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一部 ~ファントム ブラッド~ ジョナサン使い魔波紋疾走 ジョジョとサイトの奇妙な冒険 ジョージ逆に考える使い魔 石仮面仮面のルイズ ブラフォード使い魔は勇者 ディオ・ブランドーおれは使い魔になるぞジョジョー! 二部 ~戦闘潮流~ ジョセフジョセフ 忘れえぬ未来への遺産 カーズ究極の使い魔 ゼロの究極生命体 シュトロハイムハルケギニアのドイツ軍人 シーザー割れないシャボンとめげないメイジ 使い魔の魂~誇り高き一族~ ワムウ風の使い魔 風と虚無の使い魔 ストレイツォストレイツォ 三部 ~スターダスト クルセイダース~ DIODIOが使い魔!? 承太郎スターダストファミリアー スターダストは砕けない ゼロサーヴァント・クルセイダーズ ンドゥール見えない使い魔 ペット・ショップゼロの番鳥 花京院法皇は使い魔 ゼロのパーティ メロンの使い魔 ヴァニラ亜空の使い魔 ホル・ホース使い魔は皇帝 エンペラー 銃は杖よりも強し ダービー兄ファミリア―・ザ・ギャンブラー ジョセフゼロと奇妙な隠者 アヴドゥルマジシャンズ・ゼロ ポルナレフポルポル・ザ・ファミリアー イギー愚者(ゼロ)の使い魔 ミドラー女教皇と青銅の魔術師 デーボはたらくあくま エンヤ婆エンヤ婆 アヌビス神アヌビス神・妖刀流舞 ボインゴボインゴ ハーミット・パープルゼロの茨 四部 ~ダイヤモンドは砕けない~ 仗助砕けない使い魔 L・I・A 露伴露伴 静つかいまがとおるっ! 露伴 ブチャラティ味も見ておく使い魔 露伴+静使い魔は天国への扉を静かに開く 吉良使い魔は静かに暮らしたい ※デッドマンズQの吉良吉影 康一アンリエッタ+康一 ACTの使い魔 S.H.I.Tな使い魔 スーパー・フライ『鉄塔』の使い魔 虹村形兆几帳面な使い魔 キラー・クイーン爆炎の使い魔 猫草使い魔はゼロのメイジが好き ねことダメなまほうつかい 間田ゼロの奇妙な使い魔(うわっ面) うわっ面の使い魔 億泰アホの使い魔 ミキタカ使い魔ファイト トニオお嬢様の恋人 シンデレラ使い魔は灰かぶり 蓮見琢馬(The Book)ゼロと使い魔の書 五部 ~黄金の風~ ジョルノ杖をとりかえしにいこう! 僕の夢は三色コロネッ! 黄金の使い魔 ポルナレフ白銀と亀な使い魔 ココ・ジャンボ(亀)も登場 チャリオッツ・レクイエム使い魔の鎮魂歌 ジョルノ+ポルナレフジョルノ+ポルナレフ ディアボロ絶頂の使い魔 ディアボロの大冒険Ⅱ 不死の使い魔 ディアボロの大冒険タバサの大冒険 ブチャラティslave sleep~使い魔が来る アバッキオサーヴァント・ブルース 繰り返す使い魔 サーヴァントムーディー ゼロの奇妙な道連れ アバッキオ ナランチャサーヴァント・スミス ナランチャ・アバッキオ・ブチャラティナランチャ・アバ・ブチャ プロシュートゼロの兄貴 偉大なる使い魔 リゾットゼロと奇妙な鉄の使い魔 ローリング・ストーン(ズ)凶~運命の使い魔~ ギアッチョサブ・ゼロの使い魔 メローネゼロの変態 ソルベホルマリン漬けの使い魔 ペッシペッシ ルイズ姉ェの栄光への道 ホルマジオ本気男 フーゴ紫霞(しか)の使い魔 スクアーロ鮫技男と桃髪女 トリッシュ一味違う使い魔 使い魔は刺激的 暗殺チームルイズと愉快な暗殺者たち ブラック・サバス影の中の使い魔 パープルヘイズ グリーンデイパープルヘイズ&グリーンデイ ミスタゼロの臭い魔 セッコドロの使い魔 イルーゾォ使い魔は引き篭り サーレーCRAFT OF ZERO ゼロの技工士 六部 ~ストーン オーシャン~ 徐倫引力=LOVE? 星を見た使い魔 フー・ファイターズフー・ファイターズ、使い魔のことを呼ぶならそう呼べ アナスイアナスイ 承太郎DISC奇妙なルイズ ウェザーゼロの予報図 ヘビー・ゼロ ドラゴンズ・ドリームゼロの使い魔への道 エルメェスお熱い使い魔(キッス)を受け取りなッ! 使い魔の兄貴(姉貴)!! プッチ神父新世界の使い魔 狂信者は諦めない マンハッタン・トランスファー変な帽子みたいな使い魔 エンポリオ子供の使い魔 ティータイムは幽霊屋敷で ホワイトスネイクゼロのスネイク ゼロの奇妙な白蛇 DISCはゼロを駆り立てる C-MOONL7 meets C-MOON リキエル使い魔は空高く 七部 ~STEEL BALL RUN~ リンゴォゼロの世界 リンゴォ+才人+色々ギーシュの奇妙な決闘 マウンテン・ティム微熱のカウボーイ ジャイロStart Ball Run サンドマンサンドマン ジョニィ歩き出す使い魔 Dioスケアリー・サーヴァント マイク・Oマイク・O ファニー・ヴァレンタイン(大統領)D0C 八部 〜ジョジョリオン〜 バオー 来訪者 橋沢育郎ゼロの来訪者 バオー犬ゼロいぬっ!
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「・・・・・・ふぅ」 夕焼けの赤が夜の闇に侵食されている時間帯。 シエスタは纏めた荷物を宛がわれた部屋の床に、ドサリと置いた。 「・・・・・・まったく、運が無いですね・・・・・・私も」 モット伯。 平民の娘を雇い入れては、食い散らかしていると言う黒い噂を持つ、 学院に近い土地に領地を持つ一流貴族だが、シエスタは前々から彼に目を付けられていた。 方々に手を回して、自分に対しての興味を逸らそうとしたが、今日、とうとう、モット伯の所で働くと言う事で話がついてしまった。 「貴族の方に毎夜、身体を求められる生活なんて・・・・・・平穏じゃないです」 不満げに呟くシエスタは、整理整頓されている荷物から、一つのバスケットを取り出す。 そこそこの大きさのバスケットを開くと中には、何かを包んだ薬包紙が大量に入っている。 薬包紙の一つに一つに、シエスタしか意味の分からないように組み合わせた文字で名前が書いてあり、 どう見ても一介のメイドが持つべき物で無い事が見て取れる。 「ここから才人さんの所へ戻るのは、ちょっと大変そうですけど・・・・・・仕方ないです」 なるべく早く戻りたい所であるが、急いでは事を仕損じる可能性がある。 しかし、だからと言って、ゆっくりしていたら自分の貞操が、あんな手の汚い貴族に奪われてしまう。 「それだけは嫌ですね」 初めては好きな人と決めているシエスタは、即効性と隠匿率の高い薬を手に取り、なんとかしてこれを飲ませる方法を模索し始めるのだった。 「くそっ! 頼む! もっと早く走ってくれよ!」 焦れたような才人の声に、彼を乗せて走っている馬は嘶きを上げて答えるが、今ひとつ速度が遅い。 「その馬、今日は街まで行って帰ったきた奴だから、疲れているのよ」 それに私も乗ってるしね、と才人の腰に捕まり、馬に乗っているルイズが喋るが、才人の耳に届く事は無い。 「頼む、頼む、頼む! 間に合ってくれ! お願いだ!」 必死なのも無理は無い。 マルトーからシエスタが、モット伯と言うルイズが言っていた貴族の下へ奉公に言ったと聞いて、ルイズの部屋へ戻った才人は、彼女に、モット伯がどんな人間なのかを聞いたのだ。 曰く、その者の屋敷へ行ったら、少女は貞操を奪われるだろう。 曰く、世話をするのは昼だけでなく、夜のベッドの上でも世話をしなければならない。 曰く、嬲るだけ嬲って飽きたら、そのまま金だけ握らせ路上に捨てられる。 主に少女に対する、様々な黒い噂・・・・・・と言うよりは、事実を告げられた才人は、真っ青な顔で部屋を飛び出した。 自分の恩人の、貞操の危機に才人は、この世界に来てから初めて本気で焦っていた。 使用人のそんな様子に、部屋に残ったルイズは、どうやらモット伯絡みで何かあったのだろうと推測し、才人の後を追うのであった。 そして、現在に至る。 すでに夜も大分更けてきた中、もうに床に入り、一戦始めている恋人達も居るだろう。 もしも、モット伯が、そんな連中のように床に入って準備をして、シエスタを待ち構えているのならば・・・・・・・・・・・・ 才人は、自分の頭に浮かぶ悪い考えを、首を振って否定し、ただ、早く屋敷に着けるように馬を走らすだけしか出来なかった。 一方、ルイズも才人程では無いにしても焦っていた。 モット伯の行為は、女として何よりも許せない行為であるし、何より誇り高いトリステインの貴族がすることでは無い。 そんな者が平然とした顔でのさばり、あまつさえ犠牲者を増やそうとしている事実が、ルイズの堪忍袋の尾に直撃していた。 才人の知り合いのメイドとやらが手篭めにされている現場に、もしくは事の終わった後とかに踏み込んだとしたら、間違いなく後の事を考えず、モット伯を文字通りこの世から消してしまうだろう。 勿論、そんな事をやって一番困るのはルイズであるが、困ると分かっていても、その事態に陥ったとしたら、確実にプッツンいくだろうし、ルイズ自身、それを止める事は出来ない。 故に、そのような困った事態にならないように、シエスタとか言うメイドが犠牲になる前に着いてくれるよう、ルイズは、疲れてへばっている馬の尻を、自前の鞭で酷く叩くのであった。 理由違えど、焦る才人とルイズの間で、買われてから一度も抜かれていない剣は、尻を叩かれて暴れる馬の揺れに合わせて、寂しそうにその身を揺らしていた。 「次はこの料理をお願いします」 「は~い、今行きます」 「ワインの数が少し足りないみたいだから、誰か倉庫に行ってとってきてくれない?」 「あっ、私、行きます」 厨房に飛び交う少女達の声に雑じり、聞く者に安堵の感情を抱かせる少女の声が響く。 シエスタがこの屋敷に来て最初の仕事となる厨房の手伝いに来て、まず始めに驚いた事は、厨房で料理している人が全て女性・・・・・・しかも、皆、年若い、少女と言っても差し支えない者達だったことだ。 組んだ人の話では、ここの雑用は料理から力仕事まで全て女性が行っており、男性は護衛の為のメイジと衛兵だけらしい。 ほんと、良い趣味してるわよね、と憎々しげに呟く女性の雰囲気から、恐らく全てのメイドがモット伯の夜のお世話をしているのだろう。 なんとなく、メイド達の活気が無いのも無理はないなぁと、シエスタと一人頷いた。 ともあれ、食事と言うのは口から摂取し、尚且つ料理の味で薬の苦味なども誤魔化しやすい。 幸いにして、シエスタと組んだもう一人のメイドは、愚痴を溢しながら自分の仕事に集中しており、何をしようが気付かれる事は無い。 適当に相槌を打ちながら、シエスタは薬包紙の中身を少しずつ、モット伯の料理へと混ぜていく。 シエスタが、何故このような薬を、大量を持っているのか。 それは、彼女の曽祖父が残した手記によるものだ。 東の地から来たとシエスタが聞いている曽祖父は、博識であり、 彼が暇な時に戯れに残した手記には、様々な豆知識にも似た生活の知恵が記されていた。 他人から嫉まれず、馬鹿にされないように生活していたシエスタは、曽祖父の残した手記を読むのが何よりの楽しみとなっていた。 手記の中には、自分がこれまで知らなかった事や、当たり前のように思っていた事の真実など、幼いシエスタの好奇心を満たす様々な事柄が書いてあった。 手の大きさで対象との距離を測る方法。 卵を片手で一気に三つ割る方法。 そして・・・・・・一つの言葉。 何故、曽祖父がその言葉を手記に記していたのかは、今となっては分からない。 ただ、曽祖父の手記に一貫して書いてあるその言葉は、 シエスタにとって、金銀細工の装飾品より、彼女の心を掴んで放さなかった。 ―――私は、ただ植物のように平穏に生きたかっただけだ――― 平穏に生きる。 言葉にすると単純だが、実際問題実践するとなると、案外大変なものだ。 それも、平民のような貴族のさじ加減一つで、死ぬような者は特にだ。 シエスタは、薄々気付いていた。 手記に記されている、この言葉を実行するには、何者の干渉を吹き飛ばす『力』が必要になると。 故に、彼女は『力』を準備していた。 非力で魔法も使えない自分の『力』 子供の頃から野山に入り、茸や薬草に関しての知識を高めていったシエスタは、その『力』の在り処を薬に求めた。 それが、この薬の山だ。 だが、準備をしていたこの薬の山も、今までは、まったくと言っていい程、役には立たなかった。 それもこれも、彼女には『立ち向かう意思』と言うものが、根本から欠落していた為だ。 