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何!?脱走したアムロがジオンに亡命しただと!? 1 :通常の名無しさんの3倍:2008/12/10(水) 00 19 28 ID xlh/qew2 内容: 「ガンダムに乗ったままでか…何て事だ…!」 「相手はどうやらランバ・ラルというジオンの将校らしいです!ど、どうしましょうブライトさん」 「く…我が軍の最高機密がジオンに渡ったのか…これは歴史が変わるかも知れんな…!」 …この続きを妄想するスレ 9 :通常の名無しさんの3倍:2008/12/10(水) 06 45 36 ID xlh/qew2 アムロ「フラウ、君も僕と来るんだ」 フラウ「な、何言ってるのよアムロ!?」 ラル「お嬢さん、君の彼氏は男の選択をしたんだ。もう後には引けん。我々も彼をそう扱う。君も覚悟を決めるのだな」 フラウ「…」 ハモン「あなた」 ラル「うむ。クランプ!本国へ連絡だ!連邦の白いモビルスーツを捕獲したとな!」 …この暗号通信がホワイトベースに傍受されて 1の展開になると 18 :通常の名無しさんの3倍:2008/12/10(水) 11 45 02 ID bSV5SfP0 IDは違いますが1です コズン「本部からの正式な返答はまだです。 かなり上(上層部)が白いモビルスーツの扱いに関してモメてるみたいですぜ」 ラル「遅いな、本部からの指示を待ってはおれん。襲撃は予定通り行う。木馬に仕掛けるぞ」 ハモン「あなた、もう少し待てば人員やモビルスーツも数が揃えられるのじゃなくて?」 ラル「悠長にしていると機を逃す。白いモビルスーツを失った今、木馬の戦力は落ちている。 今が攻め時なのだよ。一気に木馬も鹵獲する、な」 アムロ「待って下さいラルさん」 ラル「ん?何だ少年」 アムロ「僕もホワイトベース・・・いや「木馬」襲撃に加えてもらえませんか?」 21 :通常の名無しさんの3倍:2008/12/10(水) 12 08 59 ID bSV5SfP0 アコース「おいおいw」 フラウ「何言ってるの!?ブライトさんやセイラさんや・・・大勢の人がたくさん乗っている艦なのよ!? アムロ!どうしちゃったのよアムロ!!」 アムロ「僕が何もしなくてもこの人達はホワイトベースを襲撃するんだぞ! もしかしたら誰かが死んじゃうような事があるかも知れない! だから僕が行くんだ!モビルスーツを無力化して一気に艦橋を制圧すれば余計な被害を出さずに済む!」 フラウ「だって・・・そんな・・・(泣く)」 アムロ「これが一番、被害を抑える方法なんだ・・・!」 ラル「本気か、少年」 アムロ「僕の名前はアムロ・レイ。モビルスーツは『ガンダム』です」 23 :通常の名無しさんの3倍:2008/12/10(水) 14 33 04 ID bSV5SfP0 コックピットを開けたまま対峙するグフとガンダム グフ後方には3機のザク アムロ「それでは手はず通りに」 ラル「気は変わらんのか少年」 アムロ「僕の提案を受け入れて下さって感謝しますラルさん」 ラル「君に与えられた時間は5分。それ以上は一秒たりと待たんぞ?」 アムロ「はい。僕はその間にホワイト、いや木馬の戦力をモビルスーツと共に無力化して見せます」 ラル「・・・君がそれに失敗した場合、5分後に我々は総攻撃を仕掛ける。 それと、君がもしおかしな行動を取ったと判断した場合、後ろからでも撃たせて貰う。 その時はハモンの元にいるお嬢さんの命も、無い物と思え」 アムロ「判っています。僕が木馬と通信を開始したらカウントダウンを始めて下さい」 コックピットを閉じるガンダム。そのまま背を向けて歩き出す グフのコックピットを開けたままそれを見送るラル 27 :通常の名無しさんの3倍:2008/12/10(水) 15 47 48 ID bSV5SfP0 マーカー「12時の方向に反応!距離2000!これは・・・」 ブライト「敵か!?くそ、こんな時に!」 オスカ「違いますこれは、ガ、ガンダムです!」 ブライト「な ん だ と !?」 口を押さえ、息を呑むミライ セイラ「回線開きます!アムロ?アムロなの!?返事をしてちょうだい!」 夕日を背に漆黒のシルエットとなり ゆっくりとホワイトベースに近付いて来るガンダム 刹那、その相貌がギラリと輝いた マーカー「ガンダムがスピードを上げました!突っ込んで来ます!」 ミライ「様子がおかしいわブライト!」 ブライト「戦闘態勢だ!MSを緊急発進させろ!」 30 :通常の名無しさんの3倍:2008/12/10(水) 18 52 57 ID bSV5SfP0 セイラ「ガンキャノン発進完了。続いてガンタンク、どうぞ」 ハヤト「無理ですよリュウさん!ガンダムに勝てるわけ無い!」 リュウ「泣き言を言うな!アムロめ・・・!ガンタンク出るぞ!」 ブライト「WBのエンジンはどうなってる!?」 ミライ「調子悪いわね・・・出力が上がらなくて上手く高度が取れないの。 ガンダムを振り切るのは多分無理ね」 ブライト「クソッ!何でだ!何でこんな事に・・・!!」 ミライ「ブライト、落ち着いて。みんなあなたの指示を待っているのよ?」 ブライト「判ってる!手の開いているものは銃座につかせろ!弾幕を張ってガンダムを近づけさせるな!」 マーカー「ガンダム距離200!」 セイラ「ブライトさん!アムロから通信が入っています!」 31 :通常の名無しさんの3倍:2008/12/10(水) 19 26 53 ID bSV5SfP0 WBのメインモニターにアムロの顔が映っている。 画像はときたまノイズが混じりその音声と画像を不明瞭に歪み消した ブライト「アムロ貴様・・・!!」 アムロ「ブライトさん。時間がありません。WBは速やかに武装を放棄してジオンに投降して下さい」 ブライト「ふざけるな!そんな要求が呑めるとでも思っているのか!?」 アムロ「僕はWBの皆さんにできるだけ危害を加えたくないんです。指示に従って下さい!」 ブライト「ぬけぬけと・・・!自惚れるなよアムロ!ガンダム1機で何が出来ると言うんだ!」 アムロ「・・・それをこれからあなたに証明して見せますよ!」 セイラ「通信・・・切れました」 オスカ「ガンダム、先行していたガンキャノンと接触!交戦開始した模様です!」 34 :通常の名無しさんの3倍:2008/12/10(水) 20 14 52 ID bSV5SfP0 カイ「撃つぞ!本当に撃っちまうぞアムロ!!」 至近距離で発射されたキャノン砲弾の下を掻い潜り、ガンキャノンを引き摺り倒すガンダム。 砂にめり込むガンキャノン 転倒の衝撃でカイのバイザーが割れ、カイはそのままコクピットで昏倒する アムロ「まずは一つ!残り3分12!」 のたのたと近付いて来るガンタンクにバーニアジャンプで迫るガンダム 空中のガンダムに向けボップミサイルを放つガンタンクだが、ガンダムは逆方向にバーニアを再点火して回避する そのままガンタンクに密着するように着地すると同時にビームサーベルを抜き、 両肩の砲身とボップミサイル内臓の両腕を切り飛ばした。 念の為にバルカン砲でキャタピラ部を破壊するガンダム これでガンタンクは動く事も攻撃する事もできない、はずだ 上部コックピットのハヤトの顔が恐怖に歪んでいるのを、 ガンダムのメインモニターは冷酷に映し出していた アムロ「二つ目!あと2分02!」 39 :通常の名無しさんの3倍:2008/12/10(水) 23 32 12 ID ZKgduoEI カモフラージュされた小高い砂丘の中腹から双眼鏡で様子を伺っているランバ・ラル隊 アコース「す、すげえぜあのアムロって奴!瞬く間にMS2機をやっちまいやがった!」 クランプ「残りは何分だ?」 コズン「後…一分半ほどです!こいつあ…もしかするかも知れませんぜ!」 ラル「…」 次の瞬間、一同の口から異口同音に驚愕のうめき声が漏れた ガンダムがHBに取り付き、ビームライフルの銃口を艦橋に向けたのだ 高度を徐々に下げて行くHB 砂漠に堕ちた木馬は魂消える様にエンジンの火を落とし沈黙するしかなかった ラル「…行くぞ。木馬内部の制圧は我々が行なうんだ」 それぞれのMSに搭乗する為に踵をかえすラル隊の面々 コズンの手に握り締められた軍用時計は、残り15秒を示していた 40 :通常の名無しさんの3倍:2008/12/11(木) 01 06 21 ID A9r1juaR またID変わっちゃいましたが1です 乗り込まれたラル隊によってHBクルーは次々と武装解除されて行く ブリッジメンバーも拘束され、全ての人員がHB前に集められ並べられた 屈辱に震えるブライトをガンダムのコックピットでモニター越しにアムロが一瞥している アムロ(モノローグ)『どうですブライトさん、1人の犠牲者も出さずにHBを制圧して見せましたよ やっぱり僕が一番ガンダムを上手く使・・・』 その瞬間! 完全に沈黙したと思われたガンタンクの上半身が強制排除され、コアブロックが射出された! 射出時にケガを負った血まみれのリュウがレバーををシフトさせると コアブロックは上空でコアファイターに変形 急降下しながらガンダムめがけてバルカン砲を撒き散らす! リュウ「アムロォ!お前のやった事を断じて認める訳にはいかんのだ!!」 呆然と銃弾を浴びるガンダム しかしガンダリウム合金のボディを貫くにはあまりにも非力過ぎる攻撃だった 我に返るアムロ アムロ「だ、駄目だリュウさん!おとなしく投降して下さい!さもないと…!!」 クランプ「野朗ッ!」 反転し、ミサイル発射態勢に入ったコアファイターを 周囲警戒中だったクランプのザクマシンガンが薙ぎ払う コアファイターはリュウを乗せたまま爆発四散し、一時の夕闇を照らす流星と化した 51 :通常の名無しさんの3倍:2008/12/11(木) 19 40 09 ID I7Id+j+B 「そんな・・・リュウさあぁん!!」 コックピットで絶叫するアムロ 思わず両手で顔を覆うが、モニターを凝視する眼を閉じる事はできない 馬鹿な。こんな筈じゃ無かった WBクルーの唯一人として傷付けずにこの亡命を成功させる それがブライトを始めとするWBクルーに自分を認めさせる手段だと思っていたのに 結果的に自分勝手な行動がリュウ・ホセイという軍人を死に追いやってしまった やっぱり僕は役立たずな男なんだろうか 「顔を伏せるなアムロ君!」 深い心の闇に陥りそうになったアムロを正気に引き戻したのは モニターに映るラルの力強い叱責だった 52 :通常の名無しさんの3倍:2008/12/11(木) 19 52 58 ID I7Id+j+B ラル「たったの5分足らずでMS1機を撃破し1機を無傷で捕獲!そして戦艦1隻を拿捕! まるで赤い彗星並みの戦果だ! 宣言どおり君はやり遂げたんだ!胸を張りたまえ!」 アムロ「ラルさん・・・でも僕は・・・誰も犠牲者を出さないつもりで・・・」 ラル「おこがましいぞ!君はちっぽけな一人の人間に過ぎん! 覚えておきたまえ!これが戦争だ!ゲームじゃないのだよ!!」 アムロ「これが・・・戦争・・・」 茫然と呟くアムロは、流しかけていた涙が止まっている事にも気付いていなかった 67 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2008/12/12(金) 20 54 49 ID v9ssn7Sj 「木馬捕獲セリ」 その一報はジオンと連邦の両軍を稲妻の様に駆け巡った 地平の彼方から轟音を響かせて飛来する3機の巨大爆撃空母ガウ ガウに付き従う数え切れない程のドップ編隊 MSを満載した輸送機 それら全てが地に伏すWBの元に続々と集結してゆく 物々しい喧騒の中 アムロを加えたラル隊が、捕虜として本国に送られる予定のWBクルーと対面している 「アムロッ!貴様のせいでリュウは!リュウは死んだんだぞッ!」 「おっと!大人しくしてな!」 後ろ手を拘束されているにも関わらず、アムロに迫らんとしたブライトだったが マシンガンを手にしたアコースに乱暴に引き戻された拍子に後方の壁に背中を激しく打ちつけ、 そのままずるずると床に腰を付ける羽目となった それでも顔を上げたブライトは、異様なまでに澄んだ瞳の色を湛えるアムロの瞳を見て慄然とした 心が揺らいでいない こいつは、俺の知っているアムロなのか!? 今までの奴ならこんな時、オロオロうろたえながら自分を見失っていた筈なのに・・・! 「ブライトさん」 静かなアムロの声に、ブライトは我に返った 68 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2008/12/12(金) 21 31 34 ID v9ssn7Sj アムロ「僕は、自分の運命を自分で決めて・・・ その結果を全部背負う事に決めました。後悔はしていません」 ブライト「なん・・・だと・・・」 ラル「・・・連れて行け」 虚脱したブライトはアコースに連行されて行く。アムロの顔を呆けた様に見つめ続けながら・・・ ラルは残りのWBクルーに向き直る ラル「さて諸君。我々はこの艦を接収する。だが正直手が足りんのだ 君達は殆どが、成り行きでこの艦に乗り合わせたと聞いている。連邦に義理が無い者もいるだろう?」 WBクルー達はそれぞれの表情でラルの言葉を聞いている ラル「単刀直入に言おう。この艦を運用する為に我々に協力して貰いたい。 それなりの階級と待遇を用意する」 くぐもったどよめき声が立ち込める ラル「もちろん強制はしない。だがその場合は南極条約に法り・・・ 捕虜としてジオン本国に送られる事になるがね。好きな方を選びたまえ」 額と首に包帯を巻かれたカイが口を開く カイ「しばらく考えさせてもらえねえかな?」 ラル「駄目だ。今、この場で選択するんだ」 強い口調で即答したラルに、カイは押し黙った 74 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2008/12/13(土) 19 30 00 ID AHr/gbnQ ハヤト(小声で)「何考えてんです!相手はジオンなんですよ?」 カイ「うるせえな、黙ってろハヤト」 薄く笑いながらラルを見ているカイは、クランプに顎で指示されたコズンが 自分の横に静かに移動して来た事に気が付いていなかった ラル「では聞こう。我々に協力しても良いと思う者は、前に出て貰いたい」 無言の一同。それぞれの表情に明らかな逡巡が見られるが、前に出る者は一人もいないかと思われたその時 「どいて下さる?」 今まで頑なまでに言葉を発せず、うつむいた姿勢を崩さず、表情をラルに見せていなかった 金髪の女性が顔を上げ、他者の陰からするりと抜け出すと背筋を伸ばした姿勢でラルの前に立った ミライ「セイラ!?」 ハヤト「セイラさん!?」 信じられないものを見た様にWBクルー一同がどよめいた 75 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2008/12/13(土) 19 36 11 ID AHr/gbnQ 「むっ!?ま、まさか・・・!」 目の前の美しい女性にラルの眼が驚愕と共に見開かれてゆく 普段では見られないラルの狼狽ぶりをアムロは意外に感じていた 眼を転じると他のラル隊の面々もポカンとした顔つきでラルを見ている 「あなたはもしや、アルテイシア様では!?お忘れですか! ジンバ・ラルの息子、ランバ・ラルにございます!」 「大尉、この場でその名前は無用です。手をお上げ下さい」 片膝をつき拝礼の姿勢をとったラルは、ハッと気付いたように立ち上がると、 横に控えたクランプにセイラの拘束を解く様に命じた 「セイラさんが行くのか、ニャヒヒ、そんじゃ俺も・・・」 軽口を叩きながら前に出ようとしたカイだったが、 横から強烈に突き入れられたコズンの鉄拳がミゾオチにめり込み、 悶絶しながらその場にうずくまる事となった 「大尉!捕虜の中に体調を崩した者がいます!救護室に運んどきますぜ!」 のんびりした口調のコズンにクランプが返す 「ご苦労!手当てが済んだらそいつはそのまま捕虜として本国に送れよ!」 ニヤリと笑ったコズンが嬉々として答える 「了解であります!」 襟首を掴まれて引き摺られて行くカイの耳にコズンが囁いた 「テメエみたいな奴は、ラル隊にはいらねえんだよ!」 88 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2008/12/14(日) 18 56 24 ID CUOX421S 結局、セイラの他には一人としてラルに協力する意志を示した者はいなかった 「あなたには、是非一緒に来て貰いたかったのだけれど」 悲しげな顔でセイラに声を掛けられたミライは、やはり悲しげな笑顔で答えた 「私は故郷に家族と親戚がいるもの。私の行動で迷惑を掛ける訳にはいかないわ。 他のみんなもそう思っているはずよ」 「ごめんなさい・・・」 軽くうつむき小さな声で肩を震わせるセイラ ミライは、後ろ手を拘束されたままゆっくり近付くと、セイラの肩に軽く額を預けて小声で囁いた 「何か事情があるのね。私には何も出来ないけれど、上手く行く事を祈っているわ。 それから、アムロをよろしくね」 顔を離したミライを驚いた表情のセイラが見つめる 「それじゃね」 セイラに親愛の笑顔を残し、ミライは連行されて行く。 彼女の姿はやがてWBクルーの列に加わり見えなくなった 89 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2008/12/14(日) 19 00 04 ID CUOX421S 一同とは少し離れた場所でアムロとフラウが対面している 「・・・君も行ってしまうのか」 先に声を掛けたのはアムロの方だった 「子供達がいるもの。私が付いててあげなくちゃ」 悲しそうに笑いながらフラウが答える 「そうか・・・そうだよな・・・」 それに、間接的にせよリュウを殺した自分を、あの3人の子供達は決して許さないだろうとアムロには思えた 「こら!しっかりしなさいよアムロ!」 フラウの両方の掌で強引に顔を挟まれ正面を向かされたアムロは 涙を流しながら怒っている表情のフラウに驚いた 「あなたは自分のやった事に後悔しないって言ったんでしょう? そんな顔してちゃダメじゃない!」 ああ、フラウに怒られるのはこれで何度目なんだろう いつも悪いのは自分だった でもフラウはどんな時も最後には優しく許してくれた 今だって自分の身より僕の事を心配してくれている そんな彼女に僕は何を・・・ 「・・・!」 突然のキスにアムロの思考は中断された ほんの一瞬だったが、2人は硬く抱き合い、その間世界は2人の他には何も存在しない様だった 100 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2008/12/15(月) 09 45 12 ID dRDsTljJ アムロとセイラ、そしてラル隊の面々はWBのブリッジに集まった WBクルーを乗せたと思われる輸送機が今、飛び立って行く それをブリッジの窓から見ながらアムロは あれはどこに向かうのだろうとぼんやり考えていた しかし、ラルが語るセイラの素性は、アムロの思考を現実に引き戻していった 「何ですって!?この方は、あの『ジオン・ダイクン』の娘さんなんですかい!?」 クランプの驚きはラルとセイラを除く、その場全員の驚きだった 「アルテイシア様とその兄上のキャスバル様はわしの父、 ジンバ・ラルと共に地球に逃れて暫く過ごした事があるのだ 最も、キャスバル様はすぐに家を出て行かれ行方不明となってしまわれたが…」 「それにしても姫様、良くぞご無事で…」 ラルの言を継いだハモンの言葉にセイラは顔をほんのり赤らめた 「姫様なんてやめて下さい。私は今は『セイラ・マス』なのですから」 「いいや!あんたは俺達の『姫様』だ!大尉!そう呼んで構いませんよね!?」 コズンの嬌声にラルが重々しく、しかし、まんざらでも無さそうに答える 「…許可する」 拍手と歓声がWBのブリッジに響き渡った 事情が良く飲み込めていないアムロだったが、一同の放つ歓喜のエネルギーに圧倒されると同時に 輪の中心ではにかむ金髪の女性にこれまでには見られなかった「輝き」と言える様な物… が顕現している様に感じられてならなかった 984 : 101修正版 まとめの人良かったら使ってね:2009/01/04(日) 19 49 25 ID ??? ラル「何ですと!キャスバル様が生きていると言われるのですか!」 セイラ「兄は今、ジオンで…『赤い彗星』と呼ばれています」 オォッというどよめきとそれを上回る衝撃がブリッジを席巻した ラル「何という事だ…御屋形様のご子息が2人とも御健在だったとは…!」 浮き立つラルの横でハモンが冷静に言葉を継いだ ハモン「あなた、『若様』は、ゆくゆくはザビ家を内部から突き崩すのが目的なのでは? そしてお父上の無念を晴らそうとお考えなのでは無いでしょうか?」 ラル「何と…!」 雷に打たれた様にラルは感慨する。その胸にはこれまでの自身の苦境がありありと蘇っていた 暫くうつむいていたラルは顔を上げると決然とした表情で言い放った 「諸君、暗闇で蠢いているしかなかった我々の前に、光が見えたぞ!道標は示された! まず我等は態勢を固め、キャスバル様を迎える準備を整えるのだ!」 102 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2008/12/15(月) 09 53 00 ID dRDsTljJ ハモン「それと、この子の立場にはひと工夫必要でしょう、あなた?」 ハモンはアムロを示す ラル「…そうだな。ザビ家の寵愛を受けるガルマ様を討ち取った憎き木馬の しかもガンダムのパイロットだからな…」 ハモン「ザビ家は殆ど独裁国家…このままではこの子の命は風前の灯です」 苛烈なザビ家のやり方は身に染みているラルだった。ハモンの言はその通りだと思える 傍らのアムロはごくりと唾を飲み込んだ ハモン「ここは先の制圧時に犠牲となった唯1人のあの軍人に身代わりとなって貰いましょう」 アムロ「リュウさんに?」 ラル「身代わりだと?」 ハモン「ガンダムの正規パイロットだったのは『彼』だったと上には報告するのです どう考えても状況的にもその方が自然でしょう? まさか正規軍人を差し置いて… 戦闘訓練をした事が無い民間人の、しかも少年がガンダムを乗りこなしていたなどと… ふふ、そちらの方が非現実的な報告ですわ」 ラル「な、成る程!」 ハモン「アムロあなた、メカニックの真似事はできる?」 アムロ「は、はい、得意です!」 ハモン「結構。あなたは手が足りない木馬の軍人にメカニック助手として不当に拘束されていた事にします その扱いに不満を持っていたこの子は、軍人のスキを見てガンダムを奪い命懸けでジオンに亡命した… これはジオン国民にとって賞賛に値する行為でしょう。何せこの子は 『WBに拘束させられていただけでこれまでの戦闘には一切参加していない』のですから」 アムロは目を見張った。自分の過去が書き換えられて行く ハモン「もちろん木馬を手に入れたのは我々ラル隊の功績とします WBのクルー達は尋問でガンダムのパイロットはこの子だったと証言するでしょうが…」 ラルがニヤリと笑う ラル「それは、全員で示し合わせた『アムロ憎し』の証言だと判断されるだろうな」 ハモン「この子はこれからラル隊に入り、パイロット見習いとして働いて貰う事になりましたと上に報告すれば 特にお咎めは無いでしょう。真正面からで無ければ抜け道はいろいろ見つかるものです」 ハモンは妖艶に微笑しながら一同を見渡して見せた 134 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2008/12/15(月) 23 49 03 ID dRDsTljJ 「アムロ、こいつらをじっくりと読み込んでおけ」 クランプからドサリと渡されたのはやたらと分厚いファイルが一冊と、記録ディスクの束だった 両腕に余るほどのその量と重さにアムロは戸惑い、クランプを見上げた 「これは?」 「ジオン製MSのマニュアルだ。お前には今後これが必要になる だが、まあ、見ての通りこれがちょっとばかり厄介でな…」 後ろ頭を掻きながら苦い顔になるクランプ 「何せコクピット内の規格や操縦法がMSごとにテンデンバラバラなんだ。 メーカーや製造時期によってある程度の傾向はあるが、 それでも納入時には勝手に仕様が変更されてる場合が多い とりあえず、現在確認できるMSの資料をかき集めたら、まあ、そうなっちまった訳だ」 アムロはもう一度手にした資料に目を落とした。ジオンの抱えた生の問題点を垣間見た気がする 何という不合理なシステムなのだろう。 これではジオンのMSパイロットやメカマンの負担は相当なはずだ 「まあ現場の俺達はもう諦めちまってるがな。新型が配備されるたびにああ、また徹夜か…ってな」 横から自嘲気味にコズンが口を挟んだ。しかしその表情はやはり苦々しい 「これから俺達には多分新型が回されて来るとは思うが、正直どうなるか判らん 念の為にどんな状況でも対応できる様にしておかんとな。 まあ、大変だろうが自分の為だ。大尉の期待を裏切るなよ」 アムロの肩に手を置きクランプは踵を返したが、ふいに振り返り思い出したように付け加えた 「ああ、その資料の最後の方は実験機やMAの物だったな。実戦とは関係の無い機体だ。 取り敢えずそれらは目を通す必要は無いぞ」 軽く手を挙げて去ろうとしたクランプだったが 「ラル大尉!友軍偵察機からの連絡です!どうやら連邦軍の部隊がこちらへ向かって来るそうですぜ!」 というヘッドホンを付けたアコースの大声を聞いて キャプテンシートに座るラルの元に駆け戻った 150 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2008/12/16(火) 17 38 38 ID I57RCGon 「敵は真っ直ぐこちらを目指しているそうです。目的はこの木馬とガンダムの奪還だと思われます!」 アコースの報告に冷静にラルが付け加える 「奪還もしくは破壊、だろうな。連邦もなりふり構ってはいられんだろう」 WBとガンダムは共に連邦の最高機密 奪還できなければ破壊せよ、それは当然の作戦だろう 「木馬」ブリッジの空気が張り詰めて行くのが判る。だがそこにピリピリした危うさは無い アムロは明らかに「WB」の空気とは違う、余裕の入り混じった緊張感に浸り そこに一種の心地良さを感じている自分を発見していた 「敵部隊には少なくとも大型機と地上戦力が確認できません。 爆撃機と輸送機で構成された中規模の航空部隊だと思われます」 アコースは刻々と判明する敵情報を顕にしてゆく 「ふむ。緊急発進で逃げ切れそうか?」 「いえ、恐らく今の自分の操縦では無理です だいぶエンジンがヘタってるのに加えて、えらく出力調整がデリケートなんですよ この艦を操縦してた奴はよっぽど上手く取り回してたんでしょう。 自分にはクセがまだ掴めていません。もう少し時間があれば、 コイツを手足の様に飛ばして見せるんですが・・・」 ラルの問いに操舵輪を握るクランプが悔しそうに答える アムロはふと、いつも背筋を伸ばした姿勢でWBを操縦していたミライの後姿を思い浮かべた 「泣き言を言っても始まらん。諸君、迎撃の準備だ!全ての友軍機にもそう伝えろ! むざむざ木馬をやらせる訳にはいかんぞ!」 激を飛ばしながら自らもキャプテンシートを降りたラルだったが 「大尉!友軍のガウ3番機から通信入りました!大尉に代われと言ってます」というアコースの報告に 「回せ」と答えながら手近なヘッドホンを片耳に当てた 151 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2008/12/16(火) 17 41 08 ID I57RCGon スピーカーから聞こえてきたのは豪快な銅鑼声だった 「久しぶりだなラル大尉!今回貴様らの直属護衛をしてやる事になった! 光栄に思えよ!」 不遜とも取られかねない挨拶にアムロとセイラは思わず顔を見合わせた だが、相手を察したラルは嬉しそうに相手に負けない大声で返す 「恩に着る!貴様の愚連隊も一緒か!?」 「愚連隊とは失敬な!突撃機動軍第7師団第1MS大隊司令部付特務小隊御一行様と呼んで貰おうか!」 ガハハと笑うその声には、粗野の中に何とも言えない温かみが感じられた それには確かに、こういう緊迫した状況の中、聞く者の心を鼓舞する効果があるのだろう とアムロには思えた 「そんな舌を噛みそうな名前で呼ぶのは御免こうむる!通り名の方で許せ!」 「応!他でも無い貴様の頼みだ特別に許そう!」 再度豪快に笑い飛ばした後、一拍おいた銅鑼声の主は誇らしげに言い放つ 「ガイア大尉、マッシュ中尉、オルテガ中尉だ!『黒い三連星』推参! 俺達が来たからには、何人たりとも御前達には指一本触れさせん!」 160 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2008/12/16(火) 20 06 34 ID I57RCGon ガウ3番機から滑り出して来たのは三機の黒いモビルスーツだった ずんぐりした外観に似合わない俊敏な拳動で砂上を『滑って』ゆく 全くフォーメーションを崩さないその機動にアムロは眼を見張った 「待って下さい!敵の動きが止まりました!輸送機が次々着陸してます! どうやら地上部隊を降ろすつもりのようです!」 緊迫のあるアコースの報告にもコズンはあくまで落ち着いていた 「どうせナントカ式とかいう戦車の類だろう、三連星に任せとけば問題無いんじゃないのか?」 その時― アムロは、脳裏に何か閃くものを感じた そして、それは例えるなら強烈な圧力とでもいうものを 肉眼では見えていない筈の「敵」のいる場所を アムロは正確に察知し、睨み付けていた 「・・・危険な感じがする・・・」 思わず呟いたアムロの囁きは、隣のセイラに微かに届き 彼女を振り向かせた 「違います!戦車じゃありません!」 なら何だという周囲の視線にアコースは驚愕の叫びで答えた 「電送写真、送られてきました! 不鮮明ですが・・・これは・・・ガンダムの群れにしか見えませんぜ!」 178 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2008/12/17(水) 02 04 35 ID sD8NltNq 「何ですって!?」 「ガンダムの群れだと!?」 アムロとラルは同時にアコースに駆け寄る アコースから写真を渡されたアムロは目を細めてそれを凝視する ラルも体を寄せて覗き込んだ 「嘘だろ…連邦はもう既にガンダムの量産態勢を整えていたってのか…?」 クランプの呟きは全員の代弁でもあった 暫く前にアムロの駆るガンダムの威力をまざまざと見せ付けられているラル隊は あの「白い悪魔」とでも形容すべきMSが群れを成して襲い来る姿を想像して 薄ら寒いものを感じざるを得なかったのである 「待って下さい、断定はできませんが、これは少なくとも2種類以上のMSが 混在した部隊のようです」 アムロの指摘にラルが頷く 「アムロの言う通りだ。この先頭の三機は確かにガンダムに似ていなくも無い が、後方のMSは頭部の形状が捕獲した木馬の赤いMSの方に似ているように思える」 「もう一枚届きました!」 アコースが更に写真を渡して来る。今度はやや俯瞰の写真だ。 敵MS部隊のおおよその全体像が確認できる 「敵MSは全部で9機…か?こちらの方が判り易いな。ガンダムもどきが3機、その他が6機だ」 ラルは正確に敵の陣容を分析したが軽いショックは免れなかった 「少なくとも連邦はMSの量産を始めているという事だ。 これからの戦闘は、今までの様にはいかんという事か…」 ラルの横で口には出さなかったがアムロには確信があった 『特に危険なのは、このガンダムもどきの中でも左端に写っているコイツだ』という事を… オール回線になっていたスピーカーからガイアの声が響く 「驚きだな!まさか連邦のMS部隊とは!だが心配はいらんぞ!俺達が先行して蹴散らしてやる!」 ブツッと回線を切ったと同時に『黒い三連星』はフォーメーションを組み疾走を始め 回り込みながら敵を襲撃する動線に乗った様だった。 6機のザクが3機づつの隊列を組んでそれに続くがスピードが違い過ぎる為、 『三連星』が突出した格好になっている アムロは焦りにも似た何かを感じた 「ラル大尉!あの人達を援護しましょう!油断すると危険です!」 「おいアムロ、そりゃガイア大尉達に失礼だ。連邦のヘナチョコ共にやられるもんかよ」 「コズンさん!僕だってヘナチョコだったんです! でもガンダムのお陰でWBを制圧できたじゃないですか!」 アムロは自分の能力よりも敢えてガンダムの性能の高さを主張した。 その方がこの場合効果的だと思えたからである ぐ…と言葉に詰まるコズン ラルは必死の顔で訴えるアムロの進言を軽く見たりはしなかった。傍らのハモンを見る 「ハモン、後を頼む。我々はこれより『黒い三連星』を援護し、敵を殲滅する!総員出撃だ!!」 199 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2008/12/17(水) 20 20 57 ID CUSkKwOy 「ラル大尉!僕もガンダムで出ます!」 「駄目だ、それを許可する訳にはいかん!」 飛び出しかけていたアムロは 意外なラルの言葉に踏鞴を踏んだ 「敵の狙いはガンダムだからな。お前に敵の狙いが集中するのは明白だ」 ふと優しい眼でアムロを見たラルだったが 周囲の視線に気が付くと咳払いをして言い直した 「ガンダムが落とされたら我がジオン軍は折角手に入れた最重要軍事機密を失う事になるからな! それだけは何としても避けねばならんのだ!」 やれやれと一同は首を竦めながら苦笑する ハモンも口を押さえてクスクスと笑っていたが、表情を正し、アムロに向き直った 「それにアムロ、あなたは目立ってはいけません。『ガンダムの正式パイロットは死んだ』のですから・・・」 心遣いは有り難いと思えたものの、アムロはラルが敵の戦力を まだ甘く見ている気がして心配になった。 しかしそれは己等の実力に裏打ちされた物であるだろう事も理解していた。 それに、この巌のような武人は一度口にした言葉は決して曲げないだろうとも思え、 これ以上口を差し挟む事はとりあえず控えた 「とりあえず今回お前はここで大人しくしてろ ラル隊と黒い三連星の共同作戦だ! 姫様と一緒に大船に乗ったつもりでいればいいぜ!」 アムロにそう言うなりコズンは親指を立ててブリッジを出てゆく ラル隊のメンバーもクランプを残しそれに続く 急いでアコースが抜けたオペレーター席に滑り込みインカムを装着したセイラは決然と呟いた 「私も、できる事をやらなくちゃ・・・」 ラルはハモンとキスを交わしてからアムロを見、きびきびした動作でブリッジを後にしていった 残されたアムロは― 無言で手近な席に座ると、おもむろにクランプに渡されたディスクをセットし、 内容を閲覧しながら分厚いファイルを開いた 時間は、あまり残されていない様に感じられてならなかった。 200 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2008/12/17(水) 20 22 47 ID CUSkKwOy 「クランプさん、ここに運ばれて来ているMSで予備扱いの物はありませんか?」 資料から眼を離さずアムロは聞いた。 「さっき到着した部隊の中で輸送機が何機かあっただろう? あれはラル隊用の補充物資だ。MSも何体かあった筈だ。リストは・・・ ほれ、これだ」 投げよこされたリストを空中で受け取り急いで内容を確認するアムロ 「補充MS・・・あったぞ。MS-06J・・・これはザクか・・・追加装備・・・・・駄目だ、これじゃない・・・ MS-06Dも駄目だ・・・これじゃ『あの人達』に追いつけない・・・」 ぶつぶつ呟きながら急いでリストを捲るアムロに興味深そうにハモンが近付く 「アムロあなた、まさか出撃するつもりなの?」 「はい。ガンダムは大尉に言われたとおり使いませんけどね」 眼を上げずに答えるアムロにクランプが面白そうに笑う 「おい!いきなり実戦はムチャだぞ!まあ、マニュアルをコックピットに持ち込んで カンニングしながら操縦するなら話は別だけどな!」 がははと笑う 「冗談だ冗談!取り合えず現物を見て来い!まずは慣れる事からだ!」 「これだ!・・・これなら・・・!はい!クランプさん!行って来ます!」 パッと顔を輝かせマニュアルを片手にブリッジを飛び出して行くアムロ 「なんだあ?そんなにジオン製MSに触れるのが嬉しいのかね?」 不思議そうに苦笑するクランプにセイラがぽつりと語りかける。 「私、聞いた事があります。 アムロは・・・サイド7で初めて乗ったガンダムにマニュアルを持ち込み、 それを見ながらの操縦でザク2機を撃破した事があると」 火の点いていない煙草がクランプの口からポロリとこぼれ落ちた。 228 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2008/12/18(木) 16 50 01 ID ZLlC4+uo 「まさかWB隊が敵に奪取されるなんて悪夢だ・・・ 運用してたのはシロウト集団だって噂は本当だったんじゃないだろうな・・・」 RGM-79[G]・・・通称、陸戦型ジムのコックピットでミケル・ニノリッチ伍長は 武者震いとは明らかに違う種類の震えを押さえる事が出来ないでいた 「恐れるなニノリッチ伍長」 前を行く同型の陸戦型ジムに搭乗したシロー・アマダ少尉から通信が入る。 「念願のMSに乗れたんじゃないか。慌てずシミュレーション通りにやればいいんだ」 「で、でも、模擬戦もロクに・・・・それに、本来なら自分達があの機体に乗るはずだったじゃ無いですか?」 6機のジムを従えるように、大きなコンテナを背負ったガンダムタイプのMSが先導している。 ミケルは、どう見てもジムより「強そうな」その3機のMSの事を言っているのだ。 「アンタ何様のつもりだい!より能力の高い者がより良い機体に乗る! そんなのは常識だろうが!悔しかったら腕を磨いて実績をあげるんだね!」 通信に割り込んで来たのはやはり陸戦型ジムに搭乗しているカレン・ジョシュワ曹長だった。 ミケルの後方に位置している。 敵の手に落ちたWBとガンダムの奪還。 シロー少尉の所属する第08MS小隊は、迅速に作戦展開が可能な配備位置的な理由からこの指令を受け、 それまでの作戦行動を全て破棄してこの地に駆けつけた。 しかし、直前で他の部隊が合流、本部からの指令により搭乗する予定だったMSを急遽彼の部隊に譲り渡し、 ワンランクダウンした性能の陸戦型ジムに乗せられる羽目になったのだ。 MSの性能が生存率を決める以上、ある意味ミケルの憤りは当然とも言えるものであった。 「任務によって戦場を渡り歩く『第11独立機械化混成部隊』か。 俺達に配属される筈だったRX-79[G]・・・『陸戦型ガンダム』を攫って行ったその実力を見せてもらうぞ」 静かな、しかし闘志を秘めてシローは呟いた 回線は開いておいたので、3機の陸戦型ガンダムにシローの言葉は聞こえている筈だったが返事は無い。 第11独立機械化混成部隊のリーダーを務める男は、あくまでも寡黙であった。 239 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2008/12/19(金) 02 04 03 ID FY2L//Mn 「だ…駄目です!敵MSの装甲にはマシンガンが全く効きません!・・・」 「回り込めません!敵の機動力の方が上です!う、うわああああ!!・・・」 「下がれ!敵の弾はこちらの胸部装甲すら打ち抜くぞ!・・・」 断続した爆発音に途切れながら友軍のザクからと思われる悲痛な通信が届く 味方が次々に撃破されてゆく幻影を振り払う様に、最大戦速で戦場へ急ぐラル隊だった。 陣容は基本的な3機編成である。ラルがグフ、コズンとアコースがそれぞれザクに搭乗していた。 「ラル大尉!どうやら味方は苦戦中のようですぜ!」 「まさかな・・・俄かには信じられん。ガイア大尉達は一体どうしたのだ」 コズンに答えたラルだったが、敵の戦力を完全に見誤っていた己を悔いていた。 何しろこちらは手練れのラル隊と黒い三連星なのだ。 例えどんなに敵MSの性能が高かろうと、練度の高い二隊が連携して攻撃すれば 如何なる相手であろうと恐るるに足らない筈だったのだ。 しかし今やジオン側の戦線は伸び切ってしまっており、出遅れたラル隊の位置からでは 連携はおろか、各個撃破されているであろう仲間を助けに行く事もできない有様だ。 戦場に到着するにはまだ数分掛かるだろう。恐らくその間に戦況は刻一刻と悪化してゆく。 悔やみ切れないミスだった。この惨状の原因は全て自分にある。 ラルは、ぎりりと奥歯を噛んだ。まさにその時・・・ 「ラル大尉!後方から接近中の友軍MSあり!す、凄いスピードです!」 アコースは驚いていた。この砂上をこんな速さで移動できるMSは新型のドムしか無い。 しかし、ドムは今回の作戦には「黒い三連星」の物しか搬入されていない筈だった。 「何だと!一体誰が乗っているのだ!?まさかクランプか!」 口には出したものの、そんな筈は無いという事は判りきっていた。 あのクランプが無断で持ち場を離れる訳が無いのだ。 「識別信号確認!コードは…MS-07H-2!これは、グフ飛行試験型と呼ばれる実験機です! データ送ります!」 「実験機だと!?何故そんな物がここにいるのだ!?」 「どうやら『グフやドム用のパーツ取り』が目的で今回の補給物資の中に紛れ込んでいたみたいです!」 アコース機から送られて来たデータをモニターで確認しながらラルは唸った。 脚部に強力な熱核ジェットエンジンを搭載し半ば強引に地面を滑空移動する、ドムの原型となったMS。 確かに推力は高いものの、確認できる武装は両腕のマニュピレーターに装備された非力なマシンガンしか無い。 こんな物で戦場に出るのは自殺行為だ。 ラルの不審は消えなかったが みるみる迫って来た実験用MSは瞬く間にラルの駆るグフに並び、スピードを合わせて並走機動に入った。 「ラル大尉!僕は一足先に友軍の援護に向かいます!」 「アムロ!?それに乗っているのはアムロなのか!」 スピーカーから聞こえて来た若々しい声は、ラル隊の面々を驚愕させるに相応しいものだった。 252 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2008/12/19(金) 19 21 56 ID n2VhveEm 「クランプさんに渡されたファイルの中に こいつの資料があったんです!ぶっつけですが、やれます!」 「信じられねえ・・・お前本当にジオンのMS扱うの、初めてなのか!?」 コズンの驚きは無理のないものだった。 MS-07H-2は、クセの強いジオンのMSの中でも更にクセの強い「滑空移動系」の、 しかも出力不安定な「実験機」なのだ。 マニュアル操縦の場合、まるでスリックカートの様な動きを出力調整と 二軸の体重移動でこなさなければ思った方向への移動もままならず 相当に熟達しなければ実戦で敵へ攻撃を命中させる事など論外だろう。 しかし、アムロが駆る目の前のMSはどうだ。 不安定さなど微塵も感じさせないその拳動、時おり左右にリズミカルに機体を振る仕草は 慣れないMSに乗り込んだ際、無意識の内に機体のクセを掴もうとするベテランパイロットに良く見られる行動だった。 『こいつ・・・何てえ操縦センスしてやがるんだ・・・!』 心の中で呟いたコズンはアムロの底知れぬ才能に舌を巻いた。 アムロは一瞬、提案をラルに却下される事を案じたが、ラルは鋭い眼をアムロに向けて大きく頷いた。 「うむ!頼んだぞアムロ!ワシ達もすぐ駆け付ける。なるべく敵を撹乱して時間を稼ぐのだ! 判っていると思うが敵の正面には立つなよ?足を止めてはならんぞ!」 「信頼して頂いてありがとうございますラル大尉!行きます!」 晴れ晴れとしたアムロの声が響く ドン!という加速音を残すと、砂塵を舞い上げてアムロのグフは最大速度で戦場に向かう。 小さくなってゆくその後姿にラルは何か呟いた様だったが 砂塵にかき消されて誰の耳にも届かなかった。 274 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2008/12/20(土) 14 00 28 ID 3mOuIJDj ラル隊と離れ戦場に急ぐアムロは前方にくず折れているザクの残骸を発見して驚いた。 前方に戦線が展開しているものの、まだ遥かにザクの射程には入らない距離だ。 追い抜きざまに確認すると、胴体部分に貫通銃痕が見て取れる。恐らくパイロットは即死だっただろう。 「長射程の武器で砲撃されたのか・・・!」 「砲撃」では無く「狙撃」に近い運用をされている事に、まだ見ぬ敵の高い技量を感じ取る事ができた。 しかも撃破されたのはブレード・アンテナ装備のザク中隊長機。 指揮系統を乱された小隊はあわてて散開した筈だ。恐らくそのまま個別に敵陣営に突っ込んでしまい 狙い済ました連邦軍による攻撃に晒されていると思われた。 まず機動力の高い黒い三連星が先行し、敵の背面か側面を突く為に大きく迂回しながら接近する。 その間にザク2部隊の6機が敵の正面に展開、敵の目を引き付けながら三連星の到着する時間を稼ぎ、 敵の死角から現れた三連星が強襲に成功すると同時にザク部隊も突入、一気に制圧する。 ・・・恐らくそういった作戦だったのではないかとアムロは思った。 しかし、敵のMSの性能と、それを扱うパイロットの技量はその目論見をずたずたに引き裂いた。 たぶん「あいつ」がやったのだ。 やはりアムロには確信めいたものがあった。 電送写真のガンダムもどきの中で「左端に写っていた、あいつ」・・・ 戦闘音が外部集音マイクからではなく直接コックピットに響く振動でそれと判った。 アムロは静かに、そして自然に心が研ぎ澄まされてゆくのを感じていた。 MS-07H-2は、遂に戦場に辿り付いたのである。 985 : 281修正版:2009/01/04(日) 19 53 51 ID ??? ジオンのMSより遥かに性能の良い索敵レーダーを装備した陸戦型ガンダムは ミノフスキー粒子をものともせずジオン迎撃部隊の展開をいち早く察知すると 僚機のジムを率いて手近な岩場に拠点を構え、 行軍して来るザクに対して180mmキャノン砲による遠距離攻撃を行った。 3体の陸戦型ガンダムはそれぞれ別の標的に対して一斉に砲撃したものの、 命中したのは隊長を務めるカジマ・ユウ機のものだけであった。 しかし完全に機先を制した形に持ち込んだ連邦軍は、有利に戦闘を進める事に成功していたのである。 部隊の前衛を勤めるジム隊のミケルは陸戦型ジムの性能に有頂天だった。 なにしろ、敵のマシンガン攻撃はこちらに一切通用しないのだ 対してこちらの攻撃はザクの装甲を紙のように易々と打ち抜いてゆく 浮き足立った敵はミケルの攻撃をロクに回避する事もできず撃破されて行くのだった。 「はははは!見たかジオンめ!隊長!やれますよ!このジム、凄い性能だ!」 「浮かれるな!シールドをちゃんと構えろニノリッチ伍長! 油断しすぎだぞ!」 シローが叫ぶがミケルは構わず体勢を立てたままマシンガンを連射する 左足が利かなくなり、尻餅をついた状態で必死で後ずさりするザクを完全に葬るつもりなのだ。 「やめろミケル!奴はもう戦闘不能だ!無駄に兵士の命を奪う必要は無い!」 「甘いんですよ少尉!ジオンめ!ジオンめ!ジオ・・・!」 ドガッ!! 「!!」 その瞬間、ミケルの乗るジムの頭部が吹き飛び 頭の無いMSの胴体は 糸の切れた操り人形の様に それを見つめるシローの搭乗するジムの脇に まるでスローモーションの様にゆっくりと崩れ落ちた。 292 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2008/12/20(土) 20 21 10 ID 3mOuIJDj 連邦軍側面から怒涛の勢いで迫って来たのは3機のMS その先頭を走る1機がミケル機を狙撃したのだった。 「貴様ら!好き放題やってくれた様だな・・・!」 ガイア大尉が押し殺したように唸る 彼の駆るドムの単眼が、ゆらりと殺気を放つ その手には、白煙をたなびかせるバズーカが握られていた。 想定していた作戦は大幅に狂った―― 敵の側面を突く目的で本体と離れ迂回していた三連星は 同じ様に陸戦型ガンダム率いる本体を離れて 密かにWBを直接攻撃する為に進軍していた3機の陸戦型ジムと鉢合わせしてしまったのだ。 いかに性能が高い陸戦型ジムといえど三連星には敵うはずもなく ガイア達は全ての敵を撃破する事に成功はしたものの大幅に時間をロスしてしまった。 その結果が・・・ 累々と転がるザクの残骸にそれぞれ苦渋の表情で黙祷を捧げると ガイアの合図で三連星は疾風の様に散開した 「やるぞマッシュ!オルテガ!奴等を全員地獄の底へ叩き込め! 一人も生きて帰すな!!」 怒り狂う死神の群れ 今の黒い三連星を形容するのにこれ程相応しい言葉は無かった。 310 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2008/12/21(日) 13 55 25 ID UpgBPAQ8 散開しながらガイア・オルテガ・マッシュ機は手近なジム目掛けて 全く同じタイミングでバズーカを放った。 それぞれが異なる方向へ高速で移動しながらの同時同位置集中攻撃である。 避ける事など殆ど不可能であった。 ターゲットとなったカレン機はミサイルランチャーを構えた右腕と コックピットをガードしてシールドを構えていた左腕、 重心を掛けていた右足にそれぞれ被弾。 片手片足の状態となり、もんどりうって大地に倒れ伏した。 尋常なコンビネーションでは無い 一蹴のうちに撃破されたジムを目の当たりにしたシローは 冷たい汗が背中を伝うのが判った。 マシンガンの銃口を敵MSに向けようとするのだが 巧みに照準をずらされ引き金を引く事もできない。 「マッシュ!オルテガ!ジェット・ストリーム・アタックを掛けるぞ!」 ガイアの指示で集結した3機のドムは、離合集散を繰り返す様な 不規則なフォーメーションで幻惑しながらシローの乗る陸戦型ジムに迫る。 圧倒的な恐怖に抗いながらマシンガンを連射するシローだったが ザクは貫けたはずの弾丸がこの黒いMSには通用しない ドムの手にするバズーカが自分を照準に捕らえた事を感じたシローは瞬間マシンガンを捨て、 体勢を低くしシールドを両手で構える完全防御姿勢を取った。 一瞬後 物凄い衝撃がコックピット内のシローを激しく揺さぶる! 正確に敵のバズーカ弾がジムの構えるシールドの真ん中に命中したに違いなかった。 歯を食いしばって耐えるシローの視界の隅で、1機のドムが離脱して行くのが見えた。 更に衝撃が彼を襲う! 恐らくは先程とほぼ同じ地点に二発目のバズーカ弾が着弾したのだろう シールドの一部が破損し捲れ上がっている。 意識が朦朧となったシローは 2機目のドムが離脱して行くのを他人事の様に見ていた そして3回目の衝撃! また同じ場所へのバズーカの一撃! シールドを装備した左腕とシローの意識は完全に消し飛び 体ごと吹き飛ばされた陸戦型ジムは後方の岩場に叩き付けられ そのまま動かなくなった。 トドメを刺そうと動かないジムに狙いを付けたガイアは 後方から接近して来る3機の新たな連邦のMSを察知すると マッシュ、オルテガと共に体勢を立て直す為に一旦後方に下がった。 332 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2008/12/21(日) 20 08 28 ID UpgBPAQ8 ヒュウッというフィリップの口笛がコックピット内に響く。 「参ったね、こりゃ。照合データ見てみなお二人さん! あいつら多分、レビル将軍をひっ捕らえた事もあるってえ「黒い三連星」だぜえ」 「MSは新型ですね。データにはありません。しかし機体のカラーリングや 先程の見事なフォーメーション攻撃を考慮するに、その推測は殆んど間違い無いでしょう」 陸戦型ガンダム2番機に搭乗するフィリップ・ヒューズ少尉からの通信を 同3番機を操るサマナ・フュリス准尉が緊張した声音で受ける。 「大物が掛かったぜユウ!いっちょやったりますか!」 「・・・」 しかし、フイリップに話を振られた「第11独立機械化混成部隊」 通称「モルモット隊」のリーダー、陸戦型ガンダム1番機に搭乗するカジマ・ユウ少尉は無言でそれに答える。 この男は実に寡黙なのであった。 「やれやれ・・・頼りにしてるぜ、ユウ!サマナちゃんもな! 早いとこ終わらして基地近くのオネーちゃんがいるあの店で! もーあんな事やらこんな事やら・・・」 「・・・フイリップさん。あなたには心底がっかりです」 いつものやり取りにそれぞれの緊張がほぐれてゆく。 これがこのチームのウォーミングアップ方法なのだった。 軽口を叩きながらも3体はスピードを上げ散開してゆく それぞれの役割を完全に把握している3人は、 誰の指示もなく速やかに所定のポジションを取る事が出来た。 そしてそれは敵にとって戦闘状況によって変幻自在に形を変えてゆく「罠」と化すのだ。 黒い三連星が「動」ならば 彼らは「静」のフォーメーション攻撃を得意としていたと言えるだろう。 前衛にシールドを構えたフィリップ機とサマナ機。後方に少し離れてユウ機。 まず彼らはそう配置した。 この布陣が敵の出方によって千変万化に姿を変える。 加えて、こちらのMSは強力、高性能な陸戦型ガンダムである。 そしてなんと言っても、こちらにはユウがいる。 あの寡黙な男の非凡なる戦闘技術は、間近にいる自分が一番良く知っている。 掛け値なしに連邦でNO.1の実力の持ち主だろう。 後方に下がったドム3機が反転し、こちらに向かって来るのが見える。 フィリップはちらとモニターで後方のユウ機を見やり、 「頼りにしてるぜ」ともう一度呟いた。 346 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2008/12/22(月) 05 13 50 ID Wja3Xcu+ 「マッシュ!オルテガ!あの白い奴らを叩くぞ!まずはフォーメーションBで行く! 前衛の右端の奴だ、抜かるなよ!」 「おう!」 「了解だ!」 ガイアの指示に二人が答え、3体のドムは突入姿勢を取った。 陸戦型ガンダム3機も迎撃の構えで待ち受けている 6体の巨人が生と死の狭間を越えようとしたその時 右手に内蔵されたバルカン砲を敵陣に撃ち散らしながら、ドムに倍するスピードで ドムの進入経路に右斜め後方から強引に割り込んで来た見慣れないMSがあった。 虚を突かれた「黒い三連星」は想定していたフォーメーションを放棄し 散開して敵から距離を取らざるを得なかった。 「な、何だ貴様!どういうつもりだ!」 ガイアの怒号が飛ぶ。 味方の攻撃を故意に妨害。到底許される事ではない。軍法会議物だ。 いやそれ以前に、大事な攻撃のタイミングを逸してしまったのだ。 この戦闘が終わったら俺がこの手で八つ裂きにしてやる。 「お叱りなら後で受けます!」 スピーカーから聞こえて来た若々しい声に 怒髪天を突く勢いだったガイアは少々毒気を抜かれた。 反転して来たMSはガイアのドムの横に並ぶ。 「失礼しました!ガイア大尉!ランバ・ラル隊のアムロ・レイです! 突入はもう少し待って下さい!あと数分でラル大尉達が到着するんです! それを待って連携攻撃を掛けた方が…」 「必要ないぜ!」 いらいらした様にオルテガが通信に割り込んだ 「そうだ!あんな奴ら俺達だけで充分だ! 他の奴らの手助けなんざいらねえんだよ!むしろ邪魔だ!」 マッシュも続ける。 「そういう訳だ若いの!今度俺達の邪魔をすれば貴様も撃つ!いいな!? マッシュ!オルテガ!もう一度やるぞ!ジェット・ストリーム・アタック!右の奴だ!」 散開した三連星は再度突入の構えを見せる 駄目だ・・・!さっきのフォーメーション攻撃は「あいつ」に一度見られている! そう、シローとガイア達の攻防の一部始終を、アムロは先程目撃していたのだ。 間違いなく「あいつ」は相応の対処をして来る筈だ。このままではガイア大尉達が危ない 直感でそう感じたアムロは捨て身で三連星の前に割り込んだのだった。 しかし、青二才の自分ではこの誇り高い人達を止める事はできない アムロは悔しかった。自分を信頼して送り出してくれたラルの顔が浮かぶ。 三連星以外のザク達は全滅した。自分は間に合わなかったのだ これ以上、犠牲者を出してたまるものか アムロは決意を凝縮させた面持ちで、三連星の後を追った。 403 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2008/12/23(火) 20 02 36 ID SAO9R3tv 「黒い三連星」は再度、ジェット・ストリーム・アタックのフォーメーションに入った。 3機のドムはそれぞれが敵を幻惑する不規則な軌道で陸戦型ガンダムに迫って行く。 先頭のガイアはちらとバックモニターを見やった。 さっきの目障りなMSはどこにも見当たらず、後方にはマッシュ機とオルテガ機の姿しかない。 「フン、シッポを巻いてラルの所に帰ったか・・・」 軽く息を吐き出したガイアは 自分達の攻撃を邪魔する存在が今度こそ周囲にいない事を改めて確認すると 敵に視線を据え直した。 しかし―― その時、列の最後尾のオルテガは戦慄していたのである。 全身の冷たい汗を抑えることができない。 彼の駆るドムの真後ろに 奴 はいたのだ! 姿勢を低くしたそのMSは 影の様にぴたりと前を行くオルテガのドムに張り付き オルテガ機の複雑な動きを正確にトレースし続けているのだった。 イレギュラーな拳動を入れてもみたが全く振り切る事ができない。 『ここまで俺の動きに付いて来るとは・・・!』 MS乗りにとって「後ろを取られる」とはこういう事だ。 オルテガが得体の知れない恐怖を覚えるのは当然だと言えただろう。 しかもそのポジションは完全に正面、つまり敵の位置から見ると オルテガ機に隠れる死角になる様に計算され尽くしている位置取りに違いなかった。 『こいつ、何者だ、一体何をやろうとしてやがる!?』 恐怖を抑えきれず叫び出したくなる衝動を必死に耐えていたオルテガは 遂にガイア機が敵に向けてバズーカを発射した事で我に返った。 マッシュ機も敵に狙いを付け終えている。マッシュの次は自分の番だ。 「貴様が何を企んでいるのか知らんが、俺は俺のやるべき事をやるだけだ! 邪魔だけはするなよ!」 「了解!」 短い 奴 からの返事を聞くと同時にオルテガのドムは攻撃態勢を取った。 404 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2008/12/23(火) 20 09 25 ID SAO9R3tv 迫り来る3機のドムをユウは冷静な目で見ていた。 敵の変則フォーメーションは既に見切っている。 もうその戦法は俺達「モルモット隊」には通用しない。 その認識はフィリップとサマナも共通している。 ユウの目がすっと細まった。 計画通り仕留めるだけだ ガイアのドムがバズーカを放った あらかじめ構えられたシールドで、前衛のサマナ機がそれを受けると同時に 素早く側後方に下がりつつ、離脱して行くガイア機に向けてマシンガンを掃射する。 敵を倒す為の攻撃では無い。これは牽制なのだ。 続いてマッシュ機がバズーカを発射する 位置をチェンジしていたフィリップ機がきっちりとシールドでそれを受け、後方のユウ機を守る。 フィリップは離脱して行くマッシュ機を追わない。 もう一撃に備える為だ。 ・・・≪次≫を落とす!! 体勢を低くしてシールドを構えたフィリップ機に隠れるようにしていたユウ機は 滑るように右側方に移動し身を起こした その時オルテガには 後方に位置している筈の敵MSが別位置に忽然と現れた様に見えた そいつが両腕で構えるロングライフルの銃口が 正確に自分の駆るドムのコックピットに狙いを付けている ドムのバズーカの照準はそいつには向けていない 駄目だ やられる オルテガの脳裏に一瞬、ガイアとマッシュへの謝罪の言葉が浮かんだその時 「させるか!」 裂迫の気合と共に、アムロの駆る飛行試験型グフは 爆発音の様な轟音を響かせドムの影から稲妻の様に飛び出した。 407 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2008/12/23(火) 20 12 46 ID SAO9R3tv 「・・・!!」 ユウには一瞬何が起こったのか理解できなかった まるで敵MSが分身でもしたかの様に見えたのだ しかし彼は瞬時に自分を取り戻す。 彼の冷静な状況判断は、予定していた敵への攻撃を中止し、 新たに現れた敵に備える為にロングライフルを捨てる事を選択させた。 最大推力で弾丸の様に飛び出したアムロは ホバー移動特有のカーブを掛けたループステップで陸戦型ガンダムに肉薄しながら 両腕のバルカン砲を敵の抱えるロングライフルへと集中させる。 陸戦型ガンダムがライフルを手放した瞬間、それはアムロの攻撃によって 誘爆するのだった。 「こいつ!やるな!」 「・・・!」 お互いが、お互いの力量を知った瞬間だった 「ちいぃっ!」 アムロの目論見は外れてしまった。 大型ライフルの弾倉を誘爆させれば、それを持った敵のマニュピレーターに 相当のダメージが与えられるだろうと踏んでいたのだ。 手持ちの武器が使えないとなれば、敵の攻撃方法の幅は狭まるだろう。 だが敵はあっさりと大事なはずの武器を捨ててしまった 多分、接近戦には不利だからという単純な理由で。 咄嗟にそう判断し実行に移せるなんて・・・! やはりこいつは只者では無かったのだとアムロは思う。 ロングライフルを捨てた「ガンダムもどき」はビームサーベルを抜き こちらを迎撃する姿勢を取っている 飛行試験型グフに装備された武器は両腕のバルカン砲しか無い これで敵MSの装甲を貫く事は不可能だと思える。 しかし側面をアムロに抜かれた敵前衛の2機はまだこちらに対応できていない チャンスは今しか無いのだ。 「ならば!もっと近付いてやる!」 アムロは更に強く、フットペダルを踏み込んだ テスト機の為、推力だけはドムに倍するポテンシャルを持つエンジンが 爆発音に似た轟音をあげてそれに答えた。 430 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2008/12/24(水) 19 44 56 ID Dfr+XRYN 武器の威力が足りないのならば、その分接近して敵の弱点を衝けばいい アムロの思考はシンプルであった。このMSならばそれが出来るはずだと。 無手の飛行試験型グフとビームサーベルを構えた陸戦型ガンダムが交錯する! アムロは「ガンダムもどき」が繰り出すビームサーベルの切っ先を 右足を軸にして体ごと回転するバックスクラッチスピンで回避し さらに半回転する事で完全に敵MSの後ろを取る事に成功した。 回転中に伸ばした右手のマシンガンは「ガンダムもどき」の後頭部にぴたりと 狙いを付けている。 この距離ならば、威力の弱いバルカンといえど、無事では済むまい 勝った!とアムロは心の中で快采を叫んだ 青二才の僕と、この不完全な試験型MSがこの強敵をやったのだ これでラル大尉達は、僕を認めてくれるだろうか? 勝利を確信したその時 バルカン砲のトリガーを引き絞る寸前のアムロを襲ったのは ユウの駆る陸戦型ガンダムによってアムロの乗る飛行試験型グフに加えられた、 ありえない方向からの一撃だった! 469 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2008/12/25(木) 16 45 03 ID mW+N8iPU まるで大きなハンマーで打ち据えられたかの様に 飛行試験型グフの後頭部はひしゃげ、モノアイのターレット部分は破損した メインモニターがブラックアウトする 激しい衝撃に思わず悲鳴を上げたアムロだったが、 弾き飛ばされて不規則に回転が掛かり、倒れそうになった状態の飛行試験型グフの体勢を 右腕を地面に突き刺す事で軸とし、体の流れるベクトルを強引に調整した後 腕を引き抜くと同時にホバーを全開に吹かしその場所から急激に離脱する事で 間一髪、陸戦型ガンダムの射程距離から逃れる事ができた。 更に距離を取る。体の震えが止まらない。 サイドモニターに急速に離れてゆく「ガンダムもどき」の姿が映っている 見ると背負った大きなコンテナから長いアーム状の物が真横に張り出し その先端の弾倉がつぶれているのが確認できた。アーム全体も歪んでしまっており 収納する事が出来ない様だった。衝撃の大きさを物語っている。 先程、アムロの飛行試験型グフをほぼ真後ろから襲った衝撃は 「それ」によるものに違いなかった。 「マシンガンの自動装填装置か・・・!」 アムロの驚くのも無理はない 完全に後ろを取られたユウは、真後ろにいる敵に「振り向く」愚を犯さず 咄嗟にマシンガン用のマガジン装填装置である≪Bコンテナ≫を作動させたのだった。 急速装填が可能な≪Bコンテナ≫のアーム部分は素早く展開し大振りなマガジンを横に振り出す。 更に陸戦型ガンダムの体に捻りを掛ける事でマガジンは恐るべき打撃武器と化し 想定外の角度からアムロのグフを打ち据えたのだった。 荒い息をつき サブカメラの映像をメインモニターに切り替えながらアムロはひとり語ちた 「なんて奴だ・・・シャアとは違う感じだが・・・強いな・・・」 恐らく右手のマシンガンはもう砂が入っていて使えないだろう。 無理をさせすぎたエンジンの稼働時間も残り僅かだ アムロはあの強敵にどう立ち向かえばいいのだろうと考え ふと、自分の心がまだ折れていない事に少しだけ胸を張った。 490 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2008/12/26(金) 17 15 02 ID Z21hEg5r 「大丈夫か!?やばかったなユウ!すまん!完全に抜かれちまってよ!」 フィリップの陸戦型ガンダム2番機が大急ぎで駆け寄ってきた 「で、でも流石ユウさんです!見事に撃退しましたね!」 サマナ機もそれに続く。が、緊張は抜けない。 先程のアムロとユウの攻防は、一瞬だったがそれ程凄まじいものだった。 「・・・運が良かっただけだ」 ユウがぶっきら棒に口を開いた 同時に深く息を吐き出す。表情からうかがい知る事は出来ないが 彼の体も冷や汗にまみれていたのである。 紙一重の勝負だった。 あの時倒れていたのは自分だったとしても何の不思議も無かった それ程「奴」は強かったのだ。 使い物にならなくなった≪Bコンテナ≫を切り離しながらユウは思う ――もし奴が俺と同等の性能を持つMSに乗っていたら―― 果たして勝てただろうか、と。 「新たに敵MSの増援と思われる機影が急速に接近中!3機です!」 「やべえな、ちょっとばかし雲行きが怪しくなってきたぜ」 サマナの報告にフィリップが心持ち真面目な声で答える 無傷の黒いMS3機とさっきのすばしっこい奴が1機 そして増援のMSが3機で7対3か。 こちらの弾薬はもう心もとないし・・・ チラリと3機の動かない陸戦型ジムを見る 「要救助者もいるみたいだしな」 彼にももう無駄口を叩いている余裕は無い様だった。 ユウは迷わず上空に向けて一発の砲弾を放つ。 砲弾は高空で爆散し、色付きの粉塵を撒き散らした。 「信号弾!確認しました! 【作戦中断・一時撤退】です! ガンタンク隊は直ちに援護射撃を開始してください!」 ミデア改の窓から双眼鏡でそれを確認したモーリン・キタムラ伍長は、 急いで眼下に展開している部隊に指示を出した。 それを受け、中空にて戦場の動向を逐一監視していた支援ヘリからの レーザー通信により座標を固定したガンタンク部隊は、 速やかに120ミリキャノン砲による一斉砲撃を開始したのである。 491 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2008/12/26(金) 17 18 12 ID Z21hEg5r 戦場は大混乱に陥っていた いきなり敵の後方から激しい砲撃が始まったのだ。 それは、「ガンダムもどき」の陣取っている岩場に敵を近づけさせないように 見事に計算され尽くした長距離援護攻撃だった。 「そこの若造!貴様も下がれ!早く下がるんだ!」 砲弾が降り注ぐ中オルテガが叫ぶが 途切れる事の無い轟音に遮られ、アムロの耳には届かない。 アムロの飛行試験型グフは、片足を破損し動けなくなった僚機のザクを 必死に引き摺り戦場から離れ様としていた ジェットホバーをOFFにして、2足歩行での移動である。 重い物を引っ張る時はこちらの方が都合がいいのだ。 しかしその足取りはオルテガからは亀の様に遅く見えた。 「何やってんだ!残骸なんか放っておけ!」 もどかしくオルテガのドムはアムロ機に近付き接触回線で怒鳴り散らした 確かに一体分のザクを敵に鹵獲されるのは痛いが、今はそんな場合じゃなかろう。 「中に生存者がいるんです!ハッチが破損して開ききらないから脱出できないみたいです!」 見ると、確かに半分ほど開いたハッチから兵士が弱々しく手を振っている 思わずアムロ機の破損した横顔を振り仰ぐオルテガ 『こいつ、この砲弾の雨の中、自分はこんな状態のクセに逃げ出す事をせず、 踏み止まって仲間を助けようとしてやがるのか・・・!』 最近、甘ったれた新兵が多い事を嘆いていたオルテガは、自分の認識を 少しだけ上書きすると共に、ツンとした物を不覚にも鼻の奥に感じた。 「何をしているオルテガ!」 敵の砲撃が始まると同時に着弾範囲から離脱していたガイアとマッシュが戻って来た もたついている若造など放っておけば良い。 彼らチームは基本的にチームの事意外は無関心だった。それが彼らの流儀だったのである。 しかしそれに反してオルテガが叫んだ 「ぐずぐずするな!この若造に手を貸せ!仲間を助けるんだ!」 ガイアとマッシュは顔を見合わせ呆気にとられた。 砲撃は依然止まず、近くに着弾した砲弾に撒き散らされた砂粒が、 激しく降り注いでドムを打った。 553 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2008/12/27(土) 17 05 59 ID oR8om7yF ラルが到着した時、全ては終わっていた。 嵐の様な砲撃が止むと敵の「ガンダムもどき」は敵生存者を回収して既に撤退を完了しており 敵の輸送機もこちらの追撃を牽制しながら索敵範囲から離脱していったのである。 結局この局地戦は壮絶な痛み分けで幕を閉じたのだった。 アムロの搭乗する飛行試験型グフは、帰路においてノズルの砂詰まりと 電気系統の不具合からまともに歩行する事が不可能になり アコースとコズンのザクに両脇から抱えられながらほうほうの体で帰還する有様だった。 ラルのグフはアムロがぽつぽつと語る経過報告を雑音混じりの通信でじっと聞きながら 無言で一行のシンガリを勤め、決して後方への警戒を怠らなかったのである。 555 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2008/12/27(土) 17 08 26 ID oR8om7yF 一行がWBに辿り着いた時には既に日が暮れ、夜の帳が下りていた。 コズンに支えられるようにブリッジに戻ったアムロは流石に疲れ切っていた。 力なくシートに腰を下ろすと同時に目を閉じる。体がまるで鉛の様に重い。頭の奥がジンジンする。 「お、おい、大丈夫なのかよ・・・」 ぐったりしたアムロを見てコズンがおろおろ心配そうに周囲を見回し声を掛ける。 もう顔を上げる事も辛かったが、アムロはふと両の頬を両手の掌で包まれた気配を感じて薄く目を開いた。 目の前あったのは眉根を寄せたハモンの顔だった。彼女はそのままそっと自分の額をアムロの額に付ける。 アムロは心臓が爆発しそうになった。頭も朦朧としたまま何だか思考がまとまらない。 これは戦闘終了後の疲れから来る一時的な興奮と混乱なのだろうか? 「少し熱があるようですわ、あなた」 ラルを振り向いた彼女は 少しだけ厳しい声音と表情で告げた。 「無理も無い。初めて乗った不完全なMSで実戦を戦い抜いたのだからな」 腕組みしたラルが重々しく答える。 彼の心にはいまだに悔恨があった。この少年に、ここまでギリギリの戦いを強いてしまったのは自分の責任なのだと。 本来は自分達が果たすべき事を、この年端も行かない少年に全てやらせてしまった。 ――情け無い―― それはこの場にいるランバ・ラル隊全ての認識だったのである。 「だ、大丈夫ですよ、このくらい何でも・・・」 「ハモンさん。後は私が。医療関係の仕事に就いていた事があります」 慌ててアムロが言いかけるが、それを許さず横からセイラがアムロの介護を申し出た。 ハモンはしばらくセイラの顔を見つめていたが、なぜか可笑しそうにクスリと笑い 宜しくお願いします姫様と軽く一礼してアムロの側を離れたのだった。 「・・・ごほん。いやしかし、アムロ!お前は凄えな! 本当にジオンのMSに乗ったのは初めてなのかあ?なあ、ウソでしたって言えよ!」 アムロの頭をくしゃくしゃにかき回して陽気に茶化すコズンにクランプが乗っかる 「全くだ。輸送機からあのMSが出て来たときゃたまげたぜ! そのまますっ飛んでいっちまうしよ!これじゃ『黒い三連星』も形無しだってな!」 一同のひときわ大きな歓声と笑い声がブリッジにあがるが 「誰がぁ!!」 雷鳴の様な一喝に、ブリッジの空気は凍りついた 「・・・形無しだと!?」 殺気を孕んでブリッジの入り口に立っていたのは ガイア・マッシュ・オルテガの三人組。 くだんの「黒い三連星」であった。 586 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2008/12/28(日) 02 16 47 ID IW4/DbJ/ 「アムロってのはそいつか!?」 怒気を孕んだ声でのしのしとオルテガがアムロに近付いてくる。凄い威圧感だ 『お叱りなら後で受けます!』・・・ あの時確かにアムロは彼らに向けてそう言ってしまっていた 思わず立ち上がったアムロだったが、ゆらりとコズンとクランプが両脇から アムロの前に進み出た。ちょうどオルテガの行く手を阻んだ格好になっている。 「何だ貴様ら!?どけ!!」 オルテガが怒鳴り散らすが 二人は飄々とした態度を一向に崩さない 「すいませんね中尉、ここは動けないんでさあ」 耳をほじりながらコズンがかったるそうに答える クランプも愛想笑いを浮かべながら口を開く 「ウチのルーキーはちょいとヤワでしてね。 中尉にちょっとナデられただけでもサイド3までふっ飛ばされかねないんですよ」 口調は軽いがクランプの目は笑っていない。 「貴様ら・・・上官に逆らうつもりか・・・!?」 オルテガの顔が怒りのあまり赤黒く変色してゆく ガイアとマッシュの顔にも殺気じみた物が現れ始めた 「オルテガ中尉、そしてガイア大尉、マッシュ中尉」 落ち着いた声でラルが後方から声を掛けた 「部下の非礼はワシが詫びる。・・・この通りだ」 自分の為に深々と3人に頭を下げるラルを見て アムロはいたたまれなくなり前に出ようとするが、クランプに押さえられて動く事ができない 「ラル大尉!大尉がその人達に頭を下げる必要なんてありませんよ! 悪いのは僕なんですから!僕が、自分で責任を取ります!」 「黙れ小僧ォ!!ワシはお前に自惚れるなと言った筈だ!!」 「・・・!!」 もどかしく叫んだアムロにラルは頭を垂れたまま横目で一喝する。体が硬直するアムロ。 WB制圧の時の記憶がまざまざと思い出された。あの時も、僕は・・・ 「大尉の言うとおりだ。ここは俺達に任せて下がってな」 クランプが囁きながらアムロの体を後ろに押しやり、オルテガに向き直った。 この人達は強靭な肉体と精神力を以って、僕を守ってくれている それに比べて守られているだけの弱々しい自分は何だ MSに乗っていないリアルな自分はこうも無力だったのだ アムロは自分の中のややもすると増長しかけていた部分が粉々に砕けて行くのを感じていた。 637 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2008/12/29(月) 04 33 15 ID l64a7upi 黒い三連星と彼らを取り囲むランバ・ラル隊。互いに睨み合いまさに一触即発といえた。 空気中の何かが今にも粉塵爆発でも起こしそうな緊張感に満ちている。 たぶん無意識のうちにであろう、セイラがアムロの腕をぎゅっと掴んだ。 だが、その雰囲気を一瞬にして吹き払ったのは、豪快なガイア大尉の爆笑だった 「わはははは!もういいだろうオルテガ!それ以上若造をビビらすな!」 「い、いや、俺は別に・・・!」 腹を抱えて笑うガイアとマッシュ相手にオルテガは必死で弁解を試みるが かなりの口下手らしく、なかなかうまく言葉が出てこない。 あっけにとられるアムロとラル隊。ガイアが涙を拭きながら口を開いた 「脅かしてすまなかったな。こいつは腕っ節とMSの操縦は天下一品だが・・・それ以外はからっきしでな。 相手に自分の意思を伝えようとすると、何故かいつも暴力沙汰になっちまう」 「このデカイ図体とおっかない顔で迫るもんだから、意中の女にはいつも逃げられっぱなしだ。 不器用な奴なんだよ、コイツは」 「二人とも、そりゃないぜ・・・」 可笑しそうに語るガイアとマッシュにオルテガは、か細い声で抗議する 先程の恐ろしげなイメージから一転 どこからどう見てもコミカル過ぎるやりとりに、思わずセイラは吹き出してしまった。 ラルやハモンも目を丸くしている。 「あー・・・俺達はな。貴様に。礼を。言いに来たんだ」 あさっての方向を見ながら、 オルテガがようやく言葉を搾り出した。 「ぼ、僕にお礼ですって? でも僕は、皆さんの攻撃の邪魔ばかり・・・」 アムロの言葉をガイアが手を挙げて遮った 「言うな。貴様が突撃したお陰でオルテガが死なずに済んだのだ」 アムロは瞠目した。自分の捨て身の行動の意味が彼らには判っていた しかし格下の相手にそれを素直に認め、礼を尽くすとは。 おかしなプライドや、下らない虚栄心の塊の様な軍人を嫌と言うほど見て来たが、 こんな高潔な人達もいたのだと。 「『黒い二連星』にならずに済んだ。感謝する」 今度はガイアを筆頭に、 星の欠けていない「黒い三連星」が、深々とラル隊に頭を下げる番だった。 646 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2008/12/29(月) 11 39 04 ID l64a7upi ささやかな酒盛りが始まった いまだWBは動く事ができず、厳戒態勢を解く事はできないものの 当直の者を除き、ハモンは皆にとっておきのブランデーを少しずつ振る舞った。 彼らにとってはほんの少し、まさにひと舐めで終わるだけの量であったが誰も文句を言う者はいない 不謹慎だと喚きたてる者もいない。これが彼らの流儀なのだ。 「仲間と酒を酌み交わす」それ自体が重要なのであって、それ以上はこの場では望むべくも無い。 あちらこちらで談笑が続く中、肩を寄せてラルと酒を飲んでいたガイアは声を落として囁いた 「どうだ。あの若造を俺達に譲らんか? 鍛え方によっちゃ新たな『黒い星』になれるかも知れん男だぞ」 「・・・そんな逸材をワシがみすみす手放すと思うのか?」 満足そうに含み笑いをしながら答えるラルに ガイアは心底残念そうな顔をして天井を仰いだ 「『黒い四連星』の夢は儚く消えたか・・・!」 