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「けーいーちくーん!」 圭一はその声の聞こえる方に顔を向ける いつもの風景、いつもの香り、その中でも何より大切な… 狂おしいほど愛しい笑顔をこちらに向けて… 「おはよう圭一くん!」 慌てて走ってきたのか、肩で大きく息をしている 「おはようレナ、それにしても珍しく遅かったじゃねぇか。もしかしてお寝坊さんか?」 「ううん!違うよ違うー!お寝坊さんじゃないもん!お弁当作るの遅れちゃっただけだもん!」 レナはぷくーとほっぺを膨らませ子供のようにそっぽを向く 茶色の髪を優しくなでてやる はぅ…と声を出し顔を赤くして俯くレナ その姿が可愛くてしかたない 2人で歩き出す。いつものように… 最近、授業中もレナのことで頭がいっぱいで内容が何一つ入ってこない 青色のぱっちりとした瞳、茶色の綺麗に切りそろえられた髪、ピンク色の潤った唇 レナの全てが俺を魅了する その美しさに自然と惹かれる 俺はきっと…レナのことが好きだ 「─ちゃーん?おーい、圭ちゃーん?」 「うわぁぁぁ!?」 「うわぁぁ!?」 いきなり話しかけられ、びっくりする 魅音だ 圭一の驚きようを見て魅音も驚く 「なっ、なんだよ魅音!」 「何って、圭ちゃんこそ何ボーってしてんの」 「っ…それはっ…」 「もしかして、好きな人でも出来たァ?」 「ばっ!バカっお前!そんなはずないだろ!?」 思わず図星をつかれ慌てる 「あっそうなんだぁ。へへっおじさんが相談にのろうかぁ?」 魅音がニヤニヤして肩を組んで来る 「おいおい勘弁してくれよ」 あまり怪しまれないように軽く流す 「どうしたの?圭一、魅音?」 声のした方を見る。悟史だ 「いや!何も……」 「圭ちゃんねぇ、好きなひ…うぐっ」 咄嗟に魅音の口を手で塞ぎ、悟史になるべく笑顔で話しかける 「いや違うんだ悟史!今日の部活は何かなと思ってだな!ははは…」 上手にごまかせているだろうか?少し不安だった 「……むぅ」 悟史は困ったように喉を鳴らした 休み時間に圭一はお手洗いに行った その時に偶然見た レナと悟史が人目につかないような場所で、話しているところを… こんなところで何を話しているのだろうか? わざわざ人目のない所を選ぶのだ 人気のない場所でしかできない話とすると… 相談?それとも…… 駄目だ考えれば考えるほど悪い方向へ行ってしまう 考えるな、考えるな… その後の部活も俺は休み時間のことが忘れられなかった 「圭一くん、今日は乗り気じゃないのかな?かな?」 レナが圭一の顔を覗き込む 「ごめん、ちょっと具合悪くなっちまった。今日は帰らせてくれ」 途中抜け出して1人帰ることにした 「圭一…くん?」 「何〜?圭ちゃん逃げちゃうの〜?」 と、後ろからそんな声が聞こえてきたが無視した 1人で帰るのは珍しいから少し寂しかった 隣にレナがいるのが当たり前になっていた だが、休み時間に見たことがちらちら頭にでてくるのだ レナは悟史が好きなんだろうか レナは俺の事仲間としか思ってないのだろうか 「……レナ」 さっき別れたはずなのに会いたくて仕方がない 自分から帰っといてなんて身勝手なんだろう しばらくすると家の前に来た 隣を歩くレナがいないとこんなにも道のりが長くなるのかと少し驚く 中に入り、ドアを閉めかけた時… 「圭一くーん!」 圭一は反射的に振り向いた 圭一が今1番見たかった顔であり、今1番聞きたかった声 レナが俺の元へ走ってくる それでも先程いきなり部活から抜け出し、帰ってきたものだから、少し気まづかった レナは息を整えようと大きく息をしている 「レナ、どうしたんだ?」 「け…、圭一くん、具合、大丈夫かな?かな?」 「…レナ、…部活は?」 この少女は、レナは、圭一のことを心配してここまで追いかけて走ってきてくれたのだろうか? こんな俺のために…? 「心配で抜け出して来ちゃった。でももう遅かったね!あはは…」 乾いた笑みを浮かべてレナは残念そうに俯く 「それで、具合は…?」 「あ…ああ…もう大丈夫だよ」 「よ…良かったぁ!レナ、心配したんだよ!」 最初から具合なんて悪くもないのに心配してくれるレナが愛らしく感じる一方自分に腹たった 暫くの沈黙が2人を襲う 先に口を開いたのはレナだった 「じゃ…じゃぁ、まあ明日!圭一くん!」 レナは手を力なく振りながら踵を返した 思わずその手をパッと掴んでレナを止めた 離れたくない、まだ君と一緒にいたい 「あ…えっと…とりあえず寄ってかないか?」 「……うん!」 レナはパァっと表情を明るくし、頷いた 「はうぅ!圭一くんのお部屋!」 レナははぅはぅいいながら圭一の部屋の中を見物していた 「そんな大したものないぜ、ま、ゆっくりしていってくれよ」 「はーい」 圭一の部屋を一回り見たレナは圭一が座っていた横に腰を下ろした また2人に沈黙が襲う 「レナ」 「圭一くん」 どちらも沈黙に耐えられなかったのか同時に相手の名前を呼びハモりが生じる 「あ、ごめん、先に…いいぜ」 「あ…ううん、大したことじゃないから」 「えっ、いやでも…」 「いいから」 「あ、ああ…」 真剣な顔で言われるものだから、圭一が折れた 「あのな、レナ、聞きたいことがあるんだ…」 「?何かな、かな?」 うるさい心臓の音が聞こえない振りをして口を開く 「俺のこと…好きか?」 「うん!好きだよ!」 レナは可愛らしい笑顔で応える 「じゃあ、悟史のことは好きか?」 「うん!好き!」 レナのことだからそう応えるのは正直知っていた レナが仲間を傷つけることを言うわけが無い だが、レナが言った好きはきっと…圭一がレナに抱く『好き』とは違う『好き』 続いて圭一は口を開く この質問の答えが圭一が本当に聞きたかった答えだ 「レナは俺と悟史、どっちが好きか?」 「えっと……ぇ?」 レナは戸惑う 当然だろう レナに、そんな選択、決められるはずがない 「…圭一くん?どうしてそんなことっ…ん!?」 俺は咄嗟にレナの唇に自分のそれを重ねる 重ねると言うより、噛むような勢いだった 「けぃ……ち…くん…やっ…」 レナは酸素を欲しがるように口を少しだけ開けた 圭一はすかさずそこから舌を入れた レナの舌はそれから逃げるように奥に引っ込んだ しかし圭一はレナの舌を捉えると舐めまわすように自分の舌を絡めてきた ねちゃ…ねちゃ…ねちゃ… いやらしい音が口の中から聞こえてくる 「んっ…んぁ……!」 レナの顔がとろけてきて力が入らなくなってきたのか後ろに2人して倒れた しばらくして息が苦しくなってきたレナが圭一の胸元を力ない拳でポンポンと叩いてきた 圭一は惜しむような思いで唇を離す 艶のある銀の糸が2人の唇を繋いだかと思ったらレナの方へ落ちていった 「……はぅ、け…圭一くん?」 とろりとした瞳でレナが圭一を見る 少しの理性を頼りに圭一は口を開く 「俺は…レナが好きだぜ。友達じゃなく、1人の女性として」 「……はぅ」 レナは既に火照っていた頬をさらに赤くした 「レナは、俺を1人の男性として好きになってくれるか?」 「…えっと、んぅ」 圭一は自分で聞いた問の答えを聞くのが怖かった だからまたレナの唇を塞いだ 圭一はたまらずレナの服の中に手を入れた 「圭一くん!それは……やっ…」 2人の恋はまだ終わらない 続く
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前篇 羽入と圭一の一番長い日(前篇) 約束を守る最上の手段は決して約束をしないことである。 『ナポレオン言行録』より カエサル「賽を投げろ」(「賽は投げられた」の原語) プルタルコス『ポンペイウス伝』より あの後、ボクは圭一のお家から、梨花たちにバレないように神社に戻ったのです。 何もなかったように目を覚まし、登校し、そして今――放課後の部活を迎えたのです。 …今日はバレンタインデー。そして、圭一にチョコをあげようとしているのが、ボクを含めて――六人。 レナ、魅音、詩音、沙都子、梨花、そしてボクなのです。 みんな愛しの圭一に手作りのチョコをあげようとしているのは、女であれば分かってしまうことなのです。当然、ボクも。 でも、そこはボクたち部活メンバー。どんなことでも過酷な「部活」になるのです。 「じゃあ今日は、バレンタインデー特別記念の部活にしよう!そ・こ・で…圭ちゃん!今日のゲームはあんたが主役だよッ!!」 「おお、マジかよッ!!なんだってまた、今日は俺がッ!?」 魅音に名指しされて戸惑う圭一…ふっふっふ。 「今日はバレンタインデーなんだよ、だよ!みんな圭一くんにチョコを持ってきたんだから、それをあげちゃうんだよ、はぅ~!」 「をーっほっほっほ!私も含めて、みなさんそれぞれのチョコを圭一さんに差し上げてもよろしいわけですけど、全員が本め…じゃなくてじゃなくて、義理チョコじゃ面白くないですわ!」 レナと沙都子もこのゲームに乗り気のようなのです。 「なので、圭ちゃんが一つだけ選んで下さい。それが『特別なチョコ』ってことで、それを作った人に一日デート権までつけちゃいます!あ、あと私から、エンジェルモートのデザふぇ一日タダ券もあげちゃいます!」 詩音も今日は圭一のためにチョコを持ってきている…悟史はどうしたのですか? あぁ、圭一はいわゆる「キープ君」にするんですか、そうですか。 どうでもいいけどその牛みてーな乳を圭一の腕に絡めるんじゃねーよなのです。はいはい爆乳爆乳。 「というわけで、ここにみんなのチョコが並べてあるのです。圭一はサイコロを振って、その出た目のチョコをもらうのです。そしてそれを作った人と二人きりで一日『にゃーにゃー』して構わないのです、にぱ~☆」 「ふ、二人っきりで『にゃーにゃー』はちょっとマズイんじゃないかな、かなぁ!あはははははははははははは。…でも、圭一くんなら…『レナのを』当ててくれるよね… よ ね ?」 「レ、レナの目がマジだよ、おじさん怖いってばぁ~!!」 「…なるほど、そういうゲームか…よし、乗ったぜ!」 クックック… 計 画 通 り なのです。 今日はおそらく、こういうゲームになると予想していたのです。 サイコロの目で決める、一発勝負。 間違えないよう念のために、魅音にそれとなくサイコロゲームをさっき薦めたのですが――彼女は既に決めていたので安心したのです。 既に目の前にはみんなのチョコが並んでいます。 梨花が『一』、レナが『二』、魅音が『三』、沙都子が『四』、詩音が『五』、ボクが『六』の番号を割り振られています。 そして圭一が「運命の主宰者」となり、サイコロを振る。 ――このサイコロっていうのがやっかいなのです。ごまかしがなかなか効かないもの。 ですが、これで決めてしまえば、『六』の目を出してしまえば――文句無しの勝者になれる。 ――そこで、ボクと圭一は昨日、約束したのです。 「いいですか、圭一…自前のサイコロを。あなたが目を操れるサイコロ…たしか、大石にもらったはずなのです」 「ああ、あるぜ…これはどんなに振っても『六』の目しか出ないように作られた、イカサマ用のサイコロだ」 「明日、ボクはあらかじめ魅音にサイコロゲームを提案するのです。そしてボクのチョコの目は『六』にして、圭一がそれを振れば…」 「…羽入のチョコを貰える上に、さらに羽入と一日デートまで…」 「そしてそのデートの夜こそ…ボクから本当のプレゼントをあげるのです…。欲しいでしょう?ならば、圭一…イカサマするのです…ふふっ」 「くけけけ…全ては神のために…」 ――ふふふ、みんな楽しそうなのです。 ですがこれは既に、ボクの手の内に有るゲーム…みんなが負けてボクが勝つ。 文字どおり…ボクは今、『神』なのです! 「…で、提案があるんだけどさ」 圭一がポケットに手を伸ばして、サイコロを取り出したのです。 「ちょうど今日、持ってきちゃったこれがあったから、このサイコロでいいだろ?これを振るだけだしな」 それでいいのです、圭一…偶然持っていたという風を装うのです。 「…うん、いいんじゃない?おじさんは賛成」 「なんだかタイミングが良過ぎじゃございませんこと?まぁ私は構いませんわ」 「そうですね、それでいいんじゃないですか?どうせサイコロに変わりないですし」 よし、この三人は予想通り鈍感だから騙せたのです。問題は…。 「…ねぇ圭一くん。そのサイコロ、ちょっと貸してくれないかな…かな」 「…そうね、私も見てみたいわね…」 くっ…やはりレナと梨花は疑り深いのです。 「…あぁ、いいぜ。どこも変なところは無いからな。俺を信じろよ」 圭一は気さくにそれを渡したのです。レナと梨花はしばらくそれを手に取って探っていましたが…頷いて圭一に返しました。 「…うん、大丈夫だね。…圭一くんならしないだろうから信じるけど…」 「お…俺が何をするっていうんだよ、レナ…」 「 イ カ サ マ 」 レナの目がマジなのです…これはバレたら恐ろしいことになりそうなのです。 でも気になるのは…梨花なのです。ずっとボクとサイコロを見比べています。こっち見んななのです。 「…まぁ、どんな目が出ようと、私はそれに従うわ…くすくす」 嫌な感じなのです。未だにベルンカステル気取りの癖が抜けないから、いつまでもナイチチなのです、バーカバーカw 圭一はボクにも了承を求めました。 「…羽入もいいよな、コレで」 「…はい、ボクは全然構わないのですよ」 「よし、じゃあ…決まりだな…くっくっく」 お互いに言わずとも分かっているのです…全てはボクの思い通りなのですから! 「さぁ、いくぞッ!!」 ――圭一がサイコロを振る構えを見せたのです。 「――全ては神の仰せの通りに」 ニンマリと笑う圭一…馬鹿…あまりこっち見んななのです…バレたらどうするのです… いや、もう勝つと分かってのことですか…それでいいのです。 それにボクも…なんだか顔が、自然とニヤけてしまうのです。 だ…駄目なのです…こらえるのです…し…しかしwww 梨花たちは未だに自分こそが勝つと思い込んでいる…サイコロが落ちる前に勝利を宣言してもマズイ… いや…サイコロが止まる寸前…『六』の目が出る寸前に勝ちを宣言するのです…! ――そして、賽は投げられたのです。 サイコロは宙を舞い、机の上でコロコロと回り…もうそろそろ回転が収まりそうな瞬間。 ボクは梨花を見て言ったのです。 ――勝利を確信した、最高の笑みで。 「梨花。…ボクの勝ちなのです」 言ってやったのです言ってやったのですッ!!!どうですか、梨花ッ!! ボクと圭一で一日『にゃーにゃー』なのです!ボクと圭一がズッコンバッコンやってる間に、梨花は自宅でペチャパイを弄りながら一人オナってればいいのです洗濯板涙目なのですwwwwww ――ですが、梨花は動じず――むしろボクを笑い飛ばしたのです。 「――くすくす。勝ちですって?――それはこっちのセリフだわ」 …な、なんということ…。 ボクの目の前に、『一』の目が出たサイコロがあるのです。 何故、何故、なぜッ!!おかしいのです、圭一のサイコロは必ず『六』の目が出るはずなのに…ッ!! 「な…なぜ、『一』が…」 圭一も茫然と立ち尽くしていました。 「か…神…。お、俺は仰せの通りに…」 馬鹿!だからこっちを見ながら言うんじゃないのです!みんなジロジロと怪んでいるでしょうがッ!! 「――魅音、詩音。圭一を確保しなさい」 なっ…梨花の指示で、圭一が二人に捕えられたのです。身動き出来ない圭一はただ「か、神…」とうめくばかり。 梨花はサイコロを拾って、圭一の前に見せました。 「『一』の目だから、私が圭一と一日『にゃーにゃー』なのですよ、にぱ~☆…というつもりだったけど、イカサマした罰が先ね。羽入と組んだ代償は…そうねぇ、二人に罰ゲームってことで。それでいい、みんな?」 みんながギラリと目を光らせるのです…うぅ、イカサマがバレた時の罰ゲームなんて、格別上等にヤバイに違いないのです! でも…なぜ、なぜ…? 「――なんでバレた、って顔してるわね。いいわ、教えてあげる。…羽入。あんたが家に帰って来た時、ほっぺたにチョコレートシロップと『圭一のホワイトチョコレート』がついたまんまだったわよ」 「――ッ!!!」 し、しまったあぁぁぁなのですうぅぅぅぅぅ!!! あの後、疲れてしまって、お風呂も入らずフラフラと自分の布団で寝てしまったのですッ! そして起きた時には綺麗に顔が『拭かれていた』…ということはッ!! 「――そう、私があらかじめタオルであんたの顔を寝ている間に拭いてやったの。そして知らぬふりで通し、羽入以外のみんなで計画を練った」 「圭一くんと羽入ちゃんで、夜中の内に何かを画策しているんじゃないかな?ってレナは思ったの。 おそらくバレンタインデーの部活について、目的は当然、羽入ちゃんに便宜を図るため…」 「…そこで、おじさんが思い出した。『イカサマする道具を、この前大石さんからもらっていたはず。確かサイコロだった』てね」 「ならば、そのサイコロを使うゲームをするように仕向けて、みんなの前で暴けば宜しいのですわ。それが証拠になりますもの」 「…そして、さっき私が圭ちゃんの腕に絡んでいたでしょう?…ただ単に、この爆乳を押し付けていたんじゃないですよ。あの時、羽入さんにも気付かれないよう、圭ちゃんのポケットからサイコロを奪って、お姉のサイコロとすりかえたんです」 「…当然、それは普通のサイコロ。圭一はそれを知らずに意気揚々と振ったというわけなのですよ。…まぁ、まさか上手い具合に『一』を引き当てるとは思わなかったけど。――どこかにいるかもしれない、幸運の『神』に感謝するべきかもね…くすくす」 みんながご丁寧に教えてくれたのです――ニヤニヤしながら。 さ、最初からバレていたのですか…このゲーム自体が、イカサマだったなんて…! ていうかみんな、推理力がおかしいのです!そこまで飛躍して考えて、しかも全部当たってるのは卑怯なのです! 「バーローなのですよ、にぱ~☆…くすくす。だけど、現にここにイカサマのサイコロがあるんじゃ、言い訳出来ないわよ?」 梨花が詩音から受け取ったサイコロは…確かに圭一のサイコロ。 それが既にイカサマ目的なら…言い逃れは出来ないのです。 こ、こうなったらッ! 「…圭一」 「か…神…」 「逃げるのですッ!!!!!」 「御意ッ!!…すまん、みんなッ!!」 圭一は二人を振払って、ボクと一緒に逃げ出したのです! ボクも教室から駆け出して、なんとか校庭で圭一と合流できたのです! 「圭一ッ!!…なんとか逃げ延びるのです、捕まったらアウトなのです、人生の終わり的な意味でッ!!」 「分かっております、神ッ!!…うおおぉぉぉ、スマン!!みんな~~~ッ!!!」 × × × …教室に取り残された五人は、彼らが走り去った後を見て、全員がゲラゲラと笑った。 「…はぅ~☆あの二人、愛の逃避行なんだよ、だよ!」 「それにしては、焦り過ぎもいいところですけどね。――二人で逃げ出さねばならないくらいの秘密があるわけですね。おそらく『昨日の夜』の――」 「そ、それは…まさか、不潔でございますわぁッ!!!」 「くすくす…そうとは限らないわよ?――まぁ、帰ってきた時の様子じゃ、確実だろうけど。それは二人に直接聞いてからのお楽しみなのですよ、にぱ~☆」 「…さぁて部員諸君。今日の部活は…あの二人と、鬼ごっこだぁッ!!!あの二人を捕まえて、『昨日の夜』についてあらいざらい聞き出した人がチョコをもらえるってことでッ!!いくよッ!!よーい…スタートッ!!!」 魅音の掛け声を合図に、みんなは一斉に走り出した。 ――誰一人として、あの二人を逃すつもりはない。 ただし、それは嫉妬ではなく、むしろあの二人をとことんいじり抜いて遊びたいという気持ちで、彼らを追いかける。 ――もちろん。逃げている二人は、こんな温かい彼らの思いに気付かず、ただただ逃げることしか考えていなかったが。 ――めでたしめでたし、めでたくもなし?
