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あくる日、なのはとユーノの二人にクロノから召集がかかった。 「実はなのは、君の世界でロストロギアが発見されたのだが…その回収に行って欲しい。 あと…ついでにそこのフェレットもどきもな。」 「誰がフェレットもどきだよ…。」 相変わらずフェレットもどき呼ばわりするクロノにユーノも機嫌良く無かったが、 気を取り直してなのはは訪ねた。 「で…一体何処に行けばいいの?」 「地球の日本国北海道…そこの大量の粗大ゴミが不法投棄されている地域あるのだが、 そこにあるこれを回収して来て欲しいんだ。」 クロノがそう言いいながら一枚の写真を渡す。その写真には小さな小瓶の中に入った 可愛いコックさん人形が写っていた。 「小瓶の中の…可愛いコックさん人形…。」 「これはひょっとしてギャグで言っているのか…。」 なのはもユーノも呆れてしまうが、クロノは真剣だった。 「確かに一見するだけならこれはただの小瓶の中に入った可愛いコックさん人形だが… 侮ってはいけない。何故ならこの可愛いコックさん人形の中にはその昔、 破壊の限りを尽くしたと言う恐ろしいアストラル生命体が封印されているんだ。」 「アストラル生命体!?」 「このアストラル生命体がどの様にしてかつて破壊の限りを尽くしたと言うのかは 定かでは無いが…これの封印が再び解かれる様な事があれば君の世界だけの問題では無い。 いずれは次元世界全体に関わる大事になるのは必至だ。だから早急に回収して来て欲しい。」 「うん分かったの。」 「そこのフェレットもどきもちゃんとなのはを補佐しろよ。」 「だからフェレットもどきはやめろって…。」 地球は日本国北海道にて、大量の粗大ゴミが不法投棄されている地域があった。 周囲をゴミに囲まれた場所に一つの掘っ立て小屋が建っていた。 その掘っ立て小屋の主の名は「ドクター剛」。知っている者は良く知っているし、 知らない者は全く知らない悪の科学者である。彼はかつて自身の作り上げたサイボーグ猫軍団 「ニャンニャンアーミー」による世界征服を企んでいたが…諸所の事情に よってことごとく失敗に終わり、今ではすっかりその野望を諦めてしまい、 サイボーグ猫の最初期型にして彼の下に唯一残った「ミーくん」と 共にのんびり暮らしていた。そしてそんな彼等の平穏を脅かす存在が 今日もまたやってくるのである。 「お~っす剛! 暇だから遊びに来てやったぞ!」 「ゲゲ! クロ!」 突然剛のもとを訪れた者は人間では無い。剛の作ったサイボーグ猫の一体である「クロ」である。 彼も本来は剛のニャンニャンアーミーとして世界征服の尖兵となるはずであったが、 彼自身はそれを拒絶し、逆に剛の世界征服の障害となると共に剛が 世界征服を諦めてしまった最大の原因の黒猫である。 クロの方から剛のもとを訪れるのはロクな事が無い証拠であるが、 その時のクロは妙に機嫌が良かった。 「おい! 今日ここに来る途中でイタチを捕まえたんだが…今夜はイタチ鍋にしようぜ!」 「キュー! キュー!」 サイボーグ故に人間との対話は愚か二足歩行さえ可能なクロの右前脚に 一匹の小さなイタチが掴まれてもがいていたのだが…そのイタチ…何処かで見覚えのあるイタチだった…。 「よーしミーくん! 今直ぐコイツを捌いてくれ!」 「よっしゃ任せろクロ!」 「キュー! キュー!」 クロは料理の得意なミーくんにイタチを放り、ミーくんも嬉しそうに包丁を 取り出していたが、そんな時だった。 「待って! ユーノ君を返して!」 「ん?」 一人の少女が駆け付けて来た。その少女こそ先に説明された任務によって 北海道にやって来た高町なのはである。 「何だ!? コイツお前のペットかよ。」 「あ~あ~、せっかくイタチ鍋にして食べようと思ったのに。」 「あ~あ~、イタチ鍋食べたかったな~。」 「ユーノ君をイタチ鍋にしちゃだめだよ!」 つまり、クロが捕まえて来たイタチとはフェレットモードのユーノだった事が明らかになり、 解放されたユーノはなのはの肩まで登っていた。 「ユーノ君が助かった所でちょっと聞きたいんだけど…。」 「ん? このイタチを追って来ただけじゃないのか?」 「私、ここにコレがあるって聞いて来たんだけど…分かる?」 なのははロストロギア指定された小瓶に入った可愛いコックさん人形の写真をクロ達に見せた。 「何だ? これ何処かで見た事があったな~。」 「これデビルが封印された奴じゃないか!」 「ああ! あったなそんな事が!」 「デビル?」 クロ達の言うデビルと言う単語に首を傾げるなのはだったが、そこで剛が その写真に写った可愛いコックさん人形の入った小瓶をゴミの山から持って来た。 「写真に写っているのはこれだな。」 「あの…これ…持って行ってもよろしいですか?」 「ああ持ってけ持ってけ! コイツには二度も酷い目にあわされてるからな! だが…この小瓶のフタは絶対に空けるなよ! じゃないと大変な事になるからな!」 「ご忠告ありがとう…って…私…今猫と会話してるぅぅぅぅ!!」 「気付くの遅いよ!!」 「(あの…なのは…今更驚く事なのかなそれ…。)」 まあとりあえず…目的のロストロギアを回収する事に成功したなのはとユーノは その可愛いコックさん人形の入った小瓶を持ってミッドチルダ時空管理局に帰還した。 目次へ 次へ
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魔法少女リリカルなのは外伝・ラクロアの勇者 第17話 12月24日クリスマスイブ、本来ならいつも以上に人々が賑わう日。 町の彼方此方からはクリスマスソングが聞こえ、眩しいほどのイルミネーションに包まれる。 サンタクロースの格好をした店員がハンドベルを鳴らしながらクリスマスケーキを売り、 恋人達がレストランでクラスを交わす。 子供がプレゼントを大事に抱え走り、母親と思われる女性が転ばないようにとやんわり注意する。 とても平和なクリスマスの光景。だが、それは結界外での光景に過ぎない。 結果に包まれている海鳴市は・・・・・・・・正に戦場であった。 「第六班!!炎の噴出を抑えろ!!!」 「修復なんで後でやれ!!これ以上ぶっ壊さないように手足動かせ!!!」 「結界維持班!!絶対に維持しろ!!破壊されたら一気に阿鼻叫喚の地獄絵図の出来上がりだ!!!」 「分かってる!!そっちこそあの赤竜モドキをどうにかしろ!!この人数じゃ維持で限界だ!!迎撃なんで出来やしない!!」 「あーくそ!!援軍はまだか!!」 「クロノ執務官がグレアム提督から借りてきた武装局員は!!?」 「知るか!!連絡が全くつかないんだとよ!!!」 なのは達が海上で激戦を繰り広げている時、此処、海鳴市市街地でもアースラ所属の武装局員達が、なのは達と同等の激戦を繰り広げていた。 本来なら市街地での戦闘で破壊された町を修復し、結界を維持というそれ程苦ではない任務。 だが、彼らが作業を始めた瞬間、異変は起こった。 まるで彼らの作業が機動キーになったかの様に地面から本来この世界は生息しない筈の赤竜が多数出現 そして、それを祝うかの様に、幾本もの火箸が町の彼方此方から立ち昇る。 アースラ所属の武装局員もけして無能ではない。 全員がそれなりの場数を踏んでおり、他部隊に胸を張って自慢しても恥ずかしく無い程の実力と行動力を兼備えている。 (プレシア事件ではあえなく全滅したが、相手を殺す気だったプレシアに対し、全員が生き残った事は十分彼らの実力を証明している) ただ、なのは達の存在が彼らの実力を過小評価してしまうのは仕方の無い事だと思う。 年齢、実力、魔力量、彼女達は特別すぎるからだ。 だが彼らは決して嫉妬などはしなかった。むしろ彼女達を頼れる仲間として頼り、妹の様に接してきた。 まだ子供であり、次元世界の事を知って間もないなのはが、今でも魔法と接した生活を続けられるのも、 立場が微妙であり、外の世界をロクに知らず他者とまともに喋った事のないフェイトが、安心して今この場にいられるのも、 リンディ達や彼らの存在があってこそ。 「くそっ!やらせねぇぞ!!あの子達の町はな!!」 情けないが、自分達の実力では今回の戦闘には加わる事はできない。むしろ邪魔になる・・・否、なのはの性格は短い付き合いながらも知っている。 自分達を助けようとして自らが盾になることもありえる。援護なぞ出来るわけがない。邪魔しに行くような物だ。 そんな自分達に出来る事といえば、破壊された町の修復と、結界を維持し、外に被害を出さない事。だからこそ、彼らは死力を尽くす。 共に戦えないという悔しさを歯を食いしばって押さえ、自分達が出来る事を精一杯行うが、現状はそんな彼らの決意を砕くほどに切迫していた。 本来結界維持を8割、残りの2割で町の修復を予定していたが、突如地面から発生した火柱、そしてこの世界には存在しない筈の赤竜が 彼らの計画をズタズタにした。 火柱は彼方此方に発生し、空中にいる武装局員を怯ませ、根元から流れ出た溶岩は町を飲み込み、結界外から抜け出ようとする。 同じく地中から出現した赤竜は触手を駆使し、武装局員に襲い掛かる。 突然の自体に、武装局員の数名が舌打ちをするが、彼らは決して慌てる事無く行動を開始した。 先ず彼らは町の修復作業を中断した。敵対する相手が現われた以上、暢気に修復している暇などない。 それ以前に、戦闘となれば周囲の建物の損傷は免れないからだ。消して結界に制限時間があるわけではない。全てが終ったら直せばいい。 その結果、修復担当班と一部の結界担当班は赤竜の撃退、そして結界維持で身動きが取れない仲間の援護という役割についた。 だが、正直人数が足りない。本来なら此処にいる人員の8割で結界を維持し、残りが町の修復などを行うという計画だったが、 今では人員の5割で、しかも脆くなりつつある結界の維持を行っている。担当している全員が苦しそうな表情をしていることから この人数での維持がどれほど無茶な事か誰にでも痛いほど分かる。 そして残りの隊員は赤竜との戦闘に負われていたが、これは戦闘とは呼べず、ただ近づかない様に弾幕を張るという行為しか出来なかった。 もし赤竜が数匹なら撃退という選択肢も出来ただろう。だが、数が多すぎた。結果内の彼方此方からコンクリートの地面を割って出現した赤竜は 自分達を殺そうとしてる局員には目もくれず、結界を維持しようとしている局員にのみ攻撃を加えていた。 それに対し、撃退を担当した武装局員は途中から更に役割をわけ、迎撃に当たっていた。 弾幕を張り足止めと触手を破壊する前衛、そして一撃必殺の砲撃で頭を打ち抜く後衛、この人数で出来る唯一の防衛方法。 否、これは防衛ではない。援軍が到着するまで、もしくはなのは達が根源を倒してくれるまでの時間稼ぎに過ぎない。 だが、そんな絶望的な状況でも救いはあった。それは町の修復、結界維持の他に課せられた『民間人の保護』という任務。 何故かこの結界内に取リ残された子供二人を保護すると言う任務だったが、このような状況ではそんな事をしている余裕などない。 そんな二人が、今の所被害が無い、外れに向かってくれているのはありがたかった。 赤竜達も、脅威とならない子供は無視する事にしているのだろう。子供達の所には一切向かわず、こちらに攻撃を週集中している。 「ほらほらこっちだ、化け物!!」 言葉が通じるとは思えないが大声で挑発しながら注意をこちらに向けさせ攻撃を続ける。 そんな時であった、地中から新たな赤竜が現われたのは。 突然砲撃を担当する局員達の真下から現われた赤竜は、コンクリートの地面を砕きながら、這出た時の勢いを殺さずに 上空で攻撃をしている局員に体当たりをかける。 この現場の隊長が咄嗟に声をかけるも、疲れきり、各自の持ち場に集中している局員にその声が届く事はほとんど無かった。 ある者は自分に何が起こったのか理解する暇も無く意識を失い ある者は気づく事は出来たが反応が出来ずに体当たりを喰らい ある者は道連れといわんばかりに避けずに攻撃を放つ。 どうにか全て撃退はしたものの、戦闘を担当していた局員は半分に減り、残りも殆どが奇襲によるダメージが聞いているのか デバイスを構える事すら出来ず、今にも落下しそうにふらふらと浮いているだけとう状況。 「っ、くそ!!」 どうにか不意打ちから逃れる事は出来たが、状況が最悪な事に現場隊長は悪態をつく。 運よく結界担当班には被害は無く、どうにか作業は継続されていたが、彼らを守る隊員の殆どが戦闘が出来る状態ではない。 否、結界維持班もそろそろ限界が来ているのだろう。目視でも分かるほど結界が薄くなっている。 そして、こんな彼らを見てチャンスと感じたのか、赤竜が正面から一気に押し寄せてきた。 「くそっ!!諦めるな!!動ける奴は迎撃を再会しろ!!!」 自らを奮い立たせるかのように叫び、周囲に指示を出すも、内心ではこの状況に絶望を感じていた。 結界は限界、迎撃できるのは自分を含めて数人、絶対絶命という言葉がぴったり当てはまるこの状況。 現場隊長を含めた全員が諦め、絶望、そして死の恐怖を感じ、中にはデバイスを下ろす者まで現われる。 「・・・・・すまない・・・・」 口から出た謝罪は誰に対してだろうか? 戦っているなのは達に対してか? この世界の住人に対してか? ミットチルダの自宅で帰りを待つ妻と子供達に対してか? 赤竜は雄叫びをあげ迫り、口を大きく開け局員達を飲み込もうとする・・・・そして 銃声が鳴り響き、現場隊長を飲み込もうとした赤竜の眉間に風穴が空いた。 現場隊長を飲み込もうとした赤竜は絶命、彼の横を通り過ぎ、ビルへと激突する。 続けて聞こえてくる発砲音、そのたびに局員に襲い掛かろうとしていた赤竜は生命活動を停止する。 「な・・・・なんだ一体・・・・」 突然の援護攻撃に一瞬呆気に取られるが、直ぐに頭を切り替え、魔力弾が飛んできた方へと体を向ける。 なのは達が駆けつけてくれたのかと思ったが、直ぐにその考えを否定する。 彼女が得意とするのは砲撃、このような精密射撃ではない。それ以前にアースラ関係者にピンポイントの精密射撃魔法を使える人物などいない。 「・・・・・誰だ一体・・・・・」 魔力反応から射撃を行った人物がこちらへと近づいてくることは分かるが、姿が全く見えない・・・・否、 目を凝らせばどうにか何かが近づいてくることが分かる。 「・・これほどの距離から・・・一体・・・・」 こちらへ近づきながらも、射撃を行い赤竜の命を奪ってゆくその人物。 とにかく部隊長は内心で感謝の言葉を述べた後、その隙といわんばかりに大声で全員に指示を出し、体制を立て直す。 「迎撃班!!動ける奴は数名を残して結界担当と変われ!!結界担当!!!交代の後、半分は迎撃に回れ!!! 残りは無理矢理にでも休んで少しでも体力その他諸々回復させろ!!疲れが取れた者から交代!!!」 『了解!!!』 一気に捲し立てた後、深呼吸を一回。自身に冷静さを取り戻させ、力強くデバイスを握りなおす。 その直後、精密射撃魔法を行っていた人物が、現場隊長の元へと到着した。 「貴方が、ここの現場隊長ですね?」 なぜ自分が現場隊長打と分かったのだろうと考えるが、おそらく大声で指示を出していたからだろうと内心で納得する。 「(・・・・しかし・・・若いな・・・・)」 外見からだが、歳は執務官補佐であるエイミィ・リミエッタと変わらないであろう少年。 バリアジャケットからして、おそらくミットチルダ首都航空隊の隊員だろう。手には精密射撃を行ったと思われる銃型のデバイスを持っている。 「・・・・君は、首都航空隊の隊員だろう?どうしてここへ・・・・提督の指示か?」 「はい、リンディ提督からは許可を貰っています。自分は時空管理局首都航空隊所属、ティーダ・ランスター二等空尉であります」 現場隊長を見据え、力強く敬礼をするその姿に、自然と頼もしさを感じながらも、敬礼を返す。 正直、此処での援軍はありがたかった。先ほどの攻撃で分かったが、彼なら自分達の数人分の働きをしてくれる。 だが、吉報はこれだけではなかった。ティーダの報告はまだ続く。 「もうすぐ、援軍として時空管理局・首都防衛隊のゼスト隊も到着します。それまで頑張りましょう!!」 正に天の助けとはこの事だと思う。ゼスト隊といえば、ストライカー級の魔導師であるゼスト・グランガイツを隊長とした 首都防衛隊の切り札ともいえる精鋭部隊。そんな彼らが駆けつけてくれるのだ、心強いなんて物ではない。 「それは・・・・ありがたい。だが、何故だ?」 彼が疑問に思うのは不思議ではない。ディータをはじめ、ゼスト隊が駆けつけてくる理由が思いつかない。 同じ本局の部隊ならまだしも、地上本部、それも本局を嫌っているレジアス・ゲイズの懐刀であるゼスト隊が来るとは考えられないからだ。 「・・・・・自分は志願して此処へ来ました。ゼスト隊もクイント・ナカジマ准陸尉が志願した結果、 ゼスト隊全員がこちらへ来る事になったと聞きました。友である、騎士ガンダムを助けるために」 騎士ガンダム、次元漂流者である見た事も無い種族の騎士。彼とは一度顔合わせをしたきり、会ってはいない。 だが、噂は他の隊員から聞いた事はある。礼儀正しく紳士、正に絵に描いたような騎士だと。 「(これも・・・・彼の力か・・・・・)だがいいのか?騎士ガンダムは別の場所で戦っている。そちらも苦戦していると聞くが」 「大丈夫です。自分も、ナカジマ准陸尉も騎士ガンダムを信じています。彼が勝利を齎してくれる事を。だからこそ、 彼が安心して戦える場所を作るのが、自分の仕事だと思っています」 「生意気な・・・・・なら、遠慮なく頼らせてもらうぞ!!礼に飯ぐらいおごってやる。本局の食堂だけどな」 「はい!ご馳走になります!!」 「部隊長!!自分達も御相伴にあずからせてください!!」 自分達の話を聞いていたのだろう。負傷、もしくは回復に専念してい隊員が上空へと上がってくる。怪我をして上空に上がれない者も、 ビルの屋上でデバイスを構え、射撃体制を取っていた。 既に彼らを支配していた諦め・絶望・死の恐怖は吹き飛んでいた。その代わりに、終っていない、まだ戦えるといった希望が彼らを支配する。 そんな彼らの姿に、自然と戦意が向上していく事を部隊長も感じた。獰猛にニヤついた後、再び迫り来る赤竜目掛けてデバイスを構えた。 「ああ、こうなりゃ大盤振る舞いだ!!!好きなだけ食え!!!」 その声を合図とし、反撃の砲撃が再開された。 海鳴市海上 「はぁああああ!!」 声と共に、金色に輝く大剣『バルディッシュ・ザンバー』が振り下ろされる。 容赦の無い縦一文字の斬撃。その攻撃を闇の書の闇は舌打ちをしながらバックステップで後ろへと避ける。 だが着地した瞬間、今度は横一文字の斬撃が彼女を襲った。 「っ!こいつ!!」 その大きさとは裏腹に、まるでナイフでも扱っているかの様な素早い攻撃に対し、その場で踏ん張ると同時に咄嗟に肘を曲げ、 フィールドでコーティングした前腕でその攻撃を受け止める。だが、 「このぉおおおおおおお!!!」 フェイトは足を踏ん張り、腕に力を込め、防御の上から彼女を斬る勢いでそのままバルディッシュ・ザンバーを押し付ける。 それに対し、闇の書の闇も対抗するかの様に押し返す。 「(勝てる!!)」 闇の書の闇と戦闘を開始して数分、その僅かの時間に、フェイトは自身の勝利を確信した。 今戦っている相手は決して弱くは無い。だが、自分が今まで戦ってきたなのはやシグナムなどの強敵と比べると明らかに劣る。 これなら勝つ事が出来る。消して自惚れでは無い、自身を持って言える確信。 だからこそ、ェイトは勝負に出た、全てに決着をつけるために。 互いに力のぶつけ合いとなるかと思ったが、突如フェイトは押し付ける力を弱めた。 突然対抗する力がなくなった事により、闇の書の闇は簡単にバルディッシュ・ザンバーを押し返す事ができたが、 バランスを崩しよろめいてしまう・・・・その隙をフェイトが見逃す筈が無かった。 横薙ぎに斬りつけた時に準備は済ませていた。後は至近で放つのみ、自身の砲撃魔法を 「プラズマ・・・・・スマッシャアァァァァァァァァー!!!!!」 たたらを踏み、どうにかバランスを取り戻した闇の書の闇にフェイトは至近距離から中・近距離砲撃魔法『プラズマスマッシャー』を放った。 その黄金色の魔力は、ほの暗いこの空間を照らすと同時に、闇の書の闇を容赦なく飲み込み、吹き飛ばした。 「よっしゃ!!」 その光景に、はやては嬉しそうに叫び 外で様子を伺っていたなのは達も安どの表情を浮かべる・・・だが、 「まだだ・・・・フェイト・テスタロッサ!」 リインフォースだけは、変わる事無く険しい表情で様子を伺っていた。 そして、そんな彼女の言葉を実現するかの様に、爆煙の中から闇の書の闇がその姿を現した。 咄嗟にバルディッシュ・ザンバーを構えるも、服はボロボロの上、険しい表情で右腕を押さえている闇の書の闇の姿に、 フェイトは勿論の事、はやてやなのは達も勝利を確信する。 だがその姿を見ても、リインフォースの表情は変わることはなった。 「・・・・・お前・・・・・何を隠している・・・・」 「・・・・何って・・・・・何も・・・・」 だるそうにリインフォースの方に顔を向け答える闇の書の闇、フェイトはどういうことか聞こうとするが、 彼女より先に、隣にいるはやてが尋ねた。 「リインフォース・・どういう事や?どう見ても後一歩でフェイトちゃん大勝利な流れやんか?」 「はい・・・ですが主、思い出してください。闇の書の闇は、今までの主を殺してきたといっていましたよね?」 『そう、今までの主はどんな願いにせよ自分の欲望に忠実だった。だからこそ、闇の書の力を手に入れようと躍起になった。 闇の書が完成した後はね、主は皆此処に来るの。そして私が甘い言葉で誘うわけ、当然皆乗るわ。 当たり前よね、自分の欲望を満たせる力が手に入るのだから。あとは簡単、緩みきった主を取り込む・・・・まぁ殺すわけよ』 確かにあの時その様な事を言っていた事を思い出す。だが、それでもはやて達は答えにたどり着けない。 「失礼ですが主、魔法の存在を全く知らなかったから仕方が無いことですが、貴方は今までの主の中で一番弱い。 ですが他の・・・・今までの主の中には、かなりの強者もいました。それこそ、フェイト・テスタロッサの様な強者から ヴォルケンリッターが束になっても勝てないほどの者まで・・・・・・そんな彼らが、闇の書の闇に、それこそ管理者権限の効果で 完全に暴走していない彼女に殺されることなど考えられない。 