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スーパーダンガンロンパ2 さよなら絶望学園 スーパーダンガンロンパ2 さよなら絶望学園ID+ゲーム名モノクマメダル999枚 全プレゼント99個所持 獲得スキル全開 経験値n倍 歩数n倍 X押し移動で歩数1歩が100歩 会話時にプレゼントあげても個数減らない ウサミのご褒美で希望のカケラ減らない ペットにプレゼントあげても個数減らない 学級裁判時間停止 起動以外の精神集中減らない+即回復 EXTRA関連 EXTRA関係メダル減らない(自販機以外) 自販機で物購入してもメダル減らない ペット残り歩数0 ペット希望度 ペット絶望度 希望のカケラMAX ミラクルモノミ装備全部 ミラクルモノミHP減らない ミラクルモノミ時間減らない ミラクルモノミ疲れない ミラクルモノミ %変動で100% ミラクルモノミ ウサミ変身後%減らない だんがんアイランド用コード らーぶらーぶ度MAX L+Rで清潔度MAX おでかけチケット 消耗品 加工品 素材 ID+ゲーム名 _S NPJH-50631 _G SUPER DANGANRONPA 2 -Sayonara Zetsubougakuen- モノクマメダル999枚 _C0 MEDAL 999 _L 0x104EF0B2 0x000003E7 全プレゼント99個所持 _C0 PRESENT ALL 99 _L 0x804ED22C 0x008C0001 _L 0x00000063 0x00000000 獲得スキル全開 _C0 SKILL ALL _L 0x204ED2E0 0xFFFFFFFF _L 0x004ED2E4 0x0000001F 経験値n倍 _C0 Exp n Bai _L 0x20106074 0x0E200400 _L 0x20001000 0x8CE68188 _L 0x20001004 0x03E00008 _L 0x20001008 0x00052xx0 xx=84(2倍)、88(4倍)、8C(8倍)、90(16倍)、94(32倍)、98(64倍)、9C(128倍)、A0(256倍) 歩数n倍 _C0 Hosuu n Bai _L 0x20106210 0x246300xx _L 0x20173f3c 0x24c600xx xx=01(標準)、0A(10倍)、14(20倍) X押し移動で歩数1歩が100歩 _L 0x20106210 0x24630001 _L 0x20173F3C 0x24C60001 _L 0xD0000001 0x10004000 _L 0x20106210 0x24630064 _L 0x20173F3C 0x24C60064 会話時にプレゼントあげても個数減らない _L 0x200CF578 0x24420000 ウサミのご褒美で希望のカケラ減らない _L 0x2017C394 0x00000000 ペットにプレゼントあげても個数減らない _L 0x20172488 0x24420000 _L 0x20172DC0 0x24420000 学級裁判時間停止 _L 0x200E137C 0x00000000 _L 0x2011D3A8 0x00000000 _L 0x20133E5C 0x00000000 _L 0x2013C1CC 0x00000000 _L 0x20146850 0x00000000 _L 0x20152694 0x00000000 _L 0x20154808 0x00000000 _L 0x2015F0EC 0x00000000 _L 0x2017EAB8 0x00000000 起動以外の精神集中減らない+即回復 _L 0x2011D930 0x00000000 _L 0x2011DC08 0x00000000 _L 0x20134460 0x00000000 _L 0x201344DC 0x00000000 _L 0x20155098 0x00000000 _L 0x20155238 0x00000000 _L 0x2015F264 0x00000000 EXTRA関連 _C0 Event Gallery ALL _L 0x804EEE14 0x00E90001 _L 0x00000003 0x00000000 _C0 Movie Gallery ALL _L 0x804EEF72 0x002E0001 _L 0x00000003 0x00000000 _L 0x004EEF96 0x00000003 _C0 Art Work Gallery ALL _L 0x804EEFA4 0x003E0001 _L 0x00000003 0x00000000 _C0 Sound Gallery ALL _L 0x804EF012 0x003E0001 _L 0x00000003 0x00000000 _C0 Usami Flower ALL _L 0x804EF080 0x00320001 _L 0x00000003 0x00000000 クリア後使用推奨! 犯人がバレバレな上に重要なトリックのタネまで載ってある EXTRA関係メダル減らない(自販機以外) _L 0x200EB724 0x00000000 _L 0x20187394 0x00000000 _L 0x20188730 0x00000000 _L 0x20189C44 0x00000000 _L 0x2018BE2C 0x00000000 自販機で物購入してもメダル減らない _L 0x201A36EC 0x00000000 ペット残り歩数0 _L 0x104EE568 0x000007D0 ペット希望度 _L 0x004EE572 0x0000000A ペット絶望度 _L 0x004EE573 0x00000000 希望のカケラMAX _C0 Kakera Max _L 0x804ED2F3 0x000F0001 _L 0x00000006 0x00000000 ミラクルモノミ装備全部 _C0 Miracle Monomi Equip ALL _L 0x804EF105 0x003C0001 _L 0x00000001 0x00000000 _L 0x004EF104 0x00000005 ミラクルモノミHP減らない _C0 Miracle Monomi HP _L 0x201A7DB0 0x00000000 ミラクルモノミ時間減らない _C0 Miracle Monomi Time _L 0x201ADD3C 0x24420000 ミラクルモノミ疲れない _C0 Miracle Monomi Tsukare _L 0x201A9124 0x24630000 ミラクルモノミ %変動で100% _C0 Miracle Monomi 100% _L 0x201AEE50 0x00000000 ミラクルモノミ ウサミ変身後%減らない _C0 Miracle Monomi Usami _L 0x201A9114 0x00000000 _L 0x201ADD68 0x00000000 だんがんアイランド用コード らーぶらーぶ度MAX _C0 Love Max _L 0x804EE7BD 0x000F0001 _L 0x00000064 0x00000000 L+Rで清潔度MAX _C0 LR Seiketudo Max _L 0xD0000000 0x10000300 _L 0x004EE813 0x00000064 おでかけチケット _L 0x004EE810 0x00000063 消耗品 _L 0x804EE780 0x000C0001 _L 0x00000063 0x00000000 加工品 _L 0x804EE78F 0x000D0001 _L 0x00000063 0x00000000 素材 _L 0x804EE71C 0x00390001 _L 0x00000063 0x00000000
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9 その少女はこの学園においては、ある意味で、とても目立つ存在だった。 生徒達は皆何かしらの個性、それはもちろん子荻ちゃんや姫ちゃんみたいな、物語に関与できるだけの飛び抜けたものではないが。 「な、なによ」 家鴨の群れに白鳥がいれば一目でわかるし、どんなにじゃれつく姿が同じ様に愛らしくても、猫と虎の子ではまるで違う生き物である。 澄百合学園。 「ど、どうしてわたしをそんな、じ、じっと見てんのよ」 この学園の生徒は、程度の差こそあれ、全員が全員、白鳥であり虎だ。 そのまだ未完成な美しさと強さで、一般人、特に男が、気軽に近寄るのを思わず躊躇ってしまう存在。……なんだけど。 「はっ!? ひょ、ひょっとしてっ!!」 「ひょっとしない」 今風の茶髪少女に皆まで言わせず、ぼくは即座に否定する。 赤い縁の眼鏡の奥、くりくりっとした瞳が、その言葉にむっとしていた。感情がすぐに顔に出るのも、今風の女子高生の特徴だろう。 要するに少女は家鴨や猫だった。 まぁ、これはこれで可愛いんだけどね。 お昼休み。 食堂は例によっていっぱいだったが、今日のぼくは昼飯の心配をする必要はなかった。 朝アパートを出るときに、一人と二人が互いを牽制しながら渡してくれた、こんなに食べられないよ、というくらいデカい弁当包み。 それを手に廊下をてふてふと歩いていたらば、オナカを撫でながら歩いていた少女、古槍頭巾ちゃんと出くわした。 なんつぅかいつもいつも、頭巾ちゃんを見るそのたびに、ぼくは思ってしまう。 「普通」 「普通って言うなっ!!」 ほらね。つっこみまで普通だ。 しかしこの異常が売りの学園では 《普通》 この属性を持つ者は極めて特殊であり稀有だろう。 だから彼女がオナカを撫でている理由は、お昼休みにトボトボと、喧騒から逃げるようにしている理由はおそらく――否、ズバリ。 「ダイエット」 「ズバリ当てるなっ!!」 