約 313,154 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/866.html
そういえば教室の場所を聞くのを忘れていた。 どうやって教室を探すか。むやみに散策しても見つからないだろうし、遅れたらルイズが何を言い出すか。 しかしそんな悩みは、校舎にはいるなりあっさりと解決した。 廊下には人、人、人。軽く40人ぐらいはいる。どうやら何かあって、ここまで難を逃れてきたらしい。 時折聞こえてくる会話内容から、教室で爆発があり、ここまで逃れてきたこと。そして今、ルイズと、その使い魔が罰掃除をしているということを、僕は知った。 使い魔というのは才人の事だろう。罰掃除と言うからには、ルイズがこの騒ぎに何らかの原因を担っているのは間違いない。僕はそのとばっちりを受けたと言うことだ。 生徒達の様子から、まだ爆発して、それほど時間は経っていないらしい。教室も解ったことだし、急ぐ必要もないだろう。 僕はゆっくり歩いていくことにした。 いざ教室についてみると、中は凄い惨状を呈していた。 教室は一般的な大学の講義室のような造りをしているのだろうが、教室全体が煤汚れており、石っころが机や、壁にまでめり込んでいる。 教壇の辺りでは、才人とルイズが雑巾とちりとりを片手に、石っころを取り除きながら、煤汚れを拭き取っていた。 よく見るとルイズは机しか拭いていない。床などは全部才人がやる羽目になっているらしい。 と、机を拭いていたルイズが顔を上げる。僕が入ってきたことに気がついたようだ。 「遅いわよ、下僕! ほら、早く煤落とすの手伝って!」 どうしてこう、わざわざ勘に障る言い方をするのか。 僕は抗議もかねて、ルイズが渡そうとしている雑巾を無視し、教室中央にあったバケツから、新しい雑巾を一つふんだくり、才人の方へと向かった。 ルイズがなにやら言いたそうに、眉間にシワを寄せてこちらを見る。大方そこを全部任して、自分は休憩するつもりだったのだろう。そうはいかない。 僕が才人と一緒に床を拭き始めると、ルイズは諦めたように、机磨きを再開した。罰掃除という名目上、無理には押しつけられない様だ。 「しかし、何でこんな事になったんです?」 僕は才人に、ルイズには聞こえないよう小声で、どうしてこんな事になったのかを訪ねた。 不満げに床を拭いていた才人は手を止め、口元をにやりと歪ませ、喜々として語り出した。 「ルイズの二つ名……ゼロのルイズって言うんだけど、何でだと思う?」 何故だろう。胸がゼロだからか? 確かに干しぶどうみたいな申し訳程度の胸だが。 いや、胸から離れろ。 「魔法成功確率ゼロだからだとさ。何をやっても爆発するんだと。これも『錬金』とやらの失敗でなったんだぜ?」 才人の声がだんだんと大きくなっていく。色々溜まっているのだろう。しかし、ルイズに聞かれたらどうするつもりだ。 「錬金! あ、ボカーン! 錬金! あ、ボカーン! 失敗です! ゼロだけに失敗であります!」 既に声はかなり大きくなっていた。間違いなく、ルイズに聞こえているであろう。 どうして虎の尾を踏むようなまねをするのか。ルイズの方を見ると、机に突っ伏してプルプルと震えている。 手遅れかも知れないが、僕は才人に釘を刺す。 「才人、せめてもう少し小さな声で……」 しかし弱点を見つけて浮かれている才人は、声が大きくなっている事にも気がつかず、続ける。 「ルイルイルイズはダメルイズ~ 魔法が出来ない魔法使い~ でも大丈夫! だって、女の子だもん…… なんてな。ぶわっはっはっはっはっ……」 「当て身」 僕は才人の首筋を叩いて、強制的に黙らせることにした。このまま放っておいたら、僕まで何をさせられるか… もう一度、ルイズを見る。一見平静を装って、机拭きを続けているが、その表情には影が出来ている。 既に手遅れだったようだ。 危険な雰囲気だったが、ともあれ掃除は何事もなく、お昼には終わらせることが出来た。 用具を片づけ、何度か、訳が分からないといった感じで首筋をさすっている才人と、終始うつむいたままのルイズと共に教室を後にする。 「……さっきからずっと首筋がいてぇんだよなぁ。気がついたら、床で寝そべってたし。花京院、何かしらねえ?」 「いえ……」 ルイズはさっきから、一言も喋っていない。僕もいささかバツが悪いので、殆ど喋っていない。 重苦しい雰囲気が漂う。だが、元凶である才人はというと、まるで空気を読まず、一人で色々喋っていた。 ルイズの肩がプルプルと震えている。しかし才人はお構いなしにまだ喋る。 「胸もゼロ! 魔法の才能もゼロ! ゼロゼロゼロ、ゼロのルイズ~」 才人は一度、調子に乗り始めたら中々空気を読まず、一度痛い目を見ないと、いや、痛い目を見ても懲りないということは、既に熟知したつもりだったが、ここまでとは。本当にわからん奴だなッ! 僕はもう、言いたいだけ言わせておくことにした。今更黙らせても、もう手遅れだろう。 途中で僕は屯所へと戻るため、才人達と別れた。才人と違い、衛兵ということになっている僕は、食事は貴族達の後で、屯所で食べるからだ。 「じゃあ、後でな~」 「……ええ」 相変わらずルイズは何も言わなかった。 屯所に向かうため、中庭に続く広場を通る。昨日、ここで僕たちは召喚されたんだな。 お昼までは時間がある。何となく、僕はここを散策したくなった。 まだ所々、芝がはげ上がっていたり、土が盛り上がっていたりと、昨日暴れた痕跡が残っているものの、殆ど元の状態に戻っていた。 昨日逃げた時点では、かなり派手に荒れていたはずなのだが。それを半日とちょっとで、ここまで直せるものなのか。 「ン?」 芝がはげ上がった所に、きらりと光るものを見る。 近くによって確認すると、紫色の小ビンだった。 僕はそれをぱっと手に取る。 「香水か」 香りからいって、これは体臭を消すためのものと云うよりは、格調高い、女性の魅力を引き立てるようなタイプのものだな。 軽く振ってみる。中には液体が入ったままだ。捨てていったものではないらしい。 おそらく昨日暴れた時に、誰かが落としていったのだろう。 「後で、ルイズにでも聞いてみましょうか」 僕はそれを、屯所の外にかけておいた学ランの右ポケットに入れ、屯所の扉を開いた。 扉を開くと、ペイジさん、ジョーンズさんの他に、二人、僕の知らない人間がいた。 顔に半分だけマスクをつけた男と、顔の左側をまるまる覆うような眼帯をつけた男だ。 「おう新入り。初めてだな。俺の名はプラント」 「ボーンナム」 「花京院典明です。宜しくお願いします」 ペイジさんの話によると、四人併せて血管針カルテットなどと呼ばれているとのこと。理由は本人達も良く知らないらしい。 「さて、後はメイドが食事持ってきてくれるのを待つだけだな」 「そういや、今日は貴族共が中庭でティータイムしてるんだったな」 椅子に座って、メイドが来るのを待つ。 暫くして、こちらに近づいてくる足音が近づいてきた。 コンコンと、二回、ノックの音がした。 新入りということで、僕が扉を開ける。 「お食事をお持ちしました」 そこには、今日、僕にこの屯所の場所を教えてくれたシエスタと、何故か才人がいた。 「何故、才人がここにいるんです」 「いや、それがな……」 「なるほど……」 あの後、ルイズにゼロといった回数だけ御飯抜きを宣告され、空腹でふらふらさまよっていた所を、シエスタに呼びとめられ、厨房で賄い食をごちそうになり、そのお礼にと手伝いをしているらしい。 ちなみに僕が知っているだけでも40回は言っていた。ご愁傷様だ。 「しかし、良くその程度で済みましたね」 「ハァ、嫌みなんていわなきゃ良かったよ」 話している間に、今、ここにいる全員分のシチューとパンが並べられていた。 シエスタは一度、こちらに礼をしてから部屋から出ていった。才人も後に続く。 と、そうだ。 ルイズの近くにいた才人なら、さっきの小ビンのこと、何か解るかも知れない。 「才人、僕の学ランのポケットに小ビンが入っている。さっき広場で拾ったんだが、誰のか解らないんだ。おそらく貴族の誰かのだとは思うんだが。何か心当たりは無いか?」 「え、小ビン? ……そういや、広場で何かを探している奴がいたな」 「なら丁度いい。その人に返しておいてくれないか?」 「構わねぇけど……」 「なら、頼んだぞ」 才人もそういって、部屋から出ていった。 意外と早く持ち主が見つかったな。 「新入り、用事は済んだか? 早く飯にするぞ。……俺の名はペイジ」 「ジョーンズ」ビン 「プラント」ビン 「ボーンナム」ビビン 「「「「頂きます!」」」」パバ――ッ 「……頂きます」 実に斬新な食事の挨拶だ。ついていけそうにない。 To be contenued……
https://w.atwiki.jp/zerohouse/pages/450.html