ラル隊を交えてオルテガとマッシュはアムロとセイラを囲んで ブリッジの床に直に座り車座になっている。 アムロは荒くれ達に囲まれても物怖じせず、全く気取らないセイラの端麗な横顔を見て 以前のとりすました姿より、こちらの方が何倍も生気に溢れて美しいなと感じていた セイラのこんな姿を見れただけでも、自分の行動は意味があったんじゃないかとすら思える。 視線に気付いたセイラがアムロに目を向けると、アムロは何故だか心臓が飛び上がるのを感じ 思わず眼を逸らしてしまう。 顔が熱い。おかしいな。僕の飲んでいるのはジュースの筈なんだけど。 「しかしお前が連邦のMSをジオンにもたらしたとはな・・・ どうだ。連邦とジオン、両方のMSに乗った感想は?」 マッシュの問いにアムロは少しだけ襟を正して答えた 「基本的に連邦のMSはジオンのそれを参考にして作られたものですから 根っこの部分は同じだと思います。でも今回の戦闘でいくつか気になった事がありました」 その場にいた全員の視線がアムロに集まる。 ガイアとラルも雑談をやめ、アムロの言動に注目した。 647 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2008/12/29(月) 11 39 46 ID l64a7upi 「すみません!その話、もっと詳しく聞かせてもらえませんか!?」 不意に沸き起こった年若い少女の大声に一同は振り向く。 アムロの目に入ったのは華奢な腰に両手を当て、ブリッジの入り口に仁王立ちしている少女の姿だった。 どう見ても12~13歳ぐらいにしか見えない。その娘はあまりにも場違いに見えた。 「何だお前は!民間人が何故ここに入り込めた!?」 クランプの誰何に 少女はぎゅっと体に力を入れて敬礼して答える 「失礼致しました!今回の作戦で補給とメンテナンスを担当しております MS特務遊撃隊所属、メイ・カーウィンであります!」 「おお、ダグラス・ローデン 殿の部隊の!それでは君がカーウィン家の御令嬢か!」 ラルが思わず喜びの声を上げる。 無理も無い。ダグラス大尉もまたメイの父親と共に親ジオン・ダイクン派であったためラルとは親交が深く、 現在はザビ家に冷や飯を食わされている状況も似た物があったからだ。 「若干14歳ながら、エンジニアとしても非凡な物があると聞いている 噂では、目隠しでザクの整備ができるそうだが・・・」 おぉ?という半信半疑のザワメキの中、メイは冷静に首を振った 「それは話に尾ひれが付き過ぎです。私は照明が落ちたハンガーで MS整備を続けた事があるだけです。そんな事より・・・」 それでも充分凄い事なんじゃないかと思うアムロだったが 自分に据えられたメイの視線に真剣な物を感じ姿勢を正した。 「さっきの話です。是非詳しくお話下さい!」 床に座り込んでいるラル隊(含む黒い三連星)を蹴散らすようにやって来たメイは 怖い顔でアムロの目の前に腰を下ろした。 「うっぷ!お酒臭い!!」 彼女の第一声に、その場の全員がコケた。 677 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2008/12/30(火) 01 14 22 ID Cm5Sg9U7 アムロはジオン製MSの操作関係で気になった事やシステムの問題点など こまごまとした指摘を思い付く限りメイに話す。 メイはそれをいちいち感心しながら丁寧に手帳にメモして行く 始めは面白半分で聞いていたラル隊や三連星の面々も、 アムロの鋭い指摘にだんだんとその表情に真剣味が増してゆくのだった。 「ソフト面に関しては以上です。しかし何より問題なのは、あれなんです」 アムロはコンソールに積み上げられた資料の束を指差した それは彼がクランプに山盛りで渡されたジオン製MSの資料だった。 「ジオン全体のMSにおけるシステムや操縦法をある程度統一して行かなきゃダメです。 ガンダムやガンキャノンを見れば判る通り、連邦のMSは徹底した管理で同一の規格部品を使ってます。 操縦方法もほぼ同一です。たぶんあの『ガンダムもどき達』もそうでしょう。 これは戦場において兵の負担を減らし、練度に関係なくある程度の結果が出し易く メンテ部品も調達し易い、という事になります」 「MSのシステムを統合する整備計画かぁ・・・ ジオンのMSって作り手が職人気質バリバリで≪そういうものだ≫って何となく思い込んでいたから 改めて部外者から言われると正直目からウロコだわ。プランを絞り込んで上に提出する価値はありそうね」 メイは腕を組んだまま深く考え込んでしまった なにやら忙しく頭を回転させている様だ。 「俺達ジオン兵のMSを扱う腕前は、連邦兵なんぞ足元にも及ばんぜ?」 「残念ながらジオンの兵士が全員中尉みたいな操縦技術がある訳ではありませんから・・・ それに戦争がもしも長引く様な事があれば、その差は顕著に戦力に現れると思います」 口を挟んだオルテガにアムロが申し訳無さそうに答える。 「そうだな。今回の戦闘でもジオン兵の練度は連邦のそれを上回っていた筈だ。 MSの性能の差と言えばそれまでだが、こちらは6機ものザクとベテランパイロットを多数失った。 これはいくらなんでも多過ぎる」 ガイアの言葉に皆が頷く。ラルが続ける 「アムロ、お前から見てどうだ。 連邦のMSにあってジオンに無い物は何だ?」 「まず、開発の理念が違うと思います。ジオンのザクは『対通常兵器』 連邦のMSは『対ザク』を初めから想定したものでしょうから」 周囲に重苦しい空気が垂れ込める。 かと言って、いまさら戦線に多数配備されているザクを一斉に取り替える訳にも行くまい。 しかし連邦があの「ガンダムもどき」の様なMSを今後どんどん量産化して各戦場に配備していくとなると ジオンの苦戦は避けられない現実となるだろう。 「ひとつ手があります。それをすれば ジオンのザクが連邦のMSと互角とは言わないまでも 少なくとも今日の様な事にはならず、ある程度は渡り合える様になる筈です」 アムロはゆっくりと周りを見回した。 周囲は固唾を呑んで彼の言葉の続きを待っている。 987 : 722修正版:2009/01/04(日) 20 09 54 ID ??? 「ソフト面とハード面でひとつづつプランがあります。 まずソフトの方ですが・・・」 ごくりとコズンが唾を飲み込んだ 「優秀なMSパイロットの実戦稼動データを一般兵の乗るザクのOSに移植するんです。 そうすれば未熟なパイロットや新兵でも一定以上のMS運用が見込めるんじゃないでしょうか」 一同は息を呑んだ。そんな発想は聞いた事が無い。 「ガンダムに搭載されているコンピューターは教育型または学習型と呼ばれるもので パイロットの戦闘時における有益な行動がその後の戦闘に自動的にフィードバックされるようになっています。 そのシステムを・・・」 「なるほど、ジオンがそっくり頂いちまうという事か!」 手の平で拳を打ち鳴らした ガイアの言葉にアムロは頷く 「ガンダムのシステムを解析すれば、同じ物がいくらでも作れます。 ジオンには優秀なパイロットが大勢いますから、それを搭載したMSに搭乗してもらう事で データ収集には不自由しない筈です」 ふと、アムロの脳裏を赤いザクが横切った あの恐るべき相手も今は味方なのだと思うと、何だか不思議な感覚が広がってゆくのを感じる。 「MS運用に関してジオンは連邦よりも一日の長があるはずですから。 そして、戦闘を重ねるごとに、ジオンのMSはどんどん優秀になって行きます」 「ただでさえ連邦よりも練度の高い兵に優秀なOSが搭載されたMSか。 まさに鬼に金棒って奴だな」 クランプが面白そうにニタリと笑う。 「あ!そうだった!私ここのハンガーにあるガンダムに入ってたデータ見せてもらったんですよ。 とても優秀なものでした。例えばあれなら充分に役に立つと思います。 ガンダムのパイロットはお亡くなりになってしまったそうですが よっぽど優れた技術をお持ちの方だったんでしょうね・・・」 メイの言葉に、何とも微妙な表情でラル隊の面々は互いに顔を見交わす。 アムロも所在なく鼻の頭を掻いた。 「あー・・・。もしそれをやるんだったら。さっきの。戦闘データ。このアムロのを。 絶対使え。絶対。 実験機なんだから。俺達のより詳しく。取れてんだろう?」 たぶん自分の容姿でメイを怖がらせない様にであろう 体をできるだけ屈めて、極めてたどたどしくオルテガがメイに話しかけた。 その様子に苦笑しつつもガイアはその発言に驚いていた 『プライドが高くMSの操縦に関して絶対の自信を持っている筈のこいつが 自分を差し置いて他人を、しかもこんな子供を推挙するとはな・・・ それだけこのアムロの実力を間近に感じたという事か』 「判りました!まだ正式にそうすると決まった訳ではありませんが、後でチェックしてみますね」 「・・・うむ」 物怖じというものを全くせず、元気良く笑ったメイはオルテガに答え ちょっと意外そうな顔をしてオルテガは引いた。 723 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2008/12/30(火) 18 33 54 ID Cm5Sg9U7 「OSパワーアップてのは判った。で、ハード面の方はどうなんだ? こっちは即効性が無いと意味がないぞ」 クランプが促す。アムロはそちらに向き直る 「・・・簡単に言えば、≪シールド装備の徹底≫です」 「な、何い?シールドだと!?」 ドッとブリッジに溜息と笑い声が同時に沸き起こった。 何を言い出すかと思えば、その程度だったのか。どの顔にもそう書いてある 周りの反応にアムロはうつむき唇を噛んだ。 その中でラルは腕組みをしたまま微動だにしない。 「・・・いや、アムロの言い分は正しいかも知れん」 一同の笑いをガイアが遮った 「黒い三連星」の三人も、誰一人笑ってはいなかったのである。 アムロは顔を上げた。 「さっきの戦闘で俺達は奴らの内の一体にバズーカで連続攻撃を仕掛けた。 しかしバズーカ弾を3発食らわせてもシールドを構えたそいつを完全に破壊する事はできなかったんだ」 「シールドを構えていない奴は簡単に頭を吹っ飛ばせたからな。 いかに盾が有効だったかという事なんだろうよ」 ガイアとマッシュの言葉にその場の笑い声は完全に掻き消えた。 MS-09ドムの持つジャイアント・バズの威力は ただの一発でザクを破壊するであろう事を知っているからであった。 「ガンダムの持つビームライフルはコストの問題で量産は後回しなんだと思います だから当面の問題は、あの『ガンダムもどき』が持っていたマシンガンです」 ガイア達三連星は敵MSの攻撃を思い出していた 遼機のザクの装甲をまるで紙の様にずたずたに引き裂いていたあの威力。 確かに、ザクの肩に付いている装甲版など何の役にも立っていなかった。 連邦のMSと比べて何という違いだろう。 「例え材質が多少弱くてもガンダムのシールドみたいに≪攻撃を真正面から受け止める≫んじゃなくて シールドの前面を曲面構成にしてマシンガンの≪弾の威力を逸らす≫形にすれば充分耐久性も上がると思うんです 形を大型の楕円形にしてガンダムのシールドみたいな覗き穴を付けるとか、裏側に予備の武器を装備するとか」 「うむ。汎用性を高めておけば例え今後新型のMSが配備されたとしても シールドの流用が可能だろうな」 ラルはアムロを見ながら誇らしげに頷いた。 801 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2008/12/31(水) 22 18 24 ID CKGNILHd 「こんな感じかしら?」 メイがさらさらとノートにスケッチしたイラストをアムロに差し出す。 楕円形の大振りなシールドに覗き穴が付いているデザインだ。 その横にラフなザクが描いてある。大体の大きさを示すつもりなのだろう。 「うん。いいと思います。大きさも丁度いい」 「だがまあ俺達のドムにはシールドなんざいらねえぜ? その為の重装甲なんだしバズーカ撃つには両手が使えなきゃだしな」 メイの意外な絵の上手さに感心しながら答えるアムロに マッシュが横からスケッチを覗き込みながら口を挟んだ 「左腕前腕部に取り付けるマウント式のシールドにしたらどうでしょう? バズーカを構える時に腕を曲げるとこう、 ちょうどコックピットを守るポジションになる様に形と角度を調節するんです」 実際にバズーカを構えるフリをしてみるアムロ。 それを見たメイがまたノートに素早くスケッチを描きおこし「こんなの?」と見せる。 今度は少し小型のシールドがMSの腕に付いている絵だ。 これなら高機動時にも取り回しに不自由は無さそうだ。 それを見たオルテガはぼそりと呟く。 「どうせなら、そのまま敵をブン殴れるスパイクが欲しいな・・・」 またまたメイがさらさらとペンを走らせ「こうですか?」と 嬉しそうにオルテガに見せる。だんだんノッて来たらしい。 視界の端でメイのスケッチを囲んだラル隊と三連星が寄ってたかって ああでもないこうでもないと大論争が巻き起こっているのを眺めながら ラルとガイアはまたグラスを傾けている。 「これは俺の独り言なんだが・・・どうも、上の動きがキナ臭い」 「・・・そうだろうな。非常時とはいえ、貴様がワシの援護に来るぐらいなのだからな」 ガイアの言葉にラルは溜息混じりに答える これは公然の秘密だが、ジオンの命令系統は一本では無い。それが多くの将兵に負担となり ただでさえ多くは無い戦力を無駄に分散させていたのである。 ラルとガイアはそれぞれが「対立」する陣営に属し、同じジオンでありながら 通常は共同作戦など望めない立場である筈であった。その垣根が今回取り払われたという事は・・・ 「何かある。と、いう事だろうな・・・」 苦虫を噛み潰した顔で呟くラルの言葉を待っていたかの様に WBのブリッジに通信のコールサインが鳴り響いた。 869 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2009/01/02(金) 11 44 01 ID eDu6UAPa メインモニターに映し出された人物は顎鬚を蓄えた厳つい風貌の男であった。 思わずメイが立ち上がる。 「今作戦、貴艦のバックアップを担当するMS特務遊撃隊指令、ダグラス・ローデンである。 久しぶりだなラル大尉!」 「おお!ダグラス大佐!また世話をお掛けしますぞ!」 旧友であり同士でもある漢との再会にラルの顔が思わず綻ぶ。 ダグラスはモニター越しにWBブリッジの様子を見回しメイの姿を見つけると 小さく息を吐き出してから静かに口を開いた。 「メイ君。君はそこで何をやっているのかね?」 メイは元気良く敬礼をしながら答える 「はい!ジオン製MSの改善強化案と今後の展望を、 現場の声を参考にしながら多角的に討論していた所です!」 「そうか。それはご苦労」 「えへへ」 「ところで、私が君をそこに伝令に行かせた理由を覚えているかね?」 「もちろんですよ!≪WBの機関部の仮調整終了。通常の70%の出力で巡航可能≫だという事を 艦長のランバ・ラル大尉にお伝え・・・あぁっ!私、肝心な事を伝え忘れていました!ご、ごめんなさいっ!」 本気で自分のドジに驚きながら、必死に時計回りに周囲に頭を下げまくるメイ。 「私ったら・・・!MSの事になると、他の事が見えなくなっちゃうんです! ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・!」 涙を浮かべて何度も謝罪する14歳。明らかに邪気は無く、なまじ可愛い顔をしているだけにタチが悪い。 ガクガクとした脱力感がメイの周りから放射状に広がって行くのが感じられる中、オルテガが大きな体を縮めながら 「いい。気にするな。お前は。悪くないから・・・」と、慌ててフォローしているのが微笑ましいと言えば微笑ましい。 それに追随するように「そうだそうだ!」「どっちかっつーとアムロが悪い!」等と賛同する声があちこちで上がる。 引き合いに出されたアムロは目をぱちくりした。 870 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2009/01/02(金) 11 44 49 ID eDu6UAPa 「すげえ・・・これが天然て奴かよ・・・」 クランプが体に力を入れ直しながら搾り出すように呟く。 この娘、少なくとも今までのラル隊の周辺にはいなかったタイプだ。 下手したら連邦のMSなんかよりもよっぽど手強い。 何しろむさ苦しいオッサン連中に全くこのテに対する免疫が無いのだ。 まず撃墜されたのがオルテガか・・・ちらりと横目で彼を確認しながらタラリと汗が流れた。 こめかみを押さえながらダグラスは謝罪の視線をラルに向ける。 「・・・聞いての通りだ大尉。うちの者が無作法でいろいろと申し訳ない」 「いやいや手をあげてください大佐。無作法なのはお互い様です」 苦笑しながら答えるラルに思わず相好を崩しかけたダグラスだったが その表情を一転真面目なものに戻した。流石に年の功と言う奴なのだろう。 「・・・聞いているか?」 「はい。この戦艦と捕獲したMSをどうするかで上がモメているという事ぐらいは。 しかし、それ以上はどこからも情報が入って来ておりません」 「これは、まだ不確定な情報なのだが」 一旦言葉を切ったダグラスは、ゆっくりと言葉を継ぎ足した 「どうもドズル中将が倒れられたらしい」 「何ですと!?」 ブリッジに激震が走った。しかしその脈動は WBのエンジンが消えていた命の炎を再び点し、それがブリッジに伝わり始めたものだとも感じられた。 885 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2009/01/02(金) 14 28 48 ID eDu6UAPa 黒い三連星達は独自のルートから情報を収集すべくブリッジを退出し、 それと入れ替わるようにダグラス大佐が金髪をアップに纏めた妙齢の女性を引き連れてWBに乗り込んできた。 「挨拶は後だ大尉。彼女はジェーン・コンティ大尉、私の秘書官だ」 「宜しくお願いしますラル大尉。早速ですが例の情報にはまだ確証がありません。 ただ、さまざまな方面からの情報を総合すると・・・」 「そうとしか考えられない、という事ですかな」 「はい。それと、これは【風聞】の域を出ない事なのですが」 言葉を選びながらジェーンが話しているのが判る ラルはじっと次の言葉を待った。 「ドズル中将は今回このWBとそれに搭載させたMS、捕虜となった乗組員の類を全て ≪ガルマ様の仇討ち≫とばかりに全国民の見守る前で・・・」 「まさか!?」 「・・・あくまでもそういう主張だったという【風聞】です。 通常ならば絶対にありえないような処遇ですが、ザビ家は実質的な独裁国家。 黒い物でも白と言えば白になる・・・その可能性はゼロでは無いでしょう。 ただ、連邦内部の機密情報や研究対象としての価値を鑑みた多方面からの反対意見も多く なかなか意見の統一ができなかったと。勿論これも【風聞】ですが」 ラルはじっとジェーンの顔を覗き込む。 ザビ家の内情にここまで詳しいこの女は何者だ。噂話を装ってはいるが、その信憑性は高いと思える。 内乱とも醜聞とも言えるザビ家のそんな情報を我々に流すメリットとは何か。 この女、敵か味方か。 ラルがジェーンの正体を計りかねていると、それを察したダグラスは苦笑しながら口を挟んだ。 「大尉、彼女の立場はちょっとばかり複雑でな。 だが彼女は基本的に我々の味方だ。そこは心得ておいて貰って構わん」 「は。大佐がそう仰られるのでしたら・・・」 引いたラルだが探るような視線はまだ彼女に向けたままだ。 それに気が付かないフリをしてジェーンは一度、髪をかきあげた。 「話を続けさせて頂いて宜しいですか?」 886 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2009/01/02(金) 14 30 15 ID eDu6UAPa 「ドズル中将はあの御気性ですので、周囲から何と言われようが御自身の主張を 頑として曲げ様としなかったと思われます。勿論これも【風聞】の・・・」 うんざりしてラルは手を挙げ彼女の言葉を遮った 「ジェーン大尉、それはもう宜しい」 「失礼しました。掻い摘んでお話します。そして少なくともごく最近までは 中将に体調的な問題があった等という話は聞いた事がありません。これは【風聞】でもです」 ぎょっとしてラルはダグラスを見た。ダグラスも目で頷く。 「まさか、中将が倒れられたというのは・・・!」 「待て大尉。まだ迂闊な判断は危険なのだ」 顎に手を当て考え込むラルだが ふいに顔を上げ、ダグラスに近付くと何事か小さく耳打ちした。 暫くラルの話を聞いていたダグラスは一瞬目を見開くとアムロの隣に立つセイラを凝視した。 ダグラスの視線を追ったジェーンはこの場にそぐわない金髪の美しい娘を見出し、少し意外な顔をする。 見るとダグラスは感極まった様子で視線を外そうとしていない。一体何だと言うのだろう。 ダグラスは大変な努力をしてセイラから目を逸らすと、冷静な声でラルに告げた。 「取り敢えずの目的地はマ・クベ大佐から指令を受けている」 887 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2009/01/02(金) 14 32 18 ID eDu6UAPa マ・クベ。あの暗い瞳をした「いけ好かない奴」かとラルは思った。 無表情で血色が悪く、いつもガラクタを弄繰り回しているあの男。 か細い声で奴の口から湧き出すのは、人を見下した嫌味ばかりだ。 実働派のラルとはまさに水と油の関係と言って良いだろう。たぶん向こうもそう思っている筈だ。 「我々はこれより一路バイコヌール基地を目指す。まずはそこでWBの完全修理と改修を行なう。 そこで簡易任命式が行なわれ、諸君らは辞令を受け取り昇進する手筈になっている」 「昇進ですか・・・そう言えばそんな約束でしたな」 もともと「部下の生活の改善の為」に、この無謀な作戦を引き受けたラルだった。 しかし今は新たな目的が生まれ、それに比べればドズル中将と約束した「二階級特進」など どうでもいい様にすら思える。が、目的の為には自分の立場は少しでも高くしておくに越した事は無いのだ。 ラルはそう思い直してダグラスに問うた。 「了解であります。ではその後、我々はどこに向かうのです?」 「・・・判らん。バイコヌールへ行けの一点張りだ。 恐らくそこで次の指令が言い渡されるのだとは思うが」 歯切れの悪いダグラスの言葉にラルは嫌なものを感じて顔を曇らせた。
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【SS】もしアムロがジオンに亡命してたら part4 18 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/03/28(土) 20 26 01.21 ID L8PbMu60 両手を負傷したレンチェフに替わり、バーニィが操縦する片足を損傷したグフを ニッキとシャルロッテのザクが両側から抱えるようにサポートしつつ行軍し、 念の為にマニングのザクが後方からの敵の追撃を警戒する。 ニッキの第二小隊と合流したレンチェフ達一行が野戦基地に帰り着いたのは、 その日の夕刻、日が沈む少し前の事だった。 「良く戻ったワイズマン伍長。レンチェフ少尉もご苦労。2人とも無事で何よりだ」 「申し訳ありませんゲラート隊長。大事なMSをロストしてしまいました」 本部テントの中、ゲラートの労いの言葉にもバーニィは硬い表情を崩さずに敬礼で答えた。 後ろで肩をすくめるレンチェフに目をやりながらゲラートは苦笑する。 「ゆっくり休めと言いたい所だが、ここは最前線だ。いつ状況が急転するか判らん。 次の命令があるまで待機だ。レンチェフは両手の治療を」 「こんなもん、ツバつけときゃ治りますよ」 「ダメですよ!どう見てもⅡ度熱傷じゃないですか! 医療スタッフに出来る限りの処置をしてもらわないと! まずは感染よけの注射ですね!」 「げ・・・俺、注射だけはちょっとな」 シャルロッテに引っ張られたレンチェフが退場すると、 それとは入れ替わりにテントに入って来たアムロがバーニィを見つけ、小躍りして喜んだ。 「バーニィさん!無事で本当に良かった!」 「済まない、心配を掛けたなアムロ。お前のナビのおかげで助かった。ありがとうな」 抱き合って喜ぶ少年兵達をしばらく目を細めて眺めていたゲラートは、 頃合いを見計らってアムロに問うた。 「どうだ。ヅダの改修具合は」 真剣な眼差しのゲラートに対してアムロはバーニィから離れ、背筋を伸ばしてから向き直った。 この剛健な軍人には、自在に周囲の空気をピンと張り詰めさせる力があるようだ。 だが、アムロの表情は明るい。 「先程、無事完了しました。バーニィさんが命懸けで集めた詳細なデータによって かなり細かい数値をリミッターに設定する事ができたんです。 ヅダの構造上の欠陥も判明しましたので、合わせて対策を講じる事ができました。 制限はありますが、これでヅダはザク等の汎用MSと同様に運用する事が可能です」 「本当か!やったなアムロ!」 「全部バーニィさんのおかげですよ」 報告途中なのにも関わらず再び肩を抱き合って喜び合う2人。 ゲラートはそんな2人を咎める様な事はせず、深く息を吐き出しながら静かな笑みを湛えた。 37 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/03/30(月) 12 57 27.02 ID uIZZWIc0 依然、敵陣の監視を続行しているル・ローアたち第一班との通信をニッキとゲラートに任せ、 アムロとバーニィはMSに修理整備を行なっている簡易工廠テントへと赴いていた。 この上空から発見され難い様に迷彩を施された巨大な工廠テントは、 MS調整を野ざらしで行なわない為に敷設された重要な空間である。 改修を完了したヅダは、懸架台の上、静かに屹立した姿で二人を出迎えた。 バーニィは感慨深げにそのMSを見上げる。 こいつにはあんなに危険な目に遭わされたというのに、 何だか深い絆で結ばれた戦友と再会した気がして何だか不思議だった。 あの、連邦軍の女性MSパイロットの声がまた思い出され、 そのせいなのかどうなのか、少しだけ頬が熱くなった。 「あれ?どうしたんです、顔が赤いですよ?」 「な、何でもないよ」 アムロの言葉を慌てて打ち消したバーニィは話題を逸らす様に、そこにいたミガキに話しかけた。 そうだ、今は浮かれている場合じゃない。 「もう、こいつの運用に危険は無いんですね」 「ああ。リミッターのおかげで出力に制限が掛かるが、通常機動ならまず問題は無い。 ただエンジンの冷却効率が悪いという欠陥は、 初期設計構造的な物にも関連しているから完全に解決する事は不可能だ。 最初期に設計されたMSだから構造的な熟成度は望むべくも無いんだがな」 「そうなんですか・・・それで、リミッター付きのこいつは、どのくらいの出力になったんです?」 「そうだな・・・出力・推力共にMS-05クラスって所だ」 「MS-05って、旧ザクですか!?・・・そいつはちょっと、 敵のMSに対してパワー不足なんじゃないかなあ・・・」 バーニィは不安げにヅダを見上げた。直接敵MSと何度もやりあった彼は、 連邦製MSの性能をイヤと言うほど思い知らされている。 敵にMSがいない状態を前提に開発され運用されていた旧ザクでは、 強力な敵MSには歯が立たないだろうと思えるのだ。 「確かにそうだが、この部隊でも現在マット・オースティン軍曹がMS-05を使っているんだ。 新型MSも急ピッチで配備されてはいるが・・・ 開発サイドの足並みが揃わずジオン軍全体にはまだまだ行き渡っていないのが実情だ。 苦しいが、我等は手元のカードで勝負するしかない。後は、ここで戦うんだ」 ミガキは自分のこめかみを人差し指でつついている。 「インサイドワークという事ですか・・・」 バーニィは嘆息したい気持ちになった。生半可な工夫ではあの敵MSには手も足も出ないだろう。 ミガキのその言葉は、気休めにしか聞こえなかったのだ。 だがその時、今まで黙っていたアムロが口を開いた。 「僕は、性能の劣るMSでガンダムと互角以上に渡り合った人を知っています。 戦い方次第で僕達にも同じ事ができるはずです」 アムロはまたもやシャアの駆る、あの赤いザクを思い浮かべている。 もうMSの性能に頼った戦い方をしてはいられない。 それに、それではいつまでたってもセイラの兄、シャア・アズナブルには追いつけないだろう。 シャアと直接会った事はないが、たぶん彼ならこんな状況でも 不敵に笑うのではないかと思えたからだ。 「それに、オペレーターをやっていて実感したんですが、他の隊に比べてこの部隊は、 集団戦術用の特殊なセンサー装備が充実しています。 それを使えば、やりかた次第でしょうが・・・充分、敵と渡り合う事ができると思います。 バーニィさんだって、あの時、あと一歩で敵を撃破する事ができたじゃないですか」 アムロの言葉にそうだなと頷きながらもバーニィは、 あの敵MS・・・そういえばあの女性パイロットの声の主は、 一体どんな顔をしているのだろうか?などと不謹慎な事を考えていた。 何考えてんだ、今はそんな場合じゃないだろうと判ってはいるのだが、 何故か取り止めも無くそんな事が浮かんでしまう。何だかマジで顔が熱い。 38 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/03/30(月) 12 58 54.68 ID uIZZWIc0 「だがな、こいつをただのMSだと思うなよ?こいつにはちょっとした仕掛けがしてあるんだ」 まるでこれが言いたかったんだと言わんばかりにミガキがニヤリと相好を崩した。 ギャラリーに新たな機体性能を公開してその成果を発表するとき、 その瞬間は技術者冥利に尽きるらしい。 「リミッターを任意で解除すれば・・・ 鎖から解き放たれたこいつは、短時間ながらヅダ本来の推力で機動する事が可能となる」 ほう、と、アムロはミガキの言葉に瞠目した。 「その状態での行動限界時間はおよそ5分程度だろうが、 その時点でのエンジンの状態によっても多少増減する。 だが、緊急回避時や戦場からの急速離脱には充分な時間だ。その用途は広いだろう。 ただし、この機能は一度の出撃で一回しか使用できない。 いいか、使いどころを間違えるなよ?」 アムロは思わず心の中で快哉を叫んだ。データでしか見ていないが、 ガンダムを越えたヅダの機動には密かに胸を躍らせていたのだ。 しかし懸念はある。まがりなりにもバーニィが危うく命を落としかけたMSなのである。 リミッター解除時の熱対策は本当に万全なのだろうか。 「万が一の事を考えてスイッチ一発で背部装甲パネルをパージできるようにしておいた。 これによりエンジンがほぼ剥き出しの状態となり、 機内に熱が篭る事を防ぎ冷却効率を大幅にUPさせる事ができる。 が、これはあくまでも緊急時のものだ。背部の装甲板が無くなる訳だからな。 特に戦闘中はむき出しのエンジンに攻撃を受けたらひとたまりもないだろう。 基本的にリミッター機能は万全だ。この装置を使う必要は無いだろうが、 もうMSの不備で悲惨な事故だけは起きて欲しくないんだ・・・」 アムロの問いにミガキは辛そうにそう答えた。 ヅダをめぐる一連の事故は技術者として身に詰まされるものがあるのだろう。 バーニィはそこまで考えた時にふいにめまいを感じてよろめいた。 顔だけではなく身体全体が何だか熱く、重い気がする。 変だな、今は別に・・・あの連邦パイロットの事を考えてはいないんだけど。 「どうしたんですバーニィさん!?」 「・・・いや、だから、なんでもないよ、ちょっとだけふらついただけだ」 異常に気付いたアムロが声を掛ける。 ロレツも怪しくなっているバーニィの額にミガキが急いで手をやると、その髭面を曇らせた。 「いかんな。かなりの熱がある。医療テントに運ぼう。アムロはゲラート隊長に報告してくれ」 「わ、判りました」 アムロが踵を返してテントを出ようとした時、ちょうど入って来たニッキと鉢合わせした。 ニッキの顔は緊張している。 「敵の大隊に動きがあったとル・ローア少尉から連絡が入ったぞ。 パイロットは至急、本部テントに全員集合しろとゲラート隊長からの通達だ・・・ って、おい、一体どうしたんだ?」 ニッキはミガキに支えられている状態のバーニィに気が付いて目を丸くした。 バーニィは朦朧とする意識の中で「何でもありません大丈夫です」 とニッキに答えたつもりだったが、その声は誰の耳にも聞こえていなかった。 67 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/04/01(水) 19 06 02.49 ID lZpxH1g0 「ワイズマン伍長の容態はどうだ?」 本部テントに入って来たミガキに対し、作戦室中央の大ぶりな机の周りに、 フェンリル隊全員を集め行われていたブリーフィングを一時的に中断してゲラートは尋ねた。 アムロは唾をごくりと飲み込んだ。隊員達も皆、不安そうな顔でミガキの言葉を聞いている。 「心配ありません、ただの過労だそうです。 いちおう被爆検査もしてみましたが、結果は陰性でしたよ。 危険な菌やウィルスも血液からは特に検出されませんでした」 ホッと安堵の声が一同の口から漏れる。 「まだ地球の環境に慣れないうちに過酷な連戦が続いたらしいですから、 一時的にホメオスターシスが低下してしまったんでしょう。 今は、栄養剤を飲んで眠っています。 まあ、昔も今も、体調を戻すには栄養の摂取と睡眠・・・に勝るものはありませんからね」 もともと2部隊を不眠不休で経由する強行軍で地球に降下し、 着任と同時に最前線で対MS戦闘に駆りだされたバーニィの体調は、 万全とは程遠いものだったのだろう。 そして自分以外の小隊が全滅するという前回の戦闘でのダメージが抜け切らないうちに フェンリル隊に転属させられ、すぐに欠陥MSで連邦の新型MSと 連戦するハメに陥ったバーニィ・・・ 倒れるのも無理はないとアムロは思った。 だがそんな中、泣き言一つ言わず、バーニィは自ら望んで過酷な任務を全うしたのだ。 この束の間の休息は彼が手にするべき当然の権利だろう。 アムロがそれをゲラートに進言しようとした時、 先に口を開いたのは両手を治療してここに駆け付けたレンチェフだった。 「隊長、奴は良くやりましたよ。今回だけはゆっくり休ませてやって下さい」 「私からもお願いします、ゲラート隊長」 「今回の作戦、バーニィの穴は俺が埋めます。 俺も皆さんにそうやってカバーして貰いましたからね」 レンチェフに続き、シャルロッテは厳しい顔で、ニッキは陽気に声を上げる。 自分が言おうとしていたセリフを全て彼らに言われてしまい、 所在無さげに口をぱくぱくさせながらアムロは、 ニッキが彼を“バーニィ”という愛称で呼んだ事を嬉しく感じた。 誰が心配するまでも無くバーニィは、 正式な仲間として隊の信頼を勝ち取っていたのである。 「・・・そうだな。MSが1機失われた事でもあるし、 どちらにしてもパイロットが一人余る。 この作戦、ワイズマン伍長には本部就き予備パイロットとしての任務を与える」 前線と本部の位置が離れ過ぎている今回の作戦では、 名目はどうあれ予備パイロットの出番は無い。 ただ休息を認めると言うのではなく、そこに何らかの役割を持たせているのが 何事に対しても厳格なゲラートらしかった。 そして、これならばバーニィが目を覚ました時、周囲に引け目を感じずに済むだろう。 ゲラートは素早くアムロに視線を移した。 「アムロ准尉、改修したヅダに搭乗しろ。ワイズマン伍長の必死の努力を無にするなよ?」 「了解!」 アムロはゲラートに敬礼を返す。バーニィは実力で皆に認められた。今度は僕の番だ。 良い顔つきをしているアムロを見たゲラートは、 彼の中に秘められた闘志を感じ取り、心配は無いなと頷いた。 「ブリーフィングを再開する」 ゲラートの言葉には無駄が一切無い。 フェンリル隊の全員は再び、机の上に広げられた大きな地図の上に目を戻した。 112 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/04/04(土) 01 22 26.48 ID aW/Znqk0 『6機の戦車を従えた小型陸戦艇が、監視中の敵大隊に合流しました。 画像を照合したところ、新型MSを搭載し、 レンチェフ達と交戦したという件の陸戦艇に間違いは無いと思われます』 ル・ローアからこの連絡が入った後、ゲラートは直ちにフェンリル隊パイロットを招集し 襲撃作戦を練っていた。 経緯はどうであれ、結果的に小型陸戦艇を取り逃がし、まんまと敵部隊との合流を許してしまった。 しかも敵駐屯地の周辺にジオンのMS部隊が潜んでいる事まで露呈させてしまったのである。 事態は悪化していると言わざるを得なかった。 マ・クベに襲撃を指定されたマルヨンマルマル時まで8時間程しか残されていない。 「レンチェフ、本当にその両手はMSの操縦に支障ないんだな?」 「大丈夫です。痛みもほとんどありませんぜ」 ゲラートの言葉に特殊グローブを両手に嵌めたレンチェフは嗤って見せた。 この内部に特殊なハイドロロコイドルト素材で作られたゲルパッドを内蔵したグローブは、 炎症を抑え感染を防ぎ自然治癒力を極限まで高める作用がある。 これは軽度の負傷兵が戦闘を支障なく行なう為に開発されたものであり、 連邦・ジオンを問わず現在の軍隊においてこのシートパッドは必携品なのであった。 宇宙世紀に入って医療テクノロジーはかなりの進化を見せており、 皮肉な事に戦争がそれを更に加速させてもいたのである。 ちなみに注射もこの時代、もはや針などを皮膚に刺したりしない無針注射器が主流となっていたが、 レンチェフはこれが殊の外苦手だった。それには理由もあったのだが・・・ 「よーし。これでル・ローア少尉のMS-07A、レンチェフ少尉のMS-07B、 俺、マニング軍曹、シャルロッテ少尉、スワガー曹長のMS-06J、マット軍曹のMS-05B、 そしてアムロのEMS-10F・・・都合8機のMSが作戦に投入できる事になった訳だ」 「EMS-10F・・・?」 聞き慣れないMSの形式番号に目を丸くしたアムロにニッキが片目をつぶる。 「そう。もうアレは『イカサマEMS-04』じゃない。 バーニィのおかげで正真正銘の改良機になったんだ。 今後はアレを正式にEMS-10F『ヅダ改』と呼ぼうぜ」 「Fはフェンリル隊の現地改修機という意味ね。ニッキにしては良いアイディアじゃないの。 隊長、構いませんよね?」 「いいだろう。許可する」 シャルロッテの問いにゲラートは笑みを浮かべて頷いた。彼女は更に言葉を続ける。 「でも、敵は大部隊です『ヅダ改』を加えた8機のMSと言えど、 無謀に突撃する訳にはいきませんよね隊長」 「そうだな。俺は取り敢えず3通りの襲撃作戦を考えた。皆の意見を聞きたい」 一人一人の目を見ながらのゲラートの言葉に全員がその身をグッと乗り出した時、 ル・ローアからの緊急通信が再度コールされた。 『こちらル・ローア。監視中の敵大隊から各方面に向けて 偵察部隊と思わしきMS部隊が多数派遣されています』 「くそっ!討ち漏らしたあの陸戦艇からの情報で、俺達が近くに潜んでいる事がバレちまったんだ。 奴ら、この基地を人海戦術で見つけ出すつもりだぜ」 レンチェフが唸る。彼にとってこの事態は痛恨の思いしかない。 ただでさえ此方は数が少ないのだ、受身になったら、確実に負ける。 多少強引でも敵部隊に“奇襲”を仕掛けるしかフェンリル隊が生き残る術は無いのである。 この場所を敵に発見されてからでは全てが水泡に帰する。ゲラートは決断した。 「全員MSに搭乗せよ!ブリーフィングは引き続き、 予定していたポイントまでの移動中に相互無線にて行なう!闇夜のフェンリル隊、出撃!!」 「「「了解!」」」 ゲラートの命令にパイロット全員が敬礼で答え、速やかに本部テントを後にした。 ここが正念場である。 1人残されたゲラートはオペレーター席に腰を下ろすと素早くレシーバーを装着し、 まずはル・ローアを呼び出した。 124 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/04/05(日) 02 53 46.46 ID /6flwJU0 切り立った崖に囲まれ、砂地の所々にもごつごつとした低い岩山が顔を出す殺風景で荒涼とした荒野。 闇夜のフェンリル隊のターゲットであるビッグ・トレーは、そこにいた。 ビッグ・トレーの周囲には数多くの小型陸戦艇が、まるで王を取り巻く様に駐屯しており、 更にその外周を61式戦車がぐるりと囲む様に展開、十重二十重の防御陣を構築している。 多数の投光機が焚かれ夜明け前にも関わらずその周囲は昼間のように明るい。 ビッグ・トレーはさながらライトアップでもされているかの様な風情だった。 アムロは夜半から一段と激しさを増した砂嵐とも呼べる程の突風に耐えながら ナイトビジョンを内蔵した双眼鏡を覗き続けた。 アムロ達一行は、あの後敵MSと遭遇することなくニッキ達第二班が当初、 敵を監視する予定だったポイントに無事到着する事ができていた。 ちょうどル・ローアの第一班が潜伏している地点とは敵大隊を挟んで反対方向にあたる位置だ。 この場所は第一班よりも敵との距離が近い為、 敵の様子を監視するにはこれしか方法が無かったのである。 陸戦艇の間にMSは見えない。が、ル・ローアの報告では 確認できただけでも十数機のMSがこの大隊には配備されているという。 現在偵察から戻っていないMS以外は陸戦艇の中でこの砂嵐を避けているのだろう。 アムロはもう一度、陸戦艇と61式を数えてみた。 ビッグ・トレーの他には陸戦艇が12。61式戦車が53。何度数え直してもその数に変化は無い。 アムロは油断無く敵を監視しながらも、 MSの中で移動中に行なわれたブリーフィングの様子を思い出していた。 ゲラート発案による3つの襲撃計画はどれも見事なものであったが、 その中でも最も成功率が高いだろうと思われる作戦が採用され、既にその役割分担も決められていた。 今までは自分自身の力量を頼みに単独で突出し、 常にスタンドプレー同然で戦っていたアムロにとって、 MSでの本格的な連携作戦の参加は初めてであった。 チームで戦い、チームで勝利する。そこにヒーローは生まれないが、 一人一人が与えられた役割を忠実にこなす事で全員が生き残る確率が増す。 戦争において生き残る事とは勝利と同義なのである。 やってみせるさとアムロは思う。後は静かに作戦開始時刻を待つだけだ。 「アムロ。ご苦労、見張り交代だ」 ニッキ少尉に背中を叩かれ、我に返ったアムロは、 小高い岩場のスキマに設えられた監視用の偽装網からもぞもぞと這い出し、 今の所異常はありませんと言いながら彼に双眼鏡を手渡した。 代わりにニッキは持っていたパワーバーをアムロに手渡してから偽装網に潜り込み、 先程アムロがいたポジションまで這い上がると、双眼鏡で敵大隊の監視を再開する。 「食欲は無いかも知れないが食っておけ。イザと言う時の踏ん張りが違う」 「ありがとうございます、遠慮なく頂きます」 パッケージを急いで破くと、アムロはこの軍用非常食にかぶりついた。 ジオン製のパワーバーは連邦のそれと比べて格段に味が良い。 続いてアムロはお尻のポケットから小型の水筒を取り出して咽も潤す。 砂粒でジャリついていた口の中が洗い流され、人心地がついた。 125 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/04/05(日) 02 55 48.52 ID /6flwJU0 「・・・ゲラート隊長達は大丈夫でしょうか」 「万が一の時の用心にマニング軍曹のザクを基地に残して来ているんだ。 あっちは彼に任せるしかない。俺達は俺達のやるべき事をやるだけだ・・・ん?」 ニッキの覗く双眼鏡の視界に、俄かに異変が起こっていた。 サイレンの音も風に乗って微かに連邦軍野営地から聞こえて来る。 「おいおい・・・こいつはまるで、猟犬が獲物を見つけた時みたいな反応だぜ・・・」 ニッキのその言葉を裏付ける様に、陸戦艇の内部に待機していたMSが次々と現れ出したのである。 その時、アムロとニッキのレシーバーにル・ローアから緊急コールが入った。 『緊急事態だ!敵の斥候が友軍部隊と戦闘に入った! どうやら俺達の野戦基地とは敵部隊を挟んで真逆の地点にジオン地上軍が潜伏していたらしい!』 「何ですって!?俺達以外にこの部隊を狙っているジオンの部隊がいたんですか!?」 『どうやらそうらしいな!敵を欺くにはまず味方からって諺もある。 もしかしたら俺達が襲撃している背後から敵を突く腹積もりだったのかも知れんな!』 それはゲラートが予測した通りの事態でもあった。 ル・ローアの推測はまさに正鵠を射ていたのだが、今の彼にはそれを知る術は無い。 マ・クベの命令により、味方である筈のフェンリル隊にすら極秘で潜伏していた部隊は、 皮肉な事にフェンリル隊よりもその規模が大きかった為に 連邦軍の斥候部隊をやり過ごす事が出来ずに発見されてしまったのである。 本来の計画ではフェンリル隊を生贄にして、悠々と敵本隊の背後を襲う筈が、 暴かれたゲリラの隠れ家同然に連邦軍の強力なMSが殺到するハメになってしまったのだ。 みるみる目前の部隊からMSが出払って行くのをニッキは半ば呆然と眺めていた。 それは敵の防衛網の綻びを意味していた。 「やったぜ!ここは暫く友軍部隊に頑張ってもらって・・・ あの厄介な敵のMSを出来るだけ減らしといて貰いましょうよ!その後で俺達は」 『バカ者!むざむざと仲間を見殺しにするつもりか!?第一班は偽装解除! 直ちに友軍の救援に向かえ!ガードが甘くなった敵本体への襲撃は、第二班のみで行なえ。 お前達ならば可能だ、やれ!』 ニッキの軽口をゲラートは叱責で切り捨てたのである。ニッキは思わず首をすくめた。 『第一班、ル・ローア了解!』 「第二班、ニッキ・ロベルト了解・・・すみませんでした!アムロ、行くぞ!」 偽装網から這い出したニッキはアムロを促してMSに向かう。 別れ際に聞いたラルの言葉どおり、ゲラート率いるフェンリル隊は素晴らしいとつくづく感じる。 アムロはヅダのコックピットに滑り込みながら、ふとラルの懐かしい顔を思い出していた。 158 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/04/08(水) 20 20 14.07 ID KjuvSm.0 ビッグ・トレーの艦橋を震わせた激しい衝撃に、 グリーン・ワイアット大将は手にしていたイングリッシュティーを取り落とし、 マイセンのカップは床に落ちて砕け散った。 「な・・・何事だ!?」 「こ、後方に被弾しました!!8時の方向から敵MSが現れた模様!我が隊は攻撃を受けています!」 「馬鹿な!伏兵が潜んでいたとでもいうのか!?」 ワイアットが視線を移すと、メインモニターには 視界を遮る砂嵐を掻き分ける様に姿を見せた4機のジオン製MSが、 ノイズ混じりながらもその姿をクッキリと映し出している。 5機のMSのいでたちは一言で言うならば重武装。後方には両手にバズーカを抱えているザクもいる。 必殺の装備を整え襲撃に挑んで来た様子がありありと窺える。 見る間に前衛の2機、マシンガンを両手に構えたザクと凶悪な殺気を纏ったグフが 最前列の61式戦車隊に襲い掛かった。 前衛を勤めるニッキのザクは、まず脚部に装着された3連ロケットランチャーを発射、 前方に密集していた61式数両を苦もなく吹き飛ばすと、 抉じ開けた敵の防衛線に機体を踊り込ませ、マシンガンを周囲に乱射する。 同じく前衛で敵陣に切り込んだレンチェフのグフは、ヒート・ロッドを薙ぎ払う様に振り回し、 61式戦車の残骸を次々と生み出して行く。そのすさまじい勢いはさながら荒れ狂う暴風の様だった。 今回の作戦の場合、陸戦艇からの攻撃は殆んど考慮しなくていい。 あまりにも距離が近すぎる為、長射程の武器ばかりを装備した陸戦艇からでは 味方を巻き込みかねない砲撃はできなくなるからだ。 それでも流石に、巨大な主砲の覗くビッグ・トレーの正面だけには立つ訳にはいかなかったが。 側方に展開した61式を撃破する事に集中していたニッキは後方に位置していた数両が、 自分の背中を狙い砲塔を旋回させた事に気付いていなかった。 だが、アラートで自分がロックオンされた事を知ったニッキのザクが振り返る前に、 それらの61式戦車は側面からのマシンガンの掃射で爆発炎上してしまった。 「サンキューアムロ!」 ニッキのその声に軽く手を上げて答えたアムロのヅダは、すぐに前衛MS2機の周囲に意識を戻した。 今回の襲撃作戦でアムロはウイングガードのポジションを任されている。 臨機応変に前衛のMSを援護し、バックスのMSを護衛する「遊撃」がその役割だ。 バックスのシャルロッテが駆るザクは2丁のバズーカと特殊爆弾を装備する決戦仕様であり、 機動力が極端に低く接近戦に対応できない為に護衛機が必要なのだった。 本来はこの作戦はル・ローアの第一斑と共同で当たる筈だったのだが、 第一斑が作戦から外れた為に全てを第二班で遂行せねばならなくなったのである。 だが、そのかわりに現在敵の部隊にはMSが不在だ。 これは僥倖と言っても差し支えないぐらいの好機であった。 「何故だ何故なんだ!・・・周囲警戒の責任者は誰だ!?極刑ものだぞ!」 普段のエセ紳士然とした態度とは打って変わってヒステリックに取り乱す上官を、 ブラン・ブルターク大尉はうんざりした眼差しで冷ややかに眺めていた。 敵は目前にいるのだ、今は責任者の追及をしている場合じゃなかろうに。 無能な上官に振り回される泥縄の現場。貧乏籤を引いたなとブランは天井を見上げた。 もともとのケチの付け始めはこのビッグ・トレーのエンジンが完全に壊れた事だった。 巨大な船体が仇になり、他の同型艦で曳航する事ぐらいでしか移動する事もままならないだろうが、 もちろんこの場に他で作戦行動を執っているビッグ・トレーを呼び寄せる事など不可能だ。 ならば座乗している司令官だけでも他の艦に乗り換えて 残りの部下もさっさと撤退なり進撃なりさせればいいものを、 この無能な上官は自分のメンツに拘るあまり、この巨大陸戦艇を離れる事を頑なに拒否し、 エンジンを何とか修理させる事に固執したのだ。 何の事は無い、それがジオンの勢力圏内ともいえるこの場所に 連邦軍の大規模で奇妙な駐屯地が出来上がった理由だったのである。 『自分の部隊を見捨てずにここに居残るのでは無く、 権力の象徴たるビッグ・トレーを簡単に降りられるかというのが真意だというのが救われんな』 もちろん救われないのは部下の方である。ブランは心中で溜息をついた。 「何をぼさっとしているブルターク大尉!こんな時の為に貴様等を残しておいたのだぞ! さっさと出撃準備に入らんか!」 怯えを孕んだワイアットの視線がブランを見ている。 この無能者と一緒の空気を呼吸する事に、そろそろ苦痛を感じていたブランは 形式だけの敬礼を残すと、せいせいした面持ちで第一艦橋を後にした。 174 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/04/09(木) 20 44 20.22 ID 3z/i5f20 累々とした残骸の中で前衛2機のMSはようやく動きを止めた。 最前列でアタッカーとして切り込んだレンチェフのグフとニッキのザクは、 中距離からアムロ、後方からシャルロッテの的確な援護を受け、 大したダメージを受ける事無くビッグ・トレーを取り囲む様に防衛陣を構築していた 53両の61式戦車を一両残らず壊滅させる事に成功したのである。 この様な近距離からでは巨大戦艦の三連装砲は使用できないし、周囲に展開している小型陸戦艇は ビッグ・トレーを背にしているジオンのMSに対して攻撃を仕掛ける事はできない。 連邦側からすると正に「詰み」の状態であった。 『ヘープナー少尉、ターゲットに爆弾を設置して砲台と足回りを完全に破壊しろ。 その後指揮官を武装解除させて乗組員を全員外へ引きずり出せ。降伏し投降する様に呼び掛けるんだ。 アムロ准尉は周囲警戒。ニッキ少尉とレンチェフ少尉はそのまま第一斑の援護に向かえ。 ミノフスキー粒子で敵の本陣が陥落した事が伝わらず戦闘が継続している可能性が高い』 道なりに設置してきたセンサーポールのお蔭で本部にいるゲラートの指示が各MSに明瞭に響き渡る。 「これを持って行って。敵のMSは強力みたいよ、気張んなさい」 「助かる。なるべく早く皆を連れて戻るからな」 シャルロッテのザクから、まだ残弾が残っているバズーカを一丁受け取ると ニッキのザクはレンチェフのグフと共に岩山の向こうに姿を消した。 それを見届ける間も無くシャルロッテは行動を開始する。 多数携行してきた小型爆弾をザクの手でビッグ・トレーの要所に次々と設置して行くその手際の良さに、 アムロは周囲を抜かりなく警戒しながらも舌を巻いていた。 猛烈な自信家のシャルロッテというこの女性、確かに言うだけの能力はあるのだ。 だがその刹那、アムロは嫌な気配をビッグ・トレーの内部に感じた。 数多くのエンジンの胎動が聞こえる。 それも、その全てがこちらに向けて敵意を放出しているようだ。これはまさか―― 見るとビッグ・トレー前面のハッチが前開きに開いて行くのが 側面に位置しているヅダから辛うじて見る事ができた。アムロの全身が総毛立つ。 「シャルロッテ少尉!早く!早くこっちに!」 「慌てないでよ、これで最後なんだから」 「敵艦の格納庫が開いたんです!奴ら、MSを隠していたんですよ!」 「な、何ですって!?あっ・・・!!」 ビッグ・トレーの左舷にいたシャルロッテのザクが身体を起こすのと、 飛来した砲弾にその左肩のショルダーガードが吹き飛ばされたのは同時だった。 ぐらりと体勢を崩したザクが船体側舷を滑り落ちてくるのを駆け寄って来たヅダが ヒザのクッションを思い切り効かせて受け止めた。 「あ・・・うぅっ・・・」 ありがとうアムロと言おうとしたシャルロッテは激しい吐き気と眩暈を感じ、そのまま口をつぐんだ。 激しい衝撃に脳が揺さぶられているのだ。アムロに受け止めて貰えなかったならザクは頭から落下し、 地面に叩きつけられていただろう。その場合、恐らく彼女の命はなかった筈だ。 ヅダはそっと地面にザクを横たえると彼女を背後に守る様に前に出て、 その前腕部に装着された特製シールドを構えた。 わらわらとビッグ・トレーから飛び降り地表に降り立ったのは、 先程シャルロッテを砲撃したガンキャノンを含む、何と8機もの連邦製MSだった。 216 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/04/12(日) 19 19 08.00 ID SbbCK0c0 「馬鹿野朗が!」 ガンキャノンに搭乗したブラン・ブルターク大尉は、 ビッグ・トレーに取り付いていたザクを仕留め損なった自分自身に毒づいた。 どうもこのガンキャノンというMSはしっくり来ない。自分の性に合わないのだ。 腰抜けのワイアットから、ようやく出撃命令が出たと思ったらこのザマだ。 どうやら長い待機期間中に腕の方もサビ付いてしまったらしい。 「全員密集隊形で敵を追い詰めろ!だがまだ発砲はするなよ!」 部下である7機の陸戦型ジムに指示を飛ばしながらブランはガンキャノンを彼らとは逆に一歩後退させた。 敵戦力はビッグトレーのモニターで既に解析済みだ。 前方にいるのは手負いのMS-06ザクともう1体のMSのみ。 ザクじゃない方の詳細は不明だが、携行武器はザクマシンガンに間違いは無い。 あの武器ではこちらのMSの装甲を撃ち抜く事ができない事は実証済みだ。 それに先程から観察していた限りでは何やら動きがえらく鈍い。 あれではこちらのジムのスピードに付いては来れないだろう。やろうと思えば何時でも殺れる。 『パイロットの投降は許さん。なぶり殺しにしてやる・・・!』 残忍な衝動がブランの中に湧き上がる。 ワイアットは自分が率いる部隊よりもまず、自身とビッグ・トレーの保守を第一に考える男であり、 いかなる時も、自らの座乗艦に搭載された8機のMSを出し惜しみ、 決して出撃させようとはしなかった(その分酷使される随伴艦が搭載するMSこそ良い面の皮であった)。 今回も敵戦力を損耗させるという名目で、 50両以上もいた友軍の61式戦車が全滅するまで出撃する事が許されなかったのである。 味方の兵士を見殺しにせざるを得なかったブランのストレスは今や限界に達していた。 「ア、 アムロ・・・私に構わず・・・退却しなさい・・・・・・」 眩暈が治まらず、自由にならない身体をもどかしそうに捩りながらシャルロッテは声を絞り出した。 今のこの状態ではオートパイロット無しではザクを立たせる事すらできないだろう。 プライドの高いシャルロッテにとって、 自分の存在が他人を危険に晒す事になる事など絶対にあってはならない失態であった。 「このままでは貴方までやられてしまう・・・ニッキ達の後を追って・・・彼らと合流を・・・」 ぐっと込み上げてくるものを堪えきれず、彼女はヘルメットの中で吐瀉物を吐き出した。 苦しさと情けなさに涙が溢れ出す。 普段、周囲にさんざん偉そうな事を言っておきながらこの姿は何なのだと、 折れそうになった彼女の心を遮ったのはスピーカーから聞こえて来たアムロの闊達とした声だった。 「シャルロッテ少尉。このまま立ち上がる事をせずに、じっとしていて下さいね」 シャルロッテは驚いた。横たわる彼女のザクを庇う様に、 目の前では体勢を限りなく低くしてシールドを構えたヅダが迫り来る8体の敵と対峙し、 こちらに背中を向けている。 このギリギリの状況で少年は何かを狙っている。まさか、敵に仕掛けるつもりなのか。 「な、何をするつもりなの!?ダメよ!無茶しないで・・・!」 「大丈夫です。すぐ終わらせますよ」 やけに冷静な声でアムロが答える。彼女は恐怖した。そんな馬鹿な、幾らなんでも無謀に過ぎる。 シャルロッテは必死に訴える。 何も判っていない、逃げなさい、あなたは戦闘経験が浅く怖い物知らずなだけなのだと。 しかしその後、いくら彼女が必死に呼び掛けても、一向にアムロからの返事は無かったのである。 217 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/04/12(日) 19 20 29.64 ID SbbCK0c0 このカラクム砂漠はコロニーが地球に落ちてからというもの、 地形と気流の関係でカスピ海から吹き付ける海風が渦を巻き、 台風並みの竜巻を伴う激しい砂嵐が断続的に巻き起こる地帯と化してしまっていた。 その砂風の渦はカラクム砂漠を北上しアラル海を抜け、 バイコヌール地方まで達する事すら稀ではなかったのである。 だが今、ゴッ!という音の残滓を残してあれ程吹き荒れていた砂嵐が瞬時に掻き消えた。 完全なる無風、砂嵐の渦の中心である「目」の部分に周囲の地帯が突入したのである。 今までの嵐がまるで幻だったかの様な環境の激変に、 敵も味方も一瞬の空白が生じたその時、アムロはただ一人動いた。 敵はMS8機。ほぼ3小隊分に匹敵するMSにたった一機で突撃するなど通常で考えたら正気の沙汰ではない。 しかも、自由自在の機動で敵を撹乱できる宇宙とは違い、ここは重力に縛られ動きを制限された地上なのだ。 だが敵は今だ密集隊形のままであり部隊フォーメーションがとれていない状態だ。お誂え向きに風も止んだ。 アムロは迷わずヅダ改のコンソールに新たに設えられた小さな透明なカバーを跳ね上げ、 中のスイッチを強く押し込んだ。 途端にコックピット内に赤色灯が点灯した。一瞬モニターに照り返したアムロの顔も紅に染まる。 緊急事態を示すアラート音が断続的に鳴り始め、メインモニターの右下部にデジタルタイマーが表示された。 リミットタイムは05:21:09。 敵はガンキャノンを含む8機のMS、流石に数が多いか。少々骨が折れそうだ。 だが、やれる。 アムロはぺろりと舌で唇を湿らせた。 このヅダ改ならやれる。 バーニィが命賭けで生み出したこのMSの力を自分ならば最大限に引き出せるという確信がある。 そしてオペレーターを経験して培った知識と戦法を総動員すれば、この難局を切り抜ける事ができる筈だ。 緊張を伴う高揚感の中で彼は、ラル隊の目前でWBを襲撃した時の事を明瞭に思い出していた。 あの時はガンダムのモニターにリミットタイムを表示させていたのだ。 コックピット内に赤色灯はなかったけれど。 アムロは思わずクスリと笑った。それは妙に心地良く、精神を研ぎ澄ますのに丁度良い儀式となった。 「EMS-10Fリミッター解除!カウントダウン開始!ブラインドフィルターON!」 ヅダのモノアイが一段と輝きを増し、ギョロリと敵MSを睨み付けた。 それは羊の皮を被った狼が、拘束されていた鎖を引き千切り獰猛な牙を剥き出した瞬間であった。 245 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/04/15(水) 17 46 45.32 ID /nS4O/M0 【05:19:28】 ヅダはゆっくりと、まるで握手でも求めるかの様に手を前方に差し出した。 その掌に乗っていた小さな塊りはヅダの手を離れ、 軽い放物線を描きながら前進して来ている7機のジムの頭上に達した。 放り投げられて来た塊りを、虚を突かれた7機のジムは、呆けた様に目で追っている。 「グレネードだっ!防御・・・!」 後方でそれに気付いたブランが叫ぶが、途端に強烈な閃光が周囲に弾け、 夜明け前のカラクム砂漠にクッキリと光と影の陰影を刻み付けた。 ミガキ特製、光量5倍の対MS用閃光手榴弾が炸裂したのだ。 「うおおっ!」「しまった!?」「!!」「モニターが!」「あっ!」「!?」「何だ!?」 そのヅダのあまりに何気ない動きに意表を突かれ、閃光を間近で捉えてしまった7機のジムは、 シールド防御が間に合わず、モニターがホワイトアウトするという事態に陥った。 連邦のMSパイロットはジオンのそれと比べると練度が低い。図らずもそれを実証する事態であった。 アムロはそれを見逃さない。フットペダルを踏み込むとバーニアを吹かし、 およそ100メートルの距離を弾丸の様に一気に飛び越え、敵陣の懐に入り込んだ。 瞬間、あの時バーニィを驚愕させた強烈なGが今度はアムロを襲う。 が、寧ろアムロはそれを心地良い加速だと感じ、その凶悪なベクトルを全て攻撃に転化した。 「ぐぶっっ・・・!」 轟音と共に機体に加えられた激烈な一撃に、ジムのパイロットの意識は消し飛んだ。 敵の集団に飛び込んだヅダは加速を緩めないまま、 左前腕部に装着されたスパイクシールドによるパンチを棒立ちのジムの顔面に叩き付けたのである。 頭部を完全に砕かれた一体の陸戦用ジムがもんどりうって後方に吹き飛ばされて来る。 ブランは何が起こったのかと目を見開いて眼前に展開している光景を眺めているしかなかった。 『どうせなら、そのまま敵をブン殴れるスパイクが欲しいな』 以前WBのブリッジで、MSにおけるシールドの有効性を話し合っていた時にオルテガ中尉がそう言い、 メイ・カーウィンがスケッチして見せた特殊シールドが今、ヅダには装着されている。 連邦軍のMSにはザクのメインウェポンである120ミリマシンガンが通用しない。 そしてザクのシールドは肩に固定されてしまっている為、取り回しが悪い。 その現実にアムロは攻撃と防御を兼ね備えた接近戦の武器としてミガキ達メカマンに「これ」を提案し、 ヅダ改修の傍らで急造して貰ったのだ。 通常ザクの右肩に装着されているL字型の装甲版を、 方向を逆にして左手の前腕部に取り付けてあると思えばいい。 その内部にはグリップが取り付けてあり、 これを握り込む事で拳まで完全に覆うシールドを固定するのだ。 オルテガの提案通り、ナックルガードの部分には3本のスパイクが埋め込んであり、 その鋭い切っ先は凶悪な輝きを放っている。 これはナックルガードの部分にボルト穴を切り、 ザクのショルダーガード用スパイク(スパイクのみ取り外し可能なタイプ)を移植したものである。 現地改修の急場凌ぎに違いは無かったが、その威力は予想以上だった。 246 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/04/15(水) 17 48 37.03 ID /nS4O/M0 「な、何だ!?」 後方にいたブランは眼前で繰り広げられている光景に驚いている暇すら無かった。 密集したMSの足元から白煙が激しく立ち上り始めたのである。 あらかじめアムロは、飛び込みざまに敵MSの足元めがけて数個のスモーク・グレネードを放っていたのだ。 「各種センサー起動。パッシブセンサー及びサーマルセンサーON!」 濛々たる白煙に視界が遮られるが、種類の異なるセンサーを同じモニターの画面で素早く照合解析する事で、 見え難かった周囲の敵の位置をほぼ完全に特定する事が可能となるのだ。 こんな戦法、ガンダムだけに乗っていた時には考えもしなかっただろう。 これはアムロが性能の劣るMSを補佐するオペレーターを経験した事で 初めて身に付けたテクニックであった。 敵は密集している為、視界が遮られた状態では後方にいるガンキャノンも下手に味方を援護する事は出来ず、 周囲のジムは同士討ちを恐れてビームサーベルを振る事も出来ない。 ヅダの独壇場であった! アムロは左のバーニアだけを吹かして機体を急激にターンさせながら、 スパイクシールドを左フックの要領で右にいたジムの脇腹にえぐり込ませた。 ルナチタニウムの装甲をひしゃげさせ、ボディをエビ反らせながら吹き飛ぶジム。 スパイクシールドはとてつもなく重く、遠心力をも利用しなければ使いこなす事は不可能な武器である。 しかしアムロはMS-07Hに搭乗した時の経験で、重心移動を攻撃に転用する術を身に付けていた。 「重さに逆らわず、利用する!動きを止めずに、攻撃する!」 アムロは自らの攻撃の手順を確認するように叫びながら、 3機目のジムに機体の回転を利用した足払いを掛け、 後方に転倒させてからその頭部をスパイクシールドで打ち砕いた。 「!!」 稲妻がアムロの脳裏に閃く。ヅダが背中から袈裟懸けに切り裂かれるイメージが浮かんだのだ。 それはまさに、センサーの解析範疇を超えた超感覚だった。 「背部装甲、パージ!!」 咄嗟にアムロは爆発ボルトを点火してヅダの背部エンジンを覆う装甲板を後方に吹き飛ばした。 それはミガキが念の為にヅダに追加した緊急装置だったが、 吹き飛ばされた装甲板は、視界が利かなくなった恐怖のあまり、 ヅダの背後で闇雲にビームサーベルを振り回していたジムに、ヅダ本体の代わりに切り裂かれた。 「や、やった!手応えがあっ・・・!」 機体の動きを止めた未熟なジムのパイロットが快哉を叫ぶ暇をアムロは与えなかった。 次の瞬間、スパイクシールドの一撃で正面からコックピットを潰されたジムは、 墓石の様に後ろに倒れ込んだのである。 同時にスパイクシールドの内部で握り込んでいたグリップの付け根が折れ、 シールドは地響きを立ててヅダの足元の砂地に落下した。 「しまった、溶接した部分が衝撃に耐え切れなかったのか・・・!」 アムロは地面に転がったスパイクシールドを残念そうに見つめた。もうこの装備は使用不能だ。 だが、急造品にしては良く持ってくれたと言えるだろう。 247 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/04/15(水) 17 52 55.62 ID /nS4O/M0 【03:52:07】 アムロはちらりとタイマーを確認してからヅダの手に残ったグリップを捨てると、 素早くヒートホークを抜き、いまだ白煙が立ち込める中、残る敵MS2体に迫る。 シールドと装甲を同時に失ったヅダの防御力は限りなく低下してしまった。 油断する事は決して許されない。 だが、敵からこちらは見えないが、こちらから敵の位置は丸見えだ。 ヅダのヒートホークがたちまち赤熱してゆくのが判る。 アムロに狙われた2体のジムの命運は、風前の灯火であった。 【02:17:24】 ブランは忸怩たる思いだった。 彼の搭乗しているガンキャノンは白兵戦を得意とするMSでは無い為、 乱戦に陥っている現場に飛び込むことができないのだ。 1機、また1機と部下のジムが落とされて行くのが、切れ切れに届く断末魔の通信でそれと判る。 ガンキャノンに搭載されている音紋センサーで、白煙の中で蠢くMSを察知する事ができてはいるのだが、 敵味方入り乱れている為に迂闊に砲撃を仕掛ける事もできなかったのである。 事ここに至っては、スモークが晴れるまで待つか、 敵がスモークから飛び出して来た所を狙い撃つしかない。 ブランはキャノン砲の砲身を跳ね上げ、ビームライフルを構えていた。 敵MSの武器は白兵戦用の物だったから、こちらを攻撃する為には接近して来る必要があるはずだ。 「俺の射撃からは逃げられんぞ。姿を現した時が貴様の最後だ・・・!」 彼はビームライフルの射撃に絶対の自信を持っていた。 白煙の中、恐らく敵であろうMSの機影は追えている。照準も既に付け終えている。 が、完全に敵だと確信が持てない為にトリガーが引けないだけなのだ。 まさか部下のMSを誤射する訳にもいくまい。 248 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/04/15(水) 17 53 38.81 ID /nS4O/M0 だがその時、目を凝らしスコープを覗き込むブランの瞳に緊張が走った。 次の瞬間、ガンキャノンの機体は断続的な激しい衝撃に打ち据えられ、 ブランは覗き込んでいたスコープにヘルメットを激突させたのである。 メインモニターは激しい衝撃と共にブラックアウトし、 緊急事態を知らせるアラートがけたたましく叫び始める。 ダメージモニターには今の被弾でガンキャノンの頭部と右マニュピレーターが欠損した事が示されていた。 それはこのMSが一瞬で戦闘不能にされてしまった事を意味していた。 「まさか・・・銃撃されたのか・・・!」 朦朧とする意識の中でブランは驚愕していた。 白煙の中からマシンガンの掃射を浴びせ掛けられた、のである。 「何故だ・・・敵のマシンガンではこちらの装甲を撃ち抜けなかった筈だ・・・むうっ!?」 ふたたび巻き起こり始めた砂嵐に白煙が吹き飛ばされると、 そこには累々と地に倒れ伏す陸戦型ジムの中、 ただ1機の敵MSが肩膝をついた姿勢でこちらにマシンガンの銃口を向けている姿が現れた。 「やはり敵の武器は、敵のMSにも通用するみたいだな」 ヅダが手にしているのは100ミリマシンガン。 それは、ブランの部下の陸戦型ジムが携行していた武器であった。 アムロは乱戦の中、倒した敵MSからこれを奪い取っていたのである。 しかしスモークというブラインドの中、照準が連動していない筈の敵の銃で、 ターゲットに攻撃を命中させるなど並の技量では無い。 ブランは敵パイロットの恐るべき才能に燃えるような嫉妬を覚え、 逆にそれが彼の敗北感を圧して意識を明確なものにした。 「くそおっ・・・!こんな所では・・・死なんぞ!」 ブランは必死で意識を保つと、破損したガンキャノンの上半身の「Aパーツ」を強制排除し、 コアブロックを下半身の「Bパーツ」から上空へ射出させた。 アムロは冷静に狙いを付け、変形したコアファイターに向けて100ミリマシンガンを掃射する。 弾丸はコアファイターのフラップに命中し、安定を失った同機はコントロールを失い、 西の空に落下軌道で飛び去った。 どちらにしろ、あのコアファイターを追跡する戦力はこちらには無いのだ。 墜落を免れるかどうかはパイロットの腕次第だろう。 【00:00:00】 タイムアウトを告げる警告音が短く3回鳴り響くと、 コックピット内の赤色灯は消え、アラームも鳴り止んだ。 静寂を取り戻したシートでアムロはヒートゲージを確認する。 問題は無い、温度は通常通りに下がりつつある。 ミガキの言葉は嘘ではなかったのだ。 アムロは今度こそ深く息を吐き出しながら、 地面に片膝を付けたままだったヅダをゆっくりと立ち上がらせた。 横たわるザクの中でシャルロッテは見た。 吹き荒ぶ砂風の中、荒野に昇り行く太陽の光を照り返す、 敵の残骸の中から立ち上がったMSの雄々しい姿を。 そこに彼女は、劣勢のジオン軍に誕生した、 運命を逆転する力を持った英雄の姿を垣間見た気がしたのである。 318 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/04/21(火) 00 31 13.36 ID OpRCNhY0 巨大な岩山の裂け目に巧妙に偽装し潜伏していたジオン軍MS部隊を襲撃する為に ワイアット提督から直々に駆り出されたクリスチーナ・マッケンジーとマット・ヒーリィは、 それぞれの陸戦型ジムで強襲部隊に参加していた。 襲撃部隊は既に敵と交戦に入っている先行偵察隊を含め、 陸戦型ガンダム2機と陸戦型ジムで構成される全12機からなる。 数的には4小隊の合同作戦という事になるのだが、実態は各部隊からの寄せ集めの集団であり、 小隊間の連携が取れているとはお世辞にも言えるものでは無かった。 場当たり的な作戦を突発的にワイアットから指令された為、小隊員が一同に会した時、 果たして現場の指揮官を誰にするかも厳密には決められていなかったのである。 部隊が混乱するのも当然であった。 それでも奇襲に成功していた先行部隊は陸戦型ジムの性能の高さにも助けられ、 ジオンMS部隊の主力を占めるザクを次々と撃破していった。 しかし、当初こそアイドリングも殆ど済んでいない敵MSを蹂躙していた連邦軍だったが、 完全に戦闘準備を整えた1機の新型MSドムが現れると状況は一変した。 ドムの装甲はザクとは比較にならないほど厚く、 携行するバズーカの威力は陸戦型ジムをも吹き飛ばし、 操縦するパイロットの練度も高かったのである。 しかもジオン軍のMS部隊は現れたドムを指揮官として連携し、 完全に体勢を立て直す事に成功してしまった。 ジム部隊は一転して、一機、また一機と敵MSに包囲され、 集中攻撃で各個撃破されて行く立場となったのである。 経験の浅い連邦軍は完全に浮き足立っていた。 「マット中尉!中尉が全部隊の指揮を執って下さい!このままでは!」 「だめだ!ここで俺が口を出したら部隊が更に混乱してしまう!」 クリスの提言を即座に却下しながらマットは、 この混乱を招いた原因たる2機の陸戦型ガンダムを睨み付けた。 この二機のMSに搭乗する2人の大尉が、 それぞれ現場での指揮権を最後まで譲らずにいた為に指揮系統が2つ存在する事となり、 壊滅寸前だった敵に付け入る隙を与える事となってしまったのである。 瓦解寸前なのは今や連邦軍の方であった。 マットの所属するMS第三小隊はあくまでも特殊部隊である。 ラリー・ラドリー少尉のジムもロストしてしまった為、 本来はオデッサまでは実戦に参加しない筈のクリスを伴い、 殆ど数合わせ同然でこの作戦に合流させられたマットに発言権など無いに等しかった。 はっきりとは判らないが、現在も稼動しているこちらのMSは恐らく8機を割っていると思われた。 このままでは確かにジリ貧である、マットの頬を一筋の汗が流れ落ちたその時、 彼らの背後で突如爆発音が鳴り響いた。 「な、何だ!?」 「て、敵です!背後からも敵のMS部隊が!」 この状況で挟撃・・・! マットはくず折れそうな絶望感に囚われそうになるのを辛うじて回避すると、 クリスの操縦するジムへ呼び掛けた。 「マッケンジー中尉、俺から決して離れるんじゃないぞ!」 「り、了解です!」 この期に及んでは最早、自分の力の及ぶ限り1人でも多くの友軍兵士の命を救う事に全力を尽くすしかない。 悲壮な決意を固めたマットは知る由も無かった。 後背から新たに現れた敵の部隊の中には偶然にも彼と同じ名前を持つマット・オースティン軍曹がいる事を。 彼らの背後を突いたのは、ゲラートの命により、 おっとり刀で駆け付けたル・ローアが率いる「闇夜のフェンリル隊」第一班だったのである。 358 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/04/23(木) 01 00 50.70 ID I/Na6/.0 指揮車であるホバートラックで全てをモニターしていたゲラートは、瞑目していた。 アムロの戦闘能力は、軍人として羨望を覚える程の凄まじいものだった。 相手の視界を完全に奪い、データ解析行いながら戦闘を行うというスタイルは ゲラートも想定しシミュレートした事がある。 が、誰に教えられた訳でも無いのにもかかわらず、 実戦でそれをやってのける15歳の少年が存在したとは・・・ これを痛快と言わずして何と言うのか。 年若き部下のズバ抜けた戦闘センスを目の当たりにして、驚くと同時に、 ふつふつと込み上げて来る笑いも抑える事ができない。 ゲラートは通信装置をONにした。 「ヘープナー少尉。現状を報告せよ」 『・・・・・』 「ヘープナー少尉!聞こえないのか!?」 『は・・・はい!失礼しました・・・アムロ准尉が・・・その・・・信じられないんですが 敵MS・・・8機・・・を、一人で・・・殲滅させました・・・・・・あっ!あれは!?』 突発的な何かを目撃して、呆けた様な声を出していたシャルロッテの声が正気を取り戻したのが判る。 ゲラートは眉をひそめた。 「どうしたヘープナー少尉」 「信号弾です!ターゲットの巨大陸戦艇が信号弾を打ち上げました!」 砂嵐が過ぎ去った朝焼けの空に、まばゆい光球がいくつも炸裂する。 事ここに至って、ようやくワイアットの座乗するビッグ・トレーは、 揮下の部隊に対し「総員撤退」命令を発布したのだった。 359 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/04/23(木) 01 03 37.95 ID I/Na6/.0 ル・ローア達に後背を付かれたマット・ヒーリィと クリスチーナ・マッケンジーら連邦軍MS部隊の苦闘は続いていた。 乱戦となればMSの扱いに慣れていない連邦軍は更に不利となる。 こうなっては自分が殿(しんがり)となって後方からの敵を食い止めている間に 指揮官機の元に散開している部隊員を集合させ、 全MSが総力を結集して突破口を開くしか道は残されていない。 元々こちらのMSの方が性能は高い。 数さえ揃えば陸戦型ジムの部隊はジオン軍にとって脅威の軍団と化す筈なのである。 マットはそれを、陸戦型ガンダムに搭乗する2人の大尉に進言しようと回線を開いた。 「!!」 刹那、サブモニターを横切った影にマットは反射的にジムのシールドを上げ、振り向きざまに構えさせる。 鈍い衝撃と共に何かがシールドにぶつかり、そのままクリスのジムの足元に跳ね返ってごろりと転がる。 それは、今まさにマットが通信しようとしていたゴードン大尉が搭乗する陸戦型ガンダムの頭部であった。 「ああっ!?」 物言わぬメインカメラに見つめられたクリスが短い悲鳴を上げる。 この哀れな髑髏は件のドムに白兵戦を挑まれ、 ヒート剣の一閃によって瞬く間に切り伏せられてしまった成れの果てである。 見るともう一人の大尉が搭乗する陸戦型ガンダムも、見るからに手練れだと判るツノ付きのザクに、 背後からバズーカの直撃を食らい、今まさに沈んだ所だった。 「マット中尉!12時方向にビッグ・トレーからと思われる信号弾を確認しました!」 「何だって!?」 クリスの通信にメインカメラを振り向けると、確かに朝焼けの空には、 幾つもの光球が輝きを放っている。マットは我が目を疑った。 「『総員撤退』だと!?馬鹿な!ビッグ・トレーが墜ちたのか!?」 