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前ページ次ページゼロの使い魔(サーヴァント) 「あなたは……誰?」 いつの間にか真っ青な空の下で、自分を見上げならそう訪ねられ、セイバーは目を細めた。 目の前で腰を抜かしたようにしゃがみ込んでいる女の子がいる。桃色がかった金髪の、鳶色の眼をしていた。 年のころは13歳か14歳か。あるいはもっと年下なのか年上のか。セイバーにもすぐには分別がつかない。多分、そう外れてはいないと思うのだけれど。 (あなたこそ誰なんです?) 逆に問い返したくなったのだが、もう少し観察してみることにする。 女の子は黒いマントの下に白いブラウス、グレーのプリーツスカートを着ていた。 なかなか、よく似合っている。手に持っている棒のようなものは、多分、武器ではない。 何かの指揮棒に似ていたが、そうでもないような気がする。 (黄色人種ではない、か) 見ている範囲で確実に解るのはその程度だ。 セイバーは少女からは目を離さず――周辺の情報を集めるために耳をすませ、静かに息を吸い、吐く。 ざわついている。 「おい……ゼロのルイズが成功させたぞ……」 「成功なのか? 成功っていうのかアレ?」 「どう見ても身分のありそうな騎士だぞ」 「いや、まだ通りがかりの騎士が落下してきたという可能性も……」 総じて、声は若い。 多分、目の前の少女とそんなに変わらない年頃の少年少女たちだと感じた。それ以外にも獣の唸り声のようなものも複数聞こえたが、警戒しているという以上のことは解らない。 セイバーは呼吸を静かに整えながら、情報を分析する。 (どうもここは、冬木からは遠く離れた場所のようですね……) 落胆も失望も、なかったといえば嘘になるが。 なんとなく、こんなことになるような気はしていたのだ。 セイバーはサーヴァントである。 サーヴァントとは書いてそのまま下僕とかであるといえばそうなのだが、正しくは彼女は人間ではない。 英霊、という存在だ。 英霊とは人類の歴史上に存在したとされる英雄たちのことである。死後、信仰の対象にまでいたったような彼らは英霊となる。 その英霊を召喚魔術で呼び出して使役するという無茶な儀式魔術が冬木の聖杯戦争で、呼び出された英霊はサーヴァントと呼ばれる。 これはセイバー、アーチャー、ランサー、キャスター、アサシン、バーサーカー、ライダーなどのクラスに縛りつけられた存在なので、厳密には英霊当人とは違うものである。 とはいえ、人格はバーサーカーにでもならない限りは変容することもないし、能力制限はあるが、生前とそんなに違和感はセイバーも感じたことはない。 彼女は聖杯戦争に参加していたのだが、ある事情で五次聖杯戦争の後も現世にとどまり続けた。 そして第六次聖杯戦争……は起こらなかったが、ある魔術師の野望を阻むために大聖杯を破壊したばかりだった。 それが、彼女の認識ではつい数分前の出来事だ。 破壊した直後に魔術が姿を変じた蜘蛛を、宝具を投げ飛ばして殺したのだ。 そしてさらにその後に突然現れたのが、あの鏡(のようなもの)だ。 一瞥ではさすがにそれが何なのかというのは彼女にも解らなかったが、元より、あの場所、あのタイミングで現れたものが何かの罠でないはずがない。そう思ったのは無理もない話である。 それゆえに彼女はそれに突っ込んだ。 無謀であるといえばそうだが、剣はその時に手放したばかりで、すぐさまできる手というのがそれしか思い浮かばなかった。 もっといえば、何かを考えている暇もあまりなかった。自身の対魔力を過信していたといえばそうであるし、万が一ここで命を失っても構わないとも思っていた。 で、だ。 突っ込んだ瞬間に、痺れにも似た感覚が全身に広がった。 (この感覚には覚えがある) 過去に二度。 現世に召喚された時に、似ている。 (ああ、そうか) 彼女は理解した。 これは――召喚の魔術だ。 彼女は自分の身に何が起きたのか理解した。 おそらくはあの鏡(らしきもの)をくぐったモノは召喚のゲートなのだろう。あるいは、空間転移のための魔術か。 いずれにせよそれは空間を繋げて別の場所に呼び出すというのだから魔法の域だ。行った魔術師は相当な人間に違いない。もっといえば人間ですらないのかも知れない。 だが。 理解はしたが、納得がいった訳ではない。 なんで自分なのだ? 自分だけがここにいるのだ? セイバーは、自身とマスターを繋げているレイラインが絶たれていることに気づいていた。 あのゲートが空間移動用のものであるにしても、一人の通過しかもたないような不安定なものだったのか、最初から一人のためのものなのか、それは解らないが、どっちにしてもここには士郎も凛もいないのは確かなようだった。 (いや、私の後を追ってシロウとリンがきていないのなら、それはそれでいい) こんな、得体の知れない状況にマスターをおいやるようでは、それこそサーヴァント失格だ。 だが、魔力の補給のない状態での現界はそういつまでもできないだろう。 そして、それもいいかとセイバーは思った。 二度とあの二人に会えないというのは寂しい限りのことだったが、覚悟はしていたことだ。 何処か心地よい諦観が彼女の胸に溢れ―― 唐突に気づいた。 魔力の補給はないのに、まったくなんの脱力も感じない。呼吸しているだけで体内で生成されている魔力が溢れてくるようであった。 (これは……大気の魔力が桁外れなのか) かつて生きた古代の時代ですらもこんなものではなかった。ギルガメッシュが生きていたような神世の時代でならあるいはともかく、現代の地球上でこんな場所があるだなどとは信じがたい。 というより、どんな細工をすれば空間を転移させただけでマスターとサーヴァントの繋がりを絶てるのだ? そこまでに思い至り、改めて目の前の少女を注視する。 後ろの方からざわつきながら聞こえる声からして、彼女が多分、ルイズという娘なのだろう。そして、おそらく彼女が自分をここへと呼び寄せたあのゲートを作った魔術師だ。 鳶色の目は、脅えたような、それでも精一杯の勇気がこめられてセイバーへと向けられている。 (邪悪な感じはしない……) いかなる意図があってあんな魔術を使ったのか、それを問いたかった。 なのに、どうしてか彼女の口はかつてと同じ、似たような構図で自分が出した言葉を紡ぎだしていた。 「問おう」 もっと別のことを言った方がいいのだろうか。 いや。 状況に納得はしてない。 納得はしていないが、この場でもっとも相応しい言葉がある。 ならばそういうべきなのだろう。 契約を結ぶかどうかは、その時に決めればいいことだ。 「貴方が私のマスターか?」 ◆ ◆ ◆ ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは貴族である。 貴族ではあるがメイジではない。 近頃は金だのを積み重ねることによって所領を賜り、それで爵位を得ているような平民出の貴族も増えてはいるようだが、彼女のケースはそうではない。彼女の父と母は立派なメイジで貴族で、そして姉たちもまたメイジであった。 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、メイジの子でありながらも魔法が使えない貴族だった。 厳密に言えば魔法がまったく使えない訳ではない。何をやっても爆発させてしまうという失敗をしてしまうというだけのことである。 平民のように魔法の素養がまったくないというわけではないのだ。 だから、なのだろう。 彼女を見るたいがいのメイジの目は、そこらの平民を見るよりも冷ややかで、かつ嘲笑に満ちていた。彼女の実家が公爵家という身分の高い家柄であることも余計にそれを助長させているようであった。 それでも、あるいはそれだからこそ彼女は誇り高く振舞っている。 魔法のひとつも満足に使えない身だけれど、いつか使えるときがくると、ただいまの自分は努力が足りないだけなのだと。 彼女はメイジではないが貴族であった。 しかし、どっちにしてもメイジとしての勉強のために魔法学院にきているわけで。 使い魔召喚の儀式というのは伝統のあるもので、この儀式で使い魔を召喚することによって、メイジはやっと一人前の入り口にたつ。 使い魔は、その主人と一心同体の存在であり、その主人は使い魔を見ることによって己の属性を確定する。 ルイズはこの日こそは失敗すまいと心に決めていた。 いつだって失敗したくないとおもっいていたが、この火のこの儀式だけはとにかく失敗したくなかったのだ。 もしもこの儀式で、自分は使い魔も呼べなかったら―― それは、彼女の魔法使いとしての将来は本当に暗黒に閉ざされたものになるというのが確定してしまうからだ。 とにかくそういうわけで呪文を唱えて呼び出してみたのだが―― 「あなたは……誰?」 現れた女騎士に対し、ルイズはそれだけをいうのが精一杯だった。 「貴方が私のマスターか?」 質問に質問で返されたが、ルイズはそれに腹を立てる訳でもなく、改めて目の前の女騎士を見る。 今更だが、そう聞かれて、彼女はやっと目の前の女騎士が自分の使い魔召喚の儀式でやってきたのだと気づいた。 すぐに気付かなかったのは、使い魔として人間がやってくるだなんてことはありえない――そういう先入観があったからだ。 通常、召喚のゲートを通過してやってくるのはだいたいにおいて魔獣だの幻獣だのであり、そうでなければ梟とか蛙とか鼠とかだ。 そりゃ下半身が蛸のスキュラだの、亜人というべきモノもいないでもないが。 この人はどう見ても人間だ。そしてさらにいうのなら騎士だ。騎士ということはメイジであるということであり、貴族であるということである。 ハルケギニアでは、戦いは貴族の役目であった。勿論、平民出の兵士もいるし、メイジを相手にしてなお打倒できる〝メイジ殺し〟といわれる凄腕の戦士だって、いる。 そして彼女は、どう見てもそういう類の〝メイジ殺し〟とも違う。 なんというか、品格というか王気(オーラ)と言うか――そのようなものがあるのだ。 いずれ高貴な血筋に連なる人であるに違いない。 なのに。 (マスターか、と聞いた――それはつまり、私の使い魔になることを了承してゲートをくぐってきてくれたって訳?) まさか父か母の差し金ではないか、と一瞬疑ったが、それはないかと思い直す。 使い魔召喚のゲートがどういう基準で使い魔の前に現れるのかというメカニズムは、いまだ解明されていないのである。 解っているのは術者の属性に関係するということであり、メイジは使い魔を召喚することによって己の属性を確定する。 当然のことではあるが、使い魔を呼ぶまでもなく属性を知ることは可能ではある。しかし、いまだにまともに魔法を成功させたことのないルイズのそれは誰にも解らない。つまり、どういう使い魔がくるのかも解らないということだ。 いかに彼女の両親が凄腕のメイジで名門貴族であったとしても、それらの難関をくぐりぬけた上に、仮にもメイジ一人を娘の使い魔としてしまおうなどということができるはずがない。 そういうわけでその可能性を除外したルイズではあるが。 (どんな事情があってゲートをくぐったのかしら) 考えはしたが、結局、結論はでなかった。 でなかったのだが、「そうよ」と彼女は答えていた。 「私が、貴方のマスターである、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ」 轟然と、そう名乗る。 ルイズは家名を出して相手を平伏させようと考える性根の持ち主ではない。だが、この時は目の前の女騎士に気圧されている反動で家名を出した。それとこの女騎士がどの程度の貴族であるのかを確かめようともしている。 少なくともハルケギニアに生きる貴族ならばヴァリエールの名を出せば平然とはしていられまい。その度合いでどの程度の家格の者かも解るというものである――とルイズは自分に言い訳するように考えた。自分の中の脅えには彼女だって気付いているのだ。 しかし、女騎士の反応は彼女のどんな予想とも違っていた。 「るいずふらんそわーず……」 と呟いたのが聞こえたが。 軽く溜め息のようなものを吐き出し、肩を落としたのである。 そして。 「ああ、やはり貴方がマスターでしたか、メイガス」 どこかぼやくようなものがその声には混じっていた。 ルイズは敏感にもそれを察した。 「何よ! 私があなたの主人であることになんの不満があるっていうのよ!」 叫ぶ。 叫びながらもルイズには解っていた。 この人は、自分のような生まれた家の他にはなんの取り柄もないような駄目なメイジの使い魔であるのは相応しくないのだと。どういう事情なのかは知らないけど、きっときっとゲートの先には立派で素晴らしい魔法使いが待っていると思っていたに違いないのだと。 そう思ったのだ。 怒りと劣等感が彼女の視野を狭めている。 