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どんなに物を盗もうと 土くれの心は満たされない どんなに魂を喰らおうと 虚無の中心は満たされない Zero s DEATHberry ――ゼロの死神 『The sword which talks ― master 』 『土くれ』 そう呼ばれる盗賊がいる、彼女は大いに困っていた。 事の発端は数日前にまでさかのぼる。 彼女が、トリステイン魔法学院に秘書『ロングビル』として、潜り込んだ事から始まる。 春の使い魔の召喚儀式から数日が経ち、異変が起きた。 使い魔を介して見た物は、学院のメイドが包丁を片手に構え、もう片方の手に小さな円筒を握っている姿 そして、それを使い魔の目の前に突き出して来る様子。 小規模な爆発があり、それ以降使い魔からの交信は完全に途絶えた。 そこで、新たに使い魔を召喚したのだが 『しなければ良かった』 そう思ってしまうほどに召喚されたそれは、奇妙だった 首から伸びた管のようなもの その先の出鱈目な骸骨と人の皮の様な物 骨の面の様な奇妙な貌 それら全てがはじめて見る物だった そして、自分は今から「それ」と契約をする 「・・・黒崎・・・一護・・・!!」 フーケに聞こえないように使い魔、グランド・フィッシャーが呟き その様子を一人のメイドが満足そうに見ていた 数日後 異変に真っ先に気が付いたのは、学園の人間ではなく使い魔だった 使い魔の名は『黒崎 一護』一応死神である ドドドドドドドドドド・・・・ (この霊圧・・・まさか・・・!! 即座に死神イヒして霊圧の元となっている地点に向かう 其処には、巨大なゴーレムで壁を破壊しようとしている黒服のメイジが居た (!?あいつじゃない? 疑問を持ったままゴーレムに『月牙』を叩き込む ゴーレムはゆっくりと崩れ、そして再び再構築される 暫くの間を空けてタバサ、キュルケ、そして一護の主人たるルイズが到着する タバサが無言でゴーレムの右腕を凍らせ キュルケがもう片方の腕を破壊する ルイズは頭部目掛けて魔法を放とうとして失敗したが、かえって大きなダメージを与えた しかし、やはりゴーレムは即座に再構築される そして壁に向かって止めの一撃が加わろうとしたとき ゴーレムの腕が爆発、その爆風により壁は崩れ落ちた キュルケ談 その時、盗賊はとても錯乱していました ひとまず彼を落ち着けるのが先決だと思い 彼がうわごとのように呟いていた『破壊の杖』を、手渡しました 実際のところ、私がもう少し落ち着いていればこんな事はしなかったでしょう・・・ ルイズ談 その時私はとても錯乱していたので、落ち着くためにとりあえず使い魔を杖で叩き続けました おかげで私はこうして落ち着きを取り戻せました、彼には本当に感謝しています こうして盗賊は目当てだった『破壊の杖』を手に入れ意気揚々と去っていきました 『破壊の剣、たしかに領収いたしました。土くれのフーケ』 という文字を壁面に残して 数刻後 「……それで、犯行の現場を見ていたのじゃな、ミス・ヴァリエール……詳しく説明してくれんかの?」 出来る訳無い 自ら壁に穴を開け、自ら秘宝を手渡し、笑顔で盗賊を見送った報告なんて たとえ皮を剥がれ、肉を裂かれ、骨を砕かれ、神経を解きほぐされようと 出来る訳が無かった 『それは、本能だ!!』とか聞こえたが、何、気にすることは無い そこで、到着したときにはすでに盗賊が去った後だということにしておいた 「追おうにも、手がかりはナシか……」 オスマンが諦め掛けたその時 「手掛かりならあります!!」 ミス・ロングビルが高らかに宣言する 「ミス・ロングビル居間まで何処に?」 心底心配そうにコッパゲが問い ロングビルが答えて曰く 「申し訳ありません、フーケの行方について調査をしておりまして。」 「仕事が速いの。で、結果は?」 「はい。森の廃屋に、黒いローブの男が入って行くところを見たという情報を手に入れました」 「では、捜索を私にやらせてください!」 会話にルイズが割り込む 先ほどの失態を如何にかして埋め合わせたいのである それにキュルケ、タバサと続く 「では、頼むとしようか。ミス・ロングビル、案内役を頼む。」 雨が降っていた・・・・・
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前ページ次ページ瀟洒な使い魔 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは困っていた。 それはもう実家で粗相をして一番上の姉や母にどう弁明しようか考えていた時と同じくらい困っていた。 何をそんなに困っているのかと言えば、それは先日自身が召喚した使い魔のことである。 火を出そうが、水を出そうが、錬金をしようが、どんな魔法を使ってもロクに発動せず、 爆発と言う失敗でしか魔法を使えたためしのない『ゼロのルイズ』。 そんな自分でも、あの日は(何度も失敗したが)『サモン・サーヴァント』に成功し、 『コントラクト・サーヴァント』をも成功させる事ができた。 コモンマジックすら失敗するいつもの自分からしてみればあの日は絶好調といえただろう。 確かに高望みをしたかもしれない。 どんな使い魔でもいい、召喚されてくれと投げやりに思ったかもしれない。 しかし、魔法を学ばんとする姿勢では、そのために積み重ねてきた努力では、 同学年の誰にも負けはしないという自負が合った。 ならば、何がいけなかったのだろう? 自分に魔法の素質がなかったから? 普段の行いが悪かったから? 疑問は尽きず、そして解決の糸口は全く見えない。 そんな堂々巡りの思考の中、ルイズは今日何度目とも知れない溜息をついた。 ジャン・コルベールは困っていた。 それはもう上司のオスマンが秘書にセクハラをせんとしているところに出くわしてしまった時と同じくらい困っていた。 何をそんなに困っているのかと言えば、それは先日生徒の1人であるルイズ嬢が召喚した使い魔のことである。 ありとあらゆる魔法を『爆発』という失敗でしか使えたためしがない彼女。 しかし何よりも誰よりも努力を惜しまなかったであろう彼女も、 この間の『春の使い魔召喚の儀式』ではようやく(最後の正直といった具合に)「サモン・サーヴァント」に成功し、 『コントラクト・サーヴァント』をも成功させる事ができた。 コモンマジックすら使えない彼女にしてみれば、正に奇跡と言ってもよかっただろう。 確かに彼女は同学年の生徒たちがサラマンダーやジャイアントモール等を召喚しており、 自分もそれに負けないくらいの使い魔を欲しいと思っていたかもしれない。 いや、もしかしたらどんな使い魔でもいいから来てくれと投げやりに思っていたのかもしれない。 しかし、彼女は級友達の誰よりも努力してきたはずだ。何よりも苦労を重ねてきたはずだ。 ならば、何がいけなかったのだろう? 彼女が一体何をしたと言うのだろう? 一教師として、彼女になんと声をかけてやれるだろう? 疑問は尽きず、そして解決の糸口は全く見えない。 そんな堂々巡りの思考の中、コルベールは今日何度目とも知れない溜息をついた。 そして、件の使い魔もまた困っていた。 主人の妹が外に出たいと我侭をいい、それを自分が止める羽目になったときと同じくらい困っていた。 何をそんなに困っているのかと言えば、それは先日見知らぬ土地へと召喚された我が身の事である。 自分には勤めている場所があり、そうほいほいと持ち場を離れる訳にもいかない。 自分が居なければどうにもならないというのに、問答無用で召喚されてしまった。 今居る場所のことなど心底どうでも良いと思っている彼女にとっては、正に悪夢と言っても良いだろう。 その癖召喚した当人には悪いことをしたと言う自覚そのものがないらしく、 また元のところに戻す手段もないらしい。全くいい迷惑だと思う。 普段の行いが悪かったのだろうか? もう少し門番に優しくしてやればよかっただろうか? それとも、主人の食事に添える野菜をもう少し少なくすればよかっただろうか? 疑問は尽きず、そして解決の糸口は全く見えない。 そんな堂々巡りの思考の中、件の使い魔は今日何度目とも知れない溜息をついた。 ――――その使い魔の名は、十六夜咲夜と言う。 瀟洒な使い魔 第1話「完全で瀟洒な使い魔」 「――――ふぅ」 石造りの塔の窓に肘を突き、スカートの丈が短いメイド服を着込んだ少女が溜息をつく。 彼女こそ件の使い魔、十六夜咲夜である。 咲夜の溜息は空しく空気に溶けて消え、鬱陶しいくらい晴れ晴れとした青空が頭上に広がる。 この世界、ハルケギニアに来て数日が経つ。召喚された際に立ち会っていた教師、コルベールや、 その上司であるオスマン等に様々な話を聞けば聞くほど、自分の住んでいた場所とは違う、 いわば異世界であるのだという事を実感する。 まだ仕事はたっぷりあるのに。自分が居ないということで元居たところがどういう状態になっているか、 それを想像するだに憂鬱になってしまう。 端的に言って、咲夜はこの世界の住人ではない。 『幻想郷』と呼ばれる、大規模な結界によって外界と隔たれた世界に住む人間である。 幻想郷には人間は余り住んでいない。では何が住んでいるのかと言うと、 俗に言う妖怪、魔物といった者達である。咲夜の主人もまたその1人で、紅魔館という洋館に住まう吸血鬼。 咲夜はそこのメイド頭を勤めており、館の一切を取り仕切る立場にある。 ちなみに、咲夜はれっきとした人間である。もっとも、普通の人間ではないが。 そんな立場の人間がこんなところに呼びつけられてしまえば、咲夜の心情ももっともである。 ――――お嬢様は大丈夫だろうか? 自分が居なくとも好き嫌いなどしていないだろうか? こうした思案の時に浮かぶのはそうした主人や館の面々の事。 この世界に来てからと言うもの、特にやるべき仕事もないのでこうして考え事ばかりしている。 そうして思案に暮れていると、ふと後ろに気配を感じる。 振り返ってみるとそこには緑色の髪の女性が立っていた。咲夜が今居るここ、 トリステイン魔法学院の学院長であるオールド・オスマンの秘書、ミス・ロングビルだ。 「ミス・イザヨイ。こんな所にいらしたんですね」 「ええ、特にすることもないものだから。何か用かしら?」 「そのですね……毎度の事で大変申し訳ないのですが、オールド・オスマンからの伝言がありまして」 そういうミス・ロングビルの表情は大変申し訳なさそうであり、それを見て咲夜もこめかみを押さえる。 「もしかして、まだ諦めてないのかしら」 「残念ながら……まあ、ミス・ヴァリエールにとっても一生の問題でもありますし」 彼女が言うには、学院長が呼んでいるのでご一緒願えないか、との事。 またか、と咲夜は溜息をつく。ここ数日、1日1度はこうして呼ばれ、説得されている。 まあ無理もない。話を聞く限り、使い魔の召喚と言うのはそうほいほいと行えるものではないらしい。 召喚された対象が死ぬなり、この世界より居なくなりでもしない限りは新たに呼ぶことも出来ないようだ。 しかも、この使い魔召喚の儀式は学院の生徒が2年生に上がる際に必ず行うもの。 