約 2,212,051 件
https://w.atwiki.jp/clownofaria/pages/107.html
第一部 第十四話『雪夜のライヴとカーチェイス』中編 「みんな。集合ご苦労」 雪奈は武道館の中ある関係者用の駐車場で揃った諜報部局員に声をかける。 「次元航行部隊や陸士部隊の騒ぎ様から解るように、如月千歳。音無琴羽。二人の周辺警備担当のフェイト・T・ハラオウン執務官。以下三名が誘拐された」 諜報部に所属する局員の大体は動揺を顔に出さず、部隊長である雪奈の命令を待つ。 しかし弥生はまだ信じられないらしく、少し動揺している。 「諜報部部隊長として指令を下します。アイドル二人が誘拐された事によって騒ぎが起こる事は想定されますので、騒ぎの鎮圧をお願いします。並びに緊急の作戦変更も行なう事を想定し、念話の回線は常に展開。以上!」 「Yes Sir!」 諜報部の局員は足並みを揃え、雪奈に敬礼した。 「幽霧霞三等陸士と如月弥生さんはここに残って下さい。それ以外は解散!」 雪奈の号令によって幽霧と弥生以外は駐車場を後にする。 「長月さん……」 誘拐された三人が心配な弥生は弱々しい声を出す。 冷ややかな目で弥生を見る雪奈。 その目に弥生は一種の恐怖感を感じ、背筋に寒気が走った。 雪奈はそのまま説明を始める。 「次元航行部隊013。ティアナ・ランスター執務官補佐の話によると誘拐犯は弁当屋を装って来たらしいです。私の予想だと配達中の弁当屋を強襲して、衣服から何まで揃えて来たのでしょう。全く……相手も馬鹿ではありませんね」 「自分はどうすれば……」 楽しそうに笑う雪奈に弥生は訊ねた。 想定していたとしても、やはり自身の担当しているアイドルを誘拐される現実に直面するとうろたえてしまう様だ。 うろたえながら尋ねる弥生に雪奈は楽しそうに笑う。 「簡単至極過ぎる事を聞くんですね~。貴方が幽霧と一緒に誘拐犯から三人を取り戻して来れば良いのですよ」 そう言って弥生に背を向ける雪奈。 「場は繋いでおきます」 心配そうな顔をする弥生に雪奈は言った。 弥生は雪奈の口から出た言葉に驚く。 「え……?」 「その代わり三人を取り戻すまで、この武道館をお借りしますね。お金はそちら持ちでよろしくお願いします」 「はいっ!?」 身勝手とも言える雪奈の言葉に素っ頓狂な声を出す弥生。 雪奈は笑顔で弥生に優しく言った。 「大丈夫です。如月弥生さんの所の社長に聞いたら、快く承知して下さりました。さあ、早く行って下さい。私にも準備というのがあるので」 駐車場から武道館内へ歩き出す雪奈。 そこで何かを思い出したらしく、背を向けたまま言った。 「多分、誘拐犯たちは弁当屋のワゴンで移動していると思います。どんな手を使ってでも追いかけて下さい。助っ人も呼んでおきましたので、上手にお使い下さい。貴方の車周辺で待機していると思うので」 「……ありがとうございます」 背を向けている雪奈に頭を下げる弥生。 「御武運を」 弥生は軽く手を振る雪奈から背を向け、幽霧と共に自車を止めている場所へ走り出す。 会場入りを誘拐犯に悟らせない様にするためだったらしく、弥生の使っている白いワゴンは近くの無料駐車場に置かれていた。 その白いワゴンに流線型のサングラスをかけた少年がよしかかっていた。 ジャージを身にまとい、肩には長細いバックがかけられている。 「長月さんの言っていた助っ人は冬秋だったのか」 弥生に冬秋と呼ばれた少年は身体を起こし、流線型のサングラスを外す。 サングラスの向こうから、人懐っこい顔が現れる。 冬秋はニヤリと笑いながら手を差し出す。 「そういうことや。よろしくな、弥生」 「ちゃんと働いて貰うからな」 差し出された手を握り、わざと力を入れる弥生。 力を入れる弥生に冬秋は楽しそうに笑い、力を入れ返す。 「いたっ! いたたたた! 力入れるな! 握り潰すつもりか!」 自業自得だがやはり痛いらしく、弥生は悲鳴を上げる。 「車を乗り換える事も想定されるので、早く行きましょう」 幽霧の言葉で二人は我に返る。 弥生は幽霧にワゴンの鍵を投げた。 鍵をキャッチした幽霧は不思議そうな顔をする。 「誘拐犯を追跡する術はある。運転とその両方は出来ないから、君が運転して下さい」 「……分かりました」 弥生の指示に幽霧は頷き、運転席に乗り込む。 助手席には弥生が乗り込んだ。 「助っ人の方はどちらへ?」 「ここや」 外からそんな声が聞こえ、軽くワゴンが揺れる。 そしてまるで大人一人分の体重が全体にかかったかのように、車体が地面に少し沈んだ。 車体の天井に乗るとは思わなかった弥生は唖然とする。 何をしようとしているか微かに理解した幽霧は驚きながらも天井を叩いた。 「よろしくお願いしますね」 「了解や」 冬秋は肯定と一緒に屋根を叩いた。 弥生から渡された鍵を穴に刺し込み、エンジンを開ける幽霧。 難なくエンジンがかかり、幽霧はアクセルを踏み込んだ。 車は地面にタイヤの黒い跡を残して走り出す。 「弥生さん。ナビゲートをお願いします」 幽霧たちが雪奈から作戦を受け、犯人の追跡を開始したその頃。 三人を誘拐した犯人たちの乗るワゴンはクラナガンの市内を走っていた。 そのワゴンの側面にはしっかりと「ミッドフーズ」という塗装がなされていた。 帽子で顔を隠し、口にはタバコをくわえた男がワゴンを運転しながら呟く。 「ん~。緊急の依頼だったけど、実際は依頼内容を詳しく知らないだよなー」 「ったく出発前に読んどけよボケェ! セレス、そこの紙取ってくれ。」 赤い髪に黒い瞳の男が助手席でタバコを吸いながら、弁当を入れる為に椅子が取り外されている後ろで依頼書を読む女性に声をかける。 「京極もウラも車内でタバコは吸わないで! 全く……はい、どうぞ」 セレスはタバコの煙を煙たそうにしながらウラに依頼書を渡す。 「あぁ? そんな事前からだろ。そろそろ慣れてもいいんじゃねーのか? …ほら、依頼書。」 ウラは荒い口調で言い返し依頼書をフードを被った男――京極に渡す。 「どれどれ……」 器用に京極はハンドリングを怠らずに依頼書を読む。 「アイドルグループ『ウィンドワルツ』の如月千歳と音無琴羽の誘拐。後はこの車を乗り捨て、依頼人に届けるだけか」 「意外と楽な依頼だったな」 後ろを再び見るウラ。 そこには弁当を入れる大きなプラスチックケースの代わりに三人の女性が眠っていた。 二人はきらびやかな衣装を身にまとい、もう一人は黒いスーツとタイトスカートを着ている。 まさしくその三人は誘拐された如月千歳。音無琴羽。フェイト・T・ハラオウンだった。 「弁当屋の格好で会場に侵入。『蛇』から買った強力な催眠ガスでスタッフや警護に来ている管理局の人たちを眠らせ、ターゲットを誘拐だったからな」 「でも油断は禁物」 セレスは二人を諌める。 「弁当屋の車を使っているとはいえ、どこで計画が破綻するか分からない」 しかしウラはセレスの言葉を否定する。 「そんなの関係ねぇ」 ウラの言葉に京極も笑う。 「俺たちのしたい事を……」 「「するだけだもんげ!」」 楽しそうに笑いながら運転する京極と大声で笑うウラにセレスはため息をついた。 「とりあえず、おじぃの待つ場所まで行ければいっか……」 クラナガンの市街を犯人であるウラたちの乗るワゴンが走る。 幽霧たちは念話や通信で入る情報を元に誘拐犯のワゴンを追っていた。 しかしクリスマスだと弁当屋やデリバリーサービスの車も大量に出没しているらしく、特定が出来ない。 ほとんど当てずっぽで走っているような感じだ。 「中々見つかりませんね」 運転しながらも周囲を見る幽霧。 怪しい車は一つも見つからない。 「そういえば幽霧は何歳だっけ?」 弥生はワゴンのハンドルを淀みなく操る幽霧に訊ねた。 幽霧のハンドルさばきは慣れたもので、周りの流れに合わせながら進む動きは熟練のものであった。 しかし少女のような風貌をしている幽霧だとお世辞にも、運転手が板についているとは形容しがたい。 淡々とした様子で幽霧は答えた。 「十五です」 弥生は幽霧の口から出た回答に硬直した。 「車の免許は?」 「持ってます」 「……何故に?」 規定年齢より下であるのに、免許書は所有しているという状態に驚く弥生。 ワゴンを運転する幽霧はどうやって得たのだろうか。 「仕事上で必要だったので」 「……取ったのは?」 怪訝そうな顔をしながら問う弥生に幽霧は無表情で答えた。 「去年です」 「一体どうやって?」 きっと幽霧は嘘をついていると思ったのだろう。弥生は更に問い詰める。 「鯖読みしました」 まるで他人事のように幽霧は答えた。 「上? 下? というか、本当の年齢は何歳?」 弥生はまだ疑っているらしく、幽霧に年齢を尋ねる。 「十五歳です。免許を取るときは上に鯖読みしました」 そう言いながら幽霧は弥生に車の免許書を見せる。 確かにカードの左端には幽霧の写真が入っていた。 習得した年もきちんと書いてある。 確かに偽造でもなさそうであった。 証拠まで見せられた弥生は納得するしかない。 軽く息を吐き出し、幽霧に弥生は言った。 「じゃあ、君の秘密を黙っておく代わりに自分の秘密も黙って貰おうかな」 持っているケースから大学ノートとボールペンを取り出す弥生。 意味深長な言動と取り出された物に首を傾げながらも幽霧は弥生の行動を見守る。 大学ノートを開き、ボールペンを構える。そして弥生は呟いた。 「先天性古代遺失物能力発動……」 「!?」 弥生の口から紡ぎ出された言葉に幽霧は驚く。 『先天性古代遺失物能力者』は裏オークションで聞いた謎の名称。 まさか、隣の助手席にその『先天性古代遺失物能力者』が座っているとは幽霧は思ってもいなかった。 驚く幽霧など意識の外らしく、全く気づかずにその名を紡いだ。 「『欺瞞神《ロキ》の悪戯聖書《いたずらバイブル》』」 ボールペンを握る弥生の手に金色の紋章が入り、片目が深紅の瞳に変わる。 弥生は肌に金色の紋章が浮かぶ手に握ったボールペンを大学ノートに走らせる。 ノートに書かれた事柄は二つ。 《今から五十分後に誘拐犯と接触》と《誘拐犯はクラナガン自然公園の駐車場にいる》。 弥生がノートからペン先を離した途端、書かれた文字が一瞬だけ金色に輝いた。 「うん。これで良しっと……」 ノートとボールペンを仕舞う弥生。 「如月弥生さん」 「ん? 何?」 幽霧は車を運転しながらも弥生に訊ねた。 「今の……何ですか?」 弥生自身も上手く説明出来ないらしく、苦笑しながら答える。 「書いた事を現実にする能力かな? いつの間にか身に付いていた能力だね」 苦笑しながらも問いに答える弥生に幽霧は閉口する。 しばらくしてから幽霧は口を開く。 「……差し出がましい事を言いますが、よろしいでしょうか?」 「うん? 何ですか? 自分の答えられる物なら答えるけど……」 幽霧は直球な問いを弥生に投げかける。 「貴方はそれをどういう物だと仮定しますか?」 「そうだね……」 実際にそんな事を考えてみた事がないらしく、弥生は考える。 しばらく間を置いてから幽霧に答えた。 「自身の願いを叶える手段の一つ……かな」 「そうですか……」 車の中に静寂が訪れる。 聞こえるのは温風から出ると外で車が走る音のみ。 しばらく経ってから幽霧は口を開く。 「これは本当に個人的な問いですが……」 そのまま言葉に出すのは躊躇われるらしく、少し考える幽霧。 躊躇いがちに言葉を区切りながら訊ねる。 「……貴方はとはいえ……何故、今も芸能界に身を……置いているのですか? その……」 「裏では「女装フェチの変態」と陰口を叩かれているのに?」 幽霧が訊ねにくそうにしている内容を弥生は笑いながら口に出す。 「……はい」 弥生の言葉に幽霧は頷く。 「存在意義は他人がどうこうじゃなくて、自分がどうしたいかなんですよ。他人に答えを求めるようなものではありません」 弥生の口から出た言葉に幽霧は感嘆する。 周囲から何を言われないようとも自身の意思を変えないという事は難しい事だからだ。 「理由は簡単です。千歳と琴羽さんが沢山の観客がいるステージでスポットライトを浴びる姿を一番近い場所で見たい……ただそれだけですね」 「弥生のシスコン軍曹~」 さっきまで黙っていた冬秋がワゴンの上から茶化す。 「黙れ! この撲殺中毒者!」 「そうや。ワイはワーカーホリックや。何か文句あるかい?」 あっさり開き直られたら反撃のしようがない。 悔しい弥生は歯噛みする。 「奥さんの神威姐さんとセックスレスやからって、妹と妹の友人を襲ったらあかんで~。琴羽ならまだええけど、千歳やったら近親相姦や」 「ちょっ! 千歳を襲うわけないだろ!」 顔を真っ赤にして否定する弥生。 説得力が全くない。 「あやしいなぁ~。つーか、セックスレスは否定しないんかい……ちゃんと神威姐さんを満足させなあかんで~。雪奈姐さんの話だと、神威姐さんは羽にゃんこちゅう物に夢中ちゅう話やし」 「なんだってぇ!」 冬秋の言葉に驚く弥生。 「そういえば、最近は風切羽捜査官によく絡んでいるらしいですね」 「うそだっ!」 淡々と話す幽霧に叫びながら頭を抱え始める弥生。 弥生の叫びを路上に響かせながら幽霧の運転するワゴンはクラナガン自然公園へと走っていく。 「本当に来ますかね」 「来るよ。自分の能力が外れた事は無いからね」 弥生は車から降り、クラナガン自然公園の駐車場で誘拐犯を待っていた。 待ち伏せしている事が誘拐犯に分からないようにライトは消してある。 誘拐犯が来るのを待つ間に幽霧は弥生に訊ねた。 「再度聞きますが、如月弥生さんのそれは何なのですか?」 「書いた事を現実にする能力だよ。自身の運を犠牲にしてね」 息を呑む幽霧。さっきは能力の代償までは知らされていなかったからだ。 そして何故、『欺瞞神《ロキ》の悪戯聖書《いたずらバイブル》』を最初から使わない理由も分かった。 常に使用していたらそれだけ運を消費する。 運が悪く怪我をしたり、運悪くテロに巻き込まれてもおかしくない。 だから出来るだけ使用を控えていたのだろう。 「自分の予測の範囲内だけど……先天性古代遺失物能力は使用者の願望が忠実に現れているのだと思う。何故ならこの能力を得るまでは、自身の考えた通りに物事が進んで欲しいと思っていたからね……」 「そうなのですか……」 核心にはまだ遠いかもしれないが、実際の能力者と会う事によって一歩前に進んだと幽霧は思った。 ワゴンの上に乗ったままの冬秋は幽霧と弥生に通達した。 「来たで」 駐車場の入り口からライトが近づいてくる。 そして側面に「ミッドフーズ」と塗装されたワゴンが止まる。 ドアが開き、中から赤い髪に黒い瞳の男が降りる。 「おじぃ……」 「こんばんは。誘拐犯さん」 影から現れた弥生は出てきた男に声をかける。 「お前は……如月弥生!」 「誘拐したうちのアイドルたちを返して貰います」 男に近づく弥生。 「京極! 車を出せ!」 「了解」 返事の代わりに男はワゴンに乗り込み、逃走を図る。 「幽霧! 出して!」 「はい。了解いたしました」 弥生は幽霧の運転するワゴンに乗り込む。 「……行きます」 幽霧からの呟きとほぼ同意。 タイヤをスリップさせながらワゴンが発車する。 「――っ!」 冬秋は加速による衝撃に耐えながらも少しずつ腰を上げていく。 何とか直立の姿勢になり、相手の車と接触する瞬間に備える。 幽霧は法定速度を超えたスピードを出し、誘拐犯のワゴンを追う。 誘拐犯たちもスピードを上げ、必死に幽霧たちから逃げる。 更にアクセルを踏み込む幽霧。スピードメーターの針はもう少しで振り切れそうだ。 弥生は身体を押し付けられるような衝撃に耐える。 走行しながら幽霧は相手のワゴンに自身のワゴンを寄せた。 瞬間、冬秋は天井を蹴り、跳躍する。 そして相手の車へと飛び移って着地。 冬秋はすぐに腰を低くし、これから訪れる衝撃に備える。 それから瞬きもしないうちに、冬秋の乗る車が思いっきり揺れた。 幽霧の運転する車から離れようと、大きくそれる。 冬秋は四肢を広げて車の上にへばりつき、何とか振り落とされないように踏ん張る。 あわせるようにして、幽霧の運転する車が大きく曲がる。 ブレーキをかけながらハンドルを切った為、車がほとんど九十度に回転した。 下手をすれば車体自体が反転しかねない無謀なハンドリング。 そしてそれをあと刹那遅れていれば相手の車に激突しかねない絶妙なタイミングで幽霧はやってのける。 口笛を吹く冬秋。 「あの可愛い譲ちゃんもなかなか凄まじい事をすんな~。春夏姉と同等かそれ以上のイカレっぷりや~」 すぐに車は体勢を整え、相手に遅れない速度で追走を開始する。 冬秋が乗っている車は左右に振られながらも、じきにまっすぐ走り始めた。 感じる振動も少ない。 しかし走り方が落ち着いてきたとはいえ、中では混乱が起きているのだろう。 大声が車から響く。 「おい! なんか追ってくるぞ!」 「知らないわよ!」 聞こえてくる声に冬秋は小さく苦笑する。 まさか一人の青年が自車の屋根に飛び移ってきたなど、夢にも思っていないであろう。 そして仮に冬秋の存在が気づかれたとしても、これから行う事の支障にはならない。 肩に掛けていた長細い円筒状のバックのファスナーをゆっくりと開け、手を突っ込む冬秋。 「よっこらせっと……」 バックの中から、冬秋は獲物を抜いた。 それは一振りの釘バット。 金属バットに無数の釘が刺さっている。曲がったり、紅いものが付いている釘がすごく禍々しい。 グリップをしっかり握り、冬秋はゆっくりと腰を上げていく。 直立姿勢になるとしっかりと車の屋根をスパイクつきの安全靴で踏み込み、身体の軸を固定。 「おわっ!」 車の中から驚いたような声が聞こえた。 誘拐犯に気づかれてしまったが、これから行う冬秋の行動に支障はない。 