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七章 夕日の光が病室の中にまで及んで、妹ちゃんの心なしか寂しそうな寝顔に差し込んでくる。 この肌寒い時期にもかかわらず、その光は暖かみにあふれていた。 あたしはカーテンを閉めた。間もなく日が沈もうとしている。だけどあいつは来ない。 「キョンくん、どうしたんですかね…」 しらないわよ、みくるちゃん。こっちが聞きたいくらい… 何よ。昨日は来るっていったじゃない。朝からずっと待ってるのに……… 「まだ具合が悪いのかも…」 そうなのかな、昨日最後に会ったときは顔色よかったけど… 「有希、どう思う?」 じっと妹ちゃんを見ていた有希はかすかにこちらに顔を向けた。 「…今のわたしにはわからない。しかし彼に何らかの異常が起こっているのは確か… 行ってあげて。あなたが行くのが最も適切」 異常か。ま、確かにこんな所でずっと待ってるなんてあたしらしくないわね。 引きこもっていじいじしてたら許さないんだから!! それからは早かった。あたしの持ち前の脚力のお陰で目的地にはすぐ到着した。 昨日と同じようにチャイムを押す。………出てこない。 あたしの指に連動して続け様に鳴る音に憤りを感じ始めた頃、あいつは玄関のドアから顔を出した。 「あんた今まで何やってたのよ!!今日は妹ちゃん達の病室に来るんじゃなかったの?!!」 「…スマン、寝てた」 「はぁ!!!?…何よ。まだ体の調子悪いの?」 あたしの問いに答える気はない様子のキョンは思案顔をして、そのあと意を決したように言った。 「まあ、とりあえず…入れよ」 「あのね、あたしはあんたを迎えに来たのよ!」 「頼む、少しでいい、話があるんだ」 表情から、その話の内容を読み取ることは出来ない。しかし キョンの目には確かに決意のような、力強さが宿っっていた。それが何に対する決意かはわからない。 だけどそれは確実にキョンを取り巻いていた。だからあたしは断ることが出来なかった。 どこか儚げで、それでいて並々ならぬ意志を纏ったキョンの後につき、あたしは玄関に上がった。 今日は何故かリビングに通された。ソファに座るように促されたので遠慮なく座ることにする。 「…で、何よ、話って。言っとくけど、つまらないことだったら承知しないわよ」 言うまでもなく、あたしは家族の見舞にも来ないで家で寝てた上に、未だ急ぐ素振りも見せず、 自宅でくつろごうとしているキョンに憤りを感じていた。 「なあ、ハルヒ、俺とお前が出会ってから三年近くになるな」 横にいるあたしに目を合わせず前にあるテレビを見据えながらキョンは穏やかな声で言う。 「だから何よ、思い出話なら病院でたっぷり聞いてあげるから!!」 「ははは、相変わらずだな、お前は。いっつも強引で…だけど…お前も変わったよな。」 はぁ?一体なんなの?さっきから何こいつ語ってんの?ていうかこいつあたしの言ってること聞いてる? 「俺も変われたかな、ハルヒ。」 「知らないわよ!そんなこと!!!!」 あたしのイライラは頂点に達していた。 わけわかんない!何でこいつはこんな時に悠長に話してられるのよ! キョンは、ふうとため息を一つ吐くとこっちに振り向き言った。 「ハルヒ…俺、お前に会えて本当によか…うわあああ!!!!」 突如響いたキョンの悲鳴。それは断末魔の叫びと称しても納得出来る程、苦痛に満ちていた。 見るとキョンはソファから落ちて尻餅の状態だ。 「あ……あ…さ…朝…く…な、何でお前が…ここに…」 キョンの顔から汗が吹き出ている。力強かった目の瞳孔は開きっ放しで、肩は軽い痙攣を起こしていた。 素人目で見てもこれは普通じゃない。 「ち、ちょっと!朝?みくるちゃんのこと?何?どうしたの?」 「くるなああぁ!!!!」 キョンは尻餅の状態のまま、回りにある様々なものをこちらに投げてくる。 新聞紙、座布団、テレビのリモコン。それらが部屋一体を飛び交う。 「また俺を殺しに来たのか!お前なんかに…お前なんかに殺されてたまるかぁぁぁぁ!!!」 なんなの、これ…わけわかんない…キョンはあたしの方に目をむけているが、あたしを見ていない。 「キョン!キョン!やめて!あたしはハルヒよ!どうしたの?!ねえ!!」 「だまれぇぇぇ!!」 ガシャン!!! 「キャアアア!」 嘘…シャレになってない。気がつくとテーブルの上にあった、 ガラス製の灰皿はあたしの後方にある窓の残骸の中で、変わり果てた姿で存在していた。 どうすればいいの、どうすれば…その時ある台詞が頭の中をよぎった。 そして次の瞬間にはあたしはその台詞を吐き出していた。 「ひ、東中出身涼宮ハルヒ!!ただの人間には興味ありません! この中に宇宙人!未来人!異世界人!超能力者がいたら、あたしの所に来なさい! もう一度いいます!あたしの名前は…涼宮ハルヒ!!!以上!!!」 何でこの台詞を言ったのかはわからない。無我夢中だったから… ただ、この台詞はとても大切なもののような気がしたから…あたしにとっても、キョンにとっても。 キョンの動きが止まった。お願い、いつものキョンに戻って… その目にはちゃんとあたしが映ってるだろうか。 「……はあ、はあ、くそ、目障りだ…消えろ、ハルヒにまとわりつくな…消えてくれ。 …………ははは…もう来やがったか…いくら何でも早すぎだろ。」 脈絡があるとはとても思えない言葉を羅列すると、キョンは階段をかけ上がっていった。 ぺたん、と膝をつく。もう何がなんだかわからない。 早すぎるって何が? 思えばここ最近は色々なことがあった。キョンに殴られて、何故かすぐに仲直り出来て、 キョンの家族が事故に会って、でもあいつは来なくて… ああ、ダメ、これ以上考えたらいくらあたしでもパンクしちゃう。 あたしは思考を停止させた。ただボウッと固いフローリングにヘタレこむ。 だけど一旦停止した思考は階段から降りて来たキョンによって 強制起動させられた。キョンの顔色はもう元に戻っている。 「なんなの?ねえ…答えて!いい加減にしてよ!わけが分からない…答えてよぉぉ!」 やば、顔の内側から熱いものが込み上げて来る。 気が付くとキョンはあたしを抱き締めていた。昨日の未遂をいれると、これで三回目。 だけど今の抱擁は今までで一番弱々しい。 「ごめんな、本当にごめん、ハルヒ。やっぱ俺…ダメみたいだ。勝てそうにない…約束守れなくて…ごめんな…」 勝てない?何のことを言ってるの? 「ハルヒ、俺…お前に会えて本当によかった…」 キョンは震えた声で言う。そんなもうお別れみたいな言い方やめてよ。 「だから…今日はお別れを言うためにお前を呼んだ。」 ッッッッッ!!!! 体中に電撃が走った。もう何度目になるかわからない疑問。 「何でよ!説明してって何回も言ってるじゃない!イヤだ!お別れなんて絶対!答えて!答えろ!」 もう自分でも何言ってるかわからない。それが言葉なのか嗚咽なのかすら…そんな叫び。 「教えてよ……ねえ!!……お願いだから…」 「勝手なことを言ってるのは分かってる…だけど言わせてくれ…お…ら…えろ」 「え?」 「俺の前から消えろ!!!!二度と俺の前に姿を表すな!!!!出てけ!!!!」 その能力があたしの内に宿ったことに気付いたとき、最初に思ったのは、 「ああ、あたしもいつの間にか打たれてたんだ」だった。 脳に飛び込んでくるあたしのものとは別の意志。瞬間的に見える灰色の町と蒼白い巨人。 あたしのこれまでの家族環境は、この変化をドラッグの副作用と勘違いさせるのに十分だった。 同じ中学で彼氏でもある谷口くんに、両親のことがバレて別れたばかりで、 消沈していたあたしは、この状況を簡単に受け入れた。 これからはあたしもあの人達と同じ道を歩いて行くんだ… そんな諦めに近い感情があたしを支配した。 それからしばらく、あたしはフラッシュバックの恐怖に耐えながら、 気が狂いそうな自分を必死でつなぎ止め、自室ですごしていた。 この時、自殺を考えなかったのはあとになって考えてみれば、 涼宮ハルヒがそれを許さなかったからなのかもしれない。要するに人材不足の回避。 彼女の無意識の思惑通り、両親が刑務所に連れて行かれるのと同時に、あたしは機関の存在を知った。 そこにいる人達はあたしの素性を知っている。クラスや近所…そして谷口くんが忌み嫌って避けたあたしの素性を。 だけどこの人達はそんなあたしを受け入れてくれた。 警察から両親のいなくなったあたしを、いとも簡単に引き受けて養ってくれた。 やっと自分の居場所が出来たんだと、この能力をくれた神と称される涼宮ハルヒに、あろうことか感謝さえしてしまった。 神様は非情だ。居場所を与えてくれたと思ったら、すぐにそれを奪っていく。 センパイを奪い、本当の古泉くんを奪い、そしてタックンを……… だから復讐する。