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刑法とは 主な犯罪の成立要件とそれに対する刑罰を規定する法律 成立要件=構成要件 物を盗ったら窃盗罪・人を殺したら殺人罪・人を殺して物を盗ったら強盗殺人罪。 罪刑法定主義 事前に法令で罪となる行為と刑罰が規定されていなければ処罰されない、という原則 刑法とはなんのためにあるのか 刑法の目的は現在は、予防と応報にあると解されている 予防にも、一般予防と特別予防がある。 一般予防とは、一般人(犯罪歴のない人)に対し、「こういうことをしたら罰せられるぞ!」と威嚇をすることで、犯罪を犯すのをやめさせる効果。 特別予防とは、犯罪をした人が、「こんな刑罰を受けるなんてもうたくさんだ、もうしたくない」と思わせることで、再犯を防ぐことである。 応報はいわば、「目には目を、歯には歯を」の考え方である。 刑事訴訟法とは 刑事手続について定めた法律である。人を裁くための流れを定めています。 「疑わしきは罰せず」が原則 現行の裁判との差異 現行の裁判の流れ 犯罪発生 捜査 起訴 公判 冒頭手続 証拠調手続 最終弁論 結審 判決 現行の流れに以下の二点が追加される 公判前整理手続 刑事裁判の充実・迅速化を図るため 検察官は証明予定事実を明らかにし、証拠を開示。弁護人も争点を明示し、自らの証拠を示さなければならない。 採用する証拠や証人、公判日程はこの場で決まり、終了後は新たな証拠請求が制限される。初公判では検察、弁護側双方が冒頭陳述を行い、手続の結果を裁判所が説明する。公判は連日開廷が原則。公判の途中に同様の作業をする期日間整理手続もある。 公判前整理手続の終了後は新たな証拠請求が制限されるため、被告人に不利になる場合もあると言われている。 裁判員による評議 裁判官3人と裁判員6人が原則。 裁判員の参加する刑事裁判に関する法律 2004年5月21日に成立、同年5月28日公布、公布の日から5年以内(2009年まで)に施行される 裁判員制度の問題点 憲法18条「奴隷的拘束および苦役からの自由」 憲法19条「思想および良心の自由」 の侵害 安全性 守秘義務 休職について →2006年8月にトヨタが無期限・有給の裁判員休暇制度を創設 →日当は最高1万円 裁判官への負担 被告人への偏見 裁判の迅速化は稚拙化につながる 何か意見があれば↓のコメント欄でどうぞ。 名前 コメント
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【基本書】〔メジャー〕<行為無価値論①> <結果無価値論①> 〔その他〕<行為無価値論②> <結果無価値論②> <その他> 【その他参考書】〔実務関連書〕 【入門書・概説書】 【注釈書・コンメンタール】 【判例集・ケースブック】〔判例集等〕 〔ケースブック〕 【演習書】 【基本書】 〔メジャー〕 <行為無価値論①> 大塚裕史・十河太朗・塩谷毅・豊田兼彦『基本刑法I——総論』『同II——各論』日本評論社(2019年3月・第3版、☆2023年4月・第3版)……「判例説」の立場から書かれた共著の教科書。「学者の書いた予備校本」といった趣。判例の立場を支持し、その内在的な理解を説明することに主眼が置かれており、学説対立については試験対策上必要な範囲で述べるに留められている。判例のエッセンスを抜き出して平易に解説することに関しては他の追随を許さない。著者の一人である大塚は、本書を学説から出発する「理論刑法学」ではなく、判例実務から出発する「実務刑法学」の視点に立ったものであると表現している(法学セミナー729号74頁参照)。全体のおおまかな構成は、まず学説について概説した上で判例の立場を述べ、その判断要素などを最後にまとめるという形を採る。具体的な叙述については、答案のように一つ一つどの段階の問題なのかを省略せずに記述しており、また、重要性に応じてフォントサイズを変えるなど、初学者にも十分に配慮している。類書には見られない特徴として、設例に対する学説のあてはめをきちんと行っていることが挙げられ、あてはめのやり方が分からないような場合に有用であろう。コラムでは試験対策上躓きやすいミスなども指摘されている。共犯の射程を唱えた十河執筆の共犯論は必読と言うべきであるが、一方で肝心の射程部分が少ないとの声もある。なお、判例説という立場を採る以上は仕方のないことであるが、本書は厳密な意味での行為無価値論に立脚するものではなく、体系的一貫性や理論的な精緻さといった学術的な面でやや心許ないことは否めない。もっともそうした点は現在の司法試験においてはさほど問題にならないため、もっぱら試験対策という観点から見れば、本書は極めて有用であると言えよう。各論に関しては、定義編と論点編が分離されており、特に後者は収録事例から論点を検討する形式を採ることから司法試験対策として実践的なものとなっている。特に大塚と十河執筆の財産犯は、判例の考え方を平易な文体で分かりやすく解説しており、一読の価値がある。総論(第3版)において、法改正・新判例が踏まえられ、「正当防衛」「実行の着手」「共犯」は全面改訂された。各論(第2版)は、2017年改正対応。全30・23講。A5判、536頁・610頁。 裁判所職員総合研修所監修『刑法総論講義案』司法協会(2016年6月・4訂版)……通称『講義案』。本書は元裁判官の杉田宗久(2013年に逝去)による書記官への講義レジュメが元になっている。書記官の研修用テキストということもあって、学術的な議論には深く立ち入らず、判例と伝統的通説(伝統的行為無価値論)に基づいて淡々とまとめられている。そのため、総論における激しい学説対立に辟易した受験生から一定の人気を得ている。理論刑法学を割り切るのであれば、選択肢としては真っ先に本書があげられよう。もっとも、本書のみでは、近年論文式試験において出題されるようになった、複数の理論構成を問うような問題への対応は難しいと思われるため留意されたい。4訂版は、3訂補訂版(2008年9月)以降の法改正に伴う修正が行われ、また、危険の現実化や退避義務論、中立的行為による幇助など近時の学説の展開を踏まえつつ、新たな判例が補充され、大幅な加筆修正が行われた。A5判、514頁。 井田良『講義刑法学・総論』『同・各論』有斐閣(2018年10月・第2版、☆2023年12月・第3版)……著者は伝統的行為無価値論(団藤、大塚、大谷等)とは一線を画する、いわゆる「新しい行為無価値論」(=道徳から切り離された行為無価値論)の旗手。井田説は行為無価値論の中でも理論的に高度で独自色が強いものであるが(例えば、消極的構成要件要素の理論、責任故意・責任過失の否定、緊急行為での有責性考慮、緊急避難の類型論など)、本書は学生向けの概説書に徹しており、判例・通説等の解説を主眼に置いている。自説を主張する場合はその旨を明記しており、なぜそのように考えるべきなのかも説明されているから、読み手を惑わす心配もない。叙述の論理は非常に明快であり、社会倫理規範や社会的相当性というような曖昧な概念をマジックワードとして用いて論争点の解決を図ることはない。そして、論点・学説も豊富に取り上げており、その解釈は非常に秀逸である。総じて、行為無価値論の基本書としては、現在最良のものの一つと言えよう。学説の整理も行き届いており、近年の出題傾向にも対応しうる。アドホックで一貫性に欠けるところのある『基本刑法』を読んでいて違和感を覚える者は、透徹した理論によって貫かれた本書を手にとってみるのもよかろう。総論・各論ともに第2版にて性犯罪規定の改正ならびに初版刊行以降の判例をフォロー。各論第3版にて2022年・2023年刑法改正に対応。全30・41章。A5判、700頁・762頁。同著者の『死刑制度と刑罰理論——死刑はなぜ問題なのか』岩波書店(2022年1月、四六判、240頁)は直接的には死刑制度を論じた著作であるが、刑罰理論としてヘーゲルを起源とする規範保護型の応報刑論を提唱する。 <結果無価値論①> 山口厚『刑法総論』『刑法各論』有斐閣(2016年3月・第3版、2010年3月・第2版〔※2012年1月第3刷にて補訂あり〕)……平野門下。現最高裁判事。総論・各論ともに非常にレベルが高く、司法試験合格レベルを想定するならばややオーバースペックとも思われるが、理論的な曖昧さを嫌う学生にとっては、安易なマジックワードなどを用いることなく、結果無価値論の最先端を示した本書は好適である。総論は、基礎的な事項を大胆に省いているため体系書としては薄く、そのうえ、正犯性等の従来の教科書レベルでカバーされなかった議論を載せているため、あらかじめ従前の議論を学ばずして本書を読みこなすことは困難であろう。初版(2001年8月)では、実行行為概念否定論など、過激な学説が多く見られたが、第2版、第3版と判例の立場に沿う方向での改説が随所でなされ、版を改めるごとに試験的には使いやすくなっている。各論は、総論に比べてかなりの厚さであるが、その分丁寧な解説で読みやすくなっている。また、判例を元にした緻密な分析が特徴的であり、総論で山口説以外を採る場合であっても、辞書的に利用する価値は大いにあるだろう。山口自身も総論より各論の教科書の完成度に自信があるとコメントしている。なお、総論については第3版補遺が、各論については第2版補遺が公開されている。A5判、428頁・690頁。 山口厚『刑法』有斐閣(2015年2月・第3版)……1冊本。通称『青本』。本書は初学者を主たる対象として、判例および全ての学説の前提となっている通説の解説に主眼を置いた教科書である。上記の二分冊の体系書に比べると、判例・通説の解説を主眼とする本書の性質上、自説はかなり控えめになっているが、一部に自説への誘導を図ろうとしていると思しき記述も見受けられる。また、広く浅い掘り下げのため、行間を読むことが要求されることから、初学者には正確な文意は理解できないとの声もある。前述の通り、本書は初学者向けに書かれたものであるが、刑法学の第一人者が判例と通説を平易に且つ網羅的に解説しているということもあり、刑法全体を一通り学んだ後や試験直前期のまとめ用として用いる学生も多い。行為無価値論を採る学生でも使用する者は多いが、特に結果無価値論を採る学生にとっては事実上の国定教科書に近い存在ともいえる。なお、第3版補遺あり。A5判、548頁。 西田典之(橋爪隆補訂)『刑法総論(法律学講座双書)』『刑法各論(同)』弘文堂(2019年3月・第3版、2018年3月・第7版)……平野門下。原著者の西田は2013年に逝去。各論は、結論の妥当性や実務で使える議論であることを強く志向しており、分かりやすさとバランスの良さに定評がある。また、判例解説や論文で代表的見解として引用されることが多く、各論の体系書としては最も権威ある一冊となっている。そうしたことから、受験生の間では、行為無価値論・結果無価値論の立場を問わず高いシェアを誇っている。ただし、西田は少数説を採ることも少なくないため、特に総論で西田を使わない場合は食い合わせに注意すべきである(例えば、身分犯の共犯など)。総論は、学生有志によって録音された、著者の東大での講義をテープ起こししたものが元になっており、講義録的な要素が強く残っているため、各論とは大きく趣が異なっている。洗練された各論と比べると記述は冗長であり、ページ数の割にその内容は薄く、また、体系的な整理も各論ほど丁寧ではない。以上のように、各論と比べれば完成度という面では大きく劣るものの、講義を元にしたものというだけあって、読み手を飽きさせない。体系は平野説に比較的忠実であり、山口に比べて全体的に穏当な見解にまとまっている。なお、構成要件を違法構成要件と責任構成要件に分割する独特の体系(すなわち、違法構成要件→違法阻却事由→責任構成要件→責任阻却事由という判断プロセスを辿る体系)を採っている点には注意を要する。総論第3版及び各論第7版の改訂は、弟子の橋爪によって行われ、旧版の記述は基本的に原形のまま残し、刑法に関する新たな動きを補訂したものとなっている。新法令や法改正については本文に修正を施し、最近の判例・裁判例についての加筆箇所は本文とは異なるレイアウトで追記している。補訂作業にあたり、橋爪個人の見解を示すことは避け、客観的な記述に徹している(はしがきより)。A5判、520頁・588頁。 〔その他〕 <行為無価値論②> 高橋則夫『刑法総論』『刑法各論』成文堂(2022年10月・第5版、2022年10月・第4版)……西原門下。新しい行為無価値論。総論は、最新の学説や問題意識が随所に織り交ぜられており、それらが著者の深い法哲学の素養と相俟って、行為無価値論の最先端を示すものに仕上がっている。いわゆる総論の総論の部分だけでも50頁超に渡るなど、近年では珍しい真剣勝負の理論書。特に客観的帰属論に関する記述は秀逸であり、明確な判断基準が示されているため論証化しやすく、大いに参考となるであろう。総論・各論ともに、判決文の紹介に多くの紙面を割き、判例解説も非常に充実している。また、具体的事案の処理に際しての思考過程も適宜示されており、受験生にも使いやすい本となっている。行為規範と制裁規範という独自の体系を採るなど、著者のアクが前面に出ているものの、結論は概ね判例・通説に近い。もっとも、結論よりも論証過程が重要である試験において、この点で使いづらいともいえる。他の基本書に比べ、やや独自色が強いため、中上級者向けであるとの声もある。A5判、676頁・816頁。著者による一般向けの入門書『刑の重さは何で決まるのか』筑摩書房(2024年4月、ちくまプリマー新書、新書判、208頁)も参照されたい。 大谷實『刑法講義総論』『同・各論』成文堂(2019年4月・新版第5版、2019年12月・新版第5版)……刑法の機能に法益保護に加えて道徳的価値の保護も含まれるとする「伝統的行為無価値論」。旧司法試験時代の定番書。現在も改訂は重ねられており、論点も網羅的に取り上げられているが、著者高齢のためか、議論に古さを感じさせる部分も見受けられる。大谷説は改説が比較的多いことで知られ、特に総論においてその体系的一貫性にしばしば疑問が呈されている。もっとも、そのような点は前掲『基本刑法』同様、現在の司法試験ではそれほど問題となるものではない。また、大谷説は「社会的相当性」という判断基準をマジックワードとして用いることで、大半の論点で強引な解決を図っているという批判がされることがあるが、実際に総論において「社会的相当性」を用いて強引に解決が図られているところは正当業務行為と自招防衛程度である。各論については、大谷が実務との関連を意識していることから(はしがきより)、比較的判例・通説寄りであり、結論も穏当なものが多く、記述も整理が行き届いていることから、非常に使いやすい。収録判例数が多いことも評価できる。西田各論が肌に合わないという者は大谷各論を用いるのも悪くない選択肢であろう。A5判、638頁・732頁。 大谷實『刑法総論』『刑法各論』成文堂(2018年4月・第5版、2018年4月・第5版)……通称「薄い方」。『刑法講義』を判例・通説中心にコンパクトにまとめた、通読向きの概説書。量として必要十分なまとめ本に仕上がっており、試験前の総まとめに向く。『刑法講義』より大谷説を理解しやすいとの声あり。A5判、352頁・464頁。 中森喜彦『刑法各論』有斐閣(2015年10月・第4版)……著者は関西における行為無価値論の第一人者。本書は西田各論などの陰に隠れがちであり、あまりシェアは高くないものの、その内容には定評がある。他の基本書に比べて非常にコンパクトにまとめられており、また、基本的に穏当な見解が採られながらも、論点への鋭い踏み込みもあるなど、まさしく「簡にして要を得た」という表現がふさわしい基本書となっている。なお、刑法総論は執筆しないことを著者自ら公言している。A5判、348頁。 小林充原著、植村立郎監修、園原敏彦改訂『刑法』立花書房(2015年4月・第4版)……実務家による一冊本。原著者は著名な元刑事裁判官(2013年に逝去)。第4版は第3版(2007年4月)以降の関係法令・判例・学説等の進展を踏まえて、植村立郎(弁護士・元裁判官)監修のもと、現役判事の園原敏彦が改訂。実務経験の裏打ちを基に判例の考え方を簡潔に説明。自説は少ない。A5判、512頁。 伊東研祐『刑法講義・総論(法セミ LAW CLASS シリーズ)』『同・各論(同)』日本評論社(2010年12月、2011年3月)……夭折の天才・藤木英雄(東大最後の行為無価値論者)の弟子。団藤=大塚ラインとは一線を画する、洗練された行為無価値論を採る。法学セミナーでの連載を単行本化したもので、著者曰く未修者向け。総論は、著者の講義を聴講しない独習者にも理解できるよう著者の特異な独自説はあえて載せていない(もちろん自説主張が全くないという意味ではなく、著者の法哲学見地(『総論』第1章参照)からまとめられた体系に沿った主張もある)。学説の引用元を表示していない点、類書に比べ判例の紹介・引用がやや少ない点は賛否がわかれるところだろう。各論も総論と同じく特異な独自説は少なめだが、新たな視点からの記述も多く参考になる。判例に批判的な箇所も多いが実用上支障はない。著者の文体は非常に難解であり、容易に読み進められないが、一方で読み応えがあるという評価もある。A5判、480頁・488頁。なお、同著者による、より初学者向けの基本書として『刑法総論(新法学ライブラリ 17)』新世社(2008年2月)がある。 橋本正博『刑法総論(法学叢書12)』『刑法各論(同13)』新世社(2015年2月、2017年2月)……著者は福田門下。最近の問題意識に応接しながらも、全体的に安定感がある記述となっている。著者は「違法性とは実質的に全体としての法秩序に反することである、と解する規範違反説的考え方に基づく定義が基本的には妥当である。……社会的相当性からの逸脱が違法性の重要な部分を占める」と明言しており、福田の影響が見てとれる。また、結果無価値論と行為無価値論は「原則として排他的なものではない」と述べているが、試金石ともいうべき偶然防衛については「行為者に行為規範を与えることも考慮する行為無価値論の視点を含める以上、防衛の意思で行われるからこそ正当化が認められる」としている。共犯論は、著者の有名なモノグラフィー『「行為支配論」と正犯理論』有斐閣(2000年2月)の内容を踏襲したものとなっており、説明の仕方にはやや独自色が見られるが、結論自体は現在の刑法学界の共通認識を踏み越えない穏当な所に収まっている。なお、細かな解釈論については井田『講義刑法学』及び『刑法総論の理論構造』を参照させる場面が多いため、それらが手元にあると便利。A5判、392頁・576頁。 川端博『刑法総論講義』『刑法各論講義』成文堂(2013年4月・第3版、2010年3月・第2版)……団藤門下。最新の議論にはあまり触れられていないが、基礎的な理論や論点については詳細かつ丁寧な説明がなされている。記述はレジュメ調に整理されており、判例・学説・自説を歯切れよい文章でたんたんと説明する。A5判、798頁・814頁。 川端博『刑法』成文堂(2014年3月)……1冊本。放送大学テキストの改訂版。判例・通説を中心にコンパクトにまとめられている。特に上記の2冊本を基本書としている者にはまとめ本として好適。A5判、428頁。 佐久間修『刑法総論』『刑法各論』成文堂(2009年8月、2012年9月・第2版)……大塚仁門下。いわゆる団藤=大塚ラインの系統。改訂により文章の読みにくさはかなり改善されたが、結果無価値論からの批判に対する目新しい再反論はあまりみられない。A5判、516頁・512頁。他に『刑法総論の基礎と応用——条文・学説・判例をつなぐ』成文堂(2015年10月、A5版、410頁)、雑誌「警察学論集」の連載に増補・加筆して単行本化した『実践講座・刑法各論』立花書房(2007年3月)等がある。 斎藤信治『刑法総論』『刑法各論』有斐閣(2008年5月・第6版、2014年3月・第4版)……「社会心理的衝撃性」なる独特の概念を用いる。学説紹介が詳細。巻末にユニークな設例つき。A5判、470頁・488頁。 高橋則夫ほか『法科大学院テキスト刑法総論』『同・刑法各論』日本評論社(2007年10月・第2版、2008年4月)……行為無価値論者による共著。執筆陣は豪華だが、総論はちぐはぐ感が否めない。各論はよくまとまっており、論点ごとの判例・学説・文献カタログとして使い勝手が良い。A5判、432頁・392頁。 大谷實編著『法学講義 刑法1 総論』『同2 各論』悠々社(2007年4月、2014年4月)……主に大谷門下の関西系行為無価値論者による共著。刑法の基本部分の解説を中心としつつ、従来の教科書から一歩前へ進めた議論も紹介しており、行為無価値論版リークエとも呼べる一冊。A5判、400頁・404頁。 立石二六『刑法総論』成文堂(2015年3月・第4版)……A5判、438頁。 伊藤亮吉『刑法総論入門講義』『刑法各論入門講義』成文堂(2022年9月、2022年4月)……著者は野村稔門下。「入門」とあるがちゃんとした基本書。総論・各論とも、多くは条文の指摘程度であるが、各節の末尾で関連する特別刑法にも言及しているのが特徴的。ですます調。A5判、492頁・552頁。(評価待ち。) (古典) 団藤重光『刑法綱要総論』『同・各論』創文社(1990年6月・第3版、1990年6月・第3版。創文社オンデマンド叢書にてOD版対応。)……行為無価値論の重鎮による一冊。元最高裁判事。2012年に逝去。実務的影響力は今なお大きく、現在でも刑法実務で通説といえば、おおむね団藤説(ないし大塚説)を指す。定型、形式を重視するシンプルですっきりした体系。法律論としての美しさには定評があるものの、共謀共同正犯を肯定したことで若干の綻びもみられる。半世紀前の初版の時点で体系そのものは完成しており、それがそのまま現在の刑法解釈学の基礎をなしている。因果関係、不作為犯、実行行為性、共犯論など多くの分野において、判例・学説は近時さまざまに実質論を展開しており、形式を重視する団藤説は発展的に解消されつつあると言われる。電子書籍版あり。A5判、623頁・696頁 大塚仁『刑法概説・総論』『同・各論』有斐閣(2008年10月・第4版、2005年12月・第3版増補版)……著者は伝統的行為無価値論の大家。行為無価値論の論客として長く主導的地位にあり、団藤とともに伝統的通説(いわゆる「団藤=大塚ライン」)を形成した。実務的影響力は今なお大きく、刑法実務で通説といえば、概ね大塚説(ないし団藤説)を指す。ただし、本書では論理的一貫性の観点から、優越支配共同正犯説、不法領得の意思不要説など、実務通説と一部異なる見解を支持する。人格的行為論をはじめとして団藤説の多くを継承しているためやや議論が古く、特に総論は最新の議論に対応し切れていない部分も見受けられる。しかし、伝統的通説の立場から、終始一貫した論理で刑法を網羅的に解説する本書は、刑法学の理解に未だ有用であろう。なお、概説、入門共に改訂予定はあったが、著者逝去のため白紙になった。A5判、658頁・782頁。 福田平『刑法総論』『刑法各論』有斐閣(2011年10月・第5版、2002年5月・第3版増補)……団藤門下。2019年に逝去。著者は戦後昭和期の代表的な目的的行為論者であり、井田も私淑している。厳格責任説、共謀共同正犯否定説といった立場を採り、論理の一貫性においては師である団藤を上回るとも。曖昧さや倫理性を排し、基礎理論に根ざした福田説は現在でも説得力を持つ。団藤・大塚らの伝統的学説を立体的に理解するためにも有用である。なお、各論は非常に簡潔な構成となっている。A5判、408頁・340頁。 藤木英雄『刑法講義・総論』『同・各論』弘文堂(1975年11月、1976年12月、OD版:2003年10月)……団藤門下の夭折の天才。1977年に逝去。実質的犯罪論、可罰的違法性論、新・新過失論、誤想防衛の違法性阻却、間接正犯類似説など、現在の学説にも示唆を与える啓発的内容が特徴だが、その理論体系に師匠ほどの緻密さはないと言われている。A5判、458頁・466頁。入門書として、板倉宏との共著『刑法案内1・2』勁草書房(2011年1月)がある。 板倉宏『刑法総論』『刑法各論』勁草書房(2007年4月・補訂版、2004年6月)……団藤門下。2017年に逝去。判例を重視した学説。A5判、432頁・400頁。概説書として、1冊本『刑法(有斐閣双書プリマ・シリーズ)』有斐閣(2008年2月・第5版)がある。 平川宗信『刑法各論』有斐閣(1996年1月)……団藤門下。仏教思想を元にした独自の刑法学を構築。保護法益による3分体系をとらず、憲法を基準に個人の重要な生活利益を選び出し体系化。刑罰規定の解釈論に加えて、立法論・法政策論を含むのが特徴。A5判、598頁。 西原春夫『刑法総論 上巻・下巻』成文堂(1998年5月・改訂版、1993年1月・改訂準備版)……早稲田大学第12代総長。信頼の原則の提唱者。交通事犯における過失論で有名。A5判、354頁・540頁。 木村龜二著・阿部純二増補『刑法総論(有斐閣法律学全集)』有斐閣(1978年4月・増補版、OD版:2004年3月)……名著。目的的行為論の古典。著者は1972年に逝去。A5判、502頁。 阿部純二『刑法総論(BUL双書)』日本評論社(1997年11月)……木村龜二門下。2017年に逝去。目的的行為論、厳格責任説、違法性阻却事由の一般的原理における目的説、緊急避難の法的性質における二分説(生命対生命、身体対身体の場合に責任阻却)、不能犯論における主観的危険説、正犯と共犯の区別における決意標準説、共犯と身分における義務犯説など。コンパクトながらもドイツの学説も紹介している。B6判、320頁。 野村稔『刑法総論』成文堂(1998年10月・補訂版)……西原門下。A5判、526頁。他に、学生向けの参考書として『刑法演習教材』成文堂(2007年11月・改訂版)がある。 <結果無価値論②> 前田雅英『刑法総論講義』『刑法各論講義』東京大学出版会(2019年4月・第7版、2020年2月・第7版)……平野門下。かつて大谷とシェアを二分した旧司法試験時代の定番書。前田説は、論理的な体系の構築よりも判例法理の抽出に重点を置いた学説である。規範・考慮要素がしっかり提示されているため、論述に用いやすく、かつ判例と一致する結論を導きやすい。二色刷りで図表を多用するなど視覚的効果に富んでおり、記述も詳しいことから、非常に理解しやすい。ただし、著者は結果無価値論者であるものの、行為無価値論者の藤木と同様の実質的犯罪論に基礎を置き、西田・山口・佐伯といった結果無価値の主流派とは異なる独自の立場から書かれているため、他の学説と比較して考えると混乱するおそれが非常に大きく、前田説のつまみ食いは危険である。本書を利用するのであれば前田説と心中する覚悟が必要であろう。総論は第6版および第7版、各論は第6版の改訂時に全面リニューアルし、大幅な減頁(総論は計176頁、各論は192頁)がなされ、司法試験に必要最小限の論点のみを凝縮した書となった。A5判、464頁・576頁。 木村光江『刑法』東京大学出版会(2018年3月・第4版)……前田門下による1冊本。上記の前田『講義』二分冊を圧縮したような内容となっており、同書と相性が良い。司法試験に必要十分な知識がコンパクトに押さえられており、記述も学生の目線に合わせたわかりやすいものとなっている。なお、各項目末尾にあった「まとめ」は第4版から削除された。A5判、480頁。同著者による演習書として、『演習刑法』東京大学出版会(2016年3月・第2版)がある。 今井猛嘉・小林憲太郎・島田聡一郎・橋爪隆『刑法総論(LEGAL QUEST)』『刑法各論(同)』有斐閣(2012年11月・第2版、2013年4月・第2版)……伝統的論点から最新の議論までコンパクトにまとめられた学生向けの教科書。西田・山口門下による共著であるため、共著の弊害としてしばしば挙げられる立場のばらつきは少ない。しかしながら、総論については、橋爪執筆の正当防衛論や島田執筆の共犯論及び罪数論が秀逸である一方、今井執筆部分が総じて微妙であったり、小林の執筆部分がもはや教科書レベルを超えていたり(特に構成要件論は高度で難解)等、執筆者によって内容の質にばらつきが大きいという点で、共著の弊害が感じられるものとなっている。各論は西田・山口をコンパクトに整理したような趣になっているため、こちらは案外使い勝手がいい。なお、内容がやや古くなってきているが、島田の逝去及び残る共著者の不和から、今後の改訂の予定はないとの噂がある。A5判、500頁・516頁。 松宮孝明編『ハイブリッド刑法総論』『同・各論』法律文化社(2020年4月・第3版、☆2023年3月・第3版)……法学部とロースクールを架橋するテキスト。関西刑法読書会のメンバーによる共著だが、関西結果無価値論の主張は控えめ。最新の論点にもそれなりに言及している。リーガルクエストに比べ情報量は劣るが、クセは少ない。「総論」の第3版において、性犯罪規定の改正など各論分野における法改正を反映させ、正当防衛・過失の共同正犯、実行の着手などに関する重要判例を盛り込んだ。「各論」の第3版において、令和4年刑法改正に対応。A5判、338頁・400頁。 小林憲太郎『刑法総論(ライブラリ 現代の法律学)』新世社(2020年6月・第2版)……著者は西田門下。原理的かつ高水準の議論を展開しており、東大系結果無価値論の最先端を示す体系書に仕上がっている。初版(2014年10月)は非常に簡潔な記述が特徴であったが、読者から「もっと親切な教科書にしてほしい」という要望があったことから、第2版では、レベルの高さは保ちつつも、自説の解説がわかりやすいものとなり、さらに、他説紹介もかなり丁寧になるなど、初版に比べると学生の使いやすさが向上した(そのため頁数も192頁と大幅に増加した)。若干の文献の引用もあり、そのほとんどは当該分野に関する最新あるいは代表的な研究書であるため、とても参考になる。また、コラムの内容も、実務に対するメッセージを意識しているとみられるものが多く、非常に示唆的である。なお、本書を読んで理解困難な箇所については、後掲の『ライブ講義 刑法入門』や『刑法総論の理論と実務』、本書を補完する判例教材である『重要判例集 刑法総論(ライブラリ 現代の法律学 JA13)』を参照するとよい。A5判、416頁。 町野朔『刑法総論(法律学の森)』信山社(2020年1月)…… 平野門下。「もはや教科書のレベルを超え、極めて優れた高度な学術書」(小林憲太郎)と評されていた『刑法総論講義案I』信山社(1995年10月・第2版)の全面改訂版。刑法の問題がどのような形で起き、実務はどう考えたかを知るために、判例を約800件と極めて多く引用している。条件関係における論理的結合説、抽象的事実の錯誤における不法・責任符合説、片面的共犯全面否定説などの異説が特徴的。本書で従来の見解を改説した箇所がいくつかあるので注意されたい。なお、罪数論を含む刑罰論が収録されていない(著者曰く準備不足のためとのこと)ので、基本書とする場合にはその点に留意する必要がある。A5変型判、480頁。同著者による他の書籍として、『プレップ刑法』弘文堂(2004年4月・第3版)、『犯罪各論の現在(いま)』有斐閣(1996年3月)がある。 浅田和茂『刑法総論』『刑法各論』成文堂(☆2024年2月・第3版、☆2024年1月・第2版)……著者は2023年に死去。関西結果無価値論。原理原則を重視する理論派で、背景知識もしっかり書かれている本格的体系書。社会的行為論、主観的違法要素否定説、違法性阻却の一般原理における法益衡量説、緊急避難の法的性質における違法性阻却中心の三分説、厳格故意説などが特徴だが、具体的事実の錯誤における構成要件上の客体の同一性を基準とする具体的符合説、抽象的事実の錯誤における形式的構成要件的符合説、原因において自由な行為における否定説など自説の落としどころとして疑問を感じる箇所がままみられる。共犯論においても、要素従属性において、正犯なき共犯を広く認め、間接正犯を認めない一般違法従属形式を採る(いわゆる関西共犯論)ので使いづらい。A5判、600頁、634頁。 松原芳博『刑法総論(法セミ LAW CLASS シリーズ)』『刑法各論(同)』日本評論社(2022年3月・第3版、2021年3月・第2版)……曽根門下だが、行為を独立の犯罪要素としない三分体系をとり、構成要件については西田説と同様、違法構成要件と責任構成要件に分割する体系を採用し、共同正犯論においては共同意思主体説を採用しないなど、その立場は平野門下の立場に近い。内容は高度であり、山口説や西田説をふまえて最新の論点(たとえば具体的法定的符合説における故意の個数)を盛り込みつつ、事例を用いて平易に解説している。『各論』は保護法益論などで理論的に詰められているものの、名誉毀損罪の真実性の錯誤についての故意阻却説、財産罪の保護法益についての本権説など、自説の落としどころとして疑問のある箇所が多々みられるが、学説を広く引用しているので調べもの用には適している。条文索引があるのは至便。各論第2版において、性犯罪規定の改正含む初版刊行以降の法改正ならびに最新の判例をフォロー。A5判、632頁(本文597頁)、760頁(本文723頁)。 松宮孝明『刑法総論講義』『刑法各論講義』成文堂(2018年8月・第5版補訂版、2018年8月・第5版)……著者は中森門下だが、採る立場は結果無価値論(違法一元論)。理論刑法学を究めたい刑法マニア向けの一冊。著者の研究成果がふんだんに盛り込まれ、理論的にかなり突っ込んでいるため、内容は非常に高度かつ難解。少数説も多く、司法試験的には使いづらい。ドイツや日本における学説の変遷や法律の改廃の歴史といった背景的知識も記述されており、基本書でそうした知識を得るにはこの本をおいて他にないが、それが司法試験合格に無用であるのは言うまでもないことである(ただし、本書は刑法”学”を学ぶための教科書として執筆されたことを意識する必要がある)。章末には演習問題と題した設問が付されているが、そのいずれもが理論面や体系面を問うものであり、あくまでも刑法”学”を意識した出来となっている。なお、松宮説はドイツのヤコブスの説に基づいた見解を採ることが多く、こうした松宮説を理解するには『レヴィジオン刑法I-III』成文堂(1997年11月-2009年6月)の松宮執筆(発言)部分を用いるのが吉。ただし、司法試験のレベルを遥かに超えていることに注意。A5判、420頁・558頁。著者のブログはこちら。 日髙義博『刑法総論』『刑法各論』成文堂(☆2022年5月・第2版、2020年6月)……著者は不作為犯の研究で著名。ドイツの学説も比較的詳しく紹介されているなど、本格派の体系書となっている。本書の最大の特色は「跛行的結果反価値論」の主張にある。跛行的結果反価値論とは「法益侵害説を土台にした結果反価値論を出発点にしているが、二次的に違法性を減少・滅失させる方向で行為反価値性の判断を機能させようとするものである」(204頁)。例えば、可罰的違法性では、絶対的軽微は「結果反価値の減少により可罰的違法性が欠ける」が、相対的軽微は「結果反価値性はあるものの……、行為反価値性が減少して可罰的違法性を欠く」(211頁)。また、緊急避難を責任論に位置づけている点も注目される。これは、「跛行的結果反価値論の立場からすると、転嫁行為には法益侵害性が認められることから違法性を否定しえず、危険回避の行動を責任の領域で評価し、責任阻却として処理することが適切」であるとの理由からである(381頁)。著者の代表的著作である『不真正不作為犯の理論』が、本書でどのように展開されているかも注目されるところであるが、「構成要件的等価値性」を提唱し(150頁以下)、学説の批判も考慮してか「先行行為説」は強調されていない。錯誤論では、師である植松正に倣って「合一的評価説」を採る。これは「錯誤論の使命が刑の不均衡を是正すること」から出発し、「結果の抽象化を排除し故意の抽象化を推し進める一方、観念的競合を排除して合一的評価を取り入れて1個の重い罪だけで処罰する」ものである(322頁)。この説は、結論の妥当性を重視するあまり、なぜこのような合一的評価が可能なのかが説明されていないように思われる。最後に形式面であるが、全部で38の設例を用意し、それに解説を加えることで、初学者にも配慮している。また、重要判例については、事実の概要を詳しく記し、それに対してコメントを加えている(云わば百選のスタイル)。これは新しい形の教科書と云えよう。このような事情で、判例・学説の引用は必ずしも網羅的ではない。A5判、636頁・792頁。 大越義久『刑法総論(有斐閣Sシリーズ)』『刑法各論(同)』有斐閣(2012年12月・第5版、2012年12月・第4版)……平野門下。細かい議論には立ち入らず、結果無価値論の立場から刑法理論をコンパクトに解説。試験対策としてはさすがにこれだけでは薄すぎるが、結果無価値論を採る学生の通読用としては適している。四六判、262頁・256頁。 曽根威彦『刑法総論(法律学講義シリーズ)』『刑法各論(同)』弘文堂(2008年4月・第4版、2012年3月・第5版)……著者は齊藤・西原の弟子だが、結果無価値論者。全体的に非常に簡潔な記述となっている。行為を独立の犯罪要素とする四分説を始めとして、所々で少数説を採っているが、そのような少数説もあっさりとした記述で流すことがあるので注意。A5判、324頁・356頁。 曽根威彦『刑法原論』成文堂(2016年4月)……一冊本ではなく、曽根刑法学の集大成となる重厚な刑法総論の体系書。なお、刑罰論は含まれていない。学説紹介がとりわけ詳しく、ところどころで少数説を採っているものの(主観的違法要素否定説、共謀共同正犯否定説など)、通説や有力説も詳細に解説しているので調べ物用にも耐える。上掲『刑法総論』から重要な改説をしている箇所(形式的構成要件的符合説に改説、383頁。構成要件的過失と責任過失との区別について、337頁)があるので注意。A5判、698頁。 関哲夫『講義 刑法総論』『同・各論』成文堂(2018年11月・第2版、2017年10月)……著者は住居侵入罪の研究で有名。口語調で設例を用いて丁寧に基本原則を解説していく。各章末に格言が書かれており、刑法の学習者を鼓舞している。判例や学説の整理が類書とは比べ物にならないほど丁寧で判例の引用数も多いが、少数説をとったり、通常とは違う独自の用語を用いたりするので注意が必要。A5判、592頁・734頁。 山中敬一『刑法総論』『刑法各論』成文堂(2015年8月・第3版、2015年12月・第3版)……2冊合わせて2000頁を超える浩瀚な体系書。著者は結果無価値に加えて危険無価値によって違法性を判断する立場(結果無価値論に近いが、違法一元論ではない)を採る。客観的帰属論を全面的に展開。共犯はいわゆる関西共犯論。なお、総論(第3版)の正誤表あり。A5判、1224頁・944頁。他に『ロースクール講義・刑法総論』成文堂(2005年4月、A5判、498頁)がある。 須之内克彦『刑法概説各論』成文堂(2014年4月・第2版)……学部生や未修者向けの各論のテキスト。著者は関西系の結果無価値論者だが、比較的中立的な立場で講じられている。自説を明示しない箇所が多い。各節の冒頭に簡単なレジュメを掲げているのも特徴。A5判,474頁。 林幹人『刑法総論』『刑法各論』東京大学出版会(2008年9月・第2版、2007年10月・第2版)……平野門下。著者は財産犯研究の第一人者。著者の学説は、「許された危険」の法理を多用することで知られる非常に独自色の強いものであり、その独特の体系が故、総論はあまり使い勝手がよくない。一方、各論の記述は非常に簡潔であり、その意味内容を正確に把握するためには著者の論文を読む必要があるため、こちらも使いこなすのは難しい。A5判、536頁・536頁。他に同著者による判例集・演習書として、『判例刑法』東京大学出版会(2011年9月、A5判、440頁)がある。 大野真義ほか『刑法総論』『刑法各論』世界思想社(2015年4月・新装版、2014年6月)……総論はオーソドックスな因果的行為論、結果無価値論の立場から一貫して読むことができる。ただし、自説を明記しない箇所が多いので初学者は混乱するかもしれない。また、加藤執筆部分(有責性〔故意・過失含む〕、責任阻却事由)のできはイマイチ。A5判、434頁、472頁。 生田勝義・上田寛・名和献三・内田博文『刑法各論講義(有斐閣ブックス)』有斐閣(2010年5月・第4版)……学部生向けの教科書。総論はない。第4版において、凶悪・重大犯罪の厳罰化等の法改正を織り込むとともに重要な判例等を補充。 A5判、362頁。 齋野彦弥『基本講義 刑法総論(ライブラリ 法学基本講義 12)』新世社(2007年11月)……学士助手時代の指導教官は内藤謙。実行行為概念を否定するなど、その立場は山口・刑法総論の初版時に近く、結果無価値論と親和性が高い。もっとも、著者は「行為無価値論と結果無価値論の対立」として問題を扱うことを党派刑法学であると断じ、予め刷り込まれた立場から解釈論の帰結を導くことは自分自身で考えることを放棄するものだと指摘する。このような立場ではあるが、決して独自説の主張を強調するわけではなく、初学者の理解を目指すため判例・通説を厚く扱っている。A5判、400頁。 (古典) 佐伯千仭『刑法講義総論』有斐閣(1981年3月・4訂版、OD版:2007年9月)……平野刑法に多大な影響を与えた名著。著者は2006年に逝去。社会的行為論、客観的違法論、可罰的違法性論、可罰的符合説、準故意説、規範的責任論、期待可能性の国家標準説、共犯論における行為共同説、一般違法従属形式説、共謀共同正犯否定論など。A5判、496頁。なお、本書は『佐伯千仭著作選集 第1巻 刑法の理論と体系』信山社(2014年11月、A5変型判、584頁)にも収録されている。 平野龍一『刑法総論I・II』有斐閣(1972年7月、1975年6月、OD版:I・IIともに2004年8月)……著者は2004年に逝去。法益侵害説中興の祖。日本の結果無価値論刑法学のバイブル的存在。平野体系は、いわゆる結果無価値論の中でもスマートで理解しやすく、西田や山口に対してとっつきにくさを感じる人には現在でもお薦めできる。平野刑法学のエッセンスが抽出されたものとも言うべきなので、深く理解したい時は平野執筆の論文に当たった方がいい。A5判、208頁・232頁。『刑法概説』東京大学出版会(1977年2月、A5判、328頁。MJリバイバル(丸善・ジュンク堂限定販売)によるOD版あり。)も簡にして要を得た、今もなお参照に値する1冊本。かなり高度な議論を前提とした記述になっているので、ある程度勉強してから読み返すと、なお有意義。 荘子邦雄『刑法総論(現代法律学全集25)』青林書院(1996年3月・第3版)……刑罰の本質は応報にあるとする。純粋な結果無価値論ではないが、行為は主観と客観とを統合した全一体であるとして、主観的違法要素をきわめて限定的にしか認めない(処罰し得る絶対的不能未遂の場合の未遂故意のみ主観的違法要素とする。)。正当防衛において積極加害意思ある防衛者について急迫性を否定する判例を支持する。防衛行為は、避難し得る不正に対する「反撃」の手段として認めるべきであるとして、過失による侵害行為者や責任無能力者の侵害行為に対して正当防衛を認めない異説(緊急避難しか認めない)を採る。因果関係の因果性(条件関係)における合法則的条件説、緊急避難の法的性質における二分説(生命対生命の場合に責任阻却)、故意と過失の区別における動機控制説、共謀共同正犯の限定的肯定説など。A5判、527頁。 内田文昭『刑法概要 上巻・中巻』『刑法各論』青林書院(上巻:1995年4月、中巻:1999年4月、1996年3月・第3版)……上巻・中巻は刑法総論に相当(ただし刑罰適用論は含まれない)。下巻として上記刑法各論を改訂予定だったが未完。客観的目的的行為論、新過失論などを採るが、主観的違法要素否定説などその内容はむしろ結果無価値論の立場に近い。『概要』で従来の見解(『改訂 刑法I 総論(現代法律学講座)』青林書院(1997年4月・補正版、A5判、426頁)における)を改説した箇所がいくつかあるので注意されたい。A5判、467頁、690頁、714頁。 内藤謙『刑法講義 総論 上・中・下1・下2』有斐閣(1983年3月~2002年10月、OD版対応)……著者は2016年に逝去。団藤弟子だが徹底した結果無価値論者(主観的違法要素否定説)。法教に長期連載された「基礎講座・刑法総論講義」を書籍化したもので4分冊、1502頁の大著。上(刑法の基礎理論、行為論、構成要件論)、中(違法性論)、下1(責任論)、下2(未遂犯論、共犯論、刑罰論)。各学説を詳細に検討しており、調査目的に至便。A5判、308頁・454頁・492頁・306頁。他に、1冊本として『刑法原論』岩波書店(1997年10月、A5判、236頁)がある。 堀内捷三『刑法総論』『刑法各論』有斐閣(2004年4月・第2版、2003年11月)……平野門下。体系は師説に比較的忠実。責任の本質を非難ないし非難可能性に求めるのではなく、犯罪の防止という実質的観点から理解しようとする実質的責任論を採り、責任の判断においては一般人を基準に据える客観説が妥当であるとする。専門である不作為犯論では、具体的依存性説を採る。因果関係論につき基本的には客観的相当因果関係説が妥当としながらも、相当性の判断において考慮されるのは一般人が利用可能な事情にかぎるとする。不能犯も予防目的の下で検討されるので、危険の有無は(理性的な)一般人を基準にして行われ、具体的な事情を基礎にして一般的・類型的に判断されるとする(修正された)具体的危険説を採る。A5判、420頁・410頁。 中山研一『新版 口述刑法総論』『同・各論』成文堂(2007年7月・新訂補訂2版、2014年9月・補訂3版)……関西結果無価値論。著者は2011年に逝去。各論は2014年に松宮孝明によって補訂された(松宮は中山門下ではないが、中山主催の刑法読書会の一員)。A5判、358頁・384頁。『刑法総論』成文堂(1982年10月・A5判・638頁)は名著。 <その他> 佐久間修・橋本正博・上嶌一高『刑法基本講義——総論・各論』有斐閣(☆2023年4月・第3版補訂版)……一冊本。ケースメソッド形式。初版時(2009年4月)には「『いわゆる』通説・判例ベースの体系だが、佐久間・橋本(行為無価値論者)執筆部分と上嶌(結果無価値論者)執筆部分とにズレがある」との批判があったが、第2版の改訂時に記述の統一が図られた。体裁や形式が、佐久間毅『民法の基礎』と似ているため、同書の愛読者は親しみやすいと思われる。第3版補訂版において、拘禁刑の創設や侮辱罪等の法改正に対応。A5判、584頁。 伊藤渉ほか『アクチュアル刑法総論』『同・各論』弘文堂(2005年4月、2007年4月)……主に西田・山口門下の結果無価値論者と中森門下の行為無価値論者による共著。齊藤と島田は各論のみ執筆。総論は行為無価値論に立つ成瀬・安田により、最近の行為無価値論的に仕上がっているものの、他の結果無価値論の筆者との関係でチグハグ感が残る。基本概念・基本判例よりも新しい判例・学説の展開に重点が置かれており、かなり深い議論も取り扱われている。使い勝手の良いところだけつまみ食いで使うのがベスト(特に安田の責任論などは必読である)。A5判、368頁・576頁。 葛原力三・塩見淳・橋田久・安田拓人『テキストブック刑法総論』有斐閣(2009年7月)……関西系学者による、比較的初学者向けの共著テキスト。葛原(結果無価値論)が因果関係・主観的構成要件・共犯、塩見(行為無価値論)が客観的構成要件・未遂犯・罪数と、立場の違いが顕著に現れる分野を異なる論者が執筆しているため、論理の一貫性に欠けるという難点がある。学説検討がかなり詳しく、最先端の議論にまでフォローしているが、学説相互の批判に欠ける。A5判、366頁。 町野朔・中森喜彦『刑法1・2(有斐閣アルマSpecialized)』有斐閣(2003年4月・第2版)……内容的に中途半端で、共著の悪い面がでてしまっている。四六判、278頁・336頁。 鈴木茂嗣『刑法総論』成文堂(2011年8月・第2版)……著者は京大系刑事訴訟法学の大家。本書では、著者独自の犯罪体系である「二元的犯罪論」が展開されている。著者の主張の大筋は、伝統的刑法学が陥っているとする認識論的犯罪論からの脱却であり、刑法学は単に「犯罪とはなにか」を究明する性質論を志向すべきであるというものである。