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モンモラシーは、朝一番でギーシュのお見舞いへと来ていた。 友人には、二股していた奴に、よく会いに行けるわねぇ、と言われたが、仕方ない。 ――――――だって、好きなのだから。 あの浮気性は困り者だが、それさえ無ければ、お調子者で女の子に優しくてキザでドットで………… ………………・・・せめて、浮気性ぐらい秘薬で治しておくべきか。 そういえば、惚れ薬なんて言うのもあったわねぇ、とか考えていると、医務室の前に辿りついた。 でも、なんというか、様子がおかしい。 朝一番と言ったが、空はまだ薄暗い。 だと言うのに、扉が僅かに開いている医務室から話し声が聞こえてくる。 なんだろうと思い、僅かな隙間をそっと広げて中を窺ってみると、そこにはコルベールとロングビルの姿があった。 そして、その二人が囲っているベッドの上には――― 「ギーシュ!!」 扉を勢い良く開け放ち、ベッドの上に居るギーシュへと呼びかける。 コルベールとロングビルは、唐突に響いた大声に、驚いたような表情でモンモラシーを見たが、彼女にそんな事は関係ない。 「あぁ、ギーシュ、ギーシュ! 心配したのよ、私。でも、良かった。なんともないようで……ギーシュ?」 なんというか違和感がある。 目をぼんやりと開けたままのギーシュは、あぅあぅと呟いて、中空を見つめているだけで、自分に対してまったく反応してこない。 「ねぇ、ギーシュ、どうしたのよ、ねぇ、ちょっと、ふざけないで、どうして、ねぇ お願い、返事を、返事をしてよ、ギーシュ!!」 モンモラシーの悲痛な叫びが、早朝の学園に響き渡った。 水差しを洗いに行って戻ってくる途中であったメイドは、その声に、くすりと笑みを溢した。 今朝の目覚めは、ルイズにとって最高であった。 何時も自分で取っていた服が、杖を振るだけで手元へとやってくる。 そんな、メイジにとっての当たり前が、ルイズにとっては、とてつもなく嬉しかった。 そのまま、気分良く着替えていた所で、机の上に置かれている手紙に気が付く。 「ホワイトスネイク」 「ナンダ?」 「これ何?」 ホワイトスネイクの返答は、夜中に扉の下から挿し込まれたらしい。 中を開いて見ると達筆な字で、ルイズが起こした決闘騒ぎの罰が書いてあった。 あの時、オスマンが言ったように、ルイズは謹慎一週間で決定の印が押されていた。 「一週間……暇になったわねぇ……」 この決定にルイズは対して、不満を持っていなかった。 何せ、罪を犯したのは事実なのだから。 その罪と言うのは、勿論、禁止された決闘を行ったことであって、ギーシュから才能を奪って殺害寸前まで追い込んだのは、彼女の中では罪ではなく、ギーシュに対する報いであったのは説明するまでもないが。 「まぁいいわ、あの平民の様子も見に行きたかったし……」 自分の使い魔のルーンをDISCとして差し込まれている、あの少年。 あの時の速さは、通常時のホワイトスネイクを遥かに上回る速度であった。 「使い魔は、もう居るし……無難な所で使用人って所かしら…… 執事って程に落ち着いた様子は無かったし、ん~」 少年を自分専用の護衛として雇う気満々のルイズは、どんな肩書きが少年に合うのか、 じっくりと考えながら医務室まで歩き始めた。 部屋を出て、医務室のある学園の方に行く為の螺旋階段を下りる時、見慣れた赤毛がルイズの目に留まる。 「あっ……」 キュルケはルイズを見つけた瞬間に、元々俯いていたその顔を、さらに俯かせた。 だが、すぐに顔を上げて何時ものように、色気を帯びた笑みを浮かべてルイズに手を振った。 「ルイズ、元気? 昨日は大変だったみたいねぇ! で、どうなの? 噂では、ギーシュの魔法を使えるようになったとか、言われてたけど どうなのよぉ、そこんところは」 明るく振舞うキュルケに、ルイズは煩そうに顔を顰め、腕を軽く振るう。 伸びる腕 押さえつける手 押し付けられる身体 ホワイトスネイクがキュルケの身体を、杖を抜く暇も与えずに、壁に押し付けたのだ。 呆然とするキュルケにルイズは、グイッと顔を近づける。 目を逸らす事も許さない。 強い視線でキュルケの目を見据えながら、ルイズの口が開く。 「良い、よーく聞きなさいよ。 私は、これから医務室に行くの、用事があるからね。 あんたの相手は、その後。精々、魔法を扱える最後の時間を楽しんでおきなさい」 そう言ってルイズは、壁にキュルケを押し付けていたホワイトスネイクを消し、そのまま螺旋階段を下る。 これ以上、言葉を交わす気の無い事を態度と行動で示されたキュルケは、そのままの体勢で赤髪を揺らし、耐え切れぬように叫ぶ。 「ねぇ、ルイズ、何が、何が、貴方をそこまで変えてしまったの? それは、私? 私が原因の事で、貴方は変わったの!?」 キュルケの慟哭にルイズは首を振るう。 変わった……? 違う、私は手段を手に入れただけに過ぎない。 人間とは、泡のようなものだ。 小さな気泡の人間も居れば、大きな気泡の人間も居る。 気泡を大量に持つ人間も居れば、一つしか持たない人間も居る。 千差万別の大きさと数がある気泡達だが、共通している事が二つある。 それは、その気泡の中に入ってるモノが感情であると言う事と もう一つ、その気泡は『起爆剤』さえ見つけてしまえば、理屈も何も無く、破裂してしまう事だ。 そして破裂した泡は、中に溜められていた感情を噴出す。 噴出された感情は、周囲に何があろうと、その発散を止められない。 いや、割れた当人にとっては、止める気もしないだろう。 ルイズは、今、まさにその状態だ。 魔法を奪うと言う、完璧な『起爆剤』を見つけてしまったルイズは、 16年間溜め続けた、使えない者として泡を破裂させてしまった。 記憶の積み重ねが人間であると、ホワイトネスイクは自らの主に言っていた。 ならば、この鬱積した感情もまた、ルイズと言う人間を形作る重要な因子なのである。 例え、その中の感情がドロドロに溶け合った黒であったとしても、だ。 「ルイズ……」 どうすれば、どうすれば、あの少女は、元の意地っ張りだけど、自分に正直な少女に戻ってくれるのか。 考えても、考えても、キュルケの頭には、何も浮かんでこなかった。 そんな親友の苦悩を、螺旋階段の一番上で眼鏡を掛けた少女は静かに見つめていた。 医務室に行って、ルイズが最初に目にした光景は、黒髪のメイドが真っ赤になって使用人になる予定の少年の身体を拭いている場面であった。 「………………」 「………………」 少し血走った目で、半裸の少年の世話をしているメイドもそうであるが、 初めて同年代の異性の身体を直接見たルイズも、時が止まってしまっている。 別に何も後ろめたい事は無い。 シエスタはシエスタで、自分を助けてくれた才人の身体を拭いていただけであるし、ルイズも、ただ医務室の扉を開けただけだ。 だと言うのに静止時間は、こくこくと過ぎていく。 永劫に続くかと言うような、その静止時間は、ブッチギリで10秒を越えた時に少年から漏れた僅かな呻き声で、ようやく進み始めた。 「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あのですね! これは、これはその……汗を拭いてあげてるだけでして!」 「そ、そ、そ、そ、そ、そ、そのぐらい分かってるわよ! べ、別に変な勘違いとか、その、初めて男の子の裸を見たから動揺とか、してないからね!!」 二人して吃って真っ赤な顔をしているその様は、傍から見るととてつもなく変な光景であった。 「そ、そ、そ、そうですよね! 怪我人の身体を拭いてたぐらいで勘違いなんてしませんよね!」 「も、も、も、勿論じゃない! か、勘違いなんて、そ、そんなものしないに決まってるじゃない!」 あはは、と乾いた笑い声を出すシエスタに、ルイズはなんとか平常心を取り戻そうと、息を吸ったり吐いたりしながら、備え付けの椅子へと座る。 ―――私は冷静、私は冷静、私は冷静――― なんとか頭から先程の光景を消そうと試みるが、基本的に箱入りで異性の裸に免疫が無いルイズにとって、それは至難の業である。と言うか、成功なんてするはずも無い。 シエスタはシエスタで、ようやく落ち着いたのか、また才人の身体を拭く作業を再開させている。 両人共、耳まで真っ赤に染めあげ、まるで熟れたトマトのようだ。 ――― ―――――― ――――――――― 幾許かの時が過ぎて、ようやく丁寧すぎる作業が終わったシエスタは、脱がせた才人の服を着せ始める。 かなり長い時間を掛け、若干の平常心を取り戻したルイズは窓の外を見ながら、作業を終えたシエスタに声を掛けた。 「ねぇ……そいつってさ、なんであんなのと決闘したの?」 「それは……私の所為なんです」 そういえば決闘してたのを手助けしただけで、理由までは知らない。 あの時、広場に一緒に居たこのメイドならば知っているのでは無いかと聞いてみると、ある意味、予想通りの答えが返ってきた。 (ふぅん……やっぱりね) 一緒に居たのだから無関係では無いと睨んでいたが、案の定である。 続く、シエスタの言葉で、あの時の詳細を知る。 どうやら、最初の発端は、シエスタがギーシュの香水の瓶を拾わなかったのが原因らしい。 それが元で、二股がバレてその八つ当たりに晒されていたのを、 才人が庇い、そんな才人の態度にますます腹を立てたギーシュが決闘を申し込んだらしい。 「ふん……馬鹿ね」 「確かに平民が貴族に歯向かうなんて馬鹿かも知れませんけど、才人さんは!!」 恩人が侮辱されたと思い、声を荒げるシエスタにルイズは違う違う、と手を振り、 溜め息を吐きながら、自分の言葉が誰に対するモノなのかを明確にする。 「私が馬鹿って言ったのは、ギーシュ……決闘を申し込んだ貴族の方よ。 あんた、落ちてた香水の瓶には気付いて無かったんでしょ? それなのに、責任を追及するなんて馬鹿げてるわ。 おまけに、二人の名誉が傷付けられた? 傷付けたのは誰よ? 少なくとも、あんたやそいつじゃあ無いわね」 フンッ、と鼻を鳴らし不機嫌に呟くルイズに、シエスタは、この人は普通の貴族じゃあ無いみたいと心の中で呟く。 彼女の中の貴族とは、平民に対しての配慮など、まったくしない。 そういう思考回路が最初から存在していないのだ。 だと言うのに、選民思想で凝り固まった今の貴族にしては珍しく、この少女は、もしかして、平民を人間として見ているのでは無いか、とシエスタは思ったが―――――― 「話を聞く限り、やっぱりあいつは貴族として失格ね。力を奪って正解だったわ。 あんなのが、私と“同じ”貴族だったと思うと反吐が出るわ」 その言葉に、シエスタはやっぱり違う、とルイズに聞こえぬように呟いた。 この少女は、心の底まで貴族で出来ている。 確かに、今の彼女には、無実の者に罪を擦りつけられた事に対する怒りもあるが、それ以上に、 『貴族』と言う名を持った者が、無実の者に罪を擦りつけ『貴族』の名に泥を塗った事に対しての怒りの方が占めるベクトルが大きいのだ。 才人に対し、治療費を出してくれた事などから、平民に対しての理解はあるらしいが、それも上の立場から見た者の理解である。 対等とは程遠い。 そう思うと、才人や自分を昨日、ここに運んでくれた事や、秘薬の代金を全額負担してくれた事に対する有り難みの気持ちが薄れていくのをシエスタは感じていた。 「ところで、今日はどのような用事でここに来られたのですか?」 なんとなく突き放したような感じの言葉を吐いてしまった自分に、心の中で失敗した、と思ったが、言ってしまった言葉は戻らない。 相手も、言葉に含められていたニュアンスに気が付き、目を鋭くさせたが、まぁいいわ、と呟いて、すぐにその鋭さを取り払った。 「そいつの様子を見に来たんだけど……まだ、目覚めてないみたいね」 「治療をしてくださった方のお話では、もう目覚めても良いとの事ですが……」 磨耗した精神が休息を欲しているのか、それとも、もっと別の要因なのか。 「目覚めても良いって事は、もう治療は終わってるのよね?」 「えぇ、治療自体は昨日、全て終わっていますけど」 「なら……問題は無いわね」 シエスタの言葉に、ルイズはホワイトスネイクを出現させる。 唐突に現れたホワイトスネイクに、シエスタは驚愕の表情を浮かべていたが、ホワイトスネイクが現れた事は、さらなる驚愕への布石であった。 「ホワイトスネイク、あいつを起こしなさい」 命令が下されると同時に、ホワイトスネイクの手にDISCが出現する。 それを寝ている才人の頭に差し込んだ。 「何をしてるんですか!?」 「『覚醒』のDISCよ。 どれだけ深い眠りだろうが、DISCの命令には逆らえない」 自慢げに説明するルイズの目の前で、ベッドの上に寝かされていた才人の身体が震える。 「うぅ……うぅん……」 そして、DISCを差し込んでから僅か三秒 上半身を起こして、間の抜けた欠伸を才人は披露した。 そこは、ハルケギニアではなく、もっと、もっと遠く、そして辿りつけない世界。 知る者が語れば、悪鬼の巣窟とも、この世の天国とも答えるその場所は秋葉原と言う、日本と言う国の電気街であった。 その街の一角の、古ぼけた店に修理を頼んでいたパソコンを取りに来た才人は、突然の事態に目を丸くしていた。 なんというか、気が付いたら皆、全裸なのだ。 下着一枚身に着けていない通行人達を見て、才人は一瞬、ぽかーん、と大口を開けていたが、 すぐに自分も服を着ていない事に気が付いた。 何が起こったのか分からないが、このままでは警察に捕まると、凄まじい勢いで才人が服を着終わる頃に、街を歩いていた通行人達も、この不可解な現象に叫び声を上げ始めていた。 とりあえず、面倒になるのは嫌だったので、早足でその場を立ち去る。 預けていたパソコンを回収することも忘れて、駅へと向かった。 とりあえずは、家へと帰ろう。 そう思い、駅への近道である路地裏を通ろうとした時に『ソレ』は現れた。 自分の身長以上もある鏡。 これは、なんだろうか? 疑問に思った才人は、石を投げ込んでみたり、家の鍵を差し込んでみたりと色々試した挙句に、結局、その中に入る事にした。 中に何が待ち受けているのか、才人は分からなかったが、何故だか分からない予感だけは存在した。 多分、この鏡を通過したら、自分は『別の世界』に行くのでは無いかと言う予感が…… そうだ……それで俺は…… その予感の通りに月が二つある異世界に来てしまったのだ。 始めは、この突飛な事に、才人は驚いた。 驚いたが『絶望』はしなかった。 何故だか分からない世界で、一人だけだと言う事実すら『絶望』を才人に与える事は出来なかった。 何故なら、そういう予感があり、こうなると言う『覚悟』を才人は無意識に持っていたからだ。 そうして、自分はシエスタと出会って……それから…… あの桃色の髪の少女と、出会ったのだ。 「ふぁぁぁぁぁ……ん」 ピキピキと起きたばかりの筋肉が張る音を、ぼんやりと才人は聞きながら、大きな欠伸をした。 なんというか、もの凄く目覚めが良い。 十時間以上グッスリ眠った後の目覚めも、ここまで爽快感を与えてはくれないだろう。 そんな事を、つらつらと考えていると、急にベッドに押し倒された。 「にぇ、にゃんだ!?」 回らない舌で、叫んだ声は自分で聞いても酷く間抜けで泣きたくなったが、 それよりも、今、自分に抱きついてきてる者の方へと意識がいく。 「良かった……良かった……才人さん、本当に、良かった……」 抱きついてきた少女は、泣きながら才人の覚醒を喜び、その胸の中で、彼の暖かさを感じていた。 「ごめん……心配掛けた……」 泣いている少女を安心させる為に、才人も確りとその細い身体を抱きしめる。 二人がお互いの体温を感じている中、ルイズだけが不機嫌そうにその光景を眺めていた。 「ちょっと」 一分か二分か、まぁ、ともかく時間が暫く経過すると、ルイズは、とうとう我慢しきれずに声を掛けた。 その声に、才人は、うわわわわぁ、とあからさまにうろたえて、シエスタは、と言うと、なんだか物凄い目でルイズを見てきた。 その目は明らかに、空気を読んでくださいと言っていたが、あえて無視する。 「あんた!」 「はい、なんでしょうか!」 ルイズの怒声に、才人は、これは逆らうとマズいなと感じて、思わず敬語で返答する。 と言うか、さっきから予感が訴えてくる。 これから、この少女に扱き使われると言う、あまりにも叶って欲しくない予感が…… 「あんたを、これから私専属の使用人に任命するわ。 