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注文の多い文芸部 一人の若い文芸部員が、すっかり寝不足の顔をして、購買で買ったアーモンドチョコバーを抱えて、中学棟奥のセミナー7の近くを、こんなことを云いながら、あるいておりました。 「ぜんたい、あの締め切りは早すぎるね。テストの三日後だなんて、間に合うわけがない。まあテスト勉強もしてなかったけど」 若い文芸部員は名をうずら卵といいました。 それはテストが開けて二週間、文芸部の原稿の締め切りからだいたい十日後のことでした。締め切りをだいぶ過ぎていました。一日前にうずら卵から原稿を提出された他の文芸部員が、あまりの遅さに面食らってしまうほどでした。 しかも、うずら卵のせいであんまり編集作業が忙しくなって、編集担当の文芸部員が多忙を極めてめまいを起こして、しばらくアーモンドチョコバーが欲しいと喚いて、それから泡を吐いて倒れてしまいました。 「自分のせいで編集担当が倒れたのだからアイスを奢るのはやぶさかではないけれど、百二十円が百二十円が」 と、うずら卵は、くやしそうに、頭を掻き回して云いました。 あるいているうちに、うずら卵は、締め切りを超過したときの、他の文芸部員の冷ややかな視線を思いだして、文芸部の部室に戻るのがこわくなりました。 「もう帰ろうかなあ」 アーモンドチョコバーも届けぬうちに、うずら卵は、顔いろをますます悪くして云いました。 「アーモンドチョコバー食べちゃおうかなあ。ついでに焼きプリンも食べたいなあ。追課題の提出も明日だしなあ。帰ろうかなあ帰っちゃえ」 ところがどうも困ったことは、どっちへ行けば帰れるのか、いっこう見当がつかなくなってしまいました。 廊下を正しい方向に曲がっているはずなのに、ぐるぐるとあるいているうちに、いつの間にか、元の場所に戻ってしまうのです。 「どうもおかしいなあ。ちゃんと正しい道を選んでいるのに。お腹空いたなあアーモンドチョコバー食べちゃおうかなあ」 うずら卵は、夕暮れの薄暗い廊下で、こんなことを云いました。 そのときふとうしろを見ますと、ひとつの教室がありました。 そして扉には、 SEMINAR 7 セミナー7 文芸部室 という札がでていました。 どうやら様子がおかしいな、とうずら卵は思いました。セミナー7は文芸部の部室ですが、普段と違って、壁が白い瀬戸の煉瓦で組んであって、実に立派なもんです。 そして硝子の開き戸がたって、そこに金文字でこう書いてありました。 「どなたもどうかお入り下さい。締め切り破りもすべて帳消しにします」 やっぱり世の中はうまくできているなあ、とうずら卵は思いました。数学の点数は散々だったけれど、今度はこんないいことがあるときたのです。締め切り破りを帳消しにしてもらえるなら、もう怖いものは何もありません。ついでにアーモンドチョコバーもこれで正式にうずら卵のものです。 うずら卵は戸を押して、なかへ入りました。そこはすぐ廊下になっていました。その硝子戸の裏側には、金文字でこうなっていました。 「ことに肥ったお方や若いお方は、大歓迎いたします」 うずら卵はもう大よろこびです。肥っているかどうかは本人のために秘密としても、うずら卵はまだ若い文芸部員でした。 ずんずん廊下を進んで行きますと、こんどは水いろのペンキ塗りの扉がありました。 「どうも変だ。こんな廊下もこんな扉もあったっけ」 うずら卵は首をひねりましたが、まあいっか、と思ってその扉をあけようとしますと、上に黄いろな字でこう書いてありました。 「締め切り破りを帳消しにするために注文が多くなっておりますがどうかそこはご承知下さい」 締め切り破りを帳消しにしてもらえるなら、注文の一つや二つ、どうということはありません。うずら卵はその扉をあけました。するとその裏側に、 「注文はずいぶん多いでしょうがどうか一々こらえて下さい」 「これはぜんたいどういうんだ」 と、うずら卵は顔をしかめましたが、締め切りをだいぶ破ってしまったから処理に手間取っているのだろう、と思い直しました。 「それだけ本気で締め切り破りを帳消しにしようとしてくれているんだなあ。嬉しいなあ。早く部室に入って部長さんでもいじりたいなあ」 ところがどうもうるさいことには、また扉が一つありました。そしてそのわきには靴箱が置いてあったのです。 扉には赤い字で、 「ここではきものを脱いで下さい」 うずら卵は、自分の履いている上履きを見おろしました。うずら卵は普段上履きを持ち帰らないので、使い古した上履きはまっくろです。 「ここまで上履きが汚いなら尤もだ、きっと私のためによほど綺麗に部室を掃除してくれんだなあ」 そこでうずら卵は上履きを脱いで靴箱の中に入れました。 そしたら、どうです。上履きをそろえるや否や、そいつがぼうっとかすんで無くなって、風がどうっと室の中へ入ってきました。 うずら卵はびっくりして、扉をがたんと開けて、ぺたぺたあるいて次の室へはいって行きました。早く部室に着いて座ってアイスと焼きプリンでもたべて、元気をつけて置かないと、もう途方もないことになってしまうと思ったのでした。 また黒い扉がありました。 「どうか荷物と携帯電話をここに置いて下さい」 扉のすぐ横には黒塗りの立派な金庫も、ちゃんと口を開けて置いてありました。鍵まで添えてあったのです。 「ははあ、部活中に携帯が鳴ったらうるさいと云うんだろう。あれっそんな厳しい部活だったっけ」 うずら卵はふしぎに思いましたが、荷物と携帯電話を金庫の中に入れて、ぱちんと錠をかけました。 扉の裏側には、 「持っているアイスクリームをここに置いて下さい」 と書いてありました。見るとすぐ横に小さな冷蔵庫がありました。 「なるほど、携帯電話ですら持ち込めないのに、アイスを持っていっていいわけがない。でもなんでアイスのこと知ってるんだろう」 うずら卵は首をかしげましたが、持っているアーモンドチョコバーが溶けかけていたので、おとなしくアイスを冷蔵庫に入れました。 すこし行きますとまた扉があって、そのわきの壁にいくつかの洋服が掛けてありました。扉には斯う書いてありました。 「掛かっている衣装にすっかり着替えてください」 見ると、壁に掛かっている洋服は、どれもへんてこりんなものでした。ピンクのジャケットやら水玉模様の蝶ネクタイやら、中には付け髭や牛乳瓶の底のような渦巻き模様の眼鏡までありました。 「これはどういうんだろう」 と、うずら卵は面食らいましたが、 「きっと部内で仮装大会でもやっているんだろう。この前私が部活をサボったせいで連絡が行かなかったから、私のために衣装を用意してくれたんだ。みんな優しいなあ優しいなあ」 と思い直して、赤面しながらも、その洋服に着替えました。 それから大急ぎで扉をあけますと、その裏側には、 「ちゃんと衣装に着替えましたか、タイは曲がっていませんか」 と書いてあって、全身の映る鏡が掛けてありました。 見ると、ネクタイがとんちんかんな方に曲がっていましたので、うずら卵はネクタイを直しました。それから、着替えた自分の姿をまじまじと見て、すっかり恥ずかしくなりました。 するとすぐその前に戸がありました。 「もうすぐ部活にたどり着けます。 十五分とお待たせはいたしません。 すぐにお楽しみいただけます。 早く置いてあるマイクと楽譜をとってください」 そして戸の前には金ピカに彩られたマイクと、表紙が蛍光ピンクの楽譜が置いてありました。 「これはどういうことだろう。文芸部に来たはずなのに」 うずら卵はいぶかしみましたが、 「きっと部活の後にカラオケに行くんだろう。みんなで歌う歌を知らないと困るから、私のために楽譜を用意してくれたんだ」 と考えて、マイクを手に取り、しばらく楽譜の通りに口ずさんでみました。最近はやっている、アイドルグループの流行歌でした。楽譜の裏には振り付けのダンスの踊り方も書いてあって、うずら卵はやっぱり赤面しながらも、仕方なく踊りを練習しました。 それから扉をあけて中に入りました。 扉の裏側には、大きな字で斯う書いてありました。 