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[[アイリス=カフェリア]] [[メインキャラクター]] [[シナリオ]] **COLOR(#0000ff){ ささやかなご褒美 } ***関連人物 ***関連シナリオ ★発生条件~ ★派生シナリオ~
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「ミィ♪」「ミッミッ♪」「ミィ♪」「チチィ♪」 巣の中では4匹のタブンネがオレンの実を食べています。 お父さんとお母さん、そして2匹の兄妹。 とても仲の良い家族で、いつも幸せそうにしています。 やがて、子どもたちはお腹がいっぱいになると、こてんと転がります。 横になった2匹をお父さんとお母さんがやさしく毛づくろいし始めました。 毛づくろいされている子どもたち。その姿はとても似ています。 短い手足、くるんとした触覚、ふわふわの尻尾。……タブンネだから当たり前ですね。 しかし、この子どもたちはある部分がちがっています。 お兄ちゃんの方はタブンネ特有の、良く目立つピンク色の体毛をしています。 もう1匹の妹の方はタブンネらしくない紫色の体毛をしています。 そう、この兄妹は片方が色違いなのです。 ちなみに、お父さんとお母さんはピンク色の体をしています。 しかし、体の色が違ったところでかわいいわが子。 体の色など気にすることなく、たくさんの愛情をそそいでいます。 ところが、子どもたちはそうではありません。 お兄ちゃんのほうは、家族の誰とも違う妹の色を特別だと感じ、うらやましく思っています。 一方、妹のほうは、家族と同じ体の色をしているお兄ちゃんを、うらやましく思っています。 2匹はお互いに、相手の色になりたいなぁと思っていました。 ある日のこと。 子どもたちが2匹だけで、巣の近くで遊んでいます。 3日前にご飯を探しに行ったお父さんが帰って来なくなりました。 そのため、今日はお母さんがご飯を探しに行くことになりました。 子どもたちはお留守番です。 仲良く遊んでいると、がさがさという音が聞こえてきました。 2匹はびくっと動きを止めると、音のする方に視線を向けます。 「ミィィィィッ!」 やぶの中から叫び声を上げながらつるっとした感じの紫色のタブンネが飛び出してきました。 そのまま2匹の前を走り抜けて、別のやぶの中に消えていきます。 なんとなくお父さんの声と似ている気がしました。 でも、お父さんはピンク色で、さっきのタブンネは紫色の体をしていました。 紫色のタブンネが消えていった方を見つめていると、ふたたび、がさがさという音がしました。 そっちの方に目を向けると、1人の人間がやぶの中から出てきました。 「くっそー、逃げられたか。まあ、どうせ使い物にならなくなってから別にいいか」 やぶの中から出てきた人間はくるりと向きを変えて、出てきたやぶの中に戻ろうとしました。 そこで、2匹と、人間の目があいました。 「……天然モノの色違いかー。サンプル程度には使えるかな」 そういうと人間はしゃがみ込み、何かを取り出して2匹に差し出します。 「ほら、オボンの実だよ。こっちおいで」 これまでオレンしか食べたことのない2匹には、それは未知の木の実でした。 しかし、そのにおいはタブンネとしての本能においしいよと語りかけてきます。 オボンを食べると、2匹は人間にすっかりなつきました。 人間に体をすりつけ、思いっきり甘えています。 人間は2匹をなでながらお兄ちゃんの方に聞きます。 「体の色、紫色にしてみたくない?」 お兄ちゃんにとって、それは願ってもない提案でした。コクコクとうなずきます。 「ミィ! ミィ!」 そのとき妹の方が人間に何かを訴えかけてきます。 「ああ、君はピンク色になりたいんだね」 この人間はタブンネの言葉がわかるのか、紫色の言葉をしっかりと理解しています。 「いいよ。2匹ともおいで。」 そう言って2匹を抱きかかえると人間はそのまま、どこかへ歩きだしました。 2匹は大きな建物に連れてこられました。 白くて、灰色で、冷たそうで、とてもかたそうな建物。 これまで森の中に暮らしていた2匹にとってはまったくなじみのないものです。 人間は2匹を連れてその建物の中に入っていきました。 建物の中に入ると、人間は一つの部屋に入りました。 ぽかぽかしたお日様の光がとどかない冷たい明るさの部屋です。 人間はお兄ちゃんを台の上に寝かせると、動かないように押さえつけます。 「ミィッ!?」 混乱するお兄ちゃんを押さえたまま、手に持った機械のスイッチを入れます。 ウイイイイイイン! 「動かないでねー」 大きな音に驚くお兄ちゃんを無視して、人間は機械を体にあてて動かしていきます。 ジョリリリリリリ! 「ミッッヒィィィィィ!」 大きな機械音とお兄ちゃんの叫び声が部屋の中に響きます。 「はい、終わったよー」 数分後。 そこには、尻尾をのぞく全身の毛をきれいに刈り取られたお兄ちゃんの姿がありました。 うすいピンク色の肌をむき出しにされて、涙をながしてゼイゼイとあえいでいます。 人間はお兄ちゃんをそのままにして、妹の姿をさがします。 「はいはい。尻尾見えてる。尻尾見えてる」 ゴミ箱の陰にかくれたものの、ふわふわの尻尾がぽわんと飛び出していては意味がありません。 人間は妹を捕まえると、お兄ちゃんの隣で妹を押さえつけます。 「チィ! チィ! チィィ!」 「暴れなければすぐに終わるからねー。がんばろー」 そう言って機械のスイッチを入れ、妹の紫色の毛を刈り取り始めます。 「チヤァァァァァァァァン!」 ジョリリリリリリィ! 「さて見てごらん」 人間は2匹の前に鏡をおきました。 2匹はそれを見て愕然とします。 ピンク色の地肌をさらした姿はとてもみすぼらしく、タブンネの愛らしさなど見当たりません。 体の毛がなくなったことで、ぽっこりした下っ腹がはっきりとわかり、みっともない印象を受けます。 あまりにも情けない自分たちの姿に2匹はめそめそと泣き出してしまいました。 皮肉なことに、今のみっともない姿は、この色の違う兄妹が一番似ている姿でもあります。 「あっははは! 泣いてる泣いてる!」 人間はそう言うと刈り取った毛を2匹の前に置きます。 妹のものだった紫色をお兄ちゃんの前に。 お兄ちゃんのものだったピンク色を妹の前に。 「今からこの色にしてあげるから。だから泣かないで」 2匹はその言葉を聞いて、ほんの少しだけ表情が明るくなりました。 自分が願っていた色になれる。そのことに期待が膨らみます。 「よし。たのむよリオル」 人間が1匹のポケモンを出しました。 