無論、油断なども考えられますが、今の彼女の実力はシグナムに劣る。そんな彼女が今まで勝てたのには何かが在る筈です」 正直、リインフォース自身も自分の発言が考えすぎではないと思う事もある。 今までの主が奴に殺された時、自分は何もしなかった。無論、何も出来なかったらという理由もあるが、 彼らが守護騎士に行った仕打ちからして、助けるに値しないと思ったからだ。だがら何もしなかった。ただ彼女の行為から目をそらしていた。 だからこそ、先ほどの発言もただの憶測に過ぎない・・・・・否、むしろ憶測であって欲しいと願う・・・・・だが、 「あ~あ・・・もう!ネタバレはよしてよ・・・・つまんなくなるじゃない」 先ほどの苦しそうな声とはまるで違う生気に溢れた声、それは先ほどフェイトの攻撃を受けた闇の書の闇から放たれた。 フェイトは直ぐに顔を引き締め、『勝利』という言葉を頭の中から排除する・・・・その直後だった 「・・・えっ・・・・」 自分でも何が起こったのかわからない。とにかく言える事は急に体が重くなった事。 まるで生まれてから今までの疲れが一気に押し寄せてきた感じ・・・・目がかすみ、立つ事さえさえ困難になる。 「ふふっ・・・・どう、『闇』に飲まれる気分は」 嬉しそうな声と共に、見つめる闇の書の闇はゆっくりとフェイとへと近づく。いつの間にか腕の傷は癒えており、 ボロボロになった服も3歩目には新品の様に元どおりに修復される。 「そんな・・・・・ダメージが・・・・」 「ん?ああ、これね。此処が何処だか忘れてない?ここは闇の書の中。暴走した今では此処は私の体の中と言っても過言では無いわ。 だからね、この中にいる限り貴方が頑張って傷つけてくれたこの体も、服も、ご覧の通り。まぁ、私を倒したかったらアルカンシェルでも使いなさい」 自慢するように喋りながらフェイトへと一歩一歩近づく。 相手が来る事は分かってはいるが、体が全く動かない。経験した事は無いが、まるで毒でも受けているかの様に力が抜け、 バルディッシュを持つ事さえ出来なくなる。そして 乾いた音を立ててバルディッシュが床に落ちると同時に、フェイトもゆっくりと倒れこんだ。 はやてが何か叫んでいる。バルディッシュが何か報告している。だが、頭が理解に追いつかない。 「人・・・いえ、あらゆる生物は誰にでも心に闇を持っている。それでこそ、生まれたての赤ん坊にも闇はあるわ。 私はね、それを弄る事が出来るの。まぁ、闇の大きさによって出来ることは限定されるけどね」 倒れているフェイトの元まで辿り着いた闇の書の闇は、倒れている彼女の右腕を掴み、力任せに持ち上げる。 まるで死んでいるかの様に体からは力が抜け落ち、抵抗所か体を動かす事さえ出来ない。 「今までの主もこんな風にして殺したわけ。ホント楽だったわ。彼らは悪意に満ち溢れていたら虫を殺すより簡単だった。 本当はもう少し経ってからやろうとしたんだけどね。ほら、希望を十分に持たせた後にそれが無駄だと分かった瞬間の絶望感、その表情を見るのが大好きなのよ。 だけどあの馬鹿がネタバレしたから台無し・・・・・だけど貴方の闇は小さいわね、この程度で済むんだから。普通だったら体の彼方此方から体液撒き散らして再起不能よ」 一方的に話す闇の書の闇、フェイトはただ彼女の話を聞く事しかできなかった。 右腕だけで体を持ち上げられているため、傷みに顔を顰める。だが、その傷みのおかげで、どうにか飛びそうな意識を保つ事が出来た。 「ふふっ、さて、説明はお終い・・・・・それじゃあ・・・・・お楽しみと行きましょうか」 声を弾ませ楽しそうに微笑んだ後、闇の書の闇はフェイトのバリアジャケットの前襟に人差し指を引っ掛ける。そして ビリィイイイイイイイイイイイ 指を引っ掛けたまま力任せに下へと下ろし、フェイトのバリアジャケットを引き裂いた。 「オマエェエエエエエエエエエエエ!!!!!!!!!!!」 その光景を見た瞬間、アルフは喉が張り裂けんばかりの叫びをあげながら、フェイト達がいるであろう黒い半球に向かって突撃、 拳にありったけの魔力を込め、叩きつける。 「殺してやる!殺してやる!!殺してやる!!!!」 許せない・・・否、許せる筈が無い。今すぐフェイトを助け、あいつを殴り殺してやる。 野生の本能をむき出しにし、奇声とも思える叫び声をあげながら拳を叩きつける、何度も、何度も。 だが、彼女の怒りが実を結ぶ事は無かった。いくら拳を叩きつけても、黒い半球はびくともしない、 だたアルフの拳がボロボロになるだけ。だが、それでも彼女は攻撃を止めない。 「ハハハハハ無理無理!!!外からじゃ此処に来る事は出来ないわ!!大人しく主が大人の階段を上る瞬間を姿を眺めてなさい。 安心して、私、女でもオッケーだから、ゆっくりとこの子の体を堪能させてもらうわ。その後、この子の体を頂くわね。先ずはファーストキスから」 意識が朦朧としているフェイトの顎に手を乗せ、頭を無理矢理持ち上げる。 涙を浮かべ、必至になって攻撃を行うアルフを、『自分の体を差し出すから手を出さないで』と叫ぶなのはを、 『やめてくれ』と懇願するクロノを、『この変態!!』と罵るはやてを、 ゆっくりと見据えた後、鼻で笑い、再びフェイトの方へと顔を向ける。 「・・・・や・・・だ・・・・・」 自分がこれから何をされるのか、今のフェイトには理解する事ができなかった。 だが、恐怖だけは感じる。舌なめずりをしながら顔を近づける闇の書の闇にフェイトは体を震わせ、恐怖から逃げるかのように目を瞑る。 「安心して・・・・・痛いのは最初だけ・・・直ぐに貴方から求めるようになるわ・・・・・」 息が顔に掛かる、それ程顔が近づいているのだろう。 怖くて目を開けられない。ただ震え、心の中で助けを求める事しかできない・・・・・・そして互いの唇が触れる瞬間、 突如空間が割れた 皆が驚く中、一番驚いたのは闇の書の闇だった。 彼女が覚醒してから今に至って、その殆どは予測していた範囲で起こったことだった。それこそフェイトの出現もその予測の範囲。 それでも予測外だったことが二つある。一つは高町なのはによる予想外の健闘。だが、それも今となっては過ぎた事として片付ける事が出来る。 そして残りの一つが今現在の状況である。 この空間では無敵と言っても過言ではない闇の書の闇にも弱点が一つだけあった。それは『臨機応変』な対応が出来ない事。 彼女は誕生してから今まで、窮地に陥った事はなかった。その強大な力を振るい、逆らう物をただ蹂躙するだけの力任せの行為。 だからこそ咄嗟の対応が出来ない。ヴォルケンリッターの様に様々な敵と、それこそ命をかけて戦い、戦闘経験を積んでいない彼女には。 もしなのはだったら防御魔法を展開していただろうし、フェイトやシグナムだったらバックステップで距離を取っていただろう。 だが、彼女が出来た事といえば空間が割れた方へと顔を向ける事だけ。 先ず彼女の瞳に写ったのは・・・・・・・拳だった。その直後 「女性を殴るなど騎士失格だが・・・・貴様は別だ!!!!!!」 捻りを加えたストレートが頬に直撃した。 手加減一切無しの鉄拳に、闇の書の闇は地面に叩きつけられながら豪快に吹き飛ぶ。 その結果、枷が外れたフェイトは、重力に従い背中から地面に落下しそうになるが、その体をストレートを放った騎士が優しく受け止めた。 そして直ぐに、自身のマントをフェイトの体に被せ、露になった裸体を隠す。 「・・・・・暖かい・・・・・」 両腕で抱きかかえて受け止められたため、背中と太股から感じる手の暖かさがとても心地よい。 いや、この暖かさは感じた事がある。あの時、優しく頭を撫でてくれた暖かさと同じ。 だが確かめたい。自身を安心させたい。そんな思いからゆっくりと瞳を開ける。 「すまない・・・遅れてしまって・・・・でも、もう大丈夫だから」 自分を安心させるかの様に微笑む騎士に、フェイトは精一杯笑顔で返した後、ゆっくりと頷いた。 フェイトの体を優しく床に横たえた後、先ほどフェイトに向けた笑顔とは違う、 怒りに満ちた瞳で倒れている闇の書の闇を睨みつけ、剣を突きつける。 「立て・・・・・貴様には言葉など不要!!」 「・・・・まったく・・・・・アンタの存在を忘れていたわ・・・ナイトガンダム!!!」 ゆっくりと立ち上がった後、口から血が混じった唾を吐き出す。 既に余裕のある表情などしていなかった。憎しみを憎悪に顔を歪ませ、自分を殴り飛ばした相手を射殺さんばかりに睨みつける。 だがそれも一瞬、直ぐに先ほどの様な余裕のある笑みを見せる。まるで勝利を確信したかの様な笑みを 「あかん!!ガンダムさん!!あいつ、フェイトちゃんと同じ事する気や!!!」 その表情の変化にはやては闇の書の闇が何をするのか直ぐに理解できた。十中八九、フェイトの時と同じことをする筈。 だが、それが分かっていても、自分には何もする事ができない。否、この光景を見ている人達、誰もが彼女の凶行を止めることなど出来ない。 「ふふっ、かっこよく出てきたところ悪いけど、さっさと・・・・・・・・」 『さっさと死んでちょうだい!!』そう声を弾ませて言おうとした・・・だが、言う事ができなかった。 今彼女を支配しているのは余裕ではない、純粋な驚きと恐れ。それを周囲にアピールするかの様に体を震わせ、自然と一方後ろへと下がる。 また相手を油断させる芝居かとはやては思ったが、ネタがばれている以上、そんな事をする必要は無い筈。 否、彼女は演技などしていない。純粋に恐怖していた・・・・・・目の前の騎士の存在に。 「・・・・・・あんた・・・・・何者・・・・・・本当に生き物・・・・・・」 突然質問を投げかけられたナイトガンダムは、答える必要が無いと思い沈黙を通す。 だが、闇の書の闇はしつこく、同じ質問を投げかけた・・・・・・・・何度も、何度も。 「・・・・そうだが?私はMS族という生物だ・・・それがどうした・・・・」 答えを聞いても信じられないのだろう。唇をかみ締め疑いの視線をナイトガンダムに向ける。 その間沈黙が続くが、誰も動こうとはしなかった。数秒後、大きく舌打ちをした後、闇の書の闇はゆっくりと質問の意味を話し始めた。 「人・・・いえ、あらゆる生物は誰にでも心に闇を持っている。それでこそ、生まれたての赤ん坊にも闇はあるわ。 だけどねナイトガンダム・・・・アンタには闇が一切無い・・・・本来生物には必ずある筈の闇が・・・一欠けらも・・・・・。 最初は見慣れない生物だがらそういう奴もいるかと思った・・・・だけどアンタは違う、アンタにも闇があった・・・・・だけど」 「アンタの闇は、綺麗に切り取られている。まるで、闇だけが分裂したかの様に」 「貴様が何を言っているのか理解できない・・・・いや、理解する必要など・・・・皆無!!!」 ナイトガンダムは地面を蹴り、闇の書の闇へと斬りかかる。 咄嗟に腕を交差し、その斬撃を受け止めるが、ナイトガンダムは強化魔法『ゼータ』を使い、 防御の上から叩ききる勢いで押し切り、切り払う事で再び彼女を吹き飛ばした。 「こいつ!!?」 足で地面を削りながら衝撃を殺し、どうにか体制を立て直すが、ナイトガンダムの猛攻は止まらない。 彼女が体制を立て直した時には既に目の前まで来ており、容赦なく斬撃を連続して喰らわせる。 「くっ・・この・・・図にのるなぁ!!!」 どうにが防御魔法で防いではいる物の、ダメージは確実に蓄積している。 回復しようにもフェイトの時の様には行かないうえに、ナイトガンダムは自分に少しの余裕も与えてはくれない。 「まともに戦った事が無い様だな・・・・明らかに弱い・・・・・シグナム・・・・否、イレインの量産型以下だ!!」 左手に持っていた盾を押し付けるように叩きつけ、三度彼女を吹き飛ばす。 そしてトドメと言わんばかりに斬撃魔法『ムービー・サーベ』を二発、連続して放った。 激しい爆音の後、爆煙が闇の書の闇を包み込み、彼女の体を覆い隠す。その隙に、ナイトガンダムは彼女にトドメを刺すべく詠唱を開始する。 自身が使える最強の魔法『ソーラ・レイ』を放つために。 ナイトガンダムにとって、これは自身が撃てる最後の魔法だった。 今までの戦いで体力、魔力共に、ほぼ使い切ってしまっている。この『ソーラ・レイ』を放てば、間違いなく疲労で意識を失うだろう。 だが、確実にトドメをさせる方法はこれしかない。内から湧き出る不安感、焦る気持ちを抑えながら、確実に詠唱を唱える。 今度こそ、誰もが勝利を信じていた。特になのはとフェイトは、ナイトガンダムが放とうとしている魔法『ソーラ・レイ』の威力を 間近で見ているため、その思いを更に強くする。 そして、詠唱も半分以上終わり、皆が勝利を確信した時 「へぇ・・・・・シグナム以下ね」 爆煙の中から放たれた攻撃、威力はたいした事は無いが、ナイトガンダムの詠唱を邪魔するのには十分な効果を発揮した。 咄嗟に盾で攻撃を防ぐが、その直後バインドが彼の体を拘束する。 「くっ、こしゃくな」 輪の様な物が三重にナイトガンダムの体を拘束するが、あの仮面の男に比べれば拘束性はさほど強くは無い。 体に力をいれ、直ぐに解こうとするが、突然発生した魔力反応が彼の行動を鈍らせた。 「な・・・・・これは・・・・・」 突如現われた魔力反応、その数は4つ。その内の2つにナイトガンダムは見覚えがあった。 フェイトとリインフォースも同じく感じ取ったのだろう。その反応に純粋に驚き、反応が出ている爆煙の方に顔を向ける。 「なら・・・・戦ってもらいましょうか・・・・シグナムと・・・いえ、ヴォルケンリッターと」 爆煙が徐々に晴れてゆく。其処には、受けたダメージを徐々に回復させてゆく闇の書の闇、 そして彼女を守るように周囲に浮いている四つのリンカーコア・・・・・そして 「リンカーコア送還・・・・・守護騎士システム・・・破損修復」 四つのリンカーコアの輝きが増し、弾ける様に消えると同時に、地面に四つのベルカ式の魔法陣が出現・・・そして 「おいで・・・・・私の騎士達」 その言葉が合図となったかのように、魔法陣から、消滅した筈のヴォルケンリッターが現われた。 前へ 目次へ 次へ
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8:百合ショッカー本部殴り込み編 なのは・ユーノ・士・光太郎の四人は数多の戦いの末ついにクラナガンにやって来ていた。 「ついにここまで来たぞ。後一息だ。」 「でも私達四人だけで百合ショッカー総本部を攻撃なんて無茶な気がするんだけど…。」 最終決戦へ向けて静かにながら意気込んでいた士に対し、なのはは不安げだった。仕方が無い。 今のクラナガン、かつての時空管理局ミッド地上本部は百合ショッカーの総本部と化している。 それ故に敵の防衛網も今までとは比較にならない事は想像に難くなかった。 「いや、むしろ逆かもしれないよなのは。」 「え? ユーノ君それどういう事?」 「今まで見て来た通り、百合ショッカーは色々な世界に侵攻しているけど、それぞれの世界にも 百合ショッカーと戦う人達がいた。彼等と戦う為に百合ショッカーもさらに兵力を送り込まなければならない。 …と言う事は、逆に総本部のあるここは守りが手薄になっている可能性が高いと言う事だよ。 それに、下手に大人数で行くよりも少数で一気に奥まで忍び込んで頭を取ると言うのも立派な手。」 ユーノの言葉になのはも思わず納得していた。例え姿はフェレットであろうとも、流石はなのはのブレーンとも言えるユーノだった。 「しかし安心ばかりもしていられない。絶対数こそ少なくとも、総本部ともなれば敵も精鋭が守りに付いているはず。」 「うん…いずれにせよ激戦は避けられないんだね…。」 光太郎の言葉になのはは不安げだった表情を引き締めレイジングハートを握っていたのだが… 「その通りだ。良くぞここまで来たな。」 「ほらおいでなすったぞ!」 早速現れた百合ショッカー総本部の防衛部隊。しかし、それは仮面ライダー1号&2号と瓜二つの者達… それがのべ数十人も揃っていたのだった。 「仮面ライダー!? しかもあんなに…。」 「違う! あれはショッカーライダーだ!」 「ショッカーライダー!?」 「仮面ライダー1号及び2号は元々ショッカーが一怪人として改造した者だと言う事は以前にも話したが、 それに対抗する為にゲルショッカーが作った仮面ライダーの同型改造人間達だ!」 ショッカーライダー。元々自分達が作り上げた仮面ライダー1号及び2号に苦渋を舐めさせられたゲルショッカーが 対仮面ライダー用に仮面ライダー改造時の設計を基に、戦闘員の中でも優秀な者を改造して作り上げた存在… それがショッカーライダーであった。手袋及びブーツが黄色く、そして赤を除く色とりどりのマフラーを巻いているのが特徴である。 「その通り。確かにこの者達はショッカーライダーだ。しかし厳密には違う。百合厨の中でも特に優秀だと判断された者を 素体とし、百合ショッカーが改造した百合ショッカーライダーだ。」 「!!」 ショッカーライダー…いや百合ショッカーライダーの軍団の中心に立つ一風変わった全身を甲冑に覆われた男がいた。 「地獄大使か…。」 「地獄大使? 違うな。今の私は地獄大使改めガチ百合大使だ。」 地獄大使。『仮面ライダーの世界』においてショッカーの幹部の一人だった地獄大使。それが百合ショッカーに 参加する事によってガチ百合大使と名乗っていたのだった。そして、ショッカーライダー部隊もまた彼の言葉通りなら 百合厨の中でも特に重度の百合厨を元にした百合ショッカーライダーであると思われる。 「シャドームーンの奴は高町なのはを首領と引き合わせる事によってなのフェイの百合を復活させ それによって各世界の百合厨からの支持を得て百合ショッカーの支配体制を固める事を狙っている様だが… 我々はその様には考えていない。」 「そうだ。もう淫獣に股開いて中古になったなのはに価値は無いね。」 「まっまだそんな事してないよ////////」 ガチ百合大使と百合ショッカーライダーの言葉になのはとユーノは赤くなってしまっていたが、 彼等のその態度、それはなのはをフェイトを引き合わせようとしていたヴィータ達とは明らかに違っていた。 「故に我等は高町なのはとユーノ=スクライアを殺す事に躊躇いは無い。覚悟しろ!」 「流石は特に重度の百合厨を改造しただけの事はある…か…。」 重度の百合厨ともなればなのフェイの百合以外は考えられず、それ以外のカップリングは根絶の対象となる。 特になのは×ユーノともなれば、彼等にとってはゴミクズ以下だろう。ならば、今なのはとユーノが一緒にいる と言う状況は彼等にとって忌むべき物であり、ユーノと一緒に入る事を当たり前に受け入れているなのはもまた 彼等にとって忌むべき対象なのだろう。 「我々の愛した高町なのははもう我々の心の中にしか生きていない。今目の前にいるあの女はただのビッチ…。 淫獣に股開いたただの中古女なんだ! あんな奴に価値などありはしない!」 「だからそんな事してないよ////////」 「凄い言われ様だな…。」 百合ショッカーライダー軍団にビッチだの中古だの言われて凄いショックを受けるなのはだったが、 逆に士と光太郎は呆れるばかりだった。しかし、百合ショッカーライダー軍団が脅威である事は事実。 故にそれぞれ変身をして戦闘態勢を取る。 「変身!」 『カメンライド! ディケーイド!』 「変身!! 仮面ライダーBLACK!」 「セーットアーップ!」 なのはとその肩に乗ったフェレットユーノ・ディケイド・BLACKの四人と、百合ショッカーライダー軍団が 相対し、今戦闘が始まった。 「やれい! 百合ショッカーライダーども!」 「ユリィィィィ!!」 ガチ百合大使の号令に合わせ、百合ショッカーライダー軍団が一斉に駆け出していく。伊達に仮面ライダー1号・2号の 設計を流用して作られただけの事はあり、物凄い脚力と速度で接近して来ていた。 「来るぞ!」 ディケイドはライドブッカー・ソードモードを握り振り上げ、BLACKはパンチで跳びかかって来た 百合ショッカーライダーを迎撃した。しかし、百合ショッカーライダーは軽やかにそれを回避し、 逆にキックを打ち込んでいた。それには思わず怯んでしまうディケイド・BLACK。 「ディケイドとBLACKは後回し。まずあのビッチと淫獣をゲゲルしろー!」 「わっくっ来る!」 百合ショッカーライダーはディケイドとBLACKの相手を後回しにし、なのは・ユーノへ向けて猛烈な速度で 駆け寄せて来る。なのははレイジングハートの先端を向け、ディバインバスターで迎撃しようとしていたが間に合わない。 「させるか!」 『カメンライド! 響鬼! アタックライド! 音撃棒・烈火!』 ディケイドは響鬼のカードをディケイドライバーに差し込む事で仮面ライダー響鬼に変身し、 さらにアタックライド・音撃棒・烈火から放たれる火炎弾を連続で発射するが、それさえ百合ショッカーライダーは 回避しつつなのはとユーノへ接近して行く。 「くっ!!」 ユーノはなのはの左肩の上に立ち、防御魔法を展開して百合ショッカーライダーを阻もうとする。 しかし…その行動はお見通しとばかりに百合ショッカーライダーは構わず突撃を続けていた。 「ライダーパーンチ!!」 百合ショッカーライダー軍団のライダーパンチがほぼ同時にユーノの防御魔法へ打ち込まれ、 直後にそれが破られ砕けていた。こと防御に関しては実質Sランク級にも匹敵し得る物を持つユーノの防御魔法を 破った百合ショッカーライダーの集団ライダーパンチ。後は彼等の拳が直接なのはとユーノを襲う…と思われたが… 「危ない!」 とっさにディケイド響鬼が跳び、なのはとユーノを突き飛ばす。そのおかげでなのはとユーノの二人は何とか助かったが、 代わりにディケイド響鬼が百合ショッカーライダーのライダーパンチを受けてしまった。忽ち響鬼への変身が解除されてしまうのは 勿論の事、超硬度・超耐衝撃性・超耐熱性を誇るディヴァインオレ鉱石製のディケイドのボディーの彼方此方から激しい火花が散り倒れ込んでしまう。 これは百合ショッカーライダーの攻撃力の凄まじさを物語っていた。 「ぐぁ!」 「士さん!」 「くっ…邪魔が入ったか。だがディケイドに大ダメージを与えられただけでも良しとしよう。」 なのはとユーノは大急ぎでディケイドへ駆け寄り起き上がらせようとしていたが、ディヴァインオレ製の スーツでも完全には耐え切れなかった程にディケイドのダメージは大きいらしく中々起き上がれなかった。 「くそ…量産型ライダーのくせに何て強さだ。」 「だから言ったでは無いか。百合ショッカーライダーは百合厨の中でも特に優秀な百合厨を改造してあると。」 