「いろいろ注文が多くてうるさかったでしょう。お気の毒でした。 もうこれだけです。どうかこの原稿を手に取って、音読の練習をしてください」 なるほど戸のわきには原稿らしき紙の束が置いてありましたが、こんどというこんどはうずら卵もぎょっとしてマイクを取り落としそうになりました。 それというのも、その原稿はまぎれもなく、うずら卵が文芸部誌蜜柑テーブルに載せている原稿の、今回締め切りを破って提出した分そのものだったからです。 「どうもおかしい。こんな格好で歌って踊って原稿を音読したところで、編集作業が間に合わないのは変わりないはずだ」 うずら卵は唾をごくりと飲み込みました。 「だから、これは、その、つ、つ、つ、つまり、部誌に載せる代わりに、せ、せ、生徒の前で、お、音読を……」 がたがたがたがた、ふるえだしてもうものが云えませんでした。 「遁げ……」 がたがたしながらうずら卵はうしろの戸を押そうとしましたが、どうです、戸はもう一分も動きませんでした。 奥の方にはまた一枚扉があって、大きなかぎ穴が二つつき、 「いや、わざわざご苦労です。 大へん面白く仕上がりました。 さあさあ講堂のステージにおあがりください」 と書いてありました。おまけにかぎ穴からはきょろきょろ文芸部員たちの目玉がこっちをのぞいています。 「うわあ」 がたがたがたがた。 うずら卵は泣き出しました。 すると戸の中では、こそこそこんなことを云っています。 「だめだよ。もう気がついたよ。音読の練習をしてくれないようだよ」 「あたりまえさ。部長の書きようがまずいんだ。あすこへ、本人の原稿なんか置いて、お気の毒でしたと書くなんて、まぬけなことをするもんだ」 「アドリブで読ませて、全校生徒の前で舌でも噛めばよかったのに」 「どっちでもいいよ。どうせ途中で白けるし」 「そのためにAKBを歌って躍らせるんじゃないか」 「どっちにしろ、もしここへあいつが入ってこなかったら、それはぼくらの責任だぜ」 「呼ぼうか、呼ぼう。おい、うずら卵、早くいらっしゃい。いらっしゃい。いらっしゃい。アーモンドチョコバーがきんきんに冷えているよ。あとはお前が講堂のステージに立って、歌って踊って原稿を読めばいいだけだよ」 「すぐに終わるよ、恥ずかしくないよ」 「十分の恥か一生の後悔か」 「とにかくはやくいらっしゃい」 うずら卵は、もう絶対に締め切りを破らないようにしよう、と思いました。徹夜してでも、テストを捨ててでも、原稿を提出しよう、と心に誓いました。けれども、足がふるえて、一歩も前に踏みだせません。うずら卵はぶるぶるふるえ、声もなく泣きました。 「いらっしゃい、いらっしゃい。そんなに泣いたら折角の衣装が汚れるじゃないか」 「早く来ないと楽しんごの物まねもさせるよ」 「早くいらっしゃい。全校生徒がもう、目を輝かせて、講堂に集まっているよ」 うずら卵は泣いて泣いて泣いて泣いて泣きました。 そのとき、扉の後ろからいきなり、 「おまえたち、何をやってるんだ」 という声がしました。 かぎ穴の目玉はなくなり、扉のまっくらやみのむこうで、 「あの声は誰先生の声だっけ」 「M先生の声じゃないの、サッカー部顧問の」 「あの人文芸部に関係ないじゃん!」 「で、でも、M先生は怖いよう、M先生だけは」 という声がしました。 室はけむりのように消え、うずら卵はぶるぶるふるえて、セミナー7の前に立っていました。 見ると、財布や携帯は、廊下の床に散らばっています。アーモンドチョコバーだけが見当たらなくて、よくよく探すと、セミナー7の中で文芸部員が満足げに貪っているのが見えました。 最終下校時刻を知らせる校内放送が聞こえてきました。 そこでうずら卵は安心しました。 そして部室に入ってすこしだけ編集作業を手伝って、それから購買で焼きプリンを買って、それから家に帰りました。 それからというもの、うずら卵はどんなに忙しくても、テストの後でも研修旅行の後でも、原稿の締め切りを破ることはとうとうありませんでした。
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鈴木美枝は正義 ありがとーーーん!!!
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輿宮エ*本事情 俺たちは、聖なる戦いへと赴いていた。 メンバーは俺と悟史。戦場は輿宮の一書店。 攻撃目標は……そう、エ*本のコーナーだ。 俺たちはいつもと違う私服に身を包み、 知り合いに見つかることを最優先に警戒し、書店へ、ステルスエントリーした。 潜入は成功だ。 「け、圭一、不味いよ、あれ、魅音だ」 いらっしゃいませーと、元気に声を上げる店員は、 確かに魅音だった。 ああ、そうか、ここら一体に園崎の手が広がっているんだ…… 「まずいな、河岸を変えるか?」 「むぅ、でも、ここら一帯園崎家のテリトリーだよ? どこに行ったって、バレない可能性はゼロとは言い切れないよ」 「な、なかなかの戦略眼だな、見直したぜ」 この作戦に悟史を加えるのは苦労したが、仲間にすると心強いやつだというのが分かった。 何より、こいつも飢えているんだと実感したのが大きい。 変態を許容する俺でも、やっぱり一人は心細いからだ。 「あ、魅音からレジが変わるみたいだよ」 「お、おう。だが気をつけろ、奴は巡回を開始するかもしれない」 「そうだね……やっぱり場所を変えるしか……」 「いや、悟史よ、ここのエ*本コーナーが、一番種類が豊富なのだよ。 虎穴に入らずんば虎児を得ず、だ」 「むぅ……冒険野郎だな、圭一は」 とにかく、俺たちは斥候をすることにした。 相互監視というやつだ。 一人が前進し、一人は監視役をする。 接敵しそうなら、監視役が合図を送り、直ちに退避する。 この繰り返しで、書店内の安全地帯の把握と、作戦決行時の物品の回収をしやすくするのだ。 神経質な悟史らしい作戦だ。無論、実行役は俺だ。悟史は監視役。これは、適任だと思う。 俺だって、自分の趣味に合うものが買いたい。 資金は折半で、俺には二冊の回収が義務付けられていた。 「ふぅ、圭一、大丈夫だよ」 小声で悟史が俺に安全の確保を宣言する。 「よし、アルファ、突入する。ブラヴォー、援護を頼む」 ブラヴォー了解、と悟史は親指を立てた。 悟史の方向をちらりと見て、微速前進。 その繰り返しで、なんとかA地点まで到達できた。 楽園までは、あとB地点、C地点を経由しなければならない。 それぞれの地点は、安全地帯へのアクセスを考慮して考え出されている。 俺と悟史の知恵の結晶だ。 人は、蛇にそそのかされて知恵の果実を口にしてしまったという。 その結果、人類は楽園を失ってしまうのだ。 だが、あえていおう。 蛇よ、ありがとう。 俺は随分と離れた悟史に、A地点から合図を送る。 アルファ到着した、ブラヴォー進め、と。 悟史はすばやく、この地点までやってきた。 俺と悟史はお互いをすぐに退避させられるように手をつなぎ、本棚の向こう側を偵察する。 「あんたら、何やってんの? 手なんかつないで」 気配さえ感じさせず、魅音は本棚の上から覗き込んできた。 「み、魅音?」 「むぅ……」 こら、赤面するな、悟史。 「ちょ、も、もしかして圭ちゃんアレ? 穴があったらなんでもいいの?」 「な、なんだよそれ、俺はカップラーメンとかこんにゃくとか使ったことは無いぞ!」 「いや、そんなの言ってないし……何なの? エロ本でも買いに来たの?」 こいつ、ためらいもせずに言い切りやがった。俺たちがせっかくエ*本と糖衣に包んで言ってるのに。 「いや、ちょっと参考書を……な? 悟史?」 「うん……」 だから、赤面するなっての。っていうか、手を放そうぜ。 「ま、いいや。お客様の邪魔はしませんよ。 個室あるから使ってもいいよ。汚さなかったらね。ビデオまわしとくけど」 くぅ、これが園崎のやり方か。しかしな、魅音よ。 お前は大切な商機を逃したんだ。 ここに集結した2500円で、買えるだけのものを買っていこうというのに、それをお前は…… 「遠慮しとくよ。