お兄ちゃんより一回り大きい青いポケモンです。 初めて見るタブンネ以外のポケモンにお兄ちゃんは興味津々。 リオルのことをまじまじと見つめています。 と、そのとき。突然、お兄ちゃんの顔にリオルがパンチを打ってきました。 「ミキャッ!?」 殴られたことで大きくのけぞるお兄ちゃん。右目のあたりが早くも腫れてきました。 「こらこらリオル。ダメだろ」 人間がリオルのことを怒っています。 お兄ちゃんはざまあみろと言わんばかりに「ミヒヒ」と笑みを漏らします。 そして右目を押さえながらリオルのことをにらみつけています。 「もっと強く殴るように教えただろう?」 リオルはその言葉にうなずくと、先ほどよりも強い力でお兄ちゃんのことを殴り始めます。 顔にはじまり、お腹や手足。さらに倒れたときは背中やお尻を休むことなく殴り続けます。 「ミキャァ! ミッヒ!? ミャァン! ミヤアアアッ!」 お兄ちゃんにとってはたまったものではありません。 なぜ殴られるのかという疑問を持つことさえできないまま、全身を殴られているわけですから。 「その角度だ。そう! えぐり込むんだ!」 人間はリオルに指示を出して殴られるお兄ちゃんの様子を観察します。 すでに顔は腫れ上がり、一部の色は青く変色し始めています。 もはや泣き声を上げる気力すらないのか体を丸めて痛みに耐えています。 「よし、そのまま15分間続けて。インターバルは10分。死んだ場合は呼んで。生き返らせるから」 そう言うと人間は妹の方に向かいます。 「……君は学習しないねー」 お兄ちゃんが殴られている光景を見たい妹はゴミ箱の陰に隠れて震えていました。 今回もふわふわの尻尾がはみ出していてすぐに見つかってしまいます。 「よし。行って来いブビィ」 人間は新たなポケモンを出すと大きく離れます。 全身が炎のような小柄なポケモンが妹に近づきます。 そのまま妹の後ろに来ると一気に抱きつきます。 「チッギャァァァァァァァァ!」 ブビィの体温は約600度。 むき出しの皮膚にそんな高温のものが抱きついてきたのです。 その熱さと痛みは想像することもできません。 「やっぱり熱いなー。ブビィ、前の方もお願い。」 指示を出されたブビィは妹をくるりと回すと、体前面を覆うようにやさしく抱きつきます。 「――ヒッ―――ヘハッ――」 妹はもはや声を出すことすらできません。 さらに息を吸うたびに熱い熱気が体の中にも入ってきます。 全身はあっという間にやけどし、くりくりの青い目も白く濁り始めています。 「はい、いったんやめてー」 人間からの指示が飛ぶと、ブビィは妹から体を離します。 ぴくぴくと痙攣する妹に人間は近づくと、青みがかった液体を妹の体に塗っていきます。 さらにそれを霧吹きに入れると、妹の口のなかに突っ込み、霧状になったものを妹に吸わせていきます。 「チクッ…チギィ…」 妹は少し体が楽になったのを感じました。体の中の暑さも随分とやわらいだのがわかります。 実はこの液体、チーゴの実から抽出したもので、やけどを治すのに効果があります。 人間はその液体をガラスでできた水槽の中になみなみと注ぐと、妹をその中に浸します。 「ブビィ、今から10分、この子はこのまま。溺れたら呼んで。生き返らせるから。 そして10分経ったらここから出して全身をまんべんなく30秒抱きしめて。 そしたらこの中に漬け込んで。あとは、それの繰り返し。 そのうち薬の効果がうすくなると思うから、焦げたら呼んで。剥ぐから」 それから3日後。 ポケモンを変え、方法を変えの実験は終わりを告げました。 全身の毛を刈り取られ、地肌の薄いピンク色だった兄妹は見事に紫色とピンク色になっていました。 しかし、人間はそれを見て不満そうです。 「地肌の色を変えて、それを体毛の色に反映させようとしたんだけどなー。 着眼点は悪くなかったと思うんだけど、毛根が死ぬのは予想してなかった」 頭をガシガシとかくと、兄弟の方を向いて言います。 「まあ、それなりに有意義だったよ。役に立つかどうかは置いといて せめてものお礼に前いたところに戻してあげるよ」 お母さんは心配していました。 ご飯を取りに行って、帰って来てみれば愛するわが子が巣にいなかったのですから。 あのあと、危険を冒して森中を探しまわり、時にはほかのポケモンの縄張りにも入りました。 それでも子どもたちは見つかりませんでした。 お父さんがいなくなり、子どもたちもいなくなった。 心配と寂しさと不安で、3日間まともにご飯を食べることも眠ることもできませんでした。 激しい疲労でお母さんの意識は今にも落ちてしまいそうです。 ミィ… チィ… お母さんが意識を手放そうとしたその瞬間、かすかな鳴き声を捉えました。 いとしい、いとしい、わが子の声。 どれだけ疲れていても聞き違えるはずがありません。 お母さんは顔を上げると、巣を飛び出しました。 巣からでると、少し離れたところに小さな2つの影が見えました 色はピンクと紫。 まちがいありません。愛する子どもたちが帰ってきたのです。 遠目に見ても2匹が弱っているのがよくわかります。 お母さんはあわてて駆け寄ると2匹を抱き上げました。 「ミィィッ♪」 「ミィヤァァァァァァァァァァァァァァアァァァアァァァァァァ!!」 「チッピィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!」 お母さんが大喜びわが子を抱き上げたとき、2匹は森中に響き渡るような悲鳴を上げます。 さらに、お母さんの顔や体をを叩いたり蹴ったりしながら、イヤイヤと首を振ります。 「ミィッ!?」 子どもたちの反応にお母さんは思わず子どもたちを落としてしまいます。 地面で「ミィィ…」「チィィ…」とうめくわが子を見て、お母さんは違和感を感じました。 タブンネは聴覚に優れたポケモンです。子どもの声を聞き違えることなどありえません。 しかし、目の前の光景はどういうことでしょうか? 「ミィ」と鳴くのはお兄ちゃんのはずです。しかし、そのタブンネは紫色の体をしています。 「チィ」と鳴くのは妹のはずです。しかし、そのタブンネはピンク色の体をしています。 そして、お母さんは気付きました。 2匹の体には毛がなく、その体の色は肌の色だということに。 3日間にわたって殴られ続けたことで、全身がアザによって青紫色になったお兄ちゃん。 そのアザは2度と引くことがなく、わずかな圧迫だけで全身に苦痛が走ります。 3日間にわたってやけどと治療を繰り返し、焦げた部分を強引にはぎ取られた妹。 全身の皮膚のほとんどを失い、ピンク色のお肉が露出してしまっています。 