約 2,937,436 件
https://w.atwiki.jp/marcher/pages/1049.html
負ける気しない? ★★★★★★ 「亀井さんってあの亀井さんですか?写真では道重さんの横におられた? あ、ありえないですよ!仲間同士で戦うなんてあってはならないことです!!」 いや、それは違うと鞘師は反論しそうになり、その言葉を飲み込んだ たった今、目の前にいる道重さゆみという頼れるリーダーが仲間と闘った告白したばかりではないか 自らの手で掛け替えのない仲間、それも親友を消してしまったという告白 信じたくないのが本音なのだが、覚悟の告白は真実だと受け止めざるをえない 「飯窪、残念やけどホントのことや。受け止めるんや」 「まあ、さゆみんや愛佳のように私は自分の眼で見てはいないけど、信じざるをえないかな」 光井の声は揺らぎなく、新垣の声も普段通りのトーン 「ちょっと!!どうしてお二人はそんなに冷静でいられるんですか! かつての仲間だっなんですよ!!なんでそんな簡単に、受け入れられるんですか?」 石田が感情をむき出しにしたので、佐藤はびくっと体を震わせて、あゆみん、と肩をつかんだ 「なんだよ、まあちゃん」 「・・・新垣さん、爪割れてる」 佐藤の指摘した通り爪にひびが入っている。応急処置のだろうか、奇妙な光沢の跡がある あれは・・・瞬間接着剤であろうか? 「新垣さん、その爪って」 「あっちゃー、後輩達を不安にさせまいと前もって準備しておいたんだけどね~」 気まずそうに笑う新垣 「新垣さん、あんな強う拳にぎりはったら爪くらい割れますよ」 「あっちゃー、手厳しいところみるね、佐藤は」 「はい!!」 「いや、褒めてないから」 ため息をついて、顔を上げた新垣の瞳はいつもより濁っているように見えた。 「そりゃあさ、私達だって、できることなら戦いたくない さゆみんだけじゃなく私にとっても仲間だし、それ以上に友達だからさ だけど、ダークネスと一緒にいるっていうことは『敵』って認識しなくてはならない」 心の内を隠すこと諦めたようだ 「それに、もしあの亀井さんが本気だしはったら、誰も勝てへん ダークネスにとっては亀井さんの能力はほしくてたまらん類のもんやろうしな」 「・・・あの、すみません。 亀井さんってあの写真だけみると、すっごく優しそうで、何ていうか全然強そうにみえないんですが」 工藤が空気を壊すことを覚悟し、しかし、問わずにはいられなかったのだろう、失礼を承知で尋ねた 「亀井さんってそんなに皆さんが臆病にならなければならないほど強いんですか?」 「ねえ、くどぅ」 先輩たちに問いかけたにも関わらず、問い返したのが鞘師だったので工藤は慌てて鞘師の方を向いた 「強さ、ってなんだと思う?パワー、破壊力、スピード、それとも能力?」 「・・・すべての総合ではないでしょうか?たとえばはるなんと鞘師さんなら鞘師さんが強い 感覚共有じゃ鞘師さんの太刀をさばききれないし、ぜったいにはるなんじゃ鞘師さんに勝てない」 「それは違うで」 「え?」 「工藤、もし愛佳の能力が飯窪の『感覚共有』やとしても鞘師に勝てる、かもしれへん」 「そ、そりゃ光井さんなら勝てるかもしれ・・・ない・・・ですけど」 光井に咎められているわけでもないのだが、その言葉の強さに押され、工藤の声が小さくなる 「愛佳だったら、じゃなくて、戦い方さえわかっていれば、今の飯窪でもやすしには勝てるよ」 そう断言する人物がいた、新垣だ 「新垣さん、無理ですって、私じゃ、鞘師さんには」 「いいや、戦い方を選べば勝てる」 グラスの水面に波紋が生じた 「弱い能力なんてあらへん、能力の長所は短所にもなる、裏表の関係にすぎへん、逆もある 結局は使い手の腕次第っちゅうことや・・・しかし、亀井さんの能力は反則的や」 「うん、あの力は頼もしいようで、恐ろしい両刃の剣だからね」 通じ合っている二人の表情は暗い 「・・・絵里はさゆみと一緒だった それは仲が良かったから。さゆみに欠けているものを絵里はたくさん持っていた」 ずっと黙っていた道重が息を整えて、仲間達に顔を向けた 真っ青な顔、血色の悪い唇、泣き腫れた瞼 「だ、大丈夫ですか?」 「・・・大丈夫じゃないけど、みんなには伝えなくてはいけないの」 光井から道重渡されたカップを受け取りながら、仲間達と一人ずつ目を合わせていく 「さゆみはリゾナンターとして多くの戦い、いろんな力を見てきたの さゆみの治癒能力、れいなの共鳴増幅能力、りほりほの水限定念動力・・・頼りになる仲間たちの力 詐術師の能力阻害、永遠殺しの時間停止、マルシェの原子構成・・・圧倒的なダークネス幹部の力 負けることは死、それを意味する中でさゆみたちは成長できたの 死なずに今、こうやっているのは奇跡かもしれない」 G、天使、A、R、鋼脚・・・幹部たちとの死闘を思い出し、光井も「ほんまやなあ」とつぶやく 「ダークネスに比べて一人ひとりの力は弱かった。だからこそ、さゆみ達は気持ちを一つにして戦うしかなかった それが共鳴、というダークネスも恐れる形で現れたのだと思うの ただ、愛ちゃんの光使い、れいなの共鳴増幅能力など強力な力があったのも事実 ガキさんの精神操作や愛佳の未来予知ももちろん心強かった」 「褒められても何も出せやしないよ、さゆみん」 「小春の電撃もジュンジュンの獣化もリンリンの発火能力もあるからこそ、こうやって今、生きていられる もちろん、絵里のあの力も・・・絶対に負けない力」 「『絶対』??」 あえてその単語を使用したように感じられ、石田が反応する 「絶対、ってどういうことですか?」 「石田、私達の戦いで負けることは『死』を意味するってさっき説明したよね? ただ、少なくとも私達、リゾナンターは極力命を奪うことはしないことを掟とした でもダークネスは違う。邪魔するものは徹底的に排除する」 「そ、それはわかっていますよ、新垣さん」 何を言いたいのか全く予想つかない石田達 「ダークネスの破壊行動を未然に防ぐ、それがリゾナンターの役目であり、何も起こさないことが『勝ち』や ただダークネスの幹部にとっては戦闘員の命の一つや二つが失われることはなんともないやろ でも何も「事件が起きない」こと、それから幹部が命を失うことは作戦失敗、起こってはならないことや 一方で愛佳たち、リゾナンターにとっての負けはダークネスの行動を守れなかったこと。そこに命の有無は問わへん」 「前から不思議に思ってたんだけど、ダークネスは私達の命を本気で取りに来ればそれで終わる それなのに、それをしない。なんでだろうね?」 「・・・なんでっちゃろ?」 その問いは昔から幾度となく繰り返されたものだが、未だに明白な答えが出ていない 「それは私達にもわからないことだけど、時々感じることがある、寧ろ、あえてしていないんじゃないかって ただ、その理由を説明できる理由の一つはある。それに関係するのがカメの能力」 「亀井さんは『死なない』能力者、なんですか?」 佐藤の答えに道重は首を横にふった 「まあちゃん、死なない人間なんていないよ。怪我をすれば赤い血が流れるし、痛みだって感じる 絵里はいたって普通だよ。普通に笑って、普通に悲しんで、普通に怒って、誰よりも楽しんだ 何よりも自然体、それが絵里だった。力も自然そのもの、言うなれば『風使い』」 「・・・風ですか。」 小田が先程の鞘師の太刀を払う場面を脳裏に呼び起こしながらつぶやく 「・・・風ならばあのように宙を飛ぶのもすべて説明がつきますね」 「亀井さんは特にカマイタチを好んで使っていた。戦闘スタイルは中軸で支援と攻撃を使い分けるバランスタイプ せやけど、それは愛ちゃんと田中さんがおったからや。二人がおらんときは最前線で戦っていた」 「風か・・・風ならはるの千里眼に何も映らなくても仕方がありませんね でも、そんなに風だけで戦えるんですか?だって風ですよ?」 「くどぅ、台風だって竜巻だってすべて風ですよ、自然の力は侮れません」 「飯窪わかってるねえ~その通り。風を操る力はみんなが想像している以上に強力な力 台風並みの突風もそよ風程度のやさしい風もすべてカメは意のままに起こすことができた カメのカマイタチは見えない刃、と評していいものかもしれないね。あらゆるものを切り刻んだから 巨木だろうと拳銃の弾であろうと、なんでもね。攻守のバランスで言えば9人の中でも一二を争うかもしれない」 「亀井さんが風を操るときはそれこそ、舞い踊っているようでしたわ」 「舞姫、亀井絵里さん、ですか」 「・・・しかし、風だけならどうしてそこまで恐れる必要があるのでしょうか? ・・・数が少ない私達ならともかくとして、ダークネスが恐れた力とは何なのでしょうか?」 小田に近づく新垣 「・・・なんでしょうか?新垣さん」 「ん?いや~可愛い顔してるなって。いやいや、ただそれだけだって、ちょっと生田、顔をしかめない」 「え~だって~新垣さんが~」 肩をポンポンと叩き、振り向いた生田の目の前には眉間にしわを寄せた鈴木の顔 「・・・なに?」「今の生田の顔真似」 「鈴木!!漫才しとる場合やないで、ええか?話続けるで。 亀井さんの能力のもう一つ、それこそが問題なんや。能力名は『傷の共有』」 「「「「「「「傷の共有?」」」」」」」 「自分が受けたのと同じ傷を相手に作ることができる能力や。 それも一人だけにやない、亀井さんが望むだけの相手に傷をつくることができる」 「・・・相討ちに適した能力、ってことですか?」 「そういうことや」 戦いのプロとしての直感的に鞘師は危険な力と感じ、身震いした 「で、でも、誰とでも相討ちにできるってわけではないんですよね?」 「もちろん、石田の幻獣が石田が視える範囲しか動かせないように」 「!! ちょ、ちょっと待ってください!なんでそれを知ってるんですか!誰にも話したことないんですよ!」 新垣がため息をつき、頭を掻きながら石田を落ち着かせようとやさしく声をかける 「あのね、石田、それくらい、私達くらいならすぐに気づくからね。話、戻すよ 傷の共有にも届く範囲、射程距離っていうのがある。それは半径数百メートル」 「それなら、たいしたことないじゃないですね」 「カメだけならね。そこに田中っちがいると、範囲は数百キロメートル」 「は??数百キロ?それって」 あまりにもかけ離れた範囲に驚き声をあげてしまう工藤 「いや、それでけで済まへん。共鳴にも相性っちゅうもんがある。 亀井さんと最も相性が良かったんは道重さんや。道重さんがおったら数千キロメートルになる・・・かもしれない」 あまりにも桁が違うスケールに言葉を失う8人、佐藤以外は言葉を失った 「え~でもたなさたんもみにしげさんもまさ達といっしょだから、そんなに心配はいらないんじゃないですか?」 光井が佐藤に笑いかける 「そう、距離のことは今回はあまり気にすることはあらへん。 しかし亀井さんは元からダークネスにおったわけやない、ことが問題。そうですね、新垣さん」 「うん、どういう経緯があったかわからないけど、今はカメはダークネス側にいる そして、ダークネスにとってカメは『駒』の一つに過ぎないかもしれない」 「つまり、幹部、ではない、一介の構成員に過ぎない立場ということですね ダークネスとしては傷の共有をためらう必要はないってことですね ・・・下手に亀井さんを攻撃したら、回避不能の死のカウンターが来る、かもしれない」 譜久村が珍しく鞘師よりも先に新垣達の伝えたいことの本意を読み取った 「ダークネスは何をしようとしているのでしょうか?」 「それはこれまでとおなじだよ。世界を変える、そのために必要なことは何でもする」 簡潔な答え、それが答えなのだろう 「・・・でも私達、リゾナンターは戦わなくてはいけないの」 「道重さん?」 「たとえ、エリが敵でも・・・仕方がないの。エリもさえみお姉ちゃんと闘ってくれたんだんだもん さゆみはダークネスに泣かされる人が一人でもいるなら、その人を救いたいの」 その瞳からは決意の二文字が読み取れた 「・・・新垣さん」 「うん、愛佳、私達の心配は杞憂だったようだね」 さゆみん、強くなったね。初めはあんなにキャーキャー言ってたのが嘘みたいだよ」 面と向かって褒められ慣れていないのだろう、道重は視線を外す (立派なリーダーになったもんだねえ) 新垣はそう思いながら、9人の後輩達に檄を飛ばす 「いい?みんな!カメは非常に危険な能力を持っている 安易な考えだけで突っ走ることはしばらく控えた方がいい 無理はしないで、変な感覚を覚えたらすぐに仲間に連絡するんだよ」 「変な感覚??」 「そもそもカメが生きているっていうことは愛佳の予知夢だけじゃなく、さっきの風で私も確信した 元リゾナンターとしての絆は完全に切れてはいないようだからね」 「それで道重さんが私たちの誰よりも先にフードが亀井さんと気づかれたんですね」 「そや、工藤。千里眼で視えるもの以上に視えるもんもあるんや、覚えとき!」 「はい!!先輩」 ★★★★★★ 「いや~さゆみんも強くなったね。それにあの子達も強くなった。 実に頼もしい、仲間達を持ったね!!」 新垣は満足げに鼻歌混じりに歩いていたが、しばらくして光井が先を歩いている新垣に声をかけた 「あの、新垣さん?」 「ん?」 振り返る新垣に光井は尋ねるべきか逡巡していた疑問をぶつけた 「一つだけ伺ってもよろしいです?先程の小田ちゃんの顔を覗き込んだのって」 新垣は改めて辺りを伺い、誰もいないことを確認したうえで光井だけに聞こえるように小さな声で語りだす 「愛佳も気になったよね?