軽く構えを取る。足を肩幅に開き、釘バットのグリップを握りながら全身で仰け反る様に思いっきり振り上げ、肩の力を抜く。 丹田に気を込め、大きく息を吸う。 「せぃっ!」 思い切り息を吐き出し、全力で振り上げた釘バットを車へと叩きつける。 破壊音。 いや。これはもう、爆発音の領域であった。 幽霧は唖然とする。 一瞬、屋根の中心がへこみ、反対に車の両端が若干地面から浮いたように見えたからだ。 釘バットは半分ぐらいがワゴンの天井にめり込む。 衝撃は車のフレームを駆け巡り、ほぼ全体に伝わっていく。 車が走行する為に必要な部分を徹底的に蹂躙していく。 威力が全て車に伝わった手応えを感じるや否や、冬秋は屋根に食い込んだ安全靴と釘バットを強引に引き抜き、屋根から飛び降りる。 車の尻が左右に揺れたかと思うと、いきなり急ブレーキをかけた。 きっとハンドリングが上手く切れなかったのであろう。 地面に身を転がしながら、冬秋は車が急ブレーキをかける音を聞いた。 次の瞬間、ハンドリングが効かなくなったワゴンは脇のガードレールに衝突する。 ブレーキでワゴンをゆっくりと停める幽霧。 弥生はいてもたってもいられないのか、助手席のドアを開き、ガードレールに衝突したワゴンに駆け寄る。 ワゴンの助手席から男が出てきたのを見た途端、弥生は拳を握る。 「俺の千歳と琴羽に何してんだボケェぇぇぇぇぇぇ!」 そして渾身の力で握られた弥生の拳が男の頬を捕らえた。 車から出た途端、いきなり殴り飛ばされた男は地面に叩きつけられる。 激昂している弥生は誘拐されていた千歳と琴羽の事など頭に無く、誘拐犯をボコボコにする事だけを考えていた。 今度は千歳と琴羽を連れて行こうとする男に殴りかかる。 「セレス。ターゲットだけでも頼むなー」 「分かった」 男は弥生に気づき、仲間の女に連れて行く二人を任せる。 「おらぁぁ!」 雄叫びを上げながら殴りかかってくる弥生の拳を片手で掴む男。 あいている片手で弥生の腹部に拳を叩き込んだ。 「ごぶっ……ぼぇ……」 弥生の腹部に拳が突き刺さり、強引に息が吐き出させられる。 普通なら意識を失って地面に叩きつけられる所なのだが、弥生は自分から舌を噛む事で意識を保つ。 男の頭を掴む弥生。そして身体を後ろに反らせ、あろう事か、その頭を男に振り下ろした。 「これは千歳と琴羽の分っ!」 一撃で額がへこんだのではないかと錯覚するほどの一撃が直撃する。 「これも千歳と琴羽の分っ!」 再度、男の額に弥生の頭が衝突する。男は脳が揺れるような感覚に襲われる。 弥生も痛いはずなのに、一撃ごとに頭突きの威力は増していく。 しかし弥生は男の頭をしっかりと掴んでいる。 弥生は男に向かって笑った。額の皮は裂け、額から出血していた。 ここで初めて男は弥生の執念とも言える固い意志に恐怖する。 「最後も……千歳と琴羽の、分だっ!」 渾身の力で弥生は頭突きの三連撃を叩き込んだ。 一瞬だけ男の意識が刈り取られ、身体から力が抜ける。 弥生は男の頭を掴んだまま強引に頭を下げさせる。そして片膝を叩きつけた。 叩きつけられた片膝が男の顔に突き刺さった。 男は意識を失い、弥生に倒れかかる。 気絶しているとは気づいていない弥生は更に攻撃を加えた。 倒れかかってきた男の背中に腕を回し、身体を反らす。 それはへそで投げるタイプのバックドロップ。 弥生によって男は完膚なきまでに倒される。 「あ~あ。ワイの出番は無しやな」 意識を失った女を脇に抱えながら冬秋は呟く。 「……冬秋」 「大丈夫や。千歳も琴羽も無事や」 冬秋の言葉に安心する弥生。 誘拐犯の乗っていたワゴンに歩み寄る弥生。 後部座席では千歳と琴羽が眠っていた。 少しだけ髪形が乱れているが、それ以外は変わりない。 「良かった……良かった……」 「ワイは腹部にパンチ喰らっても頭突き三連撃かまして、更にバックドロップで止めを刺すお前の方が危険だと思うわ。というか、ココナッツクラシャーで既にオチとったで?」 気絶した女を脇に抱えながら冬秋は安心する弥生に苦笑した。 「ん……? 兄さん……? 冬秋……?」 弥生と冬秋の声がうるさかったらしく、千歳は目を覚ます。 「おはよう。千歳」 弥生は目を覚ました千歳に笑顔を浮かべる。 「兄さん……はっ! ライヴは! 琴羽。琴羽。早く起きて!」 ライヴ前に誘拐された事を思い出した千歳は隣で寝ている琴羽の身体を揺らす。 「千歳ちゃん……?」 琴羽もどうにか目を覚ます。 「如月マネージャー……ココ、どこなのでしょうか……? えっ!?」 「ライヴはどうしたの兄さ……きゃっ!」 所載を訊ねる二人をいきなり抱きしめる弥生。 抱きしめられている二人は意味が分からない上に気恥ずかしいらしく、頬を赤らめながら弥生の腕の中で暴れている。 「良かった……本当に良かった……」 弥生に抱きしめられている二人はその言葉で暴れるのを止めた。 「兄さん……」 「如月マネージャー……」 二人は弥生の背中に腕を回し、抱きしめ返した。 その光景を遠くから眺めながら幽霧は念話を雪奈に接続する。 [長月部隊長] [ん? 誘拐犯たちから奪還できました?] 雪奈は幽霧の念話に瞬時に反応する。 [ええ] 頷く幽霧。 [威信を取り戻したいと思っている陸士部隊の方々を寄越すから、陸士部隊の方々が来たら、出来るだけ早く戻っておいで。ちゃんと場は繋いであるから] [了解いたしました] 雪奈との回線が切断される。 念話が切れた後、幽霧は弥生たちのいるワゴンの方へと歩く。 「陸士部隊の方が来るそうです。誘拐犯を引き渡した後、出来るだけ早く武道館に早く戻って欲しいそうです」 遠くからパトカーのサイレンが聞こえてきた。 「分かりました。ありがとうございます」 弥生は幽霧に頭を下げる。 「えっと……ライヴの方は長月部隊長が場を繋げているそうです」 「ご丁寧にありがとうございます」 「ありがとうございます」 千歳と琴羽の二人は幽霧に頭を下げる。 「兄さん……それ……どうしたの?」 「マネージャー……?」 弥生の顔を見た千歳と琴羽は驚いたように瞬きしている。 「何でもない。二人は気にしなくても良い」 顔を二人から背ける弥生。 「兄さん!」 千歳は手を伸ばして弥生の頭を掴み、無理やり前に向かせる。 そして二人は言葉を失った。 弥生の額に出来た傷跡から流れた血で顔が血塗れなのだ。 全然大丈夫、と開き直るように弥生は笑う。 「弥生はな~」 「……言わなくても良い」 冬秋は弥生の言葉など無視して、話を続けた。 「二人を誘拐した奴らにキレて、殴りかかったんや。二人の為にな」 気恥ずかしいのか、弥生は二人から顔をそらしている。 「……兄さん……」 「マネージャー……」 二人は着ている衣装の裾で血塗れになった弥生の顔を拭こうとする。 「止めろ。衣装が汚れる」 衣装を汚さない為に弥生はわざと厳しい声を出す。 「じゃあ。これをどうぞ」 幽霧は二人にハンカチを差し出す。 そして誘拐犯の使ったワゴンの中で眠るフェイトの方へ行く。 「フェイトさん。フェイト・T・ハラオウン執務官」 安否を確かめる為に幽霧はフェイトの身体を軽く揺らす。 「ん……。ゆう……ぎり……くん?」 「おはようございます。フェイトさ!」 目を覚ました途端、いきなりフェイトに抱きつかれる幽霧。 「……フェイト・T・ハラオウン執務官?」 何度も抱き疲れていると免疫も出来てくるらしく、無表情で淡々としている幽霧。 抱きついた状態でフェイトは言った。 「……夢を見たの」 「夢ですか?」 言葉を返す幽霧にフェイトは頷く。 幽霧の肩に顔を乗せ、耳元で囁く。 「うん……幽霧くんが沢山の人を殺していたのそして……」 言葉の続きを紡ぎ出すことを躊躇っているらしく、フェイトは口をつぐむ。 そしてゆっくり吐き出す様にフェイトは幽霧に囁いた。 「……最後に自身の頭にアルフィトルテちゃんの銃口を突きつけて自殺するの……」 「……」 フェイトの言葉に幽霧は硬直した。 硬直した幽霧にフェイトは頭を下げる。 「……ごめん。変な事を言って」 しかし謝罪した後も夢の内容がまだ尾を引いているらしく、フェイトは幽霧から離れようとしない。 その状態でフェイトは幽霧に訊ねる。 「幽霧くんはいなくならないよね……?」 フェイトの問いに大使、幽霧はすぐには答えなかった。 代わりに幽霧はフェイトの背中を優しく叩く。 まるで泣きじゃくる子供を慰める母親のようであった。 「……幽霧くん?」 「自分はそんな事はしませんよ」 背中を叩きながら幽霧は答える。 「そんな事をする理由もありませんし……そんな事をする気もありません。それに……」 幽霧は言葉を区切り、自信に言い聞かせるように答えた。 「……あの赤い世界の真実を知るまでは……死ねませんから」 「兄さん……大丈夫?」 誘拐犯を陸士部隊に引き渡した後、幽霧たちは弥生のワゴンで会場の武道館へと向かっていた。 そのワゴンの助手席で千歳は運転席で運転する弥生に尋ねる。 血は止まっているが、弥生の額には傷が残っていた。 「気にしなくても良い。お前と琴羽さんは気分を落ち着かせる事だけ考えれば良い」 弥生は前だけを見ながら答える。 「でも……」 まだ納得出来ていない千歳は引き下がろうとしない。 そこで今もワゴンの上で座っている冬秋が口を挟む。 「弥生の言う通りやで~。千歳と琴羽は自身のしたいようにやって行けばええ。泥や血を浴びるのはワイと弥生だけでええんや」 そう言って冬秋はケタケタと笑う。 「冬秋の言うとおりだ。泥や血を浴びるのは自分だけで良い」 ハンドルを切りながら弥生は答えた。 車内には振動がほとんど無く、運転手姿も板についている。 運転する姿からも弥生が熟練者であるように感じられた。 「ありがとうございます」 真ん中の後部座席で心からの笑顔で言う琴羽。 「……ありがとう……兄さん。冬秋さん……」 そして千歳は頬を赤らめながら恥ずかしそうに言った。 弥生と冬秋は満更でもない顔でニヤリと笑った。 一番後ろの後部座席では、幽霧は窓からぼんやりと空を見上げていた。 空は灰色の雲で夜空が隠れている。 季節的にはそろそろ雪が降ってもおかしくないのだが、降る様子も無い。 「空を眺めて、どうしたの?」 隣で座っているフェイトが幽霧に尋ねた。 「そろそろ雪が降っても良いはずなのに降らないので」 「雪……そうだよね。今日はクリスマスイヴで、明日はクリスマスだから……雪も降って欲しいよね」 フェイトも幽霧と一緒に空を見上げる。 ちょうどその時だった。 ワゴンの隣をオレンジ色の物体が通り過ぎたのは。 車道の隣で何かが爆発する。 発生した衝撃波で走っている車を揺らす。 「きゃあぁぁぁ!」 激しく揺れるワゴンに千歳と琴羽は悲鳴を上げる。 [幽霧] いきなり雪奈から通信が入る。 [長月部隊長?] [まず最初にごめん。幽霧。陸士部隊がしくじった] 謝罪する雪奈の声から申し訳なさが感じられた。 詳細について、幽霧は雪奈に訊ねた。 [一体、何があったのですか?] [実は『ウィンドワルツ』を誘拐しようとした人たちにはまだ仲間がいてね~。装甲車で突っ込んで来たそいつにね……] 幽霧は後ろを振り向き、背後の窓から後ろを見た。 予想通り背後には装甲がつけられた無骨な形の車がワゴンから距離を取りながら追いかけてきている。 [注意するように言おうと思ったけど……遅かったようだね] [はい……] 背後から飛んでくる射撃魔法やミサイルを眺めながら幽霧は頷く。 今は牽制が多いが、ワゴン狙いも何発かあった。 「おらぁ!」 冬秋はワゴンに飛んでくるミサイルや射撃魔法を釘バットで打ち返す。 しかし何発かは誘爆を喰らったらしく、冬秋のジャージの所々がこげていた。 [管理局で禁止している質量兵器も装備しているようです] [まあ……裏の方面では、対魔導師兵器として質量兵器も流通しているからね~] 苦笑する雪奈。その笑いにも力は無い。 周囲の爆音がより大きくなる。 窓からアルフィトルテを握った腕を出し、幽霧は飛んでくるミサイルを迎撃する。 アルフィトルテから撃ち出された魔弾は空中でミサイルと接触し、空中爆発を起こす。 [雪奈さん。上からの判断はどうなったのですか?] フェイトは幽霧と雪奈の通信に口を挟む。 [上は管理局自体が質量兵器の存在を認めないから、様子見] [なら……] バルディッシュを指の間に挟むフェイト。 どうやら背後の装甲車を撃墜する気らしい。 そこでフェイトを止める雪奈の声が飛ぶ。 [貴女がアレを撃墜しないで下さい] [何でですか! 雪奈さん!] 止める雪奈にフェイトは声を荒げる。 雪奈は淡々と答えた。 [砲撃魔法や高ランクの魔法などは質量兵器が誘爆で災害を起こす恐れもあるからね] 「くっ……」 確かに雪奈の言うとおりであった。 追っている装甲車には質量兵器がまだまだ入っている恐れがある。 その質量兵器が魔法で爆発したらどうなるか。 きっと装甲車の中にいる誘拐犯たちだけではなく、周囲にも多大な被害が来るだろう。 危険なのは爆発だけではない。爆発によって飛来する金属片なども人を殺す危険性がある。 多重の意味で幽霧たちは生半可な方法で装甲車を撃墜する事は出来ない。 背後の装甲車になされるがままにされている事態にフェイトは唇を噛む。 ミサイルが足りなくなってきたのか、今度はワゴンに狙って銃弾が飛んできた。 ある一発の銃弾がワゴンのバックドアを貫き、幽霧の頬と千歳の髪を掠める。 しかしそんなことで動じている状況ではなかった。 「兄さん!」 助手席でカーナビを見ていた千歳が叫ぶ。 「徐々に会場から遠ざかって来てるよ!」 カーナビは確かに弥生の運転するワゴンが目的地である武道館から離れていっている事を表示していた。 きっとこれも誘拐犯の作戦の一つであろう。 誘拐出来ないのなら、ライヴに出れない様に妨害すれば良い。 こうして妨害していれば例えライヴ会場のスタッフが場をつないでいても、痺れを切らせたファンが勝手に帰っていく。 そしてライヴを行われなかった事が報道され、世間でのイメージが落ちる。 もしかしたら犯人たちの作戦は妨害で無いかもしれない。 弥生たちが上手く逃げているから妨害として作用しているのであって、本当の狙いは『ウィンドワルツ』の二人並びに関係者を殺す事であるのかもしれない。 こうした殺人の類は裏社会で生きる者の得意な分野だ。 例え殺人であっても事故に見せかけたり、殺人の証拠を出させずに雲隠れする事くらい十八番であろう。 「分かってる!」 弥生はアクセルを踏み込み、スピードを上げる。 装甲車もスピードを上げる。 スピードを保ちながら弥生のワゴンは左折した。 これで装甲車を撒けると弥生は考える。 しかしの予想は綺麗に外れた。 更にスピードを上げた装甲車が左折してきた。 下手をすれば車体自体が反転しかねないリスクを負いながらも装甲車の運転手は弥生たちを追ってきた。 それにより、弥生のワゴンと誘拐犯の装甲車が併走している状態になる。 「……ちっ」 弥生はハンドルを握りながら舌打ちをする。 装甲車を撒く為に弥生はスピードを出しながら左折したのだが、装甲車の運転もそれなりの技術者であるようだ。 併走している装甲車の窓が開く。窓からせり出してきたのはショットガン。 「幽霧くん!」 誰よりも一番先にショットガンの餌食になる幽霧にフェイトは叫ぶ。 「――。アイギス」 至近距離でショットガンを撃とうとする相手に幽霧の顔は引きつる。しかし瞬時に[アイギス]を撃ち込んだ。 [アイギス]は装填された弾から何まで石化させる。 用を成さなくなったショットガンをいらないと判断のか、石化したショットガンを投げてきた。 幽霧はそれをキャッチし、[アイギス]の石化を解除。 ショットガンの銃口を装甲車に向ける幽霧。 「え……幽霧くん!?」 明らかにショットガンに装填された弾を撃ち込む気満々の幽霧にフェイトがぎょっとする。 死んだ魚の様に無機質な瞳で装甲車を眺めながらショットガンの銃爪を引く。 銃口から撃ち出された弾が爆発音を立て、装甲車の装甲に穴を開けた。 ショットガンによって吹き飛ばされた装甲は後ろに飛んでいく。 後ろを走行している車がいたら避けてくれる様にフェイトは祈った。 幽霧の追撃を考慮したのか、再び装甲車は後ろを下がる。 しかしワゴンを追う事は諦めていない。 [あっ。陸士部隊が交通規制を敷いたみたい] すぐに入った情報らしく、少しだけ驚いた声で報告する雪奈。 [規制範囲はどのくらいですか?] [武道館の周辺十km] 幽霧は身体を伸ばし、運転席の隣にあるカーナビを見る。 今は少し交通規制がなされている範囲から離れているようだ。 少し考えた後、幽霧は雪奈に訊ねた。 [交通規制範囲内で直線距離が一km以上の場所は] [あれでケリをつける気?] 幽霧の問いに雪奈は驚いたような声を出す。 [はい] [ふむ、分かった。完全詠唱版の使用を許可しよう] 頷く幽霧に雪奈はニヤリと笑い、ある魔法の詠唱を許可する。 [君たちのいる位置から五百m先を右折。その後、一km先で右折した位置からがグッドポイントだよ] 「弥生さん」 「了解」 雪奈の指示を聞いていた弥生はアクセルを踏み込み、スピードを上げる。 幽霧はフェイトにも指示を出す。 「フェイト・T・ハラオウン執務官。その地点に着くまで、シールド展開を頼みます」 「うん。分かった。……パルディッシュ」 「イエス。サー」 フェイトとバルディッシュはワゴンを覆うようにシールドを展開する。 幽霧はわざとワゴンのバックドアに「アイギス」を撃ち込む。 バックドアは「アイギス」の効果によって石化した。 [じゃあ、次は会場で会おう。絶対にも戻っておいで。まだまだ幽霧にはして貰わないといけない事があるからね] [はい] 頷く女顔の少年に蒼い髪の女性は微笑んで見せた。 微笑が優しく溶ける。 まるで労わる様な。慈しむ様な。 そんな微笑み。 雪奈と幽霧の通信はココで終了する。 「じゃあ……いくよ」