常に神経をむき出しにしているような状態で、わずかな刺激が激痛となります。 お母さんは愕然としました。 触覚で確認する必要もないほどのわが子の惨状に。 もはや抱き上げることも、体をなめてあげることも子どもたちの苦痛にしかならない現状に。 お母さんは地面にぺたりと座り込むと呆然と苦しむわが子を見つめています。 がさがさ やぶの中から一人人間がでてきました。 お母さんはぼんやりとした目で人間のことを見つめます。 人間はお母さんの方を見るとニヤリと笑います。 「もしかして、この子たちのお父さんかお母さん? それとも赤の他人? まあ、なんでもいいんだけどね。 ここ1週間でいくつかの収穫があったから実践してみたいんだよね。 大丈夫だよ。うまくいけば色違いになってモテモテだから」 そして、人間はお母さんをモンスターボールで捕まえるとその場を後にしました。 そこには、地面でうめく色違いの兄妹だけが残されました。 お互いの色になりたいという兄妹のささやかな願いはかなえられました。 しかし、その願い事のために支払った代償はすこし大きすぎたようです。 (おわり) 名前 コメント すべてのコメントを見る
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Philosophyz/ささやかなはじまり Philosophyz/ささやかなはじまり アーティスト 水谷瑠奈 発売日 2016年7月27日 レーベル アニプレックス デイリー最高順位 13位(2016年7月28日) 週間最高順位 15位(2016年8月2日) 月間最高順位 33位(2016年7月) 年間最高順位 231位(2016年) 初動売上 3970 累計売上 7395 収録内容 曲名 タイアップ 視聴 1 Philosophyz Rewrite OP 2 ささやかなはじまり Rewrite ED ランキング 週 月日 順位 変動 週/月間枚数 累計枚数 1 8/2 15 新 3970 3970 2016年7月 33 新 3970 3970 2 8/9 ↓ 1159 5129 3 8/16 860 5989 4 8/23 651 6640 5 8/30 490 7130 2016年8月 ↓ 3160 7130 6 9/27 265 7395 Rewrite OP 前作 次作 Philosophyz End of the World熊木杏里 Rewrite ED 前作 次作 ささやかなはじまり Word of Dawn多田葵 関連CD Twinkle Starlight/Worlds Pain
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222 名前:カロッゾ氏のささやかな野望 1/2 :2008/09/02(火) 00 07 14 ID ??? シーブック「……中華料理屋、ですか」 カロッゾ「さよう。幸いにもこのパン屋も業績は上々でな。 資金繰りに余裕ができた今、思い切って手を広げてみようと思う」 シーブック「はあ。 ……しかし、何でまた中華。あと、朝パン主義はどうしたんですか?」 カロッゾ「一つ目の質問の回答は、腕の良い料理人がこのあたりには多いからだ。 二つ目に関しては、昼か夜なら中華でも全く問題は無い」 シーブック「なるほど。(サイ・サイシー君とかディアッカ君とか紅龍さんかな)」 カロッゾ「無論この私がやるからには、半端なものにするつもりは無い」 シーブック「ああ、お金をかけて豪華な造りにするんですね」 カロッゾ「いや、逆だ。このパン屋も、一般の市民の皆様に親しまれる 『安くておいしい、できたてのパン』を提供することでここまでやってこれたのだ。 私が開く中華料理屋も、子供連れや若者たちでも気軽に入れる店にしたいと思っている」 シーブック「なんと。僕の考えが足りませんでした。店長、ご立派です」 カロッゾ「うむ。店の名前も、その意味を込めて『子若楼』とつけた。 これから私はしばらくそちらにかかることになる。 パン屋の方は、セシリーと君に頑張ってもらうことになる。 大変だとは思うが、働き次第では将来のことも考えようと思っているのでな」 シーブック「しょ、将来?(セシリーと……ってことは、やっぱりそういうことだよな!) ……任せてください! 頑張ります!」 カロッゾ「うむ、頼んだぞ」 223 名前:カロッゾ氏のささやかな野望 2/2 :2008/09/02(火) 00 08 15 ID ??? カミーユ「シーブック、最近ちょっとバイトに出る時間が長すぎるんじゃないの?」 シーブック「ああ……まあ、店の方でいろいろあって。でも、勉強もちゃんとやってるよ」 ジュドー「シーブック兄さんはその辺抜かりなさそうだよなあ」 シーブック「あれ? そう言えば今日は…… ごめん、ちょっとTVつけるよ」 ロラン「あ、兄さん? 食事中にTVは……」 シーブック「ごめん、今日は勘弁してくれ。カロッゾさんが開く中華料理屋のCMが今日から始まるはずなんだ」 カミーユ「カロッゾさん? 『店の方で』ってのはそういうことか。しかし、中華料理屋とはねえ」 シーブック「いや、あの人も立派なんだよ? 『子連れや若者でも気軽に入れて、店内に笑い声が絶えない明るい店にしたい』って。 CMもそのコンセプトに合った内容を自分で考えたらしいよ」 キラ「へえ……」 シン「で、結局店の名前はなんていうの?」 シーブック「ああ、それは確か……」 カロッゾinTV「ふはははは!『こわかろう』!!」 ウッソ「うぎゃー!」 アル「うわっ!!」 シュウト「ひっ……!」 キャプテン「シュウト、大丈夫だ。私がついているぞ」 ガロード「怖ぇーよ! このオッサン怖ぇーよ! シーブック兄、子供たち思いっきり引いてるよ!!」 シーブック「あ、あれ…? いや、話してみるといい人なんだよ。本当だよ……」 セシリー『……っていうことで、ちょっとしばらくパン屋の方もお休みにするみたいなの。 ごめんね、いろいろワガママ言って』 シーブック「い、いや、中華料理店のほうも結局騒がれて開店できなかったし、仕方ないよね」 セシリー『あのCMでいろいろ言われたのがショックみたいで…… ああ見えて結構ナイーブな人だから』 シーブック「うん…… 店長によろしくって伝えといて」 セシリー『ありがとう。お店を開いて、またバイトをお願いする時はまた電話するわ』 シーブック「うん、それじゃあまた。おやすみ」 セシリー『おやすみなさい』 シーブック「……はぁ。あんなことになっちゃったら、『セシリーとの将来』なんて話もおじゃんだろうなぁ……」
