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書きたかった事 本スレ90の 316さんの書き込み 『「おまんじゅうさん」とか呼び続けたら物言わぬ饅頭になるかも知れん』 からインスパイアされて 言葉責めとかやってみたかった 作者 チェンマガツ その男には日頃から疑問に思う事があった。 最近現れたゆっくりと呼ばれる奇妙な不思議生物は本当に生物と呼んでいいのだろうか。 詰まるところあいつらは饅頭なわけで、饅頭を生物とするのは明らかに間違っていると思っていたのだ。 誰かに聞いても答えられるはずのない疑問であることは承知しているのでそこはやはり本人達に聞いてみるのが早いのだろう。 そう思い立ち男は早速行動に起こした。 人間の集落の周りにある森に出かければすぐにでもゆっくりは見つかった。 日の当たる広場に二匹の成体ゆっくりが寄り添って仲良く昼寝をしていた。 ゆっくりまりさとゆっくりれいむだ。どうやらカップルらしい二匹を起こすように男は挨拶をする。 「ゆっくりしていってね」 「「ゆっくりしていってね!!」」 さっきまで寝ていたのに脊髄反射のように挨拶を返してきた。 「ゆゆっ、ゆっくりねていたのにおこさないでね」 「ここはまりさたちのゆっくりぷれいすだからゆっくりでていってね!!」 「少し君たちに聞きたい事があるんだけどいいかな?」 ふくれていたれいむに出て行けと怒鳴るまりさを完全に無視して男は質問する。 「君たちは何だい?」 「ゆゆっ、れいむはれいむだよ」 「まりさはまりさだよ」 「いや、そう言う事ではないんだよ」 やはりかと男は思った。ゆっくりと初めからまともな会話ができるわけはないのだ。 「お兄さんは人間だ。なら君たちは何だ?」 「れいむはれいむだよ!!」 「まりさはまりさだよ!! なんかいもいわさないでね!!」 あまりの会話の成りたたなさに男は頭を抱える。 どうしてもこいつらから質問に対する答えを聞きたいのだが、どうやら誘導質問をせざるをえないようだ。 「そしたられいむ。れいむはゆっくりだよね?」 「うん、れいむはゆっくりしているよ」 「そうじゃないんだ……、もういい。まりさ、君はゆっくりだな」 「ゆゆぅ、そうだよ!! まりさはゆっくりだよ」どうやらまりさは男の質問の意味が分かったようだ。 「まりさは賢くて助かる」 「それにまりさはかりもじょうずでかっこいいんだよ!!」 「ゆっへん」まりさはお腹を突き出して偉そうな表情をした。 男がしまったと思ってももう遅い。 誉めるとすぐこうなるのだから言葉を選んで会話をせねばならないと思い直す。 「それじゃあまりさ、お兄さんは人間だ。人間は動物だ。わかるな?」 「ゆっくりりかいしたよ!!」 「それなら、まりさはゆっくりだ。するとゆっくりはなんだ?」 これでようやく疑問が解決すると男は思った。しかしそううまくいくわけがない。 「おにいさんしらないの? ゆっくりはゆっくりだよ!! ゆっくりりかいしてね」 「……」 男は改めてこう思うのだ、やはりまともな会話ができるわけはないのだと。 それなら仕方ないと誘導質問に切り替える。 「お兄さんから見ればゆっくりは饅頭に見えるんだが?」 男の質問は実に簡単なものだ。結局のところお前らは饅頭だろということだ。 しばし時間が止まったように二匹のゆっくりが固まった。 男の言葉をゆっくりと頭の中で反芻し、ゆっくりとその言葉の真意を読み取った。 そして突然二匹は怒り出した。 「どおじでぞんなごどいうの!! れいむはおまんじゅうじゃないよ!!」 「まりさはまりさだよ!! おまんじゅうさんはあまあまでしょおおお!? そんなこともわからないの? ばかなの? しぬの?」 二匹は大激怒である。二匹は目をつり上げ、涎を飛ばしてきながら今にも襲いかからんとばかりに跳ねながら叫んできた。 まりさの言葉にカチンとくる部分があったがそれくらいで潰してしまうほど男の沸点は低くない。 「だってどう見てもそうじゃないか……。いや、まてよ……」 ふと男は面白そうな事が思い浮かんだ。 自分達が何であるかを分からせる必要がありそうだ。 「お前達うちに来てくれないか。うちにくれば饅頭を食わしてやる」 「ゆゆっ!! おまんじゅうちょうだい!!」 「ほんとうにくれるんだぜ!?」 「ああ、食わしてやるから。ちょっとの間付き合ってくれよ」 「れいむをゆっくりつれていってね!! それでおまんじゅうちょうだいね!!」 「まりさもいくんだぜ!!」 「そしたら早速行こう。気が変わらないうちにな」 男が家でちょっとした実験をするために二匹を連れて帰る事にした。 両脇に二匹を抱えてやると随分ご満悦そうにゆっくりしだした。 普段見慣れない風景とか地面から解き離れた感覚とかそういった部分にゆっくりは惹かれるのだろうか。 男は二匹を連れて家に帰ってきたのはいいものの、実験の準備はまったくしていない。 この実験には腕の立つ菓子職人が必要だったがそれには思い当たる節があった。 自身がゆっくりをとてもよく観察して、人間に友好的なドスまりさを作り上げたと評判になっている和菓子屋の店主だ。 ひとまず二匹をあまり物を置いてない寝室に招待し、適当なご飯を置いてその主人の元へと出かける事にした。 「ふむ、その実験は実に興味深いな」 「そこで実験に必要なものを旦那に作って欲しいんですよ」 「そういうことなら喜んで協力しましょう。なんなら場所も提供しますがどうですか? 家の奧にあるゆっくり用の部屋が空いてるんでそこを使っていいよ」 「いいんですか。家ではそんな部屋が無いんで願ったり叶ったりです。喜んで使わせてもらいますよ」 「ついでに私も観察させてもらうけど問題はないよな」 「ええどうぞどうぞ。それじゃあ約束のものはいつできますか? 出来上がればすぐにでも実験を始めますけど」 「実験結果が面白そうだから今から作り始めて明日の午後までには作っておくようにするよ」 「それは有難い。そしたら明日の晩にまた尋ねることにしますね」 「そしたら明日の晩にお待ちしてます」 この実験に使われる物の費用に関してはそれほどかからない上、商品開発のヒントに繋がったと喜んでタダにして貰えたのも助かった。 明日になればゆっくりが何であるかの答えが出るやもわからない。 そして次の日。男はもう二度とゆっくりは飼うまいと心に刻んでいた。 わずか一日を一緒に過ごしただけだがあれほどにまで騒がしい生物とは思わなかった。 もちろん野良のゆっくりだというのもそうなのだろうが、いちいち大声で叫ばれたのではかなわないのだ。 どうせ耳がないから互いに大声でないと聞こえないとかそんなことなんだろう。 体罰を与えて機嫌を損なわせて実験に支障がでても困ると思ったが、 よく考えればそのときは別のゆっくりを捕まえてくればいいだけだった気付き愕然とした。 約束の時間通りに男は二匹を連れて和菓子屋に到着した。 「ゆゆっ、おいしそうなにおい!!」 「あまあまのにおいだぜ!!」 二匹は店内に充満した美味しそうなお菓子の匂いに反応していたが、今日はあとでたらふく食わせてやると伝えてあるのでねだってくる事はなかった。 「二匹を連れてきました。例のものはできてますか?」 「ああ、完成してるよ。それと少し色をつけといたからきっと実験結果がもっと面白くなるよ。それじゃあ部屋に案内するよ」 「それは楽しみだ。それじゃあお前らもいこうか」 「あまあまたのしみだね!!」 「はやくちょうだいね!!」 「ああ、協力してくれたらいくらでもくわしてやるよ」 そう言って二人と二匹は和菓子屋の横に併設された家の奧に設けられたゆっくり用の部屋へと入っていった。 床が掘り下げられたその部屋の中にはいくつか台が用意されていた。 「手前の台の上に二匹を置くと良い。その高さからなら飛んで逃げやしないだろう」 「わかりました」 指示された台は男の腹の位置くらいまである台で、ゆっくり二匹が並んで乗るとそれ以上身動きは取れそうにない台座であった。 「ゆっ、ちょっとたかいね……」 「おにいさんゆっくりおろしてね」 「今降りると饅頭を食わせるわけにはいかないんだが?」 「ゆ゛ゆ゛っ!!」 「ゆっくりがまんするね!!」 「是非そうしてくれ」 測られたようにゆっくりが飛び降りようとしない高さであるようだ。さすがゆっくりをよく観察しているだけのことはある。 そして別の台にはいくつか皿が乗せてあり、皿に載せたものが分からないよう布で覆ってある。 皿の枚数は六枚ある。それぞれに要望通りの物が収まっているのだろう。 「ちなみに左の皿から順番通りに並べてあるから。あとそれと……」 店主はゆっくりに聞こえぬよう男に耳打ちをしてきた。 その内容を聞き男は笑顔のままで身震いする。男が思いもしてなかった内容にさすがとしか言いようがない。 「確かに面白くなりそうですね」 「だろ? あとは好きなようにやってくれ」 そう言うと店主は男とゆっくりを置いて部屋を出て行った。 話によると隣の部屋から実験の様子を観察するらしい。 男はゆっくりに振り返ると不安そうな表情をするゆっくり達が見返してきた。 「さて、それじゃあ昨日の質問の続きをしようか」 男は六枚の皿が置かれた台を挟んでゆっくり達と対峙した。 この位置に立てば右から順に皿の上の物をゆっくり達に見せていけばいいということらしい。 そっと自分だけが見えるように布をめくるとそこには一般的な大きさの饅頭が二個鎮座していた。 「では、もう一度聞こうか。お前達は饅頭ではないのか?」 「ぷくぅぅぅ。ちがうよ!!」 「おにいさんまりさおこるよ!!」 「はいはい分かった分かった。じゃあこれを見てくれ」 そう言いながら男は最初の皿の中身を見せた。そこにあるのもを見てれいむとまりさは色めき立つ。 「おまんじゅうさん!!」 「まりさにはやくちょうだいね!!」 「そうかこれは饅頭だよな」 男は並べられた二つの饅頭を皿ごと二匹の目の前まで持ってきて見せた。 「二つとも饅頭だな」 「そうだよ!! はやくれいむにちょうだい!!」 「二つとも饅頭なら問題ない」 男は持っていた皿を台に戻して次の皿の布をめくる。 ゆっくり達は饅頭を食べたいとうるさく叫んでやまない。 「静かにしてないと饅頭はやらないぞ」その一言でゆっくりはあっさり静かになった。 次の皿の上にはゆっくり側から見れば先程のもの変わらないものが乗っていた。 「またおまんじゅうさん!!」 「静かにしてろ。これならどうだ?」 そういって皿の上の物を二つとも180度回転させる。 するとそこには饅頭にあるものがくっついていた。 実に良くできているその代物はどうやら寒天か何かで作られているようで近くで見ても本物となんら損傷はない。 「ゆゆっ、さっきよりおいしそうなおまんじゅうだぜ」 「そうか、やはりお饅頭か」 男が聞く前にまりさが答えたが二つめの皿に乗せられたものも饅頭であると答えた。 しかし先程のまっさらな饅頭とは異なる点がそこにはある。ゆっくりの目玉のようなものがくっついているのだ。 プルプルと震えるその眼球は饅頭に加えられたアクセントくらいにしか思わないらしい。ケーキに乗せられた苺くらいの感覚なのだろう。 「それなら次の皿はどうだ」 ここまでの反応は概ね予想していた通りだ。三皿目の反応もそう変わらないだろうが見せてみることにする。 布を外せばそこには饅頭にゆっくりの閉じた口のような皺が入っている。 これもやはり本物と変わらない出来だ。店主の観察眼と造形技術に舌を巻くしかない。 「おにいさんはやくれいむにちょうだい!!」 「これは饅頭か?」 「「そうだよ!! おまんじゅうだよ!!」」 さて問題はここからである。この先からのゆっくり達の反応が重要となってくる。 男がおもむろに四皿目の布を外すとそこにあった饅頭は二種類の構図が見て取れた。 一方は歯を食いしばり固まっているもの、もう一方が口を開けて固まっている物だった。 口を開いた方をよく見れば歯はどうやら飴細工らしい。本物と比べれば少し透明感と艶が目立つがそれでもよく見ないと分からないほどだ。 どちらにも眼がついており、もはや禿ゆっくりの標本のようだ。 「れいむ、これは何だ?」 「おまんじゅうだよ!!」 「そうか。まりさはどう思う」 「ゆゆぅ……」まりさは返答に困った様子を見せた。 「どうしたまりさ。これは何だい?」 「さっきよりもおいしそうなおまんじゅうだよ!!」 「そうか、わかった」 ここにきてようやく二匹に違いが現れた。まりさの方が違和感を覚え始めたようだった。 たしかに目の前にあるものは饅頭だが、何かおかしいと思っているのだろうか。 少し表情が曇ったまりさを余所に男は淡々と次の皿に向かう。 五皿目の布を外すとそこにはもはやゆっくりと呼べそうなものが並んでいた。 れいむ種を元に造形されたそれは子ゆっくりサイズで、目は開かれ口は笑顔のゆっくりした表情の饅頭に、これもまた飴細工であろう髪の毛が被せられている。 隣り合う二つの饅頭に差は見て取れない。両方とも本物と違う点はれいむ種の紅白飾りが無く動かないという点だ。 「れいむ、これも饅頭か?」 ここでさすがのれいむも返答が止まった。 「これは……、おまんじゅう? ゆっくりできてないれいむ?」 「さっきの饅頭と比べるとどうだ」 「ゆゆっ!! このおまんじゅうはれいむのまねをしてるだけだよ!!」 「ということはこれも饅頭だな」 「そうだよ。ゆっへん」 れいむは見事に饅頭である事を看破してやったと言わんばかりに威張る。 「ではまりさ、これは何だと思う?」 「まりさもおまんじゅうだとおもうよ!!」 「そうかならこうするとどうだ」 男は饅頭を一つ持ち上げるとゆっくりの声真似をした。 「ゆっくりしていってね!!」 「「ゆっくりしていってね!!」」 「これは饅頭か?」 二匹は挨拶を返したままの表情で固まってしまっている。 「どうした? これは饅頭じゃないのか?」 「れいむはゆっくりびっくりしたよ」 「……」まりさは黙り込んでしまった。 「饅頭が喋るだけでまるでゆっくりみたいだよな?」 「ゆゆゆゆっ!!」 「おまんじゅうといっしょにしないでね!! ゆっくりあやまってね!!」 「そうか? お前達もさっき普通に挨拶返しただろ。ならこうしてみるか」 男は手に持ったままの饅頭を真上に放り投げた。ゆっくり達の視線は自然とそちらに向かう。 「やめてね!! ゆっくりおろしてね!!」男の声真似だが二匹は完全に饅頭から発せられたものと誤解した。 「どぼじでなげたの゛おおおお」 「ゆっくりやめてね!!」 「何言ってるんだ。饅頭だよ饅頭」手に戻ってきた饅頭を二匹に見せて男は笑う。 「やっぱり饅頭はゆっくりなのか?」 男の問いに二匹は答えなくなってしまった。二匹のなかで何かが変わろうとしているようだ。 これは最後の皿でどうなることやら、男はそっと残されていた皿に手を伸ばして布をはずす。 その皿を見てれいむとまりさは凍り付いた。 最初から見せてもおそらくこの反応が見えるであろうその饅頭の出来には男も驚くしかない。 完全にゆっくりを再現した饅頭がそこにはあった。 五皿目のものに飾りを付け加えるだけでやはり見栄えが違う。 店主の饅頭の出来に感心して見入っているとれいむがついに動いた。 「ゆ、ゆっくりしていってね」 「れいむどうしたのあれはおまんじゅうだよ?」 「まりさこそどうしたのあれはれいむだよ?」 ついにきた!男は心の中でガッツポーズをする。おそらく隣の部屋の店主もほくそ笑んでいるだろう。 れいむの行動も仕方ないほどの饅頭の造形の良さということだろう。 それと同時にれいむの中では心と行動の差が生まれている証拠である。 心ではこれが饅頭だとわかっている。しかし体はゆっくりであると認識して挨拶をしてしまった。 「どうしたれいむ」 「おにいさん、そこにいるのはれいむだよね!!」 「確かめてみるか?」 男はれいむを持ち上げ最後の皿に近づけてやる。 すぐさま食べる様子をみせてないところを見るとれいむはこれを饅頭とはみていないようだ。 「ゆっくりしていってね!!」 再びれいむが挨拶をしてもその声が虚しく部屋に響くのみだ。もちろん饅頭からの返答はない。 「どうだれいむ、さっきのは饅頭でこいつはれいむか」 「ゆゆゆゆっ」 穴が空きそうなほど饅頭を凝視するれいむに男は追い打ちを掛ける。 「やっぱり饅頭はゆっくりでゆっくりは饅頭じゃないか?」 「ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛っ!! でいぶはちがうよ゛!! ぞれはおまんじゅうだよ゛!!」 れいむは自身は饅頭である事否定したが、混乱している頭で考え続けていた。 目の前のあれはなんだ。饅頭なのかゆっくりなのか。 今にも動きそうな饅頭を片手に持ちれいむの目の前で男はつぶやく。 「実はこいつはなとてもゆっくりしているゆっくりなんだよ。本当にゆっくりできるゆっくりは動かずに一言も喋らずに笑顔でいるゆっくりのことをいうんだ。」 その言葉に二匹は息を呑む。 「それに比べたらお前達はゆっくりできてないなあ。大声で叫ぶし、忙しく跳ね回る。ゆっくりしていってねというだけなら人間でもできるぞ」 その言葉はゆっくりにとって最大の屈辱である。 ゆっくりできていない人間に自分も同じだと言われてしまったのだ。 そして皿の方を見てみれば自分よりも幼い子ゆっくりの全く動く事のない真のゆっくりを見せつけられている。 自分達はゆっくりなのにゆっくりできてない。 本当にゆっくりするっていうのはああいうことなのか。 今までの自分達の行動を振り返ればなんとゆっくりできていなかったことか。 そのショックにより二匹は動けなくなった。 いや、動かなくなった。これならゆっくりできる。これがゆっくりするということだ。 れいむは男の腕の中で、まりさは台の上で完全に固まってしまった。 片手の物を何度も空中に放っても反応を示さない。 「本当は饅頭なのになあ」 二匹は一度動かないと決めたらテコでも動くつもりはないようだった。 「お疲れ様でした」 「なかなか面白い結果になりましたね」 「二匹とも即座に動かなくなるのは少し予想外だったかな。もう少し抵抗というか反抗してくれると思ったけど 「これも饅頭の出来があまりにも良かったからですよ」 「そう言って貰うと嬉しいね。作った甲斐があったよ。大量生産は難しいけどいつかは商品として店に置く事にするよ」 「そのときは買いに来る事にしますね」 「味の方も確認してみてください。改良点があれば直しておくんで」 「ではさっそくいただきますね」 男は店主の薦めもあり一皿目から順に一個ずつ食べていく。 「本体の饅頭はやはり美味しいですね」 「ありがとうございます」 男が美味しそうに饅頭を頬張るにもかかわらず二匹のゆっくりは固まっている。視線もどこか中空を見たままでまったく動かさない。 「れいむとまりさはゆっくりしてますね」 「他のゆっくりもいつもこうだといいんけどねぇ」 二皿目、三皿目、四皿目と続けて食べる。 「目の部分は饅頭と違う食感がたまりませんね」 「季節によっては梅味にしようかなんて考えてます」 「そりゃ良さそうだ」 「歯の部分はサーッと溶けるようにするのが苦労したなぁ、饅頭の中に硬い物があったらびっくりしちゃうからね」 「確かに。さわやかな甘みもいいですね」 男が美味しそうに饅頭を食べても二匹は相変わらず動かない。 五皿目、六皿目は髪と髪飾りの飴細工についての苦労を聞かされた。 髪の毛のように細い飴を作るのに、棒状にした飴を折りたたんでは延ばし、さらに折りたたんでは延ばしを一時間は繰り返したそうだ。 「そうすることでようやく髪の細さに飴が仕上がるというわけだ。面倒だから色は直接塗ったけどね」 「なるほど美味しいお饅頭ありがとうございました」 「いえいえ、それじゃあ残りの奴らはどうしましょうか?」 「まあ二匹にはゆっくりと見てて貰いましょうか。その前に味見だけしておきます」 そういって改めて台に乗せられていたれいむとまりさを残った饅頭のほうに向ける。 いくら触られても何の反応も示さない。 「もうまるで饅頭だな」男が呟くのも無理はないほどに饅頭だった。 「まあこれで動き出しても饅頭よりゆっくりできてないわけだけどね」 これが決定的だった。もはや二匹は動く事はない。 自分達が饅頭以下であるはずがないとでも言わんばかりだ。 そして男は残された饅頭の目や口といった装飾の無い部分だけを一囓りする。 「うん饅頭だ。それじゃあ、そろそろ正体を明かしてやってください」 「わかりました」 男の合図で店主が残りの饅頭達に手を伸ばす。 一つの皿にまとめられた饅頭達は一つ一つピンセットとナイフで拘束が解かれていった。目にはめられていたセロファンを外すと一様に涙を流し、唇や歯の癒着を切り離してやると声を出し始めた。 「「「「ゆっくりしていってね!! ゆっくりしていってね!!」」」」 滝のように涙を流しながら必死に叫ぶ子ゆっくり達がそこにいた。 自分達は饅頭じゃない。気が付いてくれ。痛いから助けてくれ。 心で呼びかけても気が付かなかった目の前の二匹にきちんと聞こえるように叫んだ。 ここにいるのはあるものは飾りを奪われ、またあるものは髪を剃られ、口を閉じられ、目も奪われ、すべてを奪われた子ゆっくり達である。 するとどうだれいむとまりさは微かに動きを見せた。 二匹の心の動揺が手に取るように分かる。 饅頭が動き出した。男が美味しそうに食べた饅頭が急に動き出したのだ。 じゃあさっきお兄さんが食べたのは饅頭だったのかゆっくりだったのか。 あれは饅頭が喋っているだけだ。 でもゆっくりではないのだろうか。一番右の饅頭はどうみてもれいむだ。 しかしあんなに叫んでいるようではゆっくりできていないゆっくりだ。 あれ? やっぱりゆっくりななのか? いやいやあれは饅頭のはずだ。 それとも……。 「饅頭はゆっくりでゆっくりは饅頭だよ」 そうかそれならりかいができる。あれはまんじゅうでありゆっくりなんだ。 ということはじぶんたちもまんじゅうでありゆっくりなんだ。 そうか。じぶんたちはまんじゅうなのか。 れいむとまりさは考えるのを止めた。 あとがき わからなかったら人に聞く!ということでゆっくりを問いただしてみた。 ゆっくりが饅頭だと決めつけてかかってるから条件が平等ではないけどそこは華麗にスルーしてください。 あと同じようなネタがあるそうなので目新しさはないかもしれないです。 和菓子屋さんは自分のSSに出てきた人を再登場させてみたり。飴細工もできるようにしちゃった(ノ∀`) プロットなしの走り書きだからおかしいところもスルーしてください
