く振り、唱える。 「『ライトニ――』」 そこで唐突に、銀色が一閃。何かが宙を舞う。 解放されて、倒れ込むルイズ。彼らはそれを抱き上げて、駆け去る。 呪文を唱えていたワルドはそれを不思議そうに見て、詠唱を止める。 「『――ング…』……?」 そして、何かやわらかい物が落ちる音に対してそちらを振り返り、呟く。 「……何……だと……?」 落ちていたのは、左腕。 ワルドは自らの左腕があるはずの場所を見やる。何もない。 忘れていたものを今思い出したかのように、血が噴き出す。 「私のっ……腕がぁ……!?」 傷口を抑えて、ワルドはうずくまる。 ブルーも纏っていた光が霧散すると、胸を押さえてうずくまる。 左手のルーンの光も消えていた。 ギーシュがよろよろと立ち上がって、礼拝堂の椅子にもたれかかる。 しばらく、そのまま時間が流れた。 静寂は破壊音によって打ち砕かれる。 どこからか飛んできた砲弾により、礼拝堂の一角が崩れ落ちた。 遠くからの喧噪や爆音が聞こえてくる。 ワルドがそれを聞いて顔を上げる。 「な、何が起こってるの……?」 「攻撃が始まったか……!」 ワルドは立ち上がると、傷口から手を離し、血だらけの手で杖を握る。 「私はこんな所で死ぬわけには行かぬ……さらばだ」 「待ちなさい!」 ワルドは『フライ』を使い、崩れ落ちた一角から飛び去る。 制止などは、当然聞くはずもない。 遠くから聞こえてくる戦闘の音に、ブルーが呟く。 「逃げるか」 「どうやってよ」 「かなり先だが、タバサ達が来ている。 そこまで『保護のルーン』を使って行く」 ルイズはそれにうなずいて、歩き出そうとして立ち止まる。 そして俯いてから、振り返って始祖像の方に歩き出す。 「ルイズ?」 「ちょっと待って」 ルイズは始祖像までは歩かず、 その手前の事切れたウェールズの前でかがみ込む。 「…ご無礼をお許し下さい」 そう言ってから、ウェールズの手から『風のルビー』を外す。 外すときに、ルイズの手の『水のルビー』との間に光を作り出した。 なんとも場違いな、美しい虹色の光だった。 前ページ次ページゼロの使い魔・ブルー編
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前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百十話「その名は“邪悪”」 邪悪生命体ゴーデス 登場 ガリア王政府にかどわかされたタバサを救うため、ガリア王国への侵入を果たした才人たち一行。 彼らはまず旧オルレアン公邸に赴き、そこでタバサの母がアーハンブラ城へと移されたという情報を得た。 母と娘を分けておく必要はない。才人たちは一路アーハンブラ城を目指すこととなった。ついでに旅路の 中で、イルククゥの正体がタバサの使い魔、シルフィードの変身したものだということも判明した。 旅芸人に身を扮しながら情報を集めつつ、砂漠に建つアーハンブラ城前にたどり着いた一行。 やはり、タバサがアーハンブラ城に囚われているらしいことも明らかとなった。一層勇んだ 才人たちは、タバサを救出するために城に侵入する作戦を決行したのだった。ここからがこの 旅路の大詰めであった。 ……そしてその作戦は、現在のところはほぼ完ぺきな形で進んでいた。 「……相変わらずすごい威力ねウェザリー、あなたの魔法は……」 周りに転がる、城の警備兵たちを見回したルイズが、若干呆気にとられながらそう呼びかけた。 「これが原因で私は、数奇な人生を歩む羽目になったんだけどね」 ウェザリーは皮肉げな苦笑を浮かべた。 三百人以上ものガリア兵で警護されていたアーハンブラ城に入り込むために、一行は一計を案じた。 まずは近隣の店から酒を買い占め、兵たちの楽しみを奪う。そこに旅芸人と偽って接触し、酒と娯楽の 売り込みを建前に城の敷地内に足を踏み入れることに成功した。サハラとの国境線上という僻地に、 ろくな説明もない任務のために派遣された兵士たちはよほど楽しみに飢えていたのか、一行をまるで 警戒しないでのこのこ酒宴の席にやってきた。 そこからはウェザリーの特殊な催眠魔法が猛威を振るった。ルイズたちの踊りの音楽に乗せられた ウェザリーの歌声を媒介として兵士たち全員に『時間が来たら一斉に眠る』命令が掛けられ、実際 その通りに全員が深い眠りに就かされたのだ。これで兵士は無力化された。 「丸一日は何があっても、それこそどんなに騒いでも目を覚ますことはないわ。今の内に タバサとその母親を奪取しましょう」 「う~む……一時はこんなにすごい魔法を操る人と敵対してたなんてね。当時の自分に、 よく無事だったと褒めてあげたいね」 「あんたは何もしなかったでしょうが」 しみじみと語ったギーシュがモンモランシーに突っ込まれた。 「まぁでも確かに、味方になってくれてよかったって思うよ。お陰で作戦がすごく楽じゃないか」 マリコルヌが気楽な感じにそう言ったのだが、その時、 「待て」 短いながらも、とても響く制止の声が天守に続く広い階段の先から聞こえてきた。 一行がハッとなって顔を上げると、階段の上から自分たちを見下ろす一人の男がいた。 すらりとした長身で髪も長く、一見するとひ弱そうにも見える。だが全身から放たれる プレッシャーは、離れていても分かるくらいはっきりとしていた。 そして男の耳は、ティファニアと同じように尖っていた。 「わたしはエルフのビダーシャル」 「エルフ……!」 男、ビダーシャルの「エルフ」という名乗りに、ハルケギニア人たちは一斉に身体が強張った。 ギーシュ、モンモランシー、マリコルヌなどは「ひッ」と短い悲鳴を漏らした。 エルフは始祖ブリミル降臨の地に居を構えていて、そこに人間を近寄らせない。そのため ハルケギニア人と長い歴史の中で何度も戦争を行い、その度に人間を大敗せしめていた。 それ故に人間の間で悪魔のように恐ろしい存在と語り継がれていて、ルイズたちも記憶の 奥深くにエルフの恐怖を植えつけられながら育ったのである。 「やっぱり、私の魔法はエルフには効かなかったみたいね……」 ウェザリーが額に脂汗をにじませながらつぶやいた。彼女の催眠魔法は、効果が通れば ほぼ無敵だが、通らなければ完全に無力だという致命的な欠点がある。恐らくビダーシャルは、 音に乗せた魔法の効果をシャットアウトできるのだろう。 ビダーシャルは静かな迫力を乗せて、声を発した。 「お前たちに告ぐ」 「な、何だよ」 「去れ。我は戦いを好まぬ」 「だったらタバサを返せ!」 「タバサ? ああ、あの母子か。それは無理だ。我はその母子を“ここで守る”という約束を してしまった。渡す訳にはいかぬ」 才人はどうにか戦いは避けられないものかと、ビダーシャルの説得を試みる。 「約束ってのは、ガリアとか? あんた、ガリアが何やってるのか知ってるのか? あいつら、 どうやってかは知らないけど怪獣を操って暗躍してるんだ! 俺たちはガリアの差し向けてきた 怪獣に襲われた! あんたは、そんなやばい奴らに手を貸してるってことだぞ!」 しかし、ビダーシャルの様子に変化はなかった。 「そのような戯言を唱えて我を惑わせようとしても無駄だ。エルフはお前たち蛮人とは異なり、 約束は決して破らん」 「駄目か……!」 そもそも信じていないようだ。やはり、ガリアが怪獣を操っているという証拠がなければ 他人には信用してもらえそうにない。 ルイズは才人の袖を引っ張る。 「サイト、一旦あいつの目の届かないところへ退きましょう!」 「けど!」 退いたらタバサが、と才人は言外に伝えた。 「分かってるわ。でも今戦いになるのはまずい。ギーシュたちがいるのよ。エルフの魔法は、 何を引き起こすのか分からないわ」 ハッとなる才人。確かに、あのエルフの実力は底が知れないことが、シルフィードがもたらした 情報と旧オルレアン公邸の状況から既に判明していた。邸の戦闘跡にはタバサの魔法の跡しかなく、 ビダーシャルが何をしてタバサを打ち負かしたのかまでも全く掴めなかったのだ。 ギーシュたちが戦いに巻き込まれたら、命を落とす可能性は高いと言わざるを得ない。 才人はやむなく、皆とともにビダーシャルの目の届かない場所まで下がった。 ビダーシャルの気配への注意を途切れさせないようにしながら、作戦会議。ギーシュが おろおろとした声を出す。 「ど、どうするんだね? あのエルフをかわすいい手段はないものだろうか」 「とてもそんなことが出来るような相手には見えないわよ……」 声を震わせながら反論するモンモランシー。 「こ、ここは一度退却して、機会を窺うというのはどうだい?」 「馬鹿! ここで逃げたって、状況が悪くなるだけだ!」 