召喚した対象、この場合は咲夜と、必ず契約をしなければならない。 そうしなければ進級する事ができないのだと聞いた。 この世界において魔法使いとは特権階級、貴族とイコールである。例外がないわけではないが。 つまるところ、この学院に通う生徒は全てが貴族の子弟。 留年や退学などと言う無様を晒すわけには行かないのだろう。 気持ちは分かるが、だからといって束縛されてやる義理もない。 自分は紅魔館のメイド長であり、自分の主人は紅魔館の主、レミリア・スカーレットただ一人。 こんな異世界で貴族とはいえ他人の従者をやっている暇など無いのだ。 とはいえ、だからと言って戻る手段があるわけでもない。 紅魔館でも何らかの対策は練っているだろうし、魔法には明るくない自分が不用意に何かをして、 取り返しのつかない問題を起こしてもそれはそれで問題である。 そろそろ観念のし時だろうか、と咲夜は考える。 この世界においての使い魔は、主の為に尽くし、一生を捧げる。そんなものであるらしい。 一生を添い遂げるつもりなどさらさらないが、少なくとも迎えが来るまで、 もしくは帰還方法を見出すまでは使い魔の真似事をするのも良いのかも知れない。 契約するしないはさておいて、少なくともこの学院に留まれるよう交渉してみよう。 咲夜はそう結論付けると、ミス・ロングビルに同行する旨を伝えた。 所変わって、魔法学院の学院長室。 部屋の中にはこの部屋、ひいてはこの学園の主のオールド・オスマンと咲夜・ロングビルの他、 桃色がかったブロンドの少女が居た。この少女こそ誰あろう、 咲夜をこのハルケギニアへと召喚した、ミス・ヴァリエールこと、ルイズである。 さっきから一言も喋らず、腕組みをして咲夜をじとりと睨みつけている。 契約を拒否したことをまだ根に持っているようだ。 「おお、来てくれたかミス・イザヨイ。契約の件じゃが……どうにか承諾してくれんかのう」 「ええ、私もあれから色々考えたのですが、条件付でお受けしようと思います」 「ほう。して、その条件とは?」 ちらりとルイズのほうを見てから、咲夜はいくつかの条件を提示した。 1.自分が元の世界に戻る手段を探す事、また方法が見つかった場合自分が戻るのを止めない事 2.この世界に滞在している間の衣食住を保障する事 3.この世界の文字を教えること 「以上の条件を了承さえしていただけるのなら、ここに留まって彼女の使い魔をする事に異存はないのですけど」 薄く笑みを浮かべて言う咲夜。オスマンはふぅむ、と唸って髭をなで、 傍らに控えるルイズに語りかける。 「とのことじゃが、ミス・ヴァリエール。よろしいかな? 他の使い魔とは違い、ミス・イザヨイは人間じゃ。彼女には彼女の事情もあろう。 こうして条件付きとはいえ応じてくれた事も彼女なりの最大限の譲歩じゃろうし、 ここはひとつこれで手打ちというわけにはいかんかのう?」 「うー…………分かりました」 ルイズは憮然とした顔のまま咲夜の前まで来ると、手で何かを押さえつけるようなジェスチャーを数度繰り返す。 それが『しゃがめ』という事なのだと理解した咲夜は、足を曲げてルイズと視線を合わせる。 「さ、お嬢さま、準備は整っておりますよ?」 悪戯っぽく笑う咲夜を一瞬だけギ、と睨みつけ、ルイズは神妙な顔で「コントラクト・サーヴァント」の呪文を詠唱する。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・プラン・ド・ラ・ヴァリエール。 五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 短い詠唱の後咲夜の額に杖が置かれ、唇が重ねられる。全ての使い魔にそうするものらしいが、 ヌメっとしたカエルとか、ミミズを食べているようなモグラとか、 そういう奴の場合は不潔じゃないのかなぁ。と咲夜が考えているうちに、契約は終わったようだ。 ルイズが顔を離し、オスマンがうむうむと頷く。 「うむ、『コントラクト・サーヴァント』は上手く行ったようじゃな。 ミス・イザヨイ、身体に変わりはないかの?」 「そういえば、少し身体が熱いような……っ!?」 突如として体内に生まれたその熱に、咲夜は思わず己が身を抱く。 そしてその熱が収まると、咲夜の左手には不思議な文字の羅列が記されていた。 これが話に聞いていた使い魔のルーンというものなのだろう。 「なんだか家畜の焼印みたいですよね、これ」 「あながち間違っておらんところがなんともフォローしづらいところじゃのう。 ……しかし、これは見たことのないルーンじゃな。ミス・ロングビル、スケッチを取ってくれ」 左手をロングビルに預けながら、咲夜は新たに自分の主人となった少女を見つめる。 ルイズ・フランソワーズ・ル・プラン・ド・ラ・ヴァリエール。通称、『ゼロ』のルイズ。 魔法学院のあるこの国、トリステイン王国の王家に連なる貴族の娘だが、魔法がほとんど使えない。 自分を召喚した『サモン・サーヴァント』、そして先ほどの『コントラクト・サーヴァント』の呪文が唯一の成功例だという。 魔法を使えることが貴族の存在意義のような世界で魔法が使えないということは、彼女にとってどれだけ辛い事であろうか。 事実、ここ数日を見ているだけでも彼女がこの学園でどういう立場にあるのかは概ね理解できた。 この世界に居る少しの間だけでも、この少女を手助けするのも悪くはないだろう。 咲夜はそう結論付けると、スケッチが終わったのを確認してオスマンに声をかけた。 「そういえば、部屋の件はどうしましょう? いつまでもミス・ロングビルの部屋にお世話になるわけにも行きませんし」 「そうじゃなぁ。部屋を用意するにしても今すぐとはいかん。 ……そうじゃ、今日ぐらいはミス・ヴァリエールの部屋で休んではどうかの? 紆余曲折の末の契約じゃし、積もる話もあろう。よろしいかな? ミス・ヴァリエール」 「……まあ、いいですけど。ほら、いくわよサクヤ。 あんたにはこれから使い魔の役割って物をみっちり叩き込んであげるから」 相変わらず憮然とした表情で学院長室を後にするルイズと、その後を苦笑して追いかける咲夜。 しかし部屋を出る直前、咲夜が後ろを振り返り、ふいにその視線を鋭く尖らせた。 「――――次はありませんよ、オールド・オスマン」 今までとは全く違うドスの効いた声でそう言うと、咲夜は今度こそ部屋を後にする。 ロングビルが首を捻っていると、オスマンは冷や汗を一筋垂らしながら、ぽつりと呟く。 「今の眼つき、ホントに今度やったら殺されかねんのう……ミス・イザヨイにだけはやめておくか」 そう言うオスマンの視線の先、先ほどまで咲夜が立っていた場所にはいつの間にか床に深々と突き立った1本のナイフ。 そして、鼻先1サントに突き刺されたナイフに驚いて気絶しているオスマンの使い魔、ネズミのモートソグニルの姿があった。 トリステイン魔法学院、ルイズの部屋。 契約を済ませて部屋に戻ったルイズと咲夜は、椅子に腰掛け、テーブルを挟んで向かい合っていた。 「なんでこの私があんたみたいなのを使い魔にしないといけなかったのかしら……」 「それは貴方が召喚したからでしょ? こっちにとってもいい迷惑だって言うのに。 いい加減観念しなさい、子供じゃないんだから」 「ああもう、そんな事は分かってるのよ!」 バン、とルイズがテーブルを叩く。 咲夜はそんなルイズを見ながら優雅に紅茶の香りを楽しんでいる。 ルイズはそんな余裕に満ち溢れた様子が気に入らないらしく、ぎりぎりと歯軋りをしながら咲夜を睨みつける。 そんなルイズを尻目に咲夜は紅茶を音もなく啜り、テーブルに置くとルイズのほうを見る。 「な、何よ……」 咲夜の青い瞳に見据えられ、思わず居住まいを正すルイズ。 しかし、自分は貴族なのだ、ここは使い魔に負けてはならないとばかりに視線だけは咲夜を睨み返す。 そのまましばしにらみ合った後、咲夜が口を開いた。 「それで、今日貴方と使い魔の契約を済ませたわけなのだけど。 使い魔というのは具体的に何をするものなの? 主人の友人の方の使い魔は身の周りの世話をしたり本をとってきたり管理したりしていたけれど、 そう言った事をすればいいのかしら?」 「あ、ああ、そういうことね…… そうね、概ね間違ってないわ。もうちょっと細かいけど」 そうしてルイズは咲夜に使い魔の役割を説明する。 使い魔とは、主人を助ける為に『サモン・サーヴァント』によって召喚されるハルケギニアの生物である。 亜人が召喚される事はあるらしいが、咲夜のように人間が召喚された事例はなく、 要するに今のこの状況は異例中の異例であるらしい。 その為なのか本来使い魔に与えられるべき主人と視聴覚を共有する能力は使えず、ルイズを大いに落胆させる事となった。 また、使い魔は魔法の触媒となる物質を見つける役目もある。 咲夜はこの世界のそういったものについては知識がないが、図鑑などで調べて覚えれば可能であるだろう。 「そして最後の一つ、というか一番やらなきゃいけないこと。 それがご主人様、つまり私をその能力を持って守る事よ。……でも、メイドだし女の子だし、 なんか心配ね……無理なら私の身の回りの世話だけでも良いわよ?」 「ああ、要するにボディーガード兼召使、って事なのね。いつもやってる事とあんまり変わらなくて安心したわ。 ルイズ、私こう見えてもそういうのは大得意よ? 結構日常的にそういう事してたし。 私が仕えてるお屋敷の警備も私の仕事だったもの」 にこやかに言う咲夜に、口の端をひくつかせながらルイズが問う。 「……あんた、メイドなのよね?」 「ええ、紅魔館メイド長、十六夜咲夜。それが私の肩書きよ」 「……普通メイドってそう言う事しないと思うんだけど」 「だって周りが頼りにならないし、私が何とかするしかないじゃない? 基本的に問答無用な所だったし……」 そこまで聞いてルイズは一旦話を打ち切り、改めて咲夜に質問する。 「……とりあえず使い魔としてそこそこ使えそうだっていうのは分かったわ。 しかし、あんたって何者なの?」 「メイドだけど」 「いやそれはもういいから。メイドって事は平民でしょ? でもミスタ・コルベールのディテクトマジックでは反応あったみたいだし……親のどっちかが貴族だったりしたの?」 「んー……多分違うと思うわ。だって私、この世界の住人じゃないもの」 その返答にルイズは腕を組み、首を捻って唸る。 「それよ。この世界の人間じゃないって言うけど、それ、ホントなの? オールド・オスマンは信じてるみたいだけど……」 「本当よ。信じる信じないは自由だけど、事実に変わりはないわ。 私の世界は結界で区切られた世界だけど、その外の世界とも違うみたいね、ハルケギニアは」 咲夜はそう言うが、ルイズにはまだいまいち理解できない。 まあ無理もない。ハルケギニアの文明レベルは中世レベルであり、 咲夜の言う事はルイズにとって完全に理解の外であった。 そのうち考えてもどうにもならない、という結論に至り、ルイズは思索を打ち切り、溜息をつく。 「うーん……ま、いいわ。とりあえず使い魔の仕事はそんな感じね。 あと、洗濯とか掃除とか、雑用もして頂戴。本職なんだからできるでしょ?」 