第一回ゼロハウス杯 9月6日にマクドナルドにて静粛に執り行われた。 ケイが自分のプラチナを持ってくるのを忘れたり、 カツオがギリギリまでポケモン育ててたりと、 割とせわしない感じで始まったとかそういうのは内緒。 優勝候補であった小ほそが来れなかったりと、 メンツ的なものでの欠如もあったりした。 大会自体のテンポは思ったよりもいい感じで、 始まってしまえば、割とサクサクだった。 もう2人くらいなら増えてもストレスなくいけそう。 やはり、総当たりは熱い。 順位 ケイ キヴァヤシ 大門 紫苑 カツオ 江戸門 ケイ ─ ○ ○ × × ○ キヴァヤシ × ─ ○ × ○ ○ 大門 × × ─ × ○ ○ 紫苑 ○ ○ ○ ─ ○ ○ カツオ ○ × × × ─ ○ 江戸門 × × × × × ─ 1位 紫苑(5勝0敗) 2位 ケイ(3勝2負) 3位 キヴァヤシ(3勝2負) 4位 大門(2勝3負) 5位 カツオ(2勝3負) 6位 江戸門(0勝5敗) メモ紛失のため、曖昧な記憶が便りです。 正確な情報を覚えてる方は加筆修正をお願いします。 各自の使用ポケとか 紫苑 サンダース ギャラドス ゴウカザル ザングース エンペルト ムクホーク ケイ スピアー ネイティオ ハッサム ミカルゲ ピクシー カクレオン キヴァヤシ リザードン ハガネール マニューラ フシギバナ ハリテヤマ キングドラ 大門 ギャラドス ハッサム エアームド ランターン ブラッキー エレキブル カツオ ムクホーク キングドラ ニドキング リザードン マニューラ ハガネール 江戸門 トゲキッス ビークイン エネコロロ ルカリオ ゴウカザル スターミー 詳細ルール ROMはプラチナ推奨(眠り、こんらん、アンコなどの点を考慮して)。 持ってない人はダイパでおk。ただしリーダーはプラチナの人で。 レベル50、シングル、見せあいあり、6on3。 リーグ戦、総当たり形式。 禁止ポケモンに関しては下記参照。 ポケモンは事前に6匹申請しておく(名前だけでよい)。 途中での変更は禁止。 同じポケモンの使用は禁止、道具の重複もなし。 最後の一匹同士での「だいばくはつ」、「みちづれ」、「ほろびのうた」は、使用した側の負け。 反動(すてみタックルやいのちのたま)などのダメージで瀕死になった場合は、反動技を使った方の勝ち。 状態異常「ねむり」に関しては下記参照。 重複催眠(二匹以上のポケモンを同時に眠らせること)は禁止。 ただし、アンコールやこだわり系のアイテムをトリック等で押し付けられる(自分で持っていた場合は不可)、 「ゆびをふる」で催眠技が出た、「マジックコート」で跳ね返した場合は、大丈夫。 特性「しぜんかいふく」のポケモンはボールの色で判別可能らしい。 禁止ポケモン アルセウス 720 ミュウツー 680 ルギア 680 ホウオウ 680 レックウザ 680 ディアルガ 680 パルキア 680 ギラティナAF 680 ギラティナOF 680 ケッキング 670 カイオーガ 670 グラードン 670 レジギガス 670 カイリュー 600 ミュウ 600 バンギラス 600 セレビィ 600 ボーマンダ 600 メタグロス 600 ラティアス 600 ラティオス 600 ジラーチ 600 デオキシスNF 600 デオキシスAF 600 デオキシスDF 600 デオキシスSF 600 ガブリアス 600 ヒードラン 600 クレセリア 600 マナフィ 600 ダークライ 600 シェイミLF 600 シェイミSF 600 フリーザー 580 サンダー 580 ファイヤー 580 ライコウ 580 エンテイ 580 スイクン 580 レジロック 580 レジアイス 580 レジスチル 580 ユクシー 580 エムリット 580 アグノム 580
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/458.html
ゼロの究極生命体 序 第壱話 究極生命体 召還 第二話 究極な使い魔 誕生
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/374.html
愚者(ゼロ)の使い魔-1 愚者(ゼロ)の使い魔-2 愚者(ゼロ)の使い魔-3 愚者(ゼロ)の使い魔-4 愚者(ゼロ)の使い魔-5 愚者(ゼロ)の使い魔-6 愚者(ゼロ)の使い魔-7 愚者(ゼロ)の使い魔-8 愚者(ゼロ)の使い魔-9 愚者(ゼロ)の使い魔-10 愚者(ゼロ)の使い魔-11 愚者(ゼロ)の使い魔-12 愚者(ゼロ)の使い魔-13 愚者(ゼロ)の使い魔-14 愚者(ゼロ)の使い魔外伝 愚者(ゼロ)の使い魔-15 愚者(ゼロ)の使い魔-16 愚者(ゼロ)の使い魔-17 愚者(ゼロ)の使い魔-18 愚者(ゼロ)の使い魔-19 愚者(ゼロ)の使い魔-20
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/424.html
彼は1度死んだ。 殺されるわけがない、そう思っていた。 自分を殺せる奴はいない、その気持ちが油断を生じさせたのか 実にあっけなく、彼は死んだ・・・・ 目を開くと青空が広がっていた。 「さすがゼロのルイズ!」「平民を呼び出すなんて!」「ありえないだろ常識的に考えて」 なんだ・・・俺は死んだんじゃないのか? 「ち、ちょっと失敗しただけよ!」 ここはどこだ・・・?こいつらは・・・? 「ミスタ・コルベール!儀式を「だめです」 おい、そこの女!ここはどこだ! 「なによ!あんたが勝手に出てきたんでしょ! ほんとにもぅ・・・あんた、名前は?」 何だこいつは?人にものを頼む態度か? まぁいい・・・俺の名は、メローネだ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1163.html
4話 朝食を終えたルイズは教室に入った。 ホワイトスネイクはそれに続く。 もちろん今朝のように首から下をぼかしているとルイズが怖がって怒るので、ちゃんと全身を発動させている。 イメージとしては高校や中学校のそれとは違い、むしろ大学の講義室に近いその教室には、 多くの生徒が既に着席し、各々の使い魔を侍らせている。 その種類は実に多種多様。 キュルケの連れているサラマンダーや窓の外から教室を覗いている蛇のように、 地球では考えられないようなサイズの生き物もいれば、 フクロウ、カラスなどの鳥や猫など、地球でも馴染みの深いものもいる。 そして地球には間違いなく存在しない、目玉だけの生き物やタコ人魚、六本脚のトカゲなどもいる。 まるで動物園だ。場所が場所ならただ並べとくだけでも金を取れるだろう、とホワイトスネイクは思った。 教室にいた生徒達はルイズが入ってきたのを見ると、一斉にそちらに振り向いた。 そして好奇の目で、その後ろにいるホワイトスネイクをじろじろ見る。 ホワイトスネイクを召喚したのが他の生徒だったならここまで注目されることも無かっただろう。 だが現実に召喚したのは、「ゼロ」と呼ばれるルイズである。 生徒達は、一体この亜人がどんな使い魔なのか、何ができるのか、としきりに考えていた。 服装が朝食のときから何故かボロボロだったことも、彼らの気を引いた。 そんな時、一人の生徒――名をペリッソンといったが――があることを思いついた。 分からないなら、それを知っている者に聞けばいいじゃないか、と。 幸いなことに部屋がルイズの部屋の隣にあるキュルケが、自分のすぐそばにいる。 キュルケは恐らく朝にあの亜人を連れたルイズに会っているだろうから、何か聞けるはずだ、と考えたのだ。 ……もっとも、キュルケが彼の位置に近いのは、キュルケの色香に、 彼がカタツムリに群がるマイマイカブリみたいに引き寄せられただけなのだが。 そして、キュルケに声をかける。 そのこと自体は地雷ではなかった。 だが、彼が何の気なしに言ったある単語が、掛け値ナシにドデカイ地雷だった。 「なあ、キュルケ。君は『ゼロ』の隣のへy……」 自分が「ゼロ」と呼ばれたことを聞き逃さなかったルイズは、その声の方をじろりと睨む。 だがそれよりもさらに速く――それにルイズの意思が介在していたわけではないが――ホワイトスネイクが動いた。 流れるような動作で二の腕から円盤状の物体――DISCを抜き取る。 それをペリッソンの額に目掛けッ、全力で、投擲したッ!! ドシュウゥッ! DISCは空気を切り裂いてペリッソンの額に突き刺さるッ! そしてッ! 「命令スル」 ドグシャァッ! 「頭ヲ机ニ叩キツケテ気絶シロ」 全てはホワイトスネイクの言葉、いや命令通りになった! ペリッソンは声をかけるためにキュルケの方に伸ばしていた体を止め、急に背筋をぴーんと伸ばすと、 机の端をガッチリ掴んで、頭を思いっきり机に叩きつけたのだッ! そして不幸な(自業自得でもあるが)彼は、その一撃であっけなく脳震盪を起こし、昏倒して動かなくなった。 突然の出来事に目をむく生徒達。 事件現場のすぐ近くにいたキュルケなどは、驚きの余り声も出せずにペリッソンとホワイトスネイクのほうを交互に見ている。 ルイズもまたホワイトスネイクの一瞬の早業に驚愕し、目を見開いてホワイトスネイクを見つめている だがそんな様子には目もくれないといった調子で、ホワイトスネイクが口を開いた。 「口ハ災イノ元。人ヲ怒ラセルヨウナ事ヲ口ニスルモンジャアナイナ」 無論たった今昏倒させたペリッソンにだけではなく、教室にいる全員への警告である。 既に一人ぶちのめしてしまったので警告になっていないのはご愛嬌。 そしてホワイトスネイクは、今度は自分を驚きの目で見ている主人――ルイズに向き直ると、 「コレガ私ノ能力ノ一ツ、『命令』ダ。 私ノ命令ハ脳ヘノ直接的ナ命令。 ドンナ命令デアロウト、私ノ命令ハ必ズ遂行サレル。……命令ヲ受ケタ者ニヨッテ」 ごく当たり前のように、ルイズにそう説明した。 普通ならこういう場合……怯え、こんな危険な使い魔、と危険視するだろう。 だがこの使い魔がぶちのめしたのは、ルイズを「ゼロ」と呼んだ者。 ルイズはこの行動に、危険さではなく、逆に「忠誠」を見出したッ! そしてこの使い魔のことを……召喚してから初めてこのホワイトスネイクのことを…… 「なんてステキな使い魔なの……」と思った。 ちなみに、何故この時ホワイトスネイクがルイズを「ゼロ」と呼ぶことがルイズへの侮辱であることを知っていたのか、 そこまでは全く頭が回らなかった。 色々とゴキゲンになりすぎて、そこまで考えてる余裕が無かったのだ。 さて、生徒が一人犠牲になり、ついでにルイズがゴキゲンになって席についたところで教師が入ってきた。 中年の、やさしそうな雰囲気を持った女性である。 その教師は教室を見回すと、目を細めて、 「皆さん、春の使い魔召還は大成功のようですね。 このシュヴルーズ、みなさんの使い魔を見るのを毎年、楽しみにしているのですよ」 昏倒したペリッソンは人形みたいに机の下に倒れているので、シュヴルーズはそれには気づかない。 加えてシュヴルーズ自身が少しばかり空気が読めない気質なので、 教室の生徒達がほんのちょっぴり青い顔をしてるのにも気づかなかった。 そして教師――シュヴルーズの目がある一点で止まる。 多くの生徒の中で唯一亜人を召喚したルイズと、その使い魔ホワイトスネイクのところで。 「おやおや、また変わった使い魔を召喚したようですね、ミス・ヴァリエール」 少しばかりとぼけた台詞だったが、ここで笑う者は一人もいない。 むしろ下手な反応をすればペリッソンの二の舞になるんじゃないかとビクビクしていたので笑うどころではない。 「ええ、ミセス・シュヴルーズ。