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トラップバスター (前篇) 最初は、俺が振り向いた顔があまりにも恐ろしかったので、沙都子が驚いたのだと思った。 そりゃあ、橋の上で突然背中に触れられたら誰だって驚いた顔をするだろう。 しかし、沙都子の様子を見ると、その様子は俺の顔だけに驚いたものではないのだと、すぐに分かった。 「さ、沙都子・・・?」 俺は両手で顔を覆った沙都子の肩に手を置いた。その瞬間 「ご、ごめんなさい。ごめんなさい、ごめんなさい圭一さんっ!!」 俺の手が、強く打ち払われた。数秒遅れで痺れるような痛みが掌に伝わる。 「ど、どうしたんだよ。いきなり?」 沙都子の気に障ることでもしたのだろうか?俺は努めて優しく声をかけた。 しかし、沙都子は俺を見据えたまま首を振るだけで、徐々に後退りを始めていた。あの、ごめんなさいという謝罪の言葉を繰り返しながら。 「おい、沙都子。一体どうしたんだよ?俺、何かしたのか?」 「け、圭一さん。近づかないで、私に近づかないで下さいましッ!」 「ご、ごめんよ。気に障ったことをしちまったのか?」 「違いますの、圭一さんは何も悪くございませんの・・・。悪いのは私なんですのッ!!」 話が噛み合わない。俺は沙都子に何が起こったのか理解できず、戸惑うことしか出来なかった。しかし、次に発した言葉は、俺の混乱を更に加速させるものだった。 「ごめんなさい、ごめんなさい圭一さん。圭一さんを殺した私を、どうか許して下さいましッ!!!」 はぁ?沙都子は何を言っているんだ。俺を、殺して、ごめんなさいだと・・・? 「ば、馬鹿言うなよっ!俺は生きてここにいるだろっ!?訳が分かんねぇよっ!!」 本当に訳が分からない。何かの拍子で、沙都子は錯乱してしまったのだろうか。 俺は沙都子に駆け寄り、その肩を強く掴んだ。「しっかりしろ!」と声をかけたかったのだが、その前に沙都子の叫び声が、俺の言葉を遮った。 「い、嫌あぁあぁぁあぁぁぁッッ!!」 想像以上の力で、沙都子は俺の手を振りほどく。あまりに勢いが付いたため、それが腿に当たって激しく音を建てた。 「だ、駄目です圭一さん。私に近づくと、私はあなたに酷いことをする!だから私に近づかないで!!」 「お、おい。俺は何もしない。何もしないんだ。だから落ち着いてくれよ」 「私がするのですッ!このままでは私はもう一度圭一さんを殺してしまうッ!いや、みんなを殺してしまうんだ。梨花も、詩音さんも、魅音さんもレナさんも羽入さんも、お義父様とお母様を殺した時のようにィッ!!」 一際大きく叫んで沙都子が踵を返し、全速力で元来た方向へ掛けだす。 「おいッ!待てよ沙都子!!」 あまりにも一瞬のことで、伸ばした俺の手は空を切った。急な動きに橋が揺れ、バランスを崩した俺と沙都子との距離が開く。 橋を渡り終えた時には、沙都子の姿がようやく見えるような状況だった。 「沙都子、沙都子ぉーっ!」 山道を全速力で追いかける。俺と沙都子との距離は、橋からわずかに縮まっていた。 しかし、この場所は沙都子の庭みたいな場所であり、おまけに自衛隊お墨付きのトラップがあちこちに仕掛けられている。 言うなればここは地雷原。文字通り「地雷を踏んだらさよなら、さよなら、さよなら・・・」だ。 だが、地雷の炸裂は意外に早くなってきた。それも、前を走る沙都子の身に。 「あッ!」 叫び声を上げて、沙都子が地面に激しく叩き付けられた。ほんの少し道を外れた所に仕掛けられたロープに足を取られたのだった。 「お、おい。大丈夫か!?」 「ひッ、圭一さん!・・・あああ、ごめんなさい。ごめんなさい!!」 助けようと駆け寄った俺を見ると、沙都子はもつれる足で立ち上がり、さらに走り出した。衝撃のせいで血が滲み出ている膝小僧が痛々しい。 だが俺は、沙都子が自分で作ったトラップに引っかかった事に衝撃を覚えていた。 この地雷原を誰よりも理解しているはずの沙都子が、混乱のために恰好の餌食となっている。普段言っていたじゃないかよ『相手が混乱すればするほど、トラップは華麗に決まるものですわ~♪』って! 沙都子、お前が混乱しちゃ駄目だろ・・・! 俺の心配をよそに、沙都子は次々とトラップに引っかかっていった。 丸太落としのロープに足を引っかけて下敷きになりそうになるわ、落とし穴に寸手の所で落ちそうになるわ、胡椒入りの袋の直撃を受けるわ・・・。 竹林に偽装した武者返しのトラップに掛かりかけた時は、流石に肝を潰した。誰だよ、あんな竹の槍襖みたいなモンを教えたヤツは!刺されば下手すりゃ死ぬぞ!! 幸か不幸か、トラップのおかげで沙都子の足が遅くなってきた。かつて山狗のリーダーと魅音が一騎打ちをしたあの小屋の近くで、俺は沙都子に近づくと、ラグビーのタックルをするような感じでその腰に飛びついた。 ザッ、と音を立てて、二人の体が地面に倒れ込む。庇うように沙都子の体を抱え込むと、埃を吸い込まないよう、背中を地面に付けるようにした。 「いっ、嫌あぁぁっ!!離して、離してェッ圭一さんッッ!!」 戒めから逃れようと、沙都子は手足と体を必死で動かした。それを押さえるため俺は沙都子の手首を掴み、足を膝で押さえて馬乗りの形になった。 「くうっ!」 それでも、沙都子の爪が俺の手首辺りに食い込む。激しく立てられた爪が肌を抉る嫌な感触がした。 しかし離すわけには、これ以上沙都子をトラップの海に放つわけにはいかない。俺は痛みに耐えながら沙都子を正気に戻すべく、声を掛けた。 「へへっ、捕まえたぜ。もう、逃げられねぇぞ・・・」 落ち着かせるために、努めて普段通りを装う。その甲斐あってか、沙都子の焦点が俺の目に合わさった。 捕まってしまった。 私は必死に圭一さんの手に爪を立て、この場を何とか逃げようとした。 だって、そうしないと私は圭一さんを殺してしまうのだ。今は良くても私という存在がある限り、私に関わった人は不幸になる。 両親も!にーにーも!梨花も!みんなも!そして圭一さんも!! 私は狂ってしまって、いずれみんなを殺してしまうんだぁぁ! 「へへっ、捕まえたぜ。もう、逃げられねぇぞ・・・」 そんな私に、普段と変わらぬ圭一さんの声が聞こえた。何故?私に抵抗されて、爪を立てられて痛くてたまらないはずなのに、どうして? 私は圭一さんの顔を覗き込んだ。遊んでいる時と同じ、悪戯っぽくて優しい顔。 だが、口元が歪んでいる。耐えているのだ。私によって与えられている痛みに、耐えているのだ・・・! 「けい、いちさん」 指から力を抜く。爪の間に圭一さんの血肉がこびり付いた感触がある。 「いきなり、どうしたんだよ。闇雲に走っちゃ危ねぇぞ」 言われてみて初めて、体のあちこちに鈍痛があるのを感じる。覚えているはずのトラップの位置が思い浮かばず、引っかかってしまった時に出来た傷の痛みだ。 「だ、駄目ですわッ。私に近づいては!私は圭一さんを殺したくないんですのッ!!」 「いい加減にしろ沙都子ッッ!俺を殺すとか、近づけば不幸になるとか何言ってんだよ!!」 「・・・私は覚えているんですの。ここではない、でもここに良く似た世界で、私は圭一さんを殺してしまった!この手で、お義父様とお母様にしたように、突き飛ばしてッ!!」 「え?何だって・・・!?」 圭一さんの目が驚きに見開く。 何という、失言。私が一生抱え続ければならない罪が、圭一さんに知られてしまった。 人類最大の罪悪、親殺しの罪。 「嫌ああああああああああっっっ!!!」 私は思い切り体を動かす。思いもよらない言葉に衝撃を受けたのか、圭一さんの膝からは力が抜けており、案外簡単に足が外れた。 その足が、正確には膝が偶然にも圭一さんの鳩尾に入る。 「ぐふっ!」 圭一さんの両手から力が抜ける。私はその手を振り解くと崩れ落ちる圭一さんを尻目に、元来た道へと駆け出した。 もう、終わりだ。 私が一番秘すべき罪を、一番知られたくない人に知られてしまった。それはこれまでの関係の終わり、「友人としての沙都子」から「罪人としての沙都子」への変化を圭一さんに強いること。 ごめんなさい、圭一さん。私はこれから罪を償いに行きます。 関わった人間を不幸にする、本当の「オヤシロさまの使い」は消えるべきなのです。 もう一度あなたを不幸にする前に、私は自分自身に決着を付けます。 にーにー。もう一人の私のにーにーを守るために、私に力を貸して・・・。 迂闊だった。俺ともあろうものが、あんな事でショックを受けるなんて・・・。 リュックを捨て、痛む腹を押さえながら、俺は沙都子の追跡を再開していた。 沙都子は元来た道を戻っている。その歩みは遅いが俺も先程の一撃で力が出ず、追い掛ける速度は沙都子とさほど変わらない。 『ここに良く似た世界で私は圭一さんを殺してしまった!』 『お義父様とお母様にしたように突き飛ばしてッ!』 さっき沙都子が言った言葉が蘇る。 ここと良く似た世界・・・。前に梨花ちゃんが言っていた別世界での出来事ということか? 今、俺達の目の前にあるように、本来世界というものは一つしかないものだ。この世界での出来事は歴史となり、この世界での死はそのまま存在の永遠の喪失となる。 しかし梨花ちゃんによれば、世界というものは一種のゲームにおける選択の内、最終的に選択されたものの積み重ねなのらしい。 親父の持っている『信長の野○』(今年の四月に発売)というゲームに例えてみよう。あのゲームはプレイヤーの選択と、コンピューターがランダムに選択した行動により展開が様々に変化する。 それでいて途中経過を記録することができ、結果に満足のいかないプレイヤーは保存した記録から世界のやり直しが可能となるのだ。 ここで問題となるのは、プレイヤーが記録しなかった世界はゲームの登場人物にとって存在しない世界となるが、当のプレイヤーにとっては、かつて存在した世界として記憶に残っているのだということである。 梨花ちゃん(もしくはその上の存在)をプレイヤーとするならば、俺達のようなゲームの世界の登場人物が、起こりえなかった世界の記憶を持つことは本来ありえない話なのだ。 そのありえないことが、沙都子に起こっているということなのか・・・。 もしもそれが幸せな世界の記憶だったら、沙都子にとって幸福だったのだろう。しかし、蘇ってしまったのは俺を殺したという悪夢のような世界の記憶。 胸が痛んだ。俺にも忘れたい、思い出したくもない忌まわしい記憶がある。 無力な幼女達を狙った連続襲撃事件。その記憶を無理やり蘇らされる羽目になるなんて、考えたくもない。 加えて、別の世界での記憶は両親を突き飛ばして死に追いやったという、封印されていた記憶まで揺り起こしてしまった。 二年目の綿流しの祟りと言われるあの出来事について、俺は断片的な情報しか知らない。しかし、梨花ちゃんや大石さん、監督に赤坂さん達の話を総合して考えると理解できる。 その真相は、雛見沢症候群による疑心暗鬼が引き起こした悲しく、残酷な事件。 沙都子は自分の身を守ろうとしただけのことだった。しかしその目的は、両親を死に追いやるという最悪の形で敢行されてしまったのだ。 気づけば、俺の目に涙が浮かんでいた。 遠い、うっすらとしか覚えていない記憶。 俺にもそういうことがあったのかもしれない。殺されると思って、俺を救おうとした仲間を逆に殺してしまった喜劇にも似た悲劇。 思い出せないが、知っている。俺はその悲しみを!辛さを!苦しみを知っている!! 「そうなんだよな、お前が一番、辛いんだよな。沙都子・・・」 多分、沙都子の悲しみを癒せるのは俺しかいない。いや、俺が癒す、救う、絶対に助け出して見せるッ!! 沙都子に殺されたという世界の俺も、同じことを考えるはずだろう。例えもう一度殺されるのだとしても、あいつの笑顔を守るためならば、惜しむものはないッ!! 吊り橋に戻った頃には、俺と沙都子の距離は大分縮まっていた。しかしあと一歩のところで、橋桁への進入を許してしまう。 橋の真ん中に至った所で沙都子はこちらに向き直り、脇のロープを握り締めた。俺との距離はあと三歩といったところか。 「圭一さん。もう来なくてようございましたのに・・・」 沙都子が力なく笑った。その笑顔には全く精気が無くて、まるで人形のような瞳をしている。 「でも、最期の最期で、圭一さんのお顔が見れて幸せでしたわ。本当に、良かった」 目を閉じて、すっ、と沙都子がジャンプする。その動作はまるで垣根を乗り越えるようで、本当にあっけなかった。 「さよなら、にーにー」 消える間際の沙都子の声が、俺がお前のにーにーだと認めてくれたその声が、幸せそうに響いた。 ほんの少しの浮遊感。あとは自然落下に任せてはい、おしまいのはずだった。 しかし、最後までロープを掴んでいた左手が離れるのが一瞬遅くて、その手首が強い力で引っ張られた。 「に、にーにーッ!!」 死ぬまで開くことがないと思っていた私の目に映ったのは、信じられない光景だった。 脇のロープを右手で掴み、圭一さんが私の手首を堅く握り締めている。身を乗り出すという段階ではない、私と同じように全身がロープの外にあったのだ。 「くっ、間一髪ってとこかな・・・」 手を伸ばしただけでは届かないと思ったのだろうか、圭一さんはロープの隙間から飛び込んだのだ。一歩間違えば自分が飛び降りる羽目になるというのにッ! 「駄目です、手を離して下さいましッ!このままではにーにーが・・・」 「い~や、駄目だ。上がる時は沙都子、お前と一緒だぜ」 重いわけではないが、私の体重は圭一さんの半分近くはある。この状況が長く続くわけが無かった。 私は圭一さんの手を振り解こうとした。私が落ちることで、圭一さんの負担を軽くする必要があった。 しかし、圭一さんの手は堅く握られており、放す気配も無い。逆に私が暴れることで圭一さんが力尽き、巻き込む恐れがあった。 やむなく、私は抵抗を止めて圭一さんに身を任せた。 「どうして、どうしてッ!私みたいな疫病神、死んだ方が良いのですわッ!!」 「馬鹿野郎。沙都子が死んだらなぁ、みんなが悲しむんだよ。何より一番、俺が悲しい」 「駄目ですわ、私が生き残ったら圭一さんに、にーにーに不幸が降りかかる。そんなのは嫌なんですのッッ!」 「沙都子。お前ぇ、勘違いしてねぇか・・・」 「え?」 「お前がいなくなること以上の不幸なんて、俺にはないんだよォッ!!」 咆哮と共に、私は物凄い力で圭一さんに引っ張り上げられた。徐々に私の体が持ち上がっていき、圭一さんの胸元まで引き上げられる。 「つ、掴まれ、沙都子・・・」 圭一さんの言葉に、思わず手を圭一さんの首に回す。厚いとはいえない圭一さんの胸元に顔を沈めると、柔らかな香りがした。 「けっ、これ以上上げるのは、無理みてぇだ。『火事場のクソ力』って訳にはいかねぇなぁ・・・」 「も、もう充分でございますわ、にーにー。私をお離し下さいまし!それなら、にーにーだけは助かりますわ!」 「ば~か。俺は欲張りなんだよ。俺も沙都子も助からねぇと、満足出来ねぇんだよ」 そこまで言うと、圭一さんは顎で橋桁を指して私に昇るよう促した。 死ぬのは構わないが、圭一さんを巻き込む訳にはいかない。仕方なく私は圭一さんの体をよじ登ると、ロープを潜って橋桁に辿り着いた。 「さっ、圭一さん。手を・・・」 すぐに圭一さんに振り返る。圭一さんは両手でロープを握っていたが、その手が既に震えていた。残された時間は少ないのだ。 手を伸ばした時、私は圭一さんが微笑んでいるのに気づく。諦観の入ったその笑みに、私は不吉な感触を覚えずにはいられなかった。 「沙都子、お前じゃ支えきれねぇだろ。それにもぅ、手の感覚が無ぇんだ」 残酷な宣告だった。私を支えるのにすら苦労した圭一さんだからこそ分かる冷静な分析。 「そ、そんなッ!圭一さん!何とかならないのですのッ!?」 「無茶言うなよ。これでも、無理してるんだぜ・・・」 苦しげな圭一さんの声、伸ばしても決して受け取ろうとはしない、頑なに閉じられたその両手。全てが私の心を突き刺す。 「あああああっ!私のせいで、私のせいでこんなぁ・・・」 「泣くなよ、沙都子。俺が消えても、笑っててくれ。新しい生活を迎えて、笑ってくれ。それだけは、約束してくれ・・・」 思い出す。最期の、あの時の圭一さんの言葉を。私に突き落とされて、殺される直前にも私のことを思ってくれていた圭一さんの言葉を。 私の心がこれ以上傷つかないように、怖がらせないように、落ちる時まで笑っていた圭一さんの顔を。 繰り返すのか、私は。圭一さんを目の前で失うことを。両親を失うことを繰り返すのか!? もう嫌だ!もう、自分の目の前で人が死んでいく様を見ることは、もう嫌だぁぁぁぁっ!! 「うわあぁぁぁぁぁぁっ!!」 圭一さんの手が離れた瞬間。私はロープに足を絡め、圭一さんの右手をしっかりと掴んだ。 圭一さんが私に離すよう叫ぶが、聞こえない。離すもんか、絶対に離すもんか。 「もうにーにーを殺すものかぁぁッ!二度と、私は二度と失わないんだああっ!!」 どんなことがあってもこの手を離さない。疑うのならば試してみろ、この北条沙都子の覚悟を試してみろォォッ!! トラップバスター (後篇)
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「…うう。詩ぃ、詩ぃ~」 「はいはい。泣かない、めげないの。恋に恋する乙女たるもの、これしきのことでへこたれてたら、やっていけませんよ」 「詩ぃ~っ!」 本日、学校が終わっては梨花ちゃまが私のマンションに駆け出してきて以来、ずっとこの調子で泣き止んでくれないのです。 止め処と無く梨花ちゃまの瞳から溢れる涙の供給源は、本当どこからやってきているのでしょうかね。 私も私で駆け出したいほど重要な用事があるのですが、このまま梨花ちゃまを見捨てておくと内側から干からびて、干物になってしまいそうですし…。 厚さ2ミリもない体つきで『詩ぃ、私もう希望もクソも無いから干物になってやり直すわ』だなんて馴れ馴れしく話し掛けてくる梨花ちゃま、嫌です。 頭部も例外なくぺったんこになり、当然脳みそ部分もスカスカになってしまうでしょうから、今まで以上に風狂な振る舞いを起こすようになってしまいます。 正直、ぶっちぎって変人になった梨花ちゃまも見てみたいという考えはあるのですが…。周囲の住民への迷惑を考えると到底今の梨花ちゃまを死守しなければならないため、梨花ちゃまの傍に付き添う必要があると判断したわけです。 「恋に恋をしてないのです、私は圭一が好きなのです~」 「はい、はい。わかってますよ、きちんと理解しています。100年好きなんですよね」 梨花ちゃまの感情が昂ぶり、抑えがつかなくなると必ず飛んでくる台詞がこの台詞。『100年の時を歩いた』、だそうです。 にわかには信じ難い話ですが、年端もいかない少女にしてはずば抜けて思慮が深いですし、昭和58年の6月までは、聞いている側が肝を冷やす位性格に未来を予知していましたし。 ひょっとしたら本当なのかも。 …あれ、梨花ちゃまが特殊部隊のことで騒ぎ出したのって事件の起こる2週間前くらいでしたよね? 私の記憶ではずっとずっと前から何か予見していた仕草といいますか、その様なものを感じていたのですが。 現に梨花ちゃまは私とお姉の入れ替わりを看破していた節ですし、地下室にてお姉を救ったのは実質異変に気が付いた梨花ちゃまですしあれ私は沙都子をアヤメてくけケケケ… 「駄目えっ! 詩ぃっ、それは駄目!」 「…はっ! 私は、一体何を…」 何かとてもよからぬ回想が思考に巡ってきたのですが…。 「気のせいです、気の迷いです! そうです、100年とはあくまで正式に年数を数えたことが無いから本ッッッッ当に過少の年数を言っているだけであって、本来なら1000年とかとうに過ぎてると思うのです、うう、詩ぃったら信じてない~、ああああああん…」 梨花ちゃまが洗脳してくんのかと吐露を漏らしたくなる位にこちらに詰めより弁を捲し立ててくるのですが、私が別の物事について思案していると、勝手に床へ這いつくばって空気が抜けたようになってしまいました。 現在では床面に転がり回りだだをこねている始末です。 「ねえねえ、聞いて、聞いてよ、関心もってよう~」 梨花ちゃまは自分の拗ね具合をとくと現しているつもりなのでしょうか、唇をたこさん型にでっぱらせているのですが、ひょっとこの物真似をしているようにしか見えません。 「…はあ。泣き癖はおこちゃまと負けず劣らずな癖に、下手な同年代の子供たちよりも思慮深いばかりに、こうなった梨花ちゃまは面倒臭いんですよね。ああ、圭ちゃんは梨花ちゃまをあやす私の立場になって物事を考えるべきです、その通りです! そうすれば梨花ちゃまの願いなんて二つ返事で承諾される事でしょうね…」 しかれども、お情けで実った恋慕なぞどんな女性でも喜べるはずがありません。 人一倍繊細な心をもっている梨花ちゃまに至っては自責の念に押し潰され、結果折角物にした恋情を破棄し、別れてしまうだなんてことも考えられます。 しかし別れた理由はあくまで境遇に耐えられなかったからなのであって、足首に未練のかせを引き連れたままの梨花ちゃまはそのまま恋わずらいに苦しまれるがまま…。ああ、なんと悲しいのでしょう! 最悪の事態は避けなければなりませんね。 やはり圭ちゃんが鈍感なことを利用して、こちらが画作していることを察せさせず、梨花ちゃまの横恋慕を実現させなければなりません。 そのためにはまず失敗を失敗と割り切って、梨花ちゃまに立ち向かって貰わなければならないのですが…。 「あああああ、詩ぃ、詩ぃ! 僕はもう駄目なのです~!」 「泣き止んでください、気に病むことはないですよ。…あああ~今日は悟史くんの看病に行く予定があるのに、なんだか私も涙がでてきましたよ。よよよよ…」 私たちは相互に空いている隙間を近付くことにより埋めあって、ひしりと抱き合います。 私は梨花ちゃまより体格が大きいので、梨花ちゃまの肩に目元を埋める姿勢で。梨花ちゃまは私の胸に潜り込む体勢で、お互い溜めるに溜め込んだ不満の丈をわんわんと叫び始めあいました。 「あああああん、あん、ひっぐ、私たちはきっとこのまま身寄りも出来ず、寂しく朽ちて行く運命なのよお~!」 「失礼な、私だって、私だって…! …ん、ん?」 私が袖を通しているセーターの胸部が液体でぐっしょりと濡れてしまっているのですが、そんなことはどうでもいいのです。 ふと、梨花ちゃまの様子を目に入れていて、ピンときました。これを上手に応用できれば、圭ちゃんなんて手玉にとったようなものなのでは…? 粘着性のある溶媒が飛び散って、頬にかかってきた時には流石に気にかけてしまいましたが、些細なこと。どうでもいいことです。 「ごめん。鼻すすったら鼻水飛んだ」 「んん…。…そうかっ!」 「…ほえ? 詩ぃ、詩ぃ?」 一人合点し、思案を早めて行く私ですが、私は一言も喋っていないため当然のこと梨花ちゃまは理解できていません。 むしろ梨花ちゃまの目つきは私を異端者として捉えているかの様な…。はなはだ、不服です。 まあ、概容すら分からない相手の企みを知ろうとするなんて、他人の思考を読めたりしないと不可能ですからね。 