確かにその通りだった。百合ショッカーライダーは量産型とは言え、百合厨の中でも特に重度の百合厨を 基にして改造された存在。それ故に戦闘力は百合戦闘員やユリトルーパーとは比較にならなかった。 「ディケイドにBLACKよ、ここで高町なのはとユーノ=スクライアを大人しく渡すのであれば お前達二人の命だけは助けても良いと思うが…どうかね?」 「断る!」 「何時までそんな強がりが言えるかな? 今このクラナガン近辺にいる反抗勢力はお前達四人だけだ。 今までの様に助けは来ないぞ。」 ガチ百合大使及び百合ショッカーライダー部隊の目的はなのはとユーノを闇に葬る事。 それ故にこの二人を消せるならディケイドとBLACKはどうでも良いと考えていた。 無論そんな事はディケイド・BLACKが許容出来るはずが無いが、今この状況で 誰かが助けに来てくれるとは到底思えなかった。 「私達が貴方達に素直に殺されれば…士さんと光太郎さんを助けてくれるんですね?」 「お…おい…。」 ここでなのはとユーノがゆっくりと百合ショッカーライダー部隊へ向けて歩み寄っていく。 「おい! やめろ!」 「士さん…光太郎さん…。私達が時間を稼いでいる内に逃げて下さい。」 「そして今一度体勢を立て直し、何時の日か百合ショッカーから…世界を守ってください…。」 なのはとユーノは自身の死を賭してでもディケイドとBLACKを助けるつもりだった。 元より誰かを守る為に時空管理局に入った身。その為に誰かを助けられるなら本望。そう考えていたのである。 「やめろ! 奴等がそんな約束を守る物か!」 「ハッハッハッハッ! 潔いとはまさにこの事だな。やはりこの世は百合こそが絶対的な正義。 なのは×ユーノを支持する奴など何処の世界にいると言うのだ。」 「ここにいるぞぉ!!」 「!?」 突如として響き渡った謎の声。まるで三国志における馬岱の名台詞を連想させる言葉を叫び放ったのは 一体何者なのかと思わずその場にいた誰もが騒然としていたのだが… 「とぉ!」 「うあっ!」 直後として何者かが乱入し、百合ショッカーライダーの手に掛かろうとしていたなのはとユーノの二人を 救出し、ディケイド・BLACKの所まで連れ帰していた。 「おっお前は…ユウスケ!」 「この二人の笑顔は…俺が守る!!」 突如として乱入し、なのはとユーノの窮地を救った者、それはディケイドの旅の仲間であった 仮面ライダークウガこと小野寺ユウスケだった。しかし、現れたのはそれだけでは無かった。 「大丈夫ですか士君!」 「夏みかん…。」 倒れていたディケイドを掴み支え上げていたのは、同じくディケイドの旅の仲間である仮面ライダーキバーラこと光夏海。 そしてクウガはなのはとユーノの二人を守る様に前に立ち、構えていた。 「俺も一緒に戦うぞ!」 「お前等今頃…来るのが遅いんだよ!!」 思わずディケイドはクウガとキバーラにそう怒鳴り付けていたのだったが、表面的には怒りつつも 何処か喜びが感じられた。 「実は僕もいるんだ。」 「海東…。」 次に現れた者…それは仮面ライダーディエンドこと海東大樹であった。士がディケイドになる以前から 数多の世界を旅し、その世界のお宝を手に入れるドロボ…ゲフンゲフン…怪盗をしており、時にはディケイドの ライバルとなる事もあったが、色々あって彼もディケイドの旅の仲間となっていた。 「西も東も百合で塗れたこのご時勢だからこそ…なのは×ユーノは逆にとても貴重なお宝になってると思うんだよね。 まぁ…僕のポケットに入る様な物じゃないし、持ち帰る事も出来ないけどね。」 「とりあえず協力してくれると言う事で良いんだな?」 クウガ・ディエンド・キバーラの増援で一気に勢い付くが、百合ショッカーライダー軍団が圧倒的なのも事実だった。 クウガ・ディエンド・キバーラの救援を受けたなのは・ユーノ・ディケイド・BLACK。 しかし百合ショッカーライダー軍団の相手はそれでも辛そうであった。 「たった三人が増えただけで何が出来る! 数で押し潰してやる!」 「さて、それはどうかな?」 ディエンドは銃として右手に持つディエンドライバーを百合ショッカーライダー部隊へ向け、何処からかカードを 取り出しディエンドライバーへ差し込んでいた。元々ディケイドと同系統の技術によって作られたディエンドもまた、 カメンライドによって様々なライダーを召喚したり、また実体のある幻影を作り出して戦わせる事が出来た。 それによって物量差を覆そうとしていたのだった。 「実はね、僕は士を探すついでに三国志の世界へ行っていたのさ。」 「三国志の世界?」 「残念ながらお宝らしいお宝は手に入らなかったけど、その代わりに三国志武将をライドする事が出来る様になったんだ。」 「わぁ! 何か戦力として頼りになりそうな予感!」 ディケイドがプリキュアの世界へ行ってプリキュアをライド出来る様になったのと同じ様に、ディエンドもまた三国志の世界へ行き 名だたる三国志武将をライドして呼び出す事が出来る様になったと言う。それにはなのはとユーノの二人も思わず期待せざる得ない。 『三国ライド! 五虎大将!』 「おお! いきなり五虎大将か!」 五虎大将とは、三国志の魏・呉・蜀の三国の内の蜀における関羽・張飛・趙雲・黄忠・馬超の五人の武将を指す。 いずれも今日においても語り継がれる程の有名武将である。あくまでもディエンドがライドして呼び出した 実体のある幻影であるとは言え、今と言う状況下においては頼りになる存在と思えたが……… 「よりによって恋姫無双版かよ!!」 何と言う事であろうか。ディエンドがライドして呼び出した五虎大将とは、恋姫無双版だったのである。 「海東! お前が行った三国志の世界って恋姫無双の世界の事かよ!」 「うん。それがどうかしたのかい?」 「てっきり横山三国志とか三国無双とか最強武将伝あたりから連れて来ると思ってたからな…。」 恋姫無双の世界は三国志の世界と似て非なる世界。何しろ三国志の名だたる武将達が女性化してる世界だからね。 美髭公と呼ばれる位に立派な髭を蓄えていた事で有名な関羽も、恋姫無双の世界では美しく長い黒髪を持った女性になってる位だ。 「あの…僕達はあれが何なのかちょっと良く分からないんですけど…本当に大丈夫なんですか?」 「安心しろ。俺も良く分からん。」 五虎大将と言うからには絶対に頼りがいのありそうな強そうな男達が現れると期待していた事もあり、 恋姫無双版の五虎大将を見て、それについて良く知らないユーノとなのはは凄い不安げな顔になっていた。勿論BLACKも。 「けどあいつ等強いぞ!」 「本当だ! ってか強っ!」 「何で!?」 皆の不安とは対照的に彼女達は強かった。黄忠のさながらマシンガンの様に高速連射される矢によって 百合ショッカーライダーは次々に射貫かれ、関羽・張飛・趙雲・馬超の四人もまた女性の細腕からは想像も出来ない力で 手に持つ大きな得物をブンブンと振り回して百合ショッカーライダーを次々に薙ぎ倒していく。 彼女達はあくまでもただの人間のはずなのにどうしてあそこまで強いのか意味が分からない程であった。 「もう全部あいつ等五人だけで良いんじゃないかな。」 「いやいや、実はもう一人必要なんだよ。」 「え?」 ディエンドはもう一人必要だと言うが、一体誰を呼び出すと言うのだろう。 『三国ライド! 孔明!』 「はわわ~、ご主人様、敵が来ちゃいました~。」 「で?」 ディエンドが三国ライドで呼び出した諸葛亮孔明…勿論恋姫無双版である事は言うまでも無い事だが 先の五人と違ってあたふたするばかりでとても戦力になるとは思えない。一体何の意味があるのだろうか? 「何か意味あんの?」 「当然あるさ。筆者が喜ぶ。」 何を隠そう筆者は朱里ちゃん好きだからこれだけは絶対にやっておきたいのであった。 とまあこんな感じで百合ショッカーライダー部隊は五虎大将に任せとけば間も無く全滅する…と思われたが… 「ええい不甲斐無い奴等め! こうなったら私が直々に相手をしてやる。」 ここでガチ百合大使が前に出て来た。無論五虎大将は一気にガチ百合大使へ向けて駆け寄せるが… 「百合ショッカー百合幹部ガチ百合大使。してその実態は…ユリユリユリユリ…ユリユリンダァ!!」 「ああ! あの人怪人に変身したよ!」 地獄大使が怪人ガラガランダに変身する事は知られている。そしてガチ百合大使もまた、ユリユリンダなる怪人へ変身し、 しかもそのまま右手のムチで五人まとめて払い倒し、一気に消滅させてしまった。あくまでもディエンドのライドによって 呼び出された複製の悲しさ。この通りある程度のダメージを受けると消滅する仕組みになっていたのだった。 「あぁ! 強い!」 「邪魔者は消えた! 一気に畳み掛けろぉ!」 「ユリー!」 ユリユリンダの号令により、百合ショッカーライダーが再び勢いを取り戻し突撃を開始した。 「くそ! こうなったら今度こそ本当にやるしか無いぞ!」 迫り来る百合ショッカーライダー部隊に対し皆は戦闘態勢を取り、再び戦いが始まった。 ディケイドはライドブッカーソードモードで百合ショッカーライダーを斬り倒し、BLACKはバトルホッパーで轢き飛ばし、 ユーノがチェーンバインドで縛り上げた隙になのはがディバインバスターで吹き飛ばすし、クウガはライダーキックから放たれる 爆発で吹き飛ばし、ディエンドはディエンドライバーから放たれるディメンションシュートを撃ち込み、キバーラは 光夏海本人が持つ人を笑わせるツボを突く事が出来る能力を利用して百合ショッカーライダーを笑わせる等、 各々の持てる能力を駆使して百合ショッカーライダー部隊と戦っていたが、やはり百合ショッカーライダーは 百合厨の中の百合厨が基になっているだけあってそれでもまだ足りない強さと勢いを持っていた。 「これはさらなる戦力の増強が必要だね。」 「また誰かを呼び出すのかい?」 ディエンドはカードを取り出し、ディエンドライバーに差し込む。またカメンライドかはたまた三国ライドで 誰かを呼び出して戦うのかと思われていたのだったが…… 『カメンライド! ダブルドライバー!』 「え!?」 ここで予想だにしない事が起こった。フェレット形態であったユーノが突如として人間の姿に戻り、 さらに彼の腰には『仮面ライダーW』の世界における仮面ライダーが巻くベルト・ダブルドライバーが巻かれていたのである。 「あの…これは一体どういう事なのかい?」 「ちょっと待って。これはもう一人いないとダメな事なんだ。」 ユーノはさっぱり意味が分からず問い掛けていたが、ディエンドはキョロキョロを辺りを見渡していた。 だが、そんな時に… 「僕はダメかな?」 「クロノ!」 「リンディさんまで。」 ここでクロノとリンディの二人が何処からか姿を現していた。 「でもどうして?」 「百合ショッカーに囚われていた所を私が救い出したんです。」 どうやらクロノも百合ショッカーに囚われていたらしく、そこを既に百合ショッカーの呪縛から解き放たれていた リンディが救い出した様子であった。 「今更出て来てこんな事を言うのも何だけど…僕にも協力させてくれ。フェレットもどきばかりに良い格好はさせられないからな。」 「よし。君なら丁度良い。ならば行くよ。」 『カメンライド! ダブルドライバー!』 クロノの腰にもダブルドライバーが巻かれ、さらにユーノの右手には緑色の、クロノの左手には黒のUSBメモリ状の物体… ガイアメモリが握られていた。 「さあ、それをダブルドライバーに差すんだ。」 「行くよ…。」 「ああ…。」 ユーノ・クロノはそれぞれの手に握るガイアメモリをダブルドライバーへと差し込んだ。 「今この瞬間だけは僕達は二人で一人の仮面ライダーだ!」 『サイクロン!』 『ジョーカー!』 次の瞬間、ユーノの姿が左半身が黒の、右半身が緑の姿へ変貌して行く。それこそ『Wの世界』におけるライダー、 仮面ライダーW・サイクロンジョーカーである。 そして、ユーノがサイクロンジョーカーへ変身するのに伴い、クロノの精神はサイクロンジョーカーの内の ジョーカーの部分へ移る形となり、魂を抜かれた様にグッタリと倒れそうになっていたクロノをリンディが受け抱き上げていた。 「ユーノ君が緑と黒のライダーになっちゃった!」 ユーノの変貌になのはは驚くばかりだったが、サイクロンジョーカーとなったユーノとクロノは 自分がライダーに変身した事によってテンションが上がったのか、百合ショッカーライダー部隊を指差しポーズを決めていた。 「さあ! お前達がヲカズにした百合カップルを数えろ!」 ユーノとクロノの声が思い切りハモり、普段はいがみ合っていても何だかんだで仲良い事を暗示させていた。 「あの…私はその仮面ライダーWと言うのが良く分からないんだけど、とりあえずクロノ君の方もそっちに入ってるって事で良いのかな?」 「うん。そう考えてもらって結構。」 ユーノがただライダーに変身するだけならまだしも、クロノの精神まで入り込むのはどういう理屈なのだろうと なのはは不思議に思っていたのだが、とりあえずはそういう物だと理解するしか無かった。 「淫獣がライダーになったぞー!」 「うろたえるな! ただのコケ脅しだ!」 「何か変な事をされる前に出鼻を挫いてしまえ!」 百合ショッカーライダー部隊の何人かがユノクロWへ向けて突撃を開始した。しかし、ライダーに変身した事でテンションを上げた ユーノ・クロノはそれに戸惑いを感じていなかった。 「今の僕達は一味も二味も違うよ!」 ユノクロWが右手を前に突き出す。するとどうだろうか。直後にその右手から猛烈な強風が吹き荒れ、それには思わず 百合ショッカーライダー数名も進撃速度を鈍らせてしまう。これがサイクロンジョーカーの中のサイクロンの持つ能力。 サイクロンであるが故に風を操る事が出来るのである。 「ただの風だ! 怯まず進め!」 「たかが風…されど風と言う事だよ。はっ!」 ユノクロWの右半身であるサイクロンの力によって起こした強風で百合ショッカーライダーの進撃速度が鈍った隙を突き、 さらに風の力を利用して勢いを増したユノクロWの左拳が百合ショッカーライダーを殴り飛ばしていた。 これがサイクロンジョーカーの内のジョーカーの持つ能力。特にそれと言った特殊能力は無いが、純粋に身体能力を高める 能力を持ち、そのシンプルさがかえって使い勝手の良さに繋がっていた。 「うわ! 凄ーい! ユーノ君もう別人みたい!」 クロノも半分混じってるけど、ユーノの別人みたいな活躍になのはもビックリだった。だが、少し残念な気持ちもあった。 「けど…個人的には士さんの力で大きなフェレットさんになる方が私個人としては嬉しかったかな…。」 なのは個人としてはライダーとして活躍するユーノよりも、ディケイドのファイナルフォームライドで巨大フェレットの 姿になって活躍するユーノの方が好きだった。しかし今と言う状況では個人的な好き嫌いを言っている場合では無かった。 「まあ良いや。どうせなら私も何かライダーになりたいな~。何か良いの無いの?」 「いや、君はそのままでも十分強いから必要無いでしょ?」 「ショボーン」 ユノクロWに影響されて自分もライダーになって見たいと思い始めたなのはであったが、即効でディエンドに 拒否されてガックリと肩を落としていた。 「とりあえず今は奴等を倒すのが先決だ。」 「敵の数はまだまだ多いからな。」 その通り。今目の前にはまだまだ沢山の百合ショッカーライダーの大軍とガチ百合大使ことユリユリンダがいる。 これを倒して先に進まねばならぬ…と思われていたが…その直後だった。 「とぉ! ライダー! トリプル! キィィィィック!!」 「何!?」 なのは達の背後から何者かが三人、高々とジャンプして跳び超えると共にキックで百合ショッカーライダー達を 蹴り飛ばしていた。一体誰なのか? 「ここは俺達に任せてお前達は先へ進むんだ!」 「1号! 2号! V3!」 ここでさらに現れたのは仮面ライダー1号・2号・V3だった。秋葉原の世界で、後々合流すると言っていた彼等だが、 本当にその通りにやって来ていたのである。そして三人は百合ショッカーライダーを次々に殴り倒し蹴り倒し、 投げ飛ばしながらディケイド達に先へ進む様叫んでいたのだった。 「ここはあいつ等に任せて俺達は先に進むんだ。」 「で…でも士さん…大丈夫なんですか?」 「アイツ等だって仮面ライダーだ。心配はいらない。」 「本当に倒すべき敵はこの先にいるんだしね。」 なのははたった三人に百合ショッカーライダー部隊の相手を任せる事に不安を感じていたが、 敵は目の前の百合ショッカーライダー部隊だけでは無いのである。故にここは三人に任せて先へ進むしか無かった。 「おっと夏みかん。お前はあの二人と一緒に何処か安全な所へ行くんだ。」 「え?」 ディケイドはキバーラの肩に手を置きつつ、ユノクロWに精神が移った事によって魂が抜けた様にグッタリしていた クロノを抱き支えていたリンディを指差していた。 「士君。私は戦力として当てにならないと言うんですか?」 「違う! あの二人を守ってやれと言うんだ。特にあっちの黒い服の男の方は精神がWの方に移ってるから その状態でやられたら大変な事になる。それにあっちのオバサ―――」 少々お待ちください 「あ…あっちの綺麗で美人のお姉さん一人にあの男担がせるのも大変だろう。これも重要な事だ。」 「分かりました士君。そういう事ならば私はこの二人を守ります。」 「ありがとう助かります。」 先程途中で台詞が途切れた様な気がしたが、とりあえずここでキバーラはクロノ・リンディを守ると言う名目で 二人と共に世界と世界を繋ぐ次元のオーロラを通って安全圏へと脱出した。 「よし。とにかく1号・2号・V3が奴等を引き付けている内に俺達も行くぞ。」 今も1号・2号・V3の三人が百合ショッカーライダーの軍団と激しい激闘を繰り広げている。 故に今の内に皆は先へ進むのだった。
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ワームとの戦いの末に、一人の少女が死亡した。 黒の瞳を剥き出しにして、その瞬間を瞳に焼き付ける。 焼き付ける、というよりは見せつけられた、と言っても過言ではないが。 人の死を、それもたった一人の妹の死を、素直に受け入れられる訳も無く。 絶句したクロノは、何も言えずにただただ空間モニターを見詰めているだけしか出来なかった。 もうフェイトは居ないし、帰っても来ない。頭では理解していても、心では理解出来なくて。 フェイトがやられたと解って居ても、それが「死」なのだとすぐには納得出来る訳もなくて。 だけど、時間が経つに連れて、否応なしにクロノの心はフェイトの死を受け入れて行く。 しかし当然自分にどうにか出来る訳も無く、それが悔しくてクロノは拳を握り締めた。 ――そんな時だった。 「これはっ……次元振!? そんな、なんで!?」 「駄目だ! これじゃ、この艦も次元震に巻き込まれます!」 「艦長! クロノ艦長! この距離じゃ、回避出来ません!」 エイミィの絶叫に続いて、スタッフ達が口々に叫び出した。 喧騒が、受け入れ難い現実に思考を停止させていたクロノを現実へと呼び戻す。 気付けば緊急事態を意味するアラートが、艦内のあちこちでけたたましく鳴り響いていた。 一体何が起こっているのかと理解するよりも早く、アースラは次元震の波に飲み込まれ――時間が、逆行した。 クロノは絶句していた。 空間モニターを通して見守る戦いに、突如として現れたのは一人の戦士。 背から噴出するは光の翼。煌めく太陽の光を受けて燦然と輝く赤と銀の身体。 カブトムシを彷彿とさせる巨大な角を持った戦士は、見まごう事なきカブトのもの。 間違いない。今この場に現れたあのライダーは、仮面ライダーカブトだ。 しかし、現状でクロノが問題としているのは、そんな事ではない。 「何だこれ……!? あのライダーが現れると同時に、大規模な次元震が発生!」 「一体何をしたんだ、あのライダーは! 周囲の管理外世界にも影響が出てるぞ!」 「第19管理外世界、第78無人世界……駄目です、あちこちの世界で次元震が発生してます!」 開かれた空間モニターに映る、様々な世界。 緑豊かな世界や、荒廃した砂漠の世界、月が二つある世界や、人々で賑わう世界。 モニターに映し出された世界は全て、今現在次元震によって影響を与えられた世界だ。 その全てに共通して言えるのは、太陽光が遮断され、仄暗い闇に包まれている事。 幸い次元震はすぐに収まり、それぞれの世界はすぐに元の平穏を取り戻した。 それに伴って、展開されて居た銀色のカブトの装甲が、閉じて行く。 表情を顰め、クロノが叫ぶ。 「あのライダー……カブトがこれをやったのか!」 「カブトは時間を越えたんです!」 「――っ!?」 クロノの問いに答えたのは、立川大悟であった。 しかし、それはまともな人間ならばすぐに理解するのは難しい答え。 意味が解らなかったクロノは、瞬間的に言葉に詰まったのだった。 ACT.10「乱心!完全調和第三章」 圧倒的な力を持って敵を撃破したカブトは、悠々と天を指指していた。 太陽光を受けて煌めく銀色の体躯を、周囲の誰もが眩しいとすら感じる。 これ程の力を持ったライダーが、もしも敵に回ったら――きっと恐ろしい事になる。 なればこそ、今ここでカブトとは……否、天道総司とは、きちんと話をつけておくべきだ。 最早敵の居なくなった市街地で、余裕の態度で直立するカブトへと歩み寄ろうとした、その時だった。 クロノから、空間モニターで通信が入ったのは。 それからややあって、変身を解除した一同はバラバラに解散する事となった。 乾巧は特にこれといった挨拶も無く、サイドバッシャーで何処かへと走り去り。 加賀美は天道やなのは達に軽く別れを告げると、いつの間にか置いてあった青のバイクで帰って行く。 天道もまた、赤のバイクに跨りヘルメットを被ろうとしていたのだが――このまま帰す訳にはいかない。 天道とはまだ話が終わって居ないし、それに何よりも、帰す訳には行かない理由がある。 なのはが一歩踏み出して、天道を呼び止めた。 「あの、天道さん」 「何だ、まだ何か用か」 ヘルメットのバイザーを上げて、煩わしそうに告げる天道。 「天道さん、私達の戦艦まで任意同行をお願いしたいんですけど」 「ほおう……時空管理局の方からこの俺に話があるとは、穏やかじゃないな」 「悪い様にはしませんから、ここは一つ穏便にお願いします」 一歩踏み出して、気まずそうに告げるフェイト。 天道は呆れた様な溜息を一つ落として、きっぱりと告げ、 「断る」 しかし、すぐにヘルメットを外した。 