でも、それほど悪い使い魔ではありませんのよ?」 「そうですか。それは実に結構です」 余裕のある口ぶりで切り返すルイズ。 それにシュヴルーズも和やかに答える。 その余裕が他の生徒達には恐ろしく感じられた。 「他の皆さんも、静かにできていてとても立派ですわね。 授業を受ける態度とは、まったくこうあるべきものですわ」 先ほども言ったとおり、 シュヴルーズは少しばかり空気が読めないのだ。 「では、授業を始めますよ」 シュブルーズがこほん、と咳払いして杖を振るう。 すると机の上に石ころがいくつか転がった。 授業が始まる。 (中々分カリ易イ説明ヲスル教師ダ) 授業を聞きながら、ホワイトスネイクはそんな事を思った。 シュヴルーズの授業は以下の通りである。 魔法には火、風、水、土の4つの系統と、 今は失われた(使えるヤツがいないということだろうか? とホワイトスネイクは思った)虚無を合わせて、 全部で5つの系統があるということ。 そしてシュブルーズが言うには、土の系統は5つの系統の中で最も重要らしい。 その理由として、土の属性が重要な金属を作り出し、加工することが出来ることとか、 大きな石を切り出して建物を建てることが出来るということ、 それに土の系統が農作物の収穫にも関わっているということを挙げた ホワイトスネイクにとってはどれもこれも初めて聞くことばかりなので、熱心にシュブルーズの説明に耳を傾けていた。 スタンドのデザインに耳は無いけど。 でも説明が丁寧な分、他の事を考える余裕も出てくる。 (ダガ手間ヲ考エナイナラ貴金属ヲ手ニ入レルコトモ、加工スルコトモ可能ダ。 建物ヲ建テルコトモ、農作物ノ収穫率ノ向上モ同様ニ。 『暮らしを楽にする』トイウ観点デハ、火ヲ楽ニ起コセルデアロウ火ノ系統ノヨウニ、他ノ系統モ重要ダロウ。 スタンドト同様、各系統ニ優劣ノ関係ハ無イト考エルベキダロウナ) そうこうしているうちに、シュヴルーズが机の上の石ころに向かって、 小ぶりな杖を振り上げた。 そして短く何かを呟くと、石ころが輝き始める。 数秒後、光が収まると、ただの石ころは光を反射してキラキラ輝く金属に変わっていた。 「ゴゴ、ゴールドですか? ミセス・シュヴルーズ!」 キュルケが身を乗り出して言う。 シュヴルーズはやさしく微笑んで、 「違います。ただの真鍮です。ゴールドを錬金できるのは『スクウェア』クラスのメイジだけです。 私はただの……」 と、ここでもったいぶった咳払いをして、 「トライアングルですから……」 と言った。 (『トライアングル』? ソレニサッキハ『スクウェアクラス』トカ言ッテタナ。 メイジトシテノレベルヲ表スモノナノカ?) 初めて聞く二つの単語にホワイトスネイクは頭を捻る。 (『トライアングル』……地球デハ『三角形』ノ意味。ソシテ『スクウェア』ハ『四角形』ノ意味。 『3』ト『4』……カ。一体ドレクライ違ウンダ? アノ教師ハ『スクウェアならゴールドを錬金出来る』トカ言ッテイタガ……ヨク分カランナ) 「ねえ」 そんな事を考えていると、ルイズから声がかかった。 「ドウシタ、マスター? 授業中ハ授業ニ集中シタ方ガ良クナイカ?」 ルイズにだけ聞き取れる程度の声でホワイトスネイクが答える。 「授業、そんなに面白いの?」 「私ニトッテハ真新シイ事バカリダカラナ」 「ふーん……」 「マスターニハ退屈ナ授業ナノカ?」 「そうよ。知ってることばかりだもの」 「予習シタノカ?」 「自分で調べたのよ。魔法が……いや、なんでもないわ。 とにかく知識だけはたくさんあった方がいいと思ったの」 ルイズの意外な一面に感心するホワイトスネイク。 そこで、 「マスターニ後デ聞キタイコトガアル」 「何よ? 今でいいわよ」 「授業ハ『素振リ』ダケデモイイカラ真面目ニ聞クベキダ」 神学校時代のプッチ神父の学友の言である。 もっともプッチ神父は、その学友とはウェザーの記憶を奪った日以来会うことは無かったが。 はたして、その学友の言は正しかった。 「ミス・ヴァリエール!」 「は、はい!」 「今は授業中ですよ。 使い魔とお喋りするのは後になさい」 「すいません……」 「お喋りするヒマがあるなら、あなたにやってもらいましょう」 「へ? な、何をですか?」 このルイズ、授業を全く聞いていなかったようだ。 「ここにある石ころを、あなたの望む金属に変えるのです。 さあ、やってごらんなさい」 そう言われたものの、ルイズは行こうとしない。 何やら困っているような、戸惑っているような、そんな様子だ。 そして、周囲の生徒達もざわつき始める。 ホワイトスネイクはその理由が大方分かっていたが、あえてこの場でルイズにそれを言うことは無かった。 逆に、何故ルイズがそんなに戸惑うのか分からない、と言ったような態度を取っている。 彼なりの気遣いである。 少しした後、ルイズは意を決したように立ち上がり、 「やります」 とだけ言った。 それを聞いた教室の生徒全員が、一斉にさっと青ざめる。 だがさっきホワイトスネイクがやらかした時よりも度合いが激しい。 しかし……声を上げる気にはならない。 下手なことを言えばルイズの亜人――ホワイトスネイクが襲い掛かってくる恐れがある。 しかし……そのうちの一人であったキュルケが、ある種の勇気を持って声を上げた。 「ミセス・シュヴルーズ! ルイズに魔法を使わせるのは……その……危険、です」 じろり、とホワイトスネイクがキュルケのほうを見る。 まるでカエルを睨む蛇のように。 だが攻撃はしてこない。 まだラインインのようだ、とキュルケは胸をなでおろした。 いや、ひょっとしたらラインオンかもしれない。 そして内心に、何が「大したことは出来ない」だ。 十分に恐ろしいじゃないの、と毒づいた。 だがキュルケの決死の抗議は―― 「あら、どうしてですか? ミス・ツェルプストー」 シュヴルーズには理解されなかった。 キュルケはこの勘の鈍い教師に腹を立てると同時に、 これ以上のことを自分が言わなければならない事を嘆いた。 そして当たり障りの無い言葉を必死で探して、 「ミセス・シュヴルーズはルイズを教えるのは初めてですよね?」 と聞いた。 我ながら上手く言ったものだ、とキュルケは胸をなでおろしたが―― 「ええ、でもミス・ヴァリエールが努力家ということは聞いています。 さあ、ミス・ヴァリエール。気にしないでやってごらんなさい。 失敗を恐れていては何も出来ませんよ?」 ダメだ。 「ルイズが失敗する」ことまでは察してくれたようだが、 ルイズが魔法を使うことの危険性はさらにその先にある。 それがこの教師には分かっていない。 「ルイズ、やめて」 キュルケが顔を青くして懇願する。 しかし教壇の方へ向かうルイズが振り向くことは無かった。 「あら、使い魔さんはついてこなくてもいいのですよ?」 ルイズの後ろに空中を滑るように移動しながら着いていくホワイトスネイクにシュヴルーズが声をかける。 ルイズも足を止めて振り向く。 「ソウカ」 ホワイトスネイクはその指摘に短く答えると、フッと姿を消した。 今朝やったのと同じ「解除」である。 ルイズは朝に一度見ているからそうでもなかったが、 目の前でそれをはじめて見たシュヴルーズは勿論、教室中の生徒が驚いた。 「あ、あの……ミス・ヴァリエール? あなたの使い魔さんは……」 「大丈夫です。わたしもちょっとびっくりするけど……呼べば出てくると思います」 ホントかよ、と教室中の生徒全員が思った。 そして、いっそもう二度と出てこないでくれ、とまた全員が全員、同じように思った。 「そ、そうですか……。ではミス・ヴァリエール、やってごらんなさい。 錬金したい金属を強く心に思い浮かべるのです」 ルイズはこくりと頷いて杖を振り上げる。 そして呪文を唱えて、杖を振り下ろすと―― ドッグオォォォン! 爆発したッ! 爆風をモロに受けたシュヴルーズは吹っ飛ばされて黒板に叩きつけられる。 そして教室にいた生徒達も、やはり同様に被害を受けた。 悲鳴が教室中に巻き起こる。 生徒達の使い魔は爆発に驚いて暴れ始め、そのうち共食い(厳密には共食いではないが)が始まりかけた。 そして爆発を起こした張本人であるルイズはというと…… 「……大丈夫カ? マスター」 いつの間にかルイズの目の前に現れたホワイトスネイクによって爆風から庇われたので無傷だった。 「あ、えと、その……ありがと、ホワイトスネイク」 自分を守ってくれた使い魔の背中に礼を言うルイズ。 「気ニスル事ハナイ」 そういって振り向いたホワイトスネイクのコスチュームは、やはりボロボロになっていた。 いや、朝に一度爆発を食らったので、さらに1段階酷くなってはいるが。 そしてその姿を見て、ルイズはとても情けない気分になった。 使い魔の前で失敗した挙句に庇われたのだ。 その事実が、ルイズの高いプライドを傷つけないはずは無かった。 結局、ルイズは爆発を聞きつけてやってきた教師に、罰として教室の掃除を命じられた。 その際に魔法をつかってはいけない、とも言われたが、魔法を使えないルイズには関係ないことである。 ルイズは床に散らばったり、机や椅子にめり込んだりしている破片を集め、 ホワイトスネイクは壊れた窓ガラスや机をせっせと運び出している。 ルイズが片づけに参加するのは、傷ついたプライドがこれ以上傷つくのがイヤだったからだ。 失敗して教室をメチャメチャにしたのは自分。 爆風を食らわなかったのは使い魔のおかげ。 なのに、片付けは使い魔任せ……では、ルイズのプライドがこれ以上に無く傷つく。 別に片付けの光景を誰かが見ているわけではない。 ルイズが自分で、自分がそうすることが許せなかっただけである。 そのときだ。 「マスター」 ホワイトスネイクから声がかかった。 思わずルイズはビクッと体を震わせる。 自分が失敗したことを咎めるのだろうか、と思ったからだ。 ルイズは来るべきホワイトスネイクの言葉に身構えるが…… 「教壇ノ前マデ来テクレルトアリガタイ」 来たのは、よく分からない注文だった。 「な……何でよ?」 聞き返すルイズ。 「私ハマスターカラ20メートル以上離レルコトガ出来ナイ」 ますますよく分からない返事である。 「へ? ど、どういうこと? それに『メートル』って何よ?」 「長サノ単位ダ。