そこでは、ドイツのベーリングによってもたらされた構成要件論を基軸とする性質論から認識論への転換を「失敗」であったとし、再度構成要件論以前の体系への再転換を図るべきであるとする著者の主張が述べられている。このため、従来の教科書とは構成を大きく異にしており、必然的に試験対策的観点からは本書は無用と言わざるを得ない。したがって、本書は専ら研究者や刑法マニアを読者として選ぶものだと言える。A5判、358頁。なお、鈴木説を簡潔に叙述したもの(論文集)として『二元的犯罪論序説』成文堂(2019年10月・補訂版、四六判、120頁)がある。『序説』という言葉で入門書的役割を期待しがちだが、内容的には刑法を一通り修めた者がその価値を理解できるレベルである。 (古典) 高窪貞人ほか『刑法総論(青林教科書シリーズ)』『刑法各論(同)』青林書院(1997年2月・全訂版、1996年4月・全訂版)…… 刑法総論執筆者(高窪貞人・石川才顕・奈良俊夫・佐藤芳男)、同各論執筆者(高窪貞人・佐藤芳男・宮野彬・川端博・石川才顕)。平成7年改正刑法に対応。A5判、344頁・384頁。 【その他参考書】 大塚裕史『刑法総論の思考方法』『刑法各論の思考方法』早稲田経営出版(2012年4月・第4版、2010年12月・第3版)……著者は学者だが、かつて若宮和彦名義で予備校で指導していた経験を持つ。大谷・前田が受験生のメジャーな基本書だった時代に、それらに親和的な内容の副読本として広く読まれていた。現在でも刑法が苦手な学生にはなお有用。これ以上ないほど丁寧で平易な説明がなされており、学説の整理も詳しく、あてはめのやり方までしっかりと示されているなど、至れり尽くせりの内容となっているため、手元にあると何かと役に立つであろう。なお、総論・各論ともに出版社品切れ。A5判、690頁・604頁。 大塚裕史『応用刑法I——総論』『同II——各論』日本評論社(2023年1月、☆2024年4月)……上掲『思考方法』の実質的な後継シリーズ。同名の法学セミナー誌連載(総論:729~760号・全32回、各論:761~818号・全54回)の単行本化。「個々の事案に対する裁判所の解決方法を分析し、そこから判例実務に共通の思考枠組みを抽出し、それを既存の刑法理論を参考にしつつ理論化し、さらにその射程や限界を明らかにする」(はしがき)実務刑法学の入門書という位置付け。そのため、判例の立場をもっともよく説明できるのはこれこれの見解であると言い切ってくれているので安心して使用できる(なお、実行の着手時期における進捗度説、一部実行の全部責任の根拠付け法理としての全体行為説などの萌芽的学説への言及はない。)。また、そのまま論証に用いることができる記述が多く、いわゆる論証パターンこそ付されていないものの、何をどう論証すればよいかは書かれており、受験対策に特化した内容といえる。各論は上記54回の中から重要度のより高い38回分をセレクトし大幅に加筆修正を行ったもの。A5判、576頁・592頁。 橋爪隆『刑法総論の悩みどころ(法学教室ライブラリィ)』『刑法各論の悩みどころ(同)』有斐閣(2020年3月、☆2022年12月)……同名の法学教室連載(総論:403号~426号)(各論:427号~450号+業務妨害罪、文書偽造罪につき書き下ろし。)の単行本化。刑法学修にとり「悩みどころ」となる重要論点について学生にもわかりやすく自説を展開。A5判、全19章・480頁。全23章・544頁。また、警察幹部向けの連載として「判例講座・刑法総論」(警察学論集連載・2016年1月号~2017年12月号、全18回)、「同・刑法各論」(警察学論集連載・2019年10月号~2021年9月号、全20回)あり。 佐伯仁志『刑法総論の考え方・楽しみ方(法学教室ライブラリィ)』有斐閣(2013年4月)……平野門下。法学教室での連載(283-306号)に、正当防衛論(3)、責任論、共犯論(3)(共犯と身分、必要的共犯、過失犯の共同正犯、不作為と共犯)を新たに書き下ろして単行本化したもの。総論のほとんどの論点を解説しているが、罪数論や刑罰論は内容に含まれていない。はしがきにもある通り、あくまで「刑法総論の基本的な考え方を理解し、自分で考えることの面白さをわかる」ことが本書の目的であり、受験的な効用を過度に期待することは禁物である。佐伯説は、故意過失を責任要素として構成要件に含む3分説を採り、兄弟子である西田や山口に比べ、行為無価値論を採る読者にも馴染みやすい体系となっている。因果関係論、不作為犯論、正当防衛論、被害者の同意論は著者の論文のダイジェスト版ともいうべき内容であり、とくに不作為犯論と正当防衛論は試験対策にも有用と言える。全22章。A5判、458頁。なお、各論編(法教355号-378号)は校正作業を続けている段階であり、出版の具体的な目処は立っていないとのことである。 井田良『刑法総論の理論構造』成文堂(2005年6月)……井田が自説を詳細に展開した『現代刑事法』誌上での連載を単行本化したもの。いわゆる「新しい行為無価値論」における代表的文献。本書で井田は、それまで"停滞"していた違法性をめぐる議論に一石を投じており、結果無価値論を徹底的に批判して、ドイツにおける議論を参照しながら、曖昧さを許さない透徹した理論によって行為無価値論(違法二元論)の正当性を主張している。例えば、行為無価値論が重視する一般予防の観点からは刑罰法規は国民に個別状況下で行為規範を差し向けるものでなければならず、またその規範に従って行動する限りはその行為が違法と評価されることはなく、したがって違法と適法の境界が明確になり罪刑法定主義の要請に応えることができるとする。そのため、法益侵害結果を因果的に惹起したことを理由に行為規範に適合する行為を違法と評価し、ただ責任が否定されて処罰を免れるに過ぎないとする結果無価値論は、犯罪の成立条件を明確にするあまり国民に対して違法行為と適法行為との分水嶺を提示することができず(一般予防や罪刑法定主義の要請を果たせず)、「ふろの水と一緒に赤ん坊まで流してしまう」理論であるとして激しく非難する。また、このような行為規範は行為者の認識した事情を基に与えられるものであり、客観的には殺人罪の構成要件に該当する行為でも行為者が客体を人ではなく熊だと認識していた場合には殺人罪の行為規範は行為者に対して無力(規範は行為者の認識を正すことについて無力)であるから、違法性の錯誤のうち事実面に関する錯誤は直ちに構成要件的故意を阻却するとする(制限責任説のうち違法性阻却説)。これに対し違法性の錯誤は、一般予防の観点からまさしく刑法が保護しようとする規範の安定性が動揺されられる場面であるから、行為者が錯誤に陥ったことに相当の理由がある場合(→違法性の意識の可能性の問題として責任が阻却される)を除いてこれに寛容であることはできないとする。なお、本書は総論に関する「コンパクトな論点書」として刊行されたものであり、総論の体系を全体的に網羅するものではない。差し当たり、行為無価値論版『問題探求』といったところか。A5判、488頁。 ☆安田拓人「刑法総論の基礎にあるもの」(法学教室連載・487号~510号、全24回)……著者は中森門下で京大系二元的行為反価値論者による待望の刑法総論連載。ひととおりインプットを終えた中上級者向けで、ドイツや最新の学説を引用するなどそのレベルは高い(したがって、本連載のタイトルの「基礎」とは団藤『法学の基礎』と同じ用法とみるべき。)。結果反価値論と行為反価値論の対立はいまやさして重要でないとの見解が有力だが、なぜ(二元的)行為反価値論でなければならないかを論証する内容となっており通説的見解の肉付けに最適と思われる。 ☆髙橋直哉『刑法の授業 上下』成文堂(2022年2月)……著者がロースクールで行っている授業を、できるだけリアリティを保ちながら紙上で再現するというコンセプト(はしがき)。基本事項と課題判例を素材とする刑法講義の実況中継の趣で基本書と演習書のいいとこどりしたような内容(上巻=総論、下巻=各論)。アカデミックでありつつも、試験戦略的な内容(例えば、間接正犯の正犯性の一般的説明はいわゆる道具理論のフレーズで十分である。)も含まれていること、何説を採るべきかという空中戦よりも、具体的にどういう要件要素を書くべきかに注力していること、注において著者自身の率直な悩みを見せていることなどが特徴。答案作成に有用で実践的な内容が盛り込まれておりオススメできる。A5判、298頁・292頁。 山口厚『問題探究 刑法総論』『同・刑法各論』有斐閣(1998年3月、1999年12月)……刑法学界の碩学が、犯罪論・犯罪各論の重要論点を深く掘り下げ、文字通り問題探究を行った意欲的な書であり、「我が国の刑法学史における最も重要な業績である。」(小林憲太郎)と評する声もある。もっとも、現在では改説されている部分も多々あり。縦書き。A5判、302頁・358頁。 川端博『刑法総論(新・論点講義シリーズ)』弘文堂(2008年9月)……ケース・メソッドで刑法総論の重要論点を解説。模範解答の書き方まで学ぶことができる珍しい著作。B5判、288頁。 井田良・佐藤拓磨『刑法各論(新・論点講義シリーズ)』弘文堂(2017年12月・第3版)……ケース・メソッドで刑法各論の重要論点を解説。刑法総論の内容を多く取り入れ、各論と総論を有機的に関連付けながら学習できるように工夫されている。また、一般的な体系書には十分な説明がない、それぞれの犯罪類型に関する基礎的な事項が詳述されている点に特色がある。2色刷で、図表を豊富に取り入れるなど、初学者でも理解できるよう配慮されている。本書は初学者から中級者への橋渡しを目的として執筆されたものであるが、司法試験に対応できる水準は十分に確保されている。第3版から弟子の佐藤が執筆者に加わった。B5版、306頁。 塩見淳『刑法の道しるべ(法学教室ライブラリィ)』有斐閣(2015年8月)……法教連載を元に新たに三つの章(第6章 間接正犯・不作為犯の着手時期、第9章 住居侵入罪の保護法益・「侵入」の意義、第13章 偽造の概念)を書き下ろしたものを単行本化。理論的に明快な有力説(侵害回避義務論、法益関係的錯誤説など)を批判的に検討し、通説的な理解からさらに一歩進めた自説を示すというスタイル。司法試験的には有力説をとれば明快で書きやすいと思われるが、実際にはそう簡単に割り切れるものではないというのが塩見説。したがって、答案には書きにくく難易度は高いものの、一読の価値はあると思われる。全14章。A5判、274頁。 西田典之・山口厚・佐伯仁志編『刑法の争点』有斐閣(2007年10月)……全130項目。 B5判、264頁。 山口厚・佐伯仁志・井田良『理論刑法学の最前線1・2』岩波書店(2001年9月、2006年5月)……現在の刑法学をリードする三人の論文集。決まったテーマごとに一人が論文を執筆し、残りの二人がその論文を批評するという形式。佐伯執筆部分は連載と合わせると面白い。司法試験レベルは遥かに超えている。A5判、248頁・264頁。 川端博・山口厚・井田良・浅田和茂編『理論刑法学の探究 1-10』成文堂(1:2008年5月、2:2009年6月、3:2010年6月、4:2011年5月、5:2012年5月、6:2013年6月、7:2014年6月、8:2015年6月、9:2016年6月、10:2017年7月)……国内外の優れた学者による論文と書評を収録。刑法理論の深い理解に資すると思われる。A5判、224頁・222頁・241頁・256頁・274頁・302頁・318頁・247頁・334頁・306頁。 川端博『集中講義刑法総論』『同・各論』成文堂(1997年6月・第2版、1999年7月)……中・上級者向けの論点本。A5判、486頁・494頁。 大谷實・前田雅英『エキサイティング刑法 総論』『同 各論』有斐閣(1999年4月、2000年3月)……かつて基本書のシェアを二分していた大谷と前田が、刑法の重要論点についてそれぞれの立場から議論を展開した対談集。A5判、340頁・354頁。 曽根威彦『刑法の重要問題 総論』『同・各論』成文堂(2005年3月・第2版、2006年3月・第2版)……A5判、412頁・412頁。 曽根威彦・松原芳博編『重点課題刑法総論』『同・各論』成文堂(2008年3月)……A5判、276頁・286頁。 高橋則夫・杉本一敏・仲道祐樹『理論刑法学入門 刑法理論の味わい方 (法セミ LAW CLASS シリーズ)』日本評論社(2014年5月)……杉本と仲道が毎回設定されたテーマについて理論刑法学の観点から自由に語り下ろし、それに高橋がイントロダクションとコメントを付すというスタイル。現代哲学などの隣接諸科学の知見を採り入れるなど、その内容は非常に興味深く刑法学専攻志望の学生にはオススメできるが、司法試験とは無関係。全11講。A5判、360頁。 高橋則夫・田山聡美・内田幸隆・杉本一敏『財産犯バトルロイヤル——絶望しないための方法序説(法セミLAW CLASSシリーズ)』日本評論社(2017年5月)……全24講。A5判、340頁。 井田良・丸山雅夫『ケーススタディ刑法』日本評論社(2019年9月・第5版)……丸山は町野門下。「ケーススタディ」とあるが、ケースそのものの解説というよりも、ケースに関連する刑法総論上の諸論点を淡々と解説する論点解説集となっている。全32章。A5判、424頁。 〔実務関連書〕 幕田英雄『捜査実例中心 刑法総論解説』東京法令出版(☆2022年10月・第3版)……旧書名は『実例中心 刑法総論解説ノート』。著者は元最高検刑事部長。著者の言うところの実務通説である、いわゆる団藤=大塚ラインをベースに書かれている。警察官や検察官向けの書籍であり、一般的な教科書とは性格を異にするが、具体的事案の処理を強く意識した内容となっており、司法試験受験生の参考書としても有益な一冊である。ただし、団藤=大塚ラインがベースになっているだけあって、理論的に古さを感じさせる部分も散見される点には注意されたい。第2版では、判例がアップデートされ、初版(2009年11月)では言及されていなかった危険の現実化など最新の議論についてもフォローされた。全43設問。A5判、792頁。 司法研修所検察教官室『捜査実例中心 刑法各論解説』東京法令出版(2020年6月)……現役の検察官によって執筆された、上掲『捜査実例中心 刑法総論解説』の姉妹本。平成29年6月から令和元年5月までにわたって「捜査研究」(東京法令出版)に連載された「刑法各論」に加筆・修正を加え、通貨偽造罪、犯人蔵匿罪・逃走罪及び競売入札妨害罪に関する設問を新たに追加して単行本化したもの。捜査実務上扱うことが多い犯罪類型に絞って解説されている。全28設問。A5判、392頁。 河村博『-実務家のための-刑法概説』実務法規(2018年12月・9訂版)……実務家用の1冊本。著者は元名古屋高等検察庁検事長。実務に直結した実例と判例を中心とした解説。判例は平成30年6月までの1220件以上を掲載。総論と各論の解説が参照頁で紐付けされているなど関連した内容が統一的に理解できる。刑法以外の関連特別法も内容に多く盛り込まれており、かつ、解説中の特別法の条文がすべて掲載されているので特別法との関連がわかりやすい。事項索引が詳細に作られており、辞書としても使いやすいものとなっている。9訂版で平成29年刑法改正に対応し、また、判型を変更するなど内容を刷新。A5判、692頁。 粟田知穂『条文あてはめ刑法 事案処理に向けた実体法の解釈』立花書房(2019年8月)……警察官向けの書籍だが、法曹志望者にとっても有益。A5判、384頁。 小林憲太郎『刑法総論の理論と実務』『刑法各論の理論と実務』判例時報社(2018年11月、2021年5月)……判例時報連載「刑法判例と実務【総論編】(1)-(30)」に新章(第31章 犯罪論の体系)を書き下ろしし、加筆修正して単行本化したもの。主な読者層が法曹実務家であるため、「本書では、刑法総論の理論と判例実務に関する基本的に穏当な解釈が述べられている(はしがき)」と理解してよいとする。毎章リードとなる仮想対話に引き続き本編解説が付されるというスタイルで、毎回クスッとさせられる内容で、著者にしては読みやすく、実務的にも参考になる内容となっている。小林説は構成要件を不法類型とし、構成要件的故意・過失を認めない古典的な結果無価値論だが、過失責任を犯罪論のベースとし、「故意責任=過失責任+α(故意)」とする。すなわち、故意犯にも過失犯の客観的要件及び主観的要件(=結果の予見可能性)の具備が必要であるとする異説を採る。受験対策上、本書を通読するのはオーバースペックだが、上掲の小林『刑法総論(ライブラリ 現代の法律学)』を読んでわからなかった箇所をチェックするとよいだろう。『各論』は同連載【各論編】(31)-(60)の書籍化。体系的な順序にこだわらず、重要な論点を採り上げている。巻末には「イチケイのカラス」で有名な漫画家浅見理都氏の漫画「あるスーパーでの出来事」が収録されている。A5判、790頁、654頁。 松宮孝明『先端刑法総論——現代刑法の理論と実務』『同各論』日本評論社(2019年9月、2021年9月)……法学セミナー連載〔『現代刑法の理論と実務・総論』759(2018年4月)-771(2019年4月)号、全13回〕の単行本化。実務を目指す読者に「実務にとって刑法総論の理論がどういう意味で重要か」を理解して、考えることを楽しんでもらう(はしがき)内容であり、大塚裕史らの「実務刑法学」の対極に位置する著作。刑法総論の主要テーマ13(責任の本質、不真正不作為犯については著者の研究不十分のため現時点では論じられていない。)につき考究。「刑法の学習を一通り終えている方」を想定読者としており、その内容は高度で、ドイツ刑法の基礎知識がないと理解できない箇所もある。近年の司法試験の傾向とは全く合致しないし、松宮説が判例実務に採り入れられる可能性は低いものの、実務家にとっても有益・示唆的な内容が多数含まれており、一読の価値がある。全13章・全20章。A5判、288頁・284頁。 佐伯仁志・高橋則夫・只木誠・松宮孝明編『刑事法の理論と実務』成文堂(1:2019年7月、2:2020年6月)……研究者および実務家対象の最新かつ高度な専門書。研究者・実務家執筆の論文を収録し、理論刑法学と判例・実務の架橋を目指した著作。A5判、312頁・282頁。 【入門書・概説書】 井田良『入門刑法学・総論(法学教室ライブラリィ)』『同・各論(同)』有斐閣(2018年11月・第2版、2018年3月・第2版)……法教連載(「ゼロからスタート☆刑法”超”入門講義」)の単行本化。著者の立場は行為無価値論(違法二元論)。『各論』第7講・危険犯は、体系的整合性の観点から、通説的理解とは若干異なる立場から説明されているが、特に支障はない。「総論(第2版)」において、「各論(第2版)」とのクロスレファレンスに対応。全12講・12講。A5判、288頁・282頁。なお、同著者による刑事法全体を通覧する入門書として『基礎から学ぶ刑事法(有斐閣アルマBasic)』がある。 亀井源太郎・和田俊憲・佐藤拓磨・小池信太郎・薮中悠『刑法Ⅰ 総論(日評ベーシック・シリーズ)』『同Ⅱ 各論(同)』日本評論社(☆いずれも2024年2月・第2版)……慶應系中心の5名の研究者による共著。『総論』では、初学者への配慮から、体系を一部崩して解説しているが、個々の解説そのものは、オーソドックスであり、安定感がある(各論も同様)。情報量も司法試験との関係では必要かつ十分なもの。第2版はR4(侮辱罪の法定刑引上げ、拘禁刑の創設等)、R5(性犯罪規定の改正等)刑法改正に対応。全10章・17章。A5判、296頁・336頁。 内田幸隆・杉本一敏『刑法総論(有斐閣ストゥディア)』有斐閣(2019年11月)……曽根門下による共著。初学者向けの「ハンディ地図」を目指したテキスト。司法試験的にも必要十分な内容にまとめられている。著者らは結果無価値論者だが、構成要件的故意・過失を認めるなど、実務にも配慮した立場を採る。ケースや図表を用いて学説を整理しており、初学者にも理解しやすいと思われる。序章(刑法総論の見取り図)+全11章。A5判、294頁。 辰井聡子・和田俊憲『刑法ガイドマップ(総論)』信山社(2019年5月)……コンセプトは「歩きながら考える」。実務刑法学入門とされている。入門書だが、刑法総論を一通り勉強した者のまとめノートとしても使える。著者の一人が和田であることもあり、後掲『どこでも刑法』と相性がいい(もっとも、細かいところで説明が異なる箇所はある)。「初学者のための答案の書き方」、「平成22年・23年司法試験〔第1問〕の解答例」あり。序章(「犯罪論」をイメージしよう)+全13章。A5変型判、212頁。 和田俊憲『どこでも刑法#総論』有斐閣(2019年10月)……著者の講義レジュメを元にした概説書。本書の特徴は1冊で刑法総論を2巡させるところにある(あとがき)。基本的には初学者向けの体裁であり、刑法総論の主要な分野を、すべての項目において4~6頁でわかりやすく解説しているが、その内容のレベルは高い。最新の判例実務の上澄み(たとえば、相当因果関係説などの過去の学説には言及していない)も解説されており、上級者の総まとめ用としても使える。なお、構成要件の概念の説明なしに、因果関係の説明に入るなど、わかりやすさを重視するあまり、体系的な視点が犠牲にされている点には(特に初学者は)注意されたい。四六判、208頁。放送大学の講義テキスト『刑法と生命(放送大学教材)』放送大学教育振興会(2021年3月、A5判、196頁)もある。 島伸一編著、山本輝之ほか『たのしい刑法I 総論』『同II 各論』弘文堂(☆2023年3月・第3版、2017年10月・第2版)……二色刷り・図表多用。解答例付きのケーススタディあり。各論の第2版において、2017年6月に成立した性犯罪に関する法改正に対応。A5判、368頁・416頁。 高橋則夫『<授業中>刑法講義——われ教える、故にわれあり』信山社(2019年12月)……行為無価値論者による1冊本。ライブ的な色彩を持った刑法概説(はしがきより)。冒頭に法的三段論法についての説明があるなど、本書は法学初学者のための入門書として執筆されたものだが、まとめ用途に使われることも想定されている(著者曰く、学部生にとっては「一夜漬けでマスターできる刑法本」、司法試験受験生にとっては論点チェックに便利かもしれないとのこと)。著者による体系書である『刑法総論』『刑法各論』成文堂(2018年10月・第4版、2018年10月・第3版)の参照ページが適宜挿入されているが、本書自体はオーソドックスな内容なので、高橋説を採らない読者でも特に支障はない。難点は判例を事件名で呼称し、年月日等の記載がないこと。序(刑法が得意になるための方法序説)+全43講+最終講(ルールの学習―野球のルールから法をみる)。四六変型判、240頁。 仲道祐樹『刑法的思考のすすめ——刑法を使って考えることの面白さを伝えたいんだよ!』大和書房(2022年3月)……高橋門下。縦書き。四六判、272頁。 小林憲太郎『ライブ講義 刑法入門(ライブラリ 法学ライブ講義4)』新世社(2016年11月)……結果無価値論者による1冊本。「ですます調」と著者による手書きの板書書きが相俟って刑法入門講義の実況中継といった趣。コンパクトながらも重要判例の要旨も載っている。また、高水準の内容を保ちながらも、著者が執筆した文献の中では比較的わかりやすい。ただし、本書はあくまで「小林説」の入門書であることに注意が必要である。本書を導入として上掲『刑法総論』その他発展的な基本書を読むとよいだろう。2色刷。A5判、264頁。 川端博『レクチャー刑法総論』『同・各論』法学書院(2017年10月・第3版、2018年2月・第5版)……団藤門下による入門書。学部生やロースクール未修者を対象としている。わかりやすさを重視した、噛み砕いた説明が特徴。全35講・12講。A5判、368頁・336頁。 浅田和茂・内田博文・上田寛・松宮孝明『現代刑法入門(有斐閣アルマBasic)』有斐閣(2020年3月・第4版)……関西結果無価値論の学者による入門書。全6章。四六判、354頁。 只木誠『コンパクト刑法総論(コンパクト 法学ライブラリ 10)』『同各論(同11)』新世社(☆2022 年10月・第2版、☆2022年3月)……著者は罪数論・競合論の大家。ケースや設問を用いて、初学者向けに刑法総論の基礎を解説する。基本的に行為無価値論(違法二元論)ベースだが、独自説はあまり見られず、比較的中立的な立場から解説しているため、読み手を選ばない。学説の位置づけについての指摘が的確で、設問に対する解答も各説に対応させている。2022年刑法改正に対応。『各論』は風俗に対する罪が載っていない難点がある。総論:全34章・設問30問、各論:全20章・設問28問。2色刷。四六判、360頁・384頁。 大塚仁『刑法入門』有斐閣(2003年9月・第4版)……検察事務官の研修用テキストとしても使われている良書。口語体で、かつ、わかりやすく書かれている。入門書というよりは、実務や通説的見解の解説を刑法全体についてコンパクトにまとめたものであり、内容は濃い。全2部、全21章。A5判、380頁。 山口厚『刑法入門(岩波新書)』岩波書店(2008年6月)……全4章。新書判、238頁。 中山研一『刑法入門』成文堂(2010年10月・第3版)……著者は2011年7月に逝去。全7章。A5判、194頁。 木村光江『刑事法入門』東京大学出版会(2001年3月・第2版、オンデマンド版:2013年5月・第2版)……刑事法をとおした入門書。全20章。A5判、256頁。 町野朔・丸山雅夫・山本輝之『ブリッジブック刑法の基礎知識(ブリッジブックシリーズ)』信山社(2011年7月)……全9章。四六判、264頁。 高橋則夫編『ブリッジブック刑法の考え方(ブリッジブックシリーズ)』信山社(2018年11月・第3版)……刑法学習の基礎体力づくりのために。執筆者(川崎友巳・高橋則夫・中空壽雅・橋本正博・安田拓人)。全20講。四六変型判、272頁。 井田良・佐藤拓磨編著『よくわかる刑法(やわらかアカデミズム・〈わかる〉シリーズ)』ミネルヴァ書房(2018年5月・第3版)……第3版は、平成29年刑法一部改正ほか最新情報を踏まえて改訂された。B5判、240頁。 藤木英雄・板倉宏『刑法案内1・2(勁草法学案内シリーズ)』勁草書房(いずれも、2011年1月)……1と2を併せて刑法総論全般を扱う。藤木が1977年7月に急逝した後は板倉が引き継いで執筆した。2019年10月にオンデマンド版。全22章。 B6判、256頁・260頁。 藤木英雄著、船山泰範補訂『刑法(全)(有斐閣双書)』有斐閣(2013年9月・第4版)……はじめて刑法を学ぶ読者のために、学習上必要とされる基本的な事項を解説。平成23年・平成25年の通常国会で成立した刑法改正の内容(強制執行妨害罪の細分化、不正指令電磁的記録に関する罪、刑の一部の執行猶予に関する規定等)を盛り込んだ最新版。四六判、310頁。 船山泰範『刑法がわかった』法学書院(2017年7月・改訂第6版)……平成29年法改正「性犯罪厳罰化等」に対応。A5判、400頁。なお、同著者による入門書として他に、『刑法を学ぶための道案内』法学書院(2016年10月、A5判、272頁)、『刑法の礎・総論』、『同・各論』法律文化社(2014年5月、2016年5月、A5判、268頁・288頁)がある。 船山泰範編著『ホーンブック新刑法総論』、『同各論』北樹出版(2017年4月・改訂2版、2015年4月・改訂3版)……全12章・16章。A5判、236頁・260頁。 船山泰範編『刑事法入門(Next教科書シリーズ)』弘文堂(2014年2月)……刑法哲学入門。全12章。A5判、224頁。 設楽裕文編『法学刑法1 総論』『同2 各論』信山社(2010年4月)……B6判、144頁・208頁。 設楽裕文・南部篤編『刑法総論(Next教科書シリーズ)』、沼野輝彦・設楽裕文編『刑法各論(同)』弘文堂(2018年8月、2017年4月)……全11・11章。A5判、292頁・308頁。 裁判所職員総合研修所監修『刑法概説』司法協会(2017年1月・8訂版)……A5判、190頁。 佐々木知子『警察官のためのわかりやすい刑法』立花書房(2015年8月)……著者は元検察官。警察官を始めとする初学者を念頭に置いて、学説には深入りせず、判例を中心とした実務的な内容で、刑法の全体像をつかめる。A5判、336頁。同著者によるその他の書籍として『誰にでも分かる刑法総論』『同・刑法各論』立花書房(2011年4月、2012年2月)がある。 渡辺咲子『基礎から学ぶ刑法』立花書房(2015年11月)……著者は元検察官。「警察公論」の連載が元となっている。A5判、480頁。 津田隆好『警察官のための刑法講義』東京法令出版(2022年7月・第2版補訂2版)……著者は現役の警察官(警察政策研究センター所長)。「警察官の、警察官による、警察官のための」概説書。第2版において、平成29(2017)年12月までの情報(法改正、裁判例)を反映。全2編、全57章。A5判、368頁。 デイリー法学選書編修委員会編『ピンポイント刑法』三省堂(2018年4月)……法学部生・ビジネスマン・一般読者向けの最新法学教養シリーズの刑法編。四六判、192頁。 松原芳博『刑法概説』成文堂(☆2022年10月・第2版)……性犯罪改正等の最新の法改正及び重要判例に対応。総論は全9章、各論は全13章。A5判、248頁。 佐久間修編著『はじめての刑法学』三省堂(2020年5月)……刑法総論・各論の基本的な26の問題を解説した入門書。執筆者(小野晃正・川崎友巳・品田智史・十河太朗・豊田兼彦・安田拓人)。全26項目。A5判、320頁。 佐久間修・橋本正博編、森永真綱ほか著『刑法の時間』有斐閣(2021年4月)……四六判、268頁。 飯島暢・葛原力三・佐伯和也『定義刑法各論——財産犯ルールブック』法律文化社(2021年12月)……A5判、186頁(評価待ち)。 山中敬一・山中純子『刑法概説I [総論]』『同II[各論]』成文堂(2022年4月・第2版、☆2023年4月・第2版)……第2版より山中純子が新たに著者に加わった。A5判、316頁・342頁。 本庄武編著『ベイシス刑法総論』『同・各論』八千代出版(2022年4月、2022年10月)……A5判、360頁・388頁。(評価待ち。) 小島秀夫編著『刑法総論——理論と実践』法律文化社(2022年5月)……増田豊門下による行為無価値一元論を採る総論教科書。凡例の引用文献は増田のモノグラフィ4冊と判例百選のみとかなり硬派な内容となっている。志向的行為論、故意犯における法的因果関係論としての故意帰属論、過失の標準における個人的過失(個別化)説、主観的違法性論、行為無価値一元論、違法性阻却原理としての行為価値衡量説、正当防衛権の正統化根拠としての個人主義的アプローチ、認識的自由意志論に基づく批判的責任論、正当化事由の錯誤における法律効果指示説、不能犯における修正された客観的危険説、共犯の処罰根拠における惹起志向説、共謀共同正犯論における共謀行為=実行行為説、正犯と共犯の区別に関する自己答責性原理、具体的な処罰行為の正統化根拠としての消極的応報刑論、制度としての刑罰の正統化根拠としてのコミュニケーション的一般予防論などが特徴。全15章。A5判、264頁(本文249頁)。 葛原力三・佐川友佳子・中空壽雅・平山幹子・松原久利・山下裕樹『ステップアップ刑法総論』法律文化社(2022年10月)……犯罪の基本型→変化型→理論という順序で叙述。まず判例・通説の立場を説明し、理論面の解説は最後に行うことにより、実務刑法学と理論刑法学のいいとこ取りを狙った内容となっている。短文の網掛けテーゼ(例:狭義の相当性について、判例・学説ともに危険現実化説を採用している。)と囲み事例により初学者にも理解しやすい内容でオススメできる。A5判、234頁。 ☆照沼亮介・足立友子・小島秀夫『一歩先への刑法入門』有斐閣(2023年12月)……法学部でこれから刑法を学ぶ学生を対象とした入門書。体系については中立的な立場から両論併記しており読み手の立場を選ばない。総論・各論の主要論点(網羅的ではない)を採り上げており基本的論点にとどまらず発展的な論点にも言及している。また刑法学を学ぶ意義や論述式答案の書き方も載っている。刑法講義や基本書独修のサブテキスト用途としても使える内容となっておりオススメできる。全29Unit。A5判、364頁。 ☆川端博・明照博章・今村暢好『刑法各論』成文堂(2024年3月)……川端『刑法』(成文堂の1冊本)の各論パートに対し、共著者らが令和5年刑法改正等の加筆修正を施したもの。A5判、240頁。 【注釈書・コンメンタール】 大塚仁・河上和雄・中山善房・〔佐藤文哉〕・古田佑紀編『大コンメンタール刑法〔全13巻〕』青林書院(第1巻:2015年7月・第3版、第2巻:2016年8月・第3版、第3巻:2015年9月・第3版、第4巻:2013年10月・第3版、第5巻:2019年7月・第3版、第6巻:2015年12月・第3版、第7巻:2014年6月・第3版、第8巻:2014年5月・第3版、第9巻:2013年6月・第3版、第10巻:2006年3月・第2版、第11巻:2014年9月・第3版、第12巻:2003年3月・第2版、第13巻:2018年7月・第3版)……我が国最大級の刑法典注釈書。実務法曹及び研究者による顕名執筆。判例・裁判例は公刊物未登載のものも含めて網羅的に収録されているが、学説紹介についてはムラがあり、一世代前の学説の紹介に留まっている解説がある。しかし司法試験・予備試験の合格のためには最新の学説よりも使い古された通説をまずは学ぶべきであり、網羅性ある本書は所謂基本書より使いやすい。A5判、第1巻〔序論・第1条~第34条の2〕:824頁、第2巻〔第35条~第37条〕:780頁、第3巻〔第38条~第42条〕:618頁、第4巻〔第43条~第59条〕:502頁、第5巻〔第60条~第72条〕:912頁、第6巻〔第73条~第107条〕:530頁、第7巻〔第108条~第147条〕:488頁、第8巻〔第148条~第173条〕:484頁、第9巻〔第174条~第192条〕:312頁、第10巻〔第193条~第208条の3〕:596頁、第11巻〔第209条~第229条〕:680頁、第12巻〔第230条~第245条〕:504頁、第13巻〔第246条~第264条〕:930頁。 西田典之・山口厚・佐伯仁志編『注釈刑法(有斐閣コンメンタール) 第1-4巻〔全4巻(予定)〕』有斐閣(第1巻 総論 §§1~72:2010年12月、第2巻 各論(1) §§77~198:2016年12月、第4巻 各論(3)§§235~264:2021年12月)……旧版(団藤重光責任編集『注釈刑法』全6巻)に比べ、大幅にスリム化された。理由として、(1)読者対象に法科大学院生や学部学生をも考慮に入れたこと、(2)原則として戦後の重要な判例・裁判例のみとりあげる方針としたこと、(3)判例・裁判例の引用を極力控えたこと(はしがき)、があげられている。執筆者はいずれも編者らの門下生であり、したがって、東大系結果無価値論の立場からの記述で一貫しており、立場のばらつきは少ない(ただし、執筆者間に意見の相違がある箇所もないではない。因果関係の錯誤など)。また、そのレベルは高く、最新の理論刑法学の研究成果が盛り込まれているといっても過言ではなく、東大系結果無価値論の一つの到達点である。ただ、これに対しては現在樋口亮介教授らの批判により体系的綻びが生じつつあることに注意が必要である。また、刑法学界を総動員して執筆された旧版に比べて量的にも内容的にも網羅性が損なわれているとの評価も少なくない。現時点で第3巻のみが未刊行。A5判、1038頁・892頁・頁・696頁。 前田雅英編集代表、松本時夫・池田修・渡邉一弘・河村博・秋吉淳一郎・伊藤雅人・田野尻猛編集委員『条解 刑法(条解シリーズ)』弘文堂(☆2023年3月・第4版補訂版)……実務家向けのコンパクトな注釈書。執筆者はほぼ全て実務家で占められており、条解刑訴と同じく編集委員らの合議による修正がなされているため、各執筆者の分担区分は掲記されていない。文字が大きく余白も多いため、他の条解シリーズに比べ情報量がやや少ない。A5判、960頁。 浅田和茂・井田良編『新基本法コンメンタール 刑法(別冊法学セミナー)』日本評論社(2017年9月・第2版)……第1版(2012年9月)は、刑の時効、強制執行を妨害する犯罪、サイバー犯罪に関する改正など、平成23年までの法改正に対応。第2版は、2017年通常国会で成立した性犯罪規定の改正までが反映され、第1版(2012年9月)以降の判例・学説の動きもフォローされた。事項索引・ 判例索引あり。B5判、688頁。 松宮孝明・金澤真理編『新・コンメンタール 刑法』日本評論社(☆2021年1月・第2版)……伊東研祐・松宮孝明編『学習コンメンタール 刑法』(2007年)を改題のうえ改訂したもの。改題後も、初版は伊東と松宮が編者であった。インターネットコンメンタールとしても提供されている。A5判、544頁。 川端博・西田典之・原田國男・三浦守編集代表、大島隆明編集委員『裁判例コンメンタール刑法 第1巻・第2巻・第3巻』立花書房(第1巻:2006年7月、第2巻:2006年9月、第3巻:2006年11月)……刑法全条文の意義・要件等を下級審から上級審までの裁判例を探ることによって解説する。A5判、第1巻〔第1条~第72条〕:680頁、第2巻〔第73条~第211条〕:664頁、第3巻〔第212条~第264条〕:664頁。 【判例集・ケースブック】 〔判例集等〕 佐伯仁志・橋爪隆編『刑法判例百選I 総論』『同・II 各論』有斐閣(いずれも、2020年11月・第8版)……解説付き判例集の筆頭。百選に掲載されているということが、当該判例の重要度を示すメルクマールになるので、まずは百選から頭に入れていくのが無難と言えば無難。ただし、解説は玉石混淆(判例の解説でなく、論点解説をしているようなものも散見される)。第8版から、編者の一人が山口厚から橋爪隆に変更された。I 総論:107件、II 各論:124件を収載。B5判、224頁・256頁。 前田雅英・星周一郎『最新重要判例250 刑法』弘文堂(☆2023年3月・第13版)……260判例を収録。コンパクトに多くの判例を解説している。ただし、前田説に沿う形で判例を取り上げ、解釈する傾向があるので、前田『講義』や木村『刑法』を基本書としていない者が使用する場合には注意を要する。2色刷。B5判、298頁。 西田典之・山口厚・佐伯仁志・橋爪隆『判例刑法総論』『同・各論』有斐閣(☆2023年3月・第8版)……解説なしの判例集。下級審裁判例まで網羅しており、総論・各論を合わせると収録数は1000件を超える。西田刑法を使用するならとりわけ便利。西田刑法を利用しない場合でも、解説は一切不要だと考える学生はこちらを選択するべきだろう。山口青本(第2版)でも本書の該当番号が引用されるようになった。A5判、574頁・592頁。 山口厚『基本判例に学ぶ刑法総論』『同各論』成文堂(2010年6月、2011年10月)……単一著者による重要判例の解説本。事案の解説のみならず、当該判例を起点に、関連する重要論点も平易に解説。A5判、316頁・340頁。 山口厚『新判例から見た刑法(法学教室ライブラリィ)』有斐閣(2015年2月・第3版)……最近の判例を題材にした解説。山口説に立たなくても、鋭い問題意識や分析は、判例の重要性や出題可能性と相俟って一読の価値がある。A5判、386頁。 井田良・城下裕二編『刑法総論判例インデックス』『刑法各論判例インデックス』商事法務(2019年12月・第2版、☆2023年3月・第2版)……見開き2ページで簡潔に説明している。事実関係をイラストにより図示しており、イメージを持ちやすい。というか笑える。また、解説は簡潔であるが、判プラ同様に項目ごとに執筆分担がなされているので、一貫した理解が進むと思われる。総論175件、各論184件を収載。A5判、400頁・416頁。 井田良ほか『刑法ポケット判例集』弘文堂(2019年3月)......文字通りポケットサイズのコンパクトな判例集。総論・各論の基本判例226件、概要のみのAppendix100件を収録。四六判、256頁。 成瀬幸典ほか編『判例プラクティス刑法I』『同II』信山社(2020年3月・第2版、2012年3月)……通称「判プラ」。Iは総論、IIは各論。Iの収録判例は481件、IIは543件と上掲『判例刑法』に迫る収録件数。1ページに事案・争点・判旨・解説と盛り込み過ぎの感が。若手・中堅の学者が、特定の分野の複数の判例の解説を執筆しているので、判例理論の一貫した理解に資すると考えられる。B5判、470頁・558頁。 十河太朗・豊田兼彦・松尾誠紀・森永真綱『刑法総論判例50!(START UPシリーズ)』『刑法各論判例50!(同)』有斐閣(2016年12月、2017年12月)……刑法を初めて学ぶ学生に向けた判例教材。予備校本のようなポップな体裁。2色刷。B5判、156頁・150頁。 高橋則夫・十河太朗編『新・判例ハンドブック刑法総論』『同各論』日本評論社(いずれも、2016年9月)...…重要判例の概要・判旨・解説を1ページでコンパクトに紹介。総論203件、各論175件を収録。四六判、240頁・208頁。 大谷實編『判例講義刑法1 総論』『同・2 各論』悠々社(2014年4月・第2版、2011年4月・第2版)……大谷門下による判例集。刑法総論は、平成24年末までの29件の新判例を取り込み、合計154判例を、各論は、平成21年3月までの153判例を収録。 林幹人『判例刑法』東京大学出版会(2011年9月)...…著者が『判例時報』などに掲載した判例研究を項目別にまとめ直し、各項目に複数の設問を付したもの。設問は「~(判例)は、どういう事実につきどういう判断を示したか」といった事案分析型のものが中心で、著者による判例研究は設問に取り組む際の参考にして欲しいとのこと。いわゆる「ケースブック」と異なり、そのままの判決文等が掲載されていないので、判例研究や設問で指示されている(一項目につき複数の判例が指示される)判例については、別途、判例集なり裁判所HPからのダウンロードなりで入手したうえで取り組む必要がある。A5判、440頁。 松原芳博編『刑法の判例 総論』『同 各論』成文堂(2011年10月)...…A5判、326頁・302頁。 ☆松原芳博編『続・刑法の判例 総論』『続・同 各論』成文堂(2022年11月)...…A5判、262頁・288頁。 川端博『刑法基本判例解説』立花書房(2012年7月)...…総論66件、各論90件、合計156件を収録。A5判、352頁。 奥村正雄・松原久利・十河太郎・川崎友巳『判例教材刑法I 総論』成文堂(2013年4月)...…B5判、512頁。 小林憲太郎『重要判例集 刑法総論(ライブラリ 現代の法律学 JA13)』新世社(☆2022年7月・第2版)...…小林『刑法総論』における判例情報の不足を補う趣旨で作成された判例教材。しかしながら、単体の教材としての使用も想定されている。著者によると、「できる限り客観的な説明を心がけ」ており、また「判例の数も、引用の分量も、そして解説の量もかなりスリム化されている」(はしがき)とのことであるが、"コバケン節"とでも言うべき衒学的な独特の文体は相変わらず健在である。A5判、240頁(本文231頁)。 船山泰範・清水洋雄編『刑法判例ベーシック150』法学書院(2016年3月)...…A5判、336頁。 ☆成瀬幸典・安田拓人編『判例トレーニング刑法総論』信山社(2023年3月)……B5判、224頁。 〔ケースブック〕 岩間康夫ほか『ケースブック刑法』有斐閣(2017年3月・第3版)……京大系。法科大学院の双方向型授業を想定した学習教材。設問は判例分析よりも、理論面や細かな学説を問うものが多く、司法試験対策としてはほとんど無用の長物と言ってよいものだったが、近年、司法試験に学説問題が出題されるようになったことによって、そうとも言えなくなった。第2版(2011年4月)で総論・各論をまとめて一冊になった。第3版において、判例、設問が厳選され、大幅なコンパクト化が図られた。全20章。B5変型判、390頁。 笠井治・前田雅英編『ケースブック刑法』弘文堂(2015年3月・第5版)……主に前田門下の学者らによるケースブック。全30講。A5判、594頁。 町野朔・丸山雅夫・山本輝之編『ロースクール刑法総論』『同各論』信山社(2004年4月、2004年10月)……2冊計25テーマ、計80の判例を取り扱う。B5判、160頁・156頁。 山口厚編著『ケース&プロブレム刑法総論』、『同刑法各論』弘文堂(2004年12月、2006年9月)……生きた法である判例を素材にした演習書。「ケースブックとは異なり、基礎的な設問から応用的な設問へとステップをふみながら、法的思考力と事案解決能力が身につく自習も可能な演習書」とされている。全12章・11章。A5判、410頁・336頁。 (古典) 町野朔・堀内捷三・西田典之・前田雅英・林幹人・林美月子・山口厚『考える刑法』弘文堂(1986年10月)……A5判、384頁。 【演習書】 井田良・佐伯仁志・橋爪隆・安田拓人『刑法事例演習教材』有斐閣(2020年12月・第3版)……見てのとおりの第一線執筆陣による、司法試験を意識した長文事例問題集。設例は52個で、そのひとつひとつに遊び心が込められており、学生を飽きさせない。巻末には事項索引と判例索引も付いていて便利。難易度としては中級者以上向けで、独習することができる程度の解説があるがその理論水準はかなり抑えられており、相応に高度な論点が問題に含まれているのにほとんど言及がなかったり、多少匂わせるに留まったりするので、要注意である。また、解説ではあてはめの問題は基本的にスルーしているので、別途補完する必要がある。B5変型判、290頁。 ☆嶋矢貴之・小池信太郎・鎮目征樹・佐藤拓磨『刑法事例の歩き方——判例を地図に(法学教室ライブラリィ)』有斐閣(2023年12月)……法教連載(法教463-486号・全22回)の単行本化。A5判、554頁。(評価待ち) 十河太朗『刑法事例演習——メソッドから学ぶ』有斐閣(2021年4月)……A5判、270頁。 嶋矢貴之・小池信太郎・品田智史・遠藤聡太『徹底チェック刑法——基本をおさえる事例演習』有斐閣(2022年6月)……刑法をひととおり勉強した人・勉強中の人が、長文の事例問題を解けるレベルに至るまでの橋渡しをすることを目的とした(はしがき)短文事例演習書。総論・各論の主要論点をほぼ網羅しており、また、解説も判例およびその標準的理解をベースにしているため、論点まとめ本・論証集としても使用できる内容となっている。大塚『応用刑法総論・各論』のエッセンスを1冊本にまとめたイメージ。論点の抽出ができない、論証の仕方がわからないという人にオススメ。A5判、310頁。 只木誠編著、北川佳世子・十河太朗・髙橋直哉・安田拓人・安廣文夫・和田俊憲著『刑法演習ノート——刑法を楽しむ21問』弘文堂(2022年3月・第3版)……司法試験考査委員や元最高裁調査官といった豪華な執筆陣による司法試験向けの長文事例問題集。司法試験合格者が書き下ろした実践的な解答例が全ての設問に付されている。ただし、解答例は、学者による当該設問の解説と必ずしも一致していない部分もあるので注意が必要である。あくまで参考答案の一つと捉えるのが適当であろう。A5判、436頁。 井田良・大塚裕史・城下裕二・髙橋直哉編著『刑法演習サブノート210問』弘文堂(☆2024年4月・第2版)……上掲『刑法演習ノート』の姉妹本。刑法の基本中の基本を網羅的に学ぶことができる、初学者向けの演習書。設問・解説ともに1頁ずつで主要論点をコンパクトに網羅している。解説が判例ベースの穏当な見解でまとめられている点は評価できるが、1頁という紙幅の都合のためか、全体的に舌足らずの感は否めない。そのため、基本書を一周した程度の初学者にとってはやや取り組みにくいであろう。他方、網羅性が非常に高くコンパクトであることから、中級者以上が論点を総ざらいするのには好適であると思われる。A5判、460頁。 佐久間修・高橋則夫・松澤伸・安田拓人『Law Practice 刑法』商事法務(2021年7月・第4版)……基本問題56問と発展問題12問から成る、学部~ロースクール1年生向けの演習書。