https://w.atwiki.jp/clownofaria/pages/108.html
第一部 第十四話『雪夜のライヴとカーチェイス』後編 弥生はワゴンのハンドルを大きく切り、曲がり角を右折した。 ワゴンの破壊も狙ってかミサイルや銃弾が打ち込まれる。 その攻撃はフェイトがバルディッシュによって展開したシールドが防ぐ。。 ただし爆発の衝撃がワゴンを襲う。 しかしスピードは減衰する事無く、逆に上がっていく。 その先も法定速度を超えた速度でワゴンは駆け抜ける。 「幽霧くん。そろそろだよ」 「そうですね」 ワゴンの窓から顔を出して後ろを見る。 装甲車はしっかりと幽霧たちの乗っているワゴンを追いかけて来ている。 無駄な弾薬を使いたくないからだろう。 銃弾やミサイルが飛んでこない。 再び弥生はワゴンを右折させた。 現れたのはずっと先まで続く直線。 雪奈の指示で陸士部隊が交通規制をきかせてくれたのだろう。 前方には車一つない。 そこから幽霧の戦いは始まる。 幽霧は再度、窓から身を乗り出して後方を確認。 あいかわらず装甲車はワゴンと距離を取りながら後をつけてきた。 そろそろミサイルや銃弾による攻撃が再開されるだろう。 顔を戻した幽霧は石化したバックドアを蹴り飛ばした。 「ぎゃあぁぁぁぁぁ!」 弥生の叫び声が聞こえた気がするが、幽霧はあえて無視した。 バックドアはまるで吸い込まれるように装甲車へ飛んでいく。 犯人たちはそのバックドアを破壊する。 石化したバックドアを破壊した誘拐犯たちが次に見たのは腹這いになりながら銃口を向ける幽霧の姿であった。 「煌めく白夜と暗き闇夜の狭間にありし悠久の黄昏。その中に黄金の月と白銀の太陽は見えるか」 幽霧の口から言霊が紡がれる。 アルフィトルテはその言霊に反応し姿を変える。 粒子レベルにまで分解され、拳銃形態から狙撃用のスナイパーライフル形態に再構築される。 同時にアルフィトルテを握る幽霧の腕がぼんやりと輝く。 「其は全てを貫く極星。あらゆる世界に存在する精霊の魂にして、永遠の護り手。それが故に世界最古の英雄となりし者」 アルフィトルテの銃口の先に真紅の魔方陣が展開され、幽霧の腕に魔方陣のような紋章が浮かび上がる。 徐々に、肩の付け根ぐらいまで紅い紋章で埋まっていく。 身体が魔力の収束によって悲鳴を上げた。 途端に魔法陣が揺らぎ、幽霧の身体に変調が起こる。 皮膚と肉の間に異物を押し込んだような痛みと違和感が脳内に伝達され、幽霧は身体の奥から何かが込み上げてくるような吐き気を催す。 しかし幽霧は歯を強く噛み、吐き気に耐えた。 歯を強く噛んだ時に唇も強く噛んだからだろう。幽霧に口元から真っ赤な血が伝って落ちる。 「其は全てを穿つ月の雫。無限の闇を漂う者にして、冥府の棺。それが故に夜の王となりし者」 体内の集束した魔力は強制的に銃弾サイズまで圧縮され、アルフィトルテに装填される。 同時にその魔法は幽霧の魔力を圧縮して出来た弾を核とし、周囲の魔力も吸収していく。 集束されていく魔力が荒れ狂い、制御主である幽霧に襲い掛かる。 魔力制御による負荷までもが身体にかかり始めた。 しかし幽霧は魔力の集束と濃縮を繰り返し、それを制御する事を止めない。 弾は高速回転しながら撃ち出されるのを待つ。 「其は全てを灼く紅陽。全てを照らす光にして、終焉の劫炎。それが故に天の覇者となりし者」 更にその術式は幽霧の身体を蹂躙し、圧搾し、全身の魔力を引きずり出し、圧縮が繰り返された弾に収束した。 その時点で既に幽霧の身体は疲弊し、意識は希薄となっていった。 身体が冷たくなっていく代わりにリンカーコアがマグマのように燃え滾っていく。 アルフィトルテの中に装填された魔弾は今をなお、回転と魔力を加えていく。 「其は幾千。幾万の始まりと終わりを束ね、世界を穿つ一閃を放つ」 幽霧はアルフィトルテの銃爪に指をかける。 しかしその身体やデバイスは痙攣か何かで震えていた。 フェイトは痛々しい姿を晒そうともアルフィトルテを握る幽霧に痛々しさを感じた。 「其は幾千の神と万有の魔王すら撃ち抜く英雄の魔弾――」 荒い息を吐き出しながらも、死んだ魚のように無機質な瞳で幽霧は装甲車を見る。 その吐息は見ているものに痛みすら感じさせてしまいそうであった。 身体の震えだけでも止めようと、幽霧の手に手を乗せるフェイト。 フェイトに手を触れられる事で身体がびくりと震える幽霧。 幽霧の手は氷のように冷たい。しかし何故か胸の部分は炎のように熱い。 冷たくなった幽霧の手がフェイトの体温を少しずつ奪っているのか、徐々に手が温かくなっていく。 そして幽霧の身体の震えが止まった。 「――アルテ・アリア」 幽霧はその魔法の銘を呟き、アルフィトルテの銃爪を引いた。 銃爪が絞られる事で撃針が今もなお、魔力の吸収と急速回転を行う弾の尻を叩く。 そしてアルフィトルテの銃口から、魔力の集束と圧縮が限界までなされた魔弾が撃ち出された。 撃ち出された魔弾は虹のように輝きながら燐光を撒きながら飛んでくるミサイルや銃弾。射撃魔法を貫く。 しかしその威力は一向に衰える事など全く無い。 虹色の渦を巻きながらほとばしる光が奔る。 ついに弾は装甲車のタイヤに着弾。そして片側の前輪と後輪を抉り取った。 片側の前輪と後輪を抉り取られた装甲車は摩擦で火花を出しながらゆっくりと止まる。 魔弾は光を放ちながらも徐々に消え散る。 全てを殲滅する様な威力を孕んでいた事を思えば、消え行く姿は余りにも呆気なく儚かった。 ワゴンは幽霧の魔法によって停止した装甲車を置いて、武道館へと走る。 「大丈夫?」 フェイトが後部座席で幽霧に訊ねる。 「ちょっと……眠いです……」 そう言って幽霧の身体は倒れる。 幽霧の身体をフェイトは受け止めた。 疲労が限界に達したらしく、既に幽霧は寝息を立てながら眠っていた。 さっきの通信によるとまだまだ幽霧はする事があるらしい。 フェイトはこの間だけでも寝かせてあげようと思ったのか、眠る幽霧の頭を胸の間で抱きながら囁いた。 「ごくろうさま」 武道館の前で雪奈が幽霧たちを待っていた。 「長月さん」 雪奈は弥生に笑いかける。 「ご苦労様。ちゃんと場は繋げたからね」 そう言って雪奈は弥生たちを案内する。 スタッフ専用通路では沢山の局員とスタッフが忙しなく動き回っている。 弥生はステージの状況を知る為に備え付けのテレビをちらりと見る。 そしてテレビに映る光景に唖然とする。 ステージには一人の青年が立ち、司会進行を行っている。 「時空管理局感謝祭も遂に終盤です! 残すところ、後四人! ラスト四人目は時空管理局のアイドル。らぐ姉こと、蔵那クロエちゃんですっ!」 軽快なBGMと共に白い帽子をかぶった少女が現れる。 観客は現れた少女に大きな歓声を上げた。 少女はマイクを両手で抱きしめ、観客たちに叫ぶ。 「みんなっ! きいてっ! 時空の……はちぇまでっ!」 「まさかあれって……」 驚く弥生に雪奈は駆け寄り、笑顔で答えた。 「涼香さんとクロエさんですね」 《水面が揺らぐ。風の輪が広がる》 風が輪の様に広がって水面を揺らす。そんな場所。 《触れ合った指先の……青い電流♪》 隣にいる貴方にふと、触れみる。そしたら電撃みたいのがはしったの。 「一体どうやって……」 「私のコネをなめたらいけませんよ」 雪奈は唖然とする弥生に笑いかけた。 唖然としながらも弥生はテレビを見る。 《見つめあうだけで、孤独な加速度が……一瞬砕け散る。あなたが好きよ》 貴方と見詰め合うだけで、寂しい気持ちが無くなっちゃう。 きっと私は貴方が好きなんだね。 《透明な真珠のように宙に浮く涙》 涙が宙に浮く。まるで透明な真珠みたい。 「凄い……」 千歳は画面に移る光景を見ながら呟く。 たった一曲で会場にいる観客を纏めつつあるからだ。 歌っているのは『ミッドチルダの歌姫』と謳われたえーまひよーでも、『癒しの光輝』の八尋でも、『天壌の桜歌』という二つ名を持つ歌月久遠でもない。 ラジオのリスナーの間で人気なだけの女性。 それなのに観客が惹きつけられている。 歌の才は経験と努力の差で上かもしれないが、人を惹きつける才は目の前で歌っているクロエの方が上かもしれないと千歳は思った。 千歳は静かに歯噛みする。 「……千歳ちゃん」 その時、隣で誰かが千歳の肩を叩く。 「琴羽」 「私たちもいつか、あの領域に上るのですよ」 「そうだぞ。千歳。お前と琴羽さんはあの領域に辿り着かないといけないんだ」 弥生も千歳の肩を叩いて笑う。 「兄さん……琴羽……」 《悲劇だってかまわない……あなたと生きたい~♪ キラッ!》 例え待っているのが悲劇の結末でも良い。 それでも私は貴方と一緒にいたいの。 そこで右手の親指・人差し指・小指の三本を立てながらウィンクするクロエ。 クロエのウィンクに観客が鼻血を噴水のように噴出する。 中には鼻血を霧のように噴出しながら倒れる人も出てきた。 「おいっ! 大丈夫か!?」 「シンデレラが……時空管理局のシンデレラが光臨した……」 倒れた人は今もなお、鼻血を噴出しながら呟く。 「すかり~ん!!」 《流星にまたがって、あなたに急降下 ah ah》 私は流星にまたがって貴方の元に行くよ。 「ウオぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」 観客たちの熱気も最高潮に達し、腕を振り上げながら叫び声があげた。 中には鼻血を流しながら腕を振り上げる観客もいる。 舞踏間の床には既に血溜りが出来、倒れているものは全員が至福の表情を浮かべている。 「おwまwいwらw飼い慣らされやがって!」 根っからの『ウィンドワルツ』ファンらしき男が周囲で発狂している観客に叫ぶ。 そして激昂する男に周辺の観客は答える。 「「サーセン!」」 《濃紺の星空に。私たち花火みたい》 まるで私たち。濃紺の星空に咲く花火みたいだね。 《心が光の矢を放つ》 思いが伝わるように私は貴方の心に光の矢を放つよ 「はいはい。千歳さんも琴羽さんもメイクや衣装を直さないとね~」 笑顔で手を叩く雪奈。 千歳と琴羽はメイクアーティストの待つ待合室へと入る。 幽霧は雪奈に尋ねる。 「自分は何をすればよろしいのでしょうか?」 「ん~。こっちの部屋に入ってくれれば良いよ」 千歳と琴羽の入った部屋の隣にある待合室を指差す雪奈。 その顔は何かろくでもない事を考えている時の黒い笑顔であった。 雪奈の意図が全く分からないが、幽霧は隣の待合室に入る。 待合室で待っていたのは左右の髪にリボンを縛り、メイク道具を持った女性であった。 「天音さん」 「ちょっとだけ久しぶりですね~。幽霧さん。いや……至高の歌姫《オーヴァストゥディーヴァ》?」 そこにいたのは居酒屋『苺壱枝』の女主人。月城天音であった。 楽しそうに笑う天音に幽霧は苦笑しながら答える。 「至高の歌姫《オーヴァストゥディーヴァ》? って……あの時は……」 「じゃあ。もう一度、天音の言う至高の歌姫《オーヴァストゥディーヴァ》になってもらおっか。幽霧♪」 ドアを背にして、雪奈は笑う。 「どう言う事でしょうか?」 大体のことは予想がついているが、あえて雪奈に尋ねる幽霧。 幽霧の問いに雪奈と天音は笑顔を浮かべる。 雪奈の笑みはあらゆる物を自身の思い通りに操るような黒い笑顔。 片や、天音の笑みはあらゆる物を従えるような威圧のある笑顔であった。 「簡単だよ。ちょっと取引の材料で幽霧を使う事になっただけだよ」 そう言って雪奈は待合室にあるテレビの電源をつける。 「ラスト三人目は超豪華ゲスト! 『ミッドチルダの歌姫』えーまひよー嬢と『癒しの光輝』八尋嬢!」 涼香の言葉に観客全員が唖然とする。 『ウィンドワルツ』のコンサートを見に来たのにまさか、クラナガンのトップアイドル二名が登場するとは思っても見なかったからだ。 静かになった会場の中で涼香は歌われる曲の題名を告げた。 「歌われるのはこの曲! え~まひよ~さんの「それでもあなたを愛してる」です。今回はえーまひよーさんと八尋さんのデュエットver! 嬉し過ぎて発狂しないで下さいね!」 スピーカーから少しテンポが早いBGMが流れる。 二人の口から紡がれるのは孤独な哀しさの中にも力強さを秘めた壮大なバラード曲。 片想いの彼に気持ちを伝えたいけど、不器用な私はドキドキするばかりで恋の一歩が踏み出せない。 一人の夜は寂しく、そんな時こそ貴方が側に居て欲しいと想う女性のせつない感情。 例え貴方がどんな過去を背負っていたとしても、私はあなたを好きになってしまった。 スローテンポの中にも感じ取れる力強いメロディーが、聞いた人の心に響かせる愛の歌。 今回はライヴ用にテンポが従来の物より速く、歌詞も幾つかがアレンジされている。 「実はえーまさんと涼香さんに緊急で交渉したら、交換条件として幽霧がライヴで歌って欲しいと言われちゃってね~♪ 八尋さんは友情出演ですが」 雪奈はかなり黒い笑顔で説明する。 「私も嬉しいですね~。もう一度、至高の歌姫《オーヴァストゥディーヴァ》を見られるなんて~」 化粧道具を構えながら距離を詰めて来る天音。 唯一の出口は雪奈がいる。 そして目の前には天音が化粧道具を構えている。 確実に逃げられる状況ではない。 「……分かりました」 ため息をつきながら幽霧は同意した。 「じゃあ、衣装を着るので脱いで下さい」 「……はい」 雪奈たちの前で幽霧はカッターシャツのボタンを外し始めた。 幽霧の着ていたカッターシャツとTシャツが床に落ちる。蛍光灯の光を浴び、綺麗にくぼんだ鎖骨のラインが、彫像を思わせる白くきめ細かな肌が露わになる。 何故か天音はゴクリと唾を飲んだ。 「やっぱり肌……綺麗なんですね」 「そうですか?」 首を傾げる幽霧。 「だって幽霧だからね~」 爽やかな笑顔で親指を立てる雪奈。 「はぁ。納得です」 天音はそう言って、一着のドレスを渡す。 渡されたのは今回もマーメイドスタイルのドレス。 純白の生地を基調に右肩から縦にブルーラインが引かれている。首の部分を含めた要所にひだが幾重にもあしらわれており、本来は舞踏会などの礼装。 人魚の名を示す通り身体に密着するように設計され、いやでもボディラインが浮き彫りになる。 幽霧は胸部に胸パッドを付け、マーメイドスタイルのドレスを着用した。 ドレスのデザインで胸パッドが見えないので、まるで幽霧の胸が本当に膨らんでいるように見えた。 「……どうでしょうか?」 「流石です。慣れていると言うのは伊達じゃありませんね。同じ女の子として、貴女に憧れますね♪」 「だから……自分は男です」 一種の賛美も入った天音の冗談に幽霧は苦笑する。 最後に幽霧の唇に口紅を塗り、髪に髪飾りをつけた。 「う~ん」 雪奈はドレスを着た幽霧を見ながら唸る。 何故か満足しているようには感じられない。 自身の見立てが悪かったのかと思った天音は雪奈に尋ねる。 「えっと……あの……私のセンスが悪かったでしょうか?」 「いいや。天音の選択はグッド。でも何か足りない……」 唸りながら雪奈は幽霧の上から下までジロジロと見る。 流石にジロジロと見られるのは恥ずかしいらしく、幽霧の頬は微かに赤い。 そしてアルフィトルテを見た。 「そうだ! パートナーだ!」 雪奈はアルフィトルテの前で手を差し出す。 突然の行動にアルフィトルテは首を傾げる。 「アルフィトルテ。幽霧と同じ年齢の身体になって。ドレスは赤と黒。私の魔力を幾らでも吸収しても良いよ」 差し出された雪奈の手を握るアルフィトルテ。 幽霧たちの目の前でアルフィトルテの身体が急成長する。 成長した少女の身体に光が纏わりつき、赤と黒のドレスを形成した。 アルフィトルテの姿に幽霧と天音は唖然とする。 まさか目の前にいる少女がアルフィトルテだと思わなかったからだ。 元々のアルフィトルテも可憐であるが、目の前にいる少女は半端じゃないくらいの美少女であった。 無表情の多い幽霧も流石の変化には目が点になっている。 「どう? ママ」 アルフィトルテは幽霧に尋ねる。 呆然としながら幽霧は一言だけ呟く。 「……あーおねえちゃん……?」 「えっ?」 幽霧の呟きにアルフィトルテは聞き返す。 雪奈の顔が一瞬だけ驚いた顔をする。 「はい? 何か言った?」 無意識の独り言だったらしく、幽霧は首を傾げる。 話を聞いていないと思ったアルフィトルテは怒りながら言い直す。 「だから! ……どう? ママ……」 尋ねるアルフィトルテの頬はとても赤い。 幽霧は微笑みを浮かべながら、アルフィトルテの問いに答える。 「可愛いよ。アルフィトルテ」 「やったぁ♪」 褒めて貰えた事が嬉しかったらしく、幽霧に抱きつくアルフィトルテ。 「さて、そろそろ行かないとね」 雪奈はそう言って待合室の扉を開く。 扉を開いた途端、フェイトが入ってきた。 そして硬直した。 「大丈夫! ……幽……霧……くん……?」 女装をした幽霧を始めて見るフェイトは凍りついたかのように硬直。 「どうですか? フェイトさん」 フェイトに向けて妖艶な笑顔を浮かべる幽霧とアルフィトルテ。 その瞬間、フェイトの鼻から鼻血が噴水の様に噴出しながら倒れた。 「あ~らら♪」 鼻血を噴きながら至福の表情を浮かべるフェイトに雪奈は苦笑した。 「ラスト二人目は管理局と芸能界で囁かれている伝説の歌姫! ミラージュです!」 涼香が告げた瞬間、会場の電気が全て消される。 突然の闇に観客たちが騒ぎ始めた。 スピーカーから、さっきより静かでゆっくりとしたテンポの曲が流れる。 《みつめていることさえ 罪に思える》 貴方を見つける事でさえ、私には罪であると思えてしまう 次の瞬間、柔らかな声が広がった。 