「我々のいない隙にジオンの別働隊に襲われたのかも知れません!急いで戻らないと・・・!」 「いや、撤退命令は出ている。ならば、ここから俺達は本来の作戦行動に戻ろう。 このままポイントBに向かう。上手くすれば戦技研の陸戦艇部隊と合流できるだろう」 そう。今回戦技研の試験部隊はワイアットの横槍で進路を捻じ曲げられて合流させられただけで、 元々こんな場所で駐屯する予定など無かったのだ。 モニター越しにクリスに厳しい表情を見せたのは一瞬、 マットは作戦参加中の全MS部隊員に繋がる非常回線に切り替えた。 「作戦行動中の全部隊員に緊急連絡!ゴードン、クライフ両大尉がやられた! 俺はMS第三小隊のマット・ヒーリィ中尉だ。 現時点からこの場の指揮は俺が執る!異議は認めない! 全員生き延びる為に俺の指示に従って冷静に行動をしてくれ!」 マットの通信にほうほうの体で集まって来た陸戦型ジムは僅か4機のみであった。 12機いた筈の連邦が誇る新鋭MSが半数に減ってしまったのだ。 いずれの機も損傷が目立つ惨々たる有様であった。 「ワイアット提督のビッグ・トレーが墜ちた。後背からも敵が迫っている。 ここは挟撃を避ける為に前方の敵陣を全力で突破する。 俺を含め3機がフォワード、3機がバックスだ。フォーメーションを崩すな。 バックスはシールドを構え後方をマシンガンで牽制しつつ後退だ。 フォワードは俺が指定する敵を集中攻撃。移動速度は一番足の遅いMSに合わせる。 ここから先は一人の犠牲者も出すな!行くぞ!」 マットの激で堅牢なフォーメーションを組み上げ、 一丸となって移動し始めたMS部隊にクリスは目を見張った。 あれほど優勢だったジオンのMSも、今はこちらに迂闊な攻撃を仕掛けてくる事ができないでいるのだ。 指揮官によって、こんなにも機動が違うものか。先程までとは雲泥の差だ。 やはりどんなに優れた兵器でも、それを操る人間によってその性能が 生かされも殺されもするのだという事実を改めて思い知らされる。 例のドムとツノ付きザクも岩陰から悔しそうにこちらを窺うのみだ。 いかに新型であろうとこちらのマシンガンで集中攻撃を受けたら耐えられるものでは無いからだろう。 「敵は恐らく深追いはして来ないだろうが油断するな! 包囲網を突破するまで決して気を抜くんじゃないぞ!」 まるで心中を見透かしたかの様にマットから檄が飛ぶ。 クリスは改めて気を引き締め直した。確かに気を抜くのはまだ早い。 連邦軍のMS残存部隊はここが正念場なのであった。 360 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/04/23(木) 01 04 49.66 ID I/Na6/.0 打ち上がった信号弾を確認すると、 こちらを遠巻きにしていた12両の小型陸戦艇は蜘蛛の子を散らすが如く、 最大戦速で次々とこの場から逃げ出し始めた。 非情な様だがボスの陥落は、ボスからの束縛が無くなった事をも意味している。 MS部隊は出払い、61式戦車と虎の子のMS8機を失った連邦軍はもう、 ビッグ・トレーに取り付いた敵MSに対してまともに反撃する術を持っていない。 ならば、戦闘能力を殆んど持たない陸戦艇は、 ボスの墜ちたこの場所にいつまでも留まる訳にはいかなかったのである。 彼らにとって幸いな事に「ボスが撤退命令を出した」のだ。全力で逃げても敵前逃亡にはならない。 砂煙を巻き上げて敗走する陸戦艇群の様子を、 アムロとシャルロッテはそれぞれのMSコックピットでモニター越しに見ているしかなかった。 ザクはビッグ・トレーの艦橋にバズーカを向けていなければならなかったし、 ヅダは開け放たれた格納庫に侵入し緊急脱出用の連絡艇にマシンガンを構えていなければならなかった。 たかだか2機のMSでは、この巨大な陸戦艇をフリーズさせておく事しかできない。 ル・ローアやニッキ、レンチェフらの仲間達がここに戻り、 この艦を完全制圧下に置くまでは2人共に持ち場を離れる訳にはいかなかったのだ。 あの後どうにか(無理矢理)体調を回復させたシャルロッテは、 てきぱきと爆破作業を再開し、ビッグ・トレーをたちまちの内に無力化した。 周囲は砂漠である。アムロがここでこうしている限り ビッグ・トレーの乗員はどこにも脱出する事はできない。 敵から奪い取ったマシンガンをヅダに構えさせながらも、 さっきからアムロはシャルロッテがやけに静かなのが気になっていた。 ・・・怒っているのだろうか? 確かにあの時、自分を置いて逃げろと指示したシャルロッテの上官命令を アムロは平然と無視してしまったのだ。 結果オーライとは言え、プライドの高い彼女の逆鱗に触れてしまった可能性は非常に高い。 「アムロ」 「はははい!」 戦々恐々としていたアムロは突然のシャルロッテからの通信に度肝を抜かれた。 383 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/04/26(日) 19 30 53.86 ID gxoLk.I0 ニッキとレンチェフが現場に到着した時にはもう既に戦闘は行われておらず、 ル・ローアたち第一斑の三人は生き残った友軍の兵士に協力して 生存者の救助に当たっている所だった。 ニッキは思わず眉根を寄せてあたりを見回した。ひどい有様である。 ジオン兵の夥しい損耗がなされた戦場の傷跡は生々しい。 ざっと見ただけで約10体のザクが残骸と化し、 本部として機能していたであろうギャロップやカーゴも無残に破壊され尽くされている。 こちらからは見えないが、岩山のむこう、あちこちから黒煙がたなびき上がっている所を見ると、 被害はこの倍、いや三倍はあろうかと思われた。 MSを含む実働部隊をバックアップする人員も含めて、 兵員の死傷者は100名を越えているのではないだろうか。 「ニッキ、レンチェフ、こっちだ」 眼下で横たわる負傷者を介護しながらル・ローアが手を振っているのが確認できる。 そこへ後方から新型MSドムとツノ付きのザクを従えた マット・オースティン軍曹のMS-05がやって来て合流した。 ドムとツノ付きザクはそれぞれのコックピットハッチを開放し、 中のパイロットがヘルメットを脱ぎこちらに向かって敬礼する。 ニッキとレンチェフもそれに習い、ハッチを開けて敬礼を返す。 MSパイロットだけに通じる簡易儀礼であった。 384 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/04/26(日) 19 31 25.97 ID gxoLk.I0 「突撃機動軍MS強襲機甲中隊所属ソフィ・フラン少尉です」 「同じく、サンドラ少尉。よろしく」 「お2人共、それぞれ所属するMS部隊が壊滅されてしまったそうですが、 残存部隊を指揮されて連邦のMSを撃退する事に成功されました。 正直、このお2人がいなかったなら友軍の全滅は免れなかったでしょうな」 マット軍曹が紹介した2人のパイロットは共に妙齢の女性だった。 ドムに搭乗したソフィ少尉は髪が長く切れ長の瞳をした10代後半と思われる美女、 ツノ付きザクを駆るサンドラ少尉はショートカットで背が高い、 見るからにワイルドな物腰の女性だ。こちらは20代後半という所だろうか。 ソフィは尉官を示すマントを着用しているが、 サンドラはタンクトップのアンダーシャツ着用で女性ながら大きく胸元を開け、 筋肉質な肌を惜しげもなく露にしている。 敬礼をしたまま、先に口を開いたのはソフィ少尉の方だった。 「我々MS強襲機甲中隊はマ・クベ指令からベドウィン作戦の一環として、 『闇夜のフェンリル隊』には極秘で別の地点に潜伏し、 フェンリル隊の襲撃に呼応して敵大隊を強襲するよう命じられていたのです。 命令により、あなた方に連絡する事を厳に禁じられていたとは言え、 友軍を囮として利用するような行動を甘んじて取っていた事をお詫びします。 これは、この作戦に参加した兵員の総意だとお考え下さい」 「言い訳する訳じゃないけど、あたしたち下っ端には上からの命令にどうこう言うなんてできっこない。 不満や疑問があってもやらざるを得なかったんだ。だが、結果はご覧の通りさ。 因果応報って奴かも知れないね」 うなだれる2人にニッキは事情は了解しましたと声を掛けた。 わだかまりが無いと言えば嘘になるが命令を拒否できない一兵士に罪は無い。 悪いのは全てオデッサのマ・クベ指令なのだ。マ・クベ許すまじ。 だが今はマ・クベに呪いの言葉を吐き出す前にやる事がある。 事は急を要するのだ、ニッキはマットに向けて呼び掛けた。 「マット軍曹、ここはこの2人にお任せして俺達はシャルロッテとアムロの元に急いで戻りましょう。 いくらシャルロッテが優秀でも一人でビッグトレーの完全制圧は無理でしょうが・・・ 彼女なら強引にやりだしかねません」 「さっき信号弾が上がった所を見ると、どうやら上手くやったらしいが、 早い所戻ってやらんと心細いだろうからな」 ニッキの提案にレンチェフが頷く。 大急ぎで駆けつけた為にセンサーポールを設置する暇さえ無かったのだ。 ゲラート隊長とのレーザー通信も不可能な今、現場がどうなっているか判らない。 可能性は低いが連邦の援軍でも現れたらアムロとシャルロッテだけでは対応できないだろう。 一刻も早く、彼らの元に戻ってやる必要があった。 「聞いた通りだ。我々は仲間の所に戻らせてもらう。ここは任せて宜しいか?」 いつの間にかグフに搭乗していたル・ローアがシートベルトを締めながらモニター越しに声を掛ける。 ソフィとサンドラは顔を見合わせ、頷き合った。 「ここからは我々だけで大丈夫です。これまでの御厚情に感謝します。すみやか作戦にお戻り下さい」 「助かる。救援はなるべく早く遣させる」 ソフィの言葉に硬い表情で頷くとル・ローアのグフは皆を促して踵を返した。 遅れて合流したスワガー曹長のザクを交え、フェンリル隊5機のMSは ビッグトレーを制圧している筈のアムロとシャルロッテの元へと急ぐ。 彼ら全員がそこに転がる何体もの敵MSの残骸に息を呑み、 頬を紅潮させたシャルロッテがまくし立てるアムロの武勇伝に瞠目するのは、 これより暫く後の事であった。 397 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/04/28(火) 15 31 27.60 ID fd9uT9w0 相次いで飛来するガウ攻撃空母や輸送機の群れを下から見上げる構図は アムロに軽い既視感を想起させた。 今回はある意味WBを鹵獲したあの時よりもジオン側の対応に緊張感が見受けられる。 連邦軍オデッサ攻撃部隊南部支隊司令グリーン=ワイアット中将は 100名余のビッグ・トレー乗組員共々ジオン軍の捕虜となり、 その身柄はカスピ海を越えてオデッサ近くの一大集積基地ロストフ・ナ・ドヌーに 護送される事になったのである。 鹵獲したビッグ・トレー内部にも検閲が入り、アムロに破壊された比較的軽微な損傷のMSも 次々と輸送機に搬入されて現場は騒然とする趣が暫く続くであろうと思われた。 そんな中、ソフィ、サンドラ両少尉も搭乗MSと共に正式にフェンリル隊への編入が承認された。 これは、部隊が壊滅し行き場の無くなった2人の希望とゲラートの戦力増強要請が 司令部に同時に叶えられた結果であった。 大戦功を挙げた部隊には褒賞と一応の便宜を与えねば一般兵の士気にかかわる。 ニガ虫を噛み潰した様なマ・クベの顔が見えるようだとニッキは笑った。 まああの男は最初からそんな顔付きではあったがなとル・ローアも含み笑いで返す。 体調を完全に回復したバーニィが隊に復帰すると、隊員達の盛り上がりは最高潮に達した。 バーニィは肝心な時に役に立たなかった自分が情け無いとひたすら恐縮していたが、 皆は気にするなと笑い飛ばし、アムロは自分が出撃できたのはバーニィのお蔭だと 素直に感謝の意を伝えた。 なごやかな雰囲気の中、笑顔をふと真顔に戻し、シャルロッテがアムロに向き直った。 「アムロ、丁度良いわ。あの時の約束、今やってみせてくれない?」 「え、今ここで、ですか?」 「そう。みんないるし、場所も広いし、人数も足りるでしょ?」 「何の話だ?」 話が見えないル・ローアが2人の会話に割り込む。 「アムロが煙幕の中で8機の敵MSを一瞬でやっつけたシミュレーションよ。 それを再現してもらう約束をしていたの」 「え!?アムロが8機のMSを一瞬で!?・・・いや、ははは嘘でしょう?・・・?」 復帰したばかりでそんな話は寝耳に水のバーニィが素っ頓狂な声を上げ周りを見渡すが、 笑っている者は誰もいない現実に笑顔を張り付かせる。 ソフィ、サンドラ両名もMS乗りとして今の話には興味津々。瞳を見交わして成り行きを見守っている。 「正直、あの時のシャルロッテの説明は要領を得なかったからなあ。 話半分で聞いていたんだ。夢でも見てたんじゃ無いかってな」 「必死で戦っている時に衝撃を食らったりすると意識が飛ぶ場合があるだろう。 それじゃないのか?アムロが善戦したのは確かなんだろうが、 一人で8機のMSを落としたというのはあまりにも非現実的すぎる」 ニッキとル・ローアが本音を漏らすと、シャルロッテからアムロの活躍を口頭で聞いたメンバーも、 済まなさそうに次々と同様の認識だった事を暴露した。 「そうね・・・もし私もニッキから同じ話を聞いていたら、 バッカじゃないの?さっさと顔を洗ってきなさい!・・・と言ったでしょうね」 「なんだよ!」 あてつけのような物言いにニッキが両目を吊り上げるがシャルロッテは無視した。 「でも私は間違いなくこの目で見たのよ。 スモークの中で何が起こっていたのか知りたいの。お願いアムロ」 シャルロッテはあどけない表情を残す15歳の少年をまっすぐ見つめた。 その瞳は真摯な輝きを放っており、邪念など微塵も感じられない。 アムロは熱く、そして透き通った視線に思わずどきりとした。 「・・・判りました。それじゃ皆さんは敵のMS役をやって下さい。配置はこうです」 ホバートラックの横でフェンリル隊メンバーによる戦闘再現シミュレーションが始まった。 通りすがりにミガキに呼び止められたゲラートは、一同のすぐ横で面白そうにそれを見物している。 砂地に横座りしたシャルロッテ(行動不能のザク)を前に、立膝を付いたアムロ(ヅダ)が身構え、 バーニィ(ガンキャノン)を一人後方に置いた敵役の7人(陸戦型ジム)が 10メートルを隔てて対峙している。 それはMSを人間に置き換えた、あの時の状況の再現であった。 バーニィはごくりと唾を飲み込んだ。これは、絶望的な状況である。 もしも自分がこの状況に置かれたならば、 果たして敵の軍団と戦う事を選択するだろうかと思えたのだ。 それは多かれ少なかれフェンリル隊の面々も感じている様で、 各々が頭の中でこの状況で取るべき最善の行動を模索している様であった。 398 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/04/28(火) 15 32 34.04 ID fd9uT9w0 「いきます。まず僕はヅダのリミッターを解除してから閃光弾を敵の頭上にこうやって放り投げました」 「待って、どうしてゆっくり下から投げたの?」 「急いで上手から投げると警戒されると思ったんです。なんとなくですけど」 シャルロッテの問いに事も無げに答えるアムロに一同は舌を巻いていた。 心理的な駆け引きと言ってしまえばそれまでだが、 この切羽詰った状況で「ゆっくり」行動するのには相当なクソ度胸を必要とする。 この少年は一瞬の閃きでそれをやってのけたのである。 「全ての敵がシールド防御する事無く閃光を直視したのを見て、 スモーク・グレネードを2個、敵の足元に放ってからバーニアを吹かして敵陣に近付き、 そのままの勢いでまず、スパイクシールドの一撃を・・・最前にいた敵に食らわせました」 軽く走って来たアムロが左ストレートパンチをル・ローアの顔面に当てるフリをする。 ル・ローアはアムロの走って来た勢いそのままに後方に数歩歩いた後に仰向きに倒れた。 スケールは違うが、恐らく現実でも同様の事が起こった筈だ。 眉を上げながらレンチェフが思わず口笛を吹いた。 「各種センサーを起動し周囲の敵の位置を把握しながら右足を軸にして、 こう身体をスラスターで回転させ・・・後ろの敵を・・・」 その場の全員が息を呑んだ。アムロは簡単に言っているが事はそう単純ではない。 単独のセンサーでは複数の敵の位置を完全に特定する事はできず、 刻々と位置を変える敵に対応するには小まめなモニター切り替えと素早い解析が必須なのである。 戦闘と解析を同時に行う事の困難さはやってみれば判る。 脇腹をパンチで抉られたフリのスワガーが輪から離脱し、 後ろから足を薙ぎ払われて転倒したマニングの顔前でアムロの拳が止まると 周囲の溜息が「おお!」「なるほどな!」等の快哉に変わった。 一切の無駄が無く、流れる様な動きは美しかった。 本当にMSの機動でこれをこなしたのだとしたら、 アムロの操縦技術は並外れていると言わざるを得ない。 399 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/04/28(火) 15 32 52.70 ID fd9uT9w0 「ここで僕は『嫌な感じ』がしてヅダの背部装甲をパージしたんです」 「待て、嫌な感じってのは何だ。センサーで敵を確認したんじゃないのか?」 それまで理詰めで動いていたアムロの機動とは正反対の言葉にル・ローアが戸惑った様な声を出す。 ル・ローアの見解にシャルロッテも同意だった。 彼女も不確定要素を極力排除し理屈と効率でMSを動かす事を旨としている。 いわゆる女の勘という奴も、肝心な時に思いの他当てになりはしない事を彼女は知っているのだ。 「違います。何か危険な圧力みたいな物を背後から感じて咄嗟に・・・」 「ふむ。で、その結果は?」 「切り離した装甲板は、すぐ後ろまで迫って来ていた敵MSのビームサーベルに切り裂かれました」 アムロは斜め後方にいたレンチェフをアムロの真後ろの位置まで移動させた。 レンチェフはこんな感じかとばかりに剣を振るマネをしてみせる。 「で、動きの止まった敵に振り向きざまにこう・・・」 今度はレンチェフのボディに正面からアムロは腰の入った拳を軽く当てる。 「コックピット直撃だ。一撃アウトだな」 ニヤリと笑ったレンチェフはそのまま尻餅を付く様に後ろに倒れ、輪から抜けた。 うむむとル・ローアが唸るのがシャルロッテには聞こえた。 背部装甲板を排除するのは本来ならば自殺行為に相当する。 特に戦闘中にそれをするのは正気の沙汰ではないのだ。 結果オーライと言ってしまえばそれまでだが、そう毎回幸運が続く訳でもなかろう。 それまで満点に近いシミュレーションを見せ付けていたアムロが いきなり行った不確定要素に根ざした行動。 自分以上に理屈人間のル・ローアにはそれが気に入らないのかしらとシャルロッテは思ったが、 意外な言葉が彼の口から飛び出した。 「アムロ、お前はニュータイプって奴かも知れんな」 「ニュータイプ?」 どこかで聞いたような言葉にアムロが思わず聞き返す。しかしル・ローアは首を振った。 「詳しくは知らん、前の部隊にいた時に聞いた事があるだけだ。 何でも敵の姿を遠くから察知するだの、無線無しで遠く離れた他人と会話できるだの・・・ 荒唐無稽すぎて話にならん与太話だ」 ル・ローアはしかしアムロをじっと見ている。 「・・・と、たかを括っていたのだがな。済まん、続けてくれ」 432 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/05/01(金) 19 59 02.27 ID 1OAvLr20 フェンリル隊総出で行われているシミュレーションは大詰めを迎えていた。 ニッキ少尉、マット軍曹、サンドラ少尉の演じるジムを 架空のヒートホークで次々と斬り倒したアムロは、 倒れざまのサンドラの手から架空のマシンガンをもぎ取り、 片膝を付いた姿勢から離れた位置にいるバーニィに狙いを付け、架空の引き金を引く。 それで全てが終わったのだった。 「この後、撃破したガンキャノンから離脱したコアファイターを狙撃しましが、 撃墜は確認していません。以上です」 周囲で見ていた隊員達から思わずおおおと溜息が漏れる。 アムロの言葉が終わった瞬間、アムロが放った架空の銃弾に貫かれたバーニィは肩を落とし、 両膝をがくりと地面に付けてうなだれてしまった。 せっかく回復した体調が、何だかまた悪化してしまったかの様な脱力感を感じる。 実は、これが始まった時からバーニィは自分が敵のガンキャノンパイロットだった事を想定した 脳内シミュレーションを行っていたのだ。 「・・・何も出来なかった・・・負けた・・・」 どうも自分はアムロの技量を相当に見くびっていたらしい事に、 今更ながらに気付かされたバーニィだった。 なんだか本当に色々と負けてしまった様な気がする。 それ程アムロの動きにはムダが無く、付け入る隙が見出せなかった。 今では敵対していた連邦のMSパイロット達に同情すら禁じ得ない程だ。 アムロの操縦技術と状況判断のセンスは掛け値なしに「天才的」であった。 己が自身の技量をこの15歳の少年のそれと比較したフェンリル隊それぞれのメンバーは、 そこに露になった冷酷な一つの現実を受け容れなければならなかった。 それは、歴戦を戦い抜いた事で高い矜持を持つに至った彼らにとっては ある意味、残酷な事実でもあった。 「何と言うか・・・准尉殿が敵でなくて本当に良かったと言わざるを得ませんなあ・・・」 最年長のマット軍曹がぽりぽりとスキンヘッドをを掻きながら 全員の心情を代弁する様に言葉を絞り出すと、ようやくその場の固まっていた時間が動き出した。 「バーニィ、アムロ、そちらのお2人さんと、我が隊の新人は粒揃いだな。 今後は遠慮なくアテにさせて貰うぜ?」 脱帽した様に笑いながらソフィとサンドラを交互に見やるレンチェフ。 サンドラは肩をすくめて苦笑いを見せ、 ソフィは何か思う所があるのか静かな闘志を湛えた瞳をアムロに向けつつ頷いた。 「ちくしょお!何だか面白くねえな!おいアムロ、俺はぜってーお前ぇに負けねえからな!」 「言っておくけど私も負けないわよ!?腕を磨き直してあなたに挑戦します! その時は逃げないでちゃんと受けてね!?」 ニッキとシャルロッテの素直な発言は、若者の特権でもあった。 マニングとスワガーを含め、隊の年長組は、 アムロに対し対抗心を表立って剥き出しにできる彼らを少しだけ羨ましそうに眺めていた。 そんな中、アムロはふと目に飛び込んで来た光景にぎょっとした。 バーニィがアムロに向けて敬礼をしていたのである。 「ちょ・・・ちょっと何やってるんですかバーニィさん!?」 「お忘れですかアムロ准尉。初めてお会いした時に自分は准尉に対して 『一人前と認めたら敬語を使い敬礼もする』と、言ったのですよ」 にっこり笑っているバーニィにアムロは急いで飛びつき、 よそよそしく敬礼している右手を強引に下ろさせた。冗談ではない。 「敬語なんてやめてくださいよ!僕の事は今まで通り呼び捨てでお願いします!」 「いや、それでは軍の規律が・・・」 「色々なサポートで僕の力を引き出して下さったのはバーニィさんです! そうだ、次からはあのヅダ改にはバーニィさんが乗って下さい!」 「何言ってんだアムロ!あのMSのパイロットは・・・!」 「おっと。残念だが、ヅダ改はもう使えんぞー」 「え・・・・?」「ミガキさん?」 それまでゲラートの横で成り行きをずっと見守っていたミガキが、 唐突にアムロ達の話に割り込んで来た。 そしてその言葉は・・・淡々としたその口調とは裏腹に実に衝撃的なものであった。 433 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/05/01(金) 20 00 50.04 ID 1OAvLr20 「聞こえなかったか?ヅダ改は、もう、使えん、と、言ったんだ」 「「ええええっっー!?」」 見事にアムロとバーニィのハモッた叫び声が晴れた砂漠に響き渡った。 「砂嵐の中で防塵処理を施した装甲を外しちまったのが致命的だったみたいだな。 エンジンや駆動系、電子機器まで細かい砂粒が入り込んじまっててどうにもならん。 アレはエンジンその他の完全オーバーホールが必要だ。 だが、この最前線でそんな悠長な事をやっている暇は無い。 バラして新しく入ったドムのパーツにしちまった方が効率がいい」 「そ、そんな・・・」 アムロは目の前が真っ暗になる思いだった。 確かに装甲を排除した後、少しだけ動きに違和感を感じてはいたのだが、 まさかそこまでマシン全体が重篤な状態に陥っていたとは・・・ 地球の重力下での砂嵐を完全に甘く見ていたようだ。 「ま、あんまり気を落とすな。パイロットが無事ならMSは換えが利く。 お前さん方に相応しいMSは、そのうち隊長がマ・クベから分捕ってくれるそうだ」 「・・・任せておけ」 ミガキの言葉に頷いた何やら自信ありげなゲラートの様子に、アムロは少しだけ胸を撫で下ろした。 しかしヅダ改の解体とは、かえすがえすも残念だ。 あの機体はある意味ガンダム以上の『面白さ』があったのに。 「・・・嵐の様に現れたゴーストファイターはその名の通り、 見た者だけの瞳にその荒ぶる姿を刻み付け・・・ また人知れず、砂漠の風に消えたんだな」 またぞろ吹き始めたつむじ風を見つめながら、バーニィがぽつりと呟いた。 466 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/05/03(日) 23 58 21.25 ID AaMKSZk0 中規模なファット・アンクル部隊に空輸される形で旧イラン高原を渡り、 ゲルマーン基地で補給した後、フェンリル隊は3日を掛けて ペルシャ湾の入り口であるホルムズ海峡にある港湾基地バンダル・アッバースに到着した。 これまでとはうって変わり、地べたを這いずる移動ではなく、快適な空の旅であったが これは、マ・クベの隊に対する評価が改善されたからでは決して無いであろう事も、 ゲラートは心得ていた。 使える兵は、より有効な場所で使い潰す。多分それだけの事なのだろう。 今、彼らはドックの前で、浅黒く海焼けし、顎鬚を蓄えた精悍な男と対峙している。 年齢は30代後半といった所か。 「遠路はるばるご苦労だった。 突撃機動軍戦略海洋諜報部隊レッド・ドルフィン隊隊長のハーネス大佐だ。 バンダルへようこそフェンリル隊の諸君」 他部隊の上官から久し振りに聞いた労いの言葉にゲラート少佐以下、 フェンリル隊の全員が敬礼で答える。 そんな中、ハーネスは部隊の中に年端もいかない少年がいる事に気が付き、 ゲラートに怪訝そうな目を向けた。 「ご心配には及びません。ウチのスーパールーキーです」 視線の意味を酌んだゲラートが敬礼のまま、すかさず答える。 フェンリル隊の全員が意味ありげな笑みを浮かべているのを見て納得した訳でも無かったが、 ハーネスはこの場でその件についてはそれ以上詮索しなかった。 「まずはゆっくり休んでくれと言いたい所だが、現状、そうも言ってはおれん。 着任早々で済まないがすぐに作戦行動に入らせて貰いたい。事は一刻を争うのだ」 「構いません。空路での移動中に休養は十分に取らせて頂きました」 ゲラートの言葉にハーネスが頷く。 「助かる。先日、チャゴス諸島のディエゴ・ガルシア基地とマドラス基地が 相次いで連邦軍の手に落ちたのは知っての通りだ。 奴等はオデッサへの足掛かりとしてトリントンからの輸送船団をディエゴ基地で中継させ、 紅海を北上、スエズ運河を抜け黒海に到達する海上ルートを確保するつもりらしい。 だが、我々は断じてそれを許す訳にはいかない」 ハーネスは一旦言葉を切った。連邦の構築しつつあるシーレーンを叩く、 そういう事かとアムロは思わずごくりと唾を飲み込んだ。 「奴等の狙いは紅海の入り口であるアデン港湾基地だ。 ここが落とされるとスエズ運河はたやすく突破されてしまうだろう。 我々はこれよりユーコン級潜水艦に分乗しアデンに向かう。 水陸両面から連邦軍の上陸部隊を迎え撃つ為にだ。 奴等の船団は既にディエゴ基地を出航している。猶予は残されていない。以上だ。質問は?」 「海洋部隊はジオンが連邦を圧倒していると聞きました。 マドラス基地はまだしも、何故、デイェゴ基地が敵の手に渡ってしまったのですか?」 ハーネスの言葉に敏に反応したのはシャルロッテだった。 怖い物知らずのその態度に、いつもながら隊員達はヒヤヒヤさせられる。 しかしハーネスは見かけ以上に肝要な人物らしく、彼女のぶしつけな問いにも誠実に答えた。 「物量に任せた爆撃と・・・連邦に新型の海中兵器が現れたんだ。 我が隊のユーコン級潜水艦1隻とザク・マリンタイプ2機も・・・そいつ等に、やられた」 苦渋の表情を浮かべるハーネスに流石のシャルロッテも絶句する。 ドックに吹き込んで来た海風の香りも一瞬、変わってしまった気がした。 488 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/05/05(火) 01 54 25.38 ID ikK4D9Q0 「機動性の高い小型潜水艇の群れと、 ジオンのお株を奪う様な水中用MSに寄ってたかって袋叩きにされたんだ」 鍔付きの帽子を目深にかぶり、 着崩した軍服のはだけた胸元に尖ったペンダントを認識票を共にぶら下げた男が、 フェンリル隊の背後から野太い声を掛けた。 フェンリル隊員全員が驚いて振り返る中、 シャルロッテだけがその礼を欠いた態度に眉根を吊り上げる。 「ジオンの水陸両用MSは確かに高性能だと言われてはいるが、 高性能の新型機が配備されている部隊は少数しかない。 我が隊に2機配備されていたMSM-01も水陸両用MSの実験機で、 水中戦闘ができるレベルじゃなかった」 「いきなり失礼でしょう!まずは我々に姓名と階級ぐらいは名乗られては如何ですか?」 誰何されたその声に顔を少しだけ上げ、鍔の隙間から激昂するシャルロッテをちらりと見たその男は、 興味が無さそうにふいと視線を下げ、その瞳を再び鍔の陰に隠してしまった。 馬鹿にされた気がしたシャルロッテが憤然とその男に歩み寄ろうとするのを、 両脇からニッキとバーニィが必死に押し止める。 「彼の非礼は私から詫びよう。 元々レッド・ドルフィン隊には3人のパイロットがいたのだが、 2機のMSM-01が撃墜されてしまった為・・・ 今では彼が我が隊唯一のパイロットとなった、ヴェルナー・ホルバイン少尉だ」 「・・・!」 ハーネスの言葉に思わず戸惑いを見せたシャルロッテの顔から怒りが消え失せる。 顔を上げたホルバインの瞳が鍔の奥でぎらりと輝いた。 「心配はいらねえよ隊長。死んだ仲間の分も俺が埋め合わせをしてやるさ。 あの新型の水陸両用MSでな」 「・・・熱くなるなホルバイン。あれはまだテストも済んでいないんだ。 まともに戦えるかどうかも判らんのだぞ」 「いや、俺には判る。あの図体は決して見かけ倒しじゃねえよ」 アムロがホルバインの視線を追うと、ドックの奥の暗がりに異形な巨体が鎮座しているのが見えた。 大きな嘴を付けた楕円形の体が4本足の台座に乗せられている様な、 一種異様なその姿はアムロがそれまで見てきたMSのイメージを大きく逸脱するものだった。 「あれが・・・MSなんですか?」 「ああ。キャリフォルニア基地から送られて来たMSM-10【ゾック】だ。 こいつで連邦の連中に一泡吹かせてやるぜ」 アムロの問いにホルバインは浅黒い顔を歪めて不敵に笑って見せたのである。 506 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/05/05(火) 23 42 46.78 ID ikK4D9Q0 潜水艦へのMS搬入等で全ての人員が慌しく動き回る中、ハーネス大佐を見つけたシャルロッテは、 自身の作業を一時中断して彼の元に駆け寄った。 「何だと?どういう意味だ」 「ですから、大佐が先程、あのMSM-10を『まともに戦えるかどうか判らないMSだ』 と仰られていたその発言の意味をお聞きしたいのです」 シャルロッテのその質問に答える事は機密情報に関し聊かの問題がある事ではあったが、 今後彼らは部隊は違えど同じ船に乗り込み一蓮托生となる。 引っ掛かる部分を出来るだけ減らし、相互理解を深める事が互いに生き延びる最良の手段である事を 歴戦の艦乗りであるハーネスは承知していた。 彼女の真剣な表情を認めたハーネスは、小さく息を吐き出して作業の手を止めた。 「MSM-10【ゾック】はその全身に強力なメガ粒子砲を9門も装備する拠点攻撃用MSだ。 連続砲撃を可能にする為にザクの4倍ものジェネレーター出力を持ち、 机上の計算ではアレ一機で公国軍のMS一個中隊分の火力スペックがある」 「メガ粒子砲9門・・・」 シャルロッテはあの扁平なMSの持つ、あまりの火力に驚いた。だがそれでは質問の答えになっていない。 ハーネスの懸念は一体なんだと言うのだろう。 「・・・だが、MSM-10の武装は、その9門のメガ粒子砲しかない。 逆に言えばあのMSはメガ粒子砲しか装備されていないんだ。この意味が判るか?」 「ま、まさか・・・MSM-10には水中で使用できる武器が無い・・・と、いう事なんですか!?」 察しのいいシャルロッテの言葉に、ハーネスは厳しい表情で曖昧に頷いた。 「そう。海中で強力なメガ粒子砲を発射すれば水蒸気爆発を起こしかねんからな・・・ アレは、海中を高速で移動し海岸線に上陸した後、強襲揚陸部隊の後方から支援砲撃を行う事を目的に、 『陸上で運用される』事を前提に開発されたMSだ。だから基本的に水中戦は想定されていない。 いや、当初はされていなかった、と、言うべきか」 「・・・?」 ハーネスの歯切れの悪さに眉根を寄せるシャルロッテ。 「しかし開発の途中で連邦軍の海洋部隊にも対応すべきだとする意見が上から出たらしく、 MSM-10のメガ粒子砲は急遽『エーギルシステム』に差し替えられたんだ」 「えーぎるシステム?」 聞いた事の無い単語にシャルロッテが戸惑う。事の深刻さを示すように、 ハーネスの精悍な顔にさっと暗い影が差し込んだ。 「水中でメガ粒子砲を無理矢理発射させる為に考案された非常に不安定なシステムだ。 その開発中にも・・・システム上の不備から、どうやら犠牲者を多く出したらしい、いわく付きのシロモノだ。 そして『エーギルシステム』は結局、完成したとは言い難い不完全な状態のまま・・・MSM-10に搭載された」 「で・・・でもホルバイン少尉は水中で戦闘を行なうと言われていましたが!」 「どちらにせよ我々には、水中の敵MSに対抗できる兵器は、もうあのゾックしか残されていない。 敵と遭遇するまでにテストをできるだけ重ね、微調整を繰り返しながら 少しずつでもシステムの完成度を高めていくしかあるまい。 果たしてその時間があるかどうか疑問だが・・・」 シャルロッテはぶつけ様の無い憤りに無言で身体を震わせた。 バーニィの命を奪いかけたヅダといい、 ジオンの兵器はどうしてこうも現場の兵士に負担を掛ける物が多いのだろう。 しかもザビ家に軽んじられている者の多くがその危険な任に就かされていると見るのは、 うがち過ぎだろうか。 「状況は厳しいが、最善を尽くしてやるしかない。 君達もできるだけホルバインに協力してやってくれないか。奴はぶっきらぼうだが、ああ見えて仲間想いの熱い男だ」 そう言って上官であるにも関わらず軽く頭を下げたハーネスだったが、 あの不遜な男の顔を思い浮かべたシャルロッテは即答する事ができなかった。 522 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/05/08(金) 01 55 11.51 ID SagvIa20 全ての人員と機材、そしてMSの積み込みを完了したユーコン級3隻からなる レッド・ドルフィン隊の潜水艦隊は、慌しくバンダル・アッバースを出航した。 しかし航海を始めてすぐに、ハーネス大佐はホルバイン少尉の搭乗する MSM-10【ゾック】を水中で発進させると、直ちに各潜水艦を浮上させ停泊させた。 時間は惜しいが、これから行なう調整実験の為にはどうしても艦を停める必要がある為である。 しかし、時間は限られていた。目的地のアデン港には2日半の航程で到着しなければ作戦に間に合わないからだ。 ゾックに搭載された「エーギルシステム」の調整に掛けられる時間はあまりにも少ないのだった。 「諸君等にホルバインがこれから実験する『エーギルシステム』について簡単に説明しておこう。 『エーギルシステム』とは、水中でメガ粒子砲を発射する際、 水の分子とビーム粒子の摩擦熱で水蒸気爆発が起きる事を防ぐ為に考案されたシステムを指す」 フェンリル隊の面々を前にしたハーネス大佐は、厳しい表情で一同に向かって口を開いた。 「まずMSM-10に装備されたメガ粒子砲の先端中心部から、 目標に向けてパイロットブレットと呼称する超小型魚雷を先行射出する。 そして水中にブレット後方に巻き起こる気泡の≪射路≫を発生させ、 その≪射路≫をトレースする形で電磁的に亜音速まで減速したビームを発射する・・・と、いうものだ」 フェンリル隊のパイロット達と共にハーネスの説明を聞いていたミガキの顔が見る見る曇った。 そのシステムでは、ビームの縮退収束率やその他の煩わしい数値設定が 『深度』や『海の状態』によってケース・バイ・ケースになる筈だ。 はっきり言って設定が間違っていた場合、ビームを撃った瞬間、 射路に関係なく機体が水蒸気爆発に巻き込まれる可能性は非常に高い。 何かのトラブルでビームが十分に減速されずに打ち出された場合も同様の事態が起こるだろう。 それにブレットは水棲生物などの異物や海流等の外的要因によって直進しない可能性があるのにも関わらず、 後発するビームは直進しかできないのだ。 もし曲がった射路にビームが真っ直ぐ突っ込んだら・・・これまた水蒸気爆発は確実だ。 つまり「エーギル」を搭載しているMSM-10を水中で運用する限り、 どうやっても安定には程遠い、信頼性に著しく欠ける兵器となってしまう筈なのである。 事ここに至った今、それを言っても詮無い事なので敢えて発言はしていないが、 実はこのシステムの改善案も、ミガキの頭には浮かんでいる。 だが、自分が役に立てるのは、この実験の後、 MSM-10とホルバインが無事この潜水艇に帰還してからの話になるだろう。 今はただ、命懸けの実験に挑むホルバインの無事をひたすら祈るしか無い。 ミガキは指令室の天上を見上げ、静かに瞑目した。 『こちらホルバイン、急速潜行完了。ゾックの海中機動は良好だ。実験予定ポイントに到着。いつでもいいぜ』 「了解。沈降速度そのまま3メートルを維持。実験開始せよ」 ハーネスと会話するホルバインのぶっきらぼうな声音が司令室に響く。 不安そうな顔で思わずスピーカーを見つめたシャルロッテは、 先程から我知らず両の拳を胸の前に組み、硬く握り締めていた。 523 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/05/08(金) 01 55 59.94 ID SagvIa20 『エーギルシステム作動。システム異常なし。最終チェック異常なし。 ・・・カウントダウンを開始してくれ隊長』 「了解。慎重にな。カウントダウン開始。30・・・29・・・28・・・」 ホルバインの要請を受け、ハーネス大佐自身がレシーバーのマイクに向かってカウントダウンを開始する。 だが暫くすると、ハーネスのカウントダウン以外は 誰もが一言も発せず静まりかえっていた筈の司令室に異音が響き始めた。 始めは細く、だんだん太く。それは、どうやらスピーカーから漏れ出る、 ホルバインの発する奇妙な雄叫びらしかった。 『ウォォォォオオオオオ・・・・・・!』 司令室に響き渡る奇声にフェンリル隊はとまどった。あまりの恐怖に、 まさかあのパイロットの気が触れてしまったのではないかと誰もが訝しむ中、 ホルバインの奇声に動じなかったハーネスのカウントダウンは終了しようとしていた。 「3・・・2・・・1・・・!」 『イイ~ヤッハァーー!!』 ホルバインが叩き付ける様にスイッチを押すと、MSM-10の右肩上部にある2番砲口先端から パイロットブレットが音もなく射出され、その後を追う様に一拍遅れてメガ粒子の奔流が迸った。 その全てが計算通りのタイミングであった。 だがその瞬間、ゾックの至近距離で激しい気泡を伴う大爆発が巻き起こり、 ゾックの機体は後方へと激しく吹き飛ばされた。 海面に浮上していた3機のユーコン級潜水艦も、下方から突如巻き起こった水柱に突き上げられ、 身体を固定していなかった人員は残らず壁か床か天上にその身を打ち付けられる羽目になった。 「いてててて・・・!」 「マット軍曹!」「大丈夫ですか軍曹!?」 船体が衝撃を受けた瞬間、マットは目の前にいたアムロとバーニィを抱え込むようにして 守りながら床を滑り、結構な勢いで背中をコンソールの角にぶつけてしまったのだ。 「へへへ、なあに、こういうのも自分の役目なんでさあ・・・」 しゃがみ込んだアムロとバーニィの前で横向きに床に倒れたまま強がって見せるが、 あのタフなマット軍曹がすぐに立つ事ができないでいる。もしかすると何処か骨折でもしたのかも知れない。 アムロが周りを見回すと、床に投げ出された仲間達がよろよろと身体を起こす所だった。 取り敢えず重傷者は見当たらない。2人を庇った分、マットのダメージが一番大きかったようだ。 「ホ・・・ホルバイン少尉!応答してください!ホルバイン少尉!」 見ると片目をつぶり片手で額を押さえたシャルロッテが必死にコンソール備え付けのマイクに叫んでいる。 彼女の何回目かの呼び掛けに対して、くぐもった声がスピーカーから流れ出た。 『・・・・・・すまねえ・・・し・・・・・しくじっちまった・・・・・・ぜ』 安堵の表情を浮かべるシャルロッテの後ろからハーネスが自分のインカムから会話に割り込んだ。 「無事だったかホルバイン。現状を報告せよ。機体のダメージはどうか。単独で潜水艦までの帰還は可能か?」 『2番砲塔近くで大規模な水蒸気爆発、確認。機体損傷は ・・・1番バラストに軽微な異常を確認するも自力航行には支障なし。 実験の続行は可能。隊長、こいつの装甲は並みじゃねえぜ』 「いや、実験は一旦中止する。速やかに帰還せよ」 『・・・了解』 整備は完璧だったにも関わらず「エーギルシステム」の実験は完全に失敗した。 ホルバインは暗澹たる気持ちを、消沈しそうになる魂の炎を、 胸元に下がる尖ったペンダントを掌に握りこむ事で必死に振り払おうとしていた。 「じいさん・・・俺はまだ負けちゃいねえよな・・・?」 海面が近付くにつれて次第に明るさを増して行く周囲の景色に向けて、彼は独りごちた。 537 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/05/09(土) 20 30 47.14 ID EEA6fqo0 「突発的な海流の変化によるパイロットブレットの気泡消失が、 MSM-10の水中メガ粒子砲発射実験失敗の原因だったと推測されます」 「それはつまり、まっすぐ立ち上る煙が横殴りの風に吹き散らされた・・・みたいなもんか」 「端的に言えばその通りです。これはシステム上の問題ですので、 今後も同様の事象が何時でも起こりうるという事でもあります」 つまりゾックのメガ粒子砲とは、 使用可能かどうかが刻一刻と変化する海流の「良し悪し」で決定するという事なのだ。 運が良ければ水中でビーム発射ができるが、悪ければ水蒸気爆発。 そんな気まぐれな兵器はとても実戦使用に耐え得るものでは無い。 そしてシステムが「故障」をして実験が失敗した訳ではないので、 修理して再度実験に挑む、という選択も取る事ができない。 レッド・ドルフィン隊のメカニックチーフであるルベロス軍曹の説明に頭を抱えたくなるのを必死で堪え、 ううむとハーネスは唸りながら顎髭に手をやって考え込んだ。 「いいさ隊長。ゾックには両腕にクローが装備されてるんだ。いざとなりゃ敵MSを引っ掛けてやる」 「・・・小回りの利かないあの機体でどうやって奴等に対抗するつもりだ? 俺はもう二度と部下を敵になぶり殺しにされて失いたくは無いんだ」 「・・・」 ハーネスの言葉に黙り込むホルバイン。 重苦しい空気がMSデッキに垂れ込める。が、その暗雲を振り払う様な明るい声で、 ドルフィン隊のやり取りをそれまで黙って聞いていたミガキが声を上げた。 「ちょっと宜しいですかね。私から2つ程提案があるんですが」 少しだけ驚いた顔をしたハーネスは、それでもミガキの言葉の先を促した。 完全な手詰まり状態の今、この状況を少しでもマシにできる手があるなら、 それがたとえ外様のネコの手であっても構わない。 「まずは『エーギルシステム』自体の改良、 もう一つはMSM-10にアームズオフィサーを搭乗させるというプランです」 「どういう事か。順を追って説明してくれ」 ハーネスは身を乗り出した。ホルバインやルベロスも真剣な目でミガキの言葉を聞き漏らすまいとしている。 ミガキは頷いて、まずはエーギルシステムの改良ですがと言を繋いだ。 「パイロットブレットを連射式にするんです。 間断無くブレットを射出する事でビームの『射路』たる気泡が消失するリスクを減らす事ができるでしょう」 「な、なるほど!」 さすがミガキだと憧憬の眼差しでルベロスは思わず膝を打った。 ジオンのメカニック達の間では、旧ジオン共和国テクノクラートであったミガキの名を知らぬ者はいない。 その名は彼らメカニックの間では、高い技術力と当時の政治力をバックボーンにした数々の逸話と共に、 殆んど生きた伝説と化していたのである。 メカニックだけに留まらずジオン軍にミガキのシンパは多く、 マ・クベに目を付けられるまでの事ではあったが彼の所属するフェンリル隊には、 目立たぬように各方面から便宜が図られる事も多かった。 538 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/05/09(土) 20 31 14.56 ID EEA6fqo0 「現在は単発式のパイロットブレット発射装置を、マガジンを増設して連射式に設定するだけですから、 その改修は問題ないでしょう」 ルベロスの素直な反応にミガキは頷く。 「もう一つ。MSM-10は9門もメガ粒子砲があるのにも関わらず、 一人で全ての武器管制を行わなければならず、パイロットに相当の負担をかけています。 特に水中戦では、起こりうる咄嗟の事態に迅速に対応できません。 これは、MSM-10が元々陸上で砲台代わりに使用される事を前提に開発されたものだからだと思われます」 言われてみれば確かにその通りだとハーネスは思った。 開発コンセプトが途中で変化したのにも拘らず、それに対応せずに完成を急いでしまったツケが こんな所にも出てしまったのだ。 「そこで、MSM-10を複座にします。幸いにも大型のコックピットスペースには余裕がある。 予備シートを設えて、コ・パイ(副操縦士)にそこで武器管制を行わせるのです。 そうすればメインパイロットは操縦だけに専念する事ができます」 「ありがてぇ。ゾックの出力はケタ違いなんだ。 武器管制の手間が省けりゃ思い切りぶん回す事ができそうだぜ」 「そう。自在にビームが発射できるなら、水中で冷却効率を高めたMSM-10に死角は無い。 これで【ゾック】は比類なきMSに生まれ変わる筈です」 ホルバインとミガキの掛け合いに周囲から歓声が上がる。ゲラートやハーネスも思わず嘆息を漏らした。 しかしその時、はた、とハーネスの顔が曇った。 「・・・だが、水中で刻々と変化する周囲の状況を解析しつつ、 素早い判断力で的確に敵に攻撃を加える事は、生半可な技術者では不可能だろう。 コ・パイには相当に熟練した管制オペレーターを配置しなければならないな」 その困難さを憂慮しての発言だったが、またもやフェンリル隊の全員が、 口元に各自思わせぶりな笑みを浮かべながら、今度は視線を同じ方向に向けている。 皆の視線のその先にいる年端も行かない少年が、こちらを真っ直ぐに見つめているのを ハーネスとホルバインは不思議そうに見つめ返した。 578 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/05/13(水) 11 42 32.08 ID FdjoMoU0 レッド・ドルフィン隊とフェンリル隊のメカニック達はミガキの総指揮の元、 一致団結してMSM-10の改修作業に取り掛かった。 何が何でも目的地に到着する前に全ての作業を終わらせねばならない。 各隊員は粛々と、そして迅速に作業をこなして行く。 アムロやホルバインもコックピット周りに張り付き、新たにセッティングし直され、 レイアウトが変化した計器類のチェックに余念が無い。 特にアムロはこの後ハーネス大佐から水中で使用する特殊索敵センサー 及びメガ粒子砲のレクチャーを受け、その全てを頭に叩き込んでおかねばならないのだ。 するべき事は決定している以上、後は時間との戦いである。 2隊合同で事に当たる場合、通常はどちらの隊がイニシアチブを取るかで 余計な軋轢が生まれかねないケースではあったがミガキの存在がその心配を杞憂なものにしたのである。 各隊間のコミュニケーションは非常に良好であった。 だが、そんな中、慌しく艦内で動き回っている人員とは対照的に、 まったくもって手持ち無沙汰だったのがアムロを除くフェンリル隊のパイロット達である。 彼らの扱える水陸両用MSでも余分にあれば話は違ったのだろうが、それも叶わぬ現状、 陸に上がるまでは単なるドルフィン隊の居候でしか無いのだ。食客と呼ぶのもおこがましい立場である。 ただでさえ畑違いな潜水艦の中、余計な手出しは逆に迷惑を掛けてしまいそうで、 精々が邪魔にならない様に居住区の片隅で小さくなっているぐらいしか居場所が無い。 陸に上がったカッパならぬ水に入ったフェンリル。名にしおう精鋭部隊の面目丸つぶれであった。 しかし、早々と諦観を決め込んだ情けない男性陣を尻目に、 奮起したのがシャルロッテ、ソフィ、サンドラのフェンリル隊女性陣である。 彼女らは分散して艦内の清掃や給食用の調理、食事の配膳等を猛然とこなし始めたのであった (意外な事に、その中で最も手際が良かったのはワイルドで男勝りがウリだった筈のサンドラ少尉だった)。 食堂室で整然と食事する事が望めぬ現況、 しかもむさ苦しい男所帯で日々を過ごして来たレッド・ドルフィン隊にとって 彼女達の行動は大なる好評をもって受け入れられ、2隊の結束をより強める結果となった。 (ソフィの清楚な容姿を侮ってその臀部に不届きな手を伸ばした男が、 彼女が振り向きざま笑顔で放った回し蹴りを側頭部に食らって昏倒した、 という一例もあるにはあったが、不幸な事故として内々に処理されてしまった) 579 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/05/13(水) 11 43 31.46 ID FdjoMoU0 2時間半もの間コックピットシートに座り込んでいたホルバインは、 配置換えに手こずった計器の動作が何とか正常に行なわれるのを確認して、 ようやく一息つく事ができた。 まだ調整を続行しているエンジニアに一声掛けてからコックピットを抜け出し、 大きく伸びをすると隔壁に背中をもたれさせて座り込み、俯いて目を閉じた。 水中実験から休息無しでぶっ続けでの作業に、さすがに少し疲れたと感じる。 「・・・食事の配膳です。これを食べ終わったら自室に戻り作戦開始まで仮眠を取れ、 と、ハーネス大佐からの命令です」 突然上から掛けられた声にホルバインが片目を開けると、 そこには不機嫌そうな顔をしたシャルロッテがいた。 フードトレーを満載したキャスター付きラックを押しながらデッキ内を巡っているらしい。 ホルバインは判ったと素直に彼女の手からトレーを受け取ると、すぐにもそもそと食事を摂り出した。 「あんたら、何であのアムロって餓鬼をゾックに乗せようとしてるんだ」 食事を頬張りながら、眼を上げずにホルバインは側に立つシャルロッテに問う。 言葉は穏やかだがその声音には少しの怒りが含まれている。 シャルロッテは眉根に力を入れてから、思い切った様にキッパリと言い切った。 「それが最良の人選だからです」 「なるほど。もし奴が死んでも、あんたらの隊にとって最小限の戦力低下で済むという訳か」 その瞬間、ホルバインが目深に被っていた帽子がシャルロッテの平手打ちで跳ね飛ばされ、 数メートルの床を滑って行った。この暴挙には流石のホルバインもいきり立った。 「何すんだ!」 「残念だわ。あなたが作戦前のパイロットじゃなければ良かったのに」 ホルバインは愕然とした。確かに自分の顔には毛一筋ほどの傷もついておらず、 トレーに乗った食事もスープ一滴こぼれてはいない。 打撃角度、スピード共に計算され尽くした恐るべき早業の平手打ちだったようだ。 「闇夜のフェンリル隊を舐めないでよね。私達は戦力を出し惜しみしたりしないわ。 アムロが選ばれたのは、彼が・・・」 「何だってんだ!」 「・・・今回の任務に一番相応しい技術と才能を持っているからよ。悔しいけど」 本当に悔しそうなシャルロッテの顔は、演技などでは決して無い苦渋に満ち溢れていた。 鼻白んだ表情で「マジかよ」と呟くホルバインに、シャルロッテは前回の戦闘の事を簡単に話して聞かせる。 信じがたいと言いながらも次第に身を乗り出して話に聞き入るホルバイン。 「まるでニュータイプ。そう、アムロはニュータイプなのかも知れないってル・ローア少尉が・・・」 「おい!めったな事を口にしない方がいいぜ」 それまでおとなしく聞いていたホルバインは、急いで周りを見渡すと、 声をひそめつつ鋭い口調で彼女の言葉を遮った。 580 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/05/13(水) 11 44 14.97 ID FdjoMoU0 「ジオンは本気でニュータイプを軍事利用する為に特殊機関を設立したらしい。 素養が少しでも認められた兵士は、有無を言わさずそこへ連れて行かれちまう。 で、その機関から元いた部隊に帰って来た奴はいないらしい・・・ってな話を、 こないだ員数合わせで宇宙から配属されて来た新入りがしていたんだ」 「まさか・・・」 「本当だ。得体の知れない実験のせいで頭がおかしくなった奴もいるそうだ。 そいつはひょんな事からその事を知ってしまったが為に、中立コロニーに常駐するエリートコースから一転、 こんな最前線に送られるハメになったんだと嘆いていた」 「ジオンが中立コロニーにそんな機関を?そ、それじゃ完全に南極条約違反じゃないの!」 「戦争だからな、俺だっていまさらキレイ事を言うつもりは無いが・・・ 赤い彗星みたいな現役エースならばともかく、一介の兵士なら遠慮なく奴等にしょっ引かれちまうだろうぜ。 大事な仲間を怪しげな奴等の玩具にされたくねえと思うなら、絶対に目立たせるな。 奴等の耳と目はどこに在るか判らん。ニュータイプなんざ知りませんってな顔をして 大人しくしていた方が身の為だ」 「待って、その人に詳しく話を聞きたいわ。どこにいるの?」 「死んだよ」 息を呑むシャルロッテ。 「作戦中じゃないぜ。陸でだ。基地内の自室で心臓麻痺。着任して2日目だったかな」 強烈な吐き気と共に、背中にちくちくする汗が噴き出してきたのが判る。 突如、今まで信じて立っていた足元の地面がぐずぐずと崩れて行く錯覚に囚われたシャルロッテは、 上手く思考をまとめる事が出来ずにいた。 「雑兵に過ぎない俺が偉そうな事を言う訳じゃないが、 以前にも増して最近のジオン軍には何だか変な焦りを感じる。何かロクでもない事が起こる前兆かも知れん」 蒼白な表情で立ち尽くすシャルロッテに、ホルバインは溜息をつくと表情と声のトーンを少しだけ変えた。 「だがまあ、それもこれも命在ってのモノダネだ。取り敢えずは次の作戦で生き残る方が先決だな。 厄介な事は後で考えようぜ」 そう言いながら立ち上がったホルバインにハッとしてシャルロッテは眼を向ける。 ホルバインは彼女に食べ終わったトレーを手渡した。 「あんたらを見縊っていた事は謝る。アムロがそんな凄い奴だったとは正直驚いたぜ。 こいつは本番が楽しみだな」 自室に向かって歩き出したホルバインはちらりと後ろのシャルロッテを振り返ると、 一瞬だけその口元に微笑らしきものを見せ、後は振り返らずにMSデッキを出て行ってしまった。 634 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/05/17(日) 22 51 03.48 ID KOtcJN20 アデン湾の入り口にあたるソコトラ島南端を迂回した地球連邦海軍第3船団は、 旗艦たるヒマラヤ級航空母艦【フォート・ワース】に駆逐艦2隻とジュノー級潜水艦3艇を随伴させた 万全の布陣でアデン基地奪還作戦に臨んでいた。 特にジュノー級潜水艦の一隻である【アナンタ】は前回ジオン軍のレッド・ドルフィン隊と単艦で交戦し、 搭載されている水中型MS【RGM-79Dジムダイバー】と 水中型モビルポッド【RB-79Nフィッシュアイ】の集中攻撃により 敵水中用MS2機と潜水艦一隻を撃沈せしめていた。 後一歩まで奴等を追い詰めた、ただでさえ強力な戦力に加え今回は、 同等の艦載戦力を有した同型潜水艦2艇と空母に搭載した対潜攻撃機も攻撃に加わるのである。 アナンタ艦長ブーフハイム中佐は、今回の攻撃は戦力層の薄いジオン軍に 防ぎきれるものではないだろうと余裕綽々で考えていた。 邪魔なジオン水中部隊を一蹴した後は空母に搭載されたガンペリーで陸上用MSを上陸させ、 航空機で援護を行いつつすみやかに基地を制圧する強襲作戦である。 面白くも無いが何の問題も無く粛々と作戦は完了するだろう。スペースノイド共の歯ごたえの無い事、夥しい。 音に聞こえたジオン水中MS部隊も実際に戦ってみればどうという事は無かった。全く馬鹿馬鹿しい。 我が軍の腰抜け共が敵を恐れ過ぎたのだとブーフハイムはキャプテンシートでせせら笑った。 実際は彼の部隊が撃沈したドルフィン隊のMS2機は、ジオン軍水陸両用MSの試作機に過ぎず、 連邦軍が恐れるジオンの水陸両用MSとは別物であったのだが、今のブーフハイムにはそれを知る由も無い。 彼がその認識を改めるのは、これから暫く後の事になる。 「フォート・ワースより入電!作戦海域に到着、先行部隊を出撃させよ」 「よし、フィッシュアイ部隊、ジムダイバー発進!遼艦にも伝えろ!」 オペレーターの伝達を素早く実行に移したブーフハイムは随伴する2艇の潜水艦にも全機出撃を促した。 その数、フィッシュアイ18機、ジムダイバー3機の計21機。 フィッシュアイ3機×2の2部隊を1機のジムダイバーの隊長が率いる万端のフォーメーションである。 フィッシュアイは一時的に生産されたとは思えない程の機動力を誇り、 個別の攻撃力には劣るものの大量に戦線に投入して運用すれば潜水艦など恐るるに足らない兵器となった。 敵を発見次第、今回は空母からも対潜攻撃機も発進し、戦闘に参加するのだ。この一分の隙も無い布陣で、 前回取り逃がした、あのスペースノイド共が乗る潜水艦を全て海の藻屑と消してやろう。 貴様等には分不相応な地球の海で死ねる事を有難く思うのだなと、ブーフハイムは熱狂的な瞳を輝かせ、 その口の端を吊り上げた。 651 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/05/20(水) 20 02 24.53 ID ziwUeqU0 「なるほどな・・・そいつは面白そうだ」 「ええ、MSM-10の性能を水中で100%発揮するにはこの戦法が一番だと思うんです」 「後は、耐久力の問題か」 「少尉の実験によって、ゾックの頑丈さが証明されています」 「ふふ、そうだったな」 何やら熱心に話し込みながらホルバインとアムロは、 レッド・ドルフィン隊旗艦ユーコン級攻撃型潜水艦【U-5】のブリーフィングルームに姿を現した。 ドアを抜け部屋に入った2人は同時に息を飲み込む。 その場を支配する張り詰めた空気に異常を感じ取ったのである。 そこには一様に暗い顔をしたフェンリル隊パイロットが勢揃いしており、 ハーネスとゲラートの沈痛な表情がその場の重さに拍車をかけていた。 「2人とも休息中に呼び出して済まない。ソコトラ島周辺海域に設置したセンサーが敵の動きをキャッチした。 まずはこれを見てくれ」 「これは・・・」 ハーネスが指し示す壁のスクリーンに映し出されたのは、画面の上半分を席巻する無数の光点群だった。 光点全てが敵だとすると、とてつもない大軍である。その数はざっと見て20を越えており、 じわじわとこちらへ迫って来ているのが確認できる。 「海中の戦力だけでこれだ。ソコトラ島観測所からの連絡によれば、 後方には護衛艦に守られたでかい航空母艦も控えているらしい。 爆撃機や対潜攻撃機も戦闘時には投入されると見るべきだろう」 「これに対してこちらの水中戦力は3隻の潜水艦と改修が終わったとは言え、たった1機だけのMSだ。 正面からぶつかるのは得策ではない、と、ゲラート少佐とも意見の一致を見た」 ゲラートの冷徹な分析に、ハーネスは悔しさを滲ませながら言を重ねた。 「我々は敵に追いつかれる前に、このままアデン基地まで後退する。 そこでフェンリル隊のMSを降ろし、奴等を地上で迎撃する作戦を取る」 「・・・それじゃあ、みすみす敵に先手を許しちまいますぜ。物量に勝る奴等の思うツボだ」 それはハーネスやゲラートにも判っている。 今回の作戦、ジオン軍は何よりもまず先に、連邦軍の水中部隊を叩きつぶさねば勝機は薄い。 紅海へ敵の侵入を許してしまえばアデン基地は背後を突かれ、海と陸から挟撃されてしまうからだ。 マ・クベがオデッサの防衛用に引き上げさせてしまった為に、 現在アデン基地の守備隊にはMSが配備されていない。 基地への爆撃を許し、空母に満載されているであろう敵MSを 無傷で上陸させてしまえばその時点で趨勢は決するだろう。 そして、もしアデン基地を放棄して敗走した場合、 数に劣るジオンは2度と彼の地を奪回する事は叶わないだろう事も。 いや、そもそもそれ以前に海と陸から敵に包囲された状況では自分達が無事に逃げ出す事すら困難だろう。 判っている。そんな事は充分判っているのだ。しかし。 「・・・部下に無謀な突貫をさせる訳にはいかん。ここは無理せず基地まで下がる。 既に他の部隊に向けて救援要請は出してあるが、どこもかしこも人手不足で、援軍はアテにできん。 ここは我々だけで何とかするしかない。戦力のムダ撃ちはさせられんのだ」 そう厳しい顔で言い切ったハーネスに対し、ホルバインはちらりとアムロと目配せをし、 その眼が頷いたのを確認してから口を開いた。 652 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/05/20(水) 20 03 24.62 ID ziwUeqU0 「MSM-10は単独で敵陣に突っ込むぜ。 その間に隊長達は急いでアデン基地に向かい、敵を陸上で迎え撃つ準備を整えといてくれ」 「馬鹿ね!あなた達をむざむざ死なせたくないと考えてる隊長達の配慮が判らないの!?」 一同は驚いて声の主に注目した。ハーネスやゲラートが口を開く前に、 なんと激昂したシャルロッテが後ろからホルバインを叱り飛ばしたのである。 そのあまりの剣幕に、両隊長は口を噤み、フェンリル隊はきまりが悪そうにあちらこちらに視線を泳がせている。 だが、その時ホルバインはニヤリとシャルロッテを、見たのだ。 その不敵な笑顔の意味が判らず怪訝な表情を浮かべるシャルロッテ。どうもこの男を相手にしていると調子が狂う。 「俺達はむざむざと死んだりしねえ。勝算がある」 「勝算ですって?」 「ああ。俺達に必殺の作戦有り、だ。 だがそれには・・・MSM-10の周りにできるだけ味方がいない方が都合がいい。 だから、今回の状況はおあつらえ向きだ。なあ、アムロ」 ホルバインのその言葉に今度ははっきりと頷く赤毛の少年。 シャルロッテは昂ぶる気持ちをムリヤリ押さえ付けて両腰に手をやり、 一息吐いた後にもう一度ホルバインの顔を凝視した。 その揺らぎの無い眼差しはどう見ても虚勢を張っている様には見えない。 ふと、アムロの自信に満ちた表情にも目が留まった。 「恐らくこの戦いで水中戦の概念が変わる。任せてくれハーネス隊長」 自信満々に言い放つホルバインに2人の隊長も視線を見交わした。 もう躊躇している時間は残されていない、敵はこの瞬間にも迫り来ているのだ。 ハーネスは指揮官として今、決断を下さねばならなかった。 「・・・判った。MSM-10出撃だ。 だが、あくまでも敵部隊を足止めし、我々が迎撃態勢を整える時間を稼ぐのが目的だ。 ある程度敵に損害を与えた後は包囲される前に速やかにアデン基地に帰還せよ。 いいか、決して無理をするんじゃないぞ!」 実際ホルバインとアムロがこれからやろうとしているのは、その命令とはまさに逆の事なのだった。 が、それを説明している時間はありそうに無い。結果で証明するのみだと2人は腹を括った。 「了解」「了解っ!」 2人はハーネスの命令に敬礼で答え、一瞬視線を合わせた後、 急いでMSM-10【ゾック】の待つデッキへ向かう。 突如鳴り響いた甲高いアラート音にバーニィはモニターを振り返った。 敵の大群が警戒水域を突破し、さらに迫りつつある事を知らせる警告音だ。 MSを失った彼は、今回戦闘オペレーターを勤める事になっており、 航海中そのレクチャーもスワガーから受け終えていた。 アムロに負ける訳にはいかないと、シャルロッテやニッキだけではなく、 彼もまた密かに気合を入れていたのである。 激戦が予想されるアデン湾はもうすぐであった。 692 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/05/23(土) 15 46 09.68 ID sJMd1fE0 「緊急支援要請だと?」 地中海アレキサンドリア基地近海に潜航する、 ユーコン級を遥かに凌駕する大型潜水艦マッド・アングラー。 その司令室で一際目立つ赤い軍服に身を包み、 ヘッドギア状の仮面で顔を隠した男はそう言って振り返った。 仮面のせいで表情は窺い知れないが、理知的な声音と隙の無い物腰が、 彼が只者ではないであろう事を雄弁に物語っている。 「これは我々と同じ潜水艦部隊のレッド・ドルフィン隊からのものです。 現在、アデン基地防衛作戦を遂行中、敵の水中大部隊に遭遇せり、至急応援を乞う、と」 「大佐、ドルフィン隊は過日の戦闘の際、2機の水中用MSを失ったと聞いてます。 ウチに搬入される筈だった新型が1機、今回の作戦に合わせて急遽配備されたらしいですが、 それがどうも欠陥品だったみたいで」 ジオン海洋諜報部隊に独自のネットワークを持ち、 事情通を自称するコノリー少尉が通信担当のポラスキニフ曹長を補足する。 「我々が大西洋から急遽この地中海担当に鞍替えさせられたのは、 もともとこの海域担当のドルフィン隊がマ・クベ大佐から、その作戦を勅命された為だった ・・・という訳ですな。 相変わらずあの御仁は、子飼い以外の部隊には、無謀な作戦を押し付けたがりますなあ」 マッド・アングラー隊艦長のフラナガン・ブーン大尉が、 この深海からでは見え様も無い筈のオデッサの方角を正確に睨み付けた。 潜水艦乗りは隔離された特殊な環境がそうさせるのか、仲間意識が非常に強い。 特にハーネス大佐とは顔見知りであるブーンは憤りもひとしおであった。 ふうむと顎に手をやり考え込んだ仮面の男にブーンが続ける。 「しかしこの海域を離れるとなると、他の部隊にここを任せる段取りが必要です。 ここからだとシーサーペント隊かマンタレイ隊でしょうが ・・・どちらにしてもすぐに救援に向かうという訳にはいきません。 それに、こちらには例の任務もあります」 「フラナガン機関・・・クレタ島の施設か、厄介だな」 693 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/05/23(土) 15 46 55.30 ID sJMd1fE0 仮面の男は顎に手をやったままコリノーを振り返った。 「我々より早くアデン基地に駆け付けられそうな部隊はあるか?」 「正確には判りませんが・・・公式には現在我々が彼の地に最も近い位置にいる潜水部隊だと思われます」 コリノーの言は暗に、味方に対しても存在を秘匿して非公式に活動している諜報部隊の事を指している。 だが、そんな部隊が例え近海にいたとしても救援要請に応じるとは、とても思えない。 仮面の男は顎から手を離し、バサリとマントを翻した。 「判った。それではマッド・アングラーを動かさず、MSだけを救援に向かわせよう」 「しかし、ここからでは全速力で向かってもアデンまで2日は掛かります」 「アレキサンドリア基地で輸送機を借り受ける。ラサ、マーシー、一緒に来い」 「はっ!」「了解!」 状況を把握した後は即断即決である。両曹長の敬礼に返礼した仮面の男はその場の人員に素早く指示を飛ばした。 「ブーン、後は任せる。任務続行だ。 他の者も、後々マ・クベに付け入る隙を与えない様に、残りのMSで哨戒は怠るな」 「了解でありますシャア大佐!」 各々が心酔し、全幅の信頼を寄せる隊長に対し、 一同を代表して声をあげたブーン以下マッド・アングラー隊の面々は誇らしげに敬礼を向けている。 踵を返したシャア・アズナブル大佐の仮面の奥に隠された仄暗い瞳が鋭く煌いた。 「アデン基地到着までに3~4時間という所か。それまで彼らが持ち堪えてくれていれば良いのだがな」 援軍とはいえ無謀な突入は何の意味もなさない。 マッド・アングラー隊の指揮官であるシャアは、戦況と敵味方の趨勢をしたたかに見極めねばならないのだ。 基地が墜ちていた時は言わずもがなだが、突入時、友軍の状況があまりにも劣勢であり 基地が陥落寸前だった場合等は、不本意だが戦闘に参加せず引き返す選択も視野に入れなければならないだろう。 なぜなら連邦軍はアデン基地を足場に大部隊を編成した後、 紅海を北上し地中海に侵入して来るはずだからである。 その時、敵を迎え撃つ矢面に立たされるのは他ならぬマッドアングラー隊なのだ。 後の作戦に備える為にも、部隊の戦力を擦り減らす事は極力避けねばならない。 冷酷な様だが、それが現実だった。 「MSデッキ!大佐が出撃されるぞ!ズゴック発進準備に掛かれ!ゴックとアッガイもスタンバイだ!急げよ!」 シャアがMSで出撃する。 艦内マイクに大声で指示を出しながらも、シャアの神技的なMS操縦に惚れ込んでいるブーンは、 その機動を目の当たりにできない自分の立場に少々の落胆を感じつつも、 浮き立つ様な気持ちを抑え切れずにいた。 不謹慎だと言われれば返す言葉も無いが、こればかりはどうしようもない。 740 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/05/26(火) 20 25 35.52 ID b7FKNZ20 「聴音装置に反応!潜水艦より発進した敵新型水中機動兵器は、アクティブ・ソナーを使用している模様です!」 「馬鹿め・・・スペースノイドは海戦の初歩も知らんらしいな」 アナンタ艦長ブーフハイム中佐は、水測士の報告にクククと笑いを漏らした。 迂闊にソナーを使用して水中で周囲を探査すると、自身の位置を相手にも明確に晒す事となる。 それが意図したものかどうかは判らないが、どうやら敵はノーガードで打ち合う戦闘をご所望の様だ。 「後方の3隻の潜水艦は全速力で戦線を離脱して行きます!こちらに向かって来る敵は機動兵器1機のみです!」 これで敵の罠という線は消えたと言える。 互角の戦力で殴りあうならまだしも、彼我の戦力差は20対1を越えているのだ。 その差は常識的に考えて勝負にすらならない。敵にもそれは判っている筈だ。 「仲間を逃がす為に、玉砕覚悟のオトリになるという訳か。 スペースノイドのクセになかなか味な真似をするではないか」 「待って下さい!敵機動兵器、深度を下げ海底に接地・・・いや、完全に着底して静止しました! アクティブ・ソナー依然発信中!」 つまり、敵は死に場所を定めたという訳だ。ブーフハイムは浮き立つ気持ちを押さえるのに必死だった。 「よし!1隊を正面上方、2隊をそれぞれ逆側面から回り込ませろ! だが近付き過ぎるなよ!敵を全周包囲した後、距離1000でフィッシュアイ一斉に短魚雷射出だ!」 恐らく敵は、こちらをおびき寄せ最終的に・・・できるだけ多数の敵を巻き込んで果てるつもりなのだろう。 が、そんなカミカゼに付き合ってやる義理などこちらには無い。わざわざ奴に近付いてやる必要など無いのだ。 この様な事態を想定し、接近戦用の武器であるフィッシュアイの連装式ロングスピアは、 短魚雷と有線式誘導魚雷管に換装済みだ。 完全にこちらの読み勝ちである。 後はじっくりと敵を取り囲んだ後、安全圏から悠々と追尾魚雷をお見舞いしてやればいい。 簡単な話だ。それでカタは付く。 ミノフスキー粒子の効かない海中で、距離1000で四方八方から同時に放たれた追尾魚雷など 例えデコイを使用しようと避けられるものでは無いのだ。 一発でも当たれば十分。直撃はせずとも衝撃波で機体外装に少しでも亀裂が入れば 後は水圧がこちらの味方となって敵にトドメを刺してくれる。 あの愚かで哀れな一機を始末したらすぐに、尻尾を巻いて逃げ去った潜水艦の追撃に入ろう。 その時は空母フォート・ワースに対潜攻撃機の投入を要請すれば万全だ。 そして、敵の水中部隊を一掃したら、アデン基地に対して「あれ」を使用して一気に決着をつけるのだ。 こちらはハナから空母に搭載された陸上用MSの出番など、作ってやるつもりは無い。 今日こそ、暗い海底に押し込められた潜水艦部隊の実力を、陸上部隊の奴等に見せつけてやる時なのだ。 ブーフハイムの脳内シミュレーションは完璧だった。 これまで軍人として、どちらかと言えば冴えない道を歩んで来た彼の目の前にぶら下がった、 栄光を掴み取る千載一遇のチャンス。 彼はまるで舌なめずりでもするかの様に、血走った目をギラつかせてその手を大きく伸ばしたのだった。 764 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/05/30(土) 13 26 10.19 ID YMT9fOE0 水深の浅いうちは、たゆたう様に揺らめき見えた太陽の光も、 この深い海の底では一滴すらその輝きを感じ取る事はできない。 完全な静寂―― だがその静寂の中、瞑目したアムロは周囲を取り囲んで行く敵意を明敏に感じ取っていた。 水測用のヘッドホン越しに聞こえていた静寂の音色に、明らかに違う何かが混じり込んで濁り出したのだ。 その殺意と言い換えてもいいザラつく気配は、アムロを少しだけいらいらさせている。 急遽追加された火器管制シートに座る彼の目の前には今、 画面が中央で2分割された大型のディスプレイモニターがあり、 そこには左右それぞれにMSM-10【ゾック】の前面と後面の映像が映し出されていた。 大型MSであるゾックには通常の倍以上のサブカメラが機体の各所に取り付けられており、 任意で切り替えることができる。 これは、各種ソナー対応のレーダーサーチ画面に切り替えることも可能だ。 アムロは神経を研ぎ澄まし、敵の変化を待っている。 いや、正確に言うならホルバインの合図を待っている。水側員の経験が無いアムロには、 経験が物を言うこの「音の変化」を聞き分ける作業だけはホルバインに任せるしか無かったのだ。 ごぼっという微かな音が、その時確かにアムロの鼓膜を震わせた。 「魚雷発射管注水音確認!来るぞ!」 ホルバインの大声にアムロは両目を見開いた。 素早く眼前のモニターを周囲レーダーサーチ画面に切り替えると、 ゾックの上方にいち早く展開していた小隊から発射された無数の魚雷が直線的に迫り来るのを、 3D光点表示で確認できた。 アムロにとって、待ちに待ったのはこの瞬間だったのである。 「カウンターブレット発射!」 ゾック頭頂部に装備された1番メガ粒子砲口がグリグリと魚の目の様に可動し、 斜め上方から迫る敵魚雷に正対する位置に発射角度を正確に調整した。 その中央から連続発射された高速パイロットブレットが、気泡を巻き上げつつ敵の放った魚雷と交差した瞬間、 アムロはトリガー親指部分にあるボタンを押し込んだ! 「メガ粒子砲発射!」 ザクの4倍という強力なジェネレーター出力に練り上げられたメガ粒子の奔流は、 まるで南海を貫く龍が如く嬌声を上げて迸り、瞬く間にゾックに迫っていた魚雷を連鎖的に爆散させるや、 そのまま敵の魚雷が自らの気泡で付けた道筋をさかのぼり、 魚雷を発射したばかりのフィッシュアイ5機を粉々に消し飛ばした。 いや、正確に言うならば、全ての敵を貫いたのはビームでは無い。 彼らの眼前で大規模な水蒸気爆発が起こったのである。 爆発に巻き込まれた5機のモビルポッドの薄い装甲はひとたまりもなかった。 機体に亀裂が及んだ後は、奇しくも彼らの指揮官であるブーフハイムが予想した通り、 水圧によって圧壊してしまったのだ。 水圧は彼らの「味方」だけにはならなかったのである。 765 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/05/30(土) 13 26 46.71 ID YMT9fOE0 電磁気的に亜音速まで減速したビームを発射するとはいえ、ビームはパイロットブレットより速い為、 ブレットを「追い越した」時点で水蒸気爆発を起こす。 ならばその水蒸気爆発を武器として使えないかとアムロは考えたのだ。 そして、敵の水中兵器が巻き起こす気泡はゾックが発射するパイロットブレットと同じ「射路」を 敵まで付けてくれる道筋となる。 そしてその道筋が途切れた場所で水蒸気爆発が引き起こるのだ。つまり敵の至近距離で、である。 例え敵にビームは直撃しなくとも、至近距離での大規模な水蒸気爆発は十分に大ダメージを与えうる。 果たしてその結果は予想以上のものであった。 そして――― 「2時、4時、11時、から魚雷接近!」 「バブルパルス弾幕を張ります!衝撃に備えて下さい!」 ホルバインの警鐘にアムロの指が鮮やかにキーボードを叩くと、 2分割だったモニター画面の右側が9分割に切り替わった。 これはそれぞれの画面が、ゾックの別個に稼動するメガ粒子砲からの視点に対応している。 海底に接地しているゾックには周囲全天360度、死角はどこにも存在しない。 アムロは入力デバイスをトラックボールに持ち替えた。 例によって左側モニターの3D表示は中央下のゾックを示すアイコンに対して 迫り来る無数の魚雷が表示されている。 アムロは魚雷と自機の中間地点あたりに照準を次々にロックオンすると、 開いている片手で9分割された画面のいくつかに次々とダイレクトタッチして行く。 この画面はタッチパネル機能も付随しているのだ。 タッチされた画面は赤色に変化し、冷却が終了するまでは次撃発射が不可能な事を表している。 だがここは冷却水に事欠かない海底である。超強力なジェネレーターを持つゾックは、 よほどの事が無い限り、連続発射が不可能になる道理はなかった。 ゾックから放たれたメガ粒子砲は次々と水蒸気爆発を巻き起こし、 そこに突っ込んで来た魚雷群を誘爆で一掃してしまった。 撃ち漏らしは皆無でゾックまで届いた魚雷は一発も無い。ホルバインはアムロの腕前に思わず口笛を鳴らした。 ≪Mコマンド≫戦法 中世期の地球で開発された、このタイトルのコンピューターゲームにライブラリで 夢中になった経験のあるアムロは、この防御手段を頭の中でそう名付けていた。 『ゾックの恐ろしさは「強力な水中砲台」ってだけじゃねえぜ。