平民にとって、一種の洗脳とも言える貴族へと畏怖は、平穏に生きると言う目標を持っているはずのシエスタからも、貴族に対する反抗心を奪っていた。 例え、薬の効力が100%だろうと、貴族ならばどうにかしてしまうのでは無いか? そんな疑念がシエスタの心にはあった――――――この間までは。 そう、平賀才人と言う少年が、ギーシュと言う学生だが、れっきとした貴族を倒してしまった時から、シエスタの心から、疑念も畏怖も消え去らしてしまった。 簡単な話だ。 自分と同じ身分の者が、貴族を倒した。 その事実がシエスタに、欠落していた『立ち向かう意思』を作り上げ、貴族が畏怖の対象では無い事を教えてしまったのだ。 こうなると、もはや彼女に怖いものは無い。 自信が付いたと言えば聞こえが良いが、簡潔に言えば、シエスタは調子に乗っていた。 普通の人間ならば、調子に乗った所で、貴族に対してのどうしようもないパワーバランスに、やがては気付くだろうが、シエスタの場合は、その限りでは無い。 何故なら、彼女は用意していた『力』があり、性質が悪い事に、その『力』は半端な貴族には太刀打ちできない程に強力であったからだ。 「どうぞ、メインディッシュでございます」 ソテーされた牛肉に濃厚なソースが絡められている料理をモット伯の目の前に出したシエスタは、テーブルに腰掛けている他の貴族を見渡した。 どれもこれも、下駄な笑みを浮かべて自分の事を――――――より正確に言うなら自分の体を見ている。 明らかに好色が見受けられるその目に、シエスタは吐き気をするのを堪えて、さっさと厨房へと引き返す。 彼女の耳には、聞く事すらおぞましい会話が流れてくる。 「ほぅ、あれが今日入った娘ですか。 なるほど、気立てのよさそうな娘ですなぁ」 「発育も中々で、これは味見のし甲斐があるのでは?」 「はて、味見とは何の事かな、私には何の事かさっぱりなのだが」 「これは失礼、伯爵。失言でしたな」 ガハハ、と耳に残る笑いにシエスタは無表情で口元を押さえる。 ふと、押さえている手に目がつく。 (嫌だ・・・・・・もう爪がこんなに・・・・・・) こまめに切っているはずのシエスタの爪は、何故か今日に限って異様に長くなっている。 伸びすぎた爪は、まるで獲物探して回る猛禽類の鉤爪のように、鈍い光を燈していた。 ルイズと才人がモット伯の屋敷へと着いたのは、彼らが食事を終え、酒を片手に談笑をしている最中であった。 途中、『疲労』のDISCを抜けば良い事に気がついたルイズが、馬の頭からDISCを抜き、凄まじい勢いになったので、予定よりも遥かに早く着く事が出来た。 その所為で、乗ってきた馬が(疲労を忘れさせていただけで、無くした訳では無いので)潰してしまったが、彼女にとってそれは些細過ぎる問題であった。 門番に、ヴァリエールの名を出し急ぎモット伯へ取り次ぐように言うと、彼女達は応接間へと通され、そこで待つように告げられた。 待つ事、十数分・・・・・・・・・・・・奇抜な衣装に身を包むモット伯と衛兵二人がルイズと才人の前に現れた。 「これはこれは、夜分遅くに一体何の用ですかな?」 もったいぶったようにゆっくりとした喋り方で、訪問の理由を問い掛けるモット伯にルイズは、フンッ、と鼻を鳴らすと手早く目的を告げる。 「今日、引き取ったメイドが居るでしょう」 「んっ? ・・・・・・あぁ、あの娘ですか。 確かに、居りますが・・・・・・何か御用でも?」 「あんたの犠牲者をこれ以上増やすのは、女として、貴族として許せたものじゃない。 だから、そいつは私が引き取るわ」 ルイズの発言に、モット伯は驚きのあまり目を丸くしてルイズを見ていたが、やがて、くすくすと忍び笑いをし始めた。 眉を顰めるルイズに、いやいや失礼と言いながらモット伯は口を動かす。 「はて、犠牲者とは一体何の事でしょうか? 私には皆目検討もつきませんが」 とぼけるモット伯の様子に思わず、プッツンしそうになったルイズであるが、彼女よりも辛抱ならない人物が、今、この場に居た。 「とぼけるな!! シエスタは何処だ!? 何処に居る!?」 自分自身驚く程の剣幕で、才人はモット伯に詰め寄るが、近づく前に衛兵の槍がその行く手を遮る。 「威勢が良いのは褒め所だが・・・・・・見た所、君は平民のようだな。 下がりたまえ。貴族相手にその態度・・・・・・命が幾つあっても足りないぞ?」 「うるせー!! 貴族貴族、そんなに貴族が偉いのかよ!! シエスタを返せ!!」 貴族が偉いのかよ、の件でルイズの眉が動いたが、まぁ、使用人の教育は後ですれば良いと、とりあえずルイズはその発言をスルーしたが、モット伯は違った。 彼も一応はトリステイン貴族。傲慢と自尊心の塊である彼は、貴族全般に言える事だが、侮辱に対して敏感である。 「・・・・・・貴族に対して、私に対して、その態度、気にいらんな」 「そりゃ良かった。立場を利用して女を嬲る奴に気に入られたら、鳥肌が出ちまう」 ルイズは思った。 もしかして、この使用人。人を怒らす事に関しては、かなりの腕を持っているのでは無いのか、と。 事実、モット伯は、明らかに怒りを抑えている表情をしている。 公爵家の娘である自分が連れてきた平民で無ければ、今すぐに八つ裂きにしているだろう。 「サイト、少し落ち着きなさい」 「俺は十分、落ち着いて――――――」 「いいから! 少し黙ってなさい!!」 幾ら挑発をして貰っても構わないが、戦闘になるのはマズい。 自分の怪我は、まだ完全に治っていない。 それはつまり、ホワイトスネイクもまた普段通りの性能を出せないと言う事だ。 これが、どうしようもないドットやラインクラスの連中ならば歯牙にも掛けない事なのだが、相手は、あの娘と同じトライアングルのメイジ。 なるべく戦闘は避けなければならない。 「君の所の平民は、どうも躾がなっていないようだね」 憮然とした顔で告げるモット伯に、ルイズは、えぇと頷きながら、一歩前へと進んだ。 ホワイトスネイクは、今は消えている。 あの奇妙な格好は見る者の警戒心を煽り、今からルイズがすることの邪魔になると考えたからだ。 「躾が出来ていないと言うのは同意しますが・・・・・・」 言いながらルイズは、モット伯へと近づいていく。 10メイル 「立場を利用して女を嬲る・・・・・・の件は、私も同意するところですね」 ゆっくりと、しかし確実に歩を進めるルイズ。 8メイル 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・何?」 険悪な表情で、自分の耳に入った言葉を聞き返す、モット伯。 6メイル 「ですから、自分が貴族であることを利用して女性を言いなりにするなんて 誇り高いトリステインの貴族がすることではございませんね」 くすり、と蔑みの笑みを溢す。 4メイル 衛兵の槍がそこから進むのを拒む。 どうやら、ここまでが限界のようであったが、もう十分に近づいた。 「なんという謂れ無い侮辱だ!! 幾ら公爵家の娘であろうが、これ以上の横暴は命を縮める事となるぞ!!」 「命を縮める? 縮めてるのは・・・・・・あんたの方でしょう!!」 瞬間、ホワイトスネイクが槍衾を越え、モット伯の眼前へ出現し、その魔手を振り上げ一気に振り下ろす。 誰も彼も、あまりにも突然過ぎる闖入者に反応できず、結果、ホワイトスネイクの手はモット伯の顔面に喰らいついた。 「サイト!!」 才人は、ルイズの一声に呆気に取られていた顔を切り替え、背中の剣を振り抜く。 間合いには、すでに入っている。 「キタキタキター!! やっと抜いてくれたな、相棒!!」 「あぁ、抜いたからには役に立てよ!!」 振り抜いた勢いのままの袈裟懸けで、槍を打ちつける。 槍越しに伝わってくる衝撃に堪らず手を放して、武器が無くなった衛兵にデルフを突きつけ 「まだやるか?」 戦闘の継続を確認する才人に、彼らは両手を挙げ降参のポーズを取った。 元より、はした金で雇われた連中だ。自分の命を危機に晒して戦う忠誠など無いに等しい。 「よくやったわ、とりあえず、そのままそいつらを見張っておいて」 手早く衛兵を無力化した才人に褒め言葉を口にし、ルイズはモット伯の頭に手を突っ込んでいるホワイトスネイクの隣に立つ。 「どう?」 「反吐ガ出ルトハ、コノ男ノ為ニアル、ト君ハ言ウダロウナ」 何時も通りの感情の揺れがまったく感じられない声を発しながら、 ホワイトスネイクはモット伯の頭から一枚のDISCをルイズへと差し出した。 「視テミルカ? 中々ニ刺激的ダト思ウガ」 差し出されたDISCを頭部へ挿しこむと同時に、モット伯の『記憶』がルイズへと流れ込んでいく。 泣き叫ぶ少女。 笑う男の声。 血に塗れたシーツ。 虚ろな目から零れる涙。 助けを求め、動く口。 あまりのおぞましさに、ルイズは乱暴にDISCを抜き取った。 「何よ、これ・・・・・・何なのよ、これ!!」 どうしてこんなに惨い事が出来るのか。 例え、平民の娘だとしても、このような扱いをして良いはずが無い。 湧き上がる不快感と嫌悪感から、ルイズは『記憶』DISCを抜かれ呆然としているモット伯を思いっきり、蹴っ飛ばした。 『記憶』DISCを抜かれた者は軽度の者ならば、自分が何者であるかを見失う程度であるが、今のモット伯のように全ての『記憶』を抜かれた者は、まさに生まれたばかりの人間のようになり、自分がどのように寝て、どのように起きて、どのように食べて、どのように生活していたかを全て忘れる。 つまり、今の彼のように心神喪失状態になり、何も考えられないようになるのだ。 だが、生温い。 あれだけの事をしていたと言うのに、たかだか生きる屍と化しただけでは生温い。 ルイズの考えを察したのか、ホワイトスネイクは、もう一枚、『記憶』では無く才能のDISCを抜き取ると、全力でモット伯の股間を蹴り上げた。 プチリ、と男性が聞くと発狂しそうな音が周囲に響く。 才人も、衛兵も、咄嗟に自分の切ない部分を押さえて、痛みを堪えるように顔を顰める。 それだけの事をやったのは確かなのだろうが、それでも憐れだと感じてしまうのは、同じ男性としての性だろうか。 どさり、と倒れこむモット伯の頭にルイズは『記憶』DISCを戻す。 「アグウワァァァァァァァァァ!!!!」 意識が戻ったモット伯は獣のような雄叫びを上げ、両手で股間を押さえ込む。 「無能ならぬ不能なんて、貴方らしい末路ね」 小馬鹿にしたかのように、フンッ、と鼻を鳴らし、今度は衛兵へと向きを変える。 凍りつく衛兵だったが、次の瞬間に始まった、醜い命乞いならぬ、息子乞いにうんざりとした顔でルイズはホワイトスネイクに命じる。 軽く頷いたホワイトスネイクは、DISCを二枚取り出し、それぞれの衛兵の頭に挿しこむ。 それっきり、彼らの口が開く事は無かった。 それどころか、彼らは無言で叫び声を上げるモット伯を抱え、応接室を出て行ってしまったのである。 「何したんだよ」 暫く呆気に取られていた才人であったが、明らかに挙動がおかしくなった衛兵の事を問い詰めるとルイズは、ふふん、と自慢げに口元を吊り上げる 「・・・・・・男として機能しなくなったんだから、今度は女として教育してあげるように『命令』しただけよ」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・うげぇ」 めくるめく官能的な男色を思い浮かべてしまい、思わず喉から胃液が出そうになる。 ホワイトスネイクが命令したのなら、容赦など欠片も存在しないだろう。 となると、良くて朝まで、下手をすると丸一日、掘られる事態に陥るに決まっている。 「自分が行った行為が、どれだけ苦痛な事か・・・・・・身を持って知りなさい」 ルイズにしてみたら殺されるより酷い仕打ちをしているつもりなのだが、実問題、不能にされた挙句にカマを掘られるのが、死ぬ事より辛いかは才人には分からなかった。 付け加えるなら、分かりたくも無い。 「さてと、さっさとメイドを連れて帰るわよ」 「良いのかよ、勝手に連れていって」 「良いのよ。向こうが難癖付けてくる頃には、私の怪我も治ってるから」 怪我が治ったのなら、別に騒動でも何でもござれだ。 まぁ、魔法の才能を奪われたと言うのに、その事を表立たせるような動きを、あの能無しが見せるはずも無いと思うが。 