問題はいずれも事例問題ではあるが、事案の分析・処理が求められるようなものではなく、実質的に1行問題に近いものも散見される。A5判、320頁。 島田聡一郎・小林憲太郎『事例から刑法を考える(法学教室ライブラリィ)』有斐閣(2014年4月・第3版)……法教連載を書籍化した事例問題集。問題文は長めだが、司法試験ほどではない。答案作成を意識した実戦的なアドバイスも豊富に盛り込まれている。設問もよく練られており、司法試験対策の演習書としての完成度は非常に高い。ただし、司法試験のレベルを優に超えた問題もあるなど難易度は非常に高く、使用者の実力によっては消化不良に陥る可能性がある。また、解説が非常にマニアックになってしまっている箇所もある。なお、第3版の改訂作業は、島田の急逝以後は小林のみによって行われた。A5判、518頁。 井田良・田口守一・植村立郎・河村博編著『事例研究 刑事法I 刑法』日本評論社(2015年7月・第2版)……現役の裁判官・検察官を中心とした執筆陣が事例問題を解説。設問の数は総論8問・各論9問と少なめで、論点を網羅することはできないが、各設問末尾の関連問題まで潰せば、重要論点については広範囲をカバーすることができる。主要な判例・学説の対立のみならず、先例的価値の大きな判例については、それが掲げる具体的な考慮要素にも多く言及がなされている。実務家の解説が多いこともあり、あてはめを鍛えるのにも有用。A5判、460頁。 大塚裕史『ロースクール演習刑法』法学書院(2022年6月・第3版)……受験新報の誌上答練を書籍化した、全36問からなる司法試験を意識した長文事例問題集。もっとも、問題文の長さ自体は本番ほどではない。答案例こそ付されていないが、「解説を要約すればそのまま答案が完成できるようになっている」(出版社の紹介文より)ため、独習用の教材としても好適。難点をあげるとすれば、論点相互が絡み合うような捻りの効いた問題が少なく、論点をただ単に足し合わせただけのような、もっぱらボリュームで勝負してくる問題が多いことか。また、問題文の表現にあいまいな部分も散見され、解説を読んで思わぬ論点落とし(?)に驚かされることも。A5判、544頁(本文519頁)。 池田修・杉田宗久編『新実例刑法〔総論〕 刑法理論と実務を架橋する実例33問』青林書院(2014年12月)……下掲『新実例刑法総論』の「設問や執筆者を変え〔替え〕、近時の学説・判例を踏まえた内容に改めた全面的な新版」(はしがき)である。「裁判員制度による影響とその可能性について意識したため、執筆者は裁判員裁判を担当した経験のある、実務経験十数年以上の裁判官」(はしがき)が執筆している。旧版と比べて新たな学説への目配りが効いているが、特定の学説に偏ることなく判例・裁判例を尊重しつつ手堅く解説しており、その姿勢は答案作成上参考になるだろう。裁判員裁判を踏まえてどのように裁判員に説示すべきかを論じているのも特徴のひとつ。とりわけ、最新判例をフォローした、正当防衛関連(5問)、共謀共同正犯の成否、承継的共犯などは必読である。目次及び設問。A5判、500頁。 池田修・金山薫編『新実例刑法〔各論〕』青林書院(2011年6月〔2014年12月2刷にて、その後の法改正についての補注あり〕)……法科大学院を意識して、総論よりも事例はやや長め。こちらもすべて実務家(ほとんどが現職の刑事裁判官36名)が執筆している。百選改訂の折には新たに選出されることが予想される、直近の重要な最高裁判例をモデルにした事例(全36項目)が並んでおり、できる限り目を通しておきたい。A5判、500頁。 前田雅英『司法試験論文過去問LIVE解説講義本 前田雅英刑法(新Professorシリーズ)』辰已法律研究所(2016年2月・改訂版)……司法試験論文本試験解説書。平成18年から平成27年までの問題について、「模範答案」1通と、「再現答案」2通を使いながら解説。A5判、294頁。 松宮孝明編『判例刑法演習』法律文化社(2015年3月)……刑法総論と各論を有機的に結びつけ、応用できることを目標とした演習書。まず、判例の事案と判旨が示され、次に当該判例において問題となる論点を検討し、最後に判例の射程を検討するという形式となっており、書名のとおり、判例の内在的理解に重きを置いた内容となっている。執筆者は、松宮、安達光治、野澤充、玄守道、大下英希の5名。A5判、346頁。 田中康郎監修、江見健一編集代表『刑事実体法演習 理論と実務の架橋のための15講』立花書房(2015年11月)……司法試験の刑事系科目である刑法(総論・各論)に関する主要なテーマについて、現役の刑事裁判官が、理論と実務の架橋をめざして学説と判例の接点を分かりやすく解説した演習書(はしがき)。「捜査法演習」・「刑事公判法演習」の姉妹書である。刑法の修学と題した序説では、司法試験の採点実感等を掲げて刑法学修のポイントを示す。問題は全15講。いずれも長文の事例問題に、解説を付すスタイル(答案例は付されていない)。「実務と学説の双方に通じた裁判官の事案解決型の思考過程を追体験」(はしがき)することができる。特徴は、犯罪事実記載例を掲げていること。なお、現在出版社品切れ。A5判、560頁。 木村光江『演習刑法』東京大学出版会(2016年3月・第2版)……全23問からなる長文事例問題集。全問に答案例が付されている。著者が前田門下ということもあり、前田の基本書との相性が極めて良い。A5判、480頁。 安田拓人・島田聡一郎・和田俊憲『ひとりで学ぶ刑法』有斐閣(2015年12月)……3段階に分類された問題群(Stage 1 Schüler(概念と論点を正確に理解する):全20問、Stage 2 Sänger(事例問題を解く基礎的な力を身につける):全11問、Stage 3 Meister(複雑な事例を解く):全3問 )からなる演習書。A5判、422頁。 町野朔・丸山雅夫・山本輝之編『プロセス演習 刑法〔総論・各論〕(プロセスシリーズ)』信山社(2009年4月)……全24章。B5判、362頁。 植村立郎監修『設題解説 刑法(二)』法曹会(2014年11月)……刑法総論の重要テーマを含む短文の事例問題(全30問)につき裁判官(裁判所職員総合研修所の教官?)が解説し、これに監修者の植村が辛口の【補論】を付すスタイル。設問の前に、いきなり当該設問において問題となる論点が一通り示されているため、論点抽出能力は全く養われない。裁判官が執筆しているため、概ね判例に沿った解説で信頼できる。なお、因果関係は相当因果関係説の立場から解説がなされている。雑誌『法曹』連載を単行本化したもので、題名に(二)とあるが本巻のみで総論の主要論点はカバーされている。全30章。新書判、536頁。なお、(一)は絶版の模様。 関根徹『実戦演習 刑法——予備試験問題を素材にして』弘文堂(2020年3月)……平成23年度~平成30年度までの司法試験予備試験論文問題の解説。参考答案付。A5判、264頁。 高橋則夫編、岡部雅人・山本紘之・小島秀夫『<授業中>刑法演習——われら考える、故にわれらあり』信山社(2021年3月)…… 上掲『<授業中>刑法講義——われ教える、故にわれあり』の姉妹本。レアケース・例外事例、あるいは長文で複雑な事例を挙げてある演習書に進む前に、典型的・基礎的な事例を処理する能力を身につけるための演習書。したがって、司法試験で問われる発展的な論点(例えば、因果関係の錯誤や共謀の射程)は省略されている。そのため初学者向け。四六変判、248頁。 佐久間修『新演習講義刑法』法学書院(2009年8月)……旧試対策問題集だった旧著『演習講義 刑法総論』法学書院(1998年5月)及び『同 刑法各論』法学書院(1997年10月)の改訂版。問題は旧試をイメージしたものであるが微妙にズレたものが多い。さらに、解説は難解なうえに、問題から離れた派生論点についての説明を延々と続けたり、少数説よりの自説の主張に終始したりしている面もあり、使い勝手は悪い。A5判、368頁。 設楽裕文編『法学刑法3 演習(総論)』『同4 演習(各論)』信山社(2010年8月)……B6判、216頁・232頁。 船山泰範・清水洋雄・中村雄一編著『刑法演習50選 入門から展開まで』北樹出版(2012年4月)……刑法を初めて学ぶ人と、法学部を卒業したレベルの人のための刑法演習書。刑法総論と各論について、それぞれ、入門編と展開編が設けられている。A5判、254頁。 甲斐克則編『刑法実践演習』法律文化社(2015年10月)……第I部から第III部までの構成のうち、第I部は精選された計24件(総論12件、各論12件)の最新重要判例の解説、第II部・第III部は司法試験の過去問(論文・択一)の解説となっている。第II部・第III部については、「司法試験問題(論文・択一)を徹底的に解剖」と謳っている割には、論文問題の解説はお世辞にも徹底的になされているとは言えず、択一問題に至っては体系順に問題が並べられているだけで、解説がほぼ皆無なうえに取り上げられている問題も少なすぎるなど、謳い文句からは程遠い中途半端な内容となっている。A5判、328頁。 (古典) 大塚仁・佐藤文哉編『新実例刑法〔総論〕』青林書院(2001年2月)……刑法の論点本。すべて実務家(ほとんどは現職の刑事裁判官30名)が執筆している。イメージ的には、論点ごとの重要判例の調査官解説をほどよく要約したようなもの。したがって、必ずしも斬新な議論が紹介されている訳ではないが、団藤・大塚らの伝統的行為無価値論とは親和性が高いので、これらの本を使用する者であれば、参考書として座右に置くのも良いだろう。編者が交代した新版が出たものの、設問によってはいまだに使える。A5判、460頁。 船山泰範『司法試験論文本試験過去問 刑法』辰已法律研究所(2004年5月・新版補訂版)……旧司法試験の過去問集。船山教授の解説講義を書籍化。問題解説、受験生答案検討、教授監修答案からなる。平成1-15年度の問題30問、昭和の問題13問の全43問。絶版だったがオンデマンドで復刊された。少数説が多い。 川端博『事例式演習教室 刑法』勁草書房(2009年6月・第2版)……初版(1987年5月)から22年ぶりに全面改訂された総論・各論全45問からなる短文問題集。元々が旧司500人時代に出版されたものであることから、「事例式」と銘打ちながらも事例は短いうえに、一行問題も混ざっているなど、問題形式がかなり旧司チックな演習書となっている。論点整理には有益。縦書き。現在、出版社品切れ。A5判、328頁。 斉藤誠二・船山泰範編『演習ノート刑法総論』法学書院(2013年4月・第5版)……全100講。A5判、276頁。 岡野光雄編『演習ノート刑法各論』法学書院(2008年7月・第4版)……全110講。A5判、240頁。 藤木英雄『刑法演習講座』立花書房(1984年1月)……藤木説を理解するためには必読の演習書。出版社在庫なし。 石川才顯・ 船山泰範編『刑法1 総論(司法試験シリーズ )』、『刑法2 各論(同 )』日本評論社(1993年12月・第3版、1994年1月・第3版)……B5判、頁・頁。 福田平・大塚仁『基礎演習刑法(基礎演習シリーズ)』有斐閣(1999年8月・新版)……総論・各論あわせて66問。出版社在庫なし。四六判、308頁。 前田雅英『刑法演習講座』日本評論社(1991年4月)……A5判、518頁。 前田雅英『Lesson刑法37』立花書房(1997年4月)…解答例付き。A5判、446頁。 → このページのトップ:刑法に戻る。 → リンク:刑事訴訟法、刑事実務
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《行為無価値》 〔メジャーどころ〕 裁判所職員総合研修所『刑法総論講義案』司法協会(2008/09補正・3訂補訂版)……「書研」(こちらは旧称)とか「総研」と呼ばれ る。裁判所書記官の研修用テキストであり、裁判官が執筆している。したがって判例・(伝統的)通説ベースだが、薄い。某予備校の指定教科書でもあり、司法 試験受験生の間でも非常に人気がある。理論刑法学を割り切るのであれば第一の選択肢として本書が挙げられよう。 井田良『講義刑法学・総論』有斐閣(2011/07・補訂)……もともと井田説は行為無価値の中でも理論的に高度で独自色が強いものである(基礎 理論では目的的行為論、消極的構成要件要素の理論など、解釈論では緊急行為での有責性考慮や緊急避難の類型論など。試験対策上は前者を長々記述するような 問題はあまり考えられないが、後者が修得と論述に一手間いるだろう)。しかし、本書ではそうしたアクは前面に出ておらず、良くも悪くも学生向けの概説書に 徹している。また論理も非常に明快で、大谷説のように社会倫理規範や社会的相当性というような曖昧で道徳的な語を使うことはない。そして、論点・学説も豊 富に取り上げており、その解釈は非常に秀逸である。なお、自説を詳細に展開した現代刑事法への連載を単行本化したものとして『刑法総論の理論構造』成文堂 (2005/06)、入門編として「ゼロからスタート☆刑法“超”入門講義」(法教331-、331-342号は刑法総論、343-は刑法各論)。 井田良『刑法各論(新・論点講義シリーズ)』弘文堂(2007/05)……本書の特徴は、ふつうの体系書ではごく簡単にしか言及されない、それぞ れの犯罪類型に関する、基礎的な事項についてかなり詳しく説明しているところであろう。(はしがき一部抜粋)ということからもわかるように、図表も豊富で 初学者でも読むことができ、中級者になるための橋渡しになるような本である。もっとも、司法試験にも十分対応できる水準は確保されているため、総論・各論 とも最近の行為無価値論による解釈で一貫性をもたせたい人には有用であろう。刑法総論講義案、とくに講義刑法学との相性はかなり良い。 高橋則夫『刑法総論』『刑法各論』成文堂(2010/04,☆2011/06)……本格派の体系書。客観的帰属論をはじめとする最先端の学説や問 題意識が随所に織り交ぜられており、それらが著者の深い法哲学の素養とあいまって、行為無価値の最先端を示すものに仕上がっている。行為規範と制裁規範と いう独自の体系をとるが、おおむね結論は判例・通説に近い。判決文の紹介に多く紙面を割いているほか、具体的事案の処理に際しての思考過程も適宜示されて おり、受験生にも使いやすい本になっている。いわゆる総論の総論の部分だけでも50頁超にわたるなど、近年では珍しい真剣勝負の理論書である。 大谷實『刑法講義総論』『同・各論』成文堂(2009/04・新版第3版)……改訂(改説)頻繁。受験生に人気。学説の一貫性に疑問の声も。判例 索引に誤記多し。かつてほどの人気はないが、行為無価値の中ではまだまだシェアNo.1だろう。いわゆる予備校説は団藤=大塚説に共犯だけ大谷説をとりい れたもの。なお、受験生からは「行為無価値は社会的相当性というマジックワードで片付けがち」と批判されるが、それは大谷説だけであり、大谷説が行為無価 値の主流であるという訳ではない。大谷自身も刑法の機能をそのようなものであるべきと意識して、あえてそうした言葉を使っており、こうした発想に合わない 学生は用いるべきではない。 伊東研祐『刑法講義・総論』『同・各論』日本評論社(2010/12,2011/03)、『刑法総論』新世社(2008/02)……東大最後の行 為無価値論者(夭折の天才)藤木英雄の弟子。著者曰く3冊とも未修者向け。著者の講義を聴講しない独習者にも理解できるよう著者の特異な独自説はあえて載 せていない(もちろん自説主張がないわけではい。著者の法哲学見地(『講義総論』第1章)から体系がまとめられており、それに沿った主張もある)。また、 学説の引用元を表示していない。近時出版された基本書の中では、判例の紹介・引用がやや少なめになっている。この点は賛否がわかれるところだろう。藤木弟 子だが団藤=大塚ラインとは一線を画した洗練された行為無価値論をとる。各論も総論と同じく特異な独自説は少なめだが、新たな視点からの記述も多く参考に なる。判例に批判的な箇所も多いが実用上支障はない。予備校ベースの行為無価値論とも比較的親和性が高いと思われるので、これから人気となるかもしれな い。著者の文体は非常に難解であり、容易に読み進められないが、一方、読み応えがあるという評価もある。日本評論社、新世社の総論はともに法科大学院未習 者を対象に書かれたものであるはレベルは日本評論社の方が幾分か高く踏み込んだ記述が多い。これに対し、新世社の総論は未習者、初学者向けであり記述は あっさりしている。自分のレベルに合わせて好みで選ぶと良い。 大塚裕史・十河太朗・塩谷毅・豊田兼彦『基本刑法Ⅰ総論』日本評論社(2012/11)……帯に「本書の立場は『判例説』。」と書かれている。本 書は、判例説と書かれてはいるものの、試験対策的観点からみて従来の学説対立についても必要充分に述べられている。本書の大まかな構成としては、細かく何 節にも分かれており、学説について説明した後、判例の立場を述べ、その判断要素などを最後にまとめている。また具体的な叙述について、答案のように一つ一 つどの段階の問題なのかを省略せず明示しており、また、重要性が低いところなどは、フォントを小さくしたり、説明を省略するなど初学者にも配慮している。 また本書のとても親切な点として、設例に対する学説のあてはめをきちんと行っている点にある。(一通り総論を学んだ中級者は当てはめ部分を飛ばせば割と早 く通読できる点で○)とかく、学説の解説ばかりに目が行くが、当てはめなどをここまでしっかり行っている基本書は他にないのではないだろうか。コラムにも 試験対策上躓きやすいミスなどが指摘されており、中級者以上の使用にも耐えうる一冊となっている。欠点としては、「本書の立場は『判例説』。」となってい るが、その判例に割く分量が学説の解説に比べてやや少ない点であろうか。判例の規範をどう答案で活かそうかと思っている学生にとっては、やや物足りないか もしれない。とはいえ、そのエッセンスは抜き出されているため、判例の理解の一助になることは間違いない。初学者には間違いなくおすすめでき、中級者以上 にも当てはめなどにつき示唆に富む一冊である。個人的な使用感としては、『刑法総論 (伊藤塾呉明植基礎本シリーズ1)』弘文堂(2008/11)との親和性が高いので、(相対的ではあるが)呉の刑法総論の簡易辞書(あてはめなどの参考と して)代わりとして使用できるのではないだろうか。 〔その他〕 団藤重光『刑法綱要総論』『同・各論』創文社(1990/06・第3版,1990/06・第3版)……刑法実務で通説といえば、おおむね 団藤説または大塚説を指す。重鎮の代表作。定型、形式を重視するシンプルですっきりした体系。法律論としての美しさには定評があるものの、共謀共同正犯を 肯定したことで若干の綻びもみられる。半世紀前の初版の時点で体系そのものは完成しており、それがそのまま現在の刑法解釈学の基礎をなしているが、いかん せん古い。因果関係、不作為犯、実行行為性、共犯論など多くの分野において、近時さまざまに実質論を展開する判例・多数説との距離が開いており、団藤説は 発展的に解消されつつある。改訂の可能性は低い。三島由紀夫ファンなら必読。 大塚仁『刑法概説・総論』『同・各論』有斐閣(2008/10・第4版,2005/12・第3版増補版)……刑法実務で通説といえば、おおむね団 藤説または大塚説を指す。人格的行為論をはじめとして団藤説の多くを継承しているため、やや古い。とくに総論は最新の議論に対応し切れていない。共謀共同 正犯否定説。論理の一貫性には定評がある。1冊本『刑法入門』(2003/09・第4版)は検察事務官の研修用テキストで口語体の良書。 福田平『刑法総論』『刑法各論』有斐閣(☆2011/10・第5版,2002/05・第3版増補)……著者は団藤門下にして、戦後昭和期の代表的 な目的的行為論者であり、井田も私淑している。厳格責任説、共謀共同正犯否定説など。論理の一貫性においては師である団藤を上回るとも。曖昧さや倫理性を 排し、基礎理論に根ざした福田説は現在でも説得力を持つ。団藤・大塚らの伝統的学説を立体的に理解するにも有用である。なお、各論は非常に簡潔な構成と なっている。 川端博『刑法総論講義』『刑法各論講義』成文堂(2006/02・第2版,2007/03)……二元的厳格責任説(正当化事情の錯誤において違法 性阻却の余地を認める立場)。中・上級者向けの論点本『集中講義刑法総論・各論』成文堂(1997/06・第2版,1999/07)、1冊本『刑法』放送 大学(2005/02)、『刑法総論(新・論点講義シリーズ)』弘文堂(2008/09)。その他著作多数。『刑法総論講義』は最新判例がほとんど掲載さ れておらず、最新の論点にもあまり触れられていないが、基礎的な理論や論点については詳細かつ丁寧な説明がなされている。 藤木英雄『刑法講義・総論』『同・各論』弘文堂(1975/11,1976/12、OD版2003/10)……団藤門下の夭折の天才。可罰的違法 性論、新々過失論、誤想防衛の違法性阻却、実質的正犯概念など、現在の学説にも示唆を与える啓発的内容が特徴だが、その理論体系に師匠ほどの緻密さはない と言われている。入門書として、板倉宏との共著『刑法案内1・2』勁草書房(2011/01)が最近復刊されたが、既に克服された学説がそのまま掲載され ているだけなので現時点で読むには物足りない。時機に後れた復刊と評さざるを得ない。 斎藤信治『刑法総論』『刑法各論』有斐閣(2008/05・第6版,2009/03・第3版)……学説紹介が詳細。巻末にユニークな設例つき。 板倉宏『刑法総論』『刑法各論』勁草書房(2007/04・補訂版,2004/06)……判例を重視した学説。1冊本『刑法』有斐閣プリマ(2008/02・第5版)もある。 小林充『刑法』立花書房(2007/04・第3版)……元刑事裁判官による1冊本。自説僅少。判例の考え方を簡潔に説明。 中森喜彦『刑法各論』有斐閣(2011/05・第3版)……各論のみだが内容には定評がある。長らく2版から改訂されていなかったがようやく改訂。横書きになり、よりコンパクトになったが内容は最新の状況をフォローしているとは言いがたい。 佐久間修『刑法総論』『刑法各論』成文堂(2009/08,2006/09)……大塚弟子。いわゆる団藤=大塚ラインの系統。改訂により文章の読みにくさはかなり改善されたが、結果無価値からの批判に対する目新しい再反論はあまりみられない。 大谷實『刑法総論』『刑法各論』成文堂(2006/04・第3版,2007/04・第3版)……通称「薄いほう」。上記の本よりも大谷説を理解するのに向いているとの声あり。 木村龜二著・阿部純二増補『刑法総論』有斐閣(1978/04・増補版)……名著。目的的行為論の古典。古いが阿部純二『刑法総論』日本評論社(1997/11)でフォローすれば使えなくはない。 《結果無価値》 〔メジャーどころ〕 ☆山口厚『刑法』有斐閣(2011/09・第2版)……平野門下。1冊本。通称「青本」。法科大学院未修者、法学部初学者を念頭に、判例 および全ての学説の前提となっている通説の解説を主眼とした教科書である。刑法の第一人者によるこのような教科書ということで、初版の頃から本書をメイン として利用する法科大学院生は多い。第2版のはしがきでは、山口教授自身が刑事系主任調査委員とし関わった「法科大学院コアカリキュラム」案件を参照しな がら本書を読むように推奨しており、以後もロー生向けという傾向に変わりはないだろう。特に結果無価値を採るロー生の事実上の国定教科書に近い存在ともい える。自説は控えめで、本書ではどれが山口説かは明かされないが、結果無価値で一貫しており、また広く浅い掘り下げのために山口説を理解していないと正確 な文意は理解できないという声もある。入門書として『刑法入門』岩波新書(2008/06) 西田典之『刑法総論』『刑法各論』弘文堂(2010/03・第2版,2012/03・第6版)……平野門下。総論の体系は平野説に比較的忠実。各 論は分かりやすさとバランスの良さに定評がある。とりわけ各論は、判例解説や論文の中で代表的見解として引用される回数が非常に多く、プロから厚く信頼さ れているという証拠であるから、学生にとっても間違いのない一冊である。ただし、総論で西田を使わない場合、食い合わせに注意すべきこと(とくに身分犯の 共犯等)は当然である。講義テープをもとにした本なので、ところどころクスッとさせる説明も見られる。なお、総論第2版では、刑罰論に関する記述が新たに 追加された。結論の妥当性や実務で使える議論であることを強く志向しているため、使い勝手がよく、受験生にとって最もメジャーな体系書であろう。 山口厚『刑法総論』『刑法各論』有斐閣(2007/04・第2版,2010/03・第2版)……現在の東大を代表する結果無価値論。総論は、薄い なかに正犯性等の従来の教科書レベルでカバーされなかった議論を載せた。それ故従来の議論を知らずに1冊目として勉強するのは困難。また第2版で改説部分 多数。各論は、厚くなってしまっているが総論より読みやすく判例を元にした分析も丁寧で、山口説を採らなくても辞書的に利用する価値あり。 佐伯仁志「論点講座・刑法総論の考え方・楽しみ方(1)~(19)」佐伯連載(法 学教室連載・283号~306号)……平野門下。総論の殆どの論点を解説。故意過失を責任要素として構成要件に含む3分説をとり、西田・山口よりなじみや すい体系。因果関係論、不作為犯論、正当防衛論、被害者の同意論は著者の論文のダイジェスト版ともいうべき内容となっている。とくに不作為犯論と正当防衛 論は試験対策に有用。※法教355号(2010年4月号)から各論の連載中。 前田雅英『刑法総論講義』『刑法各論講義』東京大学出版会(☆2011/03・第5版,2012/01・第5版)……平野門下。実質的犯罪論とい う独自の立場から書かれている。他の学説と比較して考えると混乱するおそれ大のため、前田説のつまみ食いは危険。旧試験委員時代は受験生の間で覇権を築い ていたが、近時急速にシェアを落としている。前田説が前面に出ていない概説書としては『刑法の基礎・総論』有斐閣1993年5月がある。元々、法学教室連 載を単行本化したものなので記述は東大出版会のものより中立的。久しく絶版だったがOD版で復刊。 〔その他〕 平野龍一『刑法総論I・II』有斐閣(1975/06,1984/01、OD版2004/08)……法益侵害説中興の祖。日本の結果無価 値論刑法学のバイブル的存在。平野体系はいわゆる結果無価値論の中でもスマートで理解しやすく、西田や山口にとっつきにくさを感じる人には現在でもお勧め できる。平野刑法学のエッセンスが抽出されたものとも言うべきなので、深く理解したい時は平野執筆の論文に当たった方がいい。『刑法概説』東京大学出版会 (1977/03)も簡にして要を得た、今もなお参照に値する1冊本。かなり高度な議論を前提とした記述になっているので、ある程度勉強してから読み返す となお有意義。 齋野彦弥『基本講義刑法総論』新世社(2007/11)……東大出身者だが大学院がケンブリッジなので団藤・平野門下ではない。学部時代の刑法教 授は内藤。実行行為概念を否定する、という点では山口の説に近く結果無価値と親和性が高い。本人は「行為無価値と結果無価値の対立」として問題を扱うこと を党派刑法学であるとして拒否する。解釈論の結論を導くにあたって、最初に刷り込まれた立場から個別解釈論を決定するのは自分で考えることを放棄するも の、だとする。このような立場ではあるが、決して独自説の主張を強調するわけではなく、初学者の理解を目指すため判例・通説を厚く扱っている。 堀内捷三『刑法総論』『刑法各論』有斐閣(2004/04・第2版,2003/11)……平野門下。総論・各論あり。評価待ち。 林幹人『刑法総論』『刑法各論』東京大学出版会(2008/09・第2版,2007/10・第2版)……平野門下。著者は財産犯の研究から出発 し、財産犯の第一人者といえる。ということで各論の教科書は使い勝手がよいようにも思えるのだが、非常に簡潔な記述となっているため、その意味内容を正確 に把握するためには著者の論文を読む必要がある。そのため、そこまで勉強している人にとっては便宜ではあるものの、教科書だけ読んで林説を理解しようとい うのは無理がある。総論は評価待ち。 内藤謙『刑法講義 総論 上・中・下1・下2』有斐閣(1983/03~2002/10)……団藤弟子だが徹底した結果無価値論者。山口説が過激すぎるという人におすすめ。1冊本として『刑法原論』岩波書店(1997/10) 町野朔『刑法総論講義案1』信山社(1995/10・第2版)……平野門下。未完。入門書『プレップ刑法』弘文堂(2004/04・第3版) 木村光江『刑法』東京大学出版会(2010/03・第3版)……前田門下。1冊本。前田好き向け。増刷ごとに一部改訂されている。 山中敬一『刑法総論』『刑法各論』成文堂(2008/03・第2版,2009/03・第2版)……結果無価値+危険無価値によって違法性を判断 (結果無価値論に近いが、一元的結果無価値論ではない)。客観的帰属論を全面的に展開。共犯はいわゆる関西共犯論。大作。ロースクール向け教科書として 『ロースクール講義・刑法総論』成文堂(2005/04)、『刑法概説I・II』成文堂(2008/10)。 中山研一『口述刑法総論』『同・各論』成文堂(2007/07・新訂補訂2版,2006/04・補訂2版)……関西結果無価値。『刑法総論』成文堂(1982/10)は名著。 浅田和茂『刑法総論』成文堂(2007/03・補正版)……関西結果無価値。学説は少数説が多いが、内容は原理原則を重視する理論派で、背景知識もしっかり書かれている。本格的体系書。 松宮孝明『刑法総論講義』『刑法各論講義』成文堂(2009/03・第4版,2008/03・第2版)……読みやすいが、理論的にかなり突っ込ん でいるため、内容は難解。ドイツのヤコブスの説に基づいた見解が多い。著者の研究成果が現れており、そもそもドイツではどのように理解されていたかなどを 記述するが、そこは言わずもがな試験に必要ではない。基本書でドイツの刑法学の状況を確認したいならこの本をおいて他の選択はない。松宮説を理解するに は、『レヴィジオン刑法I-III』成文堂(1997/11-2009/06)の松宮執筆(発言)部分を用いるのが吉。ただし新司のレベルをはるかに超え ていることに注意。 大越義久『刑法総論』『刑法各論』有斐閣Sシリーズ(2012/12・第5版,2012/12・第4版)……結果無価値の立場から刑法理論をコンパクトに解説。さすがにこれだけでは薄すぎるとの評があるも、1冊目としては適しているともいわれる。 曽根威彦『刑法総論』『刑法各論』弘文堂(2008/04・第4版,2008/09・第4版)……独自説をあっさりとした記述で流すことがあるの で注意。演習書として『刑法の重要問題 総論、各論』成文堂(2005/03,2006/03・いずれも第2版)、松原芳博との共著『重要課題刑法総論、 同各論』成文堂(2008/03)。 大塚裕史『刑法総論の思考方法』『刑法各論の思考方法』(2008/11・新版補訂版,2010/12・第3版)……著者は学者だが予備校での指 導経験あり。大谷・前田がメジャーな受験生説だった時代(平成10年台前半頃)に、それらに親和的な内容の副読本として読まれていた。現在では大谷・前田 の受験生シェアは低下しているものの、刑法が苦手な場合になお有用。 《共著》 伊藤渉・小林憲太郎・鎮目征樹・成瀬幸典・安田拓人、齊藤彰子・島田聡一郎『アクチュアル刑法総論』『同・各論』弘文堂 (2005/04,2007/04)……主に山口・西田弟子と中森弟子との若手有望学者による共著。刑法学理論の最先端を著述している。総論は行為無価値 にたつ成瀬・安田により、最近の行為無価値論的に仕上がっているものの、他の結果無価値の筆者との関係でチグハグ感が残る。基本概念・基本判例より新しい 判例・学説の展開に重点が置かれている。リーガルクエストとかぶる部分はコピペになっている。齊藤と島田は各論のみ執筆。使い勝手の良いところだけつまみ 食いで使うのがベスト(安田の責任論など)。内容はかなり深いところにまで突っ込んでおり現代の刑法学の到達点と言っても過言ではない。リークエよりやや 薄めで脚注が付いているのでレポートなどにも活用しやすい。 今井猛嘉・小林憲太郎・島田聡一郎・橋爪隆『リーガルクエスト刑法総論、同各論』有斐閣(2009/01、☆総論は2012/10改訂予 定,2007/04)……西田・山口門下による共著。したがって、立場のばらつきは少ない。最新の議論までコンパクトにまとまっている。ただし,今井執筆 部分は微妙。総論で小林ががんばりすぎているところも。共犯論や罪数論(島田)は秀逸で分かりやすい。各論は西田・山口をコンパクトに整理した感じになっ ているので、こちらも案外使い勝手がいい。 町野=中森『刑法1・2』有斐閣アルマ(2003/04・第2版)……内容的に中途半端で共著の悪い面がでてしまっている。 高橋則夫他『法科大学院テキスト刑法総論』『同・刑法各論』日本評論社(2007/10・第2版,2008/04)……行為無価値論者によるテキスト。総論はちぐはぐ感が否めないが、各論はよくまとまっており、論点ごとの判例・学説カタログとして使い勝手が良い。 大谷實編『法学講義刑法1総論』悠々社(2007/04)……行為無価値論者によるテキスト。従来の教科書から一歩前へ進めた議論を紹介しており、ちょうどリークエに対応する1冊。各論は未刊。 松宮孝明編『ハイブリッド刑法 総論、各論』法律文化社(2009/01)……関西刑法読書会のメンバーによるテキスト。といっても関西結果無価値論の主張は控えめで、最新の論点にも言及している。 佐久間修・橋本正博・上嶌一高『刑法基本講義-総論・各論』有斐閣(2009/04)……1冊本。「いわゆる」通説・判例ベースの体系だが、佐久間・橋本(行為無価値論者)執筆部分と上嶌(結果無価値論者)執筆部分とにズレがある。 葛原力三・塩見淳・橋田久・安田拓人『テキストブック刑法総論』有斐閣(2009/07)……関西系学者による比較的初学者向けのテキスト。京大 刑法総論とも言うべき執筆陣(葛原は中門下、葛原以外は中森門下)。葛原(結果無価値)が因果関係・主観的構成要件・共犯、塩見(行為無価値)が客観的構 成要件・未遂犯・罪数と立場が現れる部分を異なる論者が執筆しているためやや一貫性に欠けるが、共著故の欠点である。学説検討がかなり詳しく最先端の議論 にまでフォローしているが、学説相互の批判に欠ける。この点はリーガルクエストやアクチュアルに軍配が上がる。 生田勝義・上田寛・名和鐵郎・内田博文『刑法各論講義』有斐閣(2010年5月)……学部向けの教科書。総論はない。 〔コンメンタール〕 西田典之・山口厚・佐伯仁志『注釈刑法 第1-3巻』有斐閣(2010年12月-)……旧版に比べ、大幅にスリム化された。理由として、 (1)読者対象に法科大学院生や学部学生をも考慮に入れたこと、(2)原則として戦後の重要な判例・裁判例のみとりあげる方針としたこと、(3)判例・裁 判例の引用を極力控えたこと(はしがき)、があげられている。著者はいずれも編者らの門下生であり、したがって、東大系結果無価値論の立場からの記述が多 く、旧版に比べて量的にも内容的にも網羅性が損なわれている。現時点で第1巻のみ刊行。 前田雅英・松本時夫・池田修・渡邉一弘・大谷直人・河村博編『条解 刑法』弘文堂(2007/12・第2版)……実務家向けのコンパクトな注釈書。執筆者はほぼ全て実務家で占められている。文字が大きく余白も多いため他の条解シリーズに比べ情報量がやや少ない。 阿部純二編『基本法コンメンタール 刑法』日本評論社(2007/05・第3版)……情報量は意外に多い。こちらは研究者中心の執筆となっているため、理論的な面については条解より詳しく安い。☆2012/09に新基本法コンメンタール刑法として改訂予定。 伊東研祐・松宮孝明編『学習コンメンタール 刑法』日本評論社(2007/04)……存在意義が良くわからない本。基本法コンメンタールより400円安いが、内容は薄い上に独自説も多くかなり劣る。 〔判例集〕 芝原=西田=山口『刑法判例百選I・II』有斐閣(2008/02,2008/03・第6版)……解説付き判例集の筆頭。百選に掲載され ているということが、当該判例の重要度を示すメルクマールになるので、まずは百選から頭に入れていくのが無難と言えば無難。ただし、解説は玉石混淆(判例 の解説でなく、論点解説をしているようなものも散見される)。 西田=山口=佐伯『判例刑法総論』『同・各論』有斐閣(2009/03・第5版)……こちらは解説なし、判例のみ。下級審裁判例まで網羅してお り、総論・各論を合わせると収録数は1000件を超える。西田刑法を使用するならとりわけ便利。西田刑法を利用しない場合でも、解説は一切不要だと考える 学生はこちらを選択するべきだろう。山口青本第2版でも本書の該当番号が引用されるようになった。刑事事実認定重要判決50選と併せれば、ほぼ基本書とし て使える。 前田雅英『最新重要判例250 刑法』弘文堂(2009/03・第7版)……274判例を収録。二色刷り。コンパクトに多くの判例を解説してい る。但し、自説に沿う形で判例を取り上げ、解釈する傾向があるので、前田先生の基本書を使用している人以外が使用するのはやや危険。 大谷実編『判例講義刑法1総論、2各論』悠々社(2003/12)……大谷門下による判例集。 山口厚『新判例から見た刑法』有斐閣(2008/10・第2版)……最近の判例を題材にした解説。山口説に立たなくても、鋭い問題意識や分析は、判例の重要性や出題可能性と相俟って一読の価値がある。 山口厚『基本判例に学ぶ刑法総論』『同各論』成文堂(2010/06,2011/10)……判例を素材に重要論点を平易に解説。書下ろし。各論は評価待ち。 成瀬幸典・安田拓人編『判例プラクティス刑法I』、成瀬 幸典・安田 拓人・島田聡一郎編『同Ⅱ』信山社(2010/01,2012/03)……Ⅰは総論。Ⅱは各論。Ⅰの収録判例は444件、Ⅱは543件と『判例刑法』に迫 る収録件数。1ページに事案・争点・判旨・解説と盛り込み過ぎの感が。若手・中堅の学者が、特定の分野の複数の判例の解説を執筆しているので、判例理論の 一貫した理解に資すると考えられる。 井田良・城下裕二編『刑法総論判例インデックス』商事法務(2011/09)……見開き2ページで簡潔に説明している。事実関係をイラストにより 図示しており、イメージを持ちやすい。また、解説は簡潔であるが、判プラ同様に項目ごとに執筆分担がなされているので、一貫した理解が進むと思われる。 〔その他読み物〕 山口厚=佐伯仁志=井田良『理論刑法学の最前線1・2』岩波書店(2001/09・2006/05)……現在の刑法学をリードする三人の論文集。決まったテーマごとに一人が論文を執筆し、残りの二人がその論文を批評するという形式。佐伯執筆部分は連載と合わせると面白い。
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※各論分野は近年毎年のように改正有り。 ※1冊本とは総論と各論が両方載っている本のこと。 《行為無価値》 裁判所職員総合研修所『刑法総論講義案』司法協会(2008/09補正・3訂補訂版)……「書研」(こちらは旧称)とか「総研」と呼ばれる。裁判所書記官の研修用テキストであり、裁判官が執筆している。したがって判例・(伝統的)通説ベースだが、薄い。某予備校の指定教科書でもあり、司法試験受験生の間でも非常に人気がある。理論刑法学を割り切るのであれば第一の選択肢として本書が挙げられよう。 井田良『講義刑法学・総論』有斐閣(2011/07・補訂)……もともと井田説は行為無価値の中でも理論的に高度で独自色が強いものである(基礎理論では目的的行為論、消極的構成要件要素の理論など、解釈論では緊急行為での有責性考慮や緊急避難の類型論など。試験対策上は前者を長々記述するような問題はあまり考えられないが、後者が修得と論述に一手間いるだろう)。しかし、本書ではそうしたアクは前面に出ておらず、良くも悪くも学生向けの概説書に徹している。また論理も非常に明快で、大谷説のように社会倫理規範や社会的相当性というような曖昧で道徳的な語を使うことはない。そして、論点・学説も豊富に取り上げており、その解釈は非常に秀逸である。なお、自説を詳細に展開した現代刑事法への連載を単行本化したものとして『刑法総論の理論構造』成文堂(2005/06)、入門編として「ゼロからスタート☆刑法“超”入門講義」(法教331-、331-342号は刑法総論、343-は刑法各論)。 井田良『刑法各論(新・論点講義シリーズ)』弘文堂(2007/05)……本書の特徴は、ふつうの体系書ではごく簡単にしか言及されない、それぞれの犯罪類型に関する、基礎的な事項についてかなり詳しく説明しているところであろう。(はしがき一部抜粋)ということからもわかるように、図表も豊富で初学者でも読むことができ、中級者になるための橋渡しになるような本である。もっとも、司法試験にも十分対応できる水準は確保されているため、総論・各論とも最近の行為無価値論による解釈で一貫性をもたせたい人には有用であろう。刑法総論講義案、とくに講義刑法学との相性はかなり良い。 高橋則夫『刑法総論』『刑法各論』成文堂(2010/04,☆2011/06)……本格派の体系書。客観的帰属論をはじめとする最先端の学説や問題意識が随所に織り交ぜられており、それらが著者の深い法哲学の素養とあいまって、行為無価値の最先端を示すものに仕上がっている。行為規範と制裁規範という独自の体系をとるが、おおむね結論は判例・通説に近い。判決文の紹介に多く紙面を割いているほか、具体的事案の処理に際しての思考過程も適宜示されており、受験生にも使いやすい本になっている。いわゆる総論の総論の部分だけでも50頁超にわたるなど、近年では珍しい真剣勝負の理論書である。 大谷實『刑法講義総論』『同・各論』成文堂(2009/04・新版第3版)……改訂(改説)頻繁。受験生に人気。学説の一貫性に疑問の声も。判例索引に誤記多し。かつてほどの人気はないが、行為無価値の中ではまだまだシェアNo.1だろう。いわゆる予備校説は団藤=大塚説に共犯だけ大谷説をとりいれたもの。なお、受験生からは「行為無価値は社会的相当性というマジックワードで片付けがち」と批判されるが、それは大谷説だけであり、大谷説が行為無価値の主流であるという訳ではない。大谷自身も刑法の機能をそのようなものであるべきと意識して、あえてそうした言葉を使っており、こうした発想に合わない学生は用いるべきではない。 伊東研祐『刑法講義・総論』『同・各論』日本評論社(2010/12,2011/03)、『刑法総論』新世社(2008/02)……著者曰く3冊とも未修者向け。著者の講義を聴講しない独習者にも理解できるよう著者の特異な独自説はあえて載せていない(もちろん自説主張がないわけではい。著者の法哲学見地(『講義総論』第1章)から体系がまとめられており、それに沿った主張もある)。また、学説の引用元を表示していない。近時出版された基本書の中では、判例の紹介・引用がやや少なめになっている。この点は賛否がわかれるところだろう。藤木弟子だが団藤=大塚ラインとは一線を画した洗練された行為無価値論をとる。各論も総論と同じく特異な独自説は少なめだが、新たな視点からの記述も多く参考になる。判例に批判的な箇所も多いが実用上支障はない。予備校ベースの行為無価値論とも比較的親和性が高いと思われるので、これから人気となるかもしれない。著者の文体は難解だが読み応えがある。総論が2冊あるが、記述の重複している箇所もあるので出版時期が新しく分厚い日評講義のほうがおすすめ。 〔その他〕 団藤重光『刑法綱要総論』『同・各論』創文社(1990/06・第3版,1990/06・第3版)……刑法実務で通説といえば、おおむね団藤説または大塚説を指す。重鎮の代表作。定型、形式を重視するシンプルですっきりした体系。法律論としての美しさには定評があるものの、共謀共同正犯を肯定したことで若干の綻びもみられる。半世紀前の初版の時点で体系そのものは完成しており、それがそのまま現在の刑法解釈学の基礎をなしているが、いかんせん古い。因果関係、不作為犯、実行行為性、共犯論など多くの分野において、近時さまざまに実質論を展開する判例・多数説との距離が開いており、団藤説は発展的に解消されつつある。改訂の可能性は低い。三島由紀夫ファンなら必読。 大塚仁『刑法概説・総論』『同・各論』有斐閣(2008/10・第4版,2005/12・第3版増補版)……刑法実務で通説といえば、おおむね団藤説または大塚説を指す。人格的行為論をはじめとして団藤説の多くを継承しているため、やや古い。とくに総論は最新の議論に対応し切れていない。共謀共同正犯否定説。論理の一貫性には定評がある。1冊本『刑法入門』(2003/09・第4版)は検察事務官の研修用テキストで口語体の良書。 福田平『刑法総論』『刑法各論』有斐閣(☆2011/10・第5版,2002/05・第3版増補)……著者は団藤門下にして、戦後昭和期の代表的な目的的行為論者であり、井田も私淑している。厳格責任説、共謀共同正犯否定説など。論理の一貫性においては師である団藤を上回るとも。曖昧さや倫理性を排し、基礎理論に根ざした福田説は現在でも説得力を持つ。団藤・大塚らの伝統的学説を立体的に理解するにも有用である。なお、各論は非常に簡潔な構成となっている。 川端博『刑法総論講義』『刑法各論講義』成文堂(2006/02・第2版,2007/03)……二元的厳格責任説(正当化事情の錯誤において違法性阻却の余地を認める立場)。中・上級者向けの論点本『集中講義刑法総論・各論』成文堂(1997/06・第2版,1999/07)、1冊本『刑法』放送大学(2005/02)、『刑法総論(新・論点講義シリーズ)』弘文堂(2008/09)。その他著作多数。『刑法総論講義』は最新判例がほとんど掲載されておらず、最新の論点にもあまり触れられていないが、基礎的な理論や論点については詳細かつ丁寧な説明がなされている。 藤木英雄『刑法講義・総論』『同・各論』弘文堂(1975/11,1976/12、OD版2003/10)……団藤門下の夭折の天才。可罰的違法性論、新々過失論、誤想防衛の違法性阻却、実質的正犯概念など、現在の学説にも示唆を与える啓発的内容が特徴だが、その理論体系に師匠ほどの緻密さはないと言われている。入門書として、板倉宏との共著『刑法案内1・2』勁草書房(2011/01)が最近復刊されたが、既に克服された学説がそのまま掲載されているだけなので現時点で読むには物足りない。時機に後れた復刊と評さざるを得ない。 斎藤信治『刑法総論』『刑法各論』有斐閣(2008/05・第6版,2009/03・第3版)……学説紹介が詳細。巻末にユニークな設例つき。総論では「社会心理的衝撃性」という特殊な用語を用いて考える。 板倉宏『刑法総論』『刑法各論』勁草書房(2007/04・補訂版,2004/06)……判例を重視した学説。1冊本『刑法』有斐閣プリマ(2008/02・第5版)もある。 小林充『刑法』立花書房(2007/04・第3版)……元刑事裁判官による1冊本。自説僅少。判例の考え方を簡潔に説明。 中森喜彦『刑法各論』有斐閣(2011/05・第3版)……各論のみだが内容には定評がある。長らく2版から改訂されていなかったが昨年ようやく改訂。横書きになり、よりコンパクトになったが内容は最新の状況をフォローしているとは言いがたい。 佐久間修『刑法総論』『刑法各論』成文堂(2009/08,2006/09)……大塚弟子。いわゆる団藤=大塚ラインの系統。改訂により文章の読みにくさはかなり改善されたが、結果無価値からの批判に対する目新しい再反論はあまりみられない。 大谷實『刑法総論』『刑法各論』成文堂(2006/04・第3版,2007/04・第3版)……通称「薄いほう」。上記の本よりも大谷説を理解するのに向いているとの声あり。 木村龜二著・阿部純二増補『刑法総論』有斐閣(1978/04・増補版)……名著。目的的行為論の古典。古いが阿部純二『刑法総論』日本評論社(1997/11)でフォローすれば使えなくはない。 《結果無価値》 ☆山口厚『刑法』有斐閣(2011/09・第2版)……平野門下。