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オブリビオン 登場プレイヤー男性キャラクター 主人公 敵・モブキャラ全員 状態異常 麻痺 分類 拘束 一定時間、身体の自由を奪え(われ)る。 麻痺の魔法を対象にかけたとき、対象はそのままのポーズで地面に倒れる。 (剣を素振りした瞬間に麻痺魔法を放つと素振りしたままのポーズで硬直し地面に倒れ、倒れたあとも素振りしたままのポーズで硬直している。 このゲームではプレイヤーが自由に行動できるので、盗賊やモンスターはもちろん街の人や城の兵士まで麻痺させることが可能。 存分に加害者プレイを楽しめる、が!効果時間がは短いため長く観賞することが出来ないのが難点。 蜂の毒針 3秒-近距離魔法 毒サソリの尾 7秒-近距離魔法 大蛇の毒牙 10秒-近距離魔法 黒き冬 2秒-遠距離魔法
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アルビルダ 【人称】 一人称→「」 二人称基本→「」 【関連人物への呼称】 【能力】 元北欧のお姫様で元海賊。 のびのびと海賊行為に励んでいた所、 日本軍に捕らえられ、卑劣な変態の東郷に 犯されて性奴隷にされてしまった(本人談)。 ……要は所謂、重度の厨二病を患ってしまった ちょっとアレな人。 伝説に憧れており、いつか勇者になるのが夢。 こういう時期って割とあったよね、幼稚園児くらいに… ちなみにお姫様だったのは本当。 女子人気投票脇役なのに第1位な伝説。
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チャップ・アデル 番号 階級 NT値 戦艦 航空 車両 MS MA 049 中尉 ‐ × ○ ○ ○ × ランク 指揮 魅力 射撃 格闘 耐久 反応 E D 7 6 10 4 5 5 C 8 7 11 5 6 6 B 9 8 12 6 7 7 A 10 9 13 7 8 8 S 11 10 14 8 9 9 参入条件: 地球連邦軍第二部 ティターンズ結成イベント以降、任務中でないときに連邦版からグラフィック変更 ティターンズ 最初からいる ティターンズ・シロッコ 最初からいる 味方会話キャラ:なし 敵戦闘時会話キャラ:なし 友好キャラ: 専用機:なし 寸評:バニング隊長亡き後(連邦編では死なないが)も隊長に腕立てをさせられること恐れている元アルビオン隊の良識派のちょび髭 射撃がそれなりなので、原作どおりジムキャノン2にでも乗せておこう。
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ハイパ~ベイダータイム 175 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/18(月) 03 01 14.15 ID VYsc/m080 ハリアーの轟音は、まだ朝ぼらけの中にあった学院の生徒を一人残らず叩き起こした。 タバサもその例外ではない。 目を覚ました彼女が枕もとの眼鏡をかけ、窓の向こうに視線を向けると、竜の羽衣が中庭の 地面から浮き上がり、ハルケギニアの誰も見たことがない加速力で雲間に消えていくのが 見えた。 ベッドから跳ね起き、身支度を整えるタバサ。 出し抜けに、部屋の扉が乱暴に開いた。 見るまでもなくわかる。キュルケだ。 タバサはマントを羽織りながらキュルケに向かって頷くと、窓を大きく開けた。 主人の意を汲んだ使い魔が、合図の口笛より先に既にその下に待機していた。 28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/23(土) 01 53 50.94 ID XQ0GhEZs0 「なんてスピードなの! シルフィードでも追いつけないなんて!」 吹きすさぶ風に負けじと、キュルケが声を張り上げた。 地上三千五百メイル、足元に下層雲が広がる目もくらむような高空を、タバサの駆る風竜の シルフィードが飛行していた。 空気の澄み渡った上空では彼方まで見渡せるため、タバサたちは遥か前方を飛ぶハリアー を辛うじて見失わずにいられた。 シルフィードはきゅいきゅい、と一声鳴くと、さらに増速した。既にその速度は時速五百キロを 超えている。 しかし、それでも両者の距離は開く一方である。 31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/23(土) 01 56 11.83 ID XQ0GhEZs0 そして、既に豆粒よりも小さくなったハリアーからオレンジ色の光が放たれたかと思うと、次の 瞬間にはその姿が掻き消えていた。 タバサたちは追いつくのを諦め、速度を若干落としつつ同じ方角に向かうことにした。 その針路から、ベイダー卿の目的地は予想がついている。 つい二週間ほど前に訪れた小村……タルブの村だ。 34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/23(土) 02 00 10.59 ID XQ0GhEZs0 「うおー、ほんとに飛んでやがる! こりゃ速えな! まるで矢のようだぜ!」 邪魔にならないよう操縦席の脇に横たえられていたデルフリンガーが、興奮したように騒いだ。 「僕はこの何十倍もの速度で飛ぶ機体も操縦したことがある」 機体の動作を一つ一つ確認しながら、ベイダー卿は少し誇らしげに言った。やはり空を飛ぶの は爽快だ。 へえ、とデルフリンガーが感嘆の声を漏らした。 「まったく、相棒の元いた世界とやらは、ほんとに変わった所だね」 37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/23(土) 02 02 52.66 ID XQ0GhEZs0 そろそろ頃合か――ベイダー卿はそう考え、アフターバーナーに点火した。 ノズルから炎が吹き上がり、機は一気に時速1000キロメイル近くまで速度を上げた。 機体がわずかにきしむ。加速度が体にかかり、ベイダー卿はわずかに呻いた。 彼にとってはこの程度の加速度は苦痛ではなく、むしろ心地よい。 ……だが、同乗者にとってはそうではなかったようだ。 「う、わ、きゃああああぁぁぁぁぁッ!!」 機が加速するのと同時に、座席の後部からけたたましい悲鳴が上がった。 49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/23(土) 02 10 07.92 ID XQ0GhEZs0 「乗り心地はどうだ、マスター?」 加速を緩めながら、振り向きもせずにベイダー卿は背後に向かって声をかけた。 果たして、悲鳴の主はルイズであった。加速が緩むまで、コクピット後部に新設された座席の 下で丸まり、体にかかる途方もない重圧にどうにかして耐えようとしている。 「あああ、あ、あんた、わたしがいるのわかって今のやったの!?」 ようやくショックから立ち直ったのだろう、ルイズは安定を取り戻したコクピットの中で腰を浮か すと、震える声でわめきながら、シートからはみ出たベイダーの頭部をぽかぽかと叩いた。 61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/23(土) 02 19 45.01 ID XQ0GhEZs0 ベイダー卿はコクピット内を改造し、ハルケギニアで使い道のないアビオニクスの大部分を 取り払っていた。 その分だけ空いた後部スペースには座席が設けられ、急ごしらえながら複座機の体裁が整 えられていたのであるが、無断で乗り込んだルイズはとりあえずその下に隠れていたので ある。 「僕を欺けるとでも思ったのか」 絶え間なく降り注ぐルイズの拳を意に介した様子もなく、ベイダー卿は嘯いた。 「ほ、本気で死ぬかと思ったんだから! あ、あんた、ご主人様をな、なんだと思ってんのよ!」 よほど怖かったのだろう、ルイズはもはや反泣きである。 それでも強気の姿勢を崩さない辺り、さすがは気位の高い公爵家の娘と言えた。 64 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/23(土) 02 25 52.82 ID XQ0GhEZs0 「して、その“ご主人様”はなぜこの機に乗り込んだのだ?」 いきなりの核心を突く質問に、ルイズの手がぴたりと止まった。 ベイダーは黙って操縦桿を握っている。その沈黙はしかしながら、返答を促しているかのよう でもあった。 「そ、それは……」 ルイズが口ごもる。彼女とベイダーは、ハリアーの前で口論の末に別れたはずである もとよりルイズは、明確な目的があってハリアーに乗り込んできたわけではない。 ただ、このところずっと引きずっているもやもやした思いを見極めたかった。あるいはむしろ それをぶつけてやりたかったのかもしれない。 そうして気がついたらコクピットにかかるはしごに手をかけていたのである。 それに、その時のルイズにはかすかに予感めいたものがあったのだ。 ――このまま行かせたら、二度とベイダーに会えないかもしれない、と。 74 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/23(土) 02 34 14.50 ID XQ0GhEZs0 それなのに、この期に及んでまだルイズは素直にそう口にすることができなかった。 「きき、決まってるじゃない。あんたこれから戦場に行くんでしょ? せ、戦場に使い魔だけを向かわせる貴族なんて聞いたことがないわ。どうせあんた、止めても聞きやしないだろうし」 ベイダーは黙って聞いている。ルイズは初めて体験するジェット戦闘機の乗り心地に軽い眩暈 を覚え、シートに座り込んだ。 そして、深呼吸してからまた口を開く。 「だ、だからこうやってついてきてあげたんじゃない! 忘れないで! あんたはわたしの使い 魔なんだからねっ! だから勝手なことは許さないの! いい? こうなったからには、あんた の使命はご主人様であるわたしを戦場でしっかり護衛すること! アルビオンの竜騎士に落 とされでもしたら、許さないんだから!」 嵐のような勢いでそうまくし立ててから、ルイズは再度大きく息を吸い込んだ。 もやもやした思いは晴れるどころかますます大きくなって、その小さな胸を内側から圧迫して いた。 78 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/23(土) 02 37 43.70 ID XQ0GhEZs0 「わかった。撃墜されたりはしないから、安心するがいい。……少し揺れるぞ。座席のベルトを 締めておけ」 ベイダーは前方を見つめたまま、何一つ異論を差し挟まなかった。 その物分りの良さがまたルイズの神経を逆撫でしたが、彼の言うとおり機体が大きく右にロー ルしたため、彼女は慌てて指示に従った。 ベイダー卿はラダーペダルを踏み込みながら操縦桿をさらに右に倒した。 後部座席のルイズが、また盛大に悲鳴を上げる。 二人を乗せた機体は、右に旋回しながら急降下した。 雲を突き抜けた先は、戦場だった。 