長サハ……1メートルガ大体コノグライダ」 ホワイトスネイクはそういって作業を中断し、手で大体の1メートルを作る。 だが、 「それ、1メイルよ?」 「メイル?」 「ええ。1メイルが今あんたが示したぐらいの大きさ。 ついでに言うと、それの100分の1が1サント、それの400倍が1リーグ」 「覚エテオク」 「あんたって、相当辺鄙な場所から来たのね」 「国ガ変ワレバ法モ変ワル、トイウヤツダ。 別ニド田舎暮ラシダッタワケジャアナイ」 「ふーん、まあいいわ。そういうことにしといてあげる。ってそうじゃないわ! 何であんた、わたしから20メイルより遠くに行けないのよ!?」 「ソレガ私ノ性質ダカラダ。 物体ヲ通リ抜ケルノモ、先程言ッタ3ツノ能力モ、ソレガ私ノ性質ダカラ可能ナノダ」 「……要するに、よく分かんないけど使える特技、ってこと?」 「ソンナモノダ。分カッタラ早クコチラヘ」 ルイズは納得がいかない様子だったが、ひとまず言われたとおりに教壇のほうへ向かった。 そして、ルイズはまた気が重くなった。 そんなことよりも、ルイズにはもっと言ってほしいことがあるのだ。 正確には、言ってもらわなければならないことが。 気遣って言わないようにしてくれているのならそれはそれで嬉しいけれど、 そんなのでは、使い魔の主人としてあまりにも情けなさ過ぎる。 ルイズは少し間をおいた後、そのことを言おうとするが―― 「マスターガ何ラカノ要因デ魔法ヲ使エナイコトハ、昨日ノ夜ノ段階デアル程度予想デキテイタ」 意外な言葉が来た。 「え………?」 「ソウ思ッタ理由ハ二つ。 一ツハマスターガ私ヲ昨日召喚シタ時、他ノ生徒ガ魔法デ浮カンデイルノニ対シテマスターダケガ自分ノ足デ歩イテイタ事。 他ノ生徒ガ当タリ前ノヨウニシテイルコトヲシナカッタ事デ、私ハソノ事ニ多少ノ疑イヲ持ッタ。 ソシテモウ一ツハ、マスターガ私ニ洗濯ヲ頼ンダコトダ。 コノ建物ニ貴族全員分の洗濯物を処理デキルダケノ使用人ガイルヨウニハ思エナカッタシ、 ソウデナイニシテモ、貴族ガ自分デ道具ヲ使ッテ洗濯スルコトガ考エヅライコトハ、マスターノ態度カラ予想デキタ」 「じ、じゃあ……昨日からずっと、わたしが魔法を使えないって知ってたのに……」 ルイズの顔がカァっと赤くなる。 それじゃあまるで自分が道化みたいじゃない。 魔法が使えないのに、さも貴族らしく高慢に振舞って。 それを……ホワイトスネイクは文句一つ言わずに見ていたというの? そんなのって……。 「マスター」 だが、そこでホワイトスネイクがルイズの思考を遮る。 「私ガ以前イタ場所ニハ魔法ヲ使エル者ナド一人モイナカッタ。 ダカラマスターニ出来ルノガ爆発ガ起コス事ダケデモ、私ニトッテハ十分過ギル程……」 「うるさいわね! あんたに何が分かるのよ! 魔法が使えないって事が、 わたしにとってどれだけの苦痛だったのか、あんたに分かるの? いいえ、絶対に分からないわ! そうやって分かったような顔をして、わたしに安っぽい同情をかけないで!」 ホワイトスネイクの慰めもむなしく、ルイズは癇癪を起こした。 しかしルイズにとっては仕方のないことだった。 幼い頃から魔法が使えず、二人の優秀な姉と比較され続け、 魔法学校に入ってからはいつもいつもバカにされつづけた。 そんなこれまでの過去があったからこそ、簡単に受け入れられてしまったことが逆に悔しかったのだ。 おまえが口で簡単に言えるほどのものじゃないんだ、と。 そうルイズはいいたかったのだ。 でも、言えなかった。 あまりにも自分が情けなくて、その情けなささえも受け入れられてしまうことが悔しくて、言えなかった。 そんなルイズに対し、しばらく黙っていたホワイトスネイクは―― 「フム……ソウダナ。少シ失礼」 そう言って掃除の作業を中断すると、突然氷の上を滑るように飛行してルイズの前まで来る。 「ひゃっ! な、何よ!」 「コノ世界ニ魔法ガアルト知ッタ時カラ、確カメタカッタ事ガアル」 そう言うと、 ドシュッ! ホワイトスネイクはルイズの額を両断するかのような勢いで、手刀を振るった。 「ひゃあっ!」 突然の暴挙にルイズは思わず目をつむって叫ぶ。 …しかし、 「…あ、あれ? なんとも…ない?」 痛みらしい痛みが何も無いことに気づくと、ルイズは恐る恐る目をあける。 すると―― 「な、ななななな何これ! わたしの頭から何が出てきてるの?」 ルイズの額から、一枚のDISCが飛び出ていた。 ルイズが色々と喚いているが、ホワイトスネイクはガン無視する。 そしてルイズの額から出てきたDISCを抜き取り、その表面に目を通す。 そこに現れていた文字は、「ゼロ・オブ・ドットスペル」。 早い話、「ゼロのドットスペル」ということだ。 今ホワイトスネイクが抜き出したのはルイズ自身の魔法の才能。 正確にはホワイトスネイク自身、スタンドや感覚と同様に抜き出せる自身が無かったので、こうしてルイズで試したのだ。 試したのだが…… (DISCニマデ『ゼロ』ト書カレテイルノデハ救イガ無サスギルナ。ドウシタモノカ……) そして考えた結果、 「マスター、『ドット』トハ何ダ? 授業デ言ッテイタ『トライアングル』トカ『スクウェア』ニ関係アルノカ?」 あえてDISCに「ゼロ」と表記されていたことには触れないことにした。 もちろん、ルイズからはその表記が見えないようにする。 「ドットっていうのは、魔法を一種類しか使えないメイジのこと。 ドットの上がライン。ラインは系統を一個足せるの。 系統を足せば足すほど、魔法は強力になるわ」 「ナルホド。デハ『トライアングル』は2ツ、『スクウェア』ハ3ツ足シテイル分、ヨリ強力ナ魔法ヲ扱エルノカ」 「そういうことよ。……って話をそらさないでよ! あんた今、あたしに何をしたの!?」 「君ノ『魔法の才能』ヲ抜キ出シタ。 魔法ガ果タシテ他ノ感覚ナドト『才能』トシテ抜キ出セルモノナノカ、確証ガ無カッタノデナ」 「才能を抜き出す? あんた、何言ってるの?」 「分カラナケレバ…ソウダナ。モウ一度、サッキノ錬金ヲヤッテミルトイイ」 「…さっきと何も変わらないと思うけど」 そう言いながらルイズは杖を抜き、ルーンを唱え始める。 そして手ごろな場所にあった木の破片目掛け、杖を振り下ろす。 だが―― 「…あれ? 爆発……しないの?」 さっきとは違い、何も起きなかった。 「当然ダ。今ノマスターハ魔法ノ才能ヲ失ッテイルノダカラナ」 「魔法の才能って…もしかしてさっきの!」 「ソウダ。先ホドマスターカラ抜キ取ッタDISCガ、マスターノ魔法ノ才能ダ」 「ちょっとあんた、何してんのよ! これじゃただの平民と同じじゃない! 返して!」 「返シタトコロデ、使エルノハ爆発ダケダゾ?」 「……っ!」 図星であった。 ホワイトスネイクが手にする才能が自分に戻ってきたところで、 結局できるのは失敗魔法の爆発だけ。 自分が「ゼロ」であることに何も変わりは無い。 「…そ、それでもよ! それでも、それさえなかったら、本当に何も無くなっちゃうじゃない!」 そんなルイズの苦渋に満ちた訴えに対し、 「……マスターハ存外ニ察シガ悪イナ」 ホワイトスネイクはあくまで冷淡に、さらに別のベクトルの意味を加えて答えた。 「マスターカラ今ノヨウニ魔法ノ才能ヲ抜キ取レルトイウ事ハ…他ノ者カラモ魔法ノ才能ヲ抜キ取レルトイウ事ダ」 「……あんた、まさか!」 「ヨウヤク理解シタナ」 ホワイトスネイクは口の端に笑みを浮かべると、話を一気に結論に持っていく。 「ツマリ君ハ他ノ誰カカラ魔法ノ才能ヲ奪イ取ル事ガデキルノダ」 「…ち、ちょっとあんた、自分が何言ってるか分かってるの!?」 「当然だ」 「じゃあ何でそんな事!」 「私カラスレバ、何故マスターガソレヲ拒ムノカガ理解デキナイナ。 私ガ言ッテイルノハ、魔法ヲ使エナイマスターヲ救済スルタメノ方策ダゾ?」 「そんなやり方で魔法なんか使えるようになりたくないわ! 私だって分かるわよ。魔法の才能をあんたに取られたら、その人はもう魔法を使えなくなるって事ぐらい!」 「ダガ魔法ヲ使エナクナルノハ君ヲ『ゼロ』ト呼ンデ侮辱スル者ダ」 「それは! そう、だけど……」 「昨日ノ広場…今朝会ッタ赤毛ノ女…朝食ノ席…ソシテ授業前ノ教室…。 私ガ見テキタ限リデハ、ソレラノ場所デマスターヲ見下サナイ者ハ一人モイナカッタ。 君ヲ『ゼロ』ト呼ンデ蔑ム事ヲ当タリ前ニシテイル奴等バカリダッタ。 ナノニ、ドウシテ拒ム理由ガアル? 何故躊躇ウ?」 ルイズはホワイトスネイクの言葉を唇を噛み締めて聞いていた。 ホワイトスネイクの言っていることに間違いはなかった。 昨日今日召喚されたばかりの使い魔でも、自分が周囲にどう思われているのかは分かっていたのだ。 そしてその上で、自分が「ゼロ」の汚名から抜け出す道を作った。 でも…そうだとしても…… 「わたしは…やらないわ」 ルイズには、その道を選ぶことはできなかった。 ホワイトスネイクは、すぐさま問いを投げかけるような事はしなかった。 ルイズが言葉を続けるのを待っていたのだ。 「わたしね…姉が二人いるの。 ふたりともすごく立派なメイジで、皆から才能を認められてたわ。 それで、わたしは二番目の姉さまの、カトレア姉さまが…ちい姉さまが大好きだったの。 一番上のエレオノール姉さまは、厳しくって怖いから嫌いだったけど」 「それでね…ちい姉さまは体が弱いの。 だから、いつもお部屋の中にいたわ。 だけどね、ちい姉さまはいつも私を励まして、応援しててくれたの。 いつもいつも失敗ばっかりで、使用人からもダメな子だって思われてるようなわたしを、 ちい姉さまはいつも励ましてくれたのよ。 だからね……わたし、魔法が使えるようになったら一番にちい姉さまに見せてあげたいの」 「……あんたが言うやり方なら、わたしはすぐに魔法を使えるようになる。 でも…でもね。それは他の人の魔法で、わたしの魔法じゃない。 ちい姉さまが見守っててくれた、いつも泣いてたわたしの魔法じゃないの。 だから、そんなやり方で魔法を使えるようになっても、ちい姉さまは喜んでくれないわ。 それどころか、悲しい顔をするかもしれない。 だから…だから、『それ』はやらないわ」 ルイズの長い独白を聞き終えたホワイトスネイクは、静かに口を開いた。 「例エ魔法ガ使エナクトモ、例エ『ゼロ』ト蔑マレヨウトモ…ソレデ構ワナイノダナ?」 ルイズは、ホワイトスネイクの言葉に、黙って頷く。 