長い脚を振り上げ、赤のバイクから降り立ち、 「と、言いたい所だが、お前達に用があるのはこっちも同じ事だ」 不遜な態度を崩さずに、冷ややかに告げた。 なのは達を見下ろす天道の瞳が、何処か恐ろしく見えたのは、気のせいだろうか。 いつもの天道とは違った、非常に人間らしい……ともすれば怒りとも取れる印象を抱いた。 彼が何を考えているのかなど解る筈も無く、なのははただ黙って天道をアースラに連れて行くしか出来なかった。 天道は意外にも、アースラに訪れても何の行動を起こす事もしなかった。 カブトゼクターを呼ぶ、という事も無く、何か棘のある発言をする訳でもなく……。 本当に言われた通り穏便に、大人しくなのは達の後ろについて黙々と歩いて来ていた。 そんな天道が醸し出す雰囲気は何処か重苦しく、なのは達もどう声を掛けていいのか解らず。 気付けば、険悪なムードのまま潜った自動ドアは、ブリッジへと続く扉。 天道を迎える様に立つクロノと、立川……ついでに海堂。 「君とは初めまして、だな。僕はこの次元空間航行艦船、アースラの艦長、クロノ・ハラオウンだ。よろしく」 「ほう、意外にもご丁寧な挨拶をする奴だ。俺は天の道を往き総てを司る男――」 「――天道総司……いえ、日下部総司」 天道の言葉を遮ったのは、クロノの後方に控えていた立川だった。 日下部、という苗字を言われた途端に、天道の表情が険しくなった。 その場に居る一同全員もまた、現状を理解出来ずに頭上に「?」を浮かべる。 そんな沈黙を引き裂く様に、立川の横に控えていた男が勢いよく一歩を踏み出した。 「そして俺様の名前はだな! 海堂――」 「黙れ。お前には聞いてない」 「っ!! な、何だっちゅうんだこの野郎! 人が折角自己紹介をだな」 一人憤慨する海堂を視界から外し、天道はクロノに向き直る。 「クロノとか言ったな。管理局の方から俺に話があるとは、一体どういう事だ」 「おい、テメエ天道この野郎! 無視か! 俺様は無視なんか、おい!」 「なら単刀直入に言おう。カブト、君は時間を巻き戻したな?」 クロノと天道の間“だけ”で、神妙な空気が流れる。 例え流されても自己アピールを続ける海堂の裾を、くい、とフェイトが握り締めた。 少し悲しげな表情を浮かべて、無言のまま首を左右に振るフェイトを見て、流石の海堂も悟る。 ここは自分の出る幕では無かったのだ、と。そう判断してからは特に出しゃばる事もなく、自ら身を引いた。 「銀色のカブトが現れると同時に、君の居る世界で大規模な次元震が発生した」 「ほう」 「君の居る世界だけじゃない。他の次元世界にまで影響が及んでいるんだ」 「やれやれ。俺もついにこの世界には収まり切らない程の存在になってしまったか。 狭い風呂に無理に入ろうとすれば、湯が溢れ出るのも仕方ないからな」 「ふざけるな!!」 やれやれとばかりに嘆息する天道に、クロノが声を荒げる。 自分の世界を“狭い風呂”とするなら、他の世界に及ぼした影響は“湯”。 どう捉えてもふざけているとしか思えない返答に、真面目なクロノがキレるのも無理はない。 しかし、そんなクロノなど意に介さず、今度は天道が神妙な面持ちで問うた。 「こっちからも質問がある。ネイティブとは何だ? お前達管理局とは一体どういう関係がある?」 「ネイティブ……? 一体何の話を――」 「我々ネイティブは、争いを好みません」 クロノの返答を遮ったのは、立川だった。 表情一つ変えずに淡々と告げる立川には、流石のなのは達も違和感を覚えざるを得なかった。 ネイティブとは何なのか。一体なぜ立川がZECTと管理局の両方に顔が利くのか。 今まで抱いていた疑問が、一気に膨れ上がってゆく。 「貴様、この前もネイティブとか言ってたな。俺にとっての大切な人とは、一体誰の事を言っている?」 「貴方も解って居るでしょう。貴方にとってたった一人の、血の繋がった妹です」 瞬間、天道の表情が変わった。 つい先刻までの冷静な表情など吹き飛ばし、激情を隠しもせずに。 声を荒げ、大きな瞳を剥き出しにして、天道は立川の肩に掴みかかった。 「お前、ひよりを知ってるのか!!」 「その答えを知りたければ、貴方も我々管理局に従い、これからもワームを倒す事です」 「何だと……?」 天道の腕に込められた力が、抜けて行く。 怒りとも困惑とも取れない複雑な表情を浮かべた後、天道は再び冷静を取り戻した。 立川一通り睨みつけた後、クロノ、なのは、フェイトの三人を一瞥し、告げる。 「俺は俺の道を行く。お前達に協力してやる義理はない」 「どうして……! 私達だって、ZECTと同じで人々を守る為に戦ってるのに」 「それが胡散臭いと言ってるんだ。ZECTもお前ら管理局もな」 「……だから、ZECTにも管理局にも従わないんですか?」 なのはが天道を見上げ、神妙な面持ちで告げる。 信用出来ない組織だから、自分は自分の道を行き、一人で戦う。 それが天道の言い分であり、それを邪魔する者はZECTであろうが容赦はしない。 弟切ソウの言葉を思い出して、なのはの天道を見る表情をより一層険しくさせる。 「そうだ。俺の道を阻むなら、俺はそいつを組織ごと叩き潰す。 それがZECTだろうが管理局だろうが関係無い。同じ事だ」 「どうしてそういう事言うんですか! 貴方には人と仲良くしようって気は――」 「下らん!」 絶叫でなのはの言葉を遮り、しゅばっ! と右腕を掲げた。 人差指で天井を差し、表情を変えずに続ける。 「おばあちゃんが言っていた。本当の名店は看板さえ出していないってな。 何を言われようが、俺はお前らの様な胡散臭い組織と協力する気はない」 その言葉には、なのは達も呆れるしか無かった。 まるで子供だ。自分の我儘を押し通す子供の言い分だ。 そんな訳の解らない理由で組織を潰されてたまるものかと思う。 「君はもう少し自分の立場を考えて喋った方がいいと思うぞ、天道総司」 一歩踏み出し、一同の心中を代表して述べるのはクロノ。 この船の艦長であり、この場で最も責任のある立場であるからこそ。 天道とは違い、憤りを顔に出す事もせずに、クロノは続ける。 「歴史の改変に、その余波による次元震……君は今、只でさえ僕達管理局に目を付けられているんだ。 その上で君が、そこまで表だって管理局を潰すと言うのなら、こっちだって君を犯罪者として扱わざるを得なくなる」 「俺には関係の無い事だ。俺の行く道を塞ぐなら、俺はお前達を潰してでも進む。それだけだ」 「そうか……君とはいくら話し合った所で無駄なんだろうな」 残念そうに、クロノが嘆息した。 この場で天道を拘束してやりたい、とすら思っているのだろう。 だけど残念ながら、そういう訳には行かない。まだこの男の逮捕状は出ていないし、何よりこれは任意同行。 天道にはこの動向を拒否する権利だってあるのだから、クロノだってこの場で事を荒立てたくはないのだろう。 それに何より、天道が変身するカブトはZECTの、ひいては協力体制にある管理局の切り札でもある。 そう易々とカブトたる天道をどうこうする訳にも行かないと言うのが、管理局の事情でもあった。 誰も何も喋らなくなった後で、天道が踵を返し、言った。 「話はこれで終わりか。なら俺は帰らせて貰う」 「ひよりさんの事は、いいんですか」 「お前たちの事だ。どうせこれからも俺にちょっかいを出してくるんだろう」 ちらと立川を一瞥し、 「だが、向かってくるなら容赦はしない。ひよりも必ず連れ戻す」 厳しい視線を投げつけた。 荒げられた口調は、まるで怒りを表しているかのようで。 天道はクロノとなのはを一旦眇め見て、そのままブリッジを立ち去った。 後に残されたのは、なのは達と、不安感だけだった。 ◆ ブラインドから差し込む太陽光だけでは、光源としては心もとない。 昼間だから問題は無いとは言え、夕方にもなると真っ暗闇になってしまう程の薄暗さ。 そんな薄暗い一室に、ZECTのエリート部隊・シャドウの隊長である弟切ソウは居た。 目の前に座るはZECT総帥たる加賀美陸。そして、その脇に立つのは側近の三島正人。 本来ならば陸が最も頂点に立つ人物である筈なのだが――弟切は、そんな素振りを見せない。 堂々と陸の眼前まで歩み寄ってから、陸に進言する。 「カブトが時空管理局と接触したらしい」 「ほう、天道君が、彼らと」 「……あんたが何を考えているのかは知らないが、俺はカブトを潰すぞ」 「弟切君が、カブトを、かね?」 それだけ言うと、陸は不敵に笑った。 口角を吊り上げて、にやりと……不敵に、薄気味悪く。 弟切は、この男が苦手だった。何を考えているのか解らないし、油断が出来ないからだ。 今すぐにでもその歪んだ笑い顔を殴り飛ばしたい衝動に駆られながら、弟切は続ける。 「奴の性格を考えてみろ。天道は絶対に時空管理局と仲違いを起こす。 後は管理局と、管理局に協力するライダーとで上手く潰し合わせれば」 「青の、カブト」 「は……?」 弟切の言葉を遮る、陸の言葉。 訳が解らない。カブトは赤であって、青である筈がない。 片方しか無い瞳に、何を言ってるんだ、という気持ちを込めて、弟切は陸を睨みつけた。 「君は、青い色をしたカブトを、知っているかね?」 「何を訳の解らない事を……ガタックの事か?」 「ほう、知らない、と」 次いで、くつくつと笑い始めた。 片手でわざとらしく口元を押さえて、不敵に、不気味に。 殺気が湧いた。人間の癖に態度のでかいこの男を、縊り殺してやりたい。 そんな激情に駆られるが、ここで事を荒立てるのは弟切の為にはならない。 故に我慢し、陸の言葉に耳を傾ける。 「知らないという罪と、知りすぎる罠」 「……さっきから、何を言いたいんだ?」 「全ての切り札を一つに纏め、勝利へと導くは、赤のカブト。 最強の切り札として君臨し、運命を切り拓くは、青のカブト」 「一体誰の事を言っている?」 「赤のカブトと、青のカブト……もうすぐ、二人が揃う」 これ以上無いと言う程に、陸はにやりと笑った。 しかし当然の事、彼が何を言っているのかなど理解出来る訳もなく。 これ以上話しても自分のストレスが溜まるだけだと判断した弟切は、陸のデスクを思いきり叩いた。 「もういい。俺は俺のやり方でカブトを潰させて貰う」 「君に、出来るかな」 「種は撒いた。後は俺が上手く立ち回る」 それだけ言うと、弟切は陸の部屋を後にした。 そう。種は既に撒いたのだ。あの日高町なのはと出会った時に。 不和という名の種を、なのはの心の中に植え付けて置いたのだ。 こうして一度芽生えた不和は、疑惑となってその者を蝕み続ける。 天道の性格を考えれば、奴がそれを解消するとも思えない。 後は自分が上手く立ち回るだけで、憎きカブトを潰す事が出来るのだ。 あの日からずっと憎み続けて来た宿敵を、仲間同士で潰し合わせる事が出来るのだ。 そしてトドメは、自分がこの手で刺す。この右目の傷を、奴の命で償わせるのだ。 今でもハッキリと思い出せる、あの日の屈辱を―― そう。あれはある日の夜の出来事だった。 ネイティブワームである彼は、その日一人の青年を殺した。 名も知らぬZECTの隊員を……自分の正体を目撃してしまったそいつを、この手で。 そもそもネイティブとは、ワームとは同種でありながら、ワームと敵対する宇宙生命体。 ワームよりも先に地球に訪れたというのに、ワームは我が物顔で地球を侵略しようとする。 それが気に入らなかった彼らネイティブは、自分達の生態研究を地球人に許し、その力を分け与えた。 こうして生み出されたのがZECT製のライダーシステムであり、その最たる特徴がクロックアップ。 時間軸を切り離し、超高速での行動を可能とする、ワーム特有の特殊能力だった。 さて、そんなネイティブではあるが、彼らには二通り存在する。 地球人と共に歩み、ワームを撃退する事で平穏を手にしようとする者。 地球人を利用し、ワームを殲滅した後は、自らが地球を支配しようとする者。 その日ZECTの隊員を殺した彼は、後者のネイティブワームであった。 たまたまワームの姿を取った瞬間を目撃されたから、殺した。 そうして、思い付いた。ネイティブの力を使えば、ゼクターは自分に従う。 となれば、今現在資格者の居ないザビーゼクターとて自分の意のままに動かせるのでは、と。 故に彼は、殺した青年の姿を借りて、ZECTきってのエリート部隊・シャドウの隊長になろうと画策したのだが―― 出来事はそう何でもかんでも自分の思い通りに行く筈がなかった。 あの日の記憶を思い起こす。 あの廃工場での一幕。 「お、お前は……カブト!!」 黄金に近い体色をしたワームが、目の前に佇む赤の戦士におののいた。 運悪く、自分はZECTの隊員を殺す瞬間をカブトに目撃されてしまったのだ。 人間の姿に擬態する間もなく、彼は――フィロキセラワームは、カブトに襲撃された。 結果的に彼はカブトから逃げ切る事が出来たのだが、その代償は大きく。 カブトが振るったイオンビームの刃が、フィロキセラワームの右目を大きく抉った。 それは当然只で済むダメージではなく、人間の姿に擬態した所で、回復する訳も無かった。 しかし、それは彼の心に余計に火を点ける事となるのだった。 彼はすぐに、ザビーの資格者に相応しいとされるシャドウ隊長の座へと就いた。 その際に、名前が必要だと判断した彼は「弟切ソウ」という名前を考案した。 それはシャドウの初代隊長・矢車想と、三代目隊長・影山瞬から取ってつけた名前だ。 ソウと言う名前は矢車から。弟切という苗字は、兄弟ぶって慣れ合っている彼らへの皮肉。 自分は彼らの様な落ち零れザビーとは違う。弟だろうが何だろうが切り捨てる事も厭わない。 だから弟切は、最強のザビーとして君臨する為にこの名前を考え、権力を手に入れたのだ。 ……また、ソウという名前にはもう一つの意味合いが込められている。 あの日、自分の運命を変えた相手。自分の憎しみの炎を燃やした相手、天道総司。 ソウジという名前から一文字抜けば、それはそのままソウになる。 それが意味する事とは何か。何て事はない、人間臭い、簡単な理由だ。 今でこそ天道を好きに泳がせてはいるが、いつか自分は天道を倒し、天道を越える。 奴を殺して、この復讐に終止符を打つのだ。それを果たした時、始めて自分の存在意義が示されるのだ。 その時、自分が天道に擬態し、足りない一文字を補って、ソウからソウジへと改名するのも悪くは無い。 そんな野望を胸に抱き、様々な思いを込めて考え付いた名前が、弟切ソウなのであった。 「見ていろカブト……お前を叩き潰して、いずれはこの俺が世界を支配してやる!」 くつくつと笑いながら、弟切は歩を進める。 それが、失敗に失敗を重ねて来た「完全調和」の新たな姿。 矢車も影山も、結局は成し遂げる事が出来なかった思想を、自分が完遂させて見せる。 矢車を越え、影山を越え、最終的には天道をも越えて、弟切の奏でる調和は真に完全となるのだから――。 ◆ 並居るワームを薙ぎ倒し、前進を続ける仮面ライダーカブト。 黄金の短刀が秘める威力は、一撃必殺。ただの一撃でサリスワームを緑の炎と変えてゆく。 いくらワームが徒党を組んだ所で、圧倒的な戦力の違いを持つカブトに敵う訳がなかった。 風の様にカブトが駆け抜けた後には、緑色に燃え上る炎だけが残され――最後に残されたのは、集団を率いていたワーム。 緑の体躯は、地球上に暮らす蟷螂に似たフォルム。セクティオワームが、その腕の鎌をカブトへと向けていた。 「前の様に行くと思うなよ、カブト」 「貴様こそ、前の様に逃げられるとは思わない事だ」 そう。敵は以前、フェイトを騙し、その命を奪おうとしたワーム。 突如として現れ、カブトに追いつめられた末に逃走した蟷螂のワームだった。 一拍の間を置いて、二人は深く腰を落とし、それぞれの獲物を構え―― ――CLOCK UP―― 戦いのゴングたるは、カブトのシステムが鳴らす電子音。 鳴り響くと同時に、二人の居る空間の時間軸が周囲から切り離された。 風も、音も、周囲の全ての時間も。加速する二人の前では、停まっているも同然。 眩ゆい光が煌めくクロックアップの世界で、カブトとワームが武器を交差させる。 一合、二合と獲物をぶつけ合わせる度に、形勢はカブト一方へと傾いていく。 力の差は歴然。一介の成虫ワーム如きが、カブトに敵う訳も無かった。 「ハッ」 「グゥッ……!」 ワームの拳を回避し、カウンターの一撃を叩き込む。 イオンビームを纏った刃がワームの上体を引き裂いて、火花を舞い散らす。 カブトの閃きを予測出来なければ、当然回避できる訳も無かった。 ダメージが蓄積されたワームは、たまらず加速を終了させる。 ――CLOCK OVER―― それを感知したカブトのシステムもまた、クロックオーバーを告げた。 大口を叩いただけに何か策があるのかと思ったが、そう言う訳ではないらしい。 尤も、天道総司程の男が、一度刃を交えた相手との戦いで遅れを取る事などあり得ないのだが。 上体を切り裂かれたワームがその場でたじろいでいる、この隙に一気にカタを付けてやろう。 そう判断し、カブトゼクターに設置された三つのボタンを押そうとした、その時だった。 「フォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォウッ!!!」 木霊する、奇声。 甲高い声が、まるで拡声器でも使ったかのように響き渡った。 これには流石のカブトもたまらず動きを止めて、周囲を見渡す。 そして目撃した。蟷螂のワームの後方から悠々と歩いて来る、一人の男を。 丸いサングラスに、派手なアクセサリの数々。極めつけは、中々見掛けないド派手なアロハのジャケット。 イヤホンから大音量の音楽を漏らしながら歩くそいつは、ともすれば海堂直也とも似た雰囲気、かも知れない。 あろう事か男は、戦場のド真ん中へと堂々と歩を進め、両腕で以て奇妙な舞を披露してみせる。 「何だ、お前は」 「フゥー! 仮面ライダーの実力、そいつを使って試してやろうと思ったんだけどよぉ」 言いながら、アロハの男が蟷螂のワームを指差した。 指差された蟷螂のワームは、男の傍らまで移動し、その場に傅く。 まるで男を恐れている様な、ワームらしからぬ畏怖の念が感じられた。 「噂に聞く程じゃあないなぁ、仮面ライダー?」 「……成程な。貴様もワームという事か」 「フォォォォォォウ! ワームだってぇ? 僕をこんな奴らと一緒にすんなよ、仮面ライダー!」 奇声と共に返された答えは、ワームとは異なる存在。 となれば、オルフェノクかアンデッドか――その答えを考える前に、行動したのは男だった。 男はその口をがぱっ、と大きく開いて、相対するカブトに向けて青色の火炎放射を吹き付ける。 ごうっ! と音を立てて迫るそれを回避し、上空へと跳び上がったカブトは、クナイガンを構え、急降下。 イオンの刃は男へと迫り、その脳天へと突き刺さる――かと、思われたが。 「――ッ!!」 首を僅かに傾け、その一撃を回避。 逆にクナイガンを握るカブトの腕を、捻り上げた。 強引な力で無理矢理カブトを眼前まで引き寄せ、嘲笑う様に告げる。 「無駄よぉ! 君レベルじゃあ、僕は倒せない!」 それだけ言うと、男は口を開き――ほぼ零距離でカブトに熱線を吐き掛けた。 当然回避出来る訳もなく、カブトは胸部装甲を青の熱線に焼かれ、大きく吹っ飛ばされる。 もんどりうって後方の大樹にその背を激突させ、地べたへと落下し、その場で敵を睨み付ける。 気付けば、今がチャンスだとばかりに、蟷螂のワームがカブトに向かって走り出していた。 「チッ」 舌打ち一つ、その場で足を振り上げて、蟷螂の胴に減り込ませる。 その衝撃で後方へと振ったんだ蟷螂を尻目に、カブトは立ち上がり、男を見遣った。 目の前に立つあの男はワームではない。となれば、必然的に残った可能性は二つ。 だが、人類の進化系も、地球の覇権を争う奴らもワームとは敵同士である筈。 となれば、一体どんな理由があって手を組んだのか。 その疑問を口にした。 「貴様、ワームと手を組んだのか」 「ああ、本当は僕ら敵同士なんだけど、ちょっと力を見せつけてやったらホラ、この通りよ」 「なるほどな」 力による支配。 それが、ワームが強制的に従わされている理由だった。 目の前の蟷螂ワームは、この男と戦い敗れ、なし崩し的に配下にされたのだろう。 ワームという勢力と、オルフェノクもしくはアンデッドが手を組んだ訳ではないのは、せめてもの救いか。 小物のワームが一人他の勢力の支配下に置かれた程度ならば、そのワームを倒せば済む話だからだ。 それよりも現状で問題視すべきは、この得体の知れない男がどれ程の力を持っているのか、だ。 相手の実力が未知数なら、何が起こっても動じない様に、最初から全力で叩き潰すべきである。 蟷螂のワームがこちらへ向かって再び走り出した。ならば、まずは格下のこいつから倒す。 その判断の元で、カブトは時空の扉を開かんと手を伸ばした、その刹那―― 「ウェイッ!!」 「――ッぐ!?」 突如として現れた青のバイクが、蟷螂のワームに激突。 結構な速度で激突された蟷螂は、そのまま吹っ飛んで、近くのビルディングの壁に叩き付けられた。 苦しそうに悶えるセクティオワームなどまるで意に介した様子も無く、青のバイクから、紫紺のライダーが降り立つ。 仮面ライダーブレイド。カブトと同じく、カブトムシをモチーフとする仮面ライダーだった。 腰に装着されたホルダーから、しゃきん、と音を立てて醒剣を引き抜き、構える。 右手で構えるブレイラウザーに左手を軽く添えて、カブトをちらと一瞥。 「話は聞いた。あんた、あの時は研究員に擬態したワームを倒そうとしてたらしいな」 「その話は後だ。今はこいつらを何とかするぞ、ブレイド」 「……後で話は聞かせて貰うぞ、カブト!」 名も知らぬ相手を、お互いにシステムの名で呼び合う。 些細な事でいがみ合って来たカブトとブレイドが共闘するのは、これが始めてだった。 と言っても、お互い解決しなければならない誤解も未だ残ったままである事もまた事実。 だが、それに関して話し合う機会を得る為には、眼前の敵を退けなければならない。 天道にはあまり相手と話をしたいという気はないのだが、一応の目的は一致していた。 「行くぞ」 カブトの青の視線と、ブレイドの赤の視線が交差した。 戦士としての心構えは十分。ならば、お互いにそれ以上の言葉は必要としない。 先に駆け出したのはカブト。それに追随して、ブレイドが醒剣を構え、走り出した。 何が起こったのかと理解する間も与えずに、カブトの黄金の刃が蟷螂のワームを擦れ違い様に引き裂いた。 蟷螂の身体が火花を散らした次の瞬間には、駆け抜けたブレイドが醒剣の刃で蟷螂を切り裂く。 