この私の世話が出来るのよ、ありがたく思いなさいよ」 「なっ! どっ、どういう事ですか!?」 桃色の少女の言葉に、シエスタが噛み付いているが、才人は、多分、少女の言った通りになる事を感じていた。 (『覚悟』はあった……『覚悟』はあったけど、正直、泣きてぇよなぁ……) これから起こるであろう苦難の道の『予感』に、才人は溜め息しかでなかった。 アルヴィーズの食堂での豪勢な昼食を前にして、キュルケは昨日と今朝のルイズの様子を思い出してブルーになっていた。 そんなキュルケの隣には、目の前の料理をパクパクモグモグハグハグと次々に胃袋へと収める暴食魔人が座っている。 「ねぇ……タバサ」 そんな暴飲暴食娘に、キュルケは声を掛ける。 何時もの彼女らしくなく、とても弱々しい声。 「どうして……ルイズは……」 その先は続かなかった。キュルケは、言葉を詰まらせ、テーブルの上に載っていたワインを呷る。 タバサは、ルイズの事を魔法が使えないメイジであり、それを理由に周囲から苛められていたぐらいのことしか知らない。 だから、ルイズの事は『危険』だと認識していた。 虐げられていた者の所へ、虐げていた者達に復讐するだけの力が手に入ったなら、 どんな聖人や天使だろうと、その力を振るう。 何故なら、そういう者達は信じているからだ。 虐げられている自分達の事を助けてくれる何かが、何時か、きっと自分達を救ってくれると。 タバサ自身、そんなものに一片の希望すら持っていないが、心の底ではもしかしてと思っている。 もし、あの使い魔を召喚したのが自分であるならば…… 自分は、何の疑問も抱かずに祖国へと戻り、あの男を―――――― そこまで考え、タバサは首を振るう。 本筋から話が逸れている。 今は、そんなIFを考えている暇では無い。 おくびにも出していなかったが、タバサは昨日からキュルケの護衛をしている。 もしも、自分がルイズであるならば、仇敵の家柄であり、尚且つ、自分に対してからかいの言葉を毎日掛けてきたキュルケを狙いに来るだろうと考えたからだ。 キュルケ自身、あのからかいの言葉にそこまでの意味を見出していなかったが、あの言葉はルイズの自尊心を傷付けるのに、十分な威力を持っていた。 そんな言葉を毎日のように掛けていたのだ。殺意を抱かれる恐れは多いにある。 と言うか、今朝の言葉からして、ルイズがキュルケに対して殺る気満々なのは、疑う余地も無かった。 「そういえば……今朝から、モンモラシーを見ていないわね……タバサ、知ってる?」 話題を変えよう、別の娘の話を振ってきたが、振ってから、 キュルケはモンモラシーがギーシュの恋人である事を思い出した。 恋人が突然、メイジでは無くなったのだ。 かなりショッキングな出来事だったのだろう。 「ちょっと、様子でも見に行こうかしらね……」 心配そうに立ち上がるキュルケの手を掴み、そのまま椅子へ座らせる。 困ったような顔をしているキュルケに、皿一杯に盛られた料理を差し出す。 「今は、良いわよ。食べる気分じゃないから」 「そう言って、昨日の夜から何も食べていない。 おまけに目の下にクマも出来ている」 その言葉に、慌てて手鏡を取り出して目の下を確かめるキュルケにタバサは、ゆっくりと声を掛ける。 「大丈夫、彼女の様子は私が見に行く。 だから、貴方は食事をして、部屋で休むべき」 「別に大丈夫よ。 今はダイエット中だし、それにこのクマも、大したことじゃあ無いわ。だから―――」 「―――お願い」 休むように懇願するタバサの姿に、キュルケは溜め息を吐いて、わかったわ、と呟いた。 それに満足したタバサは、モンモラシーの様子を見に行く為に食堂を後にする。 勿論、自分の代わりの護衛を用意するのも忘れない。 タバサが居なくなった後の食堂では、変なテンションの青髪メイドが、キュルケの口に無理矢理食事を運ぶと言う珍妙な光景が見られたとか。 「あの……シエスタ」 「………………」 「その、怒ってるのは分かるよ、けどさ……」 「………………」 「話ぐらいは聞いてくれても良いんじゃないのかなぁと、ぼかぁ思うんですけど……」 「………………」 現在の時刻は夕刻。 朱色の空と二つの月が合わさって、絶景を作り上げていたが、そんな事を気にしている暇では無かった。 私……怒ってます。物凄く怒っています。 そんな、怒ってますオーラを身に纏って才人の事を無視するシエスタに、正直、才人はビビッていた。 ルイズが宣言した使用人になれ、と言う発言に、猛然と噛み付いたシエスタだったが、他ならぬ才人自身が、別に構わない、と言ってしまったので、どうにもならなくなってしまったのだ。 そんな訳で、晴れて才人はルイズの使用人となってしまった訳であるが、それも明日からの話だ。 別に才人としては今日からでも良かったのだが、幾ら秘薬で治療したと言っても、怪我をしてから一日しか経っていない。 万が一と言う事もあるので、シエスタの提案で今日も医務室で夜を過ごす事となったのである。 しかし―――――― 「おーい、シエスタ。あの、マジでそろそろ限界なんだけど、あの降りていいかな?」 昨日の昼から気絶していた才人は、当然の如く尿意を催しており、 その排泄をしようとベッドから立ち上がろうとすると、シエスタが無言で止めてくる。 その目は、怪我人ですからベッドから立つなんてとんでもございません、と告げていたが、 はっきり言って、シエスタのお仕置きであるのは疑うまで無い。 使用人のピンチだと言うのに、姿の見えないルイズは、昼頃までここで話し込んでから姿を消している。 と言う事で、現在、医務室には才人とシエスタしかおらず、シエスタに完全にビビッている才人にとっては動くに動けない状況なのだ。 「あの~、シエスタさん。本当、本当、ちょっと、トイレに行くだけですから、勘弁してください、お願いします」 涙目で訴えてくる才人に、シエスタも限界であることをようやく悟り、無言だった口から、 久方ぶりに、仕方ありませんね、と発音が聞こえる。 やった! と叫びのをグッと堪えた才人が、ベッドから降りようとすると、シエスタが手で静止してくる。 あれ、許可してくれたんじゃないの? 「はい……才人さんは怪我人ですから、怪我人の方のトイレは“コレ”ですよね?」 シエスタの手に微妙に黄色い尿瓶が握られているのを見た才人は――――――泣いた。 同時刻 静寂が支配する部屋の中で、赤色の明りに照らされたキュルケは俯いてベッドに座っていた。 夕焼けの赤と地の赤で、彩色された髪で隠れた顔には、 普段の彼女ならば絶対にするはずの無い愁いの表情を張り付かせている。 「……ルイズ……」 何処か、遠くへと行ってしまった友人の名を呼ぶように、意地っ張りで素直では無い桃色の少女の名を呼ぶ。 返答など期待していない。 喪失感を紛らわす為だけに発した、その言葉に――― 「なぁに……キュルケ?」 ―――反応したのは、血の様に赤い空と二つの月を背にする漆黒のローブを羽織る少女であった。 氷柱を背中に突っ込まれたような気分だ。 自分一人だけしか存在していなかった部屋に、物音一つ立てずに、この少女は現れた。 息が……苦しい。 ルイズの放つ威圧感に、キュルケは呼吸すら忘れてしまっていた。 「ねぇ……何か用なの? せっかく、私が足を運んできたのだから、面白い話題なんでしょうねぇ?」 ケラケラと童女のように笑うルイズは、なんというか、言い知れぬ不気味さと人を惹きつける魅力を身に纏っている。 ―――違う こいつは、こんなのはルイズじゃあない。 自分の知っているルイズは、あんな化け物みたいな笑い方はしないっ! 「貴方……誰? どうして、ルイズの姿をしているの!?」 敵意を込めた視線に、ルイズは、フンッ、と鼻を鳴らし、右手を掲げる。 瞬間、ホワイトスネイクが背後からキュルケの頭を一文字に薙ぎ払い、DISCを奪い取った。 込み上げる喪失感に泣きそうになるのを我慢しながら、キュルケはルイズを睨むのを止めない。 その様子に、使い魔から渡されたDISCを頭に差し込んだルイズは口を開く。 「一体、何を言っているのか、さっぱり分からないけど、私は私よ。 他の誰でも、他の何者でも無いわ」 淀みなく答えるその言葉に、キュルケは首を振る、違う、と 「私の知っているルイズは、我慢が出来なくて、すぐになんでも癇癪を起こすけど、それでもこんな事をする娘じゃあ無かった! 他人から力を奪うような娘じゃあ、絶対に無かったわ!!」 我慢していたはずの涙が流れているのを、キュルケは気が付かなかった。 18年間共に歩んできた才能を奪われたのだ。無理も無い。 しかし、今、ここでその悲しみに泣き崩れていたら、もっと大切なモノを失ってしまう。 「ねぇ……ルイズ、もう止めましょう。 奪った才能を返して、また何時ものように一緒に学びましょう? そうして、他人から奪った才能なんかじゃあ無くて、貴方自身の才能を育てて行けば良いじゃない……」 「………………」 「こんな事をしたって根本的な解決にはならないわ。 ねぇ、お願いよ、ルイズ。何時もの優しい貴方に戻って。 努力家で、意地っ張りで、誇り高い貴方に―――」 「五月蝿い! 五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい ウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイ!!!!」 髪を振り回し、取り乱したように叫ぶルイズに、キュルケは近づこうとするが、動いた瞬間、ホワイトスネイクに床に叩きつけられた。 「がはっ―――!」 肺の中から追い出された空気が、口から漏れる音を自身で聞いたキュルケは、それでもルイズに言葉を掛け続ける。 今なら、先程のような余裕を持っていない今ならば、自分の言葉もルイズに届くはずだ。 いや、届かせなければならない。 「こんな……こんな力に振り回されるのは貴方じゃあ無い! 今の貴方は、この使い魔の力に酔っているだけ! お願い! 正気に戻って! ルイズ!!!」 最後の言葉を吐き出したと同時に、キュルケの口から血が噴出す。 上から踏みつけてくるホワイトスネイクに、何処か、生きるのに重要な器官が潰されたのかも知れないが、それでも止める訳にはいかない。 大切な、友達を助ける為に…… 「ルイズ……」 「うるさいって言ってるでしょ! 戻れですって!? あの魔法を使えず、侮辱され続け、屈辱を投げつけられていたアレに!? 冗談じゃない! 私は戻らない! あんな! あんな! 最低の場所に戻るなんて絶対イヤ! 酔っているだけ? 違う! 私は『使いこなしている』だけ! この力で、貴方達を、私を『ゼロ』と馬鹿にした連中全てを、私は―――!!」 感情のままに吐露するルイズの言葉を、キュルケは遮ろうとするが、それはまったく別の形で中断された。 窓側の壁全てが、一瞬にして破壊されたのだ。 見晴らしの良くなった部屋の中で、乱れた髪を気にも留めずに、ルイズは壁を壊した闖入者へと目を向ける。 蒼い髪に眼鏡を掛けたその少女は、ウィンドドラゴンの幼体の上に立ち、 その身体に似合わぬ大きな杖を、迷い無くルイズへと向けていた。 「二度目よ……貴方が、私の邪魔をするのは……」 ポキリと散らばった廃材を踏みつけ、ルイズはドラゴンへと一歩踏み出す。 キュルケを踏みつけていたはずのホワイトスネイクも、その後に続いていく。 「貴方……『覚悟』はしているのでしょうねぇ 人の邪魔をするって事は、排除されるかも知れないって言う『覚悟』を」 淡々と語るルイズに、タバサは僅かに口を開く。 「昼間……モンモラシーとギーシュに会った……」 「何を言っているの?」 ルイズは、疑問符を頭の上に浮かべていた。 何故、ここでギーシュの話題なのか。 この眼鏡の娘は、ギーシュと何か親密な中で、その為、邪魔をしているとでも良いたいのだろうか? そんなルイズの困惑を余所にタバサは言葉を続けた。 「彼は……壊れていた。心も、記憶も……何もかも」 それは、無感動な彼女にしては珍しく、誰が聞いても怒っていると分かる、静かな怒声であった。 それが異常な事だと分かったのは、倒れているキュルケだけで、普段のタバサを知らないルイズは、ただ、壊れたの、と詰まらなそうに呟く。 「情けないわね……私は、16年間、魔法を使えない事に耐えてきたのに。 一晩も耐えられないなんて……貧弱ね」 蔑むような声色を発した、その『敵』へ、タバサは呪文を紡ぐ。 ウィンディ・アイシクル タバサの最も得意とする、トライアングルスペルの一つだ。 「へぇ……」 感心したようなルイズの声に、タバサによって作り上げられた氷の矢が、一斉に襲い掛かる―――が 「ウオシャアアアアアアアアアア!!」 ホワイトスネイクの烈火の如き叫び共に繰り出された拳で、全て叩き落された。 「―――ッ!」 あの使い魔が有能な事は、能力から見て推測出来たが、まさかここまでとはタバサも思っていなかった。 しかも、氷の矢を真正面から叩き壊したと言うのに、ホワイトスネイクの両手には傷一つ存在していない。 辛い、戦いになる。 シルフィードの背中の上で、次なる呪文を紡ぐタバサは、これまでの戦いの中で最も困難な事になるであろう事を感じていた。 一方、ルイズも内心は焦りを持っていた。 ホワイトスネイクは有能だ。 本体の性能も言わずもがな、その能力は、使い方さえ考えれば、最強の盾にもなり、矛にもなる。 が、射程距離の内部であるのならばの話だ。 ルイズにとっての一番の問題は、どうやって空を飛ぶ敵に近づくのか、だ。 今奪ったばかりの魔法で叩き落すと言う選択肢もあるが、今の一撃から、魔法の技量は、今まで奪った二枚のDISCの中に記憶されているモノよりも、遥かに上であることが理解できる。 そんな相手に、地面から相手よりも下手な魔法を撃った所で、通用するはずも無い。 長期戦になれば、人が来る。 否、もうすでに壁の破壊音に気が付いて、宿直の教師が近づいてきているかも知れない。 となると、ここは出し惜しみ無しで、ホワイトスネイクを至近距離まで近づかせ、短期決戦で勝負をつける。 奪ったDISCの中で使えそうな呪文を全て引っ張り出しながら、ルイズは、敵意を剥き出しにして、タバサを睨みつけた。 そんな二人が激突するのを見ている事しか出来ないキュルケは、満足に呼吸が出来なくなった身体で、静かに立ち上がった。 もうすでに戦いの場は、キュルケの部屋から移り変わり、二つの月が浮かぶ空が、戦闘の場となっている。 「何故……」 どうして二人が戦わなければならないのか。 どうして私は、二人を止める事が出来ないのか。 キュルケは悔しくて堪らなかった。 そんな彼女の足元に、きゅるきゅると鳴きながら、今まで部屋の隅で震えていたフレイムが擦り寄ってくる。 口元を紅く染める主人を心配するようなフレイムに、キュルケは大丈夫と告げると、動くだけで激痛を訴える身体に鞭を打ち、二人の後を追っていった。 第3.5話 戻る 第五話