「ともかく、私が良いと言ったら良いのよ。ほら、分かったら、早くメイドの所に行って帰れるって事を知らせてあげなさい。きっと泣いて喜ぶわよ」 急かすルイズの言葉に、才人は今頃不安な気持ちで一杯であろうシエスタの事を思い出し、応接室から飛び出していく。 その後姿にルイズは、 「・・・・・・ご主人様に感謝の言葉ぐらい吐いてから行きなさいよ」 誰一人、自分とホワイトスネイク以外居なくなった応接室で、不満げにそう呟いた。 唐突に屋敷に響き渡った悲鳴に、爪きりをしていたシエスタは、薬が効く時間にしては少し早い事に首を傾げた。 (おかしいですね・・・・・・もう少し後に効能が出るはずなんですけど) おまけに、こんな叫び声をあげるなんて、予定には無い。 混ぜる分量でも間違えたか? いや、それは無い。 分量も確認したし、混ぜた料理を全て平らげたのも確認している。 どこにも、不手際など無く、完璧のはずだ。 しかし、そうなると、この叫び声は一体? 疑問と不安が織り交ざったような、言い知らぬ焦燥感に顔色が変わっていく。 「違う・・・・・・分量も完璧・・・・・・確認もした・・・・・・私は失敗なんてしていない。 だから、この悲鳴は私とは無関係・・・・・・」 呟きながら、シエスタは爪を噛んでいた。 ガリガリと、強く血が出る程に。 「・・・・・・タ・・・・・・ど・・・・・・・・・・・・シ・・・・・・」 ふと、耳に届く声に、シエスタは爪を噛むのを止めた。 聞き覚えのある声が、どたどたと足音を伴わせて、この部屋に近づいている。 シエスタは、その声の主が誰なのかに気がつくと、半ば呆然として立ち尽くしてしまった。 それは、ここに居るはずの無い、愛しい人の声。 忘れたくとも忘れられない、蠱惑的な手を持っている、自分に『立ち向かう意思』を教えてくれた人。 「シエスタ!」 「サイトさん!」 扉を凄まじい勢いで開き、聞き慣れた声と見慣れた姿で現れた少年に、シエスタは思わず抱きついてしまった。 先程の焦燥が嘘のように無くなっていくのが、シエスタにはまざまざと感じられた。 顔を見るだけで、声を聞くだけで、心の平穏が保たれる。 そんな心の拠り所が、目の前の少年である事を、シエスタは再認識することとなった。 「遅い」 屋敷の外に出た才人とシエスタに、ルイズが投げ掛けた言葉は、時間に対する文句であった。 「無茶言うな。シエスタの事を探すのにも時間が掛かったり、見つけてからも、二人で必要な荷物を見繕ったりとか、大変だったんだぞ」 「ふ~ん」 才人の反論に不承不承ながら、ルイズは納得した。 シエスタが、今持っている荷物は、手提げのバスケットと旅行カバンが一つ。 あれだけの時間で、それだけ荷物を纏めてきたのなら、むしろ褒めるべきが正しい形である。 「ところで・・・・・・どうやって帰るんだよ。 乗ってきた馬は、へばってもう走れないんだろ?」 「それなら大丈夫よ・・・・・・ここにも馬は居るから、それを借り――――――る必要は無さそうね」 何処と無く、緊張したような声色で告げるルイズの横で、ホワイトスネイクが何時も無表情であるはずの顔に憤怒を張り付かせ、空を見上げていた。 それに釣られて、才人とシエスタも空を見上げる。 二つの月が輝く空には、全長が6メイルもある竜がゆっくりと羽ばたきながら、ルイズ達へと下降していた。 地面へと降り立つ最中、竜の背中から少女の顔が覗く。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 沈黙のまま見つめあう二人に、薄ら寒いものを感じた才人は、一歩どころか、五歩程度ルイズから遠退く。 「何の用?」 竜が完全に地面へと降り立つと同時に、地面へと降りた少女へ、油断無く問うルイズに、 少女は、自分の背より大きな杖を地面へと落とす。 「話がある」 杖を落とすと言う事は、メイジにとって戦う手段を放棄すると言う事だ。 動物で言うならば、腹を見せ、降伏を誓う動作に等しい行為に、ルイズは少女の、話があると言う言葉の重さを悟る。 「話なら後で聞くから、今は学院に送ってくれる?」 地面に落ちた杖を拾い、訊ねるルイズに、少女は頷き自らの使い魔へと言葉を掛ける。 主の言葉に従い、その身を伏せた竜の背に乗るルイズに続き、才人とシエスタは少女へと軽くお辞儀をしながら、竜の背中へと乗り込む。 最後に少女が竜の首の部分に乗り、手でトントンと頭を軽く叩くと、竜はキュイキュイと鳴きながら、大空へと羽ばたくのだった。 初めて竜に乗ったシエスタは、馬では味わえない感触に興奮しながら、モット伯の屋敷の方を見る。 「サイトさんが来るのなら、お薬使うんじゃなかったなぁ」 あれも、結構高かったのに、と惜しむように呟く言葉は、風の音に紛れ、虚空へと消え去るのだった。 ベッドの上に寝かされているモット伯は、屈辱と怒りでごちゃまぜになりながら、下半身から絶えず発せられる痛みに悶えていた。 自分の事を運んできた衛兵達は、今は部屋の外で声を張り上げている。 聞こえてくる内容は、不手際から怪我をしたモット伯、即ち自分が、自らの魔法で治療している為、誰も彼もこの部屋に入っていけないと言うものだった。 最初、何を言っているのか分からなかったが、次第に状況が読めてくると、いますぐに違うと叫びたかったが、先程まで叫び声をあげていた喉は枯れ果てており、もはや単音すら満足に発音できない。 部屋の外に出ようとしても、今の自分は動くだけで激痛を伴い、立ち上がる事さえ儘ならない やがて、部屋の外に集まっていた気配が、次々と消失していく。 恐らく、衛兵の説明に納得して部屋の前に集まっていた人々が散っていったのだろう。 完全に人の気配が消え失せると、二人組みの衛兵が、部屋の扉を開け、モット伯が寝ているベッドの近くまでやってきた。 二人は、まるで死人のように虚ろな表情で、自らの服を脱いでいく。 (なんだ! こいつら、一体何をするつもりなんだ!?) 脳で理解はしているが、本能はそれを認める事を拒絶するモット伯であったが、二人がベッドの上に這い上がってくると、流石に認めるしかなかった。 (私の・・・・・・私のそばに近寄るなああ――――――ッ!!!!) あまりのおぞましさに喉が張り裂けんばかりばかりに叫ぶが、やはり、声は出ない。 最後の最後まで、手で掴まれ、服を無理矢理剥ぎ取られても、モット伯は叫ぶ努力をしたが、結局、それは実る事が無かった。 結局、彼は30分間、シエスタ特製のお薬によって心臓が停止するまで、自分がしてきた行為を味わう事となったのであった。 第七話 戻る 第九話
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几帳面な使い魔-1 几帳面な使い魔-2 几帳面な使い魔-3 几帳面な使い魔-4 几帳面な使い魔-5 几帳面な使い魔-6 几帳面な使い魔-7 几帳面な使い魔-8 ジョジョ三大兄貴記念SS 几帳面な使い魔 記念SS
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「使い魔」とは主人に絶対の忠誠を誓い、己の身を盾にしてでも主人の為に尽くす存在らしい。 恐らく契約の際なにかの洗脳でもされるのだろう。このディオにも知らず知らずの内にそのような洗脳を施されているのだろうか。 考えると胸くそが悪くなった。 おれは使い魔になるぞジョジョーッ! 第四話 日が昇ってから時間も経ち、生徒達の声もいつの間にか聞こえてくるようになった。 そんな中、ディオはルイズの部屋にスルリと入る。 フン、まだ寝ていやがる。使い魔である以上放っておく訳にはいかないので無理矢理起こす。 「ん…んんぅ…」 「おっとルイズ、朝だ、起きるんじゃあないのか?」 と言いながら毛布を剥ぎ取る。 「な、なによ!何事!?」 「朝だ、ルイズ」 目をこすりながらディオを見上げたルイズは 「…あんた誰よ!?」 と怒鳴った。このド低脳めッ! 「昨日ぼくを使い魔にしたのはどこの誰だったかな?」 「あ…帰ってきてくれたの…じゃなくって昨日はよくも!ちゃんと掃除洗濯したんでしょうね!?」 「ああ、してあげたよ。御主人様」 昨日の行動から想像できなかったルイズは面食らいながらもやっと使い魔の自覚が持てたのかと一人納得し、服を着はじめた。 昨日の事を思い出し、恐る恐る服を取ってくれるように『頼む』と、丁重に取ってくれた。 服を着替えてドアを開けて廊下に出ると、同時に赤い髪の女が向かい側のドアを開けた。ヴァリエール家の宿敵、ツェルプストーだ。 「おはよう、ルイズ。昨晩はお楽しみでしたか?」 「うるさい、下半身で動いてるあんたと一緒にしないでよ」 「『微熱のキュルケ』ですもの。ささやかに燃える情熱は微熱。 でも、男の子はそれでイチコロなのですわ。あなたと違ってね?」 ただでさえ朝に弱いルイズの機嫌が悪くなる。だが女はそんな事を気にする様子はない。 「あなたの使い魔ってそれ?」 とディオを指差す。この学院の女生徒は皆スカートの丈が短いが、それにも増して露出が高い女だ。 ロンドンを騒がしていたジャック・ザ・リパーがいれば真っ先に襲っただろう。 だがキュルケはそんな二人の様子など我関せずといった様子で水路の関を外した水のように話し続ける。 「『サモン・サーヴァント』で平民(笑)呼んじゃうなんて実に『ゼロのルイズ』らしいじゃない」 「…うるさい」 ルイズの機嫌が更に悪くなるが、女は構わずディオに向き直る。 「私の名はキュルケ・フォン・ツェルプストー。キュルケでいいわよ。あなたのお名前は?」 「ディオだ。」 値踏みをするように暫くディオを見つめると、ただの平民だと判断する。 てっきり異世界の光るマジックアイテムとかそういうものでも持っているかと思ったがそうでもなさそうだ。 「でもあなたも大変ね。『ゼロのルイズ』になんて召喚されて。そうだ、ついでだから私の使い魔も紹介してあげる。おいで、フレイム!」 すると女の後ろから巨大な赤い色をしたトカゲがのっそりと姿を現した。 「ふふ、やっぱり召喚するなら何もできない平民よりフレイムみたいなサラマンダーを召喚するべきよねぇ~ヴァリエール」 ルイズには反論できない。何回も失敗したあげく出てきたのは主人の言うことを聞かない使い魔。しかも平民だ。 ルイズはサラマンダーを見せ付けるように可愛がるキュルケを憎々しげに見つめる事しかできなかった。 「ほーら、貴方の勇姿をヴァリエールの貧相な使い魔に見せてあげなさい」 そんなルイズを見てキュルケはトドメとばかりに嫌がらせをする。 キュルケの命令通りルイズとディオに近付くフレイム。 ボギャァァ!! 次の瞬間、フレイムは顎を蹴り飛ばされていた。 なんの事はない。ディオがフレイムに膝蹴りをしたのだ。 いくら火吹き竜とはいえ思ってもみなかった攻撃には耐えられなかったらしく、フレイムは部屋の端に吹き飛ばされてしまう。 「な、何をするだァーーッ!ゆるさん!」 思わずゲルマニア訛りで怒るキュルケ。 だがディオはゆっくりと姿勢を戻すと、 「すまない、火吹き竜なんて元の世界では見た事がなくてね、思わず攻撃してしまった。許してくれ」 と丁重に謝罪した。 キュルケは言い返そうと思ったが、平民がサラマンダーを恐がるのは当たり前の反応だし、なにより少し挑発しすぎたかな、と 後悔していた所だったので、今の無礼はなかった事にした。 とはいえヴァリエールの者にまで「はいそうですか」と許す気はない。 「わかったわ。でも使い魔の責任は主人の責任。ルイズ、今日の真夜中に決闘を申し込むわ。お受けになって?」 売り言葉に買い言葉、ルイズも負けじと言い返す。 「当たり前じゃない。今日の真夜中ね?覚悟しなさい!」 そう叫ぶルイズに何度も一輪車に乗ろうとしては倒れる子供を見るような目つきで微笑むと、 「立ち会い人はタバサに頼むわ。それじゃ、逃げ出さないでね」 と会釈をくれ、食堂へと歩いていった。 その姿を見送ったルイズはディオに向き直る。その顔は先程とは違い、喜んでいる。 「あんたやるじゃない!あのツェルプストーの使い魔に一発喰らわせるなんて!」 キュルケには謝っていたがあの瞬間のディオの顔はとてもサラマンダーを恐れている人間のものではなかった。 あのキュルケに一泡吹かせたんだから鳥の皮くらいはサービスしてあげてもいいかもしれない。 だがディオはそんなルイズに背を向けると、 「今まで見てきたが、今確信が持てた! ぼくは使い魔が嫌いだ!怖いんじゃあない。人間にへーこらする態度に虫酸が走るのだ! ぼくはあのフレイムとかいう阿呆竜のようにはならないからな!」 と言い残し、食堂へと去っていった。 やはり今日の食事は抜きにしてやろう、ルイズはそう思い直した to be continued…