優しく、包み込むような、そんな温かい歌声。 そして透明で夜の闇に溶けてしまいそうであった。 《あなたの心を知りたい……もしも盗めるなら》 もし盗めるのなら、私は貴方の心を知りたい 会場に旋律が流れる。 それは哀しくて寂しくも、どこか優しくて懐かしい旋律。 ステージに一筋の光が落ちる。 現れたのは二人の少女。 一人は茶色の髪に濡れた様な黒い瞳に、うっすらと唇に引かれた夜色の口紅。 もう一人は 夜の闇に隠される事無く浮かび上がるような紅い髪に鮮血をそのまま固めて出来たような真紅の瞳。 二人の身に纏うのはマーメイドスタイルのドレス。 片方は青と白で、片方は赤と黒のドレス。まるで対称にしたかのようであった。 胸から腰に出来たくびれやほっそりとした華奢なボディラインが浮き彫りになっている。 まるでどこかのパーティから抜け出したような感じであった。 《報われない想いに濡れて行く。傘もささない帰り道》 雨が降る日に傘もささずに歩く帰り道。決して叶わない想いに私の心も涙で濡れてしまう 硝子の鈴を想わせる様な澄みきった声音が流れる。 《通りがかる車 はね返す。つめたい しずく 雨》 その冷たい雨の雫が見も心も濡らしてしまう 建物の中なのに一陣の風が前触れもなく通り過ぎる。 これはそよ風の響きだろうか。 否。それは夜を思わせる闇の中で流れるささやかな歌だった。 《ほんのちょっとでもいいから ねえ 私を見て あなたに心を見せたい いっそすべて言えたら》 少しでも良いから、私は貴方に全てを見て欲しい。 いっそ、全てを言えたら良いのにね。 その旋律はか細くて弱弱しさを感じたが、明確に人の心を打つ何かがあった。 特別な技法など無く、殊更に美声というわけでもない。 しかしその声から織り成す音の連なりはひどく純粋で、心の模様を音に変えた様な飾り気の無い美しさがあった。 まさしく、魂の歌声。 ただあるがまま、自然に歌い上げるその響きは多くの歌い手が最初に望み、得られぬままに忘れ果てていく一つの極致。 《報われない想いをどうするの 傘もささない帰り道》 帰り道、傘もささずに歩きながら貴方を想う。 この報われない想いを私はどうすれば良いの。 全員が、己の吐息の音さえ押し殺して聞き入った。 不粋な自分の呼吸音が切ない程に純粋な歌をかき乱さないように。 それと一緒に調理の音や食事の音も消える。 余計な物音が歌の持つ透明さに濁りを与えては仕舞わぬ様に。 《好きよ キライよ いいえ 愛してる》 私は貴方が好きです。でも嫌いです。 ううん、違います……私は貴方を愛しています 夜を思わせる闇に極光を思わせる旋律が流れる。 その旋律は空気の様に聴く者を包み込む。 《迷う しずく 雨》 雨が降り注ぐ中で濡れながら私は迷う。 「あ……あれ?」 観客の一人が自身の頬を拭う。 頬に流れていたのは一筋の涙。 《報われない想いが濡れてく 傘もささないひとり道》 報われない想いで心が濡れている一人の帰り道。 歌姫たちから紡ぎ出される曲も終わりに向かっていく。 その時点で、聴くという動作をしていない人はいなかった。 全員が瞼を閉じ、身動きもとらないでその曲に聞き入る。 まるでわずかな音色すら取りこぼすまいとするように。 観客たちは涙を止めようとせず、そのままステージを見る。 《決して あなた気づくことはない 涙 しずく 雨 》 その想いに決して貴方は気付かないだろう。 雨と一緒に涙が雫となってこぼれる。 ついに聞いている人全員が涙を流し始める。 しかし誰も拭おうとはしなかった。 《報われない想いに濡れて行く。傘もささない帰り道》 決して報われることの無い貴方への想いだけが心を満たしていく。 「これが……えーまさんのいう逸材の歌声ですか?」 「ええ……」 涙をぼろぼろと流す八尋。 えーまは指の腹で涙を拭いながら答えた。 幽霧とアルフィトルテの歌は歌詞が切ないというのもある。 しかしその歌は胸をつくほど悲しくなるような歌声であった。 無意識に涙を出させてしまうかのように。 《通りがかる車 はね返す。つめたい しずく 雨》 通る車が跳ねた水は冷たく、心も冷えていく。 私は貴方の想いで満たして欲しいのに。 しかしそれは決して叶わない願い。 こうして、歌姫の歌は終わる。 歌姫たちはゆっくりと息を吐く。 夜色と紅の唇から漏れる吐息が夜を思わせる闇の中に溶けて消えた。 ここでやっと聴いていた人たちも深く息を吐いた。 徐々に歌姫たちを照らしていた照明が消える。 照明が消えた闇の中で観客たちの嗚咽だけが聞こえた。 「みなさ~ん! 何泣いてんですか!」 会場に明るい声が響き渡る。 同時にステージの照明が一気につく。 そこにいたのは衣装を着た千歳と琴羽。 「私達がその涙を吹き飛ばしてあげる!」 「ついにラスト! 真 打 登 場 ! アイドルグループ『ウィンドワルツ』の如月千歳と音無琴羽です!」 服の裾で流れた涙を拭いながら涼香はその名を叫んだ。 「ご苦労様」 舞台袖では雪奈たちが笑顔で幽霧とアルフィトルテを迎えた。 「ありがとうございました」 幽霧は出迎えた人たちに一礼する。 ステージでのドレスを元の姿に合わせて戻ったアルフィトルテもぺこりと一礼した。 二人の一礼に和みながらも歓声を上げた。 「ねぇ。幽霧くん。アイドルをしてみない?」 悪戯っぽく笑いながら幽霧に言うえーま。 「丁重にお断りさせて頂きます」 「残念だね♪」 何故かえーまではなく、八尋が楽しそうに笑う。 「らぐぅ~。凄かったにゃ~」 「ありがとうございます」 幽霧は話しかけてきたクロエに頭を下げる。 「……流石、私の……お姉さまなのにゃ……」 「はい?」 「何でもないにゃ~」 顔を隠しながら走っていくクロエ。何故か頬が赤かったのは気のせいだろうか。 「……幽霧くん」 「大丈夫ですか? フェイトさん」 スタッフたちの端にフェイトの姿があった。何故か鼻にティッシュをつめている。 「うん……」 顔を真っ赤にさせ、左右の指をもつれさせながら頷くフェイト。 フェイトは幽霧をチラチラ見ながら尋ねる。 「えっと……綺麗だよ……幽霧くん……」 幽霧はフェイトの言葉に硬直する。 元々、幽霧の目には生気が余り無いのに、ついに目が死んでしまった。 舞台裏にいた人たちが幽霧の死んだ目にギョッとする。 笑っているのは上司である雪奈だけだ。 死んだ魚のような無機質な目で幽霧はフェイトに言った。 「……そうですか」 「ごめん……なさい……」 幽霧に見つめられたフェイトはガタガタ震えながら謝罪する。 フェイトの中にある何かしらのトラウマを刺激してしまったのだろうか。 「まぁ……良いで……」 何かを諦めてた様な幽霧。 そしていきなりぶっ倒れる。 「駄目だよ……ふぇ?」 フェイトは突然の事に慌てながらも幽霧の身体を受け止めた。 突然の事態に舞台裏が騒然となる。 「ちょっと貸して」 雪奈だけは平然とした様子で幽霧を抱きかかえた。 そして雪奈は幽霧の顔に耳元を当てる。 幽霧は静かに寝息を立てていた。 「疲れて寝ちゃったんだね……」 苦笑する雪奈。その顔は妙に優しげであった。 舞台袖にいた全員は安心で胸を撫で下ろす。 「はぁ……」 深いため息をつく弥生。 弥生がいるのは観客がいなくなった武道館。 「やっと二人もここまで来たんですね……」 ステージの床を撫でながら弥生は呟く。 ここまで辿り着く間までに色々とあった。 千歳が弥生のいた事務所のオーディションを受けた事から始まった。 妹である千歳と同じく、新人である音無琴羽との出会い。 そして二人のプロデューサー兼マネージャーとして再び芸能界に足を踏み入れた。 ある日突然、千歳の声が出なくなった。 琴羽が家出して、如月家の居候となった時もあった。 「まだまだこれからだな……」 「弥生」 背後を振り向くとそこには神威の姿があった。 「ご苦労さん」 にやりと笑いながら神威は弥生に缶コーヒーを差し出す。 弥生は缶コーヒーを受け取る。 自動販売機ですぐに買ったものらしく、とても温かい。 プルタブを開ける音が二人しかいない会場に響く。 缶コーヒーを嚥下する弥生。 疲弊した身体に缶コーヒーの甘さと温かさが身体に染みた。 神威は弥生の隣に座る。 「今夜は色々あったな~。大丈夫か~? 弥生~」 「まあ、大丈夫」 しばらく会場が沈黙で満たされる。 「あの……さ……」 弥生はゆっくりと口を開いた。 「大晦日は社長に無理言ってでも休むから……その……」 言う事も恥ずかしいらしく、弥生の頬は微かに赤い。 「お前の仕事の合間にデートしないか?」 弥生の告白に神威は何も言わなかった。 「神威?」 隣を見る弥生。 弥生の肩に頭を乗せながら神威は寝ていた。 意味の無い告白をしてしまったことが恥ずかしかったらしく、しばらく硬直する。 「はぁ……なかなかうまく行かないなぁ……」 我に返った弥生は苦笑しながらため息をつく。 そして隣で眠る神威の顔に触れる。 「……そういえば、神威にこうして触れるのも久しぶりと言ったら、久しぶりかな……」 弥生の指が神威の肌を滑る。 いつもは関西方面の方言を使う男勝りでセクハラ魔な神威だが、眠っている時の顔や身体の柔らかさは女の子であった。 眺めたり触ったりしている内に弥生は神威にキスしたいという衝動に襲われた。 寝ている神威に無理矢理するのも悪いとは弥生も思ったが、キスしようと思った。 何故なら起きている神威はのらりくらりとかわすし、迫っても恥ずかしがるからなかなかさせてくれないからだ。 神威にゆっくりと顔を寄せる弥生。そして神威の唇に触れる。 触れた神威の唇は瑞々しく、とても柔らかかった。 名残惜しそうに唇を離す弥生。 「……ヘタレやなぁ」 「!?」 いきなり目を開いた神威にぎょっとする弥生。 まさか起きているとは思わなかったようだ。 「数多い特技の一つ。秘技『狸寝入り』や」 その声は弥生に届いていない。 起きていたと言う事はさっきの告白まで聞かれていたという事になる。 わたわたする弥生の頬を神威は両手で挟む。 神威の顔が徐々に近づいていく。 弥生と神威の唇がゆっくりと触れる。 「答えは……これで駄目か?」 顔を真っ赤にしながら首を左右に激しく振る弥生。 「でも残念やな……寝ているときじゃないとキスしてくれないなんて」 左目を閉じながら右目を半分だけ開け、人差し指を唇に当てる神威。 微かに赤い頬と濡れた唇で妙に艶っぽい。 「だって、神威が……」 妙に色っぽい神威に弥生はドギマギする。 「男はちょっと強引な感じの方が良いんやで」 「じゃあ……」 いきなり神威を押し倒す弥生。 神威の両腕は弥生に押さえつけられる。 冷や汗を流し始める神威。 「や……弥生?」 「少し強引な方が良いのでしょう?」 弥生は神威に覆いかぶさり、唇を塞ぐ。 そして舌で唇を開き、神威の口内に侵入し始めた。 「うわっ……公共施設で奥さん押し倒したよ……」 「兄さんの節操なし」 雪奈と千歳はステージの二人を見ながら呟く。 弥生は誰もいないと思っているようだが、実は椅子の影からステージの二人を見ている人が何十人もいたのだ。 現場スタッフもいたし、時空管理局感謝祭に出た人たちは一人残らずいる。 二人を茶化したい衝動を抑えながらも息を殺して、その場を見守る。 「如月マネージャー……」 押し倒されながら弥生に濃厚すぎるディープキスをされている神威を羨ましそうに見る琴羽。 となりで千歳は自身の相方に突っ込みを入れた。 「はい。そこっ。羨ましそうな顔をしないで下さい」 「そろそろこんな所ではヤバい意味でハッテンしそうな気がするのは気のせいでしょうか……」 ある局員の呟きで全員がギョッとする。 雪奈はカメラや創作魔法でその場の出来事を録画しながら言った。 「まあ、良いんじゃない? 恋は自由って言うし、これはこれで……弱みが握れるし……ふふふふふふふふふふふふふふふふふふ……」 黒い笑顔で不気味な笑い声を上げる雪奈を見た局員たちは思っただろう。 この場でハッテンしようとしている二人もヤバいかもしれないが、一番やばいのはここでカメラや創作魔法で盗撮している諜報部部隊長だと。 そこにいる全員が決意した。 盗撮をしている諜報部部隊長を止める事は出来なくても、ステージでハッテンしている二人を止めないといけない。 動こうとする人たちに雪奈はステージの二人を眺めながら小さく呟いた。 「……ステルスバインド・アイギステイスト」 その場にいた人全員の身体が硬直し、姿や声が一瞬にして消えた。 雪奈が魔法で動こうとした局員の身体を硬直させ、姿と声を隠したのだ。 動く事を決意しようとした人たちは黒い笑顔を浮かべながら魔法を発動した雪奈にぞっとした。 「ふふふふふ……」 雪奈の不気味な笑い声を小さくあげた。 待合室で幽霧は壁にもたれかかりながら熟睡していた。 今もなお、着ているのはマーメイドスタイルのドレス。 暖房が入っているが流石に薄いドレスだと風邪を引くからか、身体には毛布がかけられていた。 隣ではアルフィトルテが幽霧の肩に頭を預けながら眠っている。 「……」 フェイトは椅子に座りながら眠る二人を見守っていた。 そして小さく呟いた。 「うん。やっぱり綺麗だな……」 眠っている幽霧の顔は起きている時の幽霧を知っている者であれば、本人か疑ってしまうくらい綺麗な寝顔であった。 起きている時の幽霧は無表情で大人びているように感じられるが、寝ている時はまるで子供のように純粋無垢な感じがした。 その上。ドレスとあいまって、二人の眠り姫という言葉が似合うような感じになっている。 そんな幽霧を見ているフェイトは思う。 目の前で寝ている少年の過去に一体、何があったのだろうか。 「ふわぁ……」 フェイトはあくびする。 誘拐されていた時は寝ていたとはいえ、フェイトの身体には疲労が残っていた。 そしてその時に見た夢も余りよろしくなかった。 フェイトは幽霧の隣に歩み寄って座る。 「……おやすみ。幽霧くん」 何気なくフェイトは幽霧の額にキスをした。 幽霧の毛布に身体を潜り込ましてからやっと事の次第に気づく。 「ううっ……幽霧くんが可愛いと言うか、いつもエリオやキャロにしてるからというか、割と好きだからというか……」 フェイトは頬を赤らめながら自身に言い訳をしていた。 雪奈たちが打ち上げをする為に待合室へ戻って来る後十分前の事であった。
https://w.atwiki.jp/clownofaria/pages/106.html
第一部 第十四話『雪夜のライヴとカーチェイス』前編 コンクリート打ち出しの殺風景なマンションの一室。 パイプベッドの上で二人は眠っていた。 一人は茶色の髪を肩の辺りまで伸ばし、もう一人は真紅の髪が腰の辺りまで伸びている。 二人の眠る姿はまるで童話の眠り姫を彷彿とさせた。 ベッドに眠る一人は勿論、幽霧。 近くに置かれた時計がある時刻を示した瞬間、幽霧が目を覚ます。 まるでスイッチが入ったかのようであった。 ゆっくりと洗面台へ歩き、水道の栓をひねった。 蛇口から勢い良く水が迸る。 幽霧は肌に食い込むような冷たさを感じながら水で顔を洗う。 タオルで濡れた顔を拭き、椅子に掛けたエプロンをつけた。 そして冷蔵庫から卵と市販のベーコンを取り出す。 手慣れた手つきで幽霧はフライパンに油を引き、ベーコンを焼く。 油が弾ける音と香ばしい匂いが部屋の中を満たした。 ベーコンに焦げ目がついたところで卵を落とし、塩で味付けをする。 フライパンにふたを乗せ、しばらく焼いたところで目玉焼きは完成した。 幽霧は出来上がった目玉焼きを皿に移し換え、別の皿に市販の食パンを乗せる。 「ん……おはよぅ……ままぁ……」 紅い髪の少女も起きたらしく、瞼を擦りながら現れる。 「おはよう。アルフィトルテ。ご飯が出来たよ」 幽霧はやかんでお湯を沸かしながら言う。 アルフィトルテは瞼を擦りながら椅子に座った。 椅子が高いからか、アルフィトルテの足がぶらぶらと揺れている。 幽霧はアルフィトルテに食パンと目玉焼きが乗った皿を渡し、自身のカップに粉末のインスタントコーヒーを入れる。 そして玄関へと歩き、扉のポストに突き刺さった朝刊を読みながら戻ってきた。 戻る頃にはやかんのお湯が白い湯気を出しながら沸騰していた。 インスタントコーヒーの粉末の入った自身のカップにお湯を注ぎ、軽くかき混ぜながら新聞の一面記事を読み直す。 「今回は『マジカ』のレンジョウさんですか」 幽霧は流行している誘拐事件の新しい被害者の名を呟く。 最近、巷でアイドルを誘拐する事件が立て続けに発生している。 犯人は複数のグループであるらしく、現在で三つのグループが逮捕された。 しかし誘拐事件は起こり続け、現在で九十三の件数が報告されている。 今回はアイドル事務所の一つ。『マジカ』に所属するレンジョウと言うアイドルがライブ直前で誘拐されたらしい。 今回はこれまでの事件を危惧して、警備員や時空管理局陸士部隊の局員を動員された。 しかしそのアイドルは誘拐され、今も安否が心配されているらしい。 民間情報には意外と疎い幽霧でもレンジョウというアイドルの名は知っていた。 レンジョウは魔導師としての資質があり、民間人で魔導師ランクを所有している数少ない人だ。 過去に魔導師ランクの登録申請があったのを幽霧は書類で見た事があった。 幽霧の所属する諜報部でも誘拐されたアイドルの調査は依頼されている。調査線上に複数のグループが浮かび上がっているが、確信のある情報は掴めていない。 その上そういう仕事をする組織が無数にある為、全てのグループについて把握すら出来ていない。 諜報部もお手上げと言う事だ。 いっそ諜報部が警備を行った方が調査するより早いのではないかと、幽霧はインスタントコーヒーを啜りながら思う。 それならばアイドルたちの安全を守る事も出来るし、組織の一つくらいは一網打尽に出来るかもしれない。 