82 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/23(土) 02 39 41.28 ID XQ0GhEZs0 ラ・ロシェールの街に立て籠もったトリステイン軍の前方五百メイル、タルブの草原に敵の 軍勢が見えた。 アルビオン軍だ。 三色の『レコン・キスタ』の旗を掲げ、悠々と行進してくる。 生まれて初めて見る敵に、ユニコーンに跨ったアンリエッタは震えた。 その震えを回りに悟られないよう、アンリエッタは目を瞑って軽く祈りを捧げた。 敵は草原を進んでくる三千の上陸軍だけではない。 視線を上方に転じれば、巨艦『レキシントン』号を旗艦とする大艦隊が隊列を整え始めていた。 トリステイン軍に舷側をさらす形の単縦陣。 砲撃戦の構えだ。 89 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/23(土) 02 44 58.56 ID XQ0GhEZs0 アルビオン軍の艦が次々に砲門を開いた。 灼熱の砲弾が巨大な慣性重量を乗せて自軍めがけて飛んでくる。 着弾。 何百発もの砲弾が、ラ・ロシェールに立て籠もったトリステイン軍を襲った。 岩や馬や人が、いっしょくたになって舞い上がり、飛び散る。 圧倒的な力を前にして、味方の兵が浮き足立った。 岩山を削って造られた要害に立て籠もっているという安心感は、一瞬の内に吹き飛んだ。 恐怖に駆られ、アンリエッタは叫んだ。 「落ち着きなさい! 落ち着いて!」 近くに寄った枢機卿のマザリーニが、アンリエッタに耳打ちした。 「まずは殿下が落ち着きなされ。将が取り乱しては、軍は瞬く間に潰走しますぞ」 91 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/23(土) 02 49 31.76 ID XQ0GhEZs0 マザリーニが発した伝令で、トリステインの貴族たちが岩山の隙間の空にいくつもの空気の 壁を作り上げた。砲弾がそこにぶち当たり、砕け散った。 しかし、何割かはやはり飛び込んでくる。 そのたびにあちこちで悲鳴があがり、砕けた岩と血が舞った。 マザリーニは呟いた。 「この砲撃が終わり次第、敵は一斉に突撃してくるでしょう。とにかく迎え撃つしかありませんな」 アンリエッタが緊張で乾いた唇を湿らせる。 「勝ち目はありますか?」 マザリーニは、砲撃によって兵の間に動揺が走りつつあるのを見届けた。 姫に続けとばかりに出撃したが……人間の勇気には限界がある。 しかし、忘れていた何かを思い出させてくれた姫に現実を突きつける気にはなれなかった。 「こちらの地の利を考え合わせれば、五分五分……といったところでしょうな」 その言葉とは裏腹に、マザリーニは痛いぐらいに戦況を理解していた。 敵は空からの絶大な支援を受けた三千。対する自軍は、砲撃で瓦解しつつある二千。 勝ち目は、ない。 96 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/23(土) 02 56 48.27 ID XQ0GhEZs0 右に大きく傾いた機体のキャノピー越しに、ベイダー卿は眼下のタルブの村を見つめた。 先日見た、素朴で、美しい村は跡形もなかった。家々は黒く焼け焦げ、どす黒い煙が立ち 昇っている。 草原はアルビオンの軍勢で埋まっていた。 雲霞の如き大軍が、我が物顔に草花を踏みつけてラ・ロシェールの方角に行進していく。 そしてそんな彼らの自信を裏打ちし、士気を鼓舞しているのは、上空に控える大艦隊であった。 98 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/23(土) 02 58 37.63 ID XQ0GhEZs0 二週間前の、祝宴の席を抜け出した夜を思い出す。 マントに顔を埋めて泣いたシエスタの頬の感触が、シートにあずけた背中に蘇る。 機械で満たされた胸腔に、雷雲のような怒りが広がっていくのがわかった。 その脳裡で、泣き腫らした目でシエスタが浮かべたあの笑顔が、幾度となくフラッシュバック した。 マスクの中の瞳が、金色に染まった。 その目が、こちらに向かって上昇してくる何匹ものドラゴンを捕捉する。 「皆殺しだ」 ルイズさえもゾッとするような声で、ベイダー卿は呟いた。 60 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/24(日) 14 26 20.76 ID 8o0wSeUN0 「一騎とは、なめられたものだな」 急降下してくる竜騎兵を迎え撃つため、自分の竜を上昇させたアルビオンの騎士が呟いた。 その視線の先に、雲間からこちらに向かってくる竜の姿があった。 ずいぶんと見慣れないかたちの敵だ。 横に伸びた翼は、まるで固定されているかのように羽ばたきを見せない。 しかも、聞き慣れない爆音を轟かせている。 あんな竜、ハルケギニアに存在していただろうか? しかし……、どんな竜だろうが、アルビオンに生息する『火竜』のブレスを食らったら、ただで はすまない。瞬時に翼を焼かれ、地面に叩きつけられることだろう。 彼はそのようにして、既に二騎、トリステインの竜騎兵を撃墜していた。 「三匹めだ」 唇の端を歪めて、急降下してくる竜騎兵を待ち受ける。 しかし火竜に指示を出すわずかの間に、敵の竜は想定の何倍ものスピードで距離を詰めて いた。瞬きのたびに倍加騒音に、彼の騎乗する竜がぎゃんぎゃんと鳴いて身をよじる。 彼がそれをなだめようとした寸前、竜の頭部に風穴が開いた。 何事か理解する間もなく、彼自身の頭も三十ミリ機関砲弾を喰らって吹き飛んだ。 65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/24(日) 14 30 54.29 ID 8o0wSeUN0 最初の正面反航戦で、ベイダー卿は機を巧みに操って、火竜のブレスの射程の遥かに手前 から、四人の竜騎士をそのドラゴンごとしとめた。 機関砲の装弾数は決して多くはないので、二、三発のバースト射を確実にドラゴンと乗り手 双方の急所に叩き込む。 四匹の竜がバラバラと落下し、機首を起こしたハリアーが頭上を通過していった時にも、残り の竜騎兵は何が起こったのか把握できていないようだった。 ベイダー卿はエレベーターとラダーを同時に操作し、上昇しながら機体を旋回させると、墜落 していく味方を呆然と見ていたアルビオン竜騎士隊の背後に回りこみ、速度を緩めながら 砲撃を浴びせた。 二十発足らずの弾丸で、残りの八騎が屠られた。 72 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/24(日) 14 36 25.18 ID 8o0wSeUN0 「十二騎の竜騎兵が三分足らずで全滅だと!?」 艦砲射撃実施のため、タルブの草原の上空三千メイルに遊弋していた『レキシントン』号の 後甲板で、トリステイン侵攻軍総司令官サー・ジョンストンは伝令からの報告に顔色を変えた。 「敵は何騎なんだ? 百騎か? トリステインにはそんなに竜騎兵が残っていたのか?」 「サー、そ、それが……、報告では、敵は一騎であります」 「一騎だと……?」 ジョンストンは、呆然と立ち尽くした。 伝令の兵士の報告はまだ続く。 「そ、それに、報告によれば十二騎のお味方が落とされたのは、あくまでも接近する敵を探知 してから三分。接敵から数えれば十数秒とのことです」 ジョンストンは今度こそ言葉を失った。 75 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/24(日) 14 40 57.27 ID 8o0wSeUN0 「続いて五騎、右下からあがってくる」 デルフリンガーが、いつもと変わらぬ調子で告げる。 「わかっている」 ベイダー卿は短く答え、機首をそちらに巡らせた。 それは、もはや格闘戦と呼べるものではなかった。 竜騎士が跨る火竜の速度は時速およそ百五十キロ。 ベイダーの駆るハリアーはその四、五倍のスピードで機動を行っている。 止まった的を撃つようなものである。 スターファイターの操縦の名手として名を馳せたベイダー卿にとっては、なおさらだ。 ベイダー卿は難なく竜騎士たちの背後を取り、正確無比の砲撃を加えた。 三騎の竜騎士が真っ逆さまに落ちていった。 77 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/24(日) 14 43 36.82 ID 8o0wSeUN0 驚いているのはアルビオンの竜騎士たちだけではなかった。 「すすす、すごいじゃないの! 天下無双と謳われたアルビオンの竜騎士が、まるで虫みたい に落ちてくわ!」 機体にかかる加速度はルイズの体を右に左に揺さぶったが、それでも彼女は歓声を上げた。 「当たり前だ、娘っ子。こいつははっきり言って、最新式の銃の弾よりも速え」 「なんであんたが偉そうなのよ?」 得意げに解説を加えるデルフリンガーに、ルイズは口を尖らせた。 「相棒、次は左だ。十騎ばかり来やがったぜ」 すっかりサポート役気取りのデルフリンガーである。 「わかっている」 ベイダー卿は短く答えると、また操縦桿を倒した。 ルイズがまた派手な悲鳴を上げた。 81 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/24(日) 14 48 45.57 ID 8o0wSeUN0 「全滅……だと」 最後の数騎の竜騎士は戦意を失いバラバラに逃げ惑っていたが、彼らもまた、甲板上から 指揮を取るサー・ジョンストンの見守る中、一騎ずつしとめられていった。 この目で見るまでは信じられなかったが、確かに敵の竜はハルケギニアの常識を超えた速度 で飛び回っている。目で追いきれない程だ。 撃ちかた止めの命令を出したわけでもないのに、いつの間にかラ・ロシェールに対する艦砲 射撃は止んでいた。 『レキシントン』号でもその指揮下にある僚艦内でも、将兵たちは皆この突如として現れた謎の 竜に見入っていた。 地上に目を向ければ、タルブの草原を行進中だった陸兵も浮き足立っているのが見える。 味方の竜騎士が次々に撃墜され、時折その頭上に巨大な竜の死体が降ってくるのだから、 無理もない。 ハリアーの途方もない機動力と耳をつんざく爆音は、早くも戦場全体の注視を集めていた。 86 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/24(日) 14 55 25.95 ID 8o0wSeUN0 ジョンストンは呻いた。 元々彼は軍人ではない。皇帝クロムウェルの側近だというだけで司令官に抜擢された、いわば お飾りである。 しかしながらそれでも、竜騎士隊全滅の責任を問われたら、政治的打撃は免れない。 そこに、伝令が飛び込んできた。 「報告します! お味方の竜騎士隊、正体不明の敵との戦闘で全滅!」 ジョンストンはその伝令兵を殴り飛ばした。 「見ればわかる! ワルド子爵はどうした! 竜騎士隊を預けたワルドは! あの生意気な トリステイン人はどうした! 奴も討ち取られたのか!」 伝令の兵士は殴られた頬を押さえながらよろよろと立ち上がった。 