約 3,744,666 件
https://w.atwiki.jp/83452/pages/9946.html
唯「すー、すー……」 お姉ちゃんは天使です。 いや人間なのはわかってますけど、天使のように美しいんです。 その顔を見るたびに、とても心が清らかになって、元気になる気がします。 起きている時のお姉ちゃんの顔は、そう思います。 だけど、毎朝起こしてあげる時。 お姉ちゃんの寝顔を見ている時は…… まるで悪魔にささやかれているような気持ちになるのです。 憂「……」 いま、私はお姉ちゃんの部屋にいます。 眠っているお姉ちゃんのそばに立って、じっとその寝顔を見おろしています。 すうすう穏やかな寝息を立てているお姉ちゃんは、きっといい夢を見ているのでしょう。 すこしだけ膨らんだ胸は、呼吸にあわせてゆっくりと上下しています。 毎朝見ている光景。 ふだんと違うのは、部屋にはほんの薄明かりしか射していないこと。 つまり、夜なのです。 お姉ちゃんに許しもうけていないのに、 こうして夜中に勝手に忍び込んで、お姉ちゃんの寝顔を見つめているということです。 唯「……ん」 お姉ちゃんがもぞっと動きます。 私は少しだけ気が引けましたが、そのまま動かずとどまります。 もっとお姉ちゃんの寝顔を見ていたかったから。 唯「あ……ふ」 お姉ちゃんの唇が、「あずにゃん」と動いた気がしました。 胸がぎゅうっとしめつけられます。 お姉ちゃんの寝顔はやはり悪魔だと思います。 わたしに悪いことばかりささやきかけてきます。 憂「……かわいいな」 静かに膝をつき、お姉ちゃんの顔にさらに近づきます。 お姉ちゃんの寝息が大きく聞こえます。 胸の高鳴りを抑えられません。 お姉ちゃんはお姉ちゃんだけど、姉妹だっていうのはわかってるけど、 それでも、もう引き返すことはできないように思います。 せめて今、お姉ちゃんが目を覚ましてくれれば…… そんな思いでお姉ちゃんの頬を撫でてみます。 唯「……♪」 憂「っ」 お姉ちゃんは、かわいい寝顔をさらに気持ちよさそうにゆるませただけでした。 憂「……ごめんね、お姉ちゃん」 呟いた唇が、お姉ちゃんのそれに向かっていきます。 憂「んむ……」 薄く開いた唇から漏れ出るような吐息を、私のくちびるで閉じ込めます。 ふわっとしたようなやわらかい感触。 お姉ちゃんはすこし唇をもごつかせた後、 むりやり私たちの唇同士の隙間から呼吸を続けます。 唯「んん、うぅ……」 お姉ちゃんが苦しげな声を上げているように思います。 ですが、お姉ちゃんとのキスが、 お姉ちゃんとキスしているという思いが、 その他一切の考えを遠くへ追いやってしまいます。 唯「ふぅ、ぶ……うぅーっ」 お姉ちゃんが、いちだんと大きく呻いたかと思うと、 ぐいっと右腕で私の顔を押しのけました。 憂「……」 唯「はーっ、はぁー……かはっ」 お姉ちゃんが咳き込みます。 あぁ、起きたろうなあ。 私はまだキスの感覚からぬけきれず、ぼんやりと座りこんだままです。 唯「……うい?」 お姉ちゃんがうっすら目を開けて、私を見ています。 憂「お姉ちゃん、起こしてごめんね」 唯「どうしたの……? なにかあったの?」 ねぼけた声で、お姉ちゃんが見当違いのことを聞いてきます。 お姉ちゃんが何よりの当事者だというのに。 唯「うい……何か言ってよ、ねぇ」 お姉ちゃんの表情が不安そうに歪んできます。 わたしは、できればその不安を払拭してあげたかったけれど、 どうにもうまく説明できそうにありません。 私は悪魔にささやかれた、それだけなのですから。 唯「うい……?」 お姉ちゃんの右腕を、シーツの上にぎゅっと押しつけました。 ふたたび、お姉ちゃんの唇に近づいていきます。 唯「へ? ……ん」 またキスをします。 お姉ちゃんの半分開いた唇が、むにりと私の唇を包みました。 唯「ん、うっ……」 お姉ちゃんは寝ぼけているのか、 私のキスに対して軽く唇を吸って、普通に受け入れてきています。 頭の奥がじいんと痺れてきます。 これが、悪魔の言っていた「幸せ」でしょうか。 唯「んんっ……ういぃ」 憂「はう……」 お姉ちゃんはちゅっちゅっとキスを繰り返します。 私もそれに応じるように、唇を突き出します。 ぶつけあうような、下手っぴのキス。 でもお姉ちゃんにキスされているという感じだけで、 幸福の絶頂に浸れるような気がします。 唯「はっ……うい、ういぃ」 お姉ちゃんは私の名前を呼びながら、両目から涙をぼろぼろ流しています。 どうして泣いているのかわかりませんが、 なぜかお姉ちゃんが悲しんでいるとは思いませんでした。 唯「すきだったよ。んっ、ずっと……」 憂「……ふぁ」 私の耳には、唇をむさぼられる音が響いています。 とぎれとぎれにお姉ちゃんの声が聞こえましたが、何を言っているのかはわかりません。 憂「おねえちゃん、んぅ……」 好きだと伝えたいのに、お姉ちゃんが間髪入れず唇を押しつけてくるので、 私はうまく言葉を紡げません。 むりやりキスをした時点で、お姉ちゃんにもそれはわかっていると思います。 あれ? でも、ということはお姉ちゃんも 私の気持ちが分かっていてキスしてくれているのでしょうか。 キスをしてくれるのは、お姉ちゃんも私のことが好きだから? 憂「……」 そのことに気付いた瞬間、ふと心にあたたかいものがあふれるように流れ込んできました。 憂「おねえちゃんっ」 お姉ちゃんの上に馬乗りになります。 顔を両手でがしっと固定して、ふかく口付けをします。 唯「はぁん……っ、ういっ」 にゅるりと、口の中に何かが押しこまれました。 それがお姉ちゃんの舌だと気付くのに、すこし時間がかかります。 そして、気付いてしまったとたん、私はおかしくなりました。 ほんとうはいつまでも楽しみたいこの感覚を記憶にとどめておく作業すらせず、 ただ触覚を鋭敏にして、舌の触れ合う感触に胸を踊らします。 唯「ん、ちゅ……ぷはぁ……んむ、ふちゅ」 お姉ちゃんの伸ばした舌を吸います。 憂「はっ、おねぇ……んふぃい」 伸ばした舌が、お姉ちゃんに吸われます。 わたしの口か、お姉ちゃんの口か分からない温かみの中で、 私たちの舌がぴちゃぴちゃ唾液をはじけさせながら絡み合います。 ――きもちいい。 唯「んあっ、もぐっ……じゅじゅずう……ん」 憂「ふうぅ……ふぶうぅ、ふぁああ!!」 ――きもちいいっ 手を置いたお姉ちゃんの頬から首筋が、 重ねたお姉ちゃんのくちびるが、 絡めるお姉ちゃんの舌が、熱い。 きっと私も、それ以上に熱くなっていると思います。 溢れ出る性欲は自覚していましたが、 とくべつ自分やお姉ちゃんの秘所に触れたいという気持ちはしませんでした。 憂「ふっ、う、うぅ……」 お姉ちゃんとキスしているだけで、それが満たされている気がします。 だんだん、体がぴくぴく奇妙な反応をかえしているのを感じます。 組み伏せたお姉ちゃんの身体も、軽く痙攣しているような感じです。 唯「はあぁ……あっ、うふぁあぁ……」 喉まで舌で舐め合うような、淫蕩的なキスに酔いしれます。 溶けあって、私たちはひとつになっているような感覚がしてきます。 唯「んんっ……むううぅぅ!!」 お姉ちゃんが大きな声を上げて、体をびくびく震わせます。 舌をちゅううっと強く吸ってあげます。 お姉ちゃんの舌にからみついた私たちの唾液が、口の中に流れ込んできます。 憂「はあ、お姉ちゃん……んむうぅ」 唯「んっ、ふく……ううー!」 ぐいぐい身をよじって、お姉ちゃんはなにかをこらえているみたいでした。 さらに強く舌を吸ってあげます。 お姉ちゃんはこれがけっこう好きみたいで、今度は小刻みに震えはじめます。 吸い上げた舌をくちびるで挟んで、 ふわりとやわらかい舌裏をぺろぺろと舐めてみます。 唯「っ、うぶっ、……きひゅうっっ!!」 びくんっ、とお姉ちゃんが私の下で大きく跳ねました。 唯「ふううぅー、くんんうぅー!!」 暴れるお姉ちゃんの身体をおさえつけて、舌裏を舐め続けます。 お姉ちゃんが感じているのが、上にいる私にダイレクトに伝わってきて、 頭の中がすさまじい充足に包まれていくのを感じます。 お姉ちゃんの痙攣がひとまずおさまっても、ずっとお姉ちゃんの舌を舐め続けます。 それだけでお姉ちゃんは、またびくびく体をふるわせます。唇の間からかわいい声をもらします。 鼻に激しい呼吸をゆだねて、お姉ちゃんの舌を口の中で舐め上げ続けました。 お姉ちゃんが反応するのが、楽しくてうれしくて、 もしかしたらお姉ちゃんよりもきもちよくなっていたかもしれません。 ―――― 永遠のようにも思われた夜は、いつの間にか明けていました。 私はお姉ちゃんの隣で眠っていたみたいです。 憂「……?」 どうしてお姉ちゃんの部屋にいるのでしょうか。 昨日は確か―― 憂「あれ? えっと……」 記憶が飛んでいるかのように、昨晩のことが思い出せません。 経験はありませんが、お酒に酔ってそのまま寝てしまったような感じでしょうか。 私は、となりのお姉ちゃんに目をやります。 お姉ちゃんならなにか知っているかも、とそんな気持ちでした。 そして私は、悪魔の寝顔を目にしてしまいました。 唯「うーい……すや」 なんでしょう。 なにか奇妙に、口寂しい感じです。 憂「……」 やさしい寝息をたてているお姉ちゃんの口元に目がいきます。 私はお姉ちゃんの頬に手を置いて、私のほうに顔を向けさせると、 体をずりっと動かして、お姉ちゃんに近づきました。 憂「……ごめんね、お姉ちゃん」 その口の動き方に、デジャビュを感じます。 ……いまは、そんなことはどうでもよかった。 私は、眠っているお姉ちゃんの乾いた唇に、またそっと口づけるのでした。 おしまい 戻る
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/2636.html
737 名前: ◆UDPETPayJA[sage] 投稿日:2013/07/26(金) 07 29 49 ID 35uqTW2k [2/8] その場面を目の当たりにした俺は、一瞬、何が起こっているのか理解できなかった。 ベンチから落ち、床に横たわる彼女は、必死に息をつきながら苦しみに顔を歪める。 どうしてこんなにスカートが血まみれなのか、なぜ彼女はこんなに苦しそうにしているのか。あまりにも突然すぎて、思考が追いつかない。 「結意ちゃん…結意ちゃん!! しっかりしろ! 結意ちゃんっ!」 何が原因なのか。どうすればいいのか。簡単なことだ。ここは病院なんだから、医者を呼べば済む。 けれど、そんな簡単な事にすら気付かないくらい、俺の頭は混乱していた。 ただ阿呆のように名前を呼び続け、力のなく、少し冷たい手を握るくらいしかできない。 その様子に気付き、看護婦が近づいて来る。俺たちを見ると、すぐに異変を察知したのか、ドクターを呼びに向かった。 そこでようやく俺は、自分の阿呆さに気付く。なぜ、そんな簡単な事を忘れていたのか、と。 間も無く、看護婦は数名と、担架を持って引き返し、結意ちゃんは担架に乗せられ、他の場所へ運ばれて行った。そこに俺も追従していく。 「君は…この娘の?」と、看護婦が尋ねてくる。 「…ただの、友達です。」 「…そう。大丈夫よ、見た限りは命に別状はないわ。ただ…いえ、なんでもない。」 「?」 看護婦が語尾を濁らせたのが、僅かに気になった。 担架が、処置室の前に到着したあたりで看護婦に足を止めさせられる。これ以上は着いてはいけない。 「結意ちゃんを…お願いします。」そう医者たちに言うことが、今の俺の限界だった。 * * * * * およそ2時間は経っただろうか。処置室の扉が開き、医者が出てくると、俺はすぐに食ってかかるように尋ねた。 「結意ちゃんは! どうなったんですか!?」 「…助かったよ。あの娘は、ね。」 「───よかった…! 助かったんです、ね…?」 おかしい。結意ちゃんは助かったはずなのに、医者の顔つきは険しい。まるで、苦虫を噛んだように… 「君は、あの娘の彼氏か何かか?」医者は厳しい表情のまま、そう尋ねてきた。 「いえ…俺はただの友人ですよ。結意ちゃんの彼氏は、俺の親友なんです。」 「そうか…親友か…」 医者の額から、汗が流れ落ちる。処置でかなり神経を使ったんだろうか? …いや、この医者の様子。きっと他に何かがあったんだ。だって、この医者は結意ちゃんが助かった事を″素直に喜んでいない″。 この表情は、俺もよく知っているはずだ。そう…これは、大切なものを守れなかった人間の顔だ。 だけど…一体なにがあるんだ? 「結意ちゃんが、どうかしたんですか。」 「………すまない。私の口からはまだ、言えない。」 「飛鳥…俺の親友になら言えるんですか。」 「………………」 俺の言葉に医者は答えを出さないまま、わずかな沈黙が流れる。 遠くでエレベーターの開くような音が、まるですぐ近くで聞こえているように耳に伝わる。 こんな時間だ、病院の中ではさして人は動いていないだろう。辺りは静かで、互いの息を呑む音が聞こえたとき、先に言葉を発したのは医者の方だった。 「…………ああ、むしろ真っ先に話すべきだろうな。彼女ひとりの問題ではないからな。」 「…それ、どういう意味で…」 「もう、今日は帰りなさい。恐らく彼女は明日まで起きないよ。」 医者はそう言い残すと、俺の視線を振り切るように足早に立ち去って行く。 …残念なことに、今の医者の言葉だけで俺は結意ちゃんに何が起こったのか。それがわかってしまった。 738 名前: ◆UDPETPayJA[sage] 投稿日:2013/07/26(金) 07 31 26 ID 35uqTW2k [3/8] 「うっ………く、あ、あっ……! 」 俺は膝から崩れ落ち、床に拳を打つ。 悔しさが、腹の底から込み上げてくる。だけど駄目だ。この感情を吐き出すなら、せめて外に出なければ。 鉛よりも重く感じる足に力を入れる。無理矢理立ち上がり、ろくに前も見ないまま階段へ向かい、下っていく。 結意ちゃんの処置室は、亜朱架さんの手術室と同じ2階にある。外へ出るまで、そうかからない。 正面玄関はすでに閉じられているので、救急外来口から出るしかない。少し探したが、すぐに見つかった。とにかく、早く外へ… 救急外来口には受付係と思しき人影があったが、そいつはただ機械的に「お気をつけてー」と言うだけで、俺の顔など恐らく見もしなかったろう。 好都合だった。こんな、まるで屍鬼のようにふらふらしながら歩いている姿を見られでもしたら、呼び止められたかもしれない。 外は当然の如く暗闇で、街灯と救急外来の電気がついている以外はほとんど光がなかった。少し歩けばその街灯の前につく。ここならいいだろう。 「───あァぁぁぁぁぁぁッ!!」 その街灯の柱に、俺は拳を思い切り打ち込んだ。それも1度じゃない。何度も、何度も。 骨が砕ける音が聞こえた。柱には血の痕がつく。そのうち頭突きまで織り交ぜては、身体を痛めつけていく。どうせ30分もせずに治るんだ。あの日折れた前歯も、そのくらいで生えてきた。いくら傷つけたって、意味がない。 ただ生きているだけのモノ、今の俺はまさにそれだ。守りたいものも守れずに、ただのうのうと生きているだけの───! こんな俺に、何の価値があるというんだ。誰か殺してくれよ。俺はそんな事を脳裏に思い描いていた。 「うぅぅぅぁぁぁ、らあぁァァァ!!」 さらに強く、加速度的に、柱に八つ当たりをする。───人が見れば、狂っている、と思うだろう。 狂っていたらどんなにいいか。そうすれば、誰かを守りたかったなんて思わずに済むんだから。結意ちゃんの失ったものに比べれば、俺なんて… そうしてどれだけの間、自傷していただろうか。いつしか腕に力が入らなくなり、嗚咽を漏らしながら地面に突っ伏した。 「ちきしょう……俺は……俺はぁ…っ…」 身体の再生が始まっているのが感じ取れた。柱に血痕だけを残し、俺の身体は数分もすれば、もとの傷無しに戻るのだ。 そこに、見計らったように携帯電話がぶるぶると震え始めた。 …なんてこった。佐橋からの電話からこっち、電源を付けっ放しだったのか。しかも、また佐橋からの着信ときた。 それもそのはず、俺が携帯でまともに会話するのは、飛鳥ちゃんと佐橋ぐらいしかいないんだから。 俺は激しい義務感を抱きながら電話をとった。 『その様子だと、間に合わなかったみたいだな…』 「そっちこそ…俺の情けねえざまを、″視て″たんだな。」 『…今回の件は、お前の責任じゃあない。そう言うのは簡単だがな。あえて止めなかったのは、かつて俺も同じ思いをした事があったからだ。』 「同じ思い、だと? こんな惨めな思いを、お前もしたってのか。」 『惨めな思いならいつもしているさ。俺の予知は、ほぼ必ず当たるんだからな。』 必ず当たる。それは、どんなに最悪な未来が見えても、それを変えることができなかった、という意味だ。 それは佐橋にとって、これ以上ない皮肉だろう。 『………端的に言うとだな、俺は恋人を守るために、実の妹を見殺しにしたことがある。それだけの事だ…』 「えっ…?」 なんだよ、それじゃあ俺どころか、飛鳥ちゃんと同じじゃないか? その言葉は喉まで出かかったが、押しとどめた。 そんな事、今更言うまでもない。 『本命に入るぞ。聞け、斎木。』佐橋の声に、緊張の糸が走った気がした。 739 名前: ◆UDPETPayJA[sage] 投稿日:2013/07/26(金) 07 36 14 ID 35uqTW2k [4/8] 『お前たちの話だと、穂坂の家には瀬野が案内したんだよな?』 「ああ、そうだ。」 『そして、織原が窓ガラスを割って侵入…激情に任せ、瀬野に暴行を加え、お前は前歯を折られた。まるで物盗りが入り込んだようなサマだな。 なのになぜ、お前たちの所へ誰も来ない?』 「えっ…誰も…?」 『穂坂と父親がその家にいて、瀬野とは関係がなかったとするならば、普通は空き巣を疑うだろ? 何せ、食器はぐちゃぐちゃ。瀬野の血が飛び散り、お前の歯も落ちている。土足なら、足跡もある。指紋もある。』 「そ、それは…誰も帰らなかったからだろ?」 『その通りだ。あの家にはお前たち以外はあれ以降入っていないだろう。 しかし、今日確認しに行ったら、お前の言っていた痕跡など何もなかったぞ。』 「な…どういうことだ?」 『誰かが後始末したんだろうよ。警察沙汰になると困る、と思って。 まあ、これならどうだ? 瀬野 遥は現在″父親″と同居し、穂坂は″母親″と同居していたが、父親が仕送りを送っていたらしい。』 …待てよ。それでは逆だ。確か瀬野は、穂坂が父方で、瀬野が母方だと言っていた。 『さらに、父親は出張が多い仕事で、現在も中国へ出向いている。母親はどうやら新しい男を…まあいいか。』 「おい、そんなのどこで調べたんだよ…?」 『俺の友人にはな、そういう調べ事が得意な奴がいるんだよ。2日もあればあらかたわかる。 わかるか? お前たちは騙されたんだよ、瀬野に。』 「騙されたって…どういう意味だよ!?」 『あの家は瀬野の家だ。ご丁寧に表札をすり替えたようだがな。俺が見た穂坂の家の表札は、明らかに真新しいものだった。 そもそもだ、母子家庭に、バイクを買ったりメイド服を大量入荷する財力などあるわけないだろう。 あれは恐らく父親の小遣いみたいなもんだろうよ。 瀬野の目的は、アジトの在り処を撹乱すること。自宅でなければどこだ、と思わせること。 一度無駄足を踏ませれば、もうそこへ行くことはないだろうからな。なら簡単だ。穂坂は母方の家にいる。』 「穂坂の…母親の家? け、けどそんな事をして瀬野に何の得がある!?」 『単純だ。あの男はまだ織原の事を諦めてはいない。穂坂が神坂を、瀬野が織原を。恐らくそういった流れだろう。 まあ、織原の方は瀬野を選ぶくらいなら命を断つかもしれんが。』 ………何てことだ。確かに、思い返せばあの場面での瀬野の登場は、でき過ぎていたようにも感じる。 全部、俺たちをミスリードさせるための行動だとしたら… 冷めていた身体に、熱が戻っていく。怒りと、単純な罠に気付かなかった苛立ちとで。 『気持ちはわかるが、落ち着けよ。まずは明日まで待て。俺にも準備がある。 とりあえずは、朝になったら織原に顔でも出せ。』 …本当に、あいつは頭の回りが早い奴だ。俺のやることなすこと、全て先読みしてるかのような言葉ばかりだ。 通話を終えると俺は、傷があらかた塞がったのを確認してから、今度はバス停へと向かった。 少しだけ気持ちが落ち着くと、今度は冷えた外気が身体にまとわりつく。バスもあまり本数が残っていない。 とにかく、今は明日を待つばかりだ。 740 名前: ◆UDPETPayJA[sage] 投稿日:2013/07/26(金) 07 37 40 ID 35uqTW2k [5/8] * * * * * ───声が、聞こえる。 貴女の大事なものを、全て奪ってやる、と。 私の大事なものを奪った、貴女を許さない、と。 呪詛を吐くのは、まるで鏡に写したように、私と瓜二つのソレ。 私も人のこと言えた義理じゃないけれど、明確な悪意の塊のような女。 世界の全てを敵だとでも思っているかのような、鋭い眼差しで女は私を睨む。 女としての幸せ、母としての幸せ、そして、生きることの幸せ。 ひとつずつ、?据いでいってあげる。 覚悟なさい、楽に終わらせてなんてあげないから─── 女の声が遠ざかる。海の底から上がっていくように、私の意識は外を向き始めた。 ───耳に入ってきたのは、何処かで聞いたような電子音。首を傾け、薄ぼんやりとした視界を凝らして、電子音を発する機械は私に繋がれているのだとわかった。 「よう、目が覚めたんだな。」 窓に差す太陽を背景に立っていたのは、斎木くんと、佐橋くんと、三神さん…? そもそも、どうして私はこんな所にこうしているの? まるで事態が、理解できなかった。 「光(こう)。説明を頼んだ。俺と斎木は外に出てる。」 「わかったよ、歩。」 「…辛い役割をさせて、すまない。」 「女の僕にしかできないことなんだから、仕方ないよ。どうか気に病まないで。 ちゃんと、最後まで僕に任せて?」 柔らかい声で佐橋くんと話しているのは、佐橋くんの彼女である三神 光。 長く伸びた綺麗な黒髪と、大人びた容姿に反してどこか幼げな雰囲気。そして、少し変わった口調の彼女だけがここに残り、男の子2人は外へ出た。 「…………話をする前に、覚悟をしておいて欲しい。僕は、先にお医者様から話を聞いたんだ。僕から伝えるから、って言ってね。 先に歩が言い当てなきゃ、教えてくれなかったろうけどね…。」 「覚悟…? 私は、何かの病気だとか…?」 「………その方が、良かったかもしれないよ。」そう語りだす三神さんの顔つきは、翳りを見せ始める。一体、何を話そうっていうの…。 「いいかい、結意さん。君はね………流産したんだよ。」 「…………………え、な…?」流産、だって? そんな、何を言っているのか、わからない。 「…やっぱり、自覚がなかったんだね。でも、心当たりはあったはずだよ。君のお腹には確かに、命が宿っていたんだ。…それが、昨日失われた。」 血の気がまたたく間に引いていく。三神さんの言葉が、ひとつずつ心を刺す。身体はわけもなく震え始め、胸に深い穴が穿たれたように、息をつくこともできない。 そうだ。思えば私達は、1度たりとも避妊をしなかった。できていて、当然の……… 「…本当に、残念だったよ。でもね、結意さん…」 「…う……あ、あぁっ、わ、わたしはぁ…」 「どうか落ち着いて、結意さん!」少し語尾を強めて、三神さんは続ける。「君の身体も、危なかったんだよ? 助かったことだけでも…」 無理を言う。飛鳥くんのために生きると決めたのに、何も守れなくて、それどころか、私は大事なものを失ったのに! 「あぁぁぁぁぁっ、イヤあぁぁぁぁぁあ!」 …気が付けば、私は狂ったように叫び出していた。 741 名前: ◆UDPETPayJA[sage] 投稿日:2013/07/26(金) 07 40 16 ID 35uqTW2k [6/8] 頭を抱え、髪をぐしゃぐしゃに掻き毟り、そのうちの何本かがちぎれる。 「かえして!! 何でもするからかえ゛じて!! かえして、かえしてよぉ!! う゛あぁぁぁぁぁぁ!!」 素直に狂えていれば、まだ楽だったかも。かつて、私は飛鳥くんに捨てられて心身共にずたずたになったことがあった。それは亜朱架さんのせいであって、飛鳥くんのせいではなかったのだけど。 …そんな痛みなど、今のこの苦しみに比べればまだぬるい。 飛鳥くんと繋がった証。飛鳥くんのほしかった、家族という存在。 もう何も失いたくないと飛鳥くんはいっていたのに、わたしは、まもれなかった。 こんなわたしに、なんのかちがあるの。どうしてまだ、いきていられるの。 あいしたひとは、うばわれたままで。こんなわたしをみたら、こんどこそすてられる。 そんなのはイヤ。いっそ、ころして。 ころして、ころしてころしてころしてころしてころしてこロシてころしてころしてころしてころしてころしてころして殺しテころしてころしてころシてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころして─── 「結意さんっ!!」 不意に、わたしのからだが押さえつけられる。三神さんが、抱きつく形で押し倒したのだ。 「そんなこと言っちゃダメだ! いいかい、絶対に僕は君を殺したりなんかしない! 他のみんなだってそうだ! 第一、君が死んだら彼だって悲しむだろう!?」 ベッドに押し倒されて、押さえつけられてもまだわたしはもがき続ける。そんな言葉に意味はない、わたしはもう、生きていられない。 「…っ、まだそんなことを! そんな事は、絶対許さないから!」 ぐい、と顔を押さえつけられる。無理矢理正面に向けられる。私と、彼女の距離が縮まる。それは─── 「──────ん、っ!? はぁ、あ、んんっ、んちゅ…んぁ!」」 彼女の唇が、わたしのソレと重なる。口で荒く息をついていた私の呼吸は塞がれ、苦しさで意識が引き戻される。 もがいても、彼女は決して離すまいと力を込める。 唇と唇が触れ合うけれど、そこから伝わるのは卑しい感情などではなく、彼女の覚悟だった。 「っ、はぁ……この唇に誓うよ。僕は絶対に君を死なせない。みんなと一緒に守ってみせる。だからどうか、その命を棄てないで。生きることをやめないで! 神坂くんを守れるのは、君しかいないんでしょ!?」 大粒の涙を流しながら、彼女は言う。幼げな雰囲気だなんて、とんでもなかった。彼女はこんなにも強く、輝いているのに。 …そうだ。わたしは飛鳥くんの為に生きなきゃいけないんだ。 気づいてすらあげられなかった、失われた命。その傷はきっと癒える事はない。何度も泣くかもしれないけれど。 わたしが、飛鳥くんを助けてあげなきゃいけないんだ。そして、今度こそ… 「………うん。わたしが、やらなきゃいけないんだ。」 742 名前: ◆UDPETPayJA[sage] 投稿日:2013/07/26(金) 07 41 29 ID 35uqTW2k [7/8] * * * * * 時同じくして、壁を挟んで廊下側に、俺と佐橋は待っていた。 「───やるねぇ、カノジョ。いいのかい?」佐橋の前で、わざとらしく軽口をついてみせる。 「構わん。あれにはやましい意図など含まれていない。誓い立てと、ついでに頭を冷やさせただけだろう。」 「ほぉー…随分、行動力がおありで。」 「当然だ。なんせ、俺の″未来″を初めて変えた女だからな?」 佐橋は淡白そうに答えるが、口元がにやついている。あれは絶対の自信と、惚気が混ざった顔だな…。 「さて、と行きますか?」俺は佐橋の肩をぽん、と叩き、確認する。 「ああ、行こうか。俺の予知とお前の不死身があれば、すぐにカタはつくさ。」そう言うと俺たちは女子2人を残して、病室から離れていく。 全てのケリをつけるために。 ───待ってろよ、結意ちゃん。すぐにアイツを取り返してくるからな。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8397.html
前ページ次ページゼロと魔王 ゼロと魔王 第1話 召喚された魔王 そこはどんな海よりも深く、どんな闇よりも暗い場所にあるという。 闇に魅入られた禍々しい者どもが集う暗黒世界――――― 彼の地がどこにあるのか。 それは定かではない。 しかし、誰もがその存在を信じ、畏れていた。 それが魔界。 天界、そして、人間界と共に3界を構成する闇の世界。 長い間そう信じられてきた。 もっともこれは、魔界で起きる事件ではなく、とある魔王が、ゼロと呼ばれる少女に召喚されるお話である。 ラハールは、雲の中を飛んでいた。 というのも、誰かに仕事をさぼって抜け出ていたことを知られるのは都合が悪いからだ。 「いくら今魔王城にエトナやフロン、そしてシャスとサクラがおらんとは言え誰かに見られて、抜け出ていたことがエトナにバレたら、何を言われるかわからんからな」 もっとも、エトナが居ようが居なかろうが、しょっちゅう抜け出しているのだが。 「エトナは仕事でゲヘナの海に行っておるし、フロンは天界に戻っておって今はおらん。問題のシャスは実家に戻っておるし、サクラは性格が男に戻って、自分の家に戻っておる・・・やることがないな」 エトナが聞いていたら、仕事をしてくださいよ。 とか言ってきそうなことを言っているこの人物こそ、この魔界の王、いわゆる魔王というやつだ。 見た目は10歳ぐらいに見えるが1000年以上生きている。 だが、格好は、赤いマフラーを首に巻き、上半身裸に短パンだけという。 訳のわからない格好をしている。 「・・・さて、そろそろ戻るとするか」 あれから、10分ぐらい飛んだだろうか、雲から少し顔を出してみると魔王城が見えてきた。 あとは、いつも出入りしている庭園に下りるだけだ。 (仕事をやる気にはならんし、戻ったらまずハナコに飯でも・・・そういえばエトナに着いて行ったのだったな・・・しかたない、戻ったら寝るとするか) そんな事を考えていると、庭園の真上に着いた。 後は、一気に下りるだけで、誰にも見つからずに戻れるはずだった。 ラハールが降下を始め、猛スピードで落ちて行き、マフラーを広げてスピードを殺そうとした時、目の前に鏡が 出現したのだった。 「なっ!」 この鏡がどのようなものかわからないが、今までの経験上、これがろくでもないものだろうと思い、避けようとした ラハールであったが。 当然目の前に現れたので避けるすべもなく。 そしてブレーキなど間に合うはずもなく。 ラハールは、鏡の中に入ってしまった。 ここはトリステイン魔法学院、その敷地内のアウストリの広場で、新2年生がこれから一生を共に生きる使い魔の召喚儀式 『サモン・サーヴァント』をしていた。 もっとも、ただ1人を除き、他の者は、各々の使い魔の召喚、そして使い魔との契約、『コントラクト・サーヴァント』を終えている。 そして、その1人とは、小柄な体躯、腰の辺りまで届く桃色がかったブロンドの髪。強い意志を感じさせる鳶色の大きな瞳を持った少女。 『ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール』という1人の貴族である。 「なあ?ゼロのルイズが何回で召喚できると思う?」「ハッハッハさすがのゼロでも、1回で召喚できるだろ」 「いやいや、ゼロのルイズだからな、もしかしたら10回やっても出来ないんじゃないか?」 そのようなからかいがそこら辺から聞こえてくるが、そんな事は日常茶飯事なので慣れている。 だが、慣れているだけで、悔しくないかと聞かれれば悔しいと答えるだろう。 「皆さん静粛に!さあ、ミス・ヴァリエール『サモン・サーヴァント』を行なってください」 教師であるコルベールが皆を静かにし、ルイズを急かす。 そしてルイズは、覚悟を決めて召喚の呪文を唱えた。 「宇宙のどこかにいる私の僕よ! 神聖で美しく、そして強力な使い魔よ! 