さ、行くか、悟史」 「お幸せにー」 ぴらぴらと手を振り、俺たちを見送る魅音。待ってろよ、沙都子。にーにーを今、穢してやるからな。いや、違う。 「ところで悟史よ、あの本屋意外にでっかいところ知らないか?」 「むぅ……アレ以上大きいところは無いけど、一つ園崎系じゃないところを知ってるよ」 「なにぃ、そりゃ一番最初にそこに行くべきだぜ」 「いや、このあたりのそういう物件は全部園崎が納めてて、 売れなさそうなものしかその書店には流通しないんだよ……だから、たぶん質は低いよ?」 こ、こいつ、純情そうな顔して実は結構経験深いんじゃないだろうか。 「それでも仕方が無いな……いや、園崎系でいいから、もう一店舗のほうに行くか……」 「でも、そこは……そういうのばっかりなんだよ。その、そういう本の専門店というか……」 「な、何だって、そりゃもってこいじゃねえか!」 「む、むぅ。圭一は冒険野郎だな」 何気に気に入ってるな、そのフレーズ。 俺と悟史は、とりあえずその専門店へと赴くことにした。 店外にさえ漏れ出るそのオーラは、まるで鷹野さんのようだった。 ああ、あんな人に弄ばれてえ……いやいや、違うぞ、俺は断じて違う。 そう、こう、なんというかちょうどいいぐらいの大きさがいいんだ。 関係も対等。 いや、むしろ俺が攻めだ。 「け、圭一、行くよ?」 「悟史、お前震えているのか?」 「うん……圭一は大丈夫なの?」 「いいや、俺も震えてるさ。 歓喜にな! 俺は一人でも行くぜ! 悟史、お前はそこで自分の無力を呪ってろ! 俺がやる。俺が成す」 「け、圭一を一人でなんか行かせないよ!」 「そうか、その言葉を待ってたぜ。 なんか昔もこんなことがあったような気がするんだよな。 思い出そうとすると体がだるくなるんだけど」 とにもかくにも、決心はついた。あとは飛び込むだけだ。 店内は、異様な空気で満たされていた。 迫り来るような肌色の表紙の波に、男たちが出す異常体温による気温上昇。 暑い夏を、より一層暑くさせる。 いらっしゃいませの声も無く、ただ鋭い眼光を飛ばす親父。 すげえ買いにくいが、その代わり勢いが付きそうだ。 俺たちは二手に分かれ、それぞれの予算にあったものを探す。 俺は千円、悟史は千五百円だ。 場合によっては、二人で力をあわせて買うことになる。 値段を見ると、俺の金でぎりぎりといったところ。 安いものなら、悟史の金で二冊ぐらいはいけそうだ。 悟史は、すでに二冊をかかえこんでいた。 顔を赤らめ、レジに進むのをためらっている。 な、何をこの期に及んでアイツは! 「悟史、ゴゥ」 そうささやき、悟史の背中をバンと叩いてやる。 悟史は頷いた。 俺も一つ、このたわわな果実……いや、やっぱり清純派…… セーラーいいよねセーラー…… ま、まずいぞ、なぜここでレナが出てくるんだよ、おい、その一線だけは越えてはならない ああ、やめて、やめてくれ、 俺のレナを汚さないでくれ、ああ! 「ちょっと、圭一、はずかしいよ」 ぽんぽんと悟史が肩を叩く。 ああ、また俺はやってしまったのか。 もう何も見ず、値段だけ確認してやたら愛想の無い店員に金と本を渡す。 一瞬じろりとにらみ、つり銭を渡す。 たぶんこの親父、俺の年齢わかってんだろうな、とか思いつつも、足早に書店を出た。 ついに俺たちは、至宝を手に入れたのだ。悟史は二つ、俺は一つ。 川原の橋げたの下で見せあいっこ。 いや、ヘンな意味じゃなく。 「な、なぁ、悟史、お前一体どんなの買ったんだ?」 「これと……これ」 お姉さん系……いや、巨乳系と言うべきか。 たわわとゆうかたゆゆというか、そういった感じの果実が二つ、 迫力のある構図で映し出されている。これを撮った奴は天才だ。 「ほ、ほう、なかなかいい趣味をお持ちで」 「圭一のはどんななの?」 「お、おう、俺、実は値段だけ見てきたんだよな。どんなのだろ……」 クールになれ、前原圭一。今手を震わせてどうする。 「こ、これだよ」 「圭一……君ってそんな趣味があったの……」 「なんだよ、人の趣味にケチつけんな……よ……」 ロリゐタ 「ちょ、これはちが……」 「二人ともー、そんなところで何やってんです?」 「うげぇ、詩音! か、隠せ!」 俺は突如としてやってきた詩音に対応しきれず、 隠蔽工作用に持ってきたかばんに本をつっこんだ。 悟史はそんなことに気が回らなかったのか、その本を乱雑に草むらに投げ出した。 「ん? 悟史くん、今何か投げませんでした?」 「え……あ、むぅ……」 ずんずんと近づいてくる詩音。こうなったら逃げるわけにもいかない。 「悟史……もう観念しろ」 「むぅ……」 「さとし……く?」 詩音の目の先には、悟史の買ってきたエロ本が二冊。固まる空気。下がる気温。 「ははは、悟史くんも男の子ですもんねぇ。 そういうのに興味ないのかって、心配でしたよ。 さぁ、悟史くん、ちょっとウチよっていかないですか? 近くに私のマンションがあるんですよ、さぁ! さぁ!」 「む、むぅ……」 何だよ、悟史……お前、お前! エロ本要らねえんじゃねえか! ちくしょう、このダラズがぁ……俺なんて、俺なんてなぁ、手元に残ったのが炉利ぃな本で……こんなのでおっきしたら俺もう戻れねえよ……沙都子とか梨花ちゃんの顔見れねぇよ…… 「ぼ、僕は圭一と一緒に遊んでるんだ、ごめんね、詩音。また今度!」 悟史は本を拾い上げ、俺の手を引いて走り出した。 「さ、悟史、お前ぇ……」 「ちょ、悟史くーん? 悟史くん!」 詩音も走って追いかけようとしたが、 途中で追いつかないと悟ったのか、走るのをやめた。 「さぁ、圭一、ついたよ」 そこは、輿宮の少し外れ、雛見沢寄りの山道の傍らにある小屋だった。 中からは人の気配は全くしない。 「ここは?」 「僕と沙都子の隠れ家なんだ……昔、つらいことがあったときはここに逃げ込んでね……」 「なるほど、助かったぜ。ここなら自由に鑑賞できるってわけだな」 「うん、さぁ、上がって」 俺は、悟史の後について小屋に入っていった。 中にはランタンとろうそく立てがあり、悟史はそれに火をともしていった。 「さ、見るか」 「うん……あのさ、圭一」 「なん……だ?」 俺の目の錯覚だろうか。悟史が、脱ぎ始めたように見えるんだが。 「あの、圭一のはじめて、貰うって……僕、決心したから!」 ちょ、決心するなおい! 何考えてんだよ、悟史、あの友情っぽい演出はなんだったんだよ、あれ、もしや愛が成せる業ってやつだったのかよおい、納得のいく説明をぉ! 「ちょ、待て、お、俺はれれれ、レナが好きなんだ、な、お、お前もアレだろ? その、詩音が好きなんだろ?」 「むぅ……僕、本気だよ?」 俺は身の危険を感じ、かばんも省みず逃げだそうとした。 が、すぐに退路は閉じられる。扉が、開かない。 「言っただろ? ”沙都子”と、僕の隠れ家だって」 「ね、ねぇ、冗談ですよね? その、悟史くん?」 「やっと僕をくん付けでよんでくれたね、圭一。さぁ、どっちがいい?」 目がマジだ。 ちょ、どっちって何? 何が起こるの? ねぇ、ねぇ! 「どっちもいやぁぁあ! にーにー! にーにーぃぃ!」 「沙都子も最初はそう言ってたんだよ。でも、今は……分かるよね? 僕ってそういうのがうまいらしいんだ」 そういうのってなんだよ、なぁ……俺たち、友達だったんじゃないのかよ…… おかしいのは俺? それとも悟史? いや、もうどっちでもいい。 「さ、悟史を返せ!」 「どうしたの圭一? 頭がおかしくなっちゃった? 僕は悟史だよ」 「いいや、違うな」 「じゃあ、何だって言うの?」 「お前は……ホモだ」 「そうだよ」 「や、やぁぁぁあ、ら、らめぇ、らめぇ! クールになって! お願い、クールになってよぉ!」 「そろそろ観念しなよ、圭一」 悟史が、俺を部屋の隅へと追い込んでいく。 「お、俺をどうする気だ?」 「沙都子と同じ目にあってもらう」 悟史が急に鬼の表情で、俺の肩をつかみ、後ろを向かせようとする。 「おらぁ、ケツ出せケツぅ!」 抵抗する俺に、悟史の平手が飛んでくる。泣きじゃくる俺。 「うう、ぐすっ……ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」 「なに念仏唱えてんだよぉ、おい?」 