二人の矢継ぎ早の攻撃に対処し切れない蟷螂は、数歩後じさった後―― 赤のカブトと、紫紺のブレイド。 赤の戦士はその脚に。紫紺の戦士はその剣に。 バチバチバチ、と激しい音を掻き鳴らす稲妻を纏っていた。 ――RIDER KICK―― ――LIGHTNING SLASH―― 響き渡る電子音は、二人のライダーの必殺技の証。 カブトのライダーキックと、ブレイドのライトニングスラッシュ。 駆け出したブレイドが稲妻の剣でワームの身体を両断し、激しい電撃が迸る。 数歩よろめいて、受けた電撃を振り払おうとするが……最早ワームには、それすら叶わず。 迸る電撃に苦しむワームの身体に叩き込まれたのは、飛び上がったカブトが放つ必殺の飛び蹴り。 カブトの足裏から叩き込まれたタキオンの電撃に、いよいよもってワームが受けたダメージは許容範囲を越え。 次の瞬間には、蟷螂のワームは二人の稲妻にその身を焼かれ、跡形も無く爆散していた。 「何故だ!? 協力なんかしちゃって、お前ら仲悪かったんじゃないのかよぉ!?」 「ああ、確かに俺達の仲はいいとは言えない!」 「だが、今は争う理由がない」 ブレイドに続いて、カブトがその問いに答える。 それが第2ラウンド開幕のゴングの代わりとなった。 駆け出したブレイドが、アロハの男に向かって醒剣を振り下ろす。 対する男は、右脚を一歩後方へと後じさらせ、ブレイドの一撃を回避。 続け様に男の身体が変質し、次の瞬間には異形となったその腕で、ブレイドを殴り飛ばしていた。 数歩よろめいて、ブレイドとカブトの視線が現れた異形へと突き刺さる。 左右非対称の身体。左右非対称の体色。左右非対称の装甲と、武器。 漆黒の仮面に顔を隠したそいつは、見まごう事無きアンデッド。 「お前、アンデッドか!」 「仮面ライダー、僕はその辺のアンデッドとは一味違うんだ」 真っ赤な瞳でブレイドを睨み、両手を広げて余裕綽々の態度で告げる。 頭や肩、体中から山羊(ヤギ)に似た角を生やしたそいつは、見た目の通りの山羊の始祖。 他のアンデッドとは明らかに雰囲気を違える、言わば上級のアンデッドと呼ぶに相応しい存在であった。 カプリコーンアンデッドと呼ばれるアンデッドに対し、ブレイドはブレイラウザーを投げつける。 びゅん、と風を切って迫るブレイラウザーが、その切先で以て山羊の肩を掠めた。 「ウオッ!?」 回避し損なった山羊が、その肩から緑色の血液を噴き出した。 この瞬間を、逃しはしない。カブトとブレイドの両方が、ほぼ同時に大地を蹴った。 ライダー相手に一瞬でも動きを止めてしまったのが、カプリコーンアンデッドの運の尽き。 閃いたカブトの短剣が山羊の身体を引き裂いて、その瞬間にブレイドが後方を陣取る。 地面に突き刺さったブレイラウザーを回収したブレイドが、山羊の背中を叩き斬る。 受けた衝撃のままに前方へとよろめけば、待ちうけているのはカブトの斬撃。 二人の剣が、連携攻撃でカプリコーンアンデッドを追い詰めてゆく。 「ハッ!」 「ウェイ!」 声にならない嗚咽を漏らす山羊に、無数の連撃が叩き込まれ。 二人の刃が、反撃すら叶わない山羊の身体を何度も何度も切り裂いた。 その身体から夥しい量の緑を噴き出しながら、山羊のアンデッドはよろめきながら数歩後退。 頭の角が青の光を放ち――次の瞬間には、その光を二人のライダーへ向けて発射していた。 カブトもブレイドも、地べたへと跳び退る事でかろうじてそれを回避。 しかし――次に二人が立ち上がった時には。 「……逃げたられた!?」 山羊のアンデッドの姿は、何処にも無かった。 流石にこの状況で二人のライダーを相手にするのは不利だと判断したのだろう。 奴は当初カブト一人を潰すつもりで仕掛けて来たのだ。ライダー二人との戦いなど想定してはいない。 不利な状況となれば、やられる前に逃げてしまうのが得策と言うのは、戦法としては悪くは無い。 結局カブトとブレイドだけが残されて、その場で二人は向き直った。 仮面の下で、先に口を開いたのはブレイドだった。 「なあ、あんた。何でいつも誤解される様な事ばかりするんだよ。 聞いたぞ、時空管理局の皆とも何か問題を起こしたらしいじゃないか」 「俺は俺の道を往くだけだ。所詮お前達一般人とは歩むべき道が違う」 「……何だよそれ! ちょっとは見直してもいいかと思ったけど、お前やっぱり嫌な奴だな」 やれやれとばかりに嘆息して、呆れ口調で告げるブレイド。 やはり剣崎一真は、こいつの、カブトのこういう所が気に食わない。 この相手を見下した様な態度さえなければ、カブトとも一緒に戦って行きたいのに。 出来る事なら管理局の皆とも協力して、人々の為に一緒に戦いたい。そう思っているのに。 なのにカブトには、取りつく島がない。話そうとしても、話が通じないのだから仕方がない。 募る苛立ちを吐き出す様に、ブレイドは叫んだ。 「俺達、同じ仮面ライダーだろ? どうして一緒に戦えないんだ!」 問い詰めても、カブトは答えない。 解っては居た。まともな返事が返って来ない事は。 だけど、剣崎一真という人間は面倒臭いまでに真っ直ぐで。 だからこそ、解っては居ても問わずには居られなかったのだ。 しかしカブトはそんなブレイドなど意に介さず、黙って背を向ける。 そのまま歩いて立ち去ろうとする背中を、ブレイドは慌てて掴んだ。 「おい、ちょっと待てよ! まだ話は終わってないだろ!」 声を荒げて、カブトを引き止める。 何の返答も返さぬカブトの所為で、居心地の悪い沈黙が流れる。 周囲でさえずる小鳥や虫の羽音だけが響き渡って、嫌に神妙な空気が流れ。 いい加減この空気に耐えられなくなったブレイドが、何事かを言おうとした、その時だった。 「いいのかい、仮面ライダー。早くお仲間を助けに行かなくて」 この静寂の中で、誰かの声が響き渡った。 まるで射抜く様な鋭さを秘めたその声に、二人は硬直する。 しかしそれもほんの一瞬。すぐに視線を声の主へと向け、その主を見遣る。 そこに居るのは、黄色のハイネックに、黒のジャケットを羽織った眼鏡の男だった。 知的な雰囲気を醸し出す男は、銀縁の眼鏡を指でくい、と持ち上げて、話を続ける。 「今頃あんた達の仲間が、ワーム共に襲われてる頃だぜ」 「お前に言われるまでもない」 言うが早いか、カブトはブレイドの腕を振り払った。 そのまま近くに停車されていた赤のバイクへと跨り、エンジンを吹かせる。 このままでは、またカブトは行ってしまう。何の話も出来ないままに。 その前にせめて――せめて、 「……ならせめて、あんたの名前を教えてくれ!」 「俺は天の道を往き、総てを司る男……天道、総司」 「天道……天道だな! 俺は剣崎! 剣崎一真だ!」 「……覚えておこう」 それだけ告げると、赤のバイクは一気に走り去って行った。 仮面ライダーカブトに変身して戦う男の名は、天道総司。 不遜で生け好かない奴だが、もしかしたら話せる相手かもしれない。 今まではこちらもカブトを敵だと思っていた。だから最初から剣を交えていたのだ。 だが、今回は違う。最初から喧嘩腰で向かわなければ、突然殴られるという事も無かった。 だから、いつかは天道とも共に闘える日が来るのではないか――そう、剣崎は思うのであった。 そんな時だった。不意に、先程現れた眼鏡の男が口を開いたのは。 「スペードのカテゴリークイーンか……口だけだったな」 「あんた、さっきから一体何なんだ? 何を知ってるんだ?」 「心配せずとも、今はまだあんた達と事を構える気はないさ」 剣崎がその言葉の意味を理解するよりも早く、眼鏡の男は何処かへと歩き去って行った。 何故か追いかける気にもなれず……と言うよりも、男の背中が追いかけるなと言っている様に感じて。 その背中から、不思議と感じた威圧感と存在感。それに気圧されたかのように、剣崎はその場から動けなかった。 戻る 目次へ 次へ
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なのはが襲撃され、魔力を奪われ、そして甲児が管理局へと協力することを決めたその日の夜、八神家にて。 「澄んだ太刀筋だった。よい師に学んだのだろうな。武器の差がなければ、少々苦戦したかもしれん」 その日の戦闘について、シグナムとザフィーラが話している。 服を捲り上げ、そこに見えた肌には生々しい痣が。フェイトとの戦闘でついた物である。 それでもシグナムは笑顔。前話でも言ったが、まるで戦闘狂である。 「それでもシグナムさんなら負けない。そうだろう?」 予想していなかった所からの声。振り向くと、彼女らの家族の最後の一人である青年、デュークの姿があった。 彼は蒐集の事を知らないはず。それでもこう言ってきたということは……おそらくバレている。 そう思ったシグナムは捲り上げた服を戻し、そして答えた。 「……そうだな」 さて、蒐集のことがバレているとなれば、やはり話して口止めするべきだろうか? それとも、ばれているのを承知の上で黙っているか、そこが問題である。 そう考えていると、デュークの口から予想もしない言葉が飛び出した。 「でも、剣道も程々にしてくれよ。怪我をするまでやって、それではやてちゃんを心配させないでほしい」 「……は?」 シグナムらしからぬマヌケな声。それを聞いたザフィーラも首をかしげる。 剣道? 何故今ここでその話が出てくる? 蒐集の事がバレているのではないのか? 「え? シグナムさんが働いている剣道場での事を話していたんじゃないのかい?」 デュークは心底不思議そうな顔で問い返した。彼はどうやらシグナムがアルバイトで先生をやっている剣道場での出来事を話していたと思っていたらしい。 その問いでようやくその事に気付いたシグナムが、あたふたとした様子で取り繕った。 「い、いや、剣道場での事だ」 余談だが、ザフィーラはシグナムのこのリアクションでバレそうだと肝を冷やしていたらしい。 第四話『お引っ越し、そしてグレンダイザー復活』 それから数日後、時空管理局本局の一室では、リンディをはじめとしたアースラスタッフが集まっていた。 先日の襲撃の際にシャマルが持っていた本……あれは『闇の書』と呼ばれるロストロギアであり、クロノの父の死の原因となった因縁の品。 今回集まっているのは、その闇の書及びその捜査に関する説明である。 「さて、私達アースラスタッフは今回、ロストロギア『闇の書』の捜索及び、魔導師襲撃事件の捜査を担当することになりました。 ただ、肝心のアースラがしばらく使えない都合上、事件発生地の近隣に臨時作戦本部を置くことになります」 そう前置きし、ぐるりとスタッフ一同を見回す。全員が緊張の面持ちをし、次の言葉を待っているようだ。 ……もっとも、闇の書というものがいったい何なのかを理解していない甲児だけは例外だが。 リンディはそれに気付かずに次の言葉を発した。 「分轄は、観測スタッフのアレックスとランディ」 「はい!」 「ギャレットをリーダーとした、捜査スタッフ一同」 「はい!」 「司令部は、私とクロノ執務官、エイミィ執務官補佐、フェイトさん、甲児さん、以上4組に分かれて駐屯します」 ここまで言い終えたところで、数瞬の沈黙が流れる。 その沈黙を振り払ったのはまたしてもリンディ。ここまでとは違い、一気に口調を柔らかくして。 「……ちなみに司令部は、なのはさんの保護を兼ねて、なのはさんのお家のすぐ近くになりまーす♪」 それを聞いたなのはは、一瞬驚いたような顔をし、続いて同じような顔をしていたフェイトと顔を見合わせる。 その後で言葉の意味を頭の中で反芻し……「捜査の司令部」という形だとはいえ、フェイトが近所に引っ越してくるということを理解し、満面の笑みを浮かべた。 その翌日。 この日、海鳴市のとあるマンションの一室に一組の家族が引っ越してきた。表札には「ハラオウン」と書かれている。 お気付きだろうが、ここがリンディの話していた捜査司令部である。業者は気付いてはいないようだが、捜査のための機器もしっかりと引越し荷物として運び込まれているようだ。 「凄ぉい! 凄い近所だ!」 「本当?」 「うん! ほら、あそこが私ん家」 ベランダに目を向けると、なのはとフェイトが大はしゃぎしている。そこからなのはが指差した先には、なのはの実家である喫茶店『翠屋』が。 それを近くで見ているリンディはというと、何をするでもなく笑顔でそれを見ていた。 続いてリビングへと目を向けてみよう。 こちらでは現在、業者に混じって甲児とクロノが荷物を運び込んでいる。 ……もっとも、クロノは背の都合上あまり大きなものは運べないようだが。 「……ん?」 「どうかしたのか、クロノ?」 「いや、今誰かにバカにされたような気がして……」 おっと危ない、地の文に書かれた内容を無意識レベルで感じ取ったようだ。 「まあいいや。それより、これはどのへんに置いとけばいいんだ?」 「ああ、それはそこに頼むよ」 そう言われ、持っていた段ボール箱を運ぶ甲児。荷物を置いてふと目を移すと、見慣れない二匹の動物の姿があった。 片一方はオレンジ色の毛並の子犬。もう一方はフェレット(というには少々変わっているが)。 実はそれは動物形態のユーノとアルフなのだが、面識はあってもこの形態を見たことがない甲児はそれを知る由もない。 ちなみに犬の方がアルフ、フェレットの方がユーノである。 「ペットなんか飼ってたのか……」 「「ペットじゃない(よ)!!」」 「うわ、喋った!? ……って、その声……もしかしてユーノとアルフか?」 「うん。なのはやフェイトの友達の前では、こっちの姿でないと……」 何故この姿でなければならないのかという疑問が甲児の中に生まれるが、きっといろいろ事情があるのだろうと思い深くは突っ込まない。 だから甲児は一言返すだけで済ませた。 「よく分からねえけど、お前らもいろいろ大変なんだな」 「まあね……人間だって知られてなかったとはいえ、女湯に引っ張り込まれたりもしたし」 「わりぃ、前言撤回」 「えぇ!? 何でさ!」 「うっせぇ! 公然と女湯に入るなんて、なんて羨m……いやいや、ハレンチな奴だ!」 あっという間に意見がひっくり返った。 まあ、男の身でありながら、咎められずに女湯に入れるというのは甲児でなくとも羨ましいと思うだr……ゲフンゲフン。 一瞬本音が出て、それで近くにいたアルフとエイミィが白い目で見ていたのは別の話。 それから十数分後、司令部……もとい、ハラオウン家のリビングにはクロノ、甲児、エイミィの三人が集まっていた。 ちなみに他のメンバーは現在、なのはの友人が訪ねてきたのをきっかけに外出中である。 「それで、闇の書ってのは結局何なんだ?」 今の今までその詳細を聞いていなかった甲児が問う。さすがに知っておかなければまずいと思ったのだろう。 もちろんこの日まで数日という時間があったのだからその間に聞けばよかったのだろうが、時空管理局提督『ギル・グレアム』との面談や、マジンカイザーのテストなどでゴタゴタしていて結局聞けなかったらしい。 「……そうだな、知らなかったのなら、この機会に知っておいた方がいいだろう」 クロノは頷いてそう言うと、近くにあった端末を起動させる。 端末に映る映像を次々切り替え、そして目当ての映像……シャマルが小脇に抱えていた闇の書の映像を映したところで説明を始めた。 「ロストロギア『闇の書』の最大の特徴は、そのエネルギー源にある。闇の書は魔導師の魔力と、魔法資質を奪うためにリンカーコアを喰うんだ」 「なのはちゃんのリンカーコアも、その被害に……?」 「ああ、間違いない」 エイミィの問いに答えると、再び端末の映像を切り替える。 今度は闇の書の特質をイメージ映像にしたような動画が映り、それを使って説明を再開した。 「闇の書はリンカーコアを喰うと、蒐集した魔力や資質に応じてページが増えていく。そして、最終ページまで全て埋めることで闇の書は完成する」 「もし完成しちまったらどうなるんだ?」 「少なくとも、ロクな事にはならない……!」 クロノは苦虫を噛み潰したような表情で、そう締めくくった。 「はいはーい、エイミィですけどー?」 『あ、エイミィ先輩。本局メンテナンススタッフのマリーです』 その夜、ハラオウン家のリビングではエイミィとマリーが通信をしていた。 画面に映るマリーの表情からすると、何か難しい問題でも起こったのだろうか? そう考えていると、マリーがその内容を話し始めた。 『先輩から預かってるインテリジェントデバイス二機なんですけど……なんだか変なんです。 部品交換と修理は終わったんですけど、エラーコードが消えなくって……』 「エラー? 何系の?」 『ええ、必要な部品が足りないって。今データの一覧を』 そう言うと、マリーは手元の端末からエイミィの下へとデータを送る。 しかし、修理は終わったのに部品が足りないとは一体どういうことだろうか? エイミィがそう思っている間にデータが届いた。 「あ、来た来た……えっ? 足りない部品って……これ?」 『ええ。これ、何かの間違いですよね?』 エイミィやマリーがそう思うのも無理はないだろう。 何せ必要な部品は『CVK-792』……シグナムやヴィータが使い、なのは達を窮地に追いやった『ベルカ式カートリッジシステム』だったのだから。 レイジングハートもバルディッシュも何を考えているのか。そう思っているうちに、画面には「お願いします」の文字が表示されていた。 それからさらに一週間後の夜。この日、デュークはアルバイト帰りの途中だった。 何故アルバイトをしているのかだが、「世話になりっぱなしでは悪いと思うから」だそうだ。 一仕事終え、八神家へと向かうデューク。だが、その足は一度止まった。 「ん? ヴィータちゃん、こんなところで何をしているんだ?」 彼の目が捉えたのは、今は家にいるはずの家族の姿だった。 はやてもそろそろ眠っている頃のはず。それなのに一人でどこに行くつもりなのだろうか。 気になるが、一度帰ったほうがいいか? それとも見失わないうちに追うべきだろうか? 数分後、気付かれない距離からヴィータを追うデュークの姿が確認された。 場所は変わり、市内のビル屋上。 ヴィータの目的地はここだったらしく、そこにはシグナム達三人の姿もあった。 全員揃って騎士甲冑を装備。さらにシャマルにいたっては闇の書まで持っている。まるで今から蒐集に行くかのような出で立ちだ。 そしてデュークがそこに現れたのは、シグナム達が今まさに出発しようとしていた時だった。 「デューク……何故お前がここにいる?」 「ああ、帰りにヴィータちゃんを見かけたから、こんな時間にどうしたのかと思って……」 それを聞いたシャマルはジト目でヴィータを見る。その対象のヴィータもばつが悪そうだ。まさかつけられているとは思っていなかったようだ。 だがデュークはそんな様子にも構わずに、すぐさま問いを投げかけた。 「それより、四人ともこんな時間にこんな所で一体何をしていたんだ? それに、シャマルさんが持っているその本は……確か闇の書だろう?」 シグナム達にとってこの状況は非常にまずい。何せ闇の書を持ち出している上に騎士甲冑まで装備しているのだ。蒐集の事になどすぐに気付くだろう。 「まさか、はやてちゃんに黙って蒐集をしているんじゃないのか?」 どうやらたった今バレたようだ。 今からどうするかをすぐに頭の中で考える。取り繕うことも今となっては不可能。かといって正直に話したところで理解されるとも思えない。 ならばどうするか……すぐに算出し、そして何も言わずに飛び去ることが決定した。 そうと決まれば善は急げ。デュークが二の句を告げる前にすぐさま飛行魔法でその場を離れる。 ヴォルケンリッターの四人が飛び去った後、そこに残されたデュークは一人呟いた。 「どうしてなんだ? 何で蒐集なんか……」 答えが返ってくることなどはなから期待していなかった呟き。だがそれに対し、答える人物がいた。 「知りたいか?」 いきなりの声に驚き、凄い勢いで振り向くデューク。そこには見慣れぬ仮面の男がいた。 どこからどう見ても不審者だが、シグナム達が蒐集を始めた理由を知っているようなのであえて格好にはつっこまない。 「八神はやてという少女の事は知っているな? 病で足が動かないということも」 そう前置きする仮面の男。そう言われてデュークも頷く。 その答えに満足したのか、仮面の男が先を続けた。 「その足の病の原因は、闇の書による侵食だ。 彼女らヴォルケンリッターは、闇の書から生まれた魔導生命体。その存在を維持するための魔力は闇の書から供給されている…… だが、闇の書は八神はやてが主となってからは一切蒐集をしていない。ならばその魔力はどこから来ている?」 そう言われてデュークはしばらく考える。 蒐集をしていないとなると、当然魔力はカラだろう。ならば一体どこから…… ふと、先程の『侵食』という言葉を思い出し、そこからすぐに彼の脳内で答えが組みあがった。 「……まさか」 「そうだ。八神はやてのリンカーコア、そこから直接魔力を奪っている。 そのせいで八神はやての足は麻痺し、それが広がってついには命すら奪うだろう。 そうなる前に闇の書を完成させ、八神はやての命を救う……それが守護騎士達の目的だ」 明かされた事実に愕然とするデューク。だが、それならこれまでの事も辻褄が合う。 アルバイトから帰ってきた時にはやてしかいない事が多かったのも、蒐集に行っていたから。 先日のシグナムの怪我も、その時に蒐集対象とでも戦って受けたダメージだろう。 そして……はやての病の原因が分からなかったのも、闇の書の侵食によるものだからだ。本来魔法が無い世界では、魔法がらみの病が分かるはずが無い。 「くそっ! 俺は……無力だ……!」 事実を受け止めたデュークは、あまりの無力感に俯き、手を強く……爪が食い込み、血が流れる程に握り締める。 こうしてはやての病の原因が分かっても、自分にはどうすることも出来ない。 ヴォルケンリッター達のように力があれば別だっただろうが、今の自分には無い。 せめて、故郷であるフリード星から乗ってきたロボット『グレンダイザー』さえあれば…… 「無力? 本当にそうかな?」 「何だって?」 デュークが顔を上げると、仮面の男が何かを投げつけてきた。 それをキャッチし、手を開くと……デュークにとって今最も必要なものと同じ形のキーチェーンがあった。 「デューク・フリード、お前のことはすでに調べ上げている。 お前が次元漂流者だという事も、グレンダイザーというロボットに乗っていた事も、それがこの世界に来た時には無くなっていた事も…… 今渡したそれは、グレンダイザーがこの世界に来てデバイスへと変質したものだ」 そう、そのキーチェーンの形はグレンダイザー用の飛行ユニット『スペイザー』と同じ形をしていたのだ。 そのことを聞いたデュークは、はやてを救うための力が手に入ったことを喜ぶと同時に、仮面の男への不信感が芽生えていた。 何故ここまで詳しく状況を知っているのか。何故無くなったはずのグレンダイザーを持っていたのか。そして何故自分にそれを返したのか。 「一体君は何者なんだ?」 「そんな事は今はどうでもいいだろう? しいて言うならば……そうだな、闇の書の完成を望む者だ。 それと、行くのならば急いだ方がいい。あの方向には管理局の魔導師がいる。鉢合わせすれば間違いなく戦いになるだろうからな」 そう言うと、仮面の男は姿を消した。 再び後に残されたデュークは意を決し、グレンダイザーを掲げて叫んだ。 「グレンダイザー、ゴー!」 その叫びとともに、デュークの体を光が包む。そして光が晴れた所にいたデュークは、グレンダイザーの姿になっていた。 但し、デュークが知っているグレンダイザーとは違う点が一つだけ存在する。それは、背中についている翼だ。 これは本来彼がいた世界での戦いで作られる翼『ダブルスペイザー』と同じものなのだが、今の彼にはそれを知る由も無い。 そしてデュークは先程仮面の男が言った方向へと飛び去っていった。 前へ 目次へ 次へ