1冊本。通称「青本」。法科大学院未修者、法学部初学者を念頭に、判例および全ての学説の前提となっている通説の解説を主眼とした教科書である。刑法の第一人者によるこのような教科書ということで、初版の頃から本書をメインとして利用する法科大学院生は多い。第2版のはしがきでは、山口教授自身が刑事系主任調査委員とし関わった「法科大学院コアカリキュラム」案件を参照しながら本書を読むように推奨しており、以後もロー生向けという傾向に変わりはないだろう。特に結果無価値を採るロー生の事実上の国定教科書に近い存在ともいえる。自説は控えめで、本書ではどれが山口説かは明かされないが、結果無価値で一貫しており、また広く浅い掘り下げのために山口説を理解していないと正確な文意は理解できないという声もある。入門書として『刑法入門』岩波新書(2008/06) 西田典之『刑法総論』『刑法各論』弘文堂(2010/03・第2版,2012/03・第6版)……平野門下。総論の体系は平野説に比較的忠実。各論は分かりやすさとバランスの良さに定評がある。とりわけ各論は、判例解説や論文の中で代表的見解として引用される回数が非常に多く、プロから厚く信頼されているという証拠であるから、学生にとっても間違いのない一冊である。ただし、総論で西田を使わない場合、食い合わせに注意すべきこと(とくに身分犯の共犯等)は当然である。なお、総論第2版では、刑罰論に関する記述が新たに追加された。結論の妥当性や実務で使える議論であることを強く志向しているため、使い勝手がよく、受験生にとって最もメジャーな体系書であろう。 山口厚『刑法総論』『刑法各論』有斐閣(2007/04・第2版,2010/03・第2版)……現在の東大を代表する結果無価値論。総論は、薄いなかに正犯性等の従来の教科書レベルでカバーされなかった議論を載せた。それ故従来の議論を知らずに1冊目として勉強するのは困難。また第2版で改説部分多数。各論は、厚くなってしまっているが総論より読みやすく判例を元にした分析も丁寧で、山口説を採らなくても辞書的に利用する価値あり。 佐伯仁志「論点講座・刑法総論の考え方・楽しみ方(1)~(19)」佐伯連載(法学教室連載・283号~306号)……平野門下。総論の殆どの論点を解説。故意過失を責任要素として構成要件に含む3分説をとり、西田・山口よりなじみやすい体系。因果関係論、不作為犯論、正当防衛論、被害者の同意論は著者の論文のダイジェスト版ともいうべき内容となっている。とくに不作為犯論と正当防衛論は試験対策に有用。※法教355号(2010年4月号)から各論の連載中。 前田雅英『刑法総論講義』『刑法各論講義』東京大学出版会(☆2011/03・第5版,2012/01・第5版)……平野門下。実質的犯罪論という独自の立場から書かれている。他の学説と比較して考えると混乱するおそれ大のため、前田説のつまみ食いは危険。旧試験委員時代は受験生の間で覇権を築いていたが、近時急速にシェアを落としている。 〔その他〕 平野龍一『刑法総論I・II』有斐閣(1975/06,1984/01、OD版2004/08)……法益侵害説中興の祖。平野体系はいわゆる結果無価値論の中でもスマートで理解しやすく、西田や山口にとっつきにくさを感じる人には現在でもお勧めできる。『刑法概説』東京大学出版会(1977/03)は簡にして要を得た、今もなお参照に値する1冊本。かなり高度な議論を前提とした記述になっているので、ある程度勉強してから読み返すとなお有意義。 齋野彦弥『基本講義刑法総論』新世社(2007/11)……東大出身者だが大学院がケンブリッジなので団藤・平野門下ではない。学部時代の刑法教授は内藤。実行行為概念を否定する、という点では山口の説に近く結果無価値と親和性が高い。本人は「行為無価値と結果無価値の対立」として問題を扱うことを党派刑法学であるとして拒否する。解釈論の結論を導くにあたって、最初に刷り込まれた立場から個別解釈論を決定するのは自分で考えることを放棄するもの、だとする。このような立場ではあるが、決して独自説の主張を強調するわけではなく、初学者の理解を目指すため判例・通説を厚く扱っている。 堀内捷三『刑法総論』『刑法各論』有斐閣(2004/04・第2版,2003/11)……平野門下。総論・各論あり。評価待ち。 林幹人『刑法総論』『刑法各論』東京大学出版会(2008/09・第2版,2007/10・第2版)……平野門下。著者は財産犯の研究から出発し、財産犯の第一人者といえる。ということで各論の教科書は使い勝手がよいようにも思えるのだが、非常に簡潔な記述となっているため、その意味内容を正確に把握するためには著者の論文を読む必要がある。そのため、そこまで勉強している人にとっては便宜ではあるものの、教科書だけ読んで林説を理解しようというのは無理がある。総論は評価待ち。 内藤謙『刑法講義 総論 上・中・下1・下2』有斐閣(1983/03~2002/10)……団藤弟子だが徹底した結果無価値論者。山口説が過激すぎるという人におすすめ。1冊本として『刑法原論』岩波書店(1997/10) 町野朔『刑法総論講義案1』信山社(1995/10・第2版)……平野門下。未完。入門書『プレップ刑法』弘文堂(2004/04・第3版) 木村光江『刑法』東京大学出版会(2010/03・第3版)……前田門下。1冊本。前田好き向け。増刷ごとに一部改訂されている。 山中敬一『刑法総論』『刑法各論』成文堂(2008/03・第2版,2009/03・第2版)……結果無価値+危険無価値によって違法性を判断(結果無価値論に近いが、一元的結果無価値論ではない)。客観的帰属論を全面的に展開。共犯はいわゆる関西共犯論。大作。ロースクール向け教科書として『ロースクール講義・刑法総論』成文堂(2005/04)、『刑法概説I・II』成文堂(2008/10)。 中山研一『口述刑法総論』『同・各論』成文堂(2007/07・新訂補訂2版,2006/04・補訂2版)……関西結果無価値。『刑法総論』成文堂(1982/10)は名著。 浅田和茂『刑法総論』成文堂(2007/03・補正版)……関西結果無価値。学説は少数説が多いが、内容は原理原則を重視する理論派で、背景知識もしっかり書かれている。本格的体系書。 松宮孝明『刑法総論講義』『刑法各論講義』成文堂(2009/03・第4版,2008/03・第2版)……読みやすいが、理論的にかなり突っ込んでいるため、内容は難解。ドイツのヤコブスの説に基づいた見解が多い。著者の研究成果が現れており、そもそもドイツではどのように理解されていたかなどを記述するが、そこは言わずもがな試験に必要ではない。基本書でドイツの刑法学の状況を確認したいならこの本をおいて他の選択はない。松宮説を理解するには、『レヴィジオン刑法I-III』成文堂(1997/11-2009/06)の松宮執筆(発言)部分を用いるのが吉。ただし新司のレベルをはるかに超えていることに注意。 大越義久『刑法総論』『刑法各論』有斐閣S(2007/03・第4版,2007/03・第3版)……結果無価値を端的に解説。薄すぎるとの評。Sシリーズ。 曽根威彦『刑法総論』『刑法各論』弘文堂(2008/04・第4版,2008/09・第4版)……独自説をあっさりとした記述で流すことがあるので注意。演習書として『刑法の重要問題 総論、各論』成文堂(2005/03,2006/03・いずれも第2版)、松原芳博との共著『重要課題刑法総論、同各論』成文堂(2008/03)。 大塚裕史『刑法総論の思考方法』『刑法各論の思考方法』(2008/11・新版補訂版,2010/12・第3版)……著者は学者だが予備校での指導経験あり。大谷・前田がメジャーな受験生説だった時代(平成10年台前半頃)に、それらに親和的な内容の副読本として読まれていた。現在では大谷・前田の受験生シェアは低下しているものの、刑法が苦手な場合になお有用。 《共著》 伊藤渉・小林憲太郎・鎮目征樹・成瀬幸典・安田拓人、齊藤彰子・島田聡一郎『アクチュアル刑法総論』『同・各論』弘文堂(2005/04,2007/04)……主に山口・西田弟子と中森弟子との若手有望学者による共著。刑法学理論の最先端を著述している。総論は行為無価値にたつ成瀬・安田により、最近の行為無価値論的に仕上がっているものの、他の結果無価値の筆者との関係でチグハグ感が残る。基本概念・基本判例より新しい判例・学説の展開に重点が置かれている。リーガルクエストとかぶる部分はコピペになっている。齊藤と島田は各論のみ執筆。使い勝手の良いところだけつまみ食いで使うのがベスト(安田の責任論など)。内容はかなり深いところにまで突っ込んでおり現代の刑法学の到達点と言っても過言ではない。リークエよりやや薄めで脚注が付いているのでレポートなどにも活用しやすい。 今井猛嘉・小林憲太郎・島田聡一郎・橋爪隆『リーガルクエスト刑法総論、同各論』有斐閣(2009/01,2007/04)……西田・山口門下による共著。したがって、立場のばらつきは少ない。最新の議論までコンパクトにまとまっている。ただし,今井執筆部分は微妙。総論で小林ががんばりすぎているところも。共犯論や罪数論(島田)は秀逸で分かりやすい。各論は西田・山口をコンパクトに整理した感じになっているので、こちらも案外使い勝手がいい。 町野=中森『刑法1・2』有斐閣アルマ(2003/04・第2版)……内容的に中途半端で共著の悪い面がでてしまっている。 高橋則夫他『法科大学院テキスト刑法総論』『同・刑法各論』日本評論社(2007/10・第2版,2008/04)……行為無価値論者によるテキスト。総論はちぐはぐ感が否めないが、各論はよくまとまっており、論点ごとの判例・学説カタログとして使い勝手が良い。 大谷實編『法学講義刑法1総論』悠々社(2007/04)……行為無価値論者によるテキスト。従来の教科書から一歩前へ進めた議論を紹介しており、ちょうどリークエに対応する1冊。各論は未刊。 松宮孝明編『ハイブリッド刑法 総論、各論』法律文化社(2009/01)……関西刑法読書会のメンバーによるテキスト。といっても関西結果無価値論の主張は控えめで、最新の論点にも言及している。 佐久間修・橋本正博・上嶌一高『刑法基本講義-総論・各論』有斐閣(2009/04)……1冊本。「いわゆる」通説・判例ベースの体系だが、佐久間・橋本(行為無価値論者)執筆部分と上嶌(結果無価値論者)執筆部分とにズレがある。 葛原力三・塩見淳・橋田久・安田拓人『テキストブック刑法総論』有斐閣(2009/07)……関西系学者による比較的初学者向けのテキスト。京大刑法総論とも言うべき執筆陣(葛原のみ山中門下、葛原以外は中森門下)。葛原(結果無価値)が因果関係・主観的構成要件・共犯、塩見(行為無価値)が客観的構成要件・未遂犯・罪数と立場が現れる部分を異なる論者が執筆しているためやや一貫性に欠けるが、共著故の欠点である。学説検討がかなり詳しく最先端の議論にまでフォローしているが、学説相互の批判に欠ける。この点はリーガルクエストやアクチュアルに軍配が上がる。 生田勝義・上田寛・名和鐵郎・内田博文『刑法各論講義』有斐閣(2010年5月)……学部向けの教科書。総論はない。 〔コンメンタール〕 西田典之・山口厚・佐伯仁志『注釈刑法 第1-3巻』有斐閣(2010年12月-)……旧版に比べ、大幅にスリム化された。理由として、(1)読者対象に法科大学院生や学部学生をも考慮に入れたこと、(2)原則として戦後の重要な判例・裁判例のみとりあげる方針としたこと、(3)判例・裁判例の引用を極力控えたこと(はしがき)、があげられている。東大系結果無価値論の立場からの記述が多く、旧版に比べて量的にも内容的にも網羅性が損なわれている。 前田雅英・松本時夫・池田修・渡邉一弘・大谷直人・河村博編『条解 刑法』弘文堂(2007/12・第2版)……実務家向けのコンパクトな注釈書。執筆者はほぼ全て実務家で占められている。文字が大きく余白も多いため他の条解シリーズに比べ情報量がやや少ない。 阿部純二編『基本法コンメンタール 刑法』日本評論社(2007/05・第3版)……情報量は意外に多い。こちらは研究者中心の執筆となっているため、理論的な面については条解より詳しい。安い。 伊東研祐・松宮孝明編『学習コンメンタール 刑法』日本評論社(2007/04)……存在意義が良くわからない本。基本法コンメンタールより400円安いが、内容は薄い上に独自説も多くかなり劣る。 〔判例集〕 芝原=西田=山口『刑法判例百選I・II』有斐閣(2008/02,2008/03・第6版)……解説付き判例集の筆頭。百選に掲載されているということが、当該判例の重要度を示すメルクマールになるので、まずは百選から頭に入れていくのが無難と言えば無難。ただし、解説は玉石混淆(判例の解説でなく、論点解説をしているようなものも散見される)。 西田=山口=佐伯『判例刑法総論』『同・各論』有斐閣(2009/03・第5版)……こちらは解説なし、判例のみ。下級審裁判例まで網羅しており、総論・各論を合わせると収録数は1000件を超える。西田刑法を使用するならとりわけ便利。西田刑法を利用しない場合でも、解説は一切不要だと考える学生はこちらを選択するべきだろう。山口青本第2版でも本書の該当番号が引用されるようになった。刑事事実認定重要判決50選と併せれば、ほぼ基本書として使える。 前田雅英『最新重要判例250 刑法』弘文堂(2009/03・第7版)……274判例を収録。二色刷り。コンパクトに多くの判例を解説している。但し、自説に沿う形で判例を取り上げ、解釈する傾向があるので、前田先生の基本書を使用している人以外が使用するのはやや危険。 大谷実編『判例講義刑法1総論、2各論』悠々社(2003/12)……大谷門下による判例集。 山口厚『新判例から見た刑法』有斐閣(2008/10・第2版)……最近の判例を題材にした解説。山口説に立たなくても、鋭い問題意識や分析は、判例の重要性や出題可能性と相俟って一読の価値がある。 山口厚『基本判例に学ぶ刑法総論』『同各論』成文堂(2010/06,2011/10)……判例を素材に重要論点を平易に解説。書下ろし。各論は評価待ち。 成瀬幸典・安田拓人編『判例プラクティス刑法I』、成瀬 幸典・安田 拓人・島田聡一郎編『同Ⅱ』信山社(2010/01,2011秋予定)……Ⅰは総論。Ⅱは各論。Ⅰの収録判例は444件。1ページに事案・争点・判旨・解説と盛り込み過ぎの感が。若手から中堅の学者が、特定の分野の複数の判例の解説を執筆している。 井田良・城下裕二編『刑法総論判例インデックス』商事法務(2011/09)…… 〔その他読み物〕 山口厚=佐伯仁志=井田良『理論刑法学の最前線1・2』岩波書店(2001/09・2006/05)……現在の刑法学をリードする三人の論文集。決まったテーマごとに一人が論文を執筆し、残りの二人がその論文を批評するという形式。佐伯執筆部分は連載と合わせると面白い。 演習書 井田良=田口守一=植村立郎=河村博『事例研究刑事法1』(2010/09)……刑法の最重要論点について、現役の裁判官・検察官らを中心とした豪華執筆陣が明快かつ縦横無尽に解説。設問の数は総論8問・各論8問と少なめだが、各設問の末尾の関連問題まで潰せばかなり広範囲の論点をカバーすることができる。主要な判例・学説の対立のみならず、先例的価値の大きな判例についてはそれが掲げる具体的な考慮要素にも常に言及しており、法律論は勿論、あてはめを鍛えるのにも最適である(実務家があてはめに関して詳細な解説を行っている点において、他の演習書と一線を画する。)。 井田良=佐伯仁志=橋爪隆=安田拓人『刑法事例演習教材』(2009/12)……見ての通りの第一線執筆陣による新司を意識した長文事例問題集。独習することができる程度の解説がある(こちらの解説はマニアックではない)うえに、巻末には事項索引と判例索引までついている。設例は合計で40個。そのひとつひとつに遊び心がこめられており、学生を飽きさせない。なお、あてはめの問題は基本的にスルーしているので、別途補完する必要がある。また、解説のボリュームは小さく、その理論水準もかなり抑えられている(相応に高度な論点が問題に含まれているのにほとんど言及がなかったり多少匂わせるにとどまったりする)ので、要注意である。 佐久間修=高橋則夫=松澤伸=安田拓人『Law Practice 刑法』(2009/03)……総論・各論の全範囲から基本的な問題を60問ほど。問題はいずれも事例問題ではあるが、事案の分析・処理が求められるようなものではなく、実質的に1行問題に近いものも散見される。はしがきにある通り、学部~ロースクール1年生向け。司法試験対策用の演習書ではない。 ☆島田聡一郎=小林憲太郎『事例から刑法を考える』有斐閣(2011/04・第2版)……法教連載を書籍化した事例問題集。問題文は長めだが、司法試験ほどではない。全22問。第2版からは、初版において受験生からの評判が悪かった記述が削除されたほか、レイアウトも調整されかなり読みやすくなっている。答案作成を意識した実戦的なアドバイスも豊富に盛り込まれており、司法試験対策の演習書としての完成度は非常に高い。ただし難易度はやや高めか。 川端博『事例式演習教室 刑法』(2009/09・第2版)……22年ぶりに改訂された短文の問題集。「事例式」とは銘打っているものの、旧司500人時代の本が元になっているため、事例は短い。論点整理には有益。 船山泰範『司法試験論文本試験過去問 刑法』辰巳法律研究所(2004/05・新版補訂版)……旧司法試験の過去問集。船山教授の解説講義を書籍化。問題解説、受験生答案検討、教授監修答案からなる。平成1-15年度の問題30問、昭和の問題13問の全43問。絶版だったがオンデマンドで復刊された。少数説が多い。 山口厚『問題探究 刑法総論・各論』有斐閣(1998/03,1999/12)……山口説による演習本。その後改説している箇所があるので注意。 佐久間修『新演習講義刑法』法学書院(2009/08)……旧試対策問題集だった旧著の改訂版。評価待ち。 中森=塩見淳『ケースブック刑法』有斐閣(2011/04)……京大系。設問は判例分析よりも理論面や学説を問うものが多い。2版では総論・各論まとめて一分冊になった。はしがきには「読者にとっての利便性もましたのではないか」とされているが、重いので逆効果。 大塚仁・佐藤文哉編『新実例刑法(総論)』青林書院(2001/02)……刑法の論点本。すべて実務家(ほとんどは現職の刑事裁判官)が執筆している。イメージ的には、論点ごとの重要判例の調査官解説をほどよく要約したようなもの。したがって、必ずしも斬新な議論が紹介されている訳ではないが、団藤・大塚らの伝統的行為無価値論とは親和性が高いので、これらの本を使用する者であれば、参考書として座右に置くのも良いだろう。 ☆池田修・金山薫編『新実例刑法(各論)』青林書院(2011/06)……法科大学院を意識して、総論よりも事例はやや長め。こちらもすべて実務家(ほとんどが現職の刑事裁判官)が執筆している。百選改訂の折には新たに選出されることが予想される、直近の重要な最高裁判例をモデルにした事例が並んでおり、できるかぎり目を通しておきたい。 藤木英雄『刑法演習講座』立花書房(1984)…藤木説を理解するためには必読の演習書。 ☆林幹人『判例刑法』東京大学出版会(2011/09)......著者が『判例時報』などに掲載した判例研究を項目別にまとめ直し、各項目に複数の設問を付したもの。設問は「~(判例)は、どういう事実につきどういう判断を示したか」といった事案分析型のものが中心で、著者による判例研究は設問に取り組む際の参考にして欲しいとのこと。いわゆる「ケースブック」と異なり、そのままの判決文等が掲載されていないので、判例研究や設問で指示されている(一項目につき複数の判例が指示される)判例については、別途判例集なり裁判所HPからのダウンロードなりで入手した上で取り組む必要がある。 大塚裕史『ロースクール演習刑法』(2010/09)……司法試験を意識した長文事例問題集。もっとも、本番ほどの長さではない。論点相互が絡み合うような捻りのきいた問題は少なく、論点をただ単に足し合わせただけのような、もっぱらボリュームで勝負してくる問題の方がむしろ多い。問題文の表現にあいまいな部分も散見され、解説を読んで思わぬ論点落とし(?)に驚かされることも。合計で30問あるが、出題は過失犯や正当防衛にかなり偏っており、全範囲を網羅することができないのも弱点。
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刑法(明治40年4月24日法律第45号) 最終改正:平成28年6月3日法律第54号 ※各論分野は近年毎年のように改正有り。 ※1冊本とは総論と各論が両方載っている本のこと。 【基本書】 〔メジャー〕 <行為無価値論> 大塚裕史・十河太朗・塩谷毅・豊田兼彦『基本刑法I 総論・II 各論』日本評論社(☆2016年3月・第2版,2014年10月)……「判例説」の立場から書かれた教科書。判例の立場を支持した上で、判例理論を内在的に解説することに主眼が置かれており、学説対立については試験対策的観点からみて必要な範囲で述べるに留められている。いわゆる「学者の書いた予備校本」といった趣。共著者の一人である大塚は、本書を学説から出発する「理論刑法学」ではなく、判例実務から出発する「実務刑法学」の視点に立ったものであると表現している(法学セミナー729号74頁参照)。大まかな構成としては、細かく何節にも分かれており、学説について説明した後、判例の立場を述べ、その判断要素などを最後にまとめるという形となっており、判例のエッセンスを抜き出して平易に解説することに関しては他の追随を許さない。具体的な叙述については、答案のように一つ一つどの段階の問題なのかを省略せずに明示しており、また重要性に応じてフォントサイズを変えるなど、初学者にも十分に配慮している。特に類書には見られない親切な点として、設例に対する学説のあてはめをきちんと行っていることが挙げられ、あてはめのやり方がわからないというような場合には有用であろう。また、コラムで試験対策上躓きやすいミスなども指摘されている。共犯の射程を唱えた十河執筆の共犯論は必読であるが、肝心の射程部分が少ないという声もある。なお、判例説という立場を採る以上は仕方のないことではあるが、体系的な一貫性や理論的な精緻さといった学術的な面でやや心許ないことは否めない。もっとも、そうした点は司法試験(特に論文)において問題になるほどのレベルではないため、専ら試験対策的な観点から見れば、本書は極めて有用であると言えよう。各論に関しては、定義編と論点編が分離されており、また論点編は収録事例から論点を検討する方式になっており、司法試験対策として有用なものとなっている。特に大塚と十河執筆の財産犯は判例の考え方を平易な文体で分かりやすく解説しており、一読の価値がある。A5判、564頁・596頁。 裁判所職員総合研修所監修『刑法総論講義案』司法協会(☆2016年6月・4訂版)……通称「講義案」。伝統的行為無価値論。はしがきにあるように、本書は元大阪高裁判事の杉田宗久氏(2013年に他界)による書記官への講義レジュメが元になっている。裁判官の手によって裁判所書記官の研修用テキストとして書かれたものということもあって、学説の対立など理論的に高度な部分には深く立ち入らず、判例と伝統的通説に基づいて淡々とまとめられている。そのため、総論における激しい学説対立に辟易した受験生からは高い支持を集めており、高度な学説対立が問われない判例・実務重視の新司法試験の出題傾向とも相まって、総論の基本書の中では高いシェアを誇っている。理論刑法学を割り切るのであれば、選択肢としては真っ先に本書があげられよう。4訂版は、3訂補訂版(2008年9月)以降の法改正に伴う修正が行われ、また、「危険の現実化」や退避義務論、中立的行為による幇助など近時の学説の展開を踏まえつつ、新たな判例が補充され、大幅な加筆修正が行われた。A5判、514頁。 井田良『講義刑法学・総論』『同・各論』有斐閣(2008年12月・7刷(2014年)時補訂,☆[2016年12月出版予定])……理論的な曖昧さが指摘されてきた伝統的行為無価値論とは一線を画する、新しい行為無価値論。もともと井田説は行為無価値論の中でも理論的に高度で独自色が強いものである(基礎理論では消極的構成要件要素の理論、責任故意・責任過失の否定など。解釈論では因果関係の規範的判断、緊急行為での有責性考慮、緊急避難の類型論など)。しかし、本書ではそうしたアクは前面に出ておらず、あくまで学生向けの概説書に徹しており、判例・通説等の説明はきちんとなされている。自説を主張する場合もその旨は明記しているし、なぜそのように考えるべきなのかも説明されているから、読み手を惑わす心配もない。叙述の論理は非常に明快であり、社会倫理規範や社会的相当性というような曖昧で道徳的な語を使うことはない。そして、論点・学説も豊富に取り上げており、その解釈は非常に秀逸である。総じて、行為無価値論の基本書としては、現在最良のもののひとつと言えよう。なお、各論は現在原稿の執筆を終え、校正作業中とのことである(各論出版後に総論の改訂作業に入る旨も公表している)。A5判、622頁。 高橋則夫『刑法総論』『刑法各論』成文堂(☆2016年10月・第3版,2014年10月・第2版)……西原門下。新しい行為無価値。総論は、客観的帰属論をはじめとする最先端の学説や問題意識が随所に織り交ぜられており、それらが著者の深い法哲学の素養とあいまって、行為無価値論の最先端を示すものに仕上がっている。特に客観的帰属論に関する記述は秀逸であり、明確な判断基準が示されているため論証化しやすく、大いに参考となるであろう。行為規範と制裁規範という独自の体系をとるなど、筆者のアクが前面に出ているものの、結論はおおむね判例・通説に近い。もっとも、結論よりも論証過程が重要である試験においてこの点で使いづらいともいえる。判決文の紹介に多く紙面を割いているほか、具体的事案の処理に際しての思考過程も適宜示されており、受験生にも使いやすい本になっているが、先述したように、他の基本書に比べやや独自色が強いため、中上級者向けであるとの声が多い。いわゆる総論の総論の部分だけでも50頁超にわたるなど、近年では珍しい真剣勝負の理論書である。総論・各論とも、判例解説が非常に充実している。A5判、600頁・772頁。 <結果無価値論> 山口厚『刑法総論』『刑法各論』有斐閣(☆2016年3月・第3版,2012年1月・第2版補訂版)……平野門下。総論・各論ともに非常にレベルが高く、司法試験合格レベルを想定するならばややオーバースペックとも思われるが、理論的な曖昧さを嫌う学生にとっては、安易なマジックワードなどを用いることなく結果無価値の最先端を示した本書は好適である。総論は、基礎的な事項を大胆に省いているため体系書としては薄く、そのうえ、正犯性等の従来の教科書レベルでカバーされなかった議論を載せているため、あらかじめ従前の議論を学ばずして本書を読みこなすことは困難であろう。第2版では大幅な改説がなされ、第3版においても複数箇所で改説がなされているが、いずれも判例の立場に沿う方向での改説となっており、初版に見られた学説の過激さは次第に鳴りを潜め、版を改めるごとに試験的には使いやすくなっている。一方の各論は、総論に比べてかなりの厚さであるが、その分丁寧な解説で読みやすくなっている。また、判例を元にした緻密な分析が特徴的であり、総論で山口説以外を採る場合であっても(山口以外の結果無価値論はもちろんのこと、行為無価値論であっても)、辞書的に利用する価値は大いにあるだろう。山口自身も総論より各論の教科書の完成度に自信があるとコメントしている。A5判、428頁・690頁。 山口厚『刑法』有斐閣(2015年2月・第3版)……1冊本。通称「青本」。山口は上記の二分冊の基本書をすでに出版しているが、本書は法科大学院の開設に合わせて未修者(もちろん、その他の初学者が対象外というわけではない)を念頭に、判例および全ての学説の前提となっている通説の解説を主眼とした教科書である。刑法の第一人者が判例と通説を平易に解説した教科書ということで、初版の頃から本書をメインとして利用する法科大学院生は多い。第2版のはしがきでは、山口自身が刑事系主任調査委員とし関わった「法科大学院コアカリキュラム」案件を参照しながら本書を読むように推奨しており、以後もロー生向けという傾向に変わりはないだろう。行為無価値論に立つ学者からも未修者コースの教科書として本書が指定されることが多いが、特に結果無価値論を採るロー生にとっては事実上の国定教科書に近い存在ともいえる。上記の二分冊の体系書に比べると、判例・通説の解説を主眼とする本書の性質上、自説はかなり控えめになっているが、一部に自説への誘導を図ろうとしていると思しき記述も見受けられる。また、広く浅い掘り下げのために、芦部憲法のように行間を読むことが要求されることから、初学者には正確な文意は理解できないという声もある。なお、本書は前述のように、本来は初学者を念頭に置かれて書かれたものであるが、実際には、刑法全体を学んだ後のまとめ用として用いる受験生も多く、特に結果無価値論に立つ受験生が、本書をまとめ用として試験直前の復習に使用するのは効率的であろう。A5判、548頁。入門書として『刑法入門』岩波新書(2008年6月)。 西田典之『刑法総論(法律学講座双書)』『刑法各論(同)』弘文堂(2010年3月・第2版,2012年3月・第6版)……平野門下。著者は2013年に急逝。各論はその分かりやすさとバランスの良さに定評がある。また、結論の妥当性や実務で使える議論であることを強く志向していることなど、その使い勝手の良さから、行為無価値・結果無価値を問わず受験生の間で高いシェアを誇る最もメジャーな体系書となっている。ただし、西田は少数説を採ることも少なくなく、特に総論で西田を使わない場合は注意すべきである(身分犯の共犯等)。判例解説や論文の中で代表的見解として引用される回数も多く、学者・実務家からの信頼も厚い一冊であることがうかがえる。一方、総論は、各論とは異なり、学生有志によって録音された著者の東大での講義をテープ起こししたもの(いわゆるシケプリ)が元になっているため、講義録的な要素が強く残っており、各論とは大きく趣が異なっている。洗練された各論と比べると記述は冗長であり、ページ数の割にその内容は薄く、また、体系的な整理も各論ほど丁寧ではない。以上のように、各論と比べれば完成度という面では大きく劣るものの、講義テープをもとにしたものというだけあって、ところどころクスッとさせるような説明もあることから、読み手を飽きさせないだろう。体系は平野説に比較的忠実であり、山口に比べて全体的に穏当な見解にまとまっている。なお、総論第2版では、刑罰論に関する記述が新たに追加された。A5判、476頁・560頁。 今井猛嘉・小林憲太郎・島田聡一郎・橋爪隆『刑法総論(LEGAL QUEST)』『刑法各論(同)』有斐閣(2012年11月・第2版,2013年4月・第2版)……伝統的論点から最新の議論までコンパクトにまとまっている。共著ではもっとも人気のある一冊。西田・山口門下による共著であるため、立場のばらつきは少ない。しかしながら、今井執筆部分が微妙であるとの声や、総論で小林が暴走しすぎているところがある(特に構成要件論は非常に難解)等、共著の弊害がやや感じられるものとなっている。橋爪執筆の正当防衛論、島田執筆の共犯論及び罪数論は秀逸で分かりやすい。各論は西田・山口をコンパクトに整理したような趣になっているため、こちらは案外使い勝手がいい。A5判、500頁・516頁。 〔その他〕 <行為無価値論> 大谷實『刑法講義総論』『同・各論』成文堂(2012年5月・新版第4版,2015年9月・新版第4版補訂版)……行為無価値論を採る受験生のかつての定番書。近年は使用者を減らしつつある。現在も改訂は重ねられているが、著者高齢のためか最新の議論に対応しきれておらず、古さを感じさせる部分も見受けられる。大谷説は改説が比較的多いことで知られ、特に総論についてその体系的一貫性にしばしば疑問が呈されている。もっともその点は『基本刑法』同様、試験的にはそれほど問題となるものではない。大谷説は「社会的相当性」という判断基準を多用する傾向にあると言われ、これに対しては「曖昧で論理的な理由づけに欠ける」「リーガルモラリズムである」との批判も多く向けられている。しかし、大谷は、刑法の窮極的な目的を法益保護を通じた社会秩序の維持という点に求め、倫理的価値基準を刑法的評価から排除できないという考えのもとに、あえてそうした基準を用いていることに留意されたい。ちなみに、そうした大谷説を用いれば複雑な論証無しに結論を導くことができるとする考えが一部で持たれているが、実際に総論において「社会的相当性」を用いて「荒っぽく」解決が図られているところは正当業務行為と自招防衛程度であるため、マジックワード的な解決を図るものでないことにも留意されたい。各論については、大谷が実務との関連を意識していることから(はしがきより)、比較的判例・通説寄りであり、結論も穏当なものが多く、記述も整理が行き届いていることから、非常に使いやすい。収録判例数も多いことも評価できる。西田各論がどうも肌が合わないという人は大谷各論を用いるのも悪くない選択肢であろう。A5判、632頁・720頁。 大谷實『刑法総論』『刑法各論』成文堂(2013年11月・第4版,2014年10月・第4版)……通称「薄い方」。上記の本を判例・通説を中心にコンパクトにまとめた、通読向きの概説書。量として必要十分なまとめ本に仕上がっており、試験前の総まとめに向く。『刑法講義』より大谷説を理解しやすいとの声あり。A5判、335頁・439頁。 中森喜彦『刑法各論』有斐閣(2015年10月・第4版)……著者は関西における行為無価値論の第一人者。本書は西田各論などの陰に隠れがちであり、あまりシェアは高くないものの、その内容には定評がある。他の基本書に比べて非常にコンパクトにまとめられており、また、基本的に穏当な見解が採られながらも、論点への鋭い踏み込みもあるなど、まさしく「簡にして要を得た」という表現がふさわしい基本書となっている。なお、刑法総論は執筆しないことを著者自ら公言している。A5判、348頁。 井田良『刑法各論(新・論点講義シリーズ)』弘文堂(2013年4月・第2版)……本書は、初学者から中級者への橋渡しを目的として書かれたものであるため、普通の体系書であればごく簡単にしか言及されない、それぞれの犯罪類型に関する基礎的な事項について、初学者でも理解できるように図表を豊富に取り入れるなどして、かなり詳しく説明されている。もっとも、初学者から中級者への橋渡しと言っても、司法試験に対応できる水準は十分に確保されている。B5版、300頁。 木村龜二著・阿部純二増補『刑法総論』有斐閣(1978年4月・増補版)……名著。目的的行為論の古典。A5判、502頁。古いが阿部純二『刑法総論』日本評論社(1997年11月、B6判、320頁)でフォローすれば使えなくはない。 団藤重光『刑法綱要総論』『同・各論』創文社(1990年6月・第3版,1990年6月・第3版)……行為無価値論の重鎮による一冊。実務的影響力は今なお大きく、現在でも刑法実務で通説といえば、おおむね団藤説または大塚説を指す。定型、形式を重視するシンプルですっきりした体系。法律論としての美しさには定評があるものの、共謀共同正犯を肯定したことで若干の綻びもみられる。半世紀前の初版の時点で体系そのものは完成しており、それがそのまま現在の刑法解釈学の基礎をなしているが、いかんせん古い。因果関係、不作為犯、実行行為性、共犯論など多くの分野において、近時さまざまに実質論を展開する判例・多数説との距離が開いており、団藤説は発展的に解消されつつある。三島由紀夫ファンは必読。 藤木英雄『刑法講義・総論』『同・各論』弘文堂(1975年11月,1976年12月、OD版2003年10月)……団藤門下の夭折の天才。可罰的違法性論、新々過失論、誤想防衛の違法性阻却、実質的正犯概念など、現在の学説にも示唆を与える啓発的内容が特徴だが、その理論体系に師匠ほどの緻密さはないと言われている。A5判、458頁・466頁。入門書として、板倉宏との共著『刑法案内1・2』勁草書房(2011年1月)が最近復刊されたが、既に克服された学説がそのまま掲載されているだけなので現時点で読むには物足りない。時機に後れた復刊と評さざるを得ない。四六判、256頁・260頁。 大塚仁『刑法概説・総論』『同・各論』有斐閣(2008年10月・第4版,2005年12月・第3版増補版[改訂作業中])……刑法実務で通説といえば、おおむね団藤説または大塚説を指す。但し、論理的一貫性の観点から、共謀共同正犯否定説、不法領得の意思不要説など、実務通説と一部異なる見解を採る。人格的行為論をはじめとして団藤説の多くを継承しているため、やや古い。特に総論は最新の議論に対応し切れていない。論理の一貫性には定評がある。A5判、658頁・782頁。1冊本『刑法入門』(2003年9月・第4版[改訂作業中])は検察事務官の研修用テキストで口語体の良書。A5判、380頁。 福田平『刑法総論』『刑法各論』有斐閣(2011年10月・第5版,2002年5月・第3版増補)……団藤門下。著者は戦後昭和期の代表的な目的的行為論者であり、井田も私淑している。厳格責任説、共謀共同正犯否定説など。論理の一貫性においては師である団藤を上回るとも。曖昧さや倫理性を排し、基礎理論に根ざした福田説は現在でも説得力を持つ。団藤・大塚らの伝統的学説を立体的に理解するにも有用である。なお、各論は非常に簡潔な構成となっている。A5判、408頁・340頁。 川端博『刑法総論講義』『刑法各論講義』成文堂(2013年4月・第3版,2010年3月・第2版)……団藤門下。二元的厳格責任説(正当化事情の錯誤において違法性阻却の余地を認める立場)。『刑法総論講義』は、最新の論点にもあまり触れられていないが、基礎的な理論や論点については詳細かつ丁寧な説明がなされている。A5判、798頁・814頁。中・上級者向けの論点本『集中講義刑法総論・各論』成文堂(1997年6月・第2版,1999年7月、A5判、486頁・494頁)、1冊本『刑法』成文堂(2014年3月、A5判、428頁)は、放送大学テキストの改訂版。その他、『刑法総論(新・論点講義シリーズ)』弘文堂(2008年9月、B5判、288頁)、『レクチャー刑法総論』、『同各論』法学書院(総論:2005年7月・第2版、各論:2016年4月・第4版)等著作多数。 伊東研祐『刑法講義・総論(法セミ LAW CLASS シリーズ)』『同・各論(同)』日本評論社(2010年12月,2011年3月),『刑法総論(新法学ライブラリ 17)』新世社(2008年2月)……東大最後の行為無価値論者(夭折の天才)藤木英雄の弟子。著者曰く3冊とも未修者向け。著者の講義を聴講しない独習者にも理解できるよう著者の特異な独自説はあえて載せていない(もちろん自説主張がないわけではい。著者の法哲学見地(『講義総論』第1章)から体系がまとめられており、それに沿った主張もある)。また、学説の引用元を表示していない。近時出版された基本書の中では、判例の紹介・引用がやや少なめになっている。この点は賛否がわかれるところだろう。藤木弟子だが団藤=大塚ラインとは一線を画した洗練された行為無価値論をとる。各論も総論と同じく特異な独自説は少なめだが、新たな視点からの記述も多く参考になる。判例に批判的な箇所も多いが実用上支障はない。予備校ベースの行為無価値論とも比較的親和性が高いと思われる。著者の文体は非常に難解であり、容易に読み進められない(故に、使用者が少ないのだろうか?)が、一方、読み応えがあるという評価もある。レベルは日本評論社の方が幾分か高く踏み込んだ記述が多い。これに対し、新世社の総論は未習者、初学者向けであり記述はあっさりしている。自分のレベルに合わせて好みで選ぶと良い。A5判、480頁・488頁・448頁。 佐久間修『刑法総論』『刑法各論』成文堂(2009年8月,2012年9月・第2版)……大塚弟子。いわゆる団藤=大塚ラインの系統。改訂により文章の読みにくさはかなり改善されたが、結果無価値論からの批判に対する目新しい再反論はあまりみられない。A5判、516頁・512頁。他に『刑法総論の基礎と応用 -条文・学説・判例をつなぐ-』成文堂(2015年10月、A5版、410頁)がある。 斎藤信治『刑法総論』『刑法各論』有斐閣(2008年5月・第6版,2014年3月・第4版)……「社会心理的衝撃性」なる独特の概念を用いる。学説紹介が詳細。巻末にユニークな設例つき。A5判、470頁・488頁。 板倉宏『刑法総論』『刑法各論』勁草書房(2007年4月・補訂版,2004年6月)……判例を重視した学説。1冊本『刑法』有斐閣プリマ(2008年2月・第5版)もある。A5判、432頁・400頁。 小林充原著,植村立郎監修,園原敏彦改訂『刑法』立花書房(2015年4月・第4版)……著名な元刑事裁判官(元・仙台高裁長官)による1冊本。2013年に逝去。4版は3版(2007年4月)以降の関係法令・判例・学説等の進展を踏まえて、植村立郎監修のもと、現役判事の園原敏彦が改訂。実務経験の裏打ちをもとに判例の考え方を簡潔に説明。自説は少ない。A5判、512頁。 幕田英雄『捜査実例中心 刑法総論解説』東京法令出版(2015年4月・第2版)……元検事(元最高検刑事部長)が若手警察官向けに著した教科書。著者の言うところの実務通説である、いわゆる団藤=大塚ラインをベースに書かれている。具体的事案の処理を強く意識した内容となっており,司法修習生や司法試験受験生にとっても非常に有益な一冊になっている。ただし、理論的に誤っている部分も散見される点には注意されたい。第2版では、判例がアップデートされ、初版では言及されていなかった危険の現実化など最新の議論についてもフォローされた。A5判、792頁。 橋本正博『刑法総論(法学叢書)』『刑法各論(同)』新世社(2015年2月、☆2016年12月予定)……著者は福田門下。最近の問題意識に応接しながらも、全体的に安定感がある記述となっている。著者は「違法性とは実質的に全体としての法秩序に反することである、と解する規範違反説的考え方に基づく定義が基本的には妥当である。……社会的相当性からの逸脱が違法性の重要な部分を占める」と明言しており、師である福田博士の影響が見てとれる。また、結果無価値論と行為無価値・結果無価値二元論は「原則として排他的なものではない」と述べているが、試金石ともいうべき偶然防衛については「行為者に行為規範を与えることも考慮する行為無価値論の視点を含める以上、防衛の意思で行われるからこそ正当化が認められる」としている。共犯論は、著者の有名なモノグラフィー『「行為支配論」と正犯理論』有斐閣(2000年2月)の内容を踏襲したものとなっており、説明の仕方にはやや独自色が見られるが、結論自体は、現在の刑法学界の共通認識を踏み越えない穏当な所に収まるようになっている。なお、細かな解釈論については井田・講義、及び同・理論構造を参照させる場面が多いため、上記二冊が手元にあれば便利だろう。A5判、392頁・576頁。 <結果無価値論> 前田雅英『刑法総論講義』『刑法各論講義』東京大学出版会(2015年2月・第6版,2015年9月・第6版)……平野門下。結果無価値論を採る受験生のかつての定番書。前田説は、論理的な体系の構築よりも判例法理の抽出に重点を置いた学説である。規範・考慮要素がしっかり提示されているため論述に用いやすく、かつ判例と一致する結論を導きやすい。二色刷りで図表を多用するなど視覚的効果に富んでおり、記述も詳しいことから非常に理解しやすい。但し、平野門下だが行為無価値論者の藤木と同様の実質的犯罪論に基礎を置き、同門の山口や佐伯とは異なる独自の立場から書かれているため、他の学説と比較して考えると混乱するおそれが非常に大きく、前田説のつまみ食いは危険である。本書を利用するのであれば前田説と心中する覚悟が必要であろう。A5判、498頁・564頁。なお、前田説が前面に出ていない概説書としては『刑法の基礎・総論』有斐閣(1993年5月)がある。元々、法学教室連載を単行本化したものなので記述は東大出版会のものより中立的。久しく絶版だったがOD版で復刊。 木村光江『刑法』東京大学出版会(2010年3月・第3版)……前田門下。1冊本。前田好き向け。増刷ごとに一部改訂されている。A5判、592頁。 松原芳博『刑法総論(法セミ LAW CLASS シリーズ)』『刑法各論(同)』日本評論社(2013年3月、☆2016年3月)……曽根門下だが、行為を独立の犯罪要素としない3分体系をとり、構成要件については西田説と同様、違法構成要件→違法阻却事由→責任構成要件→責任阻却事由とする違法有責類型説を採用し、共同正犯論においては共同意思主体説を採用しないなど、その立場は平野門下の立場に近い。内容は高度であり、山口説や西田説をふまえて最新の論点(たとえば具体的法定的符合説における故意の個数)を盛り込みつつ、事例を用いて平易に解説している。『各論』は保護法益論などで理論的に詰められているものの、名誉毀損罪の真実性の錯誤についての故意阻却説、財産罪の保護法益についての本権説など、自説の落としどころとして疑問のある箇所が多々みられるが、学説を広く引用しているので調べもの用には適している。条文索引があるのは至便。A5判、490頁、666頁。 小林憲太郎『刑法総論(ライブラリ 現代の法律学)』新世社(2014年10月)……著者は西田門下の気鋭の中堅学者。本文は199頁(事項索引・判例索引含めて215頁)と、基本書としてはかなり薄い部類に入るが、最先端の理論刑法学の学問的成果がふんだんに盛り込まれている。著者の見解は「最終的には通説にほぼ近いところに落ち着くに至っ」ており、「学問的関心は『通説がなぜ通説であるのか』を理論的に明らかにする作業(以上、はしがき)」に移行しているとのこと。したがって、行為無価値対結果無価値に代表される過去の学説対立についての記述は最小限にとどめられており、通説および判例の説明に重点がおかれている。とはいうものの、実際には著者独自の主張(因果関係論、違法性阻却原理、過失論など)がかなり多く、かつその独特のレトリックと相俟って極めて難解である。レベル設定は「通説的な立場に基づいて著され、それを理解しさえすれば各種資格試験において最上位の答案を書けるような刑法総論の教科書のなかで、最もやさしい部類に属するもの(はしがき)」とされているとおり、主要な論点はほぼカバーしているが、その水準は並の(重厚な)体系書のレベルを優に超えており、著者の論文等を参照しなければ絶対にその意を理解できないのではないかと思われる箇所も少なくない。また、上述したように過去の学説(たとえば、形式的三分説、法確証の利益説、抽象的危険説など)はことごとく省略されている。よって、本書は「かなりの(=科目別順位一桁台を狙うレベルの)」上級者向けというべきである。本書を読んで理解困難であった箇所については後掲の判例時報連載を読むとよいだろう。A5判、224頁。 平野龍一『刑法総論I・II』有斐閣(1975年6月,1984年1月,OD版2004年8月)……法益侵害説中興の祖。日本の結果無価値論刑法学のバイブル的存在。平野体系はいわゆる結果無価値論の中でもスマートで理解しやすく、西田や山口にとっつきにくさを感じる人には現在でもお勧めできる。平野刑法学のエッセンスが抽出されたものとも言うべきなので、深く理解したい時は平野執筆の論文に当たった方がいい。A5判、208頁・232頁。『刑法概説』東京大学出版会(1977年3月)も簡にして要を得た、今もなお参照に値する1冊本。かなり高度な議論を前提とした記述になっているので、ある程度勉強してから読み返すとなお有意義。 町野朔『刑法総論講義案1』信山社(1995年10月・第2版)……平野門下。「もはや教科書のレベルを超え、きわめて優れた高度な学術書」とも評されている。未完。入門書『プレップ刑法』弘文堂(2004年4月・第3版)。 内藤謙『刑法講義 総論 上・中・下1・下2』有斐閣(1983年3月~2002年10月、OD版対応)……団藤弟子だが徹底した結果無価値論者(主観的違法要素否定説)。法教に長期連載された「基礎講座・刑法総論講義」を書籍化したもので4分冊、1502頁の大著。