そもそもこれほどの威容を持った女騎士を使い魔にしようなどということが普通のメイジの考えではありえないのである。学院の長であるオールド・オスマンにだって無理だ。もっといえば、ゲートを好き好んでくぐるメイジというのがあり得ない。 いきなりの癇癪に女騎士は微かに戸惑ったようであったが、「落ち着きなさい、メイガス」と静かに言う。 それで落ち着いたら世話はないのだが、凛としたその声にルイズはきょとんとして顔を上げた。 気付けば、自分よりほんの少しだけ背丈のある女騎士の目線がすぐ前にあった。 僅かに膝を曲げたのである。 「別に、貴方に不満があるとかそういうのではないのですよ」 「……じゃあ、何なの?」 「それは――」 言いかけて、女騎士は振り向く。 「お話の途中、失礼します」 つるっぱけの頭に眼鏡の中年――コルベールが跪きつつもそう言った。 左の膝を落として右手を前に、そして左手を腰の後に廻した前屈姿勢である。右手の前には杖が置かれている。 それは貴人に対する礼に見えたが、むしろ自分が敵意のないことを示すための所作であった。 なのに女騎士が目を細めたのは、その眼鏡の奥の眼差しに隠しようのない鋭さを見て取ったからであろう。 「……御身は?」 「私は当トリステイン魔法学院で教師を務めております『炎蛇』のコルベールと申します」 恭しくはあるがその声はいつもどおりのはずである。はずなのに、何処か重くのしかかるような気がルイズにはした。 女騎士は「はい」と答え、どうしてか右手を見てから少し戸惑ったような顔をしてみせ、コルベールと同様の姿勢をとってみせた。 「ご丁寧に名乗っていただき、ありがとうございます。私は――」 「いえ、お名乗りは結構です」 コルベールは右手をあげて女騎士の言葉を遮った。 言いながら、このメイジの教師の頭の中では、状況からあらゆる推論が積み重ねられ、かなり蓋然性の高いと思われるストーリーがくみ上げられつつあった。 (いずれ名のある名家に連なるお方とお見受けするが……使い魔の召喚ゲートをくぐられるというのは、相当なご事情があってのことだ) 女騎士の言葉と装束から、コルベールはついさっきまで彼女が何か危地に陥っていたのだと考えた。 戦闘に携わっていた者としての勘としかいいようがないが、この人はゲートをくぐる直線まで戦っていたのだと判断している。雰囲気というか、空気がそういうようなものなのだ。 そして現れてから「マスターか」と聞いた。 それはつまり、彼女はそれと承知でここにきた……ということであろうか。 (いや、それはありえない。こんな立派な身なりの騎士が、戦いの最中で召喚ゲートをくぐるなどという判断を下すというのはありえない) いやいや。 逆に考えるのだ。 (あるいは……そういう判断を下す他はない状況であったということか) 戦いのに敗北寸前であったとか。 逃げ延びようとしている途中であったとか。 それで追い詰められる中で現れたゲートに、一縷の望みをかけて飛び込んだ――ということなら、あるかもしれない。 いやいやいや。 それも何か違う。 違うと思った。 この女騎士は、この人は……。 (敗北が似合わない) そう感じたのだ。 どういう種類の根拠もなく、それは直観としか言いようがなかったが。 この女騎士は、敗残者とか逃亡者などという言葉はどうあっても当てはまらない存在だ。 勝利を約束された戦場の王。 勇気をもって突き進む英雄。 それはあるいは、ハルケギニアに平和を齎せた新しきイーヴァルディの勇者の如き……。 微かに首を振り、それも打ち消す。 (あるいは、ゲートと知らずにくぐったのかもしれない) 召喚ゲートを知らないメイジというのはありえないが、使い魔の前にどういう風に現れるのかということは知られてない。というか観測された事実がない。 もしかしたら、こちらとは違う形態で現れて、それでちょっと試しに手を突っ込むとかしてみたらここにいて。 そして状況から判断して自分が使い魔として呼ばれたのだと知った――ということはどうか。 (……いや、それこそありえないか) しかしまあ、だいたいそういう感じなのだろうと推測した。予断ではあるが。 どちらにしろ、彼女がもしも名のある騎士なり王族であるのなら、ここで皆の前で名乗られるのは拙い、とコルベールは判断したのである。 「ご事情については、詳しいことはいずれミス・ヴァリエールを同伴の上で、学院長様のところで」 ――自分では責任を取りきれませんから、という言葉は口にしなかった。 そして残る事案は、彼女がルイズと契約をするか否かということだけになった。 「構いません」 と女騎士はわりとあっさりと承諾した。 これには。 「いいの!?」 とルイズも驚いたし、コルベールも目を丸くした。 それは確かに、彼女に使い魔になって貰わなくてはルイズのメイジとしての将来が困ったことになるが――彼女に使い魔になってもらうということは、ルイズの人生に深刻な影響があるように思えてならなかった。 「確かに私も主を持つ者ですが」 そのつながりも途切れてしまった、というと、ルイズの顔が泣きそうに歪んだ。責任を感じているのだ。 女騎士は安心させるように微笑んで見せる。 「いつか主のもとに還ることがあるかも知れませんが、そのためにも存在し続けねばいけません」 「そうなの……」 その言葉をどう受け止めたのか、ルイズの表情は晴れないままだ。 女騎士は改めて跪き、ルイズに顔を寄せた。 「小さなメイガスよ。この召喚は確かに私にとっては不本意なものでしたが、ここに私がいることには意味があるはずです」 不本意、という言葉にびくりと身体を振るわせたルイズだが、女騎士は少し思案してから。 「もう一度いいます。私がここにいることには意味があるはずです」 「だけど……使い魔よ? 貴方みたいな立派な騎士さまがすることではないわよ! ご主人様がいるのなら、召喚なんかなかったことにして帰ればいいじゃないの!」 「そのつながりは絶たれてしまいましたので――」 「ミス・ヴァリエール」 見かねたのか、コルベールが横合いから口を挟んだ。 ちなみ生徒たちは先に帰らせている。 「使い魔召喚の儀式は神聖なものだ」 「え、ええ」 「本来ならば、人間が召喚されるという事態はまるで想定外のことだが」 「はい……」 「やはり、ルールは守らねばならない」 「――――」 このはげ、とんでもないこといいやがる、とでもいいたげな顔で教師を見上げたルイズは、「解りました」と投げやりにはき捨て。 跪いたままの女騎士の顔を両手で挟み込んだ。 「言っておくけど」 「はい」 「使い魔なんてやっぱりいやなんて言っても、契約した後では遅いんだから!」 「――もとより私はサーヴァントである身です」 「ふん! たいした覚悟じゃないの!」 なんだか微妙にかみ合ってない会話だなあとコルベールは傍目に思ったが、コントラクト・サーヴァントは大切な儀式だ。静かに見守ることにする。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ……」 そして唇を寄せる。 女騎士が目を見開いたのに、コルベールは僅かに眉を寄せた。 それも、その二つの唇が合わされた時までだ。 少女も騎士も美形といって申し分のない容姿である。その二人の口付けというのは独身者の身にはいささか以上の刺激であったらしい。 女騎士はルイズの顔が離れてもしばし戸惑っていたが、やがて訝しげな顔をして左手を見た。 「これは――令呪、ではないのか」 その呟きをどう受け取ったらいいものか解らず、コルベールは「ふむ」とその手に顔寄せる。 「コントラクト・サーヴァントは成功したようですな。篭手の下、左手にルーンも刻まれたようですし。あとで確認させていただきますので、よろしくお願いします」 それから一通りの指示をルイズにした教師は、それでは、と一礼して宙に舞う。 しばしそれを見送った女騎士は、改めてルイズに向き直り。 「サーヴァント、セイバー。召喚に応じ馳せ参上した。 これより我が剣は貴方と共にあり、運命は貴方と共にある。 ―――ここに契約は完了した。」 それは宣言であり、誓約の言葉だ。 たがえることのない絶対の契約だと、主従であると。 この女騎士、いや、セイバーはそう言ったのだ。 ルイズは呆然とセイバーを見上げていたが、やがて「ふん」と顔を逸らし歩き出す。 「ついてきなさい」 セイバーは頷き、その後ろを従った。 やがてすぐに足を止めたのに気付き、ルイズは振り向く。 「どうしたの?」 「いえ」 セイバーを空を見上げていたのだ。 ルイズもつられてそこをみたが、あるのは何の変哲もない月が二つあるだけだ。そういえば、もうそんな時間になっていたのかと彼女はようやく気付いた。 そして。 「どうやら、本当に遠い場所にきたようです」 そんなことを彼女の使い魔が言った。 果たしてセイバーの言葉にどういう意味があるのかも解らず、彼女は首を傾げるのだった。 ゼロの使い魔(サーヴァント) 第一話 了 前ページ次ページゼロの使い魔(サーヴァント)
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開け放たれた窓からの緩やかな風と暖かい陽射しに、清潔な白のカーテンが揺れる医務室で、一人の少女がベッドの上で眠っている。 少女の名はルイズ。 目を瞑り、規則正しい寝息を立てるその姿は、ピスクドール人形を思わせる程に可憐で、両手両足に巻かれた痛々しい包帯も、その可憐さを引き立てるアクセントにしかならない。 欠けたモノ程、美しい。 誰が言ったかその言葉は、心底、美しさと言う概念を理解したモノの言葉であろう。 万人が納得する美しさなど存在しない。 一人一人が己が内に秘めた美しさこそが、何よりも自身の心を揺さぶる衝撃となる。 その衝撃を与える為にはどうすれば良いのか? 簡単な事である。非常に簡単で尚且つ、誰にでも行う事が出来るその方法とは、完成させないことだ。 一つの終着点に辿り着いてしまえば、それ以上の上を想像しない人間と言う生き物を満足させるには、完成させずに、己が頭の内で先を想像させるのが、一番、誰もが納得できる美しさを作り出す事が出来るであろう。 そして、その例で言うならば、このベッドで寝ている可憐さと包帯による痛々しさを併せ持つ、この少女は、現在、意識が無いと言う未完成さを持ち、故に、誰もが息を呑む程の美しさを手に入れているのだ。 それは、泡沫の夢に似た幻影の美。 目覚めてしまえば、意識を取り戻してしまえば崩れてしまう、時間制限付きの絵画。 その、およそ美術品としては向かないが、瞬間の美としては合格点をブッチギリで越えたこの少女に、目を奪われてしまった少年が居た。 平賀才人。 異世界に来てから一週間と少しで、ルイズの付きの使用人にされてしまった、薄幸少年である。 ごくり、と生唾を嚥下しながら、使用人としての仕事である、少女の包帯を取り替える。 すでに、少女が意識を失ってから丸一日が経っている。 治療の際に使われた包帯は、外からは見えないが、内は傷口から滲み出た血でどす黒く変色している。 それを、ゆっくりと解いて、まずは傷口に貼られているどす黒いの布切れを剥がす。 乾いた血のペリペリとした剥脱音が耳に痛い中、少女の顔が痛みの所為か曇ってしまう。 その事を残念に思いながら、才人は新しい布をまだ血が滲んでいる傷口に宛がう。 治療してくれた長い髭の爺さんが言うには、完全に治療するには学園にある秘薬だけでは足らず、 自分の時のように完全に怪我が完治している訳では無いらしい。 そんな訳で、完全に皮膚が再構築されていない箇所も、少女の足や腕にちらほらある。 流石に胴体の怪我は、優先的に治療された所為か、少女の胴体には傷一つ無い……らしい。 少なくとも、この娘の友達であると言う、赤髪の少女はそう言っていた。 つらつらとそんな事を考えている内に、包帯の取替え作業が終わる。 はふぅ、と一息吐く才人は、備え付けの椅子に座って、ベッドの上に横たわる少女を、じっと眺める。 どうにも……おかしい。 確かに自分は、元の世界で出会い系に手を出す程に、その……そっち系に飢えていたが、こんなロリ系の少女に、しかも、二回しか見た事の無い(その内、会話をしたのは一回のみ)と言うのに、何故? 微妙に高鳴る鼓動に、疑問を憶えつつ、才人は開けていた窓を閉めようとして――――――その手を止めた。 いや、止めざるをえなかった。 才人が閉めようとしていた窓の縁に、奇妙な姿をした者が何時の間にか座っているだから。 姿形を抜きにして、才人はその突然現れた存在に好意的な感情を抱けなかった。 同じ主を持つ中だと言うのに。 「どうしたんすか、ホワイトスネイクさん。そんな所に座って」 現れたのは、ルイズの使い魔にして彼女のスタンド、ホワイトスネイク。 本体が再起不能に近い怪我を負いながら、消すのを忘れた為に、現実空間にそのまま居座り続ける破目に陥っているのだ。 まぁ……ルイズが本体となってからは、あまり消えてはいないのだが。 