一番大事な人を、タックンと同じ方法で… なのに、何であなたはあんなに楽しそうなの?ニセモノの自分がそんなに好きなの?古泉くん……… あたしは走っていた。自分が今、泣いているのかどうかも分からない。 ただキョンが言った言葉、それだけがあたしの全てを動かす。 キョンが意味もなくあんなことを言うはずがない。きっと理由があるんだ。それはわかってる。 だけど、そんな理性はキョンに拒絶されたという事実の前では、何の役にも立たなかった。 やがてあたしは、吐き気をも引き起こしそうな疲労と共に足を止めた。足がガクガクする。 このあたしがここまで完全に息が上がっているのだから、相当な距離を走っていたんだろう。 あたしは震える手でケータイを開いた。 「もしもし、古泉ですが。」 「ヴゥ…古泉くん!!キョンが…キョンが!あたし…あたしぃ……!」 涼宮さんのあまりに悲痛な嗚咽混じりの声に、オレは寒気すら感じた。 先程のパーティ会場でのことを思い出す。まさか…いや、そんなはずはない!! 「落ち着いて下さい!涼宮さん!今、自分がどこにいるかわかりますか?」 「わからない、遠い何処か…わからないよぉ…もう、何もわからない…」 だめだ、完全に混乱している。こちらで探し出すしかない。 「朝比奈さんと長門さんにはこちらから連絡します。あなたは決してそこから動かないで下さい。」 それからオレは森さんと新川さんに頼んで、パーティ会場にいる同士に事情を知らせ、協力を促した。 しかし、協力を申し出たのは森さんと新川さんを除けば、田丸兄弟だけ。 他の同士はもう関わりたくないようだ。当然だ。 今救おうとしてるのは自分達を散々振り回し、時には命の危険までをも、もたらした少女である。 むしろ今のオレ達の方がイレギュラーな存在なんだろう。 傍観に徹してくれてるだけでも、ありがたいと言うべきだ。 だけど、止まれないんだ。止まるわけにはいかない。仲間だから…もう二度、仲間を…仲間を失いたくない!!! 「こちら、森と新川。涼宮ハルヒを発見したわ。場所は――――」 あれから長門さんと朝比奈さん、さらにたまたま出会った鶴屋さん、 谷口くん、国木田くんにも協力を願い、捜索を決行した。 思ったより時間はかからなかったが、あたりはすっかり寝静まっている。 涼宮さんはオレ達の町の数十キロ離れた公園で発見された。 足にかなりの負担がかかっているらしく歩くことも、ままならない状態とのことだ。 何が彼女をここまで追いやったんだろう。いや原因は分かってる。 …彼だ。涼宮さんからの電話の内容でそれは推測出来る。なら、次にやるべきことも自ずとと決まってくるだろう。 「了解しました。協力してくれた方々にも連絡お願いします。僕は…確かめたいことがありますので。」 彼の家、本来ならば訪れることに一考を要する時間帯だが、オレに迷いはなかった。 呼び鈴を押してもおそらく出ないだろうと想像はつくが、一応押してみる。 …………やはり出ない。 ならばとオレはピッキング器具を持ち出し、ものの数十秒で玄関のドアをこじあけた。 こんな状態でも機関仕込みの技術を落ち着いて行使する自分に少々驚いていた。 中は闇に包まれていた。何度か訪れた彼の家。 雰囲気が異様に感じるのは、現在の時間帯のせいだけではないだろう。 まずはリビングへと侵入すると、彼はソファに倒れ込むように寝ていた。 よほど熟睡しているのか、口からはヨダレを垂れ流している。 オレは彼を起こす前に、それに気付くことになる。暗闇の中、彼の手の中で月の光に照らされて怪しく光る「奴」の存在に。 これは…注射器?! ドクン! ――神を殺さないか?―― ――何故裏切った!古泉ィ!!―― ――ハハハ、今の俺はとても清々しい気分なんだ―― 頭にこびりついてくるその声を必死にふり払い、彼の右腕を確認する。 彼は右利きだということは、とっくに知っていることなのに、最初に右腕を確認する辺り、 少しは想定していた事態とはいえ、相当に気が動転していたのだろう。 一瞬、「それ」がなくてホッとしてしまった。しかし、すぐにそれを後悔することになってしまう。 「あ…」 彼のもう片方の腕にはおびただしいほどの注射跡が存在していた。 細菌が繁殖しているのか、それは紫色に変色していて痛々しさに拍車をかけていた。 ドクン! 「ん…春日…もう一度…俺に……春日…ハルヒ…」 「あ…ああ…ぅあああああぁぁぁぁ!!!」 オレの絶叫に構うこともなく、彼は寝言をつぶやいているだけだった。 八章へ
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三章 学校に行くのが憂鬱だ。体中がとてつもなくだるい。 昨日、あれから一晩中泣き明かしたからだろうか。ほっぺただけじゃなくて、 目も相当腫れているんだろうな。 ――返せ!俺の時間を返せ―― 昨日は結局、キョンは部室に帰ってくることはなかった。仮に帰って来たら、 今度はあたしが逃げ出していたんだろうけど… キョンの言葉が耳にこだまする。あたしは、あいつを………その………好いていた。 あたしがどんな無理なことを言っても、最終的にはそれに賛成し、協力してくれる。 そんなあいつに、あたしは心の底から信頼していた。 だけど…今はあいつが……とてつもなく怖い…… 所詮はご機嫌とり。能力のないあたしなんてもう関係ないってこと? 昨日のあれは三年間のあたしへの、鬱憤だったのかも… 楽しいと思ってたのはあたしだけ? 後ろ向きな考えばかりが浮かぶ。 そんな考えを払拭するために、あたしは早朝から、坂を上っている。 昨夜キョンからメールが来た。 『話したいことがある、明日、朝、 六時半に教室に来てくれ』 もしかしたら、また罵倒されて終わりかもしれない。 だけど、あたしはあいつを信じたい。 「ごめんね、古泉くん。 こんな朝早く付き合わせちゃって」 やはりまた殴られるのは怖い。昨日のうちに古泉くんに、 一緒に学校に来てくれるよう頼んでおいた。 「謝るなんてあなたらしくない。 昨日のあれは完全に彼の過失です。 あなたは毅然とした態度でいるべきですよ。 団長を守るのは副団長の務めです。」 古泉くんはいつも通りの笑顔であたしに優しくそういった。 「もっとも、本当は彼が、いの一番にあなたを 守らなければならないのに…それなのに………!!」 古泉くんはボソっと怒りを押し殺した声でそう言った。 学校についた。教室まで、もう少しだ。段々とあたしの鼓動が速くなっていくのがわかる。 それと同時に昨日の、キョンの血走った目。 殴られて倒れたあたしに伸びてくる紫色の拳が脳裏に蘇る。 切れた口の中がまた痛みだした。 教室の前まで来た。あとはドアを開けるだけ…だけど体がそれを拒む。 ドクン!ドクン! 取っ手を掴んだまま動かせないでいるあたしの手を、古泉くんはそっと握ってくれた。 ガラガラっと音を立ててドアが開く。キョンは……いた。 「古泉も来てたのか」 そういうとキョンは自分の机からゆっくり立ち上がり、近付いてくる。 昨日の血走った目のキョンと今のキョンが重なりあう。 逃げたい!今すぐ!ここから逃げ出したい! あたしが今にも動きだそうとしている体を必死で押さえ付けていると… がばっという音がした。思わずビクッと目を瞑ってしまったが拳は飛んでこない。 恐る恐る目を開けると、 キョンがあたしの目の前で、手と顔を床につけてうずくまっている。 「ど…げ…ざ…?」 あたしが思わず、呆然と呟くと…… 「昨日は本当にすまなかった!お前の気持ちも考えず… 自分のことしか考えていなかった!! 許してほしいだなんて思っちゃいない! だけど!お前をずっと傷付けたままにすることは出来ない!!」 ああ…いつものキョンだ…優しい目であたしを見てくれる、いつものキョンだ… あたしは思わず彼に抱き付いていた。 「こ…の!えぐっ…!バカ!!昨日はあれだけヒドいことしておいて…! あたしがどんな気持ちで学校に来たと思ってるのよ!」 「ああ、昨日は本当にどうかしていた… だけど今の俺はとても清々しい気分なんだ」 「え?」 そう古泉くんの言葉が聞こえた気がしたけど、今は関係ない。 「な…何よ!ヒック…!許してもらおうだなんて思ってないですって? バカ言ってんじゃないわよ!ヒック…許すに…決まってるじゃない!」 「じゃ、じゃあ…また勉強に付き合ってくれるのか? まだ東大を目指していいのか?!」 キョンの目が涙でいっぱいになっている。まったく!泣き虫ね! って思った瞬間、あたしの声に嗚咽が混じっており、 キョン以上に目に涙を蓄えていたことに気がついた。 あたしは最後の力で首を振り、肯定の意を表すと、いよいよもって、 大声で泣き出した。魂の慟哭だ。 「うわあああ!キョン!