しかし幽霧はそれが無理だという事も分かってはいた。 諜報部は大体の部署から嫌われている。そんな諜報部が陸士部隊を差し置いて警備任務をさせて貰えるとは思えない。 幽霧は物事が上手く行かない事に軽くため息をついた。 「まま……だいじょうぶ?」 ため息をつく幽霧を心配するアルフィトルテ。口の周りにはトマトケチャップがついている。 「大丈夫だよ」 苦笑しながら幽霧はティッシュでアルフィトルテの口の周りを拭った。 幽霧はアルフィトルテを男性用更衣室の前で待たせ、専用ロッカーを開ける幽霧。 「……」 今日も隊服が男性用から女性用に代わっていた。 替えを持ち合わせていなかった無い幽霧は躊躇いも無く女性の隊服に着替える。 そこで幽霧は服の影にあった一冊の冊子に気づくと同時に硬直した。 ロッカーの棚に置かれていたのはまさしく、諜報部によって回収されていったはずの『幽霧霞総受け集』。 隣のロッカーに手を突き、うな垂れる幽霧。 自身をモデルにした同人誌がここまで広まっているとは思わなかったのだろう。 そして無言で冊子を手にとって読み始める。その顔はまったく変化が無く、無表情のままであった。 そして読み終わった『幽霧霞総受け集』を持って出て行った。 更衣室に静寂が訪れる。 「なぁ……」 男性局員の一人が沈黙を破る。 「なんだ?」 「あれ……俺の宝もんだったんだぞ……」 「ほら。二千やるから、買いなおせよ」 財布から紙幣を取り出す男性局員。 そこに別の局員が口を挟む。 「おい。お前、知らないのか? 今、オークションで一冊の平均価格が十八万なんだぞ……」 「……マジ?」 その情報に紙幣を持った手が止まる。 今まで隠し持っていた『幽霧霞総受け集』を失った局員は床にひざを着きながらうな垂れている。 まるでそこへ止めを刺すように新たなる情報がもたらされる。 「でも昨日、ネットオークションを見たら……一冊が四十九万で売買されていたぞ」 うな垂れた局員は起き上がり、局員の一人に掴み掛かった。 「俺のオカズ……どぉしてくれんだよ!」 「諦めろ……」 胸を捕まれた局員は首を振る。 「おれのかすみたぁ~ん!!」 幽霧霞総受け集を失った局員は叫ぶ。 「ついにイカレやがった……」 「……ああ」 歩きながら幽霧は女性用の隊服と共に入っていた『幽霧霞総受け集』を読んでいた。 存在はヴァイスやレンによって前から知っていたが、中身を見るのは今日が始めてであった。 内容は無修正の裏本と言っても差し支えない程のレベルであった。 身体や性器が精密に書かれている上に、両性具有や女体化などの口に出すにも恥ずかしいようなネタが満載だった。 これなら長月部隊長が回収命令を出してもおかしくない。 そして『幽霧霞総受け集』と書かれた冊子は意外と厚くて重い。 人間の妄想は恐ろしいという話を前に聞いた事を思い出した幽霧は全くその通りだと思った。 幽霧がそんな事を考えている内に諜報部の部署にたどり着く。 「おはようございます」 「うん。おはよう。幽霧」 挨拶する幽霧にメガネをかけた雪奈が笑顔で返す。 机の上には山積みにされた本とコーヒーの入ったカップが置かれていた。 「何を読んでいるのですか?」 「蛇男著の『ダンボールで世界を変えた男』シリーズ」 雪奈は本に目を通しながら答える。 この『ダンボールで世界を変えた男』は蛇男によって数年前に書かれた携帯小説なのだが、今でも根強い人気がある。 内容はとある軍人が諜報任務で様々な地で活躍する物語なのだが、見所は主人公のダンボール使いにある。 この主人公はダンボールを使って海を渡ったり、雪山でサーフィンをするのだ。 そんな主人公が受け、今でも人気を博しているのだ。 一時期は物語の内容を再現する人が多数現れ、一種の社会現象と化していた。 その中で涙無しでは語れない様々な物語や沢山の怪我人が生まれ、良い意味でも悪い意味でもミッドチルダのギネスブックに沢山の記録が掲載されている。 売り上げは民間人一人あたりが一巻を四冊ずつ購入するのと同じ金額まで叩き出され、過去から現在までその記録を超えた記録は存在しない。 ただし現在のベストセラー書籍である如月弥生の『羞恥地獄』がその記録を破るのではないかと実しやかに囁かれている。 「実は『ダンボールで世界を変えた男』の一巻目が映画化されると話を聞いてね。読み直しているわけだよ」 「はぁ……」 映画にはあまり興味が無い幽霧は生半可な返事を返す。 雪奈は読んでいた『ダンボールで世界を変えた男』を閉じる。 そして笑顔で雪奈は幽霧に提案した。 「クリスマスからその映画が上映されるんだよ。初日に一緒にどう?」 「そうですね……」 映画を見るのは久しぶりな幽霧は満更でもないらしく少し考える。 「その後、久しぶりにみんなで食事しよっか」 提案する雪奈の笑顔はいつもの黒いものでは無く、とても穏やかなものであった。 幽霧もそんな雪奈を見るのは入院の時という緊急事態を除けば、ほぼ久しぶりであった。 その時、一人の女性局員が雪奈に話しかける。 「雪奈部隊長。ちょっと頼みがあるんやけどええか?」 「どうしたんですか? 神威・如月拷問担当」 そこにいたのは諜報部拷問担当の神威であった。 「諜報部を貸して欲しいんや」 神威の一言に諜報部の全員が凍りついた。 しかし雪奈は動揺しておらず、机に置いていた手帳を手に取る。 手帳をめくりながら神威に問う。 「いつですか?」 まったく動じていない雪奈に幽霧たちは驚く。 神威もまったく動じていない雪奈に驚きながらも答える。 「十二月の二十四日と二十五日や」 「大丈夫。詳細は?」 「クリスマスライヴの警護。依頼者はうちのだんな」 手帳を閉じ、楽しそうに笑う雪奈。 「へぇ~。公式で九十四件目の被害者になる気満々ですか」 「巷ではアイドル誘拐事件が流行ってるけど、そんな事は関係ない……やて」 苦笑しながら答える神威。 「それは凄い」 神威の口から出た言葉に雪奈は驚嘆する。 再び手帳を開き、雪奈は更に黒い笑みを深めた。 「陸士部隊を差し置いてこっちに依頼ですか」 「今までのケースから陸士部隊の警護は信頼出来ないやと。それならうちのいる諜報部に依頼した方がましなんやと……」 自身の所属する部隊の部隊長に警護を依頼するのは面倒らしく、神威は深いため息をつく。 「それは信用されているのかされていないのか分からない回答だね~♪」 ため息をつく神威に雪奈は苦笑する。 「よし、分かりました。警護任務を請け負います」 雪奈は立ち上がり、全員に指示を下す。 「話は以下の通りです。休み返上して、ライヴの警護任務を行います」 その場にいた局員たちにも不平不満があったが、口に出しはしなかった。 既に全員が分かっているからだ。 諜報部部隊長である雪奈・長月を敵に回したらろくな事にならないと。 「デートの予定があった方はこのライヴに来るように恋人に言って下さい。観覧席のチケットくらいは入手して来ます」 そして雪奈は何名かに命令を下す。 「神威拷問担当。至急、貴女のだんなにアポイントメントを取って」 「……了解」 神威は連絡回線を夫の職場に繋ぐ。 「鉈部隊長代行とネタミヤは陸士部隊の部隊長あたりが何か言って来たら、「ガタガタ言うとスパンキングが好きな人の国に送ってやる」とでも言って置いて」 「……」 「返事は?」 無言の二人に雪奈は黒い笑顔を浮かべる。 その黒い笑顔に二人の身体に存在する生存本能が警鐘を告げた。 「……ヤー」 「分かりました……」 二人が刻々と頷いたのを確認すると、雪奈は扉のすみに置かれたスタンドに引っ掛けられたヘルメットを持って諜報部を出た。 十二月二十四日 神威の夫がマネージャーをしているアイドルグループ『ウィンドワルツ』がクリスマスライヴが行う日の夜。 クラナガンの武道館には沢山のファンが訪れていた。 そして沢山の局員が武道館を囲んでいた。 [こちら拷問班007。A-10は異常なしです] [了解。こちら管理班006。警備を続けて下さい] [こちら次元航行部隊008です。外はどうですか?] [管理班005。外は異常無し] 武道館一帯では念話による情報交換が絶えず行われている。 結論から言うと諜報部隊だけでは警護任務を行わせて貰えなかった。 会場がクラナガン屈指の武道館である事による人材不足。 今までの失敗を払拭したい陸士部隊からの申し出。 諜報部を全く信用出来ていない上層部。 様々ものが絡み合い、最終的には陸士部隊・次元航行部隊・諜報部の合同警備となった。 諜報部局員の幽霧も外で警護任務を行っていた。 [こちら諜報班031です。中はどうですか?] 幽霧は歩きながら念話の回線を繋ぐ。 [……諜報部の貴女に教える筋合いはありません] 念話の回線を繋いで質問した途端、ぶっきらぼうに回線を切られる幽霧。 内部の情報が知りたい幽霧は改めて回線を繋ぎなおす。 [陸士部隊069だ。中は大丈夫なのか?] [だから中は……] [もったいぶってんじゃねぇよ。似非エリート] [――っ! 五月蝿いですよ。脳味噌まで筋肉で出来た筋肉馬鹿] [なによぉ!] 回線を繋ぎなおすと、陸士部隊と次元航行部隊の局員が言い合いをしていた。 これは話の聞きようが無いと判断した幽霧は別の回線に接続する。 [諜報班031ですが、内部でのトラブルは大丈夫なのでしょうか?] [こちら次元航行部隊013。トラブルは無し。そちらは?] 今度の局員はきちんと反応された。ちゃんと仕事をこなす人もいるらしい。 [こちら諜報班031。外は小さなトラブルは続出] [了解。そのトラブルを至急、解決して下さい] そこで回線が切られた。 「ふぅ……」 立ち止まり、幽霧はため息をついた。 今はまだ目立つ様な異常は起きていないが、色々とトラブルが起きているらしい。 幽霧が担当している入り口側では、ライヴを行う『ウィンドワルツ』の如月千歳と音無琴羽のどっちが可愛いかでトラブルが起きていた。 その時は友人らしき人が止めた為、幽霧が仲裁する羽目にはならなかった。 他にも見知らぬ人たちにナンパされたり、どこかのスカウトマンに名刺を渡された。 別の場所ではアイドルたちの控え室に忍び込もうとした人もいたらしい。 幽霧が時間を確認する。そろそろ交代の時間だ。 「アルフィトルテ?」 さっきまで自身からくっついて離れなかったアルフィトルテがいつの間にかいなくなっている事に気づく幽霧。 まさか見知らぬ人に連れて行かれたのだろうか。 慌てて周囲を見回すが、人が多すぎて何が何だか分からない。 「幽霧くん?」 アルフィトルテを探す幽霧に一人の女性が声をかけた。 幽霧は声をかけてきた女性を見る。 そこには長い金髪が風に揺れる金髪紅眼の女性がいた。 女神の様な美しさと優しそうな雰囲気を醸し出している。 隣にはアルフィトルテが立っていた。 幽霧の姿を見た途端、アルフィトルテは目が潤みだす。 そして走り出し、幽霧の足にすがりつく。 「アルフィトルテ?」 幽霧の声にアルフィトルテは顔を上げる。 「ママぁ………」 アルフィトルテの顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。 濡れているあたりから、隊服が涙と鼻水まみれであることが分かった。 幽霧はアルフィトルテの脇の下に手を入れ、そっと抱き上げる。 それを待ちわびていたかのように、アルフィトルテは幽霧の方に頭を乗せ、両手を首に回す。 紅葉のように小さなアルフィトルテの手が幽霧の服をギュッと握った。 「よしよし……」 背中を優しく叩きながら、幽霧は褒める。 額を幽霧の肩に押しつけて、アルフィトルテは堰が切れたかのように大声で泣き始めた。 困りながらも、幽霧はアルフィトルテの背中を優しく撫でる。 しかし、まだ泣き止む様子はない。 幽霧は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっている隊服のポケットからティッシュを取り出し、鼻をかませる。 「えへへ………」 鼻をかんで貰ったアルフィトルテは無邪気に笑う。泣いていたからか、泣き笑いにしか見えない。 抱き上げながら幽霧は、泣き笑いするアルフィトルテを見て苦笑した。 女性はそんな光景をある意味羨ましそうに、そして微笑ましそうに眺めていた。 アルフィトルテを抱き上げた状態で幽霧は女性に頭を下げる。 「ありがとうございます。フェイト・T・ハラオウン執務官」 「気にしないで。歩いていたらこの子が迷子になってただけだから」 フェイトは幽霧に笑いかけた。 [こちら管理班000。諜報班031。というか、幽霧] いきなり雪奈から念話の回線が接続される。 [はい。こちら諜報班031。何でしょうか?] [ライヴ開始まで交代だよ] [了解いたしました] そこで念話の回線を雪奈から切断された。 「どうしたの?」 「長月部隊長から交代の許可が下りました」 幽霧は背後から現れた局員と会話を交わし、アルフィトルテを抱きかかえたまま歩き出す。 「あのっ! 幽霧……くん……?」 「何ですか?」 フェイトに声をかけられた幽霧は振り向く。 「晩御飯はどうするの……?」 「? 手作りのお弁当ですが」 幽霧の回答にフェイトの目が輝く。 「一緒にお弁当とかどうかな?」 「別に良いですけど」 「じゃあ、行こう!」 フェイトはあいている幽霧の手を引く。 幽霧はフェイトに引っ張って行かれるしかない。 三人は武道館近くの公園にたどり着く。 クリスマスでテンションが上がっているのか、カップルが異様に多い。 偶然にも空いたベンチに幽霧たちは座り、弁当を開ける。 「わあぁぁぁぁ……」 アルフィトルテは弁当の中身に嬉しそうな声を上げた。 中に入っているのは色とりどりのサンドイッチ。 「綺麗だね」 フェイトはアルフィトルテのお弁当を見ながら感嘆する。 その隣で幽霧も弁当箱を開く。 お弁当の中には白米と一緒にエビチリやタレつきの焼肉。ポテトサラダなどが詰められていた。 二人の弁当の中身が別々である事にフェイトは驚く。 「ねぇ……幽霧くん」 「何ですか? フェイト・T・ハラオウン執務官」 お弁当に手をつけながら幽霧は反応する。 「別々のお弁当を作るのって、苦労しない?」 幽霧は口にある物を飲み込んでから口を開く。 「ある程度、中に入れる物を同じにしておけば出来ます」 簡単そうに言う幽霧にフェイトは驚く。 言うのは簡単だが、実際に行動に起こすと手間がかかるのだ。 「そのポテトサラダも幽霧くんが?」 「ええ。まあ……」 「いただきます」 器用にフェイトは箸で幽霧のポテトサラダを掬い取り、口に入れた。 硬直するフェイト。次の瞬間、目から涙がこぼれる。 「…うぅ…ひくっ…ぅ……。」 そして突然泣き出してしまう。 幽霧はポケットからハンカチを取り出し、フェイトに渡す。 「……大丈夫ですか?」 フェイトは幽霧からハンカチを借り涙を拭う。 「このポテトサラダ……母さんの味がする……」 「はぁ……そうですか……」 どんな反応を返せば良いか分からない幽霧は曖昧な返事を返す。 涙が止まったようだが、少し涙声でフェイトは言う。 「幽霧くん……良い奥さんになれるよ……」 「すみません……自分……男なんですが……」 フェイトの言葉に突っ込みを入れる幽霧。 流石の幽霧も性別については譲れないものがあるらしい。 「あ……そうでしたね。見た目が可愛いので、忘れてました」 「……そうですか」 悪戯っぽく笑うフェイトに幽霧は無表情で返した。 「じゃあ。私はこの玉子焼きをあげるね」 自身の弁当箱を開き、中の玉子焼きを幽霧のお弁当に乗せるフェイト。 「……ありがたくいただきます……」 幽霧はその黄色い玉子焼きを箸で摘む。 形は綺麗に出来ているし、綺麗な焦げ目も入っている。 感嘆しながらも幽霧はその玉子焼きをかじった。 口の中に砂糖らしき甘さが広がる。 「……」 「どうしたの?」 硬直する幽霧にフェイトは首を傾げる。 幽霧は一言だけポツリと呟く。 「この玉子焼き……甘いんですね」 「なのはとヴィヴィオが好きなんだ……幽霧くんは好きじゃなかった?」 「いえ……」 自身の弁当箱に視線を落とし、俯く幽霧。 そして幽霧は俯きながらフェイトの問いに答える。 「甘い玉子焼きを食べるのが少し久しぶりだったので……懐かしくて」 「そう……なんだ」 俯いているせいで表情が見えない幽霧にフェイトは曖昧な返事しか返すことが出来ない。 幽霧は思い返すように呟く。 「長月部隊長たちと住んでいた時……」 「えっ……?」 雪奈たちと住んでいたという言葉に驚くフェイト。 フェイトの驚愕に気づいていない幽霧は顔を上げ、思い返すようにまた呟いた。 「長月部隊長や鏡月開発部主任が日替わりで玉子焼きを作ってくれて……甘い玉子焼きが出る日が楽しみでした」 「もしかして……幽霧くんの玉子焼きも……」 「違います」 そう言って幽霧は自身の作った玉子焼きをフェイトのお弁当に乗せた。 入れられた玉子焼きをかじるフェイト。 トマトの酸味とチーズの濃厚な味が口いっぱいに広がる。 「……おいしい」 「アルフィトルテは卵の間にミートソースが入っているのが好きなので」 驚くフェイトに幽霧は淡々と答える。 「ママぁ。アルフィトルテも甘い玉子焼き……」 「……はい」 フェイトの甘い玉子焼きをせがむアルフィトルテ。 幽霧は大きく口を開けるアルフィトルテにかじりかけの玉子焼きを放り込む。 放り込まれた玉子焼きを咀嚼するアルフィトルテ。 そして幽霧とフェイトを見ながら笑顔で言った。 「あまぁい♪」 「それは良かった♪」 アルフィトルテの笑顔にフェイトの顔もほころぶ。 幽霧は黙々と自身の弁当を食べ始める。 「ねぇ。幽霧くん」 「なんですか?」 声を掛けてきたフェイトに箸を止める幽霧。 恥ずかしいのか、微かに頬を高潮させながら言った。 