約 12,740 件
https://w.atwiki.jp/mahjlocal/pages/2127.html
読み こいのチョンボ 種別 罰則に関するルール 別名 わざ冲和 ワザチョン 解説 役満を振るのを阻止するため、わざとチョンボした場合、相手の役に応じて跳満払い以上しなければならない、チョンボ防止法 成分分析 故意の錯和の40%は情報で出来ています。故意の錯和の26%は歌で出来ています。故意の錯和の19%は純金で出来ています。故意の錯和の5%は理論で出来ています。故意の錯和の3%は元気玉で出来ています。故意の錯和の2%は乙女心で出来ています。故意の錯和の2%は気の迷いで出来ています。故意の錯和の2%は毒電波で出来ています。故意の錯和の1%は白い何かで出来ています。 採用状況 参照
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5230.html
『故意のキューピッド』 ○ 前編 ○ 後編
https://w.atwiki.jp/hidebulol/pages/49.html
殺せない逃げられる距離に ハァト締め付けられて 目の前のミニオンも見えず 正にすべてフラッシュ じれったいレンジの 甘えたハラスに まぶた開くほど熱く眩い光浴びせろ・・・! 世界が妬むほど 眩いなないフラッシュ どうして?先に言わないの? なんず♪ killとりたいけれど できない無言フラッシュ たまにはghostしたい でも、できない故意のFeederなんです 故意のFeederなんです(T_T)
https://w.atwiki.jp/bwm_synthesis/pages/338.html
986:本当にあった怖い名無し 2011/02/05(土) 22 11 10 ID yIcm0aF30 厄落しとして自分の身に着けているものを道端に落とすというものがあるな とくに辻(十字路)や神社に故意に落としてくるのがいい 落とすものは櫛や手ぬぐいなどの小物を。
https://w.atwiki.jp/magicman/pages/24267.html
故意の空騒ぎ UC 闇文明 (1) 呪文 ◼︎このターン、バトルゾーンにある自分のクリーチャーはすべて「スレイヤー」を得、可能であれば攻撃する。 作者 はんむらび 自軍に《ファントム・ベール》のデメリットを与える代わりにコストが軽くなった《真夏の夜の熱狂》。 強制突撃デメリットは負うものの、もとより殴り込むつもりなら問題ない。ブロッカーによる防御を難しくするスレイヤー付与は強制突撃のデメリットを軽減するのも相性がいい。 カード名はバラエティ番組「恋のから騒ぎ」より。 フレーバーテキスト そんなに騒ぐほどのことじゃないけど、騒いだ方が楽しい。 収録弾 裏革命編 第一章 叡智証明のプロメティウス‼? 評価 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/mahjlocal/pages/813.html
読み こいのいかさまはっかくじのばっそく 種別 罰則に関するルール 不正行為 別名 解説 軽度なイカサマの場合は、錯和、和了り放棄、供託などのルールがあるが、ルールによっては役満払いや抜け番の人も含め全員に30000点ずつ支払うなど罰則が重くなる場合がある。 重大なイカサマの場合は最低でも錯和扱いになり、ルールによっては役満払い、他の3人に50000点ずつ支払う、抜け番の人も含め全員に30000点ずつ支払う、袋叩き、指1本切断(!)、永久追放などのより重い罰則がある場合があるという。 成分分析 故意のイカサマ発覚時の罰則の70%は言葉で出来ています。故意のイカサマ発覚時の罰則の14%はむなしさで出来ています。故意のイカサマ発覚時の罰則の13%は知恵で出来ています。故意のイカサマ発覚時の罰則の1%は小麦粉で出来ています。故意のイカサマ発覚時の罰則の1%は海水で出来ています。故意のイカサマ発覚時の罰則の1%は情報で出来ています。 採用状況 参照
https://w.atwiki.jp/tsundereidayon/pages/845.html
614 :1/4:2013/02/24(日) 22 28 14.33 ID fd/MWQSw0 他県の大学へ入学するのを機に春から一人暮らしをする事にした。 大学近在のマンションで、好条件の割りに何故かかなり格安の物件があり即決、引っ越した。 まあ結果は予想通り、毎晩定時に屋上から落ちる人影が目撃されていた曰く付き。 彼女を最初に目撃した感想は、『虚ろ』だった。 丁度窓の外に目を向けた時、落ちていく瞬間の彼女と目が合った。 力の無い目、無表情で、ただ重力に従い落ちていく一瞬の残像を残して消えた彼女。 何故か怖いという感想ではなく、もやっとした感覚が胸にわだかまった。 彼女は毎日落ちていった。 無表情のまま、ベランダぎりぎりを掠めて。 バイトを始めてからは目にする機会は減ったが、それでも日課や使命のように落ちているのだろうと容易に想像できた。 あの部屋が一番見えるらしい。 そして、いつしかその霊に引っ張られてしまうのか、あの部屋から飛び降り自殺をするのだ。 同じマンションに入居している空気読めない系のバイト先の先輩にそう言われた。 615 :1/4:2013/02/24(日) 22 30 08.15 ID fd/MWQSw0 ある日、布団を干している最中に、手を伸ばしたら届きそうだと思い浮かんだ。 確かこの当たりと手を伸ばしてみる。ベランダの手すりから左程乗り出さずとも届く距離。 彼女を捕まえてみようかと、思い至った。 捕まえられると、何の脈絡もなく思い込んだ。 彼女が落ちてくる時間に、ベランダで待機する。 ほんの僅かに空気が変わる気配。 彼女が毎夜なぞる軌跡に手を伸ばす。同時に、ばさばさと服がはためく音を伴い、彼女が落ちてきて。 掴もうと伸ばしていた俺の手が彼女を掴むのと同時に、彼女が俺の手を、掴んだ。 腕が、いや肩が、上体が一気に下に引っ張られる。手すりや縄が体に食い込んで、ぎしぎしと音を立てている。 予想に反して――いや、現実だともっとこう物理的な方程式で言うと何とかかんとかと意味不明のことを思い浮かべながら踏みとどまろうとした。 思わず、悪態が口を付いた。 「重っ!!」 『んなっしっ失礼ねっ!!!!』 怒声が頭の中に響いたと同時に、掴んでいた手を振り払われた。 全てが一瞬の出来事だった。 そしてその日もいつもより僅かに遅れてはいるものの、彼女は落ちて消えた。 取り残された俺は、呆然と立ち尽くしていた―― 616 :3/4:2013/02/24(日) 22 30 56.57 ID fd/MWQSw0 ――と、突然部屋の呼び鈴が連続で鳴らされた。ドアを叩く音もする。 混乱したままの頭で慌てて玄関を開けた。 『誰が重いのよ誰がっ!?』 怒鳴りながら飛び込んできたのは、今しがた落ちて消えたはずの彼女だった。 今まで見たことの無い、明らかに怒ってますという表情で、俺の胸倉を掴まん勢いで近寄ってくる。 『モデル体型って言われてるのよ? 努力してるの!! 無駄な贅肉なんて今まで一度だって付けたこと無いんだから!!』 うん確かに、貧nyげふげふん。 「いやもっとこう、ほら、落ちてくるお姫様はふんわりって言うかこじんまりとベランダに引っかかったり光りながら落ちてきたりその者金色の光纏いて」 『二次元と混同するな!! 違うネタ混じってるし! ホラ持ち上げてみなさいよ私の事!』 いや持ち上げろといわれても、幽霊ですし。さっきから俺の足を踏み込んでいるが、重量感覚無いし。 「さーせんしたっ! 重いといったのは言葉のあやです!! 貴女はとても軽いです!」 『……なんかその言葉だとまた微妙に引っかかるんだけど、んー、まあ良いわ。じゃあまた明日』 「はいまた明日」 嵐の様に騒がしい彼女が玄関から出ようとして。 『ってちっがーう!!』 すぐに引き返してきた。どうでも良いけど彼女は裸足なんだけど足拭いてくれとか注意したほうが良いんだろうか。 『何であなた落ちないの!? 私、力一杯引っ張ったのに』 「あ、万一落ちては危険なので、部屋のベッドや机や本棚や柱に命綱をくくりつけておきました」 身体にくくりつけた太綱を引っ張って見せると、彼女は怒りとも何ともいえない複雑な表情を見せた。 『……こんな対応は初めて……まだまだ私も修行が足りないわ……また明日ね……』 「あ、でも良く考えたら明日明後日はこの時間はバイトで居ません」 『……じゃあ、終わるまで待ってる』 本気で疲れたように手を振りながら、彼女は部屋を出て行った。 因みに次の日、彼女は俺がバイトから帰るのを、俺の部屋のベランダで本当に待っていた。 目が合ったので下から手を振ったら明後日の方をぷいっと向いて、『ばかっ!! 今から落ちるんだから、さっさと準備しなさい!!』と言われた。 617 :4/4:2013/02/24(日) 22 32 08.81 ID fd/MWQSw0 その日から。 落ちてくる彼女は明らかに怒っている様な、挑戦的な表情になった。 俺をベランダから落とそうと、事前に部屋に上がりこんで命綱を緩めてみたりベランダ中に油を塗ったりと色々と試行錯誤し。 俺は俺で網を張ってみたり、エアクッションを落下点に設置してみたりといたちごっこ。 そのうち彼女が『ただ待つのも退屈ってだけなんだからねっ』と言いながら夕食の準備をしてくれていたり、外で待ち合わせて食事に行ったり以下略