「ソウカ。ダガ…モウ一ツ、理由ガアルンジャアナイノカ?」 「え?」 「マスターガ私ノ提案ヲ退ケタ理由…マスターガ先程言ッタモノトハ別ニモウ一ツ、アルヨウニ思エルノダ」 ルイズは、ホワイトスネイクの洞察力に背筋が冷える思いがした。 確かにその通りだった。 優しかった姉の思いを裏切りたくない。 それは確かに、ルイズの中で大きな理由の一つであった。 だがもう一つ……確かにもう一つ、理由はあった。 「貴族らしくない…と、思うの」 「貴族はね、背を向けないものなのよ。逃げちゃいけないものなの。 貴族には領地があって、領民があって、皆を支えてるものなの。 だから逃げちゃいけない。どんなことに対しても、自分の才能に対してでも、絶対に」 ホワイトスネイクは黙って聞いていた。 そして、 「理解シタ」 そう一言呟くと、手に持っていたルイズの魔法の才能――『ゼロ』のDISCを、ルイズの額に差した。 DISCは静かな音を立てて、ルイズの中に戻っていった。 「人間ハ…時ニ『納得』ヲ必要トスルモノダ。 『納得』ノ無イ道ニ対シテハ、ソコカラ一歩モ先ヘ進メナイ。 ソレハ人間ガ自分ノ精神ニ強イ芯ヲ必要トスルカラダ」 「マスターガ先ヘ進ムノニ対シテ…私ノ提案ガ妨ゲニナルトイウナラ、ソレハ無イ方ガヨイニ違イナイカラナ」 ホワイトスネイクはそう締めくくると、音もなく姿を消した。 それを見て、ルイズはさっきの自分の決心を自問し始めた。 自分は本当に心からそう思っているのか? 本当に、あの「魔法の才能を奪う力」に未練は無いのか? いや……きっと、ある。 それどころか、喉から手が出そうなくらいに、魔法の才能を欲しがってる。 あんな奴らが、自分をいつもゼロ、ゼロと呼んでバカにする奴らが魔法を使えて、何で自分が使えないのか。 勉強なら誰よりもした。 魔法が使えるようになるためにどんな努力だってした。 なのに…なのに、自分は魔法を使えない。 こんなの、あんまりだ。 ろくすっぽ努力もしない貴族のボンボンに魔法が使えて、自分にはできないなんて……。 でも、とルイズの中で何かが囁く。 さっき自分がホワイトスネイクに言ったとおり、そんなやり方、ちい姉さまは絶対に喜んでくれない。 ホワイトスネイクの提案は、今までの自分の努力を全部フイにしてしまうものだからだ。 ちい姉さまが応援してくれたのは、そんな提案を呑む自分じゃないはずだ。 それに自分の根っこの方でも、ホワイトスネイクの提案を拒んでる。 でも魔法は使えるようになりたい。 でも、ホワイトスネイクの提案を受け入れたくは無い。 でも。 でも。 でも。 でも…………。 「ルイズ」 「ひゃあっ!! な、何よ!」 「考エ事カ?」 「何でもないわよ! っていうかあんた、さっき消えたんじゃないの!?」 突然現れて自分を驚かせたホワイトスネイクに抗議するルイズ。 「言イ忘レテイタコトガアッタノデ出テキタノダ」 「何よ?」 「昨日ノ洗濯ダガナ……イヤ、ヤッパリヨソウ。詮無キ事ダシナ」 「洗濯? ……ちょっと待ちなさいホワイトスネイク」 何か言いかけて消えようとしたホワイトスネイクをルイズが引き止める。 「あんた、わたしから20メイルしか離れられないんでしょ? わたしの部屋から井戸までは軽く20メイル以上あるのに…一体、どうやったの?」 「洗濯ガデキル者ニヤッテモラッタダケダ」 「誰よ?」 「マスターノ部屋ノ向カイ側ニ寝泊リシテルダロウ」 「わたしの部屋の向かい側……って、それってキュルケじゃない!」 ルイズはホワイトスネイクの大胆さに呆れた。 よりによってキュルケに自分の服を洗濯させていたとは……呆れて物も言えなかった。 でも、少し気分が晴れたような、そんな気持ちにはなれた。 キュルケが自分の下着を洗濯するという、シュールすぎる光景が、 さっきまでの悩みをどこかに吹っ飛ばしてしまったみたいだ。 「まったく、あんたったら……次はダメよ。 今度からメイドに頼むから、いいわね?」 「了解シタ」 それだけ言って、ホワイトスネイクはまた消えた。 それを見届けて、ルイズは一人、教室から出る。 その足取りからは、重さは感じられなかった。 人は「恥」のために死ぬ。 「あの時ああすればよかった」とか、そう思うたびに人は弱っていき、やがて死んでいく……。 フー・ファイターズに出し抜かれたプッチ神父が、自分に言い聞かせた言葉。 スタンドとしてルイズの中に戻ったホワイトスネイクは、それを思い出していた。 ホワイトスネイクには、人間の「恥」という感情が理解できない。 それは、目的の達成のためにはあらゆる手段を講じてしかるべき、という思考がホワイトスネイクにはあるからだ。 目的のためには手段を選ばず。 ある意味動物的とも言える思考であるが故に人間はそれを拒みがちだが、 人間ですらないホワイトスネイクには、それを躊躇する理由などどこにも無い。 そして、恐らくルイズは「恥」のために――人間の言うところの「誇り」のために死ぬだろう。 ルイズは自分が貴族たるために、ホワイトスネイクの提案を呑む事はできない、と言った。 つまり「誇り」のために目的へと至る道――魔法が使えるようになることを拒んだのだ。 それは、ホワイトスネイクからすれば、全く馬鹿馬鹿しいことだった。 そして理解しがたいことでもあった。 何故人間は「恥」を恐れるのか? 何故人間は「誇り」を尊ぶのか? かつての思想家はこれを説明するために「性善説」だの「良心の呼び声」の存在だのを主張したが、 いずれもホワイトスネイクにとっての答えとはなりえなかった。 だが、いずれ答えは出るだろう。 「誇り」と共に歩もうとするルイズのスタンドとして自分がある限りは、いずれ。 To Be Continued...
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/442.html
トリステイン魔法学院。 ここでは毎年恒例、使い魔召喚の儀式が行われていた。 普通なら何事もなく終わるはずだった。 しかしッ!今年はそうはいかなかったッ! 学院創立以来の問題児ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールッ! 成績優秀ッ!素行良好ッ!されど魔法を使えば即爆発ッ! 付いたあだ名は『ゼロのルイズ』! そんな彼女の召喚である。何が起こるか誰だって見物したいだろう。おれだってしたい。 しかし彼らの予想を遙かに超えることを彼女はしでかしたのだッ! なんとッ!よりによってッ!何の取り柄もないッ!『平民』を召喚したのだッ! 「こいつ平民を召喚したぞ!しかもあの格好は・・・変態だッ!」 「さすがゼロのルイズ!変態を召喚するなんて!」 「そこに痺れない憧れないィーー!」 ルイズと呼ばれた少女は必死に言い返す。 「なによ!ちょっと間違えただけじゃない!」 「どこがちょっとだ!」 この喧噪の中、男が動いたのに気付くものはいなかった。 彼の名はメローネといった。 職業は『暗殺者』 もちろんただの暗殺者ではない。 彼には『スタンド』と呼ばれる能力があった。 能力の名は『ベイビィ・フェイス』 パソコンに寄生し物体をバラバラにし、組み替える能力。 さらに、女性の体を媒体とし、『息子』を作り上げる能力もある。 言うことは聞かないが、教育すればある程度制御でき、万が一やられても自分は無事。 さらに成長した別の『息子』が標的を殺す。 まさに暗殺のためにあるような能力。 欠点はあるがほとんど無敵。 彼は自らの能力に酔っていた。 しかし、彼は死んだ。 気にもとめていなかった『新入り』の能力によって。 死んだはずだった・・・ 目を開けると、そこには青空が広がっていた。 「なんだ・・・?俺は死んだはず・・・?」 周りを見るとローブのようなものを着た群衆。 そして、言い合いをしている少女と中年。 「地獄・・・ではないな。明るすぎる。 だとしたら天国・・・?まさかな。」 彼は暗殺者だ。天国なぞ死んでもいけまい。 そんなことを考えているうち、少女が近づいてきた。心なしか顔が赤い。 「あ、あんた、感謝しなさいよね・・・。貴族にこんな事されるなんて・・・。普通は一生ないんだからっ!!」 少女はそういうとなにやらつぶやきだした。 「おい、なにを言って・・・」 その瞬間少女の唇が彼の唇をふさいだ。 「なっ、何をするだァー!いっ、いきなりキスなんてッ!」 その瞬間、彼の左手に激しい痛みが走った! 「なっ、これはッ!が、ぐわアァァァァァァァァァァァ」 そのとき彼の左手には『使い魔のルーン』が刻みつけられていた! 「ミスタ・コルベール。終わりました。」 顔を赤くしながら少女が言うとコルベールと呼ばれたオッサンはその『使い魔』を見て 「ふむ。珍しい形のルーンですね。それでは皆さん、教室に戻りましょうか」 すると、彼らの体が宙に浮いたのだ! 「ルイズ、お前は歩いてこいよ!」 「あいつ『フライ』はおろか、『レビテーション』さえまともにできないんだぜ」 メローネは呆然と見ていることしかできなかった。 そして視線は少女に向いた。 「おい!なんなんだあれは!というかおまえは誰だ!むしろここはどこだ!」 「うるさいわねぇ・・・。まあいいわ。 ここはハルキゲニア大陸トリステイン魔法学院。あんたはなぜか召喚されたの。 そしてわたしはルイズ。あなたのご主人様ね。」 「な、なにを言っている!?全く意味がわからん!ディ・モールト(とっても)意味不明だッ!」 「あーもぅ!詳しい説明は後でしてあげるからさっさと帰るわよ!」 そう言い残すとルイズは歩いていった。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/336.html