なんだかこの娘の行動のことごとくが、手に取るようにぼくには読めてしまった。 自慢にはならないけど。 なにせ頭巾ちゃんはぼくに月並みにつっこみながらも、視線は風呂敷包みにピントを合わせて微動だにしない。 「食べる?」 包みをちょいっと上げると、頭巾ちゃんの視線もそれに釣られて動く。 風呂敷をゆらゆらとさせると、それにシンクロして、頭巾ちゃんの茶髪もゆらゆらと揺れている。……ちょっと面白い。 「ダイエットしなきゃって、女の子は必ず言うけど無理は良くないよ。頭巾ちゃんなんかは、もう少し食べた方がいいくらいだ」 ぼくは右に左にと風呂敷を振りながら訊いてみた。 「余計なお世話」 人が親切で言ってやってるというのに、餌を貰う雛鳥のように首を振りながらも、頭巾ちゃんは素直にはなれない若者みたいだ。 まあいいけどさ。 これでもかというくらい普通な存在の頭巾ちゃん。どうせこの後は月並みな展開になるに決まっている。 “グウゥゥウウ~~~~” 「はぅ!?」 頭巾ちゃんは刹那で顔を真っ赤にさせると、ぱっと、慌ててまだ鳴り止まないオナカを押さえた。 ほらね。 このタイミングでオナカを鳴らせるなんて、昭和のコメディじゃあるまいし、ぼくにはとても恥ずかしくて出来ない。 普通恐るべし。 「ぶっちゃけると助けてほしいんだ。一人で食べきれる量じゃないけど、心が篭もってるからね。こっそり捨てるのは些か忍びない」 「う、うぅうっ」 おおっ。なんかすごい視線で睨まれてるぞ。 やはり普通に、月並みに、頭巾ちゃんは乙女として、オナカの音をぼくに聴かれたのが恥ずかしいらしかった。 いや、そりゃそうだろうけどさ。 でもそうやってぼくに恥を晒したおかげで、どうも頭巾ちゃんは開き直ったらしい。 「お、お祖父ちゃんが言ってたわ」 「うん?」 「最近の若者は贅沢すぎるって。もっともっとお百姓さんに感謝しなきゃいけないって。……わたしも、わたしもそう思う」 「うん」 「手伝うわ《いーちゃん》。仕方ないけど、本当は全然まったくこれっぽちも食べたくないけど、どうしてもって言うなら食べてあげる」 「……うん」 予想通りの答えが得られた。だけど釈然としないのは何故だろう? 「それじゃどこで食べようか《いーちゃん》。出遅れてるんだし、早くしないといいとこ取られちゃう」 「…………」 あんなに抵抗してたのが嘘みたいだ。 しかし切り替えが早いのが今風の若者。その早さをぼくもたまには見習うことにしようか。 崩子ちゃんとこの間一緒に食べたベンチにでも行くかな、などとと考えていたら、くいっと、後ろから服の袖を引っ張られた。 振り向くとそこには、女の子が眼鏡の奥の瞳で、じっとぼくを見上げている。 「…………どうしてここに…………いたりするのかな?」 二人で風呂敷包みを大事そうに持ちながら、ぼくを狂おしいほど慕う姉妹は、左右線対称のシンメトリーで澄百合学園に存在していた。 「ぼくた…………わたしたち、《いーちゃん》さんがデザートを忘れたので届けに来ました」 「ぼくた…………わたしたち、《いーちゃん》さんがデザートを忘れたので届けに来ました」 もちろん知っている顔である。 この二人の正確な年齢はわからないが、まだ高校の制服を着てても、なんら可笑しくないだろう年齢なのは間違いないはずだ。 澄百合学園の制服がとても良く似合っている。 「もう一着手に入ったんだね。深空ちゃん、高海ちゃん」 澪標姉妹。 どちらかといえば頭巾ちゃんより、深空ちゃんと高海ちゃん、二人のほうがこの澄百合学園には相応しい生徒かもしれない。 「わっ!? 双子だ。わたしはじめて生で見た」 そしてあまり相応しくない、っていうか似合わない頭巾ちゃんは、深空ちゃんと高海ちゃん、そっくりの二人を見て素直に驚いている。 本当に普通。 「デザートってそれなの? その大きさその丸み、わたしには西瓜としか思えないんだけど?」 だがそんな頭巾ちゃんの、極めて普通の指摘でぼくは気づかされる。 風呂敷に包まれている豪勢な重箱といい、デザートだとわざわざ持って来た西瓜といい、二、三人で食べるならちょうどいい量だ。 もしかして確信犯? ぼくが疑いの目を向けると、二人は露骨に顔を背けて、ふいっと明後日の方向を見る。 崩子ちゃんならともかく、この二人に腹芸なんて無理な話だ。 と。 「でもわたし西瓜大好きなんだよね。よしっ!! はいはい、は~~い!!」 これはこの間来たときに味を占めた、お気に入りの抱きまくらの計画だろうな、と考えていたら、頭巾ちゃんがさっと手を上げた。 「《いーちゃん》、西瓜はわたしに任しちゃってよ。西瓜だったらわたし、いくらでもイケちゃう人だからさ」 言いつつ頭巾ちゃんは上げた勢いそのままで、分担まで勝手に決めて、深空ちゃんと高海ちゃんの持ってる西瓜の包みに手を伸ばす。 だが。 “スカッ” 「あっ!?」 二人にあっさりと避けられた。 「あんたに食べさせる為に持って来たんじゃない」 「あんたに食べさせる為に持って来たんじゃない」 「うっ!?」 じろりと二人に睨まれて、頭巾ちゃんの腰が思わず引ける。 そりゃそうだ。 ぼくも四年前は夜の京都御苑で、やはり同じ様に睨まれてえらい目に合っている。 頭巾ちゃんのいまの気持ちは、背中が痛いくらいによくわかった。 しかしそういった自分の心の弱さを、二人が同性でもあるし、中々認めることの出来ない年頃なんだろう。 「い、いいじゃん。《いーちゃん》はどうせお弁当だけでお腹一杯になっちゃうんだし」 「…………」 多分そうなるとは思うけど、なんか言い方が引っかかるなぁ。 頭巾ちゃん、もうちょっとでいいから、目上の人に対する言葉遣いを覚えよう。いや、これは戯言ではなく。 「そんなことはない。《いーちゃん》さんはこのぐらい一人でペロリだ」 「そんなことはない。《いーちゃん》さんはこのぐらい一人でペロリだ」 ……ん? 待て。待て待て。みんなで食べるんじゃないの? そんな量を一人でペロリって、どっかのどこかの《人喰い》じゃあるまいし。 そんなことを思っていたら。 「ん? んん? あれれ? おにーさんなにしてんだよ? 昼飯まだならさ、理澄の財布から金パクってきたし一緒しねえ?」 ややこしいのがまた来やがった。 結局その日の昼御飯を《戯言遣い》は、ぎゃはは、と大声で笑う《人喰い》含めた五人で、妙に緊張した雰囲気で食べましたとさ。 めでたし。 10 十二月。 さすがにいくら盆地の京都であっても、冬という季節を感じずにはいられない。 ぼくの目の前で温かい湯気と、ぐつぐつ音を立てている鍋は、掛け値なしに美味そうだった。 また人間は決して味覚だけではなく、視覚でも食を楽しむ生き物だが、そちらでも文句の付けようがない。 ぎりぎり京都と呼べる郊外。 人里離れた山の中。 窓の外の景色は雪が積もっていて一面の銀世界。 ここまで来るクルマの中では、なんでぼくが参加せねばならないんだろうか? そんなことを真剣に考えたりしていたが。 「悪くはないかな」 少なくとも塔アパートで、答案用紙にひたすらバツ印を付けるという虚しい作業よりは、精神が何百何千倍も癒されるだろう。 姫ちゃんは五教科赤点という偉業を、まるで予定調和のように、またしても鮮やかに達成していた。 補習確定。 これでぼくは学園が冬休みだというのに、放課後も結構勉強をみてやったというのに、ほぼ毎日姫ちゃんと顔を合わすことになる。 別に姫ちゃんといる時間は嫌いではないのだが。 しかし、それはそれ。 恩を仇で返された感は否めない。 ぼくはハラハラと舞い堕ちる雪を見ながら、姫ちゃんが例え知恵熱を出しても、涙を呑んで勉強漬けにすることを決意した。 「覚悟しておけよ、一姫」 「なにを一人でぶつぶつ言ってるさ《いーちゃん》、まだあんたは呆けるには早すぎるさ」 景色を見ながら補習計画を練っていたぼくは、話しかけられて窓の外から室内に、蓮っ葉な口調がよく似合う彼女に視線を移す。 「…………」 「ん? どうしたさ? 若いんだからもっと食べるさ」 彼女と知り合ったのは四年前。 そのときのことは、あのときの騒動は、他の階段を含めて、ぼくには珍しくいまでもはっきりと覚えている。 「…………」 「本当にどうしたさ? 人の顔をじっと見たりして?」 でも記憶している四年前の彼女と、いまこうしてしゃべっている彼女が重なるまで、もう少しだけ時間が掛かりそうだ。 右下るれろ。 そりゃあ当たり前だし、本人にそんなつもりは、まったくこれっぽっちもなく不名誉だろうが、トレードマークの包帯はどこにもない。 非常に女性に対して失礼かもしれないが、なんだかとても違和感がある。 「そうだぜ、いーたん。ちゃんと喰わねぇと大きくなれねぇぞ。好き嫌いせずになんでも喰っとけよ」 「それ。きみにだけは言われたくないんだけど、ぜろりん」 年齢はぼくとそう違わないはずだから、もちろんいまさら成長期がやって来るはずもなく、身長はその辺の女の子より小さい。 右顔面には灰色の刺青が彩られ、右耳に三連ピアス、左耳には携帯ストラップを2つ付けている。 零崎人識。 こちらは気持ち悪いくらい変わらず、昨日別れたみたいにあのときのままだ。 ぼくの隣りで魚の切り身から、チマチマと小骨を丁寧に、殺して解して並べて揃えて晒している。……おまえこそカルシウムを取れ。 「喉に引っかかったりしたら痛ってえじゃん」 きみの生き様の方が余程痛い。 と、言いたいところだが、じゃおまえの生き様は痛々しいだな、切り替えされるのはわかってるので沈黙を選択。 この四年でぼくも随分と大人になったもんだ。 「本日はこのような辺鄙なところまで、わざわざご足労戴いてありがとうございます。《いーちゃん》さん」 いつの間にか真後ろには、真面目で上品そうな、図書館で詩集でも読んでいそうなイメージの女性が、にっこりと微笑んで立っていた。 「そんなの全然構いませんよ。こっちこそ社員でもなんでもないの呼んでもらっちゃって」 さっきからずっと彼女は、当然のように《最悪》の隣りに陣取っておきながら、忙しなくあっちこっち動き回っている。 社長というよりは王様のように、まるでなにもしない人の代わりに、客の接待から鍋の具材の追加までと、一人落ち着かなかった。 