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5250.html
『故意のキューピッド』 (前編はこちら) ○後編 携帯の画面から飛び出したピンクの三連ハートマークに押しつぶされる夢にうなされてよく眠れなかった気がするうちに無事に朝を迎えた。 今日も今日とて、大あくびをする俺の後ろ席から、ハルヒは相変わらずご機嫌に俺の背中をつついては、振り返った俺に向かって百ワットをはるかに超える笑顔を振りまきながら話しかけてくる。この様子じゃ当面開店休業状態が続くはずだ、よかったな、古泉。 しかし俺は昨日の長門メールがどうにも気になって仕方なかった。いったい長門はどうしたというのだろう。またエラーなのか? 怪しげな勢力がまた魔の手を伸ばしつつあるのを、スーパーアンドロイドがなんとかしようとしておかしくなってしまったと言うのだろうか。 そんなこんなで、俺の中の心配の種が発芽するなりジャックの豆の木のようにぐんぐん成長し続けて、空に浮かぶ疑念の雲に刺さりそうだった。 放課後、掃除当番のハルヒを残して、俺は部室へと急いだ。たぶん長門はすでに来ているはずだ。一度、あいつの真意を問いただしてみないといかない。もっとも、あの長門がすらすらと本音を語るとも思えないが。 ノックをする。反応はない。 ということは長門がいるか、誰もいないかのどちらかだ。 俺は、そっとドアを開けて室内に足を踏み入れた。 「よお」 やはり当然のように、読書好きな宇宙人製アンドロイドは窓辺の指定席にいた。静かに読書中の本から顔を上げた長門は、小さく首をかしげると、口元をそっと緩めて微笑んだ、ように見えた。 「長門?」 いかん、いかん、そんなはずはない。昨日の三連ハートマークに毒されているようだ。現に俺が定位置に腰を下ろすときには、長門はまた鉄壁の無表情に戻って、読書を再開していた。 他の連中がやってくる前に聞くべきこと聞こうと、俺は窓辺の読書マシーンに話しかけた。 「長門、あの送ってくれたパーカー……」 「贈呈」 本から顔も上げずに長門は即答した。 「うん、ありがとう。でも、どうして俺に?」 「特に他意はない。昨日もそう答えた」 「いや、他意がないことはないだろう。だって、そのあとのお前のメール……」 また、頭の中で三連ハートマークがフラッシュを始めた。 その時、ふと何かに気づいたようにパチリと瞬きした長門は窓辺の指定席から立ち上がると、その漆黒の瞳で俺のことをじっと見つめながら、ゆっくりと近づいてきた。 「おい、長門……」 そして、俺の向かいの席に一旦腰を下ろすと、すぐに、テーブル越しにぐっと身を乗り出して、俺の顔のまん前まで顔を突き出してきた。 「な、な、なんだ、長門、どうした?」 今、俺の目の前、十五センチのところに長門の小さな顔がある。わずかな息遣いも感じられるぐらいだ。 無言のままじっと俺のこと見つめ続けている長門の瞳に、唖然とした俺の姿が映っている。 十秒ほどその状態を続けたあと、長門は目を閉じてさらに俺に近づいてきた。 お、おい! このままだと俺は長門にキスされてしまう! と、思った瞬間、 「いやっほー! きたよー」 バコーンと勢いよく開いたドアから飛び込んできたのは、ハルヒだった。 「ん? ゆ、有希?」 驚いた俺がドアの方に振り返ると同時に、身を乗り出していた長門がするするっと引っ込んで、俺の向かいの席にちょこんと座り直す姿を、視界の端に確認することができた。 「え? なに? 今、あんたたち……何? まさか……」 飛び込んできた勢いそのままに、俺のすぐ隣まで駆け寄ったハルヒは、俺と長門を交互に眺めながら、言葉を詰まらせている。 さっきの状況、傍目には、俺と長門がキスでもしていたか、今まさにしようとしているかに見えたに違いない。実際、俺があと一センチでも乗り出すと、長門と唇を重ねることになっていただろう。 「な、なんでもない、なんでもないぞ」 あわてて言い訳する俺にむかって人差し指を突きつけながら、ハルヒは、 「あ、当たり前じゃない、有希の身に何かあったら、あたしが許さないからね」 おいおい、何かあったかもしれないのは、俺の方だ。もう少しで長門に唇を奪われるところだったのだからな。 腕組みをして俺を見下ろしながら、今ひとつ納得できない様子のハルヒだったが、すぐに団長席に座ってPCの液晶モニタの向こう側に消えた。すると、それまで少しうつむき加減でじっと座ったままだった長門が、少しばかり上目使いで俺のことを見上げると、ほんのわずかに肩をすくめた。 「…………」 唖然とする俺が見つめる中、席を立った長門は、窓側のいつもの場所に戻ると、いつものような無表情で読書を再開した。 なに、さっきのは確信犯だったのか? 長門は、ハルヒが扉を開ける瞬間を狙ってあんなことをしたのだろうか。だとすると何故だ? どういうことだ? ますます長門の行動が分からなくなってきた。 俺はパイプ椅子に沈み込むしかなかった。 その後すぐ、パイプ椅子に体重を預けながら、この状況を打破するためには、朝比奈さんの存在が必要だな、朝比奈さん今日は遅いなぁ、などと考えていたときだ。 「ちょっと、キョン? こっちきて」 「ん、どうした?」 ハルヒに呼ばれた俺は、団長席でモニタを覗き込んでいるハルヒの横に立った。 「これ見てよ、キョン」 ハルヒが指差した画面は、例の俺がやっつけで作ったSOS団のサイトのトップページだった。そしてその上に一部重なるようにやたら細かい字がいっぱい書かれたページが表示されていた。 「少しばかりデザイン変えたいんだけど……」 「んー、なんだぁ、読めん」 なんだかよくわからないまま俺がモニタに顔を寄せると、ハルヒも同じように顔を寄てきた。えっ、と思って横を向くことも躊躇うほどの位置にハルヒの髪が揺れているのを感じる。 ふっと、えも言えないほどのいい香りが鼻腔をくすぐる。ハルヒはなんていうリンスを使っているのだろう、なんて考えが頭の中で渦巻いて、モニタの中身なんてその渦の中に沈み込んで行くばかりだ。 今さらながら、そんなハルヒにドキドキしてしまうのは少しばかり情けなくもある。 「ちょっと、キョン!聞いてるの?」 ハルヒの声でわれに返るまで、俺はただぼんやりとモニタを見つめていただけだった。 「う、すまん」 「もう、せっかくあたしが新しいトップページのコンセプトを説明しているというのに、平団員にあるまじき態度ね!」 俺は、あきれたような声のする方向におそるおそる振り向いた。乗り出していた上体をゆっくりと戻したハルヒは、背後の長門をチラッと見た後、満足げに微笑んだ。 「もういいわよ。また後であたしの考えを説明するから、それまでにあんたも何かアイデア整理しておきなさいよ」 話を聞いていなかったことがバレたので、てっきり「このアホキョン!」とでも言われてネクタイでも締め上げられるか、と身構えていたのに、拍子が抜けてしまった。 「ほらほら、とにかく戻りなさい」 すぐに、朝比奈さんと古泉も到着し、その後はそれ以上のことは何も起こらなかった。ただ時折、長門の視線と、ハルヒの視線が交互に俺に注がれる気がして、古泉とのオセロ勝負に集中することができなかった。 「今日はどうされました? あなたらしくない指し手ですね。僕が到着する前に何かありましたか?」 古泉にリードされるのはいつ以来だろうか。ひょっとして初めてかもしれない。 「うーん、ちょっとな」 目の前で意味ありげな笑顔を浮かべる古泉は続けた、 「お困りのようでしたらお力をお貸ししますよ。もちろん僕のできる範囲は限られていますけどね」 さてと、どうしたものだろう。先日来の出来事のきっかけ部分については古泉には説明済みだ。その後の状況を話してアドバイスを貰うことも可能かもしれないが。 