キョン!」 10分はたっただろうか? 昨日に引き続き泣いているので、あたしの喉はもうガラガラだ。 あたしが落ち着き、ひとまずキョンから離れると、古泉くんが近付いてきた。 古泉くんはキョンの胸倉を掴み、無理矢理起立させた。 「もし、この場に涼宮さんがいなければ、 僕はあなたを殴り倒してる所だ! あなたはさっき涼宮さんを傷付けたままには出来ないと言いましたが まさかこれで彼女の傷が癒えただなんて思ってないでしょうね!? これからあなたは、一生を懸けて涼宮さんの傷を、 癒していかなければならないんだ! もしまた彼女を裏切るような真似をしたら、オレはお前を許さない! わかったか!!!!?」 古泉くんが焦ったように早口で言う。 どうしたの?古泉くん?口調までかえて…古泉くんらしくない… 「分かっている。古泉…俺はもうハルヒを傷つけたりしない。 この罪は一生懸けて償っていくつもりだ。 それに俺は前からハルヒのことが好きだった。」 え?それって…もしかして… 「え~と、つまりだな、ハルヒ…俺はお前を好きなわけだ。 そうなると当然、お前と付き合いたいと思うわけで… そこに一生懸けて罪を償うという要素を取り入れるとだな… それはつまり…その…『結婚を前提としたお付き合いをお願いします』 ということになってしまうわけで…… それで、つまり……そういうことだ」 え?これってもしかしてプロポーズ?こんなグダグダなのが? だけどなんだろう…この胸から沸き上がってくる感情は? 随分長い間忘れていた気がするそれは…そうだ…喜びだ!! あたしはまたキョンに抱き付き大声で泣いた。 「お、おい!まだ俺は返事を聞いちゃいねぇぞ?」 「やれやれ…どうやら僕の思い違いだったようですね。」 安心した顔で、そういうと古泉くんは教室を出ていった。 その日、六限目は体育館で薬物防止の講習会が行われていた。 まったく、こんなのに手を出す奴の気が知れないわ!気持ちいいんだか知らないけど、 それで人生を棒にふるなんてバカのすることよ! あたしほどになると風邪にだって薬なんか必要ないんだから! それから薬物を使うとどんな症状にみまわれるのか、細かい話を延々と聞かされた。 あ~あ、早く終わんないかしら?今すぐ部室でキョンと一緒に勉強したい。 教室に帰るとキョンが話しかけて来た。 「あ、あのさ…ハルヒ…実は…」 キョンが蒼白した顔で話しかけてくる。 「何よ?」 わざと不機嫌そうに答えるとキョンは 「い、いや!何でもない!今日も部室で頼むぜ?!」 と言うと、今度はあたしの二つ隣りにいる春日さんの所に行き、 一緒に教室を出て行ってしまった。 ふん!何よ!朝はあたしにプロポーズまでしたくせに!大体何よ!春日って!! 名前があたしと被るのよ! 全く!作者は何を考えてるのかしら! オレは今体育館で薬物防止の講習を受けてる。 こういう話を聞いてるとどうしてもあいつを思い出してしまう。とても涼宮さんには言えない話… オレ達が所属していた機関は、涼宮ハルヒの発生させた閉鎖空間を取り除くことが、 主な仕事だった。しかしそれは多大なストレスを伴う。 そういう中で活動しているとたまにいるんだ。ストレスに押しつぶされてしまう人間が。 オレの親友だった。ドラッグに溺れたそいつは自殺の間際にオレにこう言った。 ――今の俺はとても清々しい気分なんだ―― それは普通に聞けば何の変哲もない、むしろ喜ばしい言葉だ。 だけど、オレにとってはトラウマ以外の何者でもない。 なんてったってオレはそいつの変化を少しも気付いてやることが、 出来なかったんだから…悔やんでも悔やみきれない…… 今朝の彼の言葉があいつの言葉を思い起こさせた。言い知れぬ不安に駆られた。 もっとも、それがいらぬ心配だったということは、その後の言葉で確信した。 「あなたの言葉…僕は信じていますよ」 オレは心の中で、そう呟いた。ふう、やけに疲れたな今日は。 たまには部室に寄らず帰ろうか。 う~ん、疲れたわね!有希の本を閉じる音と同時にあたしは背伸びをした。 「あら、キョン?」 キョンがスライムみたいになっていた。溶けた、緑色のブクブクいってる方ね。 「お、お前…いくらなんでもハイペースすぎやしないか?」 「ふん!あたしの未来の旦那さんが何弱音吐いてるのよ! このくらいやらなきゃ東大なんて夢のまた夢よ! はい!これ!今日の課題よ!明日までにやっておきなさい!」 キョンはやれやれといいながら背伸びをした。 「腕のそれ、ケガ?」 有希が短くそれだけいった。 あたしがキョンの腕を取ると、赤い点が一つだけあった。 よくこんなの気付いたわね。有希。 「あ、ああ!これか?いや、昨日近所で献血をやってたんだよ! 昨日の俺は頭に血が上り過ぎてたからな! 抜き取って頭を冷やしたというわけだ。 ほんと、単純だな!俺って。」 献血?そんなのはもっと人込みのある、主要道でやるもんじゃないの? 何で周りに家しかない、人通りの少ない道でやるのかしら? そうは思ったがそれ以上は聞かないことにした。 それ以上聞くとまた関係が崩れていってしまう気がしたから。 有希が黒い瞳でキョンをじっと見ている。 そういえば今日は古泉くん来なかったわね。 まあ有希もそうだけど、推薦で進路は決まってるみたいだし、家で休みたいのかもね。。 そしてあたし達は家路についた。 四章へ
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教室につくと、すでにハルヒは自分の机に座っていた。 つまり三年でもハルヒとは同じクラスなのだ。さらに谷口も国木田も、阪中もいる。 おい、誰かこの必然の偶然を疑う奴はいないのか? 俺が机に座り、勉強道具を広げようとすると、ハルヒが歩いて俺に近付いてきた。 そう、驚くことにハルヒは俺の後ろにはいないのだ。いや本当は驚くことではないのだが。 両手を前に組んでハルヒは目を輝かせながら聞いてきた。 「キョン、どうよ!自信のほどは?」 どうやらご機嫌は良好のようだ。はて?今日は、俺が自信を持たなければ ならないようなイベントでもあったか?何だ?ツッコミ大会か? 「あんた…まさか忘れてるの? 今日はこの間あった模試の結果発表の日じゃない!」 なんと!俺としたことが。この情報を聞いて、俺の気分はさらにメランコリーだ。 …と見せかけて実は少し嬉しかったりする。 「いや、すまん。すっかり忘れてた。」 「はぁ~?あんたアレね。受験当日に受験票忘れて、 不合格になるタイプね。」 「頼むから、そんな縁起でもないこと言わないでくれよ。」 「ふん!それでどうなのよ!?」 「模試の日にも言ったろ。正直、自信ないな。 その証拠にさっきから俺は鬱々真っ盛りだ。」 これはうそだ。なんてったってこの間の模試は、自分でも驚くくらいスラスラ解けたからな。 C判定…いや、もしやB判定くらいいけるかもしれない。 「あんた…あたしがあれだけ分かりやすく、丁寧に対策立ててあげたのに… 自分だけじゃなくてあんたの面倒まで 見なきゃいけないのって正直な話…相当キツいのよ?」 ハルヒが半ばあきれたように言う。 ああ分かってるさ。ハルヒ。俺も悪いとは思ってるんだ。 だけど、そもそもお前と俺ではスペックに差がありすぎるんだ。 …といつもなら思ってる所だが、 今は俺の結果を見て驚くハルヒの顔が目に浮かぶ。 「そういうお前はどうなんだよ。」 「ふん!当然A判定よ!あんたとは頭の出来が違うの!」 やれやれ…そう思うなら俺を東大になんか誘わないでくれ。 「そいつは頼もしいな。お前の教え方は本当に分かりやすい。 これからも頼むぜ?」 これは俺の本音である。全く、無償でやってくれてるのが申し訳ないくらいだ。 まあその代わり最近は毎日のように、食堂で飯を奢らされてるのだが… そういうとハルヒは少し顔を赤くしながら 「あ、当たり前よ!あんたは一人じゃすぐさぼるんだから! とことん付き合ってやるわよ!」 と、より一層目を輝かせながら、いつもの調子でまくし立てた。 「いざとなったらあたしの力で、あんたを秀才のメガネくんに 改変してやるからね!覚悟しなさい!」 「いや、それは勘弁してくれ。俺は俺のままでいたい。 大体、お前はもうそんな力なんてないだろうが」 「冗談よ!ジョーダン!!」 そう、こいつは自分に力があること。いや、あったことか。 そのことをしっかり自覚しているのだ。 三年になって間もなく、ハルヒに今まで隠してきた事がバレてしまった。 案の定、こいつはまたいつぞやの閉鎖空間を作って、世界を丸ごと改変しようとしやがった。 俺はもちろん閉鎖空間に赴いて説得を試みたよ。 あの時のことは思い出すだけで頭をぶち抜きたくなる。 なんたって告白まがいのことを言ってのけたんだからな。 ああ、また思い出しちまった。