ともあれ、それはこの数日間の話であり、元本体の時は、消えている時間が長かった彼にとって、この状況は困惑ものである。 まだ、指示をする本体が居れば良いのだが、本体も居なく、自分の自由意志を元に動ける状況で、ホワイトスネイクは心底困っていた。 何せ、今まで命令され続けて培われた自由意志だ。いきなり、ほっぽりだされては、“何をすれば良いのか分からない” 結局、やる事を考えつかなかったホワイトスネイクは、眠っている主の近くで、いつでも不慮の事態に動けるように待機していた。 基本的にルイズが眠っている医務室付近に居るのだが、この時は、何故か閉めようとしていた窓の縁に、唐突に現れたのだ。 ビビる才人、平然とするホワイトスネイク。 ホワイトスネイクは才人の質問に答えず、ただ窓の外を眺めている。 やっぱりこいつ苦手だと、才人は思いながら窓を閉めるのを諦め、椅子に座り、シエスタから貸して貰った本を片手にペンを走らせる。 シエスタ曰く、貴族の使用人になるのであれば、文字ぐらい読めないと話にならないらしい。 そんな訳で、この世界の文字を勉強している才人だが、何故だか、もの凄く勉強が捗っている。 自分の世界での言葉すら、まともに覚えられなかった自分がだ。 その事に対して違和感を覚える才人であったが、まぁいいやの一言でその問題を忘れ、せっせかと文字の習得をしていく。 ホワイトネスイクは窓の外を見ながら、そんな才人をチラリと流し見ていた。 才人が勉強を始めて、一時間と少し、医務室へと向かう足音に、ホワイトスネイクは気がついた。 こつこつと石造りの床と皮製の靴が鳴らす音の持ち主は、医務室の扉を三回ノックしてから、返事を待たずに扉を開けた。 才人は、ノックしても返事を待たないなら、別にする意味無いんじゃないのかなぁとか思いながら、挨拶をする。 「おはよう、キュルケ」 「おはよう、ルイズの使用人さん。ルイズは…………まだ目が覚めてないみたいね」 才人の挨拶に丁寧に返答した赤髪の少女は、丸一日経ったと言うのに目覚めぬルイズへの心配で、何時もより元気が無く見えた。 「それにしても、君は心配性だねぇ」 「何が?」 備え付けの椅子に座り、テーブルを挟んで向かい合う才人とキュルケは、手持ち無沙汰も手伝って、軽い雑談を交わしていた。 内容は、昨日も怪我の治療の時から付きっ切りで、先生が止めていなかったら、医務室に泊まる勢いだったキュルケについてである。 上で記したように、すでにルイズには命の危機は無い。だと言うのに、キュルケはまるで余命幾許の無い者に接するように、出来る限りの時間をルイズと一緒に居ようとしていた。 才人にとって、幾ら心配だとしても、それは聊かやり過ぎのように思えたのだ。 そんな疑問に対して、キュルケは物憂いな表情で、ルイズを見ながら口を開く。 「別に……ルイズの体が心配って言う訳じゃないわ」 「じゃあ、なんで?」 「自覚は無かったけど……私、この娘に相当酷い事を言ってきたみたいでね……」 ルイズ見つめるキュルケの目は、焦点が合っていなく、少なくとも、今のルイズを見ているのでは無い事が分かる。 「私自身、この娘とは友達だったと思っていたわ。 だけど、知らず知らずの内に、この娘を傷つけていた私に、友達で居る資格なんてあるのかしら? 少なくとも……私は、無いと思うわ」 独白のようなキュルケの言葉に、才人は口を挟まなかった。 否、挟めるような口も言葉も、今の才人は持ち合わせていない。 「だけどね……私は、この娘と友達で居たい。 この娘と笑って、この娘と遊んで、ハシャいで、楽しみたい……」 キュルケの目が、過去を見ているように、この言葉も才人に宛てた言葉では無いのだろう。 「私は、そうしたいと思ってる。思ってるから……ルイズが目覚めたら、いの一番に言ってやるの。 今まで、ごめんなさい。貴方が許してくれるなら、私はこれからも貴方と友達で居たいと思ってるってね」 全てを語り終えたか、椅子から立ち上がったキュルケは、ベッドに近づき、そっと、ルイズの頬を撫でる。 暖かく、滑らかで瑞々しい肌。 傷一つ負っていない無垢なるモノ。 本当であるならば、彼女の心も、こうなるべきだったと言うのに。 自分だけでは無い。 しかし、彼女の心の、傷の内の一つ……いいや、幾つかは自分がしてしまった行為によるものだ。 「…………ルイズ…………」 慈しみの響きを持たせ、ルイズの名を呼ぶキュルケの姿は、なんというか、子を守る母のような雰囲気をしており、見ているだけで周囲のモノに慈愛の心を植えつける。 「……んっ……」 果たして、それは奇蹟なのか、それとも、単なる条件反射だったのか。 キュルケがルイズの名を呼んで、彼女の頬を撫でていると、ルイズの傷だらけの手が、キュルケの手を掴む。 「………………」 瞼を開き、焦点のぼやけた目でキュルケを見るルイズは、無言で握った手の力を段々と強くしていく。 まるで、これだけは放したくは無いと言わんが如く。 「ルイズっ! 貴方、意識が!?」 「………………・・・」 キュルケの問い掛けにルイズは答えず、ただ、ぼんやりと中空へと視線を巡らす。 「…………キュルケ……何で……」 ぽつりと、小さな声で漏れた言葉と同時に、ルイズの目が一気に開かれる。 「いっ!!!」 そして、凄まじい勢いで身体を起き上がらせようとして、腕と足の痛みに、瞬間的に動きが止まる。 痛みに耐えるように両腕を抱くようにして、腕同士が触れて、また痛みを訴える連鎖に、ルイズは我慢できなくなり、自分の使い魔へと声を掛ける。 「ホワイトスネイク!」 その声に反応するように、ホワイトスネイクは何時の間にかルイズのすぐ傍にまで歩み寄り、彼女の頭から気絶している時に戻しておいた『痛覚』のDISCをまた抜き取る。 痛みから解放されたルイズは、ようやく、思考を今の状況へと割り当て始めた。 目の前には、自分が才能を返却した少女と雇ったはずの使用人。 どんな状況なんだと疑問が彼女の頭に湧いたが、すぐに、自分の腕と足に巻かれた包帯と、今居る部屋が医務室なのを理解して、現状を把握した。 どうやら、自分は医務室で眠っていたらしい。 何故と言う言葉は要らない。そんな言葉など無くても、頭には、自分が重症を負った光景が浮かんでいた。 (私は……『一手』遅かった……キュルケが庇ってくれていなかったら、今頃……) あの時、風竜の事を完全に忘れていた自分と、そこまで必死になるように追い込んだ少女の事を思い出し、ルイズは一人、唇を噛み締める。 「……ルイズ?」 そんな不審な行動に訝しげな顔で、キュルケが言葉を掛けると、ルイズは、とりあえず、あの女の事を忘れて、赤髪の少女へと向き直った。 「あのね……キュルケ、私―――」 「ストップ! その前に、私、貴方に言わなきゃならない事があるのよ」 キュルケはルイズの言葉を遮り、自分の今の気持ちをそのままに口にしようとした。 ちなみに、才人は普段読めないはずの空気を、敏感に察知して、すでに部屋の外に出ていたりする。 二人だけの部屋。 そこでキュルケは、あの時は一言で済ませてしまった言葉を、もう一度、今度は、要約せずに丸ごと、言おうとして、口元に一本指を立てられた。 「もう良いのよ……もう…………」 ルイズは、静かにそう呟き、そっと立ち上がり、キュルケを抱きしめる。 「私を庇ってくれた事で、貴方の気持ちは、もう十分伝わったわ。 だから、もう止めましょう。ねっ?」 「…………ごめん……なさい……ごめんなさい、ルイズ―――っ!!」 感極まり涙を流すキュルケの身体抱きながら、背伸びをして(キュルケの方が身長が高い為)彼女の髪を撫でる。 まるで、先程自分の頬を撫でてくれたように、優しく、慈しみを持った手で髪を梳いていき ――――――ぞぶり、と自らの指を彼女の頭へと突き刺した。 ジュルジュルと生理的嫌悪を感じる音を部屋に響かせながら頭部に進入したルイズの手は、 キュルケの今の思考をDISC化したものを彼女の頭から、ルイズが確認できるように、引っ張る。 DISCした記憶の表面には、泣いて謝るキュルケと謝る対象である自分の姿が見て取れた。 (キュルケは……嘘をついていない……本当に、私に済まないと思っている……) 人の言葉など、どれほど信用なら無いか、僅かな時しか生きていないルイズですら知っている。 あまりに不確かで、不鮮明な言葉で、全てを信用するのは愚かでしかない。 では、確固たる鮮明さを持ち、不変的な『真実』とはなんなのか。 ホワイトスネイクを従えるルイズは、それを『記憶』だと思っている。 『記憶』は何時までも変わらない。 薄れ、忘却こそされるが、内容が変わる訳では無い。 故に、そこには偽りは存在しなく、真実だけが在る。 ルイズは、キュルケの頭から少しだけ出ているDISCを戻し、もっと強く、彼女の身体を抱きしめる。 この子は、もう私を侮辱なんかしない。 心の底から、私に謝るこの子は、私の味方だ。 ――――――友と競い、学びあい、談笑しろ―――――― 何処かで聞いた言葉が頭を過ぎる。 この言葉を始めて聞いた時、私は……どんな返答を返したのか…… ―――――――私に……そんな相手なんか―――――― 忘れてしまった『記憶』の底に貼りつく言葉に首を振る。 居た。 私にも居た。 一緒に笑って、一緒に遊んで、一緒に泣いて、一緒に学んで、一緒に歩ける友人が。 「――――――私にも……居たのよ……」 それが、こんなにも嬉しいのが、可笑しかった。 それが、こんなにも暖かい気持ちになるのが、心地良かった。 それが、こんなにも大切な事だと言うのが、気付かされた。 ――――――離さない ――――――離したく無い ――――――離れたくない 「絶対……離さない……」 願うならば、この誇るべき友人と、ずっと共に歩いて行きたい。 それだけが、自分を本当に気遣ってくれる相手に気付けたルイズの、思いだった。 場面は変わり、部屋の外へと出た才人は、あまりにも空気を読めた自分の行動に疑問を感じていた。 「おかしいな……俺、あんなに敏感なやつだったっけ?」 唐変木と言うよりは空気が読めないはずの自分が、あんなベストなタイミングで部屋から出れたなど、自分の行動だと言うのに信じられない。 ん~、と首を傾げながら歩く才人に一人の女の子がぶつかった。 「きゃっ!」 「うわっち!?」 少女が尻餅をつく前に、伸びきった手を掴み、傾いたままで姿勢を維持させる。 「君、大丈夫?」 そのまま腕を引っ張り、きちんと重力に垂直に立たせて、才人は少女を見る。 金色が目に痛いぐらい輝く髪を、幾つにもロールしているその少女は、才人の中の、もしも中世のお嬢様が居たらこんな髪型でこんな感じだろうなぁと言うイメージにピッタリと重なっていた。 「……っ~! 平民の癖に貴族にぶつかるなんて!」 いや、マジでピッタリだよ。色々と 「あっ、ごめん。ちょっと考え事しててさ。 でも、君の方も前を見てなかったみたいだし、おあいこじゃないかな?」 ここの通路は、ひたすらに真っ直ぐだ。そんな場所で二人してぶつかるのは、どちらも前を見ていなかったに違いない。 そのような推測の元、才人の口から出た言葉に金髪の少女は、顔を真っ赤して怒鳴る。 「おあいこだなんて、そんな訳無いじゃない! 平民が貴族にぶつかったのよ!? どう考えても悪いのは平民の方じゃない!!」 シエスタから、貴族は――――――特に、このトリステインの貴族は、傲慢と自尊心の塊であるから、決して機嫌を損ねていけないと言う言葉を、才人は今更ながら思い出す。 まずったなぁ、とか呟きながら、どうにかして目の前の、貴族様の怒りを静めなければならない。 「はぁ、どうも申し訳ありませんでした。これ以降は気をつけますので、どうか許してください」 とりあえず適当に謝れば良いんじゃね? な思考から、謝罪の言葉を口にすると、向こうも分かれば良いのよ、とか言って、そのままスタスタと歩いていってしまった。 なんだあれ? とか才人は思ったが、まぁ仕方ないかと諦めた。 少し考えれば、まだ授業を行っている時間帯だと言うのに、歩いている少女が、何処に向かっているのか。 其処から出てきたなら気付きそうなものだが、結局、才人は気がつかないで、そのまま適当にぶらつくかと、ふらふらと何処かへ行ってしまったのだった。 報いと言うものは必ず受けなければならない行為である。 しかし、報いに報いた行動にさえ、それを要求されるのであれば、それはまるでメビウスの輪のように堂々巡りとなるのでは無いか。 少なくとも、ホワイトスネイクは言い争う本体と金髪の少女を見て、そう考えていた。 医務室に訊ねてきたモンモラシーは、最初にルイズが意識を取り戻した事を知ると、さっさとギーシュに才能を返すように言ったが、ルイズはそれを承諾しなかった。 何故なら、ギーシュとは真っ当な勝負の結果で奪った才能であるし、自分の事をあそこまで虚仮にした奴に、どうしてこの力を返さなければならないのか。 