約 1,723,898 件
https://w.atwiki.jp/3desk/pages/41.html
横幅が180cmのデスクの価格順一覧。 名前 ブランド JOIFA 製造国 耐荷重 天板素材 表面加工 脚 高さ 昇降式 奥行き 値段 アーム 天板色 クレヴァー ロウヤ × 不明 40kg MDF PVC パネル脚 70cm × 80cm 11,800円 ○ 2色 600plus(ラウンド形状) Tvilum × デンマーク 65kg パーチクルボード メラミン化粧板 パネル脚 73cm × 75cm 15,800円 ○ 2色 UTSシリーズ(奥行き75cm) 井上金庫 ○ 中国 60kg パーチクルボード メラミン化粧板 4本脚 70cm × 75cm 20,801円 ○ 3色 デスクC2/CL ガラージ ○ 台湾 60kg パーチクルボード メラミン化粧板 4本脚 70cm × 60cm 23,730円 ○ 2色 シャトルテーブル アイコ ○ 日本 80kg パーチクルボード メラミン化粧板 A字脚 68~74cm ○ 75cm 26,200円 ○ 2色 デスクY2 ガラージ ○ 台湾 60kg MDF プリント化粧板(ウレタン塗装) 4本脚 70cm × 60cm 28,600円 ○ 2色 MTS アイコ ○ 日本 50kg MDF メラミン化粧板 T字脚 70cm × 75cm 31,605円 ○ 3色 デスクAF ガラージ ○ 日本 60kg パーチクルボード メラミン化粧板 パネル脚 70cm(±オーダー) × 60cm70cm60cm70cm 白:29,960円白:32,800円濃木目:32,060円濃木目:34,900円 ○ 2色 UTSシリーズ(奥行き90cm) 井上金庫 ○ 中国 60kg パーチクルボード メラミン化粧板 4本脚 70cm × 90cm 37,800円 ○ 3色 GF Fantoni ○ イタリア 80kg パーチクルボード メラミン化粧板 パネル脚 72cm × 80cm 40,740円 ○ 5色 GL(ボックス型) Fantoni ○ イタリア 80kg パーチクルボード メラミン化粧板 パネル脚 72cm × 80cm 40,740円 ○ 1色 GL(T字脚) Fantoni ○ イタリア 80kg パーチクルボード メラミン化粧板 T字脚 72cm × 80cm 44,310円 ○ 1色 iS(平机) コクヨ ○ 日本 不明 スチール板 メラミン化粧板 L字脚 72cm × 65cm70cm75cm 44,940円45,465円48,825円 ○ 4色 GX Fantoni ○ イタリア 60kg パーチクルボード メラミン化粧板 口字脚 75cm62~85cm ×○ 80cm80cm 45,360円51,660円 ○ 2色 GT Fantoni ○ イタリア 80kg パーチクルボード メラミン化粧板 T字脚 72cm × 80cm90cm 45,360円47,460円 ○ 5色 iDESK(MDF Type) m-Do! × 日本 100kg MDF ウレタン塗装 4本脚(筋交い・梁固定) 70cm(±オーダー) × 43cm~90cm(オーダー・同一価格) 基本色:45,675円特注色&ファインボード:48,825円 ○ 3色 ウェイク(平机) ナイキ ○ 日本 不明 スチール板 メラミン化粧板 4本脚 70cm × 70cm 46,900円 ○ 3色 デルフィ(スタンダード) コクヨ ○ 日本 不明 パーチクルボード メラミン化粧板 4本脚 70cm × 70cm 48,510円 ○ 2色 クリンククランク 岡村製作所 ○ 日本 50kg パーチクルボード メラミン化粧板 4本脚 72cm × 60cm 49,100円 ○ 2色 GL(昇降式T字脚) Fantoni ○ イタリア 80kg パーチクルボード メラミン化粧板 T字脚 72cm ○ 80cm 49,560円 ○ 5色 iDESK(Color Type) m-Do! × 日本 100kg パーチクルボード メラミン化粧板 4本脚(筋交い・梁固定) 70cm(±オーダー) × 43cm~90cm(オーダー・同一価格) 基本色:52,290円特注色:55,440円アルミ:82,425円 ○ 37色 wanz desk findif × 不明 50kg パーチクルボード メラミン化粧板 4本脚 70cm(±オーダー) × 70cm75cm80cm 52,650円52,750円52,850円 ○ 3色 ファルテ 岡村製作所 ○ 日本 50kg MDF メラミン化粧板 パネル脚 72cm × 60cm 53,800円 × 2色 iS(引出付) コクヨ ○ 日本 不明 スチール板 メラミン化粧板 L字脚 72cm × 65cm70cm75cm 54,705円55,230円58,590円 ○ 4色 コムネットエーディ イトーキ ○ 日本 不明 パーチクルボード メラミン化粧板 4本脚 72cm × 60cm70cm75cm 56,700円58,200円63,700円 ○ 4色 デルフィ(引き出し付) コクヨ ○ 日本 不明 パーチクルボード メラミン化粧板 4本脚 70cm × 70cm 60,060円 ○ 2色 フレスコ コクヨ ○ 日本 不明 パーチクルボード メラミン化粧板 L字脚 70cm × 70cm80cm 71,085円75,705円 × 1色 Select Desk BISLEY × イギリス 20~40kg パーチクルボード メラミン化粧板 L字脚 71cm × ~45cm~60cm~70cm~80cm~90cm 75,600円77,700円79,800円81,900円84,000円 ○ 14色 レヴィスト コクヨ ○ 日本 不明 スチール板 メラミン化粧板 L字脚 72cm × 70cm 79,170円 ○ 4色 シンプレックス2 コクヨ ○ 日本 不明 パーチクルボード メラミン化粧板 L字脚 70cm × 70cm 80,640円 ○ 4色 インクルード イトーキ ○ 日本 不明 MDF メラミン化粧板 L字脚 72cm × 66cm 80,700円 ○ 4色 ME Fantoni ○ イタリア 80kg MDF メラミン化粧板 4本脚 72cm × 80cm 89,800円 ○ 5色 マネージメントS370 コクヨ ○ 日本 105kg パーチクルボード メラミン化粧板 パネル脚 72cm × 85cm 92,715円 ○ 2色 レヴィスト(パネル脚) コクヨ ○ 日本 不明 スチール板 メラミン化粧板 パネル脚 72cm × 70cm 103,530円 ○ 4色 インフューズ イトーキ ○ 日本 不明 集成材 メラミン化粧板突板(ウレタン塗装) 口字脚 72cm × 65cm 105,900円 ○ 7色 マネージメントS370(両袖) コクヨ ○ 日本 105kg パーチクルボード メラミン化粧板 両袖 72cm × 85cm 129,045円 ○ 2色 インクルード(昇降式タイプ) イトーキ ○ 日本 不明 MDF メラミン化粧板 L字脚 65~80cm ○ 66cm 157,600円 ○ 4色 インフューズ エグゼクティブ イトーキ ○ 日本 不明 集成材 突板(ウレタン塗装) 口字脚 72cm × 75cm 176,500円 ○ 1色
https://w.atwiki.jp/vip_oreimo/pages/314.html
493 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/03/17(木) 13 53 11.85 ID 1PHjPp0ko [1/2] 2月が過ぎようとしていて、日ごとに暖かくなっていくのを実感する。 来年の今頃は俺も受験で忙しくなっていることだろう。俺としても、残り少ない高校生活ってやつをを有意義に過ごしたい。 沙織たちと一緒にわいわい騒ぐのも決して嫌いじゃないし、むしろ楽しいのだが、やっぱりたまにはのんびり過ごす時間が欲しい。 そんなわけで、俺は休日の朝から幼馴染の家で日向ぼっこと洒落込んでした。 空には雲ひとつなく、気温はほんの少し肌寒いくらい。日向ぼっこには最適だ。 暖かい春の日差しの中の日向ぼっこも悪くないが、こんな季節の日向ぼっこの方が太陽の暖かさを感じることができて俺は好きだ。 「きょうちゃん」 縁側に座り、足を投げ出すような恰好で仰向けに寝転んでいた俺に、幼馴染が声をかけてきた。 ゆるい喋り方が特徴のこいつは田村麻奈実。俺の幼馴染にして、和菓子屋・田村屋の娘である。 「お茶入ったよ」 「さんきゅー。ちょうど喉が渇いてたんだよ」 急須と二つの湯呑が乗ったお盆を持ってきた麻奈実が俺の隣に腰を下ろす。そして、こぽこぽと湯呑にお茶を注いでくれた。 こいつが淹れてくれるお茶って妙に美味いんだよなあ。こいつの腕がいいのか、田村家のお茶葉が良質なのかは知らないけどさ。 身体を起こし、麻奈実から湯呑を受け取り、ずず……と音を立てて茶を飲む。 「……ふう」 本当に落ち着く。こんな時間がいつまでも続けばいいのにと思ってしまう。 と、俺はにこにこと笑う麻奈実に気が付いた。いや、こいつがにこにこしているのはいつものことなんだけど、ただのにやけ面とは違ったんだ。 多分、この違いがわかるのは世界で俺一人だろう。 「どうした?」 「んふふ~。きょうちゃん、おじいちゃんみたいだなあって」 「……悪かったな、爺臭くて」 そういうお前は婆さんみたいなくせに。俺もおまえにだけは言われたくないよ。 今まで何度繰り返したかもわからないやりとり。だけど、だからこそ俺の最も落ち着く場所はここだと断言できる。 湯呑を一旦お盆に戻し、再び仰向けに寝転がる。 今日は昼まで日向ぼっこして、昼からは気温も上がるだろうし公園にでも散歩に出掛けて…… 脳内で今日一日のんびり過ごすための予定を立てる。こんな平穏な休日は久しぶりだ。 『SECRET×2 OF MY HEART I SHOW YOU IT なう。 だ・か・ら 人生相談っ!ちゃんと 責任持って聞いてよね~♪』 唐突に俺の携帯の着信メロディが流れる。 黒猫風に言うならばそれは、俺を平穏な休日から引きはがす悪魔の呼び声だった。 が、俺はそれを無視。そして、慌てず、静かに携帯の電源を切る。 「よかったの、きょうちゃん?」 「いいんだ。今日はゆっくりしたい気分だったからな」 あいつらとわいわい騒ぐのは嫌いじゃないが、俺にはやはりこんな風にほのぼの過ごすのが性に合っている。 ビバ凡庸、ビバ平穏な日常だ。 そして、隣にこいつがいてくれればもう何も言うことはない。 「?」 幼馴染は、俺の視線の意味を理解できず頭上に?マークを浮かべている。 「ふあぁ……ねみい」 「じゃあ、お昼寝しよっか」 そう言うと麻奈実はてきぱきとお茶を片付け、座敷から座布団を取り出し即席の枕を作る。 そのまま二人して横になり、会話もせず、ただひたすらにぼーっとする。 こいつといる限りずっとこんな日々が続くのだろう。それこそ一生な。 「それも、悪くないな」 暖かな日差しの下、俺はそんなことを考えながらそのまま眠りに落ちて行った。 俺の妹が身長180cmなわけがない麻奈実√ おわり
https://w.atwiki.jp/vip_oreimo/pages/309.html
405 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/03/03(木) 21 51 26.06 ID fh2Yys3do [1/8] 「シスコンなのもいいけれど、大概にしておきなさいな。沙織はもう自分の考えを持って生きているし、あなたにいつまでも頼っているような子ではないの。あなたこそ早く妹離れしたらどうかしら」 「でないと……沙織も、あの女も可哀想だわ。そして私は惨めなだけ」 黒猫に相談をもちかけてから数日が経ったが、黒猫の言葉が今も脳裏にこびりついて離れない。 黒猫は何故あんなに怒った? 沙織のブラコンをなんとかしたいと言ったと思えば、今度はブラコンじゃなくなってしまったんじゃないかと言い出すような優柔不断っぷりに嫌気がさしたのか? あの女って誰だ? 惨めなだけって、一体なにが惨めなんだよ? 「……くそっ、何がなんだかさっぱりだ」 自室のベッドに仰向けに寝転びながら呟く。 ちなみに黒猫は高校受験を既に済ませており、後は合格発表を待つのみということらしい。 黒猫本人に聞くのはなんとも気まずく、あの後沙織に聞いておいたのだ。 その際随分と怒られてしまった。自分の時は怒らなかったってのにな。どんだけ友達思いなんだ、こいつは。あるいは、沙織はほぼエスカレーター式に進学できるが黒猫はそうではないことが関係しているのだろうか。 そんなことを考えていると、ある考えに思い至った。 「……沙織の中での優先順位が変わったのか?」 あなたにいつまでも頼っているような子ではない。黒猫はそう言った。 始めはブラコンじゃなくなったという意味かと思ったが、冷静に考えれば唐突にブラコンじゃなくなることなんてありえるだろうか。ましてやあの沙織が。 実は唐突でもなんでもなくかなり前からブラコンではなくなっていたなら話は別だが、この際その線は置いておこう。 そう考えると別の意味が見えてくる。 沙織は何かしらやりたいことすべきこと大事なことを見つけて、そこでは俺の助けを必要としてなくて―― 妹の自立。それはかつての俺が望み、今の俺が恐れたことだった。 黒猫から見れば、今の俺は沙織の自立を妨げる邪魔者に見えたことだろう。 妙な寂寥感が心を支配する。 「なにやってんだろうな、俺は」 ただ、何を考えてもそれは所詮推測でしかない。沙織や黒猫に直接尋ねる勇気もない。 一人暗い思考に囚われていた俺を救ったのは、突然鳴った携帯電話だった。 406 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/03/03(木) 21 53 34.71 ID fh2Yys3do [2/8] 「よう」 『明日、17時に公園まで来て』こんなメールに呼び出された俺は、既に到着していたらしい差出人に声をかけた。 「おそい」 メールの差出人・桐乃は少しふてくされたように頬を膨らませる。 「何言ってんだ、時間通りじゃねえか」 今の時刻は16時55分。約束の時間まではまだ5分ほどの余裕がある。 これで遅いと怒られたんじゃたまったもんじゃねえぞ。おまえは一体いつから待ってたんだ。 「今日はどうしたんだ?」 またぞろ人生相談と称した体のいいお願いに付き合うことになるのだろうか。 それもいいな。今はなんでもいいから体を動かして暗い思考を吹き飛ばした気分だしよ。 「……また人生相談か?」 桐乃が中々答えようとしないので先回りして尋ねてみた。 しかし、桐乃は黙ってふるふると首を横に振る。 人生相談じゃないのか。じゃあ一体なんだ? 人生相談以外の用事って言ったら……? 駄目だ。俺には一向に思いつかない。ここは大人しく桐乃の言葉を待つことにするかな。 桐乃は、ふぅ……と深呼吸をひとつしてから、ぽつりぽつりと話しだした。 「あんたをここに呼んだのは……人生相談が……あるからなの」 「はあ? さっき人生相談かって聞いたら違うって言ったじゃねえか」 「う、うう、うっさい! どっ、どうでもいいでしょそんなこと!」 桐乃は不機嫌に舌打ちをし、ライトブラウンの髪をかきあげる。 その流れるような長髪は、夕焼けに照らされて黄金色に輝いて見えた。 あれ、なんだこの既視感。この光景どっかで見たことあるぞ。デジャブってやつか? 「じゃあなんなんだ?」 俺の問いに桐乃は顔を赤くするだけで一向に答えない。 何かを言おうとして口を開いてもそのままもごもごとするだけで、結局言葉は出てこずそのまま顔を背けてしまう。 なんだか妙に切羽詰まっている様子だった。 彼女の焦燥に釣られたのか、俺の胸はどきどきと鼓動を速めていく。 407 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/03/03(木) 21 54 32.39 ID fh2Yys3do [3/8] 「あ、あのね」 意を決したのか、ようやく桐乃が言葉を紡ぎ始める。 「最初はあんたみたいな兄貴がいたらいいなって思ってた」 秘密を懺悔する少女のようにぽつりぽつりと、だがはっきりとした声で。 「でも、それだけじゃなかった。地味で冴えないくせに……ただひたすらに優しくて」 桐乃はまっすぐに俺を見つめてくる。 桐乃の顔が赤いのは夕焼けに照らされているからか……それとも…… 「やっと気づいたの! 私は……沙織に負けないくらいあんたが好き! だからっ!」 こ、この流れは……。 ま、まさか……まさか…………まさか! 「あたしと付き合って下さい!」 顎が落っこちるかと思った。開いた口は塞がらない。 桐乃の用事は、暗い思考を吹き飛ばしてくれるとかそんな生易しいものではなかった。 俺の思考をそれ一点に集め、他のことなど跡形もなく吹き飛ばしてしまう。 「……だ、だめ?」 そう声をかけられるまで、時間が止まっていた。 はっと我に返り、桐乃の顔を見る。 目にはうっすらと涙がにじんでいて、今にも泣きだしてしまいそうだ。 俺はどうすればいい? 俺と桐乃が付き合うことになったら沙織はどう思う? そもそもこのことを知っているのか? そんな考えがぐるぐると頭の中で渦を巻く。 そんな中、先ほどまで俺の思考をとらえて離さなかった黒猫の言葉が脳裏をよぎった。 