小田ちゃんはダークネスにいたのになんでその情報を知らないのかな?って リゾナンターのために派遣されたスパイなのに、カメを知らないって矛盾しているじゃない」 「ええ、確かにそれはおかしなことやなあって思っとったんです。知らへんかっただけ、で済みそうにないですね ・・・探りを入れる必要があるかもしれませんね」 「愛佳がやるの?あの子直感優れていそうだから、相当注意しないと危ないと思うよ せめて私も動ければいいんだけど、別のことで手が離せないから、不安だね」 光井はニヤッと笑う 「大丈夫ですよ、すでに調査には入っとる方がおるんですわ」 「・・・ま、私がカメの存在に気づいたってことは、だね」 新垣も笑い返し、宙を見上げた 「そういうことです」 ★★★★★★ 「ありゃりゃ、ワタシ達の行動、筒抜けみたいダネ」 やや身長の高い女性が口をもごもご動かしながら、モニターを覗き込んだ モニターには自国のGPS衛星をハッキングして映し出した映像が映り、そこには新垣、光井の姿 「新垣サン、こっち見てマスヨ」 パソコンを操作するもう一人のやや小柄の女性に向かって笑いかける。その表情は嬉しそうだ 「新垣さんならそれくらい気づく、当たり前、いや、バッチリです」 「ソウダネ」 ガコンと音がして、ごみ箱に何かが落ちた。熟れたフルーツの甘い香りが漂った ★★★★★★ 「いや~今日は疲れましたね~まさか200人も構成員がいるなんて思わなかったですね」 自分の肩を回しながらややハスキーな声で茶髪の女性が隣の背中のギターケースを背負った女性に笑って見せた 「でも、たいしたことなかったじゃん。 ま、これであいつら、ドラッグを流したりできないだろうし、いい仕事といえるんじゃない?」 いつもなら自分の横にワンテンポ遅れて、さらに低い声で同意してくれる仲間がいるのだが、今日は返ってこなかった その相方は少し遠くで立ち止まり、さらに後ろで立ち止まったままのリーダーの姿を眺めていた 「どうしたの?疲れた?」 「・・・違う」 二人はリーダーが宙を仰いだまま立ちどまっているようであった 「風が吹いた」 ぽつりとつぶやいた。そして駆け出した 「ちょっと!どこに行くんですか!!」 立ち止まらずに声だけが三人の元に届く 「ごめん、ちょっと行かなきゃいけないところできたと!!」 ★★★★★★ 大気の震えを感じたとき、彼女は荒野の真っただ中にいた 流れる雲、果てしなき地平線、時折ふく風が鳴らす音のみが全ての世界 己の存在を一から問うための旅の途中 答えなど見つかるかはわからない、しかし存在する意味が欲しかった 「・・・絵里」 彼女もまた宙を仰いだ そして・・・音もなく消えた。彼女のいた痕跡を示す靴跡のみが残された 投稿日:2014/07/28(月) 00 11 09.62 0 back 『Vanish!Ⅲ ~password is 0~』(2) next 『Vanish!Ⅲ ~password is 0~』(4)
https://w.atwiki.jp/marcher/pages/1098.html
「大丈夫カ?怪我してナイカ?」 屋根の上のポニーテールの小柄な女性がたどたどしい日本語で優しい言葉を問いかけながら、振り返る 緑色の炎は一瞬の輝きを放ち、それは幻であったかのように鮮明に脳裏に刻み込まれてしまった 「・・・大丈夫です」「えりも」 頭に降りかかった瓦礫を払いながら二人は体を起こす 「それはヨカッタ。でも、まだカメイサンは元気デスネ」 女性は右手を腰のベルトに携えていた拳銃に手を伸ばした 「ここは危険だから、離れたほうがイイネ」 突然、二人の体が浮かび上がった、いや何かに、捕まえられたのだ 「な、なんや?」 「・・・パンダ?」 小田と生田はパンダの背中にのせられた形になっていた しかし、それは遊園地にあるような子供向けのファンシーなそれではなく、獰猛な一個体として、であったが 「動くなっていうとると?・・・て待つと!そっちは危ないやろ!! 新垣さんのピアノ線が張り巡らされているとよ!!怪我するっちゃ」 恐怖で顔が引きつるが、ピアノ線がどこにはられているのかわからないこの状況では当然であろう しかし、生田は知らない、すでに何十ものピアノ線の中をこのパンダが突き抜けていることを 野生の動物、それに加え、鍛え上げられた肉体によりピアノ線はただの糸に成り下がっていたのだ 「パンダつええ・・・ピアノ線の中につっこんでいるのに無傷っすか」 「工藤、何言うとるんや!パンダやないやろ!っちゅうか、なんであいつもなんでここにおるんや!!」 「愛佳、それよりもカメに集中!」 すでに道重に足を治してもらった新垣は新たなピアノ線を手袋につなぎ準備を整え終えていた 宙に浮かぶ、その影をその場にいる全員が注視する 緑色の炎に焼かれたというのに、身にまとっている御召物一つ燃えていなかった ただ宙にふわふわと浮いており、時々呼吸に合わせて胸が膨らんだり縮んでいるのを確認できるのみ 銃口を向けられているのにもかかわらず、無心の表情を携えている 銃を向けている側もある意味では同じ、表情を変えることはなかった。浮かんでいる表情は笑顔だが 「ハハハ、さすが亀井サンですね、私の炎くらいじゃびくともシナイ」 場違いとも思える明るい笑い声をあげているが、三日月の目の奥には鋭い眼光が光り続けている 「風で私の炎で燃やされる前に身を守ったンデスカ。前よりも強くなってマスネ。デモ、私も成長してルンデスヨ」 緑色に輝く弾丸が数発、放たれ亀井に伸びていく 彗星の尾のように弾丸の通過した後には緑炎の道筋が放たれた弾丸の数だけ描かれる 「・・・」 亀井は迫ってくる弾丸にも顔色一つ変えずに、腕をふる 弾丸に無数の切れ目が走り、原型を失うほどの細かな破片になる 緑色の炎をあびた火の粉たちはさらにふきすさぶ風にあおられ、点に昇っていく 弾丸と同じ緑色に燃え上がった拳銃を持ち、女性は満足げに頷く 「・・・やりますネ。デモ、ワタシ、あきらめ悪いデスヨ」 次々と銃弾を放ち続け、亀井はそれを砕き続ける 「す、スゴイ、二人とも・・・あの人はいったい?」 新垣が準備を整え、今にも亀井にワイヤーを伸ばそうとしながら早口で答えた 「あの子はリンリン。私や愛佳、さゆみんと同じく始まりの9人の一人 中国の秘密組織『刃千吏』の幹部、のはずだけど、なんでここにいるかな?」 「それはジュンジュンが答えようカ?新垣サン」 振り返るとそこには、全裸の女性 「ちょ!ジュンジュン!何しとんの!」 「光井サン、お久しぶりデス」 「いやいや、久しぶりやけど、それどころやないやろ!何しとんねん!まだ高校にも上がる前の子もおるんやで」 「デモ光井さん、私の姿、慣れているダロ?」 「愛佳は慣れとっても、ほかの子達が訳わからんやろ!!誰か、身にまとうものもってきて!」 慌てる光井に堂々としたジュンジュンと呼ばれた女性、その姿は滑稽に見えてしまう 「な、何者なんだろうね?」 こんな場所に突然全裸で現れた不審な女性に驚きを通り越し、引いている鈴木 その声を聴いたのか女性は鈴木はとっさに横にいた石田の後ろに隠れようとした(実際には隠れることはできなかったが 「・・・」 「な、なんですか?私の顔に何かついてますか!!闘るっていうなら闘りますが!?」 自分よりも背丈20cm以上高いであろう女性に対しても強気に出る石田 「オマエ、いい匂いするナ」 「!!」 「はい光井さん。服とってきました!」 「あ、それ、さゆみのジャージ!!」 「へ?なんで道重さんのジャージがなんでここにあるんや?」 その答えはジャージを持っている人物の無邪気な微笑みだった 「へへへ、まーちゃん、急いで跳んでとってきたんですよ!みにしげさん、褒めてくださ~い」 凍り付く光井の表情、恐る恐る口を開く 「・・・佐藤、リゾナントまで飛んできたってこと?」 「はい!」 「・・・またテレポートできる?」 「え~まさ、疲れたなう。しばらく無理うぃる」 「ドアホ!!!」 「え~なんで怒ってるんですか?」 そんな喧騒に巻き込まれることなく鞘師は生田と小田のもとへと駆け寄っていた 「二人とも大丈夫?」 「えりは大丈夫やけん、ジュンジュンさんめっちゃ強くて速いと!」 「・・・石田さんのリオンと同じ、いやそれ以上かもしれないです ・・・それより、亀井さんと闘っているあの人、危ないです」 「危ない?」 小田の言いたいことの意味が分からず、同じ言葉を繰り返す鞘師 「・・・亀井さんは『何か』隠しています」 上空には浮かんだまま弾丸を弾き続ける亀井。そんな亀井に向かい屋根の上で弾丸を放ち続けるリンリン 「え?えりの目にはリンリンさんが一方的に押しているようにしかみえんと それにしてもリンリンさんの弾丸一向にきれないっちゃね」 「・・・あれは弾丸というよりも直接炎を発射しているようですよ、生田さん」 「うん、あの拳銃はただの飾り、といったところだね、なんでそんなことをしているのかわからないけど」 「え?小田ちゃんも里保も気づいてたと?」 「うん、もちろん」 そんな会話を知ってか知らずか、リンリンは拳銃をホルダーに戻した その姿をみて、亀井も腕をおろし、ゆっくりと地上へと降りてくる 「やはり直接、組まないと倒せないデスカ」 両手を前に突き出し、膝を軽く折り曲げ構え、四肢に緑炎を纏う そして、改めて笑い、左足で地面を強く蹴る (速い!) 靴底から炎を放ち、その遠心力を利用し、さながらロケットの如き速さで詰め寄る その速さの中で、的確に鋭く亀井の首めがけ、同じく炎をまとった手刀が振り下ろされる 亀井はその手刀に左腕を合わせ大きく払いのけ、同時に体の重心を落としリンリンの懐に潜り込もうとする それを待っていたかのようにリンリンは伸ばし切っていた膝を折り曲げ、下りてこようとする亀井の顔面に狙いを定める それを体の柔軟性を用いて反り返りながらも、リンリンの反対側の足に自身の足を絡ませて倒そうとする それを瞬時に察知し、リンリンは炎を足底から噴射し空中に逃げこんだ 二人の攻防をみて何が起こったのかわからないメンバーも多かったであろう 鞘師や小田にとっては一つ一つの動きの意味を理解できただろうが、ただ逃げただけに見えないものもいた 飯窪にとっては何もみえなかった、と言わざるを得ないものであり、近くにいた工藤に開設を求めていた しかし工藤自身もすべてを把握するには至らず、解説をする頃にはすでに亀井に向かいリンリンが再びとびかかっていた 「サスガ、亀井サン、強いですネ」 ジュンジュンはのんきに腕を組んで、瓦礫に腰掛けながらバナナを食べ始めていた 「ちょ、ジュン、どこにバナナおいてあったん?それおいてあるんやったら服用意してれば」 「ん?してたぞ。デモ光井サン、ジュンジュンの話聞かないで勝手に服もってコイとイッタ」 「・・・そうなん?」 「ソウダ」 そして大きな口でバナナを食べ、食べたそうにしている佐藤に向かい、食べるか?といって差し出した 食べる!といってジュンジュンの横に座り食べだした佐藤をみて、この子もかわいいナとつぶやいた 「ねえ、ガキさん、それよりえりをなんとかしないといけないんじゃないですか?」 「そ、そうだね・・・う~んと、みんな、作戦言うからしっかりと聞く!いっかいしか言わないからね 鞘師と小田は石田のリオンにのってカメに直接向かう、佐藤と飯窪、ふくちゃんはさゆみんの警護 飯窪と工藤は愛佳の予知を私達に伝えて、生田は私と一緒にサイコダイブの用意を」 「新垣さんと一緒に?えり、がんば・・・」 そこで生田の近くに何かが勢いよく落ちてきた 砂埃があがり、じきにその何かが見え始めると、生田はひぃっと叫び声を上げた 「て、手首っちゃん」 それは間違いなく人の右手であったもの。切断された断面からは骨がのぞいている あわてて亀井とリンリンのほうをむくとリンリンの右手首から上がなくなっていた 「アハハ、やはり亀井サンは強いデス」 地面に尋常ではない量の血だまりができあがっていた。左手で右手首をやいて止血しているようだ 「しかし、リンリンの右手で亀井さんにそれだけの傷を負わせられるなら本望ですね」 なぜか笑うリンリン 亀井はというと・・・来ていた衣服に穴が開き、そこから赤く焼き爛れた皮膚がのぞいていた 特に顔面は左目の周囲から頬にかけて真っ赤に腫れていた 「美人の亀井サンには申し訳ないデスガ、手加減できないですからネ」 しかし、亀井はそんな傷の痛みを感じていないのかゆっくりとリンリンに近づいていく 「とはいえ、あはは、リンリンマン、ピンチですね」 一歩、また一歩と近づく穴の開いたブーツを履いた女 煙をあげるパンツから覗く赤く爛れた肌 痛みを感じていないのであろうか、歪むことなき無表情 「ちょっと、何してるんですか!新垣さんも光井さんもジュンジュンさんも! 仲間がピンチだっていうのに、なんで動かないんですか!道重さんも!・・・もう、私が行く!!」 しびれを切らしたように集中力を高める石田 月明かりに照らされ、青き幻獣が現れ、石田はその背にまたがる そして、倒れこむリンリンの元へと向かわんと、リオンは強く地面を蹴った しかし、リオンの動きは光と闇の色を持つ獣の腕に妨げられた 「な、なにするんですか!!」 獣は何も言わず、リオンを抑え込む 「仲間を助けないで何をしているんですか!いま、すべきことはリンリンさんを助けること」 「おまえじゃ、助けられナイ、かわいい後輩、無駄死にさせるわけイカナイ」 「な、なんですか!