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あなたは神を信じますか?/はい ID m4RdWXMg0 「あなたは神を信じますか?」 俗世一般の人間に言えば、大抵のものは胡散臭いものを見るような眼になる。 もしくは、面倒なものにあってしまったと言わんばかりに露骨に嫌なものを見た顔になってしまう。 彼女は、人が何故そんな顔をするのか、よく分からなかった。 嫌なわけじゃない。怒るわけでも――もっとも神が許しなさいと説く以上彼女が怒ることはありえないが――ない。 ただ、純粋に何故理由が分からない。 神の言葉を聞き、神に使えれば、必ず幸福は訪(おとず)れる。 福音を音連(おとづ)れて、神は必ず我が元へやってくる。 それは、絶対のことだ。 「おーおーおー、派手にやったねえ。酷い有様じゃないか」 「仕方ないですよ、だって彼らは神を信じなかったんですから」 この場で出会うことのできた神の信徒へ彼女は微笑みを向ける。 その背中には、神の信徒であることを高らかに示すかの如く、銀色に輝く大天使が浮かんでいる。 異国の衣服に身を包んでいようとも、それを見れば神の信徒であることは間違いない。 名も、「カミシロ」――神代、神の代わりを成すという意味の名であるらしい。 「それにしたってこんなことしたら、困るぜ? 神様を信じるか聞くにしても、こんなナリじゃいきなり襲われても文句言えねえし」 「大丈夫です、神の信徒なら我々の穢れの理由も分かるはずです。杞憂ですって」 「いやあ、それでも限度が……ってああもうバッグまで血みどろだ。中身抜くのが嫌になるね」 「手伝いますよ、二人がやったほうが早く済みますから。 神の敵を撃ち滅ぼし、迷える子羊を守るためには急がないと」 悪魔に心奪われた愚か者たちの持っていたものを手早く集めると、きっちり半分を出あった信徒へ渡す。 神の前では、平等でなければならない。孤児院でも、いやどこであろうともこれは大切なことだ。 「悪いな、助かるぜ、相棒」 「いえいえ、気にしないで」 手伝った自分へ笑いかける神の信徒。 必要以上の分け前を求めず、手を差し出してくれたものへ心からの礼が言えることは、心が清い証拠。 こんな殺し合いに放り込まれ、真っ先に彼のような人と巡り合えたことも、神からの祝福だろう。 ■ ――ったく、こんなネジ外れたような奴が相棒かよ…… 彼女に満面の笑みを返しながら、男は心の中でそう毒づいた。 だが、その戦闘力だけは申し分がない。回復魔法を使え、攻撃魔法が使え、前衛としても戦える。 黒、というよりも藍に近いロングヘアー。浴びた血の赤さをさらに引き立てる真っ白い肌。 容姿も超美人と言える部類で年は15くらい――完璧にストライクゾーンだが手を出すとめんどくさそうだ、くそったれ。 分かりやすく甲冑少女ってやつか。まさしくアリアンロッドのような女神様。 足元から噴き出す輝きが無駄に目に優しくない。夜中寝る時邪魔じゃないのか。 性格が相当にぶっ飛び気味なのは、御愛嬌で割り切るっきゃない。 ノモス登りも終わってハザマも刻みきったと思ったら、またデスゲームに逆戻り。 やってられるかと内心吐き捨てながらも歩き出せば出会ったのはこの女だった。 さーてなんとトークしようかと迷っていれば開口一番「あなたは神を信じますか?」と来た。 とりあえず即同意が悪魔から学んだ会話の基本。 完璧な作り笑いと一緒に信じると言えば、ガーディアンのメタトロンも一緒に見て仲間認定。 どうも、人間の仲間選びに関しては運が悪い気がする。 一年のメンヘラ候補と同級のチャリンコ泥棒にクソタカビー、結局組んだのは不良崩れのデビルマン。 そして今度は狂信者――あれか、俺の日頃の行いの悪さ故か。 んで三人組に会ったわけだ。面倒だし黙ってたら、この女「神を信じない」と答えた瞬間切りかかってやがった。 びっくりの抜刀速度に驚きもしたが、「信じない」と答えたらああなってたと思えばぞっとする。 うまく三人きっちり殺せたがいいが、取逃がしたりしたらどうするつもりなのか。 今度からファーストコンタクトは自分がやったほうがいいだろう。 ……って魔界とまた同じパターンか。 袖に噛みついたまま絶命している男の顎を引っ張って外す。 雑魚なら雑魚らしく一太刀で死んでほしいんだが。こんないらない意地を見せなくていいから。 殺した奴のデイバッグを漁って水を取りだし、殺した奴のポケットから引っ張り出したハンドタオルで顔を拭く。 服も軽く拭くが血がとれるもんじゃない。これだから前衛の仕事は嫌なんだ。 仕方ないので、制服の上だけ脱いで鞄に突っ込む。ついでに女の鎧も拭いてやった。 鎧はいいよな、金属だけあって余裕で血が拭ける。まあ、これでいきなり怪しまれることもないだろう。 「身を清めるのはいい行いですよ」だとか「相手に手を差し伸べるのは良いことです」とかぬかしてるが知るか。 こちとら生き残らなきゃいけないんだ。精神病患者の手綱を握るにいらついてんだから黙れ。 だまってりゃ色々発散できそうな外見なんだが、それをやったらおしまいだ。後だ、後。 とりあえず、最終目標は生存。意地でもなにやっても生き残る。 で、第一目標は優勝。生き残って帰る。第二目標は、うまくいくようならあの気に喰わない連中も刻む。 そんなもんでいいだろう。一人じゃ生き残るのは結構に骨が折れる。これも魔界で学んだ経験な。 この女を色んな意味で最大まで使い切る。そして俺だけが生き残る。 「行きましょう、カミシロ」 「はいはい……って名前聞いてなかったな。なんて名前なんだ?」 「ああ、そう言えば……わたしはネリシアです。改めてよろしくお願いしますよ、カミシロ」 「了解だ、長く付き合い頼むよ、ネリシアちゃん」 まあ、死ぬまでだが。 【C-3/森/1日目/日中】 【ネリシア(♀クルセ)@ラグナロクオンライン】 【状態】健康、 発光中 【装備】メタルキングの剣@ドラクエシリーズ、ドラゴンシールド@ドラクエシリーズ クルセの鎧(初期装備) 【道具】支給品一式×2,5 不明支給品2~6 【思考】 基本:神の信徒を保護し、神を信じないものを滅殺する。 1:カミシロとともに信徒の保護、信じないものの抹殺。 2:そこまで深くものを考える性格ではないので特になし ※発光はオーラ(レベル99になると足元から噴き出るもの)のせいです。 【神代浩司(if男主人公)@心女神転生if・・】 【状態】健康 【装備】王者の剣@ドラクエⅢ、ブレザー(上着は脱いでる) 【道具】支給品一式×2,5 不明支給品2~6 【思考】 基本:生き残る。そのためならなにやってもおk 1:ネリシアを利用し参加者を最大限減らす ※ガーディアンはバランスタイプ最強のメタトロン(レベル75)です。 【三人分の死体が森に転がっています。誰かは発見したSSを書いた人か放送を書いた人が自由に決めてください】 【残り人数23人+α】 010 はじめにきめるだいじなこと 投下順 012:ゆとりってレベルじゃねーぞ! 010 はじめにきめるだいじなこと 時系列順 012:ゆとりってレベルじゃねーぞ! 048:三者激動――(惨劇) ネリシア 034 s・CRY・ed 神代浩司 ▲
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赤い文字 話リンク ・ストーリー ・内容 光の歌姫 いもうと、メイリス エース・オブ・エースにも涙はある
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冬の夜は苦手。肌を突き刺すような寒さがあるから。 それに比べてこの時期は少し汗ばんだ肌に風が涼しいから、夜が好き。 「ちょっと遅くなっちゃったかしら」 時計を見つめて、ふっと息を漏らす。将来を期待されているのもなかなか大変だ。 「かっなりあせんぱーい!」 自分を呼ぶ声にふっと振り向くと、頭についている桃色のリボンを揺らしながら駆けてくる少女。 「ひな!」 自分のもとまで辿り着くと手を膝に着き、大きく肩を揺らしながら呼吸をしている。 しかし、すぐにパッと顔を上げると夜の闇をも照らす太陽のような笑顔を浮かべる。 「一緒に帰ろっ金糸雀先輩!」 私はにこりと笑って頭一つ分低い彼女の頭を撫でた。 「今は、『かな』でいいよ」 そう言うと大きな瞳を丸くさせたが、すぐに極上の笑みを浮かべてくれた。 ──そして、あなたと 大好きな初夏の夜を、大好きな子と歩く。ああ、なんて心地よい時間。 「──でね、真紅せんぱいったら意地悪するのよ」 「ふふ、相変わらずかしら。真紅は」 「あ、翠星石せんぱいから貰った飴食べる?」 「食べるかしら。──莓?」 愛らしい薄いピンクのそれを口に含むと優しい甘さが広がる。 「それにしてもひな、遅かったのね」 「うん、もうすぐコンクールだから」 そう言った彼女の笑顔は少しだけ陰った。 「そう──」 中学時代、動くの大好き元気印の雛莓の所属クラブはなんと美術部。 絵が描きたいから、という簡単な理由で入部したが、デッサン等の基礎的な知識はなく、そこから猛勉強。 しかし、その素人さが受けたのかもともとの素質なのか、彼女の絵はあるコンクールで金賞。 そこから彼女のシンデレラストーリーが始まった。あちこちのコンクールで優勝するは名高い芸術家の目に止まるは、で彼女はあっという間に有名になった。 