でもそういうのがなんだか性に合うのか、嬉々としてやってるようにも見える。 肩書きは《空間製作者》ということになってるが、意外にメイドさんでもイケるかもしれない。 一里塚木の実。 この変わり者集団の処理係にして、潤滑に、我侭に動く為のバイパス役。 本質的にはともかくとして、この集団の実質的なリーダーが彼女であることに、半畳を挟む者はいないだろう。 「その上なんか妙なオマケまで付いて来ちゃってすいません」 鍋に箸を伸ばそうとしていたオマケの視線が、鋭く痛いくらい頬に突き刺さるが、それは全身全霊でぼくは無視した。 この殺人鬼、ちょっと会わなかった間に、益々持って胃袋キャラが板に付いてきてやがる。 「いえいえそんな、正直助かってるんですよ、忘年会みたいなイベントは、やはりある程度は人数が多い方がいいですから」 つまりそんな理由でぼくはここにいるわけだ。 ここに。西東診療所に。 有限会社《十三階段》の忘年会に。 元々集団行動の出来なさそうな人達ばかりだが、忘年会の出席者は、ぼくと零崎を除いてしまうと四人しかいない。 確かにそれだけの人数では、ちょっとばかし淋しいだろう。 「まぁ連絡自体が取れない方もいますし、 木賀峰助教授は朽葉さんの反抗期を予測出来なかったらしくて、いまてんてこ舞いですしね」 「反抗期ですか?」 すげぇ周期で来たな反抗期。そりゃ予測できないだろう。 「…………」 ってか朽葉ちゃん八百歳じゃ~~ん。 木賀峰助教授より遥かに年上じゃ~~ん。 「朽葉さん、万引きをしてしまったらしくて、警察に迎えに行ってますが。木賀峰助教授、体当たりでぶつかってみるそうです」 「……頑張ってください、としか言えませんね」 「ええ」 あまり他人が深入りしない方がいいだろう。少し覗いてみたい気もするが、とてもデリケートな二人だけの問題だ。 そんなわけでそれはそれでいい。 とりあえずいまは、ここにいる残りの二人だ。 チラリッと窺うと、哀川さんにも匹敵する存在感の、ぼくの対面に座っている男は黙々と杯を重ねている。 狐の面を外しているので表情はわかるのだが、詰まらないのか愉しんでいるのかは、相変わらずぼくにはよくわからなかった。 「…………」 とりあえずこの人はややこしいので後回し。もう一人の男に目を向ける。 「……重症みたいですね」 「いつもはさすがに、あそこまでひどくはないんですけどね。今日は《いーちゃん》さん、あなたがいますから過敏になってるんです」 冷たくなってるだろう白菜を、彼はひたすらじーっと見ていた。 口だけがもごもごと小さく動いてる。 ぼくには一般人の領域を逸脱した聴覚はないので、なにを呟いてるのか聴こえないが、彼がどんな言葉を紡いでいるかはわかっていた。 いまにして思えば、《正義の味方》ってのはちょっと言いすぎだったかな。 時宮時刻。 そのひどく憐れな姿を見ても、自業自得だ、そんな風にしか思えないぼくは、やはりまだどこか壊れてるんだろうか。 「お肉とか食べます?」 「ひっ!!」 お皿を取ろうと手を伸ばしたら、時刻さんはびくっと身体を震わせて、カサカサと、素早く動いて、ぼくの視界から消えてしまう。 やっぱり四年前はやり過ぎた気がした。 「そっとしといてあげてください。絵本さんも、あまり刺激しない方がいいと言ってましたし」 時刻さんにとって、きっとぼくは、劇薬以上の刺激物なんだろう。 「うん? そう言えば絵本さんはどうしたんです?」 彼女が来ているのは間違いない。 なんせここまでは彼女の運転するクルマで、ぼくも零崎も来たんだから。 ガタガタ震えてる《人間失格》は、ここに来るまでの車内で、中々のいい暇潰しになった。降りた瞬間殺されかけたけど。 ちなみに彼女は復社はしてはいない。 だがるれろさんとの付き合いは続いてるみたいだ。 「二階で看病です」 「看病? 誰のですか?」 「奇野さんのです。風邪をこじらせてしまって。《いーちゃん》さんも気を付けてくださいね」 「…………」 奇野頼知。 呪い名序列三位、感染血統奇野師団の一人。通り名は《病毒遣い》……なんだけど。 キノラッチ。あんたなにしてんだよ。 「弘法も筆の誤りと言いますか、猿も木からと言いますか……。でも同情とは違う感情が湧き出すのは、どうしても否めないところです」 頬に手を当てて小首を傾げた木の実さんは、やれやれ、といった顔をしていた。 可愛い。 だけどこの人の場合は、そんな仕草も演出でやってそうで、とにかく油断ならない。 いまは四年前のように戦闘状態ではないけれど、木の実さんを見ていると色んな意味で、なんだかざわざわする。 それはぼくの、というより《戯言遣い》としての、四年前とまるっきり変わらない感想だった。 「ではごゆるりと、愉しんでくださいね」 しかし木の実さんは、やはり四年前のようにぼくの警戒を見抜いても、にこやかに屈託なく微笑む。 そして礼儀正しく丁寧にぼくにお辞儀をしてから、小走りに、甲斐甲斐しく、空の徳利を受け取りにいった。 ……ちょっと羨ましい。 「ふん。少しばかりぬるめで頼むぞ」 偉そうだ。根拠なしに相変わらず偉そうだ。この人はきっと死んでも偉そうだろう。現に一回死んでるのに偉そうだし。 「さて、《俺の敵》。人心地ついたし、話しをしようか。」 ぼくと狐面の男は再会してから、軽く挨拶をしたぐらいで、まだ会話らしい会話はなにもしてない。 前に理澄ちゃんと三人で卓を囲んだときは、食事中にくっちゃべるなと怒られたが、どうやら忘年会ではいいらしかった。 自分が会話の輪に加わりはしないが、忘年会は一年間ともに苦労した者同士が、親睦を深める場であって、食事は二の次だかららしい。 「…………」 あんたは苦労をかけただろう。 言いたいがそれは、ぐっと黙っておくのが、客としての、社会人としての礼儀というものだ。 「それじゃ、いまは、なにをしてるんですか?」 「『なにをしてるんですか?』。ふん。そりゃ忘年会に決まってるだろ? これでも俺は柄じゃねえが社長だぜ」 言って不敵に笑った。 「…………」 ぼくが言うのもなんではあるが、言い方が回りくどい。わかってるだろうに。そんな意味じゃないのは。 「どうして会社なんて、柄にもないものを起ち上げたんですか? おかげで一人の少女の人生が、派手に狂いそうになりましたよ」 「萩原子荻。俺は欲しくて欲しくて堪らねぇんだよ」 「…………」 なんかここだけを聞いてると、ちょいとばかりやばいセリフだ。 同じ年頃の娘達と比べれば、随分と大人っぽく見える子荻ちゃんだが、そしてこちらも年齢よりかなり若く見える狐さんではあるが、 知らない人が聞いたらば、いくらなんでもロリィの謗りを免れるのは難しいだろう。 まぁ狐さんはあんまり女性には興味ないみたいだけど。 この人の興味は、世界の終わり、物語の終わり、《ディングエピローグ》それだけにしかない。 「萩原子荻。あの娘の代わりを見つけるのは、ちょいとばかり難しいんでな。やっとこさ繋がったこの縁は、俺は絶対に逃がさねぇ」 そう言った狐さんの瞳は、間違いなく愉しそうで、爛々と輝き狂気じみていた。 怖い。 ぼくを恐怖する《想操術師》のように、ぼくはどんなに成長しても一生、《人類最悪の遊び人》の恐怖を拭い去れないだろう。 西東天。 だがぼくは哀川さんとそっくりのその顔を、正面から逸らさず見て、内心すげぇびびってたけどはっきり言ってやった。 「……そうはいかない」 そして少し早いが心の中で来年の抱負を一つ。 及ばずながらもこのしがない《戯言遣い》は、可愛い生徒を、お気にの女の子を、最悪の変態の魔手からなんとしてでも守ってみせる。 決めたよ。ぼくは来年も正義の味方になってやる。 と。 こんな感じで渋く、後から思い出したら赤面もので、話をオトしたかったぼくだが、やはりそうはいかないみたいだった。 「うっ、うぐっ、うぅううっ……」 小さな声。でも気づいて欲しいと訴えかけるような声。 そしてメチャメチャ嫌過ぎるが、四年前から聴き慣れてる涙声に、ぼくはゆっくりと入り口を見る。 目が合った。 「……えぐっ……うふぅう……」 「…………」 逸らしたいのを我慢する。 端正な顔を涙でくちゃくちゃにして、彼女はぼくと、ほぼ空になっている鍋を、行ったり来たり交互に見ていた。 「……ど、どど、どうして?……どうしてそんなことが出来るの?………だっ……て……ううっ……な、鍋なんだよ?………鍋って……… 鍋って、み、みんなで、みんなでつつくもんじゃないの?………うぐっ……みんなの中に……わ、私は入ってないの?………うぅぅう、 ふ……ふふ……え、えへへ……そ、そうだよ…ね?……ご、ごめんなさい………私なんかが、私なんかが数に入ってるわけない……よね? わ、私なんか余り物で雑炊食べれば十分よね?……うふふ……ぐふっ……雑炊もお、美味しいんだよ……いっくん……え、えへへ」 絵本園樹。 彼女とこの四年間というもの、最も親しかったのはこのぼくだろう。 まぁそうは言っても比べられるのが、後は精々が意外に気が合う元同僚の、るれろさんくらいしかいないわけなのだが。 ぼくは精神科医じゃないが断言できる。 白衣の下の水着のカットが、何故か年々際どくなっていく彼女も、間違いなく一生こんな感じだ。 絵本さんを外界から守るATフィールドは、さらに一層強固になって、いまもなおこうして健在である。 「零崎、後ででいいからきみ、責任持ってフレンチクルーラー買ってこいよ」 鶏肉にかぶりついていた零崎が顔を上げた。 骨には犬が見たらがっかりするくらいに綺麗に身がない。 「ええっ、なんでだよ? 外は雪がガンガンに降ってんだぜ。ミスドなんてこっからどれくらいかかんだよ?」 「ほとんど一人で喰ってんだから当然だろ? あんまり駄々をこねるな。買って来ないと帰りは助手席に座らせるぞ」 「……ひでぇ」 「フレンチクルーラー百個な」 あの京都御苑での《ドクター》との約束が、まさかこんな形で果たせるとは思いもよらなかった。 窓の外を見ると雪が、さっきよりも激しい勢いで振っている。 クルマでは事故りに出かけるようなもので、どちらにしても零崎以外は、とてもではないが麓までいけそうもない。 