「損害に子爵殿の風竜は含まれておりません。しかし……、姿が見えぬとか……」 「裏切りおったな! それとも臆したか! どうにも信用がならぬと思っていたが……」 すっと手を出して、『レキシントン号』艦長のボーウッドがそれを制した。この作戦の実質的な 指揮を取っているのは彼である。 「兵の前でそのように取り乱しては、士気にかかわりまずぞ。司令長官殿」 88 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/24(日) 14 59 05.81 ID 8o0wSeUN0 激昂したジョンストンは、矛先をボーウッドに変えた。 「何を申すか! 竜騎士隊が全滅したのは、艦長、貴様のせいだぞ!貴様の稚拙な指揮が この結果を招いたのだ! このことはクロムウェル閣下に報告する! 報告するぞ!」 ジョンストンはわめきながらつかみかかってくる。 ボーウッドは杖を引き抜き、ジョンストンの腹に叩き込んだ。 白目を剥いて、ジョンストンが倒れる。 初めから眠っていてもらえばよかったな、とボーウッドは思った。 それから、心配そうに自分を見つめる伝令兵に向かって、落ち着き払った声で言う。 「竜騎士隊が全滅したとて、本艦『レキシントン』号を筆頭に、艦隊はいまだ無傷だ。そして、 ワルド子爵には何か策があるのだろう。諸君らは安心して、勤務に励むがよい」 ボーウッドはそれから、対空戦闘用の散弾を用意するように指示を出した。 96 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/24(日) 15 05 59.31 ID 8o0wSeUN0 「あ、あれは一体……」 アンリエッタは震える声で呟き、傍らのマザリーニを仰ぎ見た。 先ほどラ・ロシェール上空を通過していった見慣れぬ形の竜が、アルビオン軍の竜騎士隊を 瞬く間に壊滅させたのである。 マザリーニも首を傾げる。 「あのような幻獣は見たことがありませんな。対空警戒を行っていた兵の報告によれば、尾に 『ゼロ』と書き付けられていたとか」 「ゼロ?」 アンリエッタは眉をひそめた。どことなく引っかかる単語だ。 そして、突然襲ってきた馬鹿げた連想にハッとする。 「アカデミーの開発した新型マジックアイテムかと思いましたが、そうでもないようですな」 淡々とそう告げるマザリーニをよそに、アンリエッタは妙な予感めいたものを覚えていた。 一月前に彼女の危機を救ってくれた幼馴染が学院でどう呼ばれているかは、彼女の耳にも 入っている。 (でも、まさか、ね……) アンリエッタは淡い期待を必死に打ち消そうとした。 だがそれは、藁にもすがりたい状況の彼女の胸中から、なかなか消えてはくれなかった。 110 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/24(日) 15 14 37.39 ID 8o0wSeUN0 機体の中で揺さぶられるルイズは、怖くて泣きそうになった。 やっぱり、来なきゃよかったかしら? と恐怖が心をつかもうとする。 唇をぎゅっと噛み、『始祖の祈祷書』を握り締めた。 『竜の羽衣』の性能だけではなく、それを操るベイダーの技量も大変なものだった。 我が物顔に草原の上空を飛び回っていたアルビオンの竜騎士たちはあっという間に掃討された。 だがそれでも、敵はまだいくらでもいる。はっきりいって多勢に無勢である。 いつまでもこうやって優位を保っていられるとは思えなかったし、いつ艦砲射撃の的になるか わからない。 それなのにベイダーは淡々と操縦をこなしている。 歴戦の戦士を思わせるその落ち着きぶりが小憎らしい。 なによ、とルイズは思った。 (なによなによなによ! 怖がってるわたしだけがバカみたいじゃないの。それに……自分 ひとりが戦ってるような顔しないでよ。わたしだって戦ってるんだから!) 116 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/24(日) 15 20 43.90 ID 8o0wSeUN0 とはいえ、今の自分はまったくすることがない。いつも大体そうだが、なんだか悔しかった。 とにかく恐怖に負けては始まらない。 ポケットを探り、ルイズはアンリエッタからもらった『水』のルビーを指にはめた。その指を握り 締める。 「姫さま、ベイダーとわたしをお守りください……」 そう呟き、右手に持った『始祖の祈祷書』を左手でそっと撫でた。 結局、詔は完成しなかった。馬車の中で考えようと、手に持っていたのである。 そうだ。姫の結婚式に出席するために、自分たちは魔法学院の玄関で馬車を待っていたので ある。それなのに、いつの間にか戦争をしている。 運命とは皮肉なものだわ、ぼんやりとそんなことを考えながら、『始祖の祈祷書』を開いた。 ついでだから、始祖ブリミルにも自分たちの無事をお祈りしておこうと思ったのだ。 その瞬間、『水』のルビーと『始祖の祈祷書』が光り出した。 118 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/24(日) 15 23 29.06 ID 8o0wSeUN0 ベイダー卿は操縦桿を前に倒してエレベーターを下げ、草原を進むアルビオンの軍勢目がけて 機を急降下させた。 竜騎士隊を全滅させた謎の敵が突然向かってきたため、アルビオン軍の隊列が乱れた。 ベイダー卿は加速しながら敵軍の直上で機首の下げ幅を緩め、機関砲を浴びせながらその 頭上を通過した。 運悪くそのライン上にいた兵士たちは、あるいは本来対人用ではない機関砲の弾を喰らって 五体を引き裂かれ、あるいは亜音速の機体が巻き起こす突風に吹き飛ばされた。 アルビオン軍の隊列がざぁっと二つに割れた。 ハリアーが上空で旋回してまた戻ってくるのを見て、将兵の多くが恐怖に駆られた。 122 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/24(日) 15 25 59.22 ID 8o0wSeUN0 ベイダー卿は二度目の対地攻撃を行ってから、ちらっと後ろを見た。 この一方的な虐殺行為に、ルイズが何か言うかと思ったからだ。もっとも、文句など言わせる つもりはなかったが。 険しい顔をしているかと思ったルイズは、しかしながら周囲の状況などまったく見ていないかの ようであった。。 『始祖の祈祷書』を広げ、食い入るようにそのページを睨んでいる。 相変わらずの急加速と急制動の連続なのに、今は悲鳴を上げることもない。 その様子が少し引っかかったものの、ベイダー卿は操縦桿を握り直した。 機関砲の弾にはもう余裕がない。今のような真似はもうできない。 128 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/24(日) 15 30 57.65 ID 8o0wSeUN0 二度にわたって隊列を引き裂かれたアルビオン軍は、混乱の極みにあった。 陸軍同士の戦いだけなら、今ラ・ロシェールに立て籠もるトリステイン軍が打って出れば間違い なく勝てるだろう。 だが、それはできない。上空に控える艦隊をどうにかしない限り、遮蔽物のない草原ではトリス テイン軍はただの的でしかない。 ハリアーは、草原の上空をラ・ロシェールに向かう『レキシントン』号に機首を向けた。 「相棒、親玉だ。雑魚をいくらやっても、あいつをやっつけなきゃお話にならねえが……」 「コーホー」 ベイダー卿は無言だ。 「やれるのか?」 「フォースが共にある」 それで十分、とでも言うかのような口調だった。 その刹那、『レキシントン』号の右舷が光った。ベイダー卿は咄嗟に操縦桿を右に倒した。 唸りを上げて飛んできた無数の小さな鉛の弾がハリアーの機体を掠めた。 130 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/24(日) 15 33 26.48 ID 8o0wSeUN0 「面白い」 ベイダー卿が、機をさらに接近させる。 間髪を入れず飛んでくる散弾を、曲芸のような操縦技術で次々と避ける。 「わかっちゃいたけど……、相棒はアホだね。だけど俺も、こういうの嫌いじゃないぜ?」 ハリアーは弾幕を掻い潜って甲板上空に躍り出た。 そのまま、艦尾から艦首までアフターバーナーを吹かして一気に駆け抜ける。 目視と手動に頼らざるをえない対空砲火は、その動きにまったく追従できなかった。 「ははっ! 向こうの兵士ども、傑作な顔してやがったぜ」 デルフリンガーが軽口を叩いた。 136 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/24(日) 15 36 04.58 ID 8o0wSeUN0 ハリアーは背後から追いかけてくる散弾を回避しながら高度を上げ、今度は上方からアプロ ーチを試みることにした。 一度目の接近で、『レキシントン』号の真上には大砲の向けられない死角があるのがわかった。 甲板上にホバリングしながらありったけの機関砲を撒き散らせば、かなりの損害を与えられる だろう。 だが、上昇から下降に転じようとした矢先、ベイダー卿はフォースの警告を感じ取って機体を 左にロールさせた。 その翼の先端を、緑色の光弾が掠めていった。 その出所を目で辿れば、雲間から一騎の竜騎士が、烈風のように向かってくる。 特徴的な羽帽子に髭。手綱と杖を握る右手は金属の義手。 そして左手には、本来このハルケギニアに存在するはずのないブラスター銃……。 ワルドであった。
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グランドOP4「吸血姫」 RLシーンです。PCは登場不可。 まだ激戦の痕跡が残るロンデニオン郊外にて。 アルビオン連合王国軍の将校、アズリーリア女公爵は「流星」墜落現場へと辿り着いた。 風に揺れる長い金髪。すらりとした長身。激しい戦いの中でも全く汚れていない軍服姿。腰にはサーベル。 深いエメラルドグリーンの瞳には、つい先ほど「奇跡」をもたらした存在への興味が浮かんでいる。 (彼女は《清らかな衣》《神の恩寵》持ちなのです) 誰よりも早く「墜落現場」へと到達したアズリーリア女公爵は、そこに2人の若者の姿を見つけた。 まだ幼き容貌の、見慣れぬ服装の男女。武装もしていない。つい先ほどまで、ここは戦場の中心部だったのに! GM/アズリーリア女公爵:「‥‥フォーリナー、か」 ぽつりとつぶやく。そして微笑みを浮かべ。 GM/アズリーリア女公爵:「ようこそオリジンへ。歓迎するぞ。奇跡の担い手よ」 だが、歩み寄ったアズリーリア女公爵はひとつの事実に気づいた。少女の頬に手を当てる。 GM/アズリーリア女公爵:「死んでいる‥‥ 世界移動の影響か。それとも、先程の“光”の反作用か‥‥?」 GM/アズリーリア女公爵:もう一人の男性に触れる。「こちらは無事か」 GM/アズリーリア女公爵:「‥‥‥‥」 しばらく悩んだ後。彼女は《薔薇の抱擁》を使用。死亡していた少女を仮死状態へと復帰させることにした。 GM/アズリーリア女公爵:「フォーリナー相手とは我ながら無茶だが‥‥ 先程の“奇跡”の対価と思えば安いものだ」 GM/アズリーリア女公爵:「聞こえておらぬだろうが、礼を告げておこう」 2人のフォーリナーへと優しく微笑み。 GM/アズリーリア女公爵:「わたしの部下と、そして祖国を滅亡から救ってくれたこと。感謝しているぞ」 GM/アズリーリア女公爵:「願わくば、そなたらの道行にプロパテールの導きがあらんことを」 GM/アズリーリア女公爵:祈りつつ。少女の喉に牙を。 アズリーリア女公爵のLPは残り1点になりました。 少女「はるか」は死亡状態を解除。戦闘不能(HP0・LP1)となり、吸血鬼のブランチを新規獲得。 フォーリナー2名はそのまま女公爵に連れ帰られ、アルビオン連合王国軍に保護されることになった。 GM:さて。ここで兄さんに確認しておこうかな。 GM:この光景をキミは「ぼんやり覚えている」でもいいし、「まだ意識が戻っていなかった」ので知らなくてもいい。 秋彦:ぼんやりで GM:では。キミは妹はるかの白い喉笛に美人のおねーさんが牙を突き立てる光景を見つつ、再び意識を失っていく‥‥ シーンEND 次へ