「あなたこそ早く妹離れしたらどうかしら」 そうだ。この後に及んで俺はなんで沙織のことを気にしているんだ。 大事なのは俺の気持ちじゃないのか。桐乃の告白を受けるにしろ断るにしろ、沙織を理由にするなんて桐乃に対しても沙織に対しても失礼極まりない。 まさかこれを見越して言ったわけじゃないだろうけどな。ありがとよ、黒猫。 408 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/03/03(木) 21 55 42.76 ID fh2Yys3do [4/8] 「桐乃」 桐乃は依然として涙を浮かべながら俺を見つめていて、その拳は痛々しいほどに強く握られている。 右手で桐乃の頬に触れ、今にも溢れ出しそうなその涙を親指の腹で拭ってやる。 「……俺もおまえが好きだ。これから、よろしくな」 その瞬間、桐乃が俺に抱き着いてきた。ぐりぐりと頭を俺の胸元に擦り付ける。 桐乃を抱きしめるべく両手を桐乃の後ろに回した瞬間、 「おめでとうでござる~!」 「ちょっと沙織! まだ早いわ、これからがいいところなのに!」 人気のない公園に聞きなれた声が響いた。 「お、おまえら!? なんでここに? っていうか、何やってんだそんなところで!」 茂みの中から顔を出したのは、ぐるぐる眼鏡にオタクファッションに身を包んだ沙織とゴスロリファッションに猫耳装備の黒猫だった。 桐乃を見ると俺と同様にぽかんとしているので、どうやらこいつも知らなかったようだ。 「いやあ、お兄様もすみに置けませんなあ」 沙織はうりうりと肘で俺の腕をついてくる。 「……これでやっと一件落着というわけね。長かったわ。好きならばさっさと告白してしまえばいいものを、兄貴になれだのなんだのとわけのわからないことで先延ばしにするから――」 しみじみと感慨深そうに語る黒猫。 「ちょ、ちょっと何言っちゃってんの!?」 慌てて桐乃が止めに入った。 展開が唐突すぎて頭がついていかない。 「お、おまえら、なんでここにいんの?」 事態を把握するべく一つずつ質問していく。 「実は昨日きりりん氏から、今日お兄様に告白するということを言われまして」 「その女がフラれるのを見に来たのよ」 要は出歯亀かよ! 「お、おまえら……」 409 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/03/03(木) 21 57 40.07 ID fh2Yys3do [5/8] 今回は告白が上手くいったからいいものの、もし桐乃がフラれてたらどうする気だったの? ……いや、こいつらは確信があったのかもしれない。俺と――桐乃が上手くいくという確信が。 「告白すると聞いた時は、正直『やっとか』と思ったものです」 「え、嘘でしょ?」 沙織の言葉に桐乃は目を丸くし驚きを隠せないでいる。 「嘘ではござらん。きりりん氏がお兄様のことを好きなのはもうバレバレというか、気づかない方がおかしいレベルでありましたから」 嘘だろ? 俺、全然気づかなかったんだけど。 「あなた、ずっと前からやれ『あいつが過保護すぎてうざい、荷物くらい持てるって』だの、『あいつってば腕組んだだけで顔赤くしちゃって、ぷぷっ。キモ~い』だのと、のろけまくりだったじゃない」 それのろけてなくねえ? 俺の感性が変なの? 「う、うう、うっさい!」 だが、桐乃はわかりやすく動揺していた。桐乃の動揺を見るに、どうやら黒猫の言っていることは真実のようだ。 くそっ、なんてわかりにくい愛情表現なんだ。 「では、あとは若い者同士に任せると言うことで……」 「じゃあね、先輩」 そう言うと沙織は黒猫を連れてそそくさと帰っていった。 ほんとに何しに来たんだ……。完全に冷やかしじゃねえか。あと先輩ってなんだ。 「ぐえっ」 沙織と黒猫が公園から去るのを見送り二人の姿が視界から消えた時、どすっ、と胸に衝撃がきた。 感じた衝撃の正体は桐乃が抱き着いてきたものによるものだったらしい。 桐乃の背が高いせいで二人の顔はとても近い。桐乃の息遣いが直に感じられる。 「……好き」 「……ああ、俺もだ」 そして俺は今度こそ、愛すべき彼女を力いっぱい抱きしめたのだった。 410 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/03/03(木) 21 58 48.73 ID fh2Yys3do [6/8] ――――――――― 「黒猫氏、よかったのですか?」 「なんのことかしら」 私は、私の隣を歩く友人が心配で声をかけた。 「拙者が見るに黒猫氏もお兄様のことが……」 「……あの子は私以上にあなたのお兄さんを必要としていた。それにあなたのお兄さんを好きになったのはきっとあの子が先だから」 「だからといって――」 私の声を遮るようにして、友人が言葉を発する。 「そう、そこなのよ。私はそう思えてしまう。何が何でも手に入れたいとまでは……まだ思えない」 「黒猫氏……」 「そんな顔をしないでちょうだい。言ったでしょう? 順番よ。今回はあの子が先だった。いろいろとね。そして、あなたのお兄さんとあの子が駄目になったら今度は私の番よ。その時は沙織、あなたに遠慮はしない。もっとも他にいい男が現れなければ、だけどね。……あなたこそよかったの?」 友人はいつになく饒舌で、平静さを保っているとは言い難いようだ。 「拙者ですか?」 「ええ」 自問自答。そして告白。 「……私は今までお兄様に甘え過ぎていました。そのせいでお兄様の人生を制限してしまうのは耐えられませんわ」 「だから最近お兄さんに冷たかったの?」 「いやはや、ばれておりましたか」 「あなたのお兄さん、相当まいっていたわ。兄離れもいいけれどなにごとも急ぎ過ぎない方がいいわ。もうちょっとやり方を考えてあげなさい」 「そうだったのですか……ご忠告ありがとうございます」 そして、私と友人はお互いを励ますように笑いあったのだった。 ――――――――― 411 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/03/03(木) 22 00 23.12 ID fh2Yys3do [7/8] 「ただいまー」 仕事を終え、疲れた体を引きずってようやく我が家へと辿り着く。 「おかえりなさいでござる!」 すると家の奥から元気な声が響いた。 続いて別の声が聞こえてくる。 「ござるじゃないでしょ。何度いったらわかるの?」 ばたばたと足音が響き、奥の部屋から愛する我が子と妻が揃って玄関まで出迎えてくれた。 そして駆け寄ってくる娘を、腰をかがめ抱き上げた。 「あんたからも言ってやってよ。その子、義姉さんのところに遊びに行くと毎回ござる口調になって帰ってくるんですケド」 いったい何をして遊んでるんだ沙織は。 「ま、いいじゃねえか。そのうち治るって」 「もう」 呆れたようにため息を吐く桐乃。 そして、 「……おかえりなさい、あなた」 「おう、ただいま」 俺の妹が身長180cmなわけがない桐乃√ おわり
https://w.atwiki.jp/vip_oreimo/pages/317.html
519 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/03/22(火) 18 01 04.56 ID /jaFti/Vo [1/5] 始業式終了後、俺と沙織と黒猫の三人で改めて俺の家に集まることになった。 桐乃も誘ったのだが、部活があるとのことで残念ながらいつもの面子が勢ぞろいとはいかなかった。 「いやあ、黒猫氏の制服姿は新鮮でいいですなあ!」 「そういうあなたはなんでいつものござる口調なのよ」 いつものオタクファッションならいざ知らず、制服着た女子高生がぐるぐる眼鏡を装備してござる口調で喋るというのは……見るに堪えない。 なんというか、心のどこかが痛い。お願い沙織。せめてどちらかに統一して。 「う~む、どうも不評なご様子。しからば着替えますゆえ、しばらく外でお待ちいただいても?」 「あいよ」 結局、いつものオタクファッションに落ち着くわけね。 すっくと立ち上がり、ドアを開けてそのまま沙織の部屋を出る。すると、なぜか黒猫も俺に続き部屋を出る。 「あれ? おまえも出るの?」 「私にのぞきの趣味はないのよ」 のぞきって……女の子同士で何言ってんだ? まさか、そっちの趣味があるんじゃないだろうな? 藪蛇になっても困るから深くは追及しないけどさ。 「沙織も言ってたけど、制服姿も新鮮でいいな」 「…………莫迦じゃないの?」 途端に、むすっと不機嫌になる黒猫。 あ、あれ? 沙織が言った時は何もなかったのに、何で俺が言うと不機嫌になっちゃうの? 女の子の、とくに黒猫の考えることはさっぱりわからん。 「お待たせいたしました!」 沙織の大きな声とともに勢いよく扉が開き、その勢いのまま扉が俺に打ち付けられる。 「っぐぐ……」 顔面を抑えうずくまる俺。ふっ、と鼻で嗤う黒猫。慌てて俺に駆け寄る沙織。 ここに桐乃がいれば、ぷっと吹きだしていたことだろう。 「そういえばさ」 「どうされました?」 「入学式の日、おまえその制服着てたっけ?」 ゲームやアニメの話題で盛り上がっていた最中の、唐突な話題の転換に沙織と黒猫は少し驚いたような顔をした。 別に今聞かなければならないようなことではないのだが、思わず口をついて出てしまったのだ。 俺の記憶によると、うちの学校で入学式が行われたはずの日、沙織は普段着だったと思うんだが。 出掛ける瞬間と帰ってきた瞬間を目撃したわけじゃないから、出掛ける寸前と帰ってきてすぐに着替えたってんならそれまでなんだけどさ。 520 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/03/22(火) 18 02 41.36 ID /jaFti/Vo [2/5] 「その通りです。ぎりぎりまで引っ張ってお兄様に盛大に驚いて頂こうと思いまして」 「……そうかい」 俺を驚かせるのがそんなに楽しいんだろうか? そんな沙織の策略に見事にはまり、大声をあげて驚いてしまったことはまだ記憶に新しい。 「『なんでおまえがその制服を着ているんだあああああああ』ってな具合に、盛大に驚いておいででしたな」 「ぐっ……」 俺の恥ずかしい記憶を思い出させるんじゃない! しかも黒猫の前で! 「いや~、お兄様のあのときの顔といったら。是非瑠璃ちゃんにも見せてあげたかったでござる」 何か言い返してやりたいのは山々だが、驚いてしまったのは事実なのでどうしようもない。 ちくしょう。何かしら反論の余地は―― 「ん? 瑠璃ちゃん?」 誰それ。初めて聞く名前だけど。 沙織が黒猫とアイコンタクトを交わす。黒猫が頷くと、沙織は“瑠璃ちゃん”の正体について語ってくれた。 「五更瑠璃。黒猫氏のほんみょ――いや、人間界での仮の名前です。数字の五に夜が更けるの更、瑠璃色の瑠璃と書きます。ねっ、瑠璃ちゃん」 「……その名前で呼ぶのはやめてちょうだい」 五更瑠璃。それが黒猫の名前らしかった。 ふーん。なんというか……当たり前のことなんだけど、黒猫にも本名があったんだな。なんだか妙に感慨深い気分だ。 「これからも黒猫――でいいんだよな?」 呼び方について黒猫に確認をとる。 今さら呼び方を変えようとは思わないし、今となっては普通の名字よりも黒猫というHNで呼ぶ方がしっくりくる。 それに先ほど、その名前で呼ぶなと黒猫本人が言ったばかりだからな。 「…………ええ。そうしてちょうだい」 黒猫は端的にそう答えた。ちょっと間があったのが気になるけど、まあ本人がそうしてくれと言うんだから問題ないだろう。 「さてと、お茶とお菓子でも取ってくるわ」 「あっ、そういうことでしたら拙者が――」 「いいって。気にすんな」 一つの話題が終わったところで、せっかく我が家を訪ねてくれた友人にお茶を出し忘れているのに気付いた俺は、自分が行こうとする沙織を制してリビングへと向かった。 「京介、おまえに話がある。食事が終わったらわしの部屋まで来い」 始業式の日つまり黒猫の本名が判明したその日の夜。 夕食時、親父にいきなりこう切り出された。 「あ、ああ。わかった」 おふくろや沙織は何事かと目を丸くしている。 そして、親父が先に食事を終え自室に引っ込むとこぞって「何かあったのか」だの、「何かやらかしたのか」だのと聞いてきた。 何があったのかは俺が聞きてえくらいだよ。 沙織は単純に心配してくれてるだけだと思うが、おふくろは面白がってやがるな。さっきから顔が半笑いになってるぜ。 521 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/03/22(火) 18 03 37.70 ID /jaFti/Vo [3/5] 「ごちそうさま」 親父に続き俺も夕食を終え、親父の部屋へと向かう。 今にも胃に穴が開きそうだ。俺、なんかしたかな……。 「……失礼します」 意を決して、鬼の住まう場所に通じる扉を開く。 その瞬間、ツンと酒の匂いが鼻をついた。どうやら食後だというのにまだ飲んでいるようだ。 「まずはそこに座れ」 親父に促されるまま、ガラステーブルを挟んで親父の向かい側の椅子に腰を下ろす。 張り詰める緊張の中、かちかちと時計の針の音だけが響く。 なんだ……親父は俺に何の用事があるんだ。説教ならいっそ早くしてくれ。 まだ俺が部屋に入って1分も経っていないが、あんまり長引くと俺の胃がもたないぞ。 俺が部屋に入って5分ほど経ったころだろうか。ようやく、親父が口を開いた。 「京介、実はおまえに相談があるんだが」 「…………はい?」 それから約十分後。 親父の部屋を出ると、沙織が心配そうな顔をして俺を待っていた。 「あ、あの。いったい何があったのですか?」 「気にすんな。大したことじゃなかったよ」 「で、でもお兄様の怒鳴り声も聞こえましたし……」 「大丈夫だ。別に喧嘩してたわけじゃないからさ」 あまりにも馬鹿馬鹿しくて笑い話にもなりゃしねえ。 「大したことないのなら何があったか教えてください」 「それは駄目だ」 ぴしゃりとはねつけ、渋る沙織を強引に諦めさせる。 こればかりは沙織が泣いて頼んでも口を割るわけにはいかない。 なんせ、親父の沽券と威厳にかかわる話だからな。 「そういえば、おまえは部活とか入らねえの?」 「部活――ですか?」 沙織たちが俺の高校に入学してきてから一週間が経った頃。 夕食後に沙織の部屋で、かねてから気になっていた疑問を尋ねてみた。 「気になる部活もありませんし、今のところその予定はありませんが……なぜいきなり?」 「い、いや、別に他意はないんだ。ちょっと気になっただけでさ」 「そうですか」 522 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/03/22(火) 18 04 58.50 ID /jaFti/Vo [4/5] そう、他意はないんだ。あくまでもちょっと気になっただけで。 別に親父から“沙織の学生生活に探りをいれ、野郎がいる部活に入ろうとしているならそれとなく別の部活に誘導するように頼まれた”わけじゃないぞ。 親父に頼まれたのは“近づくやつがいるなら容赦なくぶん殴れ”だ。 さすがにそれは駄目だろ! と、思わず突っ込んだのだが親父は至って真面目な顔で「傷害程度なら俺がもみ消してやる」とのたまった。 もはや犯罪じゃねえか! 職権乱用もいいとこだよ! 親父のやつ、どんだけ娘を溺愛してるんだ……。 ともあれ、今の所沙織はなにかしらの部活に所属する気はないようだ。それですべてが安心ってわけじゃあないけどさ。 近づくやつがいるなら容赦なくぶん殴れ。 実に馬鹿馬鹿しい話ではあるが……俺としても親父の気持ちはわかる。俺だって、先日その気持ちを味わったところだからな。 どこぞの馬の骨ともわからん男に沙織はやれん。 この一点において、俺と親父の気持ちは完全に一致していた。 俺が卒業するまでの間、全力で沙織につく虫を排除する。俺はそう決めたんだ。 「黒猫はどこか入るって言ってたか? たしか同じクラスなんだろ?」 「黒猫さんも部活に入るつもりはないようですわ」 「そっか」 黒猫の方は、正直そうじゃないかと思ってはいた。 あいつのことだからクラスに馴染むのにも時間がかかると思う。あいつの性格はややこしいからなあ。 その点、沙織と同じクラスで本当によかったと思う。沙織ならばうまいことクラスの人間との橋渡し役になってくれることだろう。 「それに、部活に入ったらきりりんさんや黒猫さんと遊ぶために割ける時間が制限されてしまいますから」 なるほど。沙織らしい答えだ。 気になる部活がない。というのも確かに部活に入らないことの一因ではあるのだろうが、恐らく、こちらの方が主な原因であるはずだ。 まあ、部活に入ったからといって遊ぶ機会が劇的に減るなんてことにはならないとは思うけどな。 なんだかんだで寂しがりなんだなあ、こいつ。 「あと――」 「うん?」 「もちろんお兄様と私の時間も」 そう言って微笑みながら顔を寄せてくるもんだから不覚にもどきりとしてしまった。 ……くそっ、その台詞と行動はちょっとずるい。そんなことはありえないと頭ではわかっていても、沙織の言葉はどうしてもあらぬ妄想を抱かせる。 多分沙織もそれをわかってやっているはずだ。 妹相手にこんな気持ちになってしまうとは……俺はシスコンを通り越して変態鬼畜兄貴になってしまったのだろうか。 ……それもこれも全て桐乃が寄越したエロゲのせいに違いない。 「そういえば、今作ってるプラモのことで聞きたいことがあるんだが――」 逃げるように露骨に話題を変える。ここまでわかりやすい敗北宣言もなかなかないだろう。 ちくしょう。なぜ俺が実の妹に対して照れなくてはならんのだ。 依然として沙織はにやにやと、こんな口ωをしてこちらを見つめている。 ……なんかこいつ性格悪くなってねえか? いや、人間として駄目な方向に向かっているって意味じゃないから別にいいんだけどさ。 これも桐乃や黒猫の影響だろうか。だとしたら恨み言の一つでも言ってやりたい気分だ。おまえらの影響で沙織が変わっちまったんだがどうしてくれるんだ、とな。 顔を赤くし、ともすれば今にも妹の冗談を真に受けてしまいそうな兄を、いかにも「満足しました」と言わんばかりの満面の笑みを浮かべながら見つめる沙織。 そんな妹様を見て俺はこう思ったのさ。 俺の妹が、こんなに意地悪なわけがない――ってな。 俺の妹が身長180cmなわけがない おわり