そいつをこれから敵共に見せ付けてやる』 ホルバインもまた自らの出番に備え、静かに闘志を燃やしている。 しかし今はただ、操縦レバーを軽く握り締めるだけに止めておくのみであった。 824 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/06/04(木) 19 35 48.28 ID X7b6VMg0 二度、三度と長大な斬光が漆黒の海底を刹那照らし出すごとに、圧倒的であった筈の友軍部隊はその数を減じ、 気が付いた時には総勢が半分以下となっていた。 「ば・・・馬鹿な!何故だ!?いったい何が起こっている・・・!?」 ブーフハイムは顎関節が脱臼でもしたかの様に大口を開け、次には歯噛みしながら、 友軍の発するビーコンが次々と消滅してゆくレーダーモニターを眺めているしかなかった。 「て、敵MSは信じ難い事に、水中で強大な威力のメガ粒子砲を発射しているようです!」 「ふざけた事を抜かすな!ジオンのMSがメガ粒子砲だと!?水中で!?そんな事は絶対にありえん!」 「ご覧下さい!撃破されたフィッシュアイから最後に送られて来たデータです。 敵は、小型魚雷の気泡をトレースするようにビームを発射しています。 なるほど、確かに、この方法ならば不安定ですが水中でのビーム発射が可能だと思われます!」 思わず感心した様な声で報告する技術参謀に激昂したブーフハイムは被っていた帽子を床に叩き付けた。 彼の矜持にしてみればMSが運用し、敵に致命的なダメージの与えることが可能なビーム兵器は 連邦軍だけにしか存在してはならない筈だった。 空母フォート・ワースに搭載している我が軍の新型MSRGM-79ジムをして、 連邦軍でもようやく量産に成功した≪ビーム・スプレーガン≫が装備されたばかりだというのに、 ジオンのMSがそれに先んじている筈が無いではないか。 しかも水中でビームを発射するMSが存在するなど、彼にとっては到底認められる事態ではなかったのである。 しかし、現実問題として、このままでは敵のビーム攻撃によって部隊の被害が増すばかりだ。 指揮官として辛うじてだが、眼前で起きている事態に目を背けずにいる分別を持ち合わせていた彼は、 技術参謀に怒りの矛先を向ける事で、何とか精神の平衡を保つ事に勤めようとした。 「ええい!何か方法は無いのか!敵のビーム攻撃を封じる手段は!?」 「艦長。恐らく敵は、移動しながらビームを発射する事は不可能なのでは無いでしょうか?」 「何っ!?それは本当か!」 意外な技術参謀の言葉に一瞬、ブーフハイムの顔から怒気が消え失せた。 「気泡をトレースしてビームを発射している以上、 自身が高速で動けば動くほど気泡の射路が途切れてしまうはずです。 だから敵は海底に静止して砲台となっているのでしょう。つまりは、奴はそこから動けない筈。 危険な砲台にはこちらから近付いてやらなければ無力化できます」 彼にとっては正直、技術参謀の説明は今ひとつ良く判らなかったのだが、この状況を打開できるなら何でも良い。 ブーフハイムは辛うじて撃沈を免れている部下達に向けて作戦変更の檄を飛ばした。 「作戦行動中の全部隊に通達する!直ちに包囲中の敵MS攻撃を中止、散開し、 隊長機を中心に部隊を再編成した後、アデン基地方面に退却中の敵潜水艦を追撃せよ! もし敵MSが追い駆けて来たとしても、奴はビームを撃てない!魚雷で今度こそ仕留めてやれ!」 どうにかビーコンで確認できるのはジムダイバー2、フィッシュアイ9の機影のみ。 当初の大部隊から鑑みるに惨憺たるありさまである。MSが2機、 撃破されずに残っていたのは幸いと言うべきか。 戦果を何一つあげていないこの状態では、 空母に対潜攻撃機の出動を要請する事はできないとブーフハイムは考えた。 もしも彼の部隊を尻目に対潜攻撃機が潜水艦を撃沈でもしようものなら、 ブーフハイムの部隊は大打撃を受けただけで何一つ戦果をあげられなかった事になる。 指揮官として無能の烙印を押されるその事態だけは何としてでも避けねばならない。 敵の水中部隊を撃破すれば少なくとも最低限、ブーフハイムに課せられた役割は果たせた事になるのだ。 敵MSの意外な性能に予想外の損害を出す事になってしまったが・・・まだだ。まだ負けてはいない。 ブーフハイムはじっとりと汗の滲んだ両掌を、何度もスラックスに擦り付けた。 925 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/06/06(土) 19 44 52.00 ID AaX.MPQ0 操縦桿に手を掛けたままレーダーモニターを凝視していたホルバインは逸早く、敵の異変に気が付いた。 「見ろよアムロ!やっこさん達、蜘蛛の子散らす様に逃げ始めたぜ!」 ようやく敵部隊はこのゾックを撃破しようとする事が如何に困難な事か気が付いたという事なのだろう。 だが、その決断は遅きに失した。そして、この事態は既に2人によって予想されていたのである。 「さて。敵さんは尻尾を巻いて母艦に帰投するか、 それとも残存部隊を再編成してレッド・ドルフィン部隊を追撃するか・・・?」 半眼にしたホルバインが薄く呟く。 緒戦に躓いた敵艦隊が、このまま空母を引き連れてディエゴ・ガルシアあたりまで引き返してくれる と言うのなら見逃してやらない事も無い。 いくら水中では無敵のゾックとはいえ、1機だけで敵水上艦隊まで相手にするのは少々骨が折れる仕事だろう。 ハーネスには出撃を認めさせる為にああ言ったが、本来ゾックの性能は集団戦の中でこそ光るものなのだ。 一度仕切り直し、戦力を整える事さえできたなら、再度同じ規模の敵と交戦する時でも、 今回の様にハイリスクな戦法を避ける事で戦いの様相は全く違ったものになるだろう。 だが、モニターには表示されている光点が集まり出し、 見る間にアデン基地の方角に向けて移動を始めた様子がくっきりと映し出されている。 どうやら連邦軍は後者の作戦行動を選択した様だ。 おいおい、そいつは見逃せねえぜとホルバインは凄みの効いた笑みを浮かべた。 アムロの顔にも緊張が走る。だが、慌てはしない。 「敵にもう一撃、仕掛けます!」 それ程に改装されたエーギルの性能は高いのだ。 アムロは慎重に狙いを定めると、現在部隊再編の為に個別に逃走している敵をそのまま狙う事はせず、 速度と進行方向からベクトルを割り出し、未来予測される敵の集合地点に向けてパイロットブレットを射出した。 水中での高速射出と安定直進のみを追及し開発されたブレットは、 通常の魚雷を遥かに凌駕したスピードで敵を追い越し目標地点に到達、 間髪入れずに発射されて来たメガ粒子砲の巻き起こした大規模な水蒸気爆発が同時に2撃、 またもや集結中の連邦軍部隊を吹き飛ばす事になった。 ゾックに搭載されたエーギルシステム内臓のメガ粒子砲は有効射程2000M、 最大射程は理論値ながら2800Mにも達する。 アムロは逃走を図る敵の集団に再度、射程圏内ギリギリで痛烈な打撃を与える事に成功したのである。 連邦軍のパイロット達は皆、ソナーレーダーで迫り来る超高速超小型魚雷を把握してはいたのだが、 何しろ対象が他に類を見ない程の高速であり、誘導式魚雷の類では無い為に 妨害兵器で進路を捻じ曲げる事も叶わず、自機の進行方向に向け連射されて来ているターゲットに対して 迎撃魚雷も役には立たず、水中を全速力で航行している機体をすぐに静止させる事も不可能であり・・・ 結果、直撃を免れた機体もバブルパルスによって次々と戦闘不能の状態に陥っていった。 「そんじゃあ、行くぜアムロ!アゴ引いとけ!」 今ここに、砲台としてのゾックの役割は終わったのである。 ようやく回って来た出番に、嬉しそうに笑ったホルバインの瞳が、まるで人懐こい子供のように揺れている。 この男、こんな表情もするのかと意外に思いながらも、 アムロは頷くと同時に身体を固め、そのままの姿勢を取った。 満足そうに頷いたホルバインがフットペダルを踏み込み一気にレバーを引くと、 海底に陣取っていたMSM-10【ゾック】は、まるで地上でロケットが発射する時の噴煙の如く、 大量の海底の泥砂を濛々と巻き上げるや、その巨体からは想像も出来ないような急加速で飛び出し、 水中巡航形態に移行した瞬間、最大加速で敵残存部隊への追撃に入った。 956 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/06/08(月) 01 43 32.42 ID 1wln5ac0 「う・・・ああ・・・!」 「どうしたんだい!また頭痛かい?」 船倉の片隅で両腕で頭を抱え込み、またもや蹲ってしまった少女に、 お下げに結わえた赤毛を揺らしながらミハル・ラトキエは急いで駆け寄った。 ミハルの前で頭を抱え震えているこの褐色の肌の少女は、これまでも頻繁に酷い頭痛を訴え、 その度に怖い怖いと、うわ言を口にしていたのである。 港を出航してからもう何日が過ぎたのだろう。こんな環境ではそれも無理は無いとミハルは思う。 見渡せば、だだっ広いだけの薄汚い船倉には二十数人の子供達が肩を寄せ合うように腰を降ろしている。 部屋の隅には幾つかの簡易便器が備え付けられ、唯一外界と通じるハッチは外から施錠され硬く閉ざされており、 食事の定時配膳時以外は開かれる事は無い。 船の最下層にあるこの部屋は、喫水線より低い位置にあるため窓は無く、 頼りなく薄ぼんやりと灯る常夜灯がオレンジ色の光を投げかけ、今現在が昼なのか夜なのかすら判らない。 その光がそこに押し込められた子供達の頬を絶望の色に染めているのだ。 マドラス基地がまだジオンの支配下にあった頃、 ジオン占領地で複数の収容施設に分かれて暮らしていた戦争孤児達は、 連邦軍がマドラス基地を攻撃した直後、とあるジオンの部隊によって港があるムンバイに集められ、 有無を言わさず偽装貨物船の船倉に押し込められたのである。 なんでも、なんとか島にあるというもっと立派な施設に移されるのだそうだ。 何かがある・・・と、ミハルはいぶかしんでいた。 自分を含めここにいる子供たちは皆、無力であり、 ジオンにとっては(連邦でも同じだろう)ごく潰しの存在の筈だ。 自分達が生み出した哀れな孤児に懺悔して、今さら慈善事業を開始した訳でもあるまい。 そんな殊勝な奴等はそもそも初めから戦争を始めないだろう。 足手まといにしかならない存在をわざわざ危険を犯してまで連れ出すのにはそれ相応の理由、 メリットが無ければならない。 そしてどうやらそれは、自分達にとっては歓迎すべからざる理由であろうという事も、 ミハルには薄々察しがついていた。 「ああ・・・また・・・人の命が消える・・・ああ・・・また・・・!」 きっと酷い頭痛のせいで意識が混濁しているのだろう。 ぶるぶると震えながら恐れおののく少女の細い肩を、ミハルはしっかりと抱き締めた。 一人一枚割り当てられた毛布しかない船倉では、柔らかいベッドに彼女を横たえてやる事も叶わず、 今の自分にできる事と言えば、きつく抱き締めて震えを止めてやる事ぐらいだった。 「ジル、ミリー、あんた達も来な」 ミハルは優しい声で彼女の幼い弟妹を呼び寄せると震える彼女の脇に座らせ、 三人をまとめて抱え込むように腕を回すと目を閉じた。 「どうだい?こうしていると、少しは怖くないだろ、ララァ?」 ミハルはララァの耳元で、この船のこの船倉で初めて出会った時に彼女の口から聞いた名前を呟いた。 その声音にようやく目を上げたララァ・スンは、 汗ばんだ褐色の顔に張り付いた自らの髪の毛をどうにか拭う事ができた。 だがその瞳からはまだ怯えは消えていない。 常人には聞こえぬ死に逝く者の断末魔に苛まれているのだ、と、ミハルは唐突に思い当たった。 「近くの海で、また・・・戦争が・・・たくさんの人が・・・ああ・・・!」 ミハルはララァの気がふれているとは思わなかった。 もちろん詳細など判るはずも無いが今この場所にいるという事は、 彼女もこれまでに何かしら不幸な人生を送って来た事に間違いは無いだろう。 彼女の持つこの不可思議な感性が、その辛酸を舐めた日々の中で、 もしかしたら彼女に芽生えた『救い』なのかも知れない。 上手く言葉にはできないが、そう感じるのだ。 それにしても船が揺れる。食器を下げに先程この部屋に入って来た男によると、外は嵐になっているらしい。 彼女達の運命を象徴する様に、逆巻く大波は、 彼女達の乗船する偽装貨物船【フォルケッシャー号】を散々に翻弄した。
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【SS】もしアムロがジオンに亡命してたら part6-1 8 名前:通常の名無しの数倍[sage] 投稿日:2010/03/09(火) 16 52 26 ID dmqt2Kqk0 [2/6] 「全員、手はきれいに洗って来たね?それじゃあ晩ご飯にしよう!」 清潔な白いケットをエプロン代わりに腰に巻き、タオルをふんわり頭に被り後ろで縛った「姉さんかぶり」の出で立ちのミハルは、両手を腰に胸を張り、テーブルに着席した一同に笑顔でそう宣言した。 ミハルの横で彼女と同じスタイルをして立つハマーンも、何やら緊張した顔で頷いている。 このミハル・ラトキエという17歳の少女には、こういう家庭的で少々レトロなスタイルが実に良く似合うのだなとシャア・アズナブルはぼんやり考えていた。 どちらかというと痩身気味の彼女だが、むくつけき男達を前に物怖じせず、堂に入ったその態度は貫禄十分である。 恐らく調理場を仕切った時からここはミハルのフィールドとなったのだ。すべからくここにいる男達は、母親を前にした幼い子供の様に、彼女に逆らう事は許されない何かを感じてしまっている。 もちろんそれはこの場限りのものではあるだろうが、部隊指揮官の目から見ても「見事な人心掌握術」と言えない事もなかった。 士官学校時代から何かと女性に不自由しなかったシャアではあるが、こういった雰囲気を醸し出す女性は今まで彼の周りにはおらず、彼女の一挙手一投足が実に新鮮に映り、目が離せない。 サムソンの車内ではあえて彼女と離れた場所に座り一言も彼女とは会話しなかったシャアだが、やはり無意識に視線は彼女に向いていた。 その眼差しを隠すのに、彼の仮面はこの上なく役に立っていたのである。 普段は会議用に使用される楕円形のテーブルに着席している一同の前にミハルとハマーンの手によって置かれたのは、3つの大ぶりな平皿にそれぞれ積み上げられたサンドイッチの山だった。 この人数にこの量はさすがに多すぎるのではないだろうかと、まず誰もがそう思った。 やや厚めに切られたパンの中には、得体の知れない桃色の物体がたっぷりとはさみ込まれている。 3皿のサンドイッチ全てがそれなので、えり好みは不可能だ。 薄気味悪そうにこのパンには一体何が挟んであるんだと目で問うクランプに、判りませんやと小さく肩を竦めるコズン。 ちゃんと今夜の糧を神様に感謝するんだよと言いながら一同を見回し終えると、ミハルとハマーンの二人は忙しそうにそのまま部屋を出て、再びキッチンへと消えてしまった。 後には、目の前のサンドイッチを凝視する一同の醸し出す何とも言えない空気が残された。が――― 「お、お待ち下さいシャア大佐!」 慌てた様なアンディの声で、シャアは手袋を脱いでサンドイッチに伸ばし掛けていた手を止めざるを得なかった。 「何だ」 「あ、いえ、大佐は大事なお体なのです!オデッサも控える今、得体の知れないモノを食して体調でも崩されたら一大事!!」 少しばかり不満そうなシャアに小声で答えたアンディの言い分に、ピンク色のサンドイッチを見ながら確かにそうだとその場の全員が頷く。 こういう場合、リトマス試験紙、悪く言えば毒見役的な役割を担うのは、やはり一番立場の弱い者になるのは世の常であろう。 うず高く積み上げられた正体不明なサンドイッチを前に、場の空気を読んだ一人が、実に消極的な挙手をした。 「・・・まずは自分が」 「判ってるじゃねえかバーニィ!お前も使えるオトコになったモンだぜ!!」 悲壮な決意をその顔色に滲ませながら名乗り出たバーニィの背中をコズンが嬉しそうにバンバンと叩いている。 「あはははh・・・それ程でもありませんよ・・・」 その衝撃に指で摘んだサンドイッチを取り落としそうになりながらも周囲が固唾を呑んで見つめる中、バーニィは思い切ってソレをぱくりと口に入れ、数回咀嚼し・・・飲み込んだ。 9 名前:通常の名無しの数倍[sage] 投稿日:2010/03/09(火) 16 53 46 ID dmqt2Kqk0 [3/6] 「ど、どうだ!?」 まん丸に見開かれたバーニィの瞳を見たコズンが今更な心配声をかける。 が、上気した顔で、バーニィは勢い良く頷いた。 手には既に二つ目のサンドイッチが摘まれている。 「コレ美味いです!もの凄く美味い!!」 「何だとお!?お前、俺達を地獄の道連れにしようってんじゃないだろうなっ!?」 「そう思われるのでしたら、コズン中尉の分は自分が頂きますが宜しいですか?」 「!」 瞬く間にバーニィが手にした二つ目を食べ終えたその途端、再び伸ばした彼の手を跳ね除けたコズンを含め、サンドイッチの山に一同はわらわらと一斉に手を伸ばした。 正味の話、もういい加減に全員腹が減っていたのだ。 見てくれは悪いサンドイッチだが、食えるとなれば話は別だ。 しかしその味は、遙かに皆の想像を越えていたのである。 「うお美味ぇ!なんだコリャ!?」 「確かに良い味だ、いやこれは金が取れるぞ。酒にも合いそうだ」 光の早さで一切れを食べ終えたコズンはすかさず2つ目を手にし、クランプはしきりと関心した様に食べかけのサンドイッチを見つめている。 こう見えてクランプは料理もやる。開戦前までサイド3でバーテンをしていた事もあり、彼の舌は確かである。 「このパンの中身は・・・ポテトサラダだな。 それに生のタラコをレッドチリソースに漬け込んでほぐした物を混ぜてあるらしい。 だから全体がこの様な色になっているんだ。 なるほど、辛さのアクセントがジャガイモのコクを引き出していて実に旨い。ビネガーの効き具合も、絶妙だ」 まじめな顔でサンドイッチの分析をしているクランプの横でシャアは満足そうに口を動かし、2つ目を喉に詰めたコズンが慌ててミネラルウオーターで流し込んでいる。 確かにこれがビールだったら最高だろう。 「タラコって何です?」 「魚の卵ですよ准尉。コロニーでは高級品ですが地球では割と安価で手に入る食材です」 こちらでは夢中でサンドイッチを頬張るアムロの問いに、彼の右隣に座ったニムバスが丁寧に答えている。 サイド7に移り住むまでは地球で育ったというアムロでも良く覚えていない様な事を、すらすらと話せるニムバスの知識は結構凄いなと考えていたバーニィは、再び部屋に入って来たハマーンの姿を目に留めた。 「あ、アムロ、あのその、こ、これも食べてmてくr」 後半のセリフを噛みながらも思い切って差し出されたモノにアムロは驚きつつ絶句した。 ハマーンの名誉のためにもここは敢えて、そのモノの描写を避ける。 「こ、これは・・・」 「ハマーンはあんたの為に生まれて初めて料理をして、一生懸命これを作ったんだよ。気持ちを酌んでおやりよ」 恥ずかしそうに顔を伏せるハマーンの後からやって来たミハルが、苦笑いしながらアムロにそう進言した。 彼女の手には熱々のシチューが入った大きな煮込み鍋の乗ったキャスターが押されている。 「ほう・・・!」 香ばしく食欲をそそる香りに皆が思わず唸った。 その魚介類がふんだんに入ったブイヤベースの深皿が各人の前に一つずつ行きわたってゆくのを見たシャアとアンディは、通信室で微かに香っていたのはこれだったのだと得心したのである。 「おおお!これまたべらぼうに美味いぜ!」 「これは凄い。よくこの短時間でこんなに深みのある味を出せたものだ」 「食材の中にぶどう酒があったからね、それも使ってみたんだよ」 またも一同から巻き起こった賞賛の嵐に面映ゆそうにミハルが答えているその横で、問題のブツを前にして固まってしまったアムロは、だらだらと汗を流し、密かに助けを乞う視線をちらりと隣のバーニィに送ったが 「准尉!ハマーン嬢の気持ちに答えるためにも、これは、覚悟を決めるしかありませんよ?」 自分は美味そうにブイヤベースをかき込みつつ、バーニィはニヤニヤしながらアムロの恨めしそうな視線を断ち切ってしまったのである。 驚いたアムロは一縷の望みを込めて反対隣に座るニムバスに視線を向けた。しかし・・・ 「騎士たるものの心得として、女性に恥をかかせる事など言語道断。 ・・・骨は拾って差し上げます」 ぴしゃりとニムバスにもそう言われてしまった。 ここに、アムロの退路は完全に断たれたのである。 10 名前:通常の名無しの数倍[sage] 投稿日:2010/03/09(火) 16 55 23 ID dmqt2Kqk0 [4/6] 「ミ、ミハルは心を込めて料理を作れば失敗はないと言ったぞ?」 「あり、がとう、ハマーン、失敗なん、てあるは、ずないさ」 自らが作ったモノを必死にアピールするハマーンにスタッカートで答えながら、アムロは震える手で、パッと見●●●にしか見えない件のブツをつまみ上げ、ぱくりと口に入れた。 「・・・・・・・・・・・・こっっっ」 瞬間、口の中の水分を全部持っていかれてしまったアムロは、パッサパサ言いながらラインダンスを踊るウサギ達の幻影を垣間見た。 何かを求めるように中空をヒラつくアムロの手にしっかりとミネラルウォーターのボトルを握らせてやるニムバス。 ものすごい勢いでブツを飲み下しているアムロの背中を気の毒そうにさするバーニィ。 何だかんだでこの三人、チームワーク抜群である。 ぜえぜえ言いながら顔を上げたアムロの目に、ぎゅっと両手を握り込み自分を凝視しているハマーンの顔が映った。彼女は、アムロの言葉をじっと待っている。 「・・・准尉」 小声でニムバスに促されたアムロは息を整え、少々引きつった顔でハマーンに笑顔を向けた。 「ありがとうハマーン。とても美味しかった」 その瞬間、自信なさげだったハマーンの顔が、ぱあっと喜びに輝いた。 「ミハル!ミハル!やった!アムロがおいしいって!!」 「良かったねハマーン。だから言っただろう?心配ないってさ」 「うん!うん!」 ぴょんぴょん跳び跳ねながら喜んでいるハマーンにバレない様にミハルはアムロに感謝の視線を送って来、アムロはこっそりと溜息を吐き出した。 「ご立派です」 再びアムロに顔を近付けて小声で囁いたニムバスは何だかやけに嬉しげであった。バーニィも安堵したように胸をなで下ろしている。 が、漏れ聞こえてきたハマーンの次の言葉に、三人はびくりと身を竦めたのである。 「そうだ!今後はずっと、アムロの食事は私が作ろう!」 まるで超音波の様にか細く甲高いアムロの悲鳴を、顔を近付けていたニムバスだけが聞く事ができた。 「だめだよハマーン。過ぎたエコヒイキはグループの和を乱す原因になるのさ。 ハマーンだって、もし自分だけが毎回食べる食事にデザートが付いていたりしたら、気まずいだろ? アムロにそんな思いをさせたいのかい?」 「・・・そうか、そうだな。うん。それはだめだ」 ミハル、ナイスフォロー! 納得して頷くハマーンの肩越しに微笑むミハルに今度はアムロ、ニムバス、バーニィが感謝の視線を送る番だった。 11 名前:通常の名無しの数倍[sage] 投稿日:2010/03/09(火) 16 55 53 ID dmqt2Kqk0 [5/6] あれほど量が多すぎると思われていたミハルのサンドイッチはいつの間にか全て一同の腹に収まってしまい、ブイヤベースが入っていた大鍋は空になった。 ミハルの出してくれた食後のコーヒーを飲みながら、一同は満ちたりた様子で女性陣を交えて談笑している。 自分は会話に加わらず部屋の奥からその光景を眺めていたシャアは、一同のミハルを見る視線と態度がこれまでとは大きく変わっているのを実感していた。 戦場において、有り合わせの食材でうまいメシを作れる人員は、それだけで皆から大事に扱われるものなのである。 それは今も昔も変わらない現象だが、ミハルは実力で自らの居場所を勝ち取ったのだった。 今後のミハルの処遇に少なからず頭を悩ませていたシャアは、肩の荷が少しだけ降りた事を密かに喜んでいた。 「大佐、それではそろそろ」 「うん」 アンディに促されたシャアは、全員に着席する様に命じた。 これからすべき議題と確認事項は山ほどある。長い会議になりそうだ。 しかし、皆、気力が漲っている。まるでこれまでの疲れがどこかに吹き飛んでしまったかの様だ。 これもミハルのお陰かなと考えながら、シャアは作戦会議の開始を宣言した。 33 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/03/22(月) 12 05 19 ID 1vBY2xLo0 [2/7] クレタ島の東に位置する【ロドス】はエーゲ海南部ドデカネス諸島に属する島である。 ベドウィン作戦発動中、ランバ・ラルはオデッサにおいてシャアと合流する計画を立て、事情を知るシーマ・ガラハウ中佐を通じサイド3に密使を送り、父ジンバ・ラルの同士であったアンリ・シュレッサー准将にこれまでの経緯を説明すると共に協力を仰ぎ、その際補給をも要請していた。 そして『速やかに全ての準備を整える』というシュレッサーの力強い返答を携えて、アンディはシャアの元に赴いたのである。 この補給ラインが確保されていたからこそ、シャアはマ・クベと思うさまに渡り合う事ができた。 補給受領の地点は、地理的にもクレタ島に近くジオン軍の大規模集積基地のある、このロドス島が最適だった。 ロドス島港湾内にあるジオン軍物資集積基地に、クレタ島ザクロスから飛来した輸送機が到着したのは正午近くの事だった。 輸送機に乗り込んでいたシャア達一行は現在、滑走路の中央に位置したポートから兵員輸送用の大型エレカに乗り換え、大型格納庫を兼ねた基地施設のメインビルに向かって移動している。 「おっと姐御・・・どうやら奴っこさん達が到着したようだぜ。ちっとばかり、予定より早い到着だったな」 メインビル最上階にある士官専用スイートルームの窓に、立ったまま背中を預け、肩越しに外へ目をやっていたジョニー・ライデンはそう言って苦笑する。 低い位置からライデンの顔を妖艶な眼差しで見上げていたシーマ・ガラハウは、名残惜しそうに彼から身を離すとスカーフで唇の端を拭い、床に着いていた両膝を払って立ち上がった。 「久々に二人きりになれたってのに全く・・・気の利かない連中だねぇ。おや」 ライデンと同じ様に窓から地上を見下ろしたシーマは、施設前に止まったエレカを降り立ち、こちらを見上げた赤毛の少年兵と目が合った。 いや、常識的に考えれば「目が合った気がした」というのが正しいのかも知れない。 地中海の強い日差しを避ける為マジックミラーとなっている地上4階にあるこの窓の中が、外から見える筈が無いからである。 が、シーマはその少年の相変わらずのカンの良さを常識に当て嵌め「見くびって」やるつもりは微塵も無かった。 「あのボウヤも一緒じゃないか。ふふふ、相変わらず食えない子だねぇ。アタシらがここにいる事、見抜かれたよ」 「楽しそうだな、姐御」 「何言ってんだいジョニー。アンタの方がよっぽど楽しそうな顔してるくせにさ」 呆れ顔でそう言いながら頬を小突くシーマにライデンは違いないと陽気に笑う。 「楽しくない訳が無いだろう。見ろ、今出て来たのが赤い彗星だ」 ライデンの鋭い眼光は、一行の最後にエレカから地上に降り立った仮面の男をまるで値踏みする様に捉えていた。 「さあて・・・噂のシャア・アズナブルが俺達のボスにふさわしい野郎かどうか、じっくり見極めさせて貰うぜ」 「あんまり突っかかるんじゃないよ?御輿ってのは見栄えと権威さえあれば良いんだ。後は担ぎ手次第でどうにでもなるもんなんだからね」 「姐御に逆らう訳じゃないが、そいつは聞けない相談だな」 そう言いながら、きらきらした少年の眼でライデンはシーマを見つめて来る。 ああまたこの男の悪い癖が出てしまったと頭を抱えたくなるシーマだったが、その邪気のない瞳に彼女は、弱い。 34 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/03/22(月) 12 06 13 ID 1vBY2xLo0 [3/7] 「せっかく同じ【赤】の通り名を持つ者同士が出会えたんだ。どちらがその色にふさわしいか、勝負だ」 「ジョニー・・・」 「おごっ!」 いきなりシーマは、ライデンの腹部(※下腹部ではない)に鉄拳を打ち込んだのである。 ・・・しかしシーマの拳は瞬時に鋼と化したライデンの腹筋に阻まれ、めり込ませる事ができていない。 逆にシーマの手首の方が痛かった程だ。が、彼女は構わず彼の腹にグリグリと拳を押し付けている。 「くだらない対抗心を起こすんじゃないよ?いいかい、アタシらにはもう乗り換える船は無いんだ!」 「いてててて姐御、冗談だ冗談!」 「アンタが言うと、冗談に聞こえないんだよ!いいかい、くれぐれも・・・」 眉間に深い縦皺を刻み込み、噛み付きそうな勢いで顔を寄せたシーマにライデンは何と素早くキスをしてから逃げる様に身を離したのである。その軽薄な行動が、シーマの頭に瞬時に血を上らせる。 「このっ!!誤魔化すんじゃないっ!!」 その言葉とは裏腹に若干顔を赤らめながらも、ライデンの顔面とボディに向けて次々と本気のパンチと蹴りを繰り出すシーマ。 当たり所が悪ければ脳震盪では済まない海兵隊仕込みの実戦的なマーシャルアーツである。 しかし彼女のそんな洒落にならない攻撃を、姐御は受けに回ると滅法弱いんだよなあと笑いながら、軽いフットワークでライデンは見事に全て躱し切って見せた。 やがて呆れつつ楽しげに笑いだしたシーマに釣られてライデンも笑う。打ちも打ったり、避けも避けたり、体術の教本にしたい程レベルの高い格闘術の応酬の末、ウヤムヤのうちに今回の痴話喧嘩モドキは終了となった。 過激すぎる2人の蜜月的な関係は、この数分間のやり取りに集約されていた。 常人には到底理解し得ない、これが何人も立ち入る事のできない彼等だけのスタイルなのであった。 35 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/03/22(月) 12 07 11 ID 1vBY2xLo0 [4/7] シーマの部下に先導されるまま、格納庫内に足を踏み入れたシャア達一行は、簡易MSハンガーに所狭しと屹立している『サイド3からの補給物資』であるという6機のMS-06を見て、それぞれに微妙な表情を浮かべていた。 ビームライフルを標準装備し、量産機として正式採用されたばかりだというMS-14【ゲルググ】は高望み過ぎるにしても、少なくとも【グフ】や【ドム】ぐらいは欲しかった所だ。 連邦軍の高性能MS配備が着実に進んでいる今、既に旧式となってしまった感のあるMS-06【ザク】で激戦が予想されるオデッサに挑むのは、心もとない・・・と、いうのが一同の正直な感想だった。 もちろん贅沢など言えるものではないが、ザクの標準兵装である120㎜マシンガンでは連邦MSの装甲を抜けない、のは実証済みなのである。 ザクで編成した部隊では敵のMSを含む主力と対した場合、恐らく苦戦は免れないだろう。 「お?おお!?良く見りゃこいつはすげえぞ・・・!」 しかしMSの一体を間近で見た途端、一行の先頭を歩いていたコズンが口笛を吹いた。 「シャア大佐!コイツは只のザクじゃありませんぜ!噂に聞いていた新型でさあ!」 「ふむ、どうやらその様だな」 シャアもコズンと共にMSを見上げて確信した。艶消しのボディに鈍く採光を照り返すザクは通常のMS-06よりも頭部が扁平形であり胸板が厚い。 随分と足周りも頑丈になっている様に見える。装甲の内側にちらりと覗く大型のバーニアは、もしかしたら宇宙での使用に限定されたものでは無いのかも知れない。 ずらりと壁面のラックに並んでいるMS専用マシンガンも通常のものとは明らかに形が違う。 「そのザクは統合整備計画の産物さね」 「シーマ中佐!ライデン曹長!」 一行の背後から掛けられた声にいち早く振り向いたアムロが、ライデンを従えてこちらに歩き来るシーマに敬礼する。 彼等と共に酒を酌み交わした仲であるクランプとコズンは親しげに、バーニィは少々緊張気味に、そしてこれが初対面となるニムバスは儀礼的な敬礼をそれぞれ振り向けている。 答礼を返すシーマの顔に疲れは見えたが、その血色は以前よりも随分良くなっている事にアムロは気付き、それが何より嬉しかった。 ミハルとハマーンを除いた全ての人員が互いに敬礼を交わしたのを確認すると、シャアは改めてシーマに向けて口を開いた。 「シーマ・ガラハウ中佐。バイコヌールからの輸送任務ご苦労だった。これが例のMSだな」 「は。サイド3から非正規のルートで届いた新型のMS-06FZ【ザク改】であります。 本来はズム・シティの首都防衛大隊に配備が予定されていたシロモノらしいのですが、大隊指令アンリ・シュレッサー准将の計らいで急遽こちらに・・・!?」 その時突然、シーマの後ろに控えていたライデンがズカズカと前に出て来てシャアと会話中である彼女の横に並んだのである。 シャアに対して敬語で接していたシーマはライデンの無作法にぎょっと息を呑んだが、ライデンは涼しい顔で馴れ馴れしく初対面のシャアに話し掛けた。 「軽く慣らし操縦してみたが、かなりいい。見てくれはザクだが、こいつはグフやドムにも引けは取らないぜ。 マ・クベの野朗はいけ好かないが、統合整備計画の手腕だけは認めてやっても良いかな」 ブン殴ってでもこのバカの軽口を閉じさせてやるべきだろうかと物凄い目つきで横から睨み付けて来るシーマを尻目に、さあどう出ると挑戦的な目をシャアに向けるライデン。 しかしシャアはライデンの予想に反し、にこりと口元を綻ばせたのである。 36 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/03/22(月) 12 07 59 ID 1vBY2xLo0 [5/7] 「なるほど。それが【真紅の稲妻】の見立てなら、間違いは無いだろう」 「おっと・・・俺の事を知っているのか?」 「【真紅の稲妻】ジョニー・ライデン。開戦時は曹長だったがルウムにおいて戦艦3隻を撃沈し大尉に昇進。その後直属の上司を病院送りにした懲罰人事により再び曹長に降格され海兵隊に転属、現在に至る・・・だったかな?」 「あらら」 おどけて首を竦めるライデン。挑発したつもりが見事にカウンターパンチを食らった格好だ。 シーマもライデンに対する怒りを忘れ、目を丸くしてシャアを見ている。 「シーマ中佐、ライデン曹長、こちらの事情は知っての通りだ。 細かい事はいい。今後とも宜しく頼む」 「・・・あーあ。青い巨星といい赤い彗星といい、どいつもこいつも一筋縄ではいかねえってか・・・参ったねこりゃ。大人しく軍門に下っちまうか姐御・・・痛てぇっ!!」 シャアが差し出した右手を渋々握ったライデンの脛を、コメカミに青筋を立てたシーマが何食わぬ顔で横から蹴飛ばしたのである。 「馬鹿部下の無礼をお許し下さい。バイコヌールを空にする訳にも行かず残念ながら全員がここに控えてはおりませんが・・・マハル出身の我ら海兵隊一同、一丸となって大佐の尖兵となる事、シーマ・ガラハウの名においてお約束致します」 片足で飛び跳ねているライデンを完全無視してシーマはシャアに深く頭を下げた。 マハルはサイド3にありながら貧困層を集住させたコロニーであり、ザビ家による徴兵後の扱いも劣悪であった。 シャアと同等かそれ以上に自分達のザビ家に対する恨みは骨髄なのだと、シーマは暗に言っているのである。 「感謝する。精鋭で鳴らす海兵隊の噂は聞いている。これほど心強い事は無い」 「は。荒事の露払いは我らにお任せ下さい」 きっちりと敬礼しているシーマの横で、向こう脛を押さえ片足立ちのライデンも観念してシャアに向け奇妙な敬礼を向け、それを見たハマーンとミハルは同時に吹き出した。 37 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/03/22(月) 12 08 37 ID 1vBY2xLo0 [6/7] 「それにしても、バイコヌールの指令代理が、よくもこの地まで駆け付けてくれたものだ」 「それなのですが、いち早く大佐のお耳に入れておきたい事があり、不肖シーマ、この地にまかり来しました」 「む、何か」 シーマの緊迫した雰囲気を感じ取り、シャアも姿勢を正す。 「実は・・・アサクラ大佐の動向が妙なのです」 アサクラ大佐とは名目上は海兵隊の長であり、シーマの直属の上司にあたる人物である。 しかし実態は名ばかりの司令官であり、実務と責任をシーマに押し付ける形で自身を遙任している。 「現在ジオン本国では、まるでオデッサでの会戦準備に隠れる様に・・・アサクラ大佐指揮の元、地球の静止軌道やサイド5などから大型発電衛星の奪取作戦が次々と執り行われている模様です」 「発電衛星?どういう事か」 「詳しい事は残念ながら・・・ただ時を同じくして我が故郷であるマハルコロニー住民の強制疎開が行われた事と、何か関係があるのかも知れません」 「フム・・・」 顎に手をやって考え込んだシャアの背中を見ながら、アムロはシーマの言葉に漠然とした不安を覚えた。 一瞬、膨大な光と共に何もかもを焼き尽くさんとする凶悪な意思がイメージされたのは、偶然ではないと思えるのだ。 「ど、どうしたんだいハマーン?」 背後から小さく聞こえたミハルの声に振り返ると、真っ青な顔をしたハマーンがミハルにもたれ掛かる所だった。 恐らく、ハマーンも何らかの不安を感じ取ったのであろう。 しかし自分達ですら良く判らないこの感覚を、他人に上手く説明する事はできそうもない。 何より、確証のない情報で、無闇に周囲の人間を不安がらせる訳にはいかないだろう。 爪を噛みしめたくなる欲求を無理矢理押さえつけたアムロは、今の自分の顔色も、きっとハマーンと同じ様に青ざめているに違いない事を確信していた。 65 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/04/03(土) 20 08 56 ID pQxUxiBk0 [2/8] 「いようアムロ!いろいろ大変だったそうだが、こうしてまた会えて何よりだったな!」 「は、はい。ライデン曹長もお元気そうで」 「おう元気だぜえ!死線をくぐり抜けて仲間達と再会できたんだ、これ以上嬉しい事はねえだろう!」 深い不安の闇に押し潰されそうになっていたアムロは、片手を挙げて笑いながら陽気な声を掛けてくれたライデンに救われた気がした。 シーマを筆頭に深刻な顔をしていた一同も、ライデンの言葉に我に返った様に見える。 「ん、どうした、お嬢さん達も顔色が悪いが何か心配事でもあるのか?」 アムロのそばに歩み寄りながらミハルとハマーンの顔も見て、暢気な顔でそう聞いて来るライデン。 しかし逆に、アムロはこの局面で出た彼の言葉の方が意外だった。心配事は、山盛りにあるはずだ。 「ライデン曹長はその・・・心配じゃないんですか?」 「心配って、何がだ」 「え、その、さっきのシーマ中佐のお話の事とか、これから僕達が向かうオデッサの事とか・・・」 数え上げたらそれこそ不安要素はキリが無い。 しかしそんなアムロを見てライデンはからからと笑い出したのである。 「やめとけやめとけ!心配なんざするだけ無駄だ!」 「む、無駄って事は無いでしょう・・・」 自分は果たしてライデンにからかわれているのだろうかと、少しばかりムッとしかけたアムロだったが、突然横にいたニムバスから爆発的な殺気が立ち上ったのを感じ、うなじの毛が逆立った。 「貴様・・・それ以上准尉を愚弄すると、この私が許さんぞ!!」 アムロはもとよりバーニィやコズンら先の騒動を目の当たりにしている周囲の人間は、ニムバスの怒りに思わず慄いた。 そう言えばバーニィを一喝した件を鑑みるに、ニムバスは規律に厳しい男だった。 ライデンの様に奔放な人間を厳格なニムバスという人間が、決して受け入れる筈が無かったのである。 こちらの焦燥を知ってか知らずか、一瞬の後ライデンは、わざとらしくニムバスに向けて妙にゆっくりと首を廻らせた。 「・・・俺は別にアムロを愚弄なんざしてねえがな」 「ま、待って下さいニムバス大尉!この方は、ジョニー・ライデン曹長・・・」 新たな目的の為に仲間がまとまり掛けている今、内部での揉め事は非常にまずいとアムロは焦った。 しかし、アムロとライデン2人が、まるで口裏を合わせるかの如く反論して来るさまは、ニムバスの苛立ちに更に拍車を掛ける結果となった。 「アムロ准尉は貴様の上官だぞライデン!相変わらず・・・その言葉遣いは何だ!?」 「久し振りだってのにご挨拶だなニムバス。俺は相手が誰だろうがこの口調を変えるつもりはねえぜ? 今はお前の方が階級が遥かに上なんだ、懲罰したいってんなら好きにしなよ」 「え・・・ニムバス大尉は、ライデン曹長とお知り合いだったんですか!?」 アムロは意外な成り行きに目を見開いて対峙する2人を交互に仰ぎ見る。 しかしニムバスはアムロの問いには答えず、更にライデンへの眼光を強めた。 66 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/04/03(土) 20 10 53 ID pQxUxiBk0 [3/8] 「気に食わん奴だと思っていたが、いい機会だ・・・貴様の腐った性根はこの場で修正してやる!」 「おっと懲罰房行きとかじゃねえのかよ!」 素早く一歩前に踏み込んだニムバスの歩幅と全く同じ距離をライデンは跳び下がった。 「悪いがデカイ戦が控える今はコンディションを崩せねえ。タダで殴られてやる訳にはいかねえな」 「面白い。ならば実力で私と准尉の前にひざまずかせてやるとしよう」 「御免こうむるぜ。俺は色んな意味でひざまずかせる専門だ」 「・・・バカだねっ!」 「えっ?」 「な、何でもないよ!アンタら!シャア大佐の前で、勝手なマネは許さないよ!」 赤い顔でクランプの疑問を遮ったシーマは今にも殴り合いを始めそうな二人を叱責する、が、意外にも彼女を制したのはシャアであった。 「二人共、私に気兼ねせずに続けたまえ」 「大佐!?」 「我々は寄せ集めの軍団、軋轢は当然だ。 火の点いた爆弾をフトコロに隠し持っていると、それはいずれ最悪なタイミングで炸裂してしまうものだ。 爆弾などというものは、大っぴらな場所で処理してしまうに限る。リクリェーションとしてな」 へぇ、判っているじゃないかと内心瞠目しながらシーマはシャアの横顔を見直した。 流石は赤い彗星。若さに似合わずこの男、動じないのである。 喜んだのはライデンであった。 「話が判るぜ大佐ァ!正式に私闘許可が出たがどうするニムバス大尉!?」 しかしニムバスから一瞬目を切ったライデンには油断があった。ニムバスは既に臨戦態勢だったのである。 「余所見をするな!」 ステップを変化させ、トップスピードで間を詰めながらニムバスの放ってきたパンチは牽制であった。 咄嗟にガードを固めたライデンは、迂闊にもニムバスの密着を許してしまう。 ニムバスは両手でそのままライデンの頭を抱え込むと、タイミングをズラした膝蹴りを抉り込む様にライデンの脇腹に見舞う。 これがまともに決まれば恐らくアバラの4・5本は砕け散っていたに違いない。 しかしライデンは辛うじて自らの膝をカウンター気味にニムバスの内腿に合わせ膝蹴りの威力を相殺させると、両腕の拘束を振り払い、軽快なフットワークでニムバスの射程圏内から逃れた。 睨み合って対峙する2人。 軽いボクシングスタイルのステップワークで間合いを取るライデンに対し、ニムバスはアップライトに構え、足で威嚇するムエタイ風である。 「あんたにあの後何があったか知らねえが、雰囲気が変わったなニムバス。 明らかに付け入る隙が・・・減っていやがるぜ」 ベッと口中の血を吐き出したライデンにシーマはどきりとした。 離れ際に何らかの一撃を受けたものであろうが、ケンカ慣れしたシーマにもニムバスの放ったその攻撃は見えていなかった。 67 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/04/03(土) 20 11 51 ID pQxUxiBk0 [4/8] 「グラナダ攻略部隊、降下強襲群・・・あの激戦地で俺達は出会い、あんたが第一中隊、俺が第二中隊と、互いに部隊を率いて戦った。 階級はあんたが少佐、俺は特務付きの大尉で・・・戦場では同格だったな」 言いながら今度はライデンが前に出た。 迎撃に動いたニムバスの蹴り足をフェイントでいなすと強烈な左フックをボディに見舞う。が、ニムバスは肘を下げこれをブロックした後、がら空きになったライデンの顎にそのままエルボーを叩き衝ける。 しかしその時には既にライデンの身体はスウェーを絡めて後退していた為、ニムバスの肘は空を切った。だがその軌跡は、ライデンの前髪を数本斬り飛ばす程の鋭さだった。 「ライデン!!何から何まで癇に障る奴だったよ貴様は!」 「お互い様だニムバス!何かってーとキリシア様キシリア様ってな!テメーは壊れたレコーダーかっての!」 「言うな!昔の話だ!!」 僅かに動揺したニムバスの動きを見逃さず再度踏み込んだライデンは、左右のジャブを放ちながら唐突に足払いを仕掛けると、態勢を崩したニムバスに組み付き、ごろりと転がりざまに肩の関節を決めに入った。 ボクシングスタイルから密着した関節技への極めてスムーズな移行はライデンの格闘技術の高さを物語り、その変幻自在な攻撃は、固唾を呑んで見守る周囲のギャラリー達をどよめかせた。 「甘いな!」「おっと!」 しかし分の悪そうに見えたニムバスは逆関節に逆らわず一瞬にして態勢を入れ替えると、ライデンの拘束を抜け出し、腰を落として後ずさった。 ライデンの関節技のレベルの高さを肌で感じ、グランドでの攻防を嫌ったのである。 しばらく様子を見ていたライデンだったが、追撃は無しと判断するとゆっくり立ち上がり、再びボクシングの構えを取った。 「ゲイツ大佐・・・・・・結局あんたがトドメ刺したんだってなニムバス」 「フッ、貴様が生温かったせいで、私が後始末をするハメになっただけだ」 「ランス中佐はどうなった?ひどい怪我をされていたが」 じりじりと間合いを取りながら、探る様に言葉を交わす2人を見てアムロはハッと気が付いた。 ニムバスが規律に厳しくなったのには明らかにライデンが関係している。 そして2人は恐ろしく不器用なやり方で、二人共が降格する原因となった戦場の思い出話をしているのだ。 「ランス・ガーフィールド中佐は退役された。私がゲイツの敵前逃亡未遂を聞かされたのは、全てが終わった後だった・・・!」 眉根をぎゅっと寄せたライデンは辛そうにそうだったのかと呟いた。 威張り腐った上官が多い中で、ランスは腕が立つ上気さくで男気があり、敬愛するに足る数少ない武人だった。 「あの時ランス教官・・・いやランス中佐がおられなかったなら孤立した我々は、恐らく全滅していた事だろう」 「だがな、ニムバス、俺がぶちのめして病院送りにしたゲイツの病室に押し掛けて・・・射殺したのはやりすぎだ」 ざっとその場の全員が息を呑むのが判った。 対峙する2人の間に、ただ静かに空調の音だけが響く。 「黙れ!貴様に何が判る!私の中隊の生存者はたったの3名だったのだぞ!! あの無能な指揮官が援軍を出すのを遅らせ、我らを死地に追いやったのだ!」 「ニムバス!」 やはりこいつの根底は何も変わっていないのかと絶望に似たライデンの眼差しを、しかしニムバスはするりと受け流す様に瞳の険を解いた。 「・・・以前の私ならば、そう言っただろう」 「!?」 「可笑しければ笑えライデン。今の私には、何故だかランス教官の気持ちが判る気がするのだ」 ランス中佐のザクは孤立したMS部隊の囮として単身敵陣に切り込み、多くの敵を粉砕しながらも集中攻撃を受けて沈んだと聞く。 部下の未来を救う為、自ら身を捨て礎となったのだ。そんな決意は生半可な覚悟で共感できるものではない。 68 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/04/03(土) 20 13 07 ID pQxUxiBk0 [5/8] 「確かあんたは、やたらとキシリア・ザビを崇拝していたな?だが、今のあんたからはあのイビツな熱狂が感じられない。 その分、何だか研ぎ澄まされた感じがするぜ。一体何があんたを変えたんだ?」 「ふふふ、貴様などに教えてやるものか」 笑えと言っておきながら愉快そうに自分が笑うニムバス。 彼のそんな屈託のない笑顔はライデンが初めて見るものだった。こんな顔は、あの頃のニムバスからは想像もできない。 「さあて、そろそろ決着を付けるぞライデン、ランス教官直々に鍛えられた私の技、果たして受け切れるかな?」 「あまり受けたくないってのが本音だが・・・仕方ねえだろうなあ」 シーマは身じろぎもせず、ずっと心配そうな顔でライデンを見つめ両の拳を握り締めていた。 2人の間にある空間に緊張感が凝縮してゆくのが判る。 それはまるで、ピリピリと触れれば弾ける電光の塊りの様だ。 「えーとすいませんがお2人さん、ランス・ガーフィールド中佐なら、アンリ准将の首都防衛大隊に復帰されましたよー」 ・・・・・・・ 「なに!?」「本当か!?」 一同に遅れてやって来たアンディが、間延びした声で後方から掛けた言葉に2人は一拍置いて劇的に反応した。 「本当です。首都防衛大隊は『慰労隊』の側面もあるんですよ。 ランス中佐は片腕を失くされるという重傷を負われたものの、このたび戦傷兵として大隊に配属され教官を務めておいでです。 ちなみに私も、MS戦術で中佐の教えを受けた一人です」 「そうだったのか・・・」 「アンリ准将の隊に・・・」 2人の間にあれほど張り詰めていた空気が、一気に霧散したかの様だった。 ニムバス、ライデン共にシンミリ俯いた目線で、それぞれの感慨に浸っている。 「二人共、気は済んだか」 頃合だと判断したシャアが声を掛けると、2人は気まずそうに構えを解いた。確かにもうバチバチやり合う雰囲気ではない。 ギャラリーもほっとした顔で互いに顔を見交わしている。物騒な場面はあったにせよ、結果的に怪我人が出なくて本当に良かったという処だ。 「丁度良い。ここで2人に辞令を言い渡しておこう」 「は!」「辞令?」 自らの降格を申し出ていたニムバスはその顔にさっと緊張感を滲ませ、ライデンは怪訝な表情を浮かべている。 69 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/04/03(土) 20 13 45 ID pQxUxiBk0 [6/8] 「戦場任官なので簡潔に伝える。ニムバス・シュターゼン大尉、貴官を申請通り降格し、以後は中尉に任命する」 「は、しかし、それでは・・・」 「聞け。これによりMS小隊を組む際、アムロ准尉に隊長位と特務権限を持たせれば、中尉はアムロの下に身を置く事が出来る。十分に補佐をしてやれ」 「慎んで・・・拝命致します!」 降格されたくせに嬉しそうに敬礼しているニムバスを見てライデンは思い当たった。そうか、ニムバスの奴は多分・・・ 「ジョニー・ライデン曹長」 「は、は?」 思わず素っ頓狂な声を上げてしまったライデンを見て、シーマが目をつぶったまま軽く額を押さえた。 「シーマ中佐の下での数々の戦功は聞いている。よって、ジョニー・ライデン曹長を本日只今をもって中尉に昇進させる事とする」 「へ?イキナリ二階級特進?なんで?」 「バカだね本当に!くれるっつーモンは貰っときゃいいんだよ!」 慌てた口調で会話に割り込んで来たシーマに全員の視線が集中する。 「あ、姐御、皆の前だ」 「・・・・・・・・・・・・っっ!!」 今度こそ誤魔化しきれない程に顔を赤らめたシーマは、口をぱくぱくさせた後にトマトの様な顔を横に向け、そのうちに堪え切れなくなり後ろを向いて俯き、押し黙ってしまった。小刻みに肩が震えている。 コズンはごくりと唾を飲んだ。あのシーマをここまで変えてしまうとは、ジョニー・ライデン恐るべし。 「・・・こほん。これで【真紅の稲妻】も、もう少し動きやすくなるだろう。 貴様の場合、肩書きなど無意味なのかも知れんが持っていて腐る物でもない。シーマ中佐の言う通り、ここは素直に受け取っておけ」 「了解であります」 観念した敬礼を向けるライデンに、シャアは軽く頷いた。 ライデンはニムバスにニヤリと笑って向き直る。 「これで俺達は同じ階級になったなニムバス。アムロよりも上だし、もう規律がどうとか言わせねえぞ」 「良いだろう。だが准尉を愚弄する様な真似をしたら、命が無いものと思え」 物騒な物言いは健在のようだ。 苦笑しながらもライデンは小声でニムバスに聞かねばならない事があった。 「ところでなニムバス、お前、なんで俺がシャア大佐にタメグチきいた時には怒らなかったんだ?」 「・・・決まっている。私の忠誠はアムロ准尉にのみ向けられているからだ」 済ました顔でぶっちゃけるニムバスに、ガラにも無くそれはどうなんだよと突っ込みたくなるライデンだったが・・・ やけに幸せそうなニムバスの顔を見ていたら、何だか全てがそれで良い様な気がして来て、結局口を噤んでしまったのだった。 100 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/04/18(日) 00 49 41 ID Q08CvfKg0 [2/4] 「うわあ・・・これ、凄く良いですねえ・・・!」 感嘆ではなく驚嘆である。 初めて乗ったMS-06FZのコックピットシートでバーニィは、座席調整をSに設定しながら笑顔を見せた。 メイン、サブ両モニターの位置、フットペダルの固さと踏み込み角度が絶妙にいい。 何よりJ型では少々確認し辛かった後方視界モニターの位置がデフォルトで改善されているのが嬉しい。 ロールアウトされたばかりのMSの筈なのに、まるで使い込まれた愛機のごとく2本のレバーグリップが吸い付くように手に馴染む。 実質的にはMS-06Cなどのコックピットに比べると、オーバーヘッド・コンソールが前方にせり出しているぶん若干狭くなっている筈なのだが、妙な閉塞感は微塵も感じられない。 広すぎず、狭すぎないスペースの中に、全ての計器類が見やすくコンパクトに収まっているのだ。 そこにはある種のデザイン的な美しさが発生しており、兵士にとって命を預ける相棒たるMSの心臓部に相応しい威厳があった。 あの、地球に下りてバーニィが初めて搭乗した(現地改修で執拗にいじり倒された感のある)06Jのごちゃついた操縦席とは雲泥の差である。 この恐ろしく機能的なコックピットレイアウトは、長年の試行錯誤を積み重ね、血と汗と命を代償にMSと携わって来たジオンだからこそ完成したものなのだと思える。 元々機械いじりが嫌いではないバーニィは、コックピットの端々から滲み出ている「職人技」が醸し出す迫力に、静かに感動してしまうのだった。 『こいつの開発には俺たち首都防衛大隊も協力したんだぜ。 コックピット周りは特にランス中佐の意見が反映されてる』 正面モニターには、資料を挟んだバインダーを手にしたアンディ中尉が、ハンガーの床からこちらを見上げている姿が映し出されている。 外部用モニターとスピーカー、集音マイク等の動作にも問題は無い様だ。 傍目から見ると奇妙な光景だが、この機能が正常であればこそ通常サイズの人間と17・5メートルの巨人とが普通に会話できているのである。 「何だか・・・皆さんのお話をお聞きしているだけで、ランス中佐という方の凄さが判りますね。 それに、短期間でこんなMSの開発を完了させたマ・クベ大佐という人も」 『ランス中佐とはお前もいずれ会えるさ。それとな・・・』 バーニィの口から出たのは先人に対する素直な賞賛だったのだが、ランスとマ・クベを同列に扱われた事が気に食わなかったのか、アンディの顔が険しいものになった。 『言わせて貰えばこの機体がここまでスピーディに完成したのは、現場勤務の名も無きメカマンから訴上されて来た統合整備計画の試案が、抜群に優れていたからなんだ。 マ・クベはまずそれを意見書としてサイド3のMSメーカー最大手のジオニック社に提示し、意見を求めた。 そしてそれがとてつもない価値を秘めた革新的意見書だという事を確認した上で、次期国家プロジェクトとしてザビ家に提出し、それをそのまま自分の手柄として通しただけに過ぎない』 「名も無きメカマン・・・ですか」 『こんな紙資料にしたら優に五百枚以上に相当する分量の計画試案を上げて来た奴がいるんだよ』 101 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/04/18(日) 00 50 32 ID Q08CvfKg0 [3/4] 自らが手にするバインダーを指で弾きながらアンディが続ける。 『件のメカマンはジオンに対する貢献度は相当な筈だが・・・マ・クベはそいつの名前すら資料から削除しちまったらしい』 「ど、どうしてそう言い切れるんです?」 『それまでマ・クベがサイド3に指示して来た時とは全く違う計画手順だったからさ。 奴は官僚肌の軍人だ。工廠に対して要求する事は出来ても具体的な技術内容を示して計画を発注する事なんて出来やしない』 「なるほど。“水陸両用MSを作れ”とは命令できても“この設計図通りにズゴックを作れ”とは指示できないって事ですね」 撃てば響く様なバーニィの言葉にアンディはそうだと頷く。 無意識の受け答えではあるが、バーニィの応対には相手を気持ち良く喋らせる何かがあるようだ。 『もちろんマ・クベ自身にMS開発の知識があれば良いがそんな話は聞いた事もない』 「なるほど・・・と、いう事は、そのどこの誰かも判らない謎のメカマンは現場で作戦行動に随伴しながら、五百枚以上の計画書を・・・それは、凄い・・・」 時間に余裕のあるジオンの部隊など存在しない事はバーニィも身に染みて理解している。 『計画を請け負ったサイド3の工廠では、もう提示された計画書に絶賛の嵐アンド【このプランの作成者は誰か】という妄想の坩堝となっていた。 愚にも付かない妄想が多かったが一番笑っちまったのが 【天才的な才能を持つローティーンのメカニック少女が、恐らく何日もの徹夜をものともせずに完成させた】 ・・・って奴だな。いくらなんでもリアリティなさ過ぎだろう』 モニターの向こうで苦笑するアンディだったが、バーニィの脳裏には、張り倒された痛みの記憶と共に、一人の少女の顔が鮮明に思い出されていた。 笑えない。あの少女の才能とバイタリティならば・・・ややもすると、やりかねない。 『統合整備計画は大手のMSメーカーが合同で参画してる。 俺が出向いてたのは主にツィマッド社系の造兵廠だったんだが、他社に伝説の少女メカマンがいるらしいって話は良く耳にした』 「伝説の・・・」 『おいおい本気で信じるなって!どちらかと言うと都市伝説の類だ』 げらげら笑うアンディに、コックピットの中のバーニィは意味深な顔でぼそりと呟いた。 「アンディ少尉も・・・伝説の少女メカマンともうすぐ会えるかも知れませんよ」 『ん?何か言ったか?』 「いえ。お楽しみに」 『?』 再度聞き返そうかと口を開いたアンディの声を、ハンガー内に突如鳴り響いたアラームが遮った。 同時にコックピット内のモニターにヘッドセットを付けたアムロの顔が映し出される。 『施設内の各員に通達します』 アムロの声にぎこちなさは無い。 フェンリル隊にいた際、通信オペレーターを経験したアムロにとって、オール回線での音声放送などお手の物だった。 『戦闘要員は、至急ブリーフィングルームに集合して下さい。繰り返します・・・』 スピーカーからの放送を聞いたそれぞれの人員は作業の手を止め、指示通りブリーフィングルームに向かう。 しかし唯一モニターでアムロの顔を見る事のできたバーニィは、その表情に滲む只ならぬ緊張感に気が付いた。 『聞こえたなバーニィ!マシン整備は一時中断だ、すぐに出て来い!』 「りょ、了解!!」 外から掛けられたアンディの声に大急ぎでコックピットハッチを開けたバーニィは、外に出ようとした際、上がり切っていない可動式オーバーヘッドディスプレイの角にしたたか額をぶつけてしまい、シートに逆戻りする形で倒れ込んだ。 不覚にもつい乗り慣れた06Cと同じ感覚で体が反応してしまったのだ。 「あっっ・・・痛ってぇぇ~~~~っ・・・・・・!!」 「おいバカ何やってんだ!?置いて行くぞおい!!」 下からいらいらした声を叫び上げてくるアンディに対し、ハッチ開閉のタイミングとコンソールディスプレイの動くスピードがえらい違ったんですよとは流石に言えず、すいません今行きますとチカつく眼で辛うじて声を絞り出したバーニィは、よろよろと昇降用のワイヤータラップを引き出した。 150 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/05/03(月) 08 04 17 ID jlnriS1w0 [2/5] 緊張した面持ちでクランプ、コズン、シーマ、ライデン、ニムバス、バーニィ、アムロが居並んでいる。 アンディだけはあの後すぐに、現在急ピッチでシャア専用にチューンUPされているMS-06FZの整備にハンガーへ呼び戻されてしまったのだ。 新型であるザク改の調整を効率的に進める為には、その開発に間近で携わっていた彼が必須である以上、これは仕方のない処置だと言えた。 諸君達に集まって貰ったのは他でもないと前置きしてから、シャアはブリーフィング・ルームに集った全員の顔を見回した。 「先程、戦略情報部士官ククルス・ドアンの情報で派遣していた偵察隊からの報告が入り、アンカラ郊外に展開している連邦軍砲撃部隊の、おおよその規模が判明した」 ぴんと張りつめた空気が場を支配する。 一刻も早くオデッサのラル部隊と合流したいシャア一行ではあったが、黒海の対岸に陣取っている敵の砲撃部隊を放っておく事はできない。 オデッサに多数布陣する友軍の為にも、ここは確実に潰しておかねばならない拠点なのである。 情報を掴んでいながらマ・クベが全く動きを見せない現状、それが可能なのはここロドス島にひとかどの戦力を保有するシャアの部隊をおいて他には無かった。 「アンカラ郊外の台地に、確認が出来ただけでも長距離砲撃用車両27、自走対空砲84、補給車も多数布陣している模様だ」 シャアに促されて一歩前に出たシーマが手持ちの写真付き報告書を読み上げるや否や、両手を腰に当て下を向きながら小さく舌打ちをしたコズンを筆頭に、全員が重苦しい溜め息を呑み込んだ。 想像以上の大部隊である。流石に連邦軍の物量は半端では無いという事なのだろう。 展開している敵部隊が小規模であれば、アレキサンドリア基地に対地爆撃を要請するだけで事足りたかも知れなかったが、空爆に対応した備えが為されている事が判明した以上、敵陣深くMSを突入させ、対空戦力をまず黙らせる必要が生じたのである。 敵陣への攻撃をアレキサンドリアの爆撃機だけに任せ、シャアの部隊はアンカラを無視してさっさとオデッサに直行する・・・という甘い目論見は、大部隊の前にあっけなく消し飛んだ形となった。 「連邦のオデッサ攻略作戦は、ここ数日のうちに発動されるのは間違いない」 「そうなるとアンカラ強襲に一日、補給や整備に突貫でも一昼夜・・・いやあギリギリですなあ」 深刻な顔をしたクランプに、首の後ろをボリボリ掻きながらコズンが呑気な声で応じる。 心の内にある焦燥とは裏腹に、あえてこういう物言いをするのがコズンの癖だ。 それほど事態は、深刻なのだった。 「・・・つまり、自分達はオデッサ開戦に間に合わないって事ですか・・・」 「早まるんじゃねえよ。そういう可能性もあるって話だ」 バーニィの核心を突いた一言を強い口調でコズンが遮る。 しかし、確かにバーニィの懸念している通り、これでシャアの部隊はオデッサ防衛戦に主力として参加できなくなる可能性が極めて高くなった事は事実だった。 151 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/05/03(月) 08 06 01 ID jlnriS1w0 [3/5] 激戦が予想されるオデッサ防衛戦、ひとたび戦端が開かれてしまえば、十字砲火の矢面に立つ最前線に位置する「青い木馬隊」に、強引に敵中突破して合流を計るのは無謀過ぎる行為だろう。 最悪、状況次第では友軍の苦戦を尻目にシャア達はオデッサ外周に取り残されるという事態も十分ありうる。 少しでも多くの戦力を、何よりシャアという彼らの総大将を開戦前に「青い木馬隊」に合流させたい。 そして、オデッサ前に戦力の損失はなるべく避けておきたい・・・というのが彼らの偽らざる本音だったのだが、シビアな現実はそれを許さなかった様だ。 「ここにいる全員が雁首揃えてアンカラに出向く必要は無いんじゃないか? 敵部隊が砲撃だけに特化しているなら、俺達のイフリートだけで十分だろう」 腕組みをしたライデンが口を開くと、シーマは彼に向き直った。 言うまでも無く『俺達のイフリート』とは彼女とライデンの08-TXを指しているのである。 直前までMSの整備をしていたライデンの顔と作業着はオイルで汚れていたが、それは彼の精悍さを少しも損なうものではない。 シーマはうっとりと愛でそうになる気持ちをおくびにも出さず、実にそっけない態度で彼に言い放った。 「ところがそうは行かないのさ」 「何故だ?姐御にしては随分と弱気じゃないか」 「敵陣には護衛のMSがいる可能性もある。そして偵察隊は黒海の南端ボスポラス海峡を抜けてアンカラに向かう敵部隊もキャッチした。 恐らく敵の増援だ」 挑発的なライデンの言葉には付き合わずシーマは淡々と事実だけを告げ、軽口を叩いていたライデンの顔から笑顔が消えた。 「・・・何だと・・・この上まだ増えるってのか・・・!」 「アタシらはキッチリこれも叩かなきゃいけない。戦力は足りないぐらいさね」 日々の整備すらままならない部隊が多いジオン軍に対して、無尽蔵とも思える物量を惜しげもなく投入してくる連邦軍。 またもや突きつけられたシビアな状況が一同の心胆を寒からしめたが、シャアの冷静な声音が全員の意識を現実に引き戻した。 「どんなに荒れた戦場であろうが、ランバ・ラルが率いる部隊なら、そう簡単に落ちはしないさ」 シャアのその言葉に不敵な笑顔を浮かべ大きく頷きながら、パシンと左に構えた掌に右の拳を打ちつけたのはクランプである。 その通りですぜと言いながらコズンもニヤリと唇を歪めて笑った。 152 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/05/03(月) 08 07 08 ID jlnriS1w0 [4/5] 「いざとなれば我が隊は後方攪乱に回る。だが事態は流動的だ。 我々はまず、目の前にある我々がすべき事を迅速に片付けるとしよう。アムロ」 「は、はい」 突然シャアに名指しされたアムロはどきりとしたが、辛うじて敬礼する事ができた。 「君には小隊を任せる。別働隊を指揮しアンカラに合流すべく進行して来る敵部隊を阻止してみせろ。ニムバス」 「はっ!」 「ワイズマン・・・いやバーニィ」 「はい!」 ニムバスは当然の如く、バーニィは緊張気味に敬礼をシャアに向ける。 「アムロと共に行け。ザク改2機と輸送機ファットアンクルを与える。 アムロはあの白いMSを使え。ニムバスはアムロを補佐して作戦を立案しろ」 「了解です」 「え・・・」 シャアとニムバスがみるみる話をまとめ、さっさと話を切り上げてしまった為に肝心の、隊長である筈のアムロはこの決定に何も口を差し挟む事ができなかった。 「あ、あの、待って下さい、やっぱり僕には隊長なんて・・・」 自信なさげな声で抗弁しようとするアムロを、シャアは無視して踵を返し、ニムバス、バーニィを除いた全員とアンカラ襲撃計画を練り始めた。 もはやアムロの事など眼中には無い。それはある意味、アムロの意見を聞く気など端から無いのだという意思表示にも見える。 「シャア大佐!」 途方に暮れたアムロが思い切って背を向けているシャアに大声を掛けると、熱心に話し込んでいたシャアは顔だけアムロに向けて口を開いた。 「もう命令は下した筈だぞアムロ。 今後私と行動を共にする以上、君にはただのパイロットでいて貰っては困るのだ」 アムロの目がハッと見開かれる。シャアの向こうでコズンとクランプが、こちらに握り拳を向けているのだ。 目を転じるとライデンはさりげなく親指を上に向け、シーマは片方の口角を上げて見せた。 「私達を失望させるなよ?」 皆の視線に胸が熱くなるのを感じ、立ちつくすアムロの横にニムバスとバーニィが並ぶ。 「行きましょう准尉。我々の初陣です」 ニムバスの言葉に、アムロは小さく掠れてはいたが力強い口調で「はい」と答えた。 180 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/05/05(水) 12 39 56 ID /5EMHpoM0 [2/5] 小さなノックの後、少しだけ開けたドアの隙間からするりと部屋の中に滑り込んで来たのは、小ぶりなバスケットを抱えたミハルだった。 後ろ手にドアを閉めたミハルは微かに安堵の溜息をつく。 薄ぼんやりとした照明が灯った室内。 一人の男がベッドに突っ伏している。 ミハルが目を転じると、衣服がスツールの上に無造作に脱ぎ捨てられ、ブーツは脱ぎ散らかされたまま床に転がっているのが見えた。 「・・・ミハルか」 「ごめん、起こしちゃった?」 「いや、シャワーを浴びようとしていた筈なんだが・・・」 身じろぎし、ベッドからのろのろと顔を上げたのは、何とシャア・アズナブルであった。 もちろん例のマスクはヘルメットと共にベッドの片隅に放り投げられているため、素顔である。 実は戦闘時以外、シャアの寝起きはそれ程良くない。 アンダーシャツ姿のシャアはのっそり身を起こすとベッドの上に胡坐をかき、目を閉じたまま片膝の上に頬杖をついた。 「疲れてるんだね・・・ご苦労様。肩の具合はどうだい?」 脱ぎ散らかされた赤い軍服を拾い集め、てきぱきと畳んだりハンガーに掛けたりしながらミハルは心配そうな声を掛ける。 頬杖をしていた手を一旦外し、肩を軽く回したシャアは片目を薄く開けてもう大丈夫そうだと軽く笑った。 「良かった、でも油断は禁物だよ。 宇宙に住んでた人は免疫力が弱いとも聞くし、ケガってのは直りかけが一番怖いんだ。 あと数日は手当てを続けなきゃだめだよ。さあ、肩を見せて」 大真面目な顔でシャアの横に腰を下ろしたミハルは、有無を言わせずシャアのシャツを脱がしに掛かった。 幼少の頃に地球で暮らしていた経験を持つシャアは実は生粋の宇宙育ちでも無かったのだが、別に文句も言わずミハルのしたいがままにさせ、大人しく右肩を露出させた。 181 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/05/05(水) 12 40 39 ID /5EMHpoM0 [3/5] 「完全に傷口は塞がっているみたいだけど・・・」 そう言いながら化膿止め薬入りの無針注射器を二の腕に押し当てて来るミハルを、シャアは面白そうに見つめている。 人目を忍んで毎晩こうしてやって来るミハルに手当てをしてもらうのは、もう何日目になるだろう。 この少女がシャアの個室を初めて訪れたのは、ここクレタ島ザクロスに到着したその晩の事だった。 フラナガン機関の施設を脱出する際、自分を助ける際に負った傷を治療させて欲しいと申し出て来たのである。 何でも、シャアがケガをした事を秘密にしたがっていたので、同室のハマーンが眠ってからこっそりと部屋を抜け出し、誰にも見つからない様にここまで来たのだという。 初めはおずおずしていたミハルだったが、シャアが自らのケガに消毒液を振り掛けただけで放置していた事を知って驚き、大慌てで手当てをし直した。 助けてくれた事に感謝はしているが、自分を大切にしない人は最低だと叱りつけられたシャアは、何故だかその剣幕に逆らう事ができず、命を救った筈のミハルに何度も謝るハメになったのである。 驚いた事にシャアは発熱していた。微熱ではあったがそれが肩の裂傷によるものである事は明白であった。 身体の調子が悪くても、それを全く気にしていないのである。 ミハルはそんなシャアを放っておくことができず、皆に隠れて猛然と彼の世話を焼き始めたのだった。 しかし改めて見てみるとミハルが呆れるくらいに、シャアという男は自分の事、日常的な事に無頓着な人間だった。 人間らしく生きる事に関心が無いと言い換えてもいい。 放っておけば日々の食事すらロクに摂らないのではないかと思える程に、彼の生活からは何かが欠落していたのである。 「ああ、やはりミハルの作ったものはうまいな」 だが、そんなシャアが、今ではミハルの持ってきたバスケットを勝手に開け、中にあった夜食を手掴みで食べ、あまつさえそれを美味いと言っている。 美味いと褒めると、笑み崩れてゆく彼女の顔がシャアは好きだった。しかし・・・ 「こら!ちゃんと手を洗って来る!」 ミハルは軍人では無い為にシャアに対して階級による遠慮などは一切無いのである。 こうしてまたもや彼女に怒られバスケットを取り上げられてしまったシャアは、食べかけのマフィンを口に咥えたまますごすごと洗面所に向かった。 【赤い彗星】のシャアしか知らない者がこの様子を見たら恐らく仰天して腰を抜かす事だろう。 ミハルに叱られる事は不快ではないし、彼女の言葉にはつい従ってしまうのは何故なのだろう。と、手と顔を洗いながらシャアはぼんやり自問してみる。 しかし幼い頃に父と母を失い、権謀と怨念に塗れて成長した彼の中には、自身の問いに対する明確なアンサーは含まれていなかった。 周りには常に“敵”が潜んでおり、少しでも隙を見せると足元を掬われる・・・そういう殺伐とした人生を送ってきた。 親しげな顔でシャアに近付いて来る人間は、十人が十人とも腹の中では彼を利用する事で自らの利益を企んでいた。 無論そういう手合いを観察眼に優れたシャアに瞬時に見抜き“敵”かそうではないかを識別して来たのである。 “敵”なら容赦なく叩き潰し、そうでないなら“それ”をこちらが最大限に利用する。 それは壮大な化かし合いであり、気を抜いた方が負ける過酷なチキンレースだった。 肩の傷の件でも判る通り、それが例え味方であったとしても、普段から他人に弱みを見せる事を極端に嫌うシャアだった。 だが、ミハル・ラトキエと2人きりになると、そんな事はどうでも良いと思えてしまう。 どう考えても、どんなに目を凝らしてみても、親身になってシャアを世話する彼女の行動の中には、あさましい企みが見つけ出せなかったのだ。 これは、あの時クランプに言われた事の証明であり、ある意味シャアが確信していたシニカルな人生観の完全な敗北を意味していた。 こんな人間もいるのだと、シャアをして認めざるを得なかったのである。 彼女の前では裏をかかれない様にと緊張している自分が馬鹿らしく、張り詰めていた何かが抜けてしまう。 通常は厳重に掛けているドアのロックを、彼女が訪ねて来そうな時間には無意識に外してしまう自分がいる。 マスクもいつの間にか彼女の前ではしなくなった。手の内を全て見せている彼女には、そうでもしないとプライドが保てないのだ。 仮面のある無しなどミハルにとってはどうでもいい事なのかも知れないが、シャアせめてもの矜持である。 182 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/05/05(水) 12 41 29 ID /5EMHpoM0 [4/5] シャアが洗面所から出て来るとミハルは既に帰り支度を済ませてドアの前にいた。 この短時間の間に部屋はきれいに片付けられ、スツールの上にはヘルメット、マスク、夜食の残りがきちんと並べられている。 「それじゃね。ちゃんとシャワーを浴びてから休むんだよ?」 にこりと笑ったミハルに小さくそう言われた瞬間、シャアはとてつもない寂寥感に見舞われた。 今ここでミハルを抱き締めたら、彼女は帰らずに、朝までそばにいてくれるのだろうか。そんな事まで頭をよぎる。 シャアが何と声を掛けて良いか判らぬままにミハルの方へ歩み寄ろうとした時、激しく背後のドアをノックする音がミハルの体を竦ませた。 『お休みのところ恐れ入りますシャア大佐!』 アンディの声である。 『ロドス島集積基地から通信が入りました!シーマ・ガラハウ中佐率いる補給部隊が到着したそうです!』 瞬時にシャアの瞳に明晰な輝きが戻った。 素早くスツールの上のマスクを装着し、はだけていたアンダーシャツの襟元を引き上げる。 ドアの前で硬直しているミハルの手を引いて洗面所に誘導し、彼女が隠れたのを確認するとドアのロックを外して引き開けた。 「あ、ああ、シャア大佐、夜分すみま・・・」 「挨拶はいい。通信はまだ繋がっているか」 「繋がっています。こちらへ」 部屋を出る時シャアは洗面所の方をちらりと見たが、何食わぬ顔でドアを閉めアンディの後に続いた。 ドアが閉まってからしばらくの間、部屋の中に静寂が訪れたが、やがで洗面所からミハルがそっと顔を出した。 そして彼女は今日二度目の安堵の溜息を吐き出すと、静かに部屋を出て行ったのだった。 239 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/05/26(水) 19 28 03 ID 6y7Vhl2s0 [2/5] エスキシェヒル近郊に展開する丘陵地帯。 その斜面に生い茂る木々の隙間に埋没する様に―――― アムロの操縦するRX-78XX【ガンダム・ピクシー】は山の稜線に身を隠し、真上から照りつけて来る強烈な陽射しにその身を焼かれながらじっと息を潜めていた。 ピクシーの機体には、アンテナの一部を除き草木をあしらった偽装網を入念に被せてある。遠距離からこの機体を視認する事はほぼ不可能であろう。 偽装網には電磁波遮断物質が編み込まれており、敵のセンサー類をある程度は無効化するという触れ込みである。 しかし、ミノフスキー粒子の存在が敵味方のセンサー技術を飛躍的に発展させている昨今、それをどこまでアテにして良いものかは疑問が残る。 新型センサーを実戦テストする特殊部隊「闇夜のフェンリル隊」の一員だったアムロだからこそ余計にそう思えるのだ。 後悔はしたくない。やれる事はやるべきだと判断した彼は現在炎天下なのにも関わらず、ピクシーの動力を最小限に絞っている。外部スクリーンもメインパネル以外はブラックアウトしている状態だ。 為に、エアコンの効きもすこぶる悪くなり、コックピット内部の温度が相当に上昇してしまう事態となった。 もしかしたら地上戦専用MSであるRX-78XXには、純正ガンダムにはあった大気圏突破用の厳重な断熱処理がオミットされているのかも知れない。 そんな事を考えながら汗だくのアムロは手探りでシート脇のラックを開け、中から本日2本目となる透明パック入りのドリンクチューブを取り出し口をつけ、中身をしぼり出して一気に飲み干した。 ・・・生温くてまずい しかしこれで、水分の補給はできたはずだと気を取り直したアムロは、空の容器をシート反対側のラックに放り込んだ。 先ほどから彼が凝視しているメインパネルには辛うじて舗装されたヒルクライム気味の道がゆらゆらと陽炎を立ち上らせながら正面に映し出されている。 ゆるいカーブを描いた道のちょうど出口にあたる延長線上の位置に、RX-78XXは身を潜めているのである。 道の両脇はそれぞれ高い崖と深い森になっており、襲撃ポイントはここしか無いと断言したニムバスの分析に間違いはなかった事を確信できる。 ここから見る事はできないがニムバスとバーニィも現在、別の場所で同様に偽装したザク改の中で眼前の道を凝視している筈である。 一人ではない。そう考えるだけで何だか心が静まってゆくのが不思議だ。 なんにせよ今回の作戦は【ガンダム・ピクシー】がトリガーであり全ての鍵を握るといっても過言ではない。 