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アルビオンの街の一つ、街ロサイスは、首都ロンディニウムの郊外に位置している。 ここはアルビオンの、特に空軍にとって重要な街であり、そこかしこに無骨で巨大な煙突が建ち並んでいた。 ハルケギニアで工業技術の秀でた国と言えばゲルマニアだが、空の上に浮かぶアルビオンも造船技術では引けを取らない。 煙を吐き出している煙突は、巨大な工場らしき建造物から伸びており、工場の中では真っ赤に溶けた鉄が鋳型に流し込まれているところだった。 アルビオンの皇帝となったオリヴァー・クロムウェルは、お供の者達を引き連れて、工場の建ち並ぶロサイスの街を視察していた。 その中にはワルドの姿もあり、視線だけを動かして周囲を観察していた。 トリステインには無かった巨大な造船工場は、アルビオン国王のおふれに始まる。 百年以上昔、首都ロンディニウムでは大火事が発生し、木で出来た家々は消し止める間もなく次々に燃えていった。 当時の国王は、住宅を石造りにして火事に対処せよとおふれを出し、その結果、森林は傷つけられることなく残った。 アルビオンは、驚くほど木材資源が豊富なのだ。 ワルドは、満足そうに胸を張って歩くクロムウェルを見て、少し目を細めた。 しばらく歩いていると、三色の旗が目に入ってきた。。 現在、空軍の発令所となっている赤レンガの大きな建物には、レコン・キスタの旗がはためいている。 その背後には、天を仰ぐような巨大なテントが見える。 だが、それはテントではなく、アルビオン空軍本国艦隊旗艦『レキシントン』号だった。 雨よけのための布が風を受けて、震えていた。 クロムウェルは、発令所から少し離れた場所で、戦艦を見上げている軍服姿の男を見つけ、楽しそうに声をかけた。 「なんとも雄大で頼もしい戦艦ではないか、このような艦を与えられたら、空と地を自由にできるような気分にならんかね? 艤装主任」 「わが身には余りある光栄ですな」 艤装主任と呼ばれた男は、少し気の張りがないような、あまり気乗りしていないと思えるような口調で答えた。 「サー・ヘンリ・ボーウッド君、君は革命戦争のおり、巡洋艦で見事二隻の敵艦を撃破して見せた。君はいかなるときも軍人として冷静だと聞いている」 「軍務に従ったまでのことです」 「ほう!いや、おごり高ぶらぬ態度は美徳だな。旗艦の艦長にはふさわしい!」 端で会話を聞いていたワルドは、ふと違和感を感じたが、アルビオン空軍の慣習を思い出して納得した。 確か、アルビオンでは、戦艦の艤装主任は、艤装の終了したのち、艦長へと就任する。 王立空軍ではなく、レコン・キスタ空軍となった今でも、その慣習はそのまま残っているのだろう。 「見たまえ。あの大砲を!」 クロムウェルは、戦艦の側面から突き出た大砲を指差す。 「きみへの信頼を象徴した新兵器だ。アルビオン中の錬金魔術師を集め、鋳造した長砲身の大砲だ!」 ボーウッドは、新兵器と聞いて、クロムウェルの指さす方を見た、そこには確かに真新しい砲門が姿を見せている。 「いいかね主任、設計主任の計算では、あの砲の射程は………」 調子良さそうに喋っていたクロムウェルの歯切れが悪くなると、すかさず脇に控えていた長髪の女性が、クロムウェルの言葉を代弁した。 「トリステイン、ゲルマニアの戦艦が装備するカノン砲と比較し、おおよそ一・五倍の射程を有します」 「おお、そうだったな、ミス・シェフィールド」 ボーウッドはシェフィールドと呼ばれた女性を見た。 二十代半ばに見えるその女性は、どこか冷たい雰囲気を漂わせていた。 マントを着けていないので、メイジではないのだろうかと疑問に思ったところで、クロムウェルがボーウッドの肩に手を置いた。 「彼女は遙か東方『ロバ・アル・カリイエ』から、優れた未知の技術を我々に伝えてくれた。言わば我らの同士だ」 「東方ですと?」 ボーウッドは少し胡散臭そうに聞き返したが、カノン砲の鋳造技術を思い返し、むむ、とうなった。 「エルフより学んだ技術を我々にもたらしてくれるとは、実に頼もしい!艤装主任、きみも彼女のともだちになるがいい」 「…はっ」 ボーウッドはつまらなそうに頷いて、シェフィールドと握手を交わした。 それが終わるとシェフィールドは、レキシントンの船内へと続く階段へと向かっていった。 ワルドは、ボーウッドの仕草を逐一見て、彼の心情を想像していた。 ボーウッドは心情的には王党派寄りだが、軍人として忠実であるために、上官の命令に従い、王軍に弓を引いたのだと想像できた。 ワルドもまた、つまらなそうに鼻を鳴らしたい所だったが、訓練された軍人としての仮面が、それを押さえた。 「この艤装が完了すれば、『ロイヤル・ソヴリン』号にかなう艦は、少なくともこのハルケギニアの何処を探しても存在しないでしょうな」 貴族派の革命によって『ロイヤル・ソヴリン』は『レキシントン』と名を変えていたが、あえて旧名を呼んだ。 生粋の軍人であるが故に、革命で王軍に弓を引かざるを得なかった男の、皮肉だった。 「ミスタ・ボーウッド。アルビオンにはもう『王権』(ロイヤル・ソヴリン)は存在しないのだ」 「そうでしたな」 ボーウッドは、わざと興味なさそうに返事をした、正直なところクロムウェルには早く何処かに行って貰いたかった。 クロムウェルの口調といい、態度といい、戦略といい、すべてが下品に思えた。 その下品さの一つが、この戦艦の艤装を急がせる理由だった。 「ゲルマニアとトリステインの結婚式とはいえ、戦艦に新型の大砲を積んでいくとは、下品な示威行為と取られますぞ」 クロムウェルをはじめ、現在のアルビオンを統治する『神聖アルビオン共和国』の閣僚達は、レキシントンに乗って、トリステイン王女とゲルマニア皇帝の結婚式会場へと移動する。 その際、あえて新型のカノン砲を、見せびらかすように積んでいくのだから、下品といわれても仕方がない。 だが、下品といわれたクロムウェルは、むしろそれを誇らしげに思っているかのごとく、唇をゆがめて気味の悪い笑みを漏らした。 「ああ、きみには、この『親善訪問』の概要を説明していなかったのだな」 そう言って、クロムウェルはボーウッドの耳に口を寄せると、ぼそぼそと何かを呟いた。 すると、ボーウッドは表情こそ変えなかったものの、目にみえて顔を青ざめさせ、クロムウェルに言い返した。 「バカな!そのような破廉恥な行為は…!」 だが、それすら気にした様子もなく、クロムウェルは事も無げに呟く。 「軍事行動の一環だ」 「トリステインとは、不可侵条約を…!」 ボーウッドがついには怒りを顕わにし始めたので、ワルドと他数人のメイジが、一歩前に出る。 ワルドが杖を手にかけたところで、クロムウェルがそれを制止した。 「かまわん、説明が遅れたのは私のミスであった。…しかし、ミスタ・ボーウッド。それ以上の政治批判は許されぬ。議会の決定、余の承認を経た正式な『政治的外交』だ」 「ぬ………っ。アルビオンは、恥を晒すことになりますぞ…!」 ボーウッドは、悔しそうに呟いたが、クロムウェルの周囲にいるメイジ達を見て、言葉を窄めてしまった。 ワルドは除くが、クロムウェルの周囲を警護していたのは、革命戦争の折に戦死したはずのメイジ達だったのだ。 ボーウッドは、つい数週間前、目の前に立つメイジ達の戦死に際して、敬礼を捧げていたのをハッキリと覚えていた。 「艤装主任…いや、艦長殿。彼らも『親善訪問』には諸手を挙げて賛成してくれているのだよ」 クロムウェルの言葉を聞いて、メイジ達は一斉ににやりと笑った。 ボーウッドは、力なく膝ついた。 メイジの一人が、ボーウッドの手を取って、ボーウッドを立たせた。 触れられた手が異様に冷たくて、ボーウッドは背筋に冷たいものを感じた。 それからクロムウェルは、ボーウッドのいる場所を離れ、レキシントンの艤装をより近くで見るために歩き出した。 かつての仲間達も、死んだはずの仲間達も、トリステインの魔法衛士の隊服を着た男もそれに続いた。 その場に取り残されたボーウッドは、恐怖か何かから来る寒気で身体が震えるのを止められなかった。 ボーウッドは『水』系統のトライアングルであり、生物の組成、治癒にかけてはエキスパートではあるが、死人を蘇らせる魔法などは想像の範疇を超えていた。 彼らは、精巧なゴーレムなのかもしれないと思ったが、掴まれた手から生気の流れを感じた。 ボーウッドは、『水』系統の使い手だからこそ、共に戦った仲間達の『生気の流れ』が別人のものではないと感じたのだ。 神聖皇帝クロムウェルは、『虚無』を操り、生命を操る……。 ただの誇張された噂話だと思っていたが、もし本当に『虚無』のメイジであり、もし『死者を蘇生』させる魔法があったとしたら…… 「……あいつは、ハルケギニアを、生命をどうしようというのだ」 ボーウッドは、震える声で呟いた。 しばらくの間、戦艦の外周を見て回ったクロムウェルは、傍らを歩くメイジ…ワルドに話しかけた。 「子爵、きみは竜騎兵隊の隊長として『レキシントン』に乗り組みたまえ」 「あの艦長殿の目付け、というわけですか?」 ワルドの憶測を、クロムウェルは首を横に振って否定した。 「あの男は、頑固で融通の効かぬ男だからこそ信用できる。余は魔法衛士隊を率いていた、きみの能力を買っているだけだ。竜にのったことはあるかね?」 「ありませぬ。しかし、わたしに乗りこなせぬ幻獣はハルケギニアには存在しないと存じます」 「ふむ、だろうな…」 クロムウェルはワルドに向き直った、ワルドは、無いはずの左腕…いや、左腕に取り付けられた義手を、右手で撫でていた。 「…子爵、きみはなぜ余に従う?」 「わたしの忠誠をお疑いになりますか?」 「そうではない。ただ、きみは余に何も要求しようとしない、何も、だ」 ワルドは、静かに笑顔を見せつつ、首から下げたペンダントを右手で握りしめた。。 「閣下の進まれる道を、間近で見たいと…そう思っただけでございます」 「ほほう、余の道の先には『聖地』しかないがな」 「わたしが探すものは…そこに、そこにあると思いますゆえ」 そう言って、ワルドは首から提げられたペンダントを、無意識に握りしめた。 「信仰か?」 「…かも、しれませぬ」 「ふむ、欲がないな。」 