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目次 対応するregion、endregionプラグインが不足しています。対になるようプラグインを配置してください。 トップページ メニュー 更新履歴 各部キャラ トリップ一覧 第一部 使い魔波紋疾走(ジョナサン) 逆に考える使い魔(ジョージ) 仮面のルイズ 使い魔は勇者(ブラフォード) ジョジョとサイトの奇妙な冒険(ジョナサン) おれは使い魔になるぞジョジョー!(ディオ・ブランドー) 第二部 ジョセフ 究極の使い魔(カーズ) ハルケギニアのドイツ軍人(シュトロハイム) 割れないシャボンとめげないメイジ(シーザー) 使い魔の魂~誇り高き一族~(シーザー) ゼロの究極生命体(カーズ) 風の使い魔(ワムウ) ストレイツォ 忘れえぬ未来への遺産(ジョセフ) 風と虚無の使い魔(ワムウ) 戦闘零流(ジョセフ) 第三部 DIOが使い魔!?(DIO) スターダストファミリアー(承太郎) スターダストは砕けない(承太郎…だけ?) 見えない使い魔(ンドゥール) ゼロの番鳥(ペット・ショップ) 法皇は使い魔(花京院) 亜空の使い魔(ヴァニラ) 使い魔は皇帝<エンペラー>(ホル・ホース) ファミリア―・ザ・ギャンブラー(ダービー兄) ゼロのパーティ(花京院) ゼロと奇妙な隠者(ジョセフ) メロンの使い魔(花京院) マジシャンズ・ゼロ(アブドゥル) ポルポル・ザ・ファミリアー(ポルナレフ) 愚者(ゼロ)の使い魔(イギー) 女教皇と青銅の魔術師(ミドラー) はたらくあくま(デーボ) エンヤ婆 アヌビス神・妖刀流舞 ボインゴ ゼロサーヴァント・クルセイダーズ(承太郎) 銃は杖よりも強し(ホル・ホース) ゼロの茨(ハーミット・パープル) 第四部 砕けない使い魔(仗助) 露伴 使い魔は静かに暮らしたい(デッドマン吉良) アンリエッタ+康一 L・I・A(仗助) 『鉄塔』の使い魔(スーパー・フライ) ACTの使い魔(康一) 几帳面な使い魔(虹村形兆) 爆炎の使い魔(キラー・クイーン) 使い魔はゼロのメイジが好き(猫草) ゼロの奇妙な使い魔(うわっ面)(間田) アホの使い魔(億泰) 使い魔ファイト(ミキタカ) お嬢様の恋人(トニオ) 使い魔は灰かぶり(シンデレラ) 味も見ておく使い魔(露伴&ブチャラティ) つかいまがとおるっ!(静) 使い魔は天国への扉を静かに開く(露伴+静) うわっ面の使い魔(間田) ねことダメなまほうつかい(猫草) ゼロと使い魔の書(蓮見琢馬(The Book)) S.H.I.Tな使い魔(広瀬康一) 反省する使い魔!(音石明) 第五部 杖をとりかえしにいこう!(ジョルノ) 絶頂の使い魔(ディアボロ) slave sleep~使い魔が来る(ブチャラティ) ゼロの兄貴(プロシュート) 偉大なる使い魔(プロシュート) ゼロと奇妙な鉄の使い魔(リゾット) 白銀と亀な使い魔(五部ポルナレフ、ココ・ジャンボ) 凶~運命の使い魔~(ローリング・ストーン) サーヴァント・ブルース 繰り返す使い魔(アバッキオ) サブ・ゼロの使い魔(ギアッチョ) ゼロの変態(メローネ) ホルマリン漬けの使い魔(ソルベ) ディアボロの大冒険Ⅱ(ディアボロ) サーヴァントムーディー(アバッキオ) ナランチャ・アバ・ブチャ ペッシ 本気男(ホルマジオ) 紫霞(しか)の使い魔(フーゴ) 不死の使い魔(ディアボロ) 鮫技男と桃髪女(スクアーロ) 一味違う使い魔(トリッシュ) 使い魔は刺激的(トリッシュ) ゼロの奇妙な道連れ(アバッキオ) ルイズと愉快な暗殺者たち(暗殺チーム) 僕の夢は三色コロネッ!(ジョルノ) パープルヘイズ&グリーンデイ 影の中の使い魔(ブラック・サバス) 使い魔の鎮魂歌(チャリオッツ・レクイエム) タバサの大冒険(ディアボロの大冒険) サーヴァント・スミス(ナランチャ) ルイズ姉ェの栄光への道(ペッシ) ゼロの臭い魔(ミスタ) ドロの使い魔(セッコ) ジョルノ+ポルナレフ アバッキオ 使い魔は引き篭り(イルーゾォ) CRAFT OF ZERO ゼロの技工士(サーレー) 黄金の使い魔(ジョルノ) 第六部 引力=LOVE?(徐倫) フー・ファイターズ、使い魔のことを呼ぶならそう呼べ(F.F.) アナスイ 星を見た使い魔(徐倫) 奇妙なルイズ ゼロの予報図(ウェザー) ゼロの使い魔への道(ドラゴンズ・ドリーム) お熱い使い魔(キッス)を受け取りなッ!(エルメェス) 新世界の使い魔(プッチ) 変な帽子みたいな使い魔(マンハッタン・トランスファー) 子供の使い魔(エンポリオ) ヘビー・ゼロ(ウェザー) ゼロのスネイク(ホワイトスネイク) ゼロの奇妙な白蛇(ホワイトスネイク) DISCはゼロを駆り立てる(ホワイトスネイク) L7 meets C-MOON(C-MOON) 使い魔の兄貴(姉貴)!!(エルメェス) 狂信者は諦めない(プッチ) 使い魔は空高く(リキエル) ティータイムは幽霊屋敷で(エンポリオ) 第七部 ゼロの世界(リンゴォ) 微熱のカウボーイ(ティム) ギーシュの奇妙な決闘(リンゴォ他) Start Ball Run(ジャイロ) サンドマン 歩き出す使い魔(ジョニィ) スケアリー・サーヴァント(Dio) マイク・O D0C(大統領) バオー ゼロの来訪者(橋沢育郎) ゼロいぬっ!(バオー犬) 短編 小ネタ 完結作品 スターダストファミリアー(承太郎) スターダストは砕けない(承太郎…だけ?) 『鉄塔』の使い魔(スーパー・フライ) 几帳面な使い魔(虹村形兆) お嬢様の恋人(トニオ) 奇妙なルイズ ゼロの使い魔への道(ドラゴンズ・ドリーム) 不死の使い魔(ディアボロ) サーヴァント・スミス(ナランチャ) 味も見ておく使い魔(露伴&ブチャラティ) ゼロいぬっ!(バオー犬) ゼロと奇妙な隠者(ジョセフ) 新着情報 取得中です。 タグ検索 and or タグ一覧 対応するregion、endregionプラグインが不足しています。対になるようプラグインを配置してください。
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左手に焼き鏝を当てられたような痛みが走った。気がつくと左手になにかの文字が浮かび上がっている。 まさか…おれは使い魔になってしまったのか?このディオがッ! おれは使い魔になるぞジョジョーッ! 第二話 「それでは儀式は終了だ。各自寮に戻るように。解散!」 コルベールが告げると生徒達は思い思いに帰って行く。ある者は召喚獣に跨り、ある者は『フライ』を使い…そして後には 「ゼロのルイズ、てめーは歩いて帰れ」 「あいつ『フライ』はおろか『レビテーション』さえもまともにできないんだぜ」 「悪いね、ルイズ。ボクの使い魔は一人用なんだ」 「なんならその使い魔に背負ってもらったらどうだー?」 次々と空に浮かび上がる生徒を呆然と眺めるディオとルイズだけが残されていた。 『ジョナサンを殺して人間を超越しようとしたらいつの間にかピンク色の髪をしたガキの使い魔になっていた』 な…何を言っているのか(以下略 次々と空を飛んで帰っていく生徒達を黙って見つめていたルイズは自らの使い魔に向き直ると大きく息を吸い込んで 怒鳴ろうとして… 「それでは説明してもらおうかッ!これがどういうことなのかをッ!」 使い魔に機先を制されて言葉を飲み込んだ。 「…ハァ。あんた全然状況を理解していないのね。」 使い魔を使役する為には主人が絶対の上にいる事を使い魔に理解させなくてはいけない。 「いいわ、歩きながら話しましょ」 これからが苦労しそうだとルイズは密かにため息をついた。 「まずはじめになぜ彼らは空を飛んでいるんだい?」 このハルケギニアに魔法を知らない平民がいるとは知らなかった。たぶんよほどのド田舎か山奥にでも住んでいたのだろう。 いわゆる『どこいな』である。 「そりゃ飛ぶわよ。メイジなんだから。レビテーションくらい知ってるでしょ?」 ディオの住んでいた世界で人間が空を飛んだのは1852年の飛行船が初である。飛行機に至っては1903年まで待たなければならない。 だがディオはその少ない情報からここが異世界である事、ルイズ達がメイジ…魔法使いと呼ばれる特権階級であり 魔法で空を飛ぶ事は彼らにとって当たり前の事だと言うことを理解した。 その後ディオは歩きながらルイズからこの世界について聞き出した。ハルケギニアについて、メイジについて、 トリステイン魔法学院について、そしてルイズについて…。そして部屋に着くころにはディオはこの世界について概ね把握していた。 一方ルイズも何時間もかけてディオが違う世界から来たであろう事をなんとか理解した。 「なるほど、ぼくが今君の使い魔であるという事は理解したよ、ルイズ」 優雅な格好で窓に腰掛けながらディオは夜食を取っているルイズに語りかけた。ディオに渡された夜食は潰れたパンだけであったが。 「そう、よかった…。」 ちなみにルイズはディオを完全な平民として扱うことに決めた。 ディオの一つ一つの物腰は貴族の気品を感じられるものであったが、ルイズには魔法が使えない貴族というものがどうしても理解できなかった。 それに礼儀程度はどこかの裕福な商人の過程であれば身につくものだ。 ちなみにディオはダリオのことを欠片も話していない。話す価値もない『無駄』な事だからだが、話したところで ディオが貴族ではなく平民であるという事を隠すための言い訳ぐらいにしか捉えられなかっただろう。 「あんた、元の世界に帰りたいと思わないの?」 夜食をすませ、口元をナプキンで拭きながらルイズは尋ね、ディオはなんの躊躇いもなく答える。 「ああ、元の世界は色々と住み心地が悪くてね。今更帰る気はないよ」 ジョナサンに虐待されていたと嘘をついてもいいがこの甘ちゃんのルイズ(暫く話している内にあの鬱陶しいジョジョと似たものを感じた) はまず間違いなくディオに同情するだろう。そしてディオは自分が憐れまれることを何よりも嫌う人間であった。 ルイズはこの一日で非常に疲れていた。 召喚に成功したと思ったら出てきたのは平民だし、その上扱いにくい事この上ない。 まるで一見大人いように見えながらも絶対に人を乗せようとしない馬のようだ。 同じ使えないならこんな高慢ちきな奴よりどこかの少しスケベでも従順な馬鹿犬のような使い魔の方がよかった。 使い魔は主人の目となり、耳となる能力を与えられるはずだけどそんな兆候は全く見えないし 主人の望むものを手に入れてくる事も無理。かといって私を守れるとも思えない。 「それじゃあせめて掃除や洗濯ぐらいはしなさい。手足が付いてるんだし何もできないんじゃないでしょ」 その程度であれば特に問題もない。こんな小学校を卒業したばかりのような小娘にこき使われるのは我慢ならなかったが この世界のことを全く知らない以上、しばらくは忍耐する必要があるだろう。 無言を肯定と見なしたのかそれに満足したルイズにディオが尋ねる。 「ところで…ぼくの寝床はどこだい?」 ディオの目の前で服を脱ぎながらルイズは黙って床を指さした。古い毛布が一塊おいてある。 「貴様!このディオを奴隷だと見なすのか!この小娘がァッーーーーーッ!!!!」 次の瞬間、ルイズはディオに殴られて床に倒れていた。 19世紀イギリス社会では奴隷は人間以下と見なされていた。貴族の女性が裸でいるところに奴隷が入っても 女性は眉一つ動かさない。最初から人間とは認めていないからだ。人間ではない相手に裸を見られても恥ずかしくない それがイギリス上流階級の考えであり、ルイズの考えも同じであった。 つまりディオはルイズから 「おまえはこのルイズにとっての モンキーなんだよディオォォォォーーーーーーッ!!」 と言われたに等しいである。 「な、なによ…」 いきなりのプッツンに動揺するルイズの腕を掴んで引き寄せると腹の底から絞り出すような声でディオは恫喝した。 「いいか、これから君の使い魔になったからといってぼくにイバったりするなよな。お前がぼくを奴隷扱いする限り ぼくはお前の事は主人だとは認めないッ!」 そう言うとディオはルイズを突き放し、部屋の外へと出て行った。後には唖然とする半裸のルイズと床に散らばるルイズの服だけが残された。 そしてルイズは明日からディオを徹底的にしつけてやろうと決心するのであった。 to be continued…