先輩とはいえ、私だって怒りますよ」 とはいうもののリオンは完全にジュンジュンに抑え込まれ、身動き取れなくなっていた 「せやから」 にじみ出るリンリンの汗が月夜に映える 「こういうトキは」 ザスッとした砂利を踏む亀井の足音 「ハァ、悔しいけど、頼りになる」 満月が宙に浮かび、影が大きくなる 「仲間に任せるの」 何者かの影が飛び出し、亀井の腹をけり上げ、亀井は勢いよく転がっていく 「ニシシ・・・ヒーローは美味しいところだけいただくものっちゃん」 不良にしかみえない佇まいはあの日別れたまま、しかしそこに秘めた頼もしさはあの日以上 「ほら、リンリン、立つと。エリに負けるとかありえんちゃろ?」 しかし、驚くのはそれだけではなかった すぐに亀井が立ち上がった、しかし、ゲボッと血の塊を吐き出した 「ありゃりゃ、れいな手加減せんかったけん、やりすぎたと?」 「イエ、私も本気でしたカラ、バッチリです」 リンリンを背負いながられいながあほか、と呟き、笑う 「でも、えりがこんなんで倒れると思うと?」 「ナイデスネ」 その通りであった。己の吐いた血を見ても動じることなく、ただただ二人を、リゾナンターを眺めていた 血が得意ではない工藤にとってその光景はさぞおぞましいものであったのだろう 内心、気持ち悪かったのだが、逃げるわけにもいかない、とあえて他の視線から亀井を観察しようとした と、あるものに気づいた 「道重さん」 ぽつりと工藤が報告する 「なに、工藤?」 「亀井さんの力って・・・風使いと傷の共有、それだけですよね?」 「??? そうだけど・・・何?」 「・・・亀井さんの傷が治ってます」 そうなのだ、ゆっくりとであったが、亀井の傷が少しずつふさぎ始め、赤く爛れた肌も元の肉感的な色を取り戻していた それをみて慌てるのは鞘師や生田、譜久村をはじめとした、始まりの9人以外 新垣、道重、田中、光井、ジュンジュン、リンリンは物怖じもしていない それどころか、新垣はため息を漏らしていた それを見逃さなかったのは鞘師と小田の二名 (今、新垣さんため息を??)(・・・何か知っているんでしょうか) 「何をしているんだ亀井!!何をもたもたしている!! 田中に新垣に道重に光井、リンリン、ジュンジュン、それに9人もそろっているんだ!!」 甲高い声が糸のように張った緊張感を切り裂いた 「詐術師!!おったと?」 「な、このおいらのことを!!おい、亀井!」 「・・・」 「この、生意気ななんちゃってヤンキーをやっつけろ!!」 亀井は動かない 「おい、聞いているのか!!亀井、お前、先輩の言うことがきけないのか! おい、反応しろよ!時間の無駄なんだよ!!役立たずが!」 そこで亀井はぴくっと反応し、詐術師へ顔を向けた 「お、そうだ、それでいいんだ、少しは反省するんだ、おいらはオリメンにもっと・・・」 そこで詐術師は体の異変を感じた。人並み外れて饒舌なはずの口が動かしにくいのだ 「ふ、譜久村さん、あれ・・・」 「え、そうみえますけど、そんなこと・・・」 「いやいやいやいや、嘘だ、嘘だ、嘘だから、嘘だから」 慌てる敵の姿に急に不安になった詐術師は喉元に手を伸ばした。しかし、妙に風を感じるのだ (なんだ?いやに体が軽いぞ) 喉に手を当てたが、おかしい、何も触れられないのだ (???) そして突きつけられる現実、水溜りに映る自分の姿 腕が、喉元に当てようとしたはずの腕が、途中から淡い光になって消えていっているのだ 月の光に照らされ、淡く桃色に光って自身の体が溶けていく (な、なんだよ、これ!!) そう、叫びたくても、すでに喉も光に溶けていき、声は静寂に置き換わる 人の体が闇に飲み込まれる、恐ろしいはずの光景なのにリゾナンター達は目を離せなかった 元々小柄の詐術師の体が少しずつ、桃色の光に浸食されていく 一人の人間が闇に溶ける、そんな光景が美しく目が離せないのだ とはいえ、消えかけていく当の詐術師は気も狂わんばかりに暴れ続ける 口であった、大きな穴から、声が出ているのであれば壊れんばかりの叫びをあげている その音は誰にも届かない 恐怖、それだけであろうか、絶望を受け入れなかった者の最後の表情をうかべた 詐術師は消えた、痕跡すら残されていなかった しかし亀井は笑わない、怒らない、泣かない、悩みもしない 詐術師をけし、何事もなかったかのようにリゾナンター達の方を向いた 「・・・」 各々背中に汗が流れるのを感じ、無意識に力が入る (いま、わたしに何ができるのだろうか?) 重苦しい空気に肺がつぶされそうになり、呼吸一つすらまともにできそうになる しかし、意外なことに亀井はリゾナンターから視線を外し、自身の燃えた服に触れた そして―何もすることなく浮かんでいく 「ま、まって、エリ!待つの!」 親友の声に耳を貸さず、空高く昇っていく それを待っていたかのように、宙に穴が開き、そのなかに亀井は姿を消した 振り返ることなく亀井は去って行った 「あれはダークネスのワープ装置ですね。ということはまだ亀井さんは」 「うん、ダークネスの側にいるってことだね」 早くも周囲に一般人がいないか、確認しだす新垣と光井 「シカシ、リンリン派手にやられたナ」 「ハハハ、亀井サン、強かったネ。ジュン、バナナくれ」 「ダメダ」 「で、でも、助かったっちゃね。あの力、今のえり達じゃどうしようもないと」 地べたに疲れ果て大の字になって倒れこんだ生田 それを覗きこみながら「生田、お疲れ」と鈴木が笑う 「でも、あの力ってなんだろうね。あれって風の力なのかな?」 「ねえ、くどぅー、くどぅの目ではどう視えたと?」 寝ころんだ姿のまま首だけ工藤に向けて尋ねる生田 「はるの眼には、詐術師の体が、こう、溶けていくみたいで、風に吹かれるようではなかったです なんていうんでしょうか、こう、お風呂の中に温泉の元をいれたみたいに・・・」 「でも、きれいだったね!」 「まあちゃん!何言ってるの?? 「だって、詐術師さんの体、ピンク色に輝いていたんだもん、はるなんも思ったでしょ」 強く否定しきれなかった飯窪は黙るしかなかった 「・・・あの、道重さん」 「なに、りほりほ?」 「・・・私達に隠していること、あるんじゃないですか?」 表情が答えを示していた、明らかに答えはYES 「私達と比べて道重さんたちはあまり驚いていないようにみえました。 みなさん、なにか知っているのではないんですか?」 「さゆ、隠しても無駄っちゃろ、いわなきゃいけないこともあると。もうれーな達だけの問題やないけん」 「そうだね、私も田中っちに賛成なのだ。この子達もリゾナンターなのだから伝えておくべきだと思う」 いつの間にか新垣と光井も近くに来ていた 「ジュンジュンもそう思うゾ」 「私も同じデス」 「・・・そうね、わかった。れいな、でも、さゆみの口から言わせてほしいの。だって、始まりは・・・」 「わかっとうよ。さゆともえりともれーなは、くされ縁やけん」 「ありがとう。ねえ、みんな、大事な話があるの、しっかり聞いてほしいの」 そして、道重の口から真実が語られることとなる 投稿日:2014/11/09(日) 01 27 25.76 0 back 『Vanish!Ⅲ ~password is 0~』(4) next 『Vanish!Ⅲ ~password is 0~』(6)
https://w.atwiki.jp/marcher/pages/1034.html
Fantasyは始まらない ★★★★★★ 「・・・う、ううん」 「よかったえりちゃん、目が覚めたんだね」 冷たいタオルを受けとるが、頭がすっきりせず、気持ち悪さのみが残っていた 「??? ここは??」 「リゾナントだよ」 「あいつらは?ダークネスは?」 「落ち着いてえりぽん、ダークネスは帰りましたわ」 興奮している生田を落ち着かせようと譜久村はホットミルクを差し出した。温もりが体の芯から広がっていく 「・・・えりはいったい何をされたと?」 「それははるが訊きたいですよ!ピアノ線を通して心を壊そうとしたんですよね? それなのに、生田さんのほうが膝に力が入らないように崩れて、倒れこんだんですよ」 「えりが?・・・ダークネスの方じゃなくて」 いきなり立ち上がる生田。マグカップの中のミルクが床に零れ落ちる 「・・・覚えていないんですか?」 額に皺を寄せながら頷く 「心の強さだけでいえば私たちの中で一、二を争う生田さんが打ち負けるなんて・・・」 「・・・覚えとうこともあるっちゃけど。気味が悪いと ・・・変な気持ちになったと。頭のなかでこう、シャボン玉が膨らんでは弾けての繰り返し、壊れていくような」 「それってえりぽんの精神が逆に破壊されそうになったってこと?」 精神破壊、それが生田の能力。精神干渉の亜種でもあり、精神を狂わすことに特化した能力 元々その力で生田自身の精神も狂わされていたがゆえに孤独であった しかし、同じ精神操作系能力者である新垣の指導の元で能力のコントロールを可能にした   そんな生田を狂わせるほどの精神の強さを有しているとでもいうのか?あのフードは 「・・・生田さんの精神を超えるということは、よほどの実力者ということになりますね」 「鞘師さんの斬撃をはじいたのも只者ではない証拠ですよ!」 鞘師は決して怪力の持ち主ではない。刀身は鞘師の念動力で固めた水 しかし鞘師が斬れなかったものは数えるしかない。それはすべて鞘師の才能、努力によって培われたもの 「あの鞘師さんが斬れなかったなんて、どんな武器を持ってたんですかね?」 問いに対して、違う、と首をふる鞘師 「みんな、隠しても仕方ないから言うんだけど、驚かないで聞いてくれる? どうやって私の太刀をさばいたのか、恥ずかしながらわからなかった」 「わ、わからなかったって鞘師さんの動体視力で、あの距離で?」 「ありえないって!だって里保ちゃんはうちらのエースなんだよ。それなのに見えないなんてありえないよ」 寸分の狂いなく太刀を振るうことができる鞘師に捉えられないものはない、それが仲間達の共通の認識 「DOどぅは何も見えなかったの?」 千里眼の持ち主工藤に尋ねるは佐藤 「・・・はるにも何も見えなかった。鞘師さんの言うように、あいつ、何も持っていなかった」 フードは何も持っていないにもかかわらず、鞘師の刀を手で弾いた、そう映った 「はるの眼は絶対正しいものしか映さない。はるの眼を欺くなんて不可能だよ そりゃ、もちろん透明なものは見えないけど、何かを持つような手の形ですらなかった」 「透明化、っていうわけでもないようですね」 「さくらちゃんは何か知らない?」 「・・・それは私が最近までダークネスに所属していた。そのうえで問いかけた、ということですか?」 一瞬回答に詰まる譜久村だが、事実、それを承知の上で尋ねたわけだから仕方がない 「え、ええ、それは知ってることでしたが、それを咎めたりするわけでは」 「・・・もちろん、譜久村さんに悪意がないことはわかっていますよ。純然たる事実から糸口を模索せんとすべきですから ・・・あくまでも、元ダークネスとしての立場、それだけです。今は只のリゾナンターですし ・・・さてその問いに対しての回答ですが、残念ながら私は何も知りません ・・・ダークネス幹部ほぼ全員に会ったことはあります。ただ、あのフード姿は見たことがありません」 「ということはフードは幹部ではないということ?」 「でも、幹部の詐術師を同じく幹部の永遠殺しと助けに来たんだよ 永遠殺しの部隊の限りなく幹部に近いっていうことじゃないか!」 永遠殺しの余裕のある態度が鮮明に呼び起される 「それからですね、気付いてるかもしれないのですが、詐術師の様子もおかしくありませんでしたか?」 別の切り口から分析を図ろうとするは飯窪 「もちろん焦っていたのもおかしいですが、フードの存在をまるで知らないように見えました」 「確かにはるの眼にも宙に浮いたときのあいつの驚きの表情が見えた! 本当に初めて宙を飛んだみたいで、どうやったのかわからないようだった」 「・・・それよりどうやって空に浮いたんでしょうか?」 「道重さんから聞いたことがあります。永遠殺しの能力は『時間停止』だと」 「『時間を止める』能力ですか。幹部らしい強力な能力ですね もし直接戦うとしたらどのように戦うか、事前に対策しなくてはならない相手ですね さくらちゃんの力が効く、そういう感じではありませんし」 「・・・私は数秒しか自分の世界を生み出せませんので、未来永劫止められる敵とは相性悪いと思います」 それにしても、と譜久村は生田に目を向けた。生田が珍しく静かだ 「何か考えてるの?えりぽん?聖たちでいいなら聴くよ」 「・・・道重さんもなんか様子おかしいっちゃ。えり、道重さんのとこ行ってくると!」 「だ、だめだよ、えりぽん、道重さん、ちょっと疲れているようだから」 「でも、こういうときにこそリーダーにいてほしいと えり達よりもずっと前からダークネスに立ち向かっているとよ。何か知っとうことあるかもしれんやん」 「道重さんは知ってるで」 9人の誰とも違う、低い声 「誰?」 とたんに空気が張り詰める。何者かが二階に潜んでいたようだ 空調に混じりコツコツと何かで床を打ちつけるような音。否が応にも緊張感が生まれる 鞘師は右手を鞘、左手をペットボトルホルダーに伸ばす。石田の背後に幻獣が浮かび上がる 「ちょ、誰って、この声でわかるやろ?このスィートな声を忘れたとはいわせへんで」 声の主は朗らかな表情を浮かべながら姿を現した 「石田、力みすぎ、工藤、ナイフをしっかり研ぐように言うとったのさぼったやろ?」 「光井さん!!」 