誰か、俺に注射器をくれ。痛くない奴な。 しかし、そんなことをさせておきながらハルヒはいそいそと 改変しやがった。つまり、今はハルヒが改変したあとの世界なのだ。 どんな世界になってしまうのか震え上がった俺達だが、 実際に改変されたのはごく一部だけだった。 はい、じゃあここで改変の一つ目の内容。 それは長門を支配していた情報統合思念体を、消滅させてしまったことだ。 ハルヒにバラしてしまったことに対する処分として、長門を消そうとしたからな。 それが、ハルヒの逆鱗に触れたというわけだ。 つまり、今の長門は前のようなトンデモパワーを使えない、 ただの無口な女子高生になってしまったのである。 二つ目はハルヒ自身だ。こいつは、よりにもよって自分の世界改変の能力そのものを改変し、 自身を長門同様、普通の女子高生にしたのだ。まあ、俺の説得の賜物だろうな。 ハルヒ曰く「自分の思い通りにいく世界なんて気持ち悪いったらありゃしないわ!」 だそうだ。 これによって古泉も自動的に超能力の力を失い、普通の男子高校生になった。 朝比奈さんだけは未来的な力は取り上げられず、今は未来に帰ってしまっている。 まあ、改変したあとの世界に生きる俺達では、改変されたのが 本当にそれだけなのかは分からないがな…ずっと俺達を世界の外側から見てた お前ら読者には何が変わって、何が変わってないかは一目瞭然だろう… って誰に話してるんだ!俺は! というわけで、俺達SOS団は晴れて普通の人間達の集まりになったというわけである。 これが俺の後ろにハルヒがいない理由だ。 ふう、長くなったな。 ハルヒと色々話していると担任が入って来た。 これまた去年と同じ岡部だ 岡部もハルヒに選ばれた一人のようだ。よかったな、岡部よ。 岡部曰く、どうやら模試の結果は今日の帰りのHRにて返却されるようだ。無駄に生殺しだ。 それにしても最近、春日とよく目が合う。俺を意識してるようにも見える。 もしかして俺のことを…そうか、ならば俺はこの身をお前に捧げてやろう…… ってゲフン!ゲフン!何を考えてるんだ!俺は!俺にはハルヒが……って違う! あいつとは何もないんだ!あの時だって別に告白したわけじゃない! だって俺には一樹タンが………ってヴワアアアア! …いや、俺は決してあっちの趣味があるわけじゃないからな。 勉強のしすぎで参ってるだけなんだ。たまには壊れてもいいだろう。 そうやって俺が脳内で葛藤してる間も、春日は何度もこっちに目をやる。 その視線の意味も分からぬまま、今日も一日の授業が全て終った。 「何だ、こりゃ、何の冗談だよ」 今は、帰りのHRである。思わずひとり言をもらしてしまった。 偏差値50…当然東大はE判定である。それどころか、安全圏だと思ってた○○大学までもD判定だ。 あのな、自分で言うのもなんだが俺は三年になってからは、それこそ脳みそがバターに なるくらい、必死で勉強してきたつもりだ。それがどうだ。この結果は。 所詮俺の頭じゃ東大なんてちゃんちゃらおかしいっていうことか? ちっ、こんなことならもっと早く模試を受けておくべきだったぜ。 そうすりゃ、自分の限界に気付くのに、こんな時間をかけずにすんだのにな。 自虐的な考えが次から次へと溢れだしてくる。 ――あんたとは頭の出来が違うのよ!―― 朝のハルヒの言葉が先ほどとは違う形で頭の中に響いてきた。 先に走るように出ていったハルヒを追うように、おれも文芸部室にフラフラ歩み始めた。 俺が部室に入ると案の定ハルヒは、目を輝かせながら団長席に座っていた。 あと、長門もいるな。いつものように本に顔を落としている。 古泉はまだ来てないようだ 「キョン!早くあんたの結果を見せなさい!」 俺は一瞬顔をしかめて見せたが素直に、無言で用紙をハルヒに渡した。 そんな俺に、ハルヒも自分のそれを手渡してきた。ハルヒの結果はB判定… こいつは東大以外は志望してないから、これは東大の結果だ。 「A判定じゃないのはちょっと納得いかないけど…ま、 やっぱりあんたと私では頭の出来が違うってことね。」 ハルヒが、俺の用紙を見ながら言う。 その時からだろうな。俺の中で何かがフツフツと煮えたぎってきたのは。 まるで今までの自分の努力を全て否定された気分だ。 俺はハルヒを自分が出来る最大限に鋭い目で睨んだ。 「な、何よ、その目は…よし! これからは今まで以上にあんたに時間を費やしてあげる! まずは昨日作った、この問題を全部解くのよ!」 そういうと辞書一冊分くらいはあるような冊子をドン!と俺の前に突き出してきた。 何だこりゃ?反吐が出る。続けてハルヒは半ば焦ったようにどんどんまくし立てる。 「いい!?これさえやればあんたの偏差値も、うなぎ登りよ!」 黙れ… 「どうせあんたの偏差値なんかあんた同様に、 単純に出来ているに決まってるんだから!」 黙れと言っている… 「あ、そ、そうだ!有希!今日はもう帰って!?二人だけの方が勉強に集中出来るから! 古泉くんにも言っておいてね!?」 「黙れっっ!」 「キョ、キョン ?」 「うるさいんだよ!どうせ俺なんか東大に合格出来るはずないんだ! ああ、そうだよな!お前は教師でもなければ塾の先生でもないもんな! そんな普通の高校生のお前が!こんなバカな俺を東大に連れて行くことなんて出来るはずがないんだ! 何がうなぎ登りだ!バカにするのも大概にしろ!!」 そういうと俺はハルヒに重い冊子を投げ付けた。 何で俺がこんなに怒ってるかって?俺にもわからん しいて言うなら今までの勉強のストレスが一気に爆発したんだろうな。 と、こんなふうに冷静に自分を分析する俺は、今ここにはいない。 「え?あ、あたしはバカになんか…ただ… あんたと同じ大学に行きたかったから…」 ハルヒが冊子を受けてバランスを崩しながらボソボソと言う。 しかし俺はそんなこと意に介さず、 「俺はお前みたいに何でも一番になりたいと思ってるわけじゃない! 東大なんてどうでもいいんだよ!返せ!俺の時間を返せ!」 その言葉を聞いて、ハルヒは俯きかかった顔をがばっとあげる。 「なによ!あんたのためにやってあげたことじゃない! あたしがどれだけ必死になってあんたのために問題を作ったのか分かってるの!?」 それを聞いた瞬間俺の中で何かが爆発した。だから頼んじゃいねぇだろうが! ゆっくりとハルヒに近付いていく。 ハルヒの目がどんどん恐怖の感情に染められていくのが分かる。 「いや!来ないで!!!」 そうハルヒがいった瞬間俺はストレスを全てその拳に集中し ……………ハルヒに飛び掛かり…………そして殴った………… 「い!?たぁぁ…」 ハルヒは左に吹っ飛びながら呻いている。そんなハルヒに俺は第二撃目を浴びせようとしてる。 その時、俺の内出血した拳を誰かが掴んだ。……長門だ。 長門は黒い瞳でこちらを、ただじっと見つめている。 その目に吸い込まれるように俺の怒りの感情は消えていった。 「ありがとう、長門…」 そう言うと俺は部室を出て 、廊下を走っていた。途中古泉に声をかけられた気もしたがどうでもいい。 何故だ!?何故俺はハルヒを殴った!?勉強のストレスのせいで?ふざけるなよ! ハルヒはただ、俺のために手伝ってくれただけだったのに! 自分の勉強時間まで裂いて!あいつは、俺以上に大変だったはずなんだ! 最低だ!俺は………最低だ……… 拳がとてつもなく痛い。一体どれだけ強く殴りやがったんだ。俺は… いつの間にか俺は下駄箱まで来ていた。ふふ…今だったら 受験苦で自殺をする中高生の気持ちも、よく分かる。 誰か、俺からこの苦しみを解き放ってくれ… そんなことを願ってると後ろから声がした。 「ど、どうしたの?キョンくん?」 そこには、心配と驚きの表情を浮かべた春日が立っていた。 三章へ