私は心より求め、訴えるわ! 我が導きに…応えよ!」 すると、起こったのは爆発であった。 ルイズの周りにいた人間たちは、みな爆発に巻き込まれ、気を失っていた。 「え?まさか失敗!?でもこうなったらみんな気絶しているみたいだし成功するまで・・・」 そんなことを考えていたルイズであったが、「ぐふぅ!」という声が聞こえたので、そっちに顔を向けてみた。するとそこには、上半身裸に短パンという訳のわからない格好をした少年が倒れていた。 鏡の中に突っ込んでしまったラハールは、何か、形容しがたい空間を漂っていた。 もっとも、突っ込んだ時と同じ速度で進んでいるため、漂っているという表現は正しくないのだが・・・ 「クソッ!一体何なのだ!しかし、なんだこれは?どこかに飛ばされているようだが・・・時間遡行の魔法で飛ばされているわけではなさそうだな。時空ゲートとも違うみたいだが・・・それならば召喚か?」 そんな事を言っていると、おそらく出口の様なものが見えてきた。 「まあとにかく、召喚ならば適当にすませて帰るとするか」 そして、変な空間から出たと思ったら。 ラハールは地面を見ていた。 正確には、ラハールの顔が地面の方を向いているだけなのだが、いきなりの事で頭が回らない事に加えて、地面からたいして離れていないところに出たため。 顔面から思いっきり落ちたのであった。 「ぐふぅ!」 顔面から落ちたみたいだが、死にはしなかったようだが、気絶はしたようだ。 そして、ルイズが爆発を起こして、変な格好の少年を見つけた所に繋がる。 「何・・・これ・・・?」 ルイズは混乱していた、いくらなんでもこれは驚きもするだろう、『サモン・サーヴァント』で呼ばれた使い魔が、どう見ても10歳そこらの人間が呼び出されたのだから。 もっとも、よく見れば、耳がエルフみたいに尖っているのだが、今のルイズには、そこまで気にする余裕はない。 「う、う~ん。私としたことが、まさか気絶してしまうとは・・・」 ルイズが混乱している中、気絶していた人間の中から、コルベールが起き上がった。 爆発によって生まれた土煙は、ある程度晴れていたため、周りを見回してみると、ただ1人の生徒を除いて、みな気絶していることに気が付いた。 どうやら気絶しているだけで、大事はなさそうだった。 そして、爆発を起こした張本人を見てみると、硬直していた。 今コルベールがいる場所からでは土煙で見えないが、どうやら何かを見て硬直しているみたいだ。 「ミス・ヴァリエール、大丈夫ですか?」 何か危険な物でも召喚したのかと思ったが、立ち上がって近づいてみると。 「・・・ミス・ヴァリエール?この少年は、あなたが召喚した使い魔ですか?」 「え!?・・・たぶんそうですけど。ですが、人間を使い魔になんて聞いたことがありません!やり直しを要求します!」 ルイズは、そんな事を言ったが、コルベールは首を横に振り、こう言った。 「それは認められません。この少年を召喚してしまった以上、あなたは、この少年と『コントラクト・サーヴァント』をしなければなりません」 「しかし!」 なおくいついてくるルイズであったが、それを認めるわけにはいかないので、コルベールはこう言うしかなかった。 「それ以上いうようなら、本当に退学になりますが、よろしいんですか?」 「・・・」 退学という言葉を聞いて、ルイズは黙った。 「わかりました」 そして、渋々といった風だが、契約することに決めたようだ。 ルイズは、倒れている少年に歩み寄り、「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 五つの力を司るペンタゴン、この者に祝福を与え、我の使い魔と為せ」と、契約の呪文を唱え、召喚した少年に口づけをした。 地面に追突して、気絶したラハールは、昔の夢を見ていた。 それは、母グエンとどこかに行った時の夢だった。 もっとも、幼い内に死んだので、最近まで顔をほとんど覚えてはいなかったのだが。 その時のラハールは、今のように体が強くなく、よく体調をくずしていた。 だが、この時はとても体調が良かったことは覚えていた。 そして、母がよく言っていたことも覚えてはいるし、この時言ったのも、おそらくあれだろうと予想出来た。 「いい、ラハール、愛をもってすればみんなわかってくれるのよ。でもそのためには、自分から動かないといけないのよ」 予想した通りだった。 母は、よく愛がどうこう言っていたし、自分自身、そうなのだろうと思っていた時期もあった。 いつもなら、ダメージを受けて、全力で否定するところなのだが、なぜだろうか。 そんなことはなく、何とも言えない気持ちになった。 ふと思い出す。 この時自分は何と言ったのだったかと。 すると、少しして、その答えが聞こえた。 「あい、かあしゃまのいうとおりみんなをあいしゅでしゅ」 今となっては、絶対に考えられない事を言ったものだと思ったが、これが昔の自分である、このような姿を知っているのは、今となっては中ボスだけということを考えると、こう思った。 (あいつ、今のうちに始末しておくか) とそんな事を考えていると、そろそろ自分が起きるということが、なぜかわかった。 なぜこのような夢を見たのか思い返すと、最近サクラの時と、母の銅像に頭をぶつけて、数日の記憶が無くなっていた事を思い出し、それのせいだろうと考えた。 そうやって考えていると、どんどん目が覚めていっているのがわかる。 周りの風景が消えていき、そして、最後に、幼い自分と母が消えた。 それを寂しいと感じたが、「夢を相手にバカバカしい」と言って目が覚めた。 そう、ピンク色の髪をした少女にキスをされている所に、だ。 「な!ななな、何をする貴様!」 跳ね起き、ピンク色の髪の少女から急いで離れる。 だが、離れた時に体が熱くなり、少ししたら、それが激痛に変わった。 「グッ!な、なんだこれは」 「安心しなさい、すぐに終わるわ」 ピンク髪の少女が何か言っているが、ラハールは聞いていなかった。 少ししたら、痛みは治まったが、ラハールは怒りがおさまらない。 「おい小娘!貴様、オレ様に何をした!」 「契約よ。あと、平民風情が貴族相手に小娘だとか、貴様とか言って、許されると思っているの?」 「オレ様は、魔王だ!人間風情が偉そうな口をきくとはいい度胸だな!」 「魔王?何を言ってるのよ、あんたどっからどうみても弱そうじゃない」 「ほ~う、いい度胸だな、このオレ様を前にして弱そうか、ならばこれを見てもそんな事を言っておられるか!『メガファイア』!」 ラハールは、ピンク色髪の少女の足元に向かって、4系統の魔法のファイアのメガ級の魔法を放った。 だが、そこに1人の人間が割って入り、ラハールの『メガファイア』を別の魔法で打ち消した。 「私の生徒に手を出さないでもらえますかな」 と言ってきた。さっきの魔法自体、当てるつもりは無かったため、威力自体たいした事はないが、ラハールの魔法を打ち消したのは、十分称賛に値する。 「ほう、人間のくせに、オレ様の魔法を打ち消すとはなかなかやるな、褒めてやろう」 「褒めてもらうほどの物でもありませんよ」 「そう謙遜するな、オレ様が素直に褒めてやっておるのだ。ありがたく思え」 そんなやり取りを聞きながら、ルイズは混乱していた。 召喚したのがただの少年だと思ったら、自分の事を魔王と言い、さらに自分の知らない魔法まで使ったのだ。 混乱もするだろう。 「さっきの魔法、詠唱を無に唱えていましたが。まさか先住魔法ですか?」 「先住魔法?なんだそれは」 「先住魔法を知らないとは、ではあなたはエルフではないのですか?」 「エルフ~?だからオレ様は魔王だと言っておろうが、わからん奴だな」 どうやらエルフではないようだが、それだと本当にあれが魔王で、ルイズは悪魔を召喚したことになる。 (そんな事が、周りに知れたら一体どうなるか・・・・想像もしたくない) ルイズが絶望に暮れている中、ラハールは、少しだけ遊んでやろうと思った。 「まだわからんようなら、力で教えるしかあるまいな。安心しろ、殺しはせん、ただ少し怪我をするかもしれんが、構わんな?」 「何を・・・・!?」 コルベールは、目を見開いていた。 それもそうだろう、今目の前の少年が魔法の名前らしきものを叫んだと思ったら、少年の手には、10メイルほどの巨大な火球があるのだから驚きもするだろう。 いくら、『炎蛇』と呼ばれていたコルベールでも、火球がどれほどの威力があるかわからないが、10メイルもの火球をどうにかするには、今から詠唱をしたのでは間に合わないだろうと思い、いざとなったら、自分が生徒の盾になろうと決めていたコルベールであった。 その光景を見て、ラハールはこう思った。 (ふん、つまらんな) ラハールの火球は、『ギガファイア』という魔法で作ったもので、たしかに強力な魔法だが、本来の用途と違うため。さっき放った『メガファイア』の魔法より、少し威力が高いぐらいしかないのだ。 なので、コルベールがどんな行動をとるのかと思って威嚇として作ったのだが、どうやらコルベールは何もできないと判断し、ピンク髪の少女を守る体制に入っていた。 どうせ作ったのだし、おそらく死なないだろうと予測して、投げようかと思ったが。 さっきの夢の事がチラついて放つ気になれなかった。 (チッ!変な夢を見たものだ) そして、作った火球を消そうと思ったとき、ピンク髪の少女が叫んだ。 「あ、あんた!やめなさいよ!あんたは私の使い魔なんだから、私の言うこと聞きなさいよ!」 足を震わせ、そんな事を叫んでいる少女がいる。 少しからかってやろうかと思ったとき、ラハールに異変が生じた。 今まで気が付かなかったが、左手の甲を見ると、何か文字があり、それが光っているのだ。 何事かと思った次の瞬間、ラハールの火球が一気に四散した。 「な!」「え?」 主人と、その使い魔は、二人同時に声を上げた。 そしてこの出会いがこれから、どのような事を起こすか。 今はまだ、誰も知らない・・・・ 前ページ次ページゼロと魔王
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8522.html
前ページ次ページゼロと魔王 ゼロと魔王 第6話 聖剣杯 ラハールとギーシュの決闘の後、普通に授業が始まったのだが。 その授業の最中にルイズが錬金を失敗して教室をめちゃくちゃにしたので、今はラハールとルイズとギーシュとで片付けをしていた。 「普通錬金でこんなことになるものかね」 「なったんだから仕方ないでしょう」 「だからってオレ様までなぜこんな事をせねばならんのだ・・・」 ものすごく嫌そうなラハールだったが、しぶしぶと言った感じで片付けている。 ちなみにギーシュは普通に教室から出ようとしたところを、ラハールに捕まって一緒に片付けさせられている。 「まったく、朝は決闘で負け、今度は教室の後片付けか・・・」 「負けたのはあんたが悪いんでしょうが」 「グッ!痛い所を・・・」 「なんでもいいから手を動かせ、そろそろ腹が減ったぞ」 そろそろ昼になる頃なので、ルイズもギーシュも腹が減っているのは同じだった。 黙々と作業をして、なんとか昼ごろには片付けは終わった。 「やれやれ、ようやく終わった」 「ご苦労様、さあご飯を食べに行きましょう」 「ようやく飯か・・・」 「えぇ、あんたにもご飯・・・あ!」 「ん?何だ?」 「あんたのご飯を頼むの忘れてた・・・」 「何だと!?」 「し、仕方無いでしょう!昨日からいろいろあったんだから」 「だったら、オレ様はどうすればいいのだ!?」 「だ、大丈夫よ、私のをわけてあげるから」 「だが、食べる場所はどうするのだね?」 「・・・」 その辺も考えていなかったルイズは、少なからず焦った。 まさか、ラハールを床で食べさせるなんて言った日にはどうなるかわかったものではない。 下手をすれば、食堂で暴れ出す・・・なんて事になった場合、それで責任を取らされるのは間違いなくルイズである。 「そうよ!あんたの席に・・・」 「馬鹿を言うんじゃない!?なぜ僕が!?」 「あんた負けたんでしょう?」 「却下だ!座らせたいのなら君の席を譲ればいいだろう!」 「なんで私が譲らないといけないのよ?」 「君の使い魔だろう!」 「私の言う事なんてラハールは聞かないわよ?」 「どうでもいいが、結局オレ様の飯はどうなるのだ?」 かなり冷静に見えるが、あきらかにブチギレる一歩手前のラハールが言う。 さすが魔王、力を制限されていてもかなりの迫力である。 「・・・!?そうだわ!」 「何かいい案でも浮かんだのかね!?」 「厨房に頼んでそこで食べさせてもらいましょう」 「それはいい案だな!」 これはいい考えだとルイズは思った。 少なくともこれで、食事と食べる場所は確保したのだから。 当のラハールは厨房と聞いたあたりでいやな顔をしたような気がするが、気のせいだろう。 「それじゃあ、さっそく行くわよ」 そう言って歩き出したルイズに付いて行くラハールとギーシュであった。 移動の最中に、ギーシュは近々ある行事の事を思い出して聞いてみた。 「そういえば君たちは聖剣杯には出るのかね?」 「聖剣杯?なんだそれは?」 聖剣杯と聞いて、主人と使い魔の反応は別々だ、主人の方は嫌そうと言った感じで、使い魔の方は気になると言った感じだ。 「聖剣杯と言うのは、オスマン氏が学院長になってから始まった行事で、学院長が所有している聖剣を巡って生徒同士が戦う行事の事さ」 どんどん説明をしていくギーシュ。 どんどんいやな顔をしていくルイズ。 どんどん興味がわいてきたラハール。 「ちなみに、今日から聖剣杯の準備のために半日授業さ、その間に使い魔と仲良くなるもよし、訓練をしてすこしでも自分を磨くのものよしといった具合さ」 説明の途中で、エクスカリバーと聞いた瞬間、使い魔の方も嫌そうになったのはここだけの話である。 「まあ巡って、と言っても。聖剣がもらえるわけではないけどね」 「それが妥当であろうな・・・」 ラハールがなぜこんな事を言ったのかは理由があり、持ち主を選ぶエクスカリバーであるが、持ち主以外が使っても普通に使う分には何も問題がなかったりするからである。 使用者の力をいくらか強化するおまけ付で・・・ 「出場資格なんかは簡単で、使い魔を持っているという事だけ。しかも今回はアンリエッタ姫殿下が来られるとあって、3年生もかなり出るとか」 ルイズが嫌そうなのは、アンリエッタが来るからである。 幼少のころからの親友であるアンリエッタが来る以上、出場して無様な姿を見せるわけにはいかない、と言うより見せたくないと思っている。 だから、出るつもりはない・・・はずだったのだが・・・ 「ほ〜う、面白そうだな。おいルイズ!オレ様たちも出場するぞ」 「え!?」 「いいんじゃないかい?ルイズはともかく、ラハールがいればその辺の生徒には負けないだろうし、案外いい結果を出せるかもしれないじゃないか?」 「そうかもしれないけど・・・」 「なら決まりだな、それなら出場するぞ」 実を言うと、ラハールがこれに出ると言ったのには2つ理由がある。 その1つは単純に面白そうなのと、こっちが一番重要なのだが、自分がどれくらいの強さなのか把握するためである。 この世界で戦ったギーシュは一番最低ランク、つまりその上がいるのであれば戦って、自分が今どれくらいなのかを知っておこうという訳である。 もっとも、どんな奴が出てきても負けるつもりはないラハールであるが。 だが、それはラハールの都合であり、ルイズとしては絶対に絶対に出たくないと言うのが正直なところだ。 「でも、私は嫌よ!そんな野蛮なもの、出たくもないし見たくもない」 「野蛮って・・・君、それでは見に来る姫殿下まで野蛮と言っているようなものだぞ?」 「へ!?いや私はそんなつもりじゃあ・・・」 なんでもいいから逃げる口実にと、言った言葉だったがアンリエッタを野蛮だと言うつもりは全然ない。 「もしかして君、こわ・・・グフッ!」 