またもやいじけてそっぽを向いてしまっている梨花ちゃまに面を合わせ、順を追って説明していくことにしました。 「梨花ちゃま。男のツボとは、ギャップです」 「ナイキ?」 梨花ちゃまは私の話のでばなをへし折りたいと考えているのでしょうか。 「はいはい、つまらないです。ギャップとは元となる物事と対照の物事の差、普段ツンケンしている人がこちらに親しくしようと踏み寄ってくる様は、なんかこう、悦といいますか…。悦といっても偉ぶっているわけではありませんが、こう、いいでしょう?」 「いいわね。普段勝ち気な圭一が家に帰って一人になると、殊勝な振る舞いになってしまう事に通ずるものがあるわ」 「…なんで知っているのですか?」 「えっ! あっと、その、…覗き、見」 少々ドギマギしていますがさも息をするかの様、平然にどきついことをのたまう梨花ちゃまに、少なからず頭痛を憶えます。 私だってれっきとした一般人、地域の皆さんと同じ感性を持っていますから、 梨花ちゃまの将来がかなり心配になってきたので、釘を刺す意味合いで、私は梨花ちゃまに忠告をします。聞く耳を持たないとは思いますけど。 「幾ら憎からず思う相手の行動観察とはいえ、人の家での私生活まで覗くというのはとてもよろしくないことだと思いますよ」 「愛が成せる業だわ。業と言ったら忍者。にんにん」 梨花ちゃまは両手を体の前に置いて、右手は右手の人差し指だけ伸ばして拳を握り、左手の掌でピンと反り身になった人差しを包み込むように指を握り、やはり左手の人差し指を伸ばす仕草をとりはじめました。 その素振りはあたかも、いや、想像を巡らせなくてもわかります。忍者ですね…。 会話が一段落したところで冷静に状況を分析すると、やっぱり私の忠告はどことやら流れてしまっています。 ちょっとくらい心に留めてください。 「江戸時代まで飛ばしますよ。それに業という単語、忍者とは関連がないと思いますが…」 「知ったこっちゃない、私の発言が正義なのよ」 「もう好きにしてください…」 観念が肝心、諦めも肝心、諦めとは観念。 今の私の御心の深さは観音様も仰天するでしょう。 それ程往生際がよく、何もかもを甘んじて受けいれた覚悟なのです。 「それじゃあ私は、圭一をドキッとさせるためにギャップのついた性格を練習して、習得すればいいのね?」 目を瞑り神々と対話していた私は、梨花ちゃまの比較的まともな言明により現世へ引き戻されました。 そりゃ、元を辿れば梨花ちゃまのための会議なのですから、梨花ちゃまが行うことの確認をとる行為はいたって適切なのですが、違和感といいますか…。 通例にはみ出してる梨花ちゃまこそが、なんか、梨花ちゃまって感じがするんですよね。 「…失礼なこと思ってない? 実際、私を古出梨花として感想をくだしてるんだったら、的外れよ。私はリカであって梨花では…、…いや、なんでもない。で、どう?」 「『ドキッ』って、表現が古いですね」 「表現のことなんてどうでもいいじゃない!」 梨花ちゃまが鬼の見幕で私に食ってかかるものですから、思わず一歩引いて、謝ってしまいました。 心なしか、梨花ちゃまの目尻に光るものが溜まっているような…。…そっとしておいてあげましょう。 「案の内容は悪くないですが…。その作戦は次の機会にやりましょう。今はそれよりも有効な手段がありますからね…」 「内容?」 なんとか修羅から人間へ戻り得た梨花ちゃまが、私がずっと話したかった、本題に食いついてきます。 元々、最初にギャップをおさえることが男のツボをおさえることになると話を持ちかけたのも、このテーマを梨花ちゃまに伝えたいがため。 少々遠回りしてしまいましたが、ようやく声高らかに、宣言する時がきたのです…! 「…そうです。その名も、ずばりッ!」 「…ずばりっ!?」 『泣き落としですっ!』 ☆ (…ふう、放課後になって、やっと30分が経過したわ。私たち以外の部活メンバーを始めとしたクラスの皆も下校したし、後は教室に待機している圭一に、話し掛けるだけ…) (そうやって躊躇して、何分経ってるんですか。軽く20分、踏ん切りつかない体勢のまま、入り口でもたもたしてて。はたから見ていてとても怪しいです) (なっ、何を言うの! この私が不審者だなんて、公由も大激怒よ!) (ばっちゃに頭が上がらないような村長さんなんて、目じゃありませーん。まあ、冗談ですけど。公由さんのことは、きちんと敬ってますよ?) (私の挙動不審ってことはどうなの…?) 「…圭一っ!」 「…ん、うおっ、この手紙で俺を呼び出したのは梨花ちゃんだったのか! いやあ、可愛らしいシールや封に包まれた手紙だったもんだから、ラブレターだと思ってたよ」 「ラブレターなのですっ!」 「…。…、へっ!?」 「僕は圭一が好きですっ! 他の誰より、レナより魅音より沙都子よりいっ! 好き好き大好きなのです、なんで、圭一は僕がこんな、好きだって…、えぐ、好き、…わからな、いの」 「…梨花ちゃん」 「わからないのよ、おかしいわよ、ずっと圭一のこと考えてて、離れなくなって、いつしか圭一のことで思案を巡らせることが日課になって…! な゛ん゛で気゛が付゛いてくれ゛な゛い゛の゛…?」 「梨花ちゃん!」 「大゛好゛き゛っ゛!!」 「…泣かないでくれ、ほら、ハンカチ」 「うう、拭゛いたって、ま゛た゛涙がでちゃうっ」 「なら、梨花ちゃんが楽になるまで、拭き続けるさ。なんたって、梨花ちゃんと俺は、仲間…、…いや」 「…」 「…落ち着いたかい? …そう。梨花ちゃんと俺は、恋人じゃないか」 「…! 圭゛一゛い゛っ!」 「なんというか、泣いてくれるまで俺のことを好きで居てくれる女性を、ないがしろにできないから…。凄く、嬉しいよ。これからの人生、傍に居てくれないか」 「喜んでっ! じゃあ、早速棒と玉を使って穴に入れる楽しい遊びをしましょっ!」 「へっ!?」 「遊びなんてものじゃないわ、これはお互いの人生の岐路を固める大切な儀式! 2人で乗り越えましょ、さあさ横になってあら圭一ったらこんなに固くしてウフフフフフ…!」 「…梨花ちゃん。俺、俺ッ!」 「きゃっ! ううん、圭一ったら激しい! そう、そこよ! 刺激がいいのお、もっとやって~!」 ※続きはこの計画が達成、成就されたら行われます 「ムフ、ムフフフ。ウフフフフフ…」 ミッション2 放課後の学校に圭一を呼び出し、泣き落としで圭一を落とせ! 作戦内容:昼休み終了後、あらかじめ圭一の下駄箱に手紙を用意して放課後教室に残ってもらう! その後作戦班Aがターゲットに接近、熱心に口説け! ポイント:泣き落としに崩れない男なんて居ない! この日の天気は小雨で、天井やら内壁、学校全体からしとしとと物静かな水の打ちつける音がこだまする。 私たちと圭一以外の全校生徒が家に帰宅した分、余計に静まり返ってるのだろう。 キーンとした振動数の多い音波に耳を澄ませていると、いつしか職員室で勤務している知恵先生と校長先生の息だって、今だけは止まっている錯覚に囚われる。 学校という空間に詩音と私、圭一の3人だけしかいない気がしてくるのだ。 やがてそれは圭一と私の2人きりになるのだろう。 …私は教室のロッカー側の入り口手前に居て、圭一は自分の席に座って何やら本を読んでいる。 この状態のまま、もうすぐ40分が経過しようとしていた。 なんでだか今日の雨の反響音が、私には安らぎの場を醸し出すバックサウンドの様に思えてきて、ことさら感謝している始末だった。 普段日頃だったら帰りに衣類が汚れるし傘さすのが面倒なんて、愚痴をこぼしてしまうのにね。 「…雨の音には、人を癒しつけるヒーリング効果があるそうです。アルファ波でしたっけね。このことを、話の種にしてみてはいかが」 「…ありがとう、詩音。たまにはいいこと言うわね」 「たまに、は余計ですっ」 …余裕ぶっこいて詩音と会話の応対してるけれど、わたくし、古出梨花。ゆとりなんて都会住居の隙間ほどありません。 これからする事、すべき事を考えているだけで全身ガッチガチにこわばってしまい、今にも逃げ出したい所存です。 ヒーリングとか知ったこっちゃありません。 何より、詩音が提案した腹づもりって、ばっさり言っちゃえば告白って事ですよね。 泣き落としがどーのこーの言ってるけどまずはアタックアタック! って強制してるわけですよね。 私に胸内を打ち明ける勇気がほんの一滴すら振り絞れなくて、困り果てて詩音に相談した訳だというのに、こりゃおかしいですよね。 そりゃ、思いの丈を暴露することが可能な位積極的なら、恋慕くらいちょちょいのホイで実りますよね。 (…そうですよね、梨花ちゃまだって、りっぱな乙女。幼少であるだとか、くだらないことなぞ関係ないのです。 沙都子。ねーねー、あなたに悪いことするけれど。…ねーねーは梨花ちゃまを応援します。沙都子も圭ちゃんに心を寄せているだなんて事は十分承知しているけれど、…。 梨花ちゃまの様子を窺っている内に、手助けしてあげたいと思うようになったのです…) 何を勘違いしたか詩音が私の背中を押してきたんだけど、どういうこと。 詩音だって来年は高校生、成人に近付いてきた体格の力というのはいくら女性でも子供の私の体には十分な圧力がかかり、圧力から逃げ出そうと体が教室方面へ二歩ほど動いてしまう。 無用心で抵抗できるはずもなかったから、尚更ただ押された力に従ってしまうだけで、かなりピンチ。 入り口付近でじっと圭一の素振りを窺っていた私はされるがまま、とうとう圭一の居る室内へ侵入してしまった。 押されて歩いた際にペタ・ペタと上履きの音を立ててしまうあまりよろしくない失態を犯してしまい、即効で圭一に私の存在が割れ、面と面が向かい合う態様に。 最悪。 残念ながら私は漫画の主人公とかにありがちな『よーし思い切って私の気持ちをぶちまけるか!』とかそんなんにならなくて一層緊張しちゃうタイプなんですよね。 もう本当どうしようもない、このまま溶けてしまいたい、できるならとんずらしちゃいたい。 私には叶わぬ淡い羨望だったのよ…、とか心の片隅で思うわけでもなく、気持ちに決別をつけるために言い訳のかざりをつける訳でもなく、単純に逃げたい。 「…もしかしてこの手紙、梨花ちゃんか? 放課後になってから、40分過ぎてるけど。どうしたんだ」 声の主がゆっくりとした手付きにて現在開いている本のページにしおりを挟み、片手にて本を閉じ、席を立ってこちらに近付いてくる。 ガラガラとした男子特有の勝り声の持ち主は、もちろん圭一だ。 待ちくたびれたからだろう、うんざりとした声色にて、手紙の送り出し人の真偽を尋ねてくる圭一。 不幸中の幸いで、現在の私がまともに呼吸すら行えない状態だということは、圭一に計られなかった模様だ。 されども圭一の投げかけてくる疑問の眼差しに、そこまで不快に思われていないだろうなとはタカをくくりつつも、無言が続くにつれやっぱり不愉快なのだろうかと当惑してしまう。 不相応なのだろうか…。私はまだ、一般に思春期と言われる年頃すら迎えていないのだから。 こんなことなら100年の記憶なんて引き継ぎたくなかった。 …これについては本音ではないが、万が一私の記憶がまっさらな状態であれば、幼少時に抱いた淡い恋慕なぞ全く悩まぬ問題に成り下がっていただろう。 負の要素を自覚してしまうから、心を暴け出す行為っていうのは、嫌なのよ。 こんなことならホイホイ詩音の申し出に乗らなければよかった。 乗ってもいいが、きちんと内訳を理解し、極端に追い詰められる惨状にはならないことを確認した上で臨むべきだったのだ。 「そ、その、圭一」 ほら、情けない。圭一と接見し、数分が経った後、やっと喉から放出できたかすり声ですらこれだ。 圭一はあっけからんというか、キョトンと放心している挙措をとっている。 …当然だ。私ですら、何をどうしたいかわからない。 「…。…ううう~っ」 途端、なんだか呼吸における吐き出す行為だけ金縛りが解けたように行えるようになり、息を吐き出した瞬間、目頭やら胸やら背中に熱みが伝導してきて、…地面が視野にぐっと近付いてきた。 ついでに両足の膝小僧が痛い。 痛みがお腹までじわじわと登ってきて、へそに到達したむしゃくしゃが突如弾けるよう四肢に飛び散り、後悔が波となって襲い掛かってくる。 …津波を真っ向から浴びた後は、その場に泣き崩れてしまうだけだった。 「…!? どうしたんだ、梨花ちゃんっ!? 何か、悲しい出来事があったのか!?」 圭一は気をかけてくれるが、今はその優しさが、傷口に染みる。 「みぃ、違うのです、違うのですう、うううう~」 精一杯の拒否だった。 圭一に嫌われたくなく、かつ今の一時期だけ構って欲しくないために使った、あえて理由をひた隠しにする受け答えだ。 当然私の突っぱねる返事に、圭一は言葉を詰まらせてしまい、ただ雨の無常な響きが取り残される。 …圭一が無言になったのはある種の優しさで、私を想ってくれたからこそなのだろうが…。 本音を言うと圭一には私が張った拒みの壁を打ち破って、話し掛けて欲しかった。 顔面が焼ける様に熱く感じるし、同時に液体窒素の冷気を詰め込んだのかと誤解を持つくらい、顔面やら背中が寒い。 手首の脈活動も破裂してしまうのではないかと心配をよぎらせるほど活発で、指先に、ジンジンとした鈍い痺れを憶える。 ただ動かないことだけが私にとって唯一の安穏で、逃げ道だったし、本能の警鐘が私に行動させることを許さなかった。 今、何か振る舞いを行おうなら、息苦しさで死んでしまうように思えたのだ。 「…? みぃ」 背後越しから、ゴツゴツしていて、汗臭くて、あたたかい感覚が纏わりつく。 それはとても心地よい感触で、…いつまでも味わっていたかったから、硬いけれども柔らかい、圭一の胸へさらに体重を預ける。 ぼやけてよく見えなかった視界も、すっきりと晴れ渡っている。 泣き出した直後だからか、教室急が普段よりもくっきりと広がっていた。 そして、背後からの一呼吸を襟元に感じた後に乱雑な、ごしゃごしゃと指や手の腹を当ててくる手触りが頭部全体に伝わってきた。 五箇所と追加一箇所に渡って押さえつけられる力の一つ一つの場所が、とてもあたたかかい。 特に追加の一箇所が当たる場所は他のどの場所をとろうにも物足りない位、くすぐったくて思わず笑みをこぼしてしまう、お気に入りの個所なのだ。 「梨花ちゃん」 私はまだ圭一に頭を撫でて欲しいものだから、特に振り向かず、首だけ縦に振った。 「梨花ちゃん。よければ、俺の膝に座るかい?」 言い終わった圭一は一度私の頭を撫でる行為を止めて、私の眼前に姿を現す。 その場に座り込んではあぐらをかき、分厚い甲の右手にて自身の太ももを『パンパン』とならし、私の向かうべき場所を指図してきた。 私の頭部を撫でる行為を断りも無く止めてしまった身ごなしには不服だが…、好意を寄せる圭一の提案を断る理由などあるはずもなく、甘んじて圭一の体全体にお邪魔する。 圭一にとって、譲歩に近い進言なのだろうが、私は圭一を感じれたらそれでいい。 私が好きになったのは、無理に優しさを取り繕った圭一でなく、圭一である圭一本人だからだ。 …告白のタイミングは完全に逃してしまったが、今ならつもり積もった想いを、きちんと吐けそうな気がする。 なんとなく自信が湧いてくるのだ。 乱れたコントロールの暴投になってしまうだろうが、投げつけようとすれば、渾身の一投を圭一に決められる。 されどもながら、この温もりと告白、二者択一をするというなら…。 やはり温もりの方が捨てがたい。 (梨花ちゃまはうまいこと圭ちゃんに涙を見せることに成功したわけですが、多分、あの涙は素でしたね) 詩音は教壇がある側の教室入り口陰より私を見守ってくれてはいるが、なにやらよからぬ考えをめぐらせている表情をしていて、不愉快だ。 ミッション2 失敗 原因:圭一が優しすぎるが故、告白にもっていけなかった… -
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月の下……神社の社で僕は独り悶える。 どうせ幽体である僕は梨花以外の誰の目にも見えない。 どれだけ乱れようと、それを恥じる必要も無い。 けれどそれにも拘わらず屋外での行為は、かつて肉を持っていた古き昔のなごりなのか……背徳的なものを訴えてきて……更に僕の情欲を刺激する。 半裸になり、ほとんど衣服が意味を成していない……ただ布をまとわりつかせただけの状態で、獣のように僕は啼く。 「ハァハァ……梨花、そこですそこ……もっと……激しくぅううっ!」 別に梨花がそばにいるわけじゃない。 梨花は沙都子と住むプレハブ小屋の中にいる。 けれど私がこうして悶えるのは梨花のせいだ。 梨花と共有している感覚は味覚だけではない。彼女には黙っているが、本当は性感といった刺激も共有している。 実体を持たない僕にとっては味覚や嗅覚、そして触覚といった感覚は特に得難いものであり、それ故なのか……梨花から伝えられる快感はなおさら鮮烈に感じられる気がする。 僕の秘部は熱く火照り、切ないほどに花開いている。 「あぅっ……あああぁぁっ!!」 花芯をこねる感覚に、背筋が痺れる。 梨花が今、何をしているのか……次にどのような刺激が来るのか分からないというのも、僕の興奮を更に盛り上げる。 「ああっ……梨花……梨花……。そうなのですね、梨花はそこが感じるのですね」 粗く息を吐きながら、僕は腰を動かす。 梨花もまた女として自分のツボを心得ているせいか、巧みに……ある意味では男以上に僕に快楽を与えてくる。 焦らして……焦らして……焦らして、もう一息というところで休みが入って……。梨花が小さく達するたび、僕の体は弓なりに跳ね上がってしまう。 「はぁ……はぁ…………はぁうっ……あぅっ」 欲しい。 挿れてほしい。僕の奥に、熱く固くなった男のものを挿して、滅茶苦茶に突き入れて、子宮の奥まで突いて……何度も、何度も中を掻き回して、温かい精液で僕の中を満たして欲しい。 けれど、刺激の元が梨花である以上、それを望むことは出来ない。永遠に乾きを満たすことは出来ない。 とても苦しくて、切なくて……狂おしいほどに気持ちいい。 苦痛ならばまだ耐えられた。けれど、快楽には耐えられない。逆らえない。 終わりの無い拷問。 「あぅっ……あぅあぅあぅあぅううううぅぅっ!!」 ああ……これで何度、僕は身をよじらせたのだろう? もはやそれを覚えてはいない。 ビクビクと痙攣しながら、僕は呟く。 「梨花……もう、勘弁して下さいなのです。もう……止めて欲しいのです」 けれど、それを梨花に言うことは出来ない。梨花の寂しさを埋める行為を奪うことも、辱めることも出来ない。 そして、私は嗤う。 「梨花……もっとして欲しいのです。もっと、もっと僕は感じたいのです」 けれど、それを梨花に言うことは出来ない。この快楽から逃れることも出来ない。梨花に言うことで、この快感を得る機会を失うような真似も出来ない。 ここにいるのは、誰からも忘れられているただ独りの女。 そして僕は独り涙を流す。 ―END―
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中篇 彼女は底無しだった。 あれから毎晩の様に身体を重ねた…。何度しても飽きなくて、更に求めあう。 俺の上に馬乗りになって荒々しく蹂躙された…。『手解きを受けて』犬みたいに後ろから犯したり…立ったまま羽入を壁に押し付けてした事もある。疲れ果てて、これ以上は何も出ないと思っても彼女に掛かれば不思議と息子に血が通い始めるんだ。 そして…また溶け合う。…搾り取られる。『牝の扱い方』を手取り足取り教えて貰った。 俺はそんな羽入との秘め事にのめり込んでいく。 いつしか自宅だけでは満足出来なくなり、場所時間を問わず彼女の身体を求めてしまう様になった。そして羽入は俺以上に身体を求めてきた。 羽入は底無しだった。 まるで淫魔の様に…。. 「ふっ!うあぁっ!!は、羽入…も、もう時間がねぇよ…はっ!」 授業と授業の間の休み時間。次の授業に向けて準備をしたり、軽い休息を取る一時。 たかが十分やそこらの短い時間だ。簡単に言うなら俺は便所で羽入に口で犯されていた。 そう、尿意を感じて席を外したら羽入が後ろから付いて来て…そのまま個室に連込まれたんだ。 流石に時間が無いから断ったんだよ。でも羽入がさ… 『ボクが御手伝いしてあげるのです』 って言って、後ろから抱き付かれてズボンのチャックを下げて…まるで幼児の排尿を手伝う母親みたいに……『手伝って』くれたんだ。正直恥かしかった。 それが終わったら俺の身体の前に跪いて 『綺麗にしてあげるのですよ』 と言いながら、息子を頬張りジュポジュポと音を鳴らしながらしゃぶり始めたんだよ。 『掃除』ではなく『元気』にさせる舌遣いと、唇で甘噛みしながら吸われて、息子がみるみる内に『勃こされる』 「じゅるっ!んんっ!ちゅぱ!ちゅぱ!ちゅっぷ!は…んぐっ!んふぅっ…ちゅるっ!」 そして今に居るって訳だ。傍から見たら『させている』みたいだけどさ…。 実際は『されている』…いや『犯されている』の方が正しいかも知れない。 「くっ…う!も、もうイ…くっ!は…うっ!」 やっぱり羽入には分かるんだよな。俺がそう言う前に人差し指と親指で息子を激しく扱きながら、強く吸い付いてきていた。 そしてねちねちと、ねぶり回されている。熱い唾液を絡ませた舌でこれでもかって位に…。 「じゅっぷ!じゅっ…ぷっ!ちゅっ!じゅぶじゅぶ!」 「う…あ!ああ…っ!はっ…はっ…っ!」 その射精への最短ルートを辿る様な激しい愛撫に、思わず彼女の頭を押さえて前屈みになってしまう。 自分から『時間が無い』って言ったよ。でも身体は正直でさ…この快感を少しでも長く味わっていたいんだ。 「んぐんぐ!はっ…はぷ…。んっ…ちゅぶっ!ぶぷっ!じゅぶじゅぶ!んう…!」 腰が引けた俺の尻を手で引き寄せた羽入が根元まで咥え、喉を使ってしゃぶり付くんだ。 手で掻き、舌先で裏筋を擦られ…狭い喉で締められて小刻みに出し入れされる。 「ふ…うっ!ううっ!うっ…はぁ…っ!」 俺は耐え切れなくなり羽入の頭を手で引き寄せて口内に射精する。身体を震わせて彼女の喉に直接…。 息子が跳ねて柔らかい彼女の食道を蹂躙し、多量の精液を吐き出している。 「ふぅ…。ふっ…うぅん。んっ…んくっ…」 鼻息荒く、そして悩ましげな声を洩らしながら嬉しそうに精を啜る羽入の頭を撫でて『次』を待つ。 そう俺が達した後、彼女が必ずしてくれる行為に移るまで頭を撫で続ける。 「あう…。あむ…んっう。ちゅぷっちゅぷ…ちゅうううっっ!」 『お掃除』だ。さっきのは『綺麗に』で、これは『お掃除』らしい。 よく分からないけど羽入の中では違う行為の様で、確かに先程とは違う優しい舌遣いで自らの唾液で『汚した』息子を舐め取っていく。 そして…吸われる。尿道に残った精液を一滴も残さない様に…強く吸う。うん…何て言うのだろうな? こういう羽入の行為が『手解き』から『愛情』に徐々に変わっていっている気がしてならない。 あ?俺は常に『愛情』たっぷりに接しているつもりだ。そうだよ、羽入に対する『キモチ』は変わってはいないぜ。 ……好きだ。