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四章 時刻は夜11時。俺は自宅にてハルヒの作ってくれたステキ問題集を相手に格闘中だ。 「やばい、だめだ。全然わからん。」 朝はハルヒに啖呵を切ったものの、今では全くもって自信がない。 今の時期にE判定を取るようじゃ、どう考えても結果は目に見えている。 そもそも俺よりも頭のいいあいつが、それに気付かない訳がないのだ。 ただ遊ばれているだけなのか? …………ハッ!いかんいかん!俺の中の被害妄想を必死でかき消す。 頭を一人でブンブン振っていると、俺の右手に違和感があることに気付いた。 俺の右手はいつのまにか机の引き出しの中に伸びている。 手は引き出しの中の『奴』を掴んでいた。 そのことを俺の頭が理解した途端、俺はバネにはじかれたように机から遠ざかった。 「はぁ、はぁ…」 これ以上ないくらいの恐怖を感じながらも、俺の手はまだ『注射器』を握り締めている。 「何で…何でこんなことになっちまったんだ…」 俺は力なくそれを床に叩き付けた。 あれは、きのう… 「ど、どうしたの?キョンくん?」 下駄箱で春日が俺をその大きな瞳で見ていた。 その時の俺が普通じゃなかったのは言うまでもない。 「クソ!俺はハルヒを!!バカだ!最低だ!なあ、春日! 明日から俺はハルヒにどう接すりゃいい?!」 突然激昂した俺に、春日は動揺したように言った。 「ちょっ、待って!話は聞くから取り敢えず落ち着いて!場所は…公園でいい?」 ここは公園。俺と春日はベンチで並ぶように座っている。 事情を知らない人が見たらカップルに間違われるかもしれない。 ここで俺が春日の肩に手など回せば完璧だな。だが生憎、俺にそんな余裕はない。 「どうしたの?涼宮さんと何があったの?」 春日とは朝の挨拶以外はほとんど話したこともなかったが、話は本気で聞いてくれるようだ。 俺は今までのことを呼吸をするのも忘れてぶちまけた。 ほとんど話したこともない女子に、こんな長々と話すのは俺のキャラじゃないんだがな。 今はとにかく誰かに話を聞いて欲しかった。春日は俺の話を真剣な目で黙って聞き、 俺がたまに同意を求めると目を優しくさせ、「そうだね」と相槌を打ってくれた。 「どう思う?!」 その最後の言葉を俺が吐き終えると俺の興奮は冷めていった。 が、代わりにいいようのない虚無感が襲って来る。 何もやる気が起きない。ふう、と俺が久々に肺に酸素を運んでいると、 春日は俺の質問には答えず、ベンチからすっと立ち上がった。 「ねえ!今からうちに来てみない!?ほら!いーから、いーから♪」 ハルヒにも負けないような笑顔を見せながら俺の手を引っ張る。 「お、おい、どういうことだよ?」 言葉ではこう言ってるが、俺は大した抵抗もせず、フラフラと春日のあとを付いていく。 正直、どういうことかなんてどうでもいい。全てが色褪せて見えていた。 春日の家につくと、すぐにリビングに通された。両親はいないようだ。 「それじゃ、早速あたしの意見をいうね?明日にでも涼宮さんに謝って? あたしは今までのキョンくんの頑張りを教室でいつも見て来た。 だからキョンくんがその反動で、涼宮さんについ当たっちゃった気持ちもわかるよ。 でも男の子から殴られるってことはあたし達女子にとっては、 とても耐えられないことなの。 好きな男の子からなら尚更…きっと今涼宮さんは泣いてるよ? お願い!涼宮さんを元気づけられるのは、あなただけなの!」 いつもなら『好きな』の所で何らかの反応をして見せるんだろうが…当然、どうでもいい。 わかってる、わかってるんだ。俺がこれから何をしなければならないのかくらい。 「だけど…俺は自分が怖いんだ。 あいつに会ったら…またあいつを殴っちまうんじゃないかって…」 今の俺は誰がどうみても、とてつもなくヘタレなんだろうな。 さすがにこれは春日も愛想を付かしてしまうか。と思っていると、 「ちょっと待ってて!」 と言ってリビングから出ていってしまった。 「おまたせ!」 戻ってきた春日の手には小さな怪しく光る注射器が握られていた。 夕日の逆光のせいでシルエットになっている春日と注射器はシュールで、とても気味が悪い。 「おい、それ何だよ。」 「ん?かくせーざい♪」 力なく問い掛ける俺の質問に、特に悪びれる様子もなくそう答える。 その態度と質問に対する答えは、俺を動揺させるには十分だった。今日一番の揺れの観測だ。これはさすがに力なく「そうか」で済ますことは出来ない。 「な…な……何を言ってるんだよ!馬鹿らしい! それをどうするつもりだ?! 俺にヤク中になれっていってるのかよ!」 「何言ってるの?たった一回だけだよ! 今のキョンくんは自暴自棄になっちゃって、自分に全く自信がない状態なの! そんな、どうしたらいいか分からない時のための、一生で一度だけの切り札! これさえあればどんどん自信がついてくるんだよ? まるで自分がスーパーマンにでもなっちゃったみたいに!」 いやいや、まてまて、おい。WHY!?いやマジでWHY!? 「覚せい剤だぞ?!そんなもん一度やったら、 二度と抜け出せなくなっちまうことくらい俺でも知ってる! 悪いな。邪魔した。俺はもう帰る。」 ここにいちゃいけない!そう警告している本能に言われるまま、俺は部屋を出ようとした。 「また涼宮さんを傷つけるの?」 その言葉に俺の足はいとも簡単に止められた。 「自分が何するかわからない、怖いって言ったのはキョンんだよ? このまま会っても今の溝がもっと深まるだけ… 涼宮さんのことを想うなら、これを使うべきじゃない?」 何度もいうがこの日の俺は本当にどうかしていた。 たったそれだけの言葉で気持ちが傾いて来やがるんだからな。 「だ、だけど!それを打っちまったら、俺は…」 「依存症なんて意志の弱い人だけ。あたしは知ってるよ?キョンくんがそんなに弱くないってこと。」 確かに、俺は薬物依存など意志が金箔よりも薄い奴がなるものだと思っている。 「それと、キョンくんが、誰よりも涼宮さんを愛してるっていうこと。」 春日は終止、優しい目で言う。でも…だけど… いや、もしこれを使えばまたハルヒと…楽しい日常を…こんな押しつぶされそうな気持ちも… 「いいの?涼宮さんを泣かせたままで… また仲良くしたいでしょ?何にもなかったように…」 「何もなかったように…俺は…俺はあいつと…また笑いあいたい…」 「うん、そうだよね。これさえあればその全てが叶うんだよ?」 ああ、藁をもすがりたいとは今の俺のためにあるんだな、なんて思っていると、 俺の口は勝手に動きだした。 「本当に…本当に一回だけなら大丈夫なんだな。」 「それはキョンくん次第だよ。でも…あたしはそう信じてる。」 その言葉を聞き、俺は春日から注射器を取り上げた。 おい、いいのか俺。本当にいいのか?顔からは脂汗が吹き出ている。 脳細胞を除いた体中の細胞がその全総力を結集して、奴の進入を拒んでいる。当たり前だ。 腕に針を刺すだけでも抵抗があるんだ。そのうえ、その針の中には悪名高い奴がたっぷり詰まっているんだからな。 だがその警告すら脳が一喝すると、あっさり解けていった。 腕に針先を添え、深呼吸をし、俺は………刺した。 想像以上の痛みを覚えたため慌ててピストン部分を押す。 次の瞬間、何とも言えない感覚が俺を襲った。…いや包みこんだ。 まるでこの世の全てが俺を受け入れた感覚。酸素は溶け、 俺に混ざっていき、俺も溶けて酸素に混ざっていく。 今、この瞬間のために俺の人生があったのではないかと錯覚してしまうほどだ。 今なら日本の裏側にあるブラジルのニーニョさんが何回ドリブルしたかも分かってしまいそうだ。 いや、その気になれば世界の改変でさえも… 「……ん!キョ…ん!キョンくん!」 ハッ!、意識が飛んでいたようだ。 「どう?キョンくん?」 「ああ、とても清々しい気分だ!」 一瞬春日が顔をしかめた気がした。 「これならきっとハルヒにもちゃんと謝れそうだ!」 ほんと、依存症とか、何を心配してたんだ?俺は! 俺がそんなもんになるはずない!なんてったって俺は あれだけハルヒに引っ張り回されたり、耳を疑うようなトンデモ体験をして来たんだ! 今さらそんなんでヒイヒイ言うようじゃ、SOS団万年ヒラ団員の名が廃るぜ! 「そう良かった。あっ、もうこんな時間だね。送って行こうか?」 春日がすっかり調子を取り戻した笑顔で言った。 いつのまにか七時すぎになっていたようだ。 「いや、自転車だし、大丈夫だ。」 「そう、はい!カバン!!」 飛び切りの笑顔で見送りした春日に俺も飛び切りの笑顔で、手を振った。 それから家に帰ってからだ。カバンの中に注射器と粉の入った袋を見つけたのは。 いつ入ったんだ。あいつが…入れやがったのか… 「はあ…はあ…」 床の上の注射器が怪しく光っている。 なんで今日あいつに話に行ったとき返さなかった。クソ!あいつ…俺をどうする気なんだ! いっそ警察に…いや!俺も捕まっちまう!そうしたらハルヒが……… もうハルヒを傷付けたくない!古泉とも約束したんだ! いや、でもこのままじゃいずれ…よそう、こんな考えは… それにしても…何だ、この感じは? 昨日は奴を拒んでいた体中の細胞が、今は奴を渇望している。 もう…逃げられない… 脳細胞があきらめかけたその時、ケータイが鳴りだした。 着信………長門 長門の 名前を見て、俺は心底安心した。今の長門には何の力も無いのにな。 やれやれ…すっかり長門に対して頼り癖がついてしまったらしい。 「もしもし、長門か。」 「そう。」 ………沈黙。いやいや「そう。」じゃなくて!そっちから電話をかけて来たんだから、 会話のキャッチボールは長門から投げるべきだろう。 だけど、それが余りにも長門らしくて、俺はまた安心した。 