ギーシュが言おうとした事を、回し蹴りを腹に叩き込んで黙らせる。 「何を・・・する・・・」 「別に私は怖いわけじゃないのよ!ただ、出ても仕方ないと思っているから言ってるのよ!」 「あぁ、勝てないか、グハッ!」 追撃にボディーブローを叩き込んでおく。 「言っておくが、お前に拒否権はないぞ?」 「何でよ!?」 「オレ様を勝手に召喚したのだ、それぐらいは聞いてもらわないとやってられんからな」 召喚した手前、そう言われるとあまり強く出られない。 いっその事、力の制限を解いて勝手に帰ってもらおうかとも思ったが、それをしたら何か負けた気がするためその案は却下した。 「わ、分かったわよ・・・出ればいいんでしょ」 「決まりだな。そういえば、お前はそれに出るのか?」 なんとかルイズの攻撃から復帰したギーシュに聞くラハール。 「僕かい?当然さ!何せアンリエッタ姫殿下が見に来られるんだ!出場していい成績を残してみたまえ!姫殿下にいい印象が残るかもしれないからな!」 かなり力説しているギーシュだが、それはないなとラハールは思った。 「お前では、一回戦目を勝てればいい方だろ?」 「グッ!失礼な事を言うね・・・」 「お前に勝ったオレ様が言うのだから間違いないだろ?」 「相手が2年生なら・・・」 「オレ様か3年にでも当たったら間違いなく負けるなお前」 「・・・出るのやめようかな」 ギーシュの心が折れた瞬間であった。 その後、厨房に行きマルトー親父と名乗るおっさんに何故か、尊敬されてしまったラハールは、昼を食べる事が出来た。 「・・・なんだあのヴェスヴィオみたいに暑苦しい奴は」 厨房から出てきたラハールは少しげっそりしていた。 「しかし、あの授業の時に発動しかけた魔法・・・何か別の力が働いていたみたいだったが・・・」 これが魔法に詳しいエトナかフロンならばもう少し分かったのだろうが、ラハールの専門は破壊だとか吹っ飛ばすなどといった攻撃魔法専門である。 「まあ、わからん物は仕方がないな」 これがフロンならば少しは調べる気になったのだろうが、ラハールはどうでもいい事は調べる気にはならない。 まあ、調べてもおそらくわからなかっただろうが・・・ 「さて、これからどうするか・・・あいつらに合流するか、それとも少しどこかで昼寝でもする、カッ!」 殺気を感じたラハールは、剣を引き抜きどこから飛んできたかわからない氷の矢を斬った。 「・・・なんだ?」 気配を探るが、どうやらもう近くにはいないようだ。 「オレ様を殺すのに氷の矢一本とは舐めてくれるな。これなら、シャスの罠の方が何倍も危険だぞ」 何か観点が違うような気がするが、悪魔とはそういうものである。 いつ、誰が、どこで自分が狙われているのかわからない。 だからそれぐらいにしか思わないのかもしれない。 「・・・部屋に帰って寝るとするか」 そう言って、ルイズの部屋に帰って行くラハールであった。 ここは、学生寮のタバサと呼ばれる女子生徒の部屋。 今この部屋には2人の人間がいる。 1人はこの部屋の主、タバサ。 もう1人はフードをかぶった女である。 「・・・あれでよかったの?」 さっきの氷の矢はタバサがやったものらしい。 「えぇ、あの程度で死んでは主が楽しめないから」 どうやら、タバサに命令してやらせたのはこの女みたいだ。 「・・・用はもう終わった?」 「つれない事を言うのね。でも、もう1つ命令があるわ」 「それは?」 「簡単な事よ。本当に簡単な事」 その後、タバサが聖剣杯に正式に出場届を出したという。 前ページ次ページゼロと魔王
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/2566.html
146 名前: ◆UDPETPayJA[sage] 投稿日:2012/11/18(日) 07 16 57 ID bCG4otFg [2/7] 瀬野が穂坂の家まで案内することになり、俺たちはすぐに向かうことにした。 瀬野のバイクはそのまま、白曜の校舎の職員玄関の隣の駐車場に置いておくことにして、 俺は瀬野に自分の傘を、半分貸した。俗に言う、相合傘というやつだ。 この図柄はあまり他人に見られたくはないが…事態が事態なので仕方がない。 そのまま学校から再びバス停まで戻ると、さほど待つことなく、バスが走ってきた。 このバス停は2つの系統が走っているのだが、瀬野はそのバスを見て「こいつだ。」と言った。 …そのバスは、まさについさっき俺たちが乗ってきたバスと同じ系統だ。つまり、逆走する事になる。 結局は方角はそこだったか…と一瞬思ったが、まあいいだろう。重要参考人が確保できたんだ。このくらいの出費くらいは大目にみよう。 バスの中には俺たち3人以外誰もいなく、静かなものだ。 俺と瀬野は最奥のシートにかけたが、結意ちゃんは真ん中の出入り口の近くの、2人がけの右寄りのシートに座った。 やはり、瀬野の事を警戒しているのだろう。あそこは、ドアが開けば1番に外に飛び出せる位置だ。 ブザーが鳴り、ドアが閉まると、バスは運転手のアナウンスと共に走り始めた。 隣に座るこの男。瀬野と俺ははっきりとした交流があるわけではない。ただ唯一あの時…1人の女の子の生死をかけて対立したことがある。ただそれだけの仲。 その女の子とやらは現在このバスに同乗しているのだが……… 改めて思う。この男は、いったい結意ちゃんのことをどういう風に思っているのだろうか? 自分の妹が飛鳥ちゃんを攫った、という事実をわざわざ打ち明けに来てくれて、今まさに穂坂の家に案内してくれているわけだか… あえて言うならば、なぜ自分の妹よりも結意ちゃんの味方をすることをとったのか? かつて、木刀を持って、殺す気で亜朱架さんたちのもとへ殴り込んだ結意ちゃんのことを忘れてはいないはずだ。 結意ちゃんだけでなく、亜朱架さんたちもそうだが、彼女たちを敵に回して、ただで済まされる訳がない。 …それを分かってて、なぜ? つまりは、こいつの中では妹よりも結意ちゃんの存在の方が大きいというのか? …なんとか、真意を確かめてみたい。 「瀬野、聞いていいか。」 「お、おう。なんだ?」 「お前にとって結意ちゃんとは…何だ?」 「なっ…」 瀬野は俺の問いに、急にどもり出した。…それもそうか。こんな真正面で、それも結意ちゃんがすぐ近くにいるこの空間で、言えるのか、と言われれば… 俺なら、言えないがな。けれどこの男は、俺とは違っていた。 「……なんつーか、アレよ。俺は、部活の同期だったんだよ。中学の時の。」 「誰の? …おっと悪い、言えないんだったか。」 こいつはさっき、結意ちゃんから「気安く呼ぶな」と宣告されたんだ。迂闊に結意ちゃんの名前は出せないだろう。 「剣道部だったんだよ。俺と…お、織原……は…」瀬野は前方に見える結意ちゃんの背中を、ちらちらと警戒しながら、小声で答えた。 「けど…突然辞めたんだ。何でかわかんなくてよ……剣道部時代から、織原…のファンは結構いたんだ。可愛くて、強いって評判でな。 でも…俺が見てた限りは…織原は、ずっと冷めてた気がする。 周りには感じよくしてたんだけどよ…なんつうか、一歩ひいた感じっつうか…俺にもよくわかんねえけどよ、そんな感じがしたんだ。」 俺は、結意ちゃんとは何だ? と尋ねた筈だが、瀬野は予想以上に饒舌に語り出していた。 それでも、話の内容は興味深かったので「へぇ………それで?」と、さらに探りを入れることにした。 「それから高校上がってしばらくして、ダチと街中ぶらついてたらよ…織原の姿を見かけたんだよ。 久しぶりに声かけてみっか、と思って喋りかけてたらよ、そこに神坂がやって来て……」 「ああ、そこに繋がる訳ね……」 俺の知ってるエピソードでは、その後その3人は地面とフレンチ・キスをしたはずだ。成る程…それが始まりだった訳だ。 「……まあ、何つうかよ…心配なんだよ俺は。まして今回は、俺の身内のやらかした問題だ。 ケジメはつけねえとよ……」 ふぅ、と溜め息を吐いて瀬野は肩を落とした。 こいつにも、こいつなりに抱えてるもんがあるんだろう。 …恐らく、いや、言わずとも、か。瀬野は結意ちゃんのことを…… こいつは俺と少し似ているのかもしれない。共通するのは、″結意ちゃんの幸せを願っている″という一点に尽きるが。 けれど、結意ちゃんが瀬野に振り向く事は有り得ない。 結意ちゃんは既に出会ってしまったから。自分の全てを賭しても構わない、と言える男に。 そしてこいつは、その2人を引き裂こうとしている女の兄なのだから。 147 名前: ◆UDPETPayJA[sage] 投稿日:2012/11/18(日) 07 18 14 ID bCG4otFg [3/7] * * * * * バスは元いた病院前のバス停まで差し掛かったが、瀬野はそこで降車ボタンを押さなかった。 目的地はもう少し先、という事か…バスはそこでは誰も乗せることなく発進した。 そこからバス停が向かった先は、さっき俺が探し回ってた方角だった。 なんてこった。意外と、近くにあったってのか? などと考えながら、見慣れない住宅街を目で送る。 暗雲立ち込める空は既に日が落ち、さっき探し回ってた時よりも暗く、見渡しづらい。 そうしている間にもバスは進み続け、病院前から3つ先のバス停で、瀬野は降車ボタンを押した。 瀬野を先頭にバスを降り、傘を開いて住宅街の区画内へと歩いて行く。 似たような外観の住宅がいくつも立ち並ぶ通りは、普段ならまず足を運ぶことはないだろう。 瀬野はその集合住宅地を迷うそぶりも無く、足を進ませる。 結意ちゃんは瀬野を蹴ってから一言も喋っていないが、しっかりとついて来ている。 こっそりと後ろを見て表情を窺うと…少し俯きぎみで、前髪で目元が隠れかかっているが、鋭い目つきは変わらない。 …何にせよ、この天気だ。早くカタをつけないと、身体に障る。 そんな事を考えながら、数分歩いたくらいのところで、瀬野は一軒の家の前で足を止めた。 「…ここが、吉良の家だ。」 瀬野はインターホンを押そうと、右手を″穂坂″と刻まれた表札の横にあるボタンに伸ばした。 おいおい、こいつは真正面から開けてもらえると思ってるのか? これは止めるべきだろう。 そう思い、俺は瀬野に声をかけようとした。 ───が、その瞬間。 「馬鹿なの…!?」 と、俺が喋るよりも早く、苛立った声で言い放つ。結意ちゃんは瀬野の服の襟首を掴み、勢いよく引っ張った。 「えっ…わ、わっ!」 瀬野はまたも面食らったように、どさり、と尻餅をつく形で転ばされた。 その瀬野の右足の脛を、結意ちゃんは思い切り蹴りつける。 ぎゃあっ、とうめき声を上げて、怯えたように瀬野は結意ちゃんを見上げた。 「馬鹿じゃないの、出るわけないでしょ……ぶち殺すよ…?」 結意ちゃんは鋭く瀬野を睨みつけて、その言葉を放った。 …まさか、結意ちゃんがこんな荒れた言葉を使うなんて。妹ちゃんや、亜朱架さんに対してすらそんな言葉遣いはしなかったのに… 今回の件、結意ちゃんは相当怒っているのは明白だ。 もしかしたら…いや、しなくても結意ちゃんは穂坂を殺しかねない。 それくらい、今の結意ちゃんは殺気立っているんだ。 結意ちゃんは無言で穂坂の家の門を開け、ドアには近づかずに、脇にある窓へと向かった。 まさか…確かにここを開ければ楽々と入れるだろうが…などと思っていると、結意ちゃんはあまりに無謀な手段をとった。 拳を握りしめ、すぅ…と息を吸い込む。軽い捻りを加えながら、全身の力をその拳に伝える様に。 「───らぁっ!!」 鋭く刺すような拳を、窓ガラスに叩き込んだ。 ガラスは、がしゃん、と軽い音を立て、一部分だけ砕け、穴を空けられた。 そんなに厚くないガラスのようだったが… いつかの結意ちゃんは、針金を使ってドアをこじ開けたはずだ。それがどうだ、まさか拳で割るなんて暴挙をとるなんて… 結意ちゃんはガラスに空いた穴から手を入れ、内鍵を解いて窓を開放する。そのまま、土足で穂坂の家へと乗り込んだ。 …瀬野はその一部始終を、俺の肩に隠れて見ていたが、俺たちも結意ちゃんに続いて家の中へ侵入した。 結意ちゃんはそのまま室内の探索を始めたようで、ありとあらゆるタンス、襖、扉が開かれ、水滴を含んだ足跡は2階へ続く階段まで伸びていた。 俺もそれを辿り、2階へと登っていく。やはり奥にあったドア2つは既に開け放たれている。 侵入して、わずか3分足らずといった所か。その短時間で、この家のありとあらゆる場所を探り終えた結意ちゃんは、右奥の方の部屋から無言で、ゆっくりと出てきた。 「………まさか、いなかったのか?」 148 名前: ◆UDPETPayJA[sage] 投稿日:2012/11/18(日) 07 19 32 ID bCG4otFg [4/7] 唾液を嚥下し、息を詰まらせながらも尋ねてみた。 だが…結意ちゃんは返事もせずに俺とすれ違い、階段を降りてゆく。 そのひとつひとつの動作が、足先ひとつとっても言葉に表し難い威圧感を孕んでいるようだった。 あまりの迫力に、死を恐れない俺ですら息を呑んでしまうが、止まっている場合ではない、と自分に言い聞かせ、結意ちゃんの後を追う。 ───その時だ。″ガシャン!″と、ガラスを穿った音よりも激しい音が響いてきた。 いったい何事か!? 俺は直ぐさに階段を駆け下り、音のした方…台所へ、向かう。 「なんだ!?」と声を荒げて台所に飛び込むと、そこには床にのたまう瀬野の姿があった。 その周りには砕けた食器がいくつもあり、瀬野の真後ろには食器棚があった。 「………………のよ…」 ぼそり、と結意ちゃんは小さく呟く。最初は何を言っているのかよく聞き取れなかったが… 「───どこにいんのよあの女は!! 答えろ!!」 叫ぶ。それと同時に結意ちゃんは、のたまう瀬野の顔面に、鳩尾に、肩に、あばらに…何度も何度も蹴りを加え始めた。 「がっ! わ、わからねぇ! ほんとに、しら、っあァ! しらないん、ごふっ…!」 ありとあらゆる暴力を加えられながらも、瀬野は必死に言葉を紡ごうとする。 …だけど、俺は知ってるんだ。こうなった結意ちゃんには…言葉は届かない。 「言え! 言いなさいよこの役立たずが! ぶち殺すわよ!? ほら! 答えなさいよ!!」 結意ちゃんの蹴りは、一般的な体格の男子のそれにひけを取らない程…それ以上の威力はあるだろう。 拳でガラスを割ったくらいなんだ、このまま蹴られ続ければ、瀬野の命に関わる…! 「やめろ結意ちゃん!」俺は結意ちゃんの両腕を掴み、身体を引いて瀬野から離そうとした。 けれど結意ちゃんの反応は、 「………邪魔する気?」 たった一言。その言葉だけで、背筋が凍りついた。間違いない、今この瞬間、俺は結意ちゃんに恐怖を覚えつつある。 けれど! 止めなければいけないんだ。 「ああ、するぜ! 結意ちゃんの手を血で汚させる訳にはいかない! 仮に1人でも殺してみろ! 飛鳥ちゃんが悲しむぞ!」 「………分かったような口を……聞いてんじゃないわよ!」 一瞬だけ頭を引き、間髪入れずに振りかぶってくる。 頭突きがくる。わかっていても、身体が反応するよりも早く結意ちゃんの額が俺の上顎を抉った。 「ぐぁ………っ!」 たまらず、手を離してしまう。ことん、と何かが床に落ちる音がした。同時に、口の中に鈍い痛みが走る。 一瞬だけ、落ちたソレを見やると…それは俺の前歯だった。 まさか、歯まで持っていかれるなんて…3分くらいで生えてくるだろうが…なんてことだ。 「………そんな事、よく分かってるわよ…! この地球上で1番、私が飛鳥くんの事を………ちっ…!」 結意ちゃんは磁器の破片と血だまりの中の俺たちを一瞥すると、まっすぐ玄関へ向かい、鍵を開けて外へと出ていってしまった。 すぐさま追うべきか…いや、追った所でどうにもなるまい。振り返り、瀬野を先に助ける事にした。 149 名前: ◆UDPETPayJA[sage] 投稿日:2012/11/18(日) 07 20 53 ID bCG4otFg [5/7] 「随分と、酷くやられたもんだねぇ…。」 「気に…すんな。俺のは、自業自得…だからよ…お前こそ、歯が……」 「気にすんな、舐めときゃ治る。歩けるか?」 「ああ…なんとかな。」 「よし…なら、行くか。」 息も絶え絶え、か。瀬野の手を取り、起こしてやる。肩を貸してやらなければ、歩くのすら辛そうだ。 こんな状態では、まして唯一の手掛かりが空振りに終わったのでは、これ以上の探索は成果は期待できないだろう。 結意ちゃんもそれをわかっていればいいのだが……… とにかく、それだけでも結意ちゃんに伝えよう。 互いに足を引きずりながら、俺たちも穂坂の家を後にした。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8443.html