少しの間、考え込むように視線を下げた後、ワルドは笑みを浮かべて呟いた。 「いえ、閣下。わたしは世界で一番、欲深い男です」 一方、トリステインの王宮では、アンリエッタの私室に女官や召使が忙しそうにしていた。 結婚式でアンリエッタが身に纏うドレスの寸法を合わせ、細かな部分を仮縫していたのだ。 傍らでは、太后マリアンヌがそれを見つめていた。 アンリエッタは未完成な純白のドレスに身を包んでいたが、表情は決して明るくなかった。 仮縫いのため、アンリエッタへと着心地はどうかと質問する縫い子たちの声にも、曖昧に頷くばかりだった。 それを見たマリアンヌは、縫い子や女官達を下がらせて、アンリエッタと二人きりになった。 「愛しい娘や。元気がないようね」 「母さま」 アンリエッタは、椅子に座っているマリアンヌに近寄ると、ひざまずくように姿勢を下げた。 下着姿で母の膝に頬をうずめると、マリアンヌはアンリエッタの頭を撫でた。 「望まぬ結婚なのは、わかっていますよ」 「そのようなことはありません。わたしは幸せ者ですわ」 その言葉とは裏腹に、アンリエッタの表情はどこか曇っていた。 「………愛おしい夢は、いずれ冷めます、熱が過ぎればいずれ忘れていきましょう」 「母さま、夢ではありませんわ」 マリアンヌは首を振った。 「恋は、はしかのようなものです、陽炎のような夢に浸っていては、王女としての勤めを果たせませんよ」 「陽炎では…ありません」 「あなたは王女なのです。夢でも陽炎でもないのなら、もう泣くのはおやめなさい。そんな顔をしていたら、民は不安になるでしょう」 「わたくは…なんのために、嫁ぐのでしょうか?民と、国の未来のためなのでしょうか…」 アンリエッタの言葉に、マリアンヌは首を横に振った。 「国と、民と、貴方自身のためでもあるのです」 「…私自身のため、でしょうか」 マリアンヌは、諭すように、静かに語った。 「レコン・キスタのクロムウェルは、皇帝を名乗りました。野心豊かな男です。聞くところによると、かのものは『虚無』を操るとか」 「私も、その話は聞きましたわ」 「…『虚無』がまことなら、恐ろしいことなのですよ。過ぎたる力は人を狂わせるのですから」 「過ぎたる…力…」 ふと、アンリエッタの脳裏にルイズの姿がよぎる。 ルイズは、今ごろはラ・ロシェールからアルビオンにたどり着いている頃だろう。 アンリエッタに『私は食屍鬼を作らない』と約束するルイズの姿は、どこか儚げだった。 ルイズは、自分の力を知っているからこそ、その力に振り回されぬように自制しているのだろうか? 『吸血鬼』であり『虚無』… この事に限っては、枢機卿と協力して、母にも、誰にも知られぬようにしていたのだ。 「野心にとりつかれた男が、軍隊を得て大人しくしているとは思えません。不可侵条約を結んでも同じ事です、軍事強国のゲルマニアにいたほうが、あなたの身は安全なのですよ」 アンリエッタは顔を上げた。 そして母の前で居住まいを正すと、母に頭を下げた。 「……申し訳ありません。わがままを言いました」 「いいのですよ。貴方の”夢”は、貴方の側には居られないと思いますが、貴方の幸せを誰よりも願っているのですよ」 「…はい」 そして、マリアンヌは立ち上がり、母と娘は抱き合った。 一方、港町ラ・ロシェールからほど近い森の奥では、シエスタが木の上で身を潜めていた。 タバサはシエスタの手から伸びたツタの先端を握りしめて、木の陰で何かを探そうと集中している。 ふたりは、タバサの足下から数えて約20メイル先の建物に意識を向けていた。 そこには廃墟となった寺院があった。 敷地面積は、トリステイン魔法学院の本塔と同じぐらいのだろうか。 錆びて朽ちかけた鉄の柵、倒れた円柱、割れたステンドグラスを見ると、かつては見事な建造物だったとわかる。 かつては、ここに村があり、この寺院は村の中心的な役割があった。 何百年か前に起こった、ゲルマニアとトリステインの戦争で、この村は燃やされてしまった。 とは言っても、非戦闘員の住む村落を無碍に燃やすことは、ゲルマニアでも禁じられている。 この村は、荒くれ者達や、自称『傭兵』達、もしくは盗賊達に荒らされてしまったのだ。 戦争も終わり、一応の平和が訪れたが…もはやこの寺院を訪れる人間は居なかった。 不意に、門柱の近くにある木から、ドォン!という音が響いた。 タバサとは別の場所に潜んでいるキュルケが、木に火の魔法を当てたのだ。 そして、どかどかと足音を立てながら、何者かが寺院の中から飛び出してきた。 この寺院を住処にしている、オーク鬼の群れだった。 「ぶひ」「ギィ」「ぶごっ、ぶごごっ!」 十匹にもなるオーク鬼の群れが、寺院の中から姿を現し、鼻を鳴らして互いに会話していた。 シエスタはガサガサと、わざと音を立てながら木から飛び降りた。 かなり高い位置から飛び降りたのだが、木の葉に波紋を流して吸い付き、勢いを殺しながら降りたのでダメージは無い。 それを見たオーク鬼達が一斉に「ブギィ!」と叫び、シエスタへと走り寄ってきた。 シエスタは、ワインや水を使って生命の波を探知するように、蔓草を通じてタバサに波紋を流していた。 すると、『風』を得意とするタバサの身体に変化が起こる。 まるで周囲を流れる微弱な風が、自分自身の指先になったかのように、敏感に、鮮明に、『生き物が持つ波紋』を感じられるのだ。 「ラグーズ・ウオータル・イズ・イーサ・ウインデ……」 タバサは小声だが、しっかりとした発音でルーンを詠唱し、『ウインディ・アイシクル』を放った。 タバサの隠れている木、その木の前に立つシエスタ、それらを一切傷つけることなく氷の槍が四方八方から飛来し、オークの群れへと殺到する。 先頭に立つオーク鬼の身体を貫通し、後ろのオーク鬼までを串刺しにして、氷の槍が砕け散る。 タバサが次に唱えた『エア・ハンマー』は、氷の破片を三匹目に殺到させ、オークの身体を穴だらけにした。 と、その様子を見ていた他のオーク鬼達が驚き、戸惑う、何匹かは寺院の中に戻ろうとしたが、寺院の中に居たのは青銅で作られたゴーレム、ワルキューレだった。 寺院の入り口は人間より二回り以上大きいが、オークにとっては丁度良い大きさだった。 その入り口を槍を構えたワルキューレが塞いでいたのだ。 「ぶぎ!」「ぎぎ、ぶごっ」 鼻を鳴らしてオーク鬼が会話する、その様子はまるで「おい、どうする?」と相談しているかのようだった。 事実、そうなのだろうが、その僅かな合間が命取りだった。 寺院の入り口から飛び出したワルキューレが、オーク鬼の持つ棍棒一振りでグシャグシャに潰されたが、左右に突然現れたワルキューレに両脇腹を槍で貫かれ、一匹が絶命した。 すかさず右からキュルケの炎が飛び、左からキュルケの使い魔フレイムの炎が飛ぶ。 更に一匹、二匹と焼かれていき、残った五匹は悲鳴を上げた。 そのうち一匹が、シエスタに向かって棍棒を投げた、オーク鬼の腕力は人間よりはるかに強く、まともに棍棒を受ければシエスタは肉片になってしまうだろう。 だが、シエスタは逃げなかった。 すかさずマントに手をかけると、内側のとある箇所を握りしめて波紋を流した。 するとマントはシュッ、と音を立てて円錐形に形を変え、その頂点をオーク鬼に向けた。 投げられた棍棒は、マントの表面を流れる『弾く』波紋により、あらぬ方向へと滑り飛んでいった。 残る、オーク鬼五匹。 かれらは、その腕力と獰猛さで人間の子供を食らうので、人間達から恐れられていたが、今は違った。 残忍な狩人であるオーク鬼達が、今は狩られる側に回っていたのだ。 シエスタは、マントを元の形に戻すと、両手の力を抜いた。 波紋を蔓草に流し、タバサの手から蔓草を巻き戻す。 「…いきます」 シエスタの言葉に、タバサとキュルケ頷いた。 オーク鬼に向けてシエスタが駆け出す、それは端から見れば自殺行為にも等しい。 メイジでもない人間が、素手でオークに立ち向かうなど、あまりにもバカげている。 シエスタに一番近いオーク鬼もそう考えたのだろう、ブヒ、と鼻を鳴らして右手を振り上げ、シエスタに向けて振り下ろした。 …だが、吹き飛ばされるはずのシエスタは、左手の指一本でオーク鬼の手を止めていた。 「ブゴ?」 きょとん、とした目で、オーク鬼は自分の手を見た。 か弱い人間をはじき飛ばすこともできない、それどころか、その指から自分の手が離れないのだ。 「ぶごぉ!?」 オーク鬼は、左手でシエスタを殴ろうとしたが、それよりも一瞬早く、シエスタの手から『波紋』が流された。 オーク鬼の身の丈は二メイルほどあり、大きさから考えて体重は人間の五倍ほどあると予測できる。 その身を、動物から剥いだ毛皮に包んでおり、棍棒などで武装していることがある。 知能は高いが、その豚のように突き出た鼻から、オーク鬼は二本足で立った豚と表現されている。 一般に、オーク鬼は太った体つきをしているが、ただ太っているわけではなく、相当量の筋肉が脂肪の下を埋め尽くしている。 人間の腕力をはるかに超えるその力は、今回ばかりは、かれらの弱点となった。 ベキベキベキベキと音が響く、オーク鬼の背中が、まるで弓のように反り返り、自分の背骨を砕いていたのだ。 オーク鬼の後頭部が地面に触れると、綺麗な曲線を描いがブリッジが完成した。 動物特有の発達した背筋が、自分の意志に反して過剰に収縮し、自分自身の骨を自分で砕いてしまったのだ。 他のオーク鬼達は、その姿に驚き、言葉…と言うよりは鳴き声を失った。 同胞の一人が、奇妙に丸まって全身の骨を砕かれ、絶命したのだ。 誰かが「ブゴッ」と鳴き声を上げると、残るオーク鬼四匹が後ずさった。 目の前にいる平民の少女…もっとも、オーク鬼達に『平民』と言っても分かりはしないが…杖を持たずに仲間を殺したこの少女が、恐ろしくなったのだ。 「ブギィ!」「ゴア!」「ビギーッ!」「ブゴオ!」 残された四匹のオーク鬼は、ちりぢりに逃げ出そうとした、しかし、キュルケのフレイムボール、タバサのエア・カッター、サラマンダーの炎、シエスタの波紋疾走にて打ち倒された。 オーク鬼が全て退治されたのを確認すると、屋根の上で身を潜めていたギーシュが、すっくと立ち上がって薔薇の造花を掲げた。 「フッ、これがトリステイン貴族の実力さ」 キザったらしく髪の毛をかき上げたギーシュだったが、そこに突然の風が襲った。 ばさっ、ばさっ、と音を立ててシルフィードが寺院の庭に着地したのだ。 風に煽られたギーシュは寺院の屋根から滑り落ち、そのまま地面に激突した。。 「ゴフッ!?」 「ギ、ギーシュ!大丈夫?」 シルフィードの背に乗っていたモンモランシーが慌てて飛び降り、ギーシュに駆け寄る。 頭を膝の上に乗せて膝枕の形になり、ギーシュの頭に手を当てて、優しくさすった。 「ああ…モンモランシー、白魚のような君の手が痛みを忘れさせてくれるよ」 「ギーシュ…」 二人の様子を見ていたキュルケとシエスタだったが、もう勝手にやってろと言わんばかりに首を横に振って、寺院の中へと入っていった。 タバサは、シルフィードに背中を預けると、いつも持ってきている本を読み始めた。 「この寺院の中には、祭壇があって、その下にチェストが隠されてるそうよ」 「祭壇ですね…あれでしょうか?」 キュルケの指示に従って、シエスタが祭壇を探したが、そこにはチェストなど影も形もなかった。 