「その位だったらやってあげるわ。これからよろしくね、ご主人様?」 そう言い、咲夜はくすりと笑いかける。ルイズはぷいとそっぽを向くと、 「ふ、ふん、当たり前よ。手を抜いたら承知しないんだからね!」と顔を少し赤くしながら言った。 しかし、その顔はすぐに凍りつく事となる。咲夜が何気なく首を巡らせた先に、 咲夜を召喚した日から置きっぱなしにしてあった藁束があったからだ。 咲夜の眉が顰められ、半眼でルイズのほうに向き直る。 『何あれ。まさかアレが私のベッドじゃないわよね?』とでもいいたげな視線に、ルイズの胃がキリキリと痛む。 あれがかねてより使い魔のために用意していたベッドである事は間違いない。 召喚されるのは動物や幻獣だと思っていたし、まさか人間が召喚されるなどとは夢にも思っていなかったからだ。 片付けるのを忘れていたのも仕方ないだろう。人間が召喚された上に契約を拒絶した事に腹が立ち、 平民なんかここで寝ればいいんだわ! とばかりにそのままにし、忘れていたのである。 咲夜の視線が痛い。何も言わないのが余計プレッシャーとなってルイズにのしかかる。 どこかからマットでも借りてきてそこで寝てもらおうと考えていたが、 咲夜の表情を察するにそれも難しそうだ。どうしよう、キリキリと痛む胃を軽く押さえ、ルイズは悩む。 彼女の強さがどれほどのものかは分からないが、なんとなく怒らせるとやばそう。 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの16年生きてきた直感が、そう脳裏で警鐘を鳴らしている。 結局、その日はルイズのベッドで2人で寝ることとなった。 前ページ次ページ瀟洒な使い魔
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前ページ次ページゼロな提督 「そうか、アルビオンの艦で、火災が…」 トリステインの真の支配者とも噂され、鳥の骨と呼ばれるマザリーニ枢機卿が城の廊下 を歩いている。彼の後方からは何人もの小姓や侍女、それに騎士がついてきている。 魔法衛士隊の制服の上にマンティコアの大きな刺繍が縫い込まれた黒いマントをまとっ た騎士が報告を続けた。 「その後、両艦隊が挟み込み砲口を開くと『救助不要、自力消火可能』とだけ返答があっ たとのことです」 「ふむ、砲門を向けられた事には何も言わず、か」 「はい。潔く奇襲作戦は中止したようです。ですが軍内部からは、みすみす勝利の好機を 逃したと不満の声が聞こえます」 騎士は羽根飾りの付いた帽子を手にしながら、不服げに問いかける。羽根飾りが付く帽 子は隊長職を示すものだ。 ぞろぞろと部下を引き連れた枢機卿は、しばし黙って廊下を歩き続ける。 廊下の壁や柱には様々なレリーフが施されている。一定の間隔で薔薇を模した金の燭台 が並び、アーチを描く天井には妖精や幻獣をモチーフにした絵画が描き込まれている。絵 画の周りを縁取る額縁を模したレリーフすらも微細で華麗な彫刻だ。 冷たく磨き上げられた石の廊下を沢山の足音が進んでいく。 青地の上に鍍金したブロンズで装飾された壷が置かれたコンソール(壁に取り付けられ た机)の前で、枢機卿は足を止めた。 「ゼッサール、お主はどう思う?」 厳めしい髭面の男は、大きな体躯をちょっと縮めて考えを述べた。 「恐れながら、戦争を回避すべきという点は猊下と同意見です。 確かにゲルマニアとの同盟はなりましたが、それでもようやく艦艇数は同数。合同演習 も経ていない現状では連携も拙く、艦もアルビオンの最新鋭艦『ロイヤル・ソヴリン』級 に比べれば小型旧式」 枢機卿は壷に生けられた百合を愛でつつ、黙って騎士の言葉に耳を傾ける。 ゼッサールは話を続けた。 「確かに敵の奇襲に対し、さらに奇襲を仕掛ける事が出来れば、大打撃を与えた事は疑い ありません。ですが、我らもただでは済みませぬ。相応の被害は避けられぬでしょう」 「そうだな…まぁ、軍事的にはそんな所だ」 「また、小官としても姫殿下の婚儀を血に染めるような事は望みません。この点について は軍の主戦派でも意見が一致しています」 「そうか、それならよい。報告後苦労だった」 騎士は大きな体を90度近くまで折り曲げて礼をした。 マザリーニは窓から外をのぞく。 窓の向こうには朝日に照らされた城下町が見える。さすがに街の喧騒は届いてこない。 だが既に多くの人が大通りや中央広場に繰り出しているのが遠目にも分かる。 通りは色とりどりの布と花で飾られ、塔の上には一つ残らず旗が翻り、気の早い連中が 撒いた紙吹雪が風に乗って街の上を舞っている。 視線を下に向けて城内を見れば、グリフォン隊はじめ全騎士隊が、汚れ一つ無いマント を纏って行進の準備をしている。城の侍女達も走り回り、ヴィンドボナまでのパレード準 備に大わらわだ。四頭のユニコーンに引かれるアンリエッタ姫専用馬車も輝かんばかりに 磨き上げられ、朝日にキラキラと輝いている。 その時、廊下の向こうから、一人の衛士が丸められた羊皮紙を片手に駆けてきた。 「失礼します!立った今、ウィンプフェン領より早馬にて緊急報告がなされました!」 「ほう、何事か?」 枢機卿の堂々とした声に敬礼で答え、衛士は羊皮紙を伸ばして内容を高らかに読み上げ た。だが、その報告を読み上げるうちに、衛士の声はどんどん小さく自信のないものへと 変わっていった。 「今朝未明、ウィンプフェン領北西にて謎の落下物が多数発見されました!それは…え? えと、…焼け焦げた、巨大な金属の壷や樽…の様なもの、とあります。その表面には解読 不能な文字と、意味不明の絵が多数記され、それらは恐らく一つの物体がバラバラにされ て壊れたものと推測される、との事です。 あまりに巨大かつ信じがたい程の重量物のため、多数のメイジが『レビテーション』を 使用しても移動させる事は不能。ただ、それらをつなぎ合わせた場合、全長100メイル程 の金属製の筒のようなものになる、と想像される…。 枢機卿におかれましては、急ぎアカデミーによる調査を依頼したき所存。 …報告、以上であります!」 衛士は報告を終え、一礼した。 報告を聞いていた枢機卿とゼッサールは首を捻る。 「猊下、一体何なのでしょう?」 「ふむ、分からんな…ウィンプフェンには、婚儀が終了次第アカデミーより調査隊を派遣 するので現場を保存せよ、と伝えよ」 「はっ!承知致しました!」 衛士はもと来た方へ走っていった。 「何かは分からんが、まぁ、婚儀の後だ」 隊長は小さく頷いた。 マザリーニは窓の外へ視線を戻し、もうすぐ始まる婚礼パレードの準備が進む外の風景 を見渡す。 「戦争は誰も幸せにせぬ」 やせ細り老け込んだ男の小さな呟きは、周囲に控える誰の耳にも届かなかった。 第23話 ロイヤル・ウェディング 城の正門前、豪奢な馬車が次々やって来て、重々しく着飾った人々を吐き出していた。 ルイズ達が乗る馬車も赤絨毯の前に停車した。 「ふぅ~、やっと着いたわ」 ルイズは手足をうにぃ~っと伸ばす。 「さ、それでは参りましょう!」 シエスタはルイズのドレスや髪飾りを手早く整える。 「いやぁ、緊張するなぁ。ルイズのお母さんにお姉さん達か、失礼の無いよう気をつけな いとね」 ヤンの言葉にデルフリンガーがツバをカチカチ鳴らす。 「まったくだぜ!おめーはちょっと抜けてる所あるからな、ピシッとしなよ!」 「そーね、デルの言うとおりだわ。気をつけなさいよ!」 「ふわぁ~い」 ヤンも着慣れぬ燕尾服に窮屈な思いをしつつデルフリンガーと荷物を手にする。 三人と長剣一本が馬車を降りると、赤絨毯の両脇にはズラリと衛兵が整列していた。 赤絨毯の向こう、城の中には華麗なドレスや煌びやかな宝石で着飾る婦人達が見える。 それをエスコートするのは豪華なマントをまとう美髯の紳士達だ。 衛兵達の後方で何十人もの楽団がクラシック調の音楽を奏で、来訪者を迎えている。 見上げれば城も、城壁には国旗が掲げられ、色とりどりの花が飾られ、そこかしこから 楽士の奏でる陽気なメロディが聞こえてくる。 朝靄が立ちこめる早朝、城から来た迎えの馬車に乗り込んだ一行。 同じくトリスタニアへ向かう人々の群れや、彼等を目当てにした露天商や、街道を警備 する兵士達を横目に見つつ、ようやく城へ到着した。何しろ国中から見物人の平民達や婚 儀に参加する貴族達と豪商の馬車が城と城下町へ向かう。警備もハンパではなく、街道は 大混雑だ。 道中ヤン達は「んもー!早く着かないと式典に遅れちゃうじゃない!」とカリカリする ルイズをなだめっぱなしだった。 そんなルイズのお守りからようやく解放されたヤンは、ルイズの後ろをついてフカフカ の絨毯を踏みしめて城の中へと歩いていく。 大きく頑丈そうな扉をくぐり城の中へ入ると、豪奢で優美な紳士淑女の方々が上品に歓 談していた。よく見ると魔法学院の生徒や教師もちらほらと見える。ヤンは壷や絵など、 城内の飾り付けに目が釘付けだ。 扉をくぐった正面玄関ホールの壁には、天井から大きな絵が幾つも下げられていた。 「…?」 天井から下げられている絵をジッと見るが、何か妙な感じがする。沢山の花で飾られた 額縁に入った絵なのだが、何かおかしい。現実味がない。 物珍しげに周囲へ目を奪われてるヤンに、ルイズが眉をしかめて振り返る。 「ちょっと、ヤン。何キョロキョロしてるの?」 「え?あ、うん。あの絵なんだけど、額縁が…あれ?」 ヤンの背の長剣がピョコッと飛び出た。 「おいおい、何言ってンだよ。ありゃ額に入った絵じゃねーよ。タペストリーだ」 「え?」 ヤンは足を止め、天井から下げられ壁を飾っている絵をよく見てみる。 それは馬に乗って猟場を進む騎士と貴婦人の絵で、その絵の周囲には額縁があり、額縁 周囲を花が飾っている…という絵が描かれた特大タペストリーだった。よく見ればその他 の天井から下がる絵も同じくタペストリー。 「へぇ~、絵と額縁と飾りの花束までが一つの絵なんだ」 「ええ、面白いでしょ?」 急に右から声をかけられた。 ヤンが横を見ると、ピンクの長い髪に鳶色の瞳を持つ女性がとろけそうな微笑みを浮か べている。 「あれはフィヨー・ド・サン=マルタスの『猟場の伯爵夫人』、その横が『アモールの武 器を取り上げるレクジンスカ』。ここに下げられているのは全部で一つの連作なのよ」 「ちいねえさま!」 喜びに顔を輝かせたルイズが女性の胸に飛び込んだ。 ルイズそっくりながら、穏やかで優しい雰囲気と丸みを帯びた大人の女性の空気をまと う女性がキャッキャとはしゃぎながらルイズを抱きしめる。 しばし抱き合っていた二人だが、ようやく女性がルイズを離しヤンとシエスタを見た。 「まぁまぁ二人とも、みっともない所をお見せしましたわ」 そしてヤンに寄ってくる。 ヤンは胸に手を当て恭しく礼をした。シエスタもメイド服のスカートをつまむ。 「初めまして、カトレアお嬢様。私はヤン・ウェンリーと申します」 「お初にお目にかかります。シエスタと申します。先日ミス・ヴァリエールにメイドとし て雇用されました」 自己紹介をされたカトレアもスカートの裾をつまんで礼をした。貴族が平民に礼をする という行為に、二人はギョッとしてしまう。 