https://w.atwiki.jp/vip_oreimo/pages/300.html
140 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/01/23(日) 18 45 28.67 ID NZgMtXqQo [1/3] 「ばいばい、きょうちゃん」 「おう、また明日な」 一緒に下校していた麻奈実といつもの丁字路で別れ、ひとり自宅へと歩きだす。 時刻は夕暮れ。帰り道には下校途中と思われる学生がちらほらと見えている。 普段はこのまま帰宅して、しばらくだらだらして、その後ちょっとだけ勉強したりしなかったり……。 そんな予定だったのだが、 「ん?」 もう少しで自宅、というところでいつもとは違う光景が目に飛び込んできた。 自宅の前に誰かがいる。まだはっきりわからないが、女の子なのは間違いない。 遠目からでもスカートをはいているのが確認できた。 「沙織の友達か?」 ……だとしたらなんで家の外で待ってるんだ? 少し不思議に思いつつも、自宅へと歩を進める。 距離が近くなるにつれて次第に少女の姿がはっきりしてくる。遠目から確認したスカートは学制服のものだった。 長い黒髪にすらりとした体格。セーラー服を纏う少女が醸し出す雰囲気は大人っぽく、一瞬高校生かとも思ったが、どうやら中学生であるようだ。 なぜ中学生だと判断できたのかというと、少女が着ている制服に見覚えがあったからだ。 あれ、たしか桐乃の中学の制服だよな。なんで桐乃の学校のやつがうちの前に立ってるんだ? 桐乃の紹介で沙織と友達になるべくやってきたのだろうか。とすると、あの子も何かしらのオタクだったりするのかね。 「ま、触らぬ神になんとやらだ」 横目で少女の動向を窺いつつ目の前を通り過ぎようとした瞬間、少女は予想外の言葉を発した。 141 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/01/23(日) 18 46 03.62 ID NZgMtXqQo [2/3] 「高坂……京介さんですね?」 「えっ?」 少女は未だ俯いており、顔は見えない。 え……お、俺に用があるの? いや、それ以前になんで俺の名前を? 頭の中にいろいろな疑念がうずまく。 ひょ、ひょっとして俺に一目ぼれしちゃった女の子が、告白しに来たとかそんなんですか? うっひょー、なんという運命! 「高坂京介さんですよね」 妄想の世界にふけっていると、痺れを切らしたのか少女が同じ質問をくりかえした。 と、同時に少女がようやく顔をあげた。 そのとき、俺に電流走る。 比喩ではなく、わりとマジでだ。 この世にこんな美少女がいていいのだろうか。にこりと微笑む少女の顔はまさに天使のそれだった。 「あ、ああ。たた、たしかに俺が高坂京介だけど」 あまりの衝撃にろれつがまわらない。お、落ち着け俺! 「よかった。あなたが帰ってくるのを待ってたんです」 ふおおお! これが落ち着いていられるか! これなんてエロゲ!? が次の瞬間、美少女はにっこりと微笑んだまま瞳の光彩を消失させた。 「ちょっとお話したいことがあります。そこの公園までついてきて下さい」 な、なんだこのプレッシャーは……。彼女の台詞は一応お願いの体を取ってはいるが、有無を言わさない迫力がある。 俺は、この時点で直感したよ。これは甘い話なんかじゃない。それどころか命の危険すらあるかもしれないってな。 148 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/01/24(月) 21 36 19.86 ID veRgJgB8o [1/6] 少女の後に続き、近所の公園へと向かう。 歩くたびに揺れる少女の黒髪からは、かすかにシャンプーの香りが漂ってくる。 す-はー。無意識に深呼吸を一つ。 はっ!? い、いかん。俺はいったい何をしているんだ。 これじゃあまるで変態みたいじゃないか。 違うんだ。あくまでも、「いい匂いだな~」とか思っただけで他意はないんだ。 ところで、この子、どっかで見かけた気がするんだよなあ。どこで見たんだろ。 べ、別にごまかしたわけじゃないぞ? ほんとだよ? ほどなくして俺たちは公園に到着。 さすがにこの時間になると子供たちの姿はもうない。今この公園内には、俺と――この名も知らぬ美少女二人きりだ。 少女は交番の裏手あたりで立ち止まるとこちらに向き直った。 少女が歩みを止めるのに合わせて俺も足を止める。少女までの距離は5歩くらいか。 149 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/01/24(月) 21 38 13.40 ID veRgJgB8o [2/6] 「で、話ってなんだ?」 はやる気持ちを抑えきれず、自分から話を切り出す。 どきどきを鼓動が早まるのを感じる。 直感的に甘い話ではない感じている。感じてはいるが、未だに淡い期待を抱いている俺を誰が責められるだろうか。 こんな美少女に「ちょっとお話が……」なんて言われ、人気のない公園へと誘われる。 状況は完璧だ。これで『何か』を期待しない男などいるわけがない。 もしいるのであれば、そいつはガチホモか仙人くらいなもんだろうぜ。 「単刀直入にお聞きします。桐乃とはどういう関係ですか?」 「は? 桐乃? 桐乃ってあの桐乃?」 すると少女は、「どの方を指してそう言ってるのかは分かりませんが」と前置きして上で、 「眉目秀麗、スタイルファッションセンスともに抜群、学業優秀。部活でも輝かしい成績を残し、校外ではモデル活動もやってて、みんなから頼られ、誰からも好かれているあの桐乃です」 やだ、なにこの子。ちょっと怖いんだけど。 いくらなんでも褒めすぎじゃないか? どんだけ桐乃大好きなんだよ。 桐乃のことをあそこまで褒められるのは親友かストーカーくらいなもんだろ。そして、この子はきっと前者であるはずだ。そうであってほしい。 まあ、モデルやるような人間がそう何人もいるわけないから俺の思う桐乃とこの子が言う桐乃は同一人物で間違いないだろう。後半部分が正しいかどうかは疑問だけど。 150 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/01/24(月) 21 39 27.85 ID veRgJgB8o [3/6] 「どんな関係ですか?」 少女は再び同じ質問を繰り返した。 先ほどもそうだったが、どうやらこの子、人の返事を待てないというかちょっと落ち着きがない子みたいだ。 あるいはそれだけ切羽詰まっているということだろうか。 「どんな関係って言われてもなあ……確かに知り合いではあるが」 どうやら桐乃の知り合いという俺の予想は当たっていたようだ。 ……桐乃との関係か。さて、どう説明したもんかな。 だが、趣味が趣味だけに、桐乃が自身の趣味を友達に話している可能性は低いだろう。両親にすら自分の趣味を秘密にしていた我が妹・沙織のように。 となると、おのずと話せる内容は限られてくる。 「……ただの友達だよ」 仕方なく無難な答えを返す。 「そうですか。じゃあどこで知り合ったんですか?」 矢継ぎ早に次の質問。 少女が発するプレッシャーと相まって、まるで尋問でもされているかのようだ。 「妹が桐乃の友達でさ。それで知り合ったんだ」 これくらいは大丈夫だよな。嘘も言ってないし。 「…………おかしい。桐乃に高坂なんて友達いたっけ?」 俺の返事を聞いた少女は、なにやらぶつぶつとひとり言を唱えている。 151 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/01/24(月) 21 41 56.26 ID veRgJgB8o [4/6] 「どうした?」 「えっ? あ……なんでもありません。……桐乃のことどう思ってますか?」 「は? なんでそんなこと聞くんだ?」 俺にはこの子の目的がさっぱりだ。 別に俺に気があるわけでもないみたいだし。悲しいけど。 「な、なんでもいいじゃないですか。早く答えてください」 「うーん……そうだなあ」 思わず答えに詰まってしまう。 どう思ってるか……か。 突拍子もない質問だ。答える義理だってない。だけど…………なぜか、どきりとした。 俺はあいつをどう思ってるんだ? ただの友達? それとも妹の友達? ……ほんとうにそれだけか? 『あたしのお兄ちゃんになってください!』 『いいの!? ありがと兄貴っ!』 あの時の台詞と笑顔が、鮮明に脳裏に浮かぶ。 「……手のかかる妹みたいな感じかなぁ」 気付けばそう答えていた。 「……ほんとにですか?」 「ああ。ほんとだ」 「そうですか。……・……私の想い過ごしだったのかもしれませんね。桐乃にもしっかり聞いてみないと……あ、申し遅れました。私、新垣あやせって言います」 「新垣さんね」 「あはっ、あやせでいいですよ」 俺の返事に満足したからか、あやせはさっきまでの雰囲気を一変させた。 今は初めて見たときの、まるで天使のような笑顔を浮かべている。 152 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/01/24(月) 21 44 55.26 ID veRgJgB8o [5/6] 「あっ!」 「ひっ!? きゅ、急に大きな声出さないで下さい!?……どうしたんですか?」 「あ……すまん。なんでもないんだ」 この笑顔で思い出した! この子、桐乃にもらったファッション誌に桐乃と一緒に写ってた子だ! 道理でどこかで見た気がしてたわけだよ。正直、初めて見た時からちょっと気になってたんだよね。 あやせはしばらく頭に疑問符を浮かべていたが、やがてこう切り出した。 「ふふ、桐乃と腕を組んでるのを見た時はどうなることかと思いましたよ。……今日はいきなり押しかけちゃってすいませんでした」 そういうとあやせは、ぺこりとお辞儀をした。 なんだ、いい子じゃないか。一時は命の危険さえ感じたが、それこそ俺の想い過ごしかもしれないな。 まあ、思い込みが激しくて自己完結しがちな一面をもっているようだけど。 が、彼女が発した言葉に対して、ある疑問が俺の中に浮かんできた。 「…………ん? 腕を組んでるのを見た?」 「あっ!?」 俺が桐乃と腕を組んだのは、先日、桐乃の買い物に付き合わされた時だけだ。 なぜこの子がそのことを知っている? いや、知っているだけならまだしも、あやせは見たと言った。 ここまでスルーしていたが、なんで俺の名前を知っていたのかも疑問である。 「きょ、今日はここで失礼しますね! さようならお兄さん!」 「あ! ちょ、ちょっとま……」 俺の制止もむなしく、あやせはあっという間に走り去ってしまう。 「…………ひょっとするとストーカーの方だったかもしれん」 そして、去り際に残した『お兄さん』という言葉。 あやせの頭の中でいったいどういう結論が出たのか不思議でならない。 あの子、いい子だと思ったんだけどなあ……。俺の見当違いかな。 「ははは…………これ、沙織に話したらまた怒られそうだな」 第六話おわり
https://w.atwiki.jp/vip_oreimo/pages/297.html
17 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/01/12(水) 23 06 54.53 ID KZdJ5BByo [17/20] とある日曜日の朝。 俺は数年ぶりに麻奈実を連れて自宅までやって来た。 スーパーで待ち合わせて買い物をしてきたので二人とも手には買い物袋を提げている。 今日は両親が出掛けるため、麻奈実がメシを作りに来てくれることになっていたのだ。 「よし、あがれよ」 「お、お邪魔しま~す」 と、俺たちが靴を脱いで玄関に上がったところで―― ばったり沙織と出くわした。 「あら……」 「あ……」 リビングから出てきた沙織と、玄関に上がったばかりの麻奈実の眼がぴたり、と合う。 両者とも、いや、俺も含めた三人ともがぽかん口を開けて、目を丸くしている。 そりゃそうなるよ。沙織の恰好が、例のオタクファッションだったんだからな! こ、これはまずいぜ……今の沙織はどこからどうみても変な子だ。 ど、どうなるんだこれ? 俺は自分が招いてしまった展開に恐れをなしたが、 「あ、沙織ちゃん……だよね? こんにちは。雰囲気変わったね~」 一方、空気を読めない麻奈実は、ぱたぱた手をふり、とても友好的にあいさつをした。 「久しぶりだね。私のこと覚えてる? 昔はよく……」 「ひっ……」 沙織は、何かに怯えたような声を出したかと思うと、俺の襟首を引っ掴み、 「ちょっとこちらへ」 「ぐえ。んだ……お、おいっ」 俺は、妹に引っ張られるがまま麻奈実から引き離され、リビングの中に引きずり込まれてしまう。 ぐいぐいぐい――バタン! 沙織の手によりリビングの扉が閉まる。 「ど、どういうことでござる!? な、なんであの人が家に!?」 「……いや……俺が呼んだから……だけど……」 「聞いておりませんぞ!」 「そりゃ……言ってねーし」 「と、とにかく今日はまずいのです! 今はひとまずお引き取りを願いたい!!」 「そんなわけにいくか。ちょ、落ち着けって――」 俺は妹の勢いを押し止めるように片手を突き出し距離を取る。 「なんだってんだよ。……なに? ひょっとしておまえ、麻奈実が嫌いなの?」 「そうではありません! ですがこのままでは――」 18 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/01/12(水) 23 07 31.65 ID KZdJ5BByo [18/20] ピンポーン。 唐突に鳴るインターホン。 ここに来てようやく気付いた。あぁ、沙織が焦ってたのは、ひょっとして“あいつら”が来るからなのか。沙織もあいつらと会うとき用の恰好だしな。 こんな簡単なこと、なんでもっと早く気付かなかったんだ。 恐らく沙織が異常に慌てていたせいだ。こいつがこんなに取り乱す所、久しぶりに見た気がする。 だが、仮にそうだとすると、どうしてもわからない疑問が湧いてくる。 「……あぁ…………もう手遅れ…………でござる」 全てを諦めたのか、がっくりと項垂れる沙織。 いったい何がそんなにまずいんだ? あいつらと麻奈実を会わせちゃいけない理由でもあるの? ピンポーン。少し間を置いて再びチャイムが鳴った。 「あ、あのぉ……? お客さんだよぉ~……?」 かちゃり、と音を立ててリビングの扉が開き麻奈実が顔を覗かせた。 えらく控えめに開けたところを見ると、俺たちが喧嘩でもしていると勘違いしていたのだろうか。 「お、おう。すぐ出るよ」 「あ! お兄様! せめて麻奈実さんをどこか――」 後ろから俺を呼びとめる声が聞こえたが、それを振りきり玄関へ向かう。 あいつらをこれ以上待たせたらどうなるかわかったもんじゃねえからな。 「悪い、待たせたな。いらっしゃい」 「ふん、出て来るの遅すぎ。ちゃんと玄関で待っとけっての」 「ふ……危なかったわね。出て来るのが後少し遅ければ――今頃この家は灰と化していたわ」 ほらな。すぐに出てきてよかったろ? 「ま、まぁとにかく上がれよ。沙織の部屋で待っててくれ。沙織もすぐ行くから」 そして俺は、桐乃と黒猫を我が家へと招き入れたのだが―― 「あ、沙織ちゃんのお友達かな? きょうちゃんの幼馴染の田村麻奈実です。よろしくね?」 麻奈実を見た途端、桐乃の表情ががらりと変わった。 両目がクワッと吊り上り、鋭い視線が麻奈実を射抜く。 一方、黒猫はというと、 「クッ、出たわね……ベルフェゴール……」 と、わけのわからない事をのたまいながら戦慄の表情を浮かべている。 誰だよ、ベルフェゴールって。 19 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/01/12(水) 23 08 10.02 ID KZdJ5BByo [19/20] 「……おい、おまえら……おい、ちょっと耳貸せ」 「は? な、なに……?」 「……? な、なによ……?」 俺は、渋々近寄ってきた桐乃と黒猫の耳に口を寄せる。 リビングへと繋がる扉の脇できょとんとしている麻奈実の顔を、ちらっと一瞥してから 「えっと、もしかしておまえら……まさかとは思うけど…………麻奈実のこと嫌いなの?」 「「……………………別に」」 二人して同じ台詞を言いやがった。 なにこれどういうこと? おまえらと麻奈実との間に、接点なんてなにもねーじゃねーか。 そもそもおまえらと麻奈実は初対面だろうが。なんで揃いも揃って好感度マイナスからスタートすんだよ。 「お二人ともよくいらしてくれました! 早速、わた……いえ、拙者の部屋へ行きましょうぞ!!」 