「あなたに謝らなければならないことがある。」 その言葉を聞いて、俺は考えを改めた。なるほど、さっきの沈黙は、 どう切り出すかを考えていたのか。 「いや、謝らなければならないことなら思い当たるんだけどな。」 「昨日、私はあなたの涼宮ハルヒへの第一撃目を、阻止することが出来なかった。 感情が………邪魔をした。」 そうだ、いくら長門でも今は普通の女子高生なんだ。俺がいきなりキレて暴れだせば そりゃ呆然とするだろう。 「いや、お前は全然悪くない。逆に俺が謝るべきだ。あのままじゃ、 俺はハルヒをリンチしていただろうからな」 「でも、私があの時もっと早く対処していればこんなことにはならなかった。」 一瞬にして顔が冷や汗でいっぱいになった。こんなことだと?もしかして全部気付いているのか? 「お、おい、俺はもうハルヒとはちゃんとケジメつけたんだ。 今日も部室で見てたろ?何だよ。こんなことって。」 「私にはわからない。だからこそ教えてほしい。何があったの? とても胸騒ぎがする。あの注射跡は何?」 全てを気付いてるわけではなさそうだ。だけど勘づいている。こいつから胸騒ぎなんて言葉が 出てくるとはな。 「だから、あれは献血で…長門、お前は知らないだろうが、俺はハルヒと古泉に約束したんだ。 もう二度とハルヒを苦しめたりしないってな。」 どの口がいってやがる。 「………」 無言だ、 「そ、そうだ!長門!手、大丈夫か?かなり力入れてたからな、 ケガ無かったか?」 「肉体の損傷は問題ない。ただ…」 「ただ、何だ?」 今なら長門が電話の向こうで思案している顔が、はっきりと分かる。 「あんな思いは…もうたくさん…」 俺ははっとした。そうだ、傷ついたのはハルヒだけじゃないんだ。こいつは、長門は 俺の暴力を目の当たりにしてしまったんだ。その心の傷は、計り知れない。 「ああ、本当にごめんな、もう二度と傷つけない。」 「そう、あなたを……信じたい。信じていいの?」 すがるように聞いて来る長門。ここは瀬戸際だ、全てを話すか、このことは俺の中に秘め、無かったことにするか。 そうだ、もう二度とやらなけりゃいい!『奴』の誘惑なんかに負けなければ今までどおりの平穏は、 守られるんだ 「ああ!」 「そう…なら…信じる。」 そういうと長門は電話を切った。 ふう、この注射器はもういらないな。ありがとう、長門。お前のおかげでこいつの誘惑に、負けずにすんだよ。 何を考えているかしらんが、お前の思い通りになんかなってたまるか!春日! 俺は!俺の欲望に打ち勝つぞ!! 「もしもし?古泉です。お久し振りですね。 実はですね………おお…察しがよろしいようで。そう、機関の創立6周年パーティについてです。 はい、もうそんな時期になるんですよね。 全く、今はもう存在しない機関だというのに。はい、もちろん主催者は今年も、森さんです。 彼女らしいといえばらしいですね。ええ、そこであなたも招待しようということになりまして………… いえいえ、あなたは今でも、そしてこれからも我々の仲間、いわば同士です。 そろそろ河村のことも、気持ちの整理がついたのではないですか? …はい、そうですか!それは皆さん喜ぶと思います! それでは、今週の土曜に。いつもの場所と時間で。 待っていますよ?春日さん?」 五章へ
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四章 時刻は夜11時。俺は自宅にてハルヒの作ってくれたステキ問題集を相手に格闘中だ。 「やばい、だめだ。全然わからん。」 朝はハルヒに啖呵を切ったものの、今では全くもって自信がない。 今の時期にE判定を取るようじゃ、どう考えても結果は目に見えている。 そもそも俺よりも頭のいいあいつが、それに気付かない訳がないのだ。 ただ遊ばれているだけなのか? …………ハッ!いかんいかん!俺の中の被害妄想を必死でかき消す。 頭を一人でブンブン振っていると、俺の右手に違和感があることに気付いた。 俺の右手はいつのまにか机の引き出しの中に伸びている。 手は引き出しの中の『奴』を掴んでいた。 そのことを俺の頭が理解した途端、俺はバネにはじかれたように机から遠ざかった。 「はぁ、はぁ…」 これ以上ないくらいの恐怖を感じながらも、俺の手はまだ『注射器』を握り締めている。 「何で…何でこんなことになっちまったんだ…」 俺は力なくそれを床に叩き付けた。 あれは、きのう… 「ど、どうしたの?キョンくん?」 下駄箱で春日が俺をその大きな瞳で見ていた。 その時の俺が普通じゃなかったのは言うまでもない。 「クソ!俺はハルヒを!!バカだ!最低だ!なあ、春日! 明日から俺はハルヒにどう接すりゃいい?!」 突然激昂した俺に、春日は動揺したように言った。 「ちょっ、待って!話は聞くから取り敢えず落ち着いて!場所は…公園でいい?」 ここは公園。俺と春日はベンチで並ぶように座っている。 事情を知らない人が見たらカップルに間違われるかもしれない。 ここで俺が春日の肩に手など回せば完璧だな。だが生憎、俺にそんな余裕はない。 「どうしたの?涼宮さんと何があったの?」 春日とは朝の挨拶以外はほとんど話したこともなかったが、話は本気で聞いてくれるようだ。 俺は今までのことを呼吸をするのも忘れてぶちまけた。 ほとんど話したこともない女子に、こんな長々と話すのは俺のキャラじゃないんだがな。 今はとにかく誰かに話を聞いて欲しかった。春日は俺の話を真剣な目で黙って聞き、 俺がたまに同意を求めると目を優しくさせ、「そうだね」と相槌を打ってくれた。 「どう思う?!」 その最後の言葉を俺が吐き終えると俺の興奮は冷めていった。 が、代わりにいいようのない虚無感が襲って来る。 何もやる気が起きない。ふう、と俺が久々に肺に酸素を運んでいると、 春日は俺の質問には答えず、ベンチからすっと立ち上がった。 「ねえ!今からうちに来てみない!?ほら!いーから、いーから♪」 ハルヒにも負けないような笑顔を見せながら俺の手を引っ張る。 「お、おい、どういうことだよ?」 言葉ではこう言ってるが、俺は大した抵抗もせず、フラフラと春日のあとを付いていく。 正直、どういうことかなんてどうでもいい。全てが色褪せて見えていた。 春日の家につくと、すぐにリビングに通された。両親はいないようだ。 「それじゃ、早速あたしの意見をいうね?明日にでも涼宮さんに謝って? あたしは今までのキョンくんの頑張りを教室でいつも見て来た。 だからキョンくんがその反動で、涼宮さんについ当たっちゃった気持ちもわかるよ。 でも男の子から殴られるってことはあたし達女子にとっては、 とても耐えられないことなの。 好きな男の子からなら尚更…きっと今涼宮さんは泣いてるよ? お願い!涼宮さんを元気づけられるのは、あなただけなの!」 いつもなら『好きな』の所で何らかの反応をして見せるんだろうが…当然、どうでもいい。 わかってる、わかってるんだ。俺がこれから何をしなければならないのかくらい。 「だけど…俺は自分が怖いんだ。 あいつに会ったら…またあいつを殴っちまうんじゃないかって…」 今の俺は誰がどうみても、とてつもなくヘタレなんだろうな。 さすがにこれは春日も愛想を付かしてしまうか。と思っていると、 「ちょっと待ってて!」 と言ってリビングから出ていってしまった。 「おまたせ!」 戻ってきた春日の手には小さな怪しく光る注射器が握られていた。 夕日の逆光のせいでシルエットになっている春日と注射器はシュールで、とても気味が悪い。 「おい、それ何だよ。」 「ん?かくせーざい♪」 力なく問い掛ける俺の質問に、特に悪びれる様子もなくそう答える。 その態度と質問に対する答えは、俺を動揺させるには十分だった。今日一番の揺れの観測だ。これはさすがに力なく「そうか」で済ますことは出来ない。 「な…な……何を言ってるんだよ!馬鹿らしい! それをどうするつもりだ?! 俺にヤク中になれっていってるのかよ!」 「何言ってるの?たった一回だけだよ! 今のキョンくんは自暴自棄になっちゃって、自分に全く自信がない状態なの! そんな、どうしたらいいか分からない時のための、一生で一度だけの切り札! これさえあればどんどん自信がついてくるんだよ? まるで自分がスーパーマンにでもなっちゃったみたいに!」 いやいや、まてまて、おい。WHY!?いやマジでWHY!? 「覚せい剤だぞ?!そんなもん一度やったら、 二度と抜け出せなくなっちまうことくらい俺でも知ってる! 悪いな。邪魔した。俺はもう帰る。」 ここにいちゃいけない!そう警告している本能に言われるまま、俺は部屋を出ようとした。 「また涼宮さんを傷つけるの?」 その言葉に俺の足はいとも簡単に止められた。 