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ルイズの朝の目覚めは酷く遅かった。 それと言うのも、昨日のホワイトスネイクの『記憶』をDISCとする能力について詳しく聞いていた所為である。 「あー、この時間じゃあ、朝ご飯には間に合わないわね」 「私ハ、何度モ警告ヲ与エタ。ソレヲ無視シタノハ、ルイズ、君ダ」 ベッドで寝覚めたルイズの隣に、ホワイトスネイクは悠然と存在している。 その事実が、ルイズに不思議な安心を与えていた。 絶対なる力が自分の管理下にある、優越感による安心。 それがあんまりにも心地良くて、遅刻しそうなっているはずが、 ルイズの口元は油断すると緩みそうであった。 「っと、いけない。授業にまで遅刻したら流石にマズいわね」 すでにホワイトスネイクによって用意されていた着替えに、袖を通し着替えを始める。 ルイズが着替えている間、ホワイトスネイクは部屋の窓を開け、右手にDISCを一枚創りだす。 その様子を、ルイズは着替えの片手間にちらりと流し見た。 昨日の夜、ホワイトスネイクは自分の能力の他に、自分がどのような存在であるかも語り始めた。 『スタンド』 傍に立つ者と言う意味を持つその単語で表すエネルギー体であると言う言葉に、最初は半信半疑であったルイズだが、ホワイトスネイクが自分の考えたままの行動をし始めてから、『スタンド』の存在を信じるようになっていた。 自分自身の命令で動く使い魔。 しかも、その命令の伝達スピードは凄まじく、まるで自分の身体のようだとルイズは思った。 まぁ、真実、自分の身体な訳だったのだが。 ともあれ、ホワイトスネイクはどんな命令であれ従うし、能力的にもルイズに不満は無い。 まさに、彼女にとってホワイトスネイクは完璧な使い魔であった。 「さてと……そろそろ行くわよ」 着替えを終え、杖を右手に持つと扉には向かわず窓際へ向かう。 窓の外は晴々とした天気で、そろそろ授業の始業時間であることを告げていたので、ルイズは溜め息を吐き、少し急ぐことにした。 「ホワイトスネイク」 「可能ダ」 考えている事を察した自分の使い魔に、頬が緩みそうになったが、それに耐え、凛とした表情でルイズは窓からその身を投げ出した。 それに従うように、ホワイトスネイクも落ちていく。 堕落の中、ホワイトスネイクがルイズの身体を左腕でルイズを抱え、右手でDISCを寮の外壁に押し付ける。簡単なブレーキと言うやつだ。 部屋の窓から身を投げて、僅かに三秒弱。 十分に減速した速度で着地したホワイトスネイクの腕の中で、ルイズは満足げに呟く。 「まぁまぁね」 それは、素直ではないルイズの最上級の褒め言葉であるが、ホワイトスネイクに褒められて嬉しいと言う感情は存在しない。 「ほら、次は教室まで急ぎなさい」 抱えていたルイズを今度は背中におんぶして、ホワイトスネイクは草原を走り出した。 「良かった……ギリギリ間に合った……」 朝食は食べ損ねたが、なんとか授業には間に合うことが出来た。 ルイズは、小さな胸をほっと撫で下ろし、適当な椅子に腰掛けた。 ホワイトスネイクはと言うと、教室前でルイズを降ろした為、彼女の後ろに立ったままだ。 「………………」 「………………」 沈黙が重たい。 急いでいた為、ルイズは気が付かなかったが、ルイズとホワイトスネイクが教室に入ってきた瞬間、今まで雑談をしていた生徒達が一斉に喋るのを止めたのだ。 彼らは皆、昨日のマリコルヌがミンチ寸前にまでされるのを見ていた。 ―――目を付けられたらどうなるか分かったものじゃない。 教室に居た生徒の大多数はそういう思考であった。 無論、大多数と言うことは、そうは思っていない者も勿論居る訳で…… 「おはよう、ルイズ」 情熱で着色したように赤い髪に、それを一層引き立たせる褐色の肌と豊満な胸を合わせもった女生徒の挨拶に、ルイズは満面の笑みで返事をした 「おはよう、キュルケ」 その微笑みに、キュルケは違和感を覚えた。 家柄同士、憎みあう仇敵である自分に微笑むこともそうであるが、それ以上に、今朝のルイズは昨日までとは何かが違った。 「なあに、今日の貴方、ずいぶんご機嫌じゃない」 「そうかしら?」 「そうよ。そんなに使い魔がきちんと召喚できたのが嬉しかったの?」 「別に、使い魔が召喚出来たのが嬉しかった訳じゃないわよ」 これは嘘。ルイズは使い魔が出てきた事に心底喜んでいた。 最も、ホワイトスネイクの能力を知った今となっては、使い魔を召喚した喜びではなく、ホワイトスネイクを召喚した喜びに摩り替わっているが。 キュルケは、そんなルイズの嘘を簡単に見抜いていた。 伊達に一年間、家の因縁とか理由を付けてストーキングをしていた訳ではない。 ルイズの陳腐な嘘など、キュルケには丸分かりなのだ。 あんな亜人でこんなに喜んでいるなら、自分の使い魔を見せたらどんな顔をするのかしら? そんな思考が、キュルケの頭を過ぎり、すぐに自分の使い魔を呼ぶ。 無論、自慢する為にだ。 「そうなの……あ、そうそう、紹介するわ。私のフレイム。 どう、この尻尾。ここまで鮮やかで大きな炎の尻尾は、間違いなく火竜山脈のサラマンダーよ」 「ふ~ん」 大して興味の無さそうに返事するルイズに、キュルケは眉を顰めた。 予定ならばここで苦々しげな顔をして、羨ましくなんか無いと言うオーラ全開の、意地っ張ルイズを見ることが出来たのだが、ルイズはこちらに全然興味を持っていない。 「羨ましくないの?」 思わず、キュルケはそう聞き返してしまった。 ルイズの召喚した亜人なんかより、こちらの方が絶対に良い使い魔なのに。 その思考から出された言葉に、ルイズは何を言っているんだ、こいつは? と言う視線をキュルケに返す。 「なんで、私が羨ましがらないといけないのよ?」 自尊心からではなく、本当に、ルイズは不思議そうに聞き返してくる。 それにキュルケは、ホワイトスネイクに視線を向けた。 どうやら、この使い魔。見た目以上にルイズの心を掴む何かがあったらしい。 その何かが、自分のフレイムよりも優れていて、その所為でルイズが羨ましがらない。 知りたい。 ルイズが、自分の使い魔をサラマンダーよりも上位に置いているその理由を知りたいと思い、 ルイズに訊ねようとした時、丁度良く扉が開き、担当の先生が教室に入ってきた。 仕方なく、追求の手を中断するしかないことにキュルケは不満だったが、 昼食の時に聞けば良いかと、席へと戻った。 ルイズは、勤勉な生徒だ。 自身の属性が分からない為、どの属性の授業もきちんと聞き、授業態度も非常に良い。 それなのに、今日のルイズは何時もと違った。 ホワイトスネイク。彼が居る為であった。 (ちょっと! あんたの方も気合入れなさいよ!) (無茶ヲ言ウナ。本来デアルナラバ、私ノ視覚ヲ本体ガ感ジル事ハ、意図モ簡単ニ出来ル事ノハズナノダゾ) (何よ、それって私が駄目な奴って言ってるの!?) (違ウ。昨日モ、言ッタガ、『認識』ガ足リナイ。モット、当然ト、出来テ当タリ前ト思ウノダ) 昨日の夜は、一瞬しか出来なかった。視聴覚への同調。 授業時間を使って、その練習をしているルイズであったが、ぶっちゃけ、うんうんと唸って五月蝿い。 「ミス・ヴァリエール」 シュヴルーズが、そんなルイズの態度に気付き、注意をしようと声を掛けたが、ルイズは気が付かない。 「ミス・ヴァリエール!!」 もう一度、今度は大きな声を出し名前を呼ぶと、ルイズはビクッと跳ねて立ち上がった。 教室中の視線が自分に集まっている事に気付き、顔を真っ赤にして座るが、シュヴルーズは、そんなルイズに前に出てくるように告げた。 「貴方が努力家であると言う事は、他の先生に聞いています。 さぁ、この石を貴方の錬金したい金属に変えてごらんなさい」 他の生徒からは止めた方が良いと野次が飛ぶが、それは、ルイズの負けん気を刺激するスパイスにしかならない。 (あんな凄い使い魔が召喚出来たのよ! 錬金なんて目じゃないわ!!) そう、なんと言っても自分の使い魔は『心』を操り『記憶』をDISCに変える使い魔。 そんな使い魔を召喚した私が、錬金程度できなくてどうする!! 心から成功を確信し、杖を振り下ろすルイズ。 結果は、全てを薙ぎ払う爆発であった。 散らかった机の破片や爆発により砕けた硝子をホワイトスネイクは器用に片付けていく。 その様子を、ルイズは椅子に座って、ぼ~と見ている。 きちんとした使い魔は召喚できた。 召喚できたのに、何故、自分の魔法は一向に成功しないのか。 ルイズは、本当に疑問に思っていた。 自分はゼロなのか? No 何故なら、自分は使い魔を召喚している。 しかも、あんなに素晴らしい力を持っている者を。 では、何故失敗するのか。 ……それはきっと……自分が悪いから? 「ソレハ違ウ」 掃除をしていたはずのホワイトスネイクが何時の間にかルイズのすぐ傍にまで接近していた。 ルイズは、掃除していない事に怒るよりも、ホワイトスネイクの言葉が耳にこびりついて離れない。 「違うって……何が違うのよ」 「ルイズ、君ガ悪イカラ、他ノ連中ノヨウナ事ガデキナイノデハナイ。 君ハ、ソウイウ役割ナノダ。兵士ニ兵士ノ役割ガアルヨウニナ」 「何よ……それって、魔法が使えないのが、私の役割だって言うの…… ふざけないで!! そんな、そんな訳無い!! 魔法が使えないのが私の役割な訳無い!!」 ルイズの怒声に、ホワイトスネイクは何も言わなかった。 世の中には、自分が役割を演じていることすら知らずに居る人間が過半数だ。 別に、彼は自分の本体に、その少数になれとは言わない。 ただ、本体が自分の役割に満足していないのであれば、その欲求を満たすのもスタンドである自分の役目。 「自分ノ役割ガ不満デ、アルナラバ、ソノ場合、話ハ簡単ダ。 欲シイ役割ヲ他人カラ奪エバイイ」 「……奪う?」 随分と物騒な単語にルイズは思わず聞き返す。 役割を奪う……一体、どういうこと? 「生物トハ『記憶』ノ集合体ダ。誰モ彼モガ、ソレヲ知ッテイナガラ『認識』シテイナイ。 マァ、ソンナコトハ、ドウデモイイ話ナノダガナ。 重要ナノハ、先モ言ッタヨウニ、生物ガ『記憶』ノ集合体デアルトコロダ。 ドンナ些細ナ事デモイイ。例エバ、トイレデ、ケツヲ拭ク時ニハ、ミシン目デ紙ヲ切ルトカ、ソンナ些細ナ事モ『記憶』ガアルカラ出来ル事ダ。 ココデ、ルイズ。君ニ質問ダ。 素晴ラシイ料理人ガ居タトシヨウ。彼ノ作ル料理ハ人々ノ舌ヲ満足サセル。 モシモ、ソノ料理人カラ、人々ヲ満足サセル料理ヲ作レル『記憶』ヲ抜イタラ、ドウナルト思ウ?」 「そんなの、作れなくなるに決まってるじゃない」 幾ら腕の良い料理人もレシピも無しには料理は作れない。 同様に、その美味しい料理を作れると言う事実を忘れているのならば、美味い料理なんて作れるはずがない。 ルイズの返答に、ホワイトスネイクは、勉強を教えた子供が、初めて自力で問題を解いた時のように満足げに頷き、そこから、さらにもう一つの問いを口にした。 「デハ、ソノ『記憶』ヲ何モ知ラナイ、何モ作レナイ人間ニ与エレバドウナル?」 先程の問題を飛躍させたものだが、簡単過ぎる問題だ。 記憶が無くなれば作れない。 ならば、記憶があれば作れるようになるに決まってるじゃないか。 「そりゃあ、美味しい料理が作れるように――――――」 答えを形にしている最中、ルイズは止まった。 1秒・・・2秒・・・3秒・・・4秒・・・5秒 きっかりと静止時間5秒を体感した後、錆びた歯車のように不自然に口が動き始める。 「まさか……うぅん、でも、そんなことって……」 うわ言のように漏れる言葉。 それは、否定できないモノを否定する言葉であり、ホワイトスネイクが告げた事が、ルイズにとって、どれだけショッキングなのか、端的に表していた。 そんなルイズの耳元へ囁くように、ホワイトスネイクは優しく語り掛ける。 「君ガ『魔法』トイウモノニ拘ッテイルノハ知ッテイル。 ドレダケ君ガ辛イカモナ。何セ、私ハ君ナンダカラナ。 ナア、ルイズ。トテモ簡単ナ事ナンダ。 君ガ、一言、私ニ命ジテクレレバ、スグニデモ、君ハ新シイ役割ガ手ニ入ル」 その囁きは悪魔の囁き。 だが、ルイズにとっては天使の福音に其の物。 目の前に渇望してやまない物を出され、それを断れる人間など、どれ程居るのだろうか。 少なくとも、ルイズはそれを断れる人間では無かった。 キュルケが、アルヴィーズの食堂で頑張って鶏肉を頬張っているルイズを見つけたのは、昼食の時間が始まってから半分程した頃だった。 パクパクと、小さな口に鶏肉を一杯に頬張っているその様子がリスのようで、下品と言うように感じないのは、ルイズの容姿の所為であろう。 ともあれ、キュルケはルイズに近づこうと足を動かし―――その場で止まった。 なんというか……血走っている。 何がと言うと、ルイズの目がである。 獲物を狙う狩猟者のように鋭い目付きで、鶏肉をがっつきながら、辺りを見回している。 そんな彼女の後ろには、ホワイトスネイクが教室の時と同じように、威圧感を撒き散らしながら存在していた。 声を掛けるのも、近づくのも躊躇われる。 そんな雰囲気を身に纏うルイズに、キュルケは首を軽く振って近づいていった。 「今朝の爆発は、また一段と凄かったわねぇ」 フランクにからかいの言葉を掛けると、ルイズは食べていた鶏肉を皿に置き、口元を拭いながら立ち上がり、自分よりも背の高いキュルケを睨み上げた。 「何、なにか反論でもあるの?」 「――――――ッ!」 反論したくても、反論できない。 何せ爆発したのは事実なのだ。幾ら言葉を用いた所で、その事実を変えることは出来ない。 苦々しげにルイズは、椅子に座り食べ掛けの鶏肉へと手を伸ばす。 キュルケは、その様子に安堵していた。 やはり、ルイズはこうでないと。 今朝のように、余裕を持った態度ではなく、何時も切羽詰り、怒っていて、それでいて、誰よりも努力を忘れない、そんなキャラクターでないと。 ―――そうじゃないと、可愛くないじゃない まぁ、普通にしている時もお人形みたいで愛らしいんだけどね、と心の中でキュルケは呟く。 ここで、彼女の名誉の為に言っておくが、キュルケは同性愛者ではなく、普通の恋愛を楽しめる、普通な少女(?)である。 ここでの、愛らしいとか、可愛らしいとかは、背伸びして頑張っていくルイズを見るうちに目覚めた、母性本能のようなものだ。 まぁ、からかって、それに対して怒っている表情を見て、可愛いとか思っている時点で、母性本能とは、少しばかり離れている感じもしなくは無いが。 とにかく、ルイズの苦悶の表情は、キュルケの母性を刺激する。 なので、今回も、もうちょっと、その顔を、出来ればもう少し、怒った感じの表情見たいなぁ、のノリで、キュルケは悪ノリして、さらにからかいの言葉を掛けようと口を開くが 彼女は知らなかった。 その一言が、自分とルイズの間に、決定的な溝を作ることを。 「まぁ、これ以上責めるのも可哀想ね。例え、使い魔を召喚出来たとしても、『ゼロ』なんだからね」 キュルケには罪は無い。 何時もと同じノリで、軽く、飽くまで軽く口から出た言葉は、何時ものようにルイズの堪忍袋の尾を刺激して…… 「ホワイトスネイク!!!」 プッツーーーーーンと、小気味良い音と共にぶち切れたのだった。 それをキュルケが避けられたのは、奇蹟だった。 突然、鼻がむず痒くなり、人前だと言うのに大きなくしゃみをしてしまった。 くしゃみの反動で下がる頭―――その頭の上、僅か数ミリの所をホワイトスネイクの右手が通り過ぎた。 「えっ?」 最初、キュルケは何をされたのか分からなかった。 ただ、目の前、もう掠っても良い所をルイズの使い魔の右手が 恐るべき速さで自分の頭があった場所を薙ぎ払っていた事だけを認識して、あれに当たっていたら、頭なんて簡単にぐしゃぐしゃになるだろうなぁと場違いな事を思い浮かべていた。 「ちっ」 初撃を外した事に対するルイズの舌打ちが耳に届いた時、キュルケはようやく正気に戻った。 懐から杖を抜き、条件反射で魔法を唱えようとしたが、それは遅きに失した行為だった。 「ぐっ!」 杖を手に掴んだ瞬間に、自らの首もホワイトスネイクに掴まれる。 キュルケは自分を見つめるルイズの氷のように冷たい視線と、慈愛を持ち合わせていないようなホワイトスネイクの体温に、この唐突に訪れた事態が、自分の死である事にようやく気が付いた。 「……あっ」 漏れた単音は、一体何を伝えたかったのか。 キュルケ自身も、それは分からなかった。 ゆっくりと流れていく世界。 一秒が一日のような濃密さの死の淵で、キュルケは自分に振り下ろされるホワイトスネイクの左手を見つめ――― 「そこまで」 止まった。 キュルケも、ルイズも、ホワイトスネイクすらも止まった。 先程のルイズの怒声で皆がルイズ達を見ていたが、 誰一人、突然の事態に対応できなかった中で、ここでようやく事態を把握した第三者が出現した。 それに全員の世界が停止したのだ。 そして、その停止した世界を作り出した少女は、無言でルイズの後ろ姿に杖を向けている。 「タ……バサ」 首を掴まれ、呼吸も儘ならないキュルケの声に唐突に現れた少女―――タバサは眉すら動かさず、ルイズに向けた杖を動かさない。 「やり過ぎ」 タバサは、何時ものように自分をからかったキュルケに対する怒りを爆発させたと思って窘めの言葉を簡潔に述べたが、ルイズの身体は動かない。 ただ、静かに、音を立てぬように歯噛みするだけだ。 「ホワイトスネイク!」 怒りも顕わに、ルイズは使い魔の名前を呼ぶと、ホワイトスネイクは一瞬にしてその姿を、この世界から消失させた。 「「!!」」 首を掴まれていたキュルケも、そしてタバサも驚愕に顔色を変える。 ルイズはそんな二人の顔を見て、僅かに気が晴れたのか、 幾分怒りを和らげた表情になっていたが、それでも回りから見れば、十分にプッツンしている表情だ。 その表情のまま、ルイズは皿に残されていた鶏肉を一気に口の中に入れてから、小人の食堂を後にする。 残されたキュルケは、タバサに助けられて立ち上がりながら、言い過ぎた自分の口を恨むしかなかった。 小人の食堂を出たルイズは、暫く無言だったが、食堂から遠ざかるにつれて口の中で何かを呟き始める。 