そしてその白い光景に魅入られながら、ぼくはなんとなく、この色が大好きな青色と、どこにいるのやらの赤色のことを考えていた。 11 まあ、初めからわかってたけど、さ。 とはいえ新年早々、気持ちが滅入ってくるのは、致し方ないだろう。 努力というのは例え実を結ばなくとも、それだけで認めてもいいと思うし、もしかしたらその姿は、美しいのかもしれないけど。 「…………」 ある意味ではぼくの手にするこの、採点し終えたばかりの答案用紙も、そんな感じではあるのだけれど。 「どうですぅ師匠? 姫ちゃん頑張ったでしょ?」 柑橘系の匂いがする。 赤ペンを置いたぼくに気づいて、人ん家の蜜柑を遠慮なしにパクパクと、暢気にバラエティ番組など見ながら食べていた姫ちゃんが、 一応は口元を抑えながら、でもモカモカと頬を動かしつつ、期待に瞳を輝かせて振り向いた。 コタツに入って蜜柑を食べながらテレビを見るのは、正しい日本人の正しい正月の過ごし方だから、まあそれは別段どうでもいい。 「…………」 訊きたいのはどうしてそんなに、一体全体いかなる根拠があって、季節外れの向日葵みたいな笑顔を向けてくるのかということだ。 「どんなもんですですぅ? 師匠に特訓してもらった成果、ちゃんと出てますですか?」 うん。 ちゃんと出てはいる。答案用紙からは努力した後は確かに窺える。 駄々をそれこそ毎日毎日、一時間おきにこねまくってくれたが、それでも姫ちゃんは、塔アパートの空き部屋に勝手に住み込んでまで、 冬休みの校外補習を皆勤賞で出てくれた。 「…………」 だがいまこの《戯言遣い》が、教師として姫ちゃんに伝えるべきは、答案用紙に記入された点数、その残酷な結果のみなのだろう。 「完全に間違っているという点に目を瞑れば、姫ちゃんの答案用紙は概ね正解だけだよ」 「ふぅん?」 ぼくも大概丸くなったもんだ。 昔のぼくであれば点数を告げた後で、甘えるな、と容赦なしの追い討ちを掛けてるだろう。本当に丸くなったもんだ。 などと感慨にふけながら、姫ちゃんに貰った腕時計を見る。 「それじゃ今日は終わりにしようか。……そろそろ時間みたいだし、みいこさんを呼びに行こう」 時間はちょうど八時を回ったところだ。 みいこさんだけでなく、崩子ちゃんも萌太くんも、行く準備はもう出来てるだろう。 「初王手ですか?」 「それは初詣と言いたいんだろうけど、残念ながらどっちも違うよ。巡回……みいこさん風に言うと、市中見回りに行くんだ」 そしてもちろんだが、市中見回り、その言い出しっぺもみいこさんだ。 一時ほどではないにしても、このアパートは建て替える前からずっと、様々な問題をこれでもかとばかりに次々と起こしている。 知り合いの女刑事さんのところで、大体は止めてもらっていたりはするのだが、一般人の近隣住民の方々にはいつも迷惑を掛け通しだ。 これで印象が少しでも良くなるなら、安いものだろう。 荒唐丸さんと奈波の二人は、正月だというのに仕事で不参加だが、残りの面子は、久々に帰って来た萌太くん含めて全員参加である。 ちなみに姫ちゃんには、今日のことは誰も伝えてない。 いや、ぼくが伝えるはずだったんだけどね。さっきまでそりゃもう、キレイさっぱり忘れてた。 「どうする? 姫ちゃんも来る?」 「そりゃもちろん行きますですよ」 類は友を呼ぶと言うべきか、姫ちゃんはこの短い期間ですっかりと、昔から住んでいたように、塔アパートの全住民と馴染んでいる。 参加するのは当然だと言わんばかりだった。 ぼくもそう思ったからこそ、姫ちゃんが来るのが当たり前だと感じたからこそ、伝えるのを忘れてた――ということにしといてほしい。 「戯言だけどね」 何年経とうが定評のある、ぼくの記憶力の悪さは、やはり今年も健在みたいだった。 「……でもさ、そりゃないだろ?」 右目だけにかろうじて名残を残す――元青色サヴァン。 直視できないほど眩く、そして悲しいばかりの、忘れない能力を失って久しい玖渚にさえ、病院に行こうと心配されたほどである。 真顔で言われたときには、さすがにちょっとヘコんだ。 あいつとはイヴから会ってないが、どうせまだ《チーム》の連中が居るんだろうから、とても城咲のマンションに行く気にはならない。 「特に兎吊木のやつがなぁ」 話しかけられたわけでもなく、意味深に微笑みかけられただけだが、それだけで、聖なる夜がとてつもなく穢された気分になった。 もうあの男の存在自体が猥褻物である。 ちぃくんはいまも服役中だから、直接会ったことはなく、その人と為りをぼくは知らない。 だから無責任に言えるのかもしれないが、刑務所なんぞを住処とするのは、あのロリコンの変態にこそ相応しいと思う。 などと。 心底からどうでもいいことを考えていたら、みいこさんの部屋の前に着いていた。 「…………」 「どうしたですか師匠?」 「……いや、別になんでもないよ」 新年早々から決して無限ではなく有限な時間を、ひどく詰まらないことに使ってしまった気がする。 細菌野郎め。 ぼくは偏頭痛でもあるように、ふるふると頭を軽く振って、チャンネルを無理から変えると、みいこさんの部屋のドアをノックした。 「応、しばし待て」 “カチャッ” そう言ったのにドアはすぐに開いた。 「…………」 「ん? どうした、いの字?」 予想通りと言えば予想通りだが、それでも多分おそらく、ぼくの顔は複雑なものになってたんだろう。 みいこさんが、市中見回り、なんて名詞を使ったときから、何となくは思っていたのだが、やはりこの人は直球ストレートの人間だ。 今日もサムライみたいなポニーテールに甚平姿だが、その甚平は鮮やかな水色と白の、ど派手なだんだら模様である。 背中に記されているだろう文字は、敢えてわざわざ見るまでもあるまい。 「……キンノーでも斬りに行くんですか?」 「うん。それはわたしとしては望むところではあるんだが、いの字、残念ながらこの時代の京都に、悪逆非道のキンノーはいないぞ?」 「…………」 みいこさんはあまり冗談などは言わない人だ。 腰に差してあるものが気にはなったが、ぼくはなにも見なかったことにする。 「崩と萌は下で待ってるそうだ。早く行ってやるとしよう」 鍵をかけたとき見たみいこさんの背中には、やはり去需を許さない《誠》の一文字が記されていた。士道不覚悟は切腹なんだろうか? 訊いてみたい気もするが、表情一つ変えずに、みいこさんは頷きそうだから怖い。 触らぬ神に祟りなしで、それから無言で下まで行くと―― 玄関脇に二人。右に一人、左に一人。 まるで待ち伏せでもしているように、アパートの入り口に、二人が立っていた。 一人は垂れ目の少年。 脚が長く胴は細い、均整のとれた、いかにも敏捷そうな体型。黒い前髪を垂らしていて、両手をポケットに入れ、煙草を咥えている。 お正月だから帰って来ているが、彼は四年前にアパートを出て、現在は東京で一人暮らしだ。 仕事はホストをしているらしいのだが、それは本性さえ出さなければ、萌太くんには天職と言えるだろう。 彼が夜王と呼ばれる日も、そう遠くはないはずだ。 そしてもう一人はおかっぱの少女。 真っ白い肌にまるで血のように赤い唇。 酷く冷めた、軽蔑でもしているかのような冷たい視線で、こちらを、睨みつけている。 「萌太くん――崩子ちゃん」 二人の名を呼びつつ、ぼくは以前にも、こんな感じで対峙したことがあるような、そんなありもしないはずの既視感に襲われた。 ジャメヴュってやつなのか? なぜか妙に腹が疼いたりするが。 「崩子ちゃん?」 「…………」 そしてどういうわけだかぼくに、少女から浴びせられるプレッシャーは、重苦しい沈黙で持って容赦なくのしかかってくる。 「こうしてこのアパートを見上げたのは、まだ数えるほどですけど、どちらがいいとはいいませんが、前の方が味がありましたかね?」 萌太くんは空気を察したのか、それはわからないが、場を和ませるような美声で言った。 「どうだろうね? 建て替える前もかなりイカしてたけど、これはこれで住んでみると、中々に悪くはない。そうだよね崩子ちゃん?」 我ながら情けない。 ご機嫌伺いがありありのチキンの声だった。 「……どうでしょう」 でも崩子ちゃんの声は態度と変わらず、ひんやりとした冷気を纏ったままである。 おかしいなぁ。ぼくは気に障ることを何かしたんだろうか? しかしそんな記憶は、まぁ、ぼくの記憶など当てにはならないが、まったく全然これっぽっちもありはしない。 第一ここ最近は、クリスマスは玖渚&《チーム》の連中とつるんだり、暮れは突然お呼ばれして、狐さんとこの忘年会に出席したり、 年末から年始はといえば、姫ちゃんの補習に掛かりきりだったりと、ほとんど崩子ちゃんと過ごす時間などなかったのだ。 「…………」 そう。何か気に障ることを仕様にも、これでは何も、ぼくには出来るわけがないのである。やれやれ。ほんと年頃の女の子は難しい。 「あのさ姫ちゃん。姫ちゃんは何で崩子ちゃんが怒ってるか、わかったりする?」 小声で隣りにいる弟子に聞いてみる。 「……きっと師匠にデリカシーがないからですよ。ここで姫ちゃんに訊いたりしたら、能登の三つ編み、アブラカタブラです」 なんだそりゃ? いつも通りに言葉を間違えてるんだろうが、姫ちゃんの意見を聞いて、ぼくは増々、崩子ちゃんが何を怒ってるのかわからなくなった。 弟子は言葉を間違ったが、師匠であるぼくは、人選を間違えてしまったかもしれない。 帰って来たらお年玉でもあげるとしよう。そうすると姫ちゃんにも、あげないわけにはいかないが、二人分くらいならお金も大丈夫だ。 ちなみに高海ちゃんと深空ちゃんは、渋々ではあるものの、ぼくに言われて澪標の実家に帰省中。 親孝行がまだ出来る環境があるのならば、出来るうちにやっておいた方が、それはやはりいいに決まってる。 彼女達の実家の稼業。 あちら側の世界の孝行というものが、一体どういうものか、ぼくは言ったときは、もちろんあまり深くは考えてはいなかったが。 「気合入ってたもんなぁ二人とも。帰るときは僧伽梨着てたし」 早まったかもしれない。 