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番号 FJ05022 名前 ささやかれた者 読み ウィスパード Lv 7 スター ★ 種別 ストラテジー 【声が聞こえた。どこか遠くから。ずっと彼方の空の下から】○2枚引く。 ブロック 富士見書房 作品 フルメタル・パニック! レアリティ U
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思えばその日は朝から眠そうだった。 下睫毛のさらに下、陰りが眼窩を掘り下げて不穏なオーラを醸し出す。 顔面が見えなくとも微妙に丸まった背が憔悴をアピールする。 驚きなのは、寝不足そのものといった雰囲気を発するのが私ではなくかがみという点だ。 「さてはネトゲで徹夜?」 「……あんたと一緒にすな……今日を何の日だと思ってんのよ」 今日は5月28日。私の誕生日だ。 でも私の誕生日がかがみの寝不足起因となるわけもない。 よなべをして手袋編んでくれた、という線は希望として捨てがたいけれど、春真っ盛りうららか陽気に手袋はないだろう。 「今日は中間テスト最終日でしょうが」 「あー……直視したくない現実だネ」 かがみの隣で沈痛気に目を伏せるつかさも同意見のようだ。 「あんたらはきちんと試験勉強したんでしょうね」 『寝ました』 私とつかさの返答がハモる。 「普段は夜遅くまで起きてたいのに、なんで試験前に限って睡魔が襲ってくるんだろうね~」 「ほんとだね~私は普段もすぐ眠くなっちゃうけど、試験前は特に眠くなっちゃうよ」 「…………」 通学の道すがら、会話を交わす私たちを余所にかがみは突っ込みを入れることもなく、ただ車窓を眺めていた。 そんなに眠いなら乗り物に揺られている間くらい仮眠を取ればいいのに。 桔梗色の相貌は一種異様に輝いて、脇の私たちも流れる風景も通り過ぎて、試験範囲の数式と向かい合っているかのようだった。 「そうでしたか。かがみさんにしては珍しいですね」 教室へ足を踏み入れて開口一番、試験前のテンションから一人独立した優雅さで佇む親友にかがみの様子を報告すると、 彼女はボリューム豊かな桜色の髪をわずかに傾げた。 確かにかがみにしては珍しい。 いつもはガッチガチに練り上げた試験対策プランに実直さをもって従う人だ。 多少緩むことはあってもブレることはない。 ましてや隈を作るほどの完徹なんて、怠慢の証拠とばかりに扱うはず。 「今日はこなちゃんの誕生日なのに……帰りは遊びに行けるかな」 「そうですね、折角ですから私もご一緒したいのですが」 「あれ、二人とも覚えててくれたの」 当たり前でしょ? とばかりに二人微笑む。 おめでとう、と言葉を添えて。 照れくさくてこそばゆい。 覚えててくれて、当たり前に予定を組んでいてくれたことが。 でも私の誕生日なんて別にして、試験終了日と来たらファミレス、カラオケのハシゴでフィーバーが鉄板でしょ。 鉄板になったのは、つかさとかがみとみゆきさんと仲良くなってからだ。 誰が欠けてもなんだか違う。 かがみが突っ込みを入れてくれないカラオケは、ちょっと物足りない。 「仕方ないなー今回はかがみを置いてぱーっとやりますか」 気持ちと裏腹、セリフは口から出た。 だって話が流れたら、かがみが後で気にするし。 今朝の様子じゃ、私の誕生日なんて考えてる暇なさそうだったしさ。 そんな深謀遠慮を知ってか知らずか、つかさとみゆきさんは顔を見合わせる。 お姉ちゃん(かがみさん)がいなきゃねぇ……って感じで。 その次に揃って私を見る。 こなちゃん(泉さん)がねぇ……って感じで。 私たちが付き合ってるからって、そんなに気を遣わなくてもいいんだけど。 誕生日は来年もあるし、今日のことを武器にしてしばらくはかがみをいじれる。 そう言って笑い飛ばしても、二人はすっきりしない表情。 かがみがいなきゃ我慢できないほど寂しいなんて、表にも裏にも心のどこにもないのに。 フォローを繰りだす間もなく、チャイムが響き渡り教室は往生際の悪い生徒たちの悲鳴で埋め尽くされた。 「かがみ様~帰ろうよ~」 「んあ」 様を付けるな! というおなじみの突っ込みは口から出ない。 「つーか柊、すげー恰好だぞ」 「んー」 伸びをした途中で力尽きたんだろうか。 椅子に座ったまま背もたれに体重のほとんどを預け、後ろにのけ反って瞳を閉じている。 形のよい顎から喉に下る曲線も、くっきり浮いた鎖骨も、正午の日光に照らされてすっかり公衆の面前に晒されている。 伝統的な表現をするところの『半ドン』は全校生徒に一種の高揚をもたらし、幸運にもかがみに目を向ける人はいない。 みさきちがしつこく肩を揺らすうち、不承不承睫毛の端が開かれた。 「泉ちゃん、私たちは帰るから柊ちゃんをよろしくね」 「まかせたまへ~」 「見ちゃってごめんね」 「なにを?」 「あんなに無防備な柊ちゃん」 「うぇ?!」 普段と同じスマイルでなんつー爆弾発言ぶちかましてくれちゃいますかこの人は! 「な、何言ってるのさ!」 「うふふ……面白くないって顔してた」 「嘘! だーーッッ!!」 峰岸さんにはレナ仕込みの威嚇なんて無駄らしい。 愉快そうな笑みは収まらず、逆に、うそじゃないよ、と内緒話みたいに耳に囁かれた。 『かわいいね、泉ちゃんは』 とかなんとか、見方によっては一種タラシっぽい余計な一言を添えて。 つかの間抗弁する言葉を失った私に、のそのそ鞄を持ってやってきたかがみが押しつけられる。 「おう、こなた」 「おうじゃないよ! おうじゃ!」 「OH! KONATA!」 「英語の試験はさっき終わったヨ……」 なんで私が突っ込んでんの! かがみ脳が寝てるでしょ! 八つ当たりしても半眼の寝ぼすけには暖簾に腕押しだ。 心なしか垂れたツインテがふらふら揺れている。 「帰ろ、かがみ」 「ん」 手をひかれるまま付いてくる姿は子供のようでかなり萌える。 けれど、このステータスじゃ遊びに出るのは無理そうだ。 「……今日なんの日か覚えてる?」 「ん」 「駄目だこいつ……早くなんとかしないと」 廊下にはすでにつかさとみゆきさんが待機していた。 私の説明を聞くまでもなく、かがみの様子を一目見て苦笑する。 「それでは予定通り、つかささんのお宅にお邪魔してよろしいですか」 「うん、ゆっくりしていってね」 かがみがアレじゃカラオケは無理なので、試験明け祝い兼私の誕生祝いは柊家で執り行われることとなった。 あらかじめB組で取り決められた計画通りだ。 計画通り(ニヤッ)ってやりたいけど、突っ込みがないとつまらないからやらない。 「重いよ、かがみん」 「…………」 突っ込むどころか、帰りのバスの中は私に寄りかかって爆睡だった。 