「ん、いや。まだいい。もう少し様子を見てから必要なら相談するよ」 古泉はさっき以上に含みを持たせた笑みを携えながら、 「そうですか、わかりました。必要であればいつでも結構ですよ」 そこでやや声を落とすと、 「昨日も申し上げましたが、行動には十分ご注意ください。世界の明日はあなたに懸かっているのですから」 古泉が最後の一手を置き、何ヶ月ぶりかの俺の負けが確定した。 翌日以降、長門のいない普段の教室では、ハルヒはずーっと一方的にご機嫌だったし、放課後の部室でも、特に目だっておかしな事態は発生することはなかった。 ただし、毎日、長門が俺に向かって妙な視線を送ってくることと、おそらくはそれに気づいたらしいハルヒのさらに妙な視線が、静かに火花を散らし続けていた。 そんなハルヒと長門の様子に気づいているらしい古泉まで、時折俺のことを心配そうに見つめている。 朝比奈さんだけは、普段と変わりなくおいしいお茶を淹れてくれていた。しかしながら、その絡み合う三つの視線に巻き込まれた俺は、いつものように至福の時を十分に楽しむことはできなかった。 そして何とか迎えた週末、土曜日。 いっそ雨でも降って自宅待機にでもなってくれれば、という俺のささやかな願いは叶うはずもなく、快晴、絶好の探索日和となってしまった。 それにしても何が不思議探しだよ。俺にとっては、先週末からのハルヒと長門の行動こそが不思議そのものなのだが、そんな事情を少しでも理解してくれているのは古泉だけだ。 その古泉の助言に従って、俺はハルヒから送られたシャツ着込んでいる。ついでに言うと、その上には長門から送られてきたパーカーを羽織っている。今日はいい天気でポカポカ陽気らしいので少し暑いかもしれないが、まぁいいだろう。 このパーカーのことは長門と俺しか知らないわけで、長門が自ら話さなければ誰もこのパーカーが長門からのプレゼントだったことに気づかないはずだ。それに、別にこの件にかかわらず、長門が自ら会話を始める可能性は限りなくゼロに近いので安心していいはずだ。 「やっほー、キョン!」 集合場所の縁石の上の少し高い位置から見下ろしているハルヒは、水色のブラウスの上に、薄いニットの長上着を引っ掛けている。 「相変わらずおっそいわねー」 そういってニコニコ笑っているハルヒの横には、やはりいつもの笑顔を絶やさない朝比奈さんと古泉が立っている姿があった。 どうせ集合場所への到着は最後になるが、少しでも努力のあとを見せておくほうがいいと判断した俺は、途中からパーカーを脱いで小脇に抱えながら小走りでかけてきた。おかげで少し息が上がってしまって、ハルヒに言い返すことができなかった。 「でも、今日は珍しく、有希が最後みたいね、どうしたのかしら」 あれ、そういえば長門の姿が見えない。普段なら、制服姿で少し控えめに後方に佇む小柄なシルエットがあるはずの位置には、なにやらノボリが風に揺れているだけだった。 やっと俺の息が落ち着いてきたところで、ハルヒは俺のことを下から順になめるように眺め上げると、首の辺りのシャツのボタンをもてあそびながら、 「うん、まぁまぁね。ネクタイでもすればアクセントに成るけど、制服みたいになっちゃうかな」 そういって、俺を見上げながらニッコリするハルヒは正直言ってすごくかわいかった。 「あたしがプレゼントしただけのことはあるわね」 いや、待て。確かにハルヒから貰ったのは確かだが、選んでいたのは俺だ。だがまぁ、目の前のハルヒの笑顔に免じてこれ以上はとやかく言うまい。 「それにしても有希、遅いわね」 とハルヒがあらためて口にした瞬間、曲がり角の向こうから長門が小走りでやってくるのが見えた。 「遅れた。ごめんなさい」 「どうしたの、有希が遅れるなんて心配するじゃない」 「準備に手間取った」 そういう長門は、いつもの制服ではなかった。ボーダーカラーの長Tにデニムの少し短いスカートとひざ下丈のレギンス姿だった。小走りで来たせいか、俺と同じ様に上着は脱いで小脇に抱えている。 「見て、見て。有希のTシャツ、あたしが見立ててあげたやつ」 ハルヒは朝比奈さんに見せびらかすように長門の肩を抱き寄せた。 「長門さん、かわいいです」 朝比奈さん、俺も同感ですよ。 長門はコーディネートするのに手間取ったといっているが、いまひとつ俺はそうは思えない。長門のことだから衣装のことで悩むとは思えないが、まぁいいか。 やっぱり俺のおごりになった喫茶店での組み分けくじ引きで、俺は朝比奈さんと同じ組、ハルヒと長門と古泉が同じ組になった。どうも超プチ世界改変と情報操作が同時に起こって打ち消しあったような気がしてならない。 喫茶店を出て、「じゃぁ」と二手に分かれた。少しばかり不機嫌モードに切り替わったハルヒたち一行を見送ったあと、俺は手にしていたパーカーを羽織った。さすがにまだ少し肌寒さもあったからな。 その後は、朝比奈さんと二人並んで適用に時間をつぶしながら、しかしおいしい時を堪能させてもらった。朝比奈さんのぽわっとした雰囲気に包まれて俺はハルヒと長門の視線攻撃の一週間の疲れを少しばかり癒すことができた。 二時間ほどのささやかなデートを楽しんだ後、再び駅前の集合場所に戻ってきて先に帰還していたハルヒ組の長門の姿を見たとき、俺は言葉を失うことになった。 なんと、長門が着込んでいた上着は、俺のパーカーと色違いのお揃いのものだったからだ。ミディアムグレーの俺のものに対し、長門のやつは薄いピンクだった。 今俺は、ハルヒにもらったシャツの上から長門に贈呈された上着を着ている。そして長門はそれと同じものを着て俺と並んで立っている。これじゃまるでハルヒに喧嘩を吹っかけているような感じではないか。 こいつ、わざと同じものを俺に『贈呈』してくれたのか。その上で、今日、ペアルックになることを狙って着てきたのか? 「な、長門、お前、それ……」 「色が違う、サイズも違う」 「んなことはわかる。どうして、それ……」 と、ここですこし向こうで朝比奈さんと話をしていいたハルヒが振り返った。 「ねぇ、キョン、あっちの……って、ん、あ、あれ?」 ハルヒは、俺と長門を交互に見比べならが近づいてきた。 「なに、なに、どういうこと? おそろいじゃない、それ」 最後は少し小走りで目の前までやってきたハルヒは、俺のパーカーの胸元をつかんでひらひらさせながら品定めをした。次に隣でたたずむ長門のことをじっと眺めて、 「やっぱり同じものね。どうしたのこれ。二人で一緒に買ったとか?」 口調は静かだか、それがかえって疑念と苛立ちを浮かび上がらせているようだ。 「いや、これは単なる偶然だ。そうだろ? 長門」 うまく口裏あわせろよ、と思いつつ俺は長門に話しかけた。 「二人で一緒に買ったわけではない」 「そうなの?」 と、ハルヒ。 「そう」と、長門は一言。しかし続けざまに、 「彼のものはわたしが贈呈したもの」 長門は俯いて、小さく、しかしはっきりと言った。 もし俺に、古泉とは異なる超能力でもあれば、パキンと大きく何かが折れる音を聞くことができただろう。 しばらくの間唖然と長門を見つめるだけだったハルヒは、視線を落とすと今度は地面のタイルの模様を追い始めたようだった。 その場を沈黙が支配する中、古泉はすこしひきつった笑みを浮かべ、朝比奈さんはいまひとつ状況がつかめないままハルヒと長門と俺を順にきょろきょろと見つめるだけだった。 「あたしはね、恋愛なんか一時の気の迷いだと思ってる。でもね、だからといって他人の恋路の邪魔なんて無粋なことはしないわ。もし……」 ゆっくりと顔を上げたハルヒは、まず長門を見て、それからから俺を見つめると話を続けた。 「有希とキョンが付き合うなら、あたしは応援するわよ、SOS団の団長として全面的に。そして、有希を悲しませるようなことがあったら、キョン、あたしが許さないからね!」 ぐっと腕組みをしたハルヒは、ほんの心なしか寂しげに笑みを浮かべると、長門のそばに歩み寄った。そして、長門の肩をポンポンと軽く二つたたくと、「今日はこれまで。じゃ、おさきー」とだけ言い残すして、小走りに駆けて行ってしまった。 ハルヒが消えた方向を呆然と見送っていた四人の中で、最初に口火を切ったのは、やはり古泉だった。 「さてと、どうやらもうすぐお呼びがかかることは確実なので、それまでに言いたいことは言っておきます。ひょっとするともう戻ってこられないかも知れませんからね」 古泉の言葉に「えっ」と小さく驚きの表情みせている朝比奈さんのことを気にかけながら、俺は古泉に突っ込んだ。 「おいおい、そんな大げさな……」 「今までの経験上、かなり大きな閉鎖空間が発生することは確実でしょう。