そのおかげで彼女は推薦で私と同じ高校に。とてもじゃないが普通に受けたら雛莓は受かるはずのないとこ。 彼女は一躍有名人。学校で彼女の名を知らない者はいないほど。加えてこの愛らしい容姿と人懐こい性格。 雛莓の周りにはいつも人だかりができていた。 「勉強、忙しいの?」 「とぉっても忙しいかしら。ヒナなんか目が回っちゃうかも」 「うぅー、嫌なのぉ」 「ふふふっ、覚悟するかしら」 「頼りにしてるのよっ。かなっ」 ぎゅ、と腕にしがみつかれて危うくバランスが崩れるとこだった。 笑いながら、ふと考える。この調子なら彼女は何もしなくても有名大学からお声がかかるだろうに。 いつの間にこの二つ年下の幼馴染みは大きくなって、私の前を歩くようになったんだろうか。 先輩と後輩の名がついてから、二人で遊ぶことなんかほとんどない。 これから先も私の知らない人と出会い、関係を作っていくんだろう。私なんかいなくとも、歩いていくんだろう。 明るくて楽しくて可愛くて、そして、そして、──。 友情だけではとてもごまかせなくなってしまった感情を私はどうすればいい。 「カナ、あのね──」 「ん?何かしら」 「ヒナね、カナのこと好き」 「はっ?」 「よかったら、付き合ってクダサイ──」 彼女の瞳は視線がはずせなくなってしまうほど真剣で、とてもじゃないが冗談に見えなくて。 その名の通り苺色に染まった頬につられて私も顔を真っ赤にさせる。 「よ……」 こんなことってあるんだろうか。 「よろしく、お願いしますっ!」 カバンを持つ両手に無意識に力が入る。告白を受ける側なのに、こっちがしたみたいに心臓が強く跳ねる。 「っ……へへ、」 頬を掻きながら蕩けそうなほど甘い笑顔を浮かべた雛苺の髪をゆっくり撫でる。 「よろしくね、かな」 「こちらこそ」 重ねた手を強く握り合う。涼しい風が二人の髪の毛を通り抜ける。 この季節なのに嫌じゃない手のひらの暖かさはもう離したくないと言っていた。 終わり 名前 コメント
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http //yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1294505746/796-806 ―――それは遠い記憶の中で――― ―――それは今でも私の中で――― 「あっ!降ってきた…。」 『今日は気持ちの良いお天気になりそうです。』そう爽やかに微笑んでいた朝の お天気キャスターの顔を思い出す。 少し裏切れしまった気分になる。 こんな日だからかな…。 先週末に陸上の練習中足首を痛めてしまい、来週開催される秋の陸上大会を断念 するようにと、今日顧問の先生に言い渡されたしまったのだ。 あーあ、今は調子も上がって良いタイムもでるようになってたのに。 素直に凹んでしまう。 そんなブルーな私に追い討ちを掛けるがごとく、空からはひんやり感じさせる秋 雨が降ってきた。 まだ家までは少し距離があった。雨も強くなる。 走って帰ろうかなと考えたけど、足首を痛めてるので旨く走れない。 どこか雨宿りできるトコっ…懐かしい。 そこは昔幼い頃良く遊んだ公園だった。 滑り台は少しアスレチック風になっていて、滑り台の下はコンクリートのトンネ ルになっていた。 丁度良い雨宿りスポットで懐かしさもあり、この公園で雨の勢いが弱くなるのを 待つことにした。 トンネルの中でしゃがみこんで、運良く持っていた部活カバンからタオルを取り 出す。 雨止まないなぁ。なんだかボーっとしてくる。そーいやぁ、ここが原点かもね。 懐かしくそんなことを思った。 あっ…や…ば……っ……寝ちゃ………寝てしまった。 ―――いちゃん……にいちゃん……「ねぇ、お兄ちゃん!ってば。」 「なんだよ。ついてくんなよ。今日俺は友達と遊ぶんだよ。だから、今日は桐乃 の相手してやんねーの。いつもついてくんなって言ってるだろ。」 ダルそうに私にそう言い放つお兄ちゃん。 幼稚園の頃は桐乃といっぱい遊んでくれたのに、桐乃が小学校に上がってからは お兄ちゃんは凄く冷たくなった。 「なんでよー。桐乃、お兄ちゃんと遊びたい。お兄ちゃんと遊ぶの。」 ふくれてお兄ちゃんに駄々をこねる。 「あのな、桐乃。お前、足遅いだろ。鬼ごっことか、けいどろするのはいいけど お前すぐ捕まったりするだろ。あれ、いつもすっごい友達に迷惑かけてる気分に なっちまうんだよ。」 「お兄ちゃんのバカッ!!」 桐乃だって足が遅いの気にしてるんだもん。桐乃はお兄ちゃんと一緒にいたいだ けなのに。もー、絶対おっきくなってもお兄ちゃんのお嫁さんになんかなってや らないんだから。そんな言い方しなくたっていいのに。お兄ちゃんのバカッ。お兄ちゃんなんて大 嫌い。ついに、泣いてしまった。 「桐乃、悪かったよ。泣くなっての。じゃ、桐乃が足速くなったら遊んでやるか らよ。毎日遊んでやるから。」 「いや!今遊んでほしいの!」 「だから、今日は無理だって。次の日曜はいっぱい桐乃と遊んでやるから。なっ?」 「ほんとに?」 「あぁ。ほんとだ。」 「ほんとにほんと?」 「ほんとにほんと。」 「じゃ、指切りして。」 「わーったよ。ほら、指切りげんまん嘘ついたら針せんぼん…」 お兄ちゃんは桐乃に指切りをして、じゃお前もちゃんと夕方には帰れよ。と言い 残して行ってしまった。 寂しい。桐乃はお兄ちゃんが大好きで。ずっと一緒にいたいだけなのに。 足速くなって、お兄ちゃんともっといっぱいいるんだもん。 頭で考えると同時に体が動くように桐乃は家の一番近い公園へ向かった。 幼稚園の頃よくお兄ちゃんや友達と遊んだ公園だった。今は小学校の校庭で遊ぶのが お決まりになっているので、小学生はあまり使わない公園である。 お兄ちゃんともっと一緒にいたい。 その一心で桐乃は公園で走る練習をはじめた。 その翌日の出来事、体育の時間に秋の運動会に向けて先生が5人一組形式の徒競 走の組み合わせを決めていた。小学二年になる桐乃には、嫌な思い出である徒競走である。 一年生の時、やはり徒競走があったのだが、結果はビリから二番目。丸々と太った子と さほど変わらない形でのゴールだった。 そのことで、クラスの男の子から『高坂は、デブと変わらない、運動おんちの 高坂ザウルス!』などと、からかわれるようになったのだ。 そして、今回の徒競走の組み合わせは一年前からよく桐乃をからかっていたクラスで 一番足の速い男の子と一緒だったのだ。 「今年は高坂が同じかよ。張り合いねーな。楽勝だな!」などと先ほどから言い たい放題である。 「そんなことないもん。」 「へっ!威勢だけののろまの高坂ザウルスのくせに!」 今年も最悪な徒競走だなー。凹んでしまう。 家に帰ると今日はお兄ちゃんも家にいた。 「ねぇ、お兄ちゃん。いつになったら桐乃と遊んでくれる?」 「…ん?そうだなー、今度の運動会で一等とったらみんなに頼んでやるよ。」 そう微笑んでかえす京介の笑顔が遠く感じる。 「わかった。桐乃頑張る。」 よりによってクラスで一番速いやつと同じ組になったのに。 「どうしたんだよ?桐乃!元気ないのか?」 お兄ちゃんの問に大丈夫と一言応え、桐乃は例の公園へと向かった。 それから、運動会の日まで桐乃は毎日公園に通った。桐乃の背中を押したのは 大好きなお兄ちゃんと一緒にいたいと思う気持ちだった。 動会の前日もいつものように公園で走る練習をしていた。 明日は運動会なんだから。絶対一等とって、お兄ちゃんに褒めてもらうんだから 。 桐乃はいつもより、夢中で練習していた。 ふと、我にかえったのはあたりがすっかり暗くなってしまってからだった。 高坂家の門限は夕方の6時である。 帰ったらお母さんに叱られるの決定だなと思った時、突然大粒の雨が降ってきた。 すぐに滑り台の下にあるトンネルの中に避難する。張り切って練習したせいか しばらく俯いたまま疲れはててそのまま眠ってしまう。 「桐乃、帰るぞ。」 何分ぐらいそこに座り込んでいたのだろう。気が付くとお兄ちゃんがそこに傘を持ってたっていた。 「なんで、ここだってわかったの?」 「勘だよ。勘。運動場いっても、いなかったからなぁ。傘持ってないだろうと思 って探しにきたんだよ。お陰で門限破っちまった。帰ったら一緒におこられろよ。」 京介は数日前に必死で走る練習をする桐乃の姿をたまたま通りかかった時に見て しまったことをふせてそう応えた。 「そっか。迎えに来てくれてありがと。わかった。」 やっぱり、大好きな桐乃のお兄ちゃんだ。やさしくて、頼りになって、すっごく カッコいい。明日頑張って一等とるんだから。 「明日、一等とれるといいな。」 「え?お兄ちゃん、なんか言った?」 「いや、なんでもない。」 「へんなお兄ちゃん。」 かくして、高坂兄妹は家につくなり母にみっちり怒られるはめになったのであった。 運動会当日、先日の夕方に降った雨も夜には止み運動会はひらかれることとなっ た。気持ちのよい秋晴れの中来賓の方や校長先生の長い挨拶を終え、担任の先生 の誘導に従って赤組、白組に別れ自分の出番を待つこととなった。 どうしよう 二年生による徒競走が近づくにつれ桐乃は緊張と不安でいっぱいになる。 いよいよ、桐乃の出番となった。先生の合図と共に次々と5人一組の徒競走がはじまる。 桐乃の組もスタートラインに立つよう指示され、いよいよである。 