平手がもう一発飛んでくる。 「一つだけ……聞いて。痛くしないで」 「叶えてやるよ、力抜きな」 「アッー!」 「そこまでよ!」 突如、扉が大音響を上げ、二つに裂けた。 「助けを呼んでる人が居る! 嘆きを聞き取る鉈がある! 正義の鉈戦士、竜宮礼奈ただいま参上!」 「くっ! いいところでぇ!」 「れ、レナぁ、怖かったよぉ!」 ついに俺は、声を上げて泣き出してしまった。 「これで勝ったと思うなよ、礼奈!」 「どうしたの? かかってこないの?」 勇ましく鉈を振り上げるレナに、悟史は半歩下がる。 「勝ち目の無い戦いはしない主義なんでね。逃げさせてもらうよ」 悟史が強く地面を踏むと、床が回転し、悟史は地下に飲み込まれていった。 「まてぇ!」 高笑いを残しながら、悟史は地下へと消えていく。 悟史が行った道は、もう開かなくなっていた。 「大丈夫? 圭一くん?」 「う、うん、なんとか」 そう、よかった。 俺の意識は、そこで絶えた。 ひぐらしの声が聞こえる。 ああ、そうか、今までのは全部、夢だったんだ。 そうだよな、悟史があんなことするわけない。 どうかしてる。 ひぐらしが鳴いている。 早く帰らないと、母さんが心配するだろう…… 早く、帰る? 俺の背筋は凍りついた。 「やっと起きたんだね、圭一。 ”入れた”瞬間気絶したから、どうしたのかって心配したよ。 良かった。さぁ、続きをやろう」 「え? 入れたって……何を?」 「そんなの決まってるじゃないか」 悟史はわざと、一呼吸置いた。 「***だよ」 「う、う、うぁあああああああああああああああああああ!!!!」 この事件は何も終わってなんかいない。 まだ続いてる。 まだまだ続いてる。 誰かこの事件を終わらせてください。 この残酷で無残で悲しい…… この事件を終わらせてください。 それだけが俺の望みです。 「あのとき一つ叶えてあげたじゃないか、今度はダメーーーーあははははははは!」 輿宮エ*本事情―完―
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緋乃江戌人@世界忍者国様からのご依頼品 /*/ 薔薇という花は、愛を示す花である。 幾たびの品種改良を経ても、変わらずに威風堂々と咲き誇る、花の女王だ。 ここは天領。冬という生命の終わりを象徴するような白い季節に染まった冬の園、その中にある冬薔薇園の前だ。 その名の示すとおり、様々な色の薔薇が、計算された配置で白いキャンバスを彩る、絢爛な空間が目の前に広がっている。 「凄い……。こんなところ、今までに来た事ないよ」 戌人が思わず感嘆の声を漏らした。眼鏡の裏の瞳は瞬きを忘れて正面、色とりどりの薔薇に注がれている。 その隣ではあやめが目をくりくりさせてあちこちを見ていた。すらっとした艶やかな白い足が、半ズボンから伸びている。 「さむいね」 やはり寒かったのか、あやめは白い息を吐きながら笑った。冬の園にはあまり似つかわない、太陽のような微笑だ。 言葉を受け、戌人が自分の上着をあやめへ差し出す。足元まで覆うほどのロングコートだ。この男が羽織るとどうにも暗殺者かエリートに見えなくもない、そんな代物。 「大丈夫?」 「いいよ。それ着ると可愛い格好見れないし」 あやめはとてとてと新雪に足跡を付けながら戌人の正面に立つと、ふふーんと大胆なポーズをとった。いわゆるセクシーポーズというやつである。 雪で反射する太陽が作り出す白銀の光が、そのスレンダーな肢体をくっきりと映し出していた。 「似合う?」 「似合う。凄く。なんて褒めようか迷って言葉が見つからないくらい」 「よし。これで良狼を撃沈だ」 戌人が微かに憂いを帯びた微笑を浮かべる。どうやらまだ自分は彼の視野に入っていないらしい。分かっていた気もするが、やはり男として寂しいものがあるのは確かだった。 そんな彼のこともお構いなしに、あやめはステップを踏むように戌人の背後に回ると、その無防備な背中を叩いた。 「よし、デートしよう」 「え!?」 突然の宣言に、戌人は慌てて辺りを見渡す。『しよう』というのは通常誰かに対して使う言葉だ。他に誰かいるのだろうか。 白く雪化粧した薔薇の園の前には自分と、目の前の彼女しかいない。 ……と、いうことは、自分のことを言っているのか。 「ぼ、僕と?」 「デートでよんだくせに。いこっ」 「……うん! そうだね!」 行こうと一声かけ、戌人は彼女のすぐ傍を、寄り添うように歩く。 触れそうで触れない左手が震えている、気がした。鼓動が下手糞なダンスを踊り始める。一言で言うとドキドキであった。 リードした割には、隣を歩くあやめのほうがずんずんと、元気よく薔薇園へ突撃して行く。 それについて、地面に積もった雪の生み出す目映い光の門を抜けた先は、薔薇園の名に相応しく、見渡す限り一面薔薇の世界だった。 寒さで花弁が縮こまってこそいるが、その姿は流石に花の女王。雪の白を利用して、自らをさらに美しく見せているかのようだ。 あやめがわぁと、女の子の様な感動の声を上げる。どうしようかと散々悩んだ結果、空気を読まずに一応突っ込むが、男の子である。男の子のはずである。 「凄い、綺麗だね……」 「うん……うん」 あやめがこくこくと何度も頷く。まるでそれ以外の言葉が見当たらないようだが、まさにその通りの景色である。 「綺麗。雪と薔薇は似合うね」 目をぱちぱちとしながらあやめは呟く。そして急に、何か思いついたように小首を傾げ、頭の上にハテナマークを浮かべた。 「雪と薔薇と君は更に似合ってると思うよ。……何を考えてるの?」 「薔薇って雪に強いの?」 素朴な、とても素朴な疑問だった。 戌人が顔を赤くしながら発した、歯が浮くような台詞を華麗にスルーするには、あまりにも素朴な疑問だった。もしかするとある種の才能なのかもしれない。 「うーん、どうだろう。……多分、冬に強いように品種改良とかされているのかもしれないね」 流石に本心としては無念だが、この台詞を言い直すような真似は到底出来ない。戌人は素早く思考を切り替えて辺りを見渡した。係員がいれば話は早いのだが、生憎近くにそれらしい人影はひとつも見えない。宰相府が気でも遣っているのだろうかとも思うが、どこかで監視されているという線も否めなく、そう思うと何ともいえない感覚があった。 「そうかあ。でも凄い数だね」 「数えたらどれくらい時間かかるかなあ……」 「丸一日、かかりそうだね……。数えてみる?」 「ううん。奥に冒険にいこう」 あやめが面白い冗談を聞いたように笑って首を横に振る。 本心、それでも別にかまわないと思わなくもなかったのだが……。それを心の内に仕舞い、戌人もつられて微笑む。 彼が行こうと言うと、あやめはその腕を取って歩き出した。 突然の事に戌人の頭の中が、辺りと同じく真っ白に染まる。心臓が大きく脈を打ち出した。気づかれただろうか? 兎に角、深呼吸。引っ張られている歩調を徐々に合わせ、いつものそれに切り替えていく。 「君の名前の茨城、も、元々薔薇から来ているよね」 「そうなの? 茨城って薔薇なんだ」 頭の中を切り替えるために戌人がうんちくを繰り出す。再び頭の上にハテナマークを浮かべながら、あやめは聞き返した。 「薔薇のとげから来てるんだよ……ショックだった?」 常陸国風土記の、茨城郡条に記された故事のことだ。 知ってか知らずか、あやめはがーんという顔をしている。すぐ脇、手を触れない位置にいたさっきよりも近くで見るそのあどけない表情に、戌人は自分の顔が熱くなっていくのを感じた。 「そうかあ。さすがお父さん……」 「お父さん?」 あやめは何故か周囲を見て、小さく頷く。その口元には微かに苦笑を浮かべていた。 「……そっか、凄いお父さんなんだね」 あまり触れないほうがよさそうだ。そう感じた戌人も微かに苦笑いを浮かべ、話題を切り替えるべく辺りを見渡す。 腕に纏わり付かれた感触ですっかり忘れていたが、ここは冬の園の薔薇園だ。見渡す限り、薔薇と雪が覆っている。 「薔薇は高嶺の花だし、まさしく君は茨の城のお姫様ってところだね」 戌人の言葉にあやめが微笑む。 