だが今年年賀状が出せない人がいても、そんなことは一切合切、ぼくの知ったことではない。 知りたいことではない。 だから、二人がこのアパートに戻ってきても、ぼくに孝行の内容は伝えないでほしい。……どうかお願いします。 と。 「いの字、どのあたりまで行こうか?」 ぼくが慣れた自責の念に囚われていたら、後ろから、心がざわついていたのに、それだけで落ち着きを取り戻し、安心させてくれる声が かけられた。 朴訥な無表情。 このお姉さんをよく知りもしない人が見たならば、とてもじゃないが気づきはしないだろう。気づいたらその人はちょっとおかしい。 浅野みいこは燃えていた。 市中見回りがそんなに嬉しいのかなぁ? けれど喜びを抑えきれない(これでかなりマックスに近いくらい喜んでる)みいこさんを見ると、それだけでこちらも嬉しい。 思わず舞い上がってしまった。 素面じゃこんなセリフ、とてもじゃないが言えやしない。ぼくは、精一杯格好つけて、彼女に応える。 「あなたと共に、行けるところまで」 完全確実に舞い上がっていた。何の戯言も出てこないくらいに、それはもう究極絶無で舞い上がっていた。 「…………」 「…………」 「…………」 崩子ちゃんは腕を組み、姫ちゃんは黒い手袋を填め、萌太くんは屈託なく笑い、みいこさんは……いつもと変わらない。 あれ? と思ったら、ぼくからついっと目を反らした。でも照れているかどうかは微妙なところだ。 うっすらと、本当にわからないくらい、微かにうっすらと、頬が赤く染まって見えるのは、あまりにも自惚れが過ぎるだろうか。 お年玉を貰った気分。 色々な角度から色々な意味の視線が、ドスドスと、音を立てて身体に突き刺さるのを感じる。 しかしこの人は、ぼく以上に思わせぶりな人だ。たまらなくぼくを奮い立たせてくれる。あなた以外のサムライは考えられない。 「…………」 まぁそれはそれそれとして、結局何だかんだで出発は、それから三十分後だった。 『さよなら戯言先生』04へ 戻る
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名前:エンドレススノウ 性別:女 所属:リア充 所持武器:AK47カラシニコフ 個人目標:魔人を二人以上殺す(DP+3) ステータス 攻撃3 体力9 精神9 FS3 情報3 特殊能力名「クリスマスには恋人と過ごしますが何か?」 同マスの指定したキャラクターの精神に3ダメージを与える 余裕のリア充発言 キャラクター説明 ロシアから来た女スパイ リア充
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氷花レインスノウ レア 水 4 3000 アイスメイト ■自分のクリーチャーは、必ず攻撃しなくてもよい。 (F)荒らぶる心を静めよう。急ぐ体を清めよう。ただ静かに。 作者:まじまん 一目ではよく分からないアイスメイト。 「このクリーチャーは、可能であれば毎ターン攻撃する。」 「選んだクリーチャーは次のターン、可能であれば攻撃する。」 などといった、いわゆる強制攻撃系を回避できる、というわけです。 収録 騎門編(レッド・レィヴン) 第一弾 評価 名前 コメント
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守りたいもの/さよならの囁き(Ⅱ)(前編)◆guAWf4RW62 ひゅうひゅうと風が吹いていた。 鮮やかな夕日が、眼下に広がる孤島を赤く照らし上げている。 真っ赤に染まった孤島の姿はまるで、多くの人間が流した血に塗れているかのようであった。 「――――っ」 大剣を携え、幾重にも連なる雲の真下で飛翔しているのは、アセリア・ブルースピリットと呼ばれる妖精である。 圧倒的な加速力を生み出す純白の翼と、只の人間では及びもつかぬ凄まじい身体能力。 第四位の永遠神剣『求め』と契約し、オーラフォトンの力すらも手に入れたアセリアは、生存している参加者中で間違いなく最強の存在。 しかしその最強の妖精の表情が、今は悲痛に大きく歪んでいた。 「お願いだミズホ……どうか持ち堪えてくれ……!」 呟くアセリアの腕の中には、血塗れになった宮小路瑞穂の姿。 瑞穂の口から放たれる吐息は、今にも消え入りそうな程に弱々しい。 アセリアも必死に永遠神剣の力を引き出して、瑞穂の状態が悪化しないようにしているが、それだけでは足りない。 一刻も早く、適切な治療を施す必要があった。 その為、当初アセリアは病院に向かおうとしていたのだが、現在は電波塔の上空辺りを飛翔している。 この島にくるまで戦う事しか知らなかったアセリアは、治療に関する知識など全く持ち合わせていない。 自分だけで病院に向かったとしても、瑞穂に対して何の処置も出来ないだろう。 アセリアは遅ればせながらその事実に気付き、電波塔の周辺へと舞い戻って、瑞穂を治療し得るであろう仲間達の姿を探していた。 「早く……早くコトミ達を見つけないと……」 満身創痍の肉体を酷使し、残り少ないマナを総動員して、全速力で電波塔の周辺を探索する。 後に控えているであろう主催陣営との対決を考えれば、出来るだけ力は温存しておくべきだが、そのような理屈など知った事では無い。 今のアセリアにあるのは、瑞穂を救いたいという想いだけである。 しかしそんなアセリアの想いも空しく、一ノ瀬ことみや古手梨花の姿は一向に見付かる気配が無かった。 「上空から見える位置には居ない――でも、森の中になら……っ」 上空から見渡してみた限り人の姿は見受けられなかったが、未だ森の中は確認していない。 アセリアは高度を落として、生い茂る木々の間を縫うように突き進む。 視界の端に映ったアヴ・カムゥの残骸など気にも留めず、意識を捜索に集中させる。 「コトミ、リカ! 居るなら返事をしてくれ!」 高速で飛び回りながら、可能な限り大声で叫んだ。 焦燥に染まったその声は、静まり返った森の中に大きく響き渡る。 だが何度声を発しても、返って来るのは周囲に吹き荒れる風の音だけであった。 (……落ち着いて考えろ。コトミ達は何処に居る……!?) ともすれば溢れ出しかねない感情の奔流を抑え込んで、アセリアは懸命に思案を巡らせる。 これだけ叫んでも返事が無い以上、ことみ達が森の中に居る可能性は低いと云わざるを得ない。 他の場所を当たってみるべきだろう。 「未だ調べていないのは……あの搭だけ」 小さく呟いてから、アセリアは前方に聳え立つ巨大な塔を眺め見た。 電波塔――首輪の操作という役目を課された、此度の殺人遊戯に於ける最重要施設。 元々はあの搭を破壊するのが、アセリア達一行の目的だった。 最大の脅威であったアブ・カムゥを打倒した以上、ことみや梨花が舞い戻ってきて、電波塔を破壊しようとしていても可笑しくは無い。 一縷の望みに懸けて、アセリアは電波塔の前に降り立った。 「フ――――!」 ウイング・ハイロゥを仕舞い込んでから、半ば体当たりするような形で、搭の扉を強引に押し開ける。 開け放たれた扉の向こう側には、巨大な通路が広がっていた。 幅は優に五メートル以上あり、奥行きは数十メートル、壁面は無骨なコンクリートで覆い尽くされている。 通路の所々には金属製のコンテナが配置されており、その影に敵が潜んでいる危険性もあるだろう。 本来ならば、慎重を期して進むべき場面。 しかし今は、ほんの一秒一時すらも惜しい。 「……敵が居たとしても、倒せば良いだけ!」 敵の領域である通路を、アセリアは何の躊躇も無く駆け抜けてゆく。 その速度は、疾風と見紛わん程に凄まじい。 通路に面する扉を一つずつ押し開けて、中に人が居ないか確認する。 見張りの敵兵等は潜んでいないようであったが、仲間達の姿もまた見当たらない。 そのまま突き進んでゆくと、やがて正面に曲がり角が見えた。 (誰か……待ち構えている) 神経を研ぎ澄ませると、角の向こう側に何者かが潜んでいる気配を感じ取れた。 これだけ派手に足音を立てて動き回っているのだから、こちらの存在は察知されている筈。 そう判断したアセリアは、両足に残された筋力を総動員して、角の方向へと思い切り跳ねた。 相手に攻撃の照準を絞らせぬよう、通路の壁面を蹴り飛ばす事でジグザグに跳躍する。 「――――てやあああああっ!!」 甲高い雄叫びと共に、蒼の妖精は己が大剣を勢い良く振り下ろす。 疲弊し切った身体から放たれるソレは、全快時とは比べるべくもない駄剣だが、それでも並の相手なら十分に切り伏せ得る一撃。 しかし『求め』の刃先が標的を捉える寸前、アセリアの腕がピタリと停止した。 「……リカッ!?」 「……アセリアッ!? それに瑞穂!?」 アセリアの蒼い瞳に映るは、捜し求めていた仲間――古手梨花。 梨花の両腕には、ミニウージーがしっかりと握り締められている。 恐らくは、敵が中に侵入して来たのだと勘違いして、迎撃しようとしていたのだろう。 梨花はミニウージーの銃口を下ろすと、血に塗れた瑞穂の方へと視線を移した。 「ちょっと、一体何があったのよ!? ボロボロじゃない!」 「……説明している時間は無い。今は早く……ミズホを、助けて欲しい」 アセリアの片腕に抱き抱えられている瑞穂は、今も苦しげに胸を上下させている。 その顔色は、徐々に青白く変色しつつあった。 直ぐにでも適切な治療を施さねば、手遅れになってしまうかも知れないだろう。 「分かったわ、瑞穂の手当てを優先しましょう。アセリア、まずは瑞穂を横に寝かせて頂戴」 「……ん!」 梨花は指示を送りながら、冷静に瑞穂の様子を観察した。 瑞穂の身体の至る所には、打撲跡や擦り傷が見受けられるが、致命傷と呼べる程の物は無い。 深い傷といえば精々、左腕上腕部に刻み込まれた傷くらいだ。 傷の深さだけを見れば、命には別状の無い状態。 しかし、負傷箇所が極めて不味い。 人体の構造上、左腕上腕部は心臓から程近い位置にある。 そのような箇所を深く傷付けられた場合、必然的に大量の出血を許してしまう。 つまり今の瑞穂は、出血多量が原因で生命の危機に晒されているのだ。 「リカ……どうだ? ミズホは……助かりそうなのか?」 