臆病風に吹かれたマリコルヌの提案を才人がばっさり両断した。兵隊を全員眠らせてしまった以上、 日を改めたところで警備が厳重になるだけだ。同じ手も通用しなくなる。ここまで来た以上、何が何でも タバサを取り返さなくては自分たちの敗北が決まるだろう。 「じゃあ、現実問題どうするってのさ……?」 「……俺がどうにかして倒してくる」 才人はそう返した。彼とルイズは事前に、ルイズが“虚無”の担い手であることを見抜いていた キュルケに、エルフをかわすことは恐らく不可能、“伝説”の力でエルフを倒してタバサを救い出して ほしい、と頭を垂れて頼まれていた。 ヴァリエールの宿敵のツェルプストー家のキュルケが、家名のプライドを捨ててルイズに 頭を下げたこと、それは彼女のタバサへの思いの強さを如実に表していた。それを断れる ルイズと才人ではなかった。 「き、危険すぎる! いくら不死身のきみでも、エルフは相手が悪すぎるぞ! きみは知らんだろうが、 エルフの力は恐らくきみの想像を凌駕する! 騎士隊の隊長として、隊員がむざむざ死にに行くのは 認可できん!」 ギーシュが必死の形相で制止した。その顔には、騎士隊隊長としての責任感だけではない、 友としての心配の色もあった。それはモンモランシー、マリコルヌも同じだった。 才人は彼らの自分に向ける友情に胸を打たれながらも、こう答えた。 「だけど、誰かがやらなきゃいけないことなんだ。お前たちは俺が奴を引きつけてる間に、 どうにかタバサの元へたどり着ける道筋を探しててくれ!」 それだけ言い残してギーシュたちの元から飛び出して、斜め前の柱へと駆けていく。 その後を追うルイズ。ギーシュたちはなおも止めようとしたが、キュルケがさえぎった。 「あの二人ならエルフ相手でもやってくれるわ。その“可能性”が、ルイズたちにはあるの。 二人と……あたしを信じて、任せてあげて」 物陰から物陰へ移りながら、少しずつビダーシャルの待つ階段へと近づいていく才人。 それに追いついたルイズは、才人に呼びかける。 「サイト、ゼロになって!」 「何?」 「ゼロの力なら、エルフにだって負けないわ。エルフは見た目は人間だけど、その能力は 怪獣や宇宙人にも引けを取らない、実質人型の怪獣みたいなものよ。ウルトラマンの力を向ける 相手として、間違えてる相手じゃないわ。タバサを確実に助けるためには、こうするのが一番よ」 と語るルイズだが、才人は静かに首を横に振った。 「俺だって絶対にタバサを助け出したい。でも、それだけは駄目だ」 「どうして?」 虚を突かれたルイズに、才人はまっすぐ目を見て告げた。 「エルフをウルトラ戦士が相手するような怪物と認めることは……テファのために出来ない。 あいつに流れる血は両方とも、『人間』の血だと俺たちが言えるようにしなきゃ」 その言葉に、ルイズは思い切り目を見開いた。才人に言われ、ティファニアの存在を思い出したのだ。 ハーフエルフの少女、ティファニア。世界を見たいと願いながらも、エルフの特徴を持っている ために人間の前で素の姿を出すことが出来ず、隠れ住んでいるあの子。とても心優しいのに、耳が 尖っているだけで人に恐れられてしまう彼女。……ここでエルフを“怪物”としてしまえば、次に ティファニアと会った時に、素直な心で向かい合えなくなってしまうだろう。 ルイズは己の考えを改めた。 「そうだったわね……。ごめんなさいサイト。あいつはわたしたちが、“人間”としてやっつけましょう」 「ああ!」 才人とルイズはいよいよ元の場所まで舞い戻ってきた。ビダーシャルはその場から一歩も 動かずに、彼らを待ち受けていた。 「やはり去らぬというのか」 「そうだ。戦ってでもタバサを返してもらうって決めたぜ」 「了承した」 デルフリンガーを手に握り締めた才人は、ビダーシャルの立ち姿を観察する。 才人のこれまでの戦いの経験が、ビダーシャルは強いことを教えていた。だが今目の前に立つ ビダーシャルは、どこからどう見ても隙だらけだ。攻撃を誘っているようにも見えない。この差異は どういうことだろうか? 「相棒、無駄だ。やめろ」 デルフリンガーが少し焦った調子で警告したが、才人は駆け出した。 「うぉおおおおおッ!」 ビダーシャルの手前で跳躍し、剣を振り下ろす……が。 ぶわッ! とビダーシャルの手前の空気が歪み、剣があっさりと弾き返され、才人も後ろに 吹っ飛ばされた。 「蛮人の戦士よ。お前では、決して我には勝てぬ」 ルイズが倒れた才人に駆け寄る。 「サイト!」 苦痛をこらえながら立ち上がった才人は、改めてビダーシャルを見やった。 「何だあいつ……身体の前に空気の壁があるみたいだ……。どうなってんだ」 デルフリンガーが、苦い声でつぶやく。 「ありゃあ“反射(カウンター)”だ。戦いが嫌いなんて抜かすエルフらしい、厄介で嫌らしい魔法だぜ……」 「反射?」 「あらゆる攻撃、魔法を跳ね返す、えげつねえ先住魔法さ。あのエルフ、この城中の“精霊の力”と 契約しやがったな。なんてえエルフだ」 「先住魔法かよ。水の精霊のアレか」 「覚えとけ相棒。あれが“先住魔法”だ。今までの相手はいわば仲間内の模擬試合みてえなもんさ。 ブリミルがついぞ勝てなかったエルフの先住魔法。本番はこれからだけど、さあて、どうしたもんかね」 ビダーシャルは両手を振り上げた。 「石に潜む精霊の力よ。我は古き盟約に基づき命令する。礫となりて我に仇なす敵を討て」 ビダーシャルの左右の段石が勝手に持ち上がり、宙で爆発した。散弾のような石礫がルイズと 才人を襲う。 才人は剣で受け切ろうとしたが、量が半端ではない。ルイズの前に立ち、受け切れない分は 身体で止める。額に当たった一個が皮膚を切り裂き、血が垂れた。 倒れそうになる才人を、ルイズは支えた。 「ねえデルフ! 一体どうすりゃいいのよ!」 「どうもこうもねえだろが。もう一人の相棒に頼らないってえなら、お前さんの系統だけが、 あいつをどうにかすることができるんだ」 「でも、どんな魔法も効かないんでしょ! 一体何を唱えりゃいいのよ!」 「お前さんはとっくに呪文をマスターしてるぜ」 「え?」 「“解除”さ。先住魔法を無効化するには、“虚無”の“解除”しかねえ」 「解除ね!」 「でもな……あのエルフはどうやらここいらの精霊の力全てを味方につけてるらしい。それを全部 解除するのは、大事だぜ。お前さん、それだけの“解除”をぶっ放すだけの精神力が溜まってるかね」 ルイズは一瞬不安になったが、ここで逃げ出す訳にはいかない。才人が、自分の前で剣を 構えているからだ。 ルイズは、才人が敵に立ち向かい、自分を守っている姿を前にすると、ぐんぐんと精神力が 湧き上がるのだ。 「蛮人よ。無駄な抵抗はやめろ。この城を形作る石たちと、我は既に契約している。この城に宿る 全ての精霊の力は我の味方だ。お前たちでは決して勝てぬ」 再三忠告するビダーシャル。才人はそれに歯を剥き出しにした。 「うるせえ、誰が蛮人だよ。俺はお前みたいな、偉そうに余裕を気取った奴が一番嫌いだ」 ビダーシャルは首を振ると、再び両手を振り上げる。次は壁の意思がめくれ上がり、巨大な 拳に変化した。 才人も、ハルケギニア人がエルフを心底恐れるその理由を、肌で感じてきた。 「あれがエルフの“先住”かよ……」 巨大な石の拳が、ルイズと才人めがけて飛んできた。 才人は咄嗟にルイズを抱えて飛びすさって拳をかわしたが、石の拳は空中で炸裂して、 またも石礫が降りかかってきた。才人とルイズは次々襲い来る石の猛撃を前にして、 後退を余儀なくされる。 「確かにこりゃ怪獣みたいだ……」 冷や汗だらけになった才人がうめく。グレンに鍛えられた彼ではあるが、これでは戦いにすら ならない。人の身で、この城そのものを相手にしているようなものだ。 「サイト! ルイズ!」 気がつけば、自分の側にギーシュとマリコルヌがいた。キュルケも後ろに控えて、杖を握っている。 「お前ら、どうして……」 「やはり、タバサのところまで行くにはあのエルフを越えないと駄目なことが分かってね」 冗談めかしたギーシュとマリコルヌは疲弊している才人の前に立った。 「逃げろ! 俺たちで何とかする」 「いいから、黙ってろ」 「やっぱり、任せっきりって訳にはいかなくなったわね」 マリコルヌが風の呪文で石の礫をそらし、ギーシュが大きな壁を作り上げて盾にする。 キュルケは火の球を放って礫を撃ち落とす。 しかしビダーシャルは難なく壁を粉砕し、風も火もものともしない石礫を放ってくる。 「くッ!」 才人はデルフリンガーで石を弾き飛ばしたが、この調子ではすぐに押し切られてしまう。 