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「「ゆっくりしていってね!」」 甘いものが欲しくなり、コンビニに寄った帰り、道端で声を掛けられた。 こんな言葉を掛けてくる生物は1つしかない。当然、ゆっくりだ。 ゆっくりまりさとゆっくりれいむ。 番なのか、単なる友人なのかは知らないが、良く見る組み合わせ。 黒ずんだ髪、ぼろぼろのリボン・帽子、薄汚れ体、典型的な野良ゆっくり。 ゆっくりできるひと、ゆっくりできないゆっくり 「ゆっくりしていかな…」 「おにいさんはゆっくりできるひと?」 面倒臭くて否定しようとしたら、言葉を遮ってれいむが質問をぶつける。 つくづくゆっくりしてないやつらだ。そもそも、質問の意味も良く分からない。 「ゆっくり、ねぇ…どんな奴がゆっくりできる人なんだ?」 とりあえず聞き返してみる。 帰ったところで待ってるのは、寂しい部屋だけだ。なら、ここで暇を潰すのも悪くない。 「まりさたちをゆっくりさせてくれるひとだぜ!」 今度はまりさが答えてきた。 なら、それは「ゆっくりできるひと」じゃなく「ゆっくりさせてくれるひと」だろうが。 「お前たちは、どうしたらゆっくり出来るんだ?」 「あまあまをくれたらゆっくりできるんだぜ!あまあまをよこすんだぜ!」 「あまあまちょうだいね!」 あまあまってのは、甘いものってことか。そう、ゆっくりは甘いものが好物だ。 単なる質問の返答がいつの間にか、要求へと変化している。 本当に何故こいつらがゆっくりなんて名前を冠しているのか、理解に苦しむ。 「あまあまをやってもいいよ」 別に構わない。それほど小さい男でもないのだ。 「ゆゆー!ゆっくりしないではやくちょうだいね!」 「はやくまりさによこすんだぜ!あまあま、よこすんだぜ!」 だけど、ただではやりはしない。この世は等価交換が原則だ。 「その前に、お前らはゆっくりできるゆっくりか?」 初めに質問されたことを質問し返す。 「まりさはゆっくりできるゆっくりだぜ!だから、あまあまよこすんだぜ!」 「れいむはゆっくりできるよ!だから、ゆっくりしないではやくあまあまちょうだいね!」 自称、ゆっくりできるゆっくり、らしい。俺は現在進行形でゆっくりできてないけどな。 「じゃあ、俺をゆっくりさせてくれよ。そうしたら、俺もお前たちをゆっくりさせてやるよ」 等価交換だ。ゆっくりさせて欲しいなら、先に相手をゆっくりさせるってのが世の常ってもんだ。 「そんなのしらないよ!はやく、あまあまちょうだいね!れいむ、おこるよ!」 「ごちゃごちゃうるさいんだぜ!あまあまよこすんだぜ!さもないとせいっさいするんだぜ!」 はぁ…こいつらは…ゆっくりっていう生物は本当に… 「ゆっくりできないな」 「「ゆ!?」」 「お前らは全くゆっくり出来ない奴らだな…」 硬直するゆっくり。 1分ほどしてプルプルと震えだした。 「れいむはゆっくりできるんだよ!じじいのほうこそゆっくりできないよ!ぷくー!」 「まりさはゆっくりできるんだぜ!ふざけるじゃないぜ!せいっさいしてやるんだぜぇ!!」 2匹とも、顔を真っ赤にして、怒り、吼え始めた。 れいむは顔を一回り大きく膨らませ、こちらを睨みつける。 まりさは、「しね!しね!」と吼えながら、足に体当たりを繰り返す。 というか、体当たりと呼んでいいのか。この虫程度にしかダメージを与えれそうにない攻撃は。 「まぁまぁ、聞けよ」 「ぷくー!!」 「ゆっくりできないじじいは、さっさとしねぇぇぇ!!」 ゆっくりできない、って言葉は、こいつらにとって、それほど許せない言葉なのか。真実なのに。 「お前らは、自分をゆっくりさせてくれる相手をゆっくりできる人って言ったじゃないか」 「だったら…ぜぇぜぇ…なん…なんだぜ!じじいは…ゆっ…ゆっくりできないじじいなん…だぜ!」 まりさは、どうやらお疲れの様子である。れいむのほうはと言うと、膨れたままだ。 「俺は、ゆっくりさせてもらえなかった。だから、俺はお前らをゆっくりできないゆっくりだと考える」 「ぷっくぅぅぅぅぅぅ!!」 れいむは今の言葉が気に入らなかったようで、更に一回り大きく膨れた。 どうなってんだ、あれは。 「ばり…ざがなんで…じじいをゆっぐり…ざぜないといけない…だぜ…ぜぇぜぇ」 まりさは疲労が限界を超えたらしく、攻撃が終了している。 いや、足に引っ付いたまま、ぶるぶる震えているのを見ると、攻撃してるつもりなのかも知れない。 「別にさせてくれなくてもいいさ。ただ、ゆっくりさせてもらえなかったから、ゆっくりできないと思っただけさ」 「ぶざけるんじゃないんだぜ…ばりざはゆっくりできるんだぜ」 どうにも気に入らないらしい。れいむは未だ膨れたままだ。 ああ、面倒になってきた。 理は通ってると思うんだが、理解出来ないのか、認めたくないだけなのか。 「じゃあ、もう1度聞くぞ?自分をゆっくりさせてくれる相手はゆっくりできる、それはいいな?」 「そうなんだぜ!はやくゆっくりさせるんだぜ!さもないと、せいっさいするんだぜ!」 まりさ全回復。疲れと一緒に、さっき制裁出来ずに疲れ切ったことも吹き飛んでしまった様子。 「だから、じじいはゆっくりできないよ!ゆっくりしね!」 対して、れいむは膨張終了の様子。 「うんうん、俺はお前らをゆっくりさせてない。だから、俺はゆっくりできない。ってことだな?」 「そうだよ!じじいはゆっくりできないよ!」 もう聞いたよ、それは。大事なことだから2回言ったのかもな。 「うんうん、じゃあ、考えてみてくれ。お前らは俺をゆっくりさせてない。だからお前らはゆっくり出来ない」 "俺"と"お前ら"を入れ替えただけだ。 「ゆ…?ゆゆ!?れいむたちはじじいをゆっくさせてない…?」 「ゆー?だから、まりさたちはゆっくりできない…?」 お、通じたのか?通じたんだよな? 「そうそう、相手をゆっくりさせないやつは、ゆっくり出来ないやつ。俺もれいむもまりさもゆっくり出来ない」 「「ゆ…」」 どうやら、通じたようだ。 また「なんで、じじいをゆっくりさせないといけないんだぜ!」って言い出したら、もう帰るしかなかった。 「さぁ…」 息を吸い込む。 「ゆっくり出来ない奴はゆっくり死ね!」 「「ゆゆ!?」」 驚いた顔でこちらを見つめてくる。そうだよ、お前らが言ったんだよ。 「ゆっくり出来ないじじいは死ねって言ったよな?ゆっくり出来ない奴は死ねってことだろ? だからお前たちも死ねよ。死ぬべきだ。そうだろ?」 「い、いやだ…いやだぁぁぁ!でいぶじにだぐないぃぃぃ!!」 「ばでぃざはじにだぐないんだぜぇぇぇ!!」 口と目からダラダラと、液体を垂れ流して、雄叫びを上げる2匹。 そもそも、その液体は一体なんなんだ。どこから分泌されてるんだよ。 「「じびばぐばぃぃぃぃぃぃ!!」」 ただ、汚いってことは分かる。 「さて、このままじゃ、俺も死なないといけないな」 「「ゆ…!」」 一瞬で雄叫びが止まった。どういうことなの。 「しね!しね!じじいはしね!」 「じじいはしねぇぇぇ!!」 まりさ、2度目の攻撃開始。当然、体当たりと呼ぶのもおこがましい体当たり。 こいつら、自分も死ななくちゃいけないこと、忘れてんじゃないだろうな。 それとも、俺が死ねば、自分たちは死ななくてもいいとか思ってるんだろうか。 「じねぇぇぇ!!じじいはじゅべぇっ!」 話が進まないから、蹴り返す。 「俺は死にたくないから、お前らをゆっくりさせてやるよ」 「「ゆゆ!?ゆっくり!?」」 ころころ表情が変わるやつらだ。 ただ、どんな表情でもどこかイラっとさせられるから、ある意味凄い。 「ほら、あまあまだ」 コンビニの袋からシュークリームを取り出す。 「あまあまちょうだいね!れいむにあまあまちょうだいね!」 「あまあま、よこすんだぜぇ!!」 「慌てんな、ほらよ」 袋を開けて、目の前に落としてやると、凄い勢いでシュークリームに飛び付いた。 「うめ!これ、めっちゃうめ!!」 「れいむのすーぱーむーしゃむーしゃたいむだよ!」 「「し、しあわせ~!」」 食いながら叫ぶから、シュークリームが飛び散るが、そんなことお構いなしに貪る2匹。 何をやっても汚い奴らだ。 「「ゆっくり~!」」 とりあえず食い終えた2匹は口の周りに付いたクリームを舐めながら、ゆっくりしている。 「お前ら、ゆっくり出来たか?」 「ゆっくりできたんだぜ!」 「おにいさんはゆっくりできるひとだね!」 凄い掌返し、当然だろう。 個人や市がゆっくり対策を施すようになった今、野良が食べれるものなんて雑草くらいしかない。 そこに甘いシュークリームだ。 「だったら、俺は死ななくていいな。じゃあ、お前らは死のうか」 「「ゆ?…ゆぅぅぅ!!」」 凄い焦り様、当然だろう。 死ななくてはいけないんだから。 「ゆっくり出来る俺は死なないけど、ゆっくり出来ないお前たちは死なないとな。そうだろ?」 「い、いやなんだぜぇ!ば、ばでぃざはじにだぐないだぜぇ!にげるんでびゅべえっ!」 逃げようとしたまりさを右足で踏みつける。 「ゆびぇ…や、やべっ…ごべ…なざ…」 力を込めていくと、再び、正体不明の液体を垂れ流し始める。 肌がひび割れ始め、餡子が漏れ出す。連動するように口から餡子が流れ出す。 「ぶびぇ…ばびざびびだげぞい…ぼでんばざび…」 何を言ってるのか分からない。というか、これでまだ生きてるのか。もう原型を留めていないのに。 「ゆっくりできないまりさは…」 足を上げてみるが、もう形は戻らないようだ。 「ゆゆ…ゆ…もっと、ゆっく…」 「死ね」 「ぶぇ!」 思い切り足を下ろすと、短い断末魔を上げて、まりさは弾けた。 噴出した餡子が足に降りかかる。死んでもゆっくりできない奴だ。 「さて」 足を振って餡子を振り解く。ボタっと餡子が落ちるが、全て取れたわけではない。 「次はお前だな」 「ゆ…ゆう…や、やべでね…でいぶ、じにだぐない…」 れいむに近づいていく。 まりさと同じように目と口からの垂れ流しが開始されていた。 にしても、いくらなんでも垂れ流れ過ぎじゃないか?足元(?)濡れすぎだろ。 「や…やべ…ごべんなざ…」 近付くと謎は解けた。口の下からも垂れ流してるのだ。これは尿に相当するのだろうか。 1歩近付く度にプシャっと、そこから液体が噴射される。 「俺をゆっくりさせてくれよ、あいつみたいになりたくないのなら」 親指を立てて、ひさしゃげたまりさを指す。また、プシャっと噴出した。 「ゆ…ゆゆぅぅぅ…ゆっぐりじでね…ゆっぐじじべべぇぇぇ!」 苦肉の策がそれか。 「ダメ、全然ゆっくり出来ない」 そんなのでゆっくり出来るのなら、世界はさぞかし平和なことだろう。 「ゆぅぅぅ…どうじだらゆっぐじべぎるんでずかぁぁぁ!!」 お、自分勝手なゆっくりにしては上等な判断だ。分からないなら、相手に聞く。 何も不思議ではないが、ゆっくりが土壇場で良く閃いたものだ。火事場の馬鹿力みたいなものか。 「自分で考えろ」と言って殺すのは、簡単だが、それはあんまりだ。 こっちもどうすればゆっくり出来るのか聞いたことだし。 「そうだなぁ…」 ゆっくりが出来ることなんてたかが、知れている。そうだ。 きちんとした教育を受けたゆっくり、もしくは希少種でもない限り、人をゆっくりさせることなんて出来はしないのだ。 初めから、野良ゆっくり如きが、人をゆっくりさせることなんて出来はしないのだ。 「うーん…」 思い付かない。 もういいや。「お前が死ねばゆっくり出来る」とでも言って、殺してしまおう。 「俺は、お前が死ねば…お」 右足を上げた時に、思い付いた。もうこれでいいや。 上がった右足が自分の頭上に降り注ぐことに怯え、れいむは目を閉じて震えている。 そんなれいむの目の前に右足を下ろした。 「ゆ?」 「あのゆっくり出来ないまりさの餡子が靴に付いた。舐めて綺麗にしろ」 そう言うと、れいむは靴に目をやり、続いて潰れたまりさに目をやる。 「そうすれば、俺はゆっくり出来る。やらないなら、死ね」 「なべばず!でいぶがぎれいにじまずぅぅぅ!!」 そう叫んで、必死に靴に付いた餡子を舐め始めるれいむ。 「ばでぃざのあんござん、ぎれいになっでね」 れいむは、涙を流し続けながら、一心不乱に舐め続けた。 「ばでぃざは、でいぶのながでいぎでいぐんだよ」 なんだ、それは。 「ばでぃざ…ゆっくり…ばでぃざ…ゆっくり…」 「もういいぞ」 ボソボソ呟きながら舐め続けていたれいむから右足を離した。 枯れること知らない涙を流し続けるれいむは、男を見上げる。 「まぁ、ゆっくり出来たよ、まりさよりはな」 れいむは、焦点の定まらない目でまりさを見て、小さく「ばでぃさ」と呟いた。 「じゃあな」 踵を返して、帰路に着く。振り返る必要もない。 俺は、あまあま、シュークリームを与えて、れいむとまりさをゆっくりさせた。 まりさは、俺をゆっくりさせなかったので、死んだ。 れいむは、俺の靴に付いた餡子を舐め取って俺をゆっくりさせた。 はっきり言って、ところどころ破綻しているゆっくり出来る・出来ない理論だが、もう別にいい。 残ったのは、やっぱり何か分からない液体でヌメヌメとしてる俺の靴だけだったが。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 初投稿です ここまで読んでくれた方が存在してくれるものか分かりませんが… SSって難しい…もう何を書けばいいのか分からなくなる こうしたいって構想はあっても形になってくれない 1番破綻してるのは、この文章だよ! お目汚し、失礼しました
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ゆっくり寝ようね YT 夜半、何かが跳ねる音で、うっすらと目を覚ました。 べたん……べたん……という音に合わせて、声がする。 「ゆっ……ゆっ……ゆっくり!」 ベッドのそばで、ゆっくりまりさが跳ねているのだ。 コタツで寝ろと言ってあるのに、まりさはわたしのところへ来る。 ああまたか、とわたしは夢うつつで思う。かすかなわずらわしさを覚える。 布団を肩まで引き上げ、音に背を向けて横になる。 そんなことをしても無駄なのだが。 やがて、ボサッと音がした。マットレスの端が重みでへこむ。 「ゆゆゆゆ……」 と声を漏らしながら、何かがにじり登って来る。 「そーろ、そーろ……」 ささやきながら枕元を回り込んで、とうとう顔の前まで来た。 ひんやりとした餅肌が頬に触れる。 わたしの肩と掛け布団の間の、わずかな隙間に顔を突っ込んで、もぞもぞと中に入ってくる。楽しそうにつぶやきが聞こえる。 「ゆっくり! ゆっくり! ゆっくり!」 そうやって胸元まで潜り込んでから、もぞもぞと中で向きを変えて、ゆふー、と体を扁平に伸ばした。 そして最後に言った。 「ここはまりさのゆっくりプレイスだよ! ゆっくりさせてね!」 この辺りまで来ると、わたしはほとんど目を覚ましている。 いつもこうやって夜中に起こされてしまうのだ。よく眠れなくてイライラする。 「もおぉ……」 つぶやきながら、目を開けて布団の中を見下ろした。常夜灯のオレンジの光がおぼろに届いている。 そこにペットのゆっくりまりさがいる。ご自慢の三角帽子がぺしゃんこに潰れてもお構いなしで、ふてぶてしい顔で座っている。 わたしと目が合うと、とぼけた仕草で首をかしげて言った。 「んー……?」 悪いことなんかしてないよ、と言いたげな顔。しかし自覚があるのはひと目でわかる。 わかっていて、とぼけているのだ。小さな子供とおんなじ。 その様子が、なんとも可愛らしい。叱ろうとした気持ちが、削がれてしまう。 わたしはぼそぼそとつぶやく。 「まりさのベッドはおコタでしょ……?」 「まりさ、ひとりじゃゆっくりできないよ。おねえさんとねたいよ」 「一人で寝られるって言ったのに……」 「ゆぅ……ひとりはやっぱりさびしいよ……」 わたしは叱る代わりに、まりさを抱きしめてやる。 まりさは嬉しそうに目を細めて、わたしの胸に頬ずりする。 「すーりすーり♪ とってもやわらかいよ!」 追い出したいのに、追い出せない。もどかしくて、ついギュッと力をこめる。 「ゆぐぐぐぅ、まりさがつぶれるよ! ゆっくりやめてね!」 中にあんこの詰まったまりさは、けっこう抱きごたえがある。「むり゛ゅっ」という感じ。 胸元を見ると、まりさは舌を突き出して涙目になっている。 潰してしまったら大変だから、ほどほどで腕を緩めてやる。 そして、そのままでは腕が当たって寝にくいので、いったん腕を持ち上げてからわきの間に挟みこんでやった。 「静かにしてよ、まりさ……」 「ゆっくりわかったよ!」 柔らかいまりさを抱いたまま、わたしは再びうとうとと眠り込む。 そのうちに、まりさのほのかな温かさと、わたし自身の熱が交じり合い、布団の中をぽかぽかにする。 温かいけれどよく眠れない。それが、まりさの入り込んでくる夜だ。 朝目が覚めると、わたしは片腕がしびれて痛くなっている。 まりさを載せていたせいだ。男が腕枕をしたときになるっていうアレと同じ。 そしてまりさは変な形になっている。 「まりさのおぼうしがああぁ!」 くしゃくしゃになった帽子を前に、「あ゛あ゛あ゛」顔で叫ぶまりさ。 帽子よりも自分の顔のほうが歪んでいる。まるで詰め物の偏ったクッションみたい。 まりさを抱っこするのは好きだけど、睡眠不足でまともに仕事が出来ないのは困る。 背に腹は代えられない。まりさを布団に入れないようにしなければ。 そのために、ベッドの四本の足の下に古雑誌を積んだ。 何も知らないまりさが、目をキラキラさせて聞いてきた。 「なにしてるの? ゆっくりできるあそび?」 わたしは適当に返事をしておいた。 「ゆっくり寝るためよ」 ごめんね、まりさ。嫌いになったわけじゃないんだよ。 その夜も、音が聞こえた。 べたん……べたん……。 「ゆっ……ゆっ……ゆっくり! ゆっくりぃぃ!!」 まりさがジャンプしている。何十回も繰り返す。 「どぉしてとどかないのぉぉ!?」 しまいには泣き声になった。かわいそうで胸が痛んだ。 まりさ、ちょっとベッドが高くなっただけで届かないんだね。 ゆっくりだから、わかんないんだね。 ごめんね、我慢してね。 胸を押さえていると、じきに静かになった。 後には、部屋のどこかで、ごそごそと物音がするだけ。 わたしはとろとろと眠り込んだ。 翌朝、すっきり目が覚めた。体のどこも痛くない。 幸せだ。一人分のベッドを、一人でまるまる使えることが、こんなに幸せだなんて。 起き上がって、気持ちよく伸びをした。 「んううぅ~ん、よく寝たぁ。……うわっ、何これ」 ベッドの横を見たとたん、思わず変な声を漏らしてしまった。 そこにあったのは古新聞の山。配達員がすっ転んでばら撒いたようなありさまだ。 