「……集中したいから、少し黙ってて」 アセリアが不安げに問い掛けて来たが、丁寧に対応している余裕など無い。 質問をぴしゃりと跳ね付けてから、過去の記憶を呼び起こす。 梨花は雛見沢症候群の女王感染者として、長い間入江診療所に通い続けてきた。 そういった関係上、診療所の所長――入江が他の患者を治療する場面も、梨花は幾度と無く目撃している。 専門的な知識までは持ち合わせていないが、簡単な応急処置を行う程度なら、見よう見まねで出来る筈だ。 (……帰ったら、入江に礼を云わなくちゃね) 梨花は鞄の中に手を伸ばして、百貨店で見つけた物――治療用具一式を取り出した。 まずは左腕上腕部の傷口に、消毒ガーゼを強く押し当てた。 続けて左腕を心臓よりも高い位置に持ち上げる事で、出血の勢いを押し留める。 最後に包帯で、左肩口の辺りを強く縛り止めた。 「終わった……のか?」 「ええ、きっとこれで大丈夫な筈よ」 決して手際が良いとは云えないものの、何とか応急処置は完了した。 それは確かに効果があったようで、あれ程激しかった瑞穂の出血が、今はピタリと止んでいる。 アセリアがオーラフォトンで治療を行っている事もあり、瑞穂の顔に少しずつ血色が戻ってゆく。 まだまだ油断は出来ないが、一先ず峠は越えたと考えて間違い無いだろう。 「ミズホ……良かった……」 アセリアは瑞穂の手を取って、しっかりと握り締めた。 手の平から感じられる暖かさは、今も瑞穂が生きているという証に他ならない。 最悪の事態を避けられたと分かり、アセリアは安堵に表情を緩めた。 しかし此処は平和な病室等では無く、敵の重要施設であるという現実を失念してはいけない。 アセリア達が成さねばならない事は、それこそ山のように残っている。 「さて、何があったか説明して貰おうかしら」 「……ん、分かった」 そうして、アセリアは梨花と情報交換を開始した。 ◇ ◇ ◇ ◇ 「つまりあの巨大なロボットを破壊したのは、貴女なのね? 貴女は神剣に操られて、瑞穂ごとロボットを攻撃してしまったと――そういう事なのね?」 「……うん。私が……ミズホを傷付けた」 梨花が問い掛けると、アセリアは力無く頷いた。 今のアセリアの心は、深く重い罪悪感に囚われている。 「アセリア……貴女は一生懸命、瑞穂を守ろうとした。その結果は悲しい物になったけれど、きっと瑞穂は許してくれる。 『仲間を守りたい』という貴女の想いは、ちゃんと伝わっている筈よ」 「うん……ミズホは優しいから……それは分かっている。でも……だからこそ、私は心が痛い」 瑞穂とアセリアがこの島で培った信頼関係は、何が起ころうとも決して崩れはしない。 瑞穂が意識を取り戻したとしても、罵倒の言葉を浴びせられる事は無いと断言出来る。 しかし、だからこそアセリアは形容し難い程の痛みを感じていた。 自身の身など顧みずに、『求め』の力を引き出して、只ひたすらに瑞穂の治療を続ける。 残り僅かなマナで行われる治療は、相当に効果が落ちてしまっているが、何もしないよりは随分とマシだろう。 「……アレを壊すのは、暫く無理ね」 梨花はそう呟いてから、前方に立ち塞がる扉を眺め見た。 他の部屋には重要そうな機械が置いていなかった以上、この扉の向こう側に、電波塔の機能を司る設備があるのは間違いない。 その設備さえ破壊すれば、電波塔は只の鉄屑と化す筈。 しかし扉は見るからに頑丈そうな金属で構成されており、しっかりと施錠もしてある。 中に入るには破壊するしかないが、銃弾程度では到底不可能だし、疲弊し切ったアセリアにも破壊する事は難しい。 (なら一旦外に出て、ことみを探すべきかしら? ……ううん駄目ね、なるべく早く電波塔を破壊しないと) 一瞬頭に浮かんだ考えを、直ぐに打ち消した。 次々に不覚を取った鷹野達が、このまま黙っているとは考え難い。 勝負とは、後手に回れば回る程不利になる物。 鷹野達が次の手を打つよりも早く、電波塔を無力化しておきたい所。 とは云え、瑞穂の治療を後回しにするという選択肢は論外だ。 まずは瑞穂の容態がもう少し回復するのを待って、それからアセリアに休憩を取らせるべきだろう。 多少なりとも休憩を取った後のアセリアならば、造作も無く扉を破壊出来る筈だった。 結論を下した梨花は、アセリアにも応急処置を行うべく、治療の準備をし始めた。 ◇ ◇ ◇ ◇ 場所は移り変わり、電波塔の周辺に広がる草原。 激戦の傷跡が深く刻み込まれた地に、赤色の車が停車していた。 「――はん、アレさえ壊せばこの糞ったれゲームも終わりって訳かい」 逸早く車から降りた大空寺あゆは、酷く皮肉気な笑みを浮かべた。 車の助手席には白鐘沙羅の姿が、そして後部座席には両腕を後ろ手に縛られた、一ノ瀬ことみの姿がある。 ――あゆはことみをロープで拘束した後、直ぐ様話を聞きだそうとした。 しかしことみが最初に話したのは、電波塔によって首輪が管理されている為、今すぐ破壊しにいくべきだという内容の物だった。 それは本来ならば、眉唾物の話。 殺人遊戯の生命線とも云える最重要施設を、参加者が攻撃可能な場所に設置するなど考えられない。 ましてやその情報源が、殺人鬼である一ノ瀬ことみなのだから、信じろと云う方が無茶だろう。 だが塔に関する情報は、あゆ達も幾つか耳にしている。 蟹沢きぬの情報によれば、参加者達は暗示を掛けられていた所為で、少し前まで電波塔の存在を認識出来なかったらしい。 そして主催者側の人間だと思われる男も、『電波塔を放棄する事にした』と云っていた。 あの電波塔が何か重大な機能を担っているのは、ほぼ間違いない。 今回に限っては、ことみの話を信じるに足る材料が十分過ぎる程揃っていた。 そこであゆと沙羅は、ことみへの尋問よりも、電波塔の破壊を優先する事にしたのだ。 山道であった為車での移動は難航したが、何とか無事電波塔まで辿り着けた。 「……沙羅、準備は良いかい?」 「うん、バッチシよ。ちゃんと信管もセットあるし、何時でもいけるわ」 答える沙羅の両腕には、サッカーボール大の爆弾が抱き抱えられている。 その威力は、天才少女・二見瑛理子のお墨付きだ。 電波塔という巨大な施設を無力化するのに、これ以上適した武器は無いだろう。 敵が待ち伏せしている可能性も考慮すれば、内部よりも外部から破壊する方が良い筈だった。 沙羅は車から降り立つと、生い茂る草々を踏み締めながら、電波塔の外壁傍まで歩いていった。 爆弾を地面に設置してから、祈るように目を閉じる。 「瑛理子――力を貸して。鷹野達に、飛びっきりのカウンターパンチを食らしてやって……!!」 強い想いを篭めた言葉と共に、沙羅は爆弾を起動させた。 続けて全速力でその場を離脱し、あゆやことみと共に、自分達が乗ってきた車の背後へと身を隠す。 そのまま暫く待ってみたものの、爆発が起きる様子は無い。 もしかしたら失敗作だったのでは、という不安も沸き上がったが、それは杞憂に終わった。 爆弾の外装が急激に膨らみ、そして破裂する。 「「「……………………ッ!!!」」」 轟く爆音、視界を覆い尽くす閃光。 余りの衝撃に大地すらも振動し、凄まじい爆風が容赦無く吹き荒れる。 コンクリートや金属片等、電波塔を構成していた様々な物体の破片が、雨のように降り注いでいた。 もし沙羅達が車の背後に身を隠していなかったら、残骸の幾つかが身体に突き刺さっていたかも知れないだろう。 「塔は……どうなったの!?」 爆風が収まるのを待ってから、沙羅は車から身を乗り出した。 するとボロボロの風体を晒している塔の姿が、瞳に映った。 元が巨大な施設だった事もあり、何とか原型を留めてはいるものの、アレでは最早修理不可能の筈。 「瑛理子……やっぱりアンタ凄いよ。アンタは……天才よ」 失敗作など、とんでもない勘違いだった。 瑛理子が準備してくれた爆弾は、恐るべき威力を発揮したのだ。 瑛理子の遺した切り札は、悪魔の枷を完全に打ち破ってくれたのだ。 沙羅は瑛理子が遺したもう一つの道具――小さな人形を、慈しむ様に抱き締めた。 しかし何時までも、感慨に耽っている訳にも行かない。 首輪の機能を無効化させたとは云え、未だ全てが解決した訳ではないのだ。 「それじゃ、そろそろ行こっか」 目的を果たした沙羅達は、直ぐに場所を移そうとする。 初めに沙羅が車に乗り込んで、エンジンを起動させた。 次にあゆとことみが車のドアを空けて、後部座席に乗り込もうとする。 しかしそこであゆは、唐突に動きを止めた。 未だロープで拘束したままのことみを、値踏みするように眺め見る。 (……本当にコイツは悪人なのか?) あゆの中に渦巻いているのは、『もしかしたら、一ノ瀬ことみは殺人鬼なんかじゃ無いのでは?』という想いである。 殺し合いに乗っている人間ならば、首輪を無力化させる方法など考えたりはしないだろう。 そんな事をするよりも、優勝する為の方法を考えた方が遥かに有益だ。 にも関わらず、ことみは電波塔の機能を解明していたし、その破壊を推奨だってしていた。 「なあ一ノ瀬、もう一度聞いてやる。時雨を殺したのは、お前なのか?」 「……何度聞かれたって答えは同じ。亜沙さんは私の大事な仲間だった。 そんな人を、殺したりする訳ないの」 問い掛けてみると、全く迷いの無い答えが返って来た。 告げることみの表情には、動揺している様子など微塵も無い。 冷静に観察してみると、とても嘘を吐いているようには思えない。 やはり、自分が間違っていたのでは――あゆの中に根付いていた猜疑心と憎悪が、徐々に薄れてゆく。 だが、全てが丸く収まるかと思われたその瞬間。 パアン、という乾いた音がした。 「――――なっ!?」 あゆ達の近くに生い茂っていった雑草が、鳴り響いた銃声と共に弾け飛ぶ。 唐突に飛来した弾丸が、束の間の平穏を切り裂いていた。 ◇ ◇ ◇ ◇ 電波塔が爆破された時、アセリア達はまだ塔内に留まっていた。 アセリアが残された力の全てを振り絞って、オーラフォトン・バリア――強力な防壁を展開する魔法――で仲間達を守ったものの、一歩間違えれば死んでいた。 今のアセリア達にとって、外から攻撃してきた人間は冷酷無比な襲撃者に他ならない。 