その呟きは、食堂に居た二人の内の、良い所で邪魔をしてくれた蒼い髪をした少女への呪詛の言葉。 「あの女、あの女、あの女、あの女、あの女、あの女、あの女、あの女、あの女!!」 なんという所で邪魔をしてくれたのだ。 もう少し、後、もうほんの少しで、あの忌々しいツェルプストーの牛女を永久に黙らせて、ついでに自分の望むモノを得られたと言うのに 「先に私を侮辱したのはキュルケなのよ!! 私は侮辱した事に対する報復をしただけなのに、何故止められなければならないのよ!!」 「少シ、落ツ着クノダ。我ガ本体」 「落ち着ける訳無いでしょう!! ほんの少し、あの幼児体型が邪魔に入るのが遅かったら、今頃、私を『ゼロ』と呼んだあの女を始末していたのに!!」 「……我ガ本体ヨ。コウ、考エルノダ。 アノ女ノ無キ者トスルノハ、マダ時期デハ無カッタ……トナ」 「どういう意味よ?」 足を止め、ホワイトスネイクに疑問を投げ掛けると、昨日の夜のように、ホワイトスネイクの長く分かり難い講義が始まった。 「『運命』トハ、時ヲ戻ソウガ、加速サセヨウガ、決シテ変ワル事ハ無イ。 君ガ、アノ女ヲ殺ス事ガ出来ナカッタノモ、ソウイウ運命ダッタカラダ」 「運命?」 「ソウ、運命ダ。 ルイズ。『ナルヨウニシカナラナイ』トイウ力ニ無理に逆ラオウトスルナ。 逆ラエバ、ヤガテハソノ反動ガ君ヲ襲ウダロウ。 ダガ、逆ニ考エルノダ。運命ニ抗エバ、抗ッタ分ダケノ反動ガ来ルノデアレバ ソノ運命ニ抗ワズ、運命ニ乗ルノダ。 ソウスレバ、キット行為スル道モ開ケルダロウ」 「何よ、それ。つまり、今はまだ、私を侮辱したあの女を生かしておけって事?」 ホワイトスネイクの言葉に、ルイズは若干不満げにそう呟くが、確かに思い当たる節はある。 あの時、確実にキュルケに当たると確信していたホワイトスネイクの右手が、偶然、当たらなかった。 偶然……言い換えれば運命となるその言葉に、どうやらキュルケは守護されていたらしい。 「ソノ通リダ。ルイズ、コレカラノ君ハ、運命ノ流レヲ見極メル事ニ力ヲ入レタ方ガ良イ」 「運命の……流れね」 ルイズは顎に手を当てて熟考する。 運命。 自分の使い魔である、ホワイトスネイクは記憶を操るスタンドだ。 だが、そのホワイトスネイクですら、運命は操れないし、見ることも聞くことも出来ない。 ならば、その運命を気に掛けるのは、使い魔の主である、メイジの役目。 「分かったわよ。これからはその事を心に留めとく事にするわ」 正直な話、運命などルイズにはまったく分からないが、それでも気に掛けとくのと、まったく気にしないのでは、どちらが良いか考えるまでも無い。 「ダガナ……ルイズヨ。一ツダケ言ッテオク事ガ―――」 「おぉい! 聞いたか!? ギーシュの奴が平民とヴェストリの広場で決闘するらしいぞ!?」 「聞いた聞いた、なんでもその平民は、この間、ここに来たばかりの男らしいぞ」 「あぁ、あのデザート配ってた奴か。珍しい黒髪をしてたなぁ……顔も結構可愛かったし……」 最後に一つ。 これだけは伝えなければいけない事柄を伝える前に、ホワイトスネイクの言葉は食堂から出てきたらしい生徒達の話し声に中断を余儀なくされた。 一方、ルイズはホワイトスネイクの言葉の続きよりも、聞こえてきた言葉に聞き耳を立てるのに必死である。 「貴族と平民が決闘だなんて馬鹿じゃないの? まぁいいわ、腹の虫は治まってないし、貴族に楯突いた平民の末路でも見て、気でも晴らしましょう」 まるで何処ぞに散歩に行くような気軽さで、ルイズはヴェストリの広場へと向かうが、ホワイトスネイクはそんなルイズの後を追わずに、その後ろ姿を見ながら中断された言葉の続きを口にする。 「ドンナ運命ダロウト……ドンナ因縁ダロウト……ソイツラハ乗リ越エル。 例エ、腕ガ無クナロウガ、例エ、友ガ死ニ絶エヨウガ、奴ラハ諦メナイ。 アノ『黄金ノ精神』ヲ持ツ者達ハ。 我ガ本体、ルイズヨ。決シテ『黄金ノ精神』ヲ持ツ者ヲ敵ニ回スナ。 奴ラニハ如何ナル能力モ、如何ナル力モ、勝利スル事ハ出来ナイ」 故に……『黄金の精神』を持つ者を見つけたなら、味方にすることを考えろ。 元本体の結末を思い出しながら、ホワイトスネイクは心の中で、そう付け加えるのだった。 第一話 戻る 第三話
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シエスタは、一週間前から幸せに包まれていた。 一週間前。 水場で洗濯をしている時に、挙動不審な少年を見つけたのが、事の始まりであった。 平賀才人と名乗った、その少年は最初、 ここ何処だよ! どうして月が二つあるんだよ!? つうか、メイド!? えっ? ヘヴン? とか、訳の分からない事を叫んでいたが、どうにか落ち着かせて話を聞いてみると、日本と言う場所から、ここに迷い込んできたらしい事が分かった。 恐らく、才人が他のメイドや魔法学校の職員に見つかっていたなら、彼にはまた違う未来が待っていたのだろうが、運が良かったのか、悪かったのか、才人が最初に遭遇したシエスタは、日本、と言う言葉に聞き覚えがあった。 シエスタの曽祖父が、口癖のように言っていた言葉が日本と言うらしい。 曽祖父の言葉を聞いていた祖父が、自分の息子、つまり、シエスタの父親に話し、父親がさらにそれをシエスタに話していたのだ。 少年に興味を持ったシエスタは、知り合いの中で一番偉い料理長のマルトーに、事の次第を話し、ここで雇ってくれるように頼み、才人がここで働けるように取り計らった。 その時に、気を利かした同室のメイドが別の部屋に移り、何故か才人と同室になってしまったのはご愛嬌である。 基本的に、二人とも、雑用の仕事で忙しい為に、夜に日本と言う場所についてと、才人曰く、別世界である、この世界について会話するのが、この一週間で新しく出来たシエスタの日課である。 そして……才人が二段ベッドの、上の方のベッドで眠っている中、もう一つ追加された日課をシエスタは行っている。 「うふ……うふふ……才人さんの手、とっても綺麗ですねぇ」 眠っていて気が付かない才人の手に頬擦りをして愛でるのが、シエスタの追加された日課だ。 この世に生まれてから見た中で、才人の手はシエスタの中で一番、綺麗で、肌触りが良かった。 昔からこうなのだ。 シエスタは、綺麗な手を見ると、つい触ったり、頬擦りしたくなってしまう。 無論、そんなことを我慢しないでやっていれば、今頃、両親はシエスタの事を水のメイジの元に連れていっただろう。 幼い頃のシエスタも、その事をおぼろげに理解しており、これまでずっと、その手に関する感情をシエスタは隠し続けていた。 だが、才人の手は、そんな我慢を丸ごと無意味であったと言うように、シエスタの手に対する感情のタガを完璧に壊してしまったのだ。 曽祖父の言っていた、日本と言う場所からやってきた少年。 それだけでも、シエスタにとっては特別な存在であるのに、手も完璧とくれば、シエスタでなくとも特別な感情を抱くのは吝かではない。 その浮ついた心が悪かったのだろうか。 ちょっとした、本当に些細なミスを彼女はしてしまった。 アルヴィーズの食堂で、食後のデザートを配っている最中に貴族が床に落としたビンに気が付かなかったのだ。 その貴族は、そのビンが元で、二人の女性からビンタを喰らい、両の頬を真っ赤に染め上げ、シエスタに食って掛かってきた。何故、ビンを拾わなかったのかと。 言い掛かりそのものの怒りを受け、シエスタはすっかり恐怖で萎縮してしまう。 確かに、ビンを気付かず拾わなかったのはシエスタの非だ。 しかし、拾った所でこの結末は結局変わらなかったじゃないかと、傍で見ていた生徒の内の何人かの賢い者達は思っていたが、所詮平民の娘が一人、怒鳴られているだけ。誰一人それを助けようとせず、逆にせせら笑っていた。 誰もがシエスタの味方をしない中で、ただ一人、同じくデザートを配っていた少年がシエスタを責め立てていた貴族に反論し始めした。 平賀才人。 あの素晴らしい手を持った少年である。 「イヤャァァァァァァァァァッ!!」 幸せが根本から崩れる音がする。その音を聞きたくなくて、シエスタは悲鳴を上げた。 彼女の視線の先には、吹き飛ばされる少年の身体。 その少年を吹き飛ばした青銅のゴーレムは、追撃はせずに主であるメイジの指示を待っている。 「強情だな、平民。這い蹲って、一言謝れば許してやると言うのに」 青銅のゴーレムを操るメイジ―――ギーシュ・ド・グラモンが、才人に呆れたように降伏を提案するが、 才人は立ち上がり――― 「絶対、嫌だ」 ファイティングポーズを取り、決闘の続行を態度で示す才人に、ギーシュはやれやれと首を振り、杖を振るう。 その動きと同時に青銅のゴーレム―――ワルキューレは動き出し、才人の顔や腹を手加減無しに殴り続ける。 ―――まるで、サンドバックだな。 シェイクされ続け、まともに機能しない脳でそう考え才人は苦笑した。 無論、殴られている顔の筋肉は、才人の意思通りに動かず苦笑を形作る事さえ出来ないが、もはやそんなことは関係無かった。 「俺、死ぬのかなぁ……」 暢気に呟いたその言葉は、口から出る事さえしない。 痛くて苦しい 辛くて泣きたい 自分がどうしてこんな風に殴られているのか、忘れそうになる。 なんというか、才人には予感があった。 こうなるのでは無いか。 見るも無残なまでに殴られ、顔は腫れあがり、喉は口から流れた血がこびりついて、動きさえしない。 そんな光景が一瞬、頭を過ぎったが、結局、自分は“此処”にこうしている。 思えば……あの予感がした瞬間に、自分は、こうなる『覚悟』をしていたのでは無いだろ―――――― 「グガッ!!」 骨にも、筋肉にも見捨てられた鳩尾に減り込むワルキューレの拳。 ―――効いた。 今のは正直、もう痛みになれたと思ってた身体に、思い上がるなと警告する痛み。 (激痛に、さらに二乗したような感覚だな) その痛みの所為か、鈍っていた思考がクリアになっていく。 おかげで、今、自分の頭に向かってくるワルキューレの蹴りがはっきりと見えた。 ―――まぁ、見えたからって避けられないんだけどな ゴンッ、と鈍い音が広場に響くのと同時に才人の身体は、宙を舞い……桃色の髪をした少女の足元へと辿り着いた。 他のメイジ達の笑い声が、ルイズには遥か遠くのように聴こえていた。 自分の足元に居る少年。 彼は先程まで、貴族に凛とした表情で挑み続け、今、ボロクズのように倒れ伏している。 ―――何なのよ……これは。 その倒れている少年を見ていると、ルイズは自分でも良く分からない感情が、自分の中に生まれている事を感じ取っていた。 それは憐憫か? それとももっと別の感情か? 判断は出来なかったが、これだけは理解できる。 認めたくない事だが、どうやらこいつは、平民の癖にプライドが、敵に媚びないだけの『覚悟』があるらしい。 前々からルイズは思っていた。 ルイズにとっての理想の貴族とは、姉であるカトレアである。 しかし、その姿勢と言うか物事に対する取り組みは長女のエレオノールを手本としている。 エレオノールは何時も凛とし、他者を寄せ付けない雰囲気を出していたが、それは反面、誰にも媚びない、真に誇り高い者が纏うオーラであった。 このようになりたい。 誰にも頭を下げず、誰からも認められる、長女のような貴族に…… そう、胸に秘めてルイズは生きてきた。 だが、現実は甘くは無い。 どうしてもプライドと折り合いを付けなければならない事態はあったし、誰かに頭を下げる事なんて、かなりあった。 故に、自分は今だ理想を体現出来ていない。 だと言うのに……平民でありながら、その理想を体現している者が、今、こうして目の前に現れているのだ。 怒りはあった。 平民なんかが、と言う思いも確かにあった。 けれど、それ以上に、ルイズはこいつに負けて欲しくは無いとも思っていた。 平民が貴族に勝てるはずなど無いのに、何故だか、そう思っていたのだ。 「ソレガ、今ノ君ノ望ミカ、ルイズ……」 主が望めば……その者は、スタンドは動く。 それが例え、実現不可能に近い事であろうと…… 「正直……コノ少年ヲ勝タセルノハ難シイ。ダガ、不可能デハ無イ」 淡々と語る使い魔の言葉に、ルイズは驚愕の表情をホワイトスネイクへと向ける。 「うそ……こいつ、こんなボロボロなのよ? 一体、どうやって勝たせるのよ?」 「ソウダナ……コレガ、勝利ノ鍵ダ」 そう言ってクルクルと左手で回転させているDISCと何処から盗んできたのか、 果物を切る為のナイフを右手に持つホワイトスネイクに、ルイズは、何か言い知れぬ違和感を感じていた。 何か足りない……? 今朝と、今のホワイトスネイクを比べると、何かが足りないようにルイズは思えたが、ホワイトスネイクが視線で訴えてきた。 一瞬で良い、隙を作ってくれと。 隙なんて、どうやって作れば良いのよ、とルイズは心の中で毒づいたが、一つ、名案が浮かぶ。 自分の欲求と彼の勝利。 二つを併せた完璧な案に、ルイズは心の中で笑った。 そうして―――――― 「その決闘、待った!!」 大声で決闘の停止を呼びかけた。 「その決闘、待った!!」 そんな声が、辛うじて残っていた右耳の鼓膜を刺激する。 刺激の元凶を探し、僅かに動く首を回すと、意外にもその刺激の持ち主は近くに居た。 桃色の髪をした少女……その勝気な瞳が、自分と戦っていた相手に向けられている事を 才人が気付いた時、才人は動かない唇を動かしていた。 「な……に……を……ごほっ」 していると続けたかったが、途中で傷付けられた胃から胃液が逆流し、口内の血と交わり朱染めの体液を吐瀉する。 その様子に、ルイズは少しだけ眉を顰めて 「あんた黙ってなさい!」 大声で、そう叫んだ。 なんというか、今の少女の声には有無を言わさない迫力があり、才人は吐いたままの姿勢で立ち尽くす。 座って休まないのは、今、座ったら、もう立ち上がれないからだ。 「なんだね、ルイズ。今は神聖な決闘の最中なんだ。 ご婦人は、大人しく下がっていてくれるかい?」 「残念だけど、そうも行かなくてね。 ギーシュ、私と賭けをしない?」 「賭け?」 生真面目なルイズの口から、そんな言葉が出た意外さにギーシュは不思議そうな顔をしたが、 ふむ、とだけ呟き、首を動かして先を促してきた。 どうやら、このまま抵抗も出来ない平民をボコボコにしても詰まらないと感じたのだろう。 ルイズは、相手が興味を覚えた事に対して、心の中でガッツポーズを取りながら、言葉を続ける。 「賭けの内容は……この平民が貴方に勝つか、どうかよ」 ルイズが宣言した内容に、周辺のギャラリーがざわつく。 所々で、正気か? ついに頭まで『ゼロ』に、とか色々と言葉が飛び交っているが、それを無視してルイズは言葉を続ける。 「そして、賭けるモノは、相手に一つだけ何でも要求をすることが出来る権利よ!!」 堂々と告げるルイズに、ギーシュは何を言ってるんだ、こいつは、と言う視線を送るが ルイズはそんな事関係ないとばかりに口を動かし続け、全員の注目を自分へと引きつける。 (さぁ……これで良いんでしょう、ホワイトスネイク。 ここまでお膳立てをしてやったんだから、必ずその平民を勝たせなさいよ!!) (無論ダ) 誰にも諭されないようにホワイトスネイクは音も無く、才人の後ろへと近づく。 ただの学生である才人には気配なんて感じることも出来ず、ホワイトスネイクの接近を許してしまう。 そうして ―――ズブリ、と頭部にホワイトスネイクの右手が突き刺さった。 (始メマシテガ、コノ場合ノ正シイ挨拶ダナ) (なっ、誰だてめぇ! ……あれ? 俺、声……出てる?) (ココハ、オマエノ精神ノ中……私ハ、直接オマエノ頭ニ語リカケテイル) (どーりで頭に響く訳だ。つーか、何の用だよ。今、忙しいだけど、決闘とか決闘とか決闘とかで) (問題ハソレダ……オマエハコノママデハ、負ケテシマウ所カ、死ンデシマウ。 オマエモ、幾ラ何デモ死ニタクハ無イダロウ) (そりゃあ……死にたくないに決まってるよ……だけど、あいつは、あいつだけはぶん殴らねぇと気が済まないんだよ) 才人は、知らず知らずのうちに歯噛みしていた。無論、顎など疾の昔に砕けているので、出来るはずなど無いのだが、この感覚だけの世界では、不思議と顎に力を入れることが出来ていた。 (……オマエハ、私ノ知ッテイル人物ニ良ク似テイル。 ソイツモ、オマエノヨウニ何度死ヌヨウナ目ニ遭ッタトシテモ諦メナカッタ。 私ハ思ウ。オマエニハ、奴ノヨウナ『黄金ノ精神』ガ宿ッテイル) (なんだそれ? 焼肉のタレの親戚か?) (イヅレ、オマエニモ分カル時ガヤッテクル。 イイヤ、モウ分カッテイルハズダ。 