彼女には不思議だった。 しかし、横に居たキュルケもギーシュに才能を返した方が良いとモンモラシーの援護しだし、旗色が悪くなると、ルイズは、自分を負かした少女が、ギーシュは壊れていたと言っていたのを思い出し、壊れている人間に才能を返却した所で使う事が出来ない。 なら、私が有効活用してあげるわ。と言った所、モンモラシーが、もの凄い形相で怒り出したのだ。 「ルイズ!!」 顔を真っ赤にして怒鳴るモンモラシーに、ルイズは、面倒ね、と顔を顰めた。 「私も……今の言葉はどうだったかなぁ、と思うわ」 キュルケにも言われると、流石に顰めた顔を、今度は思考の顔にしなければならない。 適材適所。 その言葉の通りならば、今の彼が、この才能を持っているよりは、自分が才能を持っていた方が良いに決まっている。 だが、キュルケとモンモラシーは持ち主に返すべきであると言う意見を決して曲げないであろう。 モンモラシーの事は別に良いが、キュルケに対して別の意見を持つのは拙い。 せっかく見つけた、信頼できる友人を、たかだか『土』のドットクラスの魔法で失うのは嫌だ。 「分かったわよ……返すわ、返せば良いんでしょう」 ここで下手に話を拗れさせては、どうしようもない。 そういう結論に至ったルイズは、才能を返却する事にした。 別に、ドットくらいなら構わない。 これがスクウェアとかトライアングルクラスならば、ルイズも少しぐらい粘っただろうが、たかが青銅しか『錬金』出来ない才能に、そこまで労力を割く必要も無いだろう。 元々、この才能を奪ったのは、ギーシュが自分の事を侮辱してきた報いであった。 彼女の“本来”の計画では、ギーシュの才能になど触れてすらいない。 「そうよ! それが貴方に出来る償いなんだからね!」 償いと言う言葉に、ピクリと眉が動いたが、ルイズはなんとかそれを押さえ込む。 彼女しては珍しく、無いに等しい自制心が働いたお陰であった。 「……まぁいいわ。返しに行くのなら、さっさと行きましょう。 面倒事は、早めは片付けた方が良いに決まってるわ」 今度はモンモラシーが耐える番であった。 ルイズの一言にグッと耐え、震える握り拳をそっと背後に隠す。 その様子に気付いたキュルケが、何か言おうとするが止めた。 どちらが悪いと問われれば、ギーシュとルイズの問題は少々込み入り過ぎている。 一概にどちらが悪く、どちらが正しいと言える事柄では無いからだ。 ともあれ、ルイズはまだまともに歩けず、ホワイトスネイクにおんぶをして貰ってギーシュの自室へと移動を始める。 基本的に、スタンドの負傷が本体に伝わるように、本体の負傷もスタンドに伝わっているのだが、ホワイトスネイクは、ルイズを運ぶ痛みに顔色一つ変えずに、彼女をギーシュの部屋へと運びきるのであった。 「ここよ」 男子寮の一角。比較的入り口に近い場所に、ギーシュの部屋はあった。 モンモラシーは、ギーシュの部屋の前で一度深呼吸をして、こんこん、と扉をノックする。 返事は――――――なかった。 「入りましょう」 辛そうな顔で言うモンモラシーは、アンロックの呪文を掛け、鍵の掛けられた扉を開いた。 中は、昼間だと言うのに何処か薄暗く、少し土の匂いがした。 「ギーシュ、戻ってきたわ。返事をして」 「あぅあ……」 悲痛な声で、モンモラシーは、ベッドの上に座っている自身と同じ髪色の少年へと呼びかける。 しかし、少年の口から漏れるのは、自我が放棄された発音。 ルイズとキュルケは、眉を顰めた。 ここまで酷いとは、想像していなかった。 目の焦点が合わず、口からは意味不明の単音が漏れるしかない少年は、まるで痴呆患者そのものだ。 「………………」 ルイズは無言で、モンモラシーに髪型を整えられているギーシュへと歩み寄る。 すでにホワイトスネイクの背中からは降りている。 そうして、自分の頭に手を入れ、中からDISCを取り出し、それをギーシュの頭へと挿入する。 「これで良いでしょ?」 自分のやるべき事は終わったと言わんばかりのルイズは、備え付けの椅子をホワイトスネイクに持ってこさせ、どかりと座り込む。 モンモラシーとキュルケは、あっさりと終わった才能の返却に、しばし呆然としていたが、 「あぅ?」 才能が戻った感触に不思議そうな声を出したギーシュによって、現実へと戻ってきた。 「これで……ギーシュは、また魔法が使えるようになったの?」 確認するように紡ぐモンモラシーの言葉にルイズは、そうよ、と返答する。 「………………」 一抹の望みがモンモラシーにはあった。 この壊れてしまったギーシュも、才能を戻しさえすれば、なんとか元通りになってくれるのでは無いかと言う望みが。 「ギーシュ、ねぇ、戻ってきたのよ。貴方の才能が。 ほら、これでまた貴方のワルキューレが作れるわよ。 それに、固定化とか錬金も、また出来るのよ」 才能は戻った――――――だが、彼は戻らなかった。 ただ、それだけだと言うのに、モンモラシーの目からは涙が溢れ出ていた。 先生方が言っていた。 これだけ見事に壊れていると、どんな秘薬があろうとメイジには、もう治せないと。 だからこそ、この才能が返ってくる時に、ギーシュの精神が治ってくれると、どれだけ願っていた事か。 「私ね……首飾りが欲しいのよ。 貴方の錬金してくれたものがね。 青銅しか錬金できなくても、別に構わない。 貴方が作ってくれたのなら、それで良いの。 だから、お願い、お願いだから、私に首飾りを作ってよ!!」 悲しい結末となった恋人達の末路に、キュルケの胸は苦しくなっていた。 これが双方共に、自分に面識の無い人間であるならば、そういうこともあると納得できるだろうが、残念ながら、二人共、自分と同じ学生で、特にモンモラシーとは、割りと話す仲でもある。 「ねぇ……ルイズ」 同情と言えば、それで終わりであるが、キュルケはそれでも言葉の続きを口にした。 「ギーシュなんだけど……もうあのままなのかしらね?」 「あんた……あいつに元に戻って欲しいの?」 疑問文に疑問文で返したルイズの言葉に、キュルケは頷く。 それはそうだろう。 目の前に悲惨な事態に陥っている恋人達が居たら、自分に助けられる事が助けたくなるのは人情だ。 ルイズは、そんなキュルケに目を僅かに細め、分かったわ。と静かに立ち上がり――― 「ホワイトスネイク! ギーシュの壊れた原因を抜き取りなさい!!」 自らの使い魔へと命令を下した。 モンモラシーが撫でていたギーシュの頭に、ホワイトスネイクの右手が突き刺さる。 あまりの驚愕の光景に、モンモラシーは声を上げる事さえ忘れて、ただ口を金魚のようにパクパクと動かす事しか出来ない。 キュルケも同様に驚きで目を丸くし、ただ一人、ルイズだけが、満足げにホワイトスネイクの行動に見入っている。 「『記憶』ト言ウモノハ、ソノ人間ノ生キタ証、マタハ歩ンデキタ道ダ。 ナラバ、壊レタ瞬間カラ、今ニ至ルマデノ壊レタ『記憶』ヲ抜キ取レバ、壊レル前の正常ナ人間ニ戻ル。 理屈ハ、忘却ト、ホボ同ジダ。ドレダケ辛イ事ガアロウト時ハ、辛サヲ忘レサセル。 マァ、完全ニ物事ヲ忘却デキル人間ナド居ナイノダカラ、僅カニ残滓ハ残ルガナ」 饒舌に語り始めた使い魔の言葉に、キュルケとモンモラシーは、どうやらルイズがギーシュの精神を治そうとしている考えに至った。 「お願い…………お願い……お願い!!」 藁にも縋るような思いで、ホワイトスネイクの行動を見守る事にしたモンモラシーの口から出るのは、懇願の言葉のみ。 キュルケも同様に、ただギーシュが治る事を願っていた。 「サァ、忘レルガイイ、壊レタ者ヨ。 オマエガ壊レテシマッタ……ソノ瞬間ヲナ!!」 二人の願いが通じたのか、ホワイトスネイクが右手を引き抜いた時、一枚のDISCが握られていた。 どす黒く変色している、そのDISCは誰が見ても危険物と分かる程の禍々しいオーラを纏っており、通常のDISCと違うのは、一目で見て取れる。 「う……うぅん……」 先程と違い、理知的な声を口から漏らしたギーシュは、ベッドへと倒れこんだ。 慌てて、ギーシュの頭を確認するモンモラシーだったが、外傷も無く、ただ単に気絶しているだけのようだ。 「これで元通り、こいつの『記憶』は壊れる前に戻ったわ」 そう言うと、ルイズは自分の身体が一気に重たくなるのを感じた。 (流石に起きたばかりで無茶はするもんじゃないわね……) なんとか、ホワイトスネイクの背中に乗ると、ルイズは、じゃあねと言い、モンモラシーとキュルケをギーシュの部屋へと残し、自分は退室した。 「シカシ……良カッタノカ」 「何がよ?」 自分の部屋へと帰る途中、ホワイトスネイクの主語を抜いた言葉に、ルイズは疑問符を頭の上に浮かべる。 「折角、奪ッタ才能ヲ、簡単ニ返却シテシマッタ事ダ。 君ハ、確カニ魔法ヲ使イタイと心カラ願イ、使エルヨウニナッタノダロウ」 「…………そうね」 「ナラバ、何故、返シタノダ? マタ、元ノ使エナイ人間ニ戻ルト言ウノニ」 ホワイトスネイクの疑問は最もだ。 折角、苦労して奪った才能を、あんなに簡単に持ち主へと返し、自分はまた『ゼロ』へと逆戻り。 とてもじゃないが、あそこまで魔法を使える事に執着した人間と同じには思えない。 「モシモ、君ガ、センチナ感情ニ動カサレテイルト言ウノデアレバ、ソレハマッタクノ無意味ダ」 「…………別に、あいつが可哀想だから才能を返した訳じゃないわよ」 「デハ、何故? 何故、君ハ自ラヲ犠牲ニシテマデ、アノヨウナ事ヲシタノダ?」 蛇のように粘着質なホワイトスネイクの質問にルイズは、暫く無言を徹す。 まるで、自分の内に秘めた思いをどう言葉にすれば良いのか、迷っているかの如く。 「私は自分が犠牲になったつもりは、さらさら無いわ あいつに才能を返す事が、私にとって、プラスになると思って返しただけよ」 考えが纏まったのか、それとも、ただ気分が向いたのか。 ルイズは、ホワイトスネイクに自らの思いを吐露していく。 「あそこで、あの場で返すのを渋ったら、それこそ私は、キュルケと道を違えてたでしょうね」 「アノ女ノ為ニ、君ハ拘ッテイタモノヲ諦メタノカ?」 「それだけの価値が、キュルケには……うぅん、友達にはあるのよ」 力強い、ルイズの肯定にホワイトスネイクは足を止めた。 (友……カ……) 元本体にも友と呼べる人――――――いや、化け物が居た。 そいつと居る間、本体の心は安らぎ有り得ない程の安定に包まれる。 ルイズも……現在の本体も、そんな安らぎの場所を求めたのだろうか。 「でもね、ホワイトスネイク。 私は別に魔法を奪うのを止めた訳じゃあ無いわよ」 「君ハ、アノ女ニハ嫌ワレタクナイノダロウ?」 「えぇ、だから、今後は“此処”で才能を奪うのを止めるし、侮辱された報復なら、貴方を嗾けるわ。 私が才能を奪うのは、悪い奴からだけ。 世間一般が悪と言う奴から才能を奪うなら、キュルケも文句は無いでしょう?」 奪うのは変わらない。 ただ、その理由が、報復から、罰に変わっただけ。 しかし、その変わった事がけっこう重要だったりする。 どれだけ強い武力があろうと、大義名分が無ければ、ただの暴力と片付けられるように。 自分の才能を奪う事も、悪人に対する罰と言う大義名分が付けば、少なくとも、報復の為に奪うよりは、周りに受け入れられるだろう。 「さっそく奪いに行きたい所だけど……足が無いわね」 謹慎期間の為に、この一週間は休みのルイズであるが、 生徒達が遠出をする為の馬が用意されるのは虚無の曜日だけなのだ。 つまり、遠出をするならば、どうしても虚無の曜日まで待たなければならない。 「虚無の曜日は明後日か……怪我の具合もあるし……丁度良いかしらね?」 遠足に行くのが楽しみで仕方ない小学生のように尋ねるルイズの言葉に、 ホワイトスネイクは返答をせずに、止めていた足を、また動かし始める。 「あぁ、今度は『土』や『火』じゃなくて『水』が良いわね。 やっぱり、自分で怪我の治療が出来た方が便利だし……」 自分の背中で、ぶつぶつと呟かれているホワイトスネイクは、才能云々の話で一枚のDISCについて思い出した。 「ルイズ」 「やっぱり、最低でもトライアン――――――んっ? 何よ?」 「一応言ッテオク、君ノ、スカートノ中ニ、一枚ノDISCガ入ッテイル」 ホワイトスネイクに言われ、自分のスカートに手を伸ばすルイズは、その中にあるDISCを手に取った。 『記憶』DISCとも、『魔法』DISCとも違う輝きを持つ、そのDISCの表面には、右半身が砕けた屈強な肉体を持つ何者かが写りこんでいる。 「ソレハ……『世界』ト呼バレル『最強』ノスタンドダ。 最モ、『無敵』ニ対シテ敗北ヲ喫シタ『最強』ダガナ」 「何それ? 負けたら『最強』じゃあないじゃない と言うか、スタンドって、あんたの種族みたいなもんでしょ? それがどうしてDISCになるのよ」 「原理ハ、才能ヲ奪ッタ時ト、ホボ同ジダ」 「ふ~ん」 感心したようにルイズは、DISCを繁々と観察してから、それを自分の頭部へと、そっと差し入れる――――――が 『無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァァァ!!!』 「あひゃあっ!!」 唐突に脳に響いた怒声と身体の芯に叩き込まれた衝撃に、ルイズの身体はホワイトスネイクの背中から吹っ飛ぶ。 痛覚を抜いてままで良かった。 もし、痛覚が残ったままだったら、この衝撃による両手両足の痛みで気絶しただろうなぁ、とかルイズは考えていた。 「っ~!……何よ、これ!? なんで差し込んだら吹っ飛ぶのよ!? あんた、私の事を騙したんじゃないでしょうね!?」 「騙シタ訳デハ無イガ……ナルホド、ドウヤラ、君ノ今ノ精神力ト体力デハ、『世界』ヲ扱ウ事ガ出来ナイヨウダ」 「どういう事よ?」 じと目で睨んでくるルイズを尻目に、悠々とDISCを拾うホワイトスネイクは、DISCの表面の人型をなぞりながら、言葉を続ける。 「コノ『世界』ハ、スタンドノ中デモ、格ガ違ウ存在ダ。 例エ、弱体化シテイタ所デ、君ガ扱ウニハ、マダマダ成長シナケレバナラナイト言ウ事ダ」 最も、あの時のように感情を高ぶらせれば別だろうがな、と言う言葉を飲み込み、ホワイトスネイクは、倒れているルイズをおぶり、DISCを渡す。 ルイズは、渡されたDISCを、暫く見つめていたが、はぁ、と溜め息を吐いてから仕舞う。 「まったく…………今、使えないんじゃ意味無いわよ」 ホワイトスネイクと出逢った日に呟いた言葉に酷似した台詞を言うと、ルイズはゆっくりとホワイトスネイクの背中へと寄り掛かる。 頭をくっつけ、ホワイトスネイクの心音を後ろから聞くような体勢のルイズは、部屋に着く前に、深い眠りへと落ちるのであった。 第五話 戻る 第七話