僕たちも全力を挙げて神人にあたりますが、かなりのダメージを受けることを覚悟せざるを得ません。しかしなによりも涼宮さんによる世界改変の方が心配です」 古泉は少しばかり目を伏せながら続けた。 「ここ数日の涼宮さんのテンションの高さが故の、先ほどのお二人のペアルックに気づいたときのご様子といったら……」 「待てよ、俺と長門は本当に付き合っているわけでも、付き合おうとしているわけでもない!」 二度、三度と首を振った古泉は、 「お二人が恋人同士という関係でないことは明らかでしょう。ただし、今問題なのは涼宮さんがどういう判断を下したか、ということだけです」 と言ったあと、最後にはいつも通りの微笑みを携えて、 「今日の探索は中止ですね。今後のことに備えるために、僕はこれで帰ります。お疲れ様でした」 古泉が去った後、ますます何が起こったのか理解できない朝比奈さんも 「あの、あたしにできることがあったら、遠慮なくいって下さい。と、とにかく今日は帰ります」 頭の上に「?」をいくつか点灯させながら去っていく朝比奈さんの後姿を追いながら、 残された俺は隣の長門に問いかけた。 「長門、さっきのはどういうことだよ」 「別に。事実を述べたまで」 長門は澄み渡る黒い大きな瞳で俺のことを見上げている。その瞳の奥に隠された有機アンドロイドの真意はいつになっても容易に理解できるものではない。 「お前、何か魂胆があって故意に……」 俺の言葉を最後まで聞くこともなく、長門はくるりと身を翻すと短い後ろ髪をほとんど揺らすこともなく歩き去ってしまった。 一人取り残された俺は、その場からしばらく動くことができなかった。 結局ぽっかりと空いてしまった土曜の午後の時間、俺は街中を一人で探索しながら、やはりぽっかりと空いた心の中を埋める事はできなかった。 谷口にまで変に誤解されるほどだったハルヒの笑顔と、さっき立ち去る直前に見せた壊れそうな笑顔が交互に頭の中でフラッシュバックする。 深い意図があるのかないのかさえも分からない長門の行動によって、俺は図らずしもハルヒのことを、ハルヒをどう思っているのかについて見直すきっかけを与えられてしまった。 気がつけば夕食も済まして、自室のベッドの上で天井を眺めている俺がいた。 今頃、古泉は閉鎖空間で神人相手に苦労しているのだろうか。 長門はあの何もないマンションのリビングで何を考えているのだろうか。 朝比奈さんは……、と考えているうちに、俺は奈落の底に引き込まれるように眠りに落ちていった。 そして――――。 目が覚めるとそこは灰色の世界。モノクロームな空と景色が視界の中でどんよりと少しずつ広がっていく。 そうか、やはりまたここにきてしまったのか。いや、呼び出されたというべきか。 ゆっくりと上体を起こして周囲を見てみる。 中庭だな、学校の。 以前、強制的に連れ込まれたときは、ハルヒがそばにいて俺のことを覗き込んでいたが、今回は俺一人で目覚めたようだ。 さらに上を向いて、校舎の三階、部室のあるはずの方向を見上げると、そこだけ窓から明かりが漏れている。灰色世界のわずかな光明。 おそらくどこかで先に目覚めたハルヒが、すでに部室で頭でも抱え込んでいるに違いない。 立ち上がって制服のズボンをポンポンとはたくと、俺はゆっくりと部室棟校舎に向かった。 前は俺一人連れてこられた。今度はどうだろう。また古泉だけが消え入りそうな赤い姿で侵入して、伝言をもたらしてくれるのだろうか。 そういえば、今回は脱出に関して誰も何のヒントもくれなかった。この閉鎖空間の破壊と脱出は、未来人や宇宙人にとっても対処しようのない事だというのだろうか。それとも、もはや答えは自明だというのだろうか。 重い足取りで、部室の前にたどり着いた俺は、ノックするかどうか少しばかり躊躇したが、結局、何の前触れもなくドアを開けた。 「キョ、キョン?」 部室の一番奥、団長席でぼんやり天井を見つめていたハルヒは、入り口にあらわれた俺の姿を見ると、椅子を蹴倒すような勢いで飛び跳ねるように立ち上がった。 「よぉ、元気そうじゃないか」 そういいながらゆっくりと部室の中に足を踏み入れつつ、驚きの中にちょっとした安堵感を漂わせているハルヒの表情を確認することができた。 「あたしはいつだって元気よ、もちろん……」 わずかにうつむき加減のハルヒは、いつものパイプ椅子に腰を下ろした俺の方を見るともなく、つぶやいた。 「前にも夢のなかでこんなことがあったんだけど……」 「ん、夢?」 知ってるさ、その夢のこと。あれはお前の夢なんかじゃない、特殊な灰色の世界とはいえ、俺にとっては思いっきり現実の出来事だった。そもそもはお前が望んだことらしいが、俺も巻き込まれたんだぜ。 俺は、あの時のことを知っているように行動するべきか、知らない振りをするべきか、どういう態度をとればいいのだろうと少しばかり思考実験をしてみた。 今ここにいる俺は、ハルヒにとっては、ハルヒが自らの夢の中で登場させた「俺」なわけだから、あの時の出来事は知っていてもおかしくはないはずだ。しかしここはひとまず、ハルヒの出方を見るのがよかろうとの結論に至った。 「うん、同じような状況であんたと一緒だった」 そう言ってハルヒは再び団長席に腰を下ろすと、ふぅー、っと大きくため息をついた。 「あの時は、妙な青い怪物が校舎を壊しまくって、そのあと……」 そこまで話したハルヒは、俺のことをじっと見つめていたが、やがて、小さく微笑むと、 「まぁ、いいわ。とにかく、これはあたしの夢だから、あたしの好きなようにさせてもらうわよ」 といって、大きく肯いた。 ふん、何言ってやがる。おまえ、夢だろうがなんだろうがいつだって自分の思い通り好き勝手やってるじゃないかよ、と、今にも叫びそうになるのをじっとこらえながら、俺は、そっといつものパイプ椅子に腰を下ろし、目を伏せるしかなかった。 「静かね」 「そうだな」 まだ、神人の登場はないようだ。モノクロームが支配する世界の中で、俺はハルヒと一緒の部室の中で、ただぼんやりと窓の外を眺めるほかなかった。 「校舎内を見て回らないのか?」 「別に……、たぶん、何もないし誰もいないと思うわ」 ハルヒがいなくならないと、この場には古泉も登場しないのかと思って、少しばかり話を振ってみたのだが、ハルヒは乗ってこなかった。 しかたない、持久戦か……、と、あきらめたところ、突然、ドアをノックする音が響いて、驚いた俺とハルヒは同時に振り向いた。 「だ、だれ?」 わずかに軋みを上げる古ぼけたドアがゆっくりと開いた。 「す、涼宮さん、キョンくん……、よかったぁ……」 おそるおそる覗き込んだその小柄なお姿は朝比奈さんだった。 「み、みくるちゃん?」 「朝比奈さん……」 「あ、あたし、あたし……」 俺とハルヒの姿を確認した朝比奈さんは、部室に駆け込んでくるとハルヒの胸の中に飛び込んで、大きくしゃくりあげるようして体を震わせていた。 「大丈夫よ、みくるちゃん、あたしもキョンもいるんだから」 「……わたし、お部屋で寝ていたはずなのに、なぜか教室で……」 そういいながらハルヒは朝比奈さんの小さな体をきゅぅと抱きしめていた。それにしても、朝比奈さん、どうして俺の胸には飛び込んでくれなかったんですか……。 なんと、今回は朝比奈さんも閉鎖空間に連れ込まれてしまったのか。いったいハルヒは何を考えているのだろう。 「あ、あの、とりあえずお茶、淹れます」 しばらくして少し落ち着きを取り戻した朝比奈さんは、そう言ってふっ、と一息つくと、 「わたし、ここではそれしかできないから……」 ポットに水を入れに行こうとして部室を出ようとする朝比奈さんを追うように、 「待って、みくるちゃん、あたしも一緒に行くわ。ついでにちょっとその辺りの様子、見てくる」 そしてドアのところで振り返ったハルヒは、 「あんたはここにいて。古泉くんや有希が来るかもしれないし」 と言い残して出て行った。 ハルヒたちが出て行って一分もしないうちに、まるで、二人が出て行ってしまうのを待っていたかの様に、古泉と長門がほぼ同時に到着した。 「遅かったな、古泉。今度はちゃんと人間の姿での登場だな」 「それだけこの閉鎖空間は以前とは異なった状況ということですよ」 いつもの椅子に腰掛けた古泉は、机の上に置いた両手の指を組むと少し疲れた様子を漂わせている。機関のミーティングでもあったんだろう。 「長門、閉鎖空間にようこそ」 長門は、窓辺の席ではなく、長机の古泉の隣の席に座って、ピンと背筋を伸ばして俺のことを見つめていた。 「わたしまで招待されるとは想定外だった」 「おや、天下の情報統合思念体でも分からないことがあるわけか」 「当然。