「高坂ザウルス、引き立て役ご苦労さん。」例の男の子である。 「ふん!今日は負けないもん。」 いっぱい練習したんだから。大丈夫なんだから 「いちについて、よーい…ドン!!」 先生の合図と共に走りだす。 あれっ?去年はこの時点で他の子と差ができていたのに、今年は例の男の子の 後ろにはりつく形になった。 体が軽い いけるいける 例の男の子との差も縮まる。 親御さんの歓声の中、桐乃は夢中で走る。 一等とってお兄ちゃんと一緒にいるだもん 夢中で走る ゴールは目前 男の子と肩を並べる 「おぉ!!」歓声が大きくなる。 ぬく と、思われた瞬間だった。 えっ!? 男の子の背中が遠くなる。 桐乃は地面にけつまづいて大転倒した。 歓声が「あぁー」っと、いう声にかわる 後ろを走っていた子が次々と桐乃を抜いていく あともう少しだったのに 泣きそうになる。 「桐乃ー!!最後まで走りきれー!!頑張れー桐乃ー!!頑張れー!!」 聞き慣れた声がする。 声のする方を見るとお兄ちゃんが、力いっぱい叫んでいる。 頑張るんだ 桐乃はコクリとうなずいて、ゴールに向かって走りだす 「よく頑張ったー」歓声と親御さんの温かい拍手の中桐乃はゴールした。 結果はビリっけつの五位。 「桐乃、そんないつまでもすねないで。桐乃可愛いんだから、ほら笑って。 写真とるよ。」 閉会式を終えて記念写真をとる。 最後まですねてしまった記念写真。 あと少しだった。ほんの少し。 家族と共に夕暮れの小学校をあとにし、家路につく。 「おい。桐乃、お前いつまですねてんだよ。」 「だって…」 ビリっけつの五位。こんなんじゃ、お兄ちゃんと…無理じゃん。練習もいっぱい… また泣きそうになる。 「確かにおしかったなぁ。でもな、今日のお前すごかったよ。カッコよかったぞ 。お前一生懸命練習してたもんな。その成果がでたって感じだったよな。今度、 みんなに桐乃も仲間に入れてくれって頼んでやるからよ。」 えっ??今なんて!?練習…?成果…?なんでお兄ちゃんが知ってるの? 「れ、れ、練習なんか、桐乃してないもん。なんでそんなこと、お兄ちゃんが…」 「知ってるよ。だって、俺はお前の兄ちゃんだからな。」 そう言って夕日の中微笑みかけるお兄ちゃん。 桐乃の大好きなお兄ちゃん。 大好きな、優しいお兄ちゃん。 「お兄ちゃんのバカッ!でも、大好き!」 桐乃は大好きなお兄ちゃんの胸に飛び込んだ。 おっきくなったら絶対結婚しようねお兄ちゃん! …り…の……きり…の…「おい。桐乃。起きろ!なんでこんなトコで寝てんだよ 。」 気が付くとそこに、兄貴が傘を持って立っていた。 「あれ?お兄ちゃん、なんでここに…?」 「えっ?お、お、おに、お兄ちゃん??」 ……思考回路がまわってくる。と共に、桐乃の頬が真っ赤紅潮する。 「うっさい。ほっとけ。この変態!!」 「傘持って迎えに来てやった兄貴に向かって変態だと。…ほら、今日晴れだって っつって傘持っていかなかったろ?」 「あっそ。…で、アンタなんでここってわかったの?」 「ん?勘だよ。勘。なんてったって、俺はお前の兄貴だからな。」 そう言って傘を私に渡す兄貴。 「なっ、…キモッ。……ほんと、アンタって変わらないわね。地味ってゆーかな んてゆーか。」 不意討ちされてとっさに照れ隠し。まっ、私も変わらないか。この公園から今も 走り続けてるんだもんね。 「うっせー。ほっとけ。なんだってんだ。」 「あっ、そーだ。アンタ、今度の日曜日私を秋葉つれてきなさい。エロゲー買う からアンタ必要だし。」 「またかよ。…わーったよ。ついてってやるよ。それより、お前足大丈夫なのか?」 傘をさし、歩きだす京介。 「アンタ、妹が可愛いからって、日曜足大丈夫か痛くなったら休憩しようって、 ラブホとか入ったら殺すわよ。」 憎まれ口をたたきながら、私は兄貴の後ろを歩きだす。 その背中を見て思う。 最近、素直になれないなぁ。って。 でも、ほんとに変わらないなぁ。優しくて頼りになって、カッコいい私の大好き なお兄ちゃん。やっぱり私、今でもお兄ちゃんのお嫁さんになりたいな。 大好きだよ。お兄ちゃん。 ―――それは遠い記憶のあなた――― ―――それは甘くて少しほろ苦い――― ―――大好きなお兄ちゃんとの大切な思い出――― ―――今でも続いてるお兄ちゃんへの思い―――
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889 未来のあなたへ2.5 sage 2008/12/04(木) 12 19 14 ID LbPOeWK8 お昼になったので、プールサイドで榊兄妹と合流する。 それにしても、一応ウォータースライダーは避けてたけど、ずっと二人で滑ってたんだろうか。想像力が拒否した。 昼食は打ち合わせ通り、優香ちゃんがお弁当を作ってきてくれたのでそれをみんなで囲んで食べる。ちなみに具が色々のおにぎり。 出来はともあれ(料理の腕だけはわたしの方が上かな、年季が違う)白米が腹いっぱい食べられるっていうのはしあわせなことだ。 「うめー、うめーですね。はぐはぐ。あ、こっちはおかかだ」 「うん、うまいうまい。優香、ありがとうな」 「ただの御握りですよ。そこまで褒められるようなものではありません」 「二人とも、あんまり食べると午後お腹痛くなるよ? ほどほどにね」 「大丈夫大丈夫。ちょっと休めば腹もこなれるって。休みの日の部活だってこんなもんじゃん」 「体育会系バンザイって感じですね! そういえば、わたしたちはともあれ優香ちゃんは疲れてないすか?」 「大丈夫です。私も体育会系になりましたから」 「え、そうなの? 妹さん、運動部に?」 「はい。二か月前からですが、柔道部に」 「いやー、あれはぶっ飛びましたね。優香ちゃん、いきなりなんですもん」 優香ちゃんが柔道部に電撃入部したのは二か月前だ。 榊先輩にしたわたしの恋愛相談が優香ちゃんに漏れて倒れ、お見舞いに行って危うく生還した翌日に。優香ちゃんは入部届けを持って女子柔道部に行った。 わたしも榊先輩も詳細を知ったのは翌日だった。いや本当に驚いたっす。 ちなみに我が校の女子柔道部は結構な弱小で、全員合わせて八人が九人になったとか。 当の優香ちゃんと言えば至極ノリノリで、朝練の時間に登校してきては、ジャージ姿でランニングをしているのを見かけるようになった。元々部員でさえ参加している人は少数だというのに、熱心なことです。 そういえば部活中もポニテにしてた。こいつはまた惚れる男が増えそうだ、ちっ! なんで柔道部に入ったのか、勿論聞いてみた。返答は 『……護身用を兼ねられれば効率的かと思いまして』 だそうだった。本当にそれだけですか? なんで一瞬口ごもったんすか? しかし、時間帯が合うようになったので優香ちゃんは毎日榊先輩と登下校しているみたいだけど。 ブラコンを隠すのやめたのか、それとも摩訶不思議な理屈付けで榊先輩を欺いてるのか。聞いてみたい気もするけどやめておいた。命は惜しい。 その後。 一休みしてから、ビーチボールで四人遊んだ。正確な競技なんかじゃなくて、プールに半身をつけてボールが落ちないよう適当に打ち合うだけだったけど。 全員運動部だったせいか、かなり白熱する勝負になった。先輩両名はともかく、わたしと優香ちゃんの運動能力が同じぐらいだったのは驚きだ。二ヶ月で一体どれだけ鍛えてるんですか。 流石に、一番最初にへばったのは優香ちゃんだった。少し肩を上下させて淡々と悔しそうに「疲れました」と言っていて。榊先輩が付き添って、寝椅子で横になっていた。 しかし、ああしてると恋人同士にしか見えないけれど……むしろわたしと雨宮先輩の方が兄妹に見えるんだろうなあ。 「んじゃ、こっちはどーしますか、先輩?」 「そうだね、どうしようか。晶ちゃんは疲れてない?」 「いーえ全然、と言いたいところですが結構足にきてます。いっぱい泳ぐのはちょっと辛いっす」 「それじゃ、室内の方にサウナがあったみたいだけど。そっち行ってみる?」 「うわー、サウナなんて初体験ですよ。それじゃれっつらごー!」 ぱしり、と雨宮先輩の手を取って室内プールの方に歩く。あの人は苦笑して、そのまま後に続いた。 わたしはといえば、迂闊に振り向くこともできなかった。こんなに顔が熱いんだ、きっと真っ赤だっただろう。 おかげでサウナの場所なんてわからないわたしは、先輩をひいてプールサイドをしばらくうろうろする羽目に陥る。恥ずかしくて死にかけた。 890 未来のあなたへ2.5 sage 2008/12/04(木) 12 21 09 ID LbPOeWK8 サウナというのは要するに、室内プールの一角にある部屋だった。他のモルタルな内装とは違って、ロッジのような丸太の壁床。 部屋の中は、目に染みるような熱の空気がたちこめていた。予想に反して、蒸気がもうもうというわけではないみたい。ひたすら、空気そのものが熱い。 狭いサウナルームに、他の人はいなかった。ぺたんと、段差に腰を下ろす。あつっ! 「熱いですね……」 「そうだね……」 わたしの呟きに、斜め前に座った雨宮先輩が力なく返す。ローテンションなのは、吸う空気を少しでも少なくするためだ。肺すら熱い。 見る間に、じっとりと汗が全身に噴き出してきた。確かにこれは体重が軽くなりそうだけど、水分を絞り出すことを痩せると言うんだろうか。 頭がぼうっとする。 「そういえば……大会、お疲れ様でした」 「うん。