異性としてさ。だから、そろそろ言わなくちゃいけないと思っているんだ。 こんな『身体だけの付き合い』とか『お試し期間』みたいな関係じゃなく、ちゃんとした関係になりたい。 …性欲だけを満たすだけじゃ物足りない、羽入を『俺の物』にしたい。 でも…でも怖いんだよ。 『断られて彼女が離れていったらどうしよう』 ってさ もう羽入の居ない生活なんて考えられない。俺の…大事な居場所みたいな感じなんだ。 上手く言い表せないけど、皆と居る雛見沢とは意味合いが違う、大切な俺の『居場所』だ。 だから今日こそは言う。彼女に想いを告げる。 どんな結果でも止まるより…進みたい。後悔はしたくないよな? 精一杯頑張って得た結果なら良いじゃねぇか。 「圭一!教室に戻りましょうなのです!」 右手で口元を隠した羽入が立ち上がって、左手で俺の手を取る。 そして駆け始めた彼女の揺れる髪を見ながら聞こえない様に呟く。 「………問題はどのタイミングで言うか。なんだよな……」 「圭一こんばんは。なのですよ」 またいつもと同じ『時間』に彼女は現われた。と言っても、正確な時間は時計で確認した訳では無いから、分からない…多分、深夜の一時とか二時とかだ。 でも、身体が覚えてしまっているんだ。羽入との逢瀬の時間帯を…。 「こんばんは羽入」 布団の中に入って、俺に身を寄せる彼女に挨拶をして告白のタイミングを伺う。こういうのは考えている以上に難しい。 「あうっ…けぇいちぃ…ど、どうしたのです、か…?」 だから自分のペースに持ち込んで機会を伺う事にする。 その方が言い易いかなと思う。そう、彼女を抱き締めて肩に顔を埋めてみたんだ。 白い華奢な身体に軽く頬擦りし、衣擦れの音を聞きながら一言も言わずにさ。 「あ…う。よ、よしよし」 そんな俺の奇異な様子に彼女は困惑した表情を浮かべながら、俺の頭を優しく撫でる。恐らく何をしたら良いのか分からないのだろう。 それでも俺は一言も発する事なく沈黙を続けて、羽入の甘い香りを嗅ぎ、身体を抱き締める。 「ん…。ん…う…。くすぐったいのです…」 彼女の首筋に顔を埋めて背中を撫でる。落ち着くんだよな…こうしてると。 母親に甘えているのと同じ気分になると言えば良いのか、心が暖かい気持ちになる…。 「あ、あの…さ。俺………俺は」 しばらくの間、羽入に包まれた後、沈黙を破って俺は口を開く。 顔を上げて羽入の目をしっかり見て、想いを伝えようとする。 「…羽入の事が………好きだ」 「……あう」 そう言うと彼女は頬を桜色に染めて顔を伏せる、わずかに覗く口元が弛んでいるのを見て確信する。 『嫌ではないみたいだ』 って。そりゃあ嫌だったら、こんな関係にはなっていないだろうから当たり前と言えば当たり前だけど…。 「可愛くて、明るくて、優しくて…大好きなんだ。だから羽入の事、もっと知りたいんだ…深い所まで。今の関係より…親密になりたい」 彼女の肩に手を置いて更に言葉を紡ぐ…。 そう。高鳴る心臓を落ち着けるために一呼吸置いて、しっかり羽入の目を見て紡ぐんだ。 「…俺と付き合ってください」 余計な飾りは要らない。シンプルに伝えたい事を。 「………あうぅっ」 すると羽入は少しだけ表情を曇らせる。傍目には分からない程微かに…。 嬉しそうな…でも辛そうな表情になるんだ。何故なのかは分からない。 承諾してくれるか断られるか…それくらいしか考えていなかった。 彼女が自分の肩を両手で抱いて再び顔を伏せた事に、俺は戸惑いを覚える。 「あ、ああ…。別に今すぐ返事が欲しいとかじゃないし…。うん!そうだ!嫌なら気にせず言ってくれて良いんだぜ?そ、それに…」 …女々しい。今の俺は凄く女々しいと思う。気遣いに見せかけて保身に走ってしまった。 悩む彼女の姿を見て、何か悪い事を言ってしまった様な気がして……ヘタレた…。 でも羽入がそんな俺の言葉に首をフルフルと左右に振って否定して……抱き付いてくる。俺の胸板に顔を埋めて、ポツリと呟く。 「……嬉しいのです。圭一がボクに想いを伝えてくれて嬉しいのですよ。でも…」 そう言って、また黙り込む。言うべきか否か迷っている様に見える。 「…ボクが圭一と御付き合いをしたら…傷付く人達も……居るのです。だから………今の関係が良いのです」 彼女が絞り出す様に言った言葉に俺は頭を殴られた様な衝撃を覚えた。 いや、一応の予想はしていた。断られる事も考えてはいた。でも予想とは少し違う答に戸惑ってしまう。 「だけどボク、本当は圭一と……。…時間が欲しいのです。ほんの少しで良いのです。考えさせて欲しいのですよ」 そして一回、俺の身体を強く抱き締めて、立ち上がるんだ。 『今日は帰るのです』 俺は…そう言って彼女が襖を開けて去るのを見つめている事しか出来なかった。 その日以来、羽入は夜の逢瀬に現れなくなった。もちろん学校でも触れ合う事も無く…ただただ日々が過ぎていった。 一週間が経ち、二週間が経ち…彼女との接点は学校での授業だけ。 部活に来なくなり必然と会話が減って、憂鬱そうな表情で想いに耽る姿をよく目にした。 そんな彼女を心配して声を掛ける仲間達に取繕った笑顔で『何でもない』と返すのを見ていると心が締め付けられる様な気になるんだ。 羽入をそんな状態にさせているのは俺だから。言わなかった方が良かったかも知れないと考えてしまう。 後悔はしたくなかった。 でも…してしまう。羽入からの返事は貰っていないけど、身を引いてしまおうか。 って、諦めにも似た心境になるんだ。 そんな感じでそろそろ一ヵ月が過ぎようとした頃、羽入があの『時間』に俺の部屋に現われた。 「御久し振りなのですよ。圭一」 寝ていた俺は羽入に揺すられ、飛び起きる。 「はにゅ…う?来てくれたのか」 彼女が微笑んでコクリと頷き、俺の手を取って優しく握る。 「この前の返事を伝えに来たのです…」 真剣な眼差しで彼女が握った手に少しだけ力を込めた。そして震える唇が言葉を紡ぐ。 『ボクが圭一の傍らに居ても良いのですか?』 「…ん。居て欲しいよ。一緒に居たい」 自分の想いを率直に伝えると羽入の口元が少しだけ綻びて、俺の顔を下から覗き込み、上目遣いで語りかける。 「ずっと考えていたのです。ボクが圭一をどういう風に想っているか」 瞳を潤ませ、続けて何かを言おうと唇を震わせて、俺の手を握り締める。 「圭一に守って貰いたい。包んで欲しい。ボクに……ボクに優しくして欲しいのですよ」 頬を桜色に染めて、胸板に顔を埋めた羽入が呟く。 「ボクは圭一に愛されたいのです。全てを委ねたいのです」 「ボクを圭一の側に置かせてくださいなのです…」 俺は言葉で答える代わりに彼女の身体をしっかりと抱き締めて、幸せで幸せな気持ちになる。 …だって真面目に考えて、しっかりと答をくれたから。 「羽入…」 俺が呼ぶと羽入が顔をあげて目を閉じる。顎を指で持ち上げて唇を重ねる。 「あ…う…。ん…ふっ…は…ふ」 始めは、薄くそれでいて柔らかい彼女の唇を啄む。舌で唇の表面をなぞり侵入を試みる。 「んっ…んうぅ…ふ。ちゅくっ…ん…あ」 微かに開かれた唇の隙間から舌を潜り込ませて歯茎をねぶり、背中から肩口に手を動かす。すると羽入の身体がピクンと跳ねるんだ。 「ちゅぱ…けぇいち…んうぅ…。けぇいちぃ…ふあぁ…」 俺達は求め合う。離れ離れになっていた時間を取り戻す様に、徐々に高揚していく。 そうこうする内に、羽入が俺の身体を押し倒して覆い被さってきた。 「ふぅ…ふぅ…。は…あむ。ちゅくっちゅ…んうぅ…んっ…んっ」 鼻息荒く俺の身体をまさぐりながら、舌を口内の奥へ奥へと侵入させて悩ましい声を洩らすんだ。 久し振りの彼女のそんな姿に息子に血が通い始める。 「んふ…♪圭一がボクを欲しがっているのです…。カチカチ…凄い凄いなのですよ」 想いが通じ合って、かつ久々の営み…その二つが俺を興奮させる。 彼女…羽入はどうなんだろう。俺と同じ気持ちなのだろうか? 「俺は羽入と…居れなくて寂しかった…。羽入は…羽入は寂しかったか?」 その問いに彼女は微笑み、無言のまま俺の手を取り自分の長襦袢の裾に潜り込ませて『確認』させる。 ……濡れている。 そこは水でも被ったのかって位に濡れそぼっていた。 『圭一が寂しくさせたから欲求不満なのですよ』 耳元で吐息を吹き掛けながら彼女が呟く。俺は秘部に指を滑らせる。 熱く蕩けた柔肉に指を埋めて上下に優しく擦る。 「あ…。あ…っんく。あうぅぅ…はあはあ…」 切なそうに啼く羽入が俺にお返しとばかりに、下着の中に手を潜り込ませ息子を揉む。 逆手で亀頭を持ち、揉み揉み…手の平で揉みしだいて『遊んで』くれるんだ。 だから俺も『遊んで』やるんだ。少しだけ膣に指を入れてくすぐる。 「あんっ…んっ。…んっ!」 羽入が甘えが混じった声で喘ぎながら息子をゆっくりと掻く…。 俺はそれに合わせて指で膣壁を擦りながら奥へと進めていく。 羽入の暖かい手の平が息子を張り詰めさせる。 小さくて柔らかい可愛い手がさ…根本から絞るんだ。血液を送り込む様に下から上に…。 「あう…。あうっ!あ、う…は…。…あっ!あっ…ああっ」 羽入は膣内を指で円を描く様に愛撫されるのが好きなんだ。 小刻みに出し入れしつつ掻き回すと…『発情』して身体の力を抜いて、俺にされるがままになる。 「あっんっ!んあぁっ…ひうっ!はっあ…ああっ!…んうぅ…!あひ…」 クリトリスを指で弾く何度も何度も…。 息子と『遊ぶ』のを止めて喘ぎ、俺の身体にしがみついて快感に身を委ねる羽入を見て、俺はスケベ心に火が灯る。 「はあ…あ。ん…う?………あう」 彼女を抱き抱えて、布団の上に仰向けに寝かせる。 そして太股を持って彼女の顔の方に倒す。羞恥に顔を真っ赤にして目を反らす彼女に聞いてみるんだ。 「ほら羽入…ちゃんと見ろよ。こんなに濡らしてる…そうだ。綺麗にしてやらないとなぁ」 腕を膝の後ろに差し込んで両手で秘部を目一杯拡げて、顔を近付ける。 甘酸っぱい羽入の匂いを嗅ぎながら舌先で愛液を舐めとる。 「あうぅっ!は…あっ!あっ!そ、そんなに拡げちゃやなのですぅ!んうぅっ!」 眉をハの字にして泣きそうな顔で抗議する羽入に聞こえる様に、やらしい水音を発てて舐めあげるんだ…これも羽入に『教えて貰った』相手の興奮を高めさせる方法なのだ。 こういうのが『大好き』なんだろ? 「ひうっ!んっうぅ!ああっ!らめれすっ!は、恥ずかしいのれすよぅっっ!!あひっ!」 人差し指で愛液を掬いクリトリスを緩慢な動きで転がしながら、舌先に力を入れて膣に挿入してやると甘えきった声で啼く。 身体を薄桃色に染めて、腰をガクガク震わせるんだ…堪らないぜ? そのやらしい姿がどうしようもなく堪らない。 「あんっ!あっあっ!!けぇいちぃっ!んはぁ!んっ!らめぇ…!」 ヒクンヒクンと物欲しそうに痙攣するクリトリスを摘んで、強めに揉みほぐすと更に秘部が熱を帯びて切なそうに愛液を滲ませる…。 舐め取っても舐め取っても溢れ出て来る甘酸っぱい羽入の味に、俺は脳天が痺れる感覚を覚える。 「ん…羽入。俺にもしてくれよ」 持ち上げていた身体を降ろして俺は下着を脱ぎ捨てる。 そして布団の上に胡座をかいて羽入を引き寄せた。これ以上は我慢出来ない…って訳だ。 パンパンに張り詰めた息子が羽入からの『御褒美』を待っているんだ。早く遊んでくれってさ…。 「あぅ…けぇいち…ボク。も、もう我慢出来ない……欲しいのです……圭一が欲しい。挿入て欲しいのですよ…」 欲求不満でサカリのついた彼女が懇願する。 「駄目だ…羽入。お前が前に言ってた事覚えているか?ギブアンドテイクだ。ギ・ブ・ア・ン・ド・テ・イ・ク。して貰ったら返すのが礼儀なんだろ?なぁ」 以前、彼女に口で愛撫して貰い、俺はおざなりな愛撫ですぐに挿入しようとした事があったんだ。すると怒ってさ… 『圭一!男女の営みはギブアンドテイク!して貰ったら返すのが礼儀なのですよ!互いに気持ちを高め合って愛し合わないと嫌なのです!』 という事があった。 あの時は機嫌が悪くなった羽入に謝りつつ、許可が出るまで口やら手で愛撫させられた。 ん?その時の仕返しじゃねぇよ…。 して貰いたいんだ。羽入との営みを存分に楽しみたいから、して貰いたい。もちろん俺も彼女に楽しんで貰いたいから、二人で…高め合うよ。 だって羽入に我慢させるんだ。それ位は当然だろ。 常に横並びの関係。上とか下じゃねぇ対等な関係で居たい。 羽入がわざとらしく頬を膨らませた後に呟く。 「あうあう…圭一は意地悪なのですよ」 彼女は俺の前に座り、そのまま顔を股間に埋めていく。 息子の根元に両手を添えて、愛しそうに裏筋を下から上へ舌を這わせる。 「はふ…くちゅ…。ぴちゅ…ちゅっ」 亀頭までは舐めない。竿だけ…でも手抜きでは無い。浮き出た血管に口付けし、まんべんなく全体に唾液を擦り込んでいく。 挑発する様に上目遣いで俺の顔を観察しながら、何回も何回も繰り返して…。 「んふ…♪くちゅくちゅくちゅ…。ちゅぱちゅぱ…あ、ふぅ」 亀頭の先を人差し指の腹で転がされる。トントンと軽く叩かれ、円を描く様に擦られるのだ。 そして睾丸を飲み込まれ、舌で包まれて弾かれる。腰の辺りがムズムズする気持ち良さ。 俺は彼女の頬を撫で、指を首を通って襟元に滑らせる。 前のめりになり鎖骨をくすぐり、柔らかい胸を手の平に収める。 手の平に吸い付き形を変える胸を揉むと、期待に満ちた声で甘く啼く。 「ちゅぷ…んあ…。ふ…っあ。くちゅ…っちゅ、ぷ。んふぅ」 飴玉を舐める様に舌先でチロチロと睾丸が弾かれて優しく吸われ、指先は絶え間なく動かされ息子を縦横無尽にはい回る。 「…羽入の乳絞り」 俺は思い付いた言葉を呟いて、胸を絞りながら乳首を摘んで転がす。 刺激のためか、羞恥心なのかは分からないけど彼女がビクッと身体を震わせたのを見逃さない。 「んぅっ。は…ぁん。ちゅぷっちゅぷっ…!んっ!」 ああ、羞恥の方な。 反応で分かる。恥ずかしさを隠す為か、息子を咥えて小刻みに抽出を始めるんだ…。 唾液を含ませた唇を窄めて、甘く吸いながら、舌でねぶって俺を黙らせようとするんだ。 「へぇ~…。そんなに乳を絞られるのが嬉しかったのかよ?…よっしゃ。もっとしてやるよ。ほれほれ…」 「んうぅっ!んっ!ちゅぱっ!ちゅぱ…っちゅっ!んう!ちゅばっ!」 少しだけ強めに揉みしだくと甘えた声で喘ぎながら、亀頭を飲まれて強く吸われる。ベロベロと激しくねぶられ、唇で甘噛みされて俺は呻く。 背筋に走るゾクゾクとした快感に呑まれそうになるのを堪えて硬く自己主張する乳首を指で弾いてやる。 何度も何度も…彼女が蕩けるまで。 「く…あ…すっげぇ!は…!溶けちまいそっ、う…」 ふと見ると、欲求を太股を擦り合わせて耐える羽入の姿に気付いた。 そろそろ彼女に望みを叶えてあげないと不公平だよな? 「ふあっ!あっ!っちゅ……ひゃうっっ!んあぁ…!」 彼女に愛撫をさせたまま膝立ちになって身を乗り出す。 左手の人差し指と親指で秘部を拡げて、唾液をつけた右手の中指を深々と膣内に挿入し掻き回す。 すっかり出来上がっている羽入の『上と下のお口』が刺激を求めておねだりしている。 両方ともチュウチュウと吸い付いて俺を離さないんだ…。 「あふぅ…っ!ちゅっば!ちゅっば!は…ちゅっ!ちゅくっ!ちゅぱっ!」 終いには尻をフリフリさせて甘え、ねぶり回してくるんだ。 そう。可愛い可愛い求愛行動をして俺を誘ってくる。 『お口より、もっと気持ち所で咥えてあげるのですよ。早く早くぅ☆』 という感じに…。 俺を喰い殺そうと手ぐすねを引いている。だから挑発に乗って、はしたない『お口』に御仕置をしてやるんだ。 「あふっ!!は…ぷっ!くっちゅ!んんんっっ!!…へあぁぁあ…!」 秘部から指を引き抜いて、中指と薬指を思い切り叩き込んでやる。 尻を叩く様にバチン!バチン!って手の平ごとぶつけて…。 その度に羽入の身体が跳ね、膣が締まるんだ…キュンッてさ。 息子に吸い付く力も比例して強くなり、俺は彼女に腰を押し付ける。 言うなら電流…だな。腰砕けになって息子が蕩かされる。 もう…すっげぇ良くてさ…夢中になって彼女に『御仕置』をし続けた。 「んぷっ!ちゅばっ!ちゅばっ!ぶぷっ…じゅっ!んふぅっ!!…んっ!んっ!」 強い快感に身悶えさせながらも決して息子を手放さない羽入。 そんな彼女の膣内を、指でねちねちとこね繰り回す。指を交互に蠢かせて絡み付く膣肉を堪らなくさせてやるんだ。 「ふぅっ!ふぅっ!…っは…けぇいち…も、もう許してぇ…あうんっ♪疼いて疼いて仕方無いのれすぅ…!」 「おっ…!おう!はっ…俺もそろそろ入れてぇ!」 俺は愛撫を止めて再び胡座をかく。そして羽入に膝の上に跨がる様に促す。 トロンと蕩けたスケベな目付きをして、俺の背中に手を回して抱き付き息子を握り締められる。 「け、いいち…んあ…あ…」 羽入が俺の名を呟き、次の瞬間には熱く柔らかい膣肉の中に息子は居た。 トロトロな愛液とヒダが亀頭を絡め取りながら、奥へ奥へと飲み込まれて行く…。 「んうぅ~…こ、これが欲しかったのです。くふうぅん…硬くておっきな圭一のおちんちんが欲しかったのです…」 彼女が華奢な身体を震わせて甘えきった牝の声で喘ぐ。 貪欲に目一杯、息子を咥え込んだ羽入の淫らな姿を見て我慢が出来なくなる。 「んあっ!?あっ!あっ!い、いきな、り激し…すぎぃな…っのですようっ!!」 羽入の尻を両手で鷲掴みにして無理矢理、腰を振らせて息子で膣の奥を突き上げる。 子宮に亀頭が擦れ、絡み付く膣肉が蠢く。波打ったヒダがピッタリ吸い付き、ギチギチに締め付けられ溶される。 「ううっ…やっぱ羽入ぅ…の中…すげぇスケベ…だ!気持ち良すぎ!」 「あっはぁ!ぁ…んくっ!ボクのアソコ…が、けぇいち…美味しいって…んあっ!あっ!あっ!あっっ!!」 羽入が俺の腰に両足を回して腰を激しく捩らせてサカり始めた…。 突き上げるタイミングに合わせてグリグリと膣でこねくり回され、息子が暴れる。 「んふぅ!ふっ…っ!はぁ…はあ…はあ…!あっ!!」 俺は汗ばんだ彼女の身体に口付けし、印を残していく。首筋…肩…誰が見ても分かる様に…さ。 そして羽入の身体に改めて覚えて貰うんだ俺の味を…。 「ん…!ふっ…ぅあぁ!くちゅ…ちゅっ!ちゅぷ…!」 唇を舌でこじ開けて口内を犯す。奥へ侵入し彼女の唾液を舐めとってやるんだ。 それを羽入が嬉しそうに唇で甘噛みし優しく吸う。 『もっと味わって良いのですよ…』 と言いたげに多量の唾液を俺の舌に絡ませてくる。 「んく…あはっぁ!は…!あっ!あっあっ!!もっと強くしてくださいなのですっ!!くふうぅ!!ボ、ボク…イキた、い!圭一にぃ…ふあっ!イカされたいのれす!」 そう訴える彼女を俺は繋がったまま俯せにさせて後ろから貫く。 ピッタリと足を閉じて、ただでさえキツい膣で息子を締め上げてくる彼女に夢中になる。 「はっ…こうかっ!?まだ強くかっ?」 「あうんっ!!もっと…もっとぉっ!!」 上体を布団に付け、尻を突き上げた羽入を獣の交尾の様にバコバコと激しく息子で蹂躙する。 熱く、ヌルヌルな膣壁に擦られ、 俺の身体が悦びに震える。腰砕けになりそうな『羽入』の具合を堪能するんだ。 「やぁあ…けぇいちのおちんちん…ボクの中でおっきく…んう…なったのれすっ♪あうんっ!」 腰をグリグリ押し付けて膣肉を掻き回すと、羽入がカクカクと尻を振ってサカる。 柔らかく包んでくれる膣肉を息子で掻き分けて奥を突いてやるとさ…ギチギチッて締まるんだ。 そのまま奥を亀頭で擦ってやると揉み揉み…膣肉を絡ませてくる。「は…さ、最高っ!はっ!はっ!…っふ…な、なあ!イッて良いか!?限界かも…!」 「あ、あうぅ~っ!イッても良いのですよぉっっ!…んあっは♪はあっ!はっは…あっ!!」 布団を握り締めて熱に浮かされた顔の彼女が甘えた声で啼く。啼き続ける…。 俺はそんな彼女に覆い被さり、手を握り締めて腰を打ち付ける。 「あんっ!あんっ!!んうぅっ…ふ………っ!!」 右手で羽入の腕を引き、左手で顎を持って唇に口付けする…。 荒々しく舌と唾液を絡め、甘く…そう、優しく噛んでやるんだ…唇を…。 「くっっふぅう!…んっ!はっあっ!!ら、めぇ!…ひっ………んあぁあっっっっっ!!!!」 腕を掴んでグイッと引き寄せ、ガツガツと羽入の奥に息子を打ち付けると羽入が喘ぐ。 そしてキュウキュウに締め、纏わりつく膣壁を抉る様に斜め下から突き上げると、彼女が身体を大きく震わせて達する。 「ううっ…くっ!はっ……あ」 瞬間、彼女の膣が容赦無く息子を締め上げる…ただでさえ具合の良い『羽入』が、食いちぎられるんじゃないかという位に強く…熱い柔肉で…。 「うぅ…!は、にゅ…う。は…っはあ…」 腰を掴んでグイッと自分の身体に引き寄せ、火傷しそうな程に熱を帯びた膣奥へ精液を吐き出す。 亀頭で子宮を擦りながら、息も絶え絶えに身体を震わせる。 息子が脈動を打つ度にキュッと更に締まり、一滴残らず搾取ろうと蠢く『羽入』の快感に身悶えするんだ。 「んうぅ…け、いいちぃ…んくっ…いっぱいいっぱい出していいので、すよ……あ、うぅ」 俺と同じく息も絶え絶えな羽入が甘く囁きながら、尻を押し付け緩慢な動きで振りつつ、身体の下から回した手で陰嚢を揉みしだく。 その甘く蕩けさせる快感を享受しながら俺は思う。 『やっぱり大切な人と愛し合うのって良いな』 てさ…。 「あうぅ~☆圭一ぃ、すっごく気持ち良かったのですよ~。ボクの身体、まだフワフワしているのです」 上機嫌な羽入が仰向けに寝た俺に抱き付き、胸板にグリグリと頬を擦り寄せる。 「おお…。俺もだ、下半身がガクガクしてる。ははっ!力入らねぇや」 そんな彼女を俺も抱き締めて、ほてった身体を冷やす。 足も手もガッチリ絡ませ合って布団の上で戯れる。こういう一時が大好きだ。 「圭一がボクに優しくしてくれるから、すぐに……あうあう。恥ずかしいのです」 『心と身体が繋がっているから気持ち良い』 多分、そんな感じの事を羽入は言いたかったんだと思う。 今まで散々交わっていたのに、改めて繋がると照れるって所か? 「そうか。…なあ羽入、俺さ二人で仲良く居れたら良いなって思うんだ。だから、こういう気持ちを大切にしていきたいよな」 俺は彼女の気持ちを代弁する。いや…俺の本音か。 ともかく大切な事は互いを想い、助け合っていく事なんだって解ったから。 「そうなのです。ボクも圭一と仲良しで居たいのです!だから…」 そう言って羽入が俺の首筋に強く吸い付く。柔らかい唇をハムハムと動かしながら。 「ん…。ボクからの想いを圭一に常に届けたいから、この印をつけるのですよ。消えない様に毎日…」 頬を桜色に染めて羽入が抱き締める力を強める。優しいよな。 『この娘を大切にしないとな』 そう、決意を新たに、俺も彼女の首筋に吸い付く。 「…ん。じゃあ俺は…羽入をいつまでも優しく包んで守る証に……って事で」 「あうあうあうっ!圭一!圭一っ!格好良いのです。あうあう!」 『テンションぶっちぎりハイ』 何故か浮かんだ、そんな言葉に噴出しそうになりつつ、足をバタバタと動かす彼女を優しく抱き寄せ、肩に顔を埋める。幸せだ…。 「あう~!やっぱり大切な人と愛し合うのは良いのです!ボクは幸せ者なのですよ!」 ああ…俺と同じ事を想ってるじゃねぇか。 「……はは…」 惚気てしまいそうな彼女の言葉が嬉しくて…さ。ちょっと鼻の奥がツンッてした。 それを隠す様に目元を肩で一回擦って、羽入を抱き抱えて身体を組み伏せる。 「よっしゃあっ!まだまだ俺は未熟だから、羽入先生に手解きを受けないとな!次は何を教えて貰おうかなぁ?」 「ふふっ♪じゃあ次は……………」 終わり -