トリステイン魔法学院。 メイジ達に、魔法や教養を教え貴族として育成するこの学院は、非常に騒がしい状態にあった。 というのも、新二年生達による使い魔召還の儀式が行われているためだ。 所属する学生達は、この使い魔召還の儀式で呼び出されたものによって、属性の固定とそれに伴う専門科目の専攻が行われるため、その結果に一喜一憂する。 この学院に所属する、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、これこそ名誉挽回のチャンスと、非常にはやり立っていた。 ゼロのルイズ。それが彼女に与えられた二つ名である。これは彼女の魔法成功率が0であるということを表す、極めて不名誉な二つ名であった。 もし、これで凄い使い魔を呼び出せば、今まで自分をゼロと呼んだ奴らを見返せるッ! そう思い、彼女は今、この使い魔召還の儀式に向かっていた。 しかし他の生徒の召還が進むにつれ、ルイズのはやり立っていた表情は、いささか自信なさげなものとなっていく。 「まだ、召還してない者は…… ミス・ヴァリエール!! 」 「はい」 黒いローブをまとった男、コルベールに名を呼ばれ、ルイズは大きく前に出た。 それに合わせるように、既に召還を終わらせた生徒の一団が、大きく後ろに下がった。 「ゼロのルイズ! また校舎に傷をつける気かァー」 「ちゃんとサモン・サーヴァント出来るのか? 」 「ルイズが成功するなんて有りませんよ。ファンタジーやメルヘンじゃないんですから」 生徒達からヤジが飛ぶ。こういうのは無視をするのが一番よい。だが! 人一倍プライドの高いルイズは、そのヤジに対して振り向き、逆にッ! 思いっきり反応したッ! 「みてなさいッ! ……あんた達なんかより、ずっと強力な使い魔を召還してみせるわッ!」 「ミス・ヴァリエール。早くなさい。次の授業が始まってしまうじゃないか」 コルベールに言われ、向き直ってサモン・サーヴァントの儀式を始めるルイズ。 「宇宙の果てのどこかにいる私の僕よ!」 杖を構え、極めて独創的な召還の言葉を紡いでいく。それに合わせ、杖の先へがきらりと光る。 「神聖で、美しく、そして強力な使い魔よ! 私が心より求め、訴えるは、我が導きに答えなさい!」 ルイズの詠唱の終わりに、杖の光は爆発となって答えた。 「ゴホッ、やっぱこうなったか! 」 「オゴェッ! 」 「タコスッ!」 爆発で巻き上げられた砂塵と石っころが生徒一団に降りかかる。普段の3割増しなその爆発で、比較的ルイズに近い位置にいた生徒数名が地面と盛大なキスをかましていた。 ルイズから離れた位置にいた、比較的被害の少なかった生徒達は、口々にルイズに対して文句をたれる。 しかしルイズに、その言葉は聞こえていなかった。今、彼女の目の前にある、自らが召還したであろう使い魔の姿に、思わず言葉を失っていたからである。 「こんなのが、神聖で…… 美しく…… 強大な……」 黒と白のこの世界にはない服、パーカーと呼ばれるものを着た、黒髪の少年。 マントは羽織っていないし、杖も持っていない、おそらく平民だろう。この場にいた誰もが、そう認識した。 「プックックックッ…… まさか平民を召還するなんて……」 「さすがゼロのルイズ! 期待を裏切らな……フゲッ!」 それを見るなり、遠巻きに見ていた生徒達から再び、からかいの言葉が発せられる。 しかし、その言葉を最後まで言えたのは、極、少数であった。 二度目の轟音。今度は先ほどとはやや離れた、先ほどの召還で、ジャイアントモールを呼び出した少年のほぼ真横の位置で爆発が起きた。 先ほどと違い、完全に予想できないタイミングと、距離での爆発。今度は半数以上の生徒が、柔らかい芝のベットでお寝んねすることとなった。 爆発を至近距離で浴びた少年はというと、先ほど自分の呼び出したジャイアントモールが掘った穴に顔を埋めている。時折「違う、僕はこんなキャラじゃ……」などといううめき声を発しながら。 ルイズはその生徒達の惨状をシカトしつつ、その、二度目の爆発が起こった場所に淡い期待を寄せた。ひょっとすれば今度こそ、神聖で、美しく、強大な使い魔を召還できたかも知れないからだ。 しかし、結果として言えば、ルイズの淡い期待は見事にうち砕かれた。出てきたのは、先ほどの少年より5サント(cm)ほど高い、緑色の服に身を包んだ少年だったからだ。 「う~む、どうしたものでしょうか……」 平民が二人。サモン・サーヴァントで人間を呼びだしたという事すら異例なのに、二人というさらに異例の事態に、コルベールはどうしたものかと考え込む。 ルイズはというと、とりあえずどうしたものかと思っていたが、召還をやり直すにしてもせめて名前ぐらいは聞いておこうと、目の前の少年……才人に近づいた。 「あんた……誰? 」 「誰って…… 俺は平賀才人」 「何処の平民?」 ルイズはじろじろと、才人をなめ回すようにして観察する。もしや凄い特技でもあるのかと思ったが、本当にごく普通の平民のようだ。しかも、先ほどの質問をちゃんと理解していないらしい。これは期待できないと判断したルイズはハァ。とため息をついた。 さて、もう一人の方はどうかと思い、ルイズはそちらに対して目を向けた。 あちらの少年……花京院も、辺りをきょろきょろ見回している様を見て、こちらもダメか、とルイズはさらに肩を落とす。 もし、彼女がそれなりに実戦経験があるので有れば、才人のそれと違い、彼のは警戒故と解ったであろうが、あいにくとルイズはそういう事には殆ど縁がない人間であった。 爆発を聞きつけてやってきた衛兵達を後目に、ルイズは花京院の方へと近づいていく。 「えっ!?」 先ほどの少年、才人がびょーんと風を切って、50メイル(m)は先にいた花京院の方へ飛んでいくのを見て、ルイズは我が目を疑った。 もしこの場でスタンドが見えるものがいたとすれば、花京院が才人を引っ張ったのが見えたであろうが、あいにく、スタンドが見える人間は、この世界には存在しなかった。 「『エメラルド・スプラッシュ』ッ!」 そのかけ声とともに、花京院の前方、20メイルほどの土が、ジャガイモの皮をめくる様にはじけ飛んだ。 (何よ、あれ…) トライアングルメイジの、エアハンマーにも匹敵するかのようなその威力に、様子を見に来た衛兵達や、その場にいた生徒達の動き、その全てが制止した。 花京院はその様子を見て、立ち上がり、りんとした声を響かせ、いい放った。 「警告しておくッ! それ以上こちらに近づかないでもらおうッ!」
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1425.html
ザ・サン…もとい頭を光らせながらコルベールが何やら疲れきった様子でプロシュートに近付いてきた。 「君に言われたとおり、樽五本分のガソリンの精製が今、終わったところだよ」 「早いな」 この前ガソリンのサンプルを作ってから数日、それから飛ばせるだけの量を精製する事になったのだが、結構早く出来たのでそれなりに驚いていた。 「それが飛んだ姿を見たくてね…ふふ…ここ数日徹夜続きだったよ」 目の下のくまがスゴイ。 俯き怪しく笑いながら荷台に積んだ樽を浮かしながら運んでいる姿は、なんかもう色んな意味でペリーコロ(危険)さんである。 広場に付きガソリンを入れていると、他の教師からアルビオン宣戦布告を聞いたコルベールがブッ飛んでいた。 「なんですと…!アルビオン軍がタルブ村に!?」 スデに他の教師や生徒達には禁足令が出ているらしい。 「ヤベー状況か?」 「…トリステイン艦隊は司令長官が戦死した上に、残存艦艇も無傷の艦はほとんど無いらしい」 地上戦力も3000対2000で劣っている。 つまり、制空権を抑えられ、蹂躙されるだけという事だ。 「まぁついでだ、あいつに『これ』を見せるっつったからな」 「タ、タルブに行くというのかね!?禁足令が…」 そこまで言って関係無い事に気付いた。 目の前の男は生徒でもなければ貴族でもない。 「ちょ、ちょっと何やってんのよ!」 そこに飛び込んでくるのはルイズだ。 「タルブまで空の散歩だ」 「散歩って…聞いたでしょ!?アルビオン軍が攻めてきたって!!」 「放っといても、そのうちこっちに来んだろーが、それにだ」 「…それに?」 「守んのは性に合わねーんだよ。どうせ相手すんなら打って出た方が早い」 「兄貴の能力じゃここの連中巻き込むしな」 「そういうこった」 必要であれば巻き込むのも躊躇しないが、能力的には敵のド真ん中での能力使用による殲滅が最も適している。 ルイズもグレイトフル・デッドの射程はどのぐらいか聞いていたが、それ以上の射程の大砲でドンパチやっている戦場に行かせる事はできない。 「…こんなのでアルビオン軍に勝てるわけないじゃない!怖くないの…!?死んじゃったらどうするのよ…!!この馬鹿!!」 「怖くねーやつなんていねぇよ。それを上回る『覚悟』を持ってるか持ってねーかってこった。恐怖心を持たないヤツが居たとしたらそいつは、ただの馬鹿だ」 「じゃあ…なんでタルブに行くのよ…!」 泣きそうだが、必死になってこらえる。泣いたところで説教が始まるか、ガン無視されるだけだ。 「言うだろーが、『攻撃は最大の防御』ってな。待ってるだけじゃあ状況が悪くなるだけだ。………こっちだと一応オメーらも仲間なんだからよ」 「あたしとしては『仲間』より『恋人』って言って欲しかったんだけどね」 「な…ッ!何時からそこに居やがった…!」 「おもしろそうな事やってるからさっきからそこに居たんだけど」 よく見るとタバサも隣に居る。 仲間云々の部分はルイズに聞こえない程度の声で言ったつもりだったがしっかりキュルケに聞かれていたらしい。 「ちッ!…時間がねー、オレはもう出るぜ」 「照れなくてもいいじゃない。…あ、でもそんなダーリンも素敵ね」 「レア」 そんなやり取りを見ていたルイズだが、自分も含めて仲間と思っていてくれている事に気付いた。 「…なによ…性に合わないって言ったくせに、結局守るためじゃない」 「ルセーな…あっちに居た時は、オメーらみてーなマンモーニは居ねーんだよ」 ペッシの事はスルーしているが気にしない。 空にペッシが泣き顔で『ひでーや兄貴ィィィ』と言っているような気もしたがこれも無視した。 そう言いながらゼロ戦に乗り込もうとする。 「わ、わたしも、それに乗って行くわ!」 「言っとくが、こいつが墜ちたら死ぬぞ?」 「わたしはあんたのご主人様なのよ!?あんた一人死なせたら…わたしがどうすんのよ!そんなのヤなの!」 ルイズの目をジーっと見る。目は反らさない。 それだけ確認すると、何も言わずゼロ戦に乗り込む。 「な、なによ!こんな時ぐらい言う事聞きなさい!」 しばらくするとゼロ戦の中から破壊音が聞こえ、操縦席から壊れた馬鹿デカイ無線機が放り投げられた。 