後輩達に向け、ウインクを放った ★★★★★★ ダークネスの本部に戻った三人を迎えた人物がいた 「おかえりなさい、詐術師さん、危ないところでしたね」 「ぜんっぜん、あぶねくねーし!もう少しであいつらの息の根を止めてやるっていうところだったのに また、お前のせいでチャンスを逃したじゃないか!どうしてくれるんだ、マルシェ」 嫌味を言われても表情一つ変えずにこにこと笑みを浮かべるのは白衣の女性 ダークネス、闇の叡智、と称されるDrマルシェ 「そうですか。それでは矢口さんをですね、リゾナントにお送りいたしましょうか?もうセッティング済みですよ」 「え?い、今は、ほ、ほら、あれだ、機械は使いすぎると誤作動を起こすだろ? 機械も休ませてやらないといけないだろうから、今日のところは諦めてやるよ」 「もう一台、予備の転送装置を用意しておりますから、その心配は無用かと」 マルシェは隣のすでに準備万端な状態に仕上げている装置の元へと歩みを進めた 「え?そ、そんなことよりボスが呼んでるんだろ? 早くいかないとまずいだろ!おいら一足先にいってるからな!!」 そういうや足早に逃げるように飛び出していった 「というか、逃げてますがね」 「マルシェ、どうした?何かつぶやいたか?」 「あ、いえ、独り言ですよ」 「それより、マルシェ、あいつ、すっかり仲間に馴染んでいたぞ」 あいつ、と言われて数秒はわからなかったが、ああ、とでも言うように笑った 「『サクラ』ですか。小田さくら、なんてしっかりした名前をつけてもらって。元気そうですか?」 「元気なんてもんじゃないよ。あいつ、矢口の首ちょんぱするとこだったぜ」 それを聞いて嬉しそうに目を輝かせるマルシェ 「やはりダークネスの戦闘教育は間違っていませんね、素晴らしい」 「おいおい、大切な先輩が一人消されそうだったのにその言い分はないだろ」 「・・・いつまでも自分の時代に固執しているだけでは生き残れない、そう気づいていただきたいだけですよ 私なりの愛情表現なのですが、一向に気づいていただけないようでして」 「お前、先輩を敬うという思いはないのか?」 「尊敬はしてますよ。しかし、科学と感情は天秤にかけられないものです。組織にとって私は技術のみを求められた存在です 組織にとって必要な歯車になれというなら進んでこの身を捧げましょう」 「穏やかじゃないね」 「日本人的、とでもいってくださいよ」 「おいおい、お前ら何してんだ?さっき詐術師が走っていったが、何かあったのか?」 現れたのは金髪の麗人、精神系能力者ながら単純な肉弾戦を好む変わり者、吉澤 「なんつーか、逃げているようにも見えたが、あれはあの件かね? 自分で自分の首をしめることとなった、あの失敗を取り戻そうとしているのかね?」 「・・・あんまり、詮索しないほうがいいこともあるわよ」 「まあ、俺が気にしなくてもなんとかできるだろう。あの人なら。ん?」 そこで二人の横にいるフードの存在に気づいたようだ 「おい、マルシェ、こいつは」 表情を変えることなくマルシェは頷く 「ええ、その通りですよ」 「・・・なるほどな、こいつが『二の矢』か」 「・・・」 フードは俯いたまま何も語らず、佇んでいる ★★★★★★ 「光井さん、なんでここに?というかいつの間に二階に上がっていたんですか?」 「いつってあんたらが出て行ったあとやで。歩けへんわけでもないし、合い鍵もあるから待たせてもらってただけや しかし鞘師、少しは二階を片付けたほうがええで、生活の乱れは心の乱れにも通じる。意識せなあかんで」 8人の脳裏に浮かぶのは食べ物をこぼす姿や、服をたためずそのまま放置しっぱなしのアパート 「あの部屋に勝てるくらい汚い部屋を作れるんは一人しか知らんわ」 「それよりどうして光井さん、リゾナントに来られたんですか? もう私達が十分に強くなったってそうおっしゃって、離れられたはずでは?」 足の怪我、それは決して日常生活を送ることができなくなるほど重大-というわけではない 実際、普通に生活することは全く問題ない。しかし、彼女たちは普通の生活をすることができないのだ 未来予知、という戦闘補助という役割に徹し、攻撃手段を持たない光井は、足の怪我をだれよりも悔いた 自分自身の力ですら、自分の身を守れない、そうなる可能性があり、それは仲間たちの迷惑になると考えた 守られるために仲間達の負担になるわけにはいかない、それが結論。彼女はリゾナントを去った 「確かに愛佳はここから離れた。せやけど、リゾナントに来ないなんて一言もいうてへんで 力を失ったわけやない。未来は視えるわけやから、可愛い後輩達の成長にアドバイスするくらい構わないやろ?」 「そ、そうですか」 「とはいえ、よほどのことがない限り、そんな邪魔な真似はせえへんと思うとったんやけどな 愛佳も一線を退いた身や。今のリゾナンターを知らんもんがあれこれ口出しするんは却ってお節介やろ?」 何も希望を持てない虐められた過去をもつ光井 それを救ったのは、初代リーダーの高橋 その高橋も光井を救うために自殺を止めようとしなかった リゾナントにおいで、それだけ伝えて明日を導いた。 彼女に出会い光井は変わった 成長するために必要なこと、それは、変えるのではない、変わること 自ら考え、悩み、苦しみ、もがき、動き、失敗し、それでも悩んで進むこと 教わるのではない、教えられるではない、教えを待つのではない、教えを求めるのではない 自分で自分を成長させるには、待ってはならない、それを高橋から光井は学んだ そして、それを後輩たちにも強く求めた 「それなのに光井さんが来られたってことは???」 「ま、そういうことや。ここまで来たら大方察しはついてるやろ? さっきのフード、あいつについてのことや」 「ということは、光井さんは何かを視たってことなんですね」 「教えてください!光井さん!あいつは何者なんですか?」 「何を知っているんですか?」 矢継ぎ早に答えを求める後輩達に対して光井は視線を外した 「・・・それは愛佳の口からは言えん。愛佳が言うよりもっと相応しい人がおるからや」 「なんでですか?光井さんが知っているなら光井さんが教えてくださるだけでも」 その時、鍵の開いた音がした。今の音は表の扉から届いたようだ 再び緊張感が張り詰める。それを和らげようと光井が9人に向けて笑いかけた 「大丈夫や。愛佳が呼んだ人や」 (光井さんが呼んだ人って?) 「いや~リゾナントも変わってないね~うーん、落ち着くね、この感じ」 「「「新垣さん!!」」」 当然のごとく新垣の胸に飛び込もうとする生田と、それを予測してロープを張り巡らせていた新垣 数秒後には生田は床の上に芋虫のような状態で転がることとなっていた 「やあ、みんな久しぶりだね」 「光井さんがおっしゃった『相応しい人』っていうのは新垣さんだったんですね」 光井に再び集まる視線 首を横に振る光井、そして「そうやない」と小さくつぶやいた 今度は新垣に集まる視線 そんな視線を払うように新垣はキッチンの奥へと進んでいった 「私はね愛佳からの電話で未来を知らされただけ。 驚いたよ、その未来に、外れてほしいような、あたってほしいような複雑な感情だった」 一歩一歩、ある人物に近づく新垣 「教えるのは簡単。でもね、それだけじゃ乗り越えられないこともあるの、ね、わかってるでしょ?さゆみん」 肩をやさしく叩かれ、腫れた瞼で新垣と視線を合わせる 「・・・」 「やはり道重さんは知っているんですね、あのフードの正体を」 頼もしき後輩達も全員、駆け足で頼れるリーダーのもとに集まっていく 「おかしいとおもっていたんですよ、全員が 鞘師さんの刀を弾いた後、一瞬顔が見えたとたんに道重さんの顔色が青ざめたんですから!」 千里眼で捉えなくてもその表情は誰しもが同じ捉え方をするであろう、信じられないものを見た、といった表情 「何を見て、何を隠しているのですか?そんなに私達に隠しておかなくてはならないことがあるのですか? 道重さん、聖たちは道重さんからみて、頼ることができない存在なのでしょうか?」 珍しく強く迫る譜久村。飯窪も続く 「お願いします、教えてください」 頭を下げる二人に倣うように、7人も頭を下げた 「そうおっしゃってますよ。道重さん」 「どうするの?さゆみん」 二人はあくまでも自分から伝えようとする意思はないようだ 「・・・4年前、まだリゾナンターが9人だったころ」 黙り込んでいた唇が開いた 「ある人物が、行方不明となった。共鳴の力を使い、8人はその仲間を救い出さんとアジトに乗り込んだ しかし、その人物は見つからず、数日の時が過ぎた」 「突然、その消えた人物の声が仲間達に届いた。それは助けを求める叫び その声に従い、再び8人はその声の元へと駆けつけた」 黙って話を聞き続ける9人の仲間達 「助けを求めたのは-さゆみ。そして、そこに待っていたのも私、いいえ、さえみお姉ちゃん」 意味が分からないといった表情の工藤をはじめとする数人に説明を加える光井 「道重さんは治癒能力を持つ主人格と、過剰治癒能力ですべてを破壊するさえみさん、二つの人格を持っとったんや」 「さえみお姉ちゃんはね、私をね、守ろうとしたの。リゾナンターを辞めさせようと私の身を隠そうとしたの でもさゆみはみんなと一緒にいたかった。抵抗した おねえちゃんはそれを許さなかった。だからさゆみを巡って戦ったの、リゾナンターと」 (仲間同士で戦ったってこと?) 鞘師は心の中で問う。そんなことが起こりうるのか、と 「さゆみも必死でもがいたの、戦いたくないって、何度も何度も。 でも、無理だった、お姉ちゃんは強すぎた。みんな傷つき、もうだダメだと思った そんなとき、ある大切な仲間が、お姉ちゃんを倒した・・・自分を犠牲にして 彼女はさゆみにとって一番の親友だった。なんでもわかりあえた存在だった」 道重の告白を聴きながら鞘師は壁に飾られた写真を視界の端で捉えていた (はじまりの9人) 困難な道を歩いているなんて微塵も感じさせない程の笑顔の9人 しかし、9人は少しずつそれぞれの道を進むことになったという。その原因となったのは・・・・ 「9人が8人になった、その原因はさゆみ。そして、消してしまった仲間の名前は ★★★★★★ フードに手をかける吉澤 「先輩の前では礼儀としてフードは外すべきだろ」 そういいゆっくりとフードを後ろにおろしていく パサッと音を立てて、蛍光灯に照らされたその顔を見て吉澤は口笛を吹いた 「ほう、変わってねえな、こいつ。 4年間も経ったのにあのままじゃねえか。可愛いままじゃねえか」 肩ほどまで伸びた黒髪、いわゆるあひる口、くりっとした愛嬌に満ちた真ん丸い眼 すらっと伸びた鼻筋、潤いに満ちた誘惑的な唇、ぷっくりとした頬 「・・・」 ★★★★★★ 「『亀井絵里』―あのフードは間違いなく、絵里だった」 投稿日:2014/06/15(日) 19 13 33.17 0 back 『Vanish!Ⅲ ~password is 0~』(1) next 『Vanish!Ⅲ ~password is 0~』(3)
https://w.atwiki.jp/marcher/pages/1103.html
話は長くなるから、と前置きをして道重はこほんと咳をする 「・・・とはいえ、なにから話せばいいのか困るね」 「ええっちゃない?話がながくなっても、それだけ複雑なことやけん」 「そうかもしれないの」 そやろ?と笑うれいなはどこから拾ってきたのだろう、ドラム缶に腰掛けている そして当然のように、佐藤が田中の手を握りしめ隣に座り込んでいた 「あの子、田中サンのこと大好きみたいダナ。犬みたいになついてル」 壁際にもたれかけながらジュンジュンがそれを眺める 「デモ田中サン、嫌がっていないからバッチリデスネ」 リンリンは地べたにあぐらをかき、先ほど道重に治してもらった手の感触を確認する 相変わらずスゴイ、とつぶやきながら緑炎を灯したり消したりを繰り返す 一方新垣は腕を組んだまま道重のそばで立ったまま、あれこれと考えているようだ それに対し光井はリゾナンターの9人に慌ただしく目を移す 「・・・」 「ど、どうかしましたか?光井さん??」 見つめられていることに真っ先に気づいた譜久村が不安げな声で問いかける 「・・・なんでもないんや」 「??」 何から言うべきか迷っていた道重もようやく心を決めたようだ 「ガキさんがいるのにさゆみが全ていうっていうのも変な話だと思うんだけど」 「ん?いいよ、あたしは。だって、今のリーダーはさゆみんなんだからさ」 「そ、そうですか?じゃあ・・・リンリン」 突然呼ばれ驚くリンリンは「はい?」と疑問形になり、慌てて「どうしましたカ」と付け加える 「リンリン、その炎はいつから使えるの?」 「『緑炎』デスカ?そうデスネ・・・日本に来る頃には使えてましたが、いつからかは覚えてナイデス」 「初めからその色だった?」 「そうですね、緑色の炎が、刃千吏の炎の証ですカラ」 「じゃあ、石田、リオンを出してみて」 「え?は、はい、リオ~~~ン」 今度は石田が間抜けな声を出してしまった。咆哮を携え蒼く輝く幻獣が姿を現し、その姿をみて田中が口角を上げた 「ふーん、石田、リオン、前よりも逞しくなっとう、鍛錬積んどうやろ?」 「え、ま、まあ、それなりには」 田中に褒められ、涼しげな顔を張り付ける石田 「じゃあ、最後に小田ちゃん、こっちにおいで。額、怪我してるから治してあげるから」 「・・・はい、ありがとうございます」 小田の額に触れ、ゆっくりと傷口にそって指をなぞらせ、桃色の光が傷を覆い、完璧に傷は消えた 「はい、終わったよ。