見上げるようなその表情に、落ち着き始めた心臓が再び大きく、一度だけ鼓動を刻んだ。なんたる迂闊。 「うーん。小さい頃は木登りしかしてないかも。あ。喧嘩もか。一番強かったなあ」 「元気なのは、良いことだよ。僕は素敵だと思う。子供の頃の君に小さいうちに会ってみたかったな」 再びあやめは笑い、戌人の腕から離れ、くるくると白い雪舞台を踏みしめながら彼の正面に躍り出る。その場でくるりと一回転して、両手を広げて空気を感じながら空を見上げた。 「小さいとき? どうかなあ。かわいくなかったから」 あやめは遠い目をしながら、昔の記憶に浸り始める。 空では寒さとは対照的に青空が広がり、灰色を帯びた雲が足早に流れていた。 「お兄ちゃんが欲しかったなあ」 白い吐息を微かに吐き出しながら、ぼそりとあやめが呟く。 「お兄ちゃんかぁ……お姉さんはいるんだっけ?」 「うん。お姉さんばっかり」 あやめは苦笑して、またその場で踊るように一回転した。 「それは欲しくなるね。僕はお兄さんばかりだから、逆にお姉さんが欲しかったよ」 「末っ子?」 「うん、三男。君も?」 「僕は4番目」あやめが首を振りながら答える。「でも、一緒だね?」 「うん、一緒だね」戌人が微笑む。「なんだか、嬉しいな」 「うん」 今度はあやめがつられて微笑む番だった。あやめは微笑を浮かべ、再び戌人の隣まで来ると、やはりその手に、絡まるようにしがみついた。 ぎこちなく微笑む戌人。二度目にもなれば流石に若干慣れはする、が、やはりすぐ傍に温もりを感じるというのは何とも気恥ずかしいものがある。 「男の子の兄弟いたら、絶対楽しいと思うんだ」 歩きながら、隣の戌人を上目遣いに見上げながらあやめが言う。その表情は今がまさにその時であるようにも見えた。 「うーん、喧嘩は上が強いから、逆らえなかったし、年も中途半端に離れてたからそんなに遊んでもらえなかったけれどね。……でも、良い兄貴達だった。楽しかったと、思う」 「そうなんだ。そうかぁ」 まるで自分のことのように微笑み、頷きながら、あやめが視線を前に戻す。 そこには赤や黄色の薔薇が咲く花壇に挟まれた、白く輝く空間があった。 「あ。白薔薇だ」空いている手でその輝きを指差す。「見て、真っ白……」 「わぁ……雪より、白く見えるよ……。綺麗だね……」 白薔薇は、その花弁に微かに積もった雪とともに、日光を一身に浴びて銀色に輝いている。 まるで小さな太陽がそこにあるようだった。 あやめが感嘆の声を漏らしながら、ぱたぱたと駆け出す。 背が低い白薔薇たちを見下ろしながら振り返り、戌人へ笑顔を向けた。 「絵になる光景だね。薔薇、似合ってるよ」にっこり笑顔を返して。 「うん。上出来。んー」 期待したとおりの言葉に、あやめは笑顔のまま、無造作に戌人の正面へ近寄ると、んー、としながらその顔を見上げた。 「どうしたの?」 微笑みながら、戌人が膝に手を当てて中腰になり、顔を寄せる。と、その頬の両側が優しく引っ張られた。 「なんか、出来すぎてる」手を離し、じと目であやめが見上げる。「人気はでそうだけど、僕は好きになれないな」 「僕は人気はいらない。ただ、君に好かれたいよ」その瞳を至近距離から、正面から、真っ直ぐに見つめながら戌人が言う。「君だけに」 「んー。あやしい。なんでだろ?」 あやめが微笑みながら首をかしげた。戌人も困ったように微笑むと、あやめの身体を抱き寄せた。 抱きしめて改めて気づくが、彼女の身体は力を込めれば折れてしまうのではないかというほど、華奢である。優しく、包み込むように、戌人は抱きしめる手に微かな力を込めた。 ドクンドクンと心臓が脈打ち、背中に回している両手が微かに震えている。見えないが、顔もおそらくは紅潮していることだろう。せめて紅潮だけは悟られないようにと、あやめの頭を自らの胸に埋めた。 「ただ、君が好きで、君に好かれたいだけなのに」 「……やっぱり思うんだけど、この辺手馴れてるからじゃない?」 あやめの声がいつもの調子で聞こえる。見えないが、おそらく苦笑していることだろう。 「……これでも内心、ドキドキなんだよ? 心臓の音、聞こえない? 誰かをこうして抱き締めるのだって、初めてだ」 返事はなかった。代わりに、胸板に耳をそばだてられているような気がして、急に恥ずかしさが増した気がした。 「口でしか言ってこなかったから、行動で、示してみた…んだけど……駄目?」 抱きしめる両手の力が微かに緩んだ瞬間、あやめはするりとそこから抜け出すと、再び白薔薇が咲く花壇の前まで離れた。 白薔薇と雪の放つ銀光を背負い、あやめが笑う。彼女の足元の雪が溶けるんじゃないかと思うような笑顔だ。 「だめ。もっとがんばって。お兄ちゃん?」 舌を出しながらそう言い、両手を広げて華麗にターンしてみせると、肩越しに戌人へ笑いかけた。 「いこ?」 「……うん」 何度目だろうか。戌人はつられるように微笑を返し、先に歩き出したその背中を追って、自分もゆっくり歩き出した。 純潔の意味を持つ、白い薔薇が風に揺れる。 まるでそれは、この奔放な茨姫のようでもあった。 /*/ 作品への一言コメント 感想などをお寄せ下さい。(名前の入力は無しでも可能です) 作中の台詞ではないですが、雪と薔薇とあやめがとても良く合ってる素敵な文章だなと思いました。書いてくださってどうも有り難うございました。 -- 緋乃江戌人@世界忍者国 (2008-02-20 12 56 26) 名前 コメント ご発注元:緋乃江戌人@世界忍者国様 http //cgi.members.interq.or.jp/emerald/ugen/cbbs_om/cbbs.cgi?mode=one namber=150 type=54 space=30 no= 製作:影法師@ながみ藩国 http //cgi.members.interq.or.jp/emerald/ugen/cbbs_om/cbbs.cgi?mode=one namber=156 type=54 space=60 no= 引渡し日:2008/2/20 counter: - yesterday: -
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勘弁記 山本周五郎 ------------------------------------------------------- 【テキスト中に現れる記号について】 《》:ルビ (例)周藤《すどう》 [#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定 (例)[#8字下げ] ------------------------------------------------------- [#8字下げ]一[#「一」は中見出し] 「どこまでつれてゆくんだ」「なにもうそこだよ」「おなじことばかり云っているが、もうやがて仕置場ではないか」「仕置場が恐ろしいわけでもないだろう」印東弥五兵衛はにたりと笑い、まるい肥えた肩をすくめながら空を仰いだ。「それより見ろ、いい月だぞ」 周藤《すどう》新六郎はにがにがしげに唇を歪《ゆが》めた、つまらぬ事を面白そうに持ってまわるのが弥五兵衛の癖である。着物の衿が曲っているのを注意するのにも、いろいろ遠まわしに仄《ほの》めかしたあげく「いって鏡をみろ」というような風だった。新六郎のほうは単純で直截《ちょくせつ》で、いつもけじめのはっきりしたことを好んでいた。衿が曲っていれば「衿が曲っているぞ」と云うだけである。弥五兵衛にしたがえばしかしそれはきょく[#「きょく」に傍点]が無さすぎるという、それでは却って相手に恥をかかせる場合もある、やはり自分のようにするのが「人情の機微」に触れているというのだった。……まいつき十五日に、馬廻り番の若ざむらいたち十人ばかりで、まわりもちで武道の話をする集りがあった、その夜も楯岡《たておか》市之進の家で十時ころまで話した帰りに、面白いものをみせるからぜひとさそいだした。