「初めまして。私はルイズの姉のカトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ ラ・フォンティーヌです。妹がお世話になっておりますわ」 「フォンティーヌ?」 ヴァリエールじゃないの?と、ヤンの頭上にクエスチョンマークが飛び出た気がする。 ちょっと失礼な使い魔のリアクションにもカトレアはニッコリ笑って答えた。 「私は魔法もろくに使えないほど病弱で、ヴァリエール領からも出た事が無いの。領地を 出たのは今回が初めてよ。父さまは、そんな私を不憫に思って領地を分け与えて下さった の。 だから正確にはヴァリエール家じゃなくて、フォンティーヌ家の当主になりますわ」 「それは、知らぬ事とはいえ失礼しました」 ルイズとは似ても似つかぬ穏和で寛容かつ謙虚な対応に、ヤンは心から恐縮して頭を下 げた。 カトレアは頭を下げるヤンに歩み寄り、優しく手を取った。 「そんなにかしこまらないで下さいな、先生」 「せん…せい?」 ヤンも、横で聞いてるルイズもシエスタもキョトンとしてしまった。 「あの、ちいねえさま。ヤンは先生じゃないんだけど」 カトレアはコロコロと楽しげに笑う。 「あらあら!もう話は広まっていますよ。ルイズが使い魔を呼ぼうとして、うっかり異国 の元帥にして軍最高司令官を教師兼軍師として召喚したって」 「げ、元帥って…」 ルイズとヤンは冷や汗をかいていた。シエスタはヤンの顔を黙ってジッと見る。 ルイズは、噂に尾ひれ背びれがついたわねぇ…と呆れて。 ヤンは、何故バレたんだ?自分の正確な地位や階級は誰も知らないはずなのに、もしか してつい最近、他にも『迷い人』が現れたのか!?、と。 ヤンの階級は元帥。宇宙暦799年に同盟軍史上最年少の元帥に昇進している。地位は、 最終的にはエル・ファシル独立政府の革命軍司令官でありイゼルローン要塞司令官であり イゼルローン駐留艦隊司令官。同盟軍所属時代は第13艦隊司令官であり、1艦隊の司令 官に過ぎない時期もあった。軍の正式な最高司令官になったのは、エル・ファシル独立政 府に所属して以降で宇宙暦799年の12月(文民統治の形式上、エル・ファシル政府主席 ロムスキー氏が軍事委員長という上官の地位にあったが)。 ちなみにハルケギニアでの現在の暦は宇宙歴換算だと、宇宙暦800年の8月辺り。もっ とも、召喚による時空転移時に時間軸がずれた可能性もあるので、正確なところはヤンに は分からないが。 つまり、ヤンが元帥であり軍最高司令官だと分かるには、少なくとも宇宙暦799年以降 にハルケギニアへ転移してこなければならない。 そんな期待と不安が入り交じるヤンの脳裏に、続けて別の女性からの声が届いた。 「あなたは先日、父さまに二つ名を名乗ったわね?『2秒スピーチ』と」 その棘のある女性の声に、ヤンは聞き覚えがあった。ルイズも緩んでいた頬が一瞬で引 き締まる。 「え、エレオノール姉さまも。お久しぶりです」 「久しぶりね、元気そうで何よりだわ」 そこには理知的かつ厳しそうな瞳に公爵と同じブロンドを持つ長身の女性、エレオノー ルが歩いてきていた。 縮こまりながらも挨拶をするルイズに、エレオノールは一瞥をくれるのみ。 そしてメガネ越しに鋭い視線をヤンへ投げつける。 その刺すような目に、ヤンも腰がひけそうになるが、なんとかこらえて頭を下げる。 「お久しぶりにございます、エレオノール様。…確かに私は公爵に、かつて私が『2秒ス ピーチのヤン』と呼ばれていた、と語りましたが、それが、な、に…か?」 ヤンは質問をしながら、自分が余計な事を言ってしまった事に気が付いた。二つ名が『2 秒スピーチ』とは、どういう事か。 まず、スピーチをしなければならない公的地位にある。 2秒でスピーチが終わるなんて通常有り得ない、非常識だから二つ名になる。 規律を重んじる軍で、しかも政府や軍の式典で、非常識なスピーチは普通できない。 非常識な事が出来るのは、当人を軍規や法規をもって諫める人物がいないということ。 つまり階級も地位も最高位か、それに匹敵する実力が必要。 そして、この二つ名は嘘やジョークにしては迂遠過ぎる。真実の可能性が高い。 規律ゼロの私兵集団の首領とかには見えない。それだけはない。荒くれ者を束ねるどこ ろか、逆に締め上げられそうだ。 エレオノールがビシィッとヤンを指さした。 「…つまり!あなたは『ふりーぷらねっつ』とか言う国の、軍最高司令官ね!階級も最高 位の元帥!!」 ルイズとシエスタは一瞬呼吸が止まる。そしてヤンを見上げる。 小さな主のグータラ執事は、見ていて目を覆いたくなるくらいオタオタしていた。 「まぁまぁ。凄いんですねぇ」 カトレアは朗らかに手を叩いていた。 「おでれーたな!マジなのかよ、ヤン!」 長剣は鞘から飛び出さんばかりの勢いで飛び出した。 油を絞られるガマのようにダラダラと汗を流したあげく、ガックリと肩を落とした。こ こまでの狼狽を見られてしまっては、白状したのと同じだと諦めるしかなかった。 「そ、そんな大層なモノじゃあ、無いんです…負け戦が続いて、国も滅んで、不正規隊と いうか独立愚連隊というか、敗残兵を連れて逃げ回ってただけですから」 それでもヤンは、必死に『真実』を語る。 ハルケギニアでは『平民が最高司令官』なんて信じてもらえないと思っていた。第一、 故郷に帰れなくなってしまったが、ようやく軍から身を引いて平和な生活が出来そうでも あった。せめてこのまま平穏な生活を続けたかった。うっかり再び軍に放り込まれては、 たまったものではない。 第一、負け戦だったのは本当だ。といっても、敗北が決定してから指揮権を譲渡された り、ヤンが戦術的に勝利したが政府が戦略的に敗北した、という様な話なのだが。 そんなヤンの内心を知ってか知らずか、エレオノールは腕組みしてウンウン頷いた。 「当然だわ。その若さで、しかも覇気の欠片もない鈍そうな平民が指揮するとあっては、 負けて当然でしょう。『ふりーぷらねっつ』とやらも、大した国では無かったんでしょう ね」 かなり酷い事を言われたヤンだが、怒るどころか「ええ、まぁそうなんです」と、情け なく愛想笑い。その様にルイズもシエスタもデルフリンガーも「なーんだぁ」「うーん、 やっぱりそうですよね?」「はは、まぁそーだろーよ!」と呆れてしまった。カトレアだ けは変わらぬ笑顔でヤンを見つめている。 「さて、そんな余談はよいのです。父さまも母さまもお待ちですわ。行きますわよ!」 毅然とした態度で先導するエレオノールに連れられ、一同は城の奥へ向かった。 そんなルイズ達を城の入り口から見つめている二対の青い瞳がある。 警備の兵士が青い瞳と青いドレスの二人組の所へ駆けてきて敬礼する。 「失礼致しました!ガリアからの大使と確認できましたので、お通り下さい!」 青いショートヘアの少女と青く長い髪の女性は城の中へと入っていた。 敬礼した兵士に、別の衛士が胡散臭げに小声で声をかける。 「おい、なんだい?あの二人組」 「ガリアの大使。ちゃんと招待状持ってた」 「…あれが?どうみてもお上りさんの田舎者と、その妹だよな」 「でも、あの青い髪はガリア王家の特徴だ」 そんな怪訝な視線を背中に受けつつ、青く長い髪の女性はキョロキョロとせわしなく周 囲を見回り、ウロウロしようとしたところを妹らしき人物に杖で叩かれていた。 国中の貴族とその配下達でごった返す城の中、ヴァリエール家には控え室が用意されて いた。勢揃いしたヴァリエール家の面々を前に、執事のジェロームが式典の予定を説明し ていた。 「・・・でして、これより正面ホールにて陛下が全貴族に対し詔が賜られます。 その後姫殿下はベアトリス殿下と共に、馬車にてブルドンネ街を通りまして、中央広場 のサン・レミ聖堂へ向かわれます。 聖堂で大司教より道中の安全祈願と婚礼への祝福を受けましてから、ゲルマニアへと向 かわれます」 上座の肘掛け椅子に鎮座する公爵と公爵夫人、そして三姉妹が和やかな空気の中で執事 の話を聞いていた。シエスタとヤンは他の執事や召使い達と共に壁際で立っている。白の 鎖編みで刺繍された青い布地と、金の装飾がなされた立派な肘掛け椅子に座る公爵夫妻。 その威厳は相当なものだ。他者を常に傅かせてきた支配者階級のオーラを全身に纏ってい る。 特に公爵夫人のオーラが苛烈だ。 炯々とした光を湛える鋭い眼光を持つ、四十過ぎの女性。髪は桃色だが、纏うオーラの 色は桃色からはほど遠い。金色か、焼け付くような熱を帯びた白だろう。エレオノールを 遙かに上回る威圧感を放っている。 とはいえ、目出度い婚儀を前にして、さすがに夫妻の表情は柔らかかった。水辺で戯れ る白鳥がデザインされた銀のワインクーラーで冷やされたワインをグラスに注がれ、ゆっ たりとくつろいでいる。 「さて、式典の席の事だが」 公爵が低いバリトンの声を響かせた。 「残念ながら、トリステインの全貴族が出席出来るような広さは、城の大ホールにも聖堂 にもない。なので出席者は厳選せよとのお達しだ。それとカトレアは身体の事もあるし、 エレオノールはアカデミーの仕事がある。領地も空にはできん」 カトレアは僅かに頷く。エレオノールはクイとメガネをかけ直す。 「このため、大ホールにはエレオノールとカトレアが出席せよ。その後エレオノールはカ トレアを屋敷へ送れ。後はアカデミーに戻るがよい」 「承知致しました」「エレオノール姉さま、お願いしますね」 年上の姉二人はすぃっと頭を下げる。 公爵は顔を見合わせる姉二人から、視線をルイズへ移す。 「聖堂へはわしとカリーヌ、それにルイズが出席する。その後はヴィンドボナまで馬車の 旅だ」 「分かりました。ゲルマニア旅行、楽しみですわ!」 はしゃぐルイズはカリーヌの峻烈な眼光に射抜かれ、即座にしゅん…となった。 次いで婦人の眼光はヤンを射抜く。 ヤンは一瞬で手に平に汗をかいてしまった。 「ウェンリー、とやら」 「は、はい」 背筋にも冷たい汗が流れるのを感じる。 「そなたのもたらしたダイヤの斧、見事な逸品でした」 「恐れ入ります…そういえば、アカデミーに送られてからはどうなりましたか?」 その言葉に、エレオノールが胸を張った。 ヤンの横に立つシエスタの目は、その胸が詰め物だと見抜いてしまったが、そんな事は 長女の知らぬ事。 「もちろんダイヤの取り外しに成功しましたわ!まったく、『ブレイド』ですら切れぬの で苦労したわ。一ヶ月かけて、極微小の『錬金』で接合部を切り離しました。 彫金師に送った後の事は良く知らないのだけれど、確かティアラにしたとか」 自慢げに語るエレオノールだったが、あれが実際に血にまみれた斧だと知ってるヤンに とっては複雑な想いだ。そんなものを頭上に戴いて不吉じゃないかなぁ、と。しかもその 血は麻薬で汚染された地球教徒のもののはず。 「まだ何か聞きたげだな?」 ヤンの様子に公爵が不審を感じたらしい。さて、まさか今頃になって血濡れのティアラ です…とも言えない。別の事を聞く事にした。 「あ、いえ、実はアルビオンの親善艦隊はどうなったのか、と…」 「ふむ、それか。