向こうは、汗一つかいていないのである。 「参ったね……。ぼくたち、まさかこんなところで終わってしまうなんて」 ギーシュがかなり本気でつぶやいたが……才人が否定した。 「いや、そうじゃないみたいだぜ」 振り返るギーシュ、マリコルヌ。 「ルイズが呪文を唱えてる」 いつの間にか、才人の顔から疲労の色が消えてきた。後ろで唱えられる、ルイズの呪文の詠唱が 彼の心に気力をもたらしているのだ。 ルイズの身体の芯から大きなうねりが起こり、精神力が練り上げられていく。そして呪文の 完成直前に、デルフリンガーが怒鳴った。 「俺にその“解除”を掛けろ!」 ルイズの杖が振り下ろされ、デルフリンガーの刀身に“虚無魔法”が纏わりついて鈍い光が宿った。 「相棒! 今だ!」 力が溢れ返った才人は全速力で走り出し、階段の上のビダーシャルへと飛びかかった。 振り下ろされたデルフリンガーが“反射”の目に見えぬ障壁とぶつかり合い……障壁は 真っ二つに切り分けられた。 ビダーシャルを守るべき精霊力は四散した。ビダーシャルは驚愕の表情を浮かべた。 「シャイターン……。これが世界を汚した悪魔の力か!」 一瞬で全て理解したビダーシャルは、右手の指輪に封じ込められた風石を作動させ、宙に飛び上がった。 「悪魔の末裔よ! 警告する! 決してシャイターンの門へ近づくな! その時こそ、我らは お前たちを打ち滅ぼすだろう!」 空へと消えていくエルフを見つめながら、才人たちは緊張の糸が切れてへなへなと地面に崩れ落ちた。 ルイズは精神力を使い果たし、倒れかけたのをウェザリーが抱き止めた。 ギーシュがぽつりとつぶやいた。 「このぼくがエルフに勝った。信じられない」 「別にあんたが負かした訳じゃないでしょ」 モンモランシーが突っ込んだ。 ウェザリーからルイズを受け取った才人が、皆に呼びかける。 「ほら行くぞ。仕事はまだ終わってない」 「どこに行くんだい?」 「もう、タバサを捜すに決まってるでしょ」 呆けたマリコルヌにキュルケが肩をすくめた。 「ああそうだった。そのために来たんだった」 全員が立ち上がり、天守に向かおうとした……その時。 アーハンブラ城全体を、突然激しい揺れが襲い始めた! 「な、何だ!?」 「嘘だろう!? やっとの思いでエルフに勝ったのに、まだ何かあるのか!?」 ギーシュが悲鳴を上げたその瞬間……地面を突き破って、巨大な触手のようなものが飛び出してきた! 「ななななッ!? 何だぁぁぁぁぁぁッ!?」 更に城が盛り上がる……いや、下から巨大な何かに持ち上げられている! 古城はみるみる内に 崩壊していく! 「嘘!? タバサぁぁぁッ!」 「待ちなさいッ! もう間に合わないわッ!」 思わず身を乗り出して絶叫したキュルケをウェザリーが慌てて引き止めた。 「に、逃げろ! 城の崩落に巻き込まれるぞぉッ!」 ギーシュが叫び、ガラガラと降ってくる瓦礫と、下からどんどん突き出てくる触手から 逃れるために才人たちは大急ぎで城外へ向けて走り出す。 その辺に転がっている兵士たちは、触手に押し潰される……いや、皮膚を通り抜けて触手の 肉の中へ呑まれていった! 「何だ!? 何が起こってるんだ!?」 城外まで避難して振り返った才人たちの視界に……城を突き破り、姿を現した『それ』の姿が映った。 才人たちの激戦の音は、タバサの元にも届いていた。しかし確かめたくても扉も窓も“ロック”の呪文で 固く閉ざされており、部屋から外へは一歩も出ることは出来ない。故にその場でじっとして、怯える母を 慰めることしか出来なかった。 しかし城全体が震動すると、さすがの彼女も平静ではいられなかった。 「な、何……!?」 「パムー!」 奇妙な黄色い小動物は、慌てふためいて空中をぐるぐる回った。 直後に、部屋の床が盛り上がって破られる。タバサが悲鳴を上げる間もなく、彼女の目に、 巨大な人の顔のようなものが見えたような気がした。 そしてこの部屋にいるものは全て、『それ』の中に呑まれていった。 グラン・トロワの執務室にいるジョゼフの元に、ミョズニトニルンからの通信が入った。 「おお、余のミューズよ。どうしたのだ? ……何、アーハンブラ城の地下に配置しておいた、 『あれ』が動き出したのか。ということは、ビダーシャル卿は敗北したのだな。ふむ、なかなかの 実力があるようだったが、やはり“虚無”の担い手には劣ったということか」 あっけらかんと述べたジョゼフに、ミョズニトニルンはビダーシャルの安否を確かめるか尋ねた。 「いや、それには及ばん。最早あのエルフには興味をなくした。以前ならばエルフの力を 惜しがったかもしれんが、今やその必要もなくなったからな。生きてようが死のうが、 どちらでも。そんなことより、『あれ』の戦いの行方を余すところなく見届け、余に伝えて おくれ、ミューズよ。さて、我が姪は『あれ』によって、一体如何様な運命をたどるかな?」 ジョゼフは喪失感などは全くない、退屈しのぎが出来る楽しみを顔に浮かべ、歪んだ赤い球を見やった。 アーハンブラ城を突き破って地上に現れ、その巨体で才人たちを見下ろしている大怪物……。 胴体は反り返った芋虫のようで、左右に不規則に生えた触手が不気味にうねっている。そして 真ん丸とした頭部には、人のそれのように見える顔面が張りついていた。怪獣としても異形に 過ぎる、人面の化け物。 邪悪生命体ゴーデス! 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
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前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第六十二話「悪鬼ヤプール」 異次元人ヤプール人 登場 ヤプール人は恐ろしい奴だ。残忍な奴だ。ハルケギニアを征服するためには手段を選ばない。 何だってやるのだ! それがまさに、ヤプール人なのだ。 ハルケギニアに数々の侵略宇宙人を引き入れた後、ヤプール人は『レコン・キスタ』の クロムウェルを抹消。己の手駒とすり替えて、アルビオン大陸を裏から支配することに成功した。 そしてトリステインに戦いを仕掛け、その結果トリステインとゲルマニアの連合軍がアルビオンに 攻めてくることとなった。しかし、侵攻の際にはあの手この手を駆使してトリステインを 苦しめたにも関わらず、防衛に回ったら一転、いやに消極的な態度を見せた。連合軍に大きな 打撃を与えようともせず、遂にはロンディニウムの手前のサウスゴータを明け渡した。わざわざ敵に 勝利の美酒を振る舞って、ヤプール人は何をたくらんでいるのか? 何をするつもりなのか? 『誰にも分からない……分かるはずがないんだよ! ハルケギニアの馬鹿どもめッ! フハハハハハハハハ!!』 トリステイン・ゲルマニア連合軍が放棄されたシティオブサウスゴータを占領した直後、 タイミングを図ったかのようにアルビオン側から一時的な休戦の申し出があった。ヘンリーの 予想した通り、見捨てられた市民に兵糧を分け与えた連合軍はどの道動けず、これを受諾。 戦線は硬直状態のまま、始祖の降臨祭が行われようとしていた。 始祖ブリミルの降臨祭。それは地球で言うところの、クリスマスと元旦が一緒になったような 祝日である。この日を境に年が変わり、十日近くのめや歌えのお祭りが連日開催される。 戦闘行為も、その期間は一切行われないのが通例だ。 アルビオン大陸に上陸した連合軍も、その祭りをサウスゴータで迎えようとしていた。 「……そういう訳で、サイトを元気づける方法の知恵を出してほしいのよ」 今年の終わり、始祖の降臨祭の前夜のサウスゴータの宿の一室で、ルイズがデルフリンガーと 姿見の中のミラーナイト相手に相談を持ちかけていた。 雪山での二大超獣との戦闘後、ゼロの足を引っ張った才人は未だに塞ぎ込みがちであった。 初めは見放していたルイズも、だんだんと心配するようになって、こうして二人に相談をしているのである。 「何でえ。娘っ子、何だかんだで相棒のことがすげえ気がかりなんじゃねえか。初めっから 素直になっときゃ、こんなお祭りの目前まで険悪のまま過ごさなくてよかったってのによ」 デルフリンガーが呆れたように言うと、ルイズは真っ赤になって否定した。 「ち、違うわよ! あんな分からず屋のことなんて、本当はどうだっていいのよ! でも、いざ決戦って時に ゼロが本領を出せなかったら大変じゃない! だから仕方なく、ご主人さまが励ましてあげるってだけ! そ、それだけなんだからね! 誤解しないでよ!?」 「へいへい」 デルフリンガーもミラーナイトも呆れ返って流した。