「自分が何するかわからない、怖いって言ったのはキョンんだよ? このまま会っても今の溝がもっと深まるだけ… 涼宮さんのことを想うなら、これを使うべきじゃない?」 何度もいうがこの日の俺は本当にどうかしていた。 たったそれだけの言葉で気持ちが傾いて来やがるんだからな。 「だ、だけど!それを打っちまったら、俺は…」 「依存症なんて意志の弱い人だけ。あたしは知ってるよ?キョンくんがそんなに弱くないってこと。」 確かに、俺は薬物依存など意志が金箔よりも薄い奴がなるものだと思っている。 「それと、キョンくんが、誰よりも涼宮さんを愛してるっていうこと。」 春日は終止、優しい目で言う。でも…だけど… いや、もしこれを使えばまたハルヒと…楽しい日常を…こんな押しつぶされそうな気持ちも… 「いいの?涼宮さんを泣かせたままで… また仲良くしたいでしょ?何にもなかったように…」 「何もなかったように…俺は…俺はあいつと…また笑いあいたい…」 「うん、そうだよね。これさえあればその全てが叶うんだよ?」 ああ、藁をもすがりたいとは今の俺のためにあるんだな、なんて思っていると、 俺の口は勝手に動きだした。 「本当に…本当に一回だけなら大丈夫なんだな。」 「それはキョンくん次第だよ。でも…あたしはそう信じてる。」 その言葉を聞き、俺は春日から注射器を取り上げた。 おい、いいのか俺。本当にいいのか?顔からは脂汗が吹き出ている。 脳細胞を除いた体中の細胞がその全総力を結集して、奴の進入を拒んでいる。当たり前だ。 腕に針を刺すだけでも抵抗があるんだ。そのうえ、その針の中には悪名高い奴がたっぷり詰まっているんだからな。 だがその警告すら脳が一喝すると、あっさり解けていった。 腕に針先を添え、深呼吸をし、俺は………刺した。 想像以上の痛みを覚えたため慌ててピストン部分を押す。 次の瞬間、何とも言えない感覚が俺を襲った。…いや包みこんだ。 まるでこの世の全てが俺を受け入れた感覚。酸素は溶け、 俺に混ざっていき、俺も溶けて酸素に混ざっていく。 今、この瞬間のために俺の人生があったのではないかと錯覚してしまうほどだ。 今なら日本の裏側にあるブラジルのニーニョさんが何回ドリブルしたかも分かってしまいそうだ。 いや、その気になれば世界の改変でさえも… 「……ん!キョ…ん!キョンくん!」 ハッ!、意識が飛んでいたようだ。 「どう?キョンくん?」 「ああ、とても清々しい気分だ!」 一瞬春日が顔をしかめた気がした。 「これならきっとハルヒにもちゃんと謝れそうだ!」 ほんと、依存症とか、何を心配してたんだ?俺は! 俺がそんなもんになるはずない!なんてったって俺は あれだけハルヒに引っ張り回されたり、耳を疑うようなトンデモ体験をして来たんだ! 今さらそんなんでヒイヒイ言うようじゃ、SOS団万年ヒラ団員の名が廃るぜ! 「そう良かった。あっ、もうこんな時間だね。送って行こうか?」 春日がすっかり調子を取り戻した笑顔で言った。 いつのまにか七時すぎになっていたようだ。 「いや、自転車だし、大丈夫だ。」 「そう、はい!カバン!!」 飛び切りの笑顔で見送りした春日に俺も飛び切りの笑顔で、手を振った。 それから家に帰ってからだ。カバンの中に注射器と粉の入った袋を見つけたのは。 いつ入ったんだ。あいつが…入れやがったのか… 「はあ…はあ…」 床の上の注射器が怪しく光っている。 なんで今日あいつに話に行ったとき返さなかった。クソ!あいつ…俺をどうする気なんだ! いっそ警察に…いや!俺も捕まっちまう!そうしたらハルヒが……… もうハルヒを傷付けたくない!古泉とも約束したんだ! いや、でもこのままじゃいずれ…よそう、こんな考えは… それにしても…何だ、この感じは? 昨日は奴を拒んでいた体中の細胞が、今は奴を渇望している。 もう…逃げられない… 脳細胞があきらめかけたその時、ケータイが鳴りだした。 着信………長門 長門の 名前を見て、俺は心底安心した。今の長門には何の力も無いのにな。 やれやれ…すっかり長門に対して頼り癖がついてしまったらしい。 「もしもし、長門か。」 「そう。」 ………沈黙。いやいや「そう。」じゃなくて!そっちから電話をかけて来たんだから、 会話のキャッチボールは長門から投げるべきだろう。 だけど、それが余りにも長門らしくて、俺はまた安心した。 「あなたに謝らなければならないことがある。」 その言葉を聞いて、俺は考えを改めた。なるほど、さっきの沈黙は、 どう切り出すかを考えていたのか。 「いや、謝らなければならないことなら思い当たるんだけどな。」 「昨日、私はあなたの涼宮ハルヒへの第一撃目を、阻止することが出来なかった。 感情が………邪魔をした。」 そうだ、いくら長門でも今は普通の女子高生なんだ。俺がいきなりキレて暴れだせば そりゃ呆然とするだろう。 「いや、お前は全然悪くない。逆に俺が謝るべきだ。あのままじゃ、 俺はハルヒをリンチしていただろうからな」 「でも、私があの時もっと早く対処していればこんなことにはならなかった。」 一瞬にして顔が冷や汗でいっぱいになった。こんなことだと?もしかして全部気付いているのか? 「お、おい、俺はもうハルヒとはちゃんとケジメつけたんだ。 今日も部室で見てたろ?何だよ。こんなことって。」 「私にはわからない。だからこそ教えてほしい。何があったの? とても胸騒ぎがする。あの注射跡は何?」 全てを気付いてるわけではなさそうだ。だけど勘づいている。こいつから胸騒ぎなんて言葉が 出てくるとはな。 「だから、あれは献血で…長門、お前は知らないだろうが、俺はハルヒと古泉に約束したんだ。 もう二度とハルヒを苦しめたりしないってな。」 どの口がいってやがる。 「………」 無言だ、 「そ、そうだ!長門!手、大丈夫か?かなり力入れてたからな、 ケガ無かったか?」 「肉体の損傷は問題ない。ただ…」 「ただ、何だ?」 今なら長門が電話の向こうで思案している顔が、はっきりと分かる。 「あんな思いは…もうたくさん…」 俺ははっとした。そうだ、傷ついたのはハルヒだけじゃないんだ。こいつは、長門は 俺の暴力を目の当たりにしてしまったんだ。その心の傷は、計り知れない。 「ああ、本当にごめんな、もう二度と傷つけない。」 「そう、あなたを……信じたい。信じていいの?」 すがるように聞いて来る長門。ここは瀬戸際だ、全てを話すか、このことは俺の中に秘め、無かったことにするか。 そうだ、もう二度とやらなけりゃいい!『奴』の誘惑なんかに負けなければ今までどおりの平穏は、 守られるんだ 「ああ!」 「そう…なら…信じる。」 そういうと長門は電話を切った。 ふう、この注射器はもういらないな。ありがとう、長門。お前のおかげでこいつの誘惑に、負けずにすんだよ。 何を考えているかしらんが、お前の思い通りになんかなってたまるか!春日! 俺は!俺の欲望に打ち勝つぞ!! 「もしもし?古泉です。お久し振りですね。 実はですね………おお…察しがよろしいようで。そう、機関の創立6周年パーティについてです。 はい、もうそんな時期になるんですよね。 全く、今はもう存在しない機関だというのに。はい、もちろん主催者は今年も、森さんです。 彼女らしいといえばらしいですね。ええ、そこであなたも招待しようということになりまして………… いえいえ、あなたは今でも、そしてこれからも我々の仲間、いわば同士です。 そろそろ河村のことも、気持ちの整理がついたのではないですか? …はい、そうですか!それは皆さん喜ぶと思います! それでは、今週の土曜に。いつもの場所と時間で。 待っていますよ?春日さん?」 五章へ
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(水)(コスト6) (パワー8000) (クリーチャー)(フェニックス/鬼レクスターズ) ■超無限スター進化gv 水のクリーチャーまたはレクターズ3枚以上の上に置く。 ■このクリーチャーは攻撃されない。 ■相手がクリーチャー以外のカードを使う時または出す時、かわりに自分のバトルゾーンにある表向きのカードを2枚手札に戻す。 ■Wブレイカー 評価 選択肢 投票 壊れ (0) 即戦力 (1) 優秀 (0) 微妙 (0) コメント 名前めちゃくちゃ好き -- 名無しさん (2022-06-27 16 56 28) 名前 コメント
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☆フェアリーゼッタイナオスヨ 今度は長いうえに紛らわしいわ!!(蘇生技/3ターン) 味方一人を攻、防、魔攻、魔防強化状態で復活させます。