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おれは使い魔になるぞジョジョー!-0 おれは使い魔になるぞジョジョー!-1 おれは使い魔になるぞジョジョー!-2 おれは使い魔になるぞジョジョー!-幕間 おれは使い魔になるぞジョジョー!-3 おれは使い魔になるぞジョジョー!-4 おれは使い魔になるぞジョジョー!-5 おれは使い魔になるぞジョジョー!-幕間2 おれは使い魔になるぞジョジョー!-6前 おれは使い魔になるぞジョジョー!-6後 おれは使い魔になるぞジョジョー!-7 おれは使い魔になるぞジョジョー!-8 おれは使い魔になるぞジョジョー!-9 おれは使い魔になるぞジョジョー!-10
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漆黒のキャンバスに、赤の月が満ち、もう一方の月の色を侵食する夜。 闇色と朱色に彩られた庭園を、一人の幼い少女が駆けていた。 ―――はぁ……はぁ……はぁ…… 少女は、逃げていた。 嘲笑、蔑み、劣等感。 ありとあらゆる不の感情から逃げていた少女は、やがて一艘の船に辿り着いた。 ―――はぁ……はぁ、はあ…… 短く呼吸を正し、船に乗り予め用意されていた毛布に包まった少女は、みっともなく泣き腫らしている。 「―――無様ね」 少女しか居ないはずの船の上に声が響く。 苛立ったようなその声は、思い出したくも無い過去の失敗を穿り返された人間のそれに似ている。 誰にも見つからぬよう、声を押し殺し泣く少女だったが、不意にその顔が笑顔へと変化した。 頬を紅く染め上げ、はにかみながら笑う少女の視線の先には羽根つき帽子を目深に被った一人の男性が立っていた。 「子爵……様」 少女がその男性を知っているように、声の主もその男性を知っていた。 幼き恋心の対象。 そして、父と男性によって交わされている約束。 男性に手を引かれ、恥ずかしそうに船から降りた少女は庭園を後にする。 自分達を見つめている者の視線にまったく気がつかずに…… それもそのはず。 今、此処に展開されているのは、一人の少女の『記憶』 普段は日常に埋もれ、決して掘り起こされない、過去の事象。 それが、夢と言う幻燈機械に掛けられ、ただ一人の為に上映されているのだ。 観客はただ一人。 主役であり、脇役であり、脚本家であり、監督でもある存在。 その存在は、自らの過去である少女に侮蔑と決別の溜め息を吐きだして、幻燈機械を停止した。 「夢……か」 まどろみと陽射しに包まれ、何処と無く朦朧とした視線を漂わせる。 視界にあるのは、木々が生え、涼しげな池が存在する庭園では無く、一年間住み続けている自分の部屋であった。 「ホゥ、今日ハ、ヤケニ早イ目覚メダナ」 「存外に失礼ね、あんた」 椅子に座って、一枚のDISCを手で弄んでいるホワイトスネイクの軽口を適当に返事を返しながら、着替えをするルイズ。 性別不詳のホワイトスネイクを前にして裸になる事に、微塵の羞恥心すら無い事が、そこから窺い知れる。 手早く着替えを終えたルイズは、飽きずDISCを弄りとおしているホワイトスネイクに声を掛けて、さっさと食堂へと出かけていった。 食堂で、やたらと豪勢な朝食を食べたルイズは、その足で今日の授業が行われる教室へと向かう。 確か、今日の授業は、ミスタ・ギトーが講師を務めるはずだと思い出すと、朝からあまり良くは無かった機嫌が、一段と悪くなるのが分かった。 ミスタ・ギトーは『風』が最強と言う持論を生徒達にも強要する先生であり、その冷たい論調と傲慢な態度に嫌っている生徒も少なくない。 と言うより、ギトーを好きな奴を探すとなるとこの学院を、それこそ掘り返しても探さないと発見できないぐらいに嫌われている。 ルイズも、その例に漏れず、ギトーの事を嫌っている生徒の一人だ。 別に、何が最強と思うのは個人の勝手だ。 しかし、その考えを無理矢理他人に強要するところが、ルイズは好きにはなれなかったのである。 「あら、今日は早いのね。ルイズ」 「ちょっとね……そういう貴方も早いのね」 挨拶をしながら欠伸をするキュルケに、ルイズはそう聞き返すと、女の嗜みよ、となんだか良く分からない返答が帰ってきた。 ともあれ、教室の隣同士の席に座って話をしていると、暫くしてタバサも教室に現れ、キュルケに誘われ、同じ机に席を置いた。 女三人寄れば姦しいとは言ったもので、普段お喋りなキュルケはともかくとして、人並みに話すルイズと、普段まったく会話をしないタバサも、ぺちゃくちゃとお喋りに花を咲かせていた。 そうこうしている内に、授業の始業時間となり、ミスタ・ギトーが髪色と同じ真っ黒なローブを揺らしながら教室の扉を開け、教壇に立った。 「では授業を始める」 何の面白みも無く、淡々とした言葉遣いで始まりの挨拶をしたギトーに、生徒の大半は心の中で溜め息を吐いた。 学生と言う身分は勉強しなければならないと言う事は分かっているが、どうしてもそこに娯楽性を求めてしまうものである。 他の授業―――例えば、火の魔法の授業であるコルベールなどは、時々変な発明を授業で発表したりするが、 あれはあれで、そこそこ受けが良い。無論、外す時もあるが。 ともあれ、この授業は、娯楽性と言う点で言えば最低ランクのさらに下のランク外であり、生徒達はこの苦痛な時間が早く過ぎる事を祈っていた。 この時までは――― 「骨が燃え残るか心配なんですけど、私」 「何、心配には及ばない。君の炎は私のマントの切れ端すら燃やせないだろうからな」 睨みあうキュルケとギトー。 お互いに杖を引き抜き、すでに臨戦態勢だ。 こうなった理由は簡単である。 炎が最強であると言ったキュルケに、ギトーが、ならば君の力で証明してみせろとキュルケを挑発したのだ。 始めは乗り気で無かったが、家の事を引き合いに出されると彼女としても本気を出すしかない。 魔力で編まれた焔を、さらに巨大にさせた直径1メイルもの炎の弾は、喰らえば大火傷、下手をすれば命まで燃やし尽くされる程の火力を有している。 勝利を確信して焔を放つキュルケだったが、満を持して放った炎が掻き消され、自身もまた疾風によって吹き飛ばされた。 その光景に誰もが息を呑む。 普段、おちゃらけた態度で居る事の多いキュルケであるが、その実力は折り紙つきで、誰もが認める程であったからだ。 だと言うのに、ギトーは、キュルケに勝った事が規定事実のように、 少しの高揚も感じさせない声で『風』が最強であると言う、偉ぶった演説を始めた。 ルイズは、そんな演説などクソ喰らえだった。 吹き飛ばされるキュルケの身体を受け止めるように出現させたホワイトスネイクに彼女の身体を受け止めさせると、愛用の杖を握り締めて、こつこつと甲高い足音を響かせギトーへと向かっていった。 ギトーは突然立ち上がった生徒に眉を顰めたが、今、自分が吹き飛ばした生徒と同じくフーケ討伐で名を上げた生徒だと知ると、特に注意もせず、教壇と同じ高さに降りてくるまで待ってから、先程と同じように挑発から会話を始める。 「ほぅ、どうやら、君も『風』が最強と言う事に異論があるらしいな、ミス・ヴァリエール。 異論があるなら、先程の彼女のように私に魔法をぶつけてくると良い。 何、君に使える魔法があればの話だがね」 ギトーは、ホワイトスネイクの能力を知らない。 基本的に生徒に関して無関心である為に、生徒よりもさらに重要度の低い使い魔の事など、どうでも良いからだ。 その為、ギトーの中では、ルイズは魔法の使えない無能な生徒のままで時が止まっている。 ルイズは、とりあえずギトーの挑発を無視してキュルケの傍へと歩み寄る。 ギトーを如何こうするより、キュルケの体調の方が、重要度が高い為に。 「大丈夫、キュルケ?」 「平気よ。それにしても、ほんと、貴方の使い魔って有能ね。 あんなちょっとの時間で、私を受け止めてくれるなんて」 キュルケの言葉にルイズは、ちょっとだけムッとした。 確かに助けたのはホワイトスネイクだが、そうなるように位置やタイミングを合わせたのは、自分だからだ。 自分が行った行為に対する正当な賛美が無いと機嫌が悪くなる所は、まだ子供なルイズであるが、物事の切り替えの早さは、すでに他の人間と比べて特出するにまで至っている。 「それじゃ、ちょっと、あいつをとっちめて来るわね」 杖の矛先をギトーへと向けるルイズに、キュルケは、にんまりと笑った。 「手加減ぐらいしてあげなさいよ」 「あら、目上の人に手心を加えるなんて失礼じゃない?」 ルイズも釣られてニヤリと口元を吊り上げると、制服のポケットから一枚のDISCを取り出し、自分の頭へと差し込む。 巻き添えを食らわないように自分の席へと戻ったキュルケは、タバサに耳打ちをして、学生席を全て風の防護膜で覆う。 万が一の事態に備えた上の行動である。 ギトーは、風の防護膜に素晴らしいと言葉を漏らして、興味深げにタバサの魔法を観察していた。 彼にとって、ルイズなど眼中にすら入っていない。 典型的なメイジの思想を持っている彼にしてみれば、メイジ以外など下等も下等。 魔法を使えないルイズも、ご多分に漏れず下等に分類されている。 そんな事を知ってか知らずか、ルイズは詠唱を完了させると足元の地面を変換させる。 ルイズの魔法に、誰もが、『風』以外の属性を見下しているギトーですら唖然としてしまった。 石造りの床を錬金よって、質量保存の法則とかを強引に無視させ、天井までの大きさを持つ岩にルイズは創り変えたのだ 「先に行っておきますけど、死なないでくださいね?」 気持ち悪いぐらいに優しげな響きを持ったルイズの言葉と共に、その岩がギトーの方へと倒れていく。 もはや、魔法だとかそういう次元の話では無い。 相手は、火の玉でも無ければ氷の矢でも無く、土のゴーレですら無い、ただの岩の塊。 圧倒的な質量で自分に倒れてくる、その塊に必死で魔法をぶつけるギトーであったが、吹き飛ばそうにも、あんな質量の物体を弾き飛ばす事など彼には出来ない。 出来るのは、風によって、倒れてくる時間を引き延ばす事だけである。 「ぐっ、ぐぐ!!」 魔法の連続使用による負荷によって、ギトーは精神が飛びそうになったが、必死に意識を繋ぎとめる。 今、ここで意識を失えば自分の身体は………… その先は、考えたくも無い事柄だった。 「助け―――」 「命乞いなんてみっともないですよ、先生」 醜く、命乞いをしようと声を上げようとしたが、岩の向こう側に居たルイズが、何時の間にかギトーの隣で、チェシャ猫のように耳元まで裂けた笑みを浮かべて立っている。 ギトーは悟った。 こんな笑みを浮かべる者に、命乞いなど意味が無い事を。 そして、後悔した。 自分は、こんな化け物みたいな哂いを浮かべる者に、戦いを挑んでしまったと言う事を。 「うっ、うおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」 すでに限界は来ていた。その限界を死にたくない一心で騙し続けていたギトーであったが、とうとう魔法の発動が止まり、岩の動きを遅くしていた風が無くなる。すると、岩は凄まじい速度でギトーに倒れこんだ。 ルイズは、その叫び声を、まるでフルオーケストラを聴いているように、うっとりとした顔で耳に刻みながら、タクトの如く杖を振る。 「ぉぉぉぉぉおおおお…………お?」 こつんと、ギトーの頭に石が当たった。 岩がギトーを押しつぶす寸前、ルイズが錬金を解除した為に、元の質量に戻ったのだ。 ルイズは、ギトーの先程までの醜態に満足したのか、何も言わずにキュルケとタバサが座っている席へと戻っていく。 「ちょっとやり過ぎだったんじゃない?」 