前ページ次ページゼロと魔王 ゼロと魔王 第3話 魔王との決め事 ラハールはルイズの部屋でいろいろと説明を受けていたが、コルベールがラハールを呼び出し学院長室の前まで連れてこられた。 始めはルイズも付いて来ようとしていたが、コルベールに止められたため部屋に戻っている 「・・・この中にいる奴がここで一番偉い奴か?」 「ええ、何百年生きているのかわからないご老人ですがね」 「ほ~う・・・」 普通数百年生きていると言われれば、もうちょっと驚くのだろうが、悪魔でありラハール自身が1000歳オーバーなので、『人間にしては長生きだな』程度にしか感じていない。 「まあ、廊下で話すよりまず先に中に入りますか。オールド・オスマン入りますがよろしいか?」 すると扉の向こうから承諾の声が聞こえたので、コルベールとラハールは扉を開け中に入った。 「ようこそトリステイン魔法学院へ魔王殿。立ち話もなんじゃし、そこに椅子をご用意した。どうぞお掛けになってください」 「何か仕掛けておらんだろうな?」 シャスが魔王城にいる時には、毎日遊びと称して死ぬギリギリの罠にかけられていたり、自分の家来であるはずのエトナに、椅子の下に爆弾を仕掛けられ爆破されたことのあるラハールは、一応罠が無いか疑ってかかった。 「そんな事はしませんよ」 ラハールは完全に信じたわけではないが、相手が座って話すのに自分が立っているのは気にくわないと思い腰を掛けたが、何もなさそうで安心した。 「それで?話とは何だ」 「その前に幾つか伺いたいがよろしいか?」 「よかろう」 「それではまず、あなたは本当に悪魔であり、魔王なのですか?」 「いかにも!オレ様が史上最凶の魔王ラハール様だ!」 「そうですか・・・それでは2つ目、あなたは人間をどう思っていますか?」 「悪魔のような人間や天使のような人間もいたりして面白いと言えば面白いが、まあ愚か者どもが多いぐらいにしか思わん」 「これはまた手厳しい答えですがその通りですじゃ。それでは最後ですが、あなたはヴァリエール嬢の使い魔になったと考えてもよろしいかな?」 「・・・・」 ラハールは少し考える。当然ラハールに使い魔になったつもりもなるつもりも無い、起きたら不当な契約をさせられていた状態だ。 それでラハールが納得するかと言われれば、それは絶対に無い。 もっと言えば、ラハールが使い魔になる事は絶対に無いだろう。 だが、ここは自分の知らない異世界で加えて力が制限されている、この状態で下手な事を言えばどうなるかわからない。 だがラハールは、嘘でも誰かに使われる事を了承するのが嫌でこう答えた。 「そんなわけなかろう。オレ様が誰かに使われるなどありえん」 「そうか・・・」 こう言ってしまった以上、何があってもいいように身構えるラハールであったが、オスマンは以外にもこう答えた。 「うむ、その答えを聞いて安心したわ」 「はぁ?お前頭大丈夫か?」 「いや何、人間というのは巨大な力を持つと野心なんかを持つ。ヴァリエール嬢がそうならんとも限らん以上その答えの方が安心出来るというものですじゃ」 「オレ様はあいつを殺すかもしれんぞ?」 「それならとうの昔にやっておるはず。ですがあなたは殺していない・・・それはどうしてですかな?」 質問された時、ポワワ~ンとしたフロンの顔が浮かんだが、あれのせいではないと言い聞かせこう答えた。 「・・・別に深い意味は無い」 「それはそれでかまいません。ヴァリエール嬢は生きている、その結果がすべてじゃ」 「勝手に言っておれ。さあ、質問には答えたぞ、話とは一体なんだ?」 「ふ~む、まずあなたの左腕に出来たルーンじゃが・・・それは何か知っておりますかな?」 ラハールは、ちらりと自分の左手の甲に出来たルーンを見てみるが、少なくとも自分が知っている文字ではないためなんと書いてあるかわからない。 「全く知らん」 「それは、伝説の使い魔『ガンダールヴ』のルーンですじゃ」 「伝説の使い魔?」 「始祖ブリミルが呪文を発動させる為に長い詠唱を行う間、無防備になる体を守る事に特化した使い魔と言われ。そして、あらゆる武器を自在に扱い、その強さは千人の軍隊を一人で壊滅させる程だったという。まあ嘘か本当か、そんな使い魔の事ですかのう」 「オレ様の手に出来たこれは伝説の使い魔のだとして、なぜオレ様にそんなものが?」 「そこがわからんのですよ。そして召喚して契約したのはあのヴァリエール嬢・・・一体何が何やら」 「・・・あいつがそのきょむだったか?その使い手という事はないのか?」 ルイズの事をよく知らないラハールだからこそこの考えに行きついたが、ルイズの今までを知っている者にとっては絶対にたどり着かない答えだろう。 その答えに対してのオスマンの反応は・・・ 「第0の系統『虚無』、それについて知られている事は殆どと言っていいほどありませんが・・・ヴァリエール嬢の魔法は失敗ばかり、普通に考えればそれはありえんのですよ」 「普通ならばな、だがあいつは普通ではない魔王であるオレ様を呼んで。さらに伝説の使い魔のルーンがオレ様についた・・・ならば普通ならという答えは通用せんのではないか?」 「・・・とりあえず、これはおいおい調べていくとでもしますかな」 オスマンは完全に納得したというわけではないが、普通ではない事が続いている今の状況から一応調べてみるつもりになったらしい。 「しかし、なぜオレ様にこんな話を?」 「あなたも今の状態というものを知ってもらおうと思いましてな。ちなみにこの事が他所に漏れると、あなたはアカデミーという所に連れて行かれて徹底的に調べられてしまうかもしれんから、しゃべらん方がいいでしょう」 「・・・そんなの冗談ではないぞ」 とりあえず、この事は絶対に誰にも話さないようにしようと決めたラハールであった。 「他にも色々説明やら聞きたいことがあるがよろしいか?」 「ああ、かまわん」 「それではまず、あなたは一応東の方のメイジという事にしてもらいたい」 「なぜだ?」 「魔法を使えるのはメイジと、あと先住魔法を使えるエルフなんかですじゃ。あなたの魔法は詠唱が無いですから先住魔法に近いのですがな・・・その場合じゃといろいろ面倒くさい事になる可能性があるためですじゃ」 「つまり、オレ様はこれから何者かを聞かれた時、東のメイジだと言えばいいのか?」 「そうですじゃ。大体の奴らは魔法を使っても、疑問をもちはしても、問題はそこまでないでしょう」 本当はかなり際どいが、新種の魔法だとか、東の方の魔法だとか言えば少なくとも学院の生徒は騙せる・・・はず・・・とオスマンは考えている。 「他には?」 「それでは、『エクスカリバー』という剣を知っておられるか?」 「エ・・・クス・・・カリバー・・・だと・・・」 その剣の名前を聞いて、ラハールは凍りついた。 それはそうだろう、その剣に関わって今までろくな目に遭っていないからだ。 「その反応は知っているという事で間違いないですかな?」 「知っているも何も、あれの所有者はオレ様だからな、しかしなぜエクスカリバーがこの世界にある?」 「うむ、あれは数十年前にワイバーンに襲われた時に、助けてもらった二人組の一人に預けられた物なんじゃが。しかし、なぜあなたの所有している物が?」 実際問題、ラハールはエクスカリバーの所有者であるが、自分には合ってないという理由で使っておらず城の武器庫に適当に入れている。 まあそのせいで色々面倒な事が起るのであるが・・・ 「そんな事は知らん」 「ふむ、とりあえずその人物は、これから現れるであろう魔王が本当の所有者だからそれに渡してやれと言いおって、助けられた手前断わるわけにもいかずに今まで預かっておったのですじゃ。相当力を持っている剣ゆえ、誰に使えんように封印しておるが・・・返そうか?」 「・・・いや、遠慮する。それはお前が持っておいてくれ」 確かに今の状態でも、エクスカリバーを持っていればかなり戦えるだろうが・・・エクスカリバーに関わってろくな事になったためしが無いため断った。 ちなみに、さっき魔王剣を出そうとした時には出てこなかったため、使うかどうか本気で迷ったのはここだけの話である。 「それは構わんが・・・しかしなぜ?」 「・・・気にするな。だがどうしても必要になった時には返してもらう」 「わかった。それまで預かっておこう」 「話はそれだけか?」 「うむ、もう結構じゃ。何か困ったことがあれば言ってくれれば用意するが?」 「・・・」 ラハールは少し考えた、何かいるものがあったかと思い出してみるが思い当たらない。 (いや、そういえば・・・) 「それなら、棺桶をくれ」 「棺桶?用意することは簡単じゃが・・・なぜそんなものが?」 「オレ様が寝るのに使う」 「・・・変わったおりますな」 オスマンは少し笑いが引きつっていたが、相手が人間ではない事を思い出し、そんなものなのだろうと適当に思っておくことにした。 「それでは、コルベール君や、棺桶のある場所まで連れて行ってやりなさい」 「はい、わかりました。さあ、こっちですぞ」 そう言い、コルベールは廊下に出ていき、その後にラハールが付いて出て行った。 「・・・ふ~う、緊張したわい。しかし、あの者は昔助けられた2人組の1人に似ておるな・・・まあ、気のせいかの」 「・・・中身が入っていないとはいえ、持って歩く物ではないな」 ラハールは女子寮の中を棺桶を持って歩いていた。 それというのも、女子寮の前までコルベールが浮かせて持ってきていたのだが、女子寮の前でここからは、持って行ってくれと言われたためだ。 歩いていて少し迷いそうだったが、内装がそれほど難しい造りではなかったので、部屋の前に何とか着いた。 「ようやく、着いたか・・・」 1回棺桶を下して、ドアを開け中に入ってみると、ルイズは寝ていた。 今日1日いろいろあったために疲れが出たのだろう。 起こす必要性も感じなかったため放っておくことにして、棺桶をどこに置こうかと考えた。 結局、なぜか藁が敷いてある場所に置くことにして、やることが無い上に自分も少し眠くなったので寝ることにした。 「ハァ~、これからどうしたものか・・・」 そう呟き、睡魔に身を委ねるラハールであった。 前ページ次ページゼロと魔王
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8544.html
前ページ次ページゼロと魔王 ゼロと魔王 第7話 聖剣杯 前日 なんだかんだで時が流れて聖剣杯一日前、今日はアンリエッタが来ると言う事で生徒のほとんどが門の前で待機していた。 「おいギーシュ、なんだこの集まりは?」 「ん?ああ、もうそろそろアンリエッタ王女殿下が来るからね、生徒で出迎えという訳さ」 (そういえば、オレ様はどこかへ行って出迎えられたことがあったか?) 「そして、その後に開会式だよ」 「開会式ねぇ~・・・聖剣杯ねぇ~・・・」 ラハールに無理やり聖剣杯に出させられることになったルイズがやる気のない感じで言っている。 「随分やる気がないな君は・・・」 「あたり前でしょ、私は本来出る気がなかったんだから」 「あきらめるしかないだろう、ラハールに逆らうのは面倒だしな・・・・」 この短期間にラハールがどのような人物か把握したあたり、相当家来としてこき使われたらしい。 「あんたには少しは同情するわ・・・」 「君にもね・・・」 「お前ら、何の話をしておるのだ?」 「少しね・・・それより着いたみたいよ」 門の方を見てみると、馬車が来ていた。 それも、ガチガチに警護されているので間違いないだろう。 学院内にある程度進むと馬車が止まり、1人の騎士がドアを開け、中からアンリエッタが出てきた。 「・・・・あれがそうか?」 「ああ、あれが我らの王女殿下さ、美しいだろう?」 常人ならここで普通にうなずくのだろうが、ラハールはとある場所に目が止まって何も言えない。 「王女殿下、よくこのような大会のために出向いてくださり、光栄でございます」 オスマン率いる教員がアンリエッタの前に出て感謝の意を見せる。 「いえ、今年は私の私用などがありますゆえ」 「それでは、こちらへ・・・開会式がありますゆえ」 オスマンはそう言い、アンリエッタを会場に連れて行った。 後に残ったものは、自分の部屋に帰るものや会場に行くものなど、結構バラバラだ。 「いや~やはりアンリエッタ様はお美しいな~!さあ、開会式が始まる、僕たちも行こう」 「お前が仕切るな!・・・ん?お前もはやく来い」 「・・・行くわよ」 ルイズはもうあきらめた。 まあ、元々あきらめてはいたが・・・だが、出る以上はせめて悔いの残らない程度にはがんばろうと思っている。 開会式会場に着いた3人は、受付に選手と言う事を証明し会場入りする。 会場の中に入ってみると、コロッセオみたいな感じの所で、中央には30人近くの人間がいるだろうか、観客もかなりいる。 「今年は開会式ですらかなり参加しているね」 「そうね、去年なんて半分以上席が空いてたし、参加者だって10人ぐらいじゃなかったかしら?」 「まあ、当然と言えば当然なのかもしれないね。今年はなにせ王女殿下が御越しになられている、少しでも覚えてもらえれば幸運」 「それに開会式でお言葉を聞けるかもしれないと、出場していない生徒たちもこぞって出ているのだろう」 「ん?なぜさっきの奴が来る程度で出場してないやつまで来るのだ?」 そんな風に話していた2人の横で退屈にしていたラハールが話に加わる。 「さっきの奴って・・・君ね、グハッ!なぜ殴るのかね!?」 「誰が君だ?オレ様の事はなんと呼べばいいのか教えたはずだが?」 「クッ!・・・ラハール・・・様・・・」 「最初からそう言っておればよかったのだ。で?なぜあいつが来た程度でこんなに人が集まるのだ?」 ラハールとしては、自分が出向いてもこのように魔物が集まったことが無いため、不思議で仕方がなかった。 「そりゃあ、なかなかお目にかかる事なんて出来ないしね。一目見たいと言った奴らと、何か隙あらば覚えめでたくしておきたいと言った奴らが多いからじゃないだろうかね?」 「基本前者の方が多いだろうが」 「そういうものか?」 「あんた仮にも魔王でしょうが」と言いたいルイズであったが、ギーシュの前で言うと、そこから一気にバレる事を考え、グッとその言葉を飲み込んだ。 そうこうしている内に、開会式の時間になったため、ざわめいていた会場も静かになった。 そして、観覧席みたいなところから、オスマンとアンリエッタが姿を見せた。 「さて、まずこのワシから、軽いルール説明をする。皆心して聞くのじゃぞ」 観客出場者から、いいからはやくアンリエッタの話を聞かせろじじい、みたいなオーラが出ているが、オスマンはそんなものを気にせずに続ける。 「この大会は相手さえ殺さなければ基本何でもありじゃ、当然相手の使い魔も殺してはならんぞ。それさえ守れば、武器を使おうが魔法を使おうがなんでありじゃ。」 「ただし大会外で相手に手をだすのは反則だから気をつけろ?まあ、そのような姑息な手段をする奴らはおらんだろうがな。以上ワシからの話は終わりじゃ」 オスマンが引っ込むと、次にアンリエッタが前に出てきた。 その瞬間観客の主に男がすごい眼差しで見始めた。 「皆さん私は明日行われる、この大会が楽しみです。