アムロはもう一度小さく息を吐き出し、絶対にしくじる訳には行かないぞと自らに言い聞かせ、眼前のスクリーンを注意深く見つめ直した。 「准尉のお立てになったその作戦・・・残念ながら評価は"C"です」 「え・・・」 厳しい顔のニムバスに完璧なダメ出しをされたアムロは一瞬頭の中が真っ白になった。 容赦の無いその物言いにアムロの横に座るバーニィも思わず首をすくめてしまっている。 「敵の大部隊に対してこちらはMSが僅か3機。 進軍して来る敵に准尉の作戦通り密集陣形でまともにぶつかっては、後方の敵に態勢を立て直す時間を与えてしまうかも知れません。 今回我々がまず考えねばならないのは、何としてでも敵部隊の現場到着を阻止する事。 敵は長距離砲撃部隊であり。要地に配置されなければ無力な存在です。 つまり我々は敵を殲滅する必要は無い。足止め出来さえすればいいのです」 「なるほど・・・」 シャア班とやや離れた位置で、小さなデスクを囲み行われているブリーフィング。 理路整然と戦術を語るニムバスに、アムロとバーニィはただ感心して聞き入るしかない。 少年兵達の真剣な目を見てにこりと笑ったニムバスの顔が、輝いている。 今や彼は、自身が持っていた本領を如何無く発揮する機会に恵まれたのである。 士官学校時代のニムバスは、パイロットの資質以上に戦略・戦術立案能力において極めて高い評価を受けていた。 適性も高く、将来は作戦参謀への道をと周囲から嘱望される程の存在だったのである。 同校を優秀な成績で卒業した彼は当然のように公国軍総司令部と総帥府軍務局から熱烈なオファーを受ける。 が、その時点で既にニムバス内部に凝り固まっていたキシリアへの熱烈な忠誠心が、それらを全て蹴る形で自身を突撃機動軍に投じさせたのである。 彼の進路を知った士官学校の教官達は、あたらジオンを背負って立つかも知れない優秀な人材が、使い捨ての一パイロットになってしまったと軒並み嘆き落胆したものであった。 当時の教官達が今の私を見たらどう思うだろうと内心苦笑しながら、ニムバスはこちらに背を向けているシャアをちらりと窺った。 240 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/05/26(水) 19 30 09 ID 6y7Vhl2s0 [3/5] シャアはクレタ島で初対面にも関わらず「貴様の噂は聞いている」とニムバスを誘い、今回は別働隊の実質的な作戦立案を命じた。 つまりそれはニムバスの過去と資質を把握していた、という事に他ならない。 MS操縦に抜群の才能を発揮するアムロの補佐に自分を置き、気が利き堅実な性格のバーニィで脇を固めたこの布陣は、どんな任務にも対応できる理想的な小隊のモデルケースと言えるだろう。 適材を見抜き適所に配置する。言うは易いが行うは難い。 それをさらりとやってのけたシャア・アズナブルというこの男、トップに立つ者として恐るべき才覚の持ち主だと・・・認めざるを得ないだろう。 ニムバスをしてそう思わせる何かがシャアにはあった。 しかしニムバスがそんな想いを廻らせていた時間は数瞬にも満たず、彼は何事もなかったかの様にアムロとバーニィに目を戻した。 「敵部隊は極力目立たぬように航空輸送機を一切使わず、車両のみで移動しています。 そして敵は、我々の様な戦闘部隊がすぐ近くにいる事を知らない。 オデッサになけなしの戦力をかき集めている筈のジオン。我々の存在は連邦にとって想定外なのです。 ここにつけ入る隙がある。 このアドバンテージを最大限に利用するには【効果的な伏撃】をするしかありません」 「効果的な・・・そうか、僕のガンダムとニムバス中尉達のザク2機が密集して行動してはダメだという事ですね」 「その理由が判りますか?」 間髪入れず、値踏みする視線でニムバスはアムロを見ている。 それはまるで見所のある新兵に、英才教育を施している教官の眼差しにも似ていた。 「え、あ、ええと・・・も、MSの性能が違うから、じゃないでしょうか」 「その通りです!流石は准尉ですな!」 満足そうに破願したニムバスを見て、アムロは内心胸を撫で下ろした。 今後、ニムバスの期待に応え続けて行くのは並大抵の苦労では無いかも知れない。 241 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/05/26(水) 19 31 00 ID 6y7Vhl2s0 [4/5] 「性能の違うMS同士が一団で行動すると足並みが乱れ、どうしても連携が取り辛くなってしまう。 下手をすると、性能の良い方のMSの長所が殺され、相対的に戦力が低下してしまう恐れすらあります」 ニムバスが答えるや否や、すかさず手を上げたバーニィが口を開く。 「でも中尉、大部隊に対して、ただでさえ少ない戦力を分散してしまっては、各個撃破されてしまうのでは・・・」 「戦術と地の利、そして敵の陣形次第だ!その程度の事も判らんのか愚か者め!」 一転、猛烈な勢いでニムバスに怒鳴りつけられたバーニィは小さく縮こまってしまった。 どうやらニムバスにとって、アムロとバーニィの育成方針は180度違うらしい。 恨めしそうな目を向けてくるバーニィに、アムロは申し訳なさそうな視線を送り返した。 「セオリーは知っておく必要があるが先入観に囚われると柔軟な発想を阻害するぞバーニィ。要はバランスだ」 「バランス・・・」 その冷静な声音はニムバスが決して激昂している訳ではないという事を意味している。 恐縮しきっていたバーニィは恐る恐る顔を上げた。 「長距離砲撃用車両、補給車その他を含めて敵の数は約30両。 モタモタしていると体勢を整えた敵の攻撃に晒されてしまう。 この部隊を僅か3機のMSで足止めするにはどうするか」 ニムバス教官の講義に聞き入る二人の新兵はごくりと唾を飲み込む。 「まずは横列展開できない場所に敵を引き込む」 ぱらりとデスクの上に地図を広げたニムバスは、細長くうねる一本の道路を指さした。 「敵の規模と現在の位置を考慮するとアンカラへ向かう道はここ以外考えられません。 これ以外の道路は舗装されていなかったり道幅が狭すぎたりで連邦の大型車両は通行できないからです。そして」 更にニムバスは指を滑らし長く延びた道路の一点で指を止めた。 トントンとポイントを指先でノックしながらニムバスは2人を交互に見る。 「700メートル程続く側道のない一本道。道路の片側は森、もう片側は切り立った崖。おあつらえ向きです。 仕掛けるのは、ここしかありません――――」 その時、アムロが睨み付けていたスクリーンの風景の一部に小さな変化が現れた。 すかさずアムロはスクリーンショットを最大望遠に切り替える。 遥か後方で樹木に遮られまだその姿は見えないが、微かに砂煙が立ち上っているのが判る。 それとほぼ同時にピクシーに装備された高性能センサーが多数の車両移動音をはっきりと捉えた。 あくまでもスペック上の数値ではあるがガンダム・ピクシーのセンサー有効半径は優に6,000mを超える。 プロトタイプであるRX-78-2の性能を上回るこれは、接近戦に特化されたピクシーというMSの特性に合わせてバージョンアップされたものなのだろう。 とまれ、ニムバスの読みは正しかった。 敵部隊は間違いなくこの道を行軍して来たのである。だが、焦りは禁物であった。 仕掛けは早すぎても遅すぎてもダメだとニムバスには釘を刺されている。 単独でどうにかできる相手ではない。全ては連携、チームワークなのだと。 WBでは有り得なかった、息を合わせた伏撃作戦・・・ アムロは逸る気持ちを抑える様にレバーを握り、唇に滴り落ちて来た汗をぺろりと舐め取った。 277 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/06/07(月) 20 41 28 ID iaisKR8g0 [2/6] 先程までの晴天が嘘の様に、結構な勢いで雨が降り始めていた。 本当にこのあたりの天候は変わり易い、だがバーニィはコックピットに伝わって来る激しい雨の振動を感じながら思わず微笑んだ。 雨はセンサーの効きを妨げる。これはついているぞと彼がほくそ笑んだのも無理からぬ事だっただろう。 今、まさに彼等の下に軍列がやって来ようとしている。 言うまでも無く連邦軍の大部隊だ。 その大部隊がつい先程進入して来た北西の入り口から、アムロのRX-78XXが満を持して潜んでいる隘路の東側出口までの一本道がすっかり見渡せる南に切り立った崖の中腹付近。 そのやや角度の浅い斜面にバーニィとニムバスの操縦する2機のMS-06FZは張り付く様に潜伏しているのである。 切り立った崖とはいえその壁面にはびっしりとこの地方特有の木々が生い茂り、バズーカを構え偽装網をかぶったザク改の姿を完璧に隠してくれている。 しかし緑々とした壁面の所々には、断続的に巻き起こるスコールが地盤を緩ませたものなのか地滑りしたらしき箇所のみ黄土色の土や岩が露出していて、その部分だけがやや景色に異彩を放っていた。 バーニィはモノアイを操作し、チラリと左サブモニターにも目を向ける。 自機の周囲を埋め尽くす木々の中から、木々を割って突き出た大きな岩塊がそこにも映り込んで見えている。 メインモニターは俯瞰の映像で、一本の道路が南にゆるいカーブを描きながら西から東に延びているのをクッキリと映し出している。 モノアイが稼動すると、モニターの映像もそれに合わせて移動してゆく。 道の南側は全て切り立った崖に塞がれ、北側には地図にあった通り深い森が谷に向かって落ち込んでいる。 道路は山の外縁に沿っており、入口と出口の先はそれぞれ背後の山を回り込んでしまう為に、この場所から目視する事は不可能であった。 激しい雨にけぶってはいるが、ヘッドライトを煌々と灯した連邦軍の部隊が続々と列を成し進み来る様子が、ここからだとはっきり確認できる。 敵部隊はじわじわと眼下にうねる700m以上続く一本道を鋼鉄の大蛇の様にのたうち進み、やがてすっかり埋め尽くしてしまうのだろう。 今はまだ全容が見えてはいないが、道幅ぎりぎりの大型車両が何台も連なるその威容を目にしたジオン兵は、恐らく連邦軍との圧倒的な物量差を思い知らされ何とも言えない気分にさせられるに違いない。 しかし、この作戦で物量の上に余裕で胡坐をかき、ふんぞり返った連邦軍に一泡吹かせてやる事ができるのだ。 そう思うと、ギラギラと猛る何かを抑える事ができない。 これではいけないと心を落ち着かせる為に大きく深呼吸したバーニィは、カメラのズームを切り替え、もう一度自機に装備された武装をチェックしてみる事にした。 偽装の下でザク改はバズーカの砲口を油断無く眼下の道路に向けている。 今回2機のザク改が装備しているバズーカは従来の280mmザク・バズーカでは無くGB03Kすなわち360mmジャイアント・バズであり射程距離、破壊力共に十分余裕がある。 もともとドム用の装備として登場したジャイアント・バズは威力は高いものの、マニュピレーター形状の違い等から他のMSでは使い辛く敬遠されがちな武器であった。 だがMS-06FZ【ザク改】は、現在ジオンに存在するMSの手持ち式武器の全てを自在に扱える事を前提に設計されているのである。 統合整備計画、伊達ではない。 この事実は単純なスペック以上にザク改が「使える」MSであるという事を意味していると言えるだろう。 武器チェックを終えたバーニィは一息つくと視線を正面のメインモニターに戻し、ニムバスが立案した襲撃計画の段取りと、この作戦における自分の役割を頭の中で反芻していた。 278 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/06/07(月) 20 42 29 ID iaisKR8g0 [3/6] ―――敵の軍団が眼前の一本道にすっぽりと収まったのを見計らい、ニムバスからの合図を受けたガンダム・ピクシーが偽装を解いて敵正面を塞ぎ、まず目前に迫っている先頭車両を破壊する。 これで敵は破壊された先頭車両が邪魔になり前進する事が不可能となる。 地形に阻まれた敵はガンダムに向けて攻撃を加える事ができない。 間をおかずガンダムの攻撃に呼応したザク改2機が敵の上方に位置する崖の中腹から、眼下の敵列中央と最後部車両に向けてそれぞれバズーカ攻撃を行う。 状況によってはバーニィのザク改が単独で敵の最後尾に回り込み、敵の退路を遮断する。 道路の両側は崖と森であり、前に進む事も後ろに下がる事も出来なくなった敵はまさに進退窮まった状況に陥る。 そうなれば連邦兵達は車両を捨て、森に逃げ込むしか術は無い。 逃げる兵士には目もくれず、あらかたの敵車両を破壊したら速やかに撤収するとニムバスは明言している。 例え森に逃げ込んでいた連邦兵が戻って来ても残骸に挟まれた車両は動く事叶わず、もはやオデッサ・ディで彼等がやれる事は何も無いだろう。 ニムバスは今回、自軍の損耗を最大限に抑える事を念頭にこの作戦を立てた。 完璧な伏撃であるこの作戦のただひとつの懸念事項といえば、こちらの意図を事前に敵に察知される事と敵が一本道に納まり切らないうちに攻撃を仕掛けてしまう事のふたつである。 だから自分からの合図を待たずに攻撃を仕掛ける事を、ニムバスはアムロに厳に禁じていたのだった――― バーニィは右手のサブモニターを見る。そこには彼と同じ出で立ちで息を潜めるニムバスのザク改が木々の向こうに映し出されている。 表向きはどうあれ、この部隊の実質的な指揮官はニムバスだという事を自分もアムロも承知している。 現場の全体を把握し統括する為の位置に彼のザク改が陣取っているのがその証であろう。 彼が自分の持つ知識全てを、自分やアムロに実地で叩き込もうとしているのは明白だった。 ニムバスの期待に応えるには、彼の示す全てをこちらも命懸けで吸収して見せるしかない。そうバーニィは密かに覚悟を決めていたのである。 しかし逸るバーニィをあざ笑う様に、ロケットランチャーだと思われる巨大砲身を持つ車両を積んだキャリアーの足は異様に遅い。 ヒルクライム、そしてこの激しい雨が行軍を慎重なものにさせているのだろうか。 敵部隊は視認できる範囲で言えば未だ襲撃予定地点に三分の一にも届いておらず、勿論ここで仕掛けるには早過ぎる。 戦端を開く役回りのアムロも、きっと敵の遅さにじりじりしている事だろう。 そんな事を考えながら時速40キロ程のスピードでもったり坂道を登って来る敵部隊の様子をいらいらと見ていたバーニィは、ぎょっと左手のサブモニターを振り返った。 モニター映り込んでいた・・・木々の間に剥き出しになり雨に打たれていた岩塊が、そのままごそりと滑り落ちたのである。 279 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/06/07(月) 20 43 44 ID iaisKR8g0 [4/6] 『しまった!崩落か!?なんだってこんな時に・・・・・・・!!』 自機のほぼ10m真横をえぐり取った巨大な岩塊が、眼下の道路めがけて転がり落ちて行くのを、バーニィはただ茫然と見送るしかない。 岩塊は落下後半壊し、完全に道路を封鎖する格好で動きを止めてしまった。 「ニムバス中尉・・・!」 「慌てるな、じっとしていろ。計画に変更は無い」 接触回線でうろたえた声を響かせるバーニィにニムバスは冷静に応答する。 今ここで動く訳には行かない。敵の部隊は一本道にまだ先頭しか入り込んでおらず、襲撃を掛けるには位置が悪すぎるのだ。 もしここで強引な行動を取れば、間違いなく計画は破綻する。 突発的な事態が起きてしまったが、幸いにも敵は岩塊が落下した位置まで到達しておらず、伏撃作戦が見破られた訳でもない。 敵は周囲を警戒しながら岩塊の除去作業をするだろうが、逆にその警戒を解いた時が最大のチャンスになるとニムバスは確信していた。 眼下の敵は、何としてでもこの場で仕留めてしまわねばならぬ相手なのだ。 今は隠形に集中し、敵の警戒を何としてでもやりすごすべきだ。 ニムバスはそう判断を下したのである。 車両が急停止したのに気付くと、エイガーは瞑目していた両目を開き、キャリアーの助手席でリクライニングにしていたシートを元の位置に戻した。 「・・・何かあったのか」 「申し訳ありません少尉、どうやら落石が前方の道を塞いでいる模様です」 「何だと」 インカムを付けた運転手の言葉を確かめるようにエイガーは側窓から大きく身を乗り出した。 目を凝らすと、確かに前方に停車している数台の車両の向こうに巨大な土くれが鎮座しているのが見える。 その大きさは小型のMS程もあり、確かにこのままでは通行できない事が判る。 「よし。俺のMSを起動させるぞ」 あっさりとそう言い放ったエイガーは助手席のドアを開けて地上に飛び降りた。 「少尉!?まさか新型のマドロックで土木作業をするつもりですか?」 「俺だけじゃないさ。ジムキャノンの2機も作業にあたらせる」 「いや、そういう意味では・・・」 「俺達は急いでる。それにどうせ今回のミッションにはマドロック自体の出番は無いんだ。 役に立つ事があって良かったぜ、これで上にも言い訳が立つ」 運転手は変な顔をしたが、エイガーはそれを一向に気にせず激しく降りしきる雨の中、キャリアーの後方に走り込むと、トラックの幌を外しに掛かった。 オデッサ攻略戦を側面から強力に支援する自走砲大隊指揮官職務執行役としてアンカラに派遣された砲術士官エイガー。 アンカラでは現地で既に展開している部隊と合流し、大部隊を指揮してオデッサの敵陣めがけて、このスコールよろしくロケット弾とミサイルの豪雨を降らせてやる予定である。 今回の作戦、黒海をまたいだ長距離砲撃を敢行するため中距離砲撃しか出来ないMSは実際のところ役には立たない。 しかし自身の手掛ける新型MSであるRX-78-6【マドロック】と、RGC-80【ジムキャノン】の完成度を高める為には実戦データの収集が不可欠であるとのごり押しで、エイガーはこの砲術部隊に都合3機の砲撃用MSの帯同を上層部に認めさせていた。 実際はマドロックの調整から離れる時間が惜しいというのが本音だったが、こういうのを怪我の功名というのだろう。 「MSの出番が来たと後ろの二人に伝えてくれ。『無駄飯食らい』の汚名を返上するチャンスだってな」 近くにいた部下にそう声を掛けると、エイガーは雨粒がなるべく入り込まない様に注意しながら素早くマドロックのパイロットシートに滑り込んだ。 280 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/06/07(月) 20 44 28 ID iaisKR8g0 [5/6] 「ニムバス中尉、あれを・・・・・・!」 「何という事だ、MSが随伴していたのか!」 突如敵軍列後方から姿を現した3機のMSにニムバスは慄然とした。 ニムバスも敵部隊にMSがいる可能性を考えていない訳ではなかったが、その確率は極めて低いだろうと思っていた。 なぜなら現在の連邦軍にとってMS自体が貴重であり、オデッサにおいてザクに対抗するMSは重要な戦力の筈だからである。 何よりMSによる襲撃を予想していない部隊に、MSが直衛する必要など無いのだ。宝の持ち腐れという奴である。 オデッサと黒海を挟んだ地のアンカラで、その貴重な戦力を遊ばせておく事は常識で考えればまずあり得ない事だった。 もしニムバスが連邦軍の参謀だったなら、そんな所に割く戦力があるなら迷わずオデッサ攻略の本隊にMSを組み入れるだろう。 ・・・ニムバスのその考察は間違っていた訳ではなかった。 そして、計画通りに事が運んでいればキャリアーに載ったまま連邦のMSは起動する事無くザク改のバズーカで葬り去られていたかも知れなかった。 だが突然の落石というアクシデントとエイガーという砲撃用MSの開発に執念を燃やす仕官の存在が彼の計算を狂わせたのである。 運が悪かったでは済まされない、これが、戦場なのであった。 よりにもよって、現れたMSのどれもが彼等が初めて目にする新型であった。 先頭の1機はアムロが現在搭乗しているガンダムに頭部形状が酷似している。 恐らく同シリーズなのだろうが、両肩に2門の砲身が突き出している所が大きく違う。 後方の2機も一門づつキャノン砲を搭載し、腰にはピストル状の火器がマウントされている。火力は相当に高そうだ。 悠長に構えてはいられなくなったとニムバスは臍を噛んだ。 砲撃車両だけならばまだしも、MSがいるとすれば攻撃の優先順位が変化する。 敵がこちらに気付かなければ良し。気付いた場合には・・・ ニムバスは接触回線でその旨をバーニィに伝えると、豪雨の中でも極力音を立てない様に注意してバズーカの向きを変え、スコープの中心に新型のガンダムを捉え直した。 338 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/06/22(火) 01 46 09 ID br3lyhfc0 [2/6] この隘路に200Mほど進入した地点で停止した車両群を背に、3機のMSは道を塞いでいる岩塊に向かってゆっくりと歩を進めている。 先頭を歩くRX-78-6【マドロック】を操縦するエイガー少尉はその時、ONになっていたレーザー通信回線から微かに聞えた異音にぴくりと片眉を跳ね上げた。 「おい聞えたぞGC2。生あくびならもっと巧妙に噛み殺せ」 「す、すみませんエイガー少尉」 RGC-80【ジムキャノン】に搭乗するサカイ軍曹の慌てた声にエイガーは苦笑する。 先刻までのエイガーと同様に、彼の部下である2人のパイロットもそれぞれの場所で仮眠を摂っていたにちがいない。 まあ無理もあるまいとエイガーは思う。ここ数日不眠不休の調整に追われた挙句、夜通しトラックで走り続けて来たのだ。 エイガー自身も鉛の様な疲労が抜けず、目の奥と体の節々が痛い。彼と部下達の疲労は今やピークに達していた。 「大体が、開発計画がタイト過ぎるんですよ・・・」 こちらのボヤキはもう1機のジムキャノンを操縦するゲラン軍曹である。 彼等2人はエイガーが戦車兵の頃からの部下であり、MS適性試験にも同時に合格した同期の戦友だった。 「泣き言を言うなGC3。例のV作戦の試作艦が搭載MSごとジオンの手に落ちたんだ。 その分こっちの開発計画が早まったのは仕方の無い話だ」 「4号機や5号機の開発クルーも随分ストレスが溜まってるみたいですよ?」 「もともとセカンドロットのRXシリーズはRX-78-2の戦闘データをフィードバックして開発を進める予定だったからな・・・」 エイガーはモニターに映った僚機の顔を見て『GM系のMSもな』という言葉を辛うじて飲み込んだ。 正味な話、ジオンに比べMS開発の経験が浅い連邦にとって、RX-78-2ガンダム搭載の教育型コンピューターに蓄積された生の対MS実戦データは咽から手が出るほど欲しい宝だったのである。 エイガーが試算してみたところ、これが移植されなかった為に連邦のMSは、軒並み30%の性能アップが出来なかった・・・と出た。 それは翻って連邦の量産型MSがそれだけ戦力ダウンしたという事を意味している。 いずれ連邦パイロットが熟練するに従いこの差は徐々に埋めて行けるとは言うものの、それまでこの戦争が続いているかどうかは保証の限りでは無いのだ。 現時点の連邦軍にとってこれは深刻な痛手であろう。 もちろんこれはあくまでも試算値であって厳密な数値では無いが、その結果はエイガーを暗澹たる気分にさせるには十分だった。 それを知ってか知らずか、サカイは呑気な声で更に話を続ける。 「RX-78-2のパイロットはえらく優秀だったらしいですね。何でも赤い彗星と互角に渡り合ったとか。 その戦闘データさえあれば、RGMシリーズだってもっと強化できたでしょうに」 「もうやめろ。たらればの話はここまでだ」 歴史は動いたのだ。時計の針を戻す事ができない以上、いまさら何を残念がっても詮無い事なのである。 「俺達は目の前にある仕事から片付けよう。まずはコイツだ」 ゆるやかにカーブした700~800メートル程続く一本道のほぼ真ん中付近。 連邦の車両が進入してきた隘路入り口から約400メートルの地点で、縦横それぞれ15メートルもあろうかという巨大な岩塊が完全に道路を塞いでいる。 エイガーは岩塊をモニター越しに確認すると一旦機体を止め、それが落ちて来たと思われる崖の中腹まで軌跡を辿るようにマドロックの頭部メインカメラを振り向けた。 岩塊は木々を薙ぎ倒して転がり落ちて来たらしく、その形跡を辿る事は比較的容易い事であった。 エイガーとしては単に連鎖的な崩落の危険を見極めようとしただけの確認作業だったのだが・・・・ 「・・・!!」 その瞬間、彼の両目は見開かれ全身は総毛立った。 崖の中腹、周囲に溶け込む偽装ネットを被せてはいるが、その奥に微かに覗く、濡れた雨に照り返す金属特有の鈍い輝きは見紛い様も無い。 エイガーは、大岩がこそげ落ちた崩落部分のやや脇に潜む、2体のMSを目聡く発見したのである。 ちなみにマドロックに搭載されたセンサーは、ミノフスキー粒子と激しいスコールに阻まれ何も反応していない。 恐るべき事に彼は長年の砲術戦で鍛え培った視力と観察眼、そして注意力のみで偽装潜伏しているザクを看破したのであった。 339 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/06/22(火) 01 52 01 ID br3lyhfc0 [3/6] 「・・・GC2、GC3、レーザージャイロと火器管制システム同期だ、くれぐれも唐突な機動は慎めよ・・・・!」 「は?」「唐突な機動?」 突然押し殺した声で命令を下して来たエイガーに部下の2人は戸惑ったものの、指示通りに2機のジムキャノンはマドロックにシステムを同調させる。 これで2機のジムキャノンそれぞれのサブモニターには、マドロックが『見て』いる映像が映し出される事となる。 ミノフスキー粒子の干渉をそれ程受けず、ある程度の範囲をカバーできるレーザー通信でお互いのMSはデータを共有している。 スイッチの切り替えで、リーダー機であるマドロックのマークした照準に合わせて、システム管理下に置かれたジムキャノンが同時に多方向から砲撃する事も可能だ。 これが、戦車兵上がりの砲術士官エイガーが砲撃用MSに組み込んだ兵器統合火器管制システムであった。 これにより連邦軍の砲撃MS同士は集団戦において有機的な運用が可能となったのである。 「少尉、いきなりどうしたんで・・・・うっ!?」 「これは・・・・!?」 GC2とGC3、二機のジムキャノンパイロットは同時に息を呑む。 「見ての通り、10時方向に潜伏中の敵MS2機を発見だ。あわてるなよ、知らんフリをしながら動け」 「GC2了解・・・!」「ジ、GC3了解・・・」 マドロックは見上げていた頭部を正面の岩塊に戻し、ゆっくりと歩を進め更に岩塊に近付いてゆく。 ややぎこちなくその後を2機のジムキャノンが続くが、その動きは辛うじて遠目には不審なものとは映らなかっただろう。 もちろんエイガー達はサブカメラの映像を崖の中腹に潜んでいる2機のMSから外しはしない。 3体のMSによる映像は3体のMSで共有統合され、刻一刻と立体的に対象物のデータを解析し、測定を進めてゆく。 素早くエイガーが画像をズームアップすると、ザクが被っている偽装ネットの隙間から二本のバズーカらしき砲口がこちらを向いているのが確認できた。 その事実に心臓が鷲掴みにされたかの様な衝撃を受けたエイガーだったが、最前線で砲兵隊を率いジオンの鉄巨人ザクと生身で戦って来た彼は、ある種のクソ度胸が備わっていた。 「まさか、この落石は我々をおびき出す為の罠・・・?」 「いや違うな、それならもう我々は攻撃を受けている。恐らく、これは敵にとってもアクシデントだったんだ」 本心は一刻も早く敵の射線から逃れたいのだろう。サカイの青ざめた声を、しかしエイガーは毅然とした声で否定した。 「アクシデント、ですか・・・」 「敵MSのデータはありませんね・・・どうやら新型の様です」 解析を進めるゲラン軍曹の緊張した声も、やや震えている。 「敵はこのまま我々が自分達の存在に気付かずにこの大岩を撤去し、当初の予定どおりここを通過するのを待っているんだ。 そして、がら空きになった隊列の横腹に満を持して砲弾を叩き込むつもりなんだろう。 こんな場所で砲撃されたらどうにもならない所だったな。我々は運がいいぞ」 そう言いながらエイガーはニヤリと笑う。 340 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/06/22(火) 01 52 44 ID br3lyhfc0 [4/6] 「そ、それじゃ後方の車両部隊の皆に早く知らせないと!」 「待て、今、車両部隊が動けば敵に気付かれてしまう。ここは逆に、奴等の裏をかいて始末するチャンスだ。見ろ」 エイガーが弾く様にボタンを押すと、照準モニターには地形に被せるように敵MSと味方部隊の位置が地図上にクッキリと表示された。 多角的に解析を終えたデータは明確に、そして残酷に、隠れ潜んでいる敵の居場所を浮かび上がらせたのである。 RX-78-6【マドロック】は両肩に装備された300mm低反動キャノン2門と現在は腰にマウントされているビームライフルを同時に、同(異)照準めがけて発射する事ができる。 特に都合3本の火線を集中する収束攻撃は現時点で存在するMSの中でも、最大級の破壊力を持つ攻撃と言っても過言では無いだろう。 一方ジムキャノンもマドロックに一撃の威力でこそ劣るものの、同様に右肩に装備された240mmロケット砲とビームスプレーガンを同時に標的に向けて発射可能である。 これらの攻撃をシステムによってリンクした3体のMSから浴びせられれば、対象物はひとたまりもないだろう。 だがその為には巧妙に敵の隙を突く必要があるとエイガーは考えた。 「よし、全機停止だ。すみやかに岩塊に向けて砲撃姿勢を取れ」 道路の真ん中に鎮座する岩塊まであと100メートルという所でエイガーは部下達に指示を出した。 先頭のマドロックをアローフォーメーションで後方左右から追尾していた部下達のジムキャノンはその場で足を止め、右半身に構えた前傾姿勢を取る。 「これで敵からは我々が邪魔な岩を排除する為に砲撃するつもりに見える筈だ。 だが実は違う・・・! カウントダウンと共に『ターゲット』に向けて一斉攻撃だ、いいな」 エイガーの言葉を復唱し、ごくりと唾を飲み込んだサカイは眼前の岩ではなく、ターゲットスコープに10時方向で照準固定されている敵のMSを捉えている。 スイッチ一発で彼等の機体はロックされた方向へ瞬時に向きを変え、同時に砲弾を吐き出すのだ。 これは敵の意表を付く攻撃であるはずだ。回避や防御は、ほとんど不可能であろう。 「周囲に敵の仲間がいる可能性もある。念の為、砲撃後はすぐに散開するのを忘れるな。 ターゲット撃破後、車両も一斉に後退させる。カウントダウン、5・・・4・・・」 「どうやら、奴ら、俺達には気付けなかったみたいですね・・・」 「・・・・・・」 安堵したようなバーニィの声に、ニムバスは沈黙で答えた。 モニターには小降りになって来たスコールの中、道を塞ぐ岩塊に向けて三角フォーメーションで砲撃姿勢を取った3体の連邦製新型MSが映し出されている。 少しでも敵が不審な動きを取った場合は躊躇無く行動に移るつもりで神経を張りつめていたニムバスだったが、どうやら杞憂で済んだ様だ。 漠然とした不安は拭い切れていないが、このまま滞りなく事が進めばそれに越した事は無い。 いやむしろ、警戒心が強過ぎるのは逆に戦術の幅を狭めるかも知れない。 折角なら連邦製の新型MSが放つ攻撃の破壊力を見極めてやるのも悪くは無いかとニムバスがふと肩の力を抜いた瞬間・・・ まるで示し合わせたかの様なタイミングで3機の砲口が一斉にこちらを向いた。 「しまっ・・・!!バーニィ!!」 目を見開いたニムバスの絶叫は、強烈な爆発音に掻き消された。 341 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/06/22(火) 01 53 54 ID br3lyhfc0 [5/6] 「うおっ・・・!!」「な、何だ!?」 エイガーとサカイが同時に叫ぶ。 彼等のMSが体勢を変えた瞬間、轟音を立てて粉々に消し飛んだのは、眼前で行く手を阻んでいた岩塊だったのである。 突然の事に度肝を抜かれ、彼等はザク改に向けての攻撃を一瞬ためらわざるを得なかった。 ニムバスの瞳がギラリと光る。 「飛べ!バーニィ!!」 「了解っ!!」 ニムバスとバーニィのザク改はこの機を逃さずバーニアを轟然と轟かせ偽装網をかなぐり捨てて飛翔し、後背にそびえ立つ崖の稜線を一気に越えてエイガー達の視界から姿を消した。 逃げ場の無い崖を背にして敵に攻撃を仕掛けたり、敵の待つ道路に飛び降りたりせず、ジャンプして崖の背後に回り次の行動に移行する。 これは予めニムバスがバーニィに指示していた非常時における回避行動であった。 例え相打ち覚悟で敵の撃破に成功しても、こちらの被害がそれを上回れば意味は無いのだ。 分が悪くなれば、躊躇なく、引く。 あらかじめニムバスは作戦失敗の咎を全て自分が負うつもりで、アムロとバーニィにそう言い含めていたのである。 ちなみにこの大胆な退避手段は、従来のザクに比べて格段に推力がアップしているザク改ならばこそ可能な荒業であった。 「ああっ!糞!!奴等を逃がしちまったっ!!」 「構うな!それより前方に注視しろ!!」 卓抜したエイガーの目は、その時朦々と立ち込める爆煙の遥か向こうに朧立つ 新たなターゲットを捉えていたのである。 エイガーがモニター越しに目を凝らした 刹那、上がり掛けたスコールの中を一筋の雷光が一直線に貫き、轟音と共に丘の上に立つ敵MSの精悍なシルエットを浮かび上がらせた。 その細身なMSは、砲口から白煙たなびく無骨な巨砲をアンバランスに捧げ持ち、華奢なボディラインを禍々しいものに変貌させている。 ふと、その顔がこちらを向き、まるで人間の様な『双眸』がマドロックのそれと交錯する・・・・・・! 「何っ!?ガンダム・・・だと!?」 普段何事にも動じないはずのエイガーが息を呑む。 それは、敵味方に分かれた【ガンダム】が、初めて遭遇した瞬間だった。 444 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/07/07(水) 12 07 27 ID UqfbXj6Y0 [2/8] 「よおぉぉしっ!!」 バズーカを掲げ、丘の上に仁王立ちしたRX-78XX【ガンダム・ピクシー】のコックピットでアムロは小さく拳を握り締めた。 アムロは改めて自らのMSが手にしている380ミリハイパーバズーカを見やる。 この感触、扱う機体は変わってもRX-78-2【ガンダム】で慣れ親しんだ使い心地は少しも変わっていなかった。 ―――ザク改の偽装が敵パイロットに見破られた。 ガンダムとガンキャノンを掛け合わせた風貌の敵MSが立ち止まり、崖を見上げた一瞬、アムロは微かな電光の閃きと共にそう確信した。 「ガンダムもどき」のRX-79(G)と戦い、現在もガンダムに酷似したピクシーを操るアムロには、もうガンダムタイプのMSに対しての驚きは無い。 いきなり現れたマドロックを目の当たりにしても、アムロは冷静であった。 さすがに落石というアクシデントに驚きはしたが、彼は元々の打ち合わせ通り、ニムバスからの合図が無い限り自分からアクションを起こすつもりは微塵も無かったのである。 しかし状況は変わった。崖に張り付いた2機のMSは格好の標的だ。 このままではザク改は敵に狙い撃ちされてしまうだろう。 隘路の出口付近に潜伏しているピクシーの位置から道路を塞ぐ大岩までは500メートル以上も離れており、その向こうにいる敵MSまでとなると更に遠い。 仮に今、ここで飛び出したとしてもピクシーが得意とする接近戦にいきなり持ち込む事はできないだろう。 アムロは躊躇い無くピクシーがそれまで握り締めていた90mmサブマシンガンを足元のハイパーバズーカに持ち替えた。 このバズーカはシャア達がクレタ島でRX-78XX【ガンダム・ピクシー】を鹵獲した際、機体と同時に押収したものだ。 本来近接戦闘に特化されたピクシーではあったが、RX系の武器は一通り使用可能であるらしい。 今回の作戦にあたってアムロは機体の特性を考慮し専用サブマシンガンを携行武器に選択したのだが 「『兵に常勢無し』・・・戦場では予想外の事態が起きるものです。念の為にこれも」と、ニムバスがアムロに敢えて持たせたものだった。 一刻の猶予も無い。考えると同時にアムロの体は動いている。 偽装網を払い除け、丘の上に弾かれた様に身を起こしたピクシーは、すかさず片膝立ちになると大ぶりなハイパーバズーカをピタリと構えた。 『敵の攻撃を中断させ、こちらに注意を向けさせる。それには!』 狙うは敵MSではなく道路の真ん中に居座る岩塊である。 この一撃に失敗は許されない。 メイン武器としての使用を想定していなかったハイパーバズーカは、照準調整に若干の不安がある。 狙う的は大きければ大きい程良いという咄嗟の判断であった。 一瞬の隙さえ作り出す事ができれば、あの二人なら即座に状況を理解し的確に行動する。そうアムロは踏んでいたのである――― 445 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/07/07(水) 12 08 43 ID UqfbXj6Y0 [3/8] そうして確実に岩塊を破壊せしめたアムロは、思惑どおり2機のザク改が敵の混乱に乗じて退避したのを確認して歓喜の声を上げたのであった。 このアムロの一連の行動とメンタリティは、誰かの部下として与えられた任務を果たしていれば良かったこれまでの戦い方とは全く違ったものだった。 「・・・兵は詭道なり」 アムロはロドス島で行なわれた作戦会議の際にニムバスに言われた言葉を無意識に呟いていた。 「『兵は詭道なり』・・・戦の場ではこれを決して忘れてはなりません」 ブリーフィングの途中でニムバスはアムロとバーニィにそう切り出した。 「あ、ええと、それは確か、ゲラート少佐も良く言われていた言葉です。 意味まではその、良く判らなかったんですが・・・」 アムロが振り返るとバーニィもしきりと頷いている。ニムバスは少しだけ顔を綻ばせた。 「簡単に言えば、正攻法で攻めるよりも、敵のコントロールをこちらで握ってしまえ・・・といった意味です」 「コントロールって、敵MSにリモコンでもくっ付けるん・・・じゃないですよね・・・すみません・・・」 すぅっとニムバスの目が細まったのを見て、慌ててバーニィは首をすくめた。 「MSに乗っているのは人間。戦艦や戦闘機などの兵器を操っているのも人間。 突き詰めれば敵は人間なのです。人間には感情や欲望があります。これを揺さぶり、こちらの思う様に動かす。 これが『兵は詭道なり』の真髄なのです」 「感情や欲望を揺さぶる・・・」 「人間には喜怒哀楽そして恐という五つの感情と、食・性・名声・財産・趣味という五つの欲望があります。 これらを刺激してこちらの術中に嵌めてしまう訳です。それにはまず、物事の上辺だけで無く、裏まで見抜く洞察力が肝心。 まあこれは別に、戦場に限った話ではありませんがね」 ニムバスの話はなかなかに奥が深そうだ。 「む、難しそうですね・・・」 「もちろん簡単ではありません。しかし例えば人間は理解不能な状況に陥ると思考が一瞬停止してしまうものです。 リスクを伴う事もあるでしょうが、これを利用すれば敵の平常心を失わせ、貴重な時間を稼ぐ事ができるかも知れません。 逆もまた真なり。常に不測の事態に備えていれば、敵に隙を突かれる事は無いでしょう」 アムロとバーニィは真剣な顔でニムバスの話に聞き入っている。 「 そして『兵に常勢無し』つまり戦場では常に周囲の状況に気を配り、臨機応変に動く事が肝要であり『兵は神速を尊ぶ』・・・迅速・機敏に行動しろという事なのです・・・」 アムロはちらりと2機のザク改が姿を消した崖の稜線を確認した。 彼等の作戦は既に、次善策であるプランBの第二段階に移行したのだ。今しばらくは、敵の目をこちらに引き付けておく必要がある。 ニムバスの言った『兵は詭道なり』・・・ 建前だけとは言え小隊の指揮官として、実践するのはこの場面以外、有り得なかった。 446 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/07/07(水) 12 10 25 ID UqfbXj6Y0 [4/8] 「出ました!奴の正体は・・・RX-78XX【ガンダム・ピクシー】です!」 「ピクシーだと!?」 突如出現した謎のMSを素早く解析しデータ照合していたゲランが焦った声でエイガーに報告する。 「どうやら連邦軍が我々とは別ラインで極秘裏に開発したらしい陸戦MSの様です!こんなRXシリーズがあったなんて・・・!」 続けてデータを読み上げるサカイの声も戸惑いを隠せないでいる。 果たしてこれ以外にも彼等の知らない【ガンダム】が連邦軍の兵廠にはゴロゴロしているのだろうか。 「例の試作艦への輸送任務が中断され、その後行方不明となった・・・としかデータには記載されていません!」 「そんなMSが何でこんな所で俺達に砲口を向けているんだ!?」 「判りませんっ・・・!取り敢えずデータ送ります!」 「くそっ!!GC2!GC3!散開だ!リンク攻撃を掛けるぞ!!」 「「了解!」」 部下に迎撃を命じたエイガーだったが、彼はここで重大な判断ミスを犯していた。 MSに搭乗した感覚は戦車のそれとは全く異なる。 理詰めで攻撃を行なう砲術は冷静にならざるを得ないが、自らの体躯と同様に自在に動けるMSは、自由度が高い分、目の前の戦いに没頭しやすいのだ。 彼は自分でも気が付かぬうちに熱くなり、俯瞰的な視野を逸していたのである。 「何っ・・・!?」 そのエイガーの目が驚愕に見開かれる。 RX-78XX【ガンダム・ピクシー】は、大胆にもバズーカを抱えたまま丘を蹴ってアスファルト敷きの道路に音も無く着地すると、何とこちらに向かって歩き出し始めたではないか。 3機のMSに背を向けて逃げ出すでもなく、横に回り込もうとするでもなく、ただ正面から悠然と歩み寄って来るのだ。 これは、戦場でのセオリーに当て嵌めてみても到底信じ難い行動であった。 「な、何だあいつ!?舐めやがって!」 激昂するゲランの声も、得体の知れない恐怖を誤魔化す為に異様に甲高くなっている。 「データによると奴は接近戦を得意とするMSのようだ。奴を近づけさせるな!!攻撃開始!」 「りょ、了解!」「了解です!」 エイガーの指示に従い、砲撃を開始した3機だったが、ゆっくりと歩き来ていたMSが、物理法則を無視したかの様に突然真横にスライド移動し、彼等の放った砲弾を全て避けてしまったのである。 その素早さは見る者の網膜に残像を残し、まるで分身でもしたかの様に見えた。 「な!?何だ今の機動は!?」 まるでバケモノでも目撃したかの様な大声をゲランは上げてしまった。 宇宙ならばまだしもここは地上なのである。MSのあんな動きは教練でも習わなかったし、今までに見た事も聞いた事も無い。 「足底バーニアとメインスラスターをステップジャンプに組み合わせて一時的に擬似ホバーの様に使用したんだ! 怯むな!撃て!撃て!」 実は地上走行用のホバースラスターはマドロックにこそ装備されている。 しかし今ピクシーが行った瞬間移動ばりの動きは、重量級のマドロックには到底不可能なものだろう。 徹底的に機体を軽量化し、アポジモーターを増設したピクシーは恐るべき瞬発力を持つに至った様だ。 しかし、そんな暴れ馬の様な機体を使いこなし、マニュアルには無い機動をこなしても一切機体バランスを崩さないでいる敵パイロットの操縦センスの方にこそ計り知れないものがある。 自らの背中に結露した冷たい汗を気取られまいとエイガーは僚機に必死の指示を出す。 しかし各人とも焦りの為か照準がぶれ全く砲弾を命中させる事ができない。 2度3度と砲撃を繰り返すも不規則なスライドホバーで移動する敵MSに、ビーム砲すら当たらないのだ。 いかに強力な攻撃であっても、当たらなければ何の意味もなさない。 移動する敵に砲撃は当て難い。武器が全て単発式であった事も災いしていただろう。 ・・・とは言うものの、あまりの当たらなさに3人のパイロットは愕然とする。 447 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/07/07(水) 12 11 18 ID UqfbXj6Y0 [5/8] 「何故だ・・・何故当たらん!?」 こんな馬鹿なとエイガーが目を凝らすと、ピクシーは直線と曲線を織り交ぜた動きで幻惑し、こちらの砲撃タイミングと照準を微妙にズラしているのだという事に辛うじて気が付いた。 こちらに仕掛けて来る訳でもなく、明らかに敵は何らかの時間稼ぎをしているのである。 しかしそれが判っても、現状の彼等には目の前の敵をどうする事も出来ないのだ。 エイガーは幼い頃に見た、悪戯好きの悪魔に為すがまま翻弄され続ける哀れな人間達を描いたコメディ映画の1シーンを思い出していた。 ふざけるなとエイガーは頭の中から不吉な想像を振り払うと全神経を集中し、ビームライフルでピクシーの足元を狙い撃つ。 それは敵の動作をエイガー特有の観察眼で分析し「次の動き」を予測した必中の一撃だった。 にも関らず、何とピクシーはステップジャンプ中に不自然に右膝を高く上げ、その下にビームの斬光を通したのである・・・! 「まさか!?」 エイガーは今度こそ恐怖した。 偶然か!?いや敵は完全にこちらの攻撃を予測して、避けているとしか、考えられな――― と、ピクシーの足元から煙幕状のものが勢い良く立ち上り、その機体を覆い隠してゆく。 その煙は雨上がりの追い風に乗って、たちまち周囲に薄闇の如く広がり、マドロックやジムキャノンの周りを薄ぼんやりと覆い尽くした。 「な・・・今度は何だ!?何なんだよ!?」 「神よ・・・白き悪魔から我を守りたまえ・・・!」 泣きそうな声でサカイが、擦れた声でゲランが叫ぶ。 これは以前アムロが多対一のMS戦用に用いた戦法をアレンジしたものだったのだが、もちろん連邦のパイロット達がそんな事を知る由も無い。 今や完全に、連邦の誇る3機の新型MSが、たった1機のMSに翻弄され、呑まれてしまっているのだ。 「慌てるな!スモークディスチャージャーかグレネードだ!パッシブ・サーマルセンサーに切り替えろ! データを共有・・・」 しかしエイガーの言葉が終わらぬその時突然、薄靄の中にいたピクシーがバズーカを撃ち放ったのである。 弾は明後日の方向に飛んでいったが掴みどころの無かった敵が突如牙を剥いた姿に、連邦のパイロット達は動転した。 「うわああっ!?撃って来た!?」 怯えた声を上げたのはゲランである。 「慌てるな、あんなメクラ撃ちは当たらん!サーマルセンサーで敵の居場所を捉えるんだ!」 エイガーをはじめ3人の連邦パイロットはMSでの戦闘はこれが初めてであった。 戦車とは勝手の違う操縦感覚は、彼等を徐々にパニックに陥れようとしている。 エイガーはそれに必死で抗う様に眼前のセンサーモニターを凝視した。 「!」 「エイガー少尉!目の前です!!」 サカイに指摘されるまでも無く、エイガーは真っ直ぐこちらに飛び込んで来る熱源体をセンサーで捉えていた。 恐らく敵はスモークに紛れて一気に近付き近接戦闘を仕掛けるつもりなのだろう。 「ポイント距離20・・・10・・・5・・・馬鹿め!マドロックを見くびるな!!」 マドロックは咄嗟に左手でビームサーベルを引き抜くと、ジャストのタイミングで前方に踏み込み思い切り横に薙ぎ払った。 ズシュッという何かを断ち斬った確かな手ごたえが操縦桿越しに伝播する。 砲撃用MSのマドロックであったが、接近戦を見据えた武器も抜け目無く装備していたのである。 初めてエイガーは歯を見せて笑った。 「調子に乗りすぎたな!貴様など、俺とマドロックの敵では・・・」 しかし、マドロックの足元に音を立てて落下したのは、真っ二つに切り飛ばされたハイパーバズーカ「のみ」であった。 エイガーの笑い顔が眼を剥いたまま凍りついて固まる。 ロケット弾を使用するハイパーバズーカは砲弾を発射した直後は砲身が過熱し熱を佩びる。 ピクシーのパイロットはスモークを焚いて視界を奪い、投げ付けたバズーカの熱をこちらのセンサーに捉えさせ自身の代わり身として使用したのである。 エイガーの全身を戦慄が貫いた。 ならば敵の本体は・・・今 ど こ に い る の だ !? 448 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/07/07(水) 12 11 50 ID UqfbXj6Y0 [6/8] 「エイガー少尉!?」 「動くな!これは奴の罠だ!動けば奴のパッシブソナーで居場所を知られるぞ! 油断するな!こちらも敵の動きを探れ!! 相手は1機だ、最悪でも誰かが攻撃を受ければ残りの2機で敵を撃破できる!」 「り、了解!」「何てことだ・・・」 エイガーの指示に部下の2人も事態を察し、冷汗を浮かべてセンサーモニターを凝視する。 一分が過ぎ・・・二分が過ぎても・・・視界を遮るスモークの中、敵の動きはまだ無い。 しかし今この瞬間にもあの得体の知れないMSが背後に現れるかも知れないのだ。 経験の浅いMSパイロットにとって、その恐怖感たるや筆舌に尽くしがたいものがある。 疑心暗鬼に駆られた彼等は、知らず知らずのうちに集中力を極限まで絞り込んでいた。 だがその時――― じりじりと張り詰め硬直した時間を解きほぐすように、雨雲の切れ間から太陽の光と共に一陣の風が戦場を吹き抜け、薄雲の様なスモークをエイガー達の周囲から完全に吹き散らした。 ピクシーの姿は、どこにも無い―――――― 「おおお神よ・・・!?」 信仰深いゲランが天を見上げ、恐ろしげな物を振り払う様に胸の前で小さく十字を切る。 「て、敵はどこだ!?」 「ロストしました!ゲラン!?」「こ、こっちもです!」 サカイの呼び掛けに我に返ったゲランが神への祈りを中断して慌てて応じる。 「そんな筈は無い!敵はまだ近くに潜んでいるぞ!捜すんだ!!」 慌てて周囲をエイガーと2人の部下は警戒するが、まるで先程のスモークと同様、霧か霞の如く消えてしまったMSを再び捉える事はできなかった。 まさか逃げ出したのかと訝るエイガーの耳朶を、その時通信アラームが激しく叩いた。 『エイガー少尉!!敵襲です!敵のザクが後方の車両を!!』 「し、しまった!?」 突如割り込んで来たキャリアーからの通信に、エイガーは顔面蒼白となった。 目の前のピクシーに気を取られ、部隊の退避命令を出し損ねていたのである。 恐らく先程取り逃がした2機のMSは逃げ去ったのではなく、崖の尾根沿いに山の反対側に廻り込み、無警戒に停車していた部隊車両を襲撃したのだ。 エイガーは、敵MSを騙し討ちする為に味方車両を動かさなかった事で生じた大きな代価を、ここで支払うハメになったのである。 見る間に山の向こうからは連鎖する爆発音と無数の煙が立ち昇り始めた。 「やられた・・・・・・」 茫然自失となったエイガーが呟く。 彼が率いるこの長距離砲撃部隊は火薬と燃料の塊なのだ。隊列を組んで停車している所を爆破されれば誘爆が更なる誘爆を引き起こすだろう。 皮肉な事にこの隘路に入り込んでいた数台の車両こそ無事だったが、弾薬を満載した後方の補給車両が潰されてしまってはもう作戦通りの攻撃は不可能となってしまう。 ピクシーは完全に囮だった。奴はこちらのMSの動きさえ暫く押さえておけば良かったのである。 最初から本隊への襲撃は他のMSに任せ、ある程度の時間を稼いだらさっさと引き上げるつもりだったに違いない。 オデッサへの長距離支援というこちらの作戦行動を妨害する目的が達成されたならば、別に無理をして数的に不利なMS戦を挑む必要など無いのだから・・・! 449 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/07/07(水) 12 12 28 ID UqfbXj6Y0 [7/8] 夕焼けの中、再び雨が降り始めていた。 山間部に累々と横たわる残骸と化した車両を眺めながらエイガーは、オデッサ作戦において自分の役割が完全に無くなった事を実感していた。 人的な被害が最小限で済んだ事は幸いだったと言えるだろう。敵MSは的確にこちらの弱い所だけを突くと余計な殺戮をせず、旋風の様に引き上げたのだそうだ。 敵ながら見事な手際だと言わざるを得ない。 「白い悪魔め・・・!」 ゲランが命名したその名を悔しそうに呟いたエイガーは、それでも正直命拾いをしたという安堵感は拭えない。 あのまま敵のピクシーがスモークに紛れて本気で切り込んで来ていたら、自分達3人はどうなっていたか判らないのだ。 目を転じると、ゲランが身振り手振りを交えて大勢の仲間達に何かを説明している姿が見えた。 恐らく、今日を境に「白い悪魔」の名は瞬く間に連邦兵の間に広まる事だろう。 そして「赤い彗星」や「青い巨星」などと同様、その噂は恐怖と共に語り継がれる事になるに違いない。 「エイガー少尉、走行可能な車両に生存者を分乗させました。日が暮れる前に出発しませんと」 「・・・そうだな」 小走りでやって来たサカイの言葉にエイガーは頷いた。 これから彼等は来た道を引き返してソフィアにある中継キャンプ地に向かう。 意気軒昂だった行軍の時とは正反対の、消沈した敗残兵として仲間の元に帰還するのだ。合わせる顔が無いとはこういう事を言うのだろう。 「見ていろ・・・次はこうはいかない。俺はあの悪魔に必ず勝ってみせるぞ」 俯いていた顔を無理矢理上げたエイガーはそう言うと、ピクシーが消えた丘を睨み付けてから踵を返した。 彼等に降り注ぐ雨は、次第に強さを増して行く様だった。 .
https://w.atwiki.jp/amuroinzion/pages/21.html
【SS】もしアムロがジオンに亡命してたら part3-2 ウラガンは、ラルとシーマに対してすぐに戻るからこのままここに待機していろと言い残し、 ガンキャノンを輸送機に搭載する為、部下と共に格納庫を出て行ってしまった。 それを見届けたシーマは厳しい顔のまま大股でメイの元に歩み寄り、 そのずんずんと迫るシーマの迫力に思わず前に出たオルテガを「どきな!」と蹴り飛ばしてからメイの前に立った。 すぐラルもメイの前にやって来て、 メイの周りにシーマ、ラル、ライデン、オルテガ、バーニィが集まる形となった。 そんな中、何事かと目を丸くする彼女にシーマは小さく頭を下げたのだった。 「ごめんよ・・・アタシ達が不甲斐無いばかりに、あんたみたいなカタギの娘に嫌な思いをさせちまってさ」 「全くだ。これではダグラス大佐に顔向けができん」 シーマに続いてラルもメイに頭を下げる。 通常の部隊であれば将校が軍属に頭を下げるなど考えられない光景である。 横柄な軍人に酷い扱いをされた事のあるメイは2人の真摯な態度に胸が熱くなるのを感じていた。 「だ、大丈夫ですよシーマ中佐、ラル中佐。私、オルテガ中尉のおかげで頑張れましたもん」 両手の掌を体の前に出し小刻みに振ってみせるメイの、 その言葉を聞いた瞬間のオルテガの顔こそちょっとした見ものだった。 それは何気なく振り向いたバーニィが数秒間硬直してしまった程のモノである。 どうやらシーマに蹴られた痛みも一瞬で吹き飛んでしまったらしい。 「うん。アンタは頑張った。よくやった・・・あんなウドの大木よりも頼りにならなかった自分が情け無いよ」 ウドの大木とは俺の事かとムッとするオルテガの横をすり抜けて来たライデンが、メイにゆっくり話かける。 「姐御はあの時、君みたいな女の子が単独でザクに乗っている事を知らずに撃墜命令を出していたんだ。 君に会った後、その事をずっと悔やんでいた。『他にやり様があった』ってね」 「そうだったんですか・・・」 メイはそおっとシーマを見上げてみる。怖い人だと思っていたのだが、 彼女を見つめるシーマからは、心からの謝罪の他に偽りの気持ちは微塵も感じられない。 しかし次の瞬間メイは、シーマの身体から次第に吹き上がって来る殺気を感じ取り、 思わず身を固くするのだった。 「ウラガン・・・あの野朗、必ず殺してやる・・・! アタシら一家にナメたマネをした奴がどうなるか、身を持って知るがいいさ・・・」 「姐御、そう殺意をむき出しにしちゃメイが怖がるって」 苦笑いするライデン。男女問わず見所のある者を仲間に引き入れたがるのは姉御の癖だ。 どうやら彼女の中ではいつの間にかメイもシーマ一家にカウントされてしまっているらしい。 ライデンが改めてメイに声をかける。 「しかし、意外だったな。あの白いMSが赤いのより劣るとは。俺はてっきり・・・」 「いいえ。RX-78ガンダムは、RX-77ガンキャノンとは比較にならないほど優れたMSです」 片目をつぶりながら事も無げに告白するメイの言葉に一同は、一瞬自分の耳を疑った。 「な、何だってえ!? だ、だが、さっきの君の説明だと、だれがどう聞いたって・・・」 驚くライデンにメイは少しだけはにかんで見せた。 一同が呆気に取られる中、ついにラルまでが口を開いた。 「メイ君、詳しく話してくれ。どういう事なのだ」 「連邦軍のMS技術解析用に分解するならRX-77で充分なんです。 それなのにあの人は『性能の高いMSの方を分解解析する』と言っていたでしょう? RX-78の様に『実戦に投入すべき機体』を わざわざ研究用に解体するなんてとんでもない!・・・と思ったんです。 それにアムロの愛機・・・あ、いえ、ラル隊の重要な戦力となるMSを、あんな男に横取りされたく無かった。 タネ明かしをしちゃいますと、ですね・・・ ガンキャノンの性能の高い所だけをアピールして、あとは上手く話をすり替えちゃったんです」 てへっと悪戯っぽく舌を出すメイだが、話が良く見えないので誰も突っ込みを入れる事ができない。 彼女はもしかしたらかなり高度な事を言っているのではないのだろうか? ラルも困った様な顔で先を促すしかなかった。 「実測はしていませんが・・・ 例えばRX-78とRX-77ではビーム・ライフル使用時の照準合わせやロックオンの速さなどには 雲泥の差が有るはずです。 当然、RX-77よりフィールド・モーターの稼動ロスを大幅に改善し、 アクチュエーター精度を飛躍的に高める事に成功したRX-78の方が驚異的に速く、そして正確です。 これは射撃だけではなくMSの全ての機動に当て嵌まる基本的な要素なのです。 こうした総合的な完成度の高さが発揮する・・・スペック表では見えない機動が戦果の多寡を分けていたのです。 ビーム・ライフルの射程、威力、精度は確かにRX-77の方が優れていますが、裏を返せばそれは・・・」 「それは劣っている機体性能を武器がカバーしている」 「正解ですライデン曹長。RX-78は元々接近戦用に開発されたMSですから、 射程や威力を多少落とした分、耐久性と連射性能をUPさせた新型ビーム・ライフルが装備されたのです。 それでもこの武器には戦艦の主砲クラスの破壊力はありますから、 生半可な機動兵器など一撃で沈めてしまえるでしょう。 それに、RX-77のキャノン砲は、弾を撃ち尽くした後はその巨大な機構がデッドウエイトとなってしまうのですが、 汎用性に優れたRX-78はキャノン砲をバックパックとして背負う事が可能な様に最初から設計されています。 これならアウトレンジでキャノン砲弾を撃ち尽くした後にバックパックを切り離し、 身軽になって白兵戦に移行する事ができます。 その設計図がメモリー内に残されていましたので、 WBに備蓄されていた機材からキャノン砲付きバックパックをを組み立てる事が可能です。 連邦の3機の試作MSの中で、恐らく奇跡的に飛び抜けた性能を獲得したのがRX-78だったんです」 「驚いたな・・・まんまとウラガンを欺いたって訳か・・・ それじゃもしかして、白兵戦の武器に関しての意見も・・・?」 「はい。本当は、ビーム・サーベルは刀身の質量と重量が無い分だけ振りのスピードが速く、慣性にも左右されない為、 ヒート系の武器に比べて取り回しが断然有利になります。 それにヒート系武器は、武器自体の重さと武器を振るスピードで対象物を溶断する威力が多少増減するのですが、 ビーム・サーベルにはそれがありません。早く振ってもゆっくり振っても切れ味は同じなのです。 これは白兵戦時にかなりのアドバンテージになる筈です。そして宇宙空間での戦闘時にも・・・ ちなみにビーム・サーベル系の武器の開発はビーム・ライフルの内部機構から基礎技術は応用できると思います。 開発期間は、ジオンのラボの実力次第ですね。次期主力MSに採用されるかどうかは五分五分でしょう。」 突然シーマが愉快そうに笑い出した。 一通り笑った後に感心したような視線をメイに向ける。 「気に入ったよ!可愛い顔をしてなかなかやるじゃないかメイ。 あんたも立派な悪党さね。あたしらの仲間に相応しいってもんだ」 「実は、RX-78ガンダムの戦闘データを見ていて思い付いたアイディアがあるんです。 もしそれが上手くいけば多分アムロの、あ、いえ・・・ 我が部隊の戦力アップに繋がるはず。正直に言うと、あんな人に私の計画を邪魔されたくなかったんです」 悪党と言われたメイは、周囲の予想に反してニコリとした笑顔を見せ、 ちょっと胸を張って技術者としての表情をも垣間見せたのだった。 「シーマ様!ウラガンの野朗が戻って来ましたぜ!」 格納庫の入り口でウラガン一行の動向を見張っていた整備員の合図である。 一同は緩みかけていた表情を引き締め直すと、再び厄介な来訪者を出迎える心構えを整えた。 「RX-77の積み込みは無事完了した。それでは貴様等に新たな指令を通達する。が、その前に・・・ 今回の作戦で貴様等と同じく命令を受け既に動き出している 『闇夜のフェンリル隊』からMSと人員支援の要請があった。 本来は、一部隊の要求などにいちいち取り合ってはいられないのだが、 今回は最重要任務であるからして、マ・クベ大佐も特別に支援を御決意された」 恩着せがましいウラガンの態度に、何を抜かしていやがるという顔でライデンが睨み付ける。 シーマは怒りの表情でウラガンに噛み付いた。 「まさかMSをあたし等の部隊から徴収するつもりかい!冗談じゃないよ!こっちだって戦力に余裕は無いんだ!」 「その必要は無い。MSは既にこちらで用意した物を2機、別機でオデッサから持って来ている。 ランバ・ラル中佐の部隊からは、彼の部隊に2名のパイロットを供出するだけでいい」 「むう・・・2名のパイロットをゲラート少佐の部隊に転属させろと言うのか・・・!」 ウラガンの言葉にラルは思わず考え込んだ。 ラル隊は総じてベテラン揃いの部隊であり、 誰もがどんな状況にも適応して的確に任務を遂行する事が出来る人材だと信頼している。 だが、部隊の中で果たして誰を派遣するのが最適なのだろうか。 現在ダグラス大佐の護衛の為に2名の隊員が抜けているラル隊にとって、それは頭の痛い要請だった。 しかしウラガンはラルの葛藤を見越した様にニヤリと笑うと手にしていたファイルをめくり出した。 「人選に悩むのは当然だな。ならばこちらで決めてやろう。 部隊リストの最末席に登録されているこの2人に決定だ。 こいつらならば貴様の部隊の戦力低下も最小限で済むだろう」 「な、何だと!?」 ラルは思わずバーニィを振り返った。突然の事に驚いた彼も何事かとラルを見返す。 ラル隊には現在16名の兵士が登録されているが、 パイロットの登録順ならば末席にはアムロと先日隊に加わったばかりの新兵バーニィの名前が記載されている筈だ。 「貴様に代わって厄介払いをしてやろうと言うのだ。 特にこのアムロ・レイという亡命兵の、我が軍に対する役割は既に終了している」 「えっ・・・アムロが・・・他の部隊に転属ですって!?」 ウラガンの言葉にメイがいきり立った。それでは彼女の密かな計画が水泡に帰してしまう。 せっかくガンダムを守り通しても肝心のアムロがいなくなってしまっては意味が無いではないか。 そんなメイを尻目にウラガンは冷酷に宣言した。 「アムロ・レイ准尉、バーナード・ワイズマン伍長の2名はこれより直ちに輸送機に乗り込み、 フェンリル隊と合流する為に現地に飛んで貰う。20分後だ。準備を急がせろ」 まさかここで自分の名前が出て来るとは思わなかったバーニィは、それでも何とか動揺を押し隠して敬礼すると、 失礼しますとラルに声を掛けてから急いでその場を後にした。自分達が時間に遅れる事でラル達に迷惑が掛かるのだ。 まずはアムロにこの事を知らせてやり、急いで彼の身の回りの物をまとめてやらなければならないとバーニィは考えた。 運命の流転に翻弄されながらも彼は、自分に課せられた役割を果たそうとしていたのだった。 大柄なベッドに突っ伏したまま(何故かブーツだけはキチンとベッド脇に揃えられていた) だらしなく眠りこけていたアムロを叩き起こし、身の回りの物を手近な軍用バッグに詰めさせたバーニィは 大急ぎで自室に駆け戻り、自分の荷物をずた袋に放り込むと、 まだ寝惚けているアムロを後ろから急かしつつ基地内を全速力で走り抜け、 指示されていた輸送機前に1分前に到着する事に成功した。 「ふん、時間通りだな。それでは輸送機に搭乗せよ」 「待て。別れを言うぐらいの事は良かろう」 何の感慨も無しに2人を搭乗させようとしたウラガンをラルが制する。 その眼はあくまでも鋭く、有無を言わさぬ迫力があった。 ウラガンは思わずラルから眼を逸らし「早くしろ」と吐き捨てるのが精一杯だった。 「ラル中佐、転属って一体どういう事なんです!?僕にはまだ、何が何だか・・・」 「済まんなアムロ。今ここでお前に詳しい事情を話してやる時間が無い。 ゲラートはワシの戦友であり極めて優秀な指揮官だ。 彼の元で学ぶ事も多いだろう。だから、これだけは覚えておけ。 命さえ失わねばワシらはまた必ず共に戦う事ができる様になるだろう。絶対に、死ぬな・・・!」 「ラル大尉とまた一緒に・・・!」 「バーニィ、アムロをよろしく頼む。そして必ず、お前も無事に戻って来るのだぞ」 バーニィはラルに敬礼をしてわかりましたと答える。ラルは返礼でそれに答えた。 アムロは彼らを見送る人垣の中にセイラの姿を見つけた。 彼女はハモンに支えられる様に立ち竦んでいる。 視線に気付いたハモンがアムロに眼を向け「心配するな」と頷いた。 「達者でなアムロ。向こうでも上手くやるんだぜ?」 「無駄死にだけはするなよ?ヤバそうな橋は渡るんじゃないぞ」 やけに陽気そうに振舞うコズンと心配顔のクランプが代わるがわる声を掛けて来る。 アムロは「はい、皆さんもどうかお元気で」と声を返しながら、鼻の奥が痛くなり、 何だか視界がぼやけて来るような感覚を無理やり笑顔で振り払っている自分に気が付いた。 本当は自分は、この人達と別れるのが悲しいし寂しいし嫌だと・・・感じているのだ。 それは今まで、全てにおいてシニカルに物事を考えがちだったアムロという少年にとって、新鮮な感覚だった。 もし旧WBのクルーと同じ状況で別れる事になったとしたら、果たして自分はこんな気持ちになっていただろうか? それを考えると、自分は何か大切なものを・・・ラル隊の面々に教えてもらったような気がするのだ。 見ると、ラル隊の後方で腕組みをしたライデンとそれに寄り添うシーマが見える。ガイア達三連星の姿もあった。 アムロが少しだけ頭を下げるとライデンは頷き、シーマは軽く手を上げて見せた。 「?」 そこでアムロはふと、何事かを言い争う男女の声を聞いた。 その声はどんどん大きく近付いて・・・ 「ふざけんじゃないわよ!!これは一体どういう事なの!?」 湿っぽくなりそうだった空気を一転させたのは、 アムロ達が乗り込む予定の輸送機から駆け下りてきたメイ・カーウィンの怒声だった。 「ふざけんじゃないわよ!!これは一体どういう事なの!?」 それはウラガンに向けた怒声だった。 ずんずんと近付いて来るメイをすかさず2人の兵士が制止する。 「ちょっ・・・!何するのよ!放して!」 「何事だ小娘」 ウラガンが五月蝿そうに対応する。先程の態度とは雲泥の差だ。 メイの窮地にオルテガが前に出ようとするのをガイアが抑えた。 驚きの表情で眼を剥くオルテガに「今はまずい」とだけ短く伝える。 「今見て来たけどアムロ達と共に『闇夜のフェンリル隊』に送られる2機のMSって・・・! EMS-04ヅダ・・・じゃない!! 冗談じゃないわ!エンジンを回し過ぎると爆発を引き起こす欠陥機じゃないの!」 ジオニック社の社員でもあるメイは、流石にこのツィマッド社製MSの禍々しい欠陥部分を心得ていた。 基本的な性能はどれもザクを凌駕しながらコンペディションで採用を見送られたのはその為であった事ぐらい ジオンのメカニックであるならば承知していて当然といえたのである。 しかしそんなメイの抗議をウラガンは柳に風と受け流す。 「EMS-04 ?間違えるな、EMS-10だ!欠陥のあったエンジンを新型エンジンに改装し、制御システムも見直されている。 そして何よりこの機体は、オデッサ防衛に投入する為、地上戦用に機体を換装調整したEMS-10J型なのだ。新型だぞ」 「EMS-04の安全性が確保されたって言うの・・・!?」 「当たり前だ。充分な働きを期待される最前線に送るMSが欠陥品の訳が無かろう」 存外だとうそぶくウラガンの言葉に本当かしらとメイは疑いの眼を向ける。 基本設計にもともと無理があった機体なのだ。果たしてそう簡単に改修できるものだろうか。 もう少し時間があれば徹底的に調査できるのだが・・・ 残念ながら輸送機に積み込まれ、梱包状態のMSではエンジンに火を入れる事すら許されない。 ウラガンの言葉が嘘か真か判別する方法が今は無いのだ。悔しそうにメイは引き下がり、アムロに向き直った。 「アムロ、それからバーニィ。あれは危険なMSかも知れないの。 くれぐれもあのMSにスグに乗ったりしないでね? ちゃんと向こうの整備責任者に見て貰って安全を確認してから・・・」 「最前線でそんな暇があればだがな」 メイの言葉にウラガンが割り込む。 メイは思い切り彼を睨み付けるが、ウラガンはにやにやと笑っている。メイは思い切ってアムロに抱きついた。 いきなりの事態に驚くアムロの耳にメイがそっと口を寄せた。 「さよならは言わない。絶対に死んじゃダメよ? RX-78は任せといて。あなたが帰るまでに最強のMSにしておくからね」 言うだけ言うとアムロの返事を待たずにメイはすぐに離れた。 アムロはそんなメイに頷いて見せると踵を返し、行きましょうとバーニィを促して輸送機に向かう。 タラップを上る際バーニィは一同を振り返り敬礼をしたが、 アムロは結局一度も振り返らずに輸送機に乗り込んだのだった。 アムロとバーニィを乗せた輸送機が滑走路を飛び立つのを確認したウラガンは ゆっくりとガイア、マッシュ、そしてオルテガの側に近付いて来た。 彼らの側には今は誰もいない。 ウラガンのラル隊に対する仕打ちは、傍から見ていてもあからさま過ぎて反吐が出そうなものであったが、 心情を押し隠して三人は敬礼でウラガンを迎えた。 黒い三連星の任務は当初、ラル隊が奪取した木馬を連邦軍の手からオデッサ基地まで護衛する事にあった。 キシリアはドズルとの確執を越えてでもWBの戦略的価値を重要視した為、 揮下の部隊をドズル配下のラル隊の元へ派遣する事を決意したのである。 しかし状況が変化した今、ウラガンはマ・クベから『黒い三連星へのオデッサ帰還命令』を 彼らに通達するよう言い渡されていた。 だがウラガンは、自らの欲望の為に彼らを利用しようと考えていた。 「貴様らは今後も、最前線へ赴き続けるラル隊と行動を共にしろとのマ・クベ様からの命令だ」 意外なウラガンの言葉に驚いて顔を見合わせるガイアとマッシュ(オルテガは逆に一瞬嬉しそうな表情を見せた)。 最前線に留まるのは吝かではないが、何とも違和感を覚える通達だった。 ウラガンはガイアとマッシュの反応を見てニヤリと笑うと、思わせぶりに切り出した。 「だが貴様らが俺に協力するのならば、特別に俺からマ・クベ様にとりなしてやっても良いぞ。 黒い三連星のオデッサへの帰還をな。 貴様らも使い捨て部隊と心中したくはなかろう?」 「失礼。使い捨て・・・の所をもう少し詳しくご説明願えますかな?」 内心の怒りと動揺を見せない様、務めて事務的にガイアは尋ねた。 こんな芸当は直情的な他の2人には無理である。 相手が乗ってきたと勘違いしたウラガンは、態度を更に大きなものにしながら五月蝿そうに答えた。 「この作戦を命じられた奴等は全滅するまで最前線で転戦を強いられ、使い潰される運命だ。 まあ、ザビ家の不興を買った奴等の末路だな。 今後奴等と行動を共にするという事は、どのみち遅かれ早かれ・・・そういう事だ。 そんな惨めな奴等と心中するのは嫌だろうと言っているのだ。全く、そのくらい察しろ、馬鹿め」 「若造~・・・!」「この野朗・・・・・・!」 高圧的なウラガンの言葉と、その内容のあまりの卑劣さに奥歯を軋ませ唸り声をすり潰すマッシュとオルテガを、 まるで能面の様に表情を消したガイアが抑えた。しかし彼が怒っていない訳ではない、むしろその逆だった。 怒りが頂点を越えた時、ガイアの顔から一切の表情が消え失せるのだ。 すなわち怒れば怒るほど冷静さを取り戻し、思考は明敏になって行く。 それは彼が戦場で戦い抜くうちに身に付けた一種の特技だった。 命を懸けて同胞の為に戦う戦士をザビ家はいったい何だと思っているのだ。 身内の喧嘩で軍を振り回し、挙句の果てに・・・ だが、まだだ。まだ爆発してはならない。肝心な事を聞き出すまでは。 「なるほど。それで、ウラガン殿への協力とは?」 ニヤリとウラガンが笑う。完全にガイア達を支配下に置いたと確信したのだ。 彼は近くに誰もいないのをもう一度確認すると小声で言った。 「さっさと貴様らのドムを輸送機に搭載しろ。 その後、メイ・カーウィンと、あの金髪の女を密かに連れ出し、俺の輸送機に乗せるんだ。 レビルを拉致した貴様等なら容易いだろう」 ウラガンが顎で指し示した先にはセイラがいる。 ガイアは更なる怒りとこの男に対する嫌悪感から我知らず髪の毛が逆立つのを感じた。 ウラガンはガイアに輸送機の側にあるフタの開いた中荷物用のコンテナを指差し、 パックされた医療キットを手渡すと話を続けた。 「この無針麻酔注射器を使え。女共を眠らせたらあの小型コンテナに2人を放り込み、 外からロックすれば中でどれだけ騒ごうが音は外には漏れん。後はそれを輸送機に積み込み、 知らん顔で離陸してしまえば奴等が気が付いた時には手遅れだ。 もちろんその時は貴様等も俺と共にオデッサに向かっているので証拠は何も無い。 その後は奴等が何を言って来ようが知らぬ存ぜぬを貫き通せばこの件はウヤムヤになるだろう。 そうこうしている内に奴等は最前線に送られ全滅する。 文句を申し立てる奴等はいなくなる。完璧だ。何の問題も無い」 ガイアはウラガンの語る悪巧みのあまりの手際の良さに愕然とした。 もしかして、これが初めてではないのかも知れないと。 この男は本気で、こんな卑劣で悪辣極まりない拉致劇の片棒を、 誇り高き『黒い三連星』に担がせようと言うのだ。 ガイアの口から思わず自嘲の笑い声が漏れる。俺達も見くびられたものだ。そう思うと無性に悲しかった。 「・・・連れ去った女達はどうされる」と一通り笑った後にガイアは聞いた。 その笑い声を勘違いしたウラガンは、更に得意げになって答えた。 「薬を使って俺の意のままにするに決まっているだろう。側に置いてせいぜい可愛がってやるさ。 戦場で死なずに済むんだ、感謝して貰いたいぐらいだ。まあ、飽きたら貴様らに・・・」 その時、ウラガンは左顎の奥歯が砕け折れる嫌な音を骨伝導で直接聞いた。 折れた4本の奥歯は対角線上にある右頬の肉を突き破り飛び出してゆく。ウラガンは飛び散る自分の歯を、 珍しい物でも見る様に眺めていた。 ウラガンは右眼に何か近付いて来るのを感じた。それは巨大な握り拳。 次の瞬間、頭蓋骨に掛かった重い衝撃にウラガン自身は言葉を発する事すら出来なかったのだが、 代わりにウラガンの頚椎が声無き悲鳴を上げた。 吹っ飛ばされるウラガンの胴体を、横から飛んで来た鋭いキックが迎え撃つ。 左の11番、12番の浮遊肋骨が簡単に蹴り砕かれ、ウラガンはそのまま滑走路面に崩れ落ちた。 「殺すなオルテガ。後が面倒だ」 ウラガンに対する一連の攻撃を見舞ったオルテガに対して、腕組みをしたガイアが静かに声を掛ける。 ウラガンの頭を蹴り潰す体勢でいたオルテガは、上げていた足をゆっくりと下ろした。 ウラガンはずりずりと後ずさりながら、信じられない物を見る眼で三人を見ている。 「き・・・sまr・・・どういう・・つもr・・・」 顎関節を痛め、歯が欠けたウラガンの発する言葉は不明瞭であった。 口角からダラダラと血を流し口からヒューヒューと息が漏れている。 「折角のお誘い、申し訳ないが慎んでお断りさせて頂く。 我らは今後もラル隊と運命を共にする所存だと、マ・クベ大佐にはそうお伝え頂きたい」 「き・・・きしゃまr・・・・!」 「何事ですかウラガン中尉!」 わらわらと異変に気付いたウラガンの部下が走り寄って来る。 その手にはそれぞれ小銃があり、明らかにそれはガイア達を狙っていた。 「k・・・こ、こいちゅr・・・を・・・・!」 「事を荒立てるおつもりならば、今の話、ラル中佐、シーマ中佐にこの場でお話させて頂くが?」 素早いガイアの囁きにウラガンは三連星を指差したまま、口をぱくぱくさせる事しかできなくなってしまった。 ウラガンには信じられなかった。どう考えても悪い取引では無かったはずだ。 この条件を蹴られるとは思ってもいなかったのだ。 二重の意味で。 自力で歩く事が出来なくなったウラガンは部下に抱えられて輸送機に戻り、 三連星に対して後悔するなよと捨てゼリフを残し、 接収したガンキャノンを携え、ほうほうの体でオデッサに逃げ帰って行った。 詳しい状況を把握していないラルやシーマ達は、唖然と・・・それを見送る三連星の後姿を見ていた。 ガイア達はさばさばとした顔で彼らを振り返る。 「これで俺達も晴れて貴公らの一味となったぞ、ランバ・ラル中佐! 何を企んでいるか知らんが今後は隠し事は無しで頼む!」 「すまない・・・だが歓迎するぞガイア大尉、マッシュ中尉、 オルテガ中尉!貴君等に今こそ全てを話そうではないか!」 夕闇のバイコヌール基地滑走路に長く延びる逞しい二つの影はやがて手を取り合った。 それは、それまでの弐傑の立場を鑑みると、奇跡的な光景であった。 輸送機の中のパイロット待機スペースは薄暗く、そして狭い。 内壁に設えられた仮設椅子に前屈みになって座っていたバーニィは、 ゆるゆると顔を上げ、隣の席に同じ様な態勢で座っているアムロを見た。 アムロは常夜灯に照らしながら夢中で資料の束を繰っている。 それは出発前にバーニィがメイの協力を得てまとめていたあの資料だった。 出発のどさくさにもこれだけは忘れる訳にいかなかった物だ。 「凄いですよバーニィさん・・・!MSの機動で改善すべきポイントが山程見つかりました・・・ なるほど、そうだったのか・・・! 僕はどうやら、連邦のMSでの機動を無理やりジオン製MSに当て嵌めていた部分があったみたいです」 「駆動系のシステムが違うんだ、それは当然だろうな。 ジオンが採用している流体パルスシステムに則した動きをさせてやれば、MSの能力がもっと引き出せる筈だ。 そして、どんな細かい部分でも、その積み重ねで戦場での生死の確立が大幅に変わるからな。だが・・・」 バーニィは目の前にあるMSを憂鬱そうに見上げた。 「・・・MS自体に欠陥がある場合は話が別だがな」 「メイの言ってた事、本当なんでしょうか」 アムロも釣られて目の前のヅダを振り仰いだ。 2機のヅダはもう梱包されてはいない。離陸直後、輸送機内の整備兵が総出で梱包材を剥がしてしまったのだ。 だったら最初から梱包なんてしなきゃ良かっただろうにとバーニィは思う。 