その新聞雪崩の中に、しわくちゃの三角帽子の先端が見えた。 手を伸ばして新聞を払いのけると、眠り込んでいるまりさがいた。 「ああ……そういうこと」 何が起きたのかわかったような気がした。新聞で階段を作ってよじ登ろうとし、失敗したんだろう。 わたしは手を伸ばして、大きなお饅頭のまりさを抱き上げた。 金髪がくしゃくしゃだ。頬に涙のあとがついている。餅肌の体はすっかり冷え切って、ごわごわしていた。 「ゆぅ……ゆぅ……ゆっ、おねえさん……?」 うっすらと目を覚まし、わたしを見上げた。その顔が、見る間にくしゃくしゃになった。 「ゆぅぅぅ、おねえさん、おねえさんだよ!」 「はいはい、おねえさんよ」 「まりさ、おねえさんにあおうとしたんだよ! ゆっくりがんばったよ!」 「そうみたいね」 「でも、とどなかったんだよ! ざざーってなって、うごけなかったよ!」 「そうだね、見ればわかるよ」 「ゆっくりできなかった! まりさ、ゆっくりできなかったよ!」 「うんうん、ごめんね」 「まりさ、まりさ……ゆわぁぁん!!」 泣いているような、怒っているようなまりさを抱っこして、わたしはゆっくりと温めてあげた。 結局、枕の横に電気座布団を置くことにした。椅子なんかに敷いて使う、六十センチ角のやつだ。 「まりさ、そろそろ寝るよー」 「ゆっ! ゆっくりはこんでね!」 寝る時になると、まりさをそこに乗せてやる。 まりさはゆふゆふと腹の下で座布団を叩き、ぐるりと一回転してから、どっしりと座り込んで叫ぶ。 「ここはまりさのゆっくりプレイスだよ! ゆっくり!」 回るのも叫ぶのも、ゆっくり特有の習慣だ。人間の「どっこいしょ」なんかと似たような感じなんだろうね。 場合によっては、何度か「ゆっくり……ゆっくり!」と叫びなおしてから、まりさはようやく落ち着く。 わたしはその上にタオルケットをかけてやり、布団に入る。 「おやすみ、まりさ」 「ゆっくりしていってね!」 手を伸ばして、電気のヒモを引っ張る。 夜中に何度か、「すーりすーり……」と頬ずりされる。ひんやりしたもち肌が当たる。 わたしのほうからも、むにむにと頬ずりしたりする。 まだ起こされることは起こされるけれど、一晩中わきの下を気にして寝るよりはよくなった。 お友達のゆっくりをもう一匹飼ってやろうと思っていたけど、それはしばらく延期。 まりさのほっぺが気に入っちゃった。 「まりさ、すーりすーり♪」 「ゆゆっ、つよすぎるよ、おねえさん! ゆゆゆぅ……!」 ========================================================================= YT これまでの作品 ゆっくりれみりゃのおかしな友達 ゆっくりれみりゃのおかしな友達 かぜひきゆっくり ほんめーりん×ゆっちゅりー 甘甘時計責め ゆっくりの帰るところ ゆっくり愛で小ネタ15だよね!? travianでゆっくり ゆっくりパークの春夏秋冬part1 ゆっくりパークの春夏秋冬part2 ゆっくりパークの春夏秋冬part3 ゆっくりパークの春夏秋冬part4 ゆっくりパークの春夏秋冬part5 ゆっくりパークの春夏秋冬part6 ゆっくりパークの春夏秋冬part7 ゆっくりスの翼 ――妖立宇宙軍―― ゆっくリハビリの夏 (前編) ゆっくリハビリの夏 (後編) たまらんな。超可愛い。 -- 名無しさん (2010-12-01 03 29 26) 名前 コメント
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陽射しの支配する炎天下に、陽炎が泳ぐアスファルト。爛れるような夏の昼下がりを行く一匹のまりさはいま、リアルな死への恐怖を体感していた。 ここ最近、この界隈に現れるようになった大きな悪魔。「飼い」だか「野良」だか知らないが、片っ端からゆっくりを狙っては虐殺する巨人―― そう……まりさは、通り魔ふらんの姿を見てしまったのだ。 先刻は発見されそうになったが、何とか身を潜めることに成功した。とはいえ、家庭のあるまりさは我が家へ帰らなければならない。きっと心配してくれている子どもたちに、狩りで得た食糧を見せて安心させてやらねばならない。 上等でない頭をフル回転させながら、まりさは退路を思案する。脳みそという雑巾を絞れるまで絞ったところでふらんの巡回ルートを割り出すことなど不可能であるが、本能が生への道に縋りついて離さなかった。 「ゆっ……ゆっ……」ズルズル ずるずる、ずるずる、まさにゆっくりと進む。熱された道を力無く這うまりさの身体は枯渇寸前であったが、実は自宅までの距離はほんの僅かしかなかった。 「おうちはすぐそこなのぜ……ここをいけばかえれるのぜ……」ズルズル 暗雲を貫く一閃の光が、まりさの目に映った。 生きて帰れる――希望に満ち溢れた光であった。 「みんなっ……まりさはいきてかえったのぜ……!」ズルズル 「――そこにもいっぴき、いるみたいだな」 しかし、その光は一瞬にして魔人の手に遮断されてしまった。 「ゆっ――!?」 視界に広がる歪んだ口元。さらに上を見やると、紅蓮の双眼が爛々とまりさを見下ろしていた。 そして、その悪魔の両手には、無惨な姿に成り果てた二匹の赤れいむが握られていた。迷子になったのか、はたまた勝手に出歩いてしまったのか。捕まってなぶり殺しにされるぐらいなら、干からびて息絶えたほうがまだマシだったろうに。 まりさは蛇に睨まれた蛙と化していた。一歩も動けず、おそろしーしーを漏らし、涙が止まらない。急激に迫りくる死を受け入れられず、だが逃れられぬ事実は眼前にあり、混乱してしまっている。 「ころす」 悪魔――ふらんから発せられた、たった一言、だが絶望で塗り固められたあまりにも冷酷な審判。 「ころす。ころすころすころすころすころすころすころすころすころす――」 結果的に一言どころでは収まらなかったが、どちらにしろその言葉の意味するところは死一択である。 死への恐怖はより現実的なものへと変貌し、まりさは頭を地に擦りつけた。 「やめるのぜッ!!! いのぢだげはッッ!!!!」 涙に濡れた懇願は虚しく、あまりに鋭利すぎる指爪がまりさの小さな眼球に迫る。まず視力を奪い、暗い世界に陥れ恐怖を煽る段取りなのだろう。 悪魔が笑う。 「きっといたいよ、とってもいたいから、でも、いたくても、しぬまではしぬなよ」 「やめでぐだざいッ!!! がぞぐがいるんでずッ!!!! ごばんだべなぎゃゆっぐりでぎまぜんッ!!!!」 「だ、め♪ あははははははははは――」 「――こら、ふらん!」 瞬間、絶望と哄笑の中に第三者の、それも可愛らしい女の子の声が響いた。 見れば、二匹を仲裁するような位置に、両手を腰に当てたしかめっ面の少女が立っていた。無論まりさにはまったく見覚えがない人物である。そもそもひとの顔を何日も覚えていられるオツムはこのゆっくりには備わっていない。 「あ……I」 ふらんは決まり悪げにそう呟くと、渋々Iという少女の右手を掴み、まりさから離れた。 Iはふらんの手についていた赤ゆの死骸を気にも留めず、優しい微笑みを見せた。 「まりさ、大丈夫? ゴメンね、うちのふらんがまた勝手に弱い者いじめして」 「お……お……おねーさん……ありがとぉおお……」 安堵からか、まりさは自身のいろいろな体液でぐしゃぐしゃになりながらその場に倒れ込んだ。Iは「気をつけて帰ってね」と一言だけ言い残し、ふらんと手をつないで去っていった。 去り行くふらんが一度だけ振り返り、いまにも飛びかかりそうな勢いでまりさを睨んだ。 ★ 「おねーさんはすごくゆっくりしたひとなのぜ! ゆっくりしたひとなのぜええええッ!!」 無事帰宅したまりさは、赤まりさに赤れいむ、そしてれいむに先程の体験談をどや顔で披露していた。 彼らの巣は、いつから建っているかも分からない廃屋の庭の茂みにあった。引っ越し当時、その場に散乱していた巨大なダンボール箱やビニールシートを利用して、なかなか立派な自宅を設置したのだ。 「あんなにやさしいにんげんさんがいるなんてしらなかったのぜ! みんなにもみせたかったのぜ! それにまりさもふらんとたたかったのぜ! ごかくいじょうのたたかいだったのぜ!」 テーブルの上に立って豪語するまりさを、家族が笑顔で褒め称える。 「しゅごーい!」「てんしゃーい!」「さすがはれいむのまりさだね!」 喝采に赤面しつつ、まりさはIの偉大さと優しさを三時間以上も語り続けた。 ふらんを飼う、黒髪ロングヘアの可愛らしい少女。彼女はいったい何者だったのか。まりさたちからしてみれば、優しい優しい命の恩人でしかないのだが……。 ★ 翌日、まりさは狩りに出ていた。 ふらんの姿を思い出すと背筋(?)も凍るが、そんなことを言っている余裕はない。食糧の蓄えが少ないため、調達しなければふらんに殺されずとも飢え死にしてしまうからだ。 昨日の件もあるし、ふらんだって簡単に外出はできないだろう。そう思えば狩りが億劫になるということはない。 「たっぷりとってかえるのぜ。ふらんがでないいまがちゃんすだぜ」 ふらんの気配はないし、いつも道路を焼いている夏の太陽も、今日はなぜだか元気がない。涼風も吹いて過ごしやすい気候である。 「あ、もしかして昨日のまりさ?」 微笑みかけるような少女の声が聞こえたのは、巣の近くにある公園の入口を過ぎようとしたところだった。 見上げた先には、餡子脳でも一晩語れば刻み込まれた女神の顔貌。救いの天使Iであった。 「お、おねーさん! ゆっくりしていってね!」パァァ 「ゆっくりしていってね♪」 ああ、ここでまた出会えたのは運命だろうか。まりさは伸びたり縮んだり、とにかく嬉しさを身体で表現した。 「今日も狩り?」 「そうなのぜ。なつはあつくてたいへんだけど、しかたないのぜ」 「大変だね。子どもがいるの?」 「かわいいかわいいおちびちゃんだぜ」 「へえ、じゃあ狩る量も増えちゃうんだ。この時期は天敵よりも天候が怖いから、狩りも一筋縄じゃいかないよね。……それじゃ、これあげる」 「ゆ?」 Iは片手に提げていたビニール袋の中から、紙袋を取り出した。その中にさらに手を入れ、引っ張り出したのは…… 「あ、あまあまさんっ!?」 「メロンパンだけど。いる?」 「おねーさんありがどぉおおおッッ!!!」 Iはわざわざ屈んで、まりさにメロンパンを手渡してくれた。 それは、家族で食べても二日は食に困らない、しかも人間の作り出したあまあまさんである。 「こんなものしかあげられなくて、ごめんね」テヘペロ 「ぜんっぜん!! いいのぜっ!! ゆるすのぜっ!!」 「えへ……気に入ってもらえたなら、わたしも嬉しいよ」 Iは悠然と去り、まりさの狩りも終わった。 三つ編みおさげを揺らすそよ風が心地良い。街には音ひとつなく、ここはまるでまりさだけの世界のようだ。 そうだ、この蓄えがあるなら、明日は狩りに出なくてもいい。明日は久しぶりに、子どもたちとずっと遊んでいよう――親心と童心を胸に、まりさは巣へと戻っていった。 ★ 「さあ、さっさとでていくのぜっ!」 メロンパンというご馳走――豪華な晩餐が始まる直前、そのまりさは現れた。 薄汚れた帽子にギラギラした両眼は、一目見てゆっくりできない輩だと判断できた。こいつは、ここにいてはいけない。四匹の家族は、本能でそれを悟ったことだろう。 「ここはまりさたちのゆっくりぷれいすだぜ! でていくのはそっちなのぜ!」 一家の大黒柱のまりさは、強気の命令にももちろん引き下がらない。 しかしそれは、侵入者まりさも同様だった。 「でていかないのなら、そのあまあまさんをこっちによこすのぜっ! はやくするのぜっ!」 あまりに無茶すぎる交渉に、大黒柱まりさは力を溜めて、そして、全力で地を蹴った。 「ゆっくりできないゲスは――ゆっくりしねッ!!」シュタッ 「はんッ! そんなこうげきがこのまりささまにつうようするとでも――」シュタッ どちらもまりささまなのだが、侵入者まりさも同じように地を蹴り――空中で交戦した二匹のうち、大黒柱は、打ち負けた。 「ゆげぇえっ!!」 三つ編みアッパーを受け、壁にぶつかり餡子を吐き出す大黒柱まりさ。侵入者まりさがジャンプと同時に身をくねらせたことにより、攻撃が読めなくなってしまったのだ。 「お、おとーしゃん……!」ガァァァ 「まりさ……!」ガァァァ 「きちゃだめだよ! れいむとおちびちゃんはまりさがまもるからねっ!」キリッ 「――その辺にしときなよ」 良く通る声が巣に反響する。ゆっくりたちの視点よりも、ずっと高いところから浴びせられた声だった。 大黒柱まりさは、ハッとした。まさか、もしかして―― 敵の横を抜けて、巣から飛び出す。そこには、やはり、いた。 「お、おねえざぁああんっ!!」 「やっほ♪」 Iだ。そして彼女の背後には、何とふらんも立っている。一瞬びくりとしたが、飼い主がいるのであれば恐れる必要はない。 「ふらん、そこのまりさなら殺していいよ」 「わかった」 主に言われるがまま、ふらんがニヤニヤと侵入者まりさに近寄る。 「ど、どぼじで……」 狩られる獣は、妙な表情で一人と一匹を見ていた。なぜここで殺されるのかが分からない。弱肉強食を嘆くのではなく、この展開に納得がいかない、という具合に。 「どぼじで……ごんなごどずるのぉおおおおッ!!!?」 「ほら、キミたちで言う――せいっさい、ってやつだよ」 Iの言葉が終わるとともに、ふらんの二指が侵入者まりさの目を貫いた。 断末魔。れいむが子どもたちの目を遮り、壮絶な光景を視界からシャットアウトした。しかしその悲痛な叫びだけは防ぐことができず、子どもたちは俯き、震えていた。 のたうち回る侵入者まりさを、ふらんは一部分だけ引きちぎり、肉塊を外に放り投げると、また一部分を引きちぎった。手が肌に触れるたび、侵入者まりさは「ひぎぃ」と声を荒げるが、ふらんはそれが愉しいらしく、指を五本突っ込んだり抜いたり、残虐を繰り返している。 「おねーさん、どうして……」 「ん? だから、せいっさい、だよ。キミたちのように幸せな家族が、こんな不幸な運命に振り回されるなんて、理不尽すぎるから」 いよいよまりさは、このIという少女を心から信頼した。 彼女は人間なのに、優しい言葉をかけてくれるだけでなく、こうして巣まで駆けつけて危機を救ってくれた。しかも強い強いふらんを従えて、家族に傷ひとつつけることはせず。 「ありがとう……なのぜ……」 もじもじしながら礼を告げると、Iは大きく頷いて、「さ、帰るよ」とふらんの手を引き、踵を返して去っていった。 「あれが、まりさのいってたおねーさん?」 れいむが息を漏らしながら尋ね、まりさは無言で頷いた。 「まりさのいったとおり、ゆっくりしたにんげんさんだったね」 「……そ、そうなのぜ。おねーさんはとてもとてもゆっくりしたにんげんさんなのぜ!」 「ふらんからたすけてくれて、おおきなあまあまさんもくれて、ゲスからもまもってくれて」 「ちょっぴり、にんげんさんのことみなおしたのぜ!」 「ゆふふ」 泣き止まぬ子どもたちをあやしながら、れいむは微笑する。 まりさはIの笑顔を、声を、ゆっくりゆっくり思い出していた。いつかまた、危険が迫ったときには助けてくれるだろうか。あまあまさんをくれるだろうか。淡い期待が、明日からの生活の糧になる気がした。 ★ とある無線会話。 「ふらん、そっち。公園のほう行った」 『うん、みつけたよ。――おい、そこのおまえ。そのてにもってるにもつをおいて、きえろ』 『なにいってるのぉおおおお!!? これはれいむがみつけたあまあまさんだよぉおおおお!!!?』プンスカ 「はあ。殺していいよ」 『なら、しね』グチュッ 『ハぶッ』 『――ころしたよ』 「……まったく、これだから野良は嫌い。ふらん相手に口答えするなんて、脳みそ焼き切れてんじゃないの?」 『どうする。きょうもイイモノがみつからないみたい』 「そうだね。おやつ用意するから、早めに帰ってきてね。――そろそろアレが美酒に化ける時期かなぁ」 後編まで、ゆっくりしていってね!!! 選択肢 投票 しあわせー! (8) それなりー (6) つぎにきたいするよ! (34)
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「じゃあ行って来るわね」 「行ってらっしゃいませ、幽々子様」 冥界を管理する事を仕事とする西行寺幽々子はこの日、閻魔と大事な話し合いがある為早朝から出かけていった。 残された庭師兼幽々子の剣術指南役である魂魄妖夢は、滅多に無い事実上の休暇という事になる。 「とりあえず庭の手入れをやってしまおう。その後は……昼寝でもしようかな。最近夜遅かったし」 確認するように呟くとすぐさまと広い庭の手入れにかかる。 太陽が高く昇る頃、漸く手入れを一通り終えた妖夢は、後の事を他の使用霊に任せて自室に向かう。 畳の上に寝そべってぽかぽかとした陽光を全身に浴びながらとろとろと目を閉じる。 意識が途切れる直前、何かが近付いてくる気配がする。 使用霊だろうか、と思いゆっくりと視線を気配の方に向ける。その瞬間、 「みょんっ!?」 妖夢に電流走るっ……!一瞬で眠気が吹き飛ぶ妖夢。 一体何事かと見てみると、そこには妖夢の半霊にかぶりつくゆっくりの姿が! 「んなっ……!」 この冥界にゆっくりが居る事なんて滅多にある事ではない。というか、まずありえない。 どうやって結界を越えてきたのか、そして何故半霊にかぶりついているのか。様々な疑問が妖夢の頭に浮かぶ。 「ゆゆ~!あま~!!」 どうやら半霊を食べようとしているらしい。自身の数倍の大きさの半霊に食いつくとは、見上げた食欲だ。 半ば感心している妖夢はやはりまだ寝ぼけているのかもしれない。 そんなうっかり者の妖夢を余所に、ゆっくりゆゆこは半霊にかぶりつき続行。途端、 「ひゃあっ!?……んんっ…!」 再び妖夢に電流走るっ……!まずい。呆けている場合では無い。早く止めないと半霊が食べられてしまう! 慌てて起き上がり半霊の救出に向かおうとする妖夢。だが、 「ゆっゆっゆゆ~っ!ちゅっぱちゅっぱ!」 「はひぃっ!……っくぁん……あふっ!」 どこぞのちゅぱ衛門の如き勢いで半霊にしゃぶりつくゆっくりゆゆこ。 まるで糸の切れたマリオネットのように畳に倒れこむ妖夢。起き上がろうと膝を付くも、足腰がガクガクと震えている。 (何だ、これは…?か、体に力が入らな ここから先は脳内で補完して下さい ぽたぽたぽた、と音がする。気付けば妖夢が先程まで寝そべっていた畳に水溜りが出来ている。 (ああ、やってしまった……いい年をしてこんな粗相を……もう駄目だ、これでは幽々子様にも軽蔑される……) 色々な意味で崩れ落ちる妖夢。もう先程まで全身を襲っていた電流は無い。 見ればゆっくりゆゆこは半霊を食べるのを諦めたのか、横ですやすやと眠っている。 「お、お前が…お前のせいでえぇぇぇ!!」 その安らかな顔を見てカッとなった妖夢は背中の刀を引き抜き、一瞬で間合いを詰めてゆっくりゆゆこを切り裂いた。 悲鳴すら上げる間も無く寸断されるゆっくりゆゆこ。顔や半霊に返り血、いや返り餡を浴びる妖夢。 その時、 「妖夢~?居るならちゃんと返事しないと駄目よ~って……妖夢!?」 「あ……幽々子、様……お、おかえりなさい……!あ、ああ!!?」 慌てて刀を納め、水溜りを隠すように立つ妖夢。 顔に付いた返り餡、透明な液体に塗れた妖夢の脚、畳の水溜り、半霊にかかっている大量の餡と歯型。 そして部屋に漂う香り。 それらの状況から瞬時に事の成り行きを把握する幽々子。何も言わずに、妖夢をそっと抱き寄せる。 「あ、あの…幽々子様…?あっ!こ、これはですね!その、決しておもらしとかそんなではなくてですね!!」 「妖夢…とりあえずお風呂に入って来なさい。ここは私が片付けておくから」 「へ?で、でも幽々子様にそのような事をさせる訳には……」 「いいから行きなさい。これは命令よ?」 「は、はぁ…分かりました」 箪笥から着替えを出し、ぱたぱたと風呂場へ向かう妖夢。 妖夢を見送った後、雑巾を持ってきて部屋の掃除をする幽々子。 その顔には、妖夢が見た事も無い程の怒気が滲み出ていた。 「ゆっくり……まさか逃げ出すとは思わなかったわ。しかも妖夢に手を出すなんてね……」 そう、あのゆっくりゆゆこは幽々子が妖夢にも内緒で飼っていたものだった。 夜中にこっそり食べる秘密のおやつとして。 「ゆ、許さん……絶対に許さんぞ饅頭ども!ジワジワと嬲り殺しにしてやる!一匹たりとも逃がさんぞ覚悟しろ!!」 とりあえず叫んでみた。その怒声は屋敷内にいる全てのゆっくりにまで届いていた。 風呂から上がった妖夢に食事の用意をさせている間、幽々子は屋敷内に散ったゆっくり達を探し始めた。 