デナケレバ、コノヨウナ勝チ目ノ無イ戦イヲスルハズガ無イノダカラナ……) 段々と頭の中に響いていた声が遠くなっていく。 それと同時に、頭部に何かが入ってくる感触がする。 何かが自分の身体に馴染む感覚。 それが何なのか才人には分からなかったが、その感覚が、才人の意識を外界へと向けていき…… (最後ノサービスダ……オマエノ『痛覚』ヲDISCニシテ抜イテオイタ。 オ膳立テハ、ココマデダ。存分ニ、ソノ力ヲ、私ニ見セテクレ) 「さぁ、どうするの!? 賭けにノるのノらないの!?」 「良いだろう、その賭けにノらせて貰おう……これで良いかい、ルイズ? さぁ、早くそこを退いてくれ。その、平民にトドメを刺せないからな」 余裕の表情で、そう告げるギーシュ。 ルイズは、その言葉に満足げに頷きながらライン越しにホワイトスネイクへと話しかける (そっちはどう? 準備万端?) (何モ問題ハ無イ。ムシロ、君ハ奴ヲ殺サレル方ヲ心配シタ方ガ良イ) (ふぅん、予想以上になんとか出来たって訳……一体どんな記憶DISCを使ったのよ?) (誤解ガアルヨウダガ、今回、私ハ記憶DISCヲ使ッテイナイ) (はぁ? じゃぁ一体どうしたって――――――) 「行け、ワルキューレ! そいつの頭をかち割ってやるんだ!!」 本当なら、ギーシュは平民が謝ったら、すぐにでも決闘を止めるつもりでいた。 だが、中々謝らない強情な平民と、賭けを提唱してきたルイズによって、その考えは捨てるしかなくなっていた。 仕方なく、ギーシュはこの平民を殺す事にした。 別に平民を殺した所で、貴族には罪にならない。 彼ら貴族にとって、平民と言う肩書きがあるだけで人間では無いのだ。 だから、罪悪感など微塵も感じない。 まるで、ランプに集る小煩い羽虫を潰すような気軽さで、 ギーシュは―――真っ二つにされる、ワルキューレを見た――― 「「へっ?」」 間抜けな声をあげたのは、ギーシュとルイズの両名。 二人とも、目の前の現実が突飛過ぎて脳の処理限界を超えてしまったのだ。 誰が信じられる。 先程まで良いように殴られ続けていた平民が、たかだか果物ナイフでワルキューレの青銅の胴を切り裂いたなどと。 「――――――ッ!」 声など出ない。出してる暇も無いし、出す気も無い。 ただ、痛みも身体の限界も、力学も、空気抵抗も忘れて、才人は走り出した。 自らが標的と定めた敵へと向かって 「わ、わるキュー!!」 慌てて残りのワルキューレを出そうとするが、時すでに遅し、 物理法則を無視したかのような才人の速さは、一息の踏み込みでギーシュの懐へと入り込んでいた。 そして、喉に当てられる刃。 まるで、獲物に喰らいつく猛獣の歯のようにギラつくその刃にギーシュはすっかりビビってしまった。 「コ……降参する! 降参するから、命だけは助けてくれ!!」 だが、首からナイフの刃が外される事は無い。 「頼む……なぁ、頼むよ。謝るから、許してくれ……お願いだ」 ギーシュの懇願が効いたのか、それとも肉体的にすでに限界だったのか、 果物ナイフをギーシュの首元から外し、てくてくと才人は歩き出す。 そして 「あっ……」 殴られ続けた才人を見て、呆然としていたシエスタに笑いかけた。 その微笑みは、顔の筋肉が殴られた影響で腫れあがり、 まともに働かなかった為に随分と歪なものであったが、確かに笑っていた。 「――――――」 その笑顔のまま、口を僅かに動かし、才人の身体は、今度こそ地面に倒れ伏した。 「才人……さん……」 倒れた才人を見て、ペタンと座り込んでしまうシエスタ。 今までの出来事に対し、脳の処理能力が追いつかないのだ。 回りの貴族達も同様であった。 ただ、驚きの表情でこの決闘の一部始終を見つめているだけ。 そんな中で、ルイズとホワイトスネイクだけが正気に戻っていた。 と言うか、ホワイトスネイクは最初からの、この結末になることを知っていたし、ルイズはホワイトスネイクに声を掛けられて、やっと正気を取り戻したのだ。 平民が……貴族に本当に勝った…… ホワイトスネイクがどうにかして勝たせると言っていたが、まさか、こんなに圧倒的とは思っていなかったのだ。 ともあれ、なんとか再起動を果たしたルイズは、悠然とした動作を心がけてギーシュへと近づく。 その顔は、先程の才人が表現したかった満面の笑みで彩られている。 「さぁ、ギーシュ。賭けの清算をしましょう?」 なるべく穏やかに、なるべく優雅に、ルイズはギーシュへと話掛けるが、ギーシュは一度、身体をビクンと一度振るわせた後、ガタガタと肩を揺らし始めた。 最初、ルイズは首にナイフを突きつけられた恐怖に震えていると思っていた。 しかし、事実はまったくの逆。 ギーシュは、限りなく憤っていたのだ。 「ルイズ……この賭けは無効だ……」 腹の底から響かせるように、ギーシュは厳かにそう告げる。 この返答にルイズは、眉を顰めた。 何を言ってるんだ、こいつは。 平民に負けたら、強制的にギーシュの負けである。 なのに、無効とは…… 「何、ふざけたこと言ってるのよ!! 約束を守りなさいよ! あんたそれでも貴族なの!!」 「あぁ、貴族さ! 誇り高きグラモンの末弟にして、土のメイジだ! だから、だからこそ、本気を出せば、あんな平民如きに負ける訳が無い!!」 そう言って、ギーシュは杖を振るい、薔薇の花弁からワルキューレを六体作り上げた。 「あの時、僕のワルキューレは一体だった。 しかし、本来なら僕は七体のワルキューレを扱う事が出来るメイジだ! 故に、あの勝負は全力で挑んでいなかったとして無効だ!!」 速効で勝負を終わらしてしまった事が裏目として出てしまった。 ギーシュに、貴族に対して、平民に負けたと言うのは耐え難い恥である。 もしも、ギーシュが七体全てを出し切って負けていたのなら、こんな事にはならなかっただろう。 しかし、今の彼には逃げ道が、全力を出していなかったと言う“言い訳”が存在してしまっていた。 「憐れね……現実が信じられないからって、そんな逃げ道に走るなんて…… それでも、誇り高き貴族なの?」 本気でルイズはギーシュに対して憐れみを感じていた。 そう……次のギーシュの言葉を聞くまでは…… 「お前に貴族云々を言われる筋合いは無い!! 魔法も使えない癖に、ただ威張り散らすだけの『ゼロ』が!! ハッ、そうか……君、あの平民とグルだったんだろう? それで、魔法を使えない者同士、知恵を振り絞って僕を倒そうとしたんだろ? そうなんだろ? ハハッ、何が憐れだ。君の方がよっぽど憐れだよ。 さっきから貴族、貴族と……魔法も使えぬ奴が貴族を語るな!!」 普段のギーシュならば、こんな言葉を吐かなかっただろう。 だが、平民に自分のゴーレムを壊された事、そして、その現場を他の学生達に…… 特にモンモラシーに見られた事が、彼から余裕と―――危機感を奪っていた。 故に彼は気が付かなかった。 ルイズの握られた拳から、血が流れていた事を…… 誰かが、その、あまりにも強く、手を握り締めた為に爪が食い込み出血しているその拳を見れば、この後の事態を避けられたかもしれなかった…… しかし、運命は無情である。結局、誰一人、その事実に気が付かず、ルイズは一歩、確りと足を踏み出してしまった。 「ねぇ……ギーシュ……決闘しましょう…… 貴方は魔法を使っても良い。勿論、使い魔も良いわよ 私も使い魔を使わせて貰うから、そのぐらい許可するわ」 何の感情も込められていない言葉。 あまりにも怒りに、頂点を一巡して、無感情にまで辿り着いた怒りに、ルイズは静かに向き合っていた。 その様子に気が付いた者が、ギャラリーにちらほらと見受けられてきたが、ギーシュはそんなことに気が付かず 「良いだろう……だが、君は魔法を使えないから実質、君の使い魔のみが、 メイジである僕と戦うんだ。僕のヴェルダンディは出すまでも無いよ」 「そんなこと言わないで……だって、貴方、今度負けたら使い魔が居なかったら負けた…… とか言い出すに決まってるわ。なら、最初から使い魔が居た方が手間が省けるもの」 「何の手間だい? 君が僕に負けて地面に這い蹲って、泣いて部屋に帰る時の手間かい?」 その時は、勿論ヴェルダンディで部屋に送ってやるさ、と呟くギーシュにルイズはもう一歩近づく。 そして、本当に透明な声で…… 「いいえ……貴方の墓穴を掘る手間よ」 ゆっくりと告げた。 瞬間、ルイズの隣に立っていたホワイトスネイクの身体が弾けた。 否、“弾けたような速さ”でギーシュへと肉薄した。 スタンドとは本体の精神エネルギー。 例えば、一人の人間が100メートルを七秒で走れたとしよう。 それが、どれだけ感情を燃やした所で、その人間の限界。 そして、それが世界の法則。 肉体と言う世界に縛られた檻では、感情を幾ら燃やした所で、どうしても限界を超える事が出来ない。 だが、スタンドは精神エネルギーの結晶体。 肉体を持たず、世界との繋がりが緩いスタンドは、世界と言う檻に囚われず、時折、そのスタンドに予め決められていた性能の限界を超えてしまう。 無論、限界とは、それ以上、先へ進めないから限界である。 その為に、スタンドが成長して限界を超える際は、基本的に新たな能力の使い方に目覚める。 すでにして性能が限界に達していたスタープラチナが、限りなく『0』に近い静止した時間を動けるようになったように…… エコーズが、その姿を変えて、能力を変化させたように…… オアシスが、それ以上強くなれない肉体の為に、周囲を脆くする能力を身に付けたように…… だが、ホワイトスネイクは、新たな能力には目覚めなかった。 この世界では無い、世界。 スタンド使いが居た世界で、新たな能力に目覚めず、スタンドの基本性能を一時的に飛躍させ、誇張でも何でもなく『限界』を超えたスタンドが一体だけ居る。 シルバーチャリオッツ。 仲間を殺された怒りが、超えられるはずの無い限界を超えたように、 ルイズのホワイトスネイクもまた超えられぬはずのない限界を超えていた。 有り得ぬはずのスピード。 有り得ぬはずの精密動作 有り得ぬはずのパワー ルイズとギーシュの距離は10メートルは離れていた。 しかし、ホワイトスネイクはその距離を一瞬にして『ゼロ』にして、同時に六体のワルキューレを粉々に粉砕していた。 「ほら……これで貴方を守る存在はいなくなった…… ねぇ、本当に使い魔を呼ばなくて良いの? このままじゃあ貴方……」 ルイズの淡々とした言葉は、ギーシュの耳には届いていない。 何が起こったのか、さっきの平民所の話では無い。 ガチガチと歯がなる。 認められない。認められるはずが無いと。 「ヴェルダンデ!!」 自分の使い魔を呼ぶ。 ヴェルダンデは、主の望むままにルイズの足元に大穴を空け……動かなくなった。 「なっ……何を……」 「ん~、綺麗なDISCね。流石はジァイアントモール……主よりもよっぽど価値があるわ」 手に何か円形のものを持って、ルイズが呟く。 もう、訳が分からなかった。 この状況もそうだが、自分の近くに居たはずのルイズの使い魔が何時の間にか、ルイズの傍に控えている。 その様は、下される命令を待つ兵士のようであり……処刑の号令を待つ、死刑執行人であった。 「さてと……それじゃあ……奪わせて貰うわ……貴方の才能を……ね」 円形のモノを口に咥えたルイズが、つい、と指揮棒を振るように右手を振った瞬間に、ホワイトスネイクがギーシュの眼前へと現れ―――――― 「えっ……?」 訳が分からなかった。 全力で振りぬかれたはずの使い魔の右手は、自分の頭をぶち壊す訳でもなく、ただ通り過ぎてしまった。 これは……もしかしたらチャンスじゃないか…… ギーシュは、最後の最後で油断を見せたルイズを嘲笑った。 ルイズも、ルイズの使い魔も、すでにギーシュに背を向けていた。 その隙だらけの背中に、剣を創り飛ばそうと、ギーシュは呪文を唱えた。 が……それが形になることは無かった。 「な……なんで?」 「お探しのものは、これかしら?」 ルイズがギーシュへと振り向く。 その頭には、二枚になった円形のモノの一枚が、頭に突き刺さっていた。 「それは……」 「……貴方、自分から出たモノなのに分からないの? これは、貴方の魔法の才能……土のドットクラスなんてカスだけど、 まぁ、ありがたく使わせ貰うわ」 そう言って、ルイズはこれまで一度も触れなかった杖に触れ、大きく杖を振り上げた。 それに伴い、粉々になったはずのワルキューレ達が、次々に形を取り戻していく。 「中々、便利じゃない……」 感心したように呟くルイズに、ギーシュは、もう自分は、この化け物に勝つことが出来ない事を悟った。 逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては…… 逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては…… 逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては…… 逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては…… 逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては…… 逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては…… 逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては…… 逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては…… 逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては…… 逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては…… 逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては…… 逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては…… 逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては…… 「あぁ、そうそう―――あんたには出て行ってもらうわ」 気付かれた……この世で最も恐るべき存在に気付かれた。 ギーシュは気絶したかったが、襲い掛かる恐怖の波でそれすらも出来なかった。 ただ、震えてルイズの言葉を待つしかできない。 「出て…………行くって…………何処……に?」 「決まってるじゃない」 ルイズは、無感動に無感情に無慈悲に無意義に無意気に 「――――――あの世よ」 お前はこの世に価値が無い。 まるで、無為な者を見るような目で自分を見つめるルイズの視線に、ギーシュが目を逸らそうとした瞬間、目の前が塞がれた。 何かが、頭の中に入ってくる…… そんな感覚がしたかと思うと、ギーシュは自分の首を自分で絞めていた。 「ぐぇぇぇぇっ!!」 苦しそうに呻くが、自分の手だと言うのに、思うとおりに動かない。 「ギーシュッ!!」 ギャラリーの中で、心配で部屋に戻った振りをしてギーシュを見に来ていたモンモラシーがギーシュに近寄り、首に回っている手を外そうとするが……外れない。 「ギーシュ!! ……ギーシュ!! ルイズ、お願い!! 彼を助けてあげて!!!」 何をしたか分からないが、ルイズがギーシュに何かをしてこうなった事は分かっていたので、ルイズに助けを求めるが、 彼女はワルキューレに倒れ伏した平民を担がせて運ぼうとしていた。 呆然としていたメイドもついでに抱えている。 「お願い!! お願いよ、ルイズ!!!」 モンモラシーの嘆願に、ルイズは振り返りさえせず、ヴェストリの広場を立ち去ってしまった。 そうこうしている内に、ギーシュの顔色が青から土色へと変色していく。 もう余裕が無いのは明白だった。 「ギーシュ!! お願い、手を離して、ギーシュ!!!」 モンモラシーが泣き腫らした目と、枯れた声で叫んだ瞬間、彼女の耳に魔法の詠唱が届いた。 「エア・ハンマー」 風の槌がギーシュの頭を酷く叩く。 それによって、ギーシュは気絶し、手に込められていた力もあっさりと抜けた。 「タバサ!!」 普段寡黙でこんなイベントには来ないであろう彼女が来た事に対する疑問はあったが、モンモラシーは素直にタバサがここに居る事を喜んだ。 「ありがとう! 本当に……本当にありがとう……」 泣きじゃくるモンモラシーを余所に、タバサは天国に片足を突っ込んだギーシュへと近づく。 ギーシュの足元、そこに光る何かを見つけたからだ。 円形の形をした何か。 鍋敷きのようであるが、これが、ギーシュに自分の首を絞めさせた原因だろう。 タバサが、それを懐にしまうと、タバサの後を着いてきたキュルケが、ふらふらと広場に到着する。 ギャラリーが騒然となっている中、この騒ぎを起こしたのがルイズだと知ると、キュルケは自責の念で潰れそうになった。 ―――自分が……自分が引き金を引いた所為でこんな事に…… もう遅すぎる後悔が、彼女を絶え間なく責めていた。 第二話 戻る 第3.5話