『重い』にすら反応しないってことはマジ寝だね。 「こなちゃんごめんね、場所代わるよ」 「あーだいじょぶだいじょぶ」 寝顔をうかがったら少しだけ顔色が悪くて、本当に一晩集中したんだとわかる。 白い額に長めの前髪がひと房かかって、すっと通った鼻まで落ちる。 起きてる時なら指でよける仕草がお馴染みで、『前髪切らないとなー』とつまんで引っ張って、 私はこっそり、キスする時顔にかかるさらさらする感触が好きなんだけどな、と思うのだ。 今は指どころか睫毛さえぴくりとも動かないから、代わりに私が髪をよけてあげた。 タイヤが小さな段差を蹴散らして、弾みであったかい重みがもっと私に乗りかかる。 かがみの柔らかさが制服越しに押しつけられる。 急に気恥しさが襲い車窓へ視線を移したら、寄り添ってる私たちの姿がガラスに反射していて余計恥ずかしくなった。 「着替える」 私室へ帰りついて開口一番がこのセリフ。 すぱん、と気持ちよく鞄を投げ捨て、これまた気持ちよく制服を脱ぎ捨てる。 ぱさぱさ落ちる制服と次々露わになる肌に、突っ込みやからかいの言葉を探しているうち呆気なく時間切れ。 ようやく私が 「かがみさぁ、恥じらいがないとつまんないよ」 と間に合わせの言葉を紡いだ頃には、着替えで乱れた菫色の頭がスウェットから突き出ていた。 「お昼ごはんできたら起こして」 顔だけ振り向いて勝手な、それでいて食欲旺盛なかがみらしい願いを託し、止める間もなくベッドに倒れた。 もぞもぞ布団の下に潜り、手探りでリボンを解く。 「……えーっと、寝逃げ?」 今日は出遅れてばかりだ。 ベッドによじ登って顔を覗き込んだら、重いテンポで繰り返される寝息が急降下の睡眠を示す。 やっと一息つけましたって雰囲気で緩められた眉を見たら、さすがの私も無理に起こせない。 「……ずるい……」 そんなに、教室で披露したより無防備な寝顔をここで繰り出すなんて、ずるい以外になんて文句を言えばいいんだろう。 拗ねたような、でもずっとかがみの寝顔の傍にいたいような、そんな気持ちでベッドの上で座り込んでいた。 「こなちゃーん、お姉ちゃんどう?」 「オイオイオ!!」 ひ、柊家にノックという文化はないのかー!? いやノックしてたかもしんないけど! 私に聞こえなきゃ意味ないっていうか! ていうかこんなに驚いてたら、まるで私がかがみにキスしそうになってた現場を押さえられたみたいじゃん! 「いやキスとかそんなベタな展開じゃないですよ?!」 「あはは、こなちゃんそれ何の漫画のネタなの?」 「ネタじゃないよ! 通じなかったなら忘れて!」 忙しく手を振ってベッドを揺らす自分の姿はきっとネタそのものに違いない。 弁解すれば余計な邪推を招くだけとようやく思いいたって口をつぐんだ。 まだ顔は熱いけど、気がついた事に無理矢理話題をシフトする。 「つかさはいつも通りだけど、なんでみゆきさんまで萌え萌え愛エプ姿なの?」 「はい、つかささんに可愛らしいエプロンを貸していただきまして」 「あんまり回答になってないよ」 「ゆきちゃんがお料理手伝ってくれるんだよ~」 「及ばずながらお力添えさせていただきます」 「そりゃかがみよりは断然戦力になるけどさー。なら私も手伝うよ」 進言に二人は顔を見合わせて、似た緩さで綿菓子みたいな微笑みを交わす。 どんな意味合いが含まれていたのか、教室での会話と違って今度はよくわからない。 「今日は泉さんが主賓なんですから、手伝っていただくわけにはいきませんよ」 「そうだよー、お昼ごはんができたら呼ぶからゆっくりしててね」 「えー! かえって暇だよー」 口をへの字に曲げても、綿菓子コンビには通じない。 あらあらうふふと難なくかわされて、閉じられたドアの後には私と熟睡人間だけ。 急に沈黙が周囲を包む。 いつの間にか正座していた足を崩し、ついでに靴下を脱いで足を伸ばす。 かがみの隣に寝転がって全身をのけ反らせたら、音はしないまでも関節が喜びに軋んだ。 私もけっこうテストで疲れていたんだな。 昨日は1時に寝てしまったけれど、一週間前から試験勉強を始めた甲斐あって、今日はサイコロに頼る事なく日程を終えた。 かがみがうるさく試験試験と連呼していたからだ。 人のことばっか気にしてるから、そんな切羽詰まるんだよ。 横を向いたら、中途半端にほどけたツインテール。 解いたリボンがまだ絡まっている。 ストレートっぽく見えて意外にボリューム豊かな髪質だから、一度付いた癖が抜けにくいのだ。 絡ませないように慎重にリボンを抜き出し、2本並べて枕の脇に避ける。 両サイドに盛られた癖を指で梳き、なんとか見られる格好に落ち着かせた。 壁を向いたかがみの表情は、寝転がった姿勢からじゃわからないけれど、中途半端に髪を束ねているより寝やすいだろう。 「……一人で頑張らないでよ」 呟いた言葉に答えるのは、かすかに上下する肩。 「……置いてっちゃやだよ?」 答えるのは疲れた背中。 ねぇきっと、あなたは少し焦ってるよね。 私に発破をかけてる以上に自分を奮い立たせているよね。 法学部を目指した発端は知らないけれど、明確な目的とさせたのは私との関係だよね。 私だって、この関係の困難さは知っているつもり。 でも社会的地位とかそれ以上に、大切なのは二人の気持ちだと思う。 二人一緒にいられれば、一生パートだろうが平社員だろうがどうでもいい。 でも、かがみは違う。 全力で仕事に打ち込み、それが相応に評価される立場にありたい。 私とこうなる前から望んでいた事だ。 望みが増えて。 つまり関係が公になっても揺らがない立場を考慮し、回答は弁護士、あるいは類する法執務。 本気で私一人くらい養うつもりなんだ、この人。 馬鹿にされてるとは、思わない。 「心配性、なんだよね」 臆病なウサギちゃん、って、からかえたら楽だろう。 でも。 瞳を閉じて、仰向けになった。 耳をすませば、沈黙は沈黙じゃなくなる。 遠くに名も知らない鳥のさえずり。 神社の敷地に繁る木々に寄せられるのだろう。 戸内には、柊家の面々が織りなす賑やかな囁き。 きっとまつりお姉さんが中心となって、いのりお姉さんが突っ込んで、つかさがボケている。 お母さんとお父さんと、そして今はみゆきさんも一緒ににこにこ見守っている。 不意に、自分はここにいちゃいけないんだって気持ちになる。 幸せだけど、幸せに浸りきれない気持ち。 それでも、私はこの涙が出そうに贅沢な憂鬱に対する特効薬を既に知っていた。 視界を伏せたまま布団に肩まで潜りこみ、隣で息する温かい質感へ寄り添う。 かがみの背中。 かがみの呼吸。 かがみの髪。 かがみの足。 かがみの体温。 