次々と見つかり、不可視の籠に放り込まれていくゆっくり達。 屋敷内全てのゆっくりが籠に入った頃、妖夢が夕食が出来上がった事を知らせに来た。 「幽々子様~!お食事の用意が出来まし…た……ゆ、ゆっくり!?」 昼間の出来事がトラウマになっているのか、ゆっくりの姿を見るなり後ずさる妖夢。 「大丈夫よ、妖夢。こいつらはちゃんと籠に入ってるから」 「は、はぁ、そうですか……そ、そう、お食事の用意が出来ましたよ幽々子様」 「そう、ありがとう。じゃあ行きましょう。丁度いいデザートも手に入ったから、食後にいただきましょう?」 妖夢の背を押して食卓へ向かう幽々子。途中、厨房にゆっくり入りの籠を置いて行く。 「ゆ゛っぐりじだい゛よ゛お゛お゛お゛お゛お゛!!」 「ゆ゛っぐりざぜでよ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!」 「わ゛がら゛な゛い゛よ゛お゛お゛お゛お゛!!」 「ぢんぼお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!」 「や゛だや゛だお゛うぢがえる!ざぐや゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」 「たべられちゃうんだってさ」「おお、こわいこわい」 厨房に、自らの運命を知らされたゆっくり達の絶望の叫びが木霊する。 「ごちそう様。今日も美味しかったわ妖夢」 「お粗末さまでした」 二人分の食器を片付ける妖夢。幽々子は手ぶらで厨房まで付いて行き、 泣き叫ぶのに疲れて眠っているゆっくり達の入った籠を取る。 「じゃあ、早速いただきましょう。妖夢、お茶の用意をして」 「分かりました」 手早くお茶の用意をしてお盆に載せて、先導する幽々子に従う妖夢。 「どうぞ、幽々子様」 「ありがとう。ささ、妖夢もお一つ」 そう言って籠からゆっくりようむを取り出し、無造作に半分に千切る。 「ぢい゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛んぼお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!」 「あ、あの……幽々子様?これは一体……」 「お饅頭よ、お饅頭。美味しいわよ」 「は、はあ……ではいただきます」 悲鳴を上げて苦しむゆっくりを平然と差し出す幽々子に戸惑いながらも受け取り、食べる。 「い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛ぎい゛い゛い゛い゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!」 一口齧る度に凄まじい悲鳴を上げる饅頭。だが 「あ、美味しい」 「でしょう?」 そんな苦痛の叫びも気にならない位、口の中に広がる芳醇な甘みは脳を痺れさせた。 「すごく美味しいです、これ。私こんな美味しいお饅頭食べた事ありません」 「そうでしょうそうでしょう。それに加えてこの音楽がたまらないわよねぇ」 「音楽、ですか?……いや、私はそういう趣味は無いんですけど……」 「あらそう?これの良さが分からないなんて、妖夢もまだまだ半人前ねぇ」 「そうでしょうか……?」 絶対それは関係ないと思う、とは言わず黙ってゆっくりを食べ続ける。 幽々子と並んで月を見ながら、美味しいお茶とお饅頭を食べるのはこの上なく幸福な時間だった。 ……いちいち耳をつんざくような悲鳴が無ければ、もっと良かったのだが。 「あの、幽々子様……昼間の事……怒らないんですか?」 「あら?私が可愛い妖夢の事を怒ったりなんてすると思う?」 「いや、結構怒られてますが……」 「そんな事は無いわよう。愛よ、愛の鞭」 「はあ……私は剣士なんですが」 ズレた回答をしながらも、内心で胸を撫で下ろす妖夢。 「ねえ妖夢。今夜貴女と一緒に寝てもいいかしら?」 「ええ?どうしたんですか急に?」 「妖夢は私と寝るのは嫌なのね……そうよねぇ、私なんて……」 「あっあっ!嫌じゃないです、嫌じゃないですよ!だから泣かないで下さい!」 「そう?嬉しいわ。妖夢と一緒に寝るなんて何年ぶりかしら。ふふ、楽しみだわ」 「もう……」 自然と顔をほころばせる妖夢に満足して、最後のゆっくりを手に取る幽々子。 「あっ!幽々様いつの間にそんなに食べてるんですか!ずるいですよ!」 「いいじゃない少しくらい」 「少しじゃないです!私まだ2個しか食べてないんですよ!」 「じゃあ半分こね。ん」 ゆっくりを口に咥えて、目を瞑って妖夢に顔を突き出す幽々子。 「な、何をやってるんですか幽々子様!そ、そんな事……」 耳まで真っ赤にしてもじもじする妖夢。そんな妖夢に目だけでニヤニヤと笑いかけながら促す。 「じゃ、じゃあ、いただきます……」 「い゛だい゛い゛だい゛い゛だい゛い゛い゛い゛!!や゛べで!どうじでごん゛な゛ごどずる゛の゛お゛お゛!!」 (あなたの同族が私の可愛い可愛い妖夢を傷付けたからよ) 内心で答える幽々子。一瞬その瞳に冷たいものがよぎったのに、無意識の内に目を閉じていた妖夢は気付かなかった。 LOVELY LANDSCAPE GOOD NIGHT... 作:ミコスリ=ハン
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それからややあって。 「で、だ。別に冗談を言ったりおちょくったりするくらいは構わんし、会話する気が無いとも言わん。 が、子供を使ってああいう物言いをするのは幾らなんでもやめておけ。いいな?」 「ゆぅ、ゆぐ……ゆぐ、り、りがい、じまじだ……」 散々叫んでのた打ち回ったまりさが息も絶え絶えに返事をする。 「ゆっぐりわがりまじだ……もうじまぜん……」 れいむの方は冷水を被っただけなので、まだ余裕があるようだ。 「本当に、判ったのか?」 流石にこの時ばかりはあまい顔は見せられないと、ドスの効いた表情と声を作る。 しかし、いかつい外見に反してこの男、律儀と言うか、硬い要素が多い。 実の所、内心ではある指摘がこないかと冷や汗を流していた。 今のは人間同士でやったとしても、冗談が通じない相手ならば不謹慎だと言われかねない。 それに少々の説教と折檻をかました所で、悪く言われるいわれも無いだろう。 しかし、約束ではうっとうしい言動を禁止するとは言っていない、その部分が引っかかっていたのだ。 ゆっくり相手では気苦労が耐えなさそうな精神構造である。 「ゆ……あかちゃんで、あそんだりしないよ……」 「ごめんね、あかちゃん……」 ……謝罪相手が違う気がする。 明らかに違うが、やった事自体についてはゆっくりなりに反省したようだ。 「よし。判ったならもういい。次はやるなよ?」 出来る限り重々しく言い渡して、折檻終了にした。 本当は言動に関しても言いたかったが、それに関しては、人間とゆっくりの力関係がわかればそのうちに改まるだろう。 どうせ2つ言っても覚えられないだろうしな。 手元にあれば、タバコの1本でも吸いたい気分だった。 「しっかし……どうするかね、これ」 部屋を眺め、その有様に自分が引き起こした事ながらも男は大きく嘆息する。 直接水をこぼした畳のみならず、壁や戸もまりさが吐いた塩水によってところどころ塩が浮いている。 どう考えてもやりすぎた。 戸板くらいならいいが、放っておくと壁紙や畳は面倒な事になるだろう。 「早い所拭いた方がいいわな、そりゃ」 面倒事が増えた、とばかりに肩をぐるりと回し、風呂場に道具を取りにいこうとする。 そこで、男の目にもうひとつ汚れているものが見えた。 「なぁ、まりさ」 未だに倒れたまま大きく息をつくまりさに呼びかける。 「その帽子、今すぐ洗わせろ」 実はずっと前から気になっていた事だ。 聞いた話だと「外してはいけない」「外されるのは嫌がる」との事だった。 だから、眠っている間とは言え外すのは止めようかと考え、起きたら言おうと思っていたのだ。 しかし、それからの騒動で、そんなささいな事はすっかり忘れていた。 したがって、この帽子、まりさを見つけたあの日から一度も洗っていない。 黒地の本体やリボンの上を泥水や餡子の跡が斑に彩っており、さらには所々破れている。 砂粒などは無くなっていたが、それも単に泥水が乾いて座布団や畳の上にばら撒かれただけの事。 はっきり言って、帽子と呼ぶとマトモな帽子が怒りそうな代物と成り果てていた。 「ゆ!? ぼ、ぼうしはやめてね! ぼうしはとらないでね!!!」 帽子について触れた途端、まりさは今まで見た事がないような狼狽振りを見せた。 あからさまに怪しい。 何かあるのだろうか。 大切な物を隠しているとか、あるいは武器とか。 無いな。 男は即座にそう決め付け、構わずに帽子に手を伸ばす。 すると、まりさはゆっくり的には機敏な動きで手から逃れた。 「なんだ……? お前、その帽子に何かあんのか?」 「な、なんにもないよ! なんにもないからぼうしはだめだよ!!」 怪しい。 あからさまに怪しすぎる。 その様子に、洗濯云々は置いておいて、男の中に単純な興味が沸いて来た。 「そうは言ってもよ、お前自分じゃ見えないだろうが破れてるわ汚れてるわで酷い有様だぞ、それ」 「ゆっ! まりさのぼうしはきたなくなんかないよ!! おじさんなんでそんなひどいこというの!?」 「いや、酷いも酷くないもだな、事実雑巾と同じくらい汚いぞ」 「そんなことないよ! おじさんうそつかないでね、まりさおこるよ! ぷんぷん!!!」 「口でぷんぷん言うな。いや、そうじゃなくて嘘も何もだな……」 そんな問答を繰り返す事しばし。 「あー、そういやお前らにゃ頭の出来期待しちゃいけなかったんだよな」 ゆっくりに付き合ってたら俺の頭までゆっくりになっちまったぜとひとりごちる。 「判った、ちょっと待ってろ。いい物見せてやるから」 そう言って、男は自分の部屋へと消える。 戻って来た時には、大きな木枠を持っていた。 身長ほどもあるそれの足を立てて、慎重に床に置く。 「ほら、見てみろ。これがお前だ」 男が持って来たのは姿見だ。 その中には、覗き込む格好で鏡に映った男の上半身と、薄汚れた帽子を被ったゆっくりの姿。 「ゆ゛う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛っ!?!? なにごれ!? まりざのぼうじが、まりざのおぼうじがぁぁぁぁっ!!!!」 まりさが顔を引きつらせて叫ぶ。 さらにはたちまちの内に涙を滂沱と流し、赤くなり、青ざめ、目を見開き、口を意味もなく開閉し、全身を震わせ、また赤くなる。 そしてとうとう意味の判らぬ絶叫を上げながら部屋中を飛び跳ね転がりだした。 男も最初は笑ってみていたが、流石にその様子にただならぬものを感じて、隣のれいむに目を向けた。 「おい、れいむ。お前らの頭の飾りがが大切なものだってのは何と無く実感したが、何であそこまで泣き喚くんだ?」 問い掛けとは疑問だ。 疑問を持つと言う事は、回答を欲していると言う事。 そして、回答とは問いかけの元へと至る理由。 理由が解ると書いて、それはすなわち理解という事となる。 物について問えば、それは知識としての理解であるが、人を問うという事は、やがては心の理解に、そしてそれは人を思うという事へと繋がっていく。 今回の場合は残念ながら人ではなくゆっくりだが。 「まりさのぼうしはとってもだいじなの! だかられいむのりぼんはとらないでね!!」 しかし、返って来たのはどうにも的を得ない回答だ。 聞き方が悪かったかと思い、方向を変えて再度問い直す。 「じゃあ、もし帽子が無くなったり、帽子じゃなくなったりしたらどうなるんだ?」 「ぼうしがなくなったらゆっくりできなくなっちゃうよ! だからおじさんやめてね!!」 ゆっくりできない、か。 ゆっくりは基本的に言葉が足りないのは判っている。 「ゆっくりできない」のが自分なのか他人なのかが判別できないので推測になるが、 「帽子が無いと何故か自分の体調に異変をきたしたりしてゆっくりできない」 「帽子が無いと他のゆっくりからゆっくりだと認めてもらえないので群れや家族で一緒にゆっくりできない」 一番酷いのは「帽子が無いと攻撃を受けたり群れを追い出されたりするのでゆっくりできない」 そんな辺りだろうか。 それならまりさにとって一大事だというのも判る。 洗濯くらいならあるいは水溜りや小川などで何とかなるかもしれないが、裁縫となるとゆっくりには不可能だろう。 あるとすれば、他のまりさの帽子を奪う事だろうが、生憎ここは自然ではなく男の家なので、それは選択肢にない。 しかし、それではまだどうも話が合わない部分がある。 「じゃあれいむ、お前はあれが汚いが帽子だってわかるんだな?」 「ゆ? ぼうしはきたないけど、まりさはまりさだよ!」 ふむ。 まりさは自分だから当然としても、返答からすれば、少なくともれいむもアレを帽子とまりさだと認識できているようだ。 だとすると、一応問題は無いと言う事になるのだがやや考慮すべき要素がある。 少し考えて、男はその部分を埋めにかかった。 「お前があのまりさの家族だからとかじゃなくても、他のゆっくりからもあれは帽子と思ってもらえるのか?」 それが、一番の問題だ。 自分の子供であれば、バカでも可愛いなんて親はいくらでもいる。 ペットなどになると、ブサイクだろうがなんだろうがと、その傾向はより顕著なものになるだろう。 家族という特別な関係は、それだけ認識をゆがませる力を持つ。 こいつら2匹が特別な関係だから判るだけで、他もそうだとは限らなければ。 もしそうならば、後で野に離した時に待っているのは喜劇のような悲劇だろう。 「ゆ~~~~~~んゆんゆんゆん…………」 声にあわせてれいむの体がふらふらと左右に揺れる。 人間なら恐らく首を傾げるかその辺の動作だろうと思うが、生憎胴体だけの生き物なのでそれは誰にも判らない。 やがて考察がまとまったのか、自信に満ちた表情で胸?を張り、 「たぶんゆっくりわかるよ!!」 「おい、大事な事なのにえらい適当だな」 やはり肝心な所でも餡子脳は餡子脳だった。 しかし、これでおおよその答えがつかめた。 「と言う事はだ。あれは、単に自分の帽子の有様にショック受けてるだけなのか」 ややこしいと言うか、人騒がせと言うか。 男は深く嘆息する。 理由は聞いた。 推測含みではあるが、ある程度は理解できただろう、と思う。 そして、理解したゆえに、やる事は変わらない。 未だに唸りながら不振な挙動を繰り返すまりさに呼びかける。 「ほれ、嫁さんにまで汚いって言われてんだからこれで十分判ったろうが。破れた所も直してやるからさっさと帽子脱げ」 「や゛だ!!」 「やだ、ってな、お前ガキじゃねぇんだからよ。絶対に破ったり取ったりなんかしねぇから、帽子渡してくれよ」 「そんなのしんようできないよ! おじさんはぜったいさわらないでね! まりさはじぶんでなんとかするよ!!」 「あのな、自分でって……」 まりさがさらに真っ赤になった所で、これでは先程の二の舞だと男は自制する。 ゆっくりと会話をしていると、どうにも調子を乱されてしまう。 それは、泣き喚く子供を説き伏せるのとほぼ同じ様な感覚。 しかし、人間とゆっくりとでは大いに違う部分がある。 それは知性と知恵の違い。 「ほら、れいむ。お前からも言ってやれ。お前だってあの帽子は嫌だなって思うだろ?」 と言う訳で、交渉役交代。 人間が言って聞かないならば、同じゆっくりにやらせてみればいい。 このれいむはあの帽子を「汚い」と認識している。 今のところは自分と同意見であり、まず味方と見なしても良いだろう。 自分だけで正面突破が駄目なら搦め手を使ってみる。 これが知恵だ。 そもそも意思疎通は困難だが、その思考の単純さゆえにコントロールは簡単に出来る。 どうもこのれいむはまりさと違って単純なようなので、ある方法を使えば誘導は簡単だ。 それもまた、善し悪しは別として知恵は知恵。 「まりさ、ゆっくりぼうしあらってもらってね!」 「ゆ!? れ、れいむ!? なんでそんなおじさんのいうこときくの!!?」 「まりさのおぼうし、れいむがみてもすっごくきたないよ!!」 「どうしてええええ!? まりさのぼうしかっこいいっていってたのにいいいいいい!?!?」 いや、今自分でその帽子見て泣き喚いてたじゃないか。 しかし、俺が言うより効果はあるようだと、男は今の流れを強化するべくまりさを鏡へと向ける。 「ゆううぅぅぅぅっ!!!!」 まるでやり直したかのような反応。 だが、結果まで再現されては困るのですぐにれいむの方に向きを戻す。 「そんなまりさといっしょにいたら、れいむまでみっともないっておもわれちゃうよ!!」 「で、でもぼうしはいやだよ! れいむだっていやだよね!?」 ゆっくりにとって、飾りを取られる事は死活問題だ。 ましてや、それを人間に渡すなどと。 その事を持ち出して、まりさは必死でれいむから共感を得ようとする。 しかし自分の事ではないためか、それとも餌付けされた所為か、れいむの反応は冷たいものだった。 「おじさんはとらないっていってるよ! だからゆっくりあらってもらってね!!」 「ゆぐ、だ、だってそんなのしんようできないよ! おじさんじゃなくてもちゃんとあらえるよ!」 やはり飾りを誰かに渡すと言う事には抵抗があるまりさは、膨れ上がって反論する。 その目の端には、うっすらと輝くものが滲んでいるのは汗ではないだろう。 そして、れいむもそれに負けじと膨れて応じる。 しかし、家族の事を持ち出されると弱いのか、効果的な反論が出来ずにまりさが次第に押されていく。 いつの時代も母は強し。 それにしてもこのまりさ、幾ら事実とは言え酷い言われようである。 どうやらこういった類の言葉は、人間相手だろうがゆっくり相手だろうがお構い無しらしい。 だがれいむよ。 さっきまでお前も普通に近寄らせてたじゃないか。 一体どこまでコントな生き物なんだろうか、こいつらは。 面白いのは面白いのだが、理不尽やら黒い部分が多すぎて少々胃にもたれて来る。 だが、そうこうしている間にも、ゆっくりのゆっくりしていない話し合いは決着に向かって突っ走る。 「とにかくそんなきたないぼうしでれいむのあかちゃんにちかよらないでね! さっさとあらってきてね!!!」 「ゆ、ゆゆぅ~~~~」 完全に劣勢になったまりさは、眉間にしわを寄せつつもどんどん小さくなっていく。 人間だけではなく、自分の味方だと信じて疑わなかったれいむもその人間に唆される様にして、自分を責めるのだ。 どうして? かざりのことなんだよ? なんでにんげんのいうこときくの? さっきまで、二人であんなに仲良くしてたのに。 赤ちゃんの事や、それから先の事。 頬を寄せ合ってゆっくり話してたのに、なんでこんなことに…… 一度弱りだした心は、なかなか元に戻るものではない。 もはやまりさの精神力は風前の灯。 そこに、更なる追い討ちがかけられる。 「ほら、そんな帽子を見たら子供はどう思うよ? お父さんの帽子汚いね、そんなの被ってるお父さんも格好悪いね、とか言われちまうぞ? と言う訳で渡せ」 「ゆぐっ!!!!!!!」 その一言で、完全にまりさは固まった。 子供からの評価。 いつの時代だって、親は子供の、子供は親の目を気にするものだ。 ましてや、こうまで子供の誕生を楽しみにしていると言う事は、それはそれは愛情を持っているのだろう。 その子供からの評価が地に落ちる。 それはこのまりさにとって耐え難い事のはずだ。 「ゆぐ、ゆゆ、う、ぐ、ゆゆゆうぐぐぐぐぐぐぐぐ…………」 今、この餡子脳の中でどんな思考が行われているのかはまりさ以外には判らない。 しかし、誰がどう見ても、歯を食いしばって小刻みに痙攣しする姿が危険だと言う事は明らかだ。 このままだと、精神的負荷で壊れてしまうのではないだろうか。 精神的負荷で壊れるほどゆっくりの神経が繊細だとはとても思えなかったが、さきほどと違った意味で危険を感じた男は助けを出す事にした。 「えーと、ああ、判った。まりさ、こうしよう。お前の目の前で洗う。れいむにも見ててもらおう。その間、お前は帽子の端でも咥えていればいい。 俺が逃げようとしても、そのまま帽子を咥えてればいいだろう? これでどうだ?」 正直、人間が聞けば詭弁だと思うだろう。 そもそも、咥えた所で叩き落す事などいくらでも出来るし、そのまま川や穴にでも捨てられてしまえばお終いだ。 どう考えても一方的なもので、人間の心ひとつでなんとでもなってしまう。 だが、ゆっくりならば通じると思った。 ゆっくりは深く考えない。 