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まるで鮮血で染まったかのような紅い空で、二つの影が、同じく二つの月をバックに対峙していた。 一つの影は、シルフィードを駆るタバサ。 そして、もう一つは右手に杖を握り、フライの魔法で浮遊するルイズであった。 普通ならば、このような対比は有り得ない。 何故なら、フライの魔法で飛行していると、他の魔法を使う事が出来ず、戦闘では的以外の何者でも無いからだ。 しかし、ルイズは違った。 フライの魔法で空を飛んでいた所で、今の彼女にはホワイトスネイクが居る。 生半可な魔法など、その両の手で叩き落し、接近戦であるならば、通常の人間以上の動きで攻撃を仕掛けてくる。 さらに、その手は頭部に触れると問答無用で対象の『記憶』をDISCとして引き出し、魔法すら奪う、悪魔の手だ。 近づけば負ける。 だが、それは反面、近づかなければ負けないと言う事でもある。 フライの魔法は空を飛ぶのに確かに便利であるが、風韻竜である自分の使い魔には速度と移動距離、共に劣っている。 さらに言えば、向こうはフライで飛んでいる限り、接近戦しか出来ないが、こちらは魔法を遠距離から唱えられる。 相性的に言うのであれば、自分達は敵に勝っている。 しかし、タバサは心の底から湧き上がる不安感を拭い去る事がどうしても出来なかった。 「ウオシャアアアアアアアアアアア!」 獰猛な毒蛇を思わせるホワイトスネイク独特の声と共に繰り出されるラッシュは、ルイズの元へ飛来してくる氷の矢や空気の塊、風の刃を全て叩き落す。 今の所、ルイズにダメージはゼロだが、それは向こうにも言えた事。 攻撃を叩き落しながら、シルフィードを追いかけているルイズであったが、向こうのスピードは自分のフライの速度よりも速く、このままでは何時まで経っても追いつく事が出来ない。 追いつけなければ、自分のホワイトスネイクを、あのクソ生意気な眼鏡の顔に叩き込む事が出来ないのだ。 (空中戦じゃあ勝ち目が無い! でも、だからってどうすれば良いの!?) 二度目であるはずのホワイトスネイクの戦闘運用であるが、効率的な運用方法がルイズの頭には浮かんでこない。 戦いとは、装備やそれを使う者の能力も必要であるが、最も重要なのは経験である。 何時、何処で、どのようなタイミングで繰り出すのが効果的なのか。 戦闘のセンス、或いは。戦術的な戦い方。 それらを鍛えるには、戦いの中で、自分で学び取るしかない。 一度目の戦いの時は、そんなものは必要無かった。 ホワイトスネイクは相手のワルキューレの何もかもを上回っていたし、勝負自体も一瞬で片付いた。 しかし、その一瞬で片付いた所為で、ルイズは戦いにおける経験を、まったくしていない。 模擬戦すら、まともに行っていないルイズには、諸事情により、ちょっとした百戦錬磨になっているタバサの相手は荷が重い。 「ラグーズ・ウォータル・イス・イーサ・ハガラース」 タバサの詠唱が空に響く。 先程の氷の矢では無く、一回りも二回りも大きい、氷の槍。 蛇のようにシルフィードを回るその槍が、一直線にルイズへと襲い掛かる。 「ホワイトスネイク!!」 「不可能ダ」 あのサイズともなると、完全に弾くのは無理がある。 元の自分の性能なら可能だろうが、ルイズが本体となってから、ホワイトスネイクの破壊力は一段階下がっている。 無理を悟ると、ルイズはフライの魔法を切り、朱色の空から落下する。 その後を追うジャベリンに、キュルケのDISCから引き出した炎が喰らいつく。 外面は一気に気体にまで昇華させたが、芯は、まだ形を保っている。 「弾きなさい!!」 右腕を振るい、小さくなった氷の槍を弾く。 しかし、魔法による串刺しは免れたが、目の前まで迫った地面による死が間近に迫っている。 フライ、否、間に合わない!! 「なら、浮きなさい!」 フライよりも詠唱の短いレビテーションにより、墜落死の運命を書き換える。 だが、浮かぶ事しか出来ないレビテーションは、フライなどよりももっと、もっと簡単に当てる事の出来る的であった。 「来ルゾ!!」 二本目のジャベリンが、ルイズの身体に風穴を開ける為に、放たれる。 冗談じゃない。こちとら、嫁入り前なのよ、 すでに地面に近かった為、レビテーションを切り、地面へと着地する。 そして、ありったけの魔力を込めた火球をもう一度、ジャベリンにぶち当てた。 ジュウウウウと言う耳に残る音と共に、結びつきを無くす氷達は、芯すら残さずに空気中へと拡散する。 そうして拡散した水蒸気は、霧雨のようにルイズとホワイトスネイクを取り囲む。 「ラグーズ・ウォータル・イス・イーサ・ウィンデ」 そして、紡がれる詠唱。 その詠唱にルイズの頬が引きつった。 この呪文は、確か空気中の水蒸気を凍らして、氷の矢とする呪文……即ち――― 「チェックメイト」 タバサの無機質な声が、終わりを告げる。 ルイズの周囲を囲む水蒸気が、一瞬にして50を優に超す数の氷の矢に変質し、目標へと一斉に放たれた。 キュルケは走っていた。 いや、片足を引き摺り、動く度に口元から溢れ出る朱色ののものを拭う彼女は、予想以上に歩みが遅く、彼女は走っているつもりでも、他人から見ると歩くよりも遅く歩を進めていた。 顔は苦悶の表情しか表さず、動くだけで激痛を彼女が感じている事を物語っている。 だが、止まらない。 否、止まれない。 「すっごい……わがままなのよ……私はっ!」 紅い液体と共に吐かれた言葉は誰に向けたものなのか。 少なくとも、自身では無い。 キュルケは、基本的に良い奴と言う認識が、学園ではされている。 勿論、その明け透けな性格から恨みを買う事も多いが、友人間の間では広く信頼され、頼りにされている。 だが、キュルケ本人は自分の事を、すっごい我侭な奴と思っている。 自分は、自分のしたい事しかやっていない。 誰かを好きになったから、その人と愛を語り、誰かが困っているなら、自分が相談に乗りたいから相談に乗る。 元にあるのは全て、自分の意思。 これを、我侭と言わずなんと呼ぶのか。 キュルケは、くすりと微笑みと血を口元に張り付かせる。 今だってそうだ。 あれだけ拒絶され、殺されそうになるぐらいに恨まれている娘に自分は会いに行こうとしている。 あの娘らしく無い。 ただそれだけを戒め、そして出来ることであるならば、また共に歩きたいと思うが為。 言ってしまった言葉は戻らない。 やってしまった行動は覆らない。 「だから……どうしたって……言うのよ」 そんなことは知っている。 だから、どうした!? 覆らないのならば、戻らないのならば、償わなければならない! そうだ……向こうにそんな気が無くたって、私は、私は!! 「私は……あの娘の味方でありたい―――!!」 最後まで絶対に諦めない!! 周囲を囲む50を超す氷の矢に、ルイズの思考は一瞬停止する。 頭に浮かぶのは、氷の矢で串刺しになり、屍を晒す自分の姿。 それがあんまりにも、おぞましくて、ルイズはその運命に抗った。 「アァァァァアアアアアアアアアアアアアァァァァァ!!!!」 天を轟かさんばかりの咆哮と共に、ホワイトスネイクの腕と足が、ルイズを中心に四方八方へと繰り出される。 拳打と蹴打の結界。 限界を超えんとばかりに振るわれる四つの衝撃の前に、氷の矢は次々に塵芥へと還っていく。 その数―――10―――20―――30―――40―――44!! 44も守りぬけた事を褒めるべきなのか、それとも、完全に守りきれなかった事を貶めるべきなのか。 ホワイトスネイクの拳が44個目を砕いた時、続く45本目がルイズの右肩を貫いた。 「あぐっ!」 スタンドのダメージが本体に伝わるように、本体のダメージもまたスタンドへと伝わる。 ルイズの右肩のダメージにより、右腕を使用できなくなったホワイトスネイクの結界に綻びが生じる。 46、47本目を砕くが、48本目が今度は、ルイズの横っ腹を直撃した。 同時にホワイトスネイクにもダメージが伝わり、動きが一瞬停止してしまった。 後は、もうどうにもならなかった。 なんとか頭部へと覆い被さる事で、本体の頭へと矢が刺さる事を阻止したが、それ以外の場所には余す事無く矢が突き刺さる。 「――――――ッ!!」 もはや、声すら出なかった。 殺到する氷の矢は、強姦魔の如く、少女の身体を自らの身体を持って陵辱する。 穿った場所から滴る血は、氷の矢が纏う冷気により、瞬時に固まり、無用に血で彩るのを禁止する。 それは、一つの彫刻であった。 少女から生える、無骨な氷の長躯。 彩るは、鮮血の朱色と桃色の細糸。 黒のローブを地とするそれらは、見る者にある種の感動すら沸き上がらせるだろう。 まだ幼き少女を、その彫刻へと変えた蒼の少女は、自らが駆る竜から降り、地面へと降り立った。 蒼の少女は、竜に何事かを伝えると、竜は僅かに頷き、空へと消えていく。 それを確認してから、少女は右手に杖を握り締めながら、ゆっくりと口を開いた。 「復讐に我を忘れ、力に酔った貴方は……危険」 それは果たして、桃色の少女にだけに向けた言葉だったのか。 蒼色の少女が、桃色の少女を見る目は、まるで自分の末路を見るように、絶望に彩られている。 復讐の失敗者を処断する、復讐者。 その、あまりの憐れさに、蒼色の少女は絶望していた。 絶望していたが……油断はしていなかった。 彫刻と化した少女から漏れる僅かな呼吸音。 驚くべき事だが、あの少女は、全身を氷の矢で貫かれていながら、まだ生きているのだ。 おまけに、その絶え絶えな息は、規則的では無く、少女が今だ意識を保っている事をタバサに告げていた。 「このまま、貴方を生かしておく訳にはいかない」 もし、このまま彼女を生かしたままとすると、彼女は間違いなくタバサの前に立ち塞がるだろう。 自らを傷付けた、その代償を貰いに―――――― 今回は、辛くも勝利したタバサであるが、次がどうなるかは分からない。 いや、今回のような真っ向勝負になるのなら、まだ良いが、日常に、あの白い使い魔が牙を剥いて来たとしたら…… ルイズを生かしておく事に、メリットなど存在しなかった。 「完全なるとどめを……刺す……」 他の学生達と違い、ある事情から自国の厄介事を請け負っているタバサは、人を殺した経験も勿論あった。 初めてで無い事に躊躇いなど存在しない。 ただ、ルイズを殺したら、キュルケと、これまで通り友人してやっていけなくなるであろう事を考え、それだけが胸に僅かな痛みを抱かせた。 (…………ごめんなさい) 心の中で友人に謝罪し、詠唱を始めようとした時、ルイズの身体が小刻みに振動し始めた。 「――――――くっ―――くくっ―――クククッ―――ク――――」 笑いを必死に噛み殺しても、噛み殺しきれない笑いが喉を、身体を揺らしている。 その認識にタバサが至ったと同時に、杖を握っていた右腕に激痛が奔る。 焼き鏝を直接当てられたかのような痛みの原因は、地面から伸びる青銅の剣。 鉄よりも柔らかいが、肉を断つには、まったく問題無いそれが、タバサの右腕に突き刺さっているのだ。 咄嗟に呪文を放とうしたが、今度は槍が地面から生え、杖を弾き飛ばす。 「あは―――あはは―――アハハハハハハハハハハハハッ!!!」 そんなタバサを、ルイズが哂いを噛み殺すの止め、耳元まで裂かんばかりに口を開き、禍々しいまでの嘲笑を持って、見つめていた。 その顔に苦悶は無く、まるで痛みすら感じていないようである。 「不思議かしら? あんな串刺しにされながら、呪文の詠唱を終えていた事が? んっ?」 ルイズの言葉に、タバサは耳を貸さない。 確かに疑問はある。 あんな傷だらけの身体では、痛みによって詠唱の為の集中など出来ないであろうに、彼女は自分が降り立つまでに錬金の詠唱を終えていた。 それは、つまり、あの串刺しの最中から詠唱をしていた事に他ならない。 「私のホワイトスネイクは『記憶』をDISCとする。 そして抜かれたDISCの『記憶』を失う。 これはその応用なんだけど、『痛覚』を『記憶』DISCにして抜いた訳よ。 痛覚さえ無ければ、痛みで詠唱の集中を邪魔される事も無かったわけ」 耳を貸すな……あれは、優越から来る油断だ。 今、この状況を打開するには、この油断の最中しかない。 考えろ、考えろ、考えろ。 この状況を打開する手段を。 「正直、あんたがここまで頑張れるなんて思わなかった。でも、それもお仕舞い。 ホワイトスネイク! あいつのDISCを私の手に!!」 傷だらけの白い身体が、歩き始める。 ルイズの元から離れ、ゆっくりとタバサの方へと。 「怖がる事は無いわ。 あんたの場合は、『才能』も『記憶』も両方奪ってあげる。 苦痛なんて無い……だから安心して、眠りなさい」 謳うように諦めろと言うルイズにタバサは、僅かに口に動かす。 「――――――――――――」 「何? 何か言い残す事でもあるの?」 遺言ぐらいなら聞くわよ、と言うルイズに、タバサは確りと首を振り 「遺言では無い。もう十分と言った」 確りした口調でそう言った。 「もう十分? 何、もう十分戦いましたとでも言いたいの?」 「もう十分引き付けた。後は貴方の仕事」 タバサの言葉に答えたのは、風を切り裂くブレスの轟音であった。 「風竜!? そんな、今まで何処に!?」 ルイズは知る訳が無い。 頭上でブレスを吐いたその竜が、すでに絶滅されたとする風韻竜であり、その身を今まで先住魔法により、空と同化させていたなどと。 いや、知っていた所で、これからの結末を変える事など彼女には出来なかった。 「ぐっ、ぐぐぐぐっ―――!」 無理矢理に身体をブレスの着弾点から移動させようとするが、彼女の身体の足は、すでに足として機能できないまでに壊れている。 例え、痛覚が無くなっていたとしても、壊れているモノは動かない。 頼みの綱のホワイトスネイクも、タバサの近くへ行っている為に間に合わない。 「――――――――――――――――――あっ」 今まで立っていた事が奇蹟のルイズの身体は、無理矢理に動かした事により、 ゆっくりと地面へと倒れ落ちようとしていた。 このまま倒れ落ちたら、多分、死ぬ。 いや、倒れなくても、このままブレスの直撃を受けて…… そこまでルイズの思考が辿りつくと、その先は、もうゼロだった。 何も考えられない。 何も考えたくない。 無我の境地と言えば聞こえは良いが、それは、現実を拒否する者の至る所。 忘却の果てのゼロに至ったルイズは、ぽかんとした顔で自分を完膚無きまでに 破壊するブレスを見上げ――― 「ルイズ!!」 何処か懐かしい、赤髪の少女に突き飛ばされた。 「そうして……君は“此処”に辿りついたと言う訳か…… ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」 何もかもを委ねたくなるような、壮言な響きにルイズは、顔を上げた。 そこには、柔らかそうなキングサイズのベッドに身体を横たえ、ワイングラスを片手に大きな本を読む半裸の男が居た。 何者だろうこの男? いや、それよりも、此処は一体? 「“此処”において名などあまり重要では無い そんなモノで分類できるものなど、存在しないのだからな。 まぁ、それ以上に、私にとって名前は、意味は無い。 所詮、今の私は、君のスタンドの『記憶』から作り出された残滓なのだからな」 人の考えを読むように、疑問に答えた男は、僅かにワイングラスを傾け、それを口元へと運ぶ。 「そして“此処”だが……“此処”は君の中だよ、ルイズ」 私の……中? 「正確には、君の中に居るホワイトスネイクの『記憶』と 君の中の『才能』により、復元された『世界』だ」 どういう意味? 私の才能? それに世界って…… 「本来、ホワイトスネイクは『記憶』を扱う能力しか無い。 だが、あるスタンドと融合する事で、人々を天国へと到達させる存在へと成る。 あぁ、そんな怪訝そうな顔をするな。