それなら・・・」 公爵は皆に先日のラ・ロシェール上空での一件を語った。内容は枢機卿が受けたものと 同様。 ヤンもルイズも真剣に話を聞く。 聞き終えたルイズは誇らしげに胸を張った。 「どうやら本当に奇襲をかけようとしていたようですね!礼砲で艦が撃沈だなんて、自作 自演にしても程度が低すぎるわ!」 ヴァリエール家の人々も、まったくですわね、お手柄ねぇルイズ、等にそれぞれの感想 を述べ合う。 そんな中、ヤンだけは顎に手を当てて考え込んでいた。 「あ…いえ、待って下さい」 末娘のお手柄を率直に褒めていた公爵夫妻も姉たちも、他のメイドや執事もヤンへ視線 を集中させた。 「彼等は、砲口を向けられた事について何も言わなかったんですね?その点を逆に非礼だ と咎める事も出来たのに」 「うむ。奇襲作戦を中止する以上、奴等は単なる親善艦隊であり大使一行だ。外交関係を こじらせないため当然の事と思うがな」 公爵の判断は、枢機卿と同一のものだ。特に不審な点はないように思える、と公爵婦人 も三姉妹も考えていた。 だが、ヤンはますます考え込んでしまう。 奇襲作戦のために不可侵条約締結を謀る連中。貴族ではないため名誉に拘らず、故に策 謀を躊躇わぬクロムウェル…。かの新皇帝の人となりから見て、僅かな矛盾を感じてしま う。 「素直、過ぎませんか?」 「素直、過ぎる…とは?」 ヤンの質問に、公爵は質問で返した。 「はい。まるで、奇襲作戦を見抜かれている事が前提かのように、あっさりと手際よく作 戦を中止させています。そのわりに艦には火を放ってます。まるで、中途半端にこちらの 情報を得ていたかのようです」 「口を慎み給え」 ヤンを窘めたのは、ジェロームだった。 「君が言ってるのは、トリステイン城内に裏切り者がいる…という事だね?」 「はい」 何のためらいもなく肯定したヤンに、ジェロームの方がたじろいだ。 「し、新参者としての謙虚さが欠けるようだ。恐れ多くも城内に王家へ弓引く者がいるな どと。しかも、単なる憶測ではないか!」 「ジェローム。あなたも口が過ぎますよ」 今度は公爵夫人がジェロームをたしなめた。恐縮して一礼する古執事から、飄々とした 態度を崩さない新執事へ視線を移す。 「ウェンリーよ。あなたもゆえなく他者を貶めるがごとき言葉、慎みなさい」 「失礼致しました」 ヤンも深々と頭を下げる。 だが、今度は公爵が髯を撫でながら考え込み始めた。 「ふむ…かのレコン・キスタは国境を越えた繋がりを持つ。始祖への信仰心から、いつま で経っても『聖地奪還』に動かぬ王家に業を煮やした貴族や僧侶が…という事は十分考え られる事だ。 それに、貴族の地位を剥奪され平民に堕とされたメイジや、家名が低く領地も無い故に 日々の糧にも事欠く下級貴族はトリステインにとて多い。金に目がくらんでも不思議はな い」 ルイズもヤンもシエスタも、聖地奪還という言葉に眉をしかめる。聖地が厄災の元だと 知っているものの、それを公にする事も出来ないもどかしさを感じてしまう。 「まぁ、とはいえ、誰が裏切り者かまでは分からぬであろう?」 「はい、残念ながら。 それに諜報活動は政戦両略の基本です。城内かどうかはともかく、トリステイン国内に もゲルマニアにもアルビオンの間者や協力者がいる事は当然でしょう」 「そうだな。 それに、既に危機は去ったのだ。もはや同盟はなり、ラ・ロシェールにはトリステイン とゲルマニアの両艦隊がいる。両艦隊はゲルマニアへ行き、合同艦隊パレードをヴィンド ボナ上空で繰り広げる予定だ。 アルビオン艦隊も大使のサー・ジョンストンを降ろして、すぐにアルビオンへ帰ってい る。その大使とて、艦隊司令長官及び貴族議会議員の政治家ではあるが、貴族一人に警護 数名。伝令用の風竜を一騎連れているくらいだ。 この状況で、奴等に打つ手はなかろう。当面は我が国は安泰だ」 「そうですね…確かに、純軍事的にはアルビオンは手詰まりです。建国して間もなく、国 内も外交も急ぎ安定させねばならない時期ですから、しばらく軍事侵攻はないでしょう。 ですが、次の策略を既に考えてあるから、礼砲による撃沈という演技をあっさり諦めた ということも考えられなくはないです」 次の手、と口にしたヤンにはさしたる意味は無かったかもしれない。単に可能性の問題 としてあげたのだろう。 が、ヴァリエール家の人々はそれぞれに多様な反応を示した。 カトレアは「あらあら、先生は心配性な人ですねぇ」と少し困った顔をする。 エレオノールは「ふん、よく舌のまわる狐だこと!」と露骨に嫌悪を現した。 公爵夫人は黙ってヤンを見つめている。射抜くような眼光はそのままに。 ルイズはちょっと頬を膨らませる。目出度い婚儀の席で余計な事言わないでよ、という 感じだ。 公爵は一言、「続けよ」と命じた。 ヤンが小さく一礼し、さらに話を続けようとしたところ、部屋の扉がノックされた。城 の侍女が「失礼します。時間ですので、正面玄関ホールへお越し下さい」と告げる。 公爵はゆっくりと優雅に立ち上がった。 「ふむ。興味深い話ではあったが、もう時間がない。ウェンリーよ、念のために聞くが、 おまえの懸念は切迫したものか?」 「いえ。可能性としては極めて低いものです」 「ならば、またにせよ。ともかく、姫殿下の婚儀だ!皆、粗相のないようにな!」 一同は公爵の号令を受け、貴族の威厳と風格をもって部屋をあとにした。 前ページ次ページゼロな提督
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前ページ次ページゼロな提督 『ようこそタルブへ 道に迷った人は、オイゲン・サヴァリッシュをお尋ね下さい』 タルブの村の前、立て札にはそう書いてある。 内容は、オイゲン・サヴァリッシュという人が道案内をします、というだけ。タルブ村 の案内役の広告に見える。 ただ、問題はいくつかある。 ここが、どうやっても道に迷いそうにない村だということ。もう一つは、『ようこそタル ブへ』部分はハルケギニア語で書かれてるが、『道に迷った人は、オイゲン・サヴァリッシ ュをお尋ね下さい』という部分は銀河帝国の公用語で書かれている事。 これが示す事実、それはこの村にヤンやヨハネスの如く異世界から来た人がいるという こと。そして、その人は同じ世界から来た人に何らかのメッセージを送ろうとしているこ と。 そして、ヤンが知る限り、ヤン以外にハルケギニアへ来た異世界の存在は二つ。 一つは30年前、ヨハネスが乗車していた装甲車。ほとんどの乗員はエルフとの戦闘で 死亡。生き残ったヨハネスもオスマンの前で死去。 そしてもう一つは60年前、聖地から西へ飛び去った飛行物体。 ならば、この村にいる人物とは・・・。 第十八話 タルブ ヤンさーんっ!みなさーんっ! 遠くからヤン達を呼ぶ声がする。 村の方を見ると、草色の木綿のシャツに茶色のスカート、それに木の靴を履いたシエス タが手を振りながら笑顔で駆けてきていた。 「はぁっはぁ…お久しぶりです!ずっと待ってましたよ」 シエスタは、ヤン達の姿を見ると、笑顔がだんだんと真顔に変わっていった。 村の入り口の立て札と、顔を強張らせるルイズ達の間で視線を往復させる。何より、シ エスタを凝視するヤンを。 ヤンの半開きな口から、呻くように声が漏れる。 「・・・オイゲン・サヴァリッシュ・・・」 瞬間、シエスタの表情が変わった。 ヤン達が予想したのは驚きの表情。 だが、シエスタが実際に示した表情は、満面の笑顔。 「はいっ!曾祖父の名です!」 シエスタではなくヤンの顔が驚愕へと変化した。 「まさか…君は、最初から、全部知っていたのか!?」 「いえ、そんな事はないですよ。でも、曾祖父と近い国から来た、という事は気が付いて ました」 あんぐりと口を開けたヤン達に、シエスタは微笑みながら話し続ける。 「覚えてますか?ヤンさんが召喚された時、血で汚れて穴が開いた服を着てましたよね? 洗濯して穴を繕ったのは私達メイドですよ。その時、あなたの服に書き込まれていた文字 は、曾祖父が教えてくれた文字と沢山の共通点がありました。だけど、読めはしませんで した。 その時に気が付いたんです。ヤンさんは曾祖父の故郷と近い場所から来たんだって」 ヤンもルイズもロングビルも、二の句が継げなかった。 「お、おでれ~たぁ~」 デルフリンガーだけが継ぐ事が出来た。 「ただ、サヴァリッシュの掟で、その事実を部外者に語る事は許されませんでした。だか ら、その時点ではヤンさんにも話す事は出来なかったんです。 でも、その立て札を読めたなら話は別です。曾祖父の遺言ですから」 ヤンは、始祖ブリミルを呪う事にしていた。もし会ったらブラスターで穴だらけにして やると誓っていた。だが、もうそんな気すら失せてきた。 怒りを通り越して、呆れた。 一体、始祖ブリミルというのは偉人なのかバカなのか、意地悪なのか親切なのか。 ここまでご丁寧に、学院へ虚無の手掛かりを集めた上に、ヤンと同じ被召喚者の関係者 まで呼び寄せているとは。こんなもの、偶然なハズがない。明らかに故意だ。始祖の強大 な魔力によって仕組まれた運命の糸に、全てが引き寄せられたのだ。恐らくルイズは本当 に『虚無』の系統なのだ。 理由は薄々、予想が付く。強大な『虚無』の使い手に施された安全装置を、しかるべき 時期に「指輪と王家の秘宝」と接触させて解除しなければならないからだ。 これがティファニアのように王家の者であれば問題はない。自然と指輪にも秘宝にも触 れるだろう。だが、ルイズは王家に生まれなかった。このままでは指輪にも秘宝にも触れ る機会がない。 だから学院に全てを呼び寄せたのだ。明らかに物理法則を無視した『錬金』『召喚』すら も可能とする魔法。その起源たる始祖の力なら、この程度の網を数千年前から組む事すら 不思議ではないと認めるべきだ。 だが、だったらなんでこんな回りくどいやり方をするんだ!?おかげでどれ程の人がと んでもない迷惑をこうむっていると思うんだ!? と、ヤンは力の限りに文句を付けずにはいられない。 そんなヤンの煮えくりかえり過ぎて焦げ付いたはらわたに気付かぬように、シエスタは 話を続けた。 「その立て札を見て分かる通り、曾祖父は『自分と同じ国から来た人がいれば助けたい』 と話していたそうです。立て札の下の文は、『同じ国』から来たかどうかを見分けるための ものなのですよ。 そして、曾祖父の言葉は村の掟そのものです。この村に、曾祖父の言葉に逆らう者はい ません」 その言葉に、ようやくヤンは再び声を絞り出す事が出来た。 「それじゃ…まさか、君が、僕に、お茶の入れ方とか、洗濯の仕方とか、色んな事を教え て、くれたのは…」 「エヘヘ…サヴァリッシュの掟、というか教えなんです。ヤンさんのような異邦人には親 切にしてあげなさいっていう。おまけに曾祖父と近い国から来た人でしたから、多分曾祖 父と同じような苦労をしてるだろうなぁ、て」 ちょっと恥ずかしげに俯きペロッと小さな舌を出すシエスタ。 だがヤンには、そんな仕草を可愛いと思うような余裕はなかった。 「それじゃ!この、道に迷ったら尋ねてきなさいって!?僕に、何を伝えようと!!」 