つまりはバイコヌール基地でヅダの内部を調べられ「都合の悪い部分」を見つけられない様にしていた・・・ としか考えられないのだった。 「奴ら」ならやりかねない。 バーニィはこれまでの経験で、「ザビ家の奴ら」のやり方にかなりの不審を抱く様になっていた。 何故かは判らないが、自分はどうやらジオンを牛耳るザビ家の帝国を≪あっち側≫だとすると ≪こっち側≫に属してしまったらしい。 漠然とだが、そう感じるのだ。 だが、バーニィはそれを不幸だ、と嘆くのでは無く、したたかにその状況を打破する手段を模索する性格だった。 絶対に諦めず、頭を使い力を尽くした上で出た結果ならば、 たとえそれがどんな物であろうと納得する事も出来るだろう。 バーニィは普段はどちらかと言えば冴えない部類の、目立たない一般兵に過ぎない。 だが、彼は自分でも気が付いてはいないが逆境に滅法強く、追い詰められるほどに力を発揮するタイプだった。 集中力も研ぎ澄まされ勘が冴える。 それが訓練部隊において実戦さながらの模擬戦闘訓練で彼が活躍する理由だったのである。 そのバーニィの研ぎ澄まされた勘が『このMSはヤバイ』と叫んでいるのだ。警戒せずにはおれないだろう。 「この輸送機はどこに向かっているんです?」 「セルダルに近い野戦基地だ。そこで君達は『闇夜のフェンリル隊』と合流する事になる」 アムロの問いに、デッキに下りて来ていた初老の副操縦士は気さくに答えた。 孫ほどの年齢の2人に下された最前線勤務命令に彼は胸を痛めている風であった。 バイコヌール基地でウラガンの横柄さに辟易していたバーニィは、 自分達に向けられた、まともなジオン軍人の反応に少しだけホッとする物を感じた。 「ベドウィン作戦の成功を祈っておるよ。無理はせんようにな」 「ベドウィン・・・それが今回の作戦名なんですか。どういう意味なんでしょう」 聞き慣れない単語をアムロが聞き返す。バーニィも興味深そうにしている。 「ベドゥインてのは、遊牧民という意味であるそうだ。 一箇所に留まらず各地を転戦して連邦に攻撃を仕掛ける作戦らしいから、 恐らくそう名付けられたのではないかな」 好々爺然とした副操縦士の言葉にそうなんですかと頷きながらも、 バーニィの研ぎ澄まされた例の勘は、その語感に不吉な物を感じ取っていた。 実際、ベドウィンとは「バーディヤ(町ではない所)に住む人々」という意味を持っていた。 実は、この場合の町とは≪ザビ家の庇護≫を指している。 つまりベドウィンという作戦名は、ザビ家に疎まれた人々が行なう作戦だという事を暗に指し示す物だったのである。 この作戦に参加させられた部隊はそれだけで、ジオン軍内部での今後の立場が決められてしまう事になるだろう。 だがそんな裏事情などは一部の関係者しか知らされておらず、まだ一般の兵士の預かり知る所ではなかった。 バーニィはもう一度ヅダを見上げた。これから自分達の命を預ける禍々しいMS。 メイの言葉をもう一度反芻する。さてどうするか。どうコイツを扱うのがベストなのだろう。 ゆっくりと目を閉じたバーニィを見て、副操縦士はアムロに「君も少し仮眠を摂るといい」と声を掛けた。 星空を低空で飛ぶ輸送機は、明日の昼前には現着する予定だと聞かされていた。 砂漠の中のごつごつした岩山に囲まれた窪地に―――彼らの野戦基地はあった。 「アムロ・レイじゅ・・・准尉、た、ただいま着任しました」 「同じくバーナード・ワイズマン伍長、着任しました」 まだ自分の階級の呼称にすら慣れていないらしい少年兵と、どう見ても学徒上がりの新米兵士の敬礼に、 ゲラート少佐以下「闇夜のフェンリル隊」のメンバーはそれぞれの表情で驚きと少々の落胆・・・を見せた。 「おいおい・・・確か少佐はベテランパイロットの補充を申請してた筈じゃありませんでしたっけかね?」 「やめろロベルト少尉。 遠路ご苦労だった。私が『闇夜のフェンリル隊』の指揮官、ゲラート・シュマイザー少佐だ。君達を歓迎する」 文句を言いかけた若い兵士をたしなめつつ、ゲラート少佐は2人に返礼を返す。 体格のがっしりとした凛とした軍人だとアムロは感じた。自然と背筋が伸びる。 「おや。もうベテラン気取りでありますか少尉殿?数ヶ月前までは確か少尉殿もヒヨッコ扱いを・・・」 「だああ!判りましたよ!それをコイツらの前で言わないで下さいよ!悪かったです!」 「ホントにそうよ。自分を棚に上げて何を偉そうに言っているんだか」 スキンヘッドの巨漢にからかわれ、気の強そうな若い女性兵士に切り捨てられた若い兵士は 情け無い顔で白旗を揚げた。 「俺はル・ローア少尉だ。宜しく頼む」 髪を短髪に刈り上げた生真面目そうな兵士が一歩前に出てそう言うと、 アムロとバーニィに後ろの三人を親指で指した。 「あの薄らデカイ奴がマット・オースティン軍曹。キャリアに任せたMS操縦の腕はまあ確かだが・・・ 戦闘中に奴が吐き出す下らん駄洒落は一切聞き流せ。釣られたらお前らの負けだからな」 「は・・・はあ」 本人を目の前にして、判りました!と返事をするのもはばかられる気がして アムロは何だかあいまいな答えをしてしまった。 「真ん中で面白くもなさそうな顔をしている若い奴がニッキ・ロベルト少尉。 奴もつい数ヶ月前まで士官学校に通っていた学生だった。 そういう意味では君達に一番立場が近い。判らない事は奴に聞け。 奴に判る程度の事ならその問題は解決するだろう。ただ少しでも調子に乗ってる兆候が見られた場合は」 「不肖ニッキ・ロベルト、今現在より性根を入れ替え、誠心誠意事に当たる所存であります!」 やけくそでロベルト少尉が派手な敬礼を見せている。 その様子にアムロとバーニィは思わず噴き出してしまった。それと同時に二人の肩の力が抜けてゆく。 笑いながらもバーニィは、もしこれがルーキーの緊張をほぐす手段であるのなら 相当なチームワークだと感心した。 「こっちの女性がシャルロッテ・ヘープナー少尉。彼女の言う事にはとりあえず逆らうな。以上だ」 途端にその言葉にヘープナー少尉が両目を吊り上げて反応した。 「ひどい!それじゃまるで私が強引極まりない、すごく怖い人間に聞こえるじゃないですか! 訂正して下さい!今すぐに!」 「すまなかった。訂正する。 ・・・・・・と、こういう事だ。肝に銘じておけ?」 ぷりぷり怒るヘープナー少尉に見えないようにル・ローア少尉が真面目な顔で2人に忠告する。 それを目の当たりにしたアムロとバーニィは全てが了解出来たような気がして、 慌てた様子で揃って敬礼して見せた。 「あと3人『闇夜のフェンリル隊』にはパイロットがいるが、 現在哨戒任務中で出払っている。彼らが戻り次第紹介しよう。 その後すぐにブリーフィングに入る予定だ。着任早々で済まないが、君達も参加してくれ」 ゲラート少佐のその言葉はここが最前線である事をアムロとバーニィに否応無く思い出させるものだった。 セイラやラル中佐達は今頃どうしているのだろうか。ふとアムロはそう思いかけ、 慌ててそれを頭から打ち消した。 この戦場で生き抜く為には、余計な事を考えている暇など無いはずなのだから。 哨戒任務からレンチェフ少尉、マニング軍曹、リィ・スワガー曹長の3人が帰還すると、 速やかにブリーフィングは開始された。 「闇夜のフェンリル隊」が移動指揮車として使用している装甲トラックの横に仮説テントが設置され、 当面はそこが彼らの司令部となっていたのである。 当初レンチェフ、マニング、スワガーも一様に補充兵であるアムロとバーニィの年齢の若さに戸惑ったが、 兵士に関する台所事情が苦しいジオンには良くある事だと笑い飛ばし、二人に対して歓迎の意を示した。 「さて諸君。申請どおりに2名のパイロットと2機のMSを受領し・・・ 戦力を増強する要求が叶えられた我々には、 マ・クベ司令から下されている作戦を実行する義務が生じた」 そのゲラート少佐の言葉に、テント内の空気が一気に重苦しいものに転じた様にアムロには感じられた。 バーニィもゲラートの不自然な言い回しに何か不吉なものを嗅ぎ取った。 それではまるで、自分達がここに来ない方が良かったとも取れるような発言ではないか。 「敵は連邦軍の大物が乗り込む大型陸戦艇ビッグ・トレー。その周りを小型の陸戦艇と戦車がウヨウヨ。 先行量産MSも多数配備されてる大部隊を俺達だけで殺れと言われてもなあ・・・」 「まさかあのマ・クベ司令がこちらの要求をここまで迅速に呑むとは思いませんでしたなあ。 こんな事ならもっと吹っ掛けときゃ良かったですかね?MS10機補充せよ!とか」 ニッキ少尉のぼやきをオースティン軍曹が受け、ジョークを交えてゲラートに問う。 もちろんそんな申請は一部隊からの要求にしては非常識すぎて即却下されてしまうのがオチだ。 「マ・クベ司令はこちらに一切補給をしないで作戦命令を出す事だって考えられたんだ。 ギリギリここまでなら引き出せると踏んでの申請だった。この結果は上出来と言えるだろう」 「そうですね。まがりなりにも我が隊は、これで小隊が3チーム組める様になった訳ですから 戦術の幅は圧倒的に広がりますよ」 ゲラートの言葉をル・ローアが受ける。 2人とも、実力が未知数のアムロとバーニィをいきなりの実戦に投入せざるを得ないと考えていた。 もちろんベテランパイロットに補佐させようと思ってはいたが、最前線に余剰兵力は無いのだ。 それにしても、まだ圧倒的に戦力が少ない。 まともに敵とぶつかる訳にはいかない状況は変わっていなかった。 ゲラートは詭計を用いるしかないと考えていた。 だが、そんな彼の計画を根本から覆す大声が、テントに駆け込んで来た髭面の男から発せられた。 「作戦立案はちょっと待って下さい!搬入された2機のMSは使えません!」 「ミガキ整備班班長!?」 全速力で駆け込んで来たミガキを丁度入り口の側にいたオースティン軍曹が受け止め、 髭面の男に驚いた声を上げる。 ゲラートは厳しい顔で尋ねた。今の発言はただ事ではない。 「・・・ミガキ。それはどういう事だ。2機のMSが使えないとは」 「あれはEMS-04ヅダです!忌まわしい『ゴースト・ファイター』なんですよ!」 ざわりと一同が揺れる。 性能試験の場において空中分解事故を引き起こした欠陥機。 それはジオンのMSパイロットならば一度は耳にした事がある呪われた「ふたつ名」であった。 「待って下さい!あれを受領する時、ウラガン中尉は確かEMS-10だと言っていたんです! EMS-04ではなく欠陥のあったエンジンを新型エンジンに改装したEMS-10の地上仕様のJ型だと!」 必死に食い下がるバーニィ。こちらはただでさえ新米兵士2人だというのに、 この上MSも使用不能であるのなら、この隊にとって自分達は「役立たず」「お荷物」になってしまうではないか。 焦るバーニィにミガキは諭す様に語り掛けた。 「・・・申し訳ないが、アレは2体とも地上戦仕様にはなってはいるが、中身はEMS-04そのものだ。 私はアレを良く知っている。間違いない。 出力を上げすぎると機体が耐え切れず分解する事だろう。恐らく地上では、より爆発する危険性が高いと思われる。 エンジンも改装されてはおらんな。どうやら我々はマ・クベ司令に一杯食わされたらしい。 ・・・こんな不安定で危険なシロモノは実戦に投入する事はとてもできんよ」 「そんな・・・!」「なんですって・・・!」 アムロとバーニィは目の前が真っ暗になって行くのを感じた。 やはりヅダが安全性が確保されたMSに生まれ変わったというウラガンの言葉は嘘だったのだ。 メイ・カーゥインにある程度予測されていた事態とはいえ実際にその事実が判明すると、 どうしようもない憤りを感じる。 「作戦を、見直さなければならない様だな・・・!」 ゲラートは搾り出すような声を出した。 一同はその言葉に対して一言もない。 マ・クベのあまりの仕打ちに憤りが強すぎて言葉を発する事ができないのだ。 だがそんな硬直した空気の中、ただ一人だけが顔を上げた者がいた。 「ゲラート少佐。自分をヅダに搭乗させてください」 決然とそう言い放ったのはバーニィだった。 「出力を上げ過ぎなければ大丈夫なのでしょう?慎重に運用すれば・・・」 「冷静になれワイズマン伍長」 「・・・そうだ、リミッターだ!リミッターを取り付ければヅダの出力が危険域まで上がるのを防ぐ事が」 「冷静になれと言っている!」 ゲラートの一喝がバーニィを黙らせた。 普段もの静かな隊長の雷に、ツワモノ揃いのフェンリル隊員達が揃って首をすくめる。 「リミッターを付けるのはそう簡単にはいかんよ。対象となる機体の実働データが不可欠だ。 だが、納品されたばかりのコイツにはそれが無いし、詳細なデータを計測する時間的な余裕もない」 ゲラートの後ろから控えめに声を掛けたミガキにバーニィは噛み付く。 「どうしてです?ヅダはザクと同時期に開発された機体なんでしょう? あの2機の正体が新型ではなく・・・EMS-10ではなくEMS-04のままなら、 詳細なデータはもう記録されている筈じゃないですか!」 「測定されているのは全てヅダが宇宙で運用されたデータだ! あの2体は始めて地上用に改修されたヅダなんだぞ。 EMS-04ヅダが重力下で機動した場合のデータなんぞこの宇宙のどこにも存在しない!」 辛抱強く説得するミガキ。バーニィの顔には明らかに焦りがある。 それが自分達の、この隊における存在意義を無にしない為に、というのは明白だ。 そしてそれは何とかして「闇夜のフェンリル隊」の役に立とうとする意識の表れでもあった。 だが、だからこそゲラートもミガキも断じてそんな彼の意見を認める訳にはいかなかったのである。 しかしバーニィは諦め切れなかった。 「データがあれば良いんですね?それなら、自分が作戦を遂行しながら実働データを採取します!」 「おい!何を言い出すんだ。 いつ爆発するか判らんMSで敵と闘いながらデータ収集をするだと?バカも休み休み言え!」 バーニィを非難するル・ローアの主張は当然のものであった。もしも作戦行動中にヅダに何かがあった場合、 事は本人だけではなくチーム全体に及ぶ。 気まぐれな時限爆弾みたいなMSと共同作戦を展開する事は隊にとって自殺行為なのだ。 「お願いします!やらせて下さい!これじゃ自分達がここに来た意味が無くなってしまいます!」 必死で頭を下げるバーニィ。悔し涙が滲みそうになる。自分達2人はラル隊の代表なのだ。 このままではラルにも顔向けできないではないか。 「お前なあ・・・いい加減に・・・」 「作戦行動中は俺が責任を持って面倒見ますよ。それなら良いでしょう、ゲラート少佐」 バーニィの肩に手を掛たニッキを見てゲラートに声を掛けたのは、 腕組みをしたまま成り行きを見守っていたレンチェフだった。 驚いて顔を上げるバーニィ。 「その代わり、面倒を見るのはワイズマン伍長。お前だけだ。アムロ准尉はここに置いていけ」 「もちろんです。自分も最初からそのつもりでした」 「な!?何言ってるんですバーニィさん!僕も一緒に行きますよ!」 アムロが慌てて2人の会話に割り込む。自分だってバーニィと同じ気持ちでいたのだ。 一人だけ仲間外れなんて絶対に御免だ。だがバーニィはアムロの両肩を掴み、諭す様に話し掛ける。 「データ収集にはMS2機も必要ない。 それにバックアップするMSが増えるとレンチェフ少尉の負担が増すんだ。 お前はここにいて俺が送るデータを漏らさず記録しておくんだ。いいな」 「そんな・・・そんなのないですよ・・・それじゃバーニィさんだけ危険な目に・・・!」 「アムロお前、知らないのか?仕官の死亡率は前線より後方の方が高いんだぜ?」 笑いながらそう言うバーニィにアムロは何も言えなくなってしまった。 まただ。またちっぽけな自分は目上の人達の石垣に守られようとしている。 しかしその石垣を突破して前に出るには「理屈」という名のハンマーが必要だった。 が、咄嗟にそれが見つけられない自分にアムロは歯噛みした。 もしも自分が頭の切れる大人だったなら、たやすくそれを手にする事ができたのだろうか ? ゲラートは厳しい表情で静かに口を開いた。 「どういう事だレンチェフ」 「なあに、俺が同じ立場なら、コイツと同じ事を言ってるんじゃないかと思いましてね。 新入りにとっちゃ最初が大事だって事です。古株の奴等にナメられる訳にはいかねえんですよ。 部隊を渡り歩いてきた俺にはコイツの気持ちが良く判るんです」 「レンチェフ少尉・・・」 バーニィが思わず感謝の言葉を紡ぎ出そうとするのをレンチェフは目で止め、 更に言葉を続ける。 「それに聞く所によると、 サイド3直属の技術試験隊・・・って連中が実際にその≪敵と闘いながらデータ取り≫って作業を やってるらしいですな。 どうせあのMSもそこら辺から流れて来た物なんじゃないですか?奴等にできて俺達にできん事は無いでしょう」 「・・・その技術試験隊に所属したテストパイロット達がことごとく命を落としている事実を、 お前は知っているのかレンチェフ」 「ウチの隊員を、それと同じ目にはこの俺が合わせやしませんよ」 冷徹なゲラートの眼差しをギラリとレンチェフの鋭い眼光が射抜いて見せた。 ビッグ・トレー襲撃作戦は2日後の早朝、マルヨンマルマル時に決行せよ。 マ・クベに下された命令書には御丁寧にも「襲撃決行の日時」まで記載されている徹底ぶりだった。 この周到さ。ゲラートには嫌な予感と共に一つ思い当たる事があった。 まがりなりにも敵は連邦軍の大物が乗る巨大陸上戦艦なのだ。 ジオン側としたら是が非でも落としたい獲物に違いない。 だが、普通に考えてそんなビッグ・ターゲットを小隊一つに単独で襲撃させるだろうか? マ・クベは狡猾非情ではあるが決して無能な司令官では無い。 幾つかのMS隊が並行してこの襲撃作戦には投入されている筈だとゲラートは睨んでいた。 だがフェンリル隊にはその旨の通達は一切無い。何故か。そこから導き出される仮説は一つ。 「闇夜のフェンリル隊」は囮なのではないだろうか。 フェンリル隊とは敵陣営を挟んで反対方面に布陣している友軍が、フェンリル隊が敵MSをおびき出し、 引き付けて交戦している隙に敵本陣の後背を突く。 例え敵MSとフェンリル隊が刺し違えて全滅したとしても、 本陣を壊滅させてしまえばジオン側の勝利・・・という寸法だ。 だがゲラートはジオン軍人としての立場からこの予測を口外する訳にはいかなかった。 その代わり、我が隊をジオンの捨て石には断じてさせはしない。 彼は全身全霊をかけて隊員の生命を守る為の指揮を執らねばならない事を心得ていた。 結局「闇夜のフェンリル隊」はレンチェフの提案を呑む形でチーム編成がなされた。 作戦で使えるMSは多ければ多い方が良いに決まっている。 それだけ作戦立案の幅と全員が生き残る確率が増すからだ。 それはバーニィとレンチェフに一縷の望みを託したゲラート苦渋の決断でもあった。 第一班はル・ローア少尉、マット軍曹、スワガー曹長。 第二班はニッキ少尉、シャルロッテ少尉、マニング軍曹。 そしてレンチェフ少尉とバーニィの第三班である。 ヅダの安全性に疑問符が付く以上、行動を共にするMSは少ない方が望ましい。 このチーム割りは妥当なものであった。 あまり時間的な猶予は残されてはいないが、 こうして「闇夜のフェンリル隊」にとって2機のヅダが使えるかどうかを判別するテストを兼ねた偵察作戦が 開始されたのである。 襲撃を予定している敵大隊の本隊にはまだ手を出す訳にはいかない。 彼らを狙うこちらの存在を知られる事も避けながら、できるだけ敵の情報を集めねばならない困難な作戦だった。 敵は大部隊である。まともに正面からぶつかる事はできない。 どこかに突破口を見つけるしかないのだ。「穴」を開ければ、巨大なコロニーだってそこから崩壊するだろう。 第一班と第二班はMSで敵大隊のそれぞれ逆方向の側面に回り込む様に展開し、敵の動向を広範囲に監視する。 それはターゲットとなる敵大隊に合流するべく進軍して来る小規模な連邦軍の部隊もあり、 気を抜くと挟撃されかねない危険な任務であった。 一方、第三班はゲラートとアムロ達のいる野戦基地の周囲の哨戒任務を命じられた。 他班に比べて比較的危険度は低いがここは最前線である。不測の事態も十分に起こりうる。 今、バーニィのヅダとレンチェフのグフは荒涼とした岩場と岩場の間の砂地を進んでいる。 ヅダの操作感覚は悪くない。むしろザクより“柔らかい”気すらする。 強いて言うならエンジンの吹き上がりがややピ-キーだが、それもレスポンスの良さだと捉える事もできる。 「どうだ?ヅダの調子は?」 「驚きました。全てにおいて操作感覚がフラットなザクと対照的なMSですが、 これはこれでアリですね。良い感じです」 迷彩を施されたセンサーポールを立てながらバーニィは後方にいるレンチェフに答えた。 バーニィの立てているポールは指令車とレーザー通信の中継局として機能する。 ミノフスキー粒子が散布されている戦場でも、これがあれば指令車を介して他のチームと通信が可能となるのだ。 もちろんヅダの機動データもリアルタイムで後方に送る事ができる。 今、そのデータを指令車でモニターしているのはアムロであった。 そして彼はゲラートから直々に申し付けられ、何と3つのチームに指示を送るオペレーターの役割をも担っていた。 『気温が高く、背部エンジン周りの機体温度はすでに摂氏80度を越えています。 今のところ機体に異常はありませんが、引き続き慎重に機動を行って下さい』 「了解だ。そっちはどうだ新米オペレーター?」 『・・・正直、まだ慣れませんが大丈夫です。僕だって、やってみせます』 バーニィの問いに、少しだけ緊張した声音でアムロが答える。 オペレーターとしての経験は無駄ではない。 後方の考えが理解できればパイロットとして、より有効な判断が出来る様になる というゲラートの言葉はもっともだと思えた。 「私だって最初はMSが届かなくてオペレーターをやっていたの。頑張んなさい」 とシャルロッテ少尉にも応援された。 何より命を懸けて任務を遂行しているバーニィの役に少しでも立ちたかったアムロは、 自分に役割を与えてくれたゲラートのこの采配に感謝した。 そしてそういう切羽詰った状況は、時として人を往々にして成長させる事にもなるのだった。 ゲラート少佐は今、オペレーターシートに座っているアムロの後方に腕組みをして無言で立ち、 静かに彼を眺めている。 アムロは理解していた。これは、時間的な余裕が無い中でのテストなのだと。 配属された新人2人の能力がどんなものなのか、「闇夜のフェンリル隊」全員に試されているのだ。 「こいつは使えない」と判断したら、ゲラートは即座にアムロを押しのけてオペレーター席に座るだろう。 『こちら第一班、ル・ローア少尉だ。予定ポイントに到着、遠いが二時方向上空に3機の航空機影が通過。 友軍機と思われるがどうか』 「りょ、了解、待って下さい、ええと・・・あった!そうです。 オデッサの偵察機の飛行ルートに時間、位置、共に合致です」 ややぎこちなくはあるが、正確な操作でアムロはル・ローアの問いに対する答えを見つける事ができた。 「了解」と言いながらマイクの向こうでル・ローアがニヤリとする気配が感じられた。 『こちら第二班、ニッキ・ロベルト。現在ポイントに向け移動中。 敵部隊が駐屯していると思われる場所から戦闘機が2機上がった!画像を送るから確認してくれ!』 今度はニッキからの通信だった。 特徴的なシルエットを持つ戦闘機がモニターに映し出される。 データを照合するまでもなく、それはアムロには馴染み深いものであった。 「2機ともコア・ファイターという連邦軍の小型戦闘機です。友軍の偵察機を牽制する為に出撃したと思われます。 あれは航続距離が出ないので、心配はありません」 ほう、流石に連邦の機体には詳しいなとゲラートがアムロを見る。 アムロとバーニィが着任した時に輸送機の機長から渡された資料に2人のプロフィールがあった。 中でも目を引いたのが連邦からの亡命兵だというアムロの経歴だった。 ジオンでも噂になっていた「白いMS」と「木馬」を手土産にジオンに亡命した、 民間から徴用された整備兵上がりのパイロット見習い・・・ ジオンに木馬をもたらした功で准尉となった15歳の少年。 その経歴を聞かされたフェンリル隊の面々は、それぞれに複雑な思いがあったのだろうが、 皆さんどうか僕を呼び捨てで呼んで下さい、宜しくお願いします、 と頭を下げたアムロに概ね全員が好感を持った様だった。 『待って下さい!振動センサーが何かを捉えました。前方から・・・ これは、恐らく小規模の敵部隊が、移動しているものだと思われます!』 突然、緊迫した声がバーニィから入る。 それと同時に地上用ヅダに搭載された振動センサーが捉えたデータがアムロの乗る装甲ホバートラックに送られて来た。 何故よりにもよってバーニィのいる第三班の前に現れるんだと思いながらもアムロは、 またもや少々ぎこちない操作でそのデータを解析し、その内容を割り出す事に成功した。 「出ました。敵の陣容は小型陸戦艇1、小型戦闘車両が恐らく6・・・MSは、データには存在しません。 進路から見て、敵大隊に合流するものと思われます」 『これ以上敵の戦力を増やす訳にはいかねえ!ここで叩いちまうぜ!』 レンチェフ少尉からの通信は、至極当然の提案であったが、 それはバーニィが駆る不安定なヅダを戦闘に巻き込む事を意味していた。 アムロには咄嗟の判断が付かず、思わず後ろのゲラートを振り返った。 「敵部隊への強襲を許可する」 アムロの視線を受けるとゲラートは頷いてそう答えた。 陸戦艇と戦闘車両が相手ならば2機のMSで充分に撃破できるだろう。 テスト中のヅダに無理をさせずに戦闘データを採取させる意味でもうってつけの相手だと判断したのだ。 急いでアムロはコンソールに向き直るとレンチェフに命令を通達する。 「ゲラート隊長から許可が下りました。第三班は敵部隊へ強襲を行って下さい」 しかし、アムロは微かな頭痛と共にモニターに表示されている敵陣営の中に潜む、 危険な何かを感じ取っていた―― じっとりと両手に汗が滲み、動悸が早まる。もしかしたら、自分は何か大きな見落としをしているのかも知れない。 大急ぎでヅダから転送されて来たデータをもう一度分析し直してみるが、 そこには小型陸戦艇1、小型戦闘車両6という、先ほど第三班に連絡した以上の情報は見出す事ができない。 アムロは焦った。既に「嫌な予感」は確信へと変わっているのだ。が、それを他人に証明する手立てが無い。 『了解だ。連邦の奴等、皆殺しにしてやるぜえ!ワイズマン伍長、 お前はデータ取りが優先だ!あまりヅダを前に出すなよ?』 『りょ、了解!』 物騒な言葉と共に 臨戦態勢に入ったレンチェフとバーニィの会話がモニターされている。 アムロはもどかしい思いで2人に注意を促す事しかできなかった。 「レンチェフ少尉!バーニィさん!敵の動きに気をつけて!常に不測の事態に備えて下さい!」 『お前に言われるまでも無いが了解だ!』 苦笑しながらレンチェフが答える。 確かにそれは、ベテランパイロットが若葉マークの付いたオペレーターから念押しされる事では無かったからだ。 アムロは祈る様な面持ちでモニターを凝視した。 自分は今、MSのコックピットに座っていないのだという事に改めて気付く。 これから何が起ころうと、誰の元にも駆け付ける事はできない。 戦闘を音声でサポートする事以外、今のアムロにできるのはただ、見守る事と祈る事だけなのであった。 岩場に囲まれた谷間を小型陸戦艇と、それを挟む様に前後に3機づつ展開した61式戦車が こちらに向けて進んで来るのが小さく見える。 「さて、ワイズマン伍長。お前ならどう攻める?」 高台の様になっている岩場の稜線から慎重にグフのモノアイを覗かせる事で敵の戦力を直接視認したレンチェフは バーニィに突然そう聞いて来た。 グフから転送されてきた画像をモニターで見ていたバーニィは、暫く考えてから口を開いた。 「こちらは哨戒任務中でしたから、携行している武器に破壊力が足りません。 まず、2機のMSで何とか陸戦艇のエンジン部分を破壊し、動けなくしてから二手に別れ、 前後に展開している戦車を叩き、最後に陸戦艇の止めを刺す・・・というのはどうでしょう」 「効率が悪いな。戦力が一時分散するのも良くねえ。側背から攻撃を食らう可能性も大だ。30点」 容赦の無いレンチェフの指摘にグッと黙り込んだバーニィだったが、 もう一度画像を見直してから再び目を上げた。 「それでは地形を最大限に利用します。まず前衛に展開している3機の戦車を2機のMSで破壊し、 その残骸で陸戦艇の進路を塞いでその動きを封じておいてからエンジンを破壊。 完全に動けなくしてから後衛の戦車を叩き、 最後に陸戦艇の止めを刺す・・・どうでしょうか」 レンチェフはニヤリと口元をゆがめた。 「頭の切り替えが早いな。お前、見込みがあるぜ。 だがそのままのプランでは80点しかやれんな」 「80点ですか・・・」 「がっかりすんな。大まかな流れはそれでいいんだ。付け足しの要素で点が加算される」 バーニィは、レンチェフのその舌なめずりをした様な声音にぞくりとする物を感じた。 彼は、一体何を言おうとしているのだろう。 「前衛の戦車は『生殺し』にしろ。 まだ生きている味方を踏み潰しては進めないだろうから、完全に陸戦艇の足を止めることが出来る。 そして、立ち往生している陸戦艇のエンジンではなく艦橋をまず破壊しろ。指揮系統を潰すんだ。 その後『生殺し』しておいた戦車を完全に破壊する。車輌から逃げ出した兵士も1人残らず殺す。 後は後衛の戦車3台を叩く。以上だ」 「な・・・!」 レンチェフの言葉にバーニィは言葉を失った。 それは相手の情や仲間意識につけこんだ、あまりにも非道な作戦だった。 それはバーニィに、ここは戦場で戦争とは所詮、人殺しの応酬なのだと改めて気付かせる現実でもあった。 そして――これまでの2人の会話を指揮車でモニターしていたアムロも、 バーニィと同様にレンチェフの作戦に衝撃を受けていた。 確かに自分達は戦争をしている。今さら奇麗事を言うつもりなど無い。だが、何かが違う気がする。 うまく説明できないが、レンチェフの感覚はあまりにも異質だと思えるのだ。 アムロが縋る様にゲラートを振り返ると、彼もまた苦渋に満ちた表情を浮かべている所だった。 第三班のリーダーはレンチェフであり、現場の指揮は彼に一任されている。 遠く離れた指揮車からでは現場の行動を臨機応変に指示する事など不可能だからだ。 そしてリーダーはゲラートが任命した。 ここは彼に任せるしかない。ゲラートの渋面は、彼の複雑な内面の葛藤が滲み出したものだった。 だが、アムロはゲラートのその人間味溢れる表情を見た時・・・ 少しだけ、ほんの少しだけ、救われた気がしたのだった。 「音紋センサーが特徴的な駆動音を捉えました。前方2時の岩陰に、ジオンのMSらしき機影が潜んでいます。 機数は2。一機はMS-07グフだと思われますが、もう一機はデータにありません」 オペレーターのキビキビとした声に、クリスチーナ・マッケンジー中尉は振り返った。 サイド6リボーコロニーから地球に下りて数ヶ月、 地球連邦軍戦技研究団のテストパイロットとして後方勤務を常任していたクリスにとって、 任務中に遭遇した始めての敵MSである。 「流石に戦技研特製の陸戦艇だな。強化されたセンサーでなければ見逃していた所だ」 艦長が一段高いキャプテンシートから、座乗している陸戦艇の性能の高さを称賛する。 もともと戦技研は直接戦闘を行う部署ではない。 だが今回は試験部隊としてオデッサ作戦に投入する新兵器を最前線の部隊に届け、 最終データを採取する事が任務であった。 その為、外部から実戦慣れした小隊に同行してもらい、艦の運用も任せている。 艦長もオペレーターも戦闘要員も、全ては外様の構成だが、こんな場合は彼らに任せておいた方が安心できる。 「前方の61式を砲撃させながら下がらせろ、MSを出すぞ。至急デッキに連絡を!」 「艦長。私も出ます」 思いがけないクリスの提案に、艦長は驚いた。 戦技研の連中は、実際に戦闘が起きたら、どうせただ震えているだけの存在だろうとタカを括っていたのだ。 それに彼女は今までに戦場に出た事が一度も無かった筈だ。 「待ちたまえ。君の操縦技術が非常に高いというのは聞いているが、 本来機体の調整を担当している君が実戦で戦う事ができるとは、とても思えないのだが」 「ご心配には及びませんわ艦長、私は前に出ないで皆さんの援護に徹するつもりです。 ロングレンジで攻撃する事を主眼に開発されたアレの長所と短所を、今現在いちばん理解しているのは私ですから。 それに、敵MSは2機。この陸戦艇にはスペースの問題で3機しかMSが搭載できませんでしたから、 数的な意味でも、私も出た方が良いと思えますが」 艦長は唸った。彼女の言った事は確かにその通りだった。 クリスチーナ中尉の操る新型のMSを前線に届ける為に、 この部隊の護衛として揮下の小隊から2機のMSしかこの陸戦艇に搬入できなかったのだ。 通常の3機構成のフォーメーションが組めない小隊機動は、戦闘力が何割も落ち込む事だろう。 ただでさえジオンのMS乗りの技量は連邦軍のそれを大きく上回るのだ。2対2では苦戦は必至だった。 艦長は、心中でクリスに礼を述べながら決断を下した。 「判った。中尉、出撃を頼む、くれぐれも無理をせんようにな。 現場では我が隊員の指示に従うんだ。2人とも優秀なMS乗りだ、信頼してくれていい。 その機体を前線に届ける事が最重要だという事を忘れるな。危なくなったら、退くんだ」 「了解。MSデッキに向かいます!」 クリスは緊張した面持ちで敬礼を艦長に向けると、急いでブリッジを後にした。 こちらに向かい行軍していた筈の陸戦艇はその動きを止め、 前方に展開した3台の戦車はこちらに砲撃を行いながらじりじりと後退して行く。 あくまでも牽制が目的の為であろう、照準をロクに付けていないその砲撃がこちらに当たる事は無かったが、 それはレンチェフとバーニィにとって、事態が急激に悪化した事を知らしめるものであった。 「・・・察知されたな」 敵に気取られず、もっと引き付けた位置から奇襲を仕掛けるつもりだったレンチェフは舌打ちした。 「闇夜のフェンリル隊」はさまざまなセンサー類を駆使して戦う特殊部隊だが、 どうやら敵の索敵装置はこちらと同等か、それを上回るらしい。モニターを凝視していたバーニィは目を疑った。 戦車が巻き起こした砂煙を掻き分けて、のそりと巨大な人型のシルエットが現れたのだ。 それは、こちらの目論見が完全に崩れ去った事を意味する想定外の光景だった。 「あれを!陸戦艇の後部ハッチからMSが出て来ました!3機です!」 「連邦め・・・こんな小さな部隊にまでMSを配備していやがるのか・・・!」 レンチェフの驚きは無理のないものだった。つい先日まで「連邦軍にMSは存在しなかった」のだ。 最近は連邦にも先行量産型のMSが配備され始めたと言っても、それはあくまでも大部隊に限られたもので、 従来の兵器のみで構成された小隊や中隊が、まだ殆んどの連邦軍の主力を占めていたのである。 神ならざる身のレンチェフにとって、この小部隊がまさかそのMSの、よりにもよって新型を、 前線に投入する為だけに編成されたものだとは知る由もなかった。 『第三班!作戦中止だ!直ちにその場から撤退しろ!』 素早くアムロの横に移動したゲラートが、コンソールから突き出しているマイクを掴むと大声で指示を出した。 相手の戦力は陸戦艇1、戦車6に加えてMS3機。対してこちらは2機のMSのみ。あまりにも分が悪すぎる。 しかも一機は欠陥品の可能性が高い不安定なシロモノである。間違っても正面からぶつからせる訳にはいかなかった。 しかし、そのゲラートの言葉が終わらないうちにグフとヅダの身を隠している岩場の上部が閃光と共に瞬時に蒸発した。 思わず身を竦める2機のパイロット。 「うおっ!何だ!?」 「き、強力なビーム砲で長距離狙撃されたみたいです!」 陸戦艇からの攻撃かとグフの顔を覗かせると、陸戦艇と戦車はもうかなり後方まで後退しているのが見えた。 まさかと目を転じると3機のMSのうち最後方に位置している濃緑のペイントを施された一体が、 片膝をついた状態で長尺の砲銃をこちらに向けている。今の狙撃はそいつの仕業だと考えて間違いはなさそうだった。 「・・・聞いての通りだ隊長。どうやら連邦の新型が混じっていやがるらしい。 奴等はこちらを逃がすつもりは無さそうだ。 それに、このまま退ったら、奴等が追撃してきた場合、俺達の野戦基地が発見されてしまう可能性がある」 『待て!レンチェフ!』 「隊長も判っている筈だ。ここは・・・やるしかねえ。ワイズマン伍長、お前にも覚悟を決めてもらうぜ?」 「了解です。いつでも準備は出来ています」 予想に反して落ち着いた声音のバーニィに、レンチェフは歯を見せて笑った。 「上等だ。まず俺が出て前衛の2機を引き受ける。 お前はその隙に≪上≫を抜けてあの緑色に接近戦を仕掛けろ。この意味は判るな? 相手は狙撃者だ。常に動き回れば狙いを付けられんはずだ。間違っても立ち止まるんじゃないぞ!」 そう言うなりレンチェフのグフは岩場を乗り越え、敵前に身を晒す様に崖を滑り下って行った。 急転した危機的な状況に凍り付いていたアムロだっだが、 その時突然、指揮車にル・ローアからのコールが入った。慌てて回線を繋ぐ。 『こちら第一班ル・ローア!ゲラート隊長!我々は直ちに引き返して第三班の援護に向かいます!』 センサーポールを介して回線が繋がっている為に情報がリアルタイムで共有できているフェンリル隊である。 仲間の危機に際してもその対応は早い。が、いかんせん互いの位置が遠すぎた。 「いや、第一斑は現場を動くな。そのまま敵大隊の監視を続けるんだ。 第三班の援護には第二班を向かわせる。 ニッキ少尉、聞いていたな?ナビゲートに従って現場へ向かってくれ」 『ニッキ・ロベルト了解!第二班は最大戦速で現場へ向かいます!』 『第一斑ル・ローア了解・・・くそっ!』 ル・ローアの逸る気持ちが痛いほど判るゲラートだったが、 第一班の位置からでは現場到着までに、およそ40分を要する。 それにもう既に偽装網を被って慎重に敵部隊を偵察し始めている彼らは、 迂闊にその場を動く事は許されないのだった。 しかし、ニッキの第二班が最大戦速で向かったとしても、 第三班の元に到着するのに20分は掛かってしまうだろう。 ゲラートは一瞬、ここにあるもう一機のヅダで自から出撃する事まで検討したが、 すぐにその考えを打ち消した。 ヅダは今、リミッターを取り付ける為の改修中なのだ。 現在は整備パネルが全て開けられている状態だろう。出撃は、不可能だ。 ゲラート目を閉じた。 サイは投げられてしまったのだ。全ての指示を出し終えた指揮官は、もはや隊員達を信じる事しかできない。 だが、彼が手塩にかけて育て上げた「闇夜のフェンリル隊」は、信じるに値する実力がある筈だ。 眉間に深く皺を刻み込みながらゲラートは目を開いた。 彼はただ、この場所で部下からの報告を待つしかないのだった。 ヘルメットの中の自分の息遣いがやけに大きく聞こえる。 バーニィはタイミングを計っていた。 レンチェフに言われた通り、自分の役目は一番奥に陣取った緑色のMSを撃破する事だ。 落ち窪んだ渓谷の底の部分で対峙している格好の敵MS2機とレンチェフのグフ、合わせて3体のMSを、 谷の淵から高度を利用したジャンプで一気に飛び越し、 最後方に位置取りをしている緑のMSに一気に肉薄するのだ。 事ここに至ってはヅダの安全性を鑑みている余裕は無い。敵は恐らく連邦の新型MSだ。 チャンスは一度、仲間の為にも失敗は許されないのだ。 前衛の敵MS2機は、いずれも既に戦った事があるあの先行量産型だ。 あの時は無残にやられてしまったが・・・今度はそうはいかない。 バーニィが見つめるモニターの中では、崖下に滑り降りたレンチェフのグフが、 左右に不規則にステップを踏みながら敵MSに近付いてゆくのが見える。 敵前衛MS2機はマシンガンを乱射するがグフの動きを捉える事はできない。 見る間にグフはシールドの下からヒート・ソードを抜き放ち手近な一体に切りかかった。 今だ! バーニィは新たなセンサーポールを身を隠していた岩の上部に突き立てると、 その反動を利用して思い切りペダルを踏み込みバーニアを噴射させ、最大推力で岩陰からヅダをジャンプさせた。 「ぐうぅッ!?」 その直後、凄まじい加速がバーニィを襲う! 「な、なんてパワーなんだ!」 シートに身体が押さえ付けられ、体重が何倍にも増加したのではと思える強烈なGにバーニィは驚愕した。 ザクのジャンプとは全く違う。 これはまるで戦艦のカタパルトから射出された時の加速みたいだとボンヤリ考え始めたバーニィは、 自分は失神しかけているのだと気が付き、必死の集中力で意識を保つ事に辛うじて成功した。 轟音と共にバーニィのヅダが、頭上をミサイルのようなスピードで飛び越して行くのを、 状況が咄嗟に理解できない2機の陸戦型ジムは茫然と見上げた。 「オラァ!余所見してんじゃねえぞ!」 言うなりレンチェフのグフはヒート・ソードを構えたまま右手のヒート・ロッドを振るう。 狙いは違わずロッドは手近な陸戦型ジムのシールドごと左手のマニュピレーターの前腕部を切り飛ばした。 フレームがギシギシと嫌な音を立てている。あまりの加速にヅダの機体が悲鳴を上げているのだ。 出力全開で行う急加速に比例してパワーゲージがぐんぐん上昇し、 約4秒間のスラスター噴射でレッドゾーンに突入する事をバーニィは横目で確認した。 だが、まだだ。 まだ推力を緩める訳にはいかない。 3体のMSは上手く飛び越せたが、緑色のMSにはまだ届かないのだ。 バーニィは前回の戦闘で敵MSの「硬さ」を、高い代償を払う事で思い知らされていた。 ザクマシンガンを手にしているヅダにとって、 敵MSの装甲を撃ち抜くにはとにかくギリギリまで接近する必要があるのだった。 接近さえ出来れば、あのでかいビーム砲も使えなくなるだろうという読みもある。 「!」 だがバーニィは、緑色MSのパイロットが、 ミサイル並みの速さで自分に突っ込んで来ようとしているこのヅダに、一切動じていない事に気が付いた。 狙撃姿勢を全く崩さず、長大なビーム砲で冷静にこちらに狙いを付けている。 「うわあっ!?」 その瞬間バーニィはペダルを戻すとエンジンをカットし、 スラスターノズルを真横に向けてからバーニアを再点火する事でヅダのジャンプ軌道を真横に強引に捻じ曲げた。 その時バーニィは、先程まで本来はヅダがいる筈だった空域を、 強力なビームの光条が通過して行くのをはっきりと見た。 ほぼ直角に掛かる強烈な横Gに耐えながら逆噴射して急制動を掛けると、 バーニィのヅダは緑色のMSの左横手に回り込んで着地する事に成功した。 それは、バーニィ自身が驚くほどの、シミュレーションでも成功した事の無いような、見事なMS機動であった。 「外れた!?」 自信を持って放った必殺の一撃がかわされたショックで、思わずクリスは声を上げてしまった。 ロングレンジ・ビーム・ライフル。 RGM-79(G)先行量産型陸戦ジムに携行されるべく、 地球連邦軍戦技研究団によって開発された長距離狙撃用の強力な新兵器である。 大気圏内でもその威力は落ちず、戦艦クラスの装甲でも容易に打ち抜く事ができる。 連邦軍では、これを装備した陸戦型ジムを便宜的に「ジム・スナイパー」と呼称している。 クリスはこのジム・スナイパーの搬送と運用試験を兼ねてオデッサに赴く所だったのである。 だが桁違いの威力を誇るこの武装も、エネルギー消費が激しく連射する事ができないという欠点を持っていた。 大ぶりな武装特有の取り回しの悪さも手伝って、接近戦には全くもって向かない武器でもある。 その意味ではヅダに接近戦を命じたレンチェフの読みは正しいと言えた。 「食らえっ!」 絶好の位置を捉えたヅダはジムに向けてザクマシンガンを乱射する。 が、ここまで接近しているというのに銃弾が命中してもジムのボディには傷一つ付かない。 まるで豆鉄砲の様に弾き返される弾丸にバーニィは毒づくしかなかった。 「くっ!」 いつまでも驚いていてはいられない。 クリスはロングレンジ・ビーム・ライフルを手放すと、 ジムの腰にマウントされている100ミリマシンガンを手に取った。 それは、バーニィの脳裏に恐怖の対象として刷り込まれている物だった。 あの武器は、ザクの胸部装甲を簡単に撃ち抜く! 一瞬身を竦ませたバーニィは、ヅダの機体を前に出す事を躊躇した。 だが、このポジションからの後退は、 更なる不利な状況を作り出す事は明白だった。 『バーニィさん!スモーク・グレネードを使うんだ!』 頭で考える前に、バーニィはスピーカーから突然掛けられたアムロの声に弾かれるように反応していた。 ヅダのシールド裏にラッチされていたグレネード弾を引き千切ると、地面に向けて思い切り投げ付ける。 途端にグレネード上部から白煙が勢い良く噴き出し、見る間に周囲を覆い尽くして行く。 『体勢を低く構えて!そのまま10メートル左横に移動!』 言われるままにバーニィがヅダの姿勢を低くすると、 その上をジムが放ったマシンガンの銃弾が通り過ぎて行った。 コックピットで思わず息を吐き出すバーニィ。 発煙手榴弾スモーク・グレネード。 それは「闇夜のフェンリル隊」所属のMSが標準装備する特殊弾である。 サーマル・センサーやパッシブ・センサー、化学センサー等の特殊索敵装置の運用実験と、 それを用いた特殊新戦術の開発が任務の同隊において、 敵味方の視界を覆い、視野を限定する状況は望むところなのであった。 敵味方とも視界ゼロのフィールド、つまり「闇夜」で本領を発揮する。 それこそが「闇夜のフェンリル隊」の所以なのである。 だがそれには指揮車からの正確なナビゲートが前提であり、必要不可欠ではあったが・・・ バーニィは、アムロに言われた通りそろりと地面を這う様にヅダの機体を移動させる。 ジムは突然白煙に撒かれた事で冷静な判断力を失っているのだろう、 見当違いな方向に向けてマシンガンを乱射している。 予断を許す事はできないが、とりあえず一息つく事ができたバーニイは、通信する余裕が生まれた。 「ア、アムロなのか!?お前・・・!」 『バーニィさん!このホバートラックには隊のMSから送られて来る さまざまなセンサーからの情報を詳細に解析する装置が装備されていて、 例えMSパイロットが目隠しされている状態でも、こちらからサポートすれば戦闘する事が可能みたいなんです。 これから僕がナビゲートします!データを逐一送りますから指示に従って敵を攻撃して下さい!』 恐るべき戦術センスを見せた15歳の少年にゲラートは震撼した。 アムロはオペレーターの任務の中で正確にフェンリル隊の本質を見抜き、 バーニィに対して最大限のナビゲートをするつもりでいる。 そして、先程のバーニィのMS機動も目を見張るものがあった。 緊急時ではあるが、軍人として、この稀有な才能を持った少年兵達に血がたぎる様な感動を抑える事ができない。 大袈裟ではなく未来への可能性を垣間見た気がする。 単語しか聞いた事は無かったが「ニュータイプ」とは彼らの様な者を言うのかも知れないと密かにゲラートは思った。 バーニィが最後に突き立てたセンサーポールのお蔭で通信が明瞭にできる事にアムロは胸を撫で下ろした。 ヅダの機体データも滞りなく届いているが、ただ一つだけ気がかりな事がある。 ヒート・ゲージが下がり難いのだ。 通常機動の場合は然程でもなかったが、 明らかにスラスターをレッド・ゾーンに入れた時から冷却装置の利きが悪くなっている。 ミガキが言っていた「出力を上げすぎると機体が耐え切れず分解する」という不吉な言葉が頭をよぎる。 先程のバーニアジャンプ時の推力と、空中で軌道を変えたパワーは、 驚くべき事にデータ的にはガンダムをも越えていた。 旧式の装甲材質であんな機動を続けたら、確かにヅダの機体はもたないだろうと思える。 が、バーニィは既に敵の懐に潜り込む事に成功しているのだ。 今後バーニアを全開して敵とやりあうような事態にそうそう見舞われるとは思えない。 “大丈夫だ、慎重に戦えば、やれる”アムロはそう判断した。 「敵MSが発する音波と赤外線傍受。音響解析システム作動、音響センサー解析データ、送ります!」 アムロの言葉通りヅダのメインモニターに朧げながら敵の姿がリアルタイム映像で、くっきりと映し出された。 敵は完全にこちらを見失っており、周囲に向けてマシンガンを散発している。 こちらは敵が、どちらを向いて攻撃しているかすら判別が可能だ。 文字通り五里霧中である敵MSとは何という違いであろう。 「見ての通り、こちらからは敵MSの位置が丸見えです。 ですが敵MSにはマシンガンが効きません。念の為シールドを前面に構えて、 体勢を低くしたまま相手に近付き、ヒート・ホークで攻撃して下さい!」 「了解!見てろよ!」 言うなりバーニィは手にしていたザクマシンガンを、ジム・スナイパーの横に放り投げた。 突然、敵の投げ付けた手榴弾の白煙に巻かれ視界を完全に奪われたクリスは軽いパニックを起こしていた。 士官学校を主席で卒業した彼女だったが、当時連邦軍にはMSが存在しておらず、 このようなシチュエーションを想定した訓練など受けた事がなかったのである。 ジムにも音響センサー等は装備されていたが、 いつ何時敵に襲われるかも知れないという恐怖がクリスの冷静な判断を妨げていた。 しかし、その音響センサーが激しく反応する。岩砂を蹴りつける様な音をジムの右横に捉えたのだ。 「敵!」反射的にそちらに向けてマシンガンを乱射するクリス。しかし、一向に手応えはない。 その時、訝しむクリスを、突然、下から突き上げるような衝撃が襲った。 「「キャアァッ!」」 激しい衝撃に揺さぶられ悲鳴を上げはしたが、視線の先でモニターを追い、 各部のダメージチェックを素早く行なうクリス。 血の滲む思いで繰り返し訓練を重ね身に付けた基本操作は、咄嗟の事態でも自然に体が動く。 そしてそれにより、冷静さも取り戻されてゆく。 クリスチーナ・マッケンジーは今や完全にパニックを脱していた。 「しまった!浅かったか!?」 白煙の中で踏み込みが半歩足りず、下から切り上げたヒート・ホークは敵MSのマシンガンの銃身を斬り飛ばすだけで MS本体にダメージを与える事が出来なかった。 千載一遇のチャンスをモノに出来なかったバーニィは悔いたが、 ヒート・ホークの刃を反してすかさず上からの斬撃を見舞う。 「くっ!」「何っ!?」 振り下ろしたヅダのヒート・ホークを持った右手首は、咄嗟にジムの左手に掴まれ、 ジム本体に刃が届く前にその攻撃を阻まれていた。 ジムはすかさず破損したマシンガンを捨て右手でビーム・サーベルを抜き、 動きを止めたヅダの脇腹を抉る様に横薙ぎに斬りつける。 「そうはいくか!」「あっ!?」 完全に決まったと思ったジムのビーム・サーベルを持った右手首も、今度はヅダの左手に掴まれていた。 奇しくも互いが互いの動きを封じる状態となり、スモーク・グレネードの白煙が晴れると そこには巨人同士が力比べをしている体勢が現出していたのである。 「このおぉぉぉっ!」 パワーは陸戦型ジムの方がヅダよりも勝っている。 だがバーニィは巧みに重心を移行して力点をずらし、ギリギリとヅダ押し込んでゆく。 もう少しで敵MSの頸部にヒート・ホークの熱刃が届く。 バーニィはフットペダルを踏み込むと、更にヅダに力を込めさせた。 『駄目だ!バーニィさん!パワー落として!』 「ア、アムロ!?」 突然掛けられたアムロの声に思わずペダルを戻したバーニィは、逆にジムに押し込まれる体勢になってしまった。 急いでバランスを取り事なきを得るが、不利になってしまった姿勢は変わらない。バーニィは声を荒げた。 「アムロどういうつもりだ!?もう少しで・・・」 『パワーを全開にした時の、エンジン周りの温度上昇率が異常なんです!冷却が全然追いつかない! ヅダの内部構造を見ると、このまま温度が上昇した場合、 エンジン近くを通っている推進剤のパイプが誘爆する可能性が高いと思います!』 慌てて計器を見るバーニイ。確かにパワーをダウンさせた筈なのにヒートゲージは依然レッドゾーンから下がっておらず、 背部エンジン周辺の機体温度は既に160度を超えようとしている。 バーニィは戦慄した。アムロの言うとおり試験飛行中の空中爆発の原因とは、恐らくこれだったのだ。 ヅダのエンジンが背面にほぼ剥き出しになっている理由は、 エンジンとコックピットを少しでも離す為でもあったのかも知れない。 このままパワーを上げ続けると危険だという事は判った。しかし、こちらは不本意ながら力比べの真ッ最中だ。 パワーを緩める事は競り合いに負ける事、すなわち敵のビーム・サーベルに貫かれる事を意味する。 「うおっと!?」 言う間に強く込められて来たパワーを押し返す為に、再度出力を上げざるを得ないバーニィ。 またもやジリジリと温度を上げ始めるエンジン。八方塞りとはまさにこの事だった。 「レンチェフ少尉!ワイズマン伍長が非常事態なんです!援護して貰えませんか!?」 一秒でも時間が惜しい。 アムロは、すがる様な気持ちで2機のMSを相手にしているレンチェフのグフに援護を要請した。 無理は百も承知の上である。 だが百戦錬磨のレンチェフも、敵MS2機の連携攻撃には相当に手こずっていた。 最初にヒート・ホークで片腕を切り落とした奴もそうだが、 隊長マークを付けた一体が特に「手練れ」なのである。 接近戦を得意とするグフの間合いを完全に見切られ、有効な反撃を行う事ができないのだ。 そんな不利な戦いにおいて撃墜されないで済んでいるのは、 ひとえにレンチェフの技量が高かったからに他ならない。 「クッ・・・!済まねえ、ワイズマン伍長、もう少し・・・もう少しだけ持たせてくれ! 必ずこいつらを何とかして駆け付ける・・・!」 アムロとバーニィのやり取りを聞いていたレンチェフは、血息を搾り出すような声で新米のバーニィに詫びた。 「自分で何とかしろ」と突き放すのではなく自分の不甲斐なさを詫びたのである。 だが、2機の陸戦型ジムを1機のグフでその場に釘付けにしているレンチェフを誰が責められるというのだ。 アムロは唇を噛んで俯いたが、ヅダのコックピットでその言葉を聞いたバーニィは、胸が熱くなるのを感じていた。 あの残虐な作戦を聞かされた時は正直、レンチェフの人間性を疑った。 が、彼がそうなるには何か深い理由があったのかも知れないと今は思う事ができる。 自分の為に頑張ってくれているレンチェフの為にも、今、こんな事で死ぬ訳にはいかないとバーニィは思った。 敵にやられるのではなく、欠陥MSの自爆で死ぬなんてあまりにも惨めだ。 その巻き添えになる敵MSパイロットも浮かばれまい。 ・・・ 敵パイロットに思いが及んだその時、バーニィの頭にはある考えが浮かんだ。 『バーニィさん!背部装甲温度が190度を超えました!250度に達したら、恐らく・・・!!』 アムロの切迫した声に、バーニイはハッと我に返った。 250度で恐らくパイプが融解し、推進剤に引火する。アムロは言外にそう言っているのだ。 コックピットの中も、遂に温度が上がり始めた。 焦ったバーニィはペダルを戻すが、何とロックしてしまっていて踏み込んだ状態のまま出力が上がり続けている。 恐らく制御系の電気系統が熱で故障したか、高温で機器が歪んでしまったのだ。 もう一刻の猶予もならない。 打てる手があるなら打つべきだ。死んでしまってからでは後悔すらもできない。 当たって砕けろだ。・・・いや、砕けるのは嫌だから足掻いている訳なのだが・・・ バーニィはもう一度、レッドゾーンの上限にまで達したヒートゲージを確認すると、 息を深く吐き出して呼吸を整え・・・ 一切の通信機器をOFFにした。 完全に外部との通信を遮断したバーニィは、スピーカーをONにした。 対峙しているMSとは手を繋ぎ合っている状態だ。これなら「お肌の触れ合い回線」が使える筈だ。 『聞こえているか。そちらのパイロット!この声が聞こえたら、どうか応答してくれ!』 ヅダの外装を振動させた音声がダイレクトにジムのコックピットに響き、 クリスの耳にバーニィの声が明瞭に届いた。 宇宙空間でノーマルスーツのヘルメットを接触させ会話する方法と原理は同じである。 これなら周波数を気にせずに敵とでも交信する事ができる。 「誰!?まさかジオンのパイロットが通信を?」 思わずこちらも律儀にスピーカーをONにして会話してしまったクリスは、 その直後、迂闊だったかしらと少しだけ後悔した。 昔から母には良く「あなたは人が良すぎる」と注意されていた。 「いつか悪い人に騙されちゃうんじゃないか」と、いつも両親に心配を掛けていた性格は、 こんな時でもやはり顔を出してしまう。 『よ、良かったあ!シカトされたら万事休すだったんだ! こちらはジオン公国突撃機動軍≪闇夜のフェンリル隊≫所属のバーナード・ワイズマン伍長だ。 応答してくれて感謝する!』 バカ正直に敵に対して自分の所属を明かす声は、思わず気が抜けてしまう程に若々しかった。 声の主は恐らく自分と同等かそれより若年かも知れない。 その素朴な声音と、苦笑しそうな程のバカ正直さ加減に危うく親しげなものを感じそうになったクリスは 「いつか悪い人に騙され・・・」というセリフと共に両親の心配そうな表情を思い出し慌てて頭を振った。 「戦闘中に敵と会話するなんて!前代未聞だわ!」 戸惑いながら怒っている相手の綺麗な声をはっきり聞き取ったバーニィは、 あれ?敵のパイロットは女の子だったのかと意外に思った。 それは冷静沈着にこちらに狙いを付けていたあの恐ろしげなMSのイメージと全く結び付かない様な、 可愛い声だった。 「す、済まない!緊急事態なんだ。そちらのサーモ・センサーで俺のMSをサーチしてみてくれ!話はそれからだ!」 「・・・!!これは!?」 「見ての通りだ。エンジンが過熱暴走してる。このままだと遠からず推進剤に引火して、君を巻き込んでドカンだ」 「じょ、冗談じゃないわ!早くパワーを下げてエンジンを冷却しなさいよ!」 「残念ながらパワーコントロール不能だ。それに、こちらが力を緩めたら君にやられちまうだろ?」 確かにそうだとクリスは虚を衝かれた。 一瞬自分が会話している声の主と戦闘をしている事を失念していたのだ。なんと言う事だろう。 冷静に考えても、ルナ・チタニウムで装甲されている陸戦型ジムとはいえ、 こんな至近距離でMSが爆発したら、ただで済むとは思えない。 だからと言って敵を前にして戦闘を手加減したり放棄したりする事は連邦軍に対する重大な裏切り行為であり、 軍規に違反する事になってしまう。 元々が生真面目で素直な性格に加えてエリートであるクリスにはそれ以外の選択はありえなかった。 つまりこの体勢でいる以上、2人は共に自爆の時を待つしか無いという事になってしまう。 クリスは目の前が真っ暗になるのを感じた。 「俺は正直、こんな事で死ぬのはまっぴらなんだ。君はどうだ?」 「私だって嫌よ!まだ恋だってした事無いのに!!」 クリスの言葉にバーニィは少し笑ってから、思い切って切り出した。 シートにもたれた背中が焼けるように熱いが、気取られ無い様に細心の注意を払っている。 「聞いてくれ、ハッピーな提案があるんだ。俺が合図したら君のMSでこちらを蹴り飛ばしてくれ」 「な、なんですって!?」 「できればコックピットを避けてくれると有難いな。その瞬間俺は君のMSを解放する。それで君は自由になれる。 俺は地面に倒れたコイツから脱出する。このMSは爆発する。 そして君は脱出した俺を見逃す。どうだい、ハッピーだろ?」 クリスは呆れた。何て穴だらけな取り引きなのだろう。 いくらなんでも「敵の善意」に頼り過ぎなのではないだろうか。 こんな男が恋人や亭主だったら、パートナーは気が休まる日がないだろうと思える程の能天気さに何だか腹が立つ。 自分を大事にしない男は嫌いだ。ハッピーなのは、この男の頭の中だ。 「あなたって・・・馬鹿なの?私が約束を破ったらどうするつもり?」 「どちらにしろこのままじゃ俺はお終いなのさ。だが俺はカミカゼじゃない。 だったら少しでも生き延びる可能性がある行動を取りたいんだ。 それに、少ししか喋ってないけど・・・ そんな事をいちいち俺に注意してくれる様な“お人好し”な君なら信用できる人間だと思える。 見立て違いならそれまでだ」 「・・・!」 「行くぞ!3秒後だ!3・2・1・来い!」 クリスはその刹那、巧妙にコックピットを避け、 加速がパイロットに極力加わらない様にジムの足でヅダを後方の砂山へ押し倒し、 自らはバーニアジャンプを使い後方へ飛び退いた。 モニターに映ったヅダからはもう既に間接部分から黒煙が上がり始めており、 いつ爆発してもおかしくない状態に見えた。 パイロットはまだ出てこない。 クリスは祈りを込めるような視線で固唾を呑んでモニターを見つめている自分に、まだ気が付いていなかった。 「こちらワイズマン伍長。アムロ聞こえるか!敵MSから距離を取る事に成功した! 機体温度上昇中。エンジンコントロールは既に不能!残念だが爆発はもう避けられない! これより直ちに脱出する!」 仰向けに倒れたヅダのコックピットの中でバーニィは再び通信回線をONにすると、 マイクにそう叫びながらシートベルトを外した。 ありがたい事に敵のパイロットはヅダの機体をノーダメージで押し倒してくれた。 後は爆発前にここから抜け出すだけだ。 『バーニィさん!良かった!通信が途絶えた時はどうなる事かと思いましたよ! ・・・機体背部装甲温度230度超えてます!脱出急いで下さい!』 アムロの弾んだ声が届く。 その言葉にバーニィは、先程の敵MSパイロットとの会話は味方には聞かれていない事を改めて確認し、安堵した。 敵と会話したり取引めいた事を仕組んだりした事が記録されると、後々面倒な事になりかねない。 バーニィはそれを懸念してあらかじめ外部通信を全て切っておいたのである。 「心配を掛けてすまなかった。高温のせいで通信機器の調子が悪かったんだ!」 都合の悪い事は全てエンジン暴走のせいにしてから、バーニィはハッチの緊急開放レバーを引く。 これは緊急時、一切の電源が切れた状態でもコックピットハッチをイジェクトオープンする為にあり、 コックピットの内外に設置されている。 制御系の電気系統が熱によって次々とダウンしている今、これが一番確実な外部への脱出手段のはずだった。 「!?」 びくともしないレバーに愕然とするバーニィ。 急いでハッチの開閉スイッチを押す。こちらも反応は無い。ハッチは1ミリも動く気配を見せないのだ。 「うそだろ・・・・!?」 破壊されたザクの半開きになったコックピットハッチから自力で脱出する事ができず、 友軍のMSに引き摺られて戦場を離脱したあの時の事が鮮明に思い出される。 しかも今回陥った状況は、更に凶悪さを増している。 あの時のハッチは少しだけ開いたが、今回はぴたりと閉じられたままだ。 これは図らずも“希望の扉”をも暗示しているのではあるまいか? 一難去ってまた一難。 ともかくバーニィは自身のハッチとの相性の悪さと運の悪さに呪いの言葉でも吐き出したい心境になっていた。 『バーニィさん!どうしたんです!急いで脱出を!』 絶望感とコックピット内の熱で危うく思考停止になりかけたバーニィは、アムロの声で正気を取り戻した。 だが、それはバーニィにとってまた深い絶望感を思い出させるだけの残酷な時間だったのだろうか。 「緊急レバーが作動しない・・・ハッチが開かないんだよ・・・アムロ・・・はは脱出不能だ」 『なんですって・・・!?』 アムロはバーニィの置かれた状況を把握し戦慄した。 今や高温のコックピットに完全に閉じ込められてしまったバーニィは、爆発を待つまでも無く、 蒸し焼きにされようとしているのだった。 背部の温度センサーは240度を指している。恐らくコックピット内に熱が篭り、 機器かフレームが膨張し歪んでしまったのだろう。 『諦めちゃダメだ!MSを動かして体勢を変えてみて下さい!』 「さっきからやってるが・・・もうこのヅダは指一本動かん・・・万事休す・・・か・・・」 暑さで朦朧となる意識を必死に保ちながらバーニィは計器類を操作しようとするが思う様に手が動かない。 何だか呼吸も、熱の為にし辛くなっている気がする。 こいつはヤバイなと思った瞬間、先程会話した敵MSパイロットの声が突然思い出された。 あの綺麗で凛とした魅力的な声を。 こんな事なら名前ぐらいは聞き出しておけば良かった。そう思いながらバーニィは、ゆっくりと気を失っていった。 「どけえっ!!」 極限まで絞り込んだ気合と共に放たれたヒート・ロッドの攻撃は、 狙い違わず陸戦型ジムの両足を薙ぐ様に切り払った。 2機の内の1機、既に片腕にしていたジムを捨て身の攻撃で、 レンチェフのグフは戦闘不能に追い込む事に成功したのである。 だが、その代償に、長く伸ばしたヒート・ロッドをもう1機のジムのビーム・サーベルに断ち切られ、 グフの右足頚部を敵のマシンガンに撃ち抜かれるというダメージを負ってしまった。 普段のレンチェフなら決してこんな無謀な戦い方はしなかっただろう。 だが今は未曾有の緊急事態だった。 「ワイズマン伍長!バカヤロウ応答しろ!ワイズマン伍長!」 荒い息を吐きながらレンチェフは必死にバーニィに呼び掛けるが全く応答は無い。 どうやらコックピットで気を失っているらしい。 「アムロ准尉!爆発まであとどの位だ!?」 『もう、いつ爆発してもおかしくない温度に達してしまっています!』 アムロの絶望的な報告にギリッと歯を噛み締めたレンチェフのグフはその時、誰もが予想しない行動に出た。 対峙していた残り1機のジムに背を向けると「撃ちたきゃ撃ちやがれ!」と吐き捨て、 倒れているヅダに向かって全速力で走り出したのである。 あっけに取られたのか―― 敵のジムは自分に無防備な背中を晒して、 仰向けに倒れ煙を吹いている味方MSの元に駆けてゆくグフに対してマシンガンを発砲しないでいる。 が、あと200メートル程で辿り着くという地点で、グフは右足から崩れるように地面に倒れ込んでしまった。 マシンガンで撃たれた右足のシリンダーが重大な機能不全を引き起こしていたのである。 だが、すかさずヒート・ソードを地面に突き立て上体を起こすグフ。 地面までまだ結構な高さがあるが昇降用のワイヤを使っている余裕は無い。 コックピットハッチが開くと同時にヘルメットを被ったままのレンチェフが地上に迷わず飛び降りた。 シートの下から引っ張り出したであろう大振りのサバイバルパックを走りながら背負うと、 そのまま爆発寸前であろうヅダに駆け寄って行く。 時間はもう、幾ばくも残されてはいない。 レンチェフは、疾走のスピードを上げると、ただがむしゃらにヅダを目指した。 暗闇の中、ゆらめく視界の片隅にゆっくりと光が差し込まれて来る。 最初は線のような光の帯が少しづつ広がり、やがて世界は光に溢れ、埋め尽くされて行く・・・ その光の中心にバーニィは天使のシルエットを見た。 あの時聞いた敵MSパイロットの素敵な声でバーニィの名を呼び、両腕をしきりとこちらへ差し伸べている。 半開きの目をしたバーニィは朦朧とする意識の中でぼんやりと、 ああ、あの手を取れば、魂が肉体から引き抜かれて天上に上り、この苦しみから全て解放されるんだなと思った。 だが、自分の身体は妙に重く、思い通りに動かせず、天使の手を取る事が出来ない。 すると、天使は優しげな雰囲気から一転、やけに荒い言葉でバーニィをなじり出したではないか。 なんだよ。その言葉遣いは。天使のクセに。 だいたい天使様なら不可思議なパワーとかでもって、ほらこう、 ふんわりと人間の魂を天国までエスコートしてくれるのが筋ってもんじゃないのか。 ぶつぶつとウツロな声で抗議するバーニィに対し、すっかりその声音を変化させた天使は、 少々キレ気味にその野太い声を荒げバーニィを罵倒しながら太い右腕を伸ばし、 バーニィのノーマルスーツの胸倉をむんずと掴みあげた。 おいおい乱暴だなこの天使は。 それにいくら何でもガタイ良すぎだろうと性懲りも無くボソボソ文句を垂れ流したバーニィは、 ヘルメット越しに見えるゴッツイ顔をした天使に 「バカヤロウ!勝手に死ぬ事は許さねえ! 残念だが俺は天使じゃなく天邪鬼な悪魔なんだよ!」 そう怒鳴り付けられながら、魂どころか肉体ごとヅダのコックピットから一気に引きずり出される。 ヅダの腹の上でヘルメットのバイザーを開けられたバーニィは、気圧差に激しく咳き込みながら正気を取り戻し、 目前にあるいかつい顔を振り仰いだ。 「レ・・・レンチェフ少尉!?・・・あれ?・・・天使は?」 「いつまでも寝惚けてんじゃねえ!さっさとずらかるぜ!!走れるか!?」 不安定なヅダのテストを兼ねた今回の偵察行において、 万が一の事を考えてパイロット用のノーマルスーツを着込んでいたバーニィは、 熱や煙に巻かれたコックピットでも窒息せずに済んでいた。 急いで四肢を確認するが、目立った外傷や重大な機能不全は見られない。これなら充分走る事ができそうだ。 大丈夫ですというバーニィの様子を確認するとレンチェフは素早くヅダから飛び降りた。バーニィもそれに続く。 「2人とも急いで!ヅダはもう爆発します!」 ヘルメットの中に明瞭にアムロの声が響く。 これはレンチェフが置き去りにしたグフからレーザー通信を経由しているのだ。 ヅダからおよそ50メートル離れた場所に小ぶりな岩場があった。 全身から黒煙を噴き出していたヅダが遂に爆発したのは、 走りに走り抜いた二人がその影に転がり込んだ瞬間の事だった。 「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」 爆風が頭上を通り過ぎた後、心臓が口から飛び出しそうな程の二人は、まずは呼吸を整える事に全霊を傾けた。 荒い息を吐きながらバーニィは隣で岩に背を預けて同じ様に呼吸を整えているレンチェフを見、思わず息を呑んだ。 彼の両手は無残に皮が捲れ、焼けただれていたのである。 あの後ヅダに辿り着いたレンチェフは、コックピットの外からハッチの緊急開放レバーを引いてみた。 だが内部の熱でフレームが歪んでしまった為に、ハッチは既に開かなくなっている。 それを確認したレンチェフは、背負ったパックからバールのような工具を取り出すと ハッチの淵に僅かなスキマを作ってそれをねじ込み、 怪力に任せてコックピットを無理矢理こじ開けたのだ。 ヅダの機体はその時点でかなりの高温であった。 バーニィの様にパイロット用のノーマルスーツを特に着用していなかったレンチェフは、 その作業中に両腕に大きなダメージを負ってしまったのである。 「・・・レンチェフ少尉が俺を助けて下さったんですね・・・」 「バカヤロウ!ゲラート少佐にお前の面倒は俺が見るとタンカ切っちまったからに決まってんじゃねえか! 俺にもメンツって奴があらあな!」 手をひらつかせながら邪険に言い放つレンチェフの物言いに、 感極まったバーニィが礼を言おうと向き直ると同時に・・・ こちらにマシンガンの銃口を向けている巨大な陸戦型ジムの影が、太陽の光を2人から遮った。 「・・・来ると思ったぜ」 レンチェフが不敵に笑う。今の彼にはそれしかできない。 何より優先したのは今そこにある仲間の危機を救う事だった。 敵に背を向け、愛機のグフも乗り捨てた、その結果がこうなる事は初めから判っていた事だった。 もとより生身の連邦兵に対してMSのマシンガンを躊躇無く浴びせてきたレンチェフである。 何の事は無い、今度は自分の番が巡って来ただけの話だった。 この状況、もし敵の立場が自分なら、笑いながらトリガーを引く事だろう。 自分だけは助かろうなどとは思っていない。だが。 「・・・すまねえなワイズマン伍長。結局」 「いいえ。感謝しています、レンチェフ少尉」 バーニィはレンチェフの言葉を遮ると、はっきりとそう言い、突きつけられているマシンガンの銃口を睨み付けた。 ・・・ ・・・ 時が止まったかのような数瞬が流れる。 ・・・ ・・・ 一向に敵MSのマシンガンからは弾丸が吐き出されて来ない。 「・・・なんだあ!?てめえ!俺達をいたぶるつもりか!?早く撃てぇ!!」 業を煮やしたレンチェフが怒鳴った。 マシンガンを構えているのはレンチェフが「手練れ」だと認めたあのジムだ。 レンチェフは冷汗を流した。まさか自分達を捕虜にでもしようとしているのではないかと不安になったのだ。 冗談ではない。連邦軍の捕虜になるなら死んだ方がマシだ。 唾棄すべき連邦軍の捕虜になるぐらいなら死を選ぶ。レンチェフはそういう男だった。 もしそうなりそうになったら、バーニィに被害が及ばない様に拳銃で自殺してやる。 そっと腰の銃を火傷した手で確かめる。大丈夫、感覚は残っている。引き金ぐらいは引けそうだ。 だが、その時、彼らに向けられていたマシンガンの銃口が2度、横に振れた。 「!?」「え!?」 瞠目する2人の目の前を再びジムのマシンガンの銃口が2度、往復する。 その指し示す先にはレンチェフの乗り捨てたグフがある。 信じられない事だが、目の前のこのジムは2人に『行け』と言っているのだ。 思わずレンチェフは髪を逆立てて逆上した。敵に情けを掛けられる。彼にとってこんな屈辱的な事は無い。 「ふざけるな!何故だ!?何故敵の俺を逃がす!?」 『憎しみが戦いを広げている・・・なぜそれが判らない!』 「な・・・なんだと!?」 思わず敵のMSに向けて叫んだのは殆んど怒りによる反射的な行動だった。 だが、そのレンチェフの言葉に陸戦型ジムは外部スピーカーを使い返答してきたのである。 それだけを言い残すと、絶句したままその場を動こうとしないレンチェフに呆れたのか、 陸戦型ジムはマシンガンを下ろしゆっくりとその場を離れ、 後方で佇む緑色のMSを促すようにその場を去っていった。 茫然とその場に佇むレンチェフとバーニィを残して・・・ 「あ・・・あの・・・!」 クリスは並んで歩いている陸戦型ジムの隊長機に声を掛けた。 ちなみにグフに両足を破壊され戦闘不能となったジムのパイロットはすでにクリスが救出し、 自らが操縦するジムの掌の上に乗せている。 「急いでこの場を離れよう。新たに3機の敵MSが近付いていると連絡が入った。恐らく奴らの仲間だろう。 ここは迂回するルートで進み大隊と合流するぞ。追っては来ないと思うが一応追撃に備える。 予備のスナイパー・ライフルはあるんだろう?」 「は、はい。それは大丈夫です。念の為3丁のライフルを用意して来ましたので。 それより、その、マット・ヒーリィ中尉! あのジオン兵達を助けて下さって、あ、ありがとうございました・・・」 クリスは感謝の気持ちを正直にマットに伝えた。が、何でその事に礼を言うのか自分でも良く判らない。 あのパイロットの声と言葉が何だか耳から離れないのだ。こんな不安定なの自分じゃない。 どんな厄介事でもクールにそつなくこなす自信が今までの自分にはあったはずだ。 断じてこんなのは自分じゃないと、クリスは何だか混乱してきた。 「今回俺たちMS特殊部隊第三小隊の任務は、あくまでも君達戦技研の護衛だからね。 下手に敵を捕虜にしたりすると、むしろ今後、任務の障害 になってしまう。 それに俺はあまり好きじゃないんだ。殺し合いってやつがさ・・・」 「また隊長の理想主義が始まりましたか?」 「うるさいぞラリー少尉」 クリスのジムの掌で運ばれているラリー・ラドリー少尉から陽気な声で茶々が入った。 この分なら体調に異常は無さそうだとマットとクリスは密かに胸を撫で下ろす。 3人はあえて言葉にはしなかったが、あの仲間を助ける為に命を掛けた兵士の行いを見て 三者三様に心が打たれたのも事実だった。 マット中尉の言葉はさりげなかったが、クリスの心を大きく揺さぶる。 本当は自分だってそうなのだ。いや、きっとあのパイロットもそうに決まっている。 顔も知らない相手だが何故か確信めいたものを感じている。 何だか胸が痛い。クリスは体を丸めるように背中を曲げ、大きく背筋を伸ばし深呼吸してみたが、 胸の痛みは一向におさまらなかった。
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アムロ(Amuro)(CV:古谷徹) アムロ(Amuro)(CV:古谷徹) 【解説】 アーケードモード【台詞】 【解説】 ニュータイプ? 生年月日…UC0063年11月4日 血液型…型 身長…cm 体重…kg 原作搭乗機… RX-78ガンダム、RX-76ガンキャノン、RX-75ガンタンク、Gファイター 通称…アムロ 1stでの略歴 サイド7においてシャア少佐の部隊の襲撃に巻き込まれ、同地において開発されていたガンダムに乗り、これを撃退。 早くからニュータイプとしての資質を示し、以後ホワイトベースと共に地球圏へ降下した後、追撃してきたジオン軍精鋭部隊を次々に撃退する活躍を見せる。 ジャブローにて正式に少尉に任官され、ガンダムの正式なパイロットとなる。 再び宇宙へ上がったあとも数々の無双を見せる。 サイド6にてニュータイプのララァ・スン少尉と出会い、ニュータイプ同士として惹かれあったが、ソロモン宙域における戦闘で咄嗟にシャアを庇った彼女を誤って殺害してしまう。 その後ア・バオア・クー攻略戦においてシャアと交戦するが、セイラ・マスの仲介もあって和解する。 終戦後は軍民から英雄として扱われ、若くして大尉に昇進するが、ニュータイプを危険視する地球連邦政府により長期間にわたり軟禁生活を送る。 またララァを撃ち落したことによる悔恨の念に苛まれ、精神的にも打撃を受けていた。 詳細は原作Wiki?へ アーケードモード ステージ 搭乗機体 僚機 覚醒 ティターンズFルート#03(協力プレイ) ガンキャノン ガンダム[セイラ・マス] 強襲 ティターンズFルート#06 ガンダム[BR] ガンキャノン[カイ・シデン]+ガンタンク[ハヤト・コバヤシ] 機動 ティターンズFルート#09 ガンダム[BZ] ガンキャノン[カイ・シデン] 復活 ティターンズFルート#10 ガンダム[BR] Gファイター[スレッガー・ロウ]+ガンダム[BR][セイラ・マス] 復活 ティターンズFルート#EX ガンダム[BR] ガンダム[BZ][セイラ・マス]+ガンダム[HH][リュウ・ホセイ] 機動 ティターンズGルート#03 ガンダム[BZ] Gファイター[スレッガー・ロウ]+ガンキャノン[ハヤト・コバヤシ] 強襲 ティターンズGルート#EX ガンダム[BR] Zガンダム[BR][カミーユ・ビダン]+ZZガンダム[WBR][ジュドー・アーシタ] 強襲 【台詞】 選択時アムロ、行きまーす! 出撃デモアムロ、上手くやれよ。アムロ、行きまーす! 戦闘開始時アムロ、上手くやれよ。 これが戦場か… (僚機が) (CPU戦で敵機として登場時)アムロ、上手くやれよ。 攻撃そこだっ! 落ちろっ! うかつな奴め! 当たれっー!! (格闘)うぉぉぉぉ! (格闘)貴様っ! (格闘)いやぁぁぁ! サーチ(シャアをロックオン)シャア! 被弾時うわぁ!? ああっ!? うおっ!? こいつっ!? うっ!? (味方が誤射)味方です! (味方が誤射)何してる! (被撃墜時) し・・しまった! (被撃墜時) わーっ! (味方撃墜時)味方がやられたぁーっ! 回避時チィッ! 弾切れ時 敵機撃破時やったか!? 後は? 復帰時やったなーっ! 覚醒(強襲)逃がしはしない!! (復活)僕は・・・あの人に勝ちたい・・・! (機動)仕留めてみせる!! (敵覚醒時)何だ!? (僚機カイ・シデン時)「カイさん!」「アムロ!」