かがみの存在。 ゆっくり息を吸って吐いて、かがみにくっついて。 そうしていると、私には他に世界があるんだと言い聞かせる半ば脅迫観念じみた逃避が溶けて消えていく。 他に世界なんかなくていい。 私はこの暖かさを選ぶ。 ここが、かがみの傍がいい。 臆病なウサギちゃん、って、からかえたら楽だろう。 でも、臆病なだけじゃなくてそうさせてるのは他でもない私で。 「……やさしいよね……ほんと」 私にはもったいないくらい。 まぁ全世界がお前には過ぎた人だと責めても、決して誰にもあげないけれど。 そう、たとえ愛しの嫁の誕生日を忘れてたってね。 私のために頑張って私の誕生日を忘れるなんて本末転倒、すんごい萌えポイントじゃん? 「……かがみぃ……もぇ~……」 嬉しくてかがみに全身で絡んでいるうちに寝入ってしまったらしい。 みゆきさんに起こされて驚きのあまり奇声をあげたけれど、かがみは已然睡魔くんに囚われたままだった。 私が、おなかいっぱいだなあ、と密かに息をついた時、横から取ってくれる。 食いしん坊とからかっても、なんのかんの食べてくれる。 自分が片付けるから好きなの頼みなさいよ、と口に出さず了解させるシチュを作ってくれている。 考えてみたら、すごく甘やかせているよ。 お母さんみたいに。 「……しかし今日は役立たずと言う他ないね」 「ご、ごめんね。こなちゃん……お姉ちゃんも疲れてたんだよ」 「本当にかがみさんにしては珍しいですね」 別に怒ってませんヨ? 夕暮れに染まるかがみんベッドの傍ら、フォローが私を取り巻くけれど、別に拗ねてなんかないですヨ。 お昼から戻って、つかさの部屋でおしゃべりして、時計の針が6時を回ってもかがみは目覚めなかった。 最後に目にした体勢のまま少しも動いていないのは驚嘆に値する。 そりゃ誕生日だからといって、特別な何かを期待してたわけでもないけどさ。 それはそれで、遊びに来た友達を差し置いてどうなの?っていうか。 ……あーなんか結局、私拗ねてるのかなぁ。 「そんなうつけ者にはこうだぁぁ!!」 「ウツケって何?」 「『うつけ』とはもともと、からっぽという意味であり、転じてぼんやりとした人物や暗愚な人物、常識にはずれた人物をさしまして、つまりは馬鹿という嘲りの意味になります……い、泉さん! それは油性マッキー!!」 「学生の友、最強汎用サインペンが火を吹くぜー!!」 かがみの白い頬に大きく『バカ』という二文字が記された。 カタカナなのは漢字で書く自信がなかったからだ。 「こ、こなちゃん! マッキーは最強の油性だよ!」 「明日は休みだし問題ナシ!」 「そうでしたね、ほっとしました」 我ながらそれで終わるのもどうなの?って気もするが、みゆきさんも同意してるからいいや。 「さあて。気持ちよく報復が済んだところでお暇しますか」 パチンとキャップを閉める爽快さに気分良く宣言すると、つかさが残念そうに眉尻を下げた。 「明日は休みだから二人とも泊っていけばいいのに」 「んー私は帰ったらケーキ第二弾が待ってるからネー」 「私は明日朝から家族で外出予定がありまして。残念です……」 「そっかぁ……じゃあ今度4人でお泊りしようね!」 「ええ、ぜひ」 「おけ! 4人とあらば徹夜で桃鉄だぁー!」 お前は友情を崩壊させる気か! という怒声は落ちてこない。 本当に最後まで寝てたよこの人。 苛立ちは頬を張る代わりに油性ペンでぶつけたので、心にあるのはただ軽い呆れと慈しみだけ。 駅への道すがら、みゆきさんが不意に足を止めた。 「あら、タンポポですね」 目線の先を追うと、側溝を塞ぐコンクリの繋ぎ目から伸びた黄色い花。 タンポポからイメージする画像とは若干異なるずんぐりした茎に直線的な花弁が乗っている。 「日本タンポポってやつ?」 「在来種のうちでもトウカイタンポポと呼ばれる種です」 そよ風を思わせる上品な仕草で腰を曲げ、触れるか触れないかのささやかさで花弁を愛でた。 みゆきさんが興味を示すならいつまでも付き合っていてかまわないけれど、彼女はすぐに腰を伸ばし歩を進める。 「いいの? 観察しなくて」 小走りで短い距離を詰めると、みゆきさんは心外そうに眼を瞬いた。 「さほど珍しいわけでもありませんし……自宅の庭にも生息していますよ」 「そこはじっくり我を忘れて観察するのが研究者キャラクオリティっていうか」 「そうですね……時間を忘れて観察したい気持ちもあります」 「我慢してるなら戻ろっか」 他意なく提案した言葉にみゆきさんは品良く笑った。 「泉さんと在来タンポポは通じるところがありますね」 「は?」 「じっくりと観察するのも良いですが……なんというか……そう、目にしただけで嬉しい気持ちになるんですよ」 「それって私が子供っぽいとかそういう意味?」 今度は声をあげて笑う。 そんなほのぼのした気持ちを与える存在というと小動物か子供でしょ。 みゆきさんの愉快そうな笑い声からすると違うみたいだけど。 「正確に表すなら、かがみさんの事を考える泉さんですね」 会話のキャッチボールが止まった。 主に私が受け切れなかったため。 かがみの名前が出るだけで私の思考能力は2割出力ダウンする。 かがみと私の名前が並ぶと、その威力たるや6割に補正されるのだ。 なんなんだろね、本当にもうこの御し難さはなんなんだろ。 “恋”の一言じゃあ納得できない気がするよ。 ほらね、と言わんばかりにみゆきさんの笑みが深まる。 「そこまで珍しくもありませんが、やはりセイヨウタンポポよりは希少です」 断言の真意は即理解とはいかない。 つまり私がデレてるのが希少って言ってるんだろうか。 「かがみさんが関わると、傍観している方まで幸せが伝播するような顔をされるんですよ。 喜怒哀楽全ての反応が幸せそうというか……可愛らしいです」 「それってやっぱ子供っぽいんじゃん……」 また子供っぽいと思われたら癪だから、頬を膨らませるのは避けた。 「嫌ですか?」 「嫌だよ、ギャルゲの攻略キャラになったみたいで」 「泉さんは恋愛ゲームがお好きなのでは?」 「攻略する側ならいいけど、される側は私のキャラじゃないもん」 「そうでしょうか。私はゲームについて明るくはありませんが」 「そうなの! バイトで演じる分にはいいけど素じゃ無理」 「ですが、関係とは常に相対的なものではありませんか」 ギャルゲの主人公にとっては攻略キャラに過ぎずとも、逆から見れば主人公こそが攻略キャラなのではないか。 私にとっては自分が主人公で、でも他の人から見れば攻略キャラでもありうる。 「詭弁じゃない?」 「そうですね」 結局、その人間のキャラ付けは他の問題だ。 みゆきさんから、あるいは峰岸さんから見て私は攻略キャラっぽいという結論は変わらない。 