天国と言っても精神的なものだ。 何も、全ての者を死に絶えさせる存在じゃあ無い。 特異点へと加速をし『ゼロ』へと至る、そのスタンドの名を 『メイド・イン・ヘヴン』と呼ぶ」 そこで、一拍置き、私の理解できない頭を余所に男は話を続ける。 つうか、さっきの質問の答えにまるでなって無いわよ。 「天国へと至る為に、最も必要なのは特異点へ『ゼロ』へと至る事だ。 何故ならば、時の加速は、『ゼロ』に対する引力によって行うからであり、その場所に至らなければ、天国を実現することなど夢のまた夢」 さっきから『ゼロ』『ゼロ』『ゼロ』腹が立つんだけど…… と言うか、あんた、一体何が言いたいの? 「済まなかったな。では簡潔に言うとしよう。 ルイズ、君にはすでに天国へと至る準備が整っている。 特異点であるはずの『ゼロ』を内包し、天国へと至った『記憶』を持つホワイトスネイクを従える君には、辿り付けるはずなのだよ。 我々が望んでやまなかった。全てが『覚悟』を元に、運用される、天国に……な」 言っている事が訳分からないし、まぁ、でも、なんというか…… あんた……私に何かやらせる気なの? 「私がやらせる訳では無い。 全ては引力により、動いている。 人が誰と出会い、誰と恋し、誰と殺しあうのか。 全ては引力により決定され、我々にそれを変える術は無い。 その術を持つのは、『始まりから終わり』を持っている君だ。 君だけは、どんな世界であろうと『運命』の束縛に縛られる事は無い。 故に、君が天国へと至るのであれば、それは君の意思によるモノだ。 なぁに、難しく考える事では無い。 残念だが、今の君ではまだホワイトスネイクすら完全な性能で扱えていない。 今は成長の時だよ、ルイズ。 友と競い、学びあい、談笑しろ。それが君の精神を高め、スタンドを強める鍵となる」 …………私に……そんな相手なんか…… 「果たしてそうかな? 忌み嫌う相手だとしても、少し見方を変えるだけで、違って見えてくる。 私もそうだった。見下し、忌み嫌っていた相手が、無くてはならない友であることに気が付いた。 今では、もはや彼と私は文字通り、一心同体だがね」 ………………………………………………………………………… 「さぁ、目覚めるが良いルイズ。 君にとって必要な友を助けるか助けないかは、君が判断すれば良い」 ……助ける? 私……誰を助け………… ――――――ルイズ!!―――――― …………キュルケッ!! なんで!? どうして、私なんか…… 貴方の才能を奪って『ゼロ』にしたのは、私なのに……どうして!? 「それが友と言うものだからだ…… さぁ、もう行くが良い。それと、このホワイトスネイクに残滓として残っている『世界』を君に預けよう。 どうせ、『記憶』に過ぎない私には扱う事など出来ないのだからな。 もう、僅かな力しか残っていないが、相応しい持ち手にDISCの選定者である君が渡してくれたまえ……」 男はそう言うと、私の頭に、自分の頭から取り出したDISCを挿し込む。 すると、ベッドしか無かった空間に靄が掛かり、少しずつ何もかもが消えていく。 そうして、全てが消えたと同時に、私の頭は、この出来事すら忘れて現実へと帰還していった。 「キュルケッ!!!」 ルイズは、自身を突き飛ばした赤髪の少女の名を叫ぶ。 自身を呼ぶ声に気付いたキュルケは、ルイズへ微笑み、最後に鮮血で真っ赤に染まっている口元を動かす。 ――――――ごめんなさい―――――― それが謝罪の言葉であると理解した瞬間、ルイズの頭を血が駆け巡る。 もうキュルケのすぐ傍まで迫ったブレスが、彼女を吹き飛ばすのに、後一秒も掛からない。 一秒……それで十分だ。 何が十分なのか良く分からないが、とにかく十分だとルイズは感じていた。 その感覚は、吐き気を催す程の不快さをルイズへと与えてくるが、それに耐え、ルイズは、自分の身体に宿る、ホワイトスネイク以外の何かを『発動』させた。 キュルケは死を『覚悟』していた。 無論、自分には、まだまだ先があり、これから先、もっと生きていたいと言う欲求は確かにあった。 しかし、その欲求は、目の前で今にもブレスでバラバラにされそうな少女を見殺しにしてまで叶えたい願いでは無かった。 穴だらけのルイズを突き飛ばし、自分もブレスの着弾点から離れようとしたが、 すでにホワイトスネイクに踏みつけられた事で負傷をしているのを、鞭を打って移動していたキュルケの身体は、最悪のタイミングで限界を迎えてしまった。 先程のルイズと同じように崩れ落ちる身体。 ふと、キュルケはルイズと目が合った。 色々と言いたい事はあったが、この一瞬で伝えられる事は限られている。 だからこそ、彼女は、心の底からの謝罪の言葉を口にした。 「ごめんなさい……」 残念ながら、満足に口が動かず発音は出来なかったが、なんとか伝わってくれただろうか。 そんな疑問を胸に抱きながら、キユルケは死を受け入れようと目を瞑り…… 凄まじい衝撃音を耳にした。 あぁ、自分は死んでしまった、とキュルケは感じた。 あの物凄い轟音は、ブレスが着弾した音で、自分はその着弾点の中心でその音を聞いている。 (死ぬ時ぐらいは、もっと静かに死にたかったと言うのに……耳を塞げば、聞こえなくなるかしらねぇ) ルイズを助けた事で、何も思い残す事は無くなったキュルケは、何時も通りのノリに戻り、他愛も無い考えをつらつらと考えていた。 (お迎えは、まだかしらねぇ……と言うか、あの世に良い男って居るのかしら?) まぁ、あの世なんだから、良い男ぐらい居るでしょ、と自分で自分の疑問に答えたキュルケは、なんというか、違和感を感じ始めていた。 死んだはずだと言うのに、なんというか、痛い。 ルイズの使い魔に、踏みつけられた背中と、たぶん中身のどれかが潰れた腹の中が、もの凄く痛い。 (何よ! 死んでも痛みって感じるなんて、ちょっと! どう言う事よ!?) そんな理不尽な文句を、誰とも言えぬ誰かに言っていたが、 何者かに身体を抱き起こされる感覚に、キュルケは閉じていた目を開く。 そこには、桃色の髪を血で紅く染め上げた少女が、泣きそうな顔で自分を見つめていた。 ―――ルイズ……なんで?――― 疑問を口にしたかったが、声が上手く出ない。 それでも、ルイズには伝わったのか、自分もボロボロな癖に身体を持ち上げ、なんとか立ち上がらせてくれる。 そうして、見えたきた光景にキュルケは目を丸くした。 自分のすぐ横、その地点が、滅茶苦茶に抉れている。 間違いなく、シルフィードのブレスによる痕跡である。 しかし……何故? キュルケは、自分は確かにあそこに居たはずなのに、何故、位置がズレているのか、 もの凄く疑問だったが、その事をルイズに訊ねる前に、自分の頭に何かが入ってくる感触が彼女を襲っていた。 その何かは、まるで最初から自分の頭の中にあったように、ピタリとハマり、キュルケの中にあった喪失感を、まるごと消去する。 「……返す」 素っ気無いルイズの言葉に、キュルケは、ようやく、この少女が自分を取り戻してくれたのを悟るのであった。 ホワイトスネイクは、最初、何が起こったのか理解していなかった。 ただ、上に居る竜の吐いた何かに本体が潰されるのを、赤髪の女が庇い――― その女が、まるで『時を止めた』かのように、着弾点から一瞬で移動していた。 (コレハ……ルイズ……君ガ?) ホワイトスネイクは、彼にしては珍しく混乱していた。 時を止める。 その力は、彼の知る限り、両方共、消失しているはずであった。 一つは、彼自身の手で葬り、もう一つは、彼自身が取り込んだ。 なのに……何故? 赤髪の女を助け起こし、才能のDISCを返却する本体に目もくれずに、ホワイトスネイクは、ルイズが先程まで立っていた場所を調べる。 すると、そこには、一枚のDISCが落ちていた。 DISCの表面には、屈強な肉体を持つ右半身が砕けた人型が見て取れる。 DISCに封じられし、スタンド名は『世界』 ホワイトスネイクが吸収し、内に取り込んだはずのスタンドであった。 第四話 戻る 第六話
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前ページ次ページときめき☆ぜろのけ女学園 「私と恋人同士になるって事は、ルイズも妖怪になっちゃうんだよ! 本当にいいの?」 (私が妖怪にー!?) キリからの予想外の言葉にルイズは驚愕の色を隠せなかった。 「な……、何で? 何で私が妖怪になっちゃうのよ!?」 「……前に言ったよね。下の口でキスするとルイズもその相手と同じ種の妖怪になっちゃうから気をつけてって」 しばらく顎に手を当てていたルイズだったが、転校翌日にキリから聞いた話を思い出した。 「……あ、あー! 思い出した!」 話の内容に赤面しつつも、ルイズは笑顔を作ってキリを安心させようとする。 「でっ、でもそれと恋人同士は別問題っていうか、そんな凄い事しなきゃ……ねえ!」 「……私は自信無いよ」 しかしそんなルイズの心とは裏腹にキリは俯いたままそう答えた。 「え?」 「恋人同士になってルイズに手を出さない自信なんて無い」 「キ……、キリ……」 キリの言葉はルイズにかすかな不安を抱かせたものの、その内にある自分への確かな想いを悟ったルイズは赤面しつつもキリの瞳を正面から見据えるのだった。 「でもルイズの事は大事だから、内緒にしたまま騙すような事したくないの。だからちゃんと考えて」 「考えるって……、妖怪になるかどうかって事?」 上目遣いで顔を覗き込むルイズの質問に、キリは無言のまま頷いた。 「だって……、妖怪になったら学院に帰れないって事でしょ? そんな……、それは困るわよ。でも……っ、でもね、キリの事は好きなのよ!」 ルイズの心の中は魔法学院に帰るという願いとキリへの愛情が入り混じり、自分自身でも答えを出せなくなっていた。 「ねえ、どうして? 人間のままじゃ駄目なの? し……、下の口とか何とかって……、そんな事しなければいいんでしょ?」 「ルイズはまだ知らないんだね」 そう言いながらルイズのスカートの中に手を伸ばそうとするキリ。 「わあっ! ちょ……」 「ここ、気持ちいいんだよ」 「キ……、キリ……、駄目っ」 「気持ちいいでしょ? 一緒にくっつけたら私も気持ちよくなるの。恋人同士なら普通の事だよ」 ルイズはキリの肩に手を当てて押しのけようとし、キリはルイズのスカートをそっと持ち上げる。 「普通……っ!? で、で……、でもそれじゃ私が妖怪に~っ」 ルイズの頬が今まで以上に赤くなる。 「私はルイズが同じ猫股になってくれたら嬉しいなあ」 「ううっ……」 「……なんてね」 かすかな微笑みを浮かべて言ったキリだったが、それを即座に否定してルイズをそっと抱き締める。 「嘘。ごめんね、ルイズ。困っちゃうよね。もう友達のままでいようよ? そうしたら今まで通りでいられるから」 「それは嫌っ!」 キリの言葉を却下するルイズ。その目には涙が浮かんでいた。 「ルイズ、でも……」 「嫌ったら嫌ー!」 「困ったな……、私ほんとに自信無いんだよ……」 「だって今だってもう……、我慢できなくなって……」 畳の上でルイズにマウントポジションを取るキリ。 「キリ?」 「ルイズ……、可愛い……」 「わ……!」 そしてそのままそっとルイズのスカートの中に手を入れていく……。 「だ……っ、駄目ー!!」 思わずキリを突き飛ばしたルイズ。 そしてそのまま部屋から駆け出していってしまう。 「……荒療治すぎたかな。ルイズ、ごめんね」 窓の外では雨が降り始めていた。 前ページ次ページときめき☆ぜろのけ女学園
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前ページときめき☆ぜろのけ女学園 (タバサに人間だって知られちゃったわ。このままじゃ他の妖怪にもバレて、襲われちゃうかもしれない。食べられちゃうかもしれない) そんな事を考えつつ、ルイズは布団に包まっている猫耳の少女を見据えていた。 (そんなの絶対に嫌!! そんな事になるくらいなら、私は、キリと同じ猫股になるわ!) 決意を込めて布団をめくり上げるルイズ。 そこでは、キリと同じ猫股だが別の少女が静かな寝息を立てていた。 (ま、間違えたああ!) ルイズは頭を抱え心中で絶叫する。 その時、背後で襖が開く音がした。 「ひ……っ(誰か来たっ!!)」 慌ててキリの掛け布団に潜り込む。 「……ル、ルイズ?」 文字通り「頭隠して尻隠さず」という状態になっている何者かの正体を匂いで看(?)破し、キリはそう声をかけた。 「……キリ」 「ルイズ! そんなかっこで何してんの!?」 「これは~、その~」 キリに尋ねられたルイズがしどろもどろになっていると、 「ううん……、うるさいな……」 もう1人の猫股が寝ぼけ眼で体を起こした。 「キリ? どうかした?」 ルイズはそれより一瞬早くキリの布団に潜り込み、キリは何事も無いように装って答える。 「あ……、暑くて水飲んできた。ごめん……、起こしちゃった?」 「あ……、そ」 猫股はそう答えると即座に眠りについた。 安堵の溜め息を吐いたキリは、 「ルイズ、今のうちに部屋戻ろう」 と布団の上から声をかけるもルイズの反応は無い。 代わりに自分の下半身に奇妙な違和感を覚え始めたため、布団をめくる。 「ちょ……、ルイズっ、何してるの!?」 「し……、下のお口っ!」 そこではルイズがキリのスパッツを下着ごと脱がそうと引っ張っていた。 「は!? ええっ!? ええええええ?」 「下のお口……、下のお口ってどれ? どこ? どうしたらいいの!?」 「ルイズっ、どうしちゃったの? 落ち着いて!!」 ルイズの突然の行動に混乱しつつも何とか落ち着かせようとするキリ。 しかしそんな彼女にルイズは、 「私、猫股になるって決めたの……!!」 と自分の決意を告白した。 「え?」 呆気に取られたキリ。そこに、 「むにゃ……、うるさいな……」 先程の猫股が目を擦りつつ再度体を起こした。 2人は即座に布団を頭まで被って狸寝入りを決め込む。 「……あれ?」 周囲を見回した猫股が三度眠りにつくと、 「………」 「………」 しばらく息を潜めてからルイズ・キリは会話を再開した。 「ねえルイズ、自分の言ってる事わかってる?」 キリからの問いかけにルイズは赤面しつつ頷く。 「猫股になったら、もう人間には戻れないんだよ? それでもルイズは本当に猫股になりたいの?」 (他の妖怪に襲われるくらいなら、猫股の方がいいに決まってる) 心中でルイズはそう呟き、キリからの再度の問いかけに再び決意を口にする。 「キリ……、私を猫股にして」 その言葉にキリはルイズをそっと抱きしめる。 「ありがとう、ルイズ。私凄く嬉しいよ」 「キ……、キリ」 そして2人はそっと口づけ合う。 (だから……、だから……、これでいいのよね……) キリが優しく胸を揉む感触に耐えられず、ルイズの口から声が漏れる。 「ふ……っ、うん、キ……、キリ、どうして胸を触るの? 下のお口……でしょ?」 「だって気持ちいいでしょ。ほら……、下のお口も気持ちいいって言ってる」 「やんっ!」 嬌声を上げたルイズの口を自分の口で塞ぐキリ。 「ふっ、んっ、やあ」 「ルイズ、声出したら駄目」 「んん」 キリはそっとルイズの下半身に手を伸ばしていく。 (何これ何これ、こんなの初めてよーっ!! き……、気持ちいいよ~!) さらにキリの口がルイズの胸を攻める。 「はっ、キリ……、駄目、もう駄目。あ、お願い、早く猫股にしてっ!」 「ルイズ、可愛いな。無理なら今日はもうここまでにしよ?」 「だ……、駄目っ。だって……、だって、タバサに人間だって知られちゃったから、私早く猫股にならなきゃ!」 「……タバサに……、だからそれで突然……」 そう呟いたキリはそっとルイズから離れ起き上がる。 「キリ……?」 「ルイズ、駄目だよ。そんなの駄目だよ」 「キリ……、駄目って……、どうして!? だって私猫股にならなきゃ他の妖怪に……っ」 「タバサには私から話をつけてくるから大丈夫」 「でも……」 「だからそんな理由で妖怪になるなんて言わないで!!」 キリが荒げた声にまたも隣で寝ていた猫股が体を動かす。 「キリ……、声大きいよ……。うううん……」 その声に一瞬沈黙した2人だったが、ルイズの方から声をかける。 「……何か怒ってる?」 「………」 しかしキリはそれに答えず布団に潜り込んだ。 「もう寝よう。今日はここに泊まっていっていいから」 「キリ……」 ルイズも仕方なく布団に潜り込む。 (タバサに知られちゃった事も、キリの様子がおかしかった事も心配なのに――) しかしルイズの頭の中は先程のキリとの事でいっぱいになっていた。 (あんなに気持ちいいなんて……。どうしよう、もっとしたい!) その夜、ルイズは一睡もできなかった。 前ページときめき☆ぜろのけ女学園