玄関の空気を察したのか、沙織がリビングから飛び出してきた。 ここら辺はさすが沙織だ。桐乃と黒猫の背中を押して、せっせと二階へと連れて行く。 「あ……ちょ、ちょっと」 「ま、待ちなさい」 二人はまだ何か言いたげにしていたが、沙織が有無を言わさず連れ去ってしまう。 結果、玄関には俺と麻奈実が取り残される形となった。 「……なんだったんだ?」 まぁ、いいか。 このときの俺は、あいつらが突然不機嫌になった理由も考えず麻奈実とのんびりすることを優先したんだ。 不機嫌なあいつらを放置することがどれだけ危険か、ちょっと考えりゃわかりそうなもんなのにな。 32 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/01/13(木) 18 40 37.62 ID Z9ITKrREo [3/8] 俺と麻奈実がリビングでお茶を飲んでいると、ほどなくして二階からバタバタと騒がしい足音が響いてきた。 同時に誰かが何か叫んでいるようだが、聞き取れない。 「なにやってるんだ? あいつら」 今までは騒ぎこそすれ、ひとんちで走り回るなんてことはしなかったってのに。 「沙織ちゃんたち、楽しそうだね~」 「……ああ、そうだな」 どうやらおばあちゃんは、子供たちが元気なのが嬉しいようだ。 その台詞、孫が遊びに来たときのおばあちゃんそのままだぞ。 「と、ところでね……きょうちゃん」 しばらく、バタバタとうるさい天井を見つめていた俺だったが、麻奈実に呼ばれ振り返る。 見れば麻奈実は、なにやらもじもじとしていた。 「どうした麻奈実? トイレならリビング出て真っ直ぐ行ってから右だぞ?」 「と、といれじゃないもんっ! きょうちゃんったら、でりかしーなさすぎっ!」 「そりゃ悪かった。で? じゃあなんだよ」 「その……きょ、きょうちゃんの部屋……見たいなぁ……なぁんて…………だめ?」 「あ? そりゃ構わんが……たいしたもんはねーぞ?」 「やった」 ぱん、と両掌を合わせて、嬉しそうにする麻奈実。 とまぁそんなわけで、俺は麻奈実を自分の部屋に招くことになったのだが―― なんだろう。この妙に居心地の悪い――落ち着かない感じ。 何かを忘れている気がする。俺の人生を左右しかねない、重要な何かを……。 くそっ、喉元まで出かかっているんだけどなあ。 33 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/01/13(木) 18 42 40.14 ID Z9ITKrREo [4/8] 麻奈実を自分の部屋に案内するため、リビングの扉を開ける。 すると、音を遮る障害物が消えたためか、今まで聞きとれなかった沙織たちの声がはっきりと聞こえてきた。 「いいじゃん、これくらいなら。あんただって内心はムカついてるんでしょ?」 「そ、それとこれとは話が別です!」 「あっはっはっは! 闇の力を思い知るがいいわ!!」 「ああっ、後生ですから、それだけはお許しを~!! お兄様の趣味が疑われ――ええい、ここまでくれば一蓮托生でござる! もうどうにでもな~れ」 …………あいつら、いったい何して遊んでるんだ? 悪代官ごっこでもやってんの? 騒ぐのはいいけど、あんまり俺の妹をいじめないでくれよ? 麻奈実がついてきたのを確認してから、ばたん、とリビングの扉を閉める。 二階に上がると、そそくさと沙織の部屋に引っ込む沙織たちの後ろ姿が見えた。 あれ? あいつら沙織の部屋で遊んでたんじゃなかったのか? まぁ、細かいことは今はいいか。 「ここが俺の部屋な。……ま、入ってくれ」 がちゃり。ノブを回して扉を開けると、真正面にある机の上に目線がいき―― 「うおおおおお!」 俺は思わず取り乱しながら学習机までダッシュし、HGFCノーベルガンダムを麻奈実の視界から隠した。 そうだった! 忘れてたよ、ちくしょう! さっきの落ち着かない感じの正体はこれか!! 昨日、表面処理しようと思って机の上に置いといたんだ!めんどくさくて結局やらなかったけどさ!! 落ち着け――落ち着いて考えるんだ京介! 男子の部屋にガンプラがあることは大した問題じゃない。むしろ、なんの問題もないと言える。 だが、ノーベルガンダムはまずい。ノーベルガンダムだけはまずい。 だって、どこからどうみてもセーラー服で新体操してる女の子なんだもの! 34 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/01/13(木) 18 43 43.72 ID Z9ITKrREo [5/8] 「ど、どうしたの……きょうちゃん……?」 額にじわりと冷や汗をにじませつつ振り返ると、部屋の入口のあたりで麻奈実がこちらを窺っていた。 俺の突然の奇行に、ぽかんと口を開けている。 ど、どうしたのと言われましても……。 「な、なんでもないっスよ?」 「……なんでもないって……言われても」 ですよね。 「いやっ! なんでもないんだってほんとに! いまのはちょっと……叫びながら走りたい衝動に襲われただけでな?」 しかしマズイな……。打開策が「ガンプラを窓から放り投げる」くらいしか出てこねえ。 なにか……なにかいいアイデアはないか? この状況から無事生還する打開策は!? ピコーン! 頭上で、そんな音が聞こえた気がしたね。 「……待て! そうだよ……! これは……なんとかなるんじゃないか?」 追い詰められた俺は、学習机の一番大きな引出しを凝視した。 そう――タイムマシ……じゃなかった、単に引出しに突っ込めばいいのだ! エロゲ起動中のPCじゃないんだから、ガンプラ程度なら引出しに簡単に隠すことができる。 というわけで―― 「ふぅ~~」 手の甲で額を拭う。こ、これでOK……っ。 もはや俺の学習机は、凡庸学生の机そのものになっているはずだ。 俺は胸をなでおろしつつ振り返る。 「ハハ、驚かせて悪かったな!」 だが俺が爽やかな笑顔を向けた先では―― 「……………………じい」 「麻奈実さん……どうして俺の机の上を見ていらっしゃるの……?」 35 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/01/13(木) 18 45 10.90 ID Z9ITKrREo [6/8] 俺はみるみるわき上がってきた嫌な予感に浸食され、妙な言葉遣いになっていた。 だって麻奈実、なんか赤面しちゃってるし……。 ハアハアと嫌な予感に息を荒げながらも、麻奈実の視線をたどると、その先には机の隣に置かれたCDラックがあった。 「なん……らるれ!?」 錯乱した悲鳴を上げる俺。 そこに静置されていたのは―― 魔改造を施されたノーベルガンダム――らしきものだった。 どこかのフィギュアからパーツを持ってきて使ったのか、所々に人間の女の子のような肌が見えている。 というより、フィギュアにプラモのパーツをくっつけた、という方がしっくりくる。 「ぜんぜん大丈夫じゃねえ!? なんだありゃ!!」 「きょ、きょうちゃん……これ……って?」 ちょっ、どういうことだよ!? いったい誰が俺の部屋にこんなトラップを仕掛けていきやがったんだ!? いやいやいや! 考えるまでもねえ――よ! あいつらだ! クソッ、誰が主犯格かは知らないけどさあ!! 麻奈実はしばし、何とも言えない微妙な声色で、赤面しつつ言いよどんでいたが…… 「……そっかあ」 やがて、ほんわかと慈愛の微笑みを浮かべた。 そっかあ。 そっかあって何! 何に対してどんな納得をしたんだおまえは! 知りたいけど聞きたくねえ――!? 俺は今後、この日のことを忘れないだろう。 「……えっと……きょうちゃん……その……せーらー服っていくらくらいで買えるのかな?」 俺はその場で、まさに膝から崩れ落ちた。 第三話おわり
https://w.atwiki.jp/vip_oreimo/pages/302.html
217 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/02/03(木) 18 12 36.90 ID 6tJTLwGKo [1/4] 木枯らしの吹きすさぶ中、ポケットに手を突っ込んだ格好で家路を急ぐ。 「うあー、くそさみい……」 今朝の天気予報によると、大陸からの寒波がどうたらこうたららしいが、そんなことは俺には関係ない。 ただ、くそ寒いという現実があるだけだ。 帰ったらまずコーヒーでも淹れよう。そんなことを考えながら歩いていると、我が家の玄関先に人影が見えた。 「あれ? あの子は……」 我が家の玄関先に立っていたのは新垣あやせ。どうやら桐乃の友人らしい。 俺の中であやせ=ストーカー説が消えたわけじゃないが、女の子が女の子をストーキングするという状況はちょっと考えづらい。 かつて公園で俺を問い詰めた件だって、桐乃が知らない野郎と歩いていて心配になったからだろうと思っている。 今になって考えると、あの時俺が感じた視線って実はこいつのものなんじゃないかと思うんだよね。 さて、それはさておき―― 「あやせ……こんなとこで何やってんだ?」 「おおお、遅いです……おに、お兄さん」 可愛そうに、この寒さのせいであやせはがくがくと震えてしまっている。呂律すらまわっていない。 かつての天使のような笑顔の面影はなく、唇は紫がかっているし顔色は悪い。 いや、これはこれでかわいいんだけどね。なんか嗜虐心をそそられるというか……。 まあ、俺の新たな趣味の開眼はひとまず置いておいて、 「お、おい……大丈夫か? 一体何してたんだよこんなとこで。まさか、また俺に用か?」 「は、ははい。そう……です」 依然としてあやせの震えが収まる気配はない。これじゃあ話もろくにできないだろう。 このまま公園で立ち話でもしたら凍死してしまいかねん。あやせのあまりの悲壮さに思わずこんな提案を持ちかける。 「話は公園でってわけにはいかなさそうだな。俺の家で暖まりがてら話さないか? 今日はお袋がいるはずだから、あまり聞かれたくない話なら俺の部屋でってことになっちまうけど」 「いいい、いいんですか? じゃあお願いします」 218 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/02/03(木) 18 13 29.55 ID 6tJTLwGKo [2/4] 素直に提案を受け入れるあやせ。 この清純そうな天使のこと、ほぼ初対面の男の部屋に招かれるなんて普段なら絶対に拒否するところだろうが、あやせは自身の命を優先したらしい。 ふひひ、こればっかりは寒波とやらに感謝しないとな。 うおおおおお! 俺が暖めてあげるぜあやせたん!! ……一応断っておくが、変な意味じゃないからな。 「ただいま~」 「お、お邪魔します」 おずおずと我が家へと入るあやせ。こういう何気ない仕草一つとってもかわいらしい。 「あ、ちょうどいいところに帰ってきた。京介、あんたちょっと買い物に……」 「げ!?」 ちょうど俺に買い物を頼むつもりだったらしいお袋と出くわした。こういうのを間が悪いって言うんだろうな。 「あら、京介。そちらのかわいい子はどちら様?」 「あはは、いや……こいつはな」 やばい……なんて言おう。よくよく考えれば、こいつのことまだ名前くらいしか知らないんだよね。 どうやら桐乃の知り合いだってのはわかってるんだけどさ。 「初めまして、新垣あやせです。お兄さんにはよく相談に乗ってもらってるんです」 おい、俺がおまえの相談に乗ってたなんて初耳だぞ。 前回のを相談と呼ぶなら問題ないが、俺の中ではあれ、尋問だからね。 「そうなの? あ~あ~、そんなに震えて……寒かったでしょ。ゆっくりしていって」 「はい、ありがとうございます」 何の疑問を持たずあやせを招き入れるお袋。このあやせという子、どうやら中々にしたたかな子のようだ。 そのまま階段を上り、俺の部屋へと案内する。暖房もつけたし、これであやせの震えも止まるだろう。 「コーヒーでも淹れてくるわ。砂糖とミルクはどうする?」 「え? あ……じゃあ、どっちも入れてください。…………お砂糖多めでお願いします」 あやせは、申し訳なさそうに少し俯いて上目使いでお願いしてくる。 やべえ、超かわいい。他に形容すべき言葉が出てこないくらいかわいい。 219 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/02/03(木) 18 14 11.76 ID 6tJTLwGKo [3/4] 「う……ま、まだ寒かったら布団とか勝手に羽織るなりしといてくれていいからな」 「ありがとうございます、お兄さん」 自分の顔が赤くなるのを感じながら、自室を後にする。 しかし、あの子一体何の用があって俺んちにきたんだ? 俺に用があるのは間違いないんだが。 主観ではあるが、あやせの中での俺の印象は決して悪くないはずだ。 そして、大した用事でもないのにこんな気温の中いつ帰るともわからない相手を待ち続けるだろうか。 こりゃあ、ひょっとしたらひょっとするかもしれねえな。ふひひ。 リビングに降りると、どうやらお袋は買い物出掛けたようで一階には誰もいなかった。 いやあ、あやせが来てくれて助かったぜ。こんなくそ寒い中のお使いとか、まじ勘弁してほしい。 コーヒーを淹れようとキッチンの方へ移動しようとすると、テーブルの上の書置きが目に留まった。 「なんだこれ?」 『京介へ。ちょっと買い物に出掛けてきます』 ああ、やっぱり買い物に行ったんだな。でも、なんでわざわざ書置きを? いつも何も言わずに行ってるじゃねえか。 『追伸 避妊はきちんとすること』 俺は無言のまま書置きをびりびりと破り捨て、コーヒーを淹れてあやせの待つ俺の部屋へと戻る。 「おまたせ、あやせ」 「お帰りなさい、お兄さん…………って、なんでそんな無駄に爽やかな笑顔なんですか?」 「はっはっは。俺はいつでもこうだよ、あやせさん」 もうやだ! お袋に言われる「避妊はちゃんとしろ」がこんな破壊力だったなんて知らなかったし、知りたくなかったわ! なんでうちのお袋はデリカシーのかけらもないの!? 226 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/02/04(金) 23 45 11.10 ID p73Hlf10o [1/4] 「で、今日は何しに来たんだ?」 コーヒーを飲み、お互いに一息ついたところであやせの用件を聞き出しにかかる。 震えは止まり、顔色もすっかりよくなっていてるし、これならもう大丈夫だろうと判断したからだ。 あんまり遅くなると俺にとってまずいこともあるしね。 「用件の前にはっきりさせておきたいことがあるんです」 「はっきりさせたいこと?」 ……なんだか猛烈に嫌な予感がする。 以前あやせから感じた謎のプレッシャーを俺は忘れてはいなかった。あのときあやせは瞳の光彩を消失させ、どす黒いオーラを発していた。 今度あんなの見せられたら泣かない自信がない。 「桐乃とは本当に付き合ってはないんですよね?」 「……ああ、そうだ」 にっこりと微笑みながら質問してくるあやせだったが、この場合笑顔であることが逆に恐い。 なんでこの子の話はいつも尋問じみてるの? 相変わらず超恐いんだけど。 「桐乃は『手のかかる妹』みたいなもので、それ以上でもそれ以下でもないと」 「……ああ、そう言ったな」 「わかりました。では用件を伝えますね。……もう桐乃に近づかないで下さい」 「は?」 俺の訝しげな表情を見てあやせの表情が曇る。 「そんな大したお願いじゃないですよ?」 「いやいや、大した話だろ! どうしていきなりそんな話になるんだよ!?」 俺が一体何したってんだ。 そもそも、近づくなって言われてもなあ……ストーカーに対する判決じゃあるまいし。 227 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/02/04(金) 23 46 43.31 ID p73Hlf10o [2/4] 「まあ、問答無用でってわけじゃないんです」 「え? そうなの?」 「はい。私はお兄さんのことを全然知りません。ですから、今はまだ迷ってる状態なんですよ」 結論を先延ばしにした、もったいぶった話し方。切羽詰まった感が前面に押し出されていた前回とはまるで違う。 まるで、こちらの反応を窺っているかのようだ。 「で? 迷ってて? 俺はどうしたらいいんだ? その言い方だと何か条件なりがあるんだろ?」 「……なにをそんなに焦ってるんですか?」 早くしないと沙織が帰ってきちゃうの! ちくしょう、後先考えず俺の部屋に連れ込んだのは失敗だったよ! あわよくば……ふひひ、とか考えた俺の馬鹿! 兄の部屋からは何やら話し声。聞き耳を立ててみればどうやら女の子。そしてその子は俺のことをお兄さんと呼ぶ…………。 あいつにこんな状況を見られたら、それこそ問答無用でギルティ――有罪である。 特に最後のはやばい。お兄さんはやばい。あいつが嫉妬に狂うのが目に浮かぶようだ。 「い、いいから早く話の続きを……」 「えーと……どこまで話しましたっけ?」 「今はまだ迷ってるってところ!」 「そうでした。ですから、お兄さんのこともっと知りたいんです」 「俺のこと?」 「はい。私、桐乃のことが心配なんです。今年の春くらい付き合いが悪くなったりしてたんですけど、ここ数か月は様子もちょっとおかしくて……」 今年の春――そう聞いて俺には思い浮かぶことがあった。ちょうど沙織が桐乃や黒猫たちと知り合ったのがその頃だ。 俺たちと遊ぶ時間が増えたせいで、今までの友人たちとの時間が減ったのだろう。 だが、もう一方の方に心当たりは全くなかった。 