ありがとう……少し寂しいけどね」 サッカー部の大会が終わったのはつい先週だった。結果は地区予選敗退。二回勝ってそこで負けた。結果からいえば、相手は地区予選の優勝校だったので仕方ないと言えば仕方ない。 三年生にとって引退前の最後の試合。 試合に負けたその瞬間、榊先輩は泣いていた。感情表現豊かな人だからなあ。ついでに言うと、優香ちゃんは土手で見てた。なんかあの辺だけ、オーラが違った。 榊先輩に釣られてか、他にも泣いている人はいた。雨宮先輩は、悲しそうだったけど他の人を慰めて整列させて回っていた。 わたしといえば、どこかのアニメじゃないけれど。そういう時、どういう顔をすればいいのかわからなくて。みんなの視界に入らないよう、ベンチの後ろで立っていた。 「……」 「……」 「……」 「……」 頭がぼうっとする。腕が熱い。 頭がぼうっとする。足が熱い。 頭がぼうっとする。頭が熱い。 「雨宮先輩」 「……なに?」 「……好きです、付き合ってください」 ここ、で。 告白しようなんて思ってなかった。作戦では今日ありったけ好感度を稼いで、次はなんやかんやと言い訳をして個別デート。それを何度か繰り返し、フラグを立ててから告白、という戦略だった。 元より相手は、わけのわからない理由で美少女を振りまくる女殺しだ。そうでもしなければ、わたしのようなチビなんて、とてもとても。 「え……」 「部活は、もう終わりですよね。これからは受験で忙しいのかもしれませんけど」 「あ、うん……」 「邪魔とかしませんから、卒業まで……難なら、夏休みが終わるまででいいですから……付き合ってくれませんか?」 「……」 雨宮先輩は、ぽかんとした表情でこちらを見ている。当たり前だ、当たり前だ。視界を占める空気が熱い。 とてつもない自爆をしたのだと理解はしていたのだけど、熱さで茹った頭は危機感を感じるほど回っていなかった。 だから、ただ馬鹿のように、雨宮先輩の返事を待つ。 「……」 「……」 「……」 「ごめん」 ――――ああ 終わった。 その瞬間、わたしの中で柔らかいものが凍る音がした。 わたしの人生で、今まで飽きるほど聞いてきた音。 今日は楽しい日だった。こんなプールに来たのは初めてだし、こんな風に多人数で遊んだのも初めてだし、好きな人と一緒に一日を楽しめた。良い日だった。感謝すべきだ。 最後、盛大に自爆してしまったのが唯一残念だったけど。 人生なんてそんなものだろう。 よくある話だ。 891 未来のあなたへ2.5 sage 2008/12/04(木) 12 22 12 ID LbPOeWK8 「あはは、ごめんなさい。変なこと言っちゃって」 笑った、笑えた。多分、凄く、自然に。 凄い発見をした。人間は辛い時ほど笑うんだ。その必要があるから笑うんだ。 辛い時ほど笑うなら、全て笑い話で済む。どこかのアニメじゃないけれど、わたしは笑えば良かったのだ。 真理発見。 ぐらり、と天地が回った。 「晶ちゃんっ!?」 サウナの熱と、興奮の熱で、わたしは頭部で『の』の字を描き その場でぶっ倒れた。 わたしが、雨宮先輩を選んだのは 恋とか、愛とか、そんなものじゃない。そもそもわたしは、そんなものを生まれてこのかた与えられた憶えがない。知らないことはできない。 だからと言って、命の危機を助けてもらったとか、そんなイベントがあったわけでもない。 わたしが部活に入ったのは、言ってしまえば良い男を探すためだった。すっごい売女。 それがサッカー部だったのも、大して理由があるわけでもない。強いて言うなら昔から、公園で同年代の少年が、サッカーをするのを見ていることが多かったから。 スペックだけで選ぶのなら、部長氏がダントツだっただろう。成績優秀眉目秀麗品行方正サッカー部部長って、あんたどこの典型的フラれキャラですか。 部長氏を選ばなかったのは競争率の問題もある。ファンクラブみたいなものまで存在するからなあ、あの人。 競争率の問題だけならば、榊先輩を選んでもよかった。そこで雨宮先輩を選んだことに、大した理由はない。 わたしはサッカー部に潜入するにあたって、まず笑顔の練習をした。TVを、周囲を観察して、鏡の前で一人練習を繰り返した。 KYで対人能力ゼロの女が、狙った男を落とせるはずがないから。別人になろうと思った。というか、別人になりたかった。よわっちい人間だな、わたしは。 笑顔の仮面を被ることを、わたしは学んだ。だけど 『ちーっす! このたびサッカー部のマネージャーになりました藍園晶っす! どうか気軽に晶ちゃんでよろしく!』 自己紹介の時の空気を思い出すと、のたうち回って叫びだしたくなる。ごろごろ。 対人能力の欠如を隠そうとするあまり、違う意味で痛いキャラになってしまったという悲劇というか喜劇がその時わたしを襲った。しょせんKYは運命から逃れられないんですか。ハブという。 けれど。 完全に滑った空気の中、わたしの捨て身ギャグ(としか思えない)に、一番最初に再起動したのは。キングオブ馬鹿の称号を持つ榊先輩ではなく、ひょろっと背の高いヤワそうな先輩。 『あはは。よろしくね、晶ちゃん』 それが、雨宮義明という人だった。 その笑顔に惚れた、なんて馬鹿なことは言わない。 ただ。幾度練習しても心からの笑顔が身につかないわたしにとって。その人の微笑みは、ある種の憧憬を呼び起こすものになっていった。 元々、わたしに恋愛感情なんてものはなかった。ただ、雨宮先輩を選び、好きになると決めただけだ。 けれど それがやっぱり、叶わないものだとしても。 それでもわたしは、雨宮先輩を選んでよかったと思う。 あはは。 892 未来のあなたへ2.5 sage 2008/12/04(木) 12 24 11 ID LbPOeWK8 意識が朦朧としていたのは、多分数十秒だった。 どぼん、硫酸の海に放り込まれる。 「い、いぢぢぢぢぢぢぢぢぢぢっ!?」 全身に刺すような痛みが走り、わたしの意識は一気に覚醒した。 死ぬ、溶ける、と手足をじたばたさせるけれど、縛られてるようで上手くいかない。 「ぎゃーす!」 「晶ちゃん、大丈夫? 晶ちゃん?」 勿論、んなこたーなく。 真相は。ぶっ倒れたわたしを抱えて雨宮先輩が手近なプールに飛び込んだのだった。 皮膚が剥がれるかと思った激痛は、わたし自身と水との温度差だった。サウナ恐るべし、拷問に使えると思う。 さておき。 「あいたたたた。ありがとーございます。危うく燻製ハムあたりになるところでしたよ」 「………」 「先輩?」 軽口にも答えず、雨宮先輩はわたしの体をじっと見ている。 え、まさかツルペタスク水に今さら覚醒したとか? と自分の貧相なプロポーションを確認……げっ! 「晶ちゃん……その、痣……」 わたしのツルペタスク水の露出部分。肩や腕や足やあちこちに、痣やらやけどやらの古傷が浮かび上がってきていた。 いつもは風呂上がりに現れる現象なのだが、サウナで同じ効果があったらしい。考えてみれば当たり前だ。 水の中、体温が常温に近づくにつれ、見る見るうちに古傷は姿を消していく。後には日焼けした肌が残るだけ。なんか変身ヒーローみたいだ。 ただし、わたしを抱き留める雨宮先輩の記憶からはまだ消えていないらしい。どうしよう。 全身の古傷。打撲にアザ、煙草を押し付けてできた火傷。まともな推理能力があれば、回答は限られる。 えーと。実は戦場帰りとかどうでしょう。はい、言い訳無理! 「晶ちゃん……もしかして……」 「あ、あはははー」 笑った。やはり、本当に辛い時に人は笑える。真理だ。 もう……いいか。 誤魔化す必然性が限りなく薄くなっているのに気付いて、更に笑えた。どうせもう、わたしはフラれているのだ。 この場で裏をぶちまけて、お互いすっきりさせて終わろう。TVのドッキリのようなものだ。自棄になっているのも否めない。 雨宮先輩の胸をついて、ゆらりと離れる。声の届く範囲に、他の人はいない。 「えへへ。まあ、よくある話なんですけどね」 よくある話をした。 物心つく前に両親が離婚したこと。 父親がどうしようもないロクデナシなこと。 基本的に放置されて育ったこと。 父親から打撃や根性焼きを受けるのが嫌で出歩いてばかりだったこと。 KYで対人能力ゼロな人間になったこと。 餓えるのを避けるために料理を必死に覚えたこと。 自業自得でイジめられてきたこと。 キャラを作ってサッカー部に潜り込んだこと。 大した理由もなかったけど雨宮先輩を選んだこと。 本当は恋とか愛とか、全然分かんないこと。 え? どうして、そんなことをしたのか、だって? 893 未来のあなたへ2.5 sage 2008/12/04(木) 12 25 46 ID LbPOeWK8 「父親がねー、中学出たら働け働けってうるさいんですよ。 もうね、本当にうるさいんですよ。わたしが小学校に入る前からずっとですもん。 あれはもう何をどうひっくり返っても、進学費用なんか出す気はないっすね。 多分未来の金蔓と思わなきゃ、わたしの養育なんてやってられなかったんでしょうねえ。先行投資って奴です。 だからまあ、そういうわけでわたしの学生生活もあと一年と半年なんすが。 中卒で社会に出て働くとなると、最終的にはお水系に行くしかないと思うんすよね。いわゆる十八禁系です。 けど、さすがのわたしもそういうところで処女を捨てるのはどうかと思ったんで。 せめて最初ぐらいは。ちょっくら誰かを騙くらかそうと思ったわけです、はい。 