だからこそ涼宮ハルヒの観察が必須」 「意外だな、この閉鎖空間発生のトリガの一つはお前が引いたと思うんだが」 俺の問いかけに、やや辛そうにわずかに視線をそらす長門は何も答えなかった。代わりに古泉が話し出した。 「おそらくは、このような事態を故意に招くべく情報統合思念体になんらかかの動きがあったものと思います。少なくとも機関ではそのように判断しています」 「なんだって? ホントか、長門」 長門は無言を通すだけだった。ただし、その瞳の奥の黒い輝きは、何か秘めたる想いの存在を物語っていた。 長門が沈黙を守るのを確かめた後、古泉は続けた。 「ここしばらくは、いたって平凡、閉鎖空間の発生も含めて何もおかしな事態は起こりませんでしたから」 「その方がよかったんじゃないか」 「以前にも少しお話したように、それをよしとしないものもいるのですよ、機関にも、思念体にも、おそらくは未来人にも。たまには刺激を与えた上でガス抜きが必要ということです」 「余計なことを……」 「おや、そうですか? あなたの身に危険が及ぶかもしれないのですよ」 古泉の言葉に、朝倉のナイフが放つ鋭い輝きが蘇る。それ以外にも何度かややこしい目に遭ったのも確かだ。 「わたしは約束した。あなたに危害が及ばないようにすることを」 長門は力のこもった無表情で俺のことをじっと見つめている。 「うん、そうだったな」 「それに、そろそろ進展があってもいい頃ですしね」 気持ち悪いぐらいにニヤケながら話す古泉。 「何が進展するんだ?」 「すぐにわかる」 即答した長門の信念を持った無表情の中に、微妙な揺らぎが感じられた。俺が、その事を確認しようと、声を発しようとした瞬間、部室のドアが開いた。 「やっぱり来てたわね、古泉くんも有希も」 朝比奈さんを従えて部室に帰還したハルヒは、古泉と長門の姿を確認すると、満足げに団長席に腰を下ろした。 「何か変わったことはあったか?」 「何も。例の青い巨人の姿もないわね。平穏そのもの」 「おいおい、十分おかしな状況だろう、ここは」 「この程度でおかしいなんて言ってたら、SOS団の団員は勤まらないわよ」 ふん、俺は別に勤めたくもなかったが。 しばらくすると朝比奈さんがお茶を淹れてくれた。この朝比奈印のお茶さえあれば、どんな状況であっても落ち着くことができる。実にすばらしい代物だ。 すこしばかりまったりとした静寂な時をすごした後、ハルヒは静かに話し始めた。 「今日はごめんね、急に帰ったりして」 俺の隣に座って両手で湯飲みを大事そうに包み込んでいた朝比奈さんが小さく、えっ、と言ったのが聞こえた。 「有希とキョンがお揃いのパーカー着ているのを見て動揺しちゃった」 確かに俺も動揺した。 「この間から有希とキョンの怪しげな行動が目に付いて、なんとなく気になってたみたい。あたしの勝手な思い込みから、無意識のうちに有希と張り合おうとして、あたしも妙な行動ばかりしてた」 ハルヒは、先週からの振る舞いを思い出しているかのように、少しばかり遠い目をしていたが、やがて一つ大きくうなずくと、 「でも、決めた。やっぱりあたしはあたしらしくするわ。やりたいことをする、好きなことをする。もう恋愛も特別扱いはしない」 そう宣言したハルヒは、本棚の前の席でじっとハルヒを見つめていた長門に微笑みかけると、 「もし、本当に有希と競合するなら、負けないわよ」 「大丈夫。わたしにはそのつもりはない」 きっぱりと返答し小さく肯く長門。ただ、その表情に再びわずかな憂い感じたのは俺の気のせいか。 「うん、わかってる。最初から、あたしが勝手に張り合おうとしていただけね。でも、有希のおかげであたしも自分の気持ちに整理がついた、吹っ切れたわ。ありがとう、有希」 パシッ。 ハルヒが長門に感謝の言葉を述べ終えた瞬間、窓の外が稲光を受けたように白く輝いた。そして、低くて鈍い地響きがゆっくりと近づいてくるのがわかった。 「来たわね」 ハルヒは窓の方を振り返ることもなくそう言った。ただ一人ビクビクしいている朝比奈さんを除いては、誰も驚くそぶりも見せず、当たり前のようにそいつを迎えようとしていた。 中庭にやって来た青く輝く神人は、特に暴れることもなく腰をかがめて窓の外から部室の中を覗き込んでいる。目だか口だかよくわからない赤く丸い部分がうねうねとゆっくり動いている。 「みんなよく見ておいてね。外の怪物さんもよ」 ハルヒはチラッと後ろを振り返ると、軽く手を上げて神人に挨拶をした。それを受けた神人は、寡黙なアンドロイドのようにわずかに肯くと、まるでウィンクでもするかのように赤い目を一回ぱちりと閉じた。 ハルヒは再び正面を向いて俺たちのことを見回しながら、ポケットを探って何かを取り出した。 「これはあたしの夢の中の出来事だけど、だからこそあたしの潜在意識の現われだと思う。みんなには知っておいて欲しいから」 話しながらハルヒは頭の後ろにまわした両手で髪を触っていたが、いつのまにやらその黒髪は、以前に見たことのあるあの短いポニーテールにまとめられていた。 最後にさっき取り出したゴムの髪留めをパチンと鳴らして椅子から立ち上がったハルヒは、SOS団のメンバを一人ひとり確認するように眺めた。 少し驚いた表情で両手を口に当てている朝比奈さん、目を細めて安心したような笑顔を浮かべる古泉、長門は相変わらずの鉄壁の無表情だった。少し前に、俺が感じたわずかな憂いは今は見て取れなかった。 やがてハルヒは俺に向かって、 「キョン、ちょっと来て」 「なんだ?」 少し怪訝に思いつつ俺は立ち上がってハルヒの横に立った。ハルヒは、俺のことを見上げながら、 「前はよくわからないままあんたに先手を取られたけど、今日は、というか今からはあたしが常に先手だからね、先手必勝よ!」 「なに、なんのことだ」 大きな瞳を輝かせにっこり微笑んだハルヒは、いきなり俺の首に両手を巻きつけてきた。そして、小さなポニーテールの髪を揺らしたハルヒの顔が近づいてきたかと思うと、俺の唇に柔らかい唇が重ねられた、 と、その瞬間――――。 目が覚めた。 つけっぱなしの照明が明るい俺の部屋、目覚まし時計の秒針の音だけが響いている。時間は、午前二時を少し回ったところだった。 幸いにして今回はベッドから落ちることはなかった。 上体を起こしてさっきまでの夢の中の事を反芻してみる。 今度もあまりにリアルな、リアルすぎるほどの夢。いや、やはりあれは現実だ。ハルヒによって時間と空間を超越させられたと言っていいだろう。フロイト先生ではなくてアインシュタイン先生に相談した方がいいかもしれない。 そして、その超空間のなかで、ハルヒはある意味明確に俺に告白した、ということか。いや、宣言だったな、あれは。一種の勝利宣言みたいなものか。 それで、俺はどうする? 俺の考えはどうだ? と自問してみる。 北高入学以来の、いやひょっとするとハルヒの中学時代まで遡るかも知れない出来事の数々を思い起こしてみるが、どうやら答えは既に出ていたということになりそうだ。いくら全力で拒否しようとしても、それは既定事項として、ドン、と存在していて動かし難い。 つまりは、閉鎖空間の中でハルヒが言っていたように、今回の長門の行動をきっかけにあらためてお互いの潜在意識を確認させられただけ、ということだ。 結局、今度も朝まで寝ることはできなかった。 ただ前の時と違って、迎えた翌日は日曜日である。これなら一日ゆっくりできると思って、ぼんやりしながら鳥の声と朝の日差しを窓に感じていると、突然、携帯電話が悲鳴を上げ始めた。 恐る恐る手にした携帯の画面には、燦然と輝く、『着信:涼宮ハルヒ』の文字が。あいつもこの時間まで起きていたのだろうか。 「はい」 『おっはよー、キョン! 昨日の続きの探索するから、十時に集合ね。遅れちゃダメよ』 「おいおい、ちょっと待てって……」 『ゴチャゴチャ言わないの。先手必勝よ! じゃ』 先手必勝だと? そういえばそんなことを言っていたな、ハルヒ――――。 言うだけ言って切られてしまった携帯を握り締めたまま、ふうーっと大きく息を吐き尽くしたところで、メール着信のメロディが鳴った。 そこに表示されているメールの文面を見つめながら、吐くべきため息を少しばかり残しておけばよかった、と後悔しつつ、俺は苦笑いするしかなかった。 『ホントに遅れちゃダメよ、じゃ・あ・ね、♥♥♥ ハルヒ』 Fin. ※ ♥ = 「記号のハート」です。環境によっては文字化けしているかも知れないので……
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/5602.html