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最近、魅ぃちゃんの様子がおかしかった。 笑う時もどこかぎこちないし、元気が無い。 理由は分かっている。 …たぶん、私と圭一君の事。 魅ぃちゃんが圭一君を大好きなように、レナだって圭一君が大好き…ううん、愛してる。 だから、何も言えなかった。 励ます事も出来ない。 応援だって出来ない。 謝られたら余計に腹が立つだろう。 ただ、その事については触れず魅ぃちゃんの心の傷が癒えるのを待つだけ。 レナも魅ぃちゃんも、正々堂々と戦った。 それをふまえて圭一君はレナを選んでくれたのだし、魅ぃちゃんも言ったように 「どっちが勝っても恨みっこナシ」だ。 けど――――― やっぱり魅ぃちゃんの前では、どこか引け目を感じてしまう。 やましい事なんてしてない。 だけど裏切り者と罵られるのが怖かった。 だから、こうして圭一君と2人っきりでいられる時間はとても落ち着く。 心の奥のモヤモヤとか、わだかまりとか、そういったものを全部忘れる事が出来た。 頭を撫でる手が好き。 サラサラの髪が好き。 優しげな瞳が好き。 ずっとこうしていたい――― そんなレナの願いは、魅音の声によって遮られた。 「ひゅーひゅー、お二人さんアツいねぇ。おじさん妬けちゃうなぁ~?」 魅音はニヤニヤと薄く笑いながらドアの前に立っていた。 …否、あれは笑ってると言っても良いのだろうか。 口だけは不気味につり上がっているが、その目は全く笑っていない。 「…魅ぃちゃん……」 「み、みみみみ魅音ッ!?お前、なんでここに!」 さーてね、と曖昧な返事を返し、魅音はつかつかと圭一たちの方へと近づいていった。 圭一は顔を真っ赤にして何かブツブツ呟いている。 この鈍感男―――魅音はありったけの憎しみをこめて圭一を睨むが、それすらも気付いていない。 レナにも皮肉を込めた視線を送ったが、目を反らされた。 「いやぁ、おじさん参っちゃったよ。忘れ物取りにきたら、二人がしっぽりやってんだもん。 ごめんだけど一部始終見せてもらったよ?悪いね~!」 「んな、魅音、おま…ッ!!」 「…は、はぅ…魅ぃちゃん…」 顔を赤らめてうろたえる2人。 ―――白々しいよ、レナ。 作戦なんでしょ? 「ふ…ふふふ……くっくっく、あーはっはっはっは!」 笑いが止まらない。なんて滑稽なのだろう。 圭ちゃんもレナも、そして私も。 そんな私をおかしく感じたのかレナと圭ちゃんが不思議そうに覗き込んできた。 蘇る、先ほどの光景。 「………すごかったよ~?2人とも。 バカみたいに夢中でさ!圭ちゃんなんて腰振りまくりで動物みたいにサカってて! レナもレナだよ、あんあん言っててバッカみたい。 あっははははおかしいねーおじさん傑作だわ! ね、もっかいやらないの?やってよ、ねえ、ねえ、ねえ!! ねえってば聞いてんのか2人ともォオオッ!!!!」 ガッシャァアアン! そこらにあった机を蹴り飛ばす。 いきなりの事で二人は唖然としたが、すぐに我に返った圭ちゃんはかばうようにしてレナをぎゅっと抱きしめた。 それが余計に腹ただしくて、さらに椅子も投げ飛ばす。 ちょうどそれが頭にヒットしたらしく、圭ちゃんは呻いてずるりと倒れ込んだ。 額から血が流れている。良い気味だよ、私だってずっと血が流れているんだ。心の傷口から。 「圭一君、けーいちくんッ!?しっかりして……っ! …ね、魅ぃちゃん…どうしちゃったの?らしくないよ…ねぇ、魅ぃちゃん…っ!」 レナが悲痛に訴えてくる。 うるさい。うるさいうるさいうるさいっ!! 「ねえレナ、らしくないって何?どうすれば私らしいわけ? それに私は魅音じゃない!鬼、鬼なんだよぉお!!」 はあ、はあ、はあ。 肩で息をする。 振り回していた椅子を下ろし、へたりと座り込んだ。 圭ちゃんは相変わらずぐったりして動かない。でも死んではいないはずだ。 レナはもう先ほどのような悲痛な顔はしていない。 どちらかと言うと怒ったような顔だ。 ただ無言で圭ちゃんを抱きしめながら私を睨んでいる。 「ん~?圭ちゃんが気絶したからって本性表すわけぇ? 女っておっかないね~、おじさんには出来ない芸当だわ。あっはっは!」 「…違うよ魅ぃちゃん。魅ぃちゃんは間違ってる。 …圭一君が、好きなんでしょ?だったらこんなやり方…」 「うるさい、裏切り者は黙ってて!」 レナが裏切り者、という言葉にびくりと反応した。 先ほどまでの揺るがない瞳はもう無く、バツの悪そうな顔になっている。 「…ふーん、一応自覚はあるんだ?裏切った、ていう」 「…っ違うよ!!…魅ぃちゃんだって、言ったでしょ…?正々堂々と勝負しようって、だから……」 「嘘つき」 私は知ってる。 レナは圭ちゃんを誘って宝探しに行ったりピクニックをしたりしてた。2人きりで。 そんなの抜け駆けだ、ずるい…そう思ったけど、その時はぐっとこらえて何も言わなかった。 今思えばその時何か言っていれば未来が変わっていたかもしれない。 もしかしたらレナと圭ちゃんは付き合わなくて、私と圭ちゃんが付き合っていたかもしれないのだ。 そうだ。きっとそうだ。 本来ならば、圭ちゃんの隣にいるのはレナでなく私なんだ――― 黒い感情が渦巻く。 …*してやろうか。いや、それは流石にまずいか。レナを*せば、圭ちゃんも*さなければならなくなる。 それよりもっと効果的で合理的な方法――――― ………あった。 にやりと微笑む。 ぐちゃぐちゃに汚してしまえばいい。私の手で。 そうと思いついたら話は早い。 レナは俯いて微かに震えていた。泣いているのだろうか? いや、そんなはずはない。それもまた計算だ。圭ちゃんが起きた時、私を悪者にするための。 魅音は音も無くレナの後ろに回り込み、素早く腕をねじりあげた。 レナは一瞬の出来事に目を見開いたが、すぐにジタバタと暴れる。 いくら女同士といえど、体格、身長、経験のどれをとっても魅音にはかなわないレナはすぐに押さえこまれた。 「婆っちゃに教えこまれた技がこんなとこで役に立つなんてね~」 ひゅうと口笛を吹きながら、そこらにあった縄でレナの手足を縛る。たぶん沙都子のトラップに使ったものだろう。 あっというまにレナは縛り上げられ、いわゆる“M字開脚”の格好になった。 「あれ、もしかしてパンツ濡れてる?おじさんの見間違いかなぁ~?」 「…………っ……」 先ほどの圭一との行為が仇となったのだろう。 レナのそこはまだ熱を帯び、じんじんと疼いていた。 「ひあっ!?」 つ、と魅音がそこに触れる。 布越しにも関わらずそこは濡れていた。 「あはは、びしょびしょじゃん。淫乱だねぇ~。あ、切るよ、これ邪魔だから」 ちゃき、とそこにハサミをあてがう。 歯の冷たい感覚にレナはびくりとはねた。 「や、切っちゃダメ、魅ぃちゃ…」 じゃきん。 レナの抗議もむなしく、秘部を隠していた布一枚はあっさりとはぎとられた。 レナの秘部が視線にさらされる。 「うわー、ひくひくしてるよ。おじさんカンドー」 「……ぁ、あう…見ないでぇ…………」 レナのソコは可愛らしいピンク色でひくひくと震えていた。 いやらしくダラダラと涎をたらしながら、ぷっくりとした肉芽が痛々しいほど赤く腫れ上がっている。 「おじさん、な~んもしてないよ?…もしかして、見られてるだけで興奮しちゃ った?視姦ってやつ!?あっははは!」 「……ふ、あ……っく」 顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに俯くレナ。 ……本当、悔しいぐらい可愛いなあ。どう汚してやろうか、くっくっく! 「………、ぅ………」 と、そこで圭ちゃんがもぞもぞ動いた。 目を覚ましたらしい。 レナが顔を強ばらせる。 ちょうどいい。見せしめだ。 「圭ちゃん、お目覚めー?」 「……魅音…?…あれ、体が動かな……………レナ!?レナ、大丈夫か、レナ!?」 「…け……ぃち…く…」 ようやく自分の置かれている状況に気づいたらしい。 まーったく、レナレナうるさいなぁ圭ちゃんは。 わざとらしくため息をついてレナをチラリと見る。 レナは恥ずかしさのせいか、涙をポロポロと流していた。 ――――ふん。被害者ぶってるんじゃないよ。私だって辛いのに。 「圭ちゃんはそこで見ときなよ。おじさんがたっぷりレナを虐めてあげるからさ!」 「魅音、やめろ、レナには何もするな!」 圭ちゃんの声を無視し、私はレナの制服に手をかける。 縛っているから脱がせない。 そんなのお構いなしに私はびりびりと引き裂いた。レナの白い肌が段々と露わになっていく。 …レナは、何も言わなかった。 ただ悲しそうに私を見つめていた。 その様子を見ていられないとばかりに圭ちゃんが叫ぶ。 「なぁ、どうしちゃったんだよ魅音……! 本当のお前はもっと、面白くて…良い奴で……俺の最高の友人じゃなかったのかよッ!?」 ―――――最高の友人。 なんて素敵で、なんて残酷な響きなのだろう。 私は自嘲するように笑った。 「は、友人ねぇ…。言っとくけど圭ちゃん、私は圭ちゃんを最高の友人だなんて思った事、一度も無いよ」 「そんな、なんでだよ、なん…」 そこで圭ちゃんの言葉は途切れた。 ………私が塞いだからだ。 圭ちゃんは驚いて目を見開く。レナは目を反らす。 私は唇の感触を充分に堪能してから、ゆっくりと唇を離した。 「……ずっと、好きだった。 “最高の友人”じゃなくて、“1人の女の子”として。」 「…、……みお………」 転校してきた時から、ずっとずっと、大好きだった。 「ごめん、魅音。俺、気付かなくて…でも……」 「おっと、勘違いしないで。圭ちゃんを好きだったのは確かに園崎魅音だけど、ここにいるのは鬼なんだから。 ……鬼だから、あんたたちをめちゃくちゃにしてあげる」 私がそう言うと、圭ちゃんは、ひどくショックを受けたような顔をしていた。 今の私は園崎魅音じゃないとはいえ、圭ちゃんの事が好きじゃないと言えば嘘になる。 でもそれ以上に憎しみが大きかった。 そ、とブラ越しにレナの胸に触れる。 レナはかすかに声をあげるが、下を向いているため表情が見えない。 「うん、やっぱこれくらいの大きさが良いよね。おじさんくらいになると肩こるんだよ~」 そう言いながらブラを上にずらす。 レナが小さく悲鳴を上げた。 生娘じゃあるまいし、今更純情ぶっても。 「は、ぁう、っふぅ…!」 「くっくっく、かぁいいねぇレナは!乳首立ってるよぉ?」 後ろから抱きしめるようにして、乳首をコリコリとつまむ。 片手をスカートの中に忍ばせた。パンツはさっき切り取られたので、秘部を守るものは何も無い。 くちゃ… 「うわー大洪水。レナ、興奮しすぎ!」 「あ、ダメ、魅ぃちゃんやめてぇっ!!や、あ、あぁあああっ!!」 そこはしっかりと潤っていて、魅音の指をすんなりと受け入れた。 ぬぽぬぽと出し入れするいやらしい音が響く。 時折肉芽をつまんでやると、電撃でも走ったかのようにビクリとはねるのが面白い。 だんだんと指を加速していくにつれ、レナの嬌声が一層大きくなっていく。 後ろで圭ちゃんがやめろと叫んでいる気がした。 「さあさあさあッ、とっととイっちまいな、レナぁああッ!!!」 「あっ、いやっ、いやぁ、んあぁあああああっ!!!!」 ぷしゃあっ… 盛大に潮を噴いて、レナはイった。 レナはもう泣いていない。 呆然としながら、顔を赤らめてはぁはぁと息を荒げている。 私はその指をペロリと舐めて、レナの顎をくいと持ち上げた。 「気持ちよかった? ……………今度はレナが見る番だよ」 「…はっ、っは…ぁ…はぁ、…レナ…が…見る…?」 ―――――まさか! その言葉にレナは食いついてきた。 しきりにやめてと叫んでいる。 その言葉をやっぱり無視して私は圭ちゃんの元へと近づいていった。 「圭ちゃん、おまたせ。どうだった?好きな子の痴態を見た感想は。」 「………気分最悪だぜ。なぁ魅音、今からでも遅くない。こんな事、もう…」 あははだから私は魅音じゃないって。 そうケラケラと笑って圭ちゃんの股関に手を伸ばす。圭ちゃんは軽く呻いた。 そこは熱く、硬くなって、自己を主張している。 「この硬くなっているのは何かな?かな?…くっくっく!」 レナの口癖を真似てみた。圭ちゃんが顔を歪める。 「なんでだよ、魅音…」そう囁いた声が聞こえたが、おかまいなしに圭ちゃんに跨った。 カチャカチャとベルトを外す音、チャックを下げる音。 レナは極力見ないように目を瞑っていたが、それでも音だけはどうする事も出来なかった。 「おじさんもね、実はもうびしょびしょなんだ。 圭ちゃんも準備出来てるみたいだし………いくね?」 「やめ、魅音…!」 ずぶぶぶぶぅっ!!! 「うぁあ……っ!」 「あ、は…!圭ちゃんのおちんちん、おっきぃい…!あふっ、気持ち…あぁんっ!」 魅音は圭一の胸に手を起き、ゆるゆると腰を動かした。いわゆる騎乗位の体制だ。 腰を振る度に聞こえるいやらしい音にレナは顔をしかめる。 聞きたくない――――! 「あっ、ふぁ、んっ…すごい圭ちゃん、奥まで…奥まで来てるよぉおぉお!!!」 ずちゃ、にちゃ、といやらしい音が響く。 先ほどからレナの痴態を見せつけられていた圭一はもう限界だった。 「うぁ、ダメだ、魅音…ッ!やめろ、もう…!」 圭一は身を捩らせるが、魅音にのし掛かれてるために抜け出す事が出来ない。 それどころか魅音のナカをかき回すような形になってしまい、かえって快感が倍増してしまった。 「ぁっ、あ、っ…レナ、レナぁあっ!!」 「…ぁふっ、…ちょっとぉ……あんっ、今は…ん、…レナとじゃなく、て、…おじさんと……ぅあっ、…やってんで……しょっ!!!」 そうだ。 何かを思い出したかのように、魅音がイタズラに微笑む。 「ね、レナ。…おじさんね、今日、危険日なんだぁ…くっくっく。 ……子供の名前、何にする?圭ちゃん」 それを聞いたレナは顔を真っ青にする。 レナだけでなく圭一もだった。 「いやぁぁあああぁあ!!!!魅ぃちゃんお願いだからやめてぇぇえええぇえ!!!!」 「っく、あっ、…魅……音っ、頼むから……やめっ……うああああぁあぁああああ!!」 ズン、と魅音が奥まで挿入したのと同時に圭一は果てた。 …レナはすすり泣いている。 魅音は荒い息を整えて、ちゅぷ…と圭一のソレを引き抜いた。 白い液体がつつ、と糸を引く。 「……っふふ……くく……あはははははははは!あっはははははははは!」 笑った。気が狂ったように笑った。おかしくて仕方なかった。 ………これで圭ちゃんは私のもの。 もう誰にも渡さない。
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← メギドラオン。 それは極大の火力に他ならない。 単純な破壊力だけに絞って言えばリンボ自身の本来の宝具よりも数段上を行く。 龍脈の龍を経由してその身に会得した異世界の魔法。 蘆屋道満程の術師であれば、それを最上の形で扱いこなすなど朝飯前の茶飯事だった。 更に禍津日神・九頭竜新皇蘆屋道満として完成された素体をもってすれば尚の事。 結果として歓喜のままに解き放たれた最上の炎は屍山血河舞台の総てを焼き尽くし。 後に残された者達は、当然のように敗残者らしい姿を晒す憂き目に遭った。 「これはこれは」 アビゲイル・ウィリアムズは右腕を黒焦げの炭に変えられ。 新免武蔵は髪房を焼き飛ばされた上、炎の中に生存圏を捻出する為に多刀の半分以上を溶かさねばならなかった。 そして伏黒甚爾の損傷が一番重篤だ。 彼は左腕を肩口から消し飛ばされ、それだけに留まらず左胴全体に大火傷を被っていた。 如何に彼が天与呪縛のモンスターであると言えども、これは紛うことなき致命傷だった。 「皆様お揃いで、随分と見窄らしい姿になりましたな」 らしくもなく息を乱した姿に溜飲が下がったのかリンボは満足げに彼の、そして彼らの有様を嘲笑する。 一番被害の軽い武蔵でさえ二天一流の強みを大きく削ぎ落とされた形。 アビゲイルと甚爾は四肢を三肢に削がれ、後者に至っては生命活動の続行さえ危うい容態にまで追い込まれている始末。 無様。 神に弓引いた者達の顛末としては実に"らしい"体たらくではないか。 そう嗤うリンボだけが唯一無傷だった。 三人が負わせた手傷もダメージも、メギドラオンの神炎が晴れる頃にはその全てが消え失せてしまっていた。 「…大丈夫、二人とも」 「私は、なんとか。でも…」 アビゲイルの眼が甚爾を見やる。 甚爾は答えなかった。 それが逆に、どんな返事よりも雄弁に彼の現状を物語っている。 “…こりゃ駄目だな。流石に年貢の納め時らしい” 冷静に自分の容態を分析して判断を下す。 此処まで数秒足らず。 自分の肉体の事は嫌という程よく分かっている。 何が出来るのかも、何が出来ないのかも。 以上をもって伏黒甚爾は自分の末路を悟った。 “不味い仕事を受けちまったな。タダ働きの果てがこれじゃ全く割に合わねぇ” ほぼ間違いなく自分は此処で死ぬ。 反転術式なんて便利な物が使える筈もない。 マスター経由での治癒も見込めず、体内は主要な臓器が半分程焼損している有様だ。 今こうして生き長らえている事が奇跡と言っても決して大袈裟ではなかった。 “従っても歯向かっても、結局汚れ仕事やるような奴は長生き出来ねぇってか。…返す言葉もねぇな” あの時。 伏黒甚爾は、アイドルの少女を射殺した後――芽生えた違和感に逆らわなかった。 大人しく尻尾を巻いて逃げ帰った。 それでも結局こうして屍同然の姿を晒すに至っているのはどういう訳か。 問うまでもない。 そういう訳なのだ。 散々暗躍して来たツケか、どうやら往生際という奴が回ってきたらしい。 何か途轍もない幸運に恵まれて生き長らえる事が出来たとしても隻腕の猿など何の使い物にもなりはすまい。 つまり此処で自分は、ごくあっさりと詰んだ訳だ。 仕事人らしくひっそりと…呆気なく。 似合いの末路だ。 甚爾は満身創痍の体の可動域を確かめながら自嘲げに笑う。 とはいえこれで最後なら、もう後先考える必要もない。 最後に死に花咲かせてアビゲイルにバトンを渡せばそれで終いだ。 “化物退治の英雄になるつもりなんざ端からねえんだ。ド派手な英雄譚なんざ、持ってる奴らに任せとけばいい” 例えば、得体の知れない神に魅入られているガキだとか。 例えば、差し向けられた呪いも力も全部真っ向斬り伏せちまう剣客だとか。 華々しい勝利や首級はそれが似合う奴らに任せるのが絶対的にベターだ。 能無しの猿がやるべき仕事はその手伝いと後押し。 奴らが気持ちよく本懐果たせるように裏方仕事で敵を削り、死ぬ前に野郎の吠え面が見られればラッキーと。 そうまで考えた所で、 『猿では儂は殺せぬ。誅せぬ。一芸、一能、道具を用いようと知恵を使おうと、人の真似を超えませぬ』 『黄金ほどの衝撃もない。 雷光ほどの輝きもない。 火焔ほどの鋭さもない。 絡繰ほどの巧拙もない。 鬼女ほどの暴力には、些か足りない』 ――違和感。 自らの意思と相反して隻腕に力が籠もった。 その右腕を見下ろす視線は忘我。 次に浮かんだのは苦笑だった。 「俺も懲りねえな」 "違和感に逆らい続けると、ろくなことがない"。 結局の所猿は猿なのだろう。 然り。 この身に正義だの信念だのそんな大層な観念は今も昔も一度だって宿っちゃいない。 只強いだけの空洞。 そしてその空白を埋める物は、もう未来永劫現れる事はない。 自分も他人も尊ぶことない。 そういう生き方を選んだのだから。 そんな青を棲まわせる余地なぞ、この体に一片だってあるものか。 それは今も変わらない。 きっとこれからも。 何があろうとも――。 「フォーリナー」 リンボの五指は今や指揮棒だった 振るその度に呼吸のような天変地異が発現する光景は悪夢じみている。 地震。火災。雷霆に怪異の跳梁、束ねた神威を放てばそれは必滅の審判と化す。 傷口が炭化して血すら流れない欠けた体で地面を蹴り、それらをどうにか掻い潜りながら。 すれ違う僅か一瞬、甚爾はアビゲイルへと耳打ちをした。 「――――――」 少女の眼が見開かれる。 だめよ、と口が動いた気がした。 それに耳は貸さない。 伝えるべき事は伝えたと、猿は戦端へ戻っていく。 “しかし流石に坊さんだな。人の陥穽探しは得意分野か” 捨てられるものは残らず捨てた。 何だって贅肉と断じて屑籠へ放り込んだ。 それをとっとと焼き捨ててしまわなかったのが"あの時"の失敗。 だから今回は歯車たれと。 依頼人のオーダーを完璧にこなして座へ帰る、そういう役割に殉ずるべきだと。 そう決めていた。 今だってそのつもりだ。 なのに猿は何処までも愚かしく。 そして、何処までも人間だった。 ――後先がなくなった。 未来が一つに定まった。 後任は用意出来ている。 何より今この場を仕損じれば、その時点で仕事は失敗に終わるのが確定している状況。 そんな数々の理由が…言い訳が。 英雄が生前の偉業をなぞるが如くに。 術師殺しの男に、その愚行をなぞらせる。 「…さて」 右腕は問題なく動く。 両足の火傷も軽微だ。 内臓の損傷は重度。 失血で脳の回りは悪い。 何より片腕の欠損がパフォーマンスを著しく低下させている。 仕事人として、術師殺しとして片手落ちも良い所だ。 以上をもって伏黒甚爾は結論付ける。 ――問題ない。 「やるか」 悪神と化したリンボを討たずして仕事の続行は有り得ない。 ならばその為に今此処で死力を尽くそう。 この違和感に逆らって。 この衝動に従って。 甚爾は地を蹴った。 無形の魔震を斬り伏せながら吶喊する。 嘲笑うリンボへ獰猛に笑い返して、男は愚かのままに突き進んだ。 呪霊の海が這い出でる。 禍津日神の呪力によって無から湧き出す百鬼夜行。 それを切り払いながら進む甚爾の奮戦は隻腕とは思えない程に冴え渡っていたが、しかしそれは大局に何の影響も及ぼしていなかった。 「健気なものよ。これしきの芸当、今の儂には無限に行えるというのに」 夜行は攻め手の一つに過ぎない。 甚爾を嘲笑うように九頭竜の顎が開き、九乗まで威力を跳ね上げた魔震を炸裂させた。 アビゲイルが鍵剣を振るって空間をねじ曲げる。 そうして出来上がった脆弱点を武蔵が押し広げ、力任せにぶち破った。 だが足りない。 無茶をしても尚砕き切れなかった震動の余波が彼女達の体を容赦なく蹂躙する。 武蔵が血を吐いた。 アビゲイルが片膝を突いた。 されど休んでいる暇などない。 甘えた事を宣っていれば、足元から間欠泉宛らに噴き出した呪炎の泉に呑まれていただろう。 「チェルノボーグ、イツパパロトル」 二神が列び立って天元の桜を迎撃する。 暗黒と吸精が、女武蔵の体を弾丸のように弾き飛ばした。 彼らは次の瞬間にアビゲイルの喚んだ触手に呑み込まれ即席の牢獄へ囚えられたが、それも所詮は僅かな時間稼ぎにしかならない。 空に瞬く赫い、何処までも赫い太陽。 