あはは、すみませんでした、雨宮先輩。わたしが言うなって感じですが、騙されないでよかったすね」 え、それでいいのか、って? あはは。 「だってこんなのよくある話じゃないですか」 なにより 「人生なんて、そんなもんですよね?」 誰だって、大なり小なり事情を抱えて生きている。他者と比べてどうだとか、そんなことをしても何も変わりはしない。 わたしは、自分が特別な存在だなんて、特別に惨めな存在だなんて思わない。同じような境遇なんていくらでもいる。よくあるよくある。 それに、最終的には誰だって。人生なんてこんなものだと諦める。 わたしの場合は、それが他人よりちょっと早かっただけだ。 あはは。 楽しい時も辛い時も人が笑うなら、人生なんてギャグで済む。そういうものなんだろう。 そんなことを、雨宮先輩に面白おかしく打ち明けた。その後、榊兄妹と合流し、その日は解散になった。お疲れ様でした。 ただ、あの話の後から。雨宮先輩が黙ったままなのが気になる。うーん、悪いことをしてしまったかも。 「まあ、あんまり気にしないでください、あはは」と肩をバンバン叩いておいたけど。あれで良かったんだろうか。こういう時KYは困る。 それから二週間。雨宮先輩と会うことはなかった。 翌日、わたしは土産を持って榊家を訪れた。土産は駄菓子の詰め合わせ。安っ! 「というわけで、作戦大失敗に終わりました。支援打ち切りというわけで、超申し訳ありません」 「ええええええ!?」 「……」 オーバーリアどうもありがとうございます、榊先輩。優香ちゃんは無言だけど流石に驚いてるようだ。 「ちょ、ちょっと待って! どういうわけ!?」 「いやー、昨日二人でいる時に、勢い余って告っちゃって。ばっさり断られました、うわははははは」 「ええええええ」 二度目のオーバーリアどうもあり(略 のけぞって驚く兄を尻目に、優香ちゃんはわたしに一言問いただした。 「藍園さんは、それでいいの?」 「いや、良いも悪いも。これ以上はストーカー行為規制法適用されちゃいますって。あ、部活にしこりを残すようなマネはしませんから大丈夫っすよ」 「そう」 というわけで。榊兄妹への義理を果たしておく。いやはや本当、この二人には余計な迷惑をかけたものだ。雨宮先輩を入れれば三人か。 榊先輩はどうも納得できなかったようだけど、最終的に恋は水物ということで落ち着いた。 一方、優香ちゃんの方は、既にまるきり興味を失ったかのようにクールなものだった。ただ、最後わたしが去り際に 「藍園さん」 「うい?」 「諦めているの?」 「……ええ、まあ」 「そうですか。けれど私は諦めませんから」 そう言った優香ちゃんの瞳には、いつかのようなおぞましさが垣間見えた。 894 未来のあなたへ2.5 sage 2008/12/04(木) 12 26 19 ID LbPOeWK8 わたしにとって優香ちゃんは、一種の憧れだった。 世間のしがらみとか、自分のKYな性格とか、そういった俗事に翻弄されてきたわたしにとっては、憧れるしかなかった。 優香ちゃんが聞いた『諦めているのか』というのは、雨宮先輩のことじゃない。人生のことだ。 そう、わたしは自分の人生を諦めている。 諦念は最強の麻薬だ。どんなに辛いことが待ち受けていようと、諦めてしまえばどうってことはない。 わたしはそうして生きてきた。いわゆる負け犬人生だ。 優香ちゃんもまた、何かを抱えている。その正体まではわからないけれど、世間のしがらみなど意に介さない態度を見れば、それはとても大きなもののような気がする。 それでも優香ちゃんは『諦めない』と言い切れるのだ。今までも、これからも。 人間がいつか諦めるものならば。 優香ちゃんもいずれは諦めるのか。 それとも人間であることの方を……いや、妄想はこれくらいにしておこう。 わたしは、優香ちゃんに憧れることしかできない。わたしはとうに諦めた。 ああ、わたしは本当に弱い人間だ。こういうところは、あのロクデナシに似たのかも。 まあ……人生なんて、そんなものだろう。 プールに行ってから二週間後。 夏休みが終わり、二学期が始まった。今日は始業式。みんな休みボケでだるだるの日です。 最終日に優香ちゃんから聞いたところでは、榊先輩は夏休みの宿題を、妹に尻を叩かれながらぎりぎりで仕上げたらしい。予想通り過ぎる人だ。 ちなみにわたしは夏休み前半にさっさと済ませた。意外だろうが、昔から学力は高い方だ。だって学校に来てすることが建前抜きに勉強しかないんだから。ヤな理由だ。 さておき。 始業式が終わり、課題を提出し、教科書を受け取り、そして放課後になった。 半日授業なので一般生徒は帰ったけれど、運動部は午後も部活がある。大会の後はお休みになっていたから半月ぶりだ。 今日から二年生への引き継ぎが始まる。誰が部長になるんだろう。 優香ちゃんと顔を突き合わせてお弁当をつつきながら、そんなことをあーだこーだと話し合う。 概して、二学期の始まりは、それまでと大差はなかった。 ただ 「えーと。藍園さん、いますか?」 「あれ、雨宮先輩じゃないすか。えへへ、お久しぶりです」 「うん、久しぶり。部活が始まる前に、ちょっと話したいことがあるんだけど、いいかな?」 「どうぞ」 「え、なんで優香ちゃんが答えるの? まあいいんだけど」 雨宮先輩に連れて行かれた先は、本当にちょっとの距離だった。普段使わない方の階段踊り場。 教室からの距離にして十mぐらいだろうか。人気はない。 さて何の話だろう、と雨宮先輩と向かい合って考える。 まあ考えるまでもなくプールでゲロった件ですな。家庭裁判所でも薦められるんだろうか。 雨宮先輩は微笑むでもなく、真剣というわけでもなく、なんだかひどく自然体というか。何かを悟りきったような表情だった。 そのまま、こんな風に話しだした。 「晶ちゃん」 「はい」 「僕にも片親しかいないんだ。僕の場合は母さんだけなんだけど」 「はい?」 予想外の場所から、よくある話が始まった。 895 未来のあなたへ2.5 sage 2008/12/04(木) 12 27 41 ID LbPOeWK8 「母さんは昔離婚して、女手一つで僕を育ててくれたんだ。 あの人は僕を愛してくれてるし、僕はあの人を尊敬してる。今までも、きっとこれからも。 けど母さんは、ときどきとても辛そうなんだ。どんなに明るく振舞っても、やっぱり女一人で子供を育てるのは大変なことなんだ。 そんな時のあの人は、離婚したことを、もっと言えば結婚したことを、すごくすごく後悔している。心の傷になっているんだ。 昔の写真は全部燃やしてしまったらしいから、僕は父親の顔も知らない。母さんは美人だけど再婚の話もないし、そういうことを言い出すとすごく怒るし怖がるんだ。 だから僕も自然と。結婚することが、恋愛することが怖くなっていったんだと思う。 僕が将来、母さんのような人間を生み出してしまったらって。考えるだけで恐ろしくなる。 けれど……それはやっぱり、逃げているだけなんだな。昔、あの人が言っていたんだ。 男が最後まで責任をとれるのは、人生で一人だけなんだって」 そこで雨宮先輩は一息ついた。 わたしは、いきなりのマザコン全開発言に、硬直するしかなかった。 そして 「藍園晶さん。結婚を前提に付き合ってください」 ぶっ飛んだ。 え、え、ええええええええええええええええええええええええええ!? 「な、なななななに言ってるんですかこのマザコン野郎!?」 「結婚を前提に……」 「大事なことだからって二回言わなくてもいいですよ!」 「そっか」 「ちょ、な、えええええ。いったい何がどうしてそうなるんですか!?」 「晶ちゃんを助けたいと思ったんだ。けど、最後まで責任を取るにはこの方法しかないと思った」 「え、だ、結婚って……それ同情じゃないですか! 恋愛感情ないでしょう!」 「うん」 「即答された!?」 「これから好きになればいいよ。僕は晶ちゃんのこと、好きになれると思う」 「そ、そんなんでいいんですか!? 大体、一生に一度ってあんたなんでわたしみたいな根暗チビに使うんですか! わたしみたいなのはよくある話ですよ! 雨宮先輩なら高校入ればギャルゲみたいに女の子よりどりみどりですって! 人生バラ色のフラグ根元から折ってどうするんですか!」 「ずっと考えて決めたんだ。僕は晶ちゃんを選んだことを、この先絶対後悔しない。いや、逆に後悔しないために選んだんだ」 「な、え、う、う」 「勿論、晶ちゃんが嫌なら断ってくれて構わない。でも、僕から撤回はしない」 「う、うううううううう……」 896 未来のあなたへ2.5 sage 2008/12/04(木) 12 29 03 ID LbPOeWK8 なんだそれは。 なんだそれは。 意味がわからないぞマザコン野郎。 わたしが、わたしが今まで。どんな思いで何もかもを諦めて、暴力と無視と飢餓を耐えてきたと思ってるんだ! 辛かった! 辛かった! 本当に辛かったんだ! 助けてって、助けてって、何度も叫んだんだ! けれど、誰も助けてくれなかったんだ! 父親も、顔も知らない母親も、同年代の少年少女も、先生も、誰も、誰も! わたしがようやく思い知って、ようやく全てを諦められたのに、こんな。 こんな……! うう うう 「うあああああああああああああん……!」 わたしは、泣きだした。 これまでずっと、我慢してきた涙が。頼る人がいなくて、ずっと我慢するしかなかった涙が。とうとう、とうとう、溢れだした。 ああ。 ああ。 わたしは家族を知らない。 物心ついたころには家庭というものはすでになく、わたしは誰からも愛情を学ばずに育った。 一人で生きてきた。 誰かに触れる方法がわからなかった。 どう頑張っても、知らないことを行うことはできず、わたしは独りのままだった。 人に触れることを諦めた。そうしなければ生きてこれなかった。 けれど、けれど。 夏休みの終わりに わたしは、独りで、なくなった。 晶ちゃんのDOKI☆DOKI恋の大作戦……成功