数か月前ってなんかあったっけ? そういや、桐乃が義妹になったのもそのあたりか? 228 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/02/04(金) 23 48 33.86 ID p73Hlf10o [3/4] 「具体的にどう様子がおかしいんだ?」 「それはお兄さんには言えません」 「えっ? なんで?」 「なんでもです。とにかく、私は桐乃がおかしくなった原因はお兄さんにあると踏んでいるんです」 「い、いやいや、それはいくらなんでも言いがかりだって!」 あいつが付き合い悪いのは、あくまでも沙織たちと遊んでるからであって俺のせいじゃねえ! ……そりゃ俺も一緒になって遊んだりはするけどさ。 だが、なるほど。なんとなくだが話が見えてきた。 要は、あやせは桐乃が心配で、桐乃が変わってしまった原因を突き止めようって腹積もりらしい。 おそらく、こいつの中で最も疑わしいのが俺なんだろうな。悲しいことに。 沙織や黒猫と違い、俺は桐乃と一緒にいるところを(多分)一度見られている。しかも仲良さそうに腕を組んでいるところをだ(多分)。 こいつにしてみれば、親友が変な男に引っかかったんじゃないかって心配でたまらないんだろう。 ちょっと危ない雰囲気を出したりするのが気にかかるが、基本的には友達思いのいいやつなのかもしれない。 239 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/02/05(土) 19 51 48.60 ID VxOG8GUCo [1/3] 「おまえの言いたいことは分かった。で、俺は自分の潔白を証明するためにはどうすればいいんだ?」 「……えらく乗り気ですね。ロリコンのお兄さん」 「おい、まさか桐乃と歩いてたってことだけでロリコン呼ばわりしてるんじゃあるまいな」 あるいは妹もののエロゲをやってたのがばれたとか? この子に限ってはそれがないとも言いきれないのが恐い。 ま、なにはともあれ、俺だって桐乃に会えなくなるのは寂しいからな。あいつはもう、沙織だけじゃなくて俺の友達でもあるんだよ。 今までのあやせの言動を整理すれば、俺にはまだ汚名返上のチャンスが残されているはずだ。 そして、あやせが俺に出す条件――というか、お願いにはなんとなく察しがついた。 それは―― 「引き続き人生相談に乗ってもらえますか?」 「あれっ?」 俺が想像したものと違うんだけど? 「え……どうしたんですか?」 「あ、いや……ちょっと想像したものと違っただけだ」 首を傾げ、不思議そうな顔をするあやせ。 そして、いったい何を想像してたんですか? なんてことを聞いてきたもんだから俺は胸を張って言ってやった。 「私のお兄さんになって下さい」 「この変態! 通報しますよ!! なんで私がお兄さんの妹にならないといけないんですか!?」 あやせは怒鳴りながら、全力でこれを否定。 な、なにもそこまで嫌がることなくないか? 確かに俺たちは一回会ったことがあるだけでほぼ初対面だけどさ……でも、だからこそそこまで全力で否定することもないだろ。 なんで好感度がマイナスに振り切れてるみたいなリアクションなの? 240 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/02/05(土) 19 52 27.06 ID VxOG8GUCo [2/3] 「とにかく、それだけは絶対ありえませんから!」 あれえ? おかしいな。あの桐乃の友達だからきっとこうだと思ったんだけどなあ。 なんだよ、人生相談って。おまえは沙織か。 だいたい、なんでおまえがその言葉を知ってるんだ。まったくの偶然ということもありえなくはないが……。 「まったく、桐乃に聞いてたのと全然違うんだから…………。やっぱり自分で確かめに来てよかった」 ん? 桐乃に聞いてた? ふむ、やっぱりこの子は桐乃の友達みたいだな。一時はストーカー説もあったが、どうやらそれは杞憂に終わったようだ。 初対面で俺の名前を知っていたり、人生相談という単語を知っていたのも桐乃に聞いたからだろう。 だが、それが分かったことで新たな不安が湧いてくる。 桐乃は、この子に対して俺のことを一体どう評していたのか。……あいつのことだから、俺のことをぼろくそに言っていた可能性が高い。 道理でこの子の俺に対する好感度がマイナスに振り切れてるわけだよ。これじゃあ、あやせ√は絶望的だ。 がっくりと項垂れながらも、俺の脳は一つの疑問を感じていた。 「でも……なんで人生相談なんだ?」 「えっ?」 こいつの目的は俺の為人を見極めて、桐乃に害を与える存在ならば消してしまおうというもののはずだ。 そして為人を見極めたいだけであれば、何も人生相談である必要はない。 むしろ人生相談という形であれば、俺はこいつのために少なからず力を尽くすだろうし、悪い面は自ずと見えにくくなる。 こいつの目的からすれば悪手でしかない。 だからこそ、こいつが人生相談を選んだ理由が俺にはさっぱりわからなかった。 「え……あ……そ、それはですね…………」 あやせはここにきて、今日初めての動揺を見せた。 な、なんだ? 俺、そんなに変な質問したか? ……これは何かある。それはあやせ√へ繋がるフラグかもしれないし、あるいは俺死亡ENDに繋がるものかもしれない。 問い詰めるべきか、ここでこの話題を終わるか。 この選択一つで俺の人生が大きく変わる。漠然とだけど、そんな予感があったんだ。 253 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/02/08(火) 21 59 00.77 ID mmUQ6MLKo [1/3] 「…………まあ、いいや。何か言いにくそうだしな」 結局俺は、あやせが動揺した理由を追及しないことを選択した。 触らぬ神に祟りなし。藪をつついてなんとやら。俺だって命はおしい。 なんてもったいないことを――そんなことを言うやつもいるかもしれない。 だけどな、よく考えて欲しい。今のあやせの俺に対する好感度はマイナスに振り切れている上に、もし首尾よくあやせたん√に突入できたとしても……あのあやせだぜ? 一つの選択ミスが、文字通り命取りになる可能性だってある。 情けないようだが、俺はあのときの――瞳から光彩を消失させたあやせが頭から離れなかった。 びびってると笑わば笑うがいい! あの恐怖は実際に対峙した人間にしかわからないだろうぜ。 「で、用事はそれだけなのか?」 「はい。今日は、これからよろしくお願いします……ってことをお伝えに来ただけですから」 この発言から察するに、どうやらあやせの脳内では、『俺が人生相談に乗ることを断る』と言う状況はシミュレートされていなかったようだ。 「そういうわけですから、これからよろしくお願いしますね。お兄さん?」 そう言ってあやせはぺこりと頭を下げた。 「おう。わかったよ」 「あはっ、ありがとうございます! じゃあ……」 するとあやせは、ごそごそと自分の鞄を漁りだした。何かを探しているようだ。 いつでも逃げられるように、少し腰を浮かせておく。……いくらなんでもびびりすぎだろうか。 254 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/02/08(火) 22 00 21.52 ID mmUQ6MLKo [2/3] 「お兄さんのアドレス……教えてもらえますか?」 あやせが鞄から取り出したのは携帯だった。 ふぅ、と一息。あらかじめ少し浮かしておいた腰をそのまま持ち上げ、机から自分の携帯を回収する。 「…………これでよし」 「はい、こっちもおっけーです」 そう言ってにこりと微笑むあやせ。男なら思わず見惚れてしまうほどのかわいさだ。 「じゃあ、今日はこれでお暇しますね。急にお邪魔してすみませんでした」 「気にすんな。どのみち暇だったんだ」 ふぅ、どうやら沙織の帰宅までには間に合ったようだな。 あやせを玄関までエスコートし、そのまま手を振って見送った。 「冷静に考えると、あやせっていい子なんだよな」 かわいくて、友達思いで…… あとは、桐乃のことが心配なあまり発露してしまった一種の異常性さえ除けばまさに完璧と言えた。 そしてその異常性は、俺が桐乃に害がないとわかれば俺に向けられることはないだろう。 あんなかわいい子と繋がりを持てる機会などそうそう訪れまい。 「まあ、そうそう上手くいくとも思えないけどな」 言葉とは裏腹に、体は正直なもので顔がにやつくのを抑えられない。 だが、玄関扉を開け自宅に入った瞬間、甘い妄想は一瞬にして消え去った。 「……沙織の…………靴がある」 ただいまの声は聞こえなかったし、階段を上る足音も聞こえなかった。 いつだ? いつ帰ってきた? まるで間男のような自問自答。 きっと俺はこれから怒られる。沙織が帰ってきたタイミングによっては俺の「お兄さんになって下さい」という莫迦な妄言まで聞かれている可能性がある。 ごくり。思わず喉を鳴らしつばを飲み込む。 「腹をくくるしかないか」 浮かれてしまって、一瞬忘れていたぜ。我が家にも怒らせると怖い妹がいるってことをな。 「…………は、判決は?」 「ギルティ――有罪です」 沙織はそう言い放ち、にこりと微笑んだのだった。 第八話おわり
https://w.atwiki.jp/vip_oreimo/pages/299.html
87 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/01/16(日) 23 34 04.63 ID 8qBqPfgdo [2/5] 俺はいま、桐乃に呼び出され、近所の公園へとやってきていた。 刻は夕暮れ。空は赤く染まり、足元の影法師が長く長く伸びている。 その先で、桐乃がベンチに座っていた。 俺の姿に気付くと彼女はそっと立ち上がる。 「…………遅い」 「すまん」 これでも急いで来たんだけどな。 そもそも『5時に公園で待ってる』というメールを、5時に送ってこられても間に合うわけないだろ。 俺はどこでもドアなんて持ってないぞ。 「う……そ、そっか。ごめんね」 「構わねえよ。どのみち暇してたからな」 「うん――ありがと」 88 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/01/16(日) 23 35 15.17 ID 8qBqPfgdo [3/5] そう言って、穏やかに微笑む桐乃。 最近――具体的にはこいつらが俺を元気づけるためにパーティーを開いてくれた日から、俺に対する口調が変わったような気がする。 桐乃は、ふぅ……と深呼吸をひとつしてから、話題を切り替える。 「で……あんた。用件はわかってる?」 「いや……あのメールでわかるわけないだろ」 おまえ、待ち合わせ場所と時間しか書いてなかったじゃねえか。 「ちっ……察しなさいよ」 桐乃は不機嫌に舌打ちをし、ライトブラウンの髪をかきあげる。 その流れるような長髪は、夕焼けに照らされて黄金色に輝いて見えた。 「あんたをここに呼んだのは……人生相談が……あるからなの」 「人生相談?」 「そう、人生相談。沙織が、あんたにしてるみたいな」 おまえが? 俺に? いったい何を相談するんだよ。 言っておくけど、それ、俺を都合よく動かすための合言葉じゃないからね。 これから自分の身にどんな厄介ごとが降りかかるのかを想像し、思わずげんなりしてしまう。 「……ちょっと、なにその顔。せっかくあたしが人生相談してあげようってのに、何が不満なわけ?」 なんで相談する側がそんな偉そうなんだよ。 「不満なんてねえよ。で? なんだ? 人生相談って」 半ば投げやり気味に続きを促す。 89 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/01/16(日) 23 35 53.22 ID 8qBqPfgdo [4/5] 「………………」 が、桐乃は一向に答えない。 何かを言おうとして口を開いても結局言葉は出てこず、そのまま顔を背けてしまう。 なんだか妙に切羽詰まっている様子だった。 彼女の焦燥に釣られたのか、俺の胸はどきどきと鼓動を速めていた。 「あ、あのね」 意を決したのか、ようやく桐乃が言葉を紡ぎ始める。 「は、初めてあんたと会った時は……正直……地味で、冴えないやつだと……思ってた」 秘密を懺悔する少女のようにぽつりぽつりと、だがはっきりとした声で。 「でも、そうじゃなかった。頼りがいがあって優しいやつだった」 桐乃はまっすぐに俺を見つめてくる。 桐乃の顔が赤いのは夕焼けに照らされているからか……それとも…… 「気づけば、ずっと……あんたを見てた。ずっとあんたと一緒にいれる沙織が羨ましかった!……だからっ!」 こ、この流れは……。 ま、まさか……まさか…………まさか! 「あたしのお兄ちゃんになって下さい!」 「………………………………………はい?」 104 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/01/18(火) 19 39 02.98 ID v3X2Vw+Eo [1/4] 「おまたせ兄貴っ、じゃあ……行こっか」 そういうと桐乃は自然に腕を絡めてくる。 ライトブラウンの髪の毛、両耳にはピアス、長くしなやかな脚、すらりと均整の取れた身体。 中学生には見えないくらい大人びた雰囲気。 この超垢抜けた女こそ、俺の愛すべき妹・桐乃である。 「……兄妹で腕を組むのっておかしくないか?」 「え? そんなことないって。普通じゃん?」 多分、それはエロゲの世界観が判断基準になってるからじゃないっすかね。 と言いかけて、のど元まで出かかった言葉を飲み込んだ。 あの日、こいつにこっぴどく切り捨てられたことを俺は忘れちゃいなかったからだ。 「あたしのお兄ちゃんになって下さい!」 「………………………………………はい?」 ちょ、ちょっと待て。こいつはいきなり何を言ってるんだ? お兄ちゃん? 誰が? 誰の? 突然の告白に脳みそがついていかない。 あるいは愛の告白であれば、まだなんとかついて行けたかもしれないが事実はそうじゃなかった。 105 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/01/18(火) 19 40 28.08 ID v3X2Vw+Eo [2/4] 「ちょ、おま……意味が分からん。なんだお兄ちゃんって」 新手のプレイかなにかですか? 「お兄ちゃんはお兄ちゃんでしょ。あんたそんなこともわかんないの?」 「……そういう意味じゃねえ」 なんでお兄ちゃんなのかってことだ。普通、今の流れだと「付き合って下さい」に続くもんだろ。 なんだよ「お兄ちゃんになって下さい」って。俺のどきどきを返せ。 「だからぁ……あたしはあんたみたいな兄貴が欲しかったってことじゃん。察し悪いなあ」 いや、だからってどこに兄貴になれと言っちゃうやつがいるんだよ。 そういうのって普通、胸の内に秘めておくもんなんじゃないの? と、ここで一つの仮説が俺の脳裏に浮かぶ。 そういえば、こいつって妹もののエロゲ収集してるんだったな。俺もこいつに言われて何本かやらされたし。 ひょっとして、こいつの脳内では恋人=兄となっている――とは考えられないだろうか。 あまりに妹ものエロゲが大好きなもんだから、二次元と三次元の境界が曖昧になってしまっているのだ。 黒猫の邪気眼電波っぷりに近いものがあるかもしれない。 さすが俺。この難解なパズルをいとも簡単に解き明かしてしまった。 ふ……自分の才能が恐ろしいぜ。 106 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/01/18(火) 19 41 25.84 ID v3X2Vw+Eo [3/4] 「……キモ。ばかじゃん? 二次元と三次元を一緒にしないでよ。ゲームはゲーム、リアルはリアル、恋人は恋人、兄貴は兄貴なの。 大体さー、あんたを恋人にしたい人間なんているわけないでしょ?」 ばっさり。俺の仮説はいとも簡単に打ち砕かれた。 それにしてもひどい言われようである。 なにもそこまで言う必要なくね? 泣いちゃうぞ? 俺が。 「ま、まぁ、恋人としてはあれだけど……兄貴としてはいい感じだし? 頼りになりそうっていうか……お人好しっていうか…………最初は兄妹からっていうか」 最後らへんはぼそぼそ声になりすぎていてうまく聞き取れなかったが、どうやらフォローをしてくれているらしかった。 普段の言動のせいで勘違いしがちだが、ここらへん、こいつも優しいやつなのだ。 それにしてもなんで兄貴を欲しがったんだろう。 ……一人っ子らしいし、ひょっとして家では寂しい思いしてんのかもな。 「いいぜ、わかったよ。兄妹――なってやろうじゃねえか」 「いいの!? ありがと兄貴っ!」 最初は兄貴になれとか言われてどうしようかと思ったが…… まぁ、なんだ。こんな笑顔を見せてくれるんなら、妹が一人増えるくらいなんでもないよ。 113 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/01/19(水) 16 45 26.56 ID YxMhfA4Uo [1/4] 妹が一人増えるくらいなんでもないよ。 ――そう思っていた時期もありました。 「はあ? どこ行くかくらいちゃんと決めとけっての。……ったく。」 「そんなこと言われてもだな……」 会って早々に路上で俺を罵倒し始める桐乃。俺はもはや苦笑いを浮かべることしかできない。 