ゆっくりの言動や思考は、ゆっくりはそれで納得しているようだが、人間からすればどう考えても理屈と結論が跳躍しているものが多い。 それならば、筋が通っていなくともあらかじめそれっぽい道を示しておけば、途中経過など考えずに示されたそれに食いつくはずだ。 「ゆぐぅ……わかったよ……それでいいからはやくあらってね……」 案の定と言おうか、子供から蔑まれる未来には耐えられなかったのだろう、しぶしぶながらもまりさはとうとう陥落した。 「よし、聞き分けが良くて賢いな、まりさは。すぐ道具を持ってくるから待っていろ」 心にも無い世辞を言った後、まりさの気が変わる前に始めてしまおうと、男は急いで風呂場へ向かった。 「こら、あんまり前に出るな。水被っちまうぞ」 そして舞台は再び縁側。 ゆっくりと男が帽子を挟んで格闘していた。 「ふぐぐ、ふぐぐぐふぐぐぐぐ!!」 「意味が判らん。ほい次、もう少しそっち噛んでろ」 「おじさん、ゆっくりきれいにしてあげてね!」 「あーはいはい、ってそっちじゃねぇ、そっちはさっき咥えてた方だろうが」 少しでも帽子を離すまいと噛み付くまりさと、その噛み付くまりさを水や泡で濡らさない様に洗濯をしようとする男。 そしてそれをでんと座って見ているれいむ。 傍から見れば滑稽そのものだが、当人達はいたって真面目なのがまた滑稽さに拍車をかける。 まりさが咥えている反対側を洗い、水で綺麗に流してから少し角度を変えてまた洗う。 そうやって鍔を洗い、それが終われば今度は本体へ。 一気に付け洗いが出来ればこの程度の洗濯はすぐに終わるのだが、今回はそうも行かない。 「っと、これじゃ使えないか。おい、ちょっと水替えて来るから待ってろ」 洗剤が浮いてすすぎの用を成さなくなった水を、庭に打ち水代わりに巻いて男が立ち上がった。 「まだ洗い終わってねぇからな? 子供に言われたくなきゃゆっくりしてろ」 先ほどのやり取りから得た切り札で釘を刺して、男は台所へ消えていく。 「ゆふふぅ……」 まだ終わらないのか。 まりさはその事実にため息をついた。 自分のお気に入りの帽子。 お気に入りも何も、ゆっくりにとって帽子と言うものは自分の物だけだが、それが見るも無残に汚れている事。 そして、人間の手で洗われている事。 とにかく気に入らない。 気に入らないが、外して目の当たりにすると、鏡で見た時以上にショックだった。 自分が誇っていた黒くて綺麗に尖がっていた姿はどこにも無く、薄汚れて曲がり、段がついていた。 真っ白だったリボンも、黒と茶色の斑染め。 そして、昔に格好良いと褒めてくれたれいむからもみっともないと言われた事と、何より赤ちゃんの事。 最後のものは男の出任せだが、一番心をえぐられたのはそれだった。 濡れてしおれた帽子と同じ様に、うつむいたまりさもどことなく萎れて見える。 「だいじょうぶだよ! ゆっくりあらったらちゃんときれいになるよ!」 そんなまりさを見かねたのか、れいむが気遣うような声をかけた。 「きれいになったらあかちゃんだってきっとほめてくれるよ! だからゆっくりがまんしてね! れいむもまってるよ!」 赤ちゃんが褒めてくれる。 そして、その事をれいむも待ってくれている。 そうだ。嫌だけど、我慢して頑張ろう。 「お、ちゃんと大人しく待ってたか。後はこれで終わりだからな、しっかり咥えてろよ」 決意も新たに前を向いた所で男が戻ってきた。 桶には一杯に水が入っている。 経験から一瞬身が竦むが、これで最後だと、弱気を消す様に大きく息を吸い込み力を込める。 「なんだ、終わりって聞いたらえらいやる気になったじゃないか」 その様子に、ややからかう様な響きの、しかし温かみのある笑みを男が浮かべた。 そして、帽子についた泡をゆっくりと洗い流していく。 少しずつ本体についていた泡が消えていくと、下から現れるのは綺麗な黒と白。 「ゆゆ! まりさのぼうしがきれいになったよ!!」 「ゆっくり! すっごくきれいだね!!」 思わず感嘆の声を上げる2匹。 当然のように帽子はまりさの口から離れるが、まりさはそれに気づく事無く自分の帽子を凝視している。 石鹸で洗われた帽子は、今まで自分が洗ったどんな時よりも綺麗だった。 生まれたての頃でも、ここまで綺麗だったかどうか。 「ふむ。これくらいならなんとかなるか」 帽子に出来た穴を検分していた男が、帽子を持ったまま縁側から下りた。 「ゆっ! おじさんどこいくの? おわったらはやくぼうしかえしてよね!!」 「あのな、返してねも何も、こんな帽子被ったらふやけちまうだろお前ら」 男の動きに焦って、慌ててまりさも飛び跳ねて後を追った。 だが、普段はどうしてんだかなぁ、という声と同時、頭の上からべちゃ、と言う音と水が流れてくる。 「ゆゆっ! あめ? なに?? おみずはやめてね、おじさんたすけてね!!」 堪らず叫ぶと、一瞬のうちにそれは取り除かれる。 目の前には、しゃがんだ格好の男と、水を滴らせる帽子。 「な? 判ったら大人しく、乾くまで待ってろ。破れた所を治すのはその後でやってやるから」 「ゆぅ、わかったよ、おじさん……そのかわり、まりさのいうこときいてね!!」 さらに中書き 「ゆっ? ここどこ??」 「よくわからないよ! でもここはゆっくりできそうなばしょだね!」 「さくしゃさんもなんだかゆっくりしてたからね! きっとゆっくりしててもいいんだよ!」 「だったらここはれいむたちのゆっくりプレイスにしようね!!」 「ようし、そこまで。お前らとっとと部屋に帰れ帰れ」 「ゆ! やめてねおじさん! れいむたちはここでゆっくりするんだよ!!」 「そうだよ! おじさんひとりでゆっくりプレイスをひとりじめしようなんてずるいよ!」 「あー判った判った、もう⑥もほとんどできてるからな、ここでゆっくりしてないで俺達もさっさとそっちに行かなきゃならねーんだよ」 「⑥? そこはゆっくりできるところなの?」 「ああ、④⑤よりはゆっくりしてるさ。ほれ、お菓子やるからさっさと行こう、な? 俺だっていい加減ゆっくりしたいんだ……」 「おかし! じゃあしかたないね! ゆっくりいってあげるからちゃんとおかしちょうだいね!」 「へいへい。んじゃあ行くぞー。俺より遅かったらお前らお菓子無しな」 『ゆゆ! ゆっくりいそぐよ!! おじさんはゆっくりしていってね!!!』 ……ふぅ。やっと静かになったか。 と言う訳で、「俺」からのお知らせだ。 初期系から大きく予定変更したけど、何とか形になりそうなんでゆっくり待っててくれ、だとよ。 俺だってさっさとゆっくりしたいんだがね。 なんで作者はゆっくりの帽子を自己修復仕様にしなかったんだか。 そしたら俺だってこんな苦労しなくて済んだんだが…… ま、言ってもしょうがない。 待ってくれている人には悪いが、また⑥をゆっくり待っててくれよ。 じゃ、見てくれている人はまた次でな。 『おじさーーーん、⑥についたからはやくおやつちょうだいね!!!』 ⑥へと続く。 なんというほのぼの・・・これはゆっくりと⑥を待たざるを得ない・・・ -- 名無しさん (2008-08-12 22 42 16) ゆっくりしてるなこれ -- 名無しさん (2010-11-28 02 39 42) 名前 コメント
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冬が近づいてきていた。 ゆっくりできない季節の到来を前にして、ゆっくり達は巣作りに腐心する。 「ゆっ!おかーさん!れいむむしさんとったよ!」 「たべちゃだめだよおちびちゃん!ゆっくりすへとはこんでね!」 褒めて貰えると思った子れいむは膨れっ面になる。 「ゆ〜……」 「がまんしてね、おかーさんとゆっくりえさとりしようね」 ゆっくりとふかふか by ”ゆ虐の友”従業員 ある日、れいむのおうちにお隣のおうちのまりさがやってきた。 「れいむ!これをみるんだぜ!」 「ゆゆっ?どうしたのまりさ?」 まりさは後背部から頬のあたりまでを、何やらふかふかしたもので覆っている。 見るからに暖かそうな、とてもゆっくりしたふかふかだった。 「ゆっ!」 ためしにすーりすーりしてみた。とても暖かい。 なめらかな肌触りに、れいむはすぐにふかふかの虜になった。 「すっごくゆっくりしてるよぉぉぉぉぉ!!」 「ゆっへん!」 「どこでひろったの?れいむもほしいよ!ゆっくりおしえてね!」 自分もふかふかが欲しいと、れいむはまりさに詰め寄る。 しかしまりさは拒否した。 「それはいえないんだぜ」 「どうじてそんないじわるいうのぉぉぉ!!??」 「だめだぜ!ひっぱるなだぜ! これはまりさにぴったりの、とってもゆっくりしたふかふかなんだぜ! れいむみたいなゆっくりできないゆっくりのじゃないのぜ!」 結局、ふかふかを見せびらかすだけ見せびらかして、まりさは自分のおうちへ帰っていった。 「ゆぅ……れいむもふかふかほしいよ……」 あんなにゆっくりしたふかふかがあれば、この冬を越すのもとても楽になるに違いないのだ。 その日れいむはずっとふかふかのことを考えて過ごした。 * * * * 背中に当たる風で、れいむは朝の目覚めを迎える。 ここ最近はずっとこうだ。本格的な冬が始まれば、子供達を狩りに伴わせることさえできなくなる。 「ちべたい……かぜさんゆっくりしていってね……」 れいむは岩の隙間に家を持っていた。 これはこれでかなりの”すてーたす”なのだが、 吹き込んでくる木枯らしの寒さ、岩肌のゆっくりできない冷たさを感じるたび不満は募るばかりだ。 思い出すのは、昨日の出来事。 「ゆゆーん……れいむもあのふかふかがほしいよ……」 二匹の子供が目を醒ました。 「おかーしゃん?」 「ゆっくちちていってね!!」 「おはよう、おちびちゃん。ゆっくりしていってね!!」 狩りに行きたくない。 「………」 ふかふかも無しにゆっくりできないおそとに出て行きたくない。 おそとは今日も、寒風荒れる吹きさらし。 どうしていままで、こんなゆっくりできないおそとに出て行くことが出来たのだろう。 「れいむさむいのやだよ……」 ふかふかでゆっくりするまりさを見てしまったことが、れいむの餡子に深い影を落としていた。 「おかーしゃん!おなかすいたよ!」 「ゆっくちごはんとってきてね!!」 「ゆ……いってくるよ……」 れいむは足取りも重く家を出た。 森の広場に着く。この辺りのゆっくりが集まる餌場だ。 「ゆっくりしていってね!!」 「ゆっくりしていってね!ゆっくりしていってね!」 周りのゆっくりと挨拶しながら、餌を探す。 「ゆっくりしていってね!ゆっくりしていっ……」 その時、れいむの目は一匹のぱちゅりぃに釘付けになった。 「むっきゅ、ゆっくりしていってね」 「ぱちゅりぃ!?ぱちゅりぃもふかふかもってるの!? れいむもふかふかほしいよ!ふかふかのあるところおしえてね!」 しかし、ぱちゅりぃもまた、れいむの頼みを却下する。 「むきゅん、だめよ」 「どぼじでぇぇぇぇぇぇ!!??れいむもあったかふかふかしたいよぉぉぉぉぉぉ!!!!」 おうちに帰ると、子れいむが言う。 「ゆっ!ゆっ!おかーさん!れいむもふかふかほしいよ!」 「れいむにも!れいむにもふかふかちょうだい!!」 きっとお隣のまりさを見たか、または聞いたのだろう。 「おかーしゃん、どうしておうちにはふかふかないの?」 「さむくてゆっくりできないよ!ばかなの?しぬの?」 「そん……………っ!」 ”そんなこというのはうちのこじゃないよ!ゆっくりでていってね!!”という言葉を すんでのところで言いとどまる親れいむ。 ぴちっ。 「いだっ!!??」 ゆっくりにとってはかなりの我慢をしたために、側頭部が裂けて餡子がはみ出てしまった。 「ゆゆゆっ!」 「おかーしゃん、あんこがでてるよぉぉぉ!!!」 「だ、だいじょうぶだよおちびちゃん……ふかふかあげられなくてごめんね…… かわりにおかーさんとすーりすーりしようね」 「ごめんねおかーしゃん……」 「あんこぺーろぺーろしてあげゆよ……」 親子は身を寄せ合って、隙間風からお互いをかばうのだった。 * * * * ゆゆ?れいむもふかふかひろったよ? 「ゆゆっ!これでれいむもゆっくりできるね!ゆっくりあったかいよ!」 かぜさんはゆっくりしてないけど、これさえあればれいむはゆっくりできるよ! 「ゆっ!ゆっ!あったかいよ!!」 おそとをはねまわってふゆごもりのえさをとるのはつらいけど、 れいむにぴったりのこのふかふかがあればぜんぜんへいきだよ! 「ふーか♪ふーか♪しあわしぇぇぇぇ〜〜♪」 「…………」 幸せな気分で目を覚ますと、もちろんふかふかは無かった。 「やっぱりちべたいよ……」 今日も気乗りしないままに餌場へ向かう。 「ゆ?ゆゆゆ!!??」 餌場に着いたれいむは驚愕した。 まりさ、ぱちゅりぃだけでなく、他の全てのゆっくりがあの”ふかふか”を付けて、 暖かそうに餌を漁っているではないか。 「どぼじでぇぇぇぇぇぇ!!??」 あまりの理不尽。れいむは感情の赴くままに暴れまわる。 「どぼじでれいむだけふかふかないのぉぉぉぉぉ!!!??? まりざ!!」 「いやだぜ!これはまりさのだぜ!!」 「ばぢゅりぃ!!」 「むきゅん!!ひっぱったってとれないわよ!!」 「ちぇぇぇぇんん!!」 「これはちぇんのなんだねー、わかるよー」 「ゆぅ……ゆぅ……どぼじで……?」 息を切らせてその場に倒れるれいむ。 それを遠巻きに見るゆっくり達からは哀れみの視線が突き刺さる。 「れいむ……ことしはあったかいから、そんなにゆっくりできなくないんだぜ?」 「むきゅ、そうよ。しんとうめっきゃくすればひもまたすずしいのよ」 「ゆぅ……」 「れいむがふかふかなくたって、なかまはずれにしたりはしないであげるのぜ」 「そうよ。それにれいむにはりっぱなおうちがあるんだからだいじょうぶだわ」 「ゆゆゆ……」 聞こえはいいが、それらはすべて親身な言葉ではなかった。 周囲のゆっくりの視線が、言葉が、まったく別なものを語っているようにれいむは感じた。 (おお、みじめみじめ) (ぱちゅりぃがあんなめにあわなくてよかったわ!) (かわいそうなんだね、わかるよー) 「ゆ……ゆ……ゆぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」 れいむはその場から逃げ出した。 「ゆぐっ、ゆぐっ……どぼじで!?どぼじで!? どぼじででいぶだけぇぇぇぇぇ!!??」 跳ねれば跳ねるほど、風は冷たくれいむを打つ。 「ゆっぐりでぎないよぉぉぉぉぉ!!!」 * * * * もちろん、この小さな異変の仕掛け人は虐待お兄さんである。 ゆっくりの集落を調べ、獲物と定めた家族以外すべてのゆっくりに、暖かな”ふかふか”を与えたのだ。 その際、「れいむには決してなにも知らせないこと」との条件を与える。 どうしても口を割りそうな愚かなゆっくりは潰した。 「れいむったらいいきみだぜ!ちょっとりっぱなおうちにすんでるからって、 おたかくとまってゆっくりできなかったんだぜ!」 「むきゅん!おにーさんのおかげで、ことしはゆっくりあたたかいわ!」 「れいむだけなかまはずれなんだねー、ちぇんはだいじょうぶなんだねー、わかるよー」 「今年の冬は暖かいからな……」 お兄さんは呟いた。 たとえ自然が慈悲を恵もうとも、俺はお前達をゆっくりさせはしない。 一匹たりともだ。 「とはいえ、あれだけの数の”ふかふか”はちょっと高価かったな…… 俺まで冬を越せなくならなきゃいいが」 お兄さんは、ちょっと馬鹿なのだ。 * * * * 「ぷんぷん!おかーしゃん!さむいよ!」 「こんなつめたいおうちじゃゆっくちできにゃいよ!」 「どぼじでぞんなこというのぉぉぉぉぉぉぉぉ!!! きっとおまえだぢがわるいこだから、みんながふかふかのことをおしえてくれないんだよ!! ゆっくりりかいしてね!!」 「そんなことないよ!れいむはいいこだよ!!おかーしゃんがぐずでのろまなのがわるいんだよ!!!」 「ゆっくちちたいよぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」 「うるさいよ!ゆっくりだまってね!!」 仲間はずれにされたれいむ一家は、毎日いがみ合ってばかりいる。 お兄さんは時たまその様子を覗き見てはほくそ笑む。 「ゆぅ……ゆぅ……さむいよ……ゆっくりできないよ……」 嫌々ながら外へ狩りに出ても、れいむの動きは鈍い。 「ゆっ!ゆっ!ゆっ!」 「むっきゅ、むきゅ」 「むしさんゆっくりつかまってねー」 周囲の暖かそうな様子を見て、実際の寒さ以上に身も心も凍えているのだろう。 「みんなずるいよ……」 「ゆっゆー!」 「むっきゅん!」 「わかるよぉーー!」 「れいむもゆっくりじだい……」 れいむは信じて待ち続けた。 「ちびちゃんたちはどうだかしらないけど、れいむはとってもかわいくてゆっくりしたゆっくりだよ… きっとすぐにれいむにぴったりのふかふかみつかるよ…」 実際には、このれいむがふかふかを身につけるのはずっとずっと後のことだ。 * * * * 「むきゅ!おにいさん!このまえはありがとうね!」 ぱちゅりぃは男を見覚えているようで、男が姿を現すと向こうから擦り寄ってきた。 「みて!おにいさんにもらったりっぱなふかふか、ちゃんと……」 「ああ、それなんだがね、返して貰うことにした」 男はぱちゅりぃの背中に付けた”ふかふか”を留めていた帯を外した。 ふかふかはするりと抜け、地面に落ちる。 「む、むっぎゅん!やめてね!ぱっちぇはからだがよわいのよ!だいじなふかふか、ゆっくりかえしてね!」 一度ふかふかに慣れた体には、冬の風は余計に冷たく感じる。 しかも、ぱちゅりぃはこれからもっともっと寒さが厳しくなることを知っているのだ。 柄にも無く、緩慢ながらも必死な動作で男にとびかかる。 「ふかふかはどうだった?あったかかったかい?」 男は問いかけた。 「むきゅ!さいこうだったわ! あったかくて、ふかふかしてて、よるもぐっすりねむれたわ! だからおねがい、ぱっちぇにもういちどふかふかつけてね!」 「と言うことは」 男は確認の言葉を投げかける。 「もうこれからは、最高じゃなくなるわけだな。あったかくもなく、ふかふかもしてなく、 夜は寒さにおびえて仕方なく眠るんだな? それでいい、ゆっくりってのはそういうものだぜ」 「どうじでぞんなこというのぉぉぉぉぉぉぉ!!!」 男は地面に落ちたふかふかを拾い上げる。ぱちゅりぃはそれに追いすがる。 「ぱちゅりぃのふかふか!」 ひょい。男はふかふかを急に持ち上げ、くわえて奪い取ろうとするぱちゅりぃの試みは失敗に終わる。 「かえして!」 ひょい。 「むきゅぅぅぅん!!」 ひょい。 「ぱっちぇのぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」 ひとしきり遊んだあとで、男はふかふかを回収して立ち去った。 後には、疲れ切り、寒さに震えるぱちゅりぃだけが残された。 ぱちゅりぃだけに時間をかけるわけにはいかない。これから、まりさからもちぇんからも、 ありすからもれみりゃからもふかふかを剥ぎ取らなくてはならないのだから。 「むっきゅぅぅぅぅん!!ざむいわぁぁぁぁぁ!!!ふかふかがえじてぇぇぇぇぇぇぇ!!」 「ゆっくり冬を越していってね!」 その晩のうちに、すべてのふかふかゆっくりはふかふかを剥がれてゆっくりできなくなった。 「ざむいぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」 「ゆっぐりでぎないぃぃぃぃぃ!!!!」 「こーまがんがざむいどぉーーー!!!ざぐやぁぁぁ!ざぐやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」 森にはゆっくりの悲鳴がこだまする。 「これだと相対的にれいむが幸せになってしまうな。よし、バールのようなもので……」 「でいぶのおうぢがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!! でいぶほーむれすはいやだよぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」 エピローグ -それからずっと後- 「やあ、れいむ」 「ゆゆ?おにーさんはゆっくりできるひと?」 「その通りさ。れいむが前に欲しがってたものをあげよう」 「ゆゆ?よくわかんないけど、ありがとうおにーさん!!」 男はれいむにふかふかを取り付ける。 「ゆゆ!やめてね!ゆっくりできないよ!」 「またまた。れいむはこれが欲しくて冬じゅう泣いてたんじゃないか。 せっかく持って来てあげたんだから、ゆっくり付けて行ってね!」 「あづいよぉぉぉぉぉ!!!!むしむしするよぉぉぉぉぉ!!! ふかふかさん!!ゆっくりれいむからはなれてね!」 れいむはゆっくりできないふかふかから逃れようと身をよじる。 しかし、帯で体に巻かれたふかふかはれいむの体に密着し、決して離れようとはしない。 「どぼじではなれてくれないのぉぉぉぉぉぉ!!??ばがなの!?じぬの!? あづいよ!あづいのいやだよぉぉぉぉぉぉ!!!!!」 跳ね回るれいむを、通りすがりの親子がいぶかしんだ。 「おかーしゃん?へんなゆっくちがいるよ?ゆっくちちてないよ?」 「みちゃいけないよ!あれはばかなゆっくりにちがいないよ!」 「みてないでだすげてよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!」 跳ねれば暑く、動かずに居ても蒸し暑い。その上水浴びをすることもできない。 れいむの長い夏は、始まったばかりだった。 おしまい。