ルイズはあまりにも分かりやすすぎるが、 天性の意地っ張りなので付き合っていたら夜が明けてしまう。 「コホン……話を戻すけれど、私はやっぱり、貴族の価値観というものをサイトに受け入れさせるのが 一番だと思うのよね。デルフ、あんたはサイトを説得できないの? 相棒でしょ?」 まずデルフリンガーに言いつけるルイズだが、彼はあっさりと答えた。 「そりゃ無理だね。俺っちは坊さんじゃねえんだ。説教を説くなんて無理な話よ。第一、時間も なさすぎるさね」 「そう……じゃあ、ミラーナイトはどうかしら? お願い出来ない?」 今度はミラーナイトに頼む。理知的な彼ならば何か良い意見をもらえるかも、と思って この場に呼んだのだ。 しかし、彼もまた首を横に振った。 『私でも、それは難しいですね。全く異なる価値観を理解させるというのは大変困難なこと。 ましてや言葉だけでは如何ともしがたいものです』 「そうなの……残念ね」 『そもそも、その貴族の価値観というものが本当に根づいているものなのか……』 ミラーナイトのぼやきに振り返るルイズ。 「何? あなたまでそんなことを言うの?」 『いえ……この話をここで論じても仕方ないことです。それより今はサイトのこと。そちらに注視しましょう』 とミラーナイトが言うので、本題に戻る。すると、デルフリンガーがこんな提案を出した。 「いっそのこと、別方向から相棒を攻略してみるってのはどうだ?」 「べ、別方向?」 「相棒はお前さんを好いてる。お前さんの実家で告白されたの、忘れた訳じゃあるめえ」 その時のことを思い出し、ルイズは耳まで真っ赤になった。 「それなのにお前さん、相棒の気持ちになーんも応えてねえじゃねえか。好きな相手から袖にされ続けて、 それなのに嫌なことに駆り出されてこき使われて。それじゃ嫌になっちまうのもしょうがねえな」 「だ、だってそれは、あれからずっと忙しかったからだし……何よりシエスタとか、他の子に デレデレするじゃない!」 ルイズの言い分に、はあ、とため息を吐くデルフリンガー。 「相棒がギーシュとかって坊主みてえに自分から誰かとベタベタしたってのなら話は別だが、そんなんねえよ。 俺が保証する。それなのにお前さんは、ちょっと他の女が近づいただけであーだこーだ、わがままが過ぎるよ」 「う……」 「いい女ってのは、もっと心が広いもんだぜ? そこで、だ。そろそろ相棒の気持ちに応えて やったらどうだ。相棒も好きな女に頷いてもらえたら、頑張れるだろうよ」 と勧められるのだが、ルイズはもじもじしてはっきりとしない。 「そ、そんなこと言えないわよ……」 「嫌いなの?」 「そ、そうじゃないけど……」 「じゃあ好きなんじゃねえか」 「そ、そうじゃないの! とにかくそんなこと言えないわ!」 意固地なルイズは、ミラーナイトにも意見を求める。 「ミラーナイトはどう思う……?」 『あなたの気持ちの是非はともかく、サイトの心の糧を作るのはいいことだと思いますよ』 ミラーナイトもデルフリンガーの味方なので、孤立無援のルイズは散々悩んだ挙句、こう聞いた。 「……も、もっと別の言い方ないの?」 と言うので、デルフリンガーは代案を出した。 「そばにいて」 「なにそれ?」 「いい言葉じゃねえか。微妙に気持ちを伝え、それでいてどうとでも取れる。これならお前さんも 言いやすいだろ?」 ルイズはふむ、と考え込んだあと、頷いた。 「……言われてみればもっともかもしれないわね。あんた、剣のくせに妙に人間の機敏に通じてるわね」 「何年生きてると思ってんだよ。さて、あとはあれだ、言い方と状況だな……」 しばらく後、ルイズはデルフリンガーの指導により、宿屋の召使に買ってこさせた品々を前に並べていた。 「ちょっとぉ! ふざけないでよ!」 が、ルイズはデルフリンガーを怒鳴りつけていた。 「なんで黒ネコの格好しなきゃいけないのよ! しかもこんないやらしい! わたし貴族よ貴族! わかってんの?」 ルイズの前にあるのは、黒ネコの仮装。しかも際どい。 そのことについて、デルフリンガーはこう弁解する。 「その高飛車がなあ、いけねえんだ。甘えた感じで、下手に出るのが一番効果的ってもんよ」 「そんでわたしが使い魔のフリするっていうの?」 「そうだよ。いい作戦じゃねえか。祭りの席で『サイト、今まで意地悪言ってごめんね。 今日は一日わたしが使い魔になってあげる』それから『そばにおいてください』なんて言ってみ? たぶん相棒は単純だから、舞い上がってお前さんにメロメロになっちまうだろうなあ」 と囁かれて、単純なルイズはすっかり舞い上がってしまった。 そしてデルフリンガーに焚きつけられるまま、ポーズと台詞の練習をする。 「き、今日はわたしが使い魔になってあげるッ!」 「うーん、もちっとネコっぽく言ってみた方が愛嬌があるな。後、思い切ってご主人さまって 言ってみたらどうだ?」 『あ、あの……』 そこにミラーナイトが何かを言おうとするのだが、熱中しているルイズたちには聞こえていなかった。 「そ、そこまで言わないとダメなの!?」 「せっかくのお祭りなんだからよ、一日だけバカになってみ。女にはな、そういう愛嬌が大事だよ。うん」 『ルイズ、そこまでサイトと……』 才人の名前を出して、やっとルイズの耳に入った。 「サイトが戻ってきてるの!? よ、よぉーし……思い切ってやってやるわよッ!」 『そ、そうではなく、サイトとシエ……』 だが才人以外の言葉は耳に入っていなかった。ドアががちゃりと開くと同時に、ルイズは 思い切って言い放った。 「きょきょきょ、きょ、今日はあなたがご主人さまにゃんッ!」 そして……返ってきたのは、 「な、なにやってんだ? お前……」 才人の驚き顔と……シエスタとスカロン、ジェシカの面々。唖然としている。ジェシカなんか 笑いをこらえている。 「……え? な、何でシエスタたちがここに……」 「慰問隊とか何とかってので、ここに来たそうで……ついでにルイズに挨拶しに……」 才人が説明した。 恥ずかしい姿を思い切り他人に見られたルイズは、絶叫した。 「いやぁああああああああああああああああああああああああああああああッ!」 街の一等地に位置した、シティオブサウスゴータの最高級の宿屋のいわゆるスイートルームで、 アンリエッタが窓の外を眺めた。 「今、遠くから悲鳴が聞こえたような……。まさか、敵の攻撃でしょうか? すぐに銃士隊を向かわせましょう」 神経質そうにつぶやくと、同じ部屋にいるグレンが肩をすくめた。 「いや、今のは敵とは関係ねぇよ」 「そうでしたか? それならいいのですが……」 視線をグレンの方に戻したアンリエッタが、今話していた内容に意識を戻す。 「それで、わたくしたちを何度も苛ませた侵略者たちの元締め……ヤプール人というものたちは、 それほどに恐ろしい敵ということでしたね」 「ああ、そうだ。奴らはこれまでの連中とは訳が違うんだ。あんまり恐怖したら逆効果だから今までは 話してなかったけど、決戦の手前、どういう連中かアンリエッタ姫さんは知っておくべきってことになってな」 ヤプール人は表舞台に出てきたのが一度きりなので、ハルケギニア人にはその存在が知られていない。 しかし今、遂にグレンがその存在をアンリエッタに明かしたのだった。 「ヤプール人はとにかく卑怯な連中だ。手段という手段を選ばねぇ。生誕祭の人間が一番油断する期間を 狙わないはずがないぜ。たとえば、飲み水に毒を投げ込むくらいのことは平気でやる。だから祭りの最中でも、 絶対に警戒を緩めないでほしいってお願いしに来たんだ」 グレンたちが最も危惧していることは、ヤプールもしくはその手の者が連合軍の間に入り込み、 内部から崩壊させられることであった。ヤプール人は超獣を使った大規模な攻撃以外にも、 そういう卑劣な破壊工作を得意とするのだ。 しかし、アンリエッタに恐れの色はなかった。 「ご忠告感謝いたします。しかし、ご心配には及びませんわ。わたくしもその危険性を考慮し、 厳重に対策しております」 と語って、内容を説明する。 「停戦の期間中は、わたくしの信頼する銃士隊を中核とした警備網をこのシティオブサウスゴータ全土に 隙間なく張り巡らせ、怪しい動きを見せる者は逐一捕縛して正体を確かめるよう徹底して指示しています。 ネズミ一匹の謀とて見逃しません。また、いつ何時に怪獣の攻撃があっても対抗できるように、魔法衛士隊他の 対怪獣部隊を常時待機させています。わたくしたちの出来得る最善の対策を取っておりますわ」 一分の隙もない防備態勢。何度も怪獣、宇宙人の脅威を目の当たりにしたアンリエッタは 既にそれを敷いていた。