「あれぐらいなら良い薬よ」 「良薬口に苦し」 席へと戻ったルイズに少し困ったような調子で注意するキュルケと、ルイズの行動を肯定しているのか良く分からない言葉を呟くタバサ。 そんな三人の様子を見ながら、ギトーはふらふらと教室を出て行く。 「やや! どうされました、ミスタ・ギトー、まだ授業中ですぞ!?」 廊下に出ると妙に着飾ったコルベールと鉢合わせたので、授業の代役を頼むと、返事も聞かずにギトーは自室へと戻っていく。 今日は、もう、誰とも話す気にはならなかった。 ケツの穴に氷柱を突っ込まれかのように、おとなくしなってしまったギトーの態度は、『風』を最強と自負していた頃と比べると、見る影も無い程に衰えてしまっていた。 同じ頃、燦々と太陽の光が降り注ぐ中、ご主人様から預かった洗濯物を干している才人は、同じく、洗濯物を干そうとしているシエスタと話し込んでいた。 本来なら生真面目な性格であり、仕事中の雑談などしないシエスタであったが、 才人と一緒の時だけは、どうしても仕事が疎かになり、会話を楽しんでしまう。 それが駄目な事だと理解はしているが、どうしてもそれに『幸福』を感じてしまうシエスタは、それを直そうとは思わなかった。 「へぇ、シエスタの故郷って、そんなに良いところなんだ」 「はい。片田舎ですけど、村の人は優しくて、山には色々な果実が実ってて、ほんと、平穏なところですよ」 二人の会話は、何時の間にか故郷に関する話となっていた。 自分の故郷、タルブ村を事細やかに説明するシエスタに、才人は楽しそうに笑っていたが、不意にシエスタの表情が曇る。 「あれ……どうかした?」 「あっ、いえ……あの、すいません、無神経な事を話して」 申し訳そうに謝るシエスタに、はてと才人は首を傾げた。 一体、今の何処に無神経な事があったと言うのか。 「えっと……なんで、シエスタは俺に謝ってるの?」 疑問をそのまま口にすると、シエスタは益々、身を縮めて悲しそうな顔をする。 正直、グッときた。 「だって……サイトさん……自分の故郷に帰れないのに、私、故郷の話をして……」 シエスタの言葉に、才人は、手をぽんと叩いた。 そうか、確かに帰れない人に、帰れる人間が自慢するのは失礼にあたる行為かもしれないが、特に自分はその事に対して何も感じていない。 「いや、俺、そういうのあんまり気にならないからさ。 むしろ、シエスタが故郷の話を聞かせてくれるのは、凄く楽しいから、もっと聞きたいなぁ、とか思ってるけど」 才人の返答に、シエスタは良かったぁと安堵の溜め息を吐き、豊満な胸をほっと撫で下ろした。 「でも――――――とか思わないんですか?」 「え?」 聞こえなかった訳では無い。 ただ、どうしてかその単語が脳内で理解できなかったので、才人はもう一度聞き返す。 シエスタは、不思議そうに先程と同じ内容を繰り返した。 「ですから、故郷に帰りたいとか思わないんですか?」 「――――――――――――あっ」 帰りたい――――――才人は、自分の中に在り得なかった、その発想に愕然とした。 思えば、異世界である此処に迷い込み、シエスタの曽祖父が自分と同じ世界の人間かも知れないと聞かされた時でも、 自分の頭に『帰る』と言う考えは浮かばなかった。 何故ならその考えは………………無駄だから? 「サイトさん?」 「あっ……れ?……」 シエスタの怪訝そうな声に、今まで考えていた事柄が思い出せなくなる。 「えっと……何の話だっけ……あぁ、そうだ、シエスタの故郷の話だったっけ?」 何処と無く不自然な顔をした才人に、シエスタは何も言わず、心配そうな視線を向けてくる。 才人は、自分の中に何か釈然としないものがあるのを感じながら、それについて考える事を放棄した。 放棄せざるをえなかった 「そういえば、前、聞かせてくれたけど、シエスタの故郷に秘宝みたいなのがあるとか言ってたよね? それって、どんなものなの?」 才人の何事も無かったかのような態度に、シエスタは何かを言おうとしたが、軽く頭を振ってから質問に答える。 「うちの曾御爺ちゃんが残したモノなんですけど……その『悪魔の牙』って―――」 「あっ、シエシエ、見つけた~!」 シエスタの口から、なんだか物騒な単語が出るのと同時に、シエスタと同じメイド服に身を包んだ少女が、才人とシエスタの近くまで走ってきた。 「どうしたんですか、そんなに急いで?」 同僚の慌しい雰囲気に、シエスタが尋ねると帰ってきた答えは意外なモノであった。 「王女様! アンリエッタ王女様が此処に来るんだって!!」 メイドが息を切らしながら伝えた内容に、才人とシエスタはお互いの顔を見合わせた。 四頭のユニコーンに引かれた特別製の馬車が、魔法学院の正門を通過し、姿を現すと、王女の到着を今か今かと待ち侘びていた生徒達は、一斉に杖を掲げた。 件の三人組も、他の生徒達と同じように杖を掲げていたが、心情は他の生徒とは若干違いがあった。 キュルケは、清楚で穏やかな王女よりも自分の方が綺麗じゃないかと詰まらなそうな顔をしていた。 タバサは、トリステインの王女自体にそこまで興味が無かったので、杖を掲げているだけで何も考えていない。 強いて言うならば、今日の晩餐は、王女が来たお陰で豪勢になると考えていた。 ルイズは、何か……遠い何かを見るような目でアンリエッタを見つめていた。 「思ウ所ガアルト言ッタ顔ダナ」 「別に……時間の流れって、無情って思っただけよ」 隣に立つホワイトスネイクの声に、返答したルイズは、馬車が見えなくなると同時に部屋へと戻る為に、踵を返した。 今のアンリエッタに、昔のような、見ると安心するような笑みは無かった。 彼女の顔にあったのは、張り付いたかのような作り笑いのみ。 幼少のみぎりに共に遊んだ少女は、あそこには居なかった。 あそこには、ただの王女が居るだけ。 「ほんと……無情ね」 ぽつりと、誰に言うでもなく呟いた言葉にホワイトスネイクは何も言わずに、ルイズの後に続くのだった。 その夜、夢と同じような赤色の月が光を提供する部屋の中で、ルイズは熱心にホワイトスネイクと会話するタバサを見ていた。 夜分遅いと言うのに、部屋に留まる蒼髪の少女にルイズは、頑張るものねぇ、と呟く。 「挑戦」 一通りホワイトスネイクとの会話を終え、手に持っていた一枚のDISCをタバサは、何の躊躇いもなくDISCを挿し込み―――案の定苦しみ始めた。 「はぁ……ホワイトスネイク」 落胆したかのようなルイズの声は、もう三度目だ。 ホワイトスネイクは、その声に反応し、これもまた三度目となるDISCの強制排除を実行する。 「……失敗」 自分の頭から抜き取られたDISCを渡されながら、苦々しげに呟くタバサだったが、何処と無く声に覇気が感じられない。 「今日ハココマデダ。ソロソロ、精神力ガ限界ダロウ」 ホワイトスネイクの言葉に頷くタバサは、ルイズに一礼をしてから、よろよろとおぼつかない足取りで部屋から出て行こうと扉に手を掛け、掴まれた。 「そんな危なっかしい歩き方しか出来ないのに、部屋を追い出したんじゃ、私がキュルケに叱られるわ。 少し、休んでいきなさいよ」 語尾を強めるルイズに、タバサは思わず頷いてしまう。 そのまま勧められるままに、テーブルの椅子に座るタバサだが、この申し出はありがたい。 正直、眩暈と吐き気によって気分が最悪で、部屋まで歩けるか分からなかったからだ。 「でも、あんたも頑張るわよね……初日から、こんなに気合入れるなんて」 「…………」 「まぁ、『力』を使いこなせるようになれば、便利だから頑張るのは分かるけどね」 あふ、と欠伸をして、眠たげにベッドに横になるルイズを見るタバサの瞳は、何時も通りの無感動を映している。 「相変わらず、人間味の無い眼をしているわね、あんた」 「自覚は無い」 「でしょうね。そんな眼、自覚してやってるとしたら、相当、性質が悪い奴だから」 タバサの体調が回復するまで、取り留めの無い話を振っていたルイズであったが、扉のノック音が部屋に響くと同時に、半分閉じかけていた目を強制的に開かせ、扉の方へと視線を向けた。 始めに長く二回、その後、短く三回ノックされたのを確認してから、ルイズは立ち上がり、扉を開けた。 扉を開けると、そこには黒頭巾を被った少女が、頭巾と同じ色のマントを羽織って立っていた。 「まさか……」 頭巾越しに分かる少女の顔立ちに、ルイズは驚きからか、言葉を漏らす。 少女は、ルイズの言葉に反応するように部屋へと入り、扉を閉めてから杖を振るった。 ホワイトスネイクが警戒の色を濃くし、何時でも少女の頭蓋を砕ける位置に立っている事に気がついたタバサは、声を掛ける。 「魔法での仕掛けが無いか確認しただけ」 その説明に、頭巾の少女は頷きながら頭に被った布を取り去る。 「驚いた」 本当に驚いているのか、激しく疑う程に単調に呟かれたタバサの言葉は、頭巾を取り去った少女―――アンリエッタ王女へと向けられたものだった。 「姫殿下」 アンリエッタ王女の眼前に居たルイズ、恭しく膝をついた。 そこに、タバサは違和感を感じた。 貴族たる事を、絶対として扱っているルイズにしては珍しく、その仕草に何処と無く不自然さが付き纏っていたからだ。 「あっ、ほら、あんたもさっさと―――」 「良いのよ、ルイズ。貴方のお友達なら、私にとってもお友達だもの。 ルイズも、ほら、立ち上がって。友達に対して膝をつく人なんて居ないでしょう?」 優しげであり、母親に抱かれるような抱擁感を覚えさせる声に、タバサは思わず息を呑む。 なるほど、確かに王女と言うだけはある。 風格と仕草、それに何者をも癒すかのような声には、カリスマに満ち溢れていた。 普段から、トリステインの王族は執政者としては他の王族に格段に劣っていると聞き及んでいたタバサは、よくそれで国が動いていると思っていたが、なるほど、このカリスマは、王族としては一流だ。 そこまで考えて、不意にタバサの顔に影が落ちた。 それは如何なる思考の果てなのか、無感動を歌うはずの彼女の瞳は、その時ばかりは揺れに揺れていた。 幸い、昔話に花を咲かせている、ルイズとアンリエッタは気付かなく、気付いたホワイトスネイクも別に声を掛ける義理も無いので放っておいた為に、彼女の思いが外に出る事は無かった。 「あの頃は……本当に楽しかったわね、ルイズ」 昔話が一頻り済んだ時に、アンリエッタはぽつりと懐かしむように呟いた。 「えぇ、本当に……」 それに対して相槌を打つルイズは、今朝見たアンリエッタと、今のアンリエッタの違いに内心、物凄く驚いていた。 あの時は、作り笑いを浮かべ、民に対して手を振るうだけの人間になってしまったと思っていたが、今、こうして目の前で話すと、昔のままのアンリエッタが存在している。 (人間って、凄く便利な生き物なのね) (何ヲ今更。人ハ、誰彼モ欺イテ生キテイケル、唯一ノ生キ物ダゾ?) 呆れたようなニュアンスを含んだホワイトスネイクからの返答に、そうなのかしら、と思いながら、ルイズはアンリエッタの言葉に返答していく。 だが、話の合間に溜め息を吐き続けるアンリエッタに、ルイズは眉を顰めた。 タバサに顔を向けると、彼女もまたルイズと同じ結論なのか首を縦に振る。 「あの……姫様、どうかなさったんですか?」 「えっ?」 「先程から溜め息ばかりを……何か、悩み事があるのでは?」 疑問系で聞いたルイズだったが、アンリエッタに何か悩み事が存在する事は確信していた。 思えば、もう何年も会っていない友人に会いに来て昔の話をしたのも、恐らくはその悩みで磨耗した気を紛らわす為だったのだろう。 「あぁ、ルイズ……やはり、貴方には分かってしまうのね。昔から友達である貴方には……」 誰でもあんなに溜め息を吐けば分かると言うものだが、それに突っ込むものは居ない。 ともあれ、アンリエッタは、眼を真っ直ぐルイズへと向けようとしたが、その前に、椅子に座っているタバサへと視線が逸れた。 「すいません。この話は国の重要事項であり、信頼の置ける人物にしか……」 「分かった」 申し訳無さそうに述べるアンリエッタに、タバサは立ち上がり、一礼してから部屋の扉に手を掛ける。 調子の悪さも、きちんと歩けるぐらいには回復していた。 「じゃあね、また明日……かしら」 後ろから掛けられたルイズの言葉に、振り返らずに頷いたタバサは、服のポケットに入っているDISCの重さを確かめながら、部屋を後にした。 「これで、今、この部屋に居るのは、私と私の使い魔のみ……話していただけますか、姫様」 タバサが完全に遠のいたのを確認してから、ルイズがそう言うと、アンリエッタは重々しく頷き口を開いた。 「そうですね…………では、話しましょう。私が、夜も眠れぬ程に悩む事柄を―――」 憂いを張り付かせ、笑みが掻き消えたアンリエッタの表情に、今更ながら、厄介事に巻き込まれる事になると気が付いたルイズであった。 第十話 後編 戻る 第11.4話