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制限などのルール 基本ルール 参加者全員で殺し合いをして、最後まで生き残った者のみが元の世界に帰れる。 参加者の所持品は基本的に全て没収され、その一部は支給品として流用される。 ただし義肢などの身体と一体化した武器や装置、小さな雑貨品は免除される。 主催者に敵対行動を取ると殺されるが、参加者同士のやりとりは反則にならない。 参加者全員が死亡した場合、ゲームオーバーとなる。 バトロワ開始時、全参加者はマップ各地に転送される。 支給品 参加者はバトロワ開始時、以下の物品を支給される。 ・デイバック(小さなリュック。どんな質量も収納して持ち運べるステキ機能有り) ・地図(アルハザードの地形が、9×9マスで区分されて描かれている) ・名簿(参加者の名前が掲載されたファイル。書かれているのは名前のみ) ・水と食料(1日3食で3日分、都合9人分の水と食品が入っている) ・時計(ごく普通のアナログ時計。現在時刻を把握出来る) ・ランタン(暗闇を照らし、視界を確保出来る) ・筆記用具(ごく普通の鉛筆とノート) ・コンパス(ごく普通の方位磁石。東西南北を把握出来る) ・ランダム支給品1〜3個(原作・クロス作品に登場する物品限定。参加者の能力を均一化出来る選択が必要) 尚「地図」〜「ランダム支給品」はデイバックに収められている。 制限が必要そうだが、制限が決定していない物品を登場させたい場合は、事前の申請・議論が必要。 時間 ・深夜=22時〜3時 ・夜明=3時〜5時 ・朝=5時〜10時 ・昼=10時〜13時 ・日中=13時〜16時 ・夕方=16時〜18時 ・夜中=18時〜22時 放送 以下の時間に、「死亡者」「残り人数」「進入禁止エリア」を生き残り参加者に伝える。 ・00:00 ・06:00 ・12:00 ・18:00 禁止区域 侵入すると数分後に首輪が爆発するエリア。「放送」の度に2〜3ずつ増える。 進入禁止はバトロワ終了まで解除されない。 尚、禁止指定されるエリアは、その時点で参加者が一人もいないエリアの中から議論で決定。 首輪 参加者全員の首に装着された鉄の輪。死んだ参加者の命をアリシアに送る装置でもある。 「生死の判断」「位置の把握」「盗聴」「爆破」の機能があり、「爆破」以外は常に作動している。 「爆破」が発動する要因は以下の通り。 ・主催者が起動させた場合 ・無理に外そうとした場合 ・主催者への敵対行動を取る、または敵対意見が盗聴された場合 ・禁止区域に一定時間滞在していた場合(尚、警告メッセージが入る) 書き手のルール バトロワ作品を作る上で、書き手に求められる規則。 ・トリップをつける ・本スレでも連載中の書き手は、あくまでもこちらが副次的なものである事を念頭において執筆しましょう ・残虐描写、性描写は基本的に作者の裁量に任されます。ただし後者を詳細に書く事は厳禁 ・リレー小説という特性上、関係者全員で協力する事を心掛けましょう ・キャラやアイテムの設定において解らない所があったら、積極的に調べ、質問しましょう ・完結に向けて諦めない ・無理をして身体を壊さない 予約について 他の書き手とのかぶりを防止する為、使用したいキャラを前もって申請する行為。 希望者は自身のトリップと共に、予約専用スレで明言する事。 予約期間は1週間(168時間)。それ以内に作品が投下されなかった場合、予約は解除される。 同一の書き手が連続して同じキャラを予約する事は禁止する。 状態表のテンプレ バトロワ作品に登場したキャラの、作品終了時点での状況を明白に記す箇条書きです 【○日目 現時刻(AMまたはPM)○○:○○】 【現在地 ○ー○(このキャラがいるエリア名) ○○(このキャラがいる場所の詳細)】 【○○○○(キャラ名)@○○○○(参加作品名)】 【状態】○○(このキャラの体調、精神状態などを書いて下さい) 【装備】○○○○(このキャラが現在身に付けているアイテムを書いて下さい) 【道具】○○○(このキャラが現在所持しているアイテムを書いて下さい) 【思考】 基本 ○○○(このキャラが現在、大前提としている目的を書いて下さい) 1.○○(このキャラが考えている事を、優先順で書いて下さい) 2.○○ 3.○○ 【備考】 ○○○(このキャラが把握していない事実や状況など、上記に分類出来ない特記事項を書いて下さい) 以下は、バトロワ作品の参加キャラ4人以上が、特定の目的を果たすべく徒党を組んだ際に書くテンプレです 【チーム:○○○○○(この集団の名前を書いてください)】 【共通思考】 基本 ○○○(この集団が共有している最大の目的を書いてください) 1.○○(この集団に共有している思考を、優先順で書いてください) 2.○○ 3.○○ 【備考】 ○○○(この集団が把握していない事実や状況など、上記に分類出来ない特記事項を書いてください) 【能力の制限】 全参加者共通の制限は以下の2つ。 ・突出した身体能力・戦闘力・再生力は制限。度合いは書き手の裁量に任せられる。 ・首が爆破されても死なない参加者の場合、首輪は致死確実の部位に設置されている。 以下は個人単位での制限がある参加者の一覧。 【アーカード@NANOSING】…心臓破壊で死亡、身体能力・再生力の低下、変化・使い魔召喚の不可 【アレクサンド・アンデルセン@NANOSING】…身体能力・再生力の低下 【エネル@小話メドレー】…攻撃射程は最大でも100m、雷化は手足のみ、“心網”は1エリアのみ、思考の読み取りは不可 【ルルーシュ・ランペルージ@コードギアス 反目のスバル】…対象一人当たりにつき体力・精神力の消耗大 【セフィロス@リリカルなのはStrikerS片翼の天使】…身体能力・魔法攻撃力の低下 【殺生丸@魔法妖怪リリカル殺生丸】…嗅覚の低下、飛行で消耗大 【ヴァッシュ・ザ・スタンピード@リリカルTRIGUNA s】…攻撃射程は最大500m、攻撃後の消耗大 【ミリオンズ・ナイヴズ@リリカルTRIGUNA s】…攻撃射程は最大500m、攻撃後の消耗大 【ヒビノ・ミライ@ウルトラマンメビウス×魔法少女リリカルなのは】…変身後も人間大、変身後の強制休養、技の消耗大 【C.C.@コードギアス 反目のスバル】…極度の致命傷以外は時間次第で治癒、ギアス提供・精神攻撃は不可 【アンジール・ヒューレー@リリカルなのはStrikerS片翼の天使】…マテリアルパワーは消耗大。変身・双方向コピー不可 【アレックス@ARMSクロス『シルバー』】…再生力の低下、ARMS変化は腕まで・消耗小、“ブリューナグ”の槍は消耗大 【キース・レッド@ARMSクロス『シルバー』】…再生力の低下、ARMS変化は腕まで・消耗小、“超振動”で消耗大 【相川始@魔法少女リリカルなのは マスカレード】…変身後の疲労大、ジョーカーの欲求大 【キング@魔法少女リリカルなのは マスカレード】…変身後の疲労大、極度の致命傷はカード化(死亡)、それ以外は時間次第で治癒 【金居@魔法少女リリカルなのは マスカレード】…変身後の疲労大、極度の致命傷はカード化(死亡)、それ以外は時間次第で治癒 支給品の制限 1.デバイス系 ・デバイス類は、起動だけならどの参加者でも可能 ・カートリッジがあれば魔力の無い参加キャラでも、簡易なものなら回数制限付きで魔法使用可能 2.ライダーベルト系 ※龍騎系ライダーベルトについて ・12時間に1人、契約モンスターに「生きた参加者」を喰わせないと所有者が襲われるようになる ・参加者を1人喰わせると猶予が12時間に補充される。猶予は12時間より増えない ・変身や契約モンスターの命令を1分継続させる毎に10分の猶予を消費する ・猶予を使い切ると変身や命令は解除され、契約モンスターに襲われるようになる ・所有者が自らの意識でカードデッキを捨てると契約モンスターに襲われる。無意識、譲渡、強奪は適用外 ※555系ライダーベルトについて ・ライダーベルトとツールは1セット。ただしフォンは別 ・参加者は誰でも変身可能。ただし、オルフェノクに変身出来る訳ではない ・カイザ、サイガ、オーガに変身した場合、上位オルフェノク級の高次種族以外は灰化して死亡 ※ブレイド系ライダーベルトについて ・参加者は誰でも変身可能。ただし同時に使えるアンデットの力は5体まで ・一部の参加者は例外 ※カブト系ライダーベルトについて ・ベルトのみ支給品指定。ゼクターは変身時のみ、どこからともなく飛来する。 ・ゼクターに認められなければ変身出来ない。各ゼクターの資格条件は、以下のものを精神的に満たしている事。 ・カブト……自信 ・ザビー……調和 ・サソード……復讐 ・ドレイク……自由 ・ホッパー……絶望 ・クロックアップはごく短時間のみ。使用後には疲労有り ※電王系ライダーベルトについて ・参加者は誰でもイマジン無しで変身可能。ただしライダーパスとベルトは別々 ・剣が得手とする、及び得手の武器が無い参加者はソードフォームに変身可能。剣以外の武器を得手の場合は、対応したフォームに変身可能 ・ゼロノスベルトも、ライダーパスとベルトは別々。ベガフォームは使用不可 ・ゼロノスカードは所有者を知る他参加者の数に比例。忘却後に再度記憶されれば、カードは補充される 3,火竜@FLAME OF SHADOW STSについて ・デバイスの中に“力の塊”として封印され、参加者に触れられるまで一切の行動が不能(虚空は例外) ・参加者が触れると火竜が体内に宿り、使用可能となる。その際、腕に火竜の頭文字が刻まれる ・宿っている参加者が死亡すると“力の塊”状態となって体外に出る。火龍の記憶は維持される ・能力を使うには火竜の頭文字を描く事が必要 ・能力を使用する度に体力と精神力を消耗する。度合いは発動した能力の規模に比例 バトロワまとめへ TOPページへ
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最終話 遥かなる時の魂への凱歌 ソルグラヴィオンはゼラヴィオンと対峙する。ソルグラヴィオンの手には超重剣が握られていた。 「のんびりしてられない、一気に決めよう。スバル!」 「はい! 皆行こう!」 『了解! うおおおおおおおおお!!』 ソルグラヴィオンは背中のブースターのロケットを動かしゼラヴィオンに斬りかかる。 しかしゼラヴィオンは自分の胴体をいくつものパーツに分離し、超重剣の攻撃を避ける。 「なら、なのはさん!」 「わかった、ソルグラヴィトンノヴァーーーーーーー!!」 ソルグラヴィオンの前に見えないレンズを展開させ、肩のキャノンから重力子エネルギー波を発射させ、レンズで拡大させそのエネルギー波はゼラヴィオン全体を覆いつくす。 そのエネルギーの爆発で光が広がり皆思わず目が眩む。 「やった?」 スバルが確認しようとすると、前には無傷のゼラヴィオンが存在していた。 「まだ頑張らないとね」 「全然効いてないんだね」 なのはとアリシアがゼラヴィオンの無傷を見て気を引き締める。 「ここからが本番ですね」 「でも急がないとヴェロッサさんが……」 ヴェロッサがカリムのいる部屋に突入した事は既にグランナイツの皆は知っている。ここでゼラヴィオンに時間を食われてはヴェロッサの援護に行けない。 なら早く倒させねばならないのだがゼラヴィオンは強い。何とかしないといけない。 その頃ヴェロッサは何とかはやてに刺された傷口を塞ぎ、慣れない剣でカリムと生身で剣での決闘をしていた。しかしヴェロッサとカリムはあまりそう言った武器を持って戦うのをした事が無い。 しかしその割にはカリムの剣捌きはなかなかのものであった。ヴェロッサは何とかつば競り合いに持ち込んでいた。 「人類は穢れた存在よ。欲望と争いにまみれた歴史に今こそ終止符を打つのよ」 「あなたはジェノサイドロンシステムに心を汚染されている。人間はあなたが思っているほど醜い存在じゃない! はやての姿を模したアンドロイドをそばに置いているのは、カリム! あなたも人の魂を失っていない証拠だ!」 ヴェロッサはつば競り合いでカリムを後ろに退け自分も一旦後ろに下がる。 「ロッサ!」 カリムは走りながらヴェロッサに斬りかかり、ヴェロッサは一歩手前で避ける。しかし剣は避けたもののその次にカリムは左手でヴェロッサの顔を殴り、片足をヴェロッサの腹にめり込ませる。 ヴェロッサはその勢いで思わず伏せこんでしまう。 「はやての名前を口にしないで。あなたがもっとはやてを気遣っていればはやての病に気付いていたはずよ。はやてを死なせたのはあなたよロッサ!」 ソルグラヴィオンはゼラヴィオンの強さに苦戦を強いられてしまう。 「こうなったら、ティアナいくよ!」 「はい、アリシアさん!」 ソルグラヴィオンは両手を合わせる。そして両手が高速回転を始める。 「「ソルグラヴィトン、スパイラルクラッシャーーーーーーナッーーーーーーーーークル!!」」 大回転した拳がゼラヴィオン目掛けて飛んでいく! ゼラヴィオンは何とその攻撃を片手で受け止め、攻撃を完全に防ぎきる。 飛んでいった両手はきちんとソルグラヴィオンの元の位置に帰っていった。 「効かないなんて…」 「何かないかな、一気にあいつをバァーって倒すすごい方法が……」 スバルのその言葉でリインは思い出す。いつか遊園地の島でゼラバイアがゴッドグラヴィオンを侵食した際、自分の認識して崩れ落ちた事を…。 「私が行きます」 「え?」 「ジェノサイドロンはリインを感知すれば停止します。騎士カリムが私を守るためにそうプログラムしてるです。 私が姿を見せればあのジェノサイドロンの動きも止まるかもしれないです」 しかしそれはある意味無謀である。武器を持たない自分の姿を敵にさらすというのは自殺行為に等しい。 「でもそんな事させられないよ」 「プログラムが書き換えらていたらどうするの?」 スバルとティアナが心配する。 「騎士カリムにリインを思う気持ちが残っていたらプログラムはそのままのはず…、リインはカリムさんを信じたいです。 どんな姿になっても騎士カリムには人の心が残ってるって……」 リインはそう言うと、Geoキャリバーのコックピットから外に出て、ゼラヴィオンの前に姿をさらし出す。 しかしゼラヴィオンはリインの姿を見ても攻撃を止めず、ソルグラヴィオンに攻撃を仕掛ける。 その攻撃は幸いにも直接当たらなかったため、リインも怪我はしなかった。それでもゼラヴィオンは次の攻撃を仕掛けようと手に剣を形成する。 流石にまずいと判断したなのはがGeoミラージュから出てきてリインを連れ戻そうとする。 「リイン! 中に入って!」 なのはが走るもゼラヴィオンは剣を振り下ろす。その時リインは叫んだ! 「カリムさーーーーーーん! やめてください!」 その叫びがカリムかゼラヴィオンに届いたのか、ゼラヴィオンの剣はリインの目の前で止まった。そして剣はたちまち消滅した。 リインは剣が自分の目の前までにあったせいかその場で意識を失い倒れそうになるも、なのはが何とか受け止める。 「スバル、今だよ!」 なのはがスバルにゼラヴィオンに攻撃を指示する。 「わかりました! 超重剣!!」 ソルグラヴィオンは地面に刺さっていた超重剣を持ち、ゼラヴィオンの胸に突き刺した! スバルは叫ぶ! 「エルゴ、ストーーーーーーーーーーーーーーーム!!」 超重剣の先端から現れる重力の渦がゼラヴィオンを巻き込み、ゼラヴィオンは跡形も無く完全に消滅した。 その際ゴーマから光が飛んでいくように見え、その光からグラヴィオゴラス司令室の方でもゼラヴィオンの消滅を確認した。 「ゴーマ内部に爆発確認!」 「敵のエネルギー波が消えていく!」 その様子は映像を通じてグラヴィゴラスの中にいる人達だけでなくミッドチルダにいる人達にも届く。そして皆が歓喜の声を上げた。 カリムのいる部屋では未だにヴェロッサとカリムが戦っていた。 「カリム……」 「まさかリインを助けるためのプログラムが命取りになるなんてね……」 カリムはあざ笑うかのように言うがその言葉でヴェロッサは確信した。 「やはりあなたには人の心が残っていた。どれだけ否定してもあなたも人間だ」 「くだらないわ。こうなったらこのゴーマあの世界に完全に送り込んで消滅させてあげるわ。それだけも十分おつりが来るわ」 「そうはさせない!」 ヴェロッサがカリムを斬ろうとするもヴェロッサの剣はカリムの剣に弾かれてしまい、ヴェロッサは剣を手放してしまった。 「くっ!」 ヴェロッサは思わず地面に手を付いて伏せてしまう。 「私達の因縁に決着を着けるときが来たようね。はやての元で罪を償いなさい、ロッサ!!」 カリムが剣を振り下ろそうとしたその時! 「カリム、やめてな」 「「?!」」 突然のはやての声に二人は驚きはやての名を口にした。 「「はやて」」 「カリム、その人をこれ以上傷つけるのはやめてえな」 そのはやての顔は哀しそうな顔であった。 「まさか、コピーしたはやての人格が…意識を持ったの!?」 ヴェロッサはカリムが動揺している隙を見て、何とか剣のところまで戻り剣を握る。 「永い時をあなたと過ごしているうちにあのはやては人の魂を宿したんだよ」 「……そうね………」 二人は剣を構える! そして勝負は一瞬で決まった! カリムが振り下ろす剣をヴェロッサはカウンターのように受け止めながら想いを込めた剣がカリムの剣を叩き折った! 「流石ね、ロッサ……」 剣が折れたのと同時にカリムは倒れてしまい、ヴェロッサは倒れるカリムを支える。 そしてヴェロッサはカリムを寝かせようとするとカリムの左目部分にあった機械的なものを消えていき、憎しみに満ちた顔がヴェロッサの知っている優しい顔に戻っていった。 「カリム」 「ロッサ、ごめんなさい。ジェノサイドロンシステムが停止して、思考コントロールから解放されたわ」 「カリム義姉さん」 ヴェロッサの目には涙が溜まっていた。 「こうやって人の心を取り戻す時が来るのを私は待っていたのかもしれない…。ありがとう……ロッサ…………」 そしてカリムは目を閉じ息を引き取った。 「義姉さん! カリム義姉さん!!」 カリムが息を引き取るのと同時にアンドロイドのはやての体も青い炎に包まれた。はやては炎に包まれながら倒れているカリムのそばに立つ。 「はやて……」 「ロッサ、カリムの魂は私が連れてく。その方が幸せやと思う。だから……さよならや、ロッサ………」 はやてはカリムを抱く。その時のはやての顔は哀しみもあったがどこか嬉しそうな顔していた。そのはやても心のどこかでこうなる事を望んでいたのかもしれない。そしてカリムとはやては一緒に消滅した。 「終わった……」 ソルグラヴィオンはゼラヴィオンを倒してヴェロッサの捜索にあたっていた。 「ヴェロッサさんどこですか? もう脱出したんですか?」 スバルが呼びかけるとヴェロッサから通信映像が入った。 「リイン…」 「ヴェロッサさん」 「すまない、リインお別れだ」 『え!?』 全員が驚愕した。ヴェロッサはゴッドΣグラヴィオンのコックピットの中でこう続けた。 「全ては終わった。僕に残されているのは自分の罪を償う事だ」 「何を言ってるんですか!? ヴェロッサさんはもう充分罪を償ってるです!」 「あたし達や教会の人達を放り出す気ですか!?」 「ヴェロッサがいなくなったら教会のシスターは失業しちゃうよ!」 「そう言う事言ってる場合じゃないでしょ!」 アリシアのちょっとした冗談をティアナが突っ込む。 「ヴェロッサ、教会の人達だけじゃない。シグナムさんやシャマルさん、それにヴィータちゃんも君の帰りを待ってるんだよ!」 「僕は何千年もの時からこの時を待ち続けていた。一人の人間に戻れるときを…。安らぎに包まれる時を…。タナトスが呼んでいるもう眠らせてくれ……」 「そう言うわけにいかんな!!」 突然ヴァイスが通信に割り込む。どうやらGNフラッグがゴーマに向かっているようであった。 「え? ヴァイス陸曹?」 「お前は本当に罪を償ったのか? いやそうじゃない! お前はまだ罪を償っていない! グラヴィオンの圧倒的な性能に俺は心奪われた。この気持ちまさしく愛だ!」 『愛!?』 ヴァイスのとんでもない発言に皆唖然とした。 「だが愛を超越すればそれは憎しみとなる。そして俺はお前いやグラヴィオンとの対戦を望んでいる! お前は俺が抱く愛の憎しみの抹殺と対戦の約束を放棄して罪を償ったとは言えんぞ! ヴェロッサ・アコース!!」 「すまない……、それでも僕は……」 「ヴェロッサさん……、ふざけないで下さい!」 スバルがぶちきれた。 「スバル……」 「一人だけバックれて虫が良すぎです! グラヴィオンに無理矢理乗せられたのは別にいいですけど、あたしはまだギン姉の居場所を聞いてないんですよ! 一人だけ中途半端に逃げるなんてそうはいきませんよ!」 (仕方ないな…) ドゥーエは最後の切り札と思う事を考え口にした。 「ギンガ、ギンガ聞いてる!?」 「え? ギン姉?」 ドゥーエが突然ギンガの名を口にしたのでスバルは戸惑った。 「とりあえずシスターシャッハを連れて行きなさい! ヴェロッサを止められるのはあなた達だけよ」 「ギン姉、どこに?」 