上(刑法の基礎理論、行為論、構成要件論)、中(違法性論)、下1(責任論)、下2(未遂犯論、共犯論、刑罰論)。各学説を詳細に検討しており調査目的に至便。A5判、308頁・454頁・492頁・306頁。1冊本として『刑法原論』岩波書店(1997年10月、A5判、236頁)。 齋野彦弥『基本講義刑法総論(ライブラリ 法学基本講義 12)』新世社(2007年11月)……東大出身者だが大学院がケンブリッジなので団藤・平野門下ではない。学部時代の刑法教授は内藤。実行行為概念を否定する、という点では山口の説に近く結果無価値論と親和性が高い。本人は「行為無価値論と結果無価値論の対立」として問題を扱うことを党派刑法学であるとして拒否する。解釈論の結論を導くにあたって、最初に刷り込まれた立場から個別解釈論を決定するのは自分で考えることを放棄するもの、だとする。このような立場ではあるが、決して独自説の主張を強調するわけではなく、初学者の理解を目指すため判例・通説を厚く扱っている。A5判、400頁。 堀内捷三『刑法総論』『刑法各論』有斐閣(2004年4月・第2版,2003年11月)……平野門下。A5判、420頁・410頁。 林幹人『刑法総論』『刑法各論』東京大学出版会(2008年9月・第2版,2007年10月・第2版)……平野門下。独自説満載。著者は財産犯の研究から出発し、財産犯の第一人者といえる。ということで各論の教科書は使い勝手がよいようにも思えるのだが、非常に簡潔な記述となっているため、その意味内容を正確に把握するためには著者の論文を読む必要がある。そのため、そこまで勉強している人にとっては便宜ではあるものの、教科書だけ読んで林説を理解しようというのは無理がある。総論は評価待ち。A5判、536頁・536頁。 山中敬一『刑法総論』『刑法各論』成文堂(2015年8月・第3版,2015年12月・第3版)……浩瀚な体系書。結果無価値+危険無価値によって違法性を判断(結果無価値論に近いが、一元的結果無価値論ではない)。客観的帰属論を全面的に展開。共犯はいわゆる関西共犯論。A5判、1224頁・944頁。ロースクール向け教科書として『ロースクール講義・刑法総論』成文堂(2005年4月、A5判、498頁)、『刑法概説I・II』成文堂(2008年10月、A5判、292頁・286頁)。 中山研一『新版 口述刑法総論』『同・各論』成文堂(2007年7月・新訂補訂2版,2014年9月・補訂3版)……関西結果無価値論。著者は2011年に逝去したが、各論は2014年に松宮孝明によって補訂。A5判、358頁・384頁。『刑法総論』成文堂(1982年10月、A5判、638頁)は名著。 浅田和茂『刑法総論』成文堂(2007年3月・補正版)……関西結果無価値論。少数説のオンパレード。内容は原理原則を重視する理論派で、背景知識もしっかり書かれている。本格的体系書。A5判、572頁。 松宮孝明『刑法総論講義』『刑法各論講義』成文堂(2009年3月・第4版,2016年3月・第4版)……理論的にかなり突っ込んでいるため内容は非常に高度かつ難解で、そのうえ少数説も多く、受験的には使いづらい。理論刑法学を究めたい刑法マニア向けの一冊。著者の研究成果がふんだんに盛り込まれており、ドイツや日本における学説の変遷や法律の改廃の歴史といった背景的知識を記述するなど、基本書でそういった理解を深めたいならこの本をおいて他に選択はないのであるが、そうした知識が司法試験合格に無用であるのは言うまでもないことである(ただし、本書が刑法”学”を学ぶための”教科書”として執筆されたことを意識せよ)。章末には演習問題と題した設問が付されているが、そのいずれもが理論面や体系面を問うものであり、あくまでも”刑法学”を意識した出来となっている。なお、松宮説としては、ドイツのヤコブスの説に基づいた見解を採ることが多い。A5判、406頁・554頁。こうした松宮説を理解するには、『レヴィジオン刑法I-III』成文堂(1997年11月-2009年6月)の松宮執筆(発言)部分を用いるのが吉。ただし、司法試験のレベルをはるかに超えていることに注意。 鈴木茂嗣『刑法総論』成文堂(2011年8月・第2版)……著者は京大系刑事訴訟法学の大家。二元的犯罪論を展開。著者の主張の大筋は、伝統的刑法学が陥っているとする認識論的犯罪論からの脱却であり、刑法学は単に「犯罪とはなにか」を究明する性質論を志向すべきであるというものである。そこでは、ドイツのベーリングによってもたらされた構成要件論を基軸とする性質論から認識論への転換を「失敗」であったとし、再度構成要件論以前の体系への再転換を図るべきであるとする著者の主張が述べられている。このため、従来の教科書とは構成を大きく異にしており、必然的に試験対策的観点からは本書は無用と言わざるを得ない(仮に鈴木説に依拠して答案を作成した場合でも、採点官が同説を知っているという保証はない)。従って、本書は専ら研究者や刑法マニアを読者として選ぶものだと言える。A5判、358頁。なお、鈴木説を簡潔に述べた最近の書(論文集)として『二元的犯罪論序説』成文堂(2015年12月)がある。『序説』という言葉で入門書的役割を期待しがちだが、内容的には刑法を一通り修めた者がその価値を理解できるレベルである。四六判、118頁。 大越義久『刑法総論』『刑法各論』有斐閣Sシリーズ(2012年12月・第5版,2012年12月・第4版)……結果無価値論の立場から刑法理論をコンパクトに解説。さすがにこれだけでは薄すぎるとの評があるも、1冊目としては適しているともいわれる。A5判、262頁・256頁。 曽根威彦『刑法総論』『刑法各論』弘文堂(2008年4月・第4版,2012年3月・第5版)……全体的に非常に簡潔な記述となっており、独自説もあっさりとした記述で流すことがあるので注意。A5判、324頁・356頁。演習書として『刑法の重要問題 総論』『同・各論』成文堂(2005年3月,2006年3月・いずれも第2版、A5判、412頁・412頁)、松原芳博との共編著『重要課題刑法総論』『同・各論』成文堂(2008年3月、A5判、276頁・286頁)、そして、曽根刑法学の集大成となる『刑法原論』成文堂(2016年4月、A5判、698頁)は1冊本ではなく、重厚な刑法総論の体系書(刑罰論は含まれない)。学説紹介がとりわけ詳しく、ところどころで少数説をとっているものの(共謀共同正犯否定説など)、通説や有力説も詳細に解説しているので調べ物用にも耐える。原論で重要な改説をしている箇所(構成要件的過失と責任過失との区別について、337頁)があるので注意。 日高義博『刑法総論』成文堂(2015年10月)……著者は不作為犯論の大家。理論的でアカデミックな本格派の体系書となっている。本書の最大の特色は「跛行的結果反価値論」の主張にある。跛行的結果反価値論とは「法益侵害説を土台にした結果反価値論を出発点にしているが、二次的に違法性を減少・滅失させる方向で行為反価値性の判断を機能させようとするものである」(203頁)。例えば、可罰的違法性では、絶対的軽微は「結果反価値の減少により可罰的違法性が欠ける」が、相対的軽微は「結果反価値性はあるものの……、行為反価値性が減少して可罰的違法性を欠く」(209頁)。また、緊急避難を責任論に位置づけている点も注目される。これは、「跛行的結果反価値論の立場からすると、転嫁行為には法益侵害性が認められることから違法性を否定しえず、危険回避の行動を責任の領域で評価し、責任阻却として処理することが適切」であるとの理由からである(379頁)。著者の代表的著作である『不真正不作為犯の理論』が、本書でどのように展開されているかも注目されるところであるが、「構成要件的等価値性」を提唱し(150頁以下)、学説の批判も考慮してか「先行行為説」は強調されていない。錯誤論では、師である植松正に倣って「合一的評価説」を採る。これは「錯誤論の使命が刑の不均衡を是正すること」から出発し、「結果の抽象化を排除し故意の抽象化を推し進める一方、観念的競合を排除して合一的評価を取り入れて1個の重い罪だけで処罰する」ものである(320頁)。この説は、結論の妥当性を重視するあまり、なぜこのような合一的評価が可能なのかが説明されていないように思われる。その他の本書の特色を箇条書きで挙げれば次のとおりである。①M.E.マイヤー流の構成要件論(違法・有責類型)、②構成要件的故意と責任故意とを認める、③社会的行為論、④法人の犯罪能力否定、⑤折衷的相当因果関係説、⑥主観的違法要素一部肯定(目的犯)、⑦対物防衛肯定、⑧防衛意思不要説、⑨厳格故意説、⑩新過失論、⑪形式的客観説(未遂犯)、⑫具体的危険説(不能犯)、⑬混合惹起説、⑭部分的犯罪共同説、⑮共同意思主体説、⑯過失共同正犯否定説、⑰片面的共同正犯否定説、⑱共犯と身分では、団藤=大塚=植松説。最後に形式面であるが、全部で37の設例を用意し、それに解説を加えることで、初学者にも配慮している。また、重要判例については、事実の概要を詳しく記し、それに対してコメントを加えている(云わば百選のスタイル)。これは新しい形の教科書と云えよう。このような事情で、判例・学説の引用は必ずしも網羅的ではない(これは無い物ねだりか)。A5判、620頁。 <共著> 佐久間修・橋本正博・上嶌一高『刑法基本講義―総論・各論』有斐閣(2013年4月・第2版)……1冊本。初版時にみられた、「『いわゆる』通説・判例ベースの体系だが、佐久間・橋本(行為無価値論者)執筆部分と上嶌(結果無価値論者)執筆部分とにズレがある」という批判を受け、改訂においてはより記述の統一をはかる意図があった旨がはしがきにおいて述べられている(佐久間が執筆)。具体的なcaseをもとにしている点で、佐久間毅『民法の基礎』と似た体裁なので、同書の愛読者にとっては親しみやすいと思われる。A5判、600頁。 伊藤渉・小林憲太郎・鎮目征樹・成瀬幸典・安田拓人、齊藤彰子・島田聡一郎『アクチュアル刑法総論』『同・各論』弘文堂(2005年4月,2007年4月)……主に山口・西田弟子と中森弟子との若手有望学者による共著。刑法学理論の最先端を著述している。総論は行為無価値論にたつ成瀬・安田により、最近の行為無価値論的に仕上がっているものの、他の結果無価値論の筆者との関係でチグハグ感が残る。基本概念・基本判例より新しい判例・学説の展開に重点が置かれている。リーガルクエストとかぶる部分はコピペになっている。齊藤と島田は各論のみ執筆。使い勝手の良いところだけつまみ食いで使うのがベスト(特に安田の責任論などは必読である)。内容はかなり深いところにまで突っ込んでおり現代の刑法学の到達点と言っても過言ではない。リークエよりやや薄めで脚注が付いているのでレポートなどにも活用しやすい。A5判、368頁・576頁。 町野朔・中森喜彦『刑法1・2(有斐閣アルマSpecialized)』有斐閣(2003年4月・第2版)……内容的に中途半端で共著の悪い面がでてしまっている。四六判、278頁・336頁。 高橋則夫他『法科大学院テキスト刑法総論』『同・刑法各論』日本評論社(2007年10月・第2版,2008年4月)……行為無価値論者によるテキスト。総論はちぐはぐ感が否めないが、各論はよくまとまっており、論点ごとの判例・学説・文献カタログとして使い勝手が良い。A5判、432頁・392頁。 大谷實編『法学講義刑法1 総論・2 各論』悠々社(2007年4月,2014年4月)……主に大谷門下の関西系行為無価値論者によるテキスト。従来の教科書から一歩前へ進めた議論を紹介しており、ちょうどリークエに対応する1冊。 松宮孝明編『ハイブリッド刑法 総論』『同・各論』法律文化社(2015年5月・第2版,2012年3月・第2版)……関西刑法読書会のメンバーによるテキスト。といっても関西結果無価値論の主張は控えめで、最新の論点にも言及している。A5判、338頁・386頁。 葛原力三・塩見淳・橋田久・安田拓人『テキストブック刑法総論』有斐閣(2009年7月)……関西系学者による比較的初学者向けのテキスト。京大刑法総論とも言うべき執筆陣(葛原は中門下、葛原以外は中森門下)。葛原(結果無価値論)が因果関係・主観的構成要件・共犯、塩見(行為無価値論)が客観的構成要件・未遂犯・罪数と立場が現れる部分を異なる論者が執筆しているためやや一貫性に欠けるが、共著故の欠点である。学説検討がかなり詳しく最先端の議論にまでフォローしているが、学説相互の批判に欠ける。この点はリーガルクエストやアクチュアルに軍配が上がる。A5判、366頁。 生田勝義・上田寛・名和献三・内田博文『刑法各論講義(有斐閣ブックス)』有斐閣(2010年5月・第4版)……学部向けの教科書。総論はない。第4版において、凶悪・重大犯罪の厳罰化等の法改正を織り込むとともに重要な判例等を補充。 A5判、362頁。 島伸一編、山本輝之・只木誠・大島良子・髙山佳奈子ほか著『たのしい刑法I 総論・II 各論』弘文堂(2012年3月,2011年3月)……二色刷り・図表多用。解答例付きのケーススタディあり。A5判、352頁・408頁。 【その他参考書】 大塚裕史『刑法総論の思考方法』『刑法各論の思考方法』早稲田経営出版(2012年4月・第4版,2010年12月・第3版)……著者は学者だが、かつて若宮和彦名義で予備校で指導していた経験を持つ。大谷・前田がメジャーな受験生説だった時代(平成10年台前半頃)に、それらに親和的な内容の副読本として読まれていた。現在では大谷・前田の受験生シェアは低下しているものの、刑法が苦手な場合になお有用。これ以上ないほど丁寧で平易な説明がなされており、学説の整理も詳しく、あてはめのやり方までしっかりと示されているなど、至れり尽くせりの内容となっているため、手元にあると何かと役に立つであろう。なお、現在、総論各論とも絶版状態となっている。A5判、690頁・604頁。 佐伯仁志『刑法総論の考え方・楽しみ方(法学教室ライブラリィ)』有斐閣(2013年4月)……平野門下。法学教室283-306号に掲載された連載を単行本化したもの。単行本化にあたり、正当防衛論(3)、責任論、共犯論(3)(共犯と身分、必要的共犯、過失犯の共同正犯、不作為と共犯)が新たに書き下ろされた。総論のほとんどの論点を解説しているが、罪数論や刑罰論を欠いているため基本書としては使いにくく、位置づけとしては副読本である(著者自身の講義でも教科書指定は「山口か西田のいずれか」であり、本書はあくまで参考書として挙げるにとどまっている)。はしがきにもあるとおり、あくまで「刑法総論の基本的な考え方を理解し、自分で考えることの面白さをわかる」ことが本書の目的であり、受験的な効用を過度に期待することは禁物である。佐伯説は、故意過失を責任要素として構成要件に含む3分説をとり、兄弟子である西田や山口よりなじみやすい体系となっている。因果関係論、不作為犯論、正当防衛論、被害者の同意論は著者の論文のダイジェスト版ともいうべき内容であり、とくに不作為犯論と正当防衛論は試験対策にも有用と言える。各論の連載(法教355号-378号→雑誌連載・企画)もあるが、未だ書籍化されていない(2016年内に出版予定との不確定情報有り)。A5判、458頁。 塩見淳『刑法の道しるべ(法学教室ライブラリィ)』有斐閣(2015年8月)……法教連載を元に新たに三つの章(第6章 間接正犯・不作為犯の着手時期、第9章 住居侵入罪の保護法益・「侵入」の意義、第13章 偽造の概念)を書き下ろしたものを単行本化。理論的に明快な有力説(侵害回避義務論、法益関係的錯誤説など)を批判的に検討し、通説的な理解からさらに一歩進めた自説を示すというスタイル。司法試験的には有力説をとれば明快で書きやすいと思われるが、実際にはそう簡単に割り切れるものではないというのが塩見説。したがって、答案には書きにくく難易度は高いものの一読の価値はあると思われる。A5判、274頁。 井田良『刑法総論の理論構造』成文堂(2005年6月)……井田が自説を詳細に展開した現代刑事法への連載を単行本化したもの。それまで"停滞"していた違法性をめぐる議論に一石を投じる。結果無価値論を徹底的に批判して、ドイツにおける議論を参照しながら、曖昧さを許さない透徹した理論によって行為無価値論(違法二元論)の正当性を主張する。例えば、行為無価値論が重視する一般予防の観点からは刑罰法規は国民に個別状況下で行為規範を差し向けるものでなければならず、またその規範に従って行動する限りはその行為が違法と評価されることはなく、したがって違法と適法の境界が明確になり罪刑法定主義の要請に応えることができるとする。そのため、法益侵害結果を因果的に惹起したことを理由に行為規範に適合する行為を違法と評価し、ただ責任が否定されて処罰を免れるに過ぎないとする結果無価値論は、犯罪の成立条件を明確にするあまり国民に対して違法行為と適法行為との分水嶺を提示することができず(一般予防や罪刑法定主義の要請を果たせず)、「ふろの水と一緒に赤ん坊まで流してしまう」理論であるとして激しく非難する。また、このような行為規範は行為者の認識した事情を基に与えられるものであり、客観的には殺人罪の構成要件に該当する行為でも行為者が客体を人ではなく熊だと認識していた場合には殺人罪の行為規範は行為者に対して無力(規範は行為者の認識を正すことについて無力)であるから、違法性の錯誤のうち事実面に関する錯誤は直ちに構成要件的故意を阻却するとする(制限責任説のうち違法性阻却説)。これに対し違法性の錯誤は、一般予防の観点からまさしく刑法が保護しようとする規範の安定性が動揺されられる場面であるから、行為者が錯誤に陥ったことに相当の理由がある場合(→違法性の意識の可能性の問題として責任が阻却される)を除いてこれに寛容であることはできないとする。はしがきにも述べれらている通り本書は総論に関する「コンパクトな論点書」として刊行されたものであり、総論の体系を全体的に網羅するものではない。しかし、現刑の連載は数多くの論文に引用され著者を最近の行為無価値論の第一人者たらしめる元となったものであり、そうした経緯から本書は学界からの評価が高く名著とされる。初版刊行から既に十年以上経過したが、今でも(特に、行為無価値論を採用する)司法試験受験生が参考書として本書を利用するのは有益である。差し当たり、行為無価値論版『問題探求』といったところか。A5判、488頁。 西田典之・山口厚・佐伯仁志編『刑法の争点』有斐閣(2007年10月)……全130項目。 B5判、264頁。 山口厚・佐伯仁志・井田良『理論刑法学の最前線1・2』岩波書店(2001年9月,2006年5月)……現在の刑法学をリードする三人の論文集。決まったテーマごとに一人が論文を執筆し、残りの二人がその論文を批評するという形式。佐伯執筆部分は連載と合わせると面白い。司法試験レベルは遥かに超えている。A5判、248頁・264頁。 山口厚『新判例から見た刑法(法学教室ライブラリィ)』有斐閣(2015年2月・第3版)……最近の判例を題材にした解説。山口説に立たなくても、鋭い問題意識や分析は、判例の重要性や出題可能性と相俟って一読の価値がある。A5判、386頁。 山口厚『問題探究 刑法総論』『同・刑法各論』有斐閣(1998年3月,1999年12月)……刑法学界の碩学が、犯罪論・犯罪各論の重要論点を深く掘り下げ、文字通り問題探究を行った意欲的な書であり、我が国の刑法学史における最も重要な業績であると評する声もある。もっとも、現在では改説されている部分も多々あり。A5判、302頁・358頁。 山口厚『基本判例に学ぶ刑法総論』『同各論』成文堂(2010年6月,2011年10月)……判例を素材に重要論点を平易に解説。書下ろし。各論は評価待ち。A5判、頁・340頁。 高橋則夫・杉本一敏・仲道祐樹『理論刑法学入門 刑法理論の味わい方 (法セミ LAW CLASS シリーズ)』日本評論社(2014年5月)……A5判、360頁。(評価待ち。) 伊東研祐・松宮孝明編『リーディングス刑法』法律文化社(2015年9月)……理論刑法学における31編の重要文献に気鋭の学者たちが解題を加えるというアカデミックな書。A5判、508頁。 橋爪隆「刑法総論の悩みどころ」(法学教室連載・403号~426号)、「刑法各論の悩みどころ」(法学教室連載・427~2年間の連載予定)……刑法学修にとり「悩みどころ」となる重要論点につき自説を展開。橋爪説はそのレベルの高さにもかかわらず、比較的答案の形に落とし込みやすいと思われるので、フォローしておきたい。 【入門書・概説書】 山口厚『刑法入門』岩波書店(2008年6月)……新書判、238頁。 井田良『基礎から学ぶ刑事法(有斐閣アルマBasic)』有斐閣(2013年12月・第5版)……四六判、366頁。 井田良『入門刑法学・総論(法学教室ライブラリィ)』『同・各論(同)』有斐閣(2013年12月)……A5判、288頁・278頁。 藤木英雄著、船山泰範補訂『刑法(全)(有斐閣双書)』有斐閣(2013年9月・第4版)……はじめて刑法を学ぶ読者のために、学習上必要とされる基本的な事項を解説。平成23年・平成25年の通常国会で成立した刑法改正の内容(強制執行妨害罪の細分化、不正指令電磁的記録に関する罪、刑の一部の執行猶予に関する規定等)を盛り込んだ最新版。四六判、310頁。 裁判所職員総合研修所監修『刑法概説』司法協会(2009年5月・7訂版)……A5判、186頁。 佐々木知子『誰にでも分かる刑法総論』『同・刑法各論』立花書房(2011年4月、2012年2月)……著者は元検察官。A5判、288頁・320頁。同著者による『警察官のためのわかりやすい刑法』立花書房(2015年8月)は、警察官を始めとする初学者を念頭に置いて、学説には深入りせず、判例を中心とした実務的な内容で、刑法の全体像をつかめる。A5判、336頁。 高橋則夫編『ブリッジブック刑法の考え方(ブリッジブックシリーズ)』信山社(2014年3月・第2版)……四六判、272頁。 浅田和茂・内田博文・上田寛・松宮孝明『現代刑法入門(有斐閣アルマBasic)』有斐閣(2014年9月・第3版補訂版)……関西結果無価値の学者による入門書。四六判、344頁。 渡辺咲子『基礎から学ぶ刑法』立花書房(2015年11月)……著者は元検察官。A5判、480頁。 ☆小林憲太郎『ライブ講義 刑法入門(ライブラリ 法学ライブ講義 4)』新世社(2016年11月予定)……A5判、260頁。 【コンメンタール】 大塚仁・河上和雄・中山善房・〔佐藤文哉〕・古田佑紀編『大コンメンタール刑法〔全13巻〕』青林書院(第1巻:2015年7月・第3版、第2巻:1999年10月・第2版、第3巻:2015年9月・第3版、第4巻:2013年10月・第3版、第5巻:1999年12月・第2版、第6巻:2015年12月・第3版、第7巻:2014年6月・第3版、第8巻:2014年5月・第3版、第9巻:2013年6月・第3版、第10巻:2006年3月・第2版、第11巻:2014年9月・第3版、第12巻:2003年3月・第2版、第13巻:2000年11月・第2版)……我が国最大級の刑法典注釈書。A5判、第1巻〔序論・第1条~第34条の2〕:824頁、第2巻〔第35条~第37条〕:530頁、第3巻〔第38条~第42条〕:618頁、第4巻〔第43条~第59条〕:502頁、第5巻〔第60条~第72条〕:758頁、第6巻〔第73条~第107条〕:530頁、第7巻〔第108条~第147条〕:488頁、第8巻〔第148条~第173条〕:484頁、第9巻〔第174条~第192条〕:312頁、第10巻〔第193条~第208条の3〕:596頁、第11巻〔第209条~第229条〕:680頁、第12巻〔第230条~第245条〕:504頁、第13巻〔第246条~第264条〕:672頁。 西田典之・山口厚・佐伯仁志『注釈刑法 第1-3巻』有斐閣(2010年12月-)……旧版に比べ、大幅にスリム化された。理由として、(1)読者対象に法科大学院生や学部学生をも考慮に入れたこと、(2)原則として戦後の重要な判例・裁判例のみとりあげる方針としたこと、(3)判例・裁判例の引用を極力控えたこと(はしがき)、があげられている。著者はいずれも編者らの門下生であり、したがって、東大系結果無価値論の立場からの記述で一貫しており共著の弊害は少ない(ただし、執筆者間に意見の相違がある箇所もないではない。因果関係の錯誤など)。またそのレベルは高く、最新の理論刑法学の研究成果が盛り込まれているといっても過言ではない。ただし、刑法学界を総動員して執筆された旧版に比べて量的にも内容的にも網羅性が損なわれているとの評価も少なくない。現時点で第1巻のみ刊行。A5判、1038頁。 前田雅英・松本時夫・池田修・渡邉一弘・大谷直人・河村博編『条解 刑法』弘文堂(2013年10月・第3版)……実務家向けのコンパクトな注釈書。執筆者はほぼ全て実務家で占められており条解刑訴と同じく編集委員らの合議による修正がなされているため、各執筆者の分担区分は掲記されていない。文字が大きく余白も多いため他の条解シリーズに比べ情報量がやや少ない。A5判、912頁。 浅田和茂・井田良編『新基本法コンメンタール 刑法』日本評論社(2012年9月)……刑の時効、強制執行を妨害する犯罪、サイバー犯罪に関する改正など、平成23年までの法改正に対応。B5判、672頁。(評価待ち。) 伊東研祐・松宮孝明編『新・コンメンタール刑法』日本評論社(2013年3月)……『学習コンメンタール 刑法』を改題したもの。インターネットコンメンタールとしても提供されている。A5判、520頁。(評価待ち。) 川端博・西田典之・原田國男・三浦守編集代表、大島隆明編集委員『裁判例コンメンタール刑法 第1巻・第2巻・第3巻』立花書房(第1巻:2006年7月、第2巻:2006年9月、第3巻:2006年11月)……刑法全条文の意義,要件等を下級審から上級審までの裁判例を探ることによって解説する。A5判、第1巻〔第1条~第72条〕:680頁、第2巻〔第73条~第211条〕:664頁、第3巻〔第212条~第264条〕:664頁。 【判例集・ケースブック】 山口厚・佐伯仁志編『刑法判例百選I』『同・II』有斐閣(2014年7月・第7版,2014年8月・第7版)……解説付き判例集の筆頭。百選に掲載されているということが、当該判例の重要度を示すメルクマールになるので、まずは百選から頭に入れていくのが無難と言えば無難。ただし、解説は玉石混淆(判例の解説でなく、論点解説をしているようなものも散見される)。I 総論:106件、II 各論:126件を収載。B5判、224頁・264頁。 西田典之・山口厚・佐伯仁志『判例刑法総論』『同・各論』有斐閣(2013年3月・第6版)……こちらは解説なし、判例のみ。下級審裁判例まで網羅しており、総論・各論を合わせると収録数は1000件を超える。西田刑法を使用するならとりわけ便利。西田刑法を利用しない場合でも、解説は一切不要だと考える学生はこちらを選択するべきだろう。山口青本第2版でも本書の該当番号が引用されるようになった。A5判、538頁・540頁。 前田雅英『最新重要判例250 刑法』弘文堂(2015年2月・第10版)……252判例を収録(第9版については、262判例を収録)。二色刷り。コンパクトに多くの判例を解説している。但し、自説に沿う形で判例を取り上げ、解釈する傾向があるので、前田の基本書を使用している人以外が使用するのはやや危険。B5判、280頁。 大谷實編『判例講義刑法1 総論』『同・2 各論』悠々社(2014年4月・第2版,2011年4月・第2版)……大谷門下による判例集。 成瀬幸典・安田拓人編『判例プラクティス刑法I』、成瀬幸典・安田拓人・島田聡一郎編『同II』信山社(2010年1月,2012年3月)……Iは総論。IIは各論。Iの収録判例は444件、IIは543件と『判例刑法』に迫る収録件数。1ページに事案・争点・判旨・解説と盛り込み過ぎの感が。若手・中堅の学者が、特定の分野の複数の判例の解説を執筆しているので、判例理論の一貫した理解に資すると考えられる。B5判、480頁・558頁。 井田良・城下裕二編『刑法総論判例インデックス』商事法務(2011年9月)……見開き2ページで簡潔に説明している。事実関係をイラストにより図示しており、イメージを持ちやすい。というか笑える。また、解説は簡潔であるが、判プラ同様に項目ごとに執筆分担がなされているので、一貫した理解が進むと思われる。160件を収載。A5判、338頁。 林幹人『判例刑法』東京大学出版会(2011年9月)......著者が『判例時報』などに掲載した判例研究を項目別にまとめ直し、各項目に複数の設問を付したもの。設問は「~(判例)は、どういう事実につきどういう判断を示したか」といった事案分析型のものが中心で、著者による判例研究は設問に取り組む際の参考にして欲しいとのこと。いわゆる「ケースブック」と異なり、そのままの判決文等が掲載されていないので、判例研究や設問で指示されている(一項目につき複数の判例が指示される)判例については、別途判例集なり裁判所HPからのダウンロードなりで入手した上で取り組む必要がある。A5判、440頁。 川端博『刑法基本判例解説』立花書房(2012年7月)......総論66件、各論90件、合計156件を収録。A5判、352頁。 小林憲太郎『重要判例集 刑法総論(ライブラリ 現代の法律学 JA13)』新世社(2015年6月)......小林『刑法総論』における判例情報の不足を補う趣旨で作成された判例教材。しかしながら、単体の教材としての使用も想定されている。著者によると、「できる限り客観的な説明を心がけ」ており、また「判例の数も、引用の分量も、そして解説の量もかなりスリム化されている」(はしがき)とのことであるが、いわゆる"コバケン節"は相変わらず健在である。A5判、208頁。 ☆船山泰範・清水洋雄編『刑法判例ベーシック150』法学書院(2016年3月)......A5判、頁。(評価待ち。) 中森喜彦・塩見淳『ケースブック刑法』有斐閣(2011年4月・第2版)……京大系。設問は判例分析よりも、理論面や細かな学説を問うものが多く、司法試験対策としてはほとんど無用の長物と言ってよい。2版では総論・各論まとめて一分冊になった。B5変型判、556頁。 笠井治・前田雅英編『ケースブック刑法』弘文堂(2015年3月・第5版)……首都大ロー教員、前田門下によるケースブック。A5判、594頁。 小林憲太郎「刑法判例と実務」(判例時報連載、2274号~)……毎月1日号に掲載。総論30回、各論30回の計60回を予定。著者の文章は非常に難解であるが、本連載は、実務家向けということもあってか、比較的わかりやすく自説を解説している。したがって、上記小林総論を読んで理解できなかった向きは本連載をチェックすると吉。 橋爪隆「判例講座・刑法総論」(警察学論集連載、2016年1月号~)……評価待ち。 【演習書】 井田良・佐伯仁志・橋爪隆・安田拓人『刑法事例演習教材』有斐閣(2014年12月・第2版)……見ての通りの第一線執筆陣による新司を意識した中級者以上向けの長文事例問題集。本書は司法試験の種本とも言われており、試験前に必ず解いておきたいところである。独習することができる程度の解説がある(こちらの解説はマニアックではない)うえに、巻末には事項索引と判例索引までついている。第2版では新たに8つの設例が追加され、設例は合計で48個となった。そのひとつひとつに遊び心がこめられており、学生を飽きさせない。なお、あてはめの問題は基本的にスルーしているので、別途補完する必要がある。また、解説のボリュームは小さく、その理論水準もかなり抑えられている(相応に高度な論点が問題に含まれているのにほとんど言及がなかったり多少匂わせるにとどまったりする)ので、要注意である。B5変型判、270頁。 井田良・田口守一・植村立郎・河村博編著『事例研究 刑事法I 刑法』日本評論社(2015年7月・第2版)……刑法の最重要論点について、現役の裁判官・検察官らを中心とした豪華執筆陣が明快かつ縦横無尽に解説。設問の数は総論8問・各論8問と少なめだが、各設問の末尾の関連問題まで潰せばかなり広範囲の論点をカバーすることができる。主要な判例・学説の対立のみならず、先例的価値の大きな判例についてはそれが掲げる具体的な考慮要素にも常に言及しており、法律論は勿論、あてはめを鍛えるのにも最適である(実務家があてはめに関して詳細な解説を行っている点において、他の演習書と一線を画する)。A5判、460頁。(第2版については評価待ち。) 佐久間修・高橋則夫・松澤伸・安田拓人『Law Practice 刑法』商事法務(2014年3月・第2版)……総論・各論の全範囲から基本的な問題を60問ほど。問題はいずれも事例問題ではあるが、事案の分析・処理が求められるようなものではなく、実質的に1行問題に近いものも散見される。はしがきにある通り、学部~ロースクール1年生向け。司法試験対策用の演習書ではない。A5判、310頁。 島田聡一郎・小林憲太郎『事例から刑法を考える(法学教室ライブラリィ)』有斐閣(2014年4月・第3版)……法教連載を書籍化した事例問題集。問題文は長めだが、司法試験ほどではない。全22問。第2版からは、初版において受験生からの評判が悪かった記述が削除されたほか、レイアウトも調整されかなり読みやすくなっている。答案作成を意識した実戦的なアドバイスも豊富に盛り込まれており(第3版では冒頭に答案の書き方も書かれている)、設問もよく練られているなど、司法試験対策の演習書としての完成度は非常に高い。ただし、司法試験レベルを超えた問題もあるなど難易度は非常に高く、本書をやり通すのには相当骨が折れるであろう。なお、第3版の改訂作業は、2013年に島田が急逝したため、遺志を継いだ小林が一人で行っている。A5判、518頁。 大塚仁・佐藤文哉編『新実例刑法〔総論〕』青林書院(2001年2月)……刑法の論点本。すべて実務家(ほとんどは現職の刑事裁判官)が執筆している。イメージ的には、論点ごとの重要判例の調査官解説をほどよく要約したようなもの。したがって、必ずしも斬新な議論が紹介されている訳ではないが、団藤・大塚らの伝統的行為無価値論とは親和性が高いので、これらの本を使用する者であれば、参考書として座右に置くのも良いだろう。新版が出たものの、設問によってはいまだに使える。A5判、460頁。 池田修・杉田宗久編『新実例刑法〔総論〕 刑法理論と実務を架橋する実例33問』青林書院(2014年12月)……上記「新実例刑法総論の設問や執筆者を変え、近時の学説・判例を踏まえた内容に改めた全面的な新版」(はしがき)である。「裁判員制度による影響とその可能性について意識したため、執筆者は裁判員裁判を担当した経験のある、実務経験十数年以上の裁判官」(はしがき)が執筆している。旧版と比べて新たな学説への目配りがきいているが、特定の学説に偏ることなく判例・裁判例を尊重しつつ手堅く解説しており、その姿勢は答案作成上参考になるだろう。裁判員裁判を踏まえてどのように裁判員に説示すべきかを論じているのも特徴のひとつ。とりわけ、最新判例をフォローした、正当防衛関連(5問)、共謀共同正犯の成否、承継的共犯などは必読である。A5判、500頁。(目次及び設問:http //www.seirin.co.jp/book/01643.html) 池田修・金山薫編『新実例刑法〔各論〕』青林書院(2011年6月、2014年12月2刷にてその後の法改正について補注を付している。)……法科大学院を意識して、総論よりも事例はやや長め。こちらもすべて実務家(ほとんどが現職の刑事裁判官)が執筆している。百選改訂の折には新たに選出されることが予想される、直近の重要な最高裁判例をモデルにした事例が並んでおり、できるかぎり目を通しておきたい。A5判、500頁。 大塚裕史『ロースクール演習刑法』法学書院(2013年6月・第2版)……受験新報の誌上答練を書籍化したもので、司法試験を意識した長文事例問題集となっている。もっとも、解答時間の目安は90分となっており、問題文の長さは本番ほどではない。論点相互が絡み合うような捻りのきいた問題は少なく、論点をただ単に足し合わせただけのような、もっぱらボリュームで勝負してくる問題の方がむしろ多い。問題文の表現にあいまいな部分も散見され、解説を読んで思わぬ論点落とし(?)に驚かされることも。設問は合計で36問あるが、出題は過失犯や正当防衛にかなり偏っており、全範囲を網羅することができないのも弱点。A5判、408頁。 只木誠・奥村丈二ほか『刑法演習ノート―刑法を楽しむ21問』弘文堂(2013年5月)……現役の考査委員・元最高裁調査官など豪華な執筆陣による全21問から成る新司法試験向けの長文事例問題集。本書が他の演習書と大きく異なるのは、全ての問題に、司法試験合格者が書き下ろした実践的な解答例が付されている点である。ただし、合格者書き下ろしの解答は、学者による解説と必ずしも一致していない部分もあるので注意が必要である。あくまで参考答案の一つと捉えるのが適当であろう。A5判、448頁。 植村立郎監修『設題解説 刑法(二)』法曹会(2014年11月)……刑法総論の重要テーマを含む短文の事例問題(全30問)につき裁判官(裁判所職員総合研修所の教官?)が解説し、これに監修者の植村が辛口の【補論】を付すスタイル。設問の前に、いきなり当該設問において問題となる論点が一通り示されているため、論点抽出能力は全く養われない。裁判官が執筆しているため、概ね判例に沿った解説で信頼できる。なお、因果関係は相当因果関係説の立場から解説がなされている。雑誌『法曹』連載を単行本化したもので、題名に(二)とあるが本巻のみで総論の主要論点はカバーされている。新書判、536頁。なお、(一)は絶版の模様。 井田良・丸山雅夫『ケーススタディ刑法』日本評論社(2015年2月・第4版)……刑法総論について全32章。丸山は町野門下。A5判、424頁。(評価待ち。) 前田雅英『司法試験論文過去問LIVE解説講義本 前田雅英刑法(新Professorシリーズ)』辰已法律研究所(☆2016年2月・改訂版)……司法試験論文本試験解説書。平成18年から平成27年の問題について、「模範答案」1通と、「再現答案」2通を使いながら解説。A5判、294頁。 松宮孝明・安達光治・大下英希・野澤充・玄守道『判例刑法演習』法律文化社(2015年3月)……まず、判例の事案と判旨が示され、次に当該判例において問題となる論点を検討し、最後に判例の射程を検討するという形式となっており、書名の通り判例の内在的理解に重きを置いた内容となっている。A5判、346頁。 田中康郎監修、江見健一編集代表『刑事実体法演習 理論と実務の架橋のための15講』立花書房(2015年11月)……司法試験の刑事系科目である刑法(総論・各論)に関する主要なテーマについて、現役の刑事裁判官が、理論と実務の架橋をめざして学説と判例の接点を分かりやすく解説した演習書(はしがき)。「捜査法演習」・「刑事公判法演習」の姉妹書である。刑法の修学と題した序説では、司法試験の採点実感等を掲げて刑法学修のポイントを示す。問題は全15講。いずれも長文の事例問題に、解説を付すスタイル(答案例は付されていない)。「実務と学説の双方に通じた裁判官の事案解決型の思考過程を追体験」(はしがき)することができる。特徴は、犯罪事実記載例を掲げていること。A5判、538頁。 木村光江『演習刑法』東京大学出版会(☆2016年3月・第2版)……A5判、480頁。 安田拓人・島田聡一郎・和田俊憲『ひとりで学ぶ刑法』有斐閣(2015年12月)……A5判、422頁。 甲斐克則編『刑法実践演習』法律文化社(2015年10月)……第I部は精選された計24件(総論12件、各論12件)の最新重要判例の解説、第II部・第III部は司法試験の過去問の解説となっている。第II部・第III部については、「司法試験問題(論文・択一)を徹底的に解剖」と謳っている割には、論文問題の解説はお世辞にも徹底的になされているとは言えず、択一問題に至っては体系順に問題が並べられているだけで、解説がほぼ皆無なうえに取り上げられている問題も少なすぎるなど、謳い文句からは程遠い中途半端な内容となっており、完成度はきわめて低いと評さざるを得ない。A5判、328頁。 船山泰範『司法試験論文本試験過去問 刑法』辰巳法律研究所(2004年5月・新版補訂版)……旧司法試験の過去問集。船山教授の解説講義を書籍化。問題解説、受験生答案検討、教授監修答案からなる。平成1-15年度の問題30問、昭和の問題13問の全43問。絶版だったがオンデマンドで復刊された。少数説が多い。 川端博『事例式演習教室 刑法』勁草書房(2009年6月・第2版)……22年ぶりに改訂された短文の問題集。「事例式」とは銘打っているものの、旧司500人時代の本が元になっているため、事例は短い。論点整理には有益。A5判、432頁。 町野朔・丸山雅夫・山本輝之編『プロセス演習 刑法〔総論・各論〕(プロセスシリーズ)』信山社(2009年4月)……B5判、362頁。(評価待ち。) 佐久間修『新演習講義刑法』法学書院(2009年8月)……旧試対策問題集だった旧著の改訂版。問題は旧試をイメージしたものであるが微妙にズレたものが多い。さらに、解説は難解な上に、問題から離れた派生論点についての説明を延々と続けたり、少数説よりの自説の主張に終始したりしている面もあり使い勝手は悪い。A5判、368頁。 藤木英雄『刑法演習講座』立花書房(1984年1月)……藤木説を理解するためには必読の演習書。 福田平・大塚仁『基礎演習刑法』有斐閣(1999年8月・新版)……四六判、308頁。
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刑事法 犯罪と刑罰に関係する法的なルール 国家の刑罰権の発動実現を規律しコントロールするための法規範 1刑法2刑訴3犯罪者処遇法 刑法 犯罪と刑罰の内容を定める 刑訴 犯罪事実を確認し刑を科す手続きを定める ※実体法と手続法 実体法 法律関係ないし権利義務関係の内容を定める 手続法 その具体的な実現の手続を定める (訴訟法)ともいう 刑事法学(広義) _ 刑法学と刑事訴訟法学 (法解釈学としての狭義の刑事法学) ∟ 犯罪学と刑事政策学(刑事学) 犯罪とは 1法律に犯罪として明記され刑がさだめられており 2それが行われれば他人に害を与え、ひどく社会秩序を乱す行為 1形式的側面2実質的側面 犯罪の原因 素質説 犯人の生まれながらの素質が原因であるとする 生来性犯罪人説 今では誤りとされている説 ロンブローゾ 環境説 犯罪者をとりまく社会的環境が原因 アノミー論 人々の行動を規律するルールが効力を失ったアノミー状態(無規制状態)が犯罪をうみだす →下層階級以外の犯罪を説明できない、アノミー状態でも多くの人は犯罪を犯さないという批判 社会化理論 個人の社会化がうまくいかなかったところに原因 成長過程において社会規範を学び社会に適合した行動様式をみにつけること=社会化 がうまくいかないときに犯罪がおこる ラベリング論 犯罪行動そのものよりも、それに対する社会の側の反応ないし反作用のもつ機能に注目し、 犯罪であるとするラベル貼り、すなわちラベリングこそが犯罪をつくるという主張 従来の犯罪は異常な病理現象であるという考えを否定し、犯罪の日常性、普遍性を強調した 社会化理論 刑法の基本原則
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刑法総論 刑法各論
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刑法とは、日本の法律の一つである。 概要 刑法は、「罪と罰」を定めた法律である。 本来、国民1人1人には基本的人権が認められている。しかし、権利を濫用することで他者の人権を侵害する、ということはあってはならない。公共の福祉を守るためには、自己の権利を濫用する犯罪者は取り締まる必要がある。そのためには、どのような行為が「罪」になり、破った者にはどのような「罰」が与えられるかをしっかり決めなくてはならない。 刑法は、日本国内(*1)で罪を犯した全ての者に適用され、国籍は問わない。外国人であっても法律を守る義務がある。 総則 1条〜72条は「総則」であり、刑法を適用するにあたってのルールが定められている。 刑罰の種類 死刑 読んで字の如く、罪を犯した者の生命を奪う刑罰。 処刑の方法は古今東西多岐にわたる(電気椅子、薬殺、銃殺etc.)が、日本では絞首が採用されている。 死刑が確定した被告人は拘置所へ収監され、執行の日をひたすら待つことになる。死刑囚に刑務作業は強制されず、1日のほとんどは自由時間である。読書や写経で心を落ち着ける死刑囚が多いようである。 死刑は法務大臣の命令によって初めて執行される。死刑囚が執行を知るのは当日の朝9 00であり、大人数の刑務官に囲まれ出房を命じられる。教誨室で遺品整理や最後の喫食をした後、前室を経て執行台に立たされる。 3人の刑務官が同時にボタンを押すことで、踏み台が落下し死刑囚は瞬時に絶命する。この際、刑務官の精神的負担を和らげるためにダミーのボタンが2個用意されており、誰が死刑囚を殺めたか分からないようになっている。 死刑制度に異を唱える法務大臣も多く、執行まで10年以上かかることも珍しくない。 欧米を中心に死刑廃止論も盛り上がっており、日本は死刑制度を維持する数少ない先進国である。 一方、中国やシンガポールでは死刑の適用範囲が幅広く、特に麻薬関係の罪では非常に厳しい。 懲役 刑務所に収監され、刑務作業を行わせる刑罰。 無期と有期が存在し、有期は1ヶ月以上20年以内である(*2)。 刑務所を「雨風凌げてタダ飯が食える快適な場所」と思う人もいるが、甚だしい勘違いである。 まず入所時には全裸での身体検査と丸刈り(男性のみ)が科せられ、最初の2週間は厳しい行動訓練を受けることになる。 訓練を終えると刑務作業に配属されるが、1ヶ月の作業報酬金はわずか500円。ほとんどが肉体労働だが、図書や経理などエリート職も一部存在する。作業で稼いだ金は日用品や書籍の購入に充てることが可能。 食事は1日3回与えられるが、カロリーの制限された味付けの薄いものである。入浴も週2~3回と定められている。 そして一番辛いのが「懲罰房」である。暴力行為や喧嘩などの規則違反を犯した場合収容され、朝から晩までひたすら正座させられる。何もすることがないのは最悪の苦行なのだ。 無期懲役は、原則死ぬまで一生刑務所で過ごすことになる。ただし、改善更生の意欲が認められた場合は、地方更生委員会の判断で仮釈放が認められることがある。 法律上は10年経過で仮釈放の可能性があるのだが、最低でも30年要するのが現状である。また仮釈放後も生涯にわたり保護観察が継続するほか、罪を犯すと再び収監されることになる。 禁錮 刑務所に収監される刑罰。懲役と異なり、刑務作業の義務はない。 交通事故などの過失犯や、名誉毀損・内乱など一部の犯罪に適用される。 これを聞くと「ずっと部屋の中でダラダラすればいいのか〜」と思うかもしれないが、間違いである。 基本的に刑務官の指示に従って、1日中安座と正座を繰り返すだけの日々をひたすら送り続けることになる。 そのため、禁錮受刑者の9割以上は自ら所長に願い出て、懲役受刑者と同様に刑務作業を行っている。 なお無期刑も存在するが、戦後において無期禁錮を言い渡された者は存在しない。 罰金 金銭を徴収する刑罰。額は必ず1万円以上と定められている。 罰金を期限内に納付できない場合は、労役場留置となり懲役同様に刑務作業を強制される。基本的に1日当たり5,000円で換算されるが、労役期間が2年を超える場合は日当が引き上げられる。 分割払いは基本的に認められないため、支払えない場合は親族に頭を下げるしかない。 なお道路交通法違反で科せられる「反則金」は、罰金と異なり刑罰ではない。 刑事手続きを省略する代わりに納める金であり、無視した場合は起訴され罰金刑が科せられる。 拘留 刑務所に収監される刑罰。期間は1日以上30日未満。 適用されるケースは年間10人に満たない。 なお同じ読みの「勾留」は、逃亡や証拠隠滅を防ぐために被疑者を留置所に収監することである。 科料 金銭を徴収する刑罰。額は1000円以上1万円未満。 同じ読みの「過料」は、条例違反などで科せられる行政罰である。 執行猶予 罪を犯した者は、基本的に裁判に基づき刑罰を受けることになる。 しかし、懲役刑などで長期間社会から隔離されると、出所後安定した職に就けず、生活が困窮した挙げ句再び犯罪に手を染めるというケースも少なくない。そこで設けられたのが「執行猶予」という制度である。 執行猶予は、通常の判決に加えて猶予年数が言い渡され、直ちにはその刑が執行されないという仕組みである。 例えば「懲役3年、執行猶予4年」が言い渡された場合、直ちに釈放され社会で元の生活を送ることになる。 この際、執行猶予期間中に新たな罪を犯すと、猶予が取り消され刑罰が執行される。例えば別の事件で懲役2年の判決が出た場合、3年+2年=5年の懲役刑が科せられる。 とはいえ、犯罪者が外に出ることには不安もあるだろう。 執行猶予を付けられる刑には上限があり、3年以下の懲役又は禁固、あるいは50万円以下の罰金である(*3)。 そのため、殺人罪や強盗罪を犯した場合、執行猶予がつくことは基本的にない(*4)。 違法性阻却事由 刑法に触れる行為をしても、100%刑罰が科せられるわけではない。 以下の違法性阻却事由が認められた場合は、真犯人であったとしても無罪となる。 心身喪失 精神疾患などにより物事の善悪を全く区別できない状態。 自らの行動に責任を取れない者に刑罰を科しても意味がない、と考えられている。 尤も他者に危害を及ぼした時点で、精神科への強制入院が実施されることは間違いない。 14歳未満の者 日本では14歳が責任年齢とされ、14歳未満の者に刑罰は科されない。 尤も、触法少年として家庭裁判所に送致され保護処分となる可能性がある。少年院送致の可能性もゼロではない(*5)。 正当行為 業務上正当と認められている行為のことである。 例としてボクシングやプロレスの試合、警察官による発砲などが挙げられる。 正当防衛 自らの生命や身体に危害を加えようとしている者に対し、やむを得ずにした行為のことである。 あくまで認められるのは「やむを得ない防衛行為」であり、「積極的な反撃行為」は過剰防衛として有罪になってしまう。 殴られたので殴り返す、のような仕返しはご法度なのだ。 正当防衛のラインはかなり微妙なので、とにかく逃げるのが一番である。 緊急避難 自らの生命や身体に迫った危険を回避するために、やむを得ずにした行為のことである。 この際、「避難行為により生じた損害<本来起こり得た損害」の場合のみ緊急避難が認められる。 犯罪の種類 外患誘致罪(刑法81条) 法定刑:死刑 外国と共謀して日本国へ武力を行使させる罪である。 国家の存亡に関わるため、法定刑は死刑のみと非常に厳しい。 非常に強権的であるため、制定以降この罪が適用された事例は存在しない。 現住建造物等放火罪(刑法108条) 法定刑:死刑、無期又は5年以上の懲役 人がいる建造物や列車、艦船を焼損させる罪である。 かつての日本では木造建築が主流で、一度火災が発生すると瞬く間に燃え広がってしまう。1657年の明暦の大火では江戸の市街地が焼失し、10万人の死亡者が発生した。 この名残から、現在でも放火の罪は非常に重い。 往来危険罪(刑法125条) 法定刑:2年以上の有期懲役 列車や艦船の往来に危険を生じさせる罪である。 線路上への置石なども往来危険罪が適用される。詳細は126条にて。 汽車転覆等及び同致死罪(刑法126条) 法定刑:無期又は3年以上の懲役/死刑又は無期懲役(致死) 列車や艦船を転覆・沈没させる罪である。 1980年、京阪本線で中学生の置石による脱線事故が発生、先頭車両が民家に突っ込み104人の負傷者を出す大惨事となった。京阪電鉄は加害者5人に対し裁判を起こし、合計4200万円の和解金で決着した(*6)。 本人は軽い気持ちだったかもしれないが、置石は人の生命を奪いかねない悪質な犯罪である。絶対にやってはならない。 通貨偽造罪(刑法148条) 法定刑:無期又は3年以上の懲役 日本の貨幣を偽造する罪である。 家庭用コピー機さえあれば誰でもできてしまうが、行為の安易さに対し罪は重い。偽造通貨の流通はその国の信用を揺るがし、国家転覆を招く可能性も否定できないため厳しく処罰される。 日本の紙幣には透かし、パールインキ、凹版印刷、マイクロ文字など数多くの工夫が施されており、巧妙な偽札の製造は非常に困難である。挑戦する価値は全くないと言って良いだろう。 「こども銀行券」はアウトでは?と思うかもしれないが、サイズや手触りが明らかに異なるため偽造通貨とは見做されない。