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灰色に染まった壁と、鉄格子で区切られた窓。 冷たく、硬い地面。 無機質に区切られた小さな部屋で、1匹のゆっくり霊夢が途方に暮れていた。 「ゆっくりさせて!」 大きさはバスケットボールほどにもなる。 そして頭には、一本の茎が生えていた。 「あかちゃんもゆっくりできないよ!」 心配そうに見上げた茎には、9匹の赤ちゃんゆっくりが実っている。 れいむ種が5匹、まりさ種が4匹。 どれもプチトマトより一回り小さいが、あと数時間もすればぷっくりと実って生れ落ちるだろう。 「まりさ!どこにいるのぉお!?」 何も置かれていない、8畳ほどの部屋。 その部屋の中心でれいむは叫んだ。 茎に実った赤ちゃんに気をつけながら周囲を見渡すが、最愛のゆっくり魔理沙はどこにもいない。 「まりざあ・・・まりざぁ・・・」 赤ちゃんを身ごもっているゆっくりは、パートナーへの依存度が高い。 このれいむも例外でなく、姿の見えない伴侶を求めて身重の体を引きずり這いずり回っていた。 「まりさ・・・にんげんにいじわるされてるのかな・・・まりさ・・・あいたいよ・・・いっしょにゆっくりしたいよ・・・」 れいむはこの部屋に連れてこられた時のことを思い出していた。 それは昨日のこと。 れいむとまりさは森の入り口で日光浴をしていた。 春先とはいえ、まだ寒さの残る日が多い。 あたたかいお日様にあたって赤ちゃんにゆっくりしてほしい、まりさが提案したことだ。 最初、れいむは反対した。 自身の両親は日光浴の最中に人間に捕まったからだ。 それも、茎に命を宿しているときに。 人間達は両親に宿った、妹となるはずの赤ちゃんを皆殺しにした。 巣穴を襲撃され、茎を同じくした姉妹が次々と殺され、一家は崩壊した。 れいむが助かったのは、親のまりさが最後まで諦めずに守ってくれたからだ。 だが結局親まりさは力尽き、残ったのはれいむ1匹となってしまった。 れいむは住み慣れた土地を逃げ出した。 ただ怖かった。 川を越え、野原を越え、山を越え、皮がぼろぼろになりながらもれいむは生き延びた。 時は流れ、あのときの親ゆっくりと同じくらいの大きさにまで成長できた。 だが人間への恐怖心がなくなることはなかった。 かつての両親の姿が頭によぎり、外に出る気が起きなかったのだ。 しかし、赤ちゃんに日光浴をさせてあげたい気持ちもあった。 いつもおいしいご飯を取ってきて、自分をゆっくりさせてくれた親まりさ。 幼い自分を必死で守ってくれた親まりさ。 そんな親まりさを、れいむはずっと尊敬していた。 自分も赤ちゃんだけは何があっても守る、ゆっくりさせてあげると決めていたのだ。 パートナーのまりさは言った。 れいむとあかちゃんはまりさがぜったいにまもるよ、と。 だかられいむはその言葉に甘えることにした。 「ゆっくりしたけっかがこれだよ・・・ゆぅぅぅぅ・・・」 結局、親と同じように人間に捕まってしまった。 まりさは懸命に戦ってくれたが無駄だったのだ。 れいむの前に一人の男が現れた。 右手はまりさの底部を掴み、逆さ吊りにしている。 「ゆっ!おにいさん、まりさをかえしてね!!」 れいむは餡子脳ながらも、その男を覚えていた。 自分とまりさを誘拐した男だということを。 「ほらよ」 ふわりと宙を舞い、まりさは硬い床に落とされた。 「ゆべへっ!」 顔面から落下したまりさに、れいむは擦り寄った。 幸い、餡子は吐いていない。 死ぬことはないだろう。 「まりさ、まりさっ!ゆっくりしよう!ゆっくりしていってね!!」 なかなか顔を上げないまりさ。 れいむは不思議に思い、まりさの体を見回した。 「ゆっ・・・!?」 丸々とした、美しい曲線を描いていたまりさの輪郭は、どこにもなかった。 あちこちが歪み、ところどころ陥没や隆起を繰り返している。 何度も殴られたであろう皮は、餡子の色がうっすらと滲み、黒いアザを作っていた。 逆さ吊りにされて帽子が落下しなかったのは、ぼこぼこになった頭部がうまいこと引っかかっていたためだ。 「ど・・・どうして!?まりさ!!あのにんげんにやられたの!?」 れいむは男に振り返り、威嚇をしようと息を吸い込んだ。 だが、途中で膨れるのをやめた。 膨れて不用意に茎を動すと赤ちゃんに悪影響があるかもしれない、れいむはそう判断したのだ。 「おにいさん!れいむはゆっくりおこったよ!!まりさにひどいことをしないでね!!」 精一杯の抗議。 しかし男はれいむの言うことなど気にもせず、籠から道具を取り出し吟味していた。 ハンコほどの太さがある鉄の棒と、ハエ叩き、アルコールランプ。 れいむには、何に使う道具なのか理解できなかった。 「れ、れいぶぅ・・・・」 背後から聞こえてきたまりさの声に、れいむは振り返った。 「ま!まりざぁああ!!?」 まりさの顔面は真っ黒に腫れ上がり、不気味な色をしていた。 暴力に耐え切れなかった内部の餡子が行き場を失い、皮の下で蠢いているのが見て取れる。 皮に傷らしきものはなかった。 人間で言うと、内出血に近い状態かもしれない。 「ごべんねぇ・・・まりざあ・・・・ごべんねえ・・・」 痛みを少しでも和らげてあげたい。 そんな思いから、れいむはまりさに頬擦りをした。 「ゆべぇっ!!いぎゃぁっ!!いぢゃいいい!!」 膨れた傷に力強く押し付けられたれいむの頬は、まりさに激痛をもたらした。 「やめでぇ!いだいよぉ!!!」 予期せぬ悲鳴に、れいむは思わず体を引いた。 そしてその言葉の意味をゆっくり理解する。 「ご、ごめんねまりさ!もうすりすりはやめるよ」 まりさは触れられた頬が痛いのか、目から涙をこぼした。 「ごべんねれいぶ・・・まりざ、れいむをまもっであげられながった・・・!それに・・・ありざのがわぃいかおがぁ・・・!」 「ゆっ!?ちがうよ!まりさはわるくないよ!!ぜんぶあのおにいさんがわるいんだよ!!」 元はといえば、いきなり自分たちを誘拐したあの人間が悪いのだ。 頬をあわせることはできないが、れいむはまりさに寄り添う。 そしてまりさの分の怒りも込めて、れいむは男を睨み付けた。 男はそのやりとりを冷めた目で見ていた。 この2匹を捕まえてから、男はまりさだけを隔離し暴行を加えた。 男にとって、まりさは重要ではなかった。 れいむの茎に実る赤ちゃんが大きくなるのを待つ間の退屈しのぎに利用されただけだ。 捕獲の際、邪魔をしたことに対する制裁の意味もあったが。 暴行に使われたのはハエ叩き。 竹製のごく一般的なものである。 スナップをきかせて延々と叩いた結果が、あのボコボコ饅頭である。 ハエ叩きは当たる部分の面積が大きいため、皮を破ることなく衝撃だけを伝える。 右頬、左頬、底部に頭頂部、後頭部。 全身余すところなく叩かれたまりさは、動くことすら苦痛なはずである。 念入りに叩かれた顔面は、見るも無残なほどに黒あざだらけだ。 『やめて!もういたいのいやだよ!』 『いだいよぉ!まりざのおかおがぁ!』 『きぼちわるいよ!なかがきもちわりゅいぃ!』 そんな叫びの声を掻き消すように、男はハエ叩きを振り続けた。 最後の頃になると、その場にいないれいむにまで助けを求めていた。 れいむを守るために戦っていたというのに、そのれいむに助けを求めるとはなんとも情けない話だ。 そして今、れいむの茎に実る赤ちゃんはプチトマトよりも一回り小さいくらいに成長していた。 捕獲した時点ではビー玉ほどであったから、だいぶ大きくなったといえる。 もうまりさに用はない。 男はハエ叩きを手に取った。 「ゆっ?おにいさんなんなの!?ゆっくりこないでね!!」 男に振り返り、れいむは警戒態勢をとる。 まりさは男の手に握られたハエ叩きを見て、黒あざだらけの顔を青くした。 「やぁああ!!!いだいのいやだよぉおっ!!!もうたたがないでえええぇぇ!!!」 ひゅんひゅんと、風を切る音を立てて男は素振りをした。 まりさの様子を見て、れいむはとっさに男の前に立ちはだかったが、横を難なく素通りされてしまった。 「さあ、続きをやろうか」 「ゆぅああ!!ゆるじでね!!もうゆるじでねえ!!」 壁に追い詰められたまりさに、容赦なくハエ叩きが飛ぶ。 鼓膜を突き抜けるような、乾いた音が部屋に響いた。 「ゆべえ!!いだいよぉお!!やめでええ!!」 倒れようとするまりさ。 そうはさせまいと、まりさの顔面に向かってハエ叩きがアッパーをする。 「びっぶぅ!!ゆぅぐぅ!!」 仰向けに倒れたところで、男は右頬と左頬に往復ビンタのごとく連続して攻撃をする。 手首のスナップが重要な技である。 「おにいさんやめてね!!まりさがいたがってるよ!!ゆっくりしないでやめてね!!」 ずりずりと近寄ってくるれいむに向かって、男はハエ叩きを突きつけた。 「赤ちゃんを叩き落としてやろうか?」 その言葉に先に反応したのはまりさであった。 「やべてね!まりざとれいむのあがぢゃんをいじめないでねっ!!」 「まりさ・・・!」 「れいむぅ、れいむは離れててね・・・!まりさならだいじょうぶだよ!」 必死で体を起こすまりさ。 それを見たれいむは無言でうつむくと、男から離れた。 「まりさぁ・・・」 「ゆっくりしていってね!!あかちゃんといっしょにゆっくりしていってね!!」 れいむに笑顔を見せたまりさだが、すぐにその表情は崩された。 やむことのないハエ叩きの嵐。 皮が破れないから餡子も漏れない。 いつまでもまりさの苦痛は続いた。 「まりさ・・・!まりさ・・・!」 れいむはただ、愛するものの名前を呼ぶことしかできなかった。 10分もすると、まりさは声すら上げなくなった。 男がハエ叩きを振り上げたまま、動作を止めた。 ドラ焼きのように平べったくなったまりさは僅かに痙攣しているものの、動く様子は見られない。 「まりざぁああ・・・・!!」 近寄ろうとするれいむに、男はハエ叩きを向けて牽制した。 「そろそろいいか。じゃあな、まりさ」 そう言うと男は立ち上がり、まりさを見下ろした。 一瞬、れいむに視線を移したがすぐに戻す。 「なにをするのぉぉ!?まりざをいじめないで!!」 れいむが言い終えるのを確認し、男は右足でまりさの体を蹴り飛ばした。 「ゆ゙っ!」 それだけ言い残し、饅頭もといドラ焼きがはじけ散る。 飛び散った餡子が壁にこびり付いた。 「い゙ゆあぁあ゙ああ゙ああ゙ああぁぁ!!!!!まりざああ゙あぁああぁあ゙ああ゙あ!!!!」 形が歪んだ帽子を前に、れいむは泣き崩れた。 最後まで赤ちゃんと自分を守ってくれたまりさ。 ありし日の親まりさと姿が重なり、れいむは赤ちゃんのことも忘れて泣き叫んだ。 「静かにしろ」 れいむの頬に、強烈な衝撃が走る。 「ゆびぃっ!?」 ひりひりと頬が痛む。 男の手に握られたハエ叩きを見て、れいむはその痛みの正体を知った。 まりさはこんなに痛いことをされていたんだ、れいむは身の危険よりも先にまりさへの感謝を覚えた。 「やべでえ!!れいむにはあがぢゃんがいるんだよ!!やべでねえっ!!」 「だったら黙っていろ。それなら叩かない」 普通だったら構わず泣き叫ぶところであったが、頬の痛みが冷静な考えを生み出した。 いま泣き叫んではまりさが守ってくれた赤ちゃんが危険にさらされる、と。 「ゆっ・・・・!ゆ・・・・!」 れいむはこぼれそうになる嗚咽をどうにか喉の奥に押し込め、代わりに涙を垂れ流した。 「そうだ。そうやって黙っていれば叩かない。赤ちゃんもちゃんと産める」 ハエ叩きを無造作に床に投げ捨て、男はアルコールランプに火をともした。 「ゆっ・・・!」 燃え上がる炎に、れいむは餡子が冷える思いをする。 それは本能からくる反応でもあったし、経験からくる反応でもあった。 れいむは以前、足(底部)を人間に焼かれ、動くことができなくなったゆっくり魔理沙の話を聞いたことがあったのだ。 あのゆっくり魔理沙も、人間に捕まった伴侶や子供を殺されて開放されたのだという。 男は右手に持った鉄の棒を火にかざしていた。 長さも太さも、ハンコほどだ。 熱で火傷をしないため、手ぬぐいのようなものを間に挟んで棒を持っている。 「さっきお前を叩いた道具、それで生まれたばかりの赤ちゃんを叩いたらどうなると思う?」 れいむに目線を移すことなく、男は言った。 声を出していいものかれいむは迷ったが、これはきっと大丈夫だろうと判断した。 「ゆっ・・・」 声に出すのも恐ろしい、れいむは返答に困る。 だが黙っていては、また叩かれてしまうだろう。 れいむは意を決して答えを告げた。 「・・・つぶれちゃうよ。・・・やめてね!おねがいだよ!」 餡子脳でも簡単に導き出せる結論だ。 あの叩く部分は赤ちゃんゆっくりの体よりもはるかに大きい。 さきほどの力で叩かれれば、簡単に潰れてしまうだろう。 「よくわかってるな。じゃあ俺の言うことを守れば赤ちゃんは潰さない」 「ゆっ!はやくおしえてね!!ぜったいにまもるよ!!」 火にかざした鉄の棒を見ていた男の目が、れいむを捉える。 「目を閉じて、俺がいいというまで黙っていろ。そうしないと・・・」 「ゆっくりとじるよ!だからあかちゃんをいじめないでね!!」 言い終える前にれいむは目を閉じた。 理解の早いゆっくりに、男は関心した。 「いいって言うまでだぞ。途中で目を開けたら、赤ちゃんがまりさみたいになるぞ」 「ゆぎっ・・・!ぜったいにあけないよ!!」 まりさみたいに、という表現にれいむは苦虫を噛み潰したような顔をしたが、目は閉じたままであった。 それを確認すると、男は熱した鉄の棒を火の上かられいむの頭上に移動させた。 そこにいるのは丸々と実ったれいむの赤ちゃんだ。 どれも順調に育っているが、まだ生れ落ちるほどではない大きさ。 男は一番手前にいた赤まりさに目をつけた。 左手に持ったピンセットで、ぴっちりと閉ざされた赤まりさの口を開ける。 目を閉じたままの赤まりさが表情に疑問符をつけるが、そんなものはどうでもいい。 赤まりさの口は、成長段階だけあってあまり大きくなかった。 ハンコの太さがぴったり合うくらいだろう。 喉も小さく、綺麗に研いだ鉛筆で穴を開けたくらいの大きさだ。 声は出るのかわからない。 男は熱した鉄の棒を躊躇うことなく、赤まりさの口内に押し込んだ。 予想通り、太さはぴったりであった。 「ゅ゙っ!?」 蚊の消え入るような、小さな悲鳴が男にだけ届いた。 れいむは赤ちゃんの危機も知らずに、目を閉じたまま待っている。 高温の鉄の棒は赤まりさの口内を焼き付けていく。 何度か鉄の棒を火に当て直しながら、男は鉄の棒で赤まりさの口内をこねくりまわした。 赤まりさはどうにか苦痛から逃れようと体を揺するが、男相手では無意味であった。 男が棒を抜くと、口をあけたままの赤まりさがいた。 口内はコゲで硬くなり、閉じることもできない。 喉も完全に焼き潰れたため、声を発することも、ものを食べることもできないだろう。 口としての機能はなく、ただ窪んでいるだけ。 そのことをわかっているのかいないのか、赤まりさは今にも死にそうな顔をしていた。 閉じた瞳から今にも涙があふれそうである。 男は思わず顔がにやけた。 時間がかかったが、男は同じように全ての赤ゆっくりの口を丸コゲにした。 赤ちゃん達から「くち」がなくなってから10時間ほど経った頃。 「ゆっ!あかちゃんうまれるよっ!」 ようやく出産のときがやってきた。 口を開けたままの赤ゆっくりが揺れ始めている。 男は読んでいた本を床に置き、その光景を楽しそうに眺めた。 一段と揺れが大きくなったかと思うと、ぽとりと1匹の赤ちゃんが床に落ちた。 長女となったのは赤れいむだ。 「ゆっ・・・!」 声をかけようとして親れいむは口を閉じた。 赤ちゃんの第一声を待とうと思ったからだ。 だが、いくら待っても赤れいむは声を上げない。 口を大きく開いているが、そこから出てくるものはなかった。 「ゆっ・・・?がんばってね!!」 生れ落ちた感動に喜んでいた赤れいむの顔は、徐々に暗く落ち込んでいく。 懸命に体を揺すったり飛び跳ねている様子から、声を出そうと努力していることが見て取れる。 静かな部屋に、赤れいむの跳ねる音だけが空しく響いた。 「おちびちゃん!ゆっくりがんばってね!!がんばってね!!」 「・・・」 飛び跳ねるのを止め、親れいむを見上げる赤れいむ。 その目には、涙が溜まっていた。 「お゙ねがいだよぉおぉおおっ!! おかあざんとお゙しゃべりしよゔよぉお゙おお゙ぉぉ゙ぉぉ!!!」 涙のダムは、その言葉をきっかけに崩壊した。 何本もの涙の線が、赤れいむの顔に浮かぶ。 「ゆっくりしていってね!!ゆっくりしていってねっ!!!ゆっぐりじでいっでねええぇえっ!!!」 「・・・」 お手本を聞かせようと、親れいむは定番のセリフを壊れたカセットテープのように繰り返す。 親の期待にこたえたいのか、再び赤れいむは体をねじったり、飛び跳ねたりを繰り返した。 そのやり取りを見ていた男は笑みを浮かべていた。 ゆっくり達のアイデンティティーともいえるセリフ「ゆっくりしていってね」は、男によって赤れいむから永遠に奪われているのだ。 それも知らずに無駄な努力を続ける親子を見ていると、笑いがとまらない。 「ゆっ!?またうまれるよ!こんどはげんきなあかちゃんがほしいよっ!」 「・・・」 茎に違和感を覚えたのか、親れいむは茎を見上げた。 間接的にではあるが「元気でない赤ちゃん」の烙印を押された赤れいむは、恨めしい顔をして親れいむを見ていた。 ふらふらと揺れる赤まりさ。 それは最初に口を潰された赤ちゃんであった。 「ゆゆぅ!がんばってね!!ゆっくりうまれてね!!!」 赤まりさはゆっくりするはずもなく、すぐに茎から離れた。 赤れいむのすぐ横に落ちた赤まりさ。 まだ目も開けていなかったが、親れいむは待ちきれないとばかりに声を荒げる。 「ゆっくりしていってね!あかちゃんっ!!ゆっくりしていってね!!!ゆっくりしていってねっ!!」 今度の赤ちゃんは、ちゃんとおしゃべりができるはず。 親れいむの願いが声のボリュームを引き上げる。 「ゆっくり!!ゆっ!!!ゆっぐりじでねっ!!!ゆっぐりいいいいい!!!!」 とても赤ちゃんを迎える表情ではなかった。 赤まりさが最初に見た親の顔は、般若のごとく歪んだ表情であった。 「・・・」 驚いたが、声は出なかった。 口内はウェルダンを通り越して丸コゲなのだ。 赤まりさは体を起こし、声を出そうと体をひねった。 「ゆっ・・・!?こっちのおちびちゃんもなのぉおお!?」 その動きに、長女の赤れいむと同じものを感じる親れいむ。 しばらくすると、赤まりさは飛び跳ね始め、そして泣き出してしまった。 やっぱりこの子もおしゃべりができない子なんだ、親れいむはその事実を認めざるを得なかった。 「で、でもつぎのあかちゃんはきっとゆっくりできるよ!!」 茎を見上げる親れいむの目は、希望と不安が入り混じった色をしていた。 焼かれた時点でこの結果は決まっていた。 結局、生まれ落ちた赤ちゃんゆっくり9匹は、1匹として第一声をあげることがなかった。 「どぼじでぇ・・・・どぼじでなのぉお・・・!?」 9匹の赤ちゃんを前に、オロオロと対処に困っている親れいむ。 それを黙って見つめる9匹の赤ゆっくりも神妙な面持ちだ。 「ゆっくちさせて」「ゆっくちちたいよ!」「おかーしゃんとすりすりしたい!」などと一部の人間が聞いたら有頂天になるようなフレーズを言うものはいない。 中には涙を流している赤ゆっくりもいるが、口が笑っている状態のため、あまり可哀想に見えない。 「ゆっ・・・!」 親れいむは思う。 喋れなくても、自分とまりさの大切な赤ちゃんなのだと。 少し生活に困るかもしれないが、自分が守ってあげればきっと元気な、ゆっくりした子に育ってくれるはずだ。 