さしものヤプール人も、突破は容易ではないレベルだ。 その力の入れようには、絶対に侵略者に勝利して平和を取り戻すのだという決意が表れていた。 「そっか、ならいいんだ。安心したぜ」 グレンはそう言ったが、それでも相手が相手なだけに、安堵とまではいかなかった。人間がどれほど頑張ろうと、 敵は力に物を言わせて強引に押し潰そうとしてくるだろう。そしてヤプール人はそれが可能な相手なのだ。 しかし、そんな時にこそ自分たちがいる。人間の努力を無為にしてはならない。ヤプールめ、来るなら来い! 俺たちウルティメイトフォースゼロは絶対に負けねぇぜ! グレンは胸の内に、そんな熱い思いを抱いていた。 あのあと、ルイズがものすごい勢いでへこんで閉じこもってしまったので、才人とシエスタは 彼女が落ち着くまでわざわざ別の部屋を借りて、そこで時間を過ごしていた。そしてゼロ、 ジャンボット、ミラーも交えて話をする。 『なるほど、ルイズのあの珍妙な振る舞いは、そういう理由だったのか』 ミラーから説明を受けたジャンボットがつぶやくと、ミラーが取り成す。 「珍妙とか言わないであげて下さい。ルイズも、サイトのためを思って必死だったんですよ。 サイト、ルイズのその想いだけは分かってあげて下さい」 ミラーに続いて、ゼロも才人を説得する。 『才人、お前もあれこれ複雑な気持ちだと思うけどさ、何もルイズも悪気があって厳しいこと 言うんじゃないんだぜ。この戦が終われば、いつものルイズさ。だからそう思い悩むなって』 「うん……」 それは分かっているけど……と才人が思った時、シエスタが口を開いた。 「わたしは……ミス・ヴァリエールや貴族の言い分の方が、納得できません」 「シエスタ?」 シエスタは才人の目をじっと見つめながら語った。 「サイトさんの言う通りです。どんなに言葉を飾っても、結局貴族は自分たちの欲のために 人を殺すんです。そんな殺し合いに、サイトさんを巻き込むなんて……。本来サイトさんは、 この世界に何の関係もない人なのに……ひどすぎますッ! サイトさんが、死んでしまうかもしれないのに!」 あまりにシエスタに熱が入っているので、才人はむしろ戸惑ってしまった。おどおどとした様子で 彼女をなだめる。 「し、シエスタ、気持ちは嬉しいけどさ……俺にはゼロがついてくれてるんだし、滅多なことには ならないよ。ヤプールだって、ウルティメイトのみんながいればきっと勝てるから」 シエスタは少々落ち着いたが、小刻みに震えていた。 「すみません……。でもわたし、心配なんです。すぐ下の弟も参戦してるから、他人事じゃないですし…… 何より、嫌な予感がするんです」 「嫌な予感?」 「はい……。サイトさんに、なにかよくないことが起こるんじゃないかって。そんな嫌な思いが してならないんです……。今連合軍が勝ってるのも、何か悪いことが起こる前触れとも思えて……」 それは、ゼロたちも考えていることだ。むしろ、確信を持っていると言ってもいい。ヤプールは絶対に 何か謀略の用意をしている。今の快進撃は、その嵐の前兆でしかないと。 しかし彼らは、シエスタのためにこう呼びかける。 『シエスタ、安心するのだ。サイトの言った通り、我々がいる。こんな勇敢な少年を、ヤプールの餌食に させたりはしない。我々が何としてでも助け、守り抜く! 鋼鉄武人の名に懸けて誓おう』 「その通りです。私たちが命の盾となります。そのためのウルティメイトフォースゼロです」 『俺たちは何があろうと、絶対に負けねぇ! シエスタ、俺たちを信じてくれ!』 「皆さん……」 ジャンボット、ミラー、ゼロに続いて、才人もシエスタを軽く抱きしめて、彼女に囁きかけた。 「シエスタ、ありがとう。君を守るためだけでも、俺は存分に戦える気がしてきた」 「サイトさん……」 「どんな敵が相手でも、俺は必ず帰ってくるよ。そして学院に帰ろう。絶対に」 「……はい……!」 いつしか、窓の外には雪がはらはらと降り始めていた。銀の降臨祭といったところか。 幻想的な背景の中、サイトとシエスタは約束を交わした。 様々な人たちの、様々な想いが行き交う中、新年の始まり、始祖の降臨祭は幕を開けようとしていた。 しかし……異次元の悪鬼ヤプールは、そんな人々の想いを嘲笑うかのように、彼らの想像を絶する おぞましき奸計を張り巡らしているのだった! 夜空に満開の花火が打ちあがる。シティオブサウスゴータに並ぶ人々は、連合軍、町民関係なしに 一様に歓声をあげた。 遂に一年の始まりを告げるヤラの月、第一週の初日である、降臨祭の初日が始まったのである。 しかしそれとほぼ同時に、連合軍首脳部には凶報が飛び込んできた。ロンディニウムにいるはずの アルビオン軍主力が、突如としてサウスゴータのすぐ側に出現したと。 ヤプールの手引きである。異次元人の力をもってすれば、その程度の奇襲は容易いことなのだ。 だがしかし、通常なら恐るべきことであるこの事態も、アンリエッタたちにはさほど驚くべき ことではなかった。何故なら、相手は神出鬼没の侵略者。十分予想できたことであり、実際そのための 厳重な防備態勢である。迎撃態勢はすぐに完了した。 これ以上何も起こらなければ、問題なく迎撃できる計算であった。そのため、連合軍には余裕すらあった。 「侵略者の犬どもめ、その程度で聡明なる女王陛下を出し抜いたつもりか。貴様らを一人残らず 返り討ちにして、我々の大々的な勝利で降臨祭の最初の夜明けを飾ってやろうではないか」 連合軍総司令官のド・ポワチエは冷笑を浮かべながら、黒檀にトリステイン王家の紋章を金色で 彫り込んだ元帥杖を振るった。彼はつい先程、元帥昇進が決定したばかりなのであった。最後の決戦を、 元帥杖で指揮させてやろうという財務卿の計らいであった。 そして今にも両軍の激突が始まろうとしたその時、それは起こったのだ! シティオブサウスゴータの夜空の一画が、バリィィンッ! とガラスのように割れた。 そして真っ赤な空間の中から、大怪獣が空の縁をまたいで出てくるところを大勢の人間が目撃した。 「キィ―――キキキッ!」 緑の怪しく輝く眼球を持った虫型の超獣、アリブンタだ。ヤプールの刺客である。さすがに方々から 悲鳴の叫びが起こる。 「超獣が現れやがったか!」 「ええ。私たちの出番ですね!」 そこに駆けつけたのがグレン、ミラー、そしてシエスタと才人だ。ウルティメイトフォースゼロは、 これより超獣撃退のために出撃する。 それと同時に、ヤプールとの決着をつけるつもりであった。その手段は、ヤプールの潜む異次元に 直接乗り込むこと。通る道は、超獣を送り込むためにヤプール自身がつなげるあの空の穴だ! 危険はあるが、 強引にでも入り込んでヤプール自体を叩く。虎穴に入らずんば虎児を得ず。その覚悟で挑まなければ倒せない相手である。 『超獣を撃破したら、俺たちの力を合わせて空の穴を固定する。そして一挙に乗り込むぞ!』 「はい!」『了解した!』「おうッ!」 ゼロの呼びかけに三人が応答し、一斉に出撃しようとする。 しかしそれを制するかのように、別の方角で空がバリィィンッ! とまた音を立てて割れた。 「ギ―――!」 今度は腹に丸鋸を、背に翼を生やした直立するトカゲのような超獣、カメレキングである。 「二体目ですか!」 ミラーが叫んだが、そうではなかった。更にバリィィンッ! と別方角の空が割れ、また別の超獣が出現する。 「カァァァァァコッ!」 緑色の鱗で全身を覆った魚に似た超獣、ガランである。 更に別方向からバリィィン! と音が響いた。 「パオ――――――――!」 ワニの顔面を持った特に巨体の超獣、ブロッケンだ。 「四体出てきたか……! けど俺たちは負けねぇぜ!」 一気に現れた四体の超獣。だが予想できなかった訳ではない。元より一体二体だけが出てくるとは 思っていない。複数の超獣を相手にする気概は既に出来上がっている。 だが――。 バリィィンッ! バリィィンッ! バリィィンッ! 『えッ!?』 バリィィンッ! バリィィンッ! バリィィンッ! 「なぁッ……!?」『ま、まさか……!』 バリィィンッ! バリィィンッ! バリィィンッ! 「お、おいおい……! これって……!」 空の割れる音が止まらない。 ゼロが、ミラーが、ジャンボットが、グレンが、大勢の人間が……その光景に絶句した。 たちまちの内に、シティオブサウスゴータを超獣が取り囲んだのだ! 「ガガガガガガ!」「バ―――オバ―――オ!」「ガアオオオオオオ!」「ギュウウゥゥゥゥゥ!」 「キィィ――――――!」「ギョロオオオオオオ!」「キャ――――――オォウ!」「ホォ―――!」 「キュウウウウッ!」「キョーキョキョキョキョキョ!」