先刻三人が見た最強の魔法を嫌でも想起させるそれが弾ければ、地上はまたしても熱波の地獄に置き換わった。 「メギド」 メギドラオンに比べれば遥かに威力は落ちる。 だがそんな事、何の救いにもなりはしない。 最上に比べれば威力が幾許か落ちる。 ――だから何だというのだ。 「では十度程、連続で落としてみましょうか」 今のリンボが繰り出せばどんな術でも致命の威力を纏う。 ましてや格が低いという事は、即ち連射に耐える性能であるという事でもあり。 稚気のように言い放たれたその言葉は、彼女達に対する死刑宣告となって降り注いだ。 「絵画を楽しむ趣味は御座いませんでしたが。なかなかに愉しい物ですなぁ、絵筆で何か描くというのも」 この体を筆に、この力を絵具に。 自由気ままに絵を描く。 世界という名の白紙を塗り潰す。 そうして描き上げるのだ、色とりどりの地獄絵を。 地獄の業火より逃れ出んとする不遜者があれば直ちに罰を下そう。 羅刹王を超え髑髏烏帽子を卒業し、現世と地獄を永久に弄ぶ禍津日神と化したこの蘆屋道満の眼が黒い内は斯様な不遜なぞ許さない。 「このようになァ」 「あ、ぎ…!」 鍵を掴み立ち上がろうとした巫女の右足が吹き飛んだ。 リンボの放った呪詛が鏃となって無慈悲に罪人を誅する。 「如何ですか、アビゲイル・ウィリアムズ。純真故に怒る事すら正しく出来ない哀れな貴女」 全身の至る所に火傷を負い、酷い部分は炭となって崩れ始めているその様相は悲惨の一言に尽きる。 そんな彼女の姿にはこの状況でも尚何処か退廃的な美しさが宿っており、それを嬉々と感傷しながらリンボは綴る。 「主の仇を討つ事は愚か、彼女へ引導を渡したのと同じ攻撃で為す術なく膝を突かされる気分は。 是非とも、えぇ是非とも、この九頭竜新皇蘆屋道満へお聞かせ願いたい。それはさぞや芳しい蜜酒となりてこの身を潤すでしょうから」 「…とても痛くて、辛いわ。泣いてしまいそうになるくらい」 向けられるのは只管に思慮等とは無縁の悪意。 生傷に指をねじ込んで穿り返すような嗜虐。 それに対し滔々と漏らすアビゲイルの声にリンボは笑みを深めたが。 そんな彼に対して巫女は、鍵を杖によろよろと立ち上がりながら言う。 「可哀想な御坊さま。貴方は、私に怒ってほしいのね」 「ほう、これはまた面妖な事を仰る。 確かに、ええ確かに銀の鍵の巫女たる貴方が髪を振り乱し目を剥いて怒り狂う姿を見たくないと言えばそれは嘘になりますが」 ギョロリとリンボの眼が動いた。 「言うに事欠いてこの拙僧を哀れと評するとは…いやはや、異界の感性というのは解らぬ。 こうも満ち足り、満ち溢れて止まらないこの霊基が貴女には見えぬのですかな? 今まさにこの蘆屋道満は過去最高の法悦のままに君臨し、御身らの奮戦さえ喰らって地平線の果てへ漕ぎ出さんとしているというのに!」 「ええ。貴方はきっと…とても可哀想なひと。酷い言葉と、棘のような悪意で着込んでいるけれど……」 今のリンボは奈落の太陽そのものだ。 底のない黒を湛え、脈打ち肥え太る破滅の熱源。 既にその性質は赤色矮星と成って久しい。 彼はあるがまま思うがままに全てを呑み干すだろう。 まさに至福の絶頂。 哀れまれる理由等何もない。 「本当は…とても寂しいのね。 分かるわ。その気持ちを、私は何処かで知っているから」 巫女はそんな彼の逆鱗を、その指先で優しく撫でた。 「どれだけ手を伸ばしても届かない誰かに会うために歩き続ける。 星に手を伸ばすみたいに途方もない事だと知りながら、それでも諦められない何か。 頭のなかに強く、そう太陽みたいに焼き付いて消えない憧憬(ヒカリ)……」 …朧気に揺蕩う記憶が一つ、アビゲイルにはあった。 それはきっと"この"アビゲイルに起こった出来事ではない。 魂の原型が同じだから、存在が分かれる際に偶々流れ込んでしまっただけの記憶と想い。 ある少女の面影を探して、きっと今も宇宙の果てを旅しているのだろうもう一人の自分の記憶。 「だからお空を見上げているのでしょう。あなたは」 「――黙れ」 そんなものを抱えているから、アビゲイルはこうして悪逆無道の法師へと指摘の杭を打ち込む事が出来た。 昂るばかりであったリンボの声色が冷たく染まる。 絶対零度の声色の底に煮え滾る怒りの溶岩が波打っている。 その証拠に次の瞬間轟いた魔震は、先刻彼女と武蔵が二人がかりで抉じ開けた物より更に倍は上の威力を持って着弾した。 「ン、ンンンン、ンンンンンン…!」 それはまさに極大の災厄。 自分で生み出した呪符も百鬼夜行も全て鏖殺しながら、リンボは刃向かう全てを押し潰した。 立っている者は誰も居ない。 猿が倒れ。 巫女が吹き飛び。 剣豪でさえ地に臥せった。 「…いけない、いけない。神たるこの儂とした事が餓鬼の戯言に揺さぶられるとは」 誰一人禍津日神を止められない。 天を目指して飛翔する禍津の星を止められない。 力は衰えるどころか際限なく膨れ上がり、無限大の絶望として悪僧の形に凝集されている。 彼こそが地獄、その体現者。 この偽りの地上に地獄の根を下ろし。 いずれは世界の枠さえ飛び越えてありとあらゆる平行世界を悪意と虐殺の海に変えるのだと目論む邪悪の権化。 そんな彼の指先が天へと伸びた。 昏き陽の輝く空には鳥の一匹飛んでいない。雲の一つも流れていない。 孤独の――蠱毒の――お天道様が口を開けた。 白い歯と真っ赤な舌を覗かせながら、神に挑んで敗れた愚か者達を嗤っている。 「とはいえ今ので多少溜飲は下がりました。拙僧も暇ではありませんので、そろそろ幕を下ろすとしましょう」 そうだ。 これは太陽などではない。 斯様な悪意の塊が天に瞬いて全てを笑覧する豊穣の火であるものか。 彼男の真名(な)は悪霊左府。 かつて藤原顕光と呼ばれ、失意の内に悪霊へ堕ちた権力者の成れの果て。 蘆屋道満の盟友にして、彼の霊基に宿る三つ目の柱に他ならない。 「因縁よさらば。目覚めよ、昏き陽の君」 其処に収束していく呪力の桁は最早次元が違った。 単純な熱量でさえ先のメギドラオンを二段は上回る。 放たれたが最期、全てを消し去るに十分すぎる凶念怨念の核爆弾だ。 全ては終わる。 もの皆等しく敗れ去る。 「この忌まわしい縁の悉く平らげて、三千世界の果てまで続く大地獄の炉心と変えてくれよう――」 太陽が瞬くその一瞬。 リンボの高らかな勝利宣言が響き渡る中。 「ぞ……?」 …しかし彼はそこで見た。 視界の中、倒れた三人の中で誰よりも早く。 灼け千切れた体を動かして立ち上がった女の姿を、見た。 その姿は見る影もない程ボロボロだった。 勇ましく啖呵を切ってのけた時の清冽さは何処にもない。 死に体と呼んでもそう的外れではないだろう。 二天一流を特殊たらしめる多刀も今や二振りが残るのみ。 足を止めて死を受け入れても誰も責めないような、血と火傷に塗れた姿格好のままで。 それでもと、女武蔵は立ち上がっていた。 「――」 その姿を見る蘆屋道満。 惨め、無様。 悪足掻き、往生際悪い事この上なし。 罵る言葉なぞ幾つでも思い付くだろう醜態を前にしかし彼は沈黙している。 得意の嘲笑を口にするのも忘れて。 道満は――リンボは己が霊基の裡から浮上する光の記憶を思い出していた。 “…莫迦な。そんな事がある筈がない” 既視感。 本願破れて失墜し。 常世総ての命を殺し尽くすとそう決めた己の前に立ち塞がった男が、居た。 青臭くすらある喝破は子供の駄々とそう変わらなかったが。 それを良しとする神が笑い。 愚かしい程真っ直ぐなその男に、英雄に――剣を与えた。 あの光景と目の前の女侍の姿が重なる。 有り得ぬと。 布石も理屈も存在すまいと。 理性ではそう解っているのに何故か一笑に伏す事が出来ず、リンボは抜き放たれたその刀身を見つめ呟いていた。 「――神剣」 都牟狩、天叢雲剣、草那芸剣。 神が竜より引きずり出した都牟羽之太刀。 霊格では到底それらに及ぶべくもない。 禍津日神は愚か羅刹王にさえ遠く届かないだろう、桜の太刀。 それが何故ああも神々しく目映く見えるのか。 あれを神剣だなどと、何故己は称してしまったのか。 「…そう。貴方がそう思うのならきっとそうなんでしょうね、蘆屋道満」 「……否。否否否否否否否! 有り得ぬ! そんな弱い神剣がこの世に存在するものか! 世迷言を抜かすな新免武蔵ィ!」 「残念吐いた唾は飲めないわ。他でもない貴方自身が"そう"認識したんですもの。 うん、ちょっと安心しました。私、まだちゃんと貴方の敵であれてるみたいね」 これは神剣等ではない。 宿す神秘はたかが知れており。 神域に届くどころか一介の宝具にさえ及ばないだろう一刀に過ぎない。 だがリンボは先刻確かにこれに神の輝きを見た。 かつて己を滅ぼした、あの雷霆の如き光を。 悪を滅ぼしその企みを挫く――忌まわしい正義の輝きを見た。 「…銘を与えるなら"真打柳桜"。繰り返す者を殺す神剣」 勝算としてはそれで十分。 リンボの示した動揺が武蔵の背中を後押しする。 他の誰でもない彼自身がこの剣に神(ヒカリ)を見たのなら。 それこそは、これが目前の大悪を討ち果たし得る神剣なのだという何よりの証明だ。 たとえ贋作の写しなれど。 贋物が本物に必ずしも劣る、そんな道理は存在しない。 「――おまえを殺す剣よ、キャスター・リンボ!」 「ほざけェェエエエエエエ新免武蔵! 光の時、是迄! 疑似神核並列接続、暗黒太陽・臨界……!」 桜の太刀、煌めいて。 満開の桜に似た桃光が舞う。 見据えるのは空で嗤う暗黒の太陽。 地上全てを呪い殺すのだと豪語する奈落の妄執。 これは呪いだ。 これらは呪いだ。 改めて確信する。 こいつらが存在する限り、あの子達は笑えない。 あの二人が共に並んで笑い合う未来は決して来ない。 …それは。 爆ぜる太陽の猛威も恐れる事なく剣を握る理由として十分すぎた。 「伊舎那、大天象ォォ――!!」 「――狂乱怒濤、悪霊左府ゥゥッ!!」 光と闇が衝突する。 成立する筈もない鬩ぎ合い。 それでも。 負けられぬのだと、武蔵は臨む。 その眼に。 あらゆるモノを斬る天眼に。 桜の花弁が、灯って―― ◆ ◆ ◆ 必中、そして必殺。 古手梨花のみを殺す、古手梨花を確実に殺す領域。 時の止まった世界を駆ける弾丸、それは沙都子の先人に当たる女が駆使した運命の形だった。 人の身に生まれながら神を目指した愚かな女。 自分自身でもそう知りながら、しかし只の一度として諦める事のなかった先代の魔女。 今となっては彼女さえ沙都子の駒の一体でしかなかったが。 それでも梨花に勝つ為ならばこれが最良の形だろうと沙都子は確信していた。 上位の視点から異なるカケラを観測する術も持たぬ身で、百年に渡り黒猫を囚え続けた女。 彼女が振るった"絶対の運命"は後継の魔女、今は神を名乗る沙都子の手にもよく馴染んでくれた。 …止まった世界の中を弾丸が駆け。 そして古手梨花は為す術もなく撃ち抜かれた。 胸元から血が飛沫き、肉体を貫通した弾丸は彼方へ飛んでいく。 「チェックメイトですわ、梨花」 夜桜の血による超人化。 それも即死までは防げない。 梨花が頭と心臓への被弾だけは避けていたのがその証拠だ。 そんな解りやすい弱みを見落とす沙都子ではなかった。 部活とは、勝負とは相手の弱みを如何に見つけどう付け込むか。 仮に自分でなくとも、部活メンバーであるなら誰しも同じ答えに辿り着いただろうと沙都子は確信している。 「最後の部活…とても楽しかった。今はこれで終わりですけど、すぐに蘇らせますから安心してくださいまし」 決着は着いた。 役目を終えた領域が崩壊する。 それに伴って止まった時間も動き出した。 世界に熱と音が戻る。 心臓を破壊された梨花の体がぐらりと揺らぎ、地面へ吸い込まれるように倒れていき… 「――なってないわね、沙都子」 完全に崩れ落ちる寸前で、踏み止まった。 ――え。 沙都子の眼が驚愕に見開かれる。 演技でも何でもない。 本心からの驚きに彼女は目を瞠っていた。 馬鹿な。有り得ない。そんな筈はない。 弾丸は確実に命中していた――心臓を破壊した確信があった。 それに何十年分という体感時間を鍛錬に費やして技術を極めた自分がこの間合いで動かない的相手に外す訳がない。 じゃあ何故。 どうして。 答えが出る前に思考は中断された。 梨花の拳が、沙都子の呆けた顔面を真正面から殴り飛ばしたからだ。 「が、ぁッ…?!」 鼻血を噴き出して転がる。 只殴られただけだというのに、先刻刀で斬られた時よりも酷く痛く感じられた。 垂れ落ちる血を拭いながら立ち上がる沙都子の鋭い視線が梨花の顔を見据える。 「どう、して。どうして生きているんですの…! 私は外してなんかない、確実に貴女の心臓を撃ち抜いた筈ですのに!」 「さぁね。私にも…答えなんて解らない。所詮借り物の力だもの。小難しい理屈や因果なんて知らないわ」 そう言い放つ梨花の瞳には或る変化が生じていた。 桜の紋様が浮かび、発光しているのだ。 梨花にはこの現象の理屈は解らなかった。 しかしそんな彼女の裡に響く声がある。 『それは"開花"。夜桜(わたし)の血が極限まで体を強化したその時に花開く力』 …夜桜の血を宿した者は超人と化す。 これはその更に極奥の極意。 流れる血をまさに花開かせる事で可能となる正真の異能だ。 『元々兆候はあったけれど…まさか実戦で使えるまでに至るなんて。梨花ちゃんはつくづく夜桜(わたし)と相性がいいのね』 開花の覚醒は夜桜の力を数倍増しに強化する。 古手梨花は夜桜と成ってまだ数時間という日の浅さだが、しかし初代も驚く程の速度でこれを発動させる事に成功した。 北条沙都子が彼女に対して用いた絶対の運命――領域展開はまさに確殺の一手だった。 認めるしかない。 あれは梨花にとって本当にどうする事も出来ない詰みだった。 梨花もそれをすぐに悟った。 失われた記憶の断片が自分に告げてくる底知れない絶望の感情。 この運命からは逃げられないと、古手梨花の全てがそう語り掛けてきた。 「私は、こんな所で終われないと強く強く思っただけ」 「…ッ。そんな事で……そんな事で、私の運命を破れるわけが!」 「あら。私の通ったカケラを全部見てきた癖にそんな簡単な事も解らないの? 良いわ、改めて教えてあげる。運命なんてものはね、金魚すくいの網よりも簡単に打ち破れるものなのよ」 だとしても。 まだだ、と。 今際の際に梨花は詰みを回避する唯一の手段を捻出する事に成功した。 それが開花。 夜桜の血との完全同調。 簡単にとは行かなかったが。 それでも確かに古手梨花は、北条沙都子が繰り出した絶対の魔法を打ち破ってみせた。 「勝ち誇った顔をしないでくださいまし。たかが一度私の鼻を明かしたくらいでッ!」 「言われるまでもないわ。こっちもようやく温まってきた所なんだから」 これにて戦いは仕切り直し。 沙都子が銃を向け、梨花は切っ先を向ける。 『だけど気を付けて。その体は、開花の負担に耐え切れていない』 そんな事だろうと思っていた。 奇跡とはそう簡単に起こるものではない。 奇跡の魔女となる可能性を秘めた少女も、人の身では依然その偉業には届かないまま。 中途半端な希望は脳内に響く初代の声によって否定される。 『貴女の開花は"奇跡"。肉体の死を跳ね返す、本家本元の夜桜にさえ勝り得る異能』 生存の可能性がゼロでない限り、小数点の果てにある奇跡を手繰り寄せて自身の死を無効化する。 それこそが梨花の開花。 沙都子は絶対の魔女として急速に完成しつつあるが、神の因子を得た今の彼女でもまだ真なる絶対(ラムダデルタ)には程遠い。 だから彼女が扱う絶対の魔法には穴があった。 人間にとっては"無い"のと同義と言っていいだろう限りなくゼロに近い穴。 真なる奇跡(ベルンカステル)と袂を分かった梨花のそれもまた、沙都子と同様に穴を抱えていたが。 絶対のなり損ないと奇跡のなり損ないとでは本来あるべき相性の構図が反転する。 絶対の中に生まれた小数点以下極小の「もしも」を梨花の奇跡は必ず手繰り寄せる事が出来るのだ。 故に梨花は生を繋いだ。 しかしこんな、夜桜の血縁にさえ例がない程の芸当をやってのけた代償もまた甚大だった。 『二度目の開花で貴方は完全に枯れ落ちる。だから事実上、次はないと思っていい』 一度きりの奇跡。 まさに首の皮一枚繋いだ形という訳だ。 仮に沙都子がもう一度あれを使って来る事があればその時点で今度こそ梨花の敗北は確定。 断崖絶壁の縁に立たされたのを感じながら――それでも梨花は恐れなかった。 「行くわよ、沙都子」 「…来なさい、梨花!」 地を蹴って刀を振るう。 弾丸が脇腹を吹き飛ばすが気になどしない。 恐れず突っ込んだのは結果的に正解であった。 “力が、使えない…!?” 当惑したのは沙都子だ。 先刻まであれだけ漲っていた力が、急に肉体の裡から出て来なくなった。 消えた訳ではない。 確かに体内に溜まっている感覚がある。 なのに出力する事だけがどうやっても出来ない。 もう一度時を止めて撃ち殺せば済むだけだというその想定が、不測の事態の前に崩壊する。 ――沙都子は術師ではない。 だから当然知る筈もなかった。 領域の展開は確かに絶技。 生きて逃れる事は不可能に近い。 だが反面弱点も有る。 領域を展開して暫くの間は、必中化させて出力した術式が焼き切れるのだ。 従って今、沙都子は時を止められない。 黒猫殺しの魔弾を放つ事が出来ない…! “もう一度あれを使われたら、その時こそ私の負け” “もう一度あれを使えれば、私の勝利は確定する” ――最後の部活。 その制限時間が決まった。 北条沙都子の術式が回復するまで。 それが、この大勝負と大喧嘩のリミット。 梨花はそれまでに沙都子を倒さねばならず。 沙都子は、その刻限まで逃げ切れば勝ちが決まる。 有利なのは言わずもがな沙都子の方だ。 しかし彼女は、梨花から逃げ回る事を選ばなかった。 間近に迫る刀を躱す。 降臨者化を果たした体は完成度で決して夜桜に劣らない。 だからこそ梨花の斬撃を紙一重まで引き付けて躱し、その上で間近から頭部に向け銃弾の乱射を見舞うような芸当さえ可能だった。 梨花はこれを桜の花を出現させて受け止めさせ対処するが、先のお返しとばかりに沙都子の拳が鼻っ柱をへし折った。 次いで腹を蹴り飛ばされ、もんどり打って転がった所をまた銃撃の雨霰に曝される。 「は、はッ…! どうですの梨花ぁ……! 貴方が私に勝てるわけ、ないでしょうが!!」 「げほ、げほ…ッ。はぁ、はぁ……良いじゃない、そっちの方がずっとあんたらしいわよ沙都子。 神様気取りなんて全然似合わない。あんたはそうやって感情を剥き出しにして、生意気に向かってくるくらいが丁度いいのよ……!」 「その減らず口も…いつまで利いてられるか見ものですわね!」 群がる異界の羽虫を斬り飛ばし。 殺到する触手は斬りながら逃げて対処する。 湧き上がらせた桜の木々が触手を逆に絡め取って苗床に変えた。 異界のモノ…沙都子を蝕む冒涜的存在を片っ端から捕まえて殺す食虫花。 古手梨花は徹底的に、神としての北条沙都子を否定していく。 「そう――こんなの全然似合ってない。らしくないのよ、あんたが黒幕とか悪役とか!」 「私をこうしたのは梨花でしょうが!」 「解ってるわよそんな事! だから、引きずり下ろして同じ目線でもう一回話をしようとしてるんじゃない…!」 鉛弾が右腕を撃ち抜いた。 刀を握る力が拔ける。 知った事かと左手で沙都子を殴った。 沙都子の指が引き金から外れる。 知った事かと、沙都子も右手で梨花を殴る。 そうなると最早武器の存在すら彼女達の中から消えていく。 能力も武器もかなぐり捨てて。 二人は只、思いの丈をぶつけ合いながら殴り合っていた。 「そんなまどろっこしい事してられませんわ…! 私が勝って貴方を思い通りにすればいいだけの話じゃありませんの! 雛見沢を、私達を……私を捨てて何処かへ行こうとする梨花の言う事なんて信用出来る訳がありませんわ!」 沙都子が殴れば。 「うるさいわね、馬鹿! 捨てるだの何だのいちいち言う事が重いのよあんたは…!」 梨花も負けじと殴り返す。 容赦のない拳は肉を抉り骨をも砕く。 だが双方ともに、人間などとうに超えているのだ。 少女達は可憐さを維持したまま無骨な殴り合いに興じていく。 「外の世界に行きたい。今まで知らなかった景色を見たい。そう願う事が悪いなんて話は絶対にない!」 「貴女がそんなだから私がこうして祟りを下さなければいけないのでしょうが…! あんな監獄みたいな学園で、背中が痒くなるような連中に囲まれてちやほやされて暮らす未来。 それが……そんなものが、梨花の理想だったんですの? ねえ、答えて――答えなさいよッ!」 「そんな、わけ…ないでしょ――!」 そうだ、そんな訳はない。 憧れがなかったとは言わない。そういう世界に。 何しろ百年の日々は自分にとってそれこそ監獄だった。 雛見沢の古手梨花以外の何者にもなれない。 オヤシロさまの巫女。 古手家の忘れ形見。 村人みんなに愛される村のマスコット。 自分は只、そんな世界から一歩踏み出してみたかっただけ。 自分の事なんか誰も知らない世界で自由に生きてみたかった、それだけ。 そしてその横に…一つ屋根の下で一緒に暮らして来た親友が居てくれたらとそう思ったのだ。 「雛見沢症候群も安定して、何処にでも行けるようになった。 そんなあんたと一緒に外へ出て、色んな物を見てみたいと思った。 だからあんたを誘ったのよ。お山の大将になるのが目的だったなら、あんたみたいなお転婆連れてく訳ないじゃないッ」 「だったら…! 私とずっと二人で居れば良かったじゃありませんの! 梨花が一緒に居てくれたのなら、梨花さえ一緒に居てくれたら……! 私だって大嫌いでしょうがない勉強も、いけ好かないお嬢様気取りの連中も…我慢出来たかもしれませんのに!」 一際強い拳が打ち込まれて梨花が蹌踉めき後退する。 荒い息が口をついて出る。 夜桜の血を宿し、仮に一昼夜走り続けても疲れないだろう体になったにも関わらず酷く呼吸が苦しかった。 見ればそれは沙都子も同じのようだ。 「ッ…。それは、……本当に後悔してるわよ。誓って嘘じゃない」 理由や因果を求める等無粋が過ぎる。 彼女達は今、かつてない程に本気なのだ。 だから息も乱れる。汗も掻く。拳が痛くなるくらい力も込める。 「すれ違いがあったとかそんなのは体のいい言い訳に過ぎないわ。 …私はあの時、周りの連中を振り切ってでもあんたに会うべきだった。 ふて腐れてむくれたあんたの手を引っ掴んで側に居てやるべきだった。 病気が治って狂気が消えても、……あんたの心に残った傷までなくなった訳じゃないって事、忘れてた」 北条沙都子には傷がある。 人間誰しも心の傷くらいある。それは確かにそうだ。 でも沙都子のそれは常人と比にならない数と深さであると、梨花は知っている。 両親との不和とそれが生んだ悲しい惨劇。 叔母夫婦からの虐待。 兄への依存とその顛末。 村人からの冷遇。 全て解決した問題ではある。 過ぎ去った過去ではある。 だとしても…心に残った傷痕まで消える訳ではない。 その傷が雛見沢症候群なんて関係なく不意に疼き出す事も、きっとあるだろう。 それをかつての自分は見落としていた。 蔑ろにしていた、見ていなかった。 …それが古手梨花の"業"。 