キュルケがレビテーションで祭壇をどかすと、その下には人一人が入れそうな空間があり、小さなチェストが置かれていた。 「ここの司祭が、寺院を放棄して逃げ出すときに隠した、金銀財宝と伝説の秘宝『ブリーシンガメル』があるって話よ?」 キュルケが得意げに髪をかきあげる、シエスタは蔓草を使ってチェストを引き上げると、床に置いた。 「ブリーシンガメルって、どんな物なんでしょう?」 シエスタが訪ねると、キュルケは手に持った地図を開き、そこに書かれた注釈を読んだ。「えっとね、黄金でできた首飾りみたいね。聞くだけでわくわくする名前ね! それを身につけたものは、あらゆる災厄から身を守ることが……」 シエスタがチェストの中を見ると、そこには色あせた装飾品や、がらくたしか入っていなかった。 その晩、一行は寺院の中庭でたき火を取り囲んでいた。 モンモランシーは、ギーシュと一緒にいられるのが嬉しいらしく、ギーシュに寄り添っては離れより沿って離れを繰り返している。 ギーシュもまた、モンモランシーの前では毅然とした態度を取ろうと心がけていたが、いかんせん膝枕の感触を思い出しては時々鼻の下を伸ばしている。 キュルケは、紙の束…よく見ればそれが地図と判る…をたき火の中に投げ入れた。 その様子を見て、ギーシュがふぅ、とため息をついてから、しゃべり出した。 「なあキュルケ、これで七件目だろう。地図をあてにして、お宝探しなんて…苦労しても何も見つからないじゃないか」 モンモランシーも、ギーシュの言葉に頷いた。 キュルケはどこからか手に入れた『宝の地図』を頼りに、宝探しをして小遣いを稼ごうと画策したのだ。 シエスタとタバサを連れて行ければいいと思っていたが、困ったことにギーシュがついてきてしまった。 どいやら、この間シエスタに決闘を挑んでしまった罪滅ぼしらしいが、それを聞いたモンモランシーまでもが参加することになった。 女三人とギーシュ一人である、モンモランシーが何か危惧するのは当然だろう。 キュルケは、モンモランシーは『水』系統の使い手であり、怪我をしたときに彼女が居ると有利だと考え、五人での宝探しが始まったのだ。 だが、一攫千金の宝探しなど、そうそう簡単に実現できるはずもなく、一行はことごとく偽のお宝を掴まされていた。 「何よ、あらかじめ言っておいたじゃない。この地図の『どれか』は本物なの『かも』しれないって」 「いくらなんでも、廃墟や洞窟にいる化け物を苦労して退治して、得られた報酬が銅貨数枚とガラクタだけじゃ、割にあわんこと甚だしいよ!」 ギーシュはそう言って、薔薇の造花を口にくわえ、中庭に敷いた毛布の上に寝転がった。 「そりゃそうよ。化け物を退治したぐらいで、ほいほいお宝が入ったら、誰も苦労しないわ」 俄に険悪な雰囲気が漂い始めたところで、シエスタの明るい声が響いた。 「みなさーん、お食事ができましたよー!」 たき火の火を使って、シエスタが調理していたのは、彼女の故郷独特のシチューだった。 深めの皿にシチューをよそる、シエスタが言うには、この形の皿を『チャワン』というらしい。 一人一人にシチューを渡すと、ほんのりと良い香りが鼻を刺激する。 「へえ、この草はハーブだったのか、雑草かと思っていたが…」 ギーシュがシチューを頬張りながら呟くと、モンモランシーがシチューをかき回して、中に入っている野草や肉の臭いを確かめた。 「…これはウサギ肉と、ハシバミ草の一種ね、もしかしてタバサに頼んで乾燥させていた草って、これ?」 「はい、乾燥させてから煮込みなおすと、アクが出てハシバミ草の苦みはほとんど無くなるんです、やりすぎると香りまで飛んでしまうのですけど」 「物知りねえ、この間貴方の故郷…タルブ村に行ったときに食べた、ヨシェナヴェに味付けが似てるわね」 キュルケが感心したように呟く、すると、タバサもそれに続いて「美味しかった」と呟いた。 「あら、二人ともシエスタの故郷に行ったことがあるの?」 モンモランシーが空になったお椀を差し出しながら聞く、シエスタはお椀にシチューをよそりながら答えた。 「はい、私が魔法学院に入学させて頂くことになった時、キュルケさんと、タバサさんが手伝って下さったんです」 「そうよ、ああ、あのワイン美味しかったわね。タルブ村にまた行きましょうよ、タバサもヨシェナヴェはお気に入りでしょ?」 キュルケの言葉にタバサが頷く。 「それに、最後に残った地図も、タルブ村の近くを示してるもの、最悪でもワインだけ貰って帰ってくればいいわ」 「最後のお宝って何よ、またインチキじゃないの?これ以上宝探しを続けても収穫はないと思うわよ。それに…ギーシュも疲れてるみたいだし」 キュルケは宝の地図を放り投げて、モンモランシーに渡した。 「…『竜の羽衣』って、何?」 シエスタが驚いて顔を上げ、モンモランシーが持った宝の地図を見つめた。 「…竜の羽衣ですか?そんな、あれはお宝なんてものじゃありません」 「知ってるの?」 「はい、あれは…コルベール先生が授業で言っていた、魔法を使わずに動くものらしいんです、でも今は壊れて…なんの価値もないと思います」 シエスタの言葉に、キュルケが驚いた。 「魔法を使わずに動くって、あの、『蛇くん』のこと?ホントにガラクタじゃない」 「…私も、最初はそう思っていたんです。けど…」 シエスタが竜の羽衣について話しだす。 皆は、はじめ胡散臭そうに聞いていたが、シエスタのマントが滑空する原理や、コルベール先生の開発した『ゆかいな蛇くん』の話をするにつれ、皆シエスタの話に夢中になっていた。 より原理的に完成された『エンジン』の存在。 他にもプロペラ、揚力、抗力、機関銃、合金、速度…それらの話を聞いていくうちに、タバサを除く皆の目に活力が見えてきた。 それらは曾祖父の日記に、理論と共に書かれていた。 それが正しければ、まさしく竜の羽衣はハルケギニアの技術を遙かに超えた『マジックアイテム以上のマジックアイテム』なのだ。 更に、シエスタの曾祖父がそれに乗ってタルブ村にやって来たと聞いて、皆は面白そうに目を輝かせた。 「面白そうじゃない!壊れていてもいいわよ、それ、竜の羽衣を一度見に行きましょう。」 キュルケがそう言うと、皆もそれを了承したのか、一様に頷いて肯定した。 「じゃあ、今日は早く寝ましょう、あのワイン美味しいのよね…楽しみだわー」 ワインの味を思い出して、キュルケは楽しそうに呟くと、傍らで本を読んでいたタバサも小声で呟いた。 「楽しみ」 「貴方はワインじゃなくてハシバミ草でしょう?」 「…」 タバサが無言で頷くと、皆が一様に笑い出した。 嵐の前の、つかの間の平和が、彼らを包んでいた。 To Be Continued→ 戻る 目次へ
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前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ 四七 武器を抜いて、この水そのものでできた怪物と闘うか(二八八へ)? それとも、使えるものがないか背嚢の中を探してみるか(二五八へ)? 二五八 背嚢にある品のなかで、使えそうな物はあるか? 油の小瓶・三一七へ 幸運の護符・二七〇へ 羊皮紙の巻物・三二七へ いずれも持ち合わせていなければ、武器を抜いて水大蛇と闘わねばならない。二八八へ。 三一七 大蛇は透明な牙を剥き出しにして降下してくるが、君とフーケはすばやく左右に飛びのく。 君は小瓶の栓を抜くと、すぐそばを通過する怪物の胴体に瓶の中身を振りかけ、期待の目で見守る。 この怪物の弱点は覚えている。 水大蛇は油によってその肉体を分解され、無害な水しぶきに変わってしまうはずだ。 しかし、怪物は空中でもがき苦しみこそすれど、まだ生きている! 驚くべきことに、以前にイルクララ湖で闘ったときにくらべ、より大きく、より強くなっているのだ。 水大蛇は憤怒に眼をぎらぎら輝かせると、再び襲いかかってくる。 フーケは、足元の岩場からゴーレムを作って迎え撃とうとしているが、岩ゴーレムはようやく上半身ができあがったところだ。 堅い岩からゴーレムを作り出すには、土にくらべて余計な時間がかかってしまうようだ。 水大蛇はフーケめがけて舞い降りるが、彼女は身を屈めてそれをかわす。 空を飛び回る怪物が相手では、君の武器もフーケの岩ゴーレムの拳も、たいした効果を期待できない。 君はどうする? 術を使うか(七へ)? フーケに、なにか手はないかと尋ねるか(二四九へ)? 二四九 フーケは身の丈十八フィートにも及ぶ巨大な岩ゴーレムを完成させるが、その拳は空を舞う水大蛇には届かない。 君は、なにかあの怪物に有効な魔法はないのかとフーケに尋ねるが、 「わたしに訊かないでよ! あいつと因縁があるのは、あんたでしょ!」と怒鳴られる。 フーケはふと、なにかに気づいたような表情を浮かべ、 「さっきあんたが使ったのは、なに? あれがもっと大量にあれば、奴を倒せるんじゃないの?」と問いかけてくる。 君は、あれはただの油だが、もう品切れだと答える。 それを聞いたフーケは 「それなら役に立てそうね」と君に笑いかけ、 「来なさいよ、化け物! お仲間と同じように始末してあげるわ!」と、 空中を旋回する怪物を挑発する。 「ほざけ人間! 鈍重なゴーレムごときで、わしから身を守ることなどできぬわ!」 怒りの声をあげて降下してきた水大蛇に岩ゴーレムが組み付くが、簡単にその手のあいだをすり抜けられてしまう。 「見よ、岩ごときで水をくい止めることは……」 水大蛇の言葉は最後まで発せられることはなく、その姿はみるみるうちに崩れていき、油混じりの水と化して、滝壺に降り注ぐ! 眼を丸くしている君に、フーケは微笑み、 「≪錬金≫よ。ゴーレムの体の表面を、あらかじめ油に変えておいたってわけ」と言う。 見事な機転だと褒めそやす君を手で制し、フーケは 「ところで、あの油の入っていた瓶、どこかで見た覚えがあるんだけど?」と尋ねてくる。 君は答えに詰まる。 あの油の小瓶は、以前に意識を失ったフーケの雑嚢から奪い取ったものなのだから。 返答に窮した君に、フーケは小さく笑う。 「悪い人ね……盗賊相手に盗みをはたらくなんて」 そう言って、君の胸に掌を当てる。 闘っている最中は気にならなかったが、月明かりの下で見る彼女は、はっとするほど美しい。 風に揺れる緑色の挑発、象牙のように白くきめ細やかな肌、怪しく輝く瞳。 ただの美貌ではなく、妖艶と言ってもよい容姿だ。 フーケは言葉を続ける。 「でも、その盗みのおかげでふたりとも助かったんだから、許してあげる……これでね!」と言うや否や、 君の胸を突き飛ばす。 君のすぐ後ろは滝壺だ! 運だめしをせよ。 吉と出たら一六四へ。 凶と出たら一六へ。 一六四 危うく滝壺に転落しそうになる君だが、ぎりぎりのところで踏みとどまることに成功する。 周囲を見回してフーケの姿を探すが、もはや誰も居ない。 君は溜息をつくと踵を返し、宿に戻って眠ることにする。 君は『黒水晶亭』に戻り、床につく。 そのまま一晩よく休んだので、体力点二を得る。九九へ。 九九 翌朝、君とルイズ、ギーシュの三人は、宿屋の一階に設けられた酒場で、これからの予定について話し合う。 君は、≪土塊のフーケ≫と水大蛇に関する昨夜の一件を、ふたりには伝えぬことに決める。 すでに問題が山積みなのだから、もはや済んだことで彼女たちをわずらわすこともない。 