興もなかったがあまり熱心にすすめるので、云うなりについて来ると、城下を出はずれ、旭川の堤にのぼってずんずん川上のほうへゆく、もうすぐだと云うばかりでなにも説明しない、そのようすがいつもの思わせぶりにみえるので、新六郎はしだいにばかばかしくなりだした。……秋十月のしずかな夜で、ちょうど頭上へ昇った月が川波にきらきらと光を投げていた、そのあたりは両岸とも荒地や叢林《そうりん》がつづいていた、ひっそりと眠ったように黝《くろ》ずんだ森がみえ、早くも裸になった梢の枝を寒々と月に照らされている楢《なら》の林がみえた。深い藪の奥のほうでなにかに驚いた寝鳥がけたたましく叫び、ばさばさと羽ばたきをしてすぐにまた鎮まった。 「おい此処だ、しずかにして呉れ」弥五兵衛がそう云って足をとめた。堤の右は川、左がわに枯れた草原があり、そのさきに赭土《あかつち》のかなり高い崖がのびている。「そう見まわしたって此処に何もあるわけじゃない、みせるというのは是だよ」弥五兵衛はそっと自分のさしている大剣の柄へ手をやった。「是は貴公も知っているとおり夏のはじめに求めた粟田口の新刀だ、みんなの鑑定ですがた[#「すがた」に傍点]はよいが斬れ味はわるかろうと云われたあれだ」「印東、――ためし斬りか」「そう云うだろうと思ったから黙ってつれて来たんだ、しかし相手は乞食だ、いやまあ聞けよ、半月ばかりまえからおれは食事をはこんでやっている、乞食非人とおちぶれては生きていても世のためにはならぬ、云ってみれば穀潰《ごくつぶ》しだ、それを半月おれは養ってやった、つまり今夜あるがためさ、見ていて呉れ」「待て印東、それは乱暴だ、印東」 呼びとめたけれど、弥五兵衛はもう大股に草原をあるいていった。月をいっぱいに浴びた赭土の崖の一部に、入口を枯草でかこまれた洞穴がみえている。弥五兵衛はその洞穴へ近よっていって声をかけた。「これ奥州とやら、もう寝たのか」洞のなかでなにか答える声がした。「出てまいれ、月見もどりだ、酒肴《しゅこう》の残りを持って来てやったぞ」 もういちど答える声がした、そして穴の中から乞食が出て来た。新六郎は堤からおりて草原の中に立っていた、弥五兵衛は紙に包んだものを乞食に与え、ちら[#「ちら」に傍点]とこっちへふりかえった。そして乞食が貰ったものを押戴いたとき、かれはちょっと身をひくような恰好をした。えい[#「えい」に傍点]という叫びが聞え、白刃がきらっと月光を截った、なかなか的確な一刀だった、乞食のからだは薙《な》ぎ倒された草のように右へよろめいた、しかしそれは斬られたのではなかった、右へよろめいたと見た次の刹那に、乞食はすっと立ち直っていたし、どうしたものか、氷のようにするどく光る大剣を抜いて、青眼に構えていた。新六郎はあっ[#「あっ」に傍点]と思った、弥五兵衛のおどろきはそれ以上だったに違いない。かれは逆上したようすで、絶叫しながらむにむさんに斬りこんだ、まるで桁違いの腕である。――これはあべこべに斬られる。そう思ったので、新六郎は大きく声をかけながら二人の間へ割ってはいった。「お待ち下さい、危い、印東かたなをひけ」 [#8字下げ]二[#「二」は中見出し] 年は二十七か八であろう、鬢髪《びんはつ》ものび、ながい労苦で肉もおちているが、眼つき唇もとに凛とした気質がみえるし、月光にうつしだされた肩のあたりも、つづれこそまとっているがどこか昂然たるものを持っていた。「わたくしは松野金五郎、父は金右衛門と申しました」かれはさっきの無反《むぞり》の直刀を仕込んだ竹杖をかかえ、洞穴の下の枯草のなかに腰をおろして、月を見あげるようにしながら語りだした。新六郎はかれと向きあって坐り、弥五兵衛はそのうしろへさがったところにいた、そしてまだときどき苦しそうに深い息をついては生つばをのんだ。「父は大和のくに高取藩士で、七百石の徒士組《かちぐみ》ばんがしらを勤めておりましたが、いまから六年まえ、ある事情から組下の者のために闇討ちを仕掛けられ、抜き合せは致しましたものの、ついに斬り伏せられてしまいました、以来わたくしはそのかたきを求めて諸国をめぐってあるき、ごらんのとおり」かれは袖をかえして苦笑した。「乞食《こつじき》非人の境涯にまでおちぶれました。しかしその甲斐あって、ようやく当のかたきのいどころをつきとめることができたのです。かたきは御当藩にいたのです」 「かたきが岡山藩に」弥五兵衛が身をのりだした、「してその、その者の姓名はなんと云います」 「いや待て、それを伺うまえに」新六郎はさえぎって訊いた。「おたずね申すが、御尊父がお討たれなすった事情というのはどのようなものですか」「それは申上げられません」ふと眼をそらす表情を、新六郎はじっと見まもりながら、「しかし伺わなければならぬ」とたたみかけて訊いた、「こうして無理にお身の上をうちあけて頂くからは、われわれとしても武道のてまえ聞き捨てにはならぬ、しかし御尊父のお討たれなすった事情によっては、はなはだ申しにくいがお力添えはなりかねます、だからぜひその事情は聞かして頂かなくてはならぬと思います」 「――申しにくい事なのです」金五郎は口ごもりながら、いかにも云いにくそうに答えた。「しかし、さよう、やはり申上げるのが本当でしょう。――実は、その者はわたくしの妹に恋慕して、再三ならず文をつけ、また酒のうえでしょうが路上で無礼なふるまいを致しました、それで父が面罵《めんば》したのです、言葉はどうあったか知りません。しかし父は少くとも他人に聞かれる場所を避けるだけの思遣《おもいや》りは忘れませんでした。それが原因でした、――申上げたくなかったのは、そういうかんばしからぬ事情だったからです」「それで充分です」新六郎はうなずいて云った。「その者の姓名をお聞かせ下さい」「旧主家にいるときは飯沼外記之介といいました、御当藩では楯岡市之進と申しております」「――楯岡市之進」弥五兵衛がおどろきの声をあげた、新六郎はそれを抑えつけた。「相違ありませんか」「当人をしかと見届けています、たしかに間違いはありません」新六郎はちょっと考えるようすだったが、すぐに向き直ってはっきりと云った。「よくわかりました、及ばずながら御本望を達するようお力添えを致しましょう。しかしなお数日お待ち下さい、晴れて勝負のできるようにはからいたいと思いますから」 「お話し申したうえは万事おさしずどおりに致します、よろしくおたのみ申します」 「では今宵はこれで」そう云って新六郎は弥五兵衛をうながして立った、「いずれ明日にもまたお眼にかかりにまいります」 松野金五郎は堤の上まで送って来た、月はいよいよ冴え、霜でもおりるのか、空気はひどく冷えてきた。新六郎は黙って、大股にずんずんあるいてゆく、弥五兵衛はその肩をみながらうしろからとぼとぼついていったが、やがていかにも困惑したような調子で云った。「とんだ事になった、ばかな真似をしたものだから、……済まぬ」けれど新六郎には聞えなかったものか、なにも云わずにあるいていた。……かれは楯岡市之進のことを考えていたのである。此処へ来るまえ、今宵は市之進の家で例月の集りがあったばかりである。その顔も話す声つきもまざまざと印象に新しい、いやそればかりではない、市之進はかれにとって妹婿だった、おのれの妹さだ[#「さだ」に傍点]が市之進に嫁してもう半年になる。――そういう男とは思えなかった。新六郎はいくたびもおなじことを呟きつづけた。 [#8字下げ]三[#「三」は中見出し] 楯岡市之進は三年前藩主池田光政にみいだされて岡山藩へ仕官した。じきじきのお取立てではあるし、槍術にすぐれた腕をもっていたし、そして性格のまるい、謙譲な人づきあいのよい質だったから、上のおぼしめしも家中の評判もよかった。新六郎の家へは弥五兵衛がはじめにつれて来た、そして毎月の集りに加わるようになってから、人を介して妹のさだ[#「さだ」に傍点]に結婚を求めてきたのである。はじめは一応ことわった、家柄も血統もよくわからぬ他国から来た者に、妹をやる気にはなれなかったのである、けれど老職の池田玄蕃があいだに立ったのでついに婚約を承知し、それから半年ほどしてこの四月に祝言をしたのであった。