「グオオオオッ!」「グゴオオオオオオオオ!」 「ゴオオオオォォォォ!」「ギャア――――――――!」「カアァァァァァァ!」「キャオォ――――――!」 「ブウルゥッ!」「キャアァ――――――!」「キョキョキョパキョパキョ!」「ギギギギギギ!」 「ギギャ――――――アアア!」「キュルウ―――!」「グオオオォォォ!」「ゲエエゴオオオ!」 「キャア――――オウ!」「キョキョキョキョキョキョ!」「グロオオオオオオオオ!」「キャアアアアア!」 「アオ――――――!」「キュルウウウウ!」 ガマス、ザイゴン、ユニタング、サボテンダー、バラバ、キングクラブ、ホタルンガ、 ブラックピジョン、キングカッパー、ゼミストラー、ブラックサタン、スフィンクス、 ルナチクス、ギタギタンガ、レッドジャック、コオクス、バッドバアロン、カイテイガガン、 ドリームギラス、サウンドギラー、マッハレス、カイマンダ、フブギララ、オニデビル、 ガスゲゴン、ダイダラホーシ、ベロクロン二世、アクエリウス、シグナリオン、ギーゴン……! 「ギギャアァァァ――――――!」 そしてジャンボキング! 総勢三十五体もの超獣にシティオブサウスゴータを囲まれる状態と なってしまった! ウルティメイトフォースゼロは……一つの思い違いをしてしまっていた……。それは、ヤプールの 軍勢の規模である。 今日までに多くの侵略宇宙人を撃破したことで、無意識の内に敵を追い詰めているという考えを 持ってしまっていた。また、魔法学院襲撃の際、刺客として差し向けられた超獣が四体だったので、 控えの超獣もそう多い数ではないと思い込んでしまった。あの場面で出し惜しみするはずがない、と……。 だが事実は全くの逆だった! ヤプールは軍団の規模を隠すために、あえて少ない数を出してきたのだ! 宇宙人やベロクロンらは犠牲を前提として送り出されたのだった! そしてアルビオン軍出現を知る者たちは、恐ろしい考えに行き当たっていた! これだけの数の超獣がいるのだったら、アルビオン軍は必要ない。むしろ戦いの邪魔となる存在のはず……。 それをわざわざ送り込んできたということは……。 ああ、何ということだ! 彼らは戦いのためではなく……超獣の贄にされるためにここへ来たのだ! 『フハハハハハハハハハハ! 人間どもめぇ、絶望したかぁ!!』 ヤプールは、異次元の虚空の中でけたたましい哄笑を上げていた……。 『これから始まるのは戦ではない……。貴様らの処刑なのだぁッ! 貴様らは殺されるために、 浮遊大陸まで来たのだよぉッ! ハハハハハハハハハハハハハァ―――――――――――!!』 これから、ハルケギニア史上最悪の降臨祭が始まる……! 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
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人の噂も七十五日とはよく言ったもので、しばらくするとンドゥールへの好 奇の視線は徐々に数を減らしていき割りあい静かな日常が流れるようになっ た。その中でも変わらないのは、一歩寝室を出ると始まるキュルケとルイズ の喧嘩ぐらいなもの。ンドゥールとキュルケの親友であるタバサはそれが治 まるのを待ってから食事に行く。途中、街の武器屋から買い上げた喋る剣の デルフリンガー(特に変わったことはなかったので場面は省略)があまりの 疎外感に悶え苦しむ声を上げるのも日常のひとつになっていた。 そんなある日のこと、先日サモン・サーヴァントを行った学院の2年生たち は中庭で熱心に自分の使い魔たちに訓練を強いていた。おかげで一種の魔境 のようなものを形成している。その光景をルイズは憮然とした表情で眺めて おり、彼女の後ろでンドゥールはそばのシエスタに説明を求めていた。 「品評会ですね。毎年恒例の行事です。召喚した使い魔を学院中に紹介する んですよ」 「それには、俺も出るのか?」 「当たり前でしょ!」 ルイズがンドゥールに振り向いて怒鳴るが、またもとの表情に戻ってしまう。 「どうした?」 「どうしたもなにも、すっかり忘れてたのよ。なにをやらせればいいのか、 気の利いたスピーチとかできる?」 「やったこともない」 はあ、と、ルイズは大きくため息をついた。 「でも、困りましたね。今年はアンリエッタさまがごらんになられますのに」 「それよ! それが問題なのよ! どうしたらいいの!?」 桃色の艶やかな髪をルイズは乱暴にかき乱している。切羽詰った状況なのだ ということは明らかだった。 「アンリエッタとは……」 「この国の王女さまです。陛下がお亡くなりになってからは国民の象徴的な お方なんですよ」 「それだけじゃないけど………ともかくンドゥール、なにか特技はないの?」 「俺様の出番だな!」 「うるさい」 せっかく自己主張したところで持ち主から手厳しい扱いを受けるデルフリン ガー。鞘に収まったままでも哀愁が漂っているが、誰も気をかけるものはい ない。 「それでは、私も姫様のお出迎えの準備がございますので。それで、ですね、 あの、ンドゥールさま、」 「なんだ?」 「その、よろしかったら小腹が空いたときにでもお召し上がりになっていた だければと思いまして、このようなものを」 白い布を被せた小さなバスケットをシエスタは差し出した。かぐわしい香り がンドゥールに届く。 「……いただこう」 「ありがとうございます!」 シエスタは大きな声で礼をいい、小走りにその場を去っていった。 「相棒やるなあ」 「あんたいつからあのメイドとそんな関係になったのよ」 デルフリンガーとルイズが声をかける。片方はからかうような調子、もう片 方は若干声音に棘があった。どちらがどちらかは言うまでもない。 ンドゥールは二つの声を無視して受け取ったそれを丁重に懐に収めた。 「それで、いい案は浮かんだのか?」 「なんにも。大体、あんたにできることがなんなのかよくわかっていないん だもん」 じっと非難を込めた目で見上げた。暗に異常聴覚だけが特技ではないだろと 尋ねている。が、ンドゥールはそれを無視する。 「俺にできることは戦うことだ」 「誰と戦うってのよ。親衛隊とでもやるっていうの?」 「それでもかまわん」 ルイズはンドゥールをにらみつける。 「あのね、ギーシュに勝ったぐらいで調子に乗ってるんじゃないわよ! 親衛隊なんか、一人でギーシュの10人分はあるわよ! 無謀もいいと ころだわ!」 大声だったおかげでそれはギーシュに届き、彼は打ちひしがれてモグラに慰 められることになった。 「しかし、ギーシュ10人なら楽だ」 追撃が入る。 「……それは、そうかもしれないけどだめよ! 大体いまのは例えなんだし、 実際は10人どころか100人かもしれないのよ!」 再追撃。 「まあ、例えはどうでもいい」 ようやく攻撃がやんだ。 「ともかく俺にできることは戦うことだけだということだ」 「あんたねえ、蛮族じゃないんだから」 「もともと似たようなものだったよ」 ンドゥールは軽々と口にした。しかし、少なからずルイズには衝撃的な内容 だった。 「……なんで?」 「国の事情というのもあるが、やはりこの目が大きい。仕事も何もなければ そういうことをするしか生きる方法はない。躊躇いはなかったさ」 「捕まったりとかしたら、どうなってたの?」 「死刑だ」 考えることもなく即答した。 ルイズがンドゥールを見ると、微笑を浮かべていた。諦観を含んだものでは なく、そこには『満足』があった。なぜ、そんな過酷な人生を送っていなが らそんな笑みを浮かべられるのか、ルイズは疑問を持つとともにうらやまし くなった。 結局、ンドゥールがなにをやるのかはまったく決まらぬままその日が来てし まった。 学院の全生徒、および教師によってのアンリエッタ王女の出迎えは昼に終わ ったものの、歓迎の宴が長く続いたので生徒たちが部屋に戻るころには夜の 帳が下りてしまっていた。 ルイズは愛用の寝巻きを着てベッドに腰をかけ、ンドゥールはデルフリンガー をぶん、ぶん、と振るっている。ただ振り回しているだけで、技巧も何もない。 「ほんとにからっきしなんだ」 「ああ。第一、俺はこいつを武器に使うために選んだのではない」 「おいおい、そりゃひでえよ相棒。剣は使ってナンボだぜ?」 「お前が他より勝っていることは喋ることじゃないのか?」 「心がいてえぜ! て、待てよ。確かに喋れるけどよ、ただ無為なことばか りじゃねえぜ。お前さんのいまの状態、それがなんなのかを教えられるぜ」 「いまの状態?」 ルイズが聞くと、ンドゥールはデルフリンガーを壁に投げつけた。 