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部品構造 大部品 刑法 RD 48 評価値 9部品 刑法(penal code) 大部品 刑法の機能 RD 2 評価値 2部品 法益保護 部品 知類権保障 大部品 刑法総論 RD 36 評価値 8部品 適用範囲 大部品 刑罰・執行猶予 RD 4 評価値 3部品 刑罰 部品 執行猶予 大部品 仮釈放・仮出場 RD 2 評価値 2部品 仮釈放 部品 仮出場 大部品 犯罪の成立要件 RD 24 評価値 7大部品 構成要件 RD 12 評価値 6部品 構成要件とは 大部品 基本的構成要件 RD 4 評価値 3大部品 客観的構成要件要素 RD 3 評価値 3部品 実行行為 部品 主体・客体 部品 結果・因果関係 大部品 主観的構成要件要素 RD 1 評価値 1部品 故意・過失 大部品 修正された構成要件 RD 6 評価値 4部品 未遂 部品 陰謀・予備 大部品 広義の共犯 RD 4 評価値 3部品 共犯現象 部品 共同正犯 大部品 狭義の共犯 RD 2 評価値 2部品 教唆犯 部品 幇助犯 大部品 刑法の占有 RD 1 評価値 1部品 財産犯の占有 大部品 違法性阻却事由 RD 7 評価値 5部品 違法性阻却事由とは 部品 結果無価値論・行為無価値論 大部品 正当行為 RD 2 評価値 2部品 法令行為・正当業務行為 部品 被害者の承諾 大部品 緊急行為 RD 3 評価値 3部品 正当防衛 部品 緊急避難 部品 自救行為 大部品 責任阻却事由 RD 4 評価値 3部品 責任無能力者 大部品 心神喪失・心神耗弱 RD 2 評価値 2部品 心神喪失・心神耗弱とは 部品 原因において自由な行為 部品 刑事未成年 大部品 錯誤 RD 1 評価値 1部品 錯誤とは 大部品 自首 RD 1 評価値 1部品 自首とは 大部品 罪数 RD 6 評価値 4部品 罪数論 大部品 成立上一罪 RD 2 評価値 2部品 法条競合 部品 包括一罪 大部品 数罪 RD 3 評価値 3部品 科刑上一罪 部品 併合罪 部品 かすがい現象 大部品 刑法各論 RD 9 評価値 5部品 公務執行妨害罪 部品 逃走罪 部品 犯人蔵匿罪 部品 贈・収賄罪 部品 殺人罪 部品 暴行罪・傷害罪 部品 凶器準備集合・結集罪 部品 逮捕・監禁罪 部品 脅迫罪 部品定義 部品 刑法(penal code) 刑法(penal code)とは、「なにをすると犯罪になるのか」「その犯罪に対しどのような刑罰を与えるのか」、犯罪と刑罰についての法令のことである。 刑法は刑法典に記載されている。 基本的に各藩国の刑法典は、天領の模範刑法典を参考に作られている。 また藩国に権限がない事項については、にゃんにゃん共和国や天領の刑法典に定められている。 刑法典以外の法令に犯罪とその刑罰を定めている場合、その刑法は特別刑法と呼ばれる。 刑法典は形式的意味の刑法とも呼ばれる。 また特別刑法を含む犯罪と刑罰の法規全般は、実質的意味の刑法と呼ばれる。 刑法典は総論と各論から構成されている。 刑法総論は犯罪や刑罰に共通する規定や事柄をあつかっている。 つまり、犯罪や刑罰を一般的・抽象的に論じた分野が刑法総論である。 刑法総論は刑法総則、刑法の一般原則とも呼ばれる。 刑法各論はさまざまな犯罪に対し、それぞれどのような刑罰が科されるか規定したものである。 つまり、なにをするとどの犯罪になるのか、個々の犯罪を具体的に論じた分野が刑法各論である。 刑法各論は、特定犯罪の定義とも呼ばれる。 刑法に関する法学は刑法学と呼ばれる。 部品 法益保護 罪も罰も決まっていない場合、知類を殺したり、盗みをはたらいてもよいことになる。 権利や利益などの法益を侵略する行為を犯罪として刑法に定めることで、藩国民の法益を守っている。 このように刑法が法益を守るはたらきを法益保護機能と呼ぶ。 部品 知類権保障 犯罪が知類の法益を侵害するものであるように、刑罰も犯罪者として処罰される知類の生命・自由・財産などの法益を奪うものである。 なにが犯罪か明確に規定されていない場合、いつ処罰されるかわからない。 そのような状況では藩国民が委縮するため、藩国民の自由が不当に制限されることになる。 そのため、刑法によって犯罪と刑罰を明確に規定し、藩国が無辜の知類を不当に処罰することがないよう、権力行使を規制することで、藩国民の知類権を守っている。 このように刑法が知類権を守るはたらきを知類権保障機能と呼ぶ。 自由を守っているため、自由保障機能とも呼ばれる。 /*/ 刑法が知類権保障機能を発揮するためには、犯罪と刑罰は法令によりあらかじめ定められていなければならない。 これを罪刑法定主義と呼ぶ。 刑罰には藩国民の法益に対する重大な脅威である。 そのため、民主主義の藩国では、藩国民自身の意思で犯罪と刑罰を決めるべきである。 ゆえに民主主義の藩国では、藩国民の代表から構成される立法機関が法令という形で犯罪と刑罰を決める必要がある。 立法機関とは、立法権を行使し、法規の制定を担当する組織である。 /*/ 知類権保障機能は法益保護機能と互いに矛盾対立する。 社会の秩序を維持するためには、ふたつの機能を調和させることが重要である。 部品 適用範囲 各藩国の刑法は、原則として藩国内において罪を犯したすべての知類に適用する。 また、各藩国の刑法は、藩国外にある藩国籍の船舶や航空機内において罪を犯した知類にも同様に適用する。 ただし、法令や藩国間の条約に特段の規定がある場合は、適用範囲が変更できる。 部品 刑罰 刑法において刑罰とは、藩国や国家が犯罪者に科す制裁のことである。 刑罰は刑事罰とも呼ばれる。 それぞれの犯罪について刑法の条文に定められている刑罰は法定刑と呼ばれる。 また、法定刑に加重・減軽の修正を施して決められた刑は処断刑と呼ばれる。 /*/ 刑罰の目的は応報と予防が考えられている。 刑法学において応報とは、犯罪という悪いことをしたから、刑罰という悪い報いを受けさせるという考え方である。 刑法学において予防とは、将来、同じような犯罪が繰り返されないようにするため、刑罰を与えるという考え方である。 刑罰の目的としての予防には、一般予防と特別予防が考えられる。 一般予防とは、実際に犯罪をした者を処罰することで、他の知類が犯罪をしないよう警告するという考え方である。 特別予防とは、犯罪をしそうな危険な性格の知類に対し、治療や教育として刑罰を科して性格を矯正し、犯罪を防ぐという考え方である。 特別予防では、実際にはまだ犯罪をしていない者であっても処罰するため、処罰の範囲が広くなりすぎてしまう。 そのため、刑罰の目的は応報や一般予防ととらえるのが刑法学で主流となっている。 /*/ 刑法では、絶対的不定期刑と遡及処罰が禁止されている。 絶対的不定期刑とは、法令で規定していない刑罰のことである。 つまり、絶対的不定期刑の禁止とは、法令で規定していない刑罰を科すことはできないことである。 遡及処罰とは、行為時に適法であるか、違法であるが罰則のない行為だった場合、あとで制定された刑罰法規によってさかのぼって処罰することである。 つまり、遡及処罰の禁止とは、行為時に制定されていない刑罰法規でさかのぼって処罰されないことである。 /*/ 犯罪は、科される刑罰によって、重罪・軽罪・違警罪に大別する場合がある。 重罪とは、死刑や一定期間以上の懲役・禁錮などの重刑が科される犯罪のことである。 死刑とは、受刑者の生命を奪う刑罰である。 死刑の執行方法については、絞首・斬首・銃殺・電気殺・ガス殺など、藩国や犯罪の種類によって異なる。 死刑を宣告された受刑者は、死刑が執行されるまでの間、刑事施設に拘置される。 懲役とは、刑事施設に拘置し、所定の作業を強制的に科す刑罰である。 禁錮とは、刑事施設に拘置する刑罰である。 禁錮は懲役と異なり、作業の強制はない。 懲役と禁錮は、無期と有期があり、無期は終身、有期は期間の上限と下限が定められている。 藩国によって異なるが、たとえば1か月以上20年以下が有期の上限と下限である。 ただし、死刑や無期懲役・無期禁錮を軽減した場合、有期懲役・有期禁錮の上限は30年となる。 また、併合罪や再犯で刑罰を加重する場合も、有期懲役・有期禁錮の上限は30年となる。 なお、短命の種族にとって、長期の有期懲役・有期禁錮は、実質的に無期の懲役・禁錮と同等になる場合がある。 そのため、藩国によっては、種族ごとの寿命を考慮して刑罰を定めている。 軽罪とは、一定期間未満の懲役・禁錮や罰金などの刑罰が科される犯罪である。 罰金とは、犯罪の処罰として制裁金を取り立てる刑罰である。 藩国によって異なるが、罰金で科される制裁金には上限と下限が定められていることが多い。 たとえば制裁金の下限は100にゃんにゃん以上である。 ただし、罰金を軽減した結果、制裁金が100にゃんにゃんの下限を下回る場合もある。 犯罪者の年収や財産を考慮して、制裁金の上限を定める藩国もある。 違警罪とは、拘留や科料などの刑罰が科される犯罪である。 拘留とは、刑事施設に拘置する刑罰である。 拘留は懲役や禁錮と異なり、無期はなく、有期のみである。 拘留期間の上限は禁錮の下限未満である。 科料とは、犯罪の処罰として制裁金を取り立てる刑罰である。 科料で科される制裁金の上限は、罰金の下限未満である。 罰金・科料は財産を奪うため、財産刑とも呼ばれる。 財産刑を完納することができない場合、換刑処分として労役場に留置し、所定の作業をおこなわせる。 財産刑の一部を納付した場合、その金額に応じて労役場に留置する期間が短くなる。 懲役・禁錮・拘留は自由を奪うため、自由刑とも呼ばれる。 自由刑は刑の執行によって、健康を害するおそれや回復不可能な不利益を生じるおそれなどがあるとき、執行停止が認められている。 死刑・懲役・禁錮・罰金・拘留・科料などは主刑と呼ばれる。 主刑とは、独立して科すことのできる刑罰のことである。 主刑を科された際に付加して科される刑罰は付加刑と呼ばれる。 重罪か軽罪に該当する犯罪は、犯罪で使用された道具や犯罪によって得た盗品や報酬の所有権を奪うことができる。 この刑罰を没収と呼ぶ。 没収は付加刑のため、没収だけを科すことはできず、必ず懲役や罰金などの他の刑罰と同時に科される。 没収によって奪うことができるのは、犯罪者が所有する物か、もしくは犯罪に関する物と知りながら取得した物に限定される。 実務上、没収が科される物は、事前に大法院や捜査機関が押収している場合がほとんどである。 違警罪に該当する犯罪は、特段の規定がない限り、没収を科することができない。 ただし、偽造文書やわいせつ物など、その物の存在が犯罪に必要不可欠なものについては違警罪に該当する場合でも没収を科することができる。 盗んだ物品を紛失・毀損したり、犯罪で得た報酬を使ったりして没収できない場合、代償処分として没収する物の価額の納付を強制するができる。 この刑罰を追徴と呼ぶ。 この他に、物理的な肉体をもたないAI知類など、種族ごとの特徴に応じて、一般予防の観点から妥当な刑罰が刑法で規定されている。 部品 執行猶予 執行猶予とは、有罪判決を受け刑を言い渡された者に対し、刑の執行を一定の期間、猶予する制度である。 執行猶予は、刑の全部の執行猶予と、刑の一部の執行猶予に分類される。 執行猶予の付いていない刑は、俗に実刑と呼ばれる。 たとえば、法の司の裁定で被告人へ懲役3年の実刑が言い渡され、その刑が確定すると、ただちに懲役3年の刑が執行され、刑務所に入る。 刑の全部の執行猶予が付いている場合、懲役3年の裁定が確定しても、ただちに懲役3年の刑が執行されない。 また、刑の一部の執行猶予が付いている場合、言い渡された刑期のうち、執行を猶予された期間を差し引いた期間について、刑務所に入ることになる。 執行猶予は、以前に禁錮以上の刑に処せられたことがないか、禁錮以上の刑を執行された後、一定期間禁錮以上の刑に処せられたことがない者などに限定して付けられる。 執行猶予を付けられる刑罰は、藩国によって異なるが、たとえば3年以下の懲役・禁錮、または5000にゃんにゃん以下の罰金など限定される。 執行を猶予できる期間は、藩国によって異なるが、たとえば1年から5年の範囲である。 刑の執行猶予を言い渡した後に他の罪を犯したり、刑の執行猶予を言い渡す前に他の罪で禁錮以上の刑に処せられたりした場合、執行猶予は取り消されることがある。 猶予の期間中に執行猶予は取り消されなかった場合、その犯罪に対する刑罰を受けることがなくなる。 執行猶予の制度は、比較的軽い罪を犯したような犯罪者が反省し、今後はまじめな生き方をしていきたいと決心している場合、刑罰を科す必要がないため設けられている。 このような犯罪者を刑務所に入れると、世間の偏見などによって自暴自棄となり、立ち直ろうとした決意が崩れて、かえって以前よりも悪くなるといった事態が考えられる。 そのため、執行猶予の制度が考え出された。 刑罰に執行猶予を付す際、同時に保護観察を付すことができる。 部品 仮釈放 仮釈放とは、懲役・禁錮に処せられた者が一定の期間を経過した後、刑事施設から仮に釈放されることである。 一定の期間とは、藩国によって異なるが、たとえば有期刑の受刑者はその刑期の3分の1、無期刑の受刑者は10年である。 仮釈放の対象となる受刑者は、自分の犯した悪事や失敗を反省し、心を改め正したと認められた者に限られる。 仮釈放の対象者は、保護観察に付される。 仮釈放中に罪を犯し、罰金以上の刑に処せられた場合や、遵守すべき事項を遵守しなかった場合は、仮釈放の処分を取り消すことができる。 仮釈放の処分を取り消したり、仮釈放の処分が効力を失ったりした場合、釈放中の日数は、刑期に数えない。 仮釈放後、所定の期間を遵守条件に従って、無事に経過した場合、その受刑者の懲役・禁錮は刑の執行が終了したものと取り扱われる。 部品 仮出場 仮出場とは、拘留に処せられた者が、情状により、仮に出場を許されることである。 刑法や治罪法において情状とは、刑事訴追などを行うかどうかの判断や刑の量定をする際、考慮すべき事情のことである。 考慮すべき事情とは、たとえば罪を犯した動機や目的、被疑者・被告人・受刑者の性格・年齢・経歴・境遇などである。 仮出場は、仮釈放と異なり、一定の期間の経過を必要としない。つまり、いつでも仮出場できる。 罰金や科料を完納することができないため留置された者も、情状により、仮出場できる。 部品 構成要件とは 罪刑法定主義において犯罪が成立するためには、構成要件に該当し、違法で有責な行為でなければならない。 /*/ 犯罪の構成要件とは、犯罪について定めた法令の条文に解釈を加えて導き出される犯罪の類型のことである。 この犯罪類型に当てはまることを「構成要件該当性がある」と表現する。 構成要件という概念は、判断の最初の段階で検討すべき犯罪を決める機能がある。 この機能を犯罪個別化機能と呼ぶ。 /*/ 構成要件には、基本的構成要件と修正された構成要件に分けられる。 基本的構成要件は既遂犯や単独犯を主な対象としている。 そこから修正を加えたものが「修正された構成要件」である。 /*/ 構成要件該当性を認めるためには、構成要件を形作る要素がすべてそろっている必要がある。 この要素を構成要件要素を呼ぶ。 構成要件要素は客観的構成要件要素と主観的構成要件要素に大別できる。 客観的構成要件は、犯罪事実とも呼ばれる。 部品 実行行為 行為主義とは、犯罪を処罰するためには、外界に影響を与え、意思で制御できる行為でなければならないとする考え方である。 このように、刑法による処罰を考えなければならないような、現実に法益侵害の危険がある行為を、実行行為と呼ぶ。 心の中でいくら悪いことを考えていても外界には影響を与えないため、処罰の必要はない。 また、反射運動や睡眠中の体の動きなど、意思で制御できないものは、他者の法益を侵害しても非難できない。 実行行為は基本的構成要件の客観的構成要件要素である。 /*/ 構成要件に規定されている行為を構成要件的行為と呼ぶ。 構成要件的行為は犯罪行為とも呼ばれる。 犯罪行為は作為と不作為に分けられる。 作為とは、法益侵害の危険を新たに作り出す行為のことである。 たとえば、凶器で他者に傷つけるような行為は作為である。 不作為とは、すでに存在する法益侵害の危険を消滅させない行為のことである。 たとえば、重病者を放置するような行為は、重病で死ぬというすでに存在する危険を消滅させていないため、不作為である。 不作為によって成立する犯罪を不作為犯と呼ぶ。 不作為犯は法益侵害の危険を消滅させる義務を持つ者に限定される。 このような義務を作為義務と呼ぶ。 たとえば、親やベビーシッターが子供を監護する義務が、作為義務として認められることもある。 どのような場合に作為義務を認めるかは、法令に根拠がある場合、契約や事務管理などの法律行為による場合、慣習や条理による場合などがある。 不作為犯は真正不作為犯と不真正不作為犯に分類できる。 真正不作為犯とは、不退去罪や救護義務違反など、構成要件が不作為を予定している罪のことである。 不真正不作為犯とは、作為犯とされる犯罪を、不作為によって実現することである。 /*/ 直接正犯とは、行為者自ら犯罪を実行する正犯である。 また間接正犯とは、他者を意のままに動かし、他者を介して実行する正犯である。 たとえば「代金を支払わず、店頭にある商品を持ち出してはいけない」ということを知らない幼児に対し、Xが商品を店外に持ち出すように頼み、幼児がそれに従った場合を考える。 この場合、一見、幼児が窃盗の実行行為をしているように見える。 しかし、Xが何も分からない幼児を道具のように操り、自ら窃盗したと考えるほうが実態に即している。 そのため、間接正犯の場合、直接結果をもたらした他者の行為ではなく、その背後で他者を仕向けた行為こそが実行行為であると解釈される。 部品 主体・客体 刑法において、主体とは、行為者のことである。 行為の主体は、原則として知類のことであるが、法人も行為の主体となることができる。 法人を罰する規定は、たとえば両罰規定が該当する。 両罰規定とは、法人が所属する役員や従業員などが、法人の業務に関連して違法な行為をした際、その違法な行為をした役員や従業員だけではなく、所属する法人も併せて罰する規定である。 原則として犯罪行為の主体となる知類に制限はないが、例外として主体に一定の身分が必要となる場合がある。 構成要件として、行為者に一定の身分が必要な犯罪を身分犯と呼ぶ。 身分犯は真正身分犯と不真正身分犯に分類できる。 真正身分犯とは、特定の身分があって初めて成立する犯罪である。 不真正身分犯とは、特定の身分がなくても成立する犯罪である。 /*/ 刑法において、客体とは、行為の対象となる知類や物のことである。 たとえば、窃盗罪や横領罪では他者の財物などが客体となる。 財物を客体とする犯罪を財物罪と呼ぶ。 部品 結果・因果関係 犯罪は結果発生の必要性から、結果犯・挙動犯・結果的加重犯に分類される。 結果犯とは、結果の発生を構成要件としている犯罪のことである。 たとえば、傷害罪・窃盗罪・詐欺罪などが結果犯である。 挙動犯とは、結果の発生を必要としない犯罪のことである。 たとえば、住居侵入罪や偽証罪などが挙動犯である。 結果的加重犯とは、行為者が認識していた犯罪事実よりも重い結果が生じた場合、その結果を処罰する犯罪のことである。 たとえば、傷害致死罪・強盗致死罪・逮捕等致死傷罪などが結果的加重犯である。 /*/ 犯罪は法益侵害の必要性から、実質犯・危険犯・形式犯に分類される。 実質犯とは、傷害罪のような法益侵害の発生を必要とする犯罪のことである。 危険犯とは、法益侵害の危険を生じさせることが構成要件となっている犯罪のことである。 危険犯は具体的危険犯と抽象的危険犯に分類される。 具体的危険犯とは、法益侵害に対する具体的な危険の発生が構成要件となっている犯罪のことである。 たとえば自己所有非現住建造物等放火罪や建造物等以外放火罪は、公共の危険が具体的に発生することを要するため、具体的危険犯である。 抽象的危険犯とは、法益侵害に対する具体的な危険を必要とせず、一般的な危険の発生を構成要件とする犯罪のことである。 たとえば、現住建造物等放火罪や他者所有非現住建造物等放火罪は、抽象的危険犯である。 なぜなら、客体に対する放火行為自体が公共の危険に含まれるため、既遂の要件に 形式犯とは、法益侵害に対する抽象的な危険すら必要としない犯罪のことである。 たとえば、信号無視や免許不携帯などの道路交通法違反は形式犯である。 /*/ 犯罪は法益侵害の様態から即時犯・状態犯・継続犯に分類される。 即時犯とは、結果の発生によって既遂となり、その後、犯罪者の行為に関係なく、法益侵害状態が継続する犯罪のことである。 たとえば、殺害や放火が即時犯である。 状態犯とは、結果の発生によって既遂となるが、その後、犯罪者の行為によって法益侵害状態が継続する犯罪のことである。 たとえば、窃盗罪や詐欺罪などが状態犯である。 継続犯とは、犯罪が既遂となった後も犯罪行為が継続する犯罪のことである。 たとえば、逮捕監禁罪や住居侵入罪が継続犯である。 /*/ ある結果が生じた際、実行行為をした者にその責任を問うためには、実行行為と結果の間に因果関係がなければならなない。 刑法において、因果関係には条件説・相当因果関係説・原因説などの考え方があり、相当因果関係説が主流である。 因果関係は基本的構成要件の客観的構成要件要素である。 /*/ 条件説とは、因果関係を認めるためには、条件関係を認めればよいとする考え方である。 条件関係とは、「その実行行為がなければ、その結果も生じなかっただろう」といえる関係のことである。 条件関係を判断する際は、実際の事件の経過において、その実行行為がその結果を生じさせるために必要であったか検討しなければならない。 たとえばXがYに毒を飲ませ、毒の効果をおよぼす前に、Xと無関係なZによって銃殺された場合、Xの実行行為はZの死亡という結果を発生させるために必要ではない。 そのため、Xの実行行為に対し、Zの死亡という条件関係は否定される。 条件関係を判断する際、実際にはなかった事情を仮定し、判断してはならない。 たとえばXの車がYをはねた結果、Yが死亡した場合、たとえXの車がはねなくてもZの車がはねたため、Yが死亡したと考えると、実際には起きなかったZの車がはねたという仮定によって、Xの実行校とZの死亡の条件関係が否定されてしまう。 そのような否定は不当であるため、実際にはなかった事情を仮定してはならない。 /*/ 相当因果関係説とは、因果関係を認めるためには、条件関係と相当因果関係の両方を認める必要があるとする考え方である。 相当因果関係とは、条件関係が認められることを前提に、その実行行為からその結果を生じることが相当であるといえることである。 ここでいう相当とは「とくに異常ではない」「自然である」くらいの意味合いである。 たとえば「親が犯罪者を生まなければ被害者が死ぬこともなかった」として、親の出産と被害者の死の間に因果関係を検討した場合、親の出産から被害者の死が生じたことは不当であるため、相当因果関係が否定される。 刑法において相当因果関係説は主流の考え方であるため、因果関係を検討する際は、まず条件関係を検討し、条件関係が認められる場合に相当因果関係を検討するという順番で検討する。 /*/ 原因説とは、実行行為の中からとくに重要な条件のみを原因と考え、その原因と結果について因果関係があるか検討する考え方である。 部品 故意・過失 刑法において故意とは、客観的構成要件要素にあたる事実を認識したうえで許容することである。 ここでいう許容とは、それでもかまわないと思っている心理状態のことである。 実行行為によって結果を生じることを認識している際、積極的に望んでいる場合だけでなく、それでもかまわないと消極的に思っている場合でも、故意があると認められる。 このような消極的に思う故意を未必の故意と呼ぶ。 たとえばXのいるところに爆弾をしかけたところ、無関係なYもいることに気づき、罪のないYを巻き込みたくないと思いつつも、Xを殺すために爆弾を作動させ、Yも殺してしまった場合、Yの死を予見し容認して実行したため、Yの殺害について未必の故意が認められる。 故意を要件とする犯罪を故意犯と呼ぶ。 故意を認めるためには、原則として、犯罪事実全体を認識・許容する必要がある。 ただし結果的加重犯については、基本となる犯罪事実について認識・許容があれば、重い結果に対する認識・許容がなくても故意が認められる。 /*/ 通常、故意がなければ処罰されない。 ただし、法律に特段の規定がある場合、過失でも処罰される。 刑法において過失とは、注意義務を怠ること、注意義務違反のことである。 注意義務とは、結果が生じないよう注意する義務のことである。 注意義務は、予見義務と回避義務に分けられる。 予見義務とは、結果の発生を予見する義務のことである。 また、回避義務とは、結果の発生を回避する義務のことである。 たとえば物陰から子どもが飛び出して、車ではねて死なせてしまった場合、物陰から子どもが飛びしたら車ではねて死なせてしまうということを予測する義務が予見義務で、そうならないようにするため減速するなどの措置をとる義務が回避義務である。 予見義務と回避義務が課せられる状況で、その義務を怠った場合、過失が認められる。 過失による行為で犯罪として処罰されるものを過失犯と呼ぶ。 未必の故意と過失犯の区別は、自動車の運転でたとえると次のようになる。 「このまま進行すれば歩行者をひくかもしれない」と結果の発生を認識・許容して交通事故を起こした場合、未必の故意である。 また、「このまま進行しても歩行者をひくことはないだろう」と結果の発生を認識・許容していない状態で交通事故を起こした場合、過失犯である。 居眠りや脇見などで歩行者を認識せず、交通事故を起こした場合も過失犯である。 /*/ 業務上過失とは、危険な仕事をする者が業務上の注意義務に違反し、他者の法益を侵害することである。 業務上過失犯は、特別に高度な注意義務が業務者に課せられているため、通常の過失犯より重い処罰を受ける。 /*/ 重過失とは、業務上の過失以外で、注意義務を怠った程度が著しい場合のことである。 わずかな注意を払うことで、結果の発生を容易に予見・回避できたのに、注意を払わず結果を回避しなかった場合、重過失に該当する。 部品 未遂 未遂犯とは、犯罪の実行に着手したにもかかわらず、これをなしとげなかった場合のことである。 未遂犯は、そもそも結果を生じなかった場合と、結果は発生しているが実行行為と結果の間に因果関係が認められない場合の両方を含む。 刑法では既遂犯の処罰が原則であり、特段の規定がある場合のみ、未遂犯も処罰する。 未遂犯が処罰される理由は、法益を侵害する現実的危険を生じさせるためと考えられている。 例外もあるが、未遂犯は実行行為を開始した時点、つまり犯罪の実行に着手した時点で成立する。 /*/ 未遂犯は、障害未遂と中止未遂に分けられる。 障害未遂とは、なんらかの事情で偶然未遂に終わった場合のことである。 たとえば他者を殺すつもりで銃を構えたが、警察官が来て撃つことをやめた場合が障害未遂に該当する。 中止未遂とは、実行行為を開始した後に、自らの意思で犯罪を中止した場合のことである。 たとえば他者を殺すつもりで銃を構えたが、自らの意思で撃つことをやめた場合が中止未遂に該当する。 障害未遂の場合、任意的減軽、つまり刑を減軽できるが、減軽されないこともある。 中止未遂の場合、必要的減免、つまり必ず刑を減軽または免除を受けられる。 中止未遂が必要的減免である理由は、刑の減軽・免除を約束することで中止を促すため、あるいは障害未遂に比べて違法性や有責性が弱いためとされている。 中止未遂が成立するためには、自らの意思で犯罪を中止し、かつ最終的に既遂にいたらなかったことが必要である。 ここでいう中止とは、実行行為によって危険な状態に陥った法益を救うことである。 たとえば殺すつもりで相手に致命傷を与えた場合、中止未遂が認められるためには、その負傷者を救命する必要がある。 仮に相手が死んでしまった場合、実行行為を中断していても中止未遂は成立しない。 中止未遂は中止犯とも呼ばれる。 /*/ 犯罪をするつもりで行為をおこなったが、その行為がそもそも法益を侵害する危険がないため、未遂犯すら成立しない場合を不能犯と呼ぶ。 たとえば砂糖が致死性の高い毒であると信じ、相手に砂糖を食べさせた場合が不能犯である。 一見すると実行行為がおこなわれているように見えるが、実はなんらかの事情により結果が生じない場合、未遂犯か不能犯かが問題になる。 たとえば警察官から銃を奪い、相手に向けて引き金を引いたが、弾が入っていなかった場合を考えてみる。 この場合、通説とされる具体的危険説では、行為の時点で世間一般が認識できた事情と、行為者がとくに認識していた事情を判断材料として、世間一般が法益を侵害する現実的な危険性を感じるなら未遂犯、感じないなら不能犯と考える。 さきほどの例では、警察官から奪った銃に弾が入っていないという事情は、行為の時点で認識できず、行為者自身も認識していない。 そのため、弾が入っていないという事情は判断から除く。 その前提では、相手に向かって引き金を引くという行為は世間一般では危険と感じるため、未遂犯が成立する。 部品 陰謀・予備 刑法において陰謀とは、犯罪の実行を着手する前に、二名以上の者が犯罪の遂行を謀議し、合意することである。 また刑法において予備とは、実行する予定で犯罪の準備をおこない、まだ実行を着手していないもののことである。 陰謀や予備に対する処罰は、既遂犯の処罰という原則の対極にある。 そのため、大多数の藩国では陰謀や予備を重大な犯罪に限り、例外的に規定している。 部品 共犯現象 ひとつの犯罪の実現に複数名の知類が関与する場合を共犯、あるいは共犯現象と呼ぶ。 刑法で共犯は必要的共犯と任意的共犯に大別されている。 /*/ 必要的共犯とは、二名以上の知類による共同行為を構成要件とする共犯である。 たとえば集団犯や対向犯は構成要件の性質上、二名以上の行為者によっておこなわれるため、必要的共犯に分類される。 集団犯とは、内乱罪や騒乱罪など、二名以上の者が同じ目的に向かって共同して行動しなければ成立しない犯罪のことである。 対向犯とは、重婚罪・収賄罪・贈賄罪・賭博罪など、二名以上の者の対向した行為を要件としている犯罪のことである。 必要的共犯は独立した共犯類型として規定されたものである。 そのため、任意的共犯に関する刑法総論の共犯規定は、必要的共犯には適用されない。 /*/ 任意的共犯とは、通常、単独犯でおこなわれる犯罪を二名以上の知類でおこなう共犯である。 任意的共犯は広義の共犯とも呼ばれる。 広義の共犯とは、共同正犯・教唆犯・幇助犯のことである。 広義の共犯は、単独正犯に対比される用語である。 単独正犯とは、一名が犯罪をおこなう犯罪のことである。 単独正犯は、直接正犯と間接正犯に分類される。 共同正犯と類似する犯罪実現類型に間接正犯がある。 間接正犯は単独正犯に分類されるため、広義の共犯に含まれない。 狭義の共犯とは、教唆犯・幇助犯のことである。 狭義の共犯は、正犯に対比される用語である。 正犯とは、原則として自ら犯罪を実現した者のことであり、犯罪実現の主役である。 正犯は、単独正犯と共同正犯に分類される。 それに対し狭義の共犯は、他者の犯罪に加担した、犯罪実現の脇役である。 /*/ 直接犯罪を実行していない教唆犯や幇助犯をなぜ処罰しなければならないのかという問題を、共犯の処罰根拠論と呼ぶ。 教唆犯や幇助犯は直接、法益を侵害するものではないが、他者の行為を通じ、法益を侵害していると考えられる。 このように、共犯も法益侵害を引き起こしたことを理由に処罰されるという考え方を惹起説と呼ぶ。 部品 共同正犯 二名以上の知類が共同して犯罪を実行した場合、犯罪を実行した知類はすべて正犯とする。 これを共同正犯と呼ぶ。 つまり、共同正犯が認められると、自らは犯罪の一部しか実行していない場合でも、実現した犯罪のすべてについて責任を負うことになる。 たとえばXとYが事前に相談し、それぞれZに対し銃で発砲したところ、Xの発砲した弾丸のみが命中し、Zが死亡した場合を考える。 この場合でも、YはZの死亡について責任を負うべきである。 なぜなら、YはXと相談することでXの行動に影響を与え、Xの行動がZの死を引き起こしたと考えられるからである。 また、YがZに対し銃を発砲したことは殺害行為である。 Yは自ら犯罪を実行したため、正犯である。 ゆえにYは犯罪の一部しか実行していないが、全体としての責任を負うことになる。 これを共同正犯の一部実行全部責任の法理と呼ぶ。 /*/ 共同正犯が成立するためには、原則として共同実行の意思と共同実行の事実が必要となる。 共同実行の意思とは、二名以上の知類が一緒になって犯罪をおこなうことを合意し、お互いにその意思を抱いていることである。 たとえばXとYが事前に相談せず、たまたま同じZに対し、それぞれ銃で一発ずつ発砲したところ、どちらかが発砲した弾丸が命中し、Zが死亡した場合を考える。 このように、共謀せず偶然同じ行動におよび、だれが引き起こした結果か判断できない場合を同時犯と呼ぶ。 「行為者と判明したときのみ責任を問える」と考える責任主義からすると、同時犯はXとYのどちらにもZを殺害した責任を問えない。 「疑わしきは被告人の利益に」という考えから、Xの罪を問う際はYの弾丸が命中したと考え、Yの罪を問う際はXの弾丸が命中したと考えるからである。 そのため、この場合、同時犯のXとYは殺害の既遂ではなく、未遂として処罰される。 /*/ 実行行為をしなくても共同正犯と認められる場合がある。 これを共謀共同正犯と呼ぶ。 たとえば犯罪を実行した知類の背後に、犯罪の計画を練り上げ、凶器を提供した知類がいた場合を考える。 このような犯罪の黒幕は、犯罪を直接実行していなくても犯罪の主役というべきである。 そこで、このような犯罪を実行していない知類であっても共同正犯として処罰する理論を、共謀共同正犯の理論と呼ぶ。 犯罪を実行していない知類をどのような場合に正犯と認めるかについては、学者の間でも意見が分かれている。 判例では、犯罪実現に果たした役割の重要性や犯罪によってどのような利益を得たかなどを考慮して、犯罪実現の主役的存在であったか否かで共謀共同正犯を判断している。 共謀共同正犯は、必ずしも事前に犯行現場の確認や凶器の準備などをおこなわなくても、現場共謀でも認められる。 現場共謀とは、犯行現場でとっさに共謀を形成することである。 たとえば父が子を虐待しているところを母が見て、父と目が合ったとき、母が目をそらし虐待を止めなかった場合、父と母の共謀が認められる。 そのため、虐待を手伝っていない母も共謀共同正犯として処罰される。 /*/ 継承的共同正犯とは、犯罪実現の途中から関与した知類にどのような責任を負わせるかという問題である。 たとえばXをYが殴って気絶させた後、途中からZが関与し金品を強奪した場合、Zは強盗として処罰されるかという問題である。 Zは暴行に関与しておらず、財物を奪うことにしか関与していない。 そのため、Zに強盗は成立せず、窃盗に留めるべきだと考えも強く主張される。 しかし、ZはYがXを気絶させた状況を利用して財物を奪っているため、判例ではZに対しても強盗が認められる。 部品 教唆犯 教唆犯とは、犯罪をするよう他者をそそのかし、犯罪をおこなうことを決意させ、犯罪を実行させることである。 教唆犯をするようそそのかした場合を間接教唆と呼ぶ。 間接教唆も教唆犯に含まれる。 また、間接教唆をするようそそのかす再間接教唆も教唆犯として処罰される。 教唆犯の成立に、そそのかす方法は問わない。 たとえば、犯罪の実行に対し報酬を与える場合や犯罪を実行しなければ解雇するなど不利益を与える場合、利益・不利益を提示せず警備状況の情報を伝え犯行の動機を与える場合などが教唆である。 教唆犯が成立するためには、被教唆者に犯罪実行の決意が生じなければならない。 被教唆者とは、犯罪をするようそそのかされた者のことである。 犯罪をするようそそのかしても、犯罪実行を決意しなければ、教唆犯は成立しない。 また、すでに犯罪実行を決意している相手に、犯罪をするようそそのかしても教唆犯は成立しない。 教唆によって犯罪実行の決意が生じたといえないため、代わりに刑の軽い幇助犯が成立する。 なお被教唆者が教唆された犯罪を実行し、未遂になった場合でも、教唆の故意が認められるため、教唆犯が成立する。 また正犯の処罰が教唆犯の処罰の要件となっていないため、被教唆者が処罰されず、教唆犯のみが処罰される場合もある。 /*/ 実際の事件では、教唆犯が認められることはほとんどない。 なぜなら教唆犯は実行者に犯罪の実現を決意させ、犯罪の実現を主導しているため、犯罪の主役と評価され、共謀共同正犯として処罰される場合がほとんどだからである。 また他者を道具として、間接的に正犯として犯罪をおこなう場合は間接正犯として処罰される。 たとえば親が養子を繰り返し虐待し、養子が親に逆らえない状況であると仮定する。 この状況で親が養子に犯罪を命じ、養子が犯罪を実行した場合、その養子は親の意のままに従わざるを得なかったと判断され、親の間接正犯が成立する。 部品 幇助犯 幇助犯とは、正犯を幇助した者のことである。 幇助犯をするようそそのかした場合も幇助犯として処罰される。 幇助犯を幇助する間接幇助も処罰される。 幇助犯は、従犯とも呼ばれる。 刑法では、幇助犯の処罰について、正犯や教唆犯と異なり、必ず減軽されるものと定めている。 幇助とは、正犯者の犯罪実行を援助し、犯罪実現を促進することである。 幇助は物理的幇助と心理的幇助に分類される。 物理的幇助とは、被害者宅の合鍵や凶器の提供など、物理的に犯罪行為を容易にする行為である。 心理的幇助とは、犯罪についての助言や激励など、正犯者が犯罪を遂行するおそれを高めることである。 幇助犯は正犯者に対し幇助行為をしただけでは成立せず、正犯者が犯罪を実行してはじめて成立する。 幇助犯が成立するためには、幇助行為が犯罪に必要不可欠でなくてもよい。 たとえば、ある家へ強盗に行こうとしているXにYがその家の合鍵を提供したところ、被害者宅が施錠していなかった場合を考える。 この場合、Yが用意した合鍵は使われていないが、合鍵の提供によって安心してXが強盗行為におよんだため、心理的幇助からYの幇助犯が認められる。 もしYが用意した合鍵を回収し、強盗へ行く前に自分が犯罪に加わらないことをXに伝え、了承を得られれば、Yの行動による物理的・心理的な影響は除去されたと考えられる。 そのため、Yを処罰する理由はなくなる。 /*/ ある家へ強盗に行こうとしているXにYが気づき、被害者宅の玄関を開錠した場合を考える。 正犯者Xは共犯がいると思っていないが、Yは共犯のつもりである。 このような片一方の共犯関係を片面的幇助犯、あるいは片面的従犯と呼ばれる。 このような場合、判例では、正犯者Xが犯罪実行を援助したという事実を知らなくても、Yの幇助犯は成立すると考える。 部品 財産犯の占有 刑法において占有とは、財産犯全般に関係する概念である。 財産犯とは、他者の財物や財産などの法益を侵害する犯罪のことである。 財産犯の客体となる財物は、財産的価値が必要だが、金銭的・経済的価値である必要はなく、家族と撮った写真のような主観的価値でもよい。 刑法上の占有は「自己のために占有する意思を必要としない」「相続によって移転しない」など、民法上の占有の概念といくつかの相違点がある。 /*/ 刑法上の占有の概念は、他者の占有する財物について成立する奪取罪と、他者の占有する財物については成立しない横領罪を区別する際、重要である。 奪取罪とは、窃盗罪・強盗罪・詐欺罪・恐喝罪などの犯罪である。 また、奪取罪の既遂・未遂を判断する際や、被害者を認定する際にも、刑法上の占有の概念が重要である。 /*/ 刑法上の占有の客観的要件は、占有者の「財物に対する事実上の支配関係」が客観的に認められることである。 現実に財物を握り持っている者や、眼前に財物をおいて監視している者は、通常、占有があると認めてよい。 ただし、上位の者の命令や指導によって、下位の者が財物を監視している場合、上位の者が主たる占有者である。 この場合、下位の者は占有の補助者にすぎないため、その財物の占有権はない。 たとえば飲食店に調理担当として雇われた者が調理材料を持ち出した場合、調理材料を占有している者は雇用主や管理者であるため、横領罪ではなく、窃盗罪の構成要件となる。 なお、上位者と下位者の間に高度な信頼関係があり、財物を支配している下位者に財物の処分権がある程度ゆだねられている場合は、下位者に占有が認められる。 たとえば、雇用主の指示で商品を遠方に配達する場合、雇われた者がその商品の占有を有する。 /*/ 刑法上の占有の主観的要件は、財物に対し支配をおこなうようとする意思である。 自己のために占有するという意思までは要件として必要ではない。 たとえば倉庫保管の責任者は、倉庫の中に「どのような物品があるか」「物品はそれぞれいくつあるのか」までは知らなくても、その物品に対し保管の意思があると考えられるため、占有が認められる。 /*/ 住居自体が居住者に排他的に占有されているため、その住居の中にある個々の財物すべてを認識していなくても、住居主の包括的支配意思が認められる。 そのため、住居主が積極的に住居内における占有権を放棄しない限り、個々の財物について占有が認められる。 たとえ住居主が自宅の屋内で財物を見失い、事実上監視できない場合でも占有は認められる。 また、旅行中や外出中などで自宅に不在の間でも、以前から住居にある物や不在中に配達された郵便物などは、住居主の占有権が認められる。 震災・火災・水害などで家財の焼失・流失を防ぐために公道などに財物が置かれた場合、火災や水害が治まればその財物は回収されるべきものであるため、所有者などがその場にいなくても、所有者などに刑法上の占有が認められる。 /*/ 財物を遺失したことで、財物が所有者などの実力的支配から離れてしまった場合、占有離脱物となる。 ただし、第三者が排他的に管理・支配する場所内に財物を置き忘れることによって、置き忘れた者の実力的支配から離れた場合、その財物に対する刑法上の占有は、その場所の管理者に移る。 置き忘れた財物の存在を、置き忘れた場所の管理者が認識していなくても占有は移転する。 たとえば旅館なら旅館主、ゴルフ場ならゴルフ場管理者が置き忘れた財物を占有することになる。 置き忘れた場所の管理者に占有が移った場合、積極的に支配の意思を放棄していないため、その財物を盗み取れば、占有離脱物横領罪ではなく、窃盗罪が成立する。 財物を置き忘れても、置き忘れたことに気づくまでの時間が短く、距離も近い場合、占有が認められる。 判例では、被害者が財物を置き忘れたことに気づくまでの時間が5分以内、距離が20メートル以内の場合、占有が認められた。 所有者が一定の場所に物を置き、その付近にいる場合のように、物に対する支配の意思が強く認められるときは、外見上、財物に対する支配関係が希薄に見えても、占有が認められやすい。 判例では、路上に放置された自転車でも、通行の邪魔にならない場所で置かれており、その場所が隣接する店舗に来る客の事実上の自転車駐輪場となっており、その自転車が新品で所有者の氏名が鮮明に書かれている場合、所有者の占有が認められた。 なお、自転車放置区域内に自転車を放置した場合は、占有の離脱が認められた。 /*/ 事実上の支配をおこなうことができない財物については、刑法上の占有は認められない。 たとえば、漁業協同組合の区画漁場内の水産物は、自然発生的に生ずるものであるため、知類が支配・管理しているとはいえないから、占有が否定される。 ただし、自然物であっても、事実上の支配がおよぶ物については占有が認められる。 たとえば、海中の定置網にかかった魚は、網をかけた者に占有が認められる。 /*/ 複数名が相互平等の関係で財物を占有する場合、共同占有と呼ぶ。 