「――なにを、今更」 梨花の告白を聞いた沙都子は思わずそう口にした。 湧いて出た感情は怒りとやるせなさ。 後者は見せる訳にはいかないと。 そう思ったから唇を噛み締めて拳を握る。 そのまま梨花の横っ面に叩き付け殴り飛ばした。 「誰が…! 信じるって言うんですの、そんな言葉……!」 梨花は拳を返してこない。 されるがままだ。 地面に倒れたその胸へ馬乗りになって沙都子は拳を振り下ろした。 「何度繰り返しても、何度閉じ込めても! 私がどんなに工夫して殺しても甚振っても追い詰めても…! それでも最後の世界まで雛見沢の外を目指し続けたわからず屋の梨花! 必死に説得してどうにか心をへし折っても、きっかけ一つあればそうやってまた外の方を向いてしまう! そんな貴女の言う事なんて……! 何一つ信用出来ないんですのよ、馬鹿ぁッ!」 何度も何度も。 何度も何度も振り下ろす。 鼻が砕けて歯がへし折れる。 顎が砕けて目玉が潰れ、顔を顔として識別するのが不可能になっても沙都子はそれを続けた。 「私は…! 外の世界なんて一生知らないままで良かった!」 何が悲しくて大好きな雛見沢を捨てなければならない。 そうまでして見る価値があるのか、あんな世界に。 「外なんて大嫌い、勉強も都会も全部だいっキライ! 何処もかしこも排気ガス臭くて五月蝿くて暑くて…雛見沢の方がずっといい! 何が良いんだかさっぱり解らない甲高いだけの歌声をバカみたいな音量で流してありがたがってる神経もさっぱり解らない!」 井の中の蛙と呼ぶならそれでいい。 あの井の中には全てがあったから。 北条沙都子が幸福に生きていける全てが揃っていた。 「…私は!」 梨花も同じだとばかり思っていた。 そして今も、自分と同じになるべきだと思っている。 「私は……あの家であなたと一緒に居られたなら、只それだけで良かったのに!」 …それが北条沙都子の"業"。 此処に二人は互いの業をさらけ出した。 梨花の手が。 ずっと無抵抗だった彼女の手が動いて、沙都子の拳を受け止める。 次の瞬間沙都子は顔面へ走る衝撃によって吹き飛ばされた。 顔を再生させながら梨花が立ち上がる。 沙都子も呼応するように立ち上がった。 仕切り直しだ――梨花は再び刀を、沙都子は再び銃を握って相手に向ける。 「…ねえ、沙都子」 「…何ですの、梨花」 忌まわしい花だ。 視界にちらつく花弁を見て沙都子は思う。 桜は嫌いだ。 門出の季節をありがたがる気にはなれない。 "卒業"なんて誰がするものか。 この業は、これは、私のものだ。 誰にも渡さない。 一生、世界が終わったって抱え続けてやる。 「私が勝った時の罰ゲーム。今の内に言っておくわね」 そんな沙都子に梨花はこんな事を言った。 沙都子はそれを鼻で笑う。 負ける気などさらさらないのだ、何だっていい。 どんな罰ゲームだって受けてやるとそう不遜に示す。 「ボクは…もう一度、沙都子とやり直したいです」 「――――」 そんな沙都子の思考が止まった。 魔女としての言葉ではなく。 敢えて猫を被り、自分のよく知る"古手梨花"として話す彼女の言葉。 「外の世界への憧れはやっぱり捨てられません。 沙都子の言う通り、ボクは何度だって雛見沢という井戸の外を目指してしまう。 そしてボクの隣に沙都子が居て、二人で同じ景色を見る事が出来たらいい。そんな夢を見てしまうのです」 「…何、を。言って――話、聞いてませんでしたの? 私は……!」 「解っています。だからこれは沙都子にとっては罰ゲームなのですよ」 それはあまりにも愚直な言葉だった。 馬鹿げている。 何を聞いていたのかと思わず反論しそうになったが、罰ゲームの一語でそれを潰された。 理に適っているのがまた腹立たしい。 相手が嫌がる事でなくては罰にならないのだから。 「沙都子が勉強したくなるように、定期テストは毎回ボクら二人の部活にしましょう。 負けたら当然罰ゲーム。それなら沙都子だってちょっとはやる気が出ると思います」 「…付き合ってられませんわそんなの。毎回カンニングでクリアしてやりますわよ、面倒臭い」 「みー。沙都子はやる気になれば出来るタイプだと思うので、そこは実際にやってみて引き出していくしかないですね。 ちなみにボクの見立てじゃ沙都子は二回目くらいから真面目に勉強してくるようになる気がしますです。 部活で負けた罰ゲームを適当にこなすなんて、ボクが許しても魅ぃの部活精神が染み付いた沙都子自身が許せない筈なのですよ。にぱー☆」 「む、ッ…。見透かしたような事を言うのはおやめなさいませッ」 そんな未来は来ないと解っていてもついつい反応してしまう。 威嚇する犬のように声を荒げた沙都子に、梨花は微笑みながら問い掛けた。 「沙都子は、どうしますか?」 「……」 「ボクが負けたらその時は言った通りどれだけだって沙都子に付き合います。 それでも外を目指してしまったら、沙都子が頑張って止めてください。 何なら決して外に出られない…そんなカケラを作って閉じ込めたって構わないのですよ。 ボクに勝って先に進んだ沙都子ならきっとそういう事も出来るようになるでしょうし」 梨花の言う通り、きっと遠くない未来にはそんな事も可能になるだろう。 沙都子にはそもそもからして魔女となる素養が秘められている。 其処にリンボの工作と龍脈の力が合わされば、最早そう成らない方が難しい。 カケラを自由自在に渡り歩きはたまた自ら作り出し。 思うがままに神として振る舞える存在として"降臨"する事になる筈だ。 そう成れれば当然、可能である。 古手梨花を永遠に閉じ込めて飼い殺す封鎖された世界。 ガスが流れ込む事のない猫箱を作り出す事なぞ…朝飯前に違いない。 「私、は…」 自分自身そのつもりで居たのに。 今になってそれが何だかとても下らない考えのように思えて来るのは何故だろう。 梨花のあまりに場違いで暢気な言葉に毒気を抜かれてしまったのだろうか。 魔女の力。 神の力。 絶対の運命。 永遠の牢獄。 魅力に溢れて聞こえた筈の何もかもがつまらない漫画の、頭に入ってこない小難しい設定のように感じられてしまう。 「私は…梨花と雛見沢でずっと暮らしていたい。それだけで十分ですわ」 そうして北条沙都子は原初の願いに立ち返った。 此処にはもうエウアもリンボも関係ない。 願いは一つだったのだ。 其処にごてごてと付け足された色んな恐ろしげな言葉や大層な概念は全て自らを大きく見せる為の贅肉に過ぎなかった。 「ちゃんと罰ゲームでしょう? 梨花にとっては。 あの息苦しい学園にも、人混み蠢く東京にも出られないで私と一緒にずっと暮らすなんて」 「…みー。ボクは猫さんなので、沙都子の眼を盗んでお外ににゃーにゃーしちゃうかもしれないのですよ?」 「その時は首根っこ引っ掴んででも捕まえて連れ帰ってやりますわ。逃げ癖のある猫だなんて、ペットとしては面倒なことこの上ありませんけど」 一瞬の静寂が流れる。 それから少女達はどちらともなく笑った。 「――くす」 「……あはっ」 「どうして笑うのですか、沙都子。くす、くすくす……!」 「ふふっ、ふふふふ! 梨花の方こそおかしいですわよ、あははは……!」 もっと早くにこうしていればよかった。 そう思ったのは、果たしてどちらの方だったろう。 或いはどちらもだろうか。 答えは出ないまま刀と銃が向かい合う。 彼女達の部活が…終わる時が来た。 「ごめんなさいね、梨花」 沙都子が口を開く。 その笑みは何処か寂しげだった。 部活はいつだって全力勝負。 手を抜く事だけは絶対に許されない。 それが絶対不変の掟だ。 だから沙都子はこの瞬間も、自分に出来る全力で勝ちに行く。 「終わりですわ」 少女達が想いを交わし合っていた時間。 互いの罰ゲームを提示し合い、久方振りに通じ合って笑い合った時間。 その間に沙都子の勝利条件は満たされていた。 領域展開の後遺症。 術式が戻るまでのインターバル。 それはもうとうの昔に―― 「…梨花……」 名前を呼ぶ。 梨花は答えない。 体が動く事もない。 時は、既に止まっていた。 引き金が引かれる。 弾丸が発射される。 二度目の開花は死を意味し。 そして開花以外にこの死を逃れる手段はない。 ――たぁん。 長い大喧嘩を締め括るには些か軽すぎる、寂しい破裂音が響いた。 ◆ ◆ ◆ 「――莫迦な」 目を見開いて溢したのは悪僧だった。 美しき獣と称されたその視線は天空へと向けられている。 嘲笑う太陽は既に笑っていない。 代わりに響いているのは、消え逝く悪霊の断末魔であった。 「莫迦な――莫迦な莫迦な莫迦な莫迦なァッ!」 剣豪抜刀と暗黒太陽。 一閃と臨界が衝突した。 起こった事はそれだけだ。 その結果、嗤う太陽は中心から真っ二つに両断された。 文字通りの一刀両断。 それはまるでいつか、この女武蔵という因縁が自身に追い付いてきた時の光景を再演しているかのようで… 「偽りの…紛い物の神剣如きが何故呪詛の秘奥たる我が太陽へ届く!」 溶け落ちる太陽はリンボにとっての悪夢へと反転した。 最大の熱を灯して放った一撃を文字通りに斬り伏せられた彼の顔に最早不敵な笑みはない。 この有り得ざる事態に動揺して瞠目し、冷や汗を垂らしていた。 太陽を落とす花という不可思議を成就させた武蔵はそんなリンボへ凛と言い放つ。 「黒陽斬りしかと成し遂げた。此処からが本当の勝負よ、蘆屋道満…!」 「黙れェ! おのれおのれおのれおのれ新免武蔵! 我が覇道に付き纏う虫螻めがッ!」 駆ける武蔵を包むように闇色の球体が出現した。 それは一層だけには留まらない。 十、二十…百を超えてもまだ重なり続ける。 呪詛を用いて造った即席の牢獄だ。 彼程の術師になれば帳を下ろす技術を応用して此処までの芸当が出来る。 しかし相手は新免武蔵。 そう長い時間の足止めは不可能と誰よりリンボ自身がそう知っている。 急がねば――そう歯を軋らせた彼の左腕が、不意に切断されて宙を舞った。 「…ッ! 死に損ないめが、邪魔をするなァ!」 「憎まれっ子世に憚るって諺、お前の時代にはなかったのか?」 隻腕の伏黒甚爾が釈魂刀を用いて切り落としたのだ。 普段なら容易に再生可能な手傷だが、今この状況ではそちらへ余力を割く事すら惜しい。 暗黒太陽…悪霊左府はリンボの霊基を構成する一柱である。 以前にもリンボは武蔵によってこれを両断されていたが、今回のは宝具による破壊だ。 受けた痛手の度合いは以前のそれとは比べ物にならない程大きい。 「いい面じゃねぇか。似合ってるぜ、そっちの方が道満(オマエ)らしいよ」 不意打ちが終われば次は腰に結び付けていた游雲へ持ち帰る。 咄嗟に魔震を発生させ、羽虫を振り払うように甚爾を消し飛ばそうとしたが――この距離ならば彼の方が速い。 リンボの顔面に游雲が命中しその左半面が肉塊と化す。 あまりの衝撃に叩き伏せられたリンボが見上げたのは嘲笑する猿の顔だった。 「古今東西何処探しても安倍晴明の当て馬だもんなオマエ。ようやられ役、気分はどうだい」 「貴、様…! 山猿如きが軽々と奴の名を口にするでないわッ」 立ち上る呪詛が怒りのままに甚爾を覆う。 しかし既にその時、猿は其処に居ない。 片腕を失って尚彼の速度に翳りなし。 天与の暴君は依然として健在であった。 無茶の反動に耐え切れず游雲が千切れ飛ぶが、それすら好都合。 ギャリッ、ギャリッ、と耳触りな金属音を響かせて。 甚爾は折れた游雲同士をぶつけ合い擦れ合わせ、その折れた断面を鋭利な先端に加工。 綾模様の軌道を描いて飛来した無数の呪詛光の一つが腹を撃ち抜いたが気にも留めない。 痛みと吐血を無視して前へ踏み出す。 その上で棍から二槍へと仕立て直した特級呪具による刺突を高速で数十と見舞った。 「づ、ォ、おおおおォ……!」 如何なリンボでもこの間合いでは分が悪い。 相手はフィジカルギフテッド。 純粋な身体能力であれば禍津日神と化したリンボさえ未だに置き去る禪院の鬼子。 呪符による防御の隙間を縫った刺突が幾つも彼の肉体に穴を穿ち鮮血を飛散させた。 「急々如律――がッ!?」 「黙って死んでろ」 こめかみを貫かれれば脳漿が散る。 猿が神を貫いて惨たらしく染め上げていく冒涜の極みのような光景が此処にある。 一撃一撃は致命傷ではなく自己回復――甚爾の常識に照らして言うならば"反転術式"――を高度な次元で扱いこなせるリンボにとっては幾らでも巻き返しの利く傷であるのは確かにそうだ。 だが塵も積もれば山となるし、何より重ねて言うが状況が悪い。 左府を破壊された損害とそれに対する動揺。 それが自然と伏黒甚爾という敵の脅威度を跳ね上げていた。 猿と蔑んだ男に弄ばれ、蹂躙されるその屈辱は筆舌に尽くし難い。 リンボの顔に浮いた血管から血が噴出するのを彼は確かに見た。 「■■■■■■■■■■――!」 声にならない声で悪の偽神が咆哮する。 物理的な破壊力を伴って炸裂したそれが今度こそ甚爾を跳ね飛ばした。 すぐさま再び攻勢へ移ろうとする彼の姿を忌々しげに見つめつつ、リンボは武蔵を閉ざした牢獄に意識を向ける。 “そろそろ限界か…! しかし、ええしかし――今奴に暴れ回られては困る!” 今この瞬間においてもリンボは目前の誰よりも強い。 指先一つで天変地異を奏で、気紛れ一つで視界の全てを焼き飛ばせる悪神だ。 にも関わらず彼をこうまで焦らせているのは、ひとえに先刻経験した予想外の痛恨だった。 重なる――あの敗北と。 輝く正義の化身に。 星見台の魔術師に。 彼らの許へ集った猪口才な絡繰に。 何処かで笑うあの宿敵に。 完膚なきまでに敗れ去った記憶が脳裏を過ぎって止まらない。 そんな事は有り得ないと。 理性ではそう理解しているのに気付けば武蔵の"神剣"を恐れているのだ。 “恐るべしは新免武蔵! 忌まわしきは天元の花! よもやこの儂にまたも冷や汗を流させようとは…! しかし得心行った。奴を討ち果たすには最早禍津日神でさえ役者が足りぬ! 拙僧が持てる全ての力、全ての手段をもってして排除しなければ――!” 猿の跳梁等どうでもいい。 さしたる問題ではない。 武蔵さえ消し飛ばせれば、あんな雑兵はいつでも潰せる。 かくなる上はとリンボは瞑目。 修験者の瞑想にも似たらしからぬ静謐を宿しながら意識を芯の深へと潜らせ始める。 「天竺は霊鷲山の法道仙人が伝えし、仙術の大秘奥…!」 それは単純な攻撃の為にあらず。 疑似思想鍵紋を励起させ特権領域に接続する仙術の領分。 安倍晴明を超える為に用立てた技術の一つ。 かの平安京ではついぞ開帳する事叶わなかった秘中の秘。 反動は極大、この強化された霊基で漸く耐えられるかどうかという程の次元だが最早惜しんではいられない。 「特権領域・強制接――」 全てを終わらせるに足る切り札。 嬉々と解放へ踏み切らんとしたリンボ。 しかしその哄笑は途中で途切れた。 肉食獣の双眼が見開かれる。 彼の肉体は、触手によって内側から突き破られていた。 それは宛ら寄生虫の羽化。 宿主を喰らい尽くして蛆の如く溢れ出す小繭蜂を思わす惨劇。 「ぞ、…ォ、あ?」 片足を失った巫女が笑っていた。 その手に握られた鍵は妖しく瞬いている。 「貴、様」 リンボは勝ちに行こうとしていた。 此処で全てを決めるつもりでいた。 後の覇道に多少の影響が出る事は承知の上で、絶大な反動を背負ってでも目前の宿敵を屠り去るのだと腹を括った。 そうして始まったのが擬似思想鍵紋の励起とそれによる特権領域への接続。 只一つ彼の計画に陥穽があったとすれば、励起と接続という二つの手順を踏まねばならなかった事。 それでも十分に正真の天仙へも匹敵し得る驚異的な速度だったが、"彼女"にとってその隙は願ってもない好機であった。 「――巫女! 貴様ァァァァァァァァ!」 「大丈夫よ。抱きしめてあげるわ、御坊さま」 接続のラインに自らの神性を割り込ませた。 無論これは演算中の精密機械に砂を掛けるも同然の行為。 特権領域とリンボの疑似思想鍵紋を繋ぐ線は途切れ。 逆にアビゲイルが接続されているかのまつろわぬ神、その触腕が彼の体内へ流れ込む結果となった。 臓物をぶち撒け。 洪水のように吐血しながら絶叫するリンボ。 その姿に巫女は微笑み鍵を掲げる。 全てを終わらせる為、絞首台の魔女が腕を広げた。 「さようなら」 リンボの断末魔は単なる雑音以上の役目を持てない。 命乞いか、それとも悪態か。 定かではないままに処刑の抱擁は下され。 外なる神の触手が…かつて彼が求めた窮極の力が――悪意と妄執に狂乱した一人の法師を圧殺した。 …その筈だった。 だが――しかし。 血と臓物に塗れたリンボが。 血肉で汚れたその美貌が白い牙を覗かせた。 「これ、は…?」 途端に神の触腕が動きを止める。 巫女の笑みが翳る。 其処に浮かんだのは確かな動揺だった。 「…油断を」 それが、この処刑劇が半ばで遮られた事を他のどんな理屈よりも雄弁に物語っており。 「しましたねェエエエエエエエエエエアビゲイル・ウィリアムズ! ――――急々如律令! 喰らえい地獄界曼荼羅ッ!」 →
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前回 れなぱん!(2) SIDE レナ 「は…んっ…隼…一くぅん…んんっ!」 真夏の西日の差し込む、自室のベッドの上で私は身を捩らせている。 「だ、駄目…外に聞こえちゃうよ…はぁんっ!」 私の甘い艶声と微かに聞こえて来る水音に、ベッドが軋む音…。嫌でも自分が何をされているのか分かる。 「あっ!あっ!あくっ!!」 私のアソコを悪戯しているソレを両手で引き剥がそうとすると、それに気付いたのか手を布団の上に押さえ込まれてしまう。 「あうっ!…ふぁっ!やぁ…」 最後の抵抗とばかりに私は太股でソレを挟んで、それ以上悪さをさせない様にしてみる。 だが予想に反して、結果的にはソレを太股で抱き寄せて、アソコに押し付けてしまう形になってしまう。 「あんっ!!イ、イッちゃい…そう…だよ。だよ…」 私の身体に力が入り、あと少しで絶頂を迎えれると思っていた。 けど、直前になってソレが動くのを止めてしまう。 「はあはあ…っ?隼一くん?」 太股を両手で持って左右に開かれ、隼一くんが私の下腹部から顔を離して言った。 「悪いなレナ。舌が疲れちまってさ…ちょっと休憩だ、休憩」 ニヤリと笑って隼一くんが私の横に座る。 嘘だ。私の事を焦らして反応を楽しもうとしているに違いない。 『あと少しだけ頑張ってイカせて』 なんて恥ずかしくて言えない。お預けを食らった私は静かな怒りを込めて圭一くんの手をギュッと握って口を開く。 「意地悪…」 夏休みになって、そろそろ八月に入ろうかという今日、私達は前述の通り過剰なスキンシップに文字通り『精』を出していた。 正確には『今日も』である。男女の進展状況をアルファベットで例える某ABCで言うならC以外。つまりキスとか、口や手で気持ち良くし合っているのだ。 夏休みの宿題をする為という大義名分を経て、ほぼ毎日、私達は互いの家で暇さえ有れば愛し合っている。 付き合い始めて一週間弱、事前にそういう事を経験してしまったので抵抗は無い。 いや、思春期真っ盛りな私達なら、遅かれ早かれこうなってしまうのは仕方の無い事だろう。 とはいえ、勉強を疎かにすれば後が怖い。 だから今日も朝早くから、二人の時間を作るため一緒に課題をサッサとやって今に到る。 「レナがオットセイをペロペロする時は最後まで頑張ってるのに…隼一くんは頑張ってしてくれないのかな。かな?」 私は身体を起こして、隼一くんの肩に頭を乗せて聞いてみる。 これは付き合ってから覚えた隼一くんへの甘え方。 本来、私はあまり人に甘える事はしない。だけど、隼一くんの前では甘えん坊になってしまう。 そんな私を照れながらも優しく甘やかしてくれる隼一くんが好きで、ついついやってしまう。又、その逆もしかりだ。 隼一くんが自分の頬を指で何度か掻いて、私の頭を撫でてくれる。 「う…ちょっと意地悪しすぎたなゴメン」 「うん。いいよ。だから…続きして欲しいな」 「あ~。ついでに…してみたい事あるんだけど、試してみて良いか?」 「してみたい事?はぅ…何だろう」 隼一くんが私の耳に口を当てて、ある事を言った。私はそれを聞いてドキドキしてしまう。 「そ、それ凄くHな感じだから恥ずかしいよ」 「でも俺とレナしか居ないんだぜ、誰かに見られる訳じゃないんだからさ。だろ?」 「う、うん…じゃあ…してみよっか」 私は横向きに寝転がる。 そして隼一くんも同じ様に横に寝転がる、ただし頭は私の足の方にある。 「レナ。俺のも頼むぜ」 私は圭一くんのズボンのチャックを下げ、下着のボタンを外してオットセイを出してあげる。 「はぅ…こんにちわ。なんだよ。だよ」 「俺もレナのかぁぃぃ所に挨拶しないとなぁ」 隼一くんが私の片足を少し持ち上げて、顔をアソコに近付けていくのが、息が当たる事で分かる。 やっぱり何回されても恥ずかしくて慣れない。 「ただいま~」 隼一くんの吐息が当たって身体がピクッと一瞬震える、そしてアソコの奥の方がキュンと切なくなって堪らなくなってくる。 それは圭一くんも同じだろう、大きくなったオットセイが私と遊びたいのか、ピクピクしている。先っちょからHなお汁を出して泣いていて、かぁぃぃ。 私は舌でオットセイの先を舐めてHなお汁を拭ってあげる。 「ん。ちゅ…ぴちゃ…んんっ」 同時に隼一くんも私のアソコを舐めてくれ、二人の出す水音と私の吐息以外聞こえなくなった。 「んぁ…は…ちゅる」 オットセイの至る所にキスをする、それが終わったら舌先に力を入れて這わせて焦らす。 先程のお返しだ。 「ぴちゃ…んんっ…はあ…あっ!」 秘部を舐めながら、隼一くんがクリトリスを指で摘む。 そして、そのまま包皮を剥いて吸い付いてくる。 「ふぁあっ!はぅっ!!あ…あんっ!」 「おいレナ。口がお留守だぜ?ちゃんとしてくれないと止めちまうぞ」 凄く気持ち良くてオットセイを愛撫出来なくなった私に、隼一君が口を離して言った。私が愛撫を再開するまで、気持ち良い事はしてくれそうに無い。 「はあっ…あむ…ううん…ふぅ」 だから私はオットセイを口に含んで、しゃぶり回す。 ここ数日で隼一くんの気持ち良い場所は解っているから、そこを重点的に刺激する。 「うあ…レナッ…!それ良い…!」 オットセイの頭の下の周り、ここを舌を尖らせてクリクリと舐めてもらうのが、お気に入りらしい。 ここは私が初めてオットセイを舐めてあげた所。 ゆっくり丁寧に舌を這わせながら、圭一くんの顔にアソコを押し付ける。今度は圭一くんの方がお留守だから、おねだりだ。 「んっ!ちゅぷ…ふぅん…!はふっ!」 隼一くんが私の秘部に指を入れて小刻みに動かし、クリトリスを吸いながら舐めてくれる。 「んうっ!ふぅっ!ちゅぽ!ちゅぽ!」 私も唇にオットセイの頭を引っ掛けつつ卑猥な音を出して吸ってあげる。 「っぷは…!はぅっ!!じゅ、隼一くん…もっと吸ってぇ…は…ああっ!」 オットセイから口を離し根元を扱きながら私は要望を伝える。 すると隼一くんが要望通りにしてくれた。 私は再びオットセイを咥えて愛撫を再開する。 「んぐっんぐ!くぅ…!うっ!んんう!」 気持ち良過ぎて舌が上手く動かない。それでも一生懸命ねぶり、強く吸いながら顔を上下させて一心不乱に奉仕する。 