朝一番で桟橋の管理所まで出向いたギーシュによると、今日は三隻の船――もちろん空を飛ぶ船だ!――がアルビオンの港町・スカボローへ 向けて出港するという。 最も早く、二時間ほど後に出港するのは貨客船『ウィップアーウィル』号。 船賃は破格の安さだが、乗客の大半は反乱軍に加わるつもりの傭兵たちらしい。 やや遅れて飛び立つのが、鉱石運搬船『マリー・ガラント』号。 反乱軍に売るための硝石を満載しているが、客室もいくつか備えており、まだ空きがあるという。 船賃は他の二隻の中間程度。 最後に、正午ごろに出港するのが客船『ブラックバーン』号。 勝ちの見えた反乱軍に取り入ろうとするトリステインの商人や、アルビオンに居る親族の安否を確かめに向かう貴族など、比較的裕福な乗客が 多いそうだ。 『ブラックバーン』号の船賃は、『ウィップアーウィル』号のそれの三倍近いという。 「姫殿下のためにも一刻も早くアルビオンに向かいたいところだが、いちばん早く着く『ウィップアーウィル』号は、下劣で野卑な 反乱軍の傭兵どもでいっぱいだ」 ギーシュは渋面を作って言う。 「ぼくとしては、貴族にふさわしい『ブラックバーン号』にしたいところだが、これに乗ろうと思ったら、宝石を売り飛ばさないと……」 「アルビオンにどれだけのあいだ居ることになるかわからないんだから、路銀は節約しなきゃね」 ルイズも真剣な表情で、三隻の船のどれにするのが最善かを考えるが、なかなか答えが出ない。 「ああ、もう! 駄目、わかんない!」 そう叫ぶと、両手で頭をくしゃくしゃと掻く。 どの船に乗るか決めかねたルイズは、君のほうを見る。 「ねえ、あんたはどれがいいと思う?」 君はどう答える? 『ウィップアーウィル』号・一八九へ 『マリー・ガラント』号・一二五へ 『ブラックバーン』号・一五一へ 前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ
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期間 2013年4月8日11時00分~2013年4月17日23時59分 ※当初発表のイベント期間 チャレンジバトルとは? イベント内でしか入手できない限定パイロットを獲得することが目的。 詳細はチャレンジバトルのページをご参照下さい。 限定パイロット 今回のイベントパイロット ★3レイ・ザ・バレル★3カミーユ・ビダン★4キラ・ヤマト CPUデッキ ランク CPUデッキ名 戦艦 地形 主な搭載機 CPU撃破に必要なデッキ攻 梅 vsディアナ親衛隊の強襲! ディアナ親衛隊のMSを倒せ! マゼラン 宇 竹 赤い彗星の勇姿! 赤い彗星率いる軍団を撃破! アルビオン 宇 松 舞い降りる翼! 4月ガシャ最強軍団とチャレンジバトル! アークエンジェル 地
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前ページ次ページゼロのアトリエ ルイズは夢を見ていた。 (ルイズお嬢様は難儀だねえ) (まったくだ。上のお二人はあんなにおできになるというのに。) できのいい姉達と成績を比べられ、母のお説教から逃げ回る毎日。 「泣いているのかい?ルイズ。」 「子爵様、いらしてたの?」 生まれ故郷、ラ・ヴァリエールの屋敷の中で、忘れ去られた中庭の池。 それに浮かぶ小船が、現実に打ちひしがれたルイズの指定席であった。 「ルイズ、僕の小さなルイズ。君は僕のことが嫌いかい?」 「いえ、そんなことはありませんわ。でも、私まだ小さいし…」 私を迎えに来た子爵。こんな私と婚約しようという子爵。ゼロの私の憧れの人。 「安心しなさい。ぼくからお父上にとりなしてあげよう。」 ルイズは頷いて、その手を取ろうとした。 その時、いるはずのない使い魔の呼ぶ声が池に響く。 「ルイズちゃーん、お父さんは怒ってないってー!もう、大丈夫だよー!」 なぜか、子爵にはヴィオラートの声が聞こえていないようだ。 「さあ。おいでルイズ。ぼくだけのミ・レイディ。」 聞こえないのか、それともわざと無視しているのか。 もしかすると彼は、ヴィオラートが嫌いなんだろうか。 自分が好きなヴィオラートを、彼も好きだと言ってくれないのはなぜだろう? ヴィオラートが嫌いな子爵は、なぜか自分の知らない人のような気がしたので。 ルイズは子爵とヴィオラートを見比べて、立ち上がり、――――に向かって――――。 何かを選ぼうとしたその時、夢は終わりを告げた。 月の光差すルイズの部屋。 ランプの光で、黙々と何かの作業に打ち込むヴィオラートの姿があった。 ゼロのアトリエ ~ハルケギニアの錬金術師13~ ヴィオラートは二冊の本を見比べながら、ノートにびっしりとなにかを書き付けている。 ごくわずかに、ミョズニトニルンのルーンが光を放っているようだ。 「どうしたの、ルイズちゃん。」 そう言いつつも、ヴィオラートの手と目は機械的な作業を続ける。 「なにをしてるの?」 ルイズが問うと、 「うん、この世界の文字を解読してるんだ。」 なんだか途方もないことをあっさりと言い放った。 「マジックアイテム関連の本と錬金術書の比較なら、ルーンの力もちょっとは使えるみたいだから…」 「どうして。」 「え?」 「どうして?」 ルイズの問いかけに、答える言葉を探すヴィオラート。 「この世界に、錬金術書を残しておこうと思って…」 ようやく答えたその言葉に、ルイズは何かを悟る。 「帰るんだ。やっぱりいつか、元の世界に帰っちゃうんだ。」 「…」 「そう。そうよね。あなたには元の世界に、大切なものがいっぱいあるものね。」 静かに、しかし気持ちをいっぱいに込めて言葉を発するルイズ。 しかし、これ以上言えば、ヴィオラートを困らせるのではないか… そんな思いがルイズに言葉を失わせて、 「な、なに?きゃ、ちょっと、ルイズちゃん!」 ヴィオラートに、やつあたり気味のぽかぽかぱんちをお見舞いする事になる。 二つの月が、二人を見守っていた。 月の光が、あまねく大地を照らす頃。 遠く離れたトリステインの城下町、チェルノボーグの監獄で、 土くれのフーケはベッドに寝転び、ぼんやりと壁を見つめていた。 「まったく、かよわい女一人閉じ込めるのにこの物々しさはどうよ?」 苦々しく呟き、自分を捕まえた女のことを頭に浮かべる。 「大したもんじゃないの。あいつは。」 ルイズを抑えようとするのではなく誘導した状況判断、 落雷地点をフーケの近く、結果的には自分からも相当近い距離に定めた勇気、 そして最後の先住魔法、それをあの瞬間まで隠していた用心深さ。 いったい、あの女は何者なのだろう。まあ、今となっては関係のないことだが… とりあえず寝ようと目をつぶるが、すぐにぱちりと開いた。 「おや、こんな夜更けにお客さんなんて珍しいね。」 黒いマントの人物が、鉄格子の向こうに立ったまま、フーケを値踏みするかのように黙り込んでいる。 「あいにく、ここに客人をお迎えするようなものはありませんが。」 フーケは身構える。おそらく、貴重な品々を盗まれて恨み骨髄の貴族が送りつけた刺客か何かだろう。 「茶飲み話をしにきた、というわけでもないのでしょう?」 鉄格子越しに魔法を使われたら手のうちようがない。 何とか油断させて、中に引き込もうとフーケは考えた。 マントの男が口を開く。若く、力強い声だった。 「土くれ…だな?話をしにきた。」 「話?」 男は両手を広げて、敵意のないことを示した。 「…何なら、弁護でもしてやろうか?マチルダ・オブ・サウスゴータ。」 フーケの顔色が変わる。それはかつて捨てた、いや、捨てさせられた貴族の名だった。 その名を知る者は、もうこの世にいないはずなのだが。 「あんた、何者?」 男はその問いには答えず、語り始める。 「アルビオンに…いや、新しきアルビオンに仕える気はないかね?マチルダ。」 「新しきアルビオン?どういうこと?」 「革命さ。無能な王家は潰れ、我々有能な貴族が政治を行うのだ。」 「でも、あんたはトリステインの貴族じゃないの。アルビオンと何の関係があるの?」 「我々は国境などに縛られない、ハルケギニア全ての将来を憂う貴族の連盟さ。」 男は間を置き、自らの本気を証明するかのように重々しく呟いた。 「ハルケギニアを統一し、『聖地』をエルフどもの手から取り返す。」 フーケは手を振った。なんという夢想家だ。 「私に協力しろって?その、夢物語に?」 「我々は優秀なメイジが一人でも多く欲しい。協力してくれないかね?『土くれ』よ。」 「協力…しないと言ったら?」 「まさか、その答えはないだろうが…そうだな。知ったからにはどうなるか、わかると思うが?」 フーケは笑った。 「ほんとに、あんたら貴族って奴は困ったモンね。最初から私の都合なんて関係ないんでしょ?」 「そうだ。」 男も笑った。 「だったらはっきり、味方になれって言いなさいな。命令もできない男は嫌いだわ。」 「我々と一緒に来い。」 フーケは腕を組んで、尋ねた。 「まあ、いいわ。それで、その素晴らしい貴族様の連盟とやらは、何ていうのかしら。」 「味方になるのか?ならないのか?どっちなんだ」 「これから旗を振る組織の名は、先に聞いておきたいのよ。」 男はポケットから鍵を出し、鉄格子を開けながら言った。 「レコン・キスタ。」 月が、地平線に沈もうとしていた。 前ページ次ページゼロのアトリエ
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前ページ次ページゼロのロリカード 「ぶはッ・・・・・・ゲホッゲボ、ゴボッ」 一人の男が姿を現した。 「な・・・・・・何だこれは・・・!!」 状況が理解できない。 「何が起きたんだ、何が起きてるんだ。何なんだこれは!!」 明るかった筈の空は夜のように暗く、気圧も大きく違う。 自分は風のスクウェア。その微細な感覚から、ここがアルビオン大陸であると認識する。 己はどうしていただろう。そうだ・・・・・・少女と戦っていた。 レキシントン号に何かが落ちてきて、そこからあの・・・・・・化物が、アーカードが現れた。 それで・・・・・・そう、犬だ。巨大な犬が、その大きな口で――――――。 そこで気付く、目の前にある巨大な黒い塊に。よく見ればそれは犬、自分を喰った犬。 「ひっ・・・・・・」 思わず小さな悲鳴が出る。体に刻み付けられた臨死の体験が、本能的に声を漏らした。 そうだ己は死んだ。ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドは死んだ・・・・・・筈だ。 しかし自分はここにいる。自我もある、きちんと己を認識している。 眼前で横たわり死んでいるのは、自分を喰った筈の犬。 何十本もの銃剣が突き刺さり、既に死に絶えていた。 周囲を見回す。 (これは・・・・・・夢か?) とても現実の光景とは思えない。 目に映るは、見るも凄惨な"死"そのもの。 鼻腔を刺激するは、こびりつくような"死"臭のみ。 耳に入るは、つんざくような"死"する者の雄叫び。 舌に残るは、"死"した者の血が気化した鉄の味。 皮膚が鋭敏に感じる・・・・・・体中が震え、二度目の"死"を予感させる。 五感全てで"死"を感じ、第六感が"死"から逃げろと囁く。 脈動する、脈動する。