共同占有の場合、各知類に占有が認められるため、そのうちの一名が他の者の占有を侵害すれば、窃盗罪になる。 ただし、共同物であっても、共有者の一名が他の共有者から委託を受けている場合、委託された受託者が単独で占有を有することになる。 この場合、委託された受託者が共同物を処分しても、窃盗罪にはならず、横領罪となる。 /*/ 法令上、物品を管理する職務権限をもつ者は、刑法上、その物品に対する占有を有する。 たとえば麻薬を管理するための免許をもっていない者が所長となっている診療所では、その診療所の麻薬の占有権は、所長ではなく、法令上の免許を受けた麻薬取扱者にある。 /*/ 不動産は、原則として、登記簿上その不動産の所有名義者が刑法上の占有を有する。 ただし、不動産の所有者からその処分を依頼され、所有権移転登記に必要な書類を有する者は、いつでもその書類によってその不動産を処分できるため、その不動産の占有者と認められる。 また、未成年者の親権者は、その未成年者が所有する不動産の占有者と認められる。 部品 違法性阻却事由とは 構成要件に該当しても違法性がない場合は、犯罪にならない。 違法性が認められない事情を違法性阻却事由と呼ぶ。 刑法において違法とは「処罰される必要があること」、阻却とは「否定される」ということである。 つまり、違法性阻却事由とは「処罰の必要性が否定される事情」という意味である。 違法性阻却事由は正当行為と緊急行為に大別できる。 部品 結果無価値論・行為無価値論 違法性の実質については、結果無価値論と行為無価値論のふたつの学説が対立している。 無価値は、無関係という意味ではなく、悪いという意味である。 つまり、結果無価値論は違法性の実質を結果の悪さとする見解である。 結果の悪さとは、法益侵害や法益を侵害する危険のことである。 それに対し、行為無価値論は違法性の実質を行為の悪さとする見解である。 なにが悪い行為かは、「道徳的・倫理的に許されない行為」という理解と、「法益を侵害するおそれが高い危険な行為」という理解がある。 結果無価値論と行為無価値論の大きな違いは、違法性を判断する際、行為者の主観を考慮するか否かである。 結果無価値論は結果の悪さに重視するため、行為者が故意か過失かは違法性に影響しない。 それに対し、行為無価値論は結果を考慮しつつ、行為に重点を置くため、実行者の故意か過失かは違法性に影響する。 行為無価値論は、現在の刑法の通説となっている。 部品 法令行為・正当業務行為 法令行為・正当業務行為とは、正当行為に分類される違法性阻却事由のひとつである。 法令行為とは、法令に従った行為のことで、「法令による行為」とも呼ばれる。 たとえば刑法にもとづいて執行される刑罰は、知類の生命・自由・財産などの法益を奪うものであるが、法令に従った行為であるため、違法性は認められない。 正当業務行為とは、正当な業務による行為のことである。 たとえば、医師が治療の目的で患者を手術する場合、患者の体を切っても違法性は認められない。 部品 被害者の承諾 被害者の承諾とは、正当行為に分類される違法性阻却事由のひとつである。 被害者がその行為を事前に承諾・同意している場合、罪を問われない場合がある。 たとえば、格闘技の試合で相手選手を負傷させた場合、ルール違反や特段の事情がない限り、違法性は認められない。 ただし、被害者の承諾や同意があっても、刑法に特段の記載がある場合は罪を問われる。 たとえば、幼児や児童にわいせつな行為をした場合、被害者の承諾があっても処罰の必要性が否定されない。 被害者の承諾は、被害者の同意とも呼ばれる。 部品 正当防衛 正当防衛とは、急迫不正の侵害に対し、自己や他者の権利を守るため、やむを得ずした行為のことである。 急迫不正の侵害とは、現時点で法益侵害の危険性があるか、または切迫している状態のことである。 たとえば突然、暴漢に刃物で襲われ、すぐに警察へ助けを求められない場合が急迫不正の侵害に該当する。 この場合、自分の身を守るため暴漢に反撃しても、違法性は認められない。 ただし、反撃が防衛の程度を超える場合、やむを得ずした行為に該当しないため、正当防衛にはならない。 このような過剰な反撃による防衛を過剰防衛と呼ぶ。 過剰防衛でも情状により刑の減軽・免除が認められることもある。 正当防衛は緊急行為に分類される違法性阻却事由のひとつである。 /*/ 法益を侵害する行為に対し反撃する場合において、侵害があることを事前に予想し、その機会を利用して相手を攻撃しようという考えを積極的加害意思と呼ぶ。 積極的加害意思を持つ場合、法益侵害が急迫ではないため、正当防衛は成立しない。 部品 緊急避難 緊急避難とは、自己や他者の生命・身体・自由・財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずした行為のことである。 緊急避難の例として「カルネアデスの板」が有名である。 カルネアデスの板とは、海で船が難破し、溺死を防ぐため舟板にしがみついていたところ、別の者が同じ舟板をしがみつこうとしたため、ふたりとも沈まないようにする目的でその者を海に突き飛ばし、溺死させたという寓話である。 カルネアデスの板の状況では、現在の危難を避けたいという避難の意思があり、他に手段がなかったため、違法性は認められない。 ただし、生じた害が避けようとした害の程度を超えた場合は罰せられる。 このように、守ろうとした法益より価値の高い法益を犠牲にする避難を過剰避難と呼ぶ。 過剰避難でも情状により刑の減軽・免除が認められることもある。 正当防衛が「不正対正」の関係に対し、緊急避難は「正対正」の関係となっている。 また、緊急避難は正当防衛と異なり、補充性が求められる。 補充性とは他に手段がないことである。 緊急避難は緊急行為に分類される違法性阻却事由のひとつである。 部品 自救行為 自救行為とは、司法や警察などの公的機関・公的権力による救済を待っていては権利の回復が困難な場合に、自らの実力を行使することで自らの権利を実現することである。 自救行為は刑法や治罪法などの呼び名で、私法では自力救済、国際法では自助と呼ばれる。 たとえば、泥棒に盗まれた物を取り戻す場合が、自救行為や自力救済に該当する。 実力行使をむやみに認めると社会の秩序が維持できないため、公的機関に保護を求めることが原則である。 この原則を私法では、自力救済禁止の原則と呼ぶ。 たとえば、駐輪場に駐輪していた自転車を盗まれ、後日、同じ駐輪場で盗まれた自転車を見つけた場合、持ち帰ることは禁止されている。 なぜなら、必ずしも権利の存在が確実であるとは限らないからである。 もし仮に権利の存在が確実であったとしても、私力による権利の実現を認めてしまうと、状況によっては暴力的に権利が行使されるおそれがある。 そのため、自救行為は原則として禁止である。 ただし、自救行為が緊急行為として例外的に認められる場合もある。 たとえば、自分の目の前で、他者が自分の物を持ち去ろうとしているような場合である。 このように事態の緊急性があり、なおかつ権利を行使する手段が必要な限度を超えない場合、自救行為をおこなっても例外的に許される。 部品 責任無能力者 構成要件に該当し、違法性がある場合でも、行為者自身に責任能力がない場合、その行為者は罰せられない。 責任能力は、弁識能力と制御能力というふたつの能力なる。 弁識能力とは、物事の善悪を判断する能力、自己の行為の是非を弁別する能力のことである。 制御能力とは、弁識能力にしたがって自分の行動を制御する能力のことである。 責任能力がない行為者は、責任無能力者と呼ぶ。 また、責任能力が一般の知類よりも劣る状態の者は、限定責任能力者と呼ぶ。 責任無能力者は刑事責任を負わない。 刑事責任とは、刑罰を受けなければならない刑法上の責任のことである。 行為者に責任能力があることを「有責性を備えている」と表現する。 また、有責性がないことを責任阻却事由と呼ぶ。 刑法において責任とは、適法な行為を選べたにもかかわらず違法な行為をしたことに対する非難である。 つまり、責任阻却事由とは「非難できないような事情」という意味である。 部品 心神喪失・心神耗弱とは 刑法において心神喪失とは、精神の障害によって責任能力がない状態のことである。 また、刑法において心神耗弱とは、精神の障害によって責任能力が著しく減退した状態のことである。 違法な行為をおこなった者が心神喪失の場合、その罪を罰しない。 心神喪失の者は責任無能力者であるため、犯罪が成立しないからである。 また、心神耗弱の場合、責任が小さいため、その罪は減刑される。 なお、心神喪失や心神耗弱とみなされる精神の障害は統合失調症のような精神疾患だけではなく、飲酒や薬物による一時的な状態も含む。 部品 原因において自由な行為 行為者の有責性を判断する際、行為を実行した時点で非難できる状況ではない場合、その行為の責任は認められない。 このように、犯罪の実行行為の時点に責任能力がなければ罪は問われないとする原則を、「実行行為と責任の同時存在の原則」と呼ぶ。 しかし、この原則にしたがうと、飲酒や薬物により自ら心神喪失や心神耗弱になることで、処罰を逃れることができる。 このような場合でも犯罪の成立を認める理論を、原因において自由な行為の理論と総称されている。 心神喪失や心神耗弱に陥る原因となった行為をおこなった時点では、責任能力があり、自由に行為を選べたため処罰するという理論である。 部品 刑事未成年 違法な行為をおこなった時点でその行為者の責任能力が否定される年齢の場合、その罪を罰しない。 刑法において刑事責任が問われる年齢を刑事責任年齢と呼び、単に責任年齢とも呼ばれる。 また、刑事責任が問われない年齢を刑事未成年と呼び、刑事未成年の者を刑事未成年者と呼ぶ。 刑事未成年者に対しては、刑罰を科すという厳しい対応より、更生を目的とした処遇のほうが適切と判断される。 そのため、刑事未成年者であっても矯正院や少年院への収容などの措置がとられる場合もある。 刑事未成年となる年齢は、藩国や種族によって異なるが、たとえば人知類の場合、満年齢で16歳未満・14歳未満・12歳未満などである。 藩国によっては、犯罪の種類や重要性に応じて、刑事未成年となる年齢を個別に定める場合もある。 また刑事責任年齢であっても年齢の若さを理由に刑が減刑される藩国もある。 部品 錯誤とは 刑法において、錯誤には事実の錯誤や法律の錯誤などがある。 /*/ 事実の錯誤とは、客観的な事実や状況が主観的な認識と一致しないことである。 刑法において故意を認めるためには、客観的構成要件要素にあたる事実を認識していなければならないため、錯誤は故意と重要な関係がある。 刑法学において、錯誤の学説は法定符合説が通説だが、反論として具体的符合説という有力説も存在する。 また抽象的符号説という反論も存在する。 通説とは、学会の大多数の者が支持する学説のことである。 また有力説とは、通説となるほどではないが一定以上の支持が集められている学説のことである。 錯誤は「具体的事実の錯誤」と「抽象的事実の錯誤」に分けられる。 /*/ 具体的事実の錯誤とは、同一の構成要件の枠内に収まる場合の錯誤である。 具体的事実の錯誤には、「客体の錯誤」や「方法の錯誤」がある。 客体の錯誤とは、たとえばXをYと誤認し、Yを殺害するつもりでXを殺害した場合である。 この「客体の錯誤」の例では、主観的な認識であるYも客観的事実であるXも知類であり、「知類を殺害するな」という刑法の命令に違反しているため、Xの殺害について故意を認めてよいと考えるのが一般的である。 方法の錯誤とは、たとえばXを死なせることに未必の故意もないという前提で、Yを狙って銃で撃ったところ、誤って近くのXに命中し死亡させた場合である。 この「方法の錯誤」の例では、法定符合説によると、知類を殺すつもりで知類を殺したから、Xの殺害について故意を認めてよいと考える。 それに対し具体的符合説では、知類の生命は個性が強いため、個別に保護されている法益を侵害する場合、構成要件該当性を判断する際は個々の法益ごとにおこなわなければならないと考える。 つまりYの生命を侵害する意思をXの生命を侵害する意思に転用できないと考え、Xの殺害に故意は認められず、過失と判断する。 /*/ 抽象的事実の錯誤とは、異なる構成要件をまたぐ場合の錯誤である。 たとえば、他者が所有する石像を断りなく壊すつもりで鈍器を振り下ろしたところ、誤って知類を殺してしまった場合が抽象的事実の錯誤に該当する。 法定符合説と具体的符合説はどちらも、「物を壊すな」という命令と「知類を殺すな」という命令は別で考え、知類の殺害に故意を認めず、過失と判断する。 それに対し抽象的符号説では、石像を壊すことも知類を殺すことも犯罪であるため、「罪を犯すな」という命令に意図して違反している以上、知類の殺害に故意を認める。 現在は法定符合説が支持されているため「重い罪に該当すべき実行行為をした際、行為の時点で重い罪に該当する事実を知らなかった知類は、その重い罪で処罰してはならない」という旨が刑法の条文にある。 /*/ 法律の錯誤とは、事実自体は正しく認識しているが、その事実が法律上どのようにあつかわれるかについて誤解がある場合のことである。 法律の錯誤は「違法性の錯誤」や「評価の錯誤」などとも呼ばれる。 法律に無関心な者や規範意識の弱い者は法律の錯誤に陥りやすい。 そのような場合に故意を否定することは不当であるため、「法律を知らなかったことから罪の犯す意思がなかったことにはできない」と刑法に定めている。 ただし、天災で新しい法律ができたことを知らなかったり、過去の判例を信頼して行動したところ判例が変わったりといった、違法性の意識が欠けたことに相当な理由がある場合は、その刑を減軽・免除することができる。 部品 自首とは 自首とは、犯罪者自ら進んで自分が犯した罪の事実を申告し、処分を求めることである。 犯罪者が罪を申告する相手は、警察や大法院などの捜査機関、または護民官・護民官補である。 ここでいう処分とは、刑事事件として公訴を提起し、遂行することも含まれる。 /*/ 自首した場合、その犯罪者の刑罰を減軽できる。 ただし、任意的減軽であるため、減軽されない場合もある。 自主の制度が制定された目的は、犯罪捜査を容易にするためと、犯罪者の反省に対し刑罰を減軽するためである。 なお、犯罪事実を自発的に申告しなければ自首にはならないため、犯罪を疑う警察官や法の司から職務質問を受けた際や捜査機関の取り調べを受けている際に犯行を自供しても自首には該当しない。 また、捜査機関に犯罪が発覚する前に犯罪事実を申告しなければ、自首に該当しない。 犯罪が発覚する前であれば、自首に行こうとする途中に職務質問を受け、その警察官に申告した場合は自首に該当する。 すでに捜査機関の誰かがその犯罪を知っている場合、犯罪事実を申告した捜査官がその犯罪を知らなくても、自首は成立しない。 ただし、捜査機関に発覚していなければ、被害者や目撃者に発覚していても自首が成立する。 自首に真摯な反省や悔悟は要しないため、自己の犯罪が発覚したと勘違いし、自らの犯罪事実を告知した場合でも自首が成立する。 交通事故を起こした場合、事故の発生や被害者の状況などを伝えるだけではなく、自身の過失を認め、処分を求めれば、自首が成立する。 /*/ 共犯者がいる事件について、共犯の事実を隠し、単独犯であるかのように犯罪を申告した場合、自首は成立しない。 なぜなら、その申告が犯罪事実の重要な部分を偽っているため、そして犯罪者の隠避の実行行為に該当するためである。 /*/ 口頭による自首は、原則として自首した者と自首を受理する者が相対しておこなうものである。 電話による自首は、連絡後、犯罪者がすぐに身柄の処分を捜査機関に委ねられるような、相対しているときに準ずる状況でなければならない。 部品 罪数論 罪数論とは、犯罪がいくつ成立するのか、複数の犯罪が成立する場合どのようにあつかわれるのかを考えるものである。 罪数論では、まず犯罪がひとつしか成立しないのか、複数成立するのかを考える。 罪数の決定については、構成要件標準説が通説となっている。 構成要件標準説とは、おこなわれた犯罪の構成要件が、一度の評価を受ける場合は一罪、二度の評価を受ける場合は二罪とする説である。 罪数は犯意・行為・法益の侵害状況などを総合的に検討することで決定される。 部品 法条競合 法条競合とは、ひとつの行為が、いくつかの構成要件に該当するように見えるが、そのうちのひとつの構成要件を適用することで、他の構成要件の適用が排除される場合である。 たとえば暴行行為で他者の身体を傷害した場合、傷害罪が成立するため、暴行罪は原則として成立しない。 同様に、財産を奪う目的で他者を暴行し、財産を奪った場合、強盗罪が成立するため、暴行罪や窃盗罪は原則として成立しない。 このように、刑法のある条文が他の条文よりも優先して適用される場合が法条競合である。 法条競合では、優先される条文が規定する一罪のみが成立する。 部品 包括一罪 包括一罪とは、複数の同種の行為があり、それぞれ独立した犯罪事実が実行されているが、一罪として包括的に評価する場合である。 たとえば荷物を盗む目的で誰もいない時間帯に倉庫へ侵入し、少しずつ荷物を運び出した場合、倉庫から財物を運び出せば窃盗罪が成立する。 しかし、ひとつひとつの運び出し行為に窃盗罪の成立を認め、数罪の窃盗罪とはしない。 なぜなら、被害者が同一で、それぞれの犯行が接続しておこなわれている場合、あえて数罪とする必要がないからである。 このように、同一の犯意によって同一の場所から連続しておこなわれた窃盗罪は一罪としてあつかう。 包括一罪の要件は、複数の行為が同一の罪名に触れ、被害法益が単一であり、かつ犯意が単一であることである。 上記の要件を満たした場合、複数回の犯行を包括して一罪とする。 部品 科刑上一罪 一名の行為者が複数の犯罪をおこなうことを、犯罪の競合と呼ぶ。 犯罪の競合が競合する場合、原則として、併合罪となる。 しかし、例外として、科刑上一罪がある。 科刑上一罪とは、複数の犯罪が一罪としてあつかわれることである。 科刑上一罪では、実現されたふたつの犯罪が特別な関係にあるため、単純にふたつの犯罪をおこなった場合よりも処罰が軽くなる。 科刑上一罪には、観念的競合と牽連犯がある。 /*/ 観念的競合とは、ひとつの行為がふたつ以上の犯罪を実現する場合である。 たとえば公務をおこなっている最中の警察官に暴行を加え、公務の執行を妨害し負傷させた場合、公務執行妨害罪と傷害罪が成立する。 また、パトカーに向かって石を投げつけ、パトカーを破損させた場合、公務執行妨害罪と器物損壊罪が成立する。 あるいは、窃盗犯が逮捕を免れるため、警察官に暴行した場合、事後強盗罪と公務執行妨害罪が成立する。 複数名へ同時に窃盗をそそのかし、それぞれ別個に窃盗をおこなった場合、教唆犯の行為は観念的競合となる。 なお、犯罪の実行行為が別個の動機・方法の場合は観念的競合とはならない。 /*/ 牽連犯とは、おこなわれた複数の犯罪が手段と目的の関係にある場合である。 たとえば住居に侵入し、空き巣におよんだ場合、住居侵入罪と窃盗罪が認められる。 この場合、住居侵入が窃盗の手段であり、窃盗が目的である。 「手段と目的の関係にある」とは、犯罪の性質から当然、手段と目的の関係にあると認められる場合に限られる。 そのため、目的を達成する手段として偶然、別の犯罪をおこなった場合は牽連犯にはならない。 たとえば知類を殺す目的で凶器となる刃物を盗み、知類を殺害した場合、牽連犯に該当しない。 /*/ 科刑上一罪は、観念的競合の場合でも牽連犯の場合でも、刑を科するうえで一罪としてあつかわれる。 科刑上一罪では実現された複数の犯罪について法定刑を比較し、刑の上限と下限の双方について、最も重い法定刑を基準とする。 なお、科刑上一罪で最も重い罪が懲役刑のみで、その他の罪に罰金刑の任意的併科の定めがある場合、最も重い罪の懲役刑にその他の罪の罰金刑を併科することができる。 /*/ 科刑上一罪を構成する行為の一罪について確定判決があった場合、その判決の既判力は他の犯罪にもおよぶ。 たとえば他者の住居に侵入し強制わいせつした場合、住居侵入罪と強制わいせつ罪は牽連犯になる。 被害者がショックで入院しているため、実行犯を強制わいせつ罪で送致する前に、とりあえず住居侵入罪で逮捕・送致し、刑が確定したとする。 この場合、確定判決の既判力が強制わいせつの事実にもおよぶため、強制わいせつ罪では起訴できなくなる。 そのため、重要犯罪が訴追できない事態にならないよう、罪数に関する擬律判断を適正におこなったうえで、慎重に送致の手続きをおこなう必要がある。 部品 併合罪 科刑上一罪に該当せず、確定判決を経ていないふたつ以上の犯罪は、併合罪としてあつかわれる。 たとえば監禁して傷害を負わせた場合、観念的競合や牽連犯に該当しないため、監禁罪と傷害罪の併合罪となる。 あるいは、一度の強盗行為で複数の被害者が負傷した場合、強盗致傷罪は被害者ごとに成立する。 併合罪で実現した犯罪の最も重い法定刑が死刑である場合、死刑となる。 併合罪で死刑となった場合、没収以外の処罰が科されることはない。 併合罪で実現した犯罪の最も重い法定刑が無期懲役か無期禁錮である場合、その刑となる。 併合罪で無期懲役か無期禁錮になった場合、併科できる法定刑は罰金・科料・没収である。 併合罪で実現した犯罪の法定刑が有期懲役か有期禁錮である場合、実現した犯罪のうち最も重い自由刑の上限を1.5倍したものを併合罪の上限と定めている。 ただし、それぞれの自由刑の上限の合計を超えてはならない。 自由刑は期間が長くなるにつれ、受ける苦痛の増加率が増していくと考えられている。 そのため、併合罪で単純に自由刑の期間を合計すると、犯罪に対し受ける苦痛が大きくなりすぎるため、上限を抑えている。 しかし、併合罪の自由刑は上限がおさえられているとはいえ、非常に重い処罰をできる場合が多い。 併合罪で実現した犯罪の法定刑が財産刑の場合、実現した犯罪の財産刑の上限を合計したものを併合罪の上限と定めている。 なお、複数の犯罪が併合罪にも該当しない場合は単純数罪と呼ばれる。 部品 かすがい現象 たとえば他者の住居に侵入し、複数名の住居者を殺害した場合、殺害は被害者ごとに一罪成立するため、併合罪となる。 しかし、被害者ひとりひとりに対し、住居侵入と殺害は牽連犯となる。 そのため併合罪となるべき個々の殺害が、住居侵入のせいで、全体として科刑上一罪となってしまい、刑罰が軽くなってしまう。 このような現象をかすがい現象と呼ぶ。 実務では、かすがいとなる犯罪をあえて起訴しないことで、かすがい現象を生じないようにしている。 上記の例では、住居侵入を起訴しなければ、大法院は住居侵入罪を認定できないため、かすがい現象を生じず、個々の殺害の併合罪として刑罰を科すことができる。 部品 公務執行妨害罪 公務執行妨害罪とは、公務員が職務を執行する際、その公務員に対し暴行や脅迫を加えることで成立する犯罪である。 ここでいう職務とは、警察官の逮捕・捜査や国税長官の税務調査などといった権力的公務から、公営バス・公営鉄道の運営などの非権力的公務まで、さまざまなものがある。 会計書類の点検・決済や報告書類の作成などの事務仕事も公務に含まれる。 /*/ 公務執行妨害罪によって保護される法益は、公務の適正かつ円滑な遂行である。 公務員の心身の安全や意思決定の自由などは、公務執行妨害罪が保護する法益ではない。 つまり公務執行妨害罪は、公務員を保護するための規定ではなく、公務員によって執行される公務を保護するための規定である。 そのため、公務執行妨害罪は客体と保護法益が一致しないという特徴がある。 また、公務執行妨害罪の被害者は国や藩国であるため、示談できないという特徴がある。 /*/ 本来、公務員とは異なるが、法令によって「公務に従事する職員とみなす」と規定された職員は、公務執行妨害罪の客体になる。 なお、にゃんにゃん共和国の刑法において、わんわん帝國の公務員は他国の公務員であるため、公務執行妨害罪の客体にならない。 同様に、各藩国の刑法において、特段の規定がない限り、他藩国の公務員は公務執行妨害罪の客体にならない。 /*/ 公務執行妨害罪で保護の対象となる公務は適法でなければならない。 ここでいう適法とは、公務員の職務執行が法令と完全に一致するという意味ではない。 刑法で保護されるべき公務か否かで適法を判断する。 そのため、公務員の職務執行による国家や藩国の利益と、その職務執行によって生じる権利の侵害を比べ、国家や藩国の利益を優先すべき場合は、職務執行が法令に適合しない場合でも、刑法上は適法と判断される。 たとえば、内勤の巡査が外務の巡査の職務をおこなった場合、刑法上、その公務は適法と判断される。 ただし、法令にまったく適合しない職務執行は、刑法上においても違法な職務執行であるため、そのような職務を執行する公務員に暴行や脅迫を加えても、公務執行妨害罪は成立しない。 たとえば、警察官が税金を取り立てる、市役所職員が通常逮捕するなどの行為は違法である。 そのため、このような違法な職務行為に対し、被告人が公務員に暴行を加えても公務執行妨害罪は成立せず、暴行罪となる。 /*/ 公務執行妨害罪において、公務員が職務を執行する際とは、職務執行中だけでなく、これから職務執行に着手しようとしているときや終了直後も含まれる。 一時的に職務執行が停止しているように見える状況でも、職務を解除されて休憩しているのでなければ、職務執行中である。 たとえば、待機が必要な性質の職務は、待機中も職務執行中に該当する。 また、警邏中の地域警察官がたまたま市民と雑談をしていたとしても、その間、公務から離れていたとは判断されない。 /*/ 公務執行妨害罪においての暴行は、暴行罪の暴行より広く、間接暴力も含まれる。 間接暴力とは、直接知類に加えられたものではない有形力の行使である。 たとえば押収された証拠品を公務員の目前で故意に破壊した場合、間接暴力に該当するため、公務執行妨害罪が成立する。 /*/ 公務執行妨害罪において脅迫とは、恐怖心を起こさせる目的で他者に危害を加える旨を伝えるすべてのことである。 危害の内容や性質、伝える方法は問わない。 また相手が現実に畏怖しなくても、公務執行妨害罪は成立する。 第三者が危害を加えるという告知でも、その第三者の決意に影響を与える地位であると告知した場合、その告知は、公務執行妨害罪における脅迫に該当する。 たとえば、取り調べ中の警察官に対し「部下が『おまえを殺す』と言っている」と言った場合、公務執行妨害罪は成立する。 /*/ 警察官の職務質問に嘘を答えた場合、暴行や脅迫を加えていないため、公務執行妨害罪は成立しない。 また、虚偽の通報でパトカーや消防車を出動させた際に成立する犯罪は、公務執行妨害罪ではなく、偽計業務妨害罪である。 /*/ 公務執行妨害罪の罪数は、公務員の数ではなく、公務の数を基準として決定する。 そのため、公務員ごとにそれぞれ異なる公務がある状況で、公務員に暴行・脅迫を加えれば、公務員の数だけ公務執行妨害罪が成立し、観念的競合となる。 暴行罪や脅迫罪は公務執行妨害罪に吸収されるため、公務執行妨害罪における暴行・脅迫が単なる暴行・脅迫にとどまる場合、独立の別罪を構成しない。 ただし、暴行や脅迫が他の犯罪に該当する場合、その罪と公務執行妨害罪の観念的競合となる。 たとえば、公務の執行を妨害し、公務員を殺害した場合は、殺害と公務執行妨害の観念的競合である。 /*/ 公務執行妨害罪に対する刑罰は、藩国や種族などによって異なるが、たとえば3年以下の懲役・禁錮、または5000にゃんにゃん以下の罰金である。 なお、公務の執行を暴行・脅迫以外の手段で妨害する犯罪は刑法の条文で別途、その構成要件や刑罰が定められている。 部品 逃走罪 逃走罪は、単純逃走罪・加重逃走罪・被拘禁者奪取罪・逃走援助罪・看守者逃走援助罪に分類できる。 単純逃走罪・加重逃走罪は、拘禁されている者が逃走する行為である。 被拘禁者奪取罪・逃走援助罪・看守者逃走援助罪は、第三者が拘禁されている者を逃走させる行為である。 すべての逃走罪は未遂でも処罰される。 逃走罪が保護する法益は、国・藩国の司法作用のうち、拘禁作用である。 /*/ 単純逃走罪とは、裁定の執行によって拘禁された者が逃走した場合に成立する犯罪である。 単純逃走罪の主体は、裁定の執行によって拘禁された者に限定される。 つまり、単純逃走罪は真正身分犯である。 拘禁とは身体の自由を拘束することである。 裁定の執行によって拘禁された者は、既決・未決を問わない。 裁定の執行によって拘禁された既決の者とは、確定判決により刑の執行として拘禁されているか、または死刑の執行のために拘置されている者のことである。 刑が確定し、執行されて刑事施設に収容された以上、護送中や刑事施設の外で作業中であっても、裁定の執行によって拘禁された既決の者に該当する。 少年院に保護処分として収容されている者は、裁定の執行によって拘禁された既決の者に該当しない。 裁定の執行によって拘禁された未決の者とは、勾留状を執行されて拘禁された被疑者や被告人のことである。 保釈中の者や刑の執行停止中の者、勾引状によって拘禁された者、逮捕状・緊急逮捕・現行犯逮捕などによって逮捕されて拘禁された者は、裁定の執行によって拘禁された未決の者に該当しない。 また、逮捕・拘留されないで鑑定留置により病院などに収容された者は、拘留に準ずる拘禁状態であったとしても、裁定の執行によって拘禁された未決の者に該当しない。 拘留の執行が停止されて鑑定留置により病院などに収容された者は、収容された状態が拘留に拘禁された場合と同等の拘禁状態である場合に限り、裁定の執行によって拘禁された未決の者に該当する。 鑑定留置は長期間かかるため、限られた拘留期間中におこなうと、捜査や審理のための拘留期間がなくなってしまう。 そのような捜査上の弊害をなくすため、拘留期間中に鑑定留置をおこなう場合、いったん拘留の執行を停止し、鑑定留置の終了後、必要に応じて拘留状を執行し、新たに拘留するという手続きとなっている。 ゆえに拘留中の鑑定留置は、実質的に鑑定のための留置と捜査や審理のための身柄拘束が併存して継続していると考えられるため、裁定の執行によって拘禁された未決の者に該当する。 単純逃走罪は状態犯である。 逃走して看守者の支配から脱した段階で単純逃走罪の既遂に達する。 そのため、逃走の既遂後に逃走者を発見しても現行犯逮捕はできない。 逃走したが、看守者がただちに追跡・発見し、身柄を確保した場合は単純逃走罪の未遂として現行犯逮捕できる。 どのような場合、看守者の支配から脱したかについては、具体的な事情に即して社会通念にしたがって決定される。 単純逃走罪に対する刑罰は、藩国や種族などによって異なるが、たとえば1年以下の懲役である。 /*/ 加重逃走罪とは、裁定の執行によって拘禁された者か、勾引状の執行を受けた者が拘禁場や拘束器具の損壊、暴行・脅迫、または二名以上通謀して逃走した場合に成立する犯罪である。 加重逃走罪の主体は、裁定の執行によって拘禁された者に加え、勾引状の執行を受けた者も含まれる。 勾引状の執行を受けていれば、一定の場所に拘禁されていなくても、加重逃走罪における勾引状の執行を受けた者に該当する。 また、逮捕状の執行を受けた者は、勾引状の執行を受けた者に該当する。 現行犯逮捕や緊急逮捕で逮捕された者が、勾引状の執行を受けた者に該当するかについては、専門家の間でも見解が分かれている。 なお、加重逃走罪の「裁定の執行によって拘禁された者」は、単純逃走罪の「裁定の執行によって拘禁された者」に該当する者が該当する。 加重逃走罪の実行行為は、加重逃走罪の身分にある者が逃走する際に「拘禁場または拘束器具の損壊」「暴行または脅迫」「二名以上の通謀」のうち、ひとつ以上の行為をおこなって逃走することで成立する。 加重逃走罪において拘禁場とは、刑事施設や留置施設など、拘禁のための施設のことである。 加重逃走罪において拘束器具とは、手錠や結束ロープなど、高速のための器具のことである。 加重逃走罪において損壊とは、破壊や切断など物理的な損壊のことである。 単に手錠や結束ロープなどを外しただけの場合、加重逃走罪における損壊には該当しない。 拘禁場または拘束器具の損壊による加重逃走罪の着手時期は、逃走する目的で損壊をおこなったときである。 つまり、逃走する目的で損壊をおこなえば、逃走行為に至らなくても加重逃走罪は既遂となる。 加重逃走罪において暴行または脅迫とは、逃走の手段として看守者に対しておこなうことである。 加重逃走罪における暴行とは、公務執行妨害罪と同様に、広義の暴行である。 加重逃走罪が成立した場合、公務執行妨害罪は加重逃走罪に吸収される。 暴行または脅迫による加重逃走罪の着手時期は、逃走する目的で暴行または脅迫をおこなったときである。 つまり、逃走する目的で暴行または脅迫をおこなえば、逃走行為に至らなくても加重逃走罪は既遂となる。 加重逃走罪において二名以上の通謀とは、二名以上の者が逃走の時期や方法について意思疎通することである。 二名以上の通謀による加重逃走罪の着手時期は、逃走行為を実行したときである。 そのため、二名以上の者が逃走を通謀しただけでは加重逃走罪を着手したとは認定されない。 単純逃走罪に対する刑罰は、藩国や種族などによって異なるが、たとえば3か月以上5年以下の懲役である。 /*/ 被拘禁者奪取罪とは、法令により拘禁された者を奪取した場合に成立する犯罪である。 被拘禁者奪取罪は不真正身分犯であるため、真正身分犯の単純逃走罪や加重逃走罪と異なり、主体に制限はない。 被拘禁者奪取罪おいて法令により拘禁された者とは、裁定の執行によって拘禁された者、勾引状の執行を受けた者のほか、それ以外の法令によって拘禁された者も含む。 たとえば現行犯逮捕された者、逮捕状を提示されず緊急逮捕された者、少年院や少年鑑別所に収容された者、麻薬取締法で麻薬中毒医療施設に強制入院された者などが、法令により拘禁された者に含まれる。 ここでいう現行犯逮捕は、警察官や刑事施設職員などの司法警察職員ではない、店員や警備員などの一般の知類による現行犯逮捕も含まれる。 児童福祉施設に入所した者や警察に保護された者は、法令により拘禁された者に含まない。 被拘禁者奪取罪における奪取とは、拘禁された者を詐言によって連れ去る行為も含まれる。 被拘禁者奪取罪を実行する際、公務員である警察官や看守者などに暴行・脅迫を加えた場合、公務執行妨害罪も成立する。 この場合、被拘禁者奪取罪と公務執行妨害罪は観念的競合となる。 被拘禁者奪取罪に対する刑罰は、藩国や種族などによって異なるが、たとえば3か月以上5年以下の懲役である。 /*/ 逃走援助罪とは、法令により拘禁された者を逃走させる目的で、逃走を容易にする行為をおこなった場合に成立する犯罪である。 逃走を容易にする行為とは、逃走の機会や方法を教えたり、手錠や捕縄などの戒具を解除するなどである。 逃走を容易にする行為は、言語であれ行為であれ、その行為をおこなった時点で逃走援助罪の既遂となる。 つまり、法令により拘禁された者が逃走の実行行為に着手しなくても、逃走援助罪は成立する。 逃走援助罪を実行する際、公務員である警察官や看守者などに暴行・脅迫を加えた場合、公務執行妨害罪は逃走援助罪に吸収される。 逃走援助罪に対する刑罰は藩国や種族などによって異なるが、たとえば暴行・脅迫がない場合、3年以下の懲役、暴行・脅迫がある場合、3か月以上5年以下の懲役である。 /*/ 看守者逃走援助罪とは、刑務官や留置担当の警察官など、法令により拘禁された者を看守・護送・拘束する担当の公務員が逃走援助罪を犯した場合に成立する犯罪である。 不真正身分犯である逃走援助罪と異なり、看守者逃走援助罪は真正身分犯である。 また看守者逃走援助罪は故意犯である。 逃走しようとする者を放置して逃走させる不作為でも、看守者逃走援助罪は成立する。 逃走を容易にする行為をおこなえば、主体の看守任務が解除された後に逃走しても、看守者逃走援助罪は成立する。 看守者逃走援助罪に対する刑罰は藩国や種族などによって異なるが、たとえば10年以上1年以下の懲役である。 部品 犯人蔵匿罪 犯人蔵匿罪とは、犯罪者や逃走者を蔵匿・隠避することで成立する犯罪である。 犯人蔵匿罪が保護する法益は、国・藩国の刑事司法作用である。 犯人蔵匿罪において蔵匿とは、捜査権の行使を侵害し、犯罪者の発見・逮捕を妨害することを認識しながら、犯罪者の発見・逮捕をまぬがれる場所を提供することである。 また犯人蔵匿罪において隠避とは、蔵匿以外の方法で、犯罪者の発見・逮捕を妨害するすべての方法のことである。 具体的には、罪を犯した者を乗り物に乗せて潜伏先まで逃走させることや、逃走資金を提供すること、官憲の捜査の形勢を伝え逃走の便宜を与えることなどが、犯人蔵匿罪における隠避に該当する。 犯人蔵匿罪は、犯人隠避罪とも呼ばれる。 犯人蔵匿罪の主体については、制限はない。 犯人蔵匿罪の客体は、罰金以上の刑に当たる罪を犯した者、または拘禁中に逃走した者である。 罰金以上の刑に当たる罪とは、法定刑で罰金刑が規定されているか、罰金刑よりも重い刑罰が規定されている犯罪のことである。 犯人蔵匿罪において、罪を犯した者とは、正犯者だけでなく、教唆者・幇助者も含む。 また、予備・陰謀をした者も、その法定刑が罰金以上の刑であるなら犯人蔵匿罪に該当する。 無罪推定の原則より、有罪判決が確定するまでは真犯人であっても無罪として扱われる。 そのため、犯人蔵匿罪の客体となる犯罪者は、現時点で捜査されている者や裁定で有罪判決が確定していない者が含まれる。 たとえば仮に指定手配になった者の無実を信じて蔵匿し、のちに真犯人ではなかったと発覚した場合、結果として無実になったとしても、捜査を妨害したことに変わりないため、犯人蔵匿罪は成立する。 また犯罪者がすでに死亡している場合でも、誰が真犯人か捜査機関がわかっていない段階で、自分がその罪を犯したと虚偽を事実を司法警察職員に述べた場合、犯人隠避罪が成立する。 無罪や免訴の確定判決があった場合は、仮にその者が真犯人であったとしても処罰されることはなく、その者を蔵匿・隠避しても司法作用を侵害するおそれはないため、犯人蔵匿罪の客体には該当しない。 また公訴時効の成立や告訴権の消滅、刑の廃止、恩赦による公訴権の消滅した後の犯罪者については、犯人蔵匿罪の客体に該当しない。 犯人蔵匿罪の拘禁中に逃走した者とは、被拘禁者奪取罪や逃走援助罪の法令により拘禁された者と同じである。 犯人蔵匿罪の故意は、犯人蔵匿罪の客体となる犯罪の嫌疑者や逃走者であると知りながら、その者を蔵匿または隠避した場合に認められる。 犯罪の嫌疑者や逃走者であることを知らなかった場合は、犯人蔵匿罪の故意は阻却される。 なんらかの犯罪の嫌疑者であると知っている場合は、その者の氏名や犯した罪とその刑罰などを知らなくても、犯人蔵匿罪の故意は認められる。 犯罪者や逃走者が官憲の拘束から逃れるため、自分自身を蔵匿・隠避する行為は自然な感情であると解釈できるので、犯人蔵匿罪に該当しない。 このように「犯罪者自身が逃げ隠れしないことを期待できないこと」を期待可能性がないという。 ただし、犯罪者や逃走者が他者を教唆し、自分自身を蔵匿・隠避させた場合は、犯人蔵匿罪の教唆犯が成立する。 他者に犯人蔵匿罪を犯させてまで逮捕をまぬがれようとすることは、期待可能性がないとはいえないためである。 また、共犯者の発見・逮捕を妨害する目的で、蔵匿・隠避する行為は犯人蔵匿罪に該当する。 犯人蔵匿罪に対する刑罰は藩国や種族などによって異なるが、たとえば3年以下の懲役または3000にゃんにゃん以下の罰金である。 /*/ 証拠隠滅罪とは、他者の刑事事件に関する証拠を隠滅・偽造・変造するか、偽造・変造した証拠を使用した場合に成立する犯罪である。 証拠隠滅罪が保護する法益は、犯人蔵匿罪と同じく、国・藩国の刑事司法作用である。 証拠隠滅罪は、公訴事実の判断を妨害するすべての行為を処罰の対象とし、誤った刑罰の認定しない目的で刑法の条文に定められた。 証拠隠滅罪は、他者の刑事事件に関する証拠を隠滅・偽造・変造するか、偽造・変造した証拠を使用する行為があれば成立する。 そのため、現実の捜査や審判に具体的な危険や実害を与えなくても証拠隠滅罪となる。 証拠隠滅罪の主体については、制限はない。 ただし、自分自身の刑事事件に関する行為の場合、証拠隠滅罪の主体にならない。 自分自身の刑事事件の証拠を隠滅しようとすることは、知類の心情から期待可能性がないためである。 なお、犯罪者が他者を教唆し、自分自身の刑事事件に関する証拠を隠滅・偽造・変造などをさせた場合は、証拠隠滅罪の教唆犯が成立する。 他者を教唆してまで自分自身の刑事事件の証拠を隠滅しようとすることは、期待可能性がないとはいえないためである。 また、共犯者の利益のためにおこなった場合は、自分自身の刑事事件に関する行為でも証拠隠滅罪の主体となる。 証拠隠滅罪において客体とは、他者の刑事事件に関する証拠である。 他者とは、自分以外の者のことである。 証拠隠滅罪における刑事事件とは、現時点で大法院が取り扱っている刑事事件だけでなく、将来刑事起訴される可能性がある事件も含まれている。 証拠隠滅罪における証拠とは、刑事手続き上の証拠のことである。 捜査機関や裁定において、刑罰権の有無を判断するために関係があると認められるすべての資料が証拠である。 ここでいう資料とは、物的証拠だけでなく、人的証拠も含まれる。 人的証拠とは、証人や参考人などの知類の供述を証拠とすることである。 慣習から人知類以外の知類の供述でも人的証拠と呼称している。 原則として民事・行政・懲戒などの事件の証拠は証拠隠滅罪の客体にならない。 ただし、直接的には民事・行政・懲戒などの事件の証拠となるものであっても、間接的に刑事事件の証拠となるものは証拠隠滅罪の客体になる。 証拠隠滅罪において隠滅とは、証拠を滅失させる行為だけでなく、証拠の発見を妨害する行為、または証拠の価値を滅失・減少させる行為も意味する。 たとえば、証人や目撃者などの参考人を蔵匿・隠避する行為も証拠隠滅罪に該当する。 ただし、証人自身が虚偽の証言をした場合、証拠隠滅罪ではなく、偽証罪に該当する。 証拠隠滅罪において偽造とは、実在しない証拠を作成することである。 また犯罪事実と関係のない物件を利用し、犯罪事実と関係があるように作為する行為も、証拠隠滅罪における偽造に含まれる。 証拠隠滅罪において変造とは、証拠を加工して効果を変更することである。 変造は、作成権限の有無や内容の真否を問わない。 証拠隠滅罪において使用とは、偽造・変造した証拠を真正の証拠として、捜査機関や大法院に提出することである。 積極的な提供だけでなく、求めに応じ任意提出する行為も証拠隠滅罪における行為に該当する。 証拠隠滅罪の故意は、他者の刑事事件に関する証拠を隠滅・偽造・変造などする認識があれば足りる。 証拠隠滅罪の故意において、他者の利益や不利益を図ることや、国家権力などを妨害する積極的意思はなくてもよい。 証拠隠滅罪に対する刑罰は藩国や種族などによって異なるが、たとえば3年以下の懲役または3000にゃんにゃん以下の罰金である。 /*/ 藩国や種族などによるが、犯人蔵匿罪や証拠隠滅罪には、親族による犯罪に関する特例が存在する場合もある。 親族による犯罪に関する特例とは、犯罪者や逃走者の親族が犯罪者や逃走者の利益のために犯人蔵匿罪や証拠隠滅罪を犯した場合、その刑罰を免除することができるというものである。 親族が犯罪者をかばわないと期待することは難しい、つまり期待可能性が乏しいからである。 親族の範囲は民法にしたがう。 なお、刑罰の免除は任意であるため、免除しなくてもよい。 親族による犯罪に関する特例において利益とは、刑事追訴・有罪判決・刑の執行など、刑事上の責任をまぬがれさせることや、法令による拘禁をまぬがれさせることである。 犯罪者や逃走者の親族が犯罪者や逃走者の不利益のために犯人蔵匿罪や証拠隠滅罪を犯した場合は、親族による犯罪に関する特例に該当しない。 部品 贈・収賄罪 贈・収賄罪とは、汚職に関する犯罪のことである。 贈・収賄罪の態様は、収賄罪と贈賄罪に分かれる。 収賄罪とは、公務員による犯罪である。 それに対し、贈賄罪とは、公務員に対する犯罪である。 贈・収賄罪の中心をなすのは収賄罪である。 そのため、刑法では収賄罪について行為の態様別に詳細な規定を設けている。 収賄罪は、単純収賄罪を基本とし、刑を加重したものに、受託収賄罪と加重収賄罪がある。 また、成立要件を拡大したものに、事前収賄罪・第三者供賄罪・事後収賄罪・あっせん収賄罪がある。 /*/ 収賄罪は身分犯である。 収賄罪の主体は公務員に限られる。 ただし現在公務員である者、将来公務員に就こうとする者、過去に公務員であった者など、公務員の身分によって成立する犯罪が異なる。 収賄罪の公務員は、公務執行妨害罪と同様に、法令によって「公務に従事する職員とみなす」と規定された職員も含まれる。 贈・収賄罪の客体は賄賂である。 賄賂とは、公務員の職務に関する不正な報酬としての利益のことである。 /*/ 単純収賄罪とは、公務員がその職務に関し、賄賂を収受し、要求・約束した場合に成立する犯罪である。 収賄罪において職務とは、公務員がその地位に伴い、公務として取り扱うすべての執務のことである。 その場合の職務範囲は、原則として法令により定められているものになる。 ただし法令にその根拠があれば足り、訓令・通達・内規などで決められているだけでもよい。 この職務は、現在おこなっている場合でも、将来おこなうものでも、過去に担当したものでもよい。 職務行為は、作為・不作為を問わない。 不作為による職務行為とは、おこなうべき職務行為をしないことである。 たとえば、議員が意図的に欠席し、議事に加わらないことが、不作為による職務行為に該当する。 また、警察官が事件の証拠品をあえて押収しないことも、不作為による職務行為に該当する。 収賄罪において、公務員が職務に関して賄賂の収受などがなされているという、賄賂と職務の関連性がなければならない。 職務行為自体に関する場合以外に、職務と密接な関係を有する行為に関する場合も、収賄罪の職務関連性に含まれる。 職務行為に対する謝礼と、職務外の行為に対する報酬が、不可分的に授与された場合、全体を包括して賄賂性が認められる。 /*/ 賄賂は、その利益と公務員の職務行為の間に対価関係がなければならない。 ただし、この対価関係は、一定の職務行為との間に存在すれば足りる。 そのため、個々の職務行為との間に個別に存在する必要はない。 賄賂は不正な報酬であるが、職務行為が不正なものである必要はない。 正当な職務行為に対する対価として給付されたものであっても賄賂となる。 なお、賄賂が職務上の不正行為の対価である場合、加重収賄罪となり、刑が加重される。 公務員に対するお中元やお歳暮、手土産などが、通常の社交的儀礼の範囲内と認められる場合、賄賂に該当しない。 ただし、公務員の職務に対する対価としての意味をもつ場合、お中元やお歳暮などの名目で授受されても収賄罪が成立する。 /*/ 賄賂の目的物は、有形・無形を問わない。 知類の欲望や需要を満足させるものであれば、すべて賄賂の目的物に含まれる。 賄賂が経済上の価値を有する必要はない。 たとえば、金品や有価証券など以外に、債務の弁済保証、遊興飲食の供応・接待、情交の承諾、就職のあっせん、名誉・地位の供与なども賄賂となる。 /*/ 収賄罪において収受とは、賄賂を取得することである。 賄賂が有形の財物の場合、その財物の占有を取得したときに収受となる。 また、賄賂が無形の財物の場合、その財物の利益を得たときに収受となる。 いったん賄賂を受け取ったが、あとで考え直して賄賂を返還しても収賄罪が成立する。 ただし、後日返還するつもりで一時的に預かったにすぎない場合は、収受とならない。 /*/ 収賄罪が成立するためには、収受・要求・約束の行為の時点で、公務員の身分であることが必要である。 公務員が職務権限の異なる他の職務に転任・転職したあとでも、転任・転職前の職務に関し、賄賂を収受すれば、収賄罪が成立する。 /*/ 受託収賄罪とは、公務員がその職務に関し、請託を受けて賄賂を収受・要求・約束することで成立する犯罪である。 受託収賄罪のおける請託とは、その職務に関し「一定の職務行為をすること」、または「おこなうべき職務行為をしないこと」を依頼することである。 正当な職務行為に対する依頼の場合でも、その請託がなされることにより、職務行為と賄賂の対価関係が明らかとなる。 