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5229.html
『故意のキューピッド』 ○前編 それにしても人が多い。こんなことなら家でゆっくりしていた方がよかった。やれやれだよ。 いきなりの愚痴で申し訳ないが、ここに来ている多くの人たちの中には、俺と同じ考えを心に抱いているやつが結構いるはずだ、間違いない。 ヒマに任せて最近オープンした駅前の大型ショッピングセンターを偵察に来たわけだが、ここまで人が多いとは思わなかった。開店当初の騒ぎも落ち着いて、そろそろゆっくりうろつけるかと思ったのだが、甘かった。 人ごみの中を歩き回って疲れたので、フードコートの片隅でコーヒーでも飲んで帰るか、と思って、最後に男物のカジュアル服を売っている店を横目に見ながら歩いていると、見慣れた後姿が視界に飛び込んできた。 ベージュのダッフルコートに、ショートカットの髪。 そう、SOS団団員にして、宇宙に誇る高性能有機アンドロイド。 「よぉ、長門、何してんだ?」 俺の呼びかけに、一瞬、小柄な体をさらに小さくした宇宙人は、ゆっくりと振り返った。 「……散歩」 「おいおい、散歩はないだろ、散歩は……」 苦笑いしながら近づくと、いつものようにダッフルの中に制服とカーディガンを着込んだ長門は、わずかに右に首をかしげながら俺のことをじっと見つめていた。 ダッフルを着る季節は既にわずかに過ぎているような気もする。それ以前に、せっかくの休日に新しくできたショッピングセンターに来るのだから、もう少し服装に気を使って欲しいのはやまやまだが、長門には無理な注文であることは最早言うまでもない。 「あなたは?」 「俺か? うん、まぁ、偵察だな」 「偵察? 何かこの場所に怪しいところでも?」 「いいや、ここは別に怪しくはないさ。むしろお前の方が怪しいように思えるけどな」 「なぜ?」 「だって、ここは男物の売り場だぜ。なぜこんなところに一人で来ているんだ? 怪しいぜ……」 ほんの束の間、戸惑いの表情を浮かべた長門は、 「……別にわたしは怪しくない。たまたま通りがかっただけ……」 「あははは、気にするな、冗談だよ」 「……そう」 漆黒の大きな瞳をわずかに潤ませながら、長門はつぶやくように答えた。 あの長門が誰か男と一緒にこんなところに来るはずはないし、男物のプレゼントを物色することもありえない。長門の言う通り『たまたま』なのだろう。まぁ、そんなことはどうでもいいさ。 「それより、これからどうするつもりだ? 俺、ちょっとお茶でもして一息つこうと考えていたんだが、一緒に行かないか?」 少し考える表情をした後、長門はコクンと小さくうなずくと俺のすぐ隣に近づいてきた。そして、俺の上着の左の肘辺りをちょんとつまんで、俺が歩き出すのを待っているようだった。 「な、長門?」 どうせなら腕に巻きついてくれたほうがうれしい気がするのだが、やはり長門は長門だ。同じ状況の場合、朝比奈さんなら上着をつまむことすらしないだろうし、ハルヒなら俺の手を引っ張って勝手にずんずん突き進んでいくだろう。 ま、いいか。 俺がゆっくりと歩き出すと、長門も俺の左後ろで肘のところをつまみながらぴったりと寄り添ってついてきた。 時折立ち止まって、気になった服やら小物を見ていると、長門も同じように手にとって見ていた。 「何か、欲しいものは?」 三軒目の店を出ようとした時に長門が聞いてきた。 「そうだな、さっきの店で見た春物のパーカーとかよかったかな。高かったから買わないけど」 「……そう」 長門は少し考え込むような様子を見せた後、再び沈黙モードに入った。 このような状況でもう少し普通の会話を続けることができれば、こいつだってルックスは悪くないのだから、誰かと付き合うことも可能だろうに、もったいない。 そろそろ、ひとつ上の階にあるフードコートに行ってお茶するか、と思って歩き出すと、また前方で何やら男物のシャツを物色している見慣れた後姿に気がついた。 白いハーフコートの下に見えるニーハイソックスに包まれたすらりとした足が目にまぶしい。 俺は長門を従えつつそっとその後姿に近づいて声をかけた。 「よぉ、お前も買い物か?」 「ふぇ、え? キョ、キョン!? な、なんで?」 あわてて振り向いた頭の上では黄色いカチューシャが揺れていた。 「あ、あたしはね、ちょっと、偵察に……」 ふははは、俺と同じこと言ってやがる。こんな風にあわてた表情のハルヒを見るのはなかなかいいもんだ。 「ほぉ、偵察ね。ここには何か怪しいところでもあるのか?」 さっき長門に言われたことを言ってやると、ハルヒは、いつの間にか俺との距離をおきつつ隣でたたずんでいる長門の姿に気づいたようで、 「怪しい? そう、怪しいわよ、どうしてあんたと有希が一緒にいるのよ、何してんのよ二人で……」 さすがにハルヒは一瞬のビハインドをものともせずに反撃に出てきたようだ。突き上げるような視線が痛い。 「ん、さっきそこで偶然出会ったんだ、な、長門?」 「そう、偶然会った」 「ふーん、ま、有希が言うなら間違いないわね」 「俺の言うことはそんなに……」 「信用ないわよ」 「ふん、そうかい」 先手は打てたが、あっという間に同点に追いつかれたってところだな。ま、ちょっとでも先行できただけでもよしとするか。 「で、買い物か?」 「ど、どうでもいいじゃない、そんなこと」 「もし、俺へのプレゼントなら、そうだな、そこのブルーのボタンダウンのシャツでいいぞ」 俺はさっき下調べしていて気になっていたシャツを指差した。 「なんであんたなんかにプレゼントを買わないといけないのよ、あたしだってあんたからもらったことないのに」 そういってやや口をとんがらかしているハルヒにむかって、 「ふーん、お前にはいろいろと世話をしているつもりなんだが」 「そんなの当たり前じゃない、あんたは平団員、あたしは団長なんだから」 そういうと思ったよ。下手にハルヒにプレゼントなんか貰おうものなら、あとでどんな事態が待ち受けているか想像もしたくない。 俺が古泉のように軽く苦笑いをしていると、 「でも……、どうしてもっていうんなら、いいわよ。それでいいの?」 なに、ハルヒ、なんだって、よく聞こえないが。 俺が、何が起こったのか確認する暇もなく、ハルヒはさっき俺が指差した青いシャツを棚から引っ張り出すと、 「Mじゃ小さいわね、Lでいいでしょ?」 とだけ言うと、シャツを手に持ってきびすを返すとレジの方に向かっていってしまった。確かにMでも着られなくはないが、だいたいいつもLを買っている。 俺は、長門の方に振り返ると、 「どういうことだ?」 「大丈夫、サイズは間違っていない」 「いや、そういうことではなくてだな、どういう風の吹き回しなのかと……」 「今日は風も穏やか」 「……もういいよ」 長門は、少しだけ首をかしげながら、 「涼宮ハルヒはあなたのためにプレゼントを買った、ということ」 「ホントか?」 「本当」 うーん、天変地異の前触れか、はたまたここはすでに閉鎖空間なのか? ハルヒの観察者たる長門の言を信じれば、ハルヒは俺のためにシャツを買ってくれたことになるが、なぜそんなことをするのかわからない。今度古泉に会ったら、この状況を解析させて、これから俺はどうすればいいのか聞いておいたほうがよさそうだ。 俺がびくびくしながらその場で落ちつかなく待っていると、やがてハルヒがきれいにラッピングされた包みを持って戻ってきた。 「ほら、買ってきたわよ。ありがたく受け取りなさい」 「いや、あのなぁ……」 「なによ、文句は言わないの。ほらほら」 半ば無理やり手渡された包みだが、リボンまで結んであるわけで、ハルヒがこの態度さえ改めたらこれは純然たるプレゼントとして扱うべき代物だな。 「わかった、わかったよ、ありがたく拝領させていただきます、団長殿」 「そう、それでいいのよ、それで。素直に受け取ればいいの」 ハルヒは満足そうに微笑むと、 「じゃ、ちょっとお茶しに行こっ! 有希、行くわよ。キョンもついでについて来てもいいから」 俺はついでかよ。 「そうよ、いつものことじゃない」 ハルヒは長門の肩を抱きながら歩き始めた。俺は、ハルヒに手渡された包みを小脇に抱えながら、二人の後を追って一つ上の階へとエスカレータを上がっていった。 結局、どこに行っても人で一杯だったが、フードコートの片隅に空いている四人掛けテーブルを見つけることができた。 さっと駆け寄ったハルヒが壁際の席に腰を下ろすと、少し遅れた俺に向かって、 「あたしと有希はここの席を確保しておくから、あんたは、そうね、ケーキセットでも買ってきて。あたしはレモンティー、有希は?」 「ミルクティー」 「で、チーズケーキね。