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あらすじにもある 『わずか3票差』で負けたいーくん。 その3票ってじつは。。。 な~んて勝手に想像して作っちゃったお話ですw あくまでも、本編とはなんら関わりありません(笑) そんなあなたも「あっ」。。。なんて経験はないですか? その1 前作の愛人編 投票所へとわざわざ足を運んでいても、 ちょっとした不注意で せっかくの投票が無効になってしまってるかもしれません。 気をつけましょうねw そして実はあの人も? なんて思って作ったのがこの話。。 ↓ その2 秘書編 と、くればやっぱりこの人もでしょ(笑) と思って作ったのが ↓ その3 妻 編 でもって本人たちはまったく気づいていないんだろうなと(笑) 勝手に想像しながら本編みると また違った面白さも味わえるかもしれません(^m^) というか、本編に出てるのか?この人たち!? みなさんも投票の際にはお気を付け下さいネ(笑) それでは当日を存分にお楽しみくださいませ♪ 注) このおまけまんがは 本編とはまったく関係ないですからね~
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じりじりと、ひりつくような陽射しが降り注いでくる。 「ふぃー……あっついねー」 「ホント、今年の陽射しはキツいよなぁ」 小さな庭の片隅でかがんでいるお父さんが、へばったような声を上げている。 いつもインドア生活だから、さすがにこういう天気はキツイのかな。 「ゆーちゃん、大丈夫?」 「うんっ、帽子があるから大丈夫だよ」 植木ばさみをパチパチと響かせながら、ゆーちゃんは楽しそうに笑顔を向けた。 その頭にちょこんと乗っかっている白い麦わら帽子が、ゆーちゃんのかわいさを倍増させてる。 くうっ、いい萌えポイントだっ! 「お姉ちゃん、こういう色合いのは穫ってもいいんだよね?」 「そうそう、真っ赤でいい頃合いだねー」 ゆーちゃんが手にしていたのは、真っ赤に熟したトマト。 私はというと、大きく育ったピーマンを収穫中。こっちもゆーちゃんも、手にしたかごの 中にはたくさんのトマトとピーマンが入っていた。 「お父さん、そっちはどう?」 「ああ、なかなかいい感じだぞ」 そう言いながら、お父さんは立ち上がってザルに積んだ茄子をこっちに見せてくれた。 「おー、こりゃまた豊作だね」 「いっぱりお料理できそうですね」 黒紫色の大きめの茄子は、そこらの八百屋にはなさそうな大きさ。こりゃ食べがいがありそうだ。 「焼き茄子に揚げ茄子、茄子味噌炒めにはさみ揚げ……うむ、たくさん食べでがあるな」 「ねえねえ、今度かがみとか呼んでお食事会してもいい?」 「あっ、私もみなみちゃんと田村さんを呼びたいんですけど……」 「いいよ、二人ともいっぱい呼んできなさい」 「ほんとですか? ありがとうございますっ!」 「よしっ、いっぱい腕を振るっちゃうぞー」 返事をしたお父さんのニヤケ顔は無視して、ゆーちゃんと喜び合う。 その時吹いてきた風は、今までとは少し違う涼しさを含んだ風だった。 ----------------- 穫れたてを、あなたにも ----------------- 「はいっ、お父さん、ゆーちゃん、お茶だよー」 「おう、サンキュ」 「ありがとう、お姉ちゃん」 居間の扇風機で涼んでいるゆーちゃんとお父さんに、よく冷えた麦茶の差し入れ。暑い 陽射しにあてられたら、ちゃんと水分補給しないとね。 「んじゃ、私も一杯、と」 自分のコップに麦茶を入れて、ボトルを冷蔵庫に戻す。野菜室をのぞいてみれば、さっき 穫ったばかりのピーマンとトマトが冷やされていた。 「夕ごはんが楽しみやねー」 そう言いながらこくっと一口麦茶を飲むと、のどを冷たいお茶が駆け抜けていく。 くぅーっ、この冷たさが一番暑さに効く! 「茄子は、シンプルに焼き茄子といくか。おろし生姜をのっけて、鰹節をふりかけて」 「しょう油もいいけど、だしもいいんだよね」 「私の家は塩をつけて食べてたよ」 「そっか。んじゃ、作ったら全部試してみよっと」 コップ片手に居間に戻ると、お父さんは仏壇のあたりを慎重に片付けていた。 「お盆前に片付けたばかりじゃん、そこ」 「いや、とりあえず気分的にな」 仏壇を布巾でていねいに拭きながら、お父さんがぽつりと言う。まあ、その気分もわからなくはないか。 「うしっ、これであとは野菜を乗せればと」 野菜が乗せられた小さなザルをお母さんの写真の前に置いて、軽く拝んでみせるお父さん。 「今年はなかなかの豊作だったぞ。いつも通り、お前にもおすそわけだ」 慈しむように言いながら、お父さんはお母さんの写真に向かって笑いかけた。 それは、お盆以外にもするお父さんとお母さんの毎年のやりとり。こうやって野菜を 収穫した日は、穫れた野菜を一個ずつお供えすることにしていた。 「んじゃ、俺らも食べるとしますか」 「はーい」 「いただきますっ」 そう言って、氷水が入ったボウルに浮かんでいるトマトを一つずつつかんでひとかじり。 「……おー、あんまり酸っぱくなくて甘いね」 「ほんと、とっても甘いです」 「スーパーで売ってるのと全然違うだろ。食べ頃を収穫したからな」 お父さんが言うとおり、スーパーで売ってるのは食感だけっていうのが多いけど、この 穫れたてトマトは果物みたいに甘かった。 「確か、スーパーで売ってるのってまだあんまり赤くないうちに出荷するんでしたっけ?」 「ああ。だから途中で赤くなっても、あんまり甘くないのが多いんだよ」 「熟したのを出荷しても、途中で熟れすぎて腐っちゃったりするらしいし」 最近は甘めに開発された『フルーツトマト』とか売ってるけど、あれは高すぎてなかなか手が出せない。 でも、これだったらかなり甘いし十分だね。 「俺がガキのときなんかは、みんなこういうトマトだったんだけどな」 「そうなんですか?」 「よくかなたの家の畑に忍び込んで、庭で遊んでたかなたに怒られたもんだ」 「お、お父さんってばそんな頃からお母さんにメーワクを……」 感慨深そうにうなずいてるけど、それってすごく困ったちゃんじゃないデスカ。 「あ、あはははは」 話を聞いてたゆーちゃんも、すっかり呆れちゃってるよ。 「今思えば、幼なじみの通過儀礼ってやつだったんだろうな」 「そんな時からフラグを……」 「ん? 言われてみればそういうルートだったのかもしれないな。ふむ、そっかそっか」 「???」 呆れてる私とクエスチョンマークをいっぱい浮かべてるゆーちゃんを置いてきぼりにして、 お父さんがどんどん暴走していく。ああ、お母さん、あなたの夫は相変わらずなヒトですヨ。 「そうなると、あの家庭菜園もそのフラグのたまものってやつか」 「あの家庭菜園って、お母さんが始めたんだっけ?」 確か、かなり前に一度そんなことを聞いたことがあった気がする。 「ああ。この家に住み始めてからもそうだけど、その前に住んでたアパートが始まりだったんだ」 「アパートって……よく管理人さんが許してくれたね」 「その頃はまだ仕事ももらえてなかったもんだから、頭を下げてな。庭の一角を借りて、 ちょっとした菜園を作らせてもらったんだよ」 あ、ちょっと遠い目。昔のことを思い出してるのかな。 「そのきっかけが『野菜は買うよりも作るほうが安上がりです』っていうかなたの言葉でさ。 さっきも言ったけど、実家で家庭菜園をやってたもんだからコツとかもわかってたみたいで」 「へえ……そうだったんですか」 「お父さんとお母さんにも、苦労してた時代があったんやねー」 今でこそ一戸建てに住んでるけど、二人ともよくある駆け出し作家の生活ってのを経験してたんだ。 「それまでは酷かったからな。芋がらと大根の葉っぱだけが入ったすいとんとか、九分がゆとか」 「うわっ、それは凄い」 というか、想像以上だってばそれは。よくそれで食べ繋いでたもんだよ…… 「かなたが野菜を作ってからは、ご近所さんと交換したりなんだりでいろいろ食べられる ようにもなって。ここに引っ越してからも『いつ食べられなくなるかわかりませんから』 って言って、庭の片隅で家庭菜園を作ったんだ」 「それが、あの菜園?」 「ああ。かなたが遺していったものだからな……しっかりと、守っていかないと」 そう言いながら、お父さんがまたトマトをひとかじりする。 「かなたが食べさせてくれたこの味を、忘れたくないってのもあるんだけど」 「確かに、お店とかじゃ買えない味ですからね」 感慨深げなお父さんの表情を見てると、たまに見せるおふざけはカモフラージュなんじゃ ないかって思えてくる。もしかしたら、昔のことを思い出してしんみりしてるのかなーって―― 「そうそう。それに、こういうのもなかなか萌えるアイテムだろ? それを持ってるのは 男にとっていいステータスだって証拠だろうし」 って、前言撤回だ前言撤回! このヒトはこれが地なんだ! はあ……ちょっとでも心配して損した。 