みんな、見てあげて」 「あの、道重さん、さくらちゃんを治していただくのはありがたいのですが、早く本題に入っていただけませんか?」 飯窪がいつも以上に言葉を選びながら、道重に声をかけるが、答えたのは新垣だった 「いや飯窪、すでに本題に入りかけているから」 「へ?」 「さゆみ達の家はどこかな?工藤」 「え?家ですか??リ、リゾナントです」 「正解。いつもみんなにお菓子だったり、お茶を出しているもんね」 「は、はい、いつもおいしいケーキと飲み物を」 「そう、だからみんな、9人分、さゆみも含めると10人分の個人用のマグカップを用意してあるの」 (マグカップ??) 亀井とマグカップ、それがどうつながるであろうか?どうやっても無関係に思えてしまうのだが 鞘師はあえて口に出さずにいた、しかし、そうはいかないものもいる 「え~それと亀井さんの話になんの関連性があると?エリにはわからんと」 それを咎めるように新垣が、生田!というが当の本人は、何ですか~とうすら笑いを浮かべるばかり 「まあ、そうかもね、確かに生田の言うとおりかもしれないっちゃね さゆ、やっぱもっと簡単にいわんとじれったいと。れーなにも少しだけ説明させてほしいと」 「う、うん、かまわないけど」 「ありがと、生田、生田のカップの色は何色と?」 気味の悪い笑顔を浮かべて答える 「今は黄緑色です!新垣さんと同じ色、前はむらさきでした!!」 なにやら頭痛を感じたのであろう眉間を抑える新垣をさておいて田中は続ける 「うん、フクちゃんはピンク、鞘師は赤、鈴木と佐藤は緑、飯窪は黄色、石田は青、工藤はオレンジ、小田は紫やったっけ?」 道重に確認しながらマグカップの色をあげた 「みんなと同じようにれーな達にもマグカップがあったと それは愛ちゃんが用意したものっちゃけどね。れーなは水色、愛ちゃんは黄色、さゆはピンク。 愛佳は紫、小春は赤、リンリンは緑、ジュンジュンは青 ここまで聞いて何か気づくことはなか?」 「・・・マグカップの色と能力発動時の発色が一緒ですね」 「御名答、小田のいうとおり。マグカップの色と能力の発動時の色が一致しとう まあ、れーなの場合は共鳴増幅やけん、目立たん。だからわかりにくいと でも愛ちゃんの光は黄色、ガキさんのサイコダイブの始まりは緑色の景色、小春の電撃も赤」 鞘師はそこでふと思い出した、家宝の水軍流の鞘も紅いことを 譜久村の複写の発動時、桃色の光がともる、生田の昔の精神破壊は紫色の光を放っていた 佐藤が跳んだ時にはエメラルドグリーンの光が輝く、小田の時間跳躍の瞬間目がラベンダー色になる 「そして、この写真をみてほしいの」 道重が取り出した一枚の写真、それは9人がリゾナントの店内で撮ったもの それぞれが楽しそうな表情でふざけあいながらカメラに目を向けている 「奥の食器置場のマグカップを見て、9個あるでしょ?」 そうなのだ、9個ある、黄、緑、橙、桃、水色、赤、紫、青、緑の9個 「道重さん、この写真は9人がいたときの写真で間違いないんですよね? そうすると残ったこのオレンジ色のマグカップが、亀井さんということでしょうか?」 頷く道重と、そこで何を言わんとしているのか気が付いた鞘師と小田 「基本的にはマグカップの色にあわせたつもり『だけ』、らしいの、愛ちゃん的にはね まあ、私もわかりやすくていいよね~なんて言ったんだけどね」 新垣も懐かしむように笑う 「さて、ちょっとさゆみ達の昔話を聞いてほしいの 3年前のある日のこと、あるメンバーがダークネスと思わしき組織に拉致された」 あるメンバーとはこれを語る、当事者、道重のことを指すのはいうまでもない 「そのメンバーを奪還するがために8人は声の下へ駆けつけたが、その姿はなかった 命の危機すら感じ、その子の『親友』は精神が不安定になった」 それが亀井、ということであろうか 「しかし、数日後、助けて、という声が8人のもとに届いた 今度こそ、救わんと駆けつけたが、そこにいたのは、道重さえみ、私の中のもう一人のわたし」 これはこの前、リゾナントで聞かされた話、そのままであった 「私を独占しようとした私の中のお姉ちゃんと8人は戦ってくれた 結果からすれば私はみんなの元に戻れた。だけど、親友を失った」 そこでいったん区切りをつけた 「ここまでは、みんなに教えたよね?さえみお姉ちゃんという存在とえりがいなくなった理由」 「そのさえみさん、ってそんなに強かったんですか?」 「強いなんてモノじゃナイ、化け物ダ」 いつの間にかまたバナナを食べているジュンジュンが割り込む 「大陸でもさえみさんに肩を並べられるほどの能力者をジュンジュン2人しかシラナイ」 「さえみさんの力ってなんだったんですか?」 「お姉ちゃんの力とさゆみの力は根底は同じ。どちらも『生命力を増幅』させることなの たださゆみは傷を治す時点で止めるけど、お姉ちゃんは『過剰に生命を増幅』させる」 「そ、そうなるとどうなるんだろうね?」 「体自体が治癒に耐えきれず、崩れていくんや。それこそ、ぼろぼろに溶けていくように」 『溶ける』という表現に仲間達は反応を示した 「溶けていくってそれじゃあ、まるでさっきの詐術師みたいじゃないですか!!」 「その通りっちゃね、さえみさんが消した敵はみんなああやって雪融けのように消えたと」 「いやいやいや、でも、ですね、田中さん、亀井さんの力は風使いと傷の共有ですよ それがどうやって、仮にですよ、そのさえみさんの力を手に入れたとしましょう どうやって手に入れるんですか?だって、亀井さんは道重さんの話では消えたはずですよ!」 石田が強く答えを求めてくる 「亀井サンは消されてないデスヨ、石田ちゃん。だってリンリン達の前に現れたじゃないデスカ」 「そ、そりゃそうですけど、それでは幽霊とでもいうんですか?」 首を振る道重 「違う、えりは間違いなく生きている。それになんでえりの中にお姉ちゃんがいるのか・・・なんとなくわかる」 「わかる」と断言した道重に新垣が顔を曇らせた 「・・・さゆみん、思い当たる節があるっていうの?」 「はい、ごめんなさいガキさん、えりの姿が再び現れた時から、わかっていたんです」 そこに割り込むれいな 「それってあの日にれいなに言ったあのこと?」 「そう、あのこと」 「えりがいなくなった次の日、れいなとさゆみは、えりも含めた三人にとって大事な丘にいったの そこでれいなと、えりがいなくなることで・・・なんていうのかな悲しむんじゃなくて うん、誓いをたてたの、諦めないって、世界を幸せだって気づかないくらい幸せにするって そしてその時にれいなにだけいったことがあるの」 お姉ちゃんがえりとともに消えるときに、お姉ちゃんがさゆみと初めて会話をしたってことを」 「さえみさんと?」 「はい、ガキさん。夢の中みたいな奇妙な出来事でした お姉ちゃんは、私がいなくなってもさゆみをよろしくってみんなに伝えなさいと言ってた それから『エリちゃんのことは償わせてもらいます』とも」 「『償わせてもらう』ですか?」 「あのときカメはさゆみんの居場所を奪った最大の原因が自分だと責めていた だからこそ、さゆみんを救おうと自己犠牲の道を選んだ」 新垣が言葉を選びながら歩みを道重の元へ進める 「それに応えるようにさえみさんもカメを守ることを結局は選んだ、そういうことと解釈していいのかな?」 「ええ・・・たぶん、そうだと思います。さえみお姉ちゃんが守る、と言ってたので それはすなわちお姉ちゃんがえりの中に取り込まれ、何かあった時には身を守る、そんな意味だったと思います そう、だからこそえりは傷を治すことができるし、詐術師を消す力を手に入れた 一方でさゆみはお姉ちゃんの力を失った」 さゆみの考察をきき、光井がうーんと唸った 「ありえへんことではないと思いますが・・・なんというかすんなり入ってこないですわ」 「さゆみもそれが正解とは思ってはいないけど、あのとき詐術師が桃色の光とともに消えたことを考えると・・・ えりは自分で傷を治すこともできたのだからそう考えるしかないと思うの」 「でも、それでも説明できないあるんですが・・・」 「飯窪?遠慮なく言ってみい」 「は、はい。でも道重さんの話だと亀井さんは一旦、みなさんの前から姿を消したんですよね? 傷の共有も風使いもその場から姿を消す、なんてことできないと思うんです」 「まさみたいにポーンって跳んだってことはあるんじゃないの?」 「仮に瞬間移動できても、皆さんが共鳴で存在を確認できるはずですよ だからこそ、この3年も存在が確認できないのは奇妙というか・・・」 「それについてはリンリンが説明するネ 飯窪ちゃんの言う通りリンリン達は生きている限り、絆があれば共鳴できる そして、この数年間、亀井サンの存在を感じるコトはできなかった」 「ですよね?それならばなぜ」 話終えないうちにリンリンが割って入ってくる 「それは亀井サンがいなくなる事件のトキにも起きた。 道重さんがさえみさんになっていたトキ、リンリン達はさゆみさんと共鳴できなカッタ」 そのとき道重さゆみさんは『意識がなかった』状態にアッタ」 続くはジュンジュン 「おそらく亀井サンはこの数年間眠っていたと思う。それも強制的に、ダークネスの手によって もし亀井サンが自分の力で寝ていたとしても長すぎる、眠り姫でも長すぎる それに、なぜダークネスと一緒にいたのカ説明ツカナイ」 「それではいったいどうやって亀井さんの意識をダークネスは沈めたんでしょうか?」 譜久村が道重に問いかけたが、答えたのは別の人物だった 「・・・時間停止、です」 それは小田であった 「・・・永遠殺し、この前のあの人、亀井さんの横にいた女の人の能力 ・・・亀井さんの時を止めれば、意識を戻さずに、共鳴を、生存を隠し通すことができます」 あの亀井が消えた日、現場にあらわれた永遠殺しーその目的はマルシェたちの回収ではなかった 『亀井絵里』の回収の可能性 「多分、その通りだと思ウ。本当はさえみさんの時を止めるつもりだったのカモしれませんガ いずれにせよ、亀井サンの時をとめて、ダークネスは亀井さんを手に入れた」 「そして、亀井さんをダークネスに染めるために洗脳教育を施した、そういうことですね?」 首を振る新垣 「違う、工藤。それなら詐術師をカメが消すはずがない」 「え?それならどうして亀井さんはダークネスの言いなりになっているんですか!!」 ジュンジュンがゆっくり立ち上がる 「亀井サンの時は永遠殺しで止められた、強制的にダ ただ、そこでその力を強制的に打ち消す力が現れた」 「な、なんなんですか?その力って??」 ゆっくりと腕を伸ばし、指をある人物に向けた 「小田ちゃんのちからダ―時間跳躍能力」 「!!!!」 「さくらちゃんの力がなんで亀井さんを動かすことにつながるんですか!!」 「そうですよ!小田ちゃんはただ時間を時間を飛ばし、飛ばした間の出来事を『認識できなくする』能力なんですよ」 仲間達が強く現実を認めたくないのか先輩に問い詰める形となった 「その通りダ、今は。だけど、昔はそうでなかった、ソウダナ?」 「・・・はい、そうですね、昔の力はもっと強力で能力すら消すことができました ・・・ただそれだとダークネスの幹部の力すら消えてしまう、そう判断され、そんな制限をかけられました」 小田さくらの『時間跳躍』により、止められた時を強制的に動かされた『亀井絵里』 「当然、ダークネスは亀井絵里が動き始めたことに気づいたのであろう そして、当初からの予定、ダークネスの一員としての教育を行おうとした ただ、問題が一つアッタ」 道重がそこから先は受けついだ 「お姉ちゃんの攻撃を受け、体と心はボロボロになってしまった お姉ちゃんが傷は治したが、結局、精神までは救うことができなかった いまのえりにはさゆみ達の声は届いていない・・・可能性が高い」 道重、れいな、新垣・・・かつての仲間にためらいなくカマイタチを放ち、無表情な亀井 それはまるで人形のように、中身のないように見えたのであった 「じゃあ、亀井さんは操られている、ではなく」 「可能性としては言われていることをただ、忠実にこなす、作業みたいに感じているかもしれへんな」 「そんな・・・」 「リンリンとジュンジュンがここに来た、最初の目的は亀井さんの復活を感じたからではナカッタ 本当の目的は小田ちゃん、あなたがどんな力を有しているのか確認シタカッタ」 「・・・」 「私達が心配するような悪の心はないようダ。ただ、そのためにとんでもない相手が生まれてしまっタ」 「別に小田ちゃんを責めるとかそんな気はナイ。ただ、亀井サンが復活した、それは緊急事態ダ」 「・・・私たちはどうすればいいんですか?」 譜久村が不安げな声をだす 「きまっとうやろ?戦うんや、えりと」 「・・・仲間と闘うってことですか?皆さんはそれでいいんですか?」 にやりと笑うれいな 「えりと一度、本気で闘ってみたかったとよ」 「田中ッチ、冗談言ってる場面じゃないよ フクちゃん、そりゃ私だって本当なら戦いたくはないけど、あんなカメを救えるのは私達しかいないんだ カメをダークネスの操り人形にさせる?そんなこと許せない!」 「せやからこそ、愛佳達で救わなあかんのや」 「別ニ命を奪うことが戦う目的ではナイ」 「亀井サンの記憶を要は思い出させればいいだけダロ」 『先輩』達同様に、リーダーも力強い口調、覚悟を決めているようだ 「みんな、えりの心をすくいましょう。それがダークネスとの戦いになるの みんなもリゾナンターならできるはずなの、力を貸してください」 そして深々と頭を下げた 「や、やめてください、道重さん」 慌てる仲間達をみて、れいなが道重の肩をたたく ゆっくりと顔を上げる道重に仲間達は、当然とでもいうように力強い光を目に宿していた 「ありがとう、みんな、えりを、助けるのに、リゾナンターとしてではなく、友達としてよろしくなの」 自然と涙がこぼれ始め、慌てて涙をぬぐい始めた 「そんじゃ、一回リゾナントに戻るとしますか、作戦会議しなきゃね」 「そうですね・・・佐藤、そろそろいけるか?」 「うーん、もう少し」 「それなら、あっしがまとめて送るよ」 次の瞬間には道重達はリゾナントに戻っていた 「こ、これって一体?」 「みんな、期待してるがし」 その声の主―高橋愛はカウンターで笑って見せた 投稿日:2014/11/16(日) 10 39 00.61 0 back 『Vanish!Ⅲ ~password is 0~』(5) next 『Vanish!Ⅲ ~password is 0~』(7)