「―――― でも、やっぱり友達が幸せそうなら私も嬉しくなるんです」 みゆきさんが再び足を止めて、私は自分が足元の小石ばかり見つめていたのに気がついた。 顔を上げたら、言葉通り嬉しそうに微笑む親友の立ち絵と背景に鷹宮駅。 背後で甲高いブレーキ音とタイヤがアスファルトを磨る音が響いた。 灰色の路面にはきっと黒い筋が焼き付いた。 みゆきさんの笑みが柔らかに私と背後の光景を包む。 交わした関係は現実の前に危うくて。 視聴者の想像にお任せしますと済ませられるほど無責任ではいられなくて。 でも、だけど。 私が振り返ったら、かがみがいた。確かにいたんだ。 物語の主人公が決めのシーンで着てるにはどうなの? な、近所のコンビニに行くのがギリギリな部屋着で。 ……それだって充分かわいい。細いウエストラインは緩やかなトップスでも隠せない。 だいすき。 だいすきなんだよ。 男好きしそうな頼りない肩幅や腰じゃない。ぜーぜー息をついて自転車に跨るあなたそのものが。 「かがみん……寝癖すごいヨ」 「え! マジ?」 慌てて髪に手をやるけれど、真にやばいのは頬の落書きだ。 「ていうか! なんで追いかけて来たのさー!? 計画にない!!」 「お前の計画なんか知るか!」 「むー反抗的」 「お昼ごはんできたら起こしてって頼んだでしょうが! 何勝手に帰ってるのよ!」 「何さ、嫁を放っといて爆睡してたくせにさ」 「……う……すまんかった……」 嫁に突っ込みはないんだ……それはそれで困る。 つかの間落ちた沈黙が気まずくて視線を彷徨わせたら、みゆきさんが消えていた。 「ちょ! みゆきさん?!」 数秒前まで傍らにいたピンク髪は鷹宮駅の入り口で爽やかに手を振っていた。 そりゃもう、口元から覗いた歯がキラリン光って画面四隅に花が咲いているくらい爽やかに。 つられて私も手を振り返す。 かがみも意味不明なまま同じように手を振っている。 二人して間抜け顔を並べているうち、みゆきさんは一礼を置き土産に構内へ消えていった。 ほどなく列車が駅へ入り走り去る。 「―――― あれ。置いて行かれた?」 「……みたいね」 いやいや。みたいね、じゃないでしょ。 どう見てもあなたのせいでしょ。いらない気を遣われちゃったでしょう。 「卒業してから情報公開すればよかったかもネ……」 「私もたまに思うわ……」 憂鬱なような、面映ゆいような、複雑な表情は少し前まで私が浮かべていただろう顔で。 事あるごとに友達から不意打ちされて困るのは、私だけじゃなくかがみも同じなんだと示していた。 「で、かがみん何の用?」 「な、なにって言うか……あんたが帰るから……」 「寂しくて焦って追いかけて来ちゃった?」 「だってあんた誕生日でしょうが!」 逆ギレしなくたっていいと思う。 そんな真っ赤になって怒鳴られたら、束ねないままバサバサ垂れ下がった髪と相まって必死さが伝わり過ぎて頬がにやける。 「あっるぅえー? 覚えてたんだー?」 「覚えてるに決まってんでしょ! ほら!」 自転車のカゴからプレゼントらしいラッピングが武骨に突き出された。 「手袋?」 「こんな春に誰が手袋編んで夜なべするか!」 「かがみんの萌え属性ならばもしや!」 「ねえよ! てか萌えじゃなくてお母さん属性だろそれ!」 なんだろ。 すっごい喋りやすい。 今までが喋りにくかったってわけじゃないのに。 かがみが突っ込むと、心が浮足立つ。 笑おうとわざわざ意識しなくても、瞳が細まる。 嬉しくて楽しくて落ち着かなくて、でもとても深く落ち着く。 なんなんだろね。コレ。 “恋”って一言で表すのは癪なくらいに幸せなんだよ。 「May I open the present?」 「Sure……って英語のテストは終わっただろ」 無視して包装をバリバリ解く。 邪魔な包み紙を勝手に自転車のカゴに突っ込み小さな箱を開封すると、手のひらに小さな金属が乗った。 「………………」 「………………なんか言いなさいよ……居た堪れないんだけど」 「……かがみん……意外に乙女だよね」 「ほっとけ!!」 私の手に乗ったのは、くるり無造作にくるまった華奢な金属だった。 ちょうど指に嵌まるくらいの。 銀環に小さな翠色が、小さく小さくささやかに埋め込まれたアクセサリー、平たく言えばリングだった。 「これさぁ、どの指に合わせればいいのォ? ねェ薬指? 薬指? 薬指なんだよねェ?」 「おまっっ……! この場面でドヤ顔すんなよ!」 「ドヤ顔でも萌え~とか思ってるでしょー?」 「そりゃあんたはいつでもムカつくくらいかわ……じゃなくて!」 「じゃなくて? かがみんが指に嵌めてくれるんじゃないのー?」 「…………」 最早真っ赤に染まり過ぎて自然発火しそうな手が私の手を乱暴に掴んだ。 痛いよ! って文句を言いたい。 それでも左手の薬指に強引に押し込まれた金属は、嵌められた瞬間こそ擦れて痛かったものの、キツ過ぎとか全然なくて。 「おお、ぴったりじゃあ! かがみんの計画通りィ?」 「悪役面すんな……」 呆れた表情は、いまだに赤い。 別に結婚指輪だとか重い契約ではなく、単に高校生のカップルが贈る他愛ない普通の恋人同士のリングだろうけど。 それをあえてアブノーマルな関係で贈ってしまう、贈りたかった心情を想う。 ―――― それって、かなり幸せ者じゃない? 「―――― 水性にしとけば良かった」 「?」 疑問符を宙へ生み出す釣り目を、交差点を監視する反射鏡の前まで手を引き連れ出した。 「――――……油性?」 「油性」 私の腹いせを目の当たりにして、かがみは驚愕と怒りと、自ら犯した所業に愕然としたような戸惑いを同時に表情へ浮かべた。 抱く罪悪感は同じくらいだと思うヨ……。 最強サインペンは、かがみが擦ったくらいじゃビクともしない。 「まぁ、明日休みで良かったわ……」 「だいじょぶ! ほっぺに落書きされて気付かないかがみも萌えだよ!」 「そんな萌えで喜ぶのはお前とおじさんくらいだ……」 「ここでいつまでもへたりこんでるわけにもいかないし、どっか移動しようよ」 「加害者のくせに偉そうだな、あんたは」 ブツブツぼやくかがみは、それでも間をおかず自転車のストッパーを蹴った。さすがにリアリストだ。 悪戯に直接怒らないのは、一重に罪悪感がゆえだろう。 ばっかばかしい、高校生じみた、つまんない普通基準の、恋人っぽい決まりごとに沿った、 誕生日をないがしろにしてゴメンネ? って感じの。 こんなチビでオタな私なんかさ、どの基準にも合わないんだから無視していいのに。 サドルの後ろに設えられた簡易座席に跨り、かがみの身体に腕を回す。 「どこ行く?」 「あんたんち。