だからこそ梨花は、即座に反撃を行ったのだ。 「くっ……やっぱりこの距離じゃ当たらないわね」 梨花はベレッタM92Fを握り締めながら、苛立たしげに吐き捨てた。 塔の外壁が破壊されたお陰で、視線こそ通ってはいるが、いかんせん距離が遠過ぎる。 どうしてものか――梨花が結論を出すよりも早く、横からアセリアの声が聞こえて来た。 「あれは……コトミ? サラ……それに、ダイクウジアユッ…………!」 「え――――?」 云われて梨花は、襲撃者達の姿を注視した。 一見した所、相手の人数は三人。 栗色の髪の少女――外見的特徴から察するに、白鐘沙羅。 そして車の直ぐ傍に金髪の少女、大空寺あゆと、ロープで拘束されたことみの姿があった。 「ちょっと、どういう事!? 何でことみが捕まってるのよ!?」 「分からない……。だけど、ダイクウジアユは……危険な人間だ。 このままじゃ、コトミが危ない……!」 アセリアからすれば、そう判断するのが一番自然だった。 予告無しの爆撃攻撃に、ロープで拘束された仲間の姿。 アセリアとことみは一度、あゆに襲撃された経験だってあるのだ。 何故ことみが捕まっているのか、どうして沙羅があゆと同行しているのかは不明だが、危険な状況である事は間違い無い。 「確か沙羅って云う人は、貴女の知り合いだったわよね? だったら交渉の余地くらいあるかも知れない。 まずは話し合ってみましょう」 「……ん!」 すぐさま対応策を決めた梨花達は、二人同時に塔を飛び出した。 塔は何時倒壊するか分からない状態なので、満身創痍の瑞穂を残してゆく訳にはいかない。 アセリアは草原の一角に瑞穂を横たわらせてから、静かに呟いた。 「ミズホ……暫く此処で待っていて。必ず……コトミを助けて、戻るから」 生命の危機は脱したものの、瑞穂は未だ気絶したままである。 出来ればずっと傍に付いてあげたい所だが、今は緊急事態。 先ずはことみを救出するのが先決だろう。 蒼の妖精は視線を上げて、己が役目を果たす為に歩き出した。 「――アセリアッ!?」 「――アセリアさんっ!」 アセリアの姿に気付いた沙羅とことみが、同時に驚きの声を上げる。 それに構わずアセリアは歩き続け、沙羅達から二十メートル程離れた所で足を止めた。 ひゅうひゅうと、冷え切った風が草原の中に吹き荒れる。 降り注ぐ夕日が、アセリアの顔を朱色に照らし上げていた。 「サラ……どういうつもりだ。どうして……こんな事をする」 「こんな事って――、私達は只、電波塔を破壊しようと……」 「――ふざけないで! 下手したら私達、死んでいたのよ!?」 弁解しようとした沙羅の言葉は、梨花の声によって遮られた。 梨花は怒りの表情を浮かべたまま、ロープに縛られていることみを指差す。 「私の仲間をそんな風にロープで縛って! 何よ、人質にするつもりなの? 貴女と大空寺あゆは、殺し合いに乗ってるって云うの?」 「……違う! 私達は殺し合うつもりなんて無い!」 「だったら、ことみを放しなさい! 今すぐによ!」 云われて沙羅は一瞬迷ったが、直ぐにことみの縛めを解いた。 今下手に逆らっては、取り返しの付かない事態になりかねないからだ。 自由になったことみは、負傷している足を引き摺りながらも、アセリアの元へと駆け寄っていった。 「アセリアさん、梨花ちゃん!」 「コトミ……もう大丈夫。私の後ろに……隠れて」 アセリアはそう云って、ことみを後ろへと下がらせた。 アセリアの両腕には、今も『求め』がしっかりと握り締められている。 囚われの身であったことみは解放された しかしアセリア達もあゆ達も、臨戦態勢を解いたりはしない。 両者共に、既に一度ずつ互いを攻撃してしまっているのだ。 そのような状況で、安易に相手を信用したり出来る筈も無い。 アセリアと古手梨花。 大空寺あゆと白鐘沙羅。 両者は各々の得物を手に、緊張した面持ちで睨み合う。 だが唐突にあゆが口元を吊り上げて、心底可笑しそうに哂い始めた。 「く――、くくッ……アハハハハハハハハハっ!! そうか……そういう事か…………!!」 狂ったような笑い声が、静寂に包まれた黄昏の草原を打つ。 一人で納得したように哂い続けるあゆの姿は、本人以外の誰にとっても理解不能な物だ。 訝しげな視線を送る沙羅に対して、あゆが語り掛ける。 「分からないのかい、沙羅。私達はまた、一ノ瀬に騙されたんだよ」 「……どういう事?」 「あの糞虫にとって電波塔を壊す事なんて、どうでも良かったのさ。只――私達とアセリア達を、潰し合わせようとしただけだ」 「なッ…………」 絶句する沙羅を他所に、あゆは言葉を続けてゆく。 「考えたもんだねえ、一ノ瀬。生き残りが少なくなってきたから、そろそろ仲間を切り捨てようって腹か。 塔の中にアセリア達が居るって事も、最初から分かっていたんだろ? 分かった上で敢えて、塔を爆破させようとしたんだろ?」 語るあゆは、憎悪に染まり切った目でことみを睨み付けている。 今まで集めた情報によれば、自分達と同様、アセリア達も殺し合いには乗っていない筈。 しかし自分達は、塔の中に居るアセリア達を問答無用で攻撃してしまった。 生じてしまった亀裂を修復するのは、並大抵の事では不可能だろう。 対主催を志す者同士が潰し合えば、一番得するのは誰か――そんなモノ、殺し合いに乗っている人間に決まっている。 余りにも出来すぎた、作為的に準備されたとしか思えぬ状況。 一度消えかけた疑心暗鬼の炎は、以前を遥かに上回る勢いで燃え上がっていた。 「ちょっと待つの! 私にはそんなつもり、これっぽちも無かったの!」 「はっ、この期に及んで言い逃れとはね。流石に売女なだけあって、面の皮が厚いさね。 その調子だとアレか、男相手なら股でも開いて懐柔してんのかい?」 ことみが懸命に無実を訴えるが、あゆは全く取り合おうとしない。 必死の弁明は寧ろ、あゆの憎悪に拍車を掛けるだけだった。 「首輪の機能を無効化しようとしてたのも、全ては私達を欺く為だった訳だ。 いやいや、ホント大した役者だよ」 「……幾らなんでも、それは一方的に決め付け過ぎなんじゃないの?」 「沙羅――お前、未だ寝惚けてるんだな。なら良い事を教えてやろうか?」 ことみを殺人鬼と断ずる材料は十分に揃っているが、未だ沙羅は確信を持てていない様子。 だから、あゆは口にする――今まで伝えていなかった『事実』を。 「お前の元の世界の知り合い――確か、恋太郎といったか。ソイツを殺したのはな、そこの糞虫さ」 「え…………」 「聞こえなかったんなら、もう一度云ってやる。双葉恋太郎を惨殺したのは、一ノ瀬ことみだ」 念を押すようにあゆが云うと、沙羅の顔から表情が消えた。 最愛の人間を奪った怨敵が目の前に居るという情報は、確かに沙羅へと伝わった。 「どう? これでもまだ、そこの糞虫を信頼する余地が残されてるって云うのかい?」 投げ掛けられた問い掛け。 沙羅は静かに俯いて、暫しの間沈黙を守っている。 そのまま待つ事、十数秒。 やがて沙羅は、幽鬼の如くゆっくりと顔を上げた。 「……す」 その声は小さ過ぎて、誰にも聞き取る事が出来なかった。 しかし聞き取るまでも無く、この場に居る全員が沙羅の意思を理解出来ただろう。 何しろ沙羅の表情は、般若の如き形相に変わっていたのだから。 「殺す……殺してやる!! よくも恋太郎を…………ッ!!!」 「違う! 私は恋太郎さんを殺してなんか……」 「五月蝿い! アンタだけは、絶対に許さないんだからッッ!!!」 ことみの弁明は、最後まで聞く必要すら無いと云わんばかりに跳ね付けられた。 今の沙羅の心は、激しく燃え盛る憎悪で埋め尽くされている。 交渉など不可能だ。 「お前達、話は聞いてただろ? 一ノ瀬ことみは極悪非道な殺人鬼さ。 今から一ノ瀬を殺すから、ソコ退けや。邪魔するって云うんなら、生命の保証は出来ないよ」 「冗談じゃないわね。ことみが殺し合いに乗っているなんて、そんなの有り得ない。 私は貴女達なんかよりも、ことみを信じるわ」 「……何を云われようとも、私は……コトミを守る。お前が敵だと云うのなら……倒すだけ」 話は終わりだと云わんばかりに、あゆが刺々しい声で通告したが、梨花もアセリアも退こうとしない。 殺気に満ちた視線と視線が、火花を散らすかのように激しく鬩ぎ合う。 「そうかい……。なら――」 あゆの手に握り締められたS W M10が、すっと持ち上げられる。 応じるようにして、アセリア達も各々の得物を構えた。 「――死ねや、糞虫共!!」 甲高い銃声を轟かせながら、あゆのS W M10が火花を吹く。 放たれた銃弾は一直線に、アセリアの胸部目掛けて飛んで行った。 アセリアは恐るべき動体視力で銃弾の軌道を見抜き、『求め』の刀身を盾にして受け止めると、そのまま前方へと疾駆した。 今アセリアは疲労困憊の状態だが、それでも素人の銃撃程度なら問題にならない。 次々に襲い掛かるあゆの銃撃を着実に防ぎながら、確実に間合いを詰めてゆく。 だが突如アセリアは背中に薄ら寒いものを感じ、咄嗟の判断で後方へと跳躍した。 次の瞬間、それまでアセリアが居た空間を、猛り狂う銃弾の群れが切り裂いてゆく。 「アセリア――私達の邪魔をするつもりなら、アンタも倒す!!」 「サラッ……」 沙羅はアセリアの着地を待たずして、立て続けにワルサー P99のトリガーを引き絞る。 熟練した銃の使い手である沙羅が、狙いを外す事は有り得ない。 放たれた銃弾は一つの例外も無く、アセリアの胴体部に向かって飛んで行った。 本来のアセリアならば、ウイング・ハイロウゥを展開して回避する場面。 しかし今のアセリアには、そのようなマナなど残されては居ない。 宙に浮いたまま、必死に身を捩って逃れるのが精一杯だった。 「くあっ…………!」 何とか銃弾の回避には成功したものの、アセリアは着地に失敗して転倒してしまう。 それは沙羅にとって絶好の好機であり、アセリアにとっては絶体絶命の危機。 沙羅はほんの一秒足らずの動作で、倒れ伏すアセリアへと照準を定める。 だが沙羅は視界の端にあるモノを認めると、直ぐに射撃動作を中断して、傍にあった瓦礫の山――電波塔の残骸――へと身を隠した。 