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デイ・ゼロとはららEarthシーズン2にて無国籍(未作成)が当時平和主義だったセントルシア(未作成)に襲来し、平和主義のはずであったが「戦争するから国をぬけろ」という無国籍のネガティブキャンペーンにより、一時的に国民全員が国を脱退した事件である。これによりセントルシアは国民全員が国を脱退する甚大な被害を被った。
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天元突破グレンラガン よりカミナを召喚 ゼロとアニキ-01
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「そうじゃったか・・・ミス・ロングビルがフーケじゃったとは・・・」 トリステイン魔法学院学院長室。 フーケを逮捕したメローネ達はオールド・オスマンに報告に来ていた。 「いや、怪しいとは思ってたんだよな~。酒場で給仕しててなんか可愛いから尻さわったら怒んないんだもんな~ 誰だって気があるって思うべ?いやホントしょーがねーよ。」 「そ、そうですな!美人はそれだけでいけない魔法使いですな!」 「しょーがねーよ。眼鏡だからな。政府のスパイじゃなくて良かったな。」 自分達を見る冷たい視線に気付き、オールド・オスマンは慌ててフォローを入れた。 「そ、そうじゃ!君達三人の『シュバリエ』の爵位申請を出しておいた。あ、タバサ君は すでに『シュバリエ』の爵位を持っているそうじゃから、精霊勲章を申請しておいたわい!」 その言葉に三人の顔が明るくなる。 「本当ですか、バカ・・・じゃなくて学院長!」 「ありがとうございます、色魔・・・じゃなくて学院長!」 「・・・いっぺん死ね(ペコリ」 そして急に思い出したようにルイズが尋ねる。 「・・・オールド・オスマン。メローネには何もないんですか・・・?」 「残念ながら・・・彼は貴族ではない。」 「別に欲しいもんなんかありゃしねえさ。・・・それに今回はオレは何もしてない。 フーケを捕まえたのは・・・お前らの手柄だ。」 ルイズの頭をなでながらメローネが言う。 「さて、今夜は『フリッグの舞踏会』じゃ。いろいろあったが予定通り執り行う。 今日の主役は君達じゃ。せいぜい着飾ってくるのじゃぞ。」 「そーゆうことだ。オレは少し用事があるからお前らは先に行ってろ。」 三人が一礼して退室し、学院長室に残っているのは四人だけになった。 「さてと・・・。茶でも入れるか?新しく考えついたやつがあるんだ。」 「いやすまんのぅ。秘書がおらんようになってこれからが大変じゃわい。 そうじゃ。君が元いた世界に帰る方法だがな、当分見つかりそうにないわい。 ま、当分おとなしくここで生活してくれい。なぁに、そのうち見つかるって。」 「別に急いじゃあいない。戻ったところで・・・」 ここでメローネは重要な問題を思い出した。 戻ったところでどうする? 仲間は全員三途の川を渡ってしまった。オレ一人でボスを暗殺できるのだろうか? そもそも今イタリアはどうなってんだ? 「なぁボス。あんたスタンド使いって事はオレの世界の人間だよな・・・?」コトッ 「グラッツェ(ありがとう)。たぶんな・・・オレはイタリア人さ。」 「ちょうどいい。・・・パッショーネってギャング組織今どうなってるか知ってるか?」 その瞬間、ボスの形相が変わった。 「あぁ、知ってるさ!今じゃあジョルノとか言う新入りがボスになっちまってよぉ~! 麻薬のルート全部潰すは麻薬組織のことサツにたれ込むはですっかり腑抜けちまったよ!! 今じゃあ只の中身はいい人集団だよ!おかげでイタリアの治安が良くなったよ!しかもボンゴレの腑抜けなんかと提携するらしいしよぉ。 あの腐れコロネ!オレの・・・」 ここまで喋ったところでボスの様子が変わった。全身が痙攣し、目から血が出るは鼻から血が出るはで 最終的に口から血を噴いて死んでしまった。 「・・・メローネ君。何飲ませたんですか?」 「・・・はしばみ草をすりつぶして紅茶に入れた。名前はゴールドタバサナナ菜ブレンド。」 「ほぅ・・・ナナ菜とな?」 「知らんのか?これだ。見た目は只の草に似ているが・・・」 急にメローネが止まった。 「・・・これ只の雑草だ。ヤッベ、間違えた・・・。」 「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」 「惜しい人を亡くしましたね・・・。」 「アイツがいなかったら今頃俺達は死んでいたな。爺さん、像でもつくってやれ。」 「そうじゃな。正門から入ってすぐの所に立てようかの・・・。」 トリステイン魔法学院。 正門から入るとある銅像が立っているのがわかるだろう。 その人物の名はディアボロ。みんなからビッグボスなどと呼ばれ慕われている。 その像の台にはこう刻まれている。 『若者よ、死を恐れるな。死とはこの世に生きた証拠が無くなることである。 だから死を恐れるな。死を恐れるあまり何もしない者はすでに死んだも同然である。』 ディアボロの話によると、自分たちが狙っていたボスは皮肉なことに 自分たちを殺したあの新入りが倒したと言うことらしい。これで戻る理由が一個消えた。 仇討ちと言っても先に手を出したのは自分たちなのである。悪いのはこちらだ。 そうなると・・・元の世界、つまり地球に戻ったところで自分は二十四時間ネット三昧の ダメ人間の典型の生活を送ることになってしまう。もとよりチームの誰もいないのである。 戻るメリットと言えばコミケにいけることとインターネットに繋げることができることぐらいである。 アレ?戻らない方がよっぽど人間らしい暮らししてるんじゃね? いやいや、しょうもなくても現実は現実。ちゃんと戻らないと。 ちょっと待て。ここは一応現実だろ?何言っているんだオレは。 ここが現実?現実のオレがおにゃのこにかこまれているわけ無いじゃないですかギャルゲーやエロゲーじゃああるまいし。 いや待てって。じゃあここは何なんだ?と言うかオレはさっきから何を言っているんだ? アレ?なんかおかしいぞ?アレ? 「メローネ君!!」 「あ、え、はい?」 急にコルベールに呼ばれてきょどるメローネ。 「どうしたんじゃ?いきなり黙り込んで呼んでも返事をせんからびっくりしたぞ。」 オールド・オスマンが心配そうに言う。 「え、あぁ、疲れてんだよ。きっと疲れが出たんだよ。」 「そうなんですか?体には気をつけてくださいよ。」 「大丈夫だって。それより今夜のパーティ、オレも出てもいいのか?」 「まぁ、君なら大丈夫じゃろう。誰も文句は言わんて。」 「そうか。じゃあ楽しませてもらうぜ。」 そう言ってメローネは退室した。 アルヴィーズの食堂の二階。 フリッグの舞踏会はそこで行われていた。 着飾った教師達や生徒達がテーブルの周りで談笑している。 そのとき・・・ 「おい・・・あれって・・・」ザワザワ 「間違いない・・・」ガヤガヤ 「変態だぁぁぁぁぁ!!、メローネさんだぁぁぁぁ!!」 ステキスーツに身を包み、ステキパピヨンマスクを特別に装着していたメローネもこれにはビビった。 たちまち彼の周りに人だかりができる。男ばっかりであったが。 「何すかそのエレガントな格好!」「半端ねぇ!!」「オレのスーツがゴミに見えるぜ!!」 「はいはい、わかったからどけ。」 メローネは人混みをかき分け、キュルケが彼に接触するまえに料理と格闘しているタバサと接触した。 「やぁタバタン。奇遇だな。その料理はおいしいかい?」 「わりと。」 「そりゃあそうだ!マルトーの親父がつくったんだからな。不味いわけはない。」 そしてメローネは一礼するとこう言った。 「主賓が来るまえに一曲オレと踊ってくれませんか?シニョリータ。」 「・・・(コクリ」 「うおっっっっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!楽士隊!とびきりファンキーでロックなの頼むぜ!!」 こうして変態とタバサの元、ダンスパーティが始まった。 「おぇぇぇぇぇ・・・・気持ち悪ぅぅぅぅ・・・」 一次会も終わり、パーティが始まる前の雰囲気に戻った頃、メローネは独りバルコニーにいた。 ダンスも終わり、豪勢な料理を食べていたメローネだったが、うっかりワインを一口飲んでしまったのである。 ワイン一口といえども、下戸である彼を酔わせるには充分。 気持ち悪くなった彼はバルコニーにいると言うわけである。 「紛らわしいんだよ・・・葡萄ジュースかと思ったじゃあねーか。 だいたいガキがワインなんて飲んでんじゃあねぇって・・・あー気持ち悪。」 そうこうしていると急に屋内が騒がしくなった。 どうやら主賓のルイズのお出ましらしい。 桃色がかった髪をバレッタにまとめ、肘まで届く白手袋。着ているドレスは胸元の開いたホワイトのパーティードレス。 主賓がそろったことにより、楽士隊が静かな音楽を奏で始めた。 即座に男子生徒達がダンスを申し込みにルイズの所へ殺到する。 しかしルイズは誰からも誘いを受けず、バルコニーへ向かった。 「楽しんでるみたいね。」 「これのどこが楽しんでるように見えるんだ阿呆。・・・あー気持ち悪ぅぅ。」 正直メローネも、人が衣装によってここまで変わるものかと感心していたがそれどころではなかった。 「ずいぶんヘ・・・立派なスーツじゃない。」 「こんなモン普段着るか。・・・それよりお前踊らないのか?」 「相手がいないのよ。」 「へーそう。・・・あーだいぶ楽になった気がする。しかし明日は地獄だなこりゃ。」 ぼやいているメローネにルイズは予想斜め上の行動に出た。 「踊って差し上げてもよくってよ。」スッ 「いや、まだそれどころじゃあないから。ホント気分悪いんだって。」 「ハァ・・・。今日だけ特別なんだからね。」 そう言うとルイズはドレスの裾をうやうやしく両手で持ち上げ、膝を曲げてメローネに一礼した。 「わたくしと一曲踊ってくれませんこと?ジェントルマン。」 「・・・ハァ。人の話聞いてんのか・・・。わかったわかった。特別に付き合ってやる。 しかし・・・踊れるかどうかわからんぞ?」 「・・・なによ。ちゃんと踊れるじゃない。」 「あー、酔いが良い方にまわったな・・・。」 ルイズのステップに平然とついて行くメローネ。 「・・・ねぇ、メローネ。信じてあげるわ。」 「あんだって?」 「貴方が別世界から来たって事。」 「あぁ、その事。別に信じてもらえなくても良かったんだがな。」 「・・・やっぱり帰りたいの?」 「まぁな。帰りたいっちゃあ帰りたい。でも今は世話の焼けるお嬢さんの世話で手一杯でね。」 「よく言うわよ。あんまり仕事しないくせに。」 「何を言うか!オレだって見えないところで頑張ってるんだぞ!」 言い争いながらダンスを続ける二人。時折ルイズの顔に笑みが見える。 「初めて見る。」 そんな様子をタバサははしばみ草のサラダを頬張りながら見ていた。 「主人のダンスの相手をつとめる使い魔なんて。・・・私も踊ってもらったけど。」 新ゼロの変態 最終幕(フィナーレ) ――某所 「だぁぁぁぁれかぁぁぁぁぁ・・・助けてくれぇぇぇぇぇ・・・最高見せ場まで取られちまったぁぁぁ・・・ どぉぉせ俺なんてミソッカスだよぉぉぉ・・・ちくしょぉぉぉぉ・・・」 To Be Continued?→