「私に料理を教えてくれないかな?」 「……はい?」 理由が全く分からない幽霧は首を傾げる。 上手に玉子焼きを焼けるフェイトが料理を教えて欲しいというのは確かに変であった。 「べっべべべべ……別に変な意味じゃなくてね……」 なぜか慌てているフェイト。 幽霧の疑問は更に深まっていく。 「料理のレパートリーを増やそうと思って……ほら。幽霧くんって、一人暮らしなんでしょ? 雪奈さんから聞いたよ」 「? 今は二人暮しですよ」 「……え?」 同棲生活しているという幽霧の言葉にフェイトは唖然とする。 「アルフィトルテと」 驚かれる理由が全く分からない幽霧。 首を傾げながらフェイトを見る。 「あっ……そっか。何考えてたんだろ……あははは……はぁ……」 何か別の事を想像していたらしく、苦笑するフェイト。 「まあ。教えてくれないかな?」 「はぁ……自分はただの器用貧乏ですよ? 頼むのなら別の方がよろしいかと」 フェイトの頼みに幽霧は珍しく困惑している。 「幽霧くんが良いんだよ……まともに頼めるのは幽霧くん位だし……」 何故か言葉を濁しながら言うフェイト。 明らかに何かあったとしか思えない雰囲気だった。 軽くため息をついた後、幽霧は答えを返した。 「自分で良いのなら」 「ありがとう! 幽霧くん!」 いきなり幽霧に抱きつくフェイト。 「ちょっ! フェイト・T・ハラオウン執務官!?」 フェイトに抱きつかれ、うろたえる幽霧。 その時、音声のみの通信が入る。 [こちら次元航行部隊013。ティアナ・ランスター執務官補佐です。フェイト・T・ハラオウン執務官。交代の時間なのでお願いします] [はい。こちら次元航行部隊000。フェイト・T・ハラオウン。了解いたしました] 「私はそろそろ交代時間だから行かないとね」 フェイトは幽霧から身体を離し、弁当箱を包みなおす。 「じゃあ。自分たちも交代時間に備えて、行きます」 幽霧は自身の弁当箱とアルフィトルテの弁当箱を仕舞って立ち上がる。 歩きながら幽霧はフェイトに尋ねる。 「フェイトさんはどこの警備を担当しているのですか?」 「クリスマスライヴをする『ウィンドワルツ』の如月千歳さんと音無琴羽さんの身辺警護かな」 「それは大変ですね……」 やはり執務官クラスだと重要人物の身辺警護の方に回されるらしい。 責任重大な任務に感嘆する幽霧にフェイトは笑う。 「ん~。それほど大変ではないよ。割と年は近いから話しやすいしね」 そしてフェイトは幽霧に言った。 「私は幽霧くんがいつもこなしている任務の方が大変だと思うよ?」 「そうですか?」 自身の仕事をさほど大変なものだと思っていない幽霧は首を傾げる。 首を傾げる幽霧がフェイトには可愛く見えたのか、苦笑しながら答えた。 「そうだよ。雪奈さ……長月諜報部部隊長に任務内容を見せて貰った事があるけど、死と隣り合わせな感じがしたよ?」 「長月部隊長の事ですから、現実を見せる為にあえて酷い物を見せたのだと思いますよ。大体の任務はそんなに危なっかしいものではありません」 フェイトの隣を歩きながら幽霧はまるで他人事の様に淡々と説明する。 アルフィトルテは幽霧とはぐれるのが嫌なのか、幽霧の手をぎゅっと握っている。 淡々と語る幽霧の横顔をちらりと見ながらフェイトは呟く。 「私……なのはの言っている事……よく分かるなぁ……」 「ん? 何がでしょうか?」 「幽霧くんは見てて危なっかしいって」 なのはとフェイトの言葉に幽霧は疑問を感じた。 もし危なかしかったら、諜報部に所属していないと思ったからだ。 「そうですか?」 「うん。そうだよ~。だって幽霧くん……存在が幽霊か霧みたいに曖昧模糊なんだもん」 視線を前方に戻し、上を見上げるフェイト。 空は灰色の雲で覆われている。 フェイトは空を見上げながら小さく呟く。 「……きっと幽霧くんは私たちが知らない裏で消えるように静かに死んでしまうような気がする……」 「何か言いましたか?」 「ん? 何でもないよ……」 空を見上げながら深いため息をつくフェイト。 その吐息はすぐに白く凍りつき、空気に混じるようにゆっくりと消えていった。 「じゃあ。ここでお別れだね」 関係者専用の通路前で立ち止まり、幽霧たちを見る。 「フェイト・T・ハラオウン執務官も身辺警護を頑張って下さい」 幽霧はフェイトに頭を下げ、アルフィトルテは幽霧の服を掴みながら片手でフェイトに手を振る。 「うん。幽霧くんも外の任務を頑張ってね」 そう言ってフェイトは扉を開き、関係者通路へ入る。 扉は少し音を立てながら閉じた。 交代した時には人がいたのだが、今はさほどいなかった。 きっと舞台の最終調整の方に回っているのだろう。 フェイトは微妙に入り組んだ通路の中を歩く。 二十五分か三十分くらい歩いただろう。 警護するアイドル二人がいる楽屋へたどり着くフェイト。 そして扉をノックする。 「警護担当のフェイト・T・ハラオウンです。交代に来ました」 しかし担当しているティアナが出てくる所か、反応すらない。 再び扉をノックするが全く反応が無い。 何かトラブルがあったのではないかと思ったフェイトは扉を開く。 部屋の中には誰もいなかった。 移動したのなら連絡が入ってもおかしくない。 そう思ったフェイトの視界におかしな物が写った。鏡台の下に誰かがうつ伏せになって倒れている。 フェイトの補佐官であるティアナ・ランスターであった。 「え……ティアナ? 大丈夫!? 何があったの?」 思わずフェイトは走り寄って声をかけたが、反応が無い。 一体、ここで何があったのだろうか。 その時、周囲の何かに気が付くフェイト。 妙に鼻につく甘い匂い。 正体は分からないが、フェイトは慌てて呼吸を止める。 「う……あっ……」 しかし時は既に遅しであった。わずかに吸い込んだ物が脳に入り込んだのか、フェイトの意識がぐらりと揺らぐ。 ごく微量であったのかもしれないが、耐性の無いフェイトの意識を落とすのには十分であったようだ。 フェイトは床に倒れこむ。 最後に見えたものは女性二人を脇に抱え込んだガスマスクの人間数名であった。 「さて。交代時間が来るまでフラフラしよっか」 「うん!」 フェイトを見送った二人は時間を潰す為に歩き出す。 もうすぐでライヴが始まるにもかかわらず、いまだに入場待ちの人たちがいた。 そこからも今夜ライヴを行うアイドルたちの人気がそこからでも分かるようだ。 「ん?」 入り口の一つを通り過ぎた時、幽霧は奇妙な二人組みを発見する。 一人は金髪を縦ロールにして、男性用のスーツを着た女性。 もう一人は茶髪をポニーテールにし、ミニスカートとワイシャツの上に水色のパーカーを着た少女。 足元には機材が置かれている。 どうやらスタッフと言い争いをしているらしい。 確かあの入り口は芸能関係の記者や新聞社専用の入り口。 アルフィトルテに袖を引っ張られながらそのスタッフの方へ行く。 「えっと……何かありましたか?」 「はぁ……この人たちがクラナガン新聞の記者なので入れてくれないかって……」 「チケットもちゃんとありますのよ?」 金髪の女性はスタッフにチケットを出す。 「だから何度も言いますが、このチケットは時間限定です。その時刻は過ぎているので……」 「だから遅刻しただけで、私たちは新聞記者ですのよ!」 スタッフに激昂する女性。 「あい様……」 「こっとんは黙ってなさい!」 弱々しい声を出す少女を女性は怒鳴りつける。 そろそろこっちに興味を引かれた野次馬が来そうだ。 幽霧はスタッフにチケットを差し出す。 「じゃあ。このチケットは駄目ですか?」 「!?」 驚くスタッフ。それは一般者用のチケットであった。 「問題はありませんが……」 「良いですの?」 言いよどむスタッフの代わりにあいと呼ばれた金髪の女性が腕を胸の下で組みながら問う。 「良いのです。警護任務を抜け出してライヴを見るように渡されましたが、自分には無用の長物です」 「あい様。いただきましょうよ」 こっとんと呼ばれた少女はあいに提案する。 あいは少し考え、幽霧の差し出したチケットに手を伸ばす。 「……っ! ありがたく頂きますわ」 「はい。どうぞ」 幽霧は相手に安心を与える為に仕事用の笑顔を浮かべる。 その笑顔にあいやこっとんどころか、スタッフまで顔を赤らめた。 頬を高潮させながらあいは幽霧に問う。 「貴女……どこかで何かの雑誌に出ませんでしたか?」 チケットを持つ幽霧の手が微かに震えた。 「ん~。あい様もですか? 私もこの人に似た人をどこかで見た気が……」 「多分、気のせいですよ。自分は一介の局員ですから」 顔を寄せるあいとこっとんに妖艶な笑顔で返す幽霧。 「――っ!!」 妖艶な笑顔を浮かべる幽霧にあいとこっとんは顔を真っ赤にする。 いきなり顔を真っ赤にする二人に幽霧は首を傾げた。 「大丈夫ですか?」 幽霧はあいに顔を近づける。 妖艶な幽霧の顔を見た後に顔を近付けられると流石に心拍数なども上がるらしく、あいの顔は湯気が出るほど真っ赤になる。 「? 本当に大丈夫なんですか……?」 更に顔を近づける幽霧。 あいは顔を赤らめ、幽霧から視線を逸らしながら恥ずかしそうに言う。 「だ……だいじょうぶ…です……お姉さま……」 「……はい?」 言葉の意味が上手く伝わらなかった幽霧は首を傾げる。 不思議そうな顔をする幽霧にあいは我にかえる。 「き……気のせいですわ!」 恥ずかしさを隠すようにあいは幽霧からチケットをぶん取る。 「はい! これで良いでしょう!」 「あっ……はっ……はぁ……」 半分以上、挙動不審なあいにチケットを押し付けられたスタッフは目を白黒させるしかない。 あいはこっとんの名を呼ぶ。 「こっとん。行きますわよ!」 「はっ! はい!」 足元に置いた機材を慌てて担ぐこっとん。 幽霧に背中を向けながらあいは言った。 「名乗り遅れましたわね。私の名前はあい・R・アイランドですわ」 「……幽霧霞です」 あいに名乗り返す幽霧。 「……じゃあ、幽霧霞さん。その借りはいつか返させて頂きますわ」 「返さなくても良いですよ」 無用の長物を渡した程度で恩義を感じられる筋合いは無いと思った幽霧はあいに言った。 しかしその言葉にあいは返す。 「……借りを返さないと私のプライドが許さないですの。絶対に返させて貰いますわよ?」 これ以上言っても時間の無駄だと悟った幽霧は軽くため息をつく。 「はぁ。分かりました」 幽霧の言葉に安心したのか、あいの口元が緩む。 そして足元にある機材を担ぐ。 「じゃあ。失礼します」 こっとんは幽霧に軽く会釈する。 二人はスタッフからチケットの半券を受け取り、会場に入っていった。 「うん。まだ時間がありますね」 ちらりと時計を見る幽霧。交代時間まで後、三十分くらいある。 「くしゅんっ!」 幽霧の隣でアルフィトルテは小さくくしゃみする。 人型になるとデバイスも寒さでくしゃみするのだろうか。 デバイスが風邪を引くかは分からないが、幽霧は着ていたジャケットをアルフィトルテにかける。 アルフィトルテには少し大きかったらしく、袖や裾が余ってしまった。 「だぶだぶ~。でも……あったかい~♪」 幽霧はしゃがみながらジャケットの袖を折り、アルフィトルテに言う。 「とりあえずあったかい物でも買いに行こうか」 「うん!」 立ち上がった幽霧はアルフィトルテを手を繋ぎ、自動販売機を探しに行く。 「ん?」 二分くらいで見つけた自動販売機の側で二人は驚くべき人を見つけた。 抱いたら折れてしまいそうな華奢な腰つき。 まるで女性にしか見えないその身にまとうのは黒いスーツ。 きめ細かい肌に長いまつげ。一つにまとめられた茶色の長い髪。 自販機の隣にあるベンチにいたのは『ウィンドワルツ』のマネージャー兼プロデューサーである如月弥生であった。 「如月弥生さん」 幽霧は弥生に声をかける。 「あ~。誰でしたっけ?」 弥生は気だるそうに幽霧の方へ振り向く。 疲労が来ているのか、目の下に薄い隈が出来ている。 そのせいで女性のように綺麗な顔が台無しであった。 「諜報部所属。幽霧霞です」 「ん~? ああ、君が神威の言ってた幽霧ですか」 気だるそうに反応する弥生の声は男性にしては高く、女性にしては少し低い。 その声は弥生が男性であると思わせず、そういう声の女性なのだと思わせる。 弥生の見た目から声まで全てが女性っぽかった。 この容姿で男だとは分からないだろう。 「えっと……確認の為に聞きますが、男性ですよね?」 「……ああ」 うんざりしたように答える弥生。 そう言われても明らかに女性にしか見えない。 これがいつも自分を見られている人の心境なのかもしれないと幽霧はしみじみ思った。 幽霧は黄昏ている弥生に尋ねる。 「こんな所で何をしているのですか?」 「ん? 休憩しているんですよ」 弥生は缶コーヒーを飲みながら答える。 「自分がいると千歳と琴羽さんが集中出来なくなるしね」 「でもあそこには警護の人がいるのでは?」 「二人と年齢が同じくらいの女性を配備して貰うように言っているから大丈夫」 弥生は苦笑しながらコーヒーを飲む。 「……それに……二人に出来る事はこれ位しか出来ないしね……」 そう言って弥生はうな垂れる。 「社長は言い宣伝になると言ったけど、それは一種の賭けですよ。それもこっちの分が悪い賭けだ。くそっ……二人を危険に晒す真似しか出来ないなんて……」 怒りの余り、自身の太ももに拳を落とす弥生。 「きっとその気持ちはお二人にも伝わっていると思いますよ」 「……そうかな」 「そうですよ」 幽霧は軽く弥生の背中を叩く。 弥生の気分を紛らわせる為に幽霧は別の話を切り出す。 「そういえば、如月弥生さんの買いた『羞恥地獄』。読ませて頂きました」 「あっ。アレ? あははは……はずかしいなぁ。最初は二人の担当になる為に社長から書かされたレポートだったのに」 やはり恥ずかしいのか頬を赤らめながら苦笑する弥生。 「まさかそのレポートが書籍化されて、ベストセラーになるとは思いませんでした……」 ため息をつく弥生。さっきよりは気分が落ち着いてきたようだ。 「あれは興味深い自伝集でした。皆様はフィクションの小説だと思っているかもしれませんけどね……」 幽霧の一言に弥生はぎょっとする。 そして幽霧を見つめながら尋ねた。 「何故……自伝集だと?」 「描写が異様に細かいのと……自分にも同じ経験があるからです」 微かに頬を高潮させながら答える幽霧。 弥生は幽霧の顔で納得する。 「……なるほど……ね」 「そういう事です」 幽霧は苦笑する。 「お互いに大変だね」 「ええ……」 そして二人はため息をついた。 [緊急事態。緊急事態」 突然、緊急の念話が伝達される。 [全部隊に伝達。アイドル二人とフェイト・T・ハラオウン執務官がさらわれた] 「えっ……」 幽霧は驚きで、口から声が出た。 「ん? どうしたんですか?」 驚愕したまま硬直する幽霧に弥生は声をかける。 「如月千歳。音無琴羽。二人の周辺警備担当のフェイト・T・ハラオウン執務官。以下三名が……誘拐されました」 「なんだって!」 弥生は幽霧の報告に驚く。 [あっ。あっ。こちら管理班000] 今度は雪奈からの念話が接続された。 [諜報班031というか、幽霧。今後の作戦説明の為、集合。ついでに如月弥生さんも捕まえてきて] [ヤー] そこで念話の接続が解除される。 「長月部隊長から集合を受けました。如月弥生さんもだそうです」 「ああ。分かった」
https://w.atwiki.jp/gcmatome/pages/7536.html