なんでおまえの買い物とやらに付き合うのに、俺が出掛け先を決めておく必要があるんだ。むしろ逆だろ。 あれか? おまえんちでは兄貴ってのは召使いって意味なの? あの日――兄妹の契りを交わした日から、おまえの俺に対する態度が、えらく横柄なものになってるのは俺の気のせいじゃないですよね? 「お、おい。目立つしさ、そろそろ落ち着けって」 周囲の視線が痛い。 せめて一言、「俺は召使いじゃねえぞ」と言ってやりたかったが、そこはほら、俺の優しさっつーか? 決してへたれたわけじゃないから勘違いしないでよね。 「買い物に付き合うのはいいが……何が欲しいんだ? 服とかか?」 どうにか桐乃をなだめすかし、こいつが行きたい場所の見当をつけるべく探りを入れる。 女の子の買い物って言ったら正直それくらいしか思い浮かばない。 こいつに限っては秋葉原という選択肢もあるのだが、秋葉原なら沙織や黒猫たちと行くだろうしな。 114 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/01/19(水) 16 48 18.66 ID YxMhfA4Uo [2/4] 「服はいいや。この間デザイナーさんから貰ったばっかりだし。今シーズンはもう買わないで、その分メルルのグッズに回すつもり」 ふーん。服ははずれか。 …………ん? デザイナーさん? 「なに、おまえ。服のデザイナーとかに知り合いがいるの?」 「あれ? 言ってなかったっけ? あたし読モやってるから」 毒藻? 「その顔……全然わかってないでしょ。読モ。読者モデル」 「はあ!? モデル!? おまえが!?」 「そっ。自慢じゃないけど、結構有名な雑誌。……あ、ちょっと待ってて」 そう言い残すと桐乃はコンビニへと走って行ってしう。 あいつがモデル? いや、確かに超スタイルいいし、顔もかわいいんだけど…… あの性格で仕事できるの? 超心配なんですけど。……ひょっとして仕事場では猫かぶってんのかな。 目を閉じ、猫を被った桐乃を想像する―― 「あ、駄目だ。できねえ」 「何ができないの?」 「ひいっ!? すいません!」 いきなり声をかけるんじゃねえ! つい条件反射で謝っちまっただろうが! 段々と下僕精神が芽生え始めている自分が悲しい……。 俺の実妹が沙織でよかったぜ。こいつが実妹だったらどうなっていたことか。 きっとあれこれ振り回されて……沙織以上に手のかかる妹だったろうな。 まぁ、それでも――決して嫌なんかじゃあなかっただろうけどさ。 115 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/01/19(水) 16 49 50.20 ID YxMhfA4Uo [3/4] 「? まあいいや。はい、これ」 「雑誌?」 桐乃はコンビニで一冊の雑誌を買ってきたようだ。 女の子が読むようなファッション誌。俺でも名前を聞いたことがある有名雑誌だ。 「ここ。このページ」 「うお……まじだったのか」 雑誌には流行りものの服を着てポーズを決める桐乃の姿があった。 隣で一緒に写っている子は友達だろうか。とても仲がよさそうに笑っている。 「はあ……おまえ、すごいやつだったんだな」 「当たり前でしょ」 ふふん、と胸を張ったかと思うと素早く俺の腕を絡めとる桐乃。 確かにすごい。確かにすごいが……こいつにできるんなら、うちの沙織にもできるんじゃなかろうか。 そう考えるとそんなにすごくないような……そうだ、忘れてた。うちの妹もやたらハイスペックだったな。 成績優秀、スタイルと顔の良さはスーパーモデル級。意識して見ることなんてないから忘れがちだけど。 「いいのか? そんな読モ様が俺なんかと腕組んで歩いてて」 おまえ、有名人なんじゃねえの? いろいろと困ることもありそうなもんだが。 さっきから感じる視線も、単に美少女と歩く冴えない男を羨むものだけじゃないのかもしれんな。 「いいのいいの。兄貴と歩いてたって何も問題ないっしょ?」 「いや、兄貴って……」 それはおまえの中での話だろ? 世間ではこれをデートと呼ぶんじゃねえの? ……いかん。意識したら緊張してきちまった。 そして、さっきから左腕に感じる柔らかい感触のせいか、俺のリヴァイアサンが覚醒しかけている。 くそっ、鎮まれ……鎮まるんだ。 123 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/01/20(木) 22 18 53.69 ID M3uODPAto [1/5] 「ほらほら。結局どこ連れてってくれんの?」 煩悩と必死に格闘している俺を桐乃がまくしたててくる。 「んー。そうだな……」 所詮建前でしかなかったのかも知れないが、『買い物に付き合う』という体裁はどこに行ったんだ? 兄貴になるとは言ったが、こういうのって兄貴じゃなくて恋人とするもんなんじゃねえの? 俺、沙織とだってろくに出かけたことないぞ。 かといって兄貴=恋人説は、他でもないこいつ自身にばっさり切り捨てられちまったし……。 …………俺にはおまえの目的がさっぱりわからねえよ。 「え、映画とかどうだ?」 苦し紛れに出た答えとしては、なかなか悪くないのではないだろうか。 映画ならばべたべたとくっつかれる心配もないし、長時間安定して時間がつぶせる。 その間に俺のリヴァイアサンの怒りも鎮まるってもんだ。 桐乃はしばらく考える素振りを見せてから、 「うーん……わかった。そこでいい」 「決まりだな」 ようやく目的地が決まった俺たちは、駅前の映画館へ向けて歩き出した。 「ただいま。あ~~疲れた」 ようやく桐乃から解放され、我が家へと辿り着く。 ようやく……と言っても現在の時刻は6時過ぎ。それほど遅くなったわけではない。 女性の買い物に付き合わされてぐったり……なんてのがあるだろ? 今の俺がまさにそれだ。 もはやこれ以上立っていることもままならず、玄関に腰をおろす。 124 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/01/20(木) 22 19 34.41 ID M3uODPAto [2/5] 結局、俺はあれから買い物に付き合わされる形となった。 映画以外の俺の提案はかたっぱしからNGを出されたため、それ以外の選択肢が消えてしまったからだ。 こんなことならもっと本気でプランを考えとくべきだったぜ。 ひょっとして、桐乃が最後まで『買い物に付き合う』という案を飲まなかったのも、俺がこうなるのって分かってたからか? ……いや、ないな。あいつに限ってそれはない。多分俺の思いすごしだ。 「おかえりなさい、お兄様」 玄関に座ってしばらく体を休めていると、沙織が出迎えてくれた。 「いたくお疲れのようですわね。今日はどこへお出かけに?」 「お、おう……ちょっとな」 別段隠す必要もないはずなのだが、なんとなくごまかしてしまう。 「そうですか。………………あら? それは?」 「ん? あ!」 沙織は俺の手元にあった雑誌をすばやく拾い上げる。 「お、お兄様? これは……いったい……?」 沙織が手に取ったのは、桐乃がくれたファッション誌だった。 「あたし、見本誌もらってて同じの家にあるし。これはあんたにあげる」 そう言われて半ば強引に押し付けられたのだ。 ちくしょう、そんならわざわざ買ってくんじゃねえよ。立ち読みで十分だったろうが。 おかげで沙織が愕然とした表情で俺を見つめているじゃねえか。 ここで俺が取るべき選択肢は…… 1. 実は女装趣味に目覚めてな。 2. 実は桐乃にもらったんだよ。 2だ! 2に決まってんだろ!? 俺は提示された選択肢から迷うことなく2を選びとる。 125 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/01/20(木) 22 20 30.20 ID M3uODPAto [3/5] 「実は桐乃にもらったんだよ」 「え? きりりんさんからですか?」 「ああ。話せば長くなる。飯の後でいいか?」 「……ええ。詳しく聞かせてもらいますわ」 「…………では、今日は一日中きりりんさんと一緒にいてらしたんですね?」 「ああ、そうだ。おまえになんの相談もしなかったのは悪いと思ってる」 今、俺と沙織は俺の部屋にいる。先ほど約束した通り、一通りの説明を終えたところだ。 ……だけど…………なんだ? この罪人とお奉行様みたいなポジション。 ここは俺の部屋だってのに、なんで俺は床に正座してるんだ。 「で……『あたしの兄貴になって下さい!』とは?」 ベッドに腰掛け、腕を組んで俺を見下ろす沙織。 「い、いや。俺にもよくわかんないんすけど……なんか…………あいつ、兄貴が欲しかったらしいっす」 本当は今日一日桐乃といたってことだけを伝えるつもりだったのだが、 沙織の予想外な高圧的な態度(それでも桐乃ほどではないが)にうっかり余計な事を口走ってしまったのだ。 「それで? 意気揚々ときりりんさんの兄になったと?」 やべー、沙織さん超こえー。こいつにこんな一面があったの? ……できれば知りたくなかったぜ。 126 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/01/20(木) 22 21 13.33 ID M3uODPAto [4/5] 「い、意気揚々とってほどでは……」 ……いや。あの当時は意気揚々とだった気もする。今となっては少し後悔していなくもないが。 沙織の説教に耳を傾けながら、自分の置かれている状況を振り返る。 浮気が彼女にばれたみたいな感じか? 経験したことないけど、多分こんなだろ。 今回は、実妹に義妹(でいいのか?)ができたのがばれたっていうシチュエーションだけどな。 …………我ながら意味が分からん。誰かこの状況を上手く説明できるやつを連れてきてくれ。 「……なってしまったものは仕方ありません」 沙織が、はぁと大きく息を吐く。ようやく説教に終わりが見えた。 た、助かった。そろそろ足のほうも限界だったんだよ。 「ですが! 忘れないで下さいね。お兄様はきりりんさんの兄である前に私のお兄様なんですよ?」 そう言うと、沙織はぷいっとそっぽを向いてしまう。 だが、頬をわざとらしく膨らませているあたりそこまで怒っていないのかもしれない。 ひょっとしたら除け者にされたみたいなのが嫌で、ちょっと拗ねてるだけなのかもな。 痺れる足に力を込めて立ち上がり、沙織の顔に手を伸ばす。 沙織の顔を挟むようにして両手に力を込めると、ぷふーと、間抜けな音が漏れた。 「むぅ……なにふるんでふか」 「ふっ……そんな怒るなよ。大丈夫、俺の…………いや、俺は何があってもお前の兄貴だよ」 ははは。これじゃあ、なんだか本当に彼女に浮気がばれた彼氏みたいだな。 一人苦笑する俺を沙織が不思議そうに見つめていた。 第五話おわり
https://w.atwiki.jp/vip_oreimo/pages/301.html
168 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/01/28(金) 18 31 57.84 ID vV91Zi7Ao [1/5] 「お? おまえ、出掛けんの?」 季節は巡り、ある冬の日曜日のもう昼になろうかという時間。 いつもより遅めに起きた俺は、玄関で今まさに出掛けようとしている沙織を見つけた。 「おや、おはようございますお兄様。遅い起床でござるな」 「ほっとけ」 こてこてのオタクファッションに身を包んだ沙織の口調は、いつものお嬢様口調ではなくいまどき時代劇にもでてこないようなござる口調。 この時点で誰とどこに出掛けるかってのは大体想像がつく。桐乃や黒猫と、大方秋葉原にでも出掛けるんだろうぜ。 「気を付けてな」 「はい! ありがとうございますお兄様! では、行ってくるでござる!」 「あいよ」 沙織が元気よく玄関を飛び出して行くのを見送り、キッチンへと足を運ぶ。 温かいお茶でも飲もうかと、お湯を沸かし始める。 「……くそ寒いってのによくやるよ」 こんなくそ寒い日の朝っぱらから出掛けて行くなんて、俺にはちょっと真似できない。 あいつらのバイタリティはどこから湧いてくるんだろうな。 ……いや、考えるまでもないか。あいつらは大好きなアニメやゲーム、それにプラモなんかのためならこれくらいなんでもないいんだろうな。 169 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/01/28(金) 18 33 25.79 ID vV91Zi7Ao [2/5] ところで、俺はずっと疑問に思っていたことがあるんだ。 「沙織のやつ、いつまであのファッション続けるんだろ」 オタクのコミュニティのリーダーとしてふさわしい恰好を――それがあいつがあのファッションを選んだ理由だった。 だけど、桐乃や黒猫と遊ぶ時なんかも沙織はずっとあのファッションなんだ。 「そろそろ、普段の恰好で会っても問題ないと思うんだけどな」 あの恰好……心を開いていないってわけじゃないけど、なんか壁を作っているみたいに思えて気になってたんだよね。 あいつのことだからそんなわけはないとわかっちゃいる。わかっちゃいるが頭で理解できても納得はできない――そんな感じだ。 ただ、そんな沙織が一度だけあいつらに素顔を見せた時があった。 セーラー服やら、『今日一日は私たちが妹』というシチュエーションまで用意して落ち込んでる俺を励まそうとしてくれた時だ。 あの時、沙織は「今日はこのコスプレをするにあたってちょっと勇気を出してみたんです」と言った。 この言葉を額面通りに受け取るなら、セーラー服を着るのに勇気を出したという意味なんだろうが、俺はそうじゃないと思っている。 「帰ってきたら聞いてみっか」 それに…………妹にへんてこな恰好で街をうろつかれるのはいろいろと困るってのもあるしな。 特に予定のない俺は結局14時くらいまでだらだらと過ごしていた。 テレビをザッピングしながらすでに読み終えた雑誌を何気なく眺める。 すると、テレビで流れたあるニュースが目に留まった。 「お、ほこ天復活したのか」 ちょっと前に事件があって以来、中止されていた秋葉原の歩行者天国。 今日がその復活の日だったらしく、テレビのレポーターが現地中継をしているところだった。 テレビの画面では奇抜な恰好したオタク連中がレポーターに質問されている。 170 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/01/28(金) 18 36 51.95 ID vV91Zi7Ao [3/5] 「しかし……テレビ局側もわざとへんてこな連中狙ってレポートしてやがるな。さっきからおかしな連中しか映ってねえじゃねえか」 さっきからテレビに映るやつらは、一様に何かのコスプレをしていたりしているやつらばかりだった。 ……理由はわからないが、少しイライラとしてくる。 なんだろうなこの感じ。友達がさらし者にされてるみたいな……レポーターやコメンテーターの苦笑いや見下したような目つきがそうさせるのか。 少し前までの俺ならきっとこのレポーターと同じように苦笑いを浮かべていたに違いない。 なんだこいつら。こんなかっこして馬鹿じゃねえの――ってな。 「チッ……」 舌打ちをし、テレビのチャンネルを変えようとした時、俺の目にとんでもないもんが飛び込んできた。 「ちょ!? あいつらなにやってんの!?」 テレビの画面にはレポーターのインタビューを受ける沙織達の姿が写し出されていた。 桐乃が意気揚々とほこ天復活の嬉しさを語っていて、沙織もそれに続く。 黒猫は一際でかい沙織の陰に隠れ表に出てこようとしないが、毒を吐くのだけは忘れない。 まあ……テレビ局から見たら恰好のインタビュー相手だったんだろうな。 こてこてのオタクファッションに身を包んだ馬鹿でかい少女A、秋葉原とは一見縁遠そうに見えるオシャレな恰好をした少女B、そして、ゴスロリファッションに猫耳までついてる少女C。 「あ、あいつら……」 思わず顔が引きつる。公共の電波でなんて恥をさらしてるんだ。 でも、テレビの画面で嬉しそうにはしゃぐあいつらを見て、「ま、いいか」と思ってしまう。 こんな風に考えられるようになったのは、きっとあいつらの影響に違いなかった。 引きつった顔が次第に笑顔へと変わっていく。 「ふっ……悪くねえ」 誰に憚ることもない。決して自慢できるような趣味や恰好じゃないが、それでも。 あいつらの友情は憚らなきゃいけないようなもんじゃない。「どうだ、羨ましいだろ」胸を張ってそう自慢できる。そう思ったよ。 そして、気付けば俺はいつのまにか録画ボタンを押していたんだ。 190 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/01/30(日) 22 08 55.59 ID zsC6SoaTo [1/4] 「ただいまでござる!」 元気よく帰宅を告げる沙織の声が俺の部屋まで響いてきた。現在の時刻は門限の少し手前の6時。 ばたばたと階段を駆け上がる音がし、続いて隣の部屋の扉の音がした。 ふむ……あの声と足音から察するに、今日はいつも以上に楽しかったみたいだな。 沙織はがさがさと音を立てて、自室で何かしているようだったが、やがてその音が途切れた。 そして音が途切れてからしばらくすると、バン! と俺の部屋のドアが開いた。 「お兄様! お土産ですわ!」 「ひいいいいいいいいいいいい!?」 ドアが開くと同時に素早く身を翻し、桐乃に渡されたノートパソコンの画面を沙織の視界から隠す。 「あ……ごめんなさい、お兄様。