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モンモラシーは、朝一番でギーシュのお見舞いへと来ていた。 友人には、二股していた奴に、よく会いに行けるわねぇ、と言われたが、仕方ない。 ――――――だって、好きなのだから。 あの浮気性は困り者だが、それさえ無ければ、お調子者で女の子に優しくてキザでドットで………… ………………・・・せめて、浮気性ぐらい秘薬で治しておくべきか。 そういえば、惚れ薬なんて言うのもあったわねぇ、とか考えていると、医務室の前に辿りついた。 でも、なんというか、様子がおかしい。 朝一番と言ったが、空はまだ薄暗い。 だと言うのに、扉が僅かに開いている医務室から話し声が聞こえてくる。 なんだろうと思い、僅かな隙間をそっと広げて中を窺ってみると、そこにはコルベールとロングビルの姿があった。 そして、その二人が囲っているベッドの上には――― 「ギーシュ!!」 扉を勢い良く開け放ち、ベッドの上に居るギーシュへと呼びかける。 コルベールとロングビルは、唐突に響いた大声に、驚いたような表情でモンモラシーを見たが、彼女にそんな事は関係ない。 「あぁ、ギーシュ、ギーシュ! 心配したのよ、私。でも、良かった。なんともないようで……ギーシュ?」 なんというか違和感がある。 目をぼんやりと開けたままのギーシュは、あぅあぅと呟いて、中空を見つめているだけで、自分に対してまったく反応してこない。 「ねぇ、ギーシュ、どうしたのよ、ねぇ、ちょっと、ふざけないで、どうして、ねぇ お願い、返事を、返事をしてよ、ギーシュ!!」 モンモラシーの悲痛な叫びが、早朝の学園に響き渡った。 水差しを洗いに行って戻ってくる途中であったメイドは、その声に、くすりと笑みを溢した。 今朝の目覚めは、ルイズにとって最高であった。 何時も自分で取っていた服が、杖を振るだけで手元へとやってくる。 そんな、メイジにとっての当たり前が、ルイズにとっては、とてつもなく嬉しかった。 そのまま、気分良く着替えていた所で、机の上に置かれている手紙に気が付く。 「ホワイトスネイク」 「ナンダ?」 「これ何?」 ホワイトスネイクの返答は、夜中に扉の下から挿し込まれたらしい。 中を開いて見ると達筆な字で、ルイズが起こした決闘騒ぎの罰が書いてあった。 あの時、オスマンが言ったように、ルイズは謹慎一週間で決定の印が押されていた。 「一週間……暇になったわねぇ……」 この決定にルイズは対して、不満を持っていなかった。 何せ、罪を犯したのは事実なのだから。 その罪と言うのは、勿論、禁止された決闘を行ったことであって、ギーシュから才能を奪って殺害寸前まで追い込んだのは、彼女の中では罪ではなく、ギーシュに対する報いであったのは説明するまでもないが。 「まぁいいわ、あの平民の様子も見に行きたかったし……」 自分の使い魔のルーンをDISCとして差し込まれている、あの少年。 あの時の速さは、通常時のホワイトスネイクを遥かに上回る速度であった。 「使い魔は、もう居るし……無難な所で使用人って所かしら…… 執事って程に落ち着いた様子は無かったし、ん~」 少年を自分専用の護衛として雇う気満々のルイズは、どんな肩書きが少年に合うのか、 じっくりと考えながら医務室まで歩き始めた。 部屋を出て、医務室のある学園の方に行く為の螺旋階段を下りる時、見慣れた赤毛がルイズの目に留まる。 「あっ……」 キュルケはルイズを見つけた瞬間に、元々俯いていたその顔を、さらに俯かせた。 だが、すぐに顔を上げて何時ものように、色気を帯びた笑みを浮かべてルイズに手を振った。 「ルイズ、元気? 昨日は大変だったみたいねぇ! で、どうなの? 噂では、ギーシュの魔法を使えるようになったとか、言われてたけど どうなのよぉ、そこんところは」 明るく振舞うキュルケに、ルイズは煩そうに顔を顰め、腕を軽く振るう。 伸びる腕 押さえつける手 押し付けられる身体 ホワイトスネイクがキュルケの身体を、杖を抜く暇も与えずに、壁に押し付けたのだ。 呆然とするキュルケにルイズは、グイッと顔を近づける。 目を逸らす事も許さない。 強い視線でキュルケの目を見据えながら、ルイズの口が開く。 「良い、よーく聞きなさいよ。 私は、これから医務室に行くの、用事があるからね。 あんたの相手は、その後。精々、魔法を扱える最後の時間を楽しんでおきなさい」 そう言ってルイズは、壁にキュルケを押し付けていたホワイトスネイクを消し、そのまま螺旋階段を下る。 これ以上、言葉を交わす気の無い事を態度と行動で示されたキュルケは、そのままの体勢で赤髪を揺らし、耐え切れぬように叫ぶ。 「ねぇ、ルイズ、何が、何が、貴方をそこまで変えてしまったの? それは、私? 私が原因の事で、貴方は変わったの!?」 キュルケの慟哭にルイズは首を振るう。 変わった……? 違う、私は手段を手に入れただけに過ぎない。 人間とは、泡のようなものだ。 小さな気泡の人間も居れば、大きな気泡の人間も居る。 気泡を大量に持つ人間も居れば、一つしか持たない人間も居る。 千差万別の大きさと数がある気泡達だが、共通している事が二つある。 それは、その気泡の中に入ってるモノが感情であると言う事と もう一つ、その気泡は『起爆剤』さえ見つけてしまえば、理屈も何も無く、破裂してしまう事だ。 そして破裂した泡は、中に溜められていた感情を噴出す。 噴出された感情は、周囲に何があろうと、その発散を止められない。 いや、割れた当人にとっては、止める気もしないだろう。 ルイズは、今、まさにその状態だ。 魔法を奪うと言う、完璧な『起爆剤』を見つけてしまったルイズは、 16年間溜め続けた、使えない者として泡を破裂させてしまった。 記憶の積み重ねが人間であると、ホワイトネスイクは自らの主に言っていた。 ならば、この鬱積した感情もまた、ルイズと言う人間を形作る重要な因子なのである。 例え、その中の感情がドロドロに溶け合った黒であったとしても、だ。 「ルイズ……」 どうすれば、どうすれば、あの少女は、元の意地っ張りだけど、自分に正直な少女に戻ってくれるのか。 考えても、考えても、キュルケの頭には、何も浮かんでこなかった。 そんな親友の苦悩を、螺旋階段の一番上で眼鏡を掛けた少女は静かに見つめていた。 医務室に行って、ルイズが最初に目にした光景は、黒髪のメイドが真っ赤になって使用人になる予定の少年の身体を拭いている場面であった。 「………………」 「………………」 少し血走った目で、半裸の少年の世話をしているメイドもそうであるが、 初めて同年代の異性の身体を直接見たルイズも、時が止まってしまっている。 別に何も後ろめたい事は無い。 シエスタはシエスタで、自分を助けてくれた才人の身体を拭いていただけであるし、ルイズも、ただ医務室の扉を開けただけだ。 だと言うのに静止時間は、こくこくと過ぎていく。 永劫に続くかと言うような、その静止時間は、ブッチギリで10秒を越えた時に少年から漏れた僅かな呻き声で、ようやく進み始めた。 「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あのですね! これは、これはその……汗を拭いてあげてるだけでして!」 「そ、そ、そ、そ、そ、そ、そのぐらい分かってるわよ! べ、別に変な勘違いとか、その、初めて男の子の裸を見たから動揺とか、してないからね!!」 二人して吃って真っ赤な顔をしているその様は、傍から見るととてつもなく変な光景であった。 「そ、そ、そ、そうですよね! 怪我人の身体を拭いてたぐらいで勘違いなんてしませんよね!」 「も、も、も、勿論じゃない! か、勘違いなんて、そ、そんなものしないに決まってるじゃない!」 あはは、と乾いた笑い声を出すシエスタに、ルイズはなんとか平常心を取り戻そうと、息を吸ったり吐いたりしながら、備え付けの椅子へと座る。 ―――私は冷静、私は冷静、私は冷静――― なんとか頭から先程の光景を消そうと試みるが、基本的に箱入りで異性の裸に免疫が無いルイズにとって、それは至難の業である。と言うか、成功なんてするはずも無い。 シエスタはシエスタで、ようやく落ち着いたのか、また才人の身体を拭く作業を再開させている。 両人共、耳まで真っ赤に染めあげ、まるで熟れたトマトのようだ。 ――― ―――――― ――――――――― 幾許かの時が過ぎて、ようやく丁寧すぎる作業が終わったシエスタは、脱がせた才人の服を着せ始める。 かなり長い時間を掛け、若干の平常心を取り戻したルイズは窓の外を見ながら、作業を終えたシエスタに声を掛けた。 「ねぇ……そいつってさ、なんであんなのと決闘したの?」 「それは……私の所為なんです」 そういえば決闘してたのを手助けしただけで、理由までは知らない。 あの時、広場に一緒に居たこのメイドならば知っているのでは無いかと聞いてみると、ある意味、予想通りの答えが返ってきた。 (ふぅん……やっぱりね) 一緒に居たのだから無関係では無いと睨んでいたが、案の定である。 続く、シエスタの言葉で、あの時の詳細を知る。 どうやら、最初の発端は、シエスタがギーシュの香水の瓶を拾わなかったのが原因らしい。 それが元で、二股がバレてその八つ当たりに晒されていたのを、 才人が庇い、そんな才人の態度にますます腹を立てたギーシュが決闘を申し込んだらしい。 「ふん……馬鹿ね」 「確かに平民が貴族に歯向かうなんて馬鹿かも知れませんけど、才人さんは!!」 恩人が侮辱されたと思い、声を荒げるシエスタにルイズは違う違う、と手を振り、 溜め息を吐きながら、自分の言葉が誰に対するモノなのかを明確にする。 「私が馬鹿って言ったのは、ギーシュ……決闘を申し込んだ貴族の方よ。 あんた、落ちてた香水の瓶には気付いて無かったんでしょ? それなのに、責任を追及するなんて馬鹿げてるわ。 おまけに、二人の名誉が傷付けられた? 傷付けたのは誰よ? 少なくとも、あんたやそいつじゃあ無いわね」 フンッ、と鼻を鳴らし不機嫌に呟くルイズに、シエスタは、この人は普通の貴族じゃあ無いみたいと心の中で呟く。 彼女の中の貴族とは、平民に対しての配慮など、まったくしない。 そういう思考回路が最初から存在していないのだ。 だと言うのに、選民思想で凝り固まった今の貴族にしては珍しく、この少女は、もしかして、平民を人間として見ているのでは無いか、とシエスタは思ったが―――――― 「話を聞く限り、やっぱりあいつは貴族として失格ね。力を奪って正解だったわ。 あんなのが、私と“同じ”貴族だったと思うと反吐が出るわ」 その言葉に、シエスタはやっぱり違う、とルイズに聞こえぬように呟いた。 この少女は、心の底まで貴族で出来ている。 確かに、今の彼女には、無実の者に罪を擦りつけられた事に対する怒りもあるが、それ以上に、 『貴族』と言う名を持った者が、無実の者に罪を擦りつけ『貴族』の名に泥を塗った事に対しての怒りの方が占めるベクトルが大きいのだ。 才人に対し、治療費を出してくれた事などから、平民に対しての理解はあるらしいが、それも上の立場から見た者の理解である。 対等とは程遠い。 そう思うと、才人や自分を昨日、ここに運んでくれた事や、秘薬の代金を全額負担してくれた事に対する有り難みの気持ちが薄れていくのをシエスタは感じていた。 「ところで、今日はどのような用事でここに来られたのですか?」 なんとなく突き放したような感じの言葉を吐いてしまった自分に、心の中で失敗した、と思ったが、言ってしまった言葉は戻らない。 相手も、言葉に含められていたニュアンスに気が付き、目を鋭くさせたが、まぁいいわ、と呟いて、すぐにその鋭さを取り払った。 「そいつの様子を見に来たんだけど……まだ、目覚めてないみたいね」 「治療をしてくださった方のお話では、もう目覚めても良いとの事ですが……」 磨耗した精神が休息を欲しているのか、それとも、もっと別の要因なのか。 「目覚めても良いって事は、もう治療は終わってるのよね?」 「えぇ、治療自体は昨日、全て終わっていますけど」 「なら……問題は無いわね」 シエスタの言葉に、ルイズはホワイトスネイクを出現させる。 唐突に現れたホワイトスネイクに、シエスタは驚愕の表情を浮かべていたが、ホワイトスネイクが現れた事は、さらなる驚愕への布石であった。 「ホワイトスネイク、あいつを起こしなさい」 命令が下されると同時に、ホワイトスネイクの手にDISCが出現する。 それを寝ている才人の頭に差し込んだ。 「何をしてるんですか!?」 「『覚醒』のDISCよ。 