この子達にとって、ただ一人のお母さんなのは自分。 亡きまりさが守ってくれた赤ちゃん。 自分を守ってくれた親まりさのようになるんだ。 親れいむは赤ちゃん達を正面から受け止める決心をした。 「みんな、ゆっくりしていってね!!!」 力強さを感じる親れいむの「ゆっくりしていってね」。 赤ゆっくりから不安が消えた。 このお母さんならゆっくりさせてくれる、そう感じるほど頼りがいのある声であった。 「それじゃあゆっくりごはんをたべようね!」 まずは赤ちゃんの旺盛な食欲を満たそうと考えたのだろう。 親れいむは水に濡れた犬のように体を揺すり、頭に生えた茎を落とした。 「ゆっくりたべてね!」 満面の笑みで親れいむは子供達を見守る。 赤ゆっくりの目も笑っていた。 幸せな家族のワンシーン、そうなるはずだった。 「ゆ・・・?ゆっくりたべてね?」 茎の周りに9匹の赤ゆっくりが群がっているのだが、1匹として食べる気配がなかった。 顔を近づけ、口に含むような動きをするが、それから先へは続かない。 口内は硬くて動かない、そして喉もないので飲み込めない。 男だけが赤ゆっくりの不思議な行動の理由を知っていた。 「ゆっ!わかったよ!」 何を思いついたのか、親れいむは赤ゆっくり達の間に押し入り、茎にかじりついた。 むーしゃむーしゃと言いながら、茎を咀嚼する親れいむ。 横取りされるのではないかと、不安な表情で9匹が見守っている。 「まずはおちびちゃんからだよ!」 一番近くにいた赤れいむに、親れいむは口を近づける。 そして、開きっぱなしの赤れいむの口に、噛み砕いて唾液まみれになった茎を流し込んだ。 「かたくてたべられなかったんだね!!でもゆっくりりかいしたよ!!」 記憶をたどり、自分が赤ちゃんであったときのことを親れいむは思い出していたのだ。 ご飯が食べられなかった自分におかあさんが、噛み砕いたご飯を食べさせてくれたことを。 口移しを終え、親れいむは達成感にあふれる顔になった。 「ゆっくりたべてね!むーしゃむーしゃだよ!」 だが赤れいむはそれに答えず、固まっていた。 開いた口には噛み砕かれた茎がそのまま残っている。 「むーしゃむーしゃだよ!!!ゆっくりりかいしてね!!むーしゃむーしゃだよっ!!!」 自分はできたこと。 それなのに、なぜ自分の赤ちゃんはできないのだろう。 親れいむの中に不安が広がり、声が荒くなっていく。 それを敏感に察知した赤れいむは、必死で飲み込もうと努力をした。 だが、開いてない喉にご飯は通せない。 しばらくすると、動くことをやめて親れいむを見つめ始めた。 助けてくれると信じて。 「・・・」 「どうじでぇ・・・?ごはんをたべないとゆっぐり゙できないのにぃいい・・・・」 他の赤ゆっくりにご飯を食べさせようとしたが、結果は変わらなかった。 途方に暮れた親れいむは、男に頼ることにした。 「おにいざん・・・・あかちゃんにごはんをたべさせてあげて・・・」 親れいむの顔はどことなく歪んで見えた。 涙で皮がふやけたのかもしれない。 「無理だな。赤ちゃんの世話はお母さんのお前が一番上手に決まってる」 「ゆぅ・・・そうだよね・・・ごめんね・・・」 「そんなお前が赤ちゃんにご飯を食べさせられないなんて」 「ゆゆ・・・」 「お前が無能なせいで赤ちゃん達はゆっくりできないんだよ。ダメな親を持って残念だったね、そこの赤ちゃん達」 男が言い終えると、赤ゆっくり達はうつむいていた顔を上げた。 その顔に涙は無い。 あるのは怒りの表情。 口は笑っているが、その目は鋭く、眉は45度を保っていた。 「ゆっ・・・?どうしたのおちびちゃんたち・・・?」 最初に飛び掛ったのは赤まりさだ。 プチトマトほどの赤まりさが、バスケットボールほどもある親れいむの頬にタックルを仕掛ける。 「ゆ!?」 特に反撃をしたわけでもない。 体格差から、親れいむは赤まりさを弾き飛ばしていた。 「どうしたの!?ゆっくりやめてね!!」 その赤まりさを引き金に、次々と赤ゆっくり達が親れいむに体当たりを始める。 無言で飛んでくる弾丸プチトマト。 顔には怒りと憎しみだけが写し出されていた。 「やめてねっ!!おかあさんだよ!?ゆっくりやめてね!!」 親れいむはケガをするどころか、痛みすら感じなかった。 質量も速度もない赤ちゃんゆっくりの体当たりには、攻撃のコの字すら感じられない。 しかし、親れいむはその衝撃を通じて赤ゆっくり達の声を聞いた。 『おまえのせいでゆっくりできない』『やくたたず』『それでもおやか』『ゆっくりしね』 『ゆっくりさせろ』『まりさがくるしいのはおまえのせいだ』『れいむはゆっくりしたいのに』 『おねがいだからゆっくりさせてよ』『もっとゆっくりできるおかあさんがほしかった』 無論、それは親れいむの餡子内で勝手に想像した言葉にすぎない。 だが赤ゆっくり達が訴えたい内容としては、正しいものだろう。 本来であれば、そっちの人たちが天にも昇るようなセリフで親を罵っているはず。 一言も喋ることなく体当たりを繰り返す赤ゆっくり達の姿は、実に新鮮だ。 先ほど弾かれた赤まりさは、ころころと床で数回転がると、すぐに立ち直った。 そして再び眉を引き締め、親れいむの元へ跳ね寄る。 今度は顎のあたりを目掛けて体当たりを繰り出し、また弾き飛ばされた。 赤まりさは言葉を発することなく、延々と同じような動作を繰り返した。 その異常な光景に、男は声を立てて笑い始めた。 親れいむが男を一瞬だけ睨んだが、すぐに赤ゆっくり達に向き直る。 「もうやべでえええ!!!ゆっぐりじでよぉおおおっ!!!」 壁に追いやられた親れいむが叫んだ。 相手は弱っている、と勘違いした赤ゆっくり達がさらに体当たりを加え始める。 赤ゆっくり達の体には、かすり傷ができていた。 親れいむにぶつかった時や、床を転がるときにできたのだ。 体当たりをする度に増え、見ていて痛々しいのだがそれでも懸命に赤ゆっくり達は立ち上がる。 それを見て、親れいむの心が痛む。 傷だらけになってまで自分を殺そうとする赤ゆっくり達に、体は痛まないが心が痛む。 ゆっくりさせてあげると誓った赤ゆっくりが、ゆっくりすることなく自分に立ち向かう。 なぜこんなことになってしまったのだろう。 親れいむは嗚咽をこぼし、涙を流す。 それが赤ゆっくりを調子付けているとも知らずに。 「赤ちゃん達、ちょっといいかな」 猛攻を止めたのは、暢気に鑑賞していた男。 何かを期待しているのか、赤ゆっくり達の目が輝いている。 「君達、ご飯食べられないんだよね」 9匹が目線を床に移した。 親れいむだけは男の目を見たままだ。 「あんまり運動すると、おなかすいて死んじゃうよ」 「ゆっ!!」 親れいむは思わず声を漏らしてしまった。 ご飯を食べないと餓死してしまう。 そんなことにまで頭が回っていなかったのだ。 「ちびちゃんたち!うごいちゃだめだよ!!おなかがすいてしんじゃうよっ!」 その言葉に、赤ゆっくり達は顔を青くした。 もうすでに空腹感があるのだろう、迫りくる死をゆっくり理解したようだ。 「ゆぅぅううぁぁああ!!!どうじだらいいのぉおぉ!!??」 慌てふためく親れいむとは裏腹に、赤ゆっくり達は静かに瞳から雫をこぼした。 「泣いてると、喉が渇いて死んじゃうよ」 そもそも、喉が渇くどころかコゲている。 男の言うことがわかるのか、赤ゆっくり達は顔に力を入れて涙を止めようとした。 「はやくじないどあかちゃんがゆっぐりでぎなくなっぢゃうよぉおぉ!!!」 生まれたときからゆっくりしていない、男はそんな感想を持った。 8時間が経った。 男はその間、一切口を挟むことはなかった。 死のゴールが見えているゆっくり達をいじる、そんな無粋なマネはしない。 最期の時まで生暖かく、助かる道を探す親れいむを見守るのだ。 そんな道など存在はしないが。 「ああぁぁ・・・おちびちゃん・・・ごめんねぇええ・・・・」 今、1匹の赤ゆっくりが目を閉じた。 通算8匹目。れいむ種では最後の1匹となる。 あれから、赤ゆっくり達は何もしなかった。 忍び寄る餓死の足音におびえながら、目の前にいる親れいむを恨む事でなんとか正気を保っていたのだ。 憎しみに染まった8の瞳が、親れいむをずっと捉えていた。 赤ゆっくりは総じて体力が少ない。 小さな体では、体力となる餡子があまり確保できないからだ。 旺盛な食欲は、生きるための本能である。 親れいむへの攻撃と、それによって負った傷は予想以上に赤ゆっくりから体力を奪っていた。 7時間を越えた辺りで最初の1匹、赤まりさが永遠にゆっくりした。 それから先は早く、赤ゆっくりは次々と瞳を閉じた。 動かなくなった赤ゆっくりは、ほとんど皮だけの状態になっていた。 最後まで親れいむを睨み続けていた目の周囲や眉間に、深いシワが残っている。 「がわいいれいむがぁあ・・・!おめめをあげでねぇえ!!れいむ゙をにら゙んでもい゙いがらぁ・・・おね゙がいだよお・・・・」 れいむれいむと泣き叫ぶ親れいむを、最後に残った赤まりさが真っ赤になった目で睨みつける。 赤まりさの体はほとんど皮だけになっており、あちこちにシワが走っていた。 もう長くないはずだ。 そう思っていた男、そして親れいむも赤まりさの次の行動に驚く。 「・・・・ゆ゙っ!?」 たるんだ皮を引きずり、赤まりさは親れいむに近寄っていく。 その目に光はない。 幼くして死を受け入れた目。だが、その奥には黒く歪んだ感情が潜んでいた。 「まりざぁ・・・!ゆっぐりしようねっ!おがあじゃんがすりすりじであげるがらねっ!!」 隠された激情に気がつかない親れいむ。 最期の時を親である自分と過ごそうと思っている、そう勘違いした。 「ゆ゙!おがざんと・・・いっじょにゆっぐりじようねっ!!」 だから、親れいむは笑顔を作った。 赤まりさをゆっくりさせてあげたい。 切なる願いだった。 「・・・・ゆ?」 体に感じた、小さな衝撃。 それは、赤まりさの最期の体当たりだった。 「ゆ゙ぁあ゙ああ゙あぁ゙ぁあ゙っ!!!!」 弾けとんだ赤まりさは、床に落ちて絶命した。 仰向けに倒れたままだ。 「あ゙りざあぁあぁぁあ゙あ!!!どぼじでえ゙ええ゙ええ゙っ!?!?!?」 他の赤ゆっくりと違い、赤まりさの目は開いたままだった。 完全に光を失いながらも、その瞳は親れいむを睨みつけていた。 「あ゙ぁああ゙ああ゙ぁあああ゙ああ゙あ゙あ!!!!!!ごべんねええ゙ぇえ゙ええ゙っ!!!ごべんねぇええ゙え゙!!!おがあ゙ざんをみらいでえぇえ゙え!!!」 狂ったように嘆き叫ぶ親れいむを置いて、男は部屋を後にした。 「ぁあ゙あ゙・・・・あ゙ああ゙あぁ゙あ゙あ゙ぁぁ・・・」 外へ通じる扉を開け放したまま。 しばらくして男が部屋に戻ると、そこに親れいむの姿は無かった。 床には赤ちゃんゆっくりの死骸も見当たらない。 食べたのか持ち帰ったのか、男にはもう興味のないことであった。 それから数日後、農家の男性が1匹のゆっくり霊夢を発見した。 どうやら洞窟の中で赤ちゃんを育てているようだった。 男性は、そのれいむがエサを探しに行っている間に赤ちゃんを捕獲ようと、洞窟に入った。 だが中にいたのは、真っ黒になって腐っていた9匹の赤ちゃんゆっくりであった。 帽子やリボンがあったので、かろうじて赤ゆっくりだと判断できた。 不気味に思い、洞窟を離れたところで親のれいむが帰ってきた。 様子を伺っていると、洞窟の中かられいむの歌が聞こえたり、赤ちゃんにご飯を食べるよう促す声が聞こえてくる。 男性は気味が悪くなり、その場から逃げたのであった。 それからさらに数日後。 男は書斎で、一冊の本を手に取った。 「お、また来てる」 文庫本ほどの大きさ。 今もこの世界や別の世界で、ゆっくり達が虐待されている。 その様子を自動で小説に変換し、ページを増やす、魔法の本。 男はこの本に影響されて、ゆっくり霊夢を虐待することに決めたのだ。 本に登場する赤ちゃんゆっくりは、大抵我侭で口が悪く、生意気で浅ましい。 男の経験でもそれは正しかった。 親を親とも思わないものばかりだ。 そんな物語を読んでいた男は、赤ゆっくりをゆっくりさせることなくその命を散らせてやろうと思ったのだ。 まったく関係のない親れいむにとってはいい迷惑である。 「・・・これ、俺じゃん」 新しいページには、赤ちゃんゆっくりの口を焼く男の話が載っていた。 どう読んでも自分のことである。 「あー、新作まだかなー」 男は本を棚に戻すと、たまった鬱憤を晴らすため、今日も森へと足を運んだ。 作:アルコールランプ このSSに感想を付ける
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かってにはえてくる 10KB 理不尽 越冬 ドスまりさ 自然界 人間なし 独自設定 ドス設定曖昧気味 寒い寒い森の中。 冷たい地面の土からいきなり前触れも無く、 "ボコッ!!" と、黒く尖ったピラミットが地面から突き出した。 その奇妙な物が生えている周囲の土が、 "ゴゴゴゴゴゴッ!!" と、低い唸りを上げながら亀裂が走っていく。 「にょきりぃいいいいいいいいいいーっ!!」 地面から飛び出してきたのは巨大なドスまりさ。 体に土の破片を付けながら、穴の中からずーりずーりと這い出してくる。 「ゆっくりはえたよ!! どすはとってもげんきだよ!!」 プルプルと大きな体を振るわせながら土を周囲に撒くドスまりさ。 「…どすだ……」 「……どすだね」 「ゆ?」 ドスまりさは声のした方へと顔を向ける。 そこには、れいむとまりさのツガイが目を丸くして固まっていた。 まりさの方は今日の狩りで獲た食料を口からボロボロと地面に零しながら驚いている。 「どすだあああああああああっ゛!?」 「どすだよおおおおおおおおっ゛!?」 大声を叫びながら何処かに飛んでいくれいむ夫婦。 それを無言で見送るドスまりさ。 ツガイの姿はあっという間に茂みへと消えた。 「……? あっ!? たべものさんだ! ちょうどおなかすいてたんだよ~っ!!」 まりさが置いていった食料を遠慮なく食べるドスまりさ。 一口でペロリと平らげた後、ドスはツガイが消えていった方向へと移動を開始した。 木の枝に体を引っかけないように慎重に進んでいくドスまりさ。 少し進んだ後、木々の間が開けた小さな広場に辿り付く。 『『 どす!! ゆっくりしていってね!! 』』 「ゆ?」 そこに居たのは大勢のゆっくり達。 森で暮らす野生のゆっくり達だ。 「でもすこしおやすみしすぎだったよ!!」 「そうだよ!! もうすぐふゆさんがきちゃうところだったよ!!」 「ずっとゆっくりどすをまっていたんだよ!!」 ドスまりさの周辺に群れのゆっくりが集まっていく。 大きなドスの体に全身をすり寄せてくる小さなゆっくり達。 その誰もが歓迎の言葉を口にしていた。 「ゆ~ん!! どすはむれのおさにゆっくりなるよ!!」 『『 ゆっくりしていってね!! 』』 瞳に涙を溜めながら長宣言をしたドスまりさ。 周囲のゆっくり達も笑顔で答えた。 「さっそくおいわいのじゅんびをしてね!! どすはおいしいものがいっぱいたべたいよ!!」 ドスはお腹が空いていた。 先程食べた少量の食料では満たされる訳が無い。 「どす!! こっちにゆっくりきてね!!」 「ゆん? どすのおいわい……は……?」 群れは慌しく森の奥に消えていく。 一人取り残されたドスは後を追いかけるしかなかった。 群れとドスは大きな岩盤付近で停止した。 「ここにゆっくりあなをあけてねっ!!」 「どすならかんたんでしょ?」 大きな岩壁を指し示しながら、ドスにお願いをするゆっくり達。 『どうして?』と、ドスが聞いてみた所、理由が明らかになる。 今まで住んでいる木の根元や土壁の穴は崩れる危険性があるらしい。 冬の寒さと雪の重さに耐えれる住処、それは岩盤に掘られた洞穴が一番ゆっくりとの事だ。 『群れが住める広さの穴を掘って欲しい!』 との申し出を受けたドスまりさは、張り切りながらスパークを打つ準備に入った。 ここが今から皆で住む場所になるならば多少の労力は仕方が無い。 それに、 おさの力を群れに見せ付けるいい機会だ。 ドスは賢くて一番偉いと認識させる必要性がある。 と、ドスはしたたかに考えていた。 「ゆううううううううううううううううっ!!」 "ビガガガッ" と、口からスパークを放出するドスまりさ。 岩肌が削れて大きな穴が開いていく。 「……ゆっくりあいたよっ!!」 にこやかに宣言したドスまりさの足元を群れのゆっくり達が通っていく。 それぞれが自分の決めたゆっくりプレイスの場所に陣取ると、 頬いっぱいに詰め込んだ荷物を地面へと吐き出す。 「ゆ~ん! ここはゆっくりできるよっ!!」 「みゃみゃ!! ぺーりょぺーりょちてにねっ!!」 「ゆゆ~ん! いいこでかわいいあかちゃんだよ~!!」 「ゆふゅ~ん!! くちゅぎゅったいよっ!!」 「……」 全てのゆっくり達は、作業をしたドスに感謝言葉を掛ける事も無く、思い思いのままに寛いでいる。 ドスは目を点にしながらゆっくり達でいっぱいに詰まった洞穴の内部を凝視していた。 そこにドスまりさの体が入るスペースは無い。 「ゆ……ゆっくりべつのばしょをほるよ! おさはもっとおおきいぷれいすじゃなきゃだめだよね!!」 ここは群れが暮らすプレイスだと無理矢理自分を納得させるドス。 乾いた笑顔を浮かべながら移動をしようとしたドスまりさ。 「ゆえ~ん!! しゃむいよ~っ!?」 「ゆゆゆゆっ!? おちびちゃんすこしまっててねっ!! ……どす!! おねがいがあるよ!! あそこのきをたおしてね!!」 「………ゆえ?」 立ち去ろうとしたドスまりさにお願いをしてくるゆっくり。 枯葉を毛布にするらしい。 地面に降り積もるのを待っていられないようだ。 「どす!! はやくしてねっ!!」 「そうだよ!! おちびちゃんがかわいそうなんだよ!!」 「ゆっくりおねがいをきいてねっ!!」 周囲のゆっくり達も騒ぎ出す。 赤ゆは泣き出してより一層煩くなっていった。 「わかったよ!! いうとうりにするよっ!!」 ドスは体を縦に振って了承の合図を取るしかなかった。 ドスの目の前にあるのはそれなりに大きい木。 「どすはえらいんだよ!! ゆっくりかんしゃしてねっ!!」 そう叫びながら木に向かって突進した。 体当たりの旅に度に大きく揺れて枯葉が舞い落ちてくる。 ドスのお肌が赤く染まっていく。 痛みが体を駆け巡る。 それでも群れの為に体当たりを続けた。 「……ゆふ~。ゆっふ~ん……どう!?」 踏ん反り返って威張るドスまりさ。 それなりの集荷が得られたと自賛して態度が増徴していた。 「これだけじゃたりないよ!!」 「もっとまじめにおしごとしてねっ!!」 「どすはこんなこともできないのっ!?」 有頂天なドスに向けられたのは慈悲無き言葉。 実際、枯葉の量は足りないが、労いの言葉を掛けてくれないドスは相当へこんだ。 その後も瞳に涙を滲ませながら枯葉を落とし続けた。 「……ゆひぃいいいっ……ゆああああああっ゛……」 体の前面を真っ赤に腫らしたドスが地面に横たわる。 群れが満足がいく枯葉の量を集めるまでには相当な労力を必要とした。 ドスの視界の先では枯葉のベットに包まれた赤ゆが幸せそうに眠っている。 「ゆうううっ……どすはおなかへったよ……」 体当たりを繰り返した際、落ちた木の実を口にしようとしたら怒られたのだ。 保存食を食べるドスはゆっくり出来ないと。 だから何も口にせず、一心不乱にドスは群れの為に頑張った。 「むーちゃむーちゃ! ちあわちぇ~っ!!」 なのに、ドスの目の前では別の赤ゆが幸せそうにご飯を食べていた。 ドスはやりきれない気持ちで一杯だった。 硬くて冷たい地面の上でドスは静かに泣いていた。 「ゆっくりたべてねっ!!」 「…ゆ……ひっくっ?」 ドスが泣きしゃっくりを響かせながら視界を上げると、 そこには群れのゆっくり達がドスを囲むように集まっていた。 そっと差し出されたのはお団子のような塊。 ドスは笑顔を滲ませながら喜びを露にした。 これでドスは長に認められたんだね!? そう思いながらドスはお団子を口にした。 「むーしゃむーしゃ!! しあわせ~んっ!!」 あまり美味しくないお団子だ。 でも、ドスにとっては何よりのご馳走だったに違いない。 これは認められた証なのだから。 「ゆっくりどすもおうちにはいるよ!! ……はいるよ? ゆゆゆ? なんだか……」 ドスは体をフラフラとさせた後、 「ゆうううっ゛!?」 大きな音を立てて、うつ伏せに倒れた。 もぞもぞと体を動かすドスだったが、 (あんよさんが動かないよっ!?) 全く動かない足、いや、全身が思いどうりに動いてくれない。 「ゆっくりしようね!!」 「ゆっゆお~!!」 (何? 何なの!?) 聞こえてくるのは群れの声。 