ここのは意外に美味しいらしいから」 「……わかったよ」 こうなることは、予想通りだ。むしろこれぐらいで済むならラッキーなんだが、ハルヒではない本当の神様は、きっと俺のことをお守りくださるはずだ。 俺は、さっきハルヒにもらったリボンの包みをテーブルにおいて、チーズケーキが美味しいらしい喫茶カウンターに向かった。 五・六人の順番待ちの後、注文したチーズケーキのセットを二つに、俺の分のコーヒーをトレイに載せてひっくり返さないよう細心の注意を図りながらさっきの席に戻ると、ハルヒは長門の顔を覗きこみながら、なにやら一方的に話しかけていた。 「やっときたわね、遅いじゃない、キョン」 「混んでるんだよ、この状況が目に入らないか?」 俺はトレイをテーブルに置くと、振り返って周囲の混雑状況に目を向けたが、ハルヒはもうすでにチーズケーキにパクついていて、俺の話など馬耳東風状態だった。 「やっぱ、おいしいわぁ、ここのケーキ、どう有希?」 「美味」 俺の正面で本当においしそうにケーキを頬張っているハルヒを眺めながら、俺は軽くため息をつくと、コーヒーをすするしかなかった。その隣の長門は、ピンと背筋を伸ばした姿勢で、やはり黙々とケーキを口に運んでは、時折ミルクティーのカップに手を伸ばしていた。 「ねぇ、キョン、この後ヒマ?」 「ま、忙しくはないな」 「ヒマならヒマって、はっきりいいなさい」 「ふん、で、ヒマならどうした?」 「有希の服、何か見立ててあげようかなって思うんだけど、あんたも一緒に行かない?」 「ほぉ」 ハルヒにしては真っ当な提案に俺は思わず感心してしまった。ミルクティーのカップを口に運んでいる長門は、ダッフルを脱いでいつもどおりの制服姿だった。見慣れているとはいえ、休日のショッピングセンターというこの場所ではやや違和感はある。 「さっきも有希に言ってたんだけど、たまには制服以外の格好もしなさいって」 カップをおいた長門は、俺の方を向いて少し困惑した表情を浮かべていた。 長門にとっては、『余計なお世話』だろうが、ハルヒの考えは俺も十分納得できる。 「さっき、あんたにシャツ買ったから、有希にも何かプレゼントしてあげる、って言ってるんだけど……」 「わたしは別に……」 「遠慮なんか無用よ、有希。キョンのずうずうしさを見習いなさい」 「まてまて、俺だって遠慮がないわけでは……」 「とにかく、そう言うわけだから、キョンも一緒に見てあげてよ、ね」 「……わかったよ……」 振り返った視線の先の長門は、相変わらず極小ブラックホールな瞳でハルヒの提案も含めてショッピングセンター全部を吸い込みそうな輝きを漂わせていた。 「……長門、ハルヒの気が変わらないうちに貰っておくほうがいい」 「了解した」 長門は、ハルヒの方に振り向くと、小さく頭を下げた。 それからが大変だった。ハルヒは長門を引っ張りまわして、あれこれ着せては俺に感想を求め続けた。最初のうちは、店頭にディスプレイされているような小洒落た衣装を着た長門が新鮮で、俺も楽しめたのだが、さすがに五軒目あたりですっかり疲れてしまった。 「すまん、ちょっと疲れたので、俺、そこの椅子で待ってていいか?」 「なによ、キョン、薄情ね。どう思う? 有希」 「わたしはかまわない。ありがとう」 「もう、有希ったら」 ハルヒは軽くあきれたように微笑むと、俺の方に振り向いて人差し指をつきたてた。 「じゃあ、有希の好意に甘えてそこでおとなしく待ってなさい。迷子になってはだめよ」 「わかったよ、すまないな」 ふん、いまさら誰が迷子になるもんか。 やっと解放された俺は、ハルヒに買ってもらったシャツの包みを膝において椅子にどかっと腰を下ろした。 まさかこんなところで、デパートの片隅の椅子で荷物を抱えて眠り込んでいる親父たちの気持ちを理解することになるとは思わなかったな。 しばらくしてハルヒたちが戻ってきた時、俺は少し意識を失っていたようだ。 「こらぁ、キョン! 寝てるんじゃないわよ!」 「ん、ん? お、おかえり……」 「ただいま」 一つ紙袋を抱えた長門が答えた。 「いいものはあったのか?」 「あった」 「よかったな」 「よかった」 「よく似合ってたわよ。今度、不思議探索のときにでも着てきてね、有希」 「わかった」 「じゃあ、今日は解散! お疲れー」 って、おいハルヒ……。 右手を上げながらハルヒはスキップするような軽い足取りで去っていった。自分の気が済んだらそれでよし、満足したらそれでおしまい。実にわかりやすいね。 俺はそんなハルヒの後ろ姿を呆然と見送るしかなかった。 「長門……」 残された俺たちはどうすればいいのか尋ねるために、隣で佇んでいるはずの寡黙な有機アンドロイドの方に振り向くと、 「今日はありがとう。では、また月曜日に」 そんな短い言葉を残すと、紙袋をぶら下げた長門はすたすたと行ってしまった。 「おいおい、お前まで……、なんなんだよ、これ……」 結局、俺の元にはハルヒに強引に渡された青いシャツの包みと、はげしい疲労感が残されるのみだった。 週が明けて月曜日、かったるい授業を受けている間中、俺の後ろの席の全身ヒマワリ野郎は、鼻歌をうなりながらご機嫌に過ごしていた。 午前の最後の授業の開始を告げるチャイムが鳴り、教師が来るまでのわずかの間のことだ。 「ねぇ、キョン?」 背中をつつかれるのは今日何回目だろう。もう、返事するのも疲れたぞ。 「今週は久々に不思議を探しに行かない?」 「久々だぁ?」 前に行ったのは先々週だったか。久々というほど間が開いたわけでもなさそうだが。 「うん、昨日読んだ本でね……」 ハルヒはなにやら本で読んだらしい超常現象のことをうれしそうに話していたが、俺はそれとなくスルーしながら適当に相槌だけは忘れなかった。 「ちょっと、聞いてるの?」 「え、あぁ」 ちょうどそのとき、数学の教師が教室に入ってきたので、それ以上の追及から逃れることができた。 後ろの席からは、しばらくはぶつくさつぶやいているのが聞こえてきたが、やがて鼻歌に変化したようだ。 ううむ、妙にハルヒの機嫌がいいのは、やはり土曜日のショッピングセンターの出来事以来なのであろうか。ここは早いうちに古泉に俺の身の振り方を相談しておかないとヤバそうだ。 昼休み、弁当を早々に平らげた俺は、谷口と国木田に「すまんな」と一言だけ残すと九組に向かい古泉を連れ出した。 「ふむ、なるほどね」 中庭のテラスで、土曜日のことをざっと説明してやると、古泉は腕組みし気持ち悪いほど微笑みながら、 「それにしても、あの涼宮さんからプレゼントをいただけるなんて幸せですね」 「だから、なぜハルヒがそんな行動に出たのか、解析してくれ。なにか魂胆があるんだろうか」 相変わらずニヤケ続けている古泉は、 「ちょっとした対抗意識の現れでしょうか」 「対抗? 何に対抗するんだ?」 「おそらく涼宮さんはある目的を持って、ショッピングセンターで品定めをされていたものと思います。ちょうどそのとき、あなたに声をかけられた、しかもあなたはなぜか長門さんと一緒だった」 古泉はそこでちょっと言葉を区切ると、あごの下に右手の人差し指を当てて、 「その事実、あなたと長門さんが一緒に行動していた、という状況を目の当たりにして、それがたとえ偶然の出会いに基づくものだったとしても、すこしばかり対抗意識をかき立てられた……」 「…………」 「そこで、勢いあまってあなたへのプレゼントを購入し、ポイントを挽回しようとしたのではないかと」 「何のポイントなんだよ」 「えっ、分かりませんか?」 古泉は少しばかり大げさに驚いた表情を見せながら、 「まぁそのあたりがあなたらしいところですね。いまさらながら感心しますよ」 そして再びいつものニヤケ顔に戻った古泉は、 「もう少し乙女心の機微に敏感であって欲しいところですね」 といって大きくため息をついた。 「なんだかよくわからんが、とりあえず俺はどうすればいい? どうすればハルヒのご機嫌を損ねないですむんだ? 何か見返りを用意すべきなのか?」 「まぁまぁ、そう慌てずに……」 古泉は、矢継ぎ早に質問を投げかけた俺をなだめるように右手を上げながら、 「そうですね、今度の不思議探索の時には、ぜひ涼宮さんにいただいたプレゼントのシャツを着ていってください」 「……それでいいのか?」 「まずは、そこからです」 うん、まぁ、古泉に言われなくても俺はハルヒに貰ったシャツは着て行くつもりだったわけだが、『まずは、そこから』ということは、俺はもっといろんなことに気を使わないといけないということだな。困ったもんだ。 「わかったよ。もし、何かあったら教えてくれよな。俺はもうひどい目には遭いたくないから」 「わかりました。