平日の真っ昼間からお互いの下腹部に顔を埋めて愛撫し合う。 そんな恋人同士でしか出来ない事、それでいて背徳感たっぷりな行為に私は興奮していた。 だから、いつもより激しくし過ぎて隼一くんの限界にも気付けなかった。 「んむっ!?っう!んんっ」 いきなり口内に射精され、私は慌てて咥えたまま舌の上で受け止めた。 全部出しきるまで舌をウネウネと動かして刺激を与える。 「あ…は…ああ…」 出し終わったら、そのまま頬を窄ませ尿道内に残った精液を吸い出す。腰をガクガクさせて女の子みたいな声を出して隼一くんが悶えているのを見ながら、口の中で綺麗にしてあげた。 しつこいくらい口内で蹂躙した後、口を離しティッシュを二、三枚引き出して口の中の精液を捨てる。 「…ゴメンね。隼一くんのミルクまだ全部飲めないんだよ。だよ」 涎と精液でドロドロになった口元も拭いて、私は身体を起こす。 「ん…ああ。無理はしなくても良いぞ」 隼一くんが蕩けた顔をして言った。 「あ、あのね…ん。レナまだ…」 私は身体をモジモジさせて遠回しにイカせて欲しいと言ってみる。 「先にイッちまってゴメンな。ほら来いよ」 隼一くんも起き上がって、自分の膝の上をポンポンと叩いている。 私は圭一くんの膝の上に移動して背を預け、後ろから抱きしめて貰い満足感に浸る。 「レナってこの格好好きだよな。まあ俺も腕の中にレナがスッポリ収まる感じで好きだけどさ」 私のワンピースの下から手を差し入れて脱がせながら、隼一くんが続けて言う。 「レナってウブだと思ってたのに全然違うよな?本当は凄くいやらしい子だったもんな」 ワンピースを脱がされブラのホックを外される。私が身に着けているのはオーバーニーソックスだけになった。 「はぅ。そ、そんな事言わないで…」 私は恥ずかしさに身体を震わせ、隼一くんの言葉に酔わされていく。 「始めてすぐにおしゃぶりが上手になっちまうし」 両足を足首に添えられ大きく開脚させられ、目の前の鏡に私の恥ずかしい姿が写る。 同時に隼一くんの顔も見える訳で、上気した顔で何処か余裕無さ気。必死。それでも私の事を言葉や手を使って可愛がってくれているんだな。と分かる。 『俺は余裕が有るから、もっと楽になれよ』 って私を安心させようとしてくれているのかな?隼一くんも男の子だから格好付けてみせたいのだろう。 「皆には見せないスケベで、かぁぃぃレナが沢山見れて俺は幸せ者だよ」 両手で胸を優しく揉みほぐしながら、隼一くんが私の頬に顔を寄せる。 「…隼一くんより、レナの方が幸せ者かな。かな?」 私は身体を捻って唇を重ねる、鳥が啄む様に隼一くんのかぁぃぃ唇に何度もキスする。 「ふぁぁ…ちゅっ…ちゅっ…ふぅ…ん」 コリコリになった乳首を指でいっぱい転がされ気持ち良くて、私は小さな声で喘ぐ。次第に口の中に舌が入ってきたので私はおずおずと舌を絡める。 「ぴちゃ…あむ…っんう?」 薄目を開けて圭一くんを見ると目が合った。私は左手を後頭部に回して引き寄せる。 空いている右手で圭一くんのオットセイを探る。私だけ気持ち良くしてもらうのは悪いから。 「ふぅ…ふぅ…はふ…」 オットセイを逆手で、触れるか触れないかぐらいの力で扱いてあげる、すると私の手の中でオットセイが元気になってきた。 「は…レナ、指入れるぞ」 唇を離して圭一くんの手が秘部に移動する。私は身体の力を抜いて身を委ねて肯定を表す。 「あ…あっ!」 指が私の一本膣内に侵入して蠢く。自分では指を入れた事が無いので、圭一くんがしてくれるコレが私の唯一知っている『挿入』 近い内に捧げるだろう『初めて』の時までで一番圭一くんを感じられる行為。 最初の頃はぎこちなく探る様にしか動かしてくれなかったけど、今では私の性感帯を次々に見つけて愛してくれている。 「け、圭っ!一くぅ…んっ!そ、そこ駄目ぇっっ!!」 膀胱の裏辺りの膣壁とその反対側。交互に指を当てる様に掻き回される。私のアソコはクチュクチュとはしたない水音をさせて、圭一くんの指を咥えて込んで離さない。 「嘘が嫌いな癖に嘘はついたら駄目だろ。レナのアソコが、もう俺の指を離したく無いって言ってるみたいだぜ。おっ持ち帰りぃ~♪てか? レナは欲張りだなぁ」 「はぁ…う…レ、レナ嘘ついちゃってるの?ひゃっ!」 遊んでいた片手で何度も秘部全体をなぞられる。指を絶えず動かしてクリトリスやビラビラに女の悦びを教え込まれる。 「ついてる、ついてる。ほら鏡見てみろよ、美味しそうに指をおしゃぶりしてるだろ?」 私は目の前の鏡を見る、圭一くんの言う通りヒクヒクとさせながら指を食べていた。いや、おしゃぶりか。 「う、うん!はぅ!あっ!ほ、本当だ!あんっ!レナのアソコが悦んでいるよぉ!!」 段々自分が何を言ってるのか分からなくなってきた。 言葉で興奮させられ、愛撫で蕩かされる。 何より圭一くんに気持ち良くしてもらって頭も心の中もいっぱいいっぱいだった。 それでもオットセイを扱く手は止まらない。お尻に先っちょを押し付けて円を描く様に動かしながら扱く。 『欲張り』 確かにその通りだろう。 「も、もう駄目…!イッちゃう!イッちゃう!はあぁ!はうっ!!んあっ!!ああっ!!」 身体が跳ねて絶頂に到る。頭の中で白い光がスパークしている、ストロボの様に…。 「っ…はあっはあっ…」 息をする度に身体がヒクつく、圭一くんは何事も飲み込みが早いのか私を昇天させる方法をすぐに覚えていっている。 「愛液で少しシーツ汚れちまったな。てかレナ大丈夫か?」 「う、うん…大丈夫だよ。それより圭一くんは何処でこんな事覚えてくるんだろ。だろ?」 確かに何度もしていればコツは覚えるだろう、だが女の気持ち良い所をピンポイントで押さえて愛撫してくるのは不思議に思う。圭一くんはまだ…した事無いのに、何で知ってるんだろう? そんな考えから私は聞いてみたのだ。 「…エロ本と豊かな感性?」 まあ、模範回答と言うか当たり前か。 この年でそういうお店に行ったりとかは無いだろうし、他の女の子とどうこうってのも無いだろうから。 「そっか…あ!圭一くん、そろそろ花火買いに行かなきゃ!」 「ん?ああ、もうこんな時間かよ。じゃあ行くか」 「うん!」 今日は皆で花火をする約束が有るのだ。各々花火を持って来る様にと魅ぃちゃんに言われている。 だから私達は興宮に花火を買いに行かないといけないのだ、デートにもなるし丁度良い。 私は脱がされた下着と服を身に着けて髪を簡単に直す、最後に帽子を被って準備完了。 「ほら!圭一くん早く!」 ノロノロと服を着ている圭一くんを急かして家を出る。 汚れたシーツは明日洗濯機に掛けよう。だって今夜は…。 「はうぅ~♪かぁぃぃ花火がいっぱいあるんだよ。だよ!」 「へぇ…結構花火って種類あるんだな。おっ!これなんて面白そうだぞ!」 私達は今、玩具屋に居る。魅ぃちゃんの親戚のお店は今日お休みなので別の店。ここは近頃では珍しい、花火を単品売りしているのだ。 皆でするのだから質より量だが、スーパーに行って詰め合わせを買うってのも芸が無い。 だから単品で楽しそうな花火を買って行こう。という事になった。もちろん、詰め合わせも買う予定だけど。 「こ、これかぁぃぃよう~!圭一くん!買っても良いかな。かな?」 私は興奮気味に線香花火に頬擦りしながら聞いてみる。 「やっぱりレナのかぁぃぃ物の基準が分からねぇ…あ~カゴに入れとけよ」 圭一くんが『名人16連射』と書かれた花火を見ながらカゴを指差す。 「ねぇ圭一くん、沙都子ちゃん達も居るんだから、その花火は危ないんじゃないかな」 「そうか?う~ん…だったらこれか?」 そう言ってロケット花火を手に取る。 「だ、駄目だよ~!さっきより危なさがアップしてるんだよ。だよ!」 私の脳内では魅ぃちゃんと圭一くんと沙都子ちゃん。 三人がロケット花火を投げ合ってる姿が思い浮かぶ。 「これなんかが限界なんだよ。だよ!」 手の平サイズの打ち上げ花火を圭一くんに突き付ける。何より、この小ささがかぁぃぃ。 「いや待て!せめてコイツをボーダーラインにしてくれ!」 ネズミ花火を手に取って圭一くんが懇願する。 「うん。これなら大丈夫かな。ネズミさんの尻尾みたいでかぁぃぃし…」 「かぁぃぃって…まあ良いや。あとこれ辺りが…」 こんな感じで一緒に花火を選んでカゴ一杯買う。 これだけ有れば詰め合わせは要らないかも…。うん。あまり買い過ぎても余りそうだし充分だろう。 私達は夕飯代わりに喫茶店で軽食を食べた後、花火でパンパンになったビニール袋を持って雛見沢に戻る。 ちなみに夕方六時に古手神社の石段前に集合だそうだ。そこから河原に移動らしい。 「そういや、河原って祭の時に綿を流した所だろ?玉砂利が有って危なく無いか?」 「ううん。あの河原の下流の方だよ。地面が土の場所が有るから、そこだと思うな」 自転車を石段の前に停めて、私は圭一くんに説明する。まだ誰も来てないので、石段に腰掛けて待つ事にした。 楽しいお話しの時間。デートの予定を考えたり、くだらない事で笑い合ったりしていたが、段々Hな話しになってくる。 「それにしても、今日のレナは凄かったなぁ…凄い吸い付かれて腰が抜けるかと思ったぜ」 「け、圭一くん!お外でそんな事言ったら駄目なんだよ!誰かに聞かれたら…」 すると私の太股に圭一くんの手が置かれる。 「大丈夫だって…誰かが来たら止めれば済む話しだしさ」 太股を触っていた手が段々内側に移動し始めた。私は足を閉じて阻止して諫める。 「…レナ怒っちゃうよ?」 「じゃあさ、コレを何とかしてくれたら止めるよ」 と言って私の手を取ってズボン越しにオットセイを触らせられる。 「どうにかって…こんな所じゃ無理だよ」 もうすぐで六時とはいえ辺りはまだ明るい、そもそも道端でそんな事できる訳無い。 「あそこなら人も来ないし…なあ良いだろ?レナにして貰いたいんだよ」 ここから70メートル程離れた林を指差して、圭一くんがおねだりしてくる。 「流石にこんな状態で皆に会う訳にはいかないだろ。だから…さ?」 目をウルウルさせて圭一くんに催促される。そんな目で見られたら…してあげたくなる。でも、やっぱり私は躊躇してしまう。 「魅音にこんな姿見られたら…服をひん剥かれてしまうかも…俺の身体をレナ以外に見せたくないから・・・」 いや、魅ぃちゃんもそこまでしないだろう。 それより『俺の身体を[レナ以外]に見せたくないから』と言ったのに胸がキュンとしてしまった。 「はう…だったら皆が来る前に…行こう?」 結局は私の方が折れて、圭一くんの手を取って林に向けて歩きだす。 道からは死角になって見えない木陰に身を隠し、私は圭一くんの後ろに立って、ズボンの中からオットセイを出してあげる。 「圭一くんのオットセイいつもより大きくなってるんだよ。だよ」 「レナの柔らかい太股触ってたら、こんな風になってさ。ここまで歩くのも大変だったぜ」 右手でオットセイをゆっくり優しく扱いて、左手で圭一くんの胸をまさぐる。 「はぅ…まるで圭一くんに悪戯しているみたいなんだよ。ちょっぴり楽しいかも」 タンクトップの上から乳首を探し当てて指で転がすとオットセイが更に大きくなった。 「レナ…もう少し速く手を動かしてくれよ」 私は言われた通りにしてやる。 「ふ…う…」 段々圭一くんの口から吐息が漏れ始める。 「ねぇ圭一くん。良い事してあげよっか?」 調子に乗って来た私は圭一くんに、ある事を聞いてみることにした。 「は…良い事?」 「うん…気持ち良い事…圭一くんが腰をちょっぴり屈めてくれたら、してあげれるんだよ。だよ」 ゴミ山で見た、とある雑誌に載っていた気持ち良い事。本当かどうか分からないけど、してあげたくなってきたのである。 「あは♪ 良い子なんだよ。だよ」 素直に腰を屈めた圭一くんの乳首をよしよしして、私は耳元に唇を近付けていく…。 柔らかそうな耳たぶを唇で甘く咥えて味わう様に動かす。 「う…くすぐってぇ…」 身体をピクピクさせて圭一くんが言った。 「あむっ…ん…んう…ふふ♪」 なら、これはどうだろう?耳たぶを口に含んで舌で舐め回す。他の二ヶ所への愛撫も忘れずにシコシコ、クリクリしてあげる。 「うあっ!レナっ!や、やめっ!おあっ!?」 三ヶ所責めの気持ち良さに圭一くんが堪らず逃げようとするのを、私は乳首をイジメていた手をお腹に回して動けない様にする。 「ん…圭一くんかぁぃぃんだよ。そんなにお耳気持ち良いの?」 「あ…あうっ!」 「それともオットセイ?おっぱい?分からないから全部してあげるね」 再び耳たぶを含んで、オットセイを舐める時と同じ様に舌を蠢かせる。 「ちゅっ…ちゅっ。ちゅぱ…ふぅん…」 何回も吸いながら、舌先で耳の中を刺激する。 指先をオットセイの頭に絡ませながらリズム良く扱き、乳首に手を戻して指で挟んで揉みほぐす。 私も同じ事をされたら蕩けきってしまうだろう。まあオットセイを扱かれる気持ち良さは分からないけど、きっと背中がゾクゾクするくらい気持ち良いのだろう。 「レ、レナ!レナァ!あうっ!」 かぁぃぃ…可愛いすぎる…身体を震わせて私の名前を呼ぶ姿なんて女の子みたいで…。 自分が女の子としちゃっている様な錯覚すら覚える、ちょっと男の子の気持ちが解ったかもしれない。 「ふう…お外でオットセイをシコシコされて感じちゃってる圭一くんは変態さんなんだよ」 耳から口を離し、首筋に吸い付いてキスマークを付けた後、続けて耳元で呟く。 「でも…こんな事してて興奮しちゃってるレナも変態さんかな。かな?」 「あっ!…ううっ!レナァ…もう俺…俺っ!」 私の問い掛けに答える余裕も無いのだろう。圭一くんも限界みたいだからラストスパートに入る。 オットセイから出て来たHなお汁を先っちょに塗りたくり、逆手でオットセイの頭を持って扱きあげる。 いっぱいお汁が出てるから滑りが良い。だから少しだけ強めにオットセイの一番気持ち良い部分を攻め立てる。 「圭一くんイッちゃうの?オットセイがミルクをピュッピュッするところ、レナに見せて…。ねっ?」 幼児に言い聞かせている母親の様に、優しく耳元で呟きながら私はオットセイを責める手を休めない。 それどころか乳首からタマタマに手を動かし揉んで、さらに気持ち良くしてあげた。 「イ、イクッ!レナっ!レナっ!あっ!ああっ!」 腰をガクガクさせながら圭一くんがオットセイから勢い良く精液を吐き出す。両手でオットセイを扱いて手助けしてあげると吐息を漏らす。 「は、あ…ああ…うっ…!」 「あは♪凄い凄い!圭一くんのミルクいっぱい出ちゃってるよ?遠くまで飛んでちゃったんだよ。だよ!」 ヒクついているオットセイから手を離し口元まで持っていく、少しだけ手に付いちゃったから舌で舐めて綺麗にする。 口の中に圭一くんの味が広がる。青臭くて苦いミルク…圭一くんが出したと思うと苦にならない。 「はあはあ…んっ。レナって…もしかしてSっ気あるのか?」 「あはは♪女の子には秘密がいっぱいあるんだよ。だよ♪」 「何だそれ?けど凄く良かった…何つ~か堪らなかったぜ」 私はポケットティッシュでオットセイを拭きながら言った。 「イジメられて気持ち良かったの?実はね、レナも堪らなかったんだよ。圭一くんをイジメて興奮しちゃった」 ティッシュを丸めてポケットに突っ込んで続ける。 「でも…レナは圭一くんにイジメられるのが好きかな。かな?ううん。両方好きだよ。圭一くんとだったら、どっちも楽しいし気持ち良いんだよ…だよ」 「う…俺もレナとだったら両方好き…だな」 「はぅ…」 二人して顔を真っ赤にしてうつむく。私は圭一くんと同じ想いを共有できた事が嬉しくて、それだけでも『悪いネコさんなレナ』を見せて良かったと思ったり…。 梨花ちゃんみたいな事を言ったが、あながち間違っては無い。私達は『悪いネコさん達』なのだ。 お家で戯れ合った後、皆と遊ぶ前にHな事をして、何喰わぬ顔で皆の前に姿を現すのだから。 けど私達の仲が良くなら私は『悪いネコさん』でも良いかな。 私達は林から出て来た事を追求された時のアリバイ用に樹の幹に居たカブトムシを捕らえて、待ち合わせ場所に戻った。雄と雌のつがい、夫婦なのだろうか? 雄のツノもかぁぃぃけど雌のカブトムシ…小さくてかぁぃぃよう。小さくてかぁぃぃのは罪だ。 手の平の上のカブトムシを指でつつきながら私は口を開く。 「はうぅ~!圭一くん!カブトムシさん、かぁぃぃよう!お持ち帰りして良いかな。かなっ!?」 「止めとけって、そのカブトムシも自然の中で生きていたいだろうし。後で放してやろうぜ」 「はぅ。なら諦めるんだよ。でも見るだけなら良いよね。よね?」 「ああ。存分に見てやれ。おっ!もう皆来てるぞ!レナ急ごうぜ!」 「うん!」 圭一くんが私の手を取って走りだす。圭一くんの手は暖くて力強かった…。 「圭一さ~ん!レナさ~ん!早く来なさいまし~!もう皆さん待ってらしてよ~!!」 私達の姿を見つけた沙都子ちゃんが手を口に当てて叫ぶ。 「っはあ…!悪いカブトムシ探しててさ」 「ふう…すっごくかぁぃぃんだよ!ほら!」 私達は呼吸を整えながら、カブトムシを見せる。 「カブトムシねぇ~。本当は別の小動物と戯れていたんじゃないの~?『はぅ~~、圭一くんのツノ、かぁぃぃよぅ~。おもちかえりぃ~~!』なぁんて。うひひひひひひひひひひひ、ぐへぇっっ!!!」 図星を指されて一瞬出遅れてしまったが、なんとかレナパンを繰り出して魅ぃちゃんを沈黙させる。 ん…大丈夫、いつもと変わらない。なんとか誤魔化せたはず。 「じゃあ皆さん行きましょうか。時間が惜しいですし」 その後を受けて詩ぃちゃんが何事もなかったかのようにうまくまとめてくれた。 「みぃ~。楽しみなのですよ」 「あぅあぅ!レナもカブトムシと遊んでないで急ぐのです!」 私はカブトムシを放して、圭一くんと一緒に皆の後を追いかける。 後には倒れた魅ぃちゃんだけが横たわっていた。 河原に着いた私達はさっそく持ち寄った花火を見せ合い始める。 「おい魅音。何だこりゃ?」 「へ?何って…花火だよ。圭ちゃんこそ何言ってんのさ」 ロケット花火、連射花火、爆竹にクラッカー…まだ色んな種類が有るけど、言い出したらキリが無い。 魅ぃちゃんは戦争ごっこでもするつもりなのだろうか? 「お姉は本当、空気読めませんねぇ。普通花火って言ったらコレですよ」 詩ぃちゃんがそう言ってビニール袋をひっくり返し、大量の打ち上げ花火を地面にぶちまける。 「はう…二人とも何かが間違っているんだよ。だよ」 残りの皆は無難に手持ち花火を買ってきている。この二人…特に魅ぃちゃんは何を思って、こんな花火ばかりを買って来たのだろうか? 「にぱ~☆魅ぃも詩ぃも、かわいそかわいそなのですよ」 梨花ちゃんが満面の笑みを浮かべ背伸びして二人の頭を撫でている。 沙都子ちゃんと羽入ちゃんは、そんな私達とは離れて周囲の石を集めて点火用の蝋燭の囲いを作っていた。 早く花火がしたくて、ソワソワしているのだろう。 ニコニコ笑いながら仲良く準備をしている二人を見ていると、思わず笑みがこぼれてしまう。 「う~ん。おじさんのチョイスは間違って無い筈なんだけどねぇ…」 ブツブツ言ってる魅ぃちゃんを詩ぃちゃんが引っ張って行き、梨花ちゃんが後ろを付いて行く。 「圭一くん。レナ達も行こう?」 「おう」 さあ、楽しい夜の始まりだ。 「あ~!くそっ!まだ片付かねぇのかよ!」 「あはは…まだまだだね。圭一くん頑張ろ」 楽しい時間も終り、私達は周囲に散らばったゴミの掃除をしていた。 部活ついでに後片付けを賭け、皆でロケット花火を川に投げて飛距離を競ったのだ。 意外な事に圭一くんがビリで、投げるタイミングを誤って飛距離が伸びなかった私は6位…勝者の5人は 『後は若い二人に任せて…』 とか言いながら帰ってしまった。 私はロケット花火は危ないから止めようと言ったが、一回ポッキリの勝負だから。と言われてしてしまった。 その結果が今に到るのだ。 「まさか真上に飛んで行くとは思わなかったぜ」 そう。圭一くんの投げたロケット花火は放物線を描くどころか、天高く舞い上がって上空で炸裂した。 これでは計測不能で無効と言いたいが、やっぱり判定は負けな訳で。 何とか片付けも終わり、水と花火の残骸の詰まったバケツを地面に置いて圭一くんに話し掛ける。 「圭一くん。帰る前にコレやっていかない?」 ポケットから線香花火を取り出して、圭一くんに見せる。 「おお。それって一緒に店で買った奴だよな?まだしてなかったのかよ」 「うん。コレは圭一くんと一緒にするために残してたんだよ。ねぇ、しようよ」 「良いぜ、ちょっと待ってろ」 そう言ってゴミ袋の中から蝋燭を取り出して、ライターで火を灯す。続いて蝋を小石の上に垂らして、その上に蝋燭を固定した。 「はい」 私は線香花火を一本渡して、自分も袋から取り出す。 「この線香花火、持つ所が藁なんだな。初めて見たよ」 「紙をこよったのより、こっちの方が綺麗で火種も長持ちするんだよ。だよ」 私は腰を屈めて蝋燭の火で花火を点火しながら説明した。 同じく腰を屈めて、花火に点火した圭一くんが呟く。 「本当だ。普通のより綺麗かもな」 「レナね、線香花火が好きなの。儚くて綺麗だから…」 「最後の一瞬まで輝いて散っていく…物哀しいけど素敵…」 微かに火花を散らしながら輝く火種を見た後、私は圭一くんを見つめる。 「レナも、この線香花火みたいに最後の燃え尽きる瞬間まで輝いていれる人生を送りたいな…って思うんだよ。だよ」 「悔いの残らない、満足できる人生って奴か…」 「うん。でも実際には挫折したり後悔もするんだろうけど、それでも良い一生だったな。って想えたら素敵なんだよ」 「俺もそう思うよ。あ…」 圭一くんの線香花火の火種が地面に落ち徐々に光を失っていく。 続いて私の線香花火も同じ様に火種が落ちてしまった。 私は蝋燭の火を消して立ち上がり口を開く。ある事を言うために。 「…圭一くん。今日レナのお父さん、出張に行っててお家に居ないの…」 「突然どうしたんだよ?まさか俺にレナの家に泊まれとか…なんてな!ははは!」 「…そのまさかなんだよ。だよ」 「え?…けどさ…」 「レナ知ってるんだよ?今夜圭一くんも一人で御留守番だって…圭一くんのお母さんが昨日そう言ってたの…」 「一人ぼっちは寂しいんだよ。だよ。だから… レナと一緒に寝て欲しいな…」 <続く> れなぱん!(4)
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ラジオ インターネットラジオ ラジオ RADIOアニメロミックス~ひぐらしのなく頃に (11月から 2ヶ月間の限定放送) 文化放送 土曜 24 30~25 00 東海ラジオ 土曜 23 00~23 30 ABCラジオ 土曜 25 00~25 30 パーソナリティ 竜宮レナ役:中原麻衣 北条悟史役:小林ゆう インターネットラジオ 「ひぐらしのなく頃に」猿回し編 (2007年2月から配信) パーソナリティ 竜宮レナ役:中原麻衣 園崎魅音役:雪野五月 RADIOアニメロミックス~ひぐらしのなく頃に こぼれ話編 (2007/1/5更新で終了) パーソナリティ 竜宮レナ役:中原麻衣 北条悟史役:小林ゆう