「余計なことを口にするな」 「わ、悪かったって、そんな怒るなよ相棒」 鞘に収まったまま謝るがもう遅い。つかつかとルイズがンドゥールに歩み、 その無骨な顔を見上げた。 「いまの状態ってなんのことよ。答えなさい」 「……悪いことではない。それでいいだろう」 「よくないわよ! いいこと、使い魔の状態は逐一主人は知っておかないと ならないの! いいから教えなさい!」 ンドゥールはしばしの間黙っていたが、ゆっくりと口を開きかけた。が、何 を思ったのか突如ルイズを抱き上げてベッドへと連れて行った。そして横た わらせると、何も言わずに大きい手で彼女の口をふさいだ。 そこでようやくルイズは自分がどえらい状況になっていることに気づいた。 例の行為、それが連想される。 脳が爆発しそうなほど彼女は混乱し、めいっぱい暴れようとした。だが、 ンドゥールの力は強く、跳ね除けるどころか微動だにできなかった。 (ああ、お母様。申し訳ありません) ルイズがそう諦めかけて祈りだしたとき、不意にンドゥールは手をどけた。 涙目だった彼女は三度瞬きをして、そばに立っている使い魔に食いかかった。 「あんたいきなりなにすんのよ! この犬ッコロ!」 「説明せずにいきなりあんなことをしたのはすまなかった。だが、少しばか し気になることがあったのだ」 「へえ、言ってみなさい。なによそれは」 「何者かがこの宿舎に入ってきた」 ルイズはンドゥールの顔を見た。短い付き合いだが無意味なうそをつくよう な男ではないと改めて確認した。 「念のために聞くけど、ギーシュの逢引じゃないでしょうね」 「それなら足音ですぐにわかる。入ってきたのはこの宿舎で寝泊りしている 誰のものでもなかった。が、心配することはなくなった。なぜ彼女が、今現 在ここへ向かっているのかは不明……」 コンコン、と、ンドゥールの話をさえぎるようにドアがノックされた。ルイ ズは緊張ですぐさま顔を張り詰めさせたが、その使い魔はというとなんの警 戒心もなしに扉を開けた。するとフードを被った女性が一人、飛び込んでき た。 「あ、あなただれ?」 そう尋ねると、その人物は顔を露にした。ふんわりとした黒髪にやわらかい 表情、ほんの数時間前までルイズは彼女を見ていた。 「ひ、姫殿下!」 フードの下から現れたのは、アンリエッタ王女だった。彼女はぎゅっとルイ ズに抱きついた。 「ああルイズ、ルイズ、懐かしいルイズ」 「いけません姫殿下! このような下賤なところへ来ては!」 「そんなことを言わないで。お友達じゃないの」 「積もる話があるようなら出るが」 ンドゥールがデルフリンガーをもって尋ねる。そこでようやく王女も彼の存在に 気づいた。 「……ルイズ、そういえば彼はどなたなの? 昼もあなたのそばに連れ立って いましたけど、恋人?」 「こい………違います! こいつはそんなんじゃなくて、ただの、ただの使 い魔です!」 「使い魔……でも、彼は人間では。なにかが擬態しているのですか?」 「俺は人間。ンドゥールと――」 しゃべる途中でルイズの攻撃が入った。 「何をする」 「言葉遣いを弁えなさい! 言ったでしょう、姫殿下なのよ!」 「いいのルイズ。堅苦しいのは抜きで。それにしても、本当に人間なのです か?」 「いえ、その、こいつはちょっと変わったやつでして、」 「盲目なのだよ」 まぶたを上げて、光の映らない瞳でアンリエッタを見つめた。彼女もやはり 驚いたが、怖がることはなく哀れむこともなかった。そこはさすがに王女で あった。 「それで、そもそも王女はなぜここにやってきたのだ?」 「いえ、単に懐かしいお友達の顔を見たくなりまして。あとはルイズが明日 なにをするのかが気になるぐらいですわ」 「………」 ルイズはものの見事に固まった。 まさかこの時点でまったくもってきまっちゃいませんなどと口が裂けてもいえ ないからだ。そんな恥知らずなこと、敬愛する人物に誰が言えようか。 「何も決まってない」 「んがー! 何で言うのよ! このバカバカバカー!」 「黙ってても仕方なかろう。でだ、王女よ。ついでだ。その件で頼みがある んだが、」 「あんた、まさか……」 ルイズは黙らせようとした。しかしンドゥールはそれを頼んでしまった。そ してアンリエッタは、快く応じてしまった。 もはや後戻りはできるはずもなかった。
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わたしは今、馬車に乗っている。ミス・ロビンクルが御者を務め、キュルケと タバサ、プロシュートの四人で荷台に乗っている。 「フーケってのは何者なんだ?」 プロシュートは知らないらしい、今から捕まえにいく『土くれのフーケ』の説明をする。 「通称、土くれのフーケ。マジックアイテムが好きな盗賊よ。フーケは深夜に こっそり忍び込んだり、白昼堂々ゴーレムと現れたり。神出鬼没、男か女かも 分からない。ただ、盗んだ後にフーケのサインがしてあるだけ」 「名前から察するに土系統のメイジか?」 「そうね、少なくともトライアングルクラスのメイジね」 「これは、罠の気がする」 プロシュートが聞き捨てならないことを言い出した 「気?気がするですって、何で?」 「俺の勘だ」 「勘ですって?」 馬鹿馬鹿しい、わたしは何を期待したというんだろ 「悪くないんじゃないの、女の勘とか言うし」 キュルケ、こいつは男よ 「勘、馬鹿には出来ない」 タバサも同意らしい、滅多に開かない口を利いた 「今まで、捕まらなかったフーケの情報が何で今回入手できたんだ? それは、目撃されたのでは無く、ワザと見つかったと考えるべきだ」 「ダーリン、冴えてる」 プロシュートの仮説にキュルケが目を輝かせ、タバサがコクコク頷いている 「確認しとくぜルイズ、フーケは生け捕りにして破壊の杖をゲットすりゃいいんだな」 一々物騒なのよね、この使い魔は 「ミス・ロングビル、後どれくらいで着くんだ?」 「もっ、もうすぐですわ」 プロシュートに声を掛けられたミス・ロビンクルはうっすらと汗を掻いていた 「どうした、暑いのか?」 「ええ、なんだかこの辺りは蒸しますし」 ミス・ロングビル・・・なんだか怖がっているように見えるのは気のせいだろうか?
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第1章 前編 「あんた誰?」 値踏みするように、自分を覗き込む少女が問いかける。 …君こそ誰だ? ここはどこだ? 体を起こし、質問に質問で返そうとしたが……身体が応答しない。 目を開き、首を少し動かして、視野を確保するのが精一杯であった。 (身体が…重い…… 今敵に襲われたら… 楽に…逝けるな……) 何よりも男落胆させたのは、大切な相棒…”友”が自分の隣にいないことであった。 何の返答も無い。 (もしかして私… ”死体”を召喚しちゃった!? …でも、目は開いてるし…首もすこし動いてる? …ケガでもしてるのかしら?…) 少女は自分が召喚した生き物の安否を確かめるため、”それ”のそばに近寄り、まじまじと観察してみた。 どうやら初見通り、人間の男性らしい。 「黒地に、細い白い縞模様(ピンストライプ)」の変な服を着ている。肩には、鎧の肩当ようなモノを着けている。 (傭兵か兵士? まぁ、貴族ではなさそうね…) 呼吸に合わせ、身体が上下している。 (良かった… 生きてる… …ケガらしいケガも見当たらない…) (”死体”なんか召喚した日には、「”使い魔のライフポイントがゼロ”のルイズ」って呼ばれかねないもんね…) 自嘲気味に、安堵の気持ちを心の中で呟いた後、今度は首から上を改めて見てみる。 髪をいくつかに束ねて、植物の房のような髪型。額には、黒いバンダナを巻いている。顔立ちはなかなかの男前…だと思う。 男は一生懸命、目をぐるぐると動かしている。意識はあるようだ。 (…平民が使い魔だなんて気に入らないけど… 出てきたものはしょうがないわ・・・) 少女は人生で(まだ十数年ではあるが、それでも)トップ3に入るほどの譲歩と妥協をしてのけた。 (…やっぱり何事も最初が肝心よね? 御主人様としての威厳を見せ付けないと…!!) (ここはどこだ?) 自由の利く目を最大限使い、少しではあるが首も動かし、辺りを確認してみる。 …どうやらヴェネツィアの広場ではないらしい。なにやら少女以外にも、沢山の人の気配がする。 (…確かにオレは…・・・ヴェネツィアで死んだはず……だよな) 何故ティッツァが隣にいないのか。何故生きているのか。何故ヴェネツィアから移動しているのか。何故…。 疑問はたくさん有るが、それよりも、今現在何をするべきかを考えなくては……。 