どれだけ深い眠りだろうが、DISCの命令には逆らえない」 自慢げに説明するルイズの目の前で、ベッドの上に寝かされていた才人の身体が震える。 「うぅ……うぅん……」 そして、DISCを差し込んでから僅か三秒 上半身を起こして、間の抜けた欠伸を才人は披露した。 そこは、ハルケギニアではなく、もっと、もっと遠く、そして辿りつけない世界。 知る者が語れば、悪鬼の巣窟とも、この世の天国とも答えるその場所は秋葉原と言う、日本と言う国の電気街であった。 その街の一角の、古ぼけた店に修理を頼んでいたパソコンを取りに来た才人は、突然の事態に目を丸くしていた。 なんというか、気が付いたら皆、全裸なのだ。 下着一枚身に着けていない通行人達を見て、才人は一瞬、ぽかーん、と大口を開けていたが、 すぐに自分も服を着ていない事に気が付いた。 何が起こったのか分からないが、このままでは警察に捕まると、凄まじい勢いで才人が服を着終わる頃に、街を歩いていた通行人達も、この不可解な現象に叫び声を上げ始めていた。 とりあえず、面倒になるのは嫌だったので、早足でその場を立ち去る。 預けていたパソコンを回収することも忘れて、駅へと向かった。 とりあえずは、家へと帰ろう。 そう思い、駅への近道である路地裏を通ろうとした時に『ソレ』は現れた。 自分の身長以上もある鏡。 これは、なんだろうか? 疑問に思った才人は、石を投げ込んでみたり、家の鍵を差し込んでみたりと色々試した挙句に、結局、その中に入る事にした。 中に何が待ち受けているのか、才人は分からなかったが、何故だか分からない予感だけは存在した。 多分、この鏡を通過したら、自分は『別の世界』に行くのでは無いかと言う予感が…… そうだ……それで俺は…… その予感の通りに月が二つある異世界に来てしまったのだ。 始めは、この突飛な事に、才人は驚いた。 驚いたが『絶望』はしなかった。 何故だか分からない世界で、一人だけだと言う事実すら『絶望』を才人に与える事は出来なかった。 何故なら、そういう予感があり、こうなると言う『覚悟』を才人は無意識に持っていたからだ。 そうして、自分はシエスタと出会って……それから…… あの桃色の髪の少女と、出会ったのだ。 「ふぁぁぁぁぁ……ん」 ピキピキと起きたばかりの筋肉が張る音を、ぼんやりと才人は聞きながら、大きな欠伸をした。 なんというか、もの凄く目覚めが良い。 十時間以上グッスリ眠った後の目覚めも、ここまで爽快感を与えてはくれないだろう。 そんな事を、つらつらと考えていると、急にベッドに押し倒された。 「にぇ、にゃんだ!?」 回らない舌で、叫んだ声は自分で聞いても酷く間抜けで泣きたくなったが、 それよりも、今、自分に抱きついてきてる者の方へと意識がいく。 「良かった……良かった……才人さん、本当に、良かった……」 抱きついてきた少女は、泣きながら才人の覚醒を喜び、その胸の中で、彼の暖かさを感じていた。 「ごめん……心配掛けた……」 泣いている少女を安心させる為に、才人も確りとその細い身体を抱きしめる。 二人がお互いの体温を感じている中、ルイズだけが不機嫌そうにその光景を眺めていた。 「ちょっと」 一分か二分か、まぁ、ともかく時間が暫く経過すると、ルイズは、とうとう我慢しきれずに声を掛けた。 その声に、才人は、うわわわわぁ、とあからさまにうろたえて、シエスタは、と言うと、なんだか物凄い目でルイズを見てきた。 その目は明らかに、空気を読んでくださいと言っていたが、あえて無視する。 「あんた!」 「はい、なんでしょうか!」 ルイズの怒声に、才人は、これは逆らうとマズいなと感じて、思わず敬語で返答する。 と言うか、さっきから予感が訴えてくる。 これから、この少女に扱き使われると言う、あまりにも叶って欲しくない予感が…… 「あんたを、これから私専属の使用人に任命するわ。 この私の世話が出来るのよ、ありがたく思いなさいよ」 「なっ! どっ、どういう事ですか!?」 桃色の少女の言葉に、シエスタが噛み付いているが、才人は、多分、少女の言った通りになる事を感じていた。 (『覚悟』はあった……『覚悟』はあったけど、正直、泣きてぇよなぁ……) これから起こるであろう苦難の道の『予感』に、才人は溜め息しかでなかった。 アルヴィーズの食堂での豪勢な昼食を前にして、キュルケは昨日と今朝のルイズの様子を思い出してブルーになっていた。 そんなキュルケの隣には、目の前の料理をパクパクモグモグハグハグと次々に胃袋へと収める暴食魔人が座っている。 「ねぇ……タバサ」 そんな暴飲暴食娘に、キュルケは声を掛ける。 何時もの彼女らしくなく、とても弱々しい声。 「どうして……ルイズは……」 その先は続かなかった。キュルケは、言葉を詰まらせ、テーブルの上に載っていたワインを呷る。 タバサは、ルイズの事を魔法が使えないメイジであり、それを理由に周囲から苛められていたぐらいのことしか知らない。 だから、ルイズの事は『危険』だと認識していた。 虐げられていた者の所へ、虐げていた者達に復讐するだけの力が手に入ったなら、 どんな聖人や天使だろうと、その力を振るう。 何故なら、そういう者達は信じているからだ。 虐げられている自分達の事を助けてくれる何かが、何時か、きっと自分達を救ってくれると。 タバサ自身、そんなものに一片の希望すら持っていないが、心の底ではもしかしてと思っている。 もし、あの使い魔を召喚したのが自分であるならば…… 自分は、何の疑問も抱かずに祖国へと戻り、あの男を―――――― そこまで考え、タバサは首を振るう。 本筋から話が逸れている。 今は、そんなIFを考えている暇では無い。 おくびにも出していなかったが、タバサは昨日からキュルケの護衛をしている。 もしも、自分がルイズであるならば、仇敵の家柄であり、尚且つ、自分に対してからかいの言葉を毎日掛けてきたキュルケを狙いに来るだろうと考えたからだ。 キュルケ自身、あのからかいの言葉にそこまでの意味を見出していなかったが、あの言葉はルイズの自尊心を傷付けるのに、十分な威力を持っていた。 そんな言葉を毎日のように掛けていたのだ。殺意を抱かれる恐れは多いにある。 と言うか、今朝の言葉からして、ルイズがキュルケに対して殺る気満々なのは、疑う余地も無かった。 「そういえば……今朝から、モンモラシーを見ていないわね……タバサ、知ってる?」 話題を変えよう、別の娘の話を振ってきたが、振ってから、 キュルケはモンモラシーがギーシュの恋人である事を思い出した。 恋人が突然、メイジでは無くなったのだ。 かなりショッキングな出来事だったのだろう。 「ちょっと、様子でも見に行こうかしらね……」 心配そうに立ち上がるキュルケの手を掴み、そのまま椅子へ座らせる。 困ったような顔をしているキュルケに、皿一杯に盛られた料理を差し出す。 「今は、良いわよ。食べる気分じゃないから」 「そう言って、昨日の夜から何も食べていない。 おまけに目の下にクマも出来ている」 その言葉に、慌てて手鏡を取り出して目の下を確かめるキュルケにタバサは、ゆっくりと声を掛ける。 「大丈夫、彼女の様子は私が見に行く。 だから、貴方は食事をして、部屋で休むべき」 「別に大丈夫よ。 今はダイエット中だし、それにこのクマも、大したことじゃあ無いわ。だから―――」 「―――お願い」 休むように懇願するタバサの姿に、キュルケは溜め息を吐いて、わかったわ、と呟いた。 それに満足したタバサは、モンモラシーの様子を見に行く為に食堂を後にする。 勿論、自分の代わりの護衛を用意するのも忘れない。 タバサが居なくなった後の食堂では、変なテンションの青髪メイドが、キュルケの口に無理矢理食事を運ぶと言う珍妙な光景が見られたとか。 「あの……シエスタ」 「………………」 「その、怒ってるのは分かるよ、けどさ……」 「………………」 「話ぐらいは聞いてくれても良いんじゃないのかなぁと、ぼかぁ思うんですけど……」 「………………」 現在の時刻は夕刻。 朱色の空と二つの月が合わさって、絶景を作り上げていたが、そんな事を気にしている暇では無かった。 私……怒ってます。物凄く怒っています。 そんな、怒ってますオーラを身に纏って才人の事を無視するシエスタに、正直、才人はビビッていた。 ルイズが宣言した使用人になれ、と言う発言に、猛然と噛み付いたシエスタだったが、他ならぬ才人自身が、別に構わない、と言ってしまったので、どうにもならなくなってしまったのだ。 そんな訳で、晴れて才人はルイズの使用人となってしまった訳であるが、それも明日からの話だ。 別に才人としては今日からでも良かったのだが、幾ら秘薬で治療したと言っても、怪我をしてから一日しか経っていない。 万が一と言う事もあるので、シエスタの提案で今日も医務室で夜を過ごす事となったのである。 しかし―――――― 「おーい、シエスタ。あの、マジでそろそろ限界なんだけど、あの降りていいかな?」 昨日の昼から気絶していた才人は、当然の如く尿意を催しており、 その排泄をしようとベッドから立ち上がろうとすると、シエスタが無言で止めてくる。 その目は、怪我人ですからベッドから立つなんてとんでもございません、と告げていたが、 はっきり言って、シエスタのお仕置きであるのは疑うまで無い。 使用人のピンチだと言うのに、姿の見えないルイズは、昼頃までここで話し込んでから姿を消している。 と言う事で、現在、医務室には才人とシエスタしかおらず、シエスタに完全にビビッている才人にとっては動くに動けない状況なのだ。 「あの~、シエスタさん。本当、本当、ちょっと、トイレに行くだけですから、勘弁してください、お願いします」 涙目で訴えてくる才人に、シエスタも限界であることをようやく悟り、無言だった口から、 久方ぶりに、仕方ありませんね、と発音が聞こえる。 やった! と叫びのをグッと堪えた才人が、ベッドから降りようとすると、シエスタが手で静止してくる。 あれ、許可してくれたんじゃないの? 「はい……才人さんは怪我人ですから、怪我人の方のトイレは“コレ”ですよね?」 シエスタの手に微妙に黄色い尿瓶が握られているのを見た才人は――――――泣いた。 同時刻 静寂が支配する部屋の中で、赤色の明りに照らされたキュルケは俯いてベッドに座っていた。 夕焼けの赤と地の赤で、彩色された髪で隠れた顔には、 普段の彼女ならば絶対にするはずの無い愁いの表情を張り付かせている。 「……ルイズ……」 何処か、遠くへと行ってしまった友人の名を呼ぶように、意地っ張りで素直では無い桃色の少女の名を呼ぶ。 返答など期待していない。 喪失感を紛らわす為だけに発した、その言葉に――― 「なぁに……キュルケ?」 ―――反応したのは、血の様に赤い空と二つの月を背にする漆黒のローブを羽織る少女であった。 氷柱を背中に突っ込まれたような気分だ。 自分一人だけしか存在していなかった部屋に、物音一つ立てずに、この少女は現れた。 息が……苦しい。 ルイズの放つ威圧感に、キュルケは呼吸すら忘れてしまっていた。 「ねぇ……何か用なの? せっかく、私が足を運んできたのだから、面白い話題なんでしょうねぇ?」 ケラケラと童女のように笑うルイズは、なんというか、言い知れぬ不気味さと人を惹きつける魅力を身に纏っている。 ―――違う こいつは、こんなのはルイズじゃあない。 自分の知っているルイズは、あんな化け物みたいな笑い方はしないっ! 「貴方……誰? どうして、ルイズの姿をしているの!?」 敵意を込めた視線に、ルイズは、フンッ、と鼻を鳴らし、右手を掲げる。 瞬間、ホワイトスネイクが背後からキュルケの頭を一文字に薙ぎ払い、DISCを奪い取った。 込み上げる喪失感に泣きそうになるのを我慢しながら、キュルケはルイズを睨むのを止めない。 その様子に、使い魔から渡されたDISCを頭に差し込んだルイズは口を開く。 「一体、何を言っているのか、さっぱり分からないけど、私は私よ。 他の誰でも、他の何者でも無いわ」 淀みなく答えるその言葉に、キュルケは首を振る、違う、と 「私の知っているルイズは、我慢が出来なくて、すぐになんでも癇癪を起こすけど、それでもこんな事をする娘じゃあ無かった! 他人から力を奪うような娘じゃあ、絶対に無かったわ!!」 我慢していたはずの涙が流れているのを、キュルケは気が付かなかった。 18年間共に歩んできた才能を奪われたのだ。無理も無い。 しかし、今、ここでその悲しみに泣き崩れていたら、もっと大切なモノを失ってしまう。 「ねぇ……ルイズ、もう止めましょう。 奪った才能を返して、また何時ものように一緒に学びましょう? そうして、他人から奪った才能なんかじゃあ無くて、貴方自身の才能を育てて行けば良いじゃない……」 「………………」 「こんな事をしたって根本的な解決にはならないわ。 ねぇ、お願いよ、ルイズ。何時もの優しい貴方に戻って。 努力家で、意地っ張りで、誇り高い貴方に―――」 「五月蝿い! 