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うちの奇妙な同居人 第一話 うちの奇妙な同居人 第二話 うちの奇妙な同居人 第三話
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襲われてからどれ程経ったろうか……康一とイギーは敵の攻撃を警戒し、クツのムカデ屋から未だ動けずにいた。 しかしいくら何でももういないはず。そう考えた康一は移動を決意する。 (まだ居たりは……さすがにないかな?でも一応裏口から出よ) 康一は行くアテも無くとりあえず北に向かってみた。 イギーも(コイツ何かアテあんのか?いつでも守れるわけじゃあねぇんだぞ)と心の中で悪態を付きながらも付いて行く。 警戒しながらの移動のため慎重に慎重に進む。 するとある曲がり角に差し掛かった時にイギーが唸り出した。 「どうしたの?何かこの先にあるのかい?」 と康一が呑気な質問をする。 (何もなかったら唸らねぇよこのボケ!どんな頭してやがんだ? しかし何だ?人間の匂いじゃない) イギーの様子に異変を感じた康一はエコーズで上空から様子を見る事にした。するとそこにいたのは…… 「亀?ただの亀じゃないか」 康一は何も警戒せずに亀に近寄る。 「何でこんなところに亀がいるんだろう?ん?何か背中に付いてる。鍵……かな?」 康一は亀の背中の鍵を何と無しに外した。すると…… 「ふーん、なるほど。鍵を外されると中にいる人間は外に出されてしまうんだな」 どこからともなく人が現れた。 「どうだい?驚いた?」 「ろ、ろろろ、露伴先生ィィィッ?どっから出てきたんですかァッ?!」 (何だァコイツ?いきなり現れやがった!コイツも何かのスタンド使いか?) 三者三様の反応……いや、康一とイギーは驚いてるので三者二様か? いずれにせよ亀の鍵を外したところ岸辺露伴がどこからともなく現れたのだ。これは驚かない方が無理である。 「いやいや康一君。驚かせて悪かったよ。いや、実はね……」 露伴から康一とイギーは事の顛末を聞く。 この亀は鍵を背中にはめ込むと中に入れる事、露伴が巻き込まれた戦いの事、これは夢でも何でもないという事…… 康一は驚くも自分達も戦いを仕掛けられた事を考えるとそれは事実であろうと納得する。が、康一は一つ気になっている事があった。 「でも露伴先生、漫画を描くって言ってシュトロハイムさんとジョナサンさんと別れたのに何でこんなとこにいるんですか?」 「ん?あぁ……せっかくこんなイベントに巻き込まれたんだ。取材をしてしっかりとした物を描きたいからね。ハハハ……」 露伴は家から移動した理由を説明する。だが、ホントの理由はそれだけではなかった。 30分程時間を溯ろう。露伴は自宅で漫画を描いていた。 「スゴいッ!まさかこんなに描き進むなんてッ!やっぱり杜王町に引っ越してきて良かったなぁ……こんなイベントに巻き込まれた僕は漫画家として非常に幸せ者だなぁ」 かつてない程絶好調らしい。 露伴はハイになっていた。しかし! 「ん?何の音だ?ピシッ?ミシッ?メキッ?」 露伴が疑問に思った直後、露伴の家は徐々に倒壊を始めた。 「何だとーッ!これは……ヴァニラの野郎のせいかッ!」 露伴の察しの通りヴァニラ・アイスの『クリーム』のせいである。 大きな館ならいざ知らず露伴の家は普通の家より少し大きい程度。 そんな家の至るところに穴が空いていたらその内崩壊するのはコーラを飲んだらゲップが出るくらい確実である。 露伴が仕事場の窓から脱出するのとほぼ同時、露伴の家は完全に倒壊した……それがつい30分程前の出来事。 それから彷徨い歩いて今に至る。康一に会ったのも偶然以外の何物でもない 「っていうかそんな事どうだって良いだろうッ!家で漫画描いてようが外歩いてようが僕の勝手だ!」 露伴は康一に半ギレでまくし立てている。まぁ無理もない。 せっかくの原稿も瓦礫の下である。一刻も早く忘れたかったであろう傷に触れた康一の罪は重い。 (殺し合い?何だとそりゃーッ!) 露伴が康一にキレている間、イギーは露伴の話を聞いた事により混乱していた。 (コイツら実はかなーり危ねぇんじゃねぇか!しかも爆発する首輪?嫌だ!関わりたくねぇ! オレは無関係だ……帰らせてもらう!……ってそういやオレの首にも何か……) イギーは嫌な予感がした。そして道路脇の鏡を見上げる。 (オレの首に付いてるのは……やっぱり爆発する首輪じゃねぇかァァァッ!冗談じゃねぇぇぇぇッ!) イギーは厳しい現実に打ちのめされた。現実は非情なのである。 「ところで康一君、そこで悶えてる犬はなんだい?君の犬かい?どうやら僕らと同じ首輪が付いてるけど」 「道で会ったんで拾ってきたんですよ。このままじゃ死んじゃうと思ったんで…」 今度は康一が露伴に今までの説明をする。 「ふーん……『ヘブンズ・ドアー』!」 露伴はいきなりイギーに攻撃を仕掛けた。 「ちょっとぉぉぉぉッ!岸辺露伴ンンンン!犬に何してんですかッ!」 「一応念のためだよ。さっきの話聞いてたろ?この亀はスタンドが使える。 鼠の話も承太郎から聞いたろ?だったらこの犬もスタンド使いかも知れない」 康一は渋々納得する。 「何々?名前はイギー……やはり当たりだ。ここ見なよ。スタンド名『愚者(ザ・フール)』砂を操る能力。康一君を襲ったのはこの犬じゃないのか?」 康一は驚いた。最初に自分を攻撃して来たのは一緒に行動していた犬だったのだ!でも…… 「でも……でも!僕を襲うつもりならいくらでも襲うチャンスはあったはずなのに攻撃してこなかった!」 「まぁな。実際は最初の攻撃が効かなかったから無駄だと思ったか何かじゃないか? とりあえず後で『岸辺露伴と広瀬康一を攻撃出来ない』『今あった事を忘れる』って書いておこう」 露伴はイギーの記憶を読み続ける。 「ったく…コイツ生意気にも人間より格上って思ってやがるぞ…… !!!康一君、ここを見るんだ」 「えーっと……承太郎さんにジョセフさんッ?!」 「ああ。どうやらこの犬はあの二人と知り合いの様だな。 他の仲間は……アブドゥル……ああ最初に荒木にのされた奴か。スタンドは『魔術師の赤』 次はポルナレフ……スタンドは『銀の戦車』……補足欄にバカ間抜けアホドジって書いてある。ハハッ、散々な言われようだな。 最後は花京院……『法皇の緑』……コイツだけ詳しい能力がわからないな」 露伴は必要な情報を引き出すと『岸辺露伴と広瀬康一を攻撃出来ない』、『今あった事を忘れる』、そして『二人のピンチには協力する』、さらに『合図するまで寝てろ』と書き込んだ。 「こう書き込んでおけば安心だろ?僕らの身も守ってくれるぞ。眠らせとけば暴れる事もないから持ち運びにも便利だ!」 露伴は何故かハイだ。それに対してちょっと鬱の入った康一が返す。 「はぁ……というか僕もう疲れちゃいましたよ……」 「まぁ弱音を吐くなって。とりあえず僕も一緒に行かせてもらうよ。君に付いて行った方が安全に取材出来そうだ」 康一は内心拒否したい気持ちでいっぱいだった。 何しろこの男は物事に対して手段を選ばないところがあるのである。 (うーん……でも仲間は多い方が良いかな?) 「ほら行くよ康一君。とっととその犬を連れてきな。さぁ冒険の旅だ!まるで自分が漫画の世界に迷い込んだみたいにワクワクするぞ」 (早速仕切ってる……もうしょうがないなぁ) 康一はイギーを抱き抱えるともうワクワクを止められない早足の露伴を追いかけた。 「東に行きません?駅の方は誰かいそうですし」 「それもそうだな。だが断る!危険とわかっていても好奇心を煽られたらそれを避けずにはいられない!駅の方に行くぞッ!」 一人の冒険家気分の漫画家、それに振り回される少年、少年に抱き抱えられる犬、二人+一匹の珍道中が始まる。 次第に空は明るくなってきた。 (あれ?そういえばあの砂の攻撃がこの子ならあの人は何だったんだろう?一般人……の訳ないか) 【小道(E-4)/一日目/黎明~早朝】 【岸辺露伴探検隊】 【広瀬康一】 [スタンド] 『エコーズACT1・ACT2』 [状態] 疲弊 [装備] なし [道具] 支給品一式、シャボン液 [思考・状況] 1)何か疲れちゃったよ…… 2)しかしあの砂がイギーのせいならあの人(F・F)はなんだったんだろ? 【イギー】 [スタンド] 『ザ・フール』 [状態] 疲弊/露伴の能力で寝てる [装備] なし [道具] なし [思考・状況] 1)何でオレがこんなのに巻き込まれたんだァァァッ!? 2)ただし今は寝てる 【岸辺露伴】 [スタンド] 『ヘブンズ・ドアー』 [状態] 健康/ワクワクしてる [装備] [道具] 支給品一式、ココ・ジャンボ [思考・状況] 1)漫画のネタ探しする 2)殺人ゲーム……なんてワクワクするんだ!まるで冒険漫画の主人公みたいだ! 3)康一がエコーズACT3を出せないのは知りません D-4の露伴の家が倒壊して瓦礫の山になりました。 また、イギーは康一達に能力を知られた事を当然知りません。 投下順で読む 前へ 戻る 次へ 時系列順で読む 前へ 戻る 次へ キャラを追って読む 26 『誰が為に砂は舞う』 広瀬康一 61 Dancing In The Street 26 『誰が為に砂は舞う』 イギー 61 Dancing In The Street 25 岸辺露伴の奇妙な取材 岸辺露伴 61 Dancing In The Street
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ジョジョの奇妙な冒険Part1 ファントムブラッド ジョジョの奇妙な冒険Part2 戦闘潮流 野晒死 管理人 tub素材区分 U 備考 ジョジョの奇妙な冒険Part3 スターダストクルセイダース Stork 管理人 高野 M明素材区分 P 備考 碌無館 管理人 亮藤正嗣素材区分 U 備考 犬小屋 管理人 リドリー素材区分 U 備考 ジョジョの奇妙な冒険Part4 ダイヤモンドは砕けない SanFrancisco~遠い異国の果て~ 管理人 夜人素材区分 P 備考 ジョジョの奇妙な冒険Parte5 黄金の風 野晒死 管理人 tub素材区分 PU 備考 ジョジョの奇妙な冒険Part6 ストーンオーシャン ジョジョの奇妙な冒険Part7 スティール・ボール・ラン 野晒死 管理人 tub素材区分 PU 備考
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前ページ次ページときめき☆ぜろのけ女学園 「ルイズ・ヴァリエール」 「あんた西洋妖怪ハッグだよね?」 ある朝、登校してきたルイズは3人の小鬼にそう切り出されて面食らった。 「へ? せーよーよーかい?」 言葉の意味がしばらくつかめなかったルイズだったが、やがてはたと気付く。 「あっ、ええ、そうよ! 私は西洋妖怪ハッグ!」 (わー、ルイズ……、自分の設定忘れてたね) ルイズと一緒に登校したキリがその様子に冷や汗を垂らす。 「だったら魔法で明日どしゃ降りの雨を降らせな」 「えええっ!?」 小鬼(赤)の発言に驚愕したルイズに小鬼(青)が追撃をかける。 「ハッグなんだろ? 雨降らす魔法くらい簡単だろ?」 「い……、いえ……、えっと、それは……あっ!」 しどろもどろになっていたルイズだったが、ふと何かに気付いて反論する。 「それなら雷神達も得意じゃない。太鼓叩いてドーンドーンって。ねっ、ミスタ・ブー!」 どこから取り出したのか太鼓を叩くルイズに太った小鬼(緑)は、 「雷神? 何それ。うちら小鬼ですけど」 「……小鬼と雷神って違うの?」 「全然違う」 そう否定する小鬼達だったが、青空の書き割り前に置かれた雲型の長椅子に座っていたためまるで説得力が無い。 「本当に違うの?」 『全然違う』 ――ガタンッ 小鬼(緑)の体重に負けて雲型の長椅子が傾き、小鬼(赤)・小鬼(青)がひっくり返る。 「雷神でしょ!?」 「違うってば!」 「嘘よ嘘よ嘘よーっ!」 「そんな事より雨! 早く!」 「ルイズっ、私達からもお願い!」 小鬼(赤)の言葉を信じられず首を振るルイズの耳に、別の生徒の言葉が飛び込んできた。 『雨を降らせて!!』 振り向くとそこには、「マラソン反対」と書かれたたすきや鉢巻を身に着けた体操服姿の生徒達が多数。 (あ、納得……いやいやいや、でも納得したところでどうしたらいいのよーっ!?) 「ルイズ、お願い」 「雨」 「恵みの雨を!」 「雨を」 わらわら群がる生徒達に困惑したルイズに助け舟を出したのは、 「ねっ、みんな、いいじゃん、走ろうよ。マラソンは美容とかダイエットにもいいんだって」 体操服姿でガッツポーズとやる気満々のキリだった。 (キリ……) 体操服姿のキリに思わず見とれるルイズ。 『え~~~っ』 しかしキリのやる気と裏腹に生徒達は不満げな表情だ。 「走ると腹が減ってたまらん」 「傘が開くし」 「豆腐が崩れる……」 『マラソン反対ー!!』 「キリは敵ねっ」 「敵だ」 「頑張ろうよ~っ」 大ブーイングを受けるも根気強く説得を続けるキリにルイズは、 (どうしよう、私のせいでキリが……っ。私もどうにかしなきゃ! 雨……、雨……、雨って言ったら……これよー!) 「みんなっ、私に任せて!」 『おおー』 「ルイズ、大丈夫……?」 「(雨といえばてるてる坊主。子供の時はいっぱい作ってたのに、いつの間にかすっかり忘れてたわ)えーっと、まあおまじないっていうか簡単な魔法みたいなので、こうやって白い布で頭を丸くして首の所を縛るのよ」 ルイズは黒板にてるてる坊主の絵を描いて生徒達に説明し始めた。 (1人で作っても効果がそれなりにあったんだから、みんなで作ればきっと……) 「あとは顔を描いたら完成! ね、簡単でしょ……」 と言って振り返ったルイズの視界を、頭から大きな白布を被り首の部分を紐で縛った生徒達が埋めつくしていた。 「わーっ!」 ルイズは慌てて顔を背けた。 「顔描いて」 「うん。でも前がよく見えない」 「まあ適当に」 「うん、適当に」 と毛筆で適当に顔を描く生徒達。 「ルイズ、こうやって目を出してもいいのか?」 ペロも目と口の穴を開けてルイズに尋ねてきた。 (何を盗みに行くつもりなの?) その傍らにはキリらしき、猫耳っぽい突起が頭部から突き出ているてるてる坊主。 (……っていうか、キリまで!) 気付けば、教室内は等身大てるてる坊主と化した生徒達でいっぱいになっていた。 (どうしよう、何かもう違うって言い出せないわ!) するとそこへ、 『騒がしいわね、席に着きなさい』 (いけない、ミス・ロクロクビが!) 「授業を始めますよ」 そう言いつつ入室してきたろくろ首先生も、頭部をてるてる坊主で覆っていた。 (ミス・ロクロクビも走りたくないのねーっ!) 「じゃあ今日は教科書の……」 驚愕するルイズとは裏腹に、ろくろ首先生は普段とまったく変わらず授業を開始する。 (何かもう違うって今更言い出せないんだけど……、みんなで願えば叶うような気がしてきたかも) こうしてマラソンをしたくない乙女心は一致団結をし、来る明日のマラソン大会に備えてるてる坊主ファッションで身を固めた。 やがて規則に反する者・お洒落を楽しむ者……、 「いやあああ! 走りたいのー!」 意に反する者を強制的に仲間に加えようとする者も現れ、すっかり白装束の集団になりはてた頃、 『♪てるてる坊主~てる坊主~ 明日天気にしておくれ~』 ルイズは気付いた。 「しまった……、逆だわ……」 「ルイズ、どうしたの?」 「どうしよう、キリ……。逆っ、逆だったわっ。つまり下剤と下痢止め間違えたというか……」 自分の間違いにだらだら冷や汗を流すルイズ。そこに、 「え? 何?」 「間違い?」 「何が?」 奇妙な迫力を伴いルイズを覗き込む3人の小鬼。 「いえ……、えっと……、あの……、その……、逆にすればよくて……、えっと……こうよ!」 しどろもどろで答えた後、勢いよく逆立ちするルイズ。 「ルイズっ」 「なるほど」 逆立ちしたために露出したルイズの下半身を冷や汗を流しつつ支えるキリと、それに納得の声を出す小鬼達。 ……そしていつの間にか、下半身丸出しのてるてる坊主とそれを支えるてるてる坊主達が秋の組体操。 前ページ次ページときめき☆ぜろのけ女学園