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☆フェアリーゼッタイオスナヨ 押すな押すなと言いながら前に出て倒れます(会心あり) なげえよ!大惨事だよ!(全体物理/使用後にスタン)
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キュアロゼッタ☆ プリキュアの技より強い四葉財閥の軍事力。 プロフィール 名前 キュアロゼッタ コスト 200 レアリティ N 属性 弓-風 評価 B(仮) スキル 名称 タイプ 範囲 属性 効果 消費 CT 特殊効果 備考 ロゼッタウォール 魔法 味方単体 なし なし MP10/ST6 シールド100% 音属性は防げず 正拳 必殺技 敵単体 拳 r300 MP9/ST9 なし 拳底 必殺技 敵単体 拳 r400 MP9/ST9 速度補正-50 貫手 必殺技 敵単体 拳 r200 MP9/ST9 速度補正+50 ノイズキャンセリング 必殺技 味方全体 なし なし MP6/ST6 音耐性+25% ロゼッタリフレクション 魔法 味方全体 なし なし MP25/ST15 物理属性にシールド100% 自然属性は防げず ロゼッタリフレクションダブルクラッシュ 魔法 敵単体 風 r700 MP40/ST24 スタン 20% ロゼッタリフレクションヴァリアント 魔法 敵全体 風 r300 MP60/ST36 スタン 20% 四葉財閥セバスナイプ 必殺技 敵単体 弓 r300 PP3900/ST9 なし 四葉財閥サテライトビーム 必殺技 敵全体 弓 r200 PP9600/ST18 なし 四葉財閥大陸更地砲 必殺技 敵全体 弓 r300 PP17100/ST27 なし 四葉財閥イオンキャノン 必殺技 敵単体 弓 r70x18 PP28500/ST37 なし ジャイアントランススタンプ 必殺技 敵全体 足 固定ダメージ最大2100 MP100/ST10 2 ラッキーによりさらに4000ダメージ増加 四葉財閥スキル強化後 名称 タイプ 範囲 属性 効果 消費 CT 特殊効果 備考 四葉財閥不動のセバスナイパー 必殺技 敵単体 弓 r435 PP3900/ST9 なし 四葉財閥ラグナブラスター 必殺技 敵全体 弓 r290 PP9600/ST18 なし 四葉財閥世界征服ミサイル 必殺技 敵全体 弓 r435 PP17100/ST27 なし 四葉財閥アークダイタリオン 必殺技 敵単体 弓 r1827 PP28500/ST37 なし 特性 名称 効果 備考 究極化学兵器 必殺技消費ST-40%,クリティカルオーバー3 大富豪α 獲得PP+30% 富豪の価値観 四葉財閥スキル使用時、MPではなくPPを消費する,HP+10%,会心が発動しない 護身術 防御力+15%,精神力+15% 四葉財閥過剰支援 四葉財閥スキル強化(45%アップ) レビュー スキル消費STが40%も低いため、物理スキルのDPSはかなり高い。 またMPを消費しないことから、物理型ならMPを完全に切れるため ステータス効率も高い。トロプリアクセやマーチアクセなどつけやすい。 ただし、デメリットとして物理スキル使用時にお金を消費するため、 PPに余裕ができるクリア後までは余程の覚悟がなければ使えない。 ノーマルキャラのなかでは最上位の物理DPSを誇るが お金的に大器晩成型なのでシナリオでの活躍は難しいかもしれない。 前作で猛威を振るった、ロゼパパ編成は今作も健在だが、 ロゼッタもパパイアもコストがかなり高くなったため、編成はしにくい、 また、パパイアとシナジーが高いプリキュアが増えたため、ロゼッタの採用価値は低いかもしれない。 ノーマル最高コストということもあり性能はダンチだが、 弓属性キュアらしく、剣属性に対抗策がほぼ無い。 杖キュアや脚キャラを加えてバランスよく戦おう。 魔法型が可能だが、正直微妙。 クリティカルオーバーとは、レアリティのわりに強いスキル持ちの意味で追加効果は無い。 余談だが、四葉財閥、四葉ありす関連のフリーゲームが、はちゃ氏により公開されている。 詳しくは四葉ありすの異世界無双 四葉財閥での生活これらのページで。 オススメ育成論 物理型 コメントお待ちしております。 魔法型 コメントお待ちしております。 両刀型 コメントお待ちしております。 補助型 コメントお待ちしております。 オリジナル コメントお待ちしております。 レビュー・コメント 名前 コメント
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キュアロゼッタ プリキュアの技より強い四葉財閥の軍事力。 スキル 名称 タイプ 範囲 属性 効果 消費 CT 特殊効果 備考 正拳突き 必殺技 敵単体 なし r350 MP9/ST15 1 なし ロゼッタウォール 必殺技 味方単体 なし シールド100% MP10/ST6 1 なし 音属性貫通 ノイズキャンセリング 魔法 味方全体 なし 音耐性上昇 MP9/ST15 1 なし ロゼッタリフレクションダブルクラッシュ 必殺技 敵単体 風 r350 MP15/ST25 1 [スタン 60% 四葉財閥セバスナイプ 必殺技 敵単体 弓 r400 MP12/ST20 1 なし ロゼッタリフレクション 魔法 味方単体 なし 味方単体への攻撃を全て吸収し回復 MP30/ST18 1 なし 音属性貫通 四葉財閥サテライトビーム 必殺技 敵全体 なし r200 MP18/ST30 1 なし 四葉財閥大陸更地砲 必殺技 敵全体 なし r300 MP27/ST45 1 なし ロゼッタバルーン 魔法 ランダム 無 ランダム MP100/ST10 1 ランダム 四葉財閥不動のセバスナイパー 必殺技 敵単体 弓 r600 MP12/ST20 1 なし 追加特性 四葉財閥ラグナブラスター 必殺技 敵全体 なし r300 MP18/ST30 1 なし 追加特性 四葉財閥世界征服ミサイル 必殺技 敵全体 なし r450 MP27/ST45 1 なし 追加特性 ロゼッタバルーンの効果 名称 効果 備考 バルーンランダムです 誰かが即死 天に召される。「です」と「dath」をかけている バルーンバクハ? 味方全員に大ダメージ 風向きが悪く目の前で爆発 バルーンバクハ! 相手全員にダメージ バルーン大バクハ! 相手全員に大ダメージ バルーンオールヒール 全員のHP全回復 バルーンハイスタミナ 全員のST全回復 バルーンMP0 全員のMPが0になる バルーンラストワン 全員のHPが1になる バルーン1ダメージ 相手に1ダメージ バルーンランダムシールド ランダムに誰かがバリア状態 バルーンタイリング 全員が疲れる バルーンスーパーモード 自分の能力が超強化 バルーンランススタンプ 相手全員に大ダメージ 巨大ランスが踏む バルーンリザレクション 戦闘不能キャラが復活 特性 名称 効果 備考 格闘家 [攻撃属性 拳][拳耐性増加 小][脚耐性増加 小] 大富豪 [獲得PP増加][HP減少 中] 富豪の振る舞い PT全体→[スタン耐性増加 小][すばやさ低下 小] 四葉財閥過剰支援 [四葉財閥スキル強化] レビュー プリキュアさえいなければ世界征服も夢ではない四葉財閥の令嬢。 皮肉なことに自分自身がプリキュアの為、その夢は絶望に閉ざされた。 物理攻撃に偏らせた代わりにコスト150相当の火力を手に入れたプリキュア。 魔法攻撃は無いも同然であるが、味方を補助する強力なスキルがある。 敵の攻撃を全て吸収し回復することができるチートスキルを持つが、特性でどうあがいても素早さはカンストできない為、そこが難点。 ロゼッタバルーンと言う起死回生スキルを持つ。 一度は使ってみよう。 追加特性は強力なので必ず取ろう。(四葉財閥スキルの名称が変わり、威力が約1.5倍) 2021年3月23日、ムーンライトに引き続き深層のパラレルワールドのソロクリアが確認された。 youtubeに動画あり。 ムーンライトはリフレクションの性能のバグ(バトプリ4で修正予定)によるものだったが、 ロゼッタは単純の性能のみでのクリアとなっている。四葉財閥おそろしや。 ロゼッタウォールで守りつつ、四葉財閥スキルやダブルクラッシュで攻める戦法。 ダブルクラッシュは風属性なんでパッションも平気であり、スタン率も60%あるので、ボスに対してもかなりの強さを発揮します。 オススメ育成論 物理型 コメントお待ちしております。 魔法型 コメントお待ちしております。 両刀型 コメントお待ちしております。 補助型 コメントお待ちしております。 オリジナル コメントお待ちしております。 レビュー・コメント 名前 コメント