チェイスH.Q. 【ちぇいすえいちきゅー】 ジャンル レースゲーム 対応機種 アーケード 使用基板 TAITO Z-SYSTEM 販売・開発元 タイトー 稼働開始日 1988年11月 判定 良作 ポイント ドライブゲームにカーチェイスが融合非常に良質なサウンドとそれに関する演出類 概要 ストーリー 特徴・システム ステージ一覧 評価点 問題点 総評 移植 続編 余談 ナンシーより緊急連絡! 概要 タイトーが1988年にアーケードでリリース(*1)した、カーアクションゲーム。 プレイヤーは覆面パトカーに乗る2人の刑事となり、逃走する犯人車輌に対し体当たりを重ねて走行不能に陥れて、犯人を逮捕していく。 本作は同社が1987年に発売したレースゲーム『フルスロットル』の精神的続編の要素が強く、基本システムが同作から流用されている。 「数秒間急加速が可能なニトロを導入した」という点以外は、セガの『アウトラン』の模倣色が強かった『フルスロットル』(*2)から一転、 本作は刑事ドラマやアクション映画のような「車をぶつけあうハイスピードなカーチェイス」を取り入れたことにより世界中でヒット。 数々の家庭用移植やアーケードでのシリーズ化がなされ、80年代後期~90年代中期のタイトーを代表するレースゲームの1つとなった。 ストーリー 犯罪都市・ニューヨーク。麻薬・殺人・スパイなど、多彩な犯罪が起こる街。これらさまざまな犯罪を撲滅すべく、マンハッタン署に新たなチーム「CHASE特捜本部」が設立された。このチームは通称『CHASE H.Q』と呼ばれ、車を用いて逃亡する犯人を逮捕する事を目的としている。 ある日、CHASE H.Qの刑事トニー・ギブソンは、相棒のレイモンド・ブロディーと共に警らを行っていた。そこに本部の女性通信手ナンシーから「アイダホの切り裂き魔ラルフが郊外へ逃走中」との緊急連絡が入る!トニーはツインターボチューンを施した愛車のポルシェ・928 S4を駆り、レイモンドと共に犯人を追う…。 (ファミリーコンピュータ版のパッケージ裏より引用、一部加筆) 特徴・システム 自車はロー・ハイの2段階式のマニュアル。シートの右下に備え付けられたシフトノブでギアを切り替える。 数秒間急加速が可能な「ターボ」が搭載されており、シフトノブに装着されたボタンを押すと発動する。使用回数は設定で変更可能で、標準で3回・最大で5回までとなり、画面右下の過給機マークで表現される。使用したターボはステージ途中でコンティニューをするか、そのステージをクリアするまでは補充されない。 犯人が運転している逃走車に追いつかなければならない前半パートと、逃走車とのバトルとなる後半パートに大別される。制限時間は標準設定では60秒となっており、逃走車を発見し後半パートに移行すると時間が最大にまで回復する。 前半パートではコースに分岐が用意されており、画面上に表示された矢印と逆の方向に進むと逃走車との距離が開いてしまい、タイムロスしてしまう。 なので分岐手前ではブレーキを使用して減速するのをおすすめする。 後半パートでは逃走車に何度も体当たりしてダメージゲージを満たすか、ターボを用いて逃走車と数秒間並走し続けると逮捕となりステージクリア。 後者の方法は限界速度の維持が必須の隠し要素と言えるもので、カーブが多くなるゲーム中盤からは実質的に実行不可能になる。 前半・後半問わず、時間切れでコンティニュー画面に移行。この時も逃走車との距離が開いてしまうので、迅速なコンティニューが必要。コンティニューしなかった場合はナンシーからの一言コメントの後、逃走車が検問所を突破するカットシーンが入ってゲームオーバー。 ステージ一覧 ステージ1~4の逃走車(ターゲット)の性能とステージマップはアドバタイズデモで紹介されている。ステージ名は公式サウンドトラックから。 + ステージ一覧 ステージ名 犯人 犯人の乗る逃走車とその性能 解説 ROUND1 -Los Angeles- アイダホの切り裂き魔ラルフ 白いスポーツカー (ロータス・エスプリターボ(*3))2.2L 直4エンジン 215馬力 最高速238キロ ロサンゼルスの市街地と郊外が舞台。最初のステージということもあってコース自体も比較的単純で逃走車も速くない。 ROUND2 -Idaho- ニューヨークの銀行強盗カルロス 黄色のスポーツカー (ランボルギーニ・カウンタック(*4))4,966㏄ V12エンジン 447馬力 最高速315キロ アイダホの湖畔と荒野が舞台。起伏や急カーブが増え、障害物に囲まれた状況も多くなる。逃走車もここから速くなる。 ROUND3 -Washington- 麻薬手配グループの一味 シルバーのスポーツカー (ポルシェ・911ターボ(*5))3.3L 直6エンジン 288馬力 最高速記載なし ワシントンの市街地と郊外が舞台。1面と似た状況だが起伏・急カーブ・障害物が増えており難度が上がっている。 ROUND4 -Chicago- ロサンゼルスの連続誘拐犯 ブルーの2シーター (フェラーリ・288 GTO)5L V12エンジン 400馬力 最高速305キロ シカゴのスラムと砂漠が舞台。ここから道幅がほぼ3車線となり、逃走車も非常に速くなる。突破できれば上級者と言える。 ROUND5 -New York- 東側の工作員 車種・性能ともに不明 ニューヨークの市街地と郊外の荒野が舞台。最終面らしく障害物や一般車だらけで1ミスが命取りとなるほどに難度が高い。逃走車の正体はプレイヤーと同じ車である赤いポルシェ・928。非常に固くなおかつ速い、とこちらもラスボスらしい強敵。 評価点 「警察と犯罪者とのカーチェイス」という斬新な設定 前述の『アウトラン』『フルスロットル』を含めたレース・ドライブゲームの「車をぶつけてはならない」というルールを打破したのは特筆に値する。その上で『フルスロットル』から引き継いだ「ターボによる高速走行時の疾走感」に、「逃走車にぶつけるという爽快感」を与えたゲームデザインも良質。 続編の『S.C.I.』はドラマ「西部警察」やアメリカのB級アクション映画さながらな銃撃戦・大爆発・大ジャンプ有りのド派手路線に転換したものの、それ以外の作品では本作のシンプルなシステムに戻っているあたり、シリーズ第1作目の本作の時点でゲームデザインはほぼ完成されていたと言える。 なお、「カーチェイスを取り入れたレースゲーム」は本作が初ではなく、本作の前年(1987年)にコナミが『ハイパークラッシュ』(*6)をリリースしている。同作は本作とパッと見は似ているが、登場する他車は全て敵で、プレイヤーは終始敵に体当たりして破壊し続ける必要があり、些か単調なゲームであった。 だが本作は、敵の逃走車は1台だけ・他は障害物の一般車で、かつコース外にも障害物が多数あり、上記のルールも完全にはおざなりになっていない。 元「ゴダイゴ」のギタリスト(1988年当時)の浅野孝已氏が手掛けたBGM ステージ1~3は軽快な曲、ステージ4・5や時間切れ寸前では緊張感を煽るような曲…とちょうど半々の割合で用意されており、何れもゲームに合っている。アドバタイズデモやチェイス中に流れる「This is Chase H.Q.!」はまさにテーマ曲といえるもので、続編の1つと言える『クイズH.Q.』でも使用されている。 『フルスロットル』から格段に進化した各種効果音とグラフィック 無線が入る際のチューニング音や車の各種効果音、非常に特徴的でよく響くサイレン音など、そのクオリティはリアリティをある程度感じられるものに向上している。 軽妙な相方のレイモンド、特捜本部のナンシーや空撮隊ヘリコプターの隊員(*7)と、各所でキャラクターが喋ってプレイを盛り上げてくれるのもポイント。当時としては珍しく声優を起用したことと、その音質の良さも相まって、まるで「軽妙な日本語吹替がなされた刑事モノ」を見ている様にも感じられる。 なお、声優の配役は不明。トニーの声は村山明氏が担当しているという説があるが、真相は不明。 グラフィックも色使いが『フルスロットル』での原色感の強いビビッドなものから、グレー等の地味な色を多用したものに変わり、リアル風かつ古臭さを感じにくい。 「数種類のアニメーションが用意されたタイトルロゴ」や、ゲーム開始直前の「ポルシェに乗り込む主人公達」等、各所の作りこみや書きこみもかなり細かい。 問題点 ゲーム設定によって難易度が大きく変化してしまう ゲーム設定で変更可能なのは制限時間やターボ使用回数以外にも、「コンティニュー時に逃走車の耐久力をリセットするか否か」という設定があり、これが曲者。これが「リセットする」設定になっている場合、コンティニュー時にもたつくと非常に引き離されて結局時間切れ・そしてコンティニュー…等の負のループに陥りかねない。 このシステムはゲームバランス調整の意図が明確にあるようで、各続編でも維持されている。 総評 『WECル・マン24』『アウトラン』『ファイナルラップ』等と各社が「他車を含めた障害物にぶつからずに速く走る」というレース・ドライブ要素を重視していた当時のドライブゲーム事情。 そんな中で「カーチェイス」というテーマで発売された本作は、ゲーム的にもシンプルなシステム・車の挙動、コンティニュー可能と比較的親切な作りで、初心者でも遊びやすい良作である。 稼働から30年以上を経た2019年現在でも、シンプルな挙動・設定次第では連コインでの突破も可能ととっつきやすいのもあり、レトロゲームをメインとした店舗での稼働も確認されている。 80年代中~後期のレース・ドライブゲームとしては残存数も比較的多いので、このジャンルだけでなく、車や刑事モノが好きな方も、見かけた際には犯人逮捕に勤しんでみては如何だろうか? 移植 本作には日本国内だけでも非常に多数の移植版が存在しており、移植度は作品ごとに大きく異なるが、タイトルはほぼ全てで『タイトーチェイスH.Q.』となっている。 当記事ではその内でも一部を紹介。下記以外の移植版はWikipediaの「他機種版」の項を参照されたい。 ファミリーコンピュータ版『タイトーチェイスH.Q.』(1990年) 販売元はDISCO、開発元は大永製作所。ファミコンの性能から完全移植は無理と割り切った上で、ゲームシステム上に自車を強化するパーツを加えており、スコアと引き換えにパーツ(*8)を購入できる。ステージ開始時のナンシーの指令とレイモンドの返答はアーケード版よりセリフは少なく短いものの音声合成で違和感なく再現(*9)しており、それは下記のPCエンジン版でも同様。 PCエンジン版『タイトーチェイスH.Q.』(1990年) 開発元は大永製作所とされる。同世代ハードと言えるファミリーコンピュータやゲームボーイ、ゲームギア版よりもアーケード版に近いグラフィックを実現。システム的にも独自要素のあった上記版と異なり、アーケード版と同じものを採用しているが、流石にハードの性能上でプレイ感覚は移植しきれていない。オリジナル要素として、ステージ5クリア時にスコアが500万点を超えていると、隠し面としてステージ6が登場する。(500万点未満の場合ステージ1に戻る) ただ、1周でそれを達成するのはまず不可能。 後にPC用サービス「i-revoゲーム」、Wii用の「バーチャルコンソール」でダウンロード販売が行われた。 ゲームボーイ版『タイトーチェイスH.Q.』(1991年) 詳細については当該記事を参照。 セガサターン版『タイトーチェイスH.Q. プラス S.C.I.』(1996年) 開発元はアフェクト。下記の続編『S.C.I.』とのカップリング移植。両作ともセガサターンのパワーにより、「グラフィックに限っては」アーケード版と同等レベルを実現した。…のだが、肝心のプレイ感覚は車に関する挙動がアーケード版と全く異なる重いものとなっており、微妙に音程が外れているBGM(*10)も合わせ「雰囲気移植」の枠を出ていない。 一応、フォローする所があるとすれば、『チェイスH.Q.』ではアーケード版で使用されていなかったレイモンドの没台詞が使用されている程度だろうか。 プレイステーション2版『タイトーメモリーズII 下巻』(2007年)(*11) 様々なタイトー製アーケードゲームをエミュレーションで収録したオムニバスソフト。アーケード版から約20年後に名実ともに完全移植が行われた。移植に際してグラフィック変更は無く、アーケード版と同じ設定変更機能やハンドル型コントローラー「GT FORCE」にも対応している。 なお、『タイトーメモリーズII 上巻』には『S.C.I.』が収録されている。こちらも上記の機能に対応、グラフィック変更も無いほぼ完全移植(*12)。 続編 S.C.I. (1989年) タイトルは特別犯罪捜査の略称で、タイトル画面では Special Criminal Investigation と書かれている。前作から引き続きトニー、レイモンド、ナンシーが女性連続誘拐事件に立ち向かう。自車はレイモンドが運転するオープン仕様の赤い日産・フェアレディZ(Z32)となり、ハンドルに付いたボタンを押すと助手席のトニーが銃撃するシステムが追加。各ステージの逃走車も武装した部下の乗り物を原則として侍らせていることから、プレイヤー側もバズーカで対抗する(*13)…と前述のようにド派手な路線となっている。 タイトルからは分かりにくいが、歴としたメインシリーズ第2作目(*14)であり、BGMもスタッフロールではZUNTATA名義だが実際は前作と同じく浅野氏が担当している。 日本国内ではPCエンジン版、セガサターン版『タイトーチェイスH.Q. プラス S.C.I.』、PS2版『タイトーメモリーズII 上巻』に移植。 クライムシティ (1989年) 『ローリングサンダー』タイプの横スクロールアクションゲーム。集団脱獄・銀行強盗などの凶悪犯罪にトニーとレイモンドが銃と生身(*15)で立ち向かう。こちらは当時のタイトーでよくあった「ゲームバランスや一部グラフィックなどの作りこみが足りていない作品」であり、お世辞にも良作とは言えない作品。 シリーズのアーケード作品では唯一スタッフロールも無い為、開発スタッフも完全に不明。作曲のみ渡部恭久氏が担当していることが、後年判明している。 クイズH.Q. (1990年) 本シリーズの世界観で展開されるクイズゲーム。使用基板はF2システム。デフォルメされたキャラクター達に、故意にショボい犯人の罪状(*16)などバカゲーの要素も強い。一方で1Pがポルシェ928のトニー・2PがフェアレディZのレイモンドで、前述通り浅野孝已氏のBGMやフレーズも使われている等、シリーズの雰囲気は壊されていない。 総じて『クライムシティ』よりもゲームシステムやグラフィックも満遍なく出来ている作品ではあるのだが、いまいち影が薄い(*17)。 スーパーH.Q. (1992年) メガドライブで発売された外伝的作品。開発はアイ・ティー・エル。凶悪な車両窃盗団を相手に、名無しの白人刑事2人とナンシーが立ち向かう。スポーツ(フェラーリ・F40)・4WD(トヨタ・ランドクルーザー)・セミトラック(フレイトライナー・FLB)の3つの車を使い分ける点が特徴。 タイトル的に日本では下記のSFC版と混同され、日本国外では『CHASE H.Q.II』として発売されたため2007年のアーケード作品とも混同される作品。 スーパーチェイス クリミナルターミネーション (1993年) メインシリーズ第3作目。開発陣は1991年にアーケードでリリースされたモンスタートラックレースゲーム『パワーホイールズ』のメンバーが中心となっている(*18)。基本システムは『チェイスH.Q.』と同様のシンプルなものに戻ったが、プレイヤーの視点が車を運転するトニー目線となり、迫力が大幅に向上。偶数面では自車が変わる、1人称視点を生かした視点妨害の演出などアトラクション的要素も強く、実際に専用筐体の他、超大型稼働筐体「IDYA」版もリリースされた。 使用基板に『ガンバスター』や『ギャラクティックストーム』と同じものを採用、グラフィックやサウンドが大幅に強化され、作曲は上記の『クライムシティ』の渡部恭久氏が担当。レイモンド役に堀内賢雄氏・ナンシー役に冬馬由美氏を起用、演技力もさることながら、ステージ開始前には非常に軽妙なやり取りも見せてくれる。 スーパーH.Q. クリミナルチェイサー (1993年) スーパーファミコンで発売。『スーパーチェイス~』の家庭用移植的な作品であり、プレイヤーの視点もトニー目線で、一部BGMも同作からの移植となっている。事件の背景を解説するカットシーンや、自車のライフシステムが追加されており、アトラクション的要素は消滅したが『チェイスH.Q.』らしさをより味わえる作品。 レイ・トレーサー (1997年) プレイステーションで発売。タイトルこそ異なるが、れっきとした続編である。舞台は近未来、大都市を根城に暴れる武装暴走族ブラック・カイザーを相手にトレーサーチームが立ち向かう。それぞれ能力が異なる4人のプレイヤーから選ぶことが可能で、特定条件を満たすと隠しキャラも選択が可能になる。歴代シリーズの中ではレイモンド・ブロディーのみが続投しており、ナンシーも登場しないが、新キャラのシンディ・ギブソン(*19)が通信手を担当している。 CHASE H.Q. 3D(2005年) ドコモのガラケーサイト「タイトーG@meパーク」において、900i専用で配信されたモバイル向け作品。ボイスは「ナンシーより緊急連絡」の合成音声しかないが、プレイ中は画面下部にテロップ表示される。また、ステージ開始時にストーリーが表示される、逮捕時に犯人のセリフがテロップ表示されるなどでドラマを描いている。 対応メディアの都合上、知名度は凄まじく低く、最大の問題点としても現在はすでにプレイ出来ない。 悪徳の街クラックシティで、脱獄したマフィアのボス・コステロを追う一連のストーリーとなっている。 途中のステージでは、コステロの愛人「R」の正体がナンシーの姉・リサであり、しかも逃走中に死亡してしまう、と言う衝撃の展開も繰り広げられる。 テキスト量が少ないのでストーリー面では説明不足だが、ガラケー向けゲームとして見れば十分頑張っていた作品。 チェイスH.Q.2 (2007年) 英国のGamewax社による開発でアーケードでリリースされたシリーズ最終作。詳細は別項にて。 余談 本作のゲームデザインを務めた酒匂 弘幸(さこう ひろゆき)氏は『フルスロットル』以降、他のタイトー製レースゲームの殆どに関わった人物である。インタビューによると、バイク乗りだった氏は気持ちの良い加速感を体感して欲しかった為、『フルスロットル』でニトロシステムを導入したと語っている。 また、2019年9月に行われたCEDEC2019(*20)の展示(記事1)(記事2)によると、本作はタイトーアメリカからの「カーチェイスのゲームを作ってほしい」との要請で企画が開始された。最終的に『「警察対犯人」「車対バイク(*21)」の見下ろし型2人対戦ゲーム』から現在の形に落ち着き、『メタルギア』から着想を得た無線画面等の各演出を更に盛り込んだとの事。 そんな氏が関わった『フルスロットル』『バトルギアシリーズ』だが、非常に細かな点で本シリーズとの関わり合いがある。 前者ではコース横の障害物の1つで刑事ドラマ「特捜刑事マイアミ・バイス」のパロディ看板があるのだが、同番組は本シリーズのモチーフかつ主人公2人の元ネタにもなっている。 後者はスタッフが「本作のグラフィックでチェイスHQを試作したが、あまり面白くなくボツとなった」ととあるインタビューで発言していた(ソース元は現在は閲覧不可)。それに関係してか、同社最後のレースゲームになっている『4』では、ニトロ機能とブースト機能の使用回数表記が『フルスロットル』と本作風となっている。