https://w.atwiki.jp/marcher/pages/1067.html
★★★★★★ 新垣と光井が去ったリゾナント、店内には残された10人 頼れるリーダーと頼もしき8人の仲間、そう9人は各々を信じて疑わない 「・・・」 ともに戦ったかつての友が去って行った扉をただ眺め、虚空に浮かぶ過去の偶像を描くのはリーダー、道重 ブーン、と空気清浄機の機械音がただただ空気を震わせ、こごもった芳香剤のにおいが鼻をつく (こういう時になんて声をかければいいのだろう?) 同世代とは比較できない程多くの人と出会い、経験した鞘師ですら顔に浮かぶは困惑の色 『敵はかつての大親友』、気付いたとはいえ、改めて口に出すことで受け止めざる得ない現実を知り、傷ついたリーダー それを齢一回りも離れた私なんかが簡単に『大丈夫ですか?』なんて平凡な言葉でいいのか?と悩む 「・・・ねえ、DOどぅ。まーちゃんが敵になったらどぅはまさを倒してくれる?」 「へ?」 突然空気をぶち壊して工藤にそんな突拍子もない質問をしたのは、本来空気を読めるはずの佐藤であった 「まあちゃん、何言ってるの?」 「ねえ?どぅだったらまさを殺してくれるの?」 「そ、そんなの・・・」 「まさはね、どぅが敵になったら、ためらいもなくスカーンって倒してあげる!!」 「な!!」 何を言い出してるのか、止めなくては、と自身の心拍数が明らかに警告を発しているのに喉から言葉が出ない まあちゃんは変人だ、はっきり言ってしまえば一般常識がない・・・だけど何も考えていないわけでもない 「だってまさはどぅの友達だもん。それにどぅはまさと同じリゾナンターでしょ? まさがリゾナンターになって悲しむ人を減らせるように頑張ってるんだもん」 「そ、それはそうだけどさ」 「まさはどぅが悲しむの見たくない!どぅが悲しむ人を自分の手で増やすの見たくないもん! まさもそんなどぅ救いたいから。どぅはそんなこと望まないもん!」 何を佐藤が言いたいのか鞘師は理解した 佐藤は佐藤なりに道重に対して自分の意見を伝えようと必死なのだ 絶対的に語彙が足りない、でも・・・その思いは仲間達に伝わった 道重はふっと笑う 「何言ってるの、さゆみだってとっくに覚悟はしているの もしかしたら戦わなくてはならないそんなときもあるかもしれない、なんてね 大丈夫、だって、さゆみはリゾナンターなんだから。心配いらないの」 その言葉を信じ、その夜はそれぞれ帰宅の途についた 帰り道の暗闇は明日、どうなるか知らない、とでもいうようにいつもより深く重く感じられた 目を瞑ったらすぐに寝れる筈の鞘師もその日は日付を跨ぐまでは夢を見ることができなかった ★★★★★★ それから二日後、再びリゾナンターはダークネスの気配を感じ、現場へと駆けつけた 鞘師の刀が幾千もの弧を描き、石田のリオンが縦横無尽に駆け抜ける 鈴木が敵を張り倒し、佐藤が無邪気に突き破り、生田がワイヤーで敵を絡めとる 小田が急所を的確に突き動けなくし、飯窪が仲間達の痛覚を麻痺させ疲労を軽減させる 工藤と譜久村は道重を守り抜き、道重が指揮を滞りなく務めていく やはり、今日もリゾナンター優位のようだった そんなダークネスを従えているのはまたしても詐術師だった 「な、なんなんだよ、おまえら、いつも、なんでおいらの邪魔をするんだ!」 誰もその問いに答えようとはしない。 二度と立ち向かってこないように、と思いを込めながら戦い続ける 傷ついた肉体と同じくらいに、気持ちが深く刻まれ、消えない思いとなってくれればいいのに、そう何度祈っただろう しかし、願いは叶わない。何百回、こうやってダークネスと闘ったろう?それなのに一向に戦いは終わらない (さゆみは正しいことしているのかな?変わらなきゃいけないのはさゆみのほうじゃないのかな?) そのとき親友は答えた (さゆはさゆのままでいい) それだけでも嬉しかった。でもメール無精な彼女から数十分後にメールが届いた (さっきの間違い。さゆはさゆのまま『が』いい) 涙が自然と出てきた、止まらなかった 嬉しかった、誰よりもわかってもらいたい人にそういわれることが それから誓った、戦うしかない、自身の信念に従い、終わるともわからぬ永遠の中で だから何を言われても構わない、それが私のできることだって信じているから また一つ、近くで砂煙があがる。リオンに飛ばされたのだろう、男が背中を地面に打ち付け動かなくなる 現実に戻るといつも思う、なんでこんなに普通じゃないんだろうって でも、それを選んだのは私なんだ、誰にでもできることじゃないし、普通じゃない私しかできないんだから 「さあいい加減あきらめてください! もうこれ以上傷つけるのはお互いやめましょう!」 「うるさい!!」 小さなその体から不釣り合いなほど強大で、絞り出したような悲鳴に近い声だった 「うるさい、うるさい、うるさい、うるさい・・・うるさい!!!!! もう、あとがないんだ、おいらには、なんとしてでも手柄を示さなくちゃいけないんだ」 その叫びに呼応するかのごとく突風が吹いた ( ( (!? これは ) ) ) ( ( ( もしかして? ) ) ) ( ( (風ということは ) ) ) 砂埃が止み、開けた視界。座り込む矢口の近くに一人の女が棒立ちで立っていた 女は矢口に手を貸すわけでもなく、ただ矢口を見下ろしていた 「・・・えり」 名前を呼んだその声の主へ、彼女はゆっくりと顔を向ける フードも被っていない、電灯に照らされたその顔、忘れることのできない親友 「なんで?えり、さゆみだよ。ほら」 亀井は表情を変えずに首を横に傾げた 「えりの風はダークネスなんかにこれ以上汚されちゃいけないんだよ!ほら、こっちに来てよ」 真顔のまま、先ほどと反対側に傾がれる首 「なにやってるんだ!カメイ!!そこにいるリゾナンター全員をやっつけるんだ!!」 這いつくばったままの矢口の命令に従うように亀井はゆっくりと手を掲げる 「道重さん、危ない!」と工藤が叫んだころにはすでに風の刃が道重に向かって放たれていた 慌てて佐藤が飛んで道重を捕まえ、間一髪のところで切り抜ける 「道重さん、あぶなかった~でも、みんなも危ない。とうっ」 リオンで早く移動できる石田といえどもあの工藤以外には見えない刃を避けることは困難 小田が一時的に時を自分だけが動けない空間にしたところで、速度自体はかわらない そんなことは考えず、直感的に危険、と判断した佐藤は仲間全員を少し離れた倉庫群の一つの倉庫内に移動させた 「な、なんでまーちゃん、ここに跳んだの?」 突然瞬間移動したことに対応できず、しりもちをついてしまった石田が尋ねるが、佐藤はうーんと唸っている 「・・・なんでだろ?なんとなくここに行きたいって思って」 「な、なんとなくってそんな理由で?危ないじゃない!まあちゃん、どうしたの?」 しかし小田は冷静に周囲を観察しながら、相変わらずのトーンで会話に入り込む 「・・・いえ、この場所は亀井さんの風をよけるためにはうってつけかもしれないです ・・・四方に壁がありますから、攻撃するには障害物を破壊しなくてはりませんから、攻撃を視覚化できます ・・・それに障害物があるということはその分、風が届きにくくなります」 道重も同じことを思っていたのだろう、表情を引き締めなおしていた 「すごいね、まあちゃん!一瞬でこんなことを思いつくなんて」 『違う』 そこに直接、頭に飛び込んできた声 『佐藤には、何かあったらそこにいくように刷り込んでおいただけだよ』 「だ、誰?姿を現せ!!」 工藤がその声に向かって吠えた 『いやいやいや、工藤、何言ってるの?姿見せたら作戦台無しでしょ?』 「さ、作戦?はる達を追い込むための作戦だと?」 『いやいやいや、そんなことひとっこともいっていないから 工藤、話しっかり聞く、状況考える、冷静になる。教わったでしょ?』 「お、教わった?」 きょとんとする工藤に暗がりから声がかかる 「そや、これはうちらの作戦や。そこでしっかりみとき」 「関西弁?ということは?」 月明かりが窓から差し込み、暗がりを照らした。そこには光井の姿、そしてその手にはトランシーバーが 「襲撃することは視えとった。せやから、次に何かあった時にはここにくるように新垣さんが佐藤にうえつけといたんや」 二日前に佐藤を褒めるように頭をなでている新垣の姿が思い出された 「あ、あのときですか?」 「それで愛佳がいるのはいいけど、何をする気なの?」 「・・・道重さん、やはりこの件は愛佳たちも手をかすべきやと思います もともとの原因がうちらにあるわけですから」 『そういうこと。さゆみん、私達も協力させてもらうからね』 トランシーバーから新垣の声が流れてきた しかし、と鞘師は思う。いったい、どうやって新垣が亀井を捕えるのかと 『そろそろやすしが、どうするのかな?なんて思う頃だろうね』 自分の心を完全に読まれているようで、唇を少し噛みしめた 『さあ、その倉庫からでてみなさい。ただしゆっくりね』 「ゆっくりとってどういうことなんだろうね?香音の眼にはなんも見えないんだけど」 そういいさらに数歩踏み出そうとする鈴木 「! まってください、鈴木さん」 「ま、待ってっといわれても急には止まれない 痛いっ」 痛みを訴え倒れこんだ鈴木、その足首から血が流れていた 「・・・ピアノ線ですね。それも視えないくらいの細さ」 「ええ、はるの眼でようやくみえるくらいのピアノ線。それもこの倉庫群全部に張り巡らされています」 地面には鈴木のものと思われる血溜りができていた 「鈴木、動かないで。治してあげるから。ねえ、愛佳いつからこの準備をしていたの?」 「準備ですか?そうですねえ、作戦を思いついたのはこの前会う時より前ですね 準備、という意味でしたら・・・数時間というところですかね」 「たった数時間で?」 驚くのも当然だろう。工藤の眼にみえているのは巨大な倉庫群だったのだから そこにすべてピアノ線を張る、それがどれほどの労力がいるのか、精神力がいるのだろう 「・・・新垣さん、さすがやね」 『こら~生田!感心している場合あったら、周囲を警戒する カメは私達を狙っているんだから、気を抜くと危険だよ』 しかし、と譜久村は疑問に思ったことを光井に問いかけた 「どうやって、亀井さんは私たちの居場所を把握しているんでしょうか?」 光井はニヤリと笑った 「それはな、愛佳と道重さんがおるからこそできる作戦なんや」 「作戦?」 「もともと私たちはリゾナンター、共鳴のもとに繋がっておることはみんなも知っとるやろ? 今回は、その絆のために愛佳と新垣さんは亀井さんが復活したっちゅうことに気づいた っちゅうことは逆もありえるやろ?」 はっと気づいたように譜久村が手を口元にあてた 「お二人の共鳴の絆を頼りに私たちの居場所を突き止めることが亀井さんにできる」 「そういうことや。共鳴を逆手にとって亀井さんをここにおびきよせる」 『そして近づいたところを私が生け捕りにする』 「でも、風の刃でワイヤーを破壊することだって想定されるじゃないですか 遠距離から攻撃してきたらどうするんですか?」 『だからこそ、そのためにこれだけ広範囲に結界をはっているの 幾重にもワイヤーを断てば、風の刃の飛んでくる方向くらい簡単に解析できる』 穴はない、ってことですか、先輩、と鞘師は思う 「亀井さんは瞬間移動することはできへん、遠距離からの風または近づいてからの攻撃しかあらへん それにもしダークネスの瞬間移動装置を使ったとしても、この倉庫の周りにも幾重のワイヤーが張り巡らされてる 近距離ならあんたらでも攻撃できるやろ?風の動きはこの使っていない倉庫にたまった埃で見えるようになっとる」 鼻を刺激する黴のような臭いが漂っているのはそのせいだった 「さすが愛佳とガキさんですね」 『何言ってんの、みんなにも協力してもらうんだからね。ただ自分の身は自分で守ってもらうよ、自己責任だからね』 先輩二人の作戦には落ち度はないように感じられた 新垣を攻撃する可能性もあるが、そこは新垣のことだ、安全な場所にいるのだろう 問題は亀井を捕えてから、ということも鞘師は考えていた いずれにせよ、まずはその姿を捕えなくてはならないと、柄を持つ手にも力が入る トクン、トクンと自身の心臓の刻むリズムが静寂を不気味に助長させる 一分が数時間にも感じられるような濃い時間が流れる そして、その時が訪れる 「来るで」 『来た!!』 