「うおおおおおおおおおおお!!」 それと同時にグラヴィゴラスの先端部分がゴーマに突撃をかけ、GNフラッグも少し遅れて突撃した。 GNフラッグからヴァイスが降りようとする前にグラヴィゴラスの先端部分が展開され、そこにはクロノとシャッハの姿があった。 クロノは何故か大きなフードの付いたロングコートを着ていた。 彼が普段防寒目的だけで着ている無骨なデザインのそれは明らかに季節外れでフードを深く被りボタンを全てとめられ体型もわからない。 クロノはすぐ右手でコートの胸元を乱暴にグッと掴んだ。 「仮面は置いてきた…もうこんな変装で正体を隠す必要もない!」 そしてクロノ…いやギンガは決別とばかりにその男物のロングコートをバッと脱ぎ捨てる。 とめられたままのボタンがブチッブチッ!と嫌な音を立て弾け飛び乱雑に投げ捨てられ強風に一瞬で吹き飛ばされ消えていくロングコートの下からバリアジャケットを着たギンガが姿を現し、シャッハと共にヴェロッサの方に跳んでいく。 「「(ヴェ)ロッサ!」」 『えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?』 ドゥーエ以外の皆が驚きを隠せなかった。それはGNフラッグにいたヴァイスも同じだった。 「おいおい、あいつがギンガだったのか…」 「ギンガ、シャッハ!」 ヴェロッサが二人を受け止めようとしたら、二人からもろに鉄拳制裁をくらった。 『あれ?』 てっきり普通に受け止められると思ったのにその予想とは大きく違ったので皆リアクションに困った。 「ロッサ、勝手に逃げる事なんて許しません! あなたと会ってから私の人生観は変わったんですよ。あなたがここに残るのなら私は無理矢理でも連れて帰ります!」 「ヴェロッサさん、私はね、そう言う所を認めて一緒に居たんじゃないわよ。あなたのミッドチルダを思う気持ちに感応して居たの。これ以上そんな事言うのなら……」 シャッハとギンガは指を鳴らして、また殴る体勢に入ろうとしていた。 「ごめん、今ので目が覚めた。僕にはまだやることがあるようだね…」 「「そうそう」」 「え? クロノさんがギン姉って何で?」 その経緯はソルグラヴィオンとゴッドΣグラヴィオンとGNフラッグが合流してゴーマ脱出の際にゴッドΣグラヴィオンにいるギンガが教えてくれた。 「あの仮面には最初のクロノから繋がる今までのクロノさん記憶が受け継がれるの。仮面をつけてる間は私もクロノさんの一人だったの」 「でも何で声や性別まで?」 「あの仮面は昔聖王が性別を偽るために使っていたものをアレンジして作られたもので女性が男性、男性が女性になる事もできるもの。そしてあの仮面はクロノさんをベースにしてたの。 それとあの仮面はティア、あなたのお兄さんから受け継いでたの…」 「兄さんが……」 ティアナはその時の兄の姿を思い浮かべてみる。きっとミッドチルダの為に懸命に戦ったのだろうと…。 「じゃあ、あたしはずっとギン姉と一緒にいたって事に……」 「黙っててごめん。でもあの仮面をつけてる間はクロノさんにならないといけなかったの。許してくれる?」 スバルは笑顔で答えた。 「うん!」 「俺は許したくないけどな」 「あなたに言ってないわよ、ヴァイス陸曹」 ヴァイスの言葉にギンガが突っ込む。 「あの思ったんだけどギン姉ってヴァイス陸曹と知り合いなの?」 「まあ、知り合いと言えば知り合いね」 「ためしに一度付き合ったことがある仲だよ」 「え!?」 「でも付き合ってすぐに陸曹は違う子を口説いてたでしょ」 「あの時のパンチは痛かったぜ。まさか妹に同じパンチをくらうなんてな……」 ソルグラヴィオン、ゴッドΣグラヴィオン、GNフラッグのコックピットからしばらく笑い声が絶えなかった。 「ところでヴァイス陸曹、さっきグラヴィオンに愛だとか言ってましたけど…」 「あれ本気ですか?」 「いや、本気と言うかなんと言うかな…。憎しみってのは嘘だよ。ああでも言わないと死にに行きそうだったからな…」 「それはすまなかったね」 「でも圧倒的な性能に心を奪われたってのは本当だな。そんでももって戦ってみたいってのも本音だ」 「ならいつか戦ってあげるよ…都合がいい時にね…」 ヴェロッサは笑いながらヴァイスに答えた。そしてようやく出口が見えた。 「……皆帰ろうか」 『うん(はい)!』 全員がゴーマから脱出し終えた直後突如とアラート鳴り響く! アラートが示す方向ではゴーマに異変が起こる。 ゴーマが星状の形をしていたのがバケモノのような姿へと変化していったのだ! 「ゴーマが超巨大ジェノサイドロンに変形してる!?」 「嘘! まだ終わってなかったの!?」 「システムが完全暴走してるんだわ」 アルト、ルキノ、シャーリーも驚きを隠せない。ゴーマは腹部周辺にゴーマ内全てのエネルギーを溜め込む。 「ゴーマはありったけのエネルギーをグラヴィゴラスにぶつけた後転移させてミッドチルダにぶつける気だわ!」 「回避は……間に合わない!」 「どうすれば……」 スバル達にも緊張が走る! ヴェロッサは少し黙り込み最終手段を取る事を決意した。 「グランナイツの皆、最終合神をする!」 「最終合神?」 「そんなものまであるの……?」 ティアナやドゥーエは突然の発表で少し困惑した。 「ソルグラヴィオンとゴッドΣグラヴィオンでの合神、グラヴィオンの最終形態…、スバル、エルゴフォームだ!」 「わかりました! エルゴ、フォーーーーーーーーーーーム!!」 スバルの掛け声と共にソルグラヴィオンの胸から赤いエルゴフィールドが展開され、ソルグランディーヴァが一時グランカイザーと分離し、 ゴッドΣグラヴィオンの方も一部が分離してグランΣが変形を行う。そして分離した部分とグランΣの変形した部分がグランカイザーと合神し、ここに真の最強のグラヴィオンが誕生した。 『最強合神!! アルティメーーーーーーーーーーーット、グラヴィオーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!」 「おいおいおい、マジかよ……」 隣に居たヴァイスはグラヴィオンの合神を真直に見ていたためにその無茶ッぷりのある合神で戸惑いを隠せないでいた。 「グラヴィゴラス、中央のボタンを押してくれ。シールドに使っていたエネルギーを全て放出する。グラヴィゴラスの最後の手だ!」 『了解しました! 重力子エネルギー照射!!』 グラヴィゴラスの先端のドリルの中心から重力子エネルギーがアルティメットグラヴィオンの背中目掛けて照射され、アルティメットグラヴィオンのエネルギーは限界を越える! 「重力子エネルギー限界突破!」 「行くぞ! 皆!」 『おお!!!!』 ゴーマからエネルギーが放たれると同時にアルティメットグラヴィオンも炎を纏い、炎はまるで大きな鳥のような姿を形取りゴーマのエネルギーに正面から立ち向かった! そしてぶつかる二つの力はアルティメットグラヴィオンが勝ちアルティメットグラヴィオンはゴーマの中心に向かって手に持つ剣を振り下ろした! 『超重炎皇斬!!!!!!!!』 そのすさまじい力はゴーマの中心を突き破っただけでなくゴーマそのものを完全に斬った! 「エルゴ」 「エンド」 スバルとなのはの言葉と同時にゴーマは斬られた中心部分に体が収束されるかのように崩壊していき、そして完全消滅した! ここにゼラバイアもといジェノサイドロンシステムはこの世から完全に姿を消した。 『やったーーーーーーーーーーー!!!』 ゴーマの完全消滅はモニターされており、グラヴィゴラスにいるシスター達だけでなくミッドチルダに住む皆も歓喜の声を上げた。 「チンク姉、あいつら本当にやりやがったぜ!」 「ああよくやったな、スバル」 「もうすごかった!」 「グラヴィオン、最高ーーーーーーーーーッス!!」 ノーヴェ、チンク、セイン、ウェンディも喜んだ。 次元航行空間で近くに見ていたグラントルーパー部隊の皆もただ喜んでいた。 「やったね、オットー」 「彼らのおかげだよ」 「ありがとう、グラヴィオン」 「ヴェロッサ、やったな……」 ヴィータも笑顔で喜んだ。 「あそこまで合体されたら勝てるかな……」 先ほど戦おうと言ったヴァイスだがあそこまですさまじい力を見せ付けられると少々困惑してしまう。 「中将、やりましたな」 「最後まであいつらに頼ってしまうとはな……」 「しかしこれは皆の勝利であると思います」 秘書でありレジアスの娘のオーリスが喜びながらもいつもの態度でレジアスに進言した。 「ふ、そうだな」(ありがとう、友よ……) (この世界にあらゆる存在、そしてあらゆる人の心、すべては美しく輝いている。皆健やかにそしてどこまでも美しくあれ) ヴェロッサは帰還する中、世界中の皆に向かってそう思った。 そして機動六課は、ゼラバイア消滅を気に解散。皆それぞれ別々の新しい生活に入ることになった。 シグナムとシャマル、ザフィーラはヴェロッサの元には帰ってきたりするものの自分達の力を生かすためにシグナムは正式に地上部隊、シャマルは医療隊、ザフィーラは監査官をする事になった。 エリオ、キャロはルーテシアの母が見つかり、ルーテシアと共に自然保護官としてやっていく事にした。 シャーリー、アルト、ルキノはそれぞれ自分達の能力を生かすために様々な役職を転々とした。 ドゥーエはスカリエッティの元に帰り、管理世界にある黒の組織に潜入捜査官として活動、ギンガもそれに付き合うことにした。 ティアナは前々から志望していた執務官への道を歩むために執務官研修から始めた。 アリシアは世界を見て回りたいとの事で小さいながらも旅に出た。 なのはは正式にヴィヴィオを引き取り、戦技教導官への道を歩む事し、その間にヴィータと仲直りし、ヴィータと共に歩む事になった。 そしてスバルは古巣に戻った途端、スバルが最初っから希望していた自然災害救助隊への転属が叶い、一部隊の隊長として活躍する。 機動六課のメンバーがいなくなった聖王教会では静かな時が長く続いた。 「静かだね」 「そうですね…」 ヴェロッサとシャッハはコーヒーを飲みながらその静かなひと時を過ごしていた。 (この静かで美しい日々が続くように……) 超魔法重神グラヴィオンStrikerS Fin 前へ 目次へ
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なのは達は、ついに奴らを追い詰めてた。 「まってー。ロスト・ロギアを返して!」 追われるのは、ミレンジョ、コケマツ、スカドンの三悪。 人呼んでミレンジョ一味。 一人足らないけど。 なのは達はこの三人にロスト・ロギアを持ち逃げされたのだ。 「しつこい連中だねぇ、なんとかおし」 ミレンジョがいらついた声を上げる。 「任せてください、ミレンジョ様。今回のは自身があるんですよ」 「そうかい、そうかい。なら、やっておしまい」 「イチジクニンジンさんしょの木 ごぼうにどろぼうバッテン棒 やって来い来い巨大メカ」 いろいろあって、巨大メカはやられました。 巨大メカの残骸が散らばる中でバインドで拘束された一味がすごい勢いで土下座をはじめる。 「神様仏様なのは様、どうかお許し下さい。心を入れ替えて真人間になりますから。どうか、どうか」 そのまま地の底に潜っていきそうに見える。 「ちゃんと、罪を償って下さいね」 ミレンジョが胸の前で手を合わせて哀れっぽく泣いている。 「償います、償います。でも、どうか最後に家族と話をさせて下さい。ほら、お前達も頼むんだよ」 コケマツが涙を拭いている 「小生には妻と3人の子供がいるんです」 スカドンも叫ぶ 「かーちゃーーーん」 「皆さん、家族思いなんですね」 なのはの目にきらり光るものが出てくる。 それを指先でぬぐい、3人に背を向けて少し離れる。 「現場を見てきます。その間、ご家族に連絡されても私、気づかないかも知れません」 なのはが離れていくと、コケマツは隠していた怪しいメカを動かしはじめる。 「ほら、さっさと今のうちにバインド外すんだよ」 「でも、あの娘の魔力、意外に強くてなかなか外れないんですよ」 3人は声を潜めていて周りには聞こえない。 実際スバルやティアナは気づいていない。 しかし、なのはは突然足を止めた。 「きー、くやしいねぇ。あの年でリリカルで魔法少女もないだろうに。アレじゃ魔砲少女じゃないか」 「でも、近頃は魔王少女って言われているみたいですよ」 レイジングハートが赤く点滅する。 「なのはさん、どうしたんですか?・・・・・ひぃっ」 ティアナは生まれてからこれ以上に恐ろしいものを見たことはなかった。 邪神とか旧支配者とかもこれほどではないにちがいない。 「大魔王少女になる日も近いだろうねぇ。アレじゃ嫁のもらい手もないだろうに」 「あ、わかりましたよ。それでですよ。結婚するまでは少女ってわけです」 スバルもなのはを見た。 あまりの恐ろしさに逃げたくなった。 でもエリオとキャロは守りたかった。 「エリオ、キャロ。見ちゃだめ」 二人を抱いてなのはを背中で隠す。 カートリッジシステムの破裂音が連続して響く。 なのはの足元には薬莢が山になっている。 いま、何本目かのマガジンを取り替えたところだ すでにレイジングハートは赤熱し、周囲の空間をゆがませていた。 「それじゃ、一生少女じゃないか。まったく厚かましい女だね」 なのはがゆっくりと振り向いた。 レイジングハートを3人組に突きつける。 「全力全壊の大・激・怒!!!ディバイーーーーーンバスタぁアーーー、シューーーーートっ」 地は割れ 山は燃え 海は枯れ果てた 天はその有様に涙した 「ねえ」 「なに?」 「なのはさん、ランク元に戻したのかな」 「知らないわよ」 ドクロの煙が舞い上がった。 「任務完了。みんな、撤収しよう」 ロスト・ロギア、ロスト・ロギア、どこにあるのかロスト・ロギア 誰かロスト・ロギアを知らないか… 単発総合目次へ その他系目次へ TOPページへ
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機動六課所属、グリフィス・ロウランのメモより抜粋、メモにつき敬称略 魔法防御リリカルラッセル ラッセル・バーグマンは機動六課に招かれました! ラッセルはヒリュウ改オクトパス隊で隊長の背をまもる縁の下の力持ちです。 刈り込んだ茶毛髪に、常時こまったようにへの字を描く眉、自信なさげな口もと。 情けない柴犬をみているような気分になるのは――いえ、なんでも。 たとえばこんなときに、ラッセルは役に立ちます! ―― 「スバル!」 「え……!?」 ティアナが『必中』の意思のもとに放った魔力弾の一つがウィングロードをはしるスバルへむかった! 直撃コースだ! 「スバルさん! ここは自分が!」 量産型ゲシュペンストmkⅢが暴走したクロスファイアシュートを受け止めました! ゲシュペンストの装甲が特に固い部分――増加中空装甲『チョバムアーマー』で魔力弾をうけとめ、自機のダメージを最小限におさえつつスバルを守ったのでした! 「ラッセルさん……ポッ」 「ありがとう、ラッセルさん」 「いえ、これが役目なので! そちらもがんばってください!」 ラッセルは『応援』と『激励』をふたりに投げかけ、逃げ回るがジェットドローンにフル改造したマシンガンを叩きつけました。 予断ですが、ラッセルの『応援』と『激励』をもらったふたりは、高出力の魔法を自在に使い、二倍の速さで経験地をかせぎました。これもラッセル効果のひとつです! ―― 「おかしな……どうしちゃったのかな、ふたりとも」 高町なのははレイジングハートをモードリリースし、ティアナの魔力刃とスバルの拳をうけとめました。虚ろな、目線――そばに見なければわからないほどですが、彼女の瞳はうるんでいました。 「わたしは……強くなりたいんです! ファントム・ブレイザー!」 「なのは隊長! あぶない!」 「え? わたしいま迎撃しようと思――!」 突然の援護防御におどろいたなのはは、クロスファイアシュートを発動できませんでした。 逆にティアナはファントム・ブレイザーを完成させました。魔力の奔流がラッセルと量産型ゲシュペンストmkⅡに叩きつけられますが、ラッセルは『ハイブリットアーマー』を盾に砲撃を受けきりました。ついでに『鉄壁』も掛かっていたそうです。 「ラッセルさん……ぽッ!」 高町なのははラッセル・バーグマンに感謝以上の感情を抱きながら、ティアナをやさしく諭し、なのはとティアナの関係は良好なものになったそうです。 ―― ユニゾン・インしたリィンフォースと呼吸をあわせ、騎士ゼストと戦っていたヴィータは、うまく時間をかせぎゼストを撤退にまで追い込んだ。 しかし融合騎アギトはゼストとの融合を解除し、ヴィータの頭上で火球を構成しました! ヴィータはアギトへむかいギガントシュラークをふりかぶりますが、騎士ゼストは彼の槍をフルドライブさせヴィータを撃墜しようと迫りました! 「ヴィータ副隊長! あぶない!」 どう考えても援護が間に合わない状況でも、援護防御にやってきてくれるのがラッセルと量産型ゲシュペンストmkⅡです。 疾風怒濤の勢いで迫るゼストとヴィータの間に割り込み、『オリハルコニウム』が装備された箇所でゼストの槍を受けきりました! いきなり現れたパーソナルトルーパーに度肝を抜かれたゼストは、ヴィータの機転で捕縛され、ルーテシアともどもレジアス中将に保護されました。彼はいま、首都防衛隊の隊長をやっています。 ―― ラッセルの効力について、三つほど上げさせていただきました! どうでしょう、みなさまの部隊にパーソナルトルーパーを配備し、 格闘系/防御重視のパイロットを育てればたとえばこんなことも――。 ―― さて、こうしてラッセルは六課のお嫁さん――否、人気者にになりましたが―― 「ラッセル……はやく戻ってきてくれ……」 ヒリュウ改のコクピットで、カチーナ隊長は涙ながらに言ったそうです。やはり彼女も女の子のようで――(血でよごれて読むことができない) いえ、あのちょっとタコ殴りは――(血でよごれて読むことができない) いや、ですからカチーナさんにもかわいいところがあると――え? ラッセルに言われないとうれしくもなんともない? なんてこ――(血でよごれて読むことができない) ――こうしてラッセル・バーグマンはヒリュウ改にかえっていきましたとさ。めでたしめでたし。(どうやら折れた指で書いたようだ。字が汚い。) 戦史教科書p58 <学習と解説> これが、グリフィスメモとよばれる走り書きの内容である。 ラッセル・バーグマンによって構築された援護防御技術体系を最初に言及したメモとして残っている。 この六課出向後、ラッセル・バーグマンはすさまじいまでの二つ名を持ちえることになる。 パーソナルトルーパーやアーマードモジュールだけではなく、等身大の人間を援護防御したことが、彼の防御才能を大きく開花させたのだ。 偉大なる彼の二つ名は――『管理局の 「あ、そろそろ時間だ」 ヴィヴィオはザンクト・ヒルデ魔法学園支給の教科書をパタン、と閉じた。まったくもう、ぜんぜん興味のない話だった。 母親の所属していた機動六課のなまえがあったから読んでみただけ――。 買い物かばんをもち、学園をでて商店街に入るころには内容を忘れてしまった。 八百屋に寄って朝方なのはに頼まれたキャベツを買う。そこでヴィヴィオは、漫才を食い広げる男女をみつけた。 「あ、こら。そっちのキュウリよりもこっちのキュウリのほうがおいしそうだろ」 「でもそっちは高いので……」 「あぁん?」 「え、あの、すみません……」 「ふん……わかりゃあいんだよ、わかりゃあ」 綺麗なオッド・アイの女性とどこか情けない感じの男性が、手をにぎりながらキュウリを物色していた。スカートが大人っぽくて、化粧の綺麗な女性だった。顔には笑みがこぼれている。男性に悪態をついているとはとても思えない。 男性もまた、どこか自然に女性をエスコートしていた。たとえば、強盗やなにかにおそわれたとしても、男性は『鉄壁』となって、女性を守る気がした。 なんか、いいな。 ふたりの姿をみてヴィヴィオはそうおもった。 しあわせな気分をわけてもらったヴィヴィオは、足取りも軽く自宅へと帰っていった。 ママにもあんな、守ってくれそうな男の人ができたらいいな――犬の人はいやだけど。 単発総合目次へ その他系目次へ TOPページへ