――そうだ、そうかもしれない。新六郎は家にかえり、寝所にはいってからも考えつづけていた。そういう過去の失敗があったからこそ、楯岡市之進の性格は今日のようにまるくなり、謙譲になったのかもしれない。あれだけ槍術にすぐれていながら、少しもそれを表面にあらわさず、出頭の身でいてつねにへりくだった態度を忘れない、そういう挙措《きょそ》の裏には高取藩での大きな過誤があり、それを胆に銘じて立ち直ろうとする努力が今日のかれをなしているのだ。――だから、もし現在のすがたが偽りのものでないとすれば、むしろかれはよろこんで松野金五郎と勝負するにちがいない。金五郎という男もかなり腕がたつ、市之進の槍は定評がある、勝負がどちらのものになるかわからない、けれど討たれるにしろ返り討ちにするにしろ、これで市之進はさっぱりと過去のあやまちを清算することができるのだ。――かれもさぞさばさばすることだろう。そこまで考えて新六郎も気持がおちついた、そしてその翌る日、食事をしまってから紙屋町すじにある楯岡の屋敷をおとずれた。 ゆうべの月夜につづくからりと晴れたさわやかな午前だった、案内された客間には、あるじ市之進のほか印東弥五兵衛がいた、ふたりはこわだかになにか話していた、新六郎がはいってゆくと弥五兵衛がにやっとふり向き、「やあ、もう来る頃だと思っていたよ」かれはそう云って少し座をゆずった。「どうぞこちらへ、どうぞ」「早朝から失敬します」会釈《えしゃく》して座につくと、新六郎は弥五兵衛をかえりみた。「それではもう話はしたのだな」「うん話した、みんな話したよ」「おぼえがあるのか、楯岡」市之進はさすがにおもぶせな顔つきだった。ちょっと眼を伏せて、しかしわるびれずにうなずいた。「若気のあやまちだった、そう申すほかに一言もない」「それでいい、それ以上なにも聞く要はないよ、そしてむろん、そう云うからには覚悟はきまっているだろうな」「いやそいつはもういいんだ」弥五兵衛がそばから口を挿んだ、「そのことならもうきまりがついたよ」「――きまりがついた」「是をみて呉れ」そういって弥五兵衛が長い竹杖をそこへさしだした、ひと眼みて新六郎にはその竹杖がなんであるかわかった、かれは手を伸ばしてとり、ぐっとひき抜いてみた。まさしく、それは昨夜の乞食が持っていたあの無反の直刀であった。「どうしたのだ、これはどういう意味だ」「おれが斬ったんだ」弥五兵衛はずばりと云った、「事のおこりはおれだ、おれがためし斬りをしようとしたためにあんな事になった、楯岡は朋友だし、貴公とはまた義理の兄弟になる、おれのつまらぬいたずらからこんな事になっては両方に申しわけがない。だから、――おれはあれから引返して斬ったんだ」そう云って弥五兵衛はおのれの大剣を手にとり、二人の前へさしだしながら大きく笑って云った、「やっぱり粟田口の新刀はよく斬れるよ、みせたいくらいだった」新六郎はきっと眼をあげた。「印東、貴公どうして斬った」「――え」「尋常に名乗って斬れる相手ではない、どのようにして斬ったか聞こう」 「それは、いやそれは、まさにそうだ」弥五兵衛はちょっとどもった、「かれはたしかにおれより上を遣う、だがおれたちと話し合ったあとで安心していたらしい、『かたきの手引きをするから一緒にゆこう』とこえをかけたら、かれは慌てて洞穴《ほらあな》から這いだして来た、そこをやった」「騙《だま》し討ちだな」さっと新六郎の顔が蒼くなった。 [#8字下げ]四[#「四」は中見出し] 騙し討ちだなというひと言は弥五兵衛をびっくりさせたらしい、弥五兵衛だけではなく市之進もはっ[#「はっ」に傍点]としたように眼のいろを変えた。新六郎はその二人の顔をしかと見て、かれらと自分の考えかたの隔りの大きさを知った、もはや言葉ではどうしようもない、言葉でかれらを説服することはできないと思った。「印東、貴公はおれが、松野金五郎に力添えをすると約束したのを知っているはずだ、松野はおれたちを武士と信じてすべてをうらあけて呉れた、いいか、この二つの点にしかと念を押して置くぞ」「どうしようというのだ周藤」市之進がさぐるようなこわねで訊いた、その眼をひたと見かえし、竹杖の刀を左手に持って新六郎は座を立った、「この刀はおれが預ってゆく、おれがどうしようと考えているかはそれで推察がつくだろう、――だが妹の縁につながる貴公と、命のやりとりをするようになろうとは思いがけなかったよ」 云い捨てて足ばやにその部屋を出た、玄関で弥五兵衛が追いついて来た。 「待て、周藤、貴公ほんとうに楯岡を斬るつもりなのか」 「勝ち負けはわからぬ」草履をはきながら新六郎は答えた、「おれは刀の持主に約したことをこの刀に果たさせるだけだ」 「だがそれはおれの面目をつぶすことにもなるぞ」 「面目だと――」ほとんど叫ぶように云って、新六郎は射ぬくように弥五兵衛を見た。「きさまにどんな面目があるんだ、印東。恥を知れ、この刀で斬るのは市之進ひとりではないぞ」 「……」「よく考えて覚悟をしておけ」そして新六郎はそこを出た。 かれはその足で池田玄蕃の屋敷をたずねた。怒りのために身も心も震えていた、言葉ではどう云いようもない、最も清浄なものが最も穢《けが》れた土足でふみにじられた、そのやりきれない汚辱感が血にしみこみ全身をかけまわっている感じである。かれは玄蕃に御しゅくんへのめどおりのかなうようにたのんだ。「どうした、なにかできたのか」「仔細《しさい》は御前でなくては申し述べられません、なるべく早くおめどおりのかなうようお計いを願います」「だが理由が知れなくては計いかねるぞ、いったどうしたというのだ」たしかに、仔細もわからず目通りが願えるものではない、新六郎はやはり事情を語らなければならなかった。聞き終った玄蕃はひどく当惑したようすで、ながいこと黙って考えていた。「そうか、仔細はそれでわかった、そともとが望むなら拝謁の儀を願ってみよう」「なにぶんおたのみ申します」「一両日うちに返辞をやるから」 そう聞いて新六郎は玄蕃の屋敷を辞した。そして家へ帰ってみると妹のさだ[#「さだ」に傍点]が来ていた。――どうして、ちょっと戸惑いをしたがすぐに察しはついた。市之進になにか云い含められたか、それとも自分の思案でか、いずれにせよ執成《とりな》すつもりで来たにちがいない、そう思ったので言葉もかけず居間へはいった。妹はあとを追うようにして来た「なんの用があって来た」かれは叱りつけるように云った、さだ[#「さだ」に傍点]はしずかにそこに坐って兄を見あげた。「わたくし去られて戻りました」えっと云って新六郎は妹を見なおした、まったく思懸けない返辞だったのである、そしてそう聞いたときすぐ、――これがおれの返辞だ。という市之進の顔が見えるように思えた。いまこそ正体がわかった、謙譲の裏に隠されていたもの、人にとりいることの巧みさ、弥五兵衛の陋劣《ろうれつ》な行為にもさして驚かなかった態度、それこそまさに松野金右衛門を闇討ちにしたかれの性根だ。過去のあやまちから、正しい人間に立ち直ったとみたのは誤りである、かれはやはり卑劣で醜悪なのだ、ただそれを隠していたにすぎなかったのだ。 「おまえは楯岡へ嫁したからだではないか」新六郎は妹をねめつけながら云った、「おのれにあやまちのないかぎり去られるということはない、なぜ戻った」「死ぬはずでございました」さだ[#「さだ」に傍点]はつつましく答えた。「でもわたくし、身ひとつではございませんので、それで戻りました」「身ごもっているのか」はいと云って俯向《うつむ》くさだ[#「さだ」に傍点]の頬に、かすかな羞《はじら》いの色がうごいた。新六郎はきりきりと胸が痛むように感じた、けれどすぐに心はきまった。「よし、死んではならぬ、その子は兄がひきうけた、丈夫に産みおとして育てるのが、これからのおまえの生涯のつとめだ、めめしい心では末とげぬぞ」さだ[#「さだ」に傍点]は黙って両手をついた。しかしその柔かな肩のどこやらに、母となるべきおんなのかたい決意が表白されていた。 [#8字下げ]五[#「五」は中見出し] 次ぎの日、玄蕃から迎えの便が来た、すぐ登城のできるように麻裃《あさがみしも》に支度を正していった、玄蕃はかれを自分の居間へとおした。