新垣の張っていたピアノ線が一斉に竜のように一か所に集まっていく その中心には当然のように亀井の姿 目に見えないとはいえ、明らかに自分を狙っている何者かの気配を感じあらゆる方向にカマイタチを放つ カマイタチにより切断された糸は地上にいる11人からは見えない しかし、その後ろから新たなもピアノ線が次々と亀井の元へと集まっていくのだろう、亀井の手は動き続ける 「いける、これなら亀井さんを捕まえられます!」 「で、でも新垣さんは大丈夫なんでしょうか?あのピアノ線は新垣さんが全て操っているんですよね? あのピアノ線を辿れば新垣さんの元にたどり着くことになるんじゃ?新垣さんはいま、無防備なんですよ」 「だれが無防備なんだって?」 振り向くとそこには新垣が腕を組んでたっていた 袖からは操っているはずのピアノ線の束は全く見えない 「え?え?新垣さん?なんでここに?」 「新垣さんがここにいるのにどうやってピアノ線が亀井さんにむかっているんですか?」 「・・・あれはフェイクなんですね」 「そうや、もともと、ここの現場には詐術師が現れたっちゅう未来は視えとった 新垣さんのワイヤー操作の根本は精神操作、それを阻害されたらすべて終わり せやから、新垣さんはこの工場を選んだ」 「そういえば、ここはなんの工場なんですか?」 その問いに答えたのは工藤であった 「繊維工場の倉庫ですね」 「御名答、前もって新垣さんはただの繊維に自身の念動力で亀井さんの位置をただ辿るように念をかけた そして、建物の周囲にだけ本物のワイヤーで亀井さんが攻撃をしてきたときに方角を把握できるようにした 攻撃されたとき、その位置を座標で示し、念を込めた糸たちが自然と飛んでいくようにしただけや」 「・・・あの糸にはなんの殺傷力もない、ただ亀井さんの位置を示す、それだけの役割なんですね」 小田の眼をまっすぐにとらえて、新垣が満足そうにうなずく 「小田ちゃん、やるね」 「すごーい!!新垣さん!!それでこれからどうするんですか?」 生田の問いに振り返って新垣は袖から透明な糸を取り出した 「あの糸に集中している間に死角からこれで直接たたく。なるべく生け捕りにしたいからね」 無数の糸に絡み取られそうになっている亀井を地上から仰ぎながら、悲しそうな目でつぶやく 「カメを救わなきゃね」 そして、その糸を亀井めがけ、伸ばしていく 絶妙に亀井のカマイタチを避けながら糸は伸びていく 時折、新垣は「おりゃ」だの「およよ」だの呟きながらも集中力を欠かすことなく伸ばしていく そして亀井にあと少し、というところまで伸びていったのだろう、小さく、「いくよ」と仲間達を振り返り力強く言った ワイヤーが亀井の体をぐるぐると囲み、一気にその腕を縛り上げた 突然動かなくなり、縛り付けられた形になった腕を亀井は見上げた 地上からはその時の亀井の表情は判断できなかった 「さあ、みんな、ここからカメの動きを」 そこで新垣の言葉は途切れ、地面に吹き飛ばされた 突然、飛ばされた新垣に仲間達は驚き、慌ててかけよった 「新垣さん、どうしたんですか?」 「あ、愛佳、カメのヤツ、私のワイヤーをやぶった」 そんなはずはない、と鞘師は宙を見上げる あのとき、『確実に』亀井さんの腕は動きを封じられていた これまでの攻撃を見る限り亀井さんの風は掌の上から生み出されている それをしってのうえで新垣さんは亀井さんの腕を縛り上げたはずなのに そして、自分自身が風のように飛んでくる亀井の姿が目に映った 「な、やばい!こっちに来る!」 慌てて石田がリオンを呼び出し、鞘師が水の刃を生み出す しかし、視えない風を相手に何ができるのだろう? 不安が急速に膨らんでいくと同時に、距離が縮まっていく 光井が叫ぶ 「2秒後、飯窪と譜久村、左に飛び込め!5秒後、佐藤、工藤と石田を抱え飛ぶ 鞘師は鈴木につかまり、鈴木は透過を発動。小田は生田とともに倉庫の中に避難 道重さんは9秒後に新垣さんの左腕を治してください!」 予言通り、7秒後新垣の左腕がはじけとび、道重が慌てて腕をつかみ患部同士を繋ぎ合わせる 「ちょっと、愛佳!!これはやばいんじゃない?」 「さ、佐藤、可能な限り早く、飛んで逃げるで」 「む、むり~さっきの移動ですぐにはとべない!!」 こうしている間にも無表情の亀井は迫ってくる 目的はやはり、リーダーシップをとっている新垣、または光井か それとも治癒を行える道重か、攻撃の要の鞘師か? しかし・・・亀井はそんな4人を無視し、工藤達が逃げ込んだ倉庫へ向かいカマイタチを放った 轟音とともに屋根の一部が崩れ落ちる 「生田!小田ちゃん!」 道重は叫ぶが、次々とカマイタチが倉庫を襲いその声はかき消される 「な、なんであそこばかり?」 「そんなこといってられないですよ!このままじゃ、二人が」 豆粒ほどだった亀井の姿がもう肉眼でもその表情がはっきり見えるほどに迫っている 倉庫の二人以外に亀井の興味はないらしい、倉庫へ一直線 「こ、こうなったらえりがなんとかしなきゃいかんけん」 「・・・いやはや、きびしいですね」 倉庫の中の二人は臨戦態勢をとっているものの、能力は心もとない 小田が時を感じなくしてもカマイタチがなくなるわけではない、放っているカマイタチは存在するのだ それを小田は避けられるかもしれないが、生田が避けられる保証はなかった (・・・能力は使っても意味はない、ということですか) 万事休す、そう思ったのだろう、笑ってしまう 「なに笑っていると!さくらちゃん、構えると!」 どうすればいい、と鞘師はまたも考えをめぐらす この距離でなにかできるのか?いや、できない。何もできないのか?後悔するしかないのか? いやだ、いやだ、いやだ、でも・・・何もできない、のか? そう思い、亀井の姿を目で捉えた 風になびく緩やかな黒髪、魅惑的なあひる口、柔らかそうな肌、仲間達に向けられた両手、ピンク色に輝く瞳 (・・・ピンク色?) 「え~い、これでもくらうと!えりぽん必殺!ワイヤー攻撃」 新垣と比較するとどうしてもその粗さが目立つが、ワイヤーが亀井向かって伸びていく しかし、そのワイヤーの先端は亀井に触れる、その直前で淡雪かのように崩れていく 「な、なんやと?」 小田は思い出す (・・・あの時と同じ、私が投げたナイフが消えていったのと同じだ) 迫りくる亀井を生田が恐怖に満ちた目で眺め、ぺたんと座り込む 「む、無理やって、これは、さすがに」 「・・・大丈夫ですか?生田さん?」 ハハ、と引きつり笑いをうかべながら弱弱しく答える 「大丈夫じゃないと」 そのとき、目の前が突然、太陽が昇ったかのごとく明るくなった 「イヤ」 誰かの声が届き、次の瞬間には緑色の炎がたちあがり、亀井を飲み込んでいた 「バッチリデス」 小柄な女性が残っている倉庫の屋根の上から顔をのぞかせ、笑って見せた 投稿日:2014/09/19(金) 11 26 07.76 0 back 『Vanish!Ⅲ ~password is 0~』(3) next 『Vanish!Ⅲ ~password is 0~』(5)
https://w.atwiki.jp/banrui/pages/28.html
準備/設定 WordPressインストール MySQLの拡張 php用のmysqlモジュールをインストール サーバでのMySQLの設定 mysql grant all on wordpress_s.* to banrui@localhost; Query OK, 0 rows affected (0.03 sec) mysql set password for banrui@localhost=PASSWORD( starbucks ); Query OK, 0 rows affected (0.01 sec)
https://w.atwiki.jp/xbox360score/pages/1992.html
Team Crossword 項目数:20 総ポイント:200 難易度:??? ☆ Windows 8用タイトル 製品情報:Windowsストア 配信日:2013年5月25日 DL費用:無料 ジャンル:パズル ※配信終了。2014年6月23日にサーバー閉鎖予定とのこと(オンライン系実績が取れなくなります) Daily Fun! Complete a daily crossword. 15 Crossword Addiction Complete ten daily crosswords. 5 The Casual Crew Complete casual crossword with four players. 10 The Standard Squad Complete standard crossword with four players. 10 The Pro Party Complete pro crossword with four players. 10 A Huge Help From My Friends Complete a crossword with at least three other members of your team. 10 The W-Team Earn a Platinum medal with your own team. 5 Word Domination Score a hundred and fifty points for a single completed word. 10 Speed Wording Solve a crossword under five minutes. 10 Power User Use each power-up at least once. 15 Word Champ Complete a multiplayer crossword in first place. 20 Big Winner Earn five token awards or more in a single game. 10 Lord of the Words Earn at least six thousand points in crossword score. 5 Know ALL the Words! Fill a hundred words across multiple crosswords. 10 Community Leader In a multiplayer game, be the first to complete a word affected by a Community Hint Bonus. 10 Et Tu, Amicus? Lock a word s hint and get it completed by a member of your team. 10 Stay Calm and Play On Fill a word that was affected by someone else s Bomb power-up. 10 I Love Every Cat Duplicate at least a hundred points from a single word completed by a member of your team. 10 Crossing words Score fifty bonus points from word-crossing with a member of your team. 10 秘密の実績 Crossword Insanity You had twenty puzzles running at the same time. 5 オンライン専用。 名前の通りチーム戦のため、最低4人対抗戦では8人揃わないとゲームが開始されない。 それなりの英語力が必要な上に、対抗戦もあるので注意。
https://w.atwiki.jp/marcher/pages/1220.html