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Lyrical Magical Stylish Mission 04 Tough Belief 「そのめんどくさいことに、なのはを巻き込んでいる張本人が何を言っているんだか」 「なのはは、傷つけさせません」 背後から聞こえてきた静かな、されど怒りの篭った声に、ダンテは肩をすくめ振り返る。 その先にいたのは、昨日見た管理局の執務官であるクロノと、見たことのない金髪の少女。 なのはの仕返しとは、要するにクロノをダンテにぶつけてやろうということだったのだが、フェイトまで来ているとは考えていなかったようだ。 もっとも、本人は既に学校へ向かって飛んでいってしまったのだが。 「クロノ・ハラウオン執務官」 「フェイト・テスタロッサ……一応民間協力者です」 「やれやれ、お前さんたちも飽きないねぇ。俺様捕まえたってなにもないぜ?」 フェイトと名乗った少女が、自身の杖を鎌に変化させる。その後ろでクロノが援護する態勢を取っている。どうやら、今回は本気でダンテを捕まえようとしているらしい。 「話は後で聞く。今は、質量兵器の携帯及び使用の現行犯だ」 「参ったね、どうも」 ダンテ自身も知っていた。管理局の管轄世界では質量兵器、要するに銃火器の類は厳しく制限されているということを。 ダンテに言わせれば知ったことではないの一言なのだが、そんな理屈が通用するなら管理局はいらないのだ。 そこでピーンと閃いたダンテはニヤニヤ笑いながらクロノに切り返す。 「ん? そーいやここは管轄外世界じゃなかったか?」 「……そうだが」 「管轄外世界でまでそっちの理屈を押し付けられる謂れはねーな」 確かにそうだ。だが、ダンテの子供じみた屁理屈にもクロノは諦めない。管轄外世界だろうと、管轄世界の住人には罰則が適用できる。 しかし、クロノが渋い顔をしながら告げたのは違う事柄だった。 「……この国には銃刀法という法律がある」 「それを言うべきはこの国の警察だろ。お前等じゃない」 「ぐっ……」 そこを突いたダンテの屁理屈に納得してしまい、そこから先が続かなくなりそうだったクロノをフェイトが助ける。 「なのはに何を吹き込んだか知りませんが、彼女を危険に晒した貴方を、私は許さない」 「ヘイヘイヘーイ、事情も知らずに知った口を聞くもんじゃないぜお嬢ちゃん。 というかな、見てたならお前たちも参加すりゃよかったじゃねーか。パーティに飛び入りは付き物だろう?」 「それは……」 結果的になのはたちに加勢しなかったフェイトは、ダンテの発言に言葉を詰まらせる。その間に立ち直ったクロノはそんなフェイトを一瞥し、助け舟を出すかのようにダンテに詰め寄る。 「隔離結界すら張らずに戦闘行為を行う貴様に言われる筋合いはないな。一般人が巻き込まれたらどうするつもりだった」 「さて、ね。そんな仮定の話をされても困るな」 「貴様……」 「怖かったんなら怖かったって素直に言いな。ガキは素直が一番だぜ?」 「貴方という人は……!」 どうやら、ジョークが通じる手合いではないようだ。ダンテの発言に怒った二人が殺気を膨らませるのを見て、ダンテは肩をすくめて言い放った。 ダンテ自身、引くつもりもない。 「やれやれ……ま、好きにしな」 「アルフ!!」 「お?」 フェイトがアルフに声を掛ける。すると、神社の周辺一体が大規模な結界に覆われた。俗に言う隔離結界である。 確かにダンテとなのはは張っていなかったが―――ダンテにそんな魔法知識も技術もない。なのはも結界は管轄外である。 そんな二人に結界を張れと言うのも酷な話であるのだが。 「へぇ、面白いことするな。と言いたいが」 「逃げ場はないぞ」 「逃げる? 冗談キツイぜ」 ダンテの言葉を遮りクロノがデバイスを突きつける。だが、ダンテの余裕は消えない。イフリートの出力を絞り、それでも炎が揺らめく両手足を存分に振るい、己の力を見せ付ける。 ダンテは口に出さなかったが、今この不安定な空間を覆ってしまうことにより、再び悪魔が召喚されるのではないかと危惧していた。 だが、ダンテに結界を解除する力がない以上、とっととこの二人を追っ払うしかない。 「さて、第二幕だ。かかってきな?」 「行くよ、バルディッシュ。アークセイバー!!」 「おおっと!」 フェイトの先制攻撃。滑るように飛んできた魔力の刃をダンテは身を捩って避け、背後に今の魔法が戻ってくるのを感じ、ニヤリと笑う。 「へぇ、俺の技によく似てるな。コイツは面白くなってきた」 ダンテの技、ラウンド・トリップよろしく背後から戻ってきた刃を、刃に相対して後ろに倒れこむことで避けつつ、足を引っ掛ける。 「う、嘘」 「バカな」 「イーヤッホーゥ!! ホゥ、ホーッホッホーゥ!!」 そのまま刃に足を絡め、さながらスノーボードでも駆るかのように刃に乗って空を舞う。フェイトもクロノも、ダンテのぶっ飛んだ発想とそれを実行に移す胆力に目をひん剥く。 だが、アークセイバーの上でダンテは舌打ちしていた。自身の危惧が現実になる、悪魔が出現する慣れた感覚を捉えたのだ。 まあ、この二人なら心配する必要もなさそうであるが、また面倒くさいことになりそうである。 「フェイト」 「分かってる。爆発させ―――クロノ!?」 「―――!?」 それでも、冷静にアークセイバーを爆発させようとしたフェイトは、クロノの背後に迫る謎の影に気付き、慌てて警告する。 クロノも僅かに遅れて禍々しい殺気を感じ取り、振り向くまでは良かったものの既に死神の鎌が眼前へと迫っており――― 「Let s get crazy yeah!!!」 奇声と共に発せられたマズルフラッシュがフェイトとクロノの目を焼く。 同時に迸った二匹の獣、ダンテの駆るエボニー&アイボリーの咆哮が、クロノに迫っていた死神の仮面をズタズタに打ち砕く。 「クロノ、しっかり!」 「分かってる!」 「Show you dance? 踊ろうぜベイビー! ハッハァー!」 ダンテはアークセイバーを操り、またしても現れた悪魔の群を切り刻んでいく。 もちろん、両手に握った愛銃も休む暇もなく弾丸を吐き出し、さながら竜巻のように周囲一体を蹂躙する。 「ホーッホッホゥ!!」 止めとばかりに、アークセイバーを思いっきり蹴り飛ばし、ダンテの背後に現れたデス・シザースの仮面を一撃で破壊。 その反動を利用して、ダンテは背中合わせになって戦っていたフェイト、クロノの間に、これまた背を向けて着地する。 「ホゥッ!」 「……狂っているな」 「ハッハハハ。パーティはまだまだこれからだ。なぁ、なのは?」 「そういうこと。せっかくなんだし、二人とも楽しんでいったら?」 「な、なのは?」 三人の周囲を白光が焼いたかと思うと、欠けた最後の場所になのはが再び舞い降りる。 フェイトは、銃を乱射する見知らぬ男と同じような凶悪な笑みを浮かべ、この異常事態にも平然とジョークを飛ばすなのはに、驚きの声を隠せない。 「ヘイなのは、お前さんの目論見ってのはこいつ等かい?」 「いやいや、さすがにここまでは予想できませんでした。ごめんなさいね? ピザとストロベリーサンデーで手を打ってくれると助かります」 「そんじゃしょうがねーや。ピザは当然オリーブ抜きな」 「分かってますよ」 「……おい」 「あん? それは俺に言ってるのかいボーイ」 「これは何だ」 「ハハハ、何でもかんでも人に聞かないで、たまには自分の頭で考えてみたらどうだい? オツムが悪いならしょうがねーけどよ?」 ダンテの人を小馬鹿にしたような台詞と笑みに、クロノはどうしようもない憤りを覚える。はっきり分かった、僕とこの男は致命的に相性が悪い。 「貴様……!」 「ダンテさん、あんまりクロノ君を挑発しないの」 「ダンテ? 貴様……」 「だから言っただろ、俺はトニーじゃないって。ほれ、テンダーをひっくり返してみな? おお、何とビックリ!」 テンダー。逆さまから読むとダンテ。だが、トニーだと思っていた者にダンテという名を想像しろなんていうのは少々酷だろう。 第二幕が上がろうとしている状況でそんなことを言っているダンテに、なのはは溜息を漏らす。 「……後でじっくり問い詰めさせてもらうぞ」 「イヤだね。デートのお誘いならお断りだ」 「ダンテさん、そーいうこと言ってる場合じゃないでしょ」 「やれやれ……」 四人の包囲網を徐々に徐々に狭めてくる悪魔の群。大量に出現した下っ端連中の奥に、ブレイドやアルケニーといったやや上級の悪魔がちらほら見て取れる。 だが、ダンテにとっては一人でも片手間で十分すぎるほどの敵だった。 「Let s start the Crazy Party!!」 ダンテの楽しそうな叫び声と共に、悪魔たちが一斉に襲い掛かってくる。ダンテはイフリートを構え、自ら進んで檻の中へと飛び込んでいく。 なのはもまた、自分のフィールドである上空に飛び上がり、自身に向かってくる相手を軽くあしらいつつダンテの援護を行う。 事態についていけてないクロノとフェイトであったが、ダンテやなのはよりも先に相手をしなければならないのは理解しているようで、 自身の得物を手に襲い掛かってくる悪魔へと一歩踏み出す。 「ええい、何がどうなっている!」 「分からないけど、やるしかないよ!」 バルディッシュが生む光の鎌が同じ鎌を得物とするヘル・プライドを易々と切り捨てる。 その横で、クロノの放ったスティンガー・レイが、二度目の強襲を仕掛けようとしていたシン・サイズの仮面を粉々に破壊する。 「何、この手ごたえ……」 「分からない。だが、少なくとも我々が知る何かではない」 クロノは戦闘の片手間にアースラへと情報を送り、解析を頼んでいた。だが、情報処理においてはクロノが全面の信頼を置いているエイミィからは未だ解析完了の知らせは来ない。 それどころか、類似する情報すら見つからないと言われている。 「なのは!」 「フェイトちゃん、どうしたの? この程度、フェイトちゃんなら楽勝でしょ?」 「そうじゃなくて……何が起こってるの?」 上空からの爆撃を敢行してるなのはの背後に回り、迫っていた死神を逆に狩り返しながらフェイトは聞く。 なのはの言動からはこの事態に対しての混乱が見られない、ということは、なのはは何かを知っている。 「うーん……まあいいか。フェイトちゃん、こいつ等は悪魔なんだよ」 「悪魔!?」 「そ。私も詳しくは知らないんだけど……」 なのはは一旦言葉を切り、アルケニーの腹へと拳を深く埋め込んでいるため、この瞬間だけは次の攻撃が行えないダンテへの援護射撃を行う。 フェイトは、そんななのはの話を聞こうとなのはの背に自身の背を預ける。 「分かるのは、敵だってこと。私たちの世界を破壊しようとする、絶対に許せない敵だってことぐらいかな」 「……それは、あの男の人から?」 「うん。ダンテさんはそんな悪魔を狩るために海鳴に来たって言ってた。だから、私は一緒に戦うの。この街は、私にとってとてもとても大切な場所だから」 フェイトは、なのはの言葉に思わず声を荒げる。それもそのはず、どう考えてもこの件は管理局の管轄であり、普通に考えたら個人がどうこうという問題ではない。 「だったら! そう」 「言えばいい? 確かにそうだよね。私もそう思う。でも、ダンテさんがそれをしないのにはきっと理由がある」 「……どうして、そこまであの人のことを?」 「よく分からないけど……話を聞く限り、ダンテさんはずっとずっと一人で悪魔と戦ってきた。 誰にも知られることなく、結果として指名手配されることになっても、あの人は立ち止まらなかった。そんな人だから、私はダンテさんを信じようと思ったんだ」 「なのは……」 「だから、私はダンテさんと戦う。決めたんだ。だから、今回はフェイトちゃんたちを手伝えない」 フェイトと戦ったときよりも、プレシアの居城に乗り込んだときよりも、強い決意をその目に宿らせてなのはは高らかに宣言する。 なのはの頑固さを知っているフェイトは、今回に関してはどうしてもこれ以上関われないことを知った。それでも、今このときだけは親友と一緒に戦おう。 近い未来、次世代のエースとなる二人が空中で魔力を爆発させる。雷光と白光が縦横無尽に踊り狂い、触れる悪魔を片っ端から消し飛ばしていく。 最強の悪魔狩人であるダンテ、そしてAAAクラスの能力を保有する三人の魔導師にかかれば、数が多いだけの悪魔など脅威にもなりえなかった。 こうして、第二幕が下りる。 悪魔たちを全て退けた後、結界が解除された境内でなのはは共闘した三人に向かって告げた。 「じゃあ、私今度こそ学校に戻りますね」 「おー。ちなみに、何て言って出てきたんだ?」 「お腹が痛いです」 「ハッハッハ、そりゃ急いで戻ったほうがいいな」 はぁ、と溜息をついて、なのはは空へ舞っていった。それを見送ったダンテは、もうこの場所に用はないと踵を返す。その背にかけられる男の声。 「待てと言っているだろう」 「嫌だね」 ダンテは振り向かず、されど立ち止まって答える。完全無視でもよかったのだが、今後また色々ちょっかいを出されるのも面倒くさい。 だったら、早めに釘を刺すべきだ。管理局の魔導師たちは、隔離結界を張らなければその力を行使できないというのは知っている。 「……話す気はないと」 「ああ。知りたきゃ自分で考えな。管理局のどっかにゃ資料の一つでも残ってんだろ」 「…………」 「…………」 「ああ、そうだ。あの隔離結界だったか? あれを張るのはやめときな。 あんなふうに空間を閉鎖するなんざ、出て来てくださいって言ってるようなもんだ。そんじゃ、忠告はしたからな」 あばよー、と手を振りながらダンテは階段を下りていった。それを見送る形になった二人の表情は険しいが、なんともいえない複雑なものを内包しているように見える。 「……どう思う、フェイト」 「なのはは悪魔って言ってましたけど……」 「悪魔、か。そんなものが実在するのか」 「分かりません……」 それでも、実際自分の目で見た光景を疑うことは出来ない。自分たちは確かに、今この場所で何かと戦ったのだ。禍々しい気配に常識外れの能力、悪魔といわれてみれば納得できないこともない。 「……何が起ころうとしている、この海鳴に」 クロノの呟きは虚空に溶けて消えた。その質問に答えを返せる二人は、だがしかし絶対に答えることはないだろう。 ダンテはともかく、なのはもまた自身の信念を持って今回の件に関わっている。そして、管理局の者として隔離結界を使わないまま戦闘行為を行うことは出来ない。 さらに、ダンテの言が本当かどうかを確かめるのも危険すぎる。事実上、クロノとフェイトは今後ダンテたちの戦闘行為に関われなくなっていた。 徐々に傾きつつある太陽を背に、なのはは隣を歩くダンテに問いかける。 「ダンテさん、悪魔って昼間から出るものなんですか?」 「昼は出ないと思ったか?」 「まあ……イメージ的に、夜のほうが出そうですし」 「ま、間違っちゃいねえがな。夜のほうが出やすいってだけで、真昼間から出る事だってよくあるさ。さっきみたいに、空間を覆っちまえば昼も夜も関係ないしな」 帰り道、なぜか校門に迎えに来ていたダンテと共に、なのはは坂を下っていく。ダンテの姿を見た親友二人が完全に引いていたのは気のせいだと思いたい。 「で、鍛えて欲しいんだっけか」 「ハイ。場所は道場でいいですよね?」 「まあ……お前さんが何を鍛えたいのかにもよるが、魔力だってんなら道場じゃ無理だよな」 「出来れば魔力が一番なんですけど、それ以上に何ていうのか、戦いの空気みたいなのが知りたいですね。いつ何時でも慌てずに対処できるように」 「お前本当に十歳のガキか? 発想がおかしいぜ」 「失礼ですね。まだ九歳ですよ」 「それこそクレイジーだ」 ダンテは嬉しそうに笑って手を叩く。かつて自身が九つだったころ、ここまで強靭な意志を持っていただろうか。なのははとんでもない魔導師になる、ダンテの予感は確信へと変わっていく。 「……今日、フェイトちゃんに言われました」 「フェイト?」 「クロノ君と一緒にいた金髪の子です。何でダンテさんは一人で戦うんだって。 これはれっきとした時空災害だし、管理局に相談なり通報なりすれば必ず動いてくれるのに、って」 ダンテの戦う理由。それは私怨であり、宿命である。悪魔と人間の間に生を受けた者として、決して人任せにして逃げることなどできない戦いなのだ。 だが、そこまで込み入った理由を話すほどダンテとなのはは同じ時を共有してはいなかった。 「……昨日も言ったがな、それに関しては」 「分かってます。言えないんでしょう? でも、言えなくても、ずっと戦い続けるだけの強い理由があるんでしょう?」 「……まーな」 「なら、いいんです。全部終わったら、教えてくださいね?」 「昨日も言ったろ? お前さんが十年後嫁に来るときに教えてやるってよ」 「…………」 二人が家に着いたときはまだ誰もいなかった。組み手をするには絶好のチャンスである。二人はさっそく道場へ向かい、板張りの床の上で向かい合う。 「さて……何を教えたもんか」 「うーん、どうしましょう。あんまり時間もないんですよね?」 「ああ、時間は少ない。そうだな……危険に対する感覚でも磨いとくか」 「?」 頭の上に疑問符を浮かべているなのはに、ダンテは苦笑しながら説明する。 かつて自分が戦った経験からして、なのはがバリアジャケットと防御魔法を併用しても、上級悪魔の攻撃には対応しきれないと踏んだのだ。 「俺は頑丈だからまだいいが、お前さんは上の連中の攻撃をまともに貰ったらそれで終わりそうだからな。 そうならんよう、防御と回避を鍛えるってことだ。そのためには、迫った危険に瞬時に対応できる感覚が必要なんだよ」 「攻撃じゃないんですね……」 「残念か? だが、今朝も言ったが、俺とお前じゃ攻撃スタイルが違いすぎて、教えられることがない。その点防御や回避ならまだなんとかなる」 ダンテの言うことももっともだ。武器と、それに己の魔力を付加する形で戦うダンテにとって、銃はまだしも射撃魔法となると完全に畑違いである。 なのはもまたそんなダンテの話に納得し、方針が決定される。 「と、いうわけでーっと。ホレ」 「わっ、とと……木刀?」 「杖の代わりだ。先っぽは付いてないが」 「はぁ……」 そういうダンテもまた、小太刀を二本持っている。肩に担ぐには長さが足りなすぎるのか、持った両手をだらんと下げている。 「というわけで、今からお前さんを攻撃するから、ひたすら防御に回避だ。頑張れよ」 「……反撃は?」 「出来そうならどうぞ?」 「言いましたね?」 「ああ。そんじゃ、始めようか」 ダンテがゆらりと前に出る。その瞬間、道場に濃密な殺気が溢れ、その全てがなのはに向かって叩きつけられた。 「え……痛っ!」 想像すらしていなかったダンテからの殺気に竦んだ瞬間、なのはの目から火花が飛ぶ。ダンテの小太刀が頭に直撃していた。 「ほれ、ボケッとすんな」 「うー……今のは」 「何言ってやがる、戦う相手に殺気を向けない悪魔なんていねーぞ?」 次行くぞ、とばかりに振るわれるダンテの小太刀。決して早くも力強くもない、ただ持ってるものを軽く振ってるだけの攻撃は、そのくせ一撃一撃に強烈な殺気を纏っている。 「きゃ、ちょっ……痛っ!」 「やれやれ、先が思いやられるな」 またしても頭を軽くであるがはたかれ、さすりながら呻くなのはを見てダンテは肩をすくめる。 恭也や士郎が一般人にしては相当強かったことからなのはもまたそうなのかと思ったが、意外や意外、全くの素人だった。 どうやら、運動に関してはおっとりとした母桃子の血を受け継いでいるらしい。 もっとも、ダンテにとって受けれる受けれない、避けれる避けれないは割とどうでもいいことなのだが。 (とにかく殺気に対する反応だよな。コイツが育たないと、奇襲に対して無防備すぎる) 悪魔にとって、壁や床は障害物ではない。戦ってるときもそうでないときも、いつだって壁や床から飛び出てくる危険性があるのだ。 その際察知の助けになるのが殺気に対する嗅覚であり、危険に対する反応である。なのはは、戦闘力以前にこれが致命的に欠けていた。 どんなに力が強くたって、後ろから刺されたらそれで終わりなのだ。 「そら、どんどん行くぞ」 ダンテ自身、体には殆ど力を入れてない。ゆったりしたコートも相まってモーションを見切って反応するというのは不可能だ。 剣が纏う殺気に反応して受けるなり避けるなりするしかない。速度的に目で追う事も出来るが、そうやって避けていくといずれ避けれなくなるよう計算して攻撃していたりする。 「目で追うな、体で感じろ」 「で、でも……!」 「それが出来なきゃ死ぬぜ?」 それでもなのはは、何度も何度も殴られながらようやくある程度反応が出来るようになっていた。 まだまだ多分に目で追っているし、反応してからの行動がダンテから見れば遅すぎるが、動作が一々緩慢な下っ端連中ならこの程度でも大丈夫だろう。 「げふっ……」 「はぁ……目で追いすぎだって言ってるだろ?」 そして、なのははダンテが何気なく繰り出した蹴りをモロに食らって倒れる。対峙した悪魔がどんな攻撃方法を持っているか、それはその場で見るしかない。 背後から攻撃できる悪魔もいるかもしれないし、周囲一体を攻撃できる悪魔だっているかもしれない。そのたびに食らっていては、命がいくつあっても足りるわけはない。 「ず、ずるい……」 「コイツでしか攻撃しないなんて一言も言ってないな」 「鬼……」 腹を押さえながら恨めしそうに見てくるなのはに、ダンテは肩を竦める。 「ヘイヘイ、勘違いしてんじゃねーか? スポーツの大会に出るんじゃないんだぜ」 一撃でも直撃を貰ったら死ぬ、そんな世界に飛び込もうとしているのだ。 「いいかなのは、覚えとけ。強いやつが勝つんじゃない、勝ったやつが強いんだ」 「…………」 「そして、殺せば勝ちなんだから、相手はどんな手を使ってでもお前を殺しに来る。死んだら卑怯もクソもない」 「わかって、ます……」 「ならいい。そら、休んでる暇はないぜ」 そしてダンテは攻撃を再開する。相変わらず、殺気だけは本物を纏った緩慢な攻撃が続く。 なのはもまた、ダンテの教えようとしていることを理解し、必死になって対応しようとしている。 ダンテは、なのはを直接狙った攻撃にのみ殺気を持たせるというとても器用な真似をしている。どんなに迫っても、フェイントには殺気がない。 「ぐっ……」 「反応は出来てたな。判断が遅いが」 「はぁ……はぁ……」 「ヘイ、いつまで寝てんだ?」 小太刀を突き出すというフェイントに騙され、蹴りを食らう。小太刀の柄で殴ろう、と見せるフェイントに騙され、逆の一撃を貰う。 始まる前は反撃してやると言ったことすら忘れ、なのははひたすらダンテの攻撃を捌こうと動き続ける。 「避けるときは次の状況を考えろ。自分を追い込むような避け方はするな」 「はい!」 「受けるときは勢いに押されないよう、しっかりと止めろ。それが出来ないなら受けるんじゃなくて流せ」 「はい!」 なのはが間違った動きをすれば、その都度その都度ダンテから攻撃を緩めないまま指摘が入る。なのはも必死で食らい付くが、そんな簡単に出来ることでもない。 それでも、ダンテはそう言う。それは、魔界に行くにあたって必須だからだ。そしてまた、小太刀の突きが額に直撃する――― 「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」 なのはは木刀を握ったまま、道場で大の字になって倒れていた。奇しくも今朝、兄恭也が取っていたのと同じポーズである。 全身から噴出した汗が床を濡らしていくが、そんなことを気にしている元気もなかった。 「大丈夫か?」 「散、々、人の、こと、張り、倒して、おいて、よく、言います、ね」 「ハハハ、そんだけ文句が言えりゃ大丈夫だな。ホレ、水だ」 ダンテはペットボトルをなのはの横に置く。そのまま隣に座り込み、クルクルと愛銃を玩ぶ。 「……ダンテさん」 「何だ?」 「……なんでもないです」 「そうかい」 なのははズキズキと痛む体を無視して立ち上がり、水を飲んでそのままクールダウンを始める。ここまでひたすらやられ続けたのは初めてだった。 まさか一発も反撃できないなんて思ってもいなかったし、途中で意識が刈り取られたときは本当に死んだかと思った。 それでも、その中で徐々に反応できるようになっていっていた自分に、なのはは確かな手応えを感じていた。 時刻はそろそろ五時になろうとしている。二時間ほど、ほぼ休憩無しで動き続けていたのだ。体もいい加減休みを欲している。 それに、恭也や美由希がここに訪れる時間も近付いている。今日はここまでだろう。 「じゃあ……戻りましょう」 「そうだな。やれやれ、動いたら腹減ったぜ」 「全くです」 なのはとダンテ、二人の普通ではない日常も、二日目を終えようとしていた。 前へ 目次へ 次へ