「ったく…あの時のペッシと同じ目ぇしやがって…言っとくが後ろに席はねーぞ」 組織を離反すると決意した日、マンモーニながら自分達に付いてくると言った弟分と同じような目をしていた。 だからこそペッシと同じようにルイズを連れて行く気になった。 ルイズがゼロ戦に乗り込むと同時に各計器チェック、機銃弾装填確認を行う。 全て良好。旧日本海軍の整備力の高さと固定化の賜物だ。 「ミス・ヴァリエール!…行くな…と言いたいところだが止めても君は行くのだろうから…これだけは言わせて欲しい」 何時に無く真剣な顔のコルベールを見てルイズが操縦席から身を乗り出しそれを見る。 「自分の身を大事にしなさい。わたしから言えるのはそれだけだよ」 「あたし達も『仲間』なんだから付き合うわよ」 キュルケに同意するようにタバサも無言で頷く。 「…ついでだ、纏めて面倒みてやるが、万が一の覚悟ぐらいはてめーでしろよ」 そう言うが、甘くなったなと思う。 イタリアに居た時なら、任務を遂行するためには切り捨てる事も必要だと割り切っていたはずだが ブチャラティの言う事もここに来て分かるような気はしてきた。 「『任務は遂行する』『弟分も守る』『両方』やらなくちゃあならないのが『兄貴』の辛いところ…ってとこか」 「なんか言った?」 「何も言ってねーよ」 「…嘘ね!」 ルイズが後ろで色々五月蝿いがエンジンをかけそれを無視する。 「兄貴、このままだと距離が足りねぇ、前から誰かに風を吹かせてもらわねぇと」 「オメーに分かんのかは理解できねーが…気がきいたな」 「俺は伝説の武器だからよ、ひっついてりゃあ大概の事は分かるさ」 「自分で伝説とか言ってるヤツが一番危ねーんだよ」 「あ、それ結構傷付いた、ヒデーよ兄貴ィ」 「前を見なさい前をーー」 軽口叩きながらコルベールに風を吹かしてくれるように伝える。 風が吹くと同時にブレーキを踏み込みピッチレバーを合わせる。 ブレーキを弱めフルスロットルにすると、勢い良く加速する。 「ぶぶぶぶぶぶ、ぶつかる!」 「舌ぁ噛むぞ黙ってろ!」 後ろでルイズが辞世の句を頭に浮かび上げているが、壁にぶつかる手前で操縦桿を引き上げると、それに合わせゼロ戦も地を離れた。 「素晴らしい…まるで私の信念が形となったようだ…」 このハゲ、ゼロ戦が飛んだ姿を見てどこぞの軍人が乗り移ったご様子で日食の事はすっかり忘れている。 「なにこれ…ホントに飛んでる!」 「しかも、はえーなこいつ、おもしれえ!」 「そりゃあな」 巡航速度程度でも350キロ以上は叩き出せるゼロ戦だ。 フルスロットルなら524キロまで出せる速力を誇る。 当然、キュルケとタバサを乗せたシルフィードは置いていかれている。 「ちょっと、もうあんな先にいかれてるじゃない!もっと速度出ないの!?」 「無理」 (は、速過ぎるのねーー) 二人を乗せている以上出せる速度は決まっているが、乗せていなくても付いていけないである事は今、必死こいて飛んでいるシルフィードが一番よく知っている事だ。 タルブ村に接近するにつれ、村から煙が立ち昇り、ほとんどの家は廃墟と化している。 プロシュート自身、目的の為なら無関係の者を巻き込む事は厭わないタイプだが、この場合は別だ。 明らかに、目的も無いのに破壊行為をしている。 まぁ、それが分かっているからこそ、イラ付きが自分にも向かっているのだが。 「なにこれ…ひどい…」 ルイズが眼下の惨状に目を覆うが、今の自分ではどうする事もできないため、それを見る事しかできない。 「兄貴、一騎来るぜ」 「他はどうしたよ?」 「居るとは思うが…まだ分からん」 その竜騎兵を無視しタルブ村上空を旋回するように飛ぶ。 「ちょっと!なんで何もしないのよ!」 ギャーギャー五月蝿いが無視決め込んでいると、ありえない速度の『竜』に驚いたアルビオン竜騎士隊が全騎囲むようにして、こちらに向かってきていた。 囲みを突破し離脱する形で距離を取ると180°反転し速度を飛行可能速度ギリギリに落すと……群れの中に真正面から『突っ込んだ!』 「な…!なにやってんのよあんたはーーーーッ!反転はともかく減速のわけを言いなさいーーーーーー!!」 「ヤベーって!あいつらのブレスを受けたらこいつでも一瞬で燃え尽きちまうぜ!」 機動と運動性能のみを追求し装甲を全て捨てた機体であるゼロ戦が火竜のブレスを受ければそうなる事は容易に予想できる。 「火竜よりオメーのがあぶねーだろ!」 喚きながら首を絞めようとするルイズをスタンドで阻む。 少しばかり連れてこなけりゃあよかったと思ったが、もう手遅れだ。 「だ、だったら頑張りなさぁぁぁい!こんなとこで死んだら恨んでやるんだから!!」 この状況下で墜とされた場合、両名とも死亡確定なのだがあえて突っ込まない。突っ込んだら負けのような気がする。 「ほほほほ、ほら!かか、囲まれたじゃない!ブ、ブレスがくるわ!」 もうこれ以上無いぐらいルイズがテンパっているが、プロシュートにしてみれば風竜ではなく火竜がブレスを吐くという方が『スゴク良かったッ!!』 「弾は補充が利かねぇからな…このブレスが良いんじゃあねーか! こいつを燃え尽きさせられるぐらいの火力なら、十二分に温まるだろうからよ・・・!」 全騎射程圏内、当然向こうのブレスは届かないがあえて接近した。 「グレイトフル・デッド!」 「ぜ…全滅!?二十騎もの竜騎士がたった三分で…ば、化物か!」 報告を聞いたサー・ジョンストンが喚くが後ろに控えているワルドとしては、この被害は想定済みの事だ。 「やはりガンダールブが出てきましたな」 そんな冷静なワルドを見てプッツンきたのかジョンストンが掴みかかった。 「貴様…!そもそも何故竜騎士隊を預けた貴様がここにいるのだ!臆したか!!」 それを横から見ていたボーウッドが咎めるようにして入ってきたが、矛先がワルドからボーウッドに変わっただけだ。 「何を申すか!竜騎士隊が全滅した責任は貴様にもあるのだぞ!貴様の稚拙な指揮が竜騎士隊の全め…」 喚きながらボーウッドにも掴みかかろうとするが、その途中で言葉が途切れた。 「流れ弾か…ここまで飛んでくるとはな。注意しようではないか子爵」 「ええ、流れ弾ですな」 見るとジョンストンの額に穴が開き、そこから血が吹き出している。 いくら、怪我が魔法で治せるとはいえ、脳に食らえば一発で致命傷だ。 ぬけぬけと言うが、当然流れ弾などではない。 だが、この二人が何もしていない事は回りの船員達が見ている。 「それで、レキシントンの準備は整ったのかね?」 「気付かれないように高度を取りましたので少々手間取りましたが、今終わったようですな」 「偏在か…便利なものだな。しかし、レキシントンを犠牲にする必要があったのかね?」 「私は元魔法衛士隊の隊長ですからな。アンリエッタが出てきている以上、士気は高いでしょうしメイジの比率も多い事はよく知っています」 「士気完全にを打ち砕き、メイジにも止めることができない戦法というわけか… まぁそれはいいとして、全艦に伝達『司令長官戦死。コレヨリ旗艦艦長ガ指揮ヲ執ル』以上」 一方こちらラ・ロシェールに布陣したトリステイン軍だが、ハッキリ言って手詰まりになっていた。 敵はこちらより数が多い三千、おまけに艦隊砲撃の援護付き。 対してこちらは数は二千だが、アンリエッタが陣頭指揮を取っているため士気は高くメイジの数では有利といえた。 「敵艦隊はまだ見えませんが…砲撃に備えて空気の壁で防ぐように手配はしておきました」 国民からはからっきし人気の無いマザリーニではあるが、この男が居なければトリステインなど国として成り立っているかどうか怪しいものだ。 有能だが、周りから評価されていない。どことなく暗殺チームに通じるものがある。 「しかし…砲撃も完全に防げるわけではないでしょうし それを耐えたとしても突撃してくるでしょう。とにかく我々には迎え撃つことしか選択肢はありませんな」 「勝ち目は…ありますか?」 勝算など無い戦いだったが、それをここで言うのは兵の士気にも関わる事だし、それをアンリエッタに言うのも憚られた。 「メイジの数では上回っておりますので…五分五分…といったとこでしょうかな」 そうは言うが実際のところ、上空からの長距離砲撃の前ではそれは意味を成さない。 勝ち目は無いが…やれるところまではやると悲壮な決意をした瞬間、騒がしくなった。 竜騎士が一騎近付いてきたのである。 兵が攻撃を仕掛けるが、風に阻まれる。魔法も同じだ。 そして、竜騎士が近付くと、その正体も分かった。 「…ワルド子爵…裏切り者の貴方が今更何の用がおありですか!」 「ふっ…勇敢な事だな。さすがに兵の士気も高い。お飾りながら国民の人気だけはあるとみえる」 「黙りなさい…!ウェールズ様の仇とらせてもらいます!」 「おお…!恐ろしい、恐ろしい!そんな事をされては返すものも返せなくなります」 「返すもの…?」 「元々は王党派の『物』だったが…必要が無くなったので返しておこうと思いましてな」 「一体何を…!?」 「是非受け取っていただきたい。ウェールズも取り返したいと思っていた物をな」 そう言うとワルドが掻き消え風竜がどこかへ飛んでいく。偏在だったという事だ。 「落ち着きなされ。将が取り乱しては、軍は瞬く間に壊走しますぞ」 そう言われてもアンリエッタの心中では色々な疑念が巻き起こっていた。 返すものとは何か。王党派の物でウェールズも取り返したいと思っていた物… そう考え、空を向くが何かが見えた。 空の大きさから比べれば点のような大きさにすぎなかったが…僅かだが、それが大きくなってきている。 「枢機卿…あれは…?」 そう問われマザリーニも空を見上げる。 瞬間、嫌な予感がした。 そして、その数秒後その予感が的中した事を確信した。 「ア、アルビオンの奴ら…なんという事を…全軍ラ・ロシェールより速やかに離脱!」 「枢機卿…!この後に及んで何を…!」 空を見上げたまま、撤退命令を出したマザリーニに憤りかけるも 顔が尋常じゃなかったので、もう一度空を見上げると、その意味を理解し自身も固まっているマザリーニをユニコーンに乗せ兵と共にラ・ロシェールから逃げる。 「気付いたようだが、もう遅い!」 遥か上空から何か巨大な物がトリステイン軍目掛け落ちてきている。 「『レキシントン』号だッ!!」 落下の微調整を風で行っていたのは当然偏在のワルドだ。 