「・・・」 彼女は歩き続ける 「まってくださいよ~」 それを追うように歩く少女 「ちょっと、えりぽん、新垣さんも疲れているんだからやめたほうがいいよ」 そんな二人を追う少女 奇妙な奇妙な追いかけっこ 「だって、みずき、新垣さんと次会えるかわからんっちゃよ? もっともっと教えてもらわんといかんことあるとよ」 「だからって、新垣さんも疲れているんだよ!同じ糸使いのえりぽんならわかるでしょ? あんなにたくさんの糸を一度に操ったんだよ。疲れないはずないでしょ」 足早に歩く二人を追いかけてきたためか、はたまた元来のものか頬が紅く色を帯びている 「え~新垣さんなら、あれくらい大丈夫っちゃよ そりゃ、えりは一本で限界っちゃけど、新垣さんは最強っちゃもん ですよね~新垣さん」 へらへら笑いながら生田は足を止めない、歩き続ける 「・・・」 新垣は何も話さず、歩き続ける 「だからってえりぽん、すべて新垣さんに任せるわけにもいかないでしょ? 高橋さんがおっしゃってたように、聖達もどうしたらいいのか考えたほうが」 「え~えり、そういうの苦手やけん。できることからすると。 そのためにはまず、えりはえりのできることをすると。そういうのはみずきに任せると」 「え~えりぽん何言ってるのよ!聖だって頭良くないから、得意じゃないんだよ」 顔を真っ赤にしながら譜久村は生田を追いかける 「頭の良さと戦略に長けるって別っちゃろ?道重さんだって常識に弱いところあるけど、策士やろ? えりは自分でもわかっとうもん、周りをみれんってことは」 あっけらかんと自分の弱点を宣言する生田をここまで来ると逆に気持ちいいと譜久村は感じていた 新垣は無言だ 「えりは勉強や一般常識ならみずきには勝てる自信あると、みずきお嬢様やん。 でも、戦略家としては才能ゼロやし、それならしっかりと指示通りに役割果たせるようになるとよ」 「戦略家って聖には無理だもん、聖、そういうのじゃないもん・・・」 新垣は次の角を曲がった 「あ、新垣さん、待ってください」 生田も次の角を曲がった 「あ、えりぽん、新垣さんもお疲れなんだよ!」 譜久村も次のry) 曲がった先の一本道を進むと川辺にたどり着いた 「あ、あれ?新垣さん、どこいったかいな?」 どうやら見失ったようで、眼をこらしてきょろきょろと辺りを見渡す ようやく息を整え終えた譜久村もベンチに腰を下ろし、ハンカチで流れた汗を拭いてゆく 「まだまだ教えてほしいことたっくさんあるとよ、鉄は熱いうちに打てっいうやろ!」 「えりぽんは熱すぎるよ、聖、つかれたもん」 そこにカコン、と何かを打つ音、次いで、ぽちゃん、と水に何かが落ちる音が響いた それも一つではなく、何回も続いた 「!!」 全力で駆け出す生田 「え~?また、はしるの?」 (新垣さん!!) 音のする方へ、する方へ、次の角を曲がった 数十個の空き缶が一列になって川端のフェンスに並べられていた しかし、新垣の姿はない 「あ。あれ?新垣さんはどこいったかいな?」 ゆっくりとフェンスに近づく生田の後ろに、足音が近づいてくる その主は・・・ 「なんだ、聖か」 「なんだってなんですか!!えりぽん、また勝手に走り出すから、なんか、今日走ってばっかりだよ」 生田の暴走に振り回されてばかりに譜久村は半分泣き顔だ 「それで新垣さんはおられましたか?」 「ううん、おらんと、せやけど、こんなんあったと」 フェンスに手をついて聖に示した 「空き缶がたくさん並んでいるね。さっきの音はこれかな?」 「多分そうっちゃろ。新垣さんがワイヤーで狙い撃ちしたっちゃろ」 「なんでわかるの?」 「ンフフ・・・えりの勘っちゃ」 過剰な笑顔を浮かべながら、生田は袖の安全装置を外した 「そして、これが新垣さんの訓練ならえりもやってみたいと たぶん・・・この辺かな?うん、このくらいっちゃろ」 フェンスから少し離れ距離をとり、生田は構えた 黙り込み、リズムを刻むように踵をコツコツとならす 頭の中ではワイヤーを右から左に薙ぎ払うように伸ばし、見える全ての空き缶の中心を打つ 打ち払った空き缶達は全て川の中に順序よく、水音とともに沈んでいく イメージが完成した時点で、生田は右腕に仕込んだワイヤーをフェンス向かい伸ばしていく 始めの数個は完璧であった。鞭で払うかのように、しなやかな軌跡をたどってワイヤーは伸びていく (よしっ) しかし、そこからワイヤーの軌道は上へ下へ微妙にずれていく 全て川に飛ばすつもりであったが、そうはならずただ上にとぶだけのものも出てきた そして最後の空き缶に辿りつく前にワイヤーはフェンスに当たってしまった 結果的にすべての空き缶を払うことには成功したが、イメージしたものとは全然違った そんなことを露ともしらず、譜久村は「スゴイスゴイ」と手を叩いて喜ぶ 跳ねながら飛んでくる譜久村は生田の不満げな顔を見て驚く 「え?どうしたの?全部倒したのに、何か上手くいかなかったの?」 「・・・」 「すごかったよ、えりぽん、あんなにきれいにカカカカカカーンって」 「・・・すごくなんかないとよ」 「え?え?」 戸惑う譜久村の後ろから、アルトボイスの声 「そう、フクちゃん、全然すごくないよ」 「・・・新垣さん。どこにおられたんですか」 新垣は落ち込む生田に気づかないふりをしながら、空き缶を拾い上げた 「あのベンチから見てた。生田のことだから、ああしていれば『えりもやる!』っていうだろうと思ってね。 正直、今の生田の技術をしっかり見ないといけない、そう思ってたからね」 「それは今日の戦いをみて、ですか?」 「う~ん、それもあるけど、前から思ってたところもあったからね 生田が私のことを慕ってくれるのは嬉しいんだけどね、言わなきゃいけないこともあるからね」 新垣自身も言い出すまいか迷っていることがその口調から譜久村は勘ぐった 「・・・あまりいいことではないみたいですね」 「ま、そういう部類に入るかな。ほら、生田」 拾い上げた空き缶を生田めがけて投げつけた 生田は下を向いていたにもかかわらず、空き缶をみることなくキャッチした 「うん、反射神経は相変わらずいいね」 ようやく新垣は笑顔をみせた しかし、生田の表情は暗く、譜久村の表情はどうしていいものかわからず不安げだ 「新垣さん、えり・・・」 もう一本新垣が無言で缶を投げつけた 同じようにつかんだ生田は中身がはいっているとは思わず、つかんでその熱にやられた 「ほら、それでも飲んで落ち着きな」 新垣は自身のコートのポケットからあと2本取り出し、一本を自分に、もう一本を譜久村に投げてよこした 「あ、ありがとうございます」 「いいって、ほら、立ち話もなんだから座って話そうか」 空き缶のタブを開ける音と喉をごくごく言わせて一口新垣がのどを潤す 「・・・あ~ビールがうまいっ ふぅ、二人とも今日は大変だったね」 二人の労をねぎらう新垣 だが、二人の顔は浮かない 「ん?どうした?なに暗い顔してるの?」 「・・・だって今日は新垣さんの作戦も上手くいかなかったですし、亀井さんを逃してしまいましたし いいことなんてないんですから、それに作戦も決まっていないから明るい顔なんてできませんよ」 譜久村の弱気をききながら新垣は缶の半分を一気に飲み干す 「そりゃー私だって、反省してるよ、今日はだめだって。 でも、うまくいかないことのほうが多いんだからさっ、あんまり気にしないのさ」 あまりにあっけらかんとしている新垣を見て譜久村は驚いた あれほど黙っていた理由をてっきり、今日の反省をしているものだと考えていたのだから 「でも、作戦とか考えるんですよね」 「うん、明日ね。いや~生田、さっきいいこといったからね。私、嬉しかったよ」 新垣に褒められ、少し元気が戻ったのだろう、生田の顔色に血色が戻ってきた 「『できることからする』、その通りだよ、できないことを無理にする それって大変だから、余裕ができたときにすればいいんだよ はっきり言って、今日の作戦は無理があったのは認めざるを得ない 今のリゾナンターを囮につかうとか、はっきり言ってリスクが高いからね」 「でも、それしか方法がないのなら聖達は」 最後まで言わないように新垣は首を振った 「いやいや、もうしないよ、約束する。あんな危険な賭けしても無駄だってわかったから」「そ、そうですか・・・」 譜久村は戸惑う、これが新垣が凹んでいた理由なのか?と 「じゃあ、新垣さん、えりに糸の使い方教えてくださいよ!! できるようになりたいんです!!えりは新垣さんみたいに強くならなきゃいかんとです」 急に立ち上がり声を荒げる生田に驚く譜久村と対照的に新垣は笑みを浮かべたまま 「うんうん、生田の気持ちわかるよ。でも、少しは落ち着きなさい ほら、フクちゃんも驚いちゃってるんだからね」 「ご、ごめん、みずき」 生田が座り、おしるこジュースを一口飲み、その甘さに舌がやられたのを譜久村はみた 「さて、生田の気持ちはわかった。精神操作、精神破壊、私と似た力だからね」 新垣は生田が甘さにやられていることに気づいていないようだ 「精神系能力、それは直接的な攻撃ではないが、使い方次第では反則的なダメージを与えることができる 私が本気出せば、人格を崩壊させることも、別の人格を作り出すこともできるかもしれない ・・・したことはほとんどないけどね」 「は、はあ」 「その分、非常に繊細な部分も必要。人格を崩すほどの大胆さと緻密性、療法とも不可欠 一朝一夕でできるようなものではないし、私だって人並みに使うには5年以上はかかった 生田、あんたはまだ3年だから、焦る必要はないよ」 「さて、フクちゃん。フクちゃんの能力は『能力複製』だよね これまで生田や私みたいな精神系の力をコピーしたことはある?」 突然話が自分に飛んできたので驚いたが、一瞬、考えすぐに答えを出した 「あります。でも」 「うまくいかなかった」 譜久村が頷いた 「なんていうか自分自身の体じゃないものを、それこそ機械を操るみたいで、全然使いこなせませんでした どこをどうすればいいのかもわからなくて・・・糸を使うとかそんなところまで行きそうにもなかったんです えりぽんの力を試そうとしたときは、気持ち悪くなって・・・・動けなかった」 思い出したくない記憶の一つが生田の力をコピーした後の副作用 数時間、頭痛とめまい、脱力感におそわれ、見えない何かにつぶされるような幻覚に悩まされた 「精神系能力者の力は普通の能力者とは全く別。『ただ心を操る』『心を覗く』、そんなものではないの。 耐えきれないほどの他人の心を自身の心をぶつかりあわせて、折れないように、かつ相手の心を崩さないようにする 小手先の技術なんかじゃこの力は制御できない」 生田の目をみながら新垣はゆっくりと説う 「はっきり言う。生田、あんたはこの力に必要な繊細さが未熟だ 今の生田じゃ、私には一生追いつけないし、一人前にはなれない」 「・・・わかっとうもん、そんなことは」 弱弱しく生田が眼に浮かべる 「わかっとうもん、えりは精神系能力者やけど、人の心を操る能力者やけど、人のこころがみえないと 何をして笑って、何をして怒って、何をして悲しむか・・・わからんもん」 「えりぽん・・・」 「鍵穴のように、絡まったコードのように、かっちりと細かい技術が必要なのはわかっとう でも、えりにはそれは苦手なことっちゃ!!ドライバーで飛ばすのは得意やけどパターは苦手 大胆なことは得意っちゃけど、繊細なことはできんとよ!!えりには」 それは隠していた思い。思わず零れてしまった弱音。 「えりは里保が羨ましいと、あんなにはっきりと闘える力があることを あゆみちゃんも小田ちゃんも羨ましい。前線に飛び込んでいける力やもん えりはこんな力望んでいないと!!もっとみんなにえりらしくなれる力がほしいと」 「甘ったれるな!!」 新垣が立ち上がり思いっきり生田の頬を殴り、生田は地面に倒れこんだ 「なにが『大胆なことは得意、繊細なことは苦手』だ 『こんな力望んでいない』だって?ふざけるんじゃないよ!! それなら私だって、こんな力欲しくてもってるんじゃないんだよ 生れたときからこの力は私の一部なんだよ、それを自分で要らない?こんな力じゃなくて他の力が欲しかった? 生田、あんた、それでもリゾナンターなの?ちょっと見損なったよ」 「私だってこんな力、捨てたいなら捨てたい。でも、今の私があるのはこの力のためだ 私の一部なんだ、私自身なんだ、変えられないんだよ。 自分でできることをする、さっきそういったのは生田でしょ?それならそれも受け入れなさい 少なくとも私が知っている生田はこんなことを言う子じゃなかった だからこそ、言わなきゃいけない、そう思って改めて場を作ったのに」 突然、立ち上がる新垣 「帰る。生田、あんた少し頭を冷やしなさい」 そして足早にその場をさっていく新垣 「ま、待ってください、新垣さん」 譜久村は新垣を走って追いかけた。生田を置き去りにして、今の新垣を追いかけるなんていつもの自分らしくない、と感じていた しかし、気になってしまったのだ、いつもの新垣らしくないと あの新垣里沙がこんなに強く、自分を慕う後輩に強く言うものか、と その裏には何かがあるのではないか、と。 「ま、まってください」 急に立ち止まる新垣 「フクちゃん、生田を頼むね。あの子は本当に弱いから」 「は、はい・・・でも、新垣さんは何を本当は伝えたかったんですか?」 「・・・」 「こんな展開を予想しておられなかったと思うんですが、新垣さんは生田がしっかりと覚悟していると思ったんですよね? それなら何を」 「・・・フクちゃん、生田の言うことはある意味正解だよ 向き、不向きがある。得意、不得手はあるよ。だから・・・私は生田に、私の後を追うのはやめろって言おうと思った」 「そ、それってどういうことですか?リゾナンターをやめろっていうことですか!!」 「違う、具体的にはワイヤーを使うのをやめろってこと・・・かな。 あの子には人並み以上、それこそ私以上の身体能力がある。それを使っていけばいいんじゃないかってね ・・・だけど今の生田にはそんなことを考えさせる余裕はないね 結局自分らしさを確立させていないんだからね。悩む年頃なのかもしれないけどね それに、フクちゃんも考えた方いいよ、自分の役割ってことを」 「え??それって??」 「生田がいってた参謀役、っていうのも悪くないよ」 自分自身が参謀?? 考えられない、と思っているとふと残してきた生田が不安になって後ろを振り向いた 前を向くとすでに新垣は姿を消していた (・・・) 夜風が身にしみた、涙が浮かんだが花粉のせいではないだろう ★★★★★★ 「生田、フクちゃん、強くなるしかないんだよ。だって・・・愛佳の予知では」 投稿日:2015/03/30(月) 23 15 04.71 0 back 『Vanish!Ⅲ ~password is 0~』(8)
https://w.atwiki.jp/password/pages/1.html
メニュー 12 空白 03
https://w.atwiki.jp/password/pages/2.html
更新履歴 取得中です。