「まあ、それは冗談として」 全然冗談じゃない。今のアナタの目はマジだった。 「これのおかげで、今の俺があるようなもんだからな。苦しいときもこれで助けられたし、 あの菜園は俺にとっての戒めみたいなもんだ」 「売れるようになっても、驕るなってこと?」 「ああ、かなたにもそう言われたな。少しずつ認められるようになったときも『これから先、 まだまだわからないんですからね』って」 やっぱりできた人だ、私のお母さんは。よくこのお父さんを支えられたもんだよ…… 「庭をいじって、こいつらが実るたびにその言葉を思い出すんだ」 「そっかー……」 それでも、お母さんへの想いは本物なんだなって思い知らされる。 ちゃんとお母さんの言葉を覚えていて、こうやってずっと守り続けてるんだもん。 だから、私もちゃんと二人が作ったものを―― 「じゃあ、私たちも守っていかないとね」 「私も、お手伝いしますねっ」 せっかくお母さんが作っていたんだもん。しっかり守って、しっかり育てていかないと。 「ああ、よろしく頼むよ」 私とゆーちゃんの言葉に、お父さんが強くうなずいた。 「よーしっ、じゃあ今日は手伝ってくれたお礼に、俺が夕飯をつくってやろう。どうだ? 茄子とトマト、ピーマンのパスタってのは」 「おー、それはいいね。ゆーちゃん、ピーマンとか大丈夫だよね?」 「うんっ、食べられるよ。パスタも大好きだもん」 「んじゃ、それで決定な。かなたの分も、ちゃんと茹でてやろっと」 ははーん、それが目的ってやつですか。まあ、たまにはお父さんの手料理でも味わってみますかね。 お母さんの写真立てをそっとなでているお父さんを眺めながら、私はまた甘いトマトをひとかじりした。 というわけで、お母さん。 今年もお父さんが一生懸命育てた想い、受け取ってあげてください。 私とゆーちゃんの想いも、いっしょに受け取ってくれると嬉しいです。 シリーズ「遠い音楽」の他作品 HOME 古祀 懐想譜 小さき祈り 愛は静かな場所へ降りてくる コメントフォーム 名前 コメント この人の話は心が暖かくなる! -- 名無し (2010-05-05 07 04 42) いい話やな -- 名無しさん (2007-12-19 06 07 16)
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「おとこのこ……」と、チリーンさん。 「しかも強そうな子……」と、ユキメノコさん。 新たに僕の元にやってきたこの二匹は、正直つかみどころがない。苦手なタイプだ。 エスパータイプとゴーストタイプだから苦手なのは当たり前なんだけど、会話らしい会話が出来そうにないんだよなぁ……。 「あ、あの……」 どうにかコミュニケーションを取ろうと切り出すも、チリーンさんは僕に不思議な視線を送りながら微笑んでいるだけで反応がない。ユキメノコさんは口元を隠しながらクスクスと笑っているだけで……。もうほんと、どうしたらいいんだろう。 思えば僕は、今までまともに女の子と話をしたことがなかった。 どうやったらうまく戦えるかを『ひかえしつ』の女性ポケモンと話をすることはあったけど、バトル向きじゃない女の子ポケモンに向いた話題なんて持ち合わせていない。 この二匹に合う話題がわかるわけじゃないけど、それでも、こういう状況に馴れていれば臨機応変に対応できるものなんだろう。 そういえば、ひかえしつ仲間のエルレイドくんはそんな雰囲気を醸し出していた気がする。 「ねえ、あなたはなんのためにたたかうの……?」 突然チリーンさんが投げかけてきた質問。そんなの決まってるじゃないか。 「大事なご主人様のため?」 そう、そうだよ。って、ユキメノコさん僕の心を読んだ? いや、違う。みんな同じ気持ちなんだ。このポケモン達も、ご主人のために戦いたいって思ってるのかな。 「でも、あたしたちはたたかわない」 「私達は、ご主人様の心を癒すためにここに居る」 こころを、いやすため? 「パソコンのがめんごしにあたしたちをみてるごしゅじん、とてもうれしそう。でも、ごしゅじんのためにたたかえるあなたがうらやましい」 チリーンさん……。やっぱりそうなんだ。 「だからね、お願いがあるの。私達と戦ってほしいの。強くなければ戦えない。でも、戦えば強くなれるから」 そうか。そういうことだったんだ。戦いを好まない女の子だけのボックスじゃ、バトルの練習相手が居ないから、僕はちょうどいいってことなのか。 でも、そういうことならお安い御用だ。 「いいですよ。でも、今は疲れてるんでまた後でお願いします。ちなみにお二人のレベルはいくつなんですか?」 たぶん、リーシャンやユキワラシから進化したばっかりなんだろうな、と思っていたんだけど……。 「はちじゅうよん」 「91よ」 なんか僕よりずっと上なんですけど。 「あなたはいくつ?」 「……50です」 レベル調整されてますから。 二匹はさっきまでの表情を保ちながら、僕に冷たい言葉を掛けてくる。 「なぁんだ。つまんないの」 「期待はずれ……」 それだけ言い残して去っていく二匹。もしかして、僕はただからかわれただけなんだろうか……。 メニュー 移動次ページ 前ページ 作品目次 ページの先頭へ リンク作品一覧 更新情報 外部へ? トップページ
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☆ ☆☆ 「…じゃあ、もう行くね」 靴を履き終えた娘が、玄関に見送りに来ていた私に言う 「ん、忘れ物はなぁい?」 「うん…大丈夫」 そう言いながらも娘はそわそわして落ち着かない、それもそのはず、今日はゆたかちゃんの家に泊まりに行くのだそうだ がちゃっ! いつもはゆっくり目に開けられる玄関のドアも、今日は勢いよく開かれた 「…行って来ます」 「気を付けて行くのよー!、家の方に迷惑をかけないよう――」 「…分かってるー!」 「ふふっ…♪」 玄関を飛び出すと直ぐに娘は走って行く 返事が救急車のサイレンの様にだんだんと小さく聞こえてくるのにクスリと笑みが浮かんだ 「さて、どうしようかな?」 お買い物・洗濯・掃除etc…しなければならない事は沢山あるけれど…… 「確か洗濯物結構あったわね…」 …後の事は洗濯してから考えようかな ☆ 「よいしょ…っと」 洗濯機の上に置いていた洗濯物がたまったカゴを床に移動させたあとに思う 「…みなみも○○さんも洗濯物出しているのかしら……」 2人の部屋に入って汚そうなの持って来なきゃ、かな? んんっ~、っと伸びをする。その時お隣さんでもあり、みなみのお友達でもある高良さんの家が目に止まった 「そういえば……」 前にみきさん、ゆかりさんと3人でお茶してた時、夜の営みの話になったことがあったっけ… 【私なんか毎朝毎晩セックスしてるのよ~、そりゃもう2人目つくる程の勢いでね~】って言ってたけど…今日も してるのかしら……ちらちらと横目で高良さんの家を見ながら思う ……○○さんとセックスしたのいつだったかしら…○○さんも忙しい人だと言うのも充分わかっている、けど―― 「…………」 何考えているんだろう、私…ゆかりさんのことだ、冗談なんだろう、きっと ……というかあの人は本気なのか冗談なのか分からないのよね あー!、あー!!…気持ちを切り替えないとっ! 「さ、お洗濯お洗濯っ!」 早く取りに部屋に行かなきゃっ ☆ 「失礼しまぁす…」 コンコンと静かに扉をノックし、○○さんの部屋に恐る恐る入る ってまぁ誰もいないんだけども、、日頃の癖は抜けないわねぇ… 「…ふむ」 ○○さんの方へ先に来たのはいつも仕事で忙しくて着る物を使い回しているかもしれないからだ、まぁ娘はその辺はちゃんとしているけど… 「これなんかだいぶ洗ってなさそうね…」 畳んである服の中から乱暴に畳まれたシャツやズボンを掴んでいく 「枕はどうだろう…」 掴んだ物をカーペットに置き、枕のにおいをくんくんと嗅ぐ……んん…くさいって程でも無いけど……… ……………あの人のにおいを嗅ぐの…何時ぶりだろう… セックスの時はよく嗅いでいるけれど………あぁ、なんて漢らしいんだろう…… 「…………」 ――いつの間にか私は枕に顔を埋め・膝をカーペットに落として、○○さんのにおいを堪能していた ……………恋しいなぁ…… ○○さんの声が、心が、身体が、耳が、足が、手が、目が、唇が、舌が、ペニスが…あの人という存在全てが愛しい 「…はぁ……はぁ…v」 欲しい…v、今、直ぐにでも○○さんが欲しい…――けれど今はいないんだ… 「はぁ…はぁ…v……」 涎でびしょびしょになった枕をカーペットの上に置いて、変わりにシャツを手に取った 「すぅー……」 そしてそれに顔を埋め、においを嗅ぐ ○○さんのにおいが私の鼻孔をくすぐり、全身を駆け巡る…まるで○○さんに犯されているかのようだ、いや…侵されているのだろうか くちゅ…くちゅ… 「――!」 