なんか…………入ってはいけないタイミングだったみたいですわね」 「い、いやそうじゃない、おまえは勘違いをしている! あ、あくまでもちょっとびっくりしただけだ!」 「うふふ、ではそういうことにしておきますわ」 にこりと微笑んで、そそくさと退室しようとする沙織。 「5分後……いえ10分後くらいにまた来ますわ」 「だ、だから違うんだって! 誤解だ!」 そんなに時間かかんねえから! …………って何言わせんだ! 俺の言い訳もむなしく、無慈悲にもドアは閉じられた。 くそっ……あいつのノックを忘れる癖は間違いなくお袋からの遺伝だろうな。 ……お袋は沙織と違って、忘れてるわけじゃなくわざとしてない疑惑もあるけども。 ぐったり項垂れながら、PCゲームのデータを保存し、ノートパソコンとシャットダウンする。 ……そもそも桐乃がこんなものを押しつけてくるからいかんのだ。 191 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/01/30(日) 22 11 07.33 ID zsC6SoaTo [2/4] けっこう前の話になるが、桐乃や黒猫と一緒に沙織の部屋遊んでいる時、沙織が席を外した隙を見計らって桐乃がこんなことを言い出したのだ。 「はいこれ、来週までにフルコンプしておくこと」 「はあ!? てめえ! 妹がいる兄貴になにやらそうとしてんだ!?」 「え? なにって……妹もののエロゲだけど」 きょとんとした表情で首を傾げる桐乃。何言ってんのこいつ? と、言わんばかりの態度だ。 「お、おま……これが家族に見つかったらどうなるかわって言ってんのか?」 間違いなく、親父にぼこぼこにされた上勘当されちまうわ! 「あんたの事情なんて知らないっての。で、やるの? やらないの?」 「ちょっとくらいは考慮しろ! …………まあ、俺はパソコン持ってないし土台無理な話だな」 落ち着いて考えればそうなのだ。 我が家でパソコンを持っているのは沙織だけである。まさかこいつも妹のパソコンで妹もののエロゲをやれなんていうとんでもないことは言い出すまい。 「そういうわけで諦めてくれ。すまんな、俺もやってやりたいのはやまやまなんだが」 いやー、なんにしても助かったぜ。 「はい、これも一緒に貸したげるから」 そういうと桐乃は一台のノートパソコンを俺に手渡してくきた。 「なんでそんなに用意がいいんだよ! おまえ、俺の部屋に入ったことねえだろ!?」 なんで俺がパソコン持ってないことを見越してんの!? 「っふ……それはね、邪眼の力よ」 驚愕する俺に声をかける黒猫。 邪眼で何をどうしたのかは知らないが、どうやらこいつが情報源であるようだ。 なんなのおまえら、そんなに俺に妹もののエロゲをやらせたいの? 192 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/01/30(日) 22 14 02.73 ID zsC6SoaTo [3/4] 「ほらほら、早く受け取らないと沙織が戻ってきちゃうけど?」 「いや、これは桐乃がもってきたものだと言えばわかってくれるだろ」 沙織は桐乃がこういうゲーム大好きなの知ってんじゃん。その脅迫は意味をなさないぞ? 「あなたがいきなり私たちの目の前でこれをプレイしようとした……というのはどうかしら」 「今すぐ俺の部屋に片付けてまいります! コ、コンプは来週まででいいんだな!?」 と、まあこんな具合に妹もののエロゲをやらされる羽目になってからというもの、桐乃は定期的に俺にエロゲを渡しその都度、 「来週までにコンプすること」 という無理難題を押しつけてくるのだった。くそっ……素人が一週間でコンプなんてできるわけねえだろ。よほど時間かけねえ限りはな。 そんなわけで、俺は健気にも桐乃の言いつけを守るべく、せっかくの休みに出掛けることもせずエロゲにいそしんでいたわけだ。 ……それを沙織に見られちまったのは計算外だけどな。くそっ……超気まずいぜ。 197 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/02/01(火) 17 44 23.10 ID +ArswgcOo [1/5] なんと言い訳したところで余計に泥沼にはまることは目に見えている。こういう時は全てをなかったことにしてしまうのが一番いい。 自分の部屋を出て、沙織の部屋のドアをノックする。 「おーい、沙織」 すると、すぐにドアが開き沙織が顔を出した。その顔は少し赤い。 「も、もうよろしいのですか?」 「ぐっ…………」 思わず「よくねえよ!」と突っ込んでしまいそうになるがギリギリのところでこらえる。 ここは話題を変えることが最優先だ。 「あ、あのさ、俺に用事……あったんじゃねえの?」 「そうでした! さ、入ってください」 「おう」 沙織に招かれて部屋の中へと入る。 相変わらずの女の子っぽい部屋。所々に見えるガンプラが、こいつがガンオタだということを再確認させてくれる。 「はい、お兄様。これ、秋葉のお土産です」 そういうと沙織は、俺に一つのガンプラを手渡してきた。 「……でるた……ぷらす?」 沙織の影響で多少ガンダムに詳しくなったという自負があったのだが、このプラモに関しては全く見覚えがなかった。 だが、よく見てみると、色こそ違えどその外見は沙織が大好きなあの金色のモビルスーツにそっくりだ。 たしか……百式とか言ったっけ? 「さすがお兄様! その通りですわ。その子はあの百式の親であり妹みたいなものなんです!」 「……わけがわからん」 198 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/02/01(火) 17 46 26.50 ID +ArswgcOo [2/5] 親はなんとなくわかるが、妹ってなんだ。そこは普通、兄弟機(という表現であってるかは知らない)とか、せめて子供とかじゃないの? ガンダムのことはよく知らないけど、なんでわざわざ妹と指定する必要があるんだ? そもそも、親であり妹でもあるってどんな状況だ。このプラモを俺だとすれば、沙織が親と妹を兼ねてるってことだろ? ぐぬぬ……なんというカオス。 まあ、沙織が言うからにはそれであってるんだろうけど。 「でも……なんで急にお土産を? 今日、おまえらが秋葉原に行ってたのは知ってるけどよ」 「えっ? なんで知ってるんですか? ……まさか、私のことが心配で後を――」 「つけてねえ。おまえら、秋葉原でテレビの取材受けてたろ。ばっちりお茶の間に流れてたぞ」 思わず録画しちまったなんて、恥ずかしくて絶対言えねえけど。 録画したDVDは俺のコレクションBOXに隠してあるからバレる心配はないだろう。 おまえ達らしい、なんとも微笑ましい光景だったな。パッと見じゃ、あの微笑ましさは理解できないだろうけどな。 奇妙な優越感を感じながら、俺はこう続けた。 「で、なんで急にお土産を?」 「…………………………」 すると沙織は急に黙り、うつむいてしまう。先ほどまで感じていた優越感は、一転して不安と焦燥へと変わる あ、あれ? 俺、なにか変なこと言ったかな? 「さ、沙織?」 「…………」 沙織からの返事はない。 「す、すまん。俺、何か気に障ること言ったか?」 「…………最近、お兄様がずっときりりんさんのお願いを聞いているからです」 「……え?」 沙織が、絞り出すようにして発した言葉は俺には理解できなかった。 俺が? 桐乃のお願いを? なんのことだ? 俺の表情を見て俺の考えていることを察したのか、沙織がご丁寧に解説を入れてくれる。 「だって……最近はずっときりりんさんから渡されたえっちなゲームばかりしているではありませんか」 くおおおおお! せっかく話題を変えたってのに! ……どうやらこの話を避けて通ることは不可能なようだ。 腹をくくり、返事を返す。 199 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/02/01(火) 17 49 13.50 ID +ArswgcOo [3/5] 「あのな……あれはお願いじゃねえ。脅迫ってんだ」 エロゲをプレイしているのは、あくまでも桐乃にいわれたからで、決して自分の意思じゃない。 言葉の端にそういうニュアンスを漂わせる。明言を避けたのは、なんとなく言ってはいけない気になったからで深い意味はない。 もうこの論旨で行くしかない。ってか実際そうだしな。決して、嬉々としてプレイしてたわけじゃねえぞ。 「……同じことです。お断りにならなかったのでしょう?」 「う…………そう……だけどよ」 「……本当の妹は、私なんですよ?」 そうか。ここまで言われてようやく沙織の言いたいことがやっとわかってきた。 こいつは俺が桐乃ばっかり構ってるみたいで面白くなかったんだな。 たしかに最近は、エロゲばっかりやってたせいか、沙織と会話することが少なかった気がする。 もっと自分に構ってほしい。でも恥ずかしくて自分からは言い出せない。 だから、お土産にプラモを買って帰って、一緒に作って、構ってもらおう――そう思ったんだ。多分これで間違いない。 なにせ、こいつは超が付くくらいのブラコンだからな。 「すまん。時間見つけて作ってみるよ。今度は塗装のやり方教えてくれよな」 ぽん、と沙織の頭に手を置きそのまま撫でてやる。こんなに大きくなっちまって、お兄ちゃんは嬉しいぞ、ちくしょう。 「ありがとうございますお兄様! 愛していますわ!」 「うお!?」 大変なことを口走ったかと思うとそのまま俺に抱き着いてくる沙織。 ちょ……飛びついてくるんじゃない! や、柔らかいだろうが! 何がとは言わねえけど! が、結論から言えば俺のリヴァイアサンが覚醒するようなことはなかった。 相手が妹だったから――というわけではない。 「ぐおお…………お、重いい」 堪え切れず、そのままベッドへと倒れこむ。そのまま、まるで沙織に押し倒されたみたいな恰好になる。 「あのなあ……抱き着くのはせめて心の準備が終わってからにしてくれ」 「うふふ、ごめんなさいお兄様」 苦笑いを浮かべる俺とは対照的に満面の笑みを浮かべる沙織。 こいつは本当にブラコンだな。ここまでブラコンの妹は他に存在するまい。 だから、俺は今なら胸を張ってこう思うことができる。つくづく俺はシスコンなんだなってな。 先ほどまでの苦笑いから、次第に純粋な笑顔へと変わっていくのが自分でもわかる。 だが、次の瞬間、俺の表情は凍りつくことになる。 200 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/02/01(火) 17 49 44.59 ID +ArswgcOo [4/5] 「沙織。つや消しが切れた。すまんが貸してく…………」 ドアは、用事を済ませたらすぐ出ていくつもりだったこともあり、開けっ放し。 俺に抱き着き倒れたはずみで、少し乱れた沙織の衣服。 何より、沙織にベッドの上に押し倒されたというこの状況。 「ち、違うんだ! こ、これには深いわけが!」 無駄だとわかってはいるが一応の説得を試みる。 「京介……今すぐ下に降りて来い。話がある」 殺意の波動を全身から迸らせ、親父はそう言い残し姿を消した。 なんで俺だけなんだよ!? はい終わった! 今、俺の人生終わったよ!? 「お、お兄様……」 俺の上に乗った沙織が不安そうな声を出す。 「ふっ……俺にまかせろ」 だから、そんな泣きそうな顔をするんじゃない。 ばっちり誤解を解いてきてやるぜ。そんな意味をこめて、ぐっと自分の顔を親指で指さした。 ところで、おまえはいつまでそのままでいる気だ? そろそろズボンの中が苦しくなってきたんだけど? 206 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/02/02(水) 19 55 57.05 ID DsGORQ7xo [1/5] 「あははははははははは!」 「ふふ………くくっ…………なんという………」 ぱんぱんと手をならし爆笑する桐乃と、腹を抱えて悶絶する黒猫。 俺の左頬に湿布が張られている理由を説明したことに対するリアクションがこれである。 ちなみに今日は俺の部屋で集まっている。 普段は沙織の部屋に集まるのだが、夜遅くまで作業をしていたせいで散らかっているらしく、俺の部屋を使うことになったのだ。 「おまえら、笑いすぎだろ」 こっちゃあ大変だったんだぞ。荒ぶる親父を鎮めるのにどれだけの労力が必要だったことか。 「はぁはぁ……ごめんなさい。でも、いくらなんでも間抜けすぎないかしら」 「そうそう。笑うなってほうが無理だって……ぷぷっ」 くっ……確かにそうだけどよ。 「ちっ……ほらよ、これ。フルコンプしといたぞ」 話題を変えるべく、桐乃にある物を手渡す。いつまでも笑われてちゃたまらねえからな。 俺が手渡したのは、以前桐乃に渡されたエロゲである。1週間で――とはいかなかったが、2週間ほどかけてようやくクリアしたのだ。 「随分遅かったじゃん。なんで1週間でクリアできないわけ? あ、言い忘れてたけど、あたしのノートパソコンくんかくんかしてないでしょうね」 「しねえよ! どんな変態だ! あのなぁ、俺だって暇じゃねえんだよ。そればっかりやってるわけにもいかないの」 「はあ? 1週間でも妥協してあげてる方なのに、その上言い訳まですんの?」 「妥協だろうがなんだろうが、俺にも都合ってもんがあるんだよ」 「都合? これより優先すべき都合なんてあんの?」 なんという傲岸不遜っぷり。なんでナチュラルに自分の頼みごとが最優先してもらえると思ってんだよ。 まあ、いい。俺の“力作”を見ればその考えも改まろうというもの。 207 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/02/02(水) 19 56 38.00 ID DsGORQ7xo [2/5] 「ふっ……実はな、最近はずっとあれ作ってたんだよ」 そう言って、俺の机の上に飾られたガンプラを指さす。そこには金色と灰色のガンプラが仲良く並んでいた。 ちなみに灰色の方が、俺が作ったガンプラだ。 なぜ金色の方も飾られているのかというと、沙織がこれも一緒に置いておいて下さいと言い出し、そのまま置いて行ったからだ。 なんでそんなこと言い出したかは知らねーけどさ。 それはさておき、 「見よ! この出来栄え!」 「へえ、思ったよりよくできてんじゃん」 「そうね。いつぞやのセーラー服着たガンプラとは見違えるようだわ」 「はっはっは! 当たり前でござる。今回は拙者が講師を務めましたからな」 そう。実はあれから5日ほどかけて沙織と一緒に作り上げたのだ。 今回は“合わせ目消し”と呼ばれる基本工作や、簡単にではあるが塗装も行っている。 そして、最後に“デカール”と呼ばれるシールのようなものを貼っつけて完成だ。 この“デカール”という代物、実に便利である。これを適当な場所に貼っただけですごく“それっぽい”雰囲気がでる。 沙織が言うにはなんでも「情報量」がどうのこうのらしいが、俺には難しいことはよくわからない。 手間がかかっているからか、単に組み上げただけのものとは愛着の湧き方が段違いだ。 褒められるとニヤニヤが止まらない。沙織がプラモに夢中になるのもちょっとわかるよ。 「しかし……実妹と義妹のお願いに挟まれて兄さんも大変ね」 「え?」 実は、『みんなのお兄ちゃん高坂京介とその妹たちご一行様パーティー』以来、こいつには「兄さん」と呼ばれ続けている。だから、俺が引っかかったのはそこではない。 ぎ、義妹? それが誰のことを指すのかはわかる。だけど……だけど、なぜこいつがそれを知っている!? 「なぜおまえがそれを知っている!?」 「あ、それ、あたしが話したから」 しれっと白状する桐乃。 208 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/02/02(水) 19 58 37.87 ID DsGORQ7xo [3/5] 「ちょ、なんで話しちゃうの!?」 「え? 駄目だったの?」 「いや、駄目というか……話してもおまえにメリットなんかねえだろ」 「は? それ、あんたが決めることじゃなくない?」 ……そうっすね。 でも、いつ話したんだ? 沙織は俺が口をすべらせるまで知らなかったところを見ると、あの後すぐにってわけじゃなさそうだ。 沙織にだけ話してなかったってんなら話は別だが。 「兄さん? この子だけを特別扱いするのはよくないわ。こういう手合いは優しくすればつけあがるだけよ」 俺がしばし黙考していると黒猫が声をかけてきた。 相変わらず桐乃に対しては容赦なく毒を吐くな、おまえは。 「いや、特別扱いしてるつもりは……」 「してるじゃない。この際だから言わせてもらうけど……あなたはシスコンだから実妹の沙織はしかたないにしても、この子に対してはちょっと度が過ぎてるわ。 ……それもこの子が義妹だから? 私も義妹になれば特別扱いしてもらえるのかしら?」 語気を強め、俺を詰問する黒猫。赤く、禍々しく燃える瞳は真っすぐに俺を見つめている。 な、なんでいきなり不機嫌っぽくなってるんだ? 「シスコンなのは認めるが、それとこれとは関係ないだろ。……それともなに? まさか、おまえも妹になりたいとか言い出すんじゃねえだろうな?」 「っ! …………」 びくっと体を震わせ、目を丸くしたまま固まる黒猫。 あ、あれ? 適当なこと言ってはぐらかしてしまおうと思っただけだったのに……この反応……ま、まさか…………。 「お、お兄様も黒猫氏もその辺にしておくでござる。その話はこれまで!」 「そ、そうだって! せっかく久しぶりに4人集まったんだし?」 