おじさん達が待ってるでしょうが」 そういえば誕生日パーティーが待ってるんだった。 ゆい姉さんもそろそろ仕事終わりだ。とすると、自転車で送ってもらえばちょうどいい時間。 「……送ってもらっても、えっちする余裕ないよ? ゆい姉さんもゆーちゃんもお父さんもいるし」 私なりに真剣な忠告は、大きくよろけた車体で途切れた。 「しかも、顔におっきく『バカ』だし」 「―――― 送ってくだけならいいわよ……誰に見られるわけでなし」 「油性でも?」 「油性でも送ってく」 どこかやけくそ染みた宣言と同時に風が流れた。 鷹宮駅が、かがみのペダルを踏む力に従い、ぐんぐん後ろへ消える。 どこの誰のものとも知らない住宅や、在来種のタンポポ、目に映る景色が、かがみのペダルで流れて過ぎる。 それは何物にも止められない力だった。 回した腕から、躍動する筋肉の熱が伝わる。 私の短い腕でも余裕で包めるくらい細い身体だけれど。 誰にも止められない、かがみの生きている力だった。 「……二人乗りって青春っぽいよね。ジブリって感じ」 「そんな作られた青春はいらん」 「むーラマンがないなー」 つかさに付き合って何度もジブリ映画見てるくせにさ。 さらさら、菫色した髪が私を包むように流れる。 声が届きにくいから、疑問を張り上げる。 「このリング高かった?!」 三回ペダルが往復して答えが返る。 「今回の中間、首位だったらおこづかい前借りとチャラ!」 「首位って!? みゆきさんに勝てるわけないじゃん!」 「やってみなきゃわかんないでしょーが!」 ダメだったら、いったい何カ月おこづかいナシになるんだか。 たぶん私の顔は、かがみの窮状と正反対だ。 何やってんのかな、リアリストでバイトもしてなくて“定期試験順位より平均評定”という実利重視な柊かがみ様が。 「かがみ様萌え~~!!!!」 「“様”言うなー!」 耳慣れた突っ込みが街角を突き抜ける。 私はスタッフロールに出演する攻略キャラよりきっとずっと幸せそうで。 ジブリのヒロインみたいにそっと、照れて熱くなった背に耳をすませた。 コメントフォーム 名前 コメント GJ!!(≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-10-10 16 02 06) こういう文章良いよね。 仄かに切ない感じ。 勿論お話もgoodでした! -- 名無しさん (2013-12-09 21 53 20) 良い話だけど…『バカ』が…orz -- 名無しさん (2010-10-26 02 26 31) かがみん、みゆきさんに勝てればいいねbb -- かがみん萌え (2010-10-24 09 27 50) >私はこっそり、キスする時顔にかかるさらさらする感触が好きなんだけどな、と思うのだ。 ニヤニヤがやばいですwwww 最初から最後までこなたが可愛すぎ! かがみラストでかっこよすぎ! ニヤニヤで切なくて幸せで。。。最高のかがこなでした。GJ! -- 名無しさん (2010-09-21 23 57 53) GJ!! -- 名無しさん (2010-07-11 19 58 21) 良い話だなぁ! 話の組み立て方も好きです かがみんの頑張る姿は萌える♪ そんなかがみの嫁とは、こなたは幸せ者だなぁ☆ -- 名無しさん (2010-06-28 15 20 20) あーもう最近涙腺が緩いんだからこういうイイハナシはきついよねぇ…ぼろぼろ涙が止まりませんって -- こなかがは正義ッ! (2010-06-28 12 40 12) 読んでてすごく暖かい気持ちになれるSSに久しぶりに出合えました。 作者様ありがとう!GJ!! -- kk (2010-06-27 23 53 07) 投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください)
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世界でいちばんささやかな奇跡~Miracle Love~ 白雪美帆的Image Song之一。 歌曲信息 作词:永森羽純 作曲:M Rie 编曲:広瀬充寿 Guitar:Makoto Sato All Other Instruments:Michitoshi Hirose 演唱:橘ひかり 歌词 並木道を歩けば ポプラの木が手を振る 見慣れている景色も あなたとなら輝いてゆくの 少しでも悩んでいたら 力づけてあげたい Miracle Love 甘えんぼだった 私がこんなふうにこんなふうに想う Miracle Love 恋は奇跡みたい 夢見る女の子少しだけ変えるの ずっとカフェでお喋り いつの間にか夕暮れ 楽しいとき時間って なぜこんなに駆け足なんでしょう? 聞き上手になれたらいいな 瞳を見つめて想った Miracle Love なんて不思議なの? 誰かをひとりだけ好きになるだけで Miracle Love 世界が色づく 夢見たメルヘンも色あせるくらいに Miracle Love 甘えんぼだった 私がこんなふうにこんなふうに想う Miracle Love 恋は奇跡みたい 夢見る女の子少しだけ変えるの 收录CD 广播剧CD 心跳回忆2 Vol.7~手のひらの勇気~ (2001/11/29) 心跳回忆2 Vocal Tracks5 (2002/05/22) 相关页面 音乐
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《ささやかな日常 日向美海》 プログレスカード レベル3/青/P8000/G4000/S1 【人間】/【超能力】 リンクフレーム なし 《自》リンク-リンクステップ開始時【リンク(7)-2ΩΩ】1枚引き、 そのターン中、このカードのパワーを+3000。 「前に言ってたお店、寄らない? 一緒に行きたかったんだ〜」 illust かぼちゃ 青蘭の聖少女で登場のレベル3の青色のプログレスカード。 リンク成功によってドローが可能であり、リンク(7)と枚数が多いのも魅力的。 欠点としては7枚中4フレームと半分以上である点と、上昇値が+3000とやや低い点。 後者は10000を超える事ができるため、それほど気にならないが、前者はリンク失敗の恐れがあるためデッキに残っているリンクフレームを持つカードの枚数には注意が必要。 2013年09月09日の追加ダウンロードカードの1枚。 収録 青蘭の聖少女 B1-022 R
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