https://w.atwiki.jp/yamamura2/pages/1428.html
【TOP】【←prev】【NEOGEO CD】【next→】 RALLY CHASE タイトル RALLY CHASE ラリーチェイス 機種 ネオジオCD 型番 ADCD-003 ジャンル レース 発売元 ADK 発売日 1994-10-31 価格 4800円(税別) 駿河屋で購入 ネオジオCD
https://w.atwiki.jp/actors/pages/18248.html
ロナルド・チェイスをお気に入りに追加 ロナルド・チェイスのリンク #blogsearch2 ロナルド・チェイスとは ロナルド・チェイスの51%は着色料で出来ています。ロナルド・チェイスの38%は電波で出来ています。ロナルド・チェイスの10%は世の無常さで出来ています。ロナルド・チェイスの1%は希望で出来ています。 ロナルド・チェイス@ウィキペディア ロナルド・チェイス ロナルド・チェイスの報道 動画:「カーチェイスで死亡」の米黒人男性、警察による激しい暴行の動画公開 - AFPBB News 「カーチェイスで死亡」の米黒人男性、警察による激しい暴行の動画公開 - AFPBB News 冬のソナタ またでるよ 冬のソナタ 韓国KBSノーカット完全版 DVD BOX(初回限定 豪華フォトブックレット&スペシャル特典ディスク付) 本当に長い間、待たせてごめんなさい。「冬のソナタ」韓国KBSノーカット完全版をいよいよお届けします。 映像は韓国KBSのオリジナルそのままに、音楽に関してもユン・ソクホ監督が想いを込めて監修し、一部楽曲を変更しました。初回限定特典にはぺ・ヨンジュン 独占インタビュー/ユン・ソクホ監督&田中美里の対談スペシャルDVDの他、DVDオリジナルポストカード、シリアルNo付 豪華フォトブックレット(20P)を封入しております。 今までの日本用編集版よりも約166分長いノーカット映像(本編後のエンドロールも収録!)に加えて、映像特典の【スペシャル短編集】には、ペ・ヨンジュンのスノーボードシーンの撮影風景も収録しています。 【ここが違う!8つのポイント】 ◆今までの日本用編集版よりも約166分長いノーカット映像(本編後のエンドロールも収録!) ◆ファン待望の「ダンシング・クィーン」「白い恋人たち」をついに収録。 ◆日本語吹替を再収録。萩原聖人さん、田中美里さんが担当、その他主要人物もなつかしいあの声で。 ◆本編は日本語字幕に加えて韓国語字幕も収録 ◆一部変更した楽曲をユン・ソクホ監督が想いを込めて監修!(一部BGMはオリジナル版より変更されています) ◆<初回限定特典1>スペシャルDVD:★ぺ・ヨンジュン 独占インタビュー/★ユン・ソクホ監督&田中美里の対談 ◆<初回限定特典2>豪華フォトブックレット:シリアルNo付(20p) ◆<初回限定特典3>DVDオリジナルポストカード3枚 ロナルド・チェイスのキャッシュ 使い方 サイト名 URL ロナルド・チェイスの掲示板 名前(HN) カキコミ すべてのコメントを見る ページ先頭へ ロナルド・チェイス このページについて このページはロナルド・チェイスのインターネット上の情報を集めたリンク集のようなものです。ブックマークしておけば、日々更新されるロナルド・チェイスに関連する最新情報にアクセスすることができます。 情報収集はプログラムで行っているため、名前が同じであるが異なるカテゴリーの情報が掲載される場合があります。ご了承ください。 リンク先の内容を保証するものではありません。ご自身の責任でクリックしてください。
https://w.atwiki.jp/actors/pages/9582.html
チェイス・ムーアをお気に入りに追加 チェイス・ムーアのリンク #blogsearch2 チェイス・ムーアとは チェイス・ムーアの57%は柳の樹皮で出来ています。チェイス・ムーアの23%はむなしさで出来ています。チェイス・ムーアの13%は血で出来ています。チェイス・ムーアの3%は宇宙の意思で出来ています。チェイス・ムーアの2%はハッタリで出来ています。チェイス・ムーアの1%は雪の結晶で出来ています。チェイス・ムーアの1%は元気玉で出来ています。 チェイス・ムーア@ウィキペディア チェイス・ムーア チェイス・ムーアの報道 ラグビー日本代表はファンも納得のメンバー!? 年内最後のスコットランド戦でRWC2019の再現なるか?(ぴあ) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 「カウンタック」が米国自動車遺産の殿堂入り! 『キャノンボール』で美女がドライブしたランボルギーニとは | VAGUE(ヴァーグ) - くるまのニュース 伝説的カーチェイスを後悔!?『フレンチ・コネクション』裏話――公開50周年記念!名匠フリードキン、ジーン・ハックマンが“今だから語れる”撮影秘話を披露!! | BANGER!!! - BANGER!!!(バンガー!!!)映画評論・情報サイト 「カーチェイスにパワーはいらない」007 ボンドカー小考察・その2 ロータス・エスプリ/アストンマーティンDBS - MotorFan[モーターファン] 「クリミナル・マインド」で人気を博したシェマー・ムーアが、コロナ禍での「SWAT」最新シーズンの撮影を語る (1/2) - スクリーンオンライン NTTコム移籍発表。日本代表ジェームス・ムーアはタックルに酔わない。 - RUGBY REPUBLIC(ラグビーリパブリック) 半導体不足、サプライチェーン崩壊が招く「ムーアの法則」の終焉 - MITテクノロジーレビュー 「髪型差別」の実情 ― 審議が遅々として進まない法律「クラウン法(The CROWN Act)」とは? - Esquire 冬のソナタ またでるよ 冬のソナタ 韓国KBSノーカット完全版 DVD BOX(初回限定 豪華フォトブックレット&スペシャル特典ディスク付) 本当に長い間、待たせてごめんなさい。「冬のソナタ」韓国KBSノーカット完全版をいよいよお届けします。 映像は韓国KBSのオリジナルそのままに、音楽に関してもユン・ソクホ監督が想いを込めて監修し、一部楽曲を変更しました。初回限定特典にはぺ・ヨンジュン 独占インタビュー/ユン・ソクホ監督&田中美里の対談スペシャルDVDの他、DVDオリジナルポストカード、シリアルNo付 豪華フォトブックレット(20P)を封入しております。 今までの日本用編集版よりも約166分長いノーカット映像(本編後のエンドロールも収録!)に加えて、映像特典の【スペシャル短編集】には、ペ・ヨンジュンのスノーボードシーンの撮影風景も収録しています。 【ここが違う!8つのポイント】 ◆今までの日本用編集版よりも約166分長いノーカット映像(本編後のエンドロールも収録!) ◆ファン待望の「ダンシング・クィーン」「白い恋人たち」をついに収録。 ◆日本語吹替を再収録。萩原聖人さん、田中美里さんが担当、その他主要人物もなつかしいあの声で。 ◆本編は日本語字幕に加えて韓国語字幕も収録 ◆一部変更した楽曲をユン・ソクホ監督が想いを込めて監修!(一部BGMはオリジナル版より変更されています) ◆<初回限定特典1>スペシャルDVD:★ぺ・ヨンジュン 独占インタビュー/★ユン・ソクホ監督&田中美里の対談 ◆<初回限定特典2>豪華フォトブックレット:シリアルNo付(20p) ◆<初回限定特典3>DVDオリジナルポストカード3枚 チェイス・ムーアのキャッシュ 使い方 サイト名 URL チェイス・ムーアの掲示板 名前(HN) カキコミ すべてのコメントを見る ページ先頭へ チェイス・ムーア このページについて このページはチェイス・ムーアのインターネット上の情報を集めたリンク集のようなものです。ブックマークしておけば、日々更新されるチェイス・ムーアに関連する最新情報にアクセスすることができます。 情報収集はプログラムで行っているため、名前が同じであるが異なるカテゴリーの情報が掲載される場合があります。ご了承ください。 リンク先の内容を保証するものではありません。ご自身の責任でクリックしてください。
https://w.atwiki.jp/epsilon2/pages/145.html
バトルチェイス問題点 近々2の開催を目指している方がいる、ということでしたのでバトルチェイスの問題点などをまとめてみました。 システム改善などに役立てていただけると幸いです。 システム的な問題点 攻撃極振りが空気他のキャラと同じマスに止まる可能性がかなり低いので、バトルを仕掛けられる可能性が低い。 特殊能力で遠距離攻撃する場合以外は攻撃に振る意味があまりない。 【改善案】 改善案としてちょっと考えたのが、加速力の低い順に行動する仕様に変えてはどうだろう、というもの。 加速力の低いキャラが前にいるキャラを追い抜く際にバトルを仕掛けられる仕様にすれば、 2ターン目以降自分の前を走っているキャラクターにバトルを仕掛けられるので攻撃に振る意味もでてくるのではないだろうか。 加速力ゲーレースなのでとにかく加速力の高いキャラだけ勝つ。 ショートカットできる、など大きく先頭集団から離されても逆転できるだけの能力がないと加速力4でも厳しい。 バトルチェイス1の時は「まあ、レースなんだからそりゃ加速力高い方が勝つだろ、よっぽど特殊なキャラメイクする場合以外は加速力に振れよ」 と割り切ってそのままの仕様にしたが、なにか改善できるとキャラメイクの幅が広がっていいかも。 時間がかかりすぎるとにかく時間がかかる。 妨害能力が強くてなかなかゴールできなかったということもあるが、21時に始めて深夜の2時か3時までかかった。 テストプレイしてみて、かかった時間+2時間くらいを想定しておいた方がいいかも。 改善案としては、MAPを狭める、妨害能力を弱くするくらいしかない? 強すぎる能力、面白くない能力 強すぎる能力 意志乃鞘&ヒロイックダイナー バトルに勝つとポイントが溜まっていき、能力を発動すると移動力が(加速力+ダイス目)×(1+ポイント数)になる。 (NPC戦に勝ってもポイントがたまるんだっけ・・・?)ゲーム中は比較的容易にポイントを満たすことができたので、 事実上終盤に移動力が4倍になる能力。ダイスで6が出たら驚異の48マス移動。 加速力の低いキャラが一発逆転を狙って作るのであればともかく、加速力6でこの能力は強すぎる。 レースが面白くなくなる能力・妨害系 あんまり大量のキャラを妨害しまくっても、自分の加速力が低ければ勝てないわけだが ほかのキャラがしょっちゅう転倒したり逆走してばっかりだと レースのスピード感がなくなってつまらない、時間がかかる、ダレるという問題点がある。 先頭を走っている単体をを1~2ターン止めるくらいなら全然アリ。ただし自分が勝てる保証はない。 精神攻撃とか遠距離通常攻撃でガンガン妨害するのは、まあアリじゃねえかなあと思う。防御や精神に振らないのが悪い。 【本戦参加キャラ】 浅宮ミズキ&白金虹羽 姦崎繋 【サンプルキャラ】 ザ・忍者ハットトリック君 他キャラクターのグステを解除する能力 加速力アップなどの効果を解除できる。MAP全体に無制限で使えても自分が勝てるわけではないので強さ的には使えてもいいのだが こいつ一人いるだけで能力依存のキャラが死んでしまうので面白くない。 【サンプルキャラ】 ゾーマ様 まあ、能力の強すぎる弱すぎる面白くない、という問題はいろいろサンプルキャラ作って何度もテストプレイしてみてバランス調整していくしかないんじゃないかなあ。
https://w.atwiki.jp/gamemusicbest100/pages/9503.html
SUPER CHASE CRIMINAL TERMINATION SUPER H.Q. CRIMINAL CHASER 機種:AC, SFC 作曲者:渡部恭久 効果音&ボイスデータ:石川勝久 サウンド (SFC):渡部恭久 (ZUNTATA)、八木下直人 (ZUNTATA)、末村謙之輔? (ADON SUEMURA)、JAG 開発元:タイトー PROJECT SUPER CHASE 発売元:タイトー 発売年:1993年3月、1993年11月26日 (SFC) 概要 タイトーから1993年に発売された、ドライブアクションゲーム『チェイスH.Q.』シリーズ第三弾。 サブタイトルを含めて『スーパーチェイス クリミナルターミネーション』と呼ばれることもある (*1) が、 本記事の名称はサントラの発売元であるウェーブマスター公式および監修元である ZUNTATA 公式のWebサイトでの表記に則った。 基本的なゲームシステムは前作までと変わらないが、グラフィックが繊細になるなどの向上がみられるほか、 ボイスもバリエーション豊かで、特にブリーフィングシーンではナンシーとの会話がストーリーに華を添えてくれる。 作曲は渡部恭久氏。ドライブゲームということもあり、氏が得意とするフュージョンサウンドが遺憾なく発揮されている。 長らく完全な音源化が無かったが、2015年に『タイトーデジタルサウンドアーカイブス』シリーズで完全音源化 (*2) された。 同年『スーパーH.Q.クリミナルチェイサー』としてスーパーファミコンへアレンジ移植された。 ストーリーは変更されたものの、アーケード版の楽曲の多くが流用されている。 サウンドに参加しているADON SUEMURAは、後に同社のSFC版『スペースインベーダー The Original Game』にも参加する末村謙之輔氏である可能性がある。 (前作:S.C.I. 次作:チェイスH.Q.2) 収録曲 (ゲーム進行順) 曲名 補足 順位 Highway Star (Title Demo) Credit Not Use 実際には未使用ではなく、クレジット成立後10秒ほど放置で流れる ナンシーより緊急連絡 1 ~ STAGE 1 (DANDY LADY) STAGE 1 BEVERLY HILLS Stage Clear STAGE COMPLETED ナンシーより緊急連絡 2, 3, 5 STAGE 2, 3 STAGE 2 NEW ORLEANSSTAGE 3 NEW YORK Stage Boss 2, 3 STAGE 2, 3 犯人車発見!!以降BGM ナンシーより緊急連絡 4 ~ STAGE 4 STAGE 4 TEXAS STAGE 5 STAGE 5 CHICAGO「DANDY LADY」のイントロなしver. Last Boss STAGE 5 犯人車発見!!以降BGM STAGE 5 Clear ~ Ending Name Entry サウンドトラック ZUNTATA HISTORY L'ab-normal 2nd 「DANDY LADY」を収録 タイトーデジタルサウンドアーカイブス ~ARCADE~ Vol.5
https://w.atwiki.jp/yamamura2/pages/856.html
【TOP】【←prev】【FAMILY COMPUTER】【next→】 TAITO CHASE H.Q タイトル TAITO CHASE H.Q タイトーチェイスHQ 機種 ファミリーコンピュータ 型番 DTF-H9 ジャンル アクション 発売元 タイトー 発売日 1989-12-8 価格 5900円(税別) 【TOP】【←prev】【HuCARD】【next→】 TAITO CHASE H.Q. タイトル TAITO CHASE H.Q. タイトーチェイスHQ 機種 PCエンジン 型番 TP02006 ジャンル アクション 発売元 タイトー 発売日 1990-1-26 価格 6600円(税別) 【TOP】【←prev】【GAME BOY】【next→】 TAITO CHASE H.Q タイトル TAITO CHASE H.Q タイトーチェイスHQ 機種 ゲームボーイ 型番 DMG-HQJ ジャンル アクション 発売元 タイトー 発売日 1991-1-11 価格 3600円(税込) 【TOP】【←prev】【GAME BOY】【next→】 タイトーメモリアル CHASE H.Q タイトル タイトーメモリアル CHASE H.Q タイトーメモリアル チェイスHQ 機種 ゲームボーイカラー対応 型番 DMG-BJCJ ジャンル アクション 発売元 ジョルダン 発売日 2000-5-26 価格 3980円(税別) 【TOP】【←prev】【GAME GEAR】【next→】 TAITO CHASE H.Q タイトル TAITO CHASE H.Q タイトーチェイスHQ 機種 ゲームギア 型番 T-11017 ジャンル アクション 発売元 タイトー 発売日 1991-3-8 価格 3800円(税別) タイトーチェイスHQ 関連 Console Game FC TAITO CHASE H.Q. PCE TAITO CHASE H.Q. S.C.I. MD SUPER H.Q. SFC SUPER H.Q SS TAITO CHASE H.Q. PLUS S.C.I. Handheld Game GG TAITO CHASE H.Q GB TAITO CHASE H.Q タイトー バラエティー パック タイトーメモリアル CHASE H.Q 駿河屋で購入 ファミコン(箱説あり) PCエンジン ゲームボーイ ゲームボーイ ゲームギア