連続して鳴り響いた銃声と共に、瓦礫の一部が弾け飛ぶ。 「――――ッ、まさか今のを躱されるなんて……」 銃撃を行った梨花は、沙羅の卓越した危機回避能力に舌打ちしながらも、ミニウージーを鞄へと仕舞い込んだ。 短機関銃であるミニウージーは強力無比な火器だが、何回も使用してしまえば直ぐに銃弾が切れてしまうからだ。 幸い瑞穂の鞄を持ってきたお陰で、ミニウージー以外にも武器は沢山ある。 梨花は鞄からベレッタM92Fを取り出すと、沙羅が隠れている瓦礫の山に向かって銃撃を開始した。 「6、7、8…………」 沙羅は一目で梨花の銃が何であるかを見抜き、相手の弾切れまで耐え凌ぐ作戦に出た。 反撃など一切行わずに、敵が消費した弾数を数えながら、瓦礫の影で息を潜め続ける。 焦る事は無い。 敵の銃弾さえ切れてしまえば、一気に攻め込む好機が生まれる筈なのだ。 「14……15――今ッ!!」 敵の弾切れと同時に、勢い良く瓦礫の山を飛び出す沙羅。 そんな彼女の目に映ったのは、コロコロと転がってくる空き缶のような物体だった。 次の瞬間、沙羅の視界が眩い閃光で覆い尽くされる。 「しま……っ、くああああああああ!!」 物体が閃光弾であると気付いた沙羅は、半ば反射的に目を閉じたものの、その程度では防ぎ切れない。 炸裂した閃光段は、沙羅の視力を一時的に奪い去っていた。 「半ば賭けだったけど――どうやら、決まってくれたみたいね」 梨花はそう呟きながら、両目を覆っていた手を外した。 こちらの弾切れと同時に敵が攻め込んでくると踏んで、梨花は予め閃光弾を投擲していたのだ。 低い身体能力しか持たぬ梨花と、高度な射撃の技能を持つ沙羅。 正面から戦えば、何百回やろうとも沙羅が勝つに決まっている。 しかし、梨花とて自身の非力さくらい自覚している。 実力で劣っているのならば、正面から戦わなければ良い。 心理戦という一点に限っては、梨花の方が一枚上手だった。 「これでチェックメイト――暫くの間、大人しくして貰おうかしら」 梨花は敵の戦闘能力を奪い去るべく、銃口を沙羅の左足へ向けた。 沙羅は未だ視力が回復していない為に、碌な回避行動を取れない。 一対一の対決なら、これで勝負は決まっていただろう。 だが今は複数人による乱戦の最中であり、常に周囲へと気を配る必要がある。 あれだけ派手な攻撃を行ってしまえば、他の者に狙われぬ筈が無いのだ。 梨花は突如左肩に鈍い痛みを感じ取り、ベレッタM92Fを取り落とした。 「あぐっ…………!?」 「――アホ面晒して、一人で勝った気になるなや」 梨花の左肩に銃弾を掠らせたのは、疑心暗鬼に囚われし金色夜叉――大空寺あゆだ。 直撃こそ免れたものの、銃弾は梨花の左肩に浅くない損傷を与えていた。 間髪置かずに、あゆはS W M10で追い討ちを行おうとする。 だが沙羅に仲間が居るのと同様、梨花にも仲間が居る。 何者かが近付いて来る気配を察知したあゆは、首を横へと向けた。 「たああああああああっ!」 「アセ、リアッ……!!」 吹き荒れる蒼の疾風。 あゆの両足に狙いを絞って、アセリアの大剣が横凪ぎに振るわれる。 しかしあゆにとっては幸いな事に、満身創痍のアセリアが放つ剣戟は、常人でも反応可能な速度にまで落ちている。 あゆは済んでの所で真上に跳躍して、迫る一撃をやり過ごした。 凌ぐ事に成功してしまえば、危険な状況も一転して自らの好機となる。 この距離ならば照準を定めるまでもなく、銃弾は必ず敵に命中する。 あゆは地面に降り立つと同時に、S W M10の引き金を絞った。 だが至近距離からの銃撃でも、アセリアを打倒するには至らない。 「こんなモノ……当たらない!」 アセリアは身体を横に傾けて、迫り来る銃弾を薄皮一枚で回避する。 あゆの放った銃弾は、空しく宙を切り裂いてゆくに留まった。 今のアセリアは疲弊し切っており、普段の一割も力を出せていない。 それでも人間離れした動体視力と、卓越した戦闘センスだけは健在だった。 「化け物がっ……!」 悪態を吐きながら、あゆが一旦距離を取るべく下がってゆく。 一方アセリアは追撃しようとせずに、別の方角に向けて走り出した。 あゆとアセリアが戦っている間、他の人間が何もしていなかった訳では無い。 アセリアの向かった方角には、沙羅とことみの姿がある。 沙羅は梨花の銃撃を掻い潜り、ことみに襲い掛かろうとしている所だった。 「当たって……ッ」 「馬鹿ねえ、そんな物が通用するとでも思ってんの!?」 ことみは車の影に隠れながら、周囲に落ちていた瓦礫の欠片を投擲するが、そのような抵抗無意味。 沙羅は難無く身を躱しながら、瞬く間に距離を縮めてゆく。 足を負傷していることみは、障害物に身を隠す以外、銃撃から逃れる術を持っていない。 捕虜になった際に荷物も奪われてしまった為、武器を用いて反撃するのも不可能だ。 このまま距離が縮まり切ってしまえば、数秒と保たずに殺されてしまうだろう。 そんな状況を覆したのは、満身創痍の身体で駆け付けたアセリアだった。 「てやああああああっ!!」 「――――ッ!?」 重厚な轟音に続いて、土煙が巻き起こる。 沙羅の進路を防ぐような位置に、アセリアが『求め』を振り下ろしていた。 アセリアは真っ直ぐに沙羅の瞳を見据えながら、極力冷静な口調で語り掛けた。 「……落ち着け。コトミは、人殺しなんか……していない。サラは……アユに、騙されているだけだ」 「――そんなの、信じない! 信じられるもんかああっ!!」 感情が昂ぶっている沙羅は、アセリアの言葉に耳を貸そうともしない。 最愛の人を殺した怨敵が眼前に居る以上、やるべき事など一つ。 立ち塞がる障害を排除すべく、少女はワルサー P99片手に蒼の妖精へと挑み掛かる。 三度、咆哮を上げる銃口。 「サラ……ッ」 アセリアは表情を歪めながらも、容赦無く降り注ぐ銃弾の連撃を正確に見切ってゆく。 一発目と二発目の銃弾はサイドステップで躱し、三度目の銃弾は上体を屈める事でやり過ごした。 そのまま足を前に進めつつも、再度説得を試みる。 「もう、止める……! 憎しみに身を任せるなんて……こんなの、サラらしくない……!!」 「五月蝿い! アンタはねえ、私と恋太郎の絆の深さを知らないから、そんな事が云えるのよ!!」 「ッ――――」 説得が不可能だと判断したアセリアは、止む無く攻撃態勢へと移行する。 話して止めれないのなら、殺しはしないまでも一時的に無力化させるしか無い。 アセリアは沙羅のワルサー P99に狙いを絞って、『求め』を斜め上方に振り上げた。 しかし今のアセリアの剣戟は、一般人のあゆですら反応出来る程に衰えてしまっている。 そんなモノ、探偵助手を勤めし少女に通用する筈が無い。 「ふん――遅いわよ!」 沙羅はワルサー P99の銃身を持ち上げて、アセリアの攻撃を空転させる。 続けて、がら空きとなったアセリアの胸部に向けて、ワルサー P99の銃口を向けた。 そんな沙羅の動作に反応して、上体を横に傾けて回避しようとするアセリア。 しかし沙羅も、並大抵の攻撃ではアセリアを打倒し得ぬ事くらい理解している。 沙羅は右手でワルサー P99を撃ち放ちつつも、左手でポケットからS W M36を取り出した。 「…………ッ!?」 「――貰ったああああああああ!!!」 二丁撃ち。 精度が落ち、腕に負担も掛かるのが難点だが、近距離戦に限って云えば正しく必殺の攻撃。 上体を傾けた状態のアセリアに対して、S W M36の銃口が向けられる。 この状況からアセリアが逃れるには、一体どうすれば良いのか。 全身全霊の力で飛び退くか――否、今の体勢からでは間に合わない。 再度攻撃して銃を破壊するか――否、これも間に合う筈が無い。 紛れも無い絶対絶命の窮地。 されどアセリアは、今に匹敵する死地を何度も潜り抜けて来た。 蒼の妖精は秒に満たぬ時間で、最善の選択肢を見つけ出す。 「ク――――!!」 「なっ…………!?」 銃声が鳴り響くのとほぼ同時に、重厚な金属音が木霊した。 銃弾を防いだのは、アセリアの左腕を覆っている頑強な鎧。 アセリアは咄嗟の判断で、左の籠手を盾としたのだ。 しかし流石に衝撃までは殺し切れず、アセリアの左手に重い鈍痛が襲い掛かる。 一方、沙羅も無茶な射撃を行った所為で、両腕に痺れるような痛みを覚えていた。 二人は無理に接近戦を続けようとせず、各々の方向へと飛び退いてゆく。 正しく刹那の攻防いうべき衝突は、どちらの側にも軍配があがる事無く、仕切り直しとなった。 「――ッハァ……、フ、ハァ―――」 懸命に呼吸を整えるアセリアは、心中穏やかでは無い。 嘗て沙羅とは共に行動した事があったものの、これ程の実力を持っている事は知らなかった。 疲弊し切った今の自分では、そして相手を殺さずに止めようという甘い考えでは、恐らく厳しい戦いを強いられるだろう。 しかし、それでもやるしかないのだ。 妙な言い掛かりをつけてくるあゆはともかく、沙羅が善人であるのは間違いない筈。 ことみを見捨てるといった選択肢は有り得ないし、怒りに支配されているだけの沙羅も殺せない。 アセリアはそう結論付けると、沙羅を殺さずに無力化するべく駆け出した。 205 さくら、さくら。空に舞い散るのは…… 投下順に読む 206 守りたいもの/さよならの囁き(Ⅱ)(後編) 205 さくら、さくら。空に舞い散るのは…… 時系列順に読む 206 守りたいもの/さよならの囁き(Ⅱ)(後編) 204 そして、「 」 宮小路瑞穂 206 守りたいもの/さよならの囁き(Ⅱ)(後編) 204 そして、「 」 アセリア 206 守りたいもの/さよならの囁き(Ⅱ)(後編) 204 そして、「 」 一ノ瀬ことみ 206 守りたいもの/さよならの囁き(Ⅱ)(後編) 204 そして、「 」 古手梨花 206 守りたいもの/さよならの囁き(Ⅱ)(後編) 204 そして、「 」 大空寺あゆ 206 守りたいもの/さよならの囁き(Ⅱ)(後編) 204 そして、「 」 白鐘沙羅 206 守りたいもの/さよならの囁き(Ⅱ)(後編)
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