彼らしくない剣幕で詰め寄るヤンに、シエスタは笑顔を少し引きつらせてあとずさって しまう。 「あ、あの、その辺は村に言ってからしませんか?実は、ヤンさんの事は、恐らく村全体 にとって重要な話になると思うんです」 「分かったよ。すぐ行くよ!」 ヤンとシエスタは足早に村へと向かう。 取り残されたロングビルとルイズは、慌てて二人を追いかける。「こらー!俺を忘れてく なー!」というデルフリンガーの叫びを残して。 タルブの村は、見た目はごく普通の村だ。 ワインが特産というだけあって、山の斜面にはブドウ畑が延々と広がっている。その山 に囲まれた平地には緑の海のような草原が広がる。山の上にはちらほらと、オレンジ色の 屋根と白い壁の民家が見える。その麓には醸造所らしき、尖った屋根を持つ大きめの建物 も建っている。 ただ、それぞれの家は少し大きく、立派そうに見える。村の柵や道も整備が行き届いて る。なかなかに裕福らしい。 ヤン達がシエスタに案内された村の中心、広場では村長らしき初老の男が待っていた。 そして周囲の民家の間、窓から顔を出す人、家の前に並べた椅子に座る老婆が一行をみつ めている。彼等の視線は、明らかにヤンへ集中している。それは好奇心、疑惑、そして敬 意。だが表だって動こうとはしない。 村長が緊張した面持ちで一行の前に立った。 「初めまして、私はワイズと申します。このタルブ村の村長をしております」 村長は、貴族であるルイズやロングビルへ礼をする。だが、その視線だけは明らかにヤ ンへ向かっている。 そしてルイズにもロングビルにも、村長の貴族に対する非礼を気にしなかった。二人も ヤンへ視線を向けていたからだ。 彼は、村長の前に進む。 「初めまして、ヤン・ウェンリーです。こちらのミス・ヴァリエールの…執事見習い、を しています」 使い魔、と言わなかったのは彼のこだわりであり、人としてのプライド。 そのわりに「見習い」と言うのは気にしない。 「失礼ですが、村長の名は、本当はワイズ・サヴァリッシュですか?」 ヤンの問に、白髪混じりの村長は首を振った。 「平民ですので、家名はありません。この村の恩人たる父、オイゲン・サヴァリッシュも 生涯オイゲンとのみ名乗りました。この村で平凡な平民として暮らすため、父は家名を捨 てたのです」 「で、では、オイゲンという人は、一体どういう人物なのですか!?ここで何をしたので すかっ!?」 詰め寄るヤンを、ワイズはまぁまぁとなだめる。 「それについては長い話になると思います。ですので、まずは宿を決め荷物を運んでくる としましょう。では、シエスタよ」 「はい。ジュリアンに荷物を運ぶよう伝えて来ます。皆さんは、私の家でお泊まり下さい な。大したおもてなしは出来ませんけど、精一杯歓迎しますね!」 そう言ってシエスタは広場の隅で遠巻きに眺めていた子供達を呼び寄せ、その中の年長 らしい男の子に荷物を運んでくるよう言いつけた。彼がジュリアンなのだろう。兄弟らし き子供達は村の入り口へと飛んでいった。 そして一行はシエスタの家へと案内された。 ただの民家、というには少々大きく立派な家だった。シエスタを長女とする八人兄弟を 含め、サヴァリッシュ一族が十分に暮らせる広さを持っている。ルイズとロングビルに一 部屋、そしてヤンが泊まる部屋と、二部屋の余裕があるくらいだ。家に並んで立つ倉庫ら しき建物は恐らく、ワインの樽が並び、ワインの瓶を収める瓶架台と木箱が詰まっている 事だろう。 屋根も壁も綺麗で、ベッドも白く清潔なシーツをひいてある。使用人がいても不思議な い、というくらいだ。でもそういう人物は見えない。シエスタが学院でメイドをしている のだから、そこまでの富農ではないのだろう。 家のキッチン、というか食堂では家族がズラリと待っていた。 主人とおぼしき男が礼をする。 「ようこそいらっしゃいました。まさか、祖父が待ち続けた『迷い人』が、本当に来ると は…娘から聞かされた時には、全く驚かされました」 今度は明らかに無視された貴族二人は、やっぱり非礼を咎める気が湧かなかった。 ヤンも深々と礼をして、ルイズとロングビルを紹介する。ここでようやく主人は「おっ と、これは失礼しました」と二人に礼をする。 ハルケギニアの支配者階級であり、魔力を持たぬ平民の村人にとっては畏怖の対象であ るメイジすら失念させるサヴァリッシュと『迷い人』。その存在について、皆一様に疑念と 期待と好奇心を隠しきれない。 荷物を運び込んでもらった一行は、特にヤンは即座に部屋を飛び出した。置いて行かれ た事にブツブツと不満を呟くデルフリンガーを背負って。 家の前に立つ一行を見て、シエスタはちょっと困った顔をする。 「あの、この話はヤンさんにのみ、したいのですが…」 ルイズが肩をいからせて抗議する。 「何言ってンのよ!ヤンは私の執事であり、使い魔よ。主と使い魔は一心同体、ヤンの秘 密は私の秘密!」 ロングビルも鋭い視線でシエスタを睨み付ける。 「あたしらはもう、ヤンについて色々と知りすぎたのさ。今さら無関係と言われても通じ ないよ」 だが、ヤンはデルフリンガーを背から降ろし、ロングビルへ差し出した。 「ちょっちょっと待てよ!俺にも聞かせろよ!!」 だがヤンは、怒りと悲しみと不満で塗りつぶされた二人と一本に、強く言い聞かせる。 「これは、僕だけじゃなく村の秘密でもあるんだ。話が終わるまで、待ってて欲しい。話 せる事は後で僕から話すよ」 思いっきりふくれっ面なルイズ達を残し、シエスタとヤンは村を後にした。 山の斜面を埋め尽くすブドウ畑の中を、二人は歩いていた。 先を歩くシエスタが遠く見つめる先には、山の裾野から広がる草原がある。 「この草原、綺麗でしょう?ひいおじいさんは、この草原の彼方から、ふらりとやってき たんです」 そして視線を山並みへと移す。延々と続く、規則正しく並んだブドウの木が並ぶ斜面へ と。 「ひいおじいさんは、本当に変な人だったそうです。 文字をスラスラと読める学があるのに、厠の使い方が分からなかったり。 酔った荒くれ者を片手で投げ飛ばす腕っ節の元兵士なのに、馬に乗れなかったり。 町の商人が出来ない程の複雑なお金の計算を、あっという間にする方法を知っていて、 火を扱う方法を知らなかったり。 何より、メイジや魔法に関して、全くの無知でした。 つまりヤンさんと同じです」 ブドウ畑の間を歩きながら聞かされるオイゲンの話、全て自分にも当てはまる事だとヤ ンは納得した。 帝国だろうが同盟だろうが、トイレは水洗。汲み取り式便所なんて、古代を舞台にした 時代劇にしか出てこない。馬に乗る機会も無いから、馬の乗り方なんか知るはずない。学 校で連立方程式や三角関数は習っても、かまどの使い方は習わない。何より、魔法使いな んかいない。 シエスタは、両手を広げた。 「でも、沢山の知識を村に授けてくれました。その中の一つが、タルブの名産であるワイ ンなんです」 両手を広げたままクルリと回るシエスタ。ふわりと広がるスカートの周囲には、ブドウ 畑が彼方まで続いている。 彼女の細い、しかし田舎暮らしらしく華奢ではない指がブドウの葉を手に取る。 「ひいおじいさんは、遙か東から来たワイナリーだと言ってました。家を出て軍人になっ たけど、戦争中に道に迷い、放浪の末にここへたどり着いた。もう帰れなくなったので、 ここで雇って欲しいと。 そしてそのまま村で暮らし、家族を持ち、骨を埋めました」 「彼が来たのは、いつのことかな?」 うーん、と人差し指を顎に当てて考える。 「大体、60年くらい前の事だと思います」 シエスタの手の上のブドウの葉を見つめながら、ヤンは考える。 恐らくオイゲン・サヴァリッシュの家は帝国のワイナリーだったのだろう。ワイナリー というのは、ブドウ農家と醸造家を兼ねる職業。帝国と同盟の恒常的戦争状態が続く中、 彼は家業を継がず軍人になった。軍では当然ながら徒手格闘技術もナイフ術も学ぶのだか ら、酔っぱらいの素人では相手にならない。 そして60年前、運良く大気圏内での飛行が可能な機体に乗ったまま、聖地の『門』に 突っ込んだ。ビダーシャルの話とも一致する。問題は、その機体が今どうなっているかだ が。 シエスタは、手に取ったブドウの葉をヤンに示した。 「サヴァリッシュの教えは、あっと、ひいおじいさんの教えてくれた事を村の人はサヴァ リッシュの教えと呼んでいるんですけどね。それは本当に、もの凄く役に立つ知識ばかり でした。 例えばこの葉っぱです。ブドウ果への日照量をコントロールするために、葉っぱを間引 くんです。これによってカビの発生を防ぎ、着色が進むんですが、一房に何枚の葉が必要 なのか、すら細かく教えてくれました」 ヤンはブドウ農家でも醸造家でもないので、そこまでの知識はない。というか、かつて 酒と人類の歴史について論文を書こうとして、すぐに投げ出した記憶が有るような無いよ うな。酒好だけど、醸造家でもブドウ農家でもない。 と考えたところで、ヤンはある事を思い出して「あっ!」と声を上げた。 「そうだ!10日前くらいに、君が持ってきてくれたタルブのワインを飲んで、何か懐か しいと思ったんだ! そうか、あれはハルケギニアじゃなくて、僕らの世界の技術で作られたワインだったか らなのか…」 シエスタも頷く。 「恐らくそうだと思います。何しろ、サヴァリッシュの教えによって、この村のワインは 全く変わってしまったんですから」 そう言うと彼女は再びブドウ畑を見渡す。 「ブドウ畑は傾斜している方が日当たりが良い、土地が痩せている方が根を深くはりワイ ン用に向いたブドウが収穫できる、一年を通じての温度や雨の量、剪定の仕方に赤ワイン の色や味の変え方。スパークリングワインやロゼワインの作り方…。 これらサヴァリッシュの教えは、村の秘伝です。だから、ミス・ヴァリエールやミス・ ロングビルのような部外者には教えられないのです」 ヤンは納得しそうになって、ふと首を傾げた。 確かにワイナリーにとっては秘伝の技だろう。だが、それはワイン農家や醸造家として の教えだ。『道に迷った人は、オイゲン・サヴァリッシュをお尋ね下さい』という帝国公用 語でのメッセージが、まさか「一緒にワインを作りませんか?」という意味だというのだ ろうか。 その質問をぶつけると、黒髪を揺らいてシエスタはクスクス笑った。 「もちろんそんなワケありませんよ!ワイナリーとしての知識なんて、ひいおじいさんが もたらした物の、ごく一部にすぎないんです。 読み書き計算は言うに及ばず、債権債務の管理方法、水の魔法を使わない医療知識、そ のほか、本当に沢山の事を村にもたらしました。おかげで、町の商人に法外な利息の借金 で縛られた農奴の村は、見ての通りの繁栄を手にしたのです」 そう言ってシエスタが広げる腕の先、山の麓に村がある。大きく立派な家が並んだ、村 というより町に近いかも知れないタルブを 銀河帝国の教育水準は、貴族社会とはいえ平民でも最低限の水準は満たしている。ワイ ンの売買を通じ、信用買いや銀行からの融資とかも経験しただろう。まして士官学校出身 なら、戦場で必須となる救急医療術も学ぶ。ハルケギニアの医療を担う水系魔法は、科学 を超える効果を示すが、あまりにも高価で平民には縁がない。