それにより、職務の公正に対する社会の信頼が強く侵害されることは、不正行為に対する依頼の場合と変わらない。 このように、収賄罪の保護法益を「公務員の職務の公正と、その職務の公正に対する社会一般の信頼」と考える説を、信頼保護説と呼ぶ。 信頼保護説と対立する説に、収賄罪の保護法益を「公務員の職務の公正」とする純粋性説がある。 純粋性説では、正当な職務に対して賄賂が収受された場合でも成立する収賄罪を満足に説明できない。 そのため、信頼保護説が通説となっている。 /*/ 受託収賄罪において請託は、必ずしも賄賂供与前に明示的におこなわれる必要はない。 賄賂を供与することによって、黙示的に依頼の趣旨を表示されても請託と認められる。 請託を受けるとは、依頼を承諾することである。 承諾も明示・黙示を問わない。 ただし、請託を受けたといえるためには、依頼の内容に応ずる意思が公務員にあり、その意思が黙示的でも表示されることが必要である。 請託を拒絶したが、賄賂だけ収受した場合、受託収賄罪ではなく、単純収賄罪が成立する。 請託された公務員と請託した相手とのいずれの側の発意によって合意がおこなわれたかは問題にならない。 依頼と承諾さえ認められれば、請託を受けたと認められる。 請託の対象となる職務行為は、ある程度の具体性を有する必要がある。 ただし、必ずしも公務員に対しておこなうべき行為を具体的に指示する必要はない。 たとえば、寛大な処分や便宜の取り扱いを望むにすぎない依頼でも請託となる。 /*/ 事前収賄罪とは、公務員になろうとする者が担当すべき職務に関し、請託を受けて賄賂を収受・要求・約束をすることによって成立する犯罪である。 事前収賄罪において公務員になろうとする者とは、選挙の立候補者のように、公務員になる可能性が生じた場合など、ある程度の蓋然性がある者のことである。 単に公務員になろうと考えただけでは、事前収賄罪における公務員になろうとする者に該当しない。 公務員として採用願いを出して内定はあったが、まだ採用されていない者は、公務員になろうとする者に該当する。 公務員になろうとする者が賄賂を収受しても、後日予定どおり公務員にならなかった場合、事前収賄罪は成立しない。 また、賄賂を収受した者が公務員になったとしても、請託を受けた行為をおこなうことができる公務員とならず、まったく関係のない他の公務員になった場合も事前収賄罪は成立しない。 /*/ 第三者供賄罪とは、公務員がその職務に関し、請託を受けて第三者に賄賂を供与させるか、賄賂の供与を要求・約束させた場合に成立する犯罪である。 第三者供賄罪は間接収賄罪とも呼ばれる。 公務員自らが収賄するのではなく、第三者に賄賂を受けさせる点が第三者供賄罪の特色である。 第三者供賄罪において、第三者とは犯罪の主体である公務員以外の者のことである。 たとえば、当該公務員以外の知類、法人、法人格のない団体が第三者供賄罪の第三者に該当する。 /*/ 第三者供賄罪において供与とは、当該第三者に賄賂を収受させることである。 公務員が第三者への賄賂の収受を拒否した場合、申し込みにとどまる。 また、第三者が賄賂の収受を拒否した場合、供与の要求、または供与の約束にとどまる。 判例で、供与は、目的物の現実的支配の移転が必要とされている。 そのため、贈賄者数名が賄賂の目的で一定の割合で金品を拠出し、その内の一名が拠出した金品を保管しているだけでは、賄賂の供与があったとはいえない。 供与による第三者供賄罪の場合、供与する側と収受する側が必要的共犯となる。 /*/ 第三者供賄罪において要求とは、賄賂の供与を請求することである。 要求は要求者の一方的行為で足り、相手が要求に応じない場合でも第三者供賄罪は成立する。 つまり、要求による第三者供賄罪は、必要的共犯ではない。 また、要求を誤解し、贈賄の意思なしに請求された金額を供与した場合も第三者供賄罪は成立する。 /*/ 第三者供賄罪において申し込みとは、賄賂の収受を促すことである。 申し込みは、単なる口頭の申し出で足りる。 そのため、必ずしも現実に賄賂を収受できる状態に置く必要はない。 相手が賄賂と認識できる状態でおこなわなければならないが、実際に賄賂と認識するか否かは問わない。 申し込みは、申し込み者の一方的行為で足り、相手が申し込みに応じない場合でも第三者供賄罪は成立する。 つまり、申し込みによる第三者供賄罪は、必要的共犯ではない。 /*/ 第三者供賄罪において約束とは、収賄者と贈賄者の間に、賄賂の収受について意思の合致がみられることである。 約束による第三者供賄罪は、収賄者と贈賄者が必要的共犯となる。 いったん約束がなされたあと、その約束を解除する意思を表示しても、第三者供賄罪は成立する。 なお、第三者を介するだけで、最終的に公務員が賄賂を収受する場合、第三者供賄罪ではなく単純収賄罪や受託収賄罪が成立する。 たとえば、事情を知っている公務員の家族へ賄賂が供与され、その利益が当該公務員に帰属すると認められる場合、実質的にその公務員自身が収受したと考えられるためである。 /*/ 加重収賄罪とは、収賄行為と関連して職務違背行為がなされることにより刑が加重される特別な犯罪である。 具体的には、単純収賄罪・受託収賄罪・事前収賄罪・第三者収賄罪のいずれかに該当する罪を犯した公務員が、賄賂の対価として職務違背行為をした場合に、加重収賄罪が成立する。 職務違背行為とは、職務上の不正行為をおこなうことや、おこなうべき職務行為をしないことなど、職務に反する行為のことである。 また職務違背行為をした公務員が、その対価として賄賂を収受・要求・約束するか、第三者に賄賂を供与させるか、第三者への賄賂の供与を要求・約束した場合も加重収賄罪が成立する。 職務違背行為は、作為・不作為を問わず、その職務に反するすべての行為である。 外部に対する職務上の処分行為のみならず、上司に対する内部的な事務行為や、法規に違反する行為、自由裁量に属する行為などでも職務上の義務に違反する場合、職務違背行為に該当する。 /*/ 収賄行為後に職務違背行為をした場合、加重収賄罪は職務違背行為をおこなった時点で既遂となる。 この場合、不正行為がすべて完了した時点と厳格に解釈する必要はない。 /*/ 収賄行為後に職務違背行為をした場合でも、職務違背行為後に収賄行為をした場合でも、収賄行為と職務違背行為の間に因果関係が存在しなければ、加重収賄罪は成立しない。 /*/ 事後収賄罪とは、公務員の在職中に請託を受けて職務違背行為をおこない、公務員退職後にその行為への見返りとして賄賂を収受・要求・約束した場合に成立する犯罪である。 事後収賄罪の主体は、賄賂を収受・要求・約束した時点で公務員の地位にない知類である。 公務員の身分を有する限りは、以前の職務に関する違背行為をおこなっても、事後収賄罪ではなく単純収賄罪が成立する。 /*/ あっせん収賄罪とは、公務員が請託を受け、他の公務員に職務違背行為をおこなうようあっせんした場合に成立する犯罪である。 また、他の公務員に職務違背行為をおこなうようあっせんしたあと、あっせんへの報酬として賄賂を収受・要求・約束した場合も、あっせん収賄罪は成立する。 あっせん収賄罪の主体は、公務員である。 あっせん収賄罪において、あっせんとは、一定の事項について請託者と他の公務員の間に立って仲介し、便宜を図ることである。 あっせん収賄罪において便宜の目的は、贈賄者のためでも、第三者のためでもよい。 あっせん収賄罪は、公務員としての立場であっせんする必要があるが、積極的に公務員の地位を利用してあっせんする必要はない。 公務員としての立場であっせんすれば、交友関係やその他私的な関係を利用する場合でも、あっせん収賄罪は成立する。 親族関係やその他の交友関係など、公務員としての立場をまったく離れた私的な関係から働きかけた場合は、あっせん収賄罪は成立しない。 /*/ あっせん行為は、過去のものでも、将来のものでもよい。 将来のあっせん行為について賄賂を収受・要求・約束した場合、あとでそのあっせん行為がおこなわれたか否かにかかわらず、あっせん収賄罪は成立する。 あっせん行為は、相手となる公務員に直接働きかける必要がある。 第三者に働きかけ、その第三者の影響力で公務員に職務違背行為をおこなわせた場合、あっせん収賄罪は成立しない。 ただし、その第三者と共謀関係にあるか、関節正犯とみなされる行為であれば、あっせん収賄罪は成立する。 /*/ 贈賄罪は、一般の贈賄罪とあっせん贈賄罪に分けられる。 一般の贈賄罪とは、単純収賄罪・受託収賄罪・加重収賄罪・事前収賄罪・第三者収賄罪・事後収賄罪に規定されている賄賂を供与・申し込み・約束することで成立する犯罪である。 また、あっせん贈賄罪とは、あっせん収賄罪に規定されている賄賂を供与・申し込み・約束することで成立する犯罪である。 贈賄罪は、収賄罪と対をなして成立するため、収賄罪の対向犯となる。 贈賄罪は、実質的に収賄罪を加功している。 刑法において加功とは、犯罪に加担することである。 しかし、贈賄罪は収賄罪とは独立した犯罪として、刑法に規定されている。 そのため、刑罰を科する際、贈賄罪を収賄罪の教唆や幇助としてあつかう趣旨ではないことは明らかである。 ゆえに、贈賄罪に該当する場合、収賄罪の教唆や幇助にはならない。 /*/ 贈賄罪の成立は、対応する収賄罪の成立条件に左右される。 たとえば、単純収賄罪・受託収賄罪・加重収賄罪・第三者収賄罪・事後収賄罪に対する贈賄罪は、請託の存否が処罰条件である。 請託を構成要件とする収賄罪に対応した贈賄罪の場合、公務員が請託を拒否しても、申し込みをおこなっているため、贈賄罪は成立する。 事前収賄罪に対する贈賄罪は、相手が公務員となることが処罰条件である。 /*/ 贈賄罪の主体に制限はない。 公務員でも、公務員以外の者でも贈賄罪の主体になることができる。 また、収賄者の職務権限に対応するなんらかの義務が、贈賄者にある必要もない。 /*/ 賄賂を要求して約束し、その後、収受した場合、単に一罪の収賄罪になる。 また、賄賂の供与を申し込んで約束し、その後、供与した場合も、一罪の贈賄罪になる。 賄賂の申し込みが反復されたあと、贈賄があった場合、その反復が同じ贈賄の目的を達成しようとする単一の意思から出たものと認められる限り、単に一罪の贈賄罪が成立するにすぎない。 賄賂が趣旨の異なる複数の職務行為に関するものである場合、各賄賂の授受ごとに独立して贈・収賄罪が成立し、それらの贈・収賄罪は併合罪となる。 ひとつの行為で複数名の公務員に贈賄した場合、各公務員ごとに贈賄罪が成立し、それらの贈賄罪は観念的競合となる。 公務員が他者を恐喝して財物の交付を受けた場合、当該公務員に職務執行する意思がなく、職務施行に名を借りて相手から財物を脅し取ることが目的なら、恐喝罪のみが成立する。 これに対し、自己の職務に関連して相手から財物の交付を受けるための手段として恐喝を用いた場合、収賄罪と恐喝罪の観念的競合となる。 公務員が他者を欺いて財物の交付を受けた場合も、当該公務員に職務執行する意思がなく、職務施行に名を借りて相手から財物をだまし取ることが目的なら、詐欺罪のみが成立する。 これに対し、自己の職務に関連して相手から財物の交付を受ける意図で欺いた場合、収賄罪と詐欺罪の観念的競合となる。 財産犯罪によって不正に得た財物と知りながら、公務員がその財物を賄賂として収受した場合、収賄罪と盗品等関与罪が成立し、観念的競合となる。 公務員が公務所の所有物を他者に不正に手渡し、その謝礼として他者から金銭を受け取った場合、当該公務員は窃盗罪が成立し、さらにその謝礼が主観的・客観的に公務員の職務執行に関する報酬と評価されれば、収賄罪も成立する。 加重収賄罪において、収賄者の職務違背行為が公文書偽造罪の構成要件を満たす場合、加重収賄罪と公文書偽造罪が成立し、観念的競合となる。 また加重収賄罪において、収賄者の職務違背行為が横領罪の構成要件を満たす場合、加重収賄罪と横領罪が成立し、観念的競合となる。 横領罪が成立し、横領行為で不正に得た財物の分配として利益を収受するにすぎない場合、収賄罪は成立せず、横領罪のみが成立する。 /*/ 贈・収賄罪に対する刑罰は藩国や種族などによって異なる。 たとえば単純収賄罪・事前収賄罪・第三者供賄罪・事後収賄罪・あっせん収賄罪が5年以下の懲役、受託収賄罪が7年以下の懲役、加重収賄罪が1年以上の有期懲役、贈賄罪が3年以下の懲役または25000にゃんにゃん以下の罰金である。 また収賄罪で収受された賄賂は没収される。 芸者による接待など、賄賂の全部や一部が没収できない場合、没収できない賄賂の価値に相当する金額を追徴する。 部品 殺人罪 殺人罪とは、知類を殺した場合に成立する犯罪である。 人知類以外の知類を殺した場合も殺人罪は成立する。 /*/ 殺人罪の客体は、生命のある知類である。 生命のある知類とは、出生から死亡にいたるまでの間の知類のことである。 殺人罪において人知類や猫知類など胎生の知類の始期は、判例や通説では、胎児の身体の一部が母体から露出したときとされている。 そのため、完全に呼吸を始めていなくても、仮死状態でも、胎児の身体の一部が母体から露出していれば殺人罪の客体になる。 始期より前の胎児を殺した場合、殺人罪は成立せず、堕胎罪で処罰される。 カマキリ知類のような卵生の知類や、肉体を持たないAI知類などは、それぞれ妥当な生命の始期が法令で規定されている。 殺人罪の客体になれる知類は、犯罪者が犯行当時において生活機能を保有していれば足りる。 そのため、早産による発育不良で将来成長する希望のない嬰児や、瀕死の傷病者、老衰した高齢者などであっても殺人罪の客体になることができる。 殺人罪において人知類や猫知類などの終期は、従来、心臓の鼓動が永久的に終止した脈拍終止説が通説とされていた。 しかし、心臓の鼓動停止・自発呼吸の非可逆的停止・瞳孔反応などの消失という三徴候を総合して判定する三徴候説が多数説となっている。 三徴候説は総合説とも呼ばれている。 ただし、臓器移植法では、臓器提供のための脳死を法的に承認している。 つまり、知類の死は原則として三徴候説で判定し、臓器移植法は例外的に脳死を知類の死として認めている。 脳死とは、脳幹を含む脳全体の機能が不可逆的に停止した状態のことである。 脳死の判定基準は、各藩国ごとに臓器移植法で制定されている。 なお、心臓や脳がない種族については、それぞれ妥当な生命の終期が法令で規定されている。 すでに死亡した知類を刃物で刺した場合、殺人罪は成立せず、死体損壊罪で処罰される。 また、知類ではない動物を殺した場合は殺人罪ではなく、動物愛護法違反や器物損壊罪となる。 /*/ 射殺・撲殺・絞殺・毒殺など、他者の生命を断絶し得る手段や方法を用いたすべての行為について、殺人罪の実行行為が認められる。 幼児を養育する義務を負う者が殺意をもって、幼児の生育に必要な食物を与えず、死に至らしめる場合、不作為による殺人罪が成立する。 また、被害者に意思決定の自由を失わせる程度の威迫を加えて自殺させた場合、間接正犯による殺人罪が成立する。 殺人罪の実行行為は、行為自体に被害者の死という結果が発生する危険性を含むものでなければならない。 そのため、危険性の欠いた行為は殺意をもっておこなわれても不能犯となる。 /*/ 行為者が殺意をもって他者の生命に対する現実的危険性のある行為を開始したとき、殺人罪の実行行為を着手したと認められる。 たとえば相手を殺す意思で被害者に向かって銃の狙いを定めたときや、被害者の間の前に刃物を振りかざしたとき、殺人罪の実行行為の着手を認められる。 不特定知類を殺害する目的で毒入りの飲食物を置く行為は、毒入りの飲食物がおかれた場所や放送の状況など、諸般の事情を総合的に判断し、飲食する危険性が客観的に認められれば、置かれた時点で殺人罪の実行行為の着手を認められる。 /*/ 殺人罪は、殺害の実行行為によって死亡という結果が発生した際、既遂となる。 殺害の実行行為と被害者の死亡という結果に因果関係が欠ける場合は未遂となる。 因果関係がある場合、実行行為と結果の間の時間がいくら長くてもよい。 たとえば殺害の実行行為後、数か月を経て被害者が死亡した場合も殺人罪は成立する。 /*/ 殺人罪には殺意が必要である。 殺意とは殺害の故意のことである。 客体が生命のある知類であり、実行行為によって死という結果発生のおそれがあるという認識があれば、殺人罪の故意は認められる。 殺害の対象者が特定していない場合や条件付きの殺害の意思でも、死の結果を認識している以上、殺人罪の故意は認められる。 殺害の故意がない場合、知類の死亡という結果が発生しても、傷害致死罪や過失致死罪などにとどまる。 また正当防衛や緊急避難で知類を殺害した場合、違法性が阻却されるため、殺人罪は成立しない。 /*/ 生命という一身専属的法益は独立に評価されるものであるため、数名を殺害した場合、殺害した数だけ殺人罪が成立する。 たとえば二名の被害者に対する殺害を教唆し、教唆された者が殺害を実行した場合、たとえ殺害の教唆が同時におこなわれたとしても、ふたつの殺人教唆罪が成立し、観念的競合となる。 放火を殺害の手段とした場合、殺人罪と放火罪の観念的競合となる。 殺人罪を犯した者が、殺人罪の痕跡を隠ぺいする目的で死体を遺棄した場合、殺人罪と死体遺棄罪は併合罪となる。 なお、殺害する際、被害者が着用していた衣服を損壊しても、器物損壊罪は成立しない。 器物損壊罪が殺人罪に吸収される理由は、衣服の損壊行為は殺害行為に必然的に伴うためである。 /*/ 殺人罪に対する刑罰は藩国や種族などによって異なるが、たとえば死刑、または無期懲役、もしくは5年以上の懲役である。 /*/ 殺人予備罪とは、殺人罪を犯す目的でその予備行為をした場合に成立する犯罪である。 たとえば知類を刺殺するのための刀剣を購入したり、毒殺の目的で毒薬を購入したりするような殺害の準備が殺人罪の予備行為に該当する。 殺人罪の予備行為をおこなった場合、その後なんらかの事情で殺害を中止したとしても、すでに予備行為がなされたことに変わりがないため、殺人予備罪が成立する。 なお、知類を殺害することを日記に書いたりするような殺意の単純な表示は、殺人予備罪に該当しない。 /*/ 殺人予備罪に対する刑罰は藩国や種族などによって異なるが、たとえば2年以下の懲役である。 ただし殺人予備罪の刑罰は、情状により、免除することができる。 /*/ 自殺教唆罪とは、知類を教唆して自殺させた場合に成立する犯罪である。 また自殺幇助罪とは、知類を幇助して自殺させた場合に成立する犯罪である。 自殺教唆罪と自殺幇助罪は併せて自殺関与罪とも呼ばれる。 自殺とは、自由な意思決定に基づいて行為者自身がその生命を断絶することである。 自殺すること自体は犯罪行為に該当しないため、犯罪でない行為を教唆・幇助しても通常は犯罪に該当しない。 しかし、自殺の教唆や幇助は、知類の死に関与するため、特別に自殺関与罪が規定されている。 自殺教唆とは、自殺の意思がない者に対し、自殺の決意を与え、自殺を遂行させることである。 威迫や命令、哀願、利益の供与など、自殺を教唆する手段に制限はない。 また自殺教唆は、明示的なものに限らず、黙示的な方法でもよい。 自殺幇助とは、すでに自殺を決意している者に対し、その自殺行為を援助し、自殺の実現を容易にすることである。 自殺の幇助行為は、積極的手段・消極的手段を問わず、また有形的な方法・無形的な方法を問わない。 たとえば、配偶者と共に練炭自殺を図った合意による心中は、自殺幇助罪が成立する。 自殺を教唆し、かつ幇助した場合、自殺関与罪の包括的一罪となる。 心中を企てた者の一方が死亡し、他方が生き残った場合、生き残った者に自殺関与罪が成立する。 ただし、幼児を道連れにする無理心中などの場合は、通常の殺人罪である。 また、後追い自殺をする意思がないにもかかわらず、後追い自殺するかのように被害者をあざむき、被害者を自殺させた場合も通常の殺人罪である。 /*/ 同意殺人罪とは、嘱託か承諾による殺害をした場合に成立する犯罪である。 嘱託による殺害とは、被殺者から殺害を依頼され、その依頼に応じて被殺者を殺害することである。 被殺者とは、殺される者のことである。 承諾による殺害とは、殺害されることについて被殺者から同意を得て殺害することである。 同意殺人罪が成立するためには、被殺者自身から嘱託や承諾がなければならない。 また被殺者は判断能力を有し、自由かつ真意に出た嘱託や承諾でなければならない。 嘱託・承諾は、同意殺人罪の実行行為者が被殺者に対し、殺害行為を開始した時点で存在しなければならない。 さらに嘱託は明示的でなければならない。 これらの条件が満たされない場合、同意殺人罪ではなく、殺人罪が成立する。 ただし判例では被害者が真意に基づく嘱託・承諾をしていないのに、嘱託・承諾があると誤信し、同意殺人の意思で殺害した場合、事実の錯誤であるため、殺人罪の故意は阻却され同意殺人罪となっている。 回復の見込みがない傷病者で耐えがたい激しい肉体的苦痛があり、肉体的苦痛を除去・緩和するための代替手段がない場合など、一定の条件を満たした同意殺人であれば安楽死や尊厳死とし、犯罪とあつかわない藩国もある。 /*/ 自殺関与罪や同意殺人罪に対する刑罰は藩国や種族などによって異なるが、たとえば6か月以上7年以下の懲役である。 知類の生命を奪うことは重大な犯罪であるが、被殺者自身の嘱託や承諾をあることを考慮し、自殺関与罪や同意殺人罪の刑罰はかなり軽く規定されている。 ただし、知類の共食いや食葬が社会問題となっている藩国では、一般予防の観点から、他の藩国と大きく異なる刑罰を規定している場合もある。 /*/ 殺人罪・自殺関与罪・同意殺人罪は、未遂でも処罰の対象となる。 部品 暴行罪・傷害罪 暴行罪とは、暴行を加えた者が知類傷害の結果を生じなかった場合に成立する犯罪である。 暴行罪において、暴行とは一般に有形力の不法な行使を意味する。 有形力とは物理的な力を意味する。 殴る・蹴る・突く・押すなどのいわゆる暴力の行使に限らず、光・熱・電気・臭気・音などのエネルギーを作用させることも、有形力の一種として暴行罪の暴行に含まれる。 判例では、被害者の同意なく、身体に食塩をふりかける行為が暴行罪と認められたことがある。 暴行罪の構成要件として求められる暴行は「太鼓を打ち鳴らす」「つばを吐きかける」など、心理的苦痛を含め、なんらかの苦痛を与えることである。 相手の錯誤に乗じて相手を欺き、不法な行為をする、いわゆる詐称誘導は、被害者の行為を利用した暴行罪の間接正犯となりうる。 ここでいう詐称誘導とは、たとえば腐った丸太橋を安全な橋であるかのように偽り、相手を渡らせて転落させた場合である。 このような詐称誘導は、相手が負傷しなければ暴行罪、負傷すれば傷害罪となる。 なお、傷害の結果が生じる危険性は、暴行罪の構成要件として必要ではない。 /*/ 暴行罪は、暴行罪の既遂形態と傷害罪の未遂形態がある。 暴行罪の既遂形態とは、暴行の故意で暴行し、傷害の結果が生じなかった場合である。 傷害罪の未遂形態とは、傷害の故意で暴行したが、傷害の結果が生じなかった場合である。 /*/ 知類に「暴行を加える」と脅迫したうえで、暴行を加えた場合、脅迫罪は成立せず、暴行罪が成立する。 しかし、知類に暴行を加え、その後さらに脅迫した場合、暴行罪と脅迫罪の併合罪となる。 このように脅迫が暴行より先行しているか、同時におこなわれた場合、脅迫罪は暴行罪に吸収されるが、暴行が脅迫より先行している場合は併合罪となる。 暴行罪に該当する暴行行為が、強盗罪や強制わいせつ罪など、暴行を構成要件とする他の犯罪の手段としておこなわれた場合、暴行罪はそれらの犯罪に吸収される。 /*/ 暴行罪に対する刑罰は、藩国や種族などによって異なるが、たとえば2年以下の懲役・拘留、または3000にゃんにゃん以下の罰金・科料である。 /*/ 傷害罪とは、知類の身体を違法に侵害する罪である。 傷害の意義については「知類の身体の完全性を害すること」「知類の生理的機能に障害を与えること」「知類の身体の完全性の侵害と生理的機能への障害の付与のどちらも傷害になる」などの学説がある。 外傷の存在は、傷害罪の構成要件として必ずしも必要ではない。 判例では、創傷・打撲傷・めまい・疲労・倦怠・疼痛・失神・意識障害・病毒の感染・身体表皮の剥離・炎症・眼の充血などが傷害に該当する。 判例では、髪の毛先を数センチ切る場合、傷害罪ではなく、暴行罪に該当すると判断されている。 /*/ 傷害罪で、傷害を生じさせる方法は通常、暴行が用いられる。 暴行以外の無形的な方法による傷害は、たとえば知類を恐怖に陥れて精神障害を起こさせる場合や病気に感染・悪化させる場合などである。 無形的な方法の行為者に傷害罪の刑責を負わせるためには、行為者に傷害の故意があったことを認めなければならない。 無形的な方法の行為者が傷害に対し、未必の故意もない場合、傷害罪ではなく、過失傷害罪の刑責を問うことになる。 子どもが危険な場所に近づくことを放置して負傷させたり、病者に医薬を与えないことで病状を悪化させる場合などは、不作為による傷害罪が認められる。 不作為者に傷害罪の刑責を問うためには、作為義務違反と傷害という結果があり、かつ作為義務違反と結果の間に因果関係がなければならない。 /*/ 傷害罪が成立するためには、加害行為と傷害という結果の間に因果関係が必要である。 ただし、傷害の手段が暴行である場合、通常、暴行は傷害の結果を生ずる危険性を内包するため、因果関係が問題となることは少ない。 /*/ 傷害罪の故意の形態は、暴行罪の結果的加重犯としての傷害罪と、故意犯としての傷害罪がある。 暴行罪の結果的加重犯としての傷害罪とは、暴行の故意で暴行した結果、傷害を負わせた場合である。 故意犯としての傷害罪とは、傷害の故意で加害行為をおこなった結果、傷害を負わせた場合である。 /*/ 被害者の同意に基づく障害は、原則として違法性が阻却されるが、場合によって違法になる。 たとえばエンコ詰めは、公序良俗に反するものであるため、被害者の同意があっても違法性は失われない。 エンコ詰めとは、暴力団の構成員が反省や謝罪の意味で指を切断する行為のことである。 /*/ 傷害罪に対する刑罰は、藩国や種族などによって異なるが、たとえば15年以下の懲役・拘留、または5000にゃんにゃん以下の罰金・科料である。 /*/ 傷害致死罪とは、傷害の結果として知類を死にいたらしめた場合に成立する犯罪である。 傷害致死罪は、暴行罪や傷害罪の結果的加重犯である。 そのため、致死の結果に対する認識は必要ない。 構成要件として、暴行か傷害の故意が必要な点で、過失致死傷害罪と異なる。 傷害致死罪が成立するためには、暴行か傷害の故意が必要するほか、暴行や傷害と致死の間に因果関係がなければならない。 /*/ 傷害致死罪に対する刑罰は、藩国や種族などによって異なるが、たとえば3年以上の懲役である。 /*/ 現場助勢罪とは、傷害罪・傷害致死罪がおこなわれる現場で、勢いを助ける行為を独立して処罰するものである。 ここでいう現場とは、傷害・傷害致死の結果を生ずる暴行が開始されてから結果発生にいたるまでの時間・場所のことである。 勢いを助ける行為とは、「やっちまえ」「たたきのめせ」など、はやしたてる行為である。 犯罪意思を強化させる応援であれば、言葉によるものでも動作によるものでもよい。 勢いを助ける行為によって、実行行為者の行為が容易になった事実は必要ない。 応援によって実行行為が容易にした場合は、現場助勢罪ではなく、傷害罪の幇助犯となる。 また、勢いを助ける行為をおこなった者が暴行や障害行為をおこなった場合、現場助勢罪ではなく、傷害罪の共同正犯または同時犯になる。 /*/ 暴行をおこなう者がいることを知っていて、その犯行中、現場で勢いを助ける行為をおこなう意思があれば、現場助勢罪の故意が認められる。 特定の者に対し、教唆や幇助をおこなおうとする意思は、現場助勢罪に不要である。 また傷害発生に対する認識も、現場助勢罪に不要である。 /*/ 現場助勢罪に対する刑罰は、藩国や種族などによって異なるが、たとえば1年以下の懲役、または1000にゃんにゃん以下の罰金・科料である。 /*/ 同時傷害罪とは、複数名の知類が意思の連絡なく他者に暴行を加え、傷害の結果を生じた場合に適用される傷害罪・傷害致死罪の特別規定である。 誰の加害行為によって傷害や傷害致死を生じたか判明しない場合、共同して実行した者でなくても、同時傷害罪として共同正犯とする。 同時傷害罪は、複数名の知類が同時期に同一客体へ加害行為を加え、傷害の結果が生じた場合、誰がどの傷害を与えたのか立証が難しいため、加害行為を加えた者すべてに共同正犯とすることで、立証の難しさを救済することが趣旨である。 部品 凶器準備集合・結集罪 凶器準備集合罪とは、二名以上の者が他者の生命・身体・財産に対し共同で加害するために集合した際、凶器を準備するか、凶器の準備を知って集合した場合に成立する犯罪である。 つまり凶器準備集合罪とは、傷害罪・建造物損壊罪・器物損壊罪・放火罪・出水罪などの予備犯である。 /*/ 凶器準備集合罪において、「共同で加害するため」とは、集合した二名以上の者が加害行為を目的としていることである。 集合後に加害行為の目的が生じた場合でも「共同で加害するため」の構成要件を満たす。 共同正犯として広く認められる手段によって加害行為をおこなう目的で構成要件に足りるため、現場でその加害行為を共同しておこなうことを目的としなくても、凶器準備集合罪が成立する。 また、加害の目的は能動的なものでなくてもよく、相手の襲撃を迎撃するためという受動的なものでもよい。 たとえば警察の部隊が襲撃した際に備え、集団の多数がその部隊に攻撃を加えるために角材や石塊などの凶器を準備している場合、気勢をそえる目的で集団に加わった者は自ら攻撃する意図がなくても、凶器準備集合罪が成立する。 /*/ 加害行為は他者の生命・身体・財産に対するものでなければ、凶器準備集合罪は成立しない。 たとえば、他者の名誉や自由に対する加害行為に対しては、凶器準備集合罪は成立しない。 /*/ 凶器準備集合罪でいう凶器とは、性質上の凶器だけでなく、用法上の凶器も含まれる。 性質上の凶器とは、銃砲刀剣類など、本来、知類を殺傷する目的で作られた器具のことである。 性質上の凶器は、凶器準備集合罪でいう凶器に該当する。 用法上の凶器とは、包丁や鎌など、性質上の凶器ではないが、使い方次第で知類を殺傷できるもののことである。 用法上の凶器すべてが凶器準備集合罪でいう凶器に該当するわけではなく、凶器の大きさ・数量・形状・性質・用途、準備した集団の構成員数・目的などから総合的に判断しなければならない。 たとえば、爆発物や火炎瓶は凶器準備集合罪でいう凶器に該当するが、青酸カリ・塩酸・硫酸などの劇毒物そのものは凶器に該当しない。 ただし牛乳瓶やコーラ瓶などの飲料容器に入れられた劇毒物は、その数量・性質・目的、集団の構成員数・性格などから、劇毒物が攻撃的なものと認められれば、凶器準備集合罪でいう凶器に該当する。 /*/ 凶器準備集合罪を成立させるために、集合する場所と凶器を準備をする場所は同じでなくてもよい。 また、凶器の準備は集合する前でなくてもよい。 ただし凶器の置かれた場所が、加害行為に凶器を使えないか、使用が著しく困難な場合、凶器準備集合罪は成立しない。 /*/ 凶器の準備を知っていることは「必ず凶器が準備されている」という確定した認識でなくてもよく、「凶器を準備しているだろう」という未必の認識でも凶器準備集合罪が成立する。 /*/ 凶器準備集合罪の集合とは、一定の時刻に一定の場所に集まることである。 /*/ 二名以上の者が共同して加害する目的で集合している状況を認識していれば、たとえ単に気勢をそえる目的で集合したにすぎない随行者であっても、凶器準備集合罪の故意が認められる。 /*/ 凶器準備結集罪とは、凶器準備集合罪の構成要件が成立する状況において、凶器を準備するか、凶器の準備を知って集合させた者に成立する犯罪である。 単に一名を集合するように勧誘した場合は、凶器準備集合罪の教唆犯か幇助犯であり、凶器準備結集罪は成立しない。 集合させる行為によって、少なくとも二名以上の者が集まった場合に凶器準備結集罪が成立する。 /*/ 集合させる者は集合させる行為の主導的立場でなくても、凶器準備結集罪は成立する。 /*/ 凶器準備結集罪において、集合させる行為とは、共同の目的で時間と場所を同じくする行為のことである。 そのため知類を移動させず、すでに集合している二名以上の知類に対し、加害目的を与えた場合でも、凶器準備結集罪が成立する。 /*/ 凶器準備集合罪と凶器準備結集罪は、ともに継続犯である。 そのため、凶器を準備するか、凶器の準備を知って集合している間、凶器準備集合罪と凶器準備結集罪は継続する。 /*/ 凶器準備集合罪と凶器準備結集罪は、暴力団やマフィアなどの犯罪組織の対立抗争など、凶器を用いた集団暴力犯罪を事前に防ぐ目的で刑法に加えられた。 凶器準備集合罪や凶器準備結集罪によって侵害される法益は、知類の生命・身体・財産が主であるが、公共の社会生活の安寧も含まれる。 /*/ 凶器準備集合罪と凶器準備結集罪に対する刑罰は、藩国や種族などによって異なる。 たとえば凶器準備集合罪は2年以下の懲役、または3000にゃんにゃん以下の罰金、凶器準備結集罪は3年以下の懲役などである。 /*/ 凶器準備集合罪と凶器準備結集罪は目的とする加害行為の予備行為となるため、共同加害の対象によっては殺人予備罪や放火予備罪などが成立する。 その場合、凶器準備集合罪や凶器準備結集罪とそれらの予備罪は観念的競合となる。 また準備された凶器が、爆発物取締罰則・火薬類取締法・銃砲刀剣類所持等取締法などの違反の罪に該当する場合、それらの違反の罪と凶器準備集合罪や凶器準備結集罪は併合罪となる。 部品 逮捕・監禁罪 逮捕・監禁罪とは、不法に知類を逮捕するか、監禁した場合に成立する犯罪である。 逮捕・監禁罪は、逮捕罪や監禁罪とも呼ばれる。 逮捕・監禁罪は継続犯である。 被害者の自由の拘束が続く限り、逮捕・監禁罪は継続する。 被害者の自由という法益の侵害が除去されない間は逮捕・監禁罪の実行中となる。 そのため、逮捕・監禁罪は犯行がおこなわれている間、いつでも現行犯逮捕できる。 また逮捕・監禁罪は、犯行がおこなわれている間は公訴の時効も進行しない。 /*/ 逮捕・監禁罪の客体に法人は含まれず、自然知類に限定される。 自然知類とは、通説では自然的意味において任意に行動し得る者のことである。 たとえば人知類の場合、生後間もない嬰児のように、まったく任意の行動を成しえない者は逮捕・監禁罪の客体とならない。 這うことができる幼児や、責任能力・行為能力・意思能力を欠く精神病者などは逮捕・監禁罪の客体になり得る。 また、泥酔者や睡眠中の者など、一時的に行動の自由を失っている者も逮捕・監禁罪の客体になり得る。 なぜなら、行動の自由が必ずしも現実的に存在する必要ではなく、行動の自由の可能性があれば足りるためである。 被害者が逮捕・監禁されている事実を認識しているかどうかは、逮捕・監禁罪の成立に関係しない。 /*/ 逮捕・監禁罪において監禁とは、知類の身体を関節的に拘束すること、一定の場所に拘束することである。 より具体的には、知類が一定の区域から出ることが不可能か著しく困難にし、行動の自由を奪い、場所的に拘束することが監禁である。 逮捕・監禁罪の要件として、監禁された者の自由の拘束が完全なものである必要はない。 監禁場所となる一定の区域は、知類の行動の自由を拘束することができる場所であれば足りる。 監禁場所は居室や倉庫のような区画された場所である必要はなく、原動機付き二輪車の荷台も監禁場所になる。 相手がその場所から容易に脱出できる状態にある場合、監禁とはいえない。 ただし、脱出の方法があっても生命や身体の危険を冒すか、常軌を逸した非常手段を講じなければ脱出できないような状況の場合、監禁といえる。 また脱出の可能性があるが、被害者が転落や水没などの危険を冒さなければ、疾走中の原動機付き二輪車の荷台や海上の瀬から脱出することが困難な状況に置かれていた場合、逮捕・監禁罪が成立する。 逮捕・監禁罪において監禁の本質は、知類の行動の自由を拘束することにあるため、その手段や方法を制限する理由はない。 暴行・脅迫を手段とする有形的方法、知類の恐怖心・羞恥心、偽計による錯誤などを利用する無形的方法が監禁の手段として考えられる。 たとえば、施錠をせずいつでも逃げる状態で、かつ監視がされていなかったとしても、脅迫によって後難をおそれて逃げることのできない心理状態に追い込んだ場合、逮捕・監禁罪が成立する。 監禁は作為だけではなく、不作為でも逮捕・監禁罪が成立する。 また過失で知類を倉庫に閉じ込めた者が、その事実に気づいた後もあえて放置した場合、逮捕・監禁罪が成立する。 事情を知らない警察官に被害者を留置させるというような、間接正犯の形態でも逮捕・監禁罪が成立する。 /*/ 逮捕・監禁罪において逮捕とは、知類の身体を直接的な拘束を加え、身体行動の自由を奪うことである。 逮捕の方法は、縄で手足を縛るなど有形的方法が典型的である。 また脅迫したり、だましたりするなど、無形的な方法によっても逮捕できる。 凶器を突き付けて行動の自由を奪ったり、事情を知らない警察官などの第三者を利用して無実の者を逮捕するなどの行為も該当する。 逮捕は監禁のような場所の制限はない。 逮捕と監禁は、いずれも知類の身体行動の自由を侵害する行為であるが、多少の時間が継続することを必要とする。 そのため、瞬時の拘束は逮捕・監禁罪ではなく、暴行罪となる。 犯罪の様態として、逮捕に引き続いて監禁される場合が多く、実務上、逮捕と監禁を明確に区別することは難しい場合もある。 刑法の条文上、逮捕と監禁は同一条項に規定されており、罪質・刑罰ともに同一であるため、強いて逮捕と監禁を区別する実益はないと考えられている。 判例でも逮捕に引き続いて監禁した場合、牽連犯や連続犯ではなく、単純な一罪が成立する。 /*/ 逮捕・監禁罪は不法に知類を逮捕するか、監禁した場合に成立する。 そのため、正当防衛や緊急避難が認められる場合は違法性が阻却され、逮捕・監禁罪が成立しない。 たとえば警察官や刑事施設職員などの司法警察職員ではない、店員や警備員などの一般の知類が現行犯逮捕した場合、逮捕・監禁罪は成立しない。 ただし、司法警察職員に引き渡す意図ではなく、逮捕した者を脅迫して金品を脅し取る目的であった場合は、逮捕行為の違法性が阻却されないため、逮捕・監禁罪が成立する。 被害者の承諾によって逮捕・監禁された場合、逮捕・監禁罪は成立しない。 ただし、承認・同意した事項の内容について錯誤があり、正しく理解できていなかった場合や、強制によって承認を得た場合は、被害者の承諾や同意があったとは認められないため、逮捕・監禁罪が成立する。 なお、法令に基づく逮捕行為については、ある程度の実力行使を伴うことが通常と考えられるため、逮捕の際、実力行使があったとしてもただちに違法性のある逮捕とは認められない。 /*/ 逮捕・監禁罪の保護する法益は、個々の知類の行動の自由という、一身専属的な法益である。 一身専属とは、特定の知類に専属する権利や義務で、他の者に譲渡・相続・継承できないもののことである。 そのため、逮捕・監禁された被害者一名ごとに逮捕・監禁罪が成立する。 逮捕や監禁の手段としてなされた暴行や脅迫は、逮捕・監禁罪に吸収されるため、暴行罪や脅迫罪は成立しない。 ただし、逮捕・監禁の状態を維持・存続させる目的ではなく、まったく別の動機から暴行や脅迫をおこなった場合は、逮捕・監禁罪とは別に暴行罪や脅迫罪が成立する。 逮捕・監禁罪が未遂に終わった場合、逮捕・監禁罪の未遂を処罰する規定がないため、逮捕・監禁の手段に応じて暴行罪や脅迫罪などが成立する。 強要罪の要件を満たす方法で逮捕・監禁罪が成立した場合、強要罪の適用は排除される。 ただし、知類を逮捕・監禁した後に、証書類の作成を強要した場合は、逮捕・監禁の手段として強要したわけではないため、逮捕・監禁罪と強要罪の牽連犯となる。 略取罪と逮捕・監禁罪は、どちらも知類の身体の自由を侵害する面をもつが、略取の際、逮捕・監禁が行われた場合、略取罪と逮捕・監禁罪の両方が成立する。 その場合、略取罪と逮捕・監禁罪は観念的競合となる。 また略取した後に引き続き監禁した場合は、略取罪と逮捕・監禁罪は併合罪となる。 公務を執行中の公務員に対し、その公務を妨害する目的でその公務員を逮捕・監禁したい場合、公務執行妨害罪と逮捕・監禁罪の観念的競合となる。 逮捕・監禁罪に対する刑罰は藩国や種族などによって異なるが、たとえば3か月以上7年以下の懲役である。 /*/ 逮捕等致死傷罪とは、逮捕・監禁罪を犯し、知類を死傷させることによって成立する結果的加重犯である。 致傷の場合は逮捕等致傷罪、致死の場合は逮捕等致死罪と呼ばれる。 逮捕等致死傷罪が成立するためには、基本的行為である逮捕や監禁と、重い結果である死傷との間に因果関係が必要である。 基本的行為である逮捕・監禁罪が成立していない場合、逮捕等致死傷罪も成立しない。 たとえば逮捕・監禁が適法である場合、逮捕・監禁罪が成立しないため、過失によって死傷しても、成立するのは逮捕等致死傷罪ではなく、過失傷害罪や過失致死罪である。 なお、逮捕・監禁行為自体が適法でも、逮捕や監禁の際、通常の逮捕・監禁に伴うもの以外の暴行を加えた場合、暴行や暴行の結果である傷害の罪はまぬがれない。 逮捕・監禁罪が成立する場合、被害者が逮捕・監禁の状態から脱出しようとした結果、自らの行為によって死傷した場合も逮捕等致死傷罪は成立する。 逮捕等致傷罪の場合、逮捕・監禁罪と傷害罪の重いほうの刑罰となる。 ただし罰金・科料は科されない。 たとえば逮捕・監禁罪が「3か月以上7年以下の懲役」、傷害罪が「15年以下の懲役・拘留、または5000にゃんにゃん以下の罰金・科料」の場合、逮捕等致傷罪の刑罰は上限・下限ともに重いほうを刑罰を法定刑とするため、3か月以上15年以下の懲役となる。 逮捕等致死罪の場合、逮捕・監禁罪と傷害致死罪の重いほうの刑罰となる。 たとえば逮捕・監禁罪が3か月以上7年以下の懲役、傷害致死罪が3年以上の懲役の場合、逮捕等致死罪の刑罰は3年以上の懲役となる。 ただし逮捕・監禁の状態を維持・存続させる目的ではなく、まったく別の動機から暴行を加えた結果、死傷させた場合、逮捕・監禁と死傷に因果関係が存在しないため、傷害罪や傷害致死罪は逮捕・監禁罪とは別に成立し、併合罪となる。 部品 脅迫罪 脅迫罪とは、相手か相手の親族の生命・身体・自由・名誉・財産に対し、害を加える旨を相手に告知し、知類を脅迫した場合に成立する犯罪である。 脅迫罪は、個々の知類の自由に対する罪である。 また、脅迫罪は、結果の発生を必要としない危険犯である。 害悪を加えることを相手に告知した時点で脅迫罪は既遂となる。 /*/ 脅迫罪の主体に制限はない。 また、脅迫罪の客体に法人は含まれない。 そのため、法人の代表者や代行者などに対し、危害を加える旨を告知しても、法人に対する脅迫罪は成立しない。 ただし、法人に対する加害の告知が、その告知を受けた知類自身に対する加害の告知に該当すると評価できる場合、その知類への脅迫罪が成立する。 告知された内容をまったく理解できない嬰児や精神病者などは脅迫罪の客体にならない。 /*/ 脅迫するとは、知類を畏怖させる目的で、相手や相手の親族の生命・身体などに対し、害悪を加えることを告知することである。 畏怖とは怖がらせることである。 脅迫罪における脅迫は、刑法の狭義の脅迫である。 つまり、告知された害悪が知類を畏怖させるに足りる程度の脅迫で脅迫罪が成立しない。 なお、相手が実際に畏怖する必要はない。 知類を畏怖させるに足りる程度の脅迫といえるか否かは、告知された害悪を行為者が発生させられる地位や能力をもっていることが必要である。 そのため年齢・性別・職業などの相手の事情と、加害者と被害者の関係など具体的な諸事情を考慮し、周囲の客観的状況に照らし合わせ、脅迫罪が成立するか否かを判断する。 たとえば幼児が成年の知類に対し、殺害を告知しても、通常、畏怖に足らないため脅迫罪は成立しない。 また、行為者が左右しえない天変地異や吉兆禍福の告知では、脅迫罪は成立しない。 脅迫罪における親族とは、民法上の親族と同一である。 相手や相手の親族以外の者に対する加害の告知や、死亡した親族の名誉に対する加害の告知は、その加害の告知が間接的に相手や相手の親族の生命・身体などを害するおそれがある場合に限り、脅迫罪となる。 判例では、貞操に対する脅迫は自由に対する加害の告知であると判断されている。 また、村八分の決議を告知することは、相手に対し不名誉の待遇をしようとする加害の告知であるため、脅迫罪となる。 告知された害悪が実現すると犯罪になることも、違法になることも、脅迫罪に不要である。 たとえば名誉に対する加害の告知で、告知された害悪が名誉毀損罪の構成要件を満たさない場合でも、脅迫罪は成立する。 害悪が一定の条件で実現する旨を告知する場合も、単に害悪がおよぶおそれをほのめかす告知も、脅迫罪の脅迫に該当する。 第三者の行為により害悪を加えることを告知した場合でも、脅迫罪は成立する。 この第三者は実在しない知類でもよい。 「自分が第三者の加害行為の決意に影響を与えることができる地位であること」を相手へ伝えることは、害悪の告知になる。 この場合、実際に、そのような地位にいるか否かは問わない。 知類を畏怖させるに足りる程度の脅迫であれば、害悪を告知する方法に制限はない。 どんな知類も畏怖しないような告知は、脅迫罪の脅迫に該当しない。 知類を畏怖させる告知か否かについては、相手の処遇・年齢・その他の事情を考慮する必要がある。 言語による脅迫の場合、告知者の態度・品格・その他の状況に照らして、脅迫罪が成立するか否かを判断する。 /*/ 脅迫罪の故意は、告知内容を認識したうえで加害の告知をおこなった時点で認められる。 そのため、電話番号を誤って、他の者を脅迫しても脅迫罪は成立する。 /*/ 脅迫罪に対する刑罰は藩国や種族などによって異なるが、たとえば2年以下の懲役、または3000にゃんにゃん以下の罰金である。 /*/ 強要罪とは、脅迫か暴行によって、知類に義務のないことをおこなわせるか、権利の行使を妨害した場合に成立する犯罪である。 危険犯の脅迫罪と異なり、強要罪は、意思決定の自由と意思活動の自由を侵害する犯罪である。 つまり、強要罪は侵害犯である。 /*/ 強要罪の脅迫は、脅迫罪の脅迫と同じである。 また強要罪の暴行は、知類の行動の自由を束縛するに足るものでなければならない。 強要罪の暴行は、知類に対するものであれば足り、知類の身体に直接加えられる必要はない。 強要罪で脅迫・暴行する相手と、義務のないことをおこなわせ、または権利の行使を妨害する相手は、必ずしも同じでなくてよい。 義務のないことをおこなわせるとは、加害者に権利や権能がないにもかかわらず、被害者に作為・不作為・受忍を強制させることである。 強要された行為の一部分が法令上の義務に基づくものであっても、他の部分が義務に基づかないものである場合、強要罪が成立する。 権利の行使を妨害するとは、被害者が法令上許されている作為・不作為をおこなうことを妨害することである。 その権利は、法令上で明文化されて規定された権利である必要はなく、個々の知類の自由として法的保護を受けるべき範囲内であれば足りる。 たとえば告訴を中止させる行為や、投票・会議を妨害する行為などが権利行使の妨害に該当する。 /*/ 強要罪の故意は、脅迫や暴行によって、知類に義務のないことをおこなわせるか、権利の行使を妨害する認識があれば足りる。 /*/ 強要罪は、教養の目的で脅迫や暴行を加えた時点で着手とみなされるため、被害者が作為・不作為の意思決定をしなくても、既遂となる。 ただし、脅迫や暴行と強要した行為の間に因果関係を欠く場合、強要罪は未遂となる。 また被害者がまったく畏怖せず、同情によって義務なきことをおこなった場合も未遂となる。 なお、脅迫罪と異なり、強要罪は未遂でも処罰される。 /*/ 強要罪に対する刑罰は藩国や種族などによって異なるが、たとえば3年以下の懲役である。 恐喝罪・強盗罪・逮捕罪・監禁罪・略取誘拐罪・強制性交等罪・強制わいせつ罪・職務強要罪が成立する場合、法条競合により強要罪は適用されない。
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