ですから正々堂々、騎士道精神に乗っ取って頑張ってください」 それ以外にも適当にあいさつを済ませて、話を締めた。 「アンリエッタ様ありがとうございました。それでは本日の開会式はこれにて終わりじゃ、明日の大会に出場するものは、しっかり英気を養うがよい。出ない者も明日を楽しみに待つがよい」 そして、オスマンとアンリエッタが引っ込むと、各々が好きに会場から出て行き始めた。 ラハール達も早々に会場から出始めた。 ルイズとラハールは、会場から出た後は、ギーシュともすぐに別れ寮に戻っていた。 「しかし・・・なんでもありか」 「・・・・あんた何するつもりよ?」 「オレ様が有利になるような事なら・・・と言いたいところだが、この世界ではプリニーがおらんから会場に爆弾を仕掛けるだのが出来んから何もせん」 「・・・・」 平然とそんな事を言うラハールに、半分呆れながら椅子に座って勉強を始めるルイズ。 「お前、こんな時でも勉強か?よくやるものだな」 「こんな時でもしないとね、私はただでさえ魔法が使えないんだから、人一倍頑張らないといけないのよ」 「そうか、まあがんばれ、オレ様は少し昼寝するぞ」 と言って、棺桶に入って行くラハール・ 「ふ~ん、おやすみ」 ルイズはこれで静かに勉強できると机に向かいなおった。 「さて、そろそろ休憩を・・・って、もう外暗いじゃない」 よほど集中していたみたいで、外はもう真っ暗である。 我ながらすごい集中力と感心していると、自分が空腹な事に気が付く、そして丁度棺桶の蓋が開いた。 「ふわ~、よく寝た」 「あら、あんた今起きたの?」 「ん?ああ、言ったろう少し寝ると」 「・・・少し?まあいいわ、それよりあんたお腹減った?」 「腹が減ったから起きたようなものだからな」 「そう、じゃあここにあんたの分も運ぶようにメイドにお願いしましょ」 そんな話をしていたら、ドアがノックされた。 始めは誰が来たのかと思ったが、ノックの仕方が独特ですぐに誰が来たのか分かって、急いでドアを開けた。 「こんばんはルイズ」 そこに立っていたのは、アンリエッタであった。 ルイズは一瞬固まったが、他の誰かに見られてはいけないと思い急いで中に招き入れた。 「ひ、姫様なぜこのような所に!?」 「静かに・・・誰の目があるかわかりませぬから」 そして、部屋を見渡し何もない事を確かめ息を静かに吐いた。 「ああ、ルイズ会いたかったわ」 「私もです姫様・・・しかしなぜここに?」 「・・・・」 アンリエッタは少し黙り、それからゆっくり言葉を吐き出した。 「ルイズ、あなたにお願いがあってきました」 「お願いと言いますと?」 「あなたに、アルビオンに行ってとある手紙を持ち帰ってほしいのです」 「アルビオンに・・・?しかし今あそこは内乱の最中で・・・」 「ええ、ですからお願いしいているのです」 「え?」 「ルイズ、私・・・今度ゲルマニアの王と結婚しないといけないの」 「そうなのですか・・・しかし、それと何の関係が?」 「実は、取り戻してほしい手紙と言うのは、私がアルビオンの皇太子に宛てた恋文なのです」 「!?」 「驚くのも無理はないですね。ですが、その手紙がゲルマニアに気が付かれるとこの婚約は破綻してしまうのですよ。そうなってしまっては、国力が落ちたこの国が他国の侵攻を食い止めることは無理でしょう」 「・・・話はわかりましたが、しかしなぜ私なのですか?」 「あなた以外に私は心の許せる友はおりませぬ、そしてそれを城の者にバレるわけにはいかない・・・そこであなたにお願いをしに来たのですよ」 ルイズは、あまりの話に愕然としていた。 そして、それと同時にアンリエッタに・・・友に頼られた事がそれ以上に嬉しかった。 だからこう答えようとしたのだ。 「お任せください姫様!このわt、痛!」 最後まで言おうとしたところで何者かに頭をはたかれた。 「つ~、ラハール!あんた何するのよ!?」 「オレ様に断わりもなく何を引き受けようとしておるのだ?」 「あんたは私の使い魔でしょ!それにあんただって私に断わりなく聖剣杯に出たじゃない!!」 「それがどうした。それ以上に気に食わんのは貴様だ!」 「え?私ですか?」 ルイズとは話は無いとばかりに、アンリエッタに指を突きつける。 「お前は言ったな?こいつは友達だと?」 「ええ、ルイズは私のお友達です」 「だったら何故自分のやった事を、こいつにやらせようとする?そして危険とわかっている所になぜ行かせようとする?」 「それは・・・!?」 「お前は国と友を天秤に掛けて、お前は国を取ったと言う事だろう?」 「違う!!私はルイズならとってきてくれると信じて!!」 「こいつが取って来てくれる事を信じている?何を根拠に言っておるのだ?こいつは魔法なんてものは使えないのだぞ?それを知っていて信じている?笑わせるな!」 「・・・」 「まあ、国と友、どっちを取ればいいか簡単だったな。普通なら国を取るだろうな」 「・・・・・ます」 「なんだと?」 「違います!」 「何が違うのだ?お前は国の方を取った。そして自分の尻を自分でふかず、人にふかせに行かせるのだろう?」 「国も友も!どっちも取ろうとした結果がこれなのです!あなたに何がわかると言うのですか!?上に立つ者の責任と言うものが!?」 「上に立つ者?笑わせるな、一国の姫程度が魔王であるこのオレ様に上の立つ者と言ったか?面白い事を言うものだな」 「ま、魔王?」 「ば、馬鹿あんた!?あんた何言ってるのよ!」 「お前は黙っていろ!それで?上に立つ者だからなんだと言うのだ?」 「・・・どっちかを取ったら、どっちもダメになる・・・だから国も友も取るにはこの選択しかなかったのです」 「姫様・・・」 「ですが、これだけは信じてください!私は国を救うためにルイズを捨てたわけではないと言う事を!」 「・・・らしいぞ、後はお前良く考えてから決めろ」 「え?ラハール?」 「お前さっき良く考えずにOKと答えようとしただろ?」 「そ、そんなわけないじゃない・・・」 「本当か~?」 「本当よ!・・・でもあんたはいいの?」 「いいとは?」 「嫌なんじゃないの?」 「何故だ?どうせ聖剣杯が終わったらまた暇になるからな、いい暇つぶしにはなるだろう」 「それじゃあいいのね?」 「何度も言わせるな」 「それでは姫様、その頼みつつしんでお受けします。ですが出発は3日後でいいですか?」 「ええ、私もそれぐらいに出発してもらおうと思っていたので・・・でも、あなたはすごい使い魔を持ったのね」 「姫様、ラハールが魔王だと言う事は内密にしていただければ嬉しいのですが・・・・」 「当然よ、私があなたから何か奪う訳ないじゃない」 「いや、結構あった気がするのですが・・・」 「細かい事を気にしてはダメよ」 「はあ・・・」 そこから、昔話が始まったので、ラハールは聞いていられないとばかりに、静かに窓から飛び立ち、マルトーの所に食事でもしに行くことにした。 前ページ次ページゼロと魔王
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8753.html
前ページ次ページゼロと魔王 ゼロと魔王 第11話 終わる因縁・始まる因縁 フーケを撃退したルイズ達は、学園に帰る。 ちなみに、フーケを撃退した事を学園長に報告し大目玉をくらったのだが、それはこの際どうでもいいだろう。 フーケを学園長に突きだして話は終わった。 その日の夜に何かパーティーがあり、ルイズ・タバサ・ギーシュ・キュルケは主役なのだそうだ。 ラハールは興味がないとばかりに並べられた料理を平らげていく。 適当に食べているとルイズに、一緒に踊らないかと言われたが興味がないと断った。 ほどほどに食べ終わり、テラスから飛び降りて近くの森に行く。 そして、森の中を適当に歩いて殺気を感じたのでその殺気の持ち主の名前を呼ぶ。 「タバサとか言ったか?おい、オレ様に何の用だ?」 ラハールはなぜか、タバサに呼び出しをされていた。 当然何か心当たりがあるわけはなく、普通なら絶対に応じないのだが、タバサの態度が最初から変なのが気になりタバサの呼び出しに応じたのだ。 そして、返事の代わりに飛んできたのは氷の矢だった。 それをデルフで斬るが、さらに次の攻撃が襲い掛かる。 「グッ!?」 飛んできた魔法は【エアハンマー】だった。 それをくらいフラつくが、相手は止まってはくれない。 氷の矢が飛来し、フラつく足を無理やり動かし何とか避ける事には成功する。 「相棒、こりゃまずったな・・・今日戦った時から思っていたが、相手はガチンコタイプじゃなくて暗殺タイプだ・・・」 「だからどうしたと言うのだ」 「相棒はまんまと相手の得意な戦場に顔を出しちまったって事だよ!」 そんな話をしている間に相手は、【ウィンディーアイシクル】の魔法を唱え、ラハールに攻撃をしてきた。 ラハールは、一瞬【メガファイア】を唱えようとしたが、ここは森の中だ。 ファイア系の魔法は、元の状態ならいざ知らず、今の状態で木に引火したら大事である。 相手はその事も計算に入れ、森と言う場所を選んだのであろう。 「相棒!何とかして相手に近づかない事には何も出来ないぜ!!」 そんな事はラハール自身も分かっている。 タバサの攻撃を避けながらどうにか好機を探す。 そして、好機を探すのとは別に狙っている事もある。 この世界のメイジは結構はやくにばてる、それが、元々魔力自体が少ないのか、この世界の魔法が特別大量に魔力を消費するのかは定かではないが、今としては丁度いい。 だが、当然それは相手も分かっている。 だから相手は、短期決戦に持っていくつもりだろう。 そう思った通りの行動が来た、四方八方からラハールに向かって飛来する。 クール系・ウィンド系でも同様に防ぐことは無理だろう。 なんとか剣で氷の矢を捌くが、剣一本では限界があり直撃をいくらかもらう。 だが、それで倒れることはない、なんとか攻撃をするために行動を起こそうとした時に、真正面にタバサがいた。 そして、相手は攻撃をしかけてくる。 「【ジャベリン】!!」 これで最後のつもりなのだろう、今までにない威力の【ジャベリン】をラハールに向けて放つ。 避けれるタイミングではなく、クール系・ウィンド系では敵わなく、ファイア系は論外。 まさしく、ラハールとしては詰み状態だろう・・・・ラハールがこの3種類しか魔法が使えなかったらの話ではあるが・・・・ 「【メガスター】!!」 ラハールは星属性のスター系メガ級魔法の【メガスター】をタバサの放った【ジャベリン】にぶち当てて相殺する。 タバサは一瞬怯み、体を硬直させる。 だが、その行動によりラハールに接近を許してしまった。 「これで終わりだ」 剣を首筋に当てられ、負けを宣言される。 今回は完全に自分の負けで、そして・・・と考えて頭が真っ白になる直前に声が聞こえる。 「あら?負けてしまったのね?残念ね、折角お母様を助けられるチャンスだったのに」 そう、タバサ自身はラハールに何の恨みもない、ただこの女が、あの憎きジョゼフの使いと言ったこの女とのかけをしていたのだ。 ラハールを倒すことが出来れば、母様を助けてやると言われてだ。 「あ?誰だ貴様?と言うより、どういう事だ?」 そんな事情を微塵も知らないラハールは当然の反応をする。 「これはこれは、異界の魔王よ。お初にお目にかかります。あなたと同じ虚無の担い手の使い魔、【神の頭脳・ミョズニトニルン】のシェフィールドと申します」 「あ?虚無の担い手?みょずにるにる?」 虚無と言うのは聞いたことあるが、神の頭脳だとか、ミョズニトニルンなどは聞いたことはないラハールには訳が分からないといったところだ。 「おや?何もご存じないのですね・・・まあ、それはそれでいいでしょう。今我が主の興味はあなた自身にあるようですしね」 「お前の主のことどうでもいい!それよりこれはどういう事だ?こいつがオレ様に対して殺気を向けてくる事と関係あるのか?」 タバサとしては、ラハールに殺気向けていたつもりはなく、ただ殺気だっていいただけなのだが、そんな事をラハールは知るはずもない。 「どこから話せばいいのか・・・まあ、その娘の母親は自分の娘を庇い、自分の心を壊してしまい・・・その娘は、健気にも死ぬような任務をこなし、今回はその母親のためにあなたを倒すと言う事が今回の任務っていう事ですよ」 その話を聞き、ラハールは一瞬自分の母親の事を思い出すが、一瞬でそれを振り払い言葉を言う。 「それで?それとオレ様を倒す事になんの関係がある?」 「さっきも申しあげたとおり、我が主はあなたに興味がおありで、あなたの実力を試すため母親の事を餌にあなたに差し向けたというわけです」 「それだけか?」 「まあ、厄介なその娘と母親もついでに始末したかったと言うのもあるでしょう。そっちについては本当についででしょうが・・・説明としてはこんな物でしょう」 ここまでの話を聞き、少なからずこの女と主とやらに怒りを覚えていた。 それは、人のてのひらで踊らされたのもそうだが、何よりタバサに母親を餌に使ったと言うのが気にくわない。 それは、ラハールの母親とタバサの母親がかぶったのかもしれない。 ラハールの母親であるグエンも、自分の命と引き換えに死んでいったのだ、タバサの母親は生きてはいるが、心が壊れたと言うのを聞く限り死んでるようなものであろう。 「気にくわんな・・・そんなにオレ様の力を知りたいのならお前か、貴様の主がくればよいだろう。挑戦ならいつでも受け付けるぞ?有料だがな」 「残念ながら、私は戦闘は得意でなく、我が主もこのような場所に来れるようなお方ではないでそこの娘を使ったというわけです」 「そうか・・・だったら、お前にその主という奴の所に案内してもらおうか?」 「それでも構いませんが、私は今回帰らさせていただきます。それでは、異界の魔王よさようなら」 「待て!!」 と言って、逃げようとするシェフィールドとかいう女を追いかけようとした時に問題が起きた。 ラハールの頭上に時空の歪が出てきたのだ。 「あ、相棒!上!上!」 「なん・・・だ・・・?」 時空の歪を見てラハールは少なからず固まった。 正確には、時空の歪から落ちてきている人物に対して固まった。 それは、フロンの妹であるオゾンである・・・まあこっちはまだいい・・・問題は自分の従妹である、シャスまで落ちてきていると言う事だ。 「な!?」 あまりの出来事に硬直してしまったため、オゾンとシャスが頭上に落ちてきているのを回避しそこね、2人にのしかかられる。 「ぐぇ!」 「痛いた・・・なんだよいきなり・・・」 「わ~い!もう一回もう一回!!」 「もう一回なんてごめんだ!・・・って!?ラハール!?」 自分が何をつぶしているのかを理解し、ラハールから急いで飛び降りる。 シャスはわかってもラハールの上で楽しそうに飛び跳ねている。 「えぇい!いいかげんに降りんか!!」 我慢の限界とシャスを跳ね飛ばし起き上がる。 シャスはケラケラと笑って見事な着地をしている。 よほどラハールに会えて嬉しいのだろう。 そして、そんな事があったせいで完全にさっきの女を見失ってしまった。 「チッ、逃がしたか・・・」 「ん?どうしたのラハール?というか、力下がってない?」 「あ?まあその辺はおいおい説明する・・・と言うか、時空の歪閉じてるぞ?」 「え?あ!?本当だ!?・・・ま、いっか。ラハールがいるし」 オゾンの言葉に若干ゲッソリしながら、さっきから一言も発していないタバサに声をかける。 「おい、お前はいつまでそうしている気だ?」 「・・・・」 「諦めるのか?」 「・・・・」 「・・・・ちょっと、痛いぞ」 そう言うと、タバサを一発殴る。 それでタバサは吹っ飛んで仰向けに倒れるが、ラハールは胸倉をつかんで起こす。 「質問に答えろ!貴様は諦めると言うか?」 「・・・・どうしろと?」 「あぁ?」 声を絞り出すように声を出すタバサには、悔しさと怒りの色が見える。 「相手は一国の王!それに比べてこっちはただのメイジ!!どうやったって勝ち目なんてない!!」 押しつぶされる前だったのだろう。 誰にも頼ることなく、そして今まで死ぬような思いをして任務に明け暮れていたタバサは、いくらトライアングルメイジだとしてもか弱い少女である。 自分が失敗をすれば母親が死ぬ。 感情を隠すことでそれらの重圧から逃げていたのだろうが、ここに来て爆発してしまったのだろう。 「1つ話をしてやろう・・・オレ様には昔、どうしようもないバカの家来がいた。そいつは、とある女のために世界を相手にした。まあ、そいつは全然役に立たなかったがな」 ラハールの魔界では、100年前に地球側が魔界に侵攻してきた事があった。 ジェニファーと言う地球勇者の助手が捕まってしまいゴードンと言う地球勇者が助けたのである。 実際はゴードン一人では絶対に無理だったが、ラハールやエトナやフロンが手を貸したことにより助けれたのである。 これはその時の話だ。 「そいつは、助手よりも弱く本当にどうやって勇者になったのかは分からんがな。たしかにそいつは諦めなかったぞ!!お前はどうする?諦めるのか?たった一国相手に諦めるのか!」 「・・・・」 冷静に聞くと、無茶ぶりにも程がある。 だが、タバサの心が少しは動いたのは確かである。 「後は、お前が決めろ。オレ様はお前がどっちを選んでも、奴らの所に行くつもりだがな」 「・・・・」 「だが、一つだけ言っておくぞ、ここでお前が諦めたらお前は絶対に後で後悔するぞ」 その一言でタバサの心は完全に動いた。 「・・・・行く」 「なんだ?聞こえんぞ?」 「たとえ一人でも行く!母様を失いたくない!!だから!!」 「フッ・・・言えるではないか・・・それでは行くぞ」 「・・・・あのさ、盛り上がってる所悪いんだけどさ、どういう話?」 この後、オゾンに諸々を説明するラハールだったが、さっき自分で言った言葉にダメージを受けたのはここだけの話である。 そして、ラハール達はその夜、トリステインからガリアに向けて旅立った。 前ページ次ページゼロと魔王