「考え直してみないか」老人はなだめるような口調で云った、「そともとの義理を重んずる気持はよくわかる。しかしここはひとつゆきがかりの感情をぬきにして考えてみたい。――松野なにがしの孝心はまことにあっぱれであるし、非業の死もいたましいには相違ないが、印東のしたことも悪意ではない、おなじ家中の朋友のためを思ってした、その結果が道にはずれたことになったので、動機はやはり酌量すべきものがあると思う。むろん、これが事の起るまえなら云うことはない、しかし当の松野なにがしが死んでしまった今、血縁でもないそこもとが代って仇討をするというのはゆきすぎではないか。印東をも斬ると云ったそうだが、いまさら二人を斬ったところで松野の命がとりかえせるものではない、このうえまた二人の命を失うということは、悲惨の上に悲惨をかさねるだけではないのか」 黙って答えない新六郎の拳が、袴の上でかすかにふるえていた。 「考え直してみい周藤、世の中には武道一点を押しとおすだけで済まぬ場合もある、このうえふたり死者をだすことはないぞ」 「……では」と新六郎は忿《いきどお》りを抑えた声でたずねた。「おめどおりの事は願えませぬか」 「わしは考え直して呉れと申しておる」 「その余地はございません」かれはきっぱりと云った、「申上げるまでもないと存じますが、人の命はまさしき道の上にあってこそ尊いのです。このような不法無道を見のがしてどこに正しき道がありましょう、大切なのは生きることではなく、どう生きるかにあると信じます。わたくしはかれらを斬ります」 「やっぱりそうか」やっぱりと玄蕃は溜息をついた、そしてかれのほうは見ずに、独り言をつぶやくような調子で云った。「云いだしたら肯《き》くまい、だがよくよく勘弁するように申せ、……殿はそう御意なされた、おめどおりには及ばぬと思う」 「お上が、お上がそう仰せられましたか」はじめて新六郎は手をおろした、「かたじけのう存じます、そのお言葉はおゆるしの御意と承わります、勘弁とは篤と道を勘考し弁える意味。かならず、仰せにそむかぬよう仕ります」 「検視役のお沙汰はないから」 「承知仕りました」 玄蕃の屋敷を辞した新六郎は、家へ帰るとすぐ二通の書状をしたためた。松野金五郎の討たれた場所を指定し、七つ刻(午後四時)までに来いという文言である。それを楯岡と印東へ持たせてやると、家扶をまねいて身のまわりの始末をした。妹さだ[#「さだ」に傍点]「は前の日すでに親族へ預けてあった、自分にまんいちの事があったあと、家士たちの困らぬようにして置けばそれで思遺すことはなかったのである。しかし、それから一刻ほど経ったとき、楯岡と印東から書面を突き返して来た。――こちらは指定の場所へ出向く必要をみとめない。かような書面を受け取る理由もない。両方ともそういう意味の手紙がつけてあった。おそらく二人で相談の結果したことであろう、新六郎はちょっと考えていたが、それを纒《まと》めて池田玄蕃のもとへ届けさせた。こうなればこっちから乗りこんでゆくよりほかに手段はない、かれは心をきめてすぐに身仕度をした。 印東弥五兵衛の家は城の大手、西大寺町の中の辻さがりにあった。玄関に立って案内を乞うと、家士が出て来て主人《あるじ》は留守だと答えた。「留守というのはたしかか」「ご不審なればあがってお検め下さい」「出先はいずれだ」「楯岡さまへと申し遺されました」それならたしかだ、そう思ってそこを出ると、壕端へ出て北へ向った。楯岡の家は上の町にある、少しまえから吹きだした北風がようやく強くなり、乾いた道からしきりに砂塵を巻きあげていた。かれはその風を押切るようにまっすぐにあるいていった。 [#8字下げ]六[#「六」は中見出し] 楯岡の家は門を左右にひらき、玄関まできよ[#「きよ」に傍点]砂が撒いてあった。かれは門前で立ちどまり、襷《たすき》をかけ汗止めをし、袴の股立をとって、左手に竹杖の刀をひっさげながら大股に玄関へ近よっていった。声をかけたが返辞はなかった、二度、三度、それでも出て来る者さえなかった。かれは草履をぬいで式台へあがった、それを待っていたように、正面の杉戸があいて楯岡市之進があらわれた。すっかり身仕度をして鞘《さや》をはらった半槍をかいこんでいた。 「来たか出すぎ者」叫んで槍をとりなおす、新六郎は竹杖の刀を抜いた。「大和のくに高取藩士、松野金五郎に代って亡き父子の怨《うらみ》をはらす、勝負」勝負と叫んだかれは、自分の胸板を槍へぶっつけるような態度で、ずかずかと市之進のほうへあゆみ寄った。法も術も捨てた態度だった、まるであけっぱなしだった、さあこの胸のまん中を突けといわんばかりである、市之進は思わずうしろへさがった、その刹那に新六郎は杉戸の一枚を蹴倒した。ぱりっというはげしい音をたてて杉戸が倒れるとたんに、かれはつぶての如く次の部屋へとびこんだ。 そこには印東弥五兵衛がいた、市之進が杉戸口からさそいとむところを、脇から斬ってとる構えだったのである。だから、いきなり杉戸を蹴倒されたとき、弥五兵衛は裏の裏を掻《か》かれてかっ[#「かっ」に傍点]と逆上し、とびこんで来た新六郎へ夢中で斬りつけた、むろん届くわけがない、空を打ってのめり、畳へ割りつけた。そのとき新六郎はもう市之進を縁先まで追いつめていた。……屋敷のなかはひっそりとして、一瞬すべてのものが音をひそめた。市之進は手槍を中段にとり、庭を背にして立っている、新六郎は刀を青眼につけ、相手の眼をひた[#「ひた」に傍点]と見ながら、ぐいぐいと真向に進んでゆく、弥五兵衛などに眼もくれなかった。絶叫がおこり、市之進が突っこんだ、新六郎はよけもせず、そのまま踏込んで上段から斬りおろした。市之進の槍は新六郎の着衣を貫き、新六郎の刀は市之進の真向を割っていた。弥五兵衛はそのとき新六郎のうしろへ迫っていた、そして市之進が槍を突っこむのと同時にうしろから新六郎の左胴へ斬りつけた。その太刀は少しさがったけれど、まさに腰骨の上へはいった。胴へはいったら致命だったに相違ない、腰だったので骨へ達しただけだった。新六郎はうん[#「うん」に傍点]とも云わずふり返り、「きさまは、いつもうしろからだな」と叫んだ、弥五兵衛は二の太刀をふりあげたが斬りこめなかった、新六郎の腰はたちまち血に染まってゆく、しかし平然たる顔でぐいぐいと進んで来た。弥五兵衛は蒼白になり、右へまわりこもうとした。その刹那に新六郎がとびこんだ、飛鳥のようなすばやさだった、あっ[#「あっ」に傍点]と弥五兵衛が夢中で刀を振ったが、新六郎のうちこんだ太刀は、かれの首の根をなかば以上も斬り放していた。 ――斬った。そう思った。そして倒れている市之進と弥五兵衛の姿を見かえして、かれはぐたりとそこへ膝をついてしまった、はじめて腰の傷がきいて来たのだ。しかし、かれが崩折れたとき、庭のほうで人の声が聞えた。「傷をしたようすだ、いってみてやれ」聞きおぼえのある声だった、かれははっとして眼をあげた、狭い庭のさきが高野槇《こうやまき》の生垣になっている、そこに馬上の武士がこちらを見ていた。――殿だ。しのび姿で、笠を深くさげているが、それは御主君光政公にまぎれもなかった、新六郎は平伏した、そこへ庭の木戸から玄蕃がはいって来た、それを追うように光政のよびかける声が聞えた。 「傷が治ったら、二人の髪を持って高取へ届けさせるがよい、戻るまで閉門を申付けるぞ」 平伏した新六郎の眼から、はらはらと涙がこぼれ落ちた。――戻るまで開門。そのひと言に慈悲のすべてが籠っている。やはり御しゅくんは自分のした事をおわかり下すった、新六郎は面もあげ得ずくくと噎《むせ》びあげた。玄蕃が近寄って来る。「やったな、やったな」という声が感動にふるえていた。 底本:「士道小説集」実業之日本社 1972(昭和47)年7月1日 初版発行 1978(昭和53)年5月10日 新装第二八刷発行(通算13版) 底本の親本:「夏草戦記」八雲書店 1945(昭和20)年3月 初出:「夏草戦記」八雲書店 1945(昭和20)年3月 入力:特定非営利活動法人はるかぜ