おまけに水魔法に頼ってし まうため医学が発展しない。 ならば、借金漬けの農村では水メイジに頼らない医学は重宝された事だろう。 再びクルリと振り向いた少女は、更に話を続ける。 「実は、曾祖父はワインの事業で成功してからは、書物を書き記したんです。それも、部 屋一杯の書棚を埋め尽くす程に。それらは村の秘伝として、なにより皆の安全のために秘 匿されました」 「安全?」 「ええ。農奴をすら富農に変える知識の山ですから、狙う者は数知れないでしょう。流れ 者の平民である曾祖父に後ろ盾はありません。書物の存在を村以外の者に知られたら、村 も終わりです。 曾祖父はサヴァリッシュの名を捨て、ただの平民を演じました。その知識はタルブの秘 伝です。記した書物は全て曾祖父の国の言語で書かれています。読み方は村長である祖父 や父、そして私達兄弟など、サヴァリッシュ直系にしか伝えてありません」 この地を治めるのはアストン伯。異教に目を光らす教会。徐々に富と力を付けるタルブ に嫉妬と警戒心を募らせる周辺の村々、ライバルのワイナリー達…。 ヤンにはルイズという強力な後ろ盾がいる。今なら枢機卿の保護を得る事も出来るだろ う。だがサヴァリッシュには無かった。 異邦人がここで生きる方法は少ない。有力者の後ろ盾を得るか、ただの平民としてひっ そりと生きるか。ヤンは召喚された時点で前者の立場にあった。サヴァリッシュは後者を 選んだ。 その平凡な平民の生活を持てる知識と能力で最大限改善した結果が、今のタルブ。そし てヤン達が村に来た時、村長以外誰も寄ってこなかった理由だ。再びサヴァリッシュと同 じ存在が来たとなれば、無視も派手な歓迎も出来ない。表向き、ただの平民として扱わね ばならない。 シエスタは村の民家へと指さした。それは、先ほど案内されたシエスタの生家だ。山の 上から見ると、村の大きくて立派な家々の中でも特に大きな建物が幾つも並んでいるのが わかる。 「私の家にサヴァリッシュの書が隠してあります。その中には、『迷い人が来たら読ませよ』 と言われた一冊の書があります。それは最後に記した書であり、サヴァリッシュから『迷 い人』へのメッセージです」 「君は、その書を読んだ事は?」 先に見える生家を見下ろしながらの問に、少女もそのまま頷く。 「あります。だからこそ私達は曾祖父と同じく『迷い人』を待ち続けました。本当に来る かどうかも分からない異邦人を。私達に書の内容を教えてくれる人を」 「内容を、教える?」 意味が分からず、ヤンはシエスタへ視線を向ける。サヴァリッシュは直系子孫に銀河帝 国公用語を教えたはず。なら全て読めるはずだ。 対するシエスタの説明は極めて単純明快。 「はい。なにしろ私達は、サヴァリッシュの書を読めるんですが、内容がわかんないんで す…難しすぎて」 てへっ、と恥ずかしそうに肩をすくめるソバカスの少女。言われたヤンはカクッと首が 斜めになった。 だけど、理解出来ないのは当然の事だろう。 例えばブドウ畑。最高品質のブドウを育てようと思えば、日照量・気温・降雨量・緯度 や経度まで正確に調べ、分析し、最良の世話をしなければならない。でも気象観測手段が ない、温度計がない、どの年にどのくらい雨が降ったかなんて正確には分からない。 これが医学になれば、さらに難しい問題だ。細菌やウィルスの知識がない人に、感染防 御は理解出来ない。免疫と炎症反応について記しても、白血球やT細胞と言われたって何 のことだか。 これらは口で教えても理解出来るものではない。顕微鏡が無い、気象衛星が無い、電池 もエンジンも何もない。これでは教えられるのは、基本的な知識だけ。サヴァリッシュの 教えを実現させるべき基礎科学が存在しないのだから、理解出来ないのは当前。そして既 にサヴァリッシュは死去し、彼の書に記された知識を紐解ける人物がいなくなった。 シエスタは胸の前に手を組み、正面から真っ直ぐヤンの目を見つめた。 「お願いします。サヴァリッシュ最後の書を読んで下さい」 少女は、深々と頭を下げた。 前ページ次ページゼロな提督
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前ページ次ページ絶望の街の魔王、降臨 ルイズ達、大使一行が出発する前日。 ワルドは、偽情報に踊らされていた。 「え? もう出発しただと?」 既に昨夜には出立した、ラ・ロシェールで船を徴発、無理矢理アルビオンに航る。それがワルドが手に入れた情報だった。 すぐにグリフォンを伴った偏在で追うが、追い付くはずはない。目標は原点から一歩も動いてないのだから。 ルイズが動いていないのを知るのは、偏在とグリフォンがアルビオンに到達し、ジルが高音と共に学院を発った、かなり後だった。 「な!? まさか情報が違うのか?」 アンリエッタによる、ほぼ完璧な情報統制。それは、たわいもない風の噂で綻びを見せた。 慌てるワルド。アルビオンまでの道で疲弊したグリフォン。王党派と接触してしまったがために消せない偏在。どう頑張っても追い付けない相手の移動速度。新たに偏在を使おうにも、精神力は有限であり、常に偏在を、しかも何体も出せば、たとえスクウェアでも すぐにスッカラカンになってしまう。ただでさえ、ロンディニウム、ニューカッスル、雑用、情報収集にそれぞれ一体、計四体を動かしているのだ。 「くそ、どうする……せっかくの王族のスキャンダルが……」 トリステイン・ゲルマニア同盟阻止の材料となる何かが、ニューカッスルにあるらしい。レコン・キスタに属する者としては、喉から手が出る程欲しいものだ。 「あのアホの子のアンリエッタにこんな知恵があるとは思えん……誰かの入れ知恵だ……マザリーニか?」 完璧に後手に回ってしまった。そして、城では本格的なスパイ狩りが始まっているだろう。今動くのは得策ではない。今はただ、ニューカッスルでルイズを待つしかなかった。 高空から、彼女達は非常識なそれを追っていた。 「すごいわね、風竜ですら追い付くのがやっとなんて」 「きゅい! きゅい!」 滑空など愚の骨頂、常に羽ばたかなければ追い付けない。蒼い風竜は『重量オーバーで最高速が出せられない』相手に、全力を出さなければならない。無論、かなり疲れている。 「やっぱりかっこいいわ。そこらの男より断然素敵よ」 男の趣味が悪くなった友に頼み込まれ、少女は人知れず溜め息を吐く。 「ねえ、もっと近付けないの?」 「無理」 今まで距離を離されなかったのが奇跡なくらいだ。今回ばかりは、おしゃべりな使い魔を褒めてもいい気になった。 「ああ、どこに行くのかしら? フーケとギーシュまで連れて、面白いことになりそうね」 「不安」 少女は一言だけ、その予感を言葉にして返す。 「あら?」 風竜がだんだんと高度を落としてゆく。羽ばたきの回数も減ってきている。そして目標は──── 「あ……まって!」 だんだんと小さくなり、消えた。 「ああん、もう! どうしたのよ!?」 「限界。疲れてる」 完全に羽ばたくのをやめ、滑空している風竜は、息も荒くどうにか姿勢を保っている。 「ああ……ジル……」 趣味が悪くなった訳ではなかったらしい。道を誤っていた。 アンリエッタは執務室で報告を待っていた。言うまでもなく、諜報の成果を。 「あの衛士の方……ジルの言う通りでしたわね」 「我々にはない発想でしたな。眼から鱗です」 傍らに控えるマザリーニは、アンリエッタから聞いた話を反芻していた。話術とは、かくも簡単かつ効果的に相手に情報を吐かせるのか、甚だ不思議でならなかった。 平民を密かに登用し、諜報員としての初歩的な訓練を施し、一部は盗聴させ、一部は監視をさせ、一部は使用人の振りをさせる。貴族は貴族には警戒するが、余程の事が無い限り平民を空気扱いする。或いは、気に入った平民に自ら秘密をぶちまけたりする。平民に は力が無い、そんな思い込みからの無警戒だった。 「平民を蔑ろにできないいい例ですな。今回はそれに救われましたが」 「思い込みと慣れは恐ろしいですわね。ああ、そうでしたわ。貴族も絶対強者ではありませんでしたわ」 「ほう、なにかあったと見えますな」 アンリエッタはマザリーニの言葉に、自虐的に微笑む。 「ルイズの使い魔、いえ、平民の衛士に一瞬で組み伏せられましたわ。杖を取り出せていたにも関わらず、ディテクトマジックすら唱えられませんでした」 「成程、それは……」 「ジルは、驕ったメイジなど敵にはならないでしょう。いえ、驕らずとも、彼女は敗けない、そんな気すらしますの。例え幻獣やオーク鬼や、吸血鬼さえも彼女には敵わない」 「大きく出ましたな」 「ええ。もしかしたら……」 と、ノックの音がアンリエッタの話を遮る。 「姫殿下、ケイシーです。報告に参りました」 使用人諜報班で最も優秀な男が戻ってきた。 オスマンは泣いていた。いや、比喩などではなく。 「ミス・ロングビル……君の偉大さが身に沁みる気分じゃ……」 机の上には書類が堆く積み上げられ、オスマンの椅子の周りにも、彼を囲む檻の如く積み上げられている。 ロングビルが適所に振り分け、オスマンの仕事を最小限にしていたのだが、彼女が抜けた穴はひたすらに大きく、その結果がこれだった。 オスマンは身動きが取れない。下手に動けば書類に襲われ埋もれてしまう。 「うおおーい! だれかたすけてくれんかー!?」 前ページ次ページ絶望の街の魔王、降臨
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前ページ次ページぷぎゅるいず 晴しい朝がきたー希望の朝ー、今日もトリステイン魔法学院に朝が来ました ここは学園の女子寮、色々な女の子が日々の生活をしています ここでの朝の名物の一つが・・・・・・ 「国に帰れ!!淫蕩ゲルマニア女!!」 「ほぉーーーほほほ、くやしかったらその胸を成長させてごらんなさい」 この物語の主人公 ルイズ・(後めんどくさいから略)とキュルケ・なんとか・ツェルプストーの口げんかです。 「私の名前を略すな!!」 「なんとかじゃないわよ!!」 ぷぎゅるいず 第2話 ~テンプレとか王道とかって文句ばっかつけられるけど面白いから定番なんだよな~ その頃、チェコちゃんはルイズの言いつけを守って洗濯をしてました 「はぁ、ずっとメイドをしてらしたんですか」 「はい」 じゃぶじゃぶと他のメイドさん達にまじってチェコちゃんも洗濯をします そしてパンパンと伸ばして干して、チェコちゃんはルイズの元に向かいました 「それが貴女の使い魔?本当にメイドなのね」 ルイズの元に戻ったチェコちゃん いきなりキュルケにからまれます。ルイズも憮然とした顔でキュルケを睨みつけます 「使い魔ってのはこういうのを言うのよ」 キュルケの横からのっそりと巨大なサラマンダー、ミンナお馴染みのフレイム君が現れて、 バチィーーーーン!! 叩かれました、チェコちゃんがフレイムに・・・・・・ 「ちょ!?ちょっとあんたの使い魔何してくれてるのよ!?」 「フ・フレイム!?あんた何してるの!?」 