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8493.html
前ページ次ページゼロと魔王 ゼロと魔王 第4話 決闘! 前編 ラハールが目を覚ますと、すでに朝であった。 ベットにはルイズが昨日の格好のまま寝ているあたり、ルイズもずっと寝ていたらしい。 「少しだけのつもりが・・・まあいい」 そう言うと、窓を開けそこからマフラーを使って飛んでみた。 「一応飛ぶことはできるのか、まあそこまでスピードは出ないみたいだが・・・飛べるだけマシか、マフラーからの力の供給もほとんどないしな」 ラハールは人間と悪魔のハーフであるため自分の羽を持っていない、そのためマフラーをいつも身に着けている。 ちなみにこのマフラー、防御としても使える上に身に着けている者に一定の力を供給してくれるすぐれものである。 もっとも、すぐに主であるラハールに戻ろうとするため、他人が装着することは基本無理であるが・・・ちなみに元は普通のマフラーだった。 適当に魔法学院の上空を少し旋回していると、青い物体が地上に見えたため降りてみる。 「ん?よく見るとドラゴンではないか、なぜこんな所にいるのだ?」 魔界に住んでいるラハールにとっては、ドラゴンなんてものは珍しくもなんともないが、人間が住んでいる所に普通に寝ているので少し疑問に思った。 そんな風に思っていると、ドラゴンが起きてきた。 「フワァ~、よく寝たのね。しかし、あのちびすけときたら、韻竜であるこの私にその辺で寝ろなんて・・・今思い出しただけでも腹が立ってきたのね」 (しゃべるドラゴンということは、かなり高位のドラゴンということか?・・・だが、あまり強そうではないな) 魔界でもしゃべるドラゴンというのは高位のドラゴンだけなので、とても珍しい。 あまり強くないというのは確かだが・・・ 「でも、昨日のあの人怖かったのね。私の直感があれには逆らうなと言っていたのね」 「誰の事だ?」 「きゅい!?昨日の人なのね!?やめてなのね、私は食べてもおいしくないのね!」 「何を言っておるのだ?」 ラハールの事を本気で怖がっているみたいだが、昨日上空にこの韻竜がいたことを知らないため、ラハールはなぜ怖がられているのか分からない。 「え?食べないのね?」 「なんだ?食べてほしいのか?」 「絶対に遠慮するのね!」 ラハールはここまで話して、少し失敗したと思った。 相手が怖がっていたのなら、脅してやればよかったかと思ったからだ。 まあ、今となっては無駄と判断し少し会話してみる事にした。 「なぜお前はこんな所にいるのだ?」 「私は、とあるちびすけに召喚されて使い魔にされたからなのね」 召喚されて使い魔にされたという点で少し親近感を得たラハールであったが、そんな事は口がさけても言えないので、適当に思った事を聞いてみた。 「この世界のドラゴンはお前のようにしゃべるのか?」 「そんな事は無いのね!しゃべれるのは韻竜だけなのね!きゅい!その辺の竜種と一緒にされたら迷惑なのね!」 どうやら、この世界でもしゃべる竜というのは珍しいらしい。 「あ!私はしゃべったらいけないって言われてたのね!」 「いや、もう遅いだろ。しかし、なぜしゃべってはいけないのだ?」 「韻竜というのは、すでに絶滅していると人間が思っているかららしいのね。それがバレたら面倒な事になるからしゃべるなって言われているのね」 「オレ様の前ではすでにしゃべっておるが?まあ、オレ様は人間ではないがな」 「だから、この事は黙っておいてほしいのね。なんだかんだで、あのちびすけ相当怖いのね」 「それは構わんが・・・そのちびすけというのは誰だ?」 「私も召喚されて使い魔にされたばかりだからよく知らないきゅい、でもものすごく悲しい瞳をしていたのね」 「ほ~・・・まあ、どうでもいい事だな」 「私からしたら、これから使い魔として一生を付いて行かないといけないからどうでもいい事じゃないのね」 まあ、ラハールとしては使い魔になったからといって、ルイズに一生付いていくなんて事をするつもりはない。 ラハールは絶対にそう思っていないが、同等に扱うことはしても、下につくのはそれこそ死んでもないだろう。 「そういえば、お前の名前はなんなのだ?」 「イルククゥなのね」 「そうか、オレ様は魔王ラハール様だ」 「ま、魔王!そんなものが本当にいたの!?きゅい!」 「ん?お前達の中で一番偉いのは魔王ではないのか?」 「魔王なんて、お話の中でしかいないのね!」 どうやらこの世界では、悪魔=ドラゴンではないようだ。 つまり、この世界の奴らを屈服させればオレ様が・・・と考えたが面倒そうなのと今の自分の力を考えてやめた。 そう考えた所で、人間が何か言いながらこっちに来ている。 「そ、そこのぼく、それは竜といってとっても危ないの、だからこっちにきなさい」 それは、やや長めのボブカットにした黒い髪と瞳を持ち、少し低い鼻とそばかすがチャームポイントのメイドであった。 だが、ラハールにとって竜は怖くもなんともない。 それどころか、メイドの方がラハールにとっては怖いのである。 「ま、待て、それ以上近づくな」 「いいから!早くこっちに来なさい」 「ええい!近づくなと言っておろうが!」 「だから、竜は危険だと言っているでしょう!」 「だから!近づくなと言っておる!」 ラハールには最大の弱点が2つ存在する。 1つは、愛や前向きな言葉(最近ではプリニーが言った程度ではどうにもならない) もう1つは、体がムチムチした奴だ。(昔のトラウマが原因) メイドは一見するとあまりなさそうに見えるが、胸に関しては敏感なラハールはメイドが結構な胸を持っていると即座に判断した。 だが、そんな事をこのメイドが知るはずも無いため竜から引き離そうと近づいてくる。 「いいこだからこっちに来なさい!」 「いいから!オレ様に近づくな!」 そうこうしている内に、逃げるラハールをメイドが追いかける始末である。 その様子を見ていて、イルククゥは呆れていた。 メイドにその辺の竜扱いされてムカついたが、ラハールとメイドとの話を聞いていてアホらしくなったのである。 どっちにしろ主人にしゃべってはいけないと言われているため、文句の1つも言えないのだが・・・最終的にイルククゥが空気を読んでどこかへ飛んで行くほどであった。 「こっちに・・・ってあら?竜が・・・」 竜が飛んで行ったことに気が付いたメイドは、ラハールを追いかけるのをやめた。 メイドが追いかけるのをやめたのを見て、ラハールも逃げるのをやめた。 「ハァ~、まったくひどい目に遭ったぞ・・・」 脅威が去ったと思ったラハールだったが、メイドは近づいてきてこう言ってきた。 「大丈夫だった?怪我はない?」 「だから近づくなと言っておるだろうが!」 「なぜ?」 「オレ様はお前のようなムチムチした奴が大嫌いなのだ!」 メイドは少し驚いた、スタイルのいい子が好きな男の子は多くいるが、それに拒否反応を出す男の子も珍しいと思ったからだ。 まあ、嫌がっているのならあまり近づかないであげようと思い2メートルぐらい離れて話しかけてみた。 「なんであなたのような子供がここに?」 「子供だと?オレ様はお前達より100倍ぐらいは長く生きておるぞ」 「へ?100倍?」 そんな事は普通ありえないので、子供の戯言だと片付け、ここにいるのかを聞き直した。 「それでなぜここにいるの?」 「昨日召喚されて使い魔とやらにされたからだ・・・今思い出しても腹が立つ」 どうやら、これが噂のヴァリエール嬢が召喚した東のメイジらしい。 (こんな子供を召喚して使い魔にするなんて、貴族ってなんて残酷なのかしら)と思ったが言葉には出さない。 どこで誰が聞いているのか分からない、それがヴァリエール嬢の耳に入りでもしたら、メイドの首ぐらい簡単にとぶからだ。 そんな風に考えていると、グゥ~と言う音が聞こえた。 「・・・そういえば、召喚されてから何も食ってなかったな」 どうやら、その音はこの少年のお腹から出た物らしい。 「ご飯もきちんともらえなかったのですか?それなら、私について来たらご飯を差し上げますよ」 本当は眠くなって寝てしまったのが原因なのだが、メイドは知っているはずもない。 ラハールは少し考えたが、自分の空腹には抗えず付いて行くことにした。 厨房に着くと、メイドは奥の方に行き料理を適当に持ってきた。 適当に持ってきたが量は半端ではない、メイドも冗談半分で持ってきたのだろう。 「どうぞ、召し上がれ」 「それではいただこう」 大量の料理を前にして、ラハールはすごい勢いで平らげていった。 冗談半分で持ってきたが、完食した時にはメイドは驚きを隠せなかった。 「全部食べちゃった・・・」 「何かまずかったか?」 「いやそういう事じゃなくて、まさか完食するとは思わなかったから・・・」 貴族に出す料理のため、大量に作られているのでラハールが食べた量ぐらいではどうということはない。 「これぐらいなら楽勝だが?しかし、うまかったぞ。これはお前が作ったのか?」 「シエスタでいいわ。あと、これはマルトーさんという人が作ったのよ」 「そうか、うまかったと伝えておいてくれ」 「わかったわ、それじゃあ私は給仕の仕事があるから行くね」 そう言うと、どこかへ消えて行った。 「オレ様はもう少しこの辺を見て回るとするか」 腹を満たしやる事もないので、無駄に敷地は広い魔法学院を見て回るつもりらしい。 厨房から出てどこから見て回るかと考えていた。 その頃ルイズはと言うと、まだ寝ていた。 長時間寝ていてまだ起きないあたりよほど疲れたのだろう。 だが、ラハールが窓を開けて行ったため冷たい風が室内入り目が覚めた。 「う~寒い・・・ってあれ?私いつの間に寝てたの?・・・ん?なんで私の部屋の中に棺桶があるのよ」 恐る恐る棺桶の蓋を開けてみると、中には毛布が入っていた。 そして、室内に自分が召喚したラハールがいない事に気が付きこの中で寝たのかと若干呆れた。 窓が空いているという事は、そこから出て行ったのだろう。 逃げ出したのかと思ったが、多分それは無いだろうと思い支度をすませ朝食を食べに行った。 「あれ?そういえばラハールの食事ってどうすればいいのかしら?・・・無いなんて言ったら暴れないかしら」 その事を考えて、どうするか本気で考えた。 何せ力を制限できたと言っても、戦えないほどではないだろう。 少なくとも、ルイズでは止める事すら不可能だろう。 「でも、あいつがどこにいるか知らないし・・・まあ、なんとかなるでしょ」 何とも適当な事である。 食堂の目の前に着くと、生徒の使い魔がたくさんいた。 使い魔は食堂には入れないので当然と言えば当然ではあるが、その使い魔達を見ていると自分も普通の使い魔を召喚したかったとつくづく思った。 いくら召喚した使い魔の中で最強だとしても、いう事を聞かなければ意味がない。 そう思っても始まらないため、食堂に入り自分の席についた。 すると、とある生徒に話しかけられた。 「あらルイズ、昨日の使い魔召喚の儀式できちんと召喚できたみたいね」 「・・・ツェルプストー」 ツェルプストーと呼ばれた女性は、ルイズの宿敵・・・というより家同士の宿敵である。 「朝から機嫌が悪いですこと。あと、怒りたいのはこっちよ?昨日のあんたの爆発のせいでこっちは酷い目に遭ったんだから」 その事に関しては、ルイズに明らかに非があるためなんとも言えなくなるが、ツェルプストー相手に非があったと認めるのは癪に障るので、開き直る事にした。 「そんなの知らないわよ、爆発に巻き込まれたあんたが悪いわ」 「人に危害を加えておいて開き直るとは何様よ・・・まあいいわ、それよりあんたが召喚したっていう東の方のメイジっていうのに興味があるのよ」 「東の方のメイジ?」 ルイズは早くに寝てしまったため、学院の生徒に流れた偽の噂を知らない。 「違うの?」 だが、そう聞かれて本当の事を言っても信じてもらえないだろうし、何より悪魔を、それも魔王を召喚したなどバレた日には自分の命が危ない事を思い出し、その噂に乗っかる事にした。 「違わないけど、相手は子供よ?あんたが興味を持っても仕方ないんじゃない?」 ルイズは嘘が下手なため、ツェルプストーが興味を無くすことを話して適当に流してしまおうと考えた。 「あなた私をなんだと思っているのよ?そういう事じゃなくて、単純に興味があるだけよ」 「あんたが男関係以外で他人に興味を示すなんてめずらしいわね」 「本当にどう思ってるのよ・・・?まあいいわ、それでどんなやつ?」 「どうって・・・結構強いわよ」 「へ~あんたが召喚したのに?」 「うっさいわね!別にいいでしょ!」 言い合いをしていた2人だが、周りの生徒が騒ぎ出したかと思うと、ぞろぞろと食堂から出て行っている者がいた。 何事かと思っていると・・・ 「決闘が今から始まるらしいぜ!」 「まじかよ!一体誰と誰が決闘しようとしているんだ?」 「どうやら、噂の東の方のメイジとギーシュが「ヴェストリの広場」でやるらしいぜ!」 「そりゃ楽しみだ」 そんな会話が聞こえたのでルイズは焦った。 別にラハールを心配したのではない、というよりいくら力が弱くなったとはいえ、ドットのギーシュが勝てると思っていない。 万が一決闘を切っ掛けにラハールの正体がバレたらと考えて焦ったのである。 「楽しそうじゃない。東の方のメイジとやらの実力を見るいい機会だわ」 ツェルプストーがそんな事を言っているが、今はそんな事を気にしている場合ではない、とりあえず止めに行かなければいけないと思い、急いでヴェストリの広場に行くことにした。 前ページ次ページゼロと魔王
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8398.html