船体にはこれでもかというぐらい火薬が仕込まれている。 それに気付いたトリステイン軍だが、落下により加速した巨大戦艦レキシントンを止める術などありはしない。 文字どおり壊走し逃げ惑う。 「ブッ潰れろぉぉぉぉ!!」 最高に『ハイ!』になった偏在のワルドが地面と激突する20秒ほど前に船体に火を付ける。 そうして船体が燃え上がり、地面に激突すると同時にレキシントンが大爆発を起こした。 「き、旗艦を…こんな事に使うなどとは…!」 アンリエッタとマザリーニは辛うじて爆発から逃れたものの、他はもうスデに壊走していると言ってもいい状態で、被害状況すら分かりはしない。 もちろん、このまま壊走状態のままでは、何もせずに敗北するであろうことは十分に分かっている。 「部隊の再編を…被害状況も確認しなければ」 生き残った将軍と素早く打ち合わせをするが、遥か彼方から下がりに下がった士気にトドメを刺す光景を見る事になった。 「……なんだ…あの船は…」 歴戦の将軍ですら、我を忘れたかのようにその船を凝視している。 その目には、あの巨大戦艦『レキシントン』よりも一、二回り大きく、さらに装甲を金属で覆った艦が空を飛んでいる光景が目に映っていた。 その船からボーウッドがラ・ロシェールを見ている。 『レキシントン号だッ!』作戦には本来乗り気ではなかったが、この船を見た瞬間気が変わった。 装甲を金属で覆い、さらに、あのクロムウェルが連れてきたシェフィールドと呼ばれる女がもたらした技術より格段に上の装備のこの船を。 少し後ろを見る。 そこには、ワルドが召喚した使い魔が鎮座していた。 正直なところ、この船が存在するのが使い魔のおかげだなど未だ半信半疑だ。 確かにジョンストンなどより、余程司令長官らしい佇まいをしている。 船長服を身に纏い、パイプを吸っている姿など、憎たらしいぐらい余裕あり気だ。 これが、人間であればまだ納得できたであろうが… 「『ストレングス』か…確かにレキシントンが玩具に見える船だが…」 そう呟き視線を前に戻す。 その使い魔の正体は広義で見れば『猿』だった。 ←To be continued
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1514.html
ある日の事だ。 平賀才人が命じられた部屋の掃除をしていた時、偶然にもそれを見つけ出した。 革で出来たベルト…それは紛れもなく『首輪』だった。 顔中を流れる嫌な汗。 以前、キュルケの部屋を訪れた際、ルイズが言っていた言葉を思い出す。 『……今度、こんな真似したら首輪を付けるわよ』 あれは本気だったのか。 だが自分には怒られるような事をした記憶はない。 それとも知らない間に、ルイズの癇に障るような事をしでかしてしまったのか。 首を握り締めたまま、才人は理不尽な暴力に打ち震える。 「……あれ?」 ふと気付く。 自分用に買ったにしてはあまりにも小さすぎる。 それこそ本当に犬用の物とサイズが変わらない。 その上、その首輪はボロボロで少し力を入れただけでも千切れそうだ。 「あーあ、とうとう見つけちまったか」 壁に立て掛けてあったデルフリンガーの声が部屋に響く。 その声はどこか過去を懐かしむようでもあり寂しげにも聞こえた。 「これが何か知ってるのか?」 「ああ、知ってるとも。俺の前の相棒の物さ」 嬢ちゃんも口には出さなかった。 他の連中も何も言わなかった。 話さずに済むのなら、それに越した事はなかった。 彼の前任者、ルイズの使い魔であった奇妙な来訪者の事を……。 世界とは自分の認識できる範囲に過ぎない。 知らなければ、それは存在しないのと同じだ。 だから、この狭い実験室こそが彼の世界の全てだった。他には何も無い。 人の命さえも道具と見なす彼等の実験動物に対する扱いは過酷を極めた。 遺伝子操作を行い、あらゆる環境の変化に耐えられる生命を作る実験など、 医学の発展の為という範疇から外れた異常な研究がそこでは続けられていた。 ここまで生き延びてきた実験動物も数えるほどにしかいない。 そして今日、彼の最後の仲間が死んだ。 レーザーで全身を撃ち抜かれた上に、火炎放射器で焼却されたのだ。 今や形さえも残っていない。 数日経っても空いたままの仲間の檻を眺めて、 ここには二度と戻ってこない事を彼は悟った。 彼の本能が“次は自分の番だ”と告げていた。 だが抗った所でどうにもならない。 命も運命も全て他人の手の平の上。 仲間同様に注射を打たれ、水槽の中へと沈められていく。 彼が目覚めた時、その時こそが命の終わる時なのだ。 …だが『ドレス』の崩壊と共に彼の運命は解き放たれた。 彼が目覚めた場所、それは見慣れた実験室の中だった。 自分を閉じ込めていた水槽は砕け、辺りは水浸しになっていた。 周りには誰もいない。 それどころか壁には見た事もない巨大な穴が開いている。 恐る恐る穴へと近づいていく。 初めて目にする部屋の外の景色。 実験室とは代わり映えのない風景だったが、 それでも彼の目には一筋の希望が見えた。 “ここから出られるかもしれない” それは生きる為の脱出。 この先に何があるのかは分からない。 それでも何もしないで死ぬのを待つよりは遥かにマシだ。 廊下を駆ける。それを咎める者など誰もいない。 鳴り響くサイレンの中、赤く明滅するランプが周囲を照らす。 どこまでも続くかのような錯覚の中、彼は走り続けた。 …だが、その道は途切れていた。 降りた隔壁が完全に向こう側を遮断している。 壁へと爪を立てる。 だが、そんな物で鋼鉄をどうにかできるはずがなかった。 初めから希望など無かった。 この道はどこかに続いていると信じていた。 でも、どこにも繋がってなどいなかった。 元来た道を振り返るが、それも叶わない。 建物中に響き渡る爆音。 そして炎と爆風が周囲を飲み込んで迫り来る。 目前の隔壁と背後から近づく明確な死。 逃げ場など何処にも無い。 絶望の中、彼は壁に出来た巨大な隙間を目にした。 さっきまでこんな物は無かった。 だが、そんな事はどうでもいい。 一か八か最後の勇気を振り絞り、彼はそこへと飛び込んだ。 「宇宙の果てのどこかにいる私の下僕よ! 神聖で、美しく、そして強力な使い魔よ!」 キュルケやモンモランシーの前で啖呵を切った手前、失敗は許されない。 自分を見つめる視線の多くが“どうせ失敗するだろう”という揶揄や嘲笑だという事も分かっている。 『ゼロのルイズ』…その名で呼ばれる度、何度歯を食いしばって耐えただろうか。 だけど今日から違う。二度とその名を呼ばせはしない。 サモン・サーヴァントに成功し、一人前の魔術師として歩みだすのだ! 「私は心より求めうったえるわ! 我が導きに答えなさい!」 詠唱と共に振り下ろされる杖。 それと同時に巻き起こる大爆発。 いつも通りの結果に咳き込みながらも失笑が起こる。 そう。ここまではいつも通りの結果だった…しかし。 「……おい。嘘だろ」 「そんな…ありえない」 視界を覆う砂埃が静まるにつれ失笑が止んでいく。 代わりに響き渡るのは周囲のどよめき。 何度も目を疑うがその光景に変化はない。 ルイズが引き起こした爆発の中心、そこには気絶した一匹の犬がいた。 それは紛れもなく彼女の召喚が成功した証。 「……やった。やったわ」 思わず口から洩れる歓喜の声。 打ち震える感動に両の拳を力強く握り締める。 キュルケのサラマンダーには及ばないけど、これだって立派な使い魔だ。 もう誰にもゼロなんて呼ばせない。 「ミス・ヴァリエール。 嬉しいのは分かりますが授業の時間も押していますし、早く契約を済ませてください」 「はい! 先生」 満面の笑みで応える。 使い魔へと歩み寄る足取りも軽い。 まるで別の自分に生まれ変わったよう。 いいえ、違うわ。これこそが私。 『ゼロのルイズ』じゃない本当の『ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール』。 その私の使い魔が今、眠りから目覚める。 あまりの眩しさに目を覚ます。 そして顔を上げて辺りを見回した。 どこまでも続く廊下も絶壁のような隔壁もない。 いや、そんな事など一瞬で忘れてしまった。 目覚めた時、世界は大きく変わっていた。 薄暗い照明は燦々と輝く太陽に、 白一色だった天井は澄みきった青空に、 冷たく無機質だった床は柔らかく心地よい芝生に、 そして世界を覆う壁など存在しない。 地面も空もどこまでも果てしなく広がっている。 “なんて……美しい” 思わず息を呑む。 彼は初めて研究所以外の世界を知ったのだ。 体中を駆け巡る興奮に、いてもたってもいられず走り出した。 目の前の景色が幻でない事を確かめるように、ただがむしゃらに駆け回る。 「こら! 待ちなさい!」 目の前で逃げ出した使い魔に唖然としていたルイズ。 だが、すぐさま大声を上げて後を追いかける。 「はは、見ろよ。ルイズの奴、使い魔に逃げられてやんの」 「やっぱルイズは『ゼロのルイズ』のままだよな」 周りから湧き上がる爆笑の渦。 傍から見れば主人と使い魔の追いかけっこ。 見世物としては珍しく面白いものだった。 キュルケの口から“やれやれ”と溜息が洩れる。 まあ、少なくとも召喚に失敗して学院にいられなくなるという事はなくなった。 使い魔に多少の問題はあるようだけど、それはいつもの事。 溜息に安堵の色が混じっていた事は秘密にしておこう。 走る。ひたすらにどこまでも走り続ける。 息が切れるのも構わない。 澄んだ空気を肺に取り入れる度に力が湧いてくる気がした。 存分に駆けずり回った後、芝生に横になる。 新たな世界を思う存分満喫した彼は思う。 ここは別世界だ。 運命を支配する残酷な手も存在しない。 この世界はこんなにも生命に満ち溢れている。 そう、自分は生きている。 今までは自分の『生』などというものはなかった。 だが今は確かに生きている実感がそこにあった。 生きている、それだけの事がとても素晴らしく思えた。 「ようやく追いついたわ!」 掛けられた声に振り返る。 桃色の髪と黒いローブ。 薬品の匂いも金属の匂いもしない、 彼が初めて目にした『人間』の姿がそこにはあった。 世界を越えた一人と一匹の出会い。 それが後に語られる事なく消えていった使い魔の冒険、その始まりだった……。 目次 続く