慌ててフォローに入る沙織。驚いたことに、今日は桐乃まで一緒になってフォローに入っている。 いつもの桐乃なら黒猫に茶々いれるか、俺を蹴り飛ばすかのどっちかだと思ったんだが、一体どういう風の吹き回しだ? ともあれ、この場で真実を追求するなんて真似はチキンな俺にはできそうもない。 ここは沙織たちの言う通りにこのまま打ち切るのが正解だろう。 怒らせたまま逃げるみたいで、黒猫にはちょっと申し訳ないけどな。 結局、それからはいつものようにアニメ見たりゲームやったりして時間は過ぎて行った。 「そろそろお暇するわ」 「ん? ……もうそんな時間か」 視線を時計へと移す。時計の針は5時を告げていた。 「げ!? もうすぐメルル始まっちゃうじゃん!」 桐乃が慌てたように帰り仕度を始める。 今日は5時半から、桐乃が愛してやまない『星くず☆うぃっちメルル』と、黒猫が愛してやまない『maschera~堕天した獣の慟哭~』が放送されるため、少し早いお開きである。 209 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/02/02(水) 19 59 29.43 ID DsGORQ7xo [4/5] 「じゃあまたね!」 「はいでござる! また会いましょうぞ!」 玄関まで見送ると、桐乃は勢いよく走りだす。陸上やってるだけあって、桐乃の姿はあっという間に小さくなっていく。 「おまえは焦んなくて大丈夫なのか?」 俺は立ち止まって桐乃の後ろ姿を見つめていた黒猫に声をかけた。 「大丈夫よ。あの子ほど遠くないから」 「そっか」 桐乃の姿が見えなくなるのを確認すると、黒猫はくるりとこちらに向き直った。 「どうした? 忘れもんか?」 しかし、黒猫からの返事はなく、押し黙ったまま俺を睨みつけている。 う……やっぱり、まだ怒ってんのかなこいつ。 しかし、時折視線をそらしたりする仕草が、単に怒っているだけではないことを窺わせた。 さて、どうしたもんかな。と、思案していると、黒猫が沙織には聞こえないような大きさで俺に囁いた。 「………………優柔不断なのも結構だけど、いつまでも気づかないふりをしていると取り返しのつかないことになるわよ。まあ……あなたのことだから、ふりではないのかもしれないけれど」 「えっ?」 俺の返事を聞くこともなく、黒猫はさっと踵を返し歩き出した。 「お兄様? どうされました?」 「あ、いや……なんでもない」 なんだ? 俺が何に気付いてないってんだ? 黒猫の言うことは、いつだって回りくどく分かりにくいが、今回はとりわけ意味不明だった。 「何が言いたかったんだ? あいつ。……ま、いいか」 この時の俺は、いつものように電波を受信しちゃっただけかもな……なんて思っていたんだ。 あいつが意味もなくそんなこと言うはずないって、ちょっと考えればわかりそうなもんなのにな。 第七話おわり
https://w.atwiki.jp/vip_oreimo/pages/303.html
263 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/02/11(金) 22 12 48.83 ID XdHsMWa0o [1/8] 当たり前のことだが、冬の廊下は寒い。 吐く息は白く、暖かさを持たないフローリングの床は容赦なく俺から体温を奪っていく。目は半分涙目で、足の痺れもそろそろ限界だ。 俺はかれこれ30分ほど廊下で正座していた。それが俺に与えられた量刑である。 この判決を下した人物は、決して俺のことが憎くてやったわけじゃない。 そして、俺が涙目なのもその人物が怖かったからじゃない。決して。 俺のことが嫌いでやってるわけじゃないのはわかる。それはわかるが、いくらなんでもこれはひどい。 沙織がブラコンなのは今に始まったことではないが最近のあいつは少しおかしい。 なんというか、少し常軌を逸している。 年下の異性の友人が増えたくらいで、なぜ俺は罰せられなくてはいけないのか。 「……エロゲだと定番の嫉妬イベントなんだけどな」 そう言葉を漏らし、思わず苦笑する。いつから俺の脳はこんな思考を辿るようになってしまったのか。 これはきっと……いや、絶対にあいつのせいに違いなかった。 だがこれは現実で、妹ルートは存在しないし、妹にフラグは立たないし立ててはいけない。沙織だってそれはわかっているだろう。 桐乃が妹に云々の時は、てっきり自分が除け物にされたみたいで拗ねているのだと思った。 だから、あいつは単純に俺に構って欲しいんだと思ってたんだ。 俺はあれ以来、沙織との時間を意識的に多くとるようにしてきた。シスコンだと言われれば反論のしようもない。 だが、それでもあいつの嫉妬ともとれる異様さは、消え失せてはいなかった。 現にこうして刑に服している最中である。もはやヤンデレと言っても差支えないレベルだ。 もし俺の認識が間違っているとしたら、あるいは…………あるいは不安なのだろうか。 沙織は黒猫のように二次元と三次元の境界が曖昧なやつではない。 いくら沙織がブラコンで俺がシスコンであったとしても、いつかは独り立ちしなければならない。そんなことはわかっているはずだ。 でも……だからこそ、今、甘えることが許される間だけは、貪欲に兄を――俺を必要としてくれるのかもしれない。 264 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/02/11(金) 22 14 34.75 ID XdHsMWa0o [2/8] 「どうしたもんかな」 片手で頭をぼりぼりとかきむしりながら、途方に暮れる。 俺は以前沙織に向かって、『俺は何があってもお前の兄貴だよ』と言った。 その言葉に嘘はないし、これからも相談に乗ったり、一緒に遊んだりしたいと思っている。 でも兄だからこそフラグは立たないし、俺があれこれと世話をやいてやれる時間は限られている。 だから、あいつは兄貴離れをしなくてはならない。今すぐにする必要はないが、心の準備は必要だ。 沙織はきっとこれから恋をして、結婚をして、俺とすごした時間よりも長い時間を旦那と歩んでいくことだろう。 そう考えると胸が少しちくりと痛んだ。しかし、そこから目をそむけることはできない。 「俺がなんとかしないとな」 沙織が本格的にヤンデレ化する前に。 妹が道を外れようとしたとき、叱って道を正すのが親の役目ならば、そんなことしちゃダメだろ? と親には内緒でこっそり諭してやるのが兄の役目だと思っている。 もちろん怒られるときは道連れにされてしまうわけだけど。俺はそれでもかまわない。 俺はあいつの兄貴なんだよ。 『…………自業自得ね』 「いやいや、どこをどう考えたらそんな結論が出て来るんだよ」 刑期を満了し、晩飯を食べた後、沙織の脱ブラコンについてさっそく黒猫に相談をもちかけた。 ちなみに今の黒猫の言葉は、俺が犯した罪とそれに対する罰に対する感想である。 『ブラコンの妹がいるというのに、どこの馬の骨とも知らない女を自室に連れ込むなんて……あなた、死にたいの?』 「馬の骨って……あのなぁ、別に俺はそういうつもりじゃ――」 『関係ないわ』 一応の言い訳を試みるが、それを黒猫の言葉が遮った。 『あなたがどういうつもりかなんて関係ない。知らない女があなたの傍にいた。それだけで不快になるには十分よ』 「…………」 黒猫は強い口調で俺を攻め立てる。まるで沙織の気持ちを代弁するかのように。 ……俺よりよっぽど沙織のことをわかってやれているみたいだ。 でも、どうしてそこまで沙織の気持ちがわかるんだ? 同じ性別だから? 親友だから? 色々考えてみるが、どれもピンとこない。 265 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/02/11(金) 22 16 03.05 ID XdHsMWa0o [3/8] 『聞けば、その女にお兄さんと呼ばせていたそうじゃない』 「なぜおまえがそれを知っている!?」 『沙織から聞いたのよ。チャットで怒りをぶちまけていたわ』 そういうことか。恐らく俺が正座している間にしていたのだろう。 黒猫が沙織の心情を理解できていたのは、きっとチャットでぶちまけていたのが怒りだけでなく自分の想いをもぶちまけていたからだ。 『知り合う女みんなに兄さんと呼ばせるなんてどんな変態なのかしら。シスコンもここまで来ると笑えないわ』 「ちょっと待て、俺は呼び方を強制したことなんて一度もないよ! 全員向こうが勝手に呼んでくるんだよ! そういうお前だってそうだろうが!」 降りかかる変態疑惑を全力で否定。 桐乃にしろ黒猫にしろあやせにしろ、勝手にそう呼びだしたんだから仕方ねえだろ!? 『………………………』 急に黒猫の返事が途絶えた。 あ……しまった。ちょっと強く言い過ぎたか? 今のはいくらなんでもひどかったかもしれん。 「く……黒猫? 俺は別におまえらに兄さんと呼ばれるのが嫌なわけじゃなくて……なんというか、言葉のあやというか」 しどろもどろになりながらも黒猫の機嫌を窺う。 『あ……気にしなくていいわ。ちょっと考え事をしていただけだから』 「そ、そうなのか?」 話し方から察するに、黒猫はどうやら本当に気にしていないみたいだった。 となると、どうしても気になってしまうのが人間の性というもの。 「考え事って?」 『あなたに言うとでも思っているの?』 ばっさり。 あまりにも綺麗に切られた場合、切られたことに気付かないことがあるという。今の俺はまさにそんな感じだった。 「え? あ……そ、そうか。…………すまん」 ここまであっさりと拒絶されるとは思わなかったぜ。なんだか、ちょっと寂しくなってしまう。 266 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/02/11(金) 22 17 39.44 ID XdHsMWa0o [4/8] 『あ……別にあなたが頼りにならないとかそういうわけではなくて』 すると、俺の気持ちを察したのか黒猫がフォローをしてくれた。普段つんけんしてはいても根は優しいやつだからな。 だから、俺は気にしていないよ、というニュアンスも込めてわざと意地悪に言ってやったんだ。 「じゃあ、是非教えてもらいたいもんだな。頼りにならないわけじゃないんだろう?」 数瞬の間が空く。うつむきがちになり視線をさまよわせて、言うかどうかを迷っている姿が容易に想像できる。 どうにもいたたまれなくなった俺が、言いづらいなら別にいいんだぜ? そう言おうと思った時のことだった。 『…………あなたにあんなことを言っておいて自分はどうなのか、と思ったの』 あんなこと? 「自業自得ってことか?」 『もっと前よ』 もっと前? 俺ってこいつに何か言われたっけ? 『私が言えるのはここまでよ。ところで――』 これ以上追及するなと言うように、黒猫は話題を変えた。 『さっきから鳴っているこの騒音はなんなのかしら』 「ああ、これな。沙織がプラモの塗装してるんだよ」 実はさきほどから、沙織の部屋からドルルルルという音が響いている。 学校でボールに空気入れる機械があったろ? ちょうどあれみたいな音だ。 『塗装って、要は色を塗るのでしょう? なのになんでこんな騒音が出るのよ。なにか妖しいことでもしているのではないの?』 「なんでもコンプレッサーとかいうやつの音らしいぞ。エアブラシってのを使うにはそれが必要なんだと」 俺も、以前沙織に教わって塗装に挑戦したことはあったが、その時は筆を使った塗装だった。 エアブラシについても多少教えてもらったが、如何せんめんどくさそうで、俺の性に合わなさそうだった。 エアブラシの方が綺麗に塗れるらしいが、俺は地道に筆で塗り塗りしている方が性に合っている。 ちなみに沙織が塗装している間は、俺の部屋の窓は全開にする必要がある。あいつが使う塗装ブースの排気口が俺の部屋に通じているせいだ。 一時期は消臭力を買い込んでみたりしてみたが、シンナー系の匂いの前には無力だった。 気付けば、コンプレッサーの音がするのと同時に窓を開けるのが習慣となっていた。 だが、最近はこの匂いもまんざらでもないような気がするから不思議だ。 これが親父が言っていた“本物のシンナーなど比べものにならん中毒性”というやつだろうか。 だとしたら、親父が塗装に反対していた理由もちょっとわかるよ。 267 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/02/11(金) 22 18 50.69 ID XdHsMWa0o [5/8] 『あなたも意外と苦労してるのね』 「慣れればそうでもないよ。あと、意外とは余計だ」 俺ってそんなにのんびり生きているように見えるんだろうか。 『まあ、いいわ。私の話はこれで終わり。おやすみなさい』 ピッ、と無機質な機械音をたて電話が切れた。 「私の話……ねえ」 あいつが“俺に言ったこと”は気になったが、どうにも思い出せないし、心当たりがない。 毒舌こそ日常茶飯事だが、何か悪口を言われた記憶もないし……あいつが悩むようなことあったっけ? 「だめだ、さっぱりわからねえ」 ぼやきながらベッドに仰向けで寝転がる。 ま、覚えてないってことはそんな大事なことじゃなかったってことだな、きっと。 「…………あいつにも相談してみようかな」 俺が思い浮かべたのは高坂桐乃。俺を兄貴と呼んで慕ってくれる女の子だ。黒 こう書けば聞こえはいいが、実際の所はわがまま放題の困ったやつ。 正直、まともな人生相談ができるとは思えない。だが、溺れる者は藁をも掴むというやつだ。 俺は意を決して、電話をかけた。他に聞きたいこともあったからな。 『……もしもし? 何か用?』 第一声から不機嫌な声。 「よ、よう。実はおまえに相談したいことがあってな」 『はあ? あたしがなんであんたの相談に乗らなくちゃいけないわけ? あたしは今からみやびちゃん攻略しないといけないんですけど』 イラッ。 お、抑えろ、抑えるんだ。 268 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/02/11(金) 22 19 59.92 ID XdHsMWa0o [6/8] 「ま、まあそう言うなって。沙織のことでちょっと相談があるんだ」 『沙織の?』 桐乃の機嫌が一変したのがわかった。こいつはこいつで友達思いであることは間違いないんだよな。 沙織がこいつらと知り合えて本当によかったと思う。 「おう。だが、それに関してまず確かめておきたいことがあってな」 『え? なに?』 「おまえ、あやせって子知ってるか?」 『はあ!? あんたあやせに何かしたんじゃないでしょうね! あやせになんかしたらぶっ殺すから!』 「お、俺は何もしてねえよ! お、落ち着けって!」 あやせの名前を出しただけですごいキレようである。どうやらあやせが桐乃の友人であることは間違いないようだ。 自分のストーカーを「なんかしたらぶっ殺す」とか言って擁護するやつはいないだろう。 『ちっ……セツメイ。早く』 「いや、実はな――」 そこから俺は、あやせに桐乃との関係を問いただされたこと、そのうち人生相談に乗ってくれと頼まれたことを説明した。 ちなみに、お兄さんと呼ばれていることは伏せておいた。 『まさか……あやせが…………』 桐乃はどうやらショックを受けているようだ。電話越しなので顔は見えないが、驚いている様がありありと伝わってくる。 『だから最近やたらと詮索を…………あやせってば一体どういうつもりで』 何やら一人で納得し、そのまま考え出す桐乃。 「おーい、俺にもわかるように説明してくれ」 『あんたはちょっと黙ってて』 ここでもばっさりと切られ、言葉を失う俺。 『…………まさかオタク趣味がバレた? でもそんな感じはしないし……じゃあなんでこいつに』 どうやら桐乃はあやせの目的がわからないようだった。 『あ~っ、もう! わけわかんない! あんた何か知らないの?』 「そうだな……おまえのオタク趣味を探ると言うよりは、俺のことを調べに来たって感じだったな」 『は?』 これは決して自意識過剰なわけではない。なにせあやせ本人が言ったことだ。 「おまえ、俺たちと遊ぶようになってから学校の友達と付き合い悪くなったらしいじゃねえか。それを不審に思ったあやせが色々調べた結果俺に辿り着いたらしんだよ」 あえてあやせのストーキング行為については伝えることはしなかった。あいつはあいつで親友が心配で仕方なかっただけだろうからな。 俺たちのために時間を割いてくれるのは嬉しい事なんだけど、旧来の友達からすれば心配になるのもしょうがない。 269 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/02/11(金) 22 20 46.41 ID XdHsMWa0o [7/8] 『……あ』 それを聞いて桐乃はなにやら思うところがあったらしい。 「ったく……沙織や黒猫と遊んでくれるのは嬉しいけど、あんまり友達心配させないようにな」 『ちっ……大きなお世話だっての』 桐乃が今ここにいるならば、むくれてそっぽを向いていたことだろう。あるいは電話の向こうでもそうしているかもしれない。 『でも…………ありがと』 「あいよ」 顔が見えない分、今日の桐乃は少し素直なようだった。 素直な桐乃が微笑ましくて、にやけてしまうのが止められない。 『じゃあ、あたしもう寝るから』 「おう。またな、おやすみ」 『…………おやすみ』 ピッ。 あいつも、いつもこうだとかわいいんだけどなあ……。 「あ、沙織のこと相談するの忘れた」 第九話おわり