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教師な使い魔 平民との決闘-原因は女絡みだった。 二股がばれたギーシュはモンモランシーに謝罪しに行った。 泣きながら怒るモンモランシーは何の謝罪も聞かずにどこかに行ってしまい、捜すのに一苦労した。 こんな危機は初体験ではない、今までだって乗り越えてきた。・・・が、今回はさらなる危機が訪れていた。 男がモンモランシ―の傍に居た。それも平民が。しかも・・・・・ 『口説いていた』ッ!!!! 男-シーザーにとって当然の行為だった。 一人寂しそうにしている女性を見れば相手をするもんだと思い、そのために吐く嘘は正しいと思っているほどだ。 そしてシーザーは、目を潤わすモンモランシーを慰めて(口説いて)いた。 何とか二人の間に入ったギーシュがモンモランシーに謝罪をするが、中々聞き入れてくれない。 「なによ、別にいいでしょ私のことはほっといてよ」ギーシュの弁解にモンモランシーはわざと突き放す態度をとり、シーザーの腕に抱きついて見せる。 「私にも浮気する権利が有るわよ。 あっ、アンタとは分かれたから浮気じゃないか」 「なななな、モンモランシー彼は平民だぞ。それも、ゼロのルイズの使い魔だぞ」 「『ゼロ』、か」シーザーはその言葉に一瞬冷たい態度をとる。 「あんたより、優しいし、ルックスも頼れる感じがして素敵じゃない。浮気する誰かさんとは大違いね」モンモランシーはそう言ってギーシュを冷たい目で睨む。 「ふふふ、そうか、分かったよモンモランシー」ギーシュは何かを吹っ切った陰のある目で二人を見た。 「えっ」モンモランシーはその言葉に焦りを見せる。 「決闘だ!! ゼロの使い魔君、僕と決闘したまえ!! そうすればどちらがモンモランシーに相応しいか分かる!!」 シーザーは怒っていた。 自分の主人-ルイズの性格は大体察していた。 彼は彼女の悲しい性質を見抜いた。 魔法が使えないコンプレックスから、他人と厚い壁を作り、虚栄を見せる。 せめてと貴族としての義務を全て背負い、愚直なまでに貴族らしく有る。 擦り切れていくのは、彼女の道だ。その道が擦り切られ続ければ、いずれ他の道との接点が無くなり、抜け出せない孤独に囚われるだろう・・・。 そのルイズをさらに傷つける言葉-「『ゼロ』のルイズ」 それを軽々しく使う奴をぶちのめす事で、その後ルイズにどんな影響を与えるかシーザーは知っていた。 主人の味方であることを示すため、「主人を侮辱した」という名目で決闘を受けた。 そして決闘。 噂を聞きつけてやってきた血気盛んな学生達はギーシュの圧勝だと思っていた。 だが男は不思議な呼吸音を響かせながら、ワルキューレを一体潰し、武器-剣を奪いその後錬成した七対のワルキューレを圧勝してみせた。 ―ゼロのルイズは面白い奴を召喚したな…。 ギーシュは突きつけられた剣をじっと見る。自分の中で「足りなかった感覚」が戻ってくる。 (ギリギリの! 死と隣り合わせの! こんな状況がぁぁ!! 僕を強くする!!) 「感謝するぞ平民!! こんな状況を待っていたんだ僕は!! さぁここからが本番だァァ!!」 狂ったか? まぁこんな状況だ。平民に剣を突きつけられ敗北しそうなわけだ、貴族として死にたくなる状況だな。と周りが好き勝手思っている頃。 (カエルを車に轢かせるのを楽しむ糞ガキかと思っていたが・・・。 こいつの目、『生き返り』やがった!! こいつにはここから逆転する『強さ』が有る・・・)今シーザーは止めを刺せない。いや刺してはいけない。ここからだ、ここから決闘は始まるんだ。 二人はそれを知っていた。 ギーシュは突きつけられた剣を、「握り締める」。 その手からは「血が流れない」 コオォォォォォ シーザーと似た呼吸音を発しながらニヤリと笑うギーシュ。 「どうした、君のチャンスだぞ?」 「マンマミヤ~。 仕切りなおしだ、ミスタ・ギーシュ。 ・・・まさか君が『波紋』を使えるとは、師匠の名前を教えてくれないかい?」 「『リサリサ』、僕の尊敬する師匠の名だ! 心に刻みたまえ」 「なっ、なんだとッ!?」 ギーシュは昔従者と散歩してた時に賊に襲われた事が有る。 歳が十に届くかどうかってぐらいのガキだった。 乗馬の練習の成果を確かめたくての散歩だった。近くの湖に向かって調子よく馬を操っていた。 その時茂みの中から矢を射られる。賊がギーシュ達を包囲する。 そんな時のために従者がいた、従者はギーシュの馬の手綱を奪い、馬を二頭操りながら駆けた。 もと来た道を振り返り、屋敷に向かった。逃げ道はそこしかない。 賊も行動を起こす、飛び掛った者もいたが従者の魔法でやられてしまった。 しかし彼等は数で攻めれば、メイジ一人には勝てると知っていた。 手を休めず、矢を射る。 矢はギーシュの馬に当たった。 ギーシュは馬から投げ出された、地面を転げ、顔に擦り傷を作り、見た。 一人逃げ続ける従者を。 従者も知っていた、メイジとはいえ自分一人で賊には勝てないと。 「待って! 待って! 待ってよぉ!!」頭もぶつけたので、視界が少しぼやけている、それが逆に想像を掻き立てた。 従者が養豚場の豚を見るような目でこっちを見たと思った。 -可哀想だけど、貴族の息子に生まれるってのにはリスクもあるってこと。政敵に命を狙われんのね。 って目だ。 ギーシュは一瞬、「戻ってきて助けてくれるのでは?」と思っていた。しかし希望は粉微塵になった。 振り返り賊を見る、自分がどんなめに遭うかは全く解らない。ただ夢の世界の終わりを知った。 行き過ぎたパニックを敵に見せるのを嫌い、それを押さえる。 そうすると不思議な冷静さが現れた。 -自分は想像の付かない、酷い目に会うんだろう? うん、解った・・・。生き延びるには、戦うしかない!! 一人になり、一切の庇護の無い状態になり、 少し闘志が沸いてきた。 「グラモン家三男、ギーシュ・ド・グラモン。 反逆者の相手をしようではないか!!」 この言葉は誰にも聞こえないような小さなものだった。さすがに啖呵を切るほどの度胸も経験も無い。 しかし戦う意思は動き出す。 震える手でバラを取った、彼自慢の護身用の簡単に携帯できるサイズの杖だ。 攻撃魔法なんてまだ知らない、格好付けるために持ってるだけだ。 しかし一つだけ魔法が使える。 サモン・サーヴァント 使い魔召喚 この魔法の話を聞き、是非自分にぴったりの使い魔を召喚したく新しい呪文を子供心で考えていた。まさかほんとに使う日が来るとは・・・。 杖を上げ、敵を睨み、微塵になった希望の先にある、闘志に火をつける。 「尊厳の中佇む、美しき覇者!! 月に照らされる悪魔を駆逐する、追放者!! 永遠を生きる愚者を刈り取る、狩人!! 僕が君を望む!!」 「サモン・サーヴァント」の魔法が形になっていく。 ギーシュの望みを何かがプッシュした。魔法は成功した!! 光が現れる。見慣れない魔法に賊は思わず動きを止め、身を潜める。 光は形を作り出す、使い魔が現れる。 できれば移動能力が高い奴に来て欲しい・・・。 現れたのは・・・一人の女性。 腰に届く長い髪、目を見張るナイスバディの美しい女性。 「ここは?」 女性は辺りをゆっくり見渡す。動きに色っぽさが有るが、その動きは戦闘者のそれだった。全く無駄の無い、どんな奇襲にも対応できる動き。 しかし敵は複数人いる。一人の武術家の登場で、状況は好転するだろうか? 「すいません。私が貴方を召喚しました」 「召喚? 聞きたい事は山ほど有るけど・・、それどころじゃないわね」辺りに充満する殺気を目でなでる。 「ええ、賊に襲われています。しかし貴女は無関係だ・・・」その先に言うことは「貴女は逃げて下さい」だ。 唯一の魔法は最悪の失敗。無関係の人間を危険に巻き込んでしまった。 貴族としてのグラモン家の人間としての最後の義務、最後の一言・・・、しかしそれを言う前に女性は言った。 「逃げる? それは勝てない戦いのときと、犯罪者のすることよ。 勝てないのも、犯罪者もあっちよ」 女性には息子がいた。息子が知り合いの石油王と一緒に誘拐されかけた事がある。 彼女にとって、この事件は他人事では無い。 ギーシュはこの奇妙な格好をした女性がおこしたその時の活躍を生涯忘れない。、そして自分の目標にした。 女性は奇妙な呼吸音を響かせながら歩き出した。 向かってくる敵を叩き伏せ、止めの一撃の時に一瞬光を発する。あれが彼女の能力なのだろう・・・。 辺りには意識を失った賊が散乱している。 ギーシュは劇を見終えたように錯覚した。女神が風のように敵をなぎ倒し、無力な少年を助けてくれる劇だ。 そして勝利した女神は舞台挨拶のため観客の前に再び現れる。 「終わったわ、行きましょう」女性は賊の馬を二頭を引き連れている。 ギーシュは近づき感謝の言葉を捧げる。何とかありきたりなお礼を言うことができた。 「貴方を何とお呼びすれば良いですか?」 「リサリサ、と呼んで頂戴」 ギーシュはリサリサをまばゆい太陽の女神だと思った。 屋敷までの道中に、「異世界」から来たことや、「使い魔」の話をした。 今後のことを相談し、暫らく屋敷で雇いリサリサが帰るための手段を捜すことにした。 ギーシュは何かを思い、リサリサと契約はしなかった。 (今思えばテレていたのだろう・・・。) 先に逃げた従者は屋敷から追い出された。 罪に問うこともできたが、あえてそれはしなかった。 無力さが原因だと知っているギーシュは、彼を罪に問うことに反対した。 自分の無力さから目を逸らすためか、彼に同情したのかは分からない。多分両方だろう。 リサリサを屋敷に新しい召使として雇い入れ、二年間共に過ごした。 その二年でギーシュは変わった。 リサリサに戦い方を何度も教えるよう頼んだ。そのたんびに断られたが、リサリサが一人で訓練してる様子を盗み見しながら、技術を亜流だが体得しようとした。 どうしても「波紋」の力が欲しかった。 メイジとしての訓練もしたが、何よりもリサリサに近づきたかった。 彼女の気高い姿に近づきたかった。 暫らくそんな事を続けていると、訓練中にリサリサから声をかけられた。 なんでも「波紋」の力は「生命のエネルギー」を扱うものだから、間違った方法で身に付けると自分の体に重大な欠陥ができてしまうそうだ。 そこで二つのことを提案した。 「波紋」の修行を止める道。 「波紋」の修行を本格的に始める道。 後者の辛さも説明されたが、ギーシュに迷いは無かった。 ギーシュはリサリサから波紋の修行受けることが出来るようになった。 リサリサは一度教えるとなったら、本質の全てを体得させようと厳しい訓練を課した。 いずれ帰る方法を見つけてすぐ帰るのだ。その時にギーシュの修行が半端になってしまってはいけない。とくに心構えについては、スパルタで仕上げられた。 リサリサが帰る手段を探しに旅に出るとき、ギーシュは家に残るように言われた。しかし何時もこっそり付いて行っては合流していた。 両親もリサリサが良い師匠だと解っていたのでそこは黙認していた。 リサリサとの旅は身を焦がす充実感があった。 オークの群れに囲まれたこともあった。 竜の巣に入らないといけないこともあった。 とても満たされていた。 そして・・・。 リサリサが帰る瞬間はあっという間に来てしまった。 ある村に残された書物に可能性が書いてあった・・・。 ある場所で扉が現れるらしい。 とにかくそこに行ってみる・・・。 偶然・・いや運命が、その日は扉が開かれる条件を満たしている日だった。 そしてそこに辿り着いた。 扉は開かれていた。そこは目に見えないが風の流れ方が違った・・・。 その前に佇むリサリサ。 別れの時が来た・・・! ギーシュは、リサリサに行って欲しくなかった。 しかし貴族のプライド、男の意地がそれを止める。 -今ここで引き止めたら、マンモーニじゃないかッ!! 