足をもじもじしていると、どこからか水音が聞こえてきた…いや、外には響いていない、、これは… 「濡れてきた…のね…」 ……もう…我慢出来そうにない… 「んっ…んんっ…しょ…」 立ち上がるのもおっくうなので寝たままスカートのホックを外し、、すっかり秘裂部分にくっきりと染みが付いているパンティを降ろした 「……んっ…」 あらわになった下半身に冷たい空気が当たる……上まで脱いだら風邪を引きそうだから辞めておこうかな… 「○○さん…っ」 ――ごめんなさい 愛しい夫の名を呼び、心の中で謝った 「は…んんっ…」 左手の中指でぐしょぐしょに濡れている秘裂をやさしくなぞる 「ん、んんっ……」 なぞり・指を挿入れ弄り続けているとゾクゾクと快感がこみ上がってくると同時にせつなさも溢れてくる あぁ…○○さんに会いたい・声を聞きたい・他愛もない話をしたい・見つめ合いたい・髪を撫でて欲しい・肌に触れたい・抱き合いたい 手を深く絡ませ合いたい・涎が溢れる程のキスをされたい・お胸をもみくちゃにされたい・あの人の熱い熱いペニスで激しく貫かれたい 様々な思いが溢れ出し、ぽろぽろと涙もこぼれ出す 「んぁ、ぁっ、ぁ、ぁあ…」 だんだんと指の出し挿入れと水音が激しくなり、愛液が外に流れ出す 「○○さん、、○○さぁんっ…ぁ、んんっ…」 愛しい人の名前を呼ぶごとに秘裂から愛液がぐじゅぐじゅと溢れ、手の平が愛液でびしゃびしゃに濡れているのが感じられた …カーペットを…汚さない様に…っぁ…しないと……でも……そんな余裕――… 「ん、ぁ、ぁ、あ、ああっ、あっ…!!」 びくっっ、びくうっっ!!! 「――――…っ!!」 思わず体がのけ反り、そのままカーペットに倒れる 息がだえだえになりながらも、左手を顔の上に翳すと遠目から見ても分かるほどのいやらしい糸が引いていた 「ハァ……ハァ…」 …せつない…なぁ…… 「…………はぁ…」 右腕で顔を覆いながら、“何をやっているんだろう…”とため息を漏らす ………そうか…そうだ… 「…いいこと思い付いた……」 やらない後悔よりもやってからの後悔!…早速実行しないとっ! ☆ がちゃがちゃと鍵が開く音がした、それを聞いた私は緩む頬を抑えながら玄関へ向かう 「ただいま~」 「おかえりなさい、あなた」 ○○さんが靴を脱いでいる間、床に置かれた鞄を持ちリビングへと運ぶ 「みなみは友達の家に行ってるんだっけ?」 「ええ、、とっても楽しそうだったわ」 ○○さんは疲れたという言葉も吐かず、にこやかに私と話す…しかし朝と比べると若干声のトーンが落ちている ……それなのにこんなコトをするなんてどうなんだろうと思ったけど、、やってしまったたものは仕方ない 「お、いい匂いだ…今日は鍋かな?」 「鍋もあるけど…沢山作っちゃって……」 がちゃっ、と半ばどんな反応をするのだろうかとびくびくとしながら扉を開け、○○さんをリビングへ招く 「ぅわあ なんだか凄いことになっちゃってるぞ」 とは○○さんが今日の夕食を見た感想だ、テーブルの上にはすっぽん鍋・めかぶ・にんにくの黒酢漬・うなぎetc… と精のつきそうな物ばかりを買ってきて料理した……買いすぎてなんだかスゴイことになっちゃったけども!! 「んじゃあ、お腹もペコペコだし早速いただこうかな、ありがとうね」 そう言って○○さんは流し場へ手を洗いにいく 「あの…あな、、○○さん…」 「んー?、どうかしたの?」 「それを…食べ終わったら、、今夜は私と――…」 コメントフォーム 名前 コメント
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漆黒に塗り潰された海。強弱様々な波の群。 独特の雰囲気を漂わす無人の浜辺にて、御坂美琴は思考をめぐらせる。 学園都市第3位にとって、学園都市第1位とはどんな存在だっただろう。 憧れの的?有り得るはずがない。遠い目標?いや、それも違うような気がする。 では、憎悪の対象?―――……。 神様だなんて易い言葉では言い表すことのできないくらい絶対的な存在であったことはたしか。 やっと1歩進めたと思ったら、既に100歩先に立っていたような相手。 2人の間には高い高い壁が聳え立っていて、美琴はその塀をどうしても乗り越えなければならなかった。 惨たらしい<<あの>>実験を凍結させるために。たった一日をともに過ごしただけの<<妹>>を思って。 けれどその実験はつい先程終了を迎えた。あまりにもあっさりと、一瞬で。 学園都市1位は。一方通行が。死んだ。美琴の目の前で。殺された。 たった数秒の出来事は、美琴の心に大きな恐怖と不安を植えつけていた。 超電磁砲でさえ敵わなかった一方通行の力が通用しなかった相手にとって、自分という人間がいかにちっぽけであるか。 彼らにとって美琴を殺すことなんて、赤子の手を捻るようなもの。 いかなる特殊なカリキュラムや努力に努力を積み重ねて得た美琴の力など、無意味なものであるに違いない。 彼らは<<最強>>より<<最強>>なのだから。 考えれば考えるほどに、浮き彫りになっていくのは無力感だけ。 悪に抗う力を持ち合わせていない私は、いったいどうすればいい? 他のチームの参加者に遭遇したら? 協力を求める? もしも話が通用する相手じゃなかったら? 倒す? 倒せるの? 手も足も出ないような相手だったら? 私、戦える? ちゃんと立ち向かえるの? いや。 こわい。 こわいよ。 誰か。 「助けてよ」 当然都合よく白馬に乗った騎士など現れはしない。代わりにピピピピピ…と聞き慣れた電子音が返事を寄越した。 音の主はポケットで震える、圏外のはずの携帯電話だった。 携帯を取り出し画面を確認してみると、やはり圏外。けれど相変わらず液晶は着信を知らせている。 相手の番号は非通知。なぜか切ることができず、美琴の親指は通話ボタンを叩いた。 「もしもし…」 『御坂美琴さんですね?私です。コエムシです』 「は…!?」 声を聞いただけで背筋が凍った。これが条件反射というやつだろうか。 『名簿のほうは確認されました?』 「それどころじゃ…!」 『では今見て下さい。見覚えのある名前がいくつかあるはずです』 見覚えがある名前?それってもしかして。 携帯電話を放り投げて、半ば飛びつくようにしてディパックに近付いた。 乱暴に開いたチャックの中に乱暴に手を押し込んで、目当てのものを引き出し、二つ折りになった名簿を確認する。 「初春さんに、左天さん……黒子…!」 三人が自分と同じ参加者だと認識したところで、電話を拾い上げた。 不安と恐怖、そして私の中に生まれた怒りの感情。 私はその新たなる産物を受話器の向こう側にぶつける。 「っざけんな!どうして…どうしてあの子たちまで…!?」 『たしかめていただけたようですね。 そうです。貴方のお知り合いはここまでで少なくとも4人。その内の1人は死亡しています』 「何が言いたいの?」 『言いましたよね、まだ名簿に全ての参加者の名前が記載されているわけではないと』 「まさか!」 嫌なタイミングで思い浮かんでくる一人の少年の顔。超電磁砲を打ち破った無能力者(レベルゼロ) 『さあ、どうでしょう。彼が参加者であるか否かはまだお話できません』 「………話しなさいよ」 『はい?』 「………続き、話しなさいよ。他に言いたいことがあるんでしょう? だったらさっさと言え。私は一刻も早く、アンタの耳障りな声から解放されたいのよ」 虚勢を張ってはみるものの、どうしようもなく声は揺れる。 なんて情けない。きっとコイツも電話の向こうで笑ってるんだ。 『さすがですね、勘が鋭い。今回は貴方に少々協力していただきたいことがありまして。 実は貴方にはこのゲームを円滑に進行するための、…いわゆる、ジョーカー役に回ってほしいのです』 な…っ!つまり私に人を殺せってこと!? そんなの! 『初春飾利、左天涙子、白井黒子。判断を誤れば、守れるものも守れなくなりますよ。 今こうしている間にも彼女たちは危険な状況におちいっているかもしれない』 「だ、だからって…」 『<<量産能力者(レディオノイズ)計画>>に覚えはありませんか?』 「どうしてそれを知っているの!?」 『貴方は直接的ではなくとも、この計画に加担していますね。 そして、貴方が協力していなければ、<<絶対能力進化(レベル6シフト)計画>>も行われずに済んだでしょう』 量産能力者計画に絶対能力進化計画。 コイツが言うとおり、私がDNAマップを提供しなければ、あんな胸糞悪い実験は進められなかったはず。 悔しいけれど、返す言葉なんてない。声すら出ない。 『ですが貴方の返答次第では、ゲームが終了後、貴方が実験に手を貸した過去を無かったことにしてさしあげます。 全て無かったことに。白紙の状態にしてさしあげましょう。 まぁ、貴方の地球が存在し続けられた場合の話ではありますが』 「全部…無かったことに……?最初から…?」 『呑むか呑まないかは貴方次第です。期待していますよ。御坂美琴さん』 有無を問わず通話は切断され、美琴はそれでも携帯電話を耳に押し当てたまま遠くの空を見つめた。 「私がDNAマップを提供しなかった過去…」 想像してみると、実験の存在を知らなかった頃の日々が胸を過ぎる。 殺されるために強制的に生を授けられてしまった<<妹達(シスターズ)>>が苦しむことのない、きっと彼女らが生まれたくなかったであろう世界に生まれなくて済んだ、幸せなセカイ。 教えてよ。 「私はアンタを助けたいよ。だけど、そのためにはいろいろなモノを犠牲にしなきゃいけない」 ねぇ、妹。 私はいったい、どうすればいい? 【E-2浜辺/1日目深夜】 【御坂美琴@とある科学の超電磁砲】 [状態] 健康 迷い [装備] 無し [道具] 基本支給品一式、武器(未確認1~3) [思考・状況] 1.コエムシの話を呑む?