それはどんどん加速し、ワルドを焦燥させる。 そんな中でワルドは、"死"以外の者を見つける。遠目に確認できる、人外同士の闘争。 一人は知っている、ルイズの使い魔アーカードだ。 もう一人の男は知らない。しかしあの化物に負けず劣らず戦っている姿は、とても人間とは思えない。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ その時、亡者がまだ生きている者の匂いにつられて集まり始める。 「なっ!?くっ・・・・・・」 ワルドは思考を切り替える。生き延びる為に、眼光が戦う者のそれになる。 卓越したメイジとして、紛う事なき風のスクウェアとしての顔がそこにあった。 『遍在』で己を四人作り出し、自分を囲むようにして四方に魔法を放つ。 しかし・・・・・・亡者達は止まらない。 圧倒的な物量で、ワルドが放つ風の魔法など、あってないようなもののように押し潰そうと迫る。 「うぅ・・・・・・ぐ・・・」 無駄だ、焼け石に水だ。と、察したワルドは『フライ』の呪文を唱える。 空に逃げるしかない。少なくとも地上にいるよりは遥かにいい。 こんな状況を真っ向からどうにか出来る者など、烈風カリンなど伝説級の英雄だけだ。 ワルドの体が浮き上がり、飛行しようとしたその刹那。風の魔法が強く体を打った。 「がはっ・・・・・・!!?」 ワルドは地面に叩き付けられ、そのまま転がる。 勢いが止まって顔を上げると、そこにはよく知った顔がいた。 「ウ・・・ウェールズ・・・・・・」 己が目を疑った。自分が殺した筈なのに・・・・・・。 「何故ここにいる!?何故生きているんだ!!??」 狼狽して息が切れる。魔法を唱えるのも忘れ、遍在達が亡者達に消滅させられるのを感じる。 まずいと思い、魔法を放とうと詠唱をするも遅かった。 既に亡者達が体にしがみつき、我先にと自分を"死"へ引き擦り込もうとしている。 その時、ワルドは肉に嫌な感触が走るのを覚える。 見ればウェールズが、目の前で気味悪く唇の端を上げて静止していた。 ワルドの胸にはブレイドで強化された剣が突き刺さり、次いでゴボゴボと血を吐き出す。 「お・・・・・・があ・・・あ・・・が」 自分が殺した相手に、同じ殺し方で殺されるなんて・・・・・・なんて喜劇なのだろう。 死の際に、ワルドはそんなことを思う。そして悟る。 ウェールズは既に生きていない、既に死んでいるのだと。 そして己も、もうすぐこの者達と同じモノになる・・・・・・と。 「こんなところで・・・・・・俺は・・・こんなところで死ぬのか」 ワルドは吐き捨てるように呟く。 状況も理解できず、わけがわからないまま造作もなく死ぬ。 「こんなところで、ひとりぼっちで、死ぬのかッ・・・・・・」 ワルドは恨むように呟く。 脳裏に母親の顔が浮かぶ。幼き日の思い出が走馬灯のように頭を駆け巡る。 「己の目的も果たせず・・・・・・畜生・・・ッ」 ワルドは毒づくように呟く。 息絶えたワルドの体に、さらに槍が何本も突き刺さり、そのまま空へと掲げられる。 串刺しにされたワルドの顔は苦悶に歪み・・・・・・。 その下でウェールズは、ワルドの血をその身に受けながら、変わらず笑みを浮かべていた。 ◇ 「ふむ・・・・・・夢のようなひとときだった」 アーカードがその艶やかな口を開く。 死闘を繰り広げた二人に、無事なところなどは一つもない。 祝福儀礼の銃剣に斬られ、ジャッカルの弾丸に撃たれ、二人とも再生が追いついていない。 それでもひたすら戦い続けた。肉体を磨り潰しながら、精神を磨り減らしながら。 「しかしなぁ・・・・・・タイムオーバーだ、アンデルセン」 アーカードは名残惜しそうに言う。 まだ決着はついていない。どちらかが倒れるまで続ける。 当然その想いは、双方にあった。しかしアーカードは今、この闘争をやめようとしている。 『時間切れ』。その言葉の意味を、アンデルセンもなんとなく感じ取っていた。 「アルビオン軍は殲滅された。となれば、次の矛先は――――――」 アーカードは、これ以上零号開放をしておく理由がないことを言っている。 そしてこのまま放置すれば――――――次の標的はその周囲全て。 つまり近くにある森も、ウエストウッド村も例外ではない。 アーカードは、ティファニア達に危険が及ぶと通告しているのだ。 アンデルセンの選び取る答えまで予想した上で、そう言っているのだ。 アーカードのそんな態度に、アンデルセンは大きく舌打ちをする。 「フッ・・・・・・私も、おまえも、互いに守るものがある。互いに譲れぬものがある。 あぁそうだ、お前になら倒されても良かった。あの日なら、人間のお前になら。 あの夜明けのロンドンで、人間のお前になら、この心臓をくれてやっても良かった。 でももう、もはやだめだ。私は、帰らねばならん。ルイズのもとに、インテグラのもとに。 だからもう、易々と打ち倒されてはやらん。・・・・・・おまえは、どうするのだ?アンデルセン」 アンデルセンは目を瞑る。その瞼の裏に映るは子供達、その笑顔。 考えるまでもない。いや、ここに来る前に散々考えたこと。 自分は――――――もう二度と――――――。 アンデルセンは銃剣をしまう。アーカードもそれを見て武装を解いた。 「・・・・・・次は殺す、必ず殺す」 アンデルセンは踵をかえし、そう言った。 アーカードは満足気な笑みを浮かべ、背を向ける。 背中合わせの二人が、それぞれ歩き出す。 アンデルセンは書物を開く。するとページが溢れ出し、それに包み込まれるといつの間にか消えていた。 アーカードはクイッと指を動かす。 その瞬間、死の河の動きがピタリと止まり、その姿が液体へと変わり始める。 次いでアーカードの肉体に、赤黒い血液となった死の河が吸収され始めた。 地平を埋め尽くし、全てを押し流した死の河。その奔流が巻き戻るかのように、アーカードに吸い込まれる。 アーカードを中心に螺旋を描き、渦巻くように領民達は帰り始めた。――――――新たな七万の領民を連れて。 全てを喰い尽くしたアーカードは、夜明けの空を薄く見つめる。 アーカードの口から、思わず「あぁ・・・・・・」と息が漏れる。 人間である事をやめ、化物と成り果て、『ヴラド・ツェペシュ』が死んだあの時。 ヘルシング教授とその一行に破れ、心の臓腑に杭を突き立てられ、『ドラキュラ』が死んだあの時。 そしてシュレディンガーを取り込み、虚数となって消え、『アーカード』が死んだあの時。 私が死んだ光景。 幾度も見て、そして思ったその場景。 (本当に日の光とは・・・・・・こんなにも、美しい物なのだな) ◇ 両の手に掴まれた、リップヴァーンとトバルカインが引っ張られる。 あの吸血鬼が・・・・・・アーカードが食事を始めたのだろうと、大尉は抵抗することなくその手を離した。 一度の跳躍で、死の河の圏内から離脱し、振り返ってその光景を見つめる。 アーカードも自分も、哀れな化物。あまたの不死の化物。 我らは闘争を望む。血みどろの戦いを望む。嗚咽するように、渇望する。 戦闘戦斗を望むわけではない、死を望む絶叫。 闘争から闘争へ、何から何まで消えてなくなり、真っ平らになるまで、歩き、歩き、歩き続ける幽鬼。 だが、あの吸血鬼は、アーカードは果たして今もそうなのだろうか。 なんとなく・・・・・・なんとなくなのだが、今は違うような気がする。 それは同じ化物としての勘なのか、狼としての嗅覚なのか。 いずれにせよ、今も変わらぬ幽鬼の己とは違う。そんな確信にも似た何かを感じる。 大尉は帽子をかぶりコートを着ると、指笛を吹いた。 神の右手『ヴィンダールヴ』、心優しき神の笛。あらゆる獣と心を交わし、操る能力。 現れた竜の背に乗り、大尉は夜明けの空を飛ぶ。 アーカードのように自分は変われない。 いつだって、自分は死にたがりの戦争犬。 あのセラス・ヴィクトリアのように、己を打ち倒してくれる・・・・・・。 そんな人間にいつかまた出会える、その日まで。 ◇ 夜が明けた。終わってみれば、長い長い悪夢を見ていたようだった。 あれがアーカード。己の使い魔、最凶の吸血鬼。 ――――――ついさっきまで、ここには地獄絵図が描かれていたなど、誰が信じられようか。 七万もいたアルビオン軍は、もう影も形もない。 最初からいなかったのではないかと思わせるほど、その痕跡が残されていないのだ。 埋め尽くし溢れていた軍勢も、空間を散り染めていた血液も、七万の死骸も、その全てが消失している。 兎にも角にもこれで全てが終わった。そう、全てが終わった。 (わたしが、殺した・・・・・・) ルイズは右手でギュっと、自分の胸元を押さえる。 なんだか息苦しく感じた。心臓が締め付けられるような感覚に襲われる。 任務は足止めだった。一日足止めすればいいだけ。 もしかしたら・・・・・・『イリュージョン』と『エクスプロージョン』だけでも、任務は遂行出来たかも知れない。 魔力がどの程度溜まっているかわからない。威力は定かではない。 しかし足止めだけであるなら、それでも充分だった可能性は有った。 アーカードの出す霧と併用すれば、さらに効果は高まっただろう。 それでも選んだ。より確実に任務を遂行する為に。 突然の不透明過ぎる軍の離反。敵軍の霧中進軍の可能性。虚無魔法の不安定さ。 不確定要素が多かった。その為に退却の最中にある自軍を、危険に晒すわけにはいかない。 あらゆる可能性を考慮し、吟味し、そして選択した。 100%成功させる方法を、アーカードに命令した。 かつての友軍を含んだアルビオン軍を、私の殺意が殺したのだ。 学院を襲ってきたメイジを殺した時とは、比べ物にならない重圧。 自身が背負わなければならない罪。向き合わねばならぬ事実。 「すぅ~・・・・・・ふぅ~・・・・・・」 ルイズは大きく深呼吸をする。昂ぶった気を落ち着ける。 ――――――というか、これはもう退き口でもなんでもない。 アルビオン軍は殲滅された。大虐殺ではあるが、戦争に於いてこれは大戦果とも言える。 トリステイン・ゲルマニア連合軍の勝ち。というよりは、アルビオン軍の負けが確定したようなもの。 「どうしよう・・・・・・」 ルイズは呟く。この事を伝えようにも、伝令する手段がない。 (そもそも信じてもらえるのかな、これは・・・・・・) 追撃のアルビオン軍七万が・・・・・・全滅したと。 このままでは、連合軍は退却を完了してしまう。 そうなっては敵軍がいなくなったとはいえ、もはや制圧は不可能だ。 いやもう既に連合軍の殆どが退却しているから、どっちにしても無理かもしれない。 はてさて、どうしたものか。 (とりあえずアーカードと合流しよう・・・・・・) ルイズは目を凝らして平原を探す。 それらしいシルエットを見つけると、ルイズは駆け出した。 ◇ アンデルセンは森へと着く。 冷水が体に染みるも、念入りに洗って血の匂いを完全に落とす。 アドレナリンで麻痺していた痛みが、一斉に疼き始める。 どっと疲労が襲ってきて、体中が悲鳴を上げる。 だが闘争の痕跡は一切残さない。 睡眠欲と痛みが鬩ぎ合い、精神力だけでそれを抑え込む。 決して表に出してはならない。子供達に心配されてはならない。 その笑顔が崩れるような事が無いように。子供達とその笑顔を守る事が今の自分の本懐。 アーカードを打ち倒す事は結局適わなかった。 が、それでもアンデルセンの顔には、柔和な色が浮かんでいた。 前ページ次ページゼロのロリカード