前ページ次ページゼロと魔王 ゼロと魔王 第2話 ルイズは、目の前にいる自称魔王と名乗る人物、いや悪魔が怖かった。 当然だろう、力の差というものを教えられると、人間不安になり怖くなるものだ。 それに加え、相手は10メイル程の火球をいつでもはなてる状態で、こっちは何も打つ手がない状態だ。 これで怖くないという奴は、あきらかに頭のネジが数本抜けているだろう。 だが、自分の召喚した使い魔に恐れている自分を許せず、どうなっても抵抗しようと思った。 足が震え、怖くて仕方ない。 せめて何か言おうと思い、言葉を口に出した。 「あ、あんた!やめなさいよ!あんたは私の使い魔なんだから、私の言うこと聞きなさいよ!」 ああ、自分は何を言っているのだろう。 相手は悪魔だ、自分の使い魔でもあるが、相手が言う事を聞くはずが無い。 だから、相手の左手のルーンが光り輝いて、火球が四散した時には、何が起こったのかわからなかった。 「な!?」「え?」 それは、どうやら相手も予想外の出来事だったのだろう。 驚きを隠せないといった表情をしている。 「貴様!一体何をした!」 悪魔が言ってくるが、自分にも何が起こったのかわからないので答えようがない。 「チッ!とりあえず、この左手についておるこれを何とかするのが先か・・・・」 何をするのかと思っていると。 「何かの契約みたいだが、こんな物、オレ様の力で打ち消してやる!」 すると、悪魔の左手に魔力が集まっていく。 それも、膨大な量の魔力だ。 これだけの魔力を持っているメイジなどまずいないだろうと思っていると。 悪魔の左手のルーンが徐々にだが、消えていっている。 原理はよくわからないが、力技で契約を無効にしようとしているのだろう。 ルーンが消えていっている事に、ルイズは焦ってこう言っていた。 「やめなさい!」 すると、消えていっている左手のルーンが再び光輝き、集まっていた魔力が四散した。 「な・・・・」 ラハールは絶句し、左手の甲を見てみると、折角消えていっていたルーンが、またクッキリと浮かび上がっていった。 その光景を見て、ルイズはこう考えた。 (私の声に反応して光っている?もしかして、ある程度私のいう事を聞かせられる?・・・なら、試してみる価値はあるかも) するとルイズは、ある言葉を口にした。 「あなたの力を制限するわ!」 「何をアホな事を言って・・・ってうお!」 すると、左手の甲のルーンが光った。 それも、今だかつてない光を放って。 なぜ、私の言うことを聞けとではなく、力の制限と言ったのか。 簡単な事だ、始めに「あ、あんた!やめなさいよ!あんたは私の使い魔なんだから、私の言うこと聞きなさいよ!」と言った時、「私のいう事を聞きなさいよ!」という言葉に反応したのではなく。 おそらく、「やめなさいよ!」に反応したと思ったからだ。 悪魔がルーンを消そうとした時も、「やめなさい!」と言ったら、ルーンが光ったので、間違いない。 おそらく、本人に言う事を直接聞かせる事は出来ないのだろう。 だから、力の制限はどうだろうと思い、言ってみた。 どうやら、成功したみたいだが、失敗していた時の事は考えたくもない。 そして、光がおさまった。 「・・・」「・・・」「・・・」 今地面に立っている3名の間に変な沈黙が流れ、その沈黙を最初に破ったのは、悪魔だった。 「貴様!オレ様に何をした!事と次第によっては・・・・!?」 なにやら、驚いた顔をしたと思ったら、呪文の名前だろうか。 それを叫び始めた。 「『ギガファイア』!『メガファイア』!ギガどころか、メガ級の魔法まで使えんだと・・・」 だが、ポスッっと、虚しい音しかせず。 それ以外何も起きない。 「ならば!『ファイア』!」 すると、ようやく炎が出たが。 今までの、炎の魔法よりショボイ。 「クッ!異世界で使える魔法が初歩の初歩だけだと!ふざけるな!」 どうやら、さっき出した魔法は初歩の魔法らしい。 そんな事を考えていると、コルベールがルイズに話しかけてきた。 「ミス・ヴァリエール、どういう事かわかりませんが、皆が起きる前に、この悪魔をなんとかせねば!」 そうだ、悪魔なんて、そんなおとぎ話にしか出てこないと思っていた存在だが。 悪魔を召喚する事はタブーとされている。 悪魔を召喚した事がバレた場合、一体どのような事になるのかわかったものではない。 だが、ルイズはその悪魔を、使い魔として召喚して、使い魔にしてしまったのだ。 だったら、その事を隠さなければならない。 「ですが、どうすればいいんですか?」 「どうすると言われても・・・・事情を説明するなりして、悪魔である事を隠してもらうしか・・・・」 その場合ルイズは、平民を召喚したと言われるだろう。 だが、今はそんな事を言っている場合でもないので、コルベ―ルの案にしたがう他ない。 「わかりました。・・・・ねえ、ちょっとあんた」 「あぁ!?」 ものすごく怒っているみたいだが、こっちは、未来やその他もろもろが掛かっているため、気にする余裕なんてものは無い。 「あんた、悪魔だって事を隠してちょうだい」 「なぜオレ様がそn・・・・」 言いかけたと思ったら、いきなり黙り込んでしまった。 そして、こう答えた。 「・・・・いいだろう」 ものすごく嫌そうだったが、了承してもらえて一安心した。 ラハールが、なぜこのように答えたのかというと。 (異世界に迷い込んだと思ったら、変な契約を交わさせられた挙句の果てには、魔法や力の制限を受けている状態では何もできんではないか) どうやってラハールの力を制限したのか、わからないが。 魔法や力の制限を受けてしまった以上、少なくとも、自分が魔王である事は、隠した方がいいのは確かだろう。 (しかし、ここは一体どこなのだ?魔界という事は絶対に無いだろうし、天界でもない、ましてや人間界という事も絶対になさそうだな) ラハールがこう思うのは、魔界や天界なら人間がこんなにいるはずが無いし、人間界だとしても、人間界に魔力はほとんどない、それに比べて、ここは魔力があふれている。 (ならばここはどこだと言うのだ・・・) そうして、考えていると、ピンク髪の少女が話しかけてきた。 「そういえばあなた、名前は何て言うのよ?」 自分の力を制限したであろう、人物にラハールは、さっきまで足を震わしていたのは一体どこのどいつだったか、と皮肉の1つでも言ってやろうかと思ったが、やめた。 「・・・ラハール様だ」 「ふ~ん、ラハールっていうのね。これから私の使い魔として、よろしくね」 勝手にしたくせによく言う、と思わなくもなかったが、今の状態では、この世界で生きていく事は不可能だと思ったため、素直に言う事をある程度聞こうと思った。 「・・・よろしく頼む」 「そんな嫌そうに言わなくてもいいじゃない」 「誰のせいなのだろうな」 そんな会話をしていると、禿が横から話しかけてきた。 「話の最中失礼しますが、少し、あなたの左手のルーンをスケッチさせてもらっても構いませんか?」 「ん?これの事か?別に構わんぞ」 「それでは失礼して・・・ありがとうございます。他の物も、目覚めるようには見えませんし、あなた達はさきに、自分の部屋に戻っても構いませんよ。私は生徒たちを何とかしないといけませんから」 「はい、それではミスター・コルベール、お先に失礼します。行くわよラハール」 「オレ様に命令するな」 だが、付いて行くしか他に選択肢が無い為、言う事聞くしかないのだが。 そして、今までのゴタゴタを最初から最後まで空から見ていた者がいた。 それは、タバサという、トリステイン魔法学院の生徒だ。 ルイズが爆発を起こす、少し前に、その場を離れていたのだが様子がおかしかったので、召喚した竜に乗って、上から見ていたのだ。 「・・・」 どう思っているのかよくわからないが、あまりいい感情ではないだろう。 ただの危険事物として見ているだけかもしれないが、よくわからない。 シルフィードにいたっては、さっきまで怖がっていたが、ルイズが何かやったあたりから、落ち着いている。 寮の方に消えて行ったのを確認して、自分も寮に戻っていった。 寮に戻ると、ラハールからの質問に答えていた。 ここはどこなのか、とか、なぜ自分が召喚されたのか、など。 上げていてのではキリがない。 だが、ルイズも気になっていたことなどがあったので、ある程度こたえた所で逆に聞いてみた。 「そういえば、ラハールは炎の魔法を使ってたけど、あんたって炎のメイジなの?」 これはとても重要な事だ。 今まで、自分の系統がわからなかったが、これによって自分の系統がわかるかもしれないからだ。 「メイジというのは知らんが、オレ様は他に、ウィンド系の魔法と、クール系の魔法、あとスター系の魔法が使える。もっとも、どれも初歩の魔法しか使えんのだろうがな」 スター系というのはよくわからないが、炎の他にも、風、氷などが使えるらしい。 結局、自分の系統がわかりそうにないと思ったので、別の質問に変えた。 「あんたって、どれくらい強いの?いや、さっきのを見れば、相当強いっていうのぐらいはわかるけど・・・」 少し思い出して、怖くなったのはここだけの話である。 「あんなもの、全開の半分も出していないぞ」 「な!?」 それは絶句もするだろう、あの巨大な火球を出したのに、あれですら本気の半分も出していないというのだから当然である。 「そ、それなら本気を出したらどれくらいなのよ」 「そうだな・・・あそこに山が見えるであろう?あれぐらいなら簡単に消し去れるぞ」 そういうと、窓の外に見える一番大きな山を指さし、そう言った。 「少なくとも、人間風情がいくら群がろうとオレ様の敵ではないな」 それはそうだろう、ルイズは知らないが、数百年前に魔界に来た、200万の宇宙艦隊を1人で壊滅に追いやったのだ。 それも、1人の死者を出さずにである。 (私って、本気でやばい奴を召喚しちゃったかも・・・でも、要望通りに強い使い魔を手に入れれたのは事実よ。私の言う事を聞きそうにないから、おいそれと力の開放は出来そうにないけど・・・) 「そういえば、お前はどれくらい強いのだ?お前も貴族とやらなら、魔法なりなんなり使えるのであろう?」 ラハールがそのように聞いた時、ルイズは答えるかどうか迷った。 これを言えば、ラハールに馬鹿にされないだろうか? いやそもそも、ただでさえもいう事を聞きそうにないのに、これでもっと聞かなくなり、手を付けられなくたったらどうしようかとも思った。 だが、それではいけないと思い、覚悟を決めてこう言った。 「私は・・・魔法が使えないのよ。正確には、魔法を使っても爆発しか起きない。簡単に言えば落ちこぼれなのよ」 もっともルイズの場合、実践魔法を除いた座学ではほぼ学年トップの成績を収めているため、別に完全な落ちこぼれという訳ではないのだが。 「?たしか、使い魔の力=主人の力ではなかったのか?まあ、オレ様にビビっておったから半信半疑ではあったが・・・・」 そう言われて、次にラハールが何と言うか、怖くなったが。 一旦覚悟を決めたのだ。 何を言われても、我慢できる自信があった。 だが、次のラハールの言葉を聞いて、ルイズの心は我慢ができなくなった。 「ま、いいのではないか?お前はオレ様という、史上最凶の魔王を呼んだのだ。お前は誇っていいぞ・・・って、なぜ泣いておるのだ?」 「え?」 あまりの予想外の言葉に、泣いてしまったようだ。 今まで、誰かに認められた事などほとんどなく、ルイズの評価は大抵ろくでもないものばかりだ。 だが、それらの評価は本当の事なので、自分もその評価を何とかするために努力をしてきた。 それでも、現実とは非常なもので、ルイズの努力を嘲笑うかのように、魔法は失敗するばかり。 今回も、自分の実態を知り、ラハールは自分に何か言うのだろうと思っていたが。 まさか、自分を認めてくれるような言葉を言ってくれるとは思わなかった。 (何よ、そんな事を言われたらうれしいじゃない。本当に、嬉しすぎて涙が出るくらいにね。) だが、このままではラハールのペースに持っていかれると思ったし、何よりパッと見自分より年下の男の子に言われたため。 こう言ってみた。 「何よあんた、生意気よ」 「・・・何か勘違いしておるようだから、言っておいてやるが。オレ様はお前の数百倍は生きておるからな」 「えええええええええええええええええええええええ!?」 という、主人の驚きの声が寮に響いた。 ここは、トリステイン魔法学院の学院長室。 そこへ、すべての後片づけをすませたコルベールが、真剣な顔で入室した。 「オールド・オスマン、少しお話が」 「わかっておる、ミス・ヴァリエールが召喚した使い魔の事じゃろう?遠見の鏡で全部見ておったわ。おぬしがここに来るだろうと思って、ミス・ロングビルにも退出させてある」 「それではオールド・オスマン、あなたの意見を伺いたいのですが」 「ふむ、ヴァリエール嬢も随分と厄介なものを召喚したものよ。まさか、魔王を召喚するとは・・・」 「ええ、今はミス・ヴァリエールが力を封じていますが・・・おそらく、魔法だけでなく体術もかなりのもと予想できます」 「それは、「炎蛇」としての経験からかね?」 オスマンの言葉に、少し顔をしかめるが、すぐにこう答えた。 「ええ、それにまだ本気ではないところを見ると・・・」 「ヴァリエール嬢共々、戦争の道具として使われる可能性がある・・・かね?」 「はい、あれだけの強さですから。それに、あの魔王だけなら、戦争なんてものに手を貸すつもりはないでしょうが・・・・ミス・ヴァリエールがどうするかはわかりませんからね」 「・・・ふ~む、少なくともこれは、アカデミーや王宮の奴らに黙っておいた方がよかろう」 「そうでしょうね」 しばらく沈黙が続き、始めに声を出したのはオスマンであった。 「して、お主はあの魔王の左手の甲に現れた使い魔のルーン・・・・あれが何かわかるか?」 「いえ、それを含めてオールド・オスマンに伺うつもりだったので」 「あれはな、伝説のガンダールヴのルーンじゃ」 「な!?」 コルベールが驚くのも無理はないだろう。 ガンダールヴといえば、ハルケギニアでは神と並んで崇拝される伝説の偉人である、虚無の担い手の使い魔である。 それをルイズが召喚したとなれば、驚きもするだろう。 しかも、そのルーンが今付いているのは、あの圧倒的な力を持っていた魔王である。 元から強い者にそんなものが付いたとなれば、驚きを通り越して、もはや絶望物だ。 「まったく、ヴァリエール嬢も面倒な事を毎度毎度持ち込むが・・・・一気に2つもの面倒事を持ち込むとは」 「では、これも内密ということに?」 「それしかあるまい。それとじゃ、あの者はメイジという事にする。ただし、貴族ではないということにするのじゃぞ」 「何故ですか?」 「考えてもみろ、その辺の平民という事にしておいて、魔法を使ってみろ。確実に騒ぎになる。じゃが、メイジという事にしておけばある程度誤魔化せる。それに貴族という事にしたら、調べられたら一発じゃ」 「ですが、あの者の魔法は詠唱どころか、杖すらありませんぞ?エルフと勘違いをされでもしたら・・・・」 「その辺もなんとか誤魔化すしかあるまい」 「はぁ、では、その辺を話に行ってきます」 「ああ、頼・・・・いや待て、その者をここに呼んで事情を説明した方がいろいろよかろう。ただし、ヴァリエール嬢は連れてくるでないぞ」 「はぁ」 何故ルイズを連れて来てはいけないのかはわからないが、オスマンには、オスマンの考えがあると思ったので、一応そう反応したコルベールであった。 「それでは、連れてまいります」 「うむ、よろしく頼む」 そうして、コルベールは、ラハールを連れてくるために女子寮に向かっていった。 「う~む、これからどうなるのやら、ガンダールヴの召喚・・・・何か恐ろしい事の前触れで無ければ良いのじゃが・・・・」 オスマンは静かにそう言うと、自分の使い魔である、ネズミのモートソグニルが戻ってきている事に気が付いて、こう言った。 「して、今日のミス・ロングビルの下着の色はどうであった?」 この老人にシリアス展開をさせると、締めはこうなる事はお約束であった。 前ページ次ページゼロと魔王