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【SS】もしアムロがジオンに亡命してたら part7-1 8 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/12/13(月) 00 22 24 ID cpY5quGU0 [1/6] 「諸君、このオデッサでの会戦は、我々にとって単なる通過点に過ぎないという事を忘れるな」 ミハルとハマーンの手伝いをしようとハモン、そしてセイラとメイが示し合わせてブリッジを出て行ったのを見届けた後、シャアはそう言って全員を振り返った。 「サイド3のアンリ准将が密かに、しかし着々と足場を固めてくれているそうだ」 シャアの言葉に、アンリの勅使として派遣されて来たアンディが誇らしげに胸を張った。 アンリ・シュレッサー准将はザビ家の支配するジオン本国にあって、旧ダイクン派の軍人をはじめ反ザビ家の政治家や有力者を秘密裏に統括している。 殆ど絶望視していたキャスバルが生存していたとの報告が、彼を奮い立たせた事は間違いない 政治的な基盤を持たぬシャア達にとって、アンリの働き無くしてその未来は望むべくも無いだろう。 「ジオン軍がこの戦いに勝利すれば大きく戦局も変わるだろう。だが」 シャアはそこで、もう一度全員の顔を見回した。 「この話の続きは、再びこの場所で、諸君らと共にオデッサ勝利の祝杯を上げてからするとしよう。 その際ここにいるメンバーの一人でも欠けている事は許さん。肝に銘じておけ」 「・・・ハッ!」 感激の面持ちでラルが敬礼すると、場の全員がそれに倣った。 「あー・・・俺達はもう一蓮托生だから構わんがなあ」 しかしその時、一同の後方から黒い三連星のガイアが突然、場にそぐわぬ厳つい声を上げたのである。 何事かと振り返った全員が注目する中、ガイアの視線はアムロの横に立つニムバスだけに向けられている。 「・・・そうでない奴にシャア大佐の秘密が漏れると厄介だぜラル中佐ァ」 「む?何の話だガイア大尉」 いぶかしげにそう聞き返したラルの横を無言ですり抜け、ガイアはそのままニムバスの2メートルほど手前で立ち止まった。 アムロはオルテガとマッシュがいつの間にかブリッジに一つしか無いドアの前に移動し終えている事に気が付き、イヤな予感に身体を強張らせた。 「・・・知ってるぜえ。お前、キシリアの忠犬ニムバス・シュターゼンだろう?」 「キシリアの威光を笠に着て親衛隊気取りだった自称『ジオンの騎士』様が、何でこんな所にいるんだ?ああん?」 ドアの前で外部への退路を塞いでいる格好のオルテガとマッシュがニムバスに睨みを効かせている。 珍しくオルテガがメイと別行動をとったのには、こういう理由があったのだ。 「シャア大佐やアムロに取り入り、まんまと青い木馬に潜り込んだまでは良かったが、どっこい俺達の目は誤魔化せんぞ。残念だったなスパイ野朗」 「俺達は大佐やアムロみたいに甘くねえ。人間てのはそう簡単に変われるもんじゃねえのさ。 ・・・生きてここから出られると思うなよ?」 「・・・!」 咄嗟にいつのも鋭い舌鋒でガイアとマッシュに反論しようとしたニムバスはしかし、心配そうに自分を見つめているアムロの顔を直視した途端、ハッと口をつぐんでしまったのである。 長い間とらわれていたキシリア崇拝の枷から解き放たれた事で、ニムバスは自身の過去の姿を極めて冷静な視点で振り返る事ができる様になっていた。 もはや痛恨の思いしかその記憶からは見出せないが、そこには確かに無様な自分がいたのである。 だからそんな『唾棄すべき姿』を知っている者が、ここにいる自分に疑いを持つのは無理もあるまい・・・と、今のニムバスは思い巡らせる事ができてしまう。 現に、あのジョニー・ライデンもそうだったではないか。 9 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/12/13(月) 00 23 34 ID cpY5quGU0 [2/6] 「グラナダでは、うっかりキシリアの陰口を漏らした俺の部下が貴様に見咎められ、半殺しの目に合わされた。 俺達がそれを知ったのは、貴様と入れ替わりに月に戻った後だった」 「・・・・・・」 ニムバスは固く目を閉じた。 ガイアの言った事は嘘ではない。全ては自分の蒔いた種なのだ。 長い間燻っていた怒りの炎を今まさに燃え立たせようとしているガイアに『現在の自分の心境は違う』のだと、どんなに言を尽くして説明をしてもムダだろう。 せいぜいが都合のいい自己弁護だと思われるのが関の山だ。 そして何より、この分ではこの先また同じ様な事が何度も起こるに違いないという諦観が、雄弁なニムバスから完全に言葉を消し去った。 その頭の片隅には、ここで自分が消え去ってしまえば、自分の事でこれ以上アムロに迷惑を掛けずに済むという考えも過ぎっている。 しかし、ガイアは深く何かを考え込んで絶句したニムバスを見て、悪い意味での確信を持った。 「見ろアムロ。奴はやはりキシリアのスパイだったんだ。黙っているのが何よりの証拠だ」 「違う!何を言ってるんですかガイア大尉!!どうしたんですニムバス中尉!違うって言って下さい!!」 「え?え?ニムバス中尉!?このままじゃ本当にスパイだと思われてしまいますよ!?」 突然石の様に固まってしまったニムバスに動転するアムロとバーニィを横に押し退け、ガイアはゆっくりとホルスターから拳銃を抜いてニムバスにピタリと狙いをつけた。 「ち、ちょっ、ガイア大尉、物騒な物は・・・ナシにしましょうや」 「おい!場所を弁えろ!!シャア大佐の前なんだぞ!」 「黙れ。貴様らはコイツのキシリアに対する忠誠と狂信を知らんのだ。 野放しにしておくと腹を食い破られるぞ」 引きつった笑顔を浮かべ両手を開いてとりなそうとしたコズンと、拳銃を見て色をなしたクランプを、ガイアはぴしゃりと遮った。 「お騒がせして済みませんなシャア大佐。とりあえずコイツは拘束して独房にぶち込んでおきます」 「待て。・・・ニムバス、お前は本当にこのまま何も弁明しないつもりなのか」 「・・・・・・」 シャアはそう言葉を掛けたが、ニムバスは相変わらず無表情に押し黙ったまま動かない。 当の本人がこれではシャアとしてもどうする事もできなかった。 「しょ、少尉。こりゃいったい全体どうなってやがるんです?」 「黙って見てな。コレは他所モンの通過儀礼みたいなもんよ」 思わぬ成り行きに、ニムバスとは初対面となる闇夜のフェンリル隊にも動揺が走っている。 だがマット・オースティンの懸念を、数多くの部隊を渡り歩いて来たレンチェフがポケットに手を突っ込んだまま余裕タップリに一蹴した。 「そんな悠長な事を言っていて良いんですか!?」 「あのニムバスとかいうのが本物ならば何の心配もいらん」 その横ではシャルロッテの小声での抗議を、今度は腕組みをしたル・ローアが遮った。 サンドラ、ソフィのフェンリル隊女性陣も眼前の成り行きを固唾を呑んで見つめている。 と、そこへ 「ちょっと待ちな」 突然、ジョニー・ライデンが不機嫌な面持ちで前に進み出、ニムバスとガイアの間に割って入ったのである。 瞬間、ガイアの脳裏に以前アムロに近付こうとした際、今の自分と同様にクランプとコズンの2人によって前を遮られたオルテガの姿が甦った。 場所も確かこのブリッジだった筈だ。 彼等にとっては面白くも無い巡り合わせであろう。 ニムバスに背を向け、ガイアに対したライデンはその鋭い眼光を心持ち柔らげた。 10 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/12/13(月) 00 24 25 ID cpY5quGU0 [3/6] 「落ち着きなよおっさん。コイツは普段はやたらと口数が多いくせに、肝心な所じゃあ余計な事を考えすぎて無口になっちまう面倒臭い奴なのさ」 意外なライデンの言葉に背後のニムバスが息を呑み、その瞳が大きく見開かれた。 「何のマネだ若造・・・貴様、そいつの肩を持つつもりか!?」 「そんなつもりはねえ。俺もおっさん達と同じ様に、最初はコイツに疑惑を持ったんだ。 だがコイツの疑いは晴れてるぜ。俺が直に拳を交えて確かめた」 ギリリッという歯軋りの微かな音を聞いた気がして、コズンは慌てて隣に立つシーマを振り返った。 ニムバスの前に立った為にガイアの銃は、今はライデンの心臓に狙いを付けている。 シーマはその状況が気が気ではなかったが、ここはライデンの正念場なのだ。それが判る彼女だけに、今は動けないでいるのである。 「拳を交えた、だと?そいつと本気で殴り合ったって事か」 「いや拳だけじゃねえ、蹴りも関節技も使ったアルティメットでだ」 「ほう、どこで戦(や)った」 「ロドス島のハンガーさ。ここの連中が証人だ」 そう言いながらライデンが視線を周囲に向けると、それは本当かと俄かにガイアの目の色が変わった。 ちらりとシャアを見やると、彼はガイアにその通りだと軽く頷く。 オルテガとマッシュも興味深そうな顔で目配せするとドアの前を離れ、ガイア達に近寄って来た。 「それで、貴様らのどっちが勝った!?」 「ん?どっちと言われてもなあ・・・」 ガイア達の予想外の食いつきに戸惑うライデン。 そういえば、黒い三連星は3度のメシよりもケンカや格闘技に目がないと話には聞いた事がある。 彼等3人、見るのも戦るのも殊のほか好きらしい。 「・・・悔しいが、多分勝ったのはニムバスの方だろうな」 「いや、状況を鑑みるにそれは正確な判定では無い。どちらかと言えばライデンの方が優勢だった」 「ふざけるな。ありゃどう見てもお前の勝ちだったろうが!」 自分の立場も忘れ後ろから異を唱えて来たニムバスに、振り返ったライデンが本気で口を尖らせた。 意表を突いた成り行きに、彼等以外の一同は呆気に取られた顔をしている。 「・・・男って」 微かに聞こえた溜息混じりの呆れ声は、シャルロッテの物だったろうか。 「あのなあ!誰にも言わなかったが俺はあの後3日間、アゴがガタついてメシが上手く食えなかったんだぜ」 「私だって数日間、肩より上に右腕が上がらなかったのだ!総合的に被ったダメージはこちらの方が上だ!」 思わずアムロとバーニィは顔を見合わせた。そんな素振りは2人とも微塵も見せてはいなかったのである。 意外な場面で知られざる事実判明、と、いったところか。 「四十肩じゃねえのか」 「なんだと!?」 「まあ待て。待てお前ら。それで?コイツと殴り合った貴様は、コイツを信じるに足る男だと踏んだ訳だな?」 「おうよ。殴り合いの中では誤魔化しは効かねえからな」 「判ってるじゃねえか若造!確かに拳は嘘をつかねえ!」 オルテガの問い掛けに自信たっぷりに頷いたライデンを見て、マッシュも我が意を得たりと首肯した。 基本的に酒と拳で判り合うのが彼等【黒い三連星】の流儀なのだ。 酒とケンカのヤれない奴は信用しねえ・・・そう彼等は普段から主張してはばからない。 そんな彼等だからこそ、どんな理屈よりも納得できる心理がある。真理と言い換えてもいい。 命を掛けた刹那にこそ、その人間の持つ本性が無慈悲に暴かれ、さらけ出されるのだ。 極限状況では咄嗟に、真っ直ぐな人間は真っ直ぐな、臆病な人間は臆病な、姑息な人間は姑息な、卑怯な人間は卑怯な振る舞いをしてしまう。 どんな人間でも絶対に、戦いの中で自身の持つ内面を隠し通す事は不可能なのだ。 そしてこれは何も生身のケンカに限った事では無く、MS戦においても当て嵌まる。 その見極めを瞬時に行い、対処し得るからこそ、彼等は名パイロットたり得ているのである。 マッシュは愉しそうに、その隻眼をガイアに向けた。 「ようガイア、この野朗のミソギは済んでいるらしいぜ?」 「そのようだが・・・いや、しかしな・・・」 そう言いながらも、いつの間にかガイアは銃を下げている。 11 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/12/13(月) 00 25 44 ID cpY5quGU0 [4/6] 3人の態度から殺気が消えかけている事を察知したライデンは、畳み掛けるように言を継いだ。 「コイツが何か不始末をやらかした時は、俺が責任を取ってやるぜ」 「調子に乗るな若造!貴様に責任なんぞ取れるか!!」 一転、にべもないガイアの言葉にライデンは口をへの字に曲げた。 確かに昇進したとは言え、たかだか中尉でしかない自分には分の過ぎた申し出だった。 「それじゃあアタシら海兵隊がケツを持ってやろうじゃないか」 「む・・・」 両手を腰に一歩前に出、ここぞとばかりにそう言い放ったシーマにガイアは言葉を失った。 にわかには信じ難い光景だ。 確かにパイロットとしての腕はあるが尊大な態度で周囲から疎まれ、抜き身の刃物の様だった『あのニムバス』が、まさかここまで隊の連中の信頼を勝ち得ていようとは。 「姐御・・・」 「この場は預かるよ。まさか不服だと言いはすまいね?」 ライデンの感謝の視線を満足そうに受け止めながら、シーマはガイアに向けて片方の口角を上げて笑った。 「どうなんだい!・・・それとも、アタシの顔を潰すつもりかい?」 シーマの眉間には深い縦皺が刻まれ、軽い口調とは裏腹に目が笑っていない。 ガイアは思わずブリッジの天井を見上げた。 この状況、下手にゴネると厄介な事になってしまう。個人の話がいつの間にか軍団のメンツの問題にすり替わってしまったからだ。 これはいわゆるヤクザ者、いやアウトロー特有の手打ち・・・場の納め方であり、他ならぬ黒い三連星が兵隊同士のイザコザにおいて双方を引かせる時に使う常套手段でもあった。 「ガイア大尉、聞いての通りだ。それに元々このニムバス・シュターゼンは私自ら招聘したのだ。 もし彼が我が隊に不利益をもたらす行いをしでかしたならば、それは私の責任でもある」 「判りましたよシャア大佐。これじゃあまるで俺だけが悪モンみたいじゃないですか」 きまりが悪そうに銃をホルスターに戻したガイアが髭だらけの顔で苦笑すると、ほっと場の空気が緩んだ。 「良かった!ニムバス中尉!」「ニムバス中尉!」 胸をなで下ろしながらニムバスの元にアムロとバーニィが駆け寄る。 シーマがああ宣言した以上、今後はニムバスに面と向かって疑惑を口にする輩は皆無となるだろう。 彼女が率いる海兵隊の恐ろしさは、それ程までに味方をも震え上がらせているからである。 「皆に感謝しろよニムバス・シュターゼン」 「はい・・・」 ガイアの言葉に感激を隠し切れず、瞑目して小さく頷いたニムバスの横顔を見たライデンは 『と、言ってもコイツが忠誠を誓っているのは、実はシャアじゃなくアムロなんだけどな』 と彼だけが知っている真実を心中で呟き、少しだけ複雑な笑みを浮かべたのだった。 「―――ライデン」 「おっと勘違いすんなよニムバス。俺は見当違いな連中が気に食わなかっただけだ」 神妙な面持ちでこちらを振り返ったニムバスに顔も合わせず、今度は邪険に背を向けたライデン。 暫く無言だったニムバスは、やがて静かにシーマに頭を垂れ、ライデンの背中に「感謝する」とだけ呟くとアムロとバーニィに促され、ハンガーに向かう為ブリッジを出て行った。 12 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/12/13(月) 00 26 05 ID cpY5quGU0 [5/6] ニムバスにとって大事なのはアムロのみであって、シャアが何ほどの者であろうが正直どうでもいいのだろうと、ライデンはそんなニムバスの後姿をチラリと見ながら思った。 アムロの命令でニムバスは動く。そのアムロがシャアに従う限り、間接的にではあるがニムバスも従う事になる。つまりはそういう事なのだ。 ニムバスの性格からして、今回の件を皆に感謝こそすれ恩義に感じる事は無いだろう。 つまり、今後もしもアムロがシャアと袂を分かつ事になった場合、ニムバスは迷わずアムロに付くという事を意味している。 取り越し苦労かも知れないが、ジオン・ズム・ダイクンの寵児を頭に据えたこの軍団の行く末が限りなく不透明である以上、そういうケースも絶対に無いとは言い切れない。 しかし―――それもまた良しだ、と、ライデンは無邪気に笑い飛ばした。 何より、気に入らない奴の風下に立つ事は、絶対にできない性分だと自分で理解しているライデンである。 他でもないライデン自身が、一軍を率いる将としてシャアという男の器がどの程度の物か、これからじっくりと見極めてやるつもりでいるのだから他人の事をとやかく言える立場ではないのだ。 姐御の手前、一旦は引き下がって見せたが、やはりこればかりは譲ることはできない。 盟友と認めたならば例え何があろうと地獄の底まで付き合うが、到底コイツのやり方にはついて行けねえとなったら、姐御と一緒にどんな状況でもケツを捲くる自信はある。 要は『シャアが俺達に愛想を尽かされなければ良い』のだ。 ――――と、兵隊にあるまじき勝手な結論を出し、面白くなってきやがったぜと、この状況を楽しんでしまうのがジョニー・ライデンという男だった。 さてさて、鬼が出るか蛇が出るか・・・ 「ニタニタ笑ってんじゃないよ全く!本当に余計な事に首を突っ込みたがる男だねアンタは!」 そんなライデンの後ろ頭を平手ではたいたシーマは、彼を怖い顔で睨みつけた。 「・・・なかなかユニークな連中揃いで先が思いやられますな」 「しかし、能力は押しなべて高い者ばかりだ。こういう個性的な人材をうまく使いこなせてこそ・・・」 眼前で巻き起こった騒ぎには敢えて介入せず、一同の最後尾で静観を決め込んでいたゲラートとラルは、その顛末を見届けた後、ひとしきり笑いあった。 人間とは誰も皆、一人ひとりが個性的な縦糸と横糸の様なものだ。 そうラルとゲラートは以前、酒を酌み交わしながら語り合った事がある。 何かを成し遂げようとした時に生じる人間関係とは、それら種々の糸が縦横無尽に組み合わさって形と色を成し、一枚のタペストリーを織り上げてゆくさまに似ている。 その際、糸同士が緻密に組み合わされればされる程、織物としての強度や作品としての完成度もまた増してゆくのだ。 我々の場合、最終的なその仕上がりは、果たしてどのようなものになるのだろうと老練な戦士達は思いを馳せた。 胎動を始めた新たな軍団の屋台骨を陰で支える2人の気苦労は、当分終わりそうも無い。 39 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2011/01/13(木) 20 50 55 ID htlOcCCU0 [2/6] 上下ハッチが完全に開放された「青い木馬」の右舷第1デッキに軽い地響きをたてて踏み入って来たのは、ジオン軍の中ではひときわ異彩を放つ白いMS【ガンダムピクシー】であった。 アムロはデッキ内に敷かれたカタパルトレールの上でピクシーの足を止め、モニター越しに懐かしいデッキ内部を見まわして感慨に耽る。 カタパルトレールの後ろには3基の斜立式MS整備ベッドが、その上部にはコアブロック換装用のクレーンが2基懸架されている。 それら全てが以前のままである事を確かめると、アムロは小さく安堵の息を吐き出した。 今後は、ここが再び彼の家となるのだ。 青い木馬の直衛と、定員を遙かにオーバーしているこの地の格納庫の負担を軽減させる目的で、アムロの小隊はここに配置される事になったのである。 ニムバスとバーニィのザク改も、アムロに引き続きここへやって来る手筈になっているが、格納庫の中がMSでひしめき合っている為に発進に手間取り、まだその姿は見えていない。 『RX-78は任せといて。あなたが帰るまでに最強のMSにしておくからね』 あの時、アムロとの別れ際にメイがそう宣言したRX-78-2【ガンダム】は残念ながら現在、左舷第2デッキの方に格納されている為にここでその姿を見る事はできない。 本人の口からは具体的に聞き損ねていたが、アムロとしてはメイの手によって改造(?)されたであろうガンダムがどんな姿になっているか楽しみである反面、正直、不安もあった。 「よう、トップエースのご帰還だ!」 「ミガキさん!」 しかし、デッキの入り口で様々な想いを胸に立ち尽くしていたピクシーを陽気な声で出迎えてくれたのは、むさ苦しい髭面に人なつこい笑みを浮かべたフェンリル隊のテックチーフであった。 アムロは慎重な挙動でピクシーを移動させ、誘導灯を振るミガキの指示通りに一番奥のMSベッドに固定させると、急いでシートベルトを外しコックピットから抜け出した。 「お久しぶりです!」 ピクシーの足元でがっちりとアムロの手を握った途端、ミガキは何故か笑みを消して大真面目な顔を作った。 「聞いたぞアムロ、何でも小隊長になったらしいじゃないか」 「は、はい、でもそれは・・・」 「メイがまるで自分の事みたいに威張っていたぞ。 何で彼女がお前の事で俺に威張るのか意味が判らんがな」 「参ったな・・・」 再び白い歯を見せて笑うミガキから困った様に目を逸らしたアムロの目がふと止まった。 彼の視界の先にあるのは、デッキの奥に山積みされた「いわく有りげな」装甲パーツである。 渋くモスグリーンに塗装されたそれは以前のWBではついぞ見た事のなかったものだ。 艦船用の外装補修建材に見えない事も無いが、各所から飛び出したバーニアや接合器具からは兵器の匂いがする。 40 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2011/01/13(木) 20 52 01 ID htlOcCCU0 [3/6] 「ミガキさん、あれは・・・何です?」 「ほう気付いたか、流石だな」 アムロの手を離したミガキの目が嬉しそうにキラリと光る。例の技術屋のアレだ。 「あれはお前さんのRX-78-2を強化させる為の増加装甲だ。 メイと俺が首っ引きでこの艦とガンダムに残ってたデータベースを解析し、ここに積載されていたパーツを駆使して組み上げたものだ。 足りない部分には代用品を充てたから純正品とはちと違う部分もあるがな・・・」 「それじゃあ、もしかしてあのキャノン砲も?」 アムロがパーツの更に後方に見える単砲身を指さすと、ミガキはそうだと頷いた。 こちらはゾンザイに転がっている他のパーツよりも若干丁寧に扱われ、デッキ奥の大型エレベーターに乗せられている。 「データにはFSWS・・・恐らくは計画名だろうが・・・それの一環としてガンダムの様々な強化案が示されていた。 元々試作機としてハイスペック過ぎるぐらいに作られたRX-78には恐るべき拡張性が備わっているらしい。 ま、中にはどう見ても実現は不可能そうなシロモノもあって玉石混合ではあったがな」 苦笑するミガキにアムロは眼を輝かせて肯是した。 とりあえず考えうる限りのアイディアを出し尽くしてみるところから、そういう事は始まると思えるのだ。 「ここに配属されてからというもの、俺やメイを始めとしたメカニック達は自分の仕事と平行してここに入り浸り、連邦製MSの解析と技術の吸収に勤めた。 中破していたRX-75【ガンタンク】を分解してパーツに戻し、その一部を使ってあの装甲の足りない部分を補い・・・」 そう言いながらミガキは顎先で先程の増加装甲を指し示し 「・・・お前さんのガンダムも俺達の手でオーバーホールを完了させる事ができた。 もちろん正常に稼動する事はチェック済みだぞ」 そう言葉を続け、誇らしげに胸を張った。 「お陰で我々の技術力も随分向上したよ。 今じゃ連邦製MSの整備だって無難にこなせる。後は慣れの問題だ」 事も無げにそう言ってのけたミガキのがっちりとした身駆に、アムロは羨望の眼差しを向ける。 「凄いなあ・・・メカニックの皆さんの努力には、いつも本当に頭が下がります」 「なあに、好きなんだよ。みんな新しい知識に飢えているのさ。 寝る間も惜しんでやってるのは、つまりそれが面白いからなんだ」 規模こそ違うが、アムロ自身も寝食を忘れてメカの組立てに没頭した経験など数え切れないほどある。 お前なら判るだろう?と、それを見透かしたように笑うミガキにアムロは思わず口もとを綻ばせた。 「こいつにはあの360ミリロケット砲の他に小型ミサイル発射装置と外付け式の2連装ビームライフルが付く。 火力に関しては圧倒的だ。 増加装甲自体に補助推進装置が内蔵されているから機動力を損なう事もない」 「す、凄いですね・・・メイが言っていた『最強のMS』ってこれの事だったんだ」 「・・・ところがな」 しかし、ミガキは一転表情を顰めた。 41 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2011/01/13(木) 20 53 07 ID htlOcCCU0 [4/6] 「この増加装甲、データ通り一旦はお前さんのガンダムに装着してはみたものの、どうも計測結果が芳しくない」 「え、どういう事です?」 ミガキの口調に不安を覚えたアムロの表情からも笑顔が消えた。 「何度シミュレートしても増加装甲のジェネレーターパワーに肝心のガンダムが振り回されて挙動にロスが出てしまう。 この機体をまともに制御しようとすると反応出力を絞らざるを得ず、結局・・・素体のガンダムよりも機動力は30パーセントもダウンしてしまった」 「さ、30もですか・・・それは・・・」 「うん。ザクにも劣る数値だ。対MS戦を想定したら絶望的だな。 まあ、堅い装甲と高火力を頼みに敵陣へ単独で突っ込んで一撃を見舞う戦法も無くはないし、単純に装甲値が上がればお前のサバイバビリティも増す。 だがメイは今お前が乗って来たXX【ピクシー】の戦闘データを見て、躊躇無くこのプランを捨てた」 「捨てた?」 「そうだ。重爆撃機よろしく一撃離脱戦法のみに特化したMSはお前向きじゃないって事に確信を持ったのさ。 メイは完全にガンダムをお前専用のマシンと考えているからな。コンセプトの相違を容認できる筈がない。 ちなみに・・・」 ミガキは太い腕を組み、体を斜めに傾けた。 「その意見には俺も賛成した。恐らくお前はオールラウンドで高い技量を発揮できる希有なパイロットだ。 わざわざ使い勝手を限定されたMSに乗るべきじゃあない。 それに貧乏なジオンと違い、量産型のMSにも強力なビーム兵器を標準装備しようとしてる連邦軍だ。 大量に展開した敵MSにビームの段幕を張られたらこの機体では為す術がない」 「それじゃあ・・・」 「このプランはペンディングだな」 そう言いながらミガキは両手の人差し指でバツ印を作り、アムロに向けた。 「せっかく装着したコイツがひっぺがされてここに転がってるのはそういう理由だ。 だから今あっちにあるお前さんのガンダムは、まっさらの純正品だ」 「そうだったんですか・・・何だかちょっと安心したような残念なような・・・それじゃメイもさぞがっかり・・・」 「ところがそうでもない」 ここでミガキが再び眼を輝かせてぐっと身体を乗り出したのである。 「え?」 「メイに抜かりは無い。もう一つ、とっておきのプランがある」 メイの才能に惚れ込んでいるのがその言葉尻から窺い知れる。 ミガキにとって今までのは単なる前振りに過ぎず、どうやらここからが本題らしい。 「そいつは完全にお前向きのものだ。 それどころか、これが実用化されれば今までの駆動系の常識がひっくり返る事、請け合いだ」 「え?え?いったい何の話です?」 なんだかウキウキしている様子のミガキだったが、全く話が見えないアムロとしては戸惑うばかりだ。 「アムロ、お前、搭乗したMSをことごとく『遅い』と感じているだろう」 「・・・!」 ずばりと核心を突かれたアムロは驚いて口ごもった。 42 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2011/01/13(木) 20 53 45 ID htlOcCCU0 [5/6] 「機体を徹底的に軽量化し、アポジモーターを増設したこのXXはお前の操作に辛うじてついていけているが・・・」 ミガキはアムロの後ろに立つピクシーを振り仰いだ。 「しかしもう、これ以外のMSでは恐らく、お前の反応速度に対応する事ができんだろう。 ジオンの地上用MSでは最速のレスポンスを誇るイフリートですら、お前は物足りなく感じる筈だ。 かと言って本気を出したお前の操縦に無理矢理晒されれば駆動系はボロボロ、機体は最悪オーバーヒートを起こす。 データ的に見れば、お前のRX-78-2も例外じゃなくそうなる」 アムロはぐっと唇を噛んだ。ミガキの推測は恐らく正しい。 クレタ島でニムバス達と対したあの時、今まさにミガキの語った理由で彼は1機のMSを乗り潰していたのである。 それはニュータイプ実験用に極めてタイトなチューンを施されたMSだったにも拘らず、だ。 「つまりお前さんの乗るMSには装甲や武装の強化ではなく、まずそちら方面のパワーアップが必要だったんだ」 「で、でも反応速度を極端に上げると、物理的に機体に掛かる負荷が増大していずれは・・・」 アムロの苦言をミガキは手を上げて遮った。 ハッと我に返るアムロ。釈迦に説法という奴だった。専門家の彼がそれに気付いていない筈がないのだ。 「メイが以前から研究していた隠し玉だ。 初めて見せられた時は俺も驚いたが理論は・・・まあ完璧だった。 同じ技術屋としては少々悔しいが彼女みたいなのを本当の天才というのだろう。 流体パルスのシステム自体がネックだったんだが、連邦製のMSが手に入った事でクリアの目が出たのさ。 フィールドモーターなら・・・いける筈だ」 ミガキの言葉はいつの間にか自分に向けての物になっている。 「ミガキさん?」 「そうは言っても、もうひと山ふた山は越えなきゃならん課題もあるがな・・・」 「おーいアムロー!」 その時、腕組みしていた両手を腰に何やら考え込んだミガキの上から元気な声が掛かり、同時に二人は壁際に設置されたステップ上に立つ声の主を見上げた。 「食事の用意ができたよー!パイロットは食堂に全員集合だって!!」 2階の窓程もある高さのフェンスから身を乗り出し、こちらに手を振っているのは件の天才少女メイ・カーウィンである。 ミハルやハマーンの手伝いをしていた彼女が、わざわざアムロを呼びに来てくれたのだろう。 こうして見ると、どこにでもいる無邪気な14歳の女の子にしか見えないが、彼女の秘めたるエネルギーは計り知れない。 「判った、2人がここに到着次第、そっちに向かうよ」 「早く来ないと冷めちゃうよ?私も料理、手伝ったんだから・・・」 しかし口を尖らせかけたメイは次の瞬間、笑顔を取り戻した。 ニムバスとバーニィの搭乗したザク改2機が、ようやく姿を見せたからである。 ミガキはアムロを下がらせると、再びシグナルライトを手に鮮やかな手並みで彼等の誘導を始め、瞬く間にぴたりと2機のザク改を整備ベッドに納めてしまった。 ジオン製MSと連邦製MS用整備ベッドの規格が合わなかったらどうしよう、と密かに心配していたアムロだったがそれは杞憂に終わった。 どうやら2台のベッドには既にザク改に合わせた調整が成されていた様である。 ミガキの言葉ではないが彼等の仕事に抜かりは無いのだ。この人達に任せておけば間違いはない。 ザク改に続いてわらわらと乗り込んで来たメカニック達に指示を飛ばしているミガキを見て、アムロはその思いを新たにするのだった。 240 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2011/04/18(月) 14 19 29 ID B90M/2Y.0 [2/6] 「美味ぇ!!美味ぇ!!・・・すげえ美味ぇ!!どうなってんだ!?」 「・・・俺は今までの人生で、こんなに美味い物を食べた事は・・・なかったな・・・」 焼きたてパンと熱々の濃厚なスープで煮込まれたハンバーグを口にしたレンチェフが大はしゃぎする横で、生真面目なル・ローアが声を詰まらせながら呟いた。 身内の人間が褒められるのは誇らしいものだ。 自分達もつい先日まで同じ様なやりとりをしていたシャア隊の面々だったが、今はすっかりそれを棚に上げ、 青い木馬の食堂でミハルの料理に驚嘆しまくる彼等の反応をにやにや笑って眺める余裕がある。 「信じられん、これは本当に補給物資だけで・・・」 「もちろんですぜ少佐。正真正銘ウチのミハルが凄腕なんでさあ。 まあこう言っちゃあ何ですがね?今ジオンで一番美味い物を食ってるのは・・・」 「うむ。ギレンでもキシリアでもなく恐らく我々だ。これは決して誇張では無い。 我々はついているぞ諸君、この幸運を存分に享受しようではないか」 ゲラートの質問を得意げにコズンが受け、上座のシャアが締めた瞬間、青い木馬の食堂がどっと沸いた。 なにしろ宇宙育ちの彼等にはお馴染みの味気ない「単なる合成タンパクの塊り」でしかない筈のハンバーグが、魔法の様に立派な「料理」に変化してしまったのである。 ある程度食べ物の味というものを諦めて育たざるを得なかったスペースノイド達が ミハルの料理に感激するのも無理はないと言えただろう。 「ハモン、これは一体どういう事なのだ、我々が常日頃から口にしていた同じ食材が、こうも違う味になるとは到底信じられん」 「それがあなた、あの子ったらハンバーグの具材をほぐして炒めた野菜を混ぜ、もう一度形成して焼き直したのです」 「な、なんと」 自分のフォークに突き刺さったハンバーグをしげしげと眺めるラル。 このふっくらとした歯ざわりは、見えないところで掛けた手間の産物だったのだ。 そしてハモンは初めて入った厨房の筈なのに素晴らしい手際の良さだったとミハルを褒め、私ではとてもああはいきませんわと、ちょっと悔しそうに微笑した。 「お前にそこまで言わせるとは・・・」 ランバ・ラルは驚きを禁じ得ないでいる。 ハモンは決して料理下手ではなく、生活全般をそつなくこなすいわゆる出来る女性だ。 その分、秘めたるプライドも相当に高い。 しかしそんな彼女が今は完全に脱帽している。 初対面でミハルを気に入った彼女の眼に狂いはなかった事の方が嬉しいのであろう。 「私の下に欲しいくらいです。きっとあの娘なら料理だけではなく、教え込めばどんな仕事でもこなせる様になるでしょう」 「まさかな」 それはあまりにも贔屓の引き倒しであろうとラルはいぶかしんだが、こういう時に冗談を言うハモンではない。 「・・・気に入らないねえ」 「んぐっ?ど、どうした姐御、これ美味いじゃないか?」 隣のシーマが突然立ち上がったのに驚いたライデンは、飲み込みかけていたパンを危うく咽に詰まらせそうになった。 彼等の席はちょうどラルやハモンとは背中合わせの位置にある。 シーマは何も言わず後ろのハモンにちらりと肩越しの視線をやってから席を離れ、そのまま食堂奥のドアから厨房に入って行ってしまった。 「シーマ中佐、どうされたんです?」 「さァな・・・」 正面に座るアムロにそう聞かれても、取り残された形のライデンは気の抜けた返事で彼女を見送るしかない。 浅くは無い付き合いの中で、こういう言動をとった場合の彼女は何やら思うところがあり、加えて誰かにべたつかれるのを非常に嫌うことを知っていたからである。 241 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2011/04/18(月) 14 20 36 ID B90M/2Y.0 [3/6] 「しかしオルテガの奴、こんなウマイ物を食いっ逸れるなんざ、ついてねえな」 食事を頬張りながら黒い三連星のマッシュが苦笑する。 「メイ嬢ちゃんが急にハンガーに呼び戻されたんだ、奴としちゃ放っておけんだろう」 まあ仕方あるまいとガイアは思う。 メイは一人で戻れるから食事をしていけとさんざん薦めたのだが、それを強く拒否し同行を譲らなかったのはオルテガの方なのだ。 「中尉達の分は後で私達が届けてあげましょう。ね、アムロ」 「そ、そうですね。2人共きっと喜びます」 セイラの提案に頷くアムロ。ガイアはそんな2人に宜しく頼むと嬉しそうに笑った。 「大佐、前々から思っていたのですが、この美味しい食事を我々以外の部隊にも ほんの少しづつでも分けてやる事はできないでしょうか」 「うん?」 意外なアンディの申し入れにシャアは顔を上げた。 「現在、ここキエフ鉱山基地本部には周辺地域に集った約30の部隊の中から毎日ローテーションで小隊が選出され護衛の任についています。 その小隊のメンバーをここに招いて昼食を振る舞うのです」 「おお、それはいい!」 膝を叩いてそれに同意したのはランバ・ラルだった。 疲労の蓄積が夥しいジオン兵の慰労には美味い料理は何よりのものだろう。 「良い案だとは思うが、それではミハルの負担が増えてしまうのではないか。ただでさえ・・・」 「厨房に人員を回します!ミハルさんばかりに負担を負わせないように。 ですから、どうか」 少しだけ消極的なシャアにアンディは食い下がった。 「・・・判った。ミハルに頼んでみるとしよう。 だがあくまでも、それを引き受けるかどうか決めるのは彼女だ」 「ありがとうございます!私からも彼女に誠心誠意お願いしてみるつもりです」 ほっとしたアンディの顔にも笑顔が戻った。 地上に住む人間に比べ、僅かな物を分け合う仲間意識はスペースノイドは非常に強いのである。 242 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2011/04/18(月) 14 22 05 ID B90M/2Y.0 [4/6] 「邪魔するよ」 「おや?シーマ中佐。珍しいね、どうしたんだいこんな所に」 広めのキッチンで一人、使い終わった調理器具を片付けていたミハルだったが、 いきなり現れたシーマに振り返って笑顔を向け、すぐにまた洗い物に戻った。 「いつもいつも良っく働くねえ、おまえは」 トレイが重ねられたラックに身体を預けて腕組みをしたシーマが、周りを見回してあきれた様な声を出す。 結構な人数分の食事を拵えた後であるにもかかわらず、厨房内はきちんと整頓されている。 その奥にはちゃんと人数分、食後のコーヒーを出す用意がされているのが流石である。 「そう思うなら、少しはミハルの手伝いをすればいいのに」 言いながらコーヒークリームのポットを持ったハマーンが、シーマの横を擦れ違いざまに一瞬責める様な視線を向けた。 「あーそりゃ悪かったね・・・」 とんだ藪蛇だったと苦笑しながら髪を掻き上げるシーマ。 ハマーンにとっては人間同士が勝手に拵えた階級や立場など何の意味もなさないものであろう。 無垢な少年少女の視線は時として、様々な柵に捉われる大人をあざ笑うようにして真実を真正面から射抜く。 「何か用があって来たんだろ。なに?」 「・・・こんな事言うのはアタシのガラじゃないんだけどね」 シーマはそう言いながらそっとミハルに近付く。 「いいかい。まわりの連中に良い様に利用されるんじゃないよ。 おまえはべつに軍属じゃない。何かを命令されても気に入らなきゃ断るんだ。いいね」 「利用?」 耳の近くでそう囁いたシーマに笑顔のまま怪訝そうに振り返ったミハル。 厳しい顔のシーマとは対照的な表情だ。 「おまえみたいな小器用な子は上の奴等に都合のいい様に振り回され・・・ ボロボロになるまでコキ使われて、そのまま見捨てられちまう事が多いんだよ。 アタシはそんなケースを・・・山ほど見て来てるんだ」 何だか辛そうなシーマを見てミハルはハッとした。 それは他の誰でもなく自身の経験を語っているのではないのだろうかと思えたのである。 「今後、おまえに対する要求がどんどんエスカレートしたあげく・・・例えばそうだね・・・ 連邦軍の艦艇に単独で潜入しろなんて命令が出てもアタシは驚かないね」 「まさか」 あまりにも荒唐無稽な例えにミハルは声を出して笑いかけた が、シーマの顔はあくまでも真剣であり冗談を言っている様には見えない。 「例えばの話さ。 で、能力の無い奴ならその命令を結局実行に移せないまま終わるだろう。 上からは無能の烙印を押されるかも知れないが、命を落としかねない様なヤバイ橋は渡らずに済む」 それはそれで幸せなんだとシーマは続け、眉根をきつく寄せた。 「・・・だがおまえは、頭の回転が早く、度胸もいい。 どんな事でも恐らく、それなりに何とかこなしちまうに決まってる。だからヤバイんだ」 「あはは・・・買い被りすぎだよ、あたしにそんな」 「だああもう、じれったいねえ!」 「あっ」 シーマはミハルの肩を掴み、無理やりにこちらを向かせた。 洗浄剤のついた泡だらけの手がシーマの軍服を汚すが気にもしない。 「これでもアタシはおまえを気に入ってるんだ。あのお姫さんなんかよりもずっとね。 シャア大佐はどうやらおまえを大事にしようとしているみたいだが、大佐が不在の時がまずい」 「シーマ中佐・・・」 「これだけは約束しな。 今後、誰かに何か厄介な事を言いつけられてもすぐに引き受けたりせず、大佐がいない時はアタシに相談するんだよ」 「えっ・・・で、でも」 「いいね。判ったね?」 有無を言わさず噛んで含めるように言い聞かせたシーマにミハルは小さく頷くしかなかった。 243 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2011/04/18(月) 14 23 10 ID B90M/2Y.0 [5/6] 「ブッ」 それを見た瞬間、口に含んでいた水を小さく噴き出したのはコズンである。 「・・・なんだ貴様ら揃いも揃ってその顔は」 煎れたてのコーヒーを満たしたカップを並べたキャスターを押して厨房から現れたのは 眉間に深い縦皺を刻んだシーマ・ガラハウ中佐その人であった。 「あぃっ、いえ?・・・ぇえっ!?」 憮然としたシーマに射抜かれる様な視線を放たれたバーニィは極めて不明瞭な返答をしてしまった。 女傑シーマ・ガラハウ中佐の給仕。 世に珍しい物は数あれど、これ程に似つかわしくない、もとい、想像するに難い光景というのもそう無いだろう。 食堂にいた全員が石像の様に動きを止め、眼を丸くして彼女を凝視しているか、あるいは完全に明後日の方向に眼を逸らしているかのどちらかだった。 眼を逸らしている方がシーマの視線を受けない分だけ賢明だと言えるが、このレアな光景をじっくり鑑賞しないというのもそれはそれで惜しい気がする。 だがそんな葛藤渦巻く空気の中、例外が約一名、喜び勇んで手を上げた。 「姐御、ひとつくれー」 そのライデンの声を皮切りに、呪縛が解けたかのように挙手が続く。 「私も貰おう」 「こ、こっちにも3つ、いや4つお願いします」 「自分にも頂きたい」 「へへ、こりゃ他の部隊の奴等に自慢できるぜ」 「折角なのでワシにも」 「・・・あなた」 「甘ったれんじゃないよ!?飲みたい奴は勝手にここへ取りに来な!!」 ガチャンとキャスターをテーブルにぶつけるとシーマは真っ赤な顔でライデンを睨み付け、さっさとコーヒーから離れた。 正直、ここまであからさまな反応を受けるとは思っていなかった。 ハマーンの手前、何気に引き受けてしまったが、これは、痛恨の大失態だったかも知れぬ。 ぐぬぬと臍を噛んだシーマだったが、全ては後の祭りであった。 299 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2011/05/24(火) 00 18 51 ID HyDvZoDE0 [2/8] 彼等が食事をしている間はと、律儀に席を外していたジェーン・コンティ大尉が戻ってきた事で、青い木馬の食堂は即席のブリーフィングルームと化していた。 参加者はそのまま食事を摂っていたメンバーである。 「第一地上機動師団【ヨーロッパ方面制圧軍】司令官ユーリ・ケラーネ少将によると ワルシャワを発ったレビル将軍の座乗する陸上戦艦【バターン】を擁する西部攻撃集団第3軍は現在、旧ウクライナ領に入り、一週間後には攻撃発起点たるキエフ近郊に到達する予定だそうです」 オデッサのある東欧中央部をじわじわと挟み込む様に包囲網を狭めてきた連邦軍が、総大将の到達をもって遂にその配置を完了しようとしているのである。 いやがうえにも緊張感が高まるが、しかしシャアは周囲に張り詰めるそれとは別の事実を口にした。 「『レビル将軍の座乗艦』に『一週間後に到達する予定』か。断言したものだな。 ユーリ・ケラーネ少将は余程確実な情報元をお持ちの様だ」 そう言いながらゲラート少佐の隣に立つジェーン・コンティ大尉に眼をやると、彼女は切れ長の瞳を細め意味深に微笑んだ。 ウエーブの掛かった美しいブロンドをきっちりと結い上げたジェーン大尉は本来、現在この場にはいないMS特務遊撃隊所属であり、ダグラス・ローデン大佐の秘書官を勤める女性である。 が、この状況下においては各隊間を緻密に飛び回る連絡員役に徹している。 元々彼女はキシリア直属の情報機関出身であり、キシリア直々に親ダイクン派を集結させたダグラス・ローデン率いるMS特務遊撃隊の監視の為に送り込まれた経緯がある。 しかしキシリアの与り知らぬ事ではあったが、情報部時代に携わった数々の事件から他でもないジェーン自身が、実はこの時すでに心中は打倒ザビ家を目論む親ダイクン派に鞍替えしていたのである。 ダグラスの隊に出向した彼女は、さまざまなコネクションを駆使した情報を迅速に、秘密裏にダグラス達に流し、彼等の危機を未然に防いで来た実績を持つ。 「御明察恐れ入りますシャア大佐。すでに御存知かも知れませんが 第3軍に帯同しているエルラン中将が我々に内通しております故、情報の精度が極めて高いのです」 まさか連邦軍の中枢にスパイが、ましてや殆んど自分の側近である男が間諜だとは、流石のレビルも思ってはいまい。 エルランの事は以前クレタ島においてククルス・ドアンから聞かされていたものの、しかしここでユーリとエルランがつながるとは・・・と、一同から驚きの声が漏れた。 「連絡役のジュダックはマ・クベの子飼いですが、多額の報酬と引き換えにユーリ少将にもエルランからの情報を流しているのです。 もちろんこの事を、マ・クベ大佐は知りません」 「・・・成る程。そのジュダックという男、軍人としては唾棄すべきだが、そのお陰で我々も敵の足取りがきっちりと追える。 痛し痒しというところだな」 ジェーンに答えたのはランバ・ラルだった。 無骨な軍人である彼は、命令以外に損得で立ち回るその手の輩は許し難いものがあるのだろう。 「失礼します」 そう言って入って来たのはブリッジに出向いていたクランプだった。 「オデッサ本営からの定時連絡です」 そう言って渡されたバインダーに眼を通すと、ラルは軽く溜息をついた。 「マ・クベは何と言って来ている」 「は、具体的な事は何も。相も変わらず現場を死守せよの一点張りです」 飲み掛けのコーヒーをテーブルに戻すと、シャアはふむと唇をゆがめた。 事態はジオンにとって悪い方向へと整いつつあるが、マ・クベが統括するオデッサの動きは極めて鈍い。 300 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2011/05/24(火) 00 20 03 ID HyDvZoDE0 [3/8] 「こうしている間にも連邦の奴等は着々と態勢を整えてやがるんだ。 このままじゃ、ジリ貧ですぜ。俺達は一体、どう動きゃいいんだ」 「あなた、マ・クベ大佐は一体何を考えているのでしょう」 普段は泰然と構えているコズンが珍しく声を荒げると、ハモンが心配そうにラルに質した。 しかし、腕組みをして岩の様に瞑目してしまったラルはそれに答えない。 あまりにも状況を見極める材料が少ない為に、流石のラルをしても迂闊に判断ができないのである。軽率に部隊を動かす事など勿論できない。 それは、口にこそ出さないがシャアにしてもシーマにしても、あるいはゲラートにしても同様であった。 重苦しい沈黙にたまらずに口を開いたのは傍らに座るライデンだった。 「奴の事だ、前線の兵士をガンガン使い潰して・・・ 連邦がいい加減に疲弊した所へ虎の子の本隊を投入するつもりなんじゃねえのか。 奴直属のMS部隊がオデッサに控えてるってのが専らの噂だぜ」 「それにしたって数が違いすぎる。連邦の物量を甘く見るんじゃないよ」 自他共に認める策謀家であるシーマの目から見れば、ライデンの認識はまだまだ甘いといわざるを得ない。 しかしライデンは面白く無さそうに彼女に口を尖らせた。 「俺じゃねえよ。マ・クベの野朗がそんな考えだったらって話だ」 「あり得ないね・・・奴の頭はアンタよりもう少し良く回るだろうさ」 「畜生、悪かったな!」 シーマに言い負かされ、憮然と頬杖をついて椅子に座り込んだライデンは、 何の気なしに矛先を目の前に座るニムバスへ向けた。 「よおニムバス、お前はどう見る」 その言葉に一同の注目が集まるが、しかしニムバスは涼しい顔でコーヒーカップに口を付け、ゆっくりと目を閉じてしまった。 「・・・分を超える。私は戦略を語る立場には無い」 「何だよ愛想のねえ野朗だな」 「何とでも言え」 しかし彼等の素っ気無い会話はここで途切れはしなかった。 突然シャアがニムバスに視線を向けたのである。 「ニムバス。そう言わずライデンの質問に答えてはくれまいか。 私も君の意見が聞いてみたいのだ」 公国軍総司令部が参謀として熱望し、総帥府軍務局が咽から手が出るほど欲した人材であるニムバス・シュターゼンは、果たして現状をどう読んでいるのだろうという純粋な興味がシャアを突き動かしたのである。 しかし当のニムバスはと言えば、軍団総大将のシャアを前にしながら、何食わぬ顔でまず横に座るアムロを振り返った。 「准尉、いえ隊長。不肖このニムバス・シュターゼン。発言しても宜しいでしょうか?」 「え、も、もちろんですニムバス中尉。ど、どうぞ」 「ありがとうございます。それでは・・・」 いきなり話を振られどぎまぎするアムロを見てニムバスはにこりと笑みを浮かべると一転、不敵な顔をライデンに向け直した。 「アムロ准尉のお許しが出たぞ。何が聞きたいのだライデン」 この野朗、幸せそうな顔をしやがってと心中で苦笑するライデン。 こいつは衆目の前で、自分の主は誰なのかという事をまんまと表明して見せたのだ。 ならばと、ライデンは単刀直入に切り込んでやる事にした。 301 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2011/05/24(火) 00 21 02 ID HyDvZoDE0 [4/8] 「このオデッサ。ジオンはこのまま戦って勝てると思うか?」 「負ける」 「即答かよ!」 全員が息を呑む暇も無く入ったライデンの突っ込みは、何とか一同の空気を凍らせずに済んだ。 「待て待て、何で俺達が負けると言い切れるんだ?」 「圧倒的な物量の違い。これに尽きる」 ニムバスの言はシンプルで無駄がない。 「いやいやしかしだな、ジオンには数多の強力なMSがあるんだぜ。 操縦に熟達したパイロット達も大勢な。 数の劣勢をひっくり返したMSの有効性はルウムで証明されてる。 連邦にも配備され始めたとは言え、現状はまだジオンのMSの方が」 「そうだな。MSの数だけはジオンが連邦に勝る点だ。 では逆に聞こうライデン。通常兵器に対しMSの優位性とは何だ」 2人のやり取りを聞いていたバーニィは思わず首を竦めた。 あれは完璧にアムロ小隊ブリーフィング時におけるニムバス教官そのものではないか。 「そりゃ決まってる。どんな状況にも対応できる汎用性と縦横無人に戦場を駆け回る機動性だ」 「だが足を止めてオデッサという拠点に張り付いたMSは、最大の武器である機動力を完全に殺されるだろう」 「うー?・・・」 威勢の良かったライデンが言葉に詰まった。 「動けないMSなどデカイだけの単なる砲台に成り下がるのだ。それは最早、MSである意味すらない」 「あー・・・」 「MSは拠点防衛には向かない。ルウムとは状況が天と地ほども違う」 きっぱりと断言したニムバスに対し何とか劣勢を挽回しようと、ライデンは頭をフル回転させた。 「そ、それじゃあMSが小隊単位で四方八方に打って出て、連邦の駐屯地を片っ端から・・・」 「早期ならそれも可能だったろう。が、現在の様に敵に厚く布陣されてしまっていてはもう仕掛ける事は不可能だ。 下手に動けば各個撃破の憂き目に合う。それほど敵の数は多いのだ。 そしてガラ空きになったオデッサ本営を敵が悠々と占領してジ・エンドだな」 ランバ・ラルは無言で頷いた。ニムバスの見識は極めて正しいと思える。 ゲリラ屋を自称する彼が思い切った動きに出られないのは正にそれが理由だったのである。 「おい、それじゃ打つ手なしって事か?このまま連邦軍に押し潰されて俺達は」 「ちっとは落ち着きなジョニー」 「いや、だってよ姐御・・・!」 「ニムバスは『このまま戦えば負ける』って言ってるのさ。熱くなるんじゃないよ」 「そ、そうなのか・・・?」 シーマに諫められたライデンが一息ついた所でニムバスは再び口を開いた。 「ライデン。このオデッサ防衛戦に決着を付ける、最も重要なファクターは何だと思う?」 「重要なファクターだと?」 「最も重要な、だ」 「お前が言っていた戦力の彼我差だろう」 「違うな」 意表を突かれた様に一瞬、ライデンが押し黙った。 「何だと・・・?そ、それじゃあ兵員の士気だ」 「それも違う」 ライデンとニムバス。無言の睨み合いを切り、ゆっくりと口を開いたのはニムバスの方だった。 「マ・クベは間違いなくこの作戦をそれありきで考えている。 先のジェーン大尉の話を聞いてそれは確信に変わった。 この期に及んで、あの策士が動かないのはそれが理由だ」 一つの事に思い当たったライデンの顔が、みるみる険しくなってゆく。 「・・・・・・核ミサイルか」 憎々しげなライデンの言葉にニムバスは静かに頷いた。 彼の周囲が静かにどよめく。それは、ニムバスの言葉の説得力を皆が認めはじめている証だった。 302 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2011/05/24(火) 00 21 58 ID HyDvZoDE0 [5/8] 「そうだ。奴は早晩、核ミサイルを使ってこのオデッサごと連邦軍の主力を吹き飛ばし、葬り去るつもりでいる。 当然その際多数の同胞も巻き込む訳だが・・・マ・クベとその側近は宇宙へ脱出し、無傷の宇宙軍と合流すれば大局的に見た場合ジオンの勝利は目前だ」 「・・・コズン達から核ミサイルの話は聞いていたが・・・奴は本当にやると思うか」 「やる。これまでの奴の動きを見れば疑う余地は無い。オッズは無効だ」 つまりこの予想は絶対に外れないという事であろう。 「私の考察はすべて、それを念頭に置いている。 それを踏まえてもらえないのであれば、これより先は話す意味は無い」 「・・・いいぜニムバス、続けてくれ」 観念した様にライデンはどっかと椅子に座り直した。 「我々が選ぶべき道は2つある。一つ目はさっさとここから逃げ出してしまう事」 「何だと!?」 色をなしたライデンを無視してニムバスは話を続ける。 「この【青い木馬】は単独で大気圏を離脱できる艦だと聞く。とりあえず上空へ脱出し、そのまま宇宙へ出てしまえばいい。 どんな敵も、あるいは味方もだが、我らを追ってくる事はできない」 「仲間を見捨てての敵前逃亡じゃないか!」 「理由など後から幾らでもでっち上げる事ができる。サイド3のアンリ准将の力を借りれば磐石だろう」 「話にならねえ・・・!」 「この方法のメリットは、ここにいる誰一人欠ける事無く宇宙にステージを移せる事だ。 今後どう動くつもりにせよ、陰日向のダイクン派と連携して動けばシャア大佐の巻き返しは可能だろう」 「・・・・・・」 ライデンは敢えてシャアを振り向く事はしなかった。 確かに今の彼等は単なるジオンの尖兵ではない。できるだけ同志の戦力を温存したいのは山々だった。 しかし・・・ 「もしその方法を採るなら、悪いが俺はここを抜けさせて貰うぜ」 突然口を開いたガイアの言葉に隣のマッシュもニヤリと笑って頷いた。 「俺はもうここの奴等と同じ釜の飯を食っちまったからな。最後まで一緒に戦ってやらにゃ面目が立たんのさ。 だがあんたらの事は口が裂けても口外せんよ」 「俺もガイアと同じだ。オルテガは・・・まあ好きにするさ」 恐らくオルテガはメイと行動を共にするであろう事は想像に難くない。 だがガイアもマッシュもそれを咎め立てるつもりなど毛頭なかった。 「・・・もう一つは」 ニムバスの言葉に俯きかけていたライデンはハッと顔を上げた。 303 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2011/05/24(火) 00 24 46 ID HyDvZoDE0 [6/8] 「マ・クベが核ミサイルを発射する間も無く、完膚なきまでの勝利で戦闘を終えてしまう事」 「それだ」 思わずライデンは机を叩いて立ち上がっていた。 「いいじゃねえか、それで行こうぜ!」 「簡単に言ってくれるが、こちらのプランはそう簡単にはいかないぞ。 しかも我々はオデッサに駐屯する部隊全てを動かせる立場には無い。せいぜいがこの地にいる大小含めて約30程の部隊しか使えない。 その上でオデッサ全軍を勝ちに導かねばならないのだ。生半可な事ではない」 「上等だ」 ライデンの顔に彼らしい生気が戻って来たのを見てシーマは微笑んだ。 燻っていたエンジンに火が入ったのだ。一旦こうなればレッドゾーンまで一気に加速するのがジョニー・ライデンという男である。 こういう表情をした時の赤い稲妻は、限界を超えてその能力を発揮するのだという事を、この場では彼女のみが知っている。 「なあそうだろうシャア大佐?」 こちらへ振り向いたライデンに、シャアは鷹揚に頷いた。 「そうだな。地球に降下した兵、特にこの最前線にいる兵士達は、ザビ家によって選別され配置されている。 つまり立場的にザビ家に厭われたり、ダイクン派に近しい者が多い」 我等と同様になと周囲を見回しながらシャアが続けると、一同から大きな笑い声と歓声が上がった。 「できれば彼等を見捨てる事は避けたい」 「やってやろうぜ!作戦を聞かせろニムバス」 「情報をくれたククルス・ドアンの旦那も確か同じ事を言っていた気がするぜえ。うまい手があるのか?」 ぐっと身を乗り出したライデンの後ろからこう聞いて来たのはコズンである。 しかし心配そうな口調とは裏腹に、表情は期待を込めてニヤケている。 「周到な準備と下ごしらえが必要だが、こちらは優秀な実行部隊には事欠かない。 やり方次第では十分に可能だろう。 しかし、その前に確認しておかねばならない事がある」 そう言いながらニムバスは冷静な眼をコズンに据え直した。 304 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2011/05/24(火) 00 25 07 ID HyDvZoDE0 [7/8] 「エルランは、核ミサイルの存在を知っているのか?」 「?いや、ドアンの旦那は確か『エルランはオデッサ作戦中、核ミサイルが発射される前に機を見て寝返る』とだけ言ってたな」 「・・・それで合点がいった。エルランは間違いなく核ミサイルの存在を知らされていない」 「む、何故そうだと判る?」 「ミサイルを発射するかどうか、全てがマ・クベの思惑次第になっているという点でだ。 敵陣にいるエルランにとってこれ程リスキーな取り引きはないだろう。 考えてもみろ、戦局がどうなろうがマ・クベの一存で有無を言わさず敵と共に始末されるんだぞ? 一般兵ならまだしも、既に連邦軍の中将たる地位にある人物が、そんな一か八かの賭けに乗る必要なぞあるものか。 今後も恐らく、マ・クベの口からエルランにミサイルの存在が知らされる事は無いだろう」 「その通りですわニムバス中尉」 頬を上気させ感服した様に口を挟んだのはジェーンだった。彼女もニムバスの智謀に少なからず興奮しているのだ。 「この期に及んでマ・クベから何の指示も無い事にエルランは焦りを感じている模様です。 しかし連絡役のジュダックも、エルランにせっつかれてもどうする事もできないとユーリ少将にぼやいていたそうです。 これらの事態を考え合わせると、エルランが核ミサイルの存在を知っているとは到底思えません」 「ははーん。冷酷なマ・クベの事だ。スパイのエルランに余計な動きをさせず、情報だけ送らせて後腐れなく綺麗サッパリ・・・って訳か」 ヤバイくらいに今の状況と辻褄が合うぜとコズンが納得した様に顎に手をやると、ニムバスは厳しい顔で頷いた。 「そうだ。恐らく予想以上の敵の数を見て、マ・クベはエルラン絡みの戦術を放棄したのだろう。 つまり『機を見て寝返る』のくだりが抹消されたと見るべきだ。 エルランは、見捨てられたな。 もし仮にエルランがミサイルの事を知らされていたとしたら、現在の彼は生きた心地もしていない筈だ。 どちらにせよ、か・・・フム。どうやら落とし所はこのあたりだな」 そう言いながら沈黙し、深く考え込んだニムバスを見て、壁際に座っていたレンチェフが呆れた様に隣のル・ローアに囁く。 「・・・おい。おい。おい。あいつは一体何者なんだ。単なるMS乗りじゃなかったのかよ。 この訳わかんねえ状況をすっかり解析しちまったぜ」 「俺が知るか。だが只者ではない事は確かだ、黙って見ていろ」 理論派のル・ローアとしては、戦術ではなく精緻を尽くした戦略を語る目前のニムバスに、リスペクトと共に軽くは無い嫉妬を感じざるを得ない。 「で、どうする、ニムバス」 おもむろに顔を上げたニムバスに、ごくりと唾を飲み込んでライデンが聞いた。 「切り札入りのカードは揃った。 これらを的確に駆使すれば、この戦い、勝機が見えて来るだろう。 だが時間が無い。一刻も早く動かねば、その勝機すら失う事になる」 そうニムバスが答えた途端、シャアはすっくと立ち上がった。 「詳しく話してくれ。その勝機をな」 ヘルメットを脇に置き、マスクを外した素顔のシャアは、ニムバスの周りに集まり来ていた人垣の真ん中にゆっくりと腰を下ろした。 324 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2011/06/08(水) 19 39 39 ID E6Gg1S/M0 [2/5] 昼の間は照りつける太陽が思うさま大地を焼き、陽炎がゆらぐオデッサの最前線。 軍服の前をはだけた2人のジオン兵が黙々とスコップを揮い、汗まみれで灼熱の大地を削っている。 ヘルメットから滴る汗はいつしか塩の筋を描き、軍靴は泥だらけになっている。 それはまるで果てしなく続く作業にも思われたが、やがてそのうちの一人が遂に、根負けした様に身を起こした。 「おい、知ってるか」 もう中年に差し掛かっているだろうひょろりとした体型の如何にもひ弱そうな兵隊が、右の尻ポケットから取り出したよれよれのタバコを咥えながら、先程から共に塹壕堀りをしていた同僚に声を掛けた。 「は、何をです?」 手を止めて振り向いたその顔は若く意外と幼い。 彼は昨日こちらに配属されてきたばかりの人員だったが、仕事の要領を覚えるのが早い事に加え、持ち前の人当たりの良さと人懐っこい態度でたちまちのうちに周囲に馴染んでしまっていた。 「・・・核ミサイルの噂を」 「か、核ミサイルッ!?」 「馬鹿っ!声が大きい!!」 せっかく声をひそめて話掛けた相手に突然大声を上げられ、痩せぎすの兵隊はタバコに火を点けるのも忘れて目を剥いた。 「す、すみません・・・」 「気をつけろよ、全く。余計な事で上に睨まれたくはないだろう」 戦場において、不確かな情報を無責任にばら撒く行為は厳罰の対象になる事は今も昔も変わらない。 しかし若いその兵士は一度は首をすくめたものの、興味深そうに話に乗ってきた。 「待てよ・・・そう言えばそんな噂、他の場所でも聞いた事があったような・・・」 「ほ、本当か、どんなだ」 「確かオデッサのマ・クベ司令が戦況がやばくなったら、とか何とか」 「それ、それだ。やっぱり他でも噂になってるのか」 おどおどと不安そうに顔を寄せて来た兵士に対し、若い兵士は思案顔を向けた。 「はあ、俺、幾つか陣地を渡って来たんですが、多かれ少なかれどこでもそんな噂は耳にしましたね。 どうせデマのたぐいだろうと聞き流していたんですが・・・ 良くあるらしいじゃないですか、戦場じゃあそういうの」 「俺も最初はそう思ってたさ。だ、だがな・・・ちょっとこれを見てみろ」 ひょろりとした兵士は火の点いていないタバコを咥えたまま周囲を見回し、誰も見ていない事を確認するとおもむろに左の尻ポケットから小さく畳まれた紙片を取り出し開いて見せた。 325 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2011/06/08(水) 19 41 31 ID E6Gg1S/M0 [3/5] 「な、何ですかこれは・・・!」 若い兵士が大げさに眼を見開いたのも無理は無い。 それは前時代的なフォルムで無機質に描かれた、核ミサイルの断面図だったのである。 良く見ると図面の端々にトップシークレットを示す当時の表記がなされているのが確認できる。 「見ての通りだ。どうもオデッサ基地には前世紀、核ミサイルが配備されてたらしいんだ。 こんな物まで出回っているのを見せられちゃあ、一概に眉唾だとは言い切れんだろう」 しかし若い兵士は手渡されたそれを改めて胡散臭げに眺め直した。 「いや偽物でしょうコレ・・・だって例えそうだとするなら、これって最高機密じゃないですか。 そんな簡単に俺たちの手に入るわけ・・・」 「それがな」 痩せた兵士は若い兵士から紙片をひったくると更に声をひそめた。 彼が喋ると下唇に張り付いたタバコがぶらぶらと揺れる。 「ここだけの話、どうもオデッサ本営からどこだかに向かう連絡機が、機体の不調だか連邦にやられたかで墜落したらしい。 パイロットは見つからなかったらしいが、どうやらその機体からデータ回収した部隊がだな・・・」 「はあ、その図面を見つけ出したと。デマにしちゃあ手が込んでるな・・・」 「あくまでも噂だし情報漏洩は厳罰だ。他言無用だぞ」 「わかりました」 とは言ってもこんな最前線で塹壕掘りをしている一般兵が、コピーされた物だとはいえ、こんな図面を所持しているのだ。 情報漏洩の広さ、既に推して知るべしであろう。他言無用が聞いて呆れる。 「これはあくまでも俺の推測だがな、墜落機からこの情報を入手した奴は、この地にいる仲間達にこの理不尽な事態を密かに知らせたくて、たぶんワザとデータを漏らしたんだと思うんだ」 「ははあ、なるほど・・・」 こうして噂には更に尾ひれが付いて行くのだろうなと、若い兵士はぶらぶら揺れるタバコを見つめながら感慨深げに聞いている。 「ジオン十字勲章なんぞクソ食らえだ。 俺だけじゃないぞ。マ・クベ指令の指先一つで訳も判らず消し飛ばされていた可能性を考えると、この情報提供者に感謝している者は多い」 熱く怒りを露にした兵士は、しかし突然がっくりとうなだれた。 「ま、だからと言って、いまさら俺達にはどうする事もできんがな。 この情報がガセだって事を祈って戦い続けるしかない。 もしもの時は・・・精々が奴の夢の中に化けて出てやるくらいが関の山さ」 「ええ。やっぱりこんなの単なるデマですよ、気にしない方がいい」 「・・・お前のお気楽さが羨ましいよ」 溜息をついた痩せた兵士が大事そうに紙片を畳み、ポケットにねじ込むと丁度上から声が掛かった。 「おい若いの!迎えが来たぞ!第87高地に移動だってよ!」 「了解です」 持っていたスコップを突き刺し、額の汗を首に掛けていたタオルで拭うと若い兵士は微笑んだ。 「何だ忙しいなお前、またどっかへ移動か」 「仕方ありません。どこも人手不足なんですよ」 苦笑する若い兵士の肩を、痩せた兵士はポンポンと二度叩いた。 「死ぬんじゃないぞ、お互いにな。また会おうバーナード伍長」 「またお会いしましょう軍曹。それから、宜しければ俺の事はバーニィと呼んで下さい。 みんなそう呼びます」 「判ったよ。バーニィ」 痩せた兵士を残し、塹壕から軽やかに駆け上ったバーニィをコズンが迎えた。 「どうだ」 「予想以上に広まるのが早いですね。ここでは俺の出番はありませんでした」 「そうか。よし、次行くぞ」 それきり、駐屯地脇に着陸している輸送機に乗り込むまで2人が口を開く事はなかった。 326 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2011/06/08(水) 19 41 58 ID E6Gg1S/M0 [4/5] ―――ジオン兵の間に広まるよう流出させたミサイルの図面は、ジェーン・コンティが秘密裏に入手してきた本物であった。 もちろん漏洩元が割れない様に偽装は巧妙に施してある。 職業柄ジェーンはこういった情報操作に長けており、この秘密の作業を嬉々として請け負った――― 輸送機の離陸寸前、バーニィは塹壕から這い出して来た痩せた兵士を確認し口元に笑みを浮かべた。 まさかあの兵士も、各ジオン駐屯地で核ミサイルの噂をばら撒いて回っているのが我々だとは夢にも思わないだろう。 取るに足りない一兵士が呟いた噂話は、裏づけとなるミサイルの図面という別方向からの情報によって一気に信憑性を増し、彼等の目論見どおり爆発的に一般兵の間に浸透したのだ。 なにしろ今回は遂に、バーニィ自身が他者から核ミサイルの噂を聞かされるに至った。 いつの間にか噂の伝わるスピードに追い抜かれてしまっていたのである。 今後果たして、マ・クベがオデッサに蔓延するこの『真実の噂』をどう処理するか見ものではあるが、残念ながらシャア達にそれをゆっくりと見物している暇は無かった。 【青い木馬】の主だった面々は現在、それぞれ別の役割を割り振られ、戦場に散っている。 全ては迅速に、ジオンを勝たせる為の作戦を遂行する為にだ。 核ミサイルなど撃たせはしない。 あの、タバコを咥えた気の良い軍曹も死なせはしないとバーニィは気合を入れ直した。 各地で奮闘している仲間達の姿を思い浮かべながら、泥だらけの足を投げ出したバーニィは、輸送機の副操縦席で暫しのまどろみの中に埋没していった。 普段は口数の多いコズンも、寝入ったバーニィの横顔を操縦席から確認すると、再び機が着陸態勢に入るまでの約1時間を珍しく無言で通した。 346 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2011/06/18(土) 20 00 32 ID J00.gFv.0 [2/7] 頭部にブレードアンテナの付いた赤いザク改は絶好調であった。 C型ザクで編成された友軍の防御陣地を一気に突破せんと突出して来た61式戦車と連邦製MSの混成部隊のド真ん中に単独で踊り込むや、新装備のMMP-80ザクマシンガンを撃ち散らし、ハンド・グレネードを放り、初期モノと比べて幾分刃渡りの伸びた新型ヒートホークを揮いまくって敵を散々に翻弄した挙句、ほぼ1機のみで敵部隊を敗走に追い込んだのである。 出力が桁違いとなった足回りのスラスターを擬似ホバーとして使用し、まるでドムの様に滑空する悪鬼の様な赤いザクは連邦兵達を残らず震え上がらせた。 「使えるぜ・・・!」 コックピットに座る仮面の男は、速やかに機体を後退させながらザク改の手にするMMP-80の感触をレバー越しに確かめた。 従来のMMP-78ザクマシンガンとは段違いの速射性と命中性、そして何といっても貫通力が素晴らしい。 そのうえ弾倉がドラム型から箱型に変更された為にジャミング率が低下し持ち運びも容易となった。 口径こそ120ミリから90ミリに小型化されたものの弾丸の威力そのものがアップし、装弾数も増加しているとなれば、全てのスペックが上位互換されたといって差し支えはないだろう。 MMP-80を投入すれば連邦軍の新型MSとも十分に渡り合える事が、この戦闘で改めて実証されたのである。 『シャア大佐!』 「引けクランプ大尉。ここはもういい、輸送機に帰還するぞ」 『了解、であります!』 後方に陣取り的確に援護射撃を加えていたクランプのザク改を下がらせると、仮面の男は赤いザク改に更に退避行動を取らせるべく機動をかけた。 『失礼します、シャア大佐、お目にかかれて光栄であります!!』 「おっと・・・おま、いや、君は?」 突然割り込んで来た通信に、仮面の男は慌てて口元を引き締めた。 『は、先程援護して頂いた第262戦団のスラブ少尉であります』 「少尉、無事で何よりだったなあ」 『赤い彗星の噂に違わぬ実力、感服いたしました。大佐は我が軍の誇りです! 共に戦える我らは幸せであります!!』 戦闘濃度に散布されたミノフスキー粒子の為にやや走査線が入っているものの、その向こうの少尉が感激の眼差しでこちらを見ているのをクッキリとスクリーンは映し出している。 同じ様にこちらの映像も向こうのモニターに映し出されている筈だが、仮面を付けた男の口は、なぜか素直に笑っているのではなさそうだった。 「・・・いつでも私は救援に駆けつける。もうひと踏ん張りだ、気を抜かずに行け少尉」 『は!ご武運をシャア大佐!!』 上気した顔で敬礼した士官の映像は唐突に切れた。と、入れ替わるように今度はシーマ・ガラハウの顔が通信モニターに映し出された。 『あっはっは!・・・ご苦労様でありますシャア大佐!』 「・・・・・・」 苦い虫を噛んで潰した様に口元を歪めた仮面の男は、大笑いした後、わざとらしく大真面目な敬礼を向けたシーマにようやく 「覚えてろよ姐御・・・」 とだけ小さく呻きながらコンソールを叩き、通信用の【一般回線】を【秘匿回線】に切り替えた。 『どうしてどうして、大佐っぷりが板について来たじゃないかジョニー』 「大佐っぷりとか言うな!俺だって好き好んでやってる訳じゃねえんだ!!」 もちろんこのシーマとの通信は【秘匿回線】にて行われている為、他の者は味方と言えど聞く事はできない。 『しかしどうした風の吹き回しだい、アンタが大嫌いなシャア大佐のダミーを引き受けると言い出した時は何かの冗談かと思ったよ』 「・・・まあ、ちょっとな」 マスクのせいで視野が狭くなるかと危惧していたが実際はそうでもない。 シャア・アズナブルの赤い軍服で身を包んだジョニー・ライデンは、その仮面の下から突き出た鼻先を手袋を嵌めた指先で軽く擦った。 347 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2011/06/18(土) 20 01 48 ID J00.gFv.0 [3/7] 一人ハンガーへ向かっていたライデンを後ろから追いかけて来たシャアが呼び止めたのは、ブリーフィング直後の事であった。 その場でシャアに何かを耳打ちされたライデンは不審そうに顔をしかめた。 「ああん?それは俺がやるって話だったろう」 「いや、やはり私が直接行くべきだ。 私ならば相手の出方に対して柔軟に対応できる。ここでしくじる事は絶対に許されんからな」 意外なシャアの申し出に、ライデンは戸惑いを隠す事ができない。 ちなみに彼の上官を上官とも思わない口ぶりは相変わらずだったが、シャアは既にそんな事は気にもしていなかった。 「いやまあそりゃそうだけどよ。危険だぜ?ある意味虎の口に飛び込むみたいなモンだからな。 ラルの親父やゲラートのおっさんも許さねえだろ。キャスバル様ァ~に何かあっては・・・ってな」 キャスバル様、の所で故意に揶揄を込めて来たライデンの言葉を、シャアは事も無げに聞き流した。 「説得するさ。何せ作戦の成功率はこちらの方が圧倒的に高いのだ、渋々でも認めざるを得まい。 その間、お前には私のダミーを演じていて貰いたい。お前ならば、やれるだろう」 「わからねえな」 茶化しが空ぶったライデンは憮然としてシャアを睨みつけた。この男の考えが全く読めない。 「ダイクン派の御大将としてどーんと構えてりゃいいじゃねえか。アブねえ事や面倒臭え事は俺ら下っ端に任せてよ。 何でわざわざ自分から危険な目に遭いたがるんだ?」 「こういう時は、軍団のトップが敢えて先陣を切るべきなのだ。でないと示しがつかんだろう。全軍の士気にもかかわる」 「・・・・・・・・・」 しかしライデンはシャアの言葉を全くもって信用せず、シラケた視線で一瞥しただけだった。 間の悪い無言の時間が数瞬、2人の間をすり抜けてゆく。 「・・・そんな建前は、どうやらお前には通用しないようだな」 そう言いながら腰に手をやり、何かを考え込んだまま俯いてしまったシャアに油断の無い眼光を向けたまま、ライデンは大きく頷く。 「当たり前だ。正直に言え」 そのまま数瞬――― やがてシャアはライデンに向けて少しだけ目線を上げ、諦めた様に口を開いた。 「・・・ミハルにな。いいところを見せたい」 「んが?」 いきなり何を言い出すんだコイツはとあんぐり口を開けたライデンに、シャアは肩の怪我が完治してからもほぼ毎夜続いているミハルとの逢瀬を手短に話した。 流石に最初は驚いた表情を見せたライデンだったが、その後は意外にも茶々を入れる事無くシャアの話にじっと耳を傾けている。 「脱ぎ散らした衣服をミハルは文句も言わず片付けてくれる。衣服の傷みも針と糸できっちり直す。 スツールにはキャンプの片隅で摘んできた小さな花を飾り、散らかった部屋も片っ端から整頓してくれる。 彼女に下心など何も無い。見返りなど、何も求めない。 掃除ぐらいはやれると言ったらミハルは笑ってこう言ったのだ。 『大佐の掃除は荒くて、結局もう一度掃除し直す事になるから同じ』だと。 それを言われた時の情けなさが判るかライデン」 だれだって得意な事とそうじゃないことがあるだろ?苦手な事を嫌々すると効率も悪いし出来も良くないしでいい事なんてないんだよ。 だからあたしがやってあげる。掃除って好きだし、大佐さえ迷惑じゃなけりゃ・・・あたしがここに来る限りいつだって大佐の事は全部やってあげるよ。 そう言ってまたミハルは屈託なく笑った。 348 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2011/06/18(土) 20 02 42 ID J00.gFv.0 [4/7] 「そう言われて私は考えた。それならば私の得意な事とは一体何か、とな。 ・・・その後、絶望的な気持ちになった」 「・・・・・・」 「私の得手はろくでもないものばかりだった。彼女に胸を張れるものなど何一つとして無いと改めて気がついたのだ」 「うわ、耳がいてえ」 何某か思い当たる事があったのだろう。ライデンもまるで自分の事の様に思わず身をよじった。 「だが私にも矜持と言う物がある。 だからミハルに聞いたのだ、なんでもいい、お前が望むものは何かとな」 この期に及んでシャアはこの時、隠し持っている財産の事を思い浮かべていた。 あれだけの金塊があれば、まず相当な物が買い与えてやれる筈だった。 「ミハルは連邦とジオンの引き起こした戦争で両親を失い、幼い兄妹と共に施設に収容されたそうだ。 もし彼女が金銭的なものではなく連邦やジオン、あるいはその両方に復讐を望んでいるのならば話は早い。 私の得手もそれならば存分に生かせるだろう。必要とあらば【父の名】すらも利用して彼女の望みを叶えてやれる、そう考えていた」 ギラリと仮面の奥の瞳が妖しく輝いた気がしてライデンは眉をひそめた。 復讐の為にたった一人でジオン軍に潜入し、実力と謀略を駆使して大佐まで這い上がったシャアである。 この男がそちらの方面で本腰を入れたら叶わぬ野望は無いのではないかという、底知れぬ執念を感じる。 恐らく全てを手に入れる事はできないまでも、執拗に標的を追い詰めて最終的には蜂の一刺し、ぐらいはやってのけるだろう。 しかしこの得体の知れない「負の想念」が滲み出ているからこそ、今までライデンはシャアに対して警戒感を解ききれずにいたのである。 「・・・彼女は何と答えたんだ」 擦れた声でのライデンの問いに一拍の後、シャアは口を開いた。 「家族や友達、宇宙や地球に住んでいる人間同士が仲良く安心して暮らせる世の中・・・だそうだ」 ミハルの望みが物騒なものでなかった事にとりあえず安堵し、思わずいろいろな意味で天を仰いでしまったライデンだった。 しかし、それはそれでとてつもない望みではある。 「大きく出たなオイ・・・」 「いや、聞かれたから素直に思うままを答えただけであって、ミハルはこれを私に要求した訳ではないさ。 彼女にはそんな駆け引きは出来ん。 しかしこれは、私のプライドが叩き壊されるかどうかの瀬戸際なのだ」 もちろん、トランクひとつ分の金塊などではどうにもならない。 「・・・だから私は、私のやれる最大限の事をやる事にした。 この計略が上手く行けば両軍共にオデッサでの被害は最小限で済む。ミハルの望みに、一歩近付く事になる」 今ならば、ガルマの心境が少しだけ理解できる。 かつて本質を知りもせず『女性の為に功を焦るのは良くない』と冷淡に嘯いた男は悔恨していた。 「ほおお?」 ライデンはさも面白そうに腕組みをした。