でも、別にひどくはならないと思いますよ。あなたは涼宮さんに選ばれた栄えある鍵なのですから」 「それがそもそもの問題なんだよ。なんなら代わってやろうか」 古泉は大きくのけぞると、 「め、滅相もないですよ。僕などにあなたの代わりが勤まるわけはありません」 「俺はいつだってウェルカムだぜ」 俺は、立ち上がると古泉に向かって右手を上げた。 「すまん、ありがとな」 「いえいえ、こちらこそ」 「最近も閉鎖空間は発生してるのか?」 もうすぐ昼休みも終わろうとしている中、教室へ向かう階段を、周りの生徒たちと同じように幾分早足で登りながら、俺は隣を行く古泉に聞いてみた。 「いやぁ、最近はすっかりご無沙汰ですよ。自分が超能力者なのかどうか忘れてしまうぐらいです」 「それはいいことじゃないか」 「個人的にはそうなのですが、機関的にはどうも……」 古泉はややうつむきながら、 「なにも起こらないことをよしとしない一派もいるわけでして……」 「何ならハルヒを焚きつけようか?」 「そ、それだけはやめてください」 あわてて頭を振る古泉に向かって、俺は自分に言い聞かせるようにつぶやいた。 「ふん、わかってるよ。俺だってもう一度火中の栗を拾いに行くようなマネはしたくないしな」 あのときの閉鎖空間での出来事は、俺にとって火中の栗だったのか何だったのかは、今さらどうでもいいことだ。少なくともあまり思い出したくはないことには違いない。 廊下で古泉と別れて、教室に入ったところで予鈴がなった。窓側最後尾の席で、また俺の背中をつつこうとしているご機嫌なハルヒの姿が目に入って、俺は、小さくため息をつくしかなかった。 午後の教室でも、ハルヒは一方的にご機嫌オーラを俺の背中に突き刺し続けてくれている。そんな様子に気付いた谷口までが、 「よお、キョン。お前、ついに涼宮と正式に付き合い始めたのか?」 「はぁ?」 「だって、授業中、涼宮はずーっとお前の背中を見つめてご機嫌続きだぜ。あんな涼宮を俺は見たことはない」 「うん、確かにそうだよね」 国木田までも話に加わってきた。 「あれは、愛する彼を見つめる視線だよね」 「まてまて、俺と涼宮はそんな仲ではない、誤解だ」 「ふん、ナニぬかす。入学以来のお前らを見ていて、それでも付き合ってないなんて言い訳は通らん」 「待てよ、ずっと見てきたんなら、付き合ってないこともわかるだろう。俺がどれほど苦労してきたかも……」 「いいじゃないか、晴れてオープンにしちまえよ。誰も止めやしないし、邪魔もしないさ」 「いや、だからな……」 「ちょっと、キョン、こっち来て」 さらに弁解しようとしたところで、教室に戻ってきたハルヒの声が背後から届いた。 「ほらほら、お呼びだぜ。俺たちに火の粉が降りかかる前に行ってくれ」 谷口と国木田に追い立てられるように自席に戻った俺に向かってハルヒは、 「今度の探索だけどさぁ……」 と、まだ月曜日だというのに週末の不思議探索の計画について話し始めた。そんなハルヒの笑顔を眺めながら、俺は何とか無事に週末を乗り越えられますように、と願うしかなかった。 その日の放課後の部室では普段どおりのSOS団活動が繰り広げられていたわけだが、俺はなぜか妙に長門の視線が気になってしかたなかった。 もちろん長門はいつものように漬物石のような分厚い本を紐解いていたのだが、古泉との将棋の合間にふと視線を向けると、俺のほうをじっと見つめている長門と目が合うのだった。 そして二回に一回は、小さく首をかしげると、気のせいなのかもしれないが俺に向かってほんのわずかに微笑みかけた後、またうつむいて読書に戻っていた。 そんなことが何回か続いたが、やがてハルヒがそんな俺たちの様子に気づいたのか、 「ちょっとキョン。あんた有希に色目を使ってるんじゃないわよ」 「ん、俺が?」 「そうよ、さっきから有希のことじっと見つめてるじゃない」 腕組みしたハルヒは俺のことをじっと睨みすえながら、 「何か怪しいわね、このあいだといい……」 違うぜ、俺が長門を見つめているんじゃなくて長門が俺を見つめているんだよ。それにこの前長門と一緒になったのも、あれは確実に偶然の産物だ。 俺がどうやって反論しようかと、渦巻く思考を整理していると、 「まぁ、いいわ。とにかく有希にちょっかい出すんじゃないわよ」 「あ、あたりまえだ、そんなこと」 またPCのモニタを見つめ始めたハルヒの姿を確認した後、俺は長門の方をチラッと見たが、長門は何も聞かなかったかのように、というか普段と変わらぬ無表情で読書中だった。 ふぅ、と一つ息を吐きつつ、古泉との勝負の続きに戻ろうとすると、目の前の古泉が身を乗り出しながら小さな声で言った。 「お願いしますね、変に涼宮さんを刺激しないでください」 「おいおい、俺は無実だぜ」 そう切り返しながら、俺はとどめの一手を指して古泉を黙らせた。 状況がいまひとつ理解できないまま放課後を過ごしつつなんとなく疲れた一日が終わり、やっと家に帰り着いた。 机の上にかばんを放り投げ、とっとベッドにでも突っ伏そうかと着替え始めたときに、妹が部屋に飛び込んできた。 「キョンくーん、なんか荷物が届いてるよー」 「こらこら、ノックぐらいしなさいって、いつも言ってるだろ」 ブレザーをハンガーにかけながら妹のほうに振り返ると、妹は手に持った小さな荷物を机の上に置いていた。そして、 「えへへ、ごめんねー」 とだけ言葉を残して部屋から出て行こうとして、扉のところで一瞬立ち止まった。 「有希ちゃんからだよ、荷物。じゃぁねー」 捨て台詞を残して消えていった妹がパタンとし閉めた扉を、俺は唖然と見つめていた。 な、長門から? なんだ、なんだ? どういうことだよ。 俺はズボンのベルトをあわててはずしながら、机の上に置かれた荷物の伝票を覗き込むと、確かに差出人のところに長門の名前が入っていた。最新のレーザープリンタで印刷されたようなきれいな明朝体だが、長門の手書きであることは火を見るより明らかだ。 そそくさと着替えを完了させ、やや強引に包みを剥くと、中からはきれいにラッピングされリボンをかけられた箱と茶封筒がひとつ現れた。 いかにも事務的な茶封筒を開け、寸分の狂いもなくきっちりたたまれた紙を取り出して、恐る恐る広げてみた。そのA4サイズの紙の中央付近には、 『贈呈』 の二文字が七十二ポイント程度の明朝体で輝いていた。その少し右下には、 『長門有希』 と、これは二十八ポイントのやはり明朝体で記されていた。 長門、お前はどこまで明朝なやつなんだよ、俺は丸ゴシックも好きだぜ、いやいやそんなことはどうでもいい。いったい長門は何を贈呈してくれたんだ? 結局、リボンの箱には、先日のショッピングセンターで俺が気に入った、と話していたパーカーが入っていた。 俺はそのミディアムグレーのパーカーを両手で広げて持ちながら、寡黙な有機アンドロイドがいったい何を考えてこんな行動に出たのか、想像と妄想を広げようとしたが、どう転んでも何も結論は出なかった。 とにかく長門には礼を言っておかないとな。 電話にするかメールにするかちょっとばかり考えたが、電話口の寡黙なアンドロイドの話し相手をするより一行だけでも返事を貰うほうがこっちのダメージが少なかろうと判断し、メールを出すことにした。 『パーカー届いたぜ、ありがとうな、長門。でもなぜ俺に?』 待つことしばし、果たして長門はどんな返事を書いてよこすのか、と携帯を弄んでいると、二分ほどで返信が届いた。 『特に他意はない。愛用して欲しい』 当然絵文字などない。予想通りの簡潔さだ。 それにしてもホントに他意はないんだろうか。今日の放課後の長門の様子を思い起こすと、いまひとつ腑に落ちない点がある。また妙なエラーに満ち溢れているんじゃあるまいな。 よし、もうひとつ返信だ。 『ところでエラーとか発生してないか? どうも様子がおかしいように感じるのだが』 今度は一分たたずに返事が来た。 『問題ない。心遣い感謝する』 取り付くシマもない。これ以上、どうこう尋ねたところで新たな展開は望めない。とにかく最後にメールを送信して終わりにしよう。 『わかったよ、じゃ、また明日な』 やはりメールにしたのは正解だった。電話をしたところで、このメールの本文と同じことを話すだけだしな。そう思いながら携帯を机の上に置いたところで、またメールを受信した。 『また、あ、し、た。バイバイ、♥♥♥ ゆき』 俺は、三点リーダの代わりにピンクの三連ハートマークが点滅しているメール本文が表示されている携帯の液晶画面を穴が開くほど見つめ続けるしかなかった。 ※ ♥ = 「記号のハート」です。環境によっては文字化けしているかも知れないので…… 後編 に続きます。