一瞬の沈黙の後・・・・・・・バチン、バチン、バチン と二足歩行でチェコちゃんにつっぱりをかますフレイム君 トコトントコトントコトコトコトコ・・・・・・・・・・・・・・・・・大相撲の拍子が聞こえるのは気のせいでしょう 「勝敗は押し出しで火の山~、火の山~」 いつの間にかキュルケの隣に来ていたタバサが東方の文字で『天下泰平』と書かれたなぞの杖っぽいものを振り回しているのは気にしない事にしましょう さて、ここで朝食とかミス・シュベールスの授業とかあるのですが、ざっくりきってお話しはルイズの遅い昼食にむかいます さて、ご他聞にもれずルイズとチェコちゃんが失敗魔法で爆発させた教室の後片付けで遅めの昼食を取っているとこれまた 男共がどうでもいい話に花を咲かせています 「あら?」 金髪の色男風の貴族のポケットから瓶が落ちているのを黒髪のメイドが見つけました 「貴族様、落し物です」 「違うよ、僕の物じゃない」 「そうですか」 あっさりと引き下がり・・・・・ 「ちょっと待った!!それはモンモランシーの香水じゃないか?」 「そうだ、モンモランシーの香水だ、お前付き合ってたのか?」 多分、トリステイン魔法学園2番の空気読めない男、マルコリヌのせいで大事になってしまいました 「ち、違うよ君達」 ギーシュは慌てて否定しますが、 「ギーシュさま」 「ケ、ケティ・・・違うん・・・・・・ぐぁはああ!?」 一年のケティちゃんには真空とび膝蹴りを、 「ギーシュ様、さようなら」 さらには、噂を聞きつけやってきたモンモランシーには 「ギーシュの浮気物!!」 ガチコンとワイン瓶で頭を殴られ、 「私だけっていったのに!?」 バチーンと女生徒Aには往復ビンタを喰らって、 「少しは痛い目みなさい!!」 ゴッッと女教師Bにゲンコツを喰らい、 「ベットでの友情はなんだったんだよ」 男子先輩Cに蹴り上げられて、やっとギーシュは気絶しました 「なぁ・・・レイナール・・・・・」 「なんだ・・・・・マリコヌル?」 神妙な面持ちで気絶したギーシュを見下ろす友人二人、 「こいつとの付き合い考えようと思うんだ」 「奇遇だな・・・・俺もだ」 「あ、あの私はどうすれば・・・・」 一人、黒髪のメイド、シエスタは取り残されるのでありました 第三話 予告 どんな困難な世界だろうと少女達は諦めない、なぜならそこに自分が望んだ宝物があるのだから 次回:大体女の買い物は長丁場って決まってるけどさ、意外と男も趣味関係は長いよな に続く 前ページ次ページぷぎゅるいず
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もしもゼロの使い魔のルイズが召喚したのがサイトではなかったら?そんなifを語るスレ。 (前スレ) あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part○ http //changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/~/ まとめwiki http //www35.atwiki.jp/anozero/ 避難所 http //jbbs.livedoor.jp/otaku/9616/ _ ■ 注意事項よ! ちゃんと聞きなさいよね! ■ 〃 ` ヽ . ・ここはあの作品の人物がゼロ魔の世界にやってくるifを語るスレッドよ! l lf小从} l / ・雑談、SS、共に書き込む前のリロードは忘れないでよ!ただでさえ勢いが速いんだから! ノハ{*゚ヮ゚ノハ/,. ・投下をする前には、必ず投下予告をしなさいよ!投下終了の宣言も忘れちゃだめなんだからね! ((/} )犬({つ ちゃんと空気を読まないと、ひどいんだからね! / "/_jl〉` j, ・ 投下してるの? し、支援してあげてもいいんだからね! ヽ_/ィヘ_)~′ ・興味のないSS? そんなもの、「スルー」の魔法を使えばいいじゃない! ・まとめの更新は気づいた人がやらなきゃダメなんだからね! _ 〃 ^ヽ ・議論や、荒らしへの反応は、避難所でやるの。約束よ? J{ ハ从{_, ・クロス元が18禁作品でも、SSの内容が非18禁なら本スレでいいわよ、でも ノルノー゚ノjし 内容が18禁ならエロパロ板ゼロ魔スレで投下してね? /く{ {丈} }つ ・クロス元がTYPE-MOON作品のSSは、本スレでも避難所でもルイズの『錬金』のように危険よ。やめておいてね。 l く/_jlム! | ・作品を初投下する時は元ネタの記載も忘れずにね。wikiに登録されづらいわ。 レ-ヘじフ~l ・作者も読者も閲覧には専用ブラウザの使用を推奨するわ。負荷軽減に協力してね。 . ,ィ =个=、 ・お互いを尊重して下さいね。クロスで一方的なのはダメです。 〈_/´ ̄ `ヽ ・1レスの限界最大文字数は、全角文字なら2048文字分(4096Bytes)。これ以上は投下出来ません。 { {_jイ」/j」j〉 ・行数は最大60行で、一行につき全角で128文字までですって。 ヽl| ゚ヮ゚ノj| ・不要な荒れを防ぐために、sage進行でお願いしますね。 ⊂j{不}lつ ・次スレは 950か480KBからお願いします。テンプレはwikiの左メニューを参照して下さい。 く7 {_}ハ ・重複防止のため、次スレを立てる時は現行スレにその旨を宣言して下さいね。 ‘ーrtァー’ ・クロス先に姉妹スレがある作品については、そちらへ投下して盛り上げてあげると喜ばれますよ。 姉妹スレについては、まとめwikiのリンクを見て下さいね。 ・一行目改行、且つ22行以上の長文は、エラー表示無しで異次元に消えます。 SS文面の区切りが良いからと、最初に改行いれるとマズイです。 レイアウト上一行目に改行入れる時はスペースを入れて改行しましょう。
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2016年11月26日(土)18時〜22時 に『平成28年度宮崎県立日向高等学校同窓会日向青友会定期総会』が開催されました。 掲示板を設置しております。 ご意見のある方はこちらへどうぞ。 http //joy.atbbs.jp/seiyuukai100/index.php ↑ここをクリックすると掲示板へ 掲示板はメールアドレスを入力しないと書き込めませんが、正確なものである必要はありません「tekitou@tekitou」みたいなのでも大丈夫です。 質問などありましたらよろしくお願いいたします。 #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (DSC_0023.JPG) 日向青友会常任理事のメンバーです↑ 合計: - 今日: - 昨日: -
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時間は少しさかのぼります。 盗賊が盗みに入った事で学院内は大騒ぎになっていました。 その中で、コルベールは塔に開いた大穴と大量の残土を冷静に検分していました。 「この大量の土と、塔に開いた大穴、生徒の証言から察するに『土くれのフーケ』たぶん宝物庫内に書置きがあるだろう・・・」 苦虫を噛み潰したような表情で呟くコルベールに別の呟きが聞こえました。 「・・・泣いている」 その瞬間残土が弾け、とある物体がハルケギニアではありえないスピードで飛んでいきました。 土のゴーレムの右腕が叩きつけられた地面は凹んでいます。キュルケは青ざめタバサは厳しい表情をしています。 時が止まってすべての音が消えてしまったような中、シルフィードがある事に気がつきました。 「きゅいきゅい!!」(お姉さま、ゴーレムの後ろの空を見て!!) シルフィードの言葉を聞いて見上げたタバサがキュルケに知らせました。 「あそこ」 ルイズは自分がどうなっているのかもうすでに分かっていました。分かっていたからこそ涙を拭き戦う決意の眼差しでおとーさんを見るのでした。 おとーさんはルイズの眼を見て頷くとルイズが大事に抱えていた剣を受け取り背負いました。 空中で土のゴーレムに向き直るとルイズは杖をおとーさんは左手でルイズを抱えながら右手で剣を抜いて構えました。 「おでれーた!!お前、使い手か?? 娘っこ!! このデルフリンガー、これなら力になれるぜ!!」 錆だらけで喋る剣、デルフリンガーを不思議そうに見ているおとーさんをルイズが微笑みながら大丈夫だからと声をかけると再び杖を構えるのでした。 「おとーさん。さっきと同じ様に私が魔法で援護するから。おとーさんは飛びながら土のゴーレムの注意をひきつけて!!」 おとーさんは頷くと地上に降りてルイズを降ろし此方に気づいて向かってきた土のゴーレムに向かって飛んでいくのでした。 おとーさんは剣を使ったことが無かったのですが、剣を握った瞬間からなんとなく達人の様に使える気がしたのでとりあえず土のゴーレムの側をすり抜けながら腕を切りつけてみました。 バターを切るように簡単に切れた上に再生していく腕を見て無性に楽しくなっていました。 「うふふふ」 デルフリンガーは大丈夫かな~?と思いながら使い手のことを心配していました。 おとーさんは「注意を引き付ける為」に飛び回りながらヒットアンドウェイで腕や足を切っていくのでした。 しかし、攻撃のリズムは単調で土のゴーレムを操るフーケにも読めるようになって来ました。その事に気がついたデルフリンガーはおとーさんに声をかけます。 「使い手の旦那!!リズムが単調だと読まれちまうぜ!!」 おとーさんはデルフリンガーの言葉を気にする事無くカウンターを狙う土のゴーレムの右腕に突っ込んでいきます。 その時、土のゴーレムの背中でルイズの失敗魔法が炸裂したのでした。狙いを外さないために「錬金」で攻撃したのですがうまくいったようです。 「おでれーた!! 単調な攻撃はその為だったのか!!」 デルフリンガーの言葉におとーさんは驚いた表情で見ています。 「・・・違うのか」 嫌な空気が流れましたが、とりあえず今までどおりの攻撃をすることにしました。 遠くでその様子を見ていたキュルケとタバサが、間合いをみて魔法攻撃に参加してきました。 「タバサ~、あれ倒せると思う?」 「あと一押し」 タバサは土のゴーレムの再生速度が遅くなっているのを見逃しませんでした。 何度目かのルイズの失敗魔法が炸裂したのをきっかけに三人による魔法総攻撃をかけ土のゴーレムを粉砕することに成功しました。 ゴーレムが粉砕されたのを確認したおとーさんはデルフリンガーをしまうとルイズを抱えてキュルケとタバサの元に飛んできました。 「なんとか倒せたわねぇ。もう錬金も出来ないわ」 「同じく」 「とりあえず盗まれた物は取り返したみたいだし」 ルイズ達が安心して談笑してると、シルフィードが突然叫びました。 振り返るとそこには、破壊の杖を担いだフードを目深に被った人物と巨大なゴーレムが出来上がりつつありました。 その頃、学院内では。 「・・・毛が」 度重なる出来事による心労とおとーさんが飛ぶ際に起こした爆風により。 サヨナラを告げた長い友達に絶望しているコルベールがいました・・・