「ギーシュ、立派になったわね・・・」 ギーシュはその声に体を強張らせる。終わりを悟った。 「前にも言ったけど、私は前の世界にやり残したことがあるの。柱の男達の復活は近づいている、帰ったらもうすでに復活しているかもしれない・・・」 -行って欲しくない。 「人には運命が有るわ、私には私の運命、やるべき事が。 彼方には、彼方の運命が何時か来るわ。 それに立ち向えるだけの力を彼方は持っている。 彼方が学んだことの全てが輝く日が来るわ」 -行かないで。 「さようなら、ギーシュ。 どんなに離れても愛してるわよ・・・」 リサリサも二年間を共に過ごした弟子に愛情を持っていた。 -行かないで。 逃げる奴には簡単に使える言葉なのに、何でいえないんだ? リサリサはすでに背を見せている。 始めてリサリサを見た時から変わらない、ずっと見続けてきた、ギ-シュの追ってきた姿。 -ああ、これが戦士の出陣だからだ。 止 め れ る 訳 が 無 い !! 「先生!! 有難う御座いました!! ギーシュ・ド・グラモンはリサリサ先生から焼き付けられた、 『勇気』を生涯忘れません!!」 リサリサは振り返らない。満足そうに足を進めた。 ・・・それからリサリサに会った事は一度も無い。生涯の別れになっただろう。 たまに悲しくなるけど、それでもいい。 リサリサとの出会いはギーシュの心を熱くした。 もう無力感が立ち塞がったりしない。 熱い情熱がこの身を動かす。 -また旅に出よう!! 「えっ駄目ってどゆこと?」 旅に出ようとしたら、両親に止められた。 リサリサがいたから、旅を黙認していたのだ。一人旅なんて、子供が大事な親なら反対して当然だった。 それにメイジとしての勉強も滞っている。 結局理由をつけて旅は却下された。 ギーシュも親に逆らうわけには行かないと思い、言いつけを守った。 自分の情熱に苦しめられる二年を送った。 その後トリスティン魔法学校に入学して、平民と決闘するまで、彼の魂はくすぶり続けていた。 シーザーとギーシュの決闘。 勝敗は付いていた。 ギーシュが殴りかかってから攻防が続いたが、ギーシュが圧倒されていた。 レビテーション、落とし穴、ワルキューレ、波紋、全て使って応戦したがシーザーの波紋を練った肉体に止めとなる攻撃には到らなかった。 波紋の訓練は続けていたが、シーザーの命がけの訓練とは質も量も違いすぎた。 それでも戦っていた、戦っていたかった。 「なかなかやるな、だがもう止めたらどうだ? その右腕もう動かないんだろ? 誰も君を責めたりしないさ、大健闘じゃないか・・・」シーザーが言う。 「君が僕と同じ状況で、自分から降参するかい? 腕をもがれようが、足を吹き飛ばされようが、後もうちょっとで勝てる相手に勝利を譲るなんてさ!!」 吼えるギーシュ。垂れた血がズボンを染めている。顔も血の線が入り、いい感じに男前になっている。 そして力の入らない利き腕を上げ、ひびの入った足を庇うのを止める。 「波紋」の呼吸も乱れているので、全身の痛みがよく解ってしまう。 最後の攻撃 残った波紋を込めてギーシュが攻める。 間合いを一気につめ、蹴りを放つ。 ギーシュの捨て身の攻撃を警戒してシーザーは素直にブロックする。 しかしその蹴りは目の前を通過していく。この一撃はフェイント。 蹴りの加速を利用し、口に咥えたバラを飛ばす。メイジの命とも言える、杖を捨てる攻撃。 「ヌヌウッ・・・!」シーザーの喉にバラが刺さる、ブロックの隙間を縫って。 「ふふ、波紋入りの薔薇のトゲは痛かろう」 喉をやられ呼吸を乱したシーザーの体は一瞬波紋のガードが解ける。 ギーシュはさらに体を回転させ、蹴りを放つ。 -この隙に一撃を入れねば勝機は無い!! 一撃は・・・入った!! シーザーは蹴りで飛ばされる。波紋のガード無しでくらってしまった。 -マンマミヤッ! とんでもない奴じゃないか!! 力の差を感じながらも、果敢に向かってくる。間違いなく好敵手!! シーザーが急ぎ喉からバラを取り出す。 か細い波紋の呼吸で喉の治療を開始する。全体の波紋は弱くなってしまった。 目の前にギーシュは佇んでいる。来る!! 「・・・」ギーシュはシーザーを見下ろし続ける。 「ギーシュ・・・!?」 「・・・」 「こ・・・こいつ。 ・・・気絶している・・・!」 さっきの攻撃で全ての波紋を使い切った。ギーシュは体を動かすエネルギーを出し切っていた・・・。 久しぶりの戦いだった。 惨敗だったが気分が良い。勝ってたらもっと良かったんだろうが、負けて良かったんだろうとギーシュは思う。 決闘の数日後、二人は親友になっていた。 二人は波紋の訓練を共に積み。よく一緒に行動した。 話したいことも、聞きたいことも山ほどあった。 (ちなみにギーシュの方が兄弟子になる。シーザーはリサリサが四年前に帰った後の弟子。) ただそれを快く思わない人も・・・。 「このバカ犬ーー!!」 「最低よギーシュ!!」 ルイズとモンモランシーである。 シーザーとギーシュこんなたらしな組み合わせが有るだろうか? 今回も見に覚えが有りすぎるどれかを目撃されたのだろう。二人の名誉のために言っておくが、二人は決してとっかえひっかえ遊んでいるわけではない。 シーザーはさびしそうな女性に話しかけ、元気付けてるだけだし(ちゃんと美味しいめにあってる。) ギーシュも女性を傷付けるのは酷い事と知っている。(女性にバラを振り撒いているだけだ) ・・・だめだ・・二人の名誉を守んのは無理だ。 その日、二人が保健室に一泊した。 一人は全身火傷と擦り傷を作っている。 もう一人は何かの薬品のせいか時折痙攣を起こしている。 そして二人とも何故か首輪を付けられていた・・・。 ルイズ 決闘の活躍で少しシーザーの評価を改める。がすぐにその本性がスケコマシで有ることに気づき、この奇妙な使い魔の女癖の悪さを直すために調教の日々を送っている。 シーザー 主人の名誉のために戦い少し良好な関係を築くが、すぐに台無しになる。 ギーシュとは友人として付合い、共に波紋の修行をしている。 ルイズのことは妹のように思い、大切にしている。 (ちなみに決闘では、殺傷力の高い波紋カッターなどは使わなかった。このことをギーシュに言うと、波紋で必殺技が作れることに驚き、自分の必殺技を考えるようになった) ギーシュ シーザーとの決闘に敗れる。その後友人になる。リサリサが無事に帰った話を聞き安心する。 当面の目標はシーザーに勝つこと。情熱の行き場を見つける。 たまにモンモランシーに怒られるが。なんとか上手いことやっている。 モンモランシー 決闘のギーシュを見て、結局よりを戻した。 ギーシュの女癖の悪さに苛立ち、惚れ薬の調合を始める。
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土と芝生の大地の臭いを感じ、目を覚ましたジョナサン・ジョースターの視界には一面の青空が広がっていた。 透き通るような青空に素直に綺麗だという感想抱く。 しかし、直ぐに朦朧とする意識の中で疑問が沸き上がる。 (ここは……どこだ?) 自分はエリナとのハネムーンで船に乗っていたはずだ。 それが何故陸にいる? 次第に鮮明になっていく記憶。 首だけとなったディオとワンチェンに襲われたこと。 ディオの攻撃を受け呼吸が出来なくなり波紋を練れなくなったこと。 体に残る僅かな波紋エネルギーをかき集め、最期の波紋をワンチェンにぶつけたこと。 それによって体組織を狂わされたワンチェンがシャフトに取付き、船は爆発の道を辿ったこと。 エリナを母親が死に泣き声を上げる赤ん坊と共に脱出させたこと。 ディオが逃げ出さぬように捕まえて船の中に残ったこと。 そこまで思い出し、驚愕した。 (あの時、僕の中でなにかが切れ、僕は船の中でディオと運命を共にしたはずだッ!!なのに何故、僕は生きているんだッ!?) 船は、ディオは、あの赤ん坊は、エリナはどうなったのか。 駆け巡る思考の中でなんとか状況を把握しようと首を動かす。 そこには――― キスをしている黒い髪の少年と桃色がかったブロンドの髪の少女がいた。 ズギュウウウウウン!!という効果音が聞こえた気がする。 目を瞑って相手の唇を奪う少女、唇を奪われ驚愕に目を見開いている少年。 ジョナサンはそのときの様子を見ていなかったため知らないがそれは彼の妻エリナが少女時代に体験した状況と同じであった。 もっとも少年と少女の立ち位置は逆であったが。 (なっ!なにをしてるだァ―――――ッわからんッ!?) 目覚めて最初の光景が青空で二番目がキスをしている少女とされている少年という奇妙な出来事に頭が追いつかない。 突然の出来事に状況が飲み込めていないのは少年も同じなようで酷く混乱してなにごとか文句を言っている。 黒い髪や見た目からすると少年は東洋人らしい。 しかし、見たことのない服を着ている。 桃色の髪の少女や周囲にいる少年少女達も不思議な恰好をしているが少年のソレとは明らかに違っていた。 黒いマントを着け、皆手には指揮棒のような物やいかにも魔法の杖ですといった物を持っていた。 まるで物語に出て来る魔法使いのようだ思う。 改めてここがどこなのか考えたその瞬間、突然黒髪の少年が叫び声を上げ立ち上がって左手を押さえた。 それが苦痛によるものだと気付き、直ぐさま立ち上がって少年に駆け寄る。 「君!どうした大丈夫か!?」 少年は額に汗を滲ませしきりに熱いと言いながら手を押さえ続けている。 「彼になにをしたんだ!?」 「すぐ終わるわよ。『使い魔のルーン』が刻まれているだけだもの」 しれっとした様子で言う桃色髪の少女。 「使い魔?ルーン?」 なんだそれは。 ファンタジーに出てくる単語じゃないか。 それではまるで本当に――― 「お、収まった……」 左手の痛みが収まったようで少年が息を吐いて力を抜いた。 「はい、ミス・ヴァリエールは一度に二体……二人の人間を召喚しましたがそちらの少年の方と契約が成立しましたね」 言いながら頭部の寂しい中年男性が近づいて来て少年の左手の甲に刻まれたルーンを確かめた。 「ふむ、珍しいルーンだ、少しスケッチさせてもらうよ」 どこに持っていたのかローブの中からスケッチブックと羽ペンを取り出してさらさらと描きはじめた。 描き終わると再びローブの中にしまい、周囲の少年少女達に声をかけた。 「さあ、皆教室に戻るぞ」 そう言うと男と少年少女達は一斉に――― 宙に浮いた。 「「―――は?」」 黒髪の少年と共に口をあんぐりと開けて間の抜けた声を出すジョナサン。 「ルイズ、お前は歩いてこいよ!」 「いや走って来いよ!」 「そこの平民二人に抱えてもらったらどうだぁ?」 みな口々に少女に言いながら空を飛んでいく。 ジョナサンは吸血鬼か?いや、ここは日光があるから波紋使いか?と呟いている。 少年はジョナサンの隣でワイヤーどこ?クレーン車どこ?ときょろきょろしていた。 そして三人だけがその場に残された。 「むっきーー!!なにしてるのよ!私達もいくわよ!!」 そう言ってぷりぷり歩きだすルイズと呼ばれた少女。 そして後には状況を把握できていないジョナサンと少年だけが残された。 「あの………」 「ん?なんだい?」 「ここどこなんですか…?俺、さっきまで東京にいたのに……そもそも日本なんですかここ?」 「わからない……僕はイギリスの港から出た船にいたはずなんだ……」 それに自分は死んだはずなのに。 その言葉はなんとか口に出さずに呑み込む。 ここで不用意に自分が死んだはずの人間だと教えれば少年はさらに混乱してしまうだろう。 それは得策ではない。 今も少年は不安そうに―――――― 「なんかさっきも奴ら宙に浮いてたし、これって夢かなぁ?それにしては熱くて痛かったし」 していなかった。 全く。 みじんも。 これっぽちも。 気が付いたら知らない場所にいて、突然左手に刻印のようなものをされ、さらに目の前に宙に浮く人間を見たというのに少年の余裕っぷりはすさまじかった。 尊敬半分、呆れ半分の感情を抱いていると再び少年が声をかけてきた。 「そういえば、名前なんていうんですか?」 「僕?僕は――…」 とりあえず、年上である自分が確りしなければいけない。 まずは情報を得るためにも彼と一緒にあの少女の後についていこう。 そう考え、自らの名を告げる 「僕はジョナサン・ジョースター、君は?」 「俺は……平賀才人」