今から何かをしようとしている合図と雄叫び。 ドスまりさはゆっくり出来ない寒気を感じていた。 その悪い考えは的中してしまう。 周囲に集まったゆっくり達がドスの体を齧り始めたのだ。 「ああああああっ゛!? いだいいいいいいいいいっ゛!!」 容赦なく体に歯を立てられたドスまりさは悲鳴を上げる。 地面に触れたお口の中に泥が入り込み、土の味が口内全体に広がった。 「やべでええええええっ!! どずはおざなんだよっ゛!? えらいんだよっ゛!! とっでもゆっぐぢじでるのにいいいいいいっ゛!! どぼじでごんなごどずるのおおおおおおおおおっ゛!?」 涙を地面に吸わせながらドスは叫ぶ。 それを聞いた群れのゆっくり達は、 『『 ゆ? なにをいっているの? 』』 「ゆぎいいいいいいいいいいいいっ゛!? どずのきらきらのかみのげざんがああああああああああっ゛!!」 ブチブチと髪の毛を引きちぎる。 ドスまりさの髪の毛はどんどん短くカットされていった。 『『 なにをいってるのかがわからないよ? 』』 「ゆあああああああああああっ゛!? どすのおおきなおぼうしざんがあああっ゛!? ゆっぐぢがえじでええええええっ゛!!」 大勢のゆっくり達がドスの大帽子を洞穴の中へと運んでいく。 『『 だってどすは…… 』』 「いだああああああああいっ゛!! もちもちほっぺさんをめぐらないでええええええええっ゛!?」 ベリベリと外皮を剥かれていく。 破かないように丁寧に、そして大胆に。 『『 かってにはえてくるんだよ? 』』 「おごああああああっ゛!? あんござんがああああああっ゛!! だいじなあんござんがああああああっ゛!?」 中身を貪り食われているドスには、ゆっくりの声が聞こえていなかった。 ドスはそれどころでは無い。 死ぬかどうかの瀬戸際に立たされていたのだから。 頬を大きく膨らましたゆっくり達が洞穴の巣に戻り、 黒いドスの餡子を吐き出した後、またドスの内部へと戻っていく。 そして、口いっぱいに餡子を頬張っていくゆっくり達。 「きらきらさんはほしくささんにまぜてたべるんだよ~」 「くろいものはおふとんさんにまぜようね!! ぽかぽかになるよ!!」 「はだいろさんはけがのちりょうにつかえるね!!」 「あんこさんはとってもゆっくりできるよ~」 そう呟きながら、忙しそうに洞穴を走り回るゆっくり達。 群れの全てがドスから剥ぎ取った物を加工するために世話しなく動いている。 これがこの群れの冬支度。 ドスは厳しい冬を乗り切るための重要なアイテム。 頑強な住みかを掘ったり、暖を取るための枯葉などをとる重機代わりにされ、 用が終わり次第、解体されて食料等に姿を変える消耗品。 『どすはかってにはえてくる』 その考えを持った群れはドスを長に迎えようとはしないのは当然。 このドスもバラバラに分解されて短いゆん生を終えた。 雪がちらつくお外の出口を塞ぐ群れのゆっくり達。 今から本格的な冬が訪れる。 これでお外の世界は当分見納めだ。 「ゆ~ん……おちょとであちょびたいよ……」 悲しそうな顔で呟く赤ゆ達。 遊び盛り、食べ盛りの状態でお外の世界から監禁生活になってしまうのは辛いだろう。 「これでゆっくりあそんでね!!」 「…ゆ? ゆーんっ!! こりぇはちゃきゃらもにゅにちゅるよっ!!」 "ゴロリ"と、地面に転がされた遊び道具はドスの大きな眼球だった。 それを奪い合うように眼球と一緒に転がっていく赤ゆ達。 ここには甘い食べ物も沢山蓄えがあり、ポカポカとした毛布も大量にある。 どのゆっくり達も幸せな表情を浮かべながらとてもゆっくりしていた。 「ゆ~ん。ふゆごもりさんはゆっくりできるよ~」 誰かが呟いた言葉に頷きながら枯葉の毛布に潜り込むゆっくり達。 " 来年の冬はドスが生えてこないのかもしれない。" そんな事態が起こるかもしれないとは誰一人考える事は無く、 暖かい毛布の中で眠りにつく群れのゆっくり。 今から快適な越冬生活が始まる。 ・どすが生えてくるお話 それを有効活用する群れの物語 ・明確な発生方法は無いので生やしてみました ゆっくりオーラ諸々の設定は曖昧です ・ぬえにも一本あげました 過去作 ふたば系ゆっくりいじめ 593 迷作劇場 ふたば系ゆっくりいじめ 572 ぎゃんぶらー ふたば系ゆっくりいじめ 507 火の用心 ふたば系ゆっくりいじめ 500 駄目だよ? ふたば系ゆっくりいじめ 458 ドゲスー ふたば系ゆっくりいじめ 449 希少種の価値 2 ふたば系ゆっくりいじめ 448 希少種の価値 1,5 ふたば系ゆっくりいじめ 443 希少種の価値 ふたば系ゆっくりいじめ 398 ゆっくり達を必殺技で葬る物語 ふたば系ゆっくりいじめ 382 穴だらけの計画とその代償 ・他、4点 トップページに戻る このSSへの感想 ※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね! 感想 すべてのコメントを見る 珍しいかわいそうなドス -- 2019-03-29 21 12 08 こいつらドスに食わせる団子何処から持って来たんだよ -- 2015-02-17 17 34 20 こいつら屑で生きてるいみねぇ -- 2014-05-15 18 43 02 無駄無駄無駄無駄あああああああああああああああ -- 2012-07-23 15 00 43 ドスが頻繁に勝手に生えてくる世界でなら、こういう扱いになるだろね。 人間でいう鯨みたいな? 気のいいドスが救われないのは、それが人ならぬゆっくりらしさってことでw -- 2012-06-04 03 20 51 どすは勝手に生えてくるのか・・・ それだったら山中どすだらけになると思う。 -- 2012-03-28 21 19 18 あれ、ドスみたいなべんりなゆっくりを平気で処分できるほど、恵まれた群れってこと? (捕食種がいないとか) -- 2011-07-12 22 19 09 脆弱な饅頭共を唯一守ってくれるドスを殺してしまったらもうあらゆる動物に喰われ尽くされるだけやがな -- 2011-05-14 01 52 48 まあイライラ感だけが残ったわけだが・・・ -- 2011-03-05 09 48 02 うん、設定は面白いがストレスマッハ -- 2010-11-26 16 24 09 このドスゆっくりは便利な道具として神様が与えてくれたんだね、わかるよー しかしドスを毒で動けなくして殺すとは… このやり方を発見するまではどうやって殺してたんだかw -- 2010-10-19 17 52 58 ただまあ、ちょっとイライラするかな……読後感が悪い。 -- 2010-07-31 19 21 02 『え、なにこれ。意味解んない。』って書いた者です。 なるほど。れみりゃ・ふらんが他のゆっくりを喰うようなものか。 善し悪しは関係なく、只々「当たり前なこと」。自然のシステムみたいなものか。 ご教授、感謝します。 -- 2010-07-08 10 15 39 いあ、この群れにはゲスしかいないんじゃなくて この群れではドスはゆっくりではなくてドスという別の生物として認識されてるということでは? そして、勝手に生えてくるドスという生き物は自分達ゆっくりの冬越しのために命を落としてくれる という考えがこの群れにはあるということではないだろうか この群れにおけるドス殺しは人間で置き換えると一種の『文化』だし、ゲス行為は特にしてないだろう -- 2010-07-08 01 53 43 まぁ、’この群れ’はゲスしか居ないって事じゃないかな? 群れへの制裁編があったら救われたかも? -- 2010-07-04 03 27 32 え、なにこれ。意味解んない。 -- 2010-07-03 19 29 55
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ゆっくりみんな入ってね! 初投稿となります。 初めて文書を書くので拙い所がありますのでそれが駄目な人は戻る事をお勧めします。 「む~しゃむ~しゃ、しあわせ~」 畑に現れたゆっくりの群れ。 そこには今年は豊作過ぎたため廃棄予定のキャベツがあり、群れはそれに舌鼓を うっていた。 だからすぐ近くにいる俺に誰も気付きはしない。 別に喰われても痛くはないがこれに味を占められたら厄介だ。 俺は一匹ずつ捕まえていく。 人間が来た事に気付いた奴らもいたが「ゆっくりしていってね」といえば勝手に 反応して硬直してくれるから一匹も逃さずに捕まえられた。 「ひの…ふの…」 合計で二十匹前後ってとこか。 そう思い取り出すのはゆっくり一匹が通れる程度の穴が開いたガラスの箱。 ゆっくりが六匹もいればギュウギュウになってしまうサイズだ。 さて、俺は籠の中にいるゆっくりを取り出す。 「まりささまをはなせクゾジジイッ!!!」 いきのいいまりさだ。おそらくゲスだろう。 「はい、今放してやるよ」 そう言って箱の中に詰める。 「ゆべッ!?」 ベチャ、とまりさは箱の中に落ちる。 「なんなんだぜここはッ!!! ジジイ、しにたくなきゃまりささまをここからだすんだぜッ!! あとごはんをもってくるんだぜッ!!」 ダメダメ、君はもうここから出られないから。 続いて再び籠からゆっくりを取り出す。 続いて取り出すのはゆっくりぱちゅりーだ。 「む、むきゅ…こんなことしたからどすがだまって…」 この近くにいたどすは最近虐待お兄さんが殺してたからそんな事言っても無駄だ 。 「むぎゅべぇッ!?」 箱の中に落ちたぱちゅりーは落ちたダメージでピクピク痙攣し始めていた。 「ぱ、ぱちゅりー。だ、だいじょぶなのかだぜッ!」 ゲスまりさが近付くがそんな余裕はない。 既にぱちゅりーとゲスまりさで底面は座る場所はない。 だがそんなのしったこっちゃない。 籠から取り出したゆっくりれいむを箱の中にいれる。 これは気付くようにゆっくりと入れる。 「ゆッ!?こっちきちゃだめなんだぜれいむ!! ぱちゅりーがつぶれちゃうんだぜ!」 「む…むきゅ…」 落ちただけで病弱なぱちゅりーには大きなダメージだ。 そこにれいむが落ちて来たらぱちゅりーが助かることなどありえない。 まぁもともとお前等全員生き残ること自体がありえないんだがな。 「やべでぇ゛おじざん…ゆっぎゅりじようよ…」 押し込めようとするの必死で耐えるれいむ。 まあこちらが手加減してるだけで抵抗なんて無いに等しいんだがな。 そして、遂にれいむは箱の中に入って行った。 「ぎぢゃだべっでいっだのに゛いーッ!!」 「ゆべッ!!」 「むぎょッ!!?」 れいむはそのままぱちゅりーの上に着地した。 「ぱちゅりーッ!!?」 まりさが叫ぶがぱちゅりーは力無くヒューヒュー息の漏れる音を出し、口から餡 子の泡を出していた。 「も…もっちょ…ゆ゛…」 もっとゆっくりしたかった。 そう言い切ることすら出来ずぱちゅりーは息絶えた。 「ぱちゅりーいいいいいッ!!?」 恋人か何かだったのだろうかゲスまりさが悲痛な声で叫んだのだった。 「う…ううん…」 落下の衝撃で意識を失っていたれいむが目を覚ます。 「ゆ…まりさ…ゆっくり」 「ゆっぐりじないでじねええええッ!!!」 まりさがれいむに体当たりをする。 「ゆぎゃッ!!」 まともに体当たりを喰らうが場所が狭い為壁に当たり、助走も付けられないから 大した威力にもならない。 「よ゛ぐも゛ばぢゅ゛り゛ーを゛づぶじだな゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!」 「ゆぎょッ!ゆぎッ!げぼッ!」 れいむは言い訳をする事すら出来ずまりさの攻撃を喰らい続けている。 だがかなしいかなまりさの攻撃ではれいむは致命傷にすら至れない。 れいむが死ぬには長い時間が必要だろう。 そこまで待ってやれる程俺は悠長ではない。 というかまりさお前もぱちゅりー踏んでるぞ。 籠からまりさを取り出す。 そしてそれを箱の中に入れた。 「じぶぇッ!!?」 こんどはまりさの上にまりさが落ちる。 いくらぱちゅりーに比べ丈夫なまりさでも自分と同じ体積が降ってくれば無事で は済まない。 「ゆゆ…?」 体当たりされ続けていたれいむには攻撃が止まったことにより閉じていた眼を開 く。 そこには…、 「れいむゆっくちぶぇッ!?」 まりさが眼前でちぇんに潰される瞬間だった。 「いたいよーわからないよー…」 痛みにうち震えるちぇん。 そこで目の前にれいむがいる事に気付く。 「れいむがいたんだねわか「い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ ゛あ゛ッ!!!!」 ちぇんがれいむにはなしかけようとした瞬間れいむの絶叫が響き渡った。 そんなのお構い無しに俺は次々と箱の中にゆっくりを詰め込んだ。 ゆっくり達が入っている為か落下速度は減るが次々と入れたためどんどん圧迫さ れている。 「ゆ…ぎぃ…」 「わ゛がらない゛よ゛ぉ…」 先程のれいむもちぇんも圧迫されて見る陰も無い。 だが流石は饅頭。死んでいるのは二番目に入れたぱちゅりーだけだ。 「ま゛り゛ざ…ば…だじげで…」 「じねぇ…ぱち……ころしは…ゆっ…ちじねぇ」 そろそろいいかな。 そう思い準備をする。 この箱上の穴以外に凸凹した床と足場、そしてゆっくりでは脱出不可能な壁をセ ットする。 そこに残っているゆっくり達を全部ほうり込む。 「ゆっくり…」 籠から出され、安心して挨拶しようと…、 「ぎゃあああああッ!!!」 悲鳴を上げた。 足場にある突起は人間には足ツボ程度のモノだがゆっくりには激痛が走るものだ った。 自然の大地に鍛えられたの身体でも鋭い痛みには耐えられない。 だが逃げようにも壁が邪魔して出られない。 「だれがだずげでぇ゛え゛え゛え゛え゛え゛ッ!!!」 「ごごがら゛だぢでぇ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛ッ!!!」 「わ゛がら゛な゛い゛よ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛ッ!!!」 痛みから逃れようと跳びはねる。 だがそれは着地のと時に更に痛みを増加させてしまう。 「ゆびいいいッ!!」 阿鼻叫喚の渦。 そして少しすれば逃げ場の無い中一つだけ突起の無い場所があるのに気付く。 あの箱の入口だ。 「あそこはまりささまのものだぜぇッ!!」 真っ先に気付いたまりさが飛び込む。 そうなれば未来は決まったようなもの。 我先にとゆっくり達が飛び込んでいく。 そこにいた数は八匹。 もう少し頭を使えば誰かを踏み台にするという考えに辿り着いたかもしれない。 だが痛みと事前に救いの手が見えた事でそこに至る事はなかった。 ただでさえギュウギュウ詰めだった箱の中に我先にと飛び込んでいく。 そうなれば中にいたゆっくり達はたまったものではない。 「や、やべ…ぎゅぶう゛う゛う゛う゛…ッ!!」 「きちゃだめなんだぜッ!! きたら…」 「ひどりじめずるわるいゆっぐりはじねぇええッ!!!」 最初に穴に入ったまりさが事態を理解しようとするが痛みから逃れようとする事 しか頭にない他のゆっくり先のゆっくりを押し込み入ろうとする。 体当たりで跳ね飛ばしたりしているが突起のせいで踏ん張れず効果的なダメージにはならないようだ。 「ごろ゛…ぐべぇッ!!?」 そうこうしていると遂に最下層のまりさが白目を向き、口から大量の餡子を吐き出す。 明らかに致死量だ。 かつての仲間に踏み潰されるでもなく圧迫されてじわじわ死ぬなんて中々にない 経験だろう。 ふと、そのまりさの視線が俺と重なる。 この世の苦しみを存分に味わったような苦悶の表情でこちらへ向き…、 「ぐ…じじい…ゆっ…ぐり…じぶぎゃッ!!」 くそじじい、ゆっくりしね。と恨み言も言えずに潰された。 苦悶の表情は餡子に埋まりわからなくなった。ただ眼だけが虚空を見続けている 。 もう意識もかなり混濁しているのだろう、「ゆ…ゆ…」と小刻みに痙攣していた 。 そんなまりさに俺は満面の笑みで手を振り見送ってやった。 死ぬ時位笑って見送られたいだろ? その気持ちが通じたのか一際眼を見開いてそのまま動かなくなった。 一番下が死んだ、次は三番手と四番手の番だ。 上からはどんどんゆっくり達が入り込んでくる。 「や゛め゛でごれ゛い゛じょう゛ぎだらでい゛ぶゆっぐりできないよごべぇッ! !」 先に入ったゆっくりは後からの侵入を止めよとうするが数の差で次々と潰れてい く。 止めようとする声もゆっくりできる唯一の場所を独り占めしようとしている悪い ゆっくりとしか思っていない。 「…………」 ぱちゅりーを潰したれいむは既に声すら上げられない。 まりさにやられた痛みと圧迫…もう死のカウントダウンは始まっていた。 虚ろな瞳で何処か遠く…幸せだった過去に逃避しているのかもしれない。 こいつはもうダメだ。人形と同じだ。見てもつまらない。 れいむの次に入れたまりさは横たわり、頬の部分を圧迫されてムンクの叫びみた いになっている。 顔の上の方も圧迫されているから目が今にも飛び出しそうだ。 そこでまた新たにゆっくりが投下される。 「ゆべッ!!!?」 目玉がピンボールみたいに飛び壁にぶつかり四散する。 「わ゛がら゛…な゛い゛よ゛ぉ…」 そうしているとまりさの上に乗っているちぇんの重心が動き、顔の上の方に動い た。その結果、 「げぶればれぼみばべう゛rrrrrrrrう゛う゛う゛う゛うご…」 目の当たりが完全に潰され口の辺りしか残らなかった。 訳の分からない言語をしゃべり口から餡子の泡を出して声が出なくなってからも パクパクと口を動かし…舌をだらんと出して動かなくなった。 一方まりさの頭…というか上の方を潰したちぇんは下向きになっているせいで下 の奴等がどうなっているか見てしまったのだ。 「ぺぽッ!」 そんな言葉と共に近くにいた人形同然だったれいむが潰される。当然これも見て いた。 どうやら傷と圧迫で死ぬよりも潰れる方が早かったようだ。 「わ゛がら゛な゛い゛よ゛ぉ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛ッ!!! ?」 中途半端に自分の未来を知ってしまったちぇんは絶望にうちひしがれていく。 だが悠長に絶望する余裕もない。何故ならゆっくり達は今も穴に逃げ込んで来て いるのだから。 「…………ッ!!!」 もう喉が潰され声すら出ない。 小柄なちぇんは他のゆっくりと違い負担する面積が小さいからより長く苦しむ羽 目となった。それは雀の涙程の差だったがこの地獄ではそれは天国と地獄程の差 にも等しかった。 ちぇんが尻尾しか残らない平面になってからも投下は止まらない。 ぎゅうぎゅうになり、一匹しかいられないスペースにゆっくりが入るとその上に 後から来たゆっくりがその上に乗り先にいたゆっくりが潰れる。それの繰り返し だ。 潰されたゆっくりはそこから逃げ出そうとゆっくりと隙間へ動いていく。こうし て隙間なくなったとしても餡子が埋めていく。 こうして、最後の一匹が前のゆっくりを潰してようやく安息する。下はもはや餡 子の塊となっている。 時折壁にデスマスクや飾りが張り付いている以外は元から餡子が詰められた箱に しか見えない。 さて、これで終わりだ。 俺は上につけていた足場を取る。 「ゆ?」 それに一安心していたゆっくりまりさがこちらに気付く。 足場を手から放し、 「おじさんゆっくり…ぶぇッ!!?」 漏れていた餡子も含め箱の中に押し込める。 「やめでおじざんばりざゆっぐぢできなくなるうううッ!!!」 何か言っているがそんなのは無視。 箱の穴に蓋をし押していく。 「ゆぎッ!…ゆごぉぉぉ…!」 必死に抵抗しようとしているが効果はない。 「げびゃぁ!!?」 まりさの断末魔と共にギュッギュッと押し、完全に蓋が閉まる。 箱がぱんぱんに膨らんでいるがまだ壊れるには至っていない。 「もっ…と…ゆ…」 箱の中から声がする。 まだ生きている奴がいるようだ。風前の灯だが。 俺は箱を床に置き放置する。 一日待てば全員死ぬだろう。 何故こんな事をするのか?というと、こうしておけば普通にその場で殺すよりも 良質な餡子になり、いい肥料として美味い野菜が出来るのだ。 ゆっくりは苦しめれば美味しくなると言うがその美味しさは植物にとって同じか もしれない。 わざわざ自らの命をもって野菜をゆっくり美味しくしてくれてくれるんだから つくづくゆっくりってのは便利な饅頭だとほくそ笑みながら俺は思ったのだった…。 あとがき 漫画トラ●ガンでの虐殺がやりたかったんですが何だかよくわからないものに なってしまった……。 このSSに感想をつける