先ほど自分に声をかけてきた少女が、近くに寄ってきていた。 ……オレを観察してるらしい。 (まさか、コイツが”新手のスタンド使い”ってことは……) 最初に目に飛び込んできたのは、桃色がかったブロンドの、綺麗な長い髪である。 大地に仰向け状態のまま、動けぬ自分から見上げると、背景の青空のせいで、より桃色が映えて見えた。 顔だって整っている。美人というか、美少女というか。とりあえず、十分”有り”である。……色気は感じられないが。 (あと何年かすりゃもっと”化ける”な……って、そんな場合じゃねーな) 微妙に緊張感が無くなっている。いや、集中力と思考力が下がってきている。 (このまま目をつむったら楽になりそうだ……) 緩やかに、穏やかに”生”を終えるときは、こんなカンジなのだろうか……。 男の顔前に可愛い小さな顔が移動してきた。 「…もう一度聞くわ。 あなた誰? 名前は?」 落ちついた調子で、問いかける。 (…多分……スタンド使いとは違うな……答えても問題なさそうだ・・・) 少女の考えた”余裕のある威厳”を感じたからか、男が沈黙を破った。 「………スクアーロ…」 消え入りそうな声。スクアーロの全身全霊を込めた主張であった。 「そう、”すくあーろ”ね? どこの平m「ルイズ、『サモン・サーヴァント』で平民呼び出してどうするの?」 誰かが、少女の威厳ある対応を横から完全にぶったぎる。それを受け、少女以外の人間が笑う。 「ちょ、ちょっと間違えただけよ!」 少女は怒鳴るが、周りの人間は気にしていない。それどころが、さらに追い討ちをかける。 「間違いって、ルイズはいっつもそうじゃん」 「ルイズの失敗率は世界一ィィィッ!!」 「さすがはゼロのルイズだ!」 誰かがそう言うと、人垣がどっと爆笑した。 少女の名前はルイズというらしい。 (やっぱり平民の使い魔なんて嫌!) …ルイズは先ほどの譲歩と妥協をあっさり撤回した。 「ミスタ・コルベール!」 ルイズはスクアーロに背を向け、怒鳴った。 すると、中年の男が前にでてきた。……生え際は完全に後ろへ下がっていた。むしろ無い? ルイズはミスタ・コルベールに怒鳴りながら、コルベールはミス・ヴァリエールを諭しながら、会話をしている。 「もう一度……!!」 「それは……」 …なにやら、召喚だの儀式だの、果ては使い魔なんて単語が出てきた。 「でも平民を使い魔にするなんて聞いたことがありません!」 ルイズがそう言うと、再び周りがどっと笑う。ルイズは人垣を睨みつけるが、笑いは収まらない。 「…たとえ彼が平民でも、君の使い魔になってもらわなくてはな」 「そんな……」 ルイズはがっくりと肩を落とした。 「さあ、儀式の続きを…」 「えー、彼と?」 ルイズとコルベールは、まだ話し合っていたが、ルイズの勢いは完全になくなっていた。 (……平民てオレのことか? …使い魔になる?オレが?) 聞こえてくる会話と自分の状況を何とかすり合わせ、導き出した答えは納得できないものであった。 というか、理解できない代物であった。 (そもそも使い魔ってなんだ? 契約?書類でも書くのか?) スクアーロが、脳内で謎と疑問軍団と戦っていたとき、ルイズがスクアーロの方に向き直った。 「ねえ… あんた…聞こえてる?」 「……何とかな」 そう。と一言いうと、ルイズはスクアーロの左手真横に、立て膝の状態で構える。 「あんた、感謝しなさいよね。貴族にこんなことされるなんて、普通は一生ないんだから」 貴族?またとんでもない単語が出てきたな…。 ルイズは諦めたように目をつむる。 手に持った、小さな杖をスクアーロの目の前で振った。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 朗々と、呪文らしき言葉を唱え始めた。 すっと、杖をスクアーロの額に置いた。 そして、横たわったままのスクアーロの唇を奪う。 ズキュウーーーz___ン それはまるで、王子様が眠れるお姫様へのキスするかのように。…配役は逆だが…。 「終わりました」 スクアーロから唇を離し、ミスタ・コルベールに告げる。 ルイズは顔を真っ赤にしている。どうやら照れているらしい。 …まさか初めてのキスじゃねぇよな? スクアーロの予想は的中していたが、それを確認するほど野暮ではなかったし……。 「誰にでも、初めてはある」ということだ。 「『サモン・サーヴァント』は何回も失敗したが、『コントラクト・サーヴァント』はきちんとできたね」 コルベールが嬉しそうに言った。 「相手がただの平民だから、『契約』できたんだよ」 「そいつが高位の幻獣だったら、『契約』なんかできないって」 すかさず野次が飛び、ルイズがそれに噛み付くように反撃してゆく。 …よくやる……。 ルイズと巻き毛の子をコルベールが宥めていた。そのとき、スクアーロの体が妙に熱くなった。 「うぐァァ! ぐうううう!」 仰向けの体勢から、体を丸め、何とかこらえようとする。だが……。 熱い!これはまるでッ!……そうッ!あの時のッ!ナランチャにッ!エアロスミスで撃ち込まれた時と同じッ!全身に機銃をブチ込まれた感覚と同じだッ!! スクアーロが何かをこらえている様子を見て、語りかける。 「すぐ終わるわよ。『使い魔のルーン』が刻まれているだけよ」 余りにも事も無げに告げるルイズを睨みつける。 「あのね」 「なんだッ!」 「さっきからあんた……。平民が貴族にそんな口利いていいと思ってんの?」 うるせぇ!と怒鳴りつけてやろうとした瞬間、熱さが消え、体は平静を取り戻した。 「ふぅ……。」 熱さが引くと、今まで言うことを聴かなかった身体が素直になった。むしろ絶好調といっても良い。 最高に「ハイ!」ってやつかアアアア? コルベールが近寄り、スクアーロの左手を確かめる。 「珍しいルーンだな。…なかなか興味深い」 そんなに興味深いなら、テメーのその光るデコに、オレがじっくり刻んでやろうか!? さっきまでの諦観的・悲観的な気持ちから一転、強気なセリフを思いつくほど”息を吹き返した”。 「…それでは皆、教室に戻りましょう」 少しだけ名残惜しそうにしながら、スクアーロの左手から視線を外し、二・三歩歩くと宙に浮いた。 飛んだ…のか……? …ッ! スタンドかッ! さっと身構える。しかし……。 (水がッ…!? 水がねぇッ!) 慌てて周りを見渡すが、水溜りすらない。さらに他の生徒と思わしき連中も一斉に宙に浮く。 (全員スタンド使いかッ!? いや、いくら何でもそれはありえねぇッ!?) 「ルイズ、お前は歩いてこいよ!」 「あいつ『フライ』どころか『レビテーション』さえもともにできないんだぜ」 「その平民、あんたの使い魔にお似合いよ!」 口々にそう言って笑いながら飛び去っていく。 自分への攻撃でなく、純粋に移動手段であることに安心するとともに、思いもしない光景にかなりの衝撃を受けた。 警戒を解き、飛んでゆく人間?を見送ることしかできなかった 二人きりになって、ルイズは大きなため息をつきながら、大声で怒鳴った。 「あんた、何なのよ!」 それからはただただ一方的にルイズがまくし立てた。 なんで、私の使い魔が平民なの?グリフォンとかドラゴンがよかったのに!どっからきたの?何その格好?その変な髪型は意味有るの? …質問というか、今までの鬱憤を晴らすかのごとく、身振り手振りで「疑問と要望」をぶつけてくる。 そんなルイズに何の反応もしないスクアーロ。何か考え事でもしているようだ。 返答しない使い魔のそっけない態度に、さらに燃えつきるほどヒート!!…アップしようとするルイズ。 そんな御主人様を、使い魔はいきなり抱きしめた。 「ちょ、ちょっと1? な、なにするd 「色々言いたいことはあると思うが、オレたちが最初にすべき事は…」 「互いの理解を深めること。 それには”コレ”が一番早い……」 スクアーロは目を閉じ、ルイズにキスをしようとしたが……。 次の瞬間、スクアーロの大事な部分は無言で蹴り上げられた。 薄れ行く意識の中で、スクアーロは友に「反省と考察?」を述べた。 …やっぱり慣れないことはするもんじゃないな……。 ティッツァーノ… ここがどこだかわからねぇが……。 かなりヤバイところってことと……。 ここの女の子は可愛いが…気が強くて…攻撃的ってことは確実だぜ……! うずくまり、微笑を浮かべながら気を失う使い魔と、赤面しつつ、怒りに体を震わせながら使い魔を見下ろす御主人様。 …なんとも空の『青』に『赤い顔と桃色の髪』が映え、大地の『緑』に『黒い服』が良く馴染んでいた……・ 第1章 オレは使い魔 前編終了 To Be Continued......