五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい ウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイ!!!!」 髪を振り回し、取り乱したように叫ぶルイズに、キュルケは近づこうとするが、動いた瞬間、ホワイトスネイクに床に叩きつけられた。 「がはっ―――!」 肺の中から追い出された空気が、口から漏れる音を自身で聞いたキュルケは、それでもルイズに言葉を掛け続ける。 今なら、先程のような余裕を持っていない今ならば、自分の言葉もルイズに届くはずだ。 いや、届かせなければならない。 「こんな……こんな力に振り回されるのは貴方じゃあ無い! 今の貴方は、この使い魔の力に酔っているだけ! お願い! 正気に戻って! ルイズ!!!」 最後の言葉を吐き出したと同時に、キュルケの口から血が噴出す。 上から踏みつけてくるホワイトスネイクに、何処か、生きるのに重要な器官が潰されたのかも知れないが、それでも止める訳にはいかない。 大切な、友達を助ける為に…… 「ルイズ……」 「うるさいって言ってるでしょ! 戻れですって!? あの魔法を使えず、侮辱され続け、屈辱を投げつけられていたアレに!? 冗談じゃない! 私は戻らない! あんな! あんな! 最低の場所に戻るなんて絶対イヤ! 酔っているだけ? 違う! 私は『使いこなしている』だけ! この力で、貴方達を、私を『ゼロ』と馬鹿にした連中全てを、私は―――!!」 感情のままに吐露するルイズの言葉を、キュルケは遮ろうとするが、それはまったく別の形で中断された。 窓側の壁全てが、一瞬にして破壊されたのだ。 見晴らしの良くなった部屋の中で、乱れた髪を気にも留めずに、ルイズは壁を壊した闖入者へと目を向ける。 蒼い髪に眼鏡を掛けたその少女は、ウィンドドラゴンの幼体の上に立ち、 その身体に似合わぬ大きな杖を、迷い無くルイズへと向けていた。 「二度目よ……貴方が、私の邪魔をするのは……」 ポキリと散らばった廃材を踏みつけ、ルイズはドラゴンへと一歩踏み出す。 キュルケを踏みつけていたはずのホワイトスネイクも、その後に続いていく。 「貴方……『覚悟』はしているのでしょうねぇ 人の邪魔をするって事は、排除されるかも知れないって言う『覚悟』を」 淡々と語るルイズに、タバサは僅かに口を開く。 「昼間……モンモラシーとギーシュに会った……」 「何を言っているの?」 ルイズは、疑問符を頭の上に浮かべていた。 何故、ここでギーシュの話題なのか。 この眼鏡の娘は、ギーシュと何か親密な中で、その為、邪魔をしているとでも良いたいのだろうか? そんなルイズの困惑を余所にタバサは言葉を続けた。 「彼は……壊れていた。心も、記憶も……何もかも」 それは、無感動な彼女にしては珍しく、誰が聞いても怒っていると分かる、静かな怒声であった。 それが異常な事だと分かったのは、倒れているキュルケだけで、普段のタバサを知らないルイズは、ただ、壊れたの、と詰まらなそうに呟く。 「情けないわね……私は、16年間、魔法を使えない事に耐えてきたのに。 一晩も耐えられないなんて……貧弱ね」 蔑むような声色を発した、その『敵』へ、タバサは呪文を紡ぐ。 ウィンディ・アイシクル タバサの最も得意とする、トライアングルスペルの一つだ。 「へぇ……」 感心したようなルイズの声に、タバサによって作り上げられた氷の矢が、一斉に襲い掛かる―――が 「ウオシャアアアアアアアアアア!!」 ホワイトスネイクの烈火の如き叫び共に繰り出された拳で、全て叩き落された。 「―――ッ!」 あの使い魔が有能な事は、能力から見て推測出来たが、まさかここまでとはタバサも思っていなかった。 しかも、氷の矢を真正面から叩き壊したと言うのに、ホワイトスネイクの両手には傷一つ存在していない。 辛い、戦いになる。 シルフィードの背中の上で、次なる呪文を紡ぐタバサは、これまでの戦いの中で最も困難な事になるであろう事を感じていた。 一方、ルイズも内心は焦りを持っていた。 ホワイトスネイクは有能だ。 本体の性能も言わずもがな、その能力は、使い方さえ考えれば、最強の盾にもなり、矛にもなる。 が、射程距離の内部であるのならばの話だ。 ルイズにとっての一番の問題は、どうやって空を飛ぶ敵に近づくのか、だ。 今奪ったばかりの魔法で叩き落すと言う選択肢もあるが、今の一撃から、魔法の技量は、今まで奪った二枚のDISCの中に記憶されているモノよりも、遥かに上であることが理解できる。 そんな相手に、地面から相手よりも下手な魔法を撃った所で、通用するはずも無い。 長期戦になれば、人が来る。 否、もうすでに壁の破壊音に気が付いて、宿直の教師が近づいてきているかも知れない。 となると、ここは出し惜しみ無しで、ホワイトスネイクを至近距離まで近づかせ、短期決戦で勝負をつける。 奪ったDISCの中で使えそうな呪文を全て引っ張り出しながら、ルイズは、敵意を剥き出しにして、タバサを睨みつけた。 そんな二人が激突するのを見ている事しか出来ないキュルケは、満足に呼吸が出来なくなった身体で、静かに立ち上がった。 もうすでに戦いの場は、キュルケの部屋から移り変わり、二つの月が浮かぶ空が、戦闘の場となっている。 「何故……」 どうして二人が戦わなければならないのか。 どうして私は、二人を止める事が出来ないのか。 キュルケは悔しくて堪らなかった。 そんな彼女の足元に、きゅるきゅると鳴きながら、今まで部屋の隅で震えていたフレイムが擦り寄ってくる。 口元を紅く染める主人を心配するようなフレイムに、キュルケは大丈夫と告げると、動くだけで激痛を訴える身体に鞭を打ち、二人の後を追っていった。 第3.5話 戻る 第五話
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ゼロ軍の活躍 皆さん、こんにちは ここにはゼロ軍の今までの活躍を載せて行きたいと思います。 また、これからどのような活躍をするかについても話し合う場となっております 昔の活躍については、詳しいデータがない為正確な年などは公開出来ません。 ゼロ軍の活躍 はい、ついに出来ました!! 「ゼロ軍の活躍」ページです 私達ゼロ軍の活躍で大きな物と言えば・・・ N.D.F 巨大荒らしギルドN.D.Fに対して 何度も隊員を送り込みついにゼロ軍の手により壊滅させることに成功した。 その大部分が潜入隊員を送り込み侵入させ撃退するという物でした。 潜入で多くの活躍をしてくださった方々、本当にありがとうございました。 特に『シャアz』 今後、巨大荒らし勢力が出現した場合、危険区域にて戦闘を行い撃退する 方針です。また、潜入部隊の方々にはこれからも幅広く活躍して頂きます。 ゼロ軍の活躍に今後も期待していて下さい!! 援助 今回の活躍は、同盟軍に大きな喜びをもたらしたというもの。 ある時、某軍からパーツを援助してほしいとの連絡があり ゼロ軍は隊員全員を集め、某軍に協力。 パーツ収集に専念しました。 少量ですが、ガレージにあるパーツを援助し、不足している パーツの収集に当たりました。某軍からは、まだパーツが 揃ったとの連絡がない為、現在もパーツの収集活動に当たっております。 悪質ギルド撃退 これは、ある一人の隊員によって演習場が救われたという活躍 隊員の名前は『tatuvb』。本人がこの活躍に気づいているかは 不明。 ある時、演習場に向かうと 某ギルドが演習場を独占し、侵入 してくる物に対し、全員で押し寄せ 追い返していた時の事。 そこへ、tatuvbが演習場へ入ると 某ギルドは全員で攻撃を 集中してきた。 そして、tatuvbがパイルバンカーを振り回し、わずか数分で 全員を追い出し、演習所にはまた皆の場が出来たという活躍。 新たなる天使を育む これは、総司令官により、ポルドシティに降り立つ初心者達が 安心して快適にプレイ出来る様にしたという活躍。 総司令官が一等兵の頃から続けている初心者への援助。 それは、ただミッションを手伝うのではなく、一人一人に C21の楽しさを伝え、支えて行くことを記した活躍。 これにより、現在の中尉の中には総司令官とはルーキー の頃から一緒という者も少なくは無い。 彼等は、PSS連盟の為、ゼロ軍の為にも力を貸してくれる と思う。 仲間との関係 これは、ある一人の隊員によって、全ての隊員が幸せになる活躍。 その活躍は『まっかる大佐』。ゼロ軍の中でも特に人気が高く、 やさしい心の持ち主。 そのやさしさは、困っている隊員にアイテムやパーツを差し出し 援助したり、時には新米隊員の階級上げを手伝ってあげたり。 その活躍はとても幅広く、仲間を癒してくれる。 名前 コメント
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ブロックチェーン / 暗号化ギjyツ / 暗号化技術 ■ 「ゼロ知識証明」って何?5段階のレベルで説明 | 5 Levels | WIRED.jp .
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少女が使い魔召喚の魔法を唱えると案の定爆発が起こりました。 さすがゼロのルイズ! と級友たちは囃し立てましたが、その爆煙の中から現れたものを見て目を剥きます。 現れたのは、鉄の馬に跨った旅人でした。 足の代わりに二つの車輪を持つその鉄の馬はドルンドルンと低く嘶き、あまつさえ「あれ、ここはどこだろう?」などと言葉を話します。 いったい何物なのか、見たこともない生き物でした。 鉄の馬に跨っていた旅人は、精悍な顔つきをした少年のような少女でした。 皮製のジャケットに皮製のパンツを履き、腰には二つの筒を差しています。 貴族の少年の一人が言いました、「あれは銃だ」 「あれ、おかしいな。さっきまで街道を走っていたはずなのに。エルメス、ここがどこか分かる?」 「わかんないよキノ。でも周りには人がいるみたいだし、聞いてみたら?」 「ああああ、あんたたち、一体なんなのよ? というか誰なのよ?」 「ああ、ちょうどいい。そこのお嬢さん、ちょっとお伺いしたいんですがね」 声をかけた少女に応じる旅人と鉄の馬。 しばしの事情説明の後、満足の行く食事と寝床の提供と引き換えに使い魔になる件を承諾した旅人は、少女と契約のキスを交わします。 契約を承諾したとはいえ、まさかキスされるとは思っていなかった旅人は、何故かは不明ですがちょっとだけショックを受けたようでした。 「うわあ、やったねキノ。ちょっと人より遅いかもしれないけどファーストキスおめでとう」 「エルメス、うるさい」 それに問題はそこでもありません。 ともあれ、こうしてルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは念願の使い魔を手に入れたのでした。 そしてその三日後、使い魔は国を出て行きました。 当然です、使い魔である旅人は同じ国には三日以上留まらないというルールを自分に定めているのですから。 使い魔に逃げられた情けないメイジというレッテルを張られた少女は、使い魔の後を追って旅に出ました。 こうして後に「ゼロの旅」と名づけられることになる物語は始まったのです。 ちなみにトリステインはゲルマニアとの同盟が破綻してアルビオンに滅ぼされました。 おわり。
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【作品名】ゼロの使い魔 OP 【曲名】First Kiss 【歌手】Ichiko 【ジャンル】アニメ 【価格】¥200 □■iTMS■□ 【作品名】ゼロの使い魔 ED 【曲名】ホントノキモチ 【歌手】ルイズ(CV 釘宮理恵) 【ジャンル】アニメ 【価格】¥200 □■iTMS■□ 【アルバム名】ゼロの使い魔 キャラクターCD1 ルイズ&才人 【歌手】ルイズ(CV 釘宮理恵) 【ジャンル】アニメ 【価格】¥200(*パーシャルアルバム) □■iTMS■□ 【アルバム名】ゼロの使い魔 キャラクターCD2 ギーシュ モンモランシー 【歌手】モンモランシー(CV 高橋美佳子) 【ジャンル】アニメ 【価格】¥200(*パーシャルアルバム) □■iTMS■□ 【アルバム名】ゼロの使い魔 キャラクターCD3 タバサ キュルケ 【歌手】タバサ(CV 猪口有佳)、キュルケ(CV 井上奈々子) 【ジャンル】アニメ 【価格】各¥200(*パーシャルアルバム) □■iTMS■□ 【作品名】ゼロの使い魔 キャラクターCD4 シエスタ アンリエッタ 【歌手】シエスタ(CV 堀江由衣) アンリエッタ(CV 川澄綾子) 【ジャンル】アニメ 【価格】各¥200(*パーシャルアルバム) □■iTMS■□