先程とは明らかにシャアに向ける目が違っている。 「つまりその成果をミハルに見せつけたいと」 「・・・そうだ」 「ジオン国民、ダイクン派、他の誰でもなく、ただ一人の惚れた女に格好つけてみせたいと」 「・・・そうだ」 「あわよくば褒めて貰いたいと」 「・・・そうだ」 突然クククと笑い出したライデンは、片腕でシャアの首をガッチリ抱え込んだ。 前向きなヘタレは嫌いではない。そういう輩は援護してやりたくなるのがジョニー・ライデンの性分だった。 「くだらねえ綺麗事をほざいたら蹴っ飛ばしてやるつもりでいたが、いいぜそういうの。 いいだろう大将、協力するぜ。そのかわり、勝ち戦の後は一杯奢れよ」 「判った。とっておきの奴を振舞おう」 ギリギリと絞まる腕の中で仮面の下の顔が笑っていた。それはシャアが自分に初めて見せるウソ偽りのない笑顔である事を、ライデンは確信していた。 この男はこんな風に、笑うのだ。 349 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2011/06/18(土) 20 03 27 ID J00.gFv.0 [5/7] 「いやーしかし判らんもんだな、お前とあの娘がねんごろだとは・・・」 「・・・私は指一本、彼女には触れていない」 「はああああああああああああ!?」 シャアがそう言った瞬間、今日で一番、ライデンの瞳が見開かれ顎関節症もかくやと思わせるほど口が大きく開いた。 彼のアイデンティティからすれば、そんなバカな事は到底ありえない状況であるはずだった。 腕が緩んだのを見計らい、シャアはするりとライデンの拘束から抜け出した。 「・・・いや指一本は言い過ぎだったな、手とか肩には」 「いやいやいやそーゆー事じゃねえ!ちょっと待てよ、ロドス島からこっち、結構日にち経ってるぞおい。 その間2人きりでいて、何にも無いはねえだろう」 「・・・彼女は特別な女性だ。この私の血まみれの手で彼女を抱く事はできんさ」 シャアのスカした答えに何故だかライデンの血管がブチ切れた。 ミハルの為にも、ここは怒ってやっていい場面だろう。 「古臭えオペラやってんじゃねーんだよボケが!健気に毎晩やって来る彼女が可哀相だろうが!」 「? 意味が判らんな」 あ、ダメだコイツとライデンの力が抜けてゆく。 世間ズレしている様でいて、根っこの所はどうしようもないお坊ちゃんなのだ、コイツも。 この分では恐らくまともな恋愛など、一度として経験した事が無いに決まっている。 これは厄介なカップルに介入してしまった様だと、ライデンは自らの体勢をぎこちなく立て直しながら内心頭を抱えた。 ・・・以上のやり取りを、武士の情け的な意味合いで、ライデンは今のところシーマにすら話していなかった・・・ 350 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2011/06/18(土) 20 04 17 ID J00.gFv.0 [6/7] 「心境の変化・・・って奴かなうん。まあ仕方ねえから面倒見てやるか・・・ってな」 「ふーん?あんだけ大佐に突っかかってたアンタがねえ・・・」 何があったか知らないが、金や権力に擦り寄っていくライデンで無い事だけは確かである。 まだ完全に納得がいった訳では無いものの、まあここはひとまず見逃してやるかとシーマは薄く笑った。 いざとなればプライベートで白状させる方法を色々と持っている彼女には、絶対的な余裕がある。 「まあ、いいさ。これで大佐は誰の目も気にせず自由に動ける様になったんだからね」 シーマの言う「誰」とは大方にマ・クベの息のかかった諜報員を指す。 ダイクン派が多く集う青い木馬には間違いなくマ・クベの監視の目が絡み付いている。シャアがオデッサ防衛戦に正式に参戦した以上、その姿は確実に多方面からマークされていると見るべきだった。 シャアの姿が無いとなれば、マ・クベはこちらの動きに気付く可能性がある。それだけは、何としても避けねばならない。 現在シーマは分隊を率いて木馬を離れ、ライデン扮するシャアの影武者を引き連れて守りの薄いオデッサの最前線を廻り、疲労した将兵を鼓舞すると共に連邦軍に押され気味な各部隊の援護に奔走している訳だが、すなわちこの行動はジオン軍各部隊に対し、シャアの居場所を誇示するデモンストレーション的な意味合いが強かった。 「ヘッ、敵味方に素顔がバレてないってのは盲点だったよな。 この目立つ服装も、ダミーをやるならむしろ都合が良いってなもんだぜ」 ニヤリと笑ったライデンは自ら着込んでいる赤い軍服を指差したが、戦場においてシャアのダミーは簡単に勤まりはしない事をシーマは心得ている。 本物のシャアと同様に赤いザクを駆り、戦場では敵味方双方に圧倒的な技量差を見せ付ける事ができて初めてジオンの英雄「赤い彗星」の影武者たりえるのだ。 シャア専用にタイトなチューンUPを施されたMSを苦もなく乗りこなす卓抜した技量、そして体格や背格好までを考え合わせると、この役目は正に「真紅の稲妻」ジョニー・ライデンしか果たし得ないものであっただろう。 「ルウムの時は良くシャアと間違えられた」と豪語するライデンの面目躍如である。 とまれ、こうしてライデンが稼ぎ出した時間を使い、一般兵用の軍服を着込み飾りの無いヘルメットを着用した本物のシャアは堂々と、誰にも見咎められずに青い木馬を離れる事ができた。 「さてさて・・・お膳立ては整えたぜ大将。次はお前の番だ」 上手くやるんだぜとひとりごちたライデンは、自分より3つほど年下であるシャアの素顔を思い浮かべると、マスク越しに夕闇の迫る空を振り仰いだ。 そして自分達が留守の間に何事も起こらねばいいが、と、今は遠くこの空の下にいる青い木馬にも思いを馳せた。 370 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2011/07/06(水) 20 35 34 ID NNjPWFdI0 [2/6] オデッサ鉱山基地から飛び立った偵察機ルッグンはモルドバを抜け、カルパティア山脈の連峰をギリギリにかすめて飛び、ユーリ・ケラーネ少将率いるヨーロッパ方面制圧軍の駐留するリボアに到着した。 この飛行ルートは今や、地上において連邦軍の包囲に邪魔されずに外界と行き来できるジオン軍唯一の抜け道である。 ただしカルパティア山脈の天候は非常に変わり易い。 操縦桿を握るジュダックも、このルートを飛び慣れているにもかかわらず、荒れた天候に巻き込まれて冷汗を流した事は幾度もあった。 だがこんな危険な思いも恐らくこの往復が最後となるだろう。 そんな気安さからか、ジュダックは鼻歌交じりでルッグンを巨大陸戦艇ダブデの飛行甲板に着陸させると意気揚々とデッキに降り立った。 「整備と燃料の補給だ。手を抜くなよ」 驚いた様にデッキに出て来た整備員にいつも通りの横柄な口調で指示を加えた後、ジュダックは軽い足取りでダブデの艦橋に向かう。 「いやはや驚いたな。まさかこのタイミングで現れるとは!」 艦橋に入るなり、大きく両腕を開いてオーバーリアクション気味に声を上げジュダックを迎えたのはこの艦の主、ヨーロッパ戦線の師団司令官ユーリ・ケラーネ少将である。 袖裂きにして着崩した軍服の前をはだけさせ、金のネックレスと共にこれ見よがしに筋肉質な胸元を誇示するそのワイルドな出で立ちは、自らの体躯に少なからぬコンプレックスを持つジュダックを何時もいらいらさせる。 彼の後ろには秘書であるシンシアの姿も見えるが、何やら黒いアタッシュケースを抱え持っているのが不似合いだ。 「ふん。こちらにはこちらの都合があるのだ。それよりもやけに着艦許可が出るのが遅かったな」 「いや悪かった。こちらにも、こちらの都合があったんでな」 階級では遥かにユーリの方が上ではあるものの、マ・クベ直属の間諜であるジュダックはまるで同格の様にユーリと接する。 が、これはジオン軍においてザビ家の恩寵を享受している一派に共通する姿勢であり、なにもジュダックに限ったものではなかった。 ユーリとしてはもちろん面白かろう筈も無いが、そんな表情は今のところおくびにも出していない。 「あまりタルんでいるようなら、マ・クベ様に報告せねばならんぞ」 「まあ許せや、俺達は一蓮托生じゃねえか。それより今回、マ・クベ司令はエルランに何と?」 「金が先だ。それと、そろそろその女をな」 ジュダックの視線に晒されたシンシアはびくりと身をすくめたが、ユーリはその巨躯でさりげなくジュダックの視線を遮った。 「悪いがシンシアだけは勘弁してくれ。その分今回はホレ、張り込んだぜ」 シンシアに持って来させたアタッシュケースをユーリが開くと、そこには金のインゴットがびっしりと収められているのが見えた。 371 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2011/07/06(水) 20 36 28 ID NNjPWFdI0 [3/6] 「おお」 「おっと・・・情報が先だ」 喜色を浮かべて手を伸ばそうとしたジュダックの前で、ユーリはバタンとケースを閉じてしまったのである。 舌打ちしたジュダックは渋々、エルランに向けたマ・クベの指令をユーリに喋りはじめた。 このダブデは元々、連邦軍の元に赴くジュダックの為にマ・クベが設定した中継地である。 間諜としてジオンと連邦、両陣営の軍籍を持つジュダックも互いの陣営に敵方の飛行機で直接乗りつける事はできない為、中継地たるこのダブデで軍服と飛行機を「着替える」必要があったのである。 マ・クベにとって隠密を旨とする任務の関係上これは苦肉の策でもあったのだが、彼が徹底的に指示した緘口令の間隙をぬい、ジュダックに「手土産」持参で接触しまんまと彼から情報を引き出す事に成功したのは海千山千のユーリならではの手腕であった。 全てを聞き終えた後、完全に表情を消したユーリの手からジュダックはものも言わず金塊入りのアタッシュケースをもぎ取ると踵を返し、その後はたと気がついた様に振り返った。 「そう言えば、私のドラゴン・フライはどこだ。飛行甲板には見えなかったようだが?」 連邦軍の軽連絡機ドラゴン・フライ。 いつもはダブデの飛行甲板にスタンバイしている筈のドラゴン・フライが無かったが為に、今回はそこへルッグンを着陸させた訳だが。 「・・・しゃあねぇな。今頃ノコノコ現れたお前が悪いんだ。ま、悪く思うな」 半笑いのユーリがそう言って片手を上げた途端、小火器を構えたユーリの部下がドアの影から現れ、銃口を向けつつジュダックを取り囲んだのである。 「なっ、何っ!?」 動転したジュダックは手にしていたアタッシュケースを取り落とし、落ちた衝撃で飛び出した金塊が床に散らばった。 「ど、どういう事だ貴様ら!?」 「ああ騒ぐんじゃねえよ、うるせえ。どの道お前はもう終わりなんだからよ」 面倒臭そうにひらひらと手を振るユーリにジュダックは仰天して眼を剥いた。 「なに!?いったい何を貴様!?私にこんな事をしてただで済むと・・・!!」 「悪いな、俺達は主をとっ換えたんだ」 「あ、主を、とっ換え・・・何だと!?」 冗談ではない。 「そうだ、権力を簒奪したザビ家からジオン本来の継承者にな」 「何・・・・・・!?」 ざっと音をたてて血の気がジュダックの顔から引いた。こいつは今、何と言った!? 「この金塊は手付けだとさ。ケチ臭いマ・クベと違って太っ腹だぜ。 まあ、陰険なマ・クベの下はいい加減ウンザリしてたし、今回は事が事だ、こんなモンがなくても俺等はキャスバル派に乗り換えたがな。 だが貰えるものは有り難く貰っとくのが俺の主義だ。だからこれは返してもらうぞ」 銃を突きつけられて一歩も動けないジュダックの足元に散らばる金塊をユーリはそう言いながらゆっくりと拾い集め再びアタッシュケースに収めると、フタを閉め直してから立ち上がり、後方のシンシアに再びそれを手渡した。 372 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2011/07/06(水) 20 37 26 ID NNjPWFdI0 [4/6] 「ユーリ様、あまり余計な事は」 アタッシュケースを受け取る際、ジュダックとの会話をたしなめる様に口を挟んだシンシアに、ユーリはにやりと笑った。 「そういやニムバスって奴にもそう言われてたな。 まあ、構うものかよ。どうせコイツはここから生きては出られねえ。冥土の土産というやつだ」 見る間にジュダックの体ががたがたと震えはじめる。何かの間違いではないらしいという実感がようやく追いついてきたのである。 「兵達の間で蔓延している核ミサイルの噂、あれは本当らしいな。 さんざコキ使っといてそれかよ。俺達をコケにしやがって・・・貴様ら絶対に許さねえからな」 「・・・っ!!」 一転、静かに殺気を孕んだユーリの強烈な眼光に射すくめられ、ジュダックの恐怖は頂点に達した。 「・・・始末は後だ。ぶち込んどけ」 意味をなさない悲鳴に似た抗議の声を上げるジュダックを無視し、五月蝿そうに手を振って部下にそう命じたユーリは、周囲から銃を突きつけられた状態で両脇を抱えられ、つんのめる様に連行されて行くジュダックの後姿をシンシアと共に苦い表情で見送った。 「上手く行くでしょうか」 「行くかじゃなく、何としてでも上手く行かせるんだ。俺たちの手でな」 ダメなら核ミサイルで全員アウトだとはユーリは敢えて口にしなかった。 特にダイクン派という訳でもなかったユーリがザビ家とダイクン派のどちらを選ぶか・・・ 常時ならば簡単に答の出せる物ではなかったかもしれない。 しかし今回に限り選択の余地は無かった。 核ミサイルで連邦軍もろとも吹き飛ばされない為には、迅速にダイクン派に組するしかなかったのである。 結果的に、何にも増して【マ・クベの核ミサイル】が戦場に散らばるジオン兵士達の支持をダイクン派に急速に固める決め手になった事は皮肉であった。 「大きな事を言っていたあのサハリン家のお坊ちゃんも結局、この大事な戦(いくさ)に間に合わなかったしな・・・」 「ギニアス様からの連絡は相変わらず途絶したままです」 「けっ・・・!役立たずがっ・・・!!」 ここを切り抜けたらあのボンボン締め上げてやるぜ、そう吐き捨てたユーリは凶悪に歪んだ視線を隠す様にポケットから取り出した色の濃いサングラスをかけた。 「それにしても、肝が据わっていやがったなあのキャスバルって若造。ギニアスなんぞとは偉い違いだ」 「はい。とても素敵なお方でしたわ」 「おいおい」 ぽっと顔を赤らめたシンシアにユーリのサングラスがずり落ちた。 「俺の前でそれを言うかよ」 「あら御免あそばせ。でもきっと、キャスバル様はもう、想う人がおありですよ」 そう言いながらすっとうなじの後れ毛を払ったシンシアの仕草ををぽかんと見つめていたユーリは、慌ててサングラスをかけ直した。 「・・・何だそりゃ、女の勘って奴か」 照れ隠しでそう呟いたユーリにシンシアはさあどうでしょうと微笑んだ。 373 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2011/07/06(水) 20 38 05 ID NNjPWFdI0 [5/6] 「今はあいつに賭けるしかねえが、不思議とあいつなら大丈夫だろうと思える。 あーいう雰囲気が大事なんだ。 軍団を束ねるボスにしては些か若すぎるが、見込みはあらあな」 人物評価は非常に辛いユーリ・ケラーネ少将には珍しく、手放しの褒め湛え様である。 それにしても間一髪であった。 ジュダックの来訪が2時間ほど早ければ、ニアミスしていてもおかしくはなかった。 つまり、つい今しがたまで当のキャスバルはここにいたのである。 「厄介な事にならずに済んで何よりだった。ツキもある」 この勝負、いけるぜと豪快に笑ったユーリはサングラスを嵌めた目で、ダブデの艦橋から沈み行く夕日を眺めた。 その方向には今やそう遠く無い場所にオデッサに向かう連邦軍の大部隊がいるはずである。そして 「敵の真っ只中に飛び込んで行った、命知らずの我らがボスに乾杯だ」 いつの間にかシンシアが用意していた酒盃を、ユーリは太陽に向けて掲げていた。 部屋へ入ってくるなり、その連邦軍兵士は彼の前で敬礼して見せた。 とうに人払いは済ませておいた為、この部屋には彼等2人しかいない。 「・・・貴様か、ジュダックの代理で来たというのは」 手元の資料と目の前の人物とを交互に見比べながらエルランは、ようやく来たかと安堵した声を上げた。 この男が乗って来たドラゴン・フライは既に、機体番号からジュダックが使用していたものである事が判明している。 当然の如く名前や認識番号等全てのデータを洗ってみたものの、不審な箇所は何一つ見つからなかった。 つまり、こいつは本当に、ジュダックの代理としてマ・クベが用意した男に間違いは無いとエルランは判断したのである。 しかし、機に同乗していたもう一人の兵士は念の為別室で待機させている。 会談に応じるのはあくまでも一人だけだ。念には念を入れるに越した事はあるまい。 目の前の人物の資料には眼底色素に異常があり、ガンマ線量が一定値を超える状況下でのバイザー着用必須・・・となっているのが目を引く。 「は、クワトロ・バジーナ大尉であります」 大きめのバイザーをキラリと輝かせた兵士は、まるでエルランを見下すように、不敵な声でそう答えた。 393 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2011/07/20(水) 19 36 50 ID S4mLdpSQ0 [2/5] 「オデッサ作戦」とは、ジオンの大規模採掘基地があるオデッサ周辺地域の奪回と、バルカン半島から東欧にかけて広く展開するジオン軍の一掃を目的とする連邦軍の一大反攻作戦である。 ジオン軍の執拗な妨害にあいながらも物量に勝る連邦軍先発部隊は先日遂に、全て所定の場所に配置を完了し、後はレビルが座乗するビッグ・トレー級陸上戦艦【バターン】を擁する本隊の到着を待つばかりとなっていた。 旧地域におけるルーマニアとブルガリアのちょうど国境地帯にあたるルセ近郊の山岳地帯をぬう様に流れる川のほとり。 厳密に言えば実際のオデッサから遠く離れたこの地域も「オデッサ作戦」の作戦範囲である。 ここには現在、連邦軍の機動部隊が駐留している。 レビル将軍率いる本隊が欧州方面からオデッサに攻め込む事を考えるとここはオデッサの後背と言えなくもない。 が、ここにいる部隊はかの地を牽制包囲する為だけに布陣しているに過ぎず、戦力自体は小規模なものである。 ジオン軍にとって今回の作戦は≪篭城戦≫に近いものがあり、実質的にここの戦力がオデッサ作戦において駆りだされる確率はほぼゼロに近い。 唯一、ジオン兵と戦火を交える可能性があるとすればオデッサが落ちた場合の、ジオン敗走兵の掃討くらいだろう。 大量の兵器と人員を投入した大作戦であればある程、こうしたエアポケット的な安全地帯が発生する。 「異常なし。全て世は事もなし・・・」 仲間のいる野営地から離れ、小高い丘の上で一人歩哨に立っていた軍曹は、交代の人員が麓からやって来たのを確認すると、ほっとした様に首に掛けていた双眼鏡を外した。 「おい聞いたか。『マ・クベは核ミサイルをオデッサに隠し持っている』らしいぜ・・・」 「は?」 ねぎらいの挨拶もそこそこに、やって来た少尉にいきなりそう切り出された新米の軍曹は、すぐにはその意味が理解できずポカンと口を開けた。 「さっきガラツから戻ったグラッデンがそう言っていた。 どうやら今、オデッサに駐留してる連邦兵達の間ではその噂でもちきりらしい」 「マ・クベって、敵の、あの、オデッサ鉱山基地指令ので、ありますか? 何ですって?核ミサイルって・・・は?」 やや子供っぽさを表情に残した軍曹は混乱しつつも無理やり笑おうとしたが、真剣な上官の顔を見てそれが冗談でない事を悟った。 「詳しくは判らんが、どうやらジオンの通信を偶然傍受した奴がいたらしい。 ああ、通信を傍受したのは一人だけじゃなかったとも言ってたな」 「・・・」 渡された双眼鏡を首に掛けながら淡々と少尉は話を続ける。 普段は陽気なこの少尉が、先程から眼前の軍曹とは長く視線を合わせようとしない。 「『戦況が悪化すればマ・クベは戦術核ミサイルを発射し、オデッサにいる友軍ごと連邦の大部隊を吹き飛ばす』だとか 『ジオン軍の犠牲者は十字勲章を贈られ、その家族はザビ家から一生涯の生活を保障される』だとか・・・内容はゴキゲンなものばかりだったそうだ。 指揮官は即座に緘口令を敷いたらしいが、ま、内容が内容なだけに情報が漏れ出るのを完全に押さえる事は不可能だった・・・って訳だろうな」 「そ、そんな・・・南極条約違反じゃないですか!!」 「・・・そうだな、うむ。お前は正しいよ。じゃあお前、それをマ・クベに言って来い」 「・・・・・・」 「・・・・・・」 一陣の風が2人の間をすり抜ける。 「ここに配属された時は俺の運も捨てたものじゃねえと思ってたが、どうやら甘くはなかったかも知れんな」 「そんな・・・」 途方に暮れた軍曹を無視するように少尉は無言で双眼鏡を覗き込んだ。 394 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2011/07/20(水) 19 38 30 ID S4mLdpSQ0 [3/5] 当初、それは単なる“噂”であった。 しかしどこからか流れて来たその“噂”は妙な信憑性を孕んでおり、オデッサ攻略の為に配備中の連邦兵の間に浸透し、彼等を徐々に浮き足立たせていった。 そして遂には前時代時に実際に配備されていたというミサイルの詳細な図面が出回るに至り、今や連邦兵にとってもこの“噂”は、末端の一兵卒すら知らぬ者は無い“公然の秘密”に近い認識となっていたのである。 中には冷静に、戦場にありがちなデマに踊らされるなと“噂”を笑い飛ばす兵士もいた。 が、ジオン軍が実際に敢行したコロニー落としという狂信的な行いを引き合いに出されると、その者も口を噤むしかなかった。 ジオン軍がコロニー落としを敢行した際、地球重力に捉われる寸前までコロニー【アイランド・イフィッシュ】を直衛した機動護衛軍の中には、コロニー落下を阻止せんとする地球連邦軍の必死の攻撃から自身を盾にしてコロニーを護る“殉死MS”が数多く見られたのである。 連邦兵のアイデンティティでは到底理解しがたいその行動は、彼等に決死のスペースノイドには常識が通用しないのだという概念を強烈に刻み込んでいたのだった。 『マ・クベは核ミサイルをオデッサに隠し持っている』・・・ そして前線の連邦全軍に混乱をきたしつつあるこの不吉な“噂”は今まさにオデッサに乗り込まんとブレストに到達していた連邦軍の本隊に届くに至った。 ―――複数の部隊の兵士がこの内容のジオンの暗号通信のやりとりを傍受し、解読したのは紛れも無い≪事実≫だったからである。 果たしてそれは、連邦軍本隊のオデッサへの進撃速度を覿面に鈍らせる効果を招いた。 先遣隊が首を長くして待っているにも拘らず、予定到着日を三日過ぎ五日が過ぎても、待てど暮らせど連邦軍の本営となるべきレビル将軍の座乗艦である陸戦艇バターンはオデッサに到着しない。 レビル将軍を筆頭とする徹底交戦派と進撃慎重派の意見が割れ、ここに来て全軍の移動スピードががた落ちになってしまったのだ。 進撃を命ずるレビル将軍に対し、進撃慎重派に属するバターン艦長はエンジン不調を訴える。 レビルが何と言おうが艦長は原因不明だと繰り返すのみで埒があかないのだ。 まるで亀の歩みの如くの「及び腰」。今やそれが誰の目にも明らかな連邦軍の進軍速度だった。 395 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2011/07/20(水) 19 38 50 ID S4mLdpSQ0 [4/5] 「是非も無い!!」 ビッグ・トレー級陸上戦艦【バターン】内部の作戦司令室。 並み居る将官たちの前でいらいらとレビルは吐き捨てた。 「敵に時間を与えてはいかんというのが何故判らんのだ!! こうしている間にも敵は着々と迎撃態勢を整えているのだぞ!!」 「そうは言われましてもレビル将軍」 レビルを挟み、デスクを兼ねた巨大なスクリーンコンソールの対面に座ったバターン艦長ジェイファー少将はどこか緊張感の抜けた顔で口を開いた。 「記録によれば確かに前時代、オデッサの地にミサイルサイロが存在し、戦術核が存在していたのは事実。 ここはもっと慎重に事を運ぶべきなのではありませんかな?」 そのもったいぶった言い口に、レビルはうんざりと聞き返す。 「慎重?慎重とは具体的に何を指すのかね」 「特殊部隊や工作員をオデッサの地に潜入させて、ミサイルの無力化を図るのです」 「いい案だ。敵が皆、ジェイファー君の様に悠長でいてくれるならば有効な作戦だろう」 「な・・・!」 レビルの一言でばっさりと切り捨てられたジェイファーは絶句し顔色を赤から青へと目まぐるしく変えた。 「報告によれば核ミサイルに関する暗号の強度は然程強くなかったと聞く。 敵はこの情報を我々に“確実に解読させたかった”のだよ。 これが何を意味するのか・・・!」 レビルにひと睨みされたジェイファーは言葉に詰まった。 「仮にミサイルが実在するにしても“我々がそれを知った事を知られてしまっている”今、オデッサの警戒はアリの這い入る隙間も無いほど厳重になっているだろう。 そこへのこのこと工作員を派遣するつもりかね?」 「・・・じ、実はもう既に・・・」 「馬鹿な事を!!それでは犬死にだ!!」 レビルは思わずデスクを左掌で叩き、右手の親指と中指で両のこめかみを押さえた。 配下の足並みが揃わず将兵の不満や独断専行が抑えられない。 将軍である自分への求心力が思った以上に低下しているのを痛切に感じる。 思えばレビル肝入りの新鋭試作艦ホワイトベースがガンダムごと敵に鹵獲されてからというもの、連邦の戦略は失態続きであった。 彼等にとって最も計算外だったのは、オデッサ集結前に部隊の多くが統制の取れたジオン軍MS遊撃隊にゲリラ戦を仕掛けられ各個撃破されてしまった事であろう。 これにより連邦軍は当初想定していた三分の二程の兵力しかこの作戦に投入できなかったのである。 特に大部隊を率いてオデッサ攻略の一翼を担うと目されていたコリニー提督の横死による突然の離脱は連邦の軍略を根底から覆した。 更にここへ来て、密かに黒海対岸に大量に配備していた長距離支援砲撃部隊が、敵MS部隊の強襲によって壊滅したと報告が入ったのである。 満を持して統合司令部が送り込んだ砲撃士官も部隊合流前に敵の奇襲を受け、キャンプ地に逃げ帰ったと聞く。 斯様に最近のニュースといえば連邦軍の失態を報じるものばかりで、磐石の態勢を敷きジオン軍を押し潰そうと考えていた連邦の趨勢は今回の問題も含め、にわかに怪しいものとなってしまった。 そうなると、軍人とはいえ金と権力で地位を手に入れた者が多い連邦軍の上級将校達の顔色が先のジェイファーの如く、にわかに変わった。 彼等の戦意は元々高くはない。 オデッサ作戦においても戦火の及ばない後方の絶対安全地帯に陣取り、作戦参加の箔だけ付けたいと考えていた多くの将官は【核ミサイル】の情報に、前線の兵士以上に震え上がってしまったのである。 話が違う、と、言う訳だ。 それでも今ここにいる連中はジャブローに篭ったまま出てこないモグラ共に比べれば幾分マシな部類ではあるとレビルは考えている。 が、一旦臆病風に吹かれた人間をなだめすかして前進させるのはやっかいだ。 もはや無言で掌を振っただけで皆は前進してくれないのだ。 殆んど孤立無援の状態でオデッサに挑まねばならない将軍の苦悩は深かった。 しかしその時、オデッサ作戦の見直しを口にしかけた少将の言葉を制し、一人の男が立ち上がったのである。 「愚にもつかない敵の偽情報に惑わされてはならん。 レビル将軍の言われる通り、ここは迅速にオデッサへ向かうべきだ」 「おお、エルラン君!」 救われた様な顔でレビルが目を上げたのを見て、エルラン中将は頷いた。 彼の胸中を、将軍をはじめこの場の人員は知る由も無い。 しかし結局この発言が功を奏し、レビル将軍の率いる西部攻撃集団第3軍はようやく通常のスピードで進軍を再開する事ができたのである。 当初の予定を大きくずれ込み、暦は11月も半ばを過ぎようとしていた。 435 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2011/08/13(土) 20 53 40 ID qWliwFLY0 [2/5] シャア達が【青い木馬】を離れて暫くすると、劇的ともいえる変化が戦場に訪れた。 何と、あれほどジオン兵を苦しめ抜いていた連邦軍の昼夜問わずの波状攻撃が、ぱったりと止んでしまったのである。 それどころか、たまにこちらに仕掛けられる威嚇攻撃も、統制が執れていないのが丸判りの散発的なものばかりとなった。 何かしらのっぴきならない騒動が巻き起こっている事が容易に窺い知れる程、連邦軍は完全に浮き足立ってしまったのである。 どこまでの効果かは判然としないものの、敵の陣営に仕掛けた情報工作がまんまと功を奏しているであろう事はタイミング的にみてほぼ間違いは無さそうであった。 本来ならばこの機に乗じてオデッサを包囲する敵に強力な一撃を加えたいところではあったが、完全な防御陣形を敷いた【青い木馬】とその周辺の部隊に動きは無い。 シャアを筆頭に【青い木馬】に集う一騎当千のパイロット達の殆んどが出払ってしまっている現状、来るべき決戦を前にして今この時期に無謀な突貫を仕掛け戦力を擦り減らす事だけは絶対に避けねばならないと、ランバ・ラルが兵達の突出を厳に戒めていたからである。 そんな中アムロも、ニムバス、バーニィの2名がいない為に小隊行動が取れず、黒い三連星のオルテガと交代する形で【青い木馬】直衛を任されていた。 「・・・ま、真っ白になっちゃった・・・んだね・・・」 「んふふーいいでしょー!」 自らのMSを見上げたまま困惑の表情を浮かべるアムロと対照的にメイ・カーゥインは胸を張った。 アムロはメイの横に立ち、じっと腕を組んだまま動かないミガキに視線を向ける。 「あんまりメイを責めるなよアムロ。これはこれで、考えうる最善のカラーリングなんだ」 「そうなんですか・・・・・・?」 ミガキにそう言われてもアムロの疑問は、晴れない。 その時、開け放たれたハッチのスロープを上り【青い木馬】の右舷第1デッキにセイラと共に踏み入ってきたランバ・ラルは、後方に屹立する【ガンダム・ピクシー】の足元で、それぞれが何やら違った表情を浮かべている3人を見つけ怪訝な顔で近付いた。 「ここにいたかアムロ。うん?なんだお前たちその顔は」 「ラル中佐。セイラさん・・・」 ラルやセイラの姿を認めても、アムロの顔には戸惑いが残っている。 「どうしたのアムロ。ラル中佐はあなたを探していたのよ」 「僕を?」 「うむ。お前に頼みたい事があってな。それより一体どうしたというのだ」 「実は・・・」 「これよこれ!中佐もセイラも見て見て!!じゃーん!」 アムロ達の会話に突然メイが横から割り込み、彼等の後方にあるピクシーを芝居がかった仕草で指し示した。 「まあ・・・」 「ほう」 思わず2人は目を見張った。 入ってきた時には気付かなかったが、今やアムロ専用機となった【ガンダム・ピクシー】の全身が、目の覚めるようなシルバーホワイトに塗り換えられていたのである。 かつてボディや四肢の一部に施されていたレッドやダークブルーの部分も全て、白銀色に染め変えられている。 両胸のエアインテイク部など極一部にダークグレーが配色されている事と左肩に赤くジオンのマークが入っている事を除けば、完璧なホワイトカラー。 言っては何だがボディに派手なトリコロールカラーをペイントされていたRX-78-2ガンダムよりも、今はこのピクシーの方が断然、白い。 436 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2011/08/13(土) 20 54 33 ID qWliwFLY0 [3/5] 「・・・いくらなんでも目立ち過ぎじゃないかなあ」 「何言ってるのよ!このMSは目立たなきゃ駄目なのっ!」 「えっ・・・」 「なるほどそういう事か、メイの言う事も一理ある」 メイの言葉を聞いて合点がいったという風にラルが頷いた。 「我々が想像していたよりもすこぶる早く、連邦のMS配備は進んでいるという事だ。 乱戦になった場合、確かにアムロのこの機体は敵MSと見分けが付かなくなる恐れがあるな」 あっと叫んだアムロはセイラと顔を見交わした。 極限状態の中、例え識別信号を出していたとしても、一瞬の見た目で敵だと誤認しピクシーに引き金を引いてしまうジオン兵士がいないとどうして言えるだろう。 「そうなの。始めはデザート迷彩とかザクカラーの緑とかを塗りたくってやろうかとも考えてたんだけど」 さも当然のように韜晦するメイの言葉を聞いてアムロは口元を引きつらせた。 迷彩ガンダム、それはちょっとイヤかも知れない。 しかし自分にとっては馴染み深いガンダムも、ジオンにとっては異質な鹵獲兵器であるのは当然だった。 「でも各戦線から上がって来たデータを見ると、敵の量産型MSにどうもそういうカラーリングの奴がいるらしいの。 敵に同じのが居ちゃ意味無いのよ。だったらいっそ全部白!の方が潔いでしょ?判り易いし。 名付けて【白い流星】作戦!!」 「し、白い流星・・・」 メイにびしりと指を突きつけられたアムロはその迫力におののいて一歩後ずさった。 それはメイにとってアレだろうか、赤い彗星とか青い巨星とかの一連のナニの様なモノだろうか。 「そ。これからジオンの各部隊にこれの機体データを流すわ。 それに『この【白い流星】は味方だから絶対に後ろから撃つな』ってラル中佐がサイン入りの書面を付けてくれると更にグー」 今度はしゃきんとラルに向けてサムズアップを決めたメイの手を、しかしラルはやんわりと押し下げた。 「よかろう。しかしそこは【白い流星】ではなく【白いMS】と書くとしよう。 何故なら二つ名とは、大勢の人間ががその者の働きを認めた時に初めて、敬意を込めて呼称するようになるものだからだ。 二つ名の自称、ほどみっともないものは無いぞ」 ―――今ここにニムバスが居たら、かつて【ジオンの騎士】と自称していた自分を省みてのたうち回ったに違いない。 重要な任務を遂行する為にバーニィと同様、現在青い木馬を離れている彼は、【青い巨星】のこの言葉を聞かずに済んで幸運だったと言えるだろう――― 閑話休題。 その場の勢いに任せてラルの言質を取ろうとしていたメイは、思わずがくりとうなだれ気の毒なほどに消沈してしまった。 「・・・あちゃ~・・・ドサクサ紛れに【白い流星】襲名にはラル中佐のお墨付きを貰おうと思ってたんだけど・・・ダメだったかあ」 「もうっ!メイのドジ!役立たずっ!」 その時、突然大声をあげた誰かがピクシーの影からぴょんと飛び出した。 437 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2011/08/13(土) 20 54 55 ID qWliwFLY0 [4/5] 「ハマーン!?いつから?もしかしてずっとそこにいたのか?」 アムロが驚いたのも無理は無い。 ぷりぷり怒りながら一同の前に姿を現したのは、何と作業着のいたる所に白いペンキを付けたハマーン・カーンだったのである。 いつかのメイの言いつけ通り、ブカブカのヘルメットを被っているのが律儀だ。 良く見ると彼女の右目の下と左頬にも白いペンキがくっついている。 「もうちょっと上手くやりなさ・・・やれなかったのか!俗物っ!!」 「ごめんごめん。【白い流星】作戦大失敗。 でも確かにラル中佐の言ってる事は正しいもん。それと俗物はやめて」 気が付いたように途中から口調をガラリと変え、真っ赤になって詰め寄って来るハマーンをうんざりしながらメイがなだめる。 どうやらジオン軍にアムロの二つ名を一気に浸透させようとした【白い流星】作戦は彼女達2人の企みであったらしい。 しかしメイのこの手腕、当初から比べると随分とハマーンの扱い方が手馴れて来たなとアムロなどは感心せざるを得ない。 「ハマーン、あなたもガンダムの塗り替えを手伝ってくれてたのね」 「むっ」 声を掛けてきたセイラに無言でキツイ一瞥をくれたハマーンは一転、すました顔でアムロに向き直った。 相変わらず敵視されてるなあと内心の動揺を押し隠してセイラは苦笑するしかない。 「どうだアムロ、【白い流星】の名は私が考えたのだぞ?」 「ありがとうハマーン、皆にもそう呼ばれるようにがんばらなきゃな」 「大丈夫だ、アムロなら、すぐだ」 満面の笑みを浮かべたハマーンのその言葉に肯是したラルはアムロの肩に力強く掌を置いた。 「乱戦になれば誤射は頻繁に起こるものだ。これは恐らくMS戦でも変わるまい」 ゲリラ戦を得意とするラルならではの言葉には含蓄がある。 連邦も本格的にMS配備配備を進めている現在、敵味方入り乱れてのMS戦というケースは今後珍しくなくなるだろう。 「白という色は戦場で確かに悪目立ちをするが、裏を返せばそれだけ味方に撃たれる危険性は減る。 ならばそれを利用するのだアムロ。己を標(しるべ)として進むがいい。この意味はいずれ判る時が来るだろう」 「は、はい・・・」 ふいにラルの掌から流れ込んできた暖かいものが、アムロの言葉を詰まらせた。 「そして、これまでの働きを鑑みれば、お前もパーソナルカラーを持っていい頃合だろう」 「パーソナルカラー・・・」 それはエースの証でもあるのだとラルは続けた。 「この際だ、今後お前はこの白銀色をパーソナルカラーとするがいい。 これまでの働きとこれからの可能性を考えれば誰にも文句は言わせん。メイ」 「了解っ!アムロ専用機には今後、シルバーホワイトの塗装を施します!」 嬉しそうに敬礼したメイにラルは鷹揚に頷いた。 「他にもジオンには白を自らのカラーとするパイロットがいるかも知れんが、なあに構うものか」 「その通りだ、シャア大佐とライデンの例もある。もしウダウダ文句をつけてきたら実力で黙らせてやれ」 ラルの言葉の後を受け、どうやら何処かの誰かを思い浮かべたらしきミガキは『こいつは見ものかも知れん』と小さく呟き、大きな身体を揺すりながら何時もの様に豪快に笑った。
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アムロについて 配信名 愛称 年齢 在住 職業 使用会社 運用資産 生涯収支 トレード手法 備考 アムロ 不明 不明 不明 不明 不明 不明 不明 不明 不明 アムロの概要 アムロとは アムロに関して アムロ関連動画 videoプラグインエラー 正しいURLを入力してください。 videoプラグインエラー 正しいURLを入力してください。
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539 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2011/10/11(火) 20 30 31 ID 5NDhsjEs0 [2/8] 過酷な日差しを大地に浴びせかけていた太陽がようやく中天より傾き、青い木馬隊が駐屯するキエフ鉱山第123高地に夕闇が迫りつつあった。 不眠不休のパイロットやメカニックマン達が慌ただしく行き交い、照明が夜昼の隔てなく煌々と灯り、整備音が絶える事無く大音量で響き渡る喧噪の傍ら、度重なる戦闘で疲れ切り、無言でひたすらに整備を待ち続ける手負いのMS達が屹立する格納庫の片隅で ―――その怒号は突如、捲き起こった。 「やめて下さい少佐!!」 「るせぇ!!ふざけた事を抜かしやがって!!」 胸ぐらを捕まれ有無を言わさず殴り飛ばされた少尉は、油にまみれた地面に転倒した。 足元にうずくまる小柄な少尉の背中を更に蹴飛ばすと、『少佐』と呼ばれた中年の男は、異様な光が宿る両目を揺らした。 「俺をなめるんじゃねえぞガキども!!どうしたオラァ!?」 そう叫びながら『少佐』と呼ばれた中年の男は周囲を見回すが、彼等を取り囲んでいる4人の兵士達は『少佐』を無視し、倒れている少尉に駆け寄った。 「・・・っきり言いましょうか」 「ああ?」 皆に助け起こされた少尉は口の端に滲む血を手の甲で拭いながら立ち上がると彼らの後ろ、格納庫の奥を完全に占拠している巨大な戦車を指差した。 ある種の捨て鉢な覚悟を決めたその態度を見て、彼らを取り巻く兵士達の顔が一斉にに引きつる。 「邪魔なんですよ、場所ばかり取るこの時代遅れのポンコツが・・・!!」 「ヒルドルブをポンコツだと貴様ァッ!!」 「ふん」 もう一度繰り出された『少佐』のスピードの無いパンチを、しかし少尉はひらりと掻い潜った。 本気を出せばこんなものさと言わんばかり、余裕の仕草である。 「これだけのスペースがあれば、外で野ざらしになっている整備待ちのMSキャリアーがもう一台は入れられる。 あの図体がでかいだけの戦車は、少佐専用の機体なんでしょう!? 俺は、屋根のあるこの場所をMSに譲ってもらえませんかとお願いしているんです!」 「お、おいもうよせ!相手は少佐なんだぞ!」 「構うかよ!!」 周囲の兵士に掴まれた腕を、完全に頭に血をのぼらせた少尉は強引に振りほどいた。 それとは対照的に、下官に暴言を吐きつけられた『少佐』の顔からは血の気が次第に引いてゆく。 しかし完全に上官侮辱に当たる言葉を浴びせられてはいても『少佐』はその手の決着は望んでいない様であった。 「俺の前でヒルドルブを邪魔者扱いか貴様・・・・・・殺されてえらしいな・・・・・・!」 「殺す相手が違うでしょう少佐」 噛みしめた歯の隙間から絞り出した『少佐』の掠れた声を、少尉の若く張りのある声がぴしゃりと遮った。 「我々の敵は連邦軍でしょう!だがあなたとあなたのヒルドルブとやらは、ここに来てからただの一度も出撃していない! 」 「!!」 電光に打たれたかのごとく『少佐』は目を見開き動きを止めた。 「なら整備だって必要ない!ここに置いておく必要も無い筈だ!! 見たら判るでしょう!?ここの格納庫に、戦闘を行わない兵器を仕舞っておく余裕なんてないんですよ!!」 開き直った少尉の口からまるで堰が切れたかのように、たまりに溜まった鬱憤が吐き出されてゆく。 こうなってしまったからには双方とも引っ込みをつける事ができないだろう。 恐らくこの糾弾はこのまま、何かしらの悲劇的なピリオドが打たれるまで止む事はないに違いない。 その場も誰もが、ぼんやりとそんな絶望的な結末を予感していた。 「俺達MS乗りが日増しにボロボロになっていく中、そうやってあなただけが・・・」 「そこまでにしておけ少尉、上官に対して口が過ぎるぞ」 しかし、突然真後ろから掛けられた静かな声に振り返った少尉は顔色を変え、あわてて服装と体勢を立て直すと最敬礼を声の主に向けたのである。 541 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2011/10/11(火) 20 32 04 ID 5NDhsjEs0 [3/8] 「ラ、ランバ・ラル中佐ッ!?・・・し、失礼致しました!!」 咄嗟に周囲の兵隊たちも彼に倣い、『少佐』を除いた全員が一斉にラルに対して一糸乱れぬ敬礼を向ける。 それほどまでに若きMS乗り達にとって【青い巨星】ランバ・ラルは畏敬すべき存在であり憧憬の対象そのものであった。 一方、自分に背を向けラルに敬礼する兵士達を見た『少佐』の顔は苦く歪む。 「この戦い、諸君らパイロット達には総じて苦労を掛けている。 これは全てワシの力不足ゆえの事。この通りだ」 「そんな!やめて下さい中佐!俺は別にそんなつもりじゃ」 【青い巨星】が頭を垂れるのを目の当たりにした若い少尉は震えながらソンネンに謝罪し、自らを深く恥じ入った。 「本当に申し訳ありませんでした。冷静さを失っていました・・・」 「この状況だ、無理もあるまい。 そのかわりと言う訳ではないが新たなシフトが組みあがったぞ。 これで少しは負担が減るはずだ。しんどいが、しばらくはこれで堪えてくれ。 今頃は分隊長に回っているだろう、各自後で確認しておけ」 「り、了解であります・・・!」 大げさではなく感激にうち震える少尉の肩越しに、ラルは何かを言いかけた『少佐』をさりげなく目で制した。 「ここはワシに免じて納めろデメジエール・ソンネン少佐。お前たちももう行け」 「は!失礼致します!!」 ソンネンに対する態度とは打って変わって尊崇の念に満ち満ちた敬礼をラルに向け直すと、件の少尉とその仲間達は揃ってその場を後にしていった。 「・・・腐るなソンネン」 「ゲリラ屋か・・・けっ・・・みっともねえ所を見せちまった」 そう言いながらおもむろにソンネンはポケットからプラスチックのケースを取り出し、そこから振り出した数粒のタブレットを口に放り込むとガリガリと音を立てて噛み砕いた。 「ソンネン、それは止められんのか」 「まあ、な。これがねえと、ちょっとな」 タブレットを見て眉根を寄せたラルにソンネンは頬を歪ませ、話題を変えた。 「ところで・・・いまさら何の用だ?俺を笑いに来た訳でもあるめえ」 「貴様を見込んで頼みがある」 「あ?」 意外なラルの言葉にソンネンの頭の奥で意識がぼんやりと拡散してゆく。タブレットを齧った直後はたいていこうなる。 542 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2011/10/11(火) 20 33 16 ID 5NDhsjEs0 [4/8] 「いよいよ決戦の時が近い。そこでだ」 ラルはまずそう切り出した。 ソンネン達のあずかり知らぬ事ではあったが実はつい先刻、危険度の高い隠密行動を単独で執っていた彼等の首魁たるシャア・アズナブルが、密かに青い木馬に帰還を果たしていたのである。 表向き、シーマ隊を引き連れてシャアは遊撃任務についている事になっている為、この快挙はもちろん公にする事はできない。 しかしこれを機に、ラルがゲラートと共に練り上げていたさまざまな戦術手が打てる様になったのだ。 「貴様にはMS隊の側面援護をやってもらいたい」 ラルの瞳が鋭く輝いている。教導隊時代に良く見た目だ。 その意味を察したソンネンの胡乱だった意識がみるみる覚醒してゆく。 「そうか、精密遠距離砲撃だな!?」 「この役割は貴様にしか任せられん。やってくれるか」 そのラルの言葉にソンネンの瞳の輝きが戻り、全身に生気が漲った。 「任せておけ!遂にこの俺とヒルドルブの出番が来やがった!!見ろ!!」 小走りで後方の戦車に駆け寄ったソンネンは、開いた手のひらをその装甲版に叩きつけた。 「これだ!モビルタンクだ!!貴様のグフにだってコイツは負けねえ!!」 「貴様の腕は知っている。その大口が決してハッタリでない事もな」 「当然だ!」 ランバ・ラルは一切の世辞と諂いの軽口を叩く事ができない一徹な漢である。 昔からの付き合いでそれを知るソンネンは、だから2人の立場に大きな差がついてしまっている現在も、彼の言葉で胸を張る事ができるのである。 「最高速度120キロ!主砲口径30サンチ!どんな相手だろうがこいつでぶっ飛ばしてやる!!」 「頼むぞ。431高地野戦基地にバイコヌールから新型の砲戦用MSがパイロット込みで2機届く手筈になっている。 隊長は貴様だ。彼らを率いて連邦軍の側面から手当たり次第に長距離砲撃をお見舞いしてやれ」 「おい、俺とヒルドルブだけでやれるぜ!?」 MSと聞いてソンネンの顔が曇ったが、ラルは軽く首を振った。 「いや、この作戦は敵の意表を突く初撃のみ有効・・・乱戦になったら2度目は無いのだ。 少なくとも小隊規模の砲撃は欲しい」 「チッ・・・判ったよゲリラ屋。ここのボスはお前だったな」 渋々ソンネンが了解の意を示すと、ラルの横へ赤毛の少年兵が息を弾ませて駆け込んできた。 「ラル中佐、輸送機の準備が整いました。後は兵器と物資を搬入するだけです」 「ご苦労。・・・ソンネン、431高地野戦基地には彼に送らせる」 あどけなさの抜けきれない華奢な少年兵を見てソンネンは一瞬顔を顰めたが、今の自分にあてがわれるのはまあこんな処だろうと小さくため息をついた。 「我がMS隊の若きエース、アムロ准尉だ。どうだ、いい面構えだろう」 「アムロ・レイです。よ、よろしくお願いします」 「准尉!?しかもエースだと?おいヤキが回ったのかゲリラ屋。若造を甘やかすんじゃねえよ」 少年兵の横でなんとなく相好を崩したラルを見てソンネンは急激に不安を覚えた。 【青い巨星】などと煽てられているうちに、さしものラルも衰えてしまった・・・とは考えたくない。 色を失いかけたソンネンはラルの真意を見抜くべく、眼前の少年をしげしげともう一度見つめ直した。 543 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2011/10/11(火) 20 34 58 ID 5NDhsjEs0 [5/8] 「それにしても若いな・・・学徒兵か」 「まあそのようなものだ。だが実力はワシが保障する」 「こんなガキの実力だと!? けっ・・・冗談キツイぜ。青い巨星様のジョークはさっぱり笑えねえや」 そんな悪態をつきながら必死で凝視するも、普段は決して軽口を叩かないはずのラルが珍しく冗談を言ったのを見たせいなのか、はたまた薬のせいなのかは定かでないが、どうにも上手く眼前に立つ少年兵の力量を推し測ることができずにソンネンは焦った。 底が知れない・・・と感じてしまったのは流石に見込みを違えているだろう。 まさか、教導隊時代にさんざん培った筈の勘も遂に錆びついてしまったかと背中を冷たい汗が流れ落ちる。 が、その時(待てよそう言えば)とソンネンは顔を起こした。 ジオンが以前志願兵を募った際、資産家のドラ息子がのっけから尉官待遇で後方の補給艦に配属された事例を目の当たりにした事があったではないか。 それだ。もしもラルの言う通りこのボウヤが准尉であるならば、そういった類の人物なのだとソンネンは決めつける事にした。 ここが最前線だというのが引っ掛かるが、万年兵力不足のジオンなら下手にMS適性が認められると、そんな事態も起こりうるのかも知れない。 そう思い至った途端、ソンネンの頭と胸に軋む様な痛みが疾った。 それを本当に必要としている者には与えられず、そうでない者が容易くそれ手にする・・・ 「全く、世の中って奴はトコトンひねくれていやがるらしい。まるでこの俺みたいにな」 誰に言うでもなくそう自嘲すると口元に歪んだ笑みを浮かべたソンネンは、再びプラスチックケースから振り出した数粒のタブレットを奥歯で噛み砕いた。 「・・・これか?ドロップだ、食うか」 「い、いえ、結構です」 またも疼きだした頭の奥を無視するようにソンネンは、訝しそうにこちらを見つめるアムロの顔から視線を外した。 「だいたいだな!なんでアムロが輸送機なんか飛ばさなきゃなきゃならないんだ? アムロはとびきりのMSパイロットだというのに!」 先程からそうやって憤りっぱなしのハマーン・カーンは頭の両脇に垂れたツインテールをぶんぶん揺らし、ぷんすかしながらメイ・カーゥインに食ってかかった。 544 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2011/10/11(火) 20 36 28 ID 5NDhsjEs0 [6/8] 「人手不足なんだから仕方がないじゃない。ニムバス中尉とバーニィがいないからアムロ小隊は休業中なのよ。 単独フリーのパイロットにはいろんな役割がまわって来るもんなの」 鉱山基地のほぼ中央部にあった岩場を広く平らに削って作られた簡易VTOL発着場。 そこへ駐機しているファットアンクル型輸送機の後方で、さまざまな大きさのコンテナを小型のフォークリフトでくるくると楽しそうに運びながら、ハマーンの問いにメイが答えている。 これはもちろん、今からこの大型ヘリコプターに搬入する為の補給物資である。 「・・・そう言えば、何でメカニックのメイがこんな作業をやっているんだ?」 「四六時中のべつ幕無しに機械いじりをしていると、たまには違う仕事をやりたくなるのよねー。 気分転換は必要だわ。コレなかなか面白いのよ、ゲームみたい」 メイが今やっているのは補給物資の仕分けである。 今回は弾薬などの軍事物資のほかに下着や女性兵士用の衣類などの生活物資を一纏めにして運ぶため、こういった輸送機に積載するまでの作業が必要となる。 不規則に空いた隙間にぴったりと形の違うコンテナが収まると、何とも言えず気持ちがいい。 「アムロが運ぶっていうモビルタンクとは、何だ?」 「うーん、簡単に言うとマニュピレータ付きの巨大な戦車ね。 MSが開発される以前に設計開発された大型戦闘車両と言えばいいかな」 矢継ぎ早に質問をぶつけるハマーンに答えながらもメイの動きは止まっていない。 手元の資料とコンテナのナンバーを確認しながら素早く行われるフォークリフトの作業は、もはや職人技に近い。 メイの極めて効率的で理論的な思考回路と天才的なその手腕は、こういった雑事においても如何なく発揮されているのである。 「MSの登場と入れ替わるみたいにして正式採用を見送られたって聞いてたけど、まさかここにあんなレアモノがあったなんて、初めて見たとき私も驚いたわ。 資料だけ見るとスペックは結構なものなのに、これまで出番が無かったのには何か理由があるんじゃないかな」 「ふうん」 自分から聞いたくせにあまり興味のなさそうなハマーンである。 フォークリフトの運転席からメイが顔をめぐらすと、ハマーンは大きなコンテナの上に座り、暮れゆく空を見上げながらつまらなそうに両足をぶらぶらさせている。 「アムロなら大丈夫よ。431高地なら輸送機でゆっくり飛行したって半日くらいで往復できる距離だもの。 モビルタンクと補給物資を送り届けたらすぐ戻って来るって」 「でも・・・あ、そうだ、その間に敵がいっぱい攻めて来たらどうするの?・・・いや、どうするんだ?」 思わずぽろりと飛び出したハマーン素の口調に笑いをこらえた後、確かにねえと呟いたメイは少しだけ考え込んでしまった。 シャア・アズナブルこそ帰還したものの、未だに殆どのパイロット達が青い木馬に戻って来てはいないのである。 そして表むきシャアの影武者を演じているライデンが他所にいる以上、迂闊にシャアもMSで出撃する事はできないだろう。 ちなみにシャアと共に行動していたニムバスも、青い木馬に戻らぬまま別任務に向かったと聞いた。 この上アムロまで青い木馬からいなくなってしまうという事態は、ハマーンでなくとも少なからず不安を覚える。 「今日の夜半までにはバーニィ達が戻る予定よ。明日にはライデン中尉とシーマ中佐の部隊もここへ帰還する事になっているわ」 「セイラ!」「むー!?」 補給物資のリストを挟んだバインダーを手にして現れたセイラ・マスにメイが意外そうな声を、ハマーンが敵意のこもったブーイングを向ける。 545 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2011/10/11(火) 20 37 47 ID 5NDhsjEs0 [7/8] 「何でここに?これぐらい私達だけでできるよ?」 「ご苦労様、私もアムロに同行して431高地野戦基地まで行く事になっているのよ」 「「えぇっ!?」」 メイとハマーンの声がハモッた。その状況は2人にとって寝耳に水である。 「物資補給のサポートは必要でしょう?」 「ま、まあそりゃそうだけど・・・」 フォークリフトを止めたメイは、地平線に迫る太陽を透かして風にさらりと流れるセイラの綺麗な金髪を見ながら上目使いに口ごもった。 それなりに煩雑な手続きを踏まねばならない補給作業を円滑に行う為には、確かにサブオペレーターの同行が望ましいだろう。 しかしそれでは、行きはまだしも帰りの機内はこのセイラとアムロ2人きりになってしまう・・・という事になるではないか。 見るからにセイラにメロメロのアムロと、それに満更でもなさそうなセイラが2人っっきりになった時、いったい何が起き―――― 「私も一緒に行く!」 頭の中でもやもやとした妄想を繰りひろげていたメイを我に返らせたのは、勢いよくコンテナを飛び下り、大地にしゅたりと仁王立ちしたハマーン・カーンであった。 ピクシー塗装用のだぶついたツナギを着たままである事を差し引いても、その姿はなかなかに勇ましい。 「私にもアムロの手伝いぐらいはできるぞ?」 「・・・駄目よハマーン、これは遊びじゃないの」 思い詰めた顔のハマーンを、しかし厳しい顔のセイラが諭す。 「そんなつもりはない!私は真剣だっ!」 「ならもう少し大人におなりなさい」 「ぐっ!ずるいぞ・・・!!」 睨み合う2人の真ん中に位置取るメイはセイラとハマーンの顔を見比べた。 セイラを下から睨み付けるハマーンの瞳が不意にきらと輝いた気がして目を凝らすと、幼いながら意志の強さを感じさせる大きな瞳にうっすらと涙の膜がかかっている。 しかし気丈なその姿からは炎の様なカリスマ性の片鱗がうかがえ、同性のメイすら一瞬ぞくりとした程だった。 セイラの美貌は言うまでもないが、あと5年も経てばハマーンも相当な美形に成長するであろう事は間違いがない。 年上のセイラがストレートな意味で発した言葉ではなかったかも知れないが、先程の彼女の言葉を心の中で反芻したメイもなんだか泣きたくなってしまった。 「・・・!」 結局ハマーンは眼の縁から涙が零れ落ちる前に踵を返しその場を駆け去ってしまい、気まずいままの2人は黙々と輸送機への搬入作業を再開したのだった。 しかし、走り去ったと見せ掛け、その実すかさずコッソリと戻って来たハマーンが、誰にも見つからない様に用心深く 搬入用コンテナの陰からそっと様子を伺っていた事を、この時点で2人の少女は全く気付いていなかったのである。 697 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2011/12/14(水) 20 23 14 ID 8CWY4psQ0 [2/7] ハモンは極めて渋い顔で困惑をしていた。 青い木馬に帰還したばかりのシャア・アズナブルが、ランバ・ラル、ゲラート・シュマイザーとのブリーフィングの後、自室に戻る途中で突然ミハルのいる食堂へ行くと言い出したのである。 かつてアンディが口にした【ミハルの料理を全ての兵士に】という提案はすぐさま実行に移され、現在ここキエフ第123高地基地に駐留している30程の部隊はローテーションで青い木馬の食堂に招かれ、誰もがミハルの手料理を口にできる機会を得ていた。 実際にその効果は覿面であり、兵達の士気がみるみる回復したと現場部隊を指揮するガイアやマッシュがわざわざラルに報告しに来た程であった。 その際、混乱が起きない様、部隊ごとに割り当てられる青い木馬での食事の順番やシークエンスは全てハモンがチェックし統括管理している。 つまり、ハモンの胸先三寸でシャアを非公式で彼等の中に紛れ込ませる事が可能なのだ。 どうやらこの要請、ラルとゲラートというキャスバル派の重鎮2人に全力で却下される事を避ける為、シャアは彼らが離れハモンと2人きりになるタイミングを見計らって切り出したらしい。 策士、ではなく姑息、と言えない事もない。 「どうかお控え下さい。今後どう事態が転がるか判らない以上、キャスバル様の素顔はできるだけ兵達に見せるべきではありません。 それを自ら集団の中に出向くなど、以ての外です」 「承知している。しかし、そうだな、この数日ろくな物を口にすることができなかった私は、まともな食事に飢えているのだ」 「それは判りますが・・・」 ハモンは顔を顰めた。これではただの駄々っ子である。 しかし無論、これがシャアの本意である筈がない。 「頼む。ミハルの姿が確認できればそれでいい」 食い下がるシャアの口からぽろりと本音が飛び出したが、ハモンは気が付かないフリをしてやる事にした。 「焦らずともあと数時間もすればミハルは仕事を終えます。 心配なさらずとも彼女にはキャスバル様が戻られた事は伝えてありますから、何も慌てて・・・」 「いや重ねて頼む。目立つ事はしない、部屋の隅で大人しくしているさ」 何も知らない立場であったなら、シャアのこんな迂闊な提案は絶対に容れられるものではなかっただろう。 しかし普段から良くミハルと行動を共にし、何くれとなくシャアとの事を聞き出していたハモンは事の成り行きこそ直接聞いてはいないものの、実は相当正確に2人の仲とその進展具合を察していた。 昔取った杵柄で、何気ない会話から相手の情報を引き出す手管は長けているハモンである。 そして最近のミハルが普段通りを装っている陰で、不在のシャアをどれだけ心配していたのかも知っている。 この様子を見る限り、恐らくそれは目の前のシャアも同じだったに違いない。 「・・・」 思案顔で黙り込んでしまったハモン。 忍ぶ恋、というものに彼女は弱い。女の立場が弱いケースは特にそうだ。 互いの無事な姿を、若い2人に一刻も早く確かめさせてやりたいという気持ちも芽生える。 果たしてそれは、無意識のうちに彼女自身の境遇を重ね合わせてしまうからなのかも知れなかった。 やがてハモンは無理を言う上官にではなく、聞き分けのない弟に対するような眼差しをシャアに向けつつ溜息をついた。 満ち足りた表情を浮かべた20人程の兵士達が名残惜しそうに退室するや、別の兵士達の一団が待ってましたとばかりに入れ替わり、瞬く間に場のテーブルを占拠してゆく。 1日2交代制で計40人分程の食事が振舞われる青い木馬の食堂は、本日も飢えたジオンの兵隊達で大盛況であった。 もちろん彼らのお目当てはミハル・ラトキエが腕を振るう最高の料理だ。 今やここに駐留するジオン軍人達は皆、青い木馬での食事を、正確に言うなら食事の順番がまわって来る日を心待ちにしているのである。 そして 渋るハモンをついに宥めすかしたシャア・アズナブルも、今はその喧噪の中にいた。 もちろん素顔の彼は一般兵用の軍服を着込み軍帽を目深に被っている。 698 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2011/12/14(水) 20 25 26 ID 8CWY4psQ0 [3/7] シャアは先程から帽子の庇に隠した視線で周囲を観察しつつ深い感慨を覚えていた。 青い木馬は、旗色が決して良いとは言えない戦場の最前線に配置されている。 なのにここに集う兵士達の明るい表情はどうだ。 普段は疲れ切った顔の兵士達が、ここではまるで別人のごとく明るくはしゃいでいるではないか。 当初青い木馬のクルーが想定していたよりも遥かにここは、彼らにとって殺伐とした戦場の只中において一息がつける貴重な場所となり得ていたのだった。 「全く前の奴らグズグズ長居しやがって・・・おっと見ねえ顔だな、新顔か?」 そう声を掛けてきたのは見るからに粗野で豪快、堂々たる体格をした兵士だった。 年の頃は30代の半ばあたりだろうか、髪が少々薄く無精ひげを生やしている。 身体からぷんとアルコールの匂いが漂って来るところからして、あまり品行な兵士ではなさそうだ。 襟章を見れば彼が中尉だという事が判る。 「は、第2次降下作戦の生き残りであります」 上等兵の襟章を付けているシャアがさらりと口にしたのは勿論フェイクであったが、やろうと思えば彼は自らが扮している架空の人物の生い立ちやここに至るまでの経緯を簡単に説明する事もできる。 もちろん件の詳細な架空の人物設定は、完璧主義者のニムバスの手によるものであった。 「おーそういや昨日増援がキャリフォルニアベースからこっちにって話だったっけかな? ま、ご苦労なこったぜ」 しかし中尉はそう言っただけで特にそれ以上の詮索をせず、食堂に設置された長いテーブルの隅を指差しシャアに着席を促すと、自分もその隣にどっかりと腰を下した。 「なら、ここの食事は初めてだろう」 「はあ」 シャアとしては、曖昧に返事をするしかない。 「最前線(ここ)に送られた自分はツイてねえ、そうしょぼくれちゃあいねえか? どっこいそうじゃねえのさ。 お前ツイてるぜ。その理由が聞きたいか?」 消沈して俯きがちな新兵を励まそうというベテラン兵の気概を感じてシャアは僅かに目線を上げた。 この中尉は見かけによらず優しく世話好き、なのかも知れない。 「・・・是非お教え願いたいものであります」 笑みを浮かべて身を乗り出したシャアの問いに、中尉はポケットから取り出した金属製の小型ウイスキーボトルに口をつけて一口煽ると、手の甲で口を拭ってからニヤリと笑った。 「ここで出る最高のメシを食う事ができるからさ! なあ!ここのメシは、今や俺たちの活力源、いいや、生命線だよなあ!?」 「ああ、ミハルの作る料理はヤバイ薬なんぞより、よっぽど戦いの恐怖を忘れさせてくれる。 緊張と疲労で死にかけていた奴も、ここのメシを食って体調を戻した」 周りを見渡した中尉の問いに、シャア達の斜向かいに座っていた目つきの悪い兵士が片眉を上げると、その隣に座る真面目そうな兵士も頷いた。 「ええ、どんな事があっても生きて帰って、またここで食事したいと思わせてくれますよ」 彼らの言葉に聞き入るシャアの右肩に、後ろから厳格な雰囲気を醸す壮年の兵士ががっしりと手を置き、顔を近づけながら強いジオン訛りで囁いた。 「俺達にここを解放して下さったシャア大佐には皆感謝してるんだ」 「・・・!」 思わず表情を無くしたシャアが振り返らずにいると、後ろの兵士はシャアの肩をポンポンと2回叩いて言葉を継いだ。 「この艦だきゃあ、死んでも守らねえとってえ気になる。きっとお前さんもな」 正体がばれていた訳ではない事を知ったシャアが安堵して身体の力を抜くと、更に後ろから若い別の兵士が立ち上がった。 699 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2011/12/14(水) 20 26 20 ID 8CWY4psQ0 [4/7] 「補給も満足によこさねえオデッサの末成り(うらなり)なんざどうなろうが構やしねえがよお!」 途端に一同がブーイングを発し、同時に親指を下に向けた。 オデッサの末成りとは言うまでもなく総司令官たるマ・クベ大佐を指しているのだろう。 揮下の部隊や物資を何かにつけて出し渋る彼は、一般兵からはすこぶる評判が悪い。 「最悪、この艦とミハルだけは無事でいてもらわんと、文字通り俺らオマンマの食い上げだあな!」 ガハハと笑うお調子者らしき兵士の軽口に、一転して場にいる全員が口笛と共に拍手喝采を贈る。 「ミハルって誰だ」 「馬鹿野郎知らねえのか、ここの食事は全部ミハルってえ娘が拵えてるんだ」 「へええ、そいつぁ是非とも嫁に欲しいモンだな」 騒ぎの陰ではそんな会話もちらほら聞こえて来るが、一方のシャアはというと次第に胸中に湧き上がる不可思議な感覚に困惑しきりだった。 ミハルがジオン兵達の間で高く評価されている事はいい。 しかし何故だか、一般兵の間から気安くまろび出た彼女の名前に何とも言えない苛立ちを覚えるのだ。 かつて味わった事のない、もどかしいこの感覚。 これは一体何なのだとシャアが焦慮したその時、一同がひときわ大きく沸いた。 厨房に通じるドアからエプロンを締めた数人が列をなして現れ、料理を満載したワゴンを壁に沿って一列に並べ出したのである。 このエプロン姿の兵士達はミハルを手伝う為に各部隊から抽出された臨時の輜重隊であった。 簡単に言えば調理助手、助っ人である。 厨房で調理するミハルを手伝う一方、こうして給仕も行う。 良く見ると、その中にはフェンリル隊の一員シャルロッテ・ヘープナー少尉の顔もある。 兵士達は総立ちだ。先程の中尉が堪らずに声を掛ける。 「待ちかねたぜ!今日のメニューは何だ?」 割れがねを思わせる大音量で響き渡ったその場にいる全員の気持ちを代弁するがごとくの問い掛けに、シャルロッテも負けじと良く通る綺麗な声で叫び返した。 「大粒チーズ入りのクリームシチューと黒胡椒ベーコンを焼きこんだパン、それからフライの甘酢ソースがけ!!」 「うおお全部くれ!」 「こっちにもだ!!」 熱狂的、いや爆発的な盛り上がりで兵士達は次々と席を立ち、ラックから配給食用のプレート・トレーを抜き取るとそれぞれ手に取った。 「じゃあまず、こちらの班から順番に並んでちょうだい。食事は十分にあるから慌てないで。そこ、走らない!」 厳格なシャルロッテは例え上官といえど容赦がない。そして誰もここでは彼女に逆らわない。 何故ならばある意味、輜重隊は軍の中で最強序列だからである。 出されるものが飛び切りの料理とくれば尚更だった。 それにしても、華奢な彼女の指示に荒くれ兵隊達がいそいそと文句ひとつ言わず従う様は、何ともユーモラスな光景である。 兵士達は湯気の立った料理が仲間達のトレーに満たされてゆくのを大事そうに見つめながら列を少しづつ進み、やがて食べ物が満載された自らのトレーを抱えて席に戻ると思い思いに食べ始める。 待ちに待った兵士達、至福の瞬間であった。 しかし、シャア一人だけは列をなして並ぶ兵士達を呆然と見つめ、後方で立ち尽くしている。 どんなに目を凝らしてみても、給仕隊の中に肝心のミハル・ラトキエの姿がないのである。 急いでシャアはトレーを携え列に並び、シャルロッテの前まで来たところで彼女に小さく声を掛けた。 突然の事に目を剥いて仰天したのはシャルロッテである。 700 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2011/12/14(水) 20 27 09 ID 8CWY4psQ0 [5/7] 「た・・・!?」 手にした金属製の杓子を危うくシチュー鍋の中に取り落としそうになったシャルロッテは、みるみる怒りの表情を形造ると器用に小声で怒鳴った。 『・・・大佐!?こんな所で一体何をなさっているんですかあなたは!』 「そんな事よりミハルはどこだ。姿が見えない様だが」 シャルロッテは数秒の呆けた様な沈黙の後、再び眉をきりきりと釣り上げると、目の前の上官を叱りつける様に口を開いた。 『料理を作り終えると、どこかに、届け物があるとかで!』 意表を突かれた顔でシャアはシャルロッテを凝視した。 『後を私達に任せ、焼き上がったばかりのパンをいくつか抱えて飛び出して行ってしまいました。 まあこの給仕だけなら我々だけでもできますから』 「そ、そうだったか・・・」 帽子の庇を片手で少し引き下げ目線を隠すと、ばつが悪そうにシャアはそのまま列から離れた。 強引な行動が裏目に出たせいなのか定かではないが、どうやら彼らは完全に行き違ってしまった様である。 明らかに落胆した様子のシャアは、彼の心の内を知らぬシャルロッテを振り返りもせず急ぎ足で自分の席に戻った。 「中尉、宜しければこちらもどうぞ」 「ん?何だ食わねえのか、急用でも思い出したか?」 突然シャアに手つかずの料理が乗ったプレートを差し出された中尉は面食らう。 「はい」 「どんな用事か知らんがこれを食ってからでも遅くはねえんじゃねえのか?」 「いえ、私にとっては何よりも優先される事ゆえ」 「ほお」 はたと食事の手を止めてシャアの顔を下から覗き込んだ中尉は、にやりと相好を崩した。 「手前ェさては女絡みだな?」 下卑た笑いと共に小指を立てる中尉にシャアは苦笑しながらまたも軍帽の庇を引き下げた。 たいしたものだ。 人生のベテランらしい気配りと洞察力、そして何よりずば抜けてカンが良い。 この中尉は間違いなく腕利きのパイロットであろうとシャアは確信した。 「参りました。ご明察、痛み入ります」 「けしからん野郎だ、さっさと行っちまえ。こいつは有難く頂いておく」 何某か思うところがあっても、あえてしつこく問い詰めないところもいい。 「は、お先に失礼します」 敬礼して下がりながらも、シャアは彼と彼の周囲に集う兵士の姿を目に焼き付けておくのを忘れない。 優秀な人材は喉から手が出るほど欲しい。 機会があればこの中尉を擁する部隊を、そっくり引き抜いてやるとしよう。 「おいミーシャ、独り占めはないだろう」 「へへへ大尉、こいつは早いもん勝ちですぜ」 そんな声を後ろ手に聞きながらシャアは足早に食堂のドアをくぐり抜けた。 「わざわざありがとうミハルさん。それじゃあ遠慮なく」 ミハルから大きな紙の包みを受け取ったアムロは、笑顔でそれを横のセイラに手渡した。 包みからは香ばしい焼きたてパンの香りが漂っている。 彼らの後方には暖気を終えた輸送機ファット・アンクルが地平線に姿を消した太陽の残滓で黒くシルエットを作り、緩くローターを回しながら待機している。 既にヒルドルブと物資の搬入は完了し、後は離陸を待つばかりの状態だ。 彼らに同行するデメジエール・ソンネン少佐は搬入されたヒルドルブの中に籠り、最終調整に余念がない。 701 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2011/12/14(水) 20 27 41 ID 8CWY4psQ0 [6/7] 「シャア大佐にも届けに行ったんだけど、姿が見えないんだ。 だからこっちに先に来たってわけさ。出発に間に合って良かったよ」 「とてもいい香り。後でゆっくり頂くわね。ソンネン少佐もきっと喜ぶと思うわ」 そう言うと偏屈そうなソンネンの顔を思い浮かべたのか、セイラはアムロと顔を見合わせて小さく笑った。 「そうだ、そう言えばハマーンがまだ戻って来てないんだけど、どこに行ったか知らないかい?」 「ハマーンが?」 心配そうなミハルの様子に、驚いた顔でもう一度顔を見合わせる2人。 「実は・・・我儘を言ったハマーンを少しだけきつく叱ってしまったの」 「そ、そうなんですか?」 申し訳なさそうに目を伏せるセイラにアムロは狼狽えた。 「もしかして、メイの所にいるんじゃないかしら? ほら、最近あの2人はとても仲良しみたいだし」 「そうですね、ハマーンの行きそうな所と言えばそこかな・・・」 ―――しかし、結局・・・そこでもハマーンは見つからず、ミハルは無駄足を踏んでしまうことになる。 その後、ハマーンを探している最中にシャアと再会を果たしたミハルは、それを喜ぶ間もなく『ハマーンはセイラに無理な同行を申し出ていた』というメイの証言と 「そういやあ・・・何か女の子が搬入コンテナ開けてたのを見たぜ、小さいハッチ付きの奴」 という、当時このヘリポート付近で作業していた兵士からの目撃情報を得て真っ青になるのであるが・・・それは今より少し先の話であった――― 「判った、それじゃ今から行ってみるよ。あんた達も気を付けて行っておいでよ」 一陣の風が吹き付け彼らの髪を弄ったのを契機にアムロとセイラは輸送機に乗り込み、ミハルは彼等の離陸を見送ると踵を返し、不安そうな面持ちでハンガーへとひた走った。
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したらばスレ 【SS】もしアムロがジオンに亡命してたら part6 http //jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/12849/1267966709/ 【SS】もしアムロがジオンに亡命してたら part5別館 http //jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/12849/1246495352/ パー速スレ 【SS】もしアムロがジオンに亡命してたら part5 http //ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1244461642/ 【SS】もしアムロがジオンに亡命してたら part4 http //ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1238134482/ 【SS】もしアムロがジオンに亡命してたら part3 http //ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1231986146/ 旧シャアスレ 【SS】もしアムロがジオンに亡命してたら part2 http //changi.2ch.net/test/read.cgi/x3/1231018976/ 何!?脱走したアムロがジオンに亡命しただと!? http //changi.2ch.net/test/read.cgi/x3/1228835968/
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概要・戦術 言わずと知れたガンダムの主人公アムロ・レイ。 「アムロ行きまーす!」と叫び突進したり、必殺技ではラストシューティングをしてくれる。 時にはハロも投げ捨てる。 ストーリーモードの主人公でもあるので何度も使った人も多いはず。 必殺1の突進や空中必殺2のハロ投げにカウンターを織り交ぜて使っていこう。 ただ、ハロ投げ以外は近距離でないと機能しないので注意。 通常攻撃 【通常攻撃(A)】パンチ 単発パンチ。 連撃なし。 連打すると連続でパンチが繰り出せる。 連発すると敵がだんだん後ろへ下がっていってしまうので、壁際で使うなどの工夫がいるかもしれない。 【打ち上げ攻撃(A長押し)】パンチ 通常攻撃の発生が遅くなった感じ。 【ため攻撃(A+進行方向のキー)】パンチ 打ち上げ攻撃と同じ。 必殺技1 【弱必殺1(弱S)】アムロアタック 「アムロ行きまーす!」 その場で少し溜めた後、上斜め前に飛びあがる。 至近距離でないと相手の頭上をかすめてしまうので注意。 【強必殺1(強S)】アムロアタック 前方に滑って突進し、弱必殺1のように飛びあがる。 優秀な技、積極的に狙っていこう。 伸びがいいのでほとんどないが、間合いが甘いと最後の飛びあがりで敵の頭上を通って当たらないので注意。ぶっちゃけSのごり押しで大抵のキャラを倒せる 【空中必殺1(空中S)】アムロアタック 空中で必殺1とほぼ同じ動作をする。 攻撃としては、相手が近距離でジャンプしたのにあわせるくらいしかないが、 意外と空中に滞在する時間が長く前方にも少し進むので移動手段とするのもいいかもしれない。 必殺技2 【弱必殺2(弱D)】ビームサーベル ビームサーベルで切りつける。 発生が速いが、単発だと攻撃が入ったあとに反撃されてしまうこともあるので、 連打するのがいいかもしれないが途中でジャンプでかわされたり、カウンターに化けたり・・・ しかし使える場面もあるのでこれを狙うのもいいかもしれない。 【強必殺2(強D)】カウンター 「殴ったね…」 目を閉じている間にカウンター判定があり攻撃をうけるとキレて、 弱必殺2とほぼ同じモーションでビームサーベルで切りつける。 サーベル切りつけは威力、必殺ゲージ増加量が高く、相手を吹き飛ばすため、 何度が狙っていきたい。 【空中必殺2(空中D)】ハロ投げ 空中から地面に向かってハロを投げつける。滞空時間長め。 投げつけられたハロは、敵、地面、ビームなどに当たるとバウンドして飛んでゆく。 威力は低めだが、遠距離で使える技はこれくらいなので出番は多い。 敵がどこにいようとも毎回同じ角度に投げつけるので敵に当てるには慣れが必要。 超必殺技(F) 【ラストシューティング】 ビームライフルを手に持ち回転させ敵を画面外まで打ち上げ、 あのポーズでビームライフルで撃ち抜く。 最初のライフル回転で敵を打ち上げないと当たらないが、 最後の撃ち抜くところのビームにも判定があり、打ち上げるところで敵を取りこぼした時に 運よく敵が近くでジャンプしてくれると当たる。が、やはりダメージは減る。 敵が二人いる場合二人まとめて打